【Without a Trace】ダニーテイラー萌え【小説】Vol.5
NHK-BS2で放送された海外ドラマ「FBI失踪者を追え」
2006年1月からはスーパーチャンネルでの放映が決定!
ダウンタウン出身ダニー・テイラーを元にしたエロネタ小説のスレ
現在、書き手1と書き手2にて創作中。
新しい書き手の参加も大歓迎です。
ダニー・テイラー役、Enrique Murciano HP
http://www.imdb.com/name/nm0006663/ [約束]
・荒らしと叩きは相手にしないようにしてください
・アンチを見つけてもスルーしてください
・このドラマの他の関連板に感想などを書くのは控えてください
4 :
http://music5.2ch.net/test/read.cgi/musicjf/1135260799/l50:2005/12/26(月) 18:36:48
楽しい休暇も最後になり、二人はピーター・ルーガーにディナーに来た。
明日から仕事だが、早くネクタイを着けたい二人は待ち遠しくてたまらない。
ダニーは肉を切りながら、入ってきた中年の男に目を留めた。
「マーティン、顔上げるなよ」
「どうして?」
「ボスが入ってきた。二時の方角・・・」
ダニーは見つからないように体勢を低くした。
6 :
書き手2:2005/12/26(月) 23:19:33
運悪くマーティンが追加したステーキが運ばれてきた。
礼を言うマーティンの声にボスが気づいた。
「マーティンとダニーじゃないか。お前たちも来てたのか!」
「ええ。ボス、今夜はお一人ですか?」
「ああ。一緒に食べてもいいか?」
断るわけにもいかず、二人は席を勧めた。
7 :
書き手2:2005/12/26(月) 23:20:07
「マーティン、クリスマス休暇は楽しかったか?」
「ええ、とっても!」
「そうか、よかったな。ダニーは?」
「オレも楽しく過ごせました」
ボスはふんふんと頷いた。少し寂しそうな表情だ。
8 :
書き手2:2005/12/26(月) 23:20:40
「ボスはご家族とお過ごしになられたんでしょう?」マーティンが尋ねる。
「ああ。サンタの存在を信じてるようじゃまだまだ子供だな」
「そうっすね。サンタに手紙書いたりしてるうちはかわいい盛りですわ。
そうや、マーティンの書いた手紙やったらプレゼントもらわれへんかも」
ダニーがからかった。「あのねー、僕の字は上達したんだよ!」
ボスは楽しそうに二人の会話を聞きながら静かに食事を続けた。
9 :
書き手2:2005/12/26(月) 23:21:12
ボスは二人の分までチェックを済ませてくれた。
「それじゃ、また明日。遅れるなよ」
「はい。ご馳走様でした」
二人は礼を言うとボスと別れた。
「ボス、なんだかヘンだったね」マーティンは心配そうに見送っている。
「家族となんかあったんやろ。別居中なんやもん」
ダニーはマーティンを車に乗せ、アパートへ向かった。
10 :
書き手2:2005/12/26(月) 23:21:44
「クリスマスと新年は自殺者が多いって知ってるか?」
「ううん、知らない」
「いつもより強く孤独を感じるからや。自分が一人ぼっちみたいに思える・・それで自殺や」
「わかる気がする。自分はみんなと違うって不安に襲われる感覚だね」
「そうやろな、たぶん」
思い当たるマーティンはダニーの手をギュッと握り締めた。
11 :
書き手2:2005/12/26(月) 23:22:15
二人は歯磨きをすると、明日の準備をしてベッドに入った。
目覚ましをセットし灯りを消す。室内は真っ暗だ。
「ダニー、おやすみ」
「ん、おやすみ。なぁ・・・お前、自殺なんかするなよ」
「え・・・何言ってんのさ、僕は死なないよ」
「約束やで、死ぬときはオレに言え。わかったな?」
ダニーはマーティンをしっかり抱きしめて真剣に伝えた。
12 :
書き手2:2005/12/26(月) 23:22:48
マーティンは咽喉がごくりと上下するのを感じた。
僕に思い当たるふしがあるのをダニーは気づいた?
何か言おうにも何も思い浮かばない。
話そうとしても言葉が空回りしていく。
ドキドキしながらダニーの腕の中でじっとしていた。
13 :
書き手2:2005/12/26(月) 23:23:27
ダニーは目覚まし時計よりも早く起き、パンケーキとフレンチトーストを焼いた。
「起きろ、寝ぼすけ!」メープルシロップの瓶を鼻に近づける。
「うぅん、食べる」寝ぼけたマーティンが口を開けた。
あほやなぁ、ダニーは手にシロップを取ると唇に擦り付けた。
嬉しそうにマーティンが目を開ける。「もっと〜」
「さあ、起きて食べよう。冷めてしまうで」
ダニーはマーティンの手を引っ張って連れ出した。
14 :
書き手2:2005/12/26(月) 23:24:01
シャワーを浴びると、二人は大騒ぎしながら服を着替えた。
「ねー、似合う?」
「うん、オレも似合う?」マーティンは大きく頷いた。
二人は地下鉄の駅まで足早に歩きながら、何度も視線を交わした。
こんなん人に怪しまれるがな、ダニーは自制してマーティンを見ないように心がけた。
マーティンは地下鉄のガラスに映る自分の姿を見つめてはにやけている。
あいつ、また見てるわ・・・ダニーは笑いをこらえながら楽しんでいた。
ジャネットを二人でアルゴンキンまで送ると、アランがダニーを誘って「ブルーバー」に繰り出した。
「今日は済まなかったね。」アランがドンペリニオンを頼んでほっとため息をついている。
「考えてたほど、猛烈じゃなかったで。アランに似てすごいべっぴんやったし。」
ダニーはにやっと笑った。「何だい?」
「アランが女装したら綺麗やろうなと思ってな。」
「おかまが趣味だったなんて知らなかったな、ダニー。」
16 :
書き手1:2005/12/27(火) 00:06:25
「なぁ、今日、ここの部屋とらへん?」「うん?」
「ジャネットに気に入られた記念や。」
アランは立ち上がってレセプションに電話を入れた。
「スイートが取れたよ。」「アラン、ありがと!」
ダニーは心底嬉しそうだった。
「メリークリスマス!」シャンパングラスを上げて二人でクリスマスを祝う。
ダニーにとってこんなクリスマスは初めてだ。ウェイターが呼びにくる。
「ショア様、お部屋の準備が出来ました。」
「ありがとう。じゃあ、このシャンパンを部屋まで運ぶ手配をお願いするね。」
「かしこまりました。」アランも堂に入ってるなぁ。
男でも惚れ惚れする姿や。
17 :
書き手1:2005/12/27(火) 00:07:43
アランはダニーの手を繋ぐと、エレベーターへと進んだ。
スイートは100平米あり、ダニーのアパートより広かった。
「うわ〜、すっごいな。」ダニーはベッドルームのキングサイズベッドで飛び跳ねた。
ボーイがシャンパンとカナッペを運んでくる。
「カナッペはホテルからのサービスです。」「ありがとう。」
「ダニー、ちょっとこっちに来て、座りなさい。」「何?」
ダニーはにこにこしながらアランに近寄り、素早くキスをした。
18 :
書き手1:2005/12/27(火) 00:08:38
「これ、プレゼントだよ。」
「わ、そんなんいいのに。俺、何の用意もしてへん。」
「今日、来てくれた御礼だよ。」
ダニーが包みを開けると、綺麗な緑色のウォーターマンの万年筆が入っていた。
「すごい!」ダニーが息を飲む。「ヒスイだそうだ。」「ありがと、アラン、大切に使うで。」
ダニーは早速ジャケットの内ポケットに刺した。
19 :
書き手1:2005/12/27(火) 00:09:47
「バスの用意するわ。」ダニーがバスルームに入ると、バスタブに薔薇の花びらが浮いていた。
うわー、綺麗やな。バスジェルもダニーの好きなラベンダーの香りだ。最高やん!
ダニーはバスジェルを二本使い、バスタブを泡だらけにした。
アランがバスローブに着替えている。
「ダニーも着替えなさい。」
「はぁい。このプラダのスーツ、すごい着心地よかったで。」
「良かった。左頬の腫れに良く似合ってたよ。」「あほ!」「ははは。」
二人は、カナッペをお互い食べさせながら、シャンパンの続きを飲んでいた。
20 :
書き手1:2005/12/27(火) 00:10:55
「うわ、風呂の事忘れてた!」ダニーがバスルームに行くと、
泡がダニーの背丈ほどに立っていた。「アラン!すごいで!」
「うわ、何だこれは!」「入ろうよ!」
ダニーはアランのバスローブを脱がせ、バスタブにいれ、自分もざぶんと入った。
「泡のトンネルや!」ダニーの頭の上に薔薇の花びらが乗っている。
アランは思わず微笑んだ。
「プリンセス・ダニー、綺麗だよ。」「よせやい!」
ダニーはアランの口をキスで覆った。
21 :
書き手1:2005/12/27(火) 00:12:12
アランはジェルを手に取ると、ダニーの後ろの蕾に塗った。静かに指を入れる。
「ぬはっ、アラン、ずるい。」
ダニーもマネをしてアランのアヌスに指を入れた。
「あぁ〜、ダニー。今日は君が入れるかい?」「うん、俺、アランに入れたい。」「ベッドに行こう」
二人はもつれ合うようにベッドに倒れこんだ。
ダニーの頭についた泡をぬぐうアラン。
「あぁ、ダニー、僕は幸せだよ。今年、こんなクリスマスを送れるとは思ってもみなかった。」
「俺も。アラン、ありがとな。俺、今年のことは忘れない。」
「来年も、こうして過ごそう。」「うん。」
22 :
書き手1:2005/12/27(火) 00:13:45
ダニーはアランを四つんばいにさせ、静かに身体を進めた。
「あぁ〜、アラン、すごい締まるで〜。」「ダニー、大きいよ!」
ダニーはゆっくりと抜き差しを繰り返し、のけぞるアランの頬にキスを繰り返した。
「うっはぁはぁ、ダニーもうだめだ〜。」
アランはそう言うと身体を痙攣させて射精した。ダニーにその振動が伝わる。
「俺もイクで!」ダニーは動きを加速させ、アランの中で果てた。
二人とも息も絶え絶えだった。消耗しきった身体そのままで眠りについた。
23 :
書き手1:2005/12/27(火) 00:15:39
朝、ダニーが先に目が覚めた。何時や。え、9時!!完全遅刻や〜!
「アラン、アラン、俺、遅刻した!」「うぅん。」隣りでアランが寝返りを打つ。
急いで支局に電話する。マーティンが出た。
「マーティン、済まん、俺今日、風邪引きや。休む。」
「連絡が遅いよ!ボスが怒ってたよ。言っとくからね。」マーティンの応対が冷たかった。
あちゃーやってしもうた!!ダニーはベッドに腰掛けて頭をかかえた。
「ボス、昨日はすんませんでした!」
火曜日、出勤するとすぐダニーはボスの部屋へ入り、平謝りに謝った。
「たるんでるぞ!ダニー。クリスマスの翌日に休むとは何事だ。それに何だ、その顔は?」
「あ、ちょっとケンカしまして。」
「全く。それでも連邦捜査官か!もう少し頭を使って生きろ!
今日はファイル整理を命じる。終わるまで帰れると思うな!」
ボスのガミガミ声が外まで聞こえる。
25 :
書き手1:2005/12/27(火) 23:37:18
やっと解放され、ダニーが出てくると、皆、ダニーの顔を見ぬように仕事に没頭するふりをした。
マーティンが、それとなく「ねぇ、その顔どうしたの?」と尋ねてきた。
「かっぱらいに襲われた。撃退したけど、一発やられたんや。」
「痛そうだね。大丈夫?」
「ああ、もう大丈夫や。さぁ、仕事せんとまたボスにどやされる。」
ダニーはボスに言われたファイルをどっさり自分の机に運ぶと、一番上から開き始めた。
26 :
書き手1:2005/12/27(火) 23:38:31
ダニーの携帯が鳴る。見覚えのない番号だ。
「はい、テイラー。」「ダニー、ジャネットよ。」
「ジャネット、今、どこです?」
マーティンの眉が上がる。
「今、空港。これからボストンに戻るわ。食事の時にも言ったけれど、
アランをよろしく頼むわね。あの子、強そうで線が細いところがあるから。」
「判りました。お気をつけて。」
「また会えるわよね。」「はい、喜んで。」
電話を切るとダニーはため息を漏らし、またファイル更新に没頭した。
27 :
書き手1:2005/12/27(火) 23:40:08
定時が過ぎても、ダニーの前にはファイルが7冊ほど残されていた。
サマンサとヴィヴィアンが気の毒そうに「お先にね。」と帰っていく。
マーティンが椅子ごとダニーの隣りに移動してきた。
「ねぇ、ダニー、手伝おうか?」
「いや、昨日の罰やから、俺、片付けるわ。」
「何か買ってくるよ。」
「そうか、じゃ、スタバでチキン・チーズサンドとカフェラテのグランデを頼む。」
「うん、判った。僕も一緒に食べていい?」「ああ、済まない。」
マーティンはスタバの袋を三つかかえて帰ってきた。
28 :
書き手1:2005/12/27(火) 23:41:15
「本当に手伝わなくて平気?」
「ああ。お前の字だとすぐに分かるしな。」
マーティンはダニーが耳に刺している万年筆に目がいった。
「ダニー、万年筆なんて珍しいね。」
「あ、ああ、プレゼントやねん。」
「ふぅん、綺麗な色だね。」「ヒスイやて。」
マーティンはピンときた。そんな高級趣味、アランしかいない。
それにしても、さっきのジャネットって誰だ?
29 :
書き手1:2005/12/27(火) 23:42:39
ダニーはスタバの袋からカフェラテのカップを出すと、一口飲んだ。
ほかほかのサンドウィッチも取り出し、かぶりついている。
マーティンは3種類のサンドウィッチを机に並べて、考えている。
「お前、何で3つも買ったん?」
「どれも美味しそうで決めれらなかったんだよ。」思わず噴出すダニー。
「笑わないでよ!」
「お前って子供な〜。仕事終わったら、ピザでも食いに行こうかと思ったけど、いらないな。」
ダニーがからかった。
「うそうそ!これ、残すから、ピザ食べに行こうよ!ダニー、早く仕事終わらせてよ!」
マーティンはかさかさとサンドウィッチ2つをしまい、コンビーフサンドにがっついた。
30 :
書き手1:2005/12/27(火) 23:44:24
1時間の残業で、どうにかノルマのファイル情報の更新が終わった。
「まだまだ未解決事件の山やな。俺らの仕事も終わりがないな。」
二人は支局からほど近いトラットリアでワインを飲んでいた。
「ねぇ〜、ダニー、クリスマスの会食、どうだった?」
「どうって?」
「大事な約束だったんだよね。」
「う、うん、まぁな。」
「誰と会ってたの?」
「アランの姉さんのジャネットや。」
「え、アランのお姉さんと食事するのが大事だったの?」
マーティンが真剣に尋ねる。
31 :
書き手1:2005/12/27(火) 23:45:42
「まぁ、色々あるねん。」
「なんかまるで、家族団らんみたいじゃないか!」
マーティンが声を荒げた。
「そんなんじゃないねん。」
「僕といるよか、大事だったんだよね。」
「すねるなよ。たまたまボストンからジャネットが来るっていうんで、一緒に食事しただけや。」
「本当かなあ。ジャネットって何してるの?専業主婦?」
「地方検事やて。」マーティンは感心した。
「へぇ、アランのお姉さん、優秀なんだ。」
「ちょっと怖かったで。心の中が見透かされそうやった。」
ダニーは目を宙に漂わせた。
32 :
書き手1:2005/12/27(火) 23:47:18
「そや、ジャネットに電話したろ。」
マーティンに深い意味がない事を分からせるために、わざと目の前で電話をかける。
「ジャネット?ダニーです。無事に家に着きましたか?はい、ええ、また。」
マーティンがじっと見ている。
「な、他意ないやろ。」「綺麗な人?」
「そやなー。アランが女になったって感じやな。」
「綺麗そうだね。アラン、ハンサムだもん。」
「お前だってハンサムやないか?」
「僕?だめだよ、年齢に見られないもん。来年33なのにさ。」
マーティンがぷうっと膨れる。ダニーが苦笑した。
「お前って何一つ不自由ないようでいて色々悩んでるのな。可愛いで。」
33 :
書き手1:2005/12/27(火) 23:48:32
ダニーの携帯が震えた。アランからだ。
ダニーが出ようとした瞬間、マーティンが携帯を取る。
「はい、ダニーの携帯です。僕、マーティン。どんな御用でしょう。」
アランは面を食らっていた。
「ダニーにジャネットへの電話のお礼が言いたくてね、伝えてくれるかい?」
「はい、分かりました。失礼します。」
「アラン、何やて?」「ジャネットに電話した御礼だってさ。」
ダニーは不思議とマーティンに腹が立たなかった。
クリスマスに寂しい思いをさせたのは他でもない自分だからだ。
34 :
書き手1:2005/12/27(火) 23:49:31
「ピザ食ったら、俺んとこ来る?」「うん!」
マーティンは目を輝かせると、目の前のピザを二枚一緒に食べた。
「おいおい、喉につかえるで!」
「だって早く帰らないと、ダニーの気持ちが変わっちゃう!」
「そんなことあるわけないやん。」ダニーはわざとゆっくりピザを食べる。
「ダニー、ピザ冷めちゃうよ!早く食べて帰ろうよ!」
「まだワインもあんのにもったいないやん。」
35 :
書き手1:2005/12/27(火) 23:50:54
二人が店を出たのは9時を回った頃だった。
タクシーがなかなかつかまらない。
「店で呼んでもらえばよかったな。」
タクシーを拾うのに30分かかり、二人とも身体の芯から冷たくなってダニーの家に着いた。
「待っててな。今、ヒーター入れるから。」
「うん、僕はバスの準備するね。」
ダニーは、高島屋ニューヨークで買った日本製の毛糸の靴下を二足並べた。
「ダニー、それ何?」「お前、どっちがいい?」
「え、プレゼント?」「家で履くのにええかと思ってな。」
「僕、目の色とお揃いの青!」「じゃあ俺はグレーな。」
「ダニー、ありがとう!」
マーティンはダニーにキスの雨を降らせた。
36 :
書き手1:2005/12/27(火) 23:52:23
ダニーはよせよせと振り払うと、キッチンへ行き、ブランデーの用意をした。
「お前も飲むやろ?」
「うん、少し。僕、ダニーと付き合うようになってお酒強くなったみたい。」
「俺、これでも7年間酒止めてたのになぁ。」
「もう飲み過ぎはなしだよ。先週ひどかったよね。」
「ごめんな。それじゃ、乾杯!」
二人のグラスを合わせる音が静かなアパートに響きわたった。
「CDでもかけようか?」
「ダニーのピアノがいいや。」
ダニーはリクエストされ、ピアノの前に座る。
37 :
書き手1:2005/12/27(火) 23:53:31
Rufus Wainwright、John Mayer、Aqualung、Ben Folds を立て続けに弾き語りし、マーティンをうっとりさせた。
「ピアノラウンジに行く必要ないね。」
「チップはずんでな。」
「実は、僕、ダニーにプレゼント買ったんだ。」
マーティンは、青い小さな箱をブリーフケースから取り出す。
「お前、買うなって言うたやろ。」
「だって、可愛かったんだもん。」
開けてみると、ティファニーのマネークリップだった。
38 :
書き手1:2005/12/27(火) 23:55:04
「こんな高いん、もらわれへんわ。」
「いいんだよ。使ってよ。それよか、そろそろお風呂に入らない?」
ダニーはどきりとした。身体にはまだアランのキスマークが残っている。
「お前、先に入り。俺、仕事思い出した。」
「そうなの?手伝う?」
「いや、ええわ。早よ入らんと冷めるで。」
「うん、じゃあそうするね。」
マーティンにえらい気を遣わせてしもうたな。俺って悪い男や。
来年もアランとマーティンの間を行きつ戻りつするはずの自分を分かっている。
マーティンがバスルームで歌う鼻歌を聴きながら、ダニーは遠くを見ていた。
マーティンは、スチュワートと約束したネクタイを買うためポール・スミスにいた。
ダニーのならすぐに選べたが、スチュワートのはなかなか決められない。
グッチかバーバリーのほうが似合うだろうとは思ったが、ポール・スミスが条件だ。
マーティンは散々悩んだ末、シンプルなアイボリーのタイを選んだ。
ドット柄が浮き出るように織ってあるデザインだ。
プレゼント用にラッピングしてもらい店を出た。
40 :
書き手2:2005/12/28(水) 00:38:01
ぶらぶら歩いているうちに図書館の近くまで来てしまった。
クリニックはすぐそこだ。マーティンはついでに寄ることに決め歩き出した。
以前、クリニックに来たときと建物の印象が違って見える。
気のせいだろうと思い、中に入る。
41 :
書き手2:2005/12/28(水) 00:38:51
受付のジェニファーはもういない。「すみません、どなたかいらっしゃいますか?」
「はい」出てきたのはマーティンが知らないドクターだった。
「あの、ドクター・バートンは?」
「今日は休んでますよ」
「そうですか・・どうも失礼しました」
マーティンはクリニックを出ると携帯に電話してみた。
42 :
書き手2:2005/12/28(水) 00:39:29
「はい・・・ゲホゲホ・・」
「スチュー、風邪引いてるの?」
「ああ、うん。咽喉が痛くて・・」
「大丈夫?僕が行こうか?」
「頼む・・・ゴホッゴホッ」
マーティンはオレンジジュースとリンゴを買い、タクシーを拾った。
43 :
書き手2:2005/12/28(水) 00:40:02
中に入ると加湿器の前でスチュワートが丸くなっていた。
「やあ、来てくれてありがとう。うつるからあんまり近づくなよ」
「うん、はいジュース」
スチュワートは一口飲んだが、咽喉に沁みて咳き込んだ。
「ひどいね。リンゴも買ってきたけど、僕は剥けないから・・」
「いいよ、ありがとう。今日はどうしたんだ?」
「ネクタイ渡そうと思ってクリニックに行ったら休んでるって言われたんだ」
44 :
書き手2:2005/12/28(水) 00:40:34
「ごめん、オレはまだ買ってないんだ。ずっとこの調子で・・・」
「この前、裸で寝たからかな?」
「そうだな、部屋が乾燥してたから」
「この加湿器、ドーナツみたいでかわいいね。僕も買おうかな」
「これさ、アロマオイルも入れられるんだぜ」
スチュワートは咳をしながらおどけて商品説明をした。
45 :
書き手2:2005/12/28(水) 00:41:09
「はいはい、もうわかったから。寝てなきゃだめだよ」
マーティンは笑いながらスチュワートの口を塞いだ。
「横になると胸が苦しいんだ。このほうが楽なんだよ」
「あのさ、クリニックの外観が前と違う気がしたんだけど?」
「ああ、ガラスを換えたんだよ。酔ってオヤジが割ったから。
ほら、この前途中で帰ったろ?あの時さ」
「そっか・・・」マーティンはそれ以上何も言わなかった。
46 :
書き手2:2005/12/28(水) 00:41:41
黙っているのも居心地が悪くて、マーティンは爆発卵の話をした。
スチュワートはゼーゼー言いながら笑っている。
しまいに呼吸困難のせいか顔が真っ赤になった。
「ねえ、大丈夫?もう何も話さないよ」
慌てふためくマーティンにスチュワートはさらに笑い続けた。
47 :
書き手2:2005/12/28(水) 00:42:13
「あー、苦しかった・・・溢血点が出来たようだ」
よく見ると顔中に赤紫の斑点が出ていた。
「この斑点がそう?あ、これ・・絞殺された死体みたいだ」
「やっぱりか・・・しばらく消えないんだよな、これ」
「ごめんね、僕がヘンなこと話したから」
「いいや、おもしろかった。今度マーキンソンに試してみよう」
「危ないってば!本当に爆発するんだから!」
「しない、約束する!」スチュワートはニヤッとしながら指をクロスした。
48 :
書き手2:2005/12/28(水) 00:42:47
やがてデリバリーのチャイニーズが届き、スチュワートはスープを飲んだ。
マーティンはいつものように食欲が旺盛だ。
「いいな、オレもエビが食べたい」
エビチリにがっつくマーティンを物欲しそうに見つめる。
49 :
書き手2:2005/12/28(水) 00:43:19
「治ったら一緒に飲茶に行こう。今夜は我慢して」
「わかった。それ食べたら帰れよ、オレの車使っていいから」
「何言ってんのさ、僕は泊まるよ」
「バカだなぁ、うつるぜ?」
「いいの!そっちこそ食べたら眠りなよ」
スチュワートは嬉しそうに頷いた。
50 :
書き手2:2005/12/28(水) 00:43:51
翌朝、マーティンはこっそり起きて出勤した。
グラマシーからの地下鉄に戸惑い、遅刻ギリギリに支局に着いた。
「おはよう、マーティン」サマンサが意味ありげな顔で声を掛けた。
「おはよう。あのさ、そんなんじゃないからね!」
「はいはい、どうだかね〜」
同じ服を着ているのだからどう思われてるのか安易に想像がつく。
ダニーもチラッと見るとマーティンに背を向けた。
51 :
書き手2:2005/12/28(水) 00:44:23
昼休み、デスクでチキンピタサンドを食べているとダニーが横に座った。
「昨日、アパートで待ってたんやで」
「ごめん、スチュワートが風邪で寝込んでてさ、付き添ってた」
「ふうん、あいつがなぁ。医者の不養生やな」
ダニーはそれ以上追求せず、自分もホットドッグをかじった。
52 :
書き手2:2005/12/28(水) 00:44:55
「なあ、オレも風邪引いたみたい」ダニーがマーティンを覗き込んだ。
マーティンが驚いて顔をあげると、にやっとするダニーと目が合った。
「本当に?」
「うん、ケホンケホン」嘘丸出しの咳をする。
「ダニーったら!」マーティンは肘で軽く突いた。
「あかん、熱が出てきたー」
「まだやってるよ、バカダニィ」マーティンはダニーのホットドッグを取り上げた。
「あほっ、それはオレの昼メシや」ダニーは慌てて取り返した。
53 :
fusianasan:2005/12/28(水) 16:04:12
マーティンが久しぶりに泊まった夜、ダニーは酒に酔ったふりをしてセックスをせずに寝た。
マーティンに身体中のキスマークを見つけられたくなかった。
ぐずっていたマーティンだったが、すぐに眠りについてくれた。
隣りで口を半開きにしてスヤスヤ眠るマーティンの寝顔をダニーはずっと見ていた。
「うぅんん」マーティンが布団をかぶる。
55 :
書き手1:2005/12/28(水) 22:56:13
「おい、朝やで。」ダニーは優しくマーティンを揺り動かした。
まだ起きない。ダニーはマーティンを起こさないようにそっとベッドから出て、素早くシャワーを浴びた。
アザが消えるまであと何日かかるだろう。
マーティンが疑わないだろうか。
そこへマーティンが眠い目をこすりながら、入ってきた。
便器に座って用を足している。
何も言わずにマーティンが出て行ってくれた。
ほっとするダニー。急いでバスローブを引っ掛けると、マーティンに声をかける。
56 :
書き手1:2005/12/28(水) 22:57:02
「バス、空いたでー!」「うん。」入れ違いにマーティンが入ってくる。
まだ寝ぼけまなこだ。助かったわ。ダニーは胸を撫で下ろした。
ダニーは昨日マーティンが余分に買ったサンドウィッチにチーズと
マスタードを足して、ホットサンドにし、コーヒーを入れた。
2種類を半分ずつにして食べよう。
二人とも仕度が終わり、家を出る。
57 :
書き手1:2005/12/28(水) 22:57:59
「今日も寒いなぁ。」
「手繋ぎたいね。」
「あほ!バレるで。」
「ねぇ、バレてもいいって思うことない?」
「俺はない。」
「そうなんだー。僕はね、もうバレちゃっても構わないって最近よく思うんだよね。」
「お前、破滅思考なんやないの?」
「そうなのかなー。」マーティンは不思議そうな顔をしている。
「ビューローにいられなくなるで。」
「FBIだけが人生じゃないじゃない?」
地下鉄の駅に着いたので、会話はそこで途切れた。
58 :
書き手1:2005/12/28(水) 23:00:04
二人でスタバに立ち寄り、ダブルエスプレッソとキャラメルマキアートを買う。
「お前さぁ、太るで。」
「いいんだよ。血糖値下がると頭が働かないし。」
減らず口をたたくようになったな、ボンも。ダニーはヘンなところで感心した。
支局に着くと、ボスがダニーを呼んだ。
「昨日のノルマは終わったか?」
「はい、ボス。ほんま、すんませんでした。」
「お前はうちのチームのエースなんだから自覚してくれよ。」
「はい。」「話はそれだけだ。」はぁ、一応ボスの怒りも治まったな。
59 :
書き手1:2005/12/28(水) 23:01:03
ダニーはPCを開けてメールボックスを確認した。
アランからメールが届いている。
「本日のアポイント7時。」昨日の説明か。
ダニーはデスクでキャラメルマキアートをふぅふぅいいながら飲んでいるマーティンの姿を横目で見た。
あ、俺もアランにプレゼントのお返ししなくちゃな。
ポケットの中に入れているティファニーのマネークリップを確認しながら、
ダニーは昼休みに抜けて買い物に行く事に決めた。
60 :
書き手1:2005/12/28(水) 23:02:20
ヘンリーベンデルに向かい、アロマのエッセンシャルオイルの詰め合わせを店員に選んでもらった。
リラックス、エナジャイザー、バランシング、それぞれの効能が書いてある手引書付きだ。
「彼女がお喜びになりますね。」
ギフトラッピングを頼むと店員はすっかり誤解して満面の笑みで答えた。
61 :
書き手1:2005/12/28(水) 23:03:27
ダニーは今日は堂々と定時にオフィスを出た。
タクシーを拾ってアッパーウェストサイドに向かう。
合鍵でアランのアパートに入ると、まだアランはカウンセリングが終わっていないようだった。
広いリビングで手持ち無沙汰なダニーはスタンウェイの前に座り、
COLDPLAYやJAMIE CULLUMを弾いて待っていた。
アランがカウンセリングルームから現われた。
62 :
書き手1:2005/12/28(水) 23:12:01
「ただいま、アラン。」
「やぁ、来てたね。患者が急にピアノが聞こえたので驚いていたよ。」
「ごめん。」
「今日は外食しようか?」「うん。」
二人は、ギリシャ料理の「ニコス」に行き、ケバブや野菜のオリーブオイルマリネを満喫した。
主人がアランの顔を覚えていて、とっておきのギリシャワインをふるまってくれた。
アランが微笑みながらダニーを見つめている時、ダニーはアランに包みを渡した。
63 :
書き手1:2005/12/28(水) 23:13:07
「何だい、これ?」
「万年筆のお返しって言っても安いけどな。」
「開けてみていいかい?」「うん。」
「わぁ、うれしいなあ。僕が今アーユルベーダに凝っているのを話したっけ?」
「何それ?」
「インドに伝わる民間医学の技術だよ。それにぴったりのオイルだ。」
「へぇ、知らんかった。」
「今日、試してみるかい?」
「うん!」
64 :
書き手1:2005/12/28(水) 23:14:13
ダニーも興味津々だった。
前にアランにやってもらったリフレクソロジーではすぐに寝てしまったほどだ。
二人は急いでアランの家に戻ると、ダニーはシャワーをして、全裸でベッドに横たわった。
「何だか他の事をしたくなるな。」
「アランー、アーユルなんとか試してみて。」
「ああ、分かった。」
アランはリラックスのオイルを選び、ダニーの背中から臀部に塗布すると、ゆっくりとマッサージを始めた。
65 :
書き手1:2005/12/28(水) 23:15:27
背中と臀部が終わると、両腕、両足と続く。
ダニーはいつしか眠りについていた。
気がつくと、アランが全裸になり、ダニーの中に入っていた。
「あぁ、アラン、反則やで〜。」
「うるさい!君は昨日マーティンと寝たんだろう。これ位我慢しなさい。」
「寝てへんって。まだキスマークとれへんもん。」
アランはそれを聞くと、またダニーの背中に噛み付いた。
「アランー、もうやめてえな。いつまでも消えないよー。」
「それでいい。君が誰とも寝ないようにするんだから。」
アランがダニーの肌をついばむ音が、ベッドルームに響き渡った。
二人が視線を感じて顔を上げると、ランチから戻ったボスが見ていた。
手招きされ、嫌々ボスのオフィスに入る。
「お前たち、仲が良さそうで何よりだな」
「・・・・はい」
「18時に地下駐車場だ、いいな?」
「二人ともっすか?」
「どちらか一人でもいいぞ、戻れ」
ボスは鬱陶しそうに二人を追い出した。
67 :
書き手2:2005/12/29(木) 00:04:45
コーヒーを飲みながら二人は顔を見合わせた。
「ボスの相手か、久しぶりやな・・・どうする?」
「ダニーは行かなくてもいいよ。僕が行くから」
「そんなわけにいかんやろ。オレが嫌や」
「いいんだよ、気にしないで」
ダニーが何か言いかけたが、マーティンが遮った。
68 :
書き手2:2005/12/29(木) 00:05:21
仕事が終わり、マーティンは帰り支度をはじめた。
ダニーがいつまでもぐずぐずしている。
「ダニー、早く帰りなよ。ボスの気が変わったらどうするのさ」
「でも・・・やっぱりオレも行く」
「来なくていいったら!さあ、早く」
「わかった、オレ、お前んちで待っとくな」
ダニーはすまなさそうにうつむくと帰っていった。
69 :
書き手2:2005/12/29(木) 00:05:54
マーティンは約束の時間が近づき、地下駐車場に降りた。
すでに待っていたボスの車に乗り込む。
「お前だけか?」
「ええ、今夜はクイーンズですか?」
「わからん、今考えてるところだ」
ボスは車を出すとマディソンアベニューを下り始めた。
70 :
書き手2:2005/12/29(木) 00:06:27
クイーンズから遠ざかっているが、どこに向かっているのかわからない。
ボスは黙ったまま前方を見つめている。
赤信号で止まるたびに舌打ちするボス。いらついているようだ。
マーティンは憂鬱になってきた。
この様子じゃ今夜はひどく虐められそうだ。
71 :
書き手2:2005/12/29(木) 00:06:59
ボスは途中でペットショップへ寄り、小さな袋を提げて戻ってきた。
マーティンが見ているのに気づくと、魚の餌だとだけ言った。
やがて車はボスの家で止まった。
中に入ると酒の空き瓶が何本も散乱していた。部屋がひどく散らかっている。
「あの・・ボス?」マーティンは呆気に取られて声を掛けた。
「うん?何だ?」
「いえ・・あの、その・・何でもありません」
72 :
書き手2:2005/12/29(木) 00:07:32
ボスは買ってきた餌を熱帯魚にやり、水面を見つめている。
背中が寂しそうで、マーティンは切なくなった。
「僕もあげてもいいですか?」ボスは黙ったまま餌の缶を差し出した。
マーティンは少しずつ水面に散らし、餌を食べる様子を観察する。
「もういいぞ、手を洗って来い」
ボスは餌の缶を棚に戻し、傷んだ水草を切り取った。
73 :
書き手2:2005/12/29(木) 00:08:03
マーティンが手を洗っているとボスが入ってきた。
「マーティン、シャワーを浴びよう」
言われるまま服を脱ぎ、一緒にシャワーを浴びる。
どちらも無言のまま体を洗い終え、ベッドルームに行った。
ぐしゃぐしゃのままのベッドに遠慮がちに座る。
ボスの荒んだ生活を目の当たりにして、マーティンは気の毒に思った。
74 :
書き手2:2005/12/29(木) 00:08:36
「マーティン、私を憐れむような目で見るな!」
ボスはマーティンの前に立つとバスローブを肌蹴た。
「咥えろ。早くしないか!」のろのろするマーティンに声を荒げる。
マーティンはボスに一瞥をくれるとペニスを口に含んだ。
「いい子だ、もっと強くしてくれ」一生懸命舐めて奉仕する。
「いいぞ、そこだ・・うっ」ボスはいきなり射精した。
75 :
書き手2:2005/12/29(木) 00:09:08
ティッシュに吐き出そうとしたが、ボスは飲むよう強要した。
相変わらずのエグい味に吐きそうになる。
マーティンは何とか堪えると飲みこんだ。咽喉にへばりついて気持ち悪い。
ボスは満足したのかベッドに寝転んだ。
マーティンの体も一緒に押し倒し、布団に引っ張り込む。
オヤジ臭さが充満するベッドに思わず息が喘いだ。
76 :
書き手2:2005/12/29(木) 00:09:42
「ボス、最後に掃除したのはいつです?」
「わからん」
「メイドはどうしたんですか?」
「解雇した」ボスはマーティンの乳首をギュッと捻った。
「痛いっ!止めてよ」
「お前は可愛いなぁ、いい子だ」ボスはうとうとすると眠ってしまった。
マーティンは起こさないようにベッドを出ると、着替えてアパートに帰った。
77 :
書き手2:2005/12/29(木) 00:10:15
部屋に入るとダニーが玄関で待っていた。
「どうやった?」
「大丈夫、何もされてないよ」マーティンはボスの家の惨状を話した。
「しばらく要注意やな。サムがトロイにはまったんとちゃうか?」
「う〜ん、どうかなぁ、わかんない」
マーティンはダニーが用意していたペスカトーレとポテトグラタンを食べた。
「おいしい!今日は疲れたから食べたら寝るよ」ダニーも黙って頷いた。
78 :
書き手2:2005/12/29(木) 00:10:47
ダニーはマーティンのいびきを聞いていた。
ガーゴガーゴうるさくて寝たいのに眠れない。
こいつも疲れてるんやな。昨日はトロイで今日はボスの相手やもん。
ダニーがそっと鼻をつまむと苦しそうにもがいている。
おっと、起こすとこやった、ダニーは慌てて手を離した。
79 :
書き手2:2005/12/29(木) 00:11:28
ダニーは眠れそうにないので本棚を見ていた。
パトリシア・コーンウェルの新作が置いてある。あいつ、買うの早いなぁ。
ダニーは読もうとしてデスクの上に書きかけの設計図を見つけた。
まだ途中までしか書けていないが、間取りや窓の位置まで詳しく書いてある。
ほんまやったら建築関係の仕事したかったんやもんな、ダニーは緻密な設計図に感心した。
80 :
書き手2:2005/12/29(木) 00:12:00
もう一枚のほうは完全に出来上がっている。
ツリーハウスの設計図のようだ。
重量計算を見る限り、マーティンが自分と二人分の重量を算出している。
一緒に住むってこれ建てるつもりなんか!
ダニーは驚き、呆れて思わず笑い出した。
同棲する気はあるみたいや、ダニーはベッドに戻りながら自然と頬が緩んでいた。
ダニーは激しく後悔していた。またアランにキスマークつけられてしもうて、
これじゃ、いつになってもマーティンとエッチできへん。
アランの筋肉の上に薄っすらぜい肉が乗った身体も好きだったが、
マーティンの筋肉質の身体が無性に恋しかった。
あいつ腰周りが俺よりしっかりしてるからなー、
本気で喧嘩したら負けるんちゃうかな。
82 :
書き手1:2006/01/01(日) 00:12:55
そんな考え事をしながら、ベッドでうとうとしていると、電話が鳴り出した。
「はい、テイラー。」
「僕だよ、今晩さ、用事ある?」マーティンだった。
「特に予定ないけど、何なん?」
「食事しようと思ってさ。ダニーさえ良ければ。」
「そうしよ。でも、予約せいへんで平気か?」
「実はもう席押えてあるんだ。」
「お前、そんなん気い使わなくてもええのに。」
「だって、今年最後の日だもん。」
「分かった。じゃあ俺が払うわ。」
「どっちでもいいよ。じゃあ、約束だよ。8時にプラザホテルのロビーで待ってるね。」
朝の7時だった。あいつ、張り切ってるわ。
83 :
書き手1:2006/01/01(日) 00:13:53
ダニーはまたまどろみ始めた。朝10時になり、また電話が鳴った。
「はい、テイラー。」
「ハニー、アランだ。今晩は用事はあるかい?」
「うん、マーティンと食事。」
「そうか。それが終わったら、二人で家に寄らないか?」
「二人で寄ってもええの?」
「ああ、待ってるよ。」
去年の大晦日は、仕事納めの後、バーに一人出向いて飲んだ覚えがある。
今年は様変わりした。来年の大晦日は誰と過ごしているだろう。
84 :
書き手1:2006/01/01(日) 00:14:38
夜8時になり、ダニーは正装してプラザホテルに出向いた。
同じく正装のマーティンが待っていた。
「ダニー!今日はボールルームでニューイヤーズイヴのディナーだよ。ダンスパーティー付き。」
マーティンは目をきらきらさせて話す。
「おい、お前まさか踊るつもりじゃないやろうな。」
「さすがにここじゃね。でもダニーにキスしたいよ。」
「場所変えてやってな。」
85 :
書き手1:2006/01/01(日) 00:15:41
二人は、ボールルームに入ると、ウェイターに案内されてテーブルについた。
シャンパンがすぐに注がれる。
マーティンがダニーを熱く見つめてグラスを合わす。
ダニーは思わず照れ笑いをして視線をかわした。
食事はビュッフェ形式で、メインディッシュはローストビーフとオマール海老のグリルだ。
86 :
書き手1:2006/01/01(日) 00:17:50
「ダニー、来年はどんな年ならいいと思う?」
「俺にもお前にも何事もなく無事に生きていられる年。」
「随分現実的だね。」
「俺ら、危険と隣り合わせなんやで。それ、忘れるなよ。」
「うん、分かってるよ。僕は来年はもっと外回りに出たいな。」
「2年目やもんな。ボスに直談判してみい。」
「うん、そうする。」
87 :
書き手1:2006/01/01(日) 00:22:13
メインも終わり、マーティンはチョコレートムースを山ほど取ってきた。
ダニーは、レミーマルタンにあわせ、チーズを食べている。
「おい、これからアランの家に行く予定になってんけど、お前も来るやろ?」
「え、そうなの?」マーティンは明らかに残念そうだった。「行くよ。」
「じゃあ、電話するわ。」ダニーは席を立って廊下でアランに電話した。
「アラン?俺や。二人でお邪魔するわ。うん、もうすぐ。」
プラザからタクシーを拾い、アッパーウェストサイドに上る。ダコタアパートを
左折すればアランの家だ。
88 :
書き手1:2006/01/01(日) 00:30:47
合鍵で開錠し、アランの階に上る。アランの部屋から人の笑い声や話し声が
漏れていた。うん?パーティーか?ドアを開けると、ジュリアンが出迎えてくれた。
ああ、ニューヨーク・ロンサム・ハンサム・クラブや。「いらっしゃい!」
驚いた事に、ギルがケンと一緒に座っていた。アランがシャンパングラスを
持って二人を出迎える。「よく来たね。今日はこのまま年越しだよ。」
そうこうしているうちにカウント・ダウンが始まった。
アランの大型プロジェクターにはタイムズ・スクウェアの喧騒が映し出されている。
「10、9、8・・・」マーティンは皆の迫力に面食らっている。
クラッカーを持たされ、「3、2、1!ハッピーニューイヤー!!」と同時に
皆の手元のクラッカーがはじけた。マーティンがすかさずダニーにキスをする。
それを奪うようにアランがダニーの顔を自分の方に向け、ディープキスを施す。
皆がその様子を見て、ヒューヒュー口笛を鳴らした。
89 :
書き手1:2006/01/01(日) 00:35:40
「ダニー、どうするんだい?このビザー・ラヴ・トライアングル」
トムがおかしそうに笑っている。「トライアングルも何も、俺分からんわ。」
ダニーは誤魔化して笑った。もうこうなったら飲むしかない。シャンパンを
たて続けに飲み続けるが、食事後なのであまり酔えない。
マーティンはアランと何やら神妙な顔をして話している。
ダニーはいたたまれなくなり、バルコニーで冷たい風に当たる事にした。
ケンが後から付いてきた。「お前、何や、より戻したんか?」
「うん、ダニーにギルの息子が似てないって言われて、僕さ、DNA鑑定に
出したんだよ。そうしたら、赤の他人だって分かってさ。」
「へぇー、良かったな。」
「とりあえずはね。でも今年もたまには僕と遊んでね、ダニー。」
ケンは背伸びしてダニーに急いでキスをするとリビングに戻っていった。
90 :
書き手1:2006/01/01(日) 00:39:27
マーティンがバルコニーにやって来た。
「アランがさ、ダニーは家族同然だって言ってる。僕ってダニーの何なの?」
ダニーは一瞬返事に窮した。
「お前かて俺にとっちゃなくてはならない存在や。お前がいなけりゃやっていけへん。」
「じゃあ、今年もアランと競わなきゃならないんだね。」
マーティンはもつれそうになる舌を必死で動かして、決意表明をした。
「・・・。」ダニーがだまっていると、マーティンの身体がかしいだ。
相当酔っ払っているようだ。アランに声をかけ、ベッドに寝かせてもらう。
91 :
書き手1:2006/01/01(日) 00:41:55
パーティーはお開きになり、ゲストは次々に帰っていった。
ダニーはアランに申し訳なく、マーティンをおぶって帰ろうとした。
「ハニー、今日は泊まっていけよ。」「でもマーティンが・・・」
「3人でベッドに入っても問題ないだろう。」
「アランが許してくれるなら。」
アランとダニーは、シャワーを軽くして、全裸でベッドに入った。
マーティンはぐっすり寝ている。
92 :
書き手1:2006/01/01(日) 00:45:22
夜中、トイレに行きたくてマーティンは目が覚めた。
見覚えのない部屋だ。後ろを振り向くと、ダニーがアランに包まれるように
よく寝ていた。え、僕、3Pしちゃったのかな。マーティンは心臓がバクバクした。
ダニーを起こさないようにベッドから抜け出し、用を足すと、自分も全裸になり
ダニーに寄り添うように横になった。
アランとダニーを共有するのは心底嫌だったが、今は勝ち目がない。
マーティンは自分に強く言い聞かせて、ダニーの胸に顔を押し当てて
静かに目を閉じた。
ダニーは朝起きてからもニヤニヤしている。
「ダニー、何かいいことでもあったの?」
「うん、ちょっとな。ええもん見つけたんや」
「いいものって?」
「お前の書いた設計図」
「あー、勝手に見ないでよ。びっくりさせようと思ってたのに!」
マーティンは口を尖らせた。
94 :
書き手2:2006/01/01(日) 23:33:29
「まさかと思うけど家は建てられへんで?」
「わかってるよ。でもさ、いつか建てられるといいね」
「うん。オレと一緒に住む気になってくれた?」
「まだ迷ってる。ごめんね」
「ええねん、ゆっくり考えてくれ。さあ、そろそろ行こか」
ダニーは内心がっかりしながらアパートを出た。
95 :
書き手2:2006/01/01(日) 23:34:05
ダニーは支局で捜査方針をめぐってマーティンと言い争いになった。
先に帰ったものの気になり、マーティンのアパートへ来た。
室内は真っ暗でまだ帰っていないようだ。
「マーティン?」
ダニーはもしやと思い、ベッドルームに行ったがいなかった。
96 :
書き手2:2006/01/01(日) 23:34:39
床に脱ぎ散らかしたままのパジャマをベッドに置き、大きくため息をついた。
玄関で音がして話し声がする。誰かと一緒のようだ。
ダニーは咄嗟に灯りを消してクローゼットに隠れた。
「あーあ、疲れたー」
「あんなに飲むからだ。もう寝るか?」
マーティンとスチュワートが入ってきてベッドに座った。
97 :
書き手2:2006/01/01(日) 23:35:12
ダニーは出るに出られず、音を立てないように息を凝らした。
二人の会話が筒抜けで、なんとも居心地が悪い。
「僕、FBIなんかやめたくなっちゃった」
「じゃあ、やめるか?」
「えっ、引き止めないの?」
「ああ、オレは引き止めない。好きにすればいいさ」
マーティンは訝しげにスチュワートを見つめた。
98 :
書き手2:2006/01/01(日) 23:35:46
「あのさ、スチューって変わってるね」
「そうか?君ぐらい軽く養ってやれるぜ」
「何言ってんのさ。僕だって男なんだ、自分で稼ぐよ」
「そうは言ってない。君が男なのも知っている」
「じゃあ子供みたいな扱いしないで。僕は大人の男だ」
スチュワートはニヤッとするとマーティンの頬に手を当て、そっとキスをした。
99 :
書き手2:2006/01/01(日) 23:36:19
ダニーは気が気でない。隙間からキスする二人が見える。
このままあいつらが寝たらどうしよう・・・
いまさら出て行くわけにもいかず、やきもきしていた。
そうこうするうち、マーティンが体を離しベッドに横たわった。
スチュワートが服を脱がしているのが見える。
「今夜はしたくないんだよ」
「わかってる。着替えを手伝ってるだけさ」
よかった・・・ダニーは思わずフーっと息を吐いた。
マーティンはパジャマを着るとベッドに入った。
「マーティン、オレはそろそろ帰るよ。まだ仕事が残ってるから」
「またクリニックに戻るの?」
「いいや、CDCに提出する症例研究レポートを書かないと。面倒だけど仕方ない」
「そっか。忙しいのに付き合ってくれてありがとう」
「いいんだ、今度こそゆっくり過ごしたいな」
スチュワートは照れくさそうにキスすると出て行った。
マーティンはしばらく寝返りを打っていたが、そのうち動かなくなった。
ダニーはマーティンが寝たのを確認すると、そっとクローゼットから出た。
起こさないよう慎重にベッドに近づく。
あどけない寂しげな寝顔だ。
ダニーはいたたまれずそのままアパートを出た。
家に帰ってもむしゃくしゃして眠れない。
気晴らしに近くのショットバーへ行き、ドライ・マンハッタンをしこたま飲んだ。
「一人?」顔を上げると赤毛の女が意味ありげに微笑んでいた。
「私はサラ、あなたは?」
「さあ誰やろな」ダニーの返事に女はくすっと笑い、グラスをカチンとぶつけた。
夜中に目を覚ますと知らない部屋にいた。
横には女が寝ている。お互い全裸のままだ。
ベッドの下には使用済みのコンドームがティッシュとともに落ちている。
ダニーは何も覚えていなかった。
慌てて服を着ると逃げるように外に出た。
あちゃー、やってもた・・・・・あの女は誰やろ?
ダニーは自分に腹が立ち、何度も自分の頭を叩いた。
自分がどこにいるのかもわからず、通りの名前に目を凝らす。
トライベッカにいるとわかったが、やはり何も思い出せなかった。
時間を今朝に巻き戻したい、ダニーは自己嫌悪に陥りながら自分を呪った。
ダニーは新年の朝を、アランとマーティンのサンドウィッチ状態で迎えた。
何やこれ?昨日はしこたまシャンパンを飲んでベッドに入った。
一体3Pしたのかどうかさえ、思い出せなかった。
アランの腕がダニーの身体に巻きついている。
二人を起こさないようにベッドから出るのは至難の技だった。
あちゃー2006年の初めからこれかい!ダニーはひたすら自己嫌悪に陥った。
二人のどちらにも決められない自分の優柔不断さが嫌だった。
ダニーが天井をにらんでいると、マーティンが目を覚ました。
「ダニィ、おはよう。僕、迷惑かけた?」
「お前、つぶれたからな。アランとベッドに運んだんや。」
「そうなんだ。」マーティンはすまなそうな顔をした。
二人の話し声でアランも目を覚ました。
「おはよう。」「アラン、おはよう。」
アランはのろのろ起き上がると、キッチンでコーヒーを入れ始めた。
ダニー、マーティンの順でシャワーを浴びる。
二人で入るのは気が引けて出来なかった。
マーティンと入れ替わりで、アランがバスルームに入る。
マーティンはそれとなく、アランの身体をチェックした。
ふん、やっぱり中年体型じゃないか!マーティンは自分の筋肉質の身体を誇らしく思った。
アランがシャワーから出るなり、ダイニングでコーヒーを飲んでいる二人に声をかける。
「どうだろう。ウォルドルフ・アストリアのブランチにでも行かないか?」
「ええなぁ、マーティンも行くやろ?」
「もちろん。」
コーヒーを飲み終わる頃、アランが正装してクローゼットから出てきた。
ダニーが見てもホレボレする男前だった。
「やっぱり、アラン位胸に厚みがあると似合うねんな。」
「今年は君ももう少し目方を増やせよ。」
「あんまり太れない体質やねん。」
3人はアランのボルボに乗って、ミッドタウンまで下った。
ホテルのヴァレット・パーキングに車を頼み、1階のレストランでブランチを楽しむ。
周りは旅行客や地元の上流階級の面々でひしめいていた。
アランがドン・ペリニオンを頼み、3人で乾杯する。
マーティンは早速オードブルを取りに行った。
ダニーとアランはテーブルに残って話し込む。
「昨日、マーティンと何話してた?」
「お互いにとって君がどんな存在か確認していたと言う感じかな。」
「ふうん、なんかこそばゆいな。」
「今年もよろしく頼むよ。ダニー・テイラー。」
「俺こそ、アラン・ショア。」
二人が見つめ合っていると、マーティンが生ハム・いちじくやスモークサーモンを
山ほど乗せて戻ってきた。
ダニーが入れ替わりでオードブルを取りに席を離れた。
「君はいつでも食欲あるね。昨日、あれだけ飲んだのに。」
「アラン、僕の事、子供だと思ってるでしょう。
貴方に比べたら、僕はひよっこかも知れないけど、
だけど、ダニーを思う気持ちは負けないんだ。」
それだけ言うと、マーティンはオードブルを食べ始めた。
「ダニーは幸せな男だな。」
アランも席を離れ、オードブル・テーブルに向かった。
ダニーが戻ってくる。パテ・ド・カンパーニュとサーモンの他はグリーンサラダだ。
「ダニー、もっと身になるもの食べなよ。」
「お前の胃袋と違って、俺のは繊細やねん。あれだけ飲んで、良く食えるな。」
「アランと同じ事言うんだね。」「そうか?」
アランも戻ってきた。3人で無言でフォークを進める。
アランが口火を切った。「明日から仕事だね。」
「ああ、何も事件がないとええけどな。」
「正月から失踪する人なんているの?」マーティンが生ハムと格闘しながら尋ねる。
「ああ、NYっちゅう街は年末年始を孤独で過ごす人種も多いからな。」
「明日は早く帰りたいね。」「そやな。アランはいつから診療開始?」
「僕は明日まで休んで3日が仕事始めだよ。もう20人予約が入っている。」
「アランの仕事も大変なんだね。」
マーティンはそれだけ言うと、ホットディッシュのテーブルへ向かった。
アランがテーブルの下で足をからめてきた。ダニーは思わずドキドキする。
「早く君とベッドに戻りたいよ。」
「今日はダメや。マーティンがいてるから。」
「そうだね。思慮が足りない発言で済まない。」
マーティンが戻ってきた。ローストチキンとスペアリブ、子羊のソテーが乗っている。
ダニーとアランは思わず吹き出した。
アランとダニーも交互にメインを取りに行き、アランは真鯛のポアレを、
ダニーはブイヤベースを取ってきた。
「二人とも肉食じゃないんだね。」
マーティンはスペアリブにがっつきながら、二人の皿と自分の皿を見比べる。
「お前はまだ成長期やからなー。肉食でええんちゃう?」
「その勢いじゃあ、ダニー位身長が伸びるかもしれないな。」
二人にからかわれ、マーティンは顔を紅くした。
デザート、チーズと食事は進み、お開きになった。
アランはシガー・バーに寄って一服するというので、ダニーとマーティンは
アランと別れた。二人とももじもじしていたが、マーティンは思い切って
ダニーをアパートに誘った。断わられるのを承知の上だ。
「ああ、ええで。」ダニーの快諾を得て、マーティンは驚いた。
わぁい!一緒にいられるんだ!
アッパーイーストサイドに戻り、マーティンのアパートに入る。
メイドに休みをやっているせいで、ファーストフードの箱が散乱している。
「お前、人を招待するなら、綺麗にせいよ。」ダニーが呆れてつぶやく。
「ごめん、ダニーのとこに行けば良かったね。」
「でも、明日出勤するのに、こっちの方が便利やからな。」
「え、泊まっていってくれるの?」
「ああ、後でスーツ取りに家まで行って来るわ。」
「うん!」マーティンは心の底から幸せを感じた。
アランではなく、自分をダニーが選んでくれた幸福感に酔いしれた。
116 :
fanですw:2006/01/02(月) 01:18:54
新年おめでとうございます。
今年もお二人のストーリー楽しみにしています。
ダニーは朝からずっといらついている。
何度も舌打ちする様子にマーティンが声を掛けた。
「どうかしたの?」
「問題ない」
「その割りにはいらついてるね」
「うるさい、向こう行けや!」みんなが驚いてダニーを見た。
「ごめん」ダニーは謝ったが、マーティンは無表情のままオフィスを出た。
「ダニー、謝ったほうがいいわよ。あの子傷ついてた」
ヴィヴィアンとサマンサが促した。
「そやな・・行ってくる」
ダニーはマーティンを追ってトイレに行った。
マーティンは鏡の前で塞ぎこんでいる。
「ごめんな、言い過ぎた」
「昨日のことをまだ怒ってるんだね」
「いや、それは関係ない」
「どうだか」マーティンは一瞥をくれると行ってしまった。
くそっ!ダニーはトイレのドアに思いっきり拳を叩きつけた。
ボフッとくぐもった音とともに穴が開き、ダニーは慌ててトイレから逃げた。
修復の見込みもないまま仕事が終わった。
マーティンはさっさと帰ってしまい、ダニーは帰りにフルートに寄った。
ロックフォールチーズをつまみ、スプマンテを流し込む。
酔いが回るほどに腹が立ってきた。
マーティンとうまくいかへんのはトロイのせいや!
あいつがいてるから同棲もできひん!
毒づきながらさらにグラスをあおった。
ダニーはチェックを済ませると店を出て歩き出した。
裏通りの角で女を買い、近くのモーテルに連れ込む。
部屋に入ったあと、するかどうかダニーは迷っていた。
「ねぇ、早くしてくれない?」痺れを切らした女が急かす。
「やかましい、口を閉じて足を開け!」
カッとなったダニーは乱暴に女を押し倒し、コンドームをつけるといきなり挿入した。
女が痛がって顔をしかめるが、構わずに腰を振る。
適当に果てると100ドル札を女に投げ、振り向きもせずに部屋を出た。
ダニーは無意識のうちにグラマシーに来ていた。
スチュワートのアパートの前でタクシーを降り、インターフォンを鳴らす。
「はい」すぐにスチュワートが出た。
「テイラー」
「あ?今は夜中の2時だぜ?」
スチュワートは驚きながらも入れてくれた。
「何なんだ、こんな真夜中に。忙しいから手短にしてくれ」
ダニーは黙ったままスチュワートを見つめている。
「どうしたんだよ?おかしなヤツだな」
スチュワートはコーヒーを淹れた。
「用がないなら飲んで帰れよ。オレは仕事中なんだ」
ブラックのままコーヒーを飲み、スチュワートはダニーを訝しげに見た。
「おい、何も言わないなら仕事に戻るぜ?話したくなったらそこにいるから」
スチュワートはダニーを置いて、目の前の部屋に入ってしまった。
ふとダニーは、自分が何故こんなところにいるのかわからなくなった。
自分のしたいことすらわからない。
そのままソファでぼんやりしていた。
しばらくするとスチュワートが出てきた。
「さてと、終わったからオレは寝るよ。それで、君はどうする?」
スチュワートは黙ったままのダニーの腕を掴み、ベッドに押し倒した。
「何すんねん!お前、オレと寝る気か!」
「バカ、もう寝ろよ!あと数時間しか寝る時間がないぞ」
スチュワートは強引に布団をかぶせ、自分も目を閉じた。
とても眠れないと思っていたのに、いつのまにかうとうとしていた。
「おい、起きろよ」
ダニーが目をあけると眠そうなスチュワートの顔があった。
「もう起きないと遅れるぜ。一度家に帰るんだろ」
「ああ」
「お前、女と寝たな?全身安っぽい香水が匂ってるぞ」
ダニーは何も言わず目を伏せた。
「どうやらオレより君のほうがスティンガーのようだな。
けど、いくら女に飢えててももっと厳選したほうがいい」
スチュワートはニヤッとした。
「オレ、帰るわ」
「待てよ、一体何しに来たんだ?」
「わからん・・・迷惑掛けたな」
ダニーはふらふらとスチュワートのアパートを出た。
家に帰ると留守電にマーティンのメッセージが入っていた。
ダニーは逃げるようにベッドに入った。ん?温かい・・・
いきなりマーティンがダニーの腕を掴んだ。「どこに行ってたの?」
「え、なんでここに?」
「心配して見にきたらいなかった。昨夜はどこに・・・」
マーティンはダニーの体から女の香水を嗅ぎ取り、口をつぐんだ。
「そっか、そういうこと・・・。できれば知りたくなかったよ」
「いや、違うんや」
マーティンは触れようとするダニーを手で制し、涙を堪えている。
「いい、もういいんだ。先に行くよ」
「待てって!昨日はトロイと一緒やった。聞けばわかる!」
「スチュワートと?でも、その匂いは?」
「バーで女とぶつかった時にでもついたんやろ。お前の思ってるようなことと違うで」
ダニーは必死に取り繕った。
「嘘やと思うなら今すぐトロイに聞いてくれ」
「わかったよ、ダニーを信じるよ」
「ごめんな、嫌な思いさせて」
ダニーは胸が痛んだが、マーティンを抱きしめた。
「ダニィ」甘えたマーティンが目を閉じる。
ダニーはそっとキスしながら、スチュワートに口止めすることを考えていた。
マーティンのアパートに泊まった晩、ダニーは電気を消して、マーティンを情熱的に抱いた。
マーティンが喜びで思わず泣き出すほどに愛撫を施して、何度も貫いた。
幸い、マーティンも行為に夢中で、ダニーの身体中のキスマークに気がつかなかった。
俺って最低。ダニーの自己嫌悪はハイレベルのままキープされていたが、
どうにかマーティンに嫌疑をかけられずに務めを果たせた事に満足していた。
マーティンが先に起き、しっかりパジャマを着て寝ているダニーに驚いたが、
コーヒーとトーストの準備で、すぐキッチンに向かった。
ダニーが起き、シャワーを浴びている音がする。
マーティンは忍び足でバスルームに近付き、シャワーブースのドアを開けた。
「ダニー!何そのアザ?病気?」「見るな!」
ダニーは急いでドアを閉めたがもう遅かった。
マーティンは、ダニーのブリーフケースと着替えのスーツをリビングのソファーに並べて、
ダニーがシャワーから出てくるのを待っていた。
「マーティン・・・。」
「出てってよ!やっぱり浮気したんだね。新年からひどいよ!僕のところに泊まって喜ばせておいて。隠し通せるとでも思ったの?」
「ごめん。言葉もないわ。」
マーティンが突然ダニーに殴りかかった。右のアッパーカットがダニーの左頬に命中した。
続けて次々に拳を振りかざすマーティン。
反射的にダニーもマーティンに反撃してしまい、マーティンの口から血が流れた。
しばらくもつれるように拳の応酬を繰り返していたが、息が切れてきて、二人で手を止めた。
バスローブがはだけて、ダニーのキスマークが一層あらわになった。
「もう、出てって!」
ダニーはスーツに着替えると、ブリーフケースを持って、アパートを去った。
マーティンはその場にへたり込んだ。涙がこみ上げてくる。
仕事始めの日は最悪の状態で始まった。
ダニーが一番乗りで支局に行き、スタバのコーヒーとベーグルで朝食を取っていると、ボスが出勤してきた。
「おお、早いな。お前、何だその顔は!またケンカか!新年早々やめてくれ。」
ボスが途端に不機嫌になった。
「はい、ボス、了解っす。」
サマンサとヴィヴィアンがあたふたと出勤してきた。
「ダニー、新年おめでとう。ってその顔どうしたの?」
サマンサが目を丸くして尋ねる。
「つまらんケンカや。」ダニーはそれだけ言うと書類に目を落とした。
が、定時になってもマーティンが出勤してこない。
ボスが一層不機嫌そうに「おい、ダニー、マーティンを呼び出せ。」と命じた。
あいたたた、俺かよ!ダニーは仕方なくマーティンの携帯に電話した。
留守電のメッセージが流れている。
ほどなくマーティンが目を真っ赤にして出勤してきた。
「ボス、申し訳ありませんでした!」
「お前、新年早々たるんでるぞ!なんだ、ダニーに続いてお前もケンカか!俺の眉間のシワをこれ以上増やさないでくれ。」
「はい。」マーティンはしょげながら席についた。
ダニーがそれとなく様子を伺うが、マーティンは目を合わそうとしない。
最悪や。サマンサがビニール袋に氷を入れて、無言でダニーとマーティンに渡した。
二人も無言で受け取り、腫れた顔に当てた。
マーティンがトイレに立った隙を見て、サマンサがダニーに話しかける。
「まさか、二人でケンカしたの?」「そのまさかや。」
サマンサは呆れて答える。「まったく、二人とも今年幾つよ!」
「ほっといてくれや。十分に情けないって自覚してんのや。」「はいはい。」
仕事始め初日は、何の事件もなく平穏に過ぎた。
ダニーはマーティンと目を合わす事無く、PCを終い、支局を出た。
まっすぐ家に帰る気がしない。さりとてこの顔じゃバーにも寄れない。
アランのところに寄って食事して帰ろう。
アランの家の前でタクシーを降り、なぜかインターフォンを鳴らした。
「はい?」アランの訝る声がする。
「俺、ダニー。」「何だ、合鍵で入ればいいのに。」開錠される音がした。
アランの部屋に入ると、「何だい、その顔?」と抱きしめられながら尋ねられた。
「マーティンと大喧嘩した。」それだけ言うと、ダニーはほろほろと涙を流した。
「手当てするから、着替えなさい。」
アランはいつもと変わらぬ大きさで包容してくれる。
アディダスに着替えてソファーに座ると、アランがドクターバッグを持ってきた。
「口開けて。」「あーん。」
「歯は折れなかったようだね。でも、口の中がかなり切れてるなぁ。何でまた二人でケンカしたんだい?」
「俺のキスマーク。」アランはくすっと笑った。
「とうとう見つけられたか。それにしても、マーティンも人に拳を上げるタイプなんだな。
ちょっと見直したよ。」
「まったくアランのせいやで。」
ダニーは泣きながら膨れっ面を見せる。
アランはそんなダニーに優しくキスを施しながら、口の中を消毒した。
「顔の腫れは仕方がないなぁ。」
アランが気を遣ってチャイニーズのデリバリーを取ってくれた。
鶏とカシューナッツの炒め、エビチリ、シュウマイ、炒飯で夕食を済ます。
「ありがと、アラン。随分落ち着いたわ。」
ダニーは目を赤くしながら、礼を言った。
「いつでもおいで。今日は泊まるかい?」
「いや、家に帰るわ。ありがとう。」
ダニーはまたスーツに着替えると、寒いNYのストリートへと戻っていった。
ダニーは眠れぬ夜を過ごした。顔の傷のうずきより心の傷がうずいて
どうしても眠りに入る事が出来なかった。俺にとって、マーティンも
アランもなくてはならない存在や。
でも、マーティンがそれを許さない限り成立しない関係でもある事を
ダニーは十分分かっていた。思わず頭をかかえ、寝返りを打った。
朝になり、のろのろとシャワーを浴びる。
血色が良くなり、小花が咲いたようになるキスマーク。
思わずナイフでえぐりたくなった。
食欲もわかず、オレンジジュースだけを飲んで出勤する。
オフィスには誰もいない。
ダニーは、PCを立ち上げるとぼんやり画面を見つめていた。
どうしたらマーティンと修復できるやろう。
一日中そればかりを考えて、仕事が手につかなかった。
ボスが思わず声をかける。
「おい、ダニー、ちょっと来い。」「はい、ボス。」
ボスのオフィスに入るとマーティンが待っていた。
「マーティンから話を聞いた。何が原因か知らないが、お前たち二人で殴りあったのか。」
ダニーはマーティンが話した事に驚いていた。
「これが副長官の耳にでも入ってみろ、ダニーは即異動辞令が出るぞ。
お前たち、お願いだから、仲良くしてくれ。話はそれだけだ。」
「了解っす。」二人で解放される。
「マーティン、俺とはもう仕事もしたくないんか?」ダニーが思わず尋ねる。
「ノーコメントだよ。」それだけ言うと、マーティンは席についた。
「おい、俺が失踪者捜索ユニットにどれだけ情熱を賭けてるか知ってるやろ!」
ダニーが声を荒げてマーティンに抗議した。周りの捜査官たちが驚いている。
「自分のしたことを胸に手を当ててよく考えてご覧よ。」
マーティンも折れようとしない。
見るに見かねてヴィヴィアンが止めに入る。
「二人とも、もっと大人になりなよ。恥ずかしいよ。
今日は二人で飲みにでも行きなさいよ。このユニットはチームワーク勝負なんだから。」
二人はにらみ合ったまま、仕事を始めた。
定時になって、サマンサが「私も一緒に行こうか?」と気遣いを見せてくれる。
「サム、ありがたいけど、二人の問題やから、二人で決着するわ。」
ダニーは嫌がるマーティンを連れて、アルゴンキンの「ブルーバー」に寄った。
二人とも静かにシャンパンを飲みながら、摘まみのカナッペを食べている。
「俺の事、許されへんのやろな。」ダニーが独り言のようにつぶやいた。
「ダニーのどこを信じればいいか、もう僕は分からないよ。」
「だからって、ボスにケンカの事話すなんて卑怯やぞ。ボスがお前の親父さんに話したら、
俺、一貫の終わりやもん。」ダニーはシャンパンを一気飲みした。
「ごめん。」思わず謝るマーティン。
「お前、だいたいこのユニットに入ったのもコネやったんもんな。俺を飛ばすのなんか朝飯前やろ。」
「そんなつもりなかったんだよ。ボスに詰問されてさ、思わず正直に話しちゃった。」
マーティンはカナッペをぱくぱく摘まんでいる。
「お前、よくこんな時にそんなに食えるな。」ダニーは半ば呆れていた。
「だって、食べないとやってけないよ。ダニーの浮気性がいつ治るのか分からないんだし。」
「・・・。俺って、どうやら、一人じゃ満足できない性分らしい。
かといって、手当たり次第寝てるわけやないんや。」「どうだかね。」
マーティンはシャンパンをあおった。
「おい、飲み過ぎや。また遅刻してもええんか。」
「もうどうでもよくなっちゃったよ。」
「そろそろ帰ろう。俺の家に来るか。浮気の証拠探してみいな。」
「そうだね。そうするよ。」
ダニーはふらつくマーティンを連れて、アパートに向かった。
「すぐ暖房つけるからな。」
マーティンはぽいぽい裸になり、シャワーを浴びに行った。
ダニーが後を追いかける。
「僕に誰かの跡だらけの身体、見せないでよ!」
マーティンは内側からバスルームに鍵をかけた。
ガチャ。鍵の音があたかもマーティンの心の鍵の音のように聞こえ、ダニーはうなだれた。
ダニーは、スチュワートに口止めするため、昼休みにクリニックへ電話した。
「テイラーと申しますが、ドクター・バートンをお願いします」
「申し訳ありません、ドクター・バートンはしばらく担当を外れています」
「え?」
「診療のことでしたらドクター・マーキンソンに代わりますが?」
「いえ、それでは結構です。失礼します」
ダニーはわけがわからず電話を切った。
あいつ、昨夜も仕事やって言うてたのに何で?
そんなことより口止めしやなあかん!あいつならマーティンに言いかねへん。
でも携帯の番号は知らんし・・・。
ダニーは途方にくれたがどうしようもない。
あきらめてランチを食べ、午後からの仕事に専念した。
「ダニーに外線だって」サマンサが振り向いてにやっとした。
「おう、こっちで出るわ。・・・はい、テイラーです」
「バートンです。先ほど電話をいただいたそうで。何か用なので?」
マーティンがじっとこっちを見つめている。
ダニーは焦りそうになったがなんとか堪えた。
「ああ、どうも。少しお話したかったものですから」
「それじゃ、どうぞ。お話ください」
「今はちょっと・・・今夜お会いできますか?」
「用件にもよるな。一体どのようなご用件でしょう?」
「・・・でしたら、携帯の番号を教えていただけますか?」
「それは無理だ。それじゃ、オレはこれで」
スチュワートはそっけなく電話を切りかけた。
「待ってくれ!」ダニーは思わず声を上げた。
みんなが一斉に自分を見ている。
「大事な用件なんです。お願いします」
「今すぐマーティンに代わってくれたら会ってやってもいいぜ?」
「それはちょっと・・・お願いします」
「仕方ないな、それじゃグラマシーのフルートに18時だ」
「わかりました。ありがとうございます」
「グラマシーだぞ、ミッドタウンじゃないからな」
前回の行き違いをふまえて、スチュワートは念を押した。
「デートのアプローチ?」切るなりサマンサが話しかけた。
「そんなええもんとちゃう」
「すごく必死だったけどねぇ?」ダニーは違うと手を振り、PCに向かった。
モニター越しに不審そうなマーティンが映っている。何か言いたそうだ。
ダニーはついてくるだろうと思い、トイレに立った。
案の定、少し遅れてマーティンが入ってきた。
「さっきの誰さ?」
「オレの情報提供者」
「ミセス・ノリス?」
「また別のヤツ。あ、男やから心配ない。
終わったら後で行くから、おうちで待ってて」
ダニーは心配そうなマーティンの頬に触れ、言い聞かせるとキスをした。
マーティンは渋々頷くと出て行った。
ダニーがグラマシーのフルートに着くと、すでにスチュワートが来ていた。
「やあ、テイラー捜査官」
「こんばんは、ドクター・バートン」
ダニーは同じものを頼み、飲んだ瞬間動きが止まった。
「ジュース?」
「ああ、まだ仕事が残ってるんでね。それで、用件は?」
「昨夜のことなんやけど・・・あの、オレ・・」
「昨夜が何だ?早く言えよ」
スチュワートはもじもじするダニーをせっついた。
「あの、今日はマーティンと話しましたか?」
「いいや」
「オレが泊まったことを言う?」
「聞かれたら話すけど。それがどうしたんだ?」
そこへペンネが運ばれてきて、二人の会話は中断した。
「君も何か食べるならオーダーしろよ。オレは先にいただく」
ペンネを食べながら大きな欠伸をするスチュワート。
「クリニックで担当を外れたって聞いたけど?」
「ああ、ちょっとね。査問委員会が終わるまで患者は診られないんだ」
「んっ?医療ミスか!誰か死んだとか・・・」
「そんなんじゃない。それよりそっちの用件を話せ」
いらつくスチュワートに、ダニーは思い切って話し出した。
「あいつがお前んちに泊まったか聞くと思うから、女と寝たことを黙っててほしい」
「真夜中に来たのはオレをアリバイに使うためか?」
「いや、酔っててあんまりようわからへん。けど、そんなつもりじゃなかった」
ダニーのしどろもどろな言い訳に、スチュワートは冷酷な表情を向けた。
「まったく、君にはうんざりだ。オレまで利用するとはね。
会えて楽しかったよ、テイラー捜査官」
スチュワートは食べかけのペンネにフォークを置き、チェックを済ませ出て行った。
ダニーは自分も支払いを済まそうとしたが、すでに支払われていた。
最悪や・・・ダニーはため息を漏らし、どうすることもできず両手で顔を覆った。
マーティンは、ダニーが来るのを今か今かと待っていた。
インターフォンが鳴り、出るとスチュワートだった。
「やあ、突然来てごめんね」
「いいけど、後でダニーが来るよ。昨日は一緒だったんだって?」
スチュワートは本当のことを話そうとしたが、傷つけたくなくてただ頷いた。
「二人が一緒なんてめずらしいね」
「たまたま出くわしただけだ。どうせなら君と出くわすほうがよかったな」
スチュワートは後ろめたさを隠すようにそっと耳を噛んだ。
マーティンはくすぐったくて身を捩っている。
スチュワートはマーティンの手を引いてベッドルームに歩き出す。
「だめだよ、ダニーが来るって言ったろ」
「来たって構わない!オレは本気なんだ!」
強引にマーティンを抱き寄せ、壁に押し付けると言い放った。
マーティンはあまりの真剣さに圧倒されて何も言えない。
口に生温かい舌が入ってきて、ねっとりと這い回る。
スチュワートはそのまま手を引くと、ベッドに押し倒した。
すぐに服は脱がされ、身に着けているのはソックスだけだ。
「ねー、待って、待ってよ」
言いかけるとすぐにキスで口を塞がれる。
スチュワートは自分も服を脱ぎ、勃起したペニスを重ね合わせた。
マーティンはすでに抗えないほど興奮している。
「ねぇ、ソックスも脱ぎたい」
スチュワートは黙って両足から剥ぎ取り、ドアのほうに投げた。
足首から上に徐々に舌を這わせ、太腿の内側の薄い皮膚をくすぐるように舐める。
「ぁぁ・・・そこくすぐったいよ・・だめだって」
「快楽とくすぐったさは紙一重なんだ、もう少し我慢して」
もうペニスはぬるぬるの状態になっている。
体を裏返され、ついに入れられるのかと思ったら、今度はわき腹を責められた。
「うわぁー、何するんだよ!スチュー」
マーティンはあまりのくすぐったさに音を上げた。
「欲しいか?」
スチュワートの問いかけにこくんと頷き、背中を向けた。
アナルにオイルを塗られ、指が中を弄りはじめる。
スチュワートは入念に指を出し入れしながら、背骨の上を舌でなぞっている。
二本の指が馴染んだころ、ペニスがあてがわれそっと中に入ってきた。
「痛くない?」
「んっ、へーき・・っうぅ・・くぁぁ」
やさしく律動され、マーティンは呻きに近い喘ぎ声を漏らした。
スチュワートは様子を見ながら角度を変え、
背中が仰け反るポイントを見つけると執拗に動いた。
マーティンは全身が鳥肌立ってきた。
「イキそう・・・んっダメだ、、、あっああー」
びくんと体が仰け反り、シーツに精液が飛んだ。
スチュワートはペニスを抜くとマーティンの体を抱きしめた。
「なあ、オレはこんな奴だが君のことは大切にしたいし、守りたいと思ってるんだ。
・・・だからもし・・・オレとその・・あぁ、困ったな・・」
マーティンの目を見つめてささやくスチュワート。
「でも僕は・・あの・・」
マーティンが言いかけると遮るように唇に触れた。
「何も言わなくていい、ヘンなこと言って悪かったよ」
悲しそうに額にキスすると、髪をくしゃっとして抱きしめた。
「シャワーを浴びようか。テイラー捜査官に見られると困るだろ」
「ダニーと何かあったの?」
「いいや、さあ行くぞ」
スチュワートは先にバスルームへ行ってしまった。
マーティンが入っていくと照れくさそうに体を洗ってくれた。
「あのさ、しばらく留守にするんだ。植物の世話を頼めるかな?」
「いいけど、どれくらい?」
「二週間ぐらい。場合によっては伸びるかもしれない」
「どうして?」
「新型肺炎の追跡調査でベトナムに行く。それで・・・その後はここには戻らないと思う」
「え・・・・」マーティンはショックで言葉を失った。
「CDCか大学に戻ろうかと思ってる。どちらに行くかはわからない。
ワシントンかボルティモア、自分ではなかなか決められなくて・・」
「クリニックはどうするの?」
「オヤジの件で査問会議にかけられてるんだ。丁度CDCに呼ばれたからいい機会だと思う」
「嫌だよ、そんなの嫌だ!」
マーティンはスチュワートにすがりついた。
「君も一緒に行かないか?ワシントンは親父さんがいるから嫌だよな。
じゃあ大学か・・・終身在職権が取れるといいけど。ボルティモアにもFBIはあったっけ?」
「どっちも嫌ならどうするのさ?」
「それは困るなぁ。とにかく一度考えてくれないか?」
スチュワートは体を洗い流し、しくしく泣くマーティンにバスローブを着せた。
着替えてからもマーティンはめそめそしていた。
「やり逃げみたいで嫌だけど帰るよ」
「帰らないで。もっと一緒にいたい!」
「オレもそうしたいけど、まだ仕事が残ってて。日曜日に発つから、その前に鍵を預けに来るよ」
スチュワートは、しがみつくマーティンの体をそっと離し、帰っていった。
翌朝、ダニーが目を覚ますと、隣りに寝ているはずのマーティンの姿がなかった。
リビングに行くとブリーフケースとスーツが消えている。
何も言わずに帰ったんか。ダニーの落胆は一層深いものになった。
食欲が湧かず、昨日に続いてオレンジジュースだけ飲んで出勤する。
マーティンがすでに出勤しており、メールを打っていた。
「おはよう、マーティン。」「おはよう、ダニー。」
それだけの会話で後が続かない。
ヴィヴィアンとサマンサが出勤してきて、二人を遠巻きに見ている。
二人の仲が好転していないのを察して、女性陣も仕事に着手した。
今日は、手分けして未解決事件ファイルの更新をする日だ。
それぞれにファイルが渡される。
ダニーはすでに一度、仕上げているが、またノルマが分配された。
上の空だとまたボスの雷が落ちる。
ダニーは一心不乱に、情報の更新を行っていった。
マーティンが一番先にノルマを仕上げ、支局を後にした。
ダニーは5案件遅れをとっている。マーティンは一瞥もくれなかったな。
まだ怒ってるんや。どないしたらええんやろ。ダニーは泣きたくなった。
その頃、マーティンはまっすぐ家に帰る気になれず、ソーホーの
「トムズ」に寄って、ドライマティーニを飲んでいた。
一杯目が終わった頃、バーテンダーが二杯目をもってくる。
「僕、まだ頼んでないけど?」
「あちらのお客様からのプレゼントです。」
目線をカウンターの奥に向けると、ひげ面に長髪の男性がグラスを上に上げていた。
マーティンも思わずグラスを上に持ち上げ、乾杯のジェスチャーをした。
誰かに似てる。あ、ドラマのLOSTのソーヤーだ!
ソーヤー似の男性が近付いてくる。
「やあ、坊や。俺のドリンクを受け取ってくれてありがとう。」
「どうして、僕に?」マーティンは不思議そうな顔をした。
「君がえらく寂しそうだったからね。」
「貴方って、俳優?」
「俳優は双子の兄だよ。LOSTのソーヤーだろ?俺はフォトグラファー。
君の寂しげな横顔と見ていたら、被写体にしたくなった。その甘い顔に似合わないアザも気になってね。」
そう言うと、男は名刺をマーティンの上着のポケットに入れた。
「俺はニコラス・ホロウェイ。君は?」
「マーティン・フィッツジェラルド。」
「一緒に飲んでもいいだろ?」
「うん。話し相手欲しかったし。」
「彼女に振られでもしたか?あるいは彼かな?」ニコラスはニヤリと笑った。
「そんなようなもん。」
「じゃあ、楽しくやろうぜ。」
マーティンはニコラスとドライマティーニを立て続けに5杯お代わりして、かなり酩酊してきた。
「マーティン、君、家どこ?」
「アッパーイーストサイド。」
「今日は俺のところに泊まらないか?ミートパッキングエリアなんだが。」
「うん、いいよ。」マーティンは投げやりになっていた。
普段のマーティンなら行きずりの相手にほいほいついていくはずないが、
ダニーの事でくさくさしていたし、ダニーが浮気したなら、
自分も目には目をという気持ちが芽生えていた。
ニコラスのアパートはスタジオ兼住居になっているだだっぴろい空間だった。
コンクリート打ちっぱなしがいかにもアーティストらしい。
「ふうん。ここがニコラスの住まいなんだ。」
「シャワーでもするか?何なら入れてやろうか、坊や。」
「僕は坊やじゃないよ!仕事だって連邦捜査官なんだから。」
マーティンは酔いに任せて、身分を明かした。
「へぇ〜、それじゃドラッグはご法度だなぁ。」
「いいよ。マリファナ位ならやっても。」
「ふうん。連邦捜査官も変わったな。上物があるから吹かすか。」
そういうとニコラスは、小さな箱を持ってきた。
「俺もハードスタッフはやらない。一応健康には気をつかってるからね。」
そういうとセーターを一気に脱ぐ。男でもホレボレする肉体美だった。
「本当にお兄さんに似てるね。」
「言うなよ。兄貴は映される方を選び、俺は映す方を選んだ。要するに太陽と月みたいな関係さ。」
ニコラスはスウェットに着替え、マリファナを器用にたばこ状に巻く。
「やるだろ?」「うん、頂戴。」二人で交互に吸引する。
「ああ、このところの嫌な事忘れられるね。」
マーティンは目を深くつむり、リビングのソファーに寝そべった。
目を開けると、ニコラスの顔がすぐ近くにあった。
「マーティン、可愛いな。キスしていいか。」「ああ、いいよ。」
マリファナでハイになっているマーティンの貞操観念はかなりゆるんでいた。
ニコラスが舌をからめ情熱的なキスを施す。
マーティンの身体は思わず反応してビクっと動いた。
「随分、敏感なんだな。」
ニコラスがマーティンの股間に手を乗せる。
すでに硬く屹立したペニスが窮屈そうにしている。
「下、脱げよ。」ニコラスの
言うままにマーティンはパンツを下着ごと脱いだ。
「シャワーしてもいい?」遠慮がちにマーティンが尋ねると、
「いや、俺は今のままでいいよ。ベッドに行こう。」とニックは答えた。
従順なマーティンの手を取り、メゾネットの上の階にあるベッドルームへ誘った。
マーティンは、Yシャツとネクタイを取り去り、全裸で横になった。
ニコラスもTシャツを脱ぎ全裸になる。
「綺麗な身体だな、マーティン。俺の被写体になれよ。君のヌード、高く売れるぜ。」
「ニコラスこそ、すごい筋肉じゃない。贅肉が全くないや。」
「君、どっちが好き?入れられる方と入れる方。」
「僕、どっちでもいい。」
「じゃあ、今日俺が入れてもいいか?」
「うん。僕の恋人を忘れさせてよ。」
「よし、分かった。」
ニコラスはマーティンの乳首を指で丁寧になぞり、乳首が立ったのを確認すると、舌でころがした。
「うは〜、気持ちいい!」マーティンが思わず甘い吐息を吐く。
ニコラスの身体からダニーと同じフレグランスの香りがする。デューン・プール・オム。
「ダニィ・・・もっと!」
マリファナでハイになっているマーティンにはニコラスとダニーの区別が付かなくなっていた。
身長もダニーとほとんど変わらない。
「俺はニックだ。」
ニコラスは、マーティンのペニスを手で性急にしごき、果てさせた。
「じゃあ、行くぜ。」
ベッドサイドに置いてあるミントのローションをマーティンの蕾に塗りたくり、ニコラスは容赦なく一気に突き上げた。
「あぁ!すごい!」
「お前もすごくきついな。締まるぜ。あぁっ!」
ニコラスは何の前触れもなく身体を震わせて果てた。
「マーティン、お前、すごいよ。」「ニックこそ。」
マーティンは恥ずかしそうに布団をかぶった。
「シャワー浴びよう。」「うん。」
無機質なシャワーブースで二人はまたキスを繰り返した。
「もう寝るか。」「うん。」
マーティンは久しぶりに満ち足りた気分になり、眠りについた。
ニコラスは、マリファナをもう一服すると、電気を消した。
ダニー萌だった私ですが、いきなりスチュー萌になった者ですが…
書き手2さん…私思わず泣いてしまいましたよ!!確かにダニーとマーティンのお話ですから、二人がハッピィにならなきゃいけないのは解ってるんですけど、悲しいです。正直、こんなにスチューを好きになるとは思わなかった!!
書き手2さんの人物設定が素晴らしいからだと思います。
これからの展開、益々楽しみです!!頑張って下さい!!
そして書き手1さん。
ダニーとマーティンとアランの三つ巴、ハラハラドキドキしながら楽しませて戴いてます!!
ダニーが幸せになれるなら私はアランとハッピーエンドも厭いません!!本音はマーティンとだけど。
>>189 いつもありがとうございます。
泣くほどスチュー萌えだなんて恐縮ですよ。
つまらない時もあると思いますが、よろしくお願いいたします。
ダニーがマーティンのアパートに入ろうとすると、
地下ガレージからダークブルーのTVRが出てきた。
スチュワートが険しい表情でダニーを見据え、ダニーも視線を逸らさず見返す。
ほんの数秒のことだったが、ダニーはスチュワートが去った後も動けなかった。
行くのをやめようかと思ったが、いつまでも逃げられるわけではない。
のろのろとエレベーターに乗りこみ、ゆっくり時間をかけてボタンを押した。
ダニーが部屋に入ると、呆然としたマーティンがソファに座っていた。
泣き腫らした目を擦り、泣いていたのを必死にごまかそうとしている。
くそっ、やっぱりあいつが話したんや・・・ダニーはそっと横に座った。
「ただいま、遅くなってすまん」
「ん、おかえり。どうだった?」
「何が?」ダニーは何のことだかわからず聞き返す。
「何って、情報提供者に会ってきたんでしょ?」
「ああ、あれな、ガセやった」
「そっか、残念だったね」
マーティンは上の空で返事を返すとため息をついた。
ダニーは迷いながらもマーティンの肩に手を置いた。
マーティンは何も言わずにダニーにもたれると、静かに目を閉じている。
しばらくじっとしていたが、突然立ち上がった。
「ダニー、ごめん。僕、行かなきゃ!」
「えっ、おっおい!行くってどこへ?マーティン!」
マーティンはコートを手に飛び出していった。
ダニーはわけがわからず、ただ立ち尽くすしかなかった。
マーティンはスチュワートのアパートに来た。
何度も何度もインターフォンを押す。
「誰だよ?」
「マーティン、マーティン・フィッツジェラルド」
「フルネームで言わなくてもいいぞ。おかしなヤツ」
スチュワートは笑いながらロックを解除し、
マーティンはエレベーターを待てずに階段を駆け上がった。
スチュワートはぜーぜー荒い息を吐くマーティンに目を丸くした。
「一体どうしたんだ?しかもそんな格好で?」
マーティンはがばっと抱きついた。
「とにかく中に入ろう。このくそ寒いのにパジャマなんてマジかよ!」
スチュワートはマーティンを抱きかかえると中に運び込んだ。
「寒かっただろう、バカだなぁ」
コーヒーを淹れようとするが、マーティンは抱きついたまま離そうとしない。
仕方なく抱きしめたままぽんぽんと背中をあやし続けた。
「続きして」
「うん?」
「さっきの続きだよ、スチューはイッてなかったじゃない」
「いいよ、そんなの。君が満足すればそれでいい」
マーティンはスチュワートの手を強引に引っ張り、ベッドルームに連れ込んだ。
ベッドの横にスーツケースが置いてある。
マーティンは見ないようにパジャマを脱ぎ、全裸になった。
「マーティン、本当にいいって。さあ、これ着て」
パジャマを渡されるが、マーティンは着ようとしない。
「わかった、後でするから。約束だ」
スチュワートは指をクロスさせるとマーティンをベッドに寝かし、仕事部屋に戻っていった。
マーティンはベッドで待っていたが、スチュワートはなかなか戻ってこない。
痺れを切らして仕事部屋に行くと、一心不乱に書類に記入していた。
「ねえ、見ててもいい?」
「いいけど、つまんないぜ?」
「いいの!邪魔はしないよ」マーティンは横に座り、手元を見つめた。
几帳面な文字が書類を埋めていく。
見ているうちに悲しくなって泣けてきた。
「何泣いてんだ?君の悪口なんて書いてないぞ」
「バカッ!スチューはバカだ!僕を置いていくなんて・・・」
「二週間したら帰ってくるよ、すぐに会えるさ」
「でもその後は?ニューヨークからいなくなるじゃないか」
「君はボルティモアは嫌なんだな。DCもダメだし・・・困ったお坊ちゃんだ」
スチュワートはマーティンの涙を拭い、やさしくキスした。
マーティンは日曜日まで休むことに決め、支局に病欠の連絡を入れた。
ボスから電話が掛かってきたが、インフルエンザになったと嘘をついた。
ダニーにも嘘をつき、出発までの日々をスチュワートのアパートで過ごした。
「三日間楽しかったな。明日は空港まで送ってくれるのか?」
「もちろん!僕さ、泣かないようにするよ」
「そう願いたいね。慰めてやれないからな」
スチュワートはスーツケースを開けて再確認し、マーティンの横に座った。
「これがアパートの鍵で、こっちが車の鍵。
当てても擦ってもいいけど、ケガだけはするな。わかったな?」
「大丈夫、車には手も触れないよ。心配しないで」
「何言ってんだ、自由に使え!植物には3日に1回水を頼む」
「うん、まかせて。枯らさないって約束する!」
マーティンはスチュワートの真似をして指をクロスさせた。
朝が来て二人はJFK空港に向かった。
「行って来るよ。なんだか行きたくないな・・・」
スチュワートは苦笑いすると、軽くハグをした。
「もう行かなきゃ。君が好きだ、愛してるよ」
こっそりささやくとスチュワートは手を振って歩き出した。
マーティンは泣きそうになるのを堪え、笑顔で手を振り返した。
自分のアパートに帰ったマーティンは、ベッドに突っ伏して泣きじゃくった。
スチューは二週間したら戻って来る、自分に言い聞かせるが涙は止まらない。
だって・・その後は、その後は・・・ここまで考えてまた声を上げて泣いた。
やっと僕のことを大切にしてくれる人が現れたのに・・・・。
マーティンは悲しみに打ちひしがれ泣き続けた。
マーティンは、ダニーとベッドにいる夢を見ていた。
顔をダニーに近付け、頬ずりする。ザラっ。
いつもと違う感触で目が醒めた。目の前にいるのは、ひげ面のハンサムだ。
え、ソーヤー?僕、夢見てるの?マーティンは焦った。
二日酔いで頭がガンガンする。腕時計を見ると、7時半だ。「いっけない!」
がばっと起き上がると、ニックも目を覚ました。
「よう、お姫様。お目覚めか?」「僕・・。」
「覚えてないんだろ。俺はニック。名刺がジャケットのポケットにあるから、出勤したら見てくれ。」
「もう行くね。」
「また会えるよな。携帯の番号も出てるから。」
「う、うん。じゃあね。」
外に出ると、見慣れない場所だった。
周りは倉庫ばかりだ。うわ、ミートパッキングエリアじゃないか!
タクシーがなかなか拾えず、マーティンは見事に遅刻した。
ダニーが昨日と同じスーツのマーティンに一瞥くれると、目を書類に落とした。
「マーティン、中へ。」ボスに呼び出された。
「新年に入って遅刻が多すぎるぞ。どうしたんだ。優等生のお前が。」
「すみません、ボス。以後気をつけます。」
「人事査定をDCに回さなきゃならんのだから勤務態度はきちんとするように。」
「はい。」
しょげて戻ってきたマーティンにサマンサがコーヒーを持ってくる。
「マーティン、大丈夫?寝癖で髪の毛立ってるわよ。」
「え!」
トイレに立ち、水でヘアースタイルを整える。そこへダニーが入ってきた。
「お前、外泊か。」
「ダニーに答える義理ないね。」
「おい!待てい!」
ダニーが腕をつかむが、すり抜けてトイレから出て行った。
ダニーは一人うなだれた。
マーティンはジャケットのポケットから名刺を出した。
フォトグラファー、ニコラス・ホロウェイか。かっこいい人だったな。
マーティンはニックにまた会いたくなっていた。
勤務を終えて、アパートに帰ると、マーティンは名刺にあった携帯番号に電話をしてみる。
「はい、ホロウェイ。」
「僕、マーティン。」
「おう、お姫様か。ちゃんと仕事したか?」
「まぁまぁ。昨日は、その、ありがとう。」
「少しは気持ちが楽になったか?」
「え?」
「寂しい気持ちだよ。」
「それは同じだけど・・。ねぇ、また会えるかな。」
「あぁ、いいよ。明日は早朝からロケだから、明日以降にまた電話くれ。」
「うん。おやすみ、ニック。」
「おやすみ、お姫様。よく寝ろよ。」「うん。」
マーティンは、金曜日の夜、ニックと食事をする約束を取り付けた。
ダニーとは相変わらず没交渉のままだ。
ダニーもコミュニケーションを取るのを諦めたようで、職場からこれ見よがしにアランに電話しているのが聞こえた。
僕ら、だめになっちゃうのかなぁ。
ぼんやりマーティンは考え込んでいた。
ダニーは着替えを持って、アラン宅に篭城していた。
アランのワインセラーをあさっては、シャルドネとカベルネ・ソーヴィニオンばかり飲んでいる。
「ハニー、君の消費スピードのせいで、今週末はワインの買出しが必要だ。付き合ってくれるかい?」
「もちろんや。あーうまい!」
「当たり前だろ、よくオーパス・ワンをごくごく飲めるなぁ。」
「今度、サンフランシスコに出張する事あったらカートンで買ってくる。」
ダニーはすっかり酔っ払っている。
「今日はスチームしたダンジネスクラブとオマール海老だけど、いいかな?」
「アラン特製のタルタルソースつき?」
「もちろん。」
「じゃあ食う。」
「現金な奴だな。」
「シャブリ開けるで。」
「ああ、お好きにどうぞ。」
ダニーは今日2本目のワインを開けた。
「ハニー、何だか荒れてるね。マーティンとうまくいってないのかい?」
「俺と口きいてくれへん。」
ダニーはシャブリを一気飲みした。
「深刻だなあ。そんなにキスマークが効果あるとはね。」
アランも意外な効き目に驚いていた。
「そうだ、ダニー、また学会があるんだが、行っていいかな?」
ダニーは「だめ!」と即座に答えたが、「仕事やから、しゃあないな。」と言い直した。
「今度はどこ?」「マイアミ。」
「またリゾートやん。精神医学協会って遊びしかせいへんとちゃう?」ダニーは毒付いた。
「仕方がないだろう。ほとんどの参加者が妻帯者なんだから、
奥方たちが遊べるところでないとだめなんだよ。」
「俺も行きたいなぁ。生まれ故郷やし。」
「そういえばそうだな。」
「ヒスパニックと浮気しないでな。」
「もう前回で懲りたよ。」
「それならええけど。」
ダニーは、のろのろ立ち上がって、シャワーを浴びにバスルームに行った。
アランがキッチンで片付けをしていると、ドーンという大きな音がした。
「ダニー、ハニー、どうしたんだい?」
ドアを開けると、ダニーが頭から血を出して倒れていた。
滑って頭を打ったらしい。
アランは急いで、ダニーにバスローブを着せると、おんぶして、地下の駐車場に駆け下りた。
ボルボの車内から市立病院のERに電話を入れる。
「ドクター・モナハンをお願いします。ああ、トム?アランだ。
うちの子が頭を強打して出血している。よろしく頼む。」
今年初のERだ。トムが入り口でストレッチャーを用意してくれていた。
「全く、また君たちか。どうしたんだよ。」
「バスルームで滑ったらしい。頭の縫合を頼むよ。あとCTもオーダーしてくれ。」
「はいはい、おおせのままに。」トムがダニーに付き添って処置室に入った。
2時間後、ダニーは頭に包帯をぐるぐる巻きにして出てきた。
「ハニー、大丈夫かい?」
「何だかぼーっとするわ。早く家に帰りたい。」トムがやってきた。
「一応CTの結果は異常なしだ。これ位で良かったぞ。ダニー。」
「すんません。ドクター。」
「薬局で化膿止めの抗生物質と痛み止めをもらって帰りなさい。」
「すまないね、トム。」
「新年早々、今年も思いやられるな。」
アランはふらつくダニーを抱えて車に乗せた。
ダニーはさすがにぐったりしている。
「もうすぐ家だから。家に帰ったら寝ような。」「ん。」
アランはダニーの着替えを手伝い、パジャマを着せてやると、自分もパジャマに着替えて、ベッドに入った。
「明日、出勤するかい?」「うん。」
「じゃあ、朝起こすからね。」「うん。」
ダニーは寝始めた。アランは寝顔をしばらく見ていたが、眠りに落ちた。
>>189 さん
いつも感想ありがとうございます。
三角関係から、四角関係に発展しつつありますが(苦笑)
これからもよろしくお願いします。
アランを好きになっていただいて恐縮です。
218 :
fusianasan:2006/01/06(金) 14:03:50
今年もどんな展開になるのか毎日楽しみに読ませて頂きます。宜しくお願いします。
書き手1さん、マーティンに新たな人が現れましたね。私的には、ダニーの次にアランも
好きなのでダニーはアランと幸せになって欲しいし、ダニーが二人の間で悩むのが辛そう
だったので四角関係は歓迎?かなって思いました。相手が「LOST」のソーヤーなのも
嬉しいです。結構好きなので(笑)
書き手2さん、もうすっかりマーティン萌えですね!ダニーはいいとこなしで悲しいです。
実は私、書き手2さんの書き出しの文章が好きで今も保存してる位なんです。あのほんわ
かしたダニーとマーティンの関係が忘れられないんです。
>>218 ご感想ありがとうございます。
ダニー萌えに変わりはないんですよ。特にマーティン萌えというわけではないので。
書いてる本人でも文章は保存していないので、驚きと同時にありがたく思います。
ほんわかした二人の雰囲気は、私も大好きです。
またあの二人に戻れるといいなと思ってます。
月曜日、二人は支局で久々に顔を会わせた。
「おはよう、この前は急にいなくなってごめんね」
「ああ、うん。風邪が治ってよかったな」
ぎこちなく会話を交わし、それぞれの席に着いた。
ダニーはマーティンの腫れぼったい目に責任を感じ、目を合わせることができずにいた。
ミーティングが終わりかけ、最後にボスが咳払いをして切り出した。
「男性用トイレのドアに大穴を開けた変態がいるらしい」
オレのことや!ダニーは悟られないよう頬の内側を噛みしめた。
サマンサがくすくす笑っている。つられてマーティンも笑った。
「とにかく誰の仕業かわからんが、見つけたら処罰の対象とのことだ、以上!」
ボスは苦虫を噛み潰したような顔でオフィスに戻っていった。
ダニーはマーティンをランチに誘い、いつものカフェに行った。
パニーニとターキーサンド、カーリーポテトをオーダーする。
「もう体はええの?」
「うん・・・」
「風邪って嘘やろ?」
「うん・・・・ごめん」
あまり会話も続かないまま二人は食事を始めた。
いつもはカーリーポテトを横取りするのに今日は残している。
よっぽどショック受けたんやろか・・・ダニーは心配になってきた。
「なあ、食べへんの?」
「ん?何?」
「ほら、いつもオレの分まで食べるやろ?だから・・」
「ううん、食べるよ。ありがと」
マーティンは無理して口に押し込んだ。
「トロイからオレのこと聞いたんやろ?」
「うん、たまたま出くわしたって聞いた。二人ともフルート好きだもんね」
はぁ?コイツ、オレの浮気のこと知らんの?
ダニーは拍子抜けしたせいか、カーリーポテトが扁桃を直撃し、はげしくむせた。
「大丈夫?」心配そうなマーティンが水を差し出す。
「うん、もう平気や」ダニーは大きく咳払いをし、水を飲んだ。
オレのせいで泣いてたんとちゃうやん!
なんや、トロイのヤツ、言うてなかったんや!よかったー!
ダニーは胸をなで下ろしたが、泣いた原因が知りたくなった。
「マーティン、トイレのドア壊したんオレなんや」
「ええーっ!」
「ボスには言うなよ」
ダニーのおかしな表情にマーティンは思わず吹き出した。
「それでと・・オレの秘密は話した。次はお前の番や、言うてみ」
ダニーはおかしな表情のまま切り出したが、目は笑っていない。
マーティンはぽつりぽつりとスチュワートのことを話し出した。
すっかり話し終えると、マーティンはうっすら涙を浮かべている。
「そうか、ようわかった。顔洗って来い」ダニーはそっとハンカチを渡した。
ダブルショットのエスプレッソを頼み、思案に耽る。
ダニーにはマーティンがスチュワートと行かないことはわかっていた。
ましてや行き先がDCやボルティモアなら尚更だ。あいつが行くわけない。
安心はしたものの、完全に不安が拭いきれずにエスプレッソをすすった。
一人だとまた泣き明かすに違いない。
ダニーは仕事が終わるとマーティンを一緒に連れて帰った。
チャイニーズのデリバリーを頼み、DVDを選ばせる。
「ダニー、グーニーズなんて懐かしいね。いつ買ったのさ?」
「この前セールやったから。オレ、チャンクが好きや、誰かさんみたいやろ」
「それ、僕のこと?あんなに食べないよ!」
二人はチャイニーズカートンを片手にグーニーズを見た。
ダニーはチャンクが何かを食べるたびにマーティンのおなかを突っつく。
マーティンはくすぐったいのかほたえている。ダニーは忘れさせようとしきりに突っつきまわした。
マーティンには、ダニーが気を遣ってくれているのが手に取るように分かった。
食欲がなかったが、心配させないようにいつもよりたくさん食べた。
ベッドに入ってもおなかが苦しい。
「マーティン・・」
ダニーがそっとキスをしてきた。
いたわるようにやさしくキスされ、申し訳なくて泣きそうになる。
「お前がトロイのこと好きでもかまへん。それでもオレにはお前が必要や」
ダニーは強くマーティンの体を抱きしめた。
アランはダニーを支局に送っていった。
「気をつけろよ。」「うん。」
まるで学校に送ってもらう子供のようだ。サマンサがボルボに駆け寄る。
「アラン、新年おめでとう!」
「ああ、サマンサ、おめでとう!」
「今年もよろしくお願いします。」
「こちらこそ。それでは。」ボルボが去った。
「ダニー、一体、頭どうしたの?」
「風呂場でこけた。」
「バっカねぇー。アランの家でよかったわね。」
ふふふっとサマンサは意味深に笑ってダニーのブリーフケースを持ってくれた。
「サム、そんなんちゃうでー!」
「いいから、いいから。」
フロアに着くと、皆がダニーの頭に注目した。マーティンも目を丸くしている。
ボスがすかさず、ダニーを呼ぶ。
「はい、ボス。」「今度もケンカか?」
「いえ、風呂場でこけましてん。」「全く、たるんでるぞ!」「すんません。」
「マーティンといいお前といい、どうなってるんだ! それじゃ外回りは無理だな。ファイル整理を続けろ。」
ガミガミが2分ほど続き、解放される。マーティンが椅子ごと移動してくる。
「頭切ったの?」「ああ、風呂場でな。」
「頭痛する?」「昨日よりはましになったわ。」
「何か不自由があったら僕やるからね。」「ありがとな。」
こんな事でマーティンと仲直りするとは情けない。
哀れみを買っているようで、ダニーは自己嫌悪の淵に沈んだ。
マーティンの携帯が震える。
「はい、フィッツジェラルド。ニック?うん。大丈夫だよ。
え、今、フェデラルプラザに来てるの!?うん。FBIだよ。じゃあね。」
マーティンは心臓がバクバクいうのを隠しきれず、立ったり座ったりしている。
ニックって誰やろ?ダニーは訝った。マーティンの内線が鳴る。
「はい、僕の客です。通してください。」
ダニーは聞き耳を立てていた。ニックとやらのおでましか。
エレベーターホールが騒然としている。中からひげ面で長身の男性が現われた。
「うっそー!LOSTのソーヤーだ!」サマンサが叫んだ。
マーティンが急いでニックのそばに行く。え、あいつがニックか!
ダニーも度肝を抜かれていた。
エスクワイアのグラビアで見た事がある顔だ。
あいつ、マーティンの何や!
ダニーは思わず書類の隅をくしゃっと折った。
「ニック、びっくりしちゃったよ。」
マーティンはまだニックの美貌に慣れず、目を合わせられない。
「連邦捜査官殿の仕事場が見たくなってね。案外、普通の事務所だな。」
ニックは周りを見回す。
「今日の約束、大丈夫?」マーティンはおずおず聞いた。
「ああ、楽しみにしてるぜ、お姫様。じゃあな。」
マーティンがエレベーターホールまで送っていく。
女性職員が何人も後を追いかける。ボスまで騒ぎに気付き、オフィスから顔を覗かせる。
サマンサが背伸びして見ているのを見咎め、不機嫌そうにオフィスに戻った。
はぁ〜、ため息をついてマーティンが戻ってくる。
サマンサがすかさず尋ねる。
「ねぇねぇ、あの人俳優でしょ?ハワイに住んでるんじゃないの?」
「それはお兄さんだって。彼はフォトグラファーだよ。」
「え、ソーヤーの弟さん?そっくり!」「双子なんだってさ。」
「なんでマーティン、友達なの?」
マーティンはドキっとした。ダニーが聞いている。
「ただの飲み友達だよ。」
「たまにはいい男回しなさいよ!」
サマンサは自分の名刺をマーティンに渡してウィンクした。
ダニーが皮肉をこめて「お前にも友達が出来たか。良かったな。」と言った。
「うん、ようやくね。」マーティンは誇らしげに答えた。
定時近くになり、マーティンが携帯を手に、そわそわし始めた。
ダニーは横目でじっと様子を伺っている。携帯が震えた。
「はい、マーティン。迎えに来てくれたの?今から降りる。」
マーティンは急いでPCを終い「お先に!」と飛び出していった。ダニーが後を追いかける。
1階に着くと、メタリックシルバーのアウディーTTクーペに乗り込むマーティンの後姿が見えた。
あいつ、俺へのあてつけのつもりか!
ダニーは走ったせいで頭痛がひどくなり、思わずうずくまった。
最低やん。よろよろと立ち上がり、席に戻る。
ダニーの携帯が鳴った。「はい、テイラー。」アランだった。
「仕事終わったかい?」「ああ、やっと終わった。俺、頭痛い。」
「僕も今、カウンセリングが終わったから、これから迎えに行くよ。」
「ありがと。待ってる。」電話を切ると、サマンサがニヤニヤしていた。
「天下のダウンタウン・テイラーが甘えた声出しちゃって!妬けちゃうわ!」
「ちゃうねん!うるさいな!」「アランによろしくね、また明日!」
ダニーはずきずきする頭をかかえるように1階に降り、アランのボルボに乗り込んだ。
「ハニー、顔色が悪いな。大丈夫か?」アランが心配そうに尋ねる。
「さっき全速力ダッシュしたらずっと痛い。」
「バカだなー!血流がよくなるに決まってるじゃないか。まっすぐ家に戻るぞ。」「うん。」
アランの家に着くと、ダニーの着替えをアランが手伝ってくれる。
「横になりなさい。」「うん。」「アルコール厳禁だぞ。」「うん。情けないわ。」
ダニーはベッドに横たわった。
天井をにらんでいると、アウディーに乗り込むマーティンの姿ばかりが思い浮かんだ。
次にはニックに抱きしめられているマーティンの映像が出てきた。
「ダニー、起きてるかい?」アランが顔を覗かせた。
「うん。」「食事の仕度が出来たよ。」「今行く。」
ダニーは妄想を振り払い、ダイニングに向かった。
「今日はローストポークと温野菜、コーンスープだ。手抜きして悪いね。」
「そんな事ないやん。ありがと。」
「週末はここにいなさい。」
「何か恥ずかしいな。」
「けが人は甘え上手になるべきだよ。」
「はい、ドクター。」
アランはダニーに付き合ってクラブソーダで夕食を取った。
「身体拭いてあげるからね。」「うん。」
ダニーは心ここにあらずだった。マーティン、お前はニックと寝てるんか!
ダニーは知らず知らずのうちに涙を流していた。
>>218 さん
レスありがとうございます。アランの事も気に入っていただいて恐縮です。
ダニーとマーティンは所謂倦怠期のカップルみたいなもんで(苦笑)
二人とも自分の幸せ捜しをしている感じでしょうか。
これから紆余曲折あると思いますけれど、よろしくお願いします。
ダニーは、マーティンの髪をいじりながら目が覚めるのを待っていた。
こいつの髪をくしゃっとするのはオレだけでありたい。
手をつなぐのも、キスをするのも、体を重ねるのも・・・・。
でも、果たしてオレにその資格があるやろか?
スチュワートと比べても、マーティンを裏切って女と寝ているのは自分だけだ。
あのスウィンガーのトロイですら貞節を徹してる・・・。
やりきれない思いを抱え、ダニーは髪をいじり続けた。
「ぅぅん・・ダニー?」マーティンがまぶしそうに目をあけた。
「あ、おはよう。今朝は寒いで」
「本当?ベッドから出たくないなぁ。休みたいよ」
「あほっ、オレより寒さに強いのに。ほら、起きるで」
ダニーはせーので布団を蹴ってベッドから出た。
いつもより早起きしたので時間に余裕がある。
ダニーはウォータータクシーに乗ることを思いついた。
「お前、ウォータータクシーて知ってる?」
「知ってるけど乗ったことないよ。どうして?」
「今日はあれで行こう。ミッドタウンまで出てるから」
二人はリバーカフェまでじゃれあいながら歩き、ウォータータクシーに乗った。
マーティンは寒いと言いながらも屋上に上がり、マンハッタンのビル群を眺めている。
「なんかさー、タイタニックしたくなるね」
「そうか?やるなら一人でやれ。オレはもう限界や」
ダニーはガタガタ震えながら室内に戻り、マーティンもしばらくすると入ってきた。
「夏はこれで通勤したら楽しいかもしれない。どうかな?」
「ほんまやな、試してみよか」
二人はミッドタウンで降り、スタバでカフェラテを買うと支局に向かった。
着いた早々、二年前に失踪した男の目撃情報が入り、足取りを辿ることになり
ダニーはサマンサと、マーティンはボスと組んで車に乗った。
ブロンクスの工事現場を手分けして聞き込みに当たる。
似たような男を見つけたが、別人のホームレスだった。
「よし、もういい。帰るぞ」
ボスは全員に命じ、マーティンと車に戻った。
ダニーが慌てて追いかけてきた。
「ボス、サムが鉄骨でケガしたんすけど・・」
「わかった、病院に行って来い」
「あの、ボスが行きはります?」
「うん?・・お前が連れて行ってやれ。マーティン、行くぞ」
ボスは不機嫌そうにマーティンを促し、先に行ってしまった。
ダニーはサマンサを乗せ、すまなさそうに車を出した。
「軽い擦り傷だからそんなに痛くないわよ。心配ないって。
ドクター・バートンのクリニックに行って」
え・・あいつ、いいひんのやけど・・・。
嬉しそうなサマンサに言えず、黙って頷くとクリニックへ向かった。
ダニーはサマンサが受付を済ませると、ジェニファーに近づいた。
「やあ、オレ、ダニー・テイラー。覚えてる?」
「ええ、覚えてますよ。もちろん」ジェニファーはにっこり微笑んだ。
「この前予約入れようとしたんやけど、ドクター・バートンは何で診てくれへんの?」
ダニーは理由を聞き出そうと魅力的な笑顔で尋ねた。
「私が話したって誰にも言わないでよ。内緒だからね。
ドクター・バートンのお父さんが来て、患者に暴言を吐いたの。
それでドクター・バートンが怒ってつかみ合いになってね、
腹いせにお父さんがガラスを蹴破ったってわけ。ガラスは三度目なのよね・・」
「ふうん、それは大変やったなぁ」
そうそうと、ジェニファーは何度も頷いた。
「ドクター・マーキンソンは苦情が多くて。私も疲れちゃった・・」
ジェニファーは物憂げにため息をつき、肩を竦めた。
「ちょっと何なのよ!痣になったじゃない!」
サマンサが怒りながら出てきた。ドアを思いっきりバタンと閉める。
「ドクター・バートンはいつになったら戻るの?」
「さあ、それはちょっと・・お答えできかねます」
「あのヤブ医者、医師免許の更新してないんじゃない!」
ダニーとジェニファーは顔を見合わせて吹き出した。
支局までの道路は渋滞していて、ダニーは何度も大きな欠伸をした。
「ダニー、この前の話どうなった?」
「この前って・・えーっと何か言うたっけ?」
「オイスターバーでしたじゃない。裏切ったとかなんとかって」
「ああ、あれな。許してもらえたけど、新しい男が出てきて三つ巴や」
「新しい男か・・・いいなぁ、私もそろそろ次を探そうかな」
ダニーはちらっとサマンサを見た。今回は本気のようだ。
「オレにとっては新しい男は困るんやけどな」
サマンサはケタケタと笑い、大きく頷く。
「ダニーが騙すからよ。まったく男ってヤツは!」
ダニーも苦笑し、二人はお互いに視線を交わした。
「オレとサムはどうやろな?」
「バカ?」サマンサはダニーの肩を叩き、二人は笑い転げた。
マーティンはボスとクイーンズのモーテルにいた。
後ろから何度も突き上げられ、とっくに果てたのに許してもらえない。
「ボス、もうやめてよ、痛いよー」
「お前があっけなくイクからだ。もう少し辛抱しろ!」
マーティンが出した精液で亀頭を擦り、むずかる体を何度もいたぶる。
ボスはマーティンのペニスをしごきながら腰を振り、激しく動くと中に出した。
さっさとシャワーを浴び、ボスは着替えをしている。
マーティンはのろのろと着替えながら恨めしそうにボスを見た。
「早くしろ、まだこれから仕事だぞ」
「はい・・・・」
「お前と寝るとこっちまで若返った気がする。お前の早漏のせいかな?」
ボスはくくっと笑うとネクタイを締め、マーティンを置いて出て行った。
ダニーは、マーティンが帰り支度をするのを待っていた。
帰りもウォータータクシーにしようか迷っている。
「マーティン、今日はよかったぞ」
ボスの声にハッと身を固くするマーティン。
ダニーは何があったのか瞬時に察した。
悔しそうに唇を噛みしめるマーティンを促しアッパーイーストへ帰る。
バスタブに湯を張り、たっぷりとバスオイルを入れ海綿で拭ってやった。
マーティンの背中には筋状の赤い線がいくつも走っている。
「これ、ボスに叩かれたんか?」
マーティンは何も言わずにうなだれた。
屈辱的な思いをした後は何も言われたくない、慰めも同情も欲しくない。
ダニーは経験上知っていた。
冷凍していたラザニアとサラダを用意すると、自分のアパートに帰った。
マーティンは、ニックに連れられて、チャイナタウンの「ジン・フォン・レストラン」に入った。
すぐさまニックは人に囲まれる。
「いや、俺は違うんだよ!」
不機嫌そうにニックは人をさえぎり、案内された席についた。
「なんだか大変だね。今日もオフィスが騒然となったんだよ。」
「ああ、兄貴があのドラマに出てからさ。俺の生活まで変わっちまった。チャイナタウンなら大丈夫だと思ったのに。」
ニックは慣れた口ぶりで次々と飲茶を頼む。
「お茶はプーアールでいいか?脂肪を流してくれる。」「うん、それいいね。」
マーティンは、食事中もサングラスがはずせないニックを気の毒に思った。
ニックは次から次へと飲茶を平らげるマーティンの食欲に驚いていた。
「お姫様、よく食うな。」
「お姫様は止めてよ。坊やも嫌だからね。」
「じゃあ何がいい?ボンボンか?あはは。」
笑うと両頬にえくぼが現われる。
マーティンはすっかりニックに魅了されていた。
デザートのマンゴープリンまで食べ切り、マーティンはお腹をさすった。
「食べた、食べた!」
「俺の知り合いの中で一番の健啖家かも知れないな。すごいぜ。」
「何だか褒められた気がしないよ。これからどうする?」
「まっすぐ家に行ってもいいが、せっかくの金曜日だ。もう1軒寄るか?」
「うん!」「俺の趣味でいいか?」「うん、興味あるもん。」
ニックは車をロワー・イーストサイドに回し、ライブハウス「バワリー・ボールルーム」に入った。
「へぇ〜、PRIMAL SCREAMのライブ?」
マーティンはポスターを読んで興奮していた。
「ああ、ボーカルのボビーと知り合いでね。」
ニックとマーティンはVIP席に案内される。
早速ニックはポケットからマリファナを出し、紙巻でたばこを作った。
「やるだろ?」「ああ。」
マーティンは自分がニックにつられていっぱしのワルになったような興奮に陥っていた。
ニックはバーボンのロック、マーティンはジントニックをオーダーし、席でくつろいでいた。
ライブは夜中の1時まで続き、終わった後、ニックに連れられて楽屋に行くマーティン。
「やぁ、ボビー!」「おぅ、ニッキーか。やるか?」ボビーが白い粉を振る。
「今日は止めとくよ。ライブ良かったぜ。」
「サンクス。久しぶりのNYだからな。」
「これ俺の連れのマーティン。PRIMAL SCREAMのボビーだ。」「初めまして。」
「おいおい、こんなスーツ族がニッキーの連れなんて嘘だろ?お前宗旨替えか?」
「そんなとこだ。じゃあ、マニによろしく。」
「ああ。」
楽屋から出てマーティンはおずおずと尋ねる。
「ねえ、ニックもコカインやるの?」
「君にそんなの答えられるわけないだろう。手が後ろに回るのだけはごめんだぜ。」
「ごめん、そうだよね。」
「君は変わってるなぁ。でも本当にFBIなんだよな。」
「今日見たじゃない?」「そりゃそうだ。」ニックはまたえくぼを見せる。
「じゃあ、家に帰ろうか。今日、泊まるだろ?」「いい?」
「ああ、家で楽しもう。」
ニックはマーティンの肩に腕を回し、駐車場に向かった。
車に乗り込むと、ニックがマーティンの顔を自分に向けてキスをしてくる。
「だ、だめ、人が見てる!」マーティンは慌てた。
「そんなの関係ないぜ。」ニックは舌を絡めてきてキスを止めようとしない。
こんな事ダニーはしない。マーティンの心臓は口から出そうな位動悸していた。
「マーティン、本当に可愛いな。ここでやっちまいたい位だ。」
「それだけは、止めてよね。」
マーティンは静かにニックの身体を押し戻した。
「じゃあ、家に直行だ!」
ニックはアウディーのタイアをききっときしらせて発進した。
ニックのステューディオに着くやいなや、マーティンは服をはぐように脱がされた。
「ちょ、ちょっと待ってよ!」「いや、待てない!」
マーティンはメゾネットのベッドルームに逃げ込んだ。
ベッドの中で下着と靴下を脱ぐ。ニックは階下で全裸になって上がってきた。
マーティンはまたもニックの体躯に圧倒された。
ダニーも筋肉質だがニックはどこの筋肉も程よく鍛えられ、まさにトップモデルの体型だ。
「ニック、すごく綺麗。」
「君もだよ、マーティン。じゃあ、行くよ。」
ニックは布団をはぐとマーティンの上に重なった。
その後たっぷり2時間に渡りマーティンは桃源郷をさまよった。
マリファナのせいで、何度でもイケて、身体ごと溶けてしまいそうだった。
「ふぅ〜。マーティン、最高だよ。」
「ニックもすごいよ。もう僕だめ。」
ニックはベッドサイドの冷蔵庫からコントレックスを出した。
「飲むか?」「うん。」ごくごくと喉を鳴らして水を飲む二人。
「明日が休みでよかった。」
「もう今日だけどな。」
「わ、寝なくちゃ。」
「君は本当に優等生なんだな。」
「そんな事ないよ!」マーティンはワルぶってみるが板につかない。
「ダニーは元気か?」
「え?何で知ってるの?」
「この間の夜、俺とダニーを間違えて、名前呼んでたぜ。」
「ごめん・・・。」
「君を苦しめてるのはそいつか。俺に教えてくれれば、のしてやってもいいが。」
「彼も捜査官なんだ。強いよ。」
「え、FBIかよ!最近、フェッツでもゲイが流行りか?」
「フェッツって呼ばないでよ。」
「ああ、ごめん。俺にはとんと縁のない世界でね。君との出会いに驚いてるんだよ。」
「ニックはフォトグラファーになるのが夢だったの?」
「いや、俳優になりたかったんだ。兄貴に先を越されてさ。同じ顔はショービズ界じゃあいらないのさ。
だから、大学に戻って映像を専攻したんだ。」
「複雑だね。」
「君は?FBIになりたかったのか?」
「ううん、父が決めた事だよ。僕は建築家になりたかったんだ。」
「君も挫折組か。似たもの同士だな。」
「そうだね。共通点あるね。」マーティンは嬉しそうに言った。
「そろそろ寝ようか。俺はまだ出来るけど。」
「ニック、もう僕はだめだよ。おやすみなさい。」
マーティンはニックの胸に顔をうずめて寝始めた。
ニックは一瞬困った顔をしたが、静かにマーティンの身体に腕を回すと、目を閉じた。
269 :
fusianasan:2006/01/08(日) 01:53:41
書き手1さん;
ダニーに強敵出現ですね。それもLOSTのソーヤーなんてすごすぎ。
マーティンの今後に注目です。
書き手2さん;
スチュワート、絶対NYに帰ってくるって言ってください!
このままいなくなるなんて、涙です。
ダニーはアランのリビングでGQを読んでいた。
アランは、朝から煮込み料理を作っている。
「アラン、腹減った!」
ダニーが甘え声でキッチンのアランに声をかける。
「ああ、昼だな、すまない。ディナーの用意を先にしてしまった。外食するかい?」
「寒いやん。チャイニーズのデリバリーでもええで。」
「じゃあ、そうするか。」
アランは冷蔵庫に張ってあるメニューから適当に選んでオーダーした。
「なぁ、学会っていつだっけ?」
「今週末だよ。」
「あーあ、俺は一人か。つまらんなー。」
「マーティンにでも相手してもらえばいいじゃないか。」
アランはちらっとダニーの顔を見ながら伺う。
「それがな、あいつ、男が出来たらしいんや。」
ダニーはソファーに顔をうずめて告白した。
「ほほうー、それはそれは。」アランは思わずにやりとする。
「どんな相手だい?」
「それがな、アラン、ドラマのLOSTって見たことある?」
「ああ患者の一人がハマってて、何度か見たよ。」
「そん中の俳優の弟やねん。ソーヤーって役の奴。」
「ふうん、詐欺師ソーヤーか。かなりのハンサムだね。」
「そやねん。そっくりでさ、マーティン、見せびらかすようにオフィスまで連れてくるし。」
ダニーは天井を見ながら悔しそうに言った。
「君はマーティンを奪われた喪失感に苛まれているわけだ。」
「苛まれてるか分からんけど、腹が立ってるのは確かや。早くチャイニーズ来ないかなー。」
「正直でいいね。だから、君が好きだよ、ハニー。」
アランはダニーに近寄り、優しくキスをした。
「そうだ、包帯をもう止めて、絆創膏にしてくれへん?」
「大げさで嫌かい?」
「うん、支局の笑いモンや。」
「どれどれ。」
アランはダニーの頭を抱えると、包帯を取った。
「抜糸まであとどれ位?」ダニーがアランを見上げる。
「今週中にトムを尋ねてごらん。連れていこうか?」
「いや、一人で行ける。アランといると、どんどん自分が甘えん坊になるから嫌なんや。」
「え、僕が嫌だって?」
アランはいじわるっぽく言った。
「またー、俺、アランに口じゃ敵わないんやから、いじめんといて!」
「いい子だ。」アランは、包帯を捨て、大きめの絆創膏をダニーの後頭部に貼った。
「さぁ、出来たよ。」
「頭が軽くなった。ありがと。」
チャイニーズのデリバリーが届いた。
二人でダイニングに並んで食べ終え、昼寝をしにベッドに向かった。
アランが先に目覚め、ダニーの頭を撫ぜている。
「うぅぅん。」ダニーは気持ち良さそうにうなった。
いつまでこんな関係が続けられるのだろう。
アランは前の恋愛のトラウマから抜け出せないでいた。
精神分析医がトラウマ持ちとは情けない。
アランはふっと笑って、ダニーをぎゅっと抱きしめた。
一方、マーティンはニックのベッドから出ず、
二人で、お互いの身体をむさぼっては、マリファナをふかして過ごしていた。
「こんな自堕落な生活、軽蔑するだろ。優等生君」ニックが天井を見つめながら呟く。
「そんなことないよ。楽しいよ。初めての経験だし。」
「なんで俺について来る気になったんだ?」
「ニックが今まで会った事ないタイプの人だったから。」
「それはこっちも同じだよ。」
「ニックだったら男も女もだまってないだろうに、どうして僕だったの?」
「君の寂しそうな横顔だよ。決め手はね。俺は人をまず被写体として見る。
うわべだけの人間は相手にしないのさ。君のその優等生然とした顔の下にもっと何かがあるような気がしたんだ。」
「僕?ありのままの僕なんだけど・・・」
「今度、カメラの前に立ってもらいたいな。映像は人の内面を抉り出すぜ。」
「何だか怖いな。」
「その前にもっと君の身体を知りたい。」
そう言うと、またニックは布団の中にもぐり、マーティンのペニスを口に咥えた。
「うわー、ニックー!もう僕、出ないよ!」
「いいんだよ。可愛いペニスに挨拶さ。」
マーティンも負けずに布団にもぐり、ニックの乳首に噛み付いた。
「うわー、マーティン、止めろよ!」
「ニックが止めなきゃ、止めないよ!」
「結構強情なボンボンだぜ。」
ニックがマーティンの頭を上に持ち上げるとキスをした。
舌を絡め、口の中を味わう。
「ねぇ、お腹すかない?」マーティンが尋ねる。
「ムードもへったくれもないな。ピザでも頼むか。」「うん!」
ニックは腰にタオルを巻きつけた姿で電話をしている。
マーティンは目の置き所に困ってしまった。
ニックはその姿のままデリバリーボーイに代金を支払っていた。
デリバリーボーイも目を丸くしている。
「マーティン、届いたぜ。」
「うん、下に行くね。」
マーティンはトランクスを履いて下に下りた。
「寒いや。」「じゃあ、俺のTシャツとジャージ穿けよ。」「うん。」
ニックは暖房を強くした。
「さあ、ピザとドリアを頼んだぜ。ワインでも開けるか?」
「うん、いいね。」
「サンタ・バーバラのシャルドネだけど、いいか?」「もちろん。」
マーティンはすぐさまピザにがっついていた。
「また、その食欲か。すごい胃袋だな。」
「だって、ニックとお腹すく事沢山しちゃったし。」
マーティンは恥ずかしそうに顔を赤らめた。
「本当に可愛いよ、マーティン。」
「あんまり可愛い、可愛いって言わないでよ。僕、これでも男なんだから。」
マーティンは口を尖らせて反論する。
「それにFBIだしな。君、人を殺したことあるか?」
「ううん、ない。僕、凶悪犯罪担当じゃないんだ。」
「ふーん、そうか。」ニックは何か言いたそうだったが、言葉を飲み込んだ。
「食い終わったら、またベッドに戻ろう。」
「ニックってエッチだね。」マーティンが上目使いでニックを見つめる。
「そうさ!」ニックはピザをかじりながらマーティンにウィンクした。
ダニーは早めに来て待っていたが、マーティンは支局に来なかった。
ミーティングが終わるとボスのオフィスへ直行する。
「ボス、ちょっといいっすか?」
「ダニーか、入れ」
「昨日のマーティンの件ですけど、オレ・・背中見ました」
「そうか、少々やり過ぎたようだ」
「少々?あんまりやないですか!あいつ休んでるし」ダニーはボスを睨んだ。
「風邪がぶり返したんだろうよ。わかったから仕事に戻れ!」
ボスはダニーを鬱陶しそうに追っ払うと、マーティンの携帯に電話した。
何度かけても誰も出ない。
あんなことぐらいで無断欠勤とは世間知らずめ!
忌々しそうに舌打ちし、自分の仕事に取り掛かった。
ボスは仕事が終わるとマーティンのアパートに来た。
「マーティン、昨日は悪かったな。様子を見に来たんだ」
不気味な愛想笑いを浮かべ、ボスはマーティンの横に座った。
マーティンは少し横に身を引く。
「だが、無断で休むのはいただけない」
ボスはマーティンの手を後ろ手に回すと上から押さえつけた。
「休むなら連絡ぐらい入れるのが筋ってもんだ。わかるか?」
「痛いよっ、やめてよー」
「あれぐらいのことで休むとは!だらしないにもほどがある」
ボスは体を掴むとベッドまで無理やり歩かせ、うつぶせにして圧し掛かった。
「みんなが寒空の中を駆けずり回っていたのにお前は昼寝か?」
ボスはパジャマを剥ぎ取り、トランクスも引きずりおろした。
二人がもみ合っているとダニーが入ってきた。
「ただいま・・・え・・」目の前の光景に唖然とするダニー。
「何やってるんすか!ボス!」
ダニーはマーティンの体を引き離し、間に立ち塞がった。
「こいつに社会のルールを教えてたんだ。なぁ、マーティン?」
マーティンは慌てて目を逸らすとダニーの影に隠れた。
ダニーはボスを追い返し、ベッドルームに戻った。
「あちゃー、また団子になってしもて」ダニーがベッドに座った。
布団をはがそうとするが、しっかりくるまっている。
「もう大丈夫や。顔ぐらい見せてくれよ」
マーティンは嫌々布団から顔を出した。
ダニーはそっとパジャマを戻し、傷に触れないよう抱きしめた。
「ダニー・・・」
マーティンはダニーの体を押し戻した。
「僕は卑怯だ・・・・フェアじゃない・・」
しくしく泣き出すマーティンを、ダニーはもう一度抱き寄せた。
「あほか、お前が大切やっていつも言うてるやろ!」
ダニーは両手を頬に添え、やさしくキスをした。
マーティンは嫌々をするように首を振った。
ダニーはとまどいながら体を離した。
マーティンは目を合わせないようにしている。
「もうオレのこと嫌いになったん?」
「ううん・・・大好きだよ」
「それやったらかまへんやん。オレは気にしいひん」
ダニーは青い目と見つめあったままキスをした。正直、目を閉じるのが怖かった。
「今日は外に出てへんの?」
「うん」
「それやったら外で何か食べよう。退屈したやろ」
ダニーはマーティンを着替えさせ、近くのビストロで食事をした。
カーライルホテルの前を通りかかったとき、マーティンが寄りたいと言い出した。
ダニーにとっては近寄りたくない場所だ。
「寒いから早よ帰ろう」
「ギムレットが飲みたいよ」
「しゃあないなぁ、一杯だけやで」
ダニーは渋々ベメルマンズバーに入った。
ここにいるとジョシュとの浮気が脳裏をかすめる。
自然と周囲を見回しながらカウンターに座った。
ギムレットとミントジュレップをオーダーし、ピスタチオをつまむ。
マーティンはピスタチオの殻をキャンドルに近づけた。
ちりちりと殻がくすぶっている。「熱っ!」
「あほっ、お前は子供か!」
叱られたマーティンはニヤッと笑い、ダニーは思わずデコピンした。
約束どおり一杯だけで二人はバーを出た。
タクシーに乗り、後部座席でこっそり手をつなぐ。
ダニーはマーティンの手を強く握り、どこにも行きませんようにと念じた。
ついでに、トロイが帰ってきませんように、も付け加える。
ニヤニヤするダニーにマーティンが不思議そうに尋ねる。
「どうしたのさ?」
「ううん、何でもない」
「ヘンなダニー」
マーティンは、わけがわからないまま思いっきり手を握り返した。
>>269 ご感想ありがとうございます。
スチュワートのこと、どうしようか迷っています。
ダニーとマーティンに戻してほしいという意見もあるし・・・。
でもスチューが好きな人もいるし・・・。もう少し考えてみますね。
>>269 さん
レスありがとうございます。
ソーヤーの登場は、ダニーとマーティンの倦怠期に喝を入れるためです。
ちょっとやそっとのイケメンではインパクトないので、ソーヤーに託した
次第です。
面白くない回もあるかと思いますが、よろしくお願いします。
「おはよう、ダニー、包帯取れたのね!」
ダニーがスタバの列に並んでいると、サマンサが後ろから声をかけた。
「ああ、おはよう。やっとやで。これで外回り出られるわ。」
「まだ目立ちすぎよ。ふふっ。」
ダニーは聞き込み捜査が得意と自負している。これじゃ商売上がったりやなー。
ダブルエスプレッソを受け取りながら、やれやれという顔をした。
エレベーターでマーティンに会った。心なしか晴れ晴れとした顔をしている。
「おはよう、ボン。」
「ダニー、包帯取れて良かったね。」
「ああ。」
会話が続かず、二人は席についた。
久しぶりに失踪事件が発生した。失踪者は8歳の子供。
チーム全員の顔が思わず引き締まる。
「ヴィヴィアンとマーティンは、行動のフォローだ。
サムと私は両親の家に行く。ダニーは留守番しとけ。」
「ボス、俺も外に出られます!」
「鏡を見てからモノを言え。まだ顔色が悪いぞ。」
ダニーはボスの剣幕に押されて、すごすご引き下がった。
マーティンが気の毒そうにダニーを見たが、ヴィヴィアンと一緒に外へ出て行った。
ダニーはシャープペンシルを机にほうり投げると、
ホワイトボードにタイムラインを書き始めた。
その日は何の進展もなく、一日が終わった。
「もう失踪後35時間たってるね。やばいかもね。」
ヴィヴィアンがバッグを持って帰ろうとする。
「俺、今日はオフィスで番してますよって、何かあったら携帯に電話ください。」
ダニーは徹夜を買って出た。どうせマーティンと一緒に過ごせない。
家に戻っても虚しいだけだ。
驚いた事にマーティンも徹夜をすると言い出した。
「お前、今日、寒いのに外回りやったやん。無理せんでええよ。」
「いいんだよ。ウォルターが心配なんだ。何か晩飯買ってくる?」
「二人ならピザでも取ろうか。」「そうだね!」
マーティンが机の引き出しからニューヨークピザのメニューを出す。
「お前、へんなもん持ってるな。」
「残業してた時、お腹すいたから、取った事あるんだよ。」
「お前らしいわ。」「うるさいよ!」
夜中の2時になった。誰からも電話が入ってこない。
「そろそろ寝るか。」「どこで?」
「応接室はどや?」
ダニーは応接室に入ると、監視カメラに紙を張った。
「プライバシーや。」ダニーはマーティンに急いでキスをした。
「ダ、ダニー、だめだよ!」
「ええやん。誰もいいひんし。」
ダニーはマーティンのネクタイを緩め、Yシャツのボタンを一つずつ外していった。
乳首がすでに興奮で立っている。
「マーティン、ここ感じてるやないか。」
「ダニーのいじわる!」
立ち尽くすマーティンのベルトを外し、パンツのチャックを下げる。
中でマーティンのペニスはこれ以上大きくなれないほどになっていた。
ダニーは膝まずいて、ペニスをトランクスから出すと口の奥底まで咥えた。
「う、うふん、だめだよぅ」
語尾がはっきりしないマーティン。
目をつむって必死で快感に耐えていた。
ダニーが口で数回しごくとマーティンはあっさりダニーの口の中で果てた。
「お前、浮気してるやろ。」
マーティンは顔が赤くなった。
「え、なんで?」
「お前のジュース薄いし、量も少なかった。隠さなくてもええんやで。」
ダニーは冷たく言い放った。
「ダニーにそんな事言われるなんて、ひどいよ!そのためにフェラチオしたわけ?」
「正直に言わないなら、ええんよ。」
そういうとダニーはソファーに横になり目を閉じた。
マーティンは一人残され呆然となった。
ダニー、一体何だよ!マーティンは身支度を整えると、オフィスを後にした。
マーティンがポストを見ると絵葉書が入っていた。
ハノイにいるスチュワートからだ。
マーティンは人から絵葉書などもらったことがない。
初めての絵葉書にわくわくしながらエレベーターに乗る。
几帳面な文字を何度も読み返し、異国の風景を眺めた。
マーティンは夕食を食べるとスチュワートのアパートへ向かった。
一時間かけて植物に水をやり、室温を確認する。
約束した手前、枯らせるわけにはいかない。
弱っている植物もなく、マーティンはホッとした。
携帯が鳴っている。ダニーだ。
「ダニー?」
「うん。今から来いひん?スペアリブがあるで」
「やったー!すぐに行くから待ってて」
マーティンは戸締りをするとタクシーを探したが、一向に見つからない。
仕方なくスチュワートの車を借りることにした。
ダニーのアパートに着いたものの、ガレージに止めることが出来ず、
電話して下まで降りてきてもらった。
「ダニー、こっちこっち!」
ラインから大きくはみ出した車に苦笑いしながら席を代わる。
「当てたらトロイが怒るんちゃうか?」
「当てても擦ってもいいってさ、僕がケガさえしなけりゃね」
「ふうん・・わざと擦ることにするか?」
言いながらも器用に一度で駐車した。マーティンは尊敬の眼差しだ。
ダニーは少し乱暴にドアを閉め、上に上がった。
「こんな時間まで何も食べてへんかったん?」
むしゃむしゃがっつくマーティンにダニーが尋ねた。
「ううん、食べたよ。でもこれは別なんだ、すごくおいしいもん」
「そんなに好きならレシピ教えたろか?」
「いい、ダニーが焼いたの食べるから」
「そやな、そのほうがええわ」ダニーは得意気にニヤリとした。
食事の後、ごろごろしながらCSIマイアミを見る。
ダニーは得意にしているホレイショの真似をしている。
マーティンはおかしくてケタケタ笑った。
「でもさ、かっこつけてる場合じゃないよね、この人」
「あほやな、それがええねん。うちのボスやったらもっと感情的になるやん」
「ボスは現実だけどね。なんかさ・・・最近荒れてるね」
「そやな。お前、気つけとけよ。おっさんに狙われてるからな」
マーティンは弱々しく頷いた。
雨が降り出し、マーティンは帰るのをあきらめた。
ダニーはジムノペディをかけ、二人は立ったまま抱き合った。
「マーティン・・背中痛くない?」
「ん、もうへーき」
「そうか、よかったな」
ダニーはそのままベッドに押し倒し、ゆっくり服を脱がせた。
「ええやろ?」
ダニーにささやかれ、マーティンは返事をするかわりにキスをせがんだ。
ダニーは首筋から背中の傷をやさしく舐めた。
白い体についた赤い蚯蚓腫れをいたわるように舐める。
自分も服を脱ぎ、足をからめながら鎖骨や乳首を愛撫する。
マーティンの甘えるような喘ぎ声がダニーの性感を高め、
お互いのペニスはじっとりと濡れていた。
「ダニィ、僕が入れてもいい?」
「ん、ええよ」ダニーはローションのボトルをマーティンに渡した。
マーティンはそっと奥まで塗りこみ、自分のペニスにも垂らした。
正常位でゆっくり挿入し、キスをしながら微動な動きをくり返す。
「んんっぁぁ・・・」ダニーは気持ちよくて声を上げた。
マーティンは少しずつ動きを早め、二人は抱き合ったまま射精した。
はぁっはぁっ・・・お互いに荒い息を吐きながら、何度もキスをして舌を絡めた。
「ダニィ・・僕、ダニィが好きだよ、どうしよう?」
「マーティン・・」
ダニーはたまらず抱きしめた。知らないうちに涙が頬を伝う。
あっ、これが喜びで泣くってことか!
ダニーは涙を拭おうともせず、マーティンの体を抱きしめ続けた。
ダニーが目を覚ますとマーティンが見つめていた。
「おはよう・・早起きやな」
「ん、ずっとダニーを見てた」
「お前、きしょいなー」
ダニーは言いながらも髪をくしゃっとした。
「何だよ、うれしいくせに!」
マーティンは布団をはがし、寒がりのダニーに仕返しした。
「雨かぁ、せっかくの休みやのに・・・」
「何か予定があったの?」
「いいや、シーツを換えたかっただけ。お前が汚すから」
ダニーは後ろから羽交い絞めにして、首筋にキスをした。
「オレな、初めて喜びで泣くことができた。お前のおかげや」
照れくさそうなダニーが可愛かった。
「さてと、ほな、もう一回寝ようっと」
ダニーはマーティンを引きずりながらベッドに戻った。
「うわー、ダニーの足すごく冷たいよ」
マーティンはダニーの足をふくらはぎで挟んで温めた。
「ダニーは脂肪が少ないのかな?」
「オレはしなやかやねん。それよりお前、なんか一回り大きくなってないか?」
「わかった?少し太っちゃった・・・ジムもスカッシュも行ってないからかな」
「でぶちん!今日はメシ抜きや!」
ダニーはからかうと冷たい手足を押し付け、ぴとりとくっついて目を閉じた。
二人の生活は以前のように親密になった。
お互いの目が合うとはにかむような初々しさ。
ダニーは、スチュワートが帰ってこなければいいのにと本気で思った。
そうすればこのままの暮らしが続けられる。
事実、スチュワートはひと月経っても帰ってこなかった。
マーティンはダニーには言わないが、何かあったのではないかと心配していた。
アパートで一人になると三枚の絵葉書を交互に眺めている。
最後の絵葉書にも、帰るのが遅れるとは一言も書かれていない。
不安が日増しに増大していた。
ダニーはマーティンがカレンダーばかり見ているのに気づいた。
トロイのことやな・・・・聞かなくてもわかるがどうしようもない。
こっそり出入国記録を調べると、一週間前に帰国しているのがわかった。
うん?JFK空港に着いてるのになんで?
ダニーはマーティンにこっそり伝えた。
マーティンは携帯に電話してみたがつながらない。
電源が入っていないのか、圏外なのか・・・。
「ダニー、まさか失踪したってことないよね?」
おろおろしながら何度も携帯に電話する。
「オレにはわからん・・・ボスに相談してみよう」
ダニーはマーティンを連れてボスのオフィスへ行った。
ダニーはボスに手短に事情を説明した。
ボスは話を聞きながら、時折眉根を寄せる。
マーティンは動悸が激しくなってきた。
あの様子じゃ悪いことに違いない。
「よし、CDCに問い合わせて聞いてみろ。話はその後だ」
ダニーは早速CDCに連絡し、ハノイの病院に問い合わせてもらった。
二時間後に届いたのは、スチュワートが仕事を終え、一週間前に出国したことだけだった。
CDCに提出する調査結果も出されていない。
もっとも提出期限はまだ先らしいが、芳しい結果だとはいえなかった。
マーティンは顔面蒼白で、手を組み合わせたまま呆然としている。
「大丈夫だ、必ず見つけてやる!」
生死は別としてだが・・・ボスは言葉を飲み込み、マーティンの肩を力強く抱き寄せた。
ボスがミーティングを召集した。チーム全員集まるが、ダニーがいない。
もしかして?マーティンが気付き、応接室を開けると、ダニーはソファーで熟睡していた。
サマンサも一緒に来て、ダニーを揺り動かす。
「うぅん、マーティン・・」
そう言うとダニーはサマンサの身体を抱きしめキスをする。
バチーン!サマンサの平手打ちがダニーの顔に炸裂する。
「えっ、何や!」
「ダニー!ミーティング始まってるのよ!早く来なさい!」
サマンサは烈火のごとく怒っている。
マーティンが「ダニー、まずいよ、すごくまずいよ。」そういって慌てて右往左往している。
何も状況の分からないダニーは、寝癖頭のままミーティングに出席した。
「依然としてウォルターの行方は分からないが、今日も気を引き締めて捜査に臨むように。」
「了解!」
「ダニー、お前、家に帰ってシャワーでも浴びて来い。」
「了解っす。」
ダニーは電車でブルックリンに戻ると、シャワーを一浴びし、着替えると、また支局へ出勤した。
もうチームは誰もいなかった。
ダニーはつまらなさそうにPCに向かってメールチェックして時間をつぶした。
朗報が入ってきたのは午後4時を回ったところだった。サマンサからだ。
「ボスがウォルターの身柄を父親の愛人宅で確保。無事よ。」
急いでヴィヴィアンに電話する。
「ヴィヴ、ボスが身柄確保したって。父親の愛人が誘拐してたらしいで。」
「良かった!じゃあ帰るね。」
チーム全員が揃ったのは6時近くだった。ボスから一言ある。
「今年初めての事件がいい形で解決して良かった。これからも迅速な捜査とチームワークで頼むぞ。」
チーム全員が頷く。ダニーがホワイトボードの写真を剥がし、タイムラインを消す。
サマンサがダニーの肩を叩いた。
「ちょっと話があるんだけど。」
「うん?何やの、サム?」
「今朝の事。」
ダニーはわけが分からないでいた。応接室に入る。
ボスがチラッと一瞥をくれた。
「今日、私にキスしたの覚えてる?」
「いや、全然。すまん。寝ぼけてたわ。」
「マーティンって言ってたわよ。」
「えっ!」ダニーは青くなった。
「軽率よ。貴方たちがどんな関係か知りたくもないけど、
チームワークだけは乱さないでね。」
「すまない。あの、ボスには言うのか?」
「言えるわけないでしょ!仲間なんだから。」
「サマンサ、ありがと。」
「今度、プラザで奢ってね。」
「ああ、何でも奢ったるわ。」
応接室から二人が出ると、ボスがサマンサを呼んでいる。
あちゃー、ボスにも変な嫌疑かけられそうやわ。
ダニーはすかさずオフィスから退散した。家にまっすぐ戻る気がしない。
アランの所に電話してみる。
「はい、ショア。」
「俺。これから行ってもええか?」
「ああ、大歓迎だよ。おいで。」「うん。」
ダニーはタクシーを拾ってアッパーウェストサイドに上る。
合鍵で入ると、アランが誰かと話していた。マーティンだ。
「お、お前、何でここにおるん?」
「今日は患者として来たんだよ。」アランが代わりに答える。
二人はワインを片手にカウンセリングの最中だった。
ダニーはやる事もなく、クロゼットでアディダスの上下に着替えると、
アランが作っておいたボルシチの鍋に火を入れた。
冷凍室からピロシキを取り出し、フライパンで軽く揚げる。
いい香りが部屋を充満した。マーティンが立ち上がる。
「マーティン、夕食を一緒にどうだい?」
「いや、僕、今日は帰ります。ダニー、また明日ね。」
マーティンはそう言うと、これ見よがしに携帯でニックに電話をかけた。
「おう、お姫様か。ふーんアッパーにいるのか。20分でつけるぜ。」
ニックがピックアップしてくれる事になり、マーティンはまたソファーに腰掛け、ワインをすすった。
「俺、ニックに紹介してもらいたいな。」
ダニーは挑むようにマーティンに言った。
「ダニー、それは得策とは言えないな。」
アランが諭すように言葉を挟む。
「いいよ、1階に一緒に来れば?」
マーティンがダニーを睨み付けた。
自分だってアランと浮気してる癖に、僕だけ責めるなんて不公平だ!
心配そうな顔をしているアランを残し、二人は1階に降りた。
ほどなくシルバーのアウディーがやってくる。
ニックは席を降り、ダニーを上から下まで眺めると、ふんっと鼻でせせら笑って、助手席のドアを開けた。
「ありがとう、ニック。」
「はいはい。お姫様。」
何も言えないダニーを残し、アウディーは去っていった。
「あれがダニーだろ。」
ニックはマーティンの太ももに手を置きながら尋ねた。
「うん、あれがダニー。」
「いい男じゃないか。あいつも被写体にしたいね。」
「やめてよ!僕が被写体になるからさ。」
「本当か?これは楽しみだ。今週末、フォトセッションをやろうぜ。」
「うん。」
マーティンは太ももに置かれたニックの手を握り返し、頷いていた。
332 :
fusianasan:2006/01/11(水) 01:51:10
書き手2さん;
えー、スチュワート、死んでるかもしれないんですか!
悲しすぎます。マーティンもどうにかなっちゃいそう。
どうか生きて戻ってきますように、お願いします。
書き手1さん;
鼻でせせら笑われてるダニーっていいとこなしですね!
そりゃ、ソーヤーだから笑うかもしれないけど、ダニーも幸せに
してあげてください!
ボスはスチュワートが事件に巻き込まれたと判断し、チームを召集した。
マーティンだけじゃなく、サマンサもショックが隠せない。
「ダニーはマーティンと空港でセキュリティカメラをチェックしろ。
ヴィヴは金の流れだ。カードの明細を分析してくれ。
サマンサは通話記録だ。徹底的に洗うんだ」
ダニーは肩を落とすマーティンの横に座った。
「ダニィ・・・」
「心配ない、オレが絶対に見つけたる。そんな顔すんな!」
「でも・・でも・・48時間どころか168時間以上だよ・・もう死んでるんじゃ・・」
「あほっ!ぼんやりしてる場合やないやろ!早よ捜すんや!」
ダニーはマーティンを叱りつけ、二人はJFK空港へ向かった。
セキュリティカメラの映像を隅々までチェックし、
入国審査のあと、ターンテーブルで荷物を待つスチュワートを見つけた。
女が寄って来て話しかけ、スチュワートは苦笑いしながら違うと手を振っている。
「これは・・トロイですかって聞かれたんちゃうか・・あ、こいつ・・」
ダニーはスチュワートの少し後ろにいる男に目が留まった。
アジア系の男が様子を窺っている。
「この男もホーチミンから?」ダニーの問いかけに空港職員は頷いた。
スチュワートは自分のスーツケースを受け取ると税関へ向かう。
ここで他の者と別れ、別室に連れて行かれた。
「これは普通の場合じゃないね。どうしてだろう?」
「ドクター・バートンは病原体の輸入を申請しています。これが確認書のコピーです」
マーティンはスチュワートの筆跡を確認した。確かに本人のものだ。
セキュリティカメラは出てきたスチュワートを捉えていた。
「ちょっと待った!荷物が増えてへん。病原体は受け取ってないみたいや」
ダニーが気づいて声を上げた。
担当した税関職員は休憩中だったが呼んで事情を聞く。
ここで受け取らずに、DCのCDCオフィスに発送していたことを突き止めた。
「あっ、そういえば変わった仏像を持ってました。もらったとか言ってたような・・」
「変わったってどんなん?」
「ベトナム帰りなのに、ジャカルタの寺院のような感じというか・・・
エメラルドのような宝石がついていたので記憶に残ってるんです」
「もろたって言うてたんやな?確かか?」
「ええ、確かです。そう、ホーチミンの空港でもらったと言ってました」
映像の中のスチュワートは、何事もなく到着ロビーを抜けた。
タクシーに乗ったところで視界から消えた。
「マーティン、一回戻ろう。これはお借りします」
ダニーはSDカードと乗客者名簿を手に支局に戻った。
ヴィヴが調べた結果、スチュワートは国内で一度もカードを使っていない。
使っていないということは、もはや生きていないかも・・・。
まずい状況に重苦しい空気に包まれる。
「携帯も使ってなかったけど、ハノイのホテルでバッテリーが切れたって言ってたって。
そうよ、まだまだあきらめるわけにいかないわ!」
サマンサは自分を励ますように言い切った。
残された手がかりはタクシーと謎の仏像だけ。
タクシーはともかく、仏像には何の希望もない。
ただの土産物かもしれないのだから・・・・。
マーティンはトイレに行くと個室に入って座った。
もうダメだ、死んじゃってるよ・・・涙がぽろぽろ滴り落ちる。
「マーティン、出て来い。トロイを乗せたタクシーがわかったで」
ダニーがドアをバンバン叩き、マーティンは涙をゴシゴシ拭うと個室から出た。
タクシードライバーの話では、スチュワートはミッドタウンのエッサ・ベーグルで降りたらしい。
早速、聞き込みに行くが、誰も覚えていなかった。
「覚えてるほうがおかしいんや、あれだけ混んでるんやから」
ダニーは落ち込むマーティンを励まし、ソフトプリッツェルを買い与えた。
翌日、ダニーが出勤するとマーティンがすでに席に着いていた。
外泊しなかったのか、昨日と別のスーツを着ている。
「おはよう、ボン。」
「おはよう、ダニー。コーヒー入れようか?」
「ああ、頼むで。」
それとなく気を遣うマーティンが目障りでならなかった。
「お前、昨日あの後どうしたん?」
「うん?ニックとグリニッジヴィレッジで食事して帰ったよ。」
「ふうん。そうなんか。」
「そっちこそどうしてた?」
「作り置きのボルシチとピロシキで食事して帰ったで。」
「ふうん。そうなんだ。」
「今週末、何か予定あるか?」
「うん、ちょっとね。」言葉を濁すマーティン。
「そうか。」ダニーはうなだれた。どうせニックと過ごすんやろう。
俺は一人や。そうこうしているうちにサマンサとヴィヴィアンが出勤してきた。
二人はそれとなく離れた。ダニーはたまらない孤独感に苛まれていた。
前は独りでいる事が全く怖くなかった。むしろ、人との交流を避けて通っていた口だ。
俺もヤワちゃんに成り下がって。ダニーは支局のまずいコーヒーに砂糖を2袋入れてがぶ飲みした。
アランは学会のために早めにマイアミに経っていった。
「お土産はフラミンゴのぬいぐるみがいいかな?」アランがふざけて言う。
「綺麗な身体のアランがええわ。」ダニーは真顔で切り替えした。
「はいはい、分かりました。じゃあ入ってくるよ。」
アランはリモアのキャリーとテューミのガーメントケースを下げて、JFK空港に出かけた。
ダニーはアランのいないアパートが虚しく、心に吹く隙間風に我慢できず、
ブルックリンの自分のアパートに戻ると、布団をかぶって寝に寝た。食事も食べる気がしない。
金曜日の夜、ダニーは衝動的にマイアミ行きのシャトルのチケットを買った。
アランを驚かすために、知らせずにホテルに直行するのが計画だ。
マイアミ空港に着き、学会が開催されているハイアット・リージェンシーにタクシーを飛ばす。
ホテルに着くとちょうど学会主催のディナーが終わった時間だった。
ダニーはバンケットルームから出てくる精神科医の群れからアランを捜していた。
アランが出てきた。ブロンドの美女と一緒だ。アランは腰に腕を回し、エレベーターで上に昇っていった。
ダニーはホテルの従業員に尋ねる。
「この階より上にバーかラウンジはあるんすか?」
「いえ、これ以上の階はすべて客室でございます。」
ダニーは顔色を変え、タクシーを拾うとマイアミ空港に向かった。
最終便のNY行きに乗るために。
アランが俺を裏切ってた。アランが俺を裏切ってた。
同じ言葉が頭の中をこだまする。
飛行機で配られるピーナッツもオレンジジュースも断って、
ダニーは頭を抱えて泣いた。フライト・アテンダントが見て見ぬふりをしている。
俺かてアランに自慢出来るわけやないけど、アラン、約束したやん!何で俺を裏切るんや!
ダニーはまっすぐ家に帰る気がなく、ブロンクスの売春街にタクシーを回してもらい、娼婦を二人買った。
二人とも色白でロシアかウクライナ出身のようだった。濃いブロンドと砂色の目がアランを思いださせる。
二人を連れて近くのモーテルにチェックインする。
ダニーは二人を並べて、前戯なしに交互に挿入を繰り返した。
娼婦は何の興奮も見せず、早く終わってくれといわんばかりだった。
ダニーは自分勝手に腰を使うと、身体を震わせて射精した。
シャワーも浴びず、二人に100ドルずつ投げると、モーテルを出た。
マーティンの携帯に電話する。電源が切られている。
さらに孤独感が増し、ダニーはタクシーをやっと拾うと、ブルックリンのアパートに戻った。
シャワーを浴びて、アランお気に入りのベルガモットのシャワージェルで安物のパフュームの
匂いを消すと、涙を流した。バスローブのままベッドに入り、そのまま布団をかぶって眠ろうと
寝返りを打った。
ボスは遺体安置所の身元不明遺体も確認したが、
依然としてスチュワートは見つからなかった。
何も出てこないのもおかしい。
目撃情報も遺留品も見つからない。
自主的に姿を消したか、人目につかない場所で死んでいるかだ。
「ボス、ドクター・バートン名義の処方箋が使われてます」
クリニックに聞き込みに行っていたサマンサからの情報だ。
「いつのだ?」
「ここ一週間、毎日です。あまりに量が多いので薬局から問い合わせが来たそうです」
「種類は?」
「モルヒネ、塩酸メタンフェタミン、デメロール、イブプロフェン、それにトキソイド」
「トキソイド?」
ボスは、ダニーと問い合わせがあったイーストビレッジの薬局に出かけた。
薬剤師に話を聞くと、最初は東南アジア系の男が薬を買いに来ていたが
量が多いので出せないと断ると、長身のアメリカ人を連れてきたとのこと。
「その男はこの人?」
ダニーがスチュワートの写真を見せると、薬剤師は間違いないと断言した。
「彼の身分証を確認しました。それに、彼は歩くときつらそうな様子でした」
間違いない、撃たれたか刺されたのか・・とにかくなんらかの怪我をしている。
ボスはスチュワートが監禁下にあると確信した。
「東南アジア系のほうやけど、こいつとちゃう?」
ダニーは空港で捉えた画像を見せた。
「そうそう、この男。中国語訛りの英語でした」
「ありがとう。我々が来たことは極秘でお願いします」
ボスは見張りを要請し、ダニーと支局へ戻った。
「容疑者は、グエン・トロン・チュン。
ニューオーリンズでエビ漁をしていたが、カトリーナの被害で船を失っている。
元々ボートピープルとして香港経由で来た移民だ。武器を所持している模様。
人質を取っているから細心の注意が必要だ!」
マーティンは、少なくともスチュワートが生存している確率があると知り、
胸をなでおろした。何があっても助けなければ!
またバートン名義の処方箋が使われた。今度はチェルシーだ。
30分後にはMPDの薬局。いずれも断られている。
ボスはイーストビレッジに戻ってくると踏み、捜査官を配備した。
一時間後、グエン・トロン・チュンが現れた。
マーティンが不意に飛びかかり、めちゃくちゃに殴りつけた。
「どこだ!どこにいるんだ!」
容疑者の顔がみるみる血に染まっていく。鈍い音が響いた。
「おいっ、死んでまうって!」
ダニーが後ろからマーティンを羽交い絞めにした。
「離せ!言わなきゃ殺してやる!」
マーティンは拳を振り上げた。
「おい、早よ言わんとこいつほんまにやるで?オレも抑えるの限界みたいや」
ダニーの言葉にグエンは居場所を吐いた。
チェルシーの倉庫街へただちに向かう。
54番埠頭の個人用倉庫で、ぐったりしたスチュワートを見つけた。
「スチュー!僕だよ!スチュー!」
「やあ、君か・・・さすがFBIだ・・」
マーティンが抱きつき、スチュワートは痛みに声を上げた。
「生きててよかった・・もうダメかと何度も思ったよ」
「ああ、オレも思った。痛てて・・・」
鎖でくくられていた足を解放され、スチュワートはようやく自由になった。
傍らに血染めのガーゼと注射器が落ちているのをダニーが見つけた。
「これ、麻薬を打たれたんか?」
「いや、トキソイドを自分で。不衛生なナイフで切られたからな・・」
二人は意識が朦朧とするスチュワートを抱え、病院へ運んだ。
治療を終え、ベッドに横たわるスチュワートにマーティンは付き添った。
傷も自分で処置していたせいか、後遺症もないと言われホッとする。
ダニーは調書を取るため、先に支局に戻った。
現場に置いてあった仏像は、首が外れるようになっていて、中からヘロインの残渣が検出された。
運び屋として利用し、殺して仏像を奪おうとしたものの、
医師であるとわかり、監禁して薬物をせしめることを思いついたらしい。
「奇跡だな、私も死んでいると思ってたよ。せめて遺体だけでもと思ってな・・
だが、それじゃあいつがどうにかなってしまう。本当によかった」
ボスがダニーの肩をポンとたたいた。
「お前はよくやった。私なら、ああまで真剣にはなれまい。ライバルだからな」
ダニーは軽く頷き、調書を仕上げた。
マーティンは、眠るスチュワートの横でしっかりと手を握っていた。
「やあ・・・」
「目が覚めたんだね。よかった!明日にはうちに帰れるよ」
「そうか・・やっと帰れるな・・」
「うん。おかえり、スチュー」
「スチューって呼ぶなって!恥ずかしいだろ!」
照れくさそうなスチュワートに、マーティンはそっとキスをした。
ダニーはげっそりやつれて支局に出勤した。
「どうしたの?ダニー、誰かのお葬式みたい」サマンサが寄ってくる。
「うん、まあ似たようなもんや」
アランの俺への気持ちが死んだんや。
マイアミから帰っているアランはダニーに何度も電話を入れたが、
携帯がつながらないし、自宅も留守電だった。何かがおかしい。
アランは支局を訪れ、サマンサに内線を入れて、セキュリティードアを通った。
ダニーはフロアに現われたアランの姿に目をこすった。幻やないやろな。
「ダニー、アランが会いたいって」
マーティンも目を上げ、廊下で待っているアランの姿を目に留めた。
サマンサに促されて、立ち上がるダニー。
アランが手を上げて、ダニーを迎える。
「やぁ、ずっと連絡が取れなくてね、心配になって、ここまで来てしまったよ」
いつも通りのアランだった。
「携帯の具合が悪くてな」ダニーはウソをついた。
「今晩は一緒に食事できるかい?」
ダニーは思わず言葉を飲み込んだ。
「あぁ、ええで」
「良かった。じゃあ、家で待ってるよ」
アランはダニーの肩を叩いて、去っていった。
本心は、マイアミの事を問いただしたい。しかしマイアミまで追いかけていったなど
男の沽券にかけて知られたくなかった。まるでストーカーみたいやん!
ダニーの頭の中は今晩のディナーの事で飽和状態になり、全く仕事が手に付かなかった。
定時になり、ダニーはのろのろとPCをしまった。
マーティンが見るに見かねて声をかける。
「ダニー、顔色悪いよ。大丈夫?」
「ああ、大丈夫や」
「今日、食事する?」
「いや、アランと食うから」
「あ、そうなんだ。よろしくね」
「言っとくで。」
ダニーはわざと地下鉄で時間を取りながらアッパーウェストサイドに上った。
合鍵で入ると、アランがキッチンでエプロンをして、食事の仕度をしているところだった。
「今日は早かったね。シャンパンが冷えてるよ」
「何で、シャンパン?」
「たまにはいいじゃないか」
ダニーは訝りながら、クロゼットでアディダスに着替えて出てきた。
「今日は真鯛とハマグリのブイヤベースにムール貝の白ワイン蒸しだよ。ダニー、好きだろう?」
「うん。好き」
ダイニングに座ると、アランがシャンパングラス2つにヴーヴクリコを注ぎ、乾杯を促した。
「何に乾杯?」ダニーが尋ねる。
「二人の今年にかな?」アラン、よく言うわ。
「そうだ、マイアミ土産だよ」アランは大きな包みを持ってきた。
中から2羽のフラミンゴのぬいぐるみが出てきた。
「本当に買ったんや!」
「ああ、名札も作ってもらったんだ」
それぞれ、アランとダニーという名札を首から下げていた。ぐすっ、ダニーは涙ぐんだ。
「それから、いい専門家に会った。君のPTSD克服の最終仕上げに役立ちそうだったんでね」
「その人、女?」ダニーが目をこすりながら尋ねた。
「ああ、ディナーが終わった後、ラウンジで2時間ほど語りあったよ」
ダニーはふと思いついた。
「アラン、エグゼクティブフロアーに泊まったん?」
「そうだけど、どうしてだい?」
「ラウンジって高層にあるんやろな?」
「ああ。いつでも打ち合わせに使えるから便利だね。チェックインもアウトも並ばないし」
ダニーは、自分が考えていた事が杞憂だったような気がしてきた。
ダニーはフラミンゴを抱きしめながら、「俺、アランって名前の方もらうわ」と言った。
「マーティンに見られないかい?」「いいんや。もう」
ダニーはフラミンゴに頬ずりした。
「随分お気に入りだな。そうだ、携帯の具合は良くなったか?」
ダニーはすっかり忘れていた。
「ああ、バッテリーが壊れてて、接続不良やった。
今日取り替えてもろうたからもう平気や」
「僕は君に疎まれてるのかと思ったよ」アランが笑う。
二人はアランの手料理を久しぶりに食べた。
ダニーはデザートにハーゲンダッツのグリーンティーの1パイントカップを抱きしめ、
大画面TVでフットボールの試合を見ていた。
アランはキッチンを手早く片付けると、バスを入れ始めた。
「今日は君の好きなラベンダーにマージョラムを垂らすよ」
「うん。」ダニーはフラミンゴと一緒にフットボールに夢中だ。
やれやれ、子供だな。勘がいい子だから焦るが・・・
アランは苦笑いしながら、バスのお湯を止めに行った。
372 :
fusianasan:2006/01/13(金) 13:34:37
書き手1さん、アランは本当に浮気してないのでしょうか?でもこんなアランだけどダニーはアランと一緒だと幸せそうだし
その関係は続いて欲しいと思いました。ダニーのあの単純さが可愛くてもっと甘えさせてやって下さい。
書き手2さん、ダニーとマーティンの仲が甘くなりかけたけど、またスチュワート帰ってきましたね。やっぱりマーティンは
スチュワートがいいのかな・・ダニーにも愛の手を・・お願いします。
マーティンがスチュワートにゼリーを食べさせていると
ダニーが紙袋を手に入ってきた。
「やあ、テイラー捜査官。さっきは助けてくれてありがとう」
「ああ、うん。ほんま大変やったな、これ」
ダニーは紙袋を差し出した。
「・・・オレに?何だろう・・」
スチュワートが紙袋を開けると、エッサ・ベーグルのベーグルが入っていた。
「これ食べたかったんやろ?好みがわからんからベジサンドにしたんや」
スチュワートは黙って取り出し、一口かじる。
「ダメだ、感動して泣きそうだ・・・」
半泣きのスチュワートに、ダニーは苦笑いした。
「それ、マーティンの分も入ってるんや。お前もおなかへったやろ」
ダニーは紙袋からターキーサンドを取り出し、マーティンに渡した。
「疲れてると思うけど、支局で調書取らんとあかんのや。明日でええかな?」
「ああ、いいよ。明日には退院できるらしいから」
「それとスーツケースは調べられてるから、返すのが遅れると思う」
「わかった。・・くそっ、汚れた下着も見られてるのかな」
ダニーとマーティンは思わず顔を見合わせて笑った。
「マーティンも一回支局に戻れって、ボスからの伝言や」
食べ終わるのを待っていたダニーが切り出した。
「そうだね、まだ仕事が残ってるから。ねぇ、もう一度来ようか?」
「いいや、もう寝るからいい」
「ほな、オレら行くわ。・・・とにかくお前が無事でよかった」
ダニーはぎこちなく付け加え、席を立った。
「テイラー捜査官、本当にありがとう。君には感謝してるんだ」
スチュワートも照れくさそうに礼を言い、ダニーは頷くと病室を出た。
「ダニー、ダニーはやっぱり最高だよ」
マーティンが歩きながらぽつりと言った。
「ああ、お前もな」
二人はじゃれあいながら車に乗り、支局に戻っていった。
次の日、事情聴取のために来たスチュワートに、サマンサが抱きついた。
「ドクター・バートン、また会えて嬉しい・・・」
「ありがとう、サマンサ。君にも随分世話になったね」
礼をいい、頬にそっとキスをする。
スチュワートはユニットのみんなにも礼を言い、取調室に通された。
ボスとダニーの事情聴取のあと、麻薬課の尋問を受ける。
「オレも罪に問われるので?」
「いや、それはないでしょう。被害者ですから。
スーツケースをお持ちしますから、しばらくここでお待ちください」
ホッとしながら応接室で待っていると、マーティンが入ってきた。
「サボってていいのか?フィッツジェラルド捜査官」
「ん、僕は荷物持ちに任命されたからね」
マーティンはコーヒーを淹れ、少し離れて座った。
「本当はね、過重暴行なんだよ。だから現場から外されてるんだ」
「君が?何やったんだ?」
「・・・スチューの居場所を聞き出そうとしてさ、歯を何本かと鼻の骨を折っちゃった」
「そっか、オレのためにすまない」
「いいんだよ。あ、来たみたいだ、行こう」
スチュワートは受け取りにサインし、マーティンはスーツケースを持って歩き出した。
グラマシーのアパートに着き、スチュワートは懐かしそうに部屋を眺めた。
「植物もみんな元気だからね、安心して。それじゃ、僕は戻るよ」
「マーティン」
「ん?」
スチュワートはマーティンを抱きしめ、ゆっくりとキスをした。
マーティンも応えるように舌を伸ばす。
「ね、後でまた来るから」二人は名残惜しそうに体を離した。
支局に戻るとダニーが寄って来た。
「倉庫にあった冷蔵庫から死体が二つ出たって。トロイも危なかったな」
「マジで?」
「ああ。これでお前の暴行もお咎めなしやと思う。相手は凶悪犯やからな」
マーティンの手にそっと触れ、ダニーはニヤリとしながらウィンクした。
仕事を終えると一緒に地下鉄に乗り、マーティンは途中の23丁目で降りる。
「おい、今日だけは特別やからな!」
「わかってるよ!」
扉が閉まる間際に言い合い、二人は軽く手を挙げて別れた。
ダニーは、遠ざかるマーティンの後姿を見て大きく息を吐いた。
これでええんや、あいつのためやもん・・・・。
寂しさをかき消すようにiPodのボリュームを上げ、地下鉄の揺れに身を任せた。
>>372 スチュワートはまた帰って来たというか、元々二週間の予定で出張してたんで。
マーティンは両方好きなんですよね。NYで初めて出来た友人だし。
ダニーもそれはわかってると思います。
フラミンゴの足にくすぐられてダニーは目が覚めた。アランが笑っている。
「俺、寝坊した?」
「今日は土曜日だよ。さぁ起きて朝食を食べよう」
アランはスモークサーモンとクリームチーズのベーグルサンドを用意して待っていた。
ダニーはシャワーを軽く浴びる。
「アラン、今日は何する?」
「もしダニーさえ良ければ、フォーシーズンズのスパに行ってくれないか?」
「うん?ええけど、何するの?」
「急にモーニングニュースの出演が決まってね。一応フェイシャルトリートメントとか・・・」
「え、女が受ける様な事やんの?」
「カップルで予約してしまったから、お願いだよ」
「俺、そんなの初めてや。恥ずかしいで」
「大丈夫だよ」
二人は約束の3時にフォーシーズンズのスパに出向いた。
ダニーは紙ショーツに履き替える所から恥ずかしがってぐずった。
「アランー!俺、こんなの我慢できへん!」
「大丈夫だよ。僕がそばにいるんだから」
二人でトリートメントルームに入る。
妙齢のエステティシャン2人が待っていた。
「ショア様、私が担当のジェニーです」
「テイラー様、私が担当のアイリスです」
ダニーはアイリスが美形なのですでに身体がかちんこちんに緊張していた。
二人別々の部屋でフローラルバスに入る。蘭やバラの花びらが散ったジャグジーだ。
ダニーはアイリスの目が気になって、バスから出られないでいた。
「テイラー様、紙ショーツにお履き替えください。」
アイリスは部屋の外に出た。ダニーのペニスはパンパンになっていた。
俺、このままマッサージされたんじゃ、我慢できへん!
ダニーはトイレに入り急いでペニスに手を添えた。
アイリスが間髪入れず入ってくる。
「よろしいでしょうか?」「はい。」ダニーの声は震えていた。
トリートメントルームに入ると、すでにアランがうつぶせで横になっていた。
「ダニー、バスはどうだったかい?」
「えらいええ気持ちや」
「良かった。じゃあーこれからマッサージだよ」
2時間たっぷりとマッサージを受け、ダニーは身も心もとろけそうになった。
アイリスがマッサージオイルの説明をする。
「心身ともにお疲れのご様子なので、トーニングのブレンドオイルを使いました。
お宅でもこめかみに塗布してマッサージしてみてください。」
「ありがとう、アイリス。」
アランはバランシングのオイルの説明を受けていた。
二人でスパを出てくるとロビー階でサマンサに出会った。
「ダニー、アラン!奇遇ね」
「サム、何してる?」
「今日はボスと待ち合わせなの。秘密ね。」
「了解や。俺らの事も秘密で頼むわ。」
「了解!お幸せにね!」
サマンサは胸元がぱっくり開いたニットでバーの方へ走っていった。
「サマンサは、マローン捜査官一筋のようだなぁ。」アランが呟く。
「俺も尊敬してるしな。」
ダニーは言葉少なに添えると、地下の駐車場へ向かった。
「今日はどうする?」
「そやなー、ヴィレッジのイタリアンかな?」
アランはグリニッジビレッジに向かった。
「バボ」の前は長蛇の列になっていた。
アランがメートルデーに文句を言っている。
「相席でよろしければ。」
そういって通された席には、なんとマーティンとニックが座っていた。
ダニーが声を上げる
「お前!何してるん?」
「今日はフォトセッションが終わったから打ち上げだよ。」
ニックがミネラルウォーターを持ち上げてウィンクしている。
アランとニックがお互いに自己紹介している。
ニックが「前菜を変更しよう。」と言ってアンティパストミストと生ハムのサラダ、トリッパのトマト煮込みに変更した。
アランが尋ねる。
「それで、メインはどうしたんだい?」「ピザとスパゲッティーだけど?」
マーティンが不思議そうに聞いた。
「どうせならミックスグリルとサラダにしないか?4人もいるわけだし。」
アランの提案の通り、牛、子羊、鶏、豚とアマダイのグリルにメインが変更された。
アランのリードで4人の会話は表面上スムーズに進んだ。
ダニーは事あるごとにニックを睨むので、アランがダニーの太ももを何度も触った。
食後のコーヒーを飲んでいる間、ニックが口を開いた。
「会えてよかったよ、ダニー。」
「俺こそ、ニック。」
ニックはダニーと握手すると、アランの頬にキスをした。
マーティンも釣られてダニーの頬にキスをし、アランにもキスをした。
「それじゃ、これで。」ニックはマーティンを急かした。
二人の後姿を見送るダニーとアラン。
「ダニー、大丈夫かい?」ダニーは息をつくと「うん、平気や。さ、アランとこに帰ろう!」
アランはダニーを気使いながら車を正面に回してもらった。
>>372 さん
アランが浮気したかどうか。
何しろアラン・ショアですからねー。何でもありです。
ダニーは盲目的に信じていますから、可愛そうです。
何しろダニーにとっては11歳で両親を亡くした後での初めての両親代わり。
これからも甘え倒すと思いますので、よろしくお願いします。
395 :
書き手2:2006/01/14(土) 16:04:17
こんにちは、書き手2です。
本スレの958宛てで書かせていただきます。
隔離スレがキモイと思われても仕方ないというのは、自分でもわかってますよ。
同性愛を題材にしているのだから、当然ですよね。
「あれは読み手が書いてるんだもん」と言うならとありますが、
こちらとしては何も言ってませんし、隔離スレの冒頭にも約束として以下のように掲げています。
・このドラマの他の関連板に感想などを書くのは控えてください
誤解しないでいただきたいのですが、決して感情的になって反論しているわけではありません。
勝手に思い込みで決めつけられても迷惑なので、こちらのほうに書かせていただきました。
それと、「読んだからファン」だなんて一切思っていませんよ。受け取り方は人それぞれですから。
少々短絡的やしませんか?
非常に了見の狭い意見だと思います。
ご意見があれば、こちらへ書いていただいてかまいません。
本スレにも迷惑ですし、そのほうが話も通りやすいでしょうから。
てかさ、本編よりおもろいっていってたり
あっちで感情的になって反論してるのが
書き手か読み手かそんなんが問題じゃ
ないんじゃない?
そんなんより、801はきもいと言われて上等
感情的になって反論してはあかんのやー
ってのが主旨だと思うんけど
誰だか知らんけどやめたって
書き手の迷惑になるんやで
「ニック、アランってどう思う?」
「ホワイトカラーのおやじって感じだけどな」
「惹かれるところない?」
「俺にはおやじ趣味はないよ。ダニーの浮気の相手はアランなのか?」
「うー、うん、そうみたい」
「FBIにしちゃ随分曖昧な返事だな」
「だって、あの二人、親子みたいなんだもん」
「親子と恋人は本質的に違うもんだぜ、学習しろよ!」
「僕、親子関係が正常じゃないんだよ」マーティンは口を尖らせた。
「俺も。親父は兄貴しか期待してなかったからな」
ニックは紙巻のマリファナに火をつけ、マーティンにまわした。
「ふーう、これがあると肩の凝りが取れるね」
マーティンは両肩をストレッチした。
「もっと強いのをやってみるか?」
「うーん、どうしよう」
「俺はやるけど、君はやりたければやればいい」
ニックはそう言うとヘロインの入った注射器を持ち出し、腕につきたてた。
「はーぁ、力が抜けるぜ」ニックはソファーで弛緩した。
マーティンはそんなニックの様子をじっと観察していたが、
「僕もやろうかな」と言った。
「え、いいのか?」
「うん、ニックと同じになりたい」
ニックはヘロインを溶解した液をしたためて、注射器を満たした。
マーティンの腕に静かに注射する。
「うーん」「マーティン、ベッドに行くか?」
「うん、ニック。連れてって!」
マーティンはニックに連れられて中二階へと向かった。
マーティンは暑い暑いと次々に服を脱いでベッドに横たわった。
ニックも全裸になり、マーティンの上に覆いかぶさった。
「ニック、僕をめちゃめちゃにしてよ」
「いいのか?君を撮るぞ」
「いいよ、僕、どうされてもいい感じ」
ニックはマーティンの勃起したペニスを口に咥えると
「そのままにしてろよ!」と言って、一眼レフの照準を合わせた。
マーティンはシーツの中で、思う様もだえて、ポーズをとった。
その後、場所を1階のスタジオに移してどんどんショットを重ねていく。
ほぼ2時間のフォトセッションが終了した。
マーティンは、じっとり汗をかき、ぐったりしていた。
「シャワーするか?」「ううん、眠いや」
ニックはマーティンを抱え、中二階へと戻った。
「お疲れ。お陰でいい写真が撮れた」
「ふぁー、そうなの?・・・」
マーティンはいつしか眠りの底へ沈んでいた。
ニックはバスローブをひっかけ、早速暗室にこもって現像を始めた。
「これは、すごい作品になったな」思わず笑みがこぼれる。
今度ソーホーでやる個展の目玉になりそうだ。
ニックがベッドに戻ると、大の字になってマーティンが寝ていた。
「ったく、子供かよ!」
ニックはマーティンの身体を押し動かして自分の場所を確保し、
マーティンに寄り添うように眠りについた。
マーティンは足早にスチュワートのアパートまで急いだ。
ゆっくり話がしたくてたまらない。
ロックを解除される間ももどかしいほどだ。
エレベーターを降りるとドアまで駆けていった。
「やあ、早かったな。」
マーティンは何も言わずギュッと抱きついた。
二人はそのまま中に入り、ドアを閉めるとキスを交わした。
「おかえり、スチュワート。」
「ただいま。ずっと君に会いたくてたまらなかったよ。」
僕も!と言ったあとでダニーのことを思い出し、マーティンは少し心がチクンとした。
「足はどう?」
「痛むけど、どうってことない。ピザでも頼もうか。」
スチュワートはピザをオーダーし、二人はソファでキスの続きを始めた。
マーティンがスチュワートの体に触れようとすると手を掴まれた。
「スチュー?」
「ごめん・・・オレ、不衛生なナイフで切られたろ。二ヵ月しないとHIVの検査が出来ないんだ。
検査の結果が出るまではしないほうがいい。」
「感染してるかもしれないの?」
「わからないけど、他の誰かの血がついてた。もしもってことがあるからね。」
「ん、わかった。キスならいいよね?」
答える代わりにスチュワートはマーティンのペニスを取り出した。
「キスもいいけどさ、直腸診してやろうか?」
「えっ!」
「滅菌グローブもあるし、平気だぜ?」
「いいよ、僕は・・」
「そう言わずに、ほら、脱げって!」
スチュワートは強引に脱がし、下半身を丸裸にした。
ニヤニヤしたスチュワートは、マーティンを前に滅菌グローブをはめた。
「はい、ベッドに横になってください。」
「ねぇ、本当にやるの?僕、嫌だよ」
「君がイクところが見たいんだ。いいだろ?」
マーティンは仕方なく横になった。
ワセリンを塗りこみ、スチュワートはそっと指を入れた。
「んんっ!」思わず力が入る。
「大丈夫、リラックスして・・」
スチュワートは慣れた手つきで内壁を探り、前立腺を探り当てた。
「ぅっく・・ぅ」
指がぞわぞわと中を弄り、マーティンは喘ぎ声を上げる。
「こうしてると初めて君に会った日を思い出すよ。君は?」
「ンッッ・・あぁ・・僕も・・・」
スチュワートはくすくす笑いながら何度も指を往復させる。
「んふぅ・・あっぁ・・んんっ!」
マーティンはびくんと大きく仰け反ると精液をぶちまけた。
スチュワートはドロっとした精液を掬うとゆっくり舐めた。
「んー、マーティンの味がする」
マーティンの目を見つめながら味わうように舌なめずりする。
「バカ!恥ずかしいよっ」
真っ赤になるマーティンに、スチュワートはキスをした。
「うへぇー、僕のが残ってたよ・・・」
「おいしいだろ?」髪をくしゃっとされ、マーティンは恥ずかしくて胸に顔をうずめた。
ダニーはアパートに帰ると、タコスとキドニービーンズのサラダを作り、
TVを見ながら食べ始めた。
マーティンがいないと作る量も少ない。
見たい番組もなく、キャビネットからフレンズのDVDを取り出した。
シットコムの空々しい笑い声が余計に虚しい。
すぐに見るのをやめ、そそくさと食事を終えた。
あとはもう風呂に入るぐらいしかすることもない。
バブルバスに浸かり、わざと時間をかけて体を洗う。
のぼせそうなほど風呂を堪能し、早々とベッドに入るが
浮かんでくるのはマーティンのことばかりだ。
あかん、もう寝よ。明日になったら支局で会えるわ。
自分に言い聞かせるように目を閉じた。
ニックが個展の準備で忙しくなり、マーティンの生活は元の刺激のない退屈なものに戻った。
難解な事件も特に発生せず、支局とアパートの往復だけの毎日だ。
ダニーの方は、ニックとの思いがけない出会い以来、マーティンに話しかけずらくなっていた。
マーティンを見るとどうしてもニックと身体を重ねている像が浮かんでしまうのだ。
「ねぇ、ダニー、今日、夕食一緒にしない?」
マーティンが決心してダニーを誘う。
内心嬉しいが顔に出さずに「おお、ええよ。お前、場所決めろよ。」とだけ答えた。
マーティンがPCでグルメサイトを検索し始める。
「おいおい、仕事中はやめろっちゅうに!」
「だって、嬉しいんだもん」
結局、ミッドタウンの「DBビストロモダン」に決めたらしく、予約の電話を入れている。
サマンサが「なあに、マーティン、今日はデートなの?」とニヤニヤしながら尋ねる。
「まあね」「事件があったら真っ先に呼び出してやる!」
サマンサはウィンクをして席に戻った。
ダニーが苦笑している。
DBビストロで二人はシーザーサラダと名物のDBバーガーを注文した。
ひき肉のパテの中にフォアグラが入った豪華なハンバーガーだ。
「やっぱり、ここのバーガーは特別だね!」
マーティンはにこにこしながらがっついている。
「全くお前向きやね。フォアグラ気をつけろよ。ボスみたいになるで」
「えー、それはひどいよ。少なくとも10キロは体重違うと思うんだよね」
「そうかなー」
ダニーはテーブルクロスの中で靴下足になってマーティンのウェストラインをつっついた。
「やめてよー。何するんだよー」マーティンが身をよじっている。
こうしているとニックもアランもいなかった昔の二人に戻ったような気がする。
二人ともそれぞれの想いにふけった。
「ダニー、何考えてるの?」
「うん?お前がMPUに来てもう1年近く経つんやなと思ってた」
ダニーは嘘をついた。ニックとの付き合いを問いただしたいのに、言葉が出てこない。
「僕って少しは成長したかな?」
「あぁ、お前初めての捜査の時に殺人犯にバットで頭殴られたんやったな。肝冷やしたで」
「そうそう、それで病院について来てくれたのがダニーだったんだよね」
「ボスに言われて嫌々な」「そんなー!」
「それが今じゃこんな仲や。人生何が起こるか分からんもんやな」
「そうだね、これからも何が起こるか分からないよね」「そやな」
二人の会話はそこで続かなくなった。
ダニーがチェックを済ませ、レストランを出る。
「もう一軒行くか?」
「うーん、今日は止めとくよ。何だか疲れちゃった」
いつもなら喜んでついて来るのに。ダニーは訝った。
「それじゃあね、ダニー、また明日!」
マーティンはそそくさとタクシーを拾い去っていった。
マーティンは脂汗を浮かべて、タクシーの中で震えていた。早く家に戻らないと!
マーティンはドアマンのジョンに挨拶もせず、自分のアパートへと急いだ。
部屋へ入るや否や、マーティンはバスルームのドロワーを開けた。
中の包みを開けて、マリファナを吸う。
「ふぅー。」身体中の力が弛緩した。
僕って相当やばいのかな。
マーティンは本当の深刻さに考えが至らず、紫の煙をふかすばかりだった。
ダニーはマーティンのアパートに行った。
今日は外回りだったのでほとんど話もしていない。
マーティンはバスルームにいるらしく、水音が聞こえる。
もしかしたらトロイがベッドにいてたりして・・・
足音を立てないようにベッドルームを覗いたが、
脱ぎ散らかしたマーティンの服しかなかった。
バスルームのドアを開けようか迷っていると、マーティンがドアを開けた。
「どわぁー!・・・いるなら言ってよ、びっくりするじゃない!」
「あー、ごめんごめん」
「ダニーも入る?」
「いや、オレはええわ。それより晩メシ食べた?」
「まだ。もうすぐドラゴンアレイのチャイニーズが届くよ」
言い終わるなりインターフォンが鳴り、マーティンはバスタオルのまま応対した。
前はあんな格好で人前に出るようなヤツじゃなかったのに・・・・。
これもトロイの影響か?ダニーは一抹の寂しさを感じた。
マーティンはチャイニーズカートンをテーブルに置き、バスローブを羽織るとダニーを促した。
「食べよう、冷めちゃうよ」
「でも、オレの分まで頼んでへんやろ?」
「たくさん買ったから大丈夫。ほら、食べるよ」
マーティンはハイネケンを取りに行き、二人は話をしながら食べ始めた。
食後におみくじクッキーを食べていると、ダニーのクッキーから変わったくじが出てきた。
「ん?当たりって何やろ?」
「当たり?やったー、次回は何を頼んでも無料なんだよ!」
マーティンは嬉しそうにくじを眺めている。
「ふうん、よかったな」
「うん、いっぱい頼まなくっちゃね!」
「欲張りやなぁ、また太っても知らんで」
ダニーはからかうとマーティンの肩を抱き寄せキスをした。
ダニーがバブルバスに浸かっている間、マーティンは横で歯磨きをしている。
「あのさ、少し向こうを向いててくれる?」
「なんで?」
「デンタルフロスを使うから。・・・なんかさ、恥ずかしいじゃない?」
「わかった」
ダニーは顔を背けたが、こっそりマーティンを盗み見ていた。
「ん!ダニー、見ないでって言ったのに!」
「見てないって!お前、真剣でかわいいな」
「しっかり見てるじゃん!バカダニー!」
マーティンは口を尖らすと出て行ったが、パジャマを脱いで戻ってきた。
「何や?」
「もう一度入るんだよ」
マーティンはバスタブに浸かり、ダニーの足の上に座った。
キスをするとシトラスミントの香りがする。
「新製品?」
「うん、今日買ってきたんだ」二人はもう一度キスをする。
「オレは前のほうがいいなぁ」
「あれは辛いよ。舌がピリピリするもん」
「お前は子供やからな」
ダニーはキスをしながら腰に手を回し、固くなったペニスを押し付けた。
マーティンも勃起し、ニヤッとしたダニーは耳をやさしく噛んだ。
「出よか、それともここで?」
「出よう」二人はいそいそと泡を洗い流し、ベッドに直行した。
マーティンはダニーのペニスを咥え、熱心に舌を這わせている。
ダニーは髪を撫でながらマーティンを見つめた。
「マーティン、もう入れて」ダニーはたまらず懇願した。
オイルを塗られ、ゆっくり挿入される。
マーティンはキスをしながらやさしく腰を動かした。
ダニーの漏らす声や息を感じながら少しずつ動く。
二人は汗だくになりながらお互いの体を貪った。
ダニーは途中で我慢できなくなり、マーティンの肩に手をやると自分から腰を振った。
「うぅっ・・・ダメや・・いくっ!」
ダニーは射精し、マーティンは満足そうににっこりした。
「いいよ、ダニー・・僕も出すからね」
マーティンはダニーの体を抑えつけ、激しく腰を振ると中に出した。
ぐったりともたれかかった体にダニーの精液がつき、
マーティンは手で擦るとおなかに塗りたくった。
「汚いなぁ、やめろや」
「いいの、ダニーのだからね」
二人はキスを交わし、甘えるように体をくっつけた。
「ずっとこのままやったらええのに・・・」
ダニーがふと漏らした。マーティンがはっとして顔を覗き込む。
「ごめんね・・僕のせいでさ・・」マーティンは謝るとうつむいた。
「いや、オレもごめん」
ダニーはそっと手をつなぐと、気まずさのあまり目を閉じた。
「ダニィ、もう寝た?」
しばらくしてマーティンが話しかけるが返事はない。
仕方なく目をつぶるが眠れそうになかった。
このままじゃよくない、ダニーにもスチュワートにも申し訳ない。
どちらも選べない自分がとことん情けなかった。
支局でPCに向かって失踪者のクレジットカードの調査をしていると、
携帯が震えた。ニックだ。
「はい、マーティン。うん、久しぶり。え、今日?いいよ。家に行けばいいの?分かった。じゃあね。」
ダニーが横目で嬉しそうにしているマーティンを睨んでいた。
仕事が終わり、マーティンはミートパッキングエリアへ急いだ。
ニックのステューディオのインターフォンを押す。
「はい?」
「僕、マーティン」
「入れよ」開錠された。
ニックの部屋はいたるところに白黒のポートレートが張られていた。
その多くが男女の裸体像だ。
「うわー、すごいね!」
「今度の個展に出す作品を選んでるところさ」
「僕は何をすればいいの?美術評論家じゃないよ、僕」
「君の承諾が欲しい」
「うん?何の?」
「これのだ」
ニックは30枚ほどある束の写真を持ってきた。
「これ、何?」
「まぁ見てみろよ」
「うわー!」マーティンは腰が抜けそうになった。
自分が全裸のあられもない姿で写っている。性器も顔も丸出しだ。
「これ・・・」マーティンは絶句した。
「俺、この仕事していて、初めてだよ。被写体と呼吸と鼓動が一つになったような。
宇宙のヴァイヴに揺られながら写真が撮れた。これを個展の目玉にしようと思ってるんだ」
ニックは今まで見せた事のない少年のような表情を見せた。
「でも、困るよ・・」
「お願いだよ!一生のお願いだ。俺が人にお願いするなんて、そうないぜ」
「顔とか消せないの?」
「事実をゆがめたくないんだ。ここに写っているのはマーティン・フィッツジェラルド32歳の事実だよ。
全部とは言わない。君が承諾した作品だけでいい。飾らせてくれ」
マーティンはソファーに座って、束を一枚一枚めくり始めた。
どれもばっちりマーティンの顔が映っている。
「うーん」唸るマーティンに、ニックはマリファナを渡した。
「まぁ、リラックスして見てくれ。インド料理でも頼もう」
ニックがリトル・ブッダに電話している間、マーティンはじっくり写真を眺めていた。
これが全部自分なんて信じられない。
かしこまって撮られた写真なら高校や大学の卒業写真があるが、
ニックの写真には自分の生そのものが一枚一枚に凝縮されている迫力があった。
いつしかマーティンは自分が被写体であるのも忘れて写真の力に飲まれていた。
インド料理のデリバリーが届いた。
タンドリーチキンプレートとサグマトン、レンズ豆のカレーにサフランライスとナンがダイニングに並べられる。
「マーティン、ワイン、飲むか?ウォッカもあるが」
「ワインでいい」
マーティンは熟考に熟考を重ねて、1枚だけを選んだ。
顔はソフトフォーカスと優しい影でぼんやりしており、マーティンの胸筋に焦点があっている作品だ。
「ニック、これならいいよ」
「たった1枚かよ!」
「だって、他のは僕の顔がはっきり映ってるんだもん。
こんなの公開されたら、僕、FBIにいられなくなっちゃうよ」
マーティンはナンを二つ折りにして、サグマトンに浸してがっつきながら必死で説得する。
「うーん、俺としたら3枚は欲しかったが、仕方がないな。肖像権は君のものだ」
ニックは思いがけず簡単に引き下がった。
「ニック、ありがとう」
「俺こそ。全部断られるかと思ってたぜ」
ニックはえくぼを見せて笑った。
「さぁ、タンドリーチキン食えよ」
「うん、もらうね」
「君の食欲にはいつも驚くよ。マリファナ吸ってもヘロインやっても変わらないなんて」
「何でだろうね」タンドリーチキンを咥えながら、マーティンが不思議そうな顔をする。
マーティンは禁断症状の件をニックに内緒にしていた。
上手に遊べない奴と甘く見られたくなかったのだ。
食事が終わり、ニックががさごそとデリバリーコンテナをゴミ箱に捨てている間、
マーティンは自分が選んだ写真をもう一度眺めていた。
「僕もニックみたいな身体になりたいな」
「それならもっと野菜食って筋トレしな」
「やっぱりそうなんだね。ダニーにも食べすぎを注意されちゃったよ」
「ほう、ダニーと仲直りできたのか?」
マーティンは恥ずかしそうに「うん、どうにか」とだけ答えた。
「風呂入るか?」
「今日はいいや、僕明日早いから帰るね」
「ベッドの運動もなしか?」ニックがにやっと笑う。
「うん、また今度」マーティンはまた悪寒がしてきた。
携帯でタクシーを呼び、ニックの家から出ると、
タクシーの運転手にアッパーイーストサイドまで飛ばすようにお願いした。
昼休み、マーティンの携帯にスチュワートから電話が掛かってきた。
幸いダニーは席を外している。
「オレだけど、今夜食事に行かないか?」
「いいよ、僕も話したいことがあるし」
「それじゃ、17時30分に迎えに行くよ」
「あっ、ちょっと待って。支局まで迎えに来なくていいよ」
「うん?どうして?」
「それは・・その・・うまく言えないけど、裏通りの角で待っててよ」
「おかしなヤツだな。わかった、裏通りの角な」
ダニーに見られないようにしなくては・・・マーティンは憂鬱な気持ちで電話を切った。
ダニーが帰ろうとすると、マーティンの姿はすでになかった。
昨日のセックスを思い出し、一人でニヤニヤする。
「ダニー、呆けた顔をしてどうした?」
ボスが訝しげにこっちを見ていた。
「何でもないっす。お先に失礼します」
うへぇー、ボスにつかまったらえらいこっちゃ!
焦ったダニーはエレベーターのボタンを連射した。
「ちょっと来い」ボスは自分のオフィスに入ってしまった。
え?オレのこと?思わず舌打ちし、あとに続いた。
「お前、ピープショーって知っているか?」
「もちろん知ってますけど・・・」
「ショーはともかく、あの板の穴をどう思う?」
「聞いた話では、向こう側で男か婆さんが咥えてるらしいっす」
「なるほど・・よし、行こう」
「いや、オレは・・」ボスは嫌がるダニーを無理やり連れ出した。
壁の穴越しにヒスパニック系の女が体をくねらせるのを見ながら、
ダニーは時折ボスの様子を窺った。
女はブラを外すとこちらに向かって放り投げる。
大音量のサルサに合わせて腰をくねらせながら、官能的なポーズを向けた。
「ダニー、お前が試してみろ」
ボスは下の穴にペニスを入れるようダニーに命じた。
「嫌や、オレはこんなん嫌いなんや!」
「そうか、なら今度はマーティンと来るとしよう。
あいつのほうがおもしろいだろうよ、絶対泣くからな。帰るぞ、ダニー!」
「待って、わかったから、それだけは・・・」
「よし、やれ。おっと、ゴムを着けないとな」
ボスはコンドームの箱を投げた。くたくたに萎えたペニスにはコンドームを着けるのも一苦労だ。
自分で必死に勃起させ、ダニーは恐る恐るペニスを差し込んだ。
「どうだ?」
「・・・・・・・・」
「黙ってないで感想を言え。普通か?」
ダニーは目をぎゅっと閉じ、ヒスパニックの女など見ている余裕もない。
気持ち悪くて、早く終わればいいとばかり思っていた。
「ボス、オレのイキそうにないみたいや。もうやめたい・・・」
ボスは壁をノックした。「おい、チェンジはありか?」
「んもぅ、今日だけ特別よ」
若い女の声がした。舐めているのとは別人に違いない。
ボスはダニーと交代し、自分のペニスを差し込んだ。
ダニーは嫌悪感でいっぱいだったが、ボスは気に入ったのか呻いている。
「ああ、いいぞ・・もう少し強く吸ってくれ・・出そうだ・・・」
ボスは壁の穴に向かって何度か腰を突き出すと果てた。
「ダニー、よかったぞ。お前ももう一度やるか?」
ダニーはぶんぶんと首を振って断った。
あんな明らかに歯がないような婆さんの口でいけるか!
考えるだけでおぞましい。ぞわっと総毛立ち、ダニーは出口へ急いだ。
ダニーはやっとボスから解放され、ミッドタウンのフルートへ行った。
カウンターでジェニファーがぼんやりとカクテルを飲んでいる。
「ジェニファー?」
「あら、テイラー捜査官。ドクター・バートンを助けてくれてありがとう」
「ええねん、仕事やから。隣空いてる?」
ジェニファーは頷き、ダニーは隣に座ってドライ・マンハッタンをオーダーした。
「まだあのヘボ医者の苦情係?」
「そう、だから帰りにここへ寄るの」ジェニファーは情けなそうに苦笑する。
「ドクター・バートンはクリニックに復帰できひんの?」
「んー・・・アン・ヒラードにはもう会ったでしょ?」
「ああ、理事長な。綺麗な人やったな」
「ドクター・バートンが彼女と寝なくなったからよ。だから解雇されそうなの」
「えっ!あの理事長とトロイが?!!」
「ドクター・バートンの学費を出したのは彼女。わかるでしょ?」
「愛人ってわけか・・・」
「彼、最近、子供みたいなのといるじゃない。二人で何やってんだか」
子供みたいなのってマーティンのことや・・・ダニーは複雑な心境だ。
「ま、あの子もキュートだけど。お父さんの問題はとにかく、アンと寝ない限りクビになると思うわ」
「ふうん・・」ダニーは意外な事実を聞き、静かにグラスを傾けた。
マーティンはスチュワートと焼き鳥屋で食事をしていた。
慣れない日本酒を飲み、酒の力を借りようとしている。
スチュワートの顔をみるとどうしても言い出せなくなってしまう、そんな卑怯な自分が嫌だった。
「そろそろ話を聞こうか?それ以上飲まないほうがいいぜ」
「うん、そうだね・・・」
それっきり言葉が出てこない。
スチュワートは気にせず、マーティンに砂肝を勧めた。
「これ、変わってるけどオレのお気に入り」
マーティンも食べてみた。「ん、おいしい。コリコリしてる」
「だろ?軟骨よりこっちがいいと思うんだ」
さらに追加でささみとレバーを頼み、スチュワートはパプリカと海草サラダを食べさせた。
話を切り出せないマーティンは、どうすることもできずに食べ続けた。
食事が終わっても、帰りの車の中でも、マーティンはぎこちないままだ。
「当てようか?」スチュワートが先に切り出した。
「何を?」
「君が考えてること。つまりオレとのことだろ?」
マーティンは何も言わずつないでいた手を見つめた。
「わかったよ、彼と話そう。取り決めをするんだ。
そうすれば悩まずに済むだろう?」
スチュワートは、つないだ手を引き寄せそっとキスをした。
「でも・・僕・・・」
「いいんだ、何も心配しなくてもいい。きっとうまくいくさ」
スチュワートは自信たっぷりだったが、マーティンは不安で仕方がなかった。
スチュワートのアパートに帰り、マーティンは屋上に出た。
寒いが空気が澄んでいて夜景が美しい。
「マーティン、腕を広げて」
スチュワートが後ろから抱きしめてささやいた。
言われたとおりに両腕を広げる。
「タイタニックみたいだろ?」
首筋を舐められ、マーティンはくすぐったくて身を捩った。
「やっと笑ったな」スチュワートはうれしそうだ。
二人はしばらく夜景を眺めたが、寒くなって部屋に戻った。
「なあ、ボルティモアの件だけど考えてくれたか?」
「うん・・・ごめん、僕は行けない」
「いいんだ、たぶんそう言うだろうと思ってたよ」
「ねえ、行っちゃうの?」
スチュワートはにっこりするとマーティンを抱き寄せた。
「一応CDCのDC行きは断った。だから特別研究員のままなんだ。
大学のほうは・・・君が行かないならオレも行かない」
「もしかしてさ、終身在職権が取れたの?」
「もういいじゃないか、行かないって決めたんだから」
ごまかすようにマーティンの髪をくしゃくしゃにすると席を立ってしまった。
マーティンはスチュワートを追って仕事部屋に入った。
「そんなの、なかなか取れないんじゃないの?」
「オレは君といたいから。いかないって決めたんだ」
スチュワートはマーティンを座らせ、真剣に見つめた。
「週末、テイラー捜査官と話し合おう。予定を聞いといてくれるか?」
「うん・・・」
マーティンは気が重いまま返事をした。
ダニーは、デスクで朝食を食べながらマーティンを待っていた。
そろそろミーティングが始まるというのにまだ現れない。
「おはよう。それじゃ、始めようか」ボスが席に着きかけると、
マーティンが脇腹を押さえながら走って来るのが見えた。
急いでいるせいか、郵便物のカートに足をぶつけ呻いている。
「痛てて・・すみません、遅れました!」
ぜーぜー言いながら座るマーティンを、全員が訝しげに見つめた。
ボスは一瞥すると咳払いをし、本題に入った。
「寝過ごしたんか?」ミーティングのあと、ダニーは人目を気にしながら話しかけた。
「ううん、地下鉄を間違えちゃって。ユニオンスクエアで気づいて乗り換えたんだよ」
「あほやなぁ、あんなとこに泊まるからや」
ダニーは言ってからしまったと思ったがもう遅い。
気まずいまま二人は仕事に戻った。
昼休み、デリで買ったフィッシュサンドを食べているとマーティンの携帯が鳴り出した。
ダニーが着信表示を見るとスチュワートだ。
マーティンはコーヒーを淹れに行っててそばにはいない。
「はい」
「あ、もしかしてテイラー捜査官?」
「そうやけど、あいつは今ちょっと外してるんや。すぐに戻るわ」
「そうか。マーティンから聞いたかもしれないけど、一度会いたいんだ。週末いいかな?」
「嫌や」
ダニーの即答にスチュワートはくすくす笑っている。
「オレたち三人に関することなんだ。マーティンのことで」
「お前もしつこいなぁ。あいつはオレのんやって言うてるやろ」
「確かに半分はね。だが、半分はオレのものだ」
二人はお互いに相手の考えを探ろうと黙り込んだ。
「会うって三人で?」
「そのつもりだけど、嫌ならオレと二人でもかまわない」
「あいつ抜きのほうがええんとちゃう?」
「内密で会うってことか?・・いいだろう、いつにする?」
「今夜。場所は・・お前んちに行くわ」
「ああ、待ってるよ」
ダニーは電話を切ると天を仰いでフーっと息を吐いた。
何も知らずにコーヒーを飲んでいるマーティンを、ダニーはじっと見つめた。
「ダニー、どうかした?」
「いや、別に」
ダニーは何気ないふりをしながらコーヒーをかき混ぜた。
「ねえ、それミルクも砂糖も入ってないよ」
「え?あっああ、そうやったな」
あかんあかん、ダニーは慌ててミルクを入れコーヒーを飲んだ。
467 :
fusianasan:2006/01/19(木) 11:48:17
書き手1さん、多忙とか構想中でしたら、楽しみに待ちたいと思いますが、もしかしたら
体調を崩されているのではと心配しています。毎日の投稿で大変ですが、またの再開を期
待しています。
書き手2さん、私はダニー好きが高じて、以前は本スレも見ていましたが、変な中傷でこ
ちらの隔離スレに移行してくれて本当に嬉しくて、それから毎日読ませて貰っていました。
以前にも言いましたが、私的にはこちらの小説は、ドラマとはまた違う物語と思っている
ので、本スレの意見などは関係ないと思いました。今はもう本スレは見ていません。
純粋にこちらの小説を楽しみにしています。書き手さんとしては気にされる事も多々ある
とは思いますが、一読者として、これからもずっと続けていって欲しいと願っています。
>>467 いつも読んでいただきありがとうございます。
楽しみにしているとまで言っていただき、本当に光栄に存じます。
自分の出来る範囲で続けたいと考えています。
つまらない時もあるとは思いますが、よろしくお願いいたします。
ダニーは仕事が終わるとグラマシーへ向かった。
地下鉄を降りて歩き始めた途端、雨が降り出す。
うわっ、最悪や!トロイの呪いか?・・・ダニーは空を睨みつけた。
タクシーもすぐにはつかまる気配もない。
スチュワートのアパートまで走ったが、びしょびしょに濡れてしまった。
「あれっ?雨が降ってたのか、知らなかったよ」
「ああ、さっき降りだしたとこやからな」
タオルを渡され、ダニーは不機嫌そうに体を拭いた。
「バスルーム使えよ。風邪引くぞ」
「どうも」ダニーは嫌々ながらもバスルームを借りた。
バスローブを借りて出てくるとスチュワートは電話中だった。
着替えのジェスチャーをしながらベッドルームのほうを指差している。
ダニーはベッドルームに行ったが、何もなかった。
「あー、ごめんねー、ピザを頼んでたから」
言いながら自分の服を取り出し、ダニーに渡した。
「ちょっと大きいと思うけどないよりはマシだ。
服は温室に吊っといたから帰るまでには乾くと思う」
ダニーはシャツは着たがトランクスを借りるのは嫌で躊躇した。
「あ、それはオレのじゃないから・・・」
スチュワートは言い残すと部屋を出た。
マーティン、着替えまで置いてたんや・・・ダニーはショックを受けた。
こっそりクローゼットを探ると、マーティンのパジャマやスーツが置いてあった。
ダニーは、二人の中がここまで親密だとは思っていなかった。
昨日マーティンがここに泊まったことを思い出し、ベッドをまじまじと見る。
寝乱れてはいたが、セックスの痕跡を見つけることはできなかった。
リビングへ行くとスチュワートが待っていた。
「それじゃ、始めようか」
「ああ。話したいことって?」
「マーティンが悩んでるの知ってるか?オレと君を選べないらしい」
「それやったら知ってる」
「この前うちに来ただろ、あれから女と寝たか?」
「いいや。お前は?」
「オレもだ。寝たいとも思わなくなってしまった、不思議だよな」
ダニーはスチュワートが解雇されかけても女と寝ないのを知っている。
コイツは嘘ついてへん・・・悔しいが後ろめたいのは自分だけだ。
「それで・・オレにどないせいって言うねん?」
「オレはマーティンを独り占めしたいけど、それは無理だ。
だから君と寝ても何も言わないし、詮索もしない」
「で、オレにもそうしろと?」
「ああ、彼を責めないでほしい。どうかな?」
「嫌やって言うたらどうする?」
「君は嫌とは言わないさ、違うか?」
スチュワートは見透かしたようにダニーを見つめた。
「断ったらこの前のこと話す気なんか?」
「いいや、そんなことしたら悲しませるだけだ。オレは言わない」
「オレはお前が嫌いや。正直、帰ってくるなって思ってた」
「だろうね。率直な感想をありがとう」スチュワートは苦笑いしている。
「お前もオレのこと嫌いやろ?」
「ああ、もちろん大嫌いだ」
二人は不敵な笑みを浮かべたまま視線を交わした。
インターフォンが鳴り、ピザが届いた。
スチュワートは飲み物を取りにキッチンへ行き、
ダニーは服の様子を見にいったが、まだ乾いていなかった。
「食べようか。オレ、腹ペコなんだ」
ダニーはお皿を渡され、遠慮がちにピザを食べ始めた。
「君とマーティン、全然タイプが違うよな。そこがいいのかな?」
「さあ・・・ようわからんけど」
「オレにとってマーティンはすごく大切な存在なんだ」
「ふうん」
ダニーはおもしろくなさそうにハイネケンのボトルを飲み干した。
「えー・・オレたちの新しい関係に!」
スチュワートは新しいボトルを渡し、勝手に乾杯した。
食事が終わるとダニーは服を取りに行った。
まだ生乾きだが、着られないことはない。
服を着替え、借りた服を畳んでベッドの上に置いた。
横に置かれているゴミ箱を何気なく覗く。
「何かおもしろい物でも入ってたか?」
いきなり尋ねられ、どきっとして振り向いた。
「詮索はしない約束だろ?」
「オレは別に・・・」
「知りたきゃ話すけど・・聞きたいか?」
「いいや」
「そうか、それじゃ送るよ」
スチュワートはダニーを促し、地下駐車場まで降りた。
「ブルックリンだったよな?」
「いいや、アッパーイーストサイドまで」
スチュワートは黙って車を出した。
ダニーは、意地悪な視線を向けたまま携帯を取り出した。
「あ、オレや。今から行くわ、ベッドで待っとけ!」
「君って本当に嫌なヤツだな・・・」
忌々しそうにつぶやくと、スチュワートも携帯を取り出した。
「オレだ、今から行くから」
それだけ言うとさっさと切り、ついでに電源も切った。
「さてと・・テイラー捜査官、今夜は楽しい夜になりそうだ」
二人はお互いを一瞥し、無言で正面を見据えていた。
>>467 さん
ご心配していただいて恐縮です。遠方から友人が来ているので
アテンドで家を留守にしていました。体調は好調ですW
ストーリーの方、楽しみにしていただいて恐縮です。
さえない日もあるかと思いますけれど、よろしくお願い致します。
ニックの個展の週が訪れた。
マーティンはオープニング・パーティーに招かれ、
ソーホーのギャラリーに向かった。
すでにカクテル・アワーが始まっており、
皆シャンパングラスを片手にニックの作品を品評していた。
マーティンはシャンパンをもらうと、一番前から一つずつ見いっていった。
人物のポートレートばかりだ。
どの作品にも被写体の人生そのものが透けて見えるような生が匂い立つようだった。
僕のってどこにあるんだろう?
マーティンがぼーっと歩いていると、一番奥の壁面で、
人だかりの出来ている巨大なポートレートが目に入った。
誰のだろう?マーティンは人を掻き分け、一目見て驚いた。
自分のポートレートだった。
拡大されているせいもあり、小さな写真では見えなかった表情や汗、
毛穴の一つ一つが生々しく映し出されている。
「匿名―MF」題名はそうだった。うわー僕そのものじゃないか!
ニックったら!
そう思ったが後の祭りだった。
マーティンが呆然と立ち尽くしていると、
周りの人が気が付いて、マーティンに話しかける。
「これって貴方じゃない?」
「いえ、違います!人違いですよ」
マーティンは逃れるようにギャラリーを後にした。
翌週の「ザ・ニューヨーカー」でニックの特集が組まれていた。
「現代のロバート・メイプルソープ―被写体からフォトグラファーへの華麗な転身:ニック・ホロウェイ」
紹介されているのは、もちろんマーティンの大型ポートレートだった。
マーティンは地下鉄の中で、顔を覆った。困るよー。
支局のみんな気が付いちゃうかな。
いつも買う朝食のドーナッツも買い忘れてオフィスに入る。
ダニーが近寄ってきた。
「お前、これ何?」
ニックのページを開いたままどさっと雑誌を机に置いたダニー。
そのまますたすた去ってしまった。
せっかく仲直りできたと思ったのに、またやっちゃったよ!僕って最低!
マーティンは支局のほかのスタッフの目が気になって、
用事もないのに外へ聞き込みに行くと称して出かけていった。
カフェ数箇所で時間をつぶしてオフィスに戻ったのは定時ぎりぎりだった。
サマンサが声をかけた。
「ボスが呼んでたわよ。今日機嫌悪そう」気の毒そうな顔をしている。
「ボス、僕をお呼びでしたか?」
マーティンがボスの部屋に入るとボスは「そこへ座れ」と椅子を指差した。
居心地悪そうに椅子に座るマーティン。
「お前、捜査官に飽きて今度はモデルか?」
「はい?」
マーティンは誤魔化そうと必死になったが、
ボスの手元には「ザ・ニューヨーカー」が置いてあった。万事休すだ。
「いえ、それは僕じゃないんです」
あくまでもシラをきろうとする。
「よく似ているがなぁ。私に話す事はないか?」
「ありません」
「まぁいい、席に戻れ」
席に戻るとチームの仲間はすでにいなかった。メールボックスを見ても携帯を見てもダニーからの伝言はなかった。
その頃、ダニーはソーホーにいた。ニックに会うためだ。
雑誌の影響か、平日だというのにギャラリーはかなりの人手で賑わっている。
特に注目を集めているのは一番奥に飾られているマーティンのポートレートだった。
ニックがダニーを見つけ、「テイラー、よく来たな」と声をかけた。
「お前に話があって来た」
ダニーはニックを睨み付けた。
ニックはニヤっと笑い、「まぁ席にかけろよ」とソファーを勧めた。
「それで、俺に何の用だ?」
「あのポートレートの展示を止めて欲しい」
ニックは声を上げて笑った。
「無理だ。雑誌のお陰でいい値もついているし、今回の広告塔だからな」と言った。
「幾らなら売る?」
「今の値段は9万ドルだ。連邦政府の役人に買える値段か知らないが」
ダニーは唇を噛んだ。
「もう用事は済んだかな?テイラー?被写体が展示を承諾してくれたんだ。
君にイチャモン言われる筋合いはない」ニックは勝ち誇ったように言った。
「え、マーティンが?」
「おいおい、匿名なんだから名前を明かすなよ」
ニックはそれだけ言って席を立った。
ダニーは打ちひしがれてギャラリーから出た。
思わぬ寒さにコートの襟を立てる。すると肩に手をかける人物がいた。
「ねぇ、貴方、あのポートレートの被写体の正体を知ってるの?」
ブロンドの女性だった。
「いや・・」
「情報が欲しいのよ、幾らなら売る?」「え?何?」
「私、モデルエージェンシーの者なの。彼の正体を知りたいの!」
「無駄や、他あたれや」
ダニーは言い放って女性から離れた。
全く、あいつ、自分で承諾したって!何やってんのや!
FBIでいられなくなるっちゅうに!!ダニーは地下鉄の駅に急いだ。
アパートに戻ると中から電気が漏れている。
アラン?マーティン?どきどきしながら鍵を開ける。
「ダニー、おかえりなさい!」
マーティンが抱きついてきた。
「遅いじゃないかぁ、どこか寄ってたの?」
マーティンがダニーを見上げて尋ねる。
「ソーホーや」「え?」
「お前を見てきたで」
マーティンは抱きついていた両手をはずした。
ダニーはフーっとため息をついて、ソファーに腰掛けた。
「お前、何で写真の展示を承諾したんや?
そんなにニックって奴が大切なんか?」
「僕、僕・・」マーティンは口ごもった。
「まぁ、もうしゃーないな」
ダニーは冷蔵庫からビールを2本出した。
だまってマーティンに差し出す。受け取ってグビっと飲むマーティン。
「僕、どうしたらいいんだろう。こんな事になるなんて思ってなかったんだよ」
ダニーの隣りに座ってマーティンは頭をかかえた。
「とにかくビューローから何を聞かれてもシラを切り通せ」
「うん、分かったよ。僕だと分からない写真だと思ったんだよね」
「お前なぁ、タイトルまで聞けや」
「うん、今度からはそうする」
ダニーはうんざりした顔で言った。
「また、モデルすんのか?」
「わかんない。僕、お腹すいちゃった」
マーティンは床を見つめながら呟いた。
「しゃーないなー。外食しよか」
ダニーは諦めたようにマーティンを連れ立って、
グリマルディーズ・ピザに出かけた。
499 :
fusianasan:2006/01/20(金) 05:35:30
500 :
fusianasan:2006/01/20(金) 21:56:01
スパチャン放送開始age!
501 :
fusianasan:2006/01/21(土) 01:31:21
本スレ、腐ってるわ。こっちの方がとっても楽しいです。
毎日の連載は大変だと思いますが、応援しています。
>>501 応援ありがとうございます。
毎日は無理ですが、なるべく続けたいと思います。
ダニーはスチュワートの提案に同意したくなかった。
だが、マーティンのためなら仕方ないとも思う。
「何だよ?」
スチュワートは横目でチラチラ見られているのに気づいた。
「別に・・ちゃんと前見て運転せいや!お前と心中なんか最悪や」
「オレだって君となんか死にたくないね」
ダニーは知らん顔で窓の外を眺めていた。
マーティンは二人からほとんど同時に連絡をもらい、
後だったスチュワートのほうを断ろうとしたが、携帯がつながらない。
またケンカになったらどうしよう?・・・・・
部屋の中をうろうろしたが、連絡がつかない以上どうしようもない。
なすすべもなく時計ばかり見ていた。
玄関で音がしてダニーが入ってきた。
「ダニー、おかえり・・」
「おう、ただいま。寂しかったか?」
「え?あ、うん・・あのね、実は・・」
「実はオレが来るんだよな?マーティン」
後ろからスチュワートがニヤニヤしながら現れた。
「スチュー!どうなってんの?」
「さあな、二人とも君に会いたくなったのさ。な、テイラー捜査官?」
「ああ」
ダニーはマーティンを抱き寄せ、見せつけるようにキスをした。
手をちゃっかりとシャツの間から忍ばせ、そっと乳首に触れる。
マーティンは見られているので慌てて体を離そうとするが、ダニーは強引に続けた。
「どうしたん?もうコチコチやのに」
「やめようよ、ダニー・・・」マーティンは小声で抗議した。
「嫌や、だってお前はオレのやもん」
ダニーは首筋を愛撫しながらパジャマのボタンを外した。
スチュワートはマーティンをじっと見つめている。
マーティンはいたたまれずに逃げ出した。
「ごめんな、もうしいひんから」
ダニーは謝るが、マーティンはベッドで団子になってしまった。
「バカなヤツ!」スチュワートが嘲るように笑った。
「黙れ、トロイ!」
スチュワートは相手にせず、ベッドの端に座ると布団をそっと捲った。
「マーティン、出て来いよ」
ダニーも横に座りもう一度謝る。「ごめん、ほんまに何もしいひんて」
「・・・約束だよ」
もぞもぞと顔を出したマーティンに二人は思わず吹き出し、
ぐしゃぐしゃになった髪を代わりばんこにくしゃっとする。
「今日は二人で話し合いをしたんだ。だからどちらかを選ぶ必要はないんだぜ」
「でも、そんなのフェアじゃないよ」
「いいんだ。オレたちが納得してるんだから」
「僕って最低だね、卑怯だよ・・・」
うつむくマーティンをスチュワートはやさしく抱きしめた。
「それに・・スチュワートがよくても、ダニーはそういうの嫌がるよ」
「いや、オレもそれでええと思う。オレもトロイもお前が大切やから」
「お互いに嫌ってるのに?」
「それとこれとは別やねん。お互いに詮索しいひんって決めたんや」
ダニーはきょとんとするマーティンにキスをした。
「そういうこと」スチュワートも頬にキスをする。
マーティンはわけが分からず混乱したままだ。
「彼と寝てもオレは気にしない。何なら試してみるか?」
スチュワートは驚くマーティンをダニーのほうへ追いやった。
「ちょっ・・あのっ・ええー!」
ダニーもマーティンも驚きが隠せない。
「オレは見慣れてるから平気だ。どうぞ、ご遠慮なく」
平然とベッドに寝転がるスチュワートを前に、意地になったダニーはマーティンを押し倒した。
スチュワートに見られたまま、ダニーはマーティンを愛撫し始めた。
最初はぎこちなかったマーティンも、次第に息が荒くなり感じ始めている。
ダニーはここぞとばかりに鎖骨や背中など、マーティンの好きなポイントを責め、
わざと69の形に持っていき、自分のペニスに奉仕する様を見せつけた。
スチュワートは自分の咽喉がゴクリと鳴るのを聞いた。
ペニスはこれ以上ないほど勃起している。
もう、一ヵ月以上セックスしていない。
自分もしたくてたまらなくなったが、グッと堪えて成り行きを見ていた。
ダニーはオイルを塗ると対面座位で挿入し、マーティンに自分で動かせた。
キスをして抱き合いながら動きを合わせる。
マーティンの頬は上気して絶頂が近そうだ。
察したダニーは体位を変えて後背位で挿入をくり返し、
マーティンが果てる瞬間、肩に噛みついた。
しばらくジッとしていたものの、きつく締まるアナルに抗えず、自分も中に射精した。
二人はベッドに寝転びぐったりしている。聞こえるのは荒い息を吐く音だけだ。
スチュワートは手を伸ばすと、汗ばんだマーティンの頬に触れた。
後ろめたそうにマーティンがうつむく。
スチュワートは何も言わずにそっとキスをした。
ためらいがちな舌に自分の舌をからめ、そのままギュッと抱きしめる。
ダニーはそんな二人を複雑な気持ちで見ていたが、自分もキスをすると体を重ねた。
「・・・ありがとう、本当にごめんね」小さな声でマーティンがつぶやいた。
ダニーとスチュワートは返事をする代わりにマーティンの手を握った。
「トロイ、お前ってわけがわからへんな」
「バーカ、オレは大人なんだ!」
「変態!」
軽口を叩き合う二人に挟まれ、マーティンは涙を堪えていた。
気づいたダニーがデコピンする。「あほっ、泣くなっちゅーねん!」
「うん、そうだね・・ごめん」
マーティンは、今までこんなに誰かに愛されていると実感したことがなかった。
ダニーもスチュワートも僕を愛してくれている。
初めての経験に戸惑いながらもじわじわと喜びをかみしめていた。
ピザを食べている最中、マーティンが急に脂汗を浮かべて苦しそうになった。
「どうしたん?具合悪いんか?」
「ううん、ハラベーニョのとこ食べちゃった。大丈夫だよ」
トイレに立ち、個室でポケットに隠し持っていたマリファナを一服する。
平気そうに出てきたマーティンを訝るダニー。何か変だ。
「マーティン、今日、俺んとこ泊まられへんの?」
「うん?」「この間、急いで帰ったしな。俺、心配やねん」
「僕なら大丈夫だよ」
マーティンは手を振りかざして、いいよというジェスチャーをした。
「いや、連れて帰るわ」
ダニーは残ったピザをドギーバッグにしてもらい、嫌がるマーティンを家に連れて帰った。
バスにお湯を張り、ぐずるマーティンを引っ張って一緒に入る。
「お前、この注射の跡何やねん!」
ダニーはマーティンの白い腕にくっきり残ったヘロインの注射針の跡を目ざとく見つけて詰問した。
「ヘロインやった・・・」小さい声でマーティンが答える。
「何やて!」「だからヘロインやったんだよ、ごめんね!僕もう出る!」
「お前!」
マーティンもダニーも全裸でバスから出た。
ダニーはマーティンをベッドルームに追い詰める。
「何でお前、薬なんかに手を出したん!?」
「自分を変えたかった・・・」
「何でや?今までのお前でええやんか?」
「優等生過ぎて嫌なんだよ!ダニーには分からないよ!」
マーティンは全裸のまま布団をかぶって丸くなった。
ダニーはベッドの中にマーティンのパジャマとトランクスを差し入れると、
自分はパジャマをしっかり着てマーティンの背中にくっついた。
マーティンの背中が小刻みに震えている。マーティンの嗚咽が聞こえてきた。
ダニーはマーティンにトランクスを履かせ、パジャマを着せた。
「自分でボタンは留めろよ。おやすみ、愛してるで」
そう言うのがやっとのダニーだった。
翌朝、ダニーが起きるとマーティンの姿はもうなかった。
ダイニングにメモが置いてある。
「僕なりに問題解決するから、待ってて。M」
大丈夫なんやろか。アランに相談した方が良さそうや。
ダニーは今日、仕事が終わったらアランに会う予定にし、アランに電話をかけた。
「うーん、もしもし」珍しくアランの寝ぼけた声だ。
「俺や」「やあ、どうしたんだい?」「今日会えるかな?」
「今日か・・・ちょっと都合が悪い。明日でもいいかい?」
「うーん、そうなん?しゃあないなー。じゃあ、明日また電話するわ」
「ああ、頼むよ」
後ろで誰かがしゃべっている声が聞こえた気がしたがダニーはTVの音だと思い、電話を切った。
支局ではマーティンは目を合わそうとしない。
よくトイレに立つのが気になるダニーだった。
早く明日にならないかな。アランとしばらく会っていなかったダニーは
マーティンの事もあったが、殊更アランが恋しかった。
翌日になり、アランの方から支局にいるダニーに電話があった。
「ダニー、今日なんだが遅くてもいいかい?」
「遅いって何時位?」「10時かな」
「アランが忙しいなら仕方ないやん。わかったで」
ダニーは訝りながら電話を切った。
そんなに遅くまで診療を始めたんだろうか?
ダニーはミッドタウンのダイナーで独り寂しい夕食を取って、時間をつぶした。
一度家に帰ろうと思ったが、そうすると出かけられない気がして、
少し早めにアッパーウェストサイドに向かった。
アランのアパートに入ろうとすると、カウンセリングルームのドアからブロンドの女性が出てきた。
忘れもしない、マイアミでアランとエレベーターに乗った女性だ。
ダニーを見て、にっこり笑う。その媚びの売り方がダニーの勘に触った。
「ただいま!」女性に聞こえるように声高に部屋に入るダニー。
アランはいなかった。カウンセリングルームのドアが開き、アランが急いでやってきた。
「やぁ、お帰り」心なしか髪の毛が乱れている。
「今、べっぴんさんとすれ違ったけど、あれ誰?」
「新しい患者だよ。仕事が急がしいので、9時の予約だったんだ」
明らかにウソをついている。
ダニーは怒りで頭から湯気を立てながら、クロゼットに向かった。
アディダスの上下に着替え、ついでにベッドルームを見回った。
綺麗にベッドメイクされたままだ。
「アラン、俺にウソついてない?」ダニーは思わず尋ねた。
「藪から棒に、一体何のことだい?」
アランはいつもの飄々とした口調で切り返す。
だめや、アランを論破出来るわけない。ダニーはついに口に出した。
「俺、マイアミに行ったんや」「え、何だって?」
「学会の週末、アランを追いかけて、ホテルまで行った」
アランは黙っている。
「そしたら、アランが今出て行った女とエレベーターに乗ってった!」
ダニーは気がつくと涙を流していた。
「ダニー・・・」
「どうしてアランは俺にウソつくん?浮気も嫌やけど、ウソはもっと嫌や!」
ダニーはベッドルームへと逃げ込んだ。
内側から鍵をかけてベッドで思う様泣いた。
アランが何度かノックをしていたが、そのうち静かになった。
ダニーが恐る恐るドアを開けると、アランはいなかった。
広いリビングが空ろに見えた。
あの女さえ来なければこんなことにならなかったのに!
ダニーはスーツに着替えて、主のいないアパートを去った。
ダニーは目を覚ますとシャワーを浴び、朝食を作り始めた。
ベーグルを解凍する間に、カリカリベーコンとアボカドを用意する。
クリームチーズを塗っているとスチュワートが起きてきた。
「おはよう」
「・・・おはよう」
ダニーのぎこちない挨拶にスチュワートは苦笑する。
ダニーは眠れぬ夜を過ごし、瞼を腫らして支局に出勤した。
「なあに、また喧嘩?」ヴィヴィアンがあきれたように声をかける。
「そんなようなもんや」ダニーは苦笑しながら答える。
「早く、あんたも大人になりなよね。コーヒーを入れてあげるから」
「ありがとう、ヴィヴ」
マーティンが出勤してきた。手にはいつものドーナッツの袋が握られていた。
食欲はあるねんな。ダニーは少し安心した。
「うまそうだな、オレのもある?」
「ああ、嫌々やけどな」
「君は嫌いだけど、君の作るメシは大好きだ」
「それはどうも」
ダニーはズッキーニのオムレツに取り掛かり、スチュワートはシャワーを浴びに行った。
まずいですね、クロスしました!すみません!
書き手2さんどうぞ!!!
ダニーは目を覚ますとシャワーを浴び、朝食を作り始めた。
ベーグルを解凍する間に、カリカリベーコンとアボカドを用意する。
クリームチーズを塗っているとスチュワートが起きてきた。
「おはよう」
「・・・おはよう」
ダニーのぎこちない挨拶にスチュワートは苦笑する。
「うまそうだな、オレのもある?」
「ああ、嫌々やけどな」
「君は嫌いだけど、君の作るメシは大好きだ」
「それはどうも」
ダニーはズッキーニのオムレツに取り掛かり、スチュワートはシャワーを浴びに行った。
スチュワートはバスルームで性欲の処理をした。
マーティンと早く寝たいが、検査を受けるまでは寝るわけにいかない。
昨夜のマーティンを思い出し、あっけなく射精した。
突然バスルームのドアが開き、ぼさぼさ頭のマーティンが入ってきた。
「おはよう、あー、もう漏れそうだよー」
寝ぼけて用を足しながら、またうとうとしている。
スチュワートは見られないように精液を洗い流し、マーティンを起こして交代した。
「いただきまーす!」行儀よく食べ始めた二人。
オレはこいつらのおかんか!ダニーはそう思わずにはいられない。
自分もベーグルサンドを食べながら、二人の食欲に圧倒されていた。
「ダニー、今日は早く帰れるといいね」
「そうやな、冬の捜索は苦手やわ。今日は特に寒いし」
「スチュワートは?」
「オレ?あ・・オレは外回りなんてないから。家に帰ってもう一度寝るよ」
「ん?クリニックに行かないの?」
「まだ行かなくてもいいんだ。休暇みたいなもんさ」
ダニーはジェニファーから聞いた話を思い出し、スチュワートの様子を窺った。
何も知らないマーティンは、ズッキーニのオムレツをお代わりしている。
スチュワートは食事が終わると帰り、二人は着替えて支局へ向かった。
スチュワートは、アン・ヒラードに会うためホテル・チャンバースへ行った。
ニューヨークにいるためには彼女と話をつけなくてはならない。
ジョンズ・ホプキンスの終身在職権が取れたが、マーティンが行かない以上ここに留まる決意をした。
「スチュワート!」
若く見えるがとっくに60は超えている女・・・こんな女、誰が抱きたいもんか!
作り笑いを浮かべ、スチュワートは彼女の手にキスをした。
「やっと来てくれたのね。早くオーガズムをちょうだい」
「アン、今日で最後にしてくれないか?」
「何を言ってるの!誰のおかげでドクター・バートンになれたの?
あなた、まさか恩を忘れたんじゃないでしょうね?」
「もちろん感謝してる。けど、本当に好きな相手が出来たんだ。だからこういうことはしたくない」
「嫌よ!さっさと脱ぎなさい!」
アン・ヒラードは足を差し出したが、スチュワートは何もせずにいた。
「いいこと、何もしないなら今日限りでお払い箱。退職金も払う気はないわ。
それにニューヨークで働けるクリニックはないと思いなさい。あなた、また貧乏に逆戻りね」
「いつまでこんなことを続ければ気が済むんだ!」
「私が死ぬまでよ!ねぇスチュー、エドワードならどうするかしらね?」
死んだ兄のことを持ち出され、カッときたスチュワートはアンを押し倒しめちゃくちゃに抱いた。
「よかったわよ、スチュー。明日からクリニックに来なさいね」
アンは傲慢な笑みを浮かべ、100ドル札をベッドにばらまくと出て行った。
スチュワートは金を拾い集めた。1200ドル・・・・
屈辱にまみれた金を捨てることができない自分が情けない。
それ以上に、この先マーティンを騙すのが嫌でたまらない。
くそっ!もしオレがHIVに感染していたらあのクソババアも道連れだ!
スチュワートは金を握りしめて自身への怒りに震えていた。
終わりましたので、書き手1さんどうぞ!
ダニーは眠れぬ夜を過ごし、瞼を腫らして支局に出勤した。
「なあに、また喧嘩?」ヴィヴィアンがあきれたように声をかける。
「そんなようなもんや」ダニーは苦笑しながら答える。
「早く、あんたも大人になりなよね。コーヒーを入れてあげるから」
「ありがとう、ヴィヴ」
マーティンが出勤してきた。手にはいつものドーナッツの袋が握られていた。
食欲はあるねんな。ダニーは少し安心した。
「ダニー、おはよう」マーティンの方から声をかけた。
「どうしたの、その目?」
「そんなんええねん。お前こそ、大丈夫か?」
「うん、大丈夫だよ」
マーティンはそれだけ言うとコーヒーを取りに立ち上がった。
夜近くになり、マーティンの携帯が震えた。
「はい、マーティン。あ、ニック。へぇーよかったね?え、僕も?分かった。じゃあギャラリーでね」
ダニーが小声で尋ねた。
「今日もホロウェイに会うのか?」
「あぁ、写真の買い手がついたって。僕にも立ち会って欲しいって」
「良かったやん」
「心配かけてごめんね」
サマンサが戻ってきたので、二人はさり気なく離れた。
定時になり、マーティンは足早にオフィスを去った。
ダニーは、5分置いてマーティンの後を追い、ソーホーに向かった。
ギャラリーの外から覗くと、ニックとマーティンが立ち話している。
ニックの奴、肩に手なんか回しやがって!
ダニーは顔が紅潮するのを感じた。知らず知らずのうちに拳を固めていた。
じっと中をうかがっていたが、買い手らしい人間は現われなかった。
なんや、ガセか?
そのうち、UPSがニックあてに配達物を持ってきた。
ニックが小切手らしいものをマーティンに見せ、マーティンが目を丸くして驚いているのが見えた。
そのうちニックが片付けをしてギャラリーを出ようとしているようだ。
まずい!ダニーは急いで裏通りに向かい、そのままタクシーに乗った。
何で俺、こんなにコソコソしてんのやろ、アホみたいやん。
普段だったらこのままアランの家に行きたいところだが、そんな気にさらさらなれない。
ダニーは自宅に戻り、熱い湯船にゆっくりつかった。
アランの好きなベルガモットのアロマオイルを全部シンクに流し捨て、
自分の好きなラベンダーの香りで満たした。
シンクから香るベルガモットがアランを思い出させて、また涙が出そうになる。
慌ててバスから上がり、パジャマに着替えると、冷蔵庫からビールを出した。
そや、今日、夕食食うてへんかったわ。
冷凍庫から作り置きのラザニアを出して、オーブンで温める。
パジャマの上にバスローブを羽織って、見るとはなしに「グラストンベリー・ジャム」の音楽DVDを見ていた。
COLDPLAYの演奏シーンでは、またアランを思い出してぐずるダニー。
思い出が多すぎるんや。どないしたらええんやろ。
電話が鳴る。
そのままにしておくとアランの声が話し出した。
「ハニー、いるのかい?お願いだ、話がしたい。僕にもチャンスをくれ。電話待ってるよ」
10分後またアランから電話があった。
ダニーはビールからスコッチウィスキーに移り、ストレートでぐいぐい飲んでいた。
5度目の電話の時、ダニーは出る事にした。
「はい」「ダニー、アランだ。これから行ってもいいかい?」
「ええけど、入れるかどうかはまだ決めてへん」
「それでもいい。ドア越しでもいいから話をしてくれ、お願いだ」
「ふん、じゃあ、来りゃええやんか!」
ガシャーン。ダニーは受話器をぶん投げていた。
20分後、アランがやって来た。インターフォンが鳴る。
「アランだ」ダニーは酩酊する頭でセキュリティーを解除した。
アランが入ってくる。荒い息をしている。
「そんで、どんな話があるっちゅうんや。言っとくけど、俺、気が短いし、すぐ手が出るで」
ウィスキーグラス片手にダニーが威嚇する。
「君が怒るのは最もだ。申し訳ない。僕は、浮気をした。
すぐに許してくれと頼めないのも分かっている。
これが僕の今日の気持ちだ。数字じゃないと思うが、分かって欲しい。
それじゃあ。」アランは紙切れをダイニングテーブルに置くと出て行った。
紙切れを拾い上げてみてみる。領収書のようだ。
マクレーン・ギャラリー?あん?ホロウェイの個展やってるとこやん。
書かれている金額を見て、ダニーは目を剥いた。
15万ドルやて?アラン、もしかしてあの写真買ったんやないか?
ダニーはアランの携帯に電話をした。留守電だ。
ダニーは鈍る頭を駆使して、コートを羽織ると、室内履きのまま、
タクシーを拾って、アッパーウェストサイドへ向かった。
アランの家のインターフォンを押す。
「はい?」訝るアランの声だ。
「俺!早よう開けて!凍えそうや!」
アランが開錠するやいなやダニーはアパートに飛び込んだ。
エレベーターももどかしい。アランの階に着くとホールでアランが待っていた。
「ハニー、何てかっこうだい!風邪ひくぞ!」
ダニーはアランに抱きついた。
「とにかく、家に入ろう」
ダニーはホットシャワーを浴びて、ほかほかになって出てきた。
アランがハーブティーを手渡す。
「もうアルコールは十分飲んだだろう?」
「うん・・・それより、これ・・・」
ダニーは領収書をコートのポケットから出した。
「ああ、君たちが困った状態じゃないかと思っていたんだ。
僕に出来るせめてもの罪滅ぼしだ。
これで許してくれなんて言える訳がないと分かっている。
でも僕は君に去ってもらいたくない。本当にすまない。
ダニー、申し訳ない!」
アランはダニーがマグカップを握る手に手を重ねた。
「アラン、俺、今日はアルコールで訳分からんようになってる。もう寝るわ」
「ああ、そうしよう。僕らには十分時間があるんだからね」
アランはふらつくダニーの身体を支えながらベッドルームへと進んでいった。
バスローブを脱がせ、トランクスとパジャマに着替えさせる。
ダニーは静かにベッドに横になった。アランもダニーの隣りに横たわった。
すると、ダニーがアランの胸に自分の頬をすりよせ、くしゅんとくしゃみをした。
アランはあまりの愛らしさに頭をずっと撫でていた。
ダニーがオフィスに行くと、ブロンドの男がマーティンのデスクにうつぶせになっていた。
「おい、お前誰やねん!」
振り返った男にダニーは驚いた。
「マーティン?何や、その頭?」
「ダニィ、おはよう。ヘンかな?」
「いや、ええけど・・なんで?」
マーティンは誰もいないかキョロキョロした。
「あのね、ちょっとここ見て・・」
指し示した左耳の後ろの髪をのけてよく見ると、1ペニーぐらいのハゲがあった。
「うわっ、円形ハゲや!」
「しーっ!大きな声で言わないで。
髪を切りに行ったらハゲてるって言われてさ、目立たなくなるからってブロンドを勧められたんだ」
「ストレスやな。あ、でも、すごい似合ってるで。よう見やなわからへんし、すぐに生えてくるわ」
ダニーは落ち込むマーティンをなぐさめた。
「おはよう。へ?マーティン?」
めざとく見つけたサマンサが寄ってきた。
「いいじゃない!うんうん、なかなかイケてる!」
「あ、うん、ありがと」
マーティンは左耳に手をやって見られないようにした。
トイレに行くとダニーがついてきた。
「そんなに悩んでたやなんて、オレ・・・ごめんな」
「違うよ、僕が悪いんだから」
ダニーはきまり悪そうに髪をくしゃっとすると先に出た。
マーティンは鏡でハゲた部分をチェックしていたが、何度見ても状態は同じだ。
大きくため息を吐くとオフィスへ戻っていった。
ダニーが料理をしていると携帯が鳴った。マーティンからだ。
「ダニー、今から行ってもいい?」
「ああ、待ってるで」
電話を切るなりマーティンが入ってきた。
「なんや、勝手に入ってきたらええのに」
「・・・遠慮したんだよ」
「あほやな、ここはお前の家も同然なんやで」
照れくさそうに頷くマーティン。ダニーはブロンドの髪をくしゃっとした。
「ねぇ、何作ってんの?」
「ブルーミンオニオンにチャレンジや」
「マジで?すっげー!どうやって切るのさ?」
ダニーは説明しながらナイフで切り始めた。
「夜中のTVショッピングで専用カッター売ってるよね」
「ああ、けど100ドルやで?あほらしいわ」
話していて手元が狂ったのか、玉ねぎは真っ二つに切れてしまった。
「あちゃー、やり直しや。オレ、あのカッターが欲しくなってきた・・・」
ダニーは新しい玉ねぎを取り出し、なんとか16等分した。
マーティンに衣を混ぜさせ、オイルを準備する。
二人はわくわくしながら玉ねぎを投入した。
「開いてきた!成功なんじゃない?」
マーティンは嬉しそうにダニーを見た。
「よし、もうええやろ。はねるからちょっと離れとき」
ダニーは玉ねぎを引き上げ、バットに入れて念入りに油を切った。
早速、一切れむしってマーティンの口に入れる。
「んっ、おいしい!」
「ほんまや、いけるわ。ほな先に食べとき」
ダニーはエスニックチキンのバゲットサンドとルッコラのサラダをテーブルに運んだ。
マーティンは食べずにちょこんと座っている。
「なんか賢い犬みたいやな」
「もうっ、また僕を犬ころ扱いして!」
「ええやん、「賢い」犬なんやから。食べよう」
二人はじゃれあいながら先を争って食べ始めた。
ソファでごろごろしながらダニーは時折マーティンを見る。
「なに?」
「なんもない」
「もしかしてさ、ハゲたとこ見てるんじゃないだろうね?」
「見てるか、ボケ!」
マーティンはまた左耳に手をやった。生え終わるころには癖になってるに違いない。
ダニーは手を払いのけた。「見てへんし、そんなに気にすることない」
「けどさ・・・」
「わからへんて!」
手を抑えつけたまま、ダニーはそっとキスをした。
何度も何度もキスをするうちにマーティンが力を抜いた。
「オレはお前を愛してるんや、ハゲたって関係ない!」
ダニーは言い切り、マーティンを抱きしめた。
「ダニィ・・・」マーティンはダニーにしがみついた。
「お前よりヤバいんはオレや。もしオレがハゲたらどうする?」
「どうもしないよ、ダニーはダニーだもん」
にやけたダニーはほっぺにキスすると、そのまま抱きしめ続けた。
「ダニー、起きられるかい?」
アランが優しくダニーの身体をゆする。
「うぅーん、頭割れそうや」
ダニーがまた布団をかぶる。
「アスピリンを持ってきてあげよう」
アランはお白湯と錠剤をベッドサイドに運んだ。
「早く飲みなさい。支局に電話するかい?」
「うーん、今日はダメみたいや。俺電話する」
そういうとダニーはまた眠ってしまった。
支局ではダニーが病欠、マーティンが無断欠勤という知らせを受け、
ボスの不機嫌が頂点に達していた。
「一体何なんだ、うちの男どもは!全くたるんでる!」
そういうと自分のオフィスにこもってしまった。
サマンサが心配して二人に電話をかける。
ダニーの携帯にかけるとアランが出た。
「すまない、今ダニーは寝てるもんでね。後で本人に電話させるよ」
「大丈夫なんですか?」
「風邪をこじらせたらしい」
「お大事に」
次はマーティンだ。マーティンの携帯はずっと鳴っていたが、
突然「何だよ?」という不機嫌な男の声がした。
「これ、マーティン・フィッツジェラルドの携帯ですよね」サマンサは尋ねた。
「ああ、奴ならベッドでへばってるぜ」
「貴方誰?」
「俺?ニコラス・ホロウェイ、それじゃ、またな。お嬢さん」
何、ソーヤーの弟じゃない!マーティンたらどうなってるの?もう知らない!
サマンサは仕事を始めた。
その頃、マーティンはニックのベッドで夢の中をさまよっていた。
昨日の晩、小切手の金額を見て気を良くしたニックと
3軒バーホッピングしたまでは覚えているが、家に帰ってから、
マリファナ、ヘロインと連続摂取した覚えは全くなかった。
マーティンの夢の中では、ニックとベッドで身体を重ねている姿を、
ダニーがアランと手をつないで見ていたかと思えば、
自分に後ろ姿を見せて去っていく場面ばかりの繰り返しだった。
ニックがベッドに戻ってきて、マーティンのペニスをまさぐり始めた。
「うーん、もう出来ないよー」
「まだまだ」ニックは許してくれるつもりはないらしい。
ペニスを扱き立て、口に含む。
「うぅぅ、あっ」
マーティンは思わず反応してしまい、ペニスを膨らませた。
「電話、誰からー?」
「名前は名乗らなかったが女だったぜ。それよりこっち向けよ」
ニックはマーティンの顔を向けさせ、舌を絡めた。
「んんん、あれ、僕、仕事に行かなきゃ・・」
マーティンはぼーっとする頭を必死で働かせようとしていた。
「もう昼過ぎだ。それよりもっといい事しようぜ」
ニックはマーティンを組み敷いて、
自分のペニスをマーティンの菊口に押し当て一気に挿入した。
「くふわー、ニック、いいよ、すごく。天国にいるみたい!」
マーティンの意識は桃源郷の中に埋没していった。
ダニーは欠伸をかみ殺し、PCのモニター越しにマーティンの様子を窺っていた。
ブロンドもかわいいと思いながらニヤニヤする。
「ダニー、マーティンと書庫に行って過去のファイルを取ってきてくれ。
2000年からの人身売買絡みのものを全てだ」
二人は内心ワクワクしながら書庫の鍵を手にエレベーターに乗った。
「ここってさ、いつ来ても薄気味悪いね」
「うん、それに黴臭いしな」
二人はカートにファイルを積んでいった。
「わぁっ!」
ドサッという音とともにマーティンが叫んだ。
「どうしたん?」
ダニーが見に行くとマーティンがバンカーボックスをひっくり返していた。
「落としちゃった・・・いってー」
マーティンの腕にひどい蚯蚓腫れが出来ている。
「大丈夫か?お前なぁ・・・」
ダニーは呆れながらファイルを拾い集め、キャビネットに戻した。
マーティンは埃まみれになっている。
ダニーは全身をパタパタとはたいてやった。
「これでなんとか人前に出られるわ」
「ありがとう。ごめんね、いつもいつもドジばっかで・・」
「ええって、そんなん」
ダニーはマーティンをキャビネットに押し付けるとキスをした。
「ダニィ、誰か来るかも・・」マーティンが困った顔で見上げる。
ダニーはそのままキスを続けた。
「もう戻らないとやばいよ」
「しゃあないな、今すぐいれたいのに」
ダニーは残念そうにマーティンから離れた。
「マーティン・・・そのチンチンはどないかしたほうがいいんちゃう?」
マーティンは恥ずかしそうに勃起したペニスを手で隠した。
ダニーは手をどけさせ、フェラチオしてイカせた。
オフィスに戻ると、ヴィヴィアンがマーティンのシャツの血に気づいた。
「この血、どうしたの?」
「上から箱が落ちてきてかすめたんだ」
「あらら、消毒しなきゃ。腕を見せて」
ヴィヴィアンは救急キットを取り出し、腕を消毒した。
「うわー、沁みるよー」傷口はブクブク泡だっている。
「痛そうねぇ・・泡立つってことは雑菌まみれってこと?」サマンサが顔をしかめた。
「マーティン、破傷風の注射は受けてるな?」ボスが尋ねた。
「ええ、ずっと以前に受けました」
「それじゃだめだ、今すぐ病院へ行って来い。破傷風は恐ろしいぞ」
「・・はい」マーティンは渋々支局を出た。
寒空の下タクシーに乗り、クリニックへ向かう。
途中で連絡すると、幸い予約が空いていた。
診察室に入ると、スチュワートがトキソイドの準備をしていた。
「あれっ?スチュワート、復帰したの?」
「ああ、オレでよかったな。マーキンソンと違って痛くないぞ」
マーティンは黙って腕を見せた。さっと注射される。
「はい、もういいよ。かなり痛そうだな」
「うん、本当に痛いんだ。泣きそうだよ」
「泣いてもいいぞ。胸を貸そうか?そのブロンド、すごくかわいいな」
スチュワートは、クスクス笑いながら抱き寄せると髪に触れた。
「次の予約まで20分だ、どうする?」
「どうって、何をするの?」
「20分間唾液の交換をするのさ。直腸診でもいいぞ」
スチュワートは言うが早いか舌を絡め始めた。
「んんっ!」マーティンはそっとスチュワートを押し返した。
「何だよ、嫌なのか?」
「そうじゃないけどさ・・・もう行かなきゃ」
髪を触られると困るマーティンは、あたふたとクリニックを出て支局に戻った。
「おかえり、大丈夫か?」
「ん、痛いけど平気だよ」
「トロイが診てくれたん?」ダニーはそれとなく探りを入れた。
「うん」
「そうか、今日は一緒に帰ろな」
ダニーは自分のデスクに戻りながら、スチュワートの裏切りに腹を立てていた。
ダニーは夕方になってやっとベッドから抜け出て、シャワーを浴びた。
アランは診察中で部屋にはいない。携帯の履歴を見ると、支局から入っていた。
急いで電話をかける。ヴィヴが出た。
「ダニー、風邪どうなの?」
「ああ?うん、大分ようなった。休んで申し訳ない」
「あんたはまだいいんだけど、マーティンが無断欠勤なのよ。
ボスがすごいおかんむり。ニックって人と一緒だってサマンサが言ってたけど、
どうなってんの?」
ダニーは、昨日の出来事を走馬灯のように思い返していた。
祝い酒だけならいいが、またドラッグやっていたら、どんどん救える確率が低くなる。
「俺にもよう分からん。今度会ったら聞いてみるわ」
「そうして。あんたもお大事にね」「ありがと」
ダニー自身、アルコール依存症を克服した経験はあるが、ドラッグには手を出した事がない。
正直、自分の手には負えないと思っている。
そや、だからアランに会いに来たんやん。
専門家のサポートなくしてはとても克服できそうにない。
ダニーは嫌な予感がしていた。
ベッドに座って考え事をしていると、アランがベッドルームに入ってきた。
「やぁ、お目覚めだね。眠り姫。」額に軽くキスをする。
「ちょうど次の患者がキャンセルなんだ。何か食べるかい?」
「ん、腹減った」「少し待っててくれ。卵とキノコのポリッジでも作ろう」
ダニーはまたベッドに戻った。
独りで二日酔いに耐えていた時は、飲まず食わずでいたなぁと昔を思い出していた。
アランと一緒にいるようになって、自分のライフスタイルがこれほど変わるとは、
正直思ってもいなかった。
女との恋愛を繰り返したが、こんなに甘えられる相手には出会わなかったし、
深い付き合いにならないうちに捨てていた口だ。
浮気かて、俺も娼婦買うたしな。
ダニーはすでにアランを許す気持ちになっていた。
ただウソだけはついてほしくない。それだけだ。
アランがスープボールと水をトレイに乗せてやってきた。
「しいたけマッシュルームは食べられるかい?」「何それ?」
「日本のマッシュルームだよ。ビタミンが豊富らしい」「うん、食べてみる」
「今日は食べさせなくて大丈夫かい?」
ダニーは恥ずかしそうに、「食べさせて欲しいけど・・風邪じゃないやん」と下を向いた。
「じゃあ、ここに置いておくね。何かあったら呼ぶんだよ」
「うん、アランありがと」
「僕の方こそ、ありがとう、ダニー」
アランはダニーの頬にキスをするとベッドルームから出て行った。
ダニーはお粥を食べながら、マーティンの携帯に電話を入れた。
「はい?」不機嫌そうなニックの声だ。
「お前、マーティンに何した!」
「その声はテイラーか。俺は何もしてないよ。奴が自発的にした事だ。
何だよ、お前は奴の保護者か?心配なら力ずくで奪いにこいよ。
連邦捜査官くん。」ガチャ。一方的に切られた。
力ずくだと!FBIを舐めるんじゃねーぞ、ホロウェイ!
ダニーの喧嘩魂に火がついた。
ダニーは急いでお粥をかっこむと、クロゼットに向かった。
アランがリビングから顔を向ける。
「ハニー、どうした?」
「俺、俺、マーティンを救いに行く!」
「誰から?」
「ニック・ホロウェイ」
「あぁあの写真家か。詳しく話してごらんよ」
ダニーはアランに促されてアランの隣に座り、事のあらましを話した。
特に腕に見つけた注射針の跡の事は入念に描写した。
「穏やかじゃないな。2週間位、更正施設に入らないと抜けないかもしれない。
待っててくれないか。僕も行こう」
「ほんま?マーティンの事やのに?」ダニーは驚いた。
「君が大事だと思ってる事は僕の一大事でもある。
あと2人で今日の診察は終わりだ。6時になったら出かけよう」
「でも俺、考えてみたら奴の自宅知らないんや」
「ネットで調べるといい。僕のパスワードはDANNYだから」
「え?」「何度も言わせるなよ。じゃあ、診察に行くから」
アランは恥ずかしそうな顔をするとカウンセリングルームに入った。
ダニーはアランのパソコンを借りて検索を始めた。
ニコラス・ホロウェイでヒットした。
ミートパッキングエリアか。それらしいとこに住みやがって!
全てが腹立たしいダニーだった。
6時になりアランの診療が全て終了した。
二人は普段着にコートを羽織り出かけようとする。
「しまった、拳銃が家や」ダニーは舌打ちした。
「おいおい、凶悪犯を相手にするわけじゃあるまいし、落ち着けよ。」
「ん、何だか心細い」「僕がいるだろ」アランはダニーを抱きしめた。
アランのボルボでミートパッキングエリアまで降りる。
ストリートアドレスを頼りにやっとニックのステューディオを見つけた。
ドンドンドン!ダニーが乱暴にドアをノックする。
「誰だよ?」「俺や」
驚いた事にニックがセキュリティーロックを解除した。
アランと二人で中に入る。だだっぴろいコンクリート打ちっぱなしの空間だ。
マーティンの姿は見えない。
「お迎えか?」
ニックはバスローブ一枚でタバコを吸っていた。
「マーティンをもらいに来た」ダニーはニックを睨み付けた。
「いいぜ、今日は用済みだ。中二階にいる」
ダニーは階段をダッシュで上がると、ベッドでぐったりしているマーティンを見つけた。
シーツは精液と血液のしみだらけだ。ひどい!
「マーティン!マーティン!」
マーティンはやっと目を開けたが、瞳孔が完全に開ききっていた。
その頃下の階ではアランがニックと話をしていた。
「どれ位のドラッグをやった?」
「こりゃ、ドクター、あんたも一緒とは驚きだぜ。マーティンは恋敵じゃないのか?」
「今は彼を正常の生活に戻すのが先決だ」
「泣けるねえ。休戦か。じゃあ、俺もテイラーと休戦しよう。
マリファナとヘロインを昨日の晩から繰り返しやったよ。
奴にとっちゃ相当きつかったみたいだな」
ダニーがマーティンに自分のコートを着せて階段を降りてきた。
「もうお前のところにはマーティンを帰さへん。わかったか、ホロウェイ!」
「それはどうかな、本人の意思を確認してみるこった。用事は終わったんだろ、早く帰ってくれ」
ニックはソファーに腰掛け、マリファナに火をつけた。
ダニーとアランは意識朦朧としているマーティンを連れて、アッパーウェストサイドに戻った。
ダニーがマーティンと一緒に帰ってくると、アパートの下にTVRが止まっていた。
「あっ・・・」
「トロイや、約束してたん?」
「ううん、知らないよ」
二人が近づくと、スチュワートが降りてきた。
「おかえり、寒かったろ?」
「まあね、今日はどうしたの?」
「心配で様子を見に来たのさ。でも、邪魔だったみたいだな」
スチュワートはダニーをチラッと見た。
「ちょっと待ってて」
スチュワートは車に戻るとパヤードの箱をマーティンに渡した。
「はい、これ。ここのタルト好きだよな?」
「ん、ありがと」
マーティンは箱を受け取ったまま固まっている。
どうすればいいのかわからない様子だ。
「一緒に食べれば?」ダニーは嫌でもそう言うしかなかった。
マーティンは飲み物を取りにキッチンに行っている。
「クリニックに復帰したんやて?」
「ああ」
「ふうん。ドクター・バートン、お手当てはいくらなので?あ、年収やないほうの」
ダニーの質問にスチュワートは顔をこわばらせた。
何も言わずに床を見つめている。
「あれ、聞こえへんかった?お手当てはいくらなので?」
「どういうつもりだ?」
「別に。いろいろ大変なんやなぁって思っただけや」
スチュワートはダニーを睨みつけた。
「アン・ヒラード、べっぴんな理事長やなぁ。お金持ちやし、お手当ても多そう♪」
ダニーは調子に乗って憎まれ口をたたいた。
「お前、オレのことを調べてるのか?」
「調べたわけやない、小耳に挟んだだけや」
「マーティンも知ってるのか?」
「これから知るんちゃう?お前の正体」
マーティンが戻ってきたので二人は話をやめた。
ダニーはマーティンがいる時は何も言わなかったが、
時折バカにしたような視線をスチュワートに向けた。
スチュワートの後ろめたそうな態度が、嗜虐心をくすぐる。
「テイラー捜査官、今夜は泊まるのか?」
「ああ。お前も食べ終わったんやったら早よ帰れば?」
「ダニー、そんな言い方失礼だよ」
マーティンが慌ててとりなした。
「いいんだ、そろそろ帰るから」スチュワートは立ち上がった。
「今夜はバブルバスに入っちゃダメだぞ。シャワーだけだ、いいな?」
「うん、わかったよ」
「おやすみ、テイラー捜査官」
「おやすみ、ドクター・バートン。タルトごちそうさま」
ダニーはそっけなく言うとTVをつけた。
「僕、下まで送るよ」
マーティンはコートを手に一緒に降りていった。
「ごめんね、嫌な思いしたでしょ」
「いや、いつものことだから。明日は会えるかな?」
「ん、いいよ」
「それじゃ明日の18時に支局まで迎えに行くよ。ブロンド、よく似合ってるな」
スチュワートはキスをすると帰っていった。
マーティンが部屋に戻るとダニーが鼻歌を歌っていた。
「トロイも帰ったし、風呂入って寝よう。オレら、埃まみれや」
「これ、沁みそう・・」
マーティンはシャツを脱いで傷口を見つめた。
「貸してみ」
ダニーはラップを傷口に巻いた。
「これでよし!」
自信たっぷりのダニーに呆れるマーティン。
「マジで?こんなのしたことないよ」
「知らんの?あほやなぁ」
ダニーは服を脱がせるとバスルームへ行きシャワーをかけた。
「な?沁みひんやろ?」
「本当だ、ダニー、すごいや!」
ダニーは得意気にニヤリとするとぴとりと体をくっつけた。
マーティンはあどけない顔で眠っている。
ダニーはスチュワートが理事長と寝ていることを話すつもりなどさらさらない。
だが、スチュワートの狼狽ぶりを思い出すと自然と笑みがこぼれた。
これでイーブン、いや、もっとかも・・・
牽制する材料はできたが、マーティンのことを思うと手放しでは喜べない。
いっそのこと、自分がゲイならよかったと思うダニーだった。
アランはマーティンをソファーベッドに寝かせ、脈拍を取ったり、瞳孔の検査をしていた。
「どうなん?」ダニーが心配そうに話しかける。
「典型的なドラッグ依存症だな。これからウソの診断書を書くが、
マローン捜査官に渡してくれるかい?」
「もちろん」
「じゃあ、おたふく風邪。安静期間3週間だ、分かったね」
「うん」ダニーはこっくりうなずいた。
「アランの家で診療するの?」
「いや、コネで更正施設に入れるよ。僕の手にも負えなさそうだ」
「そうなん?」ダニーは心配そうな顔になった。
「辛いんやろね」
「君も体験したことだろう、マーティンだって大丈夫だよ」
「ありがと、アラン。俺のために・・」
「何を言うんだ。僕と君の仲だろう。隠し事は金輪際なしだ」
「うん」ダニーはアランに抱きつき、心の思うままキスを繰り返した。
翌日、アランの知り合いのドラッグ更正施設への手続きを済ませ、
マーティンを入院させた。
「大丈夫なんやろな」
「ここはショービズ界御用達の施設だ。キース・リチャーズも入ったところだよ。
秘密厳守だし、治療も的確だ」アランは自信を持って請け負った。
「ありがとう、アラン」
「君のためだよ、ハニー、さぁ支局に送ってあげよう」「うん」
フェデラルプラザの角でダニーは降り、支局に向かった。
「おはよう!」後ろから声がした。サマンサだ。
「今日もアランの送迎つきなんだー!」ニヤニヤしながら尋ねる。
「アランの家で熱出したからな、ほっといてーな」
「分かったわよ、じゃあ、先行くね」
いつかサマンサには口封じの食事をしなければならないと感じているダニーだった。
支局に付くとすぐさまボスに呼ばれた。
マーティンの診断書をボスに差し出す。
「お前の風邪はどうだ?」
「はい、大分よくなりました」
「何?マーティンの奴、無断欠勤の末、おたふく風邪だと。
カバーしてもらわなきゃいかん分野が増えたぞ」
「任せてください」
「それを信じている、席に戻れ」
あちゃー、ボスの機嫌は最悪やん。
俺独りでカバーしきれるんやろか。
ダニーはPCに向かいながら頭をかかえていた。
定時になろうとしていた時、アランから電話があった。
「俺、どうしたん?そう、それならええやん。俺、うん、家に寄るわ。じゃあ。」
マーティンは一日目をどうにか無事に終えたらしい。
ダニーはアランの家を目指して地下鉄に乗った。合鍵で入る。
「ただいま!」
「お帰り、ハニー。疲れたろう。今日はうずらのパエリアを作ったよ」
「うわーご馳走やん!」
ダニーはクロゼットに走って行き部屋着のアディダスの上下に着替えた。
「ピノノワールあけるかい?」「うん!」
アランはダイニングテーブルにスパニッシュオムレツとクレソンのサラダ、パエリアを並べていた。
「頂きまーす!」「乾杯!」
二人でグラスをクロスさせる。
「今日、マーティン大丈夫やったん?」
「かなり苦しいようだが、耐えてるみたいだよ。これで薬が抜けるといいが」
アランはうずらを切り分けながら答えた。
「でもホロウェイの奴との関係を絶たなきゃまた薬漬けになってしまうんやないか」
ダニーは一番の心配事を口にした。
「ああ、あいつは根っからのドラッグアディクトのようだな。
どうしたものか。マーティンがあいつと会わない事を承知するかな」
アランは探るようにダニーの目を見た。
「承知させなあかんわ」
ダニーはアランの眼差しに気がつかず、うずらの足をしゃぶりながら、ぴしゃりと言った。
「まぁとにかく、マーティンの退院を待とうじゃないか」
アランはパエリアをダニーに取ってやりながら言った。
「俺、マーティンをあんなにしたホロウェイが許せへん。何かしてやりたい」
「おいおい、FBIがそんな事言うとぞっとするから、止めてくれないか。
食事を終わらせて、バスにでも浸かろう。リフレクソロジーをやってあげるよ」
ダニーも「え、ほんまに?ありがとう」と言うと、ワインをぐっと一気に飲んだ。
ダニーがマーティンの部屋に入ると、灯りはついていたがマーティンはいなかった。
テーブルの上にはやりかけのチェスが置いてある。
白はクイーンを取られてほぼ負けが確定している。次の一手でチェックメイトだ。
横においてあった書類を見ると、スチュワートのHIVの検査結果だった。
こんなもん置きやがって!ムカつきながらベッドルームへ行くと声が聞こえてきた。
そっと覗くとマーティンとスチュワートがセックスしていた。
二人とも行為に夢中でダニーに気づいていない。
スチュワートは嬲るように動き、マーティンは苦しそうな切ない表情を浮かべている。
「スチュー、もうだめだ、イカせて・・」
「まだだ、これからが本番なんだ」
スチュワートは体位を変えようとしてダニーが見ているのに気づいた。
気づいていないふりをしながら、マーティンを騎乗位にさせる。
マーティンは自分から腰をすりつけ、天を仰いで悶えている。
「いいぞ、マーティン・・すごく気持ちいい」
「あぁっ僕も・・・」
マーティンがイキそうなのに気づくと、スチュワートは動かせないように体を抑えた。
「スチューやめてよっ、僕はもう限界なんだ!」
「正常位でしたい、いいだろ?」
スチュワートは挿入したものの、少しずつしか動いてくれない。
「スチュワート、早くイカせて!頭がおかしくなっちゃう」
「オレのことが好きか?愛してるか?」
マーティンは頷いた。
「ダメだ、愛してるって言え!言わなきゃイカせてやらない」
「あぅっ・・んっあぁっ・・愛してるよ」
スチュワートは満足そうにペニスを打ちつけた。
マーティンは大きく仰け反ると射精し、何度かびくんと痙攣している。
「オレも出すぞ・・・んっくっ・・・」
スチュワートは中出しせず、おなかに精液を出した。
「君はオレのものだ。愛してる、マーティン」
スチュワートは腕枕をしながらささやいた。
ぐったりしたマーティンを胸に甘えさせるように抱きしめる。
どうだい、オレたちのセックスは?
マーティンはすすり泣くって言ったろ?
スチュワートはダニーに見せつけながら傲慢な笑みを浮かべた。
カッとしたダニーは服を脱ぎながらベッドに近づき、うとうとしているマーティンの肩を掴んだ。
「えっ、ちょっ・・ダニー!」
ダニーは驚くマーティンの口を塞ぐようにキスをし、自分のほうに体を向けさせた。
スチュワートの精液が自分の体についたが、構わず抱きしめる。
自分が泣きそうになっているのに気づき、ダニーは乱暴に目を擦った。
困惑したマーティンはダニーの頬に触れた。
「ダニィ・・・」
「ごめん、ついカッとしてもて・・・」
ダニーはようやくマーティンの体を解放した。
ふらっと立ち上がり、脱ぎ捨てたシャツを拾うとベッドルームから出た。
「待って、ダニー!」
マーティンが追いかけてきた。
ダニーは立ち止まると悲しそうに首を振った。
「詮索しいひん約束やから・・・今日は帰るわ」
ダニーはそのまま帰ってしまった。
リビングでぼんやりしているとスチュワートが起きてきた。
「マーティン、シャワー浴びよう」
「ん・・・」
マーティンはバスルームでもぼんやりしていた。
スチュワートは黙ったまま体を洗った。
バスルームから出るとスチュワートは着替え始めた。
「君も早く服を着ろよ。出かけるから」
「こんな時間から?どこに行くの?」
「いいから早く着ろよ」
スチュワートは着替え終わるとマーティンを車に乗せて走り出した。
マーティンが何度聞いてもスチュワートは行き先を言わない。
ダウンタウンを抜け、前方にブルックリンブリッジが見えてきた。
「もしかして、ダニーんちに行こうとしてるの?」
「ああ」
「・・・僕は行かない、行きたくない!」
スチュワートは無視して前を見据えたまま運転している。
ダニーのアパートに着いたが、マーティンは降りようとせず、
スチュワートは強引に降ろした。
「部屋はどこだ?」
「・・・1203」
スチュワートはマーティンを連れてダニーの部屋に入った。
部屋は真っ暗で、ダニーはまだ帰っていないようだ。
「それじゃ、しっかりお留守番してろよ」
スチュワートはマーティンの髪をくしゃっとするとキスをした。
「スチュー・・・」
スチュワートは何も言わず帰ってしまった。
スチュワートは車に乗ろうとしてダニーと出くわした。
「お前、なんでこんなとこに?ケンカ売りに来たんか?」
「マーティンを送ってきたんだ。君が好きらしい」
「・・・・・・」
「オレはもう会わないから、大事にしてやってくれ」
スチュワートは言い残すと車に乗った。
「待てや!」ダニーは自分も車に乗った。
「オレは泣きそうなんだ、早く降りてくれ」
「あいつはお前のことも好きなんや。だから、その・・・」
「君はバカか?オレが会わないって言ってるんだぜ?」
「オレだってほんまはこんなん言いたくない。けど、あいつ本気なんや。
友達もいいひんし、親ともあんなんやし・・・お前が必要やと思う」
ダニーは訝しげに見つめるスチュワートから目を逸らした。
「・・・ありがとう・・・テイラー捜査官、いや、ダニー」
「なんかきしょいな、スチュワート。ちゃうわ、スチューか」
二人はファーストネームで呼び合ったものの、どうも居心地が悪い。
「あかんわ、やめよう。トロイとテイラーでええやろ」
「オレはトロイじゃない、バートンだ」
「そうやった。けどトロイでええやん、お前はトロイや」
「どういう理屈だよ、それ」
スチュワートはそっと手を差し出し、二人は握手を交わした。
マーティンは真っ暗なベッドで泣き崩れた。
ダニーもスチュワートも僕は傷つけてしまった。僕は本当に最低のバカだ・・・・
しくしく泣いていると玄関で音がして、騒がしくなった。
「あれっ、いるはずなんだけど・・」
スチュワートの声がする。夢だ、いつのまにか寝ちゃったんだ、僕。
突然明るくなり、マーティンがまぶしそうに目を開けると、目の前にダニーとスチュワートがいた。
「頼りない留守番だなぁ、寝てたのかよ」
「スチュー?どうして・・・」
「帰りに彼と会ったんだ」
「さっきはごめんな。お前にまたハゲができそうや」
「何だ、ハゲって?」
マーティンは慌てて左耳に手をやった。スチュワートが手をのけて髪を覗き込む。
「そうか、それでブロンドにしたのか、なるほど・・」
マーティンは恥ずかしくて耳まで赤くなった。
「大丈夫、しばらくすれば生えてくるさ」
スチュワートはそっと頭を撫でた。
マーティンはうつむいたまま誰とも目を合わせようとしない。
「オレとトロイ、仲良くなったんや。な?」
「ああ」
「無理しなくてもいいよ、僕が二人と付き合おうとするからいけないんだ」
「嘘やない、ほんまやで」
「ううん、もうこんなこと続けられないよ。ごめんね」
マーティンは涙ながらに謝り、しゃっくりあげるのを堪えた。
「泣くなよ、本当に仲良くなったんだ」
スチュワートがマーティンの肩をぽんぽんとたたいた。
マーティンは嫌々をするように首を振っている。
ダニーはいきなりスチュワートにキスをした。
「んんっ!」突然のことにスチュワートもマーティンも固まっている。
「ほらな、オレらキスするぐらい親密やねん」
「ダニー!」
「しー!もうええから」
ダニーは驚くマーティンを抱き寄せぎゅっと抱きしめた。
マーティンが眠った後、二人はリビングでバーボンを開けた。
「何だよ、さっきのキスは?」
「しゃあないやん、あいつが納得しいひんのやもん」
「節操がないのかと思ったぜ。君には驚いてばかりだ」
スチュワートはバーボンを飲みながらニヤリとした。
「オレのキスは最高やったやろ?」
「どうだか!オレのほうが上手いぜ。あ、あとセックスもな」
二人は張り合っていたが、おかしくてくすくす笑いだした。
「オレたち、本当にうまくやっていけるのかな?」
「・・・わからん」
「うまくいくといいな」
「ああ」
スチュワートはダニーの目を見つめた。ダニーもじっと見返す。
お互いに自分だけを愛してもらえない複雑な思いが重なり合った。
「お前、さっきのチェスどっちやった?」
「チェス?ああ、オレは白」
「負けてたな、シチュー」ダニーはからかうと新しい歯ブラシを渡した。
「泊まっていけ、酔うてるやろ」
スチュワートは素直に歯ブラシを受け取った。
「サンキュ、朝メシにはこの前のオムレツがいいな」
「オレはお前の召使やないで、シチュー」
「シチューって呼ぶな!子供の頃からからかわれてるんだ!」
二人は挑戦的な視線を交わすと、拳をこつんと合わせた。
「ダニー、朝だよ」アランがいつものようにダニーを静かに揺り動かす。
「うぅん、もう少しだけ・・」ダニーはアランに背中を向け、また寝ようとする。
「マローン捜査官に叱られるぞ」「あーん、わかったからあと5分だけ」
アランは暖房を最大限に上げ、リビングをほかほかにしてシャワーを浴びると、
朝食のバケットサンドを作り始めた。
10分してベッドに戻ると、ダニーは布団を丸くして寝ている。
アランは一気に布団をはがした。「何するねん!寒くて死にそうや!」
「もうタイムズ・アップだよ、ハニー」ダニーを腕ずくで起こすと、シャワールームに入れた。
身支度をさせると、サンドウィッチを紙袋に入れて持たせる。
「さぁ、行っておいで!」「今日も車で送ってえな。」
「しょうのない子だな。じゃあ行くよ」フェデラルプラザの角で降ろしてもらうと、
またサマンサに会った。
「おはよう、ダニー。ひょっとして貴方たち、同棲してんの?」
「そなアホな。そんなわけないやん」
「まぁいいけど。ちょっと羨ましい。ふふっ」
ダニーはスタバでダブルエスプレッソを買って、席でアランお手製の生ハムサンドで朝食をとる。
マーティンの席が空いているのが虚しい。するとダニーの携帯が震えた。
「やあ、ダニー、久しぶりだな。実はマーティンと話したいのだが、おたふく風邪だって
?すまないが、病院に行って、家に電話するよう言ってもらえないか?」
「はい、ただちに」
「いや、職務を優先してくれよ、ただ息子の声が聞きたいだけなんだ」
「はい、かしこまりました」電話を切ってため息をつく。俺はぱしりかよ。
ダニーは昼休みにアランに電話し、事のあらましを話した
。アランの方から更正施設に連絡をしてもらう事にし、仕事に没頭した
。調査担当のマーティンがいないせいで、
通話記録やカード記録などのトレースもダニーに回ってくる。こんなんなら外回りのがいいな。コンピュータのアウトプットを待ちながら、
ぼーっとしていると携帯が震えた
見たこともない番号だ。「はい?」
警戒しながら電話に出る。
「テイラー、俺だよ、ニックだ。お前、マーティンをどこに隠した!」
「お前に言う義理ないわ。それより、何でこの番号知ってるんや?」
「お姫様の携帯を盗み見てね」「お前!プライバシーの侵害やないか!」「それだけ仲が深いと言ってくれよ。
マーティンに会う事あったら俺から愛してるって伝えてくれ」「ふん、
誰が!」「あばよ、テイラー、また会おうぜ」ガシャ。相変わらず独りよがりな野郎だ。
ダニーはニックだけにはマーティンを取られたくないと強く誓っていた。
もう薬漬けで朦朧とし、局部から血を流してぐったりするマーティンの姿を見るのは二度とごめんだ。
ボスがダニーの様子を見に来た。「外回りが恋しいだろう」「はい、
正直言って、PC捜査は向きませんわ。目がしょぼしょぼする。」
「マーティンの代わりだ、がんばれ。それより副長官から電話があったろう」
「はい、緊張しましたわ」「ヴィクターも人の親だな。息子が
殊更心配なようだ。とりなしてくれ」「はい、了解っす。」ダニーは宿題をかかえてアランの家に帰った。
マーティンが目を覚ますと、ダニーとスチュワートに挟まれていた。
二人とも自分にもたれかかるように眠っている。
ダブルベッドに男三人なのできちきちの状態だ。
左右から二人の朝立ちしたペニスが体に当たっている。
どうしよう、ドキドキする・・・マーティンは動けずにいた。
「ぅぅ〜ん」ダニーの体がどさっとかぶさってきた。
「ダニー、ダニー」マーティンは小声でダニーを起こした。
「ん・・おはよう」
ダニーは寝ぼけたままキスをするとまた目を閉じた。
「ねー、起きてよ。スチュワートがいるんだけど・・・」
「ああ、うん、酔うてたから泊めたんや。心配ない」
ダニーはマーティンをあやすようになだめた。
二人でキッチンへ行き、ブランチの支度をしているとスチュワートが起きてきた。
「おはよう」
「おはよう、もう少しでできるから」
マーティンはダニーが普通に話しているのに驚き、思わずまじまじと見た。
「あー、オムレツだ!楽しみだな。マーティン、ヘンな顔してどうした?」
「ううん、なんでもないよ」
「そうか?じゃあ、おはようのキスを・・・」
スチュワートは言いながらマーティンにキスをした。
ダニーはちらっと見たが、何も言わずに料理を続けた。
三人はテーブルに着き、食事を食べ始めた。
「本当にオムレツを作ってくれるとは思わなかったぜ」
「あほか、オレが食べたくなっただけや」
マーティンは食べる手を止めて二人の顔を交互に見ている。
「ボン、早よ食べな冷めるで」
「う、うん・・」
この二人どうなってんの?マーティンは事情が呑み込めずにいた。
マーティンが歯を磨いているとスチュワートが入ってきた。
並んで歯磨きをする。マーティンは思い切って疑問をぶつけた。
「あのさ、ダニーとはどうなってるの?」
「ん?彼と休戦協定を結んだんだ。心配しなくてもいいぞ」
マーティンは不安そうにじっと見つめる。
「そんな顔するなよ、かわいい顔が台無しだ」
スチュワートはマーティンをそっと抱き寄せた。
ダニーはテーブルを片付け終わり、新聞を読んでいた。
「それで、君たちの今日の予定は?」
「何も。寒いから出かけたくないんや」
「せっかくの休日なのに?」
「そう。お前は元気やな、おっさんやのに」
「おっさんじゃない!なぁ、マーティン?」
マーティンはケタケタ笑いながら頷いた。
三人はDVDを見ることに決め、ポップコーンを用意してソファに座った。
スチュワートは[インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア]を選んだ。
マーティンはポップコーンに手を伸ばし、食べながら真剣に見ている。
ダニーはいつもの癖でマーティンのトランクスに手を入れたが、すでに先客がいた。
二人は競争するようにペニスを弄びはじめた。
「ちょっと・・ねー、やめてよっ、落ち着いて見られないじゃない」
とうとうマーティンが抗議の声をあげた。
「ごめんごめん」
二人はトランクスから手を抜き、画面に戻った。
「わっ!」残虐なシーンになると下を向くマーティン。
ダニーはおもしろがってわざと見させる。
スチュワートは死んだ兄を思い出し、懐かしく感じた。
「スチュー?」ニヤニヤするスチュワートにマーティンが声を掛けた。
「いや、なんでもない」
二人の頭をよしよしと撫でる。
「オレもかよ!」
ダニーは子ども扱いされて苦笑した。
「よし、ディナーはオレが奢るよ。あとで出かけようか」
「やったー!サンキュー、スチュー!」
喜ぶマーティンに二人は思わず顔を見合わせた。
「アラン、俺。今から行ってもええ?」
ダニーはアパートに戻り、スーツを脱ぐとアランに電話をかけた。
「ああ、いいとも。おいで。」
寒さのせいでなかなかマスタングのエンジンがかからない。
「この、ポンコツ車!」言葉が聞こえたかのようにエンジンがうなり始める。
アランの家に合鍵で入ると、アランはキッチンで料理中だった。
温かい匂いがあふれている。家庭の匂いだ。ダニーは胸いっぱいに吸い込んだ。
「何やってるんだい?」
エプロン姿のアランが近付いて、軽くダニーにキスをする。
「アランの家、温かいな」
「暖房効きすぎかな?」
何の事やら分からず室内の温度を確認するアラン。ダニーは思わず笑った。
「ちゃうねん。アランの家は家庭の温かい匂いがするんや」
アランも苦笑いした。
「今日はロールキャベツを煮込んでるんだが、そんなのでいいかな」
「大好きや。ありがと、アラン」
アランは嬉しそうな顔をした。
ダニーはアランのワインセラーを漁り、モンダヴィのピノノアールを探し当てた。
「まだ残ってたんや!」
「君は根っからのモンダヴィファンだな」
「だって美味いもん」
「明日こそ、ワインの買出しに付き合ってくれるかい?」
「うん、ええで。ポーターさんやったる」
アランはアンディーヴとルッコラのサラダとロールキャベツをダイニングに並べた。
薄く切ったバケットが香ばしい匂いを発している。
「いただきまーす!」「乾杯!」
食事も終わり、ダニーは久しぶりにスタンウェイの前に座った。
BILLY JOELの「ピアノマン」を弾き語りしている。
アランは目を細めてその姿を見ながら、葉巻に火をつけた。
「そうや、俺、副長官に報告せにゃなんないんやけど、
マーティンに連絡してくれた?」ダニーは尋ねた。
「ああ、君から電話もらった後すぐにね。本人が電話しているかは分からないが」
ダニーはフィッツジェラルド副長官の携帯に電話を入れた。
留守電になっているので伝言を入れる。
「いつになったら面会できる?」ダニーは心配そうに尋ねる。
「1週間後かな。落ち着く頃だからね」
「やっぱりな。最初の1週間が辛いねんな。あいつ大丈夫やろか」
「マーティンの気力次第だな。本当に脱したいと思うならね」
「うん。そういえば、今日、ホロウェイから電話があったわ。」
「ほう?」
「どこへマーティンを隠したんや!ってえらい怒ってたで。いい気味や」
ダニーはニヤッと笑った。
「奴の事だ。市内中の更正施設を捜しそうだな」
アランはふと不安そうにつぶやいた。
「でもプライバシー保護はきちんとしてんのやろ?」
「ああ。一応、明日、施設に行ってみようか?」
「うん、それのが安心するわ」
「じゃあ、そろそろバスに入ろうか」
「うん」
ダニーがお湯を張りに行った。
アランの好きなベルガモットのシャワージェルがあった。
俺、流してもうたんやな。家のやつ。今度買っとこ。
三人はチャイナタウンで飲茶を食べた。
マーティンはカートを物色し、次から次へと蒸篭を取る。
「遠慮しなくてもいいんだぜ。君の分も出すって言ったろ?」
スチュワートがダニーに話しかけた。
「いや、オレも食べてるから」
「ならいいけど・・」スチュワートは器用に左手で箸を使う。
「お前って左利きやったっけ?」
「いや、箸だけ左なんだよ。教えてくれたヤツが左利きだったから」
「ふうん、上手いやん。マーティン、それ何?」
「大根もちだって。おいしいよ」
ダニーもカートを物色し、お目当ての蒸篭を取った。
スチュワートがクラゲの和え物を食べていると、物珍しそうに二人が見ていた。
「食べてみるか?さっぱりしてておいしいんだ」
恐る恐る箸を伸ばす二人。意外とダニーのほうが気に入り、追加でオーダーする。
「テイラー捜査官、本当は好き嫌いが激しいんじゃないのか?」
「いいや、そんなことないで」
ダニーはごまかしたが、スチュワートはニヤニヤしている。バレバレだ。
「ダニーは気持ち悪いものが大っ嫌いなんだよ」
マーティンが桃まんじゅうにがっつきながらバラした。
「やっぱりな、ホビロンの時から怪しいと思ってたんだ」
「あれはあかんやろ。誰でも嫌がるわ。食べるほうが変人や」
ダニーの強がりに二人はくすくす笑った。
ダニーのアパートに帰ると、スチュワートはマーティンにキスをして帰っていった。
「ダニー、楽しかった?」
「うん、メシもうまかったしな」
「本当に?嘘はつかないで」
マーティンは探るようにダニーの目を見つめている。
「ほんまや。あいつも割とおもろいやん」
ダニーは心配そうなマーティンの両頬に手を添えてキスをした。
「それよりお前、なんかエロいまんじゅう食いよったな」
「ん?あれは桃!エロくないよー」
「いいや、がっつきかたがエロかった!」
ダニーはマーティンを羽交い絞めにしてからかった。
ふざけあいながらベッドにもつれこみ、ダニーはマーティンに圧し掛かった。
「先にお風呂に入ろうよ」
「あかん」
ダニーは強引にセーターとシャツを脱がし、乳首に吸いついた。
すぐに反応して固くなるのを舐め転がす。
「ダニー、僕、すごく汗臭いよ・・」
ダニーは構わず続け、ペニスを口に含んだ。
恥ずかしそうなマーティンに自分も興奮してきた。
ローションを塗り、かちかちのペニスをそっと押し当てながら挿入する。
両手を押さえつけて挿入するうちに、マーティンの喘ぎ声が漏れてきた。
「マーティン・・・」
ダニーは抱きしめると首筋を噛みながら律動した。
噛むたびにマーティンのアナルが締めつけてくる。
我慢できなくなったダニーは膝に手を置くと何度も突き上げた。
「ダニィ、出ちゃう・・あぁっ!」
「うぅっ、オレもや!」
ダニーはマーティンを抱え込むように動き中に出した。
ふと見るとマーティンの首筋にキスマークがついている。
「あちゃー、やってもうた・・ごめんな」
「ううん、見えないところだから平気だよ」
マーティンはダニーにもたれた。
「なぁ、マーティン」
「ん?」
「なんでもない・・いや、やっぱ言おう・・お前が好きや」
「ダニィ!・・・うーんとね、僕も大好きだよ」
二人は照れながらそっとキスをした。
翌日、アランとダニーは早起きをし、マーティンの入院するクリニックを訪れた。
アランが受付でマーティンの名前を告げると、看護師がミーティングルームへ案内してくれた。
待つ事15分、青いユニフォームを着たマーティンが現われた。
顔色が相当悪い。
「マーティン!」
ダニーは思わずマーティンを強く抱きしめた。
「ダニー、会いたかった!」
マーティンは泣き声になったが、アランの目を気にして、身体を離した。
「経過はどうだい?マーティン」アランが冷静な声で尋ねる。
「まぁまぁ。悪寒と脂汗が年中来て、なかなか眠れないけど、やる事ないし。
パトリシア・コーンウェルの新作、もう読んじゃった」
「小説差し入れしてやろうか?」ダニーが尋ねる。
「一応、図書館があるからいいよ。それよかニックから連絡ない?」
「いや、ないで」ダニーはウソをついた。
もうホロウェイをマーティンに会わせたくない一心だった。
「そうなんだ」見るからに落胆しているマーティン。
「何や、お前、あいつが恋しいんか?」
ダニーが拳を固めてマーティンに尋ねる。
「友達だから・・・こうなったのは僕がいけなかったんだし」
「お前、お人よしもええ加減にせえよ。あいつのせいでお前はこうなったんや」
ダニーは吐き捨てるように言った。
「違うよ、僕が違う自分になりたくて、焦ったんだよ」
マーティンは目を伏せてテーブルを見つめた。
「万が一、ホロウェイがここに来るような事があっても会うなよ!」
ダニーはきつくマーティンに言い聞かせた。
「わかったよ」
看護師がやってくる。
「そろそろ面会時間が終わりですので」
ダニーにはマーティンの後姿が小さく見えた。
ホロウェイの奴!絶対に許せへん!
アランはそんなダニーの心情を察して、ランチを奢ることにした。
久しぶりに「グランドセントラル・オイスターバー」に出かける。
テーブル席の方に案内してもらい、オイスター・シューターを前菜に
サーモンのグリルとメカジキのステーキを堪能する。
ダニーの携帯が震える。
「はい、テイラー」
「テイラーか、俺だよ、ニックだ。うまくマーティンを隠したと思っただろうが、
俺にはお見通しだ。今日、俺も入所する。それだけ言っとくぜ」
ダニーは顔がかっと紅くなるのを感じた。
「そんな事あらへん!口から出まかせ言うなや」
「B.D.マッコーリー・クリニック」
それだけ言うとニックはまたガシャっと電話を切った。
ダニーがわなわな震えているのを見て、アランが心配そうに尋ねる。
「誰だい?」
「ホロウェイや。クリニックがバレた」
「何だって?」
「あいつも入所するて言うてたわ」「何て事だ」
「マーティンを移そう!」アランは一瞬逡巡した。
移送も退院も可能だが、それでは、またマーティンがダニーの近くに来てしまう。
「それは無理だよ、ハニー」
「え?退院できへんの?」
「今の状態での移送はかえってマーティンの治療を遅延させるだけだ。
見守ろうじゃないか、あの施設を信じて」
ダニーは納得が行かない様子だったが、アランに言い切られては返す言葉がない。
そのまま従い、サーモンのグリルを食べ終えた。
マーティンが目を覚ますと、ダニーが自分の腕をしっかり掴んでいた。
苦笑しながら腕を引き抜き、またハゲた部分に手をやる。
あ、また怒られちゃう・・・慌てて手を離し、眠るダニーの頬に触れた。
濃いひげがぽつぽつ伸びたセクシーな寝顔に見とれる。
マーティンはそっとキスをすると、もう一度目を閉じた。
次に目を覚ますと八時を過ぎていた。
「ダニー、起きてよ!寝過ごした!」
「ん?・・・どわぁー!」
二人はベッドから飛び出ると、急いで身支度をして飛び出した。
地下鉄の駅まで全速力で走り、慌てて滑り込む。
「間に合うかな?」
「降りたら猛ダッシュや。何とかなるかもしれへん」
走った二人は支局のエレベーターでボスと一緒になった。
「ボス、おはようございます」
「ああ、おはよう。ゲホッゲホッ」
ボスは乾いた咳をしている。
「ボス、風邪ですか?」
「ああ、そのようだ。裸で寝たからかな・・ゲホッ」
「お大事に」
丁度エレベーターが止まり、二人は迅速にボスから離れた。
「風邪が流行ってるなぁ。オレらも気をつけよう」
「うん」二人はトイレでうがいと手洗いをした。
ミーティングの間もボスは時折咳き込んで、中断を余儀なくされた。
ダニーはうつらないかヒヤヒヤしたが、マーティンは心配そうに見つめている。
ボンはやさしいなぁ、オレと大違いや。あんな目に遭わされてるのに・・・・
ダニーは自分が薄情に思えて仕方なかった。
ダニーはマーティンと帰ろうとしてフラフラのボスを見つけた。
放っておけず声を掛ける。どうやら熱があるようだ。
「ボス、オレが送って行きますわ。キーを貸して下さい」
二人は肩を貸してボスを地下駐車場まで連れて行った。
ボスの家に着き、抱えて中に入るとダニーが目を見張った。
うひゃー、汚い・・・ゴミ屋敷やがな。ゴキブリがいてたらどうしよう・・・
「ダニー重いよ、手を貸してよ」マーティンがダニーを促す。
二人はベッドルームに連れて行ったがベッドも悲惨な有り様だ。
いったんボスをソファに座らせ、ダニーはシーツを取替えてベッドを整えた。
ボスをベッドに寝かせると、二人はリビングに戻った。
「何でこんなことになってるんやろ?」
「さあ・・・メイドも解雇したって、この前言ってたよ」
「ありゃー、ボス、酒に溺れてるみたいや・・・」
ダニーは散乱した酒の空き瓶を集めて燃えないゴミ用コンテナに入れていった。
冷蔵庫はからっぽで酒以外に何もない。
救急箱を開けたが解熱剤も風邪薬もなかった。
「ちょっと買ってくるわ。お前はボスを頼む」
ダニーは言うが早いか行ってしまった。
マーティンは冷たいタオルを額にのせ、汗を拭っていた。
「ケイトか?」ぼんやりしたボスがつぶやいた。
「いえ、マーティンです」
ボスは弱々しく頷き、マーティンはそっと手を握った。
ダニーは買い物を済ませて戻ってきた。
手早くチキンスープを作り、薬と水を添えてベッドルームに運ぶ。
「さ、少し飲んだほうがいいですよ。薬も飲まなあかんし」
マーティンは起き上がるのを手伝い、ダニーはスープを口に運ぶ。
ゆっくりスープと薬を飲み終えると、ボスは横になった。
「ダニー、ボスが僕のことケイトか?だって」
「寂しいんやろ、かわいそうやな」
「それで荒れてるのかな?」
「たぶんな。デリで適当に買ってきたんや。オレらも食べよう」
二人は無言のまま食事を済ませ、少し部屋を片付けた。
ダニーがベッドルームに様子を見に行くと、ボスはぐっすり眠っていた。
薬が効いたのか、少し熱も下がったようだ。
よし、これやったら大丈夫や。布団を掛けなおし、静かに部屋を出る。
「どうだった?」
「大丈夫。熱も下がったし、よう寝てるわ」
「よかった。僕ら、今夜は帰れないね」
「そやな、一人やったら不安やもんな。何かあったらトロイを呼ぼう」
疲れた二人は子供用のベッドに横たわった。
マーティンは早朝に目を覚まし、ボスの様子を見に行った。
手を握って寝顔を見つめているうちに涙が出てきた。
自分がなぜ泣いているのか理由がわからない。
起きてきたダニーがそっと肩に手を置いた。
「泣いてるんか?こんなんで死なへんて、心配すんな」
マーティンは置かれた手に自分の手を重ね頷いた。
アランは翌日、クリニックのドクター・マッコーリーに電話を入れた。
「ドクター・ショアですが、お願いです。昨日入所した患者の名前を教えて欲しいのですが」
「ドクター、いくら貴方の頼みでもそれは無理です」
「それなら、次の名前に聞き覚えがあったら、はいと言ってくださいますか?」
「全く・・・。仕方がありませんな」
「ニコラス・ホロウェイ」
「はい」
「ドクター、どうもありがとうございました」
この事実をダニーに知らせたものか、アランは考えあぐねていた。
ダニーも朝から同様の問い合わせをクリニックにしていたが、受付で玉砕していた。
昼の時間を抜けて、ニックのステューディオに行ってみる。
何度チャイムを鳴らしても誰も出ないし、人がいる気配がない。
また夜に来てみるか。ダニーは仕事後にも来る事にしてマスタングを走らせた。
支局に戻るとボスが待っていた。
「遅いぞ!お前に仕事が満載だ!」
「すんません!」
「とにかく机の上のファイルを洗ってくれ。大好きなPC仕事だよ」
ボスはにやっと笑ってオフィスに戻っていった。
仕事を一応終え、またミートパッキングエリアに車を飛ばした。
相変わらず、チャイムに誰も反応しない。中は真っ暗だ。
ダニーは本当にニックがクリニックに入所したのだと確信した。
マーティンにホロウェイを拒む意思があるんやろか。
ダニーは心臓がドキドキして、家に帰ってウィスキーをあおった。
クリニックの図書館では、マーティンが今晩から読む本をあさっていた。
すると肩をトントン叩く奴がいる。
「何ですか?うそ!ニック!どうしたの?」
後ろを振り向くと頬にえくぼを浮かべニヤニヤ笑いするニックが立っていた。
「俺も入所した。君に会いたくて、随分捜したぜ。
テイラーは教えてくれないしな。また会えて嬉しいよ」
ニックは監視カメラから影になる本棚の奥にマーティンを連れて行き、ディープキスをした。
「だ、だめだよ!見つかっちゃう!」
マーティンは耳まで赤くして拒んだが、ニックに舌を絡め取られて力を抜いた。
「俺のお姫様、今すぐ、ここで入れたいくらいだ」
ニックはいきり立った自分のペニスをマーティンに握らせた。
「ニックぅ、だめだってば」
マーティンも久しぶりに人に触られる感触にすっかり局部を大きくしていた。
「近いうち、どこか場所を見つけるからな」
それだけ言うと、ニックは去って行った。
マーティンは胸をドキドキさせながら本棚に寄りかかっていた。
ニックは僕を捜しに来てくれたんだ。
それだけの事が嬉しくてたまらない。
ニックの引き締まった身体にまた組み敷かれたい欲望で、身体の芯がうずいていた。
ダニーの顔がちらっと浮かんだが、保護者のように後ろに立っているアランの姿も思い浮かび、
頭をぶるぶる振るわせた。こんな僕なんていらないよね、ダニー。
二人は仕事が終わると一応ボスの様子を見に行った。
ダニーが鍵を開け灯りをつけるが、中は静まり返っている。
「寝てるのかな?」
「わからん」
音を立てないようにベッドルームへ行くと、ボスが熱で喘いでいた。
「あかん、ぶり返したみたいや。マーティン、トロイ呼んでくれ」
マーティンはスチュワートに連絡し、ボスの住所を伝えた。
「来れるって?」
「うん、すぐ行くって。ボス、大丈夫だからしっかりして!」
マーティンは汗を拭い、着替えのパジャマを探したが見つからない。
「ダニー、洗濯もしてないみたい・・・」
「ええっ!しゃあない、適当になんか着せとけ。オレは洗濯してくるわ」
脱ぎ散らかした服を集めるが、ダニーはあまりのオヤジ臭にむせた。
くっさー!メイドは解雇やなくて逃げられたんちゃう?
トランクスに触るのが嫌で、ダニーはナイロン袋を手にはめた。
たまりっぱなしの洗濯物を仕分けし、オヤジ臭と気持ち悪さに泣きそうになる。
ぶつぶつ言いながら洗濯機に放り込み、液体洗剤を多めに入れた。
インターフォンが鳴り、ダニーが出るとスチュワートが立っていた。
「やあ、テイラー捜査官。病人はどこだ?」
「ボスが風邪みたいなんや、診たってくれ」
スチュワートはベッドルームに行き、ボスを診察した。
心配そうにマーティンが覗き込む。
「電解質のバランスもおかしいし・・最近、食事をしてないみたいだな」
「スチュー、ボスは重い病気なの?」
「いいや、風邪と栄養不良だ。点滴すれば電解質も正常になる」
「本当に?」
「ああ、食事も取ってないから高濃度糖加維持液が必要だ。
オレは3号液しか持ってこなかったから取りに行ってくるよ」
スチュワートはマーティンの肩をポンと叩くと出て行った。
ボスは熱にうなされ、うわ言を言っている。
「ダニー、また子供の名前呼んでるよ。どうしよう?」
「う〜ん、勝手に連絡するわけにもいかんしなぁ・・・」
二人は困惑したままボスを見つめた。
「あ、トロイが戻ってきたみたいや」
ダニーはドアを開けに行った。
「お待たせ、早かったろ」
スチュワートはてきぱき点滴をし、異常がないかチェックした。
「よし、二時間ちょっとかかる。終わったら針を抜けるかな?」
二人は顔を見合わせ、首を振った。
「じゃ、オレがいないとダメだな」
「ごめんね、疲れてるのに」
「これぐらい大したことないさ。オレの命の恩人だから。
いい部下だな、二人とも。マローン捜査官が羨ましいよ」
オレらと寝てるんやけどな、それも変態プレイやねんで・・ダニーは心の中でつぶやいた。
待っている間にピザを食べ、時々様子を見に行く。
ダニーはボスのために野菜スープを作り始めた。
ことこと煮ている間にマーティンと乾燥機から出した洗濯物をたたむ。
「君は転職したほうがいいんじゃないか?」
スチュワートがニヤニヤしながらダニーをからかった。
「うるさい、オレは几帳面なんや」
マーティンは乾いたばかりのパジャマを横に退けた。
「ボン、それたたまへんの?」
「ん?後で着替えるんだからたたむ必要ないじゃない」
「あはは、おもしろいヤツ!」
スチュワートはマーティンを抱き寄せほっぺにキスをした。
ダニーも思わずつられて苦笑した。
点滴を抜いているとボスが目を覚ました。
「マローン捜査官、バートンです。栄養状態が芳しくないですね。
点滴しましたけど、風邪が治ったらきちんと食事を取らないといけませんよ」
ボスは弱々しく頷き、礼を言った。
「あとは君たちに頼もうか。これ、処方箋。たぶんいらないだろうけどね」
スチュワートはダニーに渡し、マーティンにこっそりウィンクすると帰っていった。
「おい、トイレ。漏れそうだ」
ボスは起き上がろうとしたがうまく行かない。ダニーは咄嗟にゴミ箱を渡した。
「だめだ・・マーティン、手伝ってくれ」
「えっ・・あ、うん」
マーティンはボスのペニスを取り出し、ゴミ箱におしっこさせた。
しっかり振ってトランクスに戻す。ダニーは即行でゴミ箱を洗いに行った。
「おなか空いてない?どうしてごはん食べないのさ?」
ボスは黙ったまま目を逸らした。
「食べなきゃダメじゃない。もしかしてダイエットしてるとか?」
「いいや」
「また僕とピーター・ルーガーに行こうよ。あそこ好きでしょ?」
「ああ、そうだな」ボスはマーティンが握っている手を見つめたまま答えた。
マーティンはパジャマを渡した。「ダニーが洗濯したんだ。着替えて」
ボスが何もしないので、マーティンは仕方なく着替えさせた。
「これ、お口に合うかわかりませんけど」ダニーが野菜スープを持ってきた。
スープを飲むうちにボスが目を押さえた。微かに嗚咽が漏れる。
泣いているようで二人はぎょっとしたが、気づかないふりをした。
「あの、オレら向こうにいてますから・・・」
ダニーはマーティンを促しベッドルームを出た。
「うつ病やろか?メシも食うてへんらしいし、泣きよったで」
「違うよ。ずっと一人ぼっちなんだもん、寂しいだけだよ」
マーティンはダニーにもたれた。「たまには一緒にごはん食べてあげようか」
「けどなぁ・・おっさん、変態やからなぁ・・・」
「でもさ、まともなときもあるよ」
「そやな、まずはメイドを雇うんが先決や。お前はやさしいな」
ダニーはマーティンをソファにそっと押し倒し、何度も唇をついばんだ。
「ダニー、ソファの隙間に何か落ちてる」
マーティンが手を伸ばすと獣姦のDVDだった。
興味津々で再生したが、性的興奮どころか笑いが止まらない。
「うわぁー!犬とやってるよ!」
「だから変態やって言うてるやろ。きっしょいなぁ・・・」
そっとダニーの股間に触れると見事に勃起していた。
「すっげー立ってる!ダニーも変態だ!」
マーティンははちきれそうなペニスを扱きたてた。
ダニーは、アランのリビングでごろごろしていた。
夕食が終わって、アランは葉巻をくゆらせている。
「なぁ、ホロウェイ、入所したんねんな」
ダニーがニックの特集が掲載されている「ザ・ニューヨーカー」を顔に乗せながらつぶやいた。
「ああ、そのようだ」
「マーティン、無事やろか」
「携帯品は入所の時に厳重チェックされるから、薬の心配はない。
携帯電話も没収だから売人と連絡取れないしね」
「あいつ、ホロウェイの事、友達言うてたやん。それが俺、めっちゃ気になるねん」
ダニーはがばっと起き上がり、アランを見つめた。
「マーティンは、兄弟もいないし、親子関係もあの通りだから、たまらなく寂しがりやなんだよ。
少しでも自分に関心を示す対象が現われると、しっぽをちぎれんばかりに振る子犬になってしまう。
ホロウェイはその隙に入り込んだ蛇みたいな存在だ」
アランはふうーっと葉巻の煙でわっかをつくり、ダニーに向けてはいた。
「ゲホ、ゲホ、煙いよ、アラン」
「ごめん、ごめん。今日は飲み過ぎたかな」
「じゃあ、エッチはなし?」ダニーが上目使いでアランを見上げる。
「そうは言ってないよ、ダニー。欲しいかい?」
「そんなん言わせんといて!」ダニーは恥ずかしそうにバスルームに入っていった。
クリニックでは、食事後の自由時間がマーティンとニックの逢瀬の時間になっていた。
夕食後、図書館でニックが席に座っているマーティンに近付いた。
「いい場所見つけたぜ」「え?」
「今日、就寝時間後、地下2階に来いよ」
「ニック・・」
「来れば分かるから、な」
ニックの動きはあくまでもスムーズでスピーディーだ。
マーティンは思わずSADEの「スムーズ・オペレーター」という曲を思い出していた。
就寝時間が過ぎ、個室の電気が消された後、マーティンは地下2階に降りた。
ホールでニックが待っていた。エレベーターホールで抱きしめられる。
「ニック・・・」
「ここは監視カメラがないんだよ、お姫様」
マーティンは手を引っ張られてリネンルームに入る。
周り中、洗濯したてのシーツやタオル類の山が築き上げられている。
「こっちへ・・」
ニックに連れられて奥に入ると、ベッドが一つ置いてあった。
「何で?」
「ここで仮眠するスタッフがいるんだとさ。金さえあれば、何でも手に入る」
ニックは早速マーティンの入院着をはがし始める。
「ニックぅ・・、僕・・」
「何言ってるんだよ、欲しかったんだろ、これが」
ニックは自分のたけった印をマーティンに触らせてた。
「うん・・」「じゃあ、だまって脱げよ」マーティンは全裸になった。
「相変わらず、綺麗だ。これは俺のものだ」
ニックはマーティンをベッドに寝かせると、胸に噛み付いた。
「あぁん、痛いよ」
「我慢しろよ、君と寝て以来セックスしてないんだ」
ニックは荒々しかった。
マーティンの前と後ろに丹念に噛み付き、自分の印を刻み込むと、マーティンのペニスに食らいつく。
「んぅん、はぁ、はぁ」
マーティンが身体を反らせ、快感に耐える。
ニックはペニスも軽く噛みながら裏表くまなく刺激を加える。
マーティンのペニスが湿ってきた。
「もう、僕、僕、だめだっ、あぁん、はー」
マーティンはニックの口の中に果てた。
それをニックは手の平に吐き捨て、マーティンの後ろにぬりたくる。
「じゃあ、俺がいくぞ、マーティン、愛してる」
そう言うと、ニックは思いのたけを一気に突き立てた。
「あぁー!!」
ニックは激しく腰を振り、すぐに果てた。荒い息の二人は少しずつ落ち着いてきた。
「ニック・・僕のこと愛してるの?」マーティンが真顔で尋ねる。
ニックは困ったように頬にえくぼを浮かべて笑ったが、
「あぁ、どうして君にこれだけ惹かれるか、分からない。
でも、今までにない感情をどうにも出来なくて、こんなところまで来ちまった。
軽い男だと思うか?」
「そんな事、ないよ。僕、嬉しいよ」
マーティンはニックの筋骨隆々の胸に顔をうずめた。
「リネン係が戻ってこないうちに、部屋に戻ろうぜ」
「うん」
マーティンはなぜか心が満ち足りて、3階の部屋に戻った。
ダニーは東43丁目のジュースバーで並んでいた。
ようやく自分の順番になりバナナミルクをオーダーする。
「やあ、テイラー捜査官。オレはクランベリーレモンなんだ」
振り向くとスチュワートがジュースを待っていた。
「トロイか、まずそうなん選んでるな」
「風邪の予防のためさ。君こそ子供じみたものを頼んでるくせに」
二人はジュースを受け取り、一緒に窓際の席に座った。
「マローン捜査官の具合はどうだ?」
「もう大丈夫や、仕事にも出てきてる。お前にも世話になったな」
「いいんだよ、治ってよかった。マーティンは?」
「あいつはオフィスで仕事。オレは聞き込みや」
スチュワートは頷くとジュースを飲んで顔をしかめた。
「バナナミルクはおいしいで」ダニーはニヤッとした。
二人はしばらく世間話をしていたが、スチュワートがふと切り出した。
「今夜、マーティンと出かけてもいいかな?」
「・・・・ああ」
「ありがとう。それじゃ、またな」
スチュワートは残りのジュースを飲み干し、席を立った。
ダニーは颯爽と通りを歩いていくスチュワートを見つめた。
支局に戻るとマーティンがダニーを見てトイレに行った。
ダニーもトイレに行き、誰もいないか確かめる。
「あのさ、今夜スチュワートと出かけるんだけど・・・」
「ああ、知ってる」
「ごめんね」
「謝ることなんかないんやで。ゆっくり楽しんで来たらいいんや」
ダニーはマーティンの髪をくしゃっとすると先に出た。
本当は行かせたくなんかない、無意識に頬の内側を噛みしめていた。
下で二人に会うのが嫌で、ダニーは時間をずらして支局を出た。
地下鉄の駅に向かって歩くがまっすぐ帰る気にもなれない。
ダニーの足は自然とフルートへ向かっていた。
スプマンテを頼み、アンチョビのピザをつまむ。
立て続けに二杯飲み、ほろ酔いでバーをあとにした。
歩きながら向かいの通りを楽しそうに歩くカップルに何気に目を凝らす。
ん?あれはサマンサや、ベン・アフレックみたいな男とべったりや。
ありゃりゃ、ボスとはどないなってるんやろ・・・
荒んだ生活の原因ってこれなんかなぁ。
ダニーは考え事をしながら地下鉄に乗った。
マーティンはスカッシュのあと食事に行き、スチュワートのアパートに帰ってきた。
「ねえスチュー、前より強くなってない?」
「当然さ、オレは練習してるからな」
「ずるいよ、僕は全然してないのに」
マーティンは疲れてソファに倒れこんだ。足がパンパンで動きたくない。
「ほら、歯磨きするぞ。立って」
二人は並んで歯を磨き、パジャマに着替えてベッドに入った。
スチュワートはマーティンのふくらはぎをマッサージしている。
マーティンはそのまま眠ってしまった。
しょうがないヤツだなぁ、今夜はいろいろ楽しみたかったのに・・・・
スチュワートはやれやれと布団をかけると、手をつないで目を閉じた。
ダニーは支局の下でスチュワートに送ってもらったマーティンと一緒になった。
「おはよう」
「おはよう、痛たた・・・足がさ、筋肉痛なんだよ」
ダニーはアクロバットのようなセックスをしたのかと思い訝しげに見た。
「あのさ、ヘンなことしてないよ。スカッシュしただけだから」
視線に気づいたマーティンが慌てて否定する。
ダニーは自分の早とちりに苦笑いしながらエレベーターのボタンを押した。
ダニーは、ランチ時間を抜けてマーティンに面会に行った。
前に来た時よりも顔色がいい。
「ダニー!よく来てくれたね!」
「おぉ、元気そうやないか!」
「うん、調子も段々良くなってる。それにニックが入所してきたんだよ!」
手放しで喜んでいるマーティンの姿をダニーは複雑な気持ちで見守っていた。
「奴と会ってるのか?」
「食事後の自由時間に話してる。彼も薬漬けの生活を止めたいんだって。
仕事も順調にブッキングが入ってるみたいだし。」
「ホロウェイにとっちゃ、お前に会えるし、ええ事ずくめやないか」
「え?そんな事ないと思うよ」
「そうか?」
マーティンは早口でニックの事をしゃべりすぎたのを後悔していた。
ダニーは勘がいいのだ。
「で、お前、いつ出られそう?」
「順調に行けば、あと1週間だって。僕、真面目だからね」
マーティンはウィンクした。前はそんな事をする奴やなかったのに。
マーティンの行動一つ一つにニックが影響しているようで、気になって仕方がなかった。
短い面会時間が終わり、二人は気まずい別れをした。
ダニーは外出が長いとまたボスからお目玉を食らった。ええ事なしや。
今日はアランとこ行って、ご馳走食おう。
ダニーは、PCを立ち上げると、仕事に没入した。
定時が終わる直前、アランに電話をかける。
まだ診療中のようで留守電だった。
「俺やけど、今日、寄るから。無理やったら電話返して」
伝言を残し、支局を出て、アルゴンキン・ホテルのブルー・バーでドライマンハッタンを頼む。
コールガールらしき女性の姿もちらほら見受けられる。ここも堕ちたな。
ダニーはつまみのオリーブを口にしながら、お代わりを頼んだ。
携帯が震えた。アランからだ。
「ハニー、今、最後の患者が終わったよ。どこだい?」
「アルゴンキンのバーで飲んでる」「迎えに行くよ」「うん」
アランのボルボは15分でやってきた。
「今日は日本食にしよう」二人はミートパッキングエリアの「オノ」にやってきた。
炉辺焼きの席をお願いし、串焼きや魚の一夜干しを食べる。
ダニーが食べられなかったのは烏賊の塩辛だけだ。
「げぇ、烏賊の内臓なんか気持ち悪いやん!」
「日本酒にぴったりなんだがなぁ、まだ君には克服すべきトラウマがあるね」
アランがにやっと笑いながらお銚子を持ち上げる。
「オチョウシ、モウヒトツ!」
「アラン、前から不思議やったんけど、なんで日本語出来るん?」
「前にインターンで日本人がいたんだよ」
「えっ、まさかそいつとつきあっとったん?」
「そいつって彼女だ。女だよ。ちょっとだけね」
「全く、聞くたんびに過去の恋愛が増えてくわ。俺、やってられへん!」
ダニーはぷーっとむくれた。
「君だって、僕にそんな事言えるわけないだろう?ダウンタウン・テイラー捜査官?」
「そのあだ名、何で知ってる?」
「サマンサから聞いたのさ、何か隠そうを思ったって無駄だよ」
アランは声をあげて笑った。
ダニーは心地よさと同時にちょっとした窮屈さを感じていた。
ダニーがコーヒーを淹れに行くとサマンサと出くわした。
「あ、ダニーもコーヒー?」
「うん、なんか眠たいわ。なぁ、ベン・アフレックみたいなん、あれ彼氏?」
「へ?・・・見たの?」
「うん、仲良さそうやったから」
「まあね〜」
サマンサは嬉しそうににやけながら出て行った。
帰り支度をするマーティンに、ダニーはそっと近寄った。
「今日もどっか行くん?」
「ううん、足がすっごく痛くて。帰ってゆっくりするんだ」
「オレも行ってもええか?」
「いいよ、一緒に帰ろうよ」
二人はいそいそとエレベーターに乗り込んだ。
ダニーは帰るなりキッチンにこもっている。
TVに退屈したマーティンはダニーの様子を見に行った。
「僕も手伝おうか?」
「ほな、マリネ液作るから量ってくれる?レシピはこれや」
「いいよ。スズキのエスカベッシュか、おいしそうだね」
マーティンは慎重にワインビネガーやオリーブオイルを入れた。
ダニーは野菜をあっという間に切り、どうだといわんばかりに得意気な顔をする。
「ね、ちょっと僕にもやらせて」
マーティンはセロリを手にとって切り始めた。
「それも千切りな、手切るなよ」
ダニーはニヤニヤしながら見守る。セロリはぶつ切りにしかならない。
「もうダメだ、怖いよ」
マーティンはナイフを返し、ダニーの手元を見つめた。
マーティンはスズキを揚げる段階で退散し、ディナーを待っていた。
運ばれてきた照り焼きチキンサンドとフレンチポテトにきょとんとする。
「ん?エスカベッシュじゃなかったの?」
「あれは一晩寝かせるんや。だから食べるんは明日の晩」
「なんだ、今日食べたかったのに・・・」
「ごめんな、カルパッチョとミネストローネもあるから」
ダニーはマーティンをなだめた。
ダニーはマーティンにサマンサのことを話した。
「へー、かっこいいね。ボスはショックだろうなぁ」
「そうやな、メシも咽喉を通らんぐらいやからな」
「お酒だけじゃおなか空かないのかな?僕なら有り得ない」
言いながらチキンサンドにむしゃむしゃがっつくマーティン。
ダニーは自分のフレンチポテトを半分譲った。
ソファでだらだらしていると、マーティンの携帯が鳴った。
「あ、僕。ん、まだ痛い。明日?わからないけど・・・」
トロイやな、ダニーは何気なく聞き耳を立てる。
マーティンは電話を切り、ダニーの横に座った。
ダニーは何も聞かずに抱き寄せる。
「ダニィ、明日も一緒にディナー食べようね」
マーティンが恐る恐る話しかけた。
「なんやお前、オレとメシ食いたいんか?」
ダニーはわざと素っ気なく言ったが、本当は嬉しくてたまらない。
「うん」
「トロイより?あいつにも誘われたんとちゃう?」
「ん、でも断ったから。ダニーと食べるよ」
ダニーはマーティンの頭をくしゃくしゃにした。
「わっ、もうやめてよー」
調子に乗ったダニーは余計に髪の毛をくしゃくしゃにしてからかった。
ダニーは目覚まし時計をセットしようとして、飾りのブロックをバラバラにしてしまった。
「マーティン、ごめん、これ・・」
「ああ、僕もアラーム止めるときによくやるんだ。貸して」
マーティンは手馴れた手つきでLEGOブロックを組み立てた。
「それ子供用やろ?そんなもん買うなや」
「クリスマスにもらったんだよ。それに機能は普通のと変わらないよ」
「ふうん」
贈り主はトロイ以外に考えられへん・・・ダニーはおもしろくなかった。
ダニーは、アランの腕に包まれて横たわりながら、食事の時に感じた窮屈さに思いをはせていた。
アランとの関係は今までの中で最高のものだ。親子や兄弟との関係以上ともいえる。
セックスの相性もいいし、今、こうしてアランの寝息を聞いていても幸せをじわじわ感じる。
それやのに、何で俺、窮屈なんて思ってんのや。幸福なくすで!
自分に怒りの喝を入れ、アランの胸に頬をすり寄せながら、眠りに入った。
翌朝、目が覚めるとベッドルームのドアが開いており、アランがいなかった。
「アラン、アラン!」子供が親を呼ぶように叫んだ。
バスローブをはおったアランが飛んでくる。
「どうした!悪い夢でも見たのか?」アランがダニーを抱きしめる。
「うん、そうみたいや。ごめん、パニクってしもうた」
「コーヒーがもうじき入るよ。今日はクリームチーズとサーモンのベーグルサンドでいいかい?」
「うん、ばっちりや」
ダニーもシャワーを浴び、スーツに着替える。
マグカップのコーヒーをアランから受け取り、ダイニングに着いた。
「今日は食べていくかい?」
「いや、マーティンおらへんようになって、仕事山積みやから、支局で食うわ」
アランは丁寧にジップロックにベーグルサンドを入れ、紙袋に入れてダニーに渡した。
「今日も食事したいならおいで」
「うん、わかった。ほな、行ってくる」
ダニーはアランに軽くキスをするとアランのアパートを出た。
寒いなー。送ってもらえば良かったなぁ。
コートの襟を立て、地下鉄の駅に急いだ。スタバでサマンサに会う。
「なあに、今日は送迎なしなの?」例の意味ありげな微笑みを浮かべている。
「当たり前やん。この前は風邪やったから特別や」
「どうなんだか。口止め料のディナーお願いね!」
サマンサはデカフェのカフェラテを持って去っていった。
カフェインとらんでコーヒー飲む価値あるかいな。
今日も事件がなく、PC作業で一日が暮れた。
マーティンの穴を埋めるのは大変だ。アランに電話する。
「今日も寄ってもええ?」「ああ、もちろん」
「ちょっと残業するから8時頃いくわ」「ああ、待ってるよ」
その答えに安堵する。まるで昨日の窮屈さがウソのようだ。
俺って勝手やねんな。
ボスがPCで四苦八苦しているダニーに声をかける。
「マーティンのカバーは大変か?」
「はい、正直、参ってますわ」
「今日、連絡があって、あと2週間で出勤できるそうだ」
「はぁ、そうですか。長いですね」
「まぁそう言うな。がんばれ、お先にな」
あいつ、昨日は1週間って言うたのに、何があったんや!
ダニーは絶対にホロウェイに関係があると信じていた。
ダニーは7時半になりPCを片つけると、アッパーウェストサイドへと地下鉄で上っていった。
「ただいま!」合鍵でドアを開けると、アランがエプロン姿でキッチンに立っていた。
「アランの手料理なんや!」
「あぁ、外食の方がよかったかな?」「アランの手料理のがええ!」
「早く着替えておいで」「うん」
ダニーはクロゼットでアディダスの上下に着替えて出てきた。
アランがダイニングに料理を運んでいる。
「今日はラムの香草焼きと日本のハーブのサラダだよ」「うまそう!」
ラム肉なのでワインは重ためのカベルネ・ソーヴィニオンを選ぶ。
「乾杯!」「おかえり」二人はグラスを重ねる。
「今日な、マーティンがボスに連絡してきて、退院が2週間先になるって。長すぎやしいひん?」
「確かに1ヶ月は長いな」
「ニックが入ってきたからやないかな」
「明日、ドクター・マッコーリーに聞いてみよう」
「頼む。うわー、このラム、すごく美味い!」
「オリーブオイルと香草で漬けたから柔らかいだろう?」
「うん、ほんま、アランはレストラン開けるで」
「またその話か。僕は精神科医で満足なんだよ。それに大切な人にはご馳走できるが、
商売となったら多分だめだ」
アランはダニーの手を握って、そっとキスをした。
「そういえば、今日、ギャラリーから届いたんだが、どうすべきか迷っていてね。」
アランは巨大な紙の巻物を書斎から持ってきた。
「あ、マーティンのヌード・・・」
「ああ、写真だろ?破るのも大人気ないし」アランは苦笑した。
「でも俺もらっても飾られへんわ」
「君には飾ってほしくないさ。だからマーティンに送ろうかと思って」
「それがええかもな」ダニーもそれ以外にアイディアが浮かばなかった。
「じゃあ、明日UPSを手配しよう」
「俺、アランがマーティンのこの写真でオナったらどないしよかと思ったで」
ダニーはぽっと頬を赤らめた。
「君のポートレートならいつでもOKだよ。ホロウェイを雇うかな」
「やめてな、恥ずかしいわ!」アランはかなり本気のようだった。
ダニーは心配になった。
ホロウェイの前で裸になるなんてゴメンや!アランはダニーの手を取った。
「何?」「もう食事は終わったろう。ベッドで運動しないか?」
「俺、汗臭いけど・・」
「それがいいんだよ。ハニー。特にラムを食べた後の体臭は最高だ」
「アラン、変態っぽいで!」
「何とでも言ってくれ。さぁ、早くベッドに行こう」
ダニーはアランに連れられて、ベッドルームに入り、全裸になった。
「君の裸の方がマーティンよりずっと綺麗だけどな」
「照れるで」
アランは自分も全裸になると、ダニーの手をとってベッドに入った。
二人は帰ろうとしてボスに呼ばれた。
仕方なくボスのオフィスへ入る。
「この前は世話になったな。帰りにメシでもどうだ?」
「あの今日は予定が入ってて・・・また次の機会に・・」
ダニーがしどろもどろに答えた。
「そうか、ならいい」
ボスは椅子を回転させて後ろを向いた。
「お先に失礼します」
今のうちや、ダニーはマーティンの背中を押して廊下に出た。
「かわいそうだったね。せっかくごはん食べる気になったのにさ・・・」
マーティンがダニーを見上げる。
「しゃあない、オレは嫌やけど呼んだるか?」
「うん、きっと喜ぶよ」
マーティンはドアをノックしてボスを呼びに行った。
「ボス、僕んちでディナーなんだけど一緒にいかがですか?」
「お前のアパートか、久しぶりだな。行くよ、ありがとう」
ボスはブリーフケースを手にマーティンと出てきた。
そのまま三人で地下まで降り、ボスの車に乗り込む。
ダニーの運転でマーティンのアパートへ向かった。
ダニーがキッチンで料理している間、マーティンは食器を準備していた。
ボスはソファで塞ぎこんでいる。
「もうすぐできるから。もう風邪はいいの?」
「ああ、お前たちの介護とドクター・バートンのおかげだな」
「そっかー、よかった。今夜はスズキのエスカベッシュだよ」
「ほう、うまそうだな」
「僕も手伝ったんだよ。ほんの少しだけどね」
「お前、ちゃんと手は洗ったんだろうな?」
ボスは怪しむようにマーティンを見た。
「ひどいなぁ、洗ったに決まってるじゃん。なんてこと言うのさ」
マーティンは口を尖らせながらボスをテーブルに着かせた。
ダニーはワインを選びかけたが、ボスの家の惨状を思い出し、アルコールを出すのはやめた。
ラザニアの焼け具合を見ていると、マーティンが手伝いに来た。
「ダニー、ボスは焦げかけのが好きなんだよ」
「そうなん?よう知ってるなぁ。ボスの様子はどうや?」
「だめ、完全に参ってるみたい」
「そうか。あ、バゲットも焼けたわ」
ダニーはマーティンにバゲットとカポナータを運ばせた。
ラザニアも焦げる寸前まで焼き、食事の支度は整った。
ボスは食事の間も黙ったままだ。
二人は時々顔を見合わせるが、どうしようもない。
「おいしい?」マーティンが尋ねる。
「ああ」ボスは答えるとクラブソーダを飲んだ。
「おい、酒はないのか?」
「ないっす。お酒は控えはったほうがええんとちゃいます?」
ボスはダニーを一瞥するとラザニアに取り掛かった。
「ねぇ、焦げかけのが好きだったよね?」
「ああ。お前、覚えてたのか」
ボスは少し嬉しそうにマーティンを見た。
「ダニーのメシはいつ食ってもうまいな」
「そうっすか?気に入ってもらえてよかったっす」
ダニーはマーティンと視線を交わした。
ボスは食事が終わると帰り、二人はバスタブでくつろいでいた。
向かい合わせに浸かり、ダニーはキスをしながらささやいた。
「今日はお前とセックスしたい」
「うん」
マーティンははにかみながら目を逸らす。
ダニーはまぶたにそっとキスをした。
「お前の体は正直やな。もうこんなんになってる・・・」
ダニーはカチンカチンに勃起したペニスに触れてニヤッとした。
「ダニィ、恥ずかしいよ」
「ほな、やめよか?」
「バカダニィ!」
マーティンはダニーにお湯をかけると先に出た。
ダニーはベッドに座っていたマーティンをやさしく押し倒した。
バスローブの隙間から手を入れ、乳首を愛撫しながら耳を噛む。
マーティンは甘えるようにキスをせがむ。
ゆっくり舌を絡ませ口の中を味わいながらバスローブを脱がせた。
太ももに手を這わせ、ペニスに触れると先っぽがしっとり濡れている。
ダニーは、ローションを垂らすとお尻の割れ目に中指を這わせ、
触れるか触れないかの微妙な愛撫をする。
時々触れるアナルはヒクつきながら指を締め付けた。
とうとう我慢できなくなったダニーはペニスをアナルに押し当てた。
ゆっくり挿入されたマーティンは声を上げながら仰け反っている。
ダニーはいろんなことを考えながら意地悪なことを思った。
オレとトロイ、どっちが好きなんや?
聞きたくても聞けないもどかしさがダニーの動きを早めさせる。
「ああっ・・ダニー、そんなに動いたら出ちゃうよ」
「イッてもええぞ、マーティン」
マーティンはダニーの腕をギュッとつかむと射精した。
ダニーはマーティンの精液をすくうと唇に擦って舐めた。
「お前の味がするわ」
恥ずかしそうなマーティンに見せ付けるように指も舐め、
マーティンの精液を味わいながら腰を動かし、そのまま中で果てた。
静かに覆いかぶさるダニーを、マーティンはぎゅっと抱きしめた。
ダニーはサマンサの席にそそっと近寄り、「今晩、暇?」と聞いた。
「どうしたの?」
「いや、その、あの、夕食でもどうかと思うて」
「ふふ、約束履行ね。うん、暇よ。うんと高いところに連れてって」
「よっしゃ。予約しとくわ」「楽しみにしてる!」
嬉しそうにサマンサはコーヒーを入れに行った。
ダニーはジャン・ジョルジュ・プロデュースの「スパイス・マーケット」に電話を入れた。
「お願いや、今日、彼女にプロポーズするねん。そやから席空かして!」
ごね勝ちし、ようやく席を確保する。
夕方になり、アランから携帯に電話がかかる。
「はい、テイラー。うん、今日はちょっと食事して帰る。うん。そな、そん時にな」
サマンサが寄ってきた。
「アランでしょ?」
「ちゃうねん!」
「それより今日、どこに連れてってくれるの?」
「お楽しみに。7時やから、残業せいへんようにな」
「OK!テイラー捜査官と食事なんて楽しみ!」
定時近くになり、サマンサがボスに呼ばれて、オフィスに入っていった。
サマンサが髪を振り乱して出てくる。幸い、ヴィヴィアンは離席中だ。
「どうした、サム?」
「何でもない。6時になったら、すぐに出ようね」
サムはすでに机を片付け始めていた。つられてダニーも机を片付ける。
「ダニー、ちょっと来い!」次は俺かいな。
ボスのオフィスに入る。
「何ですか、ボス?」「今日はサムと食事か?」
「はぁ?」「はいかいいえで答えろ。今日はサムと食事か?」
「はい、そうですけど・・」
「お前らがそういう仲だったとはな」
「ボス、それは誤解っす。単純に独身の同僚同士の食事っすよ。」
「まぁ、いい。サムは気丈に見えて繊細だ。傷つけるなよ」「はぁ」
何か俺、異常に悪者にされてるような気がするけどな。損やな、俺。
サマンサと一緒にエレベーターに乗る。
姿をボスがずっと追っている気がしたが、もう遅い。
「それで、ダニー、今日はどこに行くの?」
「ミートパッキングエリアや」
「珍しいわね。ふうん、楽しみ。」タクシーで下る。
スパイス・マーケットの前で降りると、サマンサが小躍りして喜んだ。
「うわ、来たかったの、ここ、ありがとう!」
サマンサが頬にキスをした。中に入るとホールの中央にあるパゴダのインテリアが見事だ。
二人はベンチシートになっている席に案内された。
「随分ロマンチックね。私を口説く気?」
「まぁ、そんなとこや。何でも頼んでええんやで。」
サマンサは青パパイヤのサラダと、トム・ヤム・クン、グリーンカレー風味のヒラメを、
ダニーは生春巻き、トム・ヤム・ガイ、タイ風チキンBBQをオーダーした。
タイのチャーンビールで乾杯する。「象さんのイラスト、かっわいい!」
サマンサは努めて明るくふるまっているような感じがした。
「サム、ボスと何かあったん?」
サマンサの表情が固くなる。
「話してみいって。気が楽になるで。」
「ボスのね、離婚調停がもめてるみたいなの。」
「へえ、そうなん?」
「私も召還されるかもしれない」「・・・」
「もう知ってるでしょ、ボスと私、付き合ってたって」
「ああ・・過去形なん?」
「過去形にしたり、今だに誘ってきたり、ジャックったら自分勝手なんだもの
あ、ジャックなんて呼んじゃった」ペロっと舌を出すサマンサ。
「今日も言い合いしたんやね」
「うん、6時直前になって、空いてるだろう?なんて、失礼でしょ?
私だって、次の恋愛に進みたいのよ。それなのに心に錨がくっついちゃってて、船出出来ないの」
はぁーっとサマンサがため息をつく。
「もっと強いお酒が飲みたいわ。」
ダニーはタイのメコン・ウィスキーを頼んだ。
ウィスキーといっても地酒のようにアルコールは強い。
食事が運ばれ始まり、サマンサのピッチは上がった。
「おい、サム、スロー・ダウンな」
「大丈夫よ!それより、ダニーはアランとどうなってんのよ!」
絡み酒やな。困ったな。
「だから、前にも言うたやん。俺の親代わりやって」
サマンサは携帯をかけ始めた。
「あ、サマンサです。今ダニーと一緒。今日は帰しませんから。じゃあね。」「お前!」
「ふふふ、アラン、ぐうの音も出なかったわよ。面白ーい!!」
メインディッシュも終わり、デザートの時間になった。
サマンサはタロイモのプディング、ダニーは季節のフルーツをオーダーした。
「おい、サマンサ、大丈夫か?」
「あたし?だいじょーぶー!それより、アランの事、心配じゃない?」
「うん?心配って何が?」
「他の男連れ込んでないかってさぁー」
「そんなん、アランの勝手やもん」
「じゃあ、今日、見に行こう!」「えっ?」
「これから、アランの家に突撃!!」そう言うとサマンサは酔いつぶれた。
デザートをドギーバッグにしてもらい、サマンサの家に送ろうとするが、ストリートアドレスを思い出せない。
やっぱりアランの家に行くか。ダニーはアランに電話をし、タクシーを飛ばした。
サマンサをおんぶしてアランのアパートに入る。
「おやまあ、お嬢様つきでご帰還か」アランが目を丸くしている。
「これ、デザート。ああ、結構重たいな」
ダニーはサマンサをソファーに降ろし、一息ついた。
「んー、気持ち悪ー!」
「おい、吐きたいんか?」「うん」
アランは用意しておいたバケツをサマンサに渡した。
「こんなとこじゃ吐けない」ダニーはバケツとサマンサをトイレに運んだ。
小一時間、サマンサはトイレにこもってゲーゲー吐いていた。
「ごめんな。アラン。俺、サマンサの家の住所知らなくて・・・」
「仕方がないさ。サマンサ、僕に電話してきた時もかなりキてたな」
「ああ、ボスとしっくりいってへんみたいや」
「八つ当たりされて、ダニーも困ったろう」
アランがダニーのおでこにキスをしている時、サマンサが出てきた。
「ああ!見たわよ、見たわよ!やっぱり二人は恋人同士なんだ!それも幸せそう・・・」
それだけ言うと、サマンサはまた気を失った。
ダニーはマーティンに借りていたダ・ヴィンチ・コードを読み終え、
もう一つのお薦めのデセプション・ポイントも読みたくなり、アパートへ行った。
ガレージに車を入れようとしてダークブルーのTVRに気づく。
そのまま帰ろうかと思ったが、二人っきりにするのが嫌で部屋へ入った。
マーティンとスチュワートはリビングで[チャーリーとチョコレート工場]を見ていた。
「あ、ダニー!」マーティンが気づき、スチュワートも顔を上げた。
「やあ、テイラー捜査官」
スチュワートはDVDを一時停止にした。
「おう。本、返しに来たんやけど・・邪魔したみたいやな」
「どうだった?すごくおもしろかったでしょ?」
「うん、映画が楽しみやな。デセプション・ポイント貸してくれる?」
「あー、ごめん。それ、スチュワートに貸してるんだ」
「悪いな、もうすぐ読み終わるから」
「いや、別にいいんや」
謝るスチュワートにダニーは軽く首を振った。
「そのDVD、買ったん?」
「ああ、オレのお気に入りなんだ。君も見るか?」
「でも、ほら、邪魔やろ?」
「いいや、さっき見始めたばかりだから」
既に映画を見ていたダニーだったが、礼を言うとマーティンの横に座った。
スチュワートは最初から再生してくれた。
キャラメルポップコーンをがしがし食べながら画面に見入り、
マーティンもスチュワートもケタケタ笑っている。
こいつら、ほんまはめちゃめちゃ幼稚なんちゃう?
ダニーは訝っていたが、いつしか自分も引き込まれるように笑っていた。
見終わるとベタベタの手を洗いに行き、冷蔵庫の飲み物を漁る。
「あーのさ、もごもご言うのやーめよう。何言ってるかわかんないんだよねー!」
スチュワートが甲高い声でジョニー・デップの真似をしている。
さらに踊りながらウィリー・ウォンカのテーマソングを歌い始め、
マーティンもダニーもおかしくて笑い転げた。
「オレ、上手いだろ?クリニックでも子供にうけてるんだぜ」
スチュワートが得意気にニヤッとした。
「あほやな、子供もけったいなおっさんやなって思ってるんや」
「バーカ、オレは子供に大人気なんだぜ。やさしいバートン先生だからな」
「はいはい、そこまで!二人ともやめなよ」
マーティンは困ったように二人を止めた。
ダニーはわざとらしく時計を見た。
「さてと・・ほな、オレは帰るわ。また明日な」
「ダニー待って、下まで送るよ」
「寒いからそんなんええって。おやすみ、マーティン、トロイも」
ダニーはほっぺにキスすると部屋を出た。
アパートへ帰ったものの、ベッドで戯れる二人の様子が頭に浮かんでくる。
ベッドの中で何度も寝返りを打ちながらいつしかまどろんでいた。
ダニーが帰った後、二人はベッドに入った。
「マーティン、今日は一つ提案があるんだ」
「なあに?」
「オレが入れられたい」
「へ?痛いから嫌だって言ってたじゃない」
「そうなんだけど、慣れたら平気だろ?君にイカされたいんだ」
「スチュー・・・」マーティンは嬉しかったが、戸惑いが隠せない。
「大丈夫、痛くても我慢するから。やってみて」
スチュワートは四つんばいになりかけて、慌てて灯りを消した。
「ごめんな、明るいと恥ずかしいから」
「いいけどさ、いきなり挿入じゃ痛いよ。前戯からしないと」
マーティンは仰向けにさせると、そっとキスをした。
左手をつないだまま首筋や胸に舌を這わす。
スチュワート胸の鼓動がドクンドクンと大きな音で響いてきた。
「スチュー、感じてる?」
「ああ、すごく興奮してる。初体験みたいだ」
マーティンはくすっと笑うとお臍を舐め、ペニスを口に含んだ。
「おいおい、今夜はフェラチオでイカせるのは無しだぞ」
「でもさ、痛いの嫌いでしょ。やめたほうがよくない?」
「バカだなぁ。いいんだよ、君にもらう痛みは特別なんだ」
スチュワートはマーティンにキスすると、そのまま続けるように促した。
マーティンはローションをたっぷり塗ると指を入れた。
「うっ・・・」スチュワートが呻いた。
マーティンはペニスを口に含んだまま指を出し入れした。
馴染んだころ、指を二本に増やしてやさしく動かす。
スチュワートは喘ぎながら腰を浮かせた。
マーティンは喘ぐスチュワートに興奮しながら指を往復させる。
スチュワートはつないだ左手にぐっと力を込めた。
「やばい、イキそうだ・・・うっああっ!」
スチュワートは言うなりマーティンの口に射精した。
マーティンは精液を飲み込み、ひくつくアナルから指を抜いた。
「ねぇ、どっちでイッた?」
「はぁっはぁっ・・・アナル。くっそー、もう少し我慢したかったのに!」
マーティンは口惜しがるスチュワートの横に寝転んだ。
「ごめんな、君はまだイッてないのに」
「僕はいいよ、気にしないで。シャワー浴びる?」
二人はキスをしながらシャワーを浴びた。
スチュワートは気にしているのかしょんぼりしている。
「マーティン、続きは朝だ。おやすみ」
スチュワートは腕枕をしながらマーティンにささやいた。
「・・ウィリー・ウォンカ」マーティンは胸に顔をうずめながら答えた。
「バカ!」スチュワートは髪をくしゃっとするとくすくす笑いながら目を閉じた。
「どうする、サマンサ」「カルテに住所があるから連れて行くか」
「ほんま、ごめんな。アランに迷惑かけて」
「そんなの良いよ。今日は家に泊まるだろ?」
「うん、アランさえ良ければ」
「もちろんさ。じゃあ、お嬢様を送りに行こうか」「ああ」
ダニーとアランは意識のないサマンサをボルボに乗せて、サマンサのアパートに連れていった。
鍵をバッグから探り出し、家に入る。
小奇麗な女性の部屋だ。
「へえー、サマンサもやっぱり女性だったんねんな」
「失礼だよ。彼女はキャリアでは男勝りだが、本質的には非常に女性的だよ」
「ベッドルームに入ってええやろか」
「それはちょっとなぁ。サマンサ起きるんだ!」
「うぅん、ジャックー」「だめだな、これじゃ」
ダニーがお姫様だっこして、ベッドルームに運ぶ。
「ジャックー、キスして!ねぇ!」
ダニーは吐いたばかりのサマンサの口には到底キスできなかった。
靴を脱がせると、布団の中に静かにサマンサを横たえ、二人はアパートを後にした。
もう1時を回っている。
「明日が休みでよかったわ」
「そうだね。家でゆっくりしようか」「うん」
ダニーはアランの家に戻ると、サマンサが汚したトイレとバケツを何度も掃除し、
におい消しのスプレーをがんがん巻いた。
翌朝、ダニーは悪夢にうなされて、がばっと起きた。
隣りでアランが目をこすっている。
「ハニー、どうした?また悪い夢かい?」「うん」
「こっちおいで」ダニーはアランが広げた手の中に飛び込んだ。
アランの暖かい広い胸に抱かれて、寝ようとするが、なかなか眠りにつけなかった。
アランはすぐに寝息を立て始めている。
ダニーは身体に巻かれたアランの腕をどけて、ベッドを抜け出した。
バスローブをはおると、キッチンでコントレックスを一口飲んだ。
整然としたアランの部屋。マガジンラックだけが唯一雑然とした状態で、その週の雑誌や新聞を納めている。
部屋がアランなら、マガジンラックは俺って感じやな。
ダニーは、コントレックスを冷蔵庫にしまうとまたベッドに戻った。
冷たくなった手足を、アランの身体に絡ませて暖を取る。
「ひゃー、冷たいなー」
「あ、アラン、起こしてごめん」
「確信犯のくせに」アランはダニーの腕を開いて、身体を組み敷いた。
「ダニー、好きだよ」アランはそう言うと首筋に唇をはわした。
「くすぐったい」
「じゃぁこれはどうだ」舌と舌を絡ませる。
ダニーの息が上がってきた。
アランはダニーの脚を広げさせ、ペニスを膝でなでた。
ピクっ、ダニーの身体が跳ねた。ペニスも同時に跳ね上がる。
暖かい指をペニスに絡ませると上下動してもっと大きくさせる。
サイドテーブルの引き出しからマンゴーローションを取り出すアラン。
トロピカルな香りがベッドルームに充満する。
「膝を立てなさい」
ダニーがそうすると、アランはダニーのアヌスにオレンジのローションを塗りたくり、
静かに指で挿入を開始した。中を探るように少しずつ推し進める。
「あっぁ、俺、どうにかなりそうやー、アラン、どうにかして!」
アランの白い顔も紅潮している。
自分のペニスにもローションを塗り、ダニーの中に正常位で入り込む。
「動いて!」「だめだ、まだ」「お願いや、俺、もうイっちゃう!」
ダニーは身体を数回痙攣させ、アランの腹に向かって果てた。
アランはその感触に触発され、猛然と動き出した。
前後動を繰り返した挙句、「はぁー」とため息をついてダニーの中に精を吐き出した。
荒い息のままのダニーの身体をタオルで丹念に拭くと、アランはバスルームへと出て行った。
ダニーはようやく眠りについた。
ダニーが浅い眠りについたころ、携帯が鳴った。
こんな夜中に誰やねん!不機嫌なまま出るとボスだった。
「ダニー、寝てたのか?」
「当たり前やないですか、もう真夜中ですよ」
「今アパートの下にいるんだ、開けてくれ」
追い返すわけにもいかず、仕方なく部屋に通す。
「ボス、なんできはったんですか?」
「ヴィクターの息子はほら、あの医者と一緒だろうからな」
「なんでそんなん知ってるんです?」
「私の勘だ。お前、寂しそうじゃないか」
「オレは別に寂しくなんか・・・」
ボスはククッと笑い、ダニーの横に座った。息が酒臭い。
「今夜はここに泊まる。パジャマを貸せ」
ダニーは自分のではなくマーティンのパジャマを渡した。
「何だこりゃ?あのガキときたらまったく!うちの娘と変わらんな」
ぶつぶつ言いながらマーティンのきりん柄パジャマに袖を通すボス。
「ボスはソファで寝てくださいよ。一緒なんて嫌ですからね!」
ダニーはぴしゃりと告げたが、ボスはお構いなしにベッドに入ってしまった。
ボスはおっさん臭いから嫌やねん・・・。
ダニーは顔をしかめ、ベッドの端に寝転ぶ。
「ダニー、キスしてくれ」
「嫌や!オレはもう歯磨きしたんやから」
「頼むから・・・このままじゃキスの仕方も忘れてしまいそうだ」
「・・・一回だけですよ?約束ですからね」
ダニーは渋々ボスの唇にそっとキスをした。
うひゃー、きしょい・・・身震いしながら体を離す。
「はい、おしまい。頼むから早よ寝てくれ」
ダニーはブランケットで体をすっぽりくるみ、触られないようにガードした。
「おい、そんなに警戒しなくても大丈夫だ。近頃ほとんど勃起しないんだから」
「ボス、それはうつ病ですよ。一回診てもらったほうがいいんちゃうかな・・」
「私がうつだと?バカ、そんなわけないだろ!」
ボスは怒りながら眠ってしまった。
ダニーが目を覚ますと、ボスは隣でいびきをかきながら寝ていた。
そっと股間に手をやるが、本当に朝立ちもしていない。
あちゃー、これはほんまに男としてヤバイで・・・
自分のペニスがしっかり勃起しているのに安心しながらトイレで用を足し、
もう一度ベッドにもぐりこんだ。
「おい、ダニー、ダニー」
「あーもう、マーティンうるさい。何か食っとけ!オレはまだ眠いんや」
「いいからさっさと起きろ!」
ダニーは強引に布団をはがされ、仕方なく目を開けた。
「ボス?あー、そうやった、マーティンちゃうわ・・・」
「薬くれ、頭が痛い」
ダニーは救急箱からタイレノールを出した。
水と一緒に差し出す。
「毎晩飲んだくれてるんやないですか?」
「うるさい!アスピリンはないのか?これは効き目がとろいんだ」
「はいはい」
ダニーはアスピリンを渡し、救急箱をしまった。
「おい、ジュースくれ」
「冷蔵庫にありますから、勝手に飲んでください。オレはもう少し寝たいんや」
ダニーはベッドに戻りかけたが、ボスが恨みがましく見つめている。
「あー、もう・・・すぐに入れるよって」
ダニーの眠気はすっかり吹き飛んでしまった。
仕方なくキッチンへオレンジジュースを取りにいき、ボスに渡した。
ボスはジュースを飲み終えると携帯を取り出し、どこかに電話し始めた。
「ああ、私だ。今どこにいる?」
帰るんかな?ダニーは大きな欠伸をしながらコキコキ首を回した。
「そうか、それならいいんだ。邪魔したな」
ボスは電話を切るとため息をついた。
「ちっ、デートだとさ・・・」
電話の相手はサマンサに違いない、ダニーは言葉が見つからず、ただ黙って頷いた。
「よし、次だ」ボスはまたもや電話をかけ始めた。
「マーティンか、私だ。何してんだ?」
慌てたダニーは早く切れとジェスチャーするが、ボスはそっぽを向く。
「わかった、溺れるなよ。愛してるぞ、マーティン」
ボスが電話を切るとダニーは携帯を取り上げた。
「一体何を考えてるんですか!」
「うん?マーティンは今からジムで泳ぐって言ってたぞ。あいつは元気だな」
飄々と答えるボスを無視してベッドに戻った。
ダニーの携帯が鳴っている。マーティンからだ。
「ダニー、ボスの様子がヘンだったから電話に出ないほうがいいよ」
「そうか、ありがとう。オレも気をつけるわ」
ダニーはボスがいるのでヘタなことは言えない。
「あのさ、今夜のディナー一緒に食べない?」
「いや、オレはええわ。またな」
ダニーが寝ようとするとボスが横にくっついてきた。
「ちょっと気持ち悪いんやけど・・・」
「マーティンならパパって甘えてくれるのに・・」
「ほなマーティンに頼めばいいやん。オレはお断りや」
「・・・サマンサにな、新しい男ができたんだ。私はもうお払い箱だ・・・」
おっさん、お涙頂戴かよ・・・ダニー慰めるようにポンポンと肩をたたいた。
ボスは感極まったのか、ダニーに抱きついてきた。
うひゃー、引っつかんといてくれ・・・ダニーはひたすら耐えるよりなかった。
ダニーが目が覚めたのは昼過ぎだった。寝すぎやん。
熱いシャワーを浴びて、すっきりする。
アディダスに着替えてリビングに行くと、
アランがファイナンシャル・タイムズを読んでいた。
「やあ、眠り姫、お目覚めかい?」くくくっとアランが含み笑いをする。
「うん、ドクターの治療の後はよく眠れた」ダニーが恥ずかしそうに答えた。
「フレンチトーストを作ったけど、食べるかい?」「うん」
子供のようにダイニングに座るダニー。マグカップのコーヒーを受け取り、ミルクを入れた。
メイプルシロップのたっぷりかかったフレンチトーストが目の前に置かれる。
シナモンの香りも丁度いい。
「あぁ、ええ匂いや」
「君はちゃんと感想をいってくれるから嬉しいね」
アランが目を細めて見ている。
「今日は何をする?」
「俺、あまり家に帰ってないから、今日は、家事とかやりに帰るわ」
「そうか。確かに、最近は家にいる方が多いよなぁ。同棲を考えてくれてるかと思うほどだ」
「アラン・・それは前に話したやん」
「あぁ、でも僕はいつでもイエスだからね」
「うん・・また考えてみるわ」
ダニーはフレンチトーストを食べ終わると、スーツに着替えた。
「送っていくよ」「ありがとう」
ブルックリン・ブリッジを渡りながら、アランがダニーの太ももに手を乗せる。
「?」「何だか、急に寂しくなった」
「アラン、俺、ただ家に戻るだけやで。」ダニーのアパートに着いた。
「寄ってく?」ダニーが気を遣ってアランに尋ねる。
「甘やかさないでくれ。僕も家事でもやるさ」ボルボが帰って行った。
久しぶりの我が家だ。ダニーは、JAMIE CULLUMのCDをかけると、
洗濯物を手際よく仕分けして洗濯機を回し始め、
クリーニングに出すシャツとスーツをまとめた。
冷蔵庫をチェックし、買い物リストを作る。
いつもやっていた作業なのに、何故かしらたまらなく孤独を感じた。
ダニーは頭を左右に振ると、ランドリーを入れたバッグを持って、買い物に出た。
夜、ゴルゴンゾーラチーズのペンネをつつきながらシャルドネを飲んでいると、
インターフォンが鳴った。
「はい?」「僕だ、アラン」
「入ってくればいいのに」「いいかい?」「もちろん!」
アランが上がってきた。
「いらっしゃい!」
「ごめん。僕は弱いな」「まぁ入って」
持っている紙袋からいい香りがする。
「何買ってきてくれたん?」
「タンドリーチキンとジンファンデルだ」
アランはダイニングに座ると、しゅんとしている。
「アラン、何かあったん?」
「いや、特には何もないんだが、妙に寂しくてね」
「俺も、今日、めちゃ寂しかった。こんなんじゃFBI失格やな」苦笑をする。
「僕も精神科医失格だよ」
二人は、見つめあいながら、静かにペンネとチキンの晩餐を始めた。
ダニーがボスとピーター・ルーガーへ行くと、マーティンとスチュワートが食事をしていた。
二人のテーブルには四人分はあろうかというステーキが置かれている。
「あの・・ボス、今日は違うとこに行きましょうよ」
ダニーは二人に見つかる前に店を出たかったが、マーティンに気づかれてしまった。
ボスは嬉しそうに隣のテーブルに座り、ダニーも渋々従った。
「こんばんは、ドクター・バートン。この前は助かりましたよ。ありがとうございました」
「いえいえ、早々に回復されてよかったですね。食欲も出たみたいだし」
「ええ、まあ・・・。マーティン、プールはどうだった?」
「あ・・・久しぶりなので疲れました」
マーティンは今朝の電話を思い出し、慎重に言葉を選んで答えた。
ダニーが食べながらマーティンを見ると、眠いのか、しきりに目を擦っている。
「マーティン、眠そうだな。睡眠不足か?」
「い、いえ、違います!」
にやけたボスに尋ねられ、慌てて否定するマーティン。
いらんこと聞くなや、ダニーはテーブルの下でボスの足を蹴飛ばした。
ボスは意地悪な視線を返してくる。
「テイラー捜査官、[デセプション・ポイント]もうすぐ読み終わるぜ」
「そうなん?ゆっくりでええで、別に急いでへんから」
スチュワートと話していると、ボスが逆に足を蹴ってきた。
「あ痛っ!」向う脛を蹴られ、思わず声を上げる。
「どうしたんだ?」
「いや、ちょっと・・舌噛んだみたいや・・失礼」
ダニーは一旦席を外し、トイレに行った。
おっさん、何すんねん!オレは無理して付き合ってるのに!
ダニーは手を洗って気持ちを静めると席に戻った。
「ダニー、大丈夫?」
「ああ、ちょこっと噛んだだけや。えらい盛り上がってるなぁ、話題は何なん?」
「熱帯魚だよ。僕も飼おうかと思うんだ」
マーティンが嬉しそうに答えた。
「ボスんちみたいな大きいのじゃなくて、もう少し小さい水槽はどうかな?」
「ふうん、ええんちゃう」
オレはエサやりしいひんで・・・ダニーはミミズのことを考えゾッとした。
「マーティン、一度うちに見に来るといい」
「はい、それじゃ近いうちにお願いします」
ボスは頷きながらにっこりしたが、目つきが怪しい。
おっさん、きしょいわ!ダニーはまたもや足を蹴飛ばした。
マーティンとスチュワートはデザートにチョコファッジサンデーをオーダーした。
「それ、うまそうだな。私も食べよう。ダニーは?」
「いや、オレは結構っす」
そんなもん食べたら太るって!ジムで苦労したんがパーやん!
三人がデザートを食べるのを眺めながら欠伸をかみ殺す。
「あー、もうダメだ、これ以上入らない!」
スチュワートは半分でギブアップして苦笑している。
「君とマローン捜査官の食欲にはかなわないな。なぁ、テイラー捜査官?」
「ああ、二人ともフォアグラ隠し持ってるんや」
二人はくすくす笑いながら、がっつくマーティンとボスに目を見張った。
スチュワートがチェックを済ませようとすると、ボスが制した。
「ドクター・バートン、今夜は私にご馳走させてください」
「いや、でも、オレたちたくさん食べてるから・・・」
「往診していただいた御礼です。お気遣いなく」
「それではお言葉に甘えて・・・」
ボスは気前よく全員のチェックを済ませた。
「マローン捜査官、ごちそうさまでした。病気の際は何なりとお申し付けください」
「そうですな、もしもの時は頼みますよ。マーティン、今夜は早く寝ろよ」
ボスは眠そうなマーティンに声を掛けた。
「はい、おやすみなさい」
「ああ、おやすみ。ダニー、行くぞ」
「・・・はい。マーティンおやすみ・・・」
ダニーは未練がましくマーティンを見つめながらボスの車に向かって歩き出した。
「ダニー、このあと用事がないならスチュワートが一緒に来ないかって」
マーティンが走って呼びに来た。
「え・・オレに?」
「うん。本を渡したいんだってさ」
「ボス、何か用事あります?」
「いいや。けどマーティン、あの車には二人しか乗れないだろ?」
「あ・・・そうだ、ダニーは僕の膝の上でいいんじゃない?」
「道路交通法違反だ、バカ!」
ボスはマーティンを一瞥すると車に乗った。
「ボン、トロイにありがとうって言うといて」
ダニーはマーティンの手にそっと触れると車に乗った。
「あいつ、変わったヤツだな。お前を呼ぶとはどういう神経してんだ?」
ボスは、遠ざかるスチュワートをバックミラーで見ながら訝った。
「きっと乱交パーティーが好きなんすよ」
「何だと!我々も今から行くか?」
「あのねぇ・・冗談に決まってるやないですか!ほんまに変態なんやから・・」
あかんわ、冗談も通じひん・・・ダニーは大きくため息をつくと窓の外に目を凝らした。
ダニーは昼休みにオフィスを抜けて、クリニックを訪れた。
ミーティング・ルームでマーティンに会う。
「ダニー!元気?」マーティンは嬉しそうだった。
「それはこっちのセリフや。お前、退院時期ずらしたやろ?何で?」
ダニーが厳しい顔で詰問する。
「それは・・、まだ具合が悪いからだよ」
「ホロウェイのせいじゃないんか?」
「・・・」マーティンはだまりこくった。
「答えろや、ホロウェイに関係あるんやろ?」
「・・・だって、ニックは僕を必要としてるんだもん!」
マーティンは激昂した。
「マーティン・・・」
「ダニーに言われる筋合いはないよ!だって、だって、ダニーは僕を必要としてないじゃないか!」
周りの面会者たちが驚いて、ダニーとマーティンのテーブルを見ている。
「マーティン、落ち着けよ。俺かてお前が必要や」
「ウソだ!ダニーにはアランがいるから、もういいんでしょ。
僕なんか邪魔なだけなんだ。でもニックは違うんだよ。
僕を心から必要としてくれてる」
「お前・・・ホロウェイをどれだけ知ってる?
まだ知り合って1ヶ月かそこらやろ、そんなんで何が分かるんや?」
「ダニーとこれ以上話しても、どうにもならないよ。お見舞いありがとう!」
マーティンは立ち上がると、入院棟の出口へ去っていった。
夕食後、図書館で世界遺産の写真集をぼーっと眺めているマーティンの隣りに、ニックが座った。
「今日、ミーティング・ルームで大喧嘩したって?」
「えっ、早耳だね。」マーティンが顔を赤らめた。
「看護師たちが「あの温和なフィッツジェラルドさんがねー」って廊下で話してたぜ。
相手はテイラーか?」
「・・うん」
「何があったんだ?ああ?」
「僕の退院の事で言い合いになった」
「ふーん、あいつ、お前の何なんだよ?保護者か?」
「・・・僕にももう分からないよ。ニック」マーティンが俯く。
長いまつげが揺れていた。
ニックが写真集を持つマーティンの手に自分の手を重ねる。
「こんな綺麗なお姫様をこれほど嘆かせるとは、テイラーも罪な奴だな。
俺なら悲しませる事なんかしないぜ」
マーティンが顔を上げる。「本当?」
「ああ、俺、見たとおり、ちゃらんぽらんな奴かもしれないが、
お前の事は、だまっちゃいられないんだ」
ニックはえくぼを見せて笑うと、「また明日な」と言って、席を立った。
ダニーは仕事が終わっても、まっすぐ家に向かう気持ちになれず、
ブルー・バーに寄って、スパークリング・ワインを飲んでいた。
「ダニーは僕を必要としてないじゃないか!」
マーティンから言われた一言が心にグサっと突き刺さっている。
ぼんやりとシャンパングラスを眺めていると、携帯が震えた。
「寂しそうな顔!せっかくのイケメンが台無しだよ。ダニー」
「お前、ケンか!どこにいる?」「カウンターの一番奥」
顔を上げると、ケンが携帯を振り回していた。
ワイングラスを持って、ダニーの隣りにケンは腰掛けた。
「久しぶりやん、元気やったか?」
「うん、休暇で東京に戻ってたんだ。おととい帰ってきたんだよ」
「ダニーこそ、しけた顔してどうしたの?誰かとケンカでもした?
マーティン?アラン?」
「お前、そういう心理分析だけは見事やな。図星や」
「モテモテ男は辛いね!そんな時は、僕と遊ぼうよ」
「ほんま、自分のいいように話を持ってくな、お前」
「ふふふん。すみませーん、ここにヴーヴクリコ、ボトルお願いします」
ケンは言葉巧みにダニーの意識を悩み事から解放し、ボトルが2本終わる頃には、
二人ともジョーク合戦で大笑いしていた。
「これからどうする?」ケンがダニーを見上げた。
「僕ん家で、もっとジョーク合戦やろうよ」
「ああ、ええな、行こ、行こ」
ケンはニコっと笑うと、ダニーの腕を取り、タクシースタンドへ向かった。
850 :
fusianasan:2006/02/07(火) 02:18:52
書き手1さん
なんだかマーティンがないがしろにされていて悲しいです。
今日のマーティンの心の叫びが切なかったです。
ニックは本気でマーティンを愛してくれるのでしょうか?
書き手2さん
スチュワートとマーティンがしっくり来すぎてて、ダニーが脇役みたいで
可愛そうです。でも、スチュワートとマーティンのカップルも嫌いじゃ
ないんですが。ダニーももう少し幸せにしてあげてください。
ダニーはようやくボスから解放され、ソファにぐたーっと寝そべった。
明日は絶対に昼過ぎまでゆっくり寝たる!
大きな欠伸を連発しながら自分に誓う。
マーティン、何してるんやろ?今もトロイと一緒なんやなぁ・・・
ダニーは突然がばっと起き上がると携帯を取り出し、マーティンに電話した。
「あ、ダニー!今ね、リッツォーリで本買って帰るとこ」
「ええっと、帰るってトロイんちに?」
「うん、そう」
「なぁ、さっきのオファーはまだ有効か聞いてくれ」
マーティンがスチュワートに尋ねている。スチュワートの笑い声がした。
「ダニー、いいって」
「わかった、サンキュ」
ダニーは着替えを適当に詰め込み、車のキーをつかむと部屋を出た。
二人よりも先に着き、下で帰りを待っているとTVRが帰ってきた。
ダニーについて来いと手招きし、地下ガレージに車を停める。
「悪い、待たせたな。道が混んでてさ」
「いや、オレこそ急に押しかけてすまん」
「いいんだよ、ずっと独り占めしてちゃ君に悪いから。おい、マーティン起きろ!」
「ん・・・」マーティンが目を擦りながら降りてきた。
「何の本買ったん?」
「・・ファ〜ア・・・・熱帯魚」マーティンは寝ぼけまなこのままだ。
「さ、二人ともうがいと手洗いをしろ。念入りにな」
二人は言われたとおり、しっかり手を洗ってうがいをする。
「オレたち、ジムで風呂は済ませたんだ。君は?」
「オレはまだや」
「そっか、じゃバスルーム使えよ。タオルとか何でも使っていいから」
ダニーは礼を言うとバスルームへ行った。
バスローブのままリビングへ行くと、スチュワートが本を読んでいた。
「マーティンは?」
「寝ちゃったよ。泳ぎすぎて疲れたんだろう」
「・・・しゃあないな」
ダニーは着替えを取り出しかけて手を止めた。
「なぁ、オレ、帰ろか?」
「せっかく来たんだから泊まればいいじゃないか。君も眠そうだぜ?」
「そやな」
ダニーはパジャマとトランクスを取り出すと着替えた。
「あと6ページで読み終わるから、今日中に渡せる」
「あ、うん」
ダニーは手持ち無沙汰で本棚を適当に見回した。
スチュワートの著書や難しそうな医学書とハリー・ポッターが混在している。
こいつ、賢いんかアホなんかようわからんな。
ダニーはアルバムを見つけてこっそり手に取った。
スチュワートの家族の写真を見て首を傾げる。
「なぁトロイ、お前んち裕福そうやのになんで理事長の世話になってるん?」
「お前なぁ、勝手に見るなよ。一言ぐらい断れよな」
「あー、ごめん。見せてな」
「バカかよ!・・・裕福なのは兄貴が死ぬまで。あとは借金とオヤジの飲み代に消えたよ」
「お前のオヤジってこの真面目そうな商社マンみたいな人やのに?」
「ああ。仕事もせずに飲んだくれてポカしてクビになったんだ。
ローンやプリンストンの学費も残ってたし、オレの学費なんかあるもんか!」
ダニーは謝ろうとしたが何も言えず口をつぐんだ。
「その家もとっくに他人の手に渡ってる。わかったか?オレんちは裕福なんかじゃない」
淡々と説明するスチュワートだったが、傷つけたのは明白だった。
ダニーは自分の不用意な発言を悔いた。
ふとスチュワートを見ると、目の端が光っている。
やばい、泣かしたみたいや・・・ダニーは慌てて目を逸らした。
「これ、お前やろ?悪そうな顔してんなぁ」
ダニーは子供の頃の写真を指差してからかった。
「うるさい、そういうのはかわいいって言うんだ」
「どこがやねん?他人んちに火つけそうな人相や」
「おい、どうしてその話を知ってるんだよ?」
「うそっ!マジで?」
「そんなわけないだろ、バカ!もう寝るぞ!」
スチュワートはダニーの腕に二回パンチをすると立ち上がった。
マーティンはベッドの端でぐっすり眠っている。
二人は真ん中に寄せようとしたが、重くて動かない。
「おい、どうする?」
ダニーが困ったように見上げた。
「オレが真ん中だ。オレのベッドだからな」
「お前、こっちに抱きついてくんなよな」
「誰がするかよ!オレはマーティンを抱きしめて寝るんだからな」
スチュワートはニヤっとするとマーティンに覆いかぶさった。
ダニーはスチュワートの肩を引っ張った。
「何だよ?」
「今日はオレの番や。お前は昨日も一緒やったんやから」
ダニーは強引に間に割り込んだ。
腰の辺りに後ろから固いものが当たっている。
「おい、そのチンチン引っ付けるのやめてくれ」
「生理現象なんだから我慢しろよ。オレのはでかいだろ?」
スチュワートはわざと勃起したペニスを押し付けた。
「ちょっ・・トロイ、やめろや!」
「あれ、もしかして勃起したのかよ?いやらしいヤツ!」
ダニーはマーティンの背中に体をくっつけた。
今すぐ入れたくてたまらない。
サイドテーブルに置きっぱなしになっていたローションのボトルを取り、
マーティンのパジャマをずり下ろした。
マーティンのアナルと自分のペニスに塗り、そっと入り口にあてがう。
少しずつ動かしながら中に挿入した。
「ぁぁん・・」マーティンが身をよじった拍子に奥までぐっぽり入り、
ダニーは呻きながら腰を動かした。
「何?どうなってんのさ・・あぅっ!んふぅ・・」
マーティンが目を覚まして快感に喘いだ。
スチュワートもマーティンの口元にペニスを近づけた。
フェラチオさせながら乳首を弄ぶ。
ダニーは口いっぱいにペニスを咥えさせられている様子を見て興奮した。
両膝をつかんだまま下から突き上げる。
「あかん、もうイク・・んっ・・あっああー」
我慢することなく中に思いっきり射精した。
「すっげー早っ!お前なぁ、中出しかよ・・・」
スチュワートは嫌そうにしながら自分も挿入した。
ダニーはマーティンの口をキスで塞ぎながらペニスをしごいた。
「あぁっ気持ちいい・・・すごい締め付けだ・・マーティンいいぞ・・」
マーティンは限界が近いのか、苦しそうに喘いでいる。
「ダニィっ・・あぁん・・手つないで・・・うぅっっ・・あぁっ!・・」
ダニーはマーティンのペニスを咥え、精液を口で受け止めた。
スチュワートも激しく動くと中に出した。
三人は汗ばんだ体をシーツに投げ出した。
「うわっ!」
「どうしたん?」
「・・・ダニーとスチューの精液が逆流してきた」
マーティンが恥ずかしそうにうつむいた。
ダニーがそっとキスをする。
スチュワートは二人を残し、先に体を洗いに行った。
ダニーが気が付くと、ケンのベッドに横たわっていた。
トランクス一枚だ。頭がぐわんぐわんする。
あちゃー、またケンとやっちまったか、俺。
トイレに立つと、ケンがリビングで電話をしていた。
「あ、ダニーが起きてきた。うん、待ってるから。」
「ケン、俺さぁ・・・」
「未遂、未遂!!僕はしたかったんだけどさ、ダニーがアラン、アランってうるさいんだもん。
やる気なくなっちゃったよ。もうすぐ最愛の人が迎えに来るから、着替えた方がいいよ」
ケンはミネラルウォーターをダニーに渡した。
「え、お前、アランを呼んだんか?」
「仕方がないじゃん。」
スーツとシャツ、ネクタイを運んでくる。
「迷惑かけたな」
「まぁ、いいよ。これは貸しって事で。」
ダニーはスーツの上にコートを着込んで、アランを待った。
インターフォンが鳴る。アランだ。
「すまなかったね、ケン。ダニーは?」
「もう平気。落ち着いてるよ」
ケンがアランを通す。
「アラン・・」ダニーは穴があったら入りたかった。
「気分は大丈夫かい?」「うん」
「それじゃ帰ろう、ケン、ありがとう」
「いいって。また食事会に呼んでよね!」
ケンのアパートを出ると、アランが尋ねた。
「ケンとは何もなかったんだろうね」
「うん、バタンキューやった」
「まったく、この子は。相手がケンだから良かったんだぞ。
ヘンな奴につかまってみろ!」アランは呆れ顔でダニーを見た。
「自分の身ぐらい自分で守れる」
「正体無くなるまで飲んで何を言う!ま、とにかく無事で良かったよ。」
アランはエレベーターの中でダニーにディープキスした。
ドアマンにチップを渡して、アパート前に駐車したボルボに乗り込む。
「さぁ、ブルックリン行きかな?」
「うん、頼む。アラン、俺、すごく反省してる」ダニーは俯いて言った。
「当たり前だ。反省してもらわなくちゃ、困る」
「分かった。反省する」
ダニーのアパートに着くと、アランは駐車場に車を止めた。
「?」「家までしっかり送り届けないと」
アランの肩を借りて、12階まで上がる。鍵を出す手もおぼつかない。
「はいはい」
アランはパンツのポケットを探りながら、ダニーの睾丸をぎゅっと握った。
「痛て!」「お仕置きだ」
アランは部屋に入り、電気とエアコンをつけると、ダニーの服を脱がせた。
「寒い!」
「よし、キスマークなし、射精の痕跡もなし。今日のところはOKだ」
やっとパジャマを着せる。
「今、水を持ってくるからね。」
アランはコントレックスと胃薬を持ってきた。
「どうせ明日はアスピリンが必要になるだろうから、サイドテーブルに置いておくよ。おやすみ」
アランが去る音が聞こえる。
ダニーは、ベッドで丸くなった。
情けなくなり、声をひそめてしくしく泣いた。
>>850 さん
ニックが本心なのかはまだ分かりません。色々検討中です。
ダニーが地下鉄の駅まで歩いていると、クラクションが鳴った。
道路を見るとスチュワートが手を振っている。
「やあ、今帰りか?」
「ああ。マーティンやったらボスと帰ったで」
「そうか・・君は行かなかったのか?」
「オレは熱帯魚に興味ないもん。エサもきしょいし」
「みみずだっけ?乗れよ、送ってやる」
ダニーは迷ったものの、礼を言って車に乗った。
乗るなりウンパルンパの歌が流れているのに気づき、ダニーは苦笑した。
「これ、もしかして、チャーリーとチョコレート工場のサントラ?」
「そうさ、どうしても欲しくて買ったんだ。ここのところ、ずっとこればかり聞いてる」
「お前ってヘンやな。ちょっとおかしいのとちゃう?」
「オレを侮辱する気なら今すぐ降りてもらおう」
「侮辱はしてないけど、一歩手前ってとこやな」
「・・ったく、可愛げがないヤツ。マーティンは喜んだぜ?」
「あほか、あいつは幼稚やもん。そこがいいんやけど」
「オレもそう思う。かわいいよな」
二人は不適な笑みを浮かべて視線を交わした。
「デリで晩メシを買うんだけど、君は?」
「オレもなんか買うわ。今日は作りたくない気分や」
「それならどこかで食べないか?」
「ええよ。オレが出す」
「ん?どうしてだ?」
「お前にはフルートでの借りが二回あるからな」
「そうだっけ?まあいいや、それじゃすっげー高いところに行こうか」
「あほっ、やめろや!やっぱお前に出してもらう」
スチュワートはくすっと笑い、車線を変更した。
ソーホーの焼き鳥屋でダニーはレバーと砂肝を食べさせられ身震いした。
「何だよ、弱虫だな。体にいいんだぜ」
「いや、おいしいねんで。けど、食感がちょっとな・・」
「よし、次は軟骨とせせりだ。早く食えよ」
スチュワートは強引に勧め、ダニーは恐る恐る口にした。
「これ、骨やろ?あかんわ、堪えてくれ。オレ、ささみとつくねにして」
ダニーは軟骨をそっとペーパーナプキンに吐き出した。
スチュワートはダニーのためにねぎまも追加した。
「せせりってどこなん?」
「首だよ、そんなことばかり考えるからダメなんだ。
もう自分で好きなの頼め。ややこしくて面倒見切れない」
呆れたスチュワートは匙を投げた。
「マーティンって何でも食うやろ?」
「ああ、君も見習ったらどうだ?」
ダニーはねぎまを食べ、気に入って追加した。
「ほら見ろ、食べたらうまいだろ?食わず嫌いなんだよ」
「・・・そうやな」
素直に認めたダニーに、スチュワートは機嫌を直した。
「君が取り決めを守ってるんで、正直驚いてるんだ」
「そうか?当然やん、オレやねんもん」
「無理してるって顔に書いてあるぞ」
「うるさいな!これ、うまい」
ダニーはごまかすために焼きおにぎりをほおばった。
スチュワートは自分の焼きおにぎりを黙ってダニーの方へ寄せた。
結局、スチュワートがチェックを済ませ、アパートまで送ってくれた。
「トロイ、ごちそうさま」
「これぐらい大したことないさ。また三人でメシでも食おう」
「ああ、またな」
「おやすみ」
ダニーはしばらく見送っていたが、アパートへ入った。
マーティンはボスに熱帯魚を見せてもらい、いろいろと教わった。
メモをしまい、帰り支度をする。
「ボス、今日はありがとうございました。もう遅いので、今夜は失礼します」
「何だ、お前帰るのか・・・」
ボスが寂しそうにつぶやく。マーティンはしょげるボスがかわいそうになった。
「あのさ・・・僕、泊まろうか?」
「そうしろ、それがいい!」
ボスはマーティンのジャケットを脱がせ、いそいそとハンガーに掛ける。
あんなに喜んでるよ・・・マーティンは複雑な気持ちになった。
「アイス、食うか?」
「うん」
ボスはマーティンの手にハーゲンダッツのパイントを押し付けると
自分も食べ始めた。「チョコがいいなら換えてやるぞ?」
「いや、僕はバニラでいいよ」
「あとで風呂に入ろうな」マーティンは頷くよりなかった。
ダニーは瞼を腫らしながら、支局に出勤した。
サマンサがFBIマグを二つ持って近寄ってくる。
「ダニー、私ね、すごく迷惑かけちゃって・・・」
「俺はええけどアランには礼言っておき」
「そうよね、うん、分かった」サマンサは席に戻った。
ボスがオフィスから出てきて二人が会話しているのを見つめていた。
「ダニー、ちょっと来い」「はいはい」
「返事は一つでいい!」「はい、了解っす」
オフィスに入るとドアを閉めさせた。
「サムが昨日欠勤したのは、お前たちの金曜日が理由か?」
「そんなんないっす。サマンサ、風邪でもひきおったんじゃないんすか?
サマンサに直接聞けばいいのに」
「そうも言えないんだ。分かった、以上だ」
ボスもサマンサも強情っぱりな性格やなー。近寄らんとこ。
ダニーはサマンサが入れてくれたコーヒーを飲みながらPCを立ち上げた。
昼過ぎ、マーティンは図書館でニックを待っていた。
いつも来る時間なのに現われない。看護師に聞いて回る。
「ホロウェイさん、昨日からかなり苦しんでるから、ずっと個室だと思うわよ」
やっと年かさの看護師から状況を聞くことが出来た。
ニック、大丈夫かなー。
マーティンは消えかかった注射針の跡を見つめながら、ニックの個室がある奥の病棟へ目を向けた。
夕食の時、看護師についてニックの個室に入るマーティン。
ニックが布団をかぶって眠りについている。
「ニック、大丈夫?」その声にニックが布団から出て来る。
「マーティンか?今日は辛かったな。お前、ここにいてくれるか?」
看護師が「フィッツジェラルドさん、そうしてあげて」と言ってくれた。
ニックの手をぎゅっと握り締めるマーティン。
「ご飯食べないとだめだよ。来週は僕たち退院なんだから」「ああ」
マーティンは、パンを小さくちぎってコーンスープに浸した。
「あーんして」「あ?恥ずかしいな」
ニックははにかんで、布団の中に隠れた。
「ニック!僕、食べ終わるまで、どこにも行かないよ」
「分かったよ、お姫様。食べるとしよう」
脂汗を浮かべながら、ニックはパンに手を伸ばす。
「野菜もね」
「お前に食事指南を受けるとはなぁ。マーティンの方が偏食だろうが」
ニックはマーティンの前で、夕食を平らげた。
食後の服薬もきちんとこなす。
「良かった。今日、眠れるといいね」
「お姫様の夢でも見るさ。さぁスーパーボウル見るから、もう部屋に戻ってくれ」
「大丈夫?」「ああ、また明日な」
「おやすみ」「おやすみ、マーティン、愛してるよ」
マーティンは、ニックの愛しているという言葉を胸にとどめて、自分の個室に戻った。
893 :
fusianasan:2006/02/09(木) 12:18:19
ダニーは風呂から上がって携帯を見たが、着信履歴はなかった。
マーティンはまだ帰ってへんのかな?
気になったダニーは電話することにした。
「マーティン、まだ帰らへんの?」
「ん、実はさ、帰るに帰れなくなっちゃって・・・」
「何でや?」
「僕が帰るって言ったら寂しそうにしてるからさ、つい泊まろうかって言っちゃったんだ」
「あほやなぁ、お前。オレが迎えに行ったろか?」
「ううん、今夜は泊まるよ。今更帰るなんて言えないもん」
「なんかあったら夜中でも電話してこいよ。ええな?」
「うん、ありがとう。あっ、呼んでるみたい。じゃあ、おやすみ」
マーティンは電話を切ってしまった。
翌朝、ダニーはマーティンのワイシャツとネクタイを持って出勤した。
デスクでエスプレッソとシナモンベーグルを食べながら待つ。
「ダニー、おはよう」
マーティンがダニーを見つけ嬉しそうに寄ってきた。
「おはよう。なぁ、ヘンなことされたか?」
「ううん、全然」
「そうか、よかったな。シャツとネクタイ持ってきたで」
「わー、サンキュ!またサムにからかわれるから気にしてたんだ」
マーティンは紙袋を受け取るとトイレに着替えに行った。
ダニーはあとを追ってトイレに行った。
マーティンは身障者用のトイレで着替えている。
「ボスの様子はどうやった?」
「んー・・よくわかんないけど、前とは違う感じ」
ガサガサと紙袋の音がしてマーティンが出てきた。
「ちょっとじっとしとき」ダニーはネクタイを直してやった。
「ありがと。服も助かったよ、さすがダニーだね」
マーティンはダニーにさっとキスをした。
「あほっ、誰か来たらやばいやん!」
「嬉しいくせに!ダニーの顔、すっごくニヤけてるよ」
からかわれたダニーはデコピンでお返しした。
事件もなく一日が終わり、二人は帰りかけたが、ボスのオフィスに呼ばれてしまった。
「マーティン、今日もパパと帰るか?」
気持ち悪い猫撫で声でボスが問いかけた。
やっぱりパパって呼ばせてるんや・・・きっしょー!ダニーは軽く咳払いをした。
「いえ、今夜は家に帰ります」
「なんだ、ヨークビルの怪の続きが知りたくないのか?」
「知りたいけど、また今度ね」
二人は逃げるように足早にオフィスを出た。
「何や、ヨークビルの怪って?」
「僕をびびらせようとしてさ、怖い話ばっかするんだよ」
「それ、抱きついてほしいんちゃうか?」
「あー、そうかも。それがまた全然怖くないんだよね、子供騙しみたいなのばっか。
ソーセージ工場の工員が作業中に行方不明になって、自社製品になってたとかさ・・」
「・・・それ、怖くないやん」
ダニーはおかしくてくすくす笑った。
二人がホテル・チャンバースの近くを通りかかると、
正装したスチュワートがアン・ヒラードとエントランスから出てきた。
恐ろしく無表情なまま、恭しくエスコートし車のドアを開ける。
こちらには気づかないまま走り去った。
「ダニー、今のスチューだよね?」
マーティンは立ち止まって呆然としている。
「やっぱり女の人とも付き合ってるんだ・・・」
「ちゃうちゃう、あの女はあいつのクリニックの理事長やもん」
「本当?」
「ああ。あいつの失踪事件のときオレが聞き込みしたんや。
それに、あのおばはん、かなりの年やねんで。そんなんと寝るわけないやん」
ダニーはマーティンを傷つけたくなくてスチュワートを庇った。
「そっか、それにデートならあんな顔しないよね」
「うん。寒いから早よ帰ろう。ほら、あの当たりのおみくじあったやん、あれ使おか?」
「いいね、すっかり忘れてた。今夜はドラゴンアレイだ」
話題をすり替えるのに成功し、ほっと胸をなでおろす。
トロイに大きな貸しや、ダニーは無邪気なマーティンに無理して微笑んだ。
ダニーは焼きたてのバゲットとカポナータを買って、アランの家を訪れた。
「いらっしゃい!今日はお土産つきかい?」
いつもと変わらぬアランの応対が有難い。
「俺、お礼言ってなかったし」
「今日はお礼の日なのかな、サマンサからピーカンパイが届いたよ」
アランはパスタを茹でているような様子だった。
「今日は何なん?」
「手長海老のトマトソースのパスタだよ、いいかな」
「うん!俺、前菜を作るわ」
ダニーはコートとジャケットを脱いで、腕まくりするとキッチンに立った。
アランが後ろに立つ。ダニーの耳の後ろに唇を這わせ、汗を舐めとる。
「うぅん、アラン、俺、感じてまう」
「いいじゃないか」
「だめ!食事の後や!」
ダニーは振り切り、カポナータを薄切りバゲットに乗せ始めた。
アランは諦めて、ピノ・ノワールをダイニングに運ぶ。
ダニーの前菜とアランのメインが揃った。「いただきまーす!」
ダニーはお腹がすいているのか、珍しく、カポナータをがっついた。
「食欲旺盛だな。ハニー、もう深酒はやめろよ」
「言わんといて、俺、めっちゃ反省してるんやから」
「どうだかな」アランは目をキラと輝かせた。
「今日はそれを示してくれるかい?」
「うん?何するの?」
「後のお楽しみだ」
ダニーはなぜか首筋にゾクっとしたものを感じながら、ディナーを続けた。
食後酒のグラッパを二人で飲みながら、ダニーは落ち着かなかった。
「ハニー、どうした。僕が怖いかい?」
「うん。俺、悪い事したもん」
「じゃあ、シャワーブースにおいで」「はい」
まるでいたずらを怒られる子供のようだった。
「裸になりなさい」
「うん?痛い事すんの?」
「ふん、君が僕に心配をかけた程度かな」
ダニーが全裸になると、アランは腕に手錠をかけた。
シャワーヘッドを支える支柱に手錠を通す。
「今日は温水をかけてあげるよ。反省するんだな」
アランはそれだけ言うと、バスルームから去っていった。
ダニーは手錠をはずそうともがいたが、手首に傷がつくだけだった。
改めて思い知った。
アランを裏切ると、とんでもないお仕置きが待っているという事を。
ダニーはマーティンが寝た後、アパートを出てグラマシーへ向かった。
もう23時を過ぎている。早く帰りたかったが仕方がない。
スチュワートのアパートに着き、インターフォンを鳴らした。
「はい」
「あ、オレ・・テイラー」
開錠され、ダニーはアパートに入った。
16階まで上がると、パジャマ姿のスチュワートがドアを開けて待っていた。
「やあ、そろそろ寝ようと思ってさ」
「ああ、すぐ帰るから」
部屋に入ると、ダニーは言われる前にうがいと手洗いを済ませた。
「君もやっと学習したようだな」
スチュワートがソファに座ってにんまりしている。
新しいグラスを出すと、ダニーにもバーボンを勧めた。
「それで、今夜は何の用だ?またアリバイ作りか?」
「いいや、今日はオレよりお前のほうがやばいで」
「ん?言ってる意味がよくわからないな」
「お前、今日、理事長と出かけたやろ?」
「ああ、オペラさ。今夜はトゥーランドット、次回はトスカらしい。
あの婆さんはプッチーニがお好みでね・・」
自嘲気味に言うとバーボンを一気に呷った。
「わざわざそんなことを言いに来たのか?」
「お前がホテルからあのおばはんと出てくるの、マーティンも見てたんや」
「・・・・・・・」
「あいつ、ショックで道端に倒れよってなぁ、オレが介抱したんやで」
ダニーの言葉に、スチュワートは目を剥いて口をあんぐりした。
「マーティンは大丈夫なのか?オレ、行かなきゃ!」
慌てて立ち上がるスチュワートをダニーは制した。
「まあ待ち、今のは冗談や」
「お前なぁ、いい加減にしろよ!どこまでが本当なんだ、はっきり言え!」
「心配ない、見られたんはほんまやけど、オレがごまかしといた」
フーッと大きく息を吐くスチュワート。
「君がオレを助けるとはね・・・どうなってんだ?」
「あいつを悲しませとうない、それだけや」
「・・・・ありがとう」
「あいつに気づかれんようにな。トロいけど、あほやないから。
オレ、お前の携帯番号知らんから、わざわざここまで来たんや」
「面倒かけてすまなかったな。番号教えとくよ」
二人はお互いの携帯番号を交換して別れた。
ダニーがアパートに帰るとリビングに灯りがついていた。
マーティンがこてんぱんに傷ついたような顔で膝を抱えている。
「マーティン?・・そんな顔してどうしたん?それに寝てたやろ?」
「どこに行ってたの?」
「帰りに偶然トロイと会ってな、少し飲んで来た」
ダニーはフーッと息を吹きかけた。
マーティンは安心したのか、頭を肩にもたせかける。
「ダニーが帰った音で目が覚めたんだ。いつもなら泊まってくじゃない」
「・・ん」
「ごめんね、浮気してるんだって思っちゃって・・・僕はひどいことしてるのにさ・・」
マーティンは謝るとうつむいた。
「さあ、もう寝よう。歯、磨くで」
ダニーはほっぺにキスをすると大きな欠伸をした。
ベッドに入るとマーティンが抱きついてきた。
「ダニィ・・・」
ダニーはぎゅっと抱きしめ髪をくしゃっとする。
「あれ、ハゲのとこに毛が生えてきてる!」
「マジで?」
「うん、よかったな。まだちょぼちょぼやけど大丈夫や」
「あー、よかったー!」
マーティンは左耳に手をやるとにっこりした。
「明日はハゲからの復活記念パーティーしよか?」
「嫌だ!そんな言い方ひどいよ」
「これは失礼」
ふくれっ面のマーティンにディープキスをして舌を絡める。
んんっ・・・マーティンがダニーの背中に手を回した。
固くなったペニスが太ももに当たっている。
「スケベ!やっぱハゲはエロいってほんまやな」
「うるさいよ」
マーティンはダニーのパジャマを脱がせると、自分も脱ぎ
ペニスを擦り合わせながらキスをした。
浅黒い肌に舌を這わせ首筋にそっと噛みつく。
咽喉仏を舐めながらダニーの目を見つめた。
マーティンはローションのボトルを手に取った。
「ダニー、どっちがいい?」
「お前にまかせる」
マーティンは頷くとダニーのアナルにローションを垂らした。
ゆっくり挿入しながらキスをする。
ダニーの荒い息を飲み込むように何度もキスを交わした。
マーティンはダニーの両手を押さえつけたままゆっくり動く。
「んふぅ・・・んんっ・・ああっ!」
ダニーは焦らされて我慢できなくなった。
「もうイキたい・・マーティン、もっと早くして・・」
「ダメ、まだ早いよ」
マーティンはニヤリとすると動くのをやめてダニーの足の指をしゃぶり始めた。
ダニーは愛撫されてぞわぞわしながら身をよじらせる。
「マーティン!あほ、すかたん!」
「そんなこと言うならイカせてあげないよ?」
ペニスを抜きかけるマーティンに、ダニーは懇願した。
「嘘や、嘘!頼むから早く・・・」
マーティンは満足そうに片方の眉を上げている。
「そんなに僕が欲しいんだ?」
「ああ、頼むからイカせてくれ!」
マーティンはくすっと笑うとせわしなく腰を動かした。
動くたびにダニーのペニスがぴくぴくしている。
何度か突き上げると、ダニーは声を上げながら果てた。
マーティンは存分にアナルのひくつきを味わうと、そのまま中出しした。
「お前、なんか前よりエロくなってない?」
「そうかな?よくわかんない」
「絶対や。トロイ先生の影響ちゃうか?」
マーティンは黙って身を寄せた。
おなかの上にのせた手が行き場をなくしたように小刻みに動いている。
ダニーは、それ以上何も言わずに抱きしめると目を閉じた。
ダニーは目を覚ますとぐっすり眠るマーティンの頬にふれた。
先入観のせいか、いつになく悲しそうに見える。
ぷっくらしたほっぺを静かに撫でながらじっと見つめていた。
ピピピ、ピピピ・・・目覚まし時計が鳴り響き、慌てて止める。
「う〜ん・・・ダニィおはよ・・」
「おはよう、ええ夢見たか?」
ダニーはまぶたにそっとキスをした。
「うーんとね、忘れちゃったけど、あんまりいい夢じゃなかったみたい」
「ふうん、それやったら忘れてよかったやん」
マーティンはくすっと笑い、肩をすくめた。
「今日はエッサ・ベーグルで朝メシ買おか?」
「ん、いいけどさ、あの店なんか愛想が悪いんだよね」
「言えてる。まあいいやん、行く用意しよう」
二人は一緒にシャワーを浴び、着替えてアパートを出た。
エッサ・ベーグルで朝食を調達し、オフィスへ行く。
エレベーターで不機嫌そうなボスと一緒になった。
「ダニー、やっぱりお前の言うとおり婆さんだったよ。それも歯抜けのな」
ダニーは笑いをこらえて頷いた。
「もう行くこともあるまい・・」
ボスが自分のオフィスへ入ると、ダニーが忍び笑いを漏らした。
訝しげなマーティンに、食べながらピープショーのことを教え、二人はげらげら笑い続けた。
「お前たち、何を笑ってるんだ?」
ボスがミーティング用の資料を置きながら二人に声を掛けた。
「DVDの話っす」
ダニーが即座に答え、マーティンも頷いた。
ボスは疑わしそうに二人の顔を交互に見たが、資料に目を落とした。
帰り支度をしていると、サマンサが携帯で楽しそうに話していた。
「デートかな?」
マーティンが時折チラチラ見ながらささやいた。
「たぶんな。すごいかわいいしゃべり方してるなぁ」
ダニーは電話を切ったサマンサに、ニヤニヤしながら話しかけた。
「サム、順調みたいやな」
「まあねー。今日はスケートに行くのよ」
「セントラルパークか?」
「そう。手つなぐのが待ちきれない!」
サマンサははしゃぎながら帰っていった。
「ダニー、僕らも行きたいね」
マーティンが周囲を見回しながら話しかける。
「オレ、スケートは苦手なんや。寒いのも嫌やし」
「そっか・・・」
「行きたいんやったら付き合うで?ただし、手つなぐのはなしや」
「ん、ありがと。サムは手がつなげるからいいな」
「あほ、いつもつないでるやん」
ダニーは軽くマーティンの肩にパンチした。
ダニーはモンキーバーで知り合ったマリーというフランス人と談笑している。
「次はアブサン飲む?ランボーが崇拝してた頃のとは違うけど」
「チェルノブイリか、もらうわ」
ダニーはどぎつい緑色のカクテルを受け取ると、スチュワートのことが脳裏に浮かんだ。
この緑、あいつの目の色や・・・心なしかグラスを持つ指に力が入る。
マーティンは今夜スチュワートと出かけている。
アブサンを一口啜り、マリーの目をいたずらっぽく見つめた。
マリーも意味ありげな視線を返す。
「ねぇ、私の部屋に行かない?」
「ああ」
ダニーは誘われるままについて行った。
「フランスから来たのにエリゼーに泊まるやなんて変わってるなぁ」
「そう?ここのバスルームが好きなのよ」
「なるほど」
マリーはダニーを誘うと一緒にシャワーを浴びた。
大理石の壁に押しつけてキスを交わす。
二人はもつれ込むようにベッドに入った。
ダニーがマリーの中に押し入り、膣の感触を味わっていると
突然背後からがっしりと腰をつかまれ、アナルにペニスが入ってきた。
「うあっ!な、なんや!」
「心配しないで、夫のフィリップよ。どう、彼のお尻の穴は?」
「残念ながらバージンじゃない。よく使い込まれてるよ」
「あら残念。あなたはバイだったのね」
フィリップは容赦なく突き上げ、ダニーはあっけなく射精した。
「ダニーったら、私がまだイってないのに・・・」
マリーは薄笑いを浮かべた。
「お仕置きよ、抜かずにもう一度出してもらおうじゃない」
フィリップが前立腺を刺激するように動き、ダニーのペニスはまた勃起した。
「いいわ、固くなってきた。フィリップはどう?とっても上手でしょ?」
フィリップが動くたびにダニーもマリーも獣のような咆哮を上げる。
妻の絶頂が近いことに気づいたフィリップはガンガン腰を使い、
マリーがイクとダニーとフィリップもほとんど同時に果てた。
ダニーがぐったりとベッドに寝転ぶ横で、二人は続きを始めた。
マリーは誘うようにダニーを見つめている。
ダニーはのろのろと立ち上がり着替えて部屋を出た。
二度の射精のせいか、腰が重い。
タクシーに乗ると、シートにもたれかかって目を閉じた。
アパートに帰るとバスタブにジェルをたっぷりいれ、念入りに体を洗った。
ベルガモットの香りに包まれていると、ようやく家に帰ったという実感がわいてくる。
さっき体験したことが幻のように思えたが、
腰に薄っすらついた手形が夢ではないことを物語っていた。
マーティンのこてんぱんに傷ついた表情を思い出し、ダニーは心が痛んだ。
支局でエレベーターを待っているとマーティンが隣に並んだ。
「ね、無事に解決してよかったね」
「うん」
ダニーは相槌を打ったが、腰の手形が気になりドキドキしていた。
「乗らないの?」
マーティンの声に、ダニーは慌ててエレベーターに乗り込んだ。
「ねえ、今夜うちに寄らない?」
マーティンが覗き込んで尋ねる。
「ん、ええよ」
「見せたいものがあるんだ。楽しみにしてて」
ダニーは適当に頷いたが、心なしかぼんやりしている。
「ダニー、どうかした?」
「いいや、何でもない」ダニーは無理に微笑んだ。
マーティンの部屋に入ると目を閉じるように言われ、言われたとおりに目を閉じた。
「まだ見ちゃダメだよ・・・こっちこっち」
「なんや、一体?」
「はい、もういいよ。見て!」
ダニーが目を開くと、リビングに熱帯魚の水槽が置いてあった。
「わぁ!お前も買ったんか、綺麗やなぁ」
ダニーは水槽にくっつくと熱帯魚に見とれた。
「エサもさ、気持ち悪くないやつだから平気。ほら、ボトルに入ってるからね」
マーティンはダニーのために実演して見せた。
「はい、ダニーもやってみて」
嬉しそうにエサのボトルを差し出す。ダニーはパラパラとエサを水槽に撒いた。
「ね?さわらなくても大丈夫でしょ?」
ダニーはにっこりするマーティンをぎゅっと抱きしめた。
苦しくてもがくマーティンにキスをする。
「ダニー、ちょっ・・ねえっ苦しいよっ・・」
「あ、ごめん・・」
ダニーは体を離すともう一度キスをした。今夜は特にマーティンの無垢な心が羨ましかった。
ダニーはしばらくマーティンと水槽に見入っていたが、
腰の手形を見られるのを恐れて帰ることを告げた。
「ダニィ、泊まらないの?」
マーティンが不服そうにうつむく。
「ごめんな、今日は帰るわ」
ダニーはマーティンにキスをして帰ろうとしたが、マーティンが手を離さない。
「マーティン、わがまま言うな。今日は一人になりたいんや」
「じゃあさ、僕は違う部屋で寝るから。だめ?」
「オレらずっと一緒やろ、今日は辛抱しい」
マーティンはあきらめて渋々手を離した。
「また明日な。おやすみ」
ダニーはぎゅっと抱きしめるとアパートを出た。
空を見上げるとほとんど満月の月が出ていた。
何気にアパートのベランダを見ると、マーティンが身を乗り出すように自分を見ている。
あのあほ、この寒いのに薄着で外に出るやなんて!また風邪引くやん!
ダニーはもういちどマーティンのアパートに戻った。
マーティンはまだベランダにいた。キョロキョロとダニーを捜している。
ダニーはこっそり近づくと窓を閉めて、鍵をかけた。
驚いたマーティンが振り返る。「わぁ、ダニー!」
ダニーは窓ガラスにハァーっと息を吹きかけ、あほと書いた。
マーティンはケタケタ笑っていたが、開けてもらえないので泣きそうになっている。
ダニーはようやく鍵を開けて中へ入れてやった。
「あー、すっげー寒かった!」
マーティンはがたがた震えながらダニーに抱きついた。
「風邪引くやろ、このすかたん!」
ダニーは両手でほっぺにふれた。
「ひゃあ、冷たい!」体を擦りながら温め、首筋にキスをする。
「何言ってんのさ、ダニーが閉め出したくせに!」
「お前がいつまでもオレのこと見てるからや!」
「だって・・・」
「だってもくそもない、風邪引くやろ!」
ダニーはぴしゃっと言い、マーティンはしゅんとした。
「今日はオレの負けや・・しゃあない、泊まるわ」
「本当?」
マーティンは嬉しそうにしがみついてきた。
「ただし、別行動やからな。ほら、風呂入って来い」
「ん、わかった」
マーティンはバスタブに湯を張りに行き、ダニーはコートを掛けにいった。
こっそり確認したが、ほとんど手形は消えている。
これならごまかせる!ふーっと息を吐き、安堵しながらリビングへ戻った。
マーティンはお湯がたまるまでの間、歯を磨いている。
ダニーが見に行くと慌ててデンタルフロスを隠した。
「マーティン、それ使う時のお前ってかわいいな」
「バカ!恥ずかしいから見ないでよ」
マーティンは耳まで赤くなっている。ダニーはデコピンすると自分も歯を磨き始めた。
ダニーは真夜中にトイレに起き、また水槽に見とれていた。
暗闇に浮かぶ水槽は幻想的で、心が穏やかに癒される。
ボスのこときしょいって思てたけど、魚ちゃんって可愛がる気持ちがわかったわ。
ダニーはうっとりしながら珊瑚やちまちまと泳ぐ魚に目を凝らした。
ふと見ると下からの泡にもまれるように回転している魚がいる。
ん?コイツだけ何でやろ?・・・・あちゃー、死んでる!
どうしよう?こんなん見たらあいつが悲しむわ・・・・
ダニーは気持ち悪さに手が震えながらも、水草用のピンセットでつまみ、トイレに流した。
朝起きるとマーティンがわーわー騒いでいた。
「おはよう、どうしたん?」
「一匹いなくなってるんだよ。もしかして共食いしたのかな?」
数の確認なんかするなよ・・・ダニーは頬の内側を噛んで笑いを堪えた。
「実はな、夜中に死んでるの見つけたからほかしたんや」
「えっ!」
マーティンはショックで固まってしまった。ダニーはよしよしと抱き寄せる。
「ボスに聞いてみ、なんか教えてくれるやろ」
マーティンはこくんと頷き、そっと目を擦った。
ダニーが帰り支度をしていると、携帯が鳴った。
見たこともない番号に警戒しながら出る。
「ダニー?この前はどうも。明後日発つんだけど、もう一度会えない?」
マリーの訛りがかった声が響く。
「いえ、申し訳ありませんがそのようなことはできかねます」
「そう・・・もしも気が変わったら来てね、エリゼーにいるから」
ダニーはもう一度断ると電話を切った。
後ろでマーティンが身を固くしている気配がする。
赤毛にはご用心や・・・ダニーは素早く着信履歴を消した。
そのまま何事もなかったように帰り支度を続ける。
サマンサとヴィヴィアンが帰ると、マーティンが寄ってきた。
「ねえ、さっきの誰?」
「情報提供者やけど、法外な金額請求してきよってな、断っただけや」
「そっか」
マーティンは納得したのか、神妙な顔で頷いた。
「さあ、オレらも帰ろう」
ダニーはマーティンと一緒にオフィスを出た。
マーティンの携帯が鳴っている。
ちょっとごめんと言いながら、マーティンは電話に出た。
「はい、ダニー?ん、そばにいるよ」
自分の名前が聞こえ、ダニーは振り返った。
「待って、聞いてみるから・・・ダニー、スチューが雪合戦しないかって」
「はぁ?もう暗いやん」
「屋上でやろうって言ってるよ、どうする?」
「よっしゃ、やろう!」
トロイなんかに負けてられへん!ダニーは口の端を上げてニヤリとした。
グラマシーのアパートへ行くと、嬉しそうに着込んだスチュワートが二人を出迎えた。
「やあ、よく来たな。早く着替えろよ」
ダニーはマーティンの服とスチュワートの服を借り、ちぐはぐな格好に憮然とした。
「なぁ、もうちょっとマシなんない?オレ、かっこ悪い・・・」
「いいじゃないか、誰も見てないさ。・・・お前、なんか孤児院の子供みたいだな」
「だから嫌や言うてるんや」
ダニーはマーティンのニットキャップを取り上げた。
スチュワートは自分のニットキャップをマーティンにかぶせた。
「いいよ、僕は」
「いいんだ、オレのを使え」
スチュワートはマフラーを頭にグルグル巻きにしてにっこりした。
「ほらな、オレはかっこいいから何でも似合う」
「・・ありがと」
マーティンはせっかくなので借りることにした。
「さあ、やろうぜ!」
スチュワートは先頭を切って屋上へ出た。
あいつ、やっぱヘンやで。子供みたいや・・・
ダニーは寒さに震えながら屋上に出た。はしゃぐ二人に苦笑する。
二人はもう雪球を丸め始めている。
「早く来いよ、テイラー捜査官」
いきなりぶつけられ、ダニーも雪球を丸めると参戦した。
雪合戦に熱中した三人は汗だくになった。
ダニーとスチュワートが本気でぶつけ合っている間、
マーティンはせっせと雪だるまを作っている。
いつの間にか二人が手伝い、大きな雪だるまが出来上がった。
「ふー・・そろそろ入ろうか?」
三人は服についた雪をはたくと部屋に戻った。
順番にシャワーを浴び、三人はデリバリーのピザにがっついた。
動きまくったせいか、全員おなかがペコペコだ。
「お前、今日はよく食うな。レベル・マーティンか?」
スチュワートがダニーをからかう。
「そうか?めっちゃ腹へってるせいかな」
「ねー、レベル・マーティンって何さ?」
「よう食うってことやろ」
「そうそう、君は食欲ではレベル4に値するからな」
「ちぇっ、僕はエボラウイルスかよ!」
ふくれるマーティンに二人はげらげら笑った。
食事が終わると、スチュワートはダニーに新しい歯ブラシをくれた。
「この前のお返しだ。ピンクにしようかと思ったんだが、フェアじゃないよな」
「いいや、オレは別にピンクでもかまへん」
ダニーは青い歯ブラシを受け取ると礼を言った。
「じゃあ、次のはピンクにするよ。おまけに柄も入れようか」
にやけたスチュワートに拳を差し出され、強めにコツンと合わせる。
ダニーは歯を磨きながら自分が楽しんでいることに気づいた。
今はスチュワートのことは嫌いではない。
チャラチャラした見かけと違って中身はいいヤツだと思う。
認めたくなかったが、居心地のよさを感じていた。
マーティンを真ん中に三人はベッドに入り、
灯りを消すとスチュワートは怖い話を語りだした。
研修した病院の地下室にまつわる実話だと言う。
信憑性のせいか、ボスの話とは比べ物にならないほど怖ろしい。
びびったダニーはマーティンの横にぴったりくっついた。
マーティンも怖いらしくダニーの手を握り締めている。
ダニーの腕にひんやりしたものが触れ、思わずひゃあっ!と声を上げた。
「どうしたのさ?」
「今、なんか冷たいもんがオレの腕に・・・」
「冷たいもんなんてあるわけないだろ、バカだな」
スチュワートはくくっと忍び笑いを漏らした。
「あー、わかった!スチューの手だよ、いっつも冷たいんだから!」
正体をばらされたスチュワートは大笑いしている。
ダニーはスチュワートを羽交い絞めにすると脇の下をくすぐった。
暴れる体を抑えつけ、徹底的にくすぐる。
「うわー、オレが悪かったよ・・・やめろって・・あー」
ダニーは容赦なくくすぐるとようやく体を解放した。
「ボケが!今度したら小便ちびるまでやるからな!」
「バーカ、誰がちびるかよ!なぁ、マーティン?」
問いかけられたものの、マーティンは黙っている。
「おいおい、ちびったのかよ?ったく、お前らマジで子供だな」
「いや、お前もかなりやばいで。
むしろお前のほうが怪しいもんや、オレらより年上やねんから」
ダニーはマーティンにもたれかかりながら断言した。
976 :
fusianasan:2006/02/16(木) 02:47:01
ダニーとマーティンとスチュワートが幸せな三角関係になっていて
驚いています。マーティンが素直に二人の感情を吸収しているせい?
それよりダニーとスチュワートの仲が急接近しているようで気になります。
これからも頑張ってください。応援しています。
>>976 ご感想ありがとうございます。
三角関係の行方はどうなるのか、自分でもまだわかりません。
応援していただき、感謝しています。
次スレに移動しましたので、また読んでいただけると幸いです。