【Without a Trace】ダニーテイラー萌え【小説】Vol.3
NHK-BS2で放送された海外ドラマ「FBI失踪者を追え」
ダウンタウン出身ダニー・テイラーを元にしたエロネタ小説の
スレ
現在、書き手1と書き手2にて創作中。
新しい書き手の参加も大歓迎です。
ダニー・テイラー役、Enrique Murciano HP
http://www.imdb.com/name/nm0006663/ [約束]
・荒らしと叩きは相手にしないようにしてください
・アンチを見つけてもスルーしてください
・このドラマの他の関連板に感想などを書くのは控えてくださ
い
ダニーとニッキーはお互いに譲らないまま膠着状態になっている。
「ニッキー、今日は帰ってくれない?僕たち忙しいんだ」
「どうして!ダニーはよくて私はダメなの?」
「勝手に来られても僕にも都合があるんだよ」
「マーティン行こう」ダニーはニッキーを無視している。
「待ってよ、私たちまだ話してるのよ!ダニーだけ先に行けば!」
「ねぇ、こんなところでケンカはよそうよ。みっともないよ」
「ケンカなんかしてへん。相手にもしてないねんから!」
「ダニー・・・。ちょっと先に上がってて」
マーティンはフェラチオの件がばれないよう、引き離しに懸命だった。
5 :
書き手2:2005/10/20(木) 22:41:53
「早くな。生ものが腐ってしまう」ダニーは言い捨てると、アパートのエントランスで待っていた。
「ニッキー、頼むから帰ってよ。僕たちは付き合ってるわけじゃないんだから」
「だって電話もくれないじゃん・・・」ニッキーは拗ねて言った。
「昨日の今日でどうしろって言うのさ?さっきまで寝てたんだよ」
「エッチなジュース飲ませたくせに」マーティンは耳まで赤くなった。
「君が勝手にその、僕のを・・・」しどろもどろになるマーティン。
6 :
書き手2:2005/10/20(木) 22:42:50
「じゃあ明日デートして!でなきゃ帰らない!」
「明日・・・明日はダメだよ。月曜日は忙しいから」
「じゃあ帰らない!」「わかったよ、それじゃ明日の19時に迎えに行くよ」
「約束ね♪あのさ、ちょっと耳貸して」「ん、なあに?」
ニッキーはマーティンの首に手を回すとキスした。
「ちょ・・・」ニッキーはにっこり笑うと手を振りながら帰っていった。
7 :
書き手2:2005/10/20(木) 22:43:36
後ろを向くのが怖い・・・。ダニー、怒ってるだろうな・・・。
マーティンがアパートに入ると、ふてくされたダニーが待っていた。
「ダニー、早く上がろうよ」「はいはい」投げやりな返事が返って来た。
「サラダ作ろうね」「ん」ダニーは先に立つと足早に部屋に入った。
8 :
書き手2:2005/10/20(木) 22:44:19
「ねぇ、怒ってるの?」「別に」「じゃあどうしてそんなに素っ気ないのさ?」
「ニッキーとキスしてたやん」「僕からしたんじゃないよ、見てたならわかるよね?」
「いいや、首傾げてたやん」ゾクッとするほど冷たいダニーの視線・・・。
「違うよっ、耳を貸せって言われたんだ。僕からなんてそんな・・・」
「まあええやん。今日は帰るわ」「えっ、だってサラダは?」
「食べる気が失せた」ダニーはそのまま帰ってしまった。
9 :
書き手2:2005/10/20(木) 22:44:59
一人残されたマーティンは呆然と立ち尽くしていた。
僕は何もしていないのに・・・悔しくて情けなくて涙が溢れた。
どうしてダニーはあんなに怒るんだろう、僕には理解できない!
マーティンは孤独だった。こんな時に相談できる相手もいない・・・。
結局、お目付け役のボスしか頼れる人がいないのが哀しい。
マーティンは泣きながらボスに電話した。
10 :
書き手2:2005/10/20(木) 22:45:36
「何だ、マーティン」寝起きの声でボスが出た。
「くっ・・っ・・ボス・・・」「泣いてるのか?どうしたんだ?」
「っ・・っ・・」「言わなきゃわからん・・あー面倒くさい、待ってろ!」
埒が明かないため、ボスはアパートに行くことにした。
着替えながらどっちのアパートか迷い、自宅に電話するとマーティンが出た。
「ややこしい、行き先ぐらい伝えろ!」ボスは怒りながら家を出た。
11 :
書き手2:2005/10/20(木) 22:46:15
アッパーイーストに着くと、マーティンが放心状態で座っていた。
「何があった?」「ダニーが・・僕と・・ニッキーのことで誤解してる」
「ニッキー?あのガキはダニーと付き合ってるんだろう?」
「もう別れてる・・・ダニーに僕が好きだって言ったんだ・・・」
「それでダニーが嫉妬か!あいつも子供っぽいなぁ」ボスは呆れた。
「今日ニッキーが来て僕にキスしたんだ、それを僕からしたって・・・」
マーティンはここまで話すとしゃっくりあげた。ポロポロと大粒の涙が頬を伝う。
12 :
書き手2:2005/10/20(木) 22:46:58
「キス?」「耳を貸せって言うから屈んだだけなのに・・・」
「あのガキ!やっぱりなかなかのタマだな。いくつだ?」
「19」「19!そんなガキに手玉に取られるとは・・・」
「マーティン、ダニーはな、お前にニッキーを取られて悔しいんだ。
だからお前に辛く当たる。そんなヤツ、もういいじゃないか。他を探せ」
ボスは畳み掛けた。「お前と付き合ってるのに他の女と寝るような男だぞ?」
「でも、僕は・・・」マーティンはダニーを思い泣いた。
13 :
書き手2:2005/10/20(木) 22:47:38
「わかった、わかった。もうニッキーには会うな」
「明日デートの約束させられてる・・・」「バカだな、そんなもん断れ!」
「僕、ニッキーにフェラチオされて・・」「何だと!」
「昨日寝ている間にやられてて、もしもダニーに言われると困るよ・・彼女、僕と寝る気だし・・」
「ハァー・・・どこまでぼんやりしてるんだ、お前は!」「ごめんなさい」
「謝ってどうする?嫌なら突っぱねろ!」「いつもあの子のペースになっちゃってて」
「お前、本当は好きなんじゃないのか?」「友達ならいいんだけど・・・」
「ほら見ろ、手放したくない気持ちが躊躇させてるんだ!」
マーティンは不甲斐無い自分が情けなかった。
14 :
書き手2:2005/10/20(木) 22:48:16
「出かけるぞ」ボスは無理やりマーティンを連れ出した。
途中でドラッグストアに立ち寄り、何かを買うと
ブロンクスのヤンキー・スタジアムの裏通りに停車した。
「ボス、こんなとこで何するの?」
「左から三番目のヤツなんてどうだ?」「え?どうって?」
「あいつらは男娼だ。お前の好みはヒスパニックか?」
「買春しろって言ってるの?そんなことできないよ・・・」
「ダニーは女を買ってるんだぞ。お前も好きに遊べばいい!」
15 :
書き手2:2005/10/20(木) 22:48:54
「ほら、コンドーム。しっかり予防しろよ。HIVに感染したら大変だからな」
ボスはマーティンの手にコンドームのパッケージを押し付けた。
「できないよ、そんなこと・・・」「代わりに呼んで来てやろうか?」
「そんなのいいよ、買うぐらいなら自分で探すから」マーティンは断固拒否した。
「わかったわかった、買う気になったらいつでも言え。一人では行くなよ。
お前に何かあったら私の首が飛ぶんだからな!」
「うん、わかった」マーティンは並んだ男娼を見つめながら返事した。
16 :
書き手2:2005/10/20(木) 22:49:33
マーティンはアパートに戻るとスーツやワイシャツ、ネクタイなどを
詰められるだけスーツケースに詰めた。
「マーティン、何やってるんだ?」「当分ここには帰らない!」
「おい、いっそのことブルックリンに引っ越したらどうだ?」
「僕はそうしたいけど、父さんがうるさいでしょ」「ああヴィクターか・・・」
「ブルックリンの部屋、結構キレイになったんだよ。最近行ってないんだけど」
「そうか、よかったな」ボスは荷造りを手伝った。
スーツケースとゼイバースの買い物袋を抱え、二人はブルックリンに向かった。
17 :
書き手2:2005/10/20(木) 22:50:12
マーティンはボスに礼を言うと、スーツケースを自分の部屋に運び、
ゼイバースの袋を抱えてダニーの部屋に行った。
部屋は真っ暗でダニーはいなかった。
やっぱりね・・・マーティンは一人で酒盛りを始めた。
ダニーは好き勝手してるのに、僕だけ怒るなんて理不尽だ!!!
大音量でオースティンパワーズを見ながらテキーラを煽った。
いつもなら笑えるのに、今日は何一つおかしくない。
ダニーが深夜に帰った時にはヘベレケで、ベランダで歌を歌っていた。
18 :
書き手2:2005/10/20(木) 22:50:53
「なーんだ、ダニーかぁ・・・興醒め〜」「真夜中に何やってるんや!」
ダニーはマーティンを部屋に連れ戻し、窓を閉めた。
「もう帰るよ、じゃあね」マーティンはよろよろと歩き出した。
「待てや、そんなんで帰られへんやん」ダニーが後を追うとエレベーターに乗るところだった。
ダニーも閉まりかけのエレベーターに慌てて駆け込む。
マーティンは11のボタンを押し、止まるなりすたすたと1103の鍵を開けた。
「えぇーっ!」ダニーは急いで中に入った。
「何やこれは!!」ダニーは驚いて言葉もなかった。
19 :
書き手2:2005/10/20(木) 22:51:29
「オレの部屋の真下にコイツが?何で?」ダニーはわけが分からない。
マーティンはベッドで眠っている。揺さぶっても起きる気配すらない。
ダニーはリビングでカビの生えた寝袋を見つけた。
「これ・・・あっ、やっぱり水漏れしてたんや。あのメモ、あいつのや!」
他の部屋も見て回ると、キッチンにはたまったゴミ袋が占領していたし、
スカッシュコートも作ってあった。ベッド以外に家具もない。
「あのあほ、何やってんねん!ストーカーか!」
ダニーは起こそうとしたものの、ぐちゃぐちゃの布団カバーを見て考え直し、
見なかったことにして自分の部屋へ戻った。
マーティンは二日酔いの頭痛と共に目が覚めた。見慣れない部屋。
昨日は・・・そうだ、ダニーと喧嘩してジェイムズのところに来たんだった。
リビングへ続くドアが開き、ジェイムズが顔を出した。
「起きたね。シャワー浴びるだろう。」「はい。」「ゲストルームのをどうぞ。」
「ありがとう。ジェイムズ。」「じゃ、リビングにいるからね。」「うん。」
ゲストバスルームはメインより狭いものの、調度
品が黄色に統一されていて豪華だった。「何で黄色なんだろう?」
21 :
書き手1:2005/10/21(金) 01:13:26
マーティンがシャワーから出ると、バスローブとタオルがおいてあった。今何時だろう?「ジェイムズ、今何時です?」「6時半だよ。
通勤には十分時間があるだろう?」料理人のウォンが中華粥を用意
していた。「二日酔いの翌朝は中華粥に限るよ。胃に優しいからね。」
薬味は見たことのないものが並んでいた。ザーサイ、韓国のり、
パクチー、牛のセンマイの煮込み、ピータン・・・「マンダリン・
オリエンタルレシピーだそうだ。」とりあえず、全部入れてみる。
22 :
書き手1:2005/10/21(金) 01:14:38
「わぁ〜、クリーミーで美味しい!」「君と食事するとこっちまでうれしくなるね。」
「そう?」「何でも物怖じしないで食べるから。」
マーティンは食い意地が張ってるようで恥ずかしくなった。
「昨日は急に押しかけちゃってごめんなさい。」
「いや、ちょうど香港から戻ったばかりで英語に飢えてたからね。」
そういえば、ウォンとしゃべる時はジェイムズは流暢な広東語をしゃべっていた。
23 :
書き手1:2005/10/21(金) 01:16:08
「それなら、いいんだけど。」
「ゲストルームはたいてい開いているから、また気分転換したいなら連絡を待ってるよ。」
「ありがとう。香港にはよく行くの?」「月に一度かな。あとインド、パキスタン、ドバイ
このあたりが多いなぁ。」「いいなぁ。僕、香港にも行ったことがない。」「今度、休みが取れたら一緒に行こうよ。」「え?」
「2泊3日でも結構楽しい街だよ。」「ありがとう。」「約束だよ。」
「はい!ご馳走さまでした。そろそろ部屋に戻って着替えします。」
「そうだね。また。」「また、ジェイムズ、サンクス。」
24 :
書き手1:2005/10/21(金) 01:16:58
3ブロックの距離は15分程度の散歩にちょうど良かった。
「それにしてもお粥、美味しかったなあ。」マーティンは昨日、
ダニーと言い合いになったことをすっかり忘れて、着替え、支局に
向かった。先にダニーがオフィスに着いていた。他に誰もいない。
25 :
書き手1:2005/10/21(金) 01:18:09
「マーティン、もう俺の治療方針に口ださんとだまっててくれへん?」
まだ怒ってる。それだけの事言っちゃったんだ。
「うん、ごめん。出すぎた事しちゃった。反省してる。」
「あくまでも、俺とアランの間の事やねんからな。理解して欲しいわ。」
俺とアランの間の事・・・その言葉だけが頭の中に鳴り響いた。
やっぱり、僕って今のダニーには役立たずの人間なんだ。
26 :
書き手1:2005/10/21(金) 01:19:55
「今日はブルックリンには戻らないの?」「カウンセリングの日やからな。」「そう・・」
マーティンの頭の中にはアランの白い裸体とダニーの浅黒い裸体がからみあってる姿が浮かんでいた。
だめだ!こんなんじゃ仕事にならない!「ちょっと、コーヒー買ってくる。」
外のさわやかな空気を吸いながら、近くのスタバに寄ると、サマンサがカフェラテを買っていた。
「マーティンおはよう!何だか顔色青いよ。」「風邪ひいたかな。」
「お大事に、じゃあ先行くね。」
27 :
書き手1:2005/10/21(金) 01:20:47
サマンサは強いなぁ。ボスとの仲はどうなってるんだろう。
そんな事より僕はダニーと修復しなければ・・・明日あたり、食事に誘おうか。
そんな事を考えていて、後ろの人にどつかれた。
「あ、キャラメルマキアートのトールください!」今日はついてないや。
マーティンはダニーを夕食に招待した。もちろんデリで買ったものばかりだが、
お皿に一つ一つ、一生懸命盛り付ける姿にダニーは感動した。
「お前も やれば出来るやん。」「当たり前だよ。僕だって一人暮らししてるんだから。」
「はいはい。」ミラービールで乾杯する。「まだ怒ってる?」「アランの事か?」「うん。」
「怒ってないといえば、嘘に なるけど、お前なりに考えたことだと思い直して、
許すことにしたわ。」「ありがとう!」マーティンは瞳に涙を溜めていた。
「おい、こんなことで泣くなよ。」「だって・・・」
「とにかく、治療の事は お前が考える必要ないんやから、余計な悩みを抱えない事な。」
「うん。分かった。」「お前、ボンのくせに苦労性やな。」「そうかな。」
「だんだん分かってきたで。お前は自分から苦労や問題をしょいこむタイプや。」
「そんなことないよ。」「そうか?親父さんとの関係とか見るとそう見えるで。」
マーティンは話題はともあれ、ダニーと打ち溶けて話せる事が嬉しくてたまらなかった。
30 :
書き手1:2005/10/21(金) 22:23:17
「今日、泊まってく?」何気なく尋ねるマーティンの問いに、ダニーは固まった。
「いや、帰る。」どうしても過剰反応してしまうダニー。
「僕は構わないよ、ダニー。」「いや、そういうんやのうて、とにかく帰るわ。」
そそくさと帰り支度をするダニーにマーティンは驚いた。
「じゃあ、また明日な。今日はご馳走さん。」「ダニー・・・」
マーティンは自分の何が悪かったのか分からずにいた。
ボンといると、セックスの思い出が多すぎて、どうしても想像してしまうのだ。
ダニーは自分の心の傷の深さをあらためて感じていた。
31 :
書き手1:2005/10/21(金) 22:25:10
翌日、ダニーは仕事を終えるとブルックリンに一度戻り、着替えを持って
アランのアパートに出向いた。合鍵でアランの部屋まで上がっていく。
ドアを開けるとリビングにアランの姿はなかった。まだカウンセリング中なのかな。
するとカウンセリングルームとリビングの間のドアが開き、
ブルーネットの魅力的な女性が入ってきた。
32 :
書き手1:2005/10/21(金) 22:27:10
「よぅ、ダニー、おかえり。紹介しよう。イヴ・アンダーソンさんだ。同業者だよ。」
ダニーが忘れるはずがない。アランにパーム・スプリングスで部屋番号を渡した女。
「初めまして。ダニー。想像以上にハンサムだわ。」仕方なく握手をかわすダニー。
「イヴがたまたまNYに来たんで、連絡をくれたんだ。君の症例にも詳しいから。」
「私、サンディエゴでDV被害者のカウンセラーをやってるの。貴方の症例を少し聞かせてもらったわ。」
「はぁ。」
33 :
書き手1:2005/10/21(金) 22:28:54
「心配しないで。アラン・ショアのような名医が傍らにいるんですから、
絶対に治るわよ。じゃあ、アラン、またね。」
「ありがとう、イヴ。助かったよ。」二人が軽くキスを交わす。
「ダニー、お会い出来てうれしかったわ。」「はい、俺も。」イヴを送るアランの後姿。
ダニーはすでに気分を害して、アランに殴りかかろうと身構えた。
34 :
書き手1:2005/10/21(金) 22:30:40
アランが振り向くとファイティングポーズのダニーがいる。
「なんだい?僕が浮気をしてたとでも言いたいのかい?」「違うん?」
「バカだな、ダニー。専門家同士の真剣なディベートだ。2時間みっちりね。」
「そうなん?俺・・アランを失うかと思うて、心臓がバクバクしてる。」
35 :
書き手1:2005/10/21(金) 22:31:52
「可愛い子だ。さぁ、今日は何を食べようか。買い置きがないから外食でいいかい?」
「うん。」「じゃあ、トラットリア・ポモドーロにしよう。」アラン行き着けのイタリアンだ。
「秋だからな。ポルチーニ茸のサラダとゴルゴンゾーラのリゾット。ダニーは?」
「白身魚のカルパッチョとペンネアマトリチャーナ。取り分けますんで、取り皿下さい。」
「それとワインリストを。」アランは魚に合うようにソアヴェ・クラシコを頼んだ。
36 :
書き手1:2005/10/21(金) 22:33:31
「さっきは焦ったかい?」「うん、またアランの浮気の虫がうずいたかと思った。」
「だから君と会ってからそんな事はないんだよ。トムやギルに随分聞いたそうじゃないか。
奴らも適当な事を言うからね。」「ふうん。でも綺麗な人やったね。」
「新進気鋭の精神科医だよ。地域のボランティア活動にも積極的でね。
NYの精神科医は金の亡者だと弾劾されたよ。」快活に笑うアラン。
いつものアランだった。ダニーは安心した。
今、アランを失ったら人生の軸を失ってしまう気がして不安なのだ。
37 :
書き手1:2005/10/21(金) 22:35:10
料理が運ばれてきた。二人でどの料理もきっちり2等分して味わう。
「君と食事の趣味が一緒で本当にうれしいよ。」
アランがワインを傾けながら言う。「アルコールも調節出来てるようだしね。」
「うん。不思議と、そんなに酔いたいと思うことがなくなってん。昔は孤独だったからかな。」
そう言ってアランの顔を見るダニー。アランはダニーの頬に手を当て、
「うれしいよ。ダニー。」と言った。ダニーは周りに気付かれないように、その手にそっとキスをした。
38 :
書き手1:2005/10/21(金) 22:37:22
「そうだ、今度、ジュリアンの40歳のバースデーパーティーを家で開いていいかな。」
「なんで俺に聞くん。止める権利なんてないんやけど。」
「いや、今や我が家はテイラー氏が半分所有しているようなものだからね。」
「そんな・・」「ピアノ弾いてくれるかな。」「ピアノでもギターでもお安い御用や。」
「そうだ君に新しいフェンダーを買おう。」
39 :
書き手1:2005/10/21(金) 22:38:26
「ありがとう。ダニー、愛してるよ。」「俺もアラン、愛してる。」
ダニーはついに告白した。心の底からアラン・ショアを愛していると。
女相手には小切手のように振り出していた言葉だったが、アラン相手では違う意味を持っていた。
40 :
書き手1:2005/10/21(金) 22:39:38
二人はデザートを断った。「僕らすでに十分にスウィートなので、デザートはいりません。」
店主が笑いながら、常連の二人に、アイリッシュコーヒーを持ってきてくれた。
火をつけてアルコールを飛ばす。「綺麗やな。」「その炎の何倍もハンサムに見えるよ。」
「アラン、眼鏡の度が合わなくなってるんとちゃうか。」屈託なく笑うダニー。
二人は手をつないでアランのアパートに戻った。
マーティンはいつものように五時に目が覚めた。ひどく頭が重い。
のろのろとベッドから這い出るとバスタブに湯を溜めた。
あまり掃除をしていないので、バスタブがぬるぬるして気持ち悪い。
気をつけないと滑りそうな感じだ。
ハウスキーパー呼ばなくちゃ、マーティンは頭のToDoリストに入れた。
42 :
書き手2:2005/10/22(土) 01:01:38
スーツケースに入れっぱなしだった、スーツやワイシャツをクローゼットに入れ
身支度を整えると家を出る時間になっていた。
やばい遅れちゃう、急いで玄関に行くとドアの鍵が掛かっていない。
どうして?昨日、ダニーと会ってそれから・・・だめだ、よく思い出せない。
マーティンは鍵を掛けると地下鉄の駅へ向かった。
43 :
書き手2:2005/10/22(土) 01:02:17
ダニーはいつもの時間に起き、階下の部屋のことを考えていた。
行くときに寄ってみたろ、身支度をしながら決めた。
それにしても汚い部屋やったなぁ。ゴキブリが上がってきたらどうしよ・・・。
ダニーは思わず排水溝を見つめた。
そうや、栓しとこ!バスタブと洗面の排水溝にフタをする。
あいつ、何を考えてるんやろ?いつからやねん?ダニーは訝りながら階下の部屋に行った。
ノックをしても誰も出てこない。ダニーは思い切ってドアを押してみた。
鍵が掛かっている。すでに出かけた後か、早っ・・・ダニーも地下鉄の駅へ向かった。
44 :
書き手2:2005/10/22(土) 01:02:52
支局でも二人が言葉を交わすことはなかった。
昼休み、ニッキーから携帯に電話があった。
「うん、19時で大丈夫そう。服?普通でいいよ。うん、じゃあ」
聞いていたサマンサが探りを入れて来た。
「マーティン、デート?」「いや、デートじゃなくて、ディナーだけ」
「デートじゃん」「よく知らない子だからね、僕も困ってるんだ」
「いくつ?かわいいの?」「付き合う気がないからさ、何とも言えないんだよ」
ダニーは、デスクでコーヒーを延々とかき混ぜていた。
45 :
書き手2:2005/10/22(土) 01:03:28
19時少し前にイーストビレッジへ迎えに行った。
「マーティン!本当に来てくれたんだー」いきなり抱きつくニッキー。
「待って、今日は普通に接しようよ。いつもいつも発情期じゃないんだからさ」
「はーい」「じゃ、行こうか?」「うん!」二人は楽器屋を出て通りを歩き出した。
ふと見ると、いつの間にか手をつながれている。
「イル・ブコに予約入れたんだけどいいかな?」「わぁ、前から行きたかったところだ」
「そう、よかった。あの、あんまり騒がないでね」「また子供扱いして!」
マーティンは不安そうに見つめた。食事の後が気になる・・・。
46 :
書き手2:2005/10/22(土) 01:04:02
食事の間、マーティンはニッキーの個人的なことを聞いた。
「どこから来たの?」「ユーゴスラビア」「ボスニアの内戦で」「そう」
「君は大学行かないの?」「ジュリアードの予備校に行ってたけどやめたの」
「どうして?嫌になったとか?」
「うーん、先が見えちゃったんだよね。無理だって。
それにフルートってさ、なんか唇が恥ずかしいじゃん。一生あんなのになったら最悪!」
マーティンは想像してくすくすと笑った。
「僕も調弦してて指を切ってから弾くのが怖くなったんだ。傷も残ってるよ」
マーティンの想像よりも、会話は楽しくとめどなく続いた。
47 :
書き手2:2005/10/22(土) 01:04:37
「この後どうするの?」「うーん・・・お酒はダメだし。帰ろうか?」
「えーっ、帰るの?」「だって君は未成年じゃん」
マーティンは自分から手をつなぐと、ぐいぐい引っ張って歩き出した。
「まだ帰りたくない・・・」「さあ、歩いて。タクシー拾おうか?」
「やだ!」「駄々っ子だなぁ。じゃあさ、おんぶしてあげるよ」
マーティンは背中を差し出した。「さあ、乗りなよ」
48 :
書き手2:2005/10/22(土) 01:05:09
おずおずともたれるニッキーを背負うと、マーティンは歩き出した。
「マーティン、みんなが見てる。恥ずかしいよ・・」「君にも恥って概念があるんだね」
「バカ・・・」「じゃあ走ろうか?しっかりつかまってて!」
言うが早いか、マーティンはニッキーを背負って走り出した。
行き交う人々が振り返る。ニッキーはマーティンの体に顔を伏せてしがみついていた。
49 :
書き手2:2005/10/22(土) 01:05:44
やっとザガロフ楽器に着くと、マーティンは汗びっしょりだった。
シャワーを浴びろと引き止めるニッキーを振り切り、タクシーでブルックリンに戻った。
アパートの部屋に入り、一息つく。上ではダニーが騒いでいるようだ。
何やってるんだろう?今日は確かめに行けない。
マーティンはベランダに出て、デッキチェアに寝そべったが、気になって仕方がない。
誘惑に負けて、ダニーに電話してしまった。
50 :
書き手2:2005/10/22(土) 01:06:18
「何か用か」いきなりぶっきらぼうな返事に躊躇するマーティン。
「帰ったから電話しただけだよ」「どうやったん?」
「食事しただけだよ、何もしてないよ」「ふーん、今からお前んち行ってもええ?」
「えっ、今から?」動機が激しくなってきた。
「うん、飛ばしていったら20分ぐらいで会えるやん」
「もう寝るからさ」「一緒に寝たらええやん、嫌なんか?」いじわるなダニー。
「違うよ・・・僕だって会いたいけど」マーティンは困ってしまった。
「あっはっはっは、あーはっはっは」ダニーが急に笑い出した。
「なっ、急に何?どうしたの?」「別に・・・おやすみ」ダニーは電話を切ってしまった。
51 :
書き手2:2005/10/22(土) 01:06:55
電話を切った後もダニーは笑い転げていた。
マーティンのあの慌て様ときたら!あいつの困った顔が目に浮かぶわ!!
思い出すとおかしくて笑いが止まらない。
しばらくいじめたろ、ダニーはまだ笑っていた。
マーティンは上でバタバタしているダニーの足音に困惑していた。
ダニーは酔ってる?訝りながらシャワーを浴びた。
52 :
書き手2:2005/10/22(土) 01:07:33
ラグにしている寝袋の色が以前とは違う気がする。黄色と緑のまだら模様もある。
こんなのあったっけ?よくよく見るとカビが生えていた。
「うわぁー、何で?」マーティンは何がなにやらわからなかった。
どうしよう?捨てる?散々迷った末、ゴミ袋に入れて捨てることに決めた。
今ならダニーは出てこないかも、天井の様子から判断する。
ダニーがいないか用心しながら歩くので、不審者のような自分に笑いそうになる。
マーティンは注意深く何度も往復し、部屋のゴミを全て出した。
53 :
書き手2:2005/10/22(土) 01:08:40
ベッドに入り、ハウスキーパーを頼むのを忘れていたことに気づいた。
明日こそ頼まないとね、しばらくアッパーイーストには帰らないんだから。
マーティンはやれやれと大きく息を吐くと目を閉じた。
ダニーの声が聞きたい。マーティンはもう一度電話した。
「はい」「ダニー、おやすみ」「なんじゃそりゃ」「挨拶・・・」
「もう寝るんやろ?」「うん、ベッドの中」「何時に起きるん?」「五時・・いや七時」
「全然ちゃうやん。どっちやねん?」「七時、どうして?」
「最近オフィスに一番乗りやろ?頑張ってるなぁと思って」「そんなことないよ」
「そうか、早く寝ろよ。おやすみ」「うん」
あー危なかった・・・マーティンはドギマギしながら布団にもぐりこんだ。
考えていた通りにストーリーがすすでいてうれしいす。
私の想像では、ダニーとアランはバイ。マーティンだけが真性ホモと
思っているので、正直ニッキーとのからみも抵抗あるんですが、そこから
ダニーと新しい関係が生まれると期待しています。ぜひがんがってください。
応援しています。では。
55 :
fusianasan:2005/10/22(土) 04:41:19
ダニーと、マーティンが離れ離れになるストーリーは辛いけど、
アランが治してくれると信じて、読み続けます。
ダニーとマーティンが幸せになれるのはいつなんでしょうか?
ダニーは5時起きのマーティンにあわせて起き、
身支度を整えると1Fの階段から様子を窺っていた。
5:50、マーティンが出て来た。急いであとを追う。
見つからないよう地下鉄で二両ずらして乗る。
早朝の地下鉄はまだ混雑していない。ここからなら様子が手に取るようにわかる。
ブリーフケースをしっかり抱える眠そうなマーティンを見ていた。
57 :
書き手2:2005/10/22(土) 20:33:39
マーティンは何も気づかずオフィスへ向かっている。
途中でコーヒーを買うために並んだときはヒヤッとしたが、幸い気づかなかったようだ。
またあんな甘いもんばっかり買うて!糖尿になるで!
止めときと声を掛けそうになる自分を抑え、尾行を続けた。
マーティンはそのまま支局に入って行った。
58 :
書き手2:2005/10/22(土) 20:34:15
ダニーは開いたばかりのカフェで朝食を食べ、時間を潰してから出社した。
まだ、マーティンしか来ていない。新聞を広げるマーティンに声を掛けた。
「おはよう、お前ほんまに早いな。何でこんな早くに来るん?」
「あっダニー、おはよう。最近早く目が覚めるから、それだけ」
「ふーん、年寄りみたいやな」「そうかな」マーティンは笑ってごまかした。
「今日サラダ作ってくれへん?」「僕に言ってるの?」
「他に誰がいてるねん?この前の続きしようや」「いいよ、ちゃんと手を洗うからね」
「当たり前やん、汚いなぁ」ダニーはデコピンした。
嬉しそうなマーティンを見ながら、ダニーはニタニタしていた。
59 :
書き手2:2005/10/22(土) 20:34:55
マーティンは、ダニーがニッキーとのことを許してくれたと思い喜んでいた。
今夜は一緒にサラダを作るんだ、ちゃんとできるかな・・・。
不意にダニーにもらったサラダスピナーを、
ブルックリンのアパートに置いていたことを思い出した。
大変だ!この前の時、持ってきちゃってるよ・・・マーティンは目の前が真っ暗になった。
60 :
書き手2:2005/10/22(土) 20:35:29
「ダニー、ちょっといい?」周囲に人がいないのを確かめると切り出した。
「今夜、ダニーの家に行ってもいいかな?」「なんで?サラダ作るんやろ?」
ダニーはマーティンの1103の部屋でサラダスピナーを見ていた。
「ダニーの家のほうが好きなんだもん。他に調理器具もないしさ・・・」
「せっかくお前のために買ったのに・・・もしかして壊したん?」意地悪な追い討ちをかける。
「そんなことするもんか!宝物なのに・・」マーティンはうつむいた。
「わかったわかった、同じのあるからオレんちでええやん」「ん、ごめんね」
マーティンはそそくさと自分のデスクに戻った。
61 :
書き手2:2005/10/22(土) 20:36:06
ダニーは少しかわいそうになったが、考え直した。
ストーキングされてたんはオレやで!もう少し懲らしめんと気が済まへん!
ふと見ると、マーティンは時計ばかり気にしている。
目が回りそうなブライトリングの腕時計を、穴のあきそうなほど見ているのがいじらしい。
そんなに嬉しいんかな?ダニーはマーティンの様子を不思議そうに見ていた。
事件らしい事件も起こらず、いつもの角で落ち合うと二人は買い物をして帰った。
62 :
書き手2:2005/10/22(土) 20:36:40
ダニーがチキンを焼く横で、マーティンはレタスをちぎっていた。
「見てて」嬉しそうにサラダスピナーを回す得意気なマーティン。
「あー、すごいすごい」ダニーは呆れながらも褒めた。
マーティンは他にすることがなくなり、ダニーの手元をじっと見ていた。
「僕、ダイキリ飲みたい」「砂糖抜きのな!」「なんでー」「甘いもん摂り過ぎや、太るし」
ダニーは手早く砂糖抜きのダイキリを作ると、マーティンをリビングへ追っ払った。
63 :
書き手2:2005/10/22(土) 20:37:14
料理が全て完成し、マーティンを呼びに行くと眠っていた。
ダニーはポケットからそっと鍵のキーホルダーを抜き取った。
足音をしのばせ抜け出すと、階下の部屋に入った。
ゴミの山とカビの寝袋は消えていたが、トイレもバスルームもドロドロだった。
うひゃー・・・気持ち悪い!キッチンは使ってないからきれいけど、他は汚い!
ベッドルームにはパジャマが脱ぎっぱなしで散乱していた。
羽毛布団はカバーの中で団子状態になっている。
こんなん風邪引くやろ、ダニーは思わず布団のカバーをきちんと入れ直した。
リビングに戻ると、上で足音がした。よう聞こえるなぁ、筒抜けやん。
ん?ということは、アイツが起きたってことか!ダニーは急いで自分の部屋に戻った。
64 :
書き手2:2005/10/22(土) 20:37:49
「ダニィ、どこに行ってたのさ」マーティンが口をとんがらしていた。
「ゴミ捨てや、今起きたん?」「うん、おなか空いた!もう食べられる?」
「ああ、食べよ。手洗うで」二人は先を争って手を洗いに行った。
本気でタオルの取り合いをしながらじゃれあう二人。
「僕のサラダ食べてみて!」マーティンはバルサミコドレッシングをかけて勧めた。
「うん、おいしいで。やっぱり水切りはせんとな!」
「この前のはびしょ濡れだったもんね。ダニー、どうもありがとう」
パリパリのチキンを頬張り、サーモンのカルパッチョをがっつきながらマーティンは満足していた。
65 :
書き手2:2005/10/22(土) 20:38:26
ディナーの後、マーティンはダニーのウクレレを聞いていた。
「今日はどうする?」「どうって?」「風呂」「もちろん入るよ」
マーティンはまたハウスキーパーを頼むのを忘れたことに気づいた。
「どうしたん?」「え?何が?」「今、あちゃーって顔してたで」
「何でもないよ、そんなにじろじろ見ないで。恥ずかしくなる」
マーティンはごまかすためにバスタブにお湯を溜めに行った。
きゅっきゅっと音が鳴るほど清潔なバスルーム。下とは大違いだ。
66 :
書き手2:2005/10/22(土) 20:38:59
バスルームでマーティンの体を洗っていたダニーの手が止まった。
「どうしたの?」「首にキスマークがついてるで」そっけなくダニーが言った。
「え?僕は何もしてないよ」「ここ、見てみ」首の横が赤紫になっていた。
「お前やっぱりニッキーと!」「僕は知らないよ!」
ダニーは乱暴に体を洗うとバスルームを出た。
マーティンはバスローブを引っ掛け、慌てて後を追った。
67 :
書き手2:2005/10/22(土) 20:39:33
「ダニー、本当に何もないんだよ。証明するよ!」
「どうやって?」「精液の量を見てよ、絶対わかるから!」
マーティンは必死だった。ダニーを失いたくない。
「あんな女と寝た後のお前としたくないっ!」ダニーは自分のことを棚にあげて罵った。
「わかったよ、自分でするから」マーティンは目を閉じると、ペニスを擦り始めた。
緊張しているせいか、なかなか思うようにいかない。
目を閉じていても、ダニーの視線を痛いほど感じていた。
68 :
書き手2:2005/10/22(土) 20:40:07
「ほらな、やっぱり嘘やねん!」ダニーの嫌味を無視し、必死になってオナニーした。
「ダニー・・・見てて、イクよ・・ぁうっくっ・・・」とうとう念願の射精が訪れた。
手のひらにいっぱいのドロリとした精液・・・。
「ハァッハァ・・どう?・・信じてもらえた?」マーティンはダニーに問いかけた。
「うん、まあな。でもな、キスマークがついてるんは事実や」
「昨日あの子を背負ったから、その時につけたんじゃないかな?」
「背負う?どういうこっちゃ?わけわからへん」
「帰るのが嫌だってごねられたからさ、おんぶして連れて帰ったんだよ。ただそれだけ」
「お前、あほとちゃうか!」想像して笑いをこらえるダニー。
なんとかダニーの説得に成功し、マーティンはくたくたに疲れていた。
69 :
書き手2:2005/10/22(土) 20:40:48
「ダニー、入れてもいいよ」マーティンは疲れていたが四つんばいになった。
「オレ、今日はええわ」「ニッキーとならもう終わったと思うよ。なんかさ、ショック受けてたよ」
「ゲイってわかったんかな?」「さあ・・・それでもいいじゃない、関係ないよ」
ダニーはマーティンの体中にキスマークをつけた。仕上げに肩に噛みつく。
「これでよし!魔除けや」けたけた笑うマーティンに寄り添った。
「うれしいよ、ダニィ」マーティンはダニーに抱きついた。
「パジャマ着よか」「いらない!」ダニーは布団でマーティンをすっぽりとくるんだ。
70 :
書き手2:2005/10/22(土) 20:41:24
マーティンが寝たのを確認すると、掃除道具を持って階下に降りた。
掃除機をかけるには遅すぎる時間だ。
ダニーはバスルームとトイレの掃除をした。
これって小人の靴屋さんやん。あいつ、びっくりするやろな。
ダニーはバスルームを磨き上げ、トイレの仕上がりをチェックすると上に帰った。
もう一度シャワーを浴び、ベッドに戻る。マーティンは口を半開きにして眠っている。
唇にそっと触れ、自分も目を閉じた。
ダニーの服をゆっくり脱がすアラン。ダニーはなすがままだ。
アランも服を脱ぎ、二人で手をつないでバスルームへ進む。
「今日はシャワーでいいね。」「うん。」二人で熱い湯を浴び
身体をほてらせる。バスソープはマージョラムの香りだった。
「心身ともにリラックスする香りだよ。」「うーん、ええ気持ちや。」
「上がろうか。」「うん。」お互いの身体をバスタオルで拭き合う。
見慣れた身体だとは言え、目の前にあるとアランは反応してしまう。
72 :
書き手1:2005/10/22(土) 21:34:28
アランはダニーに背を向けて身体を拭いた。
「そんなんしないでええのに。」
ダニーが跪いてアランのペニスにキスをする。
「君に過度の刺激を与えたくないんだ。」
「俺、なんか出来そうな気がする。」
「僕は怖いよ。ダニー。そんなに簡単に決めないでくれ。」「うん・・」
「君に拒否されたら、僕の立つ瀬はないから。」「そうか・・・」
73 :
書き手1:2005/10/22(土) 21:36:07
ダニーのトライアルはフライイングに終わった。同じベッドで手をつないで寝る。
これがいつまで続くのだろう。お互いの心の中にブレーキがかかってしまった。
翌朝、早く目覚めたアランは、バケットにレタスとオニオン、縦に二つに切ったソーセージを
はさんでサンドウィッチをつくり、サイフォンでコーヒーを入れた。
ダニーが目をこすりながら、起きてくる。
74 :
書き手1:2005/10/22(土) 21:38:54
「シャワーしておいで。」「ん。」まだ完全に起きていないダニー。
そんな姿もアランにとっては愛おしかった。
「おはよー。」「ああ、おはよう。今日はホットドッグのフレンチスタイルだ。試すかい?」
「うん。うまそう!」ダニーは熟睡できたようだった。「よく眠れたようだね。」
「うん、何も覚えてへん。昨日、悪夢なかったやろ?」「ああ。」
「良くなってる証拠やん。さすが名医や。」「患者がいい子だからだろう。」
マグのコーヒーを両手で持って飲むダニーの姿に思わず抱きしめたくなるアラン。
75 :
書き手1:2005/10/22(土) 21:40:44
「今日の患者は何人?」「25人かな。」
「相変わらずやな。それに夜が俺だと疲れへん?」「さあ感じないけどなぁ。」
「疲れたら、いつでも言うてな。俺、自分でも戦ってみるから。」
「ああ、そうするよ。患者からアドバイスされるとはな。」アランは苦笑した。
ダニーはグッチの上下で出勤していった。痩せたせいかなおさら似合って見える。
アランにも少し安堵の気持ちが起こった。
ダニーは克服できるかもしれないと。
76 :
書き手1:2005/10/22(土) 21:42:43
ジュリアンのパーティーが迫った。デザイナーのビルがインテリア
をいじりたいと言って家に寄りこんでいる。
「ダニー、少し痩せてまた男前になったじゃない!まだモデルやる気おきないかしら?」
「ビル、この子はFBI一筋だよ。口説いても無理だ。」アランが代弁してくれる。
ダニーは苦笑している。「全くもったいないわ。」
「ビル、テーマは何だい?」
「LOSTよ。私たち、無人島に不時着した設定。徹底的にトロピカルでいくわよ。」
77 :
書き手1:2005/10/22(土) 21:45:24
レンタルのヤシの木の鉢植えが何本も運ばれてくる。
野鳥の剥製やビニールプールまで来た。
「これじゃ、生活できないな。」さすがのアランも困っていた。
「パーティー終わるまで、ダニーの家の泊まってもいいかな?」
「もちろん!なんか嬉しいな。」
簡単な着替えや身の回りのものをスポーツバッグに詰めて、ボルボが出発した。
ダニーが先に降りて、地下の駐車場の玄関を開錠する。
78 :
書き手1:2005/10/22(土) 21:47:31
二人がどやどや笑いながら、ダニーの部屋に向かうと、中から電気が漏れていた。
「??」チャイムを押す。「はぁい。」中からマーティンの声。
「おかえり!ダニー!!・・とアラン・・・」アランがいるのに困惑している。
「よっ!今日はアランが泊まりやねん。」「ふうん、そうなんだ。」
「こんばんは、マーティン。元気そうだね。」
「まぁ元気です。」
79 :
書き手1:2005/10/22(土) 21:48:43
「今晩、どないする?」ダニーがアランに聞く。
「人数が増えたからチャイニーズはどうだい?」「それいい!」
マーティンは会話についていけず、置いてきぼり状態になっていた。
「僕、何ならおいとましても・・」
「何言うてるんや、用があったから来たんやろ。
チャイニーズ、お前も好物やんか。」
80 :
書き手1:2005/10/22(土) 21:52:13
3人で、チャイナタウンの27サンライズに向かう。飲茶の名店だ。
注文はアランに任せて、ダニーがマーティンに尋ねる。
「話があったんやろ?」「別に話ってなくて、顔が見たくてさ。」
「そうか。とにかく食おうや。」「そうだね。」
アランはシュウマイ3種、水餃子、鳥の足の煮込み、ポークリブ、海老の中華クレープ、
お粥と炒麺を頼んでいた。「お茶はジャスミン茶でいいかい?」頷く二人。
81 :
書き手1:2005/10/22(土) 21:53:37
「やっぱり人数が多いと、沢山頼めるね。」マーティンが口火を切る。
「あぁ、一人暮らしで一番食べにくいのがチャイニーズだよなあ。」
「テイクアウトもうまくない店は油べっとりやしな。」ぎこちないが、
食事とチンタオビールのおかげで、時間が過ぎる。
ダニーが鳥の足が食べられないのをマーティンとアランが笑う。
82 :
書き手1:2005/10/22(土) 21:56:52
「どうして、アランがダニーの家に泊まるの?」
「ほら、お前にも送ったやろ、ジュリアンのパーティー、あれの準備でな。」
「我が家は目下、デザイナーのビルに占拠されているんだ。」
ダニーが思わず思い出し笑いする。
「じゃあパーティーまで、ずっと泊まるんだ。」
ショックを受けるマーティン。ダニーの家だけは、自分とダニーの隠れ家だと思っていたのに。
83 :
書き手1:2005/10/22(土) 21:59:52
「ああ、今日から居候だよ。家主さん、よろしくお願いします。」
「まぁいいやろ、泊めてたるわ。」二人で笑いあう。
マーティンの孤独感が増した。「僕、そろそろ帰らないと。」
マーティンが席を立つ。「まだお粥も炒麺も来てないぞ。」
「お腹いっぱいだから。」「お前のために頼んだのに。」
「いや、帰るよ。」マーティンはその場から消え入るように立ち去った。
84 :
書き手1:2005/10/22(土) 22:01:22
「どうしたんやろか。」「気持ちは分かるが、ダニーには分からないだろう。」
「??」「さぁ二人してお粥と炒麺を平らげないと。」
「俺、まだいけるで。」「若いなぁ。じゃあ取り分けよう。」
85 :
書き手1:2005/10/22(土) 22:05:19
ブルクッリンに帰って、二人でさらにワインを飲んで、じゃれ合った後
シャワーを浴びる。狭いので一人ずつだ。
「ごめん。アランとこほど揃ってなくて。」「居候は文句は言えないよ。」
「そうやな。じゃあ存分に楽しんで。」
ダニーは朝食の準備でベーグルを冷凍庫から出したり、コーヒーメーカーの
点検をしていた。
86 :
書き手1:2005/10/22(土) 22:07:14
アランがバスローブを羽織って出て来た。白い胸が赤くほてって、色っぽい。
「アラン、ほんまにあの女医と浮気してない?」
「してない。何なら、彼女に聞くかい?」携帯を渡す。
「ううん、いい。信じるから。」
アランはこのまっすぐなヒスパニックの情熱に押され気味でいた。
この子に浮気がばれたらとんでもない修羅場になるかもしれない。
アランはイヴとの出来事を封印する事にした。イヴならしゃべらないだろう。
87 :
書き手1:2005/10/22(土) 22:08:49
アッパーイーストの家に戻ったマーティンはひとしきり泣いた。
僕とダニーだけの絆だったのに、アランが入ってきた。ショックは
彼をアルコールへと導いた。家に置いてあるハードリカー全てを
並べて、ウォッカから、ジン、ブランデーと走り酒をした。
88 :
書き手1:2005/10/22(土) 22:10:15
気持ち悪くなって、今日のディナーを全部トイレに吐いてから、また飲み始めた。
どうでも良くなってきた。ダニーの事もアランの事も。そうだ、電話してやろう。
携帯でダニーを呼び出す。「はい、マーティン、どうした?」
「どうしたもこうしたも、目が回るよ。じゃあね。お二人でお幸せに。ばいば〜い。」
89 :
書き手1:2005/10/22(土) 22:11:19
「アラン、マーティンが酷い事になってるようや。俺、行ってくる。
「ああ、医者が必要ならまた呼んでくれ。」「うん。そんじゃ。」
合鍵で入ると、マーティンは自分で吐いたものの上に眠っていた。
ダニーはマーティンを立たせると服を脱がせ、シャワーを浴びせた。
90 :
書き手1:2005/10/22(土) 22:13:32
「うぅ、熱いよ。」「当たり前や、シャワー浴びてんやから。お前、どうした?」
「寂しかったんだよ。アランがダニーのそばにいるじゃん。」
「不可抗力や、わかってくれよ。」「ホテルに泊まればいいんだ。ばかアラン!」
アランへの怒りがまだ爆発していた。
「そうやな。明日、アランに言ってみるわ。今日は静かに休みい。胃薬持ってくるよってな。」
お白湯で胃薬を飲ませるダニー。むせて、顔を粉だらけにするマーティン。
タオルで顔をぬぐってあげて、さらに胃薬を飲ませるダニー。
91 :
書き手1:2005/10/22(土) 22:18:10
「ふぅ。トイレの掃除や。」とりあえず汚物で汚れているものは、ごみ袋に入れた。
床をモップでふき、タオルでさらにふく。あとはメイドがどうにかしてくれるだろう。
「俺、帰るで。」「ん〜ダニー、愛してる。」「ああ、俺もな。」
話をあわせて、ブルックリンに戻るダニー。あんなに手間のかかる奴やったんやな。
アランに意見聞こう。まずはシャワーと睡眠や。ダニーはアランが待つ部屋へと一目散で駆け込んだ。
ジュリアンのバースデーパーティーがやってきた。ビルが告知したので、
皆それぞれコスプレでやって来ており、すでに70名位が集まっていた。
ジュリアンは、一人無傷の生存者ということでタキシード姿をまとって、
笑いを誘っていた。ビルはというと極楽鳥模様のアロハシャツにセルフ
タンニングローションで浅黒い顔に変身していた。
ダニーは、Tシャツの胸部分に切り込みを入れて、動くと乳首が覗く
セクシーな演出、ジーンズもギザギザに切り込みが入っている。
アランはサファリスーツで決めていた。
93 :
書き手1 :2005/10/23(日) 03:00:59
マーティンがジェイムズにエスコートされて到着した。
マーティンは普通のネルシャツにジーンズだが、
ジェイムズはサファリスーツに双眼鏡をつるしていた。
「服装がかぶりましたね。」アランが声をかけるとジェイムズは
「お互い趣味と同じですからね。」と笑う。
料理は、ミッドタウンのヴォンのシェフの出張で、タイ風フレンチのビュッフェ、
飲み物もビールはシンハーやチャーンなど東南アジアの銘柄、カクテルは
シンガポールスリングが人気を博していた。
94 :
書き手1 :2005/10/23(日) 03:02:24
早速マーティンは、料理のテーブルへと動き、ヤムウンセンと生春巻きにかぶりついている。
「マーティン!」後ろから聞き覚えのある声。サマンサだ。
「サマンサ、どうしたの?」「ジュリアンの同僚のエディターが友達なのよ。
今日来るんなら誘ってくれても良かったのに。」「びっくりだなぁ。」
「私もよ。ダニーなんてすごいセクシーだし、
アランは相変わらずダンディーだし。誰と来たの?」
95 :
書き手1 :2005/10/23(日) 03:03:53
そこへジェイムズが現れた。「サマンサ、紹介するよ。ジェイムズ・ダーシーさん。
貿易会社のオーナー。」「初めまして、ダーシーさん。」
「ジェイムズとお呼びください。お嬢さん。」「イギリスの方ですか?」
「はい、正体は隠せないものですね。今日は探検隊なんですが。」
サマンサがころころと笑う。「サマンサも僕と同業なんです。」「へぇ?驚きだ。」
「それも僕より腕利きです。」「参ったな。今日は密輸品の商談は止めておきましょう。」
96 :
書き手1 :2005/10/23(日) 03:04:58
「サマンサ、ジュリアン紹介するから、こっち来て!」
友達のエディターがサマンサを引っ張っていった。
マーティンは心臓がばくばくしていた。性癖を隠さなくっちゃ。
ダニーはビニールプールの隣りに置かれたスタンウェイに腰掛け、
BGMを弾いていた。アランがそばでビルと談笑している。
97 :
書き手1 :2005/10/23(日) 03:06:05
「今日は大成功!アラン、場所の提供ありがとね!」
「君の企画力は想像を絶するものがあるよ。ここが我が家とはね。」
まるで熱帯雨林の中のラウンジに変貌を遂げていた。
「あら、あたしこれでもデザイナーよ。企画力が無ければポイっの世界ですからね。」
「はいはい。おおせの通りです。」ダニーが弾きながら二人の話に反応して笑っている。
幸せそうだな〜。マーティンがそんなダニーの様子を人の間から垣間見ていた。
98 :
書き手1 :2005/10/23(日) 03:07:09
「後ろ姿が寂しそうだよ。」ジェイムズが声をかける。
「そんなことないよ。」首を横にふるマーティン。そんなマーティンの腕を引っ張る人間が現れた。
エンリケだ。ジェイムズは驚く。「ダニーのご兄弟?」「いえ他人。僕、エンリケ。貴方は?」
「ジェイムズです。」ジェイムズがスペイン語を話し始めると、エンリケは喜んで応じる。
なんで皆スペイン語が出来るんだよ。マーティンはまた孤独感を募らせていた。
99 :
書き手1 :2005/10/23(日) 03:08:23
「マーティン、紹介したい人がいる。僕のフィアンセ。」
「えっ!フィアンセ?」「初めまして、サンドラ・ロドリゲスです。」
「アメリカの人?」「ええ、スペイン大使館で働いています。」
「僕たち来月結婚。ハッピー・マリッジね。」「おめでとう!エンリケ!良かったね。」
「マーティンも幸せにね。」「うん、ありがとう・・」
エンリケはサンドラと一緒に人の渦に入っていった。
「瓜二つの人間っているものだなぁ。」ジェイムズは驚いていた。
エンリケはピアノを弾くダニーの所に報告に行ったようだ。
マーティンはタイカレーの場所に移動し、パクパク食べ始めた。
ジェイムズはダニーのところへ行き、コールドプレイをリクエストした。
アランの歌つきだ。二人はお得意の「イェロー」を披露し、皆の喝采を浴びていた。
さすがのサマンサも二人のハーモニーにたまげていた。
そろそろ、スティービー・ワンダーの曲の出番だ。ビルが呼びかける。
「皆さんでジュリアンの40歳の大台のお祝いをしましょう!♪Happy Birthday ♪
の大合唱をどうぞ!」100名近い合唱は迫力物だった。
これをピークに人が減りはじめた。残るのは、ギル、トム、ジュリアン、ビル、
マーティン、ジェイムズ、アラン、ダニーと数名になった。
サマンサがちょっと訝った顔をして、アランとダニーを見つめていたが、
何も言わずに、「じゃぁね。バイ!来週ね!」と言って友達と去っていった。
友達がサマンサに耳打ちする。「あのピアニストとそばのサファリスーツ、絶対カップルよ。」
サマンサも「まさかぁ!」と言いながら、普通の男同士と別の違和感を感じていた。
マーティンはダニーの腕の中で目が覚めた。
しっかりと守るように布団でくるまれている。
久しぶりに愛されている幸せを感じていた。
静かな寝息を立てるダニーを見つめていたが、
そっと腕の中から這い出ると、布団をかけなおして部屋を出た。
階下の部屋に戻り、バスルームへ行くとピカピカに掃除されていた。
あれー、どうなってんの?マーティンは各部屋を見に行った。
リビングはそのままだったが、ベッドはきちんと整えられていた。
誰がバスルームとトイレの掃除なんかしたんだろう?
ハウスキーパーなんか頼んでないし、鍵だって誰にも渡してないのに・・・
まったく見当がつかないまま、考え込んでいた。
いけない、遅くなっちゃった!マーティンは慌ててシャワーを浴び、身支度をした。
地下鉄に乗っている間も、支局についてからももやもやしていた。
あっ、ボスが勝手に合鍵でも作ってるんじゃないの!!
マーティンはそれ以外に思い浮かばなかった。
掃除は助かったけど、鍵は返してもらおう。勝手に入られちゃ困るよ。
マーティンはボスが来るのを今か今かと待っていた。
「さあ、ミーティング始めるよ」ヴィヴィアンの召集でみんな集まった。
「ヴィヴ、ボスは来ないの?」マーティンがきょとんとして聞いた。
「マーティン・・・昨日、クワンティコで新人研修があるって言ったでしょ。
ボスはそのレクチャーに行ってるの!人の話は聞かなきゃね」
「はい・・・ごめんなさい」昨日はぼんやりしていて聞いていなかった。
「お前も行かんとあかんやん。なあ?」ダニーが早速からかった。
「はいはい、そこまで」あっさり軌道修正されてしまった。
ダニーは、考え事に耽るマーティンを見て笑いを堪えていた。
あいつ、まだ悩んでんの?あー可笑しい!!
「マーティン、ぼんやりしてどうしたん?悩み事?」
「ううん、なんでもないよ。ちょっと疲れてるだけ」
ダニーは周囲を窺うと書類を見るふりをして素早くほっぺにキスした。
「ダニィ!」「元気でたやろ」ダニーはウィンクすると自分のデスクへ戻った。
もうちょっといじめたろ、一日中そわそわしていたマーティンを見てダニーは決めた。
「お先!」ダニーは用があるフリをして急いで帰る素振りを見せた。
これで絶対にあいつも来るはずや。
ダニーは地下鉄に揺られながらわくわくしていた。
あいつも乗ってるんやろか?ダニーは辺りを見回したい衝動を抑えた。
窓に映った車内に目を凝らすが、マーティンの姿はない。
なんぼあいつでも、車両ぐらい変えるよな・・・。
ダニーがアパートのエレベーターを降りると、
すぐに下に降りていき、やがて11で止まった。
マーティンもご帰還やな、ダニーは予想通りなのがおかしかった。
さあて、どうやっていじめたろかな?
ソファに座り、いろいろと考えを巡らせていた。
マーティンは掃除のことをボスに聞こうと思い、携帯に電話した。
「ボス、マーティンです。まだアカデミーにいるんですか?」
「いいや、今はワシントンだ。これから飛行機に乗るところだ」
「そうですか、あの・・父も?」
「副長官とはさっき別れたばかりだが、どうかしたのか?」
「いいえ、帰ったら連絡もらえますか?何時でもいいので」
「ああ、わかった。後でな」ボスは鍵を返してくれるかな、でなきゃ鍵を交換だよ。
マーティンはボスからの連絡が待ち遠しかった。
二時間後、ボスから電話がかかってきた。
「マーティン、飛行機で爆弾騒ぎがあって足止めを食らっている。
まったく!今夜はワシントンに泊まることになりそうだ」
「本当に爆弾テロなの?」マーティンは戦慄した。
「まだ分からんが、機内には何も異物はなかった。おそらくいたずらだろう」
ボスは疲労と苛立ちでカリカリしていた。
とても掃除のことなんか聞ける雰囲気ではない。
「僕の用件は明日でもいいです。お気をつけて」「ああ、また明日な」
マーティンはCNNやFOXニュースを見たが、報道規制されているのか
爆弾騒ぎのことはやっていなかった。
テロか・・・、マーティンはベランダから世界貿易センターがあったあたりに目を凝らした。
ここからも見えてただろうな。ダニーなら以前の風景を知っているだろう。
マーティンが何気なく上を見上げると、ライトグレーの布が垂れ下がっていた。
うん?何だろ?、引っ張ると、上からどさっと布が落ちて来た。
「わぁっ!!」思わず叫んでしまった。
「すんませ〜ん、すぐに取りに行きますよって」ダニーの声が聞こえた。
どうしよう!ダニーがうちに来る!!マーティンはパニックに陥った。
とりあえず紙袋に落ちてきた布を突っ込み、玄関に走った。
ドアの外に紙袋を置き、鍵を掛けると震えていた。
コンコン・・・ノックの音がする。マーティンは声を変えて応対した。
「はい」「あの、上の階のもんですけど」
「はい」「僕、さっきシーツを落としてしもて」
「そこに置いてますから、どうぞ」「すんません。お詫びを申し上げたいのですが?」
「今はちょっと、手が放せなくて出られないんです。お詫びなんて結構ですから」
「そうですが、では改めてお詫びに伺います」
あーもう、ニアミスにもほどがあるよ、危なかったー・・・。
マーティンはダニーが気づかなかったので、ホッとしていた。
ダニーは部屋に戻った途端、はじけるように笑い転げた。
あいつ、おもろすぎ!!作戦成功!
なんちゅう声でしゃべるねん!!思い出すとまたまた爆笑した。
ダニーはマーティンの様子が知りたくて、携帯に電話してみた。
「オレや」「うん・・・」「どうしたん?」「ちょっと疲れただけ、もう寝るんだ」
「また発熱か?よう熱出す子やからな」「熱はないよ。おやすみ」
マーティンはそっけなく電話を切ってしまった。ダニーは拍子抜けしたが仕方ない。
アイスを食べながら、いつ知っていることをばらそうか考えていた。
月曜日、サマンサはそれとなく、パーティーの話に水を向けた。
「ダニー、この間のパーティー行ったのよ。」「え、サマンサいたんか?なんで挨拶してくれへん。」
「だってピアノ弾くのに忙しそうだったし、パートナーがずっとついてたから。」
くすくすと何かもっと言いたげな表情だ。「それ誰のこと?」
ダニーは心臓が口から出そうになりながら、尋ねた。
「答えは貴方と私の心の中。それじゃまたパーティーがあったら誘ってね。」
危ない、危ない。サム、気いついてるんと違うかな。
おおっぴらにされたら、俺の出世コースの障害になる。
いや、ビューローにいられなくなるで。サムと話しせにゃ〜。
ダニーの頭はくるくるインテルプロセッサーのように回転した。
ダニーのアクションは早かった。その日のうちに、ディナーの約束を取り付け、
サマンサをグラマシー・タバーンに呼び出した。
「テイラー捜査官、こんな素敵なレストランで捜査会議ですか?」
くすくす笑うサマンサ。「いや、パーティーのことで誤解を解いておきたくて。」
「誤解って?」笑いながら、アンティパストをぱくつく。「俺とアランの事やねん。」
「ふふ、それで?」「サマンサ、俺とアランが変な関係と疑ってへんか?」
「疑ってないわ。確信してるけど。」あいた〜、勘良すぎや、サムの奴。
「俺、前の事件でPTSD患ってて、今、アランの家に同居して治療してるねん。」
「そうなの〜。」「だから、想像してるような関係とは違うんや。」まだサムは信用してない。
「なるほどね〜。で、この話の私のベネフィットは?」
「君とボスが続いていたら、協力を惜しまない。」サマンサは驚いた。
「知ってたんだ。でもどうなのかな。終わってるかもしれないし。」
そこまで言うと、突然、サマンサの目に涙が浮かんだ。
「サマンサ・・」
他人が見たら、まるで恋人同士が別れの話をしているような様相だ。
「大丈夫。ゴメンね。」「大丈夫か?」
「うん。今、ボス、離婚調停中だから、奥さんもお子さんもオフィスに来るじゃない。
奥さんの射るような目が痛くて、私、たまらない。」
「そうか、辛いんやね。がんばりや。ボスはあの通り人情派や。
君との仲を簡単に終わらせたりしないと思うで。」
「ありがとう。何だか励まされちゃった。」
そこへダニーの携帯が鳴った。A・ショアと出ている。サマンサがすかさず
携帯を取り、「ハイ、ダニーの携帯です。」と答える。慌てるダニー。
「ええ、サマンサです。今、テイラー捜査官を尋問中です。本人に代わりますね。」
「ああ、アラン、今グラマシー。サマンサが俺たちの仲疑ってんねん。何か言ってやって。」
「サマンサ、僕が望んでもダニーが清い関係を望むので、未達成の願望ですよ。」
サマンサが笑い転げる。
二人が頼んだメインが運ばれてきた。サマンサはペスカトーレ、ダニーはトマト
とバジルのペンネだった。後の会話は日常のオフィスの出来事やマーティンの事、
特にマーティンについて、サマンサは知りたがった。
「この間、ジェイムズって人といたけど、マーティン誰か付き合ってる人いなかったっけ?」
エンリケの事だと思い出し、「ああ、別れたらしいで。」と答えた。
「そうなんだ。ボンもいいんだけどな〜。ちょっともの足りないのよね。」
サマンサは舌をペロっと出して言った。「マーティンと付き合う気あんの?」
「ほら、お父様がああじゃない?それで興味があったんだけど、本人がねぇ〜。」
「あぁ、何考えてるんだか分からないボンボンやもんなぁ。」
「そうなのよね。もうアランの事は諦めがついたから、
今度マーティンの彼女情報があったら、教えて。」
「ああ、約束や。」「ありがとう。」
どうやら画策はうまく運んだようだ。
しめしめ、これで俺が付き合うてる相手もうやむやや。
ダニーは心の中でガッツポーズを決めた。
ダニーは料理代金を奢って、サマンサと別れ、アランの家へ行った。
合鍵で入ると、中から女性の快活な笑い声が聞こえる。ん、イヴ?
リビングでアランとイヴがブランデーを飲みながら談笑していた。
「あ、こんばんわ。イヴ。」「お邪魔してます。ダニー。それじゃ、私そろそろ
ホテルへ帰るわ。」「イヴ、お休み。」軽く頬にキスをする二人。
どうなってんねん! ダニーの心はさざなみのように揺れた。
「イヴおばはん、何の用があって来てんの?」明らかに不機嫌なダニー。
「君の治療方針の打ち合わせだよ。彼女も昼間は学会とかセミナーがあるから
夜しか時間がないのさ。」「ふうん〜。」ぷーっと膨れたままダニーは、
スタンウェイに座り、リストピアノ協奏曲1番を嵐のような速さで弾いた。
「荒れるなよ。何も無いんだから。」アランはクラブ・ソーダをダニーに手渡した。
「うん、信じたいやねんけどな、アラン、もてるやろ。俺、心配やねん。」
「それは右に同じだよ。君は特に悪い虫にたかられ易いから。」
「もう、それは無しやで。俺、アランで一杯一杯や。」「そうかい。うれしいね。」
「バス入りたい。今日は一人で。」「ああいいよ。」
ダニーがバスに入っている間、アランは寝乱れたベッドメイクをしていた。
これだけは、ダニーにいえない秘密だった。今、分かったら、彼の治療が後退する。
「アラン!バスソープがないで〜。」「はいはい、今行くよ。」アランはジェニファーベリーの
バスソープを持って、バスルームへと急いでいった。
126 :
fusianasan:2005/10/24(月) 01:11:55
私はアランとダニーの絡み、嫌じゃないです。ダニーが親を渇望する
気持ちが分かるし、アランも愛情を注いでる。これまでダニー、
猟奇的な事件が多かったから、少しでも幸せになってほしいです。
ダニーは、マーティンに会うために早めに家を出た。
途中でシナモンベーグルとダブルショットのエスプレッソを買い、支局に急ぐ。
マーティンはデスクで朝食の真っ最中だった。
「おはよう、オレも一緒に食べるわ」「ダニーおはよう、今日は早いね」
「うん、ジョギングに行く予定やったんやけど、しんどなってな」
「ドーナツ食べる?」「いいや、自分の食べるから。お前、また太るぞ」
フッと鼻で笑うマーティン。ダニーはおなかを突っつき回した。
「オレ、昨日の夜、ポカしてシーツを下に落としてしもたんや」
んっぐ・・・マーティンはドーナツが咽喉に詰まりそうになった。
「それで慌てて取りに行ったらな、ドア越しに甲高い声の男が出たんや。あいつ、絶対オカマやで!」
「どうしてわかるの?」マーティンは探りを入れた。
「ジョニー・デップのチョコレート工場の時の役あるやろ?あんな声やねん」
「へぇー」「絶対にオカマや、どんなヤツか見たいわ。字もへったくそやし」
「ふぅん」マーティンは自分のあまりの言われように情けなくなった。
オカマって・・・確かにゲイで字も汚いさ!ダニィ、それ僕だよ、僕!
ダニーは赤くなったり、青くなったりするマーティンの顔色に笑いを堪えていた。
コイツ、もうちょっとで咽喉詰めそうやったな。
まだ1103に気づいたこと、黙っとこかな。
ダニーはマーティンをいじめて反応を楽しんでいた。
疲労感たっぷりのボスを囲み、朝のミーティングが終わった。
ボスはワシントンでの爆弾テロ騒動で、先ほどニューヨークへ戻ったばかりだ。
「じゃあ、私は帰るから。後は頼む」ボスはよれよれの状態で、帰っていった。
「結局いたずらやったんやろ?最悪やなぁ」ダニーはボスに同情した。
「捕まったら厳罰は免れないわよ。悪質な!」サマンサは激怒していた。
サムも一緒に帰りたいだろうな、マーティンはサマンサの心情を察した。
マーティンがグランドセントラル駅で地下鉄を待っていると携帯が鳴った。
「今どこにいるんだ?」「グランドセントラル駅です。地下鉄に乗るとこ」
「じゃあ、西4丁目で降りろ」
「僕、乗り換えがまだよく分からなくて・・・」
「まったく!それじゃあ、8丁目のニューヨーク大学で降りろ」
「あっ、地下鉄が来た。じゃあニューヨーク大学の駅で」
マーティンは人込みに呑まれるように地下鉄に乗り込んだ。
ニューヨーク大学駅で降りると、ボスが既に待っていた。
「おかえり、マーティン」
「あ、ただいま・・・」なんだか気恥ずかしい。
ボスは車に乗ると、マーティンにも乗るように示した。
「ボス、まだしんどそうだけど疲れは取れたの?」
「さっきまで寝てたからな。今日はどうだった?」
「何も起こらなかったよ。よかったよねー」能天気なマーティンに苦笑するボス。
「よーし、メシでも行くか!」ボスはリトルジャパンへ行った。
「ここ、ダニーと来たよ。おいしかった」マーティンの案内で[えびす]に入った。
二人は寿司ディナーとてんぷらを楽しんだ。
「この後どうするの?」「馬はどうだ?」「えっ・・・」ドキッとするマーティン。
「お前の話もゆっくり聞きたいし」「うん・・・もう予約入れてるの?」
ボスはニヤッと笑った。「わかったよ、断っても無駄なんでしょ」
ボスはいそいそとチェックを済ませ、マーティンは渋々ついていった。
「ウォルシュ様、お車をお預かりいたします」この前のドアマンが出迎えた。
「ウィリアムズ様、お久しぶりでございますね。お元気でしたか?」
「ええ、この前はありがとうございました」マーティンはお礼を言った。
「今夜はごゆるりとお楽しみくださいませ」
「は、はい」マーティンはあたふたとボスの後を追った。
部屋は木馬の部屋だった。よかったー、鏡の部屋じゃなくって。
マーティンは安心した。女装だけはしたくない。僕はオカマじゃないんだから!
「マーティン、風呂に入ろう」ボスに呼ばれてバスルームへ行った。
ボスはバスジェルを掻き混ぜている。イランイランの香りがした。
クリーミーな泡の中に体を浸すボスは、驚くほど場違いだった。
「ボス、バブルバスが似合わないね」マーティンはケタケタ笑った。
「うるさい、早く入れ」急かされてマーティンも浸かった。
「なんだ、その体は?カポジ肉腫みたいで不気味だ。お前、まさかっ!」
「違う違う。ダニーが魔除けにってつけたんだ。エイズじゃないよ」
「HIVが蔓延しているからな、やみくもに誰とでも寝るな」
「はい。でも、僕よりボスのほうが怪しいんじゃないかなぁ」
ボスは足を伸ばしてマーティンのペニスをぐりぐりした。
「やめてよ、痛いよー」マーティンは悲鳴を上げた。
バスルームから出ると、ボスは木馬を消毒しコンドームを三枚被せた。
いつもの怪しげなチューブを取り出し、たっぷりと突起に塗りこむ。
「おい、ベッドに来い」ボスはチューブを手に待ち構えている。
マーティンは四つんばいになるよう命じられた。
「あぁぁー」ペニスとアナルに塗られた瞬間、痒みに襲われ叫ぶ。
ムズムズしてたまらない!早く擦ってほしい!
「痒い〜、早く触って〜あんぁぁー」ボスは木馬の横に連れていった。
「さあ、乗ってもいいぞ。但し、射精は厳禁だ。いいな?」
木馬に跨り、そっと腰を落とすとメリメリと突起がアナルに入った。
「あぁ〜ボスー、気持ちいいよー」
マーティンは狂ったように腰を振っている。ボスはニヤニヤしていた。
「ダメだ、イキそう・・・出してもいい?」「まだだ!」
「ああっ、でっでも・・我慢できないよ・・んっあっぁ」
ボスは背後に回ると、マーティンの後ろに乗った。
マーティンのペニスを掴むと、上下にしごいた。
「イったらお仕置きだ」耳元でささやかれ、マーティンは腰の動きを止めたが
すぐに我慢できなくなり、自然と腰を振ってしまう。
「お願いします、も、もうイかせてください。もう限界なんです・・ぁぁん!」
ボスはますます激しくしごいた。ペニスの硬度が増して来た。今にもイキそうだ。
マーティンは総毛立っている。かなり辛抱している様が見てとれた。
ボスは下に降りるとマーティンを見上げた。
「ヴィクターに電話しようか?それともニッキーはどうだ?」
「やめてー、もうダメだ、イッイクー・・・あっああー」
マーティンは木馬の鬣に精液を飛ばした。全身が痙攣している。
「あぁ・・・ごめんなさい・・僕・・・」木馬にしがみついたまま謝った。
「お仕置きだな、マーティン」穏やかな言い方が空恐ろしい。
次は何をされるのかわからない恐怖に慄いていた。
ボスはマーティンを木馬から降ろすと、再び四つんばいにさせた。
まだ痒みは残っている。早く洗い流したかった。
「んっ!」突然、異物がアナルに入ってきた。小さいが、ジンジンとした振動を感じる。
「ボス、これは?」「いいから、服を着ろ。帰るぞ」ボスはさっさと着替え始めている。
「これを抜いてくれなきゃパンツも穿けないよ・・・」
「そのまま穿け。お仕置きだ!」マーティンはのろのろ着替えた。
「さあ、帰ろう」ボスはマーティンを引っ張るように部屋を出た。
「さてと、これからどうしよう?」ボスは手にしたリモコンにスイッチを入れた。
「んぁぁぁー」突然の振動をアナルに感じ、マーティンは悶えた。
「どうだ、このままカフェでも行くか?」「あっぁぁーやだよぉ・・・ひゃぁぁー」
「お仕置きなんだから、お前に決定権などない!」ボスは突っぱねた。
「人前ではやめてよ。それ以外なら何でもするからっ!」
マーティンの必死の懇願に、ボスはカフェ行きをあきらめた。
ブルックリンのアパートに着くと、ベランダのデッキチェアでフェラチオさせた。
手にしたリモコンで強弱をつけながら嬲られ、マーティンは声を上げないように耐えた。
ダニーに聞こえたらおしまいだ・・・。
「んっ・・イキそうだ・・」ボスは頭を抑えると激しく上下した。
マーティンの唾液が口の端から漏れる。ボスはグッと奥まで入れると射精した。
「ゲホッゲホッ、ハァハァ」マーティンはボスの精液にむせた。
ボスは満足すると、ベッドルームへマーティンを連れて行った。
「さあ抜いてやろう、ケツを捲くれ!」ボスはようやくバイブを抜いた。
二人はベッドに横たわった。「マーティン、昨日の話って何だ?」
「うん、あのさ僕の部屋の鍵返して」「鍵?そんなもん知らん」
「いじわるしないでよ、鍵持ってるでしょ?」「いいや、知らん!」
「ボス〜・・・」マーティンはボスがとぼけているのだと思ったが埒が明かない。
「今日はおもしろかったな。私はそろそろ帰るぞ」
「はい、また明日オフィスで」マーティンはボスを見送るとベッドにひっくり返った。
出勤すると見知らぬ男性がボスの部屋から出て来た。
「皆、ミーティングやるぞ。」ボスからDEAの捜査官が紹介される。
「実は5ヶ月前に失踪者としてこちらのユニットで担当した事件で、
不審な点が見られるので、報告書の開示と、捜査の協力をお願いしたい。」
ボスも「皆、協力は惜しまず行うように。」といった。
その事件とは、あのラルフ・ウェイレンのオーバードーズ事件だった。
思わず顔を上げダニーの顔を不安げに見つめるマーティン。
ダニーはポーカー・フェイスで説明を聞いていた。
マーティンはすかさず暗号メールを出した。「今晩、
捜査会議OK?」「ラジャー、リトル・ダッカにて20:00」
二人は時差をつけて、場所に向かった。
ダニーが適当にオーダーしてくれている。
「ほぃ、ラッシーに、豆のカレー、サグチキンとナン、サラダ。」
「ありがとう。」「ねえ、DEAはどこまで突き止めているんだろう。」
「うちに報告書開示を依頼してくるくらいやから、袋小路やろう。
そや、アランにも伝えないと。」席を立ち、アランと携帯で話しているダニー。
僕の目の前でもいいのに・・・。
翌日もDEAの捜査官は関わった捜査官からの事情聴取を行っていた。
マーティンに関わる時間が一番長いのにダニーは心配になっていた。
あいつ、何かバカな事しゃべらなきゃええけど。「テイラー捜査官、お願いします。」
ダニーが呼ばれた。「貴方は医師のアラン・ショアと懇意ですね。」「はい、主治医です。」
「彼が、ボランティアで囚人のカウンセリングをしていたのはご存知で?」
「いえ。初耳です。」「その一人がこのウェイレンでしてね。彼は出所後、
整形手術を受けている。それもショア医師の勧めによってです。」
「はぁ。」「なぜ、ショア医師がフィッツジェラルド捜査官の写真を見せて、
それに似せるように依頼したかご存知ですか?」「いえ、全く。」
「ありがとうございました。」ダニーは嫌な予感がひたひたとしていた。
ダニーは自分の診察と称してアランに会える立場にある。
その夜、アランの家を訪ねると、アランはいつも通り、キッチンで何か作っていた。
「いいタイミングだね。もうすぐビーフシチューが出来上がるよ。」
ダイニングには薄切りのバケットとミモザサラダ、
イータラのグラスにモンダヴィのメルローが出ていた。
ダニーはジャケットを脱いで、ネクタイを取ると、ダイニングに着いた。
「今日は忙しかったのかい?」「例のラルフの話で事情聴取や。」
「そうか・・・」
「アラン、何か隠し事してる?」「・・・話した方がいい時期が来たようだね。
僕がある人物に依頼して消してもらった。」「なっ何!」
「君たちはラルフがエンリケと薬をやっているのを目撃しているし、
マーティンに至っては一緒に楽しんだ仲だ。他に道はなかったんだよ。」
「何てこと・・」「だまってて申し訳なかった。出来れば、僕の墓の中まで持って行きたかったさ。
でも捜査が入ったのなら、君に真実を知ってもらうのが僕の誠意だと思った。
君も聞いていただろう。僕が大量に株式を売り払った時。あれが報酬だ。」
ダニーは頭を抱えた。何て事だ。自分が一番信頼している人物が殺人教唆。
でも支局には言えない。自分たちももろとも刑務所行きだからだ。
「これ・・マーティンにはだまっとくわ。あいつ、重圧に耐えられへんもん。」
「賢明だ。」「アラン、俺、アランが好きや。どうしたらええんや。」
「僕が理由なしに殺人を冒したと思って欲しくない。それだけだ。
僕を逮捕するならしても構わない。一人で罪を購うよ。」
ダニーはアランの広い胸で泣きじゃくった。
「俺、アランがいないとだめやねん。一人で行かないで!」
思う存分ダニーに胸を貸したあと、「シチューを温めるね。」とキッチンに立つアラン。
ダニーは今まで知らなかったアランの素顔の一部を思い知った夜だった。
俺の恋人は犯罪者やった・・・ダニーの心は引き裂かれた。
DEA捜査官は思うような成果なく支局へ戻っていった。
マーティンから暗号メールが届く。「順調であればランチOK?」「問題なし。」
ダニーも返信した。がダニーが最も伝えたいのは別の人物だった。
いつものダイナーでランチする二人。「もう問題ないよね。」
「ああ、DEAもこれで引き下がったんとちゃう?」
「あれって事故だったんだよね?」一番重い質問だ。
「ああ、ディーラー本人の過剰摂取とちゃうか?」
「良かった。僕、一緒にやっちゃったから。」「お前は心配する必要ないで。自然体でいることや。」
「そうだね。」マーティンは特大チーズバーガーにがっついた。
ダニーも頼んだラムチョップをフォークで遊びながら、口へ運んでいた。
とにかく今日はアランと祝福だ。
「お前、そういえば、ジェイムズとはどうやねん?」
「ジェイムズ?月の半分は出張でいないから判らないや。いい人だよ。」
「そうか。それならええねんけど。俺たちな、これから交友関係に気をつけよう。」
「そうだよね。でも、僕、友達少ないし、ダニーがいればいいから。」
その日は他に何の事件もなく終わり、ダニーは飛ぶような勢いでアランの家に行った。
「お疲れ。パッションフルーツのシャーベットを買ったよ。」
ダニーは早速、冷凍庫に飛びつく。
「ありがとう!どうやら事件も終わりそうやねん。」
「今日、我が家に尋ねてきたDEA捜査官もそう言っていた。ありがとう。ダニー。」
「そんな、俺こそ。」「事件の調査結果はどうなった?」
「証拠不十分で、DEAがレポートを持って帰ったわ。」
はぁ〜と、ため息をつくアラン。
「良かった!僕はともかく君の前途が約束されたんだからね。」
「そんなの俺はアランが一人塀の中に入れられるのが一番怖かったん。」
「人一人を消すなんて、今思うと、自分でも良くできたよ。何しろ必死だったからね。」
ダニーはアランに抱きついた。
「もうそれ以上はいわんと、二人だけの秘密にしよ。」「ああ、そうだね。」
ダニーは全てにおいて、アラン・ショアという人間と関わって人生を過ごす覚悟を決めた。
それはアランとて同様だった。二人は、出前のラザニアとペパロニピザで夕食を祝い、ワインを空けた。
「アラン、俺、アランがいないとダメやねん。」
「分かってるさ。今回も潜り抜けられただろう。これからもそうしような。」
「うん。」ダニーはアランの掌の中で、心の自由を満喫していた。
>>126 さん
応援ありがとうございます。
とんでもない一件で二人は運命共同体に
なってしまいました(汗
これからもよろしくお願いします。
金曜日の夕方、地下鉄は通勤ラッシュで混雑していた。
ダニーはiPodを聴きながら平然としていたが、マーティンは違った。
ブリーフケースを握りしめ、立っているのもやっとだ。人いきれで気分が悪い。
おまけに、前にいる女が頭を振るのでくすぐったい上に、髪が目に入った。
「痛っ!頭振るなよ!」謝りもしない女にマーティンはマジ切れ寸前だった。
やっと駅に着くころにはヘトヘトになっていた。
「あぁ、やっと着いたよー」マーティンは地上に出ると深呼吸した。
「置いていくで、早よ来い」ダニーは構わずさっさと先に進んでいる。
危うく置いてけぼりにされかけ、マーティンは慌てて追いかけた。
ダニーと手をつなげたらいいのに・・・周りの人々が恨めしかった。
アパートのエレベーターで、ダニーはマーティンの行動を逐一チェックしていた。
11を押しかけて12を押したのを、笑いをこらえて見ていた。
「ダニー、どうかした?」マーティンが怪訝な顔をしている。
「いいや、やっぱ休みはええなぁって思って。のんびりできるしな」
「うん、朝もゆっくり眠れるしね」実感がこもっているマーティンだった。
ダニーは仕込んでいたスペアリブをオーブンに入れ、ソファに寝転がっている。
マーティンは雑誌を読んでいたが、ダニーにじゃれついた。
「ダニィ、焼けるまで退屈だから何かしようよ」
「何かって?今日はゆっくりしたいねん。じっとしとき」
「ダニィのけち!」マーティンはダニーの背中に乗った。
「重たいなぁ、デブちん。降りてくれや」
「やだ、ダニーとくっついたままがいいんだ」
二人でじゃれあっていると、マーティンのポケットから鍵が落ちた。
ダニーはさっと拾うと鍵をまじまじと見た。
「これがマーティンので、こっちがオレんち、これやな」
言いながら、キーホルダーから階下の部屋の鍵を抜き取った。
「ダ、ダニー、それどうするの?」マーティンは慌てて聞いた。
「あ?これ前のアパートの鍵なんやろ。もういらんやん。
お前のことやから、キーホルダーからよう外さんのやろ」
ダニーは、抜いた鍵を燃えないゴミ用のゴミ箱に投げ入れた。
うわぁー、どうしよう?・・・マーティンは青ざめた。
ボン、思いっきり焦ってるで!ダニーはしてやったりとほくそ笑んだ。
「マーティン、オレ、ゴミ捨て行ってくるわ」
「あのっ僕が行こうか?」「いいや、座っといて」
ダニーは燃えないゴミとゴミ袋を持つと出ていった。
どうしよう、もうダメだ・・・マーティンはあきらめかけたが、
家に入れないことを思い出し、ダニーの後を追った。
マーティンが下に降りると、ちょうどダニーが外から戻ってくるところだった。
階段まで走り、身を潜める。ダニーは気づかずエレベーターに乗った。
誰にも見つからないようにゴミ置き場へ急ぐ。
ダニーのゴミ箱、ゴミ箱はと・・・あった!中を漁ると部屋の鍵が出てきた。
よかった〜、ゴミ収集車に持っていかれてたらおしまいだったよ・・・。
マーティンはダニーへの言い訳を考えながら部屋に戻った。
「お前、どこに行ってたん?黙って帰ったんかと思って心配するやんか!」
「ごめん、僕もゴミ捨てに・・・」マーティンはしどろもどろな言い訳をした。
「ヘンなヤツやなぁ!なんか怪しいで?」
「何が怪しいのさ?ゴミ捨てに行っただけだよ!」
ゴミ捨てじゃなくて、ゴミ拾いやろが!ダニーはツッコミたくなるのを抑えた。
そうこうしているうちに、香ばしいいい匂いがしてきた。
「おい、お前はサラダ作れ」「はーい」
「ちゃんと手洗えよな!」
「わかってるよ、まかせといて!」マーティンは喜んでキッチンに立った。
サラダ係に任命されたのが嬉しかった。
ダニーは横でパプリカを半分に切り、「ひゃあっ」と叫んだ。
真っ二つに切ったパプリカの中にイモムシが潜んでいた。
「マーティン、それ、それ早くほかして」ダニーは身震いした。
「虫だけ?」「あほかっ、全部や、全部。袋に入れて縛れ」
マーティンはパプリカを処分した。
「もう大丈夫だよ、捨ててこようか?パプリカの虫さんのおうち♪」
「ああ、頼む。早くどっかにやってくれ!」
マーティンがゴミ捨てに行っている間に、ダニーは秘密の部屋のことを話すことに決めた。
ディナーの後で言おか、食べる前やったらかわいそうやもんな。
「ダニー、捨ててきたよ」無邪気なマーティンが帰ってきた。
「サンキュ!びびったなぁ、もうパブリカ切るの怖いわ」
「あんなの平気さ、羽もないんだよ!」得意気なマーティン。
「ボンは強いなぁ。今度からボンに切ってもらおか」ダニーは大げさに誉めそやした。
ダニーは焼けたスペアリブと、イカのマリネ、マーティン作のサラダを運んだ。
フォカッチャとミネストローネも温まり、嵐の前のディナーが完成した。
食事の後、ダニーはマーティンを連れ出した。
「ダニー、どこ行くの?僕、おなかいっぱいで動きたくないよ」
「ええから、ちょっとこの近くまで」
ダニーは階段を下り始めた。マーティンも渋々続く。
1103の前に来ると、ダニーは声を潜めた。
「字のへったくそなオカマに挨拶しようと思ってな」ウィンクしながらささやいた。
マーティンは返す言葉も見つからない。胸の鼓動だけが無責任に早まった。
ドアをノックするダニーに、身が縮むような思いだった。
「もう帰ろうよ、誰もいないみたいだよ」
ダニーはくすっと笑うと、マーティンの手をつかんだ。
「字のへったくそなオカマはお前やんな?そうやろ?」
「え・・・」ダニーはマーティンのポケットから鍵を取り出した。
「開けてみ」鍵を手渡し、マーティンを見つめた。
マーティンは黙って鍵を開けた。
「入ってもええか?」「どうぞ・・・」
ダニーは中に入った。一段と汚くなったリビングに目を丸くする。
「お風呂とトイレは掃除したんやけどなぁ」
「あれ、ダニーがやったの!!いつから知ってたのさ!」
「キレイになってたやろ。知ったんはちょっと前や、お前が泥酔してここに入っていったんやで」
「じゃあ、あのシーツもわざと?」
「そうや、お前おっかしいんやもん。ヘンなカマ声で出やがって!」
ダニーは大笑いしながらデコピンした。
「ダニー、ひどいよ・・・僕を騙して・・・」マーティンは涙がこぼれた。
「何言うてんねん、オレのストーカーしてたくせに!」
ダニーはベッドルームに行った。「こんなベッドまで買うて、何を考えてるんや」
「ダニーが浮気ばっかりするからいけないんだ!」
「そんなにオレのことが好きなん?」ダニーは呆れて聞いた。
「ダニーは僕のことなんてどうでもいいかもしれないけど・・・僕は違う」
「でもなぁ、ずっと一緒にはいられへんのやで」
「そんなのわかってるよ!わかってるけど・・・」マーティンはベッドに突っ伏した。
「もう泣くなや、ずっと早起きして頑張ってたんやろ。ボンにしちゃ上出来や。
オレ、全然気づかへんかったんやで。立派なストーカーや」
「そんな誉め方されても嬉しくないよ」
「そら、褒められるようなことしてへんのやもん。しゃあないわ」
ダニーはマーティンを布団でくるんだ。
「このカバー、えらいことになってたなぁ。オレが直したんやで」
「僕は一時間かけても出来なかったんだよっ」ダニーは吹き出した。
「今日はここで寝よか。着替え取ってくるわ」
「ダニィ、僕のこと許してくれるの?」
「わからん、まだ何とも言われへんな」
「やっぱり怒ってるよね・・・ごめんなさい」マーティンはベッドの上に正座した。
「とにかく今日はこのベッドで寝ようや。風呂はどうする?」
「ダニーんちで入りたい。もう汚くなっちゃったから」
「よし、ほな上に帰ろう。寝るときにまた下りたらええやん」
ダニーはべそをかいたマーティンの肩を抱くと、上の部屋に戻っていった。
ダニーはとんでもない秘密をアランと共有してしまった日から、
不眠症が悪化し、悪夢を多く見るようになっていた。
アラン曰く「ストレスからくる一時的なうつ病」ということで、
精神安定剤4種類を処方された。こんなん飲んでんの知られたら、
捜査官失格やな〜。そう思いながら、朝昼晩と規則正しく服用していた。
ランチの時にマーティンに「何の薬飲んでるの?」と気付かれ、どきっとしたが、
ビタミン剤というと安心したようだった。あいつが勘が悪くて助かってるな。
それにしても半年近く、一人であの秘密を隠し続けてきたアランの強靭な精神力に、
畏敬を覚えた。アランの方が俺よりFBI捜査官に向いてるんちゃうかな。
俺、半年も潜入捜査なんかやれへんもん。
一方ではDEAの捜査が無ければ、アランがあの秘密を自分にも漏らさなかったのかと考え、
一抹の寂しさと不安を覚えた。まだアランに秘密があったら?
考えが悪い方悪い方にスパイラルのように降下していく。
仕事に集中出来ず、ボスから叱責を食らった。
「ダニー、お前おかしいぞ。具合が悪いなら今日は早く帰れ。
ボンクラの捜査官は私のチームにはいらない。」
前のダニーなら笑って返せたのに、今はひたすら落ち込むのみだった。
「はい、帰ります。」誰にも会いたくない。早くベッドに入り込みたい。
その一心でブルックリンまでタクシーを飛ばす。
アパートに引きこもり、食事も取らずに眠った。
電話が何度も鳴っていたが出る気にならない。
留守電がアランから3回とマーティンから4回の伝言を記録する。
二人とも心配そうだ。特にアランは病気が分かっているので、
これから来ると最後の伝言で告げていた。
来てもらっても話したくない。
ベッドの中でまるくなりながら、胎児の格好でダニーは眠った。
ドアの開く音と足音が聞こえる。
どっちでもいい。俺に構わないでくれ。「ダニー、寝てるのかい?」アランだった。
ベッドから顔を出したものの、目を開けたくない。
「話したくないんだね。ヨーグルトとサンドウィッチを持ってきたよ。
何か食べないと気力も湧かないよ。」急に額が冷たくなる。アイスノンだ。
「これで良く眠るといい。君が眠れますように。」頬にアランの唇が触れる。
また、ドアの開く音と足音がした。「ダニー!」マーティンだった。
ベッドルームで、鉢合わせする。「あ、アラン。来てたんだ・・・。」
「もう僕は帰るよ。マーティン、ダニーは寝ているみたいだ。」
「具合悪いのかなぁ。支局でも元気ないから。」「風邪だろう。寝かせてあげよう。」
二人が去る音が聞こえる。アランありがとう。俺、二人に会える状態じゃないねん。
アランはマーティンをカフェに誘い、二人でコーヒーを飲む。
一人の男を真ん中にして両極に対峙する者同士、ぎこちなかったが、
元々はマーティンもアランの患者だ。アランが会話の主導権を握る。
「支局でも元気がないんだね。」
「そう、この前ちょうどDEAの捜査官がうちに来た後位からかなぁ。
何だと思う、アラン?」疑いを持つことを知らないマーティン。
「今まで職務に追いまくられてきたから、燃え尽き症候群かな?
いずれにせよ、安静にさせてあげようよ。」「そうだね。」アランはほっとした。
先般の捜査について、マーティンは一点の疑問も抱いていない。
捜査官としての資質を疑いたくもなったが、
アランはジャック・マローンの役割まで演じるつもりはなかった。
今は、とにかくダニーのうつ状態の回復と明日のイヴとの逢瀬に集中しよう。
するとアランの携帯が鳴った。ダニーだった。
「ちょっと失礼。」席を立って電話に出る。「どうしましたか?」
「今、マーティンと一緒なん?」「そうですが。」「会いたい。」
「はい、では至急伺いましょう。」「マーティン、すまない。急患だ。これで失礼。」
「アランも忙しいんだね、頑張って。」マーティン、本当にすまない。
これから君の恋人に会いに行くんだよ。アランは車を3ブロック走らせてから一周して、
ダニーのアパートに戻った。
アランは戻ってぎょっとした。台所から点々と続く血の海。
ベッドの中で、ダニーは右手首から血を出して倒れていた。
ジムのつけた傷跡をなぞっている。「これはまずい!」
タオルを細く裂いてひも状にして止血する。意識のないダニーは
石のように重たくなっているが、構わない。アランはおぶって、
12階から降り、ボルボに乗せて、私立病院のERへ向かった。
車からトムの携帯に連絡を入れ、待機してもらう。ERの入り口でストレッチャーと
トムが待っていてくれた。「輸血だ、A型プラスの血液を頼む!後、縫合を!!」
アランのグレーのジャケットと白いシャツはダニーの鮮血で紅く染まっている。
30分後、処置室からトムが現れた。「さすが医師が友人だと生存率が向上するよ。」
「ありがとう、トム。」「それにしても穏やかじゃないな。自殺未遂?」
「分からない。このところうつ状態だったから。」
「そうか。じゃあ抗生物質が終わったら、精神安定剤の点滴もしよう。」
「助かるよ。」
「アラン、お前帰れ。顔の血をぬぐって。
そのかっこじゃ警官に職務質問されるぞ。」
帰りの車の中で、アランは自分の判断を悔やんでいた。あの秘密さえ
打ち明けなければ、ダニーはこうならなかった。自然と涙が頬を伝う。
イヴとの逢瀬は延期だ。着替えたら、また病院に行こう。ダニーが気がついた時
そばにいてやりたい。
ダニーとマーティンはパジャマのまま階下に降りた。
ダニーはストライプ、マーティンはスパイダーマン柄のパジャマだ。
「早く早く!」先を争うようにマーティンのストーカー部屋へなだれ込んだ。
「このアパートも家具がないと広いな。オレんち、もう手狭やもん」
「スカッシュもできるんだよ」威張るマーティン。
「そんなもん、できんでもええがな」ダニーはマーティンを羽交い絞めにしてくすぐった。
「明日は掃除で一日つぶれるなぁ・・・」
「ハウスキーパー呼ぶからいいよ、どっか行こうよ」
「こんなとこにハウスキーパーなんか呼ぶヤツおらんやろ?
やめとけ。それにもうすぐ引き払うんやし」ダニーは何気なく言った。
「引き払う?・・・」
「もうオレにばれたんやし、借りてても仕方ないやん」
「・・・越してきたい」「え、何て?」
「ここに住みたいんだ」マーティンは思い切って言った。
「やめとけ、また親父さんがワシントンからすっ飛んでくるぞ。
ブルックリンなんかに住むの許さへんて。ましてメイドのサービスもないのに」
「ダニーはどうなの?僕が引越して来るの嫌?」
「ん・・・ちょっと困るなぁ。怪しいやん、そんなん」
「浮気できないからもあるよね・・・」マーティンはうつむいた。
「もう寝よう、その話はまた明日や」ダニーはベッドに入った。
ダニーは布団を被ろうとして、カバーについているいくつかのカバカバの染みを見つけた。
「お前、若いなぁ。やりすぎやろ?」ダニーはからかった。
「うるさいなぁ、ダニーが真上にいると思ったら興奮したんだよ」
「ほんまエロいピノキオやで!」
「もうっ、ピノキオって呼ぶなー!」
「このベッドでオレに抱かれたかったやろ?」
マーティンは返事をする代わりに、布団にもぐった。
この上でボスとしたなんて知ったら怒るだろうなぁ・・・。
後ろからダニーの手が伸びてきた。パジャマのボタンを外される。
「望みを叶えたろ」ダニーはマーティンを仰向けにし、襲い掛かった。
パンツを下ろそうとして、ダニーは苦笑した。
勃起したペニスのせいでスパイダーマンの柄が立体になっている。
「あかんわ、こんなん反則やで・・・」笑いながらずりおろすと、見事に勃起していた。
ダニーは自分もパジャマを脱ぐと、すかさずマーティンのペニスを咥えた。
「ぅ・・・っ・・ぁん」マーティンの甘い吐息が漏れる。
「オレのも舐めて」ダニーは体を反転させ、69に持っていった。
「んぅ・・ぁ」お互いのペニスを愛撫しあいながら快感を貪る。
「ダニィ、来て・・・」我慢できなくなったマーティンがうっとりした目を向けた。
「ああ、ローションは?」「ないよ、そんなの」
「待っとけ!」ダニーはバスローブを引っ掛けると、走って上まで取りに行った。
「はぁっはぁっ・・・お待たせ・・」全力疾走でぜいぜい言いながらベッドに飛び込んだ。
「ダニィ、僕をいじめて」マーティンの言葉にダニーは興奮し、
ローションをアナルに塗るとそっと中を弄り始めた。
「いっ・・・ぁっぁあん」「ここか、ここがええの?」ダニーは確かめるように中を嬲る。
「やっ・・そこ・だっだめ・・ぅっく」マーティンの内腿は小刻みに震えている。
ペニスは我慢汁が垂れ流しだ。ダニーはぺロッと舐めあげた。
「んっ・・もうイキそうだ・・・」ダニーは指を抜くと、アナルにペニスを押し当てた。
「うぁっ・・うっ・ぁぁん・・・」マーティンの反応を見ながら、ダニーは抜き差しをくり返す。
「マーティンの中、気持ちええで・・オレもそろそろヤバイわ・・」
「んっ・・ダッダニィも・・イッていいよ・・くっ・あっああー」マーティンは激しくイッた。
「オレもイクで・・・んっあっ・うっ・・」ダニーは腰の動きを早めると中に射精した。
マーティンは汗びっしょりのダニーの体に寄り添った。
ダニーもマーティンのしめった髪をくしゃっとする。
「あかんわ、オレ、どうしようもないぐらいお前が好きや」
ダニィ!マーティンはダニーの胸に顔をうずめた。
バスルームでシャワーを浴び、一枚のバスタオルでお互いを拭いてベッドに戻った。
「こんなこと、よう思いついたなぁ。呆れるわ」思わず苦笑するマーティン。
「ねぇ、中に階段があったらいいのにね、外廊下は誰かいるかもしれないじゃない」
「それ、普通の家やん!ほんま、あほやなぁ」
「メゾネットタイプのアパートに住むのもいいね。僕とダニーで!」
「そんなもん、僕らゲイですって宣伝してるようなもんやんか」
「そうかなぁ?」マーティンは不思議そうに首を傾げた。
「ダニィ、さっきのありがと。うれしかった」
「さっきのって?」マーティンは、とぼけるダニーにキスすると目を閉じた。
マーティンが目を覚ますと、隣にダニーの姿はなかった。
リビングに行くと、ダニーが掃除機を掛けている。
「おう、おはよ。上で朝めし食べてき。作ってあるから」
「うん・・・」マーティンはパジャマのままダニーの部屋へ向かった。
その間にシーツと布団カバーを洗濯し、ダニーはフル回転で働いていた。
マーティンが着替えて下りてくると、ダニーはモップ掛けの真っ最中だった。
「ダニー、僕がやるよ」モップを借り、床を磨く。
「ボン、なかなか上手いやん。ほな、後は頼むな」
「ダニー、どこ行くの?」
「ん?帰るねん。後は一人でできるやろ?」
「えーっ!帰っちゃうの!そんなぁ・・・」
「ウソに決まってるやん。オレは風呂掃除。わかった?」
ダニーは笑いながらバスルームへと消えた。
掃除が終わり、腹ペコでピザが届くのを待っていた。
インターフォンが鳴り、ダニーが出る。
「ありがとうございましたー」いつものバイト君の怪訝そうな様子にダニーは笑った。
「あー、おっかしい。あの子、きょとんてしてたで!」
「ダニーってば、いたずらばっかするんだから!」
二人はリビングの床に座り、ピザを食べた。
「すごくキレイになったね、さすがダニーだ」
「当たり前や、オレのハウスキーピング術は一流やで!」
瓶のままのクラブソーダで乾杯し、のんびりと休日の午後は過ぎていった。
ダニーの血で染まったジャケットとシャツ、パンツを脱いで着替えると、
アランはまた病院に戻った。ダニーは点滴につながれ、真っ青な顔で
こんこんと眠っていた。トムが待合で座り込んでいるアランを見つけて
声をかける。
「戻ったんだ。」「当たり前だろう。僕の大切な人なんだ。」
「お前、本当に本気なんだな。」「ああ。」
「バイタルも安定しているし、 基礎体力があるから回復は早いと思うよ。
以前の怪我よりは何倍もましな状態だったしね。」「毎回世話になるよ。」
「本当だよ、毎回世話してます。もっと重篤じゃない患者をよこしてくれよ。」
「すまない。」「それは冗談だが、お前も顔が青い。仮眠室貸そうか?」
「いや、彼が起きた時そばにいたいから。」「そうか。じゃ、また後で。」
しばらくすると、ダニーの点滴スタンドが動いた。
急いでベッドのそばへ行く。「ダニー、ダニー。」「あ、アラン、ここどこ?」
「お馴染みの病院だよ。」「俺、バカしちゃった。」
「ああ、大バカだ。それが分かってるなら良しとしよう。」
「ジムが言うねん。手首切れ〜、手首切れ〜って。」
「ジムはもういないのは判ってるかい?」「うん。」
「もう少し眠りなさい。」「うん。」ダニーはまた眠りに入った。
過去の記憶と現在の意識が混濁して幻想を見せているようだ。
いずれにせよ、数日は出勤出来まい。インフルエンザにしよう。
欠勤の言い訳を考えて、また席に戻る。
一夜明け、退院許可が下りた。手続きを済ませ、ダニーをボルボに乗せる。
パジャマ姿のダニーの細いこと。こんなに痩せていたかなとアランが驚く憔悴ぶりだった。
アッパーウェストサイドの自宅に戻り、ベッドにダニーを寝かしつける。
「何かいるかい?」「オレンジジュース」
「OK、ジューサーで絞りたてを持ってこよう。」
吸い口でジュースを渡した後、支局のジャックに電話を入れる。
オレンジジュースをすするダニーに声をかけた。
「支局にはインフルエンザということにしたからね。数日間はここで休みなさい。」
「ありがとう、アラン。俺ってダメ人間や。」「そんな事ないよ。君は強い子だ。」
「だってアランが半年我慢出来た事が俺出来ないやもん。捜査官失格や。」
「また、マイナス思考してるぞ。こら!」「ごめん。」
「今晩は野菜のリゾットでもしようか。」「うん。アランの手料理が食いたい。」
「甘えん坊め!」こぶしで軽くこずくとダニーが笑った。ダニーが笑った!
いい兆候だ。アランは明るい気持ちでキッチンに立ち、リゾットの準備を始めた。
二人で夕食を取っていると、ダニーの携帯が鳴った。マーティンからだ。「ダニー、電話出るかい?」
「ん。出るわ。もしもし、ああ、風邪やねん。見舞いに来ると移るで。いらんて。じゃあ。」
「見舞いに来たいって?」「うん、駄々っ子やから、自分の思うとおりにならないと、ぐずるねん。」
「それは、どこかの誰かも同じだけれどね。」「えっ、俺ってそんなに駄々っ子?」
「ははは。意識していないのは素晴らしいよ。」「さよか。」アランは手ごたえを感じていた。
普通のダニーに戻る段階に入っていると。アランの携帯も鳴った。マーティンだった。
「ダニー、そこにいるでしょう?」一瞬躊躇したが答える。「ああ。」
「アランはいいよね。医者だからどんな時にも一緒にいられる言い訳があって。」
「おいおい、つっかかるなよ。」「見舞い断られて、やる事ないんだもん。」
さすがのアランもむっときた。「ジェイムズにでも、構ってもらえばいいじゃないか。切るよ。」
「マーティン?」「そう。」「ほらな、あいつ駄々っ子やからぐずるやろ。」
「確かにね。」「俺も、もっとぐずって誰かを困らせようかな。」「こら!」
アランの希望的観測は確信に変わった。ダニーは立ち直れる。
「ハニー、コーヒー飲むかい?」アランの声がはずんだ。
マーティンはネットで部屋探しをしていた。
「ダニー、ちょっとちょっと!」熱心に探していたマーティンが叫んだ。
「何や、急にどないしたんや?」
「チェルシーでメゾネットの物件が出てるんだよ!」
「チェルシー?あかんあかん、あんなとこゲイ丸出しやん」
「$2800で僕たちのお城に住めるのに・・・」
「おい、オレがいつお前と一緒に住むなんて言うたんや?」
ダニーは一人突っ走るマーティンに釘をさした。
「どうしてもダメ?」
「ああ、今のままで十分やんか。気に入らへんの?」
「そんなことないけど・・・。じゃあさ、このまま下の部屋借りててもいい?」
「またそれか、困ったボンやなぁ。うーん・・わかった、当分の間だけな」
「うん、ありがとう。僕、ダニーに迷惑かけないようにするからね」
「はいはい。オレの掃除機だけは触るなよな」ダニーはニヤニヤしながら返事をした。
「またそれかよ。もう壊さないよ!しつこいなぁ」マーティンは口を尖らせた。
翌日、マーティンはエレベーターでボスと一緒になった。
「あのボス、ご相談したいことがあります」
「なんだ、仕事の悩みか?」
「いえ、その、プライベートなことです」
「ははーん、またか?」ボスは卑猥な笑みを浮かべた。
「違いますよ、そんなんじゃないです!今夜空いてますか?」
「ああ、いいとも。地下駐車場に18時でどうだ?」
「はい、大丈夫です。では後ほど」マーティンは緊張した面持ちでエレベーターを降りた。
マーティンが地下で待っていると、ボスが来た。時間通りだ。
「行こうか、マーティン」マーティンはさっと乗りこんだ。
「メシでも食いながら話すとしよう。今日は昼を食い損ねたんでな」
「どうして?事件なんてなかったのに」
「いろいろとあるんだよ。子供は知らんでいい!」
事情がよく呑みこめないまま、マーティンは頷いた。
ボスはブルックリンのピーター・ルーガーにマーティンを連れて行った。
マーティンもお気に入りのステーキハウスだ。
「あー、腹減った。お前は?」「僕もペコペコ」
ボスはステーキを四人分とシュリンプカクテル、スライストマトをオーダーした。
「お前と二人なら足りないかもな」ボスは笑った。
「うん、そうだね。ボスもかなり食べるから」
前菜の後にステーキが運ばれて来た。
二人は先を争ってがっつき、最後はチョコレートムースまで平らげた。
「マーティン、私が出すと言ったのに・・」
「いいんです、今日は。ボスにはいつもご馳走になってるから」
「お前に世話になるとは情けない・・・」ボスは少ししょげていた。
「そういえば相談って何だ?ここから近いし、お前の家で話そうか」
「あ、僕んちはダメ。僕が階下の部屋に住んでるのがばれちゃって・・・」
「とうとうバレたか・・・お前はトロいからなぁ。ダニーは切れただろう?」
「ううん、やさしかったよ。少し前から知ってたんだって」
マーティンは無邪気に答えた。
「それでね、ブルックリンに引っ越そうかと思うんだ」
「あん?何を寝ぼけてるんだ。そんなのダメだ、ヴィクターに叱られるぞ」
「本当は一緒に住みたいけど、それは断られたから」
「バカか!同棲なんて無理に決まってるだろっ」
「だからさ、下の部屋に住みたいんだよ。アッパーイーストは引き払おうと思うんだ」
「ヴィクターには何て言うんだ?」
「それをボスに相談してるんだよ。いい方法ないかなぁ」
ボスはやれやれと首を振った。
「それと僕のベッドでセックスしたこと、ダニーには言わないで」
「私が知ってたことも秘密なんだろ?」
「さすがボス!それも内緒にしてくれる?」
「お前がいい子にしてたらな。次から次へとまったく・・・」
「僕、ボスのこと尊敬してるんだ。父さんよりもね」
「マーティン・・・」ボスは感動してほとんど泣かんばかりだった。
「あれっ、ボス、フレグランス変えた?」
「ああ、アザロだ。いろいろあってな・・・」
「どうかしたの?」マーティンは気づかった。
「娘にオヤジ臭いって言われてな、正直気が滅入った。
娘なんてつまらん。あんなに可愛がってやったのに・・・」
「そう・・・。でもさ、その香り、すごく似合ってるよ」マーティンは慰めた。
「そうか?お前は本当にやさしいなぁ」ボスはマーティンの肩に手を置いた。
「アパートのことは二人で考えよう。しばらくはごまかせるだろうし」
「ボス、ありがとう。助かるよ」マーティンはアパートまで送ってもらった。
まっすぐダニーの部屋に行き、こっそり中に入った。
ダニーはDVDを見ているようだ。驚かそうと背後から近づいた。
「どわぁー」と急にダニーが叫び、マーティンはびっくりしてひっくり返った。
「もうっ何だよ、どうしたのさ?」
「ああ、怖かった。双子が血まみれになってなぁ」
「何見てたの?」
「シャイニングや。ジャック・ニコルソン怖すぎ。あ、ポップコーン食べるか?」
「ん。その前にね、はい、これ!」
マーティンは、1103の合鍵を渡した。
「僕たちの部屋の鍵」
「僕のストーキング部屋やろ?」
「うーん、そうとも言う。持っててね」
「わかった。しばらくの間だけやからな!」
ダニーはキーホルダーにつけたし、またシャイニングに戻った。
マーティンはダニーにくっついて座ると、満足そうにポップコーンをほおばった。
ダニーは日に日に回復の兆しを見せていた。まだ悪夢は見るものの、
手首を切った時に見ていたジムの幻想を見なくなり、
現実と夢の違いも認識できているようだ。ダニーがねだるので、3日後には、
支局への出勤を許可したアランだった。「手首の包帯は捻挫だと言うんだよ。」
「分かってる!」アランは用意周到にシップの匂いを包帯に染みこませてくれた。
ダニーが支局へ行った初日、アランは休診にし、ブルックリンのアパートの掃除をした。
血に染まったベッドは、ベッドスプレッドもピローも新品に取り替えた。
床はフローリングに染みているので、フロアごと取替え工事の手配をした。
台所にあったナイフは、全部捨て、一式新しいセットに買い換えた。
フローリング取替えであと1週間はここに戻ってこられない。
ダニーは怒るだろうが諦めさせるしかないな。
案の定、ダニーはむくれた。「家に帰りたい!帰りたい!帰りたい!」
「無理言うんじゃないよ。明日から業者が入るんだから。」
二人が言い合いしている最中、アランの携帯が鳴った。イヴからだった。
「ちょっと失礼。」ダニーを置いて、バルコニーで話すアラン。
話がもつれている様子だ。アランが珍しく、オーバーアクションで感情をあらわにしている。
電話を切って、ため息をつきながら部屋に入ってくる。
「誰やった?」「前看ていた患者。」アランは嘘をつく。
「ふぅん。もめてるん?」「僕が紹介した新しい先生が合わないらしいが、僕では無理なんだ。」
「アラン、風呂入りたい。」「まだ無理だ。シャワーで我慢しなさい。」
「うー、フラスト溜まるわ。」右手全体をゴム手袋で覆って、上部を
ゴムで入念に縛る。「新しいプレイみたいやな。」「バカ。」「ははは。」
二人でシャワーブースに入り、アランがダニーの身体のすみずみまで洗う。
子供のようにはしゃいで、アランにお湯や泡をかけて遊ぶダニー。
ダニーを洗い終わると、ざーっとお湯をかけ、「一丁上がり」と外へ放り出す。
さてアラン一人のシャワータイムだ。
手持ち無沙汰のダニーはアランの携帯で遊んでいた。
着信履歴を見ると最後が「I・アンダーソン」と出ている。
「患者じゃないやん。何で嘘つくんやろ。」
ダニーの心の中にアランに対する不信感が沸いた。まだ秘密がある?
アランがシャワーから出て来た。
「そういえば、俺の症例、例のイヴのおばはんと話し合うてたやん。もうサンディエゴに戻ったんか?」
「いや、まだNYにいるよ。」アランはどきりとした。この子は勘がいい。
「じゃあ今度3人で食事しよ。俺もイヴのおばはんと話してみたくなった。」
「精神科医2人に囲まれると辛いぞ〜。」「大丈夫やて。」
「じゃあ明日、打診だけでもしてみよう。」
翌日、アランは嫌がるイヴを説き伏せ、ディナーへ招待した。
場所は前にダニーと行ったヴィレッジの日本料理「LAN」だ。
個室に案内され、仲居がしゃぶしゃぶの用意をする。
ダニーの目は着物のオリエンタル・ガールに釘付けだった。
掘りごたつの中で、アランがダニーを蹴飛ばす。「い、痛!」
「まだ傷が痛むの?」イヴが尋ねる。「はい・・・」ダニーはごまかす。
「アンダーソンさんはDV専門なんすか?」
「イヴでいいわよ。そう主にDV被害者が患者の大部分ね。
サンディエゴは海軍基地もあるし、結構荒っぽいのよ。」
「俺の症例ってDVとは違うと思うんすけど。」
「でも親しい人からの暴力という点では類似点は多数あるわ。
まぁ、貴方の世話はアランがするから、私は出る幕ないけれどね。」
冷笑するイヴ。何や、こないだと違って随分剣のある言い方やな〜。
アランは一人静かにしている。
ダニーがトイレに立った隙にアランがイヴに言う。
「前にも言ったろう。僕らの仲は後腐れなしだって。」
「でも貴方に恋してしまったんですもの。」
「無理だよ、僕にはダニーがいるんだから。」
「ここでばらしてもいいのよ。私たちの仲。どうするかしら。また、手首切るかもね。」
「やめてくれよ。」「それじゃ、今日、アラン、私と泊まって。」
「えっ無理だ!」「じゃ、ばらそうかしら〜。」「・・分かったよ。」
ダニーが戻ってきた。イヴが快活に言う。
「お湯がいい具合に煮立っている。さぁ食べましょう!」
アランは心の中で頭を抱えていた。どうする、自分!
食事を終えて、アランがチェックを済ませると、イヴはタクシーを待たせていた。
「ダニー、今日は楽しかったわ。ちょっとアランを借りるわね。」「えっ!」
「ごめん、ダニー、先に家に戻っててくれないか?」「ええけど・・・」
ダニーの孤独感がひたひたと増してきた。
ダニーは一人アッパーウェストのアランのベッドで丸くなった。
アランが戻ってきたのは明け方の5時だった。
ダニーは悪夢にうなされ、脂汗をかいて起きていた。
「ダニー、今タオルを持ってくる。」ふぅっと石鹸の匂いが香った。
家のやない!アラン、やっぱりあの女と寝てる!
ショックで身体が痙攣する。涙があふれ出てきた。
「ダニー、タオルだよ。ほら、こっち向きなさい。」
「嘘つき」「えっ!」「アランの大嘘つき!」がばっと起き上がり、ダニーは
ピローでアランを打ち据える。何度も何度も。アランはされるがままでいた。
打ち疲れて、ダニーがピローを投げる。「くっくっうっうっ・・」
果てしなく続くと思われるダニーの涙。アランは全て耐えるしかなかった。
「パームスプリングスの時からだましてたんやろ。分かってたんや。俺。」
「ダニー・・・。」「だから、嫌やったん。アラン、もてるし。俺には無理な相手やったん。」
「違うよ。裏切った僕が100%悪い。謝る。許してくれ。」
「悲しいよ。アランの事こんなに怒ってんのに、俺、許さないと、生きていかれへん。」
そこまで言うと、ダニーはアランの胸で号泣した。
237 :
fanですw:2005/10/28(金) 04:02:46
読みにくいのであげます。書き手1さん、書き手2さん
これからも応援してますので、書き続けてください。
翌朝、ソファーで寝ていたアランはダニーの出勤の音で目が覚めた。
「ダニー・・」「新聞は取ったから。コーヒー入れといたで。いってくる。」
無常にドアが閉まる音がアパートに響く。これからどうする、
アラン、考えろ!自分を鼓舞してみたものの、策は無かった。残るは、
早くイヴにサンディエゴに帰ってもらう事に望みを託すしかなかった。
ダニーは、雑念を払うため仕事に没頭した。
ボスから久しぶりに仕事ぶりに褒め言葉を授かる。
マーティンも負けじと調査に力を入れた。
「捜査会議OK?」マーティンのメールボックスにダニーからの連絡だ。
「OK、19:00」即座に返信する。時差をつけて退社する二人。
「家、ちょっと工事入ってて、立ち入り禁止やねん。」「ふぅん。」
「お前の家でいいか?」「もちろん!」マーティンはいつでも歓迎だ。
デリでチキンバーベキューと温野菜、ポテトと豆のサラダを買う。
「忘れずにワインっと。」マーティンがシャルドネを選んでいる。
「捻挫、大丈夫?」右手をかばうダニーに問いかける。
「ああ、本当は捻挫じゃないねん。俺、自分で右手切っちまって、
ERに運ばれたんよ。情けないったらありゃしない。」「ダニー・・・」
「今は大丈夫やから心配せんでええよ。」「心配だよ!どうして僕を
呼んでくれないの!」「ごめんな。とにかく今は大丈夫やから。」
「うーん。アラン一緒だったんだね。」「アランの事は言わんといて
くれる?俺、腹立って納まらへんねん。」
「何?浮気?」さすがのボンも過敏になっていた。
「その通り。サンディエゴの女医や。」「どうして、そんな人と一緒にいるのさ。」
「まずは食おうや。」「ああ。」
「一緒にいるのは俺の主治医やから。それしかあらへんわ。」
「そうなんだ。僕、ずっとダニーはアランを愛してるんだと思ってた。」
「俺、色々あったやんか。それを全部共有してる相手がアランやった。
それだけや。」ダニーは嘘をつく。
「マーティン、こんな俺が聞くのもおかしいけど、俺に秘密ないよな?」
ジェイムズと寝た事が脳裏をよぎるマーティン。「ううん、ないよ。」
「お前、俺の事好き?」「自分よりもずっとずっと好きだよ。ダニー。信じて。」
「ありがとう。俺、弱虫やな。今、嬉しくて泣きそうや。」
「泣けばいいのに。いつも僕がしてるみたいに。」
「お前の前だと恥ずかしいわ。」そういってダニーは目元をぬぐった。
ダニーの後ろに回って、椅子ごと抱きしめるマーティン。
「僕、寂しかったよ。見舞いも断られたしさ。」
「ごめんな。お前に迷惑ばっかりかけて。」
「そんな事言ってないよ。いつものダニーに戻って欲しいだけさ。」
「ありがとな。」ダニーはしばらく黙って、マーティンの重みを身体に受けてじっとしていた。
「お前、また太ったんとちゃう?」「そんなのどうでもいいじゃん!」「太ったんや!」
マーティンは安心した。いつものダニーに戻ってくれた。
そこへダニーの携帯が鳴った。アランからだった。
「ダニー、どこだい?」「マーティンの家。今日泊まりやから。」
「そうか。まだ許してもらえないわけだね。」「おやすみ。」
電話を一方的に切るダニー。マーティンが心配そうな顔で尋ねる。
「アランから?」「そうや。」「もっと普通に話せばいいのに。」
「俺、普通じゃなかった?」「全然。ドンキホーテみたいに怒ってたよ。」
「えっ?」「風車めがけて攻めていったドンキホーテだよ。」
「さよか。」「主治医でいて欲しいなら、話つけなよ。」
「お前からアドバイスをもらうとはな・・・。」
「だって専門的な事分からないし、早く、ダニーに良くなって欲しいんだもん。」
「ありがとな。」
マーティンはダニーにストライプ柄のパジャマを渡す。
「はい、ダニーの支度」「ありがとな。とっといてくれて。」
「シャワーしよ。」「俺、傷があるからシャワー出来ないんや。ごめん。」
「そうか。」ダニーは先にマーティンのベッドに入って、眠りにつく。
マーティンがシャワーを終えてベッドルームに戻る頃は寝息を立てていた。
可愛そうなダニー。ピローを抱え眠るダニーにマーティンは声をかけた。
「おやすみ。ダニー。よい夢を。」
マーティンは、トイレに行きたくなって目が覚めた。
まだ真夜中だ。ダニーは隣でぐっすりと眠っている。
さっき見たシャイニングの残像が怖くて、トイレに行けない。
しばらくは我慢して目を閉じていたが、漏れそうになってきた。
「ダニー、ダニー」とうとう我慢できなくなり、ダニーを揺さぶった。
「ぅん?なに・・」言いながらも寝てしまうダニー・・・。
「ダニー、起きて」
「うぅ・・・何やええ気持ちで寝てんのに・・」
「お願い、トイレについてきて」
「はぁ?早よ行ってこい」ダニーは再び目を閉じた。
「怖くて行けないんだよ。漏れちゃう!」
「んっもう、やっかいなやっちゃなぁ。ほら、行くぞ」
ダニーは目を擦りながらトイレに付き添った。
ついでに自分もトイレを済ませ、再びベッドに戻ったが目が冴えてしまった。
マーティンはもう眠っている。
コイツ・・・ダニーはマーティンを突っついたが、身じろぎひとつしない。
何度も寝返りを打ったが眠れそうにない。
眠るのをあきらめ、リビングで雑誌を読み始めた。
ダニーがベッドに戻ると、マーティンがベッドの真ん中を占領していた。
最悪やん、コイツ・・・起こさないように横にそっと寝そべり目を閉じる。
ベッドの端からほとんど落ちそうな状態だ。
そうや!ダニーはもらったばかりの1103の合鍵を手に下に降りた。
マーティンのベッドに大の字で寝転がり、目を閉じる。
洗い立てのシーツが気持ちいい。ダニーはすぐに眠りに落ちた。
マーティンはいつもどおり五時半に目を覚まし、ダニーがいないのに気づいた。
「ダニー?」どこにもダニーの姿がない。
ジョギングに行ったのかと思い、靴を見たがジョギングシューズはきちんと置いてあった。
夜中に浮気しにどっかに行ったんだ!
マーティンは怒りながら階段を駆け下り、1103に帰った。
情けない気持ちでシャワーを浴び、乱暴にヒゲを剃る。
「痛っ!」適当に剃っていたせいで、顎の下を切ってしまった。
とりあえずヒゲを剃り終えバスルームから出たが、血がまだ止まらない。
そうだ、うちには救急箱なんてないんだった・・・。
マーティンはティッシュで押さえベッドルームに着替えに入った。
シャツに血がついちゃう、マーティンは腹立たしく思い、布団を蹴っ飛ばした。
「んぁ・・・」何、今の?マーティンが布団をがばっとめくると、ダニーがいた。
「ダニー!」マーティンの叫び声で、ダニーは目を開けた。
「うぅぅん・・またお前か!人が寝てんのに!」
「ダニー、ずっとここにいたの?」
「ああ、お前がベッド独り占めしてたやろ」ダニーは布団にくるまった。
「そっかー、ごめんね。僕、先に行くからさ、目覚ましセットしといてあげるね」
「マーティン、こっちに来い」起き上がったダニーは寝癖でぼさぼさだ。
「ん?もう行かなきゃ」ダニーは横に座ったマーティンの血を舐めた。
「わ、沁みるよ・・・」マーティンは身をすくめた。
「上でバンドエイド貼ってから行けな。地下鉄は汚いから」
「ありがと。じゃあ、行ってきます」
「ああ、また後でな」ダニーはもう一度布団にもぐりこんだ。
「ちょっと待ってー!」ダニーは扉が閉まりかけのエレベーターに滑り込んだ。
フゥッと小さく息を吐き、ボスがいるのに気づいた。
「ボス、おはようございます」
「おはよう、ダニー」ボスは胃の辺りを擦っていた。
「朝から胸焼けっすか?」
「ああ、食べ過ぎで胃がもたれてるんだ」
「体の中にフォアグラ隠し持ってますもんね!」
「ん?おいおい、私は脂肪肝ではないぞ」ボスは苦笑した。
他の局員も忍び笑いしている。ダニーも笑いながらエレベーターを降りた。
デスクにマーティンが座っているのが見えた。
あいつもフォアグラ予備軍やな・・・ダニーは一人でくすくす笑った。
「ダニー、おはよう。何笑ってんの?」
「あ、サム、おはよう。なぁ、フォアグラって好き?」
「好きだけど?それがどうかしたの?」
「いいや、何でもないねん。さあ、仕事仕事!」
言いかけた言葉を呑みこみ、ダニーは仕事に取り掛かった。
「ヘンなダニー・・・」サマンサは呆れて自分のデスクに行ってしまった。
ダニーは段々と下にいるマーティンが鬱陶しくなってきた。
始終見張られているような気がして落ち着かない。
そろそろ引き払ってもらおか・・・
ダニーはマーティンの部屋へ行ってみた。
ノックするが誰も出ない。合鍵で中へ入った。
「マーティン?ほんまにいいひんの?」
ダニーが部屋を覘くとボールで遊んでいた。
「いてるんやったら返事ぐらいしろよ」
「ごめん、全然気がつかなくて」汗でびしょびしょになっている。
「ちょっと話あんねん」
「悪いこと?だったら聞きたくない」
「ええから、聞けって!」ダニーはラケットを取り上げた。
「話ってなんだよ?」
「そろそろアッパーイーストに帰り。ここは引き払って」
「どうして?僕が邪魔になった?」
「邪魔というか・・・監視されてるみたいで落ち着かへんねん」
「しばらくいてもいいって言ったのに・・・。まだひと月も経ってない!」
「オレ、前みたいな関係のほうがええねん」
「僕は一緒に住みたいぐらいなのに・・・」マーティンは下唇を噛みしめた。
「じゃあさ、しばらく向こうに帰るよ。それでいい?」
「そんなん言うてるんと違うねん、引き払えって言うてるんや」
「そんなの急に言われても困るよ・・・」じとっとダニーを見つめる。
「お前なぁ・・・」ダニーは困ってしまった。
「決まりだね!ちょうど洗濯物もたまってたし、一回帰るよ」
マーティンは汗で濡れたシャツを脱ぐと、ランドリーバッグに放り投げた。
すでに溢れて衣類やタオルが散乱している。
うわー、臭そう・・・ダニーは思わず顔をしかめた。
マーティンは洗濯物と荷物を持ってアッパーイーストに帰って来た。
部屋に入り、留守電をチェックする。父からのメッセージが耳に痛い。
父さんか、僕が引っ越したいなんて言ったらどうなるんだろ?
マーティンは残りを聞かずに消去した。どうせろくなのが入っていないんだ。
お気に入りのシェルチェアに座り、久々に揺れに身を任せた。
今度はこれも持っていこう、すでにブルックリンに戻ることを考えていた。
マーティンはダニーに電話した。「ダニー、もう帰りたいよ」
「あほかっ、まだ帰ったばっかりやん。何言うてんねん!」
「ダニィが泊まりに来ないかなぁと思って」
「行かへん、行かへん」
「今夜はずっと家にいる?どこにも行かない?」
「今日はうるさいのがいいひんから、ゆっくりするんや」
「僕、ダニーに犬っころみたいな扱いされてる・・・」
「そんなことないで、みたいじゃなくて犬っころなんやもん」
「もうっダニー!あのさ・・・早く迎えにきてね。待ってるから」
からかわれて拗ねながらもマーティンはボソっと言った。
もしかしたらダニーが迎えに来るかもと待っていたが、期待外れだった。
不機嫌なまま出勤する。
支局でダニーと目が合うと例の流し目が返ってきた。
なんだよ、本気でアッパーイーストに追い返す気?
マーティンは困惑した表情で見つめ返した。
「ボス、明日は有給休暇をいただきたいのですが、承認していただけますか?」
「えらく急だな、マーティン。どうしたんだ?」
「FAAの航空身体検査を受けないといけないんです。三年ごとに更新なんで」
「ああ、それなら行って来い。お前の操縦するセスナなんて怖ろしいな。
同乗するヤツが気の毒だ。そんなヤツがいればの話だが?」
「僕は3000時間も乗ってるんですよ、ボス。今度、乗ってみます?」
「いいや、結構。それぐらい車の操縦が出来るといいな、マーティン」
ボスの嫌味に凹みながらも、なんとか書類にサインをもらった。
僕ってすごく評価が低いのかも・・・確かにトロいけどさ。
デスクでランチを食べながら、ダニーに有給のことを伝えてなかったことを思い出した。
ダニーはデスクでホットドッグを食べている。
マーティンはコーヒーを片手に近寄った。「ちょっといい?」
「何や?」二人は用心深く周囲を見回し、誰もいないのを確かめた。
「明日、休むから。航空身体検査があるんだ」
「ふぅん、わかった。今夜は早よ寝ろよ」ダニーはそっけなかった。
「僕、昨日待ってたんだよ。来るんじゃないかって」
「行かへんて言うたやろ。しつこいなぁ」
ヴィヴィアンが戻ってくるのが見え、二人は何もなかったかのように離れた。
ダニーは仕事が終わると帰りにショットバーに寄った。
ドライ・マンハッタンとライブピアノを楽しみ、ほろ酔い気分だ。
酒でも飲まないと、また女に手を出しそうで不安だった。
これ以上は明日に響くわ、ダニーは判断して店を出た。
タクシーを待っていると、携帯が鳴った。
「はい、テイラー」気だるそうに出るとサマンサだった。
「ダニー!後ろ見て!」ダニーが振り返ると、靴を振り回すサマンサが笑い転げていた。
「サム!どうしたん、大丈夫か?」
「ははっ、ダニーが出てくのが見えたから追いかけたのよ〜」
「自分もさっきの店にいてたんか、全然知らんかったわ」
「深刻そうに飲んでたじゃん。背中が孤独だったわよ」
「えらい酔うてるなぁ。よっしゃ、一緒に帰ろ」ダニーはサムをタクシーに乗せた。
トライベッカまで着くまでの間、サマンサはダニーにもたれかかっていた。
目に光るものが見えたが、ダニーは気づかないフリをしていた。
言いたければ自分から話すやろ、ただそっと肩を抱いていた。
サマンサの体から少しアザロの香りがした。
ボス、はっきりしたればええのに・・・前にも進まれへんやんか。
タクシーを待たせ、ダニーはサマンサをアパートの玄関まで送った。
「おやすみ、また明日な」寂しそうなサマンサと別れ、ブルックリンまで帰った。
マーティンがこっそり戻っているような気がして、11Fで降り部屋に行ってみた。
部屋は無人のままだった。なぜか拍子抜けしてしまう。
ダニーはそのままベッドにひっくり返り、天井を見上げた。
ほろ酔いの気持ちよさと、静かな空間の心地よさでダニーはうとうとしていた。
ハッと目が覚め、時計を見ると1時を過ぎている・・・。
ダニーは自分の部屋に戻り、水を飲んでいると電話が鳴った。
「ダニー、こんな時間まで何してたのさ!」いきなり大声でわめかれ水にむせた。
「やぁ、マーティンか、下で寝てたんや」
「何がやぁだよ!嘘ついてるんじゃないの?」
「ほんまやって。それより明日病院やろ、早く寝んとあかんやん」
「いないから心配で眠れるもんか!バカダニィ!」
「嘘なんかついてへん。サマンサに聞いてみ、証明してくれるから」
「・・・うん、わかった。おやすみ」マーティンは納得したのか電話を切った。
はぁー、ダニーは歯を磨くとシャワーも浴びずベッドに入った。
アランは一人、広いベッドを見回し、身を横たえ、ダニーの体臭に包まれて、
その不在の大きさを感じていた。アラン・ショアともあろうものが、
一回りも年の違う子供にこれほど感情を揺さぶられるとは。
最初はマーティンからダニーを奪う恋愛ゲームだったはずだ。
自分でも止められない狂おしい感情の高まりだった。
これまでベッドを共にした誰にも感じなかった独占欲がアランに芽生えていた。
リビングで携帯が鳴っている。もしやダニー?
急いで画面を見ると「I.アンダーソン」と出ている。
「もしもし。」「アラン、今日伺ってもいい?」「だめといっても、どうせ来るんだろう?」
「よく判ってるわね。それじゃ19時に伺うわ。」「ああ。」
アランはパームスプリングスでの情事を心から悔やんだ。
ダニーの携帯に電話を入れる。着信拒否の文字が心に痛い。
どうやって償えば、ダニーは許してくれるだろう。
アランは途方に暮れていた。
ダニーは、フローリングの工事の様子を見がてら、マーティンとブルックリンのアパートに立ち寄った。
「うわぁ〜、全部張替えかいな!」「そう依頼主から聞いてるんでね。」
「部分換えに変更きかへん?」「代金前金でもらってるんだ。そうはいかないよ。」
職人たちは、首を縦にふってくれない。「工期は?」「あと4日かかるね。」
「さよか。」ダニーはとりあえず必要なものをまとめてスポーツバッグに詰めた。
マーティンが持ってくれる。「ありがとな。マーティン。」
「早く手首も治るといいね。」マーティンの細かな心遣いにダニーは感動した。
こんなに気い回ったかいな。俺と離れてる間に大人になった感じやな。
それでも、車の運転はまかせられないダニーだった。マスタングに荷物を乗せて
マーティンのアパートに戻る。
翌日、支局は珍しく事件がなく、皆、書類整理や経費精算をしていた。
ダニーは何の気なく、犯罪者ファイルに「I・アンダーソン、サンディエゴ」と
入力してエンターを押した。「何やこりゃ!」ダニーの素っ頓狂な声に、
マーティンが反応して覗きに来る。「これ、誰のファイル?」
ダニーが小声で答える。「アランの浮気相手や。」
急いで出力して全貌を見る。イヴ・グレース・アンダーソン、過去5年間に
ストーキングで6回訴えられている。いずれも不起訴。これは、常習犯や!
アラン、とんでもない奴に釣り上げられてるやん!
「俺、ちょっと出かけてきます。」マーティンが「僕も」と言って付いて来る。
車の中からマーティンにお願いして、アランの携帯に電話してもらう。
「ダニー、電源が入ってないよ。」「じゃ、自宅に電話しい。」
「留守電になってる。」おかしい!自宅でプラクティスを始めて以来、そんな
事は一度もなかった。何かがアランの身に起きている。
合鍵でアパートの玄関を開ける。「あ、合鍵持ってるんだ。」ショックを受けるマーティン。
「ああ、まあな。」エレベータの動きがのろく感じられる。
アパートのドアを開け、中に入る。むっとする女の香水の香り。
「アラン!アラン!!」返事はない。ベッドルームは空。
バスルームからうなる声がする。「アラン!」
二人がバスルームに行くと、バスタブの中に、アランが一糸まとわぬ姿で
ころがっていた。両手がパープルのパシュミナで蛇口につながれている。
口にはガムテープが張られていた。「アラン!大丈夫?」ガムテープを静かにはがす。
「ハニー、よく来てくれた。あの女は・・」「あの女は何?」甲高い声が響く。
振り向くと、そこには鬼女のような形相のイヴが立っていた。
「イヴ・グレース・アンダーソン・・」「頭のトロい坊やね。FBIの癖に。
今度こそアランを一人占め出来ると思ったのに。残念だわ。」
マーティンが銃を抜く。「静かにここから立ち去りなさい!」
「仕方がないわね。アラン、楽しかったわ。じゃあね、チャオ。」
マーティンがイヴから目を離さないようにして、玄関ドアまでついていく。
玄関ドアの鍵を内側から閉めてもまだドアから目を離さない。
ダニーが不自由な右手を使いながら、蛇口の拘束を解く。
「ありがとう。ハニー・・一生の不覚だよ。クロロフォルムかがされて、
気がついたら、この様だ。」
マーティンが玄関から戻ってくるが、二人が話しているのを聞いて、
「僕、支局に戻るね。」と去っていった。
アランの手首も擦り傷で出血していた。何時間拘束されていたのだろう。
「アラン、ER行く?」「いやぁ、トムに笑いの貸しを作りたくないから、自分でやるよ。」
アランを立たせ、バスタオルで体を巻いて、ベッドルームへ行く。
書斎からドクターバッグを持ち出すと、アランに見せる。
「救急キットがあるだろう。それをこっちへ。」心配そうに覗くダニー。
「擦過傷だから出血も少ない。縫合の必要なしだ。」ダニーは安心した。
「それにしても、よく来てくれたね。ハニー。」
「支局でイヴの名前を犯罪者ファイルと照合したらザクザク前科が出たんや。」
「そうか・・・前にもやってたんだね。」「ああストーキングの常習犯や。」
「ちょっと寝かせてくれないか。」アランはそういうと眠りに入った。
ダニーはすぐさま、管理事務所に電話し、鍵の変更を依頼した。常習犯の
ストーカーなら合鍵位持っていてもおかしくない。すぐに業者が来て、
鍵をかけかえてくれる。マスターキーをベッドサイドテーブルに置き、
サブキーを自分のグッチのキーホルダーにつけると、ダニーは支局へ戻った。
支局へ戻るとすぐにマーティンに礼を言うダニー。
「お前がいなかったら、あんなにスムーズにいかへんかった。ありがとう。」
「そんなのいいよ。今日も付き添ってあげなよ。その方がいいよ。」
思いがけない言葉に、返事がいえないダニーだった。
マーティンはすでに仕事に入っていた。ダニーは小さい声で「ありがとう。」を
繰り返した。
マーティンは航空身体検査のため、指定された診療所にいた。
完全予約制のため、他の患者は誰もいない。
「フィッツジェラルドさん、どうぞ」
「はい」ドキドキしながら、診察室に入る。
「今までワシントンで検査されてますね?」
「はい、そうです」
アシスタントの問診を受け、医師が来るのを待っていた。
「どうも、お待たせしました。ドクター・バートンです」
顔を上げると、NIP/TACKのクリスチャン・トロイのようなドクターが立っていた。
わぁ、かっこいい先生だ。どうしよう、僕。
「あ、フィッツジェラルドです。よろしくお願いします」
「はい、それじゃ始めましょうか。血液と尿のサンプルは採りましたね?」
「ええ」てきぱきと聴力と視力検査をし、色覚の検査まで終わった。
心電図をとるため、シャツを脱いで横たわったとき
ペニスが半分勃起しかけているのに気づき狼狽した。
「手は横に楽な姿勢で置いてください」
「あっ、はい」どうか気づかれませんように・・・。
「うん?ST波に異常は見当たらないけど・・・緊張のせいかなぁ。
心疾患の兆候はないけど、拍動のリズムが早いなぁ」
ドクター・バートンは胸に聴診器を当て、唸っている。
マーティンはますますドキドキしてきた。
「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。
それよりこの心電図だとパスできないかもしれない」
「ええっ!」さらに心電図の波動が乱れた。
「ドクター・バートン、僕は3rd classなので心電図は不要だと思うのですが?」
「えっ!3rd class?これは失敬、心電図は必要なかったね」
照れくさそうに笑う医師に、マーティンはドギマギしていた。
「でもこの波形は気になるなぁ。詳しく検査したほうがいいかもしれないよ」
「支局の健康診断ではなんともなかったんですけどね・・・」
「支局って?」
「FBIのです。結構厳しく検査されてるけど、パスしてます」
「まぁ、ST波に異常はないからね。心疾患ではないでしょう。
君はFBI捜査官か、もっと怖そうなイメージだったから意外だね」
「よく言われます。僕、童顔なんで」マーティンは恥ずかしそうに言った。
ドクター・バートンはにっこり笑った。魅力的な笑顔だ。
「フィッツジェラルド捜査官」
「あ、マーティンでいいですよ」
「それじゃマーティン、どこも異常はありませんでした。
はい、3rd class航空身体検査証明書。有効期限は三年です」
「ありがとうございます、ドクター・バートン」
「そうだ、今日は君でおしまいなんだ。ついでに他の検査も受けたら?」
「うーん、それじゃお願いします」マーティンはせっかくなので受けることにした。
胸部X線検査と腹部超音波検査を受けたが異常はなかった。
「はい、じゃあ横になって」ドクター・バートンがトランクスに手を掛けた。
「ちょっと待って、次はなんですか?」
「直腸診だよ、これで終わり。さ、力を抜いて」
「えっ、あっあの」戸惑うマーティンのアナルに、細長い指が入ってきた。
「うぅん・・」中で蠢くドクターの指に、マーティンのペニスは反応していた。
「んっ・・」敏感なところを擦られ、マーティンは呻いた。
「痛む?ここが痛い?」何度も指が往復する。
「そこはやめてっ・・ダメっ」背中がびくんと小刻みに痙攣する。
「マーティン、そんなに痛むの?」
「いっいえ、あっうっ・・・」ドクターがさらに擦った瞬間、射精してしまった。
どうしよう、とんでもない失態をさらしちゃった・・・。
「マーティン、直腸診も異常なしだね。少し敏感だけど、それはまぁいいでしょう」
「はい・・・」マーティンは耳まで赤くなっているのを感じた。
トランクスは精液でべたべただ。マーティンは前を手で覆いながら着替えた。
「前立腺の腫瘍マーカーの検査結果を、来週聞きに来てください」
「はい、わかりました」マーティンはうつむいたまま答えた。
「気にすることないですよ、よくあることだから」
「はい・・今日はありがとうございました。失礼します」マーティンは急いで診察室を出た。
カードでチェックを済ませるのももどかしいぐらい、急いで診療所を後にした。
来週来いって言われたって、もう合わせる顔がないよ。
マーティンは情けない思いでとぼとぼ歩いた。濡れたトランクスが冷たい。
ふと気がつくと、診察室に検査証明書を忘れてきたことを思い出した。
あ〜もう、何やってんだか!ドクターに会うの嫌だなぁ。
証明書がないと、免許の更新ができない。
マーティンは嫌々診療所に戻った。
受付の女性はもういなかった。「すみません、どなたかいらっしゃいますか」
「はい」うわっ、ドクター・バートンだ・・・。
「あぁマーティン、証明書忘れていってたね。ちょっと待ってて」
「はい・・すみません」また顔が赤くなっていた。
「今度は忘れないで。失くしたら大変だからね」ドクター・バートンは笑っている。
「はい、重ね重ね申し訳ありません。失礼します」
マーティンは逃げるように診療所を飛び出した。
まだ三時過ぎか、みんな仕事中だ。
タクシーでアッパーイーストのアパートに帰り、シャワーを浴びた。
思い出すと、また羞恥心で体中が熱くなった。
あれ、留守電入ってる。再生してみるとダニーからだった。
支局に父が来ているらしい・・・。こそこそ話すダニーの声。
もう一件はその父からで、携帯も繋がらない、一体どこにいるんだと怒鳴っている。
マーティンは仕方なく父の携帯に電話した。
「父さん、マーティンです」
「マーティン、今ジャックのオフィスにいる。病院は終わったのか?」
「ええ、ついさっき帰ったところです。」
「そうか、で、どうだった?」
「異常なしです。証明書ももらいました」
「よろしい。今夜はフォーシーズンズに泊まるから後で来なさい」
「はい、19時でよろしいですか?」
「ああ、いいだろう。お前と食事するのが楽しみだ」
「ええ、僕もです。では、後ほど」楽しみ?そんなわけない・・・。
マーティンは大きく息を吐いた。父相手にこんなに緊張してどうするんだろう・・・。
携帯が鳴った。ダニーからだ。
「ダニー、メッセージありがとう。助かったよ」
「ああ、そんなんええねん。どうやった?」
「ん?検査なら大丈夫。どこも悪くなかった」さっきのことを思い出し、少しドキッとした。
「そうか、よかったな。今夜のことやけど、オレとボスは行かれへんかもしれん」
「えー、どうして?」
「裁判所に提出する書類に不備があって、検察官が来てるんや」
「えーっ・・・父さんと二人っきりなんて嫌だよ。何を話せばいいんだい?」
「とにかく現地集合になったから、ホテルにはお前一人で行けな」
「うん・・・なるべく早く来てね。待ってるから」
大変なことになった・・・マーティンは目の前が暗くなるのを感じていた。
ダニーは新しい鍵でアランのアパートに入った。
まだイヴがいそうな気がして、思わず拳銃を抜く。
バスルーム、書斎、カウンセリングルームを点検して、
ベッドルームへと進む。何も変わった様子はない。
アランが規則的な寝息を立てて眠っている。
「良かった・・・。」アディダスの上下に着替えて、キッチンに立つ。
そうだ、チーズのリゾットにしよう。不自由な右手であまり物を切りたくない。
チーズをスライサーで細かく削り、ミルクと合わせてソースを作る。
米を入れて、白ワインを入れて風味よく蒸し煮にする。
ソファーで「エスクワィア」を読んでいると、アランが起きてきた。
「アラン、気分どう?」「やぁハニー、来てくれてたんだね。」
「もうすぐリゾットも出来るから、晩飯食おう。」
「ああ、その前にシャワーさせてくれ。」「ん。」
一緒に入りたい気持ちを抑えて、バスタオルとバスローブを準備するダニー。
イータラのグラスをダイニングに運んでいたらバスローブ姿のアランが現れた。
「本当に今日はよく来てくれたね。どうしてイヴのことが判ったんだい。」
「偶然やねん。ムシャクシャして犯罪者ファイル開いてた時にイヴの名前入力してみたんよ。
そしたら、ビンゴやった。」「とにかく助かった。ありがとう。」
アランはダニーのおでこに優しく唇を当てた。
「今日はマーティンもお手柄だったんやで。奴がイヴを見張ってくれたから、
アランをすぐに助け出せた。」「マーティンにも礼をしなければね。」
「またディナーに招く?」「そうしようか。」
リゾットをよそいながら、ダニーは皮肉交じりに言う。
「これで誰かの浮気の虫が治まるとええけど。」「言葉もないよ。」
「じゃあ、ワイン開けて。」「ああ。」タンタラのシャルドネを開ける。
「最高やん。」二人の静かな食事が始まった。
「今日は泊まっていくかい?」
「うん、鍵取り替えたけど、まだ心配やねん。相手は筋金入りのストーカーや。俺がアランを守る。」
「頼もしいねえ。」「それ位しか俺、出来ないから。」「それだけで十分だ。ありがとう。ダニー。」
「なんやこそばゆいやん。」ダニーはワインを二人のグラスに注ぎながら照れていた。
「アランを怒ってた気持ちがどっかに飛んでってしまったわ。アラン、得な性分やな。」
「褒められてるんだか、けなされてるんだかわからないが、とにかく、ありがとう。」
リゾットの食事が終わり、二人してソファーに場所を移した。
座るアランの足の上に、ダニーが頭を乗せて、ゴロゴロやりはじめる。
「今度、浮気したら俺がお仕置きしたろ〜。何しようかなぁ。ガオ〜。」
股間に歯を立てるマネをする。「おいおい、やめてくれよ、ダニー!」
ダニーの携帯が鳴る。マーティンだった。「マーティン、どうした?」
「うん、何事もないかと思ってさ。」
「ああ、大丈夫や。今日はありがとな。あ、アランが変わりたいって。」
「マーティン、アランだ。本当に今日は命拾いしたよ。ありがとう。」
「そんな、改めて言わないで、アラン。」「今度また家でディナーするから来てくれよ。」
「はい。伺います。」「と言うわけやから、また明日な。」
「ダニー、僕もダニーを愛してる事、決して忘れないでね。」
念押されてしまったわ。ダニーは苦笑した。
「マーティン、何だって?」「俺のこと愛してるって。」携帯を放り投げ、
ダニーはアランのお腹に顔を近付ける。「困ったね〜。このモテ男はどうするだろう。」
「モテ男ってどっちが!元はといえば、アランが浮気したのがいけないんやで。」
「確かに詭弁だったよ。ごめん。」「もう、しないって約束する?」「約束する。」
「何に誓って?」「ダニーのおでこのシワに誓って!」
310 :
fanですw:2005/10/31(月) 05:31:17
マーティンに浮気相手登場ですかw
トロイ先生なら許しちゃいますが、バレた時のダニイが怖いです。
それも楽しみにしてます。
初めて感想を書きます。書き手1さんも書き手2さんも
本当にキャラを愛してるんだなと思います。
自分も、失踪者を追えの2シーズン目の放映までずっと応援します。
がんばってくださいね。
>>310さん
いつもありがとうございます。浮気相手かどうかはまだ決めてないんですよ。
>>311さん
初めまして。ご感想ありがとうございます。
シーズン2、楽しみですよね。自分も待ち望んでます。これからもよろしくお願いいたします。
マーティンがフォーシーズンズの父の部屋に行くと、入れ替わりに女が出てくるところだった。
廊下ですれ違い、意味ありげな視線でにっこりされ戸惑う。
部屋をノックすると、バスローブ姿の頬を上気させた父が出てきた。
「マーティン?まだ時間には早いが?」いつもより慌てているようだ。
「遅れるといけないので少し早めに来ました」
「そうか、中で待ってろ。支度するから」
ベッドルームの扉が開いていて、シーツが乱れたベッドが見えた。
やっぱり女遊びか、ワシントンじゃできないもんね。
マーティンは冷めた目で父のいるバスルームを見つめた。
ホテルチャンバースの1階のタウンまで、二人は話すこともなく黙って歩いた。
父はこの前のチャイニーズレストランを推したが、ダニーのためにここを推薦した。
フレンチ・アメリカンならダニーも安心できるだろうという配慮だった。
「遅いな、先に始めよう」父はさっさとオーダーを済ませた。
マーティンも渋々従ったが、入り口ばかり気になりチラチラ見ていた。
食事の間も会話が弾むこともなく、一方的に話す父に返事を返すだけだった。
「今夜はやけに静かだな?疲れたのか?」
「ええ、少し。すみません」
「テイラー捜査官の話が聞きたかったな。彼はサービス精神が旺盛だ」
「そうですね。仕事も出来ますしね」
「お前はどうなんだ?少しはジャックのユニットに溶け込めたのか?」
「ええ、なんとか。企業犯罪よりやりがいがあります」
「そうか、いつでもワシントンに戻ってこい。そのほうが私も安心だ」
「はい。あの、父さん、今日はここで失礼してもよろしいでしょうか?」
「疲れたのなら仕方あるまい。また明日支局で会おう」
「はい、失礼します」マーティンは足早にタウンを後にした。
ダニーはホテルから急いで出てくるマーティンを見つけた。
「マーティン!」困ったような情けない表情のマーティンが振り向いた。
「遅いよ、二人とも。食事なら終わったよ」
「すまん、ちょっと手間取ってしもて。副長官は?」
「まだタウンにいると思う。もうすぐ出てくるんじゃないかな」
「マーティン、早く乗れ。ヴィクターに見つかるとうざい」
ボスに言われ、急いで後部座席に乗った。
「ボス、このままでいいんすか?待ってはるのと違います?」
「心配はいらん。仕事だと言ってあるんだから」
「食事も済んだし、用もないんじゃない?そうそう、ダニーの話が聞きたいって言ってたよ」
「えっ!オレの話を!あの副長官が?」
「サービス精神が旺盛だって。気に入られてるよ・・・」
マーティンの言葉にダニーは舞い上がった。
ボスはバックミラーでマーティンの様子を窺った。
「腹が減った、とにかくミッドタウンから離れんとな。おいしかったか、マーティン?」
「さあ、よくわからなかった。とにかく気まずくって・・・」
「あほやなぁ、お前。何でもがっつくくせに」
「あのねぇ、僕が止めなきゃまたサソリだったんだよ!」
「げぇ・・・それはあかんわ」ダニーは身震いした。
「どうしたんだ、マーティン?」いつもより落ち込んでいるマーティンにボスが尋ねた。
「男ってさ、誰でも娼婦買ったりするの?」
ボスとダニーは顔を見合わせた。ダニーは始終身に覚えがあるので気まずそうだ。
「まぁ、大体はな。一度や二度は買うんじゃないか」
「そう、みんな買うのか・・・」寂しそうなマーティン。
「どうしたん?」ダニーは心配になった。
「さっきホテルの部屋に行ったら娼婦みたいな女の人と入れ違いになったから」
「高級娼婦だな、それは。マーティン、そんなもん気にすることない」ボスが言い切った。
「うん・・・」マーティンはうつむいたままだった。
ボスは二人をチャイナタウンのジョーズ・シャンハイに連れて行った。
店内はかなり混雑していたが、客の回転が早くすぐに席につけた。
「あー疲れた。ヴィクターは本当に疲れる。勘弁してほしいな」
「ごめんなさい」マーティンは小さくなった。
「いつも言ってるだろう、お前が謝る必要はない。さあ、オーダーしよう」
ボスは適当にエビの炒め物や魚の蒸し物などをオーダーし、飲茶のカートからカニの小籠包をとった。
「さあ、二人とも食え食え」ボスはどんどん蒸篭をとった。
「いただきます」二人は小籠包の熱さにフーフー言いながら食べ始めた。
「おいひい〜」マーティンが無邪気に言うのを満足げに見ながらボスは微笑んだ。
「うまいか?いくらでも食べろ、遠慮はいらん」
「お前、さっきも食べたとこやのによう食うなぁ・・・」
「だって、ほとんど食べた気がしなかったんだもん。ずっと相槌しか打てないしさ」
「あれや、これや、どれや、それやて話つないだらええだけやん。困ったら天気の話や」
「ダニー、無茶を言うな。私だってヴィクターと話すのは嫌なんだ」
ボスは青島ビールを煽りながらマーティンをかばった。
「もうダメ、何も入んないよ。ごちそうさま」マーティンがおなかを擦った。
「オレも。ごちそうさまでした」オーダーしたものを三人ですっかり平らげていた。
「うまかったな。また来よう」ボスはチェックを済ませた。
「ダニー、運転代わってくれ」
「了解っす」ダニーとマーティンは前に乗った。
ボスは後部座席から、ダニーの手に自分の手を絡ませるマーティンを見ていた。
「ボス、水槽見て行ってもいい?」マーティンが振り返った。
「ああ、いいぞ。今夜は特に癒しが必要だろうよ」
ボスの家に着くなり、マーティンは水槽に見入った。
「おい、コーヒー入ったぞ」ボスがエスプレッソを入れてくれた。
「ボス、デロンギのマシーン持ってたんすね。ええなぁ」
「これじゃなきゃシャキッと目覚めんからな」
「マーティン、支局で親父さんがお前のこと話してたで」
「僕の?一体何のことさ?」
「あの子は17才で航空免許取ったとかな、ブライトリングの腕時計はその記念やとか」
「ああ、航空計算尺がついてるからね。便利なんだよ」
「お前、おやじさんのこと嫌がってる割りに、えらい大事にしてるやん」
ダニーの言い方に、カチンときたマーティンは腕時計を外した。
「欲しけりゃやるよ!どうぞ!」
「いらんわ!誰が欲しいなんて言うたんや、あほか」
「僕はもうつけない、ダニーにやるよ!」マーティンは臍を曲げた。
「そんなんいらんて言うてるやろっ」
「僕もいらない!」マーティンは腕時計を放り投げた。
ポチャンと水音がして、水槽の中へ腕時計は落ちた。
「おい、何するんだ!私の心の友に当たったらどうする!」
ボスは慌てて水草用のピンセットでつまみあげた。
「大丈夫か?驚かせてごめんよ」妙なやさしい声で魚に話しかけるボス。
「よかった、魚ちゃんも時計も無事だ。ダニー、余計なこと言うな。マーティンも子供っぽいぞ」
ボスは腕時計を洗うと拭きながら返した。嫌がるマーティンにはめてやる。
「もう11時だ、そろそろ帰れ」ボスに促されダニーは腰を上げた。
「ほな、失礼します。今日はご馳走様でした。マーティン、帰ろう」
「僕は帰らない」マーティンはそっぽを向いたまま答えた。
「そうか、じゃあ勝手にせい。オレは帰るから」ダニーは出て行った。
「マーティン、本当に帰らないのか?」
「ううん、帰る。ボス、今日はありがとう」マーティンは礼を言うと立ち上がった。
「大丈夫か?泊まってもいいんだぞ?」
「うん、へーき。甘やかさないで、甘えたくなるから」
「わかった、えらいぞ」ボスはマーティンの肩をポンとたたくと送り出した。
アランが前々から気になっている症状がダニーにあった。幼児期への退行だ。
これはジムの事件で負った心の傷ではない。もっと深みに隠されたPTSDだと
アランは予想していた。ダニーが承諾してくれれば、
催眠療法を施すのに、なかなかウンと言ってくれない。
「もう治ったやんか。これ以上の治療はいらんて。」
手を差し伸べる度に拒絶されるアラン。
確かに悪夢を見る回数は減った。しかし、皆無になっていないし、
アランにだまって夜中にシャワーを浴びている時が何度もある。
アランにはダニーが封印したい過去の深層に何かが隠されているのを確信していた。
ブルックリンのフローリング工事が終わり、嬉しそうに自宅に戻るダニー。
「そんなに自宅がいいのかい?」思わず声かけるアラン。
「当たり前やん。自分のとこの風呂にゆっくり浸かりたいわ。
なぁ、アラン、もう風呂入っていいんやろ。」「ああ、抜糸したからね。」
「良かった〜!」ダニーはさばさばとブルックリンに戻っていった。
ダニーのいなくなった部屋がむしょうに広く虚ろに感じられた。
ダニーの携帯に電話する。「はい、テイラー。」「アランだけど何してる?」
「晩飯の支度。」「手伝いに行こうか?」「ん。来てもいいで。ワイン持ってきてくれるなら。」
「お安い御用だ。」ワインセラーから極上のメルローを持って、ダニーのアパートを訪れる。
合鍵でも開けられるが、わざわざ玄関ブザーを押した。
「はい。」「アランだ。」「鍵忘れたんか?」「君に開けて欲しくてね。」
ガチャ。セキュリティーは解除された。12階へ急ぐ。
「いらっしゃい。」ダニーが玄関で迎えてくれる。「ワインは?」「はい。」
「うわ〜、タンタラのメルローや。初めて飲むよ。」
「今日のディナーは何だい?」「ミートローフとマッシュドポテト。簡単でごめん。」
「こっちこそ押しかけてすまない。」「ちょっとデリで買い足してくるわ。」
ダニーはそういうと出かけた。アランの好きなワイルドライスサラダを持って
帰ってきた。
ミートローフをアランの皿に取り分けて、ダニーはアランの顔を見つめている。
「何だい?」「俺みたいな子供の世話で、アラン疲れへんか?」
「何を今さら。愛あればこそだ。」ワインを飲む。
「こちらこそ、ダニー、ありがとう。しばらくは、
サンディエゴの方向を向いて眠らないつもりだ。」
「当たり前やん。あのおばはん、きっとアランのチンチン切り取るつもりやったんやで。」
顔をしかめながらダニーが言う。
「でも究極の愛はそうなのかもしれないね。日本でそういう事件があったらしいよ。
映画化されてカンヌ映画祭に出品されたと聞いたことがある。
エロスの先にあるのはタナトス、死への欲望だ。」
「アラン、究極の愛のしるしに誰かにチンチン差し出すほど愛したことある?」
ダニーの至極まじめな眼差しにアランは驚いた。
「さすがに、そこまで思ったことはないけれど、命を投げ出してもいいと思ったことはあるな。」
「へぇ〜。それ誰?」「昔のことだよ。僕も若かったしね。」そうごまかした。
「アランにもそんな過去があったなんて意外やな。」不思議そうな顔で聞いている。
そういう君のためなんだよ、ダニー。アランは心の中で叫んだ。
「このメルロー、さすがやね。」「ダニーもかなりワイン通になったね。」
「誰かの教育の賜物や。」そこへダニーの携帯が鳴った。
「はい、おう、今食事終わったとこや。何?今から?これからもう寝るから、また明日な。おやすみ。」
「マーティンかい?」「ん。俺がここに戻ったの知ってるから今から来たいって。」
「いいのかい、断っても。」
「だって、アランがいてるのに。もしかして、アラン、3Pしたいとか思ってへん?」
「夢見るが、実行に移すのは控えているよ。」「ふうん。」
「君がどう思ってるか知らないが、僕はそれほど変態じゃないよ。ダニー。」「ふうん。」
「ふうんって信じてくれてるのかな。」「半々やね。」「全く。口の減らない子だな。」
「風呂入れてきてええ?」「ああ、もちろん。」「俺の好きなオイルでも?」
「ああ、君の家だ。何でも好きにするといい。」
ダニーはお風呂にお湯を張ると大好きなラベンダーのエッセンシャルオイルと
バスジェルをお湯に溶かした。♪〜鼻歌がバスルームから聞こえる。今日は上機嫌だな。
アランも安心した。が何しろ、この前はここで手首を切った人物だ。油断はならない。
「アラーン、お湯入ったで〜!」「ああ、今行くよ〜!」
二人で入ると手狭なバスタブだが、二人共足を持ち上げて肩までゆっくりつかった。
「やっぱり我が家はええな〜。」「ということは同居の話は反故かな?」
「うん、考えたんやねんけど、俺、この方が人間関係うまく行く思うんや。」
「文化人類学的な防御の距離だね。」「何それ?」
「中国やインドのような人口過密国は他人との距離が極端に狭くても脅威に感じないが、
我々アメリカ国民のように国土が広いと他人との距離が一定に保たれないと脅威に感じるんだよ。
君はさらにその距離が長いようだ。」「ふうん。」
「それが次の治療のステップなんだけれど、続ける気持ちはあるかい?」
「何か怖そうやな。」「大丈夫さ。ただ君の記憶の底を探る作業が伴うから、
嫌な事に行き当たるかもしれない。」
「でもそれで、あの悪夢から開放されるなら、俺、やって欲しい。」
「分かった。じゃあ、来週、やってみようか。」「うん。」
「バスタイムに話す話じゃなかったね。」「まだピロートークが残ってるやん。」
そう言うとダニーは泡をふーっとアランの顔めがけて吹きかけて笑った。
>>311 さん
初めまして。応援メッセージありがとうございました!
今夜からしばらくは久しぶりに地球と火星が接近する。
ダニーはベランダで火星を眺めながら、ブランデーを飲み
さっきのマーティンの態度に腹を立てていた。
一緒に帰りもせず、今頃ボスと戯れているに違いない!
ダニーはそう確信していた。
あいつ、結局オヤジに認められたいくせに・・・。
ボスもボスや、魚に話しかけるってどないやねん!頭おかしいで!
酔ってトロンとした目で、夜空に浮かぶ赤い星を見ながら一人ごちた。
マーティンはアパートに帰ると、腕時計をキャビネットにしまった。
外す時、心がチクッとしたが無理やり押し込んだ。
どうせ僕なんかより、ダニーと話すほうがいいんだ・・・。
僕と会う前にあんな娼婦と寝るなんて、最低だ!
マーティンは上気した父の顔を思い出し、憎らしくなった。
それと同時に、父に気に入られているダニーのことも妬ましかった。
翌日、支局内を闊歩する父のそばにはダニーがいた。
ダニーはマーティンにレクチャーしたように、あれやこれやと話題を振り
間が開きかけると天気や火星の話をしていた。
マーティンはダニーの話を聞きながら、自分がだんだんと不機嫌になるのがわかった。
ただいま火星に砂嵐発生中だって!よくあんなにペラペラ喋れるよ!
父は感心して聞き入っている。僕が同じことを話しても、絶対にこんな顔はしないだろう。
「マーティン、みんなで食事に行こう」
「僕は仕事があるので」マーティンは父の誘いを断った。
「仕事?書類仕事なんて戻ってからやればいい。ジャック?」
「マーティン、副長官殿がユニット全員をご招待してくださったんだ。
せっかくのお招きなんだ、書類なんて後でいい」
マーティンが顔を上げると、嬉しそうなサムが目に入った。
「はい、行きます・・」仕方なくマーティンは席を立った。
ジャン・ジョルジュでのランチはまさにダニーの独壇場だった。
おもしろおかしく話し、小話まで披露して副長官は笑い転げた。
サムやヴィヴまで飲み物を吹きそうなほど笑っている。
マーティンはふて腐れたように鴨肉を口に運んでいた。
ボスはマーティンの足を突っついた。
マーティンが見ると、なんだかよくわからないジェスチャーをしている。
何なんだよ!マーティンはボスを一瞥すると料理に戻った。
チェックを済ませると、副長官はマーティンに残るよう命じ、
ボスはみんなを連れて支局へ戻っていった。
「マーティン、さっきの態度は何だ!もっと場所柄をわきまえないか!
あんな無作法な振る舞いをして!そんな不躾に育てた覚えはない!」
怒りを押し殺した静かな声で叱責され、マーティンはテーブルの下で拳を握り締めた。
「いいか、昨日のことで腹を立てているのはわかる。だが、お前もいずれ家庭を持て
ばわかるだろう。
今回は目をつぶるが、今度またあんな態度を取ったら許さん!わかったな!」
「はい・・・」マーティンは怒りでいっぱいだった。
「感情を抑えられないのはバカのすることだ!」
「はい・・失礼します」絞り出すようにそれだけ言うとマーティンは店を後にした。
支局に戻ると、ダニーが挑戦的な目でこちらを見ていた。
はいはい、そんな顔しなくても君の勝ちだよ、勝ち!これでいい?
サマンサとヴィヴィアンも気を遣っているのが手に取るように分かる。
マーティンはやりかけの仕事に戻ると、黙って取りかかった。
「ちょっとええか?」ダニーが話しかけてきた。
「忙しいんだ」そっけなく答え、PCに向き合う。
「ほな、また後で」ダニーはもごもご言うと自分のデスクに戻った。
ダニーは少しやりすぎたと思い、謝ろうと思って待っていたが
マーティンは仕事が終わるとさっさと帰ってしまった。
「マーティン、待てや」後ろから声を掛けるが、振り返りもしない。
ついていくとショットバーに入るのが見え、ダニーも入った。
「なぁ、話がしたいんやけど」カウンターで横に座り話しかけた。
「話すことがまだあるの?僕じゃなく父に話せばいいじゃない!」
マーティンはギムレットを二杯飲むとバーから出た。
タクシーでアパートに着くと、ニッキーが下で待っていた。
「なんでこんなとこにいるんだ?」
「デートの後、電話待ってたのにくれなかったから・・」
酔っているせいか、ククッと思わず鼻で笑った。
「ねぇ、僕のこと好き?」
「うん、大好き!」
「君が?僕の何を知ってるって言うんだい?」
「マーティン、酔ってるの?」
「酔ってる?ああ、たぶんね」
その時タクシーが止まって、ダニーが来るのが見えた。
マーティンはいきなりニッキーを抱きしめると、強引にキスをした。
ディープキスをしながらダニーのほうをじっと見据えた。
「なっ・・・」ダニーは驚きのあまり言葉を失ったが、そのまま踵を返して行ってしまった。
それを見届けると、ニッキーから離れた。
「ごめん、悪かった。これで帰りなよ」
「マーティン・・・」
「君には欲情しないんだ、すまない」
マーティンはニッキーにタクシー代を渡すとアパートへ入っていった。
女じゃだめだ、僕には何の意味もない。余計に虚しい気分でエレベーターのボタンを押した。
アランは催眠療法のため週末のスケジュールを開けて、ダニーの治療の準備をした。
第三者の監督が必要なので、旧友のトムに頼んで来てもらった。
トムは別室で、カメラに写される二人の様子を観察する役目だ。
緊張した面持ちで、ダニーがカウンセリングルームの席に座る。
いつものカウンセリングルームが、今日は別世界のように見える。
緊張した面持ちで、ダニーがカウンセリングルームの席に座る。
アランがいくつかジョークを言い、少し身体の緊張感が薄らいだ。
「さぁダニー始めるよ。君はカウントと共に眠くなる。1、2、3、
・・・10。」ダニーは完全に催眠状態に入った。
「ダニー、君は今、6歳だ。目の前に何が見える?」
「台所。かあちゃんが料理作ってる。」「他には?」
「うーんと、あ、とうちゃんが帰ってきた。息がヘンな匂い。」
「アルコールかい?」「わかんない。」「それから?」「かあちゃんをぶってる。何度も何度も。」
「それから?」「俺、かあちゃんの前に立った。かあちゃん泣いてる。
とうちゃんが、ビール瓶でテーブルを殴った。ぎざぎざや。」
「ぎざぎざ?」「とうちゃん、俺の方に向いて、右手つかんで、ぎざぎざで刺した。
あぁ〜痛い!血が止まらへん。どくどく流れる!」ダニーが右手首を強く握り締めている。
顔面は蒼白だ。「ダニー、楽にして。目を覚ますよ、10、9、8、・・・1。はい。」
ダニーは涙を流していた。かなり憔悴している。水を差し出すと、のどを鳴らして飲んだ。
「ダニー、ちょっと待っててくれ。」別室のトムに意見を求める。
「典型的な幼児虐待じゃないか。親父さんはどこにいるんだ?」
「ダニーが11歳の時、交通事故で亡くなってる。母親もだ。事故の生き残りが彼だよ。」
「これを取り除くのは、父親のいい思い出をも覆すことになる。やるか?」
「ああ、そうでないと、あの子はこの悪夢から逃れられない。」
「そうだな。僕も同意見だ。」「ありがとう。トム。」「つらいな。」
アランはカウンセリングルームで待つダニーに告げた。
「ダニー、話すことがある。」話し終えると、ダニーは泣いた。
最初は静かに、段々と号泣に変わった。アランが抱きしめる。
お父さんは決して君を愛していないわけじゃない。タイミングが悪かっただけだ。」
「俺、おとうちゃんに愛されてなかった。」
「だから、違うんだよ。タイミングだ。アルコール依存症は分かるだろう。それが理由だ。」
「アラン、くぅ〜うぅっ〜!」しばらくダニーはアランの胸で泣いていた。
涙が収まった頃、トムが顔を見せた。「ERのシフトがあるから行くよ。」
「今日はどうもありがとう、トム。」「二人、お幸せに。」
「俺、シャワーしたい。」「ああ、そうだね。」
アランはダニーに十分なシャワータイムを与えた。もちろん剃刀類は隠している。
シャワーから出て犬のように頭をふるダニー。バスタオルを巻く。
「アラン、ありがとう。俺、判ったこと沢山ある。」
「話したくなければ話さなくていいんだよ。」
「とにかくお礼だけ言いたい。ありがとう。」
そういうとまたダニーはアランに身体を預けた。
「今日はここに泊まるかい?」「うん。そうしてもええ?」「いいとも。」
二人はベッドルームへと進んだ。ダニーが先に身を横たえる。
「僕もシャワーしてくるからね。寝たければ眠っていいんだよ。」「うん。」
アランがシャワーから出た頃にはダニーは静かな寝息を吐いていた。
「今日から悪夢から開放されるといいね、ダニー。」
額に唇をつけてアランは、ダニーの隣りに身を横たえた。
364 :
fusianasan:2005/11/02(水) 04:43:59
書き手1さん
ダニーはもうマーティンとは付き合わないのでしょうか?
いつもアランといるので、心配してます。
書き手2さん
ニッキーは女じゃ立たないマーティンを悟ったんでしょうか?
可愛そうですね。
スレが上がっててびっくりしました。
マーティン、浮気しないんでしょうか。父親の関心がダニイに向いてて、
面白くないんだと思うんですよね。
続きが楽しみです。
366 :
fusianasan:2005/11/02(水) 05:26:37
ダニーとマーティンが復活するのを願ってます。
いや、決して他のキャラが邪魔じゃないんだけど、
ダニーとマーティンは不滅ですからww
>>364 さん
流れのままに書いているので、今はアラン優勢という感じでしょうか(苦笑)
でも
>>366 さんのおっしゃるとおり、ダニーとマーティンは不滅ですから。
翌日、ダニーがシャワーを浴びる音でアランは目が覚めた。
昨日の荒療治のせいで、ダニーの目の下にくまが出来ている。
「おはよう、ダニー。」「あ、アラン、おはよう。今朝はいい天気や。」
「そうだね。」まだ窓から外を眺めていないアランだった。
「コーヒー入れるわ。」「ああ、お願いする。」「新聞も取るからな〜。」
「ああ!」努めて元気に振舞うダニーがいじらしかった。
「今日は、出勤するのかい?」シャワーブースから声をかける。
「当たり前やん。何で?」「じゃあ、ディナー一緒にするかい?」
「うん、今日は外食がええなあ。」「どこで食べたい?」「まかせるわ。」
「O.K.」「じゃあ出かける。」「いっておいで。」
昨日の衝撃の事実を、ダニーは咀嚼出来ているのだろうか。まだ観察が必要だ。
マーティンには、また職権濫用と責められそうだ。
定時が終わる頃、アランはダニーの携帯に電話を入れた。
「グラマシーの「パンチ」で20時に予約したから。」「あぁ、俺行きたかったとこやねん。サンキュ〜。」
電話を切るとサマンサが寄ってきた。「また、アランとデート?」「悪いか?」
「いいなぁ。ダニーにはパトロンがいて!」「おいおい、言葉遣いには気をつけてな。そんなんやないから。」
ヴィヴィアンがくすくす笑っている。「そんなやないって!」
マーティンが冷たい目で「打ち消すと余計に怪しいよ。」と捨てセリフを残して倉庫へ降りていった。
「何やねん、みんなして。俺はユニットのおもちゃやないで〜!」
20時ちょっと前に「パンチ」に着いたダニー。
店の前でアランが待っていた。いつも同様ゼニアで決めたダンディーないでたちだ。
「アラン、ありがとな。ここ来たかったんよ。」
「ああ、僕もだ。今日は、この後、ヴィレッジ・ヴァンガードに付き合ってくれるかい?」
「何のライブ?」「リー・リトナー」「最高や!アラン、キスしたい位や。」
「してもいいんだよ。」「誘惑せんといて!」
レストランの中は業界人のビジネスディナーが多かった。
「やっぱり。ここ予約してもなかなか無理ってボンが言うてたわ。」
料理は絶品だった。フォアグラのテリーヌもTボーンステーキも一味違った演出で
一つ一つが料理雑誌のグラビアのようだった。
最後にパティシェがわざわざデザートを持って出てくる。
「ハッピバースデー、ダニー♪」店のスタッフの合唱。ぽかんとするダニー。
「昨日が君のREBORN、二回目の誕生日だ。」「うわ〜。」
チーズケーキがロリーポップの盆栽のように飾られている。
ダニーは思わずアランの頬にキスしていた。
リー・リトナーはヨーロッパツアーから戻ってきたばかり、
久しぶりの本国で至極リラックスしたライブを展開していた。
ブランデーを飲みながら、葉巻をくゆらせる二人。「ごほっごほっ!」
「おいおい、無理に葉巻を吸わなくてもいいんだよ。」
「だって、今日は俺の誕生日やもん。大人のしるしや。」
ダニーも終始ニコニコ上機嫌で緊張したところが全くない。
アランは心から安心した。
「アラン、今日、家に泊まる?」「いいのかい?」
「うん!泊まって欲しいんや。」「じゃあ、ブルックリンに向かいますか。」
ライブハウスの前から駐車場まで少し歩く。「はぁ〜。」ダニーがため息をつく。
「どうしたんだい?」「俺、晴れ晴れした感じ。開放感。すごい気持ちええねん。」
「良かった。」「だから、今日さぁ。」
そう言って、ダニーはアランの手を自分の股間に持っていった。少し立ち上がりかけている。
「ダニー・・・。」「俺、したい。」「いいのかい?」「うん。アランとしたい。」
駐車場からどうやってブルックリンに戻ったか分からない程、
二人は興奮していた。アパートのドアを開けるやいなや、キスしながら、
お互いの服を脱がせ、シャワーを浴びにバスルームに行く。
ダニーがココナッツオイルを持ってきて、自分の局所に塗りたくる。
「ダニー・・」「構わず、俺を貫いて。来て欲しいんや。」
アランはダニーのペニスに手を伸ばすとそこは我慢汁ですでに濡れていた。
「じゃあ、入れるよ。」「うん。うわぁ〜!」
久しぶりのダニーのアヌスは進入物を排除しようと括約筋を締める。
「ああ、ダニー、すごい力だ!」「俺も気持ちいい〜、あぁ〜アラン〜!」
アランは静かに抜き差しを繰り返す。
「だめ〜、俺、我慢できない〜、イキたい!」「まだまだ!」
ダニーのペニスを根元から締める。「うっぅ、イカせて〜!」
「だめ、ベッドルームへ移動だ。」二人で駆け足でベッドへ寝そべる。
自然と69の体勢をとっていた。アランももう限界に来ていた。
「ダニー、イキそうだ〜1」「じゃあ、俺の中で!」
ダニーは四つんばいになる。静かに挿入しながら、背中に唇を這わせるアラン。
「俺、もうダメや。いく〜!」「僕も!」二人は同時に射精した。
二人ともヘトヘトだった。汗と精液で身体中がベトベトだ。
「痛くないかい?」「気持ち良かった・・・。」
「大丈夫なんだね?」「ああ、もう一度イキたい位や。」
「もう、おじさんはヘトヘトだよ。」「ははは〜っ!」
ダニーの明るい笑顔を見てアランは安心した。きっとダニーは大丈夫だ。
酔ってソファにひっくり返っていると、ボスが電話してきた。
「マーティン、副長官を見送ってきたぞ。えらく不機嫌で参った!」
「どうせ僕が気に入らないんだよ。ダニーに夢中だからね」
「お前、せっかく私が合図してやったのに無視しやがって」
「あんなジェスチャーじゃわかんないって!もういいんだ、僕なんて」
「余程ヴィクターに叱られたんだな。行ってやろうか?」
「ううん、今夜はもう寝るんだ。おやすみなさい」
ボスの気持ちがありがたかったが、ベッドにもぐりこんで目を閉じた。
翌日、仕事の帰りにマーティンは新しいブライトリングの腕時計を買った。
父からプレゼントされたのは意地でもつけたくない。
他のを選ぼうかと思ったが、航空回転計算尺はどうしても必要だった。
あれ以来、ダニーとは話していない。
こっちから連絡する気も一切なかった。
月曜日、ドクター・バートンの診療所へ18時に予約を入れていた。
こんな日に限って仕事が時間通りに終わらない・・・
診療所に着いたときは、もう18:40過ぎだった。
受付にはもう誰もいない。あちゃー、やっちゃったよ・・・。
マーティンは恐る恐る声を掛けた。
「こんばんは、どなたかいらっしゃいますか?」
「はっはい、はいはい」ドクター・バートンが出てきた。
「すみません、18時に予約していたフィッツジェラルドです。遅くなりました」
「やぁ、マーティン。もう来ないかと思ってね、食事を始めちゃって・・・」
「いいんです、遅れた僕が悪いんですから。出直してきます」
「いやいや、ご足労を掛けるのは申し訳ない。ちょっとこっちで待ってて」
マーティンをドクターラウンジへ案内し、オレンジジュースを出してくれた。
テーブルの上には見なれたディーン&デルーカのカートンが並んでいた。
「今日は事件があったの?」ドクター・バートンはペンネを突き刺しながら尋ねた。
「ええ、無事に解決しました」
「ふうん、毎日命懸けだね、大変だなぁ。そうだ、君もよかったら食べる?」
「いえ、僕も帰りに買いますから」
「おいしいけど、毎日だと飽きない?オレは飽きちゃって」
「ええ、確かに。僕も料理ができるといいんだけど・・」
「君も?オレも一切ダメなんだ。飲み物を入れる程度かな」
「僕も似たようなもんです」二人は顔を見合わせて笑った。
ドクター・バートンの食事が終わり、マーティンは診察室へ案内された。
この前の直腸診が頭をよぎり、また耳まで赤くなる。
「えーっと、前立腺の腫瘍マーカーの測定値は正常でした」
「よかった!」マーティンはホッとした。
「それと、この前の心電図の件なんだけど、もう一度とろうか?」
「僕、やっぱり心臓が悪いんですか?」
「うーん、ちょっと気になったから。
今日もう一度チェックして、異常がなかったら大丈夫だ」
「じゃあ、お願いします」マーティンは気になって受けることにした。
「はい、じゃあシャツを脱いで横たわってください」
今回は初対面ではないので、落ち着いて横たわる。
「うん、今日は正常な波形を描いてる。これなら大丈夫だね。異常なし!」
心電図モニターを見ながらドクター・バートンは頷いた。
左胸の電極を外すとき、冷たい手が乳首に軽く触れた。
「んっ」思わず声が出てしまう。
「君は敏感だね」クスクス笑われ、マーティンは恥ずかしくてたまらなかった。
「すみません・・・」
「いやいや、敏感なほうがいいんじゃない?楽しみが増えると思うよ」
電極を全て外され、マーティンは急いでシャツを着た。
「マーティン、慌てるからボタン掛け違えてるよ。今日は直腸診なんてしないから落ち着いて」
「あっ、ええ、どうも・・」緊張してボタンを外す手が震えた。
「君はおもしろいなぁ、かわいいというか・・・。どれ、貸してごらん」
ドクター・バートンは素早くボタンを外した。トロイ先生似の甘いマスクが間近にある。
「あの、後は自分でできますから・・」マーティンはドキドキしながらボタンに手をやった。
「ん?いいよ、ついでなんだから」ドクターはボタンを留めてくれた。
「あれ?シャツがきついみたいだけど、この前より太ってない?」
「週末、ヤケ食いしたせいかもしれない・・・」
「ヤケ食い?何かあったの?」
「いろいろムシャクシャしちゃって・・・」
「ヤケ食いは感心しないが、そんな時もあるよな。君、スポーツは?」
「スカッシュとジムぐらい。あと時々ゴルフ」
「オレもスカッシュとゴルフはしてる。オレ、結構強いぜ!」いたずらっぽく笑うドクター・バートン。
「僕だって強いよ!」負けじと自分も宣言する。
「今度一緒に行かない?アッパーイーストに新しいクリアコートがあるんだ」
「僕もそこに行ってるよ。パヤードの斜向かいでしょ?」
「そう、そこ。デザート食べて、また運動する悪循環!」
マーティンは見事に当てはまる自分に苦笑した。
「いいよ、今度やろうか。オレのほうが勝つよ、きっと」
「いや、勝つのは僕だ。いつでもいいですよ」
「じゃあ、明日の19時でどう?」
「ええ、事件が起こらない限り大丈夫!」
二人は携帯の番号を交換して別れた。
もうすぐ仕事が終わる。みんな帰り支度を始めていた。
マーティンの携帯が鳴った。ん?見慣れない番号だ。
「はい、フィッツジェラルド」
「マーティン、バートンだけど。今夜大丈夫?」
「ええ、もうすぐ終わりますから」
「オレ、ナイキタウンの帰りなんだ。FBI支局の前通るから下で待ってるよ」
「じゃあ、17時15分でいいかな?」
「ああ。ちょうどそのぐらいになると思う。ダークブルーのTVRだから」
マーティンが電話を切るとサマンサがニヤニヤしていた。
「マーティン、デートの約束?」
「違うよ。ねぇ、TGVなんて車あるんだね、知らなかった」
「はぁ?それはフランスの高速列車でしょ!」
「あれっ、じゃあ何だったっけ?」
サマンサとしゃべるマーティンをダニーは不審そうに見ていた。
約束の時間に下に降りると、ダークブルーのコンバーチブルから
ドクター・バートンがにっこりと手を振っていた。
「マーティン、急に予定変更して悪いね。近くまで来たから」
「いえ、別にかまわないですよ」
ダニーが横を黙って通り過ぎていった。
マーティンも知らん顔で車に乗り込んだ。
「ダニー、待ってー」ダニーが振り向くとサマンサがいた。
「今の見た?NIP/TACKのクリスチャンみたいじゃない!」
「ああ、見た。似てたな」
「誰だろう、あんなかっこいい人。マーティンの知り合いかなぁ」
「知らん。なぁ、メシでも行かへんか?」
「ごめん、今夜はダメ」意味ありげに笑うサマンサ。
「はいはい、フォアグラやな」
「何それ?」
「なんでもない、また明日な。ほな、お疲れ!」
知らん顔をして乗り込んでいったマーティンを思い出しながらムカついていた。
誰やねん、あの男!あんな派手なヤツ知らんで!
あいつ、仕返しのつもりやろか・・・あかん、イライラするわ!
ダニーは誰なのかが気になり、穏やかでいられない。
気を紛らわすために大量の食材を買い込んで帰った。
「ドクター・バートン、荷物を取りに帰りたいんだけどいいですか?」
「スチュワートでいいよ、病院じゃないんだから。もちろんいいよ」
「じゃあアッパーイーストまでお願いします」
「アッパーイーストに住んでるのか。いいなぁ、オレはグラマシーに住んでるから」
「僕はニューヨークのこと、まだよく知らないんだ。ユニオンスクエアの辺り?」
「いや、グラマシーパークの近く。静かなところだよ」
やがてアパートに着き、マーティンはリビングに案内した。
「着替えてくるから適当にくつろいでて。何か飲みますか?」
「いや、結構。ゆっくりどうぞ」
「じゃあ、ちょっと失礼します」マーティンはベッドルームへ行った。
着替えて戻ってくると、ドクター・バートンはベランダにいた。
「お待たせしました。行きましょうか」
「ああ、もういいの?じゃあ行こう」
二人はスカッシュコートへ向かった。
予約していたクリアコートに入り、二人は一心不乱にプレーした。
白熱したゲームに、いつのまにかギャラリーが周りを取り囲む。
マーティンも上手いが、ドクター・バートンもかなりの腕前だ。
負けるもんか!二人とも一歩も譲らない。
5ゲームフルセットの末、マーティンが勝った。
「くっそー・・・負けた!」
悔しそうなドクター・バートンと握手を交わし、満足そうなマーティン。
「僕が勝つって言ったでしょ?」
「いや、今度はオレが勝つ!来週リベンジだ」
「いいよ、今度も勝つのは僕だから」
「よし、ディナーおごるよ。シャワーを浴びよう」
ドクター・バートンに髪をくしゃっとされ、マーティンはドキっとした。
二人はグランドセントラルのオイスターバーに行った。
「この年になるとみんな結婚して家族がいるからさ、こういう機会が滅多にないんだ」
「スチュワートは独身主義なの?」
「まあな、オレは気楽な一人がいい。セックスにも不自由しないし。君は?」
「僕もそう。結婚なんてしたくないんだ。親はうるさいけど」
「どこの親も同じだな。自分たちは結婚生活に辟易してるくせにさ」
「そうだね」僕の父も娼婦と遊んでたもんね・・・。
「あの、トロイ先生に似てるって言われない?」
「ああ、たまに言われる。形成外科は専門外だけど」
レモンを絞る手つきがセクシーだ。
マーティンは見とれながらクラムチャウダーを食べた。
「やっぱりね。初めて会った時ドキッとしちゃった」
「そう?心電図の異常はオレのせいかもな」ニヤッとされマーティンはうつむいた。
「何だよ、恥ずかしがることないだろ。うん?本当にそうなのか?」
「そんなんじゃないよ」慌てて否定したものの、心を見透かされたようで落ち着かなかった。
マーティンはついつい飲みすぎて酔っていた。
「大丈夫か?もうすぐ着くから吐かないでくれよ」
「ふぁい・・・」
アパートに着いたものの、マーティンは鍵も開けるのもやっとだ。
ドクター・バートンはジャケットを脱がせ、ベッドに寝かせた。
「寒いよ・・・」
「ああ、ごめん」羽毛布団でしっかりとくるみ、水を取りにいった。
冷蔵庫の中はアルコールの類と水とジュースしかない。
これじゃうちと同じじゃないか・・・バートンは苦笑しながら水を取り出した。
冷凍庫には作り置きのグラタンやベーグルがたくさん入っている。
どうやら食事を作ってくれる相手がいるらしい。
水とオレンジジュースを持ち、マーティンのところへ戻った。
「はい、水。飲んだほうがいい」
「ありがと」マーティンはこぼしながら水を飲んだ。
「あーあー、しょうがないなぁ。ほら、しっかり持てよ」
介添えして飲ませてやり、濡れたシャツを脱がせた。
「じゃあオレは帰るから。また来週な」
「待って、行かないで」
「なんだよ、気分が悪いのか?吐きそう?」
「ううん・・・」
「わかった、眠るまでそばにいてやるよ。それでいいだろ?」
マーティンの横に無造作に横たわり、寝顔を見ているうちに眠くなってきた。
このまま眠ってしまいそうだ、そろそろ失礼するとしよう・・・。
バートンがベッドから出ようとすると、マーティンの手がしっかりとシャツを掴んでいた。
おいおい、離してくれよ・・・子供の手を開くようにはがそうとするがうまくいかない。
仕方なくバートンはマーティンを起こした。
「マーティン、手を離してくれないか」
「・・・ん、ごめん」少し酔いが冷めたマーティンはぼんやりしながらも理解した。
「そろそろ帰るよ。何か着ないと風邪引くぞ」
「うん・・・」
「今夜は楽しかったな。またやろうぜ」
ドクター・バートンは髪をくしゃっとすると帰っていった。
マーティンはベッドの中で凹んでいた。
酔っ払って迷惑かけちゃったよ・・・もう会ってくれないかもしれない・・・。
僕ってバカでどうしようもない・・・。
裸のまま布団にもぐりこみ、自分を責めながら目を閉じた。
ダニーは眠れない夜を過ごしていた。
何度も携帯に手が伸びるが、自分から電話するのは癪だ。
あのあほ、今ごろ何やってんねん!もしかしてあのトロイみたいなヤツと?!!
考えれば考えるほどに、からみ合う二人の肢体が思い浮かぶ。
切なくて胸をかきむしるほど、やるせない気持ちで後悔していた。
翌朝はアランが先に目が覚めた。ダニーは隣りでぐっすりと眠っている。
寝汗もかいていない。「ふぅ〜。」安心のため息をつくアラン。ダニーを
起こさないようにベッドから降りると、新聞を取り、コーヒーメーカーを仕立てた。
まだダニーは起きてこない。
ダニー、朝だよ。」「ん〜、まだええやん、ぐー。」「ええやんじゃないよ、出勤時間に遅れるよ。」
「あっ今何時?」「うそだよ、まだ6時半だ。」「アランのアホ!寝かしてえな。」
「だめだよ。シャワーしないと髪があっちこっち向いて立ってるぞ」「うぅん〜。」「ぐずるな!」
布団をはがすと、ダニーは朝立ちしていた。「元気だなぁ。」アランが感嘆する。
「恥ずかしいから見んといて。」「さぁシャワー。」
ぐずぐずするダニーの手を引いてシャワーを浴びるアラン。
ダニーはされるがままだった。身体を洗い終わり、
髪もシャンプーしてもらい、至れり付くせりのサービスなので、
立ち寝をしようとする。「おい、ダニー!」「は、はい!」
やっとしっかり目が覚めたようだ。
「昨日の運動がきつかったかなぁ。それは僕のせりふなんだけど。」
「昨日のアラン、最高だった!」「そうかい。」まんざらでもないアラン。
冷凍ベーグルをレンジで解凍すると、半分に割ってクリームチーズを塗る。
「スモークサーモンも買ってあるから、サンドにしてくれへん?」
「注文の多い家主だなぁ。」コーヒーとサーモン&チーズベーグルサンドが出来上がった。
ベーグルサンドをジップロックに入れて、コーヒーを飲むと、ダニーは「それじゃ、行ってくる。」
「ああ、行っておいで。僕も時機を見て出るから。」「アラン、昨日はありがと。言葉には出来んわ。」
「いいよ。」ダニーはアランにディープキスをして、出て行った。
支局に早めに着いた。すでにマーティンが出勤している。
「マーティン、おはようさん。」「ああ、おはよう。」取り付くしまがない。
「ベーグルサンド、半分食わへん?」「どうせ誰かさんの手作りでしょう?僕、ドーナッツ食べるからいいよ。」
こりゃあかんわ。すっかりヘソ曲げとる。
まだ誰も来ていないのを見届けて、「お前さぁ、テンパってるとバレるで。」
「だってダニーなんか、アランと半ば公認の仲じゃない。どうして捜査官同士じゃいけないのさ。」
「それは公私混同を避けるためや。職務規定にあるやろ?」「ボスとサムはいいの?」
「あの二人は例外や。」「納得いかないよ。ボスに言う。」「お前、墓穴掘るで。」
「だって、ダニーと一緒にいたいんだもん。」
そこへ疲れた面持ちのボスが出勤してきた。「おはよう。」「おはようございます。」
「あのボス、お話が。」「なんだ、マーティン、朝から。じゃあ部屋へ来い。」「はい。」
あいつ、思いつめるととんでもない鉄砲玉やな。
ダニーは二人の話の様子を外から観察していた。
ボスも神妙な顔で聞いていた。マーティンが落ち着くのを待っているようだった。
ボスが二言三言話すと、諦めたようにマーティンが出てきた。
「何やて。」「ダニーと同じ事言ってた。」「ほらな。俺たちまだビューローにいたいやろ。我慢しい。」
「じゃあ今日付き合ってよ。」「ああ、ええで。昼か、夜か。」「夜に決まってるでしょ!」
そのうちサマンサとヴィヴィアンが喋りながら出勤してきた。
二人は何事もなかったように離れた。
サマンサが「昨日のデートどうだった?」と尋ねる。「食事してリー・リトナー聞きにいって帰った。」
「理想的だよね〜。アランがダニー以外に向いてくれないかなぁ。今時そんなロマンチックなデートないもの。」
サマンサはボスの顔をちらりと見ながらぶつくさ言った。どうせあのおっさんの事だから、
簡単なディナー食べて、モーテルに行くんやろうなぁ。サムの気持ちを汲んでやらない野暮てんやな。
ダニーは今晩のマーティンとのデートで頭を悩ませていた。
俺の部屋は昨日アランと暴れたから跡が残ってるしなぁ。
そや、ボンの部屋でゆっくりしよう。「捜査会議20時、O.K.?」
マーティンから打診だ。「承諾。貴宅にて希望。」「否、屋外希望。」
なんやあいつ!マーティンが真剣にPCに向かって打ち込んでいた。
喧嘩腰やん。思いやられるわ。ダニーは仕方なく、「ル・ヴェルナルディン」を予約した。
これで400ドル飛ぶな。
マーティンは大喜びだった。「ここのオーナーシェフ、有名なんだよ!」
「お前、グルメの事になると調査は万全やな。」「じゃ、他の調査は?」
「それは及第点やけどさ。」前菜のサーモンタルタルからメインのタラのポワレまで、
ナパ・ヴァレーの白ワインでお腹がパンクしそうな量だった。
ぺろりと平らげるマーティンの健啖ぶりに改めて驚くダニー。
「お前、朝はドーナッツで晩飯にバターとオリーブオイルたっぷりの料理で、体重増えてないか?」
「関係ないでしょ。」「関係あるさ。お前を乗せなきゃいけないだろう?」「それって・・」
「そうだよ。俺、治ってきてるみたいなんや。」「じゃあ、早く帰ろうよ!」
「お前デザートは?」「スキップ、スキップ!」
アッパーイーストサイドにタクシーを飛ばすマーティン。
マーティンは先を急いでエレベータのボタンを押す。
エレベータに乗るや否や、ダニーにキスをねだる。
「防犯カメラついてんのやろ。」
ダニーが拒むと、口を尖らせて、「分かったよ。」といった。
玄関の鍵をがちゃがちゃ探している内に、ダニーが合鍵で開けた。
久しぶりのマーティンの部屋だ。相変わらず、メイドサービスで清潔に保たれている。
「ワイン、飲む?」「ああ。」
「それじゃぁ、ラウンドヒルのシャルドネでいい?」「何でも。」
マーティンはバカラのグラスにワインを注いで持ってきた。「ありがと。」
「ねぇ、ダニー、トラウマ克服したの?」「まだ分からんけど、一応、主治医からは快方に向かってる所見は受けたで。」
「それって、アランが身体で試したんでしょう?」「お前、前に言うたように、治療には口出さない約束だったよな。」
「ごめん。」「とにかく、快方や。俺もエッチが出来る身体になってんやで。」
「じゃあ、今日、僕と試してくれる?」「怖いけど、やってみるか。」
「うん!」ボンはバスにお湯を張り、ダニーの好きなラベンダーの香りでバスルームを満たした。
「ダニイ・・用意できたよ。」「よっしゃ。」ダニーはぱっぱと服を脱いで、バスタブに入った。
マーティンは久しぶりに見るダニーの身体が相当痩せたのに驚いていた。
「マーティン、早く来いや。」「うん。」
二人でバスタブに浸かる。「久しぶりやな。」「うん。」「気持ちええな。」
「うん。」胸が一杯でマーティンは話が出来ない。「どうした、気持ち悪いんか?」
「いや、ダニーが裸で僕の前にいるなんて、夢みたいだから。」
「アホ!これからもいようと思ってんのに、いずらくなるやんか。」
「嫌だ!僕の前から消えないで!」「ようし!消えない約束するで。指きりげんまんや。」
二人はバスタオルでお互いを拭きながら、ベッドルームへと向かった。
ダニーは、自分のベッドでもアランのベッドでもない場所に躊躇した。
「ダニィ、大丈夫?」「平気や。」身を横たえる。そのまま丸くなるダニー。
マーティンがダニーに覆いかぶさるように身を横たえた。
「大丈夫?」ダニーが震えている。「ダニー、嫌ならやめていいんだよ。」
「ごめん。俺、今日はだめや。」「分かったよ。」
マーティンは目に涙をためてダニーと反対側を向いた。
ダニーもマーティンも遅刻ぎりぎりで支局まで走ってきた。
寝癖でぼさぼさのダニーと、寝ぼけまなこのマーティン・・・。
エレベーターの前でかち合い、お互いに目をそらした。
「やぁ・・・」マーティンから声をかけた。
「おう・・・」ダニーも短く返す。
冴えない挨拶を交わした後は話すこともなかった。
既に各階のユニットではミーティングが始まっている。
「遅いぞ、二人とも!何やってるんだ!」ボスは機嫌が悪そうだ。
「すみません、遅れました!」マーティンが先に詫びて席に着いた。
「オレも。すんません」
「今日はプロファイリングに回す捜査報告書の仕分けをしてくれ。
行動科学課からの要請だから、真剣に取り組むように!」
ハ、ハクション!突然のマーティンの大きなくしゃみにチーム全員驚いた。
「失礼・・・」ブーブー音を立てて鼻をかむと、恥ずかしそうにうつむいた。
退屈な作業に欠伸をかみ殺しながら、書類に目を通す。
時折、マーティンの鼻をかむ音だけが響いた。
「これでやっと半分ね。あら、もうランチの時間じゃない。あーやれやれ・・」
サマンサの一言で、全員作業の手を置いた。
マーティンも体を伸ばし、ため息をつくとランチを買いに出た。
めずらしく食欲がない。オレンジジュースとフローズンヨーグルトだけ買ってきた。
オフィスには誰もいない。デスクでフローズンヨーグルトを食べぼんやりしていた。
携帯が鳴っている。どわっ、ドクター・バートンからだ!
「はい、フィッツジェラルドです」
「マーティン、今話せるか?」
「ええ。昨日はご馳走様でした。それと、ご迷惑をお掛けしてごめんなさい」
「ああ、あんなの大したことないさ。なんか鼻声だけど、風邪引いたのか?」
「ん、ちょっと風邪っぽくって」
「あのまま寝たんだろう。服を着せてやればよかったな・・」
「僕がうっかり寝ちゃったんだから気にしないで。すぐ良くなると思うし」
「なぁ、診てやろうか?オレの注射はよく効くぜ?」
「えっ、あの、じゃあこれ以上ひどくなったらお願いします」
「遠慮はいらない。いつでも来いよ。君ならアポイントも不要だ」
「ありがとう、ドクター・バートン」
「だから、スチュワートって呼べって!」
「スチュワート・・・」なんだか照れくさくなり、困りながら名前を呼ぶ。
「じゃあな。来週までに治せよ!」
マーティンが電話を切る頃にはみんなが戻ってきていた。
「はい、これで終わり!ダニーとマーティン頼むわね」
「よっしゃ、ぼちぼち行きますか・・」
ようやく仕分けされた書類を行動科学課に運ぶときも、二人は無言だった。
カートの軋む音と鼻をかむ音以外は聞こえない。
ダニーはマーティンの新しい腕時計に気づいた。
悪いことしてしもたな・・・ダニーはマーティンのほうを見た。
鼻をかむのに必死なマーティンは気づかない。
ダニーは何度か声をかけようと試みたが、何も言えずにデスクに戻った。
ボスが帰ろうとすると、マーティンがデスクにうつぶせになっていた。
「おい、どうした?マーティン」
「ん・・だるくて・・・」
「お前、風邪引いてたもんな。よし、送っていってやろう。立てるか?」
「すみません・・・」ボスはよろけるマーティンを支えながら地下駐車場まで歩いた。
「頭打つぞ、気をつけろ」シートベルトを締めてやり、アパートへ向かった。
「ダニーに来てもらおうか?」ボスはぐったりしたマーティンに尋ねた。
「いえ、僕一人で平気です」
「あれ以来口も利かないで・・・お前、寂しくないのか?」
「ダニーは意地悪だ!」
「お前がいいなら私は何も言わんがな、どうなんだ?」
「・・・・・・」
「とにかく仕事に差支えがないようにしろ。ヴィクターが常に目を光らせているからな」
「はい・・・僕は仕事もできないしね、ますます差がついちゃう」
「まあ体を治すのが先決だな。何か食べたいもんあるか?」
「ホットレモネードが飲みたいな」
「それだけか?食欲がないお前なんて初めてだ。材料はあるのか?」
「買わなきゃないよ」
「今日はうちに泊まれ。お前一人じゃ何にもできないんだから」
ボスはグリニッチビレッジへ向けて車線変更した。
ボスの家に着くと、マーティンは水槽の前にいた。
「この前はごめんね。わざとじゃないんだ」つい魚に話しかけるマーティン。
「マーティン、魚ちゃんにミミズをやってくれ。そのケースに入ってるから」
「えっ、いいの?おもしろそう!」
うねうねとしたミミズをピンセットで摘まんで落とすと、魚はパクリと食べた。
「本当に食べた!すっげー!」次々と落としては食べる様子を見ていた。
「他の魚は何を食べるの?」
「その黄色いボトルのエサを少し。ほんの少しでいいぞ」
ぱらっと振りかけると、小さな魚たちが我先にと寄ってきた。
「かわいいね、僕が見えるのかな?」
「さあな。私たちもメシにしよう。手を洗って来い」
テーブルに着くと、ホットレモネードとリンゴのすりおろしと野菜スープが置いてあった。
「お前はそれ。冷めないうちに飲め」
「ボスは?」ボスの前には何もない。
「私はラザニアが焼けるのを待っている。焦げかけが好きなんだ」
「それじゃ、いただきます」ホットレモネードを飲むと体が温まってきた。
「いけるか?」ボスは心配そうに聞いた。
「うん、おいしい。なんかポカポカしてきた」
「食ったら寝ろ。娘のベッドで寝るといい」
「どうして?そんなの使うとまずいんじゃない?」
「私が使うとまた臭いだの何だの言いかねん。お前なら大丈夫だろう」
ボスは苦々しげに顔をしかめた
翌朝、冷たい手が額に触れるのを感じて目が覚めた。
「おはよう、熱はなさそうだ。仕事にいけそうか?」
「うん。昨日より良くなったみたい」
「そうか、それはよかった」ボスはニヤッとした。
「今すっごくエッチなこと考えなかった?娘さんに臭いって言われても知らないよ」
「バカ!早く起きろ!」図星のせいかボスは荒々しく部屋を出た。
マーティンは礼を言うと、着替えるために自分のアパートに戻った。
昨日からシャワーも浴びていないので、体が気持ち悪い。
「どこに泊まったん?」帰るなり声を掛けられビクッとする。
「ダニー・・・どうしてここに?」
「どこに泊まったんやって聞いてるんや!トロイのとこか!」
「違うよ、ボスのところだよ。風邪っぽかったから泊めてくれたんだ」
「それやったらええけど・・・」
「遅くなるといけないからシャワー浴びるね」マーティンはさっさとバスルームへ消えた。
マーティンがシャワーを浴びていると、ダニーが入ってきた。
後ろから抱きしめて首筋に舌を這わす。
「ダニー・・・」
「お前はオレのんや、マーティン・・」耳元でささやくダニー。
そのままギュッと抱きしめられ、マーティンは動けずに立ち尽くしていた。
ダニーは寝覚めの良くない朝を迎えた。俺、マーティン相手じゃ、不能なんやろか。
これは当のダニーにとっても、マーティンにとっても大問題だった。
涙を跡を残して、ダニーに背中を向けて丸くなって眠っているマーティンに向かって、
どんな言葉をかけていいのか。ダニーはいたたまれなくなり、
「また連絡する。D」とメモを残してマーティンのアパートを出た。
外は秋晴れだ。俺の心は秋雨が降ってるわ。アランに相談するしかない自分が情けなかった。
アランの携帯に電話を入れる。留守電メッセージが流れている。
そのままアパートまで行こうかと思ったが、浮気の現場でも見せられようものなら、
もうダニーは立ち上がれない。
「ダニーやけど、今晩行っていい?電話ください。」そう伝言を残す。
ブルックリンに戻るまでのタクシーの中で、アランからの電話が来た。
「どうした、ハニー。」「ここじゃ話せないから、今晩会いたい。」
「ああ、じゃあ20時においで。何か作っとくから。」「ありがとう。」
自分のバスルームでシャワーを浴びるダニー。アランとだとあんなにうまくいったのに、
どうしてマーティンだと言う事聞いてくれないんやろ、俺のチンチン。
「バカ野郎!」下を向いてそう一喝してみたが、息子はうなだれたままだった。
まだ、無理やったんかな。アランに話しにくいな。
支局に出勤するとすでにマーティンは席で朝飯の真っ最中だった。
またドーナッツかいな。「おはようさん。」「おはよう。今日は、早いんだね。誰かの朝ご飯はないの?」
言葉に剣がある。「屋台のベーグルや。文句あるか。」つい売り言葉に買い言葉になってしまう。
PCを立ち上げ、マーティンにメールを打つ。「釈明をさせて欲しい。明後日。」
マーティンはしばらく画面を見つめていたが、手が動いた。「承諾。明後日、貴宅にて。」
「承諾。20時。」さて、仕事や。二人は、早速ファイルの整理にとりかかった。
「お先に。」マーティンがダニーに一瞥もくれず、定時に帰っていく。
あさってが思いやられるわ。ダニーも机を片つけて、アランの待つ
アッパーウェストサイドへと向かった。
「やぁ、おかえり。」「ああ、ただいま。」
ふぅとため息をついてジャケットを脱ぐダニー。
「着替えておいでよ。」「うん。」クロゼットに行くと洗いたてのアディダスのジャージが置いてあった。
「ランドリーやってくれたん?」「ついでだよ。今日はジャンバラヤとブリトーだけどいいかい?」
「うん、昨日重たい食事したから、ありがたいや。」「へぇ〜。」
アランは興味を惹かれたようだ。「マーティンかい?」「ご明察。」
「精神科医を甘く見ちゃいけないよ。」
食卓にジャンバラヤの大皿とブリトーが並んだ。
コロナビールとテカテビールも並んでいる。
「ビールやめてテキーラがいいかな。」「まずビールでいい。」
「それで、どうした?今日は医師として聞いた方がいいのかな?それとも友人?恋人?」
「医師としての意見が聞きたい。怒らんで聞いてな。俺、昨日、マーティンと寝ようとした。」
アランの顔が怒りで紅潮するのが分かった。「それで?」
「出来なかった。ベッドに入ったら、身体が震えて、エッチどころやなかった。
マーティンを傷つけたと思う。」
「ふーん、ジムの事件の後遺症かなぁ。」
「だから、今日、ここでアランと寝てもいい?」「何だい、試したいのかい?」
「お願いや、俺の男としての将来がかかってるねん。」
「気持ちはよく判ったよ。じゃあそういう事にしよう。まずは食事だ。」
アランの料理はいつも絶品だ。今日もチーズとろとろのブリトーとスパイシーなジャンバラヤで満腹になった。
アルコールもビールからテキーラに変わって、二人で塩を片手に杯を重ねていた。
「そろそろ寝ようか。」アランが声をかける。「うん。」
「まずはシャワーだね。」二人で軽めのシャワーを浴びた。
お互い、緊張しているのが分かる。「アラン・・。」
「緊張しないようにすると余計に力が入るものだね。」
アランが笑ったので、少し固さがほぐれたようだ。
アランがダニーの身体のすみずみまで洗う。
「はい、ベッドで待っててくれ。」「うん。」
ダニーはバスローブを脱いで、全裸になってベッドに横たわった。
アランが後を追ってベッドルームに来る。「いいかい?」「うん。隣りに来て。」
アランもバスローブを脱いで、隣りに横になる。
「さわっても大丈夫かい?」「多分。」アランがダニーの背中を撫で回し、手を前へ移動させる。
胸を触り、乳首の周りをぐるりと描くと、「ああ〜。」とダニーが声をあげた。
そのまま両方の乳首をつまむと、さらにダニーの声が高くなる。「うぅ、あぁ〜。」
手を下に動かし、へそから下へ続くヘアーを撫で回す。
「うぅ〜ん。触って。」ダニーが甘い声で懇願する。
ペニスに触ると、すでに大きく立ち上がっていた。先走りの汁まで出ている。
「ダニー、何して欲しい?言ってごらん?」「俺の中に入れて。アランの大きいあれを。」
「そうか、分かった。」ベッドサイドのココナッツオイルをダニーの局部に塗りたくり、
アランは一気に貫いた。「あぁああ〜、いい〜。」「僕もだよ。すごく絞まってる。たまらない。」
「あぁ〜、もうイキたい!」「まだだ!」アランは一旦抜いて、もう一度さらに奥まで貫いた。
「うわぁ〜あ〜イク〜!」「あぁあ!」また二人で同時に射精した。
アランがダニーの背中にくずおれた。重みを甘受するダニー。
アランはごろりと横になると、ダニーに聞いた。「どうだった?感じたかい?」
「うん、すごく、良かった。どうしてアランとだと出来るんやろ。」
「・・・・」「アラン?」「こうなってしまうと医師としての所見なんて出せないさ。
君をずっと僕のものにしておきたいからね。」「・・・・俺、不能ではないねんな。」
「ああ、立派なもんだよ。」「分からへん。他の人だとダメなんやろか。」
「おいおい、誰でも試すんじゃないよ。試すならマーティンだけにしてくれ。」
アランは苦笑した。ダニーは真剣顔でじっと天井をにらんで考えていた。
451 :
fanですw:2005/11/05(土) 02:59:15
毎度です。40過ぎると見るのが大変なのであげますね。
書き手1さんのダニーはマーティンとエッチできないし
書き手2さんのマーティンはダニーに迫られて硬直してる。
二つのストーリーをからめて読むと結構おかしいです。
これからも、がんがって書いてくださいね。応援してますwww
「マーティン、なんか返事してくれ」
耳を甘噛みしながら尋ねるが、マーティンは何も言わない。
「まだオレのこと怒ってるんやな・・・」ダニーはマーティンから離れた。
「僕たち、うまくいくのかな?」
「え?それはどういう意味や?」訝しげに聞くダニー。
「それ、本心で言ってるの?他の男といるの見たから言ってるんじゃないの?」
「お前・・・オレよりトロイのほうがええんか?」
「僕ら、そんな付き合いじゃないよ。ヘンな誤解しないで」
「オレの気持ちは変わらん」ダニーは再び強く抱きしめた。
シャワーだけが音を立てて勢いよく流れる。
固まったままのマーティンにキスし、愛撫し始めるダニー。
「ダニー、風邪がうつるよ・・」
「そんなんオレの注射で治したる!」
うわー、スチュワートと同じこと言ってる・・・思わず顔が赤くなった。
でも、スチュワートの方はこっちの意味じゃなかったもんね。
「うぅん・・あぁ」シャワージェルで全身を愛撫され、蕩けそうになっていた。
ダニーは自分のペニスにも塗りたくると、そっとアナルに押し当てた。
「入れるで」やさしくなぞりながら少しずつ挿入する。
「あぁー・・・ダニィ!」久しぶりに一つになれた喜びで身震いした。
「うん?ええの?もっとよくしたる」
手を伸ばしてペニスを擦ると、マーティンの喘ぎ声が大きくなった。
アナルも連動してよく締まる。
「マーティン、そんなに締めたらオレもたへん・・・」
「だって、もうイキそうなんだもん・・」
「あかん!ごめん、んっあっああー」言いながらダニーは射精した。
ダニーのペニスが中で何度も痙攣している。
「ダニー、僕も・・うっあぁー」
切ない吐息を背中に感じ、マーティンもイった。
水を取りにキッチンへ行くと、チキンスープの入った鍋が置いてあった。
冷蔵庫にはレモンやりんごもたくさん入っている。
山積みのアイスを見つけたときは歓声を上げた。
「ダニー、僕のために作ってくれたの?」
「まあな。腹減ったなぁ、なんか食べよう」
「何でも食べるよ。もう平気さ!」言った矢先にくしゃみをするマーティン。
「ほらほら、早よ服着て来い」ダニーは追っ払うとスープを温め始めた。
「なぁ、オートミールって好き?」
「げぇー、そんなの嫌だよ。食べない!」
「お前でも食べへんもんがあるんか。オレも嫌いやけどな」
チキンスープとロールパンを食べながら二人とも顔をしかめた。
「今夜も泊まるから。一緒に帰ろな」
「うん、ありがと。迷惑掛けてごめんね」
「気にすんなや、お前はオレのんやからな」
「ダニー、それ本気?」
「ああ、オレにはお前が必要やねん。大切なんや」
「この前は邪魔にしてたのに・・・」
「オレが悪かった、ごめんな。おっと、そろそろ支度しやなやばいで!」
二人は急いで支度をするとアパートから飛び出した。
支局のエレベーターでボスと一緒になった。
「ボス、おはようございます」
「ああ、おはよう。どうやら仲直りしたようだな」ボスは意味ありげに笑った。
「ええ、まあ。昨日はありがとうございました」
「まだ具合が悪そうだ、無理するなよ。ダニー、見てやれ」
「了解っす」ダニーはこっそりマーティンの手に触れた。
昼休みが終わる頃、ダニーはマーティンの顔が赤いのに気づいた。
全身発汗していて息も上がっている。
「おい、すごい熱やんか!早退させてもらえ」
「ん・・・」頭がぼんやりして返事もやっとのマーティン。
「困ったな、オレは一緒に帰れんし・・・病院行ったほうがええんやけど」
「僕・・開いてるか聞いてみるよ」マーティンはのろのろと携帯を取り出した。
「はい、バートンです」
「マーティンだけど・・・今から予約開いてるかな?」
「どうしたんだ?えらくしんどそうじゃないか!」
「うん、熱が出てさ・・だるい・・・」
「支局にいるのか?」
「ん、そう。今から行ってもいい?」
「いや、オレが迎えに行くよ。途中で倒れたら大変だから。じゃあ、この前の場所に20分後な!」
バートンはさっさと電話を切ってしまった。
「何て?」
「20分後に来てくれるって・・・ボスに言ってくるよ」
ボスから早退の許可を得、ブリーフケースを持って立ち上がったが
ふらふらしてまともに歩けない。
「誰か下まで付き添ってやれ!」
「オレが行きます」
「私も!」すかさずサマンサも名乗りを上げた。
「じゃあ二人で支えてやれ。マーティン、ゆっくり休め」
下に降りてしばらくすると、目の前にダークブルーのTVRが停まった。
「はじめまして、ドクター・バートンです。後はお引き受けしましょう」
降りてきた長身の白衣姿に、ダニーもサマンサも釘付けになった。
「さあ、マーティン、すぐに楽にしてやるからな。それじゃ」
あっという間にマーティンを乗せると、走り去ってしまった。
「かっこいいー!あの人ドクターだったんだ。マジでクリスチャン・トロイみたい!」
「ほんまやな・・・」ダニーも思わず同意した。
「私も風邪引いたら診てもらおうっと。戻ろう、ダニー」
「ああ」ダニーは複雑な心境で車が去った方向を見つめていた。
どこの病院なのか聞くのさえ忘れていた。
465 :
書き手1 450の続き:2005/11/05(土) 23:06:37
ダニーはあさっての準備のため、アランが止めるのを断って、ブルックリンに戻った。
シーツと布団カバーの交換、タオルの入れ替え、バスローブの洗濯を黙々とやる。
BGMでブラックレベルモーターサイクルクラブの新譜をかける。
泣けるブルースの調べに作業を途中で休んでは聞き入ったりしているうちに、夜中になってしまった。
携帯が鳴っている。マーティンだった。「はい、何?」思わずつっけんどんに出てしまったダニー。
「ダニー、今、どこ?」「家で掃除中や。」「そうか、アランのとこじゃないんだね。」
内心どきっとした。「ちゃう。あさってのゲストを想って一生懸命綺麗にしてんのや。」
「いつも綺麗じゃない、ダニーのとこ。パーティーとかしたの?」「そんなん、してへん。」
「ヘンなの。じゃあね、おやすみ。」「ああ、おやすみ。」
また出来へんかったら、どないしよ。
もっとチェックが厳しくなるかと思うと、鬱陶しいと思う気持ちも多分にある。
このままアランの元へ行けたらどんなに楽か。
でもマーティンを悲しませたくないという強い感情があるのも確かだ。
ああ、どうすりゃええんや。
翌日の支局は、定例の過去ファイルの見直し実施日だ。
未解決事件をもう一度検証し、手分けして情報を更新する。
ダニーが手を休めて、PCに戻るとマーティンからメールが着ていた。
「明日予定変更無?」「問題無」すぐに返信すると、
マーティンが席に戻ってきてメールを覗いている。
あいつも気にしてるな。ああ、どないしょう。アランに言ってVが付くひし形の錠剤処方してもらおかな。
バレバレやな。ええいままよ。もう明日は明日の風が吹くや。
定時になり、ファイル更新を終えた者から三々五々帰っていく。
ダニーは、耳にシャーペンをひっかけている作業しているマーティンに
「お先ぃ。明日な。」と声をかけた。「ああ。ダニー、明日ね。」明日に力入っていたわ〜。
あかん、ドキドキしてきた。降圧剤の方がいるんとちゃうかな。
食材を買いにゼイバーズに寄る。明日はサーモンフライのマリネと鴨のオレンジソースにするつもりだった。
「ダニー!」声をかけられ、振り返るとアランがいた。
「珍しいね。アッパーウェストで買い物することもあるのか。」
「う、うん。気分変えてみたくて。」「どうせなら、家で食べればいいじゃないか?」
まずい流れやな。「今日は遠慮しとく。昨日も寄ったし。」
「随分他人行儀だなぁ。悪いこと企んでないかい?」「ない、ない!」
「まぁいい。それじゃ、近いうちにまたおいで、約束だよ。」「ああ、アラン、またな。」
あぁ焦った。汗だくや。
家に帰るやいなやシャワーですっきりする。今夜の食事は、簡単に
ライスサラダとシャルドネのワインで済まし、明日の仕度をする。
仕度が済むとまた夜中になっていた。
くたびれ果てたダニーは、ベッドへ直行した。
翌日も過去ファイル見直しで一日が終わった。マーティンからまたメールが入っている。
「20時@貴宅O.K.? 」「問題無」マーティンがメールを見届けて帰っていった。
ダニーも急いでタクシースタンドへ行くとブルックリンを目指した。
よっしゃ〜30分強あるから大丈夫や。
マーティンが鍵を開けて入ってくるころには、鴨のオレンジソースの
いい香りが部屋に立ち込めていた。
「わー、おいしそう・・・こんばんわ。」「いらっしゃい。」
「これ、差し入れ。」イタリアのルーチェだった。
「このワイン、高くついたやろ。」「だって名シェフのご招待だもん。」
ダイニングテーブルについて、ワインを開けるマーティン。
「わーい、サーモンのフライがマリネになってる!」料理音痴にも
手間がかかってることを理解してもらえたようだ。
「好きなだけとってええんやで。」「いただきまあす!」
食べている時は以前のマーティンとダニーのままだ。
続けて鴨を出すとマーティンが「すごい!これ、ダニーが作ったの?」と聞いた。
「ああ。」「ダニー、レストランやろうよ。僕フロアマネージャー、ダニーがシェフ。うまくいくと思うよ。」
「お前にフロアマネージャーが勤まるかいな。」
「大丈夫だって!きっとFBIより楽しいよ。」「かもな。」
ディナーも終わり、2本目のワインを開けて、ベランダで飲む。
「なぁ、マーティン。俺が一生、出来なくても、ええか?」
「うぅん、難しいなぁ。でも僕、ダニーとの関係を身体だけの関係だと思いたくないんだ。」
「・・・・・」「だから、出来なかったら、ダニーにストリップさせてオナニーするよ。」
「俺がストリップか、そんなん嫌やなぁ。」「それより、今日も試す?」
「う、うん。お前さえ良ければ。結果が悪くてもお前の責任やないから、悪くとらんといてな。」
「ああ、分かったよ。」二人で手をつないで、シャワーをする。
背中合わせでシャワーをするのが照れくさかった。
ダニーは、自分の局部がムクムク反応するのが分かった。
何や!これは!マーティンの方を向いて、マーティンの臀部に半立ちのペニスを押し付ける。
「ダニィ・・出来るの?」「ああ、出来そうや。」
マーティンは小躍りしながら、バスタブを出た。「ダニー、早くぅ。」
ベッドルームでマーティンが全裸で立っている。
マーティンのペニスは爆発寸前に見えた。
「お前、自分でやってみてくれる?」「僕が?」「そうや。」
「分かったよ。」マーティンはダニーの対面に座り、ペニスを右手でつかんで前後させ始めた。
先走りの汁でテラテラ光っている。
ムクムク、またダニーのペニスが反応して固くなってくる。
「ああ、その調子や。」「ダニィ、僕、イっちゃいそうだよ。」
「よっしゃ、マーティン、今日はお前が入れてくれる?「僕が?」「そうや。」
ダニーが四つんばいになってマーティンを振り向く。
「ええで。」「じゃあ入れるからね。」
マーティンは自分の我慢汁をダニーのアヌスに塗りたくると少しずつ挿入した。
「あぁんあぁ〜、ええ気持ちや〜。」「ダニィ、僕、きつすぎてイキそう〜。」
「待ってえな。もっと俺をいたぶって。」
マーティンはダニーの腰を両手で持ち、前後させた。
腰を思い切りグラインドさせる。「あっい、いい〜、マーティン最高や。」
「も、もう僕イクよ。」「ああ、俺も、もっと深く突いて!」マーティンが深く突いた瞬間、ダニーは射精した。
痙攣がマーティンに伝わり、マーティンも後を追った。
イケたで、俺。ダニーは一安心だった。
マーティンはダニーの横にころがり、荒い息を立てている。
「ダニー、すごいじゃん。」「お前がすごいんやろ。」
「良かった。僕でもダニー反応するんだね。」「当たり前やん。」
事前の弱気はどこへやら。ダニーは男の沽券を回復したとばかりに、
いばってマーティンに言った。「今日、泊まってくね。」「ああ。」
「おやすみダニー、愛してる。」「おやすみ、マーティン。俺も。」
アランの顔が浮かんだダニーだったが、今日は忘れることにして、眠りに入った。
ダニーとサマンサはオフィスに戻り、ボスに経緯を報告した。
「なぁサム、どこの病院か聞いた?」
「いいえ、さっと行っちゃったから聞きそびれたわね。
ねぇヴィヴ、すっごくかっこいい先生だったわよ〜。クリスチャン・トロイみたいなの!」
「NIP/TACKのトロイ?」
「そう、それ。私も今度からあの人に診てもらう!」
ボスがはしゃぐサマンサをじろっと見ていた。
ダニーはドクター・バートンと言葉を交わして、少なからずショックを受けていた。
男のオレから見てもセクシーなヤツや、サマンサなんかメロメロやし。
どこの病院に行ったんやろ?20分で来れる距離はと・・・。
いろいろ検索してみたが、漠然としすぎて何の情報も得られなかった。
あいつ、大丈夫かなぁ・・・マーティンが心配で仕事も手につかなかった。
バートンはマーティンの様子を窺いながら急いでクリニックへ向かっている。
「おい、もうすぐだからな。しっかりしろよ!」
「うん・・・」大量の汗で、額に前髪が張りついている。
マーティンは、ぐったりとシートにもたれながら、体が浮揚しているような感覚につつまれていた。
「寒い・・・」ガタガタ震えるマーティン。
「もう着くから頑張れ!」何度か励ますうちにクリニックに着いた。
マーティンの体を抱えて運び、ベッドに寝かせる。
汗でぬれた衣類を脱がせ、検査用のガウンを着せてやるが意識が朦朧としているようだ。
アイスパックで頭と首、両脇を冷やし、電解質輸液の点滴と座薬を入れる。
「う・・・ん・・」汗びっしょりでうなされているようだ。悪い夢でも見ているのか?
汗を拭ってやり、ガウンを取替え、しっかりとブランケットで巻き込みながら手を握ってやった。
「大丈夫、すぐに治るさ。ゆっくり休め」バートンは他の患者の診察のため部屋を出た。
マーティンは昏々と眠り続け、何度ガウンを取り替えても一向に目を覚まさない。
バートンは今日の診療を終え、そばについていた。
呼吸も落ち着き、熱も下がってきた。これならもう大丈夫。
今夜はクリニックに泊まることになりそうだ。
ピザのデリバリーを頼み、マーティンを見ながら食べていた。
「いい加減にしろよ!」マーティンはバートンの怒鳴り声で目が覚めた。
ん?スチュワート?周囲を見回すと自分が診察室にいるのがわかった。
誰と話してるんだろう?マーティンからはスチュワートの背中しか見えない。
「そんな金がどこにあるんだ!無いもんは無いんだ!人の金ばかり当てにしやがって!
自分の生活ぐらい自分でなんとかしろ!もうオレを当てにするのは止めてくれ!」
荒々しく電話を切り、両手で顔を覆うスチュワート。泣いてる?
マーティンは聞いてはいけないものを聞いてしまったと思い、慌てて目を閉じた。
しばらくすると頬に冷たい手が触れ、服を脱がされた。
体中タオルで拭われ、冷たい手が手早く体を這い回る。
拭きおわると乾いた服に取り替えられた。
「スチュワート?」マーティンは今起きたばかりというように呟いた。
「マーティン、気がついたのか。よかった!」
「うん・・・」
「もう真夜中だぜ、ずっと眠ってたんだ。まだ熱があるけど、もう大丈夫。
えーっと、そろそろ座薬を入れる時間だ。横向けよ」
「ざ、座薬〜・・・」マーティンはトランクスをはいていないのに気づき慌てた。
「汗でぬれたから全部脱がせたんだ。オレは見慣れてるから平気さ」
「僕は平気じゃない・・・」
「何言ってんだ、直腸診で射精したくせに」スチュワートにからかわれ赤くなる。
「からかわないで、また熱が出ちゃう・・」
「そうだな、ごめん。さ、横向いて」
マーティンは渋々横を向き、座薬を入れてもらった。恥ずかしくて死にそうだ・・・。
「マーティン、リンゴジュース飲むか?」
「うん、のど渇いた」
少し温めたリンゴジュースを飲み、横になるうちにまた眠くなってきた。
バートンは新しいブランケットをかけてやり、マーティンが眠るまで手をつないでいた。
マーティンが寝たのを確認すると、自分も診察台に横になり目を閉じた。
次にマーティンが目を覚ますと昼過ぎだった。
バートンはデスクで生春巻きを食べている。
「スチュワート、今何時?」
「おはよう。13時前だ。よく眠ってたな」
「もうお昼過ぎてるの?うわっ、支局に連絡しなきゃ!」
「ああ、テイラー捜査官?でいいのかな。彼が朝早く携帯に電話してきたぜ」
「ダニーが僕の携帯に?」
「ああ。だから今日はまだ起きられないだろうって言っといた。上司に伝えるってさ、よかったな」
「うん、まあね」
「えらく心配してたぜ、彼。チームの仲間か?」
「ん、そう」ダニー心配してるだろうな・・・。マーティンはダニーに会いたくてたまらなかった。
「僕、もう帰ってもいい?」
「なんだ、家が恋しいのか?ああ、もう帰ってもいいよ」
「僕の服は?」
「服か、すっかり忘れてた!そうだ、オレのを着ればいい」
「サイズが合わないよ、ダブダブだもん」
「困ったな・・・君のは汗でびしょびしょだし・・・」
「それでもいいよ、帰る。パンツもはきたいし・・・」
「バカだな、あんなの着たらまたぶり返すだろ。
よし、送ってやるからオレの服を着ろよ。それなら人に見られない」
「でもさ、診察があるんでしょ?そんなのいいよ」
「じゃあ、終わるまでそこで寝てろ!これで決まり!」
バートンは強引にマーティンをベッドに寝かせ、ブランケットでくるんだ。
「携帯使ってもいいかな?」
「ああ、かまわない。席を外そうか?」
「いや、いいよ。食事を続けて」
マーティンはダニーの携帯に電話した。
「あ、僕。もう平気、熱も下がった。うん、今日は帰れるよ。じゃ後でね」
マーティンが電話を切ると、バートンがニヤニヤしていた。
「ステディな相手か。グラタンの人?」
「え?よく知ってるね、グラタンのことまで・・・」
「冷凍庫に入ってたの見たよ」ニヤッとウィンクされ、ドギマギして視線をそらした。
アパートまで送ってもらい、パジャマに着替えているとバートンが入ってきた。
「待ってて、服を入れる紙袋出すから」
「ああ。ん?随分かわいいパジャマだな」
「えっ?ああ、僕、幼稚だってよく言われるんだ」
「それファンタスティック4だろ?懐かしいな、もっとよく見せて」
バートンはマーティンの全身を指でなぞりながら読んでいった。
「セリフ付きとは凝ってるな。どこで買うんだ、こんなの?」
「ワシントンで買ったんだ。こっちにもあるんじゃないかな?」
バートンの手が下腹部の辺りにまで下りてきた。どうしよう、僕・・・。
「マーティン、寝転んでくれるか?続きが読めないんだ」
マーティンはドキドキしながらベッドに寝転んだ。
股間の辺りを見つめられ、生きた心地がしないぐらい焦っていた。
バートンの手が、パジャマのシワを伸ばすために何度か太股に触れた。
もうダメだ・・・ああー・・・マーティンは勃起してしまった。
「君はすごく感じやすいんだな。おかげで読みやすくなったけど」
バートンににっこりとされ、全身がかあっと熱くなった。
バートンはくすくす笑いながら、固まったマーティンに布団をかぶせた。
「明日も自宅療養しなくちゃダメだ。外に出ないでおとなしく寝てろよ」
「はい・・・」恥ずかしくて目も合わせられない。
「おやすみ、マーティン。続きは今度読ませてくれ」
バートンは髪をくしゃっとすると、無造作に服を抱えて帰っていった。
ダニーがマーティンのアパートに入りかけると、
地下駐車場からダークブルーのTVRが出てくるところだった。
ダークオレンジのサングラスを掛けたドクター・バートンが見えた。
ほんまに派手なやっちゃなぁ・・・ダニーは半ば呆れながらも感心した。
バートンはダニーに気づかず颯爽と走り去った。
そんなことよりマーティンや、ダニーは早く会いたくてエレベーターのボタンを連射した。
ダニーは先に目が覚めると、隣りで口を半開きで寝ているマーティンを起こした。
「シャワーするで。」「ふぁい。」
昨晩のどきどきのシャワーと違って、今朝は気分爽快。ついでに下半身も爽快だった。
「ダニィ、僕、立ってる。」「そんなんやってると遅刻するで。」「はぁい。」
マーティンも納得してくれたようで、ダニーは一安心だった。
ダニーの生活にとって、アランもマーティンも同じように欠けてはならない存在なのだ。
「今晩、どうする?」きたきた〜、マーティンの質問タイムだ。
「まだ決めてへんけど。さすがに昨日の用意するので、疲れたで。」
「そうか〜。そうだよね。じゃあ週末遊ぼうよ。」「ああそうやね。さて仕度や。」
時差をつけてマーティンが先に出て行く。
そや、アランに電話しとこ。自宅に電話すると留守電になっていた。
「ダニーやけど、今日は暇ですか?電話ください。」
地下鉄に乗ってるとアランから電話が来た。「今、地下鉄。」
「そうか、すまない。今朝は寝坊してね。電話に出られなかった。」
一瞬、浮気を疑うダニー。「じゃ、支局で電話しなおすわ。」
スタバでサンドウィッチとダブルエスプレッソを買って、出勤する。
マーティンは例によって、ドーナッツとキャラメルマキアートの朝食だ。
「よう。」「ああ。」「お前さぁ、ほんま、糖尿病になるで。」
「運動もしてるし、大丈夫だと思うけどな。」
「定期的に人間ドックに入るんやな。」「ああ、そのつもり。」
ダニーの携帯が鳴った。席を立って応対するダニー。
きっとアランだよ。マーティンは気がつくとシャーペンの芯を折っていた。
身体を折って笑うダニーに気が気でない。
席に戻ってくると、マーティンはすかさず尋ねた。
「アランでしょう?」「定期健診や。俺が悪夢見ないかって。」
「昨日の様子話せばいいじゃない。」
「そんなん大人のマナーに反するで。お前だって一度はアランに命救ってもらってるし、
あっちの世話にもなったんやろ。敬意払えよ。」
あちゃー、マーティンにくってかかってしもうたわ。
マーティンはぷいっと横を向くと仕事を始めた。マーティンからメールだ。
「どうして僕だと足りない?」おいおい、これは私信やないか。内部調査されるで。
ダニーはマーティンに来いとジェスチャーしてトイレに入った。誰もいないのをかがんで確かめる。
「お前、何考えてるんや。あんなメール、危ないで。」「だって・・・。」
「お前は親父さんがおるからええけど、俺は何万人のうちの一人の捜査官や。
キャリア終わらせるようなリスクは負いたくない。」そういうと、ダニーは出て行ってしまった。
また怒らせちゃったよ。僕ってばかだ。ダニーの事となると感情が突っ走ってしまう。
定時になって、ぱたぱたと後片付けするダニーに反して、マーティンは書類の整理でウンウンうなっていた。
「それじゃお先。」「ああ。」顔も上げずに書類に目を通すマーティン。
難しいな。俺、どうすればええんやろう。アランの家に行くと、ギルが来ていた。
「よう久しぶり。また大変な目に合ったんだって。」「ああ、右手がうまく使われへん。」
「左手でもいいじゃないか。ベッドの中ではね。」今日はギルには連れがいた。
「紹介するよ、ケンイチ・ヤマギシ、日本のパートナー事務所からの研修生だ。」
「初めまして。」「俺、ダニー・テイラー。FBIの捜査官してます。」
英語しゃべれるかわからへんなぁ。ダニーはゆっくりしゃべった。
「日本では、FBIはドラマの中の世界です。お会いできて光栄です。ケンと呼んでください。」
「ケンはイエール大のロースクール出てるから、英語はこの通り。」
「ギル、それ早く言ってえな。恥かいたわ!」ギルは鼻高々だった。
アランがナベに山ほどのムール貝をワイン蒸ししている。ガーリックの香りが食欲をそそる。
「俺、バケット切るわ。」「ああ、任せた。」ケンはじっと二人の仲を観察していた。
「ギル、今日は簡単でいいかい?」「アランの料理なら何でもO.K.さ。」
ダニーがケンに話しかける。「NYに来て、どれ位?」「まだ2週間。」
「おいギル、ケンをもっと色んなところに連れていったらどうだい?」
アランがけしかける。「ケンはまじめな奴でさぁ。今日だって1週間かけて口説き落としたんだぜ。」
「ギルは本当に良くしてくれてます。僕、NYは卒業旅行以来なんで、緊張しちゃって。」
「どこに住んでんの?」ダニーがバケットを薄くスライスしながら話しかける。
「事務所が用意してくれたミッドタウンのアパートです。でも一人でご飯食べるのは苦手で。」
「よければ、家にくるといい。ダニーもたいてい一緒だけれどね。」アランがウィンクする。
「あの、こんな事聞いていいか・・。アランとダニーはつきあってるんですか。」
「ああ、僕はそのつもりだよ。この浮気者が悪さしない限りはね。」
アランは自分の事を棚にあげて、ダニーの肩をゆすった。
「俺、若いからなぁ。アランじゃ満足できへんかも。」アランがバケットを投げてよこした。
ケンが笑った。キアヌ・リーブスに似ている。人種不詳で、魅力的な青年だった。
食事が終わると、おじさん組と青年組に分かれて、だらだらと楽しむ。
おじさん組は例によってベランダで葉巻を吸っていた。
「俺、日本人と友達になるの初めてやねん。よろしく。」「ダニーはどこ出身ですか?」
「フロリダ州のマイアミ。前は警官やったん。」「アランっていい方ですね。」
「うん、事件で負傷した時からの縁や。」「ギルもすごくいい人で感謝してるんです。」
「こんなん聞くのも何やけど、ギルとはもうカップルなん?」
「ギルから誘われてますが、彼は事務所のシニアパートナーだし、僕は駆け出しの研修生だから。」
「ギルみたいにいい奴もめったにいいへんで。早く決めるなら決めな。」
「そうですね。何だか勇気が湧きました。ゲイでも暮らしやすそうで。」
「そりゃ良かったわ。」
「このスタンウェイ、アランが貴方のために買ったって聞きました。」
「アランの見栄やねん。まぁ俺も音楽好きやし。」「何か弾いてくださいよ。」
「じゃあ、十八番のリュウイチ・サカモトいくで。」
そういうと、ダニーは「シェルタリング・スカイ」と「戦場のメリークリスマス」を続けて弾いた。
「今度、ビューローを見学させていただいていいですか?」
「ああ、おいで。俺の名前を1階で言って身元照会すると入れる仕組みや。」
「ありがとう、ダニー。」「どういたしまして、ケン。」名刺を交換する。
ギルがそろそろだとケンの肩に手をおいて、去っていった。
「ええ子やね。」「ああ、ギルもしばらく彼氏いない歴が続いたからなぁ。幸せになって欲しいよ。」
「ギルって一人だったん?」「バツいちだ。」「結婚してからカミングアウト?」
「ああ慰謝料大変だったみたいだけど。今はケンに夢中さ。」
「恋愛が始まる時ってええね。」「僕たちはいつから始まったんだろうね。」
「ERのベッドの上。」「おいおい、寂しいこと言ってくれるね。」
「日本人ってエキゾチックで魅力的やな〜。」「ダニー!!」「嘘や、俺はアランに首っ丈です。」
「はい、よく出来ました。」「今日、泊まってもええ?」「もちろん。」
アランはこのまま時が止まればいいと思った。
翌日、早速、ケンが支局にやってきた。簡単にフロアーを案内するダニー。
マーティンは密かにチェックを入れていた。ケンが帰った後すかさずサマンサが質問する。
「今のオリエンタルビューティー何者?」
「俺の友達の友達で弁護士や。」「英語出来るの?」
「イエール大のロースクール卒だとさ。」「きゃぁ〜、すごおい。今度紹介して。」「ああ。」
ダニーはボスの部屋に目を移した。おっさん、気い抜いてると、サマンサを失うことになるで。
その頃、マーティンの携帯が鳴った。ジェイムズだ。「久しぶり!元気?」
マーティンがダニーに聞こえるように大声で電話に出る。
「ミャンマーの商談が長引いてね。やっとNYに帰ってきたよ。今日は暇かな。」
「別に用事はありませんけど。」「じゃあ、家で晩餐でもどうだい。」「はい、喜んで。」
ダニーがアランだったら、目には目をだ。
ダニーがベッドルームに入ると、マーティンがPSPで遊んでいた。
「マーティン、ただいま」
「あっダニィ!会いたかったよー」
すこしやつれたマーティンが抱きついてきた。
「体はもうええの?」
「うん、明日一日休めば大丈夫だって!」
「さっきトロイが帰るの見かけたけど・・」
「トロイじゃなくてバートンだよ。服がないから送ってくれたんだ」
「そうか、オレもお前に会いたかったで」ダニーはマーティンにキスした。
「みんな、心配してたで。一番心配したんはオレやけど」
「ん、ありがと。みんなにもお礼を言わなくちゃね」
「スープかなんか作るわ。オートミールでもええけど」
「いらないよ。肉が食べたいな、おなか空いたんだもん」
「そんなんまだ無理やろ。消化に悪いやん」
「じゃあさ、スープ飲ませてくれる?」
「えっ・・・してほしいか?」
「うん!」ダニーはマーティンの髪をくしゃくしゃにしてキッチンへと消えた。
寝ているのに飽きたマーティンは、キッチンでダニーとしゃべりながらアイスクリームを食べた。
「まるっきり子供やなぁ、ほんまに・・」ダニーが苦笑する。
「スチュワートも僕のパジャマを笑ってたよ」
「ふうん」鍋をガチャガチャ乱暴にかき回すダニー。
「今、嫉妬したろ?」ダニーはそれには答えずに、ふんっと鼻で笑った。
「さあ、出来た。食べさせなあかんのやろ?ベッドに行け!」
「はーい」マーティンはベッドに飛び込んだ。
「おい、口開けろ!」ダニーがスプーンを近づけた。
「ちょっと待ってよ、もっとこう・・・あ〜んとかさ、言い方があるじゃない」
「そやな・・・はい、あ〜んして」ダニーはスープを口に運んだ。
「おいしい!」にっこりするマーティン。
嬉しそうなマーティンの様子に笑いをこらえながら、何度も口に運ぶ。
「早く治せよ。病気やったら何にもできひんのやから」
「ダニィがやさしくしてくれるから病気でもいいよ」
「あほっ!オレが困るやろ!」ダニーはデコピンをお見舞いして布団をかけてやった。
もう一日休み、すっかり回復して出勤すると、サマンサとヴィヴィアンが寄ってきた。
「治ってよかったわね、フラフラだったから心配してたのよ」
「うん、ありがとう。ご心配をお掛けしました。もう大丈夫だから」
「ちょっと聞きたいんだけど、この前の先生はどこの病院?」
「ああ、パリセイドメディカルクリニックだよ」
「そう、ありがとう。メモっとかなきゃね!」
サマンサはキャーキャーいいながらデスクに戻った。
ダニーとランチを食べていると携帯が鳴った。スチュワートだ。
「はい、スチュワート?」
「ああ。もう職場復帰したのか気になってさ」
「うん、おかげですっかりよくなったよ。ありがとう」
「そうか。何かあったらいつでも来いよな。じゃ、来週な」
「うん、また来週!」
マーティンが携帯を切るとダニーがじとーっと見つめていた。
「ん?どうかした?」
「来週って?」
「ああ、スカッシュに行くんだよ。この前のリターンマッチだって」
「あいつも強いん?」
「僕と同じくらいかな。僕に負けたから悔しいんだよ」
「ふうん」ダニーはバナナジュースを一気飲みした。
「気にしなくても大丈夫さ。僕はダニーじゃないからね!」
思わずジュースを吹きそうになるダニーだった。
ダニーのアパートに一緒に帰ると、部屋の中がはぐちゃぐちゃだった。
使った後の食器もそのまま、ベッドも乱れパジャマも脱ぎ捨てた状態。
アイスクリームのカップや使った後のタオル、雑誌、新聞が散乱していた。
「ダニー、どうしたのさ?泥棒?」
「いいや、その・・・何も手につかへんかって」
「ダニーでもこんなことあるんだね」マーティンはなんだかホッとした。
「まあな」ダニーは照れ隠しにゴミをどんどん放り込んだ。
「晩メシ食ったら、今日は下で寝ようか」
「あっそれいいね!そうしよう。あの部屋もあれっきりだったし」
「ほな、休んどけ。病み上がりなんやから」
ダニーはリゾットを作りながら部屋も片付けた。
マーティンはうろうろしていたが、何もすることがなくテレビを見ていた。
「僕も車買おうかな」新車のCMを見たマーティンが振り向いた。
「ん?とうとう欲しくなったんか?」
「うん。縦列駐車さえしなければ僕だって余裕だもん」
「そやな。車種は決めたんか?」
「まだ決めてない。ダニーと同じのは?」
「やめろや、絶対あかん!他のにしろ!」
「だよね。週末見に行くのついて行ってくれる?」
「ええで。日本車は?」
「僕はいいけど、父さんがさ・・・またうるさいからね」
「ああ、あのオヤジさんなら言いそうやな。非国民とかって・・・」
ダニーがしかめっ面の副長官を真似して二人は笑い転げた。
週末、ダニーとマーティンはディーラー巡りをしたものの
結局決められずに帰ってきた。
もらってきたパンフレットを広げて二人で検討する。
「オレも新車欲しいなぁ。買われへんけど」
「僕のを使えばいいじゃん。一緒に乗るんだし」
「そういうわけにもいかんやろ。うーん、アウディかBMWがお前に似合う気したなぁ」
「そうかな。色は?」ダニーが見ているパンフレットをのぞき込む。
「ミッドナイトブルーかシルバーかな」
「うーん、迷うなぁ。僕もコンバーチブルが欲しいんだ」
「割と寒いで。普通のセダンにしとき。ヘタやから危ないし」
「言えてる、事故って死ぬかも・・」
「買うのやめるか?なんか心配になってきた」
「いや、アウディにする。今から行こう!」
「ちょっちょっと、今からて・・・」
「ダニー、早く早く!」マーティンはダニーを連れて飛び出した。
マーティンはアウディを買いに行ったものの、踏ん切りがつかず買うのをやめた。
「ダニー、帰ろう」
ショールームの女の子相手にトロンとした目でにやけていたダニーを連れ出す。
「なんやねん、もう!」マスタングに乗りながらダニーがぶつくさ言った。
「もう少し考えてからにしたい。なんかオッサンっぽい気がする」
「さっきのロータスはお前には無理や。狭いし、後ろも見にくいで」
「うん・・・あれ、かっこよかったんだけどなぁ」
「まあ、そないに慌てて買わんでもええやん」ダニーはマーティンと手をつないだ。
「ん、僕にはダニーがいるしね」マーティンも手を強く握り返した。
マーティンは定時に仕事を切り上げ、ジェイムズのペントハウスに直行した。
仏像類が増えて、廊下を飾っている。「やぁ、いらっしゃい。」
「こんばんは。性懲りもなく来ました。」「マーティンならいつでも歓迎だよ。」
「ありがとう。ジェイムズ。」「今日は超アメリカンな食事でいいかな。
ずっとカレーばっかり食べさせられて、辟易してるんでね。」
「ええ、僕は何でも結構です。」
晩餐は、Tボーンステーキとポテトとブロッコリーの付け合せにグリーンサラダだった。
「ミャンマーの仕事って大変なの?」マーティンが尋ねる。
「ああ、契約書があって無きがごとしだ。フェイス・トゥ・フェイスに限るね。契約締結は。」
「そうなんだ。大変なんだね。」「FBIの方はどうだい?」
「最近は書類の整理が多いんだ。身体がなまっちゃってるよ。」
「他の運動してるんじゃないか?」くくくっとジェイムズが笑う。
「そんな・・・」耳まで赤くなるのが分かった。
赤のフルボディーのワインが事のほか美味しくて、2本目を空けたところだった。
「今日は泊まっていくのかな?」
「うーん、ジェイムズのところは居心地が良すぎて、僕甘やかされちゃう。」
「いいじゃないか。明日休みだし。」「うん。」マーティンはダニーとの約束をすっかり忘れていた。
「じゃあ決まりだ。ゲストルームを使いなさい。」「はい。」マーティンはその後の記憶が定かでない。
ワインを飲んでいるまでは覚えていたが、気がつくと、パジャマを着せられてベッドに横になっていた。
僕、着替えさせられちゃったよ。
「おはよう。マーティン、気分は?」「いいですけど。」
「朝食の用意が出来てるから、着替えたら、ダイニングにおいで。」「はい。」
朝食はアメリカン・ブレックファストだった。焼きたてのクロワッサンが香ばしい。
コーヒーはカフェラテにしてもらい、スクランブルドエッグとフライドトマトにがっついた。
「朝から食欲あるんだね。」また顔が紅くなるのを感じた。
「僕、みんなに食欲でからかわれるんだ。そんなに食べるかな〜。」
「まぁティーンエイジャー並みに食べてたらそう言われるだろうな。」
オレンジジュースを飲み干し、また眠気が襲ってきたマーティン。
「眠いのかい?」「うん。またゲストルーム借りていい?」
「ああ。よく眠りなさい。疲れてるんだね。」マーティンは、悪夢を見ていた。
自分が数人の男に囲まれ、衣類をはがされ、ギャングレイプされていた。
あまりにリアルで夢なのか現なのか判断がつかない。
そのうち、また深い眠りに落ちていった。目覚めると夕方だった。
「よく眠ったね。」ジェイムズが水を持ってきてくれる。
「僕、夢見てた。」「そうか。」「寝言とか言わなかった?」
「ああ、すやすや眠っていたけどね。」夢ではないんだよ。
マーティン・フィッツジェラルド。これでお父上へのいい土産が出来た。
ジェイムズは声をたてて笑った。
ダニーはマーティンの携帯に何度も電話したが、全くつながらないのに不安を感じていた。
あいつ、昨日電話で約束してたの、多分ジェイムズや。
家まで行こうかと思ったが、大人げないと思い返し、アランの携帯に電話した。
「ダニー、どうした?」「うん、これから行ってもええ?」
「ああいいよ。ケンも来てるから。」「ええ?」「とにかくおいで。」
アランの奴、もうちょっかいだして! くさくさしながら、マスタングを運転する。
アランのアパートに着くと、ギルが玄関にBMWを停めていた。
「あ、ギル!」「ダニー、いいところに。駐車場、開けてくれるか。」
「うん。」なんだ、ギルも一緒だったんか。一応チャイムを押してから合鍵でドアを開ける。
「あれ、二人一緒だったのか?」アランが驚いていた。
「そう、ギルとデートの帰りやねん。」ギルが笑っている。
「そっちこそ、ケンと何してたん?」「カウンセリングです。」ケンが答えた。
ざっくりしたグレーのセーターが漆黒の髪の毛と瞳に良く似合っている。
「4人揃ったことだし、ザ・ピエールのカクテルタイムにでも繰り出さないか?」ギルが提案した。
「賛成!」すかさずダニーが返事する。些細な気まずさの中で、ダニーはアランのボルボで、
ケンはギルのBMWでザ・ピエールに向かった。
土曜日のカクテルタイムとあって、NYの上流階級の暇つぶし族が
こぞって出てきたようなメインバーの様子だ。
ケンは目を丸くしながらギルの後について入っていく。
その姿が昔の自分のようでダニーは懐かしくなった。
カナッペをつまみにシャンパンを飲む。
かいがいしくケンの世話を焼くギルを見て、
アランとダニーは顔を見合わせて笑った。
「やっと笑ってくれたね。」「え?」
「さっきから怖い顔してたぞ。またいらない心配させたかな。」
「だから精神科医や嫌なんや。心を読まれてる。」ダニーがぶつくさ言う。
ケンが「恋人に心を読まれるって辛くないですか?」と尋ねる。「もう諦めてるわ。」
「この子は時々僕の想像を超える事を考えるから飽きないよ。」アランが補足する。
ギルがケンの肩を抱きながら、「弁護士は化かしあいだから、ケンはもっと勉強しなくちゃな。」
「ええ。僕、すぐ顔に出るんです。」
シャンパンが空き、ディナーでブルックリンのリバー・カフェに行くことに決まった。
ケンは、「わーい、ガイドブックで読んだところだ!」と嬉しそうだ。
4人でシーフードプラターとロブスタービスクを頼む。
ロウアー・マンハッタンの夜景はいつ見ても飽きない。
見上げるブルックリン橋も大迫力だ。ケンは風景に圧倒されているようだった。
可愛い奴だなぁ。思わずダニーもギルの気持ちに同調した。
アランも同じ想いなんやろか。
「そういえば、ジュリアンのパーティーで紹介してもらった、スノッブ野郎いたろう?」
ギルがアランに話しかける。「ジェイムズ・ダーシーかい?」
「ああ、彼の会社の顧問弁護士をやることになったよ。ケンと僕との最初のプロジェクト。な、ケン!」
「はい。国際企業なのでとても楽しみです。」
「あの会社変わってるんだよ。2年ごとに顧問弁護士事務所を変えててさ。
その上、扱い額は1案件、百万ドル単位と個人会社にしてはやたらとデカくて驚きだよ。」
「普通は弁護士事務所をそんなに頻繁に変えないな。何か意味でもあるのかな。」
「親父さんの方針だとか言ってたけど、どうだかな。」
ダニーは口を挟まず静かに聞いていた。
食事が終わり、二組に分かれて帰る4人。
ボルボに乗ると、ダニーはアランの太股に手を乗せて、
「ほんまに悪させいへんかった?」と聞いた。
「もちろんさ!それに友達の相手には手は出さない。」「よし。」
「今日は泊まるかい?」「いや、今週はばたばたして疲れたから、家で寝るわ。」
「分かった。」
ダニーの携帯が着信している。マーティンからだった。
何やこんな遅い時間に!無視して電源を切るダニーだった。
「アラン、やっぱり今日、泊めて。」「ああ、いいよ。そういう心の変化は大歓迎だ。」
マーティンに不在を分からせるのには一番これが効くんや。俺を怒らすなよ。
マーティンのあほたれが!
水曜日、帰り支度をしているとマーティンの携帯が鳴った。
「はい、フィッツジェラルドですが」他に気を取られていて番号を確認せずに出る。
「マーティン、オレ。今、下に来てるんだ」
「え?まだ早いけど・・。あ、僕はもうすぐ終わるからいいよ」
「そうか、じゃあこのまま待ってるよ」
「うん、了解!」マーティンは急いで支度をした。
「トロイか?」ダニーが何気なく聞いた。
「うん、今夜はリターンマッチ。ディナーが賭かってるんだ」
「この前行ったとこ?」ダニーの問いかけに迷いもなく頷く。
「ヴィヴ、例の彼よ。私たちも一緒に降りましょうよ」
「ねぇ、そういうのやめようよ。スチュワートは見世物じゃないよ」
「あら、私たちも通る場所なのよ。人聞きの悪い!」
サマンサは心外と言わんばかりだ・・・。
マーティンはみんなと一緒にエレベーターを降りた。
やあ!と手を挙げるスチュワート。サムとヴィヴは小躍りした。
「お待たせ。えーっと、こっちはチームの仲間」
「お二人にはこの前お会いしましたね。スチュワート・バートンです。病気の際は何なりとご用命ください」
スチュワートはにこやかにみんなと握手を交わす。
ダニーの顔を見るのが怖かったが、普通に接しているようで安心した。
「じゃあ、そろそろ行こうか。それじゃ、また」
スチュワートは車に戻り、「行くぞ、マーティン」と声を掛けた。
「いいわね、私もサム行くぞ!なんて言われたい〜」
「本当、トロイみたい。目の保養させてもらったわ」
サマンサとヴィヴィアンの会話を聞きながら、ダニーはふて腐れていた。
「ちょっとちょっと、ダニーも十分セクシーだから拗ねないの!」
「それはどうも。ほな、お疲れ!」ダニーは地下鉄の駅まで早歩きで歩いた。
なんやねん、あいつ!イライラしながら地下鉄に揺られていた。
二人がクリアコートに着いた時、スチュワートの携帯が鳴った。
「何だよ、何か用か」ぶっきらぼうなスチュワート。
「ああ、忙しいんだ。あ?・・・わかった、帰るよ。そこにいろよ!」
「ごめん、ちょっと家に戻らないと。すぐに済むから」
「僕、ここで降りようか?」
「いいや、大した用じゃないから。今夜はリベンジしないとな」
スチュワートは方向転換すると、グラマシーへ向かった。
スチュワートは古い建物のアパートに住んでいた。
「意外だね、もっと派手なとこかと思ってた」
「そうか?ここの最上階。屋上もオレが自由にしていいんだ」
「もしかして屋上が目当てなの?」
「ああ。でなきゃこんな古ぼけたとこに住むもんか!」
スチュワートは笑っていたが、中年の男が目に入った途端、笑みが消えた。
「スチュワート、遅かったな」
「いきなり来て何言ってんだ!」
「お前の友達か?」みすぼらしい中年男はマーティンに微笑んだ。
「関係ないだろ!早く帰れよ!」
「スチュワートの父のアルバート・バートンです。息子がいつもお世話になって」
「あ、マーティン・フィッツジェラルドです。はじめまして」
これがお父さん?全然似てないや・・・。
「君もドクターかい?」
「いえ、僕はFBIの特別捜査官です。スチュワートは僕の主治医です」
「FBI・・・」それっきりスチュワートの父は固まってしまった。
「おい、さっさと帰れよ。いつまでいる気だ!」
「ああ、もう帰るよ。いつものくれ」
「これで最後だ。毎月仕送りはしてるだろうが!今度来たら裁判所命令を取るからな!」
スチュワートは小切手を切ると、父親に押し付けた。
「ああ、わかったよ。またな、スチュー」父親は小切手を大事そうにしまうと帰っていった。
「すまない、へんなとこ見せちゃって・・・。上がるか?」
「いいの?」スチュワートはマーティンを部屋に案内した。
中はきちんと整頓されていて、大きなベッドが目を引いた。
「そこのベランダから屋上に続いてるんだ。気持ちいいぜ」
「じゃあ、ちょっと見せてね」マーティンは屋上に出た。
「うわー、すっげー」マーティンは思わず叫んだ。
パラソルとデッキチェア、テーブルなどがおいてあり、たくさんの植物に囲まれていた。
「座れよ、マーティン」スチュワートはペットボトルのジュースを渡した。
「ありがとう。バリ島みたいだね。すごいや!」
マーティンはオーガスタの大きな葉に触れた。
「今はもう寒くなってきたけどな。これが屋上目当ての理由だ」
「いいね。こんなの独り占めなんてずるい気がする」
マーティンは寝そべりながら言った。
「さあ、また風邪を引くといけないから中に入ろう」二人はまた部屋に戻った。
「あのさ・・・いや、何でもない・・・」
「親父のことだろ、あいつ飲んだくれでどうしようもないんだ」
「そう・・・毎月、お金を送ってあげるなんてえらいね」
「仕方なくだ。あんなヤツ、さっさと死ねばいいんだ!」
マーティンはうつむいたスチュワートの肩に黙って手を置いた。
「ありがとう」スチュワートはマーティンの手に自分の手を重ねた。
「あ、いえ・・・」マーティンはどうすればいいのかわからずじっとしていた。
「それじゃ行こうか、まだ間に合うよ」
スチュワートは吹っ切れたように立ち上がった。
「そうだね」マーティンが立ったとき、スチュワートが体を抱き寄せた。
「しばらくこのまま抱きしめてもいいか?」
「え・・・うん」スチュワートの吐息が首筋にかかる。
マーティンはドキドキしながらスチュワートの体にぎこちなく腕を回した。
「マーティン、また心拍数が上がってる。P波とQRS波に押しつぶされそうだ」
スチュワートはくすっと笑うと、マーティンから離れた。
「ありがとう、もう平気だ。お礼をしないとな」
スチュワートはもう一度抱き寄せ、濃厚なキスをした。
「んんっ」突然のことでマーティンは驚きを隠せない。
スチュワートのキスは、さっき飲んだばかりのDr.Pepperの味がした。
スチュワートが唇を離すと、唾液がツーッと糸を引いた。
「マーティン・・・」グリーンの目が誘っている。
「あの、僕はダメなんだ。付き合ってる人がいるから・・・」
スチュワートはマーティンのシャツのボタンを外し、自分もシャツを脱いだ。
見事に鍛えられた体から目が離せない。
ボヤボヤしているとベルトに手が掛かった。
「ね、待って!本当にダメだよ、僕は裏切れないんだ!」
スチュワートは構わずマーティンをベッドに押し倒した。
後ろ手に押し倒され、羽交い絞めにされ抵抗できない。
スチュワートの手は素早く動き、マーティンを全裸にした。
大きな体で包まれるように愛撫され、マーティンの体は敏感に反応していた。
「スチュワート、こんなの嫌だよ」
「オレのこと、嫌いなのか?」
「そうじゃないけど・・・んっあぅ・・・」
「もうイキそうじゃないか、力を抜けよ」
スチュワートはマーティンを仰向けにすると目を覗き込んだ。
マーティンは耐え切れずに目をそらした。
「そんなに嫌ならやめようか?」
「・・・・・・」マーティンは何も答えられない。
「なんだよ?してほしいって解釈するぜ?」
スチュワートは自分も全裸になると、そそり立つペニスにローションを塗り手を添えた。
「さ、力を抜いて」マーティンのアナルにあてがうと少しずつ挿入した。
「痛いよ・・・そんな大きいの入んないよ」
スチュワートは徐々に抜き差しをくり返し、ゆっくり馴染ませた。
「これでどうだ?おっと、返事は必要ないな」
マーティンのペニスは今にもはちきれんばかりだ。
「うっ、あぁぁん・・・」声を上げないように唇を噛みしめているのがそそる。
スチュワートは足をつかんで開かせ、腰を使い始めた。
「んっああっー」思わず嬌声を上げ、マーティンは顔を覆った。
「きついな、もうイキそうだろ?」スチュワートは動きを早める。
「あぁっ、やめて・・んっふぅ・・ああっー・・・」マーティンは思いっきり精液をぶちまけた。
スチュワートは精液を乳首に擦り、さらに嬲る。
「いいぞ、オレもイキそうだ。んっくっ・・・・うぅ・・・」
スチュワートは荒い息を吐きながら、マーティンの上に倒れこんだ。
マーティンはダニーを裏切ったショックで呆然としていた。
どうしよう、僕・・・。ダニーにあわせる顔がないよ・・・。
涙が頬を伝い、スチュワートがそれに気づいた。
「泣いてるのか?またどうして?」
「不貞行為・・・」
「え・・・君は純粋ないい子だな。強引なことをして悪かったよ」
スチュワートは涙を舐め取るとキスをした。
「バスルームは左の奥だ。先に使うといい」
「ん・・・」マーティンはバスルームへ行き、シャワーを浴びた。
堪えようとしても、どうしようもなく泣けてきて仕方がなかった。
火曜日の朝、マーティンは支局の玄関ホールで思いがけない人物に遭遇した。
父、ヴィクターだ。「父さん、どうしたんですか?」
「公務だよ。お前のユニットは関係ないから多くは話せんが、後で、お前個人に聞きたいことがある。」
「そうですか。分かりました。」心なしか父の顔がこわばっているように見えた。
DCから飛んでくるような重大犯罪がNYで起こってるのかな。
「おはよう、マーティン。」ボスだった。
「今週からヴィクターがこの支局でユニットを陣頭指揮するらしいぞ。
それもDCから精鋭を集めて来ている。」
「はぁ。」「お前もいつかは仲間入りできるといいな。」
笑いながら、エレベータを降りるボス。
思わず降り忘れて上の階まで行ってしまったマーティンだった。
階段を使って降りてくるマーティン。
「この階まで階段で来たの?すごいじゃない!」
サマンサがびっくりしている。
「ドーナッツ太りやろ。お前もやっと気にするようになったか。」
「うるさい、ダニー!」「緊急ミーティングだ!」ボスが召集する。
「今日からフィッツジェラルド副長官が当支局にオフィスを構える。皆、心してかかるように。」
「いつまでですか?」マーティンがすかさず質問する。
「副長官の案件が終わるまでだ。以上。」「気い使って大変やな。」
肩をぽんぽんと叩いて、ダニーは席についた。
マーティンの内線が鳴った。「はい、フィッツジェラルド。はい副長官。今、行きます。」
「早速お呼ばれかいな。頑張りや。」「うん。」
父親のオフィスの階まで上がる間、心臓が口から出そうだった。
エレベータでDCから来た捜査官が両側にやってきて一緒に歩く。
何だよ、これ。個室に案内される。
ドアを閉めると外から全く聞こえない密室だ。
「実は昨日、私のメールアドレスにこれが届いた。見てくれ。」
「何これ?」それはあられもないマーティンと複数の男のセックスシーンの動画だった。
「お前覚えがあるのか?」「いえ・・・。」「正直に答えなさい。」
「実は、週末にある人の家に泊まったんですが、記憶が定かでない時間があるんです。」
「そこで、これを撮られたな。DCのデジタル解析チームの分析の結果、合成ではない事が判明している。相手は誰だ。」
「ジェイムズ・ダーシーというイギリス人です。」「ダーシー・トレーディングか?」
「はい。」「本当だったとは・・・。お前は何てことをしてくれたんだ!
奴はこれをネタに私にゆすりをかけてきている。これまで銃器と臓器売買で
ずっと追っていた相手だぞ。うちの企業犯罪チームの5年の苦労がお前のこの写真のせいで、
無駄になりそうなんだ。」
「父さんはどうしたいんですか?僕はこのビューローを去っても構いません。」
「何を言う!お前を建築学の専攻から政治学に変えさせたのは何のためだと思ってるんだ。
私の跡を追って欲しいからだぞ。」「相手の要求は何ですか?」
「この写真を公表しない代わりに、捜査の終了だ。」「そんな取引応じるんですか?」
「応じたくない。だからお前と話がしたかった。ダーシーと接触できる捜査官はいるか?」
「同僚のテイラー捜査官です。」「彼をうちに貸してもらうようジャックに話をしよう。」
「ダ、テイラー捜査官を巻き込むんですか?」「仕方がないだろう。」
最悪だ。あのジェイムズがそんな悪人だったなんて。ダニーの信用も失ってしまう。
マーティンは思わず座り込み頭を抱えた。
「マーティン、心を強く持て。私が何とかする。」「父さん・・・。」
ダニーは午後から、DCの捜査官と組んで捜査に借り出されていった。
翌日、ダーシー・トレーディングの過去2年間の取引明細書のファイルが届いた。
「これって・・」DCの捜査官が説明する。「ソースは極秘だ。売買内容の仕分けをしてくれ。」
「了解。」ヴィクターがダニーに声をかける。
「テイラー捜査官、君には明日、ダーシーに会ってもらいたい。」「はい?」
「あのペントハウスは要塞のようでね。君が入ったら、他の捜査官が追随する。」「了解です。」
ダニー初めての囮捜査だ。胸が高鳴る。「よろしい。じゃあ頼んだよ。」
「まかせてください。」「身体にワイヤーマイクを付けるが気にしないように。」
「はい。」「心配するな。DCチームがバックアップする。」「はい。」
さて、翌日になり、ダニーは緊張した面持ちで、ジェイムズのアパートを訪れた。
バトラーに「ダニーがジェイムズに会いに来たと伝えてくれる?」と言うと、
インターフォンでペントハウスと連絡を取っている。
「どうぞ、エレベータでおあがりください。」第一ステージクリアや。
「ようこそダニー。久しぶりだね。」「はい、ご無沙汰してます。」
「今日はどんな用件かな?」「ええ、先週末、俺、マーティンと約束してたんやけど、
それが、マーティンの都合で、ドタキャンされて、聞いたら、貴方といたと言う。
それが本当なのか確かめたくって。」
「確かにマーティンはここにいた。気分が悪そうだったので、ずっとゲストルームで寝ていたよ。」
「そうすか。ゲストルームか、ええなぁ。」「良ければ君も今日泊まるといい。」
「そんな、明日は仕事があるから。」「そうか、それは残念だ。」
ジェイムズはグラスにワインを注ぐと乾杯を促した。応じるダニー。
「貴方とマーティンは付き合っているん?」
「それは恋人としての質問かな、それとも友人として?」ダニーは顔がほてるのを感じた。
ヴィクターも聞いている無線だ。「両方や。」「マーティンに聞いてみてくれ。」
「良く出張されるとマーティンから聞いてるんやけど。」
「ああ、まだ我々のルールが通用しない国を相手にしているからね。
自分で現金を持って、話し合って商談を決めるよ。」「契約書は?」
「あって無きがごとしだ。」「じゃあ、遊ぼうと思ったら、数字の遊びが出来る。」
「アメリカの税務局が厳しくなければね。」そういうとジェイムズは声をたてて笑った。
「本当はそんな用事で来たんじゃないんだろう。テイラー捜査官。」
「はぁ、何のことやろか?」ダニーの意識が混濁してきた。しまった、やられた!
「聞いているFBIの諸君。今日は人質がいるが、突入するかい?」
次の瞬間、ジェイムズの身体が吹っ飛んだ。右肩から血が噴き出ている。
隣りのビルからのSWATの射撃だった。
「ダニー、大丈夫?」駆け寄り声をかけたのは、駆け出しの研修生ケンだった。
「ケン、お前・・・。」「だましてて、ごめん。僕、インターポールの捜査官なんだ。」
それだけ聞くと、ダニーは気を失った。
「ダニー、ダニー。」「ぅぅん・・ここどこ?」「おなじみのERだよ。」
アランの声だ。マーティンが後ろで心配そうに見ている。
「マーティン・・・。」「なんで囮捜査なんてしたのさ。僕がやったのに!」
マーティンはぼろぼろ泣いていた。「お前より俺のが優秀だからやな。」
「さあ処置室にもう一回行くよ、点滴を取り替えるからね。」
トムの説明では胃の洗浄が終わったので、毒物系の薬品は体外に出たが、
薬が強すぎて意識が朦朧としているため、明日も安静が必要だとのこと。
一日過ぎ、ダニーの退院許可が下りた。アランが迎えに来る。ケンと一緒だ。
「ダニー、着替え持って来たよ。」「ああサンキュ。ケン、お前には騙されたで。」
着替えながらダニーが話しかける。「それが職業ですしね。お互い様。」
ケンは例のキュートな笑顔を浮かべた。「あの資料、お前が作ったんやろ?」
「正確にいうと緻密に暗号化されていた帳簿を読んだ、です。僕、暗号解読が専門なんで。」
「お前、本当に日本人なの?」「ええ、両親とも東京にいますよ。」
「すげー奴だ。FBI捜査官を騙すなんて。ギルには何て言う?」
「インターポールのNY支局への異動を志願したんです。
多分この一件で異動になるでしょう。まだ企業がらみの事件が山積みなんで、
しばらくあの弁護士事務所の研修生でお願いします。実はギルと本当に付き合いたくなっちゃって。」
そういうとケンはウィンクした。
こいつ、とんでもないつわものだ。アランが、それじゃあと車椅子で玄関まで連れて行く。
「ダニー、また二人でやりましょう!」
ケンはさわやかな笑顔を浮かべて、ダニーとアランが去るのを見送った。
「アラン、あいつの事、知ってたん?」
「カウンセリングの日に打ち明けられたよ。彼も相当なプレッシャーだったようだよ。」
「アランにも騙されたわ!」「守秘義務だから、許してくれよ。」「ふん、知らんわ。」
「今日、看病しないぞ。」「やだ、それはして欲しい。」「駄々っ子め。」「へへへ。」
ボルボはアッパーウェストサイドに向かって走っていった。
翌日からダニーは支局へ戻った。「おかえり!」サマンサが気がついて寄って来る。
「DCの手伝いで大変な目に遭ったんだって?」「あ、あぁ〜、まぁな。」
「気をつけてよ。NYだって忙しいんだから。」ヴィヴィアンが頷いている。
マーティンが立ち上がってこっちに向かってくる。ダニーはただウィンクを返した。
ダニーの内線が鳴る。「はい、テイラー。はい、副長官。すぐ伺います。お呼びだ。」
副長官の部屋に入るダニー。「今回はご苦労だった。」「いえお役に立てて幸いです。」
「君にはまさに囮になってもらって恐縮だ。SWATの射撃命令がかかっていたのでね。」
「え、それのために・・・。」「おかげで5年間の捜査が実を結んだ。一つ聞いていいかな。」
「はい、何でしょう?」「マーティンと君の関係だが・・・。」
「純粋に同僚で友人、それだけです。」「そうか。そうだな。そういう事だ。」
副長官は一人無理やり納得しようとしているようだった。
「何か他にありますでしょうか?」「いや、ない。ご苦労だった。」
「はい、ありがとうございます。」「これからもマーティンを頼む。」「はい。」
声を殺して泣いていると、スチュワートがバスルームに入ってきた。
「なぁ、もう泣くなよ。あんなことは二度としないからさ・・」
「泣いてないよ!」マーティンは強がりを言った。
「不貞行為か、すごいこと言うよなぁ」
スチュワートはマーティンの体を丁寧に洗い、自分の体も洗った。
「またキスしたくなってきた。もししたら怒るか?」
「そりゃあ怒るよ・・・スチュー!!」マーティンはわざとスチューと呼んだ。
「その呼び方はするな!」スチュワートは強引に舌を絡めた。
「仕返しさ、スチュワート!」マーティンは先にバスルームを出た。
「ねー、水もらってもいいかな?」
「ああ、冷蔵庫の中だ。オレにも頼む」
マーティンはコントレックスのボトルを二本取り出した。
僕の冷蔵庫そっくりだ・・・思わず笑いながら扉を閉めた。
スチュワートの分をテーブルに置き、マーティンは屋上に出て水を飲んだ。
ライトアップされて浮かび上がった植物が幻想的だ。
「気に入ったのか?」いつの間にかスチュワートが立っていた。
「うん、間接照明が見事だね。陰影の付け方が完璧だ」
「オレのことは?」グリーンの目がいたずらっぽく笑っている。
「あ、うん、その・・・なんというか・・・」
「無理に答えなくてもいいんだ。体は正直だからな」
スチュワートはマーティンの肩を抱いた。
「オレはバイだけど、君はゲイ?それともバイ?」
「ゲイ・・・どうしてわかったの?」
「直腸診をしたときにアナルが拡張されてるのがわかったのさ。
それにオレに興味があるみたいだったから」
スチュワートにウィンクされ、マーティンは耳まで赤くなった。
「見事だね、ドクター・バートン」
「それはどうも。今夜のスカッシュ行けなくなったな、ごめん」
「いいよ。どうせ僕が勝つんだからさ!」スチュワートはニヤリと笑い髪をくしゃっとした。
「今夜泊まってくか?」
「ううん、帰る。心配してると思うから」
「ああ、グラタンの製作者か。男なのにすごいよなぁ」
「ん、何でも作っちゃうんだ。裏切ったから後ろめたいよ・・・」
「泣くほど好きな相手がいるのは羨ましいな。オレにはそんなのいない」
「すっごくもてるのに?僕のチームの女性たちもスチュワートに夢中になってたよ」
「ああ、オレは本気で人を愛せない。好きなのは自分だけだ」
「僕も遊び相手の一人なんでしょ?」
「どうかな。マーティンはいつもとは違うんだ」
「またまた〜、そんなに気を遣わなくてもいいよ。僕、慣れてるから」
「慣れてるって?」
「僕が愛するほど相手は愛してくれないんだよ。肉親も含めてね」
マーティンは遠くを眺めながら寂しそうに言った。
「そろそろ帰るね。おなかも空いたし」
「あっごめん、ディナーを賭けてたんだったな。何か食べに行こう」
スチュワートはマーティンを促して中に入った。
「いいよ、適当になんか食べるから」
「いいじゃないか、オレがご馳走するからさ」
「スチュワート、また着替えるの面倒でしょ。いいってば!」
「君を送ってくついでなんだから気にすんなって!」
スチュワートは手早く着替えると、マーティンの腕を取り部屋を出た。
食事を終えてアパートに帰ると真っ先にダニーに電話した。
家も携帯もつながらない。どこに行ったんだろう?
自分もスチュワートと寝た手前、ダニーのことが気がかりだった。
それと同時に話さなくて済んだことにホッとしていた。
ダニーは勘が鋭いから気づくかもしれない。
マーティンは歯を磨いた後、鏡を見ながら明日の練習をしたものの
どうしても表情がこわばってしまい、薄っぺらな作り笑いだけが張りついていた。
ダニーはスカッシュコートで待ちぼうけを食っていた。
暇つぶしにプレーしようにも、ほとんどできないのだから退屈極まりない。
興味がないので人のプレーを見ても楽しめない。
諦めて帰ろうとすると肩をたたかれた。
「スーザン?!!」
「ダニー、また会ったわね」うっとりとダニーを見つめるスーザン。
「久しぶりやな。ディナーでもどう?」
嬉々としてスーザンが二つ返事でついてきた。
マーティンがオフィスに着くと、ダニーが電卓片手に唸っていた。
「おはよう、何やってんの?」
「おう、おはよ。ローンの試算をな・・」
「何のローン?」
「車。あかんわ、まだまだ無理や!」ダニーはメモ用紙を勢いよく破り捨てた。
「今のでいいじゃん。どうしてさ?」
「別に。昨日どうやった?勝ったんか?」
「ううん、昨日は行かなかったんだ。スチュワートのお父さんが来たから」
「ふうん、やっぱ医者?」ダニーがおもしろくなさそうに尋ねた。
「ううん、普通の人だったよ」
ダニーはマーティンが嘘をつかなかったことに安心していた。
ヴィクターはダニーをディナーに招待すると言い張った。
「しゃあないな。」「ごめんね。父がどうしてもダニーにお礼がしたいって。」
「ボスも一緒か?」「多分そうだと思うよ。」
「それなら、ぐっと値のはるところに行こうやないか。親父さん俺を盾にしたんやで。」
「本当にごめん。」「そや、どうせならタイムワーナーセンターの「雅」に行こう。
目ん玉が飛び出るほど高い寿司バーらしいで。」「じゃあ父に言ってくるね。」
ヴィクターは値段を知らず、お好みのカウンターを選んだ。
おまかせコースは、トリュフのテンプラやフォアグラのしゃぶしゃぶなど、
その日の一番の食材をシェフが好きなように調理して出てくる話題の店だ。
4人とも初めて食べる料理との遭遇で一々歓声を上げていた。
「それにしても、今回のテイラー捜査官の活躍は目覚しい。良ければDCに来ないか?」
「いや、そんな、僕はNYで失踪者を捜す仕事がミッションだと思ってますから。」
「謙遜はいらん。気持ちがあったらいつでも言ってくれ。」「ありがとうございます。」
「ジャック、なあ、いいだろう?」
「うちのユニットでも、テイラー捜査官はトップレベルですから、
DCに行かれると、大きな痛手です。」
「そうか。テイラー捜査官、ボスに信頼されて幸せだな。」
「はい、おかげさまで。」
「マーティン、お前も早くテイラー捜査官みたいになれよ。」「はい、父さん。」
ぶすっと答えるマーティン。ダニーが申し訳なさそうな顔をしているのが、
余計にマーティンの勘に触った。
ヴィクターが勘定書きを持ってこさせた。値段を見て目を剥いている。
ざまあみろや、ダニーは心の中でガッツポーズした。
ヴィクターがチェックを済ませている間、ボスがマーティンに釘を刺した。
「自分の実力を磨くか、お父上の前ではいい息子を演じることだ。それが官僚主義というものだ。」
「僕は捜査官で、役人じゃありません。」
「わかってないな。政治がからむとそうは言っていられないんだよ。」「はい、ボス。」
「ダニー、お前は口が上手すぎる。そのうち墓穴を掘るぞ。」「はい、ボス。」
二人の正反対の部下を抱え、副長官とのディナーを済ませ、ボスも疲労困憊していた。
ヴィクターがやってきた。「じゃあ、今日は私はここで失礼するよ。みな、おやすみ。」
「珍しいな、お父上が私たちと別れるとは。」マーティンには分かっていた。
どうせ、また高級娼婦を買うんだよね。父さん。「ボスはこれから、どうされます?」ダニーが尋ねた。
「私もヴィクターの世話で疲れたよ。今日はこのまま帰る。」二人が残された。
事件以来、あまり口をきいていなかったダニーとマーティンだった。
「これからどうする?」マーティンがおそるおそる訊いた。
「お前の家でも行くか。」「うん!」マーティンの顔が一気に輝いた。
マーティンの家に着くと、二人でパジャマに着替えた。マーティンがワインを持ってくる。
「寿司の後はシャルドネだよね。」と、コッポラのシャルドネを開ける。
「そや、さっきの寿司の値段訊こう。」「雅」に電話するダニー。
「はい、さっきそちらで食事したフィッツジェラルドですが、値段の確認をしていいですか?
はい、ヴィクターです。はぁ、そうですね。3000ドルですね。また寄りますよ。ご馳走様。」
ダニーはソファーに転げまわって笑っていた。
「親父さん、驚いたやろな〜。寿司で3000ドルやて!俺の命の代償や。そう思うと安いな。」
ワインを飲みながら、マーティンがしんみりしている。
「どうした?」「ダニー、僕のために死にそうになったんだもん。笑っていられないよ。父さん、ひどい人間だ。」
「お前を想えばこその行動やぞ。とはいえ、酷やったわ。今回は。」「許してくれる?」
「許すも何もお前は悪いことしていないんやから。」マーティンははっと気がついた。
ダニーはセックスフィルムの事を知らないのだ。「う、うん、悪いことしてない。」
「お前と親父さんは別の人格なんやし、関係ないて。まぁ、俺もしつこく言うて、ごめんな。」
マーティンは我慢しきれず泣き出した。「おい、泣くなて。」ダニーはマーティンを優しく抱きしめた。
「さ、シャワーしよか。」「うん。」素直に従うマーティン。
ダニーはマーティンのパジャマのボタンをゆっくり外しながら、
胸をゆっくり愛撫した。「あっあん。」
感じやすい身体のマーティンはそれだけで、下半身が反応していく。
「脱がすで。」トランクスごとパンツをはがされ、全裸になるマーティン。
ペニスが半分立っていた。ダニーも急いで自分のパジャマを脱ぐと、
マーティンの手を引いてバスルームへと向かった。
熱い湯の下に二人で立つ。お互いの身体を確かめ合うように手を動かす二人。
ダニーの右手の傷跡がまだ生々しい。マーティンは右手首にそっとキスを繰り返した。
ダニーは目を閉じてじっとしている。
「大丈夫?」「うん、平気や。」「ダニー、嫌だったら言ってね。」「ああ。」
前回、マーティンの家でセックス出来なかった件が、マーティンの中では尾を引いていた。
手がお互いのペニスに届いた。二人ともはちきれそうに立ち上がっていた。
「あぁ、マーティン・・。俺、イキそうや。」「ベッドに行こう、ダニー。」「ああ。」
二人とも濡れた身体のままで、マーティンのベッドに倒れこんだ。
ダニーは目をつむり、フラッシュバックに備えた。
「ダニー、僕を見て。マーティンだよ。」
ダニーが目を開けるが焦点が合わない。身体が震え始める。
「ダニー、僕だよ、見て。」
その時、ダニーの瞳が一層見開かれ、焦点が合った。「マーティン・・」
「そう、僕だよ。僕の身体触って。」ダニーの手を自分のペニスに持っていく。
ダニーに握られ、ぴくんと動くマーティンのペニス。「あぁん、ダニィ・・」
マーティンもダニーの睾丸を優しく撫で、ペニスを握った。
力はまだ失われていない。「僕がダニーの中に入るからね。」「うん。」
マーティンはミントのローションを自分とダニーに塗りたくり、静かに身体を沈めていった。
「うんっん、あぁ〜。」ダニーが唸った。「大丈夫?」「うぅ〜っあっあっ。」
「ダニー、動かすよ。」マーティンがゆっくり腰を前後させ始めた。
「ああ、締まるよ、ダニー。」「あぁ〜ん。」
ダニーの喘ぐ声がベッドルームにこだまする。「マーティン・・」「ダニー・・」
お互いの名を呼び合うと、マーティンは動きを一気に加速した。
「うぁあ〜。」ダニーは叫ぶと精液を思いっきりぶちまけた。
マーティンもその声に呼応してダニーの中に果て、ダニーの上に身体を重ねた。
「俺っ、お前んとこでもイケたで。」
息も絶え絶えになりながらダニーが搾り出すように言った。
「そうだよ、ダニー。完全復活だよ。」
マーティンが泣きながらダニーの身体にしがみついた。
二人は静かに唇を重ね、息が続く限りの長いキスでお互いをむさぼった。
613 :
fanですw:2005/11/10(木) 03:05:59
定期的にアゲル私がやってきましたよ。
ダニーとマーティンが最高のペアだと思うけど、
スチュワートもアランも魅力的なので、継続して欲しいです。
ヘンな女にからまれるよりずっと読んでで楽しいです。
わがままいってすみません。応援してます。
ダニーは夕べのディナーの後、スーザンと寝た。
マーティンには悪いけど、オレは定期的に女とも寝やなバランスが取られへん。
これは必要悪ってわけや。ダニーは自分を正当化した。
それにスーザンもオレのこと既婚者やて思てるし、都合がええ。
PCのモニター越しにマーティンを見ながら一人勝手に納得していた。
ダニーとは対照的にマーティンは、顔や態度で気取られないよう必死だった。
今のところ感づかれてはないものの、気を抜くとあっという間に見抜かれそうで怖い。
偶発的に寝てしまったとはいえ、浮気は浮気だ。
スチュワートのせいにはできない。
ダニーに申し訳なくて自分を責めてばかりいた。
勤務が終わると、お互い自分のアパートへと別れた。
今夜は二人とも別々に静かに過ごしたい気分だ。
ダニーはダイニングバーに寄り、食事とDJのプレイを楽しんだ。
浮気の明くる日は別行動に限るわ、ダニーはドライマンハッタンを飲み
くつろぎながら雰囲気を楽しんでいた。
マーティンが本を読んでいると、携帯が鳴った。スチュワートからだ。
「スチュワート・・・」
「迷ったけど、どうしてるか気になってさ。今、話せる?」
「うん、大丈夫。本読んでたところ」
「何の本?」
「あの・・・ハリー・ポッター」
「マジかよっ!でも、オレも読んでるんだ。特に第三巻が好きだ」
「あっ僕も!泣けるんだよね、アズカバン」
スチュワートはクスクス笑った。
「君とはなぜか気が合うな。また会いたい」
「え・・・それはどういう意味でなの?」
「心配するなって。もう嫌がることはしないさ。もっともしたいのは確かだけどな」
「また僕を困らせて!もしかしておもしろがってるの?」
「当たり!マーティンの慌てるところが好きなんだ」
「もうっ!んーと、変なことしないならいいよ」
「じゃあさ、明日の19時にクリアコートな。生憎、診療予約が入ってるから迎えにいけないんだ」
「そんなのいいよ、じゃあ明日19時にね」
マーティンは電話を切ると本の続きを読み始めた。
次の日、クリアコートまで歩いていき、ロッカールームで待っているとスチュワートが来た。
肌蹴たシャツの胸元につい目がいってしまう。
「待たせてごめん、行こうか」片方の口の端をあげて微笑んでいるのがセクシーだ。
「あ、うん」気まずくて目を合わせにくい。またもや心拍数が上がってきた。
マーティンは深呼吸をして気持ちを落ち着かせ、試合に臨んだ。
今回はマーティンもスチュワートも最初から全力だ。
フルセットまで持ち込むと分が悪くなる。先に三勝しないと後が辛い。
マーティンは鋭角へのショットでスチュワートを出し抜いたが、
体が大きい分、手足の長いスチュワートはどんなショットでも打ち返す。
ギャラリーは大喜びだが、二人ともそれどころではなかった。
結局フルセットにもつれ込み、マーティンが勝った。
「あと一歩だったのに・・・くそっ!また負けた!」
「惜しかったね、どっちが勝ってもおかしくなかったよ」
二人は握手を交わし、クリアコートから出た。
ギャラリーに手を挙げて応えながらロッカールームに戻る。
「強いな、オレが二度も負けるなんて・・・」
「スチュワートもね。僕もギリギリだった」
「着替えてディナーに行こう。なんでもかまわない」
マーティンは気を遣ってベトナム料理をリクエストした。
スチュワートは生春巻きが好きだと言っていたのを覚えていたからだ。
チャイナタウンのベトナム人夫妻が経営するレストランに連れて行ってくれた。
「青いパパイヤの香り」に似せられたインテリアはいかにもスチュワート好みだ。
生春巻きをはじめ、フォーやベトナムスタイルの揚げ春巻きを楽しんだ。
初めて食べた青パパイヤのサラダにもすっかりはまってしまった。
マーティンはどうしてもニョクマムの匂いに馴染めず、
スチュワートにからかわれたが、何もつけずに食べた。
「こんなに一度にいっぱい野菜を食べたのって初めてかも」
「そうなのか?ちゃんと食べなきゃ早死にするぜ」
「ん、今度から気をつけるよ。それはなに?」
スチュワートは器用に葉っぱで舟を折った。
「笹舟だよ。本当に浮くんだ。君にも、はい」
スチュワートはもう一つ折るとマーティンにくれた。
「デザートはパスだ。それだけは口に合わないからね」
そう言うと、スチュワートはチェックを済ませた。
「今夜はありがとう。ご馳走様でした」
「いいや、今度は君にご馳走になるからいいんだ。おやすみ」
「それはどうかな?おやすみ、スチュー」
「オレはスチュワートだ!じゃあ、またな!」
スチュワートはウィンクすると帰っていった。
何もされなかったことに正直拍子抜けしたが、普通の友達ができたみたいで嬉しかった。
部屋に入るとダニーがリビングで料理番組を見ていた。
「おかえり、遅かったな」
「ん、スカッシュに行ってたから。電話くれればよかったのに」
「いや、さっき来たとこやねん」ダニーは嘘をついた。
「そっか。一緒にお風呂入ろうよ」
「ええで。もうすぐこれ終わるから」
ダニーはレシピをメモっている。その間にマーティンはバスルームへ行った。
「ダニィ・・・」マーティンがおろおろとしている。
「なんや、どないしたん?」
「バスジェルのボトルを落っことしちゃって・・・」
「ええっ!こぼしたんか?」
「うん、ほとんど入ったみたいで、泡がその・・・」
もじもじと埒が明かないのでバスルームに見に行くと、泡が雲のように広がっていた。
「なんや、これは!!」水の勢いに比例してもくもくと泡が立ち上る。
「ごめん」マーティンがすまなさそうに謝った。
「まあええやん。おもしろそうや!」
二人は服を脱ぎ捨て、泡の中に飛び込んだ。
ベルガモットの香りでむせ返りそうになりながら、泡を全身にまとう。
「これで頭まで洗えるやん。めちゃめちゃやなぁ!」
ひとしきり遊び、お湯を流そうとしたものの泡で排水が機能しない。
「どうしよう・・」マーティンが困った顔でダニーを見た。
「そのうち消えるやろ。それより、なぁ?」
ダニーはマーティンの体を泡で滑らせるように愛撫した。
「これならローションもオイルもいらんやろ。しよか?」
戸惑うマーティンのアナルに指をくねらせ、ペニスを握った。
「ダニィ・・」マーティンは身を委ねた。
ダニーはキスしながら挿入し、膝の上に座らせた。
「欲しかったら自分で動き。オレは後ろから見てるから」
マーティンは最初はぎこちなかったが、そのうち一心不乱に腰を使いはじめた。
時折、泡で足が滑り妙な刺激に二人は呻いた。
「オレも動きたい。バスタブに手つけろ」
言われるままに手をつくと、ダニーが激しく突き上げてくる。
「あぁっ、ダニー・・・」
「ん、ああっ、すごい気持ちええ・・・お前は?」
「僕も・・・うぅっすごくいいよ、もうイキそうだ・・・ああん」
「よし、出すで・・・んっんくっ・・・・あぁー」
ふぅー、二人は大きく息を吐くともたれあった。
翌朝、疲れのせいか二人とも寝過ごし、シャワーも浴びずに出勤した。
「おはよう、ぎりぎりセーフ!」サマンサも眠そうな顔だ。
「おはよう、サム。眠たそうやな」
「眠そうじゃなくて、眠いのよ!」コーヒーの効果も薄そうだ。
「なんかベルガモット臭いわね。あれ、二人とも?」
怪訝な顔をされ、マーティンは眠気が吹っ飛んだ。
「ああ、夕べ合コンで飲みすぎてマーティンとこに泊まったんや」
ダニーは事も無げに言った。サマンサは納得したようだ。
マーティンはダニーのよどみない口車に驚いた。
気をつけないと僕も騙されそうだ・・・。
ダニーはマーティンの身体にくるまれたまま目が覚めた。
マーティンの手と足を静かにどかし、起こさないようにベッドから出る。
まだ6時だ。そや、今日はベーグルサンドをあいつのために作ったろ。
ベーグルを解凍し、クリームチーズとハムとデイルの葉っぱをはさむ。
コーヒーメーカーを仕立て、新聞を読みながら、マーティンが起きてくるのを待っていた。
7時になっても起きてこない。「マーティン、朝やで。」「うぅん。」
布団をひっぺがすと、身体を縮めてまだ寝ようとしている。
「おい!」ペチっと冷たい手で顔をはさむ。「わ〜。」
「何が、わ〜や。起きんとあかん時間やねん。シャワーしてき。」
「うん。」ダニーはスーツ姿になっていた。
シャワーから上がってきたマーティンに、「朝食作っといたから先行くで。支局でな。」「うん。」
ダニーは地下鉄で支局へ出勤した。
ヴィクターがボスとしゃべっているのが見えた。
ヴィクターがボスの個室から出てくる。
「やあテイラー捜査官。昨日は楽しかったよ。」
「はい、僕もご一緒できて光栄です。」
「それでは私はDCへ戻るから。今回は本当にご苦労だった。」
「ありがとうございます。」ヴィクターを見送ると、ボスがダニーを呼んでいた。
「はい、ボス。」個室で面談する。
「正式にヴィクターから君のDC異動の打診が来た。どうする?」「え、俺をDCにですか?」
「今回の件でヴィクターもかなり恩義に感じているようだ。」
「でも、俺、ここで、ボスの下でもっと仕事覚えたいっす。」
「そう言ってもらうとうれしいよ。じゃあ、今回は見送りでいいね。」「はい。」
ダニーはきっぱりと言った。出世からは回り道だという事は分かっていたが、
ダニーは今、マーティンからもアランからも離れたくなかった。
マーティンが眠そうな目をこすりながら、出勤してきた。
席でベーグルサンドをむしゃむしゃ食べている。
こんなボンを置いてDCに行けるわけがない。
夜、ダニーはアランと会う約束をした。
一応DC行きの打診があったことを伝えるためだ。
アランの家に行くと、バーベキューソースの匂いが満ち溢れていた。
「やあ、ハニー、ご機嫌はどうだい?」「上々や。」
「今日はポークリブにマッシュポテトとアンチチョークのサラダだが、いいかい?」
「もちろん。」「じゃあそこのメルローを開けてくれ。」「うん。」
3000ドルの寿司もいいが、性に合わない。
こういう家庭料理が最高や。ダニーはファミリーという言葉を実感していた。
「どうして機嫌が上々なのか聞かせてくれるかい?」「今日、副長官からDC行きを打診された。」
「ほぅそれで?」「受けた。」「え・・DCに行くのかい?」
「うそや。俺、アランと離れて暮らせへんもん。」
「心臓が止まるかと思ったよ。おじさんの身体に悪いことは止めてくれないか。」
アランは胸を押えて深い深呼吸をした。
「そうだ、今週末、ギルとケンが食事をしにくるけど、都合はいいかな。」
「うん、料理手伝うで。」「有難い。またメキシカンにしようかと思っててね。」
「いいやん。」「ケンの話も聞きたいしなぁ。」「奴に個人的な興味あるんか?」
「そんなんじゃないよ。日本に興味があるんだよ。心配しすぎだ。それより、もう悪夢は見ないかい?」
「このところ大丈夫。」「良かった。もう克服できたかな。」「わからんけど、前よりよく眠れる。」
「今日、様子を見よう。」「その前に身体の様子も見るんやろ。」
上目使いでアランを見つめるダニーは至極セクシーだ。
アランが思わず寄ってきて後ろから抱きしめて首筋に唇をつけた。
「キスマークはご法度やで。」「残念だ。」
アランは離れた。食事が終わって、アランの葉巻タイムだ。
ダニーは適当に即興でギターを奏でていた。
「そろそろバスにしようか。」「うん。」いつもの二人のバスタイム。
いつもの二人のベッドタイム。ダニーの今までのセックスの中で、
こんなに身体に馴染んだ関係は初めてだった。
俺ってファザコンなのかも。ダニーは自分の性癖を訝った。
隣りで規則的な寝息を立てているアランの頬にキスをして、ダニーも眠りに入った。
週末になり、ギルとケンを食事に招く日がやってきた。
夕方ダニーはアラン宅に出向いた。
すでにケンが来ていてソファーに座っている。
「ケン、来てたんか。」「はい、今日もカウンセリングで。」
アランが「よう、来たか、アシスタント君。」とダニーに声をかける。
心なしかアランの顔と身体が紅潮しているように見える。ソープの香りも新しい。まさか・・・
ダニーは自分の嫉妬を打ち消すように、手を洗うとトルティーヤの粉をこね始めた。
「何かお手伝いしましょうか?」ケンが声をかける。
アランが、「すまないがD&Dに行って、メキシコビールを買ってきてくれないか?」と頼む。
「お安い御用です。」ケンが出て行くやいなや、ダニーはアランの臀部をつねった。
「痛い!何だよ、ダニー。」
「ほんま、ケンとは寝てない?」「寝てないよ。ギルにあわせる顔がない。」
「ほんまにほんま。」「ああ、神に誓って。」ケンがビールをしこたま買い込んでくると
同時にギルもやってきた。「相変わらず、いい匂いだ。」
「今日はファヒータ、ブリトー、ジャンバラヤだけど、テキーラやるかい?」
ギルは「俺たちはテカテビールでいく。」といって2本冷蔵庫から出してケンに一本渡している。
俺の心配が杞憂に終わるといいんやけど。ダニーは不安だった。
ケンの屈託のない若々しい笑顔を見ると、自分も年を取ったと実感せざるを得ない。
ダニーもコロナを飲みながら、トルティーヤをひたすら焼いていた。
アラン担当のファヒータとジャンバラヤが出来上がり、ブリトー、ワカモレディップと供される。
「わぁ〜、メキシコ料理ですね、大好きです。」「日本にもあるん?」ダニーが尋ねる。
「エルトリートがありますよ。」「へぇ、そうか。」「とにかく乾杯しよう。」
アランの音頭で4人はビールで乾杯した。
ビールが終わって、テキーラタイムになった。ギルはケンにめろめろだ。
二人で濃厚なキスを繰り返している。「なんか妬けるな。」「誰にだい。」
「二人の情熱。」「僕らも見返すようなキスをすればいい。」「恥ずかしいわ。」
「君みたいなヒスパニックの言葉とは思えないな。日本人ですらああなんだぞ。」
ケンがトイレに立った。ダニーも後に続く。「なあ、ケン、お前、アランと寝てないやろな。」
「当たり前ですよ。アランは貴方の事しか考えてない。」
用を足している様子を見てダニーは欲情した。ケンの後ろに立って首筋に歯を立てる。
「止めてください。ギルに怒られる。」「俺が怒られるよ。」
ケンの身体からはスモーキーな香りがした。エゴイストの残り香に似ている。まさか・・・
突然、バスルームのドアが開く。「おい、若者だけで悪さするなよ。」ギルが釘を刺した。
「そんなのしてないよ、ギル。」ケンはギルの頬にキスをしてテキーラを注いだ。
「ハニー、大丈夫かい?」「もちろん。」「どうだろう、今日は皆で泊まらないか。」
アランが申し出た。「そのソファーはそのままベッドになるから、これから布団を持ってくるよ。」
「ありがたい。それで、アラン、悪さはしていいのかな。」ギルが尋ねる。
「クリーニング代を徴収するよ。」「サンキュー。ケン、許可が下りたよ。」「ギル、恥ずかしいよ。」
二組が分かれてそれぞれ眠りにつく。
アランはテキーラの飲み過ぎでセックスする前に眠ってしまった。
ダニーは一人、クラブソーダを飲みながらバルコニーで夜景を見ていた。
肩を叩く人物がいる。ケンだった。「眠れないんか?」
ダニーが聞くと、「ギルのすごいイビキで無理です。」としかめっ面をした。
クラブソーダの瓶を渡すとそのまま飲むケン。
「俺たち・・・」「分かってます。仕事も似てるし、惹かれあってる。」
ケンがダニーにキスをした。小鳥がついばむような優しいキスだった。
「ケン・・・」「ダニーを味あわせて。」
そういうとダニーのパジャマをひざまで下げてダニーのペニスを咥える。
「あぁん、ケン〜。良すぎるで。」ケンは舌を駆使してダニーの表裏全部を味わった。
「あぁ〜ケン、イクぅ!」ケンは頷いている。ダニーは心ゆくまでケンの口の中に果てた。
「これは、秘密ですよ。僕、ギルに殺されちゃう。」
「俺だって、アランに殺されるわ。」「じゃあおやすみなさい。」「おやすみ。」
ケンは部屋の中へ戻っていった。
マーティンはここまで5勝で無敗を守っていた。
「どうだ、マーティン!」
「あ〜やられた・・・だめだ、今日は完敗だよ」
マーティンはとうとうスチュワートに負けた。
得意げにラケットを振り回すスチュワートがかわいい。
汗を拭いゲータレードをがぶ飲みしていると、ポンと肩をたたかれた。
「ん?ああ、スーザン!僕らを見てたの?」
「ええ、賭けてる連中もいるのよ。二人ともすごく上手ね」
「それはどうも。あのさ、ダニーの情報なら何もないよ」
「それならもういいの。今、付き合ってるから」
「え?ダニーと君が?」
「そう。不倫だけどダニーなら構わないわ。じゃあ、またね」
スーザンははにかみながら行ってしまった。
ダニーと付き合ってるって・・・何それ?どうなってんの?
一瞬理解できず、マーティンは放心状態になった。
「どうした、疲れたのか?」スチュワートが心配そうに尋ねた。
「え、いや、何でもないよ。シャワー浴びよう」
マーティンは重い足取りでシャワールームに向かった。
「ディナー何がいい?」なんとか平静を装うが、食欲はない。
「マーティンかな?」
「僕?ああ、そういう意味か・・・」
「顔色が悪いぜ?今夜はもう帰ろう、ディナーなんていつでもいいんだから」
スチュワートは荷物を持ってやり、マーティンを車に乗せた。
「ごめんね、せっかくの勝利に水を差しちゃって」
「いいんだ、そんなの気にするなよ」スチュワートはやさしく接した。
マーティンとスチュワートがアパートに着くとダニーがいた。
「おう、おかえり。あっ、こんばんは、ドクター・バートン」
「ただいま・・・来てたの」
「こんばんは、えーっとテイラー捜査官。じゃ、マーティン、オレは帰る。ゆっくり休めな」
「どうして?ゆっくりしていけばいいじゃない」
「いや、部外者がいると仕事の話がしにくいだろ。機密事項とかさ」
「いいんだよ、そんな話しないんだから」
「でも・・・」スチュワートは熱心に引き止めるので帰れなくなってしまった。
マーティンはピザのデリバリーを頼んだ。
ダニーとスチュワートは死後硬直の話をしている。
食事の前に話す内容かよ・・・マーティンは食器を並べながら話を聞いていた。
ダニー、浮気しといてよくあんなに平気な顔でいられるもんだ。
僕なんてこの前のスチュワートとのことでポリープができそうなぐらい悩んだのに。
ピザが届き、三人は食事を始めた。
二人ともアルコールを断ったので、マーティンはオレンジジュースとコーラを出した。
「マーティン、ドクターペッパーあるか?」スチュワートが聞いた。
「あ、ごめん。今度買っとくよ」マーティンは代わりにコーラを注いだ。
「それで、今日はどっちが勝ったん?」
「スチュワート。僕のストレート負け」
「ああ、やっと屈辱が果たせたんだ。今度はゴルフに行こうぜ」
「うん、そろそろシーズンも終わりだもんね」
「じゃあ、オレはそろそろ」スチュワートは立ち上がった。
「待って、エレベーターまで送るよ」マーティンはスチュワートと一緒に部屋を出た。
「君のステディな相手ってテイラー捜査官か?」
「えっ・・・うん、そう」うつむいたまま答える。
「そうか、オレには勝ち目ないかも」
スチュワートはいたずらっぽく笑い、髪をくしゃっとした。
「スチュワート・・・」マーティンは目を閉じた。
仕方ないなぁ、スチュワートはそっとキスをした。
「週末だ、空けとけよ!」エレベータに乗り、それだけ言い残して降りていった。
部屋に戻るとダニーが砂糖抜きのダイキリを作っていた。
「あいつ、帰ったん?」
「うん。あれっ、アルコールはいらないんじゃなかった?」
「いいや。酒が入ったらトロイが帰られへんやん。それでや」
マーティンは黙ってピザの続きを食べ始めた。
いつもは楽しいダニーの話も素通りしていく。
ダニーは調子よく話していて、マーティンの様子に気づかない。
「あのさ、ブルックリンのアパート引き払うことにする」突然、マーティンが切り出した。
「うん?また急に何言い出すねん!」
「もういいんだ。気が済んだから」
「そうか、わかった。ほな引越し手伝うわ」
「いいよ、ほとんど荷物もないんだし」
「あのベッドどこに置くん?」
「ベッドルームのと入れ替える。デザインに一目ぼれして買ったから」
「そやな。とうとう引き払う気になったんやなぁ」ダニーは深く考えずに同意した。
昼休みに引越しの手配を済ませ、物思いに耽っているとボスのオフィスに呼ばれた。
「ボス、今はまだ昼休みですよ?」
「気になったから声を掛けたんだ。今にも泣き出しそうな顔して」
「泣きそうってそんな・・なんでもないよ」
「いいや、何かあったに違いない。話せ」
「ブルックリンから引っ越すんです。手配も済ませました」
「あー、それは泣くに値するな。ダニーに怒られたんだな」
「違う、違う。自主的にだよ。もういいですか?」
マーティンはトイレに顔を洗いに行った。
トイレに行くとダニーが携帯で誰かと話していた。
マーティンに気づくと、落ち着いた様子で電話を切った。
「ボン、ランチ食べたん?」取ってつけたように話しかけるダニー。
「うん、ダニーは?」
「オレも。今夜1103で最後の晩餐せえへん?」
「いいよ。引越しの手配も済んだし、本当に最後だもんね」
「決まりやな。いつもの角で落ち合うで」ダニーはトイレを出た。
マーティンは携帯の相手がスーザンだと直感していた。
ゴシゴシと乱暴に顔を洗い、鏡に映る情けない自分の姿を見ていた。
最後の夜ということで、二人は食事もそこそこにベッドに入った。
いつのまにか引き締まったマーティンの体にダニーは驚いた。
しなやかな上腕二頭筋に舌を這わせ、肩甲骨の辺りまで熱心に舐め上げる。
マーティンに比べると、自分の体は貧相な気すらしてくる。
幾分気後れしながら、全身を愛撫した。
マーティンはダニーに愛撫されながらスチュワートのことを考えていた。
だめだ、今はダニーに集中しなきゃ!ダニーのペニスに手を伸ばすが
スーザンとも寝ているペニスだと思うと、どうしても口に含むのをためらってしまう。
心なしか自分のペニスも萎えてきた。セックス自体したくなくなった。
「ダニー、今夜は疲れてて無理みたいだ。少し休みたい」
「えっ、最後の夜やのに?」
「うん、ごめんね」マーティンは謝ると反対側を向いて目を閉じた。
ダニーも仕方なくあきらめ、隣に横たわった。
アランはテキーラの二日酔いの頭痛と共に目覚めた。昨日は飲みすぎだった。
隣りでダニーが規則正しい寝息を立てて寝ているのに安心すると、キッチンに水を飲みにいった。
リビングのソファーベッドで、ギルがケンを覆うように寝ていた。
ケンのあどけない顔がキュートで思わずキスしてしまいそうだ。
コーヒーメーカーを用意した後、シャワーを浴びる。アルコールが体外へ出て行くようで心地よい。
するとシャワーブースを開ける音がした。ケンだった。「ケン・・・」
「一緒に浴びていいでしょう?」「ダニーが起きてきたら・・」
「まだぐっすりでしたよ。」
ケンはアランの身体にからまるように手足を伸ばしてきた。
「昨日も言っただろう。僕にはダニーがいるんだ。君にもギルがいる。」
「いいじゃないですか。僕は貴方を尊敬している。それは誰にも止められない。」
ケンが跪いてアランのペニスを咥える。「おい、ケン!」
「大丈夫。貴方を1分でいかせてあげる。」その通りだった。
ケンの巧みな口技で、1分も立たないうちにアランは思いきり精液を放出していた。
ケンはくくっと笑うと、シャワーブースから出て行った。
奴はアンファン・テリブルだ。ダニーは無事なのか。
アランがシャワーから出ると、入れ違いにダニーがシャワーに入ってくる。
「ふぁあ〜、アラン、おはようさん。」「おはよう。」アランの心臓は早鐘のように鳴っていた。
ギルが寝ぼけまなこで起きてきて、シャワーを浴びようとする。
「待て、ダニーが浴びてる。」アランが制すると、「ダニーと入ってもいいんだがな。」とギル。
「何?」「怒るなよ、冗談だから。」ケンがくすくす笑っている。何て若者だ。
ダニーがほかほかになって出てくる。ギルが交代でシャワーを使った。
「今日、どうする?」「フォーシーズンズのブランチは?」アランが聞く。「そうしよか。」
シャワーから出てきたギルに聞くと賛同を得たので、4人はフォーシーズンズに繰り出した。
いつも同様、シャンパンを開けて、前菜から取ってくる。
ダニーがカナッペを選んでいると、ケンが耳元で、「昨日のジュース、美味しかった。」と囁いた。
顔が耳の先までぽっと紅くなるのをダニーは感じた。
こいつ、この調子でアランと関係持ってないやろか。
オードブルを取っているアランの顔を見ていると、アランが気がついて、ウィンクしてきた。
ギルとケンはああだこうだと言いながら、前菜を選んでいる。
先にダニーとアランは席に戻った。「昨日は良く眠れたやろ。」
「ああ、テキーラをいささか飲み過ぎた。」
「年なんやからアルコールもセイブしてや。」
「おいおい、そんなに僕はおじさんかい。」「俺よりはね。」
二人でシャンパンで乾杯する。
ギル達の様子を見ると、まだ前菜を選んでいる最中だ。
「ギルはもう骨抜きだな。」アランが言う。
「あぁ、ケンはキュートやもんなぁ。」ダニーも思わず付け足す。
「まさか、ダニー、ケンに惹かれてるのかい?」「俺が!?ま、まさか。」
慌てて言うので余計に怪しく聞こえる。
「アランこそ、日本人好きそうやもんな。」
「僕には君がいるから、もう浮気は無しだよ。」
アランはポーカーフェイスで返す。
ギルとケンがやっと戻ってきた。
「もう、ギルったら僕が取るものに一々口出しするんだから。」
ぷぅっと頬を膨らませて文句を言うケン。
「だって、ケンは痩せてるからもっと肉を食わなきゃ。」
ギルが母親のような事を言う。例によって4人は目立つ存在だった。
女性たちの視線が心地いい。
「皆、どうして、僕らを見ているの、ギル?」ケンが不思議そうに尋ねた。
「皆、君を見てるのさ。僕のオリエンタル・プリンス!」ギルはキスをしそうな位でれでれだった。
「暑いなぁ。」ダニーはあの冷静沈着な弁護士、ギルバートの変貌に呆れ返っていた。
これが恋愛の威力なんやな。それにしても昨日のケンの振る舞いは何だったんやろ。
ケンを見ると、ダニーと目が合った。ウィンクしている。
アランは次の料理を取りに席をはずした。ケンがアランに続く。
「ダニー、僕、本当に幸せだよ。いつも君たちをうらやましく思っていたからね。」
ギルがしみじみと語った。「俺らも色々あったから。実は大変やねんで。」
「そうだろう。二人とも男前だから外からの誘惑も多いだろうからなぁ。
でも二人がこうしているっていう事にどれほど勇気付けられるか。」
「ふぅん。ギルも大変やな。ケンももてるやろう。」
「ああ、あいつ、あの屈託の無さで誰とでも仲良くなるんだよ。僕の気持ちも知らないで。」
ケンを見るとアランに寄り添って腰に手を回している。
あいつめ!シャンパンをグイと空け、「ちょい失礼。」席を立つダニー。
アランとケンの間に入る。「アラン、ちょっと。」「何だい。」
二人はケンから離れてデザートカウンターの方へ引っ込む。
「ケンと近寄り過ぎやて。」「ほぅ、妬いてくれてるのかい。うれしいね。」
「もう、アラン嫌いや。」ケンがギルの方へ帰りながら、笑っているのが見えた。
ギルがとろけそうな顔でケンを迎える。ギルが傷つくような恋愛にして欲しくない。
今度誘惑されても、絶対にケンには負けない。ダニーはそう誓った。
メインのローストビーフサービスも終わり、シャンパンで皆いい気持ちに酔っ払った。
「さて、帰ろうか。」ギルは一刻も早くケンと二人になりたい様子だ。
「それじゃあ。」と言って、早々に車をピックアップして帰っていった。
「ギル、あの調子じゃケンに完全に牛耳られるな。」アランは呆れたように言った。
「ああ、正体さえ隠しているケンやしな。」「あいつは只者じゃないよ。」
「ほんま、俺もそう思う。」二人ともそれぞれケンへの想いを隠してアランの家へ向かった。
679 :
fanですw:2005/11/12(土) 03:44:51
定期メンテナンス担当がやってきましたよ。
ダニーの浮気でセックスできないマーティンも、
ケンにかき回されて、お互いに不信感抱いてるダニーたちも
萌えです。
本編のドラマがないので、これだけが楽しみです。
680 :
fusianasan:2005/11/12(土) 05:29:15
スーザンの存在がウザイけれど、
ダニーに必要なキャラなら諦めます。
ケンは誰とも寝るキャラ?
今後が楽しみです。
引越しも無事に終わり、マーティンは新しいベッドに寝転んだ。
1103の鍵をキーホルダーから外し、しばらく感慨深く見つめていたが
愛しそうにキャビネットにしまった。
楽しかったな・・・ダニーの足音に耳を澄ませた日々が遠くに思える。
あんな経験をすることはもう二度とないだろう。
やっと金曜か、今週はいろいろあって疲れた・・・。
マーティンはダニーのことをできるだけ考えないようにしていた。
考えると胃がキリキリ痛む。
頭の中でダニーはバイなのだと理解しようと努力しているが、
体のほうは悲鳴を上げはじめていた。
胃の痛みで丸くなっているうちにうとうとしていた。
携帯の着信音でハッと目が覚める。
「ふぁい、フィッツジェラルロれす」寝ぼけていて呂律が回らない。
「あはは、なんだそりゃ!」スチュワートの笑い声が聞こえた。
「あ、スチュワートか」
「まだ21時前なのに寝ぼけてんのか?それとも酔ってる?」
「つい、居眠りしてたんだよ。今日は疲れたから」
「そうか。それじゃやめておこう」
「え、何、何だよ!気になるよー」マーティンははっきり目が覚めた。
「アパートの下にいるんだけど帰るよ」
「待ってよ、もう起きた!」マーティンは慌てて引き止めた。
「そうか?じゃあさ、入れてくれよ」
マーティンはロックを解除し、いそいそと出迎えた。
「起こして悪いな、せっかく寝てたのに」
バツの悪そうなスチュワートにマーティンは首を振った。
「ちょっとおなかが痛かっただけだから」
「どれ、見せてみろ」スチュワートはソファに寝かせて腹部を触診した。
「痛い!この前から痛くてさ・・」
「胃痛だな。ストレスじゃないのか?」
「うん・・・そうみたい」
「まさか不貞行為とやらをまだ引きずってるんじゃないだろうな?」
「それもあるけど、逆不貞行為やられちゃった。しかもまだ進行形・・・」
「そっか、そんなの気に病むことないさ。誰だってやってるんだぜ?
それに後ろめたい分、相手にやさしくできるしな」
「スチュワートも?」
「おいおい、オレなんてもっとひどいぞ。君に聞かせるのが怖ろしいよ。
浮世離れしてるからな、マーティンは」
スチュワートはシャツのボタンを留めながらケタケタ笑った。
「じゃあさ、僕なんて退屈なんじゃないの?」
「退屈なもんか。いい年してアズカバンで泣くのはオレたちぐらいのもんだ」
「そうかな。他にもいるんじゃないの?」
「いいんだ、32と37で泣くのはオレたちだけ!わかった?」
「わかったよ、そういうことにしといてやるよ、スチュー!」
「スチューはシチューみたいで嫌なんだよ。それともまたいじめられたいのか?」
スチュワートはマーティンを挑戦的な視線で見つめた。
「来いよ、忘れさせてやるから」
スチュワートはマーティンの手を引きベッドに入った。
「いいか、何も考えるな。考える必要なんてない」
スチュワートはマーティンのシャツを脱がしてニヤリとした。
鎖骨を舐め、頚動脈をなぞるように愛撫しながら優しく耳を噛んだ。
「んっ!」ぞくっとした感覚が背中の辺りから上がってくる。
スチュワートはいつの間にか自分も脱いでいた。
柔らかな胸毛が肌をくすぐり、マーティンの乳首は硬くなった。
もう息が荒くなっている。スチュワートの勃起したペニスが太腿に当たる。
ペニスが直に擦れあったとき、マーティンはダニーのことを忘れた。
スチュワートはペニスを擦り付けながらディープキスを施す。
息も絶え絶えのマーティンは入れて欲しくてたまらなくなった。
「スチュワート・・・」
「どうした?まだ入れてやらない」耳を甘噛みしながらささやく。
弓なりにのけぞるマーティンにスチュワートも興奮していた。
マーティンの体を横向きにさせ、腕枕をした状態でペニスを握った。
「オイルかローションはどこだ?」
「取ってくるよ」マーティンはおぼつかない足取りでオリーブオイルを取ってきた。
「ごめんな、うっかりしてた」再び腕枕をし、耳を噛みながらオイルを塗った。
マーティンはアナルを這い回る冷たい指に呑まれていた。
鳥肌が立つほどの気持ちのよさ。腕枕をしているほうの指は口に入れられている。
口の中まで犯されているようで、全身が蕩けてしまったようだ。
「んっそこ・・だっだめ・・ぅっく、スチュワート、だめだ」
泣きそうに懇願されスチュワートは指を抜いた。
「今日は痛くないと思うけど、痛かったら言ってくれ」
たっぷりとオイルを塗ったペニスをゆっくり沈めていく。
「あぁん、スチュワート・・・」押し広げられる感覚にマーティンは悶えた。
「動かすぞ」徐々に抜き差しをくり返し、馴染んだところで激しく動いた。
「ぅ・・・っ・・ぁんあっああー」マーティンは射精してしまった。
スチュワートは満足そうにイったばかりのペニスを擦り、
くすぐったがるマーティンの体を押さえつけて腰を振った。
ニヤニヤしていたスチュワートの表情が真剣みを帯びてきた。
「マーティン、中に出すぞ・・・うっ・・あぁぁー」
一段と中で大きくなったのを感じた途端、スチュワートは果てた。
「遺伝子レベルでは浮気するように備わってるんだ。本能に忠実になれ」
スチュワートはマーティンを腕枕しながら言った。
「それも突き詰めた話だね。僕にはわからないよ」
「君らしいな。そこにオレは魅かれたのかもしれない」
スチュワートはギュっと抱きしめると優しくキスをした。
マーティンもスチュワートのキスに応えた。
シャワーを浴びると、スチュワートはマーティンに荷造りさせた。
「こんな時間からどこに行くのさ?」
「オレんち。テイラー捜査官に見つかるのだけは避けたいだろ?」
マーティンも納得した。本当にいつダニーが来るかわからない。
「使うかどうかわからないけど、ゴルフバッグも持っていこうぜ。
週末はベッドに入り浸りでもオレは構わないけどな」
グリーンの目に覗き込まれ、ドギマギしながらゴルフバッグを取り出す。
二人は荷物を積むとグラマシーへ向かった。
月曜日から支局は大忙しだった。19歳の女子大生の失踪にチーム一丸となって取り組む。
「大学へはダニーとサム。私とヴィヴはご両親、マーティンは後方支援に当たってくれ。」
「はい。」「了解っす。」皆散々になって捜査に当たる。また留守番だよ。
マーティンは半ばくさりながら、電話番とファイル作成にいそしんでいた。
大学へ行ったダニーとサマンサは寮のルームメイトから失踪前日の様子を聞いた。
「彼氏とトラブってて、別れるとか何とか悩んでた。」「彼氏ってどんな奴?」
「うちの大学のフットボールチームのQB。」「王子様やな。」
「でもいいウワサ聞かないから。」「どういう事?」サマンサが突っ込む。
「ドラッグのウワサとか、デニースの他に何人も女の子と寝てるとか。」
「とんだ王子様やね。話聞こう。」
フットボールフィールドに行くと、ちょうど休憩時間だった。
コーチに話をつける。「デヴィッド・コルトレーンに話を聞きたいのですが。」
「あっちにいるよ。」「デヴィッド・コルトレーンね。話聞かせて欲しいんだけど。」
「あんたら誰?」「私はFBIのスペード捜査官、こっちはテイラー捜査官。」
「何だよ。」「デニース・ウィリアムスのこと。」
「ああ、あいつか。俺が他の女とデートしたのを根に持って、大学辞めるとかいう電話が来たよ。」
「いつ?」「4日前。」「心配しなかったん?」「良くあることだから。」
「あなた、2日前は何してた?」「リーグの遠征でフィラデルフィアに出かけてた。」
「そう。ありがとう。」フィールドから離れながら、「あいつシロやな。」ダニーが断言する。
「どうして?」「複雑な誘拐事件が出来るほどの脳みそがないで。」
ボスは両親から大学を辞めたいという電話を4日前に受けたという証言を取っていた。
NYから出るバスを全て捜査下に置いた。デニース・ウィリアムスはふらふらになりながら、
ポートオーソリティーバスターミナルで発見された。ボスがマーティンと向かうと、
ドラッグでぼろぼろになったデニースを見つけた。「無事確保!」チーム全員が安心する。
デニースはすぐドラッグのリハビリ施設に入った。
「今回はご苦労。いつもこれ位単純な事件だといいな。」ボスがほっとしたように言った。
「マーティン、今日、どうする?」「食事しようか?」「ああ、そうしよ。」
いつものダイナーに寄る。マーティンは相変わらず特大チーズバーガーとポテト、
ダニーはミートローフに温野菜だ。ミラービールで乾杯する。
「今日の子、無事でよかったね。」マーティンがポテトをつまみながら、話を切り出す。
「ああ、ああいう悪い男と付き合うと、人生変わるからな。良かった。」
「僕も悪い男と付き合うと、人生変わるのかな。」「それ、俺のことか。」
「知らない。」チーズバーガーをがっつくマーティンだったが目はダニーを見据えている。
「ここんとこ、ご無沙汰じゃない?ダニーに何かあったのかと思って心配だった。」
「いや〜色々ごたごたがあったんで、疎遠になってしもうた。ごめん。」
ケンとのことなど言えやしない。
「それならいいんだよ。僕、ダニーが人を近付けないのも分かってきたんだ。
それがダニーの必要な距離なんだね。」アランから同じ事を言われているダニーは言葉もなかった。
「ごめんな。お前は俺と一緒にいたいんやろ。」「浮気さえしなきゃね。」また言葉を失うダニー。
「とにかく今日は祝杯や、飲もう。」マーティンも頷いた。
二人で、ミラーを8本ずつ空けて、そろそろ帰る時間だ。
マーティンが立ち上がると、足がもつれてころびそうになる。
「おいおい大丈夫か?」「ダニーの家に行きたい。」「おう、じゃあタクシー拾うで。」
タクシーの中でマーティンはずっとダニーの肩に頭を押し付けていた。
目元が濡れている。こいつ相当まいってるな。
ダニーはタクシーを降りると、半分寝ているマーティンの肩をかついで、家へと連れ帰った。
「ダニー、シャワーしたい。」「おう、用意するわ。お前一人で大丈夫か?」
「うん、へーき。」お湯の出る音がバスルームからする。
しかし、いつまで経ってもマーティンは出てこない。
「マーティン!マーティン!」またやった。急性アル中や。
アランの世話になるのは気が引けたので、市立病院に電話する。トムが幸い当直だ。
「トム、今から急性アル中いきます。」「おう、了解。」ダニーはマスタングを飛ばした。
トムが入り口で、ストレッチャーを用意して待っていてくれた。
「また君たちか。ここの常連だな。」「すんません。」
「胃の洗浄するから、長くかかるよ、付き添うかい?」「はい。」
処置室に入って2時間。トムが出てきた。「胃は綺麗になったからね。
これからは、いくら楽しくてもアルコールの量を考えてくれよ。」
「すんません。この話はアランに内密に頼みます。」「ああ了解。」
ダニーはそのまま翌朝までマーティンに付き添った。「ダニィ・・」
「ああ、ここや。」「僕、どうしたの?」「飲み過ぎや。今日は休みい。
俺が何とかするから。」「ごめんね。」「もうええやん。まだ寝とき。」
「うん。」マーティンは眠りに入った。ダニーは支局に電話し、マーティンの病欠と自分の遅刻の旨を伝えた。
ダニーは土曜日なので昼過ぎまでゆっくり寝ていた。
満ち足りた爽快な気分で目を覚まし、のんびりブランチを食べる。
あいつも引っ越したし、寂しがってるかもしれんな。
よし、電話したろ!どっかに遊びに行ってもええし。
ダニーはマーティンに電話したが誰も出ない。
携帯もつながらない。あいつが留守?まさかなー!
ダニーはなんだか不安になり、アパートへ行ってみることにした。
マーティンのアパートはもぬけの殻で誰もいない。
ベッドは乱れているが、脱いだパジャマはない。
不審に思い、ダニーは部屋の中をチェックし始めた。
ゴミ箱の中に液体胃薬のボトルが捨ててある。
具合が悪くなって病院?それやったらオレに言うやろ・・・。
さらにランドリーボックスの中に濡れたバスタオルを二枚見つけた。
なんで二枚も?トロイか?ダニーは浮気を疑った。
マーティンはスチュワートとセント・ジョン・ディヴァイン大聖堂を見に行った。
100年以上建築が続いているのに未だ未完成の大聖堂を見たかったが
ダニーにはまた今度と言われ、これまで見る機会がなかった。
マーティンはゴシック建築が好きだ。ロマネスク様式よりずっといい。
「なあ、これはいつできるんだ?」スチュワートが聞いた。
「完成予定なんて、あってないようなもんだよ。とっくに100年過ぎてるもん」
「オレたちが生きてる間に完成するといいな」スチュワートの言葉に思わず笑った。
「ごめんね、退屈だったでしょ?」
「いいや、おもしろかった。たまにはこういうのもいい」
スチュワートはダークオレンジのサングラスを掛けながら言った。
「次はどこがいい?どこでもかまわない。このまま遠出するか?」
「ううん、もう帰る。大満足だよ、ありがとう」
「それじゃディナーでも食って帰ろうぜ」
スチュワートは鼻歌を歌いながら、ヘンリー・ハドソン・パークウェイを疾走した。
スチュワートが飲茶を食べたいといい、二人はジン・フォン・レストランに行った。
食事時のせいか、店の外まで客でごった返している。
「みんな飲茶目当てなんてすごいね!」マーティンは圧倒された。
「くっそー、オレだけじゃなかったのか」スチュワートも苦笑いした。
ようやく席に案内され、ふと隣を見るとボスとサマンサがいた。
「ボス!サムも!」マーティンは素っ頓狂な声を上げた。
「マーティン!」ボスもサムも驚きを隠せない。
とりあえずマーティンはスチュワートを紹介した。
「ボス、僕の主治医のドクター・バートンです。スチュワート、こちらは上司のマローン捜査官」
「はじめまして」ボスとスチュワートは握手を交わした。
最悪!とんでもないとこに出くわしちゃったよ・・・。
今すぐ店を出たら余計に気まずいよね・・・マーティンはおろおろしていた。
「それじゃ、選ぼうか・・」マーティンは飲茶のカートに集中した。
ボスとサムも食事に戻ったが、沈黙したまま食べている。
「スチュワート、他の店に行かない?」マーティンはこそっとささやいた。
「うん?そうしたいのならかまわない。オレにまかせろ」
スチュワートはウインクすると素早く席を外した。
スチュワートが何をするのかわからないまま、テーブルで待っていた。
「ごめん、急患だ。すぐに戻らないと!」スチュワートは戻るなり言い、
「すみません、ゆっくりお話したかったのですが急患で。これで失礼します」
ボスとサマンサにも挨拶すると、慌しくマーティンを急かした。
「それじゃ、また月曜に」マーティンも慌てて店を出た。
「ごめんね、まさかあの二人がいるなんてさ。もう、びっくりだよ!」
「不倫だよな、どう見ても。オレの演技、どうだった?」
「もう最高!僕なんて本当に信じちゃった」
スチュワートはニヤッと笑うとカーテンコールの真似事をした。
恭しくお辞儀をする様がコミカルでかわいい。
二人はジョーズ・シャンハイで飲茶の仕切り直しをし、たらふく食べて満足した。
スチュワートのアパートに帰り、手をつないで屋上を散歩した。
「こうしていると、ここがニューヨークだなんて思わないね」
「そうだろ、オレも一人で歩いててよくそう思うんだ」
「みんなも同じこと言うでしょ?」
「さあな、家には誰も来ないから」
「またそんなこと言って!僕はそこまでとろくない!」
「本当さ、一度寝たら捨てるんだから。二度目はないんだよ」
マーティンは思わず立ち止まり、スチュワートを見上げた。
「もう入ろう、寒くなってきた」マーティンは咄嗟にごまかすと先に中に入った。
「何だよ、急にどうしたんだ?」スチュワートが追ってきた。
「寒くなっただけだよ、何でもない」
「おみくじクッキーでも食べるか」スチュワートはポリポリと食べ始めた。
出てきたおみくじには目もくれない。
「ねぇ、読まないの?」マーティンは不思議に思い聞いた。
「そんなもん、意味ないぜ。捨てろ!」
スチュワートらしいや・・いつもなら真剣に読むマーティンも、真似しておみくじを捨てた。
ダニーは何度も携帯に電話したが、まったくつながらない。
あいつが電源切るはずないし、圏外にでもいてるんやろか?
マーティンのベッドに寝転び、携帯をいじってばかりいた。
作り置きのグラタンを温め、一人で虚しく食べる。
バブルバスから出ても、歯磨きを済ませてもマーティンは帰ってこなかった。
ダニーは寂しさを感じながらベッドに入ったが眠れない。
サイドテーブルにはハリーポッターの新刊本が置いてあった。
ゲームの次はこれかいな、ほんまに幼稚なヤツや。
ダニーはペラペラと適当にページをめくり元に戻した。
マーティンはスチュワートとゴルフに行き、日曜の夕方に帰った。
日焼けしたのか顔がほんのり赤くなってヒリヒリする。
玄関に荷物とゴルフバッグを置くと、手を洗いに行った。
顔を洗って鏡を見るとダニーが映っていた。
「うわっ!びっくりしたー!」驚いて振り返るマーティン。
「今までどこにいて何してたんや!」ダニーはひどくムスッとしている。
「ゴルフ・・・」マーティンは恐る恐る答えた。
「トロイと泊りがけでか?」
「うん、そう」セント・ジョン・ディヴァイン大聖堂のことは言えない。
「オレに黙って行くことないやろっ、心配したのに・・・」
「ごめん、急に決まったから」
「へー、携帯の電源も切ってたもんなぁ?オレよりトロイがええっちゅうことやな」
「ん?電源なんて切ってないよ、僕」
マーティンが携帯を取り出すと充電が切れていた。
「あ、充電が切れてたんだ。気づかなかったよ」
「あざといな、お前」
「何それ?ダニー、時々すっごく嫌な言い方するね」
「ごまかすなや、フィッツジェラルド!」
「はぁ?頭大丈夫?」マーティンはほったらかして水を取りに行った。
これ以上そばにいるとスチュワートと寝たことがばれそうだ。
マーティンが水を飲んでいるとダニーが横に座った。
「ごめん、言い過ぎた」
「ん、別にいいよ。飲む?」飲みかけのグラスを渡すとダニーがキスしてきた。
「腹減った、ごはん食べに行こう」
「あーごめん、さっき食べてきた」ダニーの表情が再び険しくなる。
「帰りに焼き鳥屋に連れて行ってもらったんだ。僕らも今度行こうよ」
「そんなわけのわからんもん、食べたくもないわ」
「ただのチキンだよ。バーベキューみたいな感じ。日本料理だってさ」
「ふうん。ほな、帰るわ。邪魔して悪かったな!」
ダニーはそう言い残すとそのまま帰ってしまった。
仕事が終わって、ダニーはマーティンを迎えに病院に行った。
退院の手続きをして、マーティンの着替えを手伝う。
「お前、少し痩せた?」「誰かがドーナッツ太りとか言うから、ジムで絞ったんだよ。」
「お前さあ、少しは自分の判断で物事やりな。」
「だって、ダニーに好かれていたいんだもん。」「あほ。」
ダニーはマーティンの前髪をくしゃっとした。
嬉しそうに笑うマーティン。「心配やから今日はお前んとこ泊まるな。」
「うん。なんか嬉しいな。」病院前からタクシーを拾う。
「俺たち、この道を一体何回来たっけ。」「これから何回来るかの方が気になるよ。」
「そうやな。ERの常連やもんな。」
「ねえ、こんな生活辞めてさ、レストランやらない?僕結構本気で考えてるんだよね。」
「そんなん、お前の親父さんが許すはずないやん。」「父さんの事はいいんだよ!」
ぷいっと横を向くマーティン。この親子の確執は相当根深いんやな。
幼い頃に父親を亡くしたダニーには分からない感情だった。
「お前、親父さんへの反抗心だけで物事決めるんやないで。
もっと広い目で世の中見回さにゃ。外食産業は厳しいで。
レストランつぶれちゃ新しいのが出来るやろ。
俺たちみたいな素人が簡単に出来る商売やない。」
「そうかなぁ。ダニーとだったら、何でも出来るような気がするんだけど。」
マーティンは不思議そうな顔でつぶやいた。「俺はキャプテン・アメリカやないんやから、無理なもんは無理や。」
「でも、考えておいてね。」
マーティンの家に着いた。「お帰りなさいませ。フィッツジェラルド様にテイラー様。」
「ああ、ジョン、ただいま。」久しぶりのマーティンの部屋だった。
「シャワーするでしょ?」「ああ。」バスルームへ走るマーティン。
「おい、気いつけろ、すべるで。」「うん!」マーティンが全裸になって、ダニーを迎えにくる。
「おい、隠せよ。」マーティンのペニスは既に半立ちの状態だ。
「ダニイ・・早く〜。」そういうとダニーのスーツを脱がせていくマーティン。
ダニーもリビングで全裸になり、二人して、バスルームへと駆け込む。
シャワージェルを泡立てると、お互いの身体をすみずみまで洗う。
ダニーの細い指がマーティンのアナルを探る。
「あぁん、ずるいよ、うっあぁん。」マーティンは相変わらず敏感だ。
手を前へ持っていくと、すでにびんびんの状態だった。
「イキたいか?」「ここじゃ嫌だ。ベッドがいい。」「じゃあ、ベッドに行こう。」
二人とも濡れた身体のままでベッドにもぐりこむ。自然と69になっていた。
久しぶりのダニーとのセックスにマーティンは、愛情をこめて、ペニスをしゃぶった。
「あぁ〜、いいで〜、マーティン。」ダニーはその時、ケンのフェラチオを思い出していた。
あいつ、すごかったな〜。「ダニー、僕のもしゃぶって。」
マーティンが布団の中で、もごもごしている。「ごめんな。いくで。」
ダニーもマーティンの先から根元まで少しずつ移動させながら、舐めていく。
「ぅうぅん、ダニィ、僕イキたい。」「じゃあ、俺が入れるで。」「うん。」
ベッドサイドのミントローションを自分とマーティンに塗りたくると、
ダニーは一気にマーティンの中に挿入した。
「ああっあん、うっ。」マーティンは失神寸前だった。
「ダニーのこれは僕のものだよ〜!」「あぁ、お前のもんや〜、出すで〜!」
「来て、ダニー、一杯にして!」ダニーはマーティンの中に思いっきり果てた。
ダニーの痙攣が伝わり、マーティンも思いのまま射精した。
「あぁ〜良かったで。」「うん。くっくっああぁん。」マーティンが泣き始めた。
「どうしたん?」「こんなに僕、ダニーの事愛してるんだ。僕の事も愛して欲しい。」
「足りないのか?」「だってアランがいるし。」
「アランは主治医や。気にすることない。」「本当?」「そうやで。」
「良かった!」マーティンはダニーに抱きついた。二人とも精液でべたべただ。
「お風呂入ろうか。」「うん。」「お湯張ってくるからな。」「うん。」
バスルームでため息をつくダニー。
あいつにケンとの事を知られたら、とんでもない修羅場やな。
ケンにも釘さしとかないと。お湯を張りながら、ダニーは明日やるべきことを考えていた。
デリバリーのピザを取って、夜食にする。「飲み物はクラブソーダな。」
「うん、分かった。昨日はごめんなさい。」
「お前、素直な面と頑固の面と両方あるねんな。時々びっくりするで。」
「そう?」マーティンは意識していないようだった。
ペパロニピザとピザジェノベーゼをがっつくマーティン。
「お前の胃袋ってブラックホールみたいな。」「そうかな?」
「昨日、胃の洗浄したのに、今日はピザだもんな。」「ごめん。」
恥ずかしそうにするマーティン。
「そこがお前のいいところなのかもな。」「でも僕だって胃が痛むことだってあるんだよ。」
「へえそうかい。」「信じてないんだね。胃薬飲んでるんだから。」
「はいはい、分かったよ。ピザを食い終わろう。」「うん。」
ボンも胃薬なんか飲んでるんやなぁ。
あいつの事だからいらん悩みかかえて胃に穴でも開かせてそうや。
しばらくボンと一緒にいよう。それがええんや。ダニーはそう心に決めた。
マーティンが出勤するとサマンサが寄って来た。
「おはよう、サム」
「おはよう、土曜のことなんだけど・・あの、気遣ってくれてありがとう」
「ん?何のことだかわからないな。急患のせいさ」
「ううん、あのクリニックに時間外診療なんてないもの」
「僕は何も知らないし、誰にも何も言わないから」
「ありがと、マーティン。キュートなドクターにもね」
サマンサは軽く頷くとデスクに戻っていった。
翌日、早速ダニーはケンに電話をかけた。「はい、ケン・ヤマギシ。」
「おぅ、ケン、ダニーや。」「わぁ〜、ダニーだ。元気?」受話器越しに
例の屈託のない笑顔を浮かべているのが想像できる。
「今、話せるか。」「どうぞ。」「俺とのこの間のベランダの事な〜。」
「はい守秘義務ですね。了解しました。」「助かるで。」「その代わり、
今度二人だけでデートしてくれません?」「お前、ギルは?」
「今週はシカゴに出張なんです。」「わかった。」「じゃあ、また電話しますね。」
書き手2さん、お先どうぞ
マーティンが出勤するとサマンサが寄って来た。
「おはよう、サム」
「おはよう、土曜のことなんだけど・・あの、気遣ってくれてありがとう」
「ん?何のことだかわからないな。急患のせいさ」
「ううん、あのクリニックに時間外診療なんてないもの」
「僕は何も知らないし、誰にも何も言わないから」
「ありがと、マーティン。キュートなドクターにもね」
サマンサは軽く頷くとデスクに戻っていった。
「あっ、ダニーおはよう」サマンサの声に振り向くとダニーが来ていた。
マーティンは声を掛けようとしたが、ダニーは無視してトイレに行ってしまった。
慌てて自分もトイレに駆け込む。
「ダニー、おはよう。昨日のことなんだけど」
「知らんがな」つっけんどんなダニー。
怒っていて取り付く島もない。用を足すとオフィスに戻ってしまった。
マーティンはまた胃がキリキリと痛むのを感じてうずくまった。
やっと昼休みになり、マーティンはドラッグストアで液体胃薬を買ってきた。
今ではお馴染みのピンクの液体をぐいっと飲む。
「んっ苦い・・・」これで午後からも何とか乗り切れるだろう。
食欲はなかったが、フルーツゼリーを流し込むように食べる。
誰もいないオフィスにポツンと残り、ダニーと話すきっかけを考えていた。
事件も起きず定時で仕事を終えると、ダニーはさっさと帰ってしまった。
マーティンは気が重いままアパートへ帰った。
ブリーフケースをソファに放り投げ、投げやりな気持ちで寝転ぶ。
もう考えるのはよそう、どうなっても構わない。
マーティンは夜の街へ繰出した。
ショットバーでギムレットを飲むうちに怒りが湧いてきた。
空きっ腹のせいか、酔いが回るのがいつもより早いようだ。
ダニーは自分も浮気しているじゃないか!
僕のことばっかり責めるなんておかしいよ!
腹立ち紛れに食べる気もないピスタチオの殻を延々と割り続けた。
三杯目を飲み終えたところでようやくバーを出た。
歩くのがだるい。タクシーを拾いアパートへ帰った。
「今夜もトロイのとこか!」帰るなり怒鳴られマーティンは情けなくなった。
「ダニー、何か用?僕、眠いんだ」
「またほろほろほっつき歩きやがって。そんなにトロイが気に入ったんか!」
「今夜はスチュワートとは会ってないし、話もしてないよ。これで満足?」
「そんなもん誰が信用するか!」
「ベメルマンズバー、ギムレット三杯とピスタチオ一皿。確かめれば?」
マーティンは面倒くさそうに言った。
「僕のこと一日中無視してたくせに・・・」マーティンはペットボトルごと水を飲んだ。
ジャケットもネクタイを放り投げ、シャツもパンツも脱ぎ捨てる。
「したいならどうぞ、僕は何をされても構わない」トランクス一枚でベッドルームへ向かう。
ダニーが後から腕をつかんだ。
「正直に言え、トロイと寝てるんか!」
「知らないよ、そんなの。離してよ!」マーティンは腕を振り払った。
ダニーはマーティンを思いっきりベッドに突き倒した。
「痛いっ!何だよっ」ダニーが上から体重をかけて圧し掛かった。
「ほんまのこと言えや!」
「ダニー、お前はオレのものって言ったくせに・・・君は嘘つきだ!」
マーティンはダニーの体を撥ね退けた。
「まだ答え聞いてへん。オレとトロイ、どっちを選ぶんや!」
「バカなこと聞かないで。スチュワートとは何でもないよ」
バレたらスチュワートにも迷惑がかかる。マーティンは必死だった。
ダニーは服を脱ぎ捨てると、マーティンの体を組み敷いた。
ギラギラした目が怖くてマーティンは目を逸らした。
「咥えろ!」無理やり口にペニスを押し付ける。
女と寝てるペニスを僕に舐めろって言うのか?嫌そうに顔を背けると首を掴まれた。
「オレのは嫌なんか?早よ咥えろや!噛んだら承知せえへんからな!」
ダニーは無理やり口にねじ込むと、頭を押さえつけて上下した。
しばらく腰を振っていたが、うっと一声漏らすと口内に射精した。
ダニーはそれだけでは飽き足らず、マーティンの体を責めはじめた。
腕の日焼けの跡が憎たらしい。思わず力を込めて握りしめた。
「痛っ!」マーティンが抗議の声を上げるが、ダニーは一切無視した。
オイルを塗った指がアナルを嬲った。もしかしてコイツ・・・
「おい、なんか括約筋広がってへんか?」
「いい加減にしてよ!頭おかしいんじゃないの?」
マーティンはダニーから離れた。
「今のダニーは僕の好きなダニーじゃない!しばらく距離を置こう」
「そうか、今はトロイがいてるもんな!」
「そんなの関係ないよ。今のダニーはみっともないよ!」
二人はベッドの上でにらみ合った。
ダニーは、無言のままマーティンを突き飛ばすと
サイドテーブルの上のハリー・ポッターをゴミ箱に投げ捨て帰っていった。
マーティンは捨てられた本を拾い、しばらくぼんやりしていた。
本はページが折れてくしゃくしゃになっている。
ダニーは浮気に気づいたのかな?僕の体、ほんとに変化してる?
マーティンは不安になってスチュワートに電話した。
「マーティン、どうした?」スチュワートは外にいるようだ。
「あの、少し話せる?」
「ああ、大丈夫。どうかしたのか?」
「聞きにくいんだけど、あの・・括約筋って広がるとわかるものなの?」
「え?何だって?」スチュワートはクスクス笑っている。
「真剣に聞いてるんだよ!どうなの?」
「オレのサイズに合うようになったかと聞きたいなら答えはNOだ。そんなに伸縮自在なもんか。心配ないよ」
「でも広がったって・・・」
「彼に試されたのさ。気にすることない」
「ん、わかった。ありがとう。変なこと聞いてごめん。おやすみなさい」
「いいんだ。おやすみ」マーティンは安心して電話を切った。
ダニーはブルックリンのアパートに戻ると、マーティンが借りていた部屋に行った。
まだ鍵は交換されていなかったので、合鍵で中に入ることが出来た。
こんなに近くにいたのに・・・どうしようもなく涙が溢れた。
オレ、あほや・・・ダニーは床を叩きながら泣き崩れた。
もう終わりましたので、書き手1さんどうぞ。
翌日、早速ダニーはケンに電話をかけた。「はい、ケン・ヤマギシ。」
「おぅ、ケン、ダニーや。」「わぁ〜、ダニーだ。元気?」受話器越しに
例の屈託のない笑顔を浮かべているのが想像できる。
「今、話せるか。」「どうぞ。」「俺とのこの間のベランダの事な〜。」
「はい守秘義務ですね。了解しました。」「助かるで。」「その代わり、
今度二人だけでデートしてくれません?」「お前、ギルは?」
「今週はシカゴに出張なんです。」「わかった。」「じゃあ、また電話しますね。」
「ああ。」オリエンタル・ボーイに押し切られた形で電話を終えたダニー。
そんなつもりやないのに、あいつの良いようにやられた。
デートの約束はすぐにやってきた。翌日、ケンが支局に現れたのだ。
「ねぇ、
マーティン、またあの日本人来てるわよ。気にならない?」「別に。」
PCスクリーンごしに見る二人はごく普通の会話をしているようだが、
ケンが時折、ダニーの腕に触るのが気になった。「じゃあ、今日。」
「ああ、事務所に迎えに行くから。」
サマンサがまたおせっかいにも根ほり葉ほり聞き出そうとする。
「あいつ、NY1ヶ月目で友達がいないんや。」
「それでボランティアやってるわけ?私もやりたいなぁ。あの子すごく可愛いもん。」
そんなんでないんやで。あいつとんでもないタヌキや。
マーティンはPCに目を釘付けにしながら、二人の会話を聞いていた。
マーティンがとげとげしいのが気になったが、
今、ダニーがすべきはケンの口封じだ。
今日のデートにそれがかかっている。
定時になり、ギルの法律事務所のあるクライスラービルに向かう。
ケンが玄関ホールで待っていた。「ダニー、時間厳守なんだね。」
「仕事がらな。」「今日はどこへ行く?」「さぁ、お前、何食べたい。」
「今日は日本料理がいいや。」ダニーは前にアランといった、居酒屋「祭り」に行くことにし、
リトル・トーキョーに車を進めた。
「わぁ、日本の居酒屋そっくりだよ。」「適当に頼んでくれ。俺わからんから。」
「分かった。」温泉卵のシーザーサラダと牛タンの塩焼き、今日のお造り、季節野菜の天ぷらを頼んだ。
おっかなびっくり牛タンの塩焼きを口に入れるダニー。「う、うまい!」
「日本料理は食べやすいと思うよ。親父さん、日本酒何がありますか?」
「今日は久保田と八海山が入ったね。」「ダニー、日本を代表する酒が入荷してるって。」
「じゃ、それ行こうか。」二人で一合ずつ空ける。
「うまいなぁ。」「そうでしょう。親父さんお代わり!」
ダニーはすっかり酔っ払い、周りの日本人駐在員とも乾杯を繰り返し、出来上がった。
「帰ろうか。」「そうしましょう。」「お前、酒強いんやなぁ、俺もうだめやで。」
「今日は僕の家に泊まれば。近いし。」「ああ、そうさせてくれるか。」
ミッドタウンの社宅は瀟洒なマンションだった。
ケンの肩を借りながら、ダニーは「ここってさ、お前の本当の所属が借りたん?」と尋ねる。
「いえ、ギルの事務所です。さぁ、入って。」
部屋の中は、オリエンタルな色調に家具が揃えられていた。
畳みを敷き詰めた一角もあり、布団が敷かれている。
「ダニー、水飲むでしょう。」「ああ、すまない。」
ダニーはジャケットを脱ぐと布団に倒れこんだ。
次に気がつくと、ネクタイがはずされ胸がはだけた状態だった。
「ケン・・」「そのつもりで来たんでしょ。」
ケンがダニーのYシャツのボタンを口ではずす。
両方の乳首を咥え、立ち上がったのを見届けると、ベルトに手を伸ばした。
日本酒の酔いで、ダニーは夢心地だった。
ベルトをはずすと、ケンはダニーのパンツを一気に下ろした。
さっきの乳首へのキスで下半身は反応している。
「ダニー、こんなになっちゃって。」くくっと笑うと、ケンは自分もスーツを脱ぎ、全裸になった。
「シャワー・・」「嫌だ。ダニーの全てを味わいたい。」そういうとケンはダニーのわきの下に顔をもぐりこませた。
汗の香りをすーっとかいだ。「ああ、なんてセクシーな香りなんだろう。」
ケンはしばらくわきの下とわき腹をに舌を伸ばして遊んでいた。
「こそばゆい。」「まだまだ。」
ケンはダニーが十分に立ち上がっているのを確認すると、
オイルを自分の下半身とダニーのペニスに塗りたくった。
四つんばいになり、腰をふるケン。「ダニー入れて。」「ああ〜。」
ダニーは夢心地だった。よく締まる括約筋に囲まれ、ペニスが悲鳴を上げている。
「もうイクで〜。」「もっと動いて。」ダニーは腰を大きく前後させ、ケンの中に果てた。
ケンもダニーの痙攣を感じ、射精した。
「ダニー、やっぱりすごいね。ダイナマイト級だ。」ダニーは息も絶え絶えだった。
「そうか。あ、お前さ、この事は誰にも言うなよ。アランにもギルにも俺の友達にもだ。」
「もちろん。でもまた寝てくれる?そうでないと約束破っちゃうかも。」
「俺だってギルに言うぞ。」「どっちを信じると思います?無垢な日本人と
プレイボーイのヒスパニックの言い訳。はははっ!」「そんな、人種ネタで脅すのか?」
「僕、弁護士ですから何でも言うよ。」
なんて奴だ。ダニーは蜘蛛の糸にからめ取られた虫のような心持ちになった。
翌日、ブルックリンに帰る暇なく、前日と同じ服装で出勤するダニー。
サマンサが気がつき、「まぁ、ボランティアさん、今日は朝帰り。」
「二日酔いで頭痛いねん。そっとしておいてくれん?」「はいはい。」
マーティンがやってきた。服装に気がついている。挨拶なくプイっと
横を見てキャラメルマキアートを飲んでいた。
俺、あいつのそばにいたるって心に誓ったのに、ケンにしてやれらたわ。
マーティンだけはケンから守らんと。しかしダニーの頭は真っ白で、何の策も浮かばなかった。
ダニーは日に日にケンの事を心の底にしまえなくなっていった。
マーティンにも後ろめたいし、アランには会わす顔がない。
その上、アランに相談に乗ってもらうしかない自分が情けない。
支局からアランの携帯に電話する。
「はい、ダニー、どうした?具合でも悪いのかい?」
優しいアランの物言いに涙が出そうになる。
「そやねん。俺とんでもないことしてもた。」
「穏やかじゃないね。今日、家に来られるかい?予約が早く終わるんだ。」
「じゃあ19時に行くわ。」「ああ、待ってるよ。愛してる。」
愛してる・・この言葉がこんなに重いとは。
ダニーは脇目もふらず、PCをしまうと、帰宅した。
マーティンはダニーから一言も外泊の言い訳を聞かされていない。
また浮気なのかな?それともアランなのかな?疑いの気持ちを胸にためこんで、
マーティンもPCをしまうと支局を後にした。
アランの家に着いたダニーはジャケットを脱ぐと、アディダスのジャージに着替えてソファーでもじもじしていた。
アランがほうれん草のキッシュとオニオングラタンスープ、それに盛りだくさんの温野菜サラダを作ってくれていた。
「今日もワインは飲むだろう?」「うん、アルコールないとだめや、俺。」「じゃあ、今日はシャルドネを明けよう。」
ストーンウォールのシャルドネだ。「さあグラス持って。」ダニーはすまなさそうにグラスを差し出す。
「さぁ、何でも好きなものからお食べ。」「うん、分かった。」
キッシュはふかふかでまるで豆腐のようだった。
オニオングラタンスープで温まって温野菜サラダをつまむ。
食事が済み、二人でソファーに移動した。どうしても言い出しにくい。
が、ここで言わなければ、また悩むことになる。ダニーは心を決めた。
「俺、アランに言う事あんねん。」「何だい、あらたまって。」「俺、ケンと寝た。」
「えっ何だって?」「一度だけや。日本酒で酔って気がついたら、奴のベッドにいた。」
「君もか・・・。」「何?」「実は僕もケンにはしてやられたよ。カウンセリングルームでつい・・・。」
「アランも!俺たち、ずっと一緒じゃないんか?」
ダニーは自分を棚に上げて、アランの胸をこぶしで叩いた。
「ずっと一緒だよ。今回は蚊が止まった位にとどめよう。そして決してギルには言わないことだ。」
「わかった。でも、俺、口止め料でまた寝てくれって言われてる。」「そんなの断ればいい。」
「そうか。」ワインを飲んで、ダニーは息を鎮める。
「それにしても僕ら二人を手玉にとって、とんでもない奴だな。」
「でもあの笑顔を見せられると、何も言えなくなる。」
「ダニー、もう寝るなよ。」
「うん、誓って寝ない。アランこそ、もう寝ないでくれる?」
「当たり前だよ。僕らは一心同体だ。今回の件もそう考えればいい。二人で乗り越えるんだ。」
「うん、アラン、さっきは叩いてごめん。」
「いいよ、君の唇の手厚い看護があれば許してあげよう。」
「お安い御用や。バスルーム行こう。」「ああ、そうだね。」
ダニーがバスにお湯とバスジェルを張る。もこもこ泡が立ち上がる。
「アラン!もうええで〜。」
「だから、言っただろう。君とは終わりだ。ギルの元へ帰りなさい。」
携帯でアランが怒鳴っている。
「ケン?」「ああ、僕たちと3Pでも良いとか言い出した。」
「あいつ、ニンフォマニア違うかな。」
「僕もそれを疑っている。とんだ色情狂の友達だな。」
「バスに行こ。」アランの手を引いて、バスルームに入るダニー。
アランの服を脱がして、ペニスにキスをすると、自分も全裸になった。
「入ろうか。」「うん。」
「あいつ、トムとかジュリアンも誘ってるんやろか。」「かもな。」
「ギルが気の毒や。ギルは一途やのに。」「全くだ。」
「3Pの話どうする?」「それでケリがつくならいいが、ダニーは嫌だろう。」
「俺も方をつけたい。」「じゃあ、応じようか。」「ケンから誓約書とろうや。」
「そうだな。」「なぁ。HIVのテストそろそろせいへん?」「そうだね。念のために。」
「うん。」「じゃあ、来週トムのところに行こう。」「うん。」
ダニーはアランの胸に体を預けてやっと安らぎを得た。
翌日、ダニーはサマンサからクリニックの名前を聞き出した。
ミッドタウンのパリセイドメディカルクリニックか、図書館の近くやな。
早速、電話して18時の予約を取る。
今夜や!待っとけよ、トロイ!
ボールペンをクルクル回しているマーティンの背中に冷ややかな視線を送った。
ダニーは仕事が終わると、トイレで身だしなみをチェックした。
あのトロイが相手では気が抜けない。
負けられへん!ダニーは歯磨きを済ませるとクリニックへ向かった。
10分ほど早く着き、待合室でTIMEを読みながらあちこち観察していた。
「テイラーさん、診察室へどうぞ」
よしっ!勝負や、トロイ!ダニーは深呼吸すると診察室へ入った。
「お待たせしました。今日はどうされましたか?」
スチュワートは、相手がダニーだと気づいた。
「やあ、これはこれはテイラー捜査官。どこか具合が悪いのですか?」
「いえ、今日は診てもらいに来たわけやないんです」
「え、というと?」
「あなたにお会いしたくて」
「私にですか?それはまたどうして?」
グリーンの目に見つめられ、ダニーは一瞬言葉に詰まった。
「診療予約まで取って来るなんて、穏やかじゃないな」
スチュワートはアシスタントを呼んだ。
「ジェニファー、テイラーさんは患者じゃないんだ。診療記録から外しといてくれ」
アシスタントの女性に言うと、ダニーに向き合った。
「これで診療報酬は発生しませんから、ご心配なく」にっこりするスチュワート。
「それはどうも」なんやねん、こいつ。なんかムカつくなぁ・・・。
「テイラー捜査官、ご用件は何でしょう?」
「実は、マーティンのことでお尋ねしたいことがあります」
「マーティン?彼がどうかしましたか?」
「単刀直入に言いますけど、どのような関係で?」
ダニーの問いかけに、スチュワートは思わず吹き出した。
「これは失礼。関係と言われても困るなぁ。ただの友人ですよ」
「それだけですか?」ダニーは真意を図ろうと目を見つめた。
「そう、それだけ。ディナーを賭けてスポーツをするだけです」
スチュワートは落ち着いていて、ダニーは意気込みが空回りするのを感じた。
「もうこんな時間か。テイラー捜査官、食事に行きませんか?」
「ええ、いいっすよ」ダニーはもう少し探りを入れることにした。
スチュワートのTVRに乗せてもらい、二人は食事に出かけた。
「好き嫌いはありますか?ご遠慮なく言ってください」
「ありません」ダニーは弱みを見せたくないので嘘をついた。
「好き嫌いがないとは素晴らしい!それじゃ、どこに行こうかな」
ダニーは気持ち悪いものが出ませんようにと祈った。
スチュワートは、この前マーティンと来た焼き鳥屋に案内した。
「マーティンが気に入ってたから、たぶんお口に合うんじゃないかな」
「確かチキンでしたっけ?」
「ええ。いろんな部位を食べ比べるとおもしろいですよ」
部位なんて言うなや、気持ち悪い。食べる気失くすやろ!
ダニーはスチュワートが適当に頼んだものを恐る恐る待っていた。
スチュワートはハイネケン、ダニーはクラブソーダをオーダーした。
「テイラー捜査官、お酒は嗜まないのですか?」
「いえ、そんなことないですけど」
「警戒してるのかな?」スチュワートはニヤッとした。
焼き鳥が目の前に並べられていく。
スチュワートに勧められ、ダニーは手をつけた。
あ、これやったら大丈夫や。ダニーは安心して食べ始めた。
「どうですか、お口に合いますか?」心配そうに聞かれ頷いた。
「ええ、おいしいですね。マーティンが好きそうな味ですわ」
「それはよかった。ご遠慮なく食べてください」
スチュワートはきのこやパプリカの串焼きを食べている。
こいつ、めっちゃ野菜好きやな。マーティンと全然違うやん。
ダニーは横目でスチュワートの様子を窺った。
「マーティンは真面目で、どこか浮世離れした感じがする」
唐突に言われ、ダニーは驚いた。
「浮世離れ?ああ、育ちのせいかもしれません」
「育ちって?」何も知らないスチュワートが尋ねた。
「あいつ副長官の一人息子やから。世間に疎いというか・・」
「なるほど、純粋培養か。父親の跡を継ぐには繊細すぎる気がするね」
「本人も嫌がってますわ。性に合わんみたいや」
「君が一緒なら彼も心強いんじゃないのかな」スチュワートはダニーを見つめた。
「オレもそう思ってます。危なっかしいから、あいつ」
「じゃあお互いに信頼しあってないとね。命を賭けてるわけだから」
スチュワートは事も無げに言うと、豆腐サラダを食べた。
「ええ」ダニーの最初の意気込みはすっかり消えうせ、逆に諭されてしまった。
それ以上話すこともなく、黙って豆腐を突っつくしかなかった。
ダニーはスチュワートにブルックリンまで送ってもらった。
「ドクター・バートン、今日はありがとうございました。
夕食までご馳走になってしまって申し訳ないっす」
「いやいや、そんなの気にしないでください。それじゃ」
ダニーはスチュワートを見送ると、情けない気持ちで佇んでいた。
スチュワートはダニーと別れるとマーティンに電話した。
「あ、オレだ。さっきまで誰といたと思う?」
「うーん、嬉しそうだからきれいな女の人?」
「いいや、テイラー捜査官さ。彼がクリニックまで会いにきたぜ」
「えっ、ダニーが!なんで?」
「君とオレの関係を聞きにきた。上手くごまかしといたから平気さ」
「あのさ、その・・・ダニーに興味湧いた?」
「いいや。それより今から会いたい。行ってもいいか?」
「うん、いいよ」スチュワートはアッパーイーストへ向かった。
「マーティン、顔色が悪いぞ。まだ胃が痛むのか?」
「うん、少しね。ダニーのことだけど・・・」
「心配ない。明日支局で会ったら、きっとやさしくしてくれるさ」
スチュワートは髪をくしゃっとするとキスをした。
「うっ・・・さっき胃薬飲んだろ?苦っ・・」
「あ、ごめん」言いかけたマーティンの唇を再び塞ぎ、舌を絡ませる。
伏し目がちにキスに応えるあどけなさに思わず欲情した。
スチュワートはマーティンのパジャマのボタンを外し始めた。
「スチュワート、今日はしたくないんだ。ごめん」
「そうか、わかった」再びボタンをはめ、ほっぺにキスする。
「本当にごめんね。嫌いになった?」
「こんなことで嫌いになるかよ!バカだな」
スチュワートはマーティンの手を引き、ベッドに寝かせた。
「ほら、寝るまでいてやるから。いい、わかった?」
「ん、わかった」マーティンは安心して目を閉じたが、またすぐ目を開けた。
「どうした?」
「なんでもない。ありがとう」マーティンは目を閉じた。
スチュワートはハリー・ポッターを手に取った。角が折れ、ぐしゃぐしゃになっている。
テイラー捜査官だな、くくっと忍び笑いがもれた。
マーティンの横で寝転びながら本を読んでいると、規則正しい寝息が聞こえ始めた。
純粋培養か・・・今まで羨ましいと思っていたが、悩み多き人生のようだ。
スチュワートは自分の生い立ちもまんざらではないと考えを改めた。
793 :
fanですw:2005/11/16(水) 02:28:29
もう、スチュワートとマーティンの仲が、まどろっこしい。
マーティンはダニーを捨てて、スチュワートに行けるのか。
目が離せません。
794 :
fusianasan:2005/11/16(水) 10:20:41
書き手1さん、ケンに皆が翻弄されてて、面白いです。
これで、ダニーとアランの関係がより深まってくれるといいなー。
だって、ダニーはアランといる時の方が幸せそうだから・・
書き手2さん、なんだかダニーが脇役みたいです。
マーティンのダニー大好きなとこが好きだったのですが・・
マーティンとスチュワートの関係もいいけど、ダニーに萌えたいです。
と色々言ってすみません!いつも見てますので、これからも継続して下さいね!
>>793 まどろっこしいというのはスチュワートとくっつけと言う意味なので?
>>794 マーティンがダニーを大好きなのは変わりません。
自分が裏切られる側になったダニーを書きたかったもので・・・。
いつも応援ありがとうございます。期待に沿えるかはわかりませんが、何とか続けたいと思います。
796 :
fanですw:2005/11/16(水) 17:05:25
書き手2さん:
そう、マーティンもはっきり浮気してみてもいいのではと
思ったんです。
翌日、出勤するとマーティンからメールが届いていた。
「今晩、捜査会議OK?」この間の外泊のことやろ。
ダニーはしぶしぶ「OK.自宅にて20時」と返事を打った。
ケンの事なんて何て説明すればいいんや。
ダニーは焦りながら、仕事に取り掛かった。
一日、事件もなく書類整理で終わったチームは三々五々帰宅する。
「お先。」ダニーがPCをしまって席を立つ。
マーティンはまだファイル整理をしていた。
よっしゃ〜!デリに寄ってインド料理を調達する。
マーティンの好きなサグマトンと豆のカレー、カブリナンとサラダで用意出来た。
ビールはミラーの買い置きがあるし、ワインもシャルドネが冷えている。
ダニーは着替えて、マーティンを待っていた。20時半すぎに鍵の音がした。
「ただいま〜。」「おかえり。えらい遅かったやんか。」
「帰りにボスにつかまっちゃって。」「お疲れさん。」
「カレーの匂いだ!食べたかったんだよね。」
いつもの屈託のないマーティンの様子にダニーは安心した。
「ビール飲むか?」「うん。」ダイニングにミラーを並べる。
ジャケットを脱いだマーティンが席に着く。
「いただきまあす。」ナンにかぶりつくマーティン。
「あのな、この間の外泊の件はな。」ダニーが言いにくそうに始めた。
「うん。」「あの日本人に誘われて日本酒飲み過ぎて、帰れなくなったんや。それだけやで。」
「ダニーがそう言うならそういう事なんだろうね。」マーティンは冷淡だった。
「お前、信じてくれへんの?」
「これだけ浮気されて、何を信じていいか分からなくなっちゃったよ。
僕だけだっていいながら、日本人にホイホイついていっちゃうし。」
「あいつは、だからNY1ヶ月目で・・・・」
「でもいい大人でしょう!ダニーがいなくったって生きていけるさ。」
「お前、俺を許さへんの?」
「分からない。これからのダニーの出方次第だよ。」
「分かった。俺が悪かった。もう怪しい行動はしないから、許してくれ。」
「うーん、考えさせて。」今回のマーティンは強行姿勢だった。
気まずいディナーが終わった。
マーティンは止めるのを断り、自分のアパートに帰って行った。
なんやあいつ!何かむしゃくしゃするわ〜。
ダニーは気がつくと携帯でアランに電話をかけていた。
「ダニー、どうした?」「アランが何してるかと思って。」
「一人だけの寂しいディナーを終えて葉巻を吸ってるよ。」
「これから、行ってもええ?」「もちろん、おいで。」「うん。」
ダニーはマスタングに乗り、アッパーウェストサイドに向かった。
「どうしたんだ。珍しいな。アイスでも食うか?」
「うん、ココナッツアイスある?」「ああ。」
アランは自分はブランデーを飲みながら、ダニーにアイスを勧めた。
「疲れた。」「何が?」「マーティンがケンと俺の仲を疑ってるねん。」
「当たり前だろう。」「無視するしかないかな?」
「そうだな。多くを語らずだ。」「了解。」
「それはそうと、ケンが電話してきたよ。3Pしたら、もうちょっかい出さないと言ってる。」
「ほんまかいな。」「分からない。日にちを設定していいかい?」
「うん。気が進まへんけど。」「一度だけだよ。それでフィニッシュだ。」
「ちょっと惜しい気もするな。」「ばか。」
「ごめん。」「そろそろ寝ようか。」「うん。」
アランと一緒にいると、明日が良い日であるような気がするのが不思議だ。
ダニーはパジャマに着替えて、ベッドルームでアランを待った。
アランが設定した日がやってきた。
ダニーはケンと別れる気持ちでアランのアパートに向かった。
「愛しのダニー!」ドアを開けた瞬間、ケンに飛びつかれて、度肝を抜かれた。
アランはキッチンで飲み物を用意していた。
「ケン、もうやんちゃはこれまでや。ええか。」「はぁい。」
返事が明快すぎるのが疑わしい。
「お前、トムやジュリアンとも寝たのか?」
「いえ、ギルの友達では貴方とアランだけ。」
「もうギルを裏切るのは止めな。」
「うーん、それは約束できないな。でも貴方とアランの仲に入るのは今日限りにするよ。」
「よっしゃ。」アランがドライマティーニを持ってきた。3人で乾杯する。
「何だか緊張するね。」ケンが頬を染めて言う。
「お前が言い出したんだろ。」すかさずダニーが突っ込むと、
「だって、3Pするの初めてなんだもん。」とケンが告白した。
「へぇ〜、意外だな。」とアラン。
「とにかく、これが終わったら、僕たちをほって置いてくれるか?」
「約束する。」「まじ、ギルに何もかも言うで。」
「分かったよ。ベッドに行こう!」
意を決したようにケンがベッドルームに誘う。
アランがアロマキャンドルを炊いている。
ダニーの好きなラベンダーのアロマだ。
ケンは素早く全裸になるとベッドに入った。
顔を見合わせるアランとダニー。
ダニーが衣服を脱ぐと次にベッドに入った。アランも衣服を脱ぐ。
ダニーとケンがキスを始めた。ケンの後ろでアランがケンの姿勢に沿うように寄り添う。
アランは興奮を隠しきれない程勃起していた。「アラン・・」ケンがため息をつく。
ケンが布団をもぐりダニーのペニスを咥える。「あぁん、お前、良すぎやで〜。」
ダニーの声に呼応してケンはアランが大きくなったのを確認し、
自分の後ろと前とにローションを塗って、アランのペニスを導く。
「アラン、入れて!」アランは腰を進めた。その動きに合わせてケンも動く。
「うぅん、くっふぅ〜。」ケンが甘い息を吐く。
アランがケンに挿入したと分かると、ダニーは顔が怒りでほてるのを感じた。
「動いて、アラン。」ケンが息を上げながら囁く。
アランがゆっくり動き始めると、ケンもダニーの中へペニスをめりこませていく。
「あぁ、うっ〜。」ダニーが甘い声でよがり始めた。
アランはダニーの声に興奮し、腰の動きを早めて、ケンをイカせようとする。
「うぅん、ふぅ〜あああ。」ケンが痙攣し始めた。
アランもさらに腰の動きを激しくし、ケンの追随を待つ。
「あぁ〜、アラン〜!」ケンは痙攣と共にダニーの中に射精した。
「ぅうぁ〜!」ダニーも後に続いて、シーツに精をぶちまけた。
アランがダニーに呼応するように最後にケンの中に放出した。
「ふぅ〜。」「想像してた以上に気持ちが良かった。」ケンは声を絞りだした。
「あぁ確かに良かった。」アランが声を出す。
「もう俺たちをほっておいてくれる?」
ダニーが尋ねながら、アランと唇を重ねていた。
ケンがいるからこそ、いつもより濃厚なキスが続く。
「ねぇ〜、シャワーしようよ!」
ケンが膨れながら、二人の耳元で囁いた。
3人でシャワーブースに入る。
アランがお湯をダニーとケンの両方にかけ、汗と精液を洗い流す。
ふざけながら、アランにもお湯をかけるダニー。
「今日は、ありがとうございましたぁ。」ケンが言う。
「何や、愁傷なこと言って、また俺たちをいじめるんとちゃうの?」
アランがダニーの言葉に爆笑した。
「それはしません。僕も貴方たちみたいなカップルになれるよう、ギルと努力してみる。」
「それは有難い申し出や。」アランも頷いている。
「それにしても、今日は忘れられない。癖になっちゃいそうだ。」
ケンが例の屈託のない笑顔を見せて、二人に言う。
「おいおい、それはないだろう!」アランがケンの額に軽く拳固を当てた。
>>794 さん
ダニー、アランと一緒の方が確かに幸せそうに書いてしまって、
マーティンに申し訳ないことしてます。
父親を早く亡くしたため、アランに父親を投影させてる設定です。
これからも出来る限り、続けて書いていきますので、よろしく応援お願いします。
ダニーはでたらめにウクレレを弾きながら考え事をしていた。
トロイはオレにマーティンのそばにいてやれみたいなことを言うてた。
これってどういう意味やろ?あいつらやっぱり寝てないんかな?
ダニーはスチュワートにすっかり圧倒されていた。
あのグリーンの目に見つめられるとドキっとする。
フェロモン全開やで、トロイ。あんなヤツに負けてられへん!
得意のcoldplayのTroubleを弾きながら決意した。
朝、マーティンが目を覚ますとスチュワートの姿はなかった。
リビングのテーブルの上に処方箋とメモが置いてあった。
[これを飲んで早く治すこと S] うわっ、すごくきれいな字だ。
ただそれだけのメモなのにマーテインは嬉しくなった。
出勤前にドラッグストアに寄ることに決め、急いで支度した。
マーティンがデスクで薬を飲んでいるとダニーが出勤してきた。
他には誰もいない。「おはよう、ボン」
「あ、おはよう・・」態度が軟化したダニーにホッとする。
ダニーは途中で買ってきたカフェラテとマフィンを持ってマーティンの横に座った。
「食べるか?チョコチップマフィンやで」
「ん、ありがとう」二人は並んで食べ始めた。
「ごめん、オレ、近頃どうかしてたわ」ダニーは照れくさそうに謝った。
「いいんだ、僕は気にしてないから」
スチュワートの言ったとおりの展開にマーティンは笑いをこらえた。
「今日、オレんちでディナー食べへん?」
「うん、食べる。軽いものにしてくれる?胃が痛むから」
「それもオレのせいやな。ごめんな」ダニーは責任を感じてしょげた。
「もういいって。こんなの、すぐに治るさ」
他の捜査官たちが出勤してきたので、二人は速やかに離れた。
ダニーはマーティンと待ち合わせ、買い物をして帰ってきた。
ブイヤベースと、ローストポテト、軽く焼いたバゲットを一緒に作る。
マーティンは手伝えることがなく、ダニーの手元を観察していた。
「あちゃー、ローリエが足りひん。買ってくるわ」
「ねえ、僕が行こうか?」
「いいや、オレのほうが早いから」ダニーは大急ぎで飛び出していった。
マーティンは手持ち無沙汰で冷蔵庫を漁っていたが、
ゆで卵なら作れると思い卵を取り出した。
その間に、ぎこちない手つきでバゲットを切る。
切りおわるころ、卵のほうも完成した。
出来た卵を一つずつお皿に載せ、テーブルに運ぶ。
「ただいま、あー疲れた」ダニーが息せき切って帰ったきた。
「おかえり、バゲット切っといたよ」
「おう、サンキュ。すぐできるから待っててな」
ダニーは手早く料理の続きをした。
オーブンに入れていたポテトが出来上がるころ、ブイヤベースも完成した。
鍋ごとテーブルへ運び、食事の支度が整った。
ダニーは卵の入ったお皿を見つけた。
「何やこれ?」
「ゆで卵。僕が作ったんだ」嬉しそうなマーティン。
「よし、食べよう。いただきます」
ダニーは、まずマーティンが作ったゆで卵に手を伸ばした。
そっと殻を剥いて口に入れた瞬間、ボンッっと爆発した。
「どわぁー」飛び散った卵の欠片にまみれ二人は呆然とした。
「何、どうしたの!」マーティンがパニクって叫んだ。
「お前これどうやって作ったんや!爆弾か!」
「爆弾?卵をレンジに入れただけだよっ」
「あほかっ、そんなもん内圧が上がって爆発するやろが!」
「内圧?こんなことになるなんて知らなかったんだよ」
「冷めてたからよかったけど、火傷するとこや!ぼけがっ」
「ごめん・・・」マーティンはびびりながら持っていた卵を皿に戻した。
ダニーはようやくショックが治まり、落ち着きを取り戻した。
「それも剥いてみよか?」ニヤッとしながらダニーが言った。
「やめようよ、また爆発するよ」
「ええからええから。どうせ掃除しやんなんし」
ダニーはそっと殻を剥きはじめた。マーティンは腕でガードしながら見守る。
口に入れるのは躊躇われたので、二つに割ったが何も起こらなかった。
ふぅ〜、二人同時に安堵のため息が漏れた。
お互いに顔を見合わせると笑いが止まらなくなった。
飛び散った卵の中でしきりに笑い、息が出来ないほどだ。
「これ、ボスに食べさせたい」マーティンが言うと、
「めちゃめちゃおもろそうやな」とダニーも応じた。
「さあ、今度こそ食べよう」まだくすくす笑いながら、二人は食べ始めた。
久しぶりに和やかな時間が過ぎていった。
ダニーはマーティンと一緒にいる時間を増やし、できるだけやさしく接した。
少しでも目を離すと失いそうで不安だ。
トロイに負けたくない一心で必死だった。
マーティンにもダニーの誠意が通じたのか、胃の痛みから解放されつつある。
二人が会う、週に一度のスカッシュだけがネックだった。
ダニーはこっそりスカッシュコートの様子を見に行った。
スチュワートのTVRはガレージに止めてあった。
どこにいてるんやろ?ダニーはクリアコートを順番に覗いていった。
なんやろ?一つだけ人だかりができている。
ダニーも覗きこむと、マーティンとスチュワートがプレーしていた。
すごい速さのボールが行き交い、一瞬たりとも気が抜けない。
マーティンもスチュワートもすごい腕前だ。
ダニーはいつしか手を握り締めていた。
真剣そのもののマーティンは、いつもダニーが見ているのとは別人だ。
ギャラリーの感嘆の声も聞こえないほど、ダニーは集中して見ていた。
ゲームが終わったのか、二人は握手を交わしている。
悔しそうなスチュワートから察するに、勝ったのはマーティンのようだ。
トロイ、ざまあみろ!ダニーは心の中でガッツポーズした。
「ダニー!」不意に名前を呼ばれ振り返るとスーザンがいた。
「スーザン・・・」
「あなたの友達かなり強いわね。すごいわ!」
スーザンと話していると拍手が起こり、マーティンとスチュワートが出て来た。
「ダニー、どうしてここに?」マーティンの目が傍らのスーザンを捉えた。
「ああ、そういうことか。行こう、スチュワート!」
マーティンは知らん顔でロッカールームへ行ってしまった。
スチュワートも肩を竦めるとマーティンのあとを追った。
ダニーはスーザンとの話を適当に切り上げ、ロッカールームへ行った。
マーティンとスチュワートはシャワーを浴び、バスタオルを腰に巻いて出て来た。
ダニーはスチュワートの鍛えられた肉体を見てドキッとしたが、
慌てて目を逸らし、マーティンのそばへ行った。
「マーティン、お前が考えているようなことと違うねん」
「別に何も考えてないよ」素っ気ないマーティン。
「頼むから話を聞いてくれ!」
「僕らおなかがペコペコなんだ。またね」
マーティンは素早く着替えると出て行ってしまった。
マーティンは車の中でしょげていた。
「あれが浮気相手の女の子?」
「うん。頭ではわかっていても実際に見ちゃうとだめだ、僕」
「ああ、理性なんて吹っ飛ぶよな。誰だってそうさ」
スチュワートは肩をポンとたたいた。
「とにかくディナーに行こう。もう腹ペコだ。何がいい?」
「何でもいいよ・・・」マーティンは力なく答えた。
スチュワートはマーティンをシーフード料理の店に連れて行った。
入るなりドンドンやバンバンといった音が聞こえ、マーティンは驚いた。
テーブルクロスの上に紙が敷かれ、みんながトンカチを叩きつけて食べている。
「スチュワート?」マーティンは不可思議な光景に呆気に取られている。
「ああやって殻を割って食べるんだ。おもしろいぜ」
席に案内され、カニやオイスター、ロブスターロールをオーダーした。
シャブリを飲みながら、シュリンプカクテルを摘まむ。
マーティンはカニの殻をバンバン叩いて割り、夢中で食べた。
「楽しそうだな、そろそろオレも参加しよう」
スチュワートはムール貝を叩き割り、レモンを絞った。
トンカチを叩きつけるのが楽しい。
マーティンはケタケタ笑いながら殻を割り続けた。
「あー、楽しかった。ご馳走さま」チェックを済ませると、二人は店を出た。
「気に入ってもらえてよかった。それじゃ帰ろうか」
「今夜は泊まってくれる?」マーティンはスチュワートを見上げた。
「絶対、テイラー捜査官が待ってるぜ?」
「ほっとけばいい」頑ななマーティン。
「彼の目の前で君を抱けって?」スチュワートがニヤッとした。
「それは・・・」マーティンはうつむいた。
「あからさまに仕返ししたってへこむだけさ」
スチュワートはフフンと笑うと車に乗り込んだ。
アパートに着き、重い足取りで玄関を開けると、ダニーが床に座って待っていた。
「マーティン、あの、さっきのは誤解なんや」
「誤解じゃない。僕はスーザンから聞いてたんだから」
「え・・・・」ダニーの口がぽかんと開いた。
「君がゲイじゃないことはわかってる。理解しようと努力してるけど・・・」
マーティンは涙声になった。
「僕はもう何も言わない。ダニーが好きなようにすればいい」
ダニーは掛ける言葉もなく口をつぐんだ。
「ただ・・・ただ見せつけるのだけはやめてくれる?僕だって傷つくから」
マーティンはそれだけ言うと手で顔を覆った。
とめどなく溢れる涙もそのままに、マーティンは嗚咽に身を任せた。
「あの・・・」
「そっとしといてやれよ、気持ちの整理をつけようとしてるんだから」
スチュワートがダニーを遮った。
「お前には関係ないやろ!」ダニーはスチュワートを睨みつけた。
「今は何を言っても無駄さ。それぐらいわかるだろ?」
スチュワートは動じずに淡々と答えた。
「君はバイで、彼はゲイ。いつかは問題が起こるのは当然じゃないか。
マーティンは君が女と寝るのを理解したんだ。泣きたくもなるさ」
言いながらスチュワートはマーティンをしっかりと抱き寄せた。
ダニーは奪い返すように手を払い、マーティンの体を抱きしめた。
マーティンはダニーから離れると、ベッドルームへ行ってしまった。
「だから、ほっとけって」
「オレらの問題に口出しするなや!それともお前、やっぱりあいつと寝てるんか?」
「寝てたらどうする?君と同罪だって言いたいのか?」
「はっきりしてもらおか、トロイ!」
「君からマーティンを取る気はない。これで満足?」
「寝たか寝てないんかどっちやねん!」
「聞かなくてもわかるだろ、そんなこと」ダニーはスチュワートに殴りかかった。
二人は殴り合い、物音に驚いたマーティンが出てきて止めに入った。
「やめろよ、二人とも!ダニー!スチュワート!」
「お前もや!」ダニーはマーティンも殴りつけた。
マーティンは殴られながらもダニーを羽交い絞めにし、乱闘は収束した。
ダニーが落ち着いたのを確かめ、ようやく体から手を離した。
三人とも顔が赤く腫れ、鼻血や口の端が切れている。
スチュワートは濡らしたタオルと氷をどっさり持ってくると真ん中に置いた。
それぞれ無言のまま手に取り、顔に当てる。
「ケガはどうだ?ひどく痛むとかないか?」スチュワートが二人に問いかけた。
二人とも黙って首を振った。
「そうか、それはよかった」そのあとは誰も何も言わなかった。
翌朝は昨晩の疲れで、3人とも昼過ぎまでベッドにいた。
ダニーが目を覚ますと、ケンがダニーのパジャマの下を引き降ろし、
今にもペニスを咥えようとしていた。
「お、おい、ケン何してる?」思わず小声になるダニー。
「最後の挨拶。」「アランが起きるで。止めてくれー。」
「いいじゃない。起きるまでやらせて。」
こいつ、有言不実行な奴やな。ダニーはピローを噛んで声が漏れないようにした。
こいつの舌技は、今まで寝たどんな娼婦よりもすごい。
「うぅん。」アランが目を覚ましそうだった。
ケン、早くイカせてくれ〜!ダニーに瞬間が訪れた。口で始末をするケン。
「アラン、おはよう。」何事も無かったように挨拶するケンだった。
アランが目を覚ました。「や、僕が一番寝坊したのかな。」
「今、俺も起きたところ。」「僕も。」「それじゃ、コーヒーを入れようか。」
アランがのろのろと起き上がった。ダニーがシャワーへと急ぐ。
「ケン、入ってくるなよ。」「分かったよ、ダニーのけち!」
アランが声をたてて笑っていた。
ダニー、ケン、アランの順でシャワーを浴びる。
ケンがアランとすれ違い様に股間をつかんだ。「ケン!」
「はいはい、ごめんなさぁい!」
アランがシャワーしている間、ケンに詰め寄った。
「お前、今度アランに手を出したら、しばいたるからな。」「はぁい!」
「ほんまに聞いてる?俺の話。」「もちろんだよ!FBI怖いもん。」
「お前、そんな生活してると病気とか気にならない?」
「安全そうな人としかしてないし。」
「そんなん分からんで。俺らだってすっげー乱れた
セックスライフ送ってるかもしれないやん。」
「貴方たち二人は違うよ。今までに合ったどこの国のゲイのカップルとも違う。」
「それ、俺たちがバイだからかな。」「えー二人ともバイだったの!ショックだ・・ウゲー。」
「何を今さら。」「そうだよね、二人の咥えちゃったから。」「コラ!」
アランがシャワーから出てきた。「話がはずんでるようだね。」
「アランのウワサしてた。」口先三寸、ケンは何でも言える奴だ。
「いいウワサかい?」「おじさんなのにすごいってウワサだよ。」
「年齢ネタで来たか。それには弱いな。さ、ベーグルでも食べるか。」
解凍してオリーブの入ったクリームチーズを塗る。ダイニングに
バスローブとパジャマで仲良く並んでいるダニーとケンがおかしい。
くくっ。アランが笑った。「何や、気持ち悪いなあ。何やねん。」
「いや、そうやって並んでると、国籍は違うけど、兄弟みたいだなと思ってね。」
「兄貴〜!」ケンがダニーを抱きしめる。
「もう!こいつ全然懲りてないんやで、アラン。」
「お仕置きの注射でもするか。」
「貴方の注射ならいいけど、本当の注射は嫌いです。」
「ほら、懲りてないやろ。アラン、どないする?」
「どうでしょう、3Pをもう少し続けるってのは?」
「随分建設的な意見だな。ダニーどうする?」「あとで検討しよ。」
「ケチ!」ケンがまた頬を膨らませる。
「お前、本当に3P初めてやったの?」
「うん、そうだよ。日本はゲイ文化は隠れた存在だから、
そんなの、怪しげで胡散臭いクラブのトイレとかでしかやれないし、
病気怖いもん。」
「お前にも怖いもんがあったんやな。なぁ、今度、
トムの病院でHIVの検査受けるんやけど、一緒に受けへん?」「行く行く!」
「本当に君は興味深い日本人だよ。」アランが感嘆していた。
ケンはベーグルを食べ終わると、ギルがシカゴから帰ってくるからと、
急いで家に戻っていった。
「ほんま台風みたいなやっちゃな。」
「ダニー、ケンが言ってた3Pの話、どうする?」
「確かに昨日はすんごい興奮した。特にアランが我慢して
俺とケンを先にイカせたのに感動した。」「それは身に余る光栄だね。」
「だから〜、二人っきりではケンに会わない。会うときは3人ってルールにせいへん?」
「そうだな。おじさんも回春に効き目がある事が分かったしね。
ダニーとのセックスがよりいいものになるような気がする。」
「じゃあ、決まりな。ギルには秘密で。」
「ああ、親友をこんな形で裏切るのは甚だ心外だが、自分の得を取るよ。」
トムに頼んだ診察日に、ケンはギルも連れてきた。
「みんなで確かめないとね。」ケンが笑顔で言う。
採血されて、待たされる。1時間後、トムが検査結果を持ってきた。
「一人ずつ面談するからね。」処置室に呼ばれる。
ダニー、アラン、ケン、ギルの順だ。ギルが終わって出てきた。
暗い顔をしている。「ギル、まさか!」
ケンが心配そうに聞く。「ばぁか、だからお前はまだ修行が足りないんだよ。
僕がポジティブのわけないだろう。」「わあい、じゃあ今日は4人で祝杯だね。」
ケンが大喜びしている。ダニーとアランはお互いの検査シートを交換していた。
「ネガティブ、この言葉がこんなにうれしいのも珍しいな。」
「確かに。」「今日はどこへ行く?」
「ジャン・ジョルジュが新しくオープンしたステーキハウスはどうだ?」
ギルの提案で決まった。
4人でタイムワーナーセンターに繰り出す。
ダニーは前回の3000ドルの寿司を思い出し、くすくす笑っていた。
「どうした?」アランが尋ねる。
「ビューローに嫌な上司がいてな、この間、3000ドルの寿司を奢らせたんや。」
「そりゃ財布が傷んだな。」ギルが驚いている。
「マーティンの父親や。」アランに耳打ちした。「お前・・」
「大丈夫。俺の命を盾にしたんやから、まだ安いもんやで。」
ジャン・ジョルジュのステーキはソースも付け合せも自由自在に選べて絶品だった。
「ここまで来ると、ステーキも芸術品だな。」
アランが満腹になったお腹をさすっている。
「アランのお腹もフォアグラ入ってそうやな。」
「まさか、きちんとジムには通ってるし、ダニーこそどうなんだ。」
ダニーのお腹をくすぐる。「やめてぃな。こそばゆいで!」
「本当にお二人とも仲がいいですよね。妬けちゃうな。」
「僕らもそうなろうな、ケン!」
何も知らないギルがケンの手を握って囁いている。「うん、ギル。」
この小タヌキが!ダニーはケンが愁傷な顔をしてギルと話しているのを
見ながら、心の中でつぶやいた。
スチュワートは鼻血が止まるとバスルームへセルフチェックをしに行った。
戻るとマーティンの顔にさわり、骨が折れていないか確かめた。
ダニーの番になり、嫌そうに顔を背けたがスチュワートは有無を言わさず診察した。
「骨は折れてない。出血が止まるまで押さえてろ」
ダニーは手を振り払うとゴミ箱に唾を吐いた。血の混じった唾が痛々しい。
「鼻血は止まったし、口の中も大丈夫だ。後でうがいして来いよ」
ダニーは知らん顔をして、また唾を吐いた。
リビングはめちゃめちゃになっている。マーティンは黙々と片付け始めた。
ソファやテーブルを元の場所に戻し、雑誌をまとめる。
アレカヤシの鉢植えが倒れハイドロボールが散乱していた。
数粒ずつ拾っていると、ダニーが新聞紙で寄せ集め一気に鉢に戻した。
「あ、ありがとう・・」ダニーは黙って頷き、片付けを手伝った。
スチュワートはリモコンの電池を拾うため、キャビネットの下に手を伸ばしている。
それぞれの活躍で部屋は元通りになった。
マーティンはコントレックスのボトルを三本、テーブルに置いた。
三人とも黙りこくったまま飲んでいる。
お互いに視線が合わないよう下を向いていた。
「もう遅いし、オレは帰るよ」スチュワートが切り出した。
マーティンが困惑した目で見つめる。
「そんな目で見るなよ。オレは君に敬意を表する。えらかったな!」
スチュワートはニッコリしながらマーティンの髪をくしゃっとした。
ダニーは憎々しげにスチュワートを見た。
「君はどうだい?彼の不屈の精神には頭が下がらないか?」
視線に気づいたスチュワートはダニーを挑発した。
「そんなわけのわからん頑固さに敬意なんか払えるか!」
「それだけ君のことが好きなんだろ。わかってやれよ、テイラー捜査官」
「まださっきの答え聞いてへんかったな、どっちやねん!」
スチュワートはニヤッと笑うと質問には答えず立ち上がった。
「待てや、トロイ」ダニーも立ち上がった。
「オレはトロイじゃない。今夜は失礼するよ。マーティン、またな」
スチュワートはそのまま帰っていった。
「マーティン、スーザンのこといつから知ってたん?」
「少し前・・・僕がブルックリンから引っ越したくらい・・・」
「あっ、それで急に引越したんか!」
ダニーはうつむくマーティンの横に座った。
「オレな、どうしてもゲイにはなられへん。男はお前とボスしか知らんし・・・」
「わかってるよ。それはもういいんだ。僕がいないところでなら構わないから」
「マーティン・・・」
「でもさ、今日みたいに見ちゃうとまた泣くかも・・」マーティンはグッと涙をこらえた。
ダニーはマーティンの肩を抱いた。もたれかかる重みが切ない。
軽く唇に触れるキスをする。痛っ!二人は同時に声を上げた。
ダニーはそのままマーティンの手を引いてベッドに入った。
涙で少し湿ったシーツに寝転び、ぴったりと体をくっつける。
「お前、今日すごかったな。オレ、あんなん初めて見たで」
「さっきのケンカ?」
「ちゃうちゃう、スカッシュのことや。あんな早いボール、よう打てるなぁ」
マーティンは恥ずかしそうにダニーの胸に顔をうずめた。
「ピンボールマシンの中みたいなもんや。オレなら頭直撃やで!」
ダニーはいつもの癖で髪をくしゃっとした。それと同時にさっきのスチュワートを思い出した。
トロイのあの仕草、もしかしたら!??
マーティンにトロイと浮気しているのか聞こうとしたが、ダニーは我慢した。
「寝よか、疲れたわ」ダニーは目を閉じた。
「うん。ダニィおやすみ」マーティンもダニーの胸にもたれたまま目を閉じた。
ダニーのおなかがグーグー鳴っている。
「ダニー、おなか鳴ってるよ?」
「ああ、晩メシ食い損ねたからな・・・朝食べるわ」ダニーはおなかを擦った。
マーティンは早起きすると、一目散にイーライズマンハッタンまで焼きたてのパンを買いに行った。
開店直後なのに、すでに客が群がっている。
ダニーに温かいままのを食べさせたくて、全力疾走で帰って来た。
ダニーはまだ眠っている。赤黒く腫れた顔が痛々しい。
マーティンはダニーのほっぺにほかほかの紙袋を押し付けた。
「うう・・なんかええ匂いがする・・・」ダニーは目を覚ました。
「ん・・・おはよう、それ何?」
「パンとデニッシュ。焼きたてだよ、早く食べて!」
「お前、そんな顔で買い物行くなんて根性あるなぁ」ダニーは呆れた。
「え?」マーティンが鏡を見ると自分の顔も腫れて変色していた。
「わぁっ!そっかー、それでみんなが僕のことじろじろと・・・」
ダニーは苦笑しながら席に着いた。
コーヒーは傷に沁みるので冷たいミルクを飲み、まだ温かいパンを食べた。
「おいしい?」心配そうにマーティンが聞いた。
「うん。腹減ってたから」ダニーはパンにがっついた。マーティンも手を伸ばす。
シナモンレーズンデニッシュの取り合いになり、ダニーは二つに割ると大きいほうを譲った。
「ダニィ、サンキュ!」マーティンは嬉しそうに頬張った。
食べているうちに遅くなり、二人が出勤するとヴィヴィアンもサマンサもすでに来ていた。
「おはよう」二人はそっけなく言い合いながらデスクにブリーフケースを置いた。
「ダニー!マーティンも!どうしたのよ、一体?」サマンサたちが寄って来た。
「ちょっとな」ダニーは言葉少なく答えた。
「僕もちょっと」マーティンも困って答えが見つからない。
「待った!お互いに殴り合ったってこと?」サマンサはしつこい。
「ノーコメント!」ダニーはそれっきり口をつぐんだ。
女の取り合いでもしたのよ、サムとヴィヴはヒソヒソと話している。
やがてボスが来て、ミーティングが始まった。
ボスはミーティングの間は何も言わなかったが、最後に二人にオフィスに来るよう命じた。
「で、何があった?」ボスの視線が痛い。
「何でもありません」ダニーが答えた。マーティンは黙ったままだ。
「マーティンはどうだ?説明してみろ」
「あの、ちょっとした事故です」しどろもどろな答えしか出てこない。
「事故?わかった、あとで詳しく事情を聞かせてもらおう。仕事に戻れ」
二人は顔を見合わせながらボスのオフィスを後にした。
マーティンは昼休みにスチュワートに電話した。
「あ、僕だけど。今いいかな?」
「ああ。オレも気になってたんだ、傷はどうだい?」
「ん、平気。スチュワートは?」
「大丈夫。患者を驚かせたのと、みんなにからかわれたぐらいかな」
「ごめんね、こんなことになっちゃって」
「気にすることないさ。君と寝たのは確かだ。彼は?」
「んー・・・僕の気持ちは伝わったと思う。ありがとう」
「それは一体何のお礼だ?」
「背中を押してくれたことかな」
「君にはオレにないものが備わってる。正直憧れるよ」
「僕には何のことだか・・・・」
「誠実さや真摯さでは誰も君にはかなわない。そんなのオレにはないだろう?」
「そうかなぁ?よくわからないよ」マーティンは首を傾げた。
「そうさ、自信を持て。彼はオレと寝たのか聞いてくるだろうから、
その時は君がしたいようにすればいい。オレをかばう必要はないから」
「スチュワート・・・」
「何だよ、感動して言葉を失くした?バカだな」スチュワートはクスクス笑っている。
「バカでもいいよ。ありがとう、スチュワート」
「おかしなヤツだな、でもそこが好きだ。また電話するよ」
マーティンはスチュワートが怒っていなかったのでホッとした。
勤務が終わり、二人はボスのオフィス呼び出されていた。
「ダニーのほうがひどい顔だが、マーティンのほうが強いのか?」
二人とも何も言わずに下を向いている。
「黙秘か・・・まあいい。ケンカの原因は何だ?」
「行き違いがあっただけです」マーティンが答えた。
「それだけか?問題は解決できたのか?」
「はい、僕はできたと思っています」
「オレもわだかまりはありません」
「そうか。今後は責任を持って慎むように。お前たち、みっともないぞ!」
「はい、申し訳ありませんでした」二人は神妙な返事をして部屋を出た。
ダニーはマーティンとの帰り道、リッツォーリブックストアに寄った。
マーティンが建築本のディスプレイに見とれている間に、素早くハリー・ポッターの最新刊を買う。
「ごめんごめん、もうええで」ダニーは店を出ると本を渡した。
「ハリー・ポッター?どうして?」きょとんとしながら本を受け取る。
「オレがこの前わやにしてしもたから」ダニーは照れくさそうに言った。
「そんなのいいのに。ありがと、ダニィ」マーティンは本を大切そうにしまった。
「帰ろか、今日は寒いわ」ダニーは照れ隠しに、寒そうに手を擦り合わせた。
翌日は支局が騒然としていた。有名女優ジェニファー・アシュトレーが失踪したのだ。
マスコミもすでに騒ぎ始めていた。
「ヴィヴ、マスコミ対策を頼む。奴らのせいで、捜査に水をさされたらたまらん。」
ボスは朝から渋い顔をして、個室にこもっていた。
CNNをはじめ、全米3大ネットワークが情報を求めていた。
「ジェニファーがねぇ。」サマンサがため息をついた。
「それって誰なの?」マーティンが真顔で聞いた。
「今売れっ子のティーン女優よ。スキャンダルもないし。
クリーンなイメージですごく人気なのよ。」
ブロマイドの愛くるしい写真がホワイトボードに貼られた。
「ほんまに可愛いな。」思わずデレーっとなるダニー。
「ダニー、口からよだれ。」サマンサにからかわれて、「おっと失礼。」と拭くふりをするダニー。
「ボス、どこから手をつけます?」
「プロダクション、マネージャー、番組の共演者。山ほどいるぞ。」
皆で手分けして業界筋を当たる。山のような人数だ。
夕刻になり、ヘアーメイク担当の女性から
「疲れてるから、マリファナが欲しい。」と相談されたとの供述を得た。
ボスの第六感が動いた。「学校の友達だ。」
NYの私立の名門校に籍を置いていたが、仕事柄出席率は高くない。
生活指導の先生から、親友3人の名前を聞き出した。
ダニーとサマンサが一人一人の家を訪ねる。
そして2人目の家で、マリファナでハイになっているジェニファーを見事保護した。
「ボス、事件終了っす。これからサムと支局に戻ります。」
「よくやった。」マーティンは今日も留守番を命じられ、腐っていた。
僕だって聞き込みぐらい出来るのに・・・。
ダニーとサムが意気揚々と戻ってくる。
「ケース・クローズや。」ジェニファーの写真がホワイトボードから剥がされる。
「サム、これからディナーに行かへん?」「ごめん、今日は先約があるから。」
そう言って、サマンサはさっそうと支局を出て行った。
今晩はフォアグラやな。ダニーは確信した。
「マーティン、お前、ディナー行かへん?」
「セカンド・チョイスでごめんね!一緒に行くよ。」マーティンは硬い表情で答えた。
「何怒ってんのや、この間の続きか?」「違うよ!早く行こう!」
「よーし、今日はお前の好きな肉料理おごったる!」
ダニーはミッドタウンの韓国焼肉屋「グム・ガン・サン」にマーティンを案内した。
「ここはヤンキースの選手も沢山くるんや。明日のスタミナ貯めてがんばろうや。」
この間、牛タンを制覇したダニーは、慎重に肉の部位を選んで、
カルビ、ロース、ハラミ、牛タンを頼んだ。
ハイネケンで乾杯する。「お前、どうした。今日、えらい暗いやん。」
「僕、この頃さ、内勤が続いてるじゃない?ボスの評価が低いんじゃないかと思って。」
「人には得手不得手があるやんか、ボスはお前の調査能力を一番に買ってるんやないかな。」
「でも、僕も外に出たいよ。」「ボスに掛け合ってみたか?」「まだ。」
「掛け合わへんかったら、お前の不満はボスには伝わらへんぞ。」
「そうだね。明日、話してみる。」「さ、肉をじゃんじゃん焼こう!」「うん!」
さっきの暗さはどこかに吹き飛んだようなマーティンだった。
山ほど頼んだ肉の皿の3分の2は、マーティンの胃の中に吸い込まれた。
二人で焼肉の匂いをぷんぷんさせて店を出る。
「うは〜、スーツ丸ごとクリーニングやな。」
「僕、シャワーしたいよ。」「俺んとこ来るか?」「うん。」
ブルックリンに車を飛ばす。
帰ると留守電が点滅していた。「聞けば?」マーティンが何気なさそうに注目していた。
「お前、シャワーしないん?」「僕の前じゃ聞けないの?」
「そんなん、怪しい伝言なんかないで。」ダニーはどきどきしながら再生ボタンを押す。
「ハーイ、弟のケンです。元気?こないだは最高!今度また遊ぼうね。約束だよ。」
「アランだけど、具合はどうかと思って電話した。電話してくれ。」
「弟のケンて誰さ。」「あの日本人のボンや。兄って慕ってくれてる。」
「こないだは最高ってどういう意味?まさか寝てないよね。」
「ま、まさか弟と寝るわけないやんか。」「信じていいんだよね。」きっとダニーの目を見据えるマーティン。
「ああ。も、もちろんや。」神様、俺にウソをつく才能を与えてください!
「じゃあ、今度、紹介してよ。」「ケンをお前に?!」思わず焦るダニー。
ケンは絶対にマーティンにちょっかいを出すに決まってる。
平静を装って「ああ、今度支局に来たらな。あいつもあれで、企業弁護士で忙しいんや。」
「ふうん。そうなんだ。」剣のある言葉にダニーは辟易した。
「さぁ一緒にシャワーするか?」「そうだね。」
まだマーティンは疑惑モードが解けていない。
こうなったら肉弾戦や。ダニーはマーティンを後ろから羽交い絞めにし、
首元にキスしながら、耳を噛む。
「な、シャワー行こ?」「うん。」
二人でお互いの服を脱がし、バスルームへと突入する。
ティートゥリーのシャワージェルでお互いの体をすみずみまで洗う。
マーティンが念入りにダニーのペニスとアヌスを洗うのが気になった。
「お前、何やねん。」「雑菌の滅菌だよ。」
「お前こそ、浮気してないやろな。」「僕が?誰かと違うもん。」
マーティンのアヌスに指を入れると、いつもの括約筋の動きだった。
「あぁん、ずるいよ、ダニィ・・。」
敏感なマーティンは指を入れただけで、もうイキそうになっている。
「お楽しみはこれからや。」「早く、ベッドに行こうよ・・。」「ああ!」
ベッドに入るとマーティンはすぐに挿入を懇願した。
ミントローションをマーティンと自分に塗りすべりを良くすると、
ダニーは一気に挿入した。が次の瞬間、みるみる萎えてしまった。
「ダニー、どうしたの?」「ごめん、どうしたんやろ。」
「じゃあ、交代しよう。」「ごめん、今日は俺だめや。」
そう言うとダニーはマーティンに背中を向けてしまった。
マーティンは拒絶されたショックで、忍び泣いた。
僕じゃ、もうだめなの?
ダニーはまた悪夢を見ていた。ピーターに局部を切り取られる夢だ。
「うわぁ〜!」汗びっしょりで目が覚める。「ダニー、大丈夫?」
マーティンが声をかけた。「すげー悪夢見てた。起こしたか?」
「ううん、あんまり眠れなかったから。」
見るとマーティンのまぶたは泣いたせいで、重く腫れていた。
「マーティン、そのまぶたはまずいで。」
ダニーが冷たいタオルを持ってきて、マーティンの目の上に乗せる。
「昨日は、ほんまごめんな。俺・・・。」言葉がつながらない。
「いいよ、そういう日だってあるよ。僕のせいでないのを祈るよ。」
心に楔のような言葉だった。「お前のせいやない、俺のせいや。」
「またアランのとこに行くの?」どきっとするダニー。余計に平然と
「ああ、主治医やからな。相談せんと。」と切り替えした。
「僕もアランになりたいな。」ぽつんとマーティンがつぶやいた。
「マーティン・・・。」「さ、出勤の仕度しようよ。」「そやな。」
自然と一人ずつシャワーを浴び、髭を剃る。まるで合宿のようだ。
「じゃあ、先に行くね。」マーティンは多くをしゃべらず、ダニーのアパートを出た。
「神様、ダニーが治りますように。」太陽に向かってマーティンはお祈りした。
ダニーはアランの携帯を鳴らした。
「おはよう、ダニー。昨日のメッセージは聞いてくれたかい?」
「うん。帰るの遅うなったから、電話返さなかった。ごめん。それより、今日、会える?」
「ああ、もちろんだとも。」「じゃあ、アランの家に20時ごろ行くわ。」
「待ってるよ。愛してる。」
アポは取り付けたものの、アランに何と切り出せばいいかまで、考えていなかった。
まだマーティンと寝ているのを知ったら、アラン、鬼のように怒るやろなー。
四面楚歌のようなダニーだった。
今日の支局は、昨日までと打って変わって静かな様相だ。
皆、書類整理に追われている。日ごろ出来ない経費精算にもってこいの一日だ。
普通なら心穏やかなはずなのに、マーティンもダニーもそれぞれの心の中で葛藤していた。
ダニー、あの日本人の方が僕より良くなっちゃったのかな。
そんなマーティンの気持ちを逆なでするように、ケンが支局に現れた。
ダニーが舌打ちする。あいつ、インターポールのIDで入ってきたな。
「ダニー!こんちわ。」「あ、キュートな日本人が来たわ。」サマンサがそわそわしだした。
「サマンサ、紹介する。弁護士のケン・ヤマギシ。」「ケンです。お美しい方ですね。」
「こいつ、いつもこの調子や。」「マーティン!こっちこいよ。」ダニーがマーティンを呼んだ。
ケンの眼差しが変わったのにダニーは気がついた。もう反応してるわ、この小タヌキが。
「マーティン・フィッツジェラルドです。お噂はダニーから聞いてますよ。」
わざとダニーを強調してマーティンが自己紹介する。
「ケンです。初めまして。企業弁護士しています。」
「へぇ〜、僕、前は企業犯罪を担当してたんだよ。」
「偶然ですね。僕は善の面、貴方は悪の面から企業をみていたわけだ。」
「仕事楽しい?」「とっても。シニアパートナーに良くしてもらってます。」
「上司とうまく行ってるなんて、うっらやましい〜。」
サマンサはそういうと、「じゃあね。」と席に戻った。
「サマンサさん、素敵な方ですね。お二人どちらか付き合っておられる?」
「いや、俺らはお呼びでないみたいや。」「ふうん。マーティンさんは?」
「マーティンでいいよ。僕の事なら付き合ってる人間はいないんだ。」ダニーが目をむいた。
「僕と同じだ。そしたら、今度、ダニーとマーティン、食事に行きましょうよ。」
ケンの奴、よく言うわ。「お前とはもう日本酒は飲まないからな。」
「ははは、マーティン、この間、ダニーつぶれちゃったんですよ。
じゃあどこか考えておいてくださいね、ダニー。失礼します。」
例によって台風のように去っていった。
ダニーはマーティンをトイレに呼び出す。
誰もいないのを確認して問い詰める。
「付き合ってる人間はいないって何や。」
「いいじゃない、言葉のあやだよ。」「お前!」
すると他の局員が入ってきたので、二人は手を洗ってトイレを出た。
定時になりマーティンは言葉もなくすたすた帰っていった。
ダニーは近くのスタバで時間をつぶして、20時になってアラン宅を訪れた。
「やぁハニー、どうした、難しい顔をして。」「アラン、俺、中年の危機って奴かも。」
「まぁ食事でもしながら話そう。」「それもアルコール付きがええな。」
「はいはい。今日はクラムチャウダーとロブスターの香草グリルだよ。」
シャブリを空けながらアランがダニーの様子を観察している。
いつになく落ち着きがない。中年の危機って何だ?
クラムチャウダーにクラッカーを山ほど載せた皿を一緒に出す。
ダニーは美味しそうにチャウダーを食べている。
食欲はありか。アランの観察は続く。
「話聞こうか?」「ごめん、怒らんといてな。俺、マーティンとセックスしようとした。」
アランの顔が紅潮した。「それで?」「出来なかった。モノが言うこと聞かんかった。」
「それで中年の危機だと?」「理由が分からへんもん。俺、訳分からへん!」
「マーティンに飽きたのか、他に理由があるかだな。他の理由の方が深刻だ。今日、試すかい?」
「アランさえよければ。ええの?」「恋人の危機だ。付き合って当たり前だろう。」
「ごめん。」「さぁロブスターを食べよう。レモンソースも作ったから、付けて食べてごらん。」「うん。」
食事はいつも同様、絶品だ。
アランとレストランを経営したら儲かるかも。
「アラン、精神科医辞めて一緒にレストランやらへん?」
「何を馬鹿な。男40過ぎたらそんな第二の人生、無理だよ。」
「へぇアランでも可能性閉ざすんやな。」
食事が過ぎ、二人のいつもの時間が流れる。
ダニーはギターでクラプトンのティアーズ・イン・ヘヴンを奏で、
アランはベランダで葉巻を吸っていた。
「そろそろ、俺、シャワーしたい。」「ああ、そうしようか。」
二人で服を脱がしあい、シャワーブースに向かう。
ダニーのものは半ば反応して立ち上がりつつあった。
「大丈夫そうじゃないか?」「見んといて。恥ずかしい。」
ダニーが顔を紅くした。「こっからが茨の道やねん。」
二人、身体を洗い合うのもそこそこにベッドに向かった。
今日もラベンダーのアロマキャンドルが揺れている。
「リラックスして横になって。」ダニーが言うとおりにする。
「僕が先に入れようか?」「口で愛撫して。」
アランが布団をもぐり、ダニーの半立ちのペニスを口で奮い立たせる。
ダニーはすでに先走りの汁が出ている。「あぁアラン〜、俺イキそうや。」
アランが急いで、ローションを自分の後ろに塗りたくり、ダニーのペニスを押し当てた。
一気にダニーが挿入する。しかしすぐに萎えてしまった。
「やっぱり、俺、だめや。男の人生おしまいや。」
アランが嘆くダニーを胸に受け止め、「二人で解決しよう。そんなはずないから。」と慰めた。
ダニーとマーティンは一緒にアッパーイーストに帰って来た。
マーティンはもらったばかりのハリー・ポッターを大事そうに置き、
少し迷ったものの、古いほうをダニーに渡す。
「ダニー、これどうぞ。僕のと交換だよ」
「オレはええって」ダニーは興味がないので断ったが、無理やり受け取らされた。
仕方なくくしゃくしゃの本をブリーフケースにしまう。
こんな顔では恥ずかしくてディナーにも出かけられない。
二人はCSIを見ながらデリバリーのピザを食べた。
食後にアイスを食べながらだらだらしていると、部屋の電話が鳴った。
スチュワートは電話番号を知らない。マーティンは安心して電話に出た。
「マーティン、今日顔を腫らして出勤したそうだな」
うわっ父さんだ!表情が自然と強張る。
「父さん、どうしてそれを?ボスから聞いたんですか?」
ダニーは凍りついたように固まっている。
「いや、さっきジャックには確認を取った。どういうことなんだ?」
「少し行き違いがありまして、僕が先に手を出したんです。
テイラー捜査官は止めようとしてくれただけなんです。彼には悪いことをしました」
「お前が?それは本当だろうな?」
「嘘ついてどうするんです?むしゃくしゃして酔った拍子に殴ってしまいました」
「それならいいが、つまらん諍いを起こすな。経歴に傷が付いたらどうするんだ」
「はい、申し訳ありません。以後気をつけます」
「来週そっちに行く。週末は空けておきなさい。」
父は返事も聞かずに切ってしまった。マーティンは嫌そうにため息をついた。
「ボスが副長官に連絡したんか?」ダニーが心配そうに聞いた。
「いや、ボスじゃなかった。誰だろう?」
「わからん。ごめんな、お前が手出したことになってしもて。庇うてくれてありがとう」
「いいんだ、ダニーが飛ばされたりしたら困るもん。それより来週来るってさ」
「マジで?息子がどつかれたら許さへんやろなぁ、親父さん」
ダニーはマーティンが副長官の一人息子だということを再認識した。
マーティンはボスに電話した。
「マーティン、掛けてくると思ってた。ヴィクターにこってり絞られたか?」
「ええ、まあ。いつも申し訳ありません」
「ヴィクターの親バカにはもう慣れっこだ。あいつ、かなり憤慨してたぞ。
それと、バン・ドーレンには気をつけろ。DC行きを狙ってるからな、要注意だ!」
「はい、わかりました」
「ダニーにも言っておけ。くれぐれもいちゃつくなとな」
「はい、伝えます。失礼します」マーティンは電話を切ると、内容を伝えた。
「あのおばはん!油断も隙もないな!」ダニーは拳を握り締めた。
「今度から気をつけないとね。それにしても密告なんてフェアじゃない!」
マーティンは心底嫌そうな表情を浮かべた。
「父さんもバカだよね、子供のケンカじゃないんだからさ」
「親父さんにとってはいつまでも子供なんやろ。あの子って呼ぶぐらいやし」
「馬鹿げてるよ」マーティンは吐き捨てた。
「もう忘れよう、風呂の湯溜めてくるわ」ダニーはいたたまれなくなりその場を離れた。
ダニーはマーティンのパジャマを借りた。相変わらずヘンな柄だ。
「もっと普通の買えや、こんなん着るのいやや」
「いいんだよ。ファンタスティック4知らないの?」
「知ってるけど、この年でこれて・・・恥ずかしいやん」
「じゃあさ、他のを着れば?」マーティンはクローゼットを物色した。
「どれも似たり寄ったりや。これでええわ」
ダニーはベッドに飛びこんだ。マーティンに手招きする。
マーティンは遠慮がちにベッドに入った。
スチュワートと浮気したことを黙っている僕だってフェアじゃない。
マーティンは言おうかどうか迷っていた。
「どうしたん?」ダニーが声を掛けた。
「ううん、なんでもない・・おやすみ」
このままじゃダニーの目を真っ直ぐに見られない。
マーティンの心は揺れていた。
「ダニー、僕は・・その・・スチュワートと寝た」突然マーティンが告白した。
ダニーは何も言わない。
マーティンが振り返るとすでに眠っていた。
なんだよ、ダニー・・・マーティンは拍子抜けして背中を向けた。
ダニーは寝た振りをしていたが、ショックでいっぱいだった。
マーティンがオレを裏切るやなんて・・・ダニーは呆然としていた。
921 :
fanですw:2005/11/20(日) 03:01:26
書き手1さんのダニーの状態も不穏なら
書き手2さんのマーティンの浮気告白もショック。
どうして、二人は幸せになれないんでしょうか。
でも、その方が面白いんですけどね。
スチュワートもケンもキャラが立ってきて面白いです。
この続きも、どうかがんばってください。
ダニーの苦悩の日々が始まった。思い起こせば、ケンと3Pした時も
アラン、マーティンと出来た時も、受身だった。俺って一生女かよ!
半ば捨て鉢になり、仕事にも身が入らない。「ダニー!」
「ダニー!ボスが呼んでいるわよ。」
サマンサが声をかけてくれたお陰で、ダニーは顔を上げた。
「はい、今行きますわ。」ボスの部屋に入る。
「お前、ぼーっとしてるが何だ。この間のDC行きを断ったのを後悔しているのか?」
「いえ、そんな事ないっす。」「また副長官がNYに出張してくる。君と面談したいとのことだ。」
「何故です?」「さあな、自分で副長官に聞け。来週月曜日だ。いい服着て来いよ。」
「了解っす。」ふぅ〜、一難去ってまた一難や。俺の人生に安息はないんかな。
ダニーの携帯が鳴る。ケンだった。「ダニー、こんばんは〜。元気?」
「ああ、お前のお陰で元気百倍や、何の用やねん?」不機嫌そうに答える。
「この間のディナー、明日どうかなと思ってさ。」
「マーティンと一緒って奴か。」
「彼、すごい可愛いよね。僕、タイプかも。」
「お前にタイプも何もあるもんか。」
「とにかくセッティングしてね。待ってるよ。明日20時ね。」
一方的に切りやがって!
「ダニー、僕の名前呼んだ?」マーティンが寄って来た。
「あぁ、ケンが明日ディナーしたいって。」「僕はいいよ。楽しみだ。」
「お前、何食いたい?」
「何でも大丈夫。ダニーの方が選ぶの大変でしょ。ダニーが考えればいいじゃない。」
そう言うと、マーティンは、すたすたと帰宅してしまった。
ブルックリンの家に戻るとアランが来ていた。
「今日は良いものを持ってきたよ。」
ダニーに青いひし形の錠剤のシートを渡す。
「これ何?」「ヴァイアグラ。」「こんなん、俺必要?」
「とりあえず化学的アプローチで反応を試そうと思ってね。」
「分かった、アランの言うとおりにするよ。」
「それもそうだが、腹減らないか?」「ペコペコ。」
「じゃあチャイナタウンに行こう。」
アランはダニーを「27サンライズ」に連れて行った。
大型の水槽で泳ぐハタを選び蒸し物にしてもらう他、ホタテ貝のガーリックソース、
シャコの揚げ物、フカひれシューマイ、炒飯を頼む。
チンタオビールで乾杯だ。巨大なシャコを見てひるむダニー。
「大きなシュリンプの一種だと思えばいい。香ばしくて美味しいぞ。」
「う、うん。」一口、こわごわ口に入れる。「わ、美味しい。」
「そうだろう!」アランに任せておけば安心だ。
二人で胃が膨れるほど食べた。「さぁ家に帰ろうか。」
「どっちの家?」「ダニーの方がいいだろう。リラックス出来るだろうから。」
「うん。」アランのボルボを地下駐車場に停める。「今日、泊まる?」
「ああ、出来たら。それでいいかい?」「うん。泊まって欲しい。」
二人で手をつないで部屋に戻る。
「シャワーしていいかい?料理の匂いが身体に染み付いた。」
「もちろん。」「一緒に入るか?」「今日はやめとく。」「じゃあ、お先に。」
アランは相思相愛になってから、決して無理強いしない保護者になっていた。
昔のパシュミナを使った緊縛プレイがウソのようだ。
ダニーはクラブソーダを飲みながら、ウクレレを弾いていた。
「ダニー、どうぞ。」アランが頭から湯気を上げて出てきた。
白い身体が上気でほてって色っぽい。ダニーの下半身は反応を始めた。
何やねん、俺のちんちん!肝心な時に役立たず!自分を呪いながら、
バスでシャワーを浴びる。今元気でもアランの身体の中じゃどうせ、
うなだれるんやろ、お前。自分の息子に声をかける。
シャワーから出ると、アランはワインを開けていた。
「すまない。飲んでるよ。」「俺も。」「そろそろあれ、飲んでみるかい?」
「えっ?」「服用後30分で効き目が出てくるんだよ。」「そうなん?」
ダニーはクラブソーダでヴァイアグラを飲んでみた。無味乾燥な味だ。
「後はリラックスして。」「深呼吸でもやろうかな。」「柔軟体操もいいぞ。」
「アラン、ふざけんといて。俺真剣なんやから。」
「分かってるさ。僕たちは運命共同体なんだからね。」アランも真顔で答えた。
「ねえ、俺が治らなくても、一緒にいてくれる?」ダニーがおずおずと尋ねる。
「もちろんさ。僕らを身体だけの関係だと誤解していないか?僕は君と恋に落ちてるんだ。」
「ありがとう、アラン。」ダニーの目に涙が浮かんだ。
「そろそろ、ベッドに行こうか。」「うん。手握って。」
「ああ。」二人、手をつないでベッドまで来た。
「さぁリラックスだよ、ダニー。」「うん。」
ダニーがまた手を伸ばしてくる。
二人して仰向けに天井を見ながら、手をつないでいた。
「アラン、来たで。」「そうか。試すか。」「うん。」
アランはベッドサイドにおいてあるミントのローションを自分の後ろに塗り、
ダニーの屹立したペニスにも塗りたくった。
「じゃあ、ゆっくりとな。」「はい。」「うぅ〜。」
ダニーは挿入を終えた。まだ力が衰えない。「アラン、行けそうや。」
「そうか。動いてみてごらん。」
ダニーがアランの腰に手をかけ、前後に腰を動かした。
力が中からみなぎって来る感じがする。「すごいやん!」
「ああ〜、ダニー、僕がイキそうだよ。」
「待って、俺先に行くから。」ダニーは腰の動きを加速した。
グラインドと前後動を繰り返す。「あぁあ〜!」まだダニーはイカない。
すぐさまアランの前に回ると、口でアランのものを咥える。
「うぅ、はぁはぁ、あっ!」
アランはダニーの口の中に精をありったけ打ち込んだ。
ダニーもアランも息絶え絶えだ。
「俺まだ、イケそう。」「じゃあ、僕の中にもう一度おいで。」
「アラン、ええの?」「ああ、君のためなら。」
ダニーはアランをうつ伏せにして腰を立たせ、中に一気に押し入った。
「あぅ、ダニー、痛いよ。」「ゴメン、でも俺、我慢できないんや。」
ダニーはアランの腰を押さえ、思いの様自分の腰を打ちつけた。
「あぁ〜、イクで〜!」ダニーはアランの中に精をぶちまけた。
アランの局部から出血している。「アラン、ごめん。血が出てる。」
「ああ、分かってる。手当てしてくるよ。」「ほんま、ごめん。」
どうすればいいんや。薬なしじゃイケへんし、薬があると暴走する。
俺のちんちんに脳みそがあれば、いい知恵出してくれるやろか。
ダニーはベッドの中で自己嫌悪に陥っていた。
ダニーは眠れない夜を過ごし、早朝ブルックリンに帰った。
マーティンの告白に打ちひしがれ、何もする気がしない。
この後、どんな顔してあいつに会うたらええんや。
あいつ、オレが聞いてへんって思てるから・・・。
ダニーは支局に行くのが嫌になった。
休んだら怪しまれるし、やっぱ行くしかないか・・・嫌々ながら身支度を始めた。
ダニーが支局に着くと、すでにマーティンが来ていた。
「ダニー、おはよう」マーティンのおどおどした態度が癇に障る。
「ああ、おはよう。早いな」ダニーは努めていつもと同じように振舞った。
午前中は事件もなく、書類仕事に追われた。
ダニーは書類など目に入らず、上の空のまま時間が過ぎた。
昼休み、ダニーはスチュワートのクリニックに電話した。
「テイラーと申しますが、ドクター・バートンをお願いします」
「ただいま席を外しておりまして・・あっドクター・バートンお電話です」
「今急いでるんだ、聞いといてくれ。それよりオレのカフス知らないか?」
「カフスなんて知りませんよ。テイラーさんからですけど」
受付が保留を押さないので向こうの会話が筒抜けだ。
カフスやて、トロイらしいわ!忌々しく舌打ちしているとスチュワートが出た。
「テイラー捜査官、その節はどうも」
「いえ、こちらこそ。突然お電話差し上げて申し訳ないっすね」
「今からシンポジウムに出ないといけないんですよ。
遅刻すれすれで急いでまして、お話は後でもよろしいですか?」
「ええ、構いません」
「それじゃ受付に番号を伝えておいてください。戻り次第掛けなおしますから」
「おい、後を頼む。くそっ、遅刻だ!」スチュワートはダニーの返事も聞かず電話を代わった。
ダニーは電話を切った後、笑い転げていた。
あのどつかれたん丸出しの顔でシンポジウムやて!
それも遅刻て!トロイ、思いっきり恥かくやろなぁ。笑いが止まらない。
午後からも時折思い出し笑いしながら、ダニーは書類に向かっていた。
マーティンやサマンサが訝しげに見るが、ダニーの思い出し笑いは止まらなかった。
勤務が終わり、地下鉄の駅へ歩いていると携帯が鳴った。
「はい、テイラー」
「バートンです。先ほどは失礼しました」
「こちらこそ、お急ぎのところお邪魔しまして」
「それで、ご用件は何でしょうか?」
「一度お会いしたいと思いまして、ご都合はどうでしょう?」
「テイラー捜査官さえよければ、今夜でもいいですよ」
「それじゃ、18時にフルートでどうです?」
「いいですよ、では後ほど」二人は待ち合わせの約束をした。
スチュワートはマーティンの携帯に電話した。
「オレだ。今からテイラー捜査官と会わなきゃならない」
「えっ!」マーティンは息を呑んだ。
「オレたちのことを知っているのか確認しとかないといけないだろ?
君が話してないのに口を滑らせるわけにはいかない。で、どっちだ?」
「僕は昨日話したんだけど、ダニーは眠ってたみたいなんだ」
「寝たふりしてたんじゃないのか?でないとオレに会いに来ないだろ」
「そうだよね・・・」マーティンは疎い自分が情けなくなった。
「じゃあバレてる前提でいいんだな?」
「うん、いいよ。僕も、もう一度話そうと思ってたし」
「そっか、わかった。そうだ、今日、予防医学のシンポジウムがあってさ、
オレこんな顔だから誰も話しかけてこないんだぜ、パネリストなのに」
スチュワートはククッと笑った。マーティンもつられて吹き出す。
「とにかく後で連絡するよ。それじゃ」
マーティンは電話を切った後もデスクから動けずにいた。
ボスは帰ろうとしてマーティンに気づいた。
「マーティン、ちょっと来い」
ボスはオフィスにマーティンを呼び、ドアを閉めた。
「どうしたんだ、もうヴィクターの毒気にやられたのか?」
「いえ、違います。そういえば、父が来るんでしたっけ・・・」
「お前大丈夫か?ヴィクターの来訪を忘れるなんて!」
「ボス・・・僕、ダニーを裏切りました」
「ああ、この前のでかい医者だろ?」
「ええ、今その二人が僕のことで会ってる・・・」
「ダニーは勘が鋭いな。ヤツは鼻が利く」
「そうじゃなくて、僕が自分で話したんだ」
「あ?なんでそんなことをするんだ。バレるまで黙ってりゃいいものを・・・」
ボスはやれやれと首を振った。
「フェアじゃないと思ったから・・・」
「フェア?そんな理由で話したのか!」ボスは呆れて言葉に詰まった。
「お前は気づいてないようだが残酷だな。それは自己満足でしかない」
「僕が・・残酷?」
「マーティン、もう少し相手の気持ちも考えてみろ」
「はい・・・」自己満足と言われ、自分の言動を胸の中で反復していた。
ボスはぼんやりしたマーティンを促し、オフィスから出た。
そのまま車に乗せると、アパートまで送ってくれた。
ダニーは先にフルートに着き、カウンターで辛口のスプマンテを飲みながら待っていた。
スチュワートはなかなか来ない。ダニーはいらつきながらグラスを傾けた。
携帯が鳴っている。「はい、テイラー」
「バートンですが、何か事件が入ったので?」
「はぁ?フルートで待ってますけど?」
「おかしいなぁ。オレもカウンターで待ってるんだけど」
「ミッドタウンのフルートですよ?」
「え?オレはグラマシーのフルートに・・・。それじゃ、すぐ行きますから待っててください」
トロイ、ええ加減にせえよ!ダニーはますますムカついた。
しばらく待っていると、グッチのスーツに身を包んだスチュワートが現れた。
照れくさそうに手を挙げている。けっ、相変わらず派手なヤツや。
「申し訳ない、いつもグラマシーのほうへ行くので。ん?今日はアルコールが必要な話ってわけだ」
スチュワートはダニーのグラスを見てニヤッとした。同じものをオーダーする。
「さすがに素面ではきついんでね、この前の答えを聞かせてください」
「答え?質問は何でしたっけ?」
「寝たかどうかですよ。お忘れで?」
「ああ、そうでしたね、寝ましたよ」淡々と言うスチュワート。
ダニーはスチュワートがあっさり認めたので、少々拍子抜けした。
「あいつから誘ったとか?」
「いや、オレが強引に。しくしく泣いてましたよ、彼。それがまたかわいくてね」
クスクス笑うスチュワートにダニーは怒りを覚え、殴りたい衝動に駆られた。
「真剣に付き合う気はあるんですか?」
「いいや、それはない。オレにとってはセックスは遊びだからね」
「マーティンも遊びってことか!」ダニーは声を荒げた。他の客が一斉に見つめる。
「落ち着けよ、テイラー捜査官。遊びじゃなきゃ困るのは君のほうだぜ?」
「・・・・・・」
「それともオレに譲る?譲るまでもなくオレなら手に入れるのは容易い。そう思わないか?」
「お前なんかに渡すもんか!あいつはオレのもんや!」
ダニーはスチュワートを睨みつけた。
「まあ、そういうこと。再認識できてよかったじゃないか」スチュワートはニヤッとした。
「二度とあいつには会うな!」
「それは約束できないな。だが、心配する必要はないさ」
「お前なんか信用できるかっ」
「それは君の自由さ。オレは相手が嫌がることはしない主義だ。
マーティンが望まないなら手は出さない」
スチュワートはスプマンテを飲み、ウインクした。
「それじゃ、オレはこれで」素早くダニーの分までチェックを済ませ、出て行った。
残されたダニーは、悔しさのあまり酒を飲み続けた。
スチュワートはダニーと別れるとマーティンのアパートへ行った。
グッチのスーツに痛々しい顔が不似合いだ。
マーティンは一目見るなり、ショックで息を呑んだ。
「そんな顔するなって。心配ない、もう話はついたから」
「うん・・・ダニーは?」
「この前の君と同様、気持ちの整理をつけてるんじゃないかな」
「そう。それにしてもひどい顔してるね、スチュワート」
「バーカ、これでシンポジウムに出たんだぜ。ご褒美にキスしてくれよ」
スチュワートは屈んで目を閉じた。マーティンは何もしない。
「ん?ほっぺでいいよ」おずおずとキスされ、スチュワートはニヤリとした。
「確認しておきたいんだが、オレたちのセックスは遊びだよな?」
「うん。成り行きというか、その・・・恋愛感情はないんだ」
「テイラー捜査官と約束したんだが、君が望まない限りオレは手を出さない。
もちろん君が望めばいつでも抱いてやる。それでいいか?」
「もちろんいいよ。そんなの起こりっこないもの」
真面目に答えるマーティンに、スチュワートは苦笑した。
「そんなに自信たっぷりに言われると約束なんか反故にしたくなる」
言いながら両手で顔を押さえると、舌をねじ込んだ。
「スチュワート!」
「さっきは彼に嘘をついた。本当は君のことが気になって仕方ない」
グリーンの目が真剣にマーティンを見つめている。
「ダメダメ、また僕をからかうつもりでしょ。その手には乗らないよ」
マーティンはケタケタ笑って離れた。
ボスは電話の音で目が覚めた。深夜の二時過ぎだ。
「はい・・・マローン」
「マローン捜査官?ニューヨーク市警のビショップです」
「ああ、この前はどうも。失踪事件ですか?」
「いえ、そちらのテイラー捜査官をさきほど保護しましてね、
ひどく酔ってて何を言っているのやら・・・」
「場所はどこですか、私が引き取ります」
「ミッドタウンのリーガロイヤルの前です」
「わかりました、すぐに伺います」
ボスはさっと着替えると、現場へ向かった。
ダニーはパトカーに乗せられ、一人でぶつくさ言っている。
ボスはこの件を内密にしてくれるようビショップに頼み、引き取った。
「ダニー、私だ。わかるか?」
「ボス・・・なんでこんなとこに?あれっ、オレの酒は?」
「しっかりしろ!水でも飲め」ボスはペットボトルを渡した。
「水より酒、酒や、酒くれー」ダニーは水を後部座席に投げ、わめいた。
ボスは仕方なく自分の家にダニーを連れて帰った。
ダニーはボスの家に着くなりトイレに駆け込み、しこたま吐いた。
「全部吐き出せ、楽になる」ボスは背中をさすってやった。
胃の中が空になり、うがいをすると今度は怒り始めた。
「くっそー、トロイのヤツ!許されへん!」
「よしよし、わかったわかった」
ボスはベッドに横向きに寝かせ、そばに寄り添った。
「くさっ!このベッド、めちゃめちゃおっさん臭い!なんでやねん!」
ダニーにからまれ、ボスは仏頂面になった。
ボスは娘のベッドに連れて行き、ダニーを寝かせた。
「今夜はここで寝ろ、いいな!」
ダニーは服を脱ぎ捨て、トランクス一枚でベッドに入った。
「おい、何か着ろよ。ダニー」
ボスはあからさまに嫌な表情を浮かべるが、酔っ払いには通用しない。
「う〜ん、ええ匂いやー」ダニーは夢見心地で眠りについた。
ボスは自分のベッドに戻り、再び目を閉じた。
ダニーもマーティンも、まったくなんて世話の焼ける部下だろう。
おまけにくそったれの高慢ちきが来週やって来る。
そうだ、ニューヨーク市警のビショップに礼を言わねばならない。
ボスは忘れないうちにメモに書いた。
・ジップロック・ミミズ・NYPDお礼の電話
なんだこりゃ・・・ボスは苦笑するとメモを置いた。
中途半端な眠りのまま、ボスは目を覚ました。
ダニーの様子を見に行くと、軽くいびきをかきながら眠りこけている。
顔の痣は少し薄くなったが、それでもまだ痛々しい。
マーティンじゃなく、トロイってヤツとやり合ったんだな。
あの医者は確かバートンだったはずだが・・・まだ他にいるのか?
ボスは布団を掛けなおそうとして、ダニーのトランクスのテントに気づいた。
見事に勃起しやがって!ボスは思わず手を伸ばした。
ダニーは何をされても目を覚ます気配がない。
ボスは調子に乗ってローションを塗ると、軽く指を入れてみた。
括約筋の微かな抵抗をほぐし、徐々に慣らしていく。
ペニスの先はトロトロに濡れ、隠微な艶を放っている。
「うぅん」ダニーの甘い吐息が漏れ、ボスはたまらず自分のペニスを押し当てた。
ゆっくり挿入し、締めつけを存分に味わう。
ダニーはまだ目を覚まさない。
ボスは少しずつ出し入れを繰り返した。
挿入されるたびにダニーの息が荒くなる。ペニスはもうはちきれそうだ。
時計を見るとそろそろ支度をしなければならない時間だ。
ボスは遠慮なく突き上げた。ダニーがようやく目を覚ますがお構いなしだ。
「ボ、ボス!あぅっ・・・あぁっやっやめて」ダニーは精液をぶちまけた。
ボスは肩に手を置くと、一層激しく腰を振った。
「あぁっ、ダニーいいぞ、もっと締めろ・・・うっっっ」
苦しそうな表情を浮かべ、ボスは中に射精した。そのままダニーの上に覆いかぶさる。
リトルタイクスのベッド?なんでこんなとこに?オレ何してるんやろ?ダニーは状況を把握できずにいた。
ようやくボスが離れた。「ダニー、よかったぞ。シャワーを浴びよう」
「ボス、オレ頭痛い。すごいズキズキする」
「当たり前だ。酔いつぶれてNYPDに保護されたんだからな」
「NYPDに?あかん、全然覚えてへんわ」
「またアル中に逆戻りしないようにな。ほら、薬だ」ボスはアスピリンと水を渡した。
「タイレノールのほうがいいんすけど・・・・」
「しょうがないやつだ、アスピリンのほうが効くのに」
ダニーは渡されたタイレノールを飲み下し、シャワーを浴びた。
ボスはエスプレッソ、ダニーはオレンジジュースを飲み一緒に出た。
着替える時間はないので、夕べの服のままだ。アルコールの匂いもする。
「マーティンに服を持ってきてもらうか?こっちまで酔いそうだ」
「そんなん嫌や」ダニーは頑なに拒んだ。
いつのまにか車は支局の地下駐車場に入り、今日もまた勤務が始まった。
ダニーがオフィスに行くと、気づいたマーティンが目をそらした。
「ダニー、お泊りデート?それにしては酒臭い」サマンサが手で扇いだ。
「そんなええもんと違うがな」ダニーは自分の席についた。
PCにマーティンが映っている。あいつ、オレがまた浮気したって思てるわ。
落胆の表情からダニーは悟った。トイレに行くとマーティンがついてきた。
個室を覗き、誰もいないか確かめるとダニーは話しかけた。
「おはよう。話したいことがあるんやけど、今夜いけるか?」
「ダニー・・・」
「あっ、昨日はボスと一緒やったんや。ほんまやで」ダニーは慌てて弁明した。
「本当に?」マーティンはじっとダニーを見た。
「とにかく話し合いたい。トロイのことも」
スチュワートのことを言われ、マーティンはうつむいた。
「わかったよ、今夜だね」
「オレ、怒ってへんから!」ダニーはマーティンの髪をくしゃっとすると、先にトイレから出た。