雪月澄乃だよ〜あんまんおいしいよ〜

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227出雲彼方
>>217-218の続きだ。
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「っくしゅん」

 盛り上がってきたところで澄乃のクシャミが水を差した。

「…あ、わりいな」

 浴衣をはだけさせたままで扇風機の風に
当ててしまっていた。元通りに閉じた上から両手で包んでやる。

「これで、寒くないな?」

 澄乃がせっかくさっぱりしたのに
また汗をかかせることもない。
俺も連日の脚本変更と撮り直しで疲れがたまっている。
今日はこのまま帰そうと思っていると
俺の腕の中で澄乃が体を入れ替えた。

「お仕事、延びてるんだよね」

「延びまくり。広報では9月には終わるとか言っちゃったけど、
本当にいつ終わるかなんて見当つかない……」

 返事を聞いた澄乃の顔が少し明るくなる。

「彼方さん、お仕事終わらないのいや?」

「そりゃ仕事は終わるにこした……」

「…終わらないのイヤ?」
228出雲彼方:2001/07/24(火) 15:07 ID:FeRo7NUw

 俺の「終わる」という言葉を
かき消したいかのように聞き返してくる。
息がかかるほどの距離から、澄乃の目は
言葉以上のことを訪ねている。

……撮影が終わったら、俺は龍神村から出ていく。
ほんの一月あまり前まで、澄乃は純粋な龍神村の住人だった。
恋愛や性愛についての知識は教科書程度だったが、
数年もすれば村の誰かと見合いをして
そのまま夫婦になって一生を送るはずだった。
そんな澄乃に、俺は最初の男としていろんな事を教えてやった。
……教えてしまった。

 都会には男と女が無数に存在する。
俺と誰かが別れても誰も気にとめない。
知らない他人が知らない他人とくっつこうが別れようが、
そんなことは興味を持つに値しないからだ。

 龍神村ではそうはいかない。
人の出入りのないこの村では、誰かが生まれてから
死ぬまでのことは村のみんなに知られ尽くしている。
そして村の中の人間関係が世界の全てだ。
人はこの村に生まれ、この村で誰かと結ばれ、この村で死んでいく。

 だからこの村で人と結ばれるのは
都会とは比べられないほど重い……。
その重さに、俺は耐えられるのだろうか。

 澄乃と俺がこういう関係にあることは、
おそらく村中にもう知られているだろう。
そんな村にもし澄乃だけを残したらどうなるのか……。

今すぐ答えを出すには、澄乃に会うまでの俺の人生は
あまりにも薄っぺらだった。

「……今のところは、嫌じゃない」

 仕事は少なくともあと一月は終わらない。
それまでは答えを保留しておける。
いつか必ず答えなければいけないのはわかっていても、
それは今一時の安心の理由にはなった。

「ずっと嫌じゃなくて欲しいんだよ……」

 澄乃は誓いを求めるように真っ直ぐに俺の目をのぞき込む。
俺は自分が卑怯に思えてその目に耐えられなかった。

「目、閉じろよ……」

 キスされると思ったのだろう。背中に手を回してきた。
なりゆきで舌を差し込むと、いつもより強く絡めてくる。
澄乃が俺の唾液を啜る音が、扇風機の風にのって部屋に広がった。
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