今なら、今なら
私は匣に手を掛ける。
匣の中には
「何をする!」
美馬坂が気づいた。
「止せ!関口!」
京極堂が恫喝した。
「君なんかが覗くには百年早い!君も雨宮や久保のように“向こう側”に
行きたいのか!」
向こう側――そこには幸せが
「君がそのつもりなら僕はいいがね。どうも葱板にいる連中は皆それを
望んでいるようだ。いいか、それは幻想だ。開けてはならぬものなのだ!」
私は全身の力が抜けて、その場にくたくたとへたり込んだ。
丁度、流行が去った後の葉鍵板住人のように。
「き、京極堂、も、萌えとは、いったい何だ」
「萌えとはな関口。“境界”だ。軽はずみに近寄ると向こう側へ
引き摺り込まれるぞ」
「ぼ、僕は」
知らず知らずのうちに、久保と同じ妹属性になっていたのだ。
他人の妹を覗くうちに。その秘密を知る度に。