ねがぽじ買う為に走ったら

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454「アイシテル」の続き

 「・・・ふぅ」
 一人になってから、3度めのため息。
 居慣れない小部屋の中、中央に置かれた椅子に腰掛け、30分ほどの時間が過ぎている。
 部屋の外の喧騒とは裏腹に、此処だけ時が切り取られたかのような静寂の中、
私は自分の手元に目をやる。何度も、見飽きるほど見つめていたはずなのに、
そんなことは忘れてしまったかのように、白い手袋に覆われた指先をまた見つめる。
 しばらく手先を見つめてから、その手を挙げ、耳元へと持っていく。かさり。
シルク同士が触れ合う音を立て、オーガンジーの手触りが、グローブ越しに指先へと伝わる。
 「・・・・・・・・・」
 中途半端に手を持ち上げたポーズのまま、思考が停止する。一瞬後、思考停止状態の
自分に気づき、どうしようもない気恥ずかしさに襲われる。慌てて手を下ろし、
視線を俯かせる。その視界に飛び込んでくるのは、やはり白。日常生活では決して
着ることのない、非現実的なほどに豪華なボリュームのスカートが、つま先のさらに
先までを覆いつくしている。数瞬後、精細に織り込まれたレース模様に再び思考を
吸い込まれていたことに気づいて、さらに頬が紅くなる。

 ―――落ち着かない。
 あまりの落ち着かなさぶりに、自分の思考や行動を他人事のように分析していないと
どうにかなってしまいそうなほどだ。実際、ここまでの間、大人しく椅子に座っている
自分が信じられない。今にも大声で叫び出しながら、そこら中を跳ね回りたい衝動に
駆られ続けているのだ。

 「・・・ふぅ」
 4度めのため息の後、ゆっくりと椅子から立ち上がり、部屋に備え付けの姿見の前に立つ。
 頭の上から足の先まで、純白を纏った女が目の前に居る。
 柔らかく頭上から流れるベール。胸元を飾るビスチェ。幻想的なAラインを描くスカート。

 ―――ウェディングドレス―――

 私は、鏡の中の自分に向かって、今朝から何度も、それこそ呪文のように繰り返し
続けてきた問いを口にする。そうすることで、少しでも落ち着こうとするために――。

 「あなたは、誰?」
 ――― 桜庭 香澄。

 「ここは、何処?」
 ――― 教会。
 
 「今日は、何の日?」
 ――― 私と、あのコの、結婚式 ―――
455「アイシテル」の続き・2:02/02/22 08:13 ID:KonSmcE5
 ・・・・・・またも跳ばしていた意識を手繰り寄せ、その気恥ずかしさを誤魔化す
ように呟く。
 「・・・遅い」
 30分ほど前にドレス姿の私を見て、ありとあらゆる賛辞を、目に涙すら
浮かべながら私にぶつけてきたあのコ――広場まひる――は、
 「じゃあ、あたしも着替えてくるね」
 と、自分の控室へと向かっていった。「負けるもんかっ」などという、
意味不明に気合の入った一言を残して。
 再び椅子に腰掛けながら、妙に興奮しながら部屋を出て行ったあのコの
後姿を思い出しつつ、衣装合わせの時に見た、あのコのタキシード姿を
回想する。似合ってるかな?と照れ笑いを浮かべた新郎、おそらく「新郎」と
いう呼称が世界一似合わないであろう、私の世界一大切なあのコの笑顔を
思い出していると、あのコと過ごして来たこれまでの日々が次々と脳裏をよぎる。
 やがて私の回想は、あの日へと辿り着く。もう一年あまりも昔、冬の寒かった
日の病院。二人きりの病室。初めて、アイシテル、を伝えた日―――。

 ずっと秘めつづけてきた自分の気持ちを初めて外に出した時、私は唐突に
私のそれまでのあのコに対する行動が間違っていたことに気づいた。
 私がどうしようもなく好きで、好きで好きで仕方のないのは、底抜けに
明るくて、どうしようもなくお人好しで、非常識としか言いようのない行動
で人に迷惑をかけても、その名の通り、太陽のような笑顔で全てチャラに
してしまうような、そんな、そんな眩し過ぎる存在そのもの、だったんだと。
 性別とか常識とか、今にして思えば瑣末としか言い様の無いことで、
あのコを縛り付け、「社会」という名の檻に閉じ込めてしまおうとした私は、
なんと愚かだったんだろう。
 あるいは、それまでずっと「女の子が好き」という反社会的かつ反生物的な
自分の想いにある種の恐れを抱き、その想いに必死に蓋をしようとしていた
処に、奇跡的な救い――彼女は男だった――を提示され、思わずそれに縋り付いて
しまった故に起きた、今度は別の恐れ――一度ははみ出しかけた「社会」から
もう外れたくない――などという強迫観念が、私に芽生えてしまったのだろうか。
 ともかく私は、躍起になってあのコを檻に閉じ込めようとした。してしまった。
その事がどれほどあのコを追い詰めていたのか、どれほど「かけがえのないもの」
を壊してしまう行為だったのか、などという事には、気づきもしないで―――。

 ――ともかく。
 自らの「過ち」に気づく事が出来た私の、その後の思考に迷いは無かった。
 
 私は、今、このままのあのコが好き。
 あのコは、今まで通りの暮らしを望んでいる。
 
 ならば。
 この「世界」を変えよう。世界の縮図といえる、この「学園」が、あのコを
排除しようとするのなら、私はそれら全てに立ち向かい、勝利しよう。
 あのコの笑顔を、護るため――。
456「アイシテル」の続き・3:02/02/22 08:17 ID:k1ZopXE8
 それから一年。様々な悪意や排斥の危機に曝されることもあったけど、結局私は
最後まであのコを護り通した。そりゃあ、正直、言葉では言い表せないほどの苦労
もあったんだけど、終わってみれば、そんなことはどうでも良くなった。
 春、というにはまだ肌寒い3月。卒業式の日にあのコが言ってくれた。

 「ありがとう」と。
 「香澄のおかげで、楽しかったよ」と。
 「本当に、ありがとう」と。

 最後の方は、涙声だった。言い終わると同時に、声をあげて泣き出した。
 私も、泣いた。二人で抱き合って、辺りを憚らずに泣いた。
 感情の爆発。もう離さないという強い、強い想い。思わず口をついて出た言葉――

 ――― 結婚、して ―――

 ――呆気に取られる、という見本のような顔で、あのコが見つめている。
 言った私自身も、一瞬呆然としてしまった。が、もう一秒足りとも隠し続けられ
なかった想いだったし、口走ったことに対する迷いもなかった。
 その後はもう、「押し」の一手だった。三日三晩かけて本人の同意を得ると、
(後にあのコは「OKしなきゃ死んでたよ〜」と涙を浮かべて抗議してた)
両親の説得、結納の段取り、式場の手配等、必要な手順を最速でこなして、6月吉日
の今日、めでたく式の実現へと扱ぎ付けたわけだ。
 最初のうち、あまり結婚に乗り気でなく、私を不安にさせたあのコも、
 「ジューンブライドだね♪」
 などと、今ではすっかりノリノリになってくれている。もうなにも不安は無い。
心は快晴、ゴールはすぐ目の前だ。

 それにしても。
 「・・・遅い」
 たかが着替えに、何時までかかっているのか。
 「ほんと、トロいんだから――」
 ドレスを着た後は、なるべく動かないように、と言われて大人しく座っていた
ものの、そろそろ我慢の限界に差し掛かってきた。向こうの控室を覗きに行こうか、
と立ち上がりかけた瞬間――。

 コン コン ――

 ドアがノックされた。
457「アイシテル」の続き・4:02/02/22 08:18 ID:5sGoaxz4
 はい、と声をかける間も無く、
 ガチャリ――
 ドアが開けられる。入ってきたのは―
 「やっほー♪」
 美奈萌だった。
 「・・・・・・・・・」
 反射的に睨みつける。
 「・・・何やってんの?」
 視線に応えることなく、美奈萌が問い掛けてくる。私は立つでもなく、座るでも
ないハンパに腰を浮かせた姿勢のまま、突然開けられたドアの方を睨んでいた。
 「・・・別に」
 仕方なしに、腰をおろす。
 「なによー、あのコじゃなかったからって、そんな怒らなくてもいいでしょ?」
 ワインレッドのオフショルダードレス。ついこの間まで学生やってたわりに、
なかなかサマになってる。
 「別に怒ってないわよ」
 「あら、そう?」
 軽くあしらう様に言われる。ちょっとムカつきつつ、口を開こうとする。が、
美奈萌の口が先に開かれる。
 「心配しなくても、もうドアの向こうまで来てるわよ。すっごくカワイイわよー」
 美奈萌がサラリと口走った重要なキーワードに気づくこともなく、思わず視線を
美奈萌からドアの方へと移す。
 「へっへー、興奮しすぎて鼻血なんか噴いちゃダメよ?香澄?」
 もはや美奈萌の軽口も耳に入らない程、ドア向こうにあるはずの姿を凝視する私。
 「それではっ!広場まひる選手の入場ですっ!!」
 美奈萌がドアの向こうにある腕を引っ張る。
 「うわあっ!っとと」
 引っ張られ、よろめきながら、私の花婿が姿を見せる。
 
 そこには ―――
 「えへへー♪」
 その太陽のような笑顔を白く透き通るベールで包み
 「どう?似合うー?」
 清楚なボートネックのトップスの胸元に、銀のネックレスを輝かせ
 「このフリフリ、カワイイよねー♪」
 レースをふんだんにあしらった、プリンセスラインのスカートをヒラヒラさせながら
 「え、と・・・香澄?」
 
 ――― 最高に 可愛らしい 花嫁が いた。
458「アイシテル」の続き・5:02/02/22 08:20 ID:SvlqB0MU
 たっぷり1分ほど。
 私は無言のまま、純白に包まれたあのコの姿を凝視しつづけた。
 最初は無邪気にハシャいでいたあのコも、私の視線に気圧されるように、そのトーン
を下げていく。
 「え、と・・・」
 「・・・・・・・・・」
 「似合ってない、かな?」
 がっくり。見当違いの心配に、私の肩の力が一気に抜ける。
 「・・・似合う、似合わないで言うなら、最高に似合ってるわよ。本当に可愛い」
 取り敢えずは、問いかけに応えてみる。
 「なんだぁ、だったらそう言ってよー。なんにも言ってくれないから、どっか
  間違ってたのかと思っちゃったよ。良かったー」
 安堵のため息とともに、そんなことを言う。駄目だ、根本的に判ってない。
 私は大きく息を吸ってから、その一息で今の感情をぶつけようと口を開く。
 「良かった?良かったですってえ!?良いワケないでしょ!二人揃って花嫁衣裳
  着る結婚式がドコの世界にあるのよ!」
 「うわぁっ」
 私の突然の大声を受け、まひるがのけぞる。
 「大体アンタ、衣装あわせの時はちゃんとタキシードだったじゃない!」
 そう。あの時は、たとえ私が男装でもそれで良いと思っていた。でもまひるは
 ――ドレスはやっぱ花嫁のものだよ――なんて言って、自分がタキシードを着る
と主張したのだ。それなのに、どうして、今になって―
 「そんなドレス、何時の間に用意してたのよ!今日は式本番なのよ!こんなカッコ
  で二人並んで入場したら、両親泡吹いて倒れるわよ!そもそもアンタ、私より
  似合ってるってのはどーいうコトよ!?ああーもう可愛いったらありゃしない!!」
 最後の方は支離滅裂になりながらも、私は溢れ出す感情そのままに言葉をぶつける。
まさかこの土壇場、ゴール目前になって、こんな爆弾が待っていようとは――。
 「・・・急いでタキシード準備しなくちゃ」
459「アイシテル」の続き・6:02/02/22 08:21 ID:htwbWgRZ
 「ちょ、ちょっとまってよ、香澄!?」
 「まあまあ、落ち着け」
 横にいる美奈萌と、ドアの外に立っていたらしい透が、めいめいに声をかけてくる。
 「そんな一方的にまひるを責めなくてもいいじゃない」
 「そうだぞ、こんなに良く似合ってるじゃないか」
 私の反応が予想外だったのか、二人ともちょっと焦ってるようだ。
 「負けるもんかっ」「すっごくカワイイわよ」―― 
 何気なく聞き流していた会話が、唐突に脳裏をよぎる。それと共に、この騒ぎの
カラクリも見えてきた。そうか。この二人も共犯なわけね――。
 事態が把握できれば、そうそう慌てることもない。私は徐々に落ち着きを取り戻しつつ
話を続ける。
 「そりゃ確かに似合ってるわ。けど、今言ってるのはそういう問題じゃないでしょ!?
  いくら可愛いからって、二人揃ってウェディング姿でバージンロード練り歩く
  わけにはいかないでしょうが!?」
 感情を込めつつ、冷静さも合わせた私の主張に、どちらも言葉が出ない。そんな
二人の顔を見比べていた私は、ある違和感に捕らわれた。
 「ちょっと、透」
 「なにかな?」
 「あんた、その格好は、何?」
 「ナニって。見てのとおり、こういう場に相応しい盛装だが?」
 ・・・誰がそんなことを問うているか。
 「私が聞いてるのは、どうして・あんたが・「白い」・タキシード着てるのかっ?
  てコトよ!」
 どう見てもそれは花婿衣装である。 
 「・・・・・・・・・」
 「黙るなっ!一体なに企んでるのよ!さあ、キリキリ吐けいっ!!」
 透の胸ぐらを掴む。
 「まてまて。別に企むっちゅうほどのものでもない」
 獲物を狩る獣の視線で、透の目を正面から見据える。
 「いや〜、もしも花嫁に「不慮のアクシデント」なんかがあったりしたら、
  代打の出番があるかな〜、とか思っ――」
460「アイシテル」の続き・7:02/02/22 08:22 ID:+jE6cpIJ
 ――ゴッ
 右フック一閃。透の言葉を最後まで聞くことなく、反射的に殴ってしまう。でも、まあ
ドレスが血で汚れることが無いように、顎ではなくこめかみを狙うあたり、まだまだ私も
冷静だと思う。床に崩れ落ちる透に問いかける。
 「あんた、この期に及んでまだ、まひるのこと狙ってたの!?」
 横で聞いてた美奈萌も、さすがに呆れたように言う。
 「ひょっとして今回のこの騒動も、裏ではそれを狙っていたワケ!?」
 「大体あんたが相手じゃ役所が認めてくれないでしょうが・・・」
 気を失ったのか、透の反応はない。まあ、この男ならその程度の策は練っていそうだ。
油断も隙もない。が、おかげで当面の問題―男装の調達―は解決できそうだ。
 「ちょっと、透」
 呼びかけるが、反応はない。構わず続ける。
 「あんた、その服、脱いでよこしなさい」
 ピクリ。頭がかすかに動く。
 「さっさとしないと、ヒン剥くわよ」
 ようやく頭をおこして口を開く。
 「ま、まてまて!いきなりそんな・・・だ、第一オレとまひるじゃその、サイズだって・・・」
 私の目的に気づいて、しどろもどろに弁解する透。私はかまわず続ける。
 「心配いらないわよ。着るのは私なんだから――」
 「「へ!?」」

 ――透と美奈萌、二人が間の抜けた声でハモる。
 「着るって、香澄!?そんな・・・」
 「お前、一応は花嫁なんだぞ!?」
 自分が剥かれる危機が去った訳でもないのに、そうと気づかず危険な物言いをする透。
 「一応?」
 透の顔が白くなる。ひとまずプレッシャーを掛けておいて、私は続ける。
 「そりゃそうでしょ?まひるがドレス着たいって言うんなら、私がタキシード着る
  しかないじゃない?」
 さも当然の如く、二人に言い放ってから、先ほどから私達のやりとりを横から見て
いたまひるの方に向き直る。
461「アイシテル」の続き・8:02/02/22 08:23 ID:PhOAMGTx
 「――まひる」
 肩に手を置き、ほんの少しかがんで、目線を合わせながら語りかける。
 「ドレス、着たかったの?」
 こくり。無言でうなずく。悪戯が見つかった子供のような目。
 「我慢しなくても、最初からそう言えばよかったのに。衣装合わせの時から言ってた
  でしょ?私が男装でもいい、って。どっちかっていうと、そっちの方が似合う
  んだから、私」
 床に座り込んだままの透が、こくこく、と大仰にうなずく。バキッ!その顔面に蹴り
をいれながら、透に命じる。
 「お前はサッサと着替えてこいっ!!」
 「・・・・・・ダメ」
 「?」
 まひるが腕にぶら下がるようにして、下から私の顔を見上げている。
 「香澄も、着替えちゃ、ダメ」
 一瞬、言葉に詰まる。けれども、すぐ気を取り直して、私は語る。
 「ダメって・・・、そんな訳にもいかないでしょう?あ、断っとくけど、別に無理してる
  わけじゃないのよ?私が、あんたのドレス姿を見ていたいから言ってるの」
 言い聞かせるようにしても、納得しない。
 「だって、香澄のドレスも、すごいキレイでカワイイんだもん。香澄もドレスがいい」
 「だから!二人とも女装は無理なんだって――」

 「――絵的には、どっちも十分変、よね?」
 ぼそり、という感じで、美奈萌が口を挟む。
 「花嫁が男装、花婿が女装のカップルと、二人とも女装のカップルか。確かにこりゃ
  どっちもどっちだ、な」
 したり、という口ぶりで、透。こいつらは・・・。
 「そうだよ!どっちみち変なら、二人ともカワイイ方が絶対いいって!」
 ここぞとばかりに、まひるが畳み込んでくる。
 「だから、可愛いとかいう話だけで、そんな非常識な真似――」
 
 言いかけた自分の言葉に、ハッとする。非常識――。
 ――自分がこの一年あまり、護ろうとしてきたのは、闘ってきたのは、何だったか。
 闘ってきたのは?
 ――「常識」という名の、無理解。
 護ってきたのは?
 ――目の前にいる「非常識」

 ―――くっ くくく あはははっ
 思わず笑いがこみ上げてきた。三人が私の顔を、不審げに見つめている。
 なんて事だろう。自分が今まで闘ってきたものに、いつの間にか縋ろうとしていた
 なんて。笑いが止まらない。
 ―――あはははっ・・・はあっ。
 ひとしきり笑った後、まひるの方に向き直る。心なしか怯えた目つき。そりゃそうか。
 「まったく」
 仕様が無い、といった口調で、私は語る。そうなんだ、このコが望むなら、私は与え
続ける。それだけなんだ。そこには常識も、非常識も無い。
 「わかったわよ。じゃあ、二人でこの格好で行きましょ。でも、裾が絡んで途中で
  転んでも知らないわよ?」
 私の言葉に、満面の笑みで何度も何度もうなずくまひる。あるいは、きっと、私の
気持ちの全ては判っていないだろう。それでもいい。私が与えて、このコが喜ぶ。それ
以外、何が必要だというのか。

 まったく。まったくだ。
 「あーあ。今度こそ、勘当ものかもね」
 「うん!きっと感動間違いなしだよ!」
 ・・・・・・絶対判ってねーよ、コイツ。
462「アイシテル」の続き・9:02/02/22 08:24 ID:9pn8invk
 ――そして、式、本番。
 恐ろしく引き攣った空気の中、バージンロードを練り歩く花嫁ふたり。
 開き直った私たちは、この、世にも珍しい結婚式を十二分に楽しんでいた。
 親族一同の刺すような視線はちょっぴり痛かったが、腕にぶら下がってくるこのコの
ぬくもりを感じていたら、全てどうでもよくなった。

 やがて、つつがなく(?)式も終わり、私達はチャペルの扉を開け、ガーデンへと出る。
 梅雨の晴れ間、というには強すぎる日差しが降り注ぐ中、驚くほど大勢の人たちが、
私たちを出迎えてくれていた。小鈴ちゃんや叶先生はもちろん、あの藤堂さんや、
それこそ名前もよく知らないような同級生まで。
 ウェディング姿の二人連れを見ても、誰ひとりとして訝しげな視線をよこさない。
 ―― ああ、私はずいぶん小さなことを騒いでたんだな ――
 改めてそんな思いをかみしめていると、ブーケが宙を舞った。歓声があがる。
 ― アーム、ラウンド、キャスケード、クラッチ ― 色とりどりのブーケたち。
 ・・・・・・色とりどり?

 「それー、弾は尽きぬぞードンドンやれー」
 ゴスッ! まひるの後で動き回っている透の後頭部を、取り敢えずド突く。
 「ブーケを補充するなっ!」
 「まあまあ、そんなカタいこと言わずにさあ。幸せは沢山バラ撒いた方がいいって♪」
 なんの疑問もなく、私にもブーケを手渡しながら、まひるが言う。手渡されたブーケ
に視線を落として、思わず微笑んでしまう。
 「・・・そっか。そうね」
 そうなんだ。この笑顔と一緒なら、この先いくらでも幸せになれる。そう、それこそ
溢れるくらいに。だったら――。
 後頭部をさする透の手から、まとめてブーケを奪う。そして、
 「溢れた分は、みんなに分けてあげるわよ!――」
 空に放たれたブーケの束を見上げて、私は確信する。溢れるほどの幸せを。

 ――― 降り注ぐ日差しよりも、もっと眩しいこの笑顔と一緒なら ―――