ケイブリスは、魔人最強である。
紗霧に推されたように、頭脳の出来が残念であるにも関わらず、
リスなどという体格にも特性にも恵まれぬ出自であるにも関わらず、
それでも魔人最強の称号を恣にしていたのには、訳がある。
努力である。
成長である。
決して効率のいい努力にはあらねど、ケイブリスは。
六千年間、努力を以って己を鍛え上げ、成長の歩みを止めなかった。
今もなお、努力を以って己を鍛え上げ、成長の歩みを進めている。
リスから生まれた最弱の魔人が、弛まぬ努力と牛歩の成長により、
屈強な肉体と特異な能力を持つ最強の魔人へと、至ったのである。
常軌を逸した執念深さを無しに成し遂げられぬ成果であった。
根性である。
その暴と巨躯に気を取られがちで、魔人仲間にすら気付かれぬ性質であるが。
それを見せることは弱みであり恥であるとの彼の考えから秘されてはいるが。
気力と体力を超えたところにあるもう一歩を踏み出して、
必ず目的を達するという執念深さが、
いわば体育会系の魂が、
ケイブリスの本質なのである。
=-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=
そーだよな……
どうせ死ぬなら開き直らねーとな。
俺だけ死ぬのって納得いかねーよな。
屈辱喰らいっ放しで、終われねえよなあ?
あいつ口ほどにもなかったぜ、なんて、思われたくねえよなあ?
ニンゲンどもに舐められっ放しなんて、許せんよなあ?
「がはははは! そぅれそれぇ!」
特に、おめーだよ、おめー。
そこで得意げに笑ってるおめーだよ、ランス。
二度、魔王になるっつー夢を断ち切られてよ……
二度、惨めな命乞いを踏みにじられてよ……
二度、命を奪われてよ……
その二度が二度ともに、おめーは関わってんだぜ?
俺様の「びくとりー・ろーど」に立ち塞がったんだぜ?
許せねーよなぁ?
生かしておけねーよなぁ?
……そうだぜ。
視覚が潰されちまったからって、ヤツらを全く捉えらねえ訳でもねえんだよな。
だって、聞こえてんじゃねーの、苛つくバカ笑いがよ。
それってつまり、俺の聴覚が死んでねぇってことだろ?
そいつを研ぎ澄ませばよー。
触手で爪をぶっ刺すことも、出来るかもだぜ……?
……なにが「かも」だよ。
弱気になってんじゃねーよ。
やるんだよ。
やらなきゃなんねーんだよ!
頭! ぼーっとしてる場合か!?
体! オラァ! もっと気合入れろ!
心! 泣き入れてんじゃねえ!
俺! 全てを統合しろ!
注ぎ込め! 六千年の歴史を!
注ぎ込め! 俺様の残る全てを!
ぽんこつになった、一本の触手に!
力に変えて、注ぎ込め!
「がはははは! 俺様最強!」
ああ、見えるぜランス。
見えなくなったこの目にくっきりと見えてるぜ。
暗闇の中に、ただ一本。
俺様とお前とを結ぶ触手の軌跡が、な。
行くぜランス、喰らいやがれ。
俺様の最大で最強で最速で最高で……
―――最期の一撃を!!
=-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=
この件に関して、月夜御名紗霧を責めることは出来ぬ。
全ては想像されていた為に。
全ては想定されていた為に。
全ては検討されていた為に。
紗霧が入手したケイブリスに関する情報の全てが、
この戦いに生かされていた為に。
今、目の前で、しかし意識の外で起きようとしていることは、
彼女たちの手持ちの情報では想定が出来ぬ事態なのである。
起きるはずのない出来事なのである。
悪夢の如き奇跡なのである。
【魔人の超回復能力】
紗霧は、この重要なワンピースを入手できなかった。
故に立案してしまった。
時間をかけて嬲り殺すという戦術を。
その、かける時間の長さこそが。
友軍の安全性を高める為の手法こそが。
完璧なはずの作戦の瑕疵となった。
触手の有り得ぬ回復を許してしまう余裕を生んだ。
故に―――
死せる筈の触手が放った鋭い刺突に、反応できた者はいなかった。
それは、ターゲットとされたランスとて、例外では無かった。
=-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=
ずぶりと、突き刺さる抵抗感。
熱い液体が、触手に滴る感覚。
「……はへ?」
届いたぜぇ……
俺様の生命の炎を燃やし尽くした一撃で、
ランスのドテッ腹に、風穴をぶち開けてやったぜ!
「……マジでか?」
ああ、よっくわかるぜランスよー。
その「信じらんねー」って気持ち。
こんなところでこんな死に方するなんて、ありえねーって思い。
さっきまで俺様も感じてたからな!
「ランスさまああああ!!」
おっ、いまの「ゴボッ」は血の塊を吐き出した「ゴボッ」だな?
体がビクビク痙攣してるのも、触手に伝わってくるしよ!
なんかもー、上手く言えねぇが、最高にキモチーぜ、おい!
「いけませんユリーシャさん! ジジイ、止めなさい!」
いやいや、ちょっとちょっと。
確かに気持ちよくはあるんですけど。
マジで触手までいきり立ってきたんですけど?
嘗てないほどにビンビンなんですけど?
「あい判った!!」
ああ、あれか。へびさん魔人が言ってたやつか。
死ぬ間際にゃ生殖本能が刺激されて…… なんとかってやつ。
……突っ込んでみてもいいですか?
「なんなのアレ? なんなのアレぇぇ!!?」
まさか最後に犯すのが野郎のドテッ腹にぶち開けた穴だとは
想像もしてなかったがよー、
これはこれでちょーきもちイーぜ!!
そぅれ、入らなーい♪ 入らなーい♪ 無理にねじ込めー♪
「広場さん…… あなたは、見ないほうが、いい」
げへへっ! ランスがゲボゲボ吐いてんな!
見てぇなあ、目ン玉裏返ったアイツの汚ねぇツラをよー!
そしたらもっとキモチくなれんのによー!
「げびょっ!! ぎょぼっ!!」
そんなにビクビク痙攣すんなよ、ランス……
お前の腸の締め付けがどんどんキツくなるじゃねーか。
こんなんじゃスグにイっちまう!
「ぐぼぼぼぼぼぼ……」
ああ、とまらねえ、たまらねえ!
とまらねえ、
たまらねえ、
とまらねえ、
たまらねえ、
とまらねえ、
たまっおふっ!
……三擦り半で出ちまった。えへ。
「え、え? 触手の先っちょから、あれ? なんで?」
「なんという下衆……」
「家畜の分際でェェ! 身の程も弁えずゥゥ!!」
「……」
「紗霧殿? おい、紗霧殿、しっかりせぬか!!」
おーおー、ヤツらが揃いも揃って混乱してやがるな!
この隙を突いて、根こそぎ薙ぎ払ってやりてーが……
もう、触手、萎え萎えで動かねーしな。残念だぜぇ。
あー眠ぃー。
あー怠ぃー。
……こりゃもうダメだ。
体にも頭にも、もういっこも力、はいんねー。
射精と一緒に、残りの命までぶっ放しちまったみてぇだぜ。
まーいーや。
最期にちょっとスカッとできたから。
あとはさっぱりお陀仏だな!
お、ランスの体も大分冷えてきたなぁ。
もうピクリとも動かねえしよ。
一足先に逝っちまったみてえだな。
待て待て、ランス。俺様を置いていくなって。
おててつないで、一緒に行こうぜ?
楽しい楽しい地獄巡りによ!
ぐぇっふぇっふぇっふぇっふぇっ!!
ふぇっふぇっふぇっ!
ふぇっふぇ……
ふぇ……
……
。
=-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=
「がはははは! そぅれそれぇ!」
どうしたことか。
ケイブリスの道連れとなったはずのランスのバカ笑いが、未だに響いていた。
それどころか。
「あんにゃろ、あんなモン隠し持ってやがったのか!」
ケイブリスを中心に、声から90度の角度を隔てた位置には、
傷の一つも負っていないランスが、紗霧と共にいるのである。
「しかも壊したはずの触手が動いてました。やれやれ、とんだ生命力です。
今からは壊した触手や腕も、定期的に壊し直さないといけませんね」
紗霧は溜息と共に仲間たちに指示を送った。
それから、90度向こう―――
ケイブリスの触手が突き出された空間の直下に設置してある、
黒い小さな機械を見やった。
「がはははは! 俺様最強!」
ランスの馬鹿笑いは、その箱の中から垂れ流されていた。
カセットデッキである。
以前、磯部にて二人の監禁陵辱魔を嵌めた時と同様、
紗霧はランスの声で以ってケイブリスを騙し、
その最期の一撃を、見事に無効化したのである。
執念深い紗霧が。この神鬼軍師が。
奪えぬはずのない聴覚を奪わなかったのには、
歴とした理由があったのである。
「まあ、結果オーライとしておきますか」
紗霧にとって、カセットデッキは保険であった。
恭也や自分の遠距離攪乱が見破られた場合を想定し、
その際に攻撃が向かう方向を誘導する為に聴覚を残し、
聴覚に訴える音声を、友軍のいない方向に設置したのである。
確かに、潰した筈の触手からの攻撃は紗霧の想定の上を行ってはいた。
しかし、ケイブリスはランスの位置特定に聴覚を用いてしまった。
それで、魔獣は音声の罠に嵌ってしまい。
それで、想定外である利を失ってしまい。
結局、魔人の乾坤一擲は単なる誤差の範囲内に収まってしまったのである。
「ぐぇぶぇぶぇぶぇぶぇ……」
最後まで紗霧の掌の上で転がされていたことに気付くことなく、
焼かれた喉で、もはや声にならぬ音を発するケイブリスの顔には、
それでも、どこか満足げな笑みが浮かんでいた。
「ちょっとちょっと紗霧さん? 怪獣さん笑ってるみたいですが?」
「死に際に都合のいい夢でも見てるんでしょう。放っときなさい」
=-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=
(Cルート・2日目 PM23:45 E−5地点 耕作地帯)
腕。触手。爪。牙。
ケイブリスの武装を全て奪ったことで作戦行動の第二波は終わり、
最終ミッションである第三波へと移行して、既に一時間半が経過していた。
第三波の内容とは――― 【放置】。
紗霧たちは、仰向けに倒れているケイブリスを、遠巻きに囲んだ。
死にゆく巨凶をただ眺め、見張った。
触手等の復活を確認すべく、時折、恭也に投石させたりもしたが、
決してトドメなどは刺さなかった。
更に一時間。
ケイブリスの流した血はドス黒く変色し、凝固していた。
傷口には目敏い蝿たちが集い始め。
獣臭と血臭に、かすかに死臭が混じり出していた。
「魔人が死ぬとちっちゃい赤い玉になるってハナシは?」
「の、はずなんだがなぁ」
「しかしのぅ…… ありゃどう見ても死んどるぞい」
本来、死せる魔人は遺骸を霧散させ、ピンポン玉大の紅玉へと態を移行する。
【魔血魂】である。
それは魔王の血の縛りの証。
魔人の力の根源にして、魂の揺り籠。
但し、このケイブリスは魔王直下の魔人ではない。
プランナーがこのゲームのバランスを考慮した上で、能力を調整した魔人である。
プレイヤーの攻撃を無効化する無敵結界は故に解除されていたし、
死後の魔血魂化もまた、同様に取り消されていた。
魔血魂を呑んだ者が新たな魔人となる。
そこに生まれるゲームのバランスブレイクを忌避した為である。
理由はともあれ―――
野武彦の見通し通り、ケイブリスは既に死んでいた。
絶息の正確な時間はわからない。
第三波に移行してからの二時間半。
そのどこかで誰にも気付かれること無く、息を引き取っていた。
「しかし……哀れとは思わんが、えげつないな」
苦虫を噛むが如き顔つきでランスが呟いたこの感想を以って、
三時間超に渡る紗霧の作戦、【ハイエナ達の晩餐】は完了した。
誰一人傷つくことなく難敵を完殺するという、完璧な成果にて。
【ケイブリス:死亡】
―――――――――主催者 あと 4 名
↓
(ルートC)
【グループ:紗霧・ランス・まひる・恭也・ユリーシャ・野武彦】
【スタンス:主催者打倒、アイテム・仲間集め】
【備考:全員、首輪解除済み】
【現在位置:E−5 耕作地帯】
【ユリ―シャ(元01)】
【スタンス:ランス次第】
【所持品:生活用品、香辛料、メイド服、?服×1、干し肉、スペツナズナイフ、
文房具、白チョーク1箱、レーザーガン、フラッシュ紙コップ】
【ランス(元02)】
【スタンス:女の子優先でグループに協力、プランナーの事は隠し通す
男の運営者は殺す、運営者からアリス・秋穂殺しの犯人を訊き出す】
【所持品:斧】
【能力:剣がないのでランスアタック使用不可】
【備考:肋骨2〜3本にヒビ(処置済み)・鎧破損】
【高町恭也(元08)】
【スタンス:紗霧に従う】
【所持品:小太刀、鋼糸、アイスピック、保存食】
【備考:失血で疲労(中)、右わき腹から中央まで裂傷あり。
痛み止めの薬品?を服用】
※銃(50口径)及び飛釘は撃ち尽くしました。
【魔窟堂野武彦(元12)】
【所持品:軍用オイルライター、銃(45口径・残弾5)、白チョーク数本、
スコップ(小)、鍵×4、謎のペン×7、簡易通信機、工具、
ヘッドフォンステレオ、まじかるピュアソング】
【月夜御名紗霧(元36)】
【スタンス:反抗者を増やし主催者へぶつける、計画の完遂、モノの確保、
状況次第でステルスマーダー化も視野に】
【所持品:金属バット、ボウガン、メス×1、謎のペン×8、小麦粉、
薬品・簡易医療器具、対人レーダー、他爆指輪、解除装置】
【備考:疲労(小)、下腹部に多少の傷有、性行為に嫌悪感(大)】
【広場まひる(元38)】
【所持品:せんべい袋、救急セット、竹篭、スコップ(大)、簡易通信機
体操服の上(←ユリーシャ)】
※「?服」の一つは、体操服でした。
※体操服の下、レギンスは装着済です。
>>223-237 (Aルート:二日目 PM6:33 D−6 西の森・小屋3)
小屋の中に5人の男女の驚愕の声が反響した。
レプリカ智機P−3との取り引きの妨害としか思えない、
ランスのP−3へのセクハラ行為の紗霧の許可。
寄りにもよってそれを交渉の条件に含めるというのだ。
「マジですかっ?」
動揺が入り混じった声で、まひるが紗霧に顔を向けるも無しに疑問の声を上げた
返事をするのも面倒という感じで紗霧は無言でまひるに視線を送った。
「がはははは、いい方法じゃないか紗霧ちゃん」
上機嫌のまま、その展開がさも当然であるかのように
ランスはP−3への下腹部への愛撫を強くする。
P−3は更なる快楽に抗がおうとするが、できそうに見えなかった。
ユリーシャは不機嫌なまなざしを隠そうともせずに紗霧を睨む。
紗霧は意に介せず自信ありげに口元を歪ませ、不敵なまなざしでそれに応える。
魔窟堂と恭也は困惑しながら、五人をただ眺めている。
「椎名さん、行為に没頭するのは結構ですが、貴女の返事はどうなんですか?」
「う……うう、ランス、少し止めてくれないか……んぐっ」
ランスは指の運動を止めようとしない。
「ランス、やめてくれませんか?……今からアタマかち割りますよ、マジで」
紗霧はにこやかな顔で警告をした。
それに加えて声は威厳のない可愛らしいものだった。
にもかかわらず、彼女から発せられた声と殺気は、
この手のケースに置いては非常に鈍感かつ
悪意で答える傾向があるランスでさえも背筋が寒くなるほどのものであった。
「……ああ早く済ませてくれ、智機ちゃんも待ってるからな」
「だれ、が」
さしものランスも渋々ながら従う事にしたようだった。
紗霧は頷き、それに魔窟堂と恭也は安堵の溜息をついた。
ユリーシャは剣呑な目付きはそのままに、紗霧とランスを交互に見つめていたが
まひるが心配そうに自分を見ているのに気づいたのだろう、とっさに顔を逸らした。
P−3は快感の余韻からの荒い息を吐きながら紗霧に返答した。
「OKだ。それで構わない」
「了承。ランスまだ早いです」
紗霧はランスに釘をさすのを忘れず、魔窟堂ら4人の顔を見渡し言った。
「この場での交渉は私とランスにお任せ下さい。
貴方達は椎名さんとランスの行為は見たい訳ではないでしょう?」
紗霧は苦笑しつつも、魔窟堂らの退出を促す。
魔窟堂らは視線を交わし、その意味を察する。
紗霧はランスに目配せした。
彼は瞬時に的確にそれに応え、P−3の胸と下半身に指での愛撫を再開した。
「ううむ……そうじゃな、後は任せたぞ紗霧殿。また後でな」
「…………」
「あ……」
魔窟堂の応答の直後、ユリーシャは表情を変えずに出口に向かった。
思わず声をまひるは声を上げた。
「ぐむ……行くか恭也殿」
「ええ」
魔窟堂と恭也は席を立った。
その間にユリーシャはランスの方にそっと顔を向けた。
「……」
ランスはユリーシャに気づいていなかった。
P−3も快楽ゆえか彼女に気づい様子はなかった。
P−3の喘ぎ声を聞きながら、彼女は顔を俯かせてドアを開けた。
「……ねえ、大丈夫?」
まひるは紗霧の方に視線を向けて、心配そうに言った。
「ランスの事も私に任せて下さい」
自信ありげな面立ちで紗霧は言う。
紗霧にはランスの性癖を見越した上で交渉をうまく進める自信があった。
彼女はこの島に呼ばれる前にも、
他人同士の性行為を見た事は何度かあったからだ。
それは主に今は果たした彼女の夢の一つを実現させる為の過程の中で。
そんな今の彼女の脳裏にうっすらと浮かぶのは、かつての母校、富嶽学園の校庭。
嘗て元の世界で猪乃健の部下をやっていた頃、
もっとも凄惨な性暴力を目撃……助長さえした事が紗霧にはあった。
支援
学園を支配者、猪乃健から信頼を得る為。
そして理想を適える組織を創る下準備の為。
彼女は最初期の政策の一環として、
学園内にいる敵対勢力から派遣されたスパイの一斉摘発をした事があった。
摘発されたスパイの中には女性も含まれており、
燻り出したその女スパイ達は捕縛後、猪乃の部下に輪姦され、
その後、男のスパイと一緒にまとめて『粛清』された。
その惨状を当時の紗霧は猪乃と共に校舎の窓から平然と見下ろしていた。
もっとも……猪乃追放後は、性暴力に手を貸す行為は、
例え主君の鋼鉄番長が敵対校の女生徒に軽いいたずらを希望したとしても
基本的に紗霧は却下していたのだが。
今の紗霧はそれを禁忌とするつもりはない。
鋼鉄番長らを始めとする仲間がいないこの世界が故に
昔と似た道を選んだ彼女にとって
今更、性暴力に……ましては一応は和姦であるランスの行為を
許容する程度の事で惑う訳には行かなかった。
「そうじゃなくてさ……」
そう思い合わせる紗霧に対し、まひるから否定の言葉が飛ぶ。
「…………」
紗霧は眉が動かし、問いの意味を探り、言った。
「内蔵スタンガンですか?
心配しなくても万が一にも私に危害が及ぶ訳でも無し」
強化Nシリーズとの戦闘で、まひるを数瞬朦朧とさせた武器の名を紗霧は出した。
半分以上は冗談だったのだが、流石にランスは少々気を悪くし手を止めた。
「俺様は智機ちゃんにやられるヘマはしないぞ」
ランスはジト目で紗霧を見てそう言うと、すぐさまP−3への愛撫を再開した。
P−3からは言葉はない。
紗霧は呆れたようにため息を付いた。
「ボディチェックも済ませましたし、
貴女の出来る事はもうこの場では無いようですが?」
苛立しげに紗霧はまひるを睨むが、眉間にしわを寄せるものの引く気配はない
「う〜ん……」
渋るまひるにようやく、快楽に抵抗したP−3は反応した。
「私は……戦闘用ではない、
まぁ言った所で充分な信用は得られるとは思ってないが、ねっ」
そう言うP−3にはいかにも余裕がなく、嘘は付けそうに見えない。
「がははは、それではお前はなんなのだ!」
「あ、ん……ふざけな……いでっ」
言葉でからかいながらランスはP−3の秘部への愛撫を始める。
P−3は言葉で抗おうとするがまるで無力だ。
「……まひるさんもこれ以上、ここにいるのは嫌でしょう?」
「ちょっと待って」
うんざりとした感じの紗霧をよそに、まひるはP−3を真顔で見つめた。
「むむっ」
ランスが自分勝手な期待の入り交じった声を上げ、紗霧はそれに不機嫌な表情を浮かべた。
まひるは嫌そうな顔をしながらP−3を凝視した。
「……」
まひるは真顔になるとP−3を凝視したまま、鼻をひく付かせた。
「…………」
紗霧の視線が痛いからなのか、まひるの頬に一筋の汗が流れる。
それで諦めた訳ではなく、下唇を一回噛んだ後さらにまひるはP−3を見つめた。
紗霧はまひるがようやく途中で何か考え始めた事に気づいた。
小屋から出ようとした魔窟堂、恭也、ユリーシャも空気の変化を感じ、黙って経過を見守っていた。
まひるは目を閉じた。
紗霧は覗きの趣味が……と口に出そうとしたが止め、まひるの次の反応を待った。
「………………」
まひるはゆっくりと息を吐き出すと、目をゆっくり開け、
額に汗を浮かべながら、P−3へと数歩近づくと匂いを嗅ぐ仕草をした。
「……」
すぅと息を吸う呼吸音が聞こえ、まひるはまた沈黙した。
紗霧の片眉が興味深そうに動く。
異変を肌で敏感に感じたのか、ユリーシャが唾を飲み込む音がした。
そして、まひるは振り向きもせずに唐突に言った。
「ねえ、紗霧さん、病院で最後に倒した奴については話したっけ」
病院を襲撃し、最期にまひるを道連れにしようとしたレプリカの事である。
「……自爆した固体ですね。それが?」
「……」
恭也はユリーシャに何か断りを入れると、ドアを音もなく開けた。
小屋の内外の警戒を強めたのだろうと紗霧は判断した
「どうやって自爆したかまでは、まだ話してないよね」
「爆弾で自爆したんじゃないんですか?」
内蔵爆弾でレプリカが自爆した事までは紗霧は知らないでいた。
だが動揺はしなかったし、目の前のP−3が所持してるとも思えなかった。
「こいつにもし、あの時の様に毒ガスか何かが仕込まれてたら」
緊張も感じられない、ただどこか無機質な平坦な声でまひるは警告した。
似つかわしくない……と紗霧は思った。
「なあに心配いらん、俺様の勘がこいつに害がないと言っている」
「心配ないですよ、そんなの持ってたらとっくに仕掛けてます。
それで貴女はどうしたいと」
自身の命さえも奪いかねない、武器の存在を耳にしても
ランスと紗霧の調子は変わらなかった。
それでも尚、まひるは紗霧に食い下がろうとしていた。
「う……」
「待ちたまえ!」
まひるが言うのを遮って、突如P−3は会話に割り込んだ。
「…………」
「OH……広場まひる。はあ……君も交渉に、はあ……参加したいのかね?」
まひるは無言でP−3の問いに頷く。
「はぁ……むおっ……君も交渉のテーブルに就くというなら、私は……不安だ」
これまでされるがままだったP−3が両手を振り回し、ランスに抵抗する。
「がはは……心配いらん、主催のヤロウが襲ってきたら返り討ちにしてやる」
「…………成程、彼女を警戒している訳ですね」
ランスの戯言が終わるのを待って、紗霧はP−3の要望を代弁した。
「YES。いきなり私が破壊されては堪らないからね、
可能なら月夜御名紗霧とランスの3者のみで交渉をしたいのだよ」
口調そのものはおどけたようだったが、そこには明らかに拒絶が感じられた
紗霧はそれを理解し、視線だけを動かしてまひるに席を外すように言おうとする。
「いま、あたしたちになにかした?」
まひるが紗霧より先にさっきと同じ調子で言った。
「No……私にそんな余裕はない……」
紗霧らが見る限り、P−3が何かをしたようには見えなかった。
P−3も何が起こったか検討がついていない様に紗霧には思えた。
「……」
「どうしたのですか?」
やや離れた所でユリーシャが言った。
紗霧は今度はあえて何も言わなかった。
「…………」
まひるの表情が少々沈む。
身体がほんの少しだが震えていた。
それに紗霧が気づいたのとほぼ同時にまひるは右手を頭に当てた。
「……ちょっと立ち眩みが……」
魔窟堂が心配そうに声をかける。
「それじゃったら尚更、外に出て……」
紗霧にもまひるの不調が嘘でないと見れた。
まひるは顔を上げると、意を決したような表情で言った。
「ううん……だいじょぶ。紗霧さん、あたしもその話し合いに混ぜてくれないかな?」
小さく笑いながら、ただしその眼差しは真剣なままでまひるは紗霧に願い出た。
紗霧は胸騒ぎし、思わず髪に指を絡めた。
紗霧はしばしの間迷ったが、言った。
「……ランス、今は、そのセクハラを止めてください!」
「………………何でだ、紗霧ちゃん?」
ランスは紗霧の強い呼びかけにも関わらず、中々行為を止めようとしなかったものの
膨れ上がる殺気に気づいたのか、ランスは不満の混じった声で疑問を口にした
「はあ……はあ……どういうつもりかね……?」
ランスの執拗なセクハラから解放されたP−3に対し、紗霧はすかさず言った。
「交渉には貴女と私とランスとまひるさんが参加。
他の皆さんは外に退出していただきます。
ただし、さっきと異なり貴女が望む限りランスにセクハラ行為はさせません。
そして我々の安全が確保される限りは、まひるさんに貴女を破壊させません。
それが我々が交渉に応じる条件です」
P−3は思わず眼を瞬きさせた。
そして苦笑しながら、セクハラ受ける前と同じ上から目線でなく下から目線で言った。
「OH……よく吟味すれば……随分そちらに都合のいい話だね……」
「早く答えてくださいな。はいか、YESで」
不敵な笑みで選択でない選択を紗霧はP−3に迫った。
「…………フフ参ったな……断るという選択肢がないではないか……
まあ、それもいいだろう……条件を飲もう」
「魔窟堂さん」
「うむ」
魔窟堂は力強く頷くとユリーシャと共に出入口へ向かった。
ユリーシャは一瞬足を止めたが振り返らずにそのまま外に出た。
「ちぇ……」
ランスが不満げな声に紗霧は不機嫌そうに顔をしかめる。
それに取り合おうとするのを止め、紗霧は椅子に座り直す。
そして魔窟堂と恭也も小屋から退出し、ドアが静かに閉められた。
「貴女達にはさてキリキリ喋って頂きましょうか?」
「Why?ここにいるのは私一体のみだが?」
「そうでしたね……ねえ、まひるさん」
「うん……?」
戸惑いの表情を浮かべるP−3と、面倒くさそうに
ただP−3の下半身を時折見つめるランスを他所に、
紗霧とまひるは曖昧な笑みを浮かべながら言葉を交わす。
「後悔しても知りませんよ?」
「……」
これまでのまひるがランスに向けた反応からして、
これから目の前で繰り広げられるだろう情事はまひるにとって
さぞ苦痛であると違いないと紗霧は予想していた。
だがまひるがランスや自分の手段への嫌悪感を抑えるだけの根性と柔軟さがあるなら
それはそれでいいと思っていた。
「……足手まといと判断したら、ちゃっちゃと出て行ってもらいますからね
……ね、まひるさん?」
「う、努力する」
紗霧はその言葉に肩をすくめるや、本調子に戻ったP−3へ向き合った。
月夜御名紗霧、ランス、広場まひる、レプリカ智機:P−3。
3人の参加者とゲームの備品の一つである四者の交渉はここから始まる。
↓
(ルートA)
【現在位置:D−6 西の森外れ・小屋3内】
【グループ:紗霧・ランス・まひる】
【月夜御名紗霧(元36)】
【追加スタンス:P−3との交渉をうまく進める(ランスがP−3との性行為を望むのなら黙認する)
まひるが察した何かを探る、ただし交渉の邪魔になったら追い出す】
【広場まひる(元38)】
【追加スタンス:P−3への警戒、紗霧への同調、?】
【ランス(元02)】
【追加スタンス:隙あらばP−3にスケベな事をする
大きな隙があれば紗霧とまひるにもスケベな事をする】
【レプリカ智機(P−3)】
【スタンス(変更?):ザドゥにぶつけるための交渉?、?】【所持品:?】
【現在位置:D−6 西の森・小屋3→西の小屋外】
【グループ:魔窟堂・恭也・ユリーシャ】
【共通スタンス:敵の襲撃への警戒、交渉の終了まで待機?】
※キャラの状態やアイテムの詳細は
>>34-35 の状態表 を参照してください。