>>845 全然点呼になってねぇw
ネリーはうっかり2桁順で回ってきたら指足りなくて困りそうだ
850 :
獅子粉塵:2007/05/07(月) 20:13:55 ID:c/+MiO5+0
とあるのどかな休日。
『献身』のエスペリアことエスペリア・グリーンスピリットは厨房の一角で包丁を片手に仁王立ちになっていた。
「一撃で決めます……せめて、苦しまないように」
周囲には濃密な緑のマナが充溢し、息苦しい戦闘時のような緊張が走っている。
それもそのはず、厨房は既に彼女の気性を現しているかのようないつもの整然とした面影の欠片も無く、
散乱した食器類や散乱した食器類の破片や散乱した食器類からこぼれて散乱した作りかけの料理の残骸や
散乱した作りかけの料理の残骸に加わる予定だった仕込済みの食材の残骸や
散乱したその全てに巻き込まれて散乱した仕込み前の食材の残骸で埋め尽くされてしまっている。
そしてその出来たばかりの新鮮な樹海に佇む彼女のトレードマークでもある濃緑のメイド服はもはや見る影もなく、
まるで世界名作劇場に出てくる不幸な少女が長年愛用していた普段着をちょっぴり真似してみましたとでも言わんばかりに
所々埃と煤で灰色に強制仕様変更させられており、おまけに蜘蛛の巣のようなものまでがキャップを透明な糸で彩っていた。
使い慣れている筈の食器棚に打ち付けた額はほんのり桜色に腫れており、使い慣れている筈の椅子にぶつけた足の小指は涙が出るほど痛い。
それでもエスペリアは顎に伝わる汗を拭い、不敵な笑みを浮かべ、包丁を構える。
ちなみにその包丁でうっかり切り刻んでしまった床や壁の傷は既に数千に及び、補修工事でどうにか出来るレベルをとっくに放棄してしまっているが、
普段から砥ぎに砥いで念入りに大事にされている大振りの出刃には刃毀れ一つ見当たらず、未だ危険な銀色の輝きを保ち続けている。
851 :
獅子粉塵:2007/05/07(月) 20:15:03 ID:c/+MiO5+0
「……いきます!」
自らを鼓舞するような気合と共に、包丁を振り下ろす。その先で目障りかつ小馬鹿にしたような動きを示す、この惨状の原因となった張本人に向けて。
しかし肝心の目標は、敏感すぎる2本の触覚から察知した危険情報を本能的に分析すると、一瞬前に壁を高速移動し始めた。
もううんざりするほど見せ付けられてきた不規則かつ予測不明な動きがエスペリア渾身の一撃をまたしても首の皮一枚で回避する。
こうして又虚しく、壁には新たな傷の1ページ。しかしもうどこまでが1ページなのかはとっくに判別がつかないので、エスペリアは気にしない。
「こ、の……っ! ちょろちょろとっ」
ずぼっと乱暴に切っ先を引っこ抜き、ただひたすら獲物の行方だけを捜し求める。読書感想文(始末書)なら後で何枚でも書けるのだから。
乾坤一擲が引き起こした嵐のような風圧で巻き上がった小麦粉か何かが視界を狭めて追跡を阻んだが、直感だけを頼りに見上げた天井の隅に発見する。
しかし惜しいかな、包丁では届かない。歯噛みをし、一瞬の躊躇の後、エスペリアは狙いを定め、投擲する。
うなりを上げて飛来した包丁はぶわっとその周囲だけ小麦粉を押しのけ見通しのよい空間を形成しながら一直線に突き刺さった。目標物の数ミリ側に。
びぃん、というソニックストライクがそれまで奇跡的に生き残っていた窓のガラスにも無数の亀裂を走らせる。と同時に恐れていた事態が発生した。
「――――ヒッ?!」
短く息を飲む眼前に、ぶぅん、と大きく羽を広げた影の反撃が迫る。
咄嗟に頭を庇いそうになる両腕や屈み込みたくなる全身の反射神経という反射神経に、エスペリアは懸命にストップをかけなければならなかった。
神聖な職場をこうもめちゃくちゃにされて、尚且つ正面から挑戦を受け、背を向けるのはプライドが許さない。堂々と受けて立ってこそ盾にもなれる。
ユート様、見守っていて下さいと心の中で祈りを捧げ、捧げることによって統一した精神が織り上げたシールドハイロゥは、しかし一瞬だけ遅かった。
852 :
獅子粉塵:2007/05/07(月) 20:16:56 ID:c/+MiO5+0
「い」
楕円状に広がった絶対防衛ラインをすんでの所で潜り抜けた特攻機はふかふかの緑色の丘陵へと無事不時着し、
不時着すると同時に物凄い勢いで頂点を目指して駆け上がり始め、次の瞬間には登頂を果たして満足気に2本の触覚を揺らし、
そしてその丘陵の持ち主であるエスペリアはあまりといえばあまりな事態に今度は反転しそうな眼球の動きを必死に抑えなければならなくなってしまう。
「――――嫌あぁぁぁぁっっ!!」
脳内にあるありったけの防衛本能と生存本能と拒絶反応と嫌悪感が一斉にエマージェンシーコールをがなり立て、唯一応じた右手が勝手に何かを掴む。
未だもうもうと小麦粉の立ち込める真っ白な視界の中、ひゅん、と軽い音を立てて最後の皿を木っ端微塵にしたのは、スピリットにとって最後の砦。
その名も『献身』、生半可な武器など足元にも及ばない破壊力と屋内で使用するにはちょっと長すぎる尺を持つ細身の槍。
エスペリアは大きく身体を揺らし、もう一方の広陵を目指して丁度谷間の辺りを這いずり回っていた黒光りする物体を強引に引き剥がすと、
たった今手元に戻ってきた『献身』を無我夢中で振り回す。もう型も何もあったものではない。
「ユート様、ユート様にも触られたこと無いのにぃっっ!!」
しかし、当らない。どんなに振り回しても当らない。息が切れる位振り回しても当らない。終いにはぜはぜはと本当に息が切れてしまう。
膝に手を当て、深呼吸。まぐれでも当てられないとようやく悟った所で今は床にじっと鎮座するそれにぴたりと矛先の標準を合わせ、静止する。
ちなみにその動き全てがほぼ半狂乱状態の中で行なわれていたというからスピリットの精神力は侮れない。
853 :
獅子粉塵:2007/05/07(月) 20:21:00 ID:c/+MiO5+0
「フ、フフフ、精霊よ、全てを貫く衝撃となれ――――」
しかし、やはり半狂乱は半狂乱だった。
普段からはありえない程滑らかな高速でうっかり口にしてしまったのはユート様に褒めて貰おうとつい先日覚えたばかりの禁断の神剣魔法。
精確にいうと、今この場では禁断の神剣魔法。
もっと精確にいうと、空気中の酸素とほどよくミックスされた大量の小麦粉が狭い厨房という空間に高密度で存在している場合、
詠唱と共に活発化するマナ同士のぶつかり合いが最初に生み出すささいな緑雷ですら着火源となり、
―――― ズウウウウウウン……
一瞬で気化した少量の小麦粉が周囲の酸素を糧にして次々と連鎖反応を起こし、ついには巨大な爆発を引き起こすので、禁断の神剣魔法。
更にいえばその際爆発の中心地にでも居ようものならたちまち延焼に巻き込まれ、マグネシウムリボンのようにあっという間に燃え尽きてしまうのは間違い無い。
「……ごほっ……あ、あぁぁ……みんな、ごめんなさい……」
そんな訳で全身黒焦げになってしまったエスペリアはより一層癖のついてしまった髪の間からぷすぷすと細い煙を立ち込めさせながら、
今はもうすっかり片付いてしまったというか跡形もなくなって実にすっきりした厨房の片隅で呆然と立ち尽くしながら呟いていた。
しかしその謝罪が食事を待ち侘びている詰所の面々へのものなのか、それとも愛着のある食器達へのものだったのか、
はたまたただ単に戦闘台詞として飽きるほど繰り返して来た為に、ただ予定調和で発せられただけなのかはハイペリアの神のみぞ知る。
何故ならその直後にぱたりと倒れたエスペリアは駆けつけたニムントールに何とか蘇生されたもののその間の記憶は綺麗さっぱり失っていたし、
唯一の目撃者兼張本人である黒き刺客もこの辺にはもう食料は無いと悟るや否や破壊された壁の向こうにそそくさと逃走を決め込んでしまっていたのだから。
854 :
獅子粉塵:2007/05/07(月) 20:23:25 ID:c/+MiO5+0
ところでたまたま通りかかり、突然出来ていた瓦礫の山に不審を感じ、足を踏み入れた途端躓いた黒炭がエスペリアだと気がついてしまったばかりに
面倒臭いリヴァイブを唱えなければならなくなってしまったニムントール・グリーンスピリットは治療後にこう語っている。
「なんか"じー、じー"って魘されてたんだけど、よくわかんない」
とあるのどかな休日。
第1詰所を半壊したこの事件は、敵ブラックスピリットのゲリラ襲撃を防いだエスペリアの英雄譚として広く知られている。
, ^》ヘ⌒ヘ《ヾ
( リ〈 !ノルリ〉))
/ ̄ ̄ ̄ノノ(!リ゚ ヮ゚ノリ((
カサカサ ~ ̄> ̄> ̄> ヽ
エスペリアで促進してみました。
乙!!Gは強力なネタだよなw
ハハ(獅子)はGを倒すのにも全力を尽くす。
これがホントのハハの日なんだねパパ!
オルファ美味しいご飯でエスペリアママに楽してもらうんだっ。
, ^》ヘ⌒ヘ《ヾ
i\ _,..、、,、,.、、 ( リ〈 !ノルリ〉))
i‐- `.',:'''´:゙:.:゙´:: :.,: ,:、:. .;ノノ(!リ;゚ヮ゚ノリ((
 ̄  ̄ ゙'‐..: ;..;;.;_ ::. :.,':.、.: .:, :... :;.'
`" ̄ ̄ ̄ ̄ノ´´
ゝ ノ
──
【栄養】「ファンタズマゴリアでの栄養補給には昆虫を食べるのが最適」”味もエビ、ロブスターなどと非常に類似”[02/01]
http://news21.2ch.net/test/read.cgi/scienceplus/1170338663/
>>855 乙です。
そうですか、SでもGには勝てませんかw
しかし、こっちのエスが自分の中のデフォになったのはいつからだろう。
859 :
夏が来る前に:2007/05/09(水) 18:00:02 ID:HbnaEtwc0
うわ。だからいきなり入ってくるなって何度も言ってるだろヨーティア。
今日は何だよ。ナポリタンってゆーかハクゥテは品切れ中だぞ。
え、何だって? 俺が以前から頼んでおいたマナスー取り線香がついに完成したって? ホントか? そいつはありがたい。
ハーブの香り配合でしかもグルグル渦巻きまで再現したって? そりゃすごいな。
ハイペリアの夏の風物詩って奴でさ、しかもこの渦巻きには意味があってな。あー前に言ったんだっけ?
正直頼んでたの忘れてたけど、これから暑くなる前に完成してくれて野営なんかで悩まされることも無くなるよ。サンキュ。
え? さっそくエスペリアの為に厨房に仕掛けてきたって? そっか、エスペリアも喜んでただろ。
ん、なんだバカ剣。嫌な予感がするって? はは。そんなわきゃないだろ。
どれ、エスペリアの所に行ってみるか。晩飯のおかずは何かな――。
860 :
夏が来る前に:2007/05/09(水) 18:01:14 ID:HbnaEtwc0
( ( )
从从 ____ ( ( )
ヽ)/ | ⊆⊇ | ( )
∠´ ハ`ゝ .| ̄ ̄ ̄ ̄| .____ . (
彡//ノハハ〉. .| ロロロ ::oo | ゝ___/===.. ))
ゞ(リ ゚д゚ノ!  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄| ̄|..||~从~||..| ̄ ̄ ,ィ^i^!1-、 ((
<´ii Yliン, | ̄~|~ ̄| |  ̄ ̄ ̄ ̄ ,(レ´  ̄ ヽ) ∩-∩- 、
U |.Tii< ... | ゚.|.゚ | | i`_l !i_!li_!i!;; (・○・ ..゙,;;)
<_ノ_jイ_ゝ  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄⊂⌒~"⊃jixi」 ゚д:;.:... ιι-υ::..
黄金色に焼けたマナは色もあせて。
**用法を守ってご使用下さい**
場所はラキオス。
夜の帳が落ち、空に多くの星が瞬き始める時間。
光陰は、訓練所から明かりが漏れているのを確認した。
中を見ると、半ば予想通りにニムントールが懸命に神剣を振っている。
こっそりと努力する少女の姿を見て、光陰はふっと微笑む。
それは、他人にはなかなか見せない理知的な笑顔。
しかしすぐにその表情を引っ込め、いつもの軽い調子の笑顔を表情に乗せると、光陰は訓練所の中に足を踏み入れる。
「やあやあ、ニムントールちゃん。こんなに遅くまで頑張るねぇ」
「!? コ、コウイン!?」
「けど、もう遅いからそろそろ終わりにしようぜ。もう直ぐ晩飯の時間だしな」
「頑張ってなんてない!!」
「そうか? まぁいいや。もう暗いから送るよ。一緒に戻ろうぜ」
今日は年長スピリットのメンバー全員が任務で外に出ている。
という事は、自ずと訓練は自主的なものがメインとなり、わざわざ訓練所に来る者は殆どいない。
延いては見ている者もいないという事で、他人に努力の姿を見られるのを厭うニムントールが一人だけで訓練をしているのは、少女の性格を知っている者にとってはかなり容易に予想がつく。
それは良いのだが、他者の見ていないところで努力を重ねるニムントールは、下手をすると一人で無理をしすぎるきらいがある。
だから、それを知っている誰かが、きりの良いところで止めてあげなければならない。
「どうしてコウインなんかと一緒に戻らなきゃなんないの」
「暗いと、何かと危ないからな」
「いや。コウインと一緒の方が危ない。ニムは一人で帰れる」
「そんな事無いぞ。ニムントールちゃんは強いから変なやつが出てきても何とかなるかも知れないけど、お化けが出てきたら困るだろ?」
「お、お化けなんていない!!」
「俺はこれでも坊主だからな。お化けなら成仏させてやれるぜ」
「う〜っ」
お化けなんていないと言いはしたものの、一度意識してしまうと不安がどうしても離れない。
「……仕方ないから一緒に帰ってあげる。コウインを一人にするのは不安だし。
でも、ニムからは離れて歩いてよねっ!!」
「おっけー、おっけー」
上手く隊一番の年少者を丸め込んだ光陰は、ニムントールと絶妙な距離を取って一緒に帰路につく。
季節は春。
桜は数日前に散り、大気は温かく生気に溢れていながらも、どこかもの寂しい風が吹く。
「知ってるかい、ニムントールちゃん。桜の木の根元には……」
「死体なんて埋まってないから」
「ありゃ」
にべも無いニムントールの対応だが、光陰はまるで懲りない。
「ニムントールちゃんは、怖い話は嫌いかい?」
「怖くなんて無いから」
「そうか、なら大丈夫だな。怪談にはちょっと時期が早いけど、まぁいいやな。じゃ、始めるぜ」
「え!?」
光陰は一人で勝手に語り始める。
「むかーしむかし、あるところにお爺さんとお婆さんが住んでおりました」
「ちょ、ちょっと、コウイン、やめてよね」
怖くなんて無い、と言ってしまった手前、ニムントールは強くも出られない。
光陰は、語りが上手い。実に臨場感溢れる不気味な語り口で話を続ける。
「お爺さんは山へ芝刈りに、お婆さんは川へ洗濯に行きました」
「〜〜〜っ!!」
聞かないようにしようとしても、どうしても聞こえてしまうし、逃げるのは怖いのを認めてしまうみたいでそれも出来無い。
ニムントールの意地っ張り&負けず嫌いをいい事に、光陰はますます気合を入れ、抑揚をつけておどろおどろしく物語る。
「お婆さんが川で洗濯をしていると、大きな桃がどんぶらこ、どんぶらこと流れて来るではありませんか!!
それを見たお婆さんは、驚いて思わず屁をこいた!!
お爺さんは、芝を刈らずにクサカッタ!!」
「エレメンタルブラストーっ!!」
ちゅどーん。
エスペリア『新たな技を習得しました』
死に掛けて包帯だらけの光陰は、見舞いに来た悠人に言う。
「今回は失敗したぜ。次はもうちょっと長くニムントールちゃんとデートしたいなぁ」
「光陰。前々から思っちゃいたんだが、お前、やっぱり馬鹿だろ」
ファンタズマゴリアなのになぜ桜があるのかとか、なぜ日本語の小咄が通じるのかとかは気にしないで下さい。
気にしたら負けです(俺が)。
>>861 ついにそんな微細な熱量にまでw
>>867 ×:今回は ○:今回も
>コウインと一緒の方が危ない
噴いたww
>>868 いつもは成功しているつもりだったんだよ!
870 :
てんぷれ:2007/05/10(木) 20:15:46 ID:v0hp2xJP0
トリガーまで残り1KBになりましたので、一応1案。
煽り文は唯一反応のあったその3にしてみました。
2以降はコピペで済むのでry。
>>837も建てた方のお好みで。
点呼ネタ候補:
「言わせてみたい台詞」
「永遠神剣『無垢』が似合うスピは誰?」
こちらもいつもの通り建てた方のお好みという事で。
>>867 乙
明らかに怪談じゃないのに怯えるニムモエスw
>871
>「永遠神剣『無垢』が似合うスピは誰?」
いやこれはその場のネタのつもりだったんだ……(汗)
なので「言わせてみたい台詞」でよろ。
>866
ここまで体を張ってニムの才能を引き出す漢にカンパイw
「ごめーん、まったあ〜〜? あ、……ごめんなさい人違いでした」
学園の校門前で突然声を掛けてきた少女に一瞥をくれた光陰の瞳には、たたたっ、と軽やかな音を立てて走り去る女生徒の後ろ姿が映っていた。
長い後ろ髪が2本棚引きながら遠くなっていく。
「お、おいおい。光陰」
「ん、なんだ悠人か」
光陰は聞き覚えのある男の声に反応を返した。しかし目線だけは固定したままだ。悠人などという野郎には目もくれない光陰の視界の中で、
女生徒の後ろ姿は校舎の陰に消えていった。
「なんだじゃないだろ。今の娘誰だよ? すっごい可愛かったぞ。何話してたんだよ?」
噛みつかんばかりの勢いで光陰の前に顔を突き出してくる悠人を、光陰は邪魔臭い障害物として手で除けながら言う。
「ん? なんだそりゃ。誰かいたのか?」
「誰かって……話してただろ女の子と」
「……ふむ。微かに記憶がある気がせんでもない。とはいえ、お前が可愛いと言っているにも関わらず俺の記憶に残らないと言うことはだ」
「なんだよ」
「高等部の制服着てたってことだな。俺には中等部の娘以外眼中に……おおっ見たか今の? やっぱり中等部女子テニス部の練習風景は絶景かな!」
校門そばのテニスコートに釘付けの視線を一度も悠人に配ることもない光陰は、
それ故に高等部のグラウンドから近づいてくるマーダーハリセンの気配を覚るのに致命的に遅れてしまうのだった。
***
「ど、ど、どどどどうだったかなラクシューレ!?」
校舎の陰で息を弾ませ激しく吃りつつ紅潮した顔で別の女生徒の腕を掴み喚くのは、2本の長いもみあげが印象的な女の子。着ているのは高等部の制服だ。
ラクシューレと呼ばれた腕を掴まれた女生徒は、群青色のジャージに身を包んでしかめっ面をしていた。さり気なく掴まれた腕を外して、髪をかき上げつつ言う。
「バカでしょあんた」
「へ?」
「あのねえ……あんなことで光陰先輩に覚えてもらおうってのが全然解せないとこだけどさ、あんな言い方じゃいかにも他の男子と待ち合わせしてるみたいにしか思えないっしょ」
「…………えええええええぇえぇぇぇぇ!!?」
「うるさい」
「ちょ、ちょっとまってっっっっど、、、どうしようねえ!? どうしようっっ!? 光陰先輩に勘違いされちゃう!!」
「知らない。私は部活あるから」
溜息混じりに肩をすくめると、すげなくラクシューレは去っていった。追いすがろうとした2本のもみあげは風薫る五月の空に舞い上がることなく両手両膝と一緒に地べたに落ちてしまうのだった。
「なんとなくアセリラリア2」で促進してみた。あほねたですまねえ。
つー事で立てに行ってみる。
>>877 スレ建て乙。
そして(多分)クォーリン、ガンガレ
梅ついでに語ってみるか?
あのドウジンゲームのことを・・・
>>879 いや、さすがにスレ違いだろ。
同人板にスレ立てた方がいいかも。
迂闊な事言うと荒れそうだし。
ただア&セリアとネリシアの話は良いと思った。
荒れるかもしれないという一言で出来がわかりそうな気がするような感じがするな
おk、邪魔しました忘れてくだしあ
自分で書いといて何だが、インストしただけでまったくやってなかったりする(汗)。
単に学園物としてインスパイアされてみた。
悪い出来ではないと思うけど。多分。
埋めないのかな?まあ、だんだん沈んで過去ログ行きになると思うけど。
でっきるっかな、でっきるっかな。
さてさて、ふふ〜ん。(さてふふ〜ん)
それはとても、神秘的な空間"だった"。
「悠人よ、花見というのはどうだ?」
「は?」
その日、第一詰所にやってきた親友兼悪友はそうのたもうた。
「花見?」
「おう、花見だ」
「花見ってあれか、桜を見物しながら弁当とか飲み食いする」
「改めて説明しなくてもいいが、まぁそうだな。で、どうだ?」
「どうだって言われても。みんなでって事か?」
「ああ。それとなく話してみたんだが、皆"ユート様が行かれるのでしたら"みたいな返事ばっかり返してくるんだこんちくしょう」
「あた、あたたたたっ! 爽やかに微笑みながら頸を絞めるなっ!……ごほっ、わかったよ。そういう憩いは大切だろうし」
「お、流石は我が心の友、快く承知してくれたか」
「どこの世界に脅迫じみた誘いをかけてくる心の友が……あん? だけど常春のラキオスに花見なんて風習があるのか? そもそも桜が」
「ん? なんだ、知らないのか? この国にはちゃんとソマセって桜そっくりの木が密生している場所があるんだぜ」
「へぇ、そうなのか。……ちょっと待て、それってまるっきりキーボードのカナ表k」
「アソクの月に満開になる所まで一緒ってのは出来すぎな気もするが、要はその時期、人間は好んでキニモーを行なうんだとよ」
「いや聞けよ、だからそれキーボードの」
「という訳だから、決行は明日の夜な。今はお前が瞬にこっぴどくやられたお陰で戦線も膠着しているって時期設定だし丁度いいだろ」
「332年かよっ! っていうか佳織ぃぃぃっっ!!」
そんな訳で、俺達ラキオススピリット隊はサーギオス戦を放ったらかしにして花見、いや、キニモーに出かける事となった。
なんて能天気な奴らだ。いや、俺のせいだけど。
どうせなら夜桜見物と洒落込もうぜ、という光陰の強引な提案を基に、準備は滞りなく進んだ。
ハリオンとエスペリアとオルファと今日子がお弁当を作り、ファーレーンとニムは街で飲み物の調達。
場所取り役に選ばれたヒミカとナナルゥは早朝から先発するという流石レッドスピリットならではの熱の入りようだ。
普段戦闘に明け暮れているスピリットだからこそ、こういう時には思う存分発散というか楽しもうとするのだろう。
レスティーナやヨーティアは、心底悔しがっていた。戦争自体は膠着中とはいえ、急激に国土を広げたラキオスは各地で問題が耐えない。
その応対でてんやわんやで、とても時間が取れないとのこと。せめてお弁当だけでも作る、というレスティーナの申し出は心底丁重に断っておいた。
「ユート様」
「ん、なんだセリア」
「今は、戦時中です。このように浮かれている暇があるならば戦いに備えて」
「俺の世界にさ、"英気を養う"って言葉があるんだ」
「は? エイキ……ですか?」
「そう。気を張ってると、疲れるだろ? それを解すのが、長い目で見ればいい結果に繋がるって教えだよ。セリアもさ」
「……あ、はい?」
「たまにはリラックスしてみるのもいいと思う。肩肘張ってばかりいると、いざという時に力が出せないんじゃないか?」
「肩肘っっ……いえ、判りました。隊長がそう仰るのでしたら、従います。それでは」
「……ふう」
何で俺がこんなフォローをしなければならないんだと、どっと気疲れがした。
「とうちゃ〜くっ!」
辿り着いたのはラキオスの城下町を抜け、リクディウス山脈を細く貫く山道を抜けた所。
オルファがぱたぱたとはしゃぎ回っている開けた夜の草原には、確かに桜のようなピンク色の花が咲き乱れている。
「へぇ……綺麗。月もよく見えるし、中々いいセッティングじゃない、光陰にしては」
「そうだろそうだろ。見直しただろ?」
「調子に乗らない。でもそうね、少しくらいは褒めてあげるわよ。よしよし」
「わおぉぉぉん!!」
傍で親友二人が早速いちゃつき始める。
しかしそんなことはどうでもよく、俺はしばし呆然とその光景に見入っていた。というのも。
「懐かしいな、ユート」
「……ああ」
目の前には、ぽっかりと大きく開いた岩場の洞窟。もっともかつて行なわれた戦闘によって相当崩れかけてはいるが。
「……あの時は、危険な選択肢が二つもあってスキップするのが面倒臭かったっけ」
「ん? 何か言ったか、ユート」
「いや、なんでもない。アセリア、ここってえっとキニモー……だっけ。それの穴場だったのか?」
「うん、私は知らない。けど、エスペリアがここは有名だって言ってた」
「……」
どうりでハナから"小さきもの"とか見下したような台詞を連発されてしまう訳だ。
毎年毎年寝床の前でどんちゃん騒ぎをされちゃ文字通り逆鱗にも触れるよなぁ、とか思わずサードガラハムに同情してしまった。
宴は、雪崩式に始まってしまっている。
「わ〜、綺麗……」
「よーしネリーが取ってきてあげるよ!」
「嬉しそうに枝を折ろうとするんじゃない!」
シアーが物欲しそうに指を咥え、それを見たネリーが木に飛びかかり、セリアが咎める。
「……馬鹿じゃないの? はしゃいじゃって」
「ふふ、ニム。ほら、目を瞑って。大地と闇のマナが」
「……ん。お姉ちゃん」
ファーレーンは素直に目を瞑るニムの髪を撫で、ニムはごろごろと喉でも鳴りそうな勢いでファーレーンに擦り寄る。
「ヒミカぁ、ナナルゥ、お疲れ様でしたぁ〜」
「別に、ただ座ってればいいだけだったからね。夕焼けに映える所なんて、みんなより先に見ちゃって申し訳無い位」
「問題ありません。ただ、『消沈』の気配がやや薄くなった気もしますが」
「良かったですぅ。それでぇ、お土産のヨフアルなのですけれどぉ〜?」
「頂くわ」
「頂きます」
淡々と、それでいて照れ臭そうに前髪を弄りながらヨフアルを啄ばむヒミカ。
風に舞う花びらを目で追いながら、微かに微笑む、ような表情を見せるナナルゥ。
その二人を心から楽しそうに見つめ、普段より活気のある大地のマナを惜しげもなく溢れさせているハリオン。
「ウ、ウルカさんっ?!」
「おや、これはヘリオン殿。いかがなされた?」
「その、ソマセは調味料じゃありませんから。ほ、ほら綺麗ですよねっ!」
「……なるほど。確かに心のどこかで深く響くものがあります。これがキニモーですか。奥が深い……」
「……(ほっ)」
太い幹を『冥加』でかつら剥きにしようとしていたウルカはヘリオンの懸命の説得により思い留まり、再び深い瞑想に入る。
「エスペリアお姉ちゃん、こんな感じ?」
「ええ、ありがとう。それじゃ、皆に配りましょうか」
「うんっ!」
オルファが実に嬉しそうにこの世界での使い捨て紙コップみたいなものを全員に回し、エスペリアが自家製の冷製ハーブを注いでいく。
「さ、ユート様」
「ん、さんきゅ」
促され、立ち上がる。一同が注目する中、月の光を反射する桜色の世界の中で。
俺は気分が良くなり、試しについ少しだけ捻った掛け声を上げてみた。
「マブーハイッ!」
『マブー……え゙?』
「なぁ悠人よ、流石にフィリピン語はどうかと思うんだが」
「そうか? や○ドラのサ○パギータとかで結構有名かと思ったんだけど」
「バカ悠、ここが異世界って忘れてんの? っていうか古すぎだし。みんな困ってたじゃない」
「うーむどこから突っ込めばいいのか悩むんだがまぁいいか。おーいオルファちゃーん、何してんのー?」
予想はしていたが、落ち着きの無い光陰は楽しそうに桜の花びらをしゃがみながらつんつんと突っついていたオルファに突撃する。
奴はこの場を完全に合コンと認定してしまっているようだ。
「ちょ、待ちなさい!」
そしてちゃっかりエスペリアの料理を忙しく掻きこんだ今日子が遅れて追走を始める。それもいつもの光景。
「ふわあ……これも平和、なのかな……」
ゆったりと木に背を預け、風に舞う花びらを眺める。空の黒に鮮やか過ぎるほどの桜、いや、ソマセ、そして澄んだ空気に煌く星々、月光。
龍の大地。かつての棲み家であったその場所で、妖精達が戯れる。煩わしく思っていたのだろうか、守り龍は。そんな事をふと思う。
『アンタってヤツはぁっ!』
『ぶべらばッ!!』
さやさやと葉の擦れ合う優しい音色と、それに混じる遠い喧騒が心地良い眠りに導いていく。手渡されたカップをくいっとあおる。
「んっ、んく……んん?」
「何か?」
「うわっ! びっくりした、ナナルゥか」
「はい」
「出来れば気配を消して隣に座るのは止めて欲しい」
「善処します」
「ところでさ、これって……酒じゃないか?」
「はい、成分にアルコールが含まれているのは認められます」
「いや、そうじゃなくて。駄目だろ、ネリーとかオルファも同じの飲んでいるんじゃ」
「……ああ。問題ありません。作中の登場人物は全て18歳以上ですから」
「うわなにそのご都合主義。っていうかどっちにしても未成年だし」
「それでしたら、ユート様も○校生では?」
「……」
「……」
「問題ないな」
「はい」
ナナルゥと会話をしていると何故か酷く疲れる。負けた気分に強制的にさせられるというか。
「んぐ、んぐ……ぷはぁ。それにしてもさ、こうして夜桜見物なんかしていると、戦いが嘘みたいに思えないか?」
「そうですね……ここはどんより暗くて落ち着きます」
「あれ?」
「はい?」
「今ここ、ナナルゥが座ってなかったか?」
隣には、ファーレーンが座っていた。いつの間に入れ替わったんだ。
目がとろんとしていてなんだか熱っぽい視線を向けており、頬もほんのりと染まっている。
行儀良く足を揃えて座っているのはいいのだが、心持ちしなだれるようにこちらに身を寄せているというか。
「あら、わたしではお相手にご不満ですか?」
「いや、そういう問題じゃ……ってちょっと、近いよ、ファーレーン。近い」
「んふふ〜……ぷはぁ」
「うわ酒臭っ!」
考えてみれば、普段内気なファーレーンがこんな積極的な行動に出る方がおかしい。
その時点で、気づくべきだった。彼女の足元には、アカスクの壜が5本も転がっている。常人なら軽く致死量だ。
「ねぇ、ユートさまぁ? 私、ブラックスピリットなんです」
「え? あ、ああ、知ってるけど。それがなにか?」
「判ってませんっ! 私は、本当に、ブラックスピリットなのですよ?」
「あ……っとそうだ、ニムはどうした? あんまり俺と喋ってると、色々とマズいんじゃないかなぁ。特に俺の身が」
持て余し気味になり、話を逸らす。外見に特徴が無いのがそれほどトラウマなのだろうか。
しかしどっちにしても、今俺に訴えかけられてもどうしようもない。幸いニムはネリーと弁当の奪い合いをしていた。
「その証拠を、ユート様にだけこっそりお見せしますね……ユート様にだけですよ。みんなには内緒です」
「そ、そうか、それは嬉しいな」
いや、内緒にしちゃ意味ないだろ、そんな突っ込みは押さえ込む。酔っ払いに何を言っても無駄だろう。
それに、俺の答えに満足したのか俯き、少し恥らうような仕草のファーレーンがちょっと艶っぽく見えたというか。
やばい、俺も相当酔ってるな。そっと覆面を外し、しずしずと背中を向ける様子を見ていたら何だかドキドキしてきた。
「……どうぞ」
「……は?」
「ですから、ほら。ここの後ろ髪です。黒いでしょう?」
「あ、ああ。そう言われてみれば、そこはかとなく」
何を期待していたのかと問われれば困ってしまうが、とりあえず真っ白なうなじはご馳走様。
髪の方は何だか肌とのコントラストでかろうじて黒っぽいかな、とか思わないでもなかったけど、生憎暗くて良く分かりません。
「ユート様、お腹は空かれてはいませんか?」
「今度はエスペリアか」
「は?」
「いや、何でもない。今は特に。……そうだな、このソマセを見ているだけでお腹一杯なのかもな」
「まぁ、ユート様ったら。ふふ……でも、そうですね。 何だか落ち着きますし」
突然入れ替わったエスペリアには、適当に格好つけた台詞で誤魔化す。
まさかファーレーンのうなじを頭の中で何回も反芻していたら胃袋に行くはずの血液が全部とある特定箇所に逆流していたとは言えないし。
女だらけの詰所メンバーが揃った中でそんな馬鹿正直な言動を繰り返していたら命が何個あっても足りない。
お、我ながらちょっと重みのある発言だったぞ今の。なにせ数多の経験から培われた貴重な真実だからな。
「……本当ですね」
「え? 何が?」
「ユート様が仰られていた事です。私達スピリットにも、戦う以外の生き方がきっと見つかる、そう仰っていました」
「……ああ、そんな事も言ったっけ。でもこうして面と向かって繰り返されると、ずいぶん恥ずかしい台詞だなぁ」
「そんな事はありません。このソマセの美しさも、ユート様にお会いしなければきっと知ることも出来ませんでした……感謝しています」
「エスペリア……」
「ユート様……」
「お兄ちゃ〜ん!」
「佳織ッ? ……なんだ今度はネリーか。ややこしいな」
「えへへぇ、お兄ちゃ〜ん」
「いやだから、なんで俺がネリーのお兄ちゃんなんだいきなり」
「え?……ひっどーい! ユート様、憶えてないの?」
「うーん憶えもなにも」
「だからぁ、PS2の追加イベントで言ってたじゃん! って、え、あれ? ……ふぇ、もしかしてユート様、通過してない、とか」
「うわ待て泣くな、あ、ああそう、そうだったな、思い出した、完璧に思い出したぞ、完璧に通過していた!」
単純に選択肢でシアーの方を選んだだけだ。とは口が裂けても言えない。
ネリーのまん丸な瞳がじわっと滲み出し、じゃれついていた手も寂しそうにそっと服の裾から離す。
そんな仕草を見せつけられては、流石に全く記憶にございませんとは断言出来なかった。苦し紛れのでまかせを繰り返す。
「ホント? 兄さん」
「シアー、それはまた別のお話だ」
というか今度はシアーか。全く次から次へと、一体どういうカラクリなんだろう。
どうやら機嫌が直ったのか、隣で何かサイケデリックな色調の団子のようなものを
もきゅもきゅ頬張っているシアーの髪を撫でながら、試しに他のメンバーはどこにいるのかと探してみる。ぎゅむー。
「ユート様、どなたかお探しですか?」
「……フェリア。ひきなり頬をつねるのふぁどうふぁと思ふぞ」
「ハイペリアでは、女性と一緒に居る時に他の女性を見た男性にはこうしてもいいという掟があると聞きました。それと、フェリアじゃないわ」
「ひた、ひたたたたっ! わひゃった、わひゃったから!」
色々と突っ込みたい所はあるのだが、取り合えずは涙目で訴える。
問答無用スピリットの力で思い切り抓られているのだから、頬の筋繊維もたまったものではない。
このままでは一生元に戻らないほど引き伸ばされて、佳織に再会しても判って貰えないほど顔の造詣を変えられてしまう。
「フェ……セリア、ほう、ひょうどひょかった、ひゃがしへはんだ」
「え……私、ですか? 本当に? ……やだ、どうしたらいいの?」
「……ふう」
我ながら、よく通じたものだと思う。しかし効果覿面、セリアはようやく手を離し、ぽっと頬を染め、俯いてしまった。
どうでもいいが、気持ちが悪い程大人しい。酔うと人格が反転する典型的なタイプだ。
そして更にどうでもいいことに、彼女は胸元を大きくくつろげている。
つまり桜色に染まった首筋やほっそりとした鎖骨やその奥でふわふわと揺れているいつもより深く凹型に刻み込まれている陰影がゆらゆらと。
「……ってセリア、大きくなってないか?」
「なにが、ですかぁ〜」
「うわっ! ごめんなさいごめんなさい!」
いつも頭が上がらないせいか、つい条件反射で謝ってしまう。
そろそろこのパターンにも慣れてはきたが、いきなりハリオンはやはり心臓に悪い。
というかぴったりと押し付けられている胸や太腿の熱い体温が心臓の鼓動に悪い。
「ユート様、あ〜んですぅ」
「あー……ん、んんっ%$@☆?!」
促され、てっきり何かを食べさせられるのかと思いきや、塞がれたのは柔らかい唇の感触。
ぬるっと送り込まれた唾液混じりの生暖かい食物を何とか飲み込む。しかしその間もハリオンの唇は情熱的に押し付けられたまま。
「ん……ん、んん〜!」
まさかこんな所で貞操を奪われてしまうとは。
いや、それよりなにより、息が出来ない。このままでは夜桜の下、見事に窒息死で散ってしまう。
『求め』に救助を求めてみるが、やはりというか『大樹』にやり込められてしまったらしく、うんともすんとも言ってこない。
それどころか、(『大樹』には関わりたくない、契約者よ、我を呼ぶな)といった気配ばかりがびんびんと判り易く俺を支配してくる。
このバカ剣。肝心な時に役に立たねぇ。心の中で毒づいてみるが、もうその罵倒自体がぼうっと霞んで来た。死ぬ。本当に昇天する。
「――――ぶはぁっ!!……はぁ、はぁ……はあぁぁ……」
もうダメだと覚悟を決め、川向こうのばあちゃんに声をかけようとした所で突然開放された。
足掻くように酸素を吸引する。空気がこんなに美味しいとは。ふと思った。この世界に酸素があって本当に良かったと。
どうでもいい仮定だが、もしもこの世界の住人が、例えば硫化水素を摂取して活動する生物だけだったらと考えるだけでぞっとする。
何で硫化水素なのかは自分でも良く判らないが、多分軽い酸欠が引き起こしたちょっとした錯乱だろう。何せ化学はずっと赤点だったのだ。
「そういえばあの時は、よくもアタシをバカとかけなしてくれたわね」
「光陰に試験勉強を教わった時か。お前だってバカ悠とか言ってたじゃねーか」
今日子が、何か珍しいものでも眺めるような表情でこちらを見ていた。口には楊枝を咥え、胡坐をかいて木にもたれかかっている。
「ああ、でも懐かしいな。もう1年以上になるのか」
渡された杯を傾けながら、ふと今日子の髪についていた花びらを指で摘んで取ってやる。
今日子は少しくすぐったそうに目を細めたが、そのままじっとしていた。その大人しさに妙な女の子の雰囲気を感じ、慌てて話題を逸らす。
「あ、ああそういや光陰がいないな。どこいったんだ?」
「光陰なら埋めたわよ、あんまりオルファやネリーやシアーやニムントールやヘリオンを追い掛け回すから」
「それは判り易いラインナップというか……埋めた?」
「うん。そうね、丁度この樹の裏あたりに。ハリセンで土掘って」
「ハリセンで?」
「そう、ハリセンで。なんか問題でもある?」
「……」
今背もたれている樹は、確かに大きい。
幹の太さも両手を広げた大人が四人がかりでやっと取り囲める位あり、背後で何かが起こっても或いは気がつかないかも知れない。
しかしそれにしても、今日子恐るべし。ハリセンで人一人埋まる程の穴を、気配も感じさせずに掘りあげてしまうとは。
まぁだが、問題ある?って訊かれれば問題らしい問題は特に無いが。光陰だし。そのうち生えてくるだろ。
「……ユート、ユート」
「お、真打登場か」
「え?」
「ん、なんでもない」
「……ユート、真似するな。気持ち悪い」
「何気に酷っ?!」
「酷いのはユートだ。どうしてみんなを放って一人で飲んでいる」
「へ?」
気づくと俺は、アカスクの一升瓶を抱え、みなに背を向けていた。目の前には、ソマセの大樹。
どうやら到着直後、やにわに樹の前に座り込み、そこで瓶を片手に延々と呟いていたらしい。
誰も気味悪がって近づかず、抽選の結果選ばれたのがアセリアだという事だった。当選オメデトウゴザイマス。
っていうか、あれ? つまり今までのは全部――――
「夢、だったのか? それにしてはリアルな」
「ユートさま、起きた?」
「起きたぁ〜?」
ネリーとシアーが両側から抱きついてくる。
「ようやく正気に戻られたみたいですね」
「お姉ちゃん、いいからあっちいこ」
ナチュラルに毒づくファーレーンとマイペースのニムントール。
「こらオルファ! 樹に登っちゃだめでしょう?」
「え〜、だってヨーティアお姉ちゃんにお土産持ってってあげようとしたんだよ〜」
「枝を折ってはなりませぬオルファ殿、蟻に笑われてしまいますぞ」
樹の上で騒ぐオルファ、それをおろおろと仰ぐエスペリア、良く判らない喩えを持ち出すウルカ。
「お、ヘリオンちゃん、髪にソマセの花びらが」
「うきゃ、だ、大丈夫です自分で取れますから〜」
光陰がヘリオンを追い掛け回している。頭にネクタイのようなものを巻いて。
「アンタって奴はぁ!!」
今日子が光陰を追い掛け回している。肥大したハリセンを持って。
「さて、そろそろお開きにしましょうか」
「そうね、明日も早いことだし」
てきぱきと、そして一方的に後片付けを始めてしまうヒミカとセリア。
「お腹、空きましたぁ〜」
「私が確認しただけでも、3人前は摂取していたようですが」
まだ物足りなさそうなハリオン、冷静かつ的確かつハリオン相手では所詮無駄な突っ込みをあくまで淡々と入れるナナルゥ。
「さ、帰ろう、ユート」
「ん、あ、そうだな。そろそろ帰るか」
アセリアに促され、立ち上がってゴミの回収を手伝う。
分別していないのをオルファに見咎められ、"だ〜め〜で〜す〜"とか指を立てて怒られ、
『理念』がもっと上位の神剣に見えたような気もしないでもないが、きっと別の時空から飛来した怪しい電波でもうかつに拾ってしまったのだろう。
なんというか、ここは神秘的な空間だったのだから。
どれ位神秘的かというと、ぞろぞろと引き上げるみんなの一番後ろを歩いていた時、
――――……くすくす
「……え?」
忍び笑いのようなものが聞こえたので振り向いてみても、そこにあるのは先ほどまで俺が相手をしていたというソマセの大樹だけ。
「ん、どうした、ユート」
「……いや、なんでもない」
――――……楽しかった?
「え?」
それは単なる風の悪戯だったのか、それともマナの妖精が起こした気まぐれなのか。
ソマセの樹は相変わらず月明かりの元に立ち、たださやさやと花びらを舞い散らせているが、
その枝々がゆったりと揺れている様が、どうしても穏やかに微笑みかけて来ているように見えてくる。
だが、不思議に戸惑いは感じない。むしろこの世界じゃ、この程度の不条理はアリなのかな、と妙に納得してしまう。
「ああ、楽しかったよ。さんきゅな」
俺はもう一度振り返り、樹に向かってにっと笑ってみせ、ついでに、というか、ついうっかり親指も立てて見せる。
「……うわ」
途端、一瞬びくっとその幹を身震いさせたソマセの樹は、あらゆる梢を波立たせ、大量の花びらを撒き散らし始めてしまった。
人間でいえば照れている仕草なのかも知れないが、当然の帰結としてたちまち地面は厚さ10cmのピンク色に舗装され、後には枯れ木だけが残る。
土砂降りのような花びらに慌てて逃げ帰ってきたのでよく知らないが、どうやらその後サードガラハムの洞窟はすっかり花びらの吹き溜まり場所となり、
花見、いや、キニモーのメッカだった筈のその地帯はクッションの利き過ぎる地面が腐葉化するまで立ち入り禁止になってしまったらしい。
「よ、アセリアおはよう」
「……浮気、良くない」
「は?」
ちなみにそれから数日、アセリアの機嫌は直らなかった。何故アセリアかというと、今進行しているのがアセリアルートだったからだ。どっとはらい。