実際のゲーム内では愛紗はめっちゃ忠犬です。
こんな怖い子ではありません。
愛紗BAD END「ヤンデレ愛紗」
これで終わります。
うむ!GJだ!
でも「なんかこれに似たキャラを知ってるなぁ」と思ったらアニメ版シャッフルの楓に似てるんだな
こう、一歩間違えばこれと似たEDになってもおかしくないと思う
それはともかくGJだぜ!
再開ですー。やや長いですがよろしく。
>第X話D「みんなのへや」
クリスマスも近づいたある日の夜。
僕は作戦を決行した。
扉の前で、左右を確認。人影はない。オールグリーン。
覚悟を決めて、ノックする。
「はいはーい」
いつもの彼女の声がする。
「滝沢だ。話があるんだが」
「……え?せんせ?ちょちょっと待って待って!」
慌てふためく結城。当然だ。不意打ちを狙ったのだから。
扉が細く開けられ、結城の顔が覗く。もう寝間着に着替えていたらしい。上にドテラを羽織っている当たり、以外と庶民的だ。
「どしたのせんせ?こんな時間に」
「良かったら、入れてくれないか?大事な話なんだ」
「……わたしはいいですけど、せんせ、ちょっとモンダイじゃない?坂水先生とかに見つかったらヤバイよ?」
「そう思ったらここをもう少し開けてくれ」
「――どうぞ」
眼をぱちくりさせた後、彼女は諦めて僕を部屋に入れた。
「緑茶しかないですけどいいですか?珍しいよね。せんせが私の部屋に来るなんて」
彼女は前回と同じくちゃぶ台を掘り出してその前に僕を導くと、湯のみを二つおいた。
「ありがとう。そうだな、あの時以来だ」
――結城は無言だ。笑っているとも、忌避しているともつかない、微妙な表情。
さて、戦闘開始だ。……僕は、踏み込む。
「結城、卒院後の進路は決まっているか?」
「え?わたし?うーん、お父さんの仕事手伝おうかなって……漠然とですけど。それが?」
「結城。真面目な話だが」
「はい?」
「僕 と 結 婚 し て く れ」
「…………はい?」
文字通り、目が点。
「ええええええええええええええええええ!!」
絶叫は部屋の防音限界を試すかのごとき音量で響いた。
「マジですかマジですかせんせ……あたま大丈夫?何言ってるかわかってる?」
「僕は本気だ。卒院したらすぐ結婚しよう。本当なら今すぐ結婚したいぐらいだ」
「ええええ……あ……」
両手を挙げて固まっていた結城は、ややあって手を降ろし、溜息をついた。
「――あのね、せんせ?」
上目遣いに、僕を見やる。
何か、可哀相な人と思われてるっぽい……
まあそうだよなあ。
いきなり教師に求婚されたらそりゃ引くよなあ。
しかし、これは策略の一環なのだ。
「一時の気の迷いで、人生最大の決定を簡単に決めちゃってはいけないとわたしは思うんだ」
「迷いではない」
そう。迷いはない。彼女のためにできることを考えたとき。
今、こうする必要があった。
「でもでも、わたしもまだ未成年だし、せんせは学院の教師だしその」
「だから、君の保護者とも話させて欲しい」
「せんせ私の話聞いてるのかな!大体……その……突然すぎるし」
結城は茶に口をつけた後やや荒くちゃぶ台に置いた。だいぶ呆れた口調だが……ハナから嫌というわけでもないらしい。
嬉しいような申し訳ないような。
「保護者といっても……お父さんは忙しいし、お母さんはずっと海外だし」
それでも話についてきてはくれる所が彼女のいいところだな。
しかしながら、僕はここで彼女に爆弾を投下しなくてはいけない。
そう――彼女の秘密を砕く爆弾を。
「違う。君にはもう一人いるだろう。ずっと君を見守ってきた、保護者が」
「――せんせ?」
「――ルドルフと、話させてほしい」
……その瞬間、結城ちとせの眼は、僕の眼を正面から捉えた。
同時に僕も、彼女の眼を――そしてその内に隠された綻びを捕捉した。
「――何、いってるの?せんせ。私言ったじゃない?ぬいぐるみが話すわけないじゃない、って」
結城の声は、わずかに震えていた。
僕や三嶋でなければ、分からない程度に……しかし確実に。
「その前に、君は僕に言ったはずだ。『私を、信じてくれるよね』と。あのとき、告げられなかった返事を今しよう」
「僕は、君を信じる。だから、きみの知るルドルフと、話をさせてくれ」
結城は、一瞬きつい眼で僕を睨むと、がたんと席を立った。
無言でベッドから、ルドルフを抱き上げる。
そして口を引き結んだまま、ルドルフ君をちゃぶ台の自分のいたところに連れてきて鎮座させると、
自分はそのままベッドに入ってしまった。
「……私はふて寝してるから、彼とは勝手に話してください」
毛布を頭からかぶって、ごろりと壁のほうを向いてしまう。
自分でふて寝っていうなよ。
しかし。ここからが本当の勝負だ。
向き直り……僕が何か言おうとしたとき、それは始まった。
「――正式に挨拶するのは初めてだな。ルドルフ・シュミットだ。お見知りおきを」
既に相手は土俵に上っていた。
タイミング的にも何もかも完璧に、目の前のぬいぐるみが喋っているようにしか聞こえなかった。
声質に、結城ちとせを思わせるものは何処にもない。完全な成人男子の声だ。
僕はベッドのちとせを見る。
彼女はこちらに顔を向けない。すでに眠ってしまったのかどうかもわからない。
分からないがしかし、なんというか……彼女が喋っている、という気配は一切なかった。しかし……それでも。
「ボイスチェンジャーや録音ではないよ。私が話すときは、あくまでちとせの声帯を借りている」
……やはり、そうなのか。
「ただし、彼女はそれを認識していない。故に、外見からは彼女は一切喋っているように見えないはずだ」
「……どういうことだい?」
「私が彼女の声などを借りているとき、彼女の認識においては時間は停止している。
知覚はブランクなく次の時間に引き継がれる」
「時間が停止しているが故に、彼女の心が『わたしが肉体に与える信号』に反応することはない。
彼女の行動があくまで自然なのはそのせいだ」
「――君は、何処に居るんだ?千歳の中なのか」
「そうともいえるし、そうでないともいえる。滝沢司先生、貴方は数論には詳しいか?」
「歴史がらみの事件なら多少は」
数学の発展史は人類の進歩に密接に結びついているから、ある程度の知識は僕も持っているが。
「『ヒルベルトのホテル』という概念を知っているかね?」
「――確か、無限に部屋の存在するホテルを考えたとき、どのように客を泊めたらいいか、
みたいな命題を扱ったものだったと記憶してるけどな」
「大枠で結構。命題にあまり意味はない。しごく大雑把に表現するなら、ちとせも私もそのホテルの一部屋の住人だということだ。
ただし、住人同士が顔を合わせる事はけしてない。なぜなら、個々の住まう部屋はそれぞれ無限に離れているからだ。
故に、ちとせはホテルのオーナーでもありながら、わたしが同じホテルの住人であることには気づかない
……精神科医に言わせれば、『気づこうとしない』というところだろうがね」
「個々といったな。君以外にも……いるのか?」
「先日ちとせと貴方の前で無粋な叫びをあげたのは私の名を騙った別のぬいぐるみだ。
おしゃべりの愉快犯、わたしとは相性のよくないウッドペッカーのシェイマス。
今はオーナーの怒りを買って奥に押し込められているがね」
「……道理で、口調が違うと思ったよ。だが、愉快犯というのは?」
「ガス抜きのために自分の尻に火をつける馬鹿な奴と言ってもいい。我らがオーナーは、たまに露悪的になるのだよ。
貴方に秘密を語ってしまった時、彼女の中にはいくつかの感情が渦巻いていた。
ぶっちゃけてしまいたい気持ち、隠しておきたい気持ち。認めて欲しい気持ち。否定して欲しい気持ち。
彼女自身が口に出すことなく、あるいは気づくことすらない感情を、私やシェイマスのような存在は代弁してしまう。自動的にね」
「彼女はあの時、君の言葉だと認識していたようだが」
「彼女自身も、シェイマスが出てきてしまったことにあの時は混乱していた。
なぜ今しゃべる!空気読め!と後でシェイマスが罵られていたのは……おっと、これを言ってしまったのは彼女には秘密だよ」
「今も、実は聞こえているんじゃないのか?彼女は……」
「さて、それは私の口からは言えないね。あとで彼女に聞くといい。私に聞きたいのは、別のことだろう?」
「ああ……結城の、過去のことだ。君が知る、全ての原因を」
わずかな沈黙の後。ルドルフは語り始めた。
「結城家の家族仲は、けして悪くはなかった。一人娘を父は溺愛していたし、キャリアウーマンの母も同様だ。多忙ゆえ夫婦が全員そろって過ごす時間はけして多くはなかったが、幼いちとせも、それを受け入れるだけの強さは持っていた」
「だが、だからと言って、たまに帰ってきた母親と過ごす時間が嬉しくないはずはない」
「そして、母が仕事に急いで出るからと焦っていたときでも、それを見送ることに躊躇いもあろうはずがない」
そうだろう?とルドルフは同意を求める。
「――それゆえに、周りが見えなくなることも。焦って、玄関から飛び出すことも、責められることではない。そうだろう?」
再び、同意。しかし、とルドルフは続けた。
「しかし、そう……発進させようとした車の前に、ぬいぐるみを抱えた娘がいきなり飛び出してきたら、
母親がパニックになるのも無理はない。これも、責められはしない。――そうだろう?」
「――それは」
「――母は、ブレーキを踏んだつもりだったそうだ。新品の履きなれない靴だったのも災いしたらしい。アクセルを踏んでしまって……さらにパニックに陥った」
「ぬいぐるみが飛び散るのを見て、ようやく我に返ったそうだ――その時に『死んだ』のが、初代ルドルフというわけだよ」
「それで?彼女は……ちとせは?」
「幸い、彼女にたいした怪我はなかった。頭をやや強く打っていたがね。ゆえに彼女は思ってしまった」
「ルドルフが、身代わりになってくれた、守ってくれた、とね――我が前任者ながら大したものだと思うよ」
皮肉に聞こえた。
「新たに母が買い与えたのがこの私……私としてはルドルフ2世というところだな。ちとせの中ではどうもあまり区別がないようだが」
しかし、ちとせの傷は直ったが、それを境に父と母の間に入った亀裂は直らなかった。
事故当時、父はかなり酷く母に当たったらしい。娘に対する溺愛の裏返しではあったのだろうが、
おかげでただでさえ罪悪感に苛まれていた母親はすっかり参ってしまったのだそうだ。
ノイローゼで入院してしまい、離婚寸前までいったらしいが最終的には別居という事に落ち着いた。
「海外を飛び回る美術商という仕事上、いずれにしても彼等は離れて暮らすことが多かった。
表面上は今までと変わりない、仲睦まじい夫婦のままだが――ここ数年、家族が一堂に会したことはない」
さて、とルドルフは続ける。あくまで淡々と、自らの主人を、そして保護者として見守ってきた対象を。
「ちとせは思ってしまった……自分の不注意が、家族を壊してしまった、とね」
さて、そこで――ナニがあったか、私が語るのは難しい。気がついたら、最初に私が、そしてぬいぐるみが増えるごとに別の存在が――例えばシェイマスのような、が生まれていた」
「精密検査では、脳には一切異常が無かった。ちとせが密かに自分で検査を受けた結果だ。しかし」
「恐らく、事故の際脳に衝撃を受けたことで、何らかのスイッチが入ったのだろうと、我々は考えている」
「千歳自身は、どう感じているんだ?その――君たちが次々に現れたことについて」
「――解っては、居るのだと思う。「ぬいぐるみ」は喋らない、ということはね」
「しかし、彼女は、それを自分の狂気と捕らえるのではなく――ありのままを受容することを選んだ」
「仕方ないともいえる。よくある多重人格と違い、彼女は我々の思考を一切把握していない。無意識のうちに、彼女の意志が我々に影響を与えているのは間違いないが、彼女自身はそれを知らないし制御もできない」
「――君たちは、本当の意味で、そこに住んでいるんだな」
「少なくとも私は、そう考えている。一つの人格の重なり合った別形態ではなく、独立した意思として私は結城ちとせのヒルベルト・ホテルに住んでいるのだよ」
「その――虐めの原因になったという占いについてだが」
「簡単なことさ。意思の中に詮索好きが多かったというだけの話だ。本校時代なら、ネットでも探偵でも使えば情報収集など難しくはない。ちとせが知らない間に、ホテルの住人の一人が、予めクラスメイトの情報集めをしていたということだよ」
「――しかし」
確かに、御曹司のスキャンダルは、興信所が再調査すればばれる程度のことだったわけで。
「私が考えるに――占いをちとせがはじめた時点で、そうした防御的な行動が既に始まっていたのではないかと思う」
「ホテルの住人が、ちとせが占いで失敗するのを避けようと――自発的に情報収集した、と?」
「それが結果的に裏目に出たのだから皮肉としか言いようがないがね。
最も、こちらに来てからはちとせは占いに手を出していない。まあ、ネット環境もないこの寮では、
我らが住人もサポート出来ないだろうから結果的には幸いというところだね」
そう結んで最後に、ルドルフ2世は結論を僕に告げた。
「まあ、そういうわけで、ちとせの認識に関する限り、彼女は嘘はついていないのさ。医者はまた違った事を言うだろうがね」
「それで僕にとっては充分だ」
そう。彼女が先に進むためには。
ルドルフがこれを僕に語ったということ自体が、彼女の無意識を、僕に示してくれているのだから。
「さて、私が質問する番だ」
「保護者として問おう――君は、結城ちとせのどこに惹かれたというのかね?教え子に懸想するとは教師失格だとは思わないかね」
「ふむ、教師失格といわれれば甘んじて受けよう。……だが、そうだな。
簡単に言えば――彼女が自分を信じていないように見えたから、かな」
「ふむ?」
「僕は彼女を信じたかった。彼女に自分を嘘つきなんて卑下してもらいたくはなかった。
信じて欲しいことがあるなら、それを受け止めてやりたかった」
「彼女が君にそれを望んでいると思うのかね?」
「僕じゃなくても出来るかもしれない。誰かがいつか彼女の心を開いてくれるのかもしれない。でも、僕は今ここにいて」
彼女のために、何か出来ないかと考えている。
「ならば、する事はひとつだろう?教師であっても、ただの男でも、だ」
――ぬいぐるみであるルドルフのの顔が、わずかに笑ったように見えたのは錯覚だろうか?
「――私が言うのもなんだが、難しい子ではある。君に好感を持っているのはまあ疑いないとしてもね。
これを私が言うのも奇妙ではあるが、だとしてもすぐ結婚というのは現実的ではないと思わないかね?」
「それは大丈夫だ」
「――なぜ?」
「ぶっちゃけると、ちとせと今結婚させてくれ、というのは嘘だ」
「なん?」
「君を引っ張りださなきゃいけなかったので、一番インパクトのある台詞を選んだ。ちとせ本人が呆れるくらいのね」
「……成程。は、はは……これはおかしい!あの時以来、こんなのは初めてだ……はははっ!」
――ぬいぐるみが、笑っている。(ように見える……僕もだいぶやられているらしい)
「ならば、私は一旦去ろう。オーナーが、大層君に言いたいことがあるようだからな!先に聞きたいかね?」
「君に聞くのはフェアじゃない。ちとせの口から、直接聞くさ」
「良かろう。せいぜい罵倒されることだ!――滝沢司」
幻聴か。
――君は最高に楽しい男だよ。
と、最後にルドルフが言ったような気がした。
三嶋よ。
どうやら、難敵との相撲に勝てたようだ。相手は自ら土俵を降りた。
後は、お姫様だけだ。さて――
「嘘なのかよ!」
同時にちとせが飛び起きた。
>第X話E「ふたりの部屋」
「ふふふ……いい度胸だよね先生!乙女を弄んでさ」
びし、と司に指をつきつける。その眼は怒りか悲しみか羞恥か、いずれとも知れぬ感情に彩られていた。
「弄んでなんかないぞ」
僕が反論すると指差していた手があっさりと力なく下がった。溜息をついて彼女は続ける。
「ふう……分かったでしょせんせ?私、嘘つきなんだよ?」
「なぜそう言い切る?」
吐き捨てるように、結城は答えた。
「自分に、嘘をついてる。どうせそう思ってるでしょ。病気なのを、ごまかしてるだけだって」
最初のきっかけはルドルフが言ったとおり。事故の後の、父母の喧嘩。それが引金になったのだという。
――お母さんとお父さんが私のせいで、喧嘩してる。
悪かったのは、私なのに。
不注意だった私が、悪いのに。
自分で、私の家族を壊してしまったのに。
「私は、ルドルフに言ったの。誰か、私の懺悔を、後悔を、聞いてください、って。
私の泣き言を、憎しみを――嬉しいことを、聞いてください、って」
――そしたらみんなが現れてくれた。聞いてくれた。そういうこと」
「でも――それは嘘だよね?お医者さんはたぶん言うよ。わたしは多重人格です、って」
「説明できる心のヤマイ、だって」
そこにいるのは……泣いているお姫様。
だが――幸いにも僕は、彼女を泣き止ませる言葉を知っている。
だから躊躇わず踏み込もう。最後の一歩を。
「結城。君はこういったね。『私は嘘つきです』先生から質問だ。これは正しいか、それとも嘘か?」
「せんせ……?」
「これは嘘つきのパラドックスといってね。答えは……そんなことは、証明できやしない、だ」
「どうして?」
「だってそうだろう?正しいなら、君は嘘をついている。故に嘘つきというのは嘘だということになる。
嘘なら、『私』は嘘つきではないことになる。だけど最初に嘘としたのなら、『私』は嘘をついたのでなければならないはずだ。
つまり、結果として、私は嘘つきです、と言う人が嘘つきか正しいかなんてのは、解らないってことさ」
「――でも、でも」
「人は君の本当も嘘も、どちらも正しく信じることができる。だから、精神科医はけして現実に勝てない」
「だから、僕は君を信じる。君がありたいと願う現実を。そうなりたいと願う未来を」
ルドルフが何処に住んでいようと関係ない。
「僕は君と話す。ルドルフと話した。それで君を信じるには十分だ」
だから結城、お前は。何に怯えることもない。何を恐れることもない。何を後悔することもない。
君が父と母を愛している。それだけで、君は最初から許されているんだから。
「私は……母さんを壊したり、してないの?自殺を図った彼女を……壊さなかったの?」
「壊れたのは君だけのせいじゃない。君の手が何かをなしたとしても、君はもう報いを充分に受けた」
「そんなの……そんなの楽天的すぎるよ」
「――人が犯す罪の全てが永遠に許されないのなら、世界は一日ごとに滅んでなきゃいけないはずだ」
「僕が、君を許す。君を認める。君を信じる。それじゃ足りないか」
「――せんせ」
「今すぐ結婚したい、と言うのは嘘だ。だが、君が卒院してから以降は嘘にする気はないぞ」
「……なんで、そこまでするの?何で、私なの?」
「男が可愛い女の子に惚れるのに理由がいるか」
「……聞きたいよ、わたしは」
「そうだな。結城ちとせは……可愛い嘘つきだから、かな」
「――滝沢先生は、嘘つきだよ」
「証明できるか?」
「さっきの話だと、できないんだよね。……じゃあ」
結城の眼が悪戯っぽく光った。だいぶ、いつもの彼女に戻ってきたような気がする。
「せんせが、自分で嘘つきでないって証明して」
「――どうすれば、君は納得する?」
「そだね」
くすり、と、笑って。
やっと、笑って、言った。
「――私が眼を閉じている間に、せんせがすること。それが気に入ったら、納得するかも」
「僕が出来ることは、一つしかないぞ」
「――それで、いいよ」
そうして。
僕、滝沢司と結城ちとせは。
初めてのキスを、交したのだった。
P.S.
「ルドルフとは毎日キスしてたけど」
そうなのか。
なんとなく落ち込む僕。
「でもでも」
あわあわ、と手を振ってから。
僕の首に彼女はそっと手を回す。
「あったかいキスは……初めてだよ」
結城は、ちとせは、僕を見上げて、
「せんせぇ」
「何だ?」
「大好き」
めでたしめでたし……というところで如何でしたでしょうか。
都合五話お付き合いいただき有難うございました。
結城ちとせは情報が少ない分、自分で補完していく楽しさがありましたが
皆様のイメージと乖離してなければ非常に嬉しいですね。
とりあえずPULLTOP様に立ち絵ぷりーずな感じです。
もし気に入って頂いた方で転載等ご希望の方はご自由に再利用して下さいませ。
作者名:紅茶奴隷と端っこにでも書いておいて頂ければ幸いですです。
あなたがかみか。
よし、今すぐPULLTOPに就職して下さい。
ファンディスクかにしの特別編シナリオ、よろしくお願いしますね?
>>539そういってくれるだけでSS書きとしては作者冥利に尽きますね。有難う御座います。
健速氏の描写した「頼れる教師」司のイメージを大事にしてみましたが
……言葉で人を説得するのって難しいですね。改めて実感。
ちとせのSS上手すぎるよ・・・
GJ!!
ここに恋姫†無双のSSが投下されていたので
私も投下してみます。
注意点
・これにはもろネタばれを含みます。本編のEND辺りからの開始になります。
・作者はど素人であり、内容も表記も電波ばっかりです。
・前半部は本編と同じような表現が使われていますが勘弁してください。
その時、俺は……
皆の事を思い浮かべた
>翠の事を思い浮かべた
淡い光を放ち始める鏡。
その光はこの物語の突端に放たれた光。
白色の光に包まれながら、俺はこの世界との別離を悟る。
自分という存在を形作る想念。
その想念が薄れていく事を感じながら、それでも俺は心の中に愛しき人を思い描く。
翠――――。
ずっと側にいてくれた意地っ張りな少女。この戦いの物語の中でずっと俺を支え、時には励まし、そして時には導いてくれた大切な半身。
その少女との別離の刻が迫っていく。
自分という存在の境界があやふやになっていく恐怖の中で、ただ俺はその少女の事を思う。
このまま消えたくない。約束したじゃないか。
翠の前から消えるなんて、絶対したくない!
この世界から切り離されていく感覚。その運命の中で、愛しき人に手を伸ばす。
ただ、側にいたい、彼女の笑顔を見たいと願う一心に。
翠「ご主人様!」
薄れていく意識の中、耳朶を叩く愛しき人の声が俺の心を奮い立たせる。
一刀「すい……」
物語の終演を告げる運命の光。
決して逃げることの出来ないその光から、必死に手を伸ばした。
一刀「す…い……」
ただ、会いたい。ただ、声を聞きたい。そして、ただ一緒に居たい。
いつまでも、続くと思っていた2人がいる楽しい日々。
それをただこれからも続けていきたいと心の底から求める。
いつまでも、いつまでも。
共に過ごした時間
共に過ごした記憶
それらが、水滴となって地面へと落ちて、そして弾けていく。けど、それに抗うかのように俺はそれを受け止めようとする。
翠と俺が楽しいと感じた思い出は忘れたくない。
絶対に、例え運命であったとしても。
決して逃れられぬものだとしても。
俺にとって、彼女との思い出は何よりも大切なものなのだから。
一刀「す…い……」
それなら、どんな流れでさえも足掻いてみせる!
翠「ご主人様!」
白い光がご主人様の姿を消していこうとする。
翠「待ってくれよ、お願いだから!」
精一杯叫んでも、届いていると信じていても、その光が止まることはない。
言ったのに。
ずっと、あたしを楽しませてくれるって言ったのに。
翠「居なくなったら一生恨むって言っただろ!」
もう、誰か大切な人が居なくなるなんて嫌なんだよ。
翠「あたしを1人にしないでくれよ!」
あの幸せを感じられる日々が終わるなんて考えられない。
一刀「翠……」
翠「ご主人様!」
父上が死んだ時、あたしはもう楽しいって感じられないって思っていた。
でも、ご主人様はそれでも楽しいって思えるようにしてくれた。
翠「やだよ……あたしはやだよ!」
そのご主人様が消えたら、あたしはどうすれば良いんだよ。
もう、終わりなんて、絶対嫌だ。
翠「離れてたまるかよーーーーー!」
左慈「ふっ……そんなに奴が好きなら、一緒に死ねば良いんだよ!」
彼等に向かい駆けようとする左慈。
鈴々「とりゃーーーー!」
左慈「くそっ!」
しかし、それは3人の影より阻まれてしまう。
鈴々「翠の所には絶対に行かせないのだ」
巨大な蛇矛を持つ鈴々
星「2人の恋路を邪魔するのは野暮というものであろう」
槍を構える星。
紫苑「求め合う2人を邪魔するなんて、決して私たちは許しはしないわ」
弓で射抜かんとする紫苑。
3人は左慈の前に立ちはだかり、一歩も通すことさえ許しはしない
左慈「この傀儡風情が……」
星「傀儡であろうとなかろうと、私たちは自らの誇りにかけて仲間を守るだけだ」
紫苑「たとえ、私たちが消え去る存在だとしても、それが変わることは決してないわ」
鈴々「そうなのだ。鈴々達は翠を見捨てるなんて絶対にしないのだ」
左慈「ふん、なるほど。これが定められた役割というものか。良いだろう。最後まで相手をしてやるよ」
鈴々「いっくのだーーーーーーーー!!」
背後には、俺達を守ってくれる仲間がいる。自らの全てを投げ打っても守ってくれる仲間が。
だったら、俺は目の前の愛しい人に向かう事にためらう事はない。
翠「絶対に……絶対に離れたりしねぇからな!」
決して縮むはずのない距離を、少女は必死に無くそうと懸命に手を伸ばす。
変わらぬ日々を、楽しい日々を、あの愛し合った日々を続けるために。
翠「ご主人様―――――!」
一刀「翠――――――!」
決して離れないという二人の胸の中の熱い思いは、
その溶けるはずのないその運命という名の氷壁を溶かしていく。
ただ、相手の温もりを、そして、温かな変わらぬ日々を求めるために。
一刀「翠――――――!」
翠「ご主人様―――!」
相手の想いは自分の手を、自分の想いは相手の手を求める。
そして――――
2人の絆は結びついた。
一刀「ん……んん……」
ゆっくりと意識が覚醒していく。だが、俺の頭は未だにぼんやりとした靄に包まれている。
翠「おい……ご主人様!ご主人様!」
耳の側で聞こえる少女の声。その声に俺は聞き覚えがあった。
一刀「す……い?」
翠「良かった……無事だったんだな」
視界が正常になれば、そこにいるのは安心しきっている翠の姿がある。
一刀「ここは?」
翠「分からない。ただ、貂蝉の言ってた別の世界ってやつだと思う」
恐らく彼女も出来事を正確に理解できていないのだろう。いや、たぶん朱里でも理解できないような内容だから、翠には絶対無理だろうな。
翠「ご主人様、今、すっごい失礼な事考えなかった?」
一刀「いや、そんな事は……あれ?」
翠の言葉を耳に入れながら、周りを良く見てみると、そこには懐かしい風景が広がっている。
翠「?どうした?」
一刀「ここは……聖フランチェスカ?」
翠「何だ?その『せいふらんちぇすか』ってのは?」
一刀「ああっ、俺が以前いた学校の事だよ」
そう、ここが以前、俺が翠達と出会うまでいた世界。
翠「えっ……て、ことは、ここは天上の世界なのか?」
一刀「分からない」
その問いには、単純に頷く事が出来なかった。貂蝉の言っていた事、
『新しい外史を作る事が出来る』
つまり、ここは俺が以前いた外史でも、翠達がいた外史でもない、全く新しい外史なのだろう。
一刀「新しい外史か……」
翠「ええっと……つまり、鈴々達がいない世界って事なのか?」
一刀「多分な……」
だが、それは一つの可能性も同時に示される。
翠「……もしかして、みんな消えちまったのか?」
愛紗や鈴々、朱里や星、紫苑。一緒にあの世界で過ごしたみんなが。
だが、俺は、
一刀「いや、違うと思う。みんな、違う外史で生きてると思う。愛紗も鈴々も他のみんなも……」
俺達には感じる事のできない、また別の世界。そこで、彼女達は存在していると思う。
翠「そうだな。星なんかはひょっこりそこら辺から出てきそうだしな」
同時に、少しだけ翠の笑顔が戻った。うん、やっぱり翠には笑顔が似合ってると思う。
一刀「でも……これからどうしような」
2人だけになってしまったこの世界で、どうすれば良いのか。
翠「大丈夫だって、ご主人様がいれば……」
一刀「はっ?……ってうわっ!」
唐突に腕に重みとぬくもりを感じる。それは翠のものだとすぐに分かった。
一刀「翠?」
翠「ご主人様はさ、あんな時のあたしでも、楽しいって感じさせてくれた。だから、今度も大丈夫だと思う」
恐らく、彼女が言っているのは、初めて2人きりで話をした川での出来事。まだ、彼女が父親の死を引き摺っていた時の事。
翠「きっと、ご主人様は楽しい日々にしてくれると思う」
その、翠らしからぬゆっくりした口調。その重みに俺が気付く事になるのはいつになるのだろうか?
一刀「……そうだな。楽しい毎日にしていこう」
そして、俺は彼女両肩にそっと手を添える。
翠「なっ!」
途端に翠の顔が赤に染まる。そう、ここにいるのは、ずっと側にいてくれた翠なんだ。
一刀「だから、一緒に行こうか」
少し顔を俯ける翠。だが、その後に、確かにその返事は聞こえていた。
翠「うん……」
頬を真っ赤に染めた顔に、俺はゆっくりと唇を……
??「ほぉ……主も意外に大胆なお方だな」
一刀&翠「●×△★※……!」
唐突に茂みから聞こえた聞き覚えのある声。同時に、ガサリという音が茂みから漏れてくる。
??「いや……翠も大胆になったものだ」
そう。この独特の雰囲気の声。確かに聞き覚えがある。そして、その声の主はゆっくりと姿を現す。
一刀「星!」
星「ふむ……そう驚かれても心外だな。私が居てはいけないのか?」
そこから出てきたのは普段と変わらない、昇り竜こと趙子竜その人だ。
翠「ななななな……何で星がここにいるんだよ!」
おお、久しぶりにこの翠の慌て様。やっぱりこういうところが可愛い……じゃなくて!
一刀「星……お前もこの世界に来てたのか?」
星「私だけではないぞ。ほれ……」
すると、星が指し示した方向から次々と声が上がると同時に次々と姿を現していく。
愛紗「ご主人様!」
何故か慌てている愛紗
鈴々「む〜、翠だけずるいのだ〜」
拗ねた様に頬っぺたを膨らましている鈴々。
朱里「はわわ〜〜〜」
いつもの口調で慌てる朱里。
紫苑「あらあら……」
そして、何故か微笑んでいる紫苑。良く見れば彼女の背中には瑠々ちゃんまで……。
翠「……な……何で……」
北郷軍全員集合!とタイトルが付けられそうな集合ぶり……翠は何故か口を開けたまま立ってるし。
星「私たちにも良く分からん。たまたま、気が付いたらここにいたのだ」
一刀「何で……」
しかし、俺はそこで一つの可能性が浮かび上がった。
変わらぬ日々。俺が望んだ、そして翠のために望んだ事……なら。
一刀「もしかして、これからも続けられるのか?」
翠「へっ?」
一刀「いや、翠が望んでた変わらない日々ってやつを、この世界でも……」
翠「あっ……」
みんなと一緒にいられる、翠の笑顔が見られるこの日々を続けたいと願うなら。
鈴々「あー!翠とお兄ちゃんだけ何か知ってるのだ!」
星「ほぅ……それは興味深いな」
どうやら、2人は何か気付いたらしい。このままだとくどくどと文句を言われるのは目に見えてる。
一刀「んじゃ、行きますか!もしかしたら、他のみんなもいるかもしれないからな!」
そうされる前に、俺は翠の手を握って走り出していた。
翠「お…おい、待てよ!」
少しだけ、焦りながらも、彼女は笑いながら答えてくれる。そう思えば、これからの不安なんてないだろう。
だって、翠の笑顔がいつでも見られるのだから。
>>543-551 とりあえず、馬鹿でごめんなさい……orz
やりたかっただけなんです。感覚的に言えば、
『カッとなってやった。反省はしているが、後悔はもっとしている』です。
ちなみに、前半543−547までは、本編どおり曲の流れる部分という事を意識したので……本当にごめんなさい。
とりあえず、こんなSSにもならない駄文でも楽しんでいただけたら幸いです。
やっぱ星達の最後スルーっぷりは哀れだったからね。
ちゃんと一緒になれてよかった・・・
あとやっぱばちょうかわいいよばちょう
>>547 馬超の最後は「一刀様―――!」になるんじゃね?
確か、関羽も張飛も孔明も最後だけ「ご主人様」じゃなかった気がする。
というか、「翠エンド」じゃなくて「ほぼ真エンド」なのなwww
何故だろう…
『ドッキリ大成功』と書いたブラカードをいそいそ準備する
華蝶仮面1号2号が脳裏から離れてくれないw
ゲームの時はちっともそんな気しなかったんだがww
人気投票支援SSです。今回の主人公は三嶋鏡花ともう一人。
お楽しみ頂ければ幸いです。例によってえちはないです。ごめんなさい。
「受け継がれるもの」
一月も半ばの、ある晴れた午後。
三時のお茶にはまだ早い、そんな狭間の時間。
少女は温室の扉を開けた。
花々の間をゆっくりと歩んでいた女性が振り返る。
「――あら。いらっしゃいませ、三嶋さん」
榛葉邑那がそこにいた。午後の光を浴びたその髪はさながら金色の滝のようだ。
「……っ」
一瞬眩暈を感じたのは、外と温室の温度差ゆえか。それとも眼前の光景ゆえか。
ただそこに居るだけで彼女はその閉じた空間全てを占有し支配する。
温室という王国の女王。ある人が彼女をそう呼んだという。三嶋鏡花は実感する。
それは皮肉でも誇張でもないと。いや、彼女自身、前から薄々は気づいていた。
――この人は、此処に居ながらにして別の遠い場所にいる存在だと。
「……お邪魔ではなかったでしょうか?」
「――お客様はいつでも大歓迎ですよ。お茶でよろしかったですか?」
「頂きますわ」
ほそくしろいゆびが傾ける小さなポットから、
琥珀色の紅茶が注がれていく。
辺りを見回すと、若干雰囲気が変わったような気がする。
以前はどことなく息苦しい感じを覚えることもあったこの空間が、
今は……何と言うか、そう、暖かい。
「――花がいくつか変わったような気がしますが」
「そうですね。今お友達にいくつか世話をお任せしているので」
その人が持っている別の小型温室に移したものがあるという。
「冬はどうしても、維持が大変なものもありますし」
「整理しているということですの?」
「――そんなところでしょうか」
改めて、邑那の顔を見やる。穏かな微笑みを浮かべたその顔は変わらない。
「わたくし、卒業とともに、理事長の秘書として仕えることになりましたの」
「おめでとうございます。三嶋さんならきっと立派におやりになりますわ」
「――学院を去られると、お聞きしました」
一瞬、自分に茶を注ぐ彼女の手が止まったが
「――暁先生ですか」
口調は平静のまま、そう答えた。返事を期待した言葉ではない。
漏れる場所はそこしかないと知っているが故の確認。
「わたくしが鎌をかけました。先生が自分から話したわけではありません」
「先生は責めませんよ。あの方の任務上、風祭に情報が流れるのは既定事項ですから」
自分の分をついで、ふわりと鏡花の前に座る。
「三嶋さんは何かわたしに、聞きたいことがあったのでしょうか?」
限りなく無表情に近い微笑み。
相談はシンプルなものだった。
風祭の、後継者の一人の秘書となれば、綺麗な話ばかりを聞いているわけにはいかない。
あのあまりにも真っ直ぐすぎる理事長の耳に入る前に決済せねばならない事項も多かろう。
例えば、手を汚す作業。裏の、影の、闇に対処するための作業。
自分が、彼女たちが望もうと望むまいと。風祭の中で生きていくには。
自分たちの場所を手に入れるには全てを避けては通れない。
そもそも、対処法を知らなくては避けることすらできまい。
「理事長もリーダさんも、そうした作業に向いた方ではないと。三嶋さんはそうお考えなのですね」
「僭越ながら、そう思いますの。ならば、補佐すべき立場のものが……
その、そういう部分に慣れておかねば、と思いまして」
「あなたが――それを引き受けると?頼りになる男性陣もいらっしゃるでしょうに」
「――わたしは、理事長と学友たちにこの身を救われました。既に気にかけるような係累もおりません。
理事長とこの学院のためなら、全てを引き受けるのはわたくしであるべきだと思います」
一瞬、邑那の眼が眼鏡の奥で細められ――また普段どおりに戻る。
「三嶋さんの決意は理解しましたが――なぜ、わたしのところに?」
「榛葉さんと李燕玲が通ってきた過程において……何を考え、何を考えなかったのか。
それをお聞きしたかったのですわ」
「わたしたちの手が、どれだけ紅く染まっているかはご承知の上で、なお聞きたいと?」
「――ええ。だからこそ、ですわ。だからこそ」
いざその時。きっと自分は揺らいでしまう。今の自分では。
「自分は知っていなくてはならない――そう思いますの」
だから。それを乗り越えてきた人に、聞きたかった。
どうあるべきなのかを。どうあるべきでないのか、を。
「全てご存知の上で、そう仰るのですね――」
二杯目のお茶を二人に注いだ後。
何かに納得したように一人頷くと、邑那はゆっくりと語り始めた。
鏡花に向き合いつつも、何処か遠くの一点を見つめながら。
それはまるで過去の自分を覗き込むかのように。
「――井の中の蛙大海を知らず、されど空の蒼さを知る」
語句の異同はあれど、よく知られたそんな言葉がある。
人によってはそこから実に様々な意味を読み取る文章でもある。
「私たちは幼き日に、井戸の中にいながら大海を知る術を得ました」
陽道グループ。いや、蘆部源八郎と言う名の深く暗い井戸。
そして大海を泳ぐ術を与えた彼女の友、李燕玲。
「――ですが、その代わりに空を見上げる術を忘れてしまいました」
月日を経て体は大きく、力は強くなり、その眼も手も遠くまで届くようにはなったけれど。
「そのままであれば、私たちは例え大海に泳ぎだそうと、いかに巨大になろうと
それはやはり一匹の蛙にすぎなかったでしょう」
でも、と邑那は続ける。
「ある人が、わたしに空をもう一度見ることを教えてくれました。
悔しいから本人には教えてあげませんけど、わたしは本当に感謝しているんですよ」
彼女は言葉を紡いでいく。何の影も束縛もない笑顔を浮かべつつ。
――ああ。彼女は、榛葉邑那は、こんな風にも笑える人なのか。
「わたしも貴方も、世界という巨大な井戸の中にいます。
わたしたちの足掻きは、所詮水面に波を起こす程度にすぎません」
それでも。泳いで居なければ。わたしたちは沈んでしまうから。
空を見れなくなってしまうから。
とても、綺麗な。
「空を見ることを忘れなければ」
遥かに仰ぐ空を。
「わたしたちは――やっていけるのだと思います」
恥じることもなく。後悔もなく。……いや、違う、と三嶋鏡花は理解する。
恥じても。後悔しても。それでも。自分と、友と、大事なもののために。
――必要なのは足掻いて、足掻いて。それでも深淵ではなく、空を見続けることだと。
何のために行うのか。誰のために行うのか。
深淵と空は「何のため」でも「誰のため」でもありうる。状況によって変わる。
だけど大切なのは深淵ではなく、空を選ぶという――その意思。
邑那が管理室からファイルを持ってきてテーブルに置いた。
「これをお持ちになってください」
「……開いてみてよろしいですか」
「どうぞ」
読み進めた鏡花は己の眼を疑う。その三冊の長大なファイルは。
風祭外部の敵に関する対処法。躱し方から排除と解体と吸収の手順まで。それも全て個別に。
グループ自体の脆弱性とそれに対する方策。付随するのは風祭財閥に内在する裏切り者のリスト。
その中にはあろうことか陽道と通じる者の名まであった。
そして最後に、理事長の家族兄妹に対する詳細な。詳細すぎるといっても良いデータ。
文字通り、風祭グループの死命を制しうるほどの秘匿資料だった。
「――なぜ、これをわたくしに?」
声が震える。
「いかなる武器も、いかに用いるかはその人間次第です」
王国の女王が。その数え切れないほどの過程の中で、常に考えてきたこと。
考えて、考え尽くして、尚無くすことの出来なかったこと。
だからこそ、けして言い訳をしないであろう所業の数々。
「わたしたちは今に至る過程で沢山の間違いを犯しました。
全てを予測できたとしても、最終的に全てが思い通りになったことなど一度もありません。
だからこそ、用い方には細心の注意が必要なのだと、常に肝に銘じています。
出だしから間違っていては最後はもう大変ですね。最近も酷い目にあいました」
「バタフライ・エフェクトですか。最近も、とは?」
くすり、と邑那は笑う。ああそうか。鏡花は分かってしまった。
その話のときだけは、彼女はただの娘に戻れるのだと。
「この春、最大の間違いを犯してしまいましたから」
分かってはいるけれど。それでも突っ込みを入れてみる。
「……参考までに、間違いの内容をお聞かせ願えませんかしら?」
「一人の迷える殿方に、お茶を振舞ってしまったことでしょうか」
もう既にオチが見えましたけども。
「それでは最大の成功も、今年迎えたのですわね?」
「――ご想像にお任せしますよ?」
なんかちょっと耳が赤くなってるし。こういう話にはまだ慣れていないのだろう。
それを言えば、鏡花だってそうなのだけれど。ちょっとだけ悔しい。
「……そうですわね。おのろけというのは長々と聞くものではなさそうですわ。
では最後にお尋ねします。もし風祭の利害とあなたの利害がぶつかることになったら?」
そうですね、と邑那は落ち着いて答える。
「そうならぬためにこそ、三嶋さんやわたしがいるのだと思っていますけど」
鏡花は唐突に気づく。そもそも、この資料を邑那が持っているという事自体、
その気になれば、陽道を掌握した暁に彼女自身が風祭を破滅させることも可能ということ。
それをあえて鏡花に渡した意味を考えれば。
彼女自身にこそそれを、「風祭」と理事長たちを守る役割がゆだねられたのだということ。
密かなる同盟者。いや「話の分かる」敵として、三嶋鏡花が選ばれたのだと。
――大事なものならば守ってみせなさい、という挑戦にして教育。いわば試験。
だからこそ。ティカップをそっと置いて、彼女は。
「やむを得ず、そうなってしまったのなら」
迷い無く邑那は答える。そう。それこそが女王の矜持。
「全力で、叩き潰します」
鏡花は頷く。ならばわたくしも応えよう、彼女の気持ちに。
「ではわたくしも、その時は同じ言葉を持ってお応えしましょう。
――その前に、まず全力で回避しますけど」
穏かに邑那は笑う。
「鏡花さんは、良い秘書になられると思いますよ」
呼び名が、鏡花に変わっていた。
「そうですね。良い学友に恵まれましたから」
「その中に、わたしも入れていただけるのでしょうか?」
「勿論ですわ、邑那さん」
「ふふ、光栄ですね。――もう一杯、如何ですか?」
下の名を呼んだことに、彼女は何も言わず微笑んだ。
そして緩やかに時間は流れる。
多分最初で最後の、彼女たちだけの時間。
「――そういえば、相沢さんから聞いたのですけど」
「なにか?」
と邑那は首をかしげる。
「試験用の貸し出しノートには、邑那さんは必ず嘘をいくつか混ぜておくのだとか」
「そんなこともあったかもしれないですね」
「ひょっとして、この資料も?」
「さあ、どうでしょう?」
にっこりと笑う邑那。
かなわない。
本当に、この人にはかなわない、と思わせられる。
――今のところは。でも、いつかは。
あなたのように。あなたが間違えたところを間違わずにいられるような自分に。
あなたたちが手に入れたものを失わせずに、自分たちが失わずにいられるように。
あるいは同じように間違えて。それでも、あなたたちのように前を向いて。
迷いなく。あるいはずっと迷いながら。それでも前に進める自分たちであれるように。
――そうなりたい、と願う。この世界に。あの空に。
ふっ、と息をついて、鏡花も笑う。
「わたくしは丸写しは避けることにしますわ」
「それがよろしいかと」
それから二人とも。
今度は同時に笑った。
それは、冬のとある一日の風景。
温室の窓からは、蒼く澄んだ冬の空。
遥かに仰ぎ、麗しの――
空。
後年。
凰華女学院が「風祭の玉石」と呼ばれるようになったころ。
若く美しい小柄な理事長の傍には、常に二人の美女の姿があった。
一人は金髪碧眼の慈母のごとき侍女。
そしてもう一人は、美しき黒髪の秘書。
彼女は、味方からも敵からも等しくこう呼ばれたという。
「優しき魔女」――と。
読んで頂いた方はお分かりでしょうが邑那√ベースです。
邑那も鏡花もがんばれ、ということで書きましたです。
ではでは――。 by 紅茶奴隷 でした
おお、遂に三嶋のSSが! GJです、作者殿。
ラブラブ要素のない話も、なかなか面白いですね。
確かに、あのキャラ群で邑那に対抗できそうなのは三嶋だけ。
良い意味で冷徹で、かっちょいいです。三嶋も邑那も。
でも、三嶋は本編でラブ要素がなかったので、SSではほんのりラブ風味な話も読んでみたかったりします。
次は是非、そちらの方向で〜♪
>>564 GJです!
邑那萌えの漏れとしては、
>>559が鏡花の質問(過去の覚悟)とは
ポイントのずれた返答になってるような気がするのが
少し気になりますが、イェンとの王国を守る邑那の覚悟と
みやび&リーダを守る鏡花の覚悟では、自ずと違ってくるので
まあ、これはこれでいいのかな、という気も。
つうか、ノロケだしw
また、次のSSも楽しみにしてます。
紅茶奴隷です。感想ありがとん。
>>565らぶらぶは苦手なのです……
>>566そうですね。鏡花が行間読みすぎたような感じの理解になってしまったかも。
もう少し行数かけてもよかったかな?でもあんま長いとブラウザが文字で真っ黒になるしorz
また何か思いついたら書きます。ではでは。
>>567 ちとせSSの方も読ませていただきました。
クレタ人の嘘つきパラドックスのあたりは、
理系ネタで本校司っぽい感じですが、
時々分校司が混じるのは、ひょっとすると
司も多重人格なのでしょうか?w
しかし、「笑うミカエル」まで読んでいるとは
おそるべし、司。
次のネタは「銀のロマry」
>>568 紅茶奴隷です。こんな時間にありがとうございます。
司が混じってるのは私があまり両者を区別してないせいですね。本校も分校も好きなので。
川原泉は昔から好きなんです。銀の……ネタでやると
動作の一つ一つがテロリズムな女学生ですか。……弥生かな?w
スポーツ馬鹿な弥生はありかも。
支援SSはどうなんでしょうか。投票期間中にもう1編ぐらいは書きたいけど
ここばっかり使うのもまずい気もするし。
>>571 Me too !
久々にやられた。orz