こうして、地球側女性陣がすっかり酔っ払っている様子を、フィーナ、ミア、カレンら
月側女性陣は苦笑しながら見ている。リースは初めてのお酒で寝てしまったみたいだ。
1時間後、男性陣と月側女性陣が協力して、眠り込んでしまった女性陣と会場の後片付けを行い、
ようやくお開きになった。
その後、俺が夜は必ず、部屋の窓とカーテンをきっちり閉めるようになったのはいうまでも無い。
(続く?)
初投稿であります。グダグダな展開の上、ストーリー性も無いに等しいですが、
勢いだけで書いてしまいました。何とかシリーズものにしてきたいところです。
しかし、改めて見返してみると、このスレのSS職人さんたちのレベルの高いこと高いこと。
そして、何て初心者な自分の文章…
203 :
温泉の人:2006/12/01(金) 20:32:50 ID:UCGpg3s+0
>>195乙
>『お兄ちゃんの…おっきい…』
>『麻衣のそういう顔もすごく可愛いよ』
ちょっくら光速で原作確認してくる(と言いつつ原作まだ1周もしてない私)
204 :
195:2006/12/01(金) 21:35:15 ID:lQ+pficq0
>>203 すんません、そんなシーンは原作にはなく、自分の妄想です(ォィ
>>202 八月系SSスレの存在自体は知ってたけど、両スレに投下されるSSはエロエロな
ものばかりだったんで、非エロ路線な自分のSSはここが適所かと思ってました。
…が、しかし。
>>1を見たらこのスレ自体18禁モノOKなんですね。
このスレの雰囲気が好きなんで、後ろ髪引かれるけど明け瑠璃SSスレに行こうと思います。
遥かに仰ぎ、麗しのSS『凰華女学院分校の日常』
「だりゃぁぁぁっ!!」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!?」
静まり返った凰華女学院分校の敷地に、掛け声と悲鳴が一組になって響き渡る。
掛け声は兎も角、悲鳴の方は切羽詰ったかの様な悲痛な声だ。
……が、誰も気に留める者はいない。
用のある者は仕事を続け、用の無い者も、『ああ今日もか』とばかりに無関心を決め込んでいる。
この悲鳴、どうやら凰華女学院分校の『日常の一部』と化しつつある様だった。
「おおっと!? みやび選手のパロ・スペシャルが華麗に決まった!
司選手、堪らず悲鳴を上げています!!」
「あわわ…… 先生、がんばってがんばって」
ここ校庭では現在、風祭みやび vs. 滝沢司の無制限一本勝負が行われていた。
両者の戦いは、時と場所を選ばず行われる正に『なんでもアリ』の勝負である。
……まあ大概は、司がみやびにいらんこと言って襲いかかられる、といったパターンが大半だが。
「ほらほら! 止めて欲しかったら、大人しく『申し訳ありませんでしたみやび様』と言うんだあ!」
「うぎゃぁぁぁぁぁぁっ!?」
みやびがギブアップを要求するが、司はとてもそれどころではない。
先程から、両腕両足の間接が何かミシミシと嫌な音を立てっぱなしだ。おまけに滅茶苦茶痛い。
司は風祭の権力にも財力にも屈しない馬鹿……もとい漢である。
が、所詮は貧弱な坊やであるため、みやび個人の暴力の前に屈する羽目になっていた。
「……きゅう」
暫し司はじたばたと暴れていたが、やがて失神、勝負はみやびの勝利で幕を閉じた。
「見たか! これが風祭の力だっ!」
「お見事で御座いました、御嬢様」
勝ち誇るみやびを、侍女のリーダが称える。
「うむ、これで99戦全勝だな!」
「その通りで御座います、御嬢様」
「勝負の内容は、しっかり記録してあるな?」
「もちろんでございます、御嬢様」
と、リーダは片手に持ったハンディカムをポンと叩いた。
……どうやら、一部始終が撮影されているらしかった。
「よし! 100戦全焼したら、その記念に今までの全試合の記録を編集し、校内で放映しよう! もちろん全員参加だ!」
良い思いつきだ、と言わんばかりにはしゃぐみやび。
その顔は実にさっぱりとしており、司がちょっかいを出す直前のピリピリした様な雰囲気は霧散していた。
(司でストレス発散したのだろう)
リーダは、そんな彼女に微笑みながら一礼する。
「かしこまりました、御嬢様」
「ではいくぞ!」
「はい、御嬢様。それでは皆様失礼します。
司様も、これにこりず御嬢様の御相手を御願いいたしますね」
意気揚々とみやびは去っていった。
……しかし、全試合撮影してたんですか……
「先生! 無事です……きゃああっ! せっ先生!?」
みやびとリーダが去って直ぐ、今度は仁礼栖香がやって来た。
どうやら司とみやびの対潜を聞きつけ、慌ててやって来たらしい。
で、ぐったりしている司に驚いた、という訳だ。
「せっ先生! しっかりして下さい! ……って、何か口から白いものがっ!?」
「あ〜、かなりやられたからね〜」
「何かミシミシっていやな音が、いっぱいいっぱい……」
「なら、止めなさい!」
先程からリーダと共に一部始終を見ていた相沢美綺と上原奏の言葉に、栖香はこめかみをひくひくさせながら叱責する。
「ごめん、それ無理」
「理事長は、私達の言うことなんか聞かない聞かないですよ……」
「貴方達は…… まあいいでしょう、とりあえずは先生を保健室にお連れするのが先決です」
そう言うと、栖香は司の下にもぐりこみ、何とか背負おうと試みる。
が……
「きゃあ」
司の重みを支えきれず、たちまち司に押しつぶされる。
「おおっ!? バックから襲うとは! センセ大胆!!」
良い被写体、とばかりに美綺はその様子を激写する。
「あわわっ! 美綺、やめようよ〜」
「止めてくれるなおっかさん。おいらがやらねば、一体誰がやるんだい!?」
「み〜さ〜き〜ち〜」
一向に聞き入れない美綺に、流石の奏もお怒りの様だった。
「ちぇ〜、わかったよ。 ……折角のネタだったんだけどなあ〜」
美綺はぼやきながらも、奏と共に栖香を助け出し、今度は三人がかりで司を保健室まで運んでいった。
……実はこれが、ここ数ヶ月の彼女達の日課であったのだ。
「いてて……」
「先生、大丈夫ですか?」
「大丈夫だ…… いつも済まんな、仁礼」
司は、保健室まで連れてきてくれた挙句、手当てまでしてくれる栖香に礼を言った。
(ちなみに、みやびを怒らす遠因になった二人については無視)
「いえ、クラス委員ですから」
「そ〜れ〜だ〜け〜?」
「下衆の勘繰りは止めてください」
「酷っ!?」
支援。
ニヒヒと笑いながら尋ねる美綺を、栖香はばっさりと切り捨てる。
美綺は一瞬ショックを受けるが直ぐに復活、今度は司にちょっかいを出してきた。
「でもセンセ、弱すぎるよ。99戦全敗じゃあ、凰華ジャーナルのネタにならないじゃない」
「そうは言うがな相沢、あれで理事長は中々のグラップラーだぞ? あの技のキレは相当のものだ」
特に関節技とか関節技とか関節技とか……
「そういえば、今度先生が負けたら、私達全員強制で今までの記録を見なきゃいけないんですよねですよね……」
奏はうんざり気味だ。
……まあ、理事長主演の格闘映画を長時間見させられる様なもの、或る意味拷問だから、当然といえば当然の反応だが。
「センセ、男ならもっとしっかりしろ!」
「……先生」
「何だ、仁礼?」
先程から何か考え込んでいた栖香が、真剣な口調で司に語りかけてきた。
「今度の勝負なのですが、心苦しいとは思われますが、どうか本気を出して頂けないでしょうか?」
「……仁礼、すまないが、僕には君が何を言っているのか……」
司は、栖香が何を言っているのか分からず、怪訝そうに答える。
「先生のお考えもごもっともではありますが、今は非常事態です。
このままでは、先生に不名誉な映像が公開されてしまいます」
「え〜と、もしかしてスミスミ、センセが手加減してると思ってる?」
「当然です! 大人の男の方に、私達が敵う筈無いじゃありませんか!」
何を馬鹿なことを、と栖香。
「いやあ〜 でも、センセだしね〜?」
「先生、弱弱だし……」
「お前ら……」
教え子達の駄目駄目な評価に、司はちょっぴり凹み気味だ。
……まあ、彼女達の言葉はかなりの部分で真実を突いているのだが。
正直、みやびは手強い。
あのちんまい体を見て侮ったら、トンデモナイ目に逢うだろう。
何せ、自分よりも遙かに大きく重い司を軽々と投げ飛ばす位なのだ。
……仮にも、柔道有段者である司を、だ。
が、栖香は真剣だった。
彼女は、司が本気を出せば負ける筈が無い、と信じ込んでいるのだ。
本音としては、暫く理事長から遠ざかって間をおき、近づくのは理事長が映画のことを忘れてからにしたい(←チキンである)が……
――こりゃあ、やるしかないな。
そう腹を括る。
何より、可愛い教え子の信頼と期待には、答えない訳にはいかないのだ。
(みやびも一応司の教え子なのだが、そんなことは遙か衛星軌道上まで棚上げした)
「ふっ」
「? どしたの、センセ?」
「仕方が無い。一度だけ、一度だけ本気を出そう」
「先生!」
「……いや、本気って…… 何か、今までも結構いっぱいいっぱいだった様な……」
「えっ? まさか…… でもでも!?」
目を輝かせる栖香と半目で突っ込みを入れる美綺、そして司の様子に『もしかしたら?』とオロオロ気味の奏……三者三様である。
が、司は自信たっぷりに言い放った。
「心配するな。こう見えても、僕は高校時代に柔道の県大会で準優勝したこともあるのだ。
本気を出せば理事長もイチコロさ!」
「凄いです!」
「本当!? こりゃあ、明日の凰華ジャーナルのネタになるぞ〜」
「県大会準優勝って…… 本気って…… 凄いけど、何だか何だかとってもおとなげないよ……」
……やはり三者三様の彼女達。
「あれ? でもセンセ、高校時代は野球部で、県大会準優勝も野球のことじゃあ?」
ふと思いつき、美綺があれ〜と尋ねる。
「掛け持ちしてたんだ」
「……どっちか一つに絞れば、全国大会出場だって出来ただろうに……」
「うるさいぞ相沢」
野球部ではレギュラーで県大会準優勝、柔道部でもレギュラーで県大会準優勝……
こう聞けば、司はスポーツ万能とも取れるだろう。
が……
野球部でレギュラー云々に関して言えば、丁度野球部は9人しかいなく、全員レギュラーだったのだ。
加えて言えば、当時野球部は清原君(キャッチャー)と桑田君(ピッチャー)という野球の天才二人が作ったばかりであり、彼等二人の活躍のお蔭で県大会準優勝まで進んだ、というまるでどこぞの野球漫画の様な展開が真相だった。
ちなみに、清原君と桑田君はその後プロ野球に進み、現在1億円プレイヤー目前だそうだ。
柔道で県大会準優勝云々に関しても、偶々相手が三人ほど怪我や何やらで棄権した、というまるで何かが乗り移ったかの様な悪運によるもので、実際は県大会でベスト16に進めるかどうかも怪しい。
まあそれでも凄いのではあるが……
……本当、額面だけでは物事はわからないものである。
とはいえ、こうして賽は投げられたのだった。
「くくく、まさかお前から挑戦して来るとはな、滝沢司」
負け過ぎで脳に回ったか? とみやび。
「ふふふ、理事長こそ年貢の納め時ですよ?」
わざわざ実家から送ってきてもらった柔道着に身を包んだ司。
今までは背広で戦っていたということから考えて、今回はいつもと違う様だ。
(ちなみにみやびはジャージ)
「家柄の差が絶対的な差であることを教えてやる」
「家柄なんて飾りです。御偉いさんにはそれがわからんのですよ」
「ふ、ふ、ふ」
「く、く、く」
もはや司とみやびは、互いしか見ていなかった。
――泣かしちゃる!
二人の心は、その一点でシンクロしていたのだ。
「さあっ! いよいよ運命の決戦が始まろうとしています!
今回は運命の第100戦!
風祭みやび選手(総合格闘家)が100勝目をあげ、完全勝利を達成するか!?
それとも滝沢司選手(講道館二段)が一矢報いるか!?
ここ武道館は緊張に包まれています!」
司会の美綺もノリノリである。
何せ、凰華ジャーナルの総力を挙げて宣伝したお蔭で、観客も多い。
相乗効果を考えれば、凰華ジャーナルの良い宣伝にもなるだろう。
美綺は内心、笑いが止まらなかった。
「さすが天下の凰華女学院。畳のクッションが効いてるな」
これなら、全力でいけそうである。
「さあ来い! 滝沢司!」
「おうさ!」
試合が始まった。
「くそっ! ちょこまかと!」
司は内心焦りまくりだ。
先程から、みやびのスピードに付いていけないからだ。
……加えて身長差が有り過ぎるため、転がし難くて敵わない。
――払い腰……いや、内股で決める。
司は高校時代の得意技で決めることにし、機会を待つ。
おとなげないと言われようが、栖香の信頼と期待を裏切る訳にはいかないのだ。
――今だ!
それは絶好のタイミングの様に思われた。
が……
視界が反転する。
一拍子置いて、畳みに叩きつけられた音。
「まさか…… 内股すかし!?」
「ふふふ! まんまと罠に嵌ったわね! お前が内股で勝負に出ることなどお見通しよ!」
「な、何だって!?」
確かに小さな相手を投げるには、かなり技が制限される。
が、それにしても――
「お前の得意技が内股だということ位、先刻承知の上だ!」
「!?」
リーダが高校時代の司の記録を、公式・非公式を問わず調べ上げ、得意技等をはじめ、何から何まで調べ上げたのだ。
その報告を受けたみやびは、司が内股で勝負に出るだろうと確信し、司と同様に機会を伺っていたのだ。
……要するに、司はまんまと罠に嵌った、というのが真相だろう。
「卑怯ですよ!?」
「卑怯などという言葉は、負け犬の遠吠えだ〜♪」
抗議する司に、みやびはいかにも嬉しそうに言い放った。
が、次の瞬間には司にかにばさみをかけられ、みやびは顔面から畳みに叩きつけられた。
「負け犬は負け犬らしく……ぷぎゃ!? 何するのよ!? もう勝負は終わったのよ!」
「はあ? 理事長、何を言うんですか? 柔道じゃあ無いんだから、『一本で終わり』な訳無いでしょう?」
果たし状に、柔道ルールで決着をつける、なんて書いてなかったでしょう? と司。
「え…… し、しまったあ!?」
「ふっ、見事にひっかかりましたね?」
嘘である。
本当は、柔道勝負の積りだったのだが、『そっちがその気なら……』と方針を転換したのだ。
……本当、おとなげがない大人である。
「ひ、卑怯者〜!」
「はて? 『卑怯などという言葉は、負け犬の遠吠えだ〜♪』と仰ったのは理事長御本人では?」
ニタニタ笑いながら、司は余裕の表情で返す。
「く〜や〜し〜、司なんかにひっかけられるなんて〜」
「く、く、く、僕の勝ちですね、理事長。大人しく負けを認めて下さい。
ついでに、今までの映像記録も全部破棄して下さいね?」
馬乗りになり、悪人のように笑う司。
……傍から見れば、まるで犯罪者である。
「そっそんなこと出来るか! 末娘とはいえ、我が名は風祭ぞ!?」
「理事長、御立派です。けど、そんなことを言っていられるのも、今の内だけですよ?」
司は手をワキワキさせながら、楽しそうに囁く。
「ま、まさか!? やめろ!」
みやびは司の意図を察し、怯えて後ずさる。
「やめろ〜!!」
「きゃははっ! やめろ! 死ぬ〜!?」
司のくすぐり攻撃にあい、みやびは息も絶え絶えだ。
「降参したら、すぐ止めて差し上げますが?」
「だっ誰が、降参など、するか!」
「今まで99戦、僕がただやられていただけとでもお思いで?
理事長の弱い所は既に把握済みです。このまま笑い死にしたくなければ『先生?』……へ?」
……振り向くと、冷やかな目をした栖香さんが立っていらっしゃいました。
「え〜と、仁礼?」
「理事長と何をしていらっしゃているのですか? 皆の目の前で……不潔です!」
「待て、誤解だ! これは真剣な勝負……」
「それの何所が真剣勝負ですか!?」
確かに、説得力皆無である。
「『殿方のプライドがかかっている』と今まで考えていましたが、違った様ですね。
理事長とお楽しみの所、申し訳ありませんでした。では」
そう言い捨てると、栖香は武道館を後にする。
「仁礼、待て! 勘違いだ! こんな貧弱な体でお楽しみも何も……うぎゃあっ!?」
「ふぁふぇふぁふぃふふゃふふぁ(誰が貧弱だ!?)」
理事長に噛み付かれ、司は堪らず悲鳴を上げた。
「何をするんですか!?」
司も対抗して、みやびの頬を思いっきり引っ張る。
「ふぁふぁふぇ(放せ!)」
「そっちが先です!」
傍からは、みやびが何を言っているか分からないが、司には分かるらしい。
二人は喰いつき&引っ張り攻撃を与えつつ、口撃も行っている。
……もはや、子供のけんかである。
「あ〜」
「最初は、とってもとっても真面目な勝負だったのに……」
「司様も御嬢様も、やんちゃで御座いますから」
流石に肩を落とす美綺と奏。
が、リーダは何所を見ているのか、二人の取っ組み合いを微笑ましそうに見ている。
観客の生徒達は、呆れ果てたのか次々に武道館を出て行ってしまった。
現在残っているのは、司の担当している生徒達(除く栖香)と、リーダ位のものだ。
「あの二人が私達の理事長と担任だと思うと、何か泣きたくなるよね……」
「同感」
智代美の呟きに、誰ともなしに同意の声が湧き上がった。
いや実際、見てて何だか泣けてくるのだ。
支援。精神年齢が近くなっている司ワロス(w
「リーダさんは、このけんかを最後まで見届けるのですか?」
「はい、もちろんです。相沢様は?」
「……明日の凰華ジャーナルに載せなきゃいけないんで」
こりゃあ、一面には載せられないなあ〜、とぼやく。
「わたし、もう帰りたい帰りたいよ〜」
そんな会話の合間にも、両者の死闘は続いていた
「ふぁふぁふぇ〜!(放せ〜!)」
「断る!」
凰華ジャーナル
風祭みやび vs. 滝沢司の無制限一本勝負 第100回戦
57分24秒 両者ダブルノックアウト
添えられた写真には、力尽きて折り重なる様に突っ伏す二人の姿が写っていた。
投下終了。
『甘くない』シリーズではなく、他作品の短編です。
連載も書きたいけど、これ以上連載を抱え込む訳にもいかないのですよねえ。
でも、書きたいなあ……
ついでに言えば、この作品はKUROが初めて自分で買った記念すべきエロゲーでもあります。
衝動買いしてしてしまいましたが、とても面白かったです。
うう、でも黄金三笠山30個分以上のお値段は痛い〜
>>204 投稿乙です。
無理に移動することないと思いますよ?
>>224 GJJJ!!
甘くないの続きかと思ったら何と意外なw
かなっぺ口調の再現が上手いなぁー
−−朝:教室−−
信綱:ペトレーションの脅威も去って世は泰平、事もなし、か。何かつまらんね。
蔵人:いいじゃないか。悪いことじゃないだろ。
信綱:悪いとは言わんさ。だが退屈であることも事実だ。お前は違うのか、蔵人?
蔵人:俺は田舎育ちだからな。ようやくこっちの生活に慣れてきたところだしそうでもない。
圭 :その割には、未だに一人では都心に出れないようですが?
蔵人:い、いいじゃないか。どうせ出掛けるなら一人で行くより誰かと行ったほうが楽しいだろ?
小夜音:おはようございます。皆様。
六花:おっふぁよーごらいまーふ!!
小夜音とりっちゃんが登校してきた。
小夜音はいつも通りドレスを纏い凛とした姿で。りっちゃんは相変わらず何か食べながら。
信綱:はいはい。おはようさんっと。(適当に手をひらひらさせて応じる)
小夜音:信綱さん、だらけきっていますわね。
六花:ほうだほうだ。
蔵人:…りっちゃん…行儀悪いから喋るか食べるかどっちかにしてくれ。っていうか十分君もだらけてるぞ。
六花:えええ!?私のどこがだらけてるっていうんですか!?
圭 :そうですね…。食べながら歩くのは元からだとしても、
圭 :最近部屋は散らかし放題ですし、夜更かししてまで怪しげな本を読みふけっていたり、それから…
六花:わー!わー!わー!私そんな事してませんー!っていうかどこまで知ってるんですかー!?圭さん!?
蔵人:りっちゃん…墓穴掘ってるぞ…。それに圭は階も違うし部屋に入ったことも無いのに何でそんな事知ってるんだ…。
圭 :僕はこれでも魔術師ですからね。色々あるんです(にっこり)。
六花:説明になってないよぅ…。
小夜音:六花さん、私生活には余り口を出したくはありませんが、婦人がそれではいけませんよ?
六花:ぅぅぅ…。
信綱:まぁ、りっちゃんらしいと言えばりっちゃんらしいけどな。
六花:フォローになってないよぅ…。(泣き崩れる六花。教室の隅で何かブツブツ言っている。いじけてしまったようだ)
小夜音:さあ、そろそろ始業ですわ。席に着きましょう。(小夜音、自席へ移動)
信綱:しっかし、小夜音は相変わらず隙が無いな。可愛げが無いって言うか。
蔵人:そんなことないぞ。小夜音だって照れたり慌てふためいたりした時は…はっ!?
圭 :へええ。それは興味深いですね。で、蔵人君は一体どこでそれを?
蔵人:ど、どこだっていいじゃないか。それより御影先生が来たぞ。
御影:席に着けー!出席を取る。
何でもない日常の何でもない一幕。
これがあの狂乱の日の幕開けだとは、このときの俺には全く思いもつかなかった。
−−昼休み:学食−−
小夜音:お茶会…ですの?
圭 :そうです。いつも小夜音さんには美味しいお茶を振舞って頂いてますから、
圭 :今度は僕がドイツ流のもてなしを小夜音さんに受けていただこうと思いまして。
小夜音:圭さんのおもてなしですか…。それは楽しみですね。是非行かせて頂きますわ。
圭 :ありがとうございます。信綱、蔵人、君たちも来てくれるよね?
蔵人:お、俺たちもか?
圭 :そうです。明日はデミウルゴス解体から丁度一ヶ月ですし、
圭 :ちょっとしたパーティも兼ねようかと思いまして。それに…
蔵人:それに?
圭 :来なければあの事とかこの事とかバラしちゃいますよ?(にっこり)
蔵人:あの事とかこの事って何の事だ!?
圭 :おや?言ってしまってもいいんですか。あの事とは…
蔵人:ま、待て圭。全く身に覚えは無いが、お前だけは計り知れん…。
蔵人:分かったよ、俺たちも行く。どうせ暇だしな。
六花:じーっ………。
圭 :ありがとう。では準備もありますし明日の夕食後にお待ちしています。
圭 :伊織先輩には僕から伝えましょう。丁度図書館に行く用もありますから。
六花:じーっ…………。
小夜音:分かりましたわ。中条さんたちと冬芽さんには私が伝言しましょう。
六花:じーっ……………。
圭 :お願いします。……どうしました、りっちゃん?
六花:な!ん!で!私を誘ってくれないのぉーっ!(ドゴーン!)
圭 :…だって六花さんをお誘いすると…
圭:部屋散らかされそうですから。 蔵人&信綱:食べ物全部食べられちゃうからじゃないか?
六花:むっきぃー!私そんなことしないもんっ!……………多分(ぼそっ
圭 :あはは。冗談ですよ。では明日楽しみにしていてください。ほら、りっちゃんも機嫌直して下さい。
−−翌日:寮−−
蔵人:そういえば圭の部屋に入るのは初めてだな。
信綱:そうなのか?まぁまがりなりにもあいつは魔術師だし、お前とは違う意味で風情に欠ける部屋だがな。
蔵人:お前は入ったことがあるのか?
信綱:まぁな。お前らがこっち来る前に何回かはな。
コンコン
圭 :どうぞ。いらっしゃい。
蔵人:お邪魔します。……うわぁ……。
圭 :?どうかしましたか?
蔵人:…いや、見るからに怪しそうな壷とか本とかあるけど…聞いちゃいけないんだろうな…。
小夜音:そんなことありませんわよ?この壷はいい壷です!(やや興奮気味)
信綱:だから言ったろ。風情に欠けるって。ついでに女の子らしくもない。
蔵人:それにしてもあの小夜音の様子は一体…?何か興奮してるようだが…。
信綱:ほっとけよ。スイッチ入っちまったんだろ。ま、壷の良し悪しなんて俺にゃ分からんがな。
圭 :あはは。どうやらそのようですね。でも良い品物であることも確かなんですよ?
圭 :もっとも、ここにあるのは魔術用の物ばかりですから無名の工芸師の手によるものが多く、
圭 :芸術的・史学的な価値はありませんけどね。
蔵人:はぁ……。
圭 :兎に角座っていて下さい。じきに皆さんも来るでしょう。
小夜音:圭さん!この壷は何ですの?この壷もいい壷です!(大興奮)
圭 :はいはい、その壷はですね…(苦笑交じりに小夜音に駆け寄る)
蔵人:……ま、いいけどな……。
六花:おっ邪魔っしまーっす!
冬芽&白衣&黒衣&伊織:お邪魔します…。
−−同日:圭の部屋−−
圭 :それでは皆さん揃ったようですね。
圭 :ほら、小夜音さんも一旦壷の鑑賞は中断して席について下さい。
小夜音:そ、そうですわね。私としたことがつい…。(正気に戻りちょっとバツが悪そうに着席する)
と。
「ブリッ」
一同:………。(沈黙)
一同:……………。(かなり気まずい沈黙)
圭 :……今のおなら……小夜音さん……?
小夜音:ちちちちちち、違いますわよ!?決して私ではありませんっ!(席を立って猛講義の構え)
蔵人:で、でもだな。今のはどう考えても小夜音の方から音が…
小夜音:違うと言っているでしょう!?それに私はレディとしての…
圭 :はいはい。分かりました。今のは「無し」にしましょう。折角のパーティを台無しにしたくありませんからね。
圭 :小夜音さんも皆さんもそれでいいですね?(ざっと見渡す)
圭 :では、小夜音さん、改めて席に座ってください。乾杯の音頭は僭越ながら僕が務めましょう。
小夜音:……色々言いたいことはありますが…分かりましたわ。(納得いかない表情ながら渋々再び着席)
「ブリブリブリッ」
一同:…………………。(とても気まずい沈黙)
一同:………………………。(どうしようもなく気まずい沈黙)
蔵人:小夜…
小夜音:私じゃありませんわよ!?ほ、ほほほ本当です!?
圭 :小夜音さん……。(何とはなしに同情の眼差し)
白衣:……。(赤面している)
黒衣:小夜音でもおならするんだ。そりゃそうよね。おならしない人間なんて居ないし。
黒衣:でも人前でやって欲しくないな。(何とか平静を保ちつつも、どこか冷めた表情)
冬芽:あ、あああああ、あのですね。放屁というのは生理現象の一つですから、
冬芽:そんなに恥ずかしがらなくても、いえ、でも…あわわわ…(錯乱して何を言ってるか分からない)
蔵人:お、落ち着け冬芽!あ、あれ?何か異臭が…。
小夜音:ちちちちち、ち、違うと言ってるでしょう!?な、何ですの、この臭い!?
圭 :小夜音さん……。(物凄く同情の眼差し)
伊織:……小夜音のおならは臭い……。……覚えたわ。
蔵人:さ、小夜音も落ち着けって!伊織先輩も焚きつけるような事言わないで下さい!?
伊織:?(何が?と言いたげな表情。心底分かってないらしい)
蔵人:ああ、もう!信綱、お前も黙ってないで何とかフォローしてくれよ!おい、信綱?
信綱:………くくく………
信綱:どわぁーっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ!!!!!!!!!
信綱:いやー、あの小夜音がこんな臭いおならを二連発ねぇ…ひーっひーっ、腹痛ぇー!
小夜音:だ!か!ら!私ではないと何度も言っているでしょう!?
信綱:照れるな照れるな。冬芽も言ってるじゃないか、誰にでもあるただの生理現象だって。……くっくくくっ
小夜音:ちょっ……
信綱:しかし凄い臭いだな。ぷっくくくっ…。レディともあろう御方が。おい、圭、窓開けろ窓!
信綱:あ、いやこの臭いを外に撒き散らしたら不審がって人が集まってきちゃうか?
信綱:「どうしたんですかー?」って。そしたら小夜音、お前が答えるんだ。「私のおならですわ」ってな。
信綱:どわぁーっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ!!!!!!!!!
小夜音:これだけ否定していますのに……!(肩を震わせ俯く。その肩は怒りと恥辱でプルプル震えている)
蔵人:小夜音…。(その肩を蔵人がそっと抱く)
小夜音:蔵人…。
蔵人:いいんだ。小夜音。顔を上げるんだ。そんな小夜音は見たくない。
小夜音:蔵人……!
救われた!蔵人にだけは信じてもらえた! そんな思いで顔を上げた小夜音の視線の先には……!
や た ら 生 暖 か い 視 線 の 蔵 人 が 居 た 。
蔵人:誰にでも失敗の一つや二つはある。だから小夜音、そう落ち込むな……。
「ブチブチブチッ」
小夜音:どうあっても信じてもらえないようですわね…。(何か覚悟を決めた表情。ちょっと笑っている。が、怖い)
信綱:ひーっ、ひーっ。あ?何だって?
小夜音:いいですわ。おならは私がした。それで満足かしら?
信綱:お、ついに罪を認めたか!
冬芽:スサノオ様…その様な言い方は可哀想です…。
小夜音:結構ですわ。おならは私がした。それで結構です。
信綱:自首すれば罪は軽くしないでもない…くくっくくく…。それにしても凄い音と臭いだったな!(まだ悪ふざけモード)
小夜音:そうですわね。……でもご存知かしら?
信綱:あ?何がだよ?
小夜音:どのような罪も、露見しなければ良いのですわよ?(背後から黒いオーラが沸き出ている…ように見える)
信綱:つ…つまり…?(ゴクリ)
小夜音:あ な た 方 を 殺 し て 私 も 死 に ま す ! ! ! !
…それから後の事は覚えていない……。
いや、正確には覚えているのだろうが、記憶を辿ろうとすると言い知れぬ悪寒と共に冷や汗が噴出するのだ。
きっと、思い出さないほうが良いのだろう。
小夜音のためにも、何より自分のためにも。
それにしても、おならくらいであんなに激昂しなくても良いと思うのだが…。
そういう考え方だから、皆に「朴念仁」と揶揄されてしまうのだろうか。
−−狂乱後:圭の部屋−−
圭 :やれやれ。小夜音さんの恥ずかしがる姿と、慌てふためく姿を見る為に企画したのはいいけど…
圭 :ちょっとやりすぎちゃったかな。僕の仕業だって言い出すタイミングも逃しちゃったし。
圭 :このブーブークッションと、悪臭の出る香炉は秘密裏に処分してしまおう。
圭 :さもないと…。(あの日の記憶と共に悪寒が走る)
圭 :……でも楽しい一日でした。(にっこり)
投下終了。
エロゲでSS書くのは初めてで不慣れな点も多く、
他の投稿者の方とスタイルも違うようですが、如何だったでしょうか?
他にもネタはいくつかは思いついてますので、時間と要望がありましたらまた。
…要望なくても勝手に投下しちゃうかもですが。
書き忘れてましたが、「終末少女幻想アリスマチック」より。orz
原作未プレイなのですまんが、台本形式なのは原作のとおりなのかな?
スタイルがSSで一般的な形式無いということは判ってやってるみたいだけど。
下手糞すぎ
皆様、有難う御座います。
>>222 >精神年齢が近くなっている司ワロス(w
分校系へたれ(?)主人公ですから。
実際は分校でもへたれと言う程ではないのですが、まあ本校系を書く時の差別化の意味もありまして。
>>225 >甘くないの続きかと思ったら何と意外なw
いやあ、中々面白かったもので。
三日間ほどやりこんでしまいましたよ。
まだ全クリしてませんが。
HP転載の際に改訂したら思いのほか大改訂(ボリューム倍)となり、雰囲気が大分変わってしまいました…… orz
甘くないの人のHPってドコー?
>>238 改定後の雰囲気がイイ感じです。特にすみすみとかみさきちとか。
司も今のような感じが好きかな。
実際、社会人一年目の司とヒロインたちはそんなに年は離れていないと思うのでー
個人的に分校側を選んで姉妹の問題を解決しつつ、みやびーやとのこと仲良くなるのが理想ルート。
八方美人って良い言葉ですよね!(w
>>240様、有難う御座います。
>改定後の雰囲気がイイ感じです。
始めは純粋なギャグのつもりでした。
けど、改訂作業の際に読み直してみると、かなりの説明不足を痛感せざるをえませんでした。
これじゃあみやびーは手のつけられない只の暴れ者ですし、みさきちと司も何だか……
そんな訳で、急遽心理描写等を大幅加筆したのですよ。
そうしたら、もはや元の作品とは全く別物になってしまいました。
一見、お馬鹿な話ではありますが、一皮剥けば『男と女はどっろどろ♪ ねっちょねちょ♪』の世界ともとれます。すでに泥沼かも。
……自分で書いててなんですが、読んで『怖っ!』と思いましたよ、はい。
>司も今のような感じが好きかな。
>実際、社会人一年目の司とヒロインたちはそんなに年は離れていないと思うのでー
本校系の場合、司はかなりの完璧超人ですからね。考え方も大人だし。
本校系のネタも考えたのですが、みやびの片腕……ていうか黒幕として風祭・志藤・八乙女(←司が勧誘)連合を差配とか、仁礼・三嶋財閥を建て直して滝沢財閥に再編とかアレなネタばかりですよ。
>個人的に分校側を選んで姉妹の問題を解決しつつ、みやびーやとのこと仲良くなるのが理想ルート。
後編にはみやびーの心情も……
>238
GJ。はぴねすも良いけど、これもいいなあ。
昨日全てのキャラを終わらせたばっかりだけど、良いゲームだった…… > 遥かに
このSSって、生徒達の問題は解決した後の話ですよね?
ホームページの方の美綺や栖香の嫉妬がツボ(笑 みやびーの乙女ゴコロにも期待してます(ry
三島財閥の方思い出してしまったじゃないか。
なんか崖から這い上がってくる鏡花を想像してしまった。
――――理事長室。
「果たし状? 司から?」
「はい、御嬢様」
「へえ? 余程、100敗目をきっしたいと見えるなあ?」
みやびは、獲物を前にした仔猫の様な表情で果たし状を開く。
果たし状は和紙に毛筆で認められていた。
その古めかしくも流麗な文字からは、書いた本人の意気込みが伝わってくる。
……尤も、書いたのは司ではなく栖香だったりするのだが。
「……また、あいつらだ」
と、急にみやびは拗ねた様な口調で呟いた。
その手には、果たし状が固く握り締められている。
「御嬢様?」
「これは司の字じゃない! あいつらの仕業だ! そうに決まってる!」
――あいつら、また司を利用しようとしているのか!
みやびは内心で歯軋りする。
そして、思い返すも忌々しい事件が頭を過ぎった。
以前、司が相沢家と仁礼家の問題に首を突っ込んでいる、と聞いた時、みやびは心臓が止まりそうになるほど驚いたものだ。
――あの大馬鹿! 本気で東京湾に沈められたいのか!?
比喩でも何でも無い。文字通りの意味である。
名門権門の家の内部事情に首を突っ込むということは、そういうことなのだ。
何所の家も多かれ少なかれ暗部を抱え込んでいるし、それを表沙汰にしない為ならばどんな手段でも用いるだろう。
仮に宗家にその気が無くとも、分家や取り巻きが実行する筈だ。
……みやびは、そんな実例を多く見聞きしていた。
なのに司は栖香と美綺の問題に深入りし、あろうことか相沢家と仁礼家までも巻き込もうとしていたのだ。
生徒間のみの問題ならば兎も角、それ以上のことは教師の出る幕では無い……いや、出てはいけないのだ。
少なくとも、凰華女学院の教師ならばそれを心得ているし、そうでなければやっていけない。
が、司は違った。
彼は、その信念と持ち前の行動力により、どんどん両家に関わっていく。
それは、みやびから見ればあまりにも危険な行為だった。
そして、みやびが状況を把握した時には、既に事態は抜き差しならぬまでに発展していた。
……最早忠告しても遅過ぎる程に。
「御嬢様、相沢と仁礼の手の者が分校の周囲をうろついております」
「はあ? もしかして娘の警備か? ……全く、過保護な奴等だ。
少しはうちを信頼して欲しいものだな」
あたしはリーダの報告を聞き、呆れた様に呟いた。
……しかし、あの過保護な相沢ならやりかねないが、仁礼までとは意外だった。
「いえ、彼等の狙いは司様だと思われます」
「へ…… どういうことだ……?」
訳が分からなかった。
何故、滝沢司を両家が狙う?
そりゃあ、確かに両家の娘達とは親しい様だが……
「実は……」
リーダから聞いた話は、あたしを驚愕させるのに充分な話だった。
「あの大馬鹿! 本気で東京湾に沈められたいのか!?」
あたしは机を叩き、思わず叫んだ。
それを気にせず、リーダは淡々と報告を続ける。
「今更、司様が両家から手を退かれても遅過ぎます。
ですから、せめて司様には分校から出ない様、忠告された方がよろしいかと」
――分校内では、さすがに彼等も自重するでしょうから。
そんな言葉が、どこかで遠くで聞こえた様な気がした。
が、あたしはそれ所ではなかった。
事態は最悪だった。
このままでは、そう遠くないうちに司は『いなくなる』だろう。
知り過ぎた者が消される――そんな話は、耳が腐るほど良く聞いている。
――司が……いなくなる? ……あたしの前から?
何故か、あたしは激しい喪失感に襲われた。
司という男は、まったくの大馬鹿者だった。
あの風祭、それも宗家の娘であるみやびを全くの打算無しで受け入れ、みやびの我儘にも嫌な顔一つ見せない。
仮に嫌な顔を見せたとしても、それは心からのものではなく、どこか楽しんでいる様にも見えた。
みやびは反発しつつも、そんな状況を徐々に受け入れていった。
悔しいが、それは確かに心地の良いものだったから。暖かかったから。
リーダからだって、こんな心地の良さと暖かみを感じたことは無かったから。
……みやびは、そんな自分の感情が信じられなかった。
もし素直にリーダに聞けば、こう教えてくれただろう。
――それは司様が、御嬢様を本当の御家族の様に接していらっしゃるからですよ。
あくまで使用人としての一線を崩さない、崩せないリーダとは、そこが大きく違うのだ。
が、みやびがそんなことを素直に聞ける筈も無い。
故に、みやびは湧き上がってくる自分の感情を理解できず、困惑することしか出来なかったのだ。
「最早、理事長として、雇用者として御嬢様がすべき義務は御座いません。
司様は、越えてはならない一線を踏み越えられました。
一教師を助けるにしては、『コスト』が……」
「司は一教師なんかじゃないっ! あたしのっ!」
あたしはその言葉に激しく反発し、机を叩いた。
「御嬢様の、何で御座いましょうか?」
「あたしの…… あたしの……」
そこから先の言葉は、幾ら考えても出てこなかった。
司は……あたしの、何?
わからなかった。直ぐそこまで出てきているのに、わからない。
……でも、これだけはわかる。
司がいなくなるのは『嫌だ』。
だからあたしは、こう答えた。
「司はあたしの労働者だ! 相沢にも仁礼にもやらん!」
それを聞くと、今まで信じられない程素っ気無かったリーダが、微笑みながら聞いた。
「では、どうなされますか? 幸い、両家共に本家は動いていないようです。
分家か取り巻きの独断先行ですね」
「ふんっ! なら話は早い!」
あたしはリーダに命じ、外をうろついている連中の黒幕と連絡をとった。
『……これはこれは、まさか風祭の末姫様直々に電話を下さるとは』
『うちの司に何の用だ!』
『ああ、あの男ですか。いやなに、少々調子に乗り過ぎた様ですので、少し……ね』
その言葉にカッとなり、あたしは思わず叫んだ。
『司はあたしの、風祭みやびの個人秘書だ! 司に対する攻撃はあたしへの攻撃……ひいては風祭に対する攻撃と心得よ!』
『! ……まさか! あんな何所の馬の骨ともわからぬ男が!?』
『え〜い、うるさい! あたしが誰を秘書にしようが、そんなのはあたしの勝手だっ!』
『くっ! ですが、それでは風祭が我が家の内情を探っている、ともとれますぞ!』
『それ以上の文句は、お前の所の本家とその娘達に言え! うちの司は巻き込まれただけだっ!』
そう言い捨て、あたしは電話を叩き切った。
電話の男は、明らかに驚愕している様だった。
まあ、無理も無い。あたしだってびっくりだ。
理事長のではなく、あたし個人の秘書――それは、司があたしの側近であることを意味する。
司が……あたしの側近?
そうなれば、ずっと司と一緒にいられる。
たとえ、あたしが『理事長』でなくなっても。『生徒』でなくなっても。
それは、とても良い考えの様に思えた。
「リーダ、そんな訳で、司は今からあたしの個人秘書になったから。手続き御願い」
「はあ……宜しいので御座いますか?」
流石にそこまでは考えていなかったのか、リーダは目をパチクリさせている。
「かまわない」
「このことは司様には?」
「必要ない。司は知る必要の無いこと」
そうだ。自分は当たり前のことをしただけ。
『――』を守るのは当然のこと。
「ですが……」
「いいんだ…… ちょっとでかけてくる」
あたしは司に無性に会いたくなり、外に出た。
……司は栖香と美綺、それに奏の四人で、楽しそうに笑ってお弁当を食べてました。
――こ、こいつ…… 人に散々心配させといて、これかっ!? これなのかっ!!
その暢気そうな顔を見ていると、ふつふつと怒りがこみ上げてくる。
「何を暢気に笑ってるっ!」
「ふごおっ!?」
気がつくと、あたしは司にドロップキックを喰らわせていた。
「な、何すんですか、理事長!?」
「うるさい! 何もかもお前が悪い! そう決めた!」
その言葉と同時に、あたしは司に踊りかかった。
……そうしたら、胸の奥のもやもやがすっと消えてなくなった。
投下終了。
え〜、ここまで書いて流石にアレ過ぎることに気付き、没となりました。
でも、そのまま消去も勿体無いので……
>>224 224様、有難う御座います。
>このSSって、生徒達の問題は解決した後の話ですよね?
そうです。姉妹双方のルートを辿りつつ、みやびーとも……という漢の浪漫的な設定です。
>みやびーの乙女ゴコロにも期待してます(ry
この没版は流石に重過ぎますね〜
>>254 乙。
うわぃ、みやびー様が暗いっ(笑 と思ったら、没案でしたか。
こう言うシリアス駆け引きも実は結構好きですが、やっぱりこの面々だったら明るいのをキボン。
あーでも、嫉妬でドロップキックはイイです。その理不尽さが(w
仁礼家とかは司が動いてもスルーしそうですが、相沢家は父親が暴走すると危険ですな(ww
>254
没SS、乙。
個人的に重くないくらいの痴話喧嘩の方が大好きですが、ちょっと思ったのが、
あそこの子女って頑固で独占欲強い人多いからイザと言う時は恐い状況になりそう。
司が二股なんてした日には、普通に死ねますね。ええ。
GJ。
正規版のヤキモチみやびーを楽しみにしているぜっ!
……ところで、攻略前と後とで印象が180度変わるしのしのの出番はないのかなー……
皆様、有難う御座います。
後編もようやくUPしました。どうか見てやって下さい。
>>255 >やっぱりこの面々だったら明るいのをキボン。
ですね。全く状況説明が無いのもアレですが、暗すぎるのも……
PULLTOPのゲームはほのぼのが売りらしいですし。
>>256 >あそこの子女って頑固で独占欲強い人多い
あ〜、確かに。
一番心が広いのがみやび〜かも……
>司が二股なんてした日には、普通に死ねますね。ええ。
と、言うより只の勘違いで暴走しそうな方々もちらほら……
>>257 >正規版のヤキモチみやびーを楽しみにしているぜっ!
ごめんなさい。焼きもち出てきませんでしたよ。
次回以降に何とか……
>……ところで、攻略前と後とで印象が180度変わるしのしのの出番はないのかなー……
う〜ん、実はまだ未プレイなんですよ(爆)
>>258 かにしのSS楽しく読ませてもらってます。
しのしのをクリアした時、もうしのしのしか考えられなくなること請け合いだぞ。
>>259 有難う御座います。
すっかり嵌ってしまい、次作もかにしのSSですよ……
>しのしのをクリアした時、もうしのしのしか考えられなくなること請け合いだぞ。
現在プレイ中ですが、本当に印象変わるなあ〜
例のSS後編ですが、メールやコメント等で『すみすみの出番少なっ!』との御指摘が幾つかありました。
……いえ、あったのですよ? 本当は。
けど、削除したのですよ。内容的に合わないので。
御要望があれば公開します。
>>260 公開して欲しいです。
あと、個人的には彼女達個々の司に対する心理描写とか大好きなので、
あちらの方で公開されているSSはより良かったです。
それより甘くないの続きマダー?
すみすみのエロ書いてくれませんかぁ?
トワイライトデュアルとか侵蝕とかの?
そろそろ大丈夫かな?
なにが?
規制でも食らってた?
あ〜、やっと規制が解除された。
長かったよホント……
>>261 >公開
一応、HPの方にアドレス載せていますが念のため……
p://www.geocities.jp/wrb429kmf065/harukaniaogi02botu1.htm
p://www.geocities.jp/wrb429kmf065/harukaniaogi02botu2.htm
>あと、個人的には彼女達個々の司に対する心理描写とか大好きなので、
>あちらの方で公開されているSSはより良かったです。
有難う御座います。投稿版に投稿して、その後多少手を加えてHPに掲載する手法が身についちゃったからなあ……
>>262 >それより甘くないの続きマダー?
あー、解除あまりにも遅いので、最新話はHPに直接UPしちゃいました。
だから「その8」は欠番です。
――疲れた、本当に疲れた……
雄真は足取りも重く、鈴莉の研究室へと向かう。
これから10日間の間、雄真は実母である鈴莉と共に暮らすことになっていた。
名目は『魔法学基礎の集中講義』。
魔法学のまの字も知らぬ雄真に対し、魔法学教育の権威である鈴莉が付きっ切りで補習授業を行うことになっているのだ。
――鈴莉先生、今日は補習勘弁してくれるかなあ?
が、流石に今日は勘弁してもらいたかった。
熱い風呂に入り、暖かい布団に包まってゆっくりと眠りたかったのだ。
「鈴莉先生、只今戻りました」
そんなことを考えながら、雄真は研究室のドアを開いた。
――――ドアを開けると、そこは玄関でした。
「へ? ……何で?」
ドアの向こうはいつもの研究室ではなく、どこかの家の玄関だった。
やたら立派な玄関で、その向こうは延々と廊下が続いている。
雄真が一人首を捻っていると、スリッパでパタパタと足音を立てながら、鈴莉が弾んだ声で出迎えた。
「雄真く〜ん、お帰りなさ〜い♪」
「……鈴莉先生?」
胸にエプロン&手にはおたまという『新妻ルック』の鈴莉に、流石の雄真もどこから突っ込んで良いやらわからず、目を白黒させる。
……そんな雄真に、鈴莉は実に意味ありげな質問をした。
「雄真くん、直ぐご飯にする? それともお風呂? それとも……」
選択肢が現れた!
1、ご飯にしようかな
2、お風呂に入りたいです
3、漢なら敢えて『それとも……』をっ!!
「ご飯にします、サー」
雄真は最敬礼で応じた。
勿論、選択は1だ。他にありえない。
2は何となく危険な匂いがするし、3に至っては問題外である。
(まあ、『それとも……』が何か気にならないではなかったが、雄真も敢えて地雷――それも恐らく核地雷級の――を踏む程馬鹿では無い。
好奇心は猫をも殺すのだ)
「あの〜鈴莉先生? その格好は?」
が、それでもこれだけは聞かずにいられなかった。
何を企んでいるかは知らないが、今日の鈴莉先生は幾らなんでもおかし過ぎる。
「う〜ん、似合わないかしら?」
「いえ、凶悪な位似合っています」
というか、若くて美人な新妻そのものです。
――どうして、うちのかーさんズはこんなにも若いのだろうか?
思わず雄真は天を仰ぐ。
音羽かーさんはまるで年下の様――お肌なんかプニプニのツルツル――だし、鈴莉母さんもせいぜい20代半ばの容姿である。
これは世間的に見て明らかにおかしかった、異常だった。
……まあ、それに気付いたのはつい最近なのだが。
そういえば、魔法使いの女の子は皆美人、というのもおかしい。
確率論的に考えて、有り得る筈が無い。
が、魔法使いといえば美人揃い、と昔から相場が決まっていた。
そして不思議なことに、数少ない男の魔法使いは別に美男揃い、という訳でもない。
これについては、以下の様な俗説が存在する。
女性の魔法使いは、無意識の内にその魔力で自らの容姿を自分の理想に近づけていく、と。
だから女性の魔法使いは、皆あの様に若々しく見目麗しいのだ、と。
俗説とは言え中々説得力を持ち、それ故に広く知れ渡っている説である。
が、これを聞いた時、雄真は真っ向から異議を唱えた。
何故なら、雄真はその反例を知っていたからだ。
誰もが御存知の通り、伊吹はちみっちゃい。加えて胸は洗濯板である。
そして、彼女はそのことに対して強いコンプレックスを持っていた。
つまり、『伊吹ほどの魔力の持ち主ですら、自分の背や胸の無さをどうにも出来ないでいる』ということになる。
――魔法で背や胸がどうにかなるのなら、とっくにやっておるわッ!!
以前、雄真は腰の入ったパンチと共にこのお答えを受け取っていた。
……半泣きの表情とその悲痛なまでの叫びを、雄真は生涯忘れないだろう。
だからこの説は却下である。でなければ、伊吹が余りにも哀れ過ぎた。
(第一、この説では音羽かーさんの若さを説明出来ない)
「そう、嬉しいわ。
じゃあ雄真くんの御要望どおり、まずはご飯にしましょう」
鈴莉は雄真の答えに満足そうに頷くと、とりとめも無くそんなことを考えている雄真を促し、家に上げた。
「成る程、空間を捻じ曲げて鈴莉先生のマンションと繋げたんですか……」
「そうよ。雄真くんだって、10日も研究室住まいは嫌でしょう?」
鈴莉は簡単に言うが、大抵のマンションには進入防止用の対魔法防御がされている。
ましてや鈴莉の部屋がある超高級マンションともなれば、相当強力な防御が施されている筈だ。
……まあ、鈴莉の前では屁の突っ張りにもならなかった訳だが。
「でも、悪いですね。こんなことまでしてもらっちゃって」
「何を言っているの。当然よ、当然」
鈴莉はそう言うが、春姫の話では鈴莉は多忙の身の筈だ。
にも関わらず、鈴莉は雄真の為に10日も割き、挙句の果てには身の回りの世話までしてくれている。
――やっぱり、俺のことを気にしているのだろうか?
10年前に自分を小日向家に預けたことを、もしかしたら鈴莉は気にしているのかも知れない。
だから、こうして色々世話を焼いてくれるのだろうか、とも思う。
……ならば、『気にしないでいい』と言ってあげた方が良いのだろうか?
(雄真は、何故自分が小日向家に預けられたのか今ひとつ把握していない)
そんなことを考えながら鈴莉を見ると、鈴莉はじっと雄真を嬉しそうに見つめていた。
その姿が、ふと葵と被る。
「そう言えば、鈴莉先生に聞きたいことがあるのですが」
「なあに?」
真剣な表情の雄真を、鈴莉は眩しそうに見る。
「俺に兄弟姉妹っています? あ、もちろんすももは除外で」
「雄真くんは一人っ子よ? ……もしかして、兄弟が欲しいの?」
「ちっ、違いますよ!」
兄弟姉妹はすもも一人で充分である。
「ん〜?」
「……じゃあ、御門葵って生徒を知ってます?」
「知ってるわよ? 優秀な子だし」
無論、それだけではないが。
「彼女が……葵ちゃんが俺の従妹って、本当ですか?」
「あら? もしかして、御門さん本人から聞いたの?」
「はい。『自分には従兄がいた』と」
「凄いわね、もう御門……葵さんから聞きだせたなんて。
彼女は常に受身だから、自分から言い出すなんて余程のことよ?」
それとも、彼女はもう雄真くんが私の息子だと知っていたのかしら、と鈴莉。
「じゃあ!」
「本当よ。葵さんの父親が私の弟なの。
だから、雄真くんと葵さんは血の繋がった従兄妹同士」
姓が違うのは、婿養子に行ったからだ。
「鈴莉先生に弟さんがいたんですか」
ならば自分の叔父、という訳か。
「不肖の、ね。見た目も中身も私と似てないけど、娘の葵さんを見ると血の繋がりを自覚せずにはいられないわ」
「はあ、色々あるんですね」
「まあ、何れ雄真くんも会うと思うわ。
……そういえば昔、葵さんは雄真くんに懐いていたけど、今もそう?」
「いえ、まあ親しくはして貰っていますが、葵ちゃんは俺が従兄だとまだ知らないもので」
「へえー、じゃあ知らないのに聞き出せたのね。
流石は雄真くん、といった所かしら」
「茶化さないで下さいよ。只、従兄に似ているから、というだけです」
「あの子は、その程度で動じないと思うわよ?」
「そうですか?」
中々、積極的な子だと思うけど……
自分が知る葵像とは余りに異なる評価に、雄真は首を傾げる。
「――で、どうするの?」
自分がその従兄だ、と教えるのか? ということだろう。
「言えませんよ…… 今の俺じゃあ」
雄真は自嘲気味に答えた。
魔法から逃げて、逃げて――結局逃げ切れずに舞い戻ってきた今の自分では、葵の思い出を汚すだけだ。
……第一、自分は未だに彼女のことすら思い出せないでいるのだから。
なのに、何と言って葵に告げる? どんな顔をして葵に告げると言うのだ?
雄真は、それ程厚顔では無かった。
「そう。でも何れ、そう遠くない内にばれるわよ?」
が、それは逃げているだけ、目先の問題を先送りしているだけに過ぎない。
鈴莉は、それをさり気無く指摘する。
「その時は……その時です」
「そう」
それ以上、鈴莉は追求しなかった。
雄真は鈴莉と二人だけの食事を続ける。
たった一人少ないだけなのに、小日向家からは想像もつかない程の静けさだ。
――そう言えばすももとかーさん、今頃どうしてるだろう?
二人とも、自分が10日間泊まるというだけで不満たらたらだった。
何とか宥めすかして来たのだが……
「小日向家がそんなに気になる?」
「へ? いえ、そんなっ!」
図星を突かれ、雄真は慌てて否定する。
「隠しても、顔に出てるわよ?」
「うそっ!?」
必死で顔を弄る雄真を見てくすくす笑う鈴莉に、ようやく雄真はからかわれたことを理解した。
「酷いなあ……」
「ごめんなさい。あんまり必死なものだから、ね?」
「いや、まあ…… あの二人だけ残すと、何しでかすか心配で……」
とくにかーさんとかかーさんとか。
「いいお兄ちゃん、息子ね?」
「そんなのじゃあ無いですよ……うぐっ!!」
と、その時、急に体に熱いものが込み上げ、雄真は思わず蹲る。
それを見て鈴莉はニヤリと笑った。
「……どうやら、効いてきたようね?」
「鈴莉……先生……?」
雄真は呻く様に呟いた。
体が軋み、まるで自分のものでは無い様だ。
目もかすみ、自分の手があんなに小さく、遠く見え……「ほんとにちっちゃっ!?」
込み上げてくる熱さも、体の軋みも直ぐに収まった。
が、それどころでは無い。
何と、自分の体が小さくなっていたのだから。
……年の頃、6歳程だろうか?
「ふふふ…… 凄いわ……『あの頃』の雄真くんそのものよ」
「すっ、鈴莉先生?」
雄真はやっと理解した。
食事に一服盛られていたことを。
それが効いて、幼児化してしまったことを。
……幸いなことに、幼児化は肉体のみであり、精神は元のままだった。
(流石の鈴莉も、そこまでは憚られたのだろう)
が、そんなことは何の慰めにもならない。
何せ、目を血走らせた鈴莉が、直ぐそこにいるのだから。
「さあ雄真くん、ご飯も食べたことだし、お母さんと一緒にお風呂に入りましょうね〜♪」
どうやら先程の選択肢、2は『鈴莉先生とお風呂』、3は『幼児化』だった様だ。
(ついでにどれを選ぼうが、結局最後はこうなるらしい)
鈴莉の様子から考えて、只風呂に入るだけでは済まない――そう判断した雄真は必死で抵抗する。
が、所詮は子供の肉体、簡単に押さえつけられてしまう
……嗚呼、小日向雄真絶体絶命の危機である。
「ほらほら、親子何だから恥ずかしがらないの!」
「神さま――――っ!?」
雄真は必死で天に祈った。
その祈りが通じたのか、はたまた変な電波を受信したのか、雄真の頭に起死回生の策が浮かぶ。
……しかしそれは、雄真にとって余りに過酷な策だった。
が、背に腹は代えられない。
雄真は腹を括り、策を実行に移すことを決めた。
「……お母さん、お母さん」
「へ? ゆ、雄真くん……今、何て……」
「僕、お母さんにお願いがあるの」
「何っ! 何でも叶えてあげるわよっ!!」
上目遣いでおねだり口調の雄真に、鈴莉はすっかりメロメロである。
「僕、ひとりでお風呂に入りたいな。お母さんに僕が一人で出来るところを見せたいよ……」
「く……その手で来るとは……」
鈴莉は歯噛みする。
騙されていることはわかっている……わかっているのだが……
「だめ……?」
「くはっ!」
それが止めだった。
鈴莉は両手を地に付け、血の涙を流しながら頷いた。
「……わかったわ」
「ありがとう! お母さん!」
これが、雄真起死回生の策だった。
ただ、鈴莉の魔手から逃れる為に己の羞恥心すらも捨てるという、正に『肉を切らせて骨を断つ』もので、効果はあるが自分のダメージも大きいのが欠点だ。
が、背に腹は代えられない。
明日のために、今日という日の屈辱に耐えたのである。
(もしあのまま一緒に風呂に入っていたら、きっと雄真は落ちるところまで落ちていただろう)
「……しかし鈴莉先生、本当にどうしたんだろう?」
雄真は、風呂に入りながら一人呟いた。
正直、雄真は鈴莉が何を考えているのか、全くわからなかったのだ。
雄真は、鈴莉が音羽と同じ人種だということに、未だ気がついていなかった。
恐らく、普段の鈴莉の理知的な振る舞いが、音羽のそれとは余りに対照的だからだろう。
……いや、もしかしたら気付かない振りをしているだけなのかもしれない。
小日向雄真16歳、結構傷つき易いお年頃なのだから。
――その頃、夢破れた鈴莉はリベンジを誓っていた。
「明日こそはっ!」
まあそんなこんなで、どうにか今日という日が終わったのである。
ちなみに幼児化は朝になれば解け、日が沈むと再び幼児化するらしい。効果は10日間だ。
実にタチの悪い呪いであった。
SS投下終了。次は「甘くない」の第10話か、それとも「遥かに仰ぎ、麗しの」か?
UMAのアホオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ、
そこは2を選ぶのが漢として当然の選択だろ。
3のそれとも・・・を18禁だと思ったのはここだけの秘密だぜ
284 :
温泉の人:2006/12/21(木) 20:24:18 ID:VE7+s93R0
鈴莉かーさん怖すぎ・・・((((゚Д゚;)))乙です。
しかし第8話も読んだけど本編を遥かに凌駕するドタバタぶりですなぁw
とりあえず幼児化したUMAをはるひめさんがお持ち帰りして
いろんなとこお世話しちゃう展開キボン
>284
> とりあえず幼児化したUMAをはるひめさんがお持ち帰りして
> いろんなとこお世話しちゃう展開キボン
それを、パラレルとして藻前さんが書くって方法も……
(以前に、おとボクとはぴねす!のクロス物書き始めたが、挫折したウチ……)
286 :
温泉の人:2006/12/21(木) 21:16:37 ID:VE7+s93R0
>それを、パラレルとして藻前さんが書くって方法も……
あ、あたし別に・・・そんな話書きたくなんか・・・
で、でも・・・みんなが読みたいって言うなら・・・あたし・・・///
(結論:男がツンデレ演じると非常にキモイ)
冗談はともかく、最近ちょっと書くためのモチベーションが不足気味だったり。
以前予告してた春姫とのえろSSも、いまいち筆が停滞気味・・・
何つーか、未だ飽きずに春姫エロ書いてハァハァしてる自分を
時折妙に冷静に見ちゃってそこで冷めちゃうって言うか。
こういう業界で長年やってる方々ってマジ尊敬します・・・
「世の中甘くない」ってもう半ばオリ化しちゃってるじゃん……
エロでもなければパロでもない。スルーしろとか言うレベルじゃないと思う。
批判とかじゃなくて趣旨違いの作品は載せないほうがいいと思うんだけど……
自分のホームページで掲載しているならアドレスだけ載せて読みたい人はそっちに行けば
いいんじゃね?
正直スルーの限界だよ……
> エロでもなければパロでもない
ここエロパロ板じゃないし。
>>282 かにしのに一票!
>>283 ……だって、選択のやり直しは不可ですから(笑)
>>284 温泉の人様、有難う御座います。
>しかし第8話も読んだけど本編を遥かに凌駕するドタバタぶりですなぁw
いやあ、そうしないと話が暗くシリアスになり過ぎるので。
オリでシリアス書いてるから、二次ではお馬鹿にいこうかと。
>とりあえず幼児化したUMAをはるひめさんがお持ち帰りして
やりそうで怖い……
>>285 あー、確かにオリ設定多すぎですね、申し訳ない。
実に唐突だが、分校の教師は僅か20人足らずである。
故に、全ての教員は教科の担当は勿論、他にも何らかの役職を複数兼任しなければならない。
その役職は生徒の担任や生活指導、学年主任――態の良い雑用係――に工作員(?)等、実に様々だ。
我等が滝沢司も、当然幾つかの役職を兼任している。
本職である歴史教科全般の担当教諭職の他に、司はクラス担任と理事長連絡係という二つの役職を兼任していた。
……ちなみに『理事長連絡係』とはつい最近出来たばかりの役職であり、読んで字の如く『教員が提出する書類を集めて理事長に届ける係』である。
表向きは『今までバラバラに提出していた書類をまとめて提出しましょう』という趣旨で出来た役職なのだが、
要は『司に理事長への説明役を押し付けよう』ということで、書類提出時に提出者から事情を聞き、それを理事長に伝えて了解を得なければならないという実に損な役回りなのである。
まあ司は基本的に理事長側の人間であるため、あくまで理事長の立場に立って双方の妥協点を探るのだが、
それでも今までより遙かにスムーズに物事が進む為、最近では教員だけでなく分校全職員からの書類も受け付ける様になっていた。
……しかし、これはもう一教員の仕事では無いのではないだろうか?
「では今回の書類の件に関しては、そういった方向で宜しいですね、理事長?」
「ああ、構わない」
司の最終確認を、みやびは実に鷹揚に応じた。
司は週に一度、理事長への書類を提出する。
司はあくまで教員が本職であるため、通常の特に問題の無い書類は事務の方で処理するのだが、理事長がへそを曲げそうな、或いは怒りそうな書類は全て司に回される。
そういった書類をその一週間の間に処理するのだ。
そして週末、こうして最終的な調整と確認を行う、という訳だ。
(ここから後は単なる事務手続きであるため、事務の仕事だ)
「……ところで司? これから夕食なのだが、お前も食べるか?」
仕事が終わった後、みやびはいつもの様に司を食事に誘う。
ここ最近、みやびは何故かこうして、よく司に食事を振舞ってくれる。
言葉だけなら『別に食べようが食べまいがどうでもいい』ともとれる何気無いものだが、その上目使いの表情と口調から考えて、どちらかと言えば『一緒に食べよう』というおねだりの類だろう。
……そんな風におねだりされて、司に断ることが出来るだろうか?
、みやびの願いとついでに自分の欲望――みやびの所で出される食事はとても美味いのだ――を叶えるべく、やはりいつもの様に、司は最敬礼で応じた。
「御相伴に預からせて頂きます」
「うむっ! 素直でよろしい!」
司の態度に、みやびは実に満足そうに頷いた。
「で、今日の夕食は何ですか?」
司は期待満々でリーダに尋ねる。
そんな司に彼女は微笑みながら答えた。
「お寿司ですよ」
「おおっ! そいつは豪勢なっ!」
――そういえば、最後に鮨喰ったの何時だろう?
司はふと考える。
ここ凰華女学院分校の食堂では、実に多彩な高級料理が楽しめるが、何故か洋食中心であり和食は少ない。
ましてや生の刺身など、まず出ないのだ。
……こんなに海岸に近いのに、実に勿体無いことである。
故に司は、和食に飢えていた。
そんな様子を見て、リーダはくすりと笑う。
「では司様、最初は『おまかせ』、その後に『お好み』でよろしいでしょうか?」
「へ? ……もしかして、鮨職人が来てるんですか!?」
「はい。『栄鮨』の御主人が」
「げっ! わざわざ『栄鮨』の当主が握りに来てるのですかっ!?」
――余りにもさらっとリーダさんは言うが、とんでもなく凄い事だぞ、それっ!
『栄鮨』は江戸時代から続く超高級寿司店で、老舗中の老舗、名店中の名店である。
特に当代当主は、その技術の素晴しさから人間国宝に叙された程であり、彼が握る鮨目当てに全国から客が『栄鮨』訪れる程だ。
が、彼の握った鮨を味わえるのはその極一部に過ぎない。正に、選ばれた者のみが味わうことを許される至高の鮨なのだ。
それが向こうから出向くとは……
風祭の力は本当に恐ろしい。
「はい。でも、ヘリと飛行機ですから直ぐですよ?」
「…………」
リーダさん、正直その思考にはついていけません。
この学園のバブリーさにも大分慣れたと思っていた司ではあるが、どうやらまだまだの様だった。
……まあ慣れたら慣れたで、後々大変だろうが。
隣室で握られた鮨を、メイド達が理事長室へと運んで来る。
それを給仕役のリーダさんが受け取り、みやびと司の前に運ぶ。
「御待たせいたしました」
食べるのはみやびと司の二人だけだ。
いつもそうなのだが、リーダは決して司達と……いや、みやびと一緒に食事をとることはしない。
彼女は決して、使用人としての立場を崩さないのだ。
……故に司がいる時以外、みやびはいつも一人で食事をとっていた。
(まあ会食とかでみやびも他人と食事をとる機会はあるが、これは少々意味が違うだろう)
司としては何とかしたいと思うのだが、これがなかなか上手くいかなかった。
彼女にとり、それは神聖な義務であり誇りでもあったのだから。
「御嬢様、どうぞ」
「うむ」
鮨は出来た順に運ばれてくる。
最初に来たのは、みやびの分だった。
が、みやびは箸を取ろうとはしない。
恐らく、司のことを待っていてくれているのだろう。
……しかし、そんなみやびを見ていると、司の心にむくむくと悪戯心が湧き上がる。
「理事長、折角の鮨が乾いてしまいます。勿体無いですよ?」
「あっ!?」
そう言うが早いか、司はみやびの桶から鮨を一つ摘み出し、口の中へと放り込んだ。
その一部始終を、みやびは呆気にとられて見守ることしか出来ない。
やがて、深い溜息と共にお決まりの台詞が吐き出された。
「……お前なあ、もう少し我慢できないのか?
親しき仲にも礼儀あり、と言ってだなあ……」
『親しき仲にも礼儀あり』。
みやびが司に対して説教をする際、良く出る言葉だ。無論、対司専用である。
……しかし、彼女は気付いているだろうか?
その言葉は、自分と司の仲を認めている証拠だ、ということを。
(リーダなど、そんなみやびを嬉しそうに見守っている)
が、我等が司にその様な言葉の機微はわからない。みやびも、である。
故に、それで仲が発展して……などということは起きない。
精々、仲の良い兄妹がじゃれ合うレベルに過ぎないのだ。
「いいじゃあないですか、代わりに僕の分が来たら、お返ししますから」
「そういう問題じゃあないんだ…… 本当に、お前という奴は……」
みやびは諦めたのか、次々と鮨をくすねていく司を黙認する。
別に本気で腹を立てているわけでも呆れている訳でも無いし、注意する気もない。
余程気を許せる相手でも無い限り、司がこんな無作法な真似はしないことを知っているからだ。
そして司がそれを自分に対して行うということは、自分はそれだけ司に心を許されている、ということになる。
……そう考えると、みやびは不思議と悪い気がしなかった。
そんなみやびの感傷を他所に、司は鮨をほおばる。
どうやら、さっきの1個で食欲に火がついたらしい。
「いや、しかし美味いですよこれは!」
こんな鮨、今まで食べたことが無い、と司は感嘆する。
(実際、もしこれが本当の鮨だとしたら、今まで司が食べていたものは鮨以外のナニかだろう)
「そうか〜♪ じゃあ存分に食べろ〜♪」
何故だか知らないが、その言葉を聞いたみやびは益々機嫌が良くなった。
そして気前良く、自分の桶を司の方へ押し出す。
……実の所、みやびは和食があまり好きではないのだ。
まして生の刺身など興味も無い。
何が悲しくて、魚を生のまま食べねばならんのだ!?
食堂に和食が無いのも、まあそんな理由からだ。
自分が好きなものは皆も好き、自分が嫌いなものは皆も嫌い、という実にジャィアニズム的な発想である。
にも関わらず、みやびは夕食に鮨を選んだ。
不思議、と言う他ないだろう。
「……みやびは食べないのか?」
ふと、みやびが全く箸を付けないのに気付き、司が心配そうに尋ねた。
が、自分に向けられるその言葉と表情に内心嬉しく思いつつも、彼女は澄まして答えた。
「馬鹿者。あたしはお前と違うから、次が来るまで待てる」
「……そりゃあご立派なことで」
「当たり前だ」
「じゃあこうしましょう。二人で一つの桶を食べるのです。
それならば、一緒に食べられるじゃあないですか」
「食べる? ……二人で一つの桶を?」
みやびは首を捻った。
彼女からは絶対出てこない発想である。
そもそも風祭の家では、複数の人間で同じ器に箸を入れるなどという真似は決してしない。
まあパーティーの際には大皿から小皿に料理を盛り取るが、これは少々意味合いが異なるだろう。第一、その場合はメイドたちが盛り分ける。
以前司が鍋料理とやらを作って振舞ってくれた際、大鍋に盛られてそれを皆でつつくと知り、大層驚いたものだ。
(風祭では、鍋料理も各人毎に小鍋で作られるのだ)
――しかし、流石に二人で一つの桶を食べるのは如何なものだろう?
丼物を『犬の餌』と揶揄する名門風祭家に生まれたみやびにとり、それはかなり躊躇する行為であった。
彼女の頭の中で、様々な考えがぐるぐると駆け巡る。
やはり鍋の時と同様に、互いに親睦を深める為に行う料理作法なのだろうか?
それとも、親しい人間同士が親愛の意味をこめて行う愛情行為なのだろうか?
……そう考えると、悪くないように思える。
何れにせよ折角の司の申し出、みやびを『親しい人間』と認めてくれた上での誘いである。無下には出来ない。
みやびは恐る恐る、桶の中に箸を入れた。
「うんうん、やはり食事は一緒にとらないとなあ」
「……お前が待っていれば、こんなややこしい真似をしないで済んだんだぞ?」
満足気に頷く司を、みやびがジト目で突っ込む。
が、司は澄ましたものだ。
「いいじゃあないですか、理事長。僕等は他人じゃあ無いんだし」
「へっ!?」
その爆弾発言に、みやびは思わず箸から鮨を落とした。
――他人じゃないって、もしかして、もしかして……司は……
心臓はバクバク、顔も真っ赤にして、みやびは司の次の言葉を待った。
……何故か、目まで瞑っている。
「何たって、僕と理事長は何度も拳で語り合った強敵(とも)ですからねっ!」
「はあっ!?」
思いがけない言葉に、みやびは目をまんまるに見開いた。
「あれっ? 理事長は知りません? 『強敵』と書いて『とも』と読むのですよ?」
「知るかっ!?」
漢と漢の熱い魂の交流ですよ? とのたまう司に、みやびはふるふると震えながら叫ぶ。
「じゃあ理事長に貸してあげますよ『北東の剣』、僕のバイブルなんです」
「いらんわっ!?」
「……何怒ってるんですか、理事長?」
首を捻る司に、みやびは目に涙を一杯浮かべながら飛び掛かる。
「あたしだってわかんないわよっ!? あーもー何だかとってもちくしょうっ!!」
「理不尽なっ!?」
……こうして、いつものケンカという名のスキンシップが始まった。
――――30分後。