>626が羨ましいことになった模様です。
>626
逆転の発想で、伊吹が年齢詐称しているとか(w
で、わざとばらしてUMAのクラスへゴー
一瞬はぴねすスレかとおもた
伊吹は実は飛び級してたとか……
――――中等部魔法科一年教室。
「大ニュース! 大ニュースだよ〜!」
興奮した少女の声が教室に響き渡る。
そんな少女の様子に、いかにも生真面目そうな少女が呆れた様に声をかけた。
「上杉さん。貴方ももう中等部生なのですから、もう少し慎みをお持ちになったらどうですか?」
「やだな〜明日香っち。ノリが悪いぞ?」
が、少女はさして気にもせず、声をかけた少女――明日香というらしい――にお気楽そうな言葉を返す。
明日香も慣れているのかそれ以上は追求しない。
「……貴方が元気過ぎるだけです。で、何です?」
その代わりに続きを促す。
・・・・・・何だかんだ言っても、やはり気になるらしい。
「ほい?」
明日香の言葉に、少女は僅かに首を傾げる。
その仕草はまるで仔猫の様だ。
「貴方が『大ニュースだ』と仰ったのでしょう!」
「あ〜、あれね」
「全く、貴方と言う人は……」
二人の会話に、クラスメート達も集まり始める。
皆、大ニュースとやらが気になって集まったのだ。
皆の注目を意識した少女は、コホンと咳払いを一つすると、大袈裟な身振り手振りで話し始める。
「な、なんと! 本日転校生がやって来るのですよ!」
……惜しい。転科生だ。
『おお〜』とどよめきが起こる。
変わり映えの無い学園生活において、転校生の登場は正に一大イベントである。
特にここ瑞穂坂学園魔法科中等部においては、その大半が初等部からのエスカレーター組だ。
故に皆、面白い様に食いついてくる。
――ふっふっふ〜 入れ食いだよ〜
そんな様子に少女は内心ほくそ笑む。
何せ、今回のニュースはとびっきりのとびっきりなのだ。
ネタは何段階もある。
皆の話題の的になること間違い無し、である。
――今日こそ必ずや、明日香っちの驚愕の顔を拝んでやるのだ♪
そんなどうでも良い野望を胸に秘めた少女は、得意満面で話を続ける。
「全く…… 皆中等部にもなって、子供なのだから……」
はしゃぐクラスメート達を見て、明日香は嘆く。
(『もう初等部生じゃあないのだから、いい加減もう少し大人になって欲しいものだ』と彼女は常々思っているのだ)
……が、そんな彼女に異議を挟む者が一人、にこやかに反論する。
「え〜、でも転校生ですよ? 期待の新人ですよ?」
「そうそう! 期待も期待、超ド級のニュ〜フェイスだ! 話が分かるね〜葵♪」
「……『期待の新人』って何ですか? 野球じゃああるまいし」
どこかずれた調子で喜ぶ葵と、すかさず合いの手を入れる少女に、明日香は軽く溜息を吐いた。
「ふっ」
……そんな明日香を見、勝ち誇った様に笑う少女。
「……何ですか上杉さん。その笑いは」
「勝負だ! 明日香っち!」
「……またですか? いい加減諦めれば良いものを」
「もちろん諦めないよっ! 今日こそあたしのこと『彩音っち♪』って呼んでもらう♪ いざ尋常に勝負!」
ちなみに勝負とは、少女――上杉彩音――のニュースに明日香が驚いたら明日香の負け、驚かなかったら勝ちという他愛も無いものだ。
……が、当人達にとってはそうでも無い。
もはや意地の問題なのである。プライドとプライドのぶつかり合いという奴だ。
しかも明日香が負けた場合、彩音のことを『彩音っち♪』と呼ばねばならぬ屈辱が待っているのである!
(ちなみに『明日香っち』と呼ばれることに関しては、初等部の六年間で既に諦めている)
「……いいでしょう。どうせまた私の勝ちでしょうが、乗ってあげます」
「よしっ! それでこそ女の中の女、明日香っち! 葵、審判頼むよ!」
「良いですよ?」
審判を頼まれた葵は、にっこり笑って快諾した。
その周りでは、級友達がどちらが勝つかで賭けを始める。
……まあ彩音に賭けるのは、大穴狙いのチャレンジャーだけであるが。
「ニュース第二弾! 転校生は、『特待生資格』を持っている!」
再び『お〜』というどよめきが周囲から上がる。
どうやら転校生は、かなりの才女の様だ。
「へえ、なかなかの方ですのね?」
が、やはり同様に特待生資格を持つ明日香には余り効いていない様だ。
「どうどう? ライバル登場だよ、明日香っち?」
「良いライバルになって頂きたいものです」
「ちぇ〜素直じゃないな〜」
そう言いつつも、彩音はあっさり引き下がった。
何故ならネタはまだまだあるからだ。
「ニュース第三弾! 転校生の特待生資格は、ななんと『甲種』である!」
「なっ!?」
流石の明日香も思わず聞き返す。
それを見逃さず、葵はすかさず判定を下した。
「あ〜、驚きましたね? 『技有り』です〜」
周囲のざわめきも凄い。
『甲種特待生資格』とは、それ程のものなのだ。
特待生資格とは『申請すれば無条件で特待生になれる』という資格であり、学園でも優秀な者にのみ与えられる資格だ。
だから、特待生資格を持っている者全てが特待生として授業料等の減免措置を受けている訳では無い。
(裕福な子弟の多い瑞穂坂学園では、『学園に気を使うことになるから嫌だ』と申請しない家庭が少なくない)
故にどちらかと言えば、優秀な者の証として扱われる場合が多い勲章的な資格である。
が、私大三巨頭の一つである瑞穂坂大学を中核とするここ瑞穂坂学園で特待生資格を得るということは、全国屈指の優秀者と認められた様なもの、後々まで使える極めて実用的な勲章だ。
特待生資格には甲乙丙の三種がある。
丙種とは学年上位20%以内かそれに匹敵する生徒に与えられ、申請すれば授業料半減となる。
乙種とは学年上位5%以内かそれに匹敵する生徒に与えられ、申請すれば授業料全額免除となる。
……そして甲種とは、学園がその才能を見込み、是非にと三顧の礼で迎える者にのみ与えられる資格だ。
申請すれば授業料その他一切合財全て免除される上、寮暮らしならば寮費も只、おまけに小遣いまで貰えるという至れり尽くせりの資格である。
(無論、返還は不要)
当然その判定も厳しく、具体的に魔法科で言えば丙種は各学年に7〜8人、乙種は1〜2人に確実に与えられるが、甲種の場合は十年に一人与えられるかどうかだ。
幼稚舎から大学まで見渡して、魔法科に一人も存在しなかった時代すらある。それ程の資格だ。
ちなみに現在の魔法科は三人もの甲種保持者が在籍するという『黄金時代』で、学園関係者は『瑞穂坂学園魔法科こそ全国一! 帝大魔法科何するものぞ!』と鼻息が荒い。
彼女等の存在を梃子に、瑞穂坂学園は名実共に魔法教育の頂点になろうとすら目論んでいるのだ。
その三人とは――
高等部三年、高峰小雪
高等部二年、神坂春姫
高等部一年、式守伊吹
――の三人である。
……皆高等部なのは偶然だろうか?
「はっはっは。どうかね、明日香っち?」
「くっ、伊吹姉さまと同格の転校生ですってえ〜」
どうやら明日香、かなり効いている様だ。
何しろ敬愛する『伊吹姉さま』と同格の相手である。
多少気後れするのも無理は無い。
「どうやら効いたようだね〜」
得意満面の彩音に、明日香は唇を噛む。
が――
「……ええ、効きましたよ上杉さん」
ことここに至っては、明日香も負けを認めざるをえない。
そう。式守明日香は誇り高き少女なのだ。
「えっ、あたしの勝ち!? やった!」
六年以上の長きに渡る戦いの中、ようやく掴んだ初勝利。記念すべき瞬間だ。
「ええ。ですから約束どおり、『彩音っち♪』と呼んで差し上げます。一回だけ」
「さっ、詐欺だあ〜! あたしの六年間の苦労を返せ〜!」
今呼びましたよね? と笑う明日香に彩音は手をばたつかせて抗議する。
「また驚いたら呼んで差し上げます。頑張って仕入れなさいな」
「無理! 無〜理〜! こんな大ニュースそうないって!? ……あ」
「?」
「ふふふ〜」
「??」
彩音はMDを録音状態にすると、ニヤリと笑う。
「なっ、何ですか?」
「明日香っち敗れたり!」
「何をいきなり……」
「ニュース第四弾! 転校生は男の子だっ!」
「「「え〜!?」」」
そのクラス中の驚きの声は、高等部にまで響いたという。
「う、嘘でしょう? 男子で甲種って?」
クラスメートの一人が否定的な見解を示す。
すると、次々に賛同の意見が噴出した。
「ガセネタ、じゃないの?」
「だよね〜 男子転校生がウチに来るだけでもレアなのに、その上甲種?
……それ、三毛猫の雄以上に有り得ないよ」
「皆酷いなあ〜あたしのニュースは正確だよ? 今までだってそうだったでしょう?
それに三毛のオスだってちゃんといるんだから、甲種の男子だっているよ! ……多分、きっと」
彩音もやはり自信が無くなってきたのか、最後の声は勢いが無い。
「そりゃあそうかもしれないけど、甲種の上に男子って…… 正直胡散臭いよ……」
クラスの大半は否定的だ。
……まあ無理も無いが。
前回でも話したが、魔法使いは圧倒的に女性が多い。
魔法使いの男性など、全体の一割にも満たぬのだ。十数人の魔法使いを無作為抽出して、一人いるかどうかだろう。
そして能力も女性の方が圧倒的に上で、男子の上位層ですら女性でいえば下の上程度のレベルでしかない。トップクラスでも中位層がやっとだ。
だから『男子で甲種』など、確率的に有り得ないのだ。
「本当だよ! ちゃんと聞いたんだから!」
「なら、聞き間違えだよ」
その一言に皆一様に頷くと、それぞれの席に戻り始める。
慌てた彩音は、取り合えず間近にいた明日香に縋り付いた。
「ちょっちょっと待ってよ! 明日香っちいいの? メシア降臨だよ! ピンチだよ!?」
「何です、メシアって?」
彩音に縋り付かれた明日香は、怪訝そうに返す。
「中等部魔法科一年。そこでは学年主席である式守明日香の独裁により、男子は塗炭の苦しみを受けていた。
そこにメシアが降臨するっ! ……って展開だよ? 燃える世紀末救世主伝説だよ?」
「……貴方は漫画の読みすぎです。第一、私達の学年には男子はいません」
そう。中等部魔法科一年に男子はいない。
女子校、と言う訳ではない。単に男子の実力が足りないだけの話だ。
先程も述べたが、男子の魔法レベルは女子のそれと比べて大きく劣る。
故に、超一流である瑞穂坂学園魔法科に男子が入学出来る可能性は低い。限りなく低い。
また合格できたとしても、実技でついていけないことはほぼ確実で、ならば相応の学校に始めから入学した方が賢明というものだろう。
……とはいえ、一般学力や座学系魔法学で非常に優れた成績の男子が一芸入試枠で入学してくる場合もあるし、中には上条信哉の様な高レベルの男子魔法使いだっているのだ。
(彼の場合、総合的には中の上レベル――それだって男子としては破格だ――の魔法使いだが、戦闘魔法に特化したそれはその体術と合わせて凶悪な戦闘能力を発揮する)
故に、各学年には数人の男子が存在する。
が、中等部一年には一人もいない。これも珍しい。
……まあ稀に起こる、確率論的な必然性による現象ではあるのだが。
(こうなると余計男子はこない。誰しも『男は自分だけ』なんて状況、御免被るからだ)
「う〜、皆ノリが悪いよ〜」
皆からガセネタと断定された彩音は、がっくりと膝をつく。
そんな彼女にクラスメートから容赦の無い一言。
「黙れ、狼少年ならぬ狼少女!」
「冤罪だ!?」
「……ま、その転校生とやらが来れば、事の真偽が判明するでしょう」
明日香の一言で、一瞬足を止めたクラスメートも再び動き出した。
そして各々の席へ。
「明日香っち……」
「あと上杉さん。もし先程のニュースが嘘、もしくは誇大広告だった場合、学級裁判を開きますからね。覚悟して下さい」
「あう〜」
にっこり笑いながらキツイことを仰る明日香さんに、流石の彩音も言葉を失う。
「皆冷たい……」
先程の興奮は何処へやら、すっかり熱気の冷めた教室で、何事も無かったかのように先生を待つ生徒達。
(どうやら転校生の件すら『無かったこと』にされている様だ)
そんな中、項垂れる少女が一人と……
「甲種の男の子ですか〜 エリートさんなのですね〜」
と期待に目を輝かせる少女が一人。
仲良く机を並べて座っていた。
SS投稿終了。
470越えそうなんで分けました。続きは次スレで。
まあウチDIONなんで、次いつ投稿出来るか不明ですけどね。
……しかしここで分割すると完全にオリだよなあ。
644 :
温泉の人:2006/11/06(月) 22:44:33 ID:+htPiYVv0
もはやはぴねすSSじゃねぇwwwwだけど乙ノシ
このスレももうすぐ次スレか・・・
思えば温泉の話とか投稿してた頃はまだ9スレ目だったんだよな・・・懐カシス
乙ですー
オリが中心になるのは致し方ないかと。
でも、男子がゼロと言う環境にする作者さんは、鬼(w
UMAは良く言えばまっすぐ悪く言えば単純なので、熱心に勉強したら吸収早そうですな。
血統としてもイイ訳だし。
んでは、続きを楽しみにしてますー
>>644 温泉の人様、有難う御座います。
>もはやはぴねすSSじゃねぇ
ですねえ。ヒロイン達も出来る限り話に絡ませるつもりですが、暫くは脇になってしまいます。
主役はUMAだけど……
>>645 645様、有難う御座います。
>でも、男子がゼロと言う環境にする作者さんは、鬼(w
いっそ清清しいかと思いまして。
>UMAは良く言えばまっすぐ悪く言えば単純なので、熱心に勉強したら吸収早そうですな。
>血統としてもイイ訳だし。
どうも原作中ではUMAは脇なんですよね。少なくとも事件解決では。
ヒロインにばかり頼るのではなく、男なら!
そんな訳で、きっと、多分、男らしいUMAが見られるかも……
<近況報告>
『.ppp.dion.ne.jp を全サーバで無期限規制。 』
またかよ!の規制でもう直ぐ書き込めなくなりますorz
しかし……無期限って何ですか!?
つ「バイダ乗り換え」
UMA中等部ワロス(w それは予想しなかった。
他の教科に関しては楽勝だから、魔法学習に専念出来るんじゃね?
年下の女の子にケーキでも奢って教えてもらうUMAとかいい感じ(ww
>ppp.dion.ne.jp を全サーバで無期限規制。
DIONじゃないけど、うちも時々規制に引っかかるなー
退避場所とか決めた方がいいかも。
今日になってやっと丸の内OCN規制解除された俺が来ましたよ
サブでDC買った時に作ったISAO垢も持ってるので今回のケースに備えてプラン変更を考えるか・・・・・・
瑞穂坂学園きっての才媛、神坂春姫は嘘の塊だった…と言ったら、誰か信じてくれるだろうか。
両親共に魔法と縁遠かった自分に魔法科で誇れるような魔力はなかった。
魔法科を望む私に遠まわしに反対した二人の為に必死で勉強をして、それでも主席で入学できたのは絶対に運だと思う。
トップで居続けられたのは独学で学んだ魔法が入学後に習う範囲まで進んでいたから。
そして私の呪文に興味を持った先生に師事する事が出来て…きっと先生の下でなら誰だって私以上に成長しただろう。
クラスで友人と呼べるのはたった一人だけだった私は、誰からも嫌われないようにするしかなくて。
姫なんて呼び名はとても自分に相応しいとは思えないのに、それを演じ続けた。
……このまま眠ってしわになった制服のまま学園に行けば、優等生なんて思われなくなるかな?
悪い方向にばかり考えが進むのは自信を持てないような姿で居るからだ。
そう思いながらも、とてもベッドから起き上がる気力はなかった。
逃げるように学園から戻って、そのまま横になって。時計の針はもう何周しただろう。
「ちゃんと勉強、しないとね。院の試験には落ちたくないもの…」
そんなの嘘。院で魔法を学ぶ事に元から興味なんてない。
「先生の期待も裏切れないし…」
そんなの嘘。先生が期待してるのはきっと私じゃなくて、彼。
「杏璃ちゃんも応援してくれてる…」
そんなの嘘。ただ彼と一緒に居たかっただけだ。そう、彼と。
「ダメ、考えちゃダメ…っ」
嘘。横になって考えたことは全部彼の事だった。
「頑張らなきゃ、頑張らないと…」
嘘。
私が魔法を学ぶ理由は もう、ない。
学生にとって放課後に入る瞬間は最高に幸せな時間だと思う。
自室に戻れば授業以上に集中して勉強する事になる私でも、気分は軽くなる。
「雄真ー、今日は久しぶりに男二人の熱いゲーセンガチバトル!…といかないか?」
放課後は大人数で盛り上がるのを好む高溝君がわざわざ男二人なんて言うのは
きっと院へ入る為の試験に向けて毎日机と向かい合っている私を気遣ってくれているから。
申し訳ないようでいて、そんな風に考えてくれる友人の存在が本当に嬉しくて。
「……でよ、俺が代わりに鮮やかにクレーンを操作してでかいウサギを取って!
もちろん彼女はもうメロメロ!そのまま今夜は熱い一時を過ごぶべらっ!」
「その手の動き、それだけでもう本当に犯罪だぞお前…」
あれさえなければ夢では終わらないと思うんだけど、ね
「んでゲーセンだけど、悪いけど今日は御薙先生に呼ばれてるんだ。また今度にしてくれ」
「御薙…って何の先生だ?」
「確か魔法科の先生でしょ?杏璃ちゃんの用事を待ってあげるのよ。
もう、わかってきたじゃな〜い、雄真。これからの男はマメさが大事なんだからね」
「お前がマメなのは認めるが、女側から言ってるように聞こえるな…?」
いつものやり取りをさえぎったのは、元気な親友の声だった。
「呼ばれてるのはあたしじゃないわ、雄真よ雄真。でも一緒に行ってあげるんだから、本当にマメよね〜あたし」
「え…小日向君が呼ばれているの?」
「ああ、何でか俺なんだよな。男手が要るとかそんな感じだと思うんだけど。」
思わず口を挟んでしまったのは最近の先生の忙しさを知っているから。
魔法科の校舎に結界を張る作業は大詰めを迎えていて、自分の研究にも手をつけられないと愚痴っていたくらいなのに。
「じゃああたし達はもう行くから、また明日ね。春姫も気晴らしならいつでも付き合うんだから、あんまり根詰めるんじゃないわよ〜」
考えている間に仲良く出て行った二人に、ほんの少しだけ胸が痛んだ。
子供みたいに初恋の人を追いかけている自分が、好きになれるかもしれないと思った人。
彼の隣に居るのが自分だったら……大切な親友の恋人なのに、そう考えたことは何度もあった。
それは今までの自分を否定するようで。そして考えれば考えるほど淡い思いは強くなって。
そんな中途半端な気持ちと試験のストレス。そして彼女の最後の言葉が私の好奇心を後押しした。
「折角だから私も先生に話て来ようかしら。聞きたいこともあったし…」
独り言のように告げて、マメな男について議論する二人に声をかけて教室を出た。
もし二人の用事が早く終わるようなら、一緒に帰ってからかってみるのもいいかもしれない、なんて。
自分勝手な嫉妬心でそんなことを考えていたから
一番知りたかった事を
一番知ってはいけなかった事を
知ってしまったのかもしれない
二人とも、まだ居るかしら?
まだ塗料の香りの残る魔法科校舎の一室。見慣れたドアの前で、私は簡単に身なりを整えていた。
教室を出たところで担任の先生から声をかけられて院への編入についての書類を渡された。
説明にかかった時間は5分と少し。小日向くんの言うように力仕事なら丁度始まったところかな?
そしてノックをしようと腕を上げた、その瞬間。
「…それはね、小日向くん。あなたが私の息子だから、よ」
「…っ!?」
漏れ聞こえた声に全身が緊張して、入った力そのままに腕を叩きつけそうになった。
私が先生に師事した理由。先生の弟子として院に入る理由。
私の呪文の組み立てが、あの日の彼の呪文が、先生と余りにも似通っているから。
先生と親しくしていればきっと彼と会う機会がある、そんな希望にすがって。
離婚暦のある先生に直接家族の事は聞けなかったけれど、弟子が居ないことは何度も確認した。
呪文の組み立てから教えるような弟子は、居なくて。そして
息子 同い年 妹をいじめっこから助けるような
視界が狭まる。世界が色をなくしていく。
遠ざかる現実の中で、その声だけがはっきりと聞こえた。
「エル・アムダルト・リ・エルス・ディ・ルテ…」
聞きなれた呪文が、聞きなれた声で唱えられる
少し緊張したその詠唱があの日の少年と重なって…
気づいた時には歩きなれた公園に居た。
無我夢中で歩いて来たはずなのに、背筋を伸ばしてまっすぐ歩いていた自分に…もう一度、目眩がした。
結局朝まで起き上がることはなかったけれど、そのまま登校する勇気もなかった。
朝食をとる代わりに制服にアイロンをかけ、お弁当を作る代わりに笑顔の練習をして。
いつ眠ったのかも覚えていないけれど、幸い顔には出ていないと思う。
「聞いちゃったから…ちゃんと言わないと、ね」
それは立ち聞きをした事をか、それとも自分の想いをなのか。
昨晩ずっと考えていたはずなのにそんな事すら決められなかったけれど
教室で彼を目にすればもうこの気持ちは抑えられないと、本当はわかっていた。
「…ごめんなさい、私が聞くべきじゃないと思ったからすぐに離れたんだけど…」
「いや、別にいいって。むしろ入ってきてくれても良かったぐらいだよ。
しかしかーさんに聞いたら本当だって言ってたし、まさか実の母親がこんなに近くに住んでたなんてなぁ」
二時間目が終わり実験に向かう途中、事情を聞いた小日向くんは少しも気にしなかった。
私が聞いていたことが気にならないのは、母親を知って混乱しているせい?
それとも…私になんて、興味がないから?
そんなこと考えたって、何にもならないのに…。
「二人とも…放課後に時間、あるかな?」
「俺は暇だけど杏璃は…」
「あたしは今日もOasisでバイトね。ど〜せ昨日の話しなんでしょう?雄真貸すから、好きにしちゃっていいわよ。
終わったら部屋に行くから、こっちはその時でもいいでしょ?」
「うん、ありがとう杏璃ちゃん。小日向くん、いいかな?」
「貸すっておまえな…まぁ、いいけど」
やっぱり彼はぼんやりしていて。
それでも杏璃ちゃんのことはちゃんと見ていて…
二人に割り込むことなんてできない。割り込みたくなんて、ない。
それでも私も……ううん、私を、見て、欲しかった。
「そう言われても…。半年で覚えこむなんて、無理だよなぁ。
でも杏璃はやたらやる気で。来年も同じクラスだ〜、なんて言ってさ」
先生の話は、来年度から魔法科に編入してはどうか、という誘いだったらしい。
集中講義で半年で授業についていけるようにする…というのは確かに無茶だけど
私がこれからする話はもっと無茶かもしれない。
緊張で、後悔で、そして認めたくない期待で、脚が震える
「小日向くん…覚えてる?」
覚えてるはず、ない
「まだ魔法を使っていたころ、今はもうなくなった公園で…魔法を使って、女の子を助けたこと」
たとえ覚えていても、特別な想い出なんかじゃない
「すももちゃんが言ってたみたいに、昔はよくいじめっこと喧嘩したりしていたの」
実の母親を知った翌日にこんな事を言うなんて
「男の子が何人も居て。どうしようって、助けてって、そう思った時」
私の独りよがりな想いなのに
「…それは凄く暖かい光で。それに憧れて、私は魔法使いを目指したの」
彼は驚いて…でも、何かを思い出したようで
「それが、私の初恋」
私を真剣に見つめてくれて
「そしてずっと、今も、好きです」
だからこそ、答えはわかっていて
「…小日向くん、あなたが」
もう、脚は震えていなかった
怒ってもいいはずなのに、先生は機嫌良く一枚の用紙を手渡した。
「見た通り、ね。悪くはないわ、決して。でも良くも…ない」
私の院編入試験。特に重点的に見られるのは魔法の技術全般。
当日は落ち着いていたと思う。十分に練習もして、詰め込めるだけの理論を詰め込んだ。
そして、その結果だった。
「全力じゃなかった…訳じゃないわね。問題があったというよりは、迷っていた、かしら?」
「…はい、迷っていた、かも……しれません」
あっさり見破られても動揺はしなかった。むしろ話す理由になる、そう思った。
「……………」
でも、言葉は出ない。
親友の彼に、あなたの息子に恋をしていて。
彼が魔法科への編入を決めたから、自分も魔法科に残ればせめて近くに居られる。
もしかしたら、まだチャンスだってあるかもしれない。
そんな不純な気持ちで期待を裏切ったなんて、口には出せなくて。
「……私の一番の親友、ね。音羽って言うの。ここでOasisって食堂をやってるんだけど…知っているかしら」
「…? はい、小日向くんのお母さん…っ、ごめんなさいっ」
「いいのよ、彼もそう言っていたし…彼なりに私に通じるものを感じてくれているから、それだけで十分。
それよりもね、私と音羽は同級だったんだけど…」
自分で言うのもどうかと思うけど、学生時代から魔法の才能は人一倍あったの。
天才だ、なんて言われる事も多かったけど…直接私に言った人は居なかったわ。
表面ではみんなと仲良しで。中を見れば誰とも仲良くなんてなくて。それでも、変える気もなかったわ。
でもね、音羽と出会ったの。
普通科で魔法と何の縁もなかった音羽だけど私の名前は知っていて。
その私名前を聞いて最初に言ったこと、今でも覚えてるわ。
「このコロッケパン、元に戻せない〜?お願い〜!」だって。
初対面の相手に何を、なんて欠片も思わなかったわ。
それは音羽の才能でもあったんだけど…私は嬉しかったの。
噂は聞いてるはずなのに、気を使って魔法使いの私から目をそらしたりしないで、友達みたいに頼んできて…。
それからね、音羽と一緒にあれこれするようになったの。
随分と無茶もしたわ。購買のパンを変えろって抗議運動したり、学食を作れって署名を集めたり。
今では自分で作ってるぐらいだもの、よほどこだわりがあるんでしょうけれど…。
とにかく、楽しくてね。魔法なんて捨てて普通科に移ろうかって思ったことも一度や二度じゃないわ。
結局編入はしなかったんだけど………ええ、そうよ。私にも来たわ、特待生の誘い。
察しはつくでしょうれど、蹴ったの。今はもっと大事なものがあるって、そう言って。
私はそれで後悔していないけれど…あなたはわからない。
迷うなら存分に迷いなさい。
この結果なら私の一存で合否を動かせるわ。
あるんでしょう?
もっと大事なものが、今のあなたには。
「なるほどね〜、そんな仲だから、魔力を暴走させた雄真を音羽さんに預けた訳ね。
はむふむはむ…もちろんそんな単純な話じゃないんだろうけど…」
その日の夜、私は寮の杏璃ちゃんの部屋を訪ねていた。
特待生の話は杏璃ちゃんにも関係がある。
そして、もっと大切な話もある。
わざわざケーキまで出してくれた親友に、私は、裏切りを告げる。
「で、その話を聞く限りだと〜……春姫はあたしと離れたくなくて魔法科に残る、ってことよね〜。
も〜モテる女は大変ね、本当。でも悪いけど、あたしはゆ…ゆぅ…雄真一筋、だからね?」
まだ小日向くんに告白した事は話していない。
彼女の様子は普段どおりだったから、多分彼も話していない。
絶対に怒る。間違いなく悲しむ。きっと嫌われる。それでも。
「ううん、違うの。杏璃ちゃんも大事なお友達だけど…」
「だけど、だけど?」
「私は…」
「私は〜?」
…っ
「…小日向くんが、好きだから、魔法科に残るのっ」
「それはいいけど、雄真は絶っっっ対渡さないわよっ」
…え?
「…大体、何で雄真があたしに隠すと思ったのよ。もっのすごい浮気フラグよね、それって」
「だって杏璃ちゃんの様子、どう見ても普段通りだったからっ」
「むしろあんたの様子がおかしかったのよ。あれだけどんよりおろおろされると怒る気も起きないわよ本当…」
杏璃ちゃんがケーキまで用意していたのは、残念賞だったらしい。
私は想像以上に参っていたみたいで、ここ数日は二人とも私の試験の心配ばかりしていたとか。
でも、軽く流されているからって、甘えるわけにはいかない。
「…ごめんね、杏璃ちゃん。やっぱり酷い裏切りだと思う。先に杏璃ちゃんに伝えるべきだってわかってたのに…」
「まあ、いい気分はしないけど…。でもね、ずーっと負けてきた春姫相手に1本取った訳だし。
全然魔法と関係ないのが気に入らないけど、まぁこの勢いで今期トップはいただきねっ」
親友だからって、曖昧に許しあうなんてダメ
「そうよね、杏璃ちゃん、何度負けてもずーっと私を追いかけてきたのよね」
「追いかけるだけじゃないわよ、いつか必ず、絶対追い越すんだからねっ」
そう、甘えるわけにはいかない
「…でもね、杏璃ちゃん、追いかけられる方も大変なのよ?少しも手を抜いたりできないんだから」
「な〜に?限界だって言うならいつだって代わってあげるわよ?早いか遅いかの違いだしね」
だって、私だって
「ううん、違うわ。これから杏璃ちゃんも追われるっていう話よ、私に」
「…へ?」
杏璃ちゃんを甘やかすつもりなんて、ないんだから
「いつか必ず、絶対、小日向くんは私がもらうからっ!」
教室に注ぐ朝の光は穏やかで、開かれた窓からはやさしい風が踊る。
その上隣に大好きな人が居るなんて、本当に…幸せ。
「おはよう、小日向くん。魔法の勉強は進んでるの?」
「どんどんわけがわかんなくなってきて、その上からさら覚えさせようとするもんだから…
本気で諦めようかと思ってきたよ、編入なんて」
そんな事を言いながらも鞄から魔法書を取り出す彼は少し楽しそう。
「大丈夫、一つ一つステップを踏んでいけば必ず理解できるから。
私で良ければ出来るだけ力になるけど…昨日わからなかったのは、何処?」
隣から分厚い本を覗き込む私も、きっと笑顔になっていて。
「それはね、起動呪文と反発するからダメってそれだけで終わっちゃダメなの。
わざわざ一編使っているのには理由があって…」
…ぁぁぁ
かすかに聞こえた声は、幸せな時間の終わりを知らせる鐘の音。
「…もう、時間切れなの?」
「ホームルームまでは10分近くあるぜ?」
…ぁぁぁぁぁぁあ
シンデレラの魔法は、思ったより早くとけるみたいね。
「すぐにわかるから、窓から離れて」
「…なんとなく、わかっ…うわっっっ」
「……ぁぁあああああああむふぇええええええええええええいぃ!!!!」
「杏璃ちゃん、窓から入ったら危ないって前にも言ったでしょう?」
「んなことより春姫ぃぃぃぃ!あんた、あたしの目覚ましの時間、遅らせたでしょう!」
「杏璃ちゃんが後1時間、って言ったから…」
「言うわけないでしょうがっ!」
もちろん本気で邪魔をしたことなんて一度もありません。
「雄真〜!あんたも何春姫相手にデレデレしてるのよっ」
「どんな言い掛かりだそれっ!」
でも、この気持ちは何もせずには抑えられなくて。
「頑張ってね、杏璃ちゃん」
「元凶はあんたでしょうが〜っ!」
わがままで、ちょっといじわるな私。
でも、それが本当だから。
「はぁ、はぁ……春姫、もうちょっと…控えめにならない?」
「限界なら、いつだって代わるわよ?」
「お・こ・と・わ・り・よっ!」
…やっぱり、迷惑?
>>650-661 はぴねすスレ650でSS書いちゃったよなんて言った者です。
正直貼らなくていいよってスルーされると思っていたらスレまで教えてもらって
こんな所に載せるの初めてでビクビクです。
杏璃ルート後、初恋の人が雄真だと知った春姫の話ですが…
完全な春姫1人称だと鬱陶しくなるし、3人称もなぁという合間で微妙な具合になってしまいました
最初はやたらどんよりですが、春姫一人でダークしているだけで、周りはずっと暖かです。
優等生は嫌だとか言わなくても、はぴねす本編後は友達が居るじゃないかっていう。
ごめんなさい言い訳です、書いてて辛くなったので明るくしました。
特にEPは無理やりです。杏璃大好きな方は迷惑だよっって笑って終わってください。
何分素人なので生暖かい目で見てくださると幸いです。
ではお付き合いありがとうございました。
>662
GJ!
8〜10が特に上手いですね
でも春姫(つД`)切ない
664 :
温泉の人:2006/11/09(木) 20:35:36 ID:3IE9Jux/0
このまま杏璃の目盗んでUMAと既成事実作ったら神!!<春姫
だなんて不謹慎なこと考えた俺は負け組orz
だけど春姫の秘めたる恋心を、怒るどころかむしろ笑って受け入れてあげた杏璃を見て、
あぁ、2人は本当にいい親友同士なんだなぁって、ちょっとしみじみきちゃいました。
ともあれ、お疲れ様です〜ノシ
次スレ立てる?
何か変更点ある?
667 :
温泉の人:2006/11/09(木) 21:33:41 ID:3IE9Jux/0
∧_∧ +
(0゚・∀・) 新スレの到着をワクテカしつつ待ってみるテスト
(0゚∪ ∪ +
と__)__) +
>662
二人仲良く、とか思いついた自分は完全にエロゲに汚染されていると思ったorz
>>650氏GJです!
ついでにこの続きとかすももVerもお願いしちゃっていいですか?
>>650 GJ!
っていうか雄真にはこういう親友っていないよな〜・・・
日本 「すまん。トイレ逝ってくる」
米露韓中北「いってらー」
中国 「(ヒソヒソ)日本を本気で怒らせてみたいが、難しい。潜水艦で領海に
入っても怒らない」
韓国 「独島を占拠しても怒らない」
ロシア 「北方領土を返さなくても怒らない」
北朝鮮 「なら、おれが核ミサイルをぶち込んでみようか」
米国 「よせ、それはもうおれがやってみた」
米露韓中北 「一体どうすれば…(途方にくれる)」
中・韓 「俺らは日本人を怒らせようと犯罪者を大量に輸出してみたんだが、
逆にビザ免除に動いてくれてるし‥」
北・露 「ふーむ…」
米国 「・・・あ、でも、牛肉に脊柱にいれたら、
日本国民が激怒したな‥」
露韓中北 「それは、おまい怒るよ」
中国「野菜に毒(農薬?)盛ったら怒ったぞ?」
韓国「生ゴミ餃子も怒った」
米国「寄生虫の卵を食い物に入れて輸出しあってる奴はちょっと黙れ」
ロシア「あいつ、食い物以外じゃ怒らねーんじゃねーの?」
米韓中北 「あ!」
……あー、愛知の時弁当も食い物がらみだな。
何だこの国のネタっぷりは。
まあ食い物だと、お偉いさんはともかく国民が反応するから動かざるを得ないからね。
国民に知らされてないネタなら基本的に何やってもお上は動かないな。
>北朝鮮 「なら、おれが核ミサイルをぶち込んでみようか」
>米国 「よせ、それはもうおれがやってみた」
なんだこの会話www