永遠のアセリア&雑魚スピ分補充スレッド17

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1名無しさん@初回限定

人の運命を司るのは、神か、偶然か。
それは時の回廊を巡る永遠の謎掛け。
だが、悠人の運命を変えたのは、神剣と呼ばれた、あの物体。
ラキオスの闇の中で走り抜けた戦慄が、今、第二ファンタズマゴリアに蘇る。

永遠のアセリア&雑魚スピ分補充スレッド17

フレイムシャワーの中から光陰が微笑む。


前スレ:永遠のアセリア&雑魚スピ分補充スレッド16
http://pie.bbspink.com/test/read.cgi/erog/1128858588/
発売元:Xuse公式サイト(『永遠のアセリア』は【本醸造】より)
http://www.xuse.co.jp/
外部板:雑魚スピスレ保管庫
http://etranger.s66.xrea.com/
外部板:雑魚スピスレ避難所@MiscSpirits
http://www.miscspirits.net/Aselia/refuge/
外部板:永遠のアセリア関連スレリンク集
http://etranger.s66.xrea.com/past.htm
2名無しさん@初回限定:2005/10/29(土) 01:00:03 ID:okW1/PLE0
2
3名無しさん@初回限定:2005/10/29(土) 01:00:27 ID:pKakAIhH0
____      ________               _______
|書き込む| 名前:|            | E-mail(省略可): |sage       |
 ̄ ̄ ̄ ̄       ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄                ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                                        ,ィ
                         ,べV       //
ネリーみたいなくーるな女には       / 〃  ̄ ヾ;  / ./
    sage進行がぴったりよね〜    ! i ミ(ノハソ / /./
                           !ik(i|゚ ヮ゚ハ<///
                            リ⊂}!廿i つベ/
                               く/Цレ'
                             し'ノ
4名無しさん@初回限定:2005/10/29(土) 01:01:09 ID:pKakAIhH0

あてんしょん

 | ̄ ヽ
 |」」 L.
 |゚ -゚ノ| ……えっとこのスレに投稿したネタ(名前欄に題名を記入したもの)はね……
 |とl)
    ,べV      
   / 〃  ̄ ヾ; 
   ! i ミ(ノハソ
   !ik(i|゚ ヮ゚ハ   。・゚・⌒) 作者の意向が無い限り、
   リ⊂! |T|!つ━ヽニニフ))   問答無用で>>1の保管庫に収録されちゃうんだよ〜
     く/|_|〉 
     (フフ
5名無しさん@初回限定:2005/10/29(土) 01:02:01 ID:pKakAIhH0

Q: 雑魚スピって何ですか?
A: サブスピです。

Q: 具体的に教えて下さい。
A: シアー・セリア・ナナルゥ・ニムントール・ネリー・ハリオン・
   ヒミカ・ファーレーン・ヘリオン、以上9名の総称です。

Q: これまでに投稿されたSSはどこで読めますか?
A: ここで読めます。→ http://etranger.s66.xrea.com/

Q: 俺あんまりサブスピに興味ないんだけど。
A: 雑魚スピです。>>1の関連スレリンク集で行き先を探してみましょう。

Q: エスペリアがよく燃えて困るのですが。
A: こちらへ。→永遠のアセリア−この大地の果てで−7
         http://game9.2ch.net/test/read.cgi/gal/1124361124/
6名無しさん@初回限定:2005/10/29(土) 01:06:34 ID:pKakAIhH0
点呼は……ええと、『ガロ・リキュア放送局に葉書を送るなら?』です。

ファーのいらなくなった覆面下さい!<1>
7名無しさん@初回限定:2005/10/29(土) 01:11:04 ID:XsH+Tiq50
>>1
乙です!

ヘリオンとのデートの許可を<2>
8名無しさん@初回限定:2005/10/29(土) 01:31:48 ID:WS0VpyLI0
>>1乙です。

ニムに猫系ツンデレの称号を<3>
9名無しさん@初回限定:2005/10/29(土) 03:00:30 ID:SDhEeqtpO
1さん乙

ハリオンの料理コーナーを希望!<4>

会話が遅すぎて無理だな…
10名無しさん@初回限定:2005/10/29(土) 03:30:52 ID:rvB3eogV0
>1さん乙です。

シアーに、みんなのうたっていうか童謡を歌ってもらう<5>
…なんだったら、ネリーとの合唱でも。
11名無しさん@初回限定:2005/10/29(土) 05:25:57 ID:q+SwHNul0
>>1スレタ立て乙です
優雅にセリアと茶会の許可が欲しいです<5>
1211:2005/10/29(土) 05:26:52 ID:q+SwHNul0
おっと点呼<6>ですね
13名無しさん@初回限定:2005/10/29(土) 09:13:58 ID:+GN9jbiP0
>1乙です<7>
ファイヤー☆ミカ先生の同人講座がいいと思いマース
14名無しさん@初回限定:2005/10/29(土) 12:19:10 ID:mEVaF1P50
準備ができてない中、緊急スレ建て乙! >>1

次回のヨーティアコーナーのレポーターはネリーらしいので
「がんがれ中の人w」 <8>
15名無しさん@初回限定:2005/10/29(土) 17:33:06 ID:iQEvvytsO
ウルカの一刀両断!コーナーを希望します<9>
16名無しさん@初回限定:2005/10/29(土) 22:51:11 ID:XsFOqR+B0
一刀両断ワロタ。

渡部篤史の「建もの探訪」コーナーを是非。
第一回は「ラキオス城」でヨロ。  <10>。
17名無しさん@初回限定:2005/10/30(日) 00:19:39 ID:xsOXZUja0
1乙。

光陰をゲストに呼んでくれれば思い残すことはない。暴れまくってほしい<11>

でも炉低を話題に出すのは絶対にやめてくれ。やるだろうけど。


「ネリーちゃん、ヘリオンちゃん、ニムントールちゃん、今晩は。
早速ですけど、ニムちゃんとオルファちゃんはどっちが年上なんですか?」

「ニムに決まってる」
「え〜そうかな〜。ヘリオンはどう思う?」
「え、えっ。わ、わたしはその〜」
18名無しさん@初回限定:2005/10/30(日) 19:05:10 ID:2Bui4NFB0
>>17
光陰とヨーティアの通販掛け合いが聞いてみたいw


あてんしょん

このSSは、基本的にファーレーンonlyの補完です。
全五編、それぞれ十六章で完結します。今回は第四編です。
無駄に長く、一部過激な描写が含まれますのでそういうのが嫌いな方は遠慮なくスルーお願い致します。
19朔望 回旋 overture:2005/10/30(日) 19:07:08 ID:2Bui4NFB0

 §〜聖ヨト暦332年レユエの月緑ふたつの日〜§

ああ、やっぱり。“視えて”いたとはいえ、はっきりとそれを擬(なぞら)えられては苦笑するしかない。
薄暗い、何の感慨も齎(もたら)さない殺風景なこんな廊下で、私の想いは宙ぶらりんに浮いてしまった。
告げる事も出来ず、幾星霜を積み重ねた想い。だけどこの結果は何本もある枝の、確実に一本だったのだ。
私には、それを止める事は出来ない。ただ、流れの一渓流になって見守るに過ぎない。
それがエターナルの使命とはいえ、やはり辛かった。袴の裾を、誰にも悟られないよう軽く握り締める。
『時詠』が哀しい響きで慰めてくれた。優しい子。私はぎゅっと唇を噛み締め、そして前を向いた。
決して目を逸らさない。エターナルの「もう一つの使命」、それを果たすまで、もう泣く事など許されないから。
この律での戦いは、恐らくどんな「未来」よりも厳しい「選択肢」になったことだろう。
でもそれがこの世界の、そして悠人さんの選択。選ぶのは、彼ら。私はそれらを尊重し、ただ導くだけの巫女――



  ――――― 回旋 ―――――

20朔望 回旋 T−1:2005/10/30(日) 19:10:57 ID:2Bui4NFB0

 §〜聖ヨト暦331年スリハの月緑ふたつの日〜§

上空を紫雲が渦巻き、その中心からひっきりなしに巨大な雷が轟く。
マロリガン全土から集中したマナが、びりびりと空気を震わす。
「みんな! 急ぐぞっ!」
各地を制圧し、合流した仲間達が一斉に頷くのを確認し、悠人は駆け出した。マナ暴走は、もう目前だった。

街は既に人一人いない。この状況で、逃げない者がいる筈もなかった。
悠人達は無人の街をただひたすらに駆け抜けた。

飛び込んだエーテル変換施設。そこは既に、息苦しいほどのマナに覆われていた。
不気味な静寂が辺りを満たしている。重厚な空気を掻き分け、悠人達は真っ直ぐに中心部へと向かった。
「ここは……何だ?」
やがて辿り着いた先の部屋。そこはこの世界に来て今まで見た中でも最も不可思議な、そして異様な光景だった。
「ラキオスやイースペリアの奴とは、全然違う……」
石造りなのは変わらない。ただ、その一つ一つに刻み込まれた文様。
アーチ形に削り取られた入り口が、ぼんやりと淡い光を放っている。
室内の筈なのに、どこか建物自体が別の空間に浮いているような感覚。壁全体が胃壁のようにうねって見える。
気のせいなのだろうが、まるで部屋全体がマナを吸い込んで膨れ上がっていくような錯覚を覚えた。
動揺しているのは同じなのか、皆困惑の表情を浮かべながら周囲を見渡している。
「何かの……遺跡、のようですね……」
側でそっと壁に触れたファーレーンが、呟いた。
21朔望 回旋 T−2:2005/10/30(日) 19:14:08 ID:2Bui4NFB0

巨大なマナ結晶が青白く輝く部屋。その中で、一本の剣を手に佇むクェドギンがいた。
「来たか、エトランジェ……ふっ、どうやら俺はとことん運命には嫌われているらしい」
「どうして……こんなバカな事をするっ!」
真っ先にその姿を見つけた悠人は叫んでいた。会戦前、すれ違った廊下で垣間見せた知性。
敵ではあったが、明らかに破滅に向かう道などを軽々と選ぶような男には到底思えなかった。

詰め寄る悠人に、クェドギンがやや疲れた笑いを浮かべる。
「バカなこと、か。そうだな、そう見えるかもしれん。だが……」
そうして、持った神剣を片手で翻す。それが合図なのか、周囲のマナが一斉にクェドギンへと集まっていった。
「俺の意志は、俺だけのものだ。これだけは誰にも譲れん……この『禍根』、止められるものなら……」
「クェドギン! 何を?!」
輝く神剣。青白い光がクェドギンの全身を包み、やがてその姿が見えなくなる。
「…………止めて、みせろ……エト、ランジェ」
「うお……っ!!」
かっ、と一際眩しい閃光。同時に吹き抜ける疾風。思わず庇った『求め』からゆっくりと顔を上げるとそこには。
「なっ……クェドギン、か……?」
一体の白い妖精が、無言で剣を握り締めていた。
22朔望 回旋 T−3:2005/10/30(日) 19:15:28 ID:2Bui4NFB0

キィィィィン…………

マナ結晶に突き刺さる巨大な神剣が更に大きく輝き、絡んだ鎖が軋んだ金属音を響かせる。
呼応したホワイトスピリットから巻き上がるマナの嵐。
薙がれた『禍根』が導くそれが、一瞬で悠人達に向け放たれた。

「みんな、散開してっ!」
エスペリアの一言に、仲間達が同時に駆け出す。
しかし広範囲に及ぶ白い渦は、ほぼ全方向へと巻き散らかされて彼女達を次々と吹き飛ばしていった。
「くそっ! なんて力だ!」
咄嗟にレジストを張って耐えたものの、振り返れば殆どの仲間が倒れている。
エスペリアとハリオン、ニムントールがシールドハイロゥを展開して、それぞれ懸命に堪えていた。
そしてもう一人、暴風の中、何故か通る声。瞬間、嵐が熄む。
「ユートさま、わたしが仕掛けます。その隙にっ!」
「ファーっ?!……よしっ!」
すぐ隣にいたお陰で初撃から守られたファーレーンが、敵の動きが止まった隙を逃さず跳ねるように飛び出す。
同時に霧散したレジストに、よろけながらも悠人もまた駆け出していた。
23朔望 回旋 T−4:2005/10/30(日) 19:17:41 ID:2Bui4NFB0

一旦跳ね上がり、天井を足場にしてウイングハイロゥを閉じ、上空から鋭角的に襲撃するファーレーン。
反応して物憂げに見上げてくる昏い瞳。予想以上に速い動きにホワイトスピリットの動きが一瞬止まる。

「はっ!!」
空中で膝を畳み、槍のように『月光』を構え、滑空の速度を上げ。
急速に迫るホワイトスピリットの『禍根』を僅かに持ち上げる気配を確認し、瞬間ウイングハイロゥを開く。
制動による間合いの変化に、ホワイトスピリットが微かに動揺の気配を見せた。

「はぁぁぁぁっ!!」
そこに、下から悠人が殺到した。『求め』の刀身が黄緑に光り、紫色の雷を帯びている。
『因果』と『空虚』の力を吸収した『求め』は、尋常ではないマナを一斉に開放していた。

「…………!」
ホワイトスピリット――クェドギンは、選択を迫られた。
上空のファーレーンを迎撃する為に剣先を上に向けるか、シールドを展開して悠人を弾き返すか。
しかし当然、その何れもどちらかを防げはしない。しかし、もう一つの選択肢を選ぶ気などは更々無かった。
               .
――――後退。それは彼にとって、思い浮かんだ事自体が意外なほど有り得ない“運命の強制”だった。

「…………イ、オ」
刹那、ふいに浮かぶ一枚の色褪せた光景。
自分の居場所、愛する人。知らなければそれで守れた存在。穏かで、ゆるやかに流れた遠い日々。
「ヨーティア……すまないが、後を託すぞ。お前は怒るだろうがな……」

そうして彼は選んだ。自分の意志で自分の運命を定める道を。
『禍根』の狂おしい悲鳴を心の中に抑えつける。クェドギンは、一瞬だけ口元に勝利の笑みを浮かべた。

ざしゅぅぅっ。
すっと降ろした『禍根』ごとホワイトスピリットは真っ二つになり、無言でマナの霧に還っていった。
24名無しさん@初回限定:2005/10/30(日) 19:17:45 ID:wdhwoppV0
では恒例支援
25朔望 回旋 T−5:2005/10/30(日) 19:20:15 ID:2Bui4NFB0

複雑な表情で、悠人は淡く消えていくクェドギンを見送った。
理由は判らない。ただ、最後に微笑んだのはホワイトスピリットではないような気がした。
砕けた『禍根』が結晶体に吸い込まれていく。その意志は、一体何を果たしたのだろうか。
幾ら考えても、悠人には答えが出なかった。ただ虚しく、残された哀しい響きを感じ取っただけだった。

「……エスペリア、解除を頼めるか?」
「は、はい! すぐに!」

あっけない戦いの終わりに呆然とするエスペリアに装置を任せ、『求め』をすっと降ろす。
ふと見つめている視線に気づき、悠人はそちらに顔を向けた。
「……ファー。俺、“約束”を守れたのかな……」
「…………はいっ!」
はっきりと頷くファーレーンの笑顔は、泣き出しそうにくしゃくしゃになっていた。

「……お姉ちゃん、なんで泣いてるの?」
「な、なんでもないの……なんでも……ふぇぇぇん、ニムぅ〜」
「わっ、な、何、何?!…………ちょっとユート、なんかした?」
堪えきれず、ニムントールにしがみつくファーレーン。
わたわたと両手を振りながら、ジト目で睨みつけてくるニムントールに悠人は軽く手を上げて答えていた。
26朔望 回旋 U−1:2005/10/30(日) 19:22:22 ID:2Bui4NFB0

 §〜聖ヨト暦331年スリハの月緑いつつの日〜§

マロリガンの戦後処理を一般兵士に任せラキオスに帰還した悠人達は、市民からの大歓迎を受けた。
城下に足を踏み入れた瞬間、湧き上がる人々の歓声。中には握手を求めてくる者までいる。
「ちょ……通してくれ! 頼む、レスティーナに報告しなきゃならないんだって……うわわっ」
もみくちゃにされながら、懸命に人波を掻き分ける。
いつの間にかエスペリア達とは大きくはぐれ、たまに神剣の穂先が見え隠れする程度にまで離れてしまっていた。
「勇者様万歳っ!」
「ラキオスの救世主!」
「きゃー! 今、こっちを向いて下さったわっ!」
なんだか黄色い声も混ざってきて、余計に動揺する。
自分がしてきた事がこうして祭り上げられる事に、正直悠人は混乱しきっていた。

ぎゅっ。
「…………ん?」
「ユ、ユートさまぁ〜」
「ユ、ユートぉ〜」
「………………」
服の裾を引っ張られる感覚に振り向くと、情けない声を出しながら背中に沢山の足跡をつけたまま、
うるうると悠人を見上げているファーレーンとニムントール。

一瞬、帰って来たんだと実感した途端、鼻の奥がきな臭くなった。まださざめく胸を、抑えつけてじっと耐える。
やがて波は去り、静けさの中で、ただ一人つまらなそうに見守る『求め』。そうして視界を前に戻すと。
「た、助けて下さいぃ〜」
「…………ぷっ」
(ファーの精神年齢って一体…………)
二人のそっくりな行動に、悠人は久し振りに笑えた気がした。
27朔望 回旋 U−2:2005/10/30(日) 19:24:48 ID:2Bui4NFB0

マナ暴走を防ぎ、マロリガンをその領土に加えたスピリット隊隊長である悠人は、ラキオスの英雄に祭り上げられていた。
「スピリットが認められるのは嬉しいんだけど……痛てて…………」
ようやく人ごみを抜け、王城に逃げ込んだ。あちこちに出来た擦り傷を撫ぜながら溜息を付く。
まだ外から聞こえる歓声から察するに、逃げ遅れたスピリットが居るらしい。悠人は心の中で合掌した。
「ふふ……ユート、ご苦労様でした」
「……笑い事じゃありません、レスティーナ陛下」
王座の間。
報告を続けるエスペリア(ぼろぼろ)に隠れ、そっとからかうレスティーナに、悠人はむっとした表情を作った。

つんつん。隣から、指でつつかれる。
「……ん? なんだ、ファー」
「随分と、レスティーナ女王と仲がよろしいんですね」
「え、そうか? う〜んまぁ、そうなのかもな」
ぎゅっ。
軽く流すと、今度は服を掴まれた。俯いた兜のせいでよく見えないが、少し元気が無いようにも見える。
「……どうしたんだ裾なんか握って」
「…………なんでも、ないです」
「なんだよ、どうしたって……ぐふっ!」
どすん、と逆方向から、脇腹に衝撃。強制的に吐き出された呼吸が苦しい。
「ユート……ばか?」
「ニ、ニム……そこは槍で抉るところじゃ、ない……」
まるでセリアのような冷たい台詞と行動に、悠人は悶絶しながら本気でニムントールの将来を心配した。

「こほん……こ れ で 報 告 を 終 わ り ま す 」
頭に「♯」を浮かべたエスペリアの報告が、刺々しく響く。
「くすくす……エスペリア、貴女にも苦労かけますね」
もう笑いを隠していないレスティーナが、可笑しそうにそれを労っていた。
女王の和やかな雰囲気に、重臣達の間からも静かな笑い声が広がる。
「エトランジェ、それにスピリット達よ。この度は大儀でした。今はゆっくりと休んでください」
レスティーナの(あからさまに作った)凛とした声が、会見を締め切っていた。
28朔望 回旋 U−3:2005/10/30(日) 19:26:11 ID:2Bui4NFB0

 §〜聖ヨト暦331年スリハの月黒みっつの日〜§

マロリガンとの戦いが終結した数日後。

「……お姉ちゃん、ナニしてるの?」
訓練を終え、部屋に帰ってきたニムントールは余りに異様な光景に一瞬固まってしまった。
エスペリアの終了の合図もそこそこに慌てて何処かへ駆け出した我が姉。
追いかけるのも面倒臭く、どうせまたユートの所へでも行ったのだろうと高を括っていた。それが。

「ち、違うのニム!」
「…………何が?」
違うというのだろう。目の前で、被りかけたエプロンを手にしたまま硬直している姿の、どこが。
「だからこれは……きゃんっ!」
ずべたっ。
「痛った〜い……」
「…………はぁ。大丈夫? お姉ちゃん」
履きかけたワンピースの裾に足を引っ掛けたファーレーンが、盛大に尻餅をついていた。
29名無しさん@初回限定:2005/10/30(日) 19:26:34 ID:wdhwoppV0
もひとつ支援
30朔望 回旋 U−4:2005/10/30(日) 19:29:53 ID:2Bui4NFB0

今朝のこと。
珍しく早起きした悠人は、朝の散歩と洒落こんでみた。
森をぶらぶらと歩き、大きく欠伸代わりの深呼吸をした所で見慣れた姿を見つけ、声を掛ける。
「よっ、おはようファーレーン。早いんだな」
「えっ、あっ、ユ、ユートさま?! いえ、わたしなんてまだまだで……」
どうやら朝稽古でもしていたのか、素振りを中途半端に止めた妙な格好のまま硬直する。
トンチンカンな答えとその姿に、悠人は思わず苦笑していた。
「いや剣じゃなくて、早いっていうのは俺の世界の挨拶で起きるのが早いねってことだよ」
「ああ…………ですから“オハヨウ”なのですね?」
説明する悠人にようやく構えを解いたファーレーンがおずおずと歩み寄ってくる。
「え、あれ? 俺今日本語で言ってたのか?……まいったな」
「ふふ……ヤシュウウリレシス、ソゥ、ユート」
頭をがしがし掻いている悠人にリラックスしたのか、微笑みながらファーレーンがぺこり、と丁寧なお辞儀をした。

まだ『月光』を握ったまま、覆面と兜だけを外し、隣に腰掛けるファーレーン。
汗を飛ばすようにふわさぁ、と髪を揺らす仕草に悠人は少しドキリとした。
「ユートさまこそどうしたのですか?こんなに早くに」
覗き込むように、上目遣いの瞳が朝日を浴びてきらきらと光っている。
「ん、い、いや別に。ただなんとなく目が覚めて、なんとなくここに来ただけだよ」
思わず視線を逸らしてしまう。変に緊張して声が上擦ってしまった。だからだろうか。
「と、ところでさファー、今日、暇か?」
「え?」
そんな事を、悠人は口走ってしまっていた。
「たまにはさ、ちゃんと約束してみないか?…………えっとつまり、デ、デート、とか」
勢いだけで言い終わった時には、喉がからからに渇いていた。
31朔望 回旋 U−5:2005/10/30(日) 19:30:57 ID:2Bui4NFB0

「はい、訓練の後でしたら手空きですので問題ないと思いますが」
「え、ホントに?」
思わぬ軽い了承に、悠人の方が面食らってしまった。思わず聞き返してしまう。
しかし当のファーレーンは小首を傾げ、釈然としない表情をしたまま、
「え、ええ。夕方からは任務もありませんし……ですがユートさま、でぇと、とは一体どんな約束でしょうか?」
「………………」
天然なのか本当に知らないのか、はたまた言葉の壁なのか。悠人は暫く頭を抱えて唸っていた。


それから数分後。
「……………………はい?」
その意味を出来る限り婉曲に伝えようとした悠人の努力がやっと実った瞬間、ファーレーンはフリーズした。
陶器のような頬が一気にかーっと赤く染まっていく。驚いた悠人は誤魔化すように早口で捲くし立てた。
「いやだから、こっちの世界じゃどうやら逢引って言うらしいんだけど」
元いた世界でも一応そう言うんだが。そんな突っ込みは取りあえず横に置いておいた。
“逢引”という言葉にファーレーンの顔が益々赤みを増してリンゴみたいになっていく。
「つまり男女が待ち合わせをして出かける事を俺の世界じゃデートっていって、それでどうかな、って……」
説明しつつなんだかだんだん深い意味が付随して来たような気がしないでもないが、もう引っ込みがつかない。
(“逢引”って改めて使うともの凄い響きだよな……)
そんな事を考えながらも、他に適当な単語が思いつかない。
そして通じたはいいが、やはりというか、文化の古そうなこっちの世界じゃ微妙に「重い」気がする。
ファーレーンが未だ固まってるのがその証拠だった。
32朔望 回旋 U−6:2005/10/30(日) 19:32:01 ID:2Bui4NFB0

(う〜ん大体俺、よく考えてみたら女の子をデートに誘った事なんてないんだよなぁ……)
出かけるといっても、相手は大抵今日子か佳織。たまに小鳥もついてきたが、二人っきりなどという事はない。
そもそも自分から誘うもなにも、いつも今日子辺りに無理矢理誘い出されるような形だった。
どちらの場合も、相手を女の子として意識していた訳ではない。でも今は、はっきりとそれを自覚している。
(うう……それがこんなに緊張するものなんて知らなかった……)
ただでさえ初めての経験なのに、その返事を貰う前に言葉の説明から始めなければならないビハインド。
「………………」
「………………」
つくづく遠くへ来てしまったと実感する。いや、今更だが。それに、出来ればこんな形で実感したくは無かった。
などと思考が混乱し始める。緊張の中、酷くゆっくりと間延びした時間が流れた。

「…………は、い」
ややあって、ようやくこくり、とファーレーンが頷く。それは見落としそうな程小さな“返事”。
耳の先まで真っ赤に染まったファーレーンは、じっと爪先の辺りを見つめたまま蚊の鳴くような声で囁いていた。
33名無しさん@初回限定:2005/10/30(日) 19:32:45 ID:wdhwoppV0
展開に悶えつつ、支援
34朔望 回旋 V−1:2005/10/30(日) 19:32:45 ID:2Bui4NFB0

 §〜聖ヨト暦331年スリハの月黒みっつの日〜§

「で?」
「う……」
ようやく着替えを終えたファーレーンは、ニムントールの詰問を受けていた。
「珍しいよね、お姉ちゃんが普段着を着るなんて」
とんとん、と『曙光』の先で機嫌悪そうに床をつつきながら、
「いつもは『いつ戦闘があるかわからないのですから』な〜んて言って絶対着ないくせに、どういう心境の変化?」
「うう〜……」
声色まで真似されてしまい、一言も返せない。この妹はこうなったら容赦が無いのは一番良く知っていた。
今は耐えるしかない。ファーレーンは極限まで首を竦めながら、ひたすら嵐が過ぎ去るのを待っていた。
ところで何故自分は正座させられているのだろう、などと疑問に思いつつ。
「まあニムも着ないけどさ……大体変だよね、最近のお姉ちゃん。マロリガンから帰ってきた時くらいから」
「…………」
そわそわと、時間だけが気になる。そろそろ夕暮れ時。悠人との待ち合わせまで、後半刻ほどしかない。
「そりゃあさ、お姉ちゃんにだって色々あるだろうけど……ニムにも言えないことなの?」
「ふぇ?……え、あ、そ、そんなことは……ないです、けど」
飴と鞭にファーレーンは弱かった。ふいに哀しそうな顔をし、一転して懇願するような口調に心があっけなくぐらつく。
だがしかし、ここであっさり負けるわけにはいかない。姉の威厳を今こそ発揮すべき時だった。
未だ情報部に属している秘密が保たれている事を思い出し、自らを奮い立たせる。
そうして胸に手を当てあからさまに深呼吸する姿は、しかし表情を百面相のように変えてしまっていた。
じっと観察していたニムントールの目元が普段より一層細くなる。――――ばればれだった。
「ねえお姉ちゃん、ところでさ――――」
「あ、わ、わたし、そろそろ行かないと」
低くなった声色に、頭の中で警鐘が鳴り響く。思わず裏返った返事にしまった、と思う暇も無かった。
威厳も何もあったものではない。そそくさと立ち上がろうとしたファーレーンに、止めの一撃。
「――ユートと、なんかあった?」
がたんっ、がんっ!
「〜〜〜〜っ!」
「……あったんだ」
急に立ち上がろうとして机に強烈に膝をぶつけ無言で屈みこむファーレーンに、再びニムントールは深く溜息をついた。
35朔望 回旋 V−2:2005/10/30(日) 19:36:50 ID:2Bui4NFB0

「あ、逢引ぃっ?!」
「ちょ、ちょっとニム、そんな大声で言わないでぇ!」
涙ぐむのは痛いのか悲しいのか。よく判らないままファーレーンは飛び上がってニムントールの口を押さえつけた。
む〜む〜と唸るニムントールがこくり、とゼスチャーを送ってきたのを確認してようやく開放する。
「……ぷはぁ、びっくりしたぁ」
「びっくりしたのはわたしですっ!……もう」
「で、で? 誰と?」
「…………ふぇ?」
「だからぁ、誰に誘われたの?お姉ちゃんが自分から誘えるとも思えないし」
「え? え?」
何気に酷いことを言われているような気もするが、それよりもこう矢継ぎ早に聞かれると返事も間に合わない。
大体“誰”などと当たり前のことを聞かれるとは思ってもいなかった。
首を捻るニムントールを前に、妹とのコミュニケーション不足を痛感するファーレーンだった。
「最近は街の人達も何だか優しいし……あ、それでお姉ちゃん、くらっと来たんだ。押しに弱いからね」
好奇心まるだしのニムントールがずい、と詰め寄ってきて、ファーレーンはその分だけ後ずさった。
気づけばいつの間にか壁際まで追い詰められている。…………確かに押しに弱いのは認めざるを得ないのかも知れない。
――などと心中あっさり認めてる辺りが弱いのだが、今のテンパッているファーレーンにはもちろん判ろう筈も無かった。
「だ、誰って決まって……ごにょごにょ」
「あの優柔不断のユートが誘ってくる訳ないし。大体いっつもうじうじ悩んでてさ……冴えないヤツ」

かちん。

「ちょっとニム、ユートさまの悪口は許しませんよ! 今日だってちゃんとはっきり誘ってくださった…………あ゛」
気づけばにやにやと笑っている我が愛しの妹。
「ふ〜んやっぱりユートとなんだ」
ファーレーンは口をぱくぱくさせながら、乗せられたと今更気づいていた。
36朔望 回旋 V−3:2005/10/30(日) 19:38:38 ID:2Bui4NFB0

結局一部始終を自白させられたファーレーンはようやく開放されて、廊下を駆け抜けていた。
動きにくい服なので、ウイングハイロゥを広げることが出来ない。恐らく空中でバランスを崩してしまう。
「もぅ、ニムったら……」
『ま、頑張って』。
さんざん根掘り葉掘り訊き出したあげく、返事はそれだけ。
急に醒めた目つきになり、ひらひらと手を振って見送るというよりは追い出すような態度。
なんだか途中から機嫌が悪くなってきていたが、一体どうしたというのだろう。後でしっかりと話さなくては。

そんな事を考えながら、ぱたぱたと走る。絡みつくスカートが時折ふわりと広がり、足運びの妨げになった。
自分の動きを阻害する、そんな単純な理由で今まで料理の時以外は着ることもなかった黒のワンピース。
「でも……喜んで頂けるかな……」
着飾った自分を男の人に見せたい。今までは、そんな事を考えた事も無かった。
そんな“女性としての当たり前”の少しくすぐったい感情を初めて意識したファーレーンは、
新鮮な感覚に戸惑いながらも期待と不安で微かに頬を染めながら詰所を出た。
夕日の温かさをこんなに感じられたのは初めてだった。

「逢引ですか……ユートさま……」
そんな言葉を呟く。途中から聞こえていなかったのでよく判らないが、なんだか特別な響きのように感じた。
誘われて、心が躍った。だから、それが正しいことなのだろう。そう、素直に思えた。
「……ところで、逢引って結局何をするのでしょう?」
うっとりと、口にしてみる。意味は判らないが、それだけで期待感が膨れ上がった。
待ち合わせの場所に向かう足が、自然に早くなる。
「ちゃんと今日はユートさまにお聞きしないと……」
そうしてくすくすと、一人笑う。楽しい。ファーレーンは、生まれて初めての開放感で一杯だった。
37朔望 回旋 V−4:2005/10/30(日) 19:40:56 ID:2Bui4NFB0

――ファーレーンが飛び出すように部屋を出て行った後。

閉じられた扉を頬杖しながらぼんやりと眺め、ニムントールは時々つまらなそうに溜息をついていた。
「あのお姉ちゃんが、ねぇ……」
恋愛感情というものが、いま一つニムントールにはぴんとこない。
憧れや尊敬、親愛ならば対象がいるのでぼんやりと理解出来るが、それも上手く説明出来そうにも無かった。

スピリットなのだから戦い以外のものに興味がないのは当然といえばそうなのだが。
ネリーやシアー、オルファ達にしても、特にユートを男性扱いしている所を見た事が無い。
どちらかといえば年上に甘えているような態度。そう、自分がファーレーンを姉として慕っているように。
ヘリオン……は少し様子が違うようだが、それも憧憬の域から大きくはずれてはいないだろう。それが。
「赤面症、治ったのかな……」
どちらかといえば人見知りの激しい姉の、この変わりっぷりはどうだろう。
少し前まで男の人どころか自分以外の人の前で覆面も外せなかった位の恥ずかしがり屋が、あの普段着を着た。
自分でさえめったに見られないその姿を、自発的に見せたがっているのだ。よほどの勇気が必要だろう。
そしてその意味するところは――――ユートを、信頼しているのだ。それこそ、信じ切って頼っている。
“人”を信頼する事。それがスピリットにとってはどんなに難しい事か。それが“あたりまえ”の筈なのに。
「嬉しそう、だったな……」
最近のファーレーンの仕草、態度をニムントールは思い出す。
以前の凛、とした厳しさが戦闘中以外は影を潜め、普段は感情を豊かに表すようになってきている。
今まで見た事の無い物腰の柔らかさ、そして喜怒哀楽に従う行動。そう、まるで“人”の女性のように。
どれも、戦いには必要の無いもの。なのにそんなのはスピリットとしてはおかしい、とは言えない自分がいる。

 ――――そんな姉を、以前より好きになっているから。
38名無しさん@初回限定:2005/10/30(日) 19:41:42 ID:wdhwoppV0
すかさず支援
39朔望 回旋 V−5:2005/10/30(日) 19:42:23 ID:2Bui4NFB0

「ユートと、逢引かぁ…………ってお姉ちゃん?!」
そこまで考えて、がたっとニムントールは立ち上がった。
かなりの時間が経っている。当然、そこに姉の姿は見当たらない。動揺した拍子に『曙光』を蹴ってしまう。
いけない、と拾い上げながら、ニムントールは考え続けていた。
自分も詳しく知っている訳では無いが、逢引とは男女の絆をより深める為の行為、と聞いた事がある。
以前オルファがしつこく訊ねるのをエスペリアが困った顔で説明していた。
なんとなく恥ずかしくなったので憶えている。自分でさえ、その程度なのだ。具体的には何も知らない。
それを、あの姉は知っているのだろうか。あの、ある意味自分より世間知らずな、“あの姉”が。



いつもの、「陽溜まりの樹」。悠人はそこで、そわそわと落ち着かなさ気に詰所の方を見ていた。
別に、普段と変わらない。ただ、会って話をするだけ。そう思い込もうとしても、気が急いてくる。
「……何だ俺。待ち合わせしただけで」
思わず自分に苦笑する。振り返ってみれば、最初の出会いから印象的だった。
40朔望 回旋 V−6:2005/10/30(日) 19:43:12 ID:2Bui4NFB0

「女神……みたいだなんて、思ったんだよな」
大きく沈みかけた夕日に、あの頃のファーレーンの姿を思い出し、重ねる。
祈るように、朗々と謳う白翼の妖精。幻想的な光景の中、どことなく寂しげな姿に自分の境遇を思い合わせた。
「それから、何度も助けたり助けられたり……」
ダラムでの出会い。イースペリアの崩壊。バートバルトの雨。そしてマロリガン。それらが次々と思い出される。
「色々あった、んだよな」
一瞬、懐かしい顔が思い出されそうになり、慌てて感情を遮断する。胸の波をやり過ごし、想いを戻した。
この世界に来てから起こった様々な事。その瞬間瞬間に、いつもふと頭を掠める姿。
気づけば、いつも側にいた。必ずしも一緒にいた訳では無いのに、確かに棲んでいた。――心の中に。
「だからはっきりと聞かなくちゃ、な」
まだ終わっていない事が多い。瞬の事、佳織の事、スピリットの事。そして――――
だからこそ今、聞きたかった。自分が感じている気持ちを彼女も感じてくれているのか、という事を。


「お、お待たせしました、ユートさま」
背後で、声が掛けられる。息遣いが少し荒い。急いでくれたのだろうか。そう考えるだけで、嬉しかった。
「ああ、そんな事ないよ。ちょっと考えたかったこともある、し……って……」
振り向き、微笑みかけて悠人の動きはピタリと止まった。
41朔望 回旋 W−1:2005/10/30(日) 19:45:36 ID:2Bui4NFB0

 §〜聖ヨト暦331年スリハの月黒みっつの日〜§

「あ、あの、ユート……さま?」
「……………………」
上目遣いでもじもじと居心地が悪そうに囁くファーレーン。
一方悠人はその衝撃的な光景に、暫く言葉を失っていた。

黒地のワンピースに白いエプロン。肩口とスカート部がふっくらと膨らみ、エプロンはフリルで飾られている。
胸の膨らみと身体のラインを殊更強調するようなデザインの上部と、中世ヨーロッパ風に大きく開いたスカート。
首を傾げる度にエプロンの影でふわりふわりと揺れて、上から見たらきっと花が咲くように見えるに違いない。
胸元には銀の装飾品と思われるラキオスの紋章がネックレスとしてワンポイントを飾っており、
それがおずおずとした態度と相まって、より彼女の奥ゆかしいイメージを強調する。
付属品である白いぎざぎざの髪飾りが、ロシアンブルーの髪によく似合っていた。
まるで童話や御伽噺から飛び出てきたような。そんな形容がぴったり来るような姿に思わず見とれ、呆然とした。

(…………っていうか、メイド服? オルファやエスペリアやウルカ以外、見た事ないけど……)
これはこれで。というか、むしろ新鮮だし、嬉しいのだが。
「えっと…………どうしたんだ? ファー」
兜や覆面の先入観もあって、そういう面でストイックなイメージがあった彼女の、思わぬ気飾りよう。
驚きが大きすぎたせいか、視線を釘付けにされながらも悠人はそんな間抜けな、そしてある意味妥当な疑問を呟いていた。
42名無しさん@初回限定:2005/10/30(日) 19:47:09 ID:wdhwoppV0
スマートに支援
43朔望 回旋 W−2:2005/10/30(日) 19:47:10 ID:2Bui4NFB0

「え、ええ?……あの、変、でしょうか……?」
予想外な悠人の無反応ぶりに、今度はファーレーンが慌て出す。
「そ、そうですよね。わたしったら浮かれちゃって、ついこんな……」
そして勝手に断定し、しゅんと項垂れてしまう。
スカートの裾をぎゅっと握ったまま、段々と低くなっていく語尾。最後は小さく
「……ごめんなさい」
と謝罪までしてそのまま立ち去ろうとする。悠人は慌てて呼び止めた。
「え、あ、ち、違う、違うって!えっと……」
しかし未だ衝撃から立ち直っていない為か、咄嗟に上手い言葉が出てこない。
そうこうしている間にも、今にもファーレーンは逃げ出しそうである。悠人はがしがしとヤケクソ気味に髪を掻き、
「……ああっ、もうっ! だから……っ!!」
「え……ふ、ふぇっ?! あの、ユ、ユートさま……?」
強引にファーレーンの手を取ると、そのまま歩き始めた。
「あ、あの……えっと…………」
「…………ごめん、見とれてた。その、上手く言えないけど……」
「…………え?」
手を引っ張りつつどんどん歩いていく悠人の背中。ややどもった口調。
しかしその一言に信じられない、といった感じでファーレーンが顔を上げる。
「…………本当、ですか?」
「ああ、えっとだから……その、か、可愛い、と思った」
背中を向けている悠人の襟首は真っ赤になっていた。慌てて歩調を合わせながらそれに気づいたファーレーンは再び俯き、
「……ウルゥ」
そう小さく呟いていた。
44朔望 回旋 W−3:2005/10/30(日) 19:48:16 ID:2Bui4NFB0

街往く人々が通りすがりに必ず振り返る。
最初はエトランジェとスピリットの組み合わせがまだ物珍しいのかと思った。
一目で神剣と判る巨大な刀を持った悠人を見れば、誰だってそれがエトランジェだとすぐに判るからだ。
しかし暫くして、それらの視線が微妙に自分の後ろに向けられている事に気付いた。
ずっと後ろから、俯いたまま付いて来るファーレーンに彼らは注目しているのだ。
(へぇ…………)
しかもその視線は、どちらかといえば好奇や軽蔑のそれではない。むしろ温かい、見守るような笑顔で。
(変わってきているんだな)
悠人は、レスティーナの施策が少しずつとはいえ浸透してきているのが嬉しかった。
以前はスピリットといえば畏怖か侮蔑の対象だったのに。それが、ここまで来たのだ。
(まあ、まだラキオスだけなんだろうけどな……)
これから徐々に広がればいい。いきなりは無理なんだろうけど、これから少しずつ。
そう考えて改めて周囲を意識してみれば、むしろ羨望というか、特に男性陣の視線が熱いというか――――
「…………ん?」
「え、ど、どうかしましたか、ユートさま」
「……いや、なんでもない」
「あ、ちょ、ちょっと待って下さい……」
後ろで戸惑ったような、ファーレーンのか細い声。かまわず悠人は歩調を少し速める。
気づいてしまった。通り過ぎる男達の視線が、皆ファーレーンに注がれている事を。
ファーレーンと自分を見比べ、そして敵意に満ちた目で自分を睨みつけてくるのを。
それがなんだか得意で、そして不愉快だった。この姿のファーレーンを、他の男に見せたくなかった。
(…………俺ってこんなに独占欲強かったのか)
自分の意外な面を再認識し、悠人は苦笑いを浮かべながら目的地へと急いだ。
45朔望 回旋 W−4:2005/10/30(日) 19:50:16 ID:2Bui4NFB0

「さ、到着だ」
街の外れの高台。悠人は「とっておきの場所」にファーレーンを案内していた。
見慣れた街並み。リクディウスの森の木々。その向こうに広がるヴァーデド湖。湖面をきらきらと反射する波。
透き通るような空に白く浮かぶ雲が、その形を変えながら柔らかく流れていく。
そしてその全てを染め抜いている、夕日の赤。森の匂いをここまで運んでくれる爽やかな風。

「うわぁ……」
感嘆の声を上げ、ファーレーンはそっと目を閉じた。柔らかい風が、髪の間を優しく流れていく。
「……いい風、ですね…………」
柵を握る手に力を込め、ファーレーンはいつまでも、飽きる事なくその音に聞き入っていた。


予想以上の反応に悠人は内心照れながら、鼻の頭をぽりぽりと掻いた。
以前、レムリアに教えられた「とっておきの場所」。
女の子を連れてくる場所として、単にここしか思い浮かばなかっただけなのだが。
(良かった、気に入って貰えたみたいだ…………あ、あれ?)
ふと、左手を見る。そこでようやく気づいた。森からずっと繋ぎっぱなしだったのを。
動揺し、慌てて指の力を緩めて離れようとする。しかし。
「え……?」
無意識なのか、ぎゅっ、とファーレーンが力強く握り返してくる。まるで考えを見透かしているように。
「……ん」
一瞬躊躇して、そっと握り返した。夕日に染まる少女の横顔を見続けながら。
46朔望 回旋 W−5:2005/10/30(日) 19:51:49 ID:2Bui4NFB0

「ユートさま……」
暫くして、ファーレーンはぽつり、と呟いた。
「わたし……初めてです。こんな風にこの世界を感じた事、ありませんでした」
そうしてゆっくりと、視線を街並みに向ける。
「世界ってこんなに、優しいものなんですね……知らなかった……」
胸に手を当て、目を閉じ。何かを想うように息を潜め、そして決心するように。
「…………今なら、レスティーナさまの見てきたものが判る様な気がするんです……だから……」
「……え? レスティーナ?」
急にレスティーナの名前が出て、悠人は慌てた。しかし構わずにファーレーンは続ける。

「わたしが求めること…………今は純粋に、そう、有りたい」

「っ! ファー、それって……」
「はい、守り龍様が仰っていた事です……自らを信じろ、と」
「…………そうか、あそこにいたのか…………」
「……ええ、全てお話します……ユートさま」
俯き、地面を見つめるように再び開いたファーレーンの瞳には、しかしより強い意志が秘められていた。
そう、あの日マロリガンで見せた時と同じ、募らせた想いの丈を垣間見せる光で。
47名無しさん@初回限定:2005/10/30(日) 19:51:51 ID:wdhwoppV0
そそくさと支援
48朔望 nocturn Y−1:2005/10/30(日) 19:53:42 ID:2Bui4NFB0

 §〜聖ヨト暦331年スリハの月緑ふたつの日〜§

「…………ごめんなさい、こんなときに」

深く静かに湛える瞳。
さざ波のように溢れる涙が、一粒ふた粒、とめどなく零れ落ちる。
崩壊していく世界の中、その熱さだけが感じられる唯一だった。

――――りぃぃぃぃん…………

「どうして……」
ファーが泣くんだ、と言いかけて、その思い詰めた表情に息を飲む。耳に残る、『月光』の哀しげな響き。
胸に縋りつきながら、懸命に何かを訴えかけている瞳。少し翳ったロシアンブルーの瞳からは、今も涙が溢れている。
冷静でもない。混乱でも無かった。吸い込まれそうな美しさに、荒んだ気持ちが鎮まりかえってゆく。
失いそうになった自我が、ゆっくりと紡がれる。細い糸を、丁寧に、丁寧に――――

「我が侭なのは判ってます……でも、でも……ユートさまは間違ってはいませんっ……!」
泣きじゃくり、かぶりを振りながら訴えかけるファーレーン。
その透明な、真っ直ぐな心が真摯に心に響いてきた。それは、今までずっと待ち望んでいた言葉。
甘えが許されない現実の中で、常に閉じられていた一番深い処。回旋した鍵が、錆び付いた扉を静かに解いていく。
泣かせたくない、この状況でそんな想いが湧き上がるのを、悠人はどこか遠くで不思議に感じていた。
49朔望 nocturn Y−2:2005/10/30(日) 19:56:15 ID:2Bui4NFB0

「誰が許さなくても……わたしは、わたしは信じます! 信じてます、から……」
「ファー…………」
無意識に伸ばした手。その先が、そっと頬の温もりに触れる。
自らの手を悠人のそれに重ねたファーレーンが、囁くように呟いていた。
「ですから、ユートさまも……御自分を許して下さい。罪を、罪を一緒に背負わせて下さ…………んっ」
最後まで言わせずに、悠人はその柔らかい唇を優しく塞いでいた。

「ん…………ユート、さま…………」
驚き、見開いた瞳がゆっくりと閉じられる。拍子に長い睫毛から、静かに涙が零れ落ちた。
吐息にも似た囁きが、甘い香りと共に悠人の心の中一杯を満たしていく。
「ありがとう……もう、大丈夫だ……」   . . . . . .. . . . .. . .. . .
まだ、苦しい胸の疼き。でも、それは今、一緒に乗り越えなければならない約束になった。
華奢な体をそっと抱き締めながら、悠人は再び心の奥に「蓋」をして、そして静かに頷いていた。
50朔望 回旋 X−1:2005/10/30(日) 19:57:48 ID:2Bui4NFB0

 §〜聖ヨト暦331年スリハの月黒みっつの日〜§

「……そうか」
一通り話を聞いた悠人は、戸惑いながらもそんな風に呟いていた。
思い返せば、思い当たる節は幾らでもある。どこかで変に納得している自分がいた。
「じゃあサードガラハムの時助けてくれたのもファーだったんだ」
「…………はい。申し訳ありませんでした。その……あの時はまだ情報部の存在を公には出来ませんでしたから……」
「ああ、いいんだその事は。こっちこそお礼を言わなきゃいけないんだし。ありがとな。その、随分遅くなったけど」
「くす……はい。ありがとうございます」
「はは、そうか……そうだったんだ…………」
悠人は話しながら、湖の方へ向き直した。既に夕日は沈みかけ、辺りは薄紫に染まりつつある。
涼しい風の音が獏寂とした一日の終わりを穏かに奏でていた。
俯いていたファーレーンも何かを察したのか、黙って顔を上げ、そして静かに目を閉じる。
二人を包む穏かな空気。やがて、悠人は自然に呟いていた。
「なぁ、ファー。俺、あの詩、もう一度聴きたい」
「……はい」
ファーレーンも、自然に頷いていた。

  ――――サクキーナム カイラ ラ コンレス ハエシュ
        ハテンサ スクテ ラ スレハウ ネクロランス
          ラストハイマンラス イクニスツケマ ワ 
           ……ナイハムート セィン ヨテト ラ ウースィ……ルゥ………ソゥ、ユート……
51朔望 回旋 X−2:2005/10/30(日) 19:58:54 ID:2Bui4NFB0

ナイハムート、セィン、ヨテト。
ヨト語で、『私の愛しい人』。ファーレーンは、そうはっきりと囁いた。
ぎゅっと握った手から、緊張が伝わってくる。顔は空に向けたまま。
硬く瞑った睫毛の先が、軽く震えている。その先、月が中空に浮かんでいた。
同じように空を見つめながら、悠人は本当に心の中に染みとおってくるファーレーンの想いを受け止めていた。

「ありがとう……でもごめん、俺、ファーの太陽にはなれない」
「え…………」
意外な答えに、ファーレーンの肩が一瞬ぴくっと震える。
しかし悠人は穏かに微笑みながら、ファーレーンの方に向き直して続けた。
「ファーが辛い時は支えたい。どうしようもない辛さなら、抱き締めてあげたい。見守るだけなんて、出来ない」
「あ……」
「太陽は照らすだけだろ? それなら俺は、月影を選ぶ。……ファーと生きていきたいんだ」
「あ……あ…………」
「一緒だって言ってくれたろ? 俺だって背負いたいよ。一緒に背負うんだから、一緒に歩かないと、な」

それは、詩になぞらえた告白だった。
悠人は自分の想いを込めるようにファーレーンの髪を撫ぜ、まだ俯いたままの顎を取り、
「あ……」
「まだ、ちゃんと言ってなかったよな……好きだ、ファー。ナイハムート、セィン、ヨテト……ファーレーン」
そして優しくその唇を塞いでいた。
「…………ん…………」
ゆっくりと、ファーレーンの体から力が抜けていく。まだ閉じたままの瞳から、静かに涙が溢れた。
52名無しさん@初回限定:2005/10/30(日) 19:59:18 ID:wdhwoppV0
ファーかぁいいよ支援
53朔望 回旋 X−3:2005/10/30(日) 20:01:50 ID:2Bui4NFB0

「いつも、思い出してた。辛い時なんか、特に。ファーの顔や言葉が、いつも頭に浮かんでくるんだ」
「はい……わたしも、です……」
「俺をいつも、見てくれているような気がしてた。それだけで、助けてもらってたんだ」
「はい……わたしも……わたしも……」
「光陰や今日子の事も、まだ引き摺ってる。割り切れなんか出来やしない……でも」
再び開こうとする「蓋」。じわじわと押し寄せてくる、身を引き裂くような後悔。
それら全てを受け止めて、そっと引き寄せる細い身体。その存在がしっかりと支えてくれているという安心感。

「許してくれるって言ってくれたよな……だから俺、もうちょっと頑張れるから。ファーとなら、頑張れるから」
「はい……はい……っ」
何を言われても悠人の胸に顔を押し当てたままで、ファーレーンはただ頷くしか出来ない。
いつの間にか小さく展開されたウイングハイロゥが、背中でぱたぱたと揺れている。
「罪を……一緒に、背負おう? 辛いのも、嬉しいのも……全部、一緒だ」
「嬉しいです……ユートさま……」
既に日は落ち、翳ったお互いの表情は闇に紛れる。太陽も、そして月光も見えない紫色の瞬間(とき)。
でもだからこそ、だんだんと近づく顔。二人の声が、少しづつ囁きへと変わっていく。
「あの、でも、ニムには……その」
「判ってる、内緒なんだろ?……二人だけの、秘密だ」
「あ……は、はい。二人、だけの……ですか?」
「ああ……二人だけ、だ」
「はい……あ…………」
そうして、優しく合わさる唇。黄昏た光景に、二人の重なった影が闇に溶け込んでいた。
54朔望 回旋 X−4:2005/10/30(日) 20:03:25 ID:2Bui4NFB0
ぽつ。
「…………ん?」
「あら……雨?」
頬に落ちてきた感覚に、同時に声が出た。
そっと離れ、空を見上げる。いつの間にか夜空に雲が満ちていた。
手を翳すと、ぽっぽっと手に冷たい水滴が降り落ちてくる。
「さっきまであんなに晴れていたのに……どうかしましたか?ユートさま」
上を向きながら何だか複雑な表情を浮かべて黙り込む悠人に、ファーレーンは不思議そうに訊ねていた。
「ああ、いや…………それよりファー、急いで帰ろう」
「? え、ええ」
戸惑うファーレーンを強引に促して歩き出す悠人。なんだかイヤな予感がしていた。

ぱらぱらぱら……どざぁぁぁぁっ!
「と…………うわわっ!」
「きゃあ!」
そして予想通りというか、激しく降り出す夕立。悠人は慌ててファーレーンを近くの軒下に誘った。
避難先に駆け込んだ時には、既にお互いずぶ濡れである。

向こうの世界と違い、まだ照明器具の未発達なこの土地では、星が翳ると周囲はたちまち真っ暗闇になる。
伸ばした手の先が見えないような状況で、雲の存在にもっと早く気付くべきだったと悠人は後悔した。
「はぁはぁ……またか……」
「はぁはぁはぁ……え? また、ですか?」
「ん、いやそれより、大丈夫かファー……と、と」
ファーレーンの方を向きかけた悠人は、首を120°ほど曲げてそっぽを向いた。
濡れた服が水を含んでぴったりとそのラインを浮かび上がらせている。
見下ろすような格好になった悠人には、薄っすらと透き通る胸の形や下着がはっきりと見えてしまった。
そこだけ背にした家から零れた灯によってオレンジ色に照らされ、妙に艶かしい。
「? どうか、しましたか?」
表情は見えないが、髪の水滴をハンカチで拭いている様子のファーレーンの声が窺うように訊ねてきて、
「な、なんでもないよ……はは……」
「???」
赤くなりながら、誤魔化すように鼻の頭を掻く悠人だった。
55朔望 回旋 X−5:2005/10/30(日) 20:04:47 ID:2Bui4NFB0

「それより困ったな……あれ?あの看板……」
そっぽを向いた先。どこかで見たことのある看板に照明が灯っている。
それが何かを思い出したとたん、悠人は硬直した。何故か跳ね上がる心臓の鼓動。
「くちゅんっ!」
ファーレーンの小さな可愛らしいくしゃみに、一瞬うっ、と竦み上がる。
漠然とした気持ちを後押しするような状況に、悠人はいけない、と思いながらファーレーンに声をかけた。
「大丈夫か?」
「え、ええ……く、ちゅんっ!……ごめんなさい、少し、寒いです……」
先程告白された、自分に素直になろうとする決心。ファーレーンは、それに実に忠実だった。
戸惑いがちに、そっと悠人に身を寄せてくる。寒さなのか緊張なのか、身体が小刻みに震えていた。
ファーレーンの体温を直に感じて頭がくらくらしてくる。悠人はその肩を少し強張った腕で引き寄せながら、
「そういえば、バートバルトの時は、こうしてファーが温めてくれたんだよな」
そんな事を思い出して、変な期待みたいなものを振り払おうとした。
「あの時は俺が伝染したんだけど……くそ、またファーに風邪引かしちまう」
「…………」
しかし逆にその朝の恥ずかしさを思い出したのか、急速に上がってしまうファーレーンの体温。
「あ……えっと……」
「…………」
しまった、と思った時には遅かった。話題が続かず、沈黙が訪れる。同時にファーレーンの存在だけが感じられた。
(落ち着け……落ち着け……)
意識しまい、とすればするほど敏感になってくる。ファーレーンの、綺麗なロシアンブルーの髪が濡れていた。
蒸すような空気の中、悠人の脳を刺激する森のような匂い。きらきらと反射する水滴にさえ、魅入られる。
そして俯いたままぴったりと密着した身体から伝わってくる、柔らかさと熱さ、そして鼓動。
どっ、どっ、とどちらからとも激しく刻む音が、共鳴してお互いの想いを高めているような気さえしてくる。
(やべ……俺もう、だめだ……)
腕の中でじっと大人しくしている少女へと込み上げてくる愛おしさに耐え切れず、悠人は耳元でそっと囁いていた。
「なぁ、ファー。その……もっと温まりたく、ないか……?」
ぴくっ、と一瞬震える肩。無言のまま、ファーレーンの髪がこくりと微かに上下へ揺れた。
56朔望 minnesang V−1:2005/10/30(日) 20:06:11 ID:2Bui4NFB0

 §〜聖ヨト暦331年スリハの月黒みっつの日〜§

「本当か!?」
報告を聞いたとたん、思わず飛び上がりそうになった。
保つ必要も無いが、一応演出と割り切ってなるべく感情表現は控えていたのだが、それでも口元が緩くなる。
いつもの威厳が崩れた僕の珍しい様子に兵士達がたじろいでいたが、そんな事には構っていられなくなった。

「そうか……そうか…………あーっはっはっはっはっはっ……!!」
喜びが全身に溢れてくる。腰の『誓い』が共鳴し、歓喜を増幅して赤く光る――――そうこなくちゃ、な。
散々佳織を振り回し、惑わせてきた奴ら。そのうち、碧と岬が遂に死んだ。しかも、アイツの手にかかって。
「死んだ! アイツらが死んだ!」
本当はお互いに殺しあうのが理想だったのだが、まぁいい。
アイツは僕自身の手にかけて、後悔や苦しみを散々味わわせた後じっくりなぶり殺しにしてやるさ。
奴は、その程度の罪を犯したんだ。僕と佳織を引き裂くという、耐え難い罪を。

キィィィィン…………

「…………ん?」
(違うっ!)
一瞬ふと、変な違和感が走る。何だ……?僕は何故、あいつらの死をこんなに喜んでいるんだ……?
確かに嫌な奴らだったが、あの二人に対してはこんなに激しい憎しみなど持ってはいなかった筈…………痛っ!
くっまたいつもの頭痛か、イライラする。……そうだ、この事を佳織に教えてやろう。きっと喜んでくれるだろうから。
57名無しさん@初回限定:2005/10/30(日) 20:06:24 ID:wdhwoppV0
うあ、支援忘れてたw
58朔望 minnesang V−2:2005/10/30(日) 20:07:23 ID:2Bui4NFB0

佳織の部屋に、勢い良く飛び込む。
「佳織、喜べ! ようやく目を覚ますことが出来るぞ!」
驚き、目を見開く佳織。ああ、ちょっと乱暴だったな。僕としたことが、ノックも忘れるなんて。
でもそんな事より、早く伝えなくては。今まで信じ込まされていた、事実というやつを。
「死んだんだよ! 碧と岬が!!」
「…………え?」
ばさっ。読んでいたらしい本が、ばさりと床に落ちる。それはショックだっただろう。
僕にだって、裏切られる辛さは痛い程理解出来る。でも判ってくれ、それが僕達の為なんだ。
「そん、な……どうして今日ちゃんたちが……!?」
さーっと青ざめていく顔。震える口調が――昂ぶらせる。違う、なんだこの感情は!『誓い』、黙れっ!!
「アイツのせいに決まってる! 戦ってたのはアイツとなんだから!!」
口をつく言葉の一つ一つに制御が利かない。愉悦が、胸の奥底から湧き上がってくる。
「ハハハ……死んだぞ! 二人ともアイツに殺されたんだぞっ!!」
マズい、またこれか。こんな風に話を通しても、今の佳織じゃ悲しそうにするだけなのに……止められない。
「そんな……そんなのって……」
がくっと膝をつく佳織。ああ、またやってしまった。今手を貸しても、佳織はきっと拒絶する。
躊躇っていると、小さく鳴くような声。語尾が掠れている。泣かせたのは――――くっ、僕だ。
「今日ちゃんがいない……碧先輩も……これじゃ、元の世界に帰っても……」
なのにその呟きに、信じられない程の憤りを覚えてしまう。狂おしく、全てを貪りたくなるような衝動。
震えている華奢な身体に襲い掛かるのを抑えるだけで精一杯だった。吐き出すように、
「帰る必要なんてないさ。僕たちはここで生きるんだ。僕のための世界で!!」
そんな呪詛を放って燻ぶる気持ちを何とか静めようとする。
「ククク……力の無い者の末路は決まっている。
 僕の佳織を誑かし続けた愚か者は、苦しんで苦しんで苦しんで死ねばいいんだっ!」
59朔望 minnesang V−3:2005/10/30(日) 20:08:19 ID:2Bui4NFB0

「佳織……ああ、佳織……もうわかるだろう?」
既に僕の言葉じゃない。ふらふらと視線を漂わせながら泡を飛ばし、喋っているのは、一体誰だ?!
「アイツの愚かさ……弱さ……そして僕の正しさ!」
ああ、僕は正しい。力無き者はそれだけで、罪だ。だけど、それじゃ佳織をも否定してしまう。
違うんだ。幼い頃味わった辛さ。それから佳織を守りたい。強さは、守らなくてはあの病院と同じになってしまう。
「愚かで弱い者は最悪の選択をするしかなく、最後には苦しみながら破滅を迎えるんだ!」
…………『誓い』、か? この剣が、僕の支配を逃れているのか? クソっ! 黙れ。黙れよ!!


「だけどさせない……アイツの破滅に僕の佳織を巻き込ませるなんてことは、絶対にさせない!」
葛藤の末、ようやく一時弱まる『誓い』の気配。僕は絞り出すように叫んでいた。
一番伝えたい事を簡潔に。想いを、出来るだけ籠めるように。
「僕だけが佳織を守れる! 僕だけが佳織を幸せに出来るのさ! だから佳織は僕の側にいなきゃいけないんだっ!」
なのに、ふるふるとただ首を振り続ける佳織には届いていない。
「私……私は……」
力無き者。やはりその余計な一言に、ただ敏感に反応していた。
「私は……お兄ちゃんにとって邪魔なんだ…………」
ああ。そんな事が言いたかった訳じゃないのに。「兄」という単語が、『誓い』を通して増幅される。
「違う! アイツが僕と佳織の邪魔なんだ! アイツさえ……アイツさえいなくなれば全てがうまくいくんだ!!」
そう、全てはアイツ。悠人を倒さなくては、佳織の目は覚ませない。――何故そんな歪んだ結論に達したのか。
そんな疑問も、いつしか悦びの感情に押し流されていった。

窓から、ばらばらと打ちつける音。いつの間にか垂れ込めた暗雲が、激しい雨を降らせようとしていた。
「…………なんか、用か?」
不躾に、背後から感じる気配。ねめまわすような視線。気に入らない。再び『誓い』に宿る憎悪の炎。
気配があからさまな嘲笑を残し、すっと消える。後に残るのは、こんなにも不快な後味だけだった。
60名無しさん@初回限定:2005/10/30(日) 20:12:17 ID:xCo7dWrR0
支援をば。
61朔望 回旋 Y−1:2005/10/30(日) 20:12:51 ID:2Bui4NFB0

 §〜聖ヨト暦331年スリハの月黒みっつの日〜§

からん。ドアベルが相変わらずの軽い音を立てる。
「いらっしゃい…………ん? 何だ、また兄ちゃんか……ふぐっ!」
そして相変わらずの親爺っぷりに、悠人は慌ててその口を塞いだ。

後ろでファーレーンが、背中を向けて落ち着かなさ気にきょろきょろとフロアを見回している。
どうやら聞こえていなかったらしいと、悠人はほっと胸を撫で下ろした。
後ろ暗いことは何もしていないのだし別に話しても構わないのだが、
なんとなくこの場でファーレーンにレムリアの事を知られるのはマズい気がしたのだ。
(……やるなぁ兄ちゃん。今回の娘も可愛いじゃねぇか)
「…………」
そんな事を考えていると、いつの間にか逆に肩を引き寄せた親爺が妙に感心したような口調で呟いていた。
62朔望 回旋 Y−2:2005/10/30(日) 20:13:47 ID:2Bui4NFB0

前金を支払っている間中、親爺は顎に手を当てながら、ファーレーンを値踏みするように眺めていた。
「それにしても……ほ〜ぅ」
「……あんまりジロジロ見るな」
「まぁまぁ。それにしてもありゃ、スピリットだな」
「……それが、どうかしたか?」
スピリットだというだけで、人と差別する習慣。この親爺もか、と思わず声が低くなる。
睨みつけるような迫力に押されたのか、親爺は慌てて両手を振った。
「おいおいそんな意味じゃねぇって。俺はそんな事で区別はしねえよ……この街もな」
そうして、少し真面目な表情を作る。
「この街も、変わり始めてるんだ。皆誤解していたと反省してる。許してくれとは言えねぇけど、よ」
「…………」
淡々と話す親爺の眼差しは、だんだんと優しいものへとなっていった。
向こうでこっそりと濡れた服をぱたぱた払っているファーレーンの仕草を可笑しそうに見つめる。
「……可愛いじゃねぇか。知らなかったとはいえ、俺達はあんな娘達に無茶をさせてきたんだ……ふがいねぇ」
ぐずっと鼻を鳴らし、丸太の様な腕で目元をかいなぐる。親爺の瞳にはいつの間にか熱い涙が光っていた。
「…………親爺」
「これでも感謝してるんだぜ、……エトランジェ。すまねえが、これからも頼む。俺達じゃどうしようもねぇ」

「っ! アンタ、俺のことを知って……」
いかつい頭を下げられて、悠人は驚いた。顔を上げた親爺がニヤッと人の良い笑みを浮かべる。
「どうかしましたか? ユートさま」
「うぉっ、ファー?! い、いやなんでもな」
「でも何だか声色が……大変、風邪を引かれたのかも!あ、汗を」
いつの間にかすぐ後ろにいたファーレーンが、おろおろと慌て始める。恥ずかしくてまともに顔を見れなかった。
「いやそうじゃ……って自分で拭けるって」
「いいですから動かないで下さい……」
取り出したハンカチで悠人の額を拭き始めたのを見て、親爺が喉の奥でくっくっと笑いを噛み殺していた。
「いい娘じゃねぇか。……大事にしてやれよ」
後ろから、冷やかすような、それでいて穏かな声。
「……ああ。任せてくれ」
それだけには、はっきりと頷く事が出来た。
63名無しさん@初回限定:2005/10/30(日) 20:15:27 ID:jqi8uBqJ0
ネリー「ポン!」
シアー「チー!」
ニム「カン」
ナナルゥ「ロン」
('A`('A`('A`
64朔望 回旋 Y−3:2005/10/30(日) 20:15:39 ID:2Bui4NFB0

  ――――――――

ぱらぱらと、まだ降り続けている雨の音を窓越しに聞きながら、今頃ニムはどうしているかとふと考えてしまう。
「ちゃんと部屋の窓、閉めているかしら……」
帰りが遅くなると、伝える事が出来ない。しょうがないとはいえ、心配していないだろうか。
「…………」
隣の部屋では、今ユートさまがお湯を使われている。その気配を感じるだけで苦しい位に心がざわめいた。
真っ暗で何も見えない外の風景。その闇に、自分の気持ちを浮かび上がらせてみる。
「素直に……」
自分の感情に。そっと呟いてみた。これから自分の身に、何が起こるのかは判らないけど。
正直、期待と不安が半々で頭の中は混乱しきっているけど。
何も考えられないのに、何かを考えなければと焦ってしまうけど……だから、自分に言い聞かせるように。
「そう決めたの、だから」
何も、考えないようにした。もう、届かないものに憧れ、守るだけの自分に戻る事は出来ないから。

りぃぃぃぃぃん…………

置いてきた『月光』が、どこか遠い所で謳うように鳴いている。
そっと目を閉じると、後ろでユートさまが出てくる気配。耳に飛び込んでくる、優しい現実。
「ああ、さっぱりした……ファー?」
そうしてわたしの心の乱れをすぐに察してくれる、優しい人。……愛しい、人。
「ううん……なんでもありません、ユートさま」
振り向いた時には、自然に浮かび上がる笑顔。満たされていく気持ち。
だからただ、信じよう。それだけで、わたしはもっと“強く”なれる。
これから起こる事全てをユートさまに委ね、わたしはそれを支えればいい。
「わたしの生きる意味」。それはきっと、そう望んだ先にあるのだから。
                                         ..
――――そうしてわたしは、強く抱き締められていた。……新しい、運命に。


  ――――――――
65朔望 回旋 Y−4:2005/10/30(日) 20:18:57 ID:2Bui4NFB0

仄かに照らされた部屋の中で、ファーレーンは窓際にぼんやりと立っていた。
何かあったのだろうか、と少し不安になるほどに真剣な後姿に、つい怪訝そうな声を掛けてしまう。
「ああ、さっぱりした……ファー?」
「ううん……なんでもありません、ユートさま」
かぶりを振ったファーレーンは振り返り、そして微笑む。
拍子に灯りが揺らめき、ふとその瞳に昏い翳りが浮かんでいるような錯覚。
薄暗い部屋の中で、その影が薄く消えてしまうような感覚に囚われてしまう。
そう思った瞬間、悠人は置いていかれる子供のように、慌ててきつく抱き締めていた。

「……ユートさま?」
少し身を捩るように慌てる気配。だけどすぐ、腕の中で、そのままじっと大人しくなる。
「ごめん……ちょっと、ファーがいなくなるような気がして……」
悠人は、まだ濡れているロシアンブルーの髪に鼻を押し当てながら、謝った。
いつもの、ファーレーンの森の匂い。軽く吸い込むと、落ち着いていく。
「くす……まるで子供、ですね。ニムも夜中にたまにそうなりますよ……」
静かに洗ったばかりの髪を掬う感触。ファーレーンは優しく悠人の髪を撫でていた。
「……ひどいな。ファーだって、たまに子供みたいじゃないか」
「ふふ、そうですね。ユートさまの前では、……そうかも知れません」
「ああ、俺も、ファーにだけだよ。こんなに不安になるのは」
「……わたしも時々不安になります。こんなに幸せで……ねぇユートさま、わたし、本当にいいのでしょうか?」
ゆっくりと顔を上げる瞳は、色々な感情が混ざり合って不安定に揺れていた。
いつもの光が感じられない虚ろなその瞳がよけいに存在の儚さを強調しているようで、悠人はまた不安になった。
66朔望 回旋 Y−5:2005/10/30(日) 20:20:10 ID:2Bui4NFB0

「ですから、教えてくださいユートさま。わたしが……ここにいてもいいと。どこにももう、行かなくてもいいと」
ファーレーンが、甘えるように、求めるように囁いてくる。
いつも、不意にいなくなる姿。消えるときに、いつもその寂しさを味わっていたのだろうかと悠人はふと感じた。
妹のような存在を守る。ただそれだけの為に生きてきたのだ。望まぬ戦場に、自らを投じて。
ようやく見えてきた本質。それは、誰かに甘えたい、守ってもらいたい、そんな願望の筈なのに。
そうして辿り着いた、たった一つの拠り所。自分らしくいられる、唯一の場所。
それに自分を選んでくれたのかもしれないと思うだけで、頭の奥が痺れるほどにいとおしくなる。
「ああ……ファーには俺の側にいて欲しい。それだけでも、きっと俺は強くなれるから」
悠人は出来るだけ優しく囁いた。壊れないように、そっと華奢な背中をさすりながら。


ベッドに横たえ、そっと身を包むバスタオルに手を伸ばそうとしている間、ファーレーンは一言も口をきかなかった。
「…………」
ただじっと目を閉じ、まるで怯える小動物のように身を縮こまらせながら。
「……なぁ、ファー?」
「…………え、え?」
「いや……その、黙ってられるとやりずらいんだけど」
そう言うと、ちょっと困った顔で、首を傾げられる。拗ねたように横を向き、
「ですが、これから何をするのかまだ教えていただいてませんし……」
それでいて甘えた声。教えてください、と懇願するような横顔。悠人はうっ、と思わず声を詰まらせた。
(そんなこと、言われてもなぁ……)
これから“する”という時に、その行為を説明するなんて事を出来る訳がない。
以前からは考えられない程の、仔犬のようなある意味年下のようなファーレーンの仕草にやや追い詰められつつ、
「……判った。だけど、文句はいうなよ。何も知らないファーがいけないんだからな」
「え、え……あ、あの、ユートさま?!」
「これから教えるから……動いたらだめだぞ」
そんな理不尽な事を叫びながら、やや自棄気味に悠人はファーレーンのバスタオルを脱がした。
67名無しさん@初回限定:2005/10/30(日) 20:21:26 ID:wdhwoppV0
私の支援、受け取って
68朔望 oratario:2005/10/30(日) 20:21:43 ID:2Bui4NFB0

 §〜聖ヨト暦331年スリハの月黒みっつの日〜§

ぽつぽつと窓を叩く雨粒。ガラスの上でそれぞれが絡み合い、一つの流れとなってただ落ちていく。
やがて地へと吸い込まれ、再びマナサイクルの渦へと巻き込まれ、人々の記憶にさえ残らないただの“運動”。


 ――――――くだらない。


何を感傷的になっているのか。糸の切れかけた傀儡が、勝手に壊れそうな人形が、そんなにつまらないのか。
弱い。“彼ら”は弱すぎる。“運命”を変えられる程の大いなる力をその手にしながら。
凡人がどれほど憧れ、それでも到達しえぬ力にただ“選ばれた”というだけで容易く到達しながら。
幼い頃から聖譚曲と共に聞かされ、幼少の身に憧れ、ひたすらに剣を振り、追い続けた偉大なる祖父の背中。
半生を賭け、そして叶わぬと悟り、絶望に朽ちた後も未だ燻ぶっていた最後の残照。到来したエトランジェ。


 ――――――それが。


子供が手に入れた夢という名の玩具は、あっけなく壊れた。あり得ない程の脆さとひ弱さで。
彼らは弱い。それが結論だった。身体以前の問題。ココロが絶対的に弱い。まるで滑稽曲。――――無様ではないか。
そんなものに憧れていたなどと。そんなものを追い求めていたと。そんなものに自分が囚われていたなど、と……。
もう一人、居た。が、一縷の望みは砂漠で絶たれた。このある意味では正常な感情。やり場のない、歴史への怒りを。
「わたしには、理由があるのですよ。どうしても我慢ならない、理由がね……」

傍らに立つ無表情なガラスのような瞳を覗き込みながら。ソーマ・ル・ソーマは口元を歪ませた。
69朔望 volspiel Y−1:2005/10/30(日) 20:23:45 ID:2Bui4NFB0

 §〜聖ヨト暦331年スリハの月黒みっつの日〜§

窓を叩く激しい雨音の中。
レスティーナは王位継承に続くごたごたで後回しになっていた書類の山の前で、溜息をついていた。
「もう、エスペリアを側近にスカウトしようかな……」
そんな物騒な逃避言動が思わず口をつく。口調がレムリアに戻ってしまうほど、絶望的な量だった。
不安定に積上げられた紙束がそこかしこに積上げられて、ぐらぐらと揺れているような気さえしてしまう。
執務室といえば聞こえはいいが、単に片付けるのを放棄された、ただの書庫に過ぎなかった。

「……雨だし」
予感に従いこっそりと抜け出そうとした所で怪しくなった雲行き。
躊躇している間に降り出したまでは良かったが、そこで衛兵に捕まってしまった。
その彼は今、扉の向こうで良く出来た彫像のように立ち、その場を決して離れない。
――――勤勉ぶりも考え物だ、どうにかして休ませないと。
などとレスティーナは自分の事を棚に上げ、都合のいい事を考え巡らしていた。
70朔望 volspiel Y−2:2005/10/30(日) 20:24:50 ID:2Bui4NFB0

がさっ。
「あっとと……いけないいけない」
ついうっかり肘を当ててしまい、一番手前の山が崩れかかる。
慌てて抑えた手の隙間から、一枚だけひらりとすり抜け、床に落ちた。
「ん……あれ?」
何気なく目に留めた書類に、良く知った名前。レスティーナは拾い上げながら、文面に目を通した。
「ああ、エスペリアの報告書ね。サルドバルト? 嘘っ! そんなのまであるの〜っ」
どうやら王位継承のゴタゴタでまだ整理されてなかったらしく、呆れた声が出てしまう。
その時期から滞っているとすると……と見渡そうとして嫌になった。
この調子だと、多分マロリガンとの対外交渉の辺りで充分魂がバルガ・ロアに到達出来るだろう。
「なんて言ってもいられないか……はぁ」
ぼやきながらも、取りあえず手にした一枚を片付けようと決心する。
内容は、サルドバルト戦の、戦後処理の一部報告だった。
そうして一つ一つの言葉の意味を確かめながら文面を追っていた指が、ある項目の所でぴたり、と止まる。
「これは……まさか……」
もう一度、読み直す。そしてもう一度。しかし導き出される結論は、何度繰り返しても同じだった。

がたっ。
レスティーナは、知らず立ち上がっていた。両手は硬く握り締められ、小刻みに震えている。
そのまま窓の側に寄り、外に広がる闇を見つめる瞳には険しさが満ちていた。
「貴女という人は……」
絞り出すような呟きは、窓を打つ雨音に掻き消されていった。
71朔望 回旋 Z−1:2005/10/30(日) 20:26:16 ID:2Bui4NFB0

 §〜聖ヨト暦331年スリハの月黒みっつの日〜§

「あ……あ……」
いきなり裸にされたファーレーンは両手で顔を覆いながらも、決して動かない。
“教え”に忠実なのか、それとも信用されているのか。どちらにせよ、悠人の目はそこから暫く動けなかった。
バートバルトでちょっとだけ見た事があるが、そうはっきりと憶えているわけではない。
その全身が今、仄かなオレンジ色の灯りに浮かび上がって、壮絶なまでの美しさを醸し出している。

腕の影から枕に散らした、ロシアンブルーの濡れた髪。白い、陶器のようにすらりと伸びた四肢。
ほっそりと、抱き締めた時の感触そのままに、繊細な、丸みを帯びた女性的なライン。
上気してほんのり赤みを帯びている全身は羞恥からか、小刻みに震えている。
浮き上がった細い鎖骨が肩の先で陰影をぼやかし、その下で形の良い胸が動悸に合わせて激しく上下している。
見ているだけで量感のありそうな乳房は意外と大きく、その先で桜色の蕾が緊張で縮こまっていた。
良く鍛え上げられた腹筋でお腹はきりっと引き締まり、その中央が大きく窪んで可愛いお臍がちょこんと見える。
力を抜こうとして失敗している太腿にうっすらと静脈が浮かび上がり、きゅっとしまった脹脛が細く伸び。
そして太腿の付け根に、ふっくらと女性的な秘所が髪の毛と同じ色の柔らかそうな恥毛に覆われて息づいていた。
沈み込んだベッドとの間で窮屈そうにはみ出したお尻が、そのボリュームをこれでもかと自己主張している。
太腿から柔らかい曲線を描くそれは、腰の辺りできゅっと急激に引き絞られていた。
まるでモデルのような体型に、しかしいやらしい感じは少しもせず、むしろ清廉な雰囲気が漂っている。

神を讃える戦乙女(ヴァルキュリア)。初めてファーレーンの姿を見た、あの月の夜。
その時感じた「畏れ」にも似た気持ち。それは間違いじゃなかった、と悠人は思った。
「…………凄、い」
悠人はしばし呆然と、ファーレーンの裸を見つめていた。
72名無しさん@初回限定:2005/10/30(日) 20:26:27 ID:wdhwoppV0
ネタを渇望する者は、しかし支援も怠らない
73朔望 回旋 Z−2:2005/10/30(日) 20:27:16 ID:2Bui4NFB0

一方じっと見つめたまま動かない悠人に、ファーレーンは居心地が悪そうに身じろぎした。
「ユ、ユートさま…………恥ずかしいのですけど…………あ、あれ……」
自分で出した声が、予想外に甘えた鼻にかかったようなものだった事に驚く。
既に全身は真っ赤に染まり、どこか身体の中心から熱い何かが溢れてくるようだった。
言われた通り動かないでいたが、視線を感じるだけで、何故だかもどかしいものを感じる。
「あの……こ、これから、どうしたら…………」
本能的に、これで終わりではないと、ファーレーンはいつの間にか悟っていた。

ファーレーンの囁きにようやく我に返った悠人は、改めてどうしていいか、戸惑っていた。
経験がある訳でもない。これから先の事が想像の域を出ないのは、悠人も同じだった。
(えっと……そうだ、まずタオルを……)
とりあえず、腰に巻いているタオルを取り外す。
だんだんと落ち着いてきた。屈みこみ、ファーレーンの髪をそっと撫でる。
「あ……」
ファーレーンが、小さく声を上げた。
「せ、せめて灯りを……灯りを消して下さい、ユートさま……」
74朔望 回旋 Z−3:2005/10/30(日) 20:29:15 ID:2Bui4NFB0

要望通り灯りを吹き消しようやく裸になれた(?)悠人は、そっとファーレーンの隣に腰掛けた。
ぎしっと小さな音を立てて、ベッドが軽く沈み込む。
その気配に、ようやくファーレーンが顔から手をどけ、恐る恐る悠人の腕に触れてきた。
「それじゃ、始めるぞ……力を抜いていてくれ」
「は、はい……」
か細い、震えている声。ぎゅっと強張った身体から、とても力が抜けているとは思えない。
悠人は苦笑して、もう一度ファーレーンの髪を撫ぜた。
「なぁ、そんなに怖がらなくてもいいって、ファー。そんなに構えられるとこっちまで緊張してきちまうよ」
言いながら、手を頬まで下ろす。そのまま擦っていると、ファーレーンは薄っすらと目を開けた。
「ユートさま……すみません、わたし良く判らなくて……」
うるうると、訴えかけるようなファーレーンの瞳。
悠人にはぼんやりとしか見えなかったが、安心させようと肩に手を当て、


 ―――ぐぅ。


「……あ、あれ?」
悠人は、盛大に腹を鳴らしていた。
75名無しさん@初回限定:2005/10/30(日) 20:30:24 ID:wdhwoppV0
す、寸止めなのか?…支援w
76朔望 ode:2005/10/30(日) 20:30:50 ID:2Bui4NFB0

 §〜聖ヨト暦331年スリハの月黒みっつの日〜§

急に降り出した雨が激しく窓を叩く。ニムントールは窓際に寄って、そっと外を覗いてみた。
日が落ち、薄暮れた景色はただ真っ暗で、森の影だけが黒々と広がっている。
ほとんど自分の顔が映った硝子に顔を近づけてみると、詰所のすぐ下の光景だけがかろうじて見えた。
そして殆ど同時に目に止まる、赤い髪の人影。
「あ、あれ……ナナルゥ」
丁度窓の下。流れる雫に歪む景色の中、ナナルゥが一人立っていた。
中庭に生える一本の木。それに寄りかかるようにしてじっとしている。
しかし木は小さすぎて、雨宿りにはとても適するとは思えなかった。

「ちょ……なんであんな所にっ!」
ニムントールは慌てて声をかけようとした。
佇むナナルゥは既にずぶ濡れで、このままでは風邪を引いてしまう。
こんな雨の中何をやっているのかと腹が立ち、勢い良く窓を開け放とうとしたその時。
「ヒミカ……?」
もう一人、歩み寄る影。それはヒミカだった。
そのまま何かを言い争った後、ぱっと傘が開く。そうして二人はそのままその場に留まった。
「あ……笛……」
やがて聞こえてくる、微かな笛の音。それは最近、ナナルゥが始めた事だった。
よくは知らないが、いつも決まった時間になると流れてくる曲。
ニムントールは暫くそれを聴き、そしてつまらなそうに窓を離れた。

「お姉ちゃん……まだ、かな」
ぺとん、とベッドに腰を下ろし、傍らの枕をぎゅっと抱き締める。
あんな二人を見たせいだろうか。無性に姉がいないのが寂しかった。
77朔望 回旋 Z−4:2005/10/30(日) 20:32:14 ID:2Bui4NFB0

 §〜聖ヨト暦331年スリハの月黒みっつの日〜§

「もう……ユートさまったら」
ファーレーンは、まだくすくすと忍び笑いをしていた。
背中を向け、肩を震わせ。
何とか堪えようとしているらしいが、それが余計に可笑しさを込み上げさせているようだった。
「なんだよ、そんなに笑う事ないじゃないか……はぁ」
一方の悠人も、頭をがしかしと掻いてひたすら耐えるしかない。
肝心の時に、なんて間抜けなんだろうと自分の胃袋が恨めしくなる。
正直泣きたいくらいだった。少し拗ねたような口調になってしまうがどうしようもない。
そんな悠人の様子に悪いと思ったのか、ファーレーンが謝りながら振り返る。
「ご、ごめんなさい……その……お腹、空かれたのですね」
しかしよほど可笑しかったのか、目尻に浮かんだ涙をそっと拭う。
「ん〜、そういえば訓練の後、何も食べて無かったかもなぁ……」
ちょっと振り返ってみれば、一日中落ち着かなくて悠人は食事どころではなかった。
訓練の時も妙にそわそわとして、早く時間が過ぎないかと待ち遠しかったくらい、楽しみだったのだ。
「あ、それで早くファーと会いたくて急いで森に行ったんだっけ」
(そうか、それで夕飯を食べてないんだ。なんだ俺、一日何も食べてないのか……ん?)
ふと気づくと、ファーレーンが黙り込んでしまっている。さっきまでくすくすと笑っていたのが妙に大人しい。
部屋の暗がりでも、気配で俯いているのが判った。
「……どうした? ファー」
「あ、あの、それ……本当、ですか?」
「え? それって?」
「で、ですからあの……わたしに、会いたいって……」
「…………へ?」
そこでようやく、悠人は気がついた。考えていたことを、途中口にしていたと。だーっと背中に汗が流れる。
どうしようかと悩んでいると、ファーレーンがにじり寄ってくる。悠人は二重に焦ってつい本音を漏らした。
「あ、ああ。早く会いたかった」
「〜〜〜ソゥ、ユート……テーカンス!」
ファーレーンは、がばっと悠人に抱きついていた。
78朔望 回旋 Z−5:2005/10/30(日) 20:34:40 ID:2Bui4NFB0

絡み合う身体。ふたりは暫くそうしてじゃれあっていた。
くすくすと笑い合い、お互いの体温を感じ。少しでも離れたくなかった。
そうしてどれ位経っただろうか。やがて静かな雰囲気が訪れる。

「ほら、こうしてるとファーの心臓の音が聞こえる……ファーが側にいてくれるって判る。安心する」
「あ……ふぁ……ん…………」
ゆっくりと、慎重に。悠人は壊れ物を扱うように、ファーレーンの乳房に触れた。
吸い付くような肌に、陶然とする。想像とは全然違う柔らかさが指先から伝わってくる。
そして、その奥。とくとくと響く鼓動に、悠人は集中した。
「ん……ふぅっ……あっ、あっ…………」
だんだんとファーレーンの息が荒く、甘いものへと変わっていく。
そして遂に、胸の先端が手の平の中で硬く尖ってきた。悠人は堪らなくなってそれを軽く摘んだ。
「んっ!!」
途端、ぴくん、と大きく背中を逸らし、そのまま悠人にしがみついてくる。
無邪気な、子供のような抱擁。全身を使って、離さないように。
「うわっ……ちょ……」
「はぁはぁ……あ……ユートさまの……音……ルゥ……」
やや陶然としたまま、呟く。
耳を悠人の胸板に押し付けたまま、暫くファーレーンはそのままじっと抱きついていた。
79朔望 pavane:2005/10/30(日) 20:35:52 ID:2Bui4NFB0

 §〜聖ヨト暦331年スリハの月黒みっつの日〜§

「あら……」
ふと眺めた窓。それを叩く音に、エスペリアは声を漏らした。
雨。決まって憂鬱にさせるその音が、サルドバルトを一瞬思い出させ、ぶるっと身震いが起こる。
いけない。エスペリアは思いなおし、かぶりを振ってその場を立ち去ろうとした。

その時ふと、背後から声がかかる。
「でもぅ、辛い事ばかりではありませんよ〜」
「ハリオン……貴女も今日は、“情報部”としてですか?」
「ええ〜、エスペリアさんも、レスティーナ様にお呼ばれされたのですねぇ〜?」
振り向くと、いつものようににこにこと微笑んだままのハリオン。雨のせいか、翳った顔が少し曇って見える。
しかし何もかも判っているような言葉に、不思議に広がる安堵感。改めて彼女は生粋のグリーンだと感心する。
エスペリアはちょっと笑顔を見せ、そして小さく溜息をついた。何故自分の心がこんなに重いのだろうと考える。
懸念は、明らかだった。どうしても理由が解明できない事。それを隠し続けている事の苦渋。
「…………貴女だけではありません。余り自分だけで背負わないで下さい」
珍しく語尾をはっきりと区切ったハリオンが、そっと頬を拭ってくれる。気づけば、エスペリアは泣いていた。
何故だろう。悲しくは無かった。雨のせいでもない。そんな、少女みたいな感情はあの時に捨てた筈だった。
ただ、無性に湧き起こる感情。それは――――無力感。自分では手助け出来ない、そんな歯痒さを伴う哀しみ。
「ありがとう……もう、大丈夫です」
「…………ええ〜」

二人はそのまま黙って、レスティーナの私室へと長い王宮の廊下を歩き続けた。
80朔望 回旋 [−1:2005/10/30(日) 20:36:58 ID:2Bui4NFB0

 §〜聖ヨト暦331年スリハの月黒みっつの日〜§

「ん……ん…………」
くぐもった息が胸に当り、生暖かい吐息が背筋をぞくぞくと震わせる。
無意識なのか、擦り寄るように悠人の腰に押し付けてくる太腿。
背中に回された指がそれぞれ別の生き物のように、さわさわと肩を撫で上げてくる。
押し付けられた胸と自分の身体の間で行き場の無くなった手を軽く動かすだけで、
ファーレーンの身体はぴくんぴくんと痙攣した。どうやら自分でも、制御出来ないらしい。
(……って、俺もか)
既に硬くなっているそれが、ファーレーンの内股と接触している。
柔らかい恥毛が触れるたびに、それは反応し、更に大きくなっていた。
悠人はそっとファーレーンを横たえた。そろそろ限界だった。
「あ……ユート、さま……」
一瞬でも離れてしまった身体に、名残惜しそうな声を出して手を差し伸べてくる。
まるで何かを探すように不安そうなそれを優しく握りながら、悠人はファーレーンに圧し掛かった。
ベッドに大の字になるように身体を押し当てると、丁度濡れた秘所にものがあてがわれる。
「ンン……」
何か熱いものが敏感な部分に触れる感覚に、ファーレーンは反射的に顎を仰け反らせた。
その耳元で悠人はそっと囁く。熱い吐息が耳にかかり、敏感に反応した白い肩がびくびくと震えていた。
「ファー……一つに、なろう」
「はい……はい…………ふああっ!」
うわ言のように応えるファーレーンに、悠人は無言でぐい、と腰を押し付けていった。
81名無しさん@初回限定:2005/10/30(日) 20:37:28 ID:wdhwoppV0
支援がいるよね?
82朔望 回旋 [−2:2005/10/30(日) 20:37:58 ID:2Bui4NFB0

「…………っっ!!」
くぐもったような悲鳴が、ファーレーンの口から零れた。
自分の中で、何かが弾けるような異様な感覚。熱く貫かれる衝撃。遅れて襲い掛かる激痛、圧迫感。
あらゆる未知の感覚がないまぜになってファーレーンを翻弄していた。
「かはっ……はぁ、あぁあぁぁっ……っ」
それでもファーレーンは、ぐっと唇を噛み締め、その侵入に耐えた。

やがて、こつんと身体の一番深い処をつつかれるようにして、悠人の動きが止まる。
「はぁっ、はぁ……入った……」
荒々しく息を吐きながら、悠人はファーレーンを見下ろした。
やや太めの眉をぎゅっと顰め、ぶるぶると全身を震わせているファーレーン。
玉のような汗が身体のあちこちに浮き出し、強く握り締めているシーツが非常な苦痛を表している。
そして太腿の付け根、たった今結ばれた所から痛々しく流れ出る鮮血。
滴り落ちた朱が、シーツに一つ二つと染みを作っていった。
「……大丈夫か、ファー」
大丈夫な、訳が無い。そんな事は百も承知で、それでも悠人は訊かずにはいられなかった。
懸命に受け入れ、堪えている華奢な身体。その瞳が悠人の声に反応してゆっくりと開く。
「へ、平気です……だって、ユートさまが……ん……こんなに、近くに感じられる…………」
息も絶え絶えに、途切れ途切れ伝えてくる。
「…………嬉しい、です。こんな……わたし……嬉しい、です……っっ」
閉じたままの瞳に涙を浮かべて。

予想以上に狭いファーレーンの膣は、じっとしているだけでも悠人を締め上げていた。
くぐもった喘ぎだけではなく、心臓の動悸までもが響きになって、その都度きゅっきゅっと収縮する。
それに反応したファーレーンが身じろぎをすればするほどうねり出す壁。
悠人はともすれば押し流され、めちゃくちゃに動きたい衝動を必死になって抑えつけていた。
83朔望 回旋 [−3:2005/10/30(日) 20:38:58 ID:2Bui4NFB0

「ふっ……ふう……」
「あっあ……」
浅い呼吸を繰り返しながら、ゆっくりと桜色に染まった頬に手を添える。
それだけで、感極まったファーレーンがぴくんっ、とその身を撓らせた。
「はぁっ! 痛っ……あ、あぅんっ! あっ、あっ……」
「う、わわっ! ちょ、ファー! 待っ……!」
とたん、意志を持ったようにそれぞれの角度から膣壁が蠢動し、
擦り付け、絞り出すような動きがお互いに快感を与える。漏れそうになり、悠人は焦った。
「ふぁ、ユ、ユートさまぁ、ユートさまぁっ!」
しかし元々感じやすいのか、感激が痛みを凌駕したのか。自ら腰を押し付けるように、ファーレーンは止まらない。
遂にがばっと上半身を起こし、わなわなと震えながら悠人にしがみついた。
その途端、自重に任せたファーレーンと悠人の結合部が、より一層深く繋がる。
「ひっ……なに?……はぁーっ! あうっ、うぁぁっ!」
ぐしゅう、と圧縮されるような衝撃と共に、頭の中を火花のような奔流が駆け巡る。
もうこれ以上は来ない、と思われた部分にまで、抉じ開けるように侵入して来る悠人。
胸の奥で弾けた何かが腹部で熱く燃えるのを、ファーレーンは感じた。
「あ、あ、あ……んっ……ふぅっ……」
じーん、と下腹部に、痺れるような感覚。ファーレーンは、濡れ始めていた。

「ん……は、はぁっ……ル……ルゥ……」
熱く湿った吐息が、耳元で囁かれる。
胸板に押し付けられる柔らかい乳房の先端で、硬くなった乳首がころころと悠人の肌を撫ぜ上げる。
一度も自分から動かしていない状態で、悠人は既に追い詰められていた。理性が丸ごと削り取られるようだった。
「ヤ、ヤバっ……くっ!」
子宮の入り口に潜り始めている先端と、それを誘うかのようにうねる膣壁の動きが熱い泥を掻き混ぜる。
時々噛み付かれる肩口の刺激すら、快感に置き換わって頭を焦がした。
そして何を思ったか、ぺろっとファーレーンがその傷口を赤く小さな舌で舐めてしまった時。
悠人はやにわに白い臀部を鷲掴み、身体ごと抱え込んだ。指に食い込む柔らかい感触。
伝わってくる、愛液の滑りと熱さ。気づいたときには激しく腰を突き上げていた。
84朔望 回旋 [−4:2005/10/30(日) 20:41:11 ID:2Bui4NFB0

「はぁぁぁぁっっ! あうっ! あっ! あっ!」
嬌声を上げ、髪を振り乱すファーレーンに構わず、そのまま仰向けにつき伏せる。
どさっ、と倒れこんだベッドがぎしぎしと軋んだ音を立てたが、もう悠人には聞こえなかった。
強く突き上げながら、目の前で揺れる双丘に、吸い込まれるように顔を押し付ける。
自在に沈み込む柔肌に汗の匂いと味を味わいつつ、首だけを動かしてやわやわと捏ね回す。
先端のすっかり硬くなったしこりを捕まえてそのまま甘噛みすると、呻きながら細い顎が仰け反った。
振り子のように揺らされているだけだった両脚が、爪先までぴん、と張り詰める。
途端、うねるようにきゅっと激しく収縮を繰り返す膣壁。軽い絶頂の波が増幅されてダイレクトに伝わってくる。

打ち付けた勢いをそのままに、悠人は滅茶苦茶に動き続けた。
磔にされた様な、ぐしゅぐちゅと既に開かれた秘部の上で、小さく隠れていた蕾が徐々に剥き出しになっていく。
「はんっ! はっ! はぅんっ! あっ、あっ……あぅぅっ?! んっ、んっ、ふぁぁぁっ!」
敏感な部分が律動で揺らされるたびに、ファーレーンの快感は限界まで押し上げられていった。

やがて一層膨れ上がった悠人のそれがごりっと子宮を削り、ファーレーンの意識が火花を散らして無理矢理飛ばされる。
「きゃぅっ! うぁ、うああぁぁぁぁっっっ!!!」
「くっ……ファー!!」
同時に、今までで一番大きくうねったファーレーンに耐え切れず、悠人は勢い良く放出していた。
「ひぅっっっ!! あぅ、あ、あ、あ、……はあぁぁぁぁっ!!」
浴びせられる熱い感覚に、ファーレーンが大きく仰け反る。白い顎が完全に上を向き、身体が激しく震え出した。
「あっ、あっ……」
びゅっ、びゅっと注ぎ込まれる度に、受け入れた子宮が歓喜の悲鳴を零す。びくん、びくんと痙攣する肌。
頭の中に明滅する火花。ぶるぶると震えだす太腿。白く甘美な波が意識を白く塗りつぶしていく。
「あ…………ああ…………」
そうしてようやく悠人が身を離した時には、ファーレーンはもう動けなかった。
朦朧としたまま、ぐったりと四肢を投げ出して焦点の合わない瞳を悠人へと向けていた。
85朔望 回旋 [−5:2005/10/30(日) 20:42:10 ID:2Bui4NFB0

お互いから噴き出した汗と体液でベトベトになりながら、それでも二人はずっとベッドで抱き合っていた。
離したくない、と語っているような手足が無意識に絡み合う。
荒い吐息も、蒸れた匂いも、気だるい身体でさえ、今は失いたくない大切な瞬間だった。
慈しみ、求め合う。身体の繋がりだけでは物足りない。心同士が結びつく共感こそ、渇望していたものだった。

例えばふと、悠人が頭を動かす。それだけで、
「……雨、止んだみたい、ですね」
ファーレーンが小さく囁く。些細な仕草だけで、二人は互いを理解出来るような気がしていた。


二人が店を出たのは、もうすっかり日付が変わってしまった頃だった。
雨の上がった夜空には、どこかへ流れていってしまった雲の代わりに無数の星が瞬いている。
悠人はまだ歩き辛そうにしているファーレーンを気遣いながら、ゆっくりと城の方角へと向かった。
ひょこひょこと内股でついてくる姿をみていると、なんだか悪い事をしたような気がしてくる。
「ごめんな、ちょっと乱暴だった。最後の方はなんだか訳が判らなくなっちまって……」
照れ臭い事もあって、がしがしと頭を掻きながら弁解する悠人。
しかしファーレーンは静かに首を振り、静かに空を見上げた。つられて悠人も上を向く。
月が、鮮やかな輪郭を浮かび上げていた。やや蒼みがかった清冽な美しさを醸し出している。
じっと眺めながら、ファーレーンは詩いだした。

  ――サクキーナム カイラ ラ コンレス ハエシュ
      ハテンサ スクテ ラ スレハウ ネクロランス――

悠人は黙って耳を澄ましながら、そっとその手を取った。
強く握り返してくるファーレーン。寄り添う影が、月に照らされていた。
86名無しさん@初回限定:2005/10/30(日) 20:42:17 ID:wdhwoppV0
ヤバ、自分の作品どころぢゃねぇw
支援支援
87朔望 lagrima T:2005/10/30(日) 20:43:55 ID:2Bui4NFB0

 §〜聖ヨト暦331年スリハの月黒よっつの日〜§

…………ん。何か聞こえる。…………扉の、開く音。
すっと気配。お姉ちゃんの気配。ふん、起きてなんてやるもんか。
こんな遅くまで、なにやってたのよ。ニム、ずっと待ってたんだから。

ふわっ。

…………あれ?お姉ちゃんじゃ、ない?……ううん、お姉ちゃん。
髪の撫で方も、この気配も絶対にそう。間違う訳無い。なのに……何で? 何で「匂い」だけ違うの?
これは…………ユート? ユートの匂いがお姉ちゃんに混ざってる…………?


 ――――――そっか。これが、そうなんだ。


お姉ちゃんは、温かい。いつもの、優しいお姉ちゃん。それに……ちょっとだけ。
ちょっとだけ、ユートの匂いも悪くない。混ざった匂いも悪くない…………感謝しなさいよ、ユート。
ニム今眠いから、だから許してあげるんだからね。お姉ちゃんが好きだから、許すんだからね…………
88朔望 volspiel Z:2005/10/30(日) 20:45:00 ID:2Bui4NFB0

 §〜聖ヨト暦332年ルカモの月緑ふたつの日〜§

「……それで宜しいのですね、ファーレーン」
「……はい。自分で決めたことですから」

帝国との戦いの火ぶたは切られたばかり。法皇の壁を攻略する部隊が、次々とケムセラウトへと向かっている。

「…………わかりました。イノヤソキマの調査を命じます」

そんな中、情報部へと飛び込んできた報告。
あの『剣聖』と謳われたミュラー・セフィスがダスカトロン大砂漠の端、イノヤソキマで見かけられたという。
探索し、招聘出来れば、彼女の存在は今後ラキオスにとって、大きな追い風になるだろう。
ただ、戦力を大きく割く訳にはいかない。命令は、一般兵士に授けるつもりだった。

「……感謝します、レスティーナさま」
跪いたまま、それだけを告げてくるファーレーン。感謝されるまでもなく、申請は許可するしかない。
彼女が名乗り出てくるのは、しかし、ある意味意外でもなんでもなかったのだから。

「……成果を期待しています」
だから、それだけしか言えなかった。立ち去る背中が辛く、寂しそうに見えて。
89朔望 回旋 \−1:2005/10/30(日) 20:47:15 ID:2Bui4NFB0

 §〜聖ヨト暦332年ルカモの月緑ひとつの日〜§

「時は来ました……。我がラキオス王国は、神聖サーギオス帝国に宣戦を布告します」
レスティーナの宣誓に、周囲がどっと沸く。
「あらゆる困難を乗り越えてきた私たちならば、必ず理想を実現できるでしょう。最後の戦いです」
時勢に乗った指導者というものは、時に魔力的な力を発揮する事がある。
今のレスティーナが、正にそれだった。“理想”を具体的に語っているわけではない。
しかし聴く者は、それぞれに都合の良い、何か現状を打開するすばらしいものをそこに勝手に描き出し、
言葉の意味を考えずに戦いに遵奉する。それが、真摯な心からの言葉なら尚更だ。
レスティーナとしては、その声に応えて軽く後押ししてやれば良い。
意地悪く見れば、それだけの現象。しかし、そんな事とは関係無く、レスティーナ自身が影響力を持つのは間違い無い。

そうして最後に、若き女王は締めくくった。
「皆さん、私に力を貸してください」
うおおーー! 重臣や兵士の間から、どこからともなく湧き出す歓声。
レスティーナはそれらの一つ一つに、丁寧に手を振り、応えた。

そんな様子を、悠人はやや複雑な気持ちで眺めていた。
どうしても、高台でのレムリアの笑顔が思い出される。髪を解き、悲しそうに呟いた一言も。

 ――――もっと、レムリアでいたかったな……

芝居がかった仕草に却って無理を感じ、冷めていく頭。
戦いが終われば、きっと佳織も戻ってくる。瞬とも決着が着けられる。
レスティーナによる「理想」も、実現に向けて大きな一歩を踏み出すだろう。
それでも悠人は何故か素直にこの開戦を喜ぶことが出来なかった。
そっと、振り返る。じっと俯いたまま動かないファーレーンが何かを考え込んでいるようだった。
90名無しさん@初回限定:2005/10/30(日) 20:48:47 ID:wdhwoppV0
期待支援
91朔望 回旋 \−2:2005/10/30(日) 20:50:11 ID:2Bui4NFB0

 §〜聖ヨト暦332年ルカモの月緑ふたつの日〜§

エーテルジャンプにより、再びケムセラウトの地を踏んだ悠人達は、そこから続く一本の道を行軍していた。
既に左右に巨大な翼を広げるような、『法皇の壁』が迫ってきている。
途中、林の中で小拠点の帝国軍とぶつかったが、さほどの抵抗も無く撃破出来た。
悠人自身自覚が無かったのだが、『因果』と『空虚』を取り込んだ『求め』は強大な力を有し始めていた。

「パパ凄っご〜い! 敵さんあっという間にやっつけちゃったよ〜!」
オルファリルが、感激しながら抱きついてくる。
「とと……ん? そうか?」
「はい。とても強い力を『求め』から感じます。……ユートさま、大丈夫なのですか?」
神剣の力が強ければ強いほど、その強制は厳しいものになる。
それを言っているのだろう、エスペリアが心配そうな顔で悠人を伺う。
「ああ、何だろうな。最近は頭痛もないしバカ剣も大人しいもんだよ……ん? どうした、アセリア」
一人じーっと悠人の顔を黙ってみていたアセリアが、少し首を傾げながら、
「ん。ファーレーンが帰って来たおかげか?」
ぴきっ。たった一言で、場を凍らせていた。

あの夕立のあった次の日。何故か悠人とファーレーンの仲は、もう部隊の中で知れ渡っていた。
特に、一緒に行動している訳でもない。何かを話している訳でもなかった。
大体彼女の方が恥ずかしがって、前より深めに被った兜のせいでよく顔も見られない位。
それでも女の勘というものなのか、そういう事は、察するらしいのだ。
それが集団で発揮されれば恐ろしい尾ひれと伝達力を持つ。そんな訳で二人は既に公認の仲になってしまっていた。

たまたま側にいたネリーに訊ねてみると、
「だってバレバレだよ?」
物凄くシンプルに返されてしまった。子供といっても馬鹿には出来ない、そう実感する悠人だった。
それ以来、一ヶ月。
ファーレーンはヒエレン・シレタの調査とかで旧マロリガン領へと出かけていたが、
取り残された悠人だけは何か事あるごとにからかわれ続けていた。
92朔望 回旋 \−3:2005/10/30(日) 20:54:03 ID:2Bui4NFB0

「あ〜、なっるほど〜♪」
何が嬉しいのか、納得して飛び跳ねるオルファリル。
アセリアの言葉は説明にも何もなっていないのだが、強く否定も出来ない。
「…………」
無言のまま、やはりそうなのですか、と言わんばかりのエスペリア。
悠人は居心地の悪さを誤魔化すように、背中を向けた。
「……さ、さて、そろそろ行くか!」
「ユート、まだ後続が追いついていない。それに、陽も暮れかけてる」
「う……」
確かにこのまま『法皇の壁』に突撃しても、どうしようもない。今つれてきているのはこれで全員なのだ。
元々偵察がてら先行していたら、意外な悠人の力により敵を突破し、気づいたらこんな所まで来てしまっていた。
それに陽が暮れれば、ブラックスピリットの力が増大する。無理をする意味は全く無かった。
「ではここで、休息を兼ねて食事にしましょう。オルファ、手伝ってね」
「うん!ごっはん〜ごっはん〜♪」
むすっと事務的な動作で去っていくエスペリアと、お気楽そうにについていくオルファリル。
二人が行ってしまうと、アセリアと二人っきりになってしまった。悠人は試しに小声で文句を言ってみた。
「……あのな、アセリア。あまりそういう事は言わないでくれ」
「ん? 何のことだ?」
「…………はぁ」
やはりというか、そんな返事。判っててやってるのかそれとも天然なのか。悠人は頭を抱えた。
アセリアが不思議そうに首を傾げていた。
93朔望 回旋 \−4:2005/10/30(日) 20:55:37 ID:2Bui4NFB0

 §〜聖ヨト暦332年ルカモの月緑みっつの日〜§

一時ラキオスに帰ってきた悠人は、エスペリアの報告が終わるまでの間、暇つぶしに街に出てみた。
通りがかる人々が、必ず振り返る。しかしその視線には、以前のように怪訝な様子が少しも感じられない。
(前は嫌われてるって思ったものなのにな)
色々な人に話しかけられる。子供が『求め』に触りたがり、慌てて頭を下げてくる母親。
「ああ、構わないよ……ほら」
「うわー! ありがとう、勇者さまっ!」
「こら……すみません、ありがとうございます」
「いや、そんな。お礼を言われるほどのことじゃ」
照れながら、ふと気づいた。あれ程苦手だった大人達。見ず知らずの大人に、こんなに自然に接していることに。

高台に辿り着いても、まださっきの驚きが頭から離れなかった。
あんなに周りが信用できず、獣のように警戒していた筈なのに。油断が出来ず、敵のように身構えていた筈なのに。
(こうなったのも、レスティーナのお陰だろうか)
戦いを通じ、結果守ってきた街。その人々が、自分という異分子を受け入れようとしてきている。
そしてそれはきっと、自分が頑張ってきた事のささやかな結果も含まれているのだろう。
「そっか……俺、認められてるんだ……」
最初は、ただ佳織を守りたいだけだった。
それがいつの間にかスピリット達へと広がり、そうして今は、この街をも守りたいと思っている。
自分から否定しているから、相手からも否定される。相手を認めれば、自分も認められる。
そんな当たり前の発見に、今更喜びを感じる自分に思わず苦笑が漏れた。

  ――ユートくん、この街、好き?

「…………ああ!」
澄み渡る空を眺めながら、今度こそはっきりと頷くことが出来た。
94朔望 回旋 \−5:2005/10/30(日) 20:56:28 ID:2Bui4NFB0

 §〜聖ヨト暦332年エハの月青ふたつの日〜§

帝国領に進行して早10日。ようやく陥とした『法皇の壁』で、
悠人は味方の損害状況を確認しながら、ふと治療に当たる緑の少女に声をかけた。
「ニム、どうだ?」
おかっぱ頭が声に反応して振り向く。ややむすっとした調子で、
「なんだユートか……知らない、まだ帰ってこないし」
怪我の回復具合を訊いたのだが、どうやら毎日浴びせられる質問を繰り返されたと勘違いしたらしい。
悠人は苦笑して言い訳をした。
「違うよ、ファーが何か別の任務でいないのは判ってるからさ。そうじゃなくて、治療長引きそうか?」
「…………紛らわしい。大丈夫、ニムが治療してるんだから」
ぽう、と緑色のマナが傷口に吸い込まれ、軽く出血していた場所が塞がっていく。
どうやら怪我自体大したものでもない様子だった。
「へぇ……。上手くなったなぁ」
「また馬鹿にして……ニムだってこのくらい出来るんだから」
そうふくれながらも、まんざらでもないらしい。シールドハイロゥが一層輝き、忠実に主人の感情を表していた。
呼応して、治る速度が急速に上がっていく。見事に展開されるウインドウィスパ。
元々防御系だったそれを、どうやら自分なりに改良したらしい。
ハリオンを師匠にして頑張ったらしいが、中々の上達ぶりだった。
「ところで……どうしてそのハリオンが、ニムに治療を受けているんだ? 自分でやれるだろうに」
「んふふ〜、これはぁ、試験なんですよぅ〜。それにぃ、他の方にしてもらうと、気持ちよくてぇ〜」
「…………そうか。それじゃ俺は行くから」
絶対に後半が本音だな、と思いながら、悠人はその場を後にした。

外に出て、空を見上げる。戦いに勝利しながら、どこか物足りなかった。
今ここにいて、一番話したい相手がいない。
ファーレーンがいきなりいなくなるのは今に始まったことではないが、慣れるようなものでもなかった。
情報部の仕事だと後でレスティーナが教えてくれたが、今回も本人から知らされなかったのは何気に辛い。
「……まずはリレルラエル、か」
無理矢理気を引き締めてみる。戦いは、始まったばかり。月が、優しく見守っていた。
95名無しさん@初回限定:2005/10/30(日) 20:57:02 ID:wdhwoppV0
支援はここで!
96朔望 volspiel [:2005/10/30(日) 20:58:39 ID:2Bui4NFB0

 §〜聖ヨト暦332年ルカモの月黒ひとつの日〜§

何となく外の空気を吸いたくて出てきた王宮の庭。そこでユート君を見つけた。
辺りをきょろきょろと落ち着かない様子で歩いている。誰かを探しているのだろう。
それが誰なのかは簡単にわかったけど、ちょっとイジワルがしたくなった。
「ユート。このような時間にどうしたのですか? 」
「…………陛下。外の空気を吸いに出てきただけです」
振り向いた時、一瞬落胆した表情に、少しむっと来た。相変わらず鈍感な所は直っていない。
……でも言い訳が自分と同じだったので、特別に許すことにする。澄まして、
「そうですか。……ユート、少し時間を下さい」
庭の中へと誘った。

「良い夜ですね。月の光が私達に力をくれる。そのように感じます」
空を見上げながら、溜息を隠す。もう、私達は砕けた口調では会話が出来ない。
そう決めたのは自分自身。別々の道で、それぞれの生き方。それでも、寂しさは募っていく。
「……ユート、戦いには慣れましたか?……剣を持つ、その意味を理解しましたか?」
「戦う理由はあるよ……でも、殺す理由にはなっていない気がする」
いきなりの質問にも、ちゃんと即答してくれる。回転の速さから、いつもそれで悩んでいるのだと判る。
97朔望 volspiel [:2005/10/30(日) 20:59:24 ID:2Bui4NFB0

「特に最近は、そう思うよ」
“最近は”を強調するその言葉に、変に勘ぐってしまうのは考えすぎなのだろうか。
「私には戦う理由があります。……人は、血を流さなくてはなりません。罪を償う為には同等の痛みが必要なのです」
真似をするように、“人”を強調した。でもきっと気づいてはくれないだろう。
最初からスピリットを人と同じに見てきた、ユートくんは。……そんな所も好きだった。
「正しい、正しくないではありません。時は、繋がっています。私が女王としてここに居る事も」
そうして私は悪戯っぽく、くすりと笑う。ちょっとだけ皮肉を込めて。
「ユートがカオリを救う為に戦っている事も…………今、ファーレーンを探している事も」
「…………へ?」
「くす……心配なのでしょう? 彼女が。ファーレーンは今、別の任務についています。ここには居ません」
「い、いや俺は別に……」
「隠さなくてもよいのです。いずれ人とスピリットが結ばれる……そんな未来を、私は望んでいるのですから」
面白い位に動揺するユートくんに、私はやっと自分の考えが間違ってなかった、そう心から思えた。
98朔望 nocturn Z:2005/10/30(日) 21:01:45 ID:2Bui4NFB0

 §〜聖ヨト暦332年エハの月青ふたつの日〜§

様々な情報が錯綜し、それが纏まった結果、この探索の目的は失われてしまった。
多分再会、ともいえるのだろう事を半ば楽しみにしていたわたしはラキオスへと歩き出す。
エーテルジャンプを使うことも出来るのだけれど、今のわたしにはこれも“訓練”だった。
月だけが照らす暗闇の中、森の道を北上する。方向感覚だけが頼りの道行。
踏み固められた地面の感触を失わなければ、街道からはぐれる事も無い。
『月光』を使えば少しは鋭敏になるのだが、もう出来る限り使いたくは無かった。

「月と夜の加護……ふふ、ブラックスピリットで良かった」

良く晴れた夜。一人ごちながら、優しいあの人の笑顔を思い出していた。
99朔望 lagrima U:2005/10/30(日) 21:02:37 ID:2Bui4NFB0

 §〜聖ヨト暦332年エハの月赤みっつの日〜§

あれから、どれ位経っただろう。それでもお姉ちゃんは何も言わない。
ユートの態度もそれとなく観察してるけど、何の変化も無い。
お姉ちゃんもお姉ちゃんだ。
どうして隠すのだろう。どうして避けるように、別の任務に就くんだろう。
離れて、寂しくは無いのだろうか。ニムは……寂しい。
寂しいから、こんなの間違ってるってわかる。だから、もうそろそろ限界。
お姉ちゃんが間違ってるなら、ニムが直す。……それがニムの役目だから。
100朔望 回旋 A−1:2005/10/30(日) 21:04:08 ID:2Bui4NFB0

 §〜聖ヨト暦332年エハの月赤ひとつの日〜§

連日続く敵の反攻に、悠人は閉口していた。
リレルラエルを占拠して、もう4日。飽きることなく、敵の大群が押し寄せてくる。
おかげでスピリット隊は、誰一人ラキオスに帰還して一時休息する事も出来ずに、その対処に追われ続けていた。
「エスペリアっ! どうだ、西のほうは収まったか?」
「申し訳ありません、ウルカがまだ余力のあるアセリアと敵の炎を防いでいますが……」
「わかった、俺もすぐ行く!」
「はい、ではわたくしは東に!」
「ああ、頼むっ!」
悠人は叫びつつ、城の通路を駆け抜けた。
そう、やっかいさはその数だけではなかった。敵のレッドスピリットが放つ、不思議な神剣魔法。
誰も知らなかった詠唱で紡がれるそれが、強力すぎてシールドハイロゥでは防ぎきれない。
初日に遭遇したハリオンがあっという間に瀕死に追い込まれて運び込まれた時、悠人は初めてその存在を知った。

  ――――アポカリプス。

それは、今までの神剣魔法の概念を覆すものだった。その場にいる部隊全体に、襲い掛かる炎の雨。
その威力も桁違いだが、それが空から一斉に降り注いでくるのだ。
ただし、それだけなら例えばアークフレアとなんら変わる所は無い。
今までもなんとか耐えることが出来たし、バニッシュでも対応できた。
ただ今回遭遇した新しい神剣魔法には、唯一違っている特徴があった――“雷を纏っている”という点で。

今日子の雷撃もそうだったが、発動してからそれを防ぐのは難しい。
文字通り電撃の速さで到達する魔法は、容赦なく防御力を削り、抵抗力を奪っていく。
悠人がレジストを張って、ようやく何とか堪えられる程度。
まともに受ければ抵抗力の低いグリーンスピリットなど、ひとたまりも無い。
唯一の救いは詠唱が長い事で、何度か試してみた結果、ネリーやアセリアのバニッシャーが通用する事が判明した。
そこでその使い手がいる部隊には悠人とアセリア達ブルースピリットが当たることとなったのだが、
その分だけ彼女達の負担は増大した。悠人にしても、城の東西を何度往復したかわからない。
何せ敵は攻撃地点を選べるのである。予測が出来ない以上、出現してから対応するしかなかった。
101名無しさん@初回限定:2005/10/30(日) 21:04:52 ID:wdhwoppV0
ことごとくを支援する
102朔望 回旋 A−2:2005/10/30(日) 21:05:08 ID:2Bui4NFB0

倒しても倒しても現れる敵に、既に力尽きたシアーとセリアは休息中である。
疲れきった彼女達はエスペリアが戦いの合間を縫って回復させていたが、それももう限界だった。

「アセリア! どうだ!」
「ん。間に合った……アイス、バニッシャー!!」
圧縮されるマナが、急速にその温度を下げていく。凍結寸前の塊が、振り切られた『存在』の先で弾け飛んだ。
熱の発生源が一気に沈静化される。詠唱の途中で固まったレッドスピリットにウルカが殺到した。
「ハァッ! 雲散霧消の太刀っ!」
フォローに回ろうとするブラックスピリットより、ややウルカの動きの方が速い。
僅かの差だったが、それがスピリットの戦いでは常に明暗を分けた。切り刻まれ、マナに還る赤髪の少女。
「おおっ!」
それに呼応して、ブラックスピリットに背後から斬りつける。
『求め』の白銀に輝く刀身が、敵をあっという間に消滅させた。

「はぁはぁ……ん?」
ようやく息を付き、辺りを見回す。周囲の敵が、一斉に引き下がっていった。
「……そうか、やっと夜、か……」
どうやら今日も、なんとか防げたらしい。隣で、アセリアが肩で息をしていた。
「ふぅ……でもユート。このままじゃ……まずい」
「ああ、判ってる。……明日、だな」
「やはり攻めるしか、ありませんか……」
二方面に、勢力を割く。無茶ともいえるこの考えに、ウルカは難色を示した。
しかし、他に方法は無い。このままでは、防戦だけでジリ貧なのは目に見えていた。
「……ああ。このままじゃ、キリが無い。アセリアだってもう、バニッシャーを唱えるのには飽きただろう?」
無理矢理に冗談にして、その場を紛らわせる。
「ん?…………ん。飽きたかも」
判っているのかいないのか、アセリアはこくりと頷いていた。
103朔望 回旋 A−3:2005/10/30(日) 21:06:22 ID:2Bui4NFB0

 §〜聖ヨト暦332年エハの月赤みっつの日〜§

サーギオスには、マナの活発な地域が多い。
特にトーン・シレタと呼ばれる森に近づく程、周囲のマナが密度濃く満ちているのが感じられるようになった。
リレルラエルからの反攻を開始した悠人達は、その森を前方に見つつ、ゼィギオスへと向かっていた。
途中辿り着いたセレスセリスという小さな村で休息をとり、更に南に向かう。
メンバーは、セリア、ヒミカ、ナナルゥ、ヘリオン、ニムントール。
一方シーオスを経てサレ・スニルに向かうエスペリアが率いる部隊には、
アセリア、ウルカ、オルファリル、ネリー、シアー、ハリオンと、どちらかといえば慎重に進める構成。
悠人達の進撃速度を考慮して、確実に拠点を抑える事の出来る主力メンバーを選んでいた。

ゼィギオスとサレ・スニルから東西呼応してユウソカへ向かう。
ウルカから得た情報を鑑みて、一番効率の良い方法に思えた。だが、敵も考えている事は一緒だった。
一気にゼィギオスを陥としたい悠人達の部隊の方へ、敵の主力は殺到したのだ。
レッドスピリットの全体攻撃魔法を主体とし、ブラックスピリットが足止めの様な攻撃を繰り返す。
単調な戦闘に、悠人は次第に焦ってきた。遠目に、『秩序の壁』が見える。
あの向こうに佳織がいると思うだけで、気持ちばかりが先走ってしまう。
そしてその焦りが、あの男にとっては格好の標的になった。

ざわざわと何だか気味の悪い静けさに包まれた森の中を、悠人達は駆けていた。
ようやくセレスセリスでの戦いを終え、ゼィギオスへと急ぐ。
「……待ってください」
その途中で、先行していたナナルゥがぴたりと足を止めた。
104朔望 回旋 A−4:2005/10/30(日) 21:09:49 ID:2Bui4NFB0

「どうかしたの?ナナルゥ」
すぐ後ろについていたヒミカが不思議そうに訊ねる。ナナルゥは黙ってその先を示していた。
隣に立ったヘリオンが、さすがに呆れたように呟く。
「…………川、ですね」
「ご丁寧に橋を壊して下さるなんて、ね」
ヒミカの背後から覗き込んだセリアが、悔しそうにちっと小さく舌を鳴らした。
「なんだ、どうした……うわ、酷いなこりゃ」
「呑気に驚いてる場合じゃないでしょ、どうするのよ、コレ」
一目見て素っ頓狂な声を上げた悠人の脛に、ニムントールが軽く蹴りを入れた。

ようやく追いついた悠人達が見たもの。それは、幅数十メートルほどで左右に横たわる、細い清流。
そして、橋桁の根元辺りに辛うじて痕跡を残し、完膚なきまでに叩き壊された石橋の残骸だった。

ぱしゃっ。
「ん……これならなんとか渡れそうです、ユートさま」
水深を確かめようと足を踏み入れたヒミカが、振り返って判断を仰ぐ。
「そうだな、どっちみちここを通らなきゃゼィギオスには行けないんだし」
悠人は頷いた。元々選択肢などなかった。

「全く何で普通に渡れる川の橋をわざわざ壊していくんだか……」
「嫌がらせじゃない? ニム達に勝てないもんだから」
「……そんな理由で橋を壊したんだとしたら、敵も相当子供っぽいわね」
「冷たっ……ムカつく」
文句を言いながら、めいめいに川を渡り始めた。確認し、悠人も流れに気をつけながら足を浸ける。
水深は大体膝の辺り。ただし小柄なヘリオンとニムントールは腰まで水に浸かっていた。
「まぁまぁ、それより足元に気をつけろよ、流されたらしゃれにならない……ん?」
その時だった。

―――果たして子供っぽいのは、一体どちらでしょうかねぇ

どこかから、不気味な声が聞こえたのは。
105名無しさん@初回限定:2005/10/30(日) 21:11:02 ID:jqi8uBqJ0
支援
106朔望 回旋 A−5:2005/10/30(日) 21:11:25 ID:2Bui4NFB0

「その声……ソーマかっ!」
「っ!……ユートさま、川がっ!」
「……なっ!」
悠人が叫ぶのと同時に、川面が凍り始める。
四方から放射される冷気が、びきびきと音を立てて吹き上げる波飛沫ごと川を凍らせていた。
「これは……アイスバニッシャー!?」
異変の発生した足元に、咄嗟にウイングハイロゥを広げようとして間に合わなかったセリアが狼狽の声を上げる。
「嘘っ……動け、ないっ!」
「ふぇ〜ん、こっちもですぅ〜」
「……行動、不能」
あちこちで動けなくなるスピリット達を嘲笑うかのように、川底までが白く固まっていった。

そうして川全体が完全に凍りつき、ようやく冷気の放出が収まる。
「くっ、こんなもの……マナよ、燃えさかる炎となれ、雷の力を借りて突き進め……」
「だめよっ! そんなことしたら味方まで巻き込まれるっ!」
苛立たしげにライトニングファイアを唱えようとしたヒミカを、セリアが必死に止めていた。

「くっくっく……いいざまですねぇ、勇者殿」
「くっ……ソーマ、貴様……っ」
忍び笑いと共に、周囲に複数のスピリットを付き従えながらソーマ・ル・ソーマが現れる。
川岸に立ちながら愉快そうに見下ろすソーマを、悠人は歯軋りをして睨みつけるしかなかった。
107名無しさん@初回限定:2005/10/30(日) 21:12:01 ID:wdhwoppV0
ソーマ来た?支援っ!
108朔望 nocturn [−1:2005/10/30(日) 21:12:27 ID:2Bui4NFB0

 §〜聖ヨト暦332年エハの月緑よっつの日〜§

まだざわめいている人並み。その中にユートさまの気配を感じ、思わず隠れてしまった。
後手に縛り付けたままの男が軽く呻き声を漏らす。
「しっ……静かに」
まだ燻ぶっている建物の影で、『月光』の刃先を喉元に突きつける。
暫くして、ユートさまの気配は遠ざかっていった。
「くっ……妖精の分際で、このようなことが許されるとでも……」
「貴方にそのような事を言われる筋合いはありません。今更このような扇動をして、なんになるというのですか」
更迭された、「元」重臣。追われ、行方不明になっていた彼は、意外にもこんな所で見つかった。
「扇動……扇動だと? では親愛なる女王陛下が今なさっている事とは一体なんだというのだ?」
「…………」
「大陸中を巻き込み、一体何を考えておられるというのだ!……まぁそのような事、只の道具には答える事叶わぬか」
「…………っ!!」

りぃぃぃぃん…………
109朔望 nocturn [−2:2005/10/30(日) 21:13:21 ID:2Bui4NFB0

くく、と喉の奥で笑いを堪える彼に、瞬間的に殺意が湧いた。『月光』の強制が頭痛を呼び起こす。
そんな様子を察したのか、彼は震えながらも気丈に喋り続けた。
「殺したいか?……そうだろう、お前達妖精は、正にその為の道具。世界にとっては歪んだ存在なのだからな」
「っっ違います!貴方のような考えの人がいるからわたし達は戦いに……」
「何が違う? お前達の中に、戦う意味があるとでもいうのか? 戦い以外に何も知らぬ、人形のようなお前達に」
「…………」
「忌まわしき妖精よ、良く聞け。この世界は「人」のものだ。……共存?ハッ、笑わせるな」
「…………」
「これだけは言っておく。妖精などがいなければこんな争乱など起こらなかったのだ、とな」

ぎっ。口の中が、破れた音。全身が、震えと怒りで染まっていく。『月光』の強制力が、ぐっと弱まった。
少し。ほんの少しだけ力を入れれば、この不愉快な存在はこの世から消え去る。そんな衝動が駆け抜ける。
(…………ユートさまっ!!)
必死に名前を呼んで、耐えた。少なくとも自分には、戦う意味がある。それを懸命に思い出す為に。
やがて鎮まっていく、鼓動。流れる汗を拭い、冷静な声を出すように努めた。
「否定するだけの貴方に理解してもらおうとは思いません……ただ、このように」
通りの方に顔を向ける。未だに聞こえて来る、怒号、悲鳴、泣き声。
「同じ“人”をあてつけの為だけに巻き込んでしまった貴方に、戦う意味などと語る資格はあるのでしょうか」
自らを投じて戦う覚悟。覚悟を問うだけの価値がある、守りたいもの。

「貴方には…………守りたいものは、ありますか?」

問いかけに、ついに答えは返ってこなかった。
110朔望 volspiel \:2005/10/30(日) 21:14:43 ID:2Bui4NFB0

 §〜聖ヨト暦332年エハの月緑いつつの日〜§

「私たちは未来のため、この大地のために戦っています。
 多少の犠牲でそれが実現できるなら、それを厭いはしません。其方に処分を下します。
 罪無き者を巻き込んで復讐を実行した事、目を瞑ることは出来ません……死をもって償うべし」

言いながら、心は今にも泣き出しそうになっていた。
多少の犠牲? 何を言っているのだろう、私は。
既に償い切れない程の罪を犯し、なおここに立っている者が。
自ら刃の下に、一度も身を晒した事のない者が。硝煙の匂いも閃光の煌きも知らない者が。
こうして臆面もなく、そんなことを語っている。
罪無き者を巻き込んでいるのは、正に自分ではないか。
「陛下、それはあまりに……」
「黙りなさい! エトランジェ如きが口を挟む問題ではありません!」
「…………!!」
諦めたような溜息をついて下を向くユートくんの表情が辛かった。

「…………連れて行きなさい」
潰れそうな心が放った声は、意外にも殊更冷たいものになっていた。
111名無しさん@初回限定:2005/10/30(日) 21:15:42 ID:wdhwoppV0
支援よーいっ!
がんばれー
112朔望 回旋 B−1:2005/10/30(日) 21:16:22 ID:2Bui4NFB0

 §〜聖ヨト暦332年エハの月赤みっつの日〜§

悠人達の足回りは、完全にその自由を奪われていた。
ヒミカやセリアが何とか身を捩って抜け出そうとしているが、氷はびくともしていない。
動けないでいる彼女達をざっと見回しながら、ソーマはゆっくりと手の杖を持ち上げた。
「おやおやこれは大変そうですねぇ。そのままじゃ風邪を引いてしまいます。私が楽にして差し上げましょう」
ざっ、とソーマの周囲で旋風が舞い上がる。
同時に動き出した妖精部隊は、しかし何故か悠人を除く残りの仲間達だけに殺到した。

「な……一体」
自分の脇を次々にすり抜けていく妖精部隊。悠人は一瞬何が起きたか判らなかった。
ソーマは依然としてにやにやと笑みを絶やさず、じっと蛇のように悠人を観察している。
その瞳に宿る狂気の意志を悟った時、悠人は叫んでいた。
「……っ止めろぉぉぉーーっっ!!」
ぴたり。
悲鳴に、満足そうなソーマの杖が再び上がり、同時に妖精部隊の剣がそれぞれラキオス隊の喉先で止まった。

「ソーマっ! 貴様……どういうつもりだっ!!」
「おやおや、口の利き方には気をつけた方がいいですよ……ほら」
ざくっ。
「ぐっ!!」
「ヒミカっ!!」
びびっと川面に張られた氷の上に、鮮血が飛び散る。
ソーマの顎がひょいと上がった途端、ヒミカは肩口を軽く引き裂かれていた。
113朔望 回旋 B−2:2005/10/30(日) 21:17:41 ID:2Bui4NFB0

「だから言ったでしょう?人の話は素直に聞くものです」
「ユートさま……私は、平気ですから」
顔を顰めながらも、気丈にも目配せしながら微笑みさえ見せる。
悠人はヒミカに頷き、そしてソーマをもう一度睨みつけた。
「ククッ、いい顔です。わざわざ足を運んだ甲斐があるというものですよ、勇者殿」
「……目的は、なんだ」
「目的……? そうですねぇ、あなた方に少々減らされすぎた“道具”の補充、それと……」
悠人の殺気を籠めた声にも、風を受け流すような涼しげな態度を崩さないソーマ。
品定めをするようにヒミカ達を順番に舐め回していた視線が、余裕の口ぶりと共に悠人に戻る。
「許せないのですよ、私は。エトランジェという存在が。永遠神剣を振るうだけでいとも容易く常人を越える力……」
だんっ!
「そんなものが世界を動かしている! この、スピリットという便利な道具を使ってね!」
興奮してきたのか杖を力強く地面に叩きつけ、ぐいっと傍らの虚ろに佇む顎を乱暴に摘み上げる。
悲鳴も上げず大人しくされるがままになっている少女に、悠人は歯軋りした。

「はぁ、はぁ……私はね、壊したいのですよそんな世界を……
 そうそう、目的でしたね。そういう訳で、勇者殿。貴方を、是非私自身の手で殺したくなったのです」
かつんかつん、と氷を響かせながら、ゆっくりと近づいてくるソーマ。
下手に逆らえば仲間達が危ないと、悠人は吐き出すように呟いた。
「……頼む、仲間達は、見逃してくれないか?」
「……ふ、ふはははははっ!……言い忘れてました。私はそういう甘っちょろい考えが、一番嫌いなのですよ」
腰に下げていた剣を、振りかざす。
「ご安心ください。貴方を殺した後、彼女達にはたっぷりと差し上げますよ……快楽と、絶望をね」
そう告げる瞳は、すっかり恍惚に曇りきっていた。
114朔望 回旋 B−3:2005/10/30(日) 21:19:11 ID:2Bui4NFB0

「ユートっ!!」
ニムントールの合図に、ヒミカとナナルゥが同時に氷から飛び出す。
「……なっ!」
突然の事態に、ソーマは目を見開いた。

「長話もいいけど―――」
「―――時と場所は選ぶべきでした」
ヒミカとナナルゥが突き破った氷の壁。その奥で、未だヒートフロアが燻ぶっていた。
「手加減、無しですっ!」
真っ先に飛び出したヘリオンがウイングハイロゥを展開し、猛然と敵に突っ込む。
ラキオスでも屈指の速さを誇る彼女がたちまち一人を斬り伏せている間に、
ヒミカとナナルゥがニムントールやセリアを救い出していた。

「なっ!」
ソーマは、自分の迂闊さを呪う暇も無かった。
時間をかければ破られる事は、ある程度想定していた事態。しかし破られても、自分の“道具”が容易く殺す筈。
そこまで計算しての罠は、あっけなく食い破られてしまった。誤算は、ラキオススピリット隊の力を見誤った事。
動きを見せなった事に安心し、“命令する”のが間に合わなかった。彼女達を過小評価していた自分の油断だったのか。
木偶の坊のように倒されてしまった“駒”。そんな思考がただぐるぐると頭を回る中。
「どこを……見ているっ!」
「エ、エトランジェ……グフッ!」
どすっ。杖を振りかぶったままろくに抵抗も出来ず、ソーマは『求め』に深々と刺し貫かれていた。
115名無しさん@初回限定:2005/10/30(日) 21:20:20 ID:wdhwoppV0
退く理由は無い
力を出し切れ…支援
116朔望 回旋 B−4:2005/10/30(日) 21:24:04 ID:2Bui4NFB0

吐き出した鮮血が宙へと迸る。苦痛に顔を歪めながら、紡ぐ呪詛。
「どこまでも……忌々しい……」
密着した頭の上で、弱々しい声が聴こえる。悠人は『求め』を突き出したままの体勢で、それを聞いていた。
「貴方のような『素人』に殺されるとは……クク……なんという、茶番、でしょうか……」
握った『求め』から、ソーマの感情がその過去と共に入ってくる。それが悠人に衝撃を与えていた。
エトランジェだった祖父。自らを鍛え、血の呪縛から逃れようと限界に挑戦し、もがき足掻く姿。
どんなに極めても、それを軽々と凌いでしまう、スピリットという存在。それらの矛盾、葛藤。
「ソーマ……」
やがて絶望し、憎むことで自らを慰める。そんなソーマにとって、エトランジェとは許される存在では無かった。
「私は認めない……勇者殿……龍の爪痕の向こうで……かはっ……お待ち、しておりますよ……」
最後に呪いのような言葉を吐き、ぐらり、とソーマの身体が揺らぐ。悠人は身を離した。
激しい水音を立てて、ソーマ・ル・ソーマは川へと飲み込まれていった。

「ユートさま……終わりました」
遠慮がちに、セリアが声をかけてくる。
「あ、……ああ」
気を取り直して振り返ると、既に川を渡りきった仲間達の背後で水面がきらきらと金色に輝き出していた。
混血の証。ただ一筋、ソーマの流した鮮血の赤だけを残して。
117朔望 回旋 B−5:2005/10/30(日) 21:25:08 ID:2Bui4NFB0

森を抜けながら、悠人はじっと自分の手の平を眺めていた。
本来剣というものは、その体得に膨大な時間と絶え間ない修練が必要になる。
純粋に高みを目指そうとすれば、ひたすらそれのみを考え、振り続けた先にようやくその本質が見えてくるもの。
元々ただの学生で、剣など授業で竹刀を触った程度の知識でもそれがどんなに険しいものかはおぼろげにだが判る。

「……ユート、どうかした?」
「あ、ああ……なんでもない」
隣を並んで走るニムントールが、あっそ、と興味無さそうに呟き前を向く。
悠人は適当に答えながら、更に手を見つめ続けた。
なんの変哲も無い、ただの手。豆一つ出来ていない、節々が鍛えられている訳でもない関節。
あの光陰でさえ、分厚い皮で覆われた無骨な手の平をしていた。
「素人」。言われなくても判る。訓練、と言われてもどこか『求め』だけに頼っていた自分。
自分自身の肉体を鍛える、その事に真面目に取り組んだ事があっただろうか。
強くなりたい、力が欲しい。本気で努力をして、それを得ようとしていただろうか。

「……黙っていられると気持ち悪い」
そんな様子に、ちらちらと横目で観察していたニムントールが堪らず前に飛び出した。
声に顔を上げた悠人は、ようやく通せんぼをするように腰に手を当てうーっと唸っているニムントールに気づく。
「うわ、何だよニム、どうかしたか?」
「……何考えてるのか知らないけどさ」
上目遣いで睨みつけてくる、クロムグリーンの瞳。その視線がどこか落ち着かない。
「そんな顔してちゃ、お姉ちゃんに嫌われるよ。……ニムはそれでも構わないけどね、全っ然」
“全然”の部分を強調し、すぐにぷいっと背中を向けて歩き出す。悠人は一瞬あっけに取られ、そして
「…………ぷっ」
軽く噴き出した。ファーレーンを引き合いに出す意味は不明だが、それでも励ましてくれている事は伝わっていた。
「ファーは関係無いんだけどな……さんきゅ」
小さく呟く。何も問題は解決していない。それでも、何故か重い心の何かが少し吹っ切れた気がした。
118朔望 nocturn \:2005/10/30(日) 21:26:28 ID:2Bui4NFB0
 §〜聖ヨト暦332年チーニの月青みっつの日〜§

湿った、重い空気が重ねた歴史となって肩に圧し掛かってくる。
冷たい空間に時折響く、雫が滴り落ちる音。断続的に石床を弾く水滴。
崩れかけた壁にそっと手を触れれば、ひんやりと硬い感触が返ってくる。
ミライド遺跡。そこはダスカトロン大砂漠の中央にひっそりと残された、廃墟のオアシスだった。
どれだけ歩いたのか。灯りも無く、複雑な迷路のような狭い通路を手探りで進む。
そうして距離感も掴めないまま辿り着いたその先に、求める者はいた。

「ほう……ここが判ったのか。クォーフォデにでも聞いたか」
殷々と落ち着いた声が遺跡に響き渡る。調子に、突然の来訪者に動揺する気配など微塵も無かった。
「…………お久し振りです、『剣聖』ミュラー・セフィス様」
「ふん、ここに来れたという事は、シーオスはラキオスの版図に還ったか。……いよいよだな」
「いよいよ?」
「それで? ただ再会を喜ぶ為にここまで“辿り着けた”訳では無かろう?」
「…………っ!」
思わず息を飲む。全てを見透かされたような感覚。答える声に震えが走る。
「ラ、ラキオスの使者として参りました。……お願い致します、是非わたし達の訓練士として……」
「断る。そんな通り一遍の誘いに興味は無い。もう一度問うぞ。“お前は”何をしに来たのだ?」
ごくり、と喉が鳴る。予想もしなかった問いかけ。それは暗に、“あの時”の返事を促していた。
「…………信じる為に。自分の心を信じられるだけの強さを、信じる為の教えを請いに来ました」

「………………」
重苦しい沈黙。何かを測るような、鋭い視線が全身に突き刺さる。呼吸も忘れ、ただ晒される時間。
やがてゆっくりと融かされていく氷のような空気が、ふいに軽くなった。
「…………ふっ、いいだろう。まだ寝惚け眼(まなこ)のお前をはっきり目覚めさせるのも面白い」
「?……あっ、それでは……!」
「ああ、何れにせよ龍の蓋が活きている間には片をつけなければならないからな」
「……?」
「行くぞ、もう恐らく時間は僅かしか残されてはいまい……もっとも時間など、お前次第ではあるがな」
「は、はいっ!」
言葉の端々を気にしている暇は無い。颯爽と立ち上がる気配に従い、歩き出す。無明の闇を照らす太陽の元へと。
119朔望 回旋 C−1:2005/10/30(日) 21:27:40 ID:2Bui4NFB0

 §〜聖ヨト暦332年チーニの月青いつつの日〜§

気づけば、ここに来ていた。楽しい想い出が沢山詰まっている、数少ない場所。
素直に、ただ“レムリア”として居られた場所。今は人気も無い冷たい石造りの床にそっと腰を下ろす。
淡く月明かりで照らされたベンチは寒々としていて、とても座る気がしなかった。
膝を引き寄せ、顔を埋める。冷え切った体は、それでも少しも温まらなかった。

「やっぱり、ここだったんだな」
来てくれると思っていた。そんな予感がしていた。
『運命』なんかじゃなくて。『偶然』でもなくて。
会いたかったから。こんな時には来てくれるんじゃないかなと思っていたから。
「あ……ユート、くん…………」
でも、顔を上げられなかった。
辛くて。逃げ出して。でも甘えた何かを期待して。そんな自分が情けなくて。悔しくて。
そうして――――泣いている自分を見られたくなくて。
「レスティ……いやレムリア、帰ろう。みんな待ってる」
「…………やだ」
レスティーナ、と呼びかけたユートくんに、意地になって。
120名無しさん@初回限定:2005/10/30(日) 21:27:53 ID:wdhwoppV0
ミュラーさん来たーー!
支援〜
121朔望 回旋 C−2:2005/10/30(日) 21:28:26 ID:2Bui4NFB0

「みんな死んでいっちゃうの……そんなの、もう見たくないのに…………
 でも……悲しくても、辛くても、私は平然としているの!
  ……涙が出ないの! 泣きたいのに…………全然、涙が出ないの!」
膝を抱えたまま、抑え切れないまま吐き出していた。全てをぶつけていた。
ごめんね、そんな言葉を飲み込んで。甘えて、それでも拒絶するような声色しか出せずに。
「…………ダメなの……レスティーナは、泣けないの。
 だから私はレムリアとして泣くの……そうしないと、悲しさも解らないから……」
そうしていつの間にか、自分に言い聞かせるようになってしまった口調。
ふいに黙って聞いてくれているユートくんが、本当にそこにいるのかどうか、不安になった。

「ユートくん……もう私……ダメだよ。このまま続けることなんて、出来ない……そんなに強くないんだよ。私って」
とめどなく溢れる自嘲。そんな私に、たった一言だけの声がかかる。
「ごめん」
ぴくっ、と肩が震えた。どうして? 何故ユートくんが謝るの?
「気がついてやれなくて、ごめん…………自分を責めないでくれよ。レムリアが悪いわけじゃないんだ」
もう一度、すまなそうな声。私は思わず顔を上げていた。
122朔望 回旋 C−3:2005/10/30(日) 21:29:26 ID:2Bui4NFB0

頭の中は、もうぐちゃぐちゃだった。
混乱した感情が渦を巻いたように様々な色を帯びて制御も出来ずに、
「私の命令で、スピリットたちがみんな死んでいっちゃうんだよ……?」
「次の命令では、ユートくんだって死んじゃうかも知れないんだよ……?」
「自分が悪くないなんて……そんなの、思えないよ!」
「ユートくんのことだって、ずっと騙してた……」
秘めておこうと思っていた、そんな気持ち。そんなものまで、口にしていた。

「一緒に居たかった!私が、私だって判れば、みんな白い目で見るに決まってる!
 女王の私は人殺しなんだもん……だから……ユートくんにも嫌われちゃう……それが……嫌だったの」
「レムリア……」
反乱に巻き込まれた人達。首謀者に処刑を言い渡した自分。
「父様のこと……憎んでた。それに、母様のことも」
自分に刺され、微笑みながら目を閉じた父。父に殺されたも同然の、姉のようだったアズマリア。
「カオリちゃんにヒドイことをして……ユートくんにもヒドイことをさせた」
剣を握る事を強制させられたユートくん。それをさせた、自分。
「エスペリアやアセリアだって、私にとっては大切な友達のはずなのに……」
戦いに死んでいく、スピリット達。共存を謳いながら、自分だけは安全な場所にいる。
「そんな友達を使って殺し合いさせて……それなのに偉そうにして、座ったままで笑ってた」
 
 ――――わたしは貴女を信じます。

ファーレーンはそんな自分の何を信じたというのだろう。こうして、抜け駆けみたいに甘えている私の何を。
「…………最低だよ」
押し潰されそうな心が、悲鳴を上げていた。
123朔望 回旋 C−4:2005/10/30(日) 21:33:28 ID:2Bui4NFB0

困ったような顔をしているユートくんが、
「そんなことない……レムリアと俺たちは仲間だ! 一緒に戦っているじゃないか!」
そう言ってくれても、信じられなかった。
「ううん……私って嘘がうまいから。ユートくん騙されちゃったんだよ」
俯き、呟く。そんな捻くれた言葉しか出てこなかった。
だけど、ユートくんはそれでもまだ私を励ましてくれた。

「レムリア……この街、嫌いか?」

いつかここで探るように訊いてみた懐かしい問いかけを、逆に返して。

「え……?」
再び、顔を上げる。月明かりが、ユートくんの優しい瞳に映し出されていた。
「俺は、好きだ。守りたい、本当にそう思ってる。だから、レムリアに命令されているなんて思わないよ」
許されようとしている。今ユートくんは、私を許してくれようとしている。
「ここで逃げても、戦いは無くならないよ。レムリアもそれが判ってるから、今まで戦ってきたんだろ?」
そんなの、ダメなのに。罪は、償わないといけないのに。
「どっちだっていいよ、レムリアでもレスティーナでも。騙されちまったんだからな。だから―――」
こうして逃げてしまった私が、与えられるものではないのに――――

「――――だから、騙され続けてやる。少なくとも俺は、そんなレムリアを信じてるから、さ」
「……っユートくんっっ!!」
耐え切れなかった。そんな優しい言葉をかけられて、耐えられる訳がなかった。
気づいた時には、思いっきりその胸に飛び込んでいた。

「好き……大好き…………」
初めて顔を埋めた、男の人の胸。驚いたのか、ユートくんの鼓動がとくとくと早く伝わってくる。
心地良い響きに安心した途端、口から思わず零れていた。絶対に、言ってはいけない一言が。
124朔望 回旋 C−5:2005/10/30(日) 21:34:23 ID:2Bui4NFB0

『わたしは貴女を信じます』
一瞬、はっと身が強張る。ファーレーンの顔が思い浮かんだ。
彼女がユートくんをどう“想って”いるのかはとっくに気づいていた。だからこそ、距離を置いていたのに。でも。
(ごめん、ファーレーン。今だけ、今だけだから……)
頭の中で、懸命に謝った。それでも、私も好きだから。気持ちだけは、伝えたいから。
しがみついた指が、ぎゅっと強くユートくんの服の裾を握る。指がこれまでにないほど震えていた。
肩に優しく触れる、ユートくんの手。私は目を閉じ、そっと顎を上げ――――

「そうか、良かった。なら大丈夫だよ。大好きな街を守るため、それでいいじゃないか」
「…………はい?」
「俺なんかも、いつも悩みっぱなしだよ。だけど、みんながいるから戦える、もちろん、レムリアも」
「………………」
「もっとも俺の悩みなんかレムリアの苦労に比べれば……っておい? なに笑ってるんだ?」
「ぷっ……くっ……な、なんでもない……」
豪快な、勘違い。さっきまでの緊張は一体どこへ行ってしまったのだろう。普通怒る場面だよね、これって。
……でも、呆れる前に噴き出してしまった時点で私の負けだ。底抜けに前向きな、そんな彼が好き“だった”のだから。
こんな勇気の貰い方は、きっともうないだろう。吹き抜けた風は、ものの見事に想いを吹っ切らせてくれていた。
「おっかしいなぁ。俺なんか笑える事言ってたっけ……」
「……ユートくんっ!」
ちゅっ。
「……へ?」
だから、頬に少しだけ。少しだけの感謝と、親愛を籠めて。
「な、なななななっ……レムリア!?」
「ありがと! 私、頑張ってみるよ。だからもう……レムリアじゃなくて、レスティーナだよっ!」
「お、おい……」
くるりと背を向けて、笑い涙を隠す。そっと手を当てた唇が、まだ熱かった。
もう、迷う事はない。こんなにも自分を認めてくれている人が、一緒に守ってくれると言ってくれたのだから。
125名無しさん@初回限定:2005/10/30(日) 21:34:32 ID:wdhwoppV0
三角関係か?
支援
126朔望 minnesang V−1:2005/10/30(日) 21:35:35 ID:2Bui4NFB0

 §〜聖ヨト暦332年アソクの月赤よっつの日〜§

 ――――誓いは偽りか……求めを砕くのだ……――――

「クッ……五月蝿いな……なんだよ、一体これは……」
最近、聞こえ始めた声。だんだん大きくなってくるそれは、激しい頭痛と共に頭の中を強烈に掻き回す。
断続的に襲ってくる錐のような痛み。なにより命令口調が不快以外の何物でも無かった。

キィィィィン…………

「ガッ、アァァッ!!……はぁっ、はぁ……」
感じる。ヤツが、近づいてきているのが。感じる。僕の邪魔をしようとしているのを。
許さない。許さない。僕の邪魔をするのは。“世界”の邪魔をするのは。
「ククク……ソーマも死んだか……」
いいだろう。確かめてやる。ヤツが、どれだけの力を持っているかを。
それを見極めた上で、佳織の前でなぶり殺しにしてやる。それでいいのだろう、『誓い』…………。
127朔望 minnesang V−2:2005/10/30(日) 21:36:35 ID:2Bui4NFB0

「お兄ちゃんはあなたに無いものを持っている……それはとても大事で、絶対に必要なもの」
初めてだった。そんな目で見られたのも、そんな強い口調で責められたのも。
「他人を思いやって、他人のために悩んで……他人のために傷つくことが出来る! あなたに……それが出来るのっ!?」
「ぼ、僕は……優れている! 優れた人間は他人なんか必要としない! 僕がアイツより能力があるって証拠なんだよ!」
「そんなの関係ないっ! どれだけ能力があっても、私は秋月先輩より、お兄ちゃんがいいっ!!」
「……っ、黙れっ!!」
「きゃっ!…………あぁ……うぅ……う゛っ!!」

――――僕は、何をしている?指先が柔らかく温かいなにかに沈み込んでいる。
    すぐ近くに、くぐもった声。良く知っている声。これは……佳織?!

キィィィィン…………

手が、離れない。縛り付けられたように、思う通りに動かない身体。
(嘘だろ……佳織、冗談だよ、なぁ……)
朦朧としてくる意識。甘いクリームのような誘惑が僕の心をどこかへと引きずり込もうとしている。
このまま堕ちてしまえば、どれだけ楽だろう。そんな甘美な霧のような支配力。だがこのままでは、佳織が。
「お、ぉ……お兄ちゃんは、あなたになんか……負けない! 負けないんだからぁっ!!」
「……っ!!」
引っ張り上げてくれたのは、皮肉にも佳織の拒絶の言葉だった。一瞬自由になった腕で、咄嗟に突き飛ばす。
これ以上掴んでいたら、何をするか判らなかった――――“自分の身体が”。そしてそんな事よりも。
「そうか……そうだな……アイツがいるからいけない。この『誓い』の言う通り、アイツも、消滅させればいいんだ」
やっと判った。頭の中の霧がすっきりと晴れ渡る。どうして今まで気づかなかったんだ、こんな簡単なことに。
「そうだ……アイツとあの剣が僕の邪魔をしてるんだ…………くそっ、剣はひとつじゃなきゃならないのに」
周囲が赤く染まっていく。『誓い』の刀身が光り輝いていた。
128朔望 nocturn A:2005/10/30(日) 21:37:38 ID:2Bui4NFB0

 §〜聖ヨト暦332年アソクの月赤いつつの日〜§

きん!
高い金属音が、石造りの壁に反響して細かく震える。『月光』から伝わる衝撃に痺れる手。
「――――シッ!!」
鋭い攻撃は、相変わらず容赦が無い。流れるような一連の動作が、最初から完成されている舞踊のよう。
時折織り交ぜられている蹴りや手刀、回り込むフットワーク。それらが風になり、岩になって襲い掛かる。
「そらそら、『守る』なって言っているだろう!!」
目を閉じ、必死になって気配を追う。耳から入ってくる音などは何の役にも立たない。
聞こえた時には届いている攻撃しか飛んでは来ないのだから。
(落ち着いて…………)
しかも目を閉じるだけではなく、『月光』の力を解放する事さえも禁じられている。
五感の中で頼れるのは、ただ自分自身で感じ取れる気配のみだった。
「……そこっ!!!」
微かに寒気にも似た感覚のある、左後方へと半歩下がりつつ振り返る。ぐっと接近する熱。
鞘から滑らせた『月光』はその体温へ向けて、ひゅん、と硬い音を立てて風を斬った。しかし。
「ふん……まぁまぁだな」
つまらなそうに呟く声。驚いた事に、その声は正面から聞こえた。また、駄目だった。諦めかける心。しかし。
「いいだろう。まだ未完成だが……自得するのもまた道の一つだ」
掛けられたのは、優しい一言。自分でも呆れる位待ち望んでいた言葉。堪らず、動いていた。
「ありがとうございます!ミュラー様!」

ひゅん――――

「おいおいサマはよせ……ん?」
誰も居なくなった訓練場に、ミュラーは呆れた。誰の気配もない廊下の奥を見つめる。
「この短期間で『一貫』を……よほど大事とみえる。自分の力を信じる、か。ふふ、私には到底無理な事だがな」
それは、どこか楽しそうな響きを含んでいた。首筋に当てた手の平から、つーと一筋鮮血が零れる。
剣が触れた筈も無いそこから、やや焦げ付いたような匂いの『月光』の残滓が金色に立ち込めていた。
129名無しさん@初回限定:2005/10/30(日) 21:38:48 ID:wdhwoppV0
やっぱり鈍感へタレでしたw
支援
130朔望 回旋 D−1:2005/10/30(日) 21:42:29 ID:2Bui4NFB0

 §〜聖ヨト暦332年アソクの月緑ふたつの日〜§

それは、ふいにやって来た。
ユウソカを陥落させ、秩序の壁を目前にしたリーソカの街。そこで悠人は何かの気配に、がばっと飛び起きた。
窓の外を見る。暗い。夜明けまでにはまだ時間がありそうだった。

きぃぃぃぃん…………

「……ぐっ!」
激しく頭痛が突き刺さる。『求め』に言われるまでも無い。悠人は羽織を取り、窓から飛び出した。
臨時の詰所すぐ脇にまで迫る森の中を駆け抜ける。間違いない。『誓い』がすぐそこまで来ていた。


「遅かったな……もっと早く来るものと思っていたのにさ。待ちくたびれちゃったよ」
気配を隠そうともせず、瞬が呟く。その側に震えるような人影を確認した時、悠人は殆ど吼えるように叫んでいた。
「瞬!! 貴様ァァ!!」
「お……お兄ちゃ……ん……?」
驚き、大きく眼を見開いたまま瞬の側から逃げて来ようともしない佳織。その意味を考える事も無く。

がきぃぃん!!!

鈍い音と共に、蒼い火花と紅い閃光が飛び散る。お互いの意地がぶつかり合った一撃は、僅かに悠人が優っていた。
しかし気障なそぶりで肩の埃を払うかのような仕草を見せ、一度飛び退いた瞬は余裕の表情で呟く。
「ふん……その程度か」
そしてすっと差し出した『誓い』が佳織の方を向き、その剣先から流れた赤いオーラが佳織の首を拘束する。
「あぐっ……ぅ、ぅぅ…………」
絞り出すような悲鳴が耳に届いた時、悠人の頭で最後のリミッターが外れた。
131朔望 回旋 D−2:2005/10/30(日) 21:43:42 ID:2Bui4NFB0
「やめさせたきゃ、本気をだせよ。僕を殺すために全力で来るんだ! そうすれば……」
最早、瞬が何を言っているのか判らなかった。獣の様な原始的な本能だけが体中を支配する。
「お前が僕を殺せば佳織は助かる。僕がお前を殺しても佳織は助かる」
――――五月蝿い。悠人の小さな呟きに、『求め』は迅速に反応した。青白い刀身がより一層輝く。
「ほら、どっちにしろ佳織は助かるし、どっちにしろ決着は着くんだ。一番良い方法がこれなんだよッ!」
「ぉ……お、兄ちゃ……ん……くぁ……」
陶酔しきっている瞬の隣で佳織が膝をついた。まだだ、もう少し。臨界は、すぐそこだった。
「大切な佳織をこんな目に合わせたお前を……僕は殺す!」
瞬の瞳が紅く染まる。その眼光を跳ね返した瞬間、体中の筋肉が弾けたような気がした。

「死ねぇぇぇぇぇ!! 死ねっ! 死ねよ、お前っ! 佳織の前で惨めったらしく死んでしまえぇぇっっ!!」
「死ぬのはお前だ……うぉぉぉぉぉっ!!」
渦を巻く思念がそのまま『求め』と『誓い』に集中する。動き出したのは僅かに悠人が先だった。
オーラの竜巻を飲み込んで一回り大きくなった『求め』が瞬の頭上に振り下ろされる。
青白く燃え上がるように繰り出されたフレンジーは、寸分違わず瞬の頭を叩き潰そうと正に“殺到”した。
「…………ちぃっ!」
踏み込みが浅かったと判断した瞬が危険を感じ、瞬間オースを防御に切り替える。
あっという間に編みこまれ、所々蛇の舌のような動きを見せる奇妙な紅いシールドが『求め』を迎え撃った。

ガゴッッ!!

鈍い音が森中に響き渡る。一枚の壁を挟んで、『求め』と『誓い』の波動が一層強烈に盛り上がった。
「ぐぉぉぉぉっ!!」
「あぁぁあぁぁぁっ!!」

――――ざしゅぅぅぅ…………

「くっ……!」
悠人の、『求め』の怒りが瞬と『誓い』の執念を僅かに上回っていた。
『求め』がシールドを打ち破り、瞬の肩を掠める。苦痛に顔を歪め、よろめく瞬。
「塵となって、消えろぉぉぉぉッ!!」
悠人の止めの一撃が、叫びと共に振り下ろされる。決着は、そこで着く筈だった。
132朔望 回旋 D−3:2005/10/30(日) 21:44:44 ID:2Bui4NFB0

「なっ…………」
「良かった……佳織も僕も死んじゃいけない……二人とも助かるには、この方法が一番だった」
「瞬……お前は……っ!!」
刃先は、瞬に届いてはいなかった。到達する直前、悠人は全力でそれを止めていた。
そう、“盾代わりに瞬の前に引き出された、佳織”の眼前、僅か数センチのところで。
「う、く…………」
握る手が、ぶるぶると震える。比喩ではなく、悲鳴を上げる筋肉。血管が破れ、所々血を噴き出している両腕。
無理矢理に止めた『求め』が異常に重たい。欲求に逆らったせいか、耳鳴りのような頭痛がひっきりなしに頭に響いた。
目の前の佳織と一瞬目が合う。その怯えたような震えを感じた時、既に冷静さを取り戻した瞬が振りかぶり――
「やっぱり僕は正しかったぁぁぁっっ!!!」

 ――――ザシュッ

叫びながら突き出した『誓い』は、悠人の脇腹深くにざっくりと沈み込んでいった。

どくん。
深く沈んだ意識の奥で、何かが聴こえる。引き摺り込まれる海の底。
息苦しさに思わず伸ばした腕の先に白い姿が浮かび上がった。小さな背中がゆっくりと振り向く。
「お兄ちゃん……」
「佳織……佳織っ!!」
酷く悲しそうな表情。縋りつく目つきが、ふいに突き放すような仕草に変わる。歪んだ口元から言葉が漏れる。
『……佳織はちゃんと気づいてるじゃないか。お前が、恐ろしい殺戮者だって事にさ』
「なに…………違う!! 聞いてくれ佳織、俺は殺す気なんか……」
『へぇ……よく言う。私利私欲のためにスピリットを殺し回ってる奴が。所詮お前も偽善者なんだよ』
『あのレスティーナとかいう女王気取りのバカ女と同じだ。大義名分を掲げて、その影では何をしている?』
「俺はっ!!!」

がばっ。
「ユ、ユートさま?!……気が付かれましたか?良かった…………」
「ファー、レーン……夢……?」
見慣れた天井が、目にぼんやりと映っていた。
133名無しさん@初回限定:2005/10/30(日) 21:46:06 ID:wdhwoppV0
二本同時読みはキツスw
支援
134朔望 回旋 D−4:2005/10/30(日) 21:47:12 ID:2Bui4NFB0

 §〜聖ヨト暦332年アソクの月緑みっつの日〜§

「気が付きましたか? ユート」
「あ……レム……痛っっ!」
「駄目です、まだ動かれてはっ」
「ファー、それにレ、スティーナ……俺、一体……」
悠人はまだはっきりしない頭を抑えながら、周囲を見た。机に置かれた、エスペリアが飾ってくれている花。
白いカーテンの掛かった窓枠。淡く輝く灯火。心配そうに覗き込んでいる二人。そして……見慣れた天井。見慣れた自室。
「ラキオス……なのか?」
呟きに、並んでじっとこちらを見ていた二人が目配せし、そして同時に頷いていた。
「ファーレーンが見つけて、エーテルジャンプでここまで運んだのです。よくお礼を言っておくように」
多少のからかいを含めてか、悪戯っぽく命令口調で睨みつけるレスティーナ。
そのわざとらしい態度に、ファーレーンの方が兜の奥で赤くなって縮こまってしまっていた。
「そ、そんなわたしは別に……その……」
「ふふ、いいではないですかファーレーン。こういう時にびっとしないと殿方はつけ上がりますよ」
「いや、そんな事はないから。……ありがとう。また助けられたな、ファーには。いつも助けられてばっかりだ」
「え、え……あの、その…………ウルゥ…………」
俯き小さく呟いたまま動かなくなってしまったファーレーンに、悠人とレスティーナは顔を合わせ、少しだけ笑った。
135朔望 回旋 D−5:2005/10/30(日) 21:48:29 ID:2Bui4NFB0

暫くしてファーレーンに看病を命じ、所用があるとレスティーナは出て行った。
落ち着かなさ気に、それでも頷いたファーレーンと二人きりになったとたん悠人は難しい顔をして黙り込んでしまう。
「そうだ……俺、あの森で瞬と……」
思い出すように、じっと手を睨む。ようやく思い出してきた感情を押し殺したような声に、ファーレーンは眉を顰めた。
「ユートさま……感情に押し流されては、ただ力を欲するのと何も変わりがありません」
「ファー……判ってる、判ってるけど……」
そっと手が重ねられる。どこかひんやりと冷たいファーレーンの小さな手が、今は心地良かった。
「大切なのは力を得ることではなくて、守る為の力……そうですよね?」
「……ああ、そうだな。少し眠って頭を冷やすよ。それでいいだろ、ファー……」
ファーレーンがこっくりと頷くのを確認するや否や、悠人の重い瞼は閉じた。泥のような眠りだった。
136朔望 回旋 D−6:2005/10/30(日) 21:49:00 ID:2Bui4NFB0

 §〜聖ヨト暦332年レユエの月赤よっつの日〜§

悠人の傷が癒える頃には、既に月が変わっていた。
その間にリーソカを出発したラキオス軍は、何故か撤退を始めた敵を追い散らしながら秩序の壁を突破する。
報告を聞きながら居ても立ってもいられずに立ち上がろうとした悠人を、その度にファーレーンが抑えた。
いくらエトランジェとは言っても、グリーンスピリットが戦いの合間を縫って治癒するだけでは回復も遅い。
「今行っても、ユートさまは何のお役にも立てません……もう少しの辛抱です」
珍しく頑固にぴしゃりと跳ね付けるファーレーンに、悠人はしぶしぶと従うしかなかった。


そうして約二週間後。
悠人は付きっ切りで看病をしていたファーレーンと共にリーソカへとエーテルジャンプで跳んでいた。
迎えに来たエスペリアにその後の報告を受ける。ラキオス軍は既にサーギオス首都を包囲していた。
「そうか、なら急がないとな」
「はい、ユートさま。…………ファーレーン、大丈夫なのですか?」
「? 俺なら大丈夫だって。な、ファー」
「え、ええ。……エスペリアありがとうございます、もう心配は要りませんよ」
「それならいいのですけど……」
にっこりと微笑むファーレーンとは対照的に、まだ困った様に口元に手を当てて考え始めるエスペリア。
二人の間に流れる雰囲気が微妙に気まずくなった。悠人は首を傾げながら、
「さ、行こう。みんなが待ってるんだろ?」
「……判りました。でも、無茶はなさらないで下さい」
不安そうなエスペリアの背中を押すように、歩き始めていた。

 ―――――――――

歩き始めた悠人の後ろで、エスペリアがファーレーンに囁きかける。
「わたくしは、人の身でスピリットに近づけた人を知っています……」
「……はい」
「ファーレーン、貴女は……必ず守りなさい。どうかわたくしの様にはならないように」
「エスペリア……ありがとう」
137朔望 minnesang W:2005/10/30(日) 21:50:02 ID:2Bui4NFB0

 §〜聖ヨト暦332年アソクの月緑ふたつの日〜§

今回のは、本当に危なかった。もう少し“自分”を取り戻すのが遅かったら、佳織を死なせるところだった。
アイツに止めを刺そうとした時、よぎったあの影。見たことも無い、陽炎のような動き。
くすんだ蒼緑のような髪の残像しか見えなかったが、確かにスピリットだった。
悠人を殺せなかったのは惜しかったが、別の意味で助かったのかも知れない。
まだ、こめかみの辺りがずきずきと傷む。肩の痛みは大分癒えたが、それでも震えは止まらなかった。

 ――――怖い。

こんな感情は初めてだった。傍らの『誓い』を覗き見る。力をある程度放出したせいか、今は沈黙している刀。
ぼんやりと赤い光を放つそれを見ても、もう心強さは感じられなかった。あるのは恐怖。……これが、恐怖。
失う。全てを手にしていたつもりで、たった一つ得られなかったモノは、こんな感情をも含まれていたのか。
肩を抱きすくめる。傷口に触れたが、その痛みは却ってしがみつく細い糸となった。
誰もいない王座。たった一人の王座。そんな寂しさにはもう慣れている。だが、しかし。
「佳織……佳織を、僕が殺すっていうのか……」
口に出すだけで戦慄するような現実。平気で『誓い』を振るっていた自分に身震いがする。
この先、『誓い』を使い続ければ、いずれ結末は一つ。そんな簡単な予想は覆えしようがない。
しかし今更引く訳にはいかなかった。引けばこの世界で、ただ一人生きていかなければならない。
力を失い、佳織を奪われ。元いた世界にも戻れずに、惨めったらしく足掻く。そんな事にはとても耐えられない。

キィィィィン…………

どこで間違えたのか、思い出すのが難しかった。かつて、自分のいた世界を振り返るのですら。
「誰でもいい……僕を止めてくれ…………」


渇望するものを「得る」事の無かった瞬は、当然「失う」事もまた無かった。
――――――そんな、求める以上は当たり前の怯え。
ひっそりと静まり返った部屋の空気が、そして『誓い』がそんな怯えを美味そうに吸い込んでいった。
138朔望 Eine kleine nachtmusik Y:2005/10/30(日) 21:51:04 ID:2Bui4NFB0

 §〜聖ヨト暦332年レユエの月青ふたつの日〜§

一瞬で何も見えなくなった筈なのに、何故かファーレーンさんだと判った。
すごくしなやかで、すごく速くて。
まるで敏捷な野生の黒豹のように、ファーレーンさんはお兄ちゃんを助けに来てくれた。

うつ伏していたベッドの隅で、指がフルートに触れる。
そっとその表面をなぞった。あの日、二人で話をしたのを思い出す。
お願いします、そう言った私に、ファーレーンさんは困ったように微笑んでいた。

 ――――酷い事を、言ったのかも知れない。

無理を承知で頼み込んだ事が、ファーレーンさんの負担になってないかと心配だった。
でもお兄ちゃんを助けてくれた時のファーレーンさんは、覆面越しに微笑んでいた。
あの日と同じ、少し困ったような顔で。
だから私は頷き返していた。今、私はお兄ちゃんの側に居られないから。
その分までって言っちゃいけないのかもしれないけど。それでも託せる人が目の前にいたから。

「お願いします……支えてあげて下さい……」
こんな世界で。必死で戦い続けているお兄ちゃんを。
139名無しさん@初回限定:2005/10/30(日) 21:51:15 ID:wdhwoppV0
ふう…妄想さん凄いや…
ピンク色のパッションで支援
140朔望 alleluia:2005/10/30(日) 21:52:25 ID:2Bui4NFB0

 §〜聖ヨト暦332年レユエの月緑ふたつの日〜§

「いよいよだな……」
サーギオスの重たい城壁を見上げながら、悠人は呟いた。
野外に布陣していたサーギオス軍を駆逐し、遂にここまで瞬を追い詰めた。
救い出そうとしている佳織もすぐそこに居る。後は決着を付けるだけ。それでレスティーナの理想も大きく前進する。
高まっていく周囲の緊張感に押されるように、気持ちが逸る。握り締めた『求め』が汗で湿っていた。
『誓いを砕け……契約を果たすのだ……』
城に近づく程に煩い『求め』の声。込み上げてくる謂れの無い憎しみの感情に、悠人は興奮気味に怒鳴った。
(静かにしろバカ剣! お前が欲しいのは『誓い』であって、俺を乗っ取る事じゃないだろ?!)
きん、と激しい共鳴音。
(心配しなくても、契約なんか無くても俺は瞬と決着をつける。それでいいな、バカ剣!)
『…………ふん』
命令されて面白くないのか、それきり『求め』は沈黙した。ただ、その響きに笑いが含まれていたのは気のせいだろうか。
「……まあいいか」
「何がですか? ユートさま」
悠人が一人ごちていると、隣に立ったファーレーンが不思議そうに訊いて来た。
その視線はサーギオスの城壁を見つめたまま、時折吹く風に髪を抑えながら兜を被る。
「ん、何でもないよ。とっとと片付けて早く帰ろう。そうしたら……」
「…………そうしたら?」

 ――――皆さん、これまでの戦い、ご苦労でした……

「お、レスティーナの通信が始まったな」
「ええと……ユートさま?」
悠人は少し照れ臭そうに、ファーレーンの肩を抱いた。いつもの、森の匂いが心を落ち着かせてくれた。
『私は願います。これが最後の戦いになることを――――――』
その背から、マナ通信によるレスティーナの宣誓が高らかに聴こえていた。

 ――――人の未来のために。スピリットの未来のために。そして……この世界の未来のために――――
141朔望 回旋 E−1:2005/10/30(日) 21:53:28 ID:2Bui4NFB0

 §〜聖ヨト暦332年レユエの月緑ふたつの日〜§

『全軍、行動を開始せよ!』
レスティーナの鋭い一言と共に、ラキオススピリット隊は一斉に城へと雪崩れ込んだ。
基本的に三人一組になり、それぞれの進攻ルートを突き進む。
城の内部の情報は、ウルカが教えてくれていたものとほぼ変わらなかった。
そこから敵の迎撃位置を割り出したのはエスペリアである。ラキオス軍はそれらを次々と押さえていった。

悠人達主力は、真っ直ぐに瞬達のいる皇帝の間へと突き進んでいった。エスペリアが訊ねる。
「ユートさま、『誓い』はどこに……?」
「…………こっちだ! 行くぞっ!」
気配を探るまでも無い。即座に答えられる。
接近するほどに高まる瞬と『誓い』の気配。悠人はその憎しみの感情を敏感に感じる事が出来た。

やがて辿り着いた巨大な扉の前。悠人は一度振り向いた。
エスペリアにアセリア、オルファリル。今まで主力で戦ってきた仲間達が一斉に頷く。
頷き返して悠人は『求め』を高く振りかざした。
「タァァァァァァァァッ!!」
一閃。扉はあっけなく粉砕された。


「あーあ……また僕たちの邪魔をしにきたのか。せっかく、佳織の為に止めを刺さないでおいてあげたのに」
赤い絨毯と古い西洋風の建造物。そしてせせら笑う瞬の声が、悠人達を迎えていた。

「だめっ! お兄ちゃん……来ちゃだめぇっ!!」
「! 佳織ぃっ!!」

きぃぃぃぃん…………

瞬の隣で怯えるような視線を向ける佳織の姿を確認したとたん、悠人の目の前は真っ赤に染まった。
やり場の無い怒りと憎しみが心の奥底から噴出する。『求め』が溢れんばかりの光を放出していた。
142朔望 回旋 E−2:2005/10/30(日) 21:54:46 ID:2Bui4NFB0

「お兄ちゃんっ! だめだよっ、はやく逃げてっ!!」
「……大丈夫だ、佳織。俺は前の俺とは違う……それに、今は仲間もいる」
頭痛をやり過ごし、心を必死で引き戻す。呼吸を整え、悠人は『求め』を握り直して佳織に微笑みかけた。
それを黙って聞いていた瞬がふん、と鼻で笑う。
「ふふ……弱い奴ほど群れたがる。弱いから仲間なんてものを頼らなきゃいけないんだ」
「そうさ……俺は弱いから仲間を頼る」
「…………なに?」
あっさりと認める悠人に、瞬の口元から笑みが消えた。不審気に睨みつける。悠人は構わず続けた。
「もう……俺一人で背負おうなんて、そんな思い上がりはやめたんだ」
向こうの世界でただがむしゃらに一人で背負おうとした自分を悠人は思い出していた。
自らの限界も見極められずに無理をし、それが却って佳織の負担になっていたと、今なら判る。
この世界に来て学んだ事。得たものは、そんな気負いなど失って余りある物だった。

「自分一人でなんでもやろうなんていうのは、ただ周りの人間を信用してないだけだ……お前みたいにな」
そう、以前の自分のように。だけど、今は違う。思い浮かぶ、ロシアンブルーの後ろ姿。
龍の言葉。ダーツィ王の台詞。高台で蹲って泣いていた少女。死んでいった光陰や今日子から託された約束。
そして今も、見守ってくれている仲間達。悠人は一度深呼吸して、瞬に向きなおした。
「俺はお前と同じようにはならない。俺は仲間と共に……仲間の力を借りてこの無意味な戦いを終わらせる」

「……もういい。さっさと死んでくれ!」
悠人の何か吹っ切れたような落ち着いた口調に、瞬は呆れるように溜息をつき、それから激昂した。
軽々と抜き放った『誓い』を片手で構え、腰を低く落とす。赤い魔法陣が周囲に浮かび上がった。
「くっ……バカ剣!」
オーラフォトンを撒き散らす瞬に対して悠人も『求め』の力を解放した。青白い剣先を持ち上げる。
広がりだす二つの魔法陣。ぶつかり合った接点が赤と白の火花を激しく散らした。
143朔望 回旋 E−3:2005/10/30(日) 21:55:46 ID:2Bui4NFB0

「決着をつけてやる……悠人ォッ!!」
先に動いたのは、瞬だった。先日の戦いで不覚にも防御に走った、その記憶が右腕を突き動かす。
オース。『誓い』最大の技。刀身にありったけの憎しみや怒り、全ての怨念をぶつける。
剣に力を吸い取られるような、そんな脱力感の中でただ一つ、佳織への純粋な想いだけを残して。
「死ねぇぇぇぇっ!!!」
真っ赤に染まった『誓い』が地面に異様な波動をもたらしながら、水平に振り切られる。放出される深紅の波動。
瞬は勝利を確信した。この技が、破られるはずがない。長い前髪の向こうに、消し飛ぶ悠人の姿が映る筈だった。

がっ、ぎぃぃぃん!!
「……なっ!」
鈍い衝撃が手首に伝わる。瞬は驚愕した。悠人はあっけなく『誓い』を受け止めきっていた。
微かに黄緑色が混じる刀身が返される。その剣先から細かい紫雷が走っていた。
「クッ!」
一瞬。襲い掛かる『求め』から、瞬は身を捩って避わした。
それでも触れていない肩口が、じゅっと焦げた臭いを放つ。明らかに『求め』の力は『誓い』を上回っていた。
「なるほど……そういえば、『因果』と『空虚』を喰ったんだっけな……」
一度間合いを離れ、瞬は顔を歪めて肩を抑えた。屈辱が口から零れた。

瞬の呟きに構わず、悠人は『求め』を構えたまま訊き返した。
「次で、決着をつける……だがその前に、ひとつだけお前に聞くことがある」
先程からの疑問。この場にいない、サーギオス皇帝。それがどこにいるのかが知りたかった。
その人間がいる限り、またこの無益な戦いが繰り返されるだろう。それだけは阻止しなければならなかった。
「サーギオスの皇帝はどこだ?お前が力を貸していた奴は、ここにはいないのか?」
悠人のその一言を聞いて、瞬が突然笑い出す。
「あははははっ! 皇帝だって?……そんなものは始めからいない。存在すらしていないんだよ!!」
「…………!?」
「この帝国を動かしていたのは、この『誓い』だ! みんな勝手に思い込んで動かされていたのさ!」
144名無しさん@初回限定:2005/10/30(日) 21:56:42 ID:wdhwoppV0
カコイイ決闘を観戦するため、支援
145朔望 回旋 E−4:2005/10/30(日) 21:57:10 ID:2Bui4NFB0

「存在、しない国……?」
「そうさ。どうせ最期だから教えてやろう。この大地は、もうずっと前からこの『誓い』が動かしてたんだよ!」
信じられない事を、瞬は喋り出した。いや、少なくとも悠人には信じられなかった。
これだけの大国が、実は存在していなかった。そんな事を、まともに信じられる訳がなかった。
「それに誰も気づかなかったんだ。本当に馬鹿な人間どもだよ……でも僕は優しいから、それを責めはしない」

しかし瞬は、何かに取り憑かれたような視線を漂わせながら話し続ける。
「馬鹿には馬鹿なりの生き方がある……神剣に屈するような意志の弱い馬鹿なりの、ね」
「……くっ」
思い出される今日子の姿。馬鹿にされたような気がして、悠人は一瞬頭に血が昇った。歯軋りをして懸命に耐える。

キィィィィン…………

「馬鹿は剣に踊らされていればいい。僕のように優れた者だけが自分で歴史を動かせるんだっ!!」
「……っ瞬! お前は自分が剣に支配されている事が判らないのか!?」
一瞬、高らかに叫ぶ瞳が赤く染まったような気がして悠人は叫んだ。
その声に自分を取り戻したかのように瞬の口調が落ち着きを取り戻す。
「フッ……違うね。だからお前は馬鹿なんだ。僕だからこそ、この『誓い』に選ばれたんだよ。
 僕は剣に支配されてるんじゃない。剣を利用して世界を正しい方向に修正しているだけさ!!」

悠人は口を挟みかけて、そしてやめた。
「決着をつけてやる、佳織が見ている前でね……貴様と『求め』の断末魔を、『誓い』が欲しているんだ」
その考えこそが、神剣の望むもの。それを言っても、伝わらないだろう。今の瞬には。

「お前を倒し、佳織も……この世界も守ってみせる!」
(そのついででいいなら『誓い』を打ち砕いてやる。だから力を貸してくれ……バカ剣!!)
悠人の叫びのどこに反応したのか。『求め』から、底の見えない力が湧きあがる。
足元に広がる魔法陣が熱を帯びて高く舞い上がり、悠人を包んだ。
146朔望 回旋 E−5:2005/10/30(日) 21:58:22 ID:2Bui4NFB0

「マナよオーラへと変われ、聖なる衣となりて我らを包め……」
知らない言葉が口をついて出る。詠唱が白銀のオーラフォトンを呼び込んでいた。
「……ホーリーッッ!!!」
ぶぉん、と空間が歪む。一回り自分が大きくなったような錯覚。勢いに任せて飛び出した。

「うぉぉぉぉっっ!!」
「なんっ……だと……!?」
眼前で圧倒的な力を発揮し始めた『求め』に、咄嗟に瞬の脳裏に佳織を盾にするという手段が思い浮かぶ。
しかし瞬は唇を噛み千切り、その考えを否定した。それだけは、とギリギリの所で留まる。そしてそれが油断になった。
渦巻くオーラフォトンの束。眩く光り輝くそれは、光の粒子を撒き散らしながら収束し、瞬に殺到した。
咄嗟に展開したオースによる有機の盾が、槍のように捻じ込まれて脆いガラスのように打ち破られる。
弾ける赤いオーラフォトンの中。『求め』の一撃は、ざっくりと瞬の腹部を大きく切り裂いていた。
「が、ああぁぁあああっっ!!」
「つぁぁぁッッ!!」
一瞬静止した『求め』が空中で一度翻り、再び瞬へと襲い掛かる。

ざしゅうぅぅぅっ!!!

よろけながらも翳した『誓い』の横をすり抜けて、『求め』は瞬の身体に吸い込まれていった。

きぃぃぃぃん…………

「はぁっ、はぁ……」
一気に力を解放したせいか、急に身体が重くなる。頭の中を駆け巡る『求め』の歓喜。
悠人は頭を一度大きく振り、そして肩膝をつきながら瞬を見上げた。
「……やったか!?」
ぐらつき、肩と腹部から血を噴き出している瞬。もがくように突き出した手が空を彷徨っていた。
「そん、な……馬鹿な……っ……僕が、負けるわけ……」
ぐはっと吐き出した血が細かい霧のように、金色に変わる。どう見ても致命傷だった。
147朔望 lagrima V:2005/10/30(日) 22:00:06 ID:2Bui4NFB0

 §〜聖ヨト暦332年レユエの月緑ふたつの日〜§

ファーレーンとニムントールは、長い回廊を走り抜けていた。
この方面に、もう敵はいない。ニムントールは姉の顔を伺いながら、先程の戦いを思い出していた。
殆ど一瞬だったと言っていいだろう。
ニムントールが呪文の詠唱を終える前に、飛び出したファーレーンは敵の部隊を一つ全員マナの霧に変えていた。
グリーンスピリットの中でも常にファーレーンと訓練してきたニムントールは、速さに対してかなりの免疫がある。
そのニムントールでさえ、目で追うのが難しい程の動き。それを、今のファーレーンは難なく繰り出していた。
「……ん? どうしたの、ニム」
「…………なんでもない。お姉ちゃん、もう少し急いでもいいよ」
先程から自分に気を使ってウイングハイロゥの力をセーブしている事には気づいていた。
そして、言ってから後悔する。こう言えば、返ってくる言葉は一つに決まっていた。
「ううんいいのよ……これで精一杯」
そうしてぺろっと小さな舌を出すファーレーンに、ニムントールは軽く舌打ちしながら
「……頑固もの」
小さくそう呟いていた。

ズゥゥゥゥン…………

突然城全体が、地響きに包まれる。
「え、お姉ちゃん……うわわっ!」
手を掴まれて、ニムントールは狼狽の声を上げた。そのままファーレーンのウイングハイロゥが更に大きくなる。
加速する体。ファーレーンはニムントールを引っ張ったまま、無言でスピードを上げていた。
「……まったく、素直じゃないんだから」
あっという間に後方へと流れていく光景を見ながら、ニムントールは必死で足を回転させていた。
148名無しさん@初回限定:2005/10/30(日) 22:01:12 ID:wdhwoppV0
ついに決着?支援
149朔望 回旋 F−1:2005/10/30(日) 22:01:31 ID:2Bui4NFB0

 §〜聖ヨト暦332年レユエの月緑ふたつの日〜§

瞬はもう風前の灯となった体を引き摺るように、立ち竦む佳織の方へと目を向けた。
「そうだ……僕は、負けるわけにはいかないんだ……佳織を、佳織を守るために……がっ」
膝に手をつきながら立ち上がる悠人と崩れ落ちる瞬の視線がすれ違う。
悠人はその瞬間、ぞっとするような瞬の目を見た。赤く染まる、濁った目には、まだ。
「僕……は……正し、い……んだぁっ!」
「なっ……?!!」
がっ、と両手を突き、うつ伏せのまま動かない瞬。その背中から、蛇のように赤い蒸気が立ち昇る。
「そうだろう、『誓い』……なぁっ!殺せよ、『求め』がいるんだ……!」
地面を掻き毟る両手が異様に膨れ上がり、搾り出すように吐き捨てた言葉。
「僕から何を持っていったって構わない……『誓い』よ、アイツをすぐに殺セェェェェッッ!!!」

キィィィィン…………

『誓い』から閃光のような赤いオーラフォトンが迸る。
そして呼応するかのように、瞬から舞い上がっていた金色のマナがぴたり、と止まった。

消え、『求め』へと吸い込まれていく筈の力。それがいきなり膨れ上がり、瞬へと収束していく。
「一体何が……くっ!」
きぃぃぃぃん…………
『求め』が激しい警鐘を鳴らす。同時に舞い上がった竜巻が、瞬の身体を包んだ。
周囲を巻き込みながら、嵐のように暴れまくるマナの嵐に吹き飛ばされそうになるのを懸命に堪える。
『様子がおかしいぞ……契約者よ!砕けっ……『誓い』を砕くのだっ!』
初めて動揺を見せる『求め』の口調。言われなくても悠人にも危険な兆候は感じられた。
それでも近づけない。鉄のような空気の壁が瞬の周りを取り巻いていた。
両手で顔を庇いながら目を凝らす。その眼前で、ふいに風が熄んだ。恐る恐る顔を上げる。

「な……しゅ、瞬、か……?」
「フフフ……あはははははははっっ!!!」
悠人は、自分の目を疑った。
150朔望 回旋 F−2:2005/10/30(日) 22:04:55 ID:2Bui4NFB0

槍のように空中に浮かぶ、禍々しい赤黒い翼。左腕を肘まで隠す、爬虫類の鱗を連想させる籠手。
それは右腕の肩にも“生えていた”。握り締める神剣は『誓い』の形状を止めていない。
部屋に充満していたマナが黒い奔流となって一点に流れ込んでいた――――瞬“だった”モノに。

「これほどの歪みを抱えていたか! ククク……まさに逸材であったのだな!!!」
“瞬”は、壊れたように笑っていた。その双眸に深紅の光を湛えて。

「フフフ……ハァッハハハハハハハハッッッ!!!」
周囲のマナが次々と吸収されていく。増大していく力。“瞬”は狂ったように笑い続けている。
悠人は、動けなかった。もはや神剣に完全に飲み込まれた瞬からは、『求め』を越える力を感じる。
自然に奥歯ががくがくと鳴り出す。全身から汗が噴き出し、鳥肌が殺気をまともに受けて痛み出す。
今いけば、確実に殺される。それは沈黙している『求め』の気配からも間違いなかった。
「…………お兄ちゃん」
「佳織……」
「……お兄ちゃん、あのね……わたし嬉しいよ。こうやってまた逢えたんだもん」
いつの間にか後ろに来ていた佳織が、羽織の裾をぎゅっと握ってくる。
震える指から伝わる不安を、この絶望的な状況から救ってやりたかった。
「だから、最期までこうさせて……覚悟は、もう出来たから」
「佳織! そんな事をいうんじゃない! 最後まで生きる事を諦めるな! 諦めは覚悟なんかじゃない!」
だからこそ、思い出す。どんな時でも、奮い立たせてくれたあの時の言葉を。

 ―――――なら、大丈夫。

「そんなの俺は認めない!……俺たちは帰るんだ。ずっと一緒に暮らすんだろ?」
「お兄、ちゃん……?」
「諦めるんじゃない、諦めたらそこで終わるんだよ! 俺はそんなの嫌だッ!!」

『そうです……永遠神剣の力を……『門』を開いて…………』
「……なに?」
自分に言い聞かせるように叫んだ言葉。それに答えるかのように、どこかで声が聞こえた。
151朔望 回旋 F−3:2005/10/30(日) 22:05:44 ID:2Bui4NFB0

『……汝への『門』を開こうとしている者がいる』
全ての感覚を『求め』へと集中し、僅かな力も見逃さずに刀身へと注ぎ込む。
懸命の作業を行っている最中に、唐突に『求め』が話しかけてきた。脂汗をかきながら悠人は答える。

「門だって? 何だそれ、誰がそんなことを?!」
集中が乱れる。びりびりと伝わってくる瞬の殺気に、悠人は焦っていた。
『我と汝がこの世界に来てから、ずっと監視していた者だ』
「誰だよそれ! 初耳だぞ、そんな事!」
『聞かれたことはない』
「あのな!」
思わず突っ込む。その瞬間、頭の中にもう一つの声が飛び込んできた。
『悠人さん、『門』を開いて下さい! 時間がありません!』
「門? どうやればいいんだ!」
甲高い声に、聞き覚えがあった。記憶を探りながら叫ぶ。
一体『門』というのがなんなのかは判らない。しかし何故か問い返していた。
どうしてかは判らないが、この状況で藁にも縋るような思いが声の主との会話を続けさせていた。

『力を集中して、茅の輪をイメージして下さい』
言葉と共に送られてくるイメージ。見覚えのある、神社の風景。悠人ははっと顔を上げた。この声。これは……
「俺のするべきこと……すべての永遠神剣の破壊と吸収……」
剣と同化した瞬の腕がゆっくりと上がる。もう時間がない。悠人は目を閉じ、咄嗟に言われた輪を思い浮かべた。
「…………っ!!!」
想像の中に、何かが駆け込んで来る。輪の中に浮かび上がる人影。それがだんだん大きくなって。
「…………時深?!」
「悠人さんっ!」
そして次の瞬間、かつて神社で出会った少女がファンタズマゴリアへと飛び出して来ていた。


『求め』との問答の末、突然現れた少女に悠人は戸惑いを通り越して唖然としていた。
「えっ? えっ? 時深さん……なんですか?」
佳織が目を白黒させている。無理もなかった。当の悠人でさえ、開いた口が塞がらない。
152朔望 回旋 F−4:2005/10/30(日) 22:06:49 ID:2Bui4NFB0

「話は後です! 私の後ろに」
倉橋時深。元いた世界で、少しだけ知り合った少女。神社であった時そのままの巫女服のまま。
突然出現した彼女はこのファンタズマゴリアに降り立ち、悠人の眼前で瞬と対峙していた。
「愚かな……剣に心を完全に奪われるとは……神剣との融合など、精神が脆弱な証」
時深は、右手に小刀、左手には扇を持っている。
あの時は気づかなかったが、『求め』から伝わるこの気配は間違いなく永遠神剣のものだった。

「貴様もエターナルか! ちょうどいい……この『世界』の力を試させてもらおう」
「仮初めの貴方と一緒にしないで下さい。力に溺れる者など、私の敵ではありません」
「クク……その言葉、真実かどうか試してやろう。……だが、その前に虫共を殺さなくては……な!」
理解出来ない単語が次々と飛び出す会話を打ち切るように、急に瞬が悠人達の方を向く。
「消滅しろォ!」
「っ!!」
ぶん、と無造作に放ったそれは、完全な不意打ちとなって悠人達を襲う。悠人は佳織を咄嗟に庇った。
禍々しいオーラを凝縮したような黒い球体が膨れながら迫る。シールドがガラスのように粉砕された。
「悠人さん!!」
時深の叫びと同時に、巨大なオーラフォトンの球体は悠人達を巻き込んで城の一部を吹き飛ばしていた。

ごうん、という重い響き。悠人は一瞬浮き上がった体に、恐る恐る目を開いた。
「……大丈夫ですか? ユートさま、カオリさま」
「ファーレーン!」
「ファーレーンさん!」
二人の声は見事に被さった。

ふわり、とファーレーンが地面に降り立つ。支えられるように悠人達も足を下ろした。
振り向くと、皆上手く避わしたのか、全員揃っている。
「けほけほ……いったい、なんなのよ」
シールドハイロゥを展開したニムントールが不機嫌そうに呟いていた。
153名無しさん@初回限定:2005/10/30(日) 22:07:11 ID:wdhwoppV0
エターナル、デター
支援
154朔望 回旋 F−5:2005/10/30(日) 22:08:10 ID:2Bui4NFB0

部屋の中央では、瞬と時深が未だ睨み合っている。一瞬こちらをちらっと見た時深がほっと溜息をついていた。
一方の瞬は軽く舌打ちをしながら苛立たしげに剣を振り下ろしている。
「あの時の妖精か……ふん、小賢しいマネを」
「行きますよ!『世界』っ!」
「……フン」
叫ぶと同時に、時深の周りに巨大な白銀のオーラフォトンが発生する。それはエトランジェ特有のもの。
光陰も今日子も使っていた。しかしその規模が悠人の知っているものとは桁違いだった。頭の中が色々な情報で混乱する。
(『世界』? エターナルって何だ? あの力は……)
そしてつまらなそうに呟いた瞬が展開する黒いオーラフォトン。それもエトランジェの遥か上を行っていた。
圧倒的な力がぶつかり合う。悠人にとっては状況が全く掴めないまま、時深と瞬の、人智を超越した戦いが始まった。

白と黒の巨大なオーラフォトンが激しくぶつかり、火花を散らす。
悠人には、それだけしか視えなかった。時折霞の様に見え隠れする二人が辛うじて目に飛び込んでくるだけだった。


「……まだ、やりますか」
気づいた時には、一度離れた二人が再び睨み合っていた。
「ふん、まあ良かろう。この場は退く。この身体も、未だ目覚めきってはいないようだ」
時深の静かな問いかけに、ようやく剣を下ろす瞬。その視線がふいにこちらに向いた。
しかしその赤い瞳は悠人の方を見てはいない。『世界』と同化した瞬にとって最早悠人は相手ではなかった。
「妖精、二度までも我の邪魔をした報い……いずれ受けてもらうぞ」
ばさぁっ! 漆黒の巨大な翼を翻した瞬の周囲に突風が吹き荒れる。
そうして瞬は飛び去っていった。

胸に手を当て、ふぅ、と小さく息をついている時深に悠人は呼びかけた。
「時深……どうして時深が?」
「話は後です、ユートさん。取りあえずここを出ましょう」
瞬が飛び去った後に出来た大穴を見上げながら、時深が促す。見ると、確かにいつ崩れてきてもおかしくなかった。
「ああ、でも、ちゃんと後で話してもらうからな」
「ええ、それはもう。私もユートさんに訊きたい事が沢山ありますから」
時深は言ってにっこりと笑った。
155朔望 回旋 ]−1:2005/10/30(日) 22:09:21 ID:2Bui4NFB0

 §〜聖ヨト暦332年レユエの月緑ふたつの日〜§

廊下の先、ユートさまとトキミさまという方が何かを話されながら歩かれている。
その後ろを、出来るだけ自然について行く。悟られたくは無いから。この、殆ど感覚の無い右足を。

シュン、という恐るべき敵。咄嗟に飛び込んだ際、彼の攻撃は当りもしないのにそこからマナを奪いつくしていた。
今のわたしにとって最大の武器。“速さ”はたったの一撃で失われてしまっている。
『月光』が欠乏したマナを求めて騒ぐ。石に躓くだけで脳天まで響く激痛。そのくせ歩いている感覚がまるでない浮遊感。
喉から今にも溢れ出しそうな飢餓感。あらゆる神経という神経を苛む神剣の強制。何より、その恩恵を今は受けられない。

「……お姉ちゃん、大丈夫?」
ふいに隣から声がかかる。ニムの哀しそうな気配が口調から伝わってきた。

  ――――隠さなければならない。

隠さなければ、結果的にユートさまは自分自身を責めてしまう。
それにもう、決して隣には居させて貰えないだろう。――――それだけは、耐えられなかった。

わたしは額に流れる脂汗を誤魔化すように、前を向いたまま出来るだけ平静を装って覆面越しに微笑んだ。
「わたしは平気だから……ニム、みんなには内緒ですよ」
「……でも」
「いいから。……お願い」
「ん? ファー、ニム、どうかしたか?」
156朔望 回旋 ]−2:2005/10/30(日) 22:11:17 ID:2Bui4NFB0
「あ、いえ、その……」
間が悪いというか、ユートさまに振り向かれてしまった。どう誤魔化そうかと必死で考える。
だけど神剣の干渉が、わたしの思考を妨げていた。考えが纏まらない。
熱に浮かされるように、わたしは救いを求めてニムの手をそっと握った。
ところが次の瞬間、返ってきた返事にわたしの思考は今度こそ完全に静止してしまった。
「お姉ちゃん……ごめんね」
「え……、ニム、何言って……!?」
ニムは一度ぎゅっとわたしの手を強く握り返し、そして離れた。――――知っている?
前に歩いていく気配。まさかと思う暇も無い。全身の血液が凍りついた。
「うわ、ニム。……なんだ?」
狼狽しているようなユートさまの様子が伝わる。ニムが睨みつけているのだろう。
駄目、そう思っても足が思うように動かない。――――間違い無い。あの娘は知っている。
考えが殆ど戦慄ともいえる感覚を伴い、氷のような楔となって全身を貫いていく。

「ユート……もっとお姉ちゃんのコト、ちゃんと見なさいよ!」
「ま、待ってニムっ」
「ごめんねお姉ちゃん……でもニム、もう我慢出来ない」
「〜〜っ! やっぱり気づいて――」
「お姉ちゃんがずっと黙ってるからニムも騙されてるふりしてたけど……ユートが気づくって思ってたけど……」
「っニム! それ以上は止めなさいっ」
「だってユート、いつまでたっても助けてくれないじゃん! 気づいてもくれないじゃんっ!!」
「お願い……お願いニム……」
「お姉ちゃん、ホントにいいの? このまま、ずっと我慢したままで、ホントにっ!?」
「お、おいニム一体何を言って――」
「くっ……しっかりしてよ! ユートっ!!」
「駄目ぇっっ!!」
                        .. . ..
 ――――お姉ちゃん、もうずっと目が視えてないのにっっ!!!



 ――――――――――
157名無しさん@初回限定:2005/10/30(日) 22:12:46 ID:wdhwoppV0
衝撃の支援
158朔望 回旋 ]−3:2005/10/30(日) 22:13:19 ID:2Bui4NFB0

全てが、停止した。
「………………え?」
涙目で見上げてくるニムに、馬鹿みたいに口をぽかんと開けたままでいるしか出来なかった。
ひっそりとした石造りの冷たい廊下に、泣き叫ぶような声が木霊する。一瞬、何を言われているのか判らなかった。
“視えてない”。その単語の意味が、どうしても理解できなかった。首を振って無理矢理笑おうとする。

「冗談、だろ……」
意味もなく周囲を見渡す。一瞬目が合ったエスペリアが辛そうに顔を伏せた。頭を鈍器で殴られるような衝撃が襲う。 
思わずニムの両肩を掴んだが、キッと睨み返してくる瞳に、視線を返す勇気が無かった。
目を逸らしたその先。やや暗い廊下の隅に、立ち尽くす姿がぼんやりと映る。
両手を口に当て、ふるふると首を振り続けるファーの態度が嘘では無いことを物語っていた。

「いつ、から……」
情けなかった。そんな言葉しかかけてあげられない自分が。そうして言った後で後悔する。
脳裏に浮かぶ、サルドバルトの夜明け。治った、と言っていた、朝日に眩しい微笑み。
「まさか、あれから、ずっと……?」
ふらふらと歩き出す。おぼつかない視線が右に左にぶれた。次々と思い出される出来事。
そんな兆候は、どこにも無かった。目が視えない仕草など、どこにもなかったじゃないか――――

  ――――神剣に力を。『求め』を通してみるような感覚で――――

「あ、あ……」
思い出した。サルドバルトで教えてくれたファーの一言。そう、神剣を通せば、ある程度は周囲が“視える”。
確かにそう言っていた。……だけどあの日。初めて結ばれた日。あの日彼女は『月光』を持ってはいなかった。
そう、夕日を見て喜んでたじゃないか。夕日を見て……夕、日を……

 ―――見て、ない。

ファーは、見てはいなかった。目を閉じて、ただ流れる風や森の匂いを。それだけを、楽しむように……

俯く仕草や闇の中の気配。ふと思い出す、輝きの失った瞳。感じた違和感。あれは、暗闇のせいだけじゃ無かった―――
159朔望 回旋 ]−4:2005/10/30(日) 22:15:26 ID:2Bui4NFB0

「俺の……せい、なのか……?」
「っっ!! 違いますっ! 違うんですっ!!」
覆面を下ろし、兜越しに激しく首を振る。ファーは俯きながら、頑なに否定していた。
よく通る澄んだ声が、鋭く廊下に響き渡る。その中を、ただ歩いた。

気づくと、すぐ目の前にファーが立っていた。肩が微かに震えている。決して顔を上げようとはしない。
黙って手を伸ばした。震える手が、その表情を深く隠している兜に触れる。拒む気配は無い。腕が自然に持ち上がった。
小刻みに嗚咽を漏らしている唇。頬を伝う涙が見えた。そして見上げたロシアンブルーの瞳。
初めて出会った夜と何ら変わる事のない、感情を深く湛えた穏かな色彩。
しかしその美しい瞳は、目の前にいる俺も、仄かに灯された明かりの橙も……何も、映し出してはいなかった。
160朔望 回旋 ]−5:2005/10/30(日) 22:16:39 ID:2Bui4NFB0

――親しくなるにつれ、次第に俯く事が多くなった。ただの彼女らしい羞恥心だと判ったつもりでいた自分に絶望する。

「ごめんなさい……ごめんなさい……」
見上げたまま、ただひたすらに謝るファーの肩を、そっと抱き締めた。

「なんで……早く言わなかった……?」
訊くまでも無かった。ファーの性格を考えれば判る。原因は、俺だ。俺のせいで、こうなってしまった。
だけど、それを俺に打ち明けるような娘じゃない。むしろ、自分だけの心の中に背負って。

「だって……だって……」
目が見えないというハンデ。それは戦闘において、致命的だ。特に、スピリット同士の戦いでは。
それでもファーは、負担にならないようにとたった独りで戦ってきたのだ。俺を責める事もせずに、ただ隠して。
そんな娘だったじゃないか。もうちょっと注意深く見ていれば、判ることだった。

「…………だって……嫌われるから……」
生真面目で、意外と融通が利かなくて。本当は甘えたがりのくせに、普段はそんなそぶりを微塵も見せないで。
そのくせこんな時にまで、俺が負い目を持ってしまう事を気遣って。本当の理由を不器用に隠そうとして。

「わたしはスピリットです……戦えなくなったら……お役に立てなければ、きっと嫌われるから……」
俺は知っていた筈なのに。こんなにも優しい嘘を“本気で”つける、そんな娘なんだってことを。――――だから。

「馬鹿だな……そんな事で嫌いになる訳ないだろ。気づかなくて……ごめんな」
謝罪をぐっと押し殺し、懸命に囁いた。嘘を、嘘にしないために。優しさに、応えるために。
161朔望 回旋 ]−6:2005/10/30(日) 22:17:40 ID:2Bui4NFB0

胸に顔を押し付けて泣いているファーの頬を両手で挟みこむように、そっと上を向かせる。
まだしゃくり上げている子供のような様子に、胸の底から愛おしさが込み上げてきていた。
「ユートさま……ユートさまぁ……」
見えてないであろうその瞳をしっかりと見つめながら、囁く。それは、今の俺の『誓い』だった。
「言っただろ、支えあおうって。一緒に背負おうって。…………それとも俺、そんなに頼りないか?」
少し、いじわるな質問。それでもやっぱり彼女は生真面目に、ふるふると激しく首を振る。
「すまない、こんな目に合わせて。でも俺、償いとかは考えない……こんな言い方、ファーに失礼かな?」
「あ……いいえ……いいえ……」
その仕草が、一層激しくなる。無理に笑おうとした顔が、くしゃっと崩れていた。
「そのかわり、支えるから……ずっとファーを支えるから……だから、俺の側にいてくれ。一緒に……戦おう?」
答えを聞く前に、そっとまだ震えている唇に自分のそれを重ねた。
「ん……ルゥ…………」
背中に腕を回してくる気配。一瞬強張ったファーの身体から、少しづつ力が抜けていった。

りぃぃぃぃん…………

静かに輝き出した『月光』が、再び眩い光を放っていた。


 ―――――――――――


「良かったね、お姉ちゃん。まったく、最初から素直になれば良かったのに」
「ニム……ええと、貴女いつから……?」
「もぅ、あんまりニムを舐めないでよね」
腰を手に当て、まだ赤い目のままニムントールは得意そうに言った。
「……本当は、お姉ちゃんが言わなきゃいけない事だったんだよ」
少し怒ったように、それでいて優しく諭すように。
「お姉ちゃんが言うと思ってたのに、いつまでもメソメソしてただけじゃない。
 だからニムが言ったの。それがニムの役目だから。そうでしょ?」
手に持つ神剣、『曙光』。その名に相応しく、どこまでも無垢で透明な光を放って。
162名無しさん@初回限定:2005/10/30(日) 22:17:56 ID:wdhwoppV0
…支援
163朔望 回旋 coda:2005/10/30(日) 22:18:47 ID:2Bui4NFB0

 §〜聖ヨト暦332年アソクの月緑ふたつの日〜§

何も映さない視界も、もう気にはならなかった。
『月光』の力を借りなくても、別の光を感じる事が出来たから。
森の中を、懸命に駆け抜ける。近づく程に大きくなる、黒い意識。
邪悪で純粋な神剣の気配がすぐそこまで迫っている。でもそれも、足を止める材料にはならなかった。
その側に、感じる事が出来たから。身体全体で知った優しい光がまだ輝いていたから。
感じる度に、不思議な力が湧いてくる。ウイングハイロゥに全て注げば、加速する体。
月の加護も夜の加護も、もう必要なかった。守りたい大切な物。ただその為にだけ。
「……ユートさまぁっ!」
倒れている姿が“感じられる”。すれ違いざま抱えた。
少し離れていただけなのに、懐かしい気持ちが込み上げてくる。――――見つけた。

 ――――“わたし”自身の、わたしだけの、……そして、“二人だけ”の、戦い以外の生きる意味。


立ち去り際、一瞬だけ目が合ったカオリさまが、そっと頷いていたような気がした。
164信頼の人:2005/10/30(日) 22:20:36 ID:2Bui4NFB0
まず、支援、有難うございました。いつも長時間のお付き合いに感謝です。

果たして押しに弱いのは悠人なのかファーレーンなのか。
お互いに押し合うような格好になった二人の帰結は当然といえば当然のバカップルぶり(違


『朔望』全体を通して、この『回旋』ラスト部分が一番の難関でした。……いえ、Hシーンの方じゃなくて(汗

原因が原因なだけに自身を責める悠人を見たくなくて打ち明けられなかったファーレーン。
ばれてしまってからも嘘を突き通そうとする相手の気持ちを優先して自責を押し殺す悠人。
そして朧気ながらも姉の心境を推し量り、でもとうとう我慢が出来ずに悠人にぶつけるニムントール。

この辺りのシーンは自分でもどう収束するか判らず、三人が勝手に動くに任せてみた結果を尊重しました。
難しい問題だとは思いますが、前向きに解決しようとする力を三人とも付け始めたという事なのでしょう。
…………自分の妄想に推測する、というのも変な話ですが、でも正直そんな感じです。

何が言いたいのかといいますと、つまり釣り合わなきゃ、ファーと本当の意味で対等に付き合うのは難しそうだぞ、とw

また、言い訳になりますが、かなり煩わしい今までの場面や視点の切換は、今回の伏線の為でした。
『月光』無しでのファー視点での背景描写がほぼ不可能な為なのですが、筆の甘さに読み辛い点が多々あった事をお詫びします。

相変わらず、ゲームと被る場面は大幅に(特に今回、瞬vs時深)省略させて頂いています。ご了承下さい。

ちなみに今回、所々以前投稿した短編と意図的にリンクしていたりしてます。
書いたのはこちらの方が先ですが、宜しければ探してみて下さい(そんな暇な人いないか)。

それから最後に。
颯爽と登場した直後、片想いの相手のラブシーンを見せ付けられた時深さんには謝罪の言葉もありませんw

次が最終編になりますが、今回も長々とこのSSにお付き合いして頂いた方々、本当に有難うございました。
誤字脱字ハリオンマジック等、ご指摘があれば幸いです。
165名無しさん@初回限定:2005/10/30(日) 22:26:43 ID:wdhwoppV0
はぁう、GJです>信頼さん
いっちょ探してみますね>意図的にリンク
なるほど…見えなかったんですね>目
まだまだ読み込みが足りないです私…
最終編期待しております
166名無しさん@初回限定:2005/10/30(日) 22:48:00 ID:U2+l8akh0
>信頼の人さん
150近くに及ぶ超長編GJです!
もはやここまで来ると真剣に神の領域に(;`・ω・)
ソーマの策略のところでリアルタイムでハラハラしちまいました
次回でいよいよ最終章・・・どうなるんだ!?くッ、期待を隠し切れませぬ!
167名無しさん@初回限定:2005/10/31(月) 14:53:56 ID:qz7vLTha0
>>信頼の人さん

今回もまた、見事としか言いようがありません。
悠人やファーレーン&ニムの動かし方も良かったですけれども、
個人的にはこの物語で描写されてるレスティーナ女王に強くひかれました。
こういうタイプには、昔から弱いんです。
性別年齢関係なしに、影から力になってあげたいと願ってしまいます。
そんなわけで、レスティーナの描写では泣いてしまっていました。
いつか、彼女にも「騎士」があらわれてくれればいいと思ってしまいます。
レスティーナのためだけの、レムリアのためだけの、たったひとりのためだけの騎士。
ファーレーンの物語なのに、感想が別の方向にずれてしまいました…(苦笑
最終章、あせらずにご自分が一番納得いく形に練り上げてくださいませ。

ファンの一人として、あなたにマナの導きをお祈り申し上げております。
168名無しさん@初回限定:2005/10/31(月) 17:12:27 ID:bXUo2cv90
いろいろなサイトの二次創作を見たんだけど、オリジナルのエトランジェキャラが出た場合は
ラキオス側につくのばっかりだな。
一つだけイースペリアにつくのがあったけど。

サーギオスのエトランジェになって秋月と絡むのって無いな。
169名無しさん@初回限定:2005/10/31(月) 22:41:52 ID:aPoTrsW60
>>168
オリジナルのエトランジェ出そうなんてナルシストに、瞬に罵倒され誓いかソーマに
喰われかねないサーギオスを書くM属性が居るとは思えないw
170名無しさん@初回限定:2005/11/01(火) 00:37:05 ID:ca0mduDG0
座頭市ファー。ガーン まさか、まさかの告白。
確かに、悠人のナニにファーの感想がないのが不審でしたが……やられたなぁこりゃ。
恋は盲目。恋する乙女は強いのです。むしろ強すぎ?


「朔日」のファーレーン。
もう、陽光を反射する必要はない。光が見えなくとも、空を。
悠人は太陽ではない。その背中にファーレーンという愛しい人を隠して、空を。
――――ふたりで空を翔るのだろう。

「この街の男共! 俺のファーを見るな! ファーは俺だけのもんなんだぞ!」 掩蔽乙w


ってなんか最終章みたいな雰囲気です。
佳織は助かった……んだよね?
求めは折れてないし。誘いの巫女、不必要w

ソーマさん……哀れ。

レスティーナさん江。
ダモクレスの剣は、あなたの仲間達が防いでくれます。むしろ玉座でヨフアル咥えてまどろむくらいに構えててOK。


>168
あるよ。dream elementで探してみよう。
171名無しさん@初回限定:2005/11/01(火) 01:26:20 ID:ca0mduDG0
おっと、朔日より朔月の方が適正でした。
172名無しさん@初回限定:2005/11/01(火) 01:26:53 ID:9MvVZI8N0
>>170
いっぱいあって見つからないんだがどの作者?
173名無しさん@初回限定:2005/11/01(火) 03:24:23 ID:TC1sSfrV0
>>164
今回も、超長編本当に乙!でした。
ファー可愛いよファー。ファーエロいよファー。
……エロ可愛いファーに萌え過ぎて、なんつーか感想になりませんw
しかしあえて一言だけ言わせて頂くなら、やっぱ最後の衝撃の真実、でしょうか。
そりゃもう、全然気付きませんでしたさ。一撃KOされますともさ。
…くそぅ、伏線は十二分に用意されてたとゆーのに……orz

お礼といってはなんですが、恒例になりつつある誤字(かもしれない)報告をば♪(ぉ
56の14行目「その程度の」は「それ程の」の方が良さげな気が。66の18行目「やりずらい」→「やり辛い」
142の17行目「瞬に向きなおした」→「瞬(の方)へと向きなおした」または「その姿勢を瞬へと向きなおらせた」?
あと、「殺到」。多数が一点に押し寄せる的なイメージがあったので、ちょっと違和感がありました。
…まあ、多分に私の勝手な思い込み、勘違いっぽいですが。
兎にも角にも、次回はいよいよ最終章。心の底から応援しつつ、楽しみにお待ちしております。

「ふふっ…ふふふっ。来ました…遂に来ましたよ、わたくしの時代が!どうです、今回の見せ場の数々!!
わたくしの純粋な祈りが、天に届いたに違いありません!」
「届いたのは、邪念に満ちた叫びだった様な気もするけど、ね」
「……何か言いましたか、セリア?」
「いーえ、何にも」
大仰に肩を竦めるセリアを一瞬睨みながらも、すぐににこやかに微笑むエスペリア。
……どうやら、今回は本当に機嫌が良いらしい。
「まあ、ユートさまとわたくしが結ばれるのが、次回に持ち越しになったのは残念ですが。
けれど、楽しみは最後に取っておく物、とも言いますし。次回が待ち遠しいですね」
「………………………………」

最後の最後まで駄目そうな姉に哀れみの眼差しを送りつつも、言葉にはしない心優しいセリアさんであった――。

>頭に「♯」を浮かべた〜 >むすっと事務的な動作で〜
そ れ で こ そ エ ス ペ リ ア !!www
174名無しさん@初回限定:2005/11/01(火) 05:33:18 ID:nVd099H+0
>>169
>オリジナルのエトランジェ出そうなんてナルシスト

余計なお世話かもだけど、そういう言い方は避けたほうがいいよ。
…前に、私もそれに近い言い方をしちゃったんだけどね。
他の誰かから見て受け入れ難いかもしれないけれども。
好きなものに対しての愛情表現は、人それぞれだから。
もちろん、敬意を忘れないでいるのは大事な事だとも思うけどね。
っていうわけで、この手の話題はこれで終わりませうね(’’
175名無しさん@初回限定:2005/11/01(火) 07:02:54 ID:LeuS8DMg0
オリジナルエトランジェなんて、ハイペリア時代から捏造せんといかんから面倒そうだ。
176名無しさん@初回限定:2005/11/01(火) 07:05:07 ID:tINn5Xia0
>>172
他所さまの話だし、ここで聞かずに向こうで聞こう
177名無しさん@初回限定:2005/11/01(火) 22:21:32 ID:8gLj9Izj0
>>165革命さん
ある意味反則的な伏線なので(汗 >目
ゲーム中ファーが急に弱くなった補完として一つのifだと思って頂ければ。
ヒント:ネリー、ナナルゥ>リンク

>>166くじらさん
スレに意外と多くソーマファンがいらっしゃるので、ガクブルものですがw
カッコいいソーマって中々難しいんですよね……

>>167どりるさん
レムリアとレスティーナ。ある意味二重人格みたいなものを何とかして上げたいものです。
彼女のナイトになるには今回の悠人はちょっとヘタレだったという事で(汗

>>170髪結いさん
不必要なんて言わずw 次回そこはかとなく活躍してます。
Hシーンで多少なりと不審を感じていたとは……流石鋭いですね。興奮させてうやむやにしようとした所なのに。
求めが折れてないのは所謂エトランジェルート挑戦で。あと佳織、ちゃんと助かってます、出番無かったけど(汗

>>173さん
いつも御指摘有難う御座います。なにせ穴だらけの校正なので、どんどん弄ってやって下さいw
というか、いつも厳しい観察者の目が光っているエスペリア……なんて面白いんだ(ぇ
邪念に満ちた叫びが届いたかどうか判りませんが、次回セリアが大活躍(エレメンタルブラスト


何故かヨフアルに耽るレスティーナさんの前に、
エスペリアから奪ったダモクレスの剣を手にしたセリアが凄惨に微笑むシーンが目に浮かんだ……orz
178くじら318号:2005/11/01(火) 22:33:33 ID:CUqUTnke0
えーどうも、今晩は。
今夜も、SSを投下させていただきます。

今回はパロネタ(つーかパクリ?)です。
元ネタを知っていると2倍楽しめるかもです。
179不思議のスピリットの館:2005/11/01(火) 22:35:00 ID:CUqUTnke0
───夕焼けが、空を紅く染める。
その紅い光は窓から降り注ぎ、食卓を黄金色に染め上げていた。

・・・という具合に能書きをほざいたが、とりあえず言いたいのは、
今の時間が夕方だと言うことだ。
俺の腹はさっきから悲鳴を上げている。食欲の秋にふさわしい態度をとっていた。

「・・・・・・腹減ったな」
「今から夕食にしますから、情けないこと言わないでください」
横からエスペリアが現れて突っ込みを入れる。
「パパ、食いしんぼさんだもんね〜♪」
と、オルファ。だが、俺は反射的に『オルファには言われたくない』と思っていた。
「別にいいだろ。現に腹減ってんだしさ」

「・・・はい。じゃあこれから用意しますので・・・・・・」
エスペリアは目配せする。その視線はアセリアで止まった。
「アセリア?地下倉庫からアカスクを取ってきてくれませんか?」
「ん、わかった」
そう返事をすると、アセリアはすたすたと倉庫のほうに向かっていった。

アカスク・・・それはこの世界の蒸留酒<ウイスキー>のこと。
いつだったかヨーティアが俺の目の前で自慢げに飲んでいたアレだ。
それにも幾つか種類があり、エスペリアが頼んでいるのは料理に良く使う種類。
要するに調理酒のことだ。

「今日の夕食は、体が温まるようにしますね」
「ああ、頼むよ」
「オルファも手伝うよ♪」
エスペリアとオルファは、しっかりとエプロンをつけて台所へと入っていった。
180不思議のスピリットの館:2005/11/01(火) 22:36:07 ID:CUqUTnke0

台所からトントンと、リズミカルに野菜を刻む音が聞こえる。
察するに、今日の夕食はポトフみたいなものなのだろう。
最近寒くなってきたから、こういった、あったまる食事と言うのはありがたい。

「それにしても・・・・・・アセリア、遅いな」
さっき調理酒を取りに行ったアセリアがまだ戻ってこない。
地下倉庫まではそう遠くない。3分もかからずにとってこれるはずなのに、もう15分も経つ。
そう思っていると、台所からオルファが出てきた。

「オルファ、どこ行くんだ?」
「えっとね、アセリアお姉ちゃんが遅いから、様子見てきてって、エスペリアお姉ちゃんが・・・」
どうやら、エスペリアも同じことを考えていたらしい。
「そうか・・・念のために、神剣を持っていったほうがいいぞ・・・ほら」
俺は壁に立てかけてあった『理念』を手渡す。
「ありがとう、パパ。じゃあ、行ってくるね」
オルファはとことこと駆けていった。


「・・・・・・・・・遅い」
「・・・・・・・・・そうですね」
オルファが様子を見に行ってから20分が経過した。
調理酒が無ければ料理は進行しないらしく、野菜を刻んだ時点で止まっていた。
そのためエスペリアは調理を一旦止めて、二人が戻ってくるまで食卓に座っていた。
ますます俺の腹は悲鳴を強くする。
181不思議のスピリットの館:2005/11/01(火) 22:39:54 ID:CUqUTnke0

「エスペリア、簡単でいいから、何か作って。それから、様子見に行こう」
「はぁ・・・はい」
エスペリアが席を立ち、台所に入ったかと思うと、すぐに何か持ってきてくれた。
「すいません、本当に雑なものですが・・・」
エスペリアは、フランスパン(もどき)にバター(のようなもの)を塗ったものを持ってきた。
俺はもう何でもいいから腹に入れたかった。それを受け取り、口に放り込む。

「ふう、生き返った」
「お粗末さまです」
本当にお粗末だったが、せっかく持ってきてくれたんだからそんなことは言わない。
「さて、様子を見に行くか」
「はい」
俺たちは、神剣を手に地下倉庫へと向かうのだった。

俺たちは、地下倉庫に続く階段の入り口に来ていた。
倉庫に向かって、二人がいるかどうか知るために呼びかける。
「お〜い!アセリア〜、オルファ〜、いるか〜!?」
しかし、何度呼びかけても自分の声が木霊するだけ。
二人のどちらからも返事はなかった。

「いないのでしょうか・・・?」
「しかたない、降りてみよう」
「・・・そうですね」
エスペリアは渋ったようだが、俺が降り始めると、エスペリアもとことこと付いてきた。
182不思議のスピリットの館:2005/11/01(火) 22:41:00 ID:CUqUTnke0


                ─ LEVEL  1 ─

「ちょっと待て、何だ?今の『LEVEL  1』ってのは」
「? どうかしましたか?ユート様」
どうやら今のはエスペリアには見えなかったらしい。
いや、俺にも見えてないんだけど、頭の中に浮かんだ・・・っていうのかな?そんな感じだった。
「いや、なんでもない・・・・・・それより」
俺は、目の前の光景に我が目を疑った。
「地下倉庫ってさ、こんなに廊下長かったっけか?」
「いえ、降りてすぐに、倉庫に保存してある物が目に入るはず・・・です」
そうはいっても、目の前にあるのは果てしなく続く細い通路。
なんなんだこれは・・・と思ってふと振り向くと・・・!

「あれ!?」
「こ、これは・・・!?」
どういうわけなのか、さっき降りてきた階段が、今は影も形も無かった。
上下左右どこを向いてもあるのは木でできた壁と天井。
「階段が・・・」
「もしかして、閉じこめられたのでしょうか・・・」
もしかしなくても閉じ込められている。俺たちは、長い通路を進むしかないようだった。


まてよ・・・・・・
ある日突然建物の構造が変化し、降りてきた、または上ってきた階段が無くなり、
そして、ダンジョンと化した建物は入る度に形状が変化すると言えば、あの・・・・・・!

─────『不思議のダンジョン』!!
183名無しさん@初回限定:2005/11/01(火) 22:41:17 ID:8gLj9Izj0
とことことソニックストライク支援
184不思議のスピリットの館:2005/11/01(火) 22:42:55 ID:CUqUTnke0

俺は、元の世界でそんな感じのゲームがあったことを思い出した。
たしか、不思議のダンジョンの最深部には、とんでもないお宝が眠っているという・・・
ここも、そうなったのだろうか?
そうだとすれば、アセリアやオルファが戻ってこれないのも頷ける。
俺は、無理矢理納得しようとしていた。

便宜上、俺たちはこの空間を『不思議のスピリットの館』と名づけることにした。
語呂が悪いのは置いといて、とりあえず、俺たちは先に進むことにした。


しばらく道なりに進んでいると、向こう側から何かがやってくる。

モンスターが現れた!

チャララララ〜という効果音とともに現れた『モンスター』。
そいつは、角が一本ある、粗末な棍棒を持った小鬼だった。

「(・・・・・・こいつが、いわゆるゴブリンってやつなのか?)」
「ユート様、この人は一体?」
「いや、人じゃないだろ。どう見ても。つーかさ、この世界に、こういうのっているもんなのか?」
「私も初めて見ます」
なにがなんだか。エスペリアと漫才していると、ゴブリンは棍棒で殴りかかってきた。
「うわっと!」
「きゃっ!」
間一髪、俺たちは攻撃をかわした。
「ユート様!この人は敵です!」
「だから人じゃないって・・・ああもう、とにかく倒すぞ!でやあっ!」
俺はゴブリンの懐に飛び込み、『求め』で袈裟払いをかけた。
ズバッ!
手ごたえあり!一撃で致命傷をもらったゴブリンは、呻き声を上げながらマナの霧へと変わっていった。
185不思議のスピリットの館:2005/11/01(火) 22:44:27 ID:CUqUTnke0

ちゃっちゃら〜ちゃらららら〜

またもや、意味不明の効果音がどこからともなく響く。
「ユート様!やりました!」
「なんだ、てんで弱いな」
「あ、何か落として行ったようですよ」

エスペリアは、ボロボロの皮袋を拾い上げる。
袋を開けると、その中には何枚かの銅製のコインが入っていた。
「それ、お金だよな」
「そうですね・・・大体、リクェム3個分ってところですね」
妙な例えを出すエスペリア。俺に言わせれば、リクェムには1円の価値だって付けたくはなかったが。
「・・・ま、はした金ってことだな」
僅かなお金を手に入れた俺たちは、さらに奥へと進んでいった。

しばらく進むと、分かれ道があった。
左は、ここからでもはっきりとわかる。袋小路だ。
右には、下に下りるらしい階段があった。
「・・・どうする?」
「進むしかありませんね」
俺たちは右に進み、一歩一歩階段を下りていった。


186不思議のスピリットの館:2005/11/01(火) 22:45:33 ID:CUqUTnke0

                ─ LEVEL  2 ─

また脳裏によぎった、『LEVEL  2』の文字。第2階層ということなのだろうか。
案の定、今降りてきた階段はすっかり消えうせていた。

「俺の記憶が正しければ、この階層で遭遇するのは・・・いや、記憶とか、何言ってるんだ俺は」
「ッ!ユート様、あれを!」
エスペリアが指差す先、そこには氷付けの巨人がいた。
元から氷付けなのか、それとも誰かにやられたのか、見事にカチンカチンだった。
そのせいか、辺りは冷気に包まれている。

「(あれ?確か、炎の巨人だった気がするけど)」
いつの間にか形成された記憶をたどる。
そうしている間に、エスペリアはその巨人を調べていた。
「ユート様、どうやらこれは炎の巨人で、誰かに氷付けにされたようです」
俺はふむふむ、と頷いた。・・・って、何でそんな事判るんだろう。
まあこういうのは調べれば判ると言う常識程度においておくことにした。
「待てよ・・・?」

「ユート様、どうかしましたか?」
「いや、もしそうだとしたらさ、誰がやったのかな・・・って」
こんな化け物を相手にできて、完膚なきまでに氷付けにできて、今このダンジョンにいる人物。
そんな奴は俺たちの知る限り一人しかいなかった。
187不思議のスピリットの館:2005/11/01(火) 22:47:50 ID:CUqUTnke0

「・・・・・・もしかして、アセリアが?」
「・・・多分、ね」
それはつまり、アセリアがここを通ったということだ。
近くにいないかと思って気配を探るが、神剣の気配は『全く』感じなかった。
「・・・あれ?」
『契約者よ、どうやらこの空間ではその能力は使えないようだ』
「マジかよ・・・」
どおりで、隣にいるエスペリアの『献身』すら感じ取れないわけだ。

「まあ、とりあえず先に進むか」
「・・・そうですね」
俺たちは巨人を無視して先に進むことにした。その時・・・

ガッシャーン!バリバリバリ・・・

後ろから何かが砕け散る音が響く。
嫌な予感をつもらせながら後ろを振り向くと・・・!

モンスターが現れた!
「グウオオオオオォォォォォ・・・・・・!!」
188不思議のスピリットの館:2005/11/01(火) 22:48:56 ID:CUqUTnke0

「・・・へ?」
「・・・はい?」
俺たちは同時にあっけに取られた。(おそらく)アセリアの魔法の効果が切れてしまったのだ。
記憶とエスペリアの推測どおり、そいつは炎の巨人だった。

「お、おいおいおいおい!!」
泣いてもわめいてもタイミングが悪いと抗議してもゲームバランスが悪いと叫んでもしょうがなかった。

「ど、どうしましょう!?」
流石にこんなの相手ではさしものエスペリアもびびっている。
「こんなの相手にしていられるか!逃げるぞ!!」

俺たちは逃げ出した!
炎の巨人は思ったより動きが鈍かった。
神剣の力を使って思いっきりダッシュしたおかげで、難を逃れることができた。

第2階層はほぼ一本道だった。そのおかげか、俺たちの逃げた先には下り階段があった。
「・・・ま、進むしかないんだろうな」
「はぁ、はぁ・・・そうですね」
俺たちは躊躇することも無く階段を下りていった。
189名無しさん@初回限定:2005/11/01(火) 22:49:01 ID:8gLj9Izj0
カチコチとアイスバニッシャー支援
190不思議のスピリットの館:2005/11/01(火) 22:50:13 ID:CUqUTnke0

                    ─ LEVEL  3 ─

もう、この脳裏に浮かぶ奇妙なテロップにも慣れた。そう思っていると・・・

「きゃあああああぁぁぁぁ〜〜〜!!」

「!?」
どこからともなく黄色い悲鳴が響き渡る。
アセリアやオルファの身に何かあったのではないか、もしそうなら、急いで助けに行かねば!

「エスペリア!行くぞ!!」
「は、はい!」
俺たちは、悲鳴のした方向へ走る。しばらく走っていると、
開けた部屋に、魔法使いらしい老婆が立っていた。
というより、とんがり帽子に、真っ黒なローブ。360°どっからどう見ても魔法使いだった。

「なんじゃね、あんたたちは」
俺たちは呆然としていた。まさかとは思うが、さっきの悲鳴の主はこの老婆だったのか?
一瞬で浮かんだのはそれだけだった。

「あ、あの〜」
「なんじゃい!あたしの邪魔しようってんならただじゃおかないよ!」
老婆は杖をこちらに向けている。いつ火の玉が飛んできてもおかしくなかった。
「い、いえ!滅相もありません!」
「い、いやあの、そんなことより、今の悲鳴が何だったか知りませんか?」
「ああ、あれかい」
俺の質問を聞くなり、老婆は笑いながら話し出した。
191不思議のスピリットの館:2005/11/01(火) 22:52:06 ID:CUqUTnke0

「ひゃひゃひゃ、あれはね、あたしが新しい魔法の実験をしているときに、あのバカ娘。
突然部屋に入ってきおってからに、直撃食らっちゃったのさ。まだそのへんにいるんじゃないのかい?」

そういわれると、俺たちはきょろきょろと辺りを見渡すが、誰もいなかった。
「どこにいるんだ?」
「ほら、あれだよ」
老婆が杖で指した先には、長い触角で、黒い、台所に良く出る『アレ』がいた。
「な、なんだってぇ〜!?」
「あたしの新しい魔法ってのはね、対象の姿をその対象にふさわしい別の生き物に変える魔法なんだよ
よっぽど似合ってるのかね〜、ひゃひゃひゃひゃ」

・・・俺はエスペリアの方を向くが、どうやら『アレ』には近づきたくないらしい。
仕方ないと思い、俺は意を決して『アレ』に話しかけた。
「あの〜もしもし、娘さん?」
俺の呼びかけが聞こえるなり、『アレ』が話しかけてきた。
『ゆ、ユート様!?』
「・・・え?」
どうして『アレ』が俺の名前を知っているんだ。
いや、知り合いがこうなっちゃったってことも考えられるか。

「君は誰だい?どうして俺の名前を・・・」
『わ、私です!へ、ヘリオンですよぅ〜!!』
「な、なんだってぇ〜!?」
二度目の大驚愕。
まさか、こんな変わり果てた姿で会うことになろうとは。
「・・・嘘だよな?」
『う、嘘なんてつきませんよぅ〜!早く助けてください〜!!』
必死に呼びかけてくる『アレ』。
俺は、便宜上、この生物を『Gヘリオン』とすることにした。
それにしても、ヘリオンは『アレ』の姿が良く似合うとは。やばい、すごく笑える。
192名無しさん@初回限定:2005/11/01(火) 22:53:04 ID:8gLj9Izj0
LEVEL 3 コンフュ支援
193不思議のスピリットの館:2005/11/01(火) 22:53:22 ID:CUqUTnke0

「ぷっ・・・くくく、は、はは、ははははは!!」
「く、く、ふふ、ぷふふふふ・・・」
俺とエスペリアは同時に吹き出す。笑わずにいられなかった。
『わ、笑わないでください〜!ふ、ふえぇ〜ん!』
対照的にGヘリオンはわんわんと泣き出す。まあこんな姿になったんじゃ、死んでも死に切れないだろう。
「わ、悪い悪い。な、なんとかするからさ」
『お願いしますよぅ〜』

「・・・で、元に戻す方法は?」
俺は老婆に尋ねる。すると、老婆は難しい顔をして答えた。
「ある。でも、ただじゃないよ」
「何か必要なものでも?」
「そうだね、そっちの緑のアンタをあたしにくれたら、元に戻してやるよ」
「な、なに!?」
それはつまり、ヘリオンの回復と引き換えにエスペリアを失うということだった。
老婆はニヤニヤした顔でこちらを見ている。くそ、虫唾が走る。

「大丈夫ですよ、ユート様」
「・・・へ?」
そういうと、エスペリアは一歩前に踏み出して言った。
「そのかわり、先にヘリオンを治してあげてください」
「ああ、いいとも」
交渉成立。老婆は杖を掲げ、むにゃむにゃと呪文を唱え始めた。
194不思議のスピリットの館:2005/11/01(火) 22:54:38 ID:CUqUTnke0

「凵ェ◯ΘЦ〆☆@γ∞〜!」
ボウンッ!

突然、Gヘリオンをスモークが包む。
そのスモークが晴れると、そこには見慣れた顔があった。
「ユート様ぁ!」
どうやら、元の姿に戻ったらしい。ああ、よかったなあ。あのままでも十分面白かったけど。

「ほんじゃ、約束どおり、こいつは戴くよ」
「エスペリア!」
その呼びかけに応えてはくれなかった。
エスペリアは無言で老婆の方に歩み寄る。老婆の手がエスペリアに触れようとしたその刹那。
「・・・させません!」
「な、なに!?」

シュッ!どすっ

エスペリアは老婆の後ろに素早く回りこみ、的確な手刀を一閃させた。
そして、老婆は白目を剥いて気絶したのだった。
俺たちは、その光景をあんぐりと大口を開けて眺めているしかなかった。

ちゃっちゃら〜ちゃらららら〜

老魔法使いをやっつけた!
と、またもやどこからともなく謎の効果音が響く。
一体何なんだこれは、と思っていると、エスペリアは老婆の荷物から『失望』を取り戻し、
それをヘリオンに渡す。何でそこにあること知ってんだ。
195不思議のスピリットの館:2005/11/01(火) 22:55:56 ID:CUqUTnke0

「さあ、先に進みましょう。ユート様」
ぽんぽんと手の汚れを払って、エスペリアはいつもの笑顔を俺たちに見せる。
だが、今このときは、その笑顔が死神の微笑みに見えてしまっていた。

「・・・・・・あ、ああ」
「え、エスペリアさん・・・怖いです」

俺たちは目を点にし、後頭部に汗をたらしながら、さらに奥へと進んでいった。


進んでいる途中、俺は気になったことをヘリオンに尋ねる。
「そういえばさ、なんでヘリオンがここに?」
「あ、えっと〜、地下倉庫に調味料を取りに行こうと思って入ったら、こんなことになってしまって・・・」
「やっぱり、地下倉庫ですか・・・」
「へ?もしかして、ゆ、ユート様たちもですか?」
「ああ、そうなんだ。とはいっても、先に入ったアセリアとオルファを助けるためだけど」
「そ、そうなんですか〜」

察するに、第二詰所にもダンジョンの入り口が開いているようだ。
おそらく、1階のあの袋小路が、第二詰所からの入り口なのだろう。
「まてよ、ということは・・・」
俺たちはアセリアたちを追って入った。
つまり同じ理由で、芋づる式にスピリット隊のメンバーが続々と入ってくる可能性があった。
「・・・こりゃ、謎を解くまでは脱出できないな」
俺は深いため息をついた。何でこんなことになったんだ?

しばらく進むと、また下り階段。
もうどうでもいいや。さっさと行こう。
196名無しさん@初回限定:2005/11/01(火) 22:58:54 ID:8gLj9Izj0

               , ^》ヘ⌒ヘ《ヾ
               ( リ〈 !ノルリ〉))
        / ̄ ̄ ̄ノノ(!リ゚ ヮ゚ノリ((
   カサカサ ~ ̄> ̄> ̄>   ヽ
197不思議のスピリットの館:2005/11/01(火) 22:59:12 ID:CUqUTnke0

                    ─ LEVEL  4 ─

階段を下りると、一気に広い空間に出た。そこには、無数の扉が並んでいた。
そして、その部屋の中心には、俺たちの探している人がいた。

「アセリア!オルファ!」
「ユート!」
「あっ!パパ〜!!」
アセリアはいつも通りの冷静な顔だったが、オルファは涙目だった。
入ったら出られないようなところに来ちゃったんだから無理も無いけど。

「さ、寂しかったよぅ〜、う、うえええぇぇ〜ん!」
「おお、よしよし」
俺の胸を借りて泣き出すオルファ。とりあえずなだめてやることにした。

オルファの頭を撫でる俺を尻目に、エスペリアはアセリアに話しかける。
「アセリア、一体何をしているのですか?」
「エスペリア、これ見ろ」
アセリアが薄い石畳をどけると、そこには文字の刻まれた石板があった。
「あの〜これって、なんですか?」
「こう書いてあるぞ。『5人の勇者がそろうとき、汝らは知恵と勇気を試される』って」

反射的に辺りを見る。
俺と、アセリア、エスペリア、オルファ、ヘリオン・・・・・・役者はそろっていた。
「知恵と勇気を試される・・・ですか」
「なぞなぞでもするんでしょうか〜?」
「オルファ、なぞなぞなら得意だよ♪」
果てしなく楽観的な解釈。だが、このノリなら何が出てきてもおかしくなかった。
すると・・・・・・
198不思議のスピリットの館:2005/11/01(火) 23:00:35 ID:CUqUTnke0

『はっはっはっはっ・・・・・・』
どこからともなく、低い声が響く。
おそらく、この声が今回の事件の首謀者、あるいはその守護者<しもべ>なのだろう。

『ようやく5人そろったようだな。2人しかいなくて寂しかったぞ』
「はあ、そうですか」
思ったよりこの守護者は寂しがりらしい。
『とりあえず、不思議のスピリットの館へようこそ。とでも言っておこうか』
「名前、そのまんまかよ!」

思わず俺は突っ込みを入れる。すると、突っ込みを返された。
『何を言う。お前が最初にこのダンジョンに名前をつけたのではないか?』
「え?ああ・・・いや、あれは(仮)ってやつだ」
『それでも嬉しかったぞ。ずっと名前が無くて寂しかったのだ』
「・・・・・・はぁ」

『ごほん、それでは本題に入ろうか』
知恵と勇気を試される・・・この愉快な守護者の口から、どんな試練が飛び出すのだろうか。
ゴクリ・・・・・・俺は固唾を飲んだ。

『周りの無数の扉のうち、正しい扉はひとつだけ。それ以外はハズレだ』
なんという月並みな設定。まあダンジョンってのはこういうものなのだろう。
「は、外れると、どうなるんですか〜?」
ヘリオンは怯えるように質問した。すると、守護者は即答する。
『開けた者にとって一番嫌なことが起こる』
「そ、そんなのヤダぁ〜!」
涙目&大声で抗議するオルファ。オルファの一番嫌なことって一体・・・?
まあそれは別の話にしておこう。
199不思議のスピリットの館:2005/11/01(火) 23:02:43 ID:CUqUTnke0

『それが嫌なら正しい扉を開けることだ』
「ですが、こんなに多くの扉からひとつだけというのは、理不尽すぎませんか?」
まるでゲームバランスが悪いと言うように反論するエスペリア。

『そこでだ、お前たちにチャンスをやろう。もしそれに成功したら、正しい扉を教えよう』
「なんだ、それ」
『これから我がお前たちに関する質問をする。それを一人ずつ、五回正解したら合格だ。
言っておくが相談は禁止だぞ』
「ちょっとまった。その質問に正しく答えなかったら?」
ふむ、という具合に罰を考えている守護者。少しの沈黙の後、守護者は答えた。

『命をとるようなことはせん。だが、正しくない場合、一枚ずつ服を脱いでもらおうか』

          です!!」
          だ?」
「何を考えてるんだ〜!!」
         のよぅ!!」
          ですかぁ〜!!」

俺たちは同時に突っ込みを入れる。前半部分がハモっていい感じだ。
・・・・・・って感動している場合じゃない!
「そ、そんなのいやです!」
と、ヘリオンは抗議する。が、守護者は冷静に答えた。
『お前たちに関する質問だと言ったろう。正直に答えればいいだけの話だ』
さっきまで愉快キャラだったくせに、突然真理を語る守護者。
「ま、まあ、正直になりゃいいんだよな」
「そうだぞユート。正直が一番だ」
・・・なんで俺に振るんだ。
200名無しさん@初回限定:2005/11/01(火) 23:04:20 ID:8gLj9Izj0
黒髭危機一髪
201不思議のスピリットの館:2005/11/01(火) 23:04:51 ID:CUqUTnke0

『では始めようか。まずはお前だ、ユート』
「え?いきなり俺?」
俺はあっけにとられていると、守護者は質問を始める。

『お前の妹のかぶっている帽子、それは何の動物がモデルだ?』

佳織のかぶっている帽子?それってあの不気味な『ナポリタン』とかいうやつか。
たしか、アレのモデルになっているのは・・・
「・・・ウサギだ!」
俺は堂々と答えた。

ぶっぶ〜
な、何故だ!?確かにアレはウサギだったはず!

『この世界にはそんな動物はいないぞ』
この守護者はあくまでこの世界に準じているようだ。だが、こんなところで醜態を晒すわけにはいかない!
「あのな、ウサギは俺の世界に実在する動物だ!!」
『ならば正解だ』

ぴんぽんぴんぽ〜ん
どこからともなく正解音が響いてきた。・・・・・・危ない危ない。
「(それにしても、随分と適当な正解基準だな・・・)」
202不思議のスピリットの館:2005/11/01(火) 23:06:23 ID:CUqUTnke0

『では次は・・・エスペリア、お前だ』
「は、はい」

俺は少し心配だった。
あんな罰を思いつくくらいだから、俺以外にはとんでもない質問をするんじゃないかと。

『エスペリア、お前のスリーサイズはいくつだ?上から順に答えよ』

「〜〜!!」
・・・・・・ほら来た。とんだセクハラ守護者だった。

「そ、それは、えっと・・・」
『言えぬのか?ならば服を脱いでもらおう』
「う、うう、わ、わかりました・・・」
エスペリアは、顔を真っ赤にして蚊の泣くような声で答え始める。
「う、上から86、57、87です・・・」

ぴんぽんぴんぽ〜ん
『うむ、よく言った。なかなか良い体と勇気だ』
エスペリアにとってはちっともうれしくないだろう。俺は少しうれしかったが。
なるほど、そんなスタイルだったんだな。

エスペリアが戻ってくるなり、守護者は次の指名をする。
203不思議のスピリットの館:2005/11/01(火) 23:07:42 ID:CUqUTnke0

『次は・・・そうだな、オルファリル。お前だ』
「変なこと聞いたら嫌いになっちゃうからね!」
『う、うむ』
一瞬、守護者が躊躇したように思えた。セクハラと同時にロリコンでもあるらしい。

『オルファリル、お前の飼っているエヒグゥの色は何色だった?』

・・・そう来たか。
確か、ハクゥテの色は、オルファの好きなネネの実と同じ色、ピンク色のはず。

「ハクゥテの色?それだったら、ネネの実と同じ色だよ♪」
オルファは正直に答えた。それでいいはずだけど。

『いや、だからその色は何色だと』
「ネネの実の色はネネの実の色なの!!」
守護者が反論を終える前に、オルファはびしっと主張する。
『そ、そうか、わかった。正解だ』

ぴんぽんぴんぽ〜ん
「やったぁ♪」
この守護者は幼女に弱い、か。よく覚えておこう。
オルファが笑顔で戻ってくると、守護者は次の指名を始めた。
204不思議のスピリットの館:2005/11/01(火) 23:09:27 ID:CUqUTnke0

『次は、ヘリオン。お前だ』
「は、はいっ!」
ヘリオンにはどういう質問が来るのだろうか。
普段は別々の所で生活しているだけに、俺は興味津々だった。

『ヘリオン、お前の片想いの相手は誰だ?』

「え、ええぇ!?」
藪から棒に何を聞くのやらこの守護者は。
そういうことは女の子にとって、スリーサイズ以上のタブーのような気がする。
だが、ヘリオンが誰に片想いしているのかは俺も知りたかった。

「はうぅ・・・そ、それは・・・い、言えませんっ!!」
『それならば、服を脱ぐことになるぞ。お前の場合、一撃で下着姿になるようだが』
「〜〜〜〜!!!」

ヘリオンは顔を真っ赤にしておろおろしている。
「こ、こうなったら〜、最後の手段ですっ!」
・・・何をする気なんだ?そう思っていると、
205不思議のスピリットの館:2005/11/01(火) 23:10:41 ID:CUqUTnke0

ヒュッ

風が俺の横を通り過ぎたような気がした。だがその瞬間、ヘリオンは俺の視界から消えていた。
「あ、あれ?」
「ゆ、ユート様!ご、ごめんなさいっ!!」
ヘリオンの声が後ろからしたと思って、後ろを振り向こうとするが、時すでに遅し。

どがっ

「あ、が・・・」
『失望』による全力のこもったみねうちが俺の脇腹に食い込む。
程なく、俺の意識は闇の中に吸い込まれていくのだった。

『求め』のアシストがあるおかげで、俺はすぐに目を覚ました。
だが、そのときはもうヘリオンに対する質問は終わっていた。

「な、何が起こったんだ・・・?」
「ユート様、あなたは罪な人ですね・・・」
「パパ♪大丈夫だよ!オルファ、応援してるから!」
何を言ってるのやら。とりあえず俺は立ち上がった。
「それより、ヘリオンは何て・・・」
「い、言わないでください!!」
よっぽど恥ずかしかったのか、力一杯隠そうとするヘリオン。
そこまで言うなら、俺はこれ以上は追及しないことにした。

「ボソ・・・ユート様、鈍すぎます」
「ボソ・・・気絶させて正解だったね♪」
エスペリアとオルファの冷たい視線が刺さる。いったいなんだっていうんだ。
206不思議のスピリットの館:2005/11/01(火) 23:12:34 ID:CUqUTnke0
『さて、最後はアセリア、お前だ』
「ん、そうか」
最後ぐらい、まともな質問で締めくくって欲しいものだ。
どんな質問が来るのか、と思っていると・・・

『アセリア、今のお前の下着は何色だ?』

・・・こいつは、どうやら最後までセクハラ根性全開で行くらしい。
実体があるなら、今すぐにでも叩き斬ってやりたかった。
・・・・・・だが、そこはあまり物事を深く考えないアセリアだった。
「下着の色か?なら白だ」

きっぱり、見事な即答。いくらなんでも即答はないだろ・・・俺は勝手にそう思っていた。

ぴんぽんぴんぽ〜ん
『・・・・・・即答とは、参った。お前には恥じらいとかそういうのは無いのか?』
「ハジライって、何だ?なくちゃいけないのか?」
『・・・いや、なんでもない。我が悪かった』
流石のセクハラ守護者もアセリアには敵わなかったか。

『よし、約束どおり、正解の扉を教えてやろう』
「・・・やれやれ」
守護者がなにやら呪文を唱える。やっとのことで先に進めるのだ。

がこんっ!

鈍い音が部屋中に響く。その瞬間俺たちは足場の感覚を無くした。
「「「「「!!」」」」」
『正解の扉は、お前たちの足元の石畳だ。健闘を祈るぞ』
「勝手に言ってろ・・・うわあああぁぁぁ〜〜!!」
俺たちは奈落の底へダイブしていった。
207名無しさん@初回限定:2005/11/01(火) 23:12:39 ID:8FcHusjX0
人気投票でのセリア圧勝ムードに吃驚しつつ支援
208不思議のスピリットの館:2005/11/01(火) 23:13:59 ID:CUqUTnke0

                    ─ LEVEL 27 ─

「・・・・・・って、いきなり27階かよ!?」
「・・・ここまで、長い道のりでした」
「そうですね〜」
エスペリアとヘリオンは、まるでさっきのことが昔のことのように言う。

「いよいよ、この先にお宝があるんだね♪」
「ん、そうだな」
・・・お宝?そんなもんあったのか?
というか、いつのまにかみんなの目的がお宝になっていた。
本当は脱出することが目的だったはずだけど・・・?

「多分、この階層のどこかに、宝の入った箱があるはずだ」
「さっそく探しましょう!」
俺たちは、27階を捜索することにした。
209不思議のスピリットの館:2005/11/01(火) 23:15:16 ID:CUqUTnke0

最後の階層というだけあって、かなり広い。しばらく捜索していると、開けた部屋に人影があった。
「!?あれは・・・」
「スピリット、ですね・・・」
そのスピリットは漆黒のウィングハイロウを展開している。
その光のない瞳からは、強烈な殺気だけが放たれていた。

キイイィィン・・・
一気にハイロウを広げたかと思うと、そこからオーラフォトンに酷似した光線が何本も放たれる。

ズドドドドーン!
「うわあっ!」
「!」
「はうぅっ!」
俺たちは間一髪でそれをかわす。光線が当たった壁は大きく抉れていた。
まともに食らえば即行でハイペリア行き決定だろう。

「くそっ!こんなところでやられてたまるか!」
「そうだよ!こんなやつ、やっつけちゃえ!」
おそらくこいつが最後のボスなのだろう。
今まで遭遇してきた奴と比べると桁違いの強さだ。
210不思議のスピリットの館:2005/11/01(火) 23:16:36 ID:CUqUTnke0
スピリットは、もう一度オーラ光線を放とうとハイロウを広げた。
「そうは、させない!」
アセリアはアイスバニッシャーを放つ。
瞬時にハイロウが凍りつき、スピリットは動きを止めた。
「今だっ!」
俺はオーラフォトンを展開し、力任せに斬りかかるが、防御障壁に止められてしまった。
「くっ・・・!」
「こちらにもいます!」
いつのまにか回り込んでいたエスペリアが音速突きを繰り出す。
流石に後ろまでは障壁は張れなかったが、微妙な体の動きで全てかわしたのだった。
「〜っ!」
「動きを封じます!アイアンメイデン!」
ヘリオンの魔法によって無数の針が突き出し、スピリットの動きを止めると、
その後ろでオルファが魔法の詠唱をし終えた。
「これなら!いっけええぇぇ!アポカリプス!」

ドッゴーン!

雷炎が辺りを薙ぎ払う。その炎は防御障壁を貫き、完全に直撃した。
空間に砂埃が舞う。何も見えなかった。
「・・・やったか!?」
「いえ、まだです!」
そのスピリットは、服装こそボロボロになっていたが、まるでダメージは受けていなかった。
「な、なんて強さだ!」
唖然としていると、スピリットは神剣に力を集中させる。
「や、やばいッ!」
カッ!
スピリットは神剣を一閃させる。俺たちの視界は白い爆発に包まれた。
211不思議のスピリットの館:2005/11/01(火) 23:18:08 ID:CUqUTnke0

「ぐ、くそ・・・体が・・・」
その爆発の威力はすさまじかった。範囲が広かったため致命傷には至らなかったが、
それでもかなりのダメージを受けてしまった。
俺は周りを見渡す。さっきまで勇壮に戦っていた少女たちは地に臥していた。
「アセリア・・・エスペリア・・・オルファ・・・ヘリオン・・・!くっ!」
「・・・とどめだ」
心無きスピリットはそうつぶやく。体が動かない。ここまでなのか・・・!

キイイイィィィン・・・
頭の中で『求め』の干渉音が響く。
『契約者よ、諦めるな!汝は、まだ力を使い切っていない!』
「(俺の・・・ちから・・・?)」

なにか、心の中にかかっていたものが解き放たれていく。
そのうち、俺のあらゆるもののリミッターが解除されていることに気がついた。


「!!」
力強いオーラフォトンを放つ俺を見て、スピリットは驚愕の表情を浮かべる。
俺は、その一瞬の隙を見逃さなかった。
「うおおおぉぉぉ・・・!!」

ドシュッ・・・!

手ごたえはあった。現に、俺の目の前には、体を切り裂かれた黒い翼のスピリット。
ぐらり、とスピリットは倒れ、金色のマナの霧へと姿を変えていった。
212不思議のスピリットの館:2005/11/01(火) 23:21:05 ID:CUqUTnke0

俺はオーラフォトンを閉じる。そして、倒れている仲間のもとに駆け寄った。
「みんな!大丈夫か!?」

俺が声をかけると、苦しそうではあったが、みんな返事をしてくれた。
「ん・・・くぅ」
「は、はい・・・なんとか」
「パパぁ・・・痛いよぉ・・・」
「ゆ、ユート様こそ、大丈夫ですか〜?」
「ああ、俺は大丈夫・・・少し、休むか」

俺の提案にみんなは頷く。
壁に寄りかかって休んでいると、どこからともなく声が響いてきた。

『はっはっはっはっ・・・・・・よくぞ宝の番人を倒せたな』
「お、お前はさっきのセクハラ守護者!」
『せ、セクハラって言うな!それに我は守護者ではない!』
必死で否定しようとするが、その言葉からは説得力の欠片も見出すことはできない。
213不思議のスピリットの館:2005/11/01(火) 23:22:26 ID:CUqUTnke0
「何の用だ。お前の出番は4階で終わったはずだろうが」
『ふふふ・・・お前たちは、どうしてこんなことになったか、知りたくは無いか?』
「どういう・・・ことですか」
どうやらコイツはとんでもない秘密を持っているらしい。おそらく宝もコイツの手の中だ。
『まず・・・我はこのダンジョンを司る者ではなく・・・ダンジョンそのものだ』
「・・・ふぇ?」
間の抜けた反応をするヘリオン。早い話、俺たちは終始コイツの腹の中にいたってわけだ。
『ふふふ・・・驚きを隠せないようだな』
「そんなの、当たり前だよ!」
と、オルファ。すると、ダンジョンは嬉しそうに、さらに言葉を続けた。
『そうだろうそうだろう。そしてだ、なぜお前たちの住処に来てしまったかというと、
お前たちに本当の幸せと言うものを実感させてやるためだ』
「本当の・・・しあわせ?」
『そう・・・そして、お前たちが探している宝はここにある』

ダンジョンがそう言うと、さっきスピリットがいたところから台がせり上がってきた。
その台の上には、豪華な装飾が施された箱があった。

『さあ、この箱を思い切って開けるがよい!』

俺は少し慎重になっていた。こんなうまい話があるはずが無い。
この宝箱にだって、なにか罠が仕掛けられているに違いない!
「・・・というわけで、誰か罠を見つけて解除してくれ」
そこにいた全員が首を横に振った。俺に対して懇願の目で見ている。
「・・・わかった。俺が開けりゃいいんだろ」
214不思議のスピリットの館:2005/11/01(火) 23:23:34 ID:CUqUTnke0

俺はすぐに離脱できるように、オーラフォトンを展開し、慎重に箱を開けた。
幸い、何も罠はかかっていなかった。
爆発したり石弓の矢が飛んできたり、最悪、石の中にワープしてしまうのではないかと思っていただけに、
思いっきり拍子抜けしてしまった。

その箱からはゆったりとした、優しいメロディーが流れ始める。
「これは・・・オルゴールか」
『ふふふ・・・いい曲だろう。恋人にプロポーズするときにかけると効果覿面だぞ』
「ああ、そうですか」
それで振られちゃ元も子もない気がするけど、俺はあえて反論しなかった。

「ね〜ね〜、もしかしてこれがお宝なの?」
『そうだが』
「ちょっと、期待はずれですね」
オルファとエスペリアがなにやら文句を言う。
やはりお宝というからには、巨万の富のようなものを想像していたのだろう。

『全く、欲張りな奴らだな。その音楽以外にお前たちは何を望むのだ』
「で、でも、私はいい曲だと思いますっ!」
「そうだな、なんか、気持ちいい・・・」
逆に、ヘリオンとアセリアは幸せそうな顔をしていた。元々この二人にはあまり欲は無い。
俺は、しっかりとオルゴールを手にした。

『幸せがお前たちを待っている・・・さあ、在るべき場所へ帰るが良い』
ダンジョンがそう言うと、俺たちは光に包まれ、全ての感覚を失った。
215不思議のスピリットの館:2005/11/01(火) 23:25:42 ID:CUqUTnke0


「う、う〜ん」
気がつくと、俺たちは見覚えのある床を見つめていた。
「こ、ここは・・・」
ようやく視力が戻ってくる。そこは、俺たちの生活の中心、館の食卓だった。
「あれ?オルファたち、戻ってきたの?」
「そ、そうみたいですね」
「なんか、いいにおい・・・」
アセリアがそう言うと、俺たちは周りをきょろきょろと見渡す。
テーブルの上を見ると、そこには、美味しそうな料理が所狭しと並んでいた。

ぐきゅうううぅぅ・・・
それを見た瞬間、俺を含めた全員の腹が一斉に悲鳴を上げる。
「そういえば、夕食、まだでした・・・」
「オルファ、もうおなかペコペコぉ〜」
「ん、ごはん・・・」
「ゆ、ユート様ぁ・・・おなかすきましたぁ・・・」

しかし、誰がこんなに沢山の料理を用意したのか、俺はそれが疑問だった。
窓からの景色を見る限り、真っ暗ではあるが、第一詰所であることがわかる。
ちなみにウルカは今哨戒任務でここにはいない。いたとしても作りはしない。

「まあ、いいか。じゃあ飯にしようぜ」
俺たちはそれぞれの席(ヘリオンはウルカの席)に座り、食事をすることにした。

「「「「「いっただきま〜す!!」」」」」


その時食べた料理は、今まで食べたどんな料理よりも美味しかった。
そのテーブルについていた者全員が、そう感じていた。
216不思議のスピリットの館:2005/11/01(火) 23:27:05 ID:CUqUTnke0


食事を終えた後、俺たちはあの地下倉庫に向かった。
しかし、そのときにはもう、そこは元の地下倉庫に戻っていたのだった。

「あれ?無いな・・・」
「夢だったのでしょうか?」
全員が同じ夢を見るはずが無い。

それに、俺はしっかりと覚えている。突然ダンジョンと化した地下室での数々の冒険を。
よわっちいゴブリンに、氷付けの炎の巨人。
G化してしまったヘリオンに、エスペリアにはったおされた魔法老婆。
セクハラな質問ばかりをしてくる、ロリコンなダンジョン。
そして、俺が切り裂いた強力なスピリット・・・

「!?」
俺は反射的に走り出し、食卓に戻る。
俺が倒れていた場所には、見覚えのある箱が置いてあった。
「ユート様、それは・・・」

俺はその箱を開ける。

その夜、ゆったりとした、優しいメロディーが館中を包み、俺たちを癒したのであった────
217くじら318号:2005/11/01(火) 23:31:21 ID:CUqUTnke0
以上です。
もう、ほんとヒネリありませんね、ワタクシ。
そのくせ今までで一番長いですし・・・。

心境は唯一言。疲れました。(´・ω;;;;;:::::.....

誤字脱字、ハリオンマジック等、指摘があればなんでもどうぞ。
218名無しさん@初回限定:2005/11/01(火) 23:33:50 ID:8gLj9Izj0
途中てっきり光陰が守護者かとw
元ネタ知らないのですが、結構笑いました。所々の悠人の突っ込み、ナイスですw
ハクゥテの色とか帽子の由来とか咄嗟に思い出せなかった……orz
219名無しさん@初回限定:2005/11/01(火) 23:55:33 ID:ca0mduDG0
   Gヘリオンは仲間を呼んだ。

 Gへリオン          2(2)

               , ^》ヘ⌒ヘ《ヾ
               ( リ〈 !ノルリ〉))
        / ̄ ̄ ̄ノノ(!リ゚ ヮ゚ノリ((
        ~ ̄> ̄> ̄>   ヽ

不確定名「くろびかりするもの」


不思議のダンジョンはしりませんですよ。

エスペリアさん、そういうことしてると、王子様に助けられるお姫様役がまわってくることはなさそうですよw
でも、なぜ最初の敵はゴブリンなのか。せっかくエスペリヤのオーク狩りが見れ(ロルト)
ヘリオンヒドス。
アセリア「穿いてない」って言ってよっ!


マピロ・マハマ・ディロマト


>207
いつの間に!?  
220名無しさん@初回限定:2005/11/02(水) 01:16:48 ID:YOuuTJwo0
>164
遅れましたが、GJ。と言うか、神。
いやいや、数日来れなくなったら新着レス数が凄い事に(笑) 乙です〜

序盤の悠人とファーレーンのらぶらぶさは問答無用の破壊力でした(w
無敵ですな。言う事無し。後、街中の変化に気付く所も地味に良さげ。
ソーマとの戦闘はどうなる事かとはらはらしましたが、まさかその後の
決戦後にああ言う展開を持ち出すとは。伏線に気付かなかった……
でも、仲間を頼る事を覚えた悠人は良いですね。頑張れ。

が、脇役なのに何故か存在感があるエスペリアとレスティーナが妙にツボ。
特にレスティーナの人物描写は主役かと思う程。
悠人とのらぶらぶ話もイイかも < 節操無し

次回で最終話との事ですので、期待しつつゆっくりと御待ちしてます〜
221名無しさん@初回限定:2005/11/02(水) 01:22:56 ID:dDvzjj/c0
アセリアの18禁ssのサイトってある?
2ちゃんにはないみたいだが。
222名無しさん@初回限定:2005/11/02(水) 01:27:09 ID:Msbeng1A0
保管庫にある分しか知らないなぁ
223名無しさん@初回限定:2005/11/02(水) 05:31:06 ID:5m2BFh+T0
>>くじらさん

面白かったです。
いつか、WIZネタやろうと思ってたら先に不思議のダンジョンでやられもしたw
5人それぞれの行動が、なかなかに面白すぎです。
特にヘリオン。何処までドジっ娘属性を刺激してくれるんだ、君は。
(いや、私も君でGヘリオンネタやっちゃったけどさ)
次なるネタも期待してお待ち申し上げております。
224革命の人:2005/11/02(水) 19:49:36 ID:i23D610s0
「革新の一歩」第一章最終投下します
お付き合いいただければ幸いです、では

225「革新の一歩」第一章 決意と萌芽:2005/11/02(水) 19:51:04 ID:i23D610s0

 訓練の後、俺はみんなの部屋を謝罪して回った。
 反応は十人十色だったが、結局の所は思いが通じたのかみんな許してくれたみたいだ。
 そして俺は今、セリアの部屋のドアを叩こうとしている。
 早速彼女に相談したい事があったのだ。
 コンコン
 俺は意を決してドアをノックする。
 ずいぶん無機質で乾いた音がした気がした。
226「革新の一歩」第一章 決意と萌芽:2005/11/02(水) 19:52:09 ID:i23D610s0
「さて、明後日に迫ったバーンライトとの決戦についての作戦会議を始めよう。エスペリア、説明を頼む」
 悠人は決戦に備えての作戦会議を開催いていた。
 本来は出発前に各部隊へ作戦のみを通達するだけでいい。
 だが、隊長らしさのアピールとして場を設けるようにと「彼女」に入れ知恵された結果だった。
「はい。情報によりますと、敵勢力は再編成を終え首都を中心に展開、主力はこちらに動きがなければサモドア山道を通り、ラセリオに総力戦を仕掛けてくる模様です。
一方、守備部隊の兵員は僅かですが、おそらく精鋭をあてているものと予測されます。
開戦直後から見れば大きく数を減じていますが、数字上では依然として敵側が優勢です。…以上が敵軍の現状です」
「うん、説明ありがとうエスペリア。そこで俺たちの作戦はこうだ」
 悠人は満足そうに頷いて列席しているみんなをひとりひとり見た。
「まず、部隊を二つに分け、ラセリオとリモドアにそれぞれ配置する」
「待ってください」
 挙手してヒミカが立ち上がった。
「数で劣る以上、こちらは一丸となって敵にぶつかるべきだと思うのですが…」
 もっともな意見だ。
「確かに普通ならそうだ。でもそれじゃ侵攻に時間がかかる。消耗戦になったら不利だ…まあ、最後まで聞いてくれ」
 なだめてヒミカを座らせると、悠人は先を続ける。
「ラセリオ側の部隊は南下して敵主力と交戦。だけど、無理に先に進む必要はない。逆に少しずつ後退してラセリオで敵主力を食い止める。
こっちが守る側になれば数の不利もある程度抑えられる。そうやって敵の主力を引きつけておいて――」
 場の雰囲気が変わった。みんなこの作戦の全貌が見えてきたようだ。
227「革新の一歩」第一章 決意と萌芽:2005/11/02(水) 19:57:43 ID:i23D610s0
「そこで、リモドア側の部隊がサモドアに攻め込むんだね、パパ!」
 すかさずオルファリルが立ちあがって口を挟んだ。
「こら、オルファ!ユート様のお話の邪魔をしてはいけません」
「いや、いいんだエスペリア。その通りだ、偉いぞオルファ」
 嗜めるエスペリアを制す形で悠人はオルファリルに助け舟を出す。
「えっへへ〜、パパに誉められた〜」
「いーないーな、オルファばっかりずるい〜」
「ずるい〜」
 喜ぶオルファリルにネリーとシアーがユニゾンで不満を漏らす。俄かに場が騒ぎ出した。
「みんな静まりなさい!…ユート様、話を続けて下さい」
 パンパンと手を叩きながらヒミカが場を収めた。こういう時の彼女の仕切り屋気質は助かる。
「ああ、ヒミカありがとう。それじゃ続けるぞ……つまり今回は陽動と電撃戦の二重仕立てだ。ラセリオ側の部隊、陽動側は派手に暴れて敵をおびき寄せてもらう。
リモドア側の部隊はサモドアより敵が離れた頃合を見計らって進撃開始。速やかに守備部隊を倒し首都を制圧する…以上だ。質問はあるか?」
 す、と上げられた手。
「ひとつ質問が。編成は決まっているのですか?」
 セリアだった。
「ああ、もう決めてある。編成は――」
 悠人は彼女を見つめながら心の中で礼を言った。
228「革新の一歩」第一章 決意と萌芽X:2005/11/02(水) 19:58:33 ID:i23D610s0
「ん、敵の気配…」
「え?どこ、アセリアお姉ちゃん」
「まだだ、もう少し待たないと敵の主力がとって返して来るかもしれない」
 飛び出そうとする二人を悠人は引き留めた。
「そうね、あともう少しかしら?」
 リモドア南部の林に潜み、静かに期を待つのは悠人、アセリア、オルファリル、セリアの四人。
 こっちの部隊に求められるのはパワーとそして何よりスピード。
 神剣魔法を無効化できるアセリアとセリアは必須、そして(神剣の)力が一番の俺、サポートにオルファ。
 これ以上はスムーズに動けなくなるし、向こうの戦力を取るわけにもいかない。
 考えられる最もベターな選択だった。
 他のみんなは今ごろ山の向こうでラセリオに後退を始めている頃だろう。
「もう少しだ…もう少し」
 待っているのは辛い。本当に向こうは上手くいっているのか?守備部隊が予想を越えて強かったら?
 そんな事を、とりとめもなく考えてしまう。
 彼女に作戦と編成の相談に行ったとき――実は既にエスペリアと一緒に考えておいたものの確認だったのだが。

「作戦自体に問題は感じられません。しかし、リモドア側のメンバーにエスペリアのかわりにユート様を入れましょう」
「…いいのか?敵の守りは堅いんだから回復のできるエスペリアは必要だと思うんだが…」
「だからです。いくら守りが堅かろうと回復など悠長にしている時間はありません。一気に押し切らなければ私たちの負けです。
それならばユート様の方が適任でしょう。そして、ラセリオ側の守りを厚くできます」
「そうなると…」
「そうです。作戦の全ては私たちにかかっています」
229「革新の一歩」第一章 決意と萌芽X:2005/11/02(水) 20:01:31 ID:i23D610s0
プレッシャーが重く圧し掛かる。
(担う者の重圧、ってやつかな?)
 悠人は緊張に強張る身体を少しでもほぐそうとするが上手くいかない。本当は今すぐにでも飛び出していきたいが…
(まだだ…もう少し…落ち着け……落ち着け……)
 はやる気持ちを強引に抑えつける。
 が、悠人の努力は無駄に終わった。
「敵が、見えた。……行く!」
 ザッ!
 アセリアがハイロゥを展開して飛び出した。それに続いてオルファリルが追いすがる。
「オルファも行くねっ!アセリアお姉ちゃん、負けないよ〜」
 自分に気を取られていた悠人は出遅れた。
「くッ!しょうがないわね。ユート様、早く!」
「ああ、すまない。…待つんだ、アセリア!オルファ!」
 残された悠人とセリアも駆け出した。
 必死に追いかけるが、先を行く二人の姿はみるみる遠ざかっていく。
 悠人の胸中が不安に満ちる。
(放っておけない)
 彼女たちは――いや、アセリアは危うい。
 死を恐れず、剣を恐れず、敵に向かっていく。
(エスペリアが言ってたな。アセリアは剣の声に純粋過ぎるって)
 戦って戦って戦い続けて、そして死ぬ。それがスピリットとして、正しくあるべき姿……とも。

 ――認めない。

 並んで走るセリアを見る。彼女も神妙な表情をしていた。
(セリアも心配なんだよな、アセリアの事が)
 だったら、違いなんてない。
(生きているんだ、俺たちは。…全く、同じに!)
 地を蹴る足に力がこもった。
230名無しさん@初回限定:2005/11/02(水) 20:02:57 ID:rwf8S0sy0
支援
231「革新の一歩」第一章 決意と萌芽X:2005/11/02(水) 20:03:44 ID:i23D610s0
 バーンライト王国、首都サモドアにそびえ立つ王城はヨーロッパにあるような石造りの城だ。
 そこに続く城下の石畳を悠人とセリアは駆けて行く。
 二人はアセリアとオルファリルを見失ってしまったが、行く先はわかっていた。
 最初に補足した敵を一撃で屠ったアセリアは、敵の神剣の気配を辿っていった。
 つまりは王城に向っていったのである。
 どうやら作戦は成功したみたいだ。守備に残っているスピリットは僅か。
 それすらも殆どが先行している二人に倒されているようで、ここまで来るのに二人で五人と相手にしていなかった。
(これならいけるか?)
 安心はできなかった。先行する二人は多くの敵と戦っているはず。
(誰も死なせやしない)
 そう、仲間の誰を死なせてしまっても悠人にとっては敗北だ。
「…ん?」
 悠人とセリアの走る通りの先。そこは交差点になっており、左側から出てきた影がふたつ。色は青と赤。
 同じくらいの大きさの影…
(アセリアとオルファじゃないな…ってことは)
 悠人は走りながら「求め」を構えた。
「敵だ!セリアは赤のほうを頼む…行くぞ!」
 向こうもこちらに気がついたようだ。
 青はハイロゥを羽ばたかせ一直線に突っ込んでくる。赤はその場に留まって神剣魔法の詠唱を始めた。
「マナよ、炎のつぶてとなれ。雨の如く――」
「うおぉぉぉぉぉ!」
 展開されるオーラフォトン。青白く輝く障壁は青い妖精の攻撃を受け止める。
 悠人は驚愕に目を見開く青い妖精を一刀で切り捨てた。
「マナよ、我に従え。氷となりて、力を無にせしめよ。…アイスバニッシャー!」
 セリアの神剣魔法が完成し、赤い妖精のそれを霧散させた。
 彼女はそのまま敵に肉薄する。接近戦になればセリアが断然有利。
(よし、セリアのほうも大丈夫だな)
 悠人が胸を撫で下ろした瞬間――
232「革新の一歩」第一章 決意と萌芽X:2005/11/02(水) 20:04:24 ID:i23D610s0
 ひゅん!
 横合いから突き出されてきた槍をとっさにかわす。
「やれると思ったんだけどな…流石はエトランジェ、って事かな?」
 いつの間にそこにいたのか。
 槍を引き戻した緑の妖精に悠人は見覚えがあった。
「…お前は!」
 間違いない。ラセリオ最初の防衛戦で逃がしたスピリットだった。
「そう、あの時は話も出来なかったね。まあ、戦場だからそんな事は当たり前なんだけど」
 小柄な身体。少しつり目気味の目、長く伸ばした髪は後ろで一本の三つ編みにされている。
 軽い口調とあいまって、彼女は奔放な猫のような雰囲気を持っていた。
「ユート様、ここは私が…」
 先程の赤い妖精を屠ってきたセリアが進み出る。
「いや、ここは俺に任せてくれ。セリアはアセリアを頼む」
 が、悠人はそれを制してセリアのさらに前へ。
「せっかく再会した事だし、名乗っておくね。ボクはエルピーサ、「暁明」のエルピーサ。キミは?」
「…悠人。高嶺悠人だ…エトランジェ、「求め」のユート」
「ユート?…変わった名前だね。でも、どうでもいっか。どの道そう長い付き合いにはなりそうにないし」
 すっ…と「暁明」を振りかぶる。
 悠人に浮かぶ表情は苦い。
「もう少しで、戦いは終わる。俺たちの勝ちだ」
「でも、まだ終わってないよ。…なら」
「どうしても、戦うのか?」
「もちろん。それがボクたちスピリットの存在意義だもの」
 違う、それだけじゃない。
 ――殺したくない。
 今やってるのは命のやりとり、殺し合い。そんな事はわかってる。
 だが、本当にどうしようもないのか?戦うしかないのだろうか?
「そんな事ないだろ?何か他にあるはずだ…きっと」
「だったら……今すぐそれを証明してみせてよっ!」
233名無しさん@初回限定:2005/11/02(水) 20:08:26 ID:rwf8S0sy0
念押しでもういっちょ
234「革新の一歩」第一章 決意と萌芽X:2005/11/02(水) 20:09:36 ID:i23D610s0
 エルピーサはたんっ、と地を蹴りひと跳びで悠人に接近する。
 勢いに乗った穂先は真上から悠人の頭部を断ち割らんと迫るが、悠人は「求め」を跳ね上げて「暁明」を受け止めた。
「ユート様!」
「いいから、行け!俺は大丈夫だ」
 悠人はエルピーサに視線を向けたまま、セリアに怒鳴った。
 そこに――
「はぁぁぁぁぁっ!」
「危ないっ!」
 突然の乱入者。
 敵の黒い妖精が膠着状態の悠人に仕掛けて来た一撃を、セリアは間一髪で割って入った。
 戦場において最速を誇る黒い妖精の一撃に割って入るなど、無茶をする。
 セリアは内心肝を冷やしながら、敵の太刀を弾き押し返した。抵抗はなく太刀は引かれ、敵は後方に跳躍する。
 黒スピリットは体勢を整えると納刀し構えをとった。
「簡単に行かせては、くれないみたいね」
 セリアは不敵に微笑むと「熱病」を握る手に力を込めた。
235「革新の一歩」第一章 決意と萌芽X:2005/11/02(水) 20:11:27 ID:i23D610s0
「いくよっ!」
 エルピーサの踏み込みは、青スピリットと比較しても何ら遜色無い速さだった。
 「暁明」は一般的な槍状神剣より少し長いクロススピア状の永遠神剣。それから繰り出される二段突き。
 恐るべき正確さと速度を持つそれはオーラフォトンの障壁を一撃目で穿ち、ニ撃目で突き抜けてきた。
 迫り来る穂先を「求め」で叩き落す。障壁が無ければ確実に急所を貫かれていただろう。
「うおおぉぉぉっ!」
 悠人は「求め」を翻して反撃に転じようとするが、空振り。彼女は既に悠人の間合いから脱していた。
 彼女は「暁明」のリーチを活かして絶対に深く踏み込んでこない。加えてあの俊敏さ、こっちが剣を振る頃には彼女は離脱済み。
 緑スピリットの一撃離脱戦法。彼女の「暁明」と俊敏さがそれを可能にしていた。
「ふっふーん。ボクって結構速く動けるでしょ〜」
 エルピーサは構えを解いて得意げに胸をそらした。
「ああ、こりゃ参った。かわされたとかって事はあったが、とどかないってのは初めてだ」
 だが付け入る隙が無いわけではない。事実悠人は、あの特訓の時にはセリアの動きを捉えられるまでにはなっていたのだ。
 問題はあの二段突き。あれをどうにかしない事には迂闊に踏み込めない。
(せめてタイミングを狂わせられればいいんだけどな)
 後ろに下がるか、前に飛び込むか。
(今は余計な事は考えるな。目の前の事に集中するんだ)
 悠人の戦闘思考に入るノイズ。それは他ならぬ彼自身の葛藤。
 一度は見逃し、僅かでも言葉を交わした相手を自分はこの手にかけるのか。
「さあ、もう一回!」
 横道に逸れた悠人の思考はエルピーサの声で現実へと引き戻される。
 構えたエルピーサが再び接近。対する悠人はバックステップで距離をあけようとした。
(やるしかないか?)
「甘いよっ!」
 距離は瞬時に清算される。「暁明」の間合いまであと少し。
(…かかった!)
 バックステップはフェイント。思い切り飛び込んで、懐にもぐりこめれば槍は振るえない。
 とにかく無力化できれば戦わなくて済むはず。
 とっさの思い付きだったが成功――
236「革新の一歩」第一章 決意と萌芽X:2005/11/02(水) 20:12:30 ID:i23D610s0
 びゅん!
「なにっ!」
 来たのは突きではなく切り払い。見ると柄の端を持ってさらにリーチを稼いでいた。しかし、速度は突きに劣る。防御は間に合う。
「っく!」
 「求め」で受け止めた手が僅かにしびれた。構わず反撃。
 しかしその一撃は、シールドハイロゥに受け流された。
 そしてまたも開いた両者の距離。
「さ、そろそろ決めようよ」
 エルピーサの顔から表情が消えた。神剣に収束するマナが緑の魔法陣を空間に描く。
「マナよ、深緑の風となりて我を守れ」
 紡がれる言葉。
 もはや避けられない。彼女を倒す事でしか終わらない。
(やるしかない)
 湧きあがるオーラフォトン。
「マナよ、オーラへと姿を変えよ。我らに宿り遠きを見通す目となれ!」
「ウインドウィスパー!」
「コンセントレーション!」
 精霊光を纏う緑風と、静沈の青たる集中のオーラがそれぞれを包む。
「いくぞっ!」
「たあぁぁぁっ!」
 交錯するふたつの影。先に仕掛けたのはエルピーサ。雷光の如き二段突きが悠人に襲いかかる。
 しかし悠人は障壁を展開せず、不可避と思われた穂先をかいくぐってエルピーサに肉薄する。
 時をも止まって見える集中力。「求め」のコンセントレーションはその効果を確かに発揮していた。
 悠人は「求め」を振りかぶる。妨げるものは何もない。悠人は迷いを断ち切るかのように、振りきった。
 必殺の一撃がエルピーサを捕らえた瞬間。彼女と目が合った。
 彼女は、微笑んでいるようにも泣いているようにも見える表情をしていた。
237「革新の一歩」第一章 決意と萌芽X:2005/11/02(水) 20:16:14 ID:i23D610s0

 金色の霧が晴れて、残っているのは俯いた悠人とセリアだけ。
 セリアは敵の黒スピリットを倒した後、ずっと二人の動向を見ていた。本来なら先に進むべきなのは解っていたが、どうしても目が離せなかった。
 彼は迷っていた。殺す事、殺される事に。
 彼は苛まれていた。自己の死への恐怖、他者の死への罪悪、後悔に。
 全く、甘い。戦場ではごくありふれる死に彼の精神はいちいち揺れる。
 ――しかし
 それだけでは、ない。甘いだけではないと彼女は思った。
 彼は殺したくないと言っていた。それはたぶん私たちにも殺して欲しくないという事。
 だからあの時も私を止めたのだろう。
 優しいのだ、彼は。出会い、倒した者ひとりひとりに心を揺らして懊悩するほどに。
 だが、一方で危惧を感じる。
 たとえ、どれほど強大な力を持っていたとしても彼はこの先やっていけるのだろうか、と。
 セリアは悠人を見つめた。
 セリアの視線に悠人は気付きはしない。彼は今、その懊悩の中に身を沈めていたから。
238「革新の一歩」第一章 決意と萌芽X:2005/11/02(水) 20:17:12 ID:i23D610s0
「ちくしょう…」
 なんでなんだ。
 俺たちのやっているのは殺し合い。
 解っていたはずだった。
 それでも、零れ落ちていくものに悠人の心は涙する。
 しかし、頬を濡らすわけにはいかない。
 守りたいものがあるから、諦めなければならないものがある。
 選ぶも、選ばざるも、この道を進む事でしか望む場所へと辿りつけないのだ。余地など元から無かった。
 いくら心が悲鳴を上げても、罪悪に身を焦がしても。
(そうだ、俺はみんなに死んで欲しくない)
 だったら、進もう。
(俺は、佳織やみんなを守りたい…そのためなら)
 幾百の敵を倒して、幾千の血を流しても。
(そのためなら、何だってしてやる)
 俯いた顔を上げた悠人の目には、確かな決意の灯が揺らめいていた。
「行こう、セリア。アセリアとオルファが心配だ」
 迷わない。
 悠人は駆け出す。
 ――戦いは、まだ終わっていないから。

239「革新の一歩」第一章 決意と萌芽X:2005/11/02(水) 20:17:54 ID:i23D610s0

 不思議な人だった。
 敵なのにボクを助けてくれた人。
 戦うためだけの存在のボクに「戦わないでくれ」って言った人。
 戦う事以外にも何かあるってその人は言った。
 今までそんな事を言った人間なんていなかった。
 今までそんな事考えもしなかった。
 でも、ボクには戦う事しかなかったから、最後まで戦い抜いた。
 その事は後悔していない。
 でも、もしあの人と一緒にいられたら。
 ボクにも見つけられたのかな?

 戦う事以外の、「何か」が……
240名無しさん@初回限定:2005/11/02(水) 20:19:39 ID:5m2BFh+T0
永遠神剣「支援」よ、書き手に力を!
241革命の人:2005/11/02(水) 20:21:32 ID:i23D610s0
とりあえず本編はここまでで終了です
誤字脱字ハリオンマジックなど指摘あればよろしくお願いします
つっこみとか言いたい事とかあると思いますがその前に…
「幕間」があるのですか…内容的には痛いかもしれません
え〜と、それでも見たいってひといます?
242名無しさん@初回限定:2005/11/02(水) 20:24:10 ID:5m2BFh+T0
革命の人さんへ

漫画でも小説でも、最後まで全ての登場人物の命を全うさせてあげるのがいいと思う。
全うできたキャラクターは、とても幸せだと思うから。
だから、私自身は幕間を希望します。
243革命の人:2005/11/02(水) 20:27:50 ID:i23D610s0
>>242
いえ、キャラの命の全うとかではなく
楽屋的な小ネタなんです>内容
それで、私視点で…痛いかな?って思ったので
244革命の人:2005/11/02(水) 20:33:27 ID:i23D610s0
…開き直りました
投下しますね

ニムントール(以下:ニ)「むーーーっ!お姉ちゃん、なんで二ム達こんなトコにいるのよ」
ファーレーン(以下:フ)「落ち着きなさい、二ム。まだ私達はユート様の部隊に編成されてないもの、我慢しましょうね」
二「編成されてなくたって出そうと思えば出せるでしょ?他の職人さんたちはそうしてるし」
フ「そ、それはそうだけど…ほら、諸々の事情とかってあるでしょう?」
二「ふんだ、二ムはそんな都合なんて知らないもん!だいいち何?あの緑スピは!」
フ「ええと、オリキャラのエルピーサさんの事かしら?」
二「そーよ!色といい神剣の名前といい、なんか二ムとかぶってない?」
フ「確かに…でも何かあるんじゃないかしら?伏線とか……」
二「行き当たりばったりで書いてるクセに伏線も何もないと思う」
フ「こ、こら、二ム!そんな事、暴露しちゃいけません!作者さんとオフレコの約束じゃない」
二「それに何が「革新の一歩」なわけ?革新のかの字も出てないし…
 このままじゃこういうのにありがちなキャラカットされて出番もなし?
 そんな事になったらエレブラしに行くしかないね、お姉ちゃん」
フ「私達のファンの方々も少なからずスレにいらっしゃるようですし…
 作者さんもスレの住人さん達を敵に回す暴挙を行うとは考えにくいと思うけど?」
二「でも二ムは不安。本当に大丈夫なのかな?お姉ちゃん」
フ「大丈夫ですよ、二ム。信じて待ちましょう。求め、願えばきっと…」
 ファーレーン、ニムントールをぎゅっと抱きしめる。
二「…うん、お姉ちゃんがそう言うなら大丈夫だよね。でももしカットされてたら、作者のトコにエレブラしに行くね」
フ「二ム…(汗」

………

……


 ハイペリア某県某所

 ピンポーン……ガララ
?「はーい、どなたですか〜?ウチはセールス勧誘説教押し売り小包爆弾お断りですよー」
立っていたのは変わった服を着た小柄な黒髪ツインテールの女の子。手には刀のようなものを持っている。
?「……ヘリオン?」
ヘ「…んで」
?「はい?」
ヘ「なんで私の出番がないんですかっ!って言うか名前すら出してもらえませんでした!!
 ありがちなキャラカットですか?そうなんですか?」
?「え、いやちょ…」
ヘ「ふええぇぇぇん!酷いです、酷いですーーっ!」
?「あ、あの近所迷惑になるから…ちょっと落ち着いて――」
ヘ「うっ、うっ、雲散霧消の太刀っ!」
 ザシュウッ!
?「ぎえぇーー!」
 踵を返して立ち去っていくヘリオン。まるで通り魔だ。
 カッ…
 入れ替わりで静かに現われた真紅の影。
?「誰でもいいから…た、助け……ナナルゥ?」
ナ「…私は名前しか出ていませんでした。先制攻撃…」
?「わーーー、待って待って」
ナ「…はヘリオンにされてしまったので――」
?「ほっ…」
ナ「アポカリプスッ!!!」
 どがーん!
?「みぎゃあぁぁぁーーーーー!」



 念書

 私、「革命の人」は次章こそサブスピを全員出演させる事をここに誓います。
 この誓いを破りし時には如何様なる処罰、面罵も厭わぬ所存にございます。

ナ「…これでよし」
漏れ「あががが……」

 ――(注 これは一部ノンフィクションを元にしたフィクションです。
248革命の人:2005/11/02(水) 20:41:37 ID:i23D610s0
終了です





…さぁ、俺を殺せ!
249名無しさん@初回限定:2005/11/02(水) 21:39:49 ID:6fT5z13p0
>241
乙〜 このれまでの長さで第一章が終了とは驚き。
今回は戦争では回避不可能な場面と言う事で、シリアスですな。
なんか突然吹っ切ってしまったようだが、大丈夫かユート。
セリアも心配事が増えそうで、エスペリアのようだ(w

>楽屋的な小ネタなんです>内容
んー、今回は結構真面目な展開のでその小話が逆方面だったら、
敢えて書かなくても良いのでは。と思いましたが……
>245-247
……もう読後の雰囲気一変(笑)
でも、確かに雑魚スピは大勢いますから、こうなるのは必然カモ。
250名無しさん@初回限定:2005/11/02(水) 21:45:58 ID:HbFu9xji0
>>241
乙です。
いよいよデレ転換期5秒前に入りましたね。
ここからどう転がり落ちてくのか期待させていただきます。
ところで今回ってWじゃないですか?

>楽屋ネタ
ノーコメントでw
避難所向けかなぁと思わなくも無かったり。
251名無しさん@初回限定:2005/11/02(水) 21:49:08 ID:i23D610s0
すみません
連絡スレでも書きましたが
XじゃなくてWでした
分けるつもりがどこにも切れ目入れられなかったんで…
252紅蓮の剣 Z. 1/34:2005/11/03(木) 01:05:13 ID:mzPN31ih0
 ──門が開く前日、佳織は、悠人の背中を押してくれた。
 それでもう、悠人は決めた。皆が自分を忘れることへの覚悟もした。
 辛くないわけがない。だがそれでも悠人は皆を護りたかった。例え皆の笑う場所に自分がいなくても。
 別れは辛い。
 だが、その痛みよりも大切なものを護りに行く。
 
 そして、門の開く当日早朝。悠人は早朝の城下町を歩いていた。
 目的があってのことではない。ただ行く前に、もう一度この町を眺めておきたいと思った。──と、
「おう、珍しいな悠人。朝に弱いお前が」
「お前は相変わらず早いな。散歩か?」
 ああ、と光陰が頷く。修行中の身だからな嘘つけ生臭坊主んだとぉ、と他愛もない会話を交わしながら歩く。
 足は自然と高台へと向いていた。ここからは、目覚め始めた町の風景が見える。
 人々の生きる意欲が漲り、それが明日も在ると信じている場所。
「いい町だな、ここは」
 光陰の呟きに、ああ、と悠人も答えた。かつて嫌い、けれど自分達が護ってきた場所。
「──俺達な、こっちの世界に残ることにするわ」
 世間話でもするかのように光陰が切り出した。そうか、と悠人は頷く。
 予想はしていた。光陰も今日子も、長く戦いの中に身を置いてきた。
 その中で見てきたこの世界を、このままにはしておけないのだろう。──自分と同じく。
「何だそっけない。もう少し驚いてくれてもいいんじゃないか?」
「馬鹿言え。長い付き合いだからそれくら分かってるさ。……だから。光陰も分かってるんだろ?」
 悠人の問いに、光陰は、ああ、と答えた。同じだから、分かっている。
「エターナルになるんだな」
 悠人は沈黙で答えた。やっぱりなぁ、と光陰が空を仰ぐ。
253紅蓮の剣 Z. 2/34:2005/11/03(木) 01:06:06 ID:mzPN31ih0
「……結局、俺はお前に勝ち逃げされるのか」
 光陰が、ふとそんなことを口にした。勝ち逃げ?と悠人は問い返す。
「今日子な、お前に惚れてたんだよ」
 へ、と思わず間抜けな声を上げた。気付いてなかったかこの馬鹿は、と光陰が苦笑した。
 言われてみれば、と思うことはある。マロリガンとの戦いを終えた時のあれも──
 今日子がああすることを望んだのが、光陰ではなく自分だったことの理由を考えるのは、自惚れだろうか。
「まぁ、ともかくな。今日子はお前が好きだったんだよ。で、俺は今日子が好きだった。
 前に言ったろ、白黒つけなきゃならんことがある、って」
 ああ、と悠人は思い出す。マロリガンで、エーテル変換施設の暴走を二人で止めた時のことだ。
「つまりそういうこと。いつか、自力で今日子を俺に振り向かせるつもりだったんだが、な。
 お前一人、遠いところに行っちまう。今日子がお前に抱いてた気持ちも持って行っちまうんだ」
 光陰は遠くを見る眼で言う。すまん、と悠人が言うと、何で謝る、と苦笑された。
「どうしようもないことだからな。……ま、お前の分まで今日子は護らせてもらうことにするさ。
 それはそうとして、お前のほうこそ、本当にそれでいいのか?」
 一転、真剣な色を瞳に宿して光陰が問う。
「いいのかって……何がだ?」
「佳織ちゃんとは色々ケリつけたみたいだけどさ。昨日の夜見かけた時、吹っ切れた顔してたからな、あの子。
 だからそっちはいいとして、だ。ヒミカはどうするつもりだ? お前、あの子のこと好きなんだろ?」
 ドクン、と心臓が高鳴った。それを気取られないようにしつつ、何でそう思う、と問い返す。
「分かるさ。伊達に恋する男やってないからな。……いやまぁ、皆気付いてると思うがよ。
 特にお前ら二人の戦う姿は、まるで一人で戦ってるみたいに息ぴったりだ。見てて恥ずかしいぐらいに」
254名無しさん@初回限定:2005/11/03(木) 01:06:20 ID:Y5wXs3o70
こ、これは支援なんです!
私が悪いんじゃないですよ?
255紅蓮の剣 Z. 3/34:2005/11/03(木) 01:06:54 ID:mzPN31ih0
 そうなのか、と悠人は答えた。確かに自分とヒミカは、強い信頼関係で結ばれている。
 しかし好きかと問われれば、
「……好き、なのかなぁ。俺は。どう思う?」
「いや何で俺に聞く」
 エヒグゥが耳で空を飛ぶのでも見たかのような凄い顔をされた。
「いやほら、向こうじゃ佳織との生活で一杯一杯だったし、こっち来てからも戦ってばかりだったからな。
 恋愛とかする暇なかったから、誰かを好きとか愛するとか、そういうのは、こう、……良く分からない。
 だから、俺がヒミカを好きかどうかも分からないんだ」
「この馬鹿朴念仁」
 ぺしん、と平手で額を叩かれた。悠人の抗議より先に光陰は言った。
「言ったろ。お前らな、傍から見てると完璧に出来上がっちゃってるんだよ、既に。
 難しく考える必要なんてないだろ。これが『そうだ』、って思ったら、それが『そう』なんだよだ」
「そんなものなのか?」
 余りにも投げ遣りな光陰の言葉に、悠人は困惑する。それでいいのだろうか。
「そんなもんさ。俺が今日子を好きだって感情も、それがどういうものかは言葉では言えない。
 頭で考えても分からないものだしなぁ、そういうのは。だから、あー、そうだな」
 光陰が腕を組んで難しい顔をする。彼の言う、『言葉に出来ないもの』を言葉にしようと考えているのだろう。
「そう、何となくでいい。それが愛だと思い込めて、その上でそれをなくしたくない感情だと思えるなら──
 きっと、それが好きってことだと思う」
 光陰はそう言って空を見る。
 朝の青空。だが光陰の眼には、多分、今日子が映っている。
256紅蓮の剣 Z. 4/34:2005/11/03(木) 01:07:49 ID:mzPN31ih0
「そんなものなのかな……」
 悠人は自問する。ヒミカへのこの感情の名は何と言う。そしてその感情は喪いたくないものか否か。
 名前はまだ分からない。ただヒミカのことは、確かに大切だった。
 そしてその想いは、真実、喪いたくなどない。
 ならこれが誰かを好きになるということなのか。──さぁ、どうなのだろう。
「ま、そう思い悩むもんでもないさ」
 黙りこくってしまった悠人の肩を、ぽんぽんと光陰が叩いた。
「けど、ちゃんとけじめだけはつけとけよ。うやむやのうちに別れたんじゃ、それこそ意味がない」
「それは、分かってるさ」
 そう、分かっている。
 どうしたって、別れの時が来ることに変わりはないのだから。
 
 早朝、ヒミカは訓練所にいた。足元には木で出来た何かが転がっている。
 元は人の上半身を象った木偶だったそれは、既に原形を留めていない木の塊に成り果てている。
 ヒミカの手には〈赤光〉ではなく、中ほどで折れた模擬戦用の木剣があった。
 ……壊してしまったが、怒られるだろうか。
 汗の浮いた額を拭いながら、ヒミカはそんなことを思った。
「────ヒミカ」
 その背に、聞き慣れた声が届いた。
257紅蓮の剣 Z. 5/34:2005/11/03(木) 01:08:43 ID:mzPN31ih0
「ナナルゥ。何か用?」
 振り返ると、髪の長いレッドスピリットが立っていた。
 呼んでおきながらナナルゥは無言だった。ヒミカは首を傾げ、自分の足元に転がっているこれのことだろうか、と思った。
「ちょっと力入れ過ぎちゃったわ。まだまだね、私も」
 苦笑して見せるが、それでもナナルゥは反応を示さない。
 元々感情を表に出すことがない少女だから、これくらいはいつものことと言えるだろう。
「それで、何の用? 呼んだだけなら、私もう戻るわよ」
 壊れた木偶をとりあえず脇のほうにどけるため持ち上げながら、ヒミカは言う。
 後で捨てに行かなくては。そんなことを考えるヒミカの耳朶を、ナナルゥの声が震わせる
「──良いのですか」
 ぴたりと。短い言葉は針のように、ヒミカの歩みを縫い止める。
「……何が?」
 淡々とした声でヒミカは木偶を訓練所の脇へと放り投げた。放物線を描き、ぐしゃりと落下する。
「ユート様のことです。ヒミカはあのままで良いのですか」
 それ以上に淡々とナナルゥは言う。それはいつものナナルゥと同じ調子で、けれど微妙に違う。
「だから何が。具体的に言わないと分からない」
「では言いますが。ユート様とこのまま別れてヒミカは平気なのか、ということです。
 私はあなたのユート様に対する想いを理解しているつもりです。それを告げないまま見送るのですか?」
「随分饒舌ね」
 気付かぬうちに皮肉げな笑みを浮かべて、ヒミカは言っていた。
258名無しさん@初回限定:2005/11/03(木) 01:08:53 ID:QuUDPSKf0
おぉ久々キター!って事で支援
259紅蓮の剣 Z. 6/34:2005/11/03(木) 01:09:46 ID:mzPN31ih0
「饒舌ついでに言わせて貰うなら。正直、今のヒミカとユート様は見ていて不安です。
 おそらく私だけではなく、皆も心配しています。あなたのユート様に対する想いは、多分皆知っている。
 どうかすれば、今のあなた達は、かつての戦場での在り方より危なっかしい」
 やはり淡々と告げられるナナルゥの声が、だからこそヒミカの心を抉る。
 敢えて意識せずにいたことが、仲間の口から言葉となって自分を責める。ぐぅ、と胃が重くなる思いがした。
「──かもしれないわ。でも例え私が想いを伝えたとしても、そんなのユート様の重荷になるだけでしょう?
 ユート様は自ら望んで力を手にしようとしている。それを、私が邪魔することなんてできない」
「それは戦士としての言葉でしょう。では『あなた』は? ヒミカ自身は、それでいいのですか?」
 ヒミカは何か言おうとして──結局口を噤んだ。良くはない、と戦士ではない自分は言っている。
 それは事実上の敗北宣言だ。
 ヒミカはナナルゥへの、否、自分への言い訳も持ち合わせていないということなのだから。
 ナナルゥは尚も言葉を重ねる。
「このまま忘れて良いのですか。大切だと思う人のことを、全て。
 忘却してしまえば、痛みはないでしょう。それすらも忘れてしまうから」
「その通りよ。どうせ忘れてしまうんだもの。何を言ったって、意味が──」
「どうせ忘れてしまうから何も言わないのではなく、忘れてしまう前に、告げようとは思わないのですか」
「………………」
 どちらにせよ意味がないのなら──それを無に貶める前に、全て吐き出してみろ、と。
 ナナルゥは、そう言っているのだ。
 ──それでも。
260紅蓮の剣 Z. 7/34:2005/11/03(木) 01:10:43 ID:mzPN31ih0
「ユート様を縛るような真似は、やっぱりしたくない」
 それは紛れもなく本当の気持ちだった。自分は、彼の決意を踏み躙ることなどしたくはない。
「……それが、──それも、本当の気持ちですか」
「ええ。離れたくない。でもそれは私の我儘だから。そんなもので、ユート様の決意を穢せない。
 だから何も言わないの。私は戦士のままで、彼を送り出す」
 それが決意。その言葉で、ヒミカは自分というかたちを決める。
 言うべきことを全て告げ、ナナルゥの側を通り過ぎる。
 その背に。
「ですがユート様は、一体どちらのあなたを求めているのでしょうね」
 ヒミカの動きが、止まる。無音が訪れ、数秒を挟んでヒミカが息を吐いた。
「変わったわね、ナナルゥ」
「皆、変わりました。ユート様がいたから」
 そうね、と短く答え、ヒミカは訓練所を後にした。
 
 第一詰所、第二詰所のメンバー全員で、佳織との最後の食事が行われた。
 誰もが別れを惜しんだ。オルファとネリー、シアーは佳織と一緒に大泣きしていた。ヘリオンも一緒に泣いた。
 セリアやナナルゥはいつもと変わらぬ表情で。ハリオンも優しい笑顔のまま佳織を送り出す。
 ファーレーンの後ろに隠れていたニムントールは、姉に背中を押され、赤い顔のまま佳織と握手をして別れとした。
 最後に、佳織はヒミカに向き直った。
「ヒミカさん、お兄ちゃんのこと、よろしくお願いしますね」
 寂しげな笑顔と共に言われたその言葉に、ヒミカは強く頷いて見せた。
 例え護るべき時に、最早自分が彼のことを覚えていないと分かっていても。
261紅蓮の剣 Z. 8/34:2005/11/03(木) 01:11:41 ID:mzPN31ih0
 ……夜の帳が降りた。
 佳織を送り出して、数時間後。ヒミカは悠人の部屋の前にいた。
 時深が指定した時間まであと二時間。ヒミカは何となく、悠人がここで時を待っていると分かっていた。
 ドアの前に立ち、一度息を吸う。自分のやるべきことを確認する。
 ──別れを告げる。
 ヒミカは、そう決めていた。
 彼を引き止めることはしない。戦士としての自分で、悠人を送り出す。
 無論、本当はついて行きたかった。自分も共にエターナルになり、共に戦うのが、ヒミカが真に望む道だ。
 そしてそれは許されぬ道でもある。ヒミカ・レッドスピリットは、エターナルにはなれないのだから。
 理由は二つ。一つ目は単に、自分の持てる永遠神剣の空きがないということだ。
 時深が言うには、カオスエターナルの保管する永遠神剣は、既に持てる者が決まっているのだという。
 席が埋まった状態で座れる訳もない。
 二つ目の理由は──ヒミカ自身の力が足りていないということ。
 アセリアやエスペリアなら兎も角、ヒミカの力では届かない、と時深に言われた。
 ヒミカは、アセリア達より弱い。またレッドスピリットなのに、神剣魔法もあまり得意ではない。
 そんな自分がこれまで戦ってこれたのは、力差を埋める戦闘経験と、命を顧みない戦いのスタイル故だ。
 共に戦う仲間が、護りたい仲間が自分の後ろにいたからだ。
 単騎で戦えるほど強くはない。それこそ、命を賭けでもしない限りは。
 ……ヒミカには、悠人と肩を並べるだけの資格がなかった。
 だからせめて、ヒミカはきちんと悠人を送り出そうと決めたのだ。彼が未練なく、旅立てるように。
 ──それでも半ば自覚している。そう改めて決意しなければならないくらい、自分の想いは強すぎるのだと。
 息を吐いた。ちゃんと別れる。頭の中でそう繰り返し、ヒミカはドアをノックした。
262紅蓮の剣 Z. 9/34:2005/11/03(木) 01:12:38 ID:mzPN31ih0
「ユート様、よろしいでしょうか」
 いいよ、と答える声。失礼しますと控えめに声をかけて、ヒミカは部屋に足を踏み入れる。
 部屋の明かりはつけていない。光源は窓から差し込む月光だけだ。
「隣、よろしいですか?」
「ああ、構わない」
 ベッドに座る悠人の横に、ヒミカは腰を下ろした。
 ……暫し、沈黙があった。窓の外から、夜風が優しく木々の間をすり抜ける音しか聞こえない。
「行かれるのですね」
 言葉に、悠人はああ、とそれだけ答えた。
「行ってくる。皆を──ヒミカを、護りたいから」
 決然と悠人は告げた。──そう決めたのだ。
 その決意の強さをヒミカは知っている。己の半身である佳織と別れてさえ貫こうとしている決意。
 だから、それを阻害することは許されない。
 悠人の決めた道をただの我儘で邪魔することなど、彼の剣として生きる自分は許可しない。そう決めてここに来た。
 ──それでも、この胸を灼く想いは本物なのだ。
 滑稽だとも思う。戦士であるべく生きてきた自分が、今はただの少女と変わらない。
 それを悪いとは思わないけれど、今自分の心を苦しめているのは、その女としての恋慕だ。
 辛い。心が痛い。別れたくない。ずっと一緒にいたい。
 彼が自分の中から消えてしまう恐怖を知って、ようやく気付いた──気付けた、想い。
 自分は、ただこの人を支えたかったのではない。
 ただ、そう、本当に、自分は。
 
 ……この人を、心の底から愛している。
263紅蓮の剣 Z. 10/34:2005/11/03(木) 01:15:44 ID:mzPN31ih0
「──、本当に、」
 きゅ、と膝の上で拳を握り固め、肩を縮こまらせる。そうでもしないと、何もかもを吐き出してしまいそうで。
「本当に、行ってしまわれるのですね」
 心の奥底の、燻る炎のような気持ち全てを押さえつけて、ヒミカは言葉を搾り出した。
 口を閉ざそうとして、身体が震える。駄目だ。それ以上喋っちゃいけない。それは彼を困らせるだけだ。
 忘れるな。自分は別れの挨拶をしに来たのだ。心配をかけぬよう、戦士として毅然とした態度で送り出そうと。
 この想いを。『ヒミカ』という、身勝手な自分自身を押し殺してしまおうと、あれほど強く決めた──のに。
「──私を置いて、行ってしまうのですね」
 口にしてはいけないことだった、のに。
 音として外に出た想いは、再び自分の中で反芻され、心を強く揺り動かす。
『ですがユート様は、一体どちらのあなたを求めているのでしょうね』
 ナナルゥの言葉が、朝からずっと耳の奥で残響している。
 そんなの、駄目だ。(行かないで)
 ユート様を困らせるだけだ。(行かないで下さい)
 彼の選んだ道を穢してはならない。(私を置いていかないで下さい)
 笑顔で見送ると、ちゃんと決めて来たはずだ。(私を、)
 なのに、(私を、)
(私を、選んで欲しいのに……!)
 どうしてどうして。この胸の内の火は消えてくれないのか。
 心臓が痛い。嗚咽となって零れ落ちそうな想いを七度、殺した。それでも尚荒れ狂う感情が、自分を内側から灼いていく。
 見苦しい。この少年がどう答えるかなど、一緒に戦ってきた自分に分からないはずがないのに。
 なのに──彼が自分と一緒にいることを選んでくれるだなんて、まだそんな叶わぬ願いを抱き続けている。
264紅蓮の剣 Z. 11/34:2005/11/03(木) 01:16:52 ID:mzPN31ih0
「……それでもだ、ヒミカ」
 悠人の声が優しく耳朶を叩いた。びくっと、怯えるように心臓が跳ね上がった。
 次に来る言葉を予感し、ヒミカの視界は水を落とされた水彩画のように滲んでいく。
「それでも俺は行くよ。ヒミカに忘れられても、俺はヒミカを護りたい」
 
 ────────ああ、
 本当。本当に。そう彼は言うと、ちゃんと分かっていたはずなのに……!
 
「ッ!?」
 悠人の驚く顔が視界一杯に広がり、直後、世界が九〇度回転した。
「────私はッ!」
 悠人の身体を押し倒し、その腹の上に馬乗りになり、ヒミカは叫んだ。
「私は忘れたくなんかないんです……!!」
 理性の堰が切れる。一度流れ始めた感情は濁流のように、留まることを知らない。
 我儘な想いが彼を戸惑わせるだけだと理解していても。
「ユート様、私は離れたくない。ずっと、ずっとずっとずっとずぅッとあなたと一緒にいたい!
 共に在りたいんです。これまでのようにこれからも、共に戦いたいのに──!」
 服の襟を掴んで彼を引き起こしながら、情愛と、哀切と、苛立ちと、憎悪すら込めてヒミカは叫ぶ。
「あなたは、一人で遠くへ行ってしまおうとしている……!」
 顔を俯かせる。瞼を強く閉じて、自分の全てを叫び続ける。
「ユート様を止めることなど、私にはできません。あなたはこの世界を救おうとしているのだから。
 そのために、ユート様が自ら決めたことを、私の我儘で止めることなどできない! でも──」
 でも、でも──と。くるくる、くるくる、何度も戦士と女が入れ替わる。
265紅蓮の剣 Z. 12/34:2005/11/03(木) 01:18:01 ID:mzPN31ih0
「『私』は、離れたくないんです……!」
 ぽたりぽたりと、悠人の顔に暖かい雫が落ちる。──それは初めて見る、ヒミカの涙だ。
 自分を押し倒している少女は、いつも見る戦士としての少女ではなく──ただ、普通の女の子に見えた。
 ヒミカが激しく頭を左右に振る。泣き喚く子供と同じ、恥も外聞もない仕草。
 けれどそうであるが故に、彼女のその涙は、その言葉は。何よりも真っ直ぐで、強かった。
 ヒミカの手から力が抜ける。悠人の身体がベッドに受け止められ、胸の上に蹲るヒミカの額が落ちた。
「ユート様、私は、私は……わたしは!」
 口にするべきではないと、どこか冷静な自分が見ているのをヒミカは感じた。
 想いは力だ。同時に鎖でもある。今、自分が発している言葉は全て、少年を拘束する縛鎖でしかない。
 それでも──伝えずには、いられない心。
 
「私は、あなたを愛しているんです……!!」
 
 戦士であると誓ったはずだった。皆を護る剣であると誓ったはずだった。
 なのに、この少年が現れてから、それらは全て過去になった。
 皆を護る剣は少年のための剣となり、今の自分は戦士ではなく一人の少女に過ぎない。
 今は、ただ、この人が愛しくて愛しくて──だから、やがて来る別れが、無尽の刃となって心を切り刻む。
 ……愛してしまったのだ。
 最早堪えることも偽ることも出来ない気持ちを、胸に抱いている。
 喪いたくない、と。例え世界が滅んでも、この想いを忘れたくないと。
 ──心の底から、そう思う。
「ユート様……! 大好きです、ユートさまぁ…………!!」
266紅蓮の剣 Z. 13/34:2005/11/03(木) 01:19:16 ID:mzPN31ih0
 胸の中で嗚咽を上げる少女は、触れれば折れる花のようにか弱く見えた。
 愛していると告げて、ヒミカは火が付いたように泣きじゃくり続ける。
 初めて見る顔。初めて聴く声。鉄火の戦場に立つ妖精の、ただの少女としての──涙。
 嗚咽に震えるその身体を、悠人は。
「……俺は、」
 きゅ、とヒミカを優しく抱き締めた。──温かい。
 雨の中でも感じたその熱を、悠人は二度と離したくないと思った。
 忘れられたくない。それを、願わなかったはずがない。
 自分だってそうなのだ。自分だって本当はずっと一緒にいたい。ずっとこうしていたい。
 ずっと ここに いたい。
 それは自ら捨てた願いだ。その代償に力を求めた。少女を護り、少女のいるこの世界を護るための。
 別れたくないという想いが本物なら、そう力を欲していることも真実。
 それを今更、嘘になんてできない。
 護ると誓った自分を、護る力を求めた自分を、なかったことになんてできないから。
 そこまで強く思うほどに──この胸に抱いた温もりもまた、強かった。
 悠人は腕に力を込めた。ただ強く、ヒミカの身体を抱き締めた。
 ……理解ではなく、感じていた。今なら言える。確証はないけれど、間違いではない想い。
『そう、何となくでいい。それが愛だと思い込めて、その上でそれをなくしたくない感情だと思えるなら──』
 ──ああ、そうだとも。
 少女が自分を愛してると言ったように。
 自分もこの少女を愛していると言える。
267紅蓮の剣 Z. 14/34:2005/11/03(木) 01:20:27 ID:mzPN31ih0
「俺も……ヒミカが好きだよ」
 口にすればするだけ、身を引き裂く細い銀の糸。
 それを悠人もヒミカも分かっていて、それでも言の葉にして伝えたい想い。
 畜生、と悠人は呟いた。
「大好きだよ、俺も。離したくなんかない、別れたくなんかないんだ!」
 ──私を、放さないでください。
 不意に、雨の森で聞いた彼女の言葉が蘇る。
 ああ、放したくなんかない。
 放したくなんか────なかった。
「ユートさま、ユート、さ……!」
 嗚咽を一層募らせ、ヒミカは悠人の胸に縋りつくように、泣いた。
「ぅ、ぁ、あぁぁぁっ……! ぁ、ァ────────!」
 子供のように。
 
 ……しばらくして嗚咽は止まった。ヒミカは悠人に身を預けたまま、その心音を聞く。
 力強い音は生きていることの証明だ。自分はこれを護り、そして、護られてきた。
 そのことをたまらなく嬉しく思う。
 けど、その嬉しいという気持ちも、やがては消えてしまうものだから。
 ──だから。
「ユート様、私を抱いてくれませんか」
268紅蓮の剣 Z. 15/34:2005/11/03(木) 01:21:31 ID:mzPN31ih0
 ヒミカは顔を上げる。ヒミカ?と悠人は驚愕と困惑がないまぜになった顔をした。
「思い出の代わりに傷を下さい。私の心と身体に、深く」
 答えを待たず、ヒミカは唇を悠人のそれに押し当てた。
 戦場に身を置いてきた二人のそれは、どちらも水分が足りていない。
 それでも悠人には、硬い自分のそれと違い、ヒミカの唇をひどく柔らかく感じられた。
 味がないはずなのに甘いその触れ合いは、しかし短い。
 本当にそれは触れ合うだけの口付けだった。数秒、ヒミカの唇は離れ、ひどく熱い吐息だけが悠人の頬をすり抜ける。
 ヒミカが身を起こす。身体にかかっていたヒミカの重みが消え、悠人も半身を起こした。
「……私では、嫌ですか?」
 正座し居住まいを正したヒミカが、少し不安げな表情でそう訊いてきた。悠人は慌てて答える。
「いや、そんなことはないぞ! その……俺だって、嬉しいし」
 答えると、ヒミカは頬を染めて顔を俯かせてしまった。
 その仕草に、急激にヒミカの身体を意識してしまった。
 細い首、小さな肩、折れそうな腰、スカートとオーバーニーの間から覗く太腿。
 華奢なくせに強い弾性を持っていそうな身体のライン。──ヒミカの少女としての部分を、意識してしまう。
 身体の奥が熱くなるのを悠人は自覚した。
 一度意識してしまえば後は簡単。加熱されていく脳髄からは理性が蒸発し、後には獣欲しか残らない。
 でも、と悠人は必死に理性を掻き集めて、思考を落ち着かせる。
 ……ヒミカが何故、そう言ってきたかは分かる。自分達には、あまりにも時間がなかった。
 今、通い合わせた想いは、二人には遅すぎたのだ。
 恋人らしいことを何一つ出来ない短い時間の中で、せめて、この想いの証明を求める。
269紅蓮の剣 Z. 16/34:2005/11/03(木) 01:22:27 ID:mzPN31ih0
 けれど、別れるから抱く、ということを、違う、と悠人は思った。
「最後に、私の我儘を聞いてください。私を強く抱いてください。
 世界が私の記憶を消そうとしても、消せないくらい強い温もりを下さい」
 沈黙してしまった悠人に、懇願するようにヒミカは言う。
 この世界から悠人がいなくなっても、それでも尚残る何かが欲しいと。
 ……そんなもの残りはしないだろう。世界の修正から逃れる術はない。
 ヒミカにだって分かっている。それでも──いや、だからこそ、求めるのだ。今この時だけでも。
 残るものは何もない。それを理解した上でヒミカは悠人に抱かれることを望んだ。
 ヒミカが求める。悠人も求める。そこに、最早言葉はいらないはずだった。
 けれど──悠人には、ちゃんと言っておきたいことがあった。
「分かった、俺はヒミカを抱く。けどな、一つだけ言っとくぞ」
 はい、とヒミカが背筋を伸ばして続きを待つ。その瞳を見つめ返して、悠人は真っ直ぐに答えた。
「俺はヒミカと別れるから、最後だからって、ヒミカを抱くんじゃない。
 俺はヒミカが大好きだから、ヒミカを抱く。──それだけは、分かっていてくれ」
 悠人の言葉に、ヒミカは柔らかに微笑って答えた。
「──はい。私もそのほうがいいです」
 会話はそれで終わり。
 悠人は、ヒミカに覆い被さるように押し倒した。
 あ、という声。自分の下に組み敷かれたヒミカの肢体は、ひどく小さく見えた。
270紅蓮の剣 Z. 17/34:2005/11/03(木) 01:23:23 ID:mzPN31ih0
 ヒミカは微笑んでいるが、悠人から見ても分かるほど、手も首筋も緊張で固まっていた。
 それは悠人自身も同じことだ。固い唾を飲み込んで、ヒミカへと顔を近づけていく。
 ヒミカが瞼を閉じ、悠人がしやすいよう、僅かに顎を持ち上げた。
 悠人も眼を閉じる。視界は闇。けれど強く焼き付いた残像が、ヒミカの唇の場所を教えてくれる。
 ──唇が、触れ合う。
 二度目の触れ合いは、最初のものとは全く違う。
 唾液で湿り瑞々しさを取り戻したヒミカの唇は、荒れた悠人の唇を優しく受け止めた。
 その感触だけで心拍数が跳ね上がる。悠人はヒミカの唇を、啄むように味わっていく。
「は、ん……」
 悠人が僅かに頭の角度を変える。僅かに隙間が開いて、ヒミカが息を継いだ。
 鼻で呼吸する、ということすら忘れている。意識は全て相手の唇へと。
 もう一度角度を変えて、悠人はヒミカの唇に舌を捻じ込んだ。ん、とヒミカが肩を震わせる。
 エナメル質の硬い感触を舌先に感じる。そこから顎ごと少し上に向け、歯と歯茎の段差を這うように舌を左右に動かした。
 粘りを帯びた水の音と、漏れる息、服の擦れ合う音だけが、暗い部屋の中に聞こえていた。
 受け入れるようにヒミカの歯が小さく開く。すかさず、悠人はその中に舌を差し込んだ。
「んっ……!」
 逃げるようにヒミカの首が反る。だが悠人はそれを許さず、追い縋るように唇を求めた。
 背中と頭の後ろに手を差し込み、ヒミカの身体を持ち上げるように抱き締めた。
 同じようにヒミカも悠人の背中に手を回し、腕に力を込める。
271紅蓮の剣 Z. 18/34:2005/11/03(木) 01:24:21 ID:mzPN31ih0
 より強く、二人の身体が密着する。唇は溶け合うように重なり合い、唾液の泡が頬を伝って落ちていく。
 差し込んだ舌が濡れた肉に触れる。可愛らしく震えているそれもまた、悠人を求めてたどたどしく動き出す。
「ん、ふ、ぅん……ッ!」
 絡め取る。ちゅる、という音が頭蓋骨を通して聞こえた。
 唾液塗れの舌はそれ自体が別の生き物のようにお互いを求め合う。
 ずるりと喉の奥まで突っ込むように押し込んでいく。苦しそうな息が漏れるが離してやらない。
 神経が、熱い。
 舌から伝わる熱は火のようで、それは肌を焼いて下腹部へ収束していく。
 キスをしているだけなのに、ヒミカに感じる肉欲もヒミカに触れている嬉しさも全て熱へと変わっていく。
 我慢できない。唇の触れ合いだけでは物足りない。
 舌を引き抜いた。名残惜しそうに唾液が糸を引き、ヒミカは熱に浮かされたようにとろんとした瞳を向けてくる。
 荒い息遣いだけが聞こえる。
 力なく横たわるヒミカの服を脱がしていく。手袋状の手甲を外し、服に手をかけた。
 スピリットの服は腹の辺りまでジッパーがあって、下に脱がすように出来ている。
 ジッパーを下ろし、服を引く悠人の動きに応じるように、ヒミカが腰を浮かす。
 ……それは戦士を少女に戻す行為だ。ヒミカ自身を、優しく暴いていく。
 するりと爪先を抜けた服を、悠人は無造作に投げ捨てた。
 ヒミカの胸はサラシに覆われている。解く時間も惜しい。悠人はテーブルの上にあった果物ナイフを手に取る。
 ナイフの刃を上に向けて胸の間に差し込み、一息にサラシを縦に引き裂く。
 ぱらりとサラシが左右に割れ、ヒミカの白磁の肌が露になる。
 反射的に胸を隠そうとしたヒミカの腕を、悠人はそれより早く押さえつけた。
272紅蓮の剣 Z. 19/34:2005/11/03(木) 01:25:27 ID:mzPN31ih0
「…………ッ!」
 両腕の自由を奪われたヒミカが、抗議するように身をよじらせる。それを無視して、悠人はヒミカの身体を見た。
 窓に区切られた月明かりが差し込む中、ヒミカの肢体は白く細く、そして引き締まっていた。
 形の良い、さらしにきつく締め付けられていた胸は、悠人の手に少し余るくらいだろうか。
 触れれば震えそうなそれがどうしようもなく扇情的で、悠人はじっとりと自分の手に汗が浮くのを感じていた。
「……あまり見ないでください。私には、女の魅力がありませんから」
 ヒミカは顔を背け、羞恥と自嘲を綯い交ぜにした声音で言った。
 確かに押さえ付けた腕の感触は硬く、女性らしい柔らかさの代わりに筋肉の弾性があった。
 服の上からでは折れそうに見えた腰は、余分な脂肪を削ぎ、肉体を鍛えたがための細さ。
 触れれば折れる花の茎ではなく、打ち鍛えられた鉄の剣の力強さを持つ肢体。
 ヒミカの言う通り、女性らしさの薄い身体を──しかし、悠人は愛しいと思う。
 この身体で、ヒミカは仲間を護ってきた。自分を護ってくれると言った。
 そしてまた自分も護ったのだ。傷一つない白い肌を見て思う。
 マナで構成されるスピリットに、長く残る傷など出来にくいが、それでも思った。ちゃんと護ってこれたんだな、と。
 組み敷いていた手を離す。ヒミカはもう隠そうとはしなかった。
 右手で優しくヒミカの頬を撫でる。指先を髪に埋めると、自分と同じ、硬い髪質が皮膚を撫でた。
 潤んだ瞳のヒミカにまた口付ける。唇を離さないまま、胸に右手を這わせた。
 薄く汗ばんだ柔らかな肌に指が吸い付く。力を入れれば、逃げるように指が沈んでいった。
 手の平に伝わるやけに早い拍動は、そのまま悠人の身体に浸透して熱を上げていく。
 唇を重ねたままのヒミカが、肌を這い回る無骨な手に喉を反らせた。
 その反応と感触を愉しみながら、人差し指と親指でその頂点をつまんでみた。
273紅蓮の剣 Z. 20/34:2005/11/03(木) 01:26:27 ID:mzPN31ih0
「ひっ……!」
 こねるように指先で弄ると、それだけでヒミカの全身が丘に打ち上げられた魚のようにびくんと強く跳ねた。
「ヒミカ?」
 過剰な反応に悠人は唇を放し、名を呼んだ。
 ヒミカの手は、ベッドのシーツを血管が浮き出るほど固く握り締めていた。息は荒く、せわしなく胸が上下している。
「ご、ごめん。痛かったか?」
 焦る悠人に、いえ、とヒミカは答え息をついた。
「人に触られるのは初めてなものですから……自分で触ったことも、あんまりないのですけれど。
 それに──なんだか、身体が敏感になってる、みたいで」
 恥じるようにヒミカは顔を背けた。髪に紛れて見えた耳は茹で上がったみたいに真っ赤だ。
「その……ヒミカさ、自分でしたこととかもなかったりする……?」
 控えめな悠人の問いに、ヒミカは自分の肩を抱き、はい、と頷いた。
「ユート様を好きになる前は、そういうことには興味もなかったし、余計なものだと思っていましたから。
 あったのは知識だけです。だから──ユート様が、何もかも初めてです」
 はじめてです、と言ったヒミカの顔は仔犬のようで……何と言うか、卑怯だった。
 自分が唾を飲み込む音がやけに大きく聞こえた。当たり前のことを今意識する。
 研ぎ澄まされた、一片の曇りもない、透き通ったガラスのような身体に──これから自分が爪を立てる。
 その事実はひどい罪悪のように思えて、けれどこの上なく甘美な誘い。
「……俺、ヒミカを抱くからな」
 逸りそうな本能を抑えて、自分への言い訳のように言い、悠人はもう一度ヒミカに覆い被さった。
274紅蓮の剣 Z. 21/34:2005/11/03(木) 01:27:25 ID:mzPN31ih0
「ん……」
 舌先でじゃれあいながら、悠人は包み込むように胸を愛撫する。
 小刻みに痙攣する肌。ヒミカは元々敏感なたちなのかもしれない。それとも緊張のせいだろうか。
 刺激過ぎないよう優しく触れていく。控えめな丘の上の右手を、下へ。
 上下する肋骨の本数を数え、脇腹を撫でながら腰へと至る。
 悠人の手が向かう場所を察して、ヒミカの身体がまた硬くなる。だが抵抗はない。
 硬い太腿を撫でながら、手を内側へ、ヒミカの不浄へと滑らせていく。
 反射的にヒミカの両脚が閉じようとする。離れようとした唇を逃がさず押し付け呼吸の権利すら奪った。
 人差し指を、穢れを知らない少女の秘所へと滑り込ませていく。布越しに触れる柔らかさは、僅かに湿っていた。
「っん、ヒミカ、もう感じてる?」
 唇を離し、囁くように言う。ヒミカは顔を背けた。赤い頬に唇を落とし、谷をなぞるように指を動かす。
 白い喉が、くん、と仰け反った。頑なだった脚から力が抜けたのをいいことに、上から下までつぅ、と指を滑らせた。
「っ、……!」
 ヒミカの手はシーツを握っている。ひっ、ひっ、とすすり泣くような吐息を耳で感じながら、悠人は指を往復させる。
 指先に感じる水分が多くなる。ヒミカのそこはひどく熱かった。
 一旦手を離し、悠人は上半身の服を脱いだ。内部からの熱による、額に浮いた汗が頬を流れた。
 ヒミカは胸を上下させながら、自分の上の悠人の身体を見た。
 逞しい身体は、ここに来たばかりの頃の、頼りない少年のものとは違う。
「脱がすよ」
 下着に手をかけながら、悠人が言う。ヒミカは胸の上で手を重ね、こくりと頷いた。
275紅蓮の剣 Z. 22/34:2005/11/03(木) 01:28:37 ID:mzPN31ih0
 するりと下にずり下ろしていく。離れる時、布と身体の間に糸を引いていたのが夜目にも分かった。
 触れると、つぷ、と柔らかい肉に指が沈んで、包み込まれる。
「くっ、ン……うぅう……!」
 柔肉の中で指を上下に往復させる。ストロークに応じて、押し殺そうとして殺せていない呻きが漏れた。
「だめ、ゆー、駄目です。こんな、こん、ぁっ……! あたまが、ヘン、に……!」
 ヒミカは歯を食いしばって、自分の中に芽生えた覚えのない感覚に耐えた。
「しらない……! こんなのしらないです、じぶっ、自分が、いなくなり、そうで……!」
 身体の成熟とは裏腹に、ヒミカの性感は幼かった。悠人の一挙一動に、慣れない身体は過剰に反応した。
 水音は多い。零れ落ちた液体がシーツを汚していく。
 無意識の内に、ヒミカは自ら腰を悠人の指に押し付けるように動かしていた。
 ヒミカは満足に息を吸い込むこともできないのか、喘息のように激しく、短い呼吸を繰り返している。
 激しく頭を左右に振り、唇の端から飲み込みきれなかった唾液が零れていく。限界が近いのは悠人にも分かった。
 悠人は愛撫する手を一瞬止め、一気に上へと擦り上げ──露になった肉芽を弾いた。
「ひッ────ぃぃぅぁああぁあああ……ッ!」
 悠人の指から見えない糸でも伸びていたかのように、ヒミカの腰が持ち上がって震えた。
 全身を限界まで反らし、足を突っ張らせ、びくんびくんと全身が跳ね続けた。
 
 ……しばらく痙攣を続けていた肢体は、自らの体液で染みだらけになったシーツに沈み込んだ。
 それでも完全に収まったわけではなく、浅い呼吸に合わせて思い出したように身体が震える。
276紅蓮の剣 Z. 23/34:2005/11/03(木) 01:31:39 ID:mzPN31ih0
「あの、ヒミカ。大丈夫か?」
 やりすぎた、と内心冷や汗をかきつつ悠人が声をかけると、茫とした瞳をヒミカは向けた。
 ヒミカは一度深く呼吸し、そして改めて、言葉を発するための息を吸う。
「……はい、大丈夫です」
 言って、ヒミカは身を起こし、手をついてそのまま猫のように悠人の懐に潜り込んだ。
「うわっ、ちょっ、ヒミカッ」
 慌てる悠人を無視して、ヒミカは手間取りながらも悠人のズボンのベルトを外した。
「今度は私の番です。男の方も……ここを触ると、気持ちいいんですよね?
 その、知識としてしか知りませんから、問題があったら言ってください」
 今の状況が大問題な気がする。
 悠人が一時停止している間に、ヒミカはベルトを外してしまった。
「ん……もう膨らんでますね。凄く、硬い」
 下着の上からでも形が分かるくらいいきり立っているそれを、ヒミカは手の平で撫でた。
 優しい感触に、びくりと悠人の肩が跳ねる。ユート様?とヒミカが顔を上げる。
「あの、痛かったですか?」
「あ、いや、違う違う、逆だよ。その……気持ち良かった」
 なら良かった、とヒミカが安堵する。そして、失礼します、と言って、悠人の下着をずらした。
 拘束から解放されたそれが、ヒミカの目前で飛び出した。ヒミカは、きゃ、とらしくない悲鳴を上げる。
 数秒間、ヒミカはソレを見つめていたが、やがておどおどと差し出した手でそれに触れた。
277紅蓮の剣 Z. 24/34:2005/11/03(木) 01:32:47 ID:mzPN31ih0
(うぁっ……)
 柔らかな皮膚が擦れ、刺すような快感が背骨に突き刺さる。ヒミカが一度大きく唾を飲み込み、
「舐めるん、ですよね……」
 呟くなり、唾液に濡れた舌を這わせた。
「うわちょっとヒミカ待っ……!」
 そこから先は言葉にならない。ヒミカの舌の生暖かさが悠人のペニスを包み込んだ。
「んっ……んちゅ……ぅん、っぷぅ」
 ぎこちなく、だが情熱的に、硬くそそり立つ悠人のそれを舌全体で舐り上げていく。
 根元から余すところなく、几帳面とも言えるほどに、絡みつくように。
「ちょ、ヒミカ、ちょっとタンマ……ッ!」
 そのまま為すがままにされそうだった悠人が、堪らずヒミカを制止した。
「んぷっ……、ユート様、どこか至らぬところでもありましたか……?」
 手は放さないまま、不安げにヒミカが見上げてくる。
「いや、そんなことはないんだけど、ヒミカからそういうことしてくるとは思わなかったから」
「私だって、ユート様に悦んで欲しいです。さっきは私ばかりが気持ち良くなってしまいましたから。
 でも、何分不慣れですから。何処が気持ちいいか教えてください。言われた通りにしますから」
 その言葉と、飼い犬のように平伏したヒミカの姿に、ぞくりと悠人は背中を震わせた。
 鎌首をもたげた支配欲を抑えつけつつ、それでも悠人は自らの欲求に素直に行動した。
「ああ、じゃあ……舌先で、裏の筋みたいになってるところを舐め上げて」
「はい……」
278紅蓮の剣 Z. 25/34:2005/11/03(木) 01:33:49 ID:mzPN31ih0
 肘を付き、両手で保持しつつ、伸ばした舌先でつぅ──となぞり上げる。
「ッ……そう、次は、その傘みたいになってるところを……」
 ふぁい、と鼻にかかった声で答え、ヒミカは舌を雁首に巻きつけるように辿っていく。
 たどたどしいけれど懸命な舌遣いに、そして何よりヒミカがそれをしているという事実にまた昂ぶっていく。
「く、ぅ。そうそう……上手だよ」
「ふン──」
 ちゅるん、と舌を強く押し付けて、ヒミカが嬉しそうに目を細める。
 後ろに突き出した尻が揺れて、何となく、悠人は犬が尻尾を振るのを思い出した。
 ふと悪戯心が沸いて──悠人はそちらに手を伸ばした。
「んひゃ! ゆ、ユート様、何を……!」
 いきなり臀部に触れられてヒミカが抗議の声を上げる。いいから、と悠人は続きを促した。
「んゥ……ちゅ、ンン、ふ──ぅん。んんんっ……」
 さわさわと撫でられ続ける自分の尻を気にしつつも、ヒミカは舌を休めない。
「口に含んで……先端を、舌の先で弄ってみて」
 悠人の求めに答え、一度大きく息を溜めてからヒミカは唇で亀頭を包んだ。
 舌を細く窄め、その先端で鈴口を穿るように細かく動かした。
「ぅ、あ、ちょっとそれ、気持ち良すぎ……!」
 悠人はヒミカの頭を押さえながら、背中を丸める。それを見たヒミカは、仕返しとばかりに鈴口を弄り回した。
(あ、やば)
 ぞくぞくと、背筋を抑え切れない射精感が駆け上がる。
「ヒミカ、出る……ッ!」
279紅蓮の剣 Z. 26/34:2005/11/03(木) 01:34:45 ID:mzPN31ih0
「んんッ!」
 びゅくびゅくと白濁を吐き出しながら、ヒミカの口腔でペニスが跳ね回る。
 暴れる肉が上顎を打つ感触にそれを吐き出しそうになるのを、ヒミカは堪えた。
 溢れた分が口の端から零れ、シーツに落ちた。。
 動きが大人しくなったところでヒミカは唇を離し、顎を上向きにして喉を鳴らす。
「ン、ぐ──……ユートさまの、ヘンな味……」
 どこか恍惚とした表情で言い、顎を垂れた白濁を指で掬って舐めた。
 そしてああ、とぼんやりと視線を落とし、引かれるように上半身を倒していく。
 シーツに落ち、染みになりかけている精液に、犬のように、丁寧に丹念に舌を這わせ舐め取っていく。
 射精後の一時的な脱力からか、ヒミカの痴態からか、悠人はくらりと眩暈を覚えた。
 いや──前者では少なくともない。股間のそれはまだ足りないというように、全く萎えていなかった。
 大きく唾を飲み込み、悠人は静かに動く。ヒミカは執拗にシーツを舐め続けている。
 動きを悟られぬようにしながらヒミカの背後に回り込み──細い腰を両手で掴んだ。
 びくり、とヒミカの背中が震える。
 ヒミカのそこは、充分悠人を受け入れる準備ができていた。
 しかし触れる手の平からは怯えが小さな震えとなって伝わってくる。
 罪悪感が鎌首をもたげた。誰も踏みしめていない雪原のような少女の肌を、自分が穢していいのか、と。
「……大丈夫ですから」
 ヒミカが言う。俯いた顔は見えず、ただ耳だけが熟れた林檎のように赤い。
 それで吹っ切れた。悠人は小さく頷き、自分のそれをヒミカにあてがった。
280紅蓮の剣 Z. 27/34:2005/11/03(木) 01:35:44 ID:mzPN31ih0
「ん、っくぅ……!」
 全身で押し進むようにヒミカの中に入っていく。まだ入り口だけだというのに、とろけるような甘い熱が伝わってくる。
 さっき一度出していなかったら、とっくに果てていた。悠人は下腹部に力を込めつつ、更に進もうとする。
「んっ、ぁ……! まだ、入ってないん、ですか?」
 苦しそうにヒミカが喘ぐ。まだやっと亀頭が入ったばかりだ。
「ごめんヒミカ、もうちょっと我慢して……!」
 ぐ、と腰が沈み込む。先端に硬い抵抗感があり、そしてすぐにそれは弾けた。
「あっ、ぎ…………!」
 破瓜の痛みがヒミカを襲う。シーツを引き裂かんばかりに立てられた爪に、悠人は思わず動きを止めた。
「あの、本当に大丈夫か? 痛いなら──」
 言いかけて、言葉を止める。赤い髪の間からヒミカの眼がこちらを見ていた。
 口はシーツを強く噛み締めていた。痛みからか涙を浮かべた瞳は、しかし拒絶ではなく、懇願。
 悠人は何も言わず、根元まで一気に腰を沈めた。
「──んぉぉぉぉッ!!」
 堪え切れず、ヒミカが獣じみた叫びを上げた。唾液が口の端から溢れ、落ちていく。
 一度激しく跳ね上がった身体が、脱力するようにシーツに伏した。
「ぅ……ぉ……」
 ひくひくと痙攣しながら、ヒミカが浅い呼吸を繰り返す。だらしなく開いた口から息と一緒に唾液が零れていく。
 その呼吸に合わせて肉襞が動き、悠人のものを擦り上げる。
(や、ば)
 先程の舌の比ではない、融かすように包み込む狭い柔肉。
 さっき一度出してなかったらすぐに終わってたな、と思いながら、悠人はヒミカの腰を掴み直した。
281紅蓮の剣 Z. 28/34:2005/11/03(木) 01:36:37 ID:mzPN31ih0
「ヒミカ、動くぞ」
 言ってみたが返事はない。断りは入れたよな、と自己完結して奥まで入れていた腰を引いた。
 正直、ヒミカのことを気にしている余裕がなかった。
「ひっ、ぃ」
 意識は虚ろでも感覚はあるのか、動きに合わせてヒミカの身体が震える。
「……………………ヒミカー?」
 今度は茫としたままの瞳を向けてきた。入れた時の痛みで意識が混濁しているのだろうか。
(その割には──)
 抵抗感はない。今も、ヒミカの襞は奥へ奥へと引き込むように、悠人の先端を掴んで放さない。
 その様子に、悠人は少し悪戯心がわいた。抜く寸前まで腰を引き、
 ──ぱちゅんっ。
「んはぁぅ!」
 音を立てて打ち付けられた腰に、ヒミカが明らかな嬌声を上げた。
「あ、ぅ、あれ? ゆーと様?」
 ようやくちゃんと意識を取り戻したのか、ヒミカが困惑した様子で悠人を見上げてきた。
「おはよう、ヒミカ」
「あ、おは、おはようございま」ぱちゅんっ。「ふぅあっ!」
 またヒミカの身体が跳ねる。
「っは、ヒミカも気持ちいいんだ……」
 長いストロークで腰を前後させながら、意地悪く悠人が言った。
「や、そんなこっ、ないです……!」
 否定するヒミカとは裏腹に、繋ぎ目からは破瓜の血の色を薄れさせるくらいに愛液が滴り落ちていた。
282紅蓮の剣 Z. 29/34:2005/11/03(木) 01:37:29 ID:mzPN31ih0
「ひ、ぁ、ぁぅ、──んぁ」
 自然、腰の動きが早くなっていく。ヒミカの荒い息遣いだけが悠人の耳に届いた。
「は、っぅ、ゆぅ、ユート、さまっ、ぁ──」
 名前を呼ぶ声。気付けば、ヒミカの腰も悠人の動きに合わせて揺れ始めている。
「…………!」
 その、彼女からも求めてくれるということが、心臓が破裂しそうなくらい嬉しかった。
「ヒミ、カッ……!」
 悠人はペニスを引き抜き、ヒミカを抱え上げて横に転がした。
 仰向けになった身体に覆い被さる。何が起こったか理解していないヒミカを無視して、挿入した。
 か細い鳴き声を上げてヒミカの身体が弓なりに仰け反った。
 悠人は脚を持ち上げて、腰を前後させる。がくがくとヒミカの身体が揺れ、結合部から垂れた液体が下腹部を流れ落ちる。
「ゃ、あ……! 見ないで、くだ、さ……!」
 ヒミカは顔を隠すように両腕を持ち上げた。奥から漏れる息を出すまいと歯を食い縛りながら。
 だが悠人はそれを無理矢理引き剥がす。
 腕の下には──汗と涙と唾液でくしゃくしゃになった、情けない顔。
 それを、この上なくいとおしく思う。
 覆い被さって餓えた獣のように、ヒミカの唇を激しく貪る。
 瞼は決して閉じない。視線によるヒミカの訴えを無視し、至近距離で彼女の体温を感じ続けた。
 腰を動かすたびに汗に濡れた身体が擦れ合う。スライドする身体の感触は推進剤にしかなりえない。
 やがて、ヒミカが眼を閉じた。唇に感じた僅かな抵抗感は、拒絶ではなく、内に引き込むものとして。
 悠人の背中を、ヒミカの細い腕が這う。
 いいようのない愛しさが心臓を締め付け、
 ──それが喪われることを思い出して、血を吐く痛みに貫かれる。
283紅蓮の剣 Z. 30/34:2005/11/03(木) 01:38:24 ID:mzPN31ih0
「ヒミカ」
 消えてしまわぬように名前を呼んだ。強く叫ぶのではなく、返ってくる音が欲しかった。
 唇を離し、顎をヒミカの肩に乗せるようにしながら、強くヒミカを抱き締めた。
 やがてくる別れの前に、この体温を細胞の一つ一つにまで行き渡らせたくて。
 それをヒミカも感じたのか、悠人の背中に爪を立ててまで肌と肌を密着させる。
 間に何も挟まず、いっそ一緒に溶けてしまえばいいと望むように。
「ユート、さま。わたしは、」
 搾り出すように。
「わたしは、ここにいます」
 その言葉が、何より嬉しくて、何より寂しかった。
 だが、それでも感謝を。巡り合えて、共に戦って、こうして僅かな時間でも一緒にいられることに。
「っはぁ、ヒミッ、カ。ヒミカッ、ぁ……!」
 限界が近い。今にも好き勝手暴発しそうな股間を捻じ伏せて、もう一度、言った。
「好きだッ、ヒミカぁ……!」
 きゅぅ、とヒミカの膣が内側に向かって絞るように収斂していく。
「は、いぃ──す、き。わたしも、っぉ、だいすき、ぃぃ……!」
 ヒミカの脚が悠人の腰に纏わりつき、もっと深くもっと奥へとねだる。
「おくッ……! 一番、奥、で……!」
 求めに応えて、ごり、と骨盤を削るように一際強く突き入れ──脳裏で白く弾ける色を見た。
 びくびくと絶え間なく放出され続ける白濁が、ヒミカの最奥に注ぎ込まれる。
 長い射精を終えて、二人は脱力して重なり合い。
 そして、これで終わりなのだと知った。
284紅蓮の剣 Z. 31/34:2005/11/03(木) 01:41:26 ID:mzPN31ih0
 ──暗い森の中、ヒミカは言う。
「あの雨の中、あなたを抱き締めた時、私はナナルゥとハリオンに謝りました」
 二人は宵闇の中を並んで歩く。ヒミカはまだ痛みがあるのか、足取りがぎこちない。
 それを気遣って悠人は歩みを遅くしていた。──それも或いは、未練なのかもしれないけれど。
「謝ったって、何でだ?」
「あなたを護るためなら、私はあの子達を見捨てるだろうから」
「……そっか。でもそんなことにはならないよ」
「え?」
 顔を上げると、頼もしげな笑みを浮かべた悠人の顔。
「俺とヒミカで皆を護るんだからな」
「────はい」
 そうだ。
 彼は護る為に此処を去る。私は護る為に此処に残る。
 今ここで道を分かとうと、やがて再び同じ場所に立ち、同じ理由で剣を取る。
 ならば同じように、共に戦う時が来るだろう。仲間を護る為に。
 ……その時には、また彼の剣になろう。
 別れは辛い。
 だが、その痛みよりも大切なものを護りに行く。
 ──唐突に木々が少なくなり、視界が開けた。
 静かな空間のその真ん中に、時深が立っていた。
285紅蓮の剣 Z. 32/34:2005/11/03(木) 01:42:32 ID:mzPN31ih0
「本当にいいんですね?」
 ああ、と頷く。時深も頷きを返し、そしてヒミカに視線をずらした。
「ヒミカさん。あなたは、エターナルにはなれませんよ?」
「分かっています。ここには、見送りに来ただけですから」
「……いいんですか?」
 厳しい顔で時深は問う。
 見送りだけでいいのか、という意味ではない。
 悠人がエターナルになることを止めないのか、という問いでも無論ない。
 見送りに来てしまっていいのか、と。別れをより辛くしてしまっていいのかという問いだ。
 ヒミカはその意を汲み取った上で、強く、はいと答えた。
「──、そうですか」
 時深はそれだけ答え、後は何も言わなかった。
「悠人さん、もうすぐ門が開きます。こちらへ」
 時深は淡々と告げる。それは二人の別れを慮って、敢えてそうしているのか。
 悠人が一歩足を踏み出し、ヒミカは動かない。いつも並んで戦場を駆け抜けてきた二人は、ここで道を違える。
「それじゃあヒミカ、行ってくるよ」
 振り返って殊更明るく言う悠人に、はい、と答えてヒミカは笑った。
「それでは、また。お待ちしております、ユート様」
 送り出す声は凛々しく。この上なく、それはヒミカという戦士の声だった。
 ……『また』は、ヒミカにはないのだ。
 それでもヒミカは、別離ではなく再会の約束を以て、戦士としての自分で悠人を送り出す。
286紅蓮の剣 Z. 33/34:2005/11/03(木) 01:43:23 ID:mzPN31ih0
「ああ、またな、ヒミカ」
 悠人は軽く握った拳を突き出した。ヒミカもそれに応え、拳を上げる。
 コツンと軽く打ち合わせて、それで終わり。
 ……門が開く。
 大気が悠人のほうへ吸い込まれるように流れ、夜闇を照らす青白い光が灯る。
 光が、吹き抜ける風のようにヒミカの頬を撫でていき──
 それが納まった後には、ただ元の夜があるばかりで。
 ぶつけ合った拳に残る小さな痺れを余韻として、高嶺悠人という人間はこの世界から消えた。
 胸に残るのは僅かな悔いと痛みだけだ。それもやがては消えるだろう。
 時間によって癒えるのではなく、忘れたということすら忘れてしまう想いとして。
 悠人が消えてしまっても、ヒミカはまだ彼のことを覚えていた。
 いっそ今すぐにでも消えてくれれば良かったのに、と思う。いつ消えるともしれない想いを抱え続けていくよりは。
 踵を返す。もうここには何もない。誰もいない。帰って寝て、明日からはまた訓練をしよう。
 恐らくは、今までよりも強い力と意志を携え帰ってくる彼に置いて行かれないように。
 森の中を歩く。一歩ごとに下腹部に鈍い痛みと震えが走る。
 その痛みも、実らぬ子種も、やがて最初から存在しないように消えてしまう。
 エターナルになるとはそういうこと。世界にいた痕跡そのものが全て『なかったこと』にされる。
 傷すら、残すこともできずに。
287紅蓮の剣 Z. 34/34:2005/11/03(木) 01:44:15 ID:mzPN31ih0
 そんなのは嫌だ、と思う。
 忘れない。忘れない。忘れない。忘れない。
 私は絶対忘れない。皆が彼を忘れても、世界が彼を忘れても、私が彼を忘れても。
 彼の剣として、彼の傍で戦うことを。
 思い出を喪い傷も消え、世界の摂理というどうしようもない壁がそこにあっても。
 
 ──地獄に堕ちても、忘れない。
 
 一度だけ、ヒミカは振り返った。
 闇の中には何もない。自分を呼ぶあの声も、特徴的な髪型をした人影も。
 彼の姿を幻視することすら、ついぞ出来なかった。
 視線を戻す。歩み始める。
 その歩みの中で、彼女は一つのことを決めた。
 彼が帰ってきたら、ちゃんと、おかえりなさいと言おう──
 二つの誓いを胸に彼女は歩いていく。それを止めることはない。
 ヒミカは戦士としての自分を保ち、やがて見知らぬ誰かとなって出会う悠人を出迎える。
 足跡に涙の一かけらたりとも落とすことはなく、ヒミカは第二詰所へと帰っていった。
 
 夜空には金の月。
 雲一つなく、地上を明るく照らす。旅人が道を迷いなく進めるように。
288紅蓮の剣 Z. あとがき:2005/11/03(木) 01:45:06 ID:mzPN31ih0
もうエロなんて書かない。

また長く間が。八ヶ月……。いや、そもそも皆さんの記憶に残っているのかどうかすら定かではないですが。
記憶の片隅にでも覚えていただけているといいのですが。久し振りの投下は心臓に悪かったです。内容が内容だけに。
自分がいない間に作家の方も増えたようで、保管庫を眺めては嬉しい悲鳴を(笑

そんなわけで、第七章をお送りしました。……もう七章なのかまだ七章なのか。
支援の方、ありがとうございます。
今回は佳織を送り出してから、悠人自身の旅立ち、もといヒミカとの別れまで。
二人の心をちゃんと描ききれていれば良いのですけれど。いまいち自信が。
ゲームではこの辺り、光陰や今日子とのイベントがないので、ちょっと冒頭で光陰との会話を。
妙に理屈っぽい会話になってしまってしまって反省。
ヒミカがエターナルになれない理由。席が埋まってるというのもありますが(〈依存〉はあるけど)、
やはりどんなに強くてもサブはサブですから……『紅蓮の剣』劇中ではちゃんと戦っているものの、
ゲームの中ではどんなにレベルを上げても、単騎でアセリアやエスやオルファに及ぶべくもなく。
そういうイメージで書いているつもりです(もとい、でした)。
桃色マナ空間についてはもう何も言うことはありません(ぁ
つくづく自分はこういうの向いてない、と再確認。

ヒミカは置いていかれてしまったわけですが、勿論、まだお話は続きます。
……雑魚スピSSということを考えなければ、ここで終わってしまったほうが綺麗なのかもしれませんけれど。
289名無しさん@初回限定:2005/11/03(木) 02:21:58 ID:TvoLh0D50
>>298
おつかれさまです。
美しい物語だと思います。
>もうエロなんて書かない。
ご心配なく、書きたくても書けない人がここにいますからっw
エターナルとなる事でかけがえのない人を守るために、自ら忘れられる悠人。
忘れたくないけれども、彼の想いを痛みで理解しているから止めないひとたち。
切ないですね。
その切なさが、永遠のアセリアという物語の魅力の一つと個人的に感じていますが…。
この紅蓮の剣というお話は、そういった部分がとても哀しいけれども美しく書かれてると思います。
もちろん、他の雑魚スピルートを書かれた方々の作品もそれぞれ素晴らしいものですが。
どうぞあせらずに、ご自分が一番納得する形で最後まで練り上げてください。
新参の書き手であると同時に、読み手の一人としてお待ち申し上げております。
290名無しさん@初回限定:2005/11/03(木) 06:51:33 ID:SxXnHzL90
>>298紅蓮の人
おお!紅蓮の剣…その輝きにいささかの翳りも無し!!
確かにサブスピとヒロインの差を考えれば当然の流れ
普通ならこうなんですよね、確かに
辛くても哀しくても、それを振り切って前へ…
それが「永遠のアセリア」の核なんだ、と再認識させてくれます
燦然と輝く雑魚スピスレの珠玉のひとつ、「紅蓮の剣」
一人の読み手としてその続きを待ち望むばかりです
291名無しさん@初回限定:2005/11/03(木) 08:47:52 ID:M8XzEkXA0
>>288
>>紅蓮の人さん

 G.J!!ア〜ンド乙でした。
一ヒミカスキーとしてお待ちしておりました。
ヒミカがあまりにも可愛くなっててラヴ。
そして別れのシーンは悲しス……
「我が身第一」と考えない二人が、実にらしいというか
お似合いというか……でも切ない。

次回も期待しております。
292おにぎりの中身の人:2005/11/03(木) 09:33:27 ID:gc+Q43AC0
紅蓮の人、お疲れ様でした
朝からエロスなものをどうもありがとうございます。

いいじゃないですか、俺なんかこの話の30分の1にも満たない長さの物語を半年以上放置してるんですからw
293名無しさん@初回限定:2005/11/03(木) 14:28:41 ID:IdIvPgDV0
糸目は結ばれないのか。
赤いマナは、輝いていたことすら忘れ、限りある地平をさまようのか。

むむむ、久々乙。
ナナルゥの後押しに耐えるヒミカ。
光陰の後押しに戸惑う悠人。
完成済みのはずなのに、接着されていない二人は、二本の糸を撚り合わせ、溶かし繋ぐ。
それだけを孤独の中の絆として。

ヒミカ ナンキム!
紅蓮の炎はまだ尽きてはいないはず。 悠人もろとも焼き尽くせっ!w
294名無しさん@初回限定:2005/11/03(木) 15:36:41 ID:VRxEVAa00
>>288
「おかえりなさい」

これもまたひとつの可能性なのでしょうね。きわめて現実的な。
295名無しさん@初回限定:2005/11/03(木) 17:40:10 ID:IdIvPgDV0
>241
エルピーサメモリ。
じょ、冗談ですよじょ、    ⊂::;⌒*~⊃。Д・.')⊃;.:...

敵スピがこうして喋るとユウト君も更に精神圧搾されますね。
敵にも命があって、更に名前だってある。
奪い、殺す。血を啜る剣先を悠人はいつまで上げ続けられるのか。

ニムじゃないけど、「革新」と銘打つ由来をそろそろ期待したいです。まだ一章だけにこういう事書くのは焦燥ですが。
296くじら318号:2005/11/03(木) 17:48:42 ID:cNwrGLSd0
>>革命の人さん
ううっ、GJです。
やばい、やばいですよ。敵に感情移入しちゃいそうです。
こんな状況で敵ボクスピに止め刺したりしたら・・・(|i|・Д・)∵グホァ
もうやってられませぬorz
セリアさん以上にそっちに目が行ってしまったわけです。ハイ

>>紅蓮の人さん
激しくGJです
八ヶ月ぶりとは・・・・・・凄まじく御無沙汰。
それなのにこのクオリティの高さは何なのだぁ!?
いやいや、じっくりと練られていたのですね。
次回作、期待してお待ちする所存でございまする。


他の職人様方の長編SS投下の後で恐縮ですが、
ワタクシも長編の製作に入ることにしました。

といわけで(どういうわけなんだか)、くじら式長編SS序章、投下開始します
297ただ、一途な心 序章─初めての光─:2005/11/03(木) 17:51:49 ID:cNwrGLSd0
────轟々と降りしきる大雨。時折落雷が耳を劈く。
そこは北方五国のうちの一つ、ラキオス周辺の街道。
その道は満足に整備されているわけではない。ぬかるみが歩く者の体力を奪う。

ぴちゃ、ぴちゃと音を立てて歩く二つの人影。
一人は、大人の女性。もう一人は、その体に似合わない大きさの槍を持つ少女。
雨よけのコートをかぶって、ゆっくりと街道を進む。
フードから時々見せる白い吐息が、寒さを強調していた。

「もうすぐ、家に着きますから、がんばって」
大人の女性が、やや辛そうな少女を励ます。
「はい、大丈夫です〜」
少女は笑顔でそれに応える。
まるで、こんな雨へっちゃらだと言わんばかりの、こぼれそうな笑顔で。

ぬかるみの中、しっかりと、一歩一歩踏みしめて歩く。
彼女たちの『家』は、あと500mほどだった。

298ただ、一途な心 序章─初めての光─:2005/11/03(木) 17:53:23 ID:cNwrGLSd0
りいいいぃぃん・・・
「あれ〜?」
「・・・?どうしたのですか、ハリオン?」
ハリオンと呼ばれた少女は、『何か』を感じ取っていた。
ひどく自分に近しい、『何か』を。

りいぃぃ・・・ん
その『何か』は次第に弱まってゆく。
ハリオンは、それが助けを求めていることを、直感的に感じ取っていた。
「こっちで・・・誰かが呼んでいます〜」
「・・・もしかして、神剣ですか?」
「そうみたいです〜」

スピリットが感じることができて、人間には感じ取れないもの。
それは様々だったが、その代表格として、神剣の気配があった。

神剣の気配がある・・・それはすなわち、そちらの方にスピリットがいるということだった。
もし敵国のスピリットだったら、逃げ場は無い。
ハリオンもスピリットだが、まだ幼く、ろくに戦えないから、たちまち殺されてしまう。

助けなければ、ハリオンはそう思っていた。そうしないと、後悔する気がしたから。
「・・・大丈夫ですよ〜、敵意は、感じません」
「そうですか?気をつけて・・・ハリオン」
299ただ、一途な心 序章─初めての光─:2005/11/03(木) 17:54:57 ID:cNwrGLSd0
ハリオンは、その神剣の気配に向かって歩み始めた。
程なく、雨に浸かりきった草の上で、誰かが倒れているのを発見する。

「あ・・・」
それは、自分によく似た少女だった。顔が似ていると言うわけではない。
だが、よく似ているということが、自然と脳裏には浮かんでいた。

大雨のせいでぐしょぐしょに濡れた黒髪の少女。その傍らには、一振りの太刀。
決定的だった。その少女は、自分と同じ、スピリットの少女だった。

「た、大変〜」
ハリオンはすぐに、女性の方に戻っていった。助けを呼ぶために。

すぐに二人は駆け寄ってくる。女性がその少女を調べると、顔が強張った。
「衰弱していますね。すぐに対処しないと、危険です」
言葉の内容とは対照的に、やけにのんびりした口調。
「急いで帰りましょう。私はこの子を運びますから、ハリオンは、神剣を運んでください」
「はい〜」

女性は自分のコートをはずし、それで少女の体を包む。
女性は、ハリオンが太刀をしっかりと抱えるのを確認すると、
少女を抱えて、『家』に向かって走り出した。ハリオンもそれに習い、駆け足で女性の後を追う。

3分ほど全力で走る。『家』はもう目と鼻の先。
二人が玄関先に着くと、女性は少女を抱えたまま、器用に扉を開ける。
そのままの勢いで二人は中に飛び込む。
300ただ、一途な心 序章─初めての光─:2005/11/03(木) 17:56:34 ID:cNwrGLSd0
バタン。

ハリオンが玄関の扉を閉めたときには、もう女性は部屋に上がり、暖炉に火を付けていた。
女性は傍らにあったタオルで少女の体の水滴をふき取る。
一通り拭き終わると、別のタオルで少女の体を包み、暖炉の近くで少女の体を温める。

「ハリオン、仕上げに回復魔法を・・・できます?」
「はい〜、大丈夫です」

本当はまだ未熟だったが、余程の致命傷でなければ、少しずつでも回復させることはできた。
ハリオンは槍を構え、呪文を詠唱する。
「あ〜すぷらいや〜」

癒しの緑マナが少女を包む。
女性がその少女の首筋に指を当てると、安心したような、柔らかい表情になった。
「よかった〜、これで大丈夫です」
「それよりも、この子、どうするんですか〜?」
「この子も、スピリットみたいですから、お城に報告しなくてはいけませんね・・・」
「そうですか〜」

ハリオンは嬉しかった。今までこの『家』には、スピリットは自分しかいなかったから。
まるで、道端に捨てられた仔犬を拾ったかのように、
突然、妹ができたかのように、他人とは思えない親近感を持っていた。

だが、それと同時に、ひどく悲しくもあった。
スピリットであるということは、いずれこの少女も剣を持ち、命果てるまで戦う宿命にあるということ。
『戦争』とかいうくだらないことで、大事なものを失いたくは無かった。
ただそう願っていた。決して願うことの無い願い事だとわかっていても。
301ただ、一途な心 序章─初めての光─:2005/11/03(木) 18:00:38 ID:cNwrGLSd0

────豪雨の一夜が明けた。窓から朝日が差し込み、部屋の中を明るく照らす。
その陽の光が、少女の目をこじ開ける。

「・・・・・・!」
「あ、目が覚めました?」
少女の目の前には、女性がいた。誰だかは判らないが、少女はなんとなく判った。
この人は自分を救ってくれたと。

「私の言っていること、わかりますか?」
「え・・・う?」
当然、わからなかった。
少女は、まだこの世界に『生まれた』ばかりだったから。

「やっぱり、新しいスピリットなのですね〜」
「・・・?」
何を言っているのかわからない。でも、この女性は少女に向かって笑顔を送る。
何もかもを包み込んでくれそうな、柔らかい笑顔。
少女がそれを見ていると、次第に少女の顔も笑顔になっていった。
302ただ、一途な心 序章─初めての光─:2005/11/03(木) 18:02:26 ID:cNwrGLSd0

きゅううぅぅ〜
少女のお腹が、警鐘を鳴らす。
それを聞くなり、少女は反射的に顔を赤らめていた。どうしてなのかわからないのに。
「ふふ、おなかがすいたんですね。今、食事を持ってきますから〜」
女性はぱたぱたと、スリッパの音を立てながら部屋を出て行った。


女性は台所で手際よく、幼いスピリット用の食事を作り始める。
とんとんと野菜を刻むうちに、ある考えが頭の中で渦巻いていた。
「そうそう、あの子の名前を考えてあげないと・・・」

女性は調理をしながら、むにゃむにゃと考え始める。
心は名前を考えることに集中しているのに、体はしっかりと調理している。
こんなことが日常茶飯事なのだろうか、立派なながら族だった。


やがて、女性の中で一つの名前が形作っていった。
「・・・・・・・・・ヘリオン。ヘリオン・ブラックスピリット・・・ふふ、いいですねぇ、この名前でいきましょう〜」


こうして、ここにまた一人、スピリットが誕生した。
しかし、ヘリオンと名づけられた少女がどういう運命を辿るのかは、まだ知る由も無かった・・・
303くじら318号:2005/11/03(木) 18:05:48 ID:cNwrGLSd0
序章はここまでです。
予告編みたいなもんだと思ってください。

続きはチマチマと書くので、ペースは遅いと思います。
若輩者ですが、最後まで見届けてくれれば幸いです。

誤字脱字、ハリオンマジック等、指摘があればお願いします。
304名無しさん@初回限定:2005/11/03(木) 18:13:34 ID:IdIvPgDV0
ハラヘリ。あ、間違え。ハリヘリGJ。

この姉妹の繋がりを上手く書き出してくれると嬉しいところ。
期待+100

もしもハリオンとヘリオンの名前が逆だったら。
へ「わ、私も、今のハリオンさんみたいに」
ニ「ムリ」

>300
>決して願うことの無い願い事だとわかっていても。
「叶う」 ですかね。
305くじら318号:2005/11/03(木) 18:27:20 ID:cNwrGLSd0
>>304
ぐはぁっ!指摘ありがとうございます。
保管庫の方、保管の際は修正の上でお願いします
306名無しさん@初回限定:2005/11/03(木) 18:46:52 ID:BM6XGS8S0
>>295
惜しい!限りなく正解に近いですw
彼女の名前のつづりは「Elpisa」でエルピーサ
「希望」って意味のギリシャ語「Elpis」エルピス、に
女性系の音のAをつけてエルピーサです
307エロ大王:2005/11/03(木) 19:58:25 ID:Z2+fR9nI0
>>306
国産のDRAMの製造メーカーの名前は『エルピーダメモリー』だった気がする
ttp://www.elpida.com/ja/index.html
スレ違いスマン・・

しかしミナサンすごすぎ・・・・なんか「すぴたん」やる前におなか満杯になりそうです。
308名無しさん@初回限定:2005/11/03(木) 20:06:08 ID:BM6XGS8S0
>>307
社名の由来
当社社名である「エルピーダメモリ」は、
ギリシャ語で「希望」を意味する言葉をもとに、
日本の半導体メーカ数社によるダイナミック(Dynamic)な
事業統合(Association)により成る
会社であることを表現したものです。
加えて、日本を代表するDRAMメーカとして、多くのパートナー企業や
関連団体とのダイナミック(Dynamic)な協業(Association)を進め、
「希望」とともに大きく成長したいという意味が込められています。

エルピーダホームページ 会社案内のトップメッセージより抜粋

板違い…キエヨウ、オレ
309名無しさん@初回限定:2005/11/03(木) 21:24:07 ID:IdIvPgDV0
冗談で書いたんだけど(汗) エルピーダのHPは覗いてから書いたんだけど由来は見てなかった(汗)

そうか、希望か。それじゃこの会社と未来に合併するのはエピメテウス社か。ライバル会社から送り込まれた
傾国の美人秘書に骨抜きにされぬ事を祈りますぜ。
なんかエルピーダメモリに親近感w

名前の響きだけならクリュタイムネストラが好きw
310名無しさん@初回限定:2005/11/03(木) 22:05:11 ID:oRlL4PKy0
二重の意味で It’s Greek
ですぜ
311おにぎりの中身の人:2005/11/03(木) 23:19:37 ID:gc+Q43AC0
乙ですクジラさん
相変わらず筆が早い・・・私も見習いたいものです。

ヘリハリものを私も書いてます(現在放置中)が、たまにハリオンマジックが起こります
さすがハリオン、おいしいところを持っていくぜ!
312名無しさん@初回限定:2005/11/03(木) 23:54:53 ID:ehcqdaZE0
>>くじら318号さん
ハリオンマジック誕生秘話アナザーストーリーですね!
期待して待っております。
313名無しさん@初回限定:2005/11/04(金) 22:17:23 ID:VIzs+Juu0
うあああ数日で有り得ない未読レスが(汗

>>241
お疲れ様です。革歩(略すな)も第一章終了ですか……何だかあっという間の気もします。
悠人の作戦読んでいて、何故か以前メーカースレで“釣られた人たち”と
書き込まれていた画像思い出しました……誰も知らないか。
それはそうとナイスアシスト内助のセリアさん。さり気ないフォローは流石です。
そして来ました野生の猫少女。ボクっ娘w(意味不明
敵ザコ(普通)を彷彿させる台詞。会話は無いといいながら話しかけてくる気分屋さん。
思わずネリーを結びつけ、戦闘の最中の筈なのにほんわかと読んでました。
でもそれだけに、ラストが…………(涙  あー彼女に別の生き方を示したい……
ドツボに嵌ったソゥユート。セリアは見事導く事が出来るのか。期待大、ということで。
ええと…………生きてますか?>楽屋

>>288
グレ剣キターーー!!
おお、八ヶ月ぶりの復活、おめでとうございます。というかもう八ヶ月も経ってたのですね……実感ないなぁ。
追い込まれるまで、自分が真に求める言葉をそれぞれ自覚しながらも互いを慮り、封じ合う二人。
こうしてみるとヒミカと悠人ってやはり似た物夫婦なのかな、と。じれったくも息を飲むやり取り。
その端々に考え抜いた末の言葉の奥があり、一々行間を深読みしては唸ってました。
無事想いが通じ合った下りでは既に送り出す親の心境で、良かったねと呟くのみです。
あと自分でも良く判りませんが、何故かHシーンでは肋骨を数える辺りに妙なエロスを感じたり(ぇ
えっと、一度紡いだ運命の糸は再び分かたれた訳ですが、きっとまだ結び目の記憶はある筈。
そんな訳で、ヒミカ頑張れw 続きお待ちしております。

>>303
濡れ鼠ヘリオン。まるで『拾って下さい』と札をぶら下げている彼女を見つけたら、ハリオンでなくても保護欲がw
ハリオンの少女時代か……(遠い目) あの一見何も考えていないような穏かな細い目の中に、
一体どんなものを抱えているのか。意外と難しい主題の様な気がします。などとヘリオンの絡み方に注目しつつ。
…………ところで一緒に居た女性、一体誰なんでせう。考えると何となく切なくなって(ry
314名無しさん@初回限定:2005/11/04(金) 22:25:22 ID:VIzs+Juu0
>>313
×:ぶら下げている彼女
○:ぶら下げているような彼女

orz
315名無しさん@初回限定:2005/11/04(金) 23:15:53 ID:xohjypg20
ラジオのシアー。
なんかアセリアナナルゥを差し置いて一番謎なキャラなのではと思えてきた。
ネリーの分取っとけw
316名無しさん@初回限定:2005/11/05(土) 02:50:56 ID:WRq2Ix6Z0
>第二回放送
このぐだぐだな構成は見事としか言いようがないなw

ところで最後に葉書送った砂漠の少女さんはやっぱりクォーリンなのか?
317名無しさん@初回限定:2005/11/05(土) 09:14:11 ID:kK3ot7nL0
>>316
自分も聞いてみたけど、そんな感じですかね。
当然感謝されているのは光陰。
こういった光陰の一面を知らないニム達が、こき下ろしていると言うシナリオで
318名無しさん@初回限定:2005/11/05(土) 09:19:28 ID:/3fQ+Pb60
くーる!!くーる!!くーる!!
319名無しさん@初回限定:2005/11/05(土) 12:00:07 ID:TYaaTTj90
しかしスピリットもやっぱり風邪って引くんだな。
いやこのスレじゃデフォだけど、ゲームにそんな描写あったか記憶定かでは無いし。
アセリアのあれは風邪の症状に似ていたけどマナ不足が原因だし。

とりあえず寝込んだネリーの身体拭いてくるか。
320名無しさん@初回限定:2005/11/05(土) 17:54:51 ID:sKU8uOu60
設定資料集には、スピリットは体が弱いため、ラキオス王国では清潔さを保つように風呂にはいる事が義務づけられている。
となっていた。たしか。

エスも、リクェムには風邪を予防する力があるっていってたから、やはり風邪をひくのだろうね。


とりあえず、スピたんはこのラジオ放送を生んだ事で使命を既に果たしたと思う。
321名無しさん@初回限定:2005/11/05(土) 18:50:49 ID:Qe1oNfws0
清潔さじゃなくて、疲労が溜まりやすいからじゃなかったか?
322名無しさん@初回限定:2005/11/05(土) 19:44:35 ID:mFKmtg7q0
調べてみた。
>>321で正解。ただ>>320のエスの台詞もあるから風邪は引くんだろう。つまり馬鹿じゃ(ry

>>318
あの装置欲しいなw
323名無しさん@初回限定:2005/11/05(土) 21:01:36 ID:DMZzv/m1O
体が弱い、か…

(*゚∀゚)≡3ムッハー!エロ妄想が沸いて来ました。
324くじら318号:2005/11/05(土) 21:22:43 ID:6CNpUB8R0
どうも、こんばんは。

流れをぶった切って
くじら式長編の第T章を投下したいと思います。

以下のことをご了承の上でお読みください
・流れ上、はっちゃけている部分があります。
・本編中のイベントを再現している部分がありますが、多少違っていても突っ込まないで下さいorz


では、投下開始します

────あれから数年の月日が流れた。
ヘリオンは『家』での生活にも慣れ、言葉も理解できるようになった。

よく晴れた朝、陽の光がまぶしい。
『お姉ちゃん』の作ってくれる料理の匂いが流れてくるころ、ヘリオンは目を覚ます。

「ん〜、ふぁ〜あ〜」
瞼をごしごしとこする。本当はまだ寝ていたかったが、
さっさと起きないと『お姉ちゃん』が金属製のバケツとおたまを持って現れる。
以前一度思いっきり寝坊したことがあり、そのときに恐ろしくやかましい目にあい、
もう二度と『お姉ちゃん』のいるところでは寝坊はしまいと、心に誓っていた。

ヘリオンはベッドから跳ね起きると、とことこと洗面所に向かい、顔を洗う。
今日は少し暑いから、きんきんに冷えた地下水で顔を洗うと気持ちいい。
顔を洗ったあと、部屋から持ってきた髪留めで、きゅきゅっと手馴れた様子で
左右の髪を留め、ツインテールの髪型にした。

それから、さっきからおいしそうな匂いを放つ部屋、食卓へと向かう。
食卓の扉を開けると、いつもどおり、そこには『お姉ちゃん』が朝食を並べていた。
溢れんばかりの陽の光を背に立つ『お姉ちゃん』は、見ているだけで暖かかった。

「おはようございま〜す」
「ふふ、おはよう、ヘリオン」
ヘリオンが挨拶をすると、『お姉ちゃん』は笑顔でそれに応えてくれた。

だが、何処を見渡しても、ヘリオンにとってのもう一人のお姉ちゃんはいなかった。
「ハリオンさんは、どこですか?」
「今日も、朝早くから訓練です」
「またですか〜?」
「でも、夕方には帰ってきますから〜・・・」
「はい!楽しみにしてます」

ハリオンが朝早くから訓練に出かけるのは今に始まった事ではない。
とはいえ、ヘリオンはまだ幼く、訓練に参加することはできなかった。
だから、陽のあるうちは『お姉ちゃん』と二人だけで生活していた。
それ故に、ハリオンが色々な土産話を持ってくるのを、ヘリオンは楽しみにしていたのだ。

「今日の朝食は、あなたの好きなスープですから、沢山食べてください」
「やったぁ!」
ヘリオンは改めてテーブルの上を見る。
好物のスープに、幾つにも切り分けられたパン、スクランブルエッグのような料理等々。
ぴょこんと椅子に座ると、ヘリオンは早速スープを啜る。

「はぁ・・・おいしーです!」
「よかった〜」
スープ以外にも手を伸ばす。スープに負けず劣らず、どれも納得のいく味付け。
ヘリオンにとって、おいしい料理はこれ以上無い目覚ましだった。


ドンドン!
せっかくおいしい料理を食べているのに、乱暴に叩かれる玄関の扉。
気持ちいい目覚めの朝、幸せな気分はどこかへ飛んでいってしまった。

ドンドン!
「はいはい、今行きますから・・・ヘリオン、ここにいてくださいね〜」
「わかりました」
『お姉ちゃん』はばたばたと急いで、玄関に向かった。
もう一口、ヘリオンはスープを飲む。その味は、何があっても落ち着けそうな、そんな味だった。



「(お姉ちゃん・・・遅いです)」
ヘリオンは思った。今まで客が来て、これほどまでに長く自分の元を離れたことは無かった。
なにか、ただ事ではないことが起こったのではないかと。

ヘリオンはそ〜っと食卓の扉を開けた。
すると、玄関のほうから二人分の声が聞こえてくる。
・・・片方は、紛れも無く『お姉ちゃん』の声。もう片方は、聞いたことの無い乱暴そうな声だった。

「・・・無理です。あの子はまだ、戦えません」
「スピリットに戦わせないでどうする。できないなら、やらせるまでだ」
「まだ、神剣すら満足に扱えないのです。もう少し待ってください」
「・・・貴様には任せておけんな。ハリオンとかいう奴のときもそうだった。
そんなに悠長にしてはいられないのだよ・・・。ヘリオンとかいうスピリットはどこだ!」
「!!」
「ま、待ってください!!」
328おにぎりの中身の人:2005/11/05(土) 21:29:48 ID:wVvs+n1z0
OKボス、支援だ

どすどすと、重い足音が近づいてくる。
逃げなきゃ。逃げないと酷い目に遭う。そういった危機感がヘリオンの思考を染める。
「(ど、どうしよう・・・どうしよう!)」
そして、そこから逃げ出すべくヘリオンの目に入ったのは・・・


ばん!
食卓の扉が勢いよく開かれる。
無理矢理上がりこんできた兵士が辺りを見渡すが、そこにヘリオンの姿は無い。
テーブルの下、棚の中など、隠れられそうなところを探すが、やはり見つからない。

きぃ・・・きぃ・・・
窓枠が痛々しい音を立てる。その音が、ヘリオンの行方を暗示させてしまった。


「ちっ・・・逃げたか」
「ああ、ヘリオン・・・」
悔しそうに舌打ちをする兵士。当然だろう。
自分とは格が違う(と思い込んでいる)少女に出し抜かれたのだから。

「貴様・・・責任は取ってもらうぞ」
「!・・・・・・・・・はい」


「はぁ・・・はぁ・・・」
食卓の窓から逃げ出したヘリオン。
全力で草原を疾走するが、神剣の力を使っていない以上、
いかにスピリットとはいえ、身体能力は人間の少女のそれとなんら遜色は無かった。

すぐに息が上がる。苦しい。胸がはちきれそうだった。

でも逃げなきゃ。
酷い目になんて遭いたくない。
助けて。
誰か助けて!

走りながら、様々な思考が頭の中を駆け巡る。
だが、走っても走っても、そこは地平線の果てまで続く草原。
ただ多少環境がいいだけの陸の孤島。
方向がわからなくては、そこに食料も持たずに飛び込むなど、自殺行為だった。

「たすけて・・・だれか・・・・・・たす・・・け・・・」
一気に喉が渇き、声がかすれる。膝がガクガクと震える。
・・・もう、走れない。

どさっ
ヘリオンはその場に倒れこんでしまった。

「(あ・・・・・・れ?)」
前にもこんなことがあった気がする。
草原に倒れこみ、体全体をクッションのように受け止める草の感覚。
決定的に違うのは、あの時は雨が降っていたこと。

あの時は意識は無かったはずなのに、覚えていないはずなのに、
鮮明に記憶の奥底から蘇る、自分が助かった時のこと。

「ハリオン・・・さ・・・ん」
人影が見える。目の前がかすんで、誰だかはわからない。
だが、記憶はこう告げている。
その人は、フードをかぶって、大きな槍を持っていて、緑色の髪の優しそうな・・・


─────ヘリオンの意識は、そこで途切れた。


332おにぎりの中身の人:2005/11/05(土) 21:35:25 ID:wVvs+n1z0
支援その2

「ただいまぁ〜」
同日、時は夕方。
ハリオンはようやく訓練を終え、ラキオス城から『家』に帰ってきた。


「・・・・・・!?」
『家』に入った瞬間、ハリオンは己の目を疑った。
家具という家具は破壊され、あちこちが完膚なきまでに荒らされ、
テーブルの上に乗っていた数々の料理は、食卓のいたるところに散乱していた。
おまけに、何処にも行く筈が無いヘリオンの姿も無い。

「!!!」
───そして、ヘリオンの部屋に入ると、そこには信じられない光景が広がっていた。

ベッドの上に乗っていたのは、自分を、ヘリオンを、助け、育ててくれた恩人。
『お姉ちゃん』が、全裸で、ぴくぴくと痙攣していた。
その目からは涙が流れているが、目そのものに、光は無かった。
今部屋に入ってきたハリオンすら、その目には映ってはいないだろう。

あちこちに飛び散っている血、立ち込める強烈な精臭。
それらの意味するものは一つしかなかったが、ハリオンにはそれが理解できなかった。

朝、起きてすぐまでは暖かかった『家』。
人が死ぬと運ばれると言う楽園<ハイペリア>と比べても、こっちのほうがいいと思った位の場所。
それなのに、訓練を終えて帰ってくると、そこは地獄と化している。
これなら、まだ話に聞く地獄<バルガ・ロアー>のほうがマシだった。

「何が・・・・・・なにが、おこったん・・・ですか?」
【大樹】がからん、と音を立てて転がる。
ハリオン自身の体もがたがたと震えだす。目から涙が溢れ出す。
強烈な吐き気がこみ上げてくる。

「お姉ちゃん・・・答えてください・・・なにが・・・・・・おこったんですか?」
ハリオンは『お姉ちゃん』の体をゆする。
生きてこそいるが、その心はどこかへ行ってしまっていた。
「ハリオ・・・ン、・・・ヘリ・・・オン」
『お姉ちゃん』はうわ言のように、少女たちの名前を呼び続ける。
・・・・・・まるで、役目をなくした機械人形のように・・・


───ハリオンもまた、その場で『お姉ちゃん』と、呼びかけ続けることしかできなかった・・・。



『起きて・・・・・・』
ここはどこだろう?
真っ暗闇で、何も見えない。
でも、誰かがヘリオンに呼びかけてくる。

『起きて・・・早く』
「(あなたは・・・誰、ですか?)」
ヘリオンは声に向かって呼びかける。
すると、妙に大人びた、自分と重なるような声が聞こえてきた。

『私は、あなたです・・・』
「(へ?)」
『それよりも、早く起きて・・・お姉ちゃんたちが、危ない・・・』
「(お姉ちゃん!?何かあったんですか!?)」
『それは・・・行けばわかります。
すこし、あなたに私の力を分けます。それを使って、早く・・・早く・・・家に戻ってください』
「(ま、待ってください!)」

その声の主が遠ざかっていくのがわかる。
目覚めなくては・・・

「あ・・・あれ?」
気がつくと、時はもう夕方。場所は、あの時倒れた草原だった。
どういうわけか、のどの渇きも、体の疲れもすっかりと取れていた。


「な、なんですか?これ・・・なんだか、体がむずむずして・・・」
『開放するのです・・・翼をイメージして・・・』
さっき、暗闇の中で聞こえてきた声。それの『断片』が、頭の中で話しかけてきた。
「つ、翼?いめーじ??」
幼いヘリオンには、何のことやらさっぱりだった。

『考えるのです・・・鳥の翼を』
「と、鳥ですか?鳥・・・鳥・・・」
よくわからなかったが、ヘリオンはとりあえず、空を飛ぶ鳥をイメージする。すると・・・・・・

キイイイィィン・・・・・・!
ヘリオンの背中から、光を放つ翼が姿を現す。
「はうっ・・・!これ、何ですか!!?」
『よくできました・・・それは、あなたのハイロゥ・・・それを使って、はやく・・・』
337おにぎりの中身の人:2005/11/05(土) 21:40:37 ID:wVvs+n1z0
支援その3

何が起こったのだろう。
体が軽い。感覚的に、そのハイロゥとかいうのの使い方がわかる。
なぜか、『家』のある方向がわかる。

「と、とにかく、家にもどるんですね!?」
『そうです・・・いそい・・・で・・・・・・』
声が完全に聞こえなくなった。
急がなくては。ヘリオンの心はそれ一色になったのだ。

バサァッ!
ウイングハイロゥをはためかせ、家のほうに向かって低空飛行をする。
朝に走った時とは比べ物にならないスピード。強烈な風がヘリオンの顔に押し当たる。

「お姉ちゃん・・・!!」



あっと言う間に『家』に着いた。
玄関の扉を開けると、そこには塞ぎこんだハリオンがいた。
「ヘリオン・・・!」
「は、ハリオンさん!!」
ヘリオンを見るなり、ハリオンは、その深緑の瞳から大粒の涙を流し始める。
「ハリオンさん・・・一体、何があったんですか?」
「お姉ちゃんが、お姉ちゃんがあぁぁ・・・」
ハリオンはヘリオンに抱きつき、自分が見て、感じたことの全てを、悲しみを泣くことで消化しようとした。
しかし、それは誤魔化せるものではない。すぐ傍に、現実として在るのだから。

ハリオンは大泣きした後、自分の見た全てをヘリオンに明かした。
その日の出来事は、まだ幼かった二人には残酷な事件となったのだった───

ヘリオンも泣いた。だが、泣いても泣いても、込み上げてくる悲しみと悔しさは拭い取れない。
ただ、廃人のようになった『お姉ちゃん』の前で泣きじゃくることしかできなかった。

どうしてこんなことになってしまったんだろう。

私が逃げたから?
私が戦えないから?
私が弱いから?
私が幼いから?

あの兵士はヘリオンを探しにきた。

だから、自分さえよければ、『お姉ちゃん』はこんな目には遭わなかった。
それなのに、自分のことだけを考えて逃げちゃったから、だから、『お姉ちゃん』がこうなっちゃった。

激しい自責の念がヘリオンに重くのしかかる。
自分のせいでこうなった。自分のせいで『お姉ちゃん』が廃人になった。
・・・もう、それしか考えられなかった。
ヘリオンの瞳からも光が失われかけた、その時・・・

りいいいぃぃぃん・・・

何処からとも無く、清らかな鈴のような音が聞こえてきた。
『こんばんは』
その音とともに、そういう声が聞こえたような気もする。
「あなたは・・・さっきの?」
『私を手にとって・・・・・・私はここです』

頭の中に響く、透き通るような自分と同じ声。
手にとって・・・どうやって手に取れというのか。そもそも、この声は何なのか。

だが、なんとなくそれがあるところがわかる。
ヘリオンは、自分のベッドの下に、小さな手を伸ばした。こうしなくてはいけない気がしたから。
・・・そして、それを手に取った。

「あ・・・!!」
それは、どこかで見たことがあった。
まだ幼い少女が扱うものとは思えない業物。
柄についている、黒いような、紫のような宝石が、妖しく光を放っていた。

りいいいぃぃぃん・・・
頭の片隅にズキン、と痛みが走る。
同時に、さっきまでぽっかりと空いていた心に、パズルのピースのようなものがはまるのを感じた。
341おにぎりの中身の人:2005/11/05(土) 21:45:25 ID:wVvs+n1z0
支援その4

「こ、これ・・・なんですか??」
『やっと一つになれました・・・・・・始めまして。私は永遠神剣【失望】・・・』
「え、えいえんしんけん?し、しつぼう???」
何を言っているのかわからなかった。
なぜなら、神剣の存在も、ヘリオンがそれの主であることも、
『お姉ちゃん』たちが、そのときが来るまでヘリオンには黙っていたことだからだ。

『私は、あなたと一緒に生まれた剣。そして、あなたは私の主』
「え、え?」
何もわからずおろおろしていると、【失望】は呆れたように話してくる。
『・・・つまり、あなたは目醒め、戦う力を手に入れたのです』
「たたかう・・・ちから?」

戦う力。それはいまのヘリオンが喉から手が出るほど欲しいもの。
だが、時はすでに遅し。もっと早くこうしていれば、『お姉ちゃん』だって助けられた。
・・・そのはずだった。

「どうして・・・どうして、もっと早く言ってくれないんですか?」
『それは、ついさっきまであなたが目醒めていなかったからです』
「それって、私のせいなんですか?」
『・・・そういってもいいかもしれません。
もっとも、いつ神剣の声が聞こえるかどうかは、個人差がありますが・・・』
「・・・やっぱり、わたしのせいなんですね・・・お姉ちゃん・・・」

また涙が溢れ出す。
どうにかなりそうだった。助けられたはずの『お姉ちゃん』を助けられなかった。
自分が目醒めるのが遅かったから。やっぱり自分のせいだった。
自分が、『お姉ちゃん』を殺したようなものだった。

「い、いやあぁ・・・そんなの、いやああぁぁ・・・」
ヘリオンは頭を抱え、ぶんぶんと横に振る。完全に混乱していた。
『落ち着いてください!ハリオンさんまであなたと同じ目にあわせるつもりですか!?』
「・・・え?」
言っている意味がよくわからない。
自分より遥かに強いハリオンが自分と同じ目に遭う?
そんなわけない。ヘリオンは勝手にそう思い込んでいた。

『あなたは、このままではそこのお姉ちゃんと同じ状況になってしまいます!・・・はっきり言いますが、
あなたまでいなくなっては、ハリオンさんまで殺すことになります・・・それでもいいんですか!?』

ヘリオンは幼すぎた。言っている意味が全くわからない。
だが、はっきりしたのは、自分はここからいなくなってはいけないということ。
ハリオンの傍から離れてはいけないということだった。

『ハリオンさんと・・・一緒に、戦って、生きて。残された家族を守るために・・・』
「戦う・・・家族を、守る・・・」

───ヘリオンの中で、ある種の決意が形作られていった。
その意思は神剣のものであると共に、ヘリオン自らの、最大の望みでもあった。

「・・・・・・もう誰も、失いたくありません。大事な人のために、私は戦います!」

年端も行かない少女の口から飛び出したのは、決して揺らぐことが無い誓いだった───


りいいいぃぃぃん・・・
頭の中に澄み切った音が響き渡る。
その音は、聞き慣れているはずの【大樹】の干渉音。それなのに、今日ばかりは寂しげな音だった。
「【大樹】・・・私たち、どうしたらいいんですか〜?」

あまりにも突然で、凄惨な現実を目の前にして、ハリオンの判断能力は無に等しくなっていた。
【大樹】に呼びかけるも、その問いに答える声は無かった。
「答えてください・・・私たち、どうしたら・・・」

何も解らない。考えられない。
誰かに答えを求めても、誰もわからない。誰も教えてくれない。
今ハリオンが感じているのは、孤独という名の恐怖。
例えヘリオンが傍にいようと、その恐怖は拭い取ることはできない。
それに限っては、自分の力で打ち破るしかないから。自分で答えを見つけるしかないから。

『・・・・・・ハリオン、あなたは、どうしたいのですか〜?』
「・・・え?」
さっきまで呼びかけてもうんともすんとも言わなかった【大樹】が、重い口を開く。
『あなたはどうしたいのですか、と、聞いているんです』
「・・・わかりません」

突然廃人になってしまった『お姉ちゃん』。地獄と化したハリオンにとっての楽園。
今まで持っていた幸せが、どこかへ飛んでいってしまった。
・・・・・・残ったのは、まだ幼いヘリオンだけ。
345名無しさん@初回限定:2005/11/05(土) 21:49:56 ID:Exl+Iyn10
支援を打ち間違えて死ねと書くこと3回

『ヘリオンのことは、どうでもいいんですか!?』
「そ、それは・・・」
『私は、覚えていますよ・・・あの子を拾ったときの、あなたの嬉しそうな心を・・・
ですから、安心していました。あの子はあなたが守ってくれるって・・・
でも、今のあなたは、あの子どころか、自分の身すら守れません・・・・・・あの子を、殺す気ですか?』

「い、いやですぅ!ヘリオンまで失いたくありません!!」

やっと飛び出した、妹を守りたいという本音。
【大樹】は、うなだれるハリオンがそう言ってくれるのを、ずっと待っていた。
・・・この二人は、どちらかが欠けると寂しくて死んでしまうから。
ずっと家族という暖かさの中で生きてきた二人にとって、それは無くてはならないものだから。
いつか、それから離れなくてはならないと解っていても、二人で一緒に生きていて欲しかったから。

『そうです。あの子を死なせてはいけません・・・共に戦い、生き延びるのです・・・』
「・・・はい。私は、ヘリオンを守り、生き延びます・・・」
ハリオンは決意を新たにする。おもわず握った左手に力が篭る。
『どうか、その心を忘れないでください』


【大樹】から、暖かい波動が流れ込んでくる。
それは、今のハリオンにとって、『お姉ちゃん』に負けず劣らず、気持ちのいいものだった───


────あの事件から、また何年も経った。
『お姉ちゃん』は、あの事件以来、何をしゃべるとも、動くことも無かった。
ハリオンとヘリオンの懸命の看病も虚しく、あれから3年程でその生涯を終えた・・・

優しくて、暖かかった『お姉ちゃん』。それを奪ったのは、弱すぎる自分。
ヘリオンはずっと強くなろうとしていた。
もう一人の『お姉ちゃん』、ハリオンを助けられるように。
もう二度と、あんな悲劇は起こさせない。その決意だけが、ヘリオンを動かしていた。


今日も、ラキオス城で訓練。
神剣を扱えるようになった以上、ヘリオンも、ハリオンと一緒に訓練に参加しなければならない。
だが、それはヘリオンにとって願っても無いこと。
強くなれるなら、大事な人を守れるなら、どんな訓練にも耐えてやるつもりだった。
・・・が、

「・・・そこ、隙だらけです〜」
「ひゃあうっ!」
どかっ、と、ハリオンの攻撃が腹部に食い込む。
【失望】を落とし、げほげほと咳込むと、ハリオンはすっと手を伸ばしてくる。
「・・・今日は、これくらいにしましょう〜」
「は、はいぃ・・・」
ヘリオンはハリオンの手をとって、お腹を押さえながら立ち上がった。

どうも、やる気が空回りしてしまう。そのせいで、なかなか思うように強くなれなかった。
動きがやや緩慢なグリーンスピリットに対し、最速を誇るブラックスピリット。
常識的に言えばブラックスピリットの方が強いのだが、
数年というギャップと、キャリア。さらに、肝心なところでドジを踏むせいで、その常識は逆転していた。

「・・・ですからぁ、ここは常に動き回って敵を振り回すのが効果的なんですよぅ・・・」
「うぅ、スタミナがついていかないです・・・」
「でも、止まっていたら、戦いでは生き残れません!」
ハリオンはびしっと教育をする。
やはりそこは先輩肌。丁寧かつ厳しく教えてくれていた。

・・・しかし、やっぱり何か悔しかった。
強くなるためには、どうしたらいいんだろう。
ハリオンにとって、まだヘリオンを相手にするのは赤子の手を捻るようなもの。
最低でも、実力を並べなくては、ハリオンを助けることなど夢のまた夢だった。


「じゃあ、ヘリオン。この報告書を、王女様に届けてください〜」
「あ、はい!」
「私は、先に家に戻って食事の用意をしていますので〜」

報告書・・・内容は、今日行った訓練のメニューと、それを行った結果どれだけの実力がついたかの報告。
国の主な政治は国王が行っていたが、スピリットの総合的な管理はレスティーナが行っていた。
正直、あの国王は好きにはなれない。
逆にレスティーナは、なんだか馴染みやすいような感じがするので、抵抗も無く会いにいけるのだった。

ハリオンの書いた報告書を手に、ヘリオンは王座の間に入る。
そこには、悠然とした構えのレスティーナが立っていた。

「お、王女様、今日の訓練の報告書ですっ!」
「ご苦労、ヘリオン。そんなに堅くならなくても良い」
「は、はいっ!」


ヘリオンが報告書を手渡すと、レスティーナが真面目な顔で話しかけてきた。
「・・・ヘリオン、間もなく、大規模な戦争が始まります。
あなたたちがラキオスのスピリット隊のメンバーになる日もそう遠くは無いでしょう」
「やっぱり、戦争になるんですか・・・」
「今頃、おそらくスピリット隊の隊長になるであろう者が訓練しているころでしょう」
「隊長さん、ですか?」
「ええ、話には聞いたことがあるでしょう。エトランジェです」
「エトランジェ・・・」

噂には聞いていた。どこからともなく現れたエトランジェの青年。
この国を救うために、ハイペリアからやってきたという神剣の勇者。
今、ラキオスに伝わる神剣を手に、様々な任務をこなしているという話だ。


「今後、長い付き合いになるでしょうから、訓練所で見てきてはどうですか?」
「は、はいっ!そうさせてもらいます!」
一体どんな人なのだろう?期待で心が膨らんでいった。
350名無しさん@初回限定:2005/11/05(土) 21:55:48 ID:z7rg8Y6x0
いよいよあのシーンかドキムネしつつ支援

訓練所につくと、そこではレスティーナの言ったとおり、誰かが訓練していた。
片方は、見かけやハイロゥから見てもわかる。ブルースピリットだ。
もう片方は見たことが無い。ラキオス城の兵士が着ている白い衣に、ツンツンした黒い頭髪。
展開しているのがハイロゥではなく、光の魔方陣であることから、おそらくあの人がエトランジェなのだろう。

見た感じ、ブルースピリットの方が押し気味のようだ。
エトランジェは、その攻撃を防ぐのがやっと、といった動きをしている。

・・・結局、エトランジェはほとんど攻撃に回れず、スピリットのラッシュに耐えかねて倒れてしまった。
少しして、スピリットはその場を去っていった。

ヘリオンは思っていた。この人は自分に似ていると。
満足に戦えていないその姿は、さっきまでの自分と被っていた。
「(この人が、隊長さん・・・・・・なのかなぁ?だ、大丈夫かな・・・)」

しばらく心配そうに見ていると、こちらの視線に気づいたのか、エトランジェはこちらを向いてくる。

「ひゃ・・・!」
思わず隠れてしまった。こうなっては出るに出れない。
とりあえず、あのエトランジェはそうとうなダメージを受けているようだったから、
何か手当てをできるものを持っていったほうがいいと思ったのだった。
そうと決まれば実行あるのみ。ヘリオンは、水道に向かって走り出す。

訓練所の水道に行き、そこにかけてあったタオルを濡らす。
見た感じ、切り傷は無く、打撲っぽかったから、こういうのがいいと思った。

きんきんに冷えた水で濡らしたタオルを持って、ヘリオンはエトランジェに駆け寄る。

「あの、大丈夫ですか?」
「え・・・?」
「たくさん、怪我、してるみたいなんですけど・・・」
「大丈夫・・・じゃないな。・・・・・・実際自分で見てびっくりしているくらいだ」

そのエトランジェは、あちこちに青痣や内出血を起こしていた。
早速、ヘリオンはタオルをエトランジェに手渡す。
エトランジェはそれで体中の汗を拭い、痣になっているところに押し当てる。

「ふ〜、生き返る〜」
「本当に、大丈夫ですか?あんなにやられちゃって・・・」
「うう、見てたのか・・・まあ、アセリアも手加減はしてくれていたみたいだけど」

あのブルースピリットはアセリアという名前らしい。
それよりも、あれで手加減していたとは。またもや実力差を見せ付けられてしまった。
「(うう・・・やっぱり私、だめですぅ・・・あ、そうです)」

ヘリオンは、エトランジェにいつか他人に聞いてみたかったことを聞いてみた。
「あの、どうして、そうなってまで戦っているんですか?」
それは、戦う理由。今、ヘリオンは家族・・・つまりはハリオンを守るために戦っている。
だが、今はまだ力足らずで、逆に足を引っ張ってばかり。・・・でも、
この人にも、自分が弱いって解っているからこそ、強くなって戦いたい理由があるはず。それが、一番知りたかった。

「ああ・・・守りたい人がいるからかな」
「守りたい人・・・?」
「うん、俺の大事な人。その人がいるから、がんばろうって思えるんだ」
声は疲労で弱っているけど、はっきりとした芯の強さが感じ取れる言葉。
そのエトランジェの目には、その理由に対する曇りはなかった。

「大事な人・・・そうですよね!はい、よくわかります!」
やっぱりだった。この人は自分によく似ていた。
自分と同じ理由で戦いに身を投じている。それだけに、他人とは思えなかった。

内心大喜びしていると、エトランジェは立ち上がった。
「さて、俺はそろそろ戻ろうかな」
「あ、はいぃ・・・」
「じゃあ、またな」
そういって、エトランジェはその場を去って行ったのだった。

「・・・・・・って、あの人の名前聞くの忘れてました〜!!ふえぇ〜ん、私のばかぁ〜!」
そう言って、ヘリオンは自分の頭をぽかぽかと叩く。
自分に近しい人だっただけに、名前を聞けなかったのは致命傷だった。
「(うう・・・しょうがないです。今度聞くことにしましょう)」
心なしか、【失望】がくすくすと笑っているような気がする。
『ぷ・・・ふふふ』
・・・・・・実際笑っていた。
「はうっ!わ、笑わないでください〜!!」


その後、満足感と後悔に包まれながら、ヘリオンは『家』へと帰っていった。
食後のお茶を飲みながら、訓練所でのことをハリオンに話す。

「そうですか〜、そのお方が、私たちの隊長さんになるかもしれないんですね〜」
「はい!そうなんです」
「それで、そのお方の、お名前はなんというのですか〜?」
「そ、それが、聞き忘れちゃいまして・・・」

ヘリオンがそう言った瞬間、ハリオンの表情が強張った。
周りの緑マナがびしびしと音を立てて、僅かに振動を起こしている。
「駄目じゃないですか〜。肝心なことを聞き忘れるなんて〜」
「はうぅ、ご、ごめんなさい〜」

ヘリオンは許しを請うが、とても許してくれそうには無かった。
「許しませんよ〜。後で、思う存分に『めっ』てしちゃいますからね〜♪」
心なしかハリオンは楽しそうだった。
輝くような笑顔をこちらに向けている。この笑顔が時々恐ろしい。
「そっ、そんなぁ!ふえぇ〜ん、許してくださいよぅ〜」

その後、ハリオンのせっかんを受けたヘリオンは、もう二度とドジは踏むまいと誓った。
・・・・・・当然、その誓いが守られることはなかったが。

────数日後

ハリオンとヘリオンは、一つの通達に目を通していた。
その内容は、二人に対する、ラキオス王国からの辞令。
・・・・・・そう、いよいよ、ラキオスのスピリット隊のメンバーになる日がやってきたのだ。

「・・・・・・以上の二人を、第二詰所所属、ラキオス王国スピリット隊として認める。
   詳細を伝えるため、明朝、玉座の間に出頭せよ。って書いてありますね〜」
「戦争が、始まるんですね・・・・・・」

本当は戦争なんてしたくなかった。誰も死なずにすむから。
たった一人の家族とだって、ずっと一緒にいられる。
・・・だが、もうそうは言っていられない。戦わなければ、家族は殺され、自分も死ぬ。
生き残るためには、戦って勝ち残るしかない。

「あれ〜?」
「ハリオンさん、どうしたんですか?」
ハリオンは、その辞令を最後まで読むのを忘れていた。
その辞令の下端には、小さな、汚い字でこう書いてあった。

「・・・・・・ラキオス王国スピリット隊隊長 エトランジェ 『求め』のユート・・・・・・」

「ユート・・・それが、あの人の名前ですか」
「ユート様ですね〜」
二人は同時に顔を見合わせてうなずく。

「頼りになる人だといいんですけどねぇ〜」
「だ、大丈夫ですっ!あの人は信頼できますから!」
同じ理由で死地に赴くユートに、しっかりした信頼の念を持つヘリオン。
実際に会ったから信頼できるってわかる。実際に会ったからこそ言える言葉だった。
356おにぎりの中身の人:2005/11/05(土) 22:02:28 ID:wVvs+n1z0
支援その5

────翌日 早朝

ついに巣立ちの日。もう、この『家』に戻ってくることはないだろう。
ヘリオンとハリオンは、今まで自分たちが生活してきた空間に、別れを告げていた。

・・・そして、『家』の裏手に回る。
そこには、粗末なものであったが、『お姉ちゃん』の墓があった。
「お姉ちゃん・・・私たち、戦争に行くことになりました」
「ずっと、ハイペリアで、見守っていてください〜」
「絶対・・・絶対、生き残りますから。ハリオンさんと一緒に、生き延びますから・・・!」

二人は『お姉ちゃん』に向かって、胸に手を当てて祈りをささげる。
スピリットにそういった風習は無かったが、そうすると、なんだか落ち着くような気がしたから。

『二人とも、がんばっていってらっしゃい・・・』

『お姉ちゃん』が、そういってくれたような気がした。
生き残りたいっていう心が生み出した幻聴かもしれない。
でも、この上なく心強いエールであることに違いはなかった。
「・・・さ、ヘリオン。行きますよ〜?」
「は、はい!・・・さようなら、お姉ちゃん・・・」

二人は、しっかりと神剣を握って、ラキオス王国に向かう。
その足取りは、戦争に赴くものとは思えないくらいしっかりとしていた・・・・・・



────こうして、着々と戦争の時は迫るのだった。
        家族を守るために戦うスピリットの姉妹と、家族を救うために戦う悠人。
                                     彼らの運命の歯車は廻りだした───
358くじら318号:2005/11/05(土) 22:08:39 ID:6CNpUB8R0
第T章は以上です。

言い忘れましたが、今回の長編は、
一章の長さが、ワタクシの書いた短編大体一本分の長さです。

誤字脱字、ハリオンマジックなど、指摘がありましたらお願いします。


・・・・・・それにしても、施設の責任者、勝手に設定した上、殺しちゃって大丈夫かな・・・?
後から生きてましたとか、公式設定食らうと肩身が狭い・・・orz
359おにぎりの中身の人:2005/11/05(土) 22:12:02 ID:wVvs+n1z0
お疲れ様でした
お姉ちゃんテラカワイソス・・・
なんかこの調子では大樹のしゃべり方、のんびりさがハリオンに移ったのか・・・
恐るべし大樹。
それに比べて失望は優しく思いやりがあり、頭のよい剣かと思いきや茶目っ気もある。

神剣テラモエス
360くじら318号:2005/11/05(土) 22:13:15 ID:6CNpUB8R0
・・・しまった、言い忘れました。

支援してくださった皆様方、ありがとうございます。
361おにぎりの中身の人:2005/11/05(土) 22:26:55 ID:wVvs+n1z0
そうえいば支援の間隔を3〜4レスに1回にしてたんだが、あの程度でよかったんだろうか?
なんか自分でやってて多すぎるような気もしてたが・・・
362名無しさん@初回限定:2005/11/05(土) 22:45:37 ID:mFKmtg7q0
>>361
たまにステルス支援もあるのであの位で丁度宜しいかと。

>>358
『失望』と『大樹』。二つの神剣の温かさが心を満たす。
とても戦いに駆り立てるだけのものとは思えない優しさに驚きました。
なるほど、『失望』の語源がこんなところにあったのですか。
支えあい、立ち上がる二人。訓練風景に少しほっとしつつ。
悠人との出会いは『家』を巣立つ二人にどう絡まっていくのか。
U章はその辺を楽しみにしたいと思います。お疲れ様でした。

ところでお姉ちゃん……悲しい……orz
363名無しさん@初回限定:2005/11/05(土) 23:36:11 ID:Xox6H7/M0
>>360くじらさん
お疲れ様です
神剣の個性がユニーク、かつ丁寧に表現されていていいです
…ていうか最近支援に入れてませんね、私
なんかタイミングが合わないんですよねぇ、どうしたものか
信頼さんとは結構合ってきましたがw


364名無しさん@初回限定:2005/11/06(日) 00:17:08 ID:QW/QgFDa0
兵士さんずいぶん無頼ですな。お姉ちゃんは市井の篤志家に過ぎないのだろうか。
「男」に対して変なトラウマにならなきゃ良いのですけど。

ハリオンは「お姉ちゃん」を志してるのでしょうね。
ハリオンの弱さは、やはりまだ成長してないからなのだろうか(胸が)。『若樹』。
365名無しさん@初回限定:2005/11/06(日) 00:33:50 ID:/dNCdjnC0
>>241
ボクっ娘緑スピが……後ろ跳ね髪緑スピが……っ。
超ロリ元気ボイス赤スピと並ぶフェイバリット敵スピがっ。
やはり避けられない事とは言え、ゲーム上では障害としてしか見られなくなってくる数周目の思考に
ぴしりと待ったをかけられる様な思いがします。
セリアも、悠人も、また皆も。
これから先もついてまわる苦悩にどのように向かっていくのか、気になります。

>>288
お久しぶりです。ついに二人に別れの時が来てしまったのですね。
心の中で反芻していた戦士としての思いが、『ヒミカ』自身の奔流に圧されて成された告白。
それへの悠人の心からの返答。護りたいもの、捨てられないものの中で、
二人が二人、もっとも手放したくは無いたった一つを、
より多くのものを掬うために手の隙間から零したように思えてしまい胸が締め付けられました。

>>358
乙でした。
「施設の方はとても良い方『でした』」……(つд`)。・。
あそこからこう来るとは……
二人の心の底に抱えた想いが実る日は、エトランジェと共にある内に来るのでしょうか。
楽しみにしております。
366名無しさん@初回限定:2005/11/06(日) 07:21:28 ID:QW/QgFDa0
ツェナってつえーな
367名無しさん@初回限定:2005/11/06(日) 08:40:33 ID:HhlYTFTT0
しかし今日は一段と寒いな
368名無しさん@初回限定:2005/11/06(日) 10:36:00 ID:X3Dbg5qI0
くーる!だな。
369名無しさん@初回限定:2005/11/06(日) 14:07:27 ID:uAB6jVja0
そろそろニム炬燵の時期が近づいてまいりました。
370名無しさん@初回限定:2005/11/06(日) 19:03:02 ID:Tf16eHUz0
緑スピリットとおこたを楽しもう
371名無しさん@初回限定:2005/11/06(日) 21:05:34 ID:PBm6GmTA0
>>369

     '´ ⌒ヽ
    ! ソノノ~)))
   く人リ゚ ー゚ノiゝ  ん?
   /\ ̄ ̄ ̄ ̄\
 / ※ \______ヽ
 \※ ※       \
   \ / ※ ※ ※ ※ ヽ
     `───────'''


    ∩  ∩
     '´ ⌒ヽ
    ! ソノノ~)))
   く人リ' ー`ノiゝ  ぅにぃ……
 〜/\ ̄ ̄ ̄ ̄\
 / ※ \______ヽ
 \※ ※       \
   \ / ※ ※ ※ ※ ヽ
     `───────'''
372名無しさん@初回限定:2005/11/06(日) 21:13:17 ID:cTRDACtj0
>369
どのSSかすぐに思いついてしまったのは、いいのか悪いのか……
373名無しさん@初回限定:2005/11/06(日) 21:22:27 ID:4/v7rp5H0
                 , ヘ _
        '´ ⌒ヽ    〃 ' ヘ ヘヽ   , ' ` ^ヽ
    _ ,ヘ  ! l」」ルl」」   ノi ミ从l~iルソ    ノ ル从ルリゝ
   〃/::::|ヽi !ゝ゚ -゚ノゝ  ((ヾ(i|゚ -゚ノi    从リ゚ ー゚从 .^》ヘ⌒ヘ《ヾ
 ∠ <====ゝ "   \  /    \   / /"つ \( リ〈ノルリ !〉'´ ヘ ヘヾ
 んヘi」゚ -゚ノ」二⊃日| .|" | |     | |  | / /  |. | ノ(゚ ヮ゚リ!ノ〈从ハ从〉
 /⌒   \   .|\ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄旦 ̄ ̄ ̄ ̄且⊂ニヽ/´   ヲ´ヮ`ヲ从 
../ /i     ヽ_ ||\\               ,べV \ /    (~冫
/ / .'´ ⌒ヽ .   ̄ ̄\!二二二'´ ⌒ヽ'二二二/ 〃  ̄ ヾ | |    | |
,,/. ! ソノノ~))) ___._|| |;:;:;'.,;,ハ」」」l」」〉;';;';:;;:;:;' ! i ミ(ノハソ \ヽ  /.| |
  く人リ゚ ー゚ノiゝ ̄ ̄ ̄|| |;;/⌒ヾゝ゚ ヮ゚ノへ. /⌒ !ik(i|゚ ヮ゚ハへ.─ヽつl⌒Y⌒l
⊂二丶  ノ ノ____l| i( ー○=ヘゝ_)( ー○=ヘゝ_)    .⌒Y⌒旦


内部
   | 
   | 
   | ↓熱源
   |ヽ)/  
 ∠´ ハ`ゝ
 彡//ノハハ〉<パァッッショォォォォォォン!!
 ゞ(リ ゚д゚ノ!  
  ( ∩∩)―――

        ∇<契約者よ…
374名無しさん@初回限定:2005/11/06(日) 21:45:01 ID:6h14Rijs0
そういや、コタツ緑スピって誰か絵板に描いてもおかしくないネタなのに地味に無いな
375名無しさん@初回限定:2005/11/06(日) 22:49:17 ID:BVBACW3w0
>>373
ハゲワロタ
熱源悠人かよ……ヒッキーかよ……w
376名無しさん@初回限定:2005/11/06(日) 22:51:44 ID:M8ZXAR+X0
つーか、ストッキングに包まれた脚が四方八方から迫ってるじゃないかw
377名無しさん@初回限定:2005/11/06(日) 22:52:41 ID:Q0vxRtnW0
でもコタツの中はスピの足だらけである意味パラダイスかもよ。
378エロ大王:2005/11/06(日) 22:55:03 ID:jfK2rfsb0
足の間から白いのやら黒いのやらよりどり・・・ハァハァ
379名無しさん@初回限定:2005/11/06(日) 23:51:40 ID:DeoBqRmB0
そしてバレた瞬間にヒートフロアで蒸し殺し。
380名無しさん@初回限定:2005/11/06(日) 23:57:14 ID:S9uL2x1ZO
それこそがパッションの源。
この構造によりマナ消費を75%カット、
自然と悠人にやさしいエ■コ設計です。
(研究助手 ?歳 ♀)
381名無しさん@初回限定:2005/11/07(月) 11:37:16 ID:TsiSTwwT0
>>373
パァッショォォォンに激しくワロタw
382名無しさん@初回限定:2005/11/07(月) 11:42:51 ID:cAN7sYUJ0
>>373
だがこの位置だとスカートの中が丸見えじゃないのか?
383名無しさん@初回限定:2005/11/07(月) 13:04:01 ID:0DY7aito0
>>382
だから熱源になれるんよ
384名無しさん@初回限定:2005/11/07(月) 16:57:13 ID:92Io2TOI0
なんにせよパッションだからなあ
385名無しさん@初回限定:2005/11/07(月) 19:11:11 ID:w8q/3ksG0
シアーのおっぱい、でかいなぁ……ナナルゥもでかいなぁ……
386名無しさん@初回限定:2005/11/07(月) 19:14:36 ID:0DY7aito0
ひんぬー組カワイソス
387名無しさん@初回限定:2005/11/07(月) 19:35:35 ID:njsLiy2a0
ネ「シアーはね、ネリーのマナ時々吸い取ってるんだよ」
ヘ「そ、そうなんですか!?・・・ちょっとハリオンさんの所行ってきまーす」
ニ「・・・・・・バカばっか」
388名無しさん@初回限定:2005/11/07(月) 20:21:15 ID:z8lDhmfU0
恐るべきバニシングハイロゥですね
389名無しさん@初回限定:2005/11/07(月) 21:18:00 ID:8GnginfH0
ち  ょ  っ  と  待  て

サンプルCGに約1名登場してないのは気のせいか?
390名無しさん@初回限定:2005/11/07(月) 21:28:25 ID:0DY7aito0
   `‐、ヽ.ゝ、_    _,,.. ‐'´  //l , ‐'´, ‐'`‐、\        |
  ヽ、.三 ミニ、_ ___ _,. ‐'´//-─=====-、ヾ       /ヽ  
        ,.‐'´ `''‐- 、._ヽ   /.i ∠,. -─;==:- 、ゝ‐;----// ヾ.、
       [ |、!  /' ̄r'bゝ}二. {`´ '´__ (_Y_),. |.r-'‐┬‐l l⌒ | }
        ゙l |`} ..:ヽ--゙‐´リ ̄ヽd、 ''''   ̄ ̄  |l   !ニ! !⌒ // 
         i.! l .:::::     ソ;;:..  ヽ、._     _,ノ'     ゞ)ノ./
         ` ー==--‐'´(__,.   ..、  ̄ ̄ ̄      i/‐'/
          i       .:::ト、  ̄ ´            l、_/::|   
          !                           |:    |
             ヽ     ー‐==:ニニニ⊃          !::   ト、  
391名無しさん@初回限定:2005/11/07(月) 21:30:28 ID:0DY7aito0
      ,.ィ , - 、._     、
.      ,イ/ l/       ̄ ̄`ヽ!__
     ト/ |' {              `ヽ.            ,ヘ
    N│ ヽ. `                 ヽ         /ヽ /  ∨
   N.ヽ.ヽ、            ,        }    l\/  `′
.  ヽヽ.\         ,.ィイハ       |   _|
   ヾニー __ _ -=_彡ソノ u_\ヽ、   |  \   つまりこれは
.      ゙̄r=<‐モミ、ニr;==ェ;ュ<_ゞ-=7´ヽ   >
.       l    ̄リーh ` ー‐‐' l‐''´冫)'./ ∠__   セリアの新妻だいあり〜の可能性が残ってるって事なんだよ!
       ゙iー- イ'__ ヽ、..___ノ   トr‐'    /    
       l   `___,.、     u ./│    /_ 
.        ヽ.  }z‐r--|     /  ト,        |  ,、
           >、`ー-- '  ./  / |ヽ     l/ ヽ   ,ヘ
      _,./| ヽ`ー--‐ _´.. ‐''´   ./  \、       \/ ヽ/
-‐ '''"  ̄ /  :|   ,ゝ=<      /    | `'''‐- 、.._
     /   !./l;';';';';';';\    ./    │   _
      _,> '´|l. ミ:ゝ、;';';_/,´\  ./|._ , --、 | i´!⌒!l  r:,=i   
.     |     |:.l. /';';';';';|=  ヽ/:.| .|l⌒l lニ._ | ゙ー=':| |. L._」 ))
      l.    |:.:.l./';';';';';';'!    /:.:.| i´|.ー‐' | / |    |. !   l
.     l.   |:.:.:.!';';';';';';';'|  /:.:.:.:!.|"'|.   l'  │-==:|. ! ==l   ,. -‐;
     l   |:.:.:.:l;';';';';';';';| /:.:.:.:.:| i=!ー=;: l   |    l. |   | /   //
       l  |:.:.:.:.:l;';';';';';';'|/:.:.:.:.:.:.!│ l    l、 :|    | } _|,.{::  7 ))
        l  |:.:.:.:.:.:l;';';';';'/:.:.:.:.:.:.:.:| |__,.ヽ、__,. ヽ._」 ー=:::レ'  ::::::|;   7
.      l |:.:.:.:.:.:.l;';';'/:.:.:.:.:.:.:.:.:.|. \:::::\::::: ヽ  ::::::!′ :::|   .:/
.       l |:.:.:.:.:.:.:∨:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.!   /ヽ::: `:::    ::::  ....::..../ 

392名無しさん@初回限定:2005/11/07(月) 21:31:47 ID:kMkwwZc40
こうしてセリアの純潔は保たれたんだよっ!


ってカレキバヤシが言ってた。
だって、行く当てのない子達のママになる人なんですから。新妻ではなく新母で。
393名無しさん@初回限定:2005/11/07(月) 22:23:40 ID:2otZu7Re0
でも本当にセリアだけセクース回避出来たら漏れは座敷猫についていく。
394名無しさん@初回限定:2005/11/07(月) 23:00:11 ID:2479erXF0
どうなるのかわからんが、ここはここらしく在りたいねぇ…
とか圧縮対策にわけのわからんことを言ってみるテスト
395名無しさん@初回限定:2005/11/07(月) 23:39:09 ID:2479erXF0
圧縮は無事終わったようなので、くーる!に行ってみよー↓
396名無しさん@初回限定:2005/11/07(月) 23:40:15 ID:w8q/3ksG0
いやいや待ってくれまってくれ。
もしかしてあれ……セリアじゃないだろうな?
ふとそんな想像をしてしまったんだが、あれはちゃんとストレートヘアのシアーだよね?

……キャラの立ち絵の胸の大きさを比べると、ますますわからなくなってきたよ。
397名無しさん@初回限定:2005/11/07(月) 23:49:51 ID:5o7AgJmy0
アレはシアーでしょ。
まぁミュラー姉さんエロも出てないし、次回更新までおあずけかな。
セリアエロもいいがイオエロも頼みたいところ。
…無理か所詮雑魚でもメインでもない脇役な白スピは。
398時深の憂鬱:2005/11/08(火) 00:45:40 ID:/9aM5PQC0
朝の通学路。
髪の硬そうな、そして表情も少し強張った感のある少年が、赤毛の少女と連れ立って歩いていく。
少年は中学校の制服である真新しいブレザーを着ており、少女の歩調にさり気なく合わせながら、
雨上がりのアスファルトをこれまた真新しいスニーカーで踏みしめていく。
少女は赤いランドセルに新緑色のワンピース。傍らを駆け抜けていくクラスメートにおはよう、と返すと右手の少年を仰ぎ見る。
それはまるで、朝日を見ているかのような顔で。

春。
麗らかな4月初旬。
新年度の始まり。
新鮮な朝の空気は、邪なる者を打ち払う気に満ち溢れていた――――

「あああ、ユートさん。なんてラブリーなんでしょう」

満ち溢れていた。
満ち溢れ(ry
満ち(ry

――――コホン。光あるところ必ず陰有り。それが世の摂理。
すぐ其処。電柱の陰。際立つ紅白の格好に草履。

其処此処を行く、ピカピカの一年生の手を引く若いお母さん達はチラリと見るだけで、触らぬ神に祟りなし、といった風情。
いや、一部携帯を向ける人も。穢れるからやめた方がいいかと。
399時深の憂鬱:2005/11/08(火) 00:47:19 ID:/9aM5PQC0
「まだ手足の伸びきっていない体に、大きめの制服。ああもうっどうしてカメラを忘れてくるんですか私はっ!
髪だって綺麗に刈ってるのに、記念写真の一枚も撮っておかないなんて後悔ものですよ」
神社で見たのなら、惚れ惚れするような容姿、所作、そして濡れたような美しい黒髪に目を見張るであろう。
でもここでは、どう見ても、ヤバイ人。
「むか。なんですかうるさいですね。これ位良いじゃないですか『時詠』。あなたはなんでそうお目付役みたいなんですか。
ユートさんの中学校入学式。晴れの日ですよ晴れの日。いつものちょっとひねた態度が緊張を隠しきれなくてぎこちなくて。ああもうっなんでこんなに可愛いんですかっ。
ねっ『時詠』。しばらく休暇なんですから悠人さんをこうして陰ながら見守ったりして人知れず手助けしたりとかどうでしょう?
先生に指されて困ってるところを、運命の思い人からのテレパシーでどんな難問も切り抜けちゃったり。こう見えても歴史には強いんですよ?
色目を使ってくるガキ……オホホ、女の子達も可愛がってあげます。そしてですね、悠人さんはピンチになると聞こえてくる優しい声にいつか魅了されていくんです。
いつしか自分の運命を知る悠人さん……うっとり……んん、分かってますよ。冗談で言ってみただけです。
でも…………こうやって悠人さんの成長ぶりをこの目に映していく事が出来るなんて」

先ほどまでの汚れた我欲丸出しをあっさり引っ込め、小さな幸せを噛み締める。
その装束にピッタリと嵌ったアルカイックスマイルを浮かべた倉橋の戦巫女「時詠みの時深」は、既に遠く小さくなった背中を、万感を込めて見詰め、呟く。

「悠人さんの事は、これからもずっと見守り続けます。最後は私が攫っちゃいますけどね。ふふふ、差詰めあしながおじさんならぬ、あしながおば」



――――キーンコーンカ−ンコーン。
遼遠聞こゆ鐘の音。諸行無常の響き有り。
倉橋時深 マインド:0 再起動まで後830日
400光陰の憂鬱U:2005/11/08(火) 00:52:14 ID:/9aM5PQC0
「いやーイイ湯だったぜ」
仏道にあるまじき茶色の短髪をマロリガン以来愛用のタオルで拭きつつ、光陰は風呂場の引き戸をガラリと引いた。
ホカホカに暖まった体に“天然炭酸水使用ネネの実ジュース”を流し込み、喉を潤す。
「プハァ。いやまさかこの世界で炭酸が飲めるとは」
なんでも、ラキオスがだいぶ前に版図に加えた山岳地帯で採れる鉱泉を使用しているらしい。いわゆる微炭酸なのが惜しい。

そんなわけで、瓶をあおりながら廊下から中庭に降りて涼んでいると、光陰の耳に、廊下を歩いてくる娘っこ達の声が聞こえてきた。
ネリーちゃんシアーちゃんヘリオンちゃんオルファちゃん……お、ニムントールちゃんもいるぞ、と壁に張り付いて耳を澄ませていると、

「ねーシアー」
「なにネリ〜」
「誰かお風呂はいってたのかな?」
「あっコウインさまが入ってたみたいですよ」
「げっ」
「げ〜」
「最悪」
「あはは〜」
401光陰の憂鬱U:2005/11/08(火) 00:54:49 ID:/9aM5PQC0
――――な、なんだよおい。

「み、皆さんそういう反応はコウインさまに失礼ですよ」
「だってねーイヤだもんねシアー?」
「うん。や〜」

――――ネ、ネリーちゃんシアーちゃん。

「オルファもちょっと。さすがにね〜」

――――オルファちゃん。君までっ。

「ニムも。死ぬ程ヤ」

――――そ、そんな、ニムントールちゃん。

「ヘリオンはどうなのさ」
「さ〜?」
「そ、それは〜」

――――ヘリオンちゃんっ! 君は違うよな! な! 君だけが俺の蜘蛛の糸なんだっ!!

「それは、まぁその〜、か、歓迎は出来ないかなぁ〜とは思いますけどぉ〜」

――――うわーーーーーーーーーーーーん。ダダダダダッッ
402光陰の憂鬱U:2005/11/08(火) 00:59:30 ID:/9aM5PQC0
「で、いきなり俺の部屋に飛び込んできて何がしたいんだ?」
恥も外聞もなく、涙をぼろぼろ零す一応親友に冷たい目を向けながら悠人はしょうがなく理由を聞いてみた。
「お、おれ、おれ…………俺は、あ、あくまでさ ヒグ 気のおけない仲って奴をスムーズに作り出すためにだな、グス 
ス、スキンシップのつもりに過ぎなかったんだよお〜」
「またバカやったか」
「だ、だってさ ズズッ あ、あんな、みんなしてばい菌みたいに……そりゃセクハラ紛いかも知れないけど、何もここまで…………あんまりだぁ〜〜」
ここまで取り乱す光陰というのもなかなかお目にかかれるものではない。
悠人はなんとか宥めすかしながら、光陰エンガチョイベントの一部始終(光陰視点)を聞き取るミッションに挑むのであった。


そして、場所は風呂場脱衣所。
「コウインさまが入ったあとってさ、熱すぎなんだよね」
「ヒート風呂アっちっち〜」
「オルファ熱いの好きだけど、ねぇ……」
「ヘリオン、さっさとうめてきて。ニムが入れるわけないんだから」
「えぇっ、私がですか。あ、あのわかりましたよぅ〜」

再び、悠人の部屋。
実は悠人自身が、光陰と一緒に風呂に入るのには辟易していたので、あっさり彼女たちが何を言っていたのか分かってしまった。
(ま、今日子に黒焦げにされるよりも堪えてるみたいだし。たまにはこういうのもいいだろう)
男泣きに泣く光陰に、味気ない相づちを打つだけの結構酷い仕打ちの悠人であった。
403名無しさん@初回限定:2005/11/08(火) 01:01:01 ID:No/KswcC0
やっぱりここは支援したほうがいいよね
404名無しさん@初回限定:2005/11/08(火) 01:05:26 ID:/9aM5PQC0
二本立てだよおっかさん。
久々がこんなんorz 旧勢力だけど、古豪ですよきっとルーグゥ王。

はやくシアーの憂鬱をっ! お菓子あげるから!
405ニムントール担当:2005/11/08(火) 02:23:33 ID:b7WvlKRu0
抱き枕結果発表〜〜
ヘリオン強いよ・・・強すぎるよ・・・
406名無しさん@初回限定:2005/11/08(火) 06:50:13 ID:8sq/Bcyi0
>>404
自爆ショタob&身から出た生臭二本立て乙w

電柱にしがみついたまま幾星霜……季節は巡り、短い春は終わる。830日……夏か。
起動後 「悠人さんの半袖短パン……ハァハァ」『つまり何でもいいんですね……』 
上司に恵まれない時詠さん、溜息交じりでス○ッフサー○スに神剣通話。

女の子同士の立話なんてうかつに聞き耳立てるものではありません、正に因果応報。
あれ? この場合、人の話は最後までってやつでせうか。えっと……光陰、カワイソス?
407名無しさん@初回限定:2005/11/09(水) 00:08:21 ID:O2X47oy20
>>402
ユート鬼ですなw
408名無しさん@初回限定:2005/11/09(水) 07:15:29 ID:/PdvbKPB0
     __
  「,'´r==ミ、
  くi イノノハ)))  
   | l|| ゚ヮ゚ノl|     秋華賞は何故か除外されましたが
   j /ヽ y_7っ=       エリザベス女王杯には出走出来るんですよ
  (7i__ノ卯!    
    く/_|_リ 
409エロ大王:2005/11/09(水) 08:46:59 ID:2eMkaMY10
>>408
なんでおばさんが競馬にwwww
410名無しさん@初回限定:2005/11/09(水) 13:56:04 ID:aohSGp8E0
>>408
出走できない理由に気づかないおbsnワロス
411名無しさん@初回限定:2005/11/09(水) 14:53:24 ID:SLjSGXQU0
     __
  「,'´r==ミ、
  くi イノノハ)))<まぁ、時詠の力で修正させるんですけどね☆
   | l|| ゚ヮ^ノl|  
   j /ヽ y_7っ= 
  (7i__ノ卯!    
    く/_|_リ      まさに
                 _/_  
                __/_ ヽ /
                \/  /  /> S N
412名無しさん@初回限定:2005/11/09(水) 17:34:15 ID:Z3N9+wWl0
直リンクな(ry
413名無しさん@初回限定:2005/11/09(水) 20:34:15 ID:3j5crY3p0
>406
830→083→obs(アクセラレイト)。 380日だと短すぎかと思ってw
おそらく、人々の記憶の原風景に残り続けた事でしょう>電柱巫女

その後、真相を知って完全復活を遂げる光陰。
「温いお風呂なら、みんな一緒に入れるって事かあっーーーーーー!! ヌフ♥」ズガピシャーン  感電注意


温くなった湯船でザブザブ遊ぶネリー達。
ピュシュッ
「わぷ。な、なにそれオルファ」
「へへ〜すごいでしょ。パパに教えてもらったんだ。“みずてっぽー”って言うんだよ」
「すごーいオルファおしえてっ」
「シアーも、シアーも〜」
「えへへ〜、こうやって手の平を合わせてね」
「え、こう? あれ、ううーむずい」
ピゥッ
「あ、できた〜」
「あぁっ、シアーなんでっ」
「ユートさまの技……マ、マスターすれば!」(褒めてくれるかなユートさま。一緒のお風呂で披露とかしちゃったりシチャッタリ……キュウ)
のぼせるヘリオンと、わいわい騒ぐ皆を小馬鹿にしたように肩まで浸かるニム。ブクブク

別の日
「あらニム。それ、なんなのかしら」
わきわきと手の平を合わせてはお湯をあらぬ方向へ飛び散らせるニムントール。

>407
ユートの言葉「そんなの償えばいい!!」 ユートの内心「俺のせいじゃない」  ヒドス

>408
すぐにも繁殖入り出来ますよ、古馬さん(クリティカルワン)
414淑女達の談義〜漆黒の闇編〜:2005/11/09(水) 22:13:37 ID:DwWoKPaK0

夜風が涼しい。満天の星空の下、詰所の庭に澄んだ鳥の声だけが響き渡る。ここラキオスは平和だった。


「ふぅ……いい夜ですね……」
うっとりと見上げるのは、『月光』のファーレーン。ロシアンブルーの瞳を常にフェイスガードに包み、
赤面症と姉バカを、もとい控えめさと優しさを慎ましく隠している早熟型世間知らずのブラック・スピリットである。

「それはそうなんですけどぉ……」
最早諦めたような口調で答えるのは同じくブラック・スピリット、『失望』のヘリオン。
お下げと悠人命がトレードマークの夢見る乙女は、SHになってもテラーTやダークインパクトを頑なに保持している。

「皆、忙しいのです。手前どもも耐えねばなりません」
そして悟りきって正座しているのは、先日捕獲されたばかりの『拘束』後『冥加』のウルカ。
節度と仲間と蟻をこよなく愛し、剣の声が聞こえないという致命的なハンデを勝手に背負った悲哀の戦士である。

「元はといえばウルカさんが掘り当てたんじゃないですかぁ〜〜!!」
沈着冷静なウルカの態度に、泣きそうなヘリオンの突っ込みが狭い空間に響き渡った。


ランサ防衛戦が開始されてから早数週間。ここラキオスに残っているスピリットは少ない。
特に俊速と行動回数に長けた止め役のブラック・スピリットは忙しく、こうして三人揃うというのは珍しい事だった。

「あうあう〜このまま誰にも見つからなかったらどうするんですかぁ〜〜」
「落ち着いて。そんなに慌てていたら加護を受けている月に笑われてしまいますよ」
「そうです。我らはこんな夜にこそ真価を発揮せねばなりません。まずは己の心をこそ、戒めねば」
「真価って……ここは戦場じゃ無いんですけど……」
415名無しさん@初回限定:2005/11/09(水) 22:16:15 ID:fUj52DF90
支援行きますか
416淑女達の談義〜漆黒の闇編〜:2005/11/09(水) 22:16:54 ID:DwWoKPaK0
時はやや遡り、夕暮れ時。束の間の休息を、ウルカは暫くお留守になっていたエスペリアの花壇の世話に当てた。
いつものように如雨露から慎重に水を送り出した所で、暇を持て余したファーレーンが通りかかる。
彼女は、戦場に置き去りの妹のことが気になって休暇どころでは無い。
自分も残りたいと一応主張してはみたものの、しかし残念ながらSHでは当座彼女の出番は無かった。
そんな訳で覆面越しにでも、ニムントールがいないのでは存在価値が無いとまで言われたみたいな項垂れっぷりだった。

「ところでどうしてウルカさんはこんな所でバニシングハイロゥなどを唱えていたのですか?」
「実はハーブを狙っていた毛虫達を眠らせようと。殺すのは忍びないゆえ」
「毛虫って神剣魔法で眠っちゃうものなんでしょうか……」

地面を見つめていたファーレーンは気づかなかった。ウルカがおや、と首を傾げたのを。そしてそっと土に触れたのを。
突然膨れ上がった黒いマナに顔を上げた時には、神剣魔法の威力で既に踏み込んだ先の「地面」がごっそり無くなっていた。

「そうですか。ウルカさんは優しいのですね」
「納得しないで下さいよっ! そのせいでウイングハイロゥが使えなかったんじゃないですかぁっっ!」

そこに駆け込んできたのは絵に描いたような不幸っぷりを発揮するヘリオン。
突然出来た大穴に落ちようとする二人を助けようと飛び込んだはいいが、そのまま何も出来ずに一緒に落下してしまった。

「ヘリオン、失礼ですよ。ウルカさんのお心遣いが判らないのですか」
「そのように言って頂けると痛み入ります。手前は捕虜の身。何も出来ませぬが、せめてここラキオスで殺傷だけはと……」
「……判ります。お辛いでしょうけれど、元気を出して下さいね」
「あのぉ……そういう問題じゃないと思うんですけど」
417淑女達の談義〜漆黒の闇編〜:2005/11/09(水) 22:18:41 ID:DwWoKPaK0

夜と月の加護が、こうなると仇になった。いつまで経っても消えないウルカの強力なサポート魔法が障壁を張る。
ヘリオンは、溜息をつきながら空を見上げた。普段なら簡単に飛んでいける距離が、今は途方も無い高さに思えた。
うっとりと頬に手を当てたファーレーンが夢見心地に呟く。

「ほら、月があんなに小さく」
「ほぅ。普段は気づきませぬが、こうして改めて見ると何やら悠久の距離を感じます」
「ええと……お二人ともひょっとして、現実逃避をなさってるんじゃ…………」

悠久もへったくれもない。実際三人は自力でその距離を縮める事も出来ずにただ指を咥えて見上げているだけ。
スピードを身上としている筈の彼女達は皮肉にも纏めてこの狭い穴に落ち、そのまま半日以上放置されていた。

「うう〜、こんな事なら助けようとなんてしなければ良かったのかも」
「ヘリオン、もう三度目ですよその台詞。いいじゃないですか、折角こうして珍しく三人が集ったのですから」
「集ったっていうか、強制的に集められてしまっただけなんですけど……」
「申し訳ありませぬ。手前の神剣魔法の為に、お二人にもご迷惑をお掛けして……せめて償いを」
「わわっ! イキナリ『拘束』を逆手に持ってお腹に当てないで下さいよぅ!」
正座したまま沈痛な面持ちで褐色に引き締まった腹筋を念入りに擦るウルカ。
驚いたヘリオンが懸命に止めようとする。ファーレーンは覆面越しにうんうんと頷いた。
「そうですよ。責任感が強いのは立派ですけど、命の大切さは先程ウルカさん自身が教えて下さったではないですか」
「しかしそれでは……手前は一体どうすれば……」
「まずは考えて。全てはそこから始まるのですから。そうですね、とりあえず――」
「そうです! 今は脱出する方法を探す事の方が先決です!」
「――のんびりと、月でも眺めてお話しませんか?」
「そうそう月を……ってそっちなんですかぁ〜〜?!」
まるで狼の遠吠えかなんぞのように、ヘリオンの雄叫びが夜空へと木霊した。
418淑女達の談義〜漆黒の闇編〜:2005/11/09(水) 22:20:22 ID:DwWoKPaK0

「もう、うるさいですね。そんなに叫んでばかりいては喉が渇きませんか?……はいどうぞ」
「ぜぇぜぇ、お二人が叫ばせてるんですよぅ……あ、ありがとうございます。んくんく…………って、え゛?」
「ふむ、中々のお手前です。ファーレーン殿、これはもしかすると」
「ええ、エスペリアのハーブを少々お借りしました。折角落ちていたものですから」
「え? え?」
ヘリオンの顔は、唐突に渡されたカップと二人の顔の間を、ものの見事に数往復した。
そしてもう一度カップに顔を近づけ、何故かくんくんと鼻を鳴らした後。
「ん? どうかしましたか、ヘリオン」
「…………はぁ、もういいです」
にこにこと微笑むファーレーンにどこから出したか聞くことも出来ず、そのままがっくりと項垂れた。
ひょっとしてこの場で良識を持っているのは自分だけなのだろうか、とふと不安になりつつ。

「そういえばウルカさん、もうラキオスの生活には馴れましたか?」
「はい、まだ不慣れな手前にも、皆優しくしてくれます。ここは……不思議です」
「不思議……そうかしら。ウルカさんのお国は違うのですか?」
などとすっかり世間話を始め出すファーレーンとウルカ。一人危機感を抱いたヘリオンが、
「私だけでも何とかしないと……あ、ここに足をかければ……わ、わ、わわわわ」
「危ないっ」
突き出した岩に足を乗せようとしてバランスを崩す。
あやうく仰向けに倒れそうな所を、素早い動きでファーレーンが受け止めた。
「もう、無茶をしてはいけませんよ。怪我しないように気をつけましょうね」
「あ、ありがとうございます……あれ?」
ぽふっと柔らかい感覚。背中を支えられているゴムマリのような感触に一瞬戸惑う。
温かい、充分なクッション。それを備えている彼女に対して起こる、不遜な感情。
「? どうしました、ヘリオン」
「な、何も、何もありません! あ、あははははは…………はぁ」
不思議そうに首を傾げるファーレーンから慌てて飛び退きつつ、何故かヘリオンは虚しい気分に襲われていた。
419名無しさん@初回限定:2005/11/09(水) 22:21:04 ID:fUj52DF90
支援は迅速に隙を見せず、っと
420淑女達の談義〜漆黒の闇編〜:2005/11/09(水) 22:21:51 ID:DwWoKPaK0

「そんなに急がなくても、じき日が昇ります。そうすれば、神剣魔法の効力も解けるでしょう」
「そ、そうですね……」
急に大人しくなったヘリオンに、勘違いしたファーレーンが優しく諭す。
しかし当のヘリオンは生返事しか返さず、じっと視線をやや下に向けたままウルカとファーレーンを見比べた。
「……? どうなされたヘリオン殿。手前とファーレーン殿に何か?」
「あ、いいいえっ!何でもありませんっ!」
そしてぶんぶん、と擬音が聞こえて来そうなほど激しく首を振る。ファーレーンとウルカは顔を見合わせた。
俯いて黙り込んでしまったヘリオンの隣へとファーレーンが座り直し、そっとその手を取る。
「あ……ファーレーンさん……」
顔を上げたヘリオンに、ファーレーンのロシアンブルーの瞳が優しく微笑んでいた。
「ヘリオン。何か悩みがあるのですか?」
「え……?」
「良い機会です故、話されてみては如何でしょう。手前で相談に乗れる事でしたら喜んでお聞きしますが」
珍しく女性的な柔らかさで穏かに見つめるウルカ。
頼れるお姉さんオーラ全開の二人にヘリオンの心の強張りがゆっくり融けていく。
「ファーレーンさん……ウルカさん……」
「私達は仲間なのですから。ね、ウルカさん」
「はい。同色とは、ありがたいものです」
「……くす。ありがとうございます。じゃあ、お言葉に甘えて……あの、その、む、胸って……」
「胸?」
「胸?」
「胸ってどうやったら大きくなるんでしょうかっ!!!」
421淑女達の談義〜漆黒の闇編〜:2005/11/09(水) 22:24:06 ID:DwWoKPaK0

「………………」
「………………」
予想外の質問だったのか、思わず自分の胸元を覗き込んで頼れるお姉さん二人は沈黙した。あっけないものである。
答えようが無かった。二人とも、意識して大きくした訳ではない。もちろん、大きくしてもらった訳でもない。
大体、皆と比べて見ても過不足無く持ち合わせているのでそういう事に興味すら持った事が無かったのだ。
しかし、こう円らな瞳で見つめられては何か言うしかない。まず、ウルカが歯切れの悪い口調で答える。

「その、ヘリオン殿。“これ”は手前の意志とは関わり無く膨らんだものでして」
「え、ええ。大体“こんなもの”、大きくても戦いにとっては邪魔でしかありませんし」
大粒の汗を浮かべながらすかさずファーレーンが合いの手を入れる。二人とも、元々こういう話題が苦手だった。
ましてや自分より小さい娘に対して大きくする方法を説明するなどは、龍を倒すより難しい事。

「ファーレーン殿の仰る通りです。小さい方が何かと抵抗も少ないですし、速さにも磨きがかかると……あ」
思ってもいない事の方が、人間良く舌が回る。ウルカは途中でとある事実に思い当たった。
ヘリオンが、速さではラキオスでも随一だという事を。そして今、自分は墓穴を掘ったのだ、と。

「うう、やっぱり……私が速いのって、つまり胸が小っちゃいからなんですね……」
「ああ、後剣を振る動作にも支障をきたしますよね。最近体勢によっては邪魔で振り切れない時もありますし……あ」
心当たりのある事の方が、人間良く思い出せる。ファーレーンは途中でとある事実に思い当たった。
自分がSHで伸び悩んでいる事を。ヘリオンが、行動回数ではラキオス随一だという事を。そして墓穴を掘った事を。
422淑女達の談義〜漆黒の闇編〜:2005/11/09(水) 22:26:18 ID:DwWoKPaK0

「ヘ、ヘリオン殿……?」
「ヘ、ヘリオン……あのね」
「ふぇぇぇ〜ん! もう、ヤだぁ〜〜〜!!!」
「………………」
「………………」
一人戦闘台詞で泣きじゃくるヘリオンに、二人はこれ以上藪蛇を恐れ、もう何も言えなかった。
女性の先輩として、はっきりと失格の烙印を押された瞬間だった。


さて。

ぽつ。
「ん……」
「おや……」
ふいに、ファーレーンとウルカが同時に空を見上げた。

ぽつ。ぽつ。
「これは……」
「雨……ですね」
「ふぇ? あ、冷たっ!」
頬に当る水の感触に、ヘリオンも空を見上げる。いつの間にか星が全然見えない。空気も何だか湿っているようだった。
423名無しさん@初回限定:2005/11/09(水) 22:26:37 ID:fUj52DF90
墓穴の底から支援
424淑女達の談義〜漆黒の闇編〜:2005/11/09(水) 22:27:46 ID:DwWoKPaK0

ぽつぽつぽつ…………どざぁぁぁぁぁぁ!
「わひゃあ! こ、これっ! 本降りになってきましたぁ〜〜!」
「……どう思われますか、ファーレーン殿」
「まずい……ですね。このままですと」
「このままだと風邪を引いちゃいますよ〜〜!!」
そしてまさしく振って湧いたような豪雨。迂闊に顔を上げていると雨粒が痛い。
先程の悩みなどどこへやら、裏返った声を出し始めるヘリオンを真面目な表情のファーレーンが嗜めた。
「落ち着きなさいヘリオン。風邪ですめば宜しいのですけど」
「…………え、え?」
「考えてもみて下さい。ここは穴の中。いわば巨大な器の底に、我々はいるようなものなのです。……ほら」
「え……器?……これって」
ウルカが指差した地面を見てみると、もう薄っすらと水溜りが出来てしまっている。
よほど水捌けが悪いのか、じっと見てると秒単位で水位が上がってくる気がした。そしてそれはある意味での事実。
ここにきて、初めてヘリオンは自分達が遭遇している事態の重大さに気がついた。
言ってる間にも、どんどん増す水嵩が靴を通り越して踝の辺りに染み込んでくる。
「わっ、わっ! 一体どうしたらいいんですかぁ!」
濡れたお下げを振り回し、閉所恐怖症でもないのにヘリオンの頭の中はパニック寸前だった。
425淑女達の談義〜漆黒の闇編〜:2005/11/09(水) 22:28:45 ID:DwWoKPaK0

「あっ、あっ、そうだっ! 曇っている今なら、もしかしてウイングハイロゥが使えるかもっ!」
「無理です。先程から背中に意識を集中しているのですが、どうしてもマナが拡散して」
「はい。手前のバニシングハイロゥはこんなこともあろうかと天候に左右されない強力なものですので」
「なるほど、流石は『漆黒の翼』と恐れられるだけの事はありますね。わたし達も見習わなくては」
「って感心しないで下さいっ! ウルカさんも、そんな魔法を毛虫相手に使わないで下さいよ〜〜!!」
速まってくる雨脚に、既に水は小柄なヘリオンの腰の辺りにまで来ている。
わたわたと慌てふためくヘリオンを無視して土壁にそっと手を触れていたファーレーンが、小さく溜息をついた。
「……駄目、ですね。どうやらよじ登れそうにもありません」
「雨雲も去る気配が見られません。どうやら先程より厚くなってきた様子」
「決まりですね。わたしが下になります。どうせSHではこれ以上出番は望めませんし」
「……良いのですか? ニムントール殿が……」
「わたしが居なくても、ニムはもう大丈夫。もう自立しても良い年齢ですし、それに……」
「…………それに、ヘリオン殿が無事ならニムントール殿の生き残る確率も上がる、と」
「ええ。でもそれだけじゃありません。ヘリオンも、そしてウルカさん、貴女も……わたしの大事な仲間ですから」
「ファーレーン殿……それならHPの少ない手前も付き合います。今からですと、どうせ訓練不足で戦いには間に合いません」
「…………ごめんなさい。ありがとう……ヘリオン?」
「は、はいぃっ!」

一体何の話をしているのか訳が判らずおろおろしていたヘリオンは、急に声をかけられぴくっと気をつけの姿勢になった。
もう胸まで浸かっているお下げ頭に、ファーレーンはくすっと笑って手を伸ばす。くしゃっと濡れた髪が少し乱れた。
「わわ……どうしたんですか、ファーレーンさん……?」
「ヘリオン、いい? これからは、すぐに動揺してはいけませんよ。常に冷静さを保ってテラーを……いえ、あまり暴れないでね」 
「手前の分もダークインパクトを……ヘリオン殿、御免っ!」
「え、ええ? わわわっ!」
次の瞬間、ヘリオンはウルカとファーレーンに二人がかりで持ち上げられていた。
感動的な自己犠牲のドラマが幕を開けた。
426淑女達の談義〜漆黒の闇編〜:2005/11/09(水) 22:30:48 ID:DwWoKPaK0

「お、お二人とも何を……!」
丁度肩車をされているような姿勢のまま、バランスを崩しそうになってヘリオンは叫んだ。
水位が、支えている二人の胸元まで昇ってきている。壁に手をつけながら、ウルカが冷静に呟いた。
「手前達が処け……いやいや、人柱になりますゆえ、ヘリオン殿はその屍を乗り越えてっ!」
「ちょ、屍ってなんですかウルカさんっ! それに何か言いかけましたね、聞き捨てならない事をさり気なく!」
「ヘリオン、そんな場合では無いでしょう。sy刑……こほん、人身御供はSHでのわたくし達の宿命……」
「人身御供じゃないです! そんな宿命、さっさと捨ててください今すぐっ!」
「いや、手前では本当は羽根を背景にそこから話が進まなくなってしまうのですが」
「うわぁぁぁぁんもう、何がなんだかぁ〜〜〜っっ!!!」
ファーレーンをきっかけに、二人が異次元の会話を繰り広げ出す。ヘリオンは混乱した頭で再び叫んだ。
感動的な自己犠牲のドラマはあっけなく幕を下ろしていた。
427名無しさん@初回限定:2005/11/09(水) 22:31:34 ID:fUj52DF90
黒い妖精の様に支援
428淑女達の談義〜漆黒の闇編〜:2005/11/09(水) 22:31:47 ID:DwWoKPaK0


同時刻。

「ピュリファイピュリファイピュリファイッ! ……はぁ、おかしいですね…………ピュリファイ!」
「どうしたい、イオ。まるで呪文かなんぞのように井戸に向かって……ああ、呪文なのか」
詰所の食堂脇。そこに設置されている井戸に向かってイオは首を傾げていた。
丁度通りがかったヨーティアの突っ込みを、軽くお辞儀をする事で避わす。
「実はその、井戸が枯れていまして。このままではお料理もままならないので少し水を増やそうとしたのですが」
「…………ああ、そこは当分使えないよ。こないだから、全然水が溜まらないんだ。どっかに水脈が移動したらしい」
「はぁ……」
「先日エスペリアに頼まれて花壇の側に井戸を掘ってみたんだが、失敗して蓋をしたんだ。あれが原因かも知れんが」
「はぁ……」
「そんな訳で、いくら溜めようとしても無駄だぞ。入れるそばから吸い込まれていく底なし沼のようなもんだ」
「はぁ……」
「ま、いいさ。その内気が向いたら調べておいてやるよ。今日は取りあえず、第二詰所の井戸を借りよう」
そういい残し、すたすたと歩いていくヨーティア。イオは、何も言わずに無表情のままそれを見送った。
それはひょっとしてヨーティアさまが原因なのではないのでしょうか、そんな一言を心に仕舞って。
「あら……雨?」
ふと、ぱらぱらと聞こえてくる雨音。イオは、自分の詠唱が空に通じたのかと少し嬉しかった。
429淑女達の談義〜漆黒の闇編〜:2005/11/09(水) 22:32:39 ID:DwWoKPaK0

ちゅん、ちゅん…………

「ん……ふぁ?」
柔らかく差し込む日差しの温かさに、ヘリオンは目を覚ました。まだぼやける視界に目を凝らしながら首を持ち上げる。
「私……そっか、眠っちゃったんだ……」
こしこしと目を擦りながら、顔を上げる。昨日の事態が少しづつ飲み込まれていく。ヘリオンははっと周囲を見渡した。
むぎゅ。
「んぁ? へ……?」
首を捻った途端、沈み込む感触。温かくて柔らかい、ちょっと湿った感覚。いい匂いがして、思わず擦り寄る。
「ん、ん…………」
頭の上からお下げ越しに聞こえてくる声。ヘリオンは、状況を把握した。ファーレーンに抱き締められていた。
ぎゅっと無意識に押し付けられる胸。さわさわと背中を撫でる優しい仕草。包まれているという安心感。
ニムントールさんもこんな感じなのかなぁ、などと幸せな気分に浸っていると。
さわっ。
「わひゃっ……んぐ……」
急に腰の辺りを撫でられ、出てきた変な声に慌てて口を噤んだ。今更のように、太腿にある重量感に気づく。
ウルカが、ヘリオンの膝の上ですぅすぅと寝息を立てていた。起きている時には想像も出来ない程穏かな表情で。
そーっと二人を起こさないように、上を見上げる。ぽっかりと丸く切り取られた空の青。いつの間にか雨は止んだらしい。
地面にいるのに、水の感触も無い。どうやら水難は去ったらしかった。心地良い疲労感がじんわりと身体を浸している。
「ふぇぇ〜〜」
「ん…………あら…………」
「これは……一体……」
「あ、起こしちゃいましたか? ごめんなさい、でも私達、助かったんですよ!」
「ニム……嘘……嘘、だよね……」
まだ寝惚け眼のファーレーンが、いきなり危険な台詞を飛ばす。
ヘリオンはがくがくとその首を揺らしながら、慌てて大声を出した。
「そそそそれはダメですっ! うかつに言うと第五章に行けなくなっちゃいますよぅっ!」
「第五章……キハノレ……手前が造られ」
「わーーっストップッ! ウルカさんウルカさん、レレレレ、レッドカードッッ!!!」
昨夜からの洗脳を浴び続けたせいか、ヘリオンも充分ネタばれだった。というか、わりと元気だった。
430淑女達の談義〜漆黒の闇編〜:2005/11/09(水) 22:33:25 ID:DwWoKPaK0

「む……どうやら手前の神剣魔法もどうやら解けたようです」
頭に大きなタンコブをこしらえたウルカが、真面目な顔でうんうんと頷く。
「ええ、これなら……えいっ」
ようやく目が覚めたムチ打ち気味のファーレーンが小さく屈み、ちょっと子供っぽい声と共に背中に力を籠めた。
ふわぁっと広がるウイングハイロゥ。ヘリオンとウルカも倣うようにそれを全力で展開する。
「では、帰りましょう。出口はそこで……むぎゅ」
「ちょ、狭いですね……」
「うむ、これでは身動きがとれませぬ……くっ」
「あ、と、わわ、お二人の羽根が……きゃっ、く、くすぐったいです……あんっ!」
最後まで姦しい三人だった。
431名無しさん@初回限定:2005/11/09(水) 22:33:37 ID:aohSGp8E0
 | ̄ ヽ
 |」」 L.
 |゚ -゚ノ| えっと投票は最下位になっちゃたけど、頑張って支援するよ!
 |とl)
432淑女達の談義〜漆黒の闇編〜:2005/11/09(水) 22:34:16 ID:DwWoKPaK0

最初に地面に手を伸ばしたヘリオンが喜びの声を上げる。
「で、出口です!」
「おお、やっと出てきたね。イオ〜、朝飯の準備は出来てるかい?」
「ええ、待ち侘びました。皆さん、いちゃつかれすぎです」
「まったくだね。黙って聞いているこっちの身にもなってくれ」
「……え? え?」
「あら? イオさんに、ヨーティアさま。お早うございます」
「ああ、お早う。早速だが、朝飯にしよう。もう腹がぺこぺこなんだ」
「イオ殿が用意されたのですか。痛み入ります」
「え? え? え?」
「ほらどうしたヘリオン。さっさと来ないと無くなっちまうぞ」
突然の事態に穴から首を出したままの体勢で、ぱくぱくと金魚のようにヘリオンは口を開閉した。
彼女を残した黒と白が何故か花壇に設置されているテーブルへと当たり前のようにすたすた歩いていく。
「ヨ、ヨーティアさま、どうしてこちらに……?」
「ん〜〜? いや、ちょっと気になって覗いてみたら水溜りの中変なスクラム組んで気絶している奴がいるもんだからさ」
「そ、そ、そ、それって……」
面倒臭そうに振り向いたヨーティアががしがしと頭を掻きながら、説明を始める。
「何だか楽しそうだから水だけ抜いて待ってたんだが」
そうしてにっと眼鏡の奥で目を細めるヨーティア。それは心底楽しそうな表情で。
「ま、引き上げるのも面倒だしね」
「面倒がらないで、助けて下さいよぉ〜〜〜っ!!!」
ヘリオンの、ブラックスピリットに相応しい瞬速の雄叫びがラキオスの平和な空に響き渡った。


こうしてちょっぴりサバイバーな黒のお茶会は無事終了した。どっとはらい。
433信頼の人:2005/11/09(水) 22:35:49 ID:DwWoKPaK0
ノリだけで書きなぐりました。支援有難うございます。……ヘリオン叫んでばっか_no
434名無しさん@初回限定:2005/11/09(水) 22:41:39 ID:fUj52DF90
>>433
お疲れさまでした
異色(珍しい)で同色な組み合わせ
賢者様も助けてあげりゃいいのにw
そういや、二人ともおっきいですよねぇ
いいんだよヘリオン、君はちんまいままd(星火燎原膾切り
435名無しさん@初回限定:2005/11/09(水) 22:46:58 ID:9VVPIdTZ0
>>433
乙でした。
ヘリオンを持ち上げた二人だけが浮き上がるネタが
>>421あたりから分岐してしまっていたのですが。ふわふわ。

「わ、わたしちっちゃいですけど、浮くくらいはできるんですっ!」

                   スパッ!!
       _,. -─ '''' ‐=_-- __   r‐--
       , ^》ヘ⌒ヘ《ヾ  ヽ ヾ. / /゙・[l -┐
       ノ リ 〈 !ノルリ〉))   ゙i i! レ   ll]・_ヽ
      ノノヾ(リ;´(フノリ((   ノ,,ノ       レ
 -======i!⊂と《 ソ   ソ-‐'''"
       く/|_|〉 
      (_/ `ー'
436名無しさん@初回限定:2005/11/09(水) 23:50:08 ID:3j5crY3p0
黒スピ三人。ファーとウルカを踏み台にしたぁっ!?
だがしかし、この後エスペリアの花壇脇に大穴を空けた三人(連帯責任)の運命やいかにw
落っこちるヘリオンのシーンはやはりディズニー的表現で? 毛虫は落っこちてこなかったのだろうか。
437名無しさん@初回限定:2005/11/10(木) 00:22:55 ID:uKu2BBJ80
>414
ウルカがギではなくアリを愛してる・・・。
438名無しさん@初回限定:2005/11/10(木) 01:00:44 ID:oc5IT9gh0
黒い三連星キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!
439名無しさん@初回限定:2005/11/10(木) 01:10:57 ID:yyXtNqLY0
ファーレーンってSHに突入するとボケキャラになるのね(チガ
440テムオリンの憂鬱:2005/11/10(木) 01:43:50 ID:RdlDWDe40

 どこかの世界、今とは違う時。
「さて、今日集まって頂いたのは他でもありませんわ」
 会話の口火を切ったのは白い法衣を纏った少女。
 言わずもがな、ロウエターナルの中核の一翼、コアラ様こと「法皇」テムオリン。
 対するは彼女の配下のエターナル。
 「黒き刃」のタキオス、「水月の双剣」メダリオ、「業火」のントゥシトラ、「不浄の森」のミトセマールの四名(三人と一匹?)。
 部下を呼びつけて今日はどんな計略陰謀を披露するのかと思いきや
「今回、新たな世界を崩壊に導くにあたって皆の意見も参考にしたいと思いますの。
まず戦力の向上を目指すに、ミニオンの数を増やして対応するかそれともエターナル各々の力を強化するか……皆どう考えまして?」
 暫しの沈黙。そして進み出たのは黒衣の大男、タキオス。
「はい、私はテムオリン様のお好きなようになさるのが一番かと思います……」
「やれやれ、そんな抽象的に言われても全然ピンときませんね…そうですよね、テムオリン様」
 すかさず割って入ったのは青髪の優男、メダリオ。過去タキオスにコテンパンにやられており、以来彼に対して何かと突っかかってくる。
「ンギュル、ギュギュ、ギュルルン、ギュギュン、ギュルギュ――」
 次に発言したのは巨大な目玉オバケ。ントゥシトラは真剣に意見を述べている。がしかし、彼の言語を解する事は誰にもできない。
 高い知性もこれでは宝の持ち腐れである。
「…話はそれだけかい?戦いが無いなら、私は帰って光合成でもしていたいんだけど」
 そして、目隠しをした扇情的な格好の女性――ミトセマールがしめくくる。
「……」
 テムオリンは黙したまま。
「…ああ、まただんまりですかタキオス。話になりませんね…ねぇ、テムオリン様」
 同じく黙りこくったタキオスをメダリオが挑発している。
「で、帰っていいのかい?」
 あくまで自己中一直線なミトセマール。
「ギュグ、ギュルルルン、ギュッギュ、ギュグ、フシャァァッ!――」
 一人議論を展開し勝手にヒートアップしていくントゥシトラ。だからわかんないって、言葉が。
441テムオリンの憂鬱:2005/11/10(木) 01:44:33 ID:RdlDWDe40

 ………

 ……

 …

 で、 意 見 は ?

 当然か、意外か。
 とにかく、苦悩の多いロウエターナルの首魁の一人、テムオリン様だった。
442名無しさん@初回限定:2005/11/10(木) 01:45:53 ID:RdlDWDe40
終了です
非常に丈が短いですね〜、すみません
憂鬱シリーズ初参加w
443名無しさん@初回限定:2005/11/10(木) 20:27:27 ID:sBhY5yt40
実は意外と苦労人だったんだなコアラ様
444名無しさん@初回限定:2005/11/10(木) 21:16:18 ID:5Wcc26610
>>440
「どっちでも」は一番女の子(この場合大幅に譲歩してコアラさま)に嫌われますよ、タキオス。
批難するだけで発展的な意見を出さないのでは議論になりませんメダリオ。
最初から参加する気が無い上「帰りたい」って喧嘩を売っているのですかミト姉。
あら、一番熱心なのはントゥタンですか、意外ですね。何言ってるか判んないけど。
通訳を自国から呼べば……って滅ぼしちゃったんでしたっけ。全くなってませんねロウ陣営は。
     __
  「,'´r==ミ、
  くi イノノハ)))  
   | l|| ゚ヮ゚ノl|     ってユートさんが言ってた。
   j /ヽ y_7っ= 
  (7i__ノ卯!    
    く/_|_リ 


>>434さん
そうです、ちんまいままだからこそ、あのSHでの鬼神の如き攻撃とテラーTが炸烈s(月輪の太刀太刀太刀

>>435さん
うわ見破られた。自分の予定では重い分二人の方が沈んでたり。結局オチ付かずに面倒臭くなってごっそり削j(雲散霧消

>>436さん
やっぱり三人とも畑の肥やしですかねw 青筋立てたエスペリアさんに、ファーティングニモ(居合の太刀

>>437さん
ウルカイベントで溺れてるトコわざわざ助けてたので愛してるのかなぁ、とw

>>438さん
うぃ、ジェットストリームアタックです。ハイロゥ抜きで(ぇ

>>439さん
彼女の数少ない日常会話を拾っていると、どうもそんな臭いがぷんぷんしてきます(違
445どりるあーむ ◆ncKvmqq0Bs :2005/11/11(金) 09:27:36 ID:koZimQ3A0
どもです。
髪結いの人さん、信頼の人さん、革命の人さん、乙です。
毎度ながら、彼女たち+彼らのステキな日常描写が楽しすぎます。

では、ひさしぶりに「いつか、二人の孤独を重ねて」投下します。
第三章の題名は「それは、おそすぎたはつこいでした」です。
では、お目汚し失礼します。
446いつか、二人の孤独を重ねて9/1:2005/11/11(金) 09:30:42 ID:koZimQ3A0
「…と、いうわけなのが今までのところだ」
反応がおさまった全員に対し、シアーとのこれまでの経緯を説明し終わって。
悠人は、疲れとやるせなさを吐き出すようなため息をついた。
セリア他「ユートとシアーの年の差カップル問い詰め隊」は、黙って聞いていた。
…このあからさまにアレな部隊名を命名したのは、今日子だったり。
今日子てめェこの状況を楽しんでるだろうと思った悠人だが、ぐっとこらえた。
「…というか、厳密に言って俺とシアーはカップルじゃないんだが?
 だってそもそも、お互いに好きだと言ったわけじゃな………。
 ………………いえ言いましたには言いましたが、恋愛感情のそれとは意味が」
悠人が渋い表情でそう言いはじめると、エスペリアがぴしゃりと遮る。
「何を今更…ユート様、往生際が悪いです。
 既成事実がある上にユート様は殿方で年上なのだから、潔い態度をとられてください」
ぐう、と唸ってしまう悠人だがそれでもなお食い下がる。
「た…確かに既成事実かもしれないが、アレはそもそも事故であって」
すると、今度は今日子がエスペリアに続いて悠人の台詞を遮ってくる。
「悠、男が言い訳するのは見苦しい。
 あんな赤いランドセルが似合うような子にケダモノ行為したのは事実なんでしょ?」
忌々しげに今日子をにらむが、顔は涼しげっていうか目があからさまに面白がっている。

「無垢な幼子を押し倒して唇を奪ったあげく、一緒のベッドで寝る…。
 前々から無節操だとは思っていましたが、これではケダモノどころか鬼畜ですね」

更にセリアから絶対零度のトドメをさされて、ことごとく逃げ道を潰される。
447いつか、二人の孤独を重ねて9/2:2005/11/11(金) 09:34:27 ID:koZimQ3A0
「……鬼畜だのはあくまで否定しておくが、泣かせてふられたのも事実だからな?
 泣かせて嫌われてふられたわけだから、現時点でカップルとして成立していな」
むしろ自分が泣きたい心情でそう言いかけると、イオまでもがにこやかに微笑んで遮る。
「その点については大丈夫ですよ、ユート様。
 私もシアーと話しましたが、お菓子をくれて謝ってくれるなら許してあげるとの事です」

 -だから逃げ道を潰さないでっていうか、さりげにお菓子という単語を強調しないで…。

「それにしても、まさかなぁ…あのネリーにああ言われるとは思わなかったよ」
ネリーの、普段の彼女からは考えられない台詞と怒りを思い出して悠人は暗くなる。
すると、今日子が不意に口を開いた。
「あー、それね。そん時の台詞はたぶん、あたしやエスペリアの受け売りだから」
 -はい?…それは一体どおゆう事でしょうか。
「ええ、多分…。
 もうご理解されてるとは思いますが、シアーと悠人様の関係は最初からばれてました。
 まずシアーがネリーに話して、それをネリーがセリアに話して…」
エスペリアが、苦笑しながらそう言ってくる。
「食後のお茶を飲んでいた時にネリーから聞かされた時は、思わず茶を噴きました。
 私はすぐに、二人にその事を口外しないように注意しておいたんですけどね」
仏頂面でお茶をすすりながら、セリアは心底バカらしそうに口を挟む。
「…まあ、ネリーに知れた時点ですでに遅かったわけですけどね。
 まったく、つくづくどうしてシアーに口止めさせなかったのやら」
448いつか、二人の孤独を重ねて9/3:2005/11/11(金) 09:36:12 ID:koZimQ3A0
そう言って、ちらりとまた軽蔑の眼差しで悠人を見る。
 -もう勘弁してください、セリア先生。
「ともかく、ネリーの口からオルファやニムにヘリオンと広がって…。
 たった一日で、第一詰め所と第二詰め所の女性陣全員に知れ渡りました。
 …知らなかったのは、ユート様とコウイン様だけです」
苦笑しつつも、あくまで優しく説明してくれるエスペリアお姉ちゃんである。
「私とセリアとヒミカで、話に余計な尾ヒレがつくのを食い止めるのは大変でした。
 ですが…実のところは、ハリオン相手が一番苦労しました。
 あの歩く公然わいせつ罪がいらない知識をシアーたちに広めるのを食い止めるのは、ね」
ふっと遠い目をしながら説明を続けてくれるエスペリアに悠人は黙って頭を下げる。
「ちなみに今は、ハリオンの監視にヒミカが臨戦態勢で張り付いています。
 …ああそうそう、そう言えば言い忘れるところでしたけれども。
 エスペリアと共に城に呼び出されて、女王陛下に説明を求められた事もありましたね」

 -セリア先生、バスケがしたいです…。

「で、まあ…あたしやエスペリアたちであんたたち二人の様子を見てたんだけどさ。
 その都度その都度、ネリーたちにあーゆー時の気持ちとかを説明したりしてたのね。
 ネリーが悠に言った台詞ってさ…ほぼ、まんまあたしの説明だね。
 あくまで、あたしら個人の視点で見た限りでしかないって念を押してはおいたんだけどね」
さすがに気まずそうに言ってくる今日子と、同じく気まずそうなエスペリア。
449いつか、二人の孤独を重ねて9/4:2005/11/11(金) 09:40:00 ID:koZimQ3A0
「まあ…当たってたよ、あれは。なまじ図星つかれただけに痛かったしな」
そう言って天井を仰ぎ見る悠人の頭では、あのネリーの台詞がまた響いていた。

  -ユート様が逃げようとしたのは、シアーに見たシアーの孤独。
  -そして何よりも、そのシアーの孤独に重ねて見てたユート様自身の孤独。

子供の頃から、ずっと。
たった独りで、「お兄ちゃん」であろうとし続けてきた。
いつも、佳織が甘えてくるのを受け止めたり喜ばせるので精一杯だった。
周囲の大人たちが信用できなかった、というより視界に見えなかった。
それでも…頑張ってる自分を誰かにほめて欲しかった、甘えられる人が欲しかった。
けれども、それは佳織を置いてきぼりにしてしまうと思った。
だから、自分に優しくしてくれる人たちをいつも拒んできた。
自分に差し伸べられた手が、自分じゃなく佳織に向くようにしたかった。
覚えているのは、ほとんどそれだけ。
子供のころからの記憶が、あまりにもあいまいすぎる。
いつだったんだろう、光陰や今日子と肩を並べて歩くようになったのは。
どうして、今更になって誰かの優しさに逃げようとしたんだろう。
大人なエスペリアとかでなく、どうして子供であるシアーなんだろう。
いつか佳織がお嫁に行って、自分を必要としなくなるまでは。
少なくともそれまでは色恋沙汰に縁はないだろうと思っていたのに。
どうして、よりにもよって初恋がこんな形なんだろう。
450いつか、二人の孤独を重ねて9/5:2005/11/11(金) 09:47:32 ID:koZimQ3A0
「どうして、よりにもよって初恋がこんな形なんだろう」
小さな、けれども呟き声となってそんな想いが口から漏れる。
その途端、ぐいっと力強く肩を抱かれる。
「初恋に、よりにもよってとか決まった形なんざないさ。
 まぁ初恋に限らず、恋してしまった時てのに決まった形なんてないんだがな。
 お前の場合、たまたま初めて惹かれた相手がシアーちゃんだっただけだよ。
 もちろん、それまでの環境とかもあるだろうがな」
こういう時の光陰には心底かなわないな、と悠人は改めて再確認する。
「俺はいい。ただ、シアーにとって残酷すぎやしないかと思うんだ」
光陰は、そっと悠人の肩から手を離しながら穏やかに聞いてくる。
「何故、残酷なんだ?
 もとの世界での猟奇的な事件のような事をしたいわけじゃないんだろう?
 少なくとも、俺や今日子はお前がそういう奴じゃない事をよく知ってる。
 強いて言えば、佳織ちゃんに対して過保護気味だったのが少し心配だった程度だ」
そう言ってくれる光陰に対しても、悠人は目をあわせる事も出来ず下を向いてしまう。
「…神剣の強制力なら、俺の因果や今日子の空虚でおさえこんであるぞ?」
その言葉でハッとして光陰や今日子の顔をまじまじと見る。
「別に、大した手間じゃないから気にしなくてもいいわよ。
 最初は、あたしにやれるのか不安だったけどコツを掴めば簡単なもんだしね」
 -そう、だったのか?………ずっと、ずっと気がつかなかった…!
悠人は、この二人の友情が今ここに確かにある事に目頭が熱くなった。
「でも、悠が今言ったあの子に対して残酷ってのはそれだけじゃないわよね?
 光陰も言ったけれど、あんたが酷い事をするような奴だとは絶対に思わない。
 前から感じてたけど…悠って自分自身があんまり好きじゃないでしょ?
 …だから、誰かに好かれるのも誰かを好きになるのも怖い。」
否定しようと口を開けるが、言葉が出てこなくて黙り込んでしまうしか出来ない。
451いつか、二人の孤独を重ねて9/6:2005/11/11(金) 09:50:20 ID:koZimQ3A0
「ユート様」
いつの間にか、エスペリアがそばによってかがんで下から悠人の顔を見上げていた。
やわらかい木漏れ日のような微笑みのままで、そうっと手の上に手を重ねてくる。
「…私も、自分が好きじゃないのは同じです。
 私は、汚れていますから…。
 私も…優しくされる事、そして愛される事が怖いと思ってしまいます」
それは、もしかしたらと悠人自身も薄々感づいていた事だった。
微笑んで、誰にも分け隔てなく尽くす横顔にいつも影が見えていたから。
「汚れているという意味でなら…私もエスペリアさんと同じかもしれません。
 曖昧にしか申し上げられないのですが…似たような痛みを感じます。
 …スピリット云々に限らず子供が欲望に踏みにじられるのは、この世界も同じです」
視線を下に向けて俯くイオの横顔が、その時まるで寂しい子供のように見えた。
部屋に、沈黙が流れる。
時間としては短かったのだろうけどあまりに長い沈黙だった。
「…ユート様、今よろしいでしょうか」
セリアが真っ直ぐに悠人の目を見つめて、鋭さこそないけども静かに問いかけてくる。
悠人は、セリアが何を言わんとしているかは図りかねたが真っ直ぐ見つめ返して頷いた。
「最初に、ユート様がシアーと初めて出会ったのは何処のいつごろでしたか?」
突然の質問に一瞬だけ目をぱちくりさせるが、すぐに慎重に思い出してみる。
「ええと、聖ヨト暦330年の…シーレの月の青よっつの日。
 バーンライト王国が宣戦布告してきて…。
 エルスサーオにリーザリオとリモドアを経由して首都サモドアへ進軍する時だ」
セリアは、さっきまで口にしていたカップをテーブルに置いて。
両手を腰の前で組んで、じっと悠人の言葉に耳を傾けている。
452いつか、二人の孤独を重ねて9/7:2005/11/11(金) 09:54:52 ID:koZimQ3A0
「はじめて出会ったのはいきなり戦場…というかラキオス城壁の大門だったな。
 ハリオン、ヒミカ、ヘリオン、ネリーに混じってあまりに小さな影が一人…。
 これから戦争に行くのにきょとんとしてたんだよな…シアーだけが」
あくまでも黙ったまま、セリアは悠人の両目を何かをのぞくように見つめ続けている。
「何も理解してなさそうまま、俺を珍しそうに見つめてたのが痛かったのを覚えてる。
 俺は…そんなあの子に無理やり微笑んで軽く手を振るしか出来なかった」
シアーと悠人のはじめての出会い。
それは、この場にいる面子の中でその時に居合わせたのはエスペリアだけだった。
「なんでかはわからないけど、この子から離れたらダメだと思ったんだ。
 気がついたら、エスペリアに部隊編成で意見をしてた。
 俺が中心の第一チームに、シアーを編成してもらえるように」
エスペリアも同じ場面を思い出しているのか、悠人の台詞に相槌を打っている。
「あの頃の俺は本当にズブの素人だった。
 だから、エスペリアの提案でヒミカの指示に従って動くようにした。
 俺はディフェンダーに徹して、シアーがサポートでヒミカがアタッカー。
 エスペリアの見よう見まねで、とにかく障壁を張る事に集中してたんだった」
悠人は、セリアの真っ直ぐな視線から少しも自分の視線を外さないままで。
「最初の一戦でバーンライトの一部隊を倒したあとの事だ。
 不意に、後ろから足に何かが強くしがみついてくるのに気づいた。
 …バーンライトのスピリットがマナの霧と散っていくのを見つめながら」
悠人は、そこではじめて息継ぎをするように息を少し深く吸い込む。
「シアーが必死に俺の足にしがみついて、あの大きな目で泣きながら怯えてた。
 はじめての戦場で…はじめて命が散るのを目の当たりにして…。
 俺は、そんなシアーの髪をただ出来るだけ優しく撫でてやるしか出来なかった」
453いつか、二人の孤独を重ねて9/8:2005/11/11(金) 09:58:15 ID:koZimQ3A0
悠人がそこまで話すと、セリアはふっと目を閉じた。
「これが…一番最初の、俺とシアーの出会いだ」
セリアは何事か考えている様子で、無言で悠人の台詞に頷く。
「ユート様が、どれ程にシアーを大切に想っているかがよくわかりました。
 正直に申し上げますが、私は当初ユート様に対し疑念を抱いていました。
 ですが、デートの時も普通に遊びに行くのと何も変わらなかった事と…」
 -ああそうか、最初からばれてたんだったしセリアなら心配して後をついてくよな。
「何より、今の話でのユート様の目に曇りがなかった事で疑念は晴れました。
 年の差ときっかけはともかく、ユート様のシアーへの想いは本物と判断します」
そう言ってふかぶかと頭を下げるセリアに対し、悠人もまたふかぶかと頭を下げる。
「ですが、くれぐれも軽率な行動はなさらないように常に気をつけていてください。
 ただでさえ人とスピリットですし、世間の目はなおさら厳しい事もどうかご承知を」

そう言うと、セリアは一瞬だけ悠人に対しはじめて優しい微笑みを見せた。

悠人は、その一瞬だけ見せたセリアの微笑みに自分の母親の面影が重なった事に驚いて。
「セリア、さ…将来、保母さんか教師を目指したらどうだ?」
思わず、そんな言葉が漏れてしまう。
「私が、ですか?いくら疲れていると言っても馬鹿な事を言わないでください」
たちまち元の仏頂面に戻って、つんっと顔を背けるセリアだったが内心ギクリとしていた。
ほめたつもりだったのに機嫌を損ねてしまったと焦る悠人に、セリアは突然向き直って。
454いつか、二人の孤独を重ねて9/9:2005/11/11(金) 10:03:38 ID:koZimQ3A0
「あ…言い忘れるところでしたが、ユート様は最近シアーとネリーを見ていませんよね?
 実はユート様がシアーの気持ちから逃げようとした仕返しで、あの二人は逃げてるんです。
 男から上手に逃げるテクニックは、この私が完璧に伝授いたしました」

 -セリア先生、いつの間に余計な事をッ!…っていうか仕返しですかそうですか。

「ユート様も反省した様子ですし、明日から逃げモードを解除させておきますね」
少しホッとしたのと両肩にズッシリ疲労がのしかかって悠人はうなだれてしまった。
「では、第二詰め所に戻ります。ユート様、おやすみなさい」
スクッと立って椅子を持っていきながら、セリアはスタスタと部屋を去っていった。
「んじゃ、あたしも戻るね〜。悠、おやすみ!あと頑張れっ!」
続いて、今日子もまた面白いネタが出来たと言わんばかりの笑顔で去っていく。
「夜分に失礼しました。私も、これでおやすみなさい」
イオはテーブルに放置されたカップをトレーにのせて持ってしずしずと去ってゆく。
「それでは、お疲れ様でした。おやすみなさい、ユート様」
ささっと部屋の椅子などを綺麗に片付けてから、エスペリアは礼儀正しく食堂へ戻る。
女性陣が去ってしばらくしてから、まだ悠人の隣にいた光陰がぽつりと話しかけてきた。
「悠人、もうそろそろ相手を好きになるのと同じくらい自分を好きになる事を考えとけ。
 …自分を好きになれないってのは、自分を大事に出来ないってのと同じだ。
 自分を大事に出来ない奴が、好きな子を大事に出来るかどうか…わかるよな?」
悠人は、親友の台詞に強く頷く。
「んじゃ、俺も寝るわ…おやすみぃ。…ヌフフ、シアーたんの残り香〜」
光陰はそう言ったかと思うと、そのまま悠人のベッドに横になって寝息をたてはじめた。
そんな愉快な親友に、悠人は黙って迅速な動きでテキサスクローバーホールドをキメた。
455どりるあーむ ◆ncKvmqq0Bs :2005/11/11(金) 10:10:26 ID:koZimQ3A0
本日はここまでです。
なんか、えらい時間かかった割にちょっとアレなような…。
年の差カップルの恋愛を描くのは、二次創作でも私にはムズいです。
しかもカップルの組み合わせが犯罪スレスレだし。
…いや、もしかしなくてもド真ん中ストライク?
ともかく、第4章までまたいずれ。
456名無しさん@初回限定:2005/11/11(金) 16:00:27 ID:GXDka+jR0
>>どりるあーむさん
お疲れ様でした。
真面目なのかふざけているのか、紙一重な光陰ワロス
はたして悠人とシアーの関係はどうなってしまうのか、続きを楽しみにしています。
>年の差カップル
大丈夫、きっと終結まで導いてくれると信じています。
年の差バカップルを書こうとしているのはワタクシもですから・・・


年の差・・・おbsnとくっついたりしたらそれこそ究極のt(タイムリープ+クリティカルワン
457名無しさん@初回限定:2005/11/11(金) 19:58:09 ID:nTODgpT10
>>455
愛さえあれば歳の差なんて(ぇ
悠人というか、周囲の方がより熱心に自己啓発&シアーとの展開を
進めようとしている辺り、ラキオスっておせっかいが意外と多いのでしょうか。
逆に言えば周囲の後押し無しには自分を見つめ直す事も出来ない悠人が余計ヘタレに見えてしまいます。
ただでさえシアーを年上として支え、その上で「孤独を重ね」る事が出来る位には
ならないと釣り合わなくなってきたよう(な仲間の反応)なのですからもっと頑張れ。
逃げ道を無くされたなどとギャクギレ気味の突っ込み入れている場合じゃありません。
まずは逃亡中の初恋相手を追いかけるところから。この後のソゥ・ユートの成長に期待してます。

 ――― カウンセラー 小五ロリ ―――
458名無しさん@初回限定:2005/11/11(金) 21:32:37 ID:VlSz3iJN0
>>455
お疲れ様です〜
みんなで育てよう、小さな恋とその行方…
優しくも厳しく、そして暖かい人たちに囲まれる悠人とシアー
二人の恋が見事な愛に実を結ぶのを楽しみにしています
459名無しさん@初回限定:2005/11/12(土) 01:53:58 ID:ofXTyimS0
>442
テムテム頑張れ。学級崩壊ロウクラスに秩序の灯を灯すんだ。


よーしパパ、ミトセさまと一緒に日光浴しちゃうぞ〜あれ、なんかネバネバして……?  っちょまっ、しょく$@ちゅ\「し;。ぶ

>455
俺のシアーが年増女共の入れ知恵(実体験無し論)で汚されていく!! 手遅れにならない内に俺の手で汚(ペネトレイト

マジレスしちゃうと「歳の差」って言うほどではないと思われ。犯罪なのはかわらんけどw いやでも、登場するキャラは皆18歳以上だって
現役中周期生の人がいってた。 「,'´r==ミ、

460名無しさん@初回限定:2005/11/12(土) 09:26:13 ID:nDhPUAnV0
唐突な疑問だけど
技術って進化と共に対象の小型・軽量化に向かうような気がするのだけれど、
研究所や属性支援施設や塔やエーテル変換施設もLv.が上がると小型・軽量化するのだろうか、PCや携帯電話みたいに。


ヨ「おっかしいね、一体どこへ……」
イ「飛んで行ったのかもしれませんね。軽くなり過ぎましたか」
エ「あらヨーティアさま、こんな森の中でどうかいたしま」

くしゃ。

ヨ「……いや、最新型の常緑の樹を造ってみたんだが、失くしてしまってね。どこにあるかは今判ったよ」
イ「ヨーティアさま、やはり携帯目的とはいえ葉っぱ一枚というのは無理があったのでは」
ヨ「うん、小枝程度に抑えるべきなのかな。ところでエスペリア、効果はあったかい……ん? 何泣いてるんだ?」
エ「……調子……良かったです……ううっ、それこそ踏み込む足に力が入る位……これならアポUにも耐えられると……」
イ「反動が大きいようですね。情緒不安定になるようです。ありえない未来を夢みる程ですから」
ヨ「副作用があるんじゃ使えないな。この研究はボツにしy」
エ「御願いしますっ! 是非製品化して下さいまし! なんならわたくしのマナを差し出しても構いませんからっっ!!!」



悠「あれ? おっかしいなぁ……」
ア「どうかしたか、ユート」
悠「いや、ヨーティアが最新型の蒼の水玉を設置したって訊いていたんだけd」

ぱき。

悠「…………なんだこれ」
ア「……ユート、怒られるぞ」
悠「え、え? これ、……え? だって、なんでこんな所にコンタクトレンズが?」
461名無しさん@初回限定:2005/11/12(土) 09:29:09 ID:nDhPUAnV0

セ「この塔、狭いわね」
ハ「力は湧くのですがぁ〜、でもぎゅうぎゅうですぅ〜」
ナ「天井が低すぎます。一階建てだと居住性にも問題アリ」
ヒ「うるさいわねっ! しょうがないでしょ、敵が大軍で来てるんだからここに篭るしかっ!!」
セ「騒がないでよ、余計狭く感じるんだから……ちょ、ハリオンもう少しそっち行って」
ハ「無理ですぅ〜。あ、あらららら〜」

たゆん。

ナ「胸で圧さないで下さい。痴漢は犯罪ですよ」
ヒ「…………なんだってよりによってこのメンバーなのよ……」



瞬「ふん、その程度か。わざわざ単騎で挑んでくるからには少しは成長したのかと思えば」
光「ふ、侮るなよ。今の俺は一味も二味も違うんだぜ……見ろっ!」
瞬「おおっそれは……って何だよソレ」
光「ふふふふふ……聞いて驚け。これこそ科学の結晶、エーテル変換施設携帯版だ!」
瞬「……で、それをどう使うというんだ」
光「お、呆れたな。まぁいい、百聞は一見にしかず。今からお前の周囲のマナを強制的に吸い取ってエーテルに……ぽちっとな」

ういいいいん……

瞬「ああっ!! マナが、『誓い』のマナが無くなっていくぅっ!!!」
光「お? おおっ? 俺の、俺のマナまでっ?! ちょ、勘弁、しっ!」



_no
462名無しさん@初回限定:2005/11/12(土) 11:21:41 ID:2qO9XCXH0
>>460-462
『施設Lv300』でSS化を是非ッ!
…駄目ですか?
463名無しさん@初回限定:2005/11/12(土) 11:22:30 ID:2qO9XCXH0
うぇ、>>460-461だった…スマソ
464名無しさん@初回限定:2005/11/12(土) 13:10:45 ID:HuXIqsSB0
>>462
施設強化した『ぐりーんぐりーん』ってのが保管庫にあったはず
465名無しさん@初回限定:2005/11/12(土) 15:28:50 ID:YLI8acem0
>エーテル変換施設携帯版
ファンタズマゴリア最強の兵器が今ここに誕生した…
466名無しさん@初回限定:2005/11/12(土) 17:38:13 ID:S6za3v+A0
ちょっとあって、感情が高ぶってる状態ですが今回だけ勘弁を。
せっかくレスをいただいたのに返信しないのは無礼にも程がありますので。

>>459
ありがとうです。
光陰は、悠人よりも精神的に老成してるのでこういう精神的な助けという役で描きやすいんです。
逆に言えば、それだけ光陰がイイ男だということです。
…不幸なことに、クォーリンや今日子くらいしかその魅力に気づいてないけど。
時には真面目に人の道や心を説いて導いてあげて、時には一緒になってバカやりあって。
もし、悠人と光陰が幼少時代に出会っていたのなら遠慮なく無邪気にプロレスごっこやったりしてたと思うんです。
だから、今回の投下の最後で悠人が光陰にテキサス以下略をかけたのは悠人自身が気づいてない、悠人の子供時代に無かったであろうそういうものへの憧れを意味してたりします。
…いや、テ○ーマンが好きなのも確かですが。アメリカ遠征編最高、フェニックス・テリー。ビバ、マシンガンズ。
年の差カップルについては、あらすじをラストまで別の何かに記述してあります。
今考えてる段階では、ユートが途中で一番やっちゃあかん事に走ったりするけど。
とにかく、書きながら考えて…考えながら書いてます。

>>457
小五ロリ=悟リ=光陰…?w
このSSを書くにあたって、アセリアをプレイしながら考えて書いてるわけですが。
(まぁ、ふつーそーするわけですが)
なんだか、悠人って心のどこかが子供のままで止まってしまってる気がするんです。
長い間、家族のため、妹のため、佳織のため。
そしてファンタズマゴリアでも、仲間のため、友のため、愛するひとのため。
いつも必ず、人のため、人のため、人のため、ただひたすらに人のため。
物語の時期をはっきりさせていませんが、大体マロリガン戦が終結していざ帝国攻略に入ろうというところ。
仲間たちの心情としては、もういいかげん悠人にも自分のために頑張るということを知って欲しいと感じてる頃だと思うんです。
どんなに誠実な暖かさであっても、与えるだけの一方的な優しさや愛はいつかその人を枯れ果てさせてしまうから。
と、いうわけでもう少しあとになったらもう一人の「ひたすら人のため人間」が目立つようになると思います。
…シアーが大爆発しちゃうけど。
467名無しさん@初回限定:2005/11/12(土) 17:39:11 ID:S6za3v+A0
>>458
ありがとうですー。
現段階のあらすじだけでも、自分で心が痛くなる場面もあったりしますが。
それでも、最後には必ず少しでもあったかくなれるようになるラストを目指しています。
最後に二人がどうなるのかは、無茶にひねくれたお約束とだけ言っておきます。ウフフ。

>>459
無垢なシアーを汚しまくる、セリア先生をはじめとした年増軍団の暗躍、いかかでしたでしょうか。
でもだいじょーぶ、どんなに汚れてもそこも含めて愛する事が出来れば本物だから。
シアーは、将来イイ女になる素質充分だけれど問題は悠人がどこまで頑張れるか。
アセリア版・光源氏計画、今後の展開はいかに。(それ違う

そういえば、キャラの年齢がはっきりしてないんですよね。
PS2板の限定版についてた設定資料集だけではやっぱわかんないことだらけ…。
468くじら318号:2005/11/12(土) 21:03:23 ID:wXr4SOFy0
どうも、こんばんは。
長編の続きがあがりましたので、
流れをぶった切って投下したいと思います。

前回も言いましたが、
流れ上、はっちゃけている部分がありますがそこはご了承ください。
今回は本編のシーンはありません。

では、くじら式長編第U章、投下開始します
────ハリオンとヘリオンが王座の間に着くと、そこには先客がいた。
ヘリオンよりも年下であろう二人のブルースピリットに、ハリオンと同じくらいの年齢のレッドスピリットだ。

「(こんな小さな子も戦争に行くなんて・・・)」
「みなさん、おはようございます〜」
ヘリオンが二人に気を取られていると、ハリオンはのんびりと挨拶をする。
すると、その三人も挨拶を返してきた。

「おはよっ!」
「・・・・・・おはよう〜」
「おはようございます、お二方」
はっきりと性格の出ている挨拶だった。ヘリオンもそれにならう。

「は、はじめまして!【失望】のヘリオンって言います!」
「【大樹】のハリオンです〜」
ぎこちなく自己紹介開始。すると、最初にレッドスピリットの方が返事をしてくる。

「【赤光】のヒミカです。今後とも、よろしく」
ヒミカと名乗るスピリットは、礼儀正しく、はきはきした性格のようだ。
その一方、どうも堅い人、というイメージもあるが、その笑顔は、お姉さん的なイメージも醸し出す。
ハリオンとは馬が合いそう。それがヘリオンのヒミカに対する第一印象だった。

続けて、幼いブルースピリットの二人も自己紹介をする。
「【静寂】のネリーだよっ!くーるによろしくね。ヘリオン」
「私、シアー。【孤独】のシアー」
ネリーは元気いっぱいに自己紹介してくる。が、対照的にシアーはおとなしい。
トラブルメーカーな姉とそれに引っ張られっぱなしの、自己主張が苦手な妹の双子。
プラスとマイナスが相まってちょうど良くなる、そんな感じのイメージだった。
年下の相手である分、自分とは付き合いやすいかもしれないと、ヘリオンはそう思った。


自己紹介をして談笑していると、奥からレスティーナが姿を現した。
ハリオンとヒミカは反射的に敬礼をする。一歩遅れてヘリオン、ネリー、シアーも敬礼。

「良く来てくれました。まずは、ラキオス王国スピリット隊へ、ようこそ」
レスティーナは柔らかい笑顔で歓迎の言葉を送った。
「あなたたちには、これから戦いにおいて存分に働いてもらうことになります。
 その上で、色々と言っておくことがあるので、聞き逃さないよう、楽にして聞くが良い」

レスティーナがそう言うと、全員が一斉に肩の力を抜く。
こういった堅い会合の場で肩の力を抜けるのは、正直ありがたい。



数十分後、レスティーナは、スピリット隊に所属する上で必要なことを言い終えた。
「以上である。もし解らないことがあれば、隊長のユート、もしくは副隊長のエスペリアに聞くように」

「「「「「はい!」」」」」
と、全員で一斉に敬礼。
「それでは、各々は第二詰所で指示があるまで待機せよ。解散してよろしい」


────少しして、五人は第二詰所に来ていた。
その詰所は最近できたばかりらしく、そこらじゅうから新しい木の匂いが立ち込めてくる。
「わぁ〜、なんか新しいって感じがするね〜、シアー」
「そうだね〜、ネリー」
ネリーとシアーは大喜び。この間まではどんなところに居たんだろうか。
ひょっとしてとんでもない所で生活していたんじゃないだろうか、ヘリオンの中で勝手に想像が広がる。

「新しいってのは、いいことですね〜。すうぅ〜」
「はい、そうですね!」
喜んでいたのはハリオンもだった。両腕を広げて、空気をすーっと吸い込んでいる。
妙なことを考えているヘリオンもまた、新築の匂いを満喫していた。

新鮮なものに大喜びする4人に対し、ヒミカは忙しそうにしていた。
「とりあえずやることは、5人分の部屋割りと、食糧の買出し、え〜っとそれから・・・」

「あ!ネリーはシアーと一緒の部屋がいい!」
「シアーも、ネリーと一緒がいいな」
「そう?じゃあ4人分ね」
詰所の見取り図を見ながら、ヒミカはてきぱきと部屋割りを済ませる。
「みんな、こんなもんでいい?」
一斉に見取り図に目を通す。
「はい!それでいいです」
「問題ありませんよ〜」
「シアーと一緒なら、ネリーはどこでもいいんだけどね」
「そうだよね、ネリー」

「じゃあ、次は食糧とかの買出しに・・・ハリオン、付き合ってくれる?」
「はいは〜い」
二つ返事で了解するハリオン。やはり年が近いだけに、馴染みやすいのだろうか。

「あなたたちは留守番しててね。何しててもいいから」
「ではヒミカ、行きましょう〜」
ヒミカとハリオンは買い物に出て行った。さてさて、残された3人は・・・

「シアー、ヘリオン、いろんな所行ってみよう!」
詰所の中を探検する気満々のネリー。どうせ暇だからと、ヘリオンとシアーは顔を見合わせて、
ネリーの探検に付き合うことにした。



食卓、台所、自分たちの部屋・・・・・・色々なところを見て回る。
どこも、豪華ではないが、質素すぎもしないデザイン。
住めば都とはよく言うが、ここはその言い回し以上に過ごしやすい環境だった。

一通り探検を終えたところで、ヒミカとハリオンが帰ってきた。
二人は、買って来た食材を保存庫に詰め込むと、一つの包みを取り出す。

「あ、それ、いい匂いがする〜」
「お菓子の匂い〜」
こういうことには敏感な年少組の鼻。速攻で反応されたが・・・

「だめよ。これは第一詰所へのご挨拶のお菓子詰めなんだから」
「私も食べたいんですけど〜、我慢してくださいね〜♪」
「はうぅ・・・そうなんですか」
「なんだ〜つまんないの」
「つまんな〜い」

そういってヒミカが釘を刺すと、その包みをヘリオンに渡してきた。
「・・・へ?」
「悪いんだけど、それを挨拶がてら届けてきてくれない?」
「・・・・・・は、はい!わかりました!」
ヘリオンは内心小躍りしていた。
第一詰所・・・そこにはここにいないスピリット隊のメンバー。すなわち、ユートもいるはずだからだ。
訓練所ではろくに挨拶してなかったから、ちゃんとしておきたいと思っていたのだ。

「で、では!いってきますっ!」
ヒミカから包みを受け取ると、ヘリオンは第一詰所に向かってすっとんでいった。

「・・・・・・なにかあったのかな?」
「シアー、わからないよ〜」
「(ふふふ〜、がんばってくださいね〜、ヘリオン♪)」
首をかしげる双子に対し、ハリオンはヘリオンの心を見抜いているかのような表情をしていた。

ぽんぽん
少し和んでいると、ヒミカが難しい顔をしてハリオンの肩を叩く。
「ハリオン、ちょっといい?」
「? なんですか〜?」

二人は双子の目の届かないところに移動すると、ヒミカは眉をしかめて話しかけてきた。
「ネリーに、シアーに、ヘリオン・・・あの子達随分若いけど、実戦経験はあるの?」
「・・・少なくとも、ヘリオンにはありませんね〜」
「それに、実力も見劣りしている感じだし・・・」
「そうですね〜」

ヒミカは心配していた。あんなに幼いスピリットまで実戦投入するほど切羽詰まった状況。
幼いからこそ、若いからこそ、スピリットとはいえまだ未来がある。
それを、戦争なんかで犬死にさせて、未来を閉ざせるわけには行かなかった。

「このこと、ユート様も承知して下さるでしょうけど・・・」
「私たちが、守ってあげないといけませんね〜」
「・・・そうね」

こうして、ヒミカとハリオンは、まだ幼い命を守るために、力をあわせることを決意したのだった。

少しして、挨拶を済ませたであろうヘリオンが戻ってきた。
どういうわけなのだろうか、すっころんだらしい。顔が真っ赤だ。
・・・・・・特に、ドジなヘリオンの事を重視して守ってあげなくては。ハリオンは決意を新たにした。


─────5人が新たにスピリット隊に入ってから、数日が過ぎた頃、
バーンライトを攻めるため、スピリット隊のメンバーは全員、第一詰所に集合がかかった。

「・・・・・・というわけで、俺たちはバーンライトを落とすため、リーザリオに侵攻する。
 これから、チーム分けをするから、よく聞いておいてくれ」
悠人が後ろに手を組んで色々と説明をする。
メンバー割りが書いてあるであろう紙を取り出すと、ちらちらとこちらを見ながらチームを発表する。

「まず第一部隊は、俺と、アセリア、エスペリア。
 第二部隊は、ヒミカ、ハリオン、ネリー。最後に第三部隊は、オルファ、ヘリオン、シアーだ。
 ・・・・・・何か意見はあるか?」
「はい、ユート様」
びし、とヒミカが挙手する。その顔はやや強張っていた。

「どうしたんだ?えと、ヒミカ」
「聞いた限り、戦力が偏っているようです。もっと経験などを視野に入れ、バランス良くすべきだと思いますが」
確かに偏っていた。
第一、第二部隊に熟練者が集中している。これでは、第三部隊があっと言う間に瓦解してしまう。
どの部隊にも熟練者が居たほうが、まとまりやすい。それがヒミカの考えだった。

「そうか・・・え〜と、じゃあ、エスペリアはヘリオンと交代。それでいいか?」
「(ええ!?)」
「はい、ユート様。それなら問題ないかと思います」
これならいい、と表情に出しているヒミカに対し、ヘリオンは驚きで固まっていた。
まさか、いきなり悠人と同じ部隊に入れるとは思っていなかったのだ。・・・至極当然のことだが。

「よし、次に侵攻陣形を説明する。
 第一、第二部隊は同じペースで侵攻。第三部隊は背後を警戒しながら、一歩遅れて侵攻してくれ」
第一と第二が同じ・・・それはつまり、すぐ傍に悠人だけでなく、ハリオンもいるということだ。
後ろで悠人や姉貴分のハリオンに見られていると思うと、ヘリオンの緊張はさらに強くなった。

「・・・これで説明を終わる。明日の朝、またここに集合してくれ。それまでは、体調を整えておくように」

「はい!」と、全員が一斉に敬礼。
その中で唯一人、ヘリオンだけは石化していた。
「・・・・・・どうした?ヘリオン。さっきから固まってるようだけど・・・?」
カチンコチンになっているヘリオン。当然返事ができるわけも無し。
「すいません〜、この子、緊張しやすいんです〜」
ヘリオンの後ろから、ハリオンがフォローを入れる。
そして、ハリオンはヘリオンを担いで、みんな解散したのだった。



「・・・ヘリオン!しっかりして頂戴。実戦でそんな風に固まったら、死ぬだけよ」
「は、はいぃ!す、すいませんでした!」
解散の後、ヘリオンは第二詰所の食卓でヒミカにお叱りを受けていた。
「明日までにイメージトレーニングでもして、緊張を取っておくように!」
びしっと命令すると、ぷんぷんと怒りを露にしながら、ヒミカは去っていった。
「はあぁ・・・緊張しちゃって、だめです・・・」
ため息をついて落ち込んでいると、後ろからハリオンが声をかけてきた。
「大丈夫ですか〜?」
「大丈夫じゃないですよぅー」
「じゃあ、イメージトレーニングしてみたらどうですか〜?」
言われたとおり、ヘリオンはイメージトレーニングを始める。
・・・が、案の定、考えれば考えるほど緊張するだけ。
いいところを見せないと、悠人やハリオンに呆れられてしまう。そんなの嫌だった。
何より、ヘリオンは実戦に出るのは初めて。緊張するのも無理は無かった。

「うぅ、やっぱり駄目です・・・」
「・・・まあ、無理しないで、ちょっとずつ慣れていけばいいですから〜」
ハリオンはにっこりと笑顔をヘリオンに送る。
それを見て、ヘリオンは笑顔を返した。・・・緊張したぎこちない笑顔を。

「でもヘリオン、ヒミカがああいう事言うのは、ヘリオンを心配しているからだって、覚えておいてくださいね」
「は、はい・・・」
ハリオンは難しい顔で言う。そんなこと解っていた。でも、それに応えられない。
どんなに訓練しても、そればっかりは慣れるしかなかった。

・・・・・・結局、ヘリオンの緊張は拭えないまま、次の日の朝を迎えるのだった。

────戦いの日がやってきた。ヘリオンたちの初陣。
大事な人を守るため生死の境に立つ、そのために様々な訓練をこなしてきた。
ついに、力を発揮するときが来たのだ。
「・・・・・・準備はいいですか〜?」
「はい!だ、大丈夫です!」
「では、行きましょう〜」


第一詰所に着くと、すでにハリオンとヘリオン以外の全員がそろっていた。
「よし、来たな」
悠人は全員の顔を見渡す。ヘリオンが緊張しているのを含め、昨日の通りだった。
「これから、俺たちはバーンライトのリーザリオに向かって進軍する。やり方は昨日話した通り。
 いいか、決して無理はするなよ。危なくなったら後退するんだ。
  それじゃあ、昨日のとおりにチームを組んで、行動開始だ!」
悠人が檄を飛ばすと、メンバーの士気が高まった。・・・ただ一人を除いては。
まあ、歩いている途中にでも話しかけて、緊張をほぐしてやろうと、悠人はそう思っていた。

とりあえず前線の拠点にするため、悠人たちはラキオス領の東端、エルスサーオの町に向かい、
街道を東に向けて進んでいる。悠人を含めた6人が今ここに居て、後の3人は遥か後方に居る。
年長組であろうヒミカとハリオンは堂々と歩き、ネリーはぶらぶらと歩き、アセリアはいつ飛んでいくか・・・
・・・で、問題のヘリオンはというと、ガチガチに固まった表情で、悠人の後ろについてきている。

「・・・なあヘリオン、本当に大丈夫か?」
「はうっ!は、はい!大丈夫です!」
全然大丈夫そうには見えない。
いざ戦闘になると、足手まといになってしまいそうで不安だった。

「(足手まとい、か・・・最初は、俺も・・・)」
悠人は少し前のことを思い出す。
エスペリアたちが命を張って戦っているのに、自分は何もできなかった時のことを。
やっと神剣の力を扱えるようになっても、それでもまだ足手まといだったこと。
まともに戦えるようになったのは、魔竜サードガラハムを屠ってから。
戦えるようになったこと、それは本来は喜ぶべきことではないのかもしれない。
でも、佳織のために戦わなきゃいけないなら、エスペリアたちの助けになるなら、戦う。
それが悠人の決意だった。

・・・・・・心なしか、そんなヘリオンがこの間までの自分と重なっているように思える。
もし自分と同じなら、ちゃんと戦いに慣れるまでサポートしてやらなくてはならない。
そうでなくては、死ぬだけ。そんなの、嫌だった。誰かが自分の元を離れるのは、もう味わいたくなかった。
たとえ、それがつい最近会ったばかりの仲間でも。

480名無しさん@初回限定:2005/11/12(土) 21:20:45 ID:S6za3v+A0
支援、フルパワー!
481名無しさん@初回限定:2005/11/12(土) 21:21:13 ID:VDM1ojhv0
…遅れながら支援
道中、なんの妨害も無く、一行はエルスサーオに到着した。少し遅れて、第三部隊も到着する。
「よし、今日はここまでだ。エスペリア、宿の確保をしてくれ」
「はい、只今」
エスペリアは近くの宿屋に入り、店主と交渉を始める。

「ユート様、お部屋が取れました」
「OK、じゃあ明日まで休憩にしよう。まず見張りは俺たちがする、2時間ごとに交代だ。
 常に部隊単位で行動するように」
「はい!」と、第二、第三部隊のメンバーは了解する。


第一部隊のメンバー・・・悠人、アセリア、ヘリオンは南東の門の外まで行き、警戒態勢を整える。

「敵が来ないといいんだけどな・・・」
「そ、そうですね〜」
「・・・・・・来た」

「「へ?」」
アセリアがそう言うと、悠人とヘリオンは同時に間抜けな反応をする。
アセリアの目線の先に、黒いハイロゥを展開した3人のスピリットがいた。
猛然とこちらに向かってくる。戦闘は避けられない。

「3人だけか・・・俺たちで食い止めるぞ!」
「ん、行く!」
「は、はいぃ!」
こちらもオーラフォトンとハイロゥを展開し、同時に悠人は士気のオーラを広げる。
「インスパイアッ!」
その直後、アセリアは単騎特攻を開始。それが高じてか、それぞれが一対一で戦うことができた。

アセリアには後方のレッドスピリットが、悠人には前衛のブルースピリットが、
そして、ヘリオンの元には防御に長けたグリーンスピリットが立ちはだかる。

「!! あ、ああ・・・」
ドクン。
ヘリオンの中で鼓動が早くなる。
それは、初陣に出る者特有の緊張が生み出すものではない。

ヘリオンは、目の前の敵と戦うことができなかった。そのグリーンスピリットは、ハリオンに良く似ていたから。
敵だって、敵だってわかっている。
だが、柔らかく綺麗な緑色の髪、透き通るような深緑の瞳、顔の横にある二つの髪留め。
何をとってもハリオンのイメージと重なってしまう。

がたがたと体が震える。死にたくない、でも体が動かない、戦えない・・・!
「・・・・・・どうしたんですか?来ないなら、こちらから行きます!」
「ひっ・・・!」

スピリットは、その大きな槍で眼前を薙ぎ払う。
ヘリオンは反射のバックステップで、紙一重にそれをかわす。

「よくかわしましたね・・・」
その柔らかい、のんびりした口調までそっくりだった。
汗がだらだらと垂れてくる。【失望】を持つ手から力が抜けていく。
こんなスピリットを殺さなきゃいけないのか、初陣には最悪の相手だった。


「・・・!! ヘリオン!しっかりしろっ!」
「余所見するとは余裕だな、エトランジェ!」
「くっ!」
ヘリオンを助けようと、悠人は動こうとするが、眼前の敵に阻まれてしまう。
素早さと洗練された剣術がウリのブルースピリットが相手だけに悠人は苦戦していた。

「だめ・・・だめです・・・」
ヘリオンはすっかり戦意喪失していた。つかつかと、敵のスピリットが迫ってくる。
「よくわかりませんが・・・すいません、あなたの命、貰い受けます」
ヘリオンに止めを刺そうと、スピリットが神剣を振り上げたそのときだった。

りいいいぃぃぃん・・・!
いつもより一層強い干渉音がヘリオンを襲う。
『あなたをここで死なせるわけにはいきません!少し、体を借ります!』
切羽詰った【失望】の声。体を借りる。その意味が、ヘリオンには解らなかった。
次の瞬間・・・

「!!」
ふっ と、スピリットの視界からヘリオンの姿が消える。
背後に回られた、そう感じたときにはもう遅かった。
ドシュッ・・・
ヘリオンはその高速のステップで、背後ではなく、懐に飛び込む。
直後、瞬時に抜いたであろう【失望】が、スピリットの腹部を刺し貫いていた。
───そして、ヘリオンは我に返る。

「え・・・?」
何が起こったのだろうか、一瞬の時間を意識が飛び越えると、目の前には信じられない光景があった。
眼前まで迫った敵、血まみれの【失望】を握った自分、それを通して伝わってくるスピリットの体重。
だが、スピリットがマナの霧になった時、それは泡沫の出来事になった。

「そん・・・な、そんなぁ・・・」
茫然自失にして、金色のマナの霧に包まれるヘリオン。
そこにあったのは、自分がハリオンに似たスピリットを殺したという事実。
本当は殺せなかった、殺したくなかった。
殺してしまったら、自分からハリオンが離れていってしまう気がしたから。
・・・・・・ヘリオンは、その紫紺の瞳に涙を浮かべながら、ただ立ち尽くしているしかなかった。
485名無しさん@初回限定:2005/11/12(土) 21:27:47 ID:S6za3v+A0
支援射撃、よーいっ!

少しして、敵を倒した悠人が駆け寄ってきた。
「ヘリオン!大丈夫か!?」
呼びかけても、返事は無かった。
まるで人形になったかのように全身は固まり、一筋の涙が頬を伝う。

『契約者よ・・・この妖精は心が壊れかけている。助けたいのなら、すぐに宿に運べ』
「なんだって!?どういうことだよ、それ!」
『助けたいなら急げ。手遅れになっても良いのか?』
「!!」
何をすればいいのかまるでわかっているかのように、【求め】が呼びかけてくる。
仲間を失いたくなかった悠人は、その言葉に従うしかなかった。

「よいしょ・・・っと、アセリア!退くぞ!」
悠人はヘリオンの全身を抱き上げ、遥か先に居るアセリアに呼びかける。
アセリアが僅かに頷いたのを確認すると、悠人は宿屋に急いだ。


ばんっ!
勢いよく宿屋の扉が開かれる。それと同時に、仲間たちが目に入ってきた。

「! ユート様、それは!?」
「エスペリア!ヘリオンが・・・・・・!」
「すぐに部屋へ!」
エスペリアに促され、悠人は客室に飛び込む。
エスペリアがベッドの上の掛け布団をさっと取ると、そこにヘリオンを寝かす。
「一体、何があったんですか?」
「ああ、さっき敵襲があったんだ。それで・・・・・・」

悠人は自分の見て解ったことを説明した。
とはいっても、解っているのは、敵のグリーンスピリットを目にした瞬間から、混乱したということだけ。
何がなんだかさっぱりだった。

「そうですか・・・」
エスペリアは何か知っていそうだった。だが、なぜか言い出しにくそうだった。
「・・・・・・何か知っているのか?」
「いいえ・・・それより、ユート様」
「え?」

突然、エスペリアの顔が強張る。それは、出陣前に見た、エスペリアの冷たい顔だった。
「ヘリオンに関しては、最低限の治療はします・・・ですが、それでも再起不能になるなら、彼女はそこまでです」
「な、なんだよそれ・・・そんなの、酷くないか?」
「ユート様、私たちスピリットは戦いの道具です。必要以上に情を込めないでください。
 それは、時によっては致命傷になりかねますので・・・・・・では、私はこれで失礼します」
「お、おい!エスペリア!?」
エスペリアは無言のまま、部屋を出て行った。
488名無しさん@初回限定:2005/11/12(土) 21:30:45 ID:S6za3v+A0
当方に、支援の用意あり。
「くっ・・・」
悠人は隣のベッドに腰掛け、さっきから少しも動かないヘリオンを見ていた。
ヘリオンに外傷は見当たらない。原因は明らかに精神的な問題。
だが、悠人は他人の心を読めるわけではない。ヘリオンが応えてくれない以上、その場で見ているしかなかった。

こんこん。
部屋のドアが叩かれる。直後に入ってきたのは、神剣をしっかりを握り締めたハリオンだった。

「ハリオンか。どうした・・・?」
「ヘリオンを治してあげようと思いまして〜」
「え・・・」
悠人は自分の耳を疑った。だが、治ってくれるなら、それ以上望むものは無かった。
「私に、任せてください〜」
「大丈夫なのか?」
「心の傷には、心で治してあげるんですよ〜」
いや、そりゃそうだけど・・・声すら耳に届かないヘリオンにどうやって治療をするつもりなのか。
まさか、ハリオンが心を読めるわけでもないし。

「・・・・・・では、いきます〜」
ハリオンは【大樹】の刃先をヘリオンの体に押し当て、精神を統一する。
その姿は、いつもののんびりした様子からは感じられない荘厳なものだった。
ごくり、と悠人が固唾を飲んだその時・・・

ぼんやりと【大樹】が光り輝き、やがてその光は二人を包んだ。


─────いつとも、どこともわからない真っ暗な空間。
・・・そこにヘリオン、正確にはヘリオンの心が何をするでもなく、凪のようにたゆたっていた。

どうしてあんなことしてしまったんだろう。
どうしてころしあわなきゃいけないんだろう。
どうしてたたかわなきゃいけないんだろう。

あのスピリットを殺したのが、自分じゃなくて【失望】の強制力だってわかっている。
だが、自分と共に生まれでた自分だけの神剣。それはもはや『もう一人の自分』だった。
それだけに、【失望】がしたことは自分がしたこと、自分がしたことは【失望】がしたこと。
そういった公式が無意識のうちにできあがっているのだった。

考えても考えても、答えは見つからない。
単純であるかのようで実は難しい、疑問という闇の迷路の中で、ヘリオンは答えを模索する。
満足のいく答えが見つからないと、もう戦えない。ハリオンや悠人の助けにもなれない。

嫌だった。でも、答えは見つからなかった。葛藤の中で、無常にも時間は過ぎていく。


────どれくらいの時を過ごしたんだろうか。
もう疲れた。いっそ楽になってしまいたい。そういった極楽を求める欲求がヘリオンの心を支配する。
家族を、ハリオンを守りたい。一緒の理由で戦う悠人を助けたい。
『家』を離れたときに誓った決意は、闇の中に溶け込んでいた。
このまま心を閉ざせば、再生の剣に還る。戦わなくていいだけ、そっちのほうがいい。
そんなことを考えた、その時・・・
ぼんやりと、目の前に光が現れる。なんだか暖かそうな、緑色の光。
そんなもの見たこと無かった。でも、どうしてか懐かしかった。
そして、その光の中から現れたのは・・・

「ヘリオン〜!」
その人は、長いこと自分の傍に居た人。
暖かくて、優しくて、柔らかくて・・・なにより、自分のことを一番に考えてくれる人。
その人が、懐かしい、一番良く聞いた言葉を投げかけてくる。

「ハリオンさん?」
「帰りますよ〜?こんなところに居ちゃいけません!」
・・・・・・この暗闇はヘリオンのもの。そこにいて何がいけないというのか。

それよりも、帰る?
自分が一番信じているこの人は、自分をまた血に染めるというのか。
戦争という泥沼の中にまた放り込まれるというのか。
・・・また、大事な人が死ぬ瞬間の記憶<こと>を蘇させるというのか。

「い、いやですっ!」
「どうしてですか〜?」
「私、戦争をするってことが、あんなことだなんて思わなかったんです!
 私と同じ、ハリオンさんと同じ人を殺すことなんて、私にはできません!」
「・・・でも、そうしなきゃ、死んじゃうんですよ?」

「それでもいいですっ!私はもう戦いたくありません!」
492名無しさん@初回限定:2005/11/12(土) 21:35:15 ID:S6za3v+A0
マナの導きが、支援とともにありますように…。

ぱしいいぃぃん・・・
乾いた音が暗闇の中に響き渡る。
想いのこもったハリオンの平手打ちがヘリオンの心を目覚めさせる。
精神体であるはずなのに、その痛みはしっかりと伝わってきた。

「え・・・?」
「ヘリオン・・・あなたが今まで生きてきたのは何のためなんですか?
 どうして、戦いたくもないのに戦場に出るために訓練してきたんですか?」
「それは・・・」
「・・・お姉ちゃんのあの姿を、忘れたんですか?」
「!!」

本当なら思い出したくなかった。あんな光景二度と脳裏に浮かべたくなかった。
だが、ハリオンの一言で、あの時の事が鮮明に蘇ってくる。

「あの時・・・私たちは誓ったはずです。もう家族を失わせないって」
「そうです・・・私、決めたんです・・・ハリオンさんを助けるって・・・」

「「もう二度と、あんなことが起こらないように・・・」」

二人の言霊が同調する。その瞬間、目の前が明るくなったような気がした。
「ヘリオン、忘れないでくださいね。
 あなたは一人じゃないんですから。あなたの苦しみは、私も背負いますから・・・・・・」


闇が、晴れていく─────


─────二人を包んでいた光は、【大樹】へと戻っていった。
治療が終わったのだろうか、ハリオンは神剣をヘリオンから離し、その目をあける。

「・・・・・・終わったのか?ハリオン」
「はい、説得完了です〜」
「う、ん・・・う〜ん」
動くどころか、呻き声すら出すことが無かったヘリオンの声が聞こえる。
そして、光の戻ったその瞳には、ヘリオンの良く知っている二人が映った。

「・・・ハリオンさん、ユート様・・・」
「大丈夫か?」
「私たちを心配させるなんて、めっめっですよ〜?」

「ごめんなさい・・・ごめんなさいぃぃ・・・ふ、ふええぇぇ〜ん!」
ヘリオンは大泣きしながら必死に謝りだす。
ハリオンが、ヘリオンの心に何をしたのかは悠人にはわからなかったが、
その謝罪の念と、大粒の涙は、深い本心から来ているものだとわかる。

本気で泣きじゃくるヘリオンと、それをよしよしとなだめるハリオン。
悠人は、ヘリオンが泣き止むまで、ずっとそれを眺めていた。


─────翌日。悠人はヘリオンとハリオンの部屋を訪れていた。

「・・・で、無理そうなの?」
「は、はい・・・神剣の声が聞こえなくなっちゃったんです・・・」
ヘリオンは困惑していた。せっかく戦う意思を取り戻したのに、戦えなくなってしまった。
今までは毎日のように聞こえていた。聞こえなくなったことなんて無かったのに。
あの戦いの時の声を最後に全く聞こえなくなり、ハイロゥや力も一切使えなくなっていた。

「おいバカ剣、どうなってるんだ?」
『・・・わからぬな。我も【失望】の気配すら感じることができぬ』
「どういうことだよ、それ・・・」
『わからぬ、と言っているだろう。何かがきっかけでこうなったとしか言えぬ』
「きっかけ、か・・・」
それはおそらく、昨日のあの悪夢のような戦い。
ヘリオンが心を失いかけたときからそうなったとしか言えなかった。

「とにかく、無理なんですね〜?」
横からハリオンが困ったような顔で確認する。
「そうだな・・・・・・仕方ない。ハリオン、ヘリオンを連れてラキオスに戻ってくれ」

「そ、そんなぁ!ユート様!」
「だめだ、今戦場に居たら死ぬだけだ。元に戻るまで本国に居たほうが安全だ」
「う、うぅ・・・」
「ヘリオン、我慢してください。逸る気持ちはわかりますけど、今死ぬわけにはいきません!」
「わ、わかりましたぁ・・・」
ヘリオンはしぶしぶ承知してくれた。
流石お姉さん肌のハリオン。しっかりと説得してくれる。正直ありがたい。

こうして、二人は悠人たちに見送られ、エルスサーオの街を後にしたのだった。


─────二日後、二人は一つの通知を受けていた。
どうやら、悠人たちがリーザリオを経由してリモドアを制圧。
バーンライト攻略の足がかりを得たらしい。

「あらあら〜、みなさん、がんばってるんですね〜」
「はい!よかったです」
「この分なら、今回の戦いはこちらが有利に事を進められそうですね〜」
「でも、ユート様たちが頑張っているのに、私・・・」

神剣の声が聞こえなくなり、戦えなくなってから、ヘリオンはそんなことばかり考えていた。
ハリオンや悠人の役に立ちたいって想いは強いのに、役に立てない。
おまけに国に戻ってからは、国王から役立たずの烙印を押される始末。ふんだりけったりだった。

「まあ、そのうち聞こえるようになりますよ〜」
ハリオンは慰めてくれるが、一体何処からそんな楽観的な判断ができるのか。
気休めかどうか解らないのがさらに厄介だった。

「さ、今日も訓練しますよ」
「は、はいぃ・・・」
神剣の力は使えないものの、神剣自体は使えるので、
剣術などを学ぶという意味でも、ヘリオンは訓練には参加していた。
戦いに近いところに身をおけば、神剣も応えてくれる。それがハリオンの楽観の根拠だった。

─────訓練所で、二人は訓練を始める。
とはいえ、さすがにヘリオンとハリオンを戦わせるわけにはいかないので、
まずは、二人そろって素振りを始める。

【失望】を鞘から引き抜き、両手で上段に構えて、縦に振り下ろし続ける。
だが、神剣の力が使えない以上、使い慣れた【失望】も、いまはただの重い刀。
本来はいたいけな少女が扱えるはずの無い代物。あっと言う間に息が上がってしまう。

「はぁ・・・はぁ・・・!」
「ヘリオン、大丈夫ですか?」
「はぁ、は、はい・・・」
「少し、休みましょうか〜」
「い、いえ!まだがんばります!」
「だめです〜!何事も一朝一夕にはなりません。少しずつ頑張るのが大事なんですよ?」
「はうぅ〜」

二人はその場で休憩を取る。
少し呼吸が落ち着いてきたとき、ヘリオンの視線の先に二つの人影があった。
「あ、あの人たちは・・・?」
二人の前に現れた人影、それはスピリットのものだった。

一人は、青い髪のポニーテールのブルースピリット。
第一印象としては、ネリーの大人版で、ヒミカよりも堅そう、といったイメージがあった。
もう一人は、長い髪のレッドスピリット。
そちらはあまり多くを語ろうとはせず、付き合いがよさそうにも見えなかった。
498名無しさん@初回限定:2005/11/12(土) 21:39:38 ID:S6za3v+A0
マナよ、支援となりて書き手に加護を。

見るからに堅そうな二人が話しかけてくる。
「もう、息が上がったの?だらしないのね」
ブルースピリットの方が、眉間に皺を寄せて、喧嘩腰な発言をしてくる。
ワケありとはいえ、さすがにこれにはヘリオンも腹が立った。

「な、何言ってるんですか!私だって、やるときはやるんですよ!?」
「・・・そう?じゃあ、証明して見せなさい」
そのブルースピリットは冷静にそう答えると、腰の鞘からすらり、と神剣を引き抜き、
ちき、と音を鳴らしてこちらに刃先を向けてきた。
・・・・・・その構えには、一分の隙も見出すことができない。
おまけに、今こちらは神剣の力を使えない。
明らかに熟練した相手に、この状態でかかっていくことは自殺行為だった。

「く、ううぅ・・・」
「どうしたの?かかってこないの?それなら、こちらから・・・」
「セリア。やめてください」
痺れを切らしそうになった、セリアというスピリットを止めたのは、後ろに居たレッドスピリットだった。

「彼女は今、神剣の力を使えないようです」
「神剣を使えないですって?それで、さっきから気配を感じなかったのね・・・」
「はい、神剣を使えないスピリットというのは、前代未聞です」
「本当。珍しい子もいたものね・・・」

さっきからヘリオンをバカにしたような発言を繰り返す二人。
黙って一部始終を聞いていたハリオンがすっと立ち上がる。
「もう!さっきからヘリオンをバカにして〜!あなたたちは何なんですか!?」
ぷんぷんと怒りに顔を紅潮させるハリオンに対し、二人は至って冷静だった。
「そういえば、自己紹介がまだです」
「・・・そうね、これから付き合うんですものね」

殺伐とした空気の中で、自己紹介が始まった。
「私はセリア・ブルースピリット。【熱病】のセリアよ」
「ナナルゥ・レッドスピリット。【消沈】のナナルゥです」
続いて、ヘリオンとハリオンも自己紹介をした。
察するに、この二人は、最近新しくラキオスのスピリット隊に入ったのだろう。
それにしても、よりによってこんなに付き合い難そうなのが入ってくるとは。
気軽に話しかけられるネリーたちとは大違いだった。

「それより、さっきから何なんですか!?」
「いいえ、あまりにも基本的な訓練をして疲れてるようだから、喝を入れてあげようかと思って」
「こ、これには訳が・・・」
「訳なんてどうでもいいの。それで戦ったら死ぬだけよ?それでもいいの?」
「わ、私だって死にたくありません!ですから、少しずつでも訓練するんです!」
「・・・そう、せいぜい足を引っ張らないように頑張ることね」
「セリア。そろそろ行きましょう」
ナナルゥが声をかけると、セリアは振り向いて頷いた。

「どちらに、向かわれるんですか〜?」
「バーンライト軍が山道を越え、ラセリオに向かっているという情報が入りました。
 敵を迎撃するために、補充人員として私たちがスピリット隊に急遽配属することになり、ラセリオに向かうのです」
ナナルゥは事細かに説明する。
その一字一句に、決して舌をかむことが無い様子から、その冷静さは計り知れない。

「ナナルゥ、早く行きましょう。本隊が待ちわびているわ」
「はい。では、私たちはこれで」
二人は踵を返すと、すたすたとその場を去っていった。
ヘリオンとハリオンは戦いには行かない。ただ無抵抗に留守番しているしかなかった。

セリアの言うことは正しい。
おそらく真面目すぎて融通が聞かない性格なのだろうが、あまりにもヘリオンにはきつかった。
神剣が使えない、それはスピリットにとって存在意義をなくしたようなもの。
認めざるを得なかった。だからこそ神剣の声が戻るまで頑張ろうって決めていたのに。

「・・・ヘリオン、気にしちゃあ駄目ですよ〜?」
「はい、わかってます・・・」
「さ、訓練を再開しましょう〜」
「はい!いつか、あっと言わせてやるんですから!」
「ふふ、その意気です〜」

あの時取り戻したヘリオンの心意気は、簡単なことでは折れはしなかった。
・・・・・・が、その一時間後、完全にグロッキーになって館に運び込まれたのは、言うまでもない話なのだった。


─────それからさらに、十日ほどの月日が過ぎた。
未だにヘリオンの神剣は復活する兆しも無く、ただ徒に訓練を続ける日々を送っていた。
戦況はというと、悠人率いるスピリット隊はバーンライトを陥落、続いてその足でダーツィをも陥したという。
トントン拍子で快方に進む戦況。
そんな中で、悠人たちにはさらにイースペリアの救援に向かったという情報が入った。
さすがにそこまで連戦をしては、苦戦を強いられるのではないだろうか。
だが、戦いに赴くことができないハリオンとヘリオンは、指をくわえて見守っているしかなかった。

「はぁ・・・ユート様は大丈夫でしょうか・・・?」
「大丈夫ですよ〜、ユート様なら、きっと帰ってきてくれますから〜」
「【失望】・・・どうしちゃったんですか?答えてくださいよぅ・・・」
その呼びかけに答える声は無かった。
まるですっぽりと抜け落ちたかのように、心も空っぽになっていく。
今のヘリオンにあるのは、悔しさと、怒りと、寂しさ。
日を重ねるにつれ、寂しさがどんどん積もっていく。今は【失望】の声が懐かしかった。

「さ、ヘリオン。今日も訓練しましょう〜」
「あ、はい!」
さてさて、神剣の力が使えず、自分の力だけで訓練しているヘリオン。
本来の力だけを使って訓練していただけに、基礎体力はどんどん上がっていった。
今では、【失望】を振り回しただけでは疲れないまでになっている。

503名無しさん@初回限定:2005/11/12(土) 21:45:52 ID:S6za3v+A0
先制支援、いきます。
二人が訓練所につくと、そこには先客が居た。
グリーンスピリットの少女と、仮面をつけたブラックスピリットのようだ。
少女のほうはともかく、仮面のスピリットの方は、見るからに手を抜いて訓練していた。
それは、二人の間に、明らかな腕の差があることを意味している。
さっそく、ヘリオンとハリオンはその二人に声をかけてみることにした。

「こ、こんにちは!」
「こんにちは〜」
声をかけると、二人は剣を下ろし、こちらに振り向いてきた。
「こんにちは」
「・・・・・・」
仮面のスピリットは艶やかな声で挨拶を返してきたが、少女のほうは黙ったままだった。
「・・・?どうしたんですか〜?」
「こら、ニム。だめですよ?ちゃんと挨拶しないと」
「・・・こんにちは」
仮面のスピリットが少女に注意を促すと、少女は蚊の鳴くような声で挨拶を返した。

ヘリオンとハリオンは自己紹介をすると、その二人も自己紹介をする。
「私はファーレーン。【月光】のファーレーンです」
「・・・ニムントール」
「あれ?でもさっきニムって・・・」
ヘリオンが疑問符を頭に浮かべると、ニムントールは顔を真っ赤にして怒り出す。
「ニムって言うな!」
「はうっ!あわわ、わかりました!」
その迫力に押され、思わず承認してしまうヘリオン。その様子を、ハリオンは平和そうに眺めていた。
「あらあら〜、恥ずかしがり屋さんなんですね〜」
「ちがうっ!お姉ちゃん以外にはニムって呼ばれたくないだけ!」
「お姉ちゃんって、ファーレーンさんですか?」
視線をファーレーンに向けると、その仮面の下の口を動かし始める。
「ええ、そうなんです。私にとってニムは妹みたいなものですし、ニムにとっても私は姉のようなものなのです
 ですから、ニムを守るために、こうして心身を鍛え、戦いに望むのです」
「そ、そうなんですか!」
なんと、このファーレーンが戦っている理由も、自分たちと同じ、大事な人を守るため。
それだけに、ヘリオンとハリオンは妙に親近感を持った。

「ところで、あなたたちは名前が良く似ていますが、もしかして・・・?」
「はい〜、育ったところが一緒なんです〜。ですから、
 私にとってヘリオンは妹みたいなものですし、ヘリオンにとっても私は姉みたいなものなんです〜」

「なんだか私たち、よく似てますね!」
ヘリオンとハリオンは少し嬉しかった。自分たちに良く似た人を見ると嬉しくなるものだが、
ここまで姉妹のような関係や戦う理由が似ていると、まるで親戚のように思えてくる。
・・・が、ただ一人、それを認めようとしなかった。

「バカじゃないの?似てるわけ無いじゃん」
「はううっ!?ば、バカあぁ〜〜!?」
ヘリオンの頭の中でガーンという音と共に バ カ の二文字が駆け巡る。
「こらっ!ニム、なんてこと言うの!謝りなさい!」
「もういいよ。今日はもう帰ろう、お姉ちゃん。先行ってるから!」
そう言うと、ニムントールは走って去っていってしまった。
「・・・ごめんなさい。普段はあんな子じゃないんですけど・・・」
「だ、大丈夫です、もう、気にしてませんから・・・あはは」
「ふふふ、かわいい妹さんじゃないですか〜。やんちゃなのは、いいことですよ〜?」
申し訳なさそうな目をして謝るファーレーンをハリオンはフォローする。
さすが、訓練の無いときはヘリオンと街に出て、子供たちを相手にしているだけはある。
こういう素直じゃない子に対しても慣れていた。

「では、ニムが待っていますので、私もこれで失礼します」
「はい!また会いましょう」
軽く会釈すると、ファーレーンは上品な足取りでその場を去っていった。
「じゃあ、私たちも訓練しましょう〜」
「は、はい!」

訓練を始める二人。ハリオンは、ヘリオンの剣の上達振りには驚いていた。
それだけ、やる気があるということだ。・・・・・・後の問題は神剣だけ。
そのうち声が戻ることを信じ、今日もヘリオンは【失望】を振り続けるのだった。


507名無しさん@初回限定:2005/11/12(土) 21:50:01 ID:S6za3v+A0
ただ、この一刀に支援を乗せて…突っ込むのみ。
─────二日後、イースペリアがエーテル変換施設の暴走によりマナ消失が発生し、壊滅。
その日の夕方、悠人たちが帰ってくるという。
14日ぶりに悠人に会える。ヘリオンとハリオンの心は喜びに染まった。
なによりも、生死の境目である戦場から生還してくれたことが、一番の喜びだった。

ヘリオンとハリオンは町の南端まで行き、悠人たちを待つことにする。
少しして、ニムントールとファーレーンも付き合ってくれるというので、一緒に行くことにした。
ニムントールは面倒くさがっていたが、ファーレーンには逆らえないらしい。しぶしぶと付き合ってくれた。


そして、時は夕方。
地平線の果てに陽が沈みかけるころ、南向きの街道から、沢山の人影が見えてきた。
見間違えるはずも無い、9人の人影。それは悠人たちスピリット隊だった。
悠人目掛けて、ヘリオンは走り出す。喜びと夕日の色に、その顔を染めながら。

「ユート様ぁ〜!!」
「ヘリオン!」
「よ、よかったぁ・・・生きていてくださったんですね!」
「はは、そう簡単には死ねないさ。大事な人を助けるまでは、ね」
悠人はそう言ってヘリオンの頭をくしゃくしゃと撫でる。
その手から伝わってくる温もりは、確かに生きている者の証だった。
「本当に、よかったですね〜ユート様♪」
「ユート様、お帰りなさいませ」
「ユート、よく生きてたね」
と、ヘリオンの後ろへハリオンとファーレーン、ニムントールがやってくる。
三人とも、悠人が帰還したことによる喜びを浮かべているのがわかる。ニムントールは微妙だが。

「さ、いつまでもここにいちゃ風邪引くからな、帰ろうぜ?」
「は、はい!帰りましょう!」
こうして、スピリット隊の全員がそろった。
ヘリオンは唯一人コンプレックスを抱えていたが、このときはそれを忘れ、生還を祝ったのだった。


─────翌日、スピリット隊のメンバー全員にある通知が来た。
それは、近日中にサルドバルトとの決戦になるということ。
しかも、元々の情報よりも敵の戦力があるらしく、スピリット隊の強化が必要とされた。
訓練を行って個人個人の強化はもとより、早急にヘリオンを戦線復帰させることが悠人に言い渡された。

・・・・・・そこで、さっそく悠人はヘリオンの元に向かう。
神剣がもし眠っているとするなら、いい方法がある。それを実践しようとしていた。

「で、やっぱりまだ聞こえてないんだな・・・」
「は、はいぃ・・・」
「まあ、それでも訓練はしっかりやってたんだから、偉いとは思うぞ」
「そ、そうですか?でも、戦えなかったら、意味ないです・・・」
「そこでだ、神剣を蘇らせる方法を思いついたんだ」
「へ!?」

神剣が蘇る・・・そうすれば、戦える。ハリオンや悠人の助けになることができる。
それがどんな方法であれ、ヘリオンにとっては願っても無いことだった。

「そ、それって、一体?」
「・・・コイツを使う」
そのコイツとは、悠人の腰にぶら下がっている神剣【求め】。
神剣の問題には、神剣をぶつける。それも、なるべく位の高い神剣を。
第九位の神剣に対して、第四位の神剣。
【求め】の精神が【失望】の中にもぐり、【失望】の精神を探し、たたき起こしてくるという荒療治。
以前アセリアが悠人に対してやったあの方法の応用版だった。
「そ、それ・・・うまくいくんですか?」
「それはわからないけど・・・駄目で元々だ。やらないよりはいいと思うけどな」
やはり不安なのだろう。もしうまくいかなかったら、それこそ二度と【失望】を使えなくなる。
だが、可能性が在るなら、それに賭けなくてはならない。元々ヘリオンに選択肢はなかった。

「わ、わかりました!ユート様・・・お願いします!」

「よし・・・!じゃあ、神剣を構えてくれ」
「は、はい!」
ヘリオンは【失望】をすらりと引き抜き、正眼の構えを取る。
そして、悠人も【求め】を引き抜くと、【失望】にその刃を合わせた。

キイイイィィン・・・!
神剣を通して、ヘリオンの頭の中に干渉音が響き渡る。
だがそれは、未だかつて味わったことの無い強力な神剣の干渉音。
それだけに、かなりの負担がかかっていた。
「はうっ、ううう・・・!」
「(落ち着け!自分の音を、俺に合わせるんだ・・・)」
悠人の心の声が聞こえる。ヘリオンはその声に従い、感覚的に音を近づける・・・

『我は【失望】の中に入った。これから探す。精神を途切れさせるな・・・』
二人の脳裏に、【求め】の声が響く。二人は心でそれに答える。
「(ああ、頼むぞバカ剣)」
「(は、はい!お願いします!)」

『・・・ふむ、【失望】の精神体は見当たらぬな』
【求め】の精神体があたりを見渡す。何よりも今回の干渉は時間が無い。
第九位の神剣に第四位の精神が入っているのだから、あまり長く居ると神剣そのものがもたない。
ヘタをするとその持ち主のヘリオンや、自分の主の悠人にまで影響が出てしまう。急がなくては。

『・・・・・・む?なんだ?あの光は・・・』
果てしなく続く暗闇の中で見つけた一筋の光。
おそらく、その先に【失望】の精神がある。気配がある限りそれは確信に近かった。
【求め】はその光の道を辿る。・・・そして、その先に【失望】がいた。

『汝が【失望】か・・・』
『・・・・・・』
【失望】は黙ったままだった。【求め】は、気配の波長から【失望】が眠っていることを感じ取る。
仕方なく、【求め】は、自分のなけなしのマナを注ぎ込む。
『(全く、何故我がこのようなことを・・・ただでさえマナが足りないというのに)』
『う、ううん・・・』
ぴくり、と【失望】が反応する。
『目覚めたか、【失望】よ・・・』
『あなたは・・・【求め】!?なぜあなたなどが、私のような低位の剣に・・・』
『我が契約者の願いだ。それに、汝が主も、汝の帰りを待っている』
『ヘリオンが?・・・・・・そうでしたか。あの子には、ちゃんと謝っておかないといけませんね・・・』
『力のない神剣の癖に、体を借りるなどと無茶をするからだ。そのせいで、あの妖精も心を失いかけた』
『・・・すみません』
『我に謝っても仕方なかろう。我はもう帰る。たっぷりとあの妖精に叱ってもらうがいい』
『はい、ありがとうございました』
『例には及ばぬ。汝らが居なくては、我と契約者も困るのでな』
そう言って、【求め】は自らの精神を自分の神剣の元に返していった。
・・・・・・そして、【失望】も、自分のあるべきところへ戻っていった。ヘリオンの剣になるために。

キイイイィィン!
干渉音が響いた瞬間、二つの剣は弾かれ、その袂を分けた。
「戻ったか、バカ剣」
『うむ。【失望】は元に戻った。これであの妖精も戦えるはずだ』

りいいぃぃぃん・・・
「あ・・・ああっ・・・!!」
久しぶりに聞いた。もう何年も聞いていないような気になっていた。神剣の、忘れもしない【失望】の干渉音。
そして、安心できるような、もう一人の自分の声が響いてくる。
『お久しぶりです。今まで眠っていてごめんなさい。ヘリオン・・・』
「よ、よかった・・・やっと、戻ってくれました!【失望】・・・おかえりなさい!」
『ふふふ・・・ただいま、ヘリオン』

本当に良かった。
これで自分も戦うことができる。決して役立たずなんかじゃない。
ハリオンや悠人を助けることができる。あの時の誓いを果たすために、戦場に立てる・・・!

「【失望】、もういなくなっちゃったりしないでくださいね!私、寂しかったんですから・・・」
『ええ、本当にごめんなさい。戦えなくて、辛かったでしょう』
「はい・・・はい・・・!」
【失望】との再会。それはヘリオンにとって家族に会うようなもの。
何重もの感情をその小さな胸に秘めて、この日はずっと泣きじゃくるヘリオンだった。


513名無しさん@初回限定:2005/11/12(土) 21:55:25 ID:S6za3v+A0
支援の太刀っ!
─────数日後、ヘリオンを含む、悠人たちスピリット隊のメンバー全員が、サルドバルト城の外に居た。
サルドバルト軍は精鋭部隊を残し、篭城戦を行うつもりらしい。
この牙城を如何に落とすか、悠人たちはこの戦いにおける最後の作戦会議をしていた。

「・・・そこでだ、みんなの意見を聞きたい。そのほうが作戦を立てやすいからな」
「そうですね・・・レッドスピリットによる火計はどうでしょう?」
と、エスペリア。
戦略上は効果的なのだが、悠人はそれを許さなかった。
「いや、それは妨害される恐れがあるし、なにより関係ない人間を巻き込む。それはだめだ」
「ユート様、質問があります」
「どうした、セリア」
「ユート様は、敵味方共に被害を最小限に抑えて勝利すればいいとお思いですか?」
「まあ、そりゃそうだけど・・・」
「なら、いい方法があります」
なにやらセリアには奇策があるらしい。悠人はそれを聞くことにした。

「まず、なるべく素早くて、ウィングハイロゥを持つ者を三名指名してください」
「それなら・・・アセリア、ヘリオン、ファーレーン・・・・・・かな?」
考え付く限り、最速の組み合わせ。それにはセリアも納得した。
「その三名を別働隊として、南門へ移動させます。残りのメンバーは、北門から侵入して、敵部隊を引きつけます」
「あ、もしかして・・・」
「はい、北に敵を引きつけている間に、南から三名が強襲。サルドバルト王を確保し城内を制圧します」
「なるほど・・・それなら被害は少なくて済むな」
「しかし・・・南の部隊にとってもきつい戦いになるでしょう。大丈夫でしょうか・・・」
エスペリアは心配そうにその三人を見る。
しかし、彼らの目には勝利に向かうことに関してなんの曇りも無かった。
・・・・・・アセリアに関しては、何も考えていないだけなのだが。
「大丈夫だ。エスペリア、ユート、任せろ」
「は、はい!ゆ、ユート様、私、がんばります!」
「この任、必ずや成功させます!」
「よし、北の部隊が攻撃を開始するときにはオルファがファイアボールを打ち上げて合図する。
 南の部隊はその5分後に突入を開始してくれ。行動開始だ!」
こうして、北方五国統一戦の最終戦の火蓋が落とされた。


─────作戦開始。火の玉が空高く上がってから、5分後。
「み、みなさん!時間です!」
「ん、行こう!」
「はい!この戦いに勝利をもたらしましょう」
三人は一斉にウィングハイロゥを展開。最大戦速でサルドバルト城内に突入を開始した。

北の部隊が敵を引きつけているお陰で、城内にはスピリットの敵はほとんどいない。
・・・が、王座の間の前に来たところで、スピリットの近衛部隊に遭遇した。
敵は3人、一対一で戦える相手だったが、速効性の求められる作戦のため、こんなところで時間は食えない。
「!・・・全力で行きます!はあああぁぁぁーっ!!」
ヘリオンは自身の最速で特攻。それにあっけにとられたスピリットの懐にもぐりこみ、
神速の居合い抜きで敵の体を抉り、一瞬でマナの霧に帰した。
それにようやく反応できた残りの敵だったが、それが無限にも等しい隙を作っていた。
「そこ!やあああぁぁ!」
「遅い!はあっ!」
続いてアセリアとファーレーンがそれぞれ斬撃を叩き込み、一撃でマナの霧に敵の姿を変える。
もう、付近に神剣の気配は無い。あとはサルドバルト王を捕らえ、勝鬨を上げるだけだ。

王座の間の扉をアセリアの斬撃で破壊し、突入する。
そこには、怯えた顔のサルドバルト王と、その側近たちが居た。
「ひ、ひいぃ・・・」
「あ、抵抗しないでくださいね。殺しに来たわけじゃありませんから」
「な、何を言うか!あのラキオス王のことだ!捕らえられた私はその後に処刑されるに決まってる!」
「うるさい。黙れ」
「ひいいぃぃっ!」
アセリアがちき、と音を鳴らして【存在】の切っ先をサルドバルト王の鼻っ先に当てる。
「二人とも、ここはよろしくお願いします。私はテラスで勝鬨を上げてきますので」
「あ、はい!」
「ん、頼んだぞ」
ファーレーンはそう言うと、テラスに向かって飛んでいった。
「えっと、とりあえず拘束しておきますね。テラー!」
ヘリオンが魔法を唱えると、サルドバルト王とその側近たちを、無数の影の手が捕らえる。
「・・・もう好きにせい」

・・・・・・数分後、外から歓声が聞こえてきた。紛れも無く、勝利に喜び、士気をあげる自軍の声。
この瞬間、永遠戦争のほんの一部でしかない北方五国統一戦は幕を閉じたのだった。



─────そして、悠人たちスピリット隊は勝利の報せを持ってラキオスに凱旋。
彼らは、龍<ドラゴン>の同盟を一つにまとめた勇者たちとして、今までに無いような歓待を受けた。

ここは第二詰所。
第一詰所のメンバーはラキオス王に報告に行っている。
ここでは、今回の戦いの反省会が行われていた。
「そ、そんなにすごかったですか?」
「ええ、私が今まで見てきたスピリットの中でも抜きん出た早さです」
「今までの訓練が、功を奏したんですね〜♪」
ファーレーンは、あの時の戦いのヘリオンの動きについて、ハリオンに報告していた。
あの速さと動きは、並みのブラックスピリットではなかなか成し得ないものだという。
それについてハリオンはそう言うが、その通りだった。
基礎体力を向上させたことにより、神剣の力を使ったときの能力が今までの比ではなくなっていたのだ。

「そうなの?まあ、それなら足手まといにはならないわね」
「ええ、これからも頼りにさせてもらうわ、ヘリオン」
と、セリアとヒミカ。
地道な訓練と、部隊を勝利に導いた功績。それが認められ、信頼を得られたのだった。

「えへへ、ネリーも一緒に頑張るからね、ヘリオン」
「シアーも一緒にがんばる〜♪」
「よろしくおねがいします。ヘリオン」
と、ネリーにシアー、それからナナルゥ。
決して諦めなかったヘリオンの姿勢を三人は見習う。さらに強くなって、戦いに勝つために。
仲間たちから褒めに褒められ、ヘリオンは有頂天になっていると、ニムントールがつかつかとやってくる。
「な、なんですか?」
「・・・あのさ、私、ヘリオンなんかに負けないから。追い越すまで、死なないでよ」
「あ・・・はい!追い越す日を待っていますから。ニ・ム」
「くっ・・・ニムって言うな!!」
ニムントールが抗議した瞬間、第二詰所がどっと笑い声に包まれた。新しい家族たちの平和な一時。
これを失わないためにも、ヘリオンは更に強くなろうと決心したのだった。

「ふふふ、よかったですね〜、ヘリオン」
「はい!本当に良かったです!」
そう言って、ハリオンはヘリオンの頭を撫でる。
昔からの家族の手は、今日はいつもよりも暖かかった。そんな気がした。
それは、ハリオンの助けになるという目標を、少しでも噛締めることができた証だった。

─────こうして、第二詰所は一瞬でパーティー会場と化すのであった。



しかし、彼らはまだ知らなかった。
  新たなる敵がその頭角を現し始め、徐々に大陸中を巻き込む戦争の刻が迫っていることを。
     悠人、ヘリオン、ハリオン・・・三人の運命の歯車は加速する。巨大な陰謀の影をその歯に巻き込んで───

519名無しさん@初回限定:2005/11/12(土) 22:03:21 ID:S6za3v+A0
神剣よ、支援を撃て。
520くじら318号:2005/11/12(土) 22:04:10 ID:wXr4SOFy0
第U章は以上です。
支援してくださった方、ありがとうございました。

どうにも、ヤマ場が少なかっただけに難産でした。
そのくせにダラダラと長くなってしまい大反省。
第V章も頑張りますので、よろしくお願いします。

誤字脱字、ハリオンマジックなど、指摘がありましたらお願いします。
521名無しさん@初回限定:2005/11/12(土) 22:26:00 ID:S6za3v+A0
くじら318号さん、おつかれさまでした。
黙々と努力し続けるヘリオンが不思議と印象的でした。
それにしても、同じゲーム(というか物語)でも人によって受ける印象が違うもんですね。
くじらさんの書かれる話では、神剣が凄く生き生きと語りかけてくるのが特に印象に残ります。
私から見ると、永遠神剣はほとんどが「振るうほどに心を吸い取る魔剣」というイメージしかありません。
ともあれ、非常に楽しませていただきました。
第三章、お待ち申し上げております。
522名無しさん@初回限定:2005/11/12(土) 23:19:08 ID:VDM1ojhv0
>>520 くじらさん
お疲れ様でした。(支援をどりるさんに任せて風呂に行ってたのは内緒)
ぐぐっとヘリオンが強くなってきましたね
それにしてももう二章ですか…筆の速さには舌を巻くばかりです
神剣のライトサイド、いい感じです
なら私は被らないようにダークサイドを書きましょうかね…無理っぽいですけど
523名無しさん@初回限定:2005/11/12(土) 23:33:52 ID:+SxV2Sxf0
>>520 くじら318号さん
『大樹』はともかくやはり『求め』のいい奴っぷりに思わずニヤリとしてしまいました。
「ただでさえマナが足りないというのに」のくだりで魔が差したように、
眠っている『失望』に悪戯を……無理だw

あと、雑魚スピたちの初顔合わせがその時々であったのが新鮮でした。
守るべき家族になるものが徐々に増えていくように感じられて、
どのように付き合っていくのかがますます楽しみになっています。
524くじら318号:2005/11/12(土) 23:50:44 ID:wXr4SOFy0
>>521さん
確かに、本編中では
「低位の神剣は本能のみで行動している」みたいな設定があったんですけど、
【献身】がエスペリアの理解者であるように、
低位の神剣にも何らかの意思や自我があってもいいかなと思ったんですよ。
なまじ、本編中でサブスピの神剣が喋らないだけに、自由に性格付けができてしまうわけですね。
マナを吸い続ける魔剣であると共に、持ち主の最良のパートナーでもあると、そう感じてしまうわけです。

>>522さん
そのうち【求め】がダークサイドに入っちゃうかもw
第V章は流れ的にマロリガン戦ですから、【因果】や【空虚】に対して・・・って感じで。
まだ決まったわけじゃないですけどね。

>>523さん
確かに、第U章では【大樹】が一言も喋ってませんね・・・
うまくバランスとらなきゃなぁ・・・
悠人にとっての『みんな』の意味がどんどん広がっていくように、
あの二人にとっても『家族』の意味がどんどん広がっていくんですよ。
第V章以降ではその辺も視野に入れて書こうと思っています。
525名無しさん@初回限定:2005/11/12(土) 23:55:55 ID:R+Em2zco0
>>520
ウルカちっくに神剣の声が聞こえなくなってしまったヘリオン。
不貞腐れて篭ってたかと思いきや、力使い果たしてましたか『失望』さん。
というか、やけに親切な『求め』が不気味(汗 代償は一体なんなんでしょうか。
なげやりサルドバルト王。諦め早過ぎw アセリアの「うるさい。黙れ」 で爆笑。容赦ないなぁ。

>>475の「(ええ!?)」 が一瞬エスペリアさんの心の叫びに聞こえた私の心は汚れています、汚れているのです。

業務連絡:

えっと470KB越えました(トリガーまで後3KB程)ので、一応次スレ立つまで次のSSは容量と相談の上御願いします。
煽り文同時募集。
526煽り文案:2005/11/13(日) 00:25:52 ID:hMxHlPqP0
わたしはスピリットです。名前はまだありません。どこで生まれたかちっとも見当がつきません。
何でも薄暗い森のなかで神剣を抱えて泣いていた事だけは記憶しています。
わたしはここで初めて人間というものを見ました。しかも後で聞くとそれは
施設責任者という人間の中でもっとも恐ろしい種族であったそうです。
この施設責任者というのは必ず、わたしたちを捕まえては戦わせるという話です。
けれど、このときは何も考えがなかったから別に恐ろしいとも思いませんでした。
ただ、あの人に手を引かれて森を歩いたとき、何だかホカホカとした感じがあったばかりです。
繋いだ手にそって少し落ち着いてあの人の顔を見あげたのが人間の見始めだったのでしょう。
このとき、ちょっと不思議だと思ったのが今でも残っています。

あの人も、あの人たちも、決してわたしたちとは変わらない顔をしていたのですから。
いつか、それを当たり前とする人に会う日は来るのでしょうか……

永遠のアセリア&雑魚スピ分補充スレッド18
527とりあえずリサイクル:2005/11/13(日) 00:26:30 ID:pZnwZvMM0
やあ (`・ω・´)

ようこそ、「永遠のアセリア&雑魚スピ分補充スレッド 18」へ。
この過去ログ
ttp://etranger.s66.xrea.com/past/past1.htm
はサービスだから、まず読んでおいて欲しい。

うん、「過去」なんだ。済まない。
最初の一歩って言うしね、謝って許してもらおうとも思っていない。

でも、この過去ログを読んだとき、君は、きっと言葉では言い表せない
「心意気」みたいなものを感じてくれたと思う。
EXPANSIONやPS2版が当たり前と化し、スピたんに右往左往する中で、
そういう気持ちを忘れないで欲しい、そう思って過去ログを読んでもらったんだ。

じゃあ、我らが道を往こうか。
528名無しさん@初回限定:2005/11/13(日) 00:28:22 ID:pZnwZvMM0
うは、リロード…… orz
529名無しさん@初回限定:2005/11/13(日) 00:55:49 ID:8SRnWmOK0
>520
エスとヘリオン取り替えっこw 悠人、なんの逡巡もなくエスの決めたであろう組み合わせを覆しちゃうなんてダイタン&ドンカン。
どうやらこれが「最低限」に繋がるのでしょうか。ガクブル

セリアとナナルゥのふたりとヘリオンハリオンが初見の挨拶ってのは新鮮。セリア完全ツン状態。
アセリア……くーる(汗)
530次スレテンプレ 1/4:2005/11/13(日) 00:58:32 ID:pZnwZvMM0
わたしはスピリットです。名前はまだありません。どこで生まれたかちっとも見当がつきません。
何でも薄暗い森のなかで神剣を抱えて泣いていた事だけは記憶しています。
わたしはここで初めて人間というものを見ました。しかも後で聞くとそれは
施設責任者という人間の中でもっとも恐ろしい種族であったそうです。
この施設責任者というのは必ず、わたしたちを捕まえては戦わせるという話です。
けれど、このときは何も考えがなかったから別に恐ろしいとも思いませんでした。
ただ、あの人に手を引かれて森を歩いたとき、何だかホカホカとした感じがあったばかりです。
繋いだ手にそって少し落ち着いてあの人の顔を見あげたのが人間の見始めだったのでしょう。
このとき、ちょっと不思議だと思ったのが今でも残っています。

あの人も、あの人たちも、決してわたしたちとは変わらない顔をしていたのですから。
いつか、それを当たり前とする人に会う日は来るのでしょうか……

永遠のアセリア&雑魚スピ分補充スレッド 18


前スレ:永遠のアセリア&雑魚スピ分補充スレッド17
http://pie.bbspink.com/test/read.cgi/erog/1130515119/
発売元:Xuse公式サイト(『永遠のアセリア』は【本醸造】より)
http://www.xuse.co.jp/
外部板:雑魚スピスレ保管庫
http://etranger.s66.xrea.com/
外部板:雑魚スピスレ避難所@MiscSpirits
http://www.miscspirits.net/Aselia/refuge/
外部板:永遠のアセリア関連スレリンク集
http://etranger.s66.xrea.com/past.htm
531名無しさん@初回限定:2005/11/13(日) 00:59:46 ID:pZnwZvMM0
2/4〜4/4は >>3 >>4 >>5 ということで。

で、トリガ踏んでるので建てに行ってみます。
532名無しさん@初回限定:2005/11/13(日) 01:08:52 ID:pZnwZvMM0
連載、連載、連載。
第二ファンタズマゴリアをまわす巨獣の群れが、この地でまた動きはじめた。
スレッドが溢れ、人々は埋もれる。
代が進めば吹く風も変わる。
前スレも、現スレも、次スレも、未読に閉ざされて見えない。
だからこそ、尽きぬ情熱を求めて、褪せぬ萌えを信じて求めて。

次スレ「永遠のアセリア&雑魚スピ分補充スレッド 18」。
http://pie.bbspink.com/test/read.cgi/erog/1131811338/

変わらぬ萌えなどあるのか。
533名無しさん@初回限定:2005/11/15(火) 00:14:50 ID:n03PZ6lX0
とりあえず埋めなきゃな

スピたんって年内発売100%無理だと思っているんだが
たぶん2月上旬くらい?
534名無しさん@初回限定:2005/11/15(火) 12:29:36 ID:k7elavwz0
一周期くらい先ジャマイカ
・・・・E化して待ってみるか
535名無しさん@初回限定:2005/11/15(火) 22:12:01 ID:n03PZ6lX0
みんなおbsnになってる頃だな
536コタツリーグ開幕:2005/11/16(水) 17:10:42 ID:v7Vdm/NN0
レスティーナとの会談を終えた悠人は、ラキオス城内の入り口ホールでたくさんの紙束を抱えたエスペリアと行き会った。
「ど、どうしたんだエスペリア。この大荷物は?」
「あ、ユートさま。わたくしこれから更改交渉なんです。これはその為の物でして」
「あ、そうか、もう今日からなんだな」
悠人は思わず痛ましげにエスペリアを見やった。外国人(エトランジェ)であるユートは、既に長期の契約を結んでおり、今年は縁のないものなのだ。
『ラキオススピリッツ』のトップを切って緑組のレギュラーであるエスペリアが呼ばれたのは、今年の契約交渉に対する、
ある意味での試金石であり、他のチームメートにとっても大きな関心を寄せる物だった。
なんと言っても今年は、昨シーズンとはルールが大きく改正された為、エスペリア達緑スピにとってはとても辛い一年だったのだ。
そのため、どこの誰からも厳冬更改が予想されていた。

ユートは知っていた。可燃物だとか、マグネシウムリボンだとかの心ないヤジにも消える事の無かった微笑みを。
そして今も、絶える事なく自分に注がれている笑顔の裏の辛さを。

「大丈夫ですユートさま。わたくしは守って見せます。その為の昨年までの資料です。」
そして荷物を無理に片手に持ち替えると、力こぶを作る動作をした。それは蟷螂の斧のように儚さを感じさせるものに映ったのだが、悠人は何も言わなかった。
「……そっか。がんばれよ。ハリオン達のためにもさ」
「イス テスハーア。ウレーシェイスルス」
エスペリアは器用にお辞儀をすると、城の奥へと進んでいった。おそらくレスティーナ達経営陣との交渉会議室へと向かったのだろう。
悠人はその背中へ、そっと祈りを捧げた。おそらくエスペリアの意気込みは、ささやかな抵抗となって散ってしまうのだろう。
せめて、暖めてやんなくちゃな。そう思った悠人は、コタツってどこにしまったんだっけ、と呟きながら、冷え込んだ空気の中、家路を急ぐのだった。


ってことで、いわゆるストーブリーグねた。こんな感じで埋めてみないですか
537続・コタツリーグ開幕:2005/11/16(水) 20:33:10 ID:i/Ooyzdt0

「残念ですがエスペリア、来期の契約に関して、わたくしといえども交渉権は無いのです」

ばさばさ。
抱えた紙束を一斉に手落とす。あまりにあまりないきなりの結論に、エスペリアの口元はわなわなと震えた。
「な、ど、どうしてですか? それは確かに今期はちょっぴり燃え過ぎてしまったかも知れませんけど、そんないきなりっ!」
エプロンの端を握り締め、真っ白になってしまった手。揺れる白い髪飾り。ついでに漂白されていく思考。
対するレスティーナは一度気の毒そうにちらっとエスペリアの方を向いただけで、後は目線を合わせようともしない。
ぷいっ、とその端正な横顔に表情らしい表情も浮かべる事無くただ黙ってエスペリアの訴えを聞き続けている。
「……な、ならせめて第U、いいえ、第Vでも第W部隊でもかまいません! 御願いします、編成に加えて下さいっ!」
二人を挟む机越しに届く、悲痛なまでの叫び。じっと窓の外を眺めていたレスティーナがふぅ、と溜息交じりに呟く。
「ユートく……ユート、ですか?」
「な、そ、そんなんじゃ……わたくしはただ、グリーンスピリットの代表としてディフェンスにおける有効性を」
「まぁ聞いてくださいエスペリア」
さっと右手を上げただけで熱弁を振るい始めたエスペリアを抑え、レスティーナは続けた。
「それなのですが……実はハリオンとニムントールには既にオファーが来ているのです」
「え……そ、それはまさか」
「ええ、貴女も聞いた事位はあるでしょう。来期設立される新チーム――――『スピたん』の噂を」
「あ…………あ…………」
「彼女達は既にその為の冬季キャンプに入りました。他にも多数の引き抜きがあったようです。残ってるのは……」
そこまで話した後、レスティーナは窓の側に立ち遠い目で外を眺めた。常春の筈のラキオスに北風ぴゅーぴゅー吹いていた。
「元主力のわたくし達だけ。……でも安心して下さい、エトランジェ(外人)・ユートはこちらのチームに残留します」
「え? ほ、本当ですか?!」
「ええ。ですからエスペリア、後は貴女の判断次第。新チームはミュラーが率いています。彼女にも相談してみては?」
「は、はい。わかりました!」
妙にうきうきと部屋を出て行くエスペリア。彼女は悠人を取るのか、それともレギュラーを望むのか。

唐突に続く。
538名無しさん@初回限定:2005/11/16(水) 22:44:51 ID:v7Vdm/NN0
         , ヘ     
        〃 ' ^^ヾ     '´ ⌒ヽ,
        i ハ从从リ   .<」」」l」」ハ 
キタ━━━━ノノゞリ゚ ヮ゚从   <パ ヮ゚ く/ ━━━━━━!!!!!!!!!!!!
       彡 ⊂《 lT》 つ   .⊂ 《Tl 》 つ ミ
     ((   ⊂く/|_ノ ゞ    く/|_ノ ゞつ   ))
        ミ    ∪  ≡     U′  彡

一年遅れのスピ界再編。GJ! 信頼さん。サンクスです。
嗚呼エスペリアw まさかこう来るとはw いやしかし来期は悠人独占ですか。だがこれはタンパリン(イグニッション)
誰か繋いで(ぇ マロリガンライトニングスでも良いし。
539続々・コタツリーグ開幕:2005/11/17(木) 12:00:51 ID:nEEtiQoW0
 「ミュラー様、失礼いたします。ご在室でしょうか?」
 ミュラー・セフィスと書かれたプレートの部屋の扉を、エスペリアは静かに2回ノックした。
 目はギンギンに輝いているものの普段の優雅さは忘れない。それがエスペリアクオリティー。
 「鍵は開いているよ。入っておくれ」
 部屋の中から落ち着いた声が返ってくる。新チーム監督ミュラー・セフィス本人の声だ。
 エスペリアは深呼吸をして落ち着いた後、再び失礼しますと言って扉を開けた。
 「・・・・・これは」
 部屋の中には溢れんばかりに敷き詰められている色とりどりの祝儀用の花束と、『新監督おめでとう』などの垂れ幕があちこちにあった。
 このエスペリア、ちょっと嫉妬しましてよ。
 「で、何か用があってきたんじゃないかい?」
 「はい。実は来期新チームの『スピたん』について情報をお聞きしたく」
 「あー、残留するか移籍するかの相談だね」
 ミュラーは鋭い。エスペリアがここに来た意図をすぐに読み取った。
 新チームの拠点、スケジュール、メンバー構成などをミュラーは簡単に説明し、それをエスペリアは愛用のメモ帳に一言一句書き漏らさずに記入していく。
 メンバー構成を再び確認するとエスペリアは内心ほくそ笑んだ。
 髪を切ったサブスピリットや仮面をはずしたサブスピリットなど、所詮サブでしかない。
 (これならいけますわ!ここでなら私はトップに咲けます!)
 「最後にこいつがチーム『スピたん』のキャプテンだ」
 (これは!!)
 最後に紹介されたキャプテンのエーテル写真を見たエスペリアに衝撃が走った。流転100%を喰らった様な感覚である。
 そこに写っているエーテル写真には、いかにも気弱そうな弟資質満点の少年が写っていた。

 じゅるり

 「じゅるり!?」
 「いえ、何でもございません。おほほほほ。急用を思い出しましたので失礼いたしますわミュラー様」
 謎の擬音を聞いて驚いたミュラーを会心の笑みでかわしつつエスペリアは部屋を出た。

 エスペリアどこへ逝く。
 続きまくります。
540幕間 ラキオスポーツ:2005/11/17(木) 22:01:00 ID:264x3wGn0
ラキオスポーツ _/_/       スフの月 黒ふたつの日

**コタツリーグ情報**

セリア・Bは新チーム『スピたん』と初交渉。モチベーションを保つため年俸に倍する出来高を要求。判は押さず。次回交渉は未定。
なお球団側から申し出た「ツンデレ」報酬を拒否とのこと。交渉内で球場にセリアシートの設置を宣言。
全国の孤児院などから子供達を毎試合20人招待する...

エトランジェ・キョウコに暗雲? 再発した二股性神経炎症による股関節痛で来期の復活は微妙か。マロリガンライトニングスは、
穴埋めに奔走中。周囲はイライラが募り紫電を放つ彼女に怯え、近づく事さえ...

クォーリンFA宣言? マロリガンライトニングスの攻守の要クォーリン・Gは取材陣とのやり取りの中、意中をぽろり。
チームを愛するミス・マロリガンが、何故ここでFAなのか? キョウコの事もありライトニングスは戦々恐々。
コウインから後事を託されたと目される彼女の動向は俄然注目の的だが、表に出るのを嫌う彼女は...

ラキオススピリッツの至宝、エトランジェ・ユートにぁゃιぃ女性が急接近!? 美しい黒髪を靡かせる彼女はバルガ・ロアーの彼方、
最高峰のリーグである、エターナル・リーグのスカウトとの噂が有り、彼女自身特に否定はしていないのだ。しかも公私における親密振りまで公言。
元々噂の絶えないユート。一体...

――――んふ。
541幕間 ラキオスポーツ:2005/11/17(木) 22:04:11 ID:264x3wGn0
スピ球界でも人気の高い双子選手。ネリー・B&シアー・Bの、スピたんとの2回目交渉が昨日行われた。
ベンチ内にお菓子を置く事を了承させ、200%アップでサイン。左写真は満面の笑みでヨフアルを咥えながらポーズを取るふたり。
今期はそれぞれの特徴を...

彼女の名を冠したグッズであるスネ当てが、この手の物としては驚異的なヒットを飛ばしたニムントール・G選手。キャンプ地への移動が遅れに遅れ、
昨日ようやく到着した。身近な物の証言によると彼女の姉であるファーレーン・Bがラキオススピリッツの二軍寮から合流するのに時間が掛かった為とか。
ファンとしてはそろそろ姉離れが必要ではとの声もあるが、逆にそこが良いとの声もありファン心理とは...

――――んふふ。
右の三段抜き写真の可愛いい娘は、新しいユニフォームに身を包んだヘリオン・B選手。
この日のユニフォーム発表会にモデルとしてお呼ばれされ、フラッシュの嵐に思わずしゃがみ込んでしまう一幕も。
恥ずかしげにトレードマークのツインテールを振りまく彼女は新天地へ希望一杯胸一杯。彼女一人で集客力が5割は違うなどと言われるが実力の方も...

――――来た。来た。来た。ついに来たーーーーーー!! 俺の時代!!! この碧光陰。ついについに檜舞台へ立つ日が来たーーー!!!
ぐふ。ぐふふ。俺ってもしかしなくても、しゅ・じ・ん・こ・う? なんと甘美なる響きかー(´∀`)

黄金ルーキー誕生!! 新たなる船出となるチーム『スピたん』に脅威のルーキーがあらわれた。
監督ミュラー氏の後押しを受けて新チームの初代キャプテンを拝命したのは、なんとなんと紅顔の美少年ロティ選手。
まだ海の物とも山の物とも知れない実力は置いておいて、とりあえず監督の信頼だけはがっちり掴んだようだ。
女性ばかりの中色々とやりにくいだろうが先輩であるエトランジェ・コウインの指導のもと主人公として...

――――え。
542続・幕間 シニアリーグ:2005/11/17(木) 22:19:50 ID:4H3c85zu0

ア「ほらユーフィー、むやみに『悠久』を使って覗きをしてはだめだ」
ユ「え〜、でもお母さん見て見て、面白いんだよエスペリアおば」
ア「ん。それ以上言っちゃだめ。姉ちゃんフォースっていう怖い槍が飛んでくるから」
ユ「ん〜ん〜……ぷはぁ。凄いね、次元を超えて攻撃できるんだ。……でも燃え易いんだよね?」
ア「そうだな、ユーフィーは真似しちゃだめだぞ」
ユ「うんっ。でもでも、お父さんなんであんな所にいるの〜?」


オ「ウ、ウルカお姉ちゃん頭を上げてよぉ」
ウ「御願いしますオルファ殿、いえ母君。生活費の切り詰めも手前にはもう限界ゆえ、是非っ!」
オ「だ、だからもっと頭を上げて顎引いて、天壌無窮の構えを止めてぇ〜!!」
ウ「こうでしょうか? こうでしょうか? ふん、ふんっ!」
オ「ふぇ〜ん『再生』、壊れたウルカお姉ちゃんをもう一度ファンタズマゴリアに還してぇ〜!」


戦力外通知:倉橋時深殿(年齢制限)
543名無しさん@初回限定:2005/11/17(木) 22:22:29 ID:uVJEftoN0
ちょっと、これ面白すぎるんですけどw
ていうか黒髪の女性が激しく気になります。
544名無しさん@初回限定:2005/11/18(金) 00:45:14 ID:RcK50FhX0
赤い人たちが何してるか気になる
545名無しさん@初回限定:2005/11/19(土) 03:24:59 ID:mTkQSMU40
ヒミカ、キバヤシ化!?
546名無しさん@初回限定:2005/11/19(土) 08:54:44 ID:Z8EhqtgJ0
な、なんだってー
547冬季キャンプ〜思い込んだら:2005/11/20(日) 00:15:48 ID:uPrpTRzo0

「こ、ここが……『スピたん』キャンプ設営地ですか……」
ミュラーの部屋を飛び出したエスペリアは、そのまま一直線にラシード山脈を訪れていた。
急勾配の森の斜面を踏み越え踏み越え、三日三晩。昼は日射病にふらつき、夜は寒さに震え。
自らの気温変化に対しての弱さを改めて実感しながらようやく辿り着いた頃には『献身』がすっかり杖代わりになっていた。

「ええと……ありました。『指導教官・光陰』……え? コ、コーイン様……? ごくり」
柵で仕切られた広大な敷地。その入り口付近に心持ち疎外されているようなポジション取りの建物を見つける。
入り口につけられたプレートに、何故か感じる一抹の不安。ちょっぴり女の本能で警戒しつつ、唾を飲み込む。
「うう……ネリータンハァハァ……シアータンハァハァ……ニムントールタンハァハァ…………」
ぞわり。中から変な声が聞こえてきた。ハリネズミのように逆立ちする全身の毛穴という毛穴。
その場を立ち去りたい気持ちで一杯だったが、ミュラーに見せてもらった写真を思い出し、自らを奮い立たせる。
こんこん。ノックの音が意外に高い音を響かせた瞬間、エスペリアはもう心のどこかで後悔し始めていた。
「あの〜……コウイン、様? 失礼します」
返事が無いのでそっと扉を開き、覗きこむ。質素な木造の、いや、質素すぎる木造の、……山小屋? 投げやりな造り。
見慣れない、草を織り込んだような長方形のものが同じ大きさで床に敷き詰められて青臭い匂いがする。
その中央に、光陰はいた。大きな背中をこちらに向けてやや屈ませ、俯いたまま腰の間でしきりに両手を動かしている。
ぎし。思わず踏み出したエスペリアの足音に、肩当てがぎくり、と動いた。たらたらと擬音が聞こえてきそうな雰囲気。
「………………」
「あの……えっと」
ゆっくり振り向いた光陰の顔は、この上無い程、情けない表情。
捨てられた子猫のような……もとい、うっかりスキルにワールウィンドZを残してしまったような、そんなしまった感。
548冬季キャンプ〜思い込んだら:2005/11/20(日) 00:18:32 ID:uPrpTRzo0

「い、いやこれはだな」
縋るような態度に、エスペリアの母性本能が炸裂する。きゅん、と高鳴る胸。
何か物足りなく、うずうずし始める口元。先程の青臭い匂いも相まって、わきわきと勝手に動き出す指先。
「宜しければ……お手伝い」
殆ど反射的に『献身』しかけて、エスペリアははっと我に返った。
愛しのユートさま。それに、まだ見ぬ幼い幼(ry。いけない。わたくしは一体何を考えているの?
危なかった。わたくしの純潔は、是非ともお二人に捧げなければ。その為に、ここまで来たんだし。
などと既に汚れきっている性根を懸命に持ち直しつつ、エスペリアはこほん、と一つ咳払いをしつつ、
「お手伝いさせて下さい、新しいチームの。御願いします」
ぺこり、と丁寧にお辞儀をした。まだわたわたと“後始末”をしている光陰は見なかった事にして。

「……という訳でして、こちらでお世話になろうかと」
「なるほど、このチームになぁ……いや、有難いんだが、今現在エスペリアの枠は、ウチには無いんだ」
畳の上に用意された、「ちゃぶ台」。それを挟んで光陰とエスペリアは今後について話し合っていた。
胡坐を崩し、どこかそわそわした態度の光陰。まだ途中だったので仕方が無い、男の人って大変ですねとエスペリアは思った。
しかし、今は自分の話を聞いて貰わなければならない。ぐいっと正座のまま身を乗り出し、意識的に胸を強調した。
「でも、それでも参加したいんです! 御願いします、わたくしにはもう、コーイン様しか頼れる方がいないんですっ!」
「いや、しかしだな……おおお?」
そして野太い手をぎゅっと掴み、目で訴える。案の定、光陰は驚き、顔を背けた。かかった。この手で落ちなかった者はいない。
だが、エスペリアは知らなかった。光陰が、筋金入りのロの字だという事を。
たまたま通りかかった窓の外できゃいきゃい騒いでいるネリーとシアーに目を奪われていただけだという事を。
「まぁいいさ。でも、ウチの戦闘システムは無印とかとは全然違うけど、見事レギュラーの座を射止める事が出来るかな」
「は、はい! もちろんです。粉骨砕身、頑張りますっ!」
目を泳がせながら、それでも光陰は生返事を返してきた。知らぬが仏とはよく言ったものである。お互い。
549冬季キャンプ〜思い込んだら:2005/11/20(日) 00:20:26 ID:uPrpTRzo0

ネリー達が立ち去った後、ようやく正面を向いた光陰は、殆どノリだけで大きく頷き、
「よし、じゃあ特訓だな。実はこういう時、あっちの世界でのお約束があるんだ。ちょっと辛いけど……耐えられるか?」
「もちろんです! PS版で味わったイグニッションやアポUやサイレントU+ヘヴンズに比べれば何にでも耐えてみせますっ!」
「いや、そこまで酷くは無いんだが……あったあった、これだ」
ごそごそごそ。何やら奥にあった箱を探っていた光陰が、ごそっと差し出したもの。
「? ええっと……コーイン様、これは……」
「ふふふ聞いて驚け、これこそ幻の訓練具……大○ーガー養成ギプスだーーーーー!!!」
「ナ、ナンダッテーーー(AA略」
勢いだけで受けてしまうエスペリアだった。

こうしてエスペリアの秘密特訓が始まった。
「ほらほら、ヘバッてる暇は無いぞ! 次はエヒグゥ跳び20周だっっ!」
「コ、コーインさま、ですが……これが、その、あの、いろんなトコロに食い込んで……アンッ!」
「む、当初の目的とは異なっているようだが……試練には違いないし、まぁいいか。煩悩退散!くらえ、ちゃぶ台返し!」
「そ、それだけはコーイン様には言われたく……あうちっ! な、なんでこんな所にチャブダイが……」
夕暮れ時の森の中。少し開けた所にある、訓練所。
やや荒れたモノトーンな地面を、エスペリアは懸命に跳ねていた。紐で腰に結び付けられている古タイヤを引き摺りながら。
「エスペリア……頑張れ」
何故か設置されている一本の電信柱。その影で、アセリアがその光景を心配そうに見守っていた。アニメの見すぎだった。

イキナリ熱血スポ根に走っているエスペリア。果たして彼女は見事ダイリーグボール3号を完成させる事が出来るのか(違


唐突に続く。
550名無しさん@初回限定:2005/11/20(日) 01:03:40 ID:qf3Wq8qi0
うあ、ハライタスw
エスペリアがんばれ!
私は君を応援してるぞぉ
551名無しさん@初回限定:2005/11/20(日) 02:12:20 ID:fm3ZAi5P0
苦しくったって〜哀しく(ry あれがスピリットの星だ! 月に向かって打て!  ゼンゴガツナガッテナイヨコーチ
エスペリアの選択が正しい事を祈る。ところで第何号まで行けば自然の力を操れるようになるのでしょう>ダイガロリーグボール
アセリアはセリアにつき合ってキャンプ中w
552名無しさん@初回限定:2005/11/20(日) 03:42:29 ID:1S4sIaQ/0
…エスペリア姉さんの中の人がカンザキカナリさんなだけに違和感がゼロすぎ。
553名無しさん@初回限定:2005/11/20(日) 04:03:35 ID:sV4Ls2CV0
                 山折り
                  ↓

   ラキオス スポーツ   スフの月 黒いつつの日

新球団「スピたん」始動に暗雲 か?

当初、年内始動と発表されながらも、年内は無理だろうとの見方が大勢を占めていた
新球団「スピたん」であったが、昨日、球団フロントから始動が来年エハの月黒の週
に延期となることが発表された。球団では延期の理由について明らかにしていない。
本誌記者が、球団事務所から出て来たミュラー・セフィス監督に突撃インタビューを
試みたが、監督は黙して語らず、延期の真相を解き明かすことはできなかった。

                  ↑
                 山折り
554名無しさん@初回限定:2005/11/20(日) 04:05:55 ID:sV4Ls2CV0
その頃、ラキオススピリット隊第二詰所@第二ファンタズマゴリアでは―――

「はふぅ〜、やっぱり〜、コタツはいいですねぇ〜」
「うにぃ……」
早くも設営されたコタツでとろける緑スピたちの姿があった。
「だいたいなんでニムが『スピたん』なんか行かなきゃなんないのよ、面倒くさい。ニムはお姉ちゃんとコタツさえあればいいんだから、行くわけないじゃん」
酒も呑まずにぶーたれるニムントールであるが、コタツとファーレーンの膝のお蔭でその表情はとろけている。
「わたしはニムについて行きますよ」
そう言ってニムントールの喉をくすぐってやる姉バカなファーレーンはもちろん兜を被っている。
「わ、わたしだって、ユートさまの側を離れるなんて嫌ですよぅ〜〜〜っ」
わたわたと手を振り回すヘリオンは相変わらず悠人にベタボレである。
「ネリーはくーるならなんでもいーけどねー」
ネリーはネリーであった。
「トレードマークのこの髪を切るなんてとんでもない」
セリア……そこなのか?
「……トレードマークって言っても、ネリーも同じじゃん」
気だるげにツッコミを入れるニムントールをセリアがキッと睨む。ただでさえ寒いのにエーテルシンクな視線を向けられたものだからたまらない。ファーレーンの陰に回ってさらにコタツに潜り込むニムントール。
それを庇うようにしつつファーレーンは話を逸らす。アンチブルーなサポートスキル。
「それはそれとして、生活費をどうするか考えないといけませんね」
「だぁいじょおぶですよ〜。わたしも〜お菓子や〜パンを〜売りますしぃ〜、それに〜、ここは〜、第二ファンタズマゴリアですからぁ〜」
おっとりと応じたハリオンが顔を向けた先では―――

「……様へっと。じゃ、シアー、絵の方、お願いね。この娘はえーと……セリアーでよろしく。どっぎゃーんでめっぎゃーんな感じで」
「は〜い♪」
「ふぅ、なかなか終わらないわね。あとどれくらい残ってる?、♪るー」
「今のでちょうど半分ですね、☆ミカ」
ファンへの年始挨拶状作成に余念のないファイヤー☆ミカとスタッフの姿があった。
燃えよペン、吼えろペン、駆けろペン、飛べよペン。ファンクラブのみんなが待ってるぞ。
555ヒミカのキャンプリポート  3スイング目:2005/11/21(月) 02:32:00 ID:JXVAUP7F0
『皆さんこんにちは。ヒミカです。今日も空はイヤになるくらい澄んでいて、目が痛くなるほどの群青色です。
ちょっと寒暖の差が激しく、ラシード山脈から吹き下ろす乾いた風が辛いところですが、そんな中でも皆元気よ
く走り回っています。キャンプも2クール目に入り毎日くたくたになるまで練習しているためこの原稿も目をし
ばたたかせながら書いています。
 野手組は審判員の方達に入ってもらって昨日からシート打撃が始まりました。それぞれがそれぞれの思惑を持っ
て真摯に取り組んでいます。もっとも一部には問題がありまして、「今の高さだとぉ、胸が邪魔して振れません〜」
何を言ってんのこいつは! だからボールにして下さい〜、ってホントに頭が痛くなります。審判の皆さん無視
して結構ですからね。私からもきつく言っておきますから。
 ナナルゥの球場探査はようやく終わったようです。スクーリングとか言うらしいですけど、端から端までホン
トに丹念に調べてました。どうもそうしないと気が済まないようで。あくまでキャンプ地であって公式戦をやる
ワケじゃないんですけどね。ちなみにヘリオンがいっつもくっついていました。散歩ではないと思うのだけど(笑)
 今日の午前中はサイン会を行いました。全員でズラッと並んで、それぞれの前に並ぶ人の数は見事に凸凹。ハ
ハハ(乾いた笑い)。それで意外や意外、ニムの列がすごい。当然決まり文句「面倒くさい」。もう、ちゃんと
握手しなさいって。セリアは、ああ見えて営業スマイルがすごい。あ、私の前に並んだ人数は……聞かないで下
さい。書いた言葉は私の座右の銘「チームのため、仲間のため。なによりファンのため」です。ワンパターンで
すけど、これだけはこの世界に携わっている限り変わる事はありません。チームはちょっと立ち上げがごたつい
てますけどきっと素晴らしいチームになれると思います。それで、その……だからというのはなんですけど、皆
さん応援して下さい。。ファンの皆さんの後押しをお願いします。
556名無しさん@初回限定:2005/11/21(月) 02:34:53 ID:kJz8G8rs0
オバサン地上波にまで出しゃばり記念カキコ。
557名無しさん@初回限定
 そんなこんなで、予定していた連載が今回で満了となります。たったの三回だけでしたけど、こうやって皆さ
んの元に、つたない言葉ながら、想いを届けられるというのはとても不思議で楽しいものです。機会があったら
またやってみたいです。それでは皆さん開幕戦で会いましょう。あ、その前にオープン戦ですね。では、皆さん
と私たちにマナの導きがありますように。』

「ふぃー終わったぁー」
愛用の万年筆を転がして、ばたりと背中から倒れ込む。こんな事が出来るのもコタツの特権だ。やっぱりコタツを持ってきて正解だったと、
沈殿していく意識の中思った。あれ、でもこのコタツ、第二にあったのと違うような……。あ、原稿おくn……。

「ヒミカーお茶入りましたよ〜」
器用に足で襖! を開けて、お盆を抱えて入ってきたのはハリオンだ。
「あらあら。寝ちゃったんですね。昼間はしっかり練習してる上に、こんな仕事も抱えてたんですから仕方ありませんね〜」
コタツの天版にお盆を置いていそいそとヒミカの右手にちゃんと正座して入り込んだハリオンは、あらぬ方向へ落ちてしまいそうな万年筆の位置を直すと、
置かれたままの原稿に目を落とした。
「風邪ひきますよヒミカ。え〜これ送らないといけないんじゃありませんか〜?」
そういいながらつらつらと黙読するハリオン…………#。
「あらあら。ずいぶんな事書いてくれてますねえ。うふふ〜」
ハリオンは笑った。いやいつも笑顔だけれど。とにかく笑ったのだ。