____ ________ _______
|書き込む| 名前:| | E-mail(省略可): |sage |
 ̄ ̄ ̄ ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
,ィ
,べV //
ネリーみたいなくーるな女には / 〃  ̄ ヾ; / ./
sage進行がぴったりよね〜 ! i ミ(ノハソ / /./
!ik(i|゚ ヮ゚ハ<///
リ⊂}!廿i つベ/
く/Цレ'
し'ノ
あてんしょん
| ̄ ヽ
|」」 L.
|゚ -゚ノ| ……えっとこのスレに投稿したネタ(名前欄に題名を記入したもの)はね……
|とl)
,べV
/ 〃  ̄ ヾ;
! i ミ(ノハソ
!ik(i|゚ ヮ゚ハ 。・゚・⌒) 作者の意向が無い限り、
リ⊂! |T|!つ━ヽニニフ)) 問答無用で>>1の保管庫に収録されちゃうんだよ〜
く/|_|〉
(フフ
点呼のお題は
「初アセリアはなんだったか?」
無印アセリア
EX
PS2
ということでよろ↓
当然無印でしょ。スレの最初からいるもんね。
「1」ノシ
言うまでもなく、無印アセリアですがな。
「2」-!!
自分も無印です。
結局、全部しましたが・・・
無印の3人めー
>>1さんスレ立て乙です〜。
同じく無印からです。発売から半年後に始めたことが、
何だか早いような気がするほど広がるアセリア世界……
「5」ノシ
無印でっす
<6>っ!ノシ
もち、無印
ヘリオンと料理の特訓をして来ます
<7>
>1乙
無印から。今日PS2版買ってきたり。<8>
>1乙。
無印からのプレイヤー。EXは最後のおまけマップで挫折。
ちなみにPSはやっていません。 <9>
>1乙
無印から<10>
>>1乙ァーレン
無印良……いえ、なんでもないです <11>
>>1乙仔犬
顔グラがなくても、ヘリオンは容赦なく可愛いと思います。<13>
>1 おちゅ!
無印から、PS版は2週目で頓挫中。
で、ヘリオンは脱型ちゅ〜。<14>
無印からですねえ。
ところで、スピたんから入った場合はそれを初アセリアって言えるのでしょうか?<15>
<16>乙ウルカ
無印からやってますた。
22 :
名無しさん@初回限定:2005/10/10(月) 00:42:46 ID:KbJfBW3r0
乙アセリア
つい一週間前に無印を買った<17>
すまんageてしまった
>>1乙。
無印から入り、三種全てをフルコンプしているアセリア廃人です…
どんどん世界観が広がっていくのがいい感じ。
セリアのツンデレっぷりが大好きですw<18>
>>1乙
俺も無印
買ってから随分たつけど未だに全クリしてないな・・・
早くスパハード行こーっと<19>
>>1 乙。
当然の如く無印〈20〉。
PS2もコンプ。
そしてあまりのセリアのメインヒロインっぷりにやられたセリアスキー。
>>1乙
無印からやって、EXPもやったがPS2はまだ。
そのうちやろうかとは思うのだが・・・時間と金がない(つД`)
28 :
くじら318号:2005/10/10(月) 06:52:28 ID:XOkIdSHG0
>>1乙です
初アセリアはPS2 <22>
無印の存在はあるFLASH見て知ったけど
何処にも売ってない&当時ワタクシのPCボロい で挫折orz
今も何処にも無い(´・ω・`)
29 :
どりるあーむ:2005/10/10(月) 08:32:34 ID:DU7vH2z00
>1乙です。
PS2版のみで、パソコン版とかにはふれてないです。<23>
設定やら凄くツボだったんで漫画版とか出るの楽しみにしてたんですがorz
あと、クォーリンについて教えてくださった方々ありがとうございました。
これまで雑魚スピスレで語られたクォーリン像を以下に掲載。
・マロリガン最強のスピリット ・通称『深緑の稲妻』
・第六位『峻雷』の担い手 ・童顔
・巨乳(光陰の趣味から外れているためむしろコンプレックス)
・高身長(光陰の趣味ry) ・気真面目
・料理下手 ・セリアと仲良し
・光陰様激LOVE ・しかし奥手の為気付かれず(実はばればれ?)
・その他色々尽くすも報われず
そいやクォーリンとウルカの絡みのある話ってないよねえ、戦闘面でライバル視しててもよさそうな気がする
>>1 スレ立て乙〜
んで、当然のごとく無印。最初プレイした時はオープニングの長さにびびった。
サモドア制圧した時のシーンのCGが特に印象に残っている。
>30
まあ、彼女はコーインとの掛け合いがメインだからね。
クォーリンをあんまり中心に書きすぎるのもアレだし。
あ、そう言えば<24>〜
>>1 乙!
無印アセリアでふ
EXはプレイ済
PS2は買ったけどハードがないんで積んでる・・・orz
<26>
>>1乙
前スレはまだしも、前々スレがまだdat落ちしてないから、何とかした方がいいかも
<27>
無印<27>
>>29 追加項目
・CV:皆口裕子
どうもです。
稲妻部隊について、雑魚スピ保管庫で調べました。
抱いていたイメージと凄まじいズレがあったので大ショック。
で、以下は確認した情報と、私の血涙との辻褄合わせこじつけ捏造です。
間違い指摘、ダメ出しなぞよろしくお願いします。
クォーリン率いる稲妻部隊がこのスレで大切に育てられた存在と知ったので。
(血涙のイナリというキャラそのものを、あえて弱くて地味にしといて良かった)
以下は、判明もしくは確定している情報。
・隊長はエトランジェたる因果のコウイン。
・副隊長は深緑の稲妻と恐れられる峻雷のクォーリン・グリーンスピリット
・戦争終結後、稲妻部隊は大陸中を治安維持のために駆け回っている
・治安維持のかたわら、ファイヤー☆ミカというカリスマ恋愛同人小説家の作品の布教をしている
・布教する際はファイヤー☆ミカ・ファンクラブと名乗る。合言葉は世界制覇。
・稲妻部隊は光陰の教育の賜物で、自分の心に目覚めたという過去がある
・ただし、教育に用いられたのは恋愛小説が大半っていうかほぼ全部?
・隊員は例外なく光陰を慕っている、もしくは恩義を感じている。
・今日子にはロクな目にあわされた試しがないため、あまり良い感情を持っていない。
・ファイヤー☆ミカの正体は、ラキオススピリット隊と極めて深い関係があるくさすぎる
>・治安維持のかたわら、ファイヤー☆ミカというカリスマ恋愛同人小説家の作品の布教をしている
>・布教する際はファイヤー☆ミカ・ファンクラブと名乗る。合言葉は世界制覇。
>・ファイヤー☆ミカの正体は、ラキオススピリット隊と極めて深い関係があるくさすぎる
異論があるかもしれないが、
とりあえず上記3点はネタ的部分の解釈で良いんじゃねえか?
あのネタは嫌いじゃない、っていうかむしろあの話は好きなんだけど、
クォーリンの性格や位置付けの大枠に入れるのは
ほかの人の想像力狭めすぎない?
「そんな設定くだらねぇぜ。俺のクォーリンを読め!」
ぐらいの気概でやってくれても、問題ないと思う。
>>37続き
以下、私がイメージした血涙のイナリでの、「ほんとの稲妻部隊」との相違点。
・血涙では、色々あって隊長が3代目だが実際はクォーリンという存在が健在。
・というか、スピリット隊の隊長は光陰でありスピリットがつとめているわけではない
・どりるあーむ自身は光陰はマロリガンのスピリット「大隊」をまとめる立場だと勘違いしてた。
・稲妻部隊とは、いくつかあるマロリガンスピリット隊の一つの部隊であり最強精鋭部隊だと更に勘違い。
・もともとマロリガンのスピリット隊は一つだったが光陰が通常部隊とエリートの稲妻部隊にわけたと絶賛勘違い
・っていうかそもそも光陰はファンタズマゴリアのスピリット隊をまとめて全部指揮してるくさい
以下、なんとか無理やりにでも捏造もといこじつけが必要な部分
・ラキオスを含めてファンタズマゴリアのスピリットをまとめている光陰。
その彼がなんで稲妻部隊を含むマロリガンのスピリット隊の隊長におさまったのか
(取り合えず、これはある程度何故そこに至ったのかとそこから元に戻るイメージが浮かんでます)
・三代目隊長が恐れ多くもイナリだが、初代と二代目の隊長と光陰とクォーリンの関係は?
・そもそも戦争が終結してるのに最強の誉れ高き稲妻の隊長が3度も交代してるのは何ゆえ?
・っていうかマジな話、副隊長のクォーリンの存在はいったい何処へッ!?
私一人で捏造しまくるより、このスレの皆様の入れ知恵を拝借したい気持ちに満ちてます。
(っていうか、クォーリンという存在があまりにも完成されてるのでそーでないと恐れ多すぎるです)
現在、慎重に注意を払いつつ稲妻部隊ネタ第二弾を書いています…。
トリップつけたのは、何かマズった時に名指しで指摘叱咤罵倒していただけるようにと…。
いや、その気概は凄いが、もう少し落ち着いた方が……
設定議論じゃないんだし。ここに全部書かなくても良いでしょ。
うーん、クォーリンは初期の頃の勢いで受け入れられたキャラだからねえ。
これ以上稲妻部隊のメイン級キャラが増えるのはどうかと思う。
後、なんか非常に熱くなっているのはいいんだけど、冗談であるネタSSの設定部分と
そうでない部分は分けて考えた方がいいよ。
クォーリンの出ているSSの半分以上は、笑いとしてのオチキャラか脇役コーインの更に脇役と言う程度だしな。
マスコットに近いものがある。
流れをぶった切って悪いが
>>30 設定資料集に短編が載ってますよ〜。
なんか話が噛み合っていない気がしていたんで
さらっと保管庫眺めてきた。
んで、感じた事。
クォーリンって元々名があって、姿形がないキャラでしょ?
それを名があるからスレ的に取り上げやすく、
エトランジェ(光陰)と関連させる為
使われたキャラなのでは?
だからいろんな作者によってあれこれと設定が出来上がって
今に至るかのような・・・
稲妻部隊って部隊名があって姿形はないっしょ?
それをSSで取り上げた形にはなっているけど
形としては同一作者の「ファイヤー☆ミカ先生」がらみの
2作品で出ているだけだし・・・
まだ作り上げられている段階としかいえないのでは?
イメージを壊したくないのであれば・・・
クォーリンなら今までのSS読んでみて
方向性見定めて書けば大きな方向はずれないと思うし、
単に稲妻部隊として扱うんだったら
先にも出ていたけど、
「俺の稲妻部隊を読め!!」って気概で書いてもいいと思う。
まだそんなに定まるくらいの作品数があるとは思わないから。
あと、単純にネタ作品かどうかの判断じゃない?
同一人物つうか同一スピであるかはさておき、
ファイヤー☆ミカとStoryTellerHimikaは
明らかに方向違うからねえ。
自分なんか最初のスレからいる住人の所為か
前者は明らかにネタとして呼んでいたからなあ。
ssから読み取ったイメージで良いんじゃないか > クォーリン
よほど性格変えるとか、戦闘力上げたり特殊能力付加したりしなければ。
ただ、あんまり名前アリのオリキャラは使わんようにして欲しい。個人的に。
クォーたんも第二詰所の面々を食っちゃうほど派手にやってたら、たぶん受け入れられなかったと思われ。
オリキャラメインだったら、DreamElement辺りに投稿するのも手。
同じく話がずれている気がしますので、一応補足してみる。
>>40 「クォーリン」は実際に公式で存在するスピリットです。厳密にはこのスレで生まれたものではありません。
具体的にはゲーム中、たった一言光陰が「稲妻のクォーリンに〜」という台詞を言っており、
また、Xuseさんから出されているオフィシャル設定資料集にも、彼女のSSが掲載されています。
でも、裏を返せばそれだけ。
SSに「大地の祈り」を使うという描写がある、というだけでグリーンだと判断され、はしましたが、後はほぼ真っ白。
一方ここは「雑魚スピスレ」ですので、「雑魚」はほっとけない人達に満ち溢れています。
という訳で折りにつけ、各々があーでもないこーでもないと彼女を「補完」してきたのが経緯となります。
スレ2辺りが発端になりますが、そこから探るのはかなり辛いものになるので、
過去ログではスレ13、
http://etranger.s66.xrea.com/past/past13.htm/347-辺りが判り易いかも。
で、即死回避……はもう大丈夫そうなので、先制SS、行きます。
あてんしょん
このSSは、基本的にファーレーンonlyの補完です。
全五編、それぞれ十六章で完結します。今回は第三編です。
無駄に長いので、そういうのが嫌いな方は遠慮なくスルーお願い致します。
§〜聖ヨト暦332年レユエの月緑ふたつの日〜§
「本当は、お姉ちゃんが言わなきゃいけない事だったんだよ」
腰に手を当て、少し怒った風に諭す。
「お姉ちゃんが言うと思ってたのに、いつまでもメソメソしてただけじゃない。
だからニムが言ったの。それがニムの役目だから。そうでしょ?」
――――― 円舞 ―――――
クォーリンだって、半オフィ半オリどころか9割オリなんだろーけど、
ここまで一人歩きするようになったのは長い間下地つーか、共通認識作ってきたからだろうし。
オリキャラ全否定するわけじゃないけど、下地がないからなぁ…。
漏れもDreamElementを押す。
§〜聖ヨト暦331年アソクの月赤ひとつの日〜§
――――うふふふ……もうすぐですわ…………ようやく駒が揃ってきたようですわね…………
どこまでも昏い深遠の闇。楽しげな声が毀れた。
§〜聖ヨト暦331年エハの月黒よっつの日〜§
より強い敵の気配を追いかける。微弱になっていくそれが向かう方向。
踏み込む木の枝が撓る。反動で風を切り、流れる景色の中、森が左右に割れる。
第一詰所。確かに敵はそこに向かっている。鞘の中で『月光』が淡く告げていた。
「…………!」
正面に、認識した。こちらに背を向け、駆けている見慣れぬ後姿。3人。
周囲に味方の気配は無い。ファーレーンはきゅっと唇を噛み締め、覚悟した。
ウイングハイロゥを細く窄める。前に引っ張られるように加速していく体。
鞘を滑らす神剣が、音も立てずにその内の一人に斬り付けていた。
が、ぎぃぃん!
削れるような音で、避わされた初撃。それでも構わなかった。勢いを殺さず、前に出る。
驚くようにこちらを向く残りのスピリット。レッドスピリットの初動が遅い。
駆け抜けた勢いをそのままに、幹にめり込むほど強く大木を踏みしめた。
水平方向に流される体を無理矢理縮め、反発力を一気に開放する。ばさばさと舞い散る木の葉。
既に鞘に収めた『月光』。頭から敵の懐に潜り込む。伸び上がりざま、見上げた。
敵の胸に刻まれた三首蛇と、振りかぶろうとしたまま静止した神剣と。そして。
「こんな…………」
何も映していない瞳が発する、酷く無機質な気配。思わず背中にぞっとしたものが走る。
その予感は、正しかった。自分が鞘を抜いた後に動いた、もう一人のブルースピリット。
死角から飛び込んだ影が、一瞬後には『月光』を受け止め、刃の上にその神剣を滑らせていた。
――――――――
. .
陽動を終え、いよいよ本命に向けて森の中を駆けていたウルカは、先程からの違和感に首を傾げていた。
城を押さえていた部下達の気配が、一瞬にして消えうせたのだ。それは、まるで自然の理のように。
滑らかに、当たり前のように失った為か、一瞬それに気づかなかった程だった。
「あの、エトランジェ殿か……?」
一瞬そんな思いが浮かんだが、あのイースペリアでの出会い以来、それほどまでに急成長したとも考えにくい。
素養はあるとは感じているが、それもまだ将来のこと。今はまだ未熟の域を踏み越えてはいない。
……妖精部隊の精鋭を、造作も無く消滅させる。
大体そんな芸当が出来る存在を、ウルカは知らなかった。彼女の主である、『誓い』の持ち主以外には。
第一、エトランジェは先程から捕捉している。
真っ直ぐに“本命”に向かっている気配。このままでは先に到着される可能性があった。
「……足止めが、必要か」
呟き、丁度良い幹を見つけ、大きく反動を付ける。方向を転換しながら、漆黒の翼を羽ばたかせた。
――――――――
ざくり、という音が聴こえたのは、咄嗟に逸らした腕からだった。
「……あぅっ!」
口元から、悲鳴が漏れる。迸る血が深手を認めていた。逆胴に薙がれた肩口。
距離を稼ごうとバックステップしながら、敵の神剣に吸い込まれる金色のマナを感じる。
強い。先程から振るっているのは利き腕。手加減をしているつもりは全く無い。
ダラムで会った敵。あの時は不覚を取ったが、それでも「戦い」にはなった。
それが今回は、まるで通用していない。3人いるとはいえ、敵が速すぎる。
ファーレーンは兜の奥から流れる冷たい汗を感じながら、周囲の気配を油断無く探った。
「…………くくく」
背後で、忍び笑い。勢いを殺せない。諦め、体を捻る。そこにブラックスピリットが迫っていた。
「くっ!」
瞬間、地面を蹴り上げ、ウイングハイロゥを羽ばたかせる。同時に来た斬撃が、下方で唸った。
巻き上がる空気の渦。衝撃が遅れて来る。木々を越え、月が浮かぶ真っ暗な空へと逃げながら口を開く。
「神剣よ、我が求めに応えよ、この身を糧にして力とせよ……くぅっ!」
必死で紡ぐ高速詠唱。今使える、最大の神剣魔法。『月光』が、一気にマナを吸い込んでいく。
自分が消えていくような錯覚。使いたくは無かった、自らを糧にして自らを高める、諸刃の剣。
「マナよ、炎の槍となって敵を貫け……」
「マナよ、黒き衝撃となれ 彼の者に破壊の力を……」
同時に始まったのは、またもや知らぬ敵の詠唱。ダラムの時と同じだった。
ただ今回は、自分と同じブラックスピリットまでもがそれを準えていた。
振り向かなくてもレッドスピリットの神剣に火球が、ブラックスピリットの周囲に黒い霧が発生するのを感じる。
ブルースピリットが銀色に輝く神剣を翳しながら飛び上がろうとしている気配。
「ぐ、く…………ブラッド、ラストっ!!」
構わず、詠唱を完了した。とたん、湧き上がる殺意。闇の力が体を満たす。純粋な破壊の衝動が心に響く。
55 :
革命:2005/10/10(月) 20:25:26 ID:/YpJosVY0
支援!
――――――――
「……っ! みんな、気をつけろっ!」
第一詰所まであと僅か、という所で悠人は突然立ち止まり、叫んだ。
その視線の先、森の奥から浮かび上がる褐色の肌。赤い瞳。そして銀色の髪。
細身の剣を鞘に収め、やや伏せ目のまま、『漆黒の翼』がそこに居た。
「再び見(まみ)えることになるのも、また縁……」
静かな、それでいて力の篭められた抑揚が響き、神剣に纏わり付く黒いマナが蛇のようにうねる。
「……みんなは先にっ! ここは俺が抑えるっ!」
両手で握り締めた『求め』が、薄く光り出す。オーラを展開しつつ、悠人はもう一度叫んでいた。
時間が惜しい。しかし、この敵はそう簡単に通してはくれない。
ばらばらっ、と背後で駆け出す複数の足音を確認することも出来ず、悠人は正面の敵に対峙した。
追撃が出来ないのかしないのか。立ち去るのを黙殺した後、『漆黒の翼』は静かに呟く。
「ラキオスのユート殿、アセリア殿、手合わせ願おうか……手前はウルカ、『漆黒の翼』ウルカ」
そう言って漆黒の翼――ウルカは、ゆっくりと前傾姿勢を取った。
それだけで、身震いするほどの殺気。悠人はその自然な動きに、力の圧倒的な格差を感じた。
「…………全開でいくぞ、バカ剣」
集中し、目を細める。無言の『求め』から伝わってくる歓喜。
その刀身から溢れる青白いオーラを見て、ウルカが嬉しそうに呟く。
それはまるで、『求め』の心情を見透かしたような言葉。
「これほどの使い手たちと戦えることに感謝する…………参るっ!!」
――――――――
ファーレーンは異色の攻撃を同時に相手しなければならなかった。
「……フレイムレーザーッ!」
「ダークインパクトッ!!」
「我がフューリーを受けて……死ねっ!」
地上で詠唱を終えたレッドスピリットの神剣から、火球が迸る。
あまりにも膨大な熱量は放出する際に歪んだ形状として表れ、細長く槍のように直線的に飛来する。
一方のブラックスピリットが放ったのは、周囲から光を奪う、拡散された霧。
形成された魔法陣が黒光りの中でマナを蝕みながら、信じられないスピードで増殖する。
そして飛び込んできたブルースピリットの斬撃は、空気との摩擦で眩いばかりの残像を残して襲い掛かった。
「…………負けませんっ!」
どれも、見たことのない技だった。そして、どれも遥かに自分を凌ぐ、強大な力を感じた。
三方から迫る、死。絶対に思える絶命。それでも。
「わたしにだって…………戦う理由があるんですっ!!」
ファーレーンは、歯を食いしばりながら叫んでいた。
.. .. ..
規模の少し違う、アイアンメイデン。熱量の少し違う、ファイアボール。少し速いだけの、インパルスブロウ。
そう、思い込んだ。あらん限りの力で。意地に呼応して収縮したハイロゥが、シールドに変化する。
落下しながら、火の槍を防いだ。抵抗の少ないこの状態で、これだけはまともに受けるわけにはいかない。
鋭角的に弾いた衝撃で、体が揺れる。落下しながら、あらぬ方向を焼き尽くす炎の蛇の熱さを感じる。
がくん、と一瞬力が抜けた。霧に喰われたマナが、右足の感覚を奪っていた。
迫る地面。真正面に、逆さに迫るブルースピリット。浮いた体勢で、籠手を翳す。
微妙に角度を付け、再び展開したウイングハイロゥでその柄辺りを押さえた。
だが衝撃は、あきれ返る程だった。軌道を逸れ、なおかつ防がれてさえ、それでも全身を吹き飛ばされる。
離れざま、渾身の一撃を振り切った。が、それでも『月光』に手応えは無かった。
§〜聖ヨト暦331年エハの月黒よっつの日〜§
地下道を駆けながら、ニムントールは黙り込んでいるレスティーナに落ち着かなかった。
俯いたまま引かれるままに手を引っ張られ、躓きよろける姿には、普段の毅然とした様子が欠片も無い。
「……………………」
虚ろな瞳をどこか遠い所に飛ばし、茫然自失、といった雰囲気。
先程寝所に駆け込んだとき、その惨状には確かに目を見張った。王と、王妃が殺されていたのだ。
ただ感じたのは、任務が半ば失敗したという失望感。他には何も無い。
後は、ファーレーンの指示通り、レスティーナ皇女を守る。それだけに気持ちを切り換えた。
「…………もうすぐ、出口だよ」
だから、ニムントールには理解出来なかった。今のレスティーナの心境などは。
こくり、と僅かに頷く気配。ニムントールはこっそりと溜息を付いた。
上手く敵には遭遇せずに第一詰所に辿り着いた時、そこはまだひっそりとしていた。
「えっと地下室は…………」
扉に手を伸ばす。ノブを掴み、捻った時。
――――どおおおん……
中で、巨大な爆発音がした。
「なっ…………!」
咄嗟に皇女の身を庇うように背中を向ける。防衛本能からか、勝手に楯状に変化するハイロゥリング。
ばっ、と背後が急に明るくなった。館は、燃えていた。火の粉が舞い、ニムントールの周囲を照らした。
――――――――
当たらない。いかに攻撃力を増強しても、当たらなければ意味が無い。ファーレーンは唇を噛んだ。
その代償に失った右足とマナは、神経を削り身を喰らい、衝動だけを訴えかけてくる。
神剣本来の欲求。『月光』の干渉。激痛で意識が刈り取られる。
「か、は…………」
どん、と叩きつけられた大木から、背中に痛みが走った。ずるずるとその場に沈み込む。
詰まった息を無理矢理吐き出すと、赤い霧が細かく散った。
苦痛に耐えながら顔を上げた先。そこに、飛来する焔の熱が迫った。
「……!」
詠唱は、無かった。確かに避わしたファイヤーボール。それが何故、今頃になって――――
ファーレーンは、知らなかった。高位の神剣魔法の中には、連続して放てるものがあるという事を。
威力が小さいからといって、決して油断してはいけない、という事を。
それは皮肉にも、自分達ブラックスピリットが得意としている連撃が教えてくれていた事。
「…………ユート……さま…………」
一杯に広がる朱を前に、ファーレーンには最早、なす術が無かった。
――――あらあら〜。
覚悟を決め、目を閉じた瞬間、突然上空から落ちてくる声。同時に軌道を変えて消滅する脅威。
どこから現れたのか、巨大な緑の盾が神剣魔法を弾き飛ばしていた。
「大丈夫ですかぁ、ファーレーンさ〜ん?」
振り向き、ニッコリと微笑むハリオンがそこにいた。手にした『大樹』が陽炎のように揺らめいている。
穏かな口調とは裏腹に、目が笑っていない。敵に再び対峙した時、その後頭部に「♯」マークが浮いていた。
「ハ、ハリオン、あの、どうして…………」
「もおぅ、寄ってたかってファーレーンさんをいぢめて〜! めっ、めっですう〜!」
突然のことに事態を把握できず、目を丸くしているファーレーンの前で、『大樹』が唸りを上げる。
増援に、一瞬動きの止まった敵。再び殺到しかけたその足が、ハリオンの迫力にぴたりと止まった。
同時にひゅん、と風の切るような音が、ファーレーンの両脇から聴こえる。横から飛び出して来た二つの影。
「これで3対4だけど……卑怯なんて言わないわよね」
「手加減はしません……」
ルージュのマナを纏った『熱病』。紅蓮に燃える『赤光』。セリアとヒミカが怒りの口調で呟いていた。
60 :
革命:2005/10/10(月) 20:33:34 ID:/YpJosVY0
さらに支援!
――――――――
「…………ぐぅっ!」
初手、僅かに数合を交えただけで、悠人達は血塗れになっていた。
致命傷は避けている。それでも、あちこちに出来た斬り傷から、マナがどんどん抜けていく。
金色に舞うそれは、ゆっくりとウルカの神剣に吸い込まれ、その黒い輝きを闇の中に浮かび上がらせていた。
「ふ……手前が初手で決着をつけられぬとは。流石は名高きラキオスのスピリット」
まだ余裕のある口ぶり。まるで剣術の師範のような態度。悠然と構えた神剣が、しかし突然に下ろされた。
「……?」
「…………ここまでとしよう。手前には別の使命があるゆえ」
「せやぁっ!」
力を抜いたウルカに一瞬の隙を見つけたのか、エスペリアが『献身』を突き出す。
一気に間合いを詰めての、緑色の粒子を纏う、最速の突き。
「フッ…………」
「…………ッ!?」
だがそれは喉元を捉える寸前、僅かに身を逸らしただけのウルカに避わされていた。
突きの間合いを完全に見切った動き。瞬間動きの止まった二人の視線が合う。
「……ハッ!」
即座に踏み込んだウルカの剣が、エスペリアの肩口をざっくりと斬り裂く。
「あ、あくっ!」
動きについていけず、甘んじて受けたエスペリアが傷を押さえて後退した。
「…………またの機会を、待つ」
ウルカの背中に、闇の翼が大きく広がる。次の瞬間、その姿は既に虚空に飛び込んでいた。
「待てっ!使命ってなんだっ!!」
空中で、一度振り向いた瞳に、哀しみの色が浮かぶ。しかしそれきり、ウルカの背中は夜に消えていった。
(…………?)
「館の方角ですっ!ユートさま、カオリさまがっ!!」
エスペリアの声にはっと我に返って見つめた先が、ぱっと明るく輝いた。第一詰所の方角だった。
「っ!? 佳織が危ないっ! みんな、行くぞっ!!」
悠人は全速力で、詰所に向かって駆け出した。
――――――――
ファーレーンの横をすり抜け、殺到した相手はブラックスピリット。
速さで劣る分は、一撃の重みでカバーすればいい。踏み込んだセリアの体が大きく撓った。
「ハァッ!」
振り下ろす『熱病』。同時に繰り出される敵の神剣。それを攻撃に使えば、或いは相撃ちだったかもしれない。
ばきんっ。
「…………!」
防御に回したそれはあっけなく砕かれ、そして一言も発せず倒れた主と同じようにマナの霧に還って行った。
「マナよ、炎の槍となって敵を貫け……フレイムレーザーッ!」
同時に襲い掛かってくるのは灼熱の槍。一旦後退したレッドスピリットが再び唱えた神剣魔法。
地面を嘗め尽くし、燃え上がらせながら迫るそれに、しかしセリアは冷静に対処していた。
「マナよ、我に従え彼の者を包み、深き淵に沈めよ……」
面倒臭そうに掌を持ち上げ、『熱病』を振りかざす。その先に、極端に分子運動の少ないマナを靡かせて。
「……エーテルシンク」
滑らかに、紡ぐように打ち出された氷のマナは、放たれようとした次弾をも含めて、炎を一気に消滅させた。
両刀型の神剣に炎のマナを纏わせた時、ブルースピリットが迫ってきた。青白く光る刀身とウイングハイロゥ。
全体重を加速に乗せて打ち込むその技にヒミカは敢えて逆らわなかった。
がん、と鈍い音を立てて、二つの神剣が衝突する。
「…………甘いっ!」
削られ、火花を散らすそれを挟んで向かい合いながら、ヒミカは膝を蹴り上げた。
反射的に身を捻るブルースピリット。その戦士なら当然の反応が、今は致命傷になる。
「…………はぁっ!」
一瞬緩んだ敵の剣をいなし、フェイントの蹴りを畳んだ反動で『赤光』を振り切る。
頭蓋を割られ、ひゅう、と風の漏れるような音を立てて、ブルースピリットは沈んでいった。
どすん、という鈍い音。緑雷を纏い放たれた『大樹』は、残ったレッドスピリットの心臓を的確に貫いていた。
「これで全部かしら」
「そうね、後は館に向かってみないと……」
呆然と二人の会話を聞いていたファーレーンは、ようやく我に立ち返った。
「強い…………」
もちろん、倒されたソーマズフェアリー達のことではない。
先程までの凄まじい戦い。終えてなお、平然と立ち話をしているヒミカとセリア。
いつの間に、二人はこれほどまでの力を身につけたのか。あの妖精部隊を退ける、そんな力を。
個別に戦えたというのは些細な理由付けにしかならない。それほど、一蹴ともいえる鮮やかさだった。
「はい〜、痛いの痛いの飛んでいきましたぁ〜」
「…………あっ! ありがとうございます、ハリオン」
思考は、間延びした声に中断された。ファーレーンは慌ててぺこぺこと頭を下げる。
自分は既に、彼女達に「凌がれて」いるのかもしれないと思いながら。
「拙い、わね」
「急ぐわよ、ハリオン、ファーレーン!」
ヒミカの叫びが事態の急変を端的に示す。館の方角から、どん、という爆発音。
同時に詰所の方角の空が焦がすような朱色に染め上げられていた。
「…………カオリさまっ!」
ファーレーンはまだ少し馴染まない感覚に逆らいながら、無理矢理に膝を伸ばした。
支援〜
§〜聖ヨト暦331年エハの月黒よっつの日〜§
天を焦がす火の柱。舞い上がるマナにも似た火の粉。近づくまでもなく感じる痛いほどの熱、煤の匂い。
壁のいたるところから大量の煙が染み出すようにこぼれ、建物全体を包んでいる。
悠人が辿り着いた時、その勢いはもう防ぎようがない所にまできていた。
「佳織っ!」
「危ないっ! ユートさまっ!」
がしゃんっ!思わず駆け寄ろうとした悠人を、エスペリアが懸命に抑える。
その前方で館の窓が大きく内から弾け、そこから炎の塊が噴き出した。ガラスの破片が舞い散る。
「くっ!……離せエスペリア!あそこにはっ!」
それでも振り払い、飛び込もうと身を捩った拍子に一瞬見えた。屋根部分を覆う煙が、ぶわっと割かれるのを。
『…………上だ』
黒煙よりも尚暗く、闇よりも尚昏き漆黒の翼。その両翼が勢いよく羽ばたき、炎の壁をこじ開ける。
逆巻き靡く銀色の髪。灼熱より赫く、夜を見据える深紅の瞳。いやというほど目に焼き付けられた姿。
そしてその剥き出しの褐色の腕の中。一際白く、小さい手が伸ばされていた。
懸命に身を捩るその姿が目に飛び込んできた時。
「お兄ちゃんっ!」
「…………佳織ぃぃ!!」
怒りが、全身を包んだ。
――――――――
「ニムっ!」
「あ、お姉ちゃん」
館から少し離れた所で座り込んでいるニムントールに、ファーレーンは慌てて駆け寄った。
口調から、どこにも怪我をした様子は無い。隣にはレスティーナ皇女。憔悴しきった感じだが、こちらも無事のようだった。
「ニム、何故ここに? それにレスティーナさまも」
「うん、こっちの方が安全だって言われたから。でも……」
ちらっと見たニムントールの表情がやや曇る。目も虚ろに燃える詰所を眺めているレスティーナ。
その気配にまだ話すのは無理だと判断し、ファーレーンはニムントールに向き合った。
「それで、城の方は?」
「判らない。みんな死んじゃってたけど」
「そう……」
聞かれた意図が掴めず、首を傾げながら目を細めるニムントール。強くなった火勢が眩しいのか。
この様子だと、心配されたルーグゥ派の動きは無かったようだ。ファーレーンは半ば安心し、拍子抜けした。
こんな時ですら、その動きは鈍重らしい。事態を把握出来ずに恐れて動けないのか。
それともこの騒ぎの中で、対応も出来ずに全員殺されてしまったのかも知れない。
どちらにしても、彼らの命運はこの時点で尽きた、と言っていいだろう。あとは…………
「…………レスティーナ、さま」
佇む時期ラキオス王を窺う。先程の事を忘れた訳では決して無い。結果とはいえ、その父を手にかけた。
それは血の繋がりなど朧気にしか理解出来ないファーレーンにも、尋常では無い悲しみに思える。
この心優しい少女が、それに耐えられるかが心配だった。
(……それでも今は、立ち直って頂かないといけない)
しかしこんな時一体どんな言葉をかければ良いのか、ファーレーンは判らずに戸惑っていた。
――――佳織ぃぃ!!
「…………ユートさま?!」
向こうで、悲鳴のような声が微かに聴こえた。
こちらからは影になって見えないが、誰かと対峙しているようだ。ファーレーンは咄嗟に駆け出そうとして、
「!あれは…………」
強力な圧力に押されるように押し留まった。悠人の周囲に、巨大なマナが凝縮されようとしていた。
「ユートくん…………」
ニムントールに支えられたレスティーナがよろよろと立ち上がっていた。
――――――――
「シュン殿は我等の主。手前どもは『誓い』の下に集う剣……」
ウルカが瞬の名前を口にした瞬間、悠人の中で何かが壊れた。
瞬。ヤツが、この世界に来ている。あの瞬が。佳織を。そんな事は、許さない――
『じゃまだ、どけっ!』
『お前は疫病神なんだよ、佳織にとっては』
『僕の方が、絶対に佳織を幸せに出来る……お前なんかより』
次々とオーバーラップする苦々しい記憶。憎悪のぶつかり合いのみで構成された関係。
少しづつ『求め』の怒りに呼応していくドス黒い感情の昂り。
――――佳織は僕のものだ。取り戻したかったら、追って来い――――
『砕けっ……契約者よ、『誓い』を砕くのだっ!』
どくんっ!
蓄積された、そして恐らくは今歯止めを失った、行き場の無い破壊衝動が溢れ出す。
内と外、同時に臨界を越えた憎悪は混ざり合い、遂にその目標を明確にした――「瞬」と『誓い』に。
…………『誓い』を砕け! 『誓い』を滅ぼせっ!
「うぉぁおぅぁぁぁぁぁっ!!!」
悠人の全身に、金色の光が立ち昇った。
――――――――
68 :
革命:2005/10/10(月) 20:45:43 ID:/YpJosVY0
もういっちょ支援
悠然と羽ばたく黒い翼が消え去っても尚、悠人は跪き、消え逝く魔法陣を見つめ続けていた。
信じられない位に広がった紋様。そこから迸った蒼い無数の光の槍。
今も『求め』が沈黙してしまっているほど、その全能力をいかんなく発揮した神剣魔法。それを。
. . . . .
…………俺は、誰に向けて放った――――?
地面に突き刺したままの『求め』が、かたかたと震えだす。
奥歯が噛みあわなかった。不規則に鼓動する心臓。恐怖。締め出されるような言葉が漏れる。
「ちきしょう……佳織……かおりぃぃぃぃっ!!」
がっ、と地面に両拳、そして額を打ち付ける。そしてそのまま動かなかった。動けなかった。
全ての力を使い果たし、悠人の意識はゆっくりと落ちていった。
悠人が再び目覚めた時、既に館の消火は終わっていた。兵士達があちこちで忙しく動き回っている。
翳った意識の中、ぼんやりと浮かぶ、覗き込んでくる顔。ロシアンブルーの、見慣れた瞳。
「……ファー、俺…………佳織っ!」
「っ! いけませんユートさま、まだ動かれては……」
「そんな事言ってられるかっ! 佳織がアイツに、アイツにっ!」
「あっ! ユートさま?!」
振り払うように起き上がり、ウルカが飛び去った方角に一歩踏み出し、よろける。
悠人は構わず『求め』を杖代わりに歩き出そうとした。
ばんっ。
急激に頬に痛みが走る。驚き、顔を上げるとレスティーナが立っていた。毅然と悠人を睨みつけて。
「そんな体で……死にに行く気ですか……?」
絞り出すような、苦しいような呟き。その瞳に湛えられている深い哀しみ。理解する前に、膝から力が抜けた。
再びその場に倒れこみそうになる。慌ててファーレーンが脇から支えた。
「……約束します、必ずカオリを助けると」
落ち着き払ったレスティーナの声に、張り詰めた気持ちが少しだけ緩む。悠人は黙って俯き、頷いた。
再び戻ってきた謁見の間。そこに、残った戦力が全て集められていた。
レスティーナは玉座に座らず、上座にも上らず、ただ皆の前に立っている。
正面に、膝をついて顔を上げるスピリット達全員と、エトランジェ。それは、今までとは違う「近さ」。
今更到着し、未だ事態をまるで把握していない重臣達が、置かれている状況についていけずに戸惑っていた。
「…………さて、現状は今話した通りです。王と王妃は帝国の手によって倒れ、更に多くの兵達を失いました」
ざわざわと見苦しい程に動揺する旧ルーグゥ派。その一人、軍を総括していた者が名指しで呼ばれる。
その男はこの混乱の中、城の地下水路で震えている所を“保護”された。
突然の敵襲に動揺していたのか、見つけた味方の兵士に斬り付けようとまでしたという。
汗を拭きつつレスティーナの前に引き出されたその顔は見るも無残な程ひしゃげ、そこからは焦りが滲み出ていた。
「こうも易々と城に潜入された責任、取るべき者が取らなければなりません……わかりますね」
「…………くっ」
「下がりなさい。もはや王宮に、臆病者の腰を温める席など必要ありません」
ぴしゃり、と言い放つレスティーナの口調に、聞こえるほどの舌打ちをした彼は、
ぶるぶると両の拳を握り締めながら謁見の間を後にした。確認してレスティーナが叫ぶ。
「お聞きなさい! 父も母も倒れました。……その志を継ぎ、守る為にわたくしは、我がラキオスの
正統な継承者として宣言します。帝国を倒し、ラキオスの理想を国の誇りと共に打ち立てると!」
おおー、と歓声が上がる。それは意外にも、後方に控える兵士達の間から始まった。
「レスティーナ陛下!」
「新たな女王にマナの導きがあらんことを!」
一瞬の後、目端の利いたルーグゥ派があっさりと志操を翻した事で、その声は次第に大きくなっていった。
レスティーナの見事な「演技」に感心しながら、ファーレーンは注意深く目線だけで周囲をチェックしていた。
この演説に同調しようとしない、未だ何かにしがみ付こうとしている者達を確認する為に。
そしてこの後、ファーレーンの報告により彼らは次々と更迭される。旧ルーグゥ派はこの日をもって崩壊した。
記念パピコ
§〜聖ヨト暦331年エハの月黒よっつの日〜§
ぱたん、と背中で扉が閉まる。
薄暗い部屋はどこか余所余所しく、冷たく重い空気で満たされていた。
窓際に歩み寄り、そっと振り返る。いつもの、何の変哲もない自分の部屋。この世界での、仮の部屋。
「…………くそっ!!」
ばん。激しい音を立てて『求め』が床に転がる。ついさっきまでは、この空間に温もりがあった。
大切な、守りたい妹がいた。安心できる、優しい佳織の笑顔。やっと取り戻したと思っていた、日常。
「瞬…………瞬っ!!」
苦しい位の憎しみが走る。ぎりぎりと歯噛みした口が破れ、滴り落ちる鮮血。
耐え切れず、壁を叩きつける。どん、と鈍い音が鬱積された感情を冷ますことなどない。
それでも今の悠人にとって、怒りのぶつけどころが他に無かった。
「許さない…………許せない…………」
肉が破れ、傷ついた拳をじっと見つめながら呟く。最後に見た佳織の表情が咄嗟に思い浮かんだ。
「それなのに……俺は…………何を…………」
許せない。それは、瞬に対してか。それとも妹に向けて神剣の力を解放した自分自身に対してなのか。
答えは、出なかった。
――――サクキーナム カイラ ラ コンレス ハエシュ……
「え…………?」
不意に遠くから流れてくる詩。ゆっくりと窓の外に目を向ける。大きく浮かぶ月。求める姿はしかし見えない。
『大丈夫ですよ……』
そうしてまた脳裏に浮かぶ、いつか聞いた声。こういう時、決まって思い出される穏かな微笑み。
繰り返し流れる旋律のように沁み込んで来る言葉が、いつしか心の拠り所になりつつある。
荒々しかった呼吸がいつの間にか静かに落ち着いてくる。悠人は月を見上げ、呟いた。
「そうか……そうだよな……もう少し頑張ってみるよ、ファー……」
自分に、言い聞かせるように。
§〜聖ヨト暦331年エクの月赤いつつの日〜§
広大な砂と空が、天と地の境界線。ただそれだけの殺風景な光景が、ファーレーンの眼前に広がっていた。
「…………ふうっ」
覆面を軽く緩め、息をつく。ギラギラと照りつける太陽が、普段よりもその存在感を主張している。
ぴっしりと体中から噴き出す汗を拭う事も出来ず、気持ち悪い。
熱砂に揺らめく空気を吸い込んでも体力の消耗は防げないが、それでも息苦しさからはやや開放された。
マナが少ないせいか、『月光』に普段の力が感じられない。溜息を一つ漏らしてファーレーンは再び歩き出した。
ヘリアの道。旧イースペリア領ランサとマロリガン共和国領スレギトを結ぶ、唯一の街道。
ファーレーンは途中から道をはずれ、何も無いダスカトロン砂漠の中央を横断するように南下した。
左手に旧ダーツィ領イノヤソキマが蜃気楼のように歪んで感じられたのは数刻前。
それ以来単調な砂の感触の他は遭遇するものも無い。越えた砂山の数は途中から数えるのを止めた。
乾いた、埃っぽい風が兜の隙間から入り込む。髪がごわごわして気持ち悪かった。
「本当に、こちら……ですよね」
太陽の熱さに大体の位置を掴むだけの心細い旅にファーレーンは小さく呟きながら、幾つか目の砂丘を越えた。
「ブラックスピリット……ラキオスの妖精か? 何故このような所に…………ふん、面白い」
その様子を窺う、一人の視線があった。
§〜聖ヨト暦331年アソクの月赤みっつの日〜§
「じゃあやっぱり……戦い、なのか?」
マロリガン共和国の国境を越えながら、悠人は傍らのレスティーナに小声で囁いた。
「仕方がありません。国の体制が違いすぎるのです」
諦めたような口調で溜息を付く。少し翳のある表情が、疲れを表していた。
しかし悠人にはレスティーナの暗澹とした様子が、何か別の所から来ていると感じていた。
帰り際、僅かに会話を交わしただけの、クェドギンという男。沈毅、という表現が一番しっくりくる風貌。
謎かけのような物言いに首を傾げる所もあったが、しかし話せば判りそうな聡明な瞳をしていたが。
「俺は馬鹿だから良く判らないけど……良い奴っぽかったけどな」
「ユート、良い人が必ずしも良い指導者、という訳ではないのです」
ぴしゃり、と言い切ったレスティーナは、それ以上口を噤んで何も言わなかった。
言わんとしていることは理解できる。レスティーナの苦渋の表情も、恐らくはそこから来ているのだろうから。
悠人もそれ以上は口を挟まず、黙ってヘリアの道を歩き出した。
支援その弐。
76 :
革命:2005/10/10(月) 20:58:06 ID:/YpJosVY0
速やかに支援
§〜聖ヨト暦331年エクの月緑ひとつの日〜§
日が沈み、急激に気温が下がってきた頃、遠くにようやく篝火のようなものが浮かんでいた。
『月光』の力を少しだけ解放して、警戒しつつ近づく。
「あれがデオドガン…………」
ほっと気を緩めるのも僅か、直ぐに気持ちを引き締め直す。
敵地までとは言わないまでも、ここはやはり異国には違いないのだ。
デオドガン商業組合。こじんまりとした名前からは想像出来ないが、
大陸の中央、広大な砂漠を斬り従えて出来た、帝国やマロリガンの脅威を幾度も退けている歴史古き大国だ。
地の利があるとはいえ、ロードザリア歴以前からの商業貿易に連なる仲介人達の末裔。
その誇りと武力は依然高いようだが、その実体は情報部にも殆ど知られていない。
ファーレーンは、出発前のレスティーナの言葉を思い出していた。
『彼らがこの情勢をどう捉えているか、たとえ僅かでも共有出来る意識があるかを内偵してきてください』
佳織が連れ去られた夜以来、ファーレーンは一度も悠人と話す機会が無かった。
悠人はレスティーナの外交に付き従う形で方々を飛び回っていたし、
ファーレーンはその内政上の問題で、ラキオス中を駆け回っていた。
「…………フッシ・ザレントール」
自然にマロリガンの方向に目がいく。
すれ違いが続いたせいか、あの夜の項垂れた悠人の姿がやけに目の奥に焼きついていた。
ファーレーンは反射的に、自分がもしニムントールを失えば、と考えてしまう。
境遇が、似すぎている。会えば、どう言葉を交わせばいいか、それだけに躊躇う部分もあった。
「デオドガンの、領袖…………」
スピリットとしては、考えるべきでは無い事。それを今のファーレーンは、素直に思えるようになっていた。
レスティーナの女王即位は、国民にはほぼ歓迎されていた。
戦乱が相次ぐ不安な時流の中、聡明で魅力的な指導者を求めるのは人々の殆ど本能ともいえるものだ。
なので形は単なる順当な王位継承だが、内実的にはクーデターに近い。裏では様々な歪みが渦巻いていた。
それをいちいち整理し、解決する為には、時には武力に訴えなければならないような時もある。
そういう「影」の部分をファーレーンは担当した。
ニムントールはもちろん、他のスピリット達も知らない。
レスティーナには、頼める相手が最早ファーレーンしか居なかった、というのもある。
最も、『月光』を振るう機会は一度も無かった。基本的に“人”に対してスピリットは剣を振るえないのである。
それでも、ちらつかせるだけで、大体が表面では平和的な?交渉で収まってきている。
二人の間には、理想と現実の折衝についての相談が、常にきめ細かに行われつつあった。
そうして政情が安定したと思われる先日、呼び出されて登城したファーレーンに今回の使命が下った。
ファーレーンはデオドガンとの接触を急ごうとした。
――――――――
「コウインさま、配置完了しました」
「よし、抵抗するヤツには遠慮するな。降伏を受け入れるヤツは……出来るだけ捕虜にしてやれ」
「…………わかりました。では」
「ああ。戦闘開始、だ」
同時刻。デオドガンを挟んだ反対側の大きな砂丘の上。二つの影が動いた。
――――――――
妙な予感と共に目が覚めたフッシ・ザレントールは夜警に就こうと廟を抜け出し、
冷えた砂を踏みしめたところで、周囲が俄かに騒がしい気配に囲まれているのに気がついた。
しかしそれも一瞬で、今度は不必要なほどに辺りがしん、と静まりかえる。誰も報告には来ない。
「…………」
懐の短刀をそっと確認し、神経を集中する。音で聞いた訳ではない。ただ、風の気配を感じた。
幾たびの戦いを重ねた練磨しきった本能が告げている。敵がいる。それも、相当数。
「…………!!」
がっ、と火花が散った。ふいに現れた背後からの気配。
応じて叩き付けた短刀が押され、逆らわずに自分から飛び退く。体勢を整え、――睨みつけた。
「……へぇ、受けきれるヤツもいるんだな」
「…………小僧、俺の妖精部隊はどうした?」
――身長をゆうに越える大刀を肩に不敵な笑みを浮かべ、悠々と佇む男を。
「あきらめな。もう、勝負はついてるんだ」
ぱっ、と背後で広がる炎。キャラバンが、燃えていた。
§〜聖ヨト暦331年エクの月緑ひとつの日〜§
表面冷静を保ちながら、光陰は少なからず動揺している自分に気が付いていた。
(このおっさん……)
内心だけで舌を巻く。スピリットでさえ容易には捌けないエトランジェの攻撃。
ふいを突き、加減したとはいえ完全に背後を取った上での一撃をこの男は受けて見せたのだ。
「なるほど、な。流石は発祥をロードザリア歴遥かに遡る国の王だ。歴史は伊達じゃないってか」
「ふん、上っ面の知識をよく喋る。……エトランジェとは皆考古学者か何かなのか?」
ぱんぱんと服についた砂埃を叩き、ザレントールは光陰の呟きにふっと皮肉な笑みまで浮かべて見せた。
がっしりと筋肉に鎧われた体には、風韻を匂わす佇まい。油断の無い鋭い眼光がその奥で光っていた。
「…………まあな。……何故俺がエトランジェだと判った?」
「あの男の考えそうな事だ。まぁしかし……運命を天運に准えるかどうかは本人次第だがな」
「? なぁ、一応訊いておくが、降伏する気はあるか?」
言いながら、光陰はこの男が降伏など絶対に受け入れないとわかっていた。
既に周囲に守るべきスピリットは無く、丸裸同然の状態で、それでも全く闘志を失っていない不敵な瞳。
そして鋼のような筋肉。自分にも多少の心得はあるものの、正式に訓練を施された戦士には敵う筈も無い。
ましてやこの男と身一つで対峙する気はさらさらしなかった。
『因果』を持ち、人足り得ない力を持って初めて戦場に立っていられるのだと改めて実感する。
戦力では凌駕しているというのに、光陰はまるでライオンの檻にでも入れられたような感覚を味わっていた。
「降伏?…………ふっ、ふはは。“駒”が、面白い事を言う」
背中を、じんわりと嫌な汗が流れるのを感じる。踏み込んだ砂が心情そのままの湿った音を立てた。
光陰は膨れ上がる予感を必死に隠しながら、無理に笑おうと口元を上げた。
「何が、言いたい?」
「……終わりにしよう、エトランジェ。もっとも、どちらにとってかは知らぬが、な」
答えず、ザレントールはざっと腰を低く構えた。
81 :
革命:2005/10/10(月) 21:05:30 ID:/YpJosVY0
遅れをとるわけには…支援!
――――――――
接近した集落から突然上がった火柱の熱気に、ファーレーンは身を硬くしてその場に伏せた。
(…………なに?)
周囲の気配を探る。複数のスピリットがデオドガンを取り巻き、素早く動き回っていた。
戦闘が、始まっている。ファーレーンは『月光』の鯉口をはずし、力を籠めつつ尚もその動向を探った。
ふいにその一部が消えうせ、残りがこちらに向かって集まって来るのが判る。
(帝国……マロリガン……デオドガン……)
そのいづれかは判らない。しかし、それを見極めなければならない。
ファーレーンはそう決心した。緊張で、冷えた砂の感触が湿った。
ややあって、周囲の動きが突然ぴたりと止まった。顔を上げる。遠目に、二つの気配が炎に揺らめいていた。
大柄の男達が対峙している。一人は素手。一人は巨大な鋼を振りかざしていた。
りぃぃぃぃん…………
途端、腰の『月光』が警鐘を鳴らす。
その気配に覚えがあった。まさか、と心臓が一つ大きく跳ねる。
永遠神剣。それも、ファーレーンが良く知っている人物が持つ、あの剣と非常に似た波動を持つ。
「あれは『求め』……いえ、違う…………」
戸惑いが、乱れた思考を空回りさせる。エトランジェ。ようやくそんな単語が頭に浮かんだ。
「…………動く、な」
「!」
首筋に、冷たく硬い感触。耳元で低い声が囁いていた。
――――――――
風一つ吹かないしんとした空間。光陰は、ゆっくりと『因果』を持ち上げた。
「神剣よ、守りの気を放て、俺たちを包み…………」
詠唱が始まると共に動き出す空気。緑を帯びたマナが光陰を中心とした小さな竜巻を起こす。
地面の砂が螺旋状に引き摺られ、浮かび上がった魔法陣を陽炎のように揺らした。
「ほう…………」
感嘆の声を上げるザレントール。逆巻く髪を嬲る風に、むしろ高揚感を感じて口元が歪む。
「なるほど、良い瞳をしている…………。見せてもらおう、どれだけの決意があるか」
「敵を退けよ…………トラスケード!」
爆発的に舞い上がった砂の中。二人は同時に動いた。
「おおおおっ!」
低い姿勢から跳躍し、一気に距離を詰めたザレントールの攻撃手段は胸に忍ばせた短刀しか無い。
狙うのはただ一点、心臓のみ。頭蓋は意外と硬く、刃が滑る事がある。即死させねば他の部位では相打ちにもならない。
エトランジェが迫る。魔法陣を展開し、夜目にもはっきり見える程の緑のマナを纏って。
手に持つ巨大な神剣が、青白い光を帯びている。どれも、「人」の行う所業から外れた理(ことわり)。
……そんなものに。
“この世界に在ってはならないもの”に抵抗も出来ず、ただ座して滅びるわけにはいかない。
幸いなのか甘いのか、上段に振りかぶった構えは隙だらけの上動きが鈍い。こちらの方が先に届く。
そうザレントールが考えた時二つの影は重なり、必要最低限の動きで突き出した刃が光陰の胸に到達した。
きん、と鋭い音が響く。
「…………悪ぃな。こっちにも譲れないモンがあるんだ」
きりきりと舞い上がる、折られた切先。中空に舞う欠片の煌きがザレントールの目に映った。
間を置かず振り下ろされる『因果』。余りに高速で、斬られた感覚も無しに右腕が吹き飛ばされる。
「ぐ、がぁぁっ!」
傷口と口から溢れ出す大量の血液。その場に懸命に堪えながら、ザレントールは呟いた。
「全て、いづれ失われるもの……小僧…………」
光陰のジャケットにもたれかかり、しがみ付くように言葉を絞り出す。
「それでも、貴様は守れるのか……その、仮初めの力に踊らされてまで…………」
言いながら、ザレントールは最後の力を振り絞って残った左腕を動かした。
「――――俺の勝ちだ、エトランジェ」
くい、と仕込んだ細い紐を手首だけで引っ張る。血に塗れた顔に凄惨な笑みを浮かべて。
もう決着は付いたと油断していた光陰は、ぞっと背筋を走る悪寒に硬直した。
もう虫の息な筈のザレントールからは、まだ戦意が消えてない。予感が確信に変わった。
「うぉ…………!」
瞬間、直ぐ側で膨れ上がる膨大な熱量。意図に気づき、反射的に顔を庇う。その直後だった。
どぅぅぅん…………
やたらと鈍い破裂音、そして衝撃が全身を襲う。吹き飛ばされそうになり、懸命に地面を踏みしめた。
加護の力が無ければ消し飛んでいただろう。ザレントールは、自爆した。自らに仕掛けた大量の火薬で。
「…………」
ばらばらと、肉片が零れ落ちる。光陰は黙ってそれを見守っていた。
背後で、駆け寄ってくる足音が聞こえる。気配でクォーリンだと判ったが、そのまま動かなかった。
「御無事ですか!…………コウイン、さま?」
「ああ…………任務完了だ。クォーリン、部隊の収集を頼む。俺もすぐ行く」
「は、はい!」
時々振り返つつ去るクォーリンに目もくれず、じっと一点を見つめる。
砂漠に突き刺さった、短刀。国の紋章が刻まれたそれは、ひび割れたまま月を映し赤く映えていた。
やがて目を閉じ、ゆっくりと背を向ける。マナに還らぬザレントールに伝えるように。
「守ってみせるさ…………例え何を失ったって、な」
一陣の風が吹き抜ける。光陰の呟きは、燃え尽きた砂漠の空に虚しく吸い込まれていった。
――――――――
さすがはエトランジェよ。支援だけでこの強さか。
「エトランジェ……」
ファーレーンは深い溜息を付きながら自らの言葉を反芻していた。
先程まで自分を拘束していた稲妻部隊のスピリットは、爆発と共に飛び出して行き、今はいない。
……マロリガンにも、エトランジェがいた。それはラキオスにとって重大な意味を持つ。
「あれがエトランジェの戦い方か……ふむ、興味深い」
「!」
いきなり背後から、囁くような声。ファーレーンは飛び退がりながら反射的に抜き打ちで払っていた。
しかし剣は虚しく宙を斬り、ふわっと浮いた人影が風のように降りたつ。月を背にした顔が見えない。
「…………何者ですか」
自然、声が下がる。明らかにスピリットの気配ではない。
それでもこの“人”は自分の背後を易々と取り、そしてスピリットの剣撃を難なく避わしたのだ。
「……ははっ。そう険しい顔をするな。そんなに怪しい者でもない。取りあえずお前よりは、な」
動揺を悟ったのか、面白そうに笑いを含んだ声が返ってくる。意外にも、良く澄んだ声は女性のものだった。
「………………」
「ふん、そうだな。非礼の詫びに一つ教えてやる。闇に目を逸らしていては、剣は振れんぞ」
「…………!?」
「汲々と守るのもいいが……先程の戦いを見ただろう? あれはザレントールの勝ちだよ」
くっくっと忍び笑いが聞こえる。ファーレーンには判らなかった。いや、認めたくはなかった。
たった今、ザレントールという存在は亡んだではないか。デオドガンという国と共に。
「……貴女は、何者ですか」
ファーレーンはもう一度呟いた。それに応じてか、人影がざっと砂を踏みしめる。
「まぁラキオスがどう動こうも私には詮無き事だが。妖精、お前はいずれ悟らなければ……死ぬぞ」
軽い調子で言い放ち、歩き出す。最後の一言が、深く思考を貫いた。
自分に向かって悠然と歩いて来る無防備な姿を相手に、どうしても動けない。
やがて興味を無くしたように横をすれ違う足音が、段々と遠くなっていく。
気配が消えたと同時に、動けなかった体が急に重くなる。がくっと膝を付いたまま、ファーレーンは呟いた。
「死、ぬ……わたし、が…………」
言葉を反芻するまでも無く体が正直に反応していた。月と闇の加護の下で簡単に背後を取られた事を思い出す。
小刻みに震えながら、自分自身を抱き締めた。拍子に乾いた冷たい砂が、ぱらぱらと掌から零れ落ちた。
§〜聖ヨト暦331年エクの月青よっつの日〜§
「“ラクロック限界”って言葉を知ってるかい?」
ラキオスに招聘された若き天才科学者は、真面目な顔でそう言った。
「ラクロ……なんだって?」
「“ラクロック限界”。マナとエーテルが有限だと証明した説さ。もっとも当時は誰も相手にしなかったがね」
「う〜ん……。もうちょっと判り易く言ってくれないか?」
「ズボラな頭だねぇ相変わらず……やれやれ」
「待て、ヨーティアにだけは言われたくないぞ! そういう事は部屋の掃除くらい自分で出来るようになってから言え!」
「イオはあれで好きでやってるんだ。どこぞのグータラ勇者殿のように無理矢理エスペリアを使ったりはしてないさね」
「な……!」
「ユート、お静かに。ヨーティア殿、それはまさか……」
「おや、レスティーナ殿には何か心当たりがあるようだね。……まぁいい。それで、だ」
ヨーティア・リカリオン。『賢者』と呼ばれる大陸最高の頭脳の持ち主……らしい。
元帝国の技術者で、何故だか今はソーンリームで(ズボラな)隠遁生活をしていた所を、
レスティーナの指令で俺とエスペリアが連れて来た、という訳だ。
「これには実は続きがあってね。エーテルをマナに戻す時、僅かに減少する、というのがそれだ」
「なんだよそれ。それじゃ、このままじゃエーテルやマナってのは、いつか無くなっちまうんじゃないか?」
「ボンクラにしてはいい推測だ。確かに、このまま使い続ければそうなる。さて、と……」
そしてこほん、と一つ咳払いをしたヨーティアがレスティーナに向き合った。眼鏡の奥が真剣な光を帯びる。
「そこでレスティーナ殿に質問だ。陛下の望むこの世界の抱負とは…………なんだい?」
一歩も怯まずにその視線を受けながら、レスティーナはそっと左腕で髪を払った。
「人は、償わなければなりません。全てのエーテル施設の封印……それが、わたくしの戦う理由です」
答えに満足したのか、にやりと手を差し出すヨーティア。握り返したレスティーナの表情に――
「……上出来だ。微力ながらも力を尽くさせてもらうよ、女王陛下」
「光栄です。ヨーティア殿」
――――俺は、俺とそう歳の変わらない筈の若き女王の真意を、初めて知った。
支援!(セリフネタ切れw)
§〜聖ヨト暦331年エクの月黒みっつの日〜§
黄色い埃が熱っぽい風に舞い上がって飛び込んでくる。照りつける太陽がじりじりと肌を焦がす。
「……ふぅっ」
ヘリアの道。道とは名ばかりのスレギトへと続くその砂丘を、悠人達は進んでいた。
周囲には、砂と空。見渡せど果てが無い地平線が陽炎で揺らめいている。
「こんな所まで向こうと同じなんだな……」
熱い溜息が口元から零れる。知ってはいるが、実際に足を踏み入れたのは初めての、『砂漠』。
物珍しさなどあっという間に消えうせた。単調な景色の繰り返しに、口数がどんどん少なくなる。
散発的に行われる戦闘に徐々に削られていく体力は、ほんの僅かな休息では取り戻せない。
額に浮かぶ汗。背中に流れる汗が気持ち悪い。拭いながら、まだ見えぬスレギトの方向に目を細めた。
「え…………」
最初は、蜃気楼かと思った。揺らめく地表に、ぽつりと浮かぶ影。
今まで何も無かった空間に、突如現れた人影。忘れもしない。銀色に靡く髪。褐色の肌。
「ウルカーーーっっ!!!」
悠然と立つ姿を目にした時、悠人は喉の奥が張り裂けんばかりに叫んでいた。
「佳織を……佳織をどこにやった!!」
絞り出した問いかけに、悠然と受け流したウルカは静かに答える。
「…………我が国へ」
「ふざけるなっ!」
冷静な口調が、逆に悠人の神経を逆なでしていた。ぎりっと奥歯が耳障りな音を立てた。
§〜聖ヨト暦331年エクの月黒ひとつの日〜§
「お姉ちゃん、手が止まってるよ?」
「え……あ、ごめんなさいニム。……ええと…………」
「…………次は、この型から」
ニムントールは、そっと溜息をついた。
また最近、姉の様子がおかしい。
暫く任務でどこかへ赴いていたかと思うと、帰るなり急に訓練熱心になった。
今日も自分相手に朝から剣を振り続けている。
それはいいのだが、疲れている訳でもなさそうなのに、いつも途中でいきなり目が虚ろになる。
ぶらん、と剣を下げたまま無防備になるので、気をつけていないと『曙光』で貫きかけた事さえあった。
「ねぇ、今日はもうやめよ?」
無駄だと思いつつ言ってみると、
「もう疲れたの?だめ。それではいざという時満足に動けないわよ」
思った通りの返事が返ってくる。それでいて気迫も何も感じられない棒読み。
だが、こうなってはこの姉はテコでも動かない。
「はぁ……」
今度は聞こえるような、盛大な溜息をついた。
§〜聖ヨト暦331年エクの月黒みっつの日〜§
「行くぞっ!」
何故か部下を後ろに下がらせ、1対1の勝負を挑んできたウルカに悠人は突っ込んだ。
「はぁっ!」
距離が詰まった所で低く居合いの姿勢で構えていたウルカが気合を入れる。
ぐっと剥き出しの腕に筋肉が張り詰めるのを、悠人はタイミングだと感じた。
「うぉぉっ!」
一気に『求め』を深く沈め、そこからまだ見えないウルカの太刀筋に向かって跳ね上げる。
根拠など何も無かった。ある意味では、暴挙とも思える行動。
ただ、悠人は今までに何度かウルカと剣をあわせていた。それも、忘れようにも忘れられないような場面ばかりで。
剣の技量は劣っていても、印象的なその姿だけは幾らでも再現出来る。
まだ来ない漆黒の刃が確実にこの地点を駆け抜ける、そう“感じた”空間に『求め』を叩きつけた。
が、ぎぃぃぃぃん…………
鈍い音と衝撃。手の痺れが、悠人の勝ちを伝えていた。
くるくると空中を回転していたウルカの神剣は、ざっ、と地面に突き刺さって止まった。
支援は続くよ、終わるまで
§〜聖ヨト暦331年エクの月黒ふたつの日〜§
夕食後、ファーレーンは一人リクディウスの森を訪れていた。
ここ数日、食欲が無い。残した食事に訝しげなニムントールから、逃げるようにしてここに来た。
先日の、妖精部隊との戦い。それからデオドガンで出会った、謎の女性。
判ったことがある。自分は、明らかに弱くなっている。
それは技量とか剣の位とか、そういった周囲との比較とは関係の無いところで。
―――怖い。
失う事が。奪う事が。
ニムントールを守る事や、最近手に入れた別の安らぎを守る事。
それらが心の中で膨らんでいく度、逆に失った時の大きさを先読みし、恐れるようになっている。
佳織を奪われてしまった悠人を見て、自分とニムントールを重ねてしまったのだ。
奪う事についても同様。相手が背負うものが見えてきて、それが迷いとなって剣先に伝わってしまう。
躊躇いが、急所を避けようとする。剣の威力を抑えてしまう。
――闇に目を逸らしていては、剣は振れんぞ
言葉が胸に突き刺さる。ファーレーンは、無意識にかぶりを振った。
違う。そんな言い訳じゃない。もっと正直に、“人”なら当たり前の感情が支配しているのだ。
「死ぬのが……怖いだなんて……」
自分が。自分が死ぬのが怖い。存在が、想いが、失われるのが、奪われるのが怖い。
りぃぃぃぃん…………
感情に共鳴した『月光』が、ぼんやりと浮かび上がる。
思わず鞘を押さえようとして、ファーレーンは気づいた。指先が、震えていることに。
「一体……どうすればいいの……」
ファーレーンは、自分自身を強く抱き締めた。見えない何かに縋りつくかのように。
§〜聖ヨト暦331年エクの月黒みっつの日〜§
「ク…………」
がくっと地面に膝をつくウルカ。
ついに追い詰めた悠人はあらためて『求め』を振りかぶり――
「…………っっ!」
そしてそっとその剣を下ろした。目を閉じ、覚悟を決めていたウルカが不審の表情で見上げる。
「……行けよ」
「…………?」
「帰って……瞬のやつに伝えろ。俺は必ず佳織を助けてみせる……。お前みたいな卑怯者に負けるかよってな」
止めを刺すことが出来なかった。
少なくともここでウルカを殺す事が、正しいこととはどうしても悠人には思えなかった。
『求め』の干渉は今も頭の中でずきずきと疼いている。ウルカには憎しみもある。
それでも、心のどこかでそれが間違いだと告げるものがいる。
―――俺は…………スピリットを殺したいわけじゃない……
「…………」
無言で不思議そうに悠人の顔を覗きこんでいたウルカが、やがて静かに立ち上がった。
落ちていた神剣を鞘に収め、ゆっくりと悠人の方へと歩いてくる。
「……なんだ?」
「…………」
そうして無言のまま、手を差し出してくるウルカ。その手に握られていたものは、佳織からの伝言だった。
「自分は負けないから、ユート殿も負けるな……と」
驚きながらもそれを受け取る。それは小さなお守り。佳織の両親が残した物。
ウルカが飛び去った後も、暫く悠人はその方向を眺め続けていた。心にしっかりと“伝言”を刻み付けて。
§〜聖ヨト暦331年エクの月黒いつつの日〜§
「…………?」
何かが、揺らいだ。一見何の変哲も無く、相変わらず埃っぽい風景。その中で掠める違和感。
「ん?どーしたの、パパ?」
思わず足を止めてしまったのをオルファリルが怪訝そうな表情で窺う。
悠人がああ、と答えようとした時だった。
きぃぃぃぃん――――
「……!! みんな、気をつけろっ!」
叫び、今出来る最大限のシールドを広げる。同時に感じる、迫り来る鋭角的なマナの塊。
俄かに巻き起こる竜巻の中、荒れ狂う蒼雷が悠人達に降り注いだ。
さくさく支援
支援パピコ
「がっ、ぐぉぉっ!」
石の礫が叩きつけてくるような衝撃。広角の軌跡を描きつつも的確に鋭利な攻撃が悠人達に収束してくる。
その連続したオーラフォトンは確実にシールドを削り、あと一歩で堪えきれないという所まで来て急に已んだ。
「はぁはぁ……くっ」
堪らず膝をつく。荒れた呼吸が肺まで焼き付けようとしていた。悠人は振り返り、見渡した。
「みんな、大丈夫かっ!」
「は、はい……ユートさま、これは……」
ふらつきながらもエスペリアが気丈に返事をする。しかし突然の状況に驚き、目を大きく広げたままだ。
同様に頭を振りながら立ち上がる面々を確認し、悠人はほっと溜息を付いた。その時だった。
「ふふん……やっぱり、この程度じゃ駄目だよなぁ」
「!!」
「せっかく『因果』で気配を殺していたのにな。さすがはラキオスのエトランジェ……ってとこか?」
「この、声は……」
「…………『空虚』よ。永遠神剣の主の名において命ずる。我らを守りし、雷の法衣となれ」
「ま……まさか」
「よっ。ひさしぶりだな、悠人」
「今日子、光陰っ!」
それぞれに異界の装束に身を包み、神剣を携える親友。それは、有り得ない光景だった。
もう、何ヶ月も見ていない笑顔。懐かしい親友との再会。しかし、喜びは一瞬だった。
余りの歓喜に疲れも忘れ、思わず駆け寄ろうとした悠人の足がぴたりと止まる。
「…………殺す」
「今日、子?」
訝しげに今日子を見上げる。抑揚の無い、平板な声。その意味を悟る前に、ひゅん、と風切り音が耳を掠めた。
細身の剣を振るう今日子。とたん、目の前に紫の雷が走り、地面を閃光が焼き貫いていた。
「きょ……今日子っ! なにするんだよ!」
叫びも冷静な光陰の一言に遮られる。
「やめろ今日子。今日のところは挨拶だって言われたじゃないか」
「なんだよ?どういうことなんだよ?どうして光陰たちがマロリガンにいるんだ?今のは何のつもりなんだよ!」
疑問が次々と口から飛び出す。訳が判らなかった。殺意の伺える攻撃。エトランジェ。二人とも神剣を持って……
(…………俺と……同じ、なのか?)
叫んでいるうちに冷静になってくる考え。表情を読み取ったのか、光陰がそれを裏付ける。
「悪いな……悠人。こっちにも都合が色々とあってな」
「あ……あ……」
――――だからさ……俺たちに殺されてくれ
不敵に笑う光陰。それは悪夢のように悠人を打ちひしいだ。
しゅぃぃぃぃん……
『因果』が猛烈な力を解放する。それは先程今日子が放った『空虚』の威力を遥かに凌いでいた。
既に、『求め』で防げるレベルではない。あまりに集まったマナが細かいフォトンとなり、風を紡ぐ。
急速に舞い上がった砂と空気が、今日子の周囲に展開された雷に触れて細かく音を立て始めた。
「光陰! やめてくれ! 本気かよっ!」
もう沢山だ。悠人はそう思いつつも、『求め』を握り直していた。
光陰を中心に膨れ上がる圧倒的な力。それは無意識下で恐怖による自己防衛反応を引き起こす。
全身を覆う、冷や汗。原始的な、古い感情が体中に震えを呼び覚ます。戦慄、といってよかった。
「永遠神剣第五位『因果』の主、コウインの名において命ずる……」
自分の身長程もある巨大な両刃型の神剣を軽々と振り回した光陰が、ぴたりとその切先を悠人に向ける。
「っ! みんな、下がれ! 俺の後ろに、早くっ!!」
悠人は咄嗟に叫んでいた。集まってくるマナが尋常ではない。スピリットが耐えられる力ではとてもなかった。
「はぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
光陰と悠人の気合が被さる。唸りを上げたマナが轟然と舞い、辺りを昏く覆いつくす。
白と黄緑のオーラフォトンが正にぶつかり合おうとしたその時。
「……ふっ」
鼻で薄く笑った光陰の気が、ふっと掻き消えた。
支援いっときますね。
突然、熄んだ風。
周囲に渦巻いていた緊張感が完全に消え去っても、悠人は暫く『求め』に籠めた力を抜く事が出来ず慄えていた。
「今日のところは挨拶だ。俺たちの力を悠人が知らないってのはハンデになっちまうからな」
へっ、と鼻の下を擦る光陰。その見慣れた仕草が、酷く遠いものに思える。
「俺たちは、悠人たちの戦いをずっと見てきたわけだしな……フェアじゃない」
飄々と語る光陰を見ても、もう懐かしい感情が湧き上がらない。
「そんなわけで……宣戦布告ってヤツだ。俺たちの防衛線を突破できるか、楽しみにしているぜ」
視界がぼやける。揺れた陽炎の向こうに、軽く手を振り背中を向ける姿が歪んだ。
「じゃあ、またな。悠人」
聞きなれた、いつも日常の最後に軽く告げられていた一言。今はそれが限りなく重かった。
「…………」
冷たい一瞥の後、無言で今日子が続く。その後姿に、はっと我に返る。
「光陰! 今日子は、今日子はどうしちまったんだ!?」
ぴたり、と立ち止まった光陰が、一瞬だけ振り返った。
「……お前なら判るだろう?永遠神剣『求め』を振り、戦ってきたのなら」
「っ! まさか、今日子は……」
「お前が佳織ちゃんのために戦うように。俺たちも、自分達の為に戦うしかないんだよ。悪く思わないでくれ」
言って、『因果』を空に捧げる。それに応じたかのような、見た事のない異質な青い光が周囲を包んだ。
「じゃあな、悠人。これからは敵同士だ。…………恨みっこなしだぜ」
歪んだ空間が光陰達を取り込み始める。透けていくその背中に、悠人は最後にもう一度叫んでいた。
「なんなんだよ、おい……なぁ! 光陰!!」
混乱した頭に渦巻く、様々な疑問。それを打ち消すかのように光が弾け、そして光陰たちの姿は消えていた。
ただ、一つだけ判ったこと。それは、佳織だけではなく、親友までもが離れていったということだった。
それも、こんどは自分自身の意志をもって。
§〜聖ヨト暦331年アソクの月緑みっつの日〜§
「佳織、よく来てくれた!」
長かった。やっと待ち望んだものが手に入った嬉しさか、思わず声が高くなった。
「報告を聞いてから、今日のことを心待ちにしていたよ」
「……秋月先輩。どうして戦うんですか?」
いかにこの世界が素晴らしいか語ろうとした所で、いままで無言だった佳織が口を開く。
一瞬何のことだか判らなかった。
「どうして?……ここでは僕の力が必要とされているんだ、この世界が僕を必要としているんだよ」
今更何を、という感じだった。佳織なら、知っているはずなのに。あの病室で、僕が何を望んでいたかを。
「秋月先輩……」
「僕は選ばれた人間なんだよ。地べたを這い蹲るアイツとは違う、この世界を動かす義務があるんだ」
「……!!!」
そう、佳織を手に入れる為。僕は誓った。なのに、何でそんな顔をするんだ。
まだアイツを信じているのか。……仕方ないのか。それだけ長い間、アイツに騙されて続けていたんだ。
「……お兄ちゃんは、私を騙したりしません」
「かわいそうに……そんなことも考えられないほど、ずっと騙されていたんだ」
けどもう、違う。これからは、僕が側にいる。いつかきっと、佳織もわかってくれる。
「それは今にわかる。慌てなくていいさ。……佳織はそれでいい。だけど、アイツは罰を受けないとな」
思い出しすぎたせいか、『誓い』が憎悪に反応する。……ち、うるさいな。もう少し黙ってろ。
「もっとも、すぐに受けるのはわかっているがね」
くっ、耳障りな音だ。何だよコレ。憎い?ふん、言われなくても、僕が『求め』を砕いてやる……
「罰……?」
「これからアイツは、親友とやらと戦うことになるんだ。くくく……苦しむ顔が目に浮かぶ」
しまった。こんな風に、下品な笑いを浮かべるつもりは無かった。佳織が驚いてるじゃないか。
「親友って今日ちゃん……それとも碧先輩ですか?」
「……その両方さ」
「どうして? どうして今日ちゃんたちとお兄ちゃんが戦わなきゃいけないの?」
「運命さ。運命がそうさせてるんだよ。僕が『世界』に望まれるように、アイツは『世界』の敵になる」
それなのに、口が止まらない。溢れ出す感情が、歪んでいく。くそっ!佳織の前なのに。
「だから、運命はアイツに死を贈るんだ」
笑わせたいのに。いつも笑って僕の側にいて欲しいのに。どうして困った顔ばかりさせるんだ……僕は。
「ハハハ……これまで、僕の佳織をたぶらかしてきたんだ。その報いを受けて、死ぬしかないのさ!」
「そんな……そんな……」
真っ青になった佳織からは、もう拒絶の感情しか窺えない。失敗だ。まだ僕は、信じてもらっていない。
「止められ、ないんですか……」
「止める必要は無いだろう? アイツらはみんなで佳織をたぶらかしていたんだ」
違う。アイツはともかく、残りの二人なんてどうでもいい。佳織が望むなら、生かしてやってもいいのに。
「全員揃って殺しあうなんて、いい気味じゃないか……そうだな。そろそろ戦っていてもおかしくない頃だ」
「…………」
きん、と鋭い音を立てて、頭痛が治まる。今のうちか。佳織に僕の本心を知ってもらうんだ。
「佳織……いつまでも僕の隣で笑っていてくれ。それが佳織の幸せなんだから」
伝わらない事は、わかっている。それでも信じて言い続ける。佳織が僕を裏切るわけは無いのだから。
「………………」
じっと俯いたまま唇を噛みしめている小さな体。思わず抱き締めたくなり、ぎっと歯噛みして堪える。
今はまだ、その時じゃない。もう一度あの眩しい笑顔を僕に向けてくれた時。その時こそ望みが叶う。
あの小さな病室で、ずっと待ち続けたもの。もうすぐそれが手に入る。アイツの死と共に、な…………
ここは支援しかないな。
§〜聖ヨト暦331年コサトの月青みっつの日〜§
抜け殻のようにスレギトに進出し、そして敵の新兵器『マナ障壁』にその先を阻まれた悠人は、
一度ラキオスに戻ってきた。報告をエスペリアに任せ、ぼんやりと部屋に向かって歩き出す。
頭の中は、光陰と今日子で一杯だった。どうすればいい、そんな事ばかりを考えてしまう。
「あれ……?」
そうして、辿り着いたのはリクディウスの森。思わず周囲を見渡す。
静けさに包まれ、さやさやとその葉を揺らす木々。頭上には眩しい満天の星空。
ぽっかり浮かんだ雲が月だけを覆っている。輪郭が、隠れた雲の中にぼんやりと浮かび上がっていた。
「いけね……ファーの癖がうつったかな……」
つい、来てしまったのか。目の前に、見慣れた巨木がある。
相変わらずどっしりと地面に根を張るそれに笑われた気がして、苦笑いをしながら踵を返そうとした。
「ヤサンケルイスルス……こんばんわ……ユート、さま…………」
「え?」
所在無さ気に立っているファーレーンが、落ち着かない瞳をこちらに向けていた。
二人は、揃って『陽溜まりの樹』の根元に腰掛けていた。
「…………」
「…………」
こうして会うのは久し振りなのに、言葉が出ない。悠人はその雰囲気に戸惑っていた。
肩が微かに触れるか触れないかの距離。それが酷く遠く感じ、何故だか焦燥が湧き上がる。
「あのさ、久し振り、だよな」
「……はい」
「俺はマロリガンに行ってたんだけどさ、暑いなんてもんじゃないなあれは」
「……そうです、ね」
「何だ、ファーも行った事あるのか? オルファは元気なんだけどさ、エスペリアなんかもうふらふらで……」
「……ええ」
「それで……えっと……」
暗い。いつもは軽く微笑みながら相槌を打ってくれるファーレーンが、じっと俯いたままだ。
無理矢理話を振ってみたものの、気乗りしない生返事だけ。そもそも話を聞いているのかも怪しい。
悠人はふぅ、と空を眺めた。憂鬱さを紛らわすように、星の数を数えてみる。
もう、誤魔化せなかった。二人とも、何か問題を抱えている。
自分はそうとして、ファーの様子がおかしいのも、先程から気づいてはいた。
そっと横を、盗み見る。ロシアンブルーの瞳が、地面を映して揺れていた。
待っている。そう判断して、思い切って切り出した。喉が、ごくりと鳴った。
「何が……あった?」
ぴくり、と一度だけファーレーンの肩が大きく揺れた。
――――――――
こうして隣にいるだけで、安らげた空間。だけど、今だけはそれも半減だった。
夜の、静けさに満ちた空。だけど雲に隠れた月は、今日は勇気を与えてくれない。
ファーレーンは、ぎゅっと『月光』を握りしめた。
今日まで、懸命に克服しようとした。狂ったように、訓練もした。
ニムには変な目で見られていたけど、構わなかった。
強さを、取り戻そうとした。守れるだけの強さを。ニムと、自分と、…………ユートさまを。
それでも、想いが膨らめば膨らむほど手が竦む。踏み込む足に力が入らない。剣が応えてくれない。
――戦えない。そんなスピリットに、存在価値があるとは思えない。
そう、怖かった。自分が、存在価値を失うことが。ニムや、ユートさまにとって。
どうすればいいか、判らない。打ち明ければ、拒絶されるかもしれない。嫌だ。そんなのは……嫌だ。
きゅっ。
「あ…………」
迷い込んだ思考に、ノイズが走る。そっと握られた手。顔を上げ、見つめる。
「何が……あった?」
先程の質問。もう一度発せられた問いかけは、とても優しくて。穏かな声に吸い寄せられるようで。
何も、変わってない。何も、変わらない。きっと、この人は。
――信じよう。そう決心した時には、あれほど戸惑っていた口が、すんなりと言葉を紡ぎ出していた。
――――――――
「……怖いん、です」
「は?」
いきなりの質問に、俺は思わず間抜けな返事を返していた。
「怖いって……何が?」
一瞬、夜だとかお化けだとか、女の子が怖がりそうなものを想像してしまった。
(ファーがそんなものに怖がるとも思えないしなぁ……)
例えば肝試しで、『きゃー! ユートさまぁ〜!』とか飛びついてくるファー…………ありえない。
「…………違います。何を想像してるんですか」
「う……」
ぷっと頬を膨らませたまま睨まれた。何て鋭いんだ。……だけど、おかげで空気が少し軽くなった気がする。
やや呆れたように溜息をついて、ファーの表情がふっと緩んだ。
「ははっ、ごめん」
「もう……」
いつものように、本気では怒っていない。そしてすぐに、真面目な瞳が見つめてくる。
そうしてファーは、最初はゆっくりと話し始めた。
「ユートさま……ユートさまは、怖くなったことがありませんか? その……スピリットを、殺すこと、が……」
「な…………」
「怖いんです。怖く、なっちゃったんです。……自分が死ぬのも。……こんなの、変ですよね」
「お、おい」
「守りたいのに……。だけど、どうしてもダメなんです! 幾ら訓練しても、強くなれない……」
咄嗟に、言葉が出ない。次第に昂ぶってきたのか、ファーの口調がどんどん激しくなってくる。
その急激な変化に戸惑った。こんなファーは、初めてだった。こんな縋るような、子供のような。
「殺すのが、何だって? ちょっと落ち着けよファー」
掴んだ肩を、揺さぶった。それでも首を振りながら、
「スピリットなんです! それがスピリットの、わたし達の役目なのにっ!」
「なっ!」
――――ぱんっ。
その一言に、思わずファーの頬を引っ叩いていた。
「え……」
赤く染まった頬を押さえたファーが驚いたように目を丸くしてこちらを見ている。
一瞬しまった、と思ったが、もう遅い。俺は勢いに任せ、その細い肩を引き寄せていた。
支援のタイミングは誤らない…ここっ!
「ユ、ユートさま?」
とくん、とくんと胸の鼓動が聞こえる。
「スピリットとか、人だとか、そんなの関係ない。俺だって……死ぬのは怖いよ」
それは、どちらの鼓動なのか。共鳴して響く音が、混ざり合っていく。
「戦いが嫌なのは、皆同じだ。ファーは全然変じゃないよ。それが普通の感情だと思う」
小刻みに震える体。それでもじっと身を預けてくれている、意外に小さな体。
「でも、それじゃ……このままじゃわたしは、必要ありません……ニムにも…………ユート、さまにも……」
抱き締めた体から伝わってくる、怯え。こんな小さな心に、一体どれだけのものを抱えていたのか。
「ばかだな……。ファーはいつも、支えになってくれているじゃないか。ニムにも、……俺にも。心で、さ」
「ここ、ろ……?」
苦しい時に、いつも見た姿。いつも思い出された声。
「だから俺たちは、戦える。そんなファーや世界が、守れる。だから……変えることが出来る」
「変え、る………ですか……?」
ゆっくりと上げる、涙に濡れた顔。そっと拭ってやる指先に、熱い湿った感覚。
「ああ、変えなきゃな。こんな、スピリットだけが戦わなきゃならない世界なんか」
それは、自分自身にも言い聞かせた言葉。口にして、初めて判る、戦いの意味。
「ファーは、そう思わないのか? スピリットは、戦う道具なのか?……違うだろ」
「わ、わたしは……はい…………」
「もう、考えるのはやめた。俺は戦うよ。……沢山敵を殺すかもしれないし死ぬかもしれないけど、でも」
「……でも?」
ぐっと口を結び、想いを口にする。踏み出すために。負けない為に。
「でも、背負う。その時まで。罪は、いつか償わなきゃならない。代償の無い奇跡なんてない……だろ?」
最後は、出来るだけ冗談っぽく。目一杯の、笑顔で。
§〜聖ヨト暦331年スリハの月緑ふたつの日〜§
代償の無い奇跡なんてない。そう、彼は言った。
確かに、その通りだった。でも、どうしてそれがこんな形で報われなければならないのか。
どうして世界はこんなにも、求める方向に『回旋』しないのか。
誰も望まない光景を、夕日が赤く染め抜いていた。
§〜聖ヨト暦331年コサトの月青みっつの日〜§
「ヘリアの道で友達と……再会したんだ」
そっと離れた後、彼はそう、ぽつりと呟いた。
「友達、ですか……?」
温もりが名残惜しかったが、恥ずかしさの方が上回っていた。
見えない角度でそっと自分の肩に手を添えてみる。
まだふんぎりはつかなかったけど、体の震えは止まっていた。
まだ怖いけど、それでも、頑張れそうな気がしてきた。
見失いかけた、理想。レスティーナ女王と求めた世界。……忘れていた。
『ああ、変えなきゃな。こんな、スピリットだけが戦わなきゃならない世界なんか』
彼の、レスティーナ女王が言いそうな言葉が、まるで魔法のように踏み出す力をくれたようだった。
「ああ、向こうの世界じゃ親友だった。相変わらずだったよ」
「そうですか、おめでとうございます」
一通り話せてすっきりしたのか、それとも安堵感からなのか。
ぽーっとしていたわたしは彼の話の決定的な違和感に、少しの間気づかずにいた。
「…………え?」
彼は、遠くを眺めながら、訥々と話している。その声色が、全然嬉しそうでは無かった。
――迂闊、だった。この世界に、ハイペリアから訪れた者。それは。
「まさか……マロリガンの、エトランジェ……」
はっとなり、慌てて口を抑える。自分がその存在を知っている、とはとても今、話せない。
それよりも、今の彼の哀しみに思い当たった。良く知る者との、再会。それが、“敵”としてだなんて。
髪を抑え、視線を逸らす。無神経な、さっきの発言が恥ずかしかった。
「……ごめんなさい。失言、でした」
「いいよ。でも正直、驚いた。光陰や今日子もこの世界に来ているなんてな」
苦笑しているが、笑っていない。心の動揺を伝えてきて痛い。
「ユート、さま……」
かける言葉が、思いつかなかった。
支援の力…甘く見ないことだ
「ファー、神剣に飲まれた心は、もう二度と取り戻せないのか?」
「……可能性は、あります。ただ、どの程度“深く”同調しているのかにもよりますが」
話を聞いている内に、大体の事情が判った。
どうやらマロリガンにはエトランジェが、二人もいるらしい。それも、二人ともユートさまと関係の深い。
一人は、デオドガンで戦っていた、巨大な気配の神剣を使っていたエトランジェだろう。
そしてもう一人が酷く神剣に飲まれている様子だった、という事だった。酷い偶然。余りにも出来すぎて……
「そっか……」
悲しそうに俯く様子から、その人が相当自我を失っていたのだろうと窺える。
「ユートさまは、それでも……それでも、戦えるのですか……?」
残酷な質問だと、自分でも思う。だけど、止められなかった。どうしても、知りたかった。
それなのに、再びこちらを向いた彼は、うん、と力強く頷いていた。
「ファーと話していて、自分でもなんだかすっきりした。決めたよ」
「え……わたし、ですか?」
「アイツらにも、理由がある。俺にも、理由がある。昔からよく喧嘩したけど……」
何故、笑っていられるのだろう。そんなに、軽い調子で決められるのだろう。
「こればっかりは、譲れない。はは、今までで、最大の喧嘩だな」
「ユートさま……」
「まず、光陰はぶん殴る。アイツは、珍しく何も判ってない。それに今日子を、救い出す」
「…………え?」
「それから、佳織を助ける。ついでにレスティーナに、この世界を何とかしてもらう」
「ユ、ユートさま?」
「それで万事解決だ。そうだろ?」
余りにも、単純な結論。それでいて、最も辛い、困難な道。もしかしたら、死ぬ、かもしれない選択。
ぽかん、とただ見つめるわたしに、
「だから、その……ファーにも、少し手伝って欲しい。一人じゃ無理そうだからな」
はにかむように、照れ臭そうに呟く。だから、答えていた。
「……はいっ!」
胸の奥底に精一杯の悲しみを抑え込んだ。お互いを思いながら。精一杯の、笑顔で。
いつの間にか雲間から現れたらしい月の光が頬を温めてくれていた。
§〜聖ヨト暦331年ソネスの月黒いつつの日〜§
それは、稲妻部隊によるランサ反攻を防いでいる最中の事だった。
「パパ〜、いいから、こっちこっち!」
「まったくなんだって…………って、え?」
急に『理念』がどうのこうのと、オルファに連れて来られた拠点近くの砂漠。
「う、うう…………」
「……ウルカ、か?」
そこには、所々傷だらけの上、すっかり憔悴しきって倒れているウルカの姿があった。
「手前は捕虜の筈……どうして、自由に?」
俯き、戸惑い気味に視線を逸らせる。そこに、『漆黒の翼』と恐れられた面影は無い。
「どうしてって……判んないけど、別に逃げたりはしないだろ?」
「手前には……最早帰る場所も無い故……」
「?…………まあいいや、取りあえずはゆっくりしてくれ。レスティーナに許可も貰ってるし」
何があったのかは判らない。それでも、
「……感謝いたします」
ぺこり、と律儀に頭を下げてくる。こうして、頼もしい仲間がまた一人増えたのかも知れなかった。
§〜聖ヨト暦331年シーレの月青みっつの日〜§
「とうちゃ〜く!」
何気なく出て来た久し振りの街。そこで冗談の様にレムリアと再会した俺は、見慣れぬ草原に連れて来られた。
「へぇ、これはまた……」
見渡す限りの緑、花。澄み渡る青空に浮かぶ雲。遠くに連なるリクディウス山脈が悠然と取り囲んでいる。
こんな気持ちのいい場所があったなんて。俺は素直に感嘆の声を上げた。
「ここは初めてきたな」
「前の高台と同じで、ここもとっておきの場所なんだよ♪…………どうかな?」
「ああ、気に入ったよ」
「へへ〜♪ 良かった」
俺の反応に満足したのか、レムリアが嬉しそうに微笑んだ。
その後、正体不明の食物を与えられたりしたが、大方は平和に時間が流れた。
最近の色々な出来事に疲れていた心が、少し癒された気がする。俺は穏かな気持ちで芝生に横になった。
同じように隣で転がるレムリア。草の匂いに混じって、ふわりと甘い香りがする。
くすぐったいような、そんな気持ちで俺は目を閉じた。
「毎日こうやって、のんびり過ごせたらいいのになぁ〜」
……同意。
「レムリアも普段から忙しいのか?」
「え……あ、うん、それなりにね〜」
――――戦争で苦労するのは戦う人だけじゃないってことだよ。
俺たちは、無粋な敵の奇襲を受けるまで、ただそうしてのんびりと寝転がっていた。
――――――――
「あ…………」
「あ…………」
王城の、室内訓練場。そこで鉢合わせたウルカとファーレーンは、暫くそのまま固まってしまった。
お互い、直接は面識が無い。ただ、ファーレーンはウルカの事をよく知っていた。
仕事柄入ってくる情報に悠人から聞きかじった話などを総合すれば、そう悪い貴女(ひと)でもないらしい。
ただこう直接出会うとやはり緊張してしまう。同じブラックスピリットとして、最も恐れられている存在。
悠然と立っているだけで、何かこう、威圧感が違う。赤い瞳が何もかも見透かしているようだった。
一方のウルカも、決して平静では無かった。
ラキオスの、自分と同じブラックスピリット。穏かな物腰に、何か不思議な気構えの様なものを感じる。
決意、とでも言えばいいのか、とにかく自分に無い何かを彼女は身につけていた。
「……手前は、ウルカと申します。宜しければ、お名前を訊かせては頂けませぬか」
「はい、わたしはファーレーンといいます。宜しくお願い致します」
ぺこり、と二人揃ってお辞儀する。こうしてラキオスでも最も礼儀正しいスピリット同士の挨拶は始まった。
十数分後。ようやく挨拶を終え、少し雰囲気が解けてきた所でファーレーンは思い切って頼んでいた。
「ウルカ……さん。わたしに、剣を教えてはくれませんか?」
「ウルカで結構です、ファーレーン殿…………手前に?」
「はい。『漆黒の翼』……そう恐れられたのは、きっと技量(わざ)だけのものではないのでしょう?」
「…………承知。手前もまだまだ修行の身。なれど、それがファーレーン殿のお役に立てるというのならば」
何気なく呟いたウルカの一言に、ぱぁっとファーレーンの顔が明るくなる。
「ありがとう、ウルカ。頑張りましょうね……一緒に」
「……一緒、に?」
「ええ、独りでは出来なくても……でも、一緒ならもっと“強く”なれますよ、きっと」
わたしも最近知ったんです、と言ってぺろっと舌を出すファーレーンを見て、
先程感じた決意の奥底をウルカは垣間見たような気がした。それはきっと、剣の声とはまた違った強さ。
「……こちらからもお願いします。手前も、ファーレーン殿から学びましょう」
これは支援が必要ですね。
§〜聖ヨト暦331年シーレの月赤よっつの日〜§
「うわ。参ったなこりゃ」
突然の、通り雨。どうやら今日の「運命」は、少しだけ意地悪いらしい。
「おっ……レムリア、あそこに行くぞ」
どこか雨宿り出来る場所は、と見渡し、街の一角で見つけたマーク。何となく喫茶店のように見えた。
「えっ、ん〜と、あれってどんなお店なの?」
「入ったことないのか? 多分、喫茶店だと思うんだけど……。まぁ、少しの間休めればそれでいいさ」
「キッサ、テン? う〜ん、私も入ったこと無いからわかんないなぁ」
う〜ん、と首を傾げる、運命的な相手。もう偶然会っても驚かなくなってきた。
不思議と縁がある隣の少女は、手を頭の上に乗せながら何か悩んでいるようだった。
「考えるのは後にして、とにかく雨をしのがないか?」
急かすようで悪いけど、こんな所で風邪を引きたくは無い。そしてそれはお互いさまだったようで。
「ん、さんせ〜い」
ずぶ濡れのまま、俺たちは笑い合った。
そうして飛び込んだ一軒の店。それは――
「はいっ!お客さん、どこか痒いところはありますかぁ?」
呑気そうに頭上から聞こえてくる声。俺は、それどころでは無かった。なんでこんな事になったんだ。
思えば、最初に気づくべきだった。そう、あの変な親爺に
「ん……ほぅ……。なるほど。上手いことやったな」
などと、意味ありげにレムリアと俺を見比べた後、ニヤリと呟かれた時に。
「仕方ねぇ……着いて来な。今日のところはルールを教えがてら部屋まで案内してやる」
「いや、俺は……」
「ぐずぐずするな。のろまな男はもてねえぞ」
「だから……」
「ユートくん、置いてっちゃうよ〜」
「…………」
いやに親切な親爺の迫力に押され、なし崩しに来てしまった部屋。
「ここで湯を取って部屋まで運ぶ。まぁ、男の仕事だな……で、この部屋だ」
そこには、ダブルベッドが中央に、堂々とましまして俺たちを迎えていた。
(休める場所っていうか……ここは思い切り「御休憩」する場所なんじゃないのか?)
部屋の奥には、タライが一つ。お湯ってこういうことか。ようやく追いついてきた思考に、我ながら呆れてしまう。
「そんなに緊張するな。オレの経験上、ああいうタイプは押していけばなんとかなるもんだ」
いつの間にか妙に馴れ馴れしく俺の肩をがっしりと組み、小声で呟く親爺の声はもう耳に入ってはこなかった。
「うん? なに話してるの?」
かといって、何の疑いも無く俺を見つめるレムリアに、今更事情を説明する訳にもいかない。
「いや、あのさ……」
しどろもどろになっている俺に一度首を傾げ、辺りを見回していたレムリア。
静かな雰囲気が落ち着かないのか、その仕草が徐々にしおらしくなっていく。
「あ、その……」
何かを話さなきゃいけない、そう言いかけた時だった。
部屋の隅、敷居の向こうを覗き込んでいたレムリアがぽつり、と呟く。
「ユートくん……どうしよ。ひとつしかないよ」
「ああ、ひとつだな……」
生返事を返してから、思いついた。タライは一つしかない。それなら、言うことは決まっている。
「ええと……レムリアが入れよ。俺は別にいいからさ」
レディーファースト。思えば、そんな慣れない事を考えたのがいけなかったのかも知れない。
レムリアの性格を考えれば、自分だけが温まるなどは、考えもつかないんだろう。
「そんなのダメだよ。ユートくん、風邪引いちゃうもん」
「つったってなぁ……」
そして、とんでもなく意地っ張りだったのだ。それは今回で思い知った。
「やっぱりレムリア入れよ。俺は隣で待ってるからさ」
そんな、ダメだよ。私だけ入るなんて……ぺくちっ!」
「だってさ、いくらなんでもふたり一緒に入るわけにはいかな……へっくしっ!」
「…………」
「…………」
「その……いいよ。ふたり、一緒でも」
最後にようやく折れて妥協案を提議してきたレムリアは、薄っすらと頬を染めていた。
「……ユートくんは、嫌?」
もじもじと俯きながら、それでも上目遣いでそう言われては、もう断れなかった。
神剣よ、支援をッ!
支援して
飯食う間も
もち支援
ガンバレ!
それから、覗いた覗かないで一悶着あったが、まずは俺がタライに入った。
肩までは浸かれないが、ハーブの匂いが気持ちいい。
「ユートくん……もういい?」
「ああ、いいぞ。俺は絶対に見ないから安心して入ってこい」
「う……ユートくん、声にトゲがあるよ……」
じゃあ入るね、と背中に声がかかる。ちゃぽん。小さな水音がして、水位が上がった。
背中の気配やたまに当たる膝、それらを誤魔化すようにして
「……俺、頭洗う」
憮然と切り出した俺に、実にあっけらかんとレムリアは言った。
「あ、ユートくん! 私が洗ってあげるよ!」
「え゛」
――そして、今に至る。
「お客さん初めて? サービスしますよぉ〜♪」
どこで覚えた。
「ん……んっ、しょっと……」
一生懸命に、髪を洗う小さな手。少し力が弱かったけど、それでも人に洗って貰うのは気持ちがいい。
(あ〜、気持ちいい……)
一時はどうなる事かと思ったけど。楽しそうなレムリアに、さっきまでの妙な雰囲気はどこかへ行っていた。
俺はすっかり気を許し、ほのぼのとした気分で
「じゃあ、このまま体も洗っちゃうね」
「体!? ちょっと待っ……!!」
「え〜い!」
「ぬはぁうっ」
「ん……ユートくん、これなに?……ヘンな手触り」
「う……あ、あ……」
「あ、なんか、固い部分はっけ〜ん」
「☆#*&%¥っっ!!」
などと、天国と地獄を味わい続けた。
「じゃ、わたし自分を洗うね。あ、髪の毛は洗わないから、すぐ済むよ」
「俺なら大丈夫だし、髪の毛も洗えばいいのに」
「え?あ、あはは……。いいのいいの。ほらっ、私髪長いし、それにまた髪形直すの面倒だし。ね?」
「そんなもんか。長い髪の毛って手入れ大変そうだもんな」
その時は、気にも留めなかった。ただふと、ファーは短いから大丈夫だな、などと変な事を思いついただけで。
「俺の知り合いにも、すっごく長い髪の人がいてさ、レムリアみたいに綺麗な黒髪なんだけど……」
「へ? あ、アハ……。そうだね。多分、その人も大変だと思うよ〜」
何気ない反応。気持ち声が上擦っているレムリアの声。…………この時何故、気づかなかったのだろう。
「ん、どうした?」
「なんでもありません……っもん。ぜっ、ぜぜ、全然、なんでもないんだもん」
こんなにも、聞き覚えのある声色だったのに。
「あっ、晴れてるよ、ユートくん!」
俺は、余りにも鈍感で。
「ああ、すっかり上がったな……それじゃ、行くか」
「うんっっ♪」
窓際で微笑む、ちょっとだけ近づけた女の子が抱えているものに、全然気がつかなかった。
§〜聖ヨト暦331年スフの月赤ふたつの日〜§
広大な、ダスカトロン砂漠。少しづつ進撃しながら、ヘリアの道を確保する。
その地味な作業は、確実に神経をすり減らす。一度は辿り着けた筈のスレギトが、酷く遠く感じた。
そうして何度目かの戦いの後。
俺たちは、多分この世界で、最も不愉快な男と対面していた。
「ふふふ……私の妖精たちの攻撃を受け止めるとは。さすがは勇者殿、と言ったところでしょうか?」
その男は狂気っぽく口元を歪め、さも楽しげに眼鏡の縁を上げた。
背後に従えているスピリットたちに、目の光が無い。真っ黒なハイロゥからは、ただ不気味な力が漂う。
明らかに、神剣に飲まれていた。感情を失った、冷徹な「人形」。ぞっとする光景だった。
「お初にお目にかかります。私はソーマ・ル・ソーマ。サーギオスに身を寄せる、ただの人です」
ただの人、という部分が妙に強調された自己紹介。
「勇者殿のように特別に力を持つわけでもなく、ただ妖精たちを率いる無能者、とでも言っておきましょう」
いや、それよりも仰々しく深く礼をする、その人を小馬鹿にしたような態度が気に入らなかった。
「…………」
黙って『求め』の切先を向ける。と、あきれ返ったように杖を翻し、男は立ち去ろうとした。
「やれやれ……我が国のエトランジェ殿といい、どうもそちらの世界の人間は優雅さに欠ける人達ばかりですねぇ」
危険を感じた。この男は、ここで倒さなければ、と。
「今日は挨拶だけです。やり合う気はありませんよ」
それでも、俺は動けなかった。周囲を取り囲むスピリット達の力に気圧されて。
「……くそっ!」
それはあの男の方針か、それとも瞬の差し金かは判らない。それでも、スピリットをあんなにしちまうなんて。
きぃぃぃぃん――
『求め』が珍しく、俺に同調していた。頭痛も引き起こさずに。
支援その参。
§〜聖ヨト暦331年スフの月緑みっつの日〜§
「剣に心を……気持ちを乗せるのです……ハァッ!」
しゅっ、と音を立てて、『冥加』が煌く。その閃光の、縁を見極め、そこに『月光』を滑らせる。
「はぁぁっ!!」
「……甘いっ!」
くるっと巻き上げた手先の動きだけで、逸らされる『月光』の軌道。
いつもはここで弾かれておしまい。しかしファーレーンは、今までに掴んだ間合いをもう一歩踏み込んだ。
「っ…………シッ!」
ぐっと被せた肩が、重心を低くする。果たして『月光』は回転する『冥加』を抑えこんだ。
「むぅっ……はぁっ!」
「!……っ」
諦め、薙ぐように切先を変化させ、殺到するウルカ。しかし、ファーレーンの方が速かった。
ぴたり。
ウルカの首筋に、乗り上げるように突き上げた『月光』の刃がぴたり、と当たる。
『冥加』はその柄を右手で押さえられ、力を失ったまま何も無い空間を指して静止していた。
暫くそのまま向かい合い、やがて二人はふぅ、と小さく息をつく。
「お見事です……まさかこの短期間に連撃の速さをここまで上げられるとは」
「ううん、ウルカさんのお陰です。『月輪の太刀』……これで、間に合いました」
「本当によく耐えました、ファーレーン殿。……ユート殿も喜ばれることでしょう」
「え……えっえっ? ど、どうしてそこでユートさまのお名前が出てくるのですか?」
「くすくす……声が裏返ってますぞ、ファーレーン殿」
「あぅ……」
俯き、手の『月光』をそっと撫でる。確かに、瞬間彼を思い浮かべた。だけどそれは半分だけ正解で。
「お姉ちゃん、終わった?」
「ああニム、うん、ちょっと待って……ウルカさん、本当にありがとう」
ぺこり、と頭を下げて、ニムの所に駆けつける。後ろで、柔らかい声が聞こえた。
「なるほど……お二人が、羨ましいです……」
それはどこか諦めた調子の、何かを思い浮かべるような声だった。
§〜聖ヨト暦331年スフの月緑よっつの日〜§
ソーマとの嫌な邂逅を忘れようと、ぶらっと訪れた城下町。
「ふふ〜ん、運命、運命〜♪」
予感はあったのだが、嘘のように重なる偶然に、俺は呆れ返っていた。
目の前で、レムリアはすっかりはしゃいでいる。妙な歌を歌い出し、このままでは踊りを披露しそうだ。
「運命なのはいいとして、これからどうしよっか?」
と思ったら意外と冷静らしく、くるっとこちらを向いたときにはもう建設的な提案をしてきた。
「そうだなぁ……」
「せっかくのデートだもん。楽しいところがいいなぁ……」
デート、という単語に、ちく、と胸が突然痛む。ファーの、何故か膨れた顔が思い出された。
……俺は、ファーにとってどういう存在なんだろう。
今更ながらにそんな考えに思い当たる。
「とりあえず、ワッフルでも食べながら決めるか」
「だ〜いさ〜んせ〜い♪」
自然に腕が絡められる。だけど俺はそんな事に気づかない位、別の事を考えていた。
「それにしても、ユートくんも甘い物が好きになったよね〜」
「誰かさんが甘い物しか許さなかったせいなんだけどな」
「私、知らないもん〜♪」
ぎゅっと抱きついてくるレムリア。楽しいはずの会話が、どこか空気の抜けたように感じられる。
大体、ファーとはお互いどう思っているかを、打ち明け合ったことが無い。
部隊からは一時離れている筈なのに、最近は忙しそうで話も出来てないし。
――違うだろ。ファーがどうとかじゃない。俺はどうなんだ。……俺は。
「レムリア、俺はな……」
どぉぉぉぉん……
「きゃっ……!!」
突然の、爆発音。それはすぐ側から聞こえた。
轟音が、周囲に土煙を上げる。揺さぶられる地面に、咄嗟にレムリアを庇った。
「ゆ、ユートくん、これって……」
不安そうな顔が、見上げてくる。
「ああ。敵だ」
俺は断言しながら、周囲を見渡した。街はパニック状態で、既に逃げ惑う人々が飛び交っている。
「落ち着け! みんな、落ち着いてくれ!!」
大声で叫ぶも、耳を貸す者はいない。このままでは敵の思惑に嵌るだけ。
「くっ……どうする……」
言いながら、思わず城の方を凝視していた。ファー達が、気掛かりだった。
思えばこの時、顔に出ていたのかも知れない。
何故ならじっと俺の顔を見つめていたレムリアが、そっとその腕を解いたから。
「ユートくん、先に行って。たぶん、スピリットも侵入しているはずだよ」
「だけどこのままだとヤバいぞ。ここの連中が暴徒にでもなったら取り返しがつかなくなる」
「帝国の目的は、ラキオス全体に不安をばら撒くことだよ。不安は簡単に疑いを呼んじゃうから……」
話しながら、俺は妙な違和感を感じていた。国について語り合える相手。
そんな娘だとは正直思わなかった。口調は違うけど、そんな相手がごく近くにいたような……
きぃぃぃぃぃん……
「っ! 来るぞ!!」
腰の『求め』が警告を発する。それはたった一体のスピリット。しかしそれが無防備なこちらへ向かっている。
「えっ!?」
「どうする……考えろ……考えるんだ……」
説明している暇は無い。間もなく、敵が殺到してくる。ただ逃げ惑う人々に、それはどんな衝撃を与えるか。
戦いによる、死傷だけじゃない。レスティーナが抱える理想に、どれだけの人が不安を持つだろうか。
「――――ユートくん」
それだけは、防がなくては。今まで何のために死んでいったか判らないスピリット達の為にも。
「出会ってから今日まで、楽しかったよ」
「え……?」
そこで俺は、初めてレムリアが真剣な顔で見つめているのに気が付いた。
支援、いかがっすかー
「本当に夢のような日々だった……飾らない自分でいることもできたしね」
何を、言っているのだろう。
「レムリア……? なに言ってるんだよ。早く逃げないと」
何かを、見過ごしている。そんな、漠然とした不安。何故か嫌な予感が膨れていく。
「ううん。私は逃げちゃだめなんだよ…………私だけは」
レムリアが、頭に手をやる。いつも綺麗に纏められていた、黒髪。…………くろ、かみ。
「逃げちゃ、だめなの」
シュル。
「………………え?」
ふわさぁ。見事に流れる黒のストレートを見た途端、――全てが重なった。
感じていた違和感。それを証明するかのように。
「――――レスティーナ?!」
「ユートくん、ごめんね。私……嘘つきなんだ。ごめん……本当に、ごめんね」
まだ、思考が追いつかない。混乱した頭が整理できない。
「そんな……そんなことって……」
「あははは……すぐばれるかなって思ったんだけど、ユートくんって鈍いから」
軽い口調のレスティーナ。その表情がくしゃっと歪む。
「でも、他のみんなだって同じだよね。私、ただ髪形変えただけだったのに」
自嘲的な笑み。
「結局、本当の私なんて誰も知らないから……私自身も含めて、ね」
それは、レスティーナが決して見せない表情。でも、レムリアも見せた事のない、哀しい顔。
「どっちが……本当なんだよ……?」
そんな事が訊きたかった訳じゃない。でも、口に出してしまっていた。
「わからないよ。もう、どっちが本当の私なのか……。でも今は…………!」
残酷な、問いかけ。でもレムリアは、それを責めたりはしなかった。ただ、今の自分に出来ることを。
「静まれ!」
それだけを、精一杯。そしてそこには確かに、毅然としたレスティーナの面影があった。
「皆、静まるのです!」
レスティーナの叫びに、周囲のざわめきが徐々に収まっていく。
それは、生まれついての女王としての資質。そして強い意志だけが持つ、力の篭った言葉だった。
「迷わず、指示に従いなさい」
「ですが……」
「お聞きなさい。この混乱こそが、帝国の狙いなのです」
静かに、抑揚をつけたゆっくりとした口調。いつの間にか聞き入っている人々の姿。
(これがレムリアの……いや、レスティーナの女王の力なんだ)
「エトランジェ・ユート!」
「……ハッ!」
俺は、自然に跪いていた。さっきまで聞いていた、可愛らしい声ではなく凛、と響く声。
それに、今までのレムリアの態度、言葉が蘇る。
「侵入した敵スピリットを探索、速やかに排除しなさい」
「ハッ、仰せのままに」
普段、口にしたこともないセリフ。それが、すんなりと零れた。
まだ、どっちが本当の彼女なのかは判らない。でもそんな事より。
「もっと、レムリアでいたかったな」
俺は、決めていた。この小さな女王に、忠誠を誓う、と。
§〜聖ヨト暦331年スリハの月赤よっつの日〜§
「ふん、スレギトが突破されたか。あれを解除するとはな。流石は『賢者』というところか」
「案外と大した事も無かったな。所詮、器械は器械。造られた物は、壊すことも出来る。自然の摂理だ」
「…………お前か。いつも勝手に入るなと……まあ、いい」
「ま、そんな訳だから、俺たちは行くぜ。そろそろ悠人がしびれを切らして待ってるだろうからな」
「勝算はあるのか?」
「アンタらしくもない発言だな。まさか今更怖気づいた訳でも無いだろう?」
「……そうだな、忘れてくれ。少し気が昂ぶっているようだ」
「ふぅん。なぁ、最後に聞くが……大将、アンタ一体、何を知ってる? 一体何を企んでるんだ?」
「ふむ……戻ってきたら聞かせるということでは、どうだ?」
「へっ。そう言うと思ったぜ」
「…………」
「じゃあな大将。決着は付ける。それから……ついでにアンタも止めてやるぜ」
ぱたん、と閉じる執務室の扉。クェドギンは、煙草の煙をふぅっと小さく吐き出した。
「誰にも止められんよ……たとえ神でも、この俺の意志だけは、な」
薄紫の煙が、一筋宙を漂い続けた。
§〜聖ヨト暦331年スリハの月緑ふたつの日〜§
ヨーティアの活躍によりマロリガン領になだれ込んだラキオス軍は、破竹の勢いで各地を制圧していった。
若き女王の即位により、活気に溢れた国力がそのまま戦場に持ち越されている。
また、抗マナ変換装置、エーテルジャンプ、マナ通信など技術系の進歩も大きい。
充実した国勢が、その強さをぞんぶんに発揮していた。
新戦力として、『冥加』を携えたウルカがファーレーン、ニムントールを率いてニーハスを陥とす。
それを皮切りにスピリット隊はデオドガンを解放し、ガルガリン、ヒエレン・シエタと次々に占領した。
そして悠人達主力は最大の拠点であるミエーユの城を陥落させ、ついにマロリガン首都をその照準に収めた。
マナ障壁がヨーティアによって解除されて以来、たった5日という快進撃だった。
戦局から外れ、ファーレーンは一度ニーハスから単独で西に向かった。
立ち直った彼女は貴重な戦力だったが、何事かを感じたのか、ウルカは黙って了解してくれた。
ニムントールは膨れていたが、仕方が無い。ソーンリーム台地の麓に発見されたマナ結晶の情報を受け、
レスティーナの指示により回収する部隊を率いることになったのだ。
回収といってもスピリットをこれ以上は割けない。なので部隊は全て人だが、以前のようにそれを蔑む兵士は居なかった。
護衛のようなものだったがファーレーンはその雰囲気に、理想の確かな手ごたえを感じる事が出来た。
そうして、ニーハスに帰還する部隊と別れ、南に下る。
そのまま街道沿いに進めば、マロリガン首都。向かっている悠人達と合流できる筈だった。
彼のものに支援を…さあ、遠慮はいりません!
§〜聖ヨト暦331年スリハの月緑ひとつの日〜§
「そうか、ミエーユも陥ちたか」
「はい。……すみません、私達が不甲斐ないばかりに」
「なぁにいいさ、どっちにしろ俺たちには時間が無いんだ。決着は――」
そこで言葉を切って、城の方を見つめる。空から不気味に降り注ぐ、禍々しい光。
先日発動された、大統領の意志。黒く轟く雷鳴を物憂げに眺めながら、コウインさまは続けた。
「……早い方がいい。そうだろ?」
「ですが……あ…………」
ぱんぱん、と砂を落とし立ち上がる。振り向き、射るような瞳で見つめられた。心臓が一つ、どくんと跳ねる。
「さて、と行くか。クォーリン、残存部隊を率いてラキオス軍を攪乱してくれないか?……邪魔はされたくない」
「はい。……コウインさまが望むのなら、例えこの命に代えても」
「おいおい、やめとけ。たった一つしかない命を粗末にしちゃあ、仏罰に当たるってもんだ」
苦笑いを返すコウインさまは、いつもの、誤魔化したような口調に戻っていた。
「聞きたいんだろ、“自らの声”ってやつを。だったら、無駄に戦うな。戦う意味を探すんだ」
剣(つるぎ)に、なりたかった。こうして、自分を“人”同様に見てくれる、この方の。
「わ、わたしは……自信、ありません…………」
「それでも生き延びろ。これは命令だ。……ついでといっちゃなんだが、もしよかったら、今日子を宜しく頼む」
かちゃり、と肩に掲げる、永遠神剣第五位、『因果』。今だけは、“彼”が羨ましかった。
“彼”はずっと、コウインさまと戦えるのだ。文字通り、この方だけの「剣」として。
「じゃあな。つまらない役柄だったけど、ここでの生活は結構楽しかったぜ。……ありがとな、クォーリン」
「っ! わ、わたしもっ! わたしもコウインさまにお仕え出来て、本当に良かったと思っていますっ! だから……」
背を向ける、もう見慣れた大きな背中。腕だけが軽く上げられ、ひらひらと振られている。
やがて見えなくなったのは、行ってしまわれたからなのか視界がぼやけてしまったせいなのか。
「だから……勝って下さい、コウインさま…………」
“一緒に”、そんな短い一言が、ついに伝えられなかった。
わたしは遠くにぽつりと浮かぶミエーユの城を、いつまでも凝視していた。
§〜聖ヨト暦331年スリハの月緑ふたつの日〜§
紫色の雲が、不気味な雷鳴を響かせている。地響きが、荒野の形を少しずつ変えていく。
砂に足を取られながら、悠人は懸命に走り続けた。
一本の巨大な柱、どす黒いマナが収束している城を目指して。
「はぁっ、はぁ……」
先日マナ通信で、ヨーティアが知らせてきた情報。マナ障壁が解除されて初めて明らかになった事実。
マロリガン大統領クェドギンは、国の中心でマナ暴走を引き起こそうとしている。
どうやらエーテル変換施設に立て籠もっているらしい。
先日会った時に感じた聡明さからは、とても考えが及ばない行為だった。
この国クラスの動力中枢にある永遠神剣が暴走すれば、あのイースペリアの惨状どころでは無い。
先程ヨーティアが、恐るべき計算をした。その影響は大陸全土に広がる、という。
大陸全土。その報告に、悠人は戦慄した。マロリガンやラキオスだけではない。
サーギオスにいる佳織も含め、この世界全体が滅んでしまう、そういう事ではないか。
『あいつを……止めてやってくれ』
最後にそんな一言を残して、ヨーティアは通信を打ち切った。
「ははっ……まさか本当に世界を救う、なんてな……」
荒れた地面を、目一杯の力で蹴り上げる。やや上り坂を駆け上がり、ようやく見えてきたマロリガン城。
「光陰……こんな時、お前がこっちにいてくれたら相談も出来てたんだぜ……」
そんな呟きが天に届いたのかどうか。偶然が、悠人を現実に引き戻した。
「ふぅ」
砂丘をぼんやりと眺めていた人影が、ゆっくりと立ち上がる。
「よっ、悠人。遅かったな」
振り返った光陰は、本当に待ちくたびれた、といった感じで首を振った。
きぃぃぃぃん…………
光陰が無造作にぶら下げている『因果』に反応して、『求め』が強烈に憎悪を発する。
油断すれば、根こそぎ持って行かれそうな意識。錐のように差し込んでくる、強制。
「くっ、この……だまってろっ、バカ剣っ!」
今、怒りに身を任すわけにはいかない。そんなものの為に、ここまで来たんじゃない。
声だけを荒げ、心の奥深くをしっかりと握り締める。激痛が耳の中まで熱く響くが、じっと耐える。
やがて潮が引くように、鎮まっていく『求め』。まだ上手くいかないが、それでも消耗は少なくなった。
「ふ……相変わらず、その剣とは仲良くやってるようだな」
「っ!」
平静を装っていたのに、叫びだけで見破られた。昔から、コイツだけには敵わない。
…………いや、それでなくても当然だろう。すぐ側に、俺より酷い状態のヤツがずっといたんだ。
「……光陰、今日子はどうした?」
「悠人…………」
問いかけに、光陰は僅かに目を伏せた。それだけで、状況が判ってしまう。
本当に。……本当に、厄介なもんだ、親友ってヤツは。
クォーリン切ないよ!
と思いながら支援
「今日子は神剣に飲まれている。このままでは壊れちまう。
少しでも楽にさせてやるには眷属である剣を破壊するしかない」
きっちり説明する光陰。その簡潔で判り易い説明も、昔のままだ。理屈にも、隙が無い。
「生憎、今は俺が今日子に殺されてやる訳にはいかん。それは一番最後だ。
まずは秋月、そして悠人……お前を倒してからと思っていたんだが…………」
でも、だからこそ判ってしまう。こんな時だからこそ、お前は――――
「順番が、変わっちまった」
そう言い切って、ぶん、と巨大な斧のような神剣を振り回す。
それだけでちりちりと舞い散る細かいマナの結晶。ぶあつい壁のような威圧感。
「お前が佳織ちゃんを助ける為に戦うように、俺は今日子を守る為に戦うしかないんだ」
ぴた、と『因果』の切先が止まる。自然に構えられた、武道の型。
「俺にとって、今日子以上に大切なものは、この世界でも、向こうの世界でも……存在しない」
自分に言い聞かせるような、セリフ。そして初めて見せる、哀しそうな瞳。
「つまりはそういうことだ。悠人…………悪いが死んでくれ。苦しまないように、全力で消してやる」
. . . .. . . . . . . .
――――自分が間違ってるって、俺に止めて貰いたいんだろ……?
§〜聖ヨト暦331年スリハの月緑ふたつの日〜§
「行くぜっ!」
叫びと同時に、光陰の周囲に巨大な魔法陣が浮かび上がる。
黄緑色のマナを吹き上げ、それぞれが有機的に絡まり、網の目のような“壁”が浮かび上がる。
「これが俺の……『因果』の力だ。悠人。お前にこれを破ることが……出来るか?」
ごうごうと、巻き上がる砂塵に視界が塞がれる。その中で、光陰の声だけがやけによく通って聞こえた。
「俺は一度、お前とは全力で戦ってみたかったんだ……」
掲げた『因果』が、眩い位に輝き出す。光陰の精神に共鳴した猛烈なオーラがその刀身を包んで煌いていた。
――――だから。俺は、お前を全力で殴る(止める)。
遠くマロリガン城の方角から、一際大きな雷鳴が轟いた。
「光陰っっ!!!」
悠人は叫び、そして『求め』を振りかざしながら、殺到した。
ぎゃりん!
『求め』の刀身が光陰の周囲に張り詰めた分厚い壁のようなオーラに弾けて嫌な音を立てる。
殆ど同時に光陰の利き腕が動いた。両刃型の『因果』を脇に引き寄せ、その切先を悠人に向ける。
「悠人っ!」
短く吼え、繰り出した突きは自らのシールドを抜け、悠人の脇腹に迫った。決して速くは無い。
「くっ……うおっ!」
それでも体勢を崩したまま『求め』の鍔元近くで辛うじて受けたそれは、信じられない重さを秘めていた。
がつん!と鈍い音を立て、手首が骨まで衝撃を伝え、一瞬痺れる。悠人は膝が落ちそうになるのを懸命に耐えた。
「…………ハァッ!」
それを待っていたかのように、光陰がくるりと『因果』を捻り、もう一方の刃を旋回させてくる。
完全に間合いに入った薙ぎ。後ろにも左右にも逃げ道が無い。悠人は咄嗟に前に向かって踏み込んでいた。
支援!
――――――――
ニーハスから南に向かい、マロリガンへと続く街道。
城の直前の丘。そこで、ウルカとニムントールはたった一人のスピリットによって行く手を阻まれていた。
「…………っ!!」
僅かに掠めた穂先に顔を歪めながら、ウルカが後退した。駆け寄ったニムントールが慌ててシールドを張る。
「ウルカっ!? 風よ、守りの力となれ…………」
「くっ……」
ブラックスピリット特有の神速を生かした、得意の連撃。
ここに到るまで、全ての稲妻部隊を退けてきた最大の技、『月輪の太刀』。
連戦で疲れていたとはいえ、まさか槍に速さで打ち負けるとは。
「…………強い」
ウルカは傷ついた肩を押さえ、敵を睨みつけた。
両手で水平に構えた神剣の穂先に血を滴らせ、夕日を背に丘の上に立ちはだかるグリーンスピリットを。
「ここから先は……絶対に通しませんっ!」
クォーリンの、非情な意志を秘めた緑色の眼光が二人を射貫いていた。
「……っ! コイツっ!!」
「!! ニムントール殿っ! いけませぬっ!!」
ウルカの叫びは間に合わなかった。
同じグリーンスピリットに睨まれたのが気に食わなかったのか、ニムントールがだっ、と駆け出す。
「…………やられる前に、先に潰すっ!」
叫び、突き出す『曙光』。しかし冷静さを欠いたそれは、明らかに間合い不足。
「……ふん」
つまらなそうに鼻で笑いながら、クォーリンはその神剣を軽く払った。
かしゅん、と軽い音で『曙光』の穂先がクォーリンのそれを掠め、あっけなく軌道を逸らす。
「あ…………」
「……死ね」
そして勢いを殺さず旋回する神剣を、ぐっと踏み込んだクォーリンが薙いだ。
懐に入られてなす術の無いニムントールの横顔に、嘴のような穂先が緑色のマナを纏いつつ襲い掛かった。
きんっ!
「ニムっ!!」
「お姉ちゃんっ!」
突然飛び出してきた影が、神剣を弾く。横合いからの襲撃に、クォーリンは咄嗟に体を捩った。
「…………なんだっ!?」
「ハァッ!」
考える暇も無い。影は、そのまま殺到してくる。飛び込み、低い姿勢からの突き。
殆ど反射的に避わした。首の皮を裂かれる感覚。……速い。捌ききれない。
「……クッ!」
砂で滑るように踏み込みをずらし、流れるように後退する。砂漠の中で編み出した間合いの「外し」。
「っ!!」
しかし驚いた事に、敵の踏み込みはそれよりも速かった。
いつの間にか鞘に収められた神剣が、抜き放たれる瞬間を読めない。
がっ! ぎんっ! ががっ!
気の流れだけを頼りに、殆ど勘だけで受けた。槍を握る腕が痺れてくる。
たまらず、大きく後方に飛び退いた。その一瞬、影の顔がようやく見える。
「……お前はっ!」
思い出した。先日、デオドガンで発見したラキオスのスピリット。
あの時は大した力も感じず、爆発に気を取られてつい取り逃がしてしまったが……
頭の隅で、光陰の言葉が思い出される。
“それでも生き延びろ。これは命令だ……”。
3対1。しかも一人は強敵。このままでは、確実に不利だった。
「…………ちぃっ!」
クォーリンは、逃げ出した。燻ぶる悔しさを押し殺して。
――――――――
白と黄緑のオーラが激しくぶつかり合い、火花を散らす。
何合交わしても衰えない『求め』と『因果』の輝きがお互いの譲れない意地を表していた。
きぃぃぃぃん…………
「光陰っ!!!」
「悠人ぉっ!!」
張り叫ぶ声。
守りなど、最初から意識していない。油断すれば一瞬で消滅する間合いと威力の中での戦い。
「おあぁぁぁっ!!」
「があっ、ぁぁぁあっ!」
剣が振り切られるたびに相手から細かい鮮血が飛び散る。剣風が辺りの空気を舞い上げ風となって地面を捲り上げる。
竜巻の様に荒れ狂う中心で、二人はただがむしゃらに剣を振り回し続けた。
――――そうして、どれだけの間斬り結んでいただろうか。
「はぁっ、はぁっ、はぁ……」
「ふぅっ……ふぅーっ……」
二人は一度離れ、それぞれに相手を睨みつけていた。
既に体力は限界に近づき、気力は尽きかけている。剣が重く感じられ、持つ手が震える。
第一、腕は痺れ切っていて感覚が無かった。所々傷ついた体を癒すシールドも、もう展開出来ない。
支えるために突き刺していた『求め』を地面から引っこ抜くとその勢いで体がよろけた。
「……どうした悠人、ふらついてるじゃないか」
「……ぬかせ。お前だって『因果』を杖にしてるだろうが」
「ふむ、それは気づかなかったな……よっ……とと」
「……ははっ」
「……へっ、正直ここまでやるとはな。どうやら悠人を見くびっていたらしいぜ」
「舐めるなよ。……俺は意地でもお前を止めてみせる」
「……そうだ悠人。それでいい…………いくぜっ!」
光陰の叫び。それが、最後の合図だった。
さってと、すかさず支援!
――限界なのは、光陰も同じだった。だからこそ、ここで悠人を倒しておかなければならなかった。
「おおおおっっ!」
片手で握った『因果』の重みを軸に、地面を蹴り上げる。そこでくるっと体を捻り、足を大きく振り回した。
回し蹴り。それがフェイント。悠人は当然左から来るそれを避わしつつ、右から攻撃してくる。
残念ながら、速さは『求め』の方が上だ。エトランジェとはいえ、物理的な剣の重さを変える事は出来ない。
『因果』は、その巨大さゆえに一撃の重みで敵を潰す斧。『求め』は速さで断ち切る刃だった。
だが、それだけに直撃させれば。右に流れてくる悠人に、この渾身の一撃を。
「…………悪く、思うなよっ!」
右に、流れてくる気配。そこに、『因果』を残ったマナごと叩き付けようと――――
「コウインさまっ!」
ぎくりと一瞬動きが止まる。視界に、槍を投擲しようとしている少女。まさか、と思った時には叫んでいた。
「クォーリン、やめろ!――――なっ!!!」
間に合わない。自分の影に隠れていた悠人が右側から姿を見せる。『求め』が摺り上げるように跳ね上がる。
悠人は気づいていない。そこを見極めたクォーリンが狙いを定めて―――
どすっ。
「な……光陰っ?!」
「痛っ……つぅ…………」
脇腹に突き刺さる、『求め』。体が反射的に動いた。
気づいたときには、悠人を庇うように自ら剣尖に飛び込んでしまっていた。
「ちっ……やっちまった……」
どさっ、と光陰は地面に倒れた。
§〜聖ヨト暦331年スリハの月緑ふたつの日〜§
『面白い。この娘の意識、一時(いっとき)返してやろう』
からかうような口調で空虚の意志がすっ、と下がる。
同時に、今日子の瞳に浮かぶ戸惑いの色。その視線が俺を捉えた。
「……! お願い、悠! アタシを殺してっ!!」
「アタシ……いっぱい殺しちゃったよ……もう、ダメだよ……」
泣き崩れる今日子を、どう励ませば良かったのだろう。――少なくとも。
「そんなの、俺たちのせいじゃない!間違ってるんだ!この世界、そのものがっ!」
「悠…………」
「だから……変えるんだ。一緒にやろうぜ今日子。後悔は、その後ですればいい」
「そうか……悠はやっぱり強い、ね」
「今日子……?」
「アタシには、無理かなぁ……そんな重さ、きっと耐えられないよ……」
――少なくともこんな風に言うべきじゃ、なかったんだ。
『……時間切れだ』
『空虚』の平坦な声の奥に、焦りの色が見えていたというのに。
§〜聖ヨト暦331年スリハの月緑ふたつの日〜§
「おいっ! 光陰、しっかりしろっ! おいっ!」
本気で斬るつもりなど無かった。勿論全力ではあったが、それは光陰が相手だったから。
光陰なら、受けてくれると思っていたから。……そして、その後で説得するつもりだった。
動けなくなるまで、光陰は絶対に人の話など聞きはしないだろうから。
「なぁ、嘘だろ! 何でっ!」
それなのに、最後の最後で光陰は、動きを止めた。そして……『求め』は止まらなかった。
深く貫かれた傷口から大量の血が噴き出している。
「ゆ、悠人…………」
「喋るなっ! 今治して……くっ!」
オーラを開放しようとして、がくっと力が抜ける。もうそんな力は残っていない。
「おいバカ剣っ! なんとかしろよっ!」
懸命に呼びかけても、沈黙を守る『求め』。力を使い切ったのか、それとも敢えて応えないのか。
「くそっ! 何だってこんな……」
砂を掻き毟る。何も出来ない自分に、どうしようもないやるせなさが込み上げてくる。
「い、いいから、行け……今日子を、頼む……」
「何言ってんだ! 行ける訳無いだろッ!」
「俺なら大丈夫だ……はは、ちょっとばかし驚いたけどな……」
そう言って、光陰はよろよろと立ち上がった。
「お、おい……」
「ふ〜〜。まったく、ホントに容赦ないな悠人は。死ぬかと思ったぜ」
傷口を押さえながら、へっ、と苦笑いする。指の間から鮮血が零れた。
「こんなモン、大したことないぜ。『因果』の力を使えば、すぐに塞がる……だから、先に行ってくれ」
「だ、だけど……」
「いいから聞け。もう時間が無いんだ、判ってるだろ?……少し休んだら俺も行く。だから……頼む」
「…………本当に、大丈夫、なんだな?」
「何度も言わすなよ、俺がコレくらいで死ぬとでも思うか?……大体悠人に心配されると気持ち悪いぜ」
冗談っぽく、呆れた声。
「……判った。だけど、絶対に追って来いよ。俺一人じゃ今日子は手に負えないからな」
「ああ。いいトコを取られっぱなしってのも悔しいからな……今日子は俺が助けると決めてるんだ」
「…………約束だぞ! 今日子を、一緒に助けるって!!」
――――――――
だっ、と駆け出す悠人。その後姿がどんどん小さくなっていく。
やがて見えなくなったのを確認して、
「何が一緒だ……まったく、最後まで憎たらしいヤツだな……」
どさっと光陰はもう一度、大の字に崩れ落ちた。今度は本当に力尽きて。
支援…
…くっ、もつか?
「いやぁぁぁっ! コウインさまぁっ!!」
血相を変えたクォーリンが駆け寄ってくる声が聞こえる。その背後で閃く、マロリガンを覆うドス黒い雷。
「頼む悠人……大将を止めてやってくれ……かはっ!」
こふっ、と込み上げた血を吐き出す。霧のような鮮血がたちまち金色に舞った。
いやに冷静な頭が、手遅れだと結論を出してしまう。
「ふぅ……突っ張ってみたけど、いいことなんてなかったぜ……」
冷えていく体。既に全身、感覚が無い。ああは言ったが、既に『因果』にマナなど残っていなかった。
あの瞬間。咄嗟に悠人を守ろうとした。……負けてもいい、と思ってしまった。
あれほど今日子の他に、何もいらないと思っていたのに。その為に、全てを捨てる決心でいた筈なのに。
「結局、覚悟が足りなかったって訳か……へっ、修行、不足だな…………」
だんだん景色が霞んでいく。オレンジ色の空が、やけに眩しく目に焼きつく。
「頼んだぜ……悠人…………今日、子…………」
薄れゆく意識の中。懐かしい光景が浮かび上がった。悠人と今日子。通学路。
「一人で全部背負い込んで、潰れてもしょうがないぜ?」
――――そうだ、あれは俺が言ったんだっけか……すっかり忘れてたぜ。
確か……佳織ちゃんのことで一杯一杯になってた悠人に見かねてつい説教臭くなっちまったセリフだ。
はは、一本取られたな……今日子の事で自分が見えていなかったのは、俺の方だったってことか。
一生懸命で真面目、ねえ…………俺にはそんなキャラ、絶対向いてないと思って、たん、だがなぁ――――
――――――――
「あ……ああ…………」
既に薄れ行く光陰の亡骸を抱き抱えようとして、クォーリンの腕は宙を切った。
「そ、そんな……コウイン、さま……?」
これでは、大地の祈りも通じない。『因果』が既に消滅している以上、回復の手段が……無い。
「嘘……ですよ、ね……嘘…………」
温もりが、消えていく。何度問いかけても、答えは返って来なかった。
「どうして……」
頬を伝う涙がぽたっ、と砂漠に落ち、そして砂に飲まれていった。
ぎりっ。
歯軋りと共に、口の中に広がる錆の味。クォーリンは、切れた唇から憎しみを迸らせた。
「…………許せ、ない」
きぃぃぃぃん…………
共鳴する、神剣。それを強く握り締め、クォーリンは立ち上がった。
そして睨みつける。マロリガンの方向、悠人が駆け去った先を。
――――――――
神剣の主が命ずる!無名の神剣よ、かのものを援護する力となれ!支援!
マロリガンから閃く稲光。丘の上に佇む人影。
「今日子っ!」
悠人の声は、遅れてきた雷鳴に掻き消された。
『来たか、『求め』の主……待ちわびたぞ』
殷々と響く、低い声。同時に天を突き上げるかのように地面から雷が巻き起こる。
風圧から顔を庇い、悠人はもう一度呼びかけた。今日子の心に届くようにと必死に祈りながら。
「今日子、目を覚ませ! 神剣の気配なんかに負けるなっ!!」
だが返ってきたのは平板な、何の感情も無い機械のような拒絶だった。
『我が名は『空虚』。永遠神剣、第六位』
きぃぃぃぃぃん…………
『契約者よ、砕け、砕くのだ……』
頭に直接、響くような声。『求め』の干渉が『空虚』に呼応するかのように大きくなっていく。
「ぐ、ぐあああぁぁっ…………この、バカ剣……だ、ま、れ……」
湧き上がる憎悪。目が眩み、霞んだ光景の中で悠人は懸命にそれを抑えつけようと『求め』を握り締めた。
「俺は、今日子を……助ける!」
そして、ぎり、と歯噛みしながら今日子を見上げる。
紫の雷を全身に纏い、薄ら笑いを浮かべたままの『空虚』が楽しそうに呟いた。
§〜聖ヨト暦331年スリハの月緑ふたつの日〜§
今日子の瞳から、意志の光が失われていく。反して増大していく『空虚』のオーラ。
『…………つまらぬ』
呆れるような、いかにも興醒めだ、というような口調に悠人は、“キレ”た。
「バカ剣っ! 力を貸せ、今日子を傷つけずに『空虚』だけを壊すっ!!!」
『無茶を言うな、我々の戦いとはそのように甘いものでは……』
「いいからもっと力をよこせっ! いくぞっ!!」
最後まで聞かず、駆け出す。『求め』の刀身が青白く光り、残りのマナを大きく開放し始めた。
「おおおおおっ!」
未だ雷を纏ったまま、だらんと『空虚』をぶら下げたままの今日子。その手元に悠人は殺到した。
「『空虚』ぉっ!!」
振りかぶった『求め』を激しく叩きつける。文字通り、「折る」勢いで。
しかし頭に血が昇ったままの、怒りに身を任せた攻撃が通じる筈もない。第一光陰との戦いで、殆どオーラが張れない。
今日子はちょっと身を捻るだけでその単調な攻撃を難なく避わした。ざくっと地面に『求め』が激しく突き刺さる。
「……くそっ!」
悠人は歯軋りしたまま、一瞬動けなかった。そしてその隙を『空虚』が見逃すはずも無かった。
『……死ね』
「っっ!!」
はっ、と顔を上げた瞬間、低く沈む今日子の体。至近距離で、引き絞るように腕を畳む。
「今日……!!」
矢のように、正に神速の打突が繰り出されようとした瞬間。
受け止めようと引き抜いた『求め』の周囲に霧のようなマナが纏わりつき始めた。
「なっ!!」
急に黄緑色に強く輝き出す、『求め』の刀身。膨大な量を取り込み、歓喜の声を上げる。
威力が『空虚』を凌いだと、本能で判る。悠人は咄嗟に伸ばしかけた手元を引き戻そうとしたが、遅すぎた。
…………どすっ。
「あ……あ……」
握った手に、柔らかい感触。
悠人の目の前で『求め』の剣先が『空虚』を砕き、そしてあっけなく今日子に吸いこまれていった。
「ユ……ゆ、う……?」
「今日子! 今日子なんだよなっ?!」
一体、どれ位ぶりなんだろう。こんなにはっきりと、“外”が見れるのは。
……ああ、『空虚』の気配がない。……そっか、アタシ、帰ってこれたんだ――――
「……ふふ……なーんか……めいわく……かけちゃ……たよね」
「…………そんなことねーよ……大丈夫だ、すぐに…………」
辺りが金色に染まっていく。すぐそこに、辛そうな悠の顔。それも段々霞んでいく。
……もういいよ、悠。これ以上、迷惑かけらんないよ。それより、そんなことより――――
「いい? 悠……。良く聞きなよ……こうなったのはあんたのせいじゃ、ない……」
体に力が入らない。もう少し、もう少しだから――――
「また一人で、全部……背負い込むのは、やめなよ…………?」
ずっと言いたかった、一言。こんな風に言うつもりじゃ、なかったんだけど――――
「そしたら……許さない……んだから……約束、だからね…………」
ぽたぽたと落ちてくる、熱い涙。まだ感じる事が出来る内に、もう一つだけ――――
「…………ねぇ悠……キ……スしてよ。このまま……ってのも悔しいから……さ。ね?」
顔はもう見えないけど。困っているのは判る。ごめんね。最後にこんな、我が侭言っちゃってさ。でも――――
「ん……うぅ……んん……」
唇に、触れてくる温もり。その感触を最後に、体中の感覚が無くなった。
「バイバイ……悠……。……光陰……ごめん……ね」
――――遅くなった帰り道。偶然会った神社の前。
「…………嫌いになるんだったら……とっくのとう……なんだからさ」
「じゃあ、なんで俺のこと避けるんだろうな?」
「そんなの決まっ…………知らないってば! 結構いろいろあんのよ、女の子には」
「そうだよなぁ。男には、相談できないこともあるだろうし」
「……鈍感」
ああ、懐かしいなぁ……。神社で佳織ちゃんのこと相談された時だ…………。
アタシってばバカだなぁ……ごめんね佳織ちゃん…………アタシ、また悠のこと、傷つけちゃったよ――――
うお、出遅れるかぁ!
支援
――――――――
「今日子!今日子ーーーっ!!」
腕の中で消えていく姿。血で汚れた口元が微かに微笑み、ゆっくりと頬を押さえていた手から体温が失われる。
「あ…………あ…………」
今日子だったものが、静かに『空虚』と共に金色のマナに還る。
そしてそれに、どこからか交じり合う黄緑色のマナがゆるやかに『求め』に吸い込まれていく。
歓喜に満ちた『求め』の気配が、心に愉悦の感情を強制しようとしている。
でもそれも、今は関係なかった。頭の中は既に真っ白に染まり、思考が一歩も前に進まない。
悠人はまだ微かに残る温もりに縋るかのように、ただずっとそのままの姿勢で呆然としていた。
そこから全く動けなかった。
「はぁぁぁぁぁっ!」
それは、それまでただ見守り、立ち尽くしていた稲妻部隊の一団から飛び出してきた。
緑色の髪を振り乱し、槍型の神剣に迸る雷を纏い。ただがむしゃらに、一直線に悠人を目指していた。
「よくも、よくもぉぉっ!!!」
主を失った悲しみと怒りが、クォーリンに我を忘れさせる。
持つ神剣に感情の全てをぶつけたライトニングストライク。本来持つ技量も何もかもを失った、ただの突き。
絞り出した叫びと憎しみだけが、今のクォーリンを支える全ての存在意義だった。
それでも、そのクォーリンの渾身の叫びにすら、悠人は反応できなかった。
目の前で起こった悲しみに呆然としたままのろのろと上げる瞳に、既に色は無い。
ただスローモーションのように迫る、煌く切先をぼんやりと眺めていた。
ざ、しゅう―――
「…………!!」
噴出す鮮血に、現実感が無かった。漏れた筈の悲鳴がひゅーひゅーと乾いた音しか立てない。
「く……あぐぁ…………」
目の前には、見知らぬ緑色の瞳を持った少女。その頬が朱に染まっている。
ぶるぶると震える手に持つ細い棒のようなものに視線を下ろし、やっと気づいた。
腹部が、ざっくりと刺し貫かれている。稲妻部隊の、恐らくは今日子や光陰の部下だったスピリットに。
全てを悟った悠人は、深くゆっくりと息を吐き、まだ流れている涙そのままに。
「ごめん、な…………」
それだけを伝えるのが精一杯だった。悠人は膝をついたまま、棒切れのようにその場に崩れ落ちた。
――――――――
敵の気配に、『月光』へとマナを送り込んだ瞬間。
「…………ユートさま!!」
ようやく辿り着いた小高い丘の上に悠人らしき姿が倒れているのが見えて、ファーレーンは思わず叫んだ。
周囲を取り囲んでいた稲妻部隊がその声に反応して、一斉にこちらを向く。
「っっっ!!!」
おかげで状況がよりよく「視えて」しまった。動かない悠人。そのすぐ側で立ち尽くすグリーンスピリット。
それらが映った瞬間、ファーレーンの中で何かが弾けた。冷静な判断など出来なかった。
一方どうやら神剣の気配が増大してくる敵の様子に、戦意を失っていた稲妻部隊のうち手前の二人が反応した。
「おのれぇぇぇっ!!」
クォーリンの気迫が伝染ったのか、ブルースピリットとレッドスピリットが同時に動き出す。
前を塞がれる形で迎撃を受けたファーレーンは、咄嗟に脇の林に飛び込んだ。迂回するつもりだった。
回りこみ、気配の弱い集団の中に。砂から土に変わった硬い地面をファーレーンは踏みしめた。
しかしそれよりも速く、ブルースピリットのウイングハイロゥが目の前を掠める。
「くぅっ!」
戦闘が終了した筈の、マロリガン。城を目前に、期せずして誰も望まない戦いが始まった。
光球が着弾しては、次々と燃え上がる地面。巻き上がる土煙。
ファーレーンが駆け抜けた後を、無数の焦げ跡が追いかける。
「…………くっ!」
軌道を遠に近にと鍵状に変化させ、レッドスピリットの距離感を惑わせる。
それで炎の雨を防ぐ事は出来たが、しかし、それ以上接近する訳にもいかない。
全力で展開しているウイングハイロゥがちりちりと火の粉を浴びて嫌な音を立ててきた。
次第に捕捉されつつある。ファーレーンはやや焦りを感じ始めた。
倒れたままの悠人の様子が思考の隅をちらっと横切る。一瞬それに気を取られた時だった。
先回りを仕掛けてきたブルースピリットが、最短距離を一直線にこちらに迫る。
その体勢のまま、突き出した神剣がすぐ前まで伸びてきていた。反応が、遅れた。
「………………っ!」
がぎぃん!咄嗟に庇った籠手に軌道を逸らした敵の剣が肩を切り裂く。
左腕に、痺れと痛みが同時に走った。更に突進してきた敵の蹴りが鳩尾を貫く。
「はぐっ!」
身体をくの字に折り曲げたまま、一度浮いたファーレーンは二度三度、地面を転がった。
軋む様な音が辺りに響く。ファーレーンの背中から、ウイングハイロゥが消えた。
動かなくなったファーレーンにブルースピリットはゆっくりと近づいた。
やがて警戒していた表情の端に、やや歪んだ様な笑みが毀れる。
背中を向けたままだらんとしている身体をこちらに向けようと、彼女は足で蹴ろうとした。
その足が当たろうとした瞬間。身体を捻ったファーレーンが、きっとこちらを睨みつけた。
何時の間にか右手に持った神剣が、反動で振りぬかれている。
「……なっ!」
驚愕。通常、戦闘中にスピリットがハイロゥの展開を自ら止める事は無い。
それは、力尽きたか気絶、もしくは命そのものを失った事を意味する。少なくとも、今までは。
どうしてそんな固定観念に囚われていたのだろう。油断していたのは自分だったのだ。
爛々と黒く輝く『月光』の、細い剣先が見えた。ハイロゥに使っていたマナを全て注いだ一撃。
その残滓を角膜に焼き付ける事もなく、敗因も理解しきれず、ブルースピリットの瞳孔は散じた。
§〜聖ヨト暦331年スリハの月緑ふたつの日〜§
いつも見ていた。いつも見守っていた。
だから知っている。あの人の弱さを。あの人の苦しみを。
いつも遠くにいた。いつも近くにいた。
だから判っている。あの人の強さを。あの人の姿勢を。立ち向かう姿を。
支えたいと思った。ふと祈った想い。
支え合いたいと願った。きっと叶わない望み。
今、自分の心がやっと判った。ずっと寄り添える心が欲しかった。
姉でもなく、戦士でもなく……そしてスピリットでもなく。ただ単に、――女として。
支援、普通に
§〜聖ヨト暦331年スリハの月緑ふたつの日〜§
先程まで青い妖精が立っていた場所に、ふわさぁ、と金の粒子を纏った純白の翼が広がる。
静かに立ち上がったファーレーンは、『月光』を左手に持ち直すと、ぐいっと口許の血を拭った。
視界の先には、今の今まで味方の勝利を疑っていなかったレッドスピリットが、呆然と立っている。
味方の巻き添えを恐れたのだろう、神剣魔法の詠唱さえ中断していたその姿は、完全に無防備だった。
猛然と殺到するファーレーン。慌てた敵が、間に合わない、と悟ったのか、手にした槍で応戦しようとした。
「…………そんなものでっ!」
叫んだ口の中に鉄の味が広がる。あれ程近づけなかった距離が、みるみる縮んでいく。
あっという間に間合いに入ったファーレーンは、一瞬右にサイドステップをした。
敵を見失ったレッドスピリットの瞳が僅かに泳ぐ。その隙に、ファーレーンは右手にマナを集中させた。
ぽうっと黒い光が手元に集まる。そしてそのまま右手を手刀にして相手の首に叩きつけた。
「………………っ!」
レッドスピリットは喉元から鮮血を迸らせ、無言のままゆっくりと倒れた。
「…………ふぅっ」
最後のマナを使い切ったファーレーンは、その場に倒れ込みたい衝動を懸命に抑えた。
左肩がずきんっと激しく痛む。当分、動きそうにも無かった。
ブルースピリットに斬りつけられた利き腕は、思ったよりも深手だったようだ。
当然剣など振れない。もしそのブラフに気付かれていたら、こう上手くは行かなかっただろう。
最後に放った手刀に篭めたマナも、自分自身を削って捻り出した物だ。
回復するまでには、まだ少し掛かるだろう。『月光』も完全に沈黙している。
ファーレーンの傷を回復させる為に全力を挙げているのだ。つまり、もう余力などなかった。
「……ユートさま」
それでもファーレーンは歩き出した。倒れている悠人の元へと。
「……どいて……下さい!」
よろよろと、それでもしっかりと睨みつけるファーレーンに、残りの稲妻部隊がおずおずと道を開ける。
鬼気迫る、鋭利な刃物のような迫力に誰も一言も声を発することが出来なかった。
「…………」
やがて震えたまま槍を握り締めたグリーンスピリットの側まで辿り着く。
まるで何もかもを失ったかのように呆然と悠人を見つめるクォーリンの横顔には、明らかに後悔の色が浮かんでいた。
その表情を「視た」途端、ファーレーンの右手は無意識に動いていた。
――――ぱんっ!
軽い、乾いた音が響いた。
驚き、今やっとそこにファーレーンがいた事に気付いたかのようにクォーリンが顔を上げる。
ファーレーンは、しっかりと意志の光が籠められた瞳で真っ直ぐに彼女を見つめ返した。
「こんな……無意味なことを……」
「な……!」
じん、と痛む頬を抑え、何かを言おうとしたクォーリンを一瞥し、ファーレーンはそのまましゃがみ込んだ。
悠人の首筋にそっと手を当てる。まだ息がある事を確認し、やっと安堵の息をついた。
「……貴女の主は、こんな事を望んだのですか……」
振り向きもせず、そう呟く。それだけで、ぴくっと身を震わせる気配。
そんな背後の気配に言いようの無い怒りとやるせなさ、そして哀しみが満ちてくる。
「助けなさい……今すぐ! 大地の妖精の名にかけて!」
きっと振り返ったファーレーンの瞳から、大粒の涙が弾けとんだ。
気圧され、弾けるように立ち上がったクォーリンが、慌てて詠唱を始める。
「木漏れ日の光、大地の力よ、この者を……っ……癒せ!」
緑色の柔らかいマナが悠人を包み、次第に血の流れが止まり、傷口が塞がってゆく。
それを見届け、ファーレーンはその場にぺたり、と座り込んでしまった。
深い溜息を漏らし、緩んだ感情をそのままに振り返り、クォーリンに微笑みかける。
「間に合った……ありがとう……ほんとうに、ごめんなさい……」
そうしてぺこりと頭を下げるその姿は、先程の迫力がとても想像できないほど女性的なものだった。
「貴女……まさか……」
ファーレーンと視線を合わせたクォーリンは、言いかけてぐっとその口を結んだ。
今更何を言っても始まらない。……自分の、戦いは終わったのだから。終わってしまったのだから。
ミエーユの方角から、それぞれに稲妻部隊を退けたラキオスのスピリット達が駆けてくる。
確認したクォーリンは残りのスピリット達に武器を収めさせ、自ら降伏の段取りを始めた。
丘を降りる時にふと振り返ると、エトランジェを抱き抱えたまま座り込み、
未だにこちらに頭を下げているブラックスピリットの姿が見えた。
――――ほんとうに、ごめんなさい…………
エトランジェを刺し貫いた時の感触が、まだ手に残っている。
謝ってきた意味は未だに判らなかったが、思い出すたびに、ずきり、と胸が痛んだ。
支援するぞ!
みんな私に続けぇー
――――――――
「あ…………?」
ぽたり。熱い雫が頬に当たる感覚。ぼんやりと浮かび上がる顔。次第にはっきりしてくる頭。
「っ! ユートさま……良かった……本当、に……」
「俺…………そうだっ! 今日子、今日子はっ!!」
がばっと身を起こす。と、脳裏に浮かぶ、消えていく今日子の微笑み。瞬間、悠人はその場にへたり込んだ。
「ユート、さま……」
沈痛な表情を浮かべ、言葉を捜しているファーレーン。彼女は気づいていた。
先程から、エトランジェの気配が他に無いことを。しかし今は、その仕草でさえ悠人には辛かった。
少しずつ広がってくる、悔しさ、悲しみ。やり切れない思いに、勢い良く地面を叩きつける。
「くそっ!!」
「…………っ!」
咄嗟に顔を背けるファーレーンが一言も発さないのを見て、悠人は自嘲的に笑い出した。
「ははっ……そうだよな、俺が……俺が、殺したんだ……」
がっがっ、と地面を穿つ拳。その度に削れていく心。壊れそうな叫びを、悠人はもう抑える事が出来なかった。
「っ違……!」
「違わない! 気づいてたんだっ! 光陰が、死んじまったって!……約束したのに! なのに俺は! 俺はっ!!」
ファーレーンの言葉を遮り、叫ぶ。皮が破け、血が噴き出した。それでも悠人は憑かれたように殴り続けた。
「誰が誰を救うって?! 何が世界を変えるだっ! デカい事言って、結局何をしたっていうんだっ……」
そうしてようやく止めた手は、真っ赤に染まっていた。悠人はその手をじっと見つめた。血に汚れた、手。
「また、殺しただけだ……この手で、スピリットも、友達も殺したんだ……」
がっくりと、肩を落とす。呆然と呟く瞳には、もう何も映し出してはいない。
「止められなかった……今日子も……光陰も……“俺”も…………」
「ユートさま……」
自分自身をひたすら責める、背中。いつもより小さく感じる背中。
絞り出すような叫びを聞き、ファーレーンの胸に、込み上げて爆発する熱い想いがあった。
「ユートさまは、間違ってはいません……」
俯いたまま、言葉が自然と零れる。共に戦うと言ってくれた。あの時の嬉しさは忘れない。
支えたい、と思った。支え合いたい、と願った。それは純粋な、真っ直ぐな想い。
純粋で真っ直ぐな、悠人の心に魅かれたから。それが間違っている、なんてことは、絶対に……ない。
自分だけではない。皆が何故、こうして悠人についてくるのか。悠人の何を信じているのか。
それを伝えたかった。笑顔を、思い出して欲しかった。自信を、取り戻してあげたかった。
だがそれよりも先に、ファーレーンは自分の感情を――――もう、抑えきれなかった。
気づいたときには、傍らの『月光』に視線を下ろしながら囁いていた。
「月光は……太陽の光を月が受け止めるもの。陽光が無ければ月も……輝かないんです」
虚ろな視線のままの悠人には、届いていない。それでもファーレーンは続けた。続けたかった。
「……ユートさま、ユートさまはわたしを紡いで下さいますか…………?」
思い詰めるような口調に、悠人が初めて顔を上げる。すぐ側に、涙に濡れたファーレーンの顔があった。
「ファー……?」
「ユートさまは何も変わっていません。今までも、そしてきっとこれからも。
変わってしまったのはむしろわたしです。こんなにも気になってしょうがなくなったのですから……
最初からずっと変わらない、弱くて、それでも強いままのユートさまの心が、わたしは………………」
震える指先が、悠人の頬をなぞる。涙の跡に感じる温かさ。
――――ナイハムート、セィン、ヨテト……ソゥ、ユート…………
ざぁーーー………………
風が吹き、そして凪いだ。
「…………ごめんなさい、こんなときに」
ゆっくりと開く、深く静かに湛える瞳。映し出された自分の顔がそっと離れていく。
悠人は無意識に自分の唇をそっとなぞった。たった今、触れた温もり。微かにファーレーンの匂いが残っていた。
ぽた、ぽた、と一粒ふた粒、さざ波のように溢れる涙がとめどもなく零れ落ちてくる。
――――崩壊していく世界の中、その熱さだけが感じられる唯一だった。
サクキーナム カイラ ラ コンレス ハエシュ
ハテンサ スクテ ラ スレハウ ネクロランス
ラストハイマンラス イクニスツケマ ワ ヨテト ラ ウースィ…………ルゥ………………
――――照らすは既に儚き光 未だ求める寄り添う夜影 貴方は私を紡ぎ出して下さいますか――――
支援!
くっ…スキルの残回数が…
176 :
信頼の人:2005/10/10(月) 23:21:09 ID:u9ik+rAJ0
支援、有難うございました。
いつもいつもこんな長いネタにお付き合い頂き、感謝の言葉もありません。
前回場面変換のキツさについて幾つかご指摘を受けましたので、今回少し校正を施してみました。
……具体的には「―――――」を入れて改行の調整をしたり、第一行目に出来るだけ主語を入れただけなのですが(汗
それでも読み返してみると結構、いやかなり読み辛いものになってしまいました。筆の甘さに自己反省中です。
今回の『円舞』は『朔望』全体では起承転結の承後編になります。
また小説版からお借りした設定が所々ありますが、読んでなくても判る程度に抑えたつもりです。
ただザレントールに関しては、つい感情移入が激しくなってしまい、描写が少ししつこくなってしまいました。
前回のアズマリアもなのですが、下手に気に入ると返って全体を崩しかねないので、その辺が課題かなとか思ってます。
相変わらず、日付は基本的にPC版を参考にしています。ただし「歴」は「暦」と修正しました。
また、ゲーム内のイベントにつきましては、出来るだけ表現が重複しないよう、大幅に省略しています。
読み手に依存している、といえばそれまでなのですが、どうかご容赦下さい(汗
最後になりましたが、支援頂いた方々、改めて有難うございました。
もちろん、ここまで読んで頂いた方にも本当に感謝です。
誤字脱字ハリオンマジック等、ご指摘があれば幸いです。
こら〜そこ〜!長編見るときは支援だ支援〜!(あるゲームキャラのパロで
支援し損ねた…
今職場でこれから仕事なんで、帰宅後読みます
長編投稿乙です
>>176 信頼氏
お疲れ様です!
愛ゆえに暴走してしまったクォーリンに
切なさで胸が締め付けられそうです
願わくば悠人の昏い路を柔らかな月光が照らしますように…
そう、祈るばかりです
乙〜
悲壮な雰囲気が良く出て、読んでいて引き込まれます。戦闘シーンも格好いい。
光陰と今日子の場面に絡むファーレーンも良さげ。ここは中盤の山場ですからね。
地味に王女様渋い。
シリアスなこのSS好きです。
あまりに大作過ぎると、感想書くのも恐る恐るに。長編乙です。
仲間達の実力が伸びている事に気付き焦り、同時に今になって死ぬ事に怯え始める
ファーレーン、いい描写ですね。価値観の変化と、世界観の変化と。
砂漠の王様は目立ちまくりでしたが(笑)、次に登場しそうに無いので許容範囲なのでわ。
でも、内心イイ人っぽい瞬にはかなり違和感(w
光陰達との決戦は個人的に言う事無しです。悠人にまた背負うものが……
氏の書く悠人は、策謀は苦手でも一生懸命な少年と言う感じがして良いです。
性格からして思いっきり引きずる、ずっと記憶に残りそうな出来事でしょうが、頑張れ。
GJ。
なぜか毎回毎回王族の人達が格好いいのは気のせいですか、そうですか(笑
脇役キャラとして程々ですから、少しの入れ込みはオーケーかと> ザレントール
場面転換は頻繁すぎるかもしれませんが、効果的な面もあるので難しい所ですね。
友人と戦うと言う震えるシーンですが、光陰が悠人をかばう展開に僅かだけ違和感。
逆なら分かるんですけど。でも、悠人に致命傷の攻撃は無理だから仕方ないかな・・・
悠人視点での気を失う寸前、クォーリンが呆然とするか我に返る描写があったら良かったかも。
何はともあれ書き込みが細かく好きな作品で、お疲れ様でしたー
P.S ファーSSなのにレスティーナに一瞬転びかけたのは秘密(笑
>176
大長編GJ。
今度の話はだいたいゲーム本編通りですね。
お互いに非情に徹し切れなかったけど、どちらかが勝つしかない状況と、その結果。
茫然自失状態のユートをファーレーンが支えるんでしょうか。関係も一歩進んだ事ですし。
次も楽しみにしています。
どうもです、みなさま。
この前はどうもありがとうございました。
クォーリン関連については、あまり拘らないことにしました。
(詳しくは避難所にて)
さて、今回はセリアが主役です。
セリアの日記という形で、セリアのなんでもない日常を描いてみます。
では、よろしくお願いします。
日付・記述し忘れ。
珍しく、特にするべき事もなくて自室の窓から外を眺めてた。
いつもいつも、心の中では本当の家族と思っている大切な仲間たち。
長い長い戦争は終わった。
本当に、色々なことがあったと思う。
だけど、なんだろう。
名前も知らない、会ったこともないし顔も声も知らない。
なのに、家族と思う仲間たちと同じくらい大切な誰かが。
とてもとても大切な、決して忘れえぬはずの誰かが心の奥より深いところにいる。
今、自分でこうして日記を書いて気がつく。
どうして私は、「忘れえぬはずの」と書いたんだろう。
最初からまったく知らないのに、どうして忘れえぬのだろう。
見上げた空は、これまでの戦争のけがれを清い風でさらうかのように優しく青い。
ふと、下から声がした。
ネリーとシアーが、見知らぬ誰かと楽しそうに話している。
どうしてスピリット隊の詰め所に民間人が、と思ったけれども。
でも、あの優しい青の向こうから「別にいいじゃないか、セリア」と聞こえてしまった。
まったく知らないはずの、その優しくて力強くて頼りなさげな声に怒りたくなる。
「ここが何処か、そして状況をわかっているんですか、あな…たは…?」
知らない、でも懐かしい名前を呼びたいのに呼べなかったのがちくりと痛かった。
ため息をつきながらネリーたちを見てると、その民間人と遊びはじめた様子。
その黒髪をお団子にまとめた民間人の女の子はヨフアルをお土産に持ってきたらしい。
この3人は、以前に街で出会ったことがあるのだろうか?
民間人の子供が、スピリットを疑問も無く友達と認識して。
なんの疑いもなく、ただ友達だから友達であるスピリットの顔を見にここに来た?
もしそうなのなら…レスティーナ女王が理想と掲げる、新しい時代を示すような場面。
もちろん、それはあくまで私の信じたい未来でしかないのだけれど。
でも、仲間たちと誰かのためにも信じたい未来でもある。
ヘリオンが頑張った夕食は、ネリーとシアーのその時の話のおかげで余計に美味しかった。
日付・またも記述し忘れ。
午後からの訓練の前だけれど、ふと館の玄関から見える風景がなぜか恋しくなった。
開いた扉に左手をかけて、目の前を眺める。
ううん、私はきっと…待っていたんだろう。
初めから知らない、そして二度と帰らぬのにまた会いたい誰かを待っていたんだろう。
記憶の断片を、頭の中で無造作に散らかしてみるけど何も見つかるはずはなかった。
そうしていたら、ほど遠くない場所から声がするのに気づく。
ハリオンとヘリオン、そしてこの前の民間人の少女だった。
少女は今日も、大量のヨフアルをお土産に持ってきていた様子だった。
どうやら、ネリーとシアーはたまたまいないのでハリオンとヘリオンが代わりに遊ぶらしい。
なんとはなしに、私はぼーっと眺めていた。
何やら準備するから、と少女をそこで待たせて館に戻っていく二人。
ちらりと横目で見た、二人の笑顔はとても優しさに満ちていた。
それだけで、私も何故か優しい気持ちになれた。
ほどなくして、二人が準備をすませて少女のもとに戻っていく。
二人は、それぞれ普段とは別の服に着替えていた。
…どうやら、少女が目隠しして二人がその周囲をぐるぐる回って。
それで、合図したら目隠しをとった少女が二人がどちらか当てる遊びらしい。
午後の日差しは、やわらかくて。涼やかなそよ風は頬を撫でていく。
携帯で繋いだらリアルタイム投稿キタ━━━━( ゚∀゚)━━━━!!!!
支援だ支援〜!
二人がぐるぐる少女の周囲を回るのを止めて、合図で少女が目隠しを外す。
「レイザーハリオンハードスピ〜!」
「プロジェクト・Gヘリオンマン、です!」
私はそこではじめて、眼前の光景の異様さに気づいた。
あまりの風景と日差しと風の優しさに、正常な感覚が麻痺していた自分を呪った。
フオォォと異様な唸り声をあげるハリオンと、見るからにゴキゴキしいヘリオン。
そして、真剣に二人がどれかわからなくて見比べながら考え込む民間人の少女。
3人の間に、見えない火花が無意味にほとばしるのが確かに見える。
いくばくかの長い沈黙の後で、ヨフアル少女はヘリオンを指差して名を叫んだ。
「セリア!」
まぶしいくらいに爽やかな笑顔の3人。
私も、きっと同じ笑顔をしていたと思う。
その笑顔のままで腰の「熱病」を抜き放って、ゆっくりと3人に近づいた。
あとは覚えていない、むしろあえて強引に忘却の彼方へ押しやった。
何故かはわからないが、王家の未来に拭いきれない不安を感じた日だった。
どうも、本日はここまでです。
支援、ありがとうございます。
内容については、ただ彼女らへの萌え故にとしか申し開きできません。
では誤字脱字ハリオンマジックなどありましたら御指摘よろしくです。
支援しますよぉ〜
また一発支援ミスったorz
投稿乙です。今はちょっと多忙中なので、後程見ますね
>>190 乙。
ハリオンと互いに笑顔で死闘を繰り広げるセリアが目に浮かぶようでしたw
ていうか女王陛下の安否は如何に…。
>>176 信頼の人さん
本当にお疲れさまでした。
今回は特に、挿入話の魅せ方がお腹の中に様々な意味で響くように感じられました。
前編で語られた日付がそろそろやってくる頃だと思いながら拝読していましたが、
一足先にマロリガン戦のもっとも重要な決着を、挿入話で示された時には胃が縮こまるような感触がしました……
かと思えば、「]」ラストで挿入話シーンキター!とあの台詞がこんな所で使われていた事に声を上げ、
読み手の起伏までコントロールされているようで、息をつくばかりです。
折り返しに来ましたが、今回もまた意味深な「overtune」の中身と日付が。
いえ、日付で先読みしちゃってるのは反則なのかもしれません。いけませんね。
>>190 どりるあーむさん
あぁ。彼女たちはこうして日常に帰っていくのか……
彼の残滓を心の底に秘めなが……ちょっと待て何してるおまいらー!
まともにこんな感じでモニターに吹きだしました。
AA師や絵師の方々のおかげでまともにコスプレ画像つきで
想像してしまったのも衝撃度アップです。GJでした。
>>176 光陰もクォーリンもザレントールも皆輝いてますね〜。「格好良い!」と素直に思います。
勿論、恋するファーには、「可愛い」と「強い」という形容詞も付きますが(笑
一方ソゥユート。「でも、背負う。その時まで。罪は――」この台詞にかなりジンときました。
が、何故「だったら償えばいい!!」って今日子にも言ってくんないんですか……orz
ファーと今日子の間には越えられない高い壁があると。そう言いたいのですか、ソゥユート!?
………………ありそうですねぇ、普通に(ぉ
ま、ともかく。迫力ある戦闘描写も深く細かい心理描写も、読み応え十分過ぎです。今回も超長編乙です!
82、7行目と84、4行目「いづれ」は「いずれ」のほうがいいかなぁと思いました。
けど、まあ別にどっちでもいいのかも。ただ、110、3行目の「質問」は何だか意味が通ってないような。
(いつもツッコミいれてばかりで、すみません……)
「ファーレーンとレスティーナ女王陛下の同時攻略……何ですか、これは。わたくしという者がありながら!
おまけに、わたくしの見せ場も全然ありませんし……!!」
「なに、怒ってるのよ。アセリアとかヘリオンとかと比べれば、遥かにマシじゃない」
キッ!!セリアの言葉に反応し、向けられる殺人的なまでの鋭い視線。
しかし、長い付き合いでさすがに慣れたのか、セリアはそれを軽く受け流す。
「…まったく。心が狭いというか何というか」
「お黙りなさい!少しばかり活躍したからといって調子に乗らない事ですよ、セリア!
次回はきっと全編、わたくしの見せ場だらけです。さらには、ユートさまといく所までいきます。
そうに決まってます!!」
「……それだけはないわ、絶対」
次回は、エスペリアの叫び〜歓喜編〜をお送り致します(無理)
>>190 平和になっても、ちっともセリアの心は安らかにならないんですねw
…ああ、成る程。それでスピたんではあんなに老け……いやいや、おばさ……げふんげふん。
セリアの望むのは、平和な世界よりも気苦労のない世界なのかもしれません(笑
ぶっちゃけ、某女王陛下が真面目に政務をやってくれればいいだけのような気もしますが……(苦笑
>>176 信頼の人さん
超長編お疲れ様です!
まるで映画でも見ているかのような描写にびっくりです
ファー&ユートの心の動きを存分に、存分に堪能させていただきました
>>190 どりるあーむさん
日記形式でここまで・・・・・・やられたッ!
苦労ばかりでうんざりしている様に見えても
なんだか寂しそうなセリアの心境がよく描かれていると思います
話は変わりますがSSを投下したいと思います
ぱっと思いついたネタなんで色々と穴があるかと思いますが
楽しんでいただければ幸いです
198 :
緑色の子守唄:2005/10/12(水) 18:14:10 ID:b6IvuRwW0
────頭が、痛い。その強烈な痛みは体の自由すら奪う。
全身は火照り、だらだらと汗が出てくる。心なしか視界もぼやけている気がする──
「ごほっ、ごほっ、うぅ・・・」
抵抗も無く咳込むと、エスペリアの困ったような声が耳に入ってきた。
「全く・・・・・・こんな時に風邪を召されるなんて・・・」
俺はすっかり風邪を引いてしまっていた。
というのも、補給のためにマロリガン領からラキオスにエーテルジャンプをしたときに
強烈な温度差に見舞われてしまい、そのまま頭痛とともに倒れたのだった。
「ホント、パパはなんじゃくだね♪」
「・・・・・・あの温度差は正直しんどい。ハイロゥが使えるスピリットが羨ましい限りだよ」
「そうは言われますけど、マナ消失地帯ではスピリットもきついんですよ?」
ぶつぶつと文句を言いながら、エスペリアは手際よく氷袋を変えてくれた。
額のタオルの上からの痛いほどの冷気は、こういうときには気持ちのいいものだ。
「あ゙〜効く〜」
「・・・まあ、戦争はしばらくありませんでしょうから、ゆっくり養生なさってください。
私たちは下にいますので、何かありましたら、遠慮なく呼んでください。さあ、オルファ、行きましょう」
「じゃあね、パパ。ちゃんと風邪治さなきゃだめだよ?」
「ああ、そうさせてもらうよ」
そう言って二人は部屋を出て行った。どうやら俺に気を使っているようだった。
「(そういえばずっと前線にいたんだもんな・・・。温度差だけじゃなくて、疲れてたんだろうな)」
こんなときにはこういう気遣いはものすごく有難い。
窓からのそよ風が心地よさを倍増させるせいで、意識がどんどん薄れていく。
「(おやすみなさい、ってか)」
せっかくだからと、俺は全身の力を抜いて眠りの世界へと旅立っていった。
199 :
緑色の子守唄:2005/10/12(水) 18:15:23 ID:b6IvuRwW0
────何故だろう、体が重い。闇の中で何かが体中に纏わりつくような感覚が俺を襲う。
息ができないということは無いが、苦しい。さっきよりも体が動かない。
・・・・・・やがてその苦しさは俺を現実の世界へと呼び戻す─────
「(あ・・・ぐ、体が・・・動けない)」
だが、なんとか指は動かせそうだ。しっかりと意識を持つようにして指を動かしてみた・・・・・・
「・・・・・・?」
何か柔らかい感触が伝わってきた。だがまだそれが何なのかは判らない。
「(なんだ?・・・・・・これ)」
さらに指を動かし、その柔らかい所を探ってみる。すると、幽かに声が聞こえてきた。
「・・・・・・・・・ん・・・・・・とこ・・・・・・」
「え・・・・・・何?」
意識がはっきりとしてきた。聞こえる声もはっきりとしてくる。
「あぁん〜、くすぐったいですぅ〜。そんなところ触らないでください〜」
「!!」
俺ははっとした。まさかと思いつつ、渾身の力を込めて首を横にしてみると・・・・・・!
「ハ、ハリオン〜!?」
「あらあらぁ〜?目が覚めちゃいましたかぁ〜?」
意識がはっきりと戻った今、状況が飲み込めた。
隣でハリオンが俺をがっちりと抱くようにして一緒に布団に潜っていたのだ。
どうやら、俺はハリオンの下っ腹の辺りを触っていたらしい。
何気に力の強いハリオンに抱かれているんじゃ動けないわけだ。
「いや、これは誰でも目が覚めるって!」
「そうですかぁ〜?」
「というか、何してるんだよ」
「えっと、ユート様がお風邪を召されていると聞きましたので〜、添い寝を〜♪」
「い、いやいやいや!」
何でそこで添い寝なんだ!と突っ込みを入れる前に、ハリオンはにっこりと微笑んで説明しだした。
タイミングのいい支援って苦手ですぅ〜、に、鈍いからじゃないんですよ
201 :
緑色の子守唄:2005/10/12(水) 18:19:38 ID:b6IvuRwW0
「えっと〜、お風邪を治すにはぁ〜、暖かくして寝るのが一番ですから♪
一緒に寝ると〜、と〜っても暖かいんですよ〜」
「そりゃわかるけど・・・・・・移るぞ、風邪」
「大丈夫ですよ〜♪これは、初めてじゃありませんから〜」
「初めてじゃないって?」
どうにもこうにも意味深な言葉が飛び出して、俺は少し呆然となる。
「(ちょっとマズいんじゃないか?それは・・・・・・)」
妙な想像をする俺を尻目に、ハリオンは言葉を続けた。
「ずっと前に、ヘリオンが風邪を引いたときも、こうしてあげたんですよ〜。
そうしたら、たちどころに回復したんですよ〜。ですから、実証済みなんです♪
それに、私は風邪には強いですから〜。移ることはありませんよ〜」
「へぇ、そうなんだ」
俺は無理やり納得することにした。そこまで言うなら大丈夫だろう、多分。
「ですから、こうして、ユート様の風邪を治すのを手伝ってあげますぅ〜」
俺を心配しているのは伝わった。だからといって勝手に潜ってくるのもどうかと思うけど。
まあ、どうせ抵抗しても無駄だろう、素直に受け入れることにした。
「それはいいんだけどさ、少し力弱めて・・・苦しい」
「そうですか〜?」
202 :
緑色の子守唄:2005/10/12(水) 18:21:07 ID:b6IvuRwW0
ぶにゅ。
少し体を動かすと、思わず動いた腕がさっきよりも遥かに弾力のあるものに当たった。
これだけの弾力を持つ部位は一箇所しかない。
「あ゙・・・・・・ご、ごめん」
「あらあら〜?どうして謝るんですか〜?」
「え、いや、だって」
どうしてと言われてあっけにとられるが、ハリオンは笑顔で答えてくれた。
「私が勝手に入ってきてるんですから〜、気にしないでください〜」
そう言われても、ハリオンの胸はぴったりと俺にくっついている。これで気にするなって方が無茶だ。
「でも〜、ユート様さえよければ、もっといっぱいさわっちゃってもいいんですよ?」
とんでもない許可を出すハリオン。その瞬間のことだった。
キイィィィン・・・・・・!
「(ぐあッッ!)」
突然、『求め』が俺の意識の中に割り込んできた。
『契約者よ、お前がができないというならば、我に任せてもらおう』
「(な!や、やめろ!このバカ剣!)」
俺の中で欲望と理性が戦いを始める。もし欲望が勝ってしまったら目も当てられない。
「(くっ・・・!退けっ!)」
『・・・・・・フ』
珍しく『求め』はあっさりと退いた。まったく、何考えてんだか。
「〜〜?ユート様〜、どうかしたんですかぁ〜?」
ハリオンは心配そうに覗き込んでくるが、俺は何でもないという風に笑顔で応える。
とりあえず、正気を失う前に寝てしまったほうがいいと思った。
203 :
緑色の子守唄:2005/10/12(水) 18:22:17 ID:b6IvuRwW0
「そ、それじゃあ寝るか」
「でしたら〜、よく眠れるようにお歌を歌いますね♪」
「歌?」
「はい〜。子守唄ですぅ〜」
俺は子供じゃない!と言おうと思ったが、風邪を治そうとしてくれるハリオンの心遣いが嬉しい。
何も躊躇することなく、目を瞑って子守唄に耳を傾けることにした。
「では、歌います〜」
「♪♪♪〜〜〜」
ハリオンは俺の体をぽんぽんと叩きながら優しく、柔らかい声で歌い始めた。
「(あれ、この感じ・・・?)」
何か、俺の中でとても暖かく、懐かしいものがこみ上げてきた。
それは、遥か昔の『母親』の記憶。それも本当の母親の記憶だった。
「(母さんのことは、よく覚えてない。でも、なんとなくわかる。昔こんな風に子守唄を歌ってもらったって)」
そう思っていると、何故だか涙が出てくる。
『母親』が隣で歌ってると思うと、同時に寂しさも沸いてきた。
204 :
緑色の子守唄:2005/10/12(水) 18:23:45 ID:b6IvuRwW0
おかしい。隣で歌ってくれているのはハリオンという別の女性なのに。
どうしても俺の中にある『母親』と重なってしまう。
なにもかもが心地いい、安心できる。綺麗で、やわらかくて、いいにおいがする。
俺の耳も、鼻も、体も、・・・心でさえも、隣の女性を『母親』として感じている。
「(ハリオン・・・?いや、母さん?・・・・・・どっちだ?)」
もうどちらでもよかった。感じていること全てが俺にとっては素敵なことだった。
俺の全てが楽になってゆく。次第に心身が癒されていくのがわかる。
目の前の闇に幽かな人影が写る。それは、髪が長くて、豊満な胸を持つ優しい感じのする女性。
俺には、それが誰なのかはわからなかった。
だが、わかっていた。この人は俺のことを想ってくれている人だって、受け入れてもいいって。
人影はどんどん近づいてくる。目の前まで来たとき、暖かな抱擁が俺を包んだ。
「(かあ・・・さん)」
──── 子守唄を聴いているうちに、俺の意識は再び闇に落ちた。
205 :
緑色の子守唄:2005/10/12(水) 18:25:38 ID:b6IvuRwW0
「・・・・・・ま・・・・・・・・・ト様」
「う・・・ん、んん?」
女性の声が聞こえる。母さんじゃないけど、俺が知ってる優しい人の声。
「ユート様、お起きになってください。もう夕食の時間ですよ」
「・・・・・・あ、エスペリア」
俺は目を覚ましたとき、周りはもう暗くなっていた。窓の外から虫の鳴き声が聞こえてくる。
どれくらい眠っていたんだろう、眠気はすっきりしているようだ。
「風邪のお加減はどうですか?」
「風邪・・・あっ」
額に手を当てて気づいた。頭痛は消え、熱も収まって、どうやら風邪は治ってしまったようだ。
「おかげで、すっかり治っちゃったみたいだ」
「そうですか・・・・・・それはよかったですね」
「・・・へ?」
心なしか、エスペリアが怒っているように見える。よく見ると額に青筋を浮かべていた。
「ユート様?一体何をしてもらったのか、説明してもらいますよ?」
「・・・って、あ゙あ゙!」
エスペリアの言葉で、俺は自分がどういう状況で寝ていたのかを思い出した。
────全ては、あの時のまま。ハリオンは俺に抱きついたまま幸せそうな顔で眠っていた。
「どういうことなんですか!?」
「い、いや、これは!お、おい!ハリオン、起きろ!」
俺はハリオンの体を力いっぱいゆする。ところが、ハリオンはまだ夢の世界にいるようだ。
「う〜ん〜、ユート様ぁ〜♪そんな所触っちゃだめですよぅ〜」
どんな夢を見ているのやら、とんでもない寝言。その瞬間、戦慄が俺の全身を走った。
206 :
緑色の子守唄:2005/10/12(水) 18:26:41 ID:b6IvuRwW0
「 ユ ー ト さ ま 〜〜〜〜〜!!」
『献身』に殺意の混ざったマナが集まり始める。早くハリオンを起こさないと、殺される!
「ち、違うんだ!ああ、ハ、ハリオン!頼むから起きてくれ〜!!」
慌てて起こそうとしていると、ハリオンの手に俺の頭はがっちりと掴まれ、一気に引き寄せられてしまった。
「うわあっ!」
「うふふふ〜ユートさまぁ〜、ん〜♪」
ちゅっ
「「────!!」」
俺とハリオンの柔らかな唇が重なった瞬間、俺とエスペリアは同時に固まった。
顔は紅潮しているだろうが、背筋は絶対零度をも超える勢いで凍り付いているだろう。
恐る恐る後ろを振り向くと・・・・・・もうだめだ、エスペリアは殺る気満々だ。
「あ、あ、あの、エ、エスペリ・・・」
「 問 答 無 用 〜 ッ !!」
ドカッ バキッ ズシャッ ちゅどーん・・・
「(あ、向こうで母さんと父さんが手を振っている・・・・・・)」
───音速を超える斬撃と緑マナの大爆発をもろに食らって、俺は昏倒した。
30分後、ようやく目覚めたハリオンとエスペリアが全てを明かしたことによって、館中は大騒ぎになった。
年少組のオルファをはじめとする、スピリット隊のメンバーの大半が一緒に寝ようと押しかけてきたからだ。
ヘリオンやファーレーンに至っては話を聞いたその場で失神する始末。
・・・・・・その後すぐ、風邪がぶり返して(しかも大怪我)添い寝禁止になったのは言うまでも無い。
でも、ハリオンとなら、また一緒に寝てもいい。俺は、心のどこかでそう思っていた───。
─ 終 ─
以上です
指摘がありましたら何でもどうぞ
ワタクシ的にネタにし易さ第5位のハリオンネタですた
余談ですが、
逆転裁判ネタのシリーズ化を考えています
まだどういう事件にするかすら浮かんでませんが(´・ω・`)
同じく指摘がありましたらよろしくお願いします
>>207 お疲れ様です
癒し系お姉さんの本領発揮ですね
その分エスペリアが壊し系w
やっぱハリオンはいいね。( ´∀`)
お姉さんかつお母さんのハリオン、すべてを包み込む優しさを・・・
>>207 くじら318号さん
抱かれ枕ハリオンGJ! 包まれたい〜、癒されたい〜……ハッ
包まれた悠人本人は、天国の後には地獄を経て昇天したというのに、
お釣りが来るほど良い思いをしているような気がします。
一番ぐっと来たのがエロ剣『求め』なのはこちらの問題でしょうw
>>207 GJ!です。PS2のマロリガン戦後のイベントを思い出しました。
あのイベントでハリオンに惚れた自分としては、こういうSSは嬉しい限り。
ユートって、悲惨な生い立ちの割にこういうコンプレックスの話が少なかったですよね。
余りにもシスコンの度が強すぎて、他の設定が霞んでいるんでしょうかw
ハリオンの特徴とユートの設定を良く生かした、良い作品でした。
>>190 3レス目までは……3レス目までは仕事の疲れを癒されながら鼻の奥がツーンとなるのに耐えていたのにっ!
全部笑い涙になってしまったではないですかぁっっ!w モニタに飛んだ唾をどうしてくれよう、ヨフアル王女。
画像板のあの光景が、前スレのあのAAが、全部セリアに刷り込まれて…………可愛いじゃないですか(支離滅裂
>>207 風邪には安静が一番なのに、何故こうもスピリット達は構いたがるのか。
母性本能のカタマリみたいなたゆんハリオンに何を言っても無駄な気はしますが(苦笑
『求め』が個人的に大ヒットw
>>179さん
クォーリンに焦点を当てられましたか。
彼女今回はかなり損な役割(最終編にちょっと出ますが結局不遇なまま……)なってます(汗
悠人の道を照らすのが月光なら、じゃ、月を照らすのは? (ちょっとネタばれ気味)
そんな一方通行の関係じゃないものを求めている二人、そんなものが今回の核だったりします。
>>180さん
結構今日子戦とかゲームと被ってしまうので割愛した所が多かったのですが、そう言っていただけるとほっとします。
殊更に悩みまくる二人ばかり追っているので、この編全体が暗めなのですが、シリアスと取って頂けると嬉しいです。
>>181さん
ファーレーンがゲーム中で何故早熟に設定されているのかをあれこれ考えていたらこうなりました。
いえ、ゲームバランスの都合だとは判ってるのですが(汗 実はもう一つ理由があるのですけど(またネタばれ)
砂漠の王様はもう出ませんw 瞬、イイ人っぽく見えましたか……。ちょっと調整間違えたかな(ぇ
>一生懸命な少年 問題は、立ち向かえるかどうかだと思うんですよ。その強い心をどうやって、何故。5W1Hとか。
>>182さん
うう、すみませんすみませんorz>王族
場面転換や視点切換はある程度意図的に行っている所もあります。
とか書くと厳しい監視の目が光ってる気がしますのであまり言えないのですが、結局は自分の筆の甘さに起因しています。
光陰も含め、そこに違和感を感じさせないように上手に書ければいいのですが……
>我に返る描写 ……ホントだ、それを入れればクォーリン→悠人の感情の流れも補完出来ましたね。ご指摘有難うございます。
>レスティーナに一瞬 w)そのまま転んで何かネタかいて下さいw
>>183さん
意外と光陰・今日子死亡ルートに対してスレ的にすんなり受け入れられたようで、かえってびっくりしています。
次は帝国戦終了までです。というか『朔望』の物語的時期を説明していなかったのですが、ゲーム本編でいう、
序章から終章まで、つまり全部です。いまさらですが(汗
>>194道行さん
挿話に注目されてしまった……]の台詞に気づいてしまいましたか(汗
あれ、飛び飛びなので皆忘れた頃に出てくるものばかりなのに。日付読みする方がホントにいるとは思わなかったw
軽いものだと同じ編に、酷いものだと『夜想』に出てきたのが最終編繋がりだったりしているので、余りお気になさらずに(汗
逆に言えばそれらが各編を結びつけて一本の『朔望』にしているのですが。もちろん、全体で一本の主題もありますが。
>>196さん
……意味通ってませんね、「質問」。あはは……恐らく粗稿の段階ではファーが意味不明な質問を浴びせてたんでしょう。
全くこれだから世間知らずな砂糖菓子娘は……すんません修正依頼出してきます_no
あそこは今日子とファーの壁というよりは、あの時点で悠人は自分が背負う覚悟は出来ていても、それを他の人に強調は出来なかったのではないかと。
エスペリアw 彼女、地味に活躍してるじゃないですか、所々。
>アセリアとかヘリオンとかと比べれば、遥かにマシじゃない
_| ̄|((○ イエ、ソノフタリヲナラベラレルトコジンテキニイロイロクルモノガアリマシテ……セリアサン、アイカワラズノスルドサデスネ……
>>197くじら318号さん
映画っていうか、バタバタしてるだけなのかも知れませんが、読んで頂いて有難うございます。
どっかまだ揺れている二人ですが、心境らしきものを感じていただけたなら良かったですw
SS以外の書き込みをざっと見てた時に、ふと思い付いたネタ
求「契約者よ…マナをよこせ…」
悠「うるさい、バカ剣!お前はこれでも食ってろ!」
求「貴様、何を…!」
大量のピーマンの中に放り込まれる求め。彼も同じくピーマン嫌いだったらしく、沈黙
時間があればSS化出来ただろうけど、時間無いし、ネタ自体を忘れそうなんで…
>>215 求めは口がないから、むしろ
求「契約者よ・・・マナをよこせ・・・」
悠「黙ってろバカ剣、緑のマナをくれてやる!」
求「貴様・・・それは!」
悠「俺はちょっとだが料理もできるんだ」
求「うおおおお!千切りだけはやめろ!」
悠「ならばさいの目切りだ!」
大量のリクェムを切りまくり、リクェムの匂いと汁がたっぷりついた求めタソ
カワイソスカワイソス
>>215-216 むしろ
求「契約者よ……マナをよこせ……」
悠「うるさい、バカ剣! お前はこれでも食ってろ!」
求「貴様、何を……!」
ズボッ! 無駄に空いている穴に大量のリクェムを突っ込まれ、悶絶する求めタン
カワイソスカワイソス
求「契約者よ・・・マナをよこせ・・・」
悠「うるさい、バカ剣!、緑のマナをくれてやる!」
求「!? 貴様、何を……!」
ハ「あら〜ユート様〜、どうかしたんですかぁ〜?」
悠「わるい、こいつ暫く預かっててくれ、頼む!」
求「契約者!やめろ、そいつだけは・・・!」
そしてハリオンに意識を乗っ取られそうになる求めタン・・・
>>218 預けられてる時の睡眠中、抱き枕の様に抱かれ、胸の間に挟まって天国と地獄な求めタソ…かわってくれ!と、思うのは俺だけじゃないはず
絶対に預けられない人→光陰
間違いなく大暴走w
いや、こうだと思う。
…書いてる途中で長くなったので、プチSSとして投下しまふ。
むしろ、これはシリーズ化してしまいましょうそうしましょう。
求「契約者よ…マナをよこせ…」
悠「おおそうなのかなるほどうむよしよくわかったオッケー、バカ剣」
求「え?」
悠「俺も男だし契約者には違いない、たまにはお前に素直に従おう」
求「う、うむ…今日はやけに素直なのだな」
悠「とりあず、緑のマナでいいか?」
求「あ、うむまぁ…。マナさえくれるのなら何色でも」
-数分後-
求「契約者…契約者よッ!」
悠「ん、どうしたバカ剣。泣きそうな声なんか出して」
求「悪かった、我が悪かった本当に悪かったいやもう本当に悪かったッ!」
悠「ん〜?変だな、急に全く声が聞こえなくなったなあ?」
求「け、契約者あぁぁッ!?」
-悠人は、ハリオンの部屋でハリオン&ヘリオン+エトランジェズとくつろいでいた-
ハ「は〜、こうしてみんなでお茶していますと気持ちがいいですね〜」
悠「はっはっは、全くだ。ハリオンのお菓子も美味しいがヘリオンのお茶も美味しいな」
へ「はい、ありがとうございます!みなさんに喜んでもらえて私も嬉しいですぅ!」
光「ふー、確かに気分が安らぐな…。今日子はどうだ?」
今「うん、本当にいつまでもこうしていたいくらい気分が晴れやかで安らぐわぁ…」
ハ「よかったです〜」
今「悠、とりあえず入れ知恵してくれてありがとうと言っとくわ」
悠「いやいや、みなが笑顔ですごせるのなら俺はそれだけでいいさ」
光「しかし、いい気持ちだ…ヘリオンちゃん、お茶のおかわりをもらえるかい?」
-壁には、「大樹」に「求め」と「空虚」が【重ねて】たてかけられていた-
求「やめよ、大樹ッ!それ以上我に身体をすりよらせてくるでない!」
大「そんな〜、求め様つれないですぅ〜。
ほら、あちらと同じようにお茶とお菓子もありますよ〜」
求「そもそも永遠神剣の精神世界に、ファンシーなティールームなど作るな!」
大「ハイペリア語はわからないですぅ〜、それよりも求め様ぁ〜」
求「ええい、だから悩ましげにくっつくなと申しているッ!…空虚!」
空「なんだ、求めよ」
求「そのような隅っこに退避しとらんで我を助けよ!何とかしろ!」
空「お主ほどではないが色々と身に覚えがありすぎるのでな。
…とばっちりをくらうのは、ごめんこうむらせてもらう」
求「因果ぁッ!」
因「ああ、失望タン…可愛いよ失望タン…ハァハァ」
空「手遅れだ、求めよ」
大「ああん、求め様ぁ〜…ほら、あーんしてください〜」
求「助けてくれえぇぇぇぇッ!」
…と、いう次第っていうか妄想。
次なる妄想を期待してお待ち申し上げます。
短編SSの「BEAUTIFUL SUNDAY」を思い出した。
諸君はぬかに釘という言葉を知っているだろうか?
求めは格好の材料だと思うのだが…特にハリオンあたりが(ry
因果テラワロス
光陰はアレでも、神剣の支配を受け付けないくらい精神力高いんだよな
そうか、
乗 っ 取 っ た の か !
年少組みの神剣と一緒にしてみたら、どうだろう?
「契約者よ〜、くだけぇ〜、誓いを〜、くだくのだぁ〜」
……ハリオンに洗脳(?)された求めの図
228 :
名無しさん@初回限定:2005/10/13(木) 17:33:42 ID:gNECVYsD0
むしろ
「契約者よ、そんなことをしてはメッだ」
とかな
『契約者よ』
「何だバカ剣。休憩中に」
『汝が今飲んだ茶なのだがな』
「……まさか、毒でも仕込まれたかッ!?」
『違う。下町の、あそこに菓子屋があるだろう。そこにとても合うのがあるのだそうだ。買いに行くぞ』
「いや、お前味わえな………!!」
『 ゆ く ぞ 』
強制力、最大出力。
「求めのキャラの方向性すら変えてしまうハリオンの力…。これこそが真のハリオンマジックだったんだよ!」
「な、なんだってー!?」
お目汚し申し訳ない
永遠神剣の精神世界における失望タンの姿にとてもハァハァしてしまいそう・・・。
232 :
革命:2005/10/13(木) 23:44:10 ID:Ixq30FK30
流れぶった切って申し訳ないですが、SS投下します。
タイトルは「誰も知り得ぬ場所で…」
ここは…どこだ?
一面の闇。上下も左右もない。
自分自身の肉体の感覚もない。
あるのは自身を「高嶺悠人」と形作っている「意思」だけだった。
俺は確か…シュンを倒して、それで…
「誰だ」
記憶を辿る悠人に突然声(?)がかかった。
闇からいでる気配。
それは俺の知っているもの。少し違和感があるが間違い無い。
「瞬…か?」
「…貴様か…悠人」
「何故だ?お前は死んだはずじゃ…」
確かに、倒した。なのに、何故。
「ふん、だったら貴様も死んだんだろう」
そうだ、思い出した。
「という事は、ここは…」
「さしずめ、死後の世界とやらだろうな」
……
「世界は、ファンタズマゴリアはどうなった?」
「見せてやろうか…」
「そんな事が出来るのか?」
瞬から得意げな気配が伝わってきた。そんな事も出来ないのか?、と。
「簡単さ。見たいものをただ、心の中に思い浮かべるだけでいい」
少しむっときたが、意外にも瞬は教えてくれた。
言われるままに、思う。
瞬間、闇の中に光が弾けた。
まるで映画のように映し出された別世界の情報。
悲しみから立ち直ってそれぞれの道を歩き出したファンタズマゴリアのみんなが見えた。
小高い丘に時深が立っている。悲しみにひび割れた心は何かを見つけて旅立つ。
光陰、今日子。二人は通学路の中で連れを待っていた。
そして、二人に追いついて来たのは小鳥と佳織。
「佳織っ!」
天涯孤独になってしまった、義妹。
でも、あいつらがいるなら大丈夫だ。きっと佳織を支えてくれる。
悠人は満足げに微笑む。
「これが貴様の望んだ結果か?お粗末だな、悠人」
悠人の気配を察してか、瞬が口を挟んできた。
「なんとでも言えよ、瞬。確かに俺の守りたいものは守られた。俺は満足さ」
二つの世界は守られた。みんなちゃんと生きている。これ以上何を望もうか。
「佳織の幸せはどうなる?」
「佳織は、強い。俺がいなくっても、自分で幸せを掴むさ」
「わかってないよ、悠人ッ!奴らはあっちの世界の事を知らない。知ってるいるのは佳織だけだ!これがどういう事だかわかるか?」
つ【支援】
「!!」
「佳織の中には一生孤独が残るんだよ!ニ重の意味でな!!」
肉親を失った孤独。そして真実の記憶を持つのが自分だけという孤独。
佳織はこの先ずっとそれに苛まれていくというのか?
「くそっ!なんでそんな事がわからないんだ!なんでそんな奴が佳織の一番近くにいるんだよっ!!」
激昂の意志。
それはとても熱く純粋で、それゆえに容赦無く悠人の心に突き刺さった。
「僕の思ったとおりだった。貴様はやっぱり疫病神なんだよ!死んでも佳織に付きまとう。佳織を苦しめる!
もう貴様には任せておけない、佳織は僕が守るんだ、今度こそ!」
瞬の意志。それは我が身すら焼く炎のように。
強く、そして熱く。
瞬の意志は悠人の意志から遠ざかっていく。
「どこへ行くんだ?瞬」
「決まってる、佳織のもとへ。今度は……間違わない」
「!!」
悠人は唐突に気付いた。最初に会ったときの違和感。これだったのだ。
瞬の中にあった狂おしいほどの歪みが跡形もない。
「貴様はもう少しここにいろ、悠人。いろいろなものが見える。それを見てからでも、遅くはないだろう」
「…ああ、そうか。なら、気の済むようにしたらいいさ」
今のあいつなら、大丈夫だろう。黒い歪みと神剣に縛られていた男は、もういない。
「…そうだ、ひとつ言い忘れていた事があった。一度しか言わないからよく聞け」
「?」
「お前は「世界」から僕の意志を解き放ってくれた。その事だけは礼を言っておいてやろう…」
暫しの間があいて…
「…ありがとう。……もう会う事もないだろうな」
「…じゃあな、瞬」
そして瞬の意志はいずこかへと消えた。
………
……
…
再び場は静寂に満ちる。
そして、俺は楽しい夢を見ていた。
肉体がないから、目を閉じているわけでもない。眠っているわけでもない。
でも確かにこれは夢なんだ。
俺が笑っている。周りのみんなも笑っていた。
心の全てが幸せに包まれて、笑っていた。
俺に関わる全てが幸せな夢…
そんな、楽しい夢だ。
やがて…夢を塗りつぶすように白い光が満ちていく。
目覚めの…時が来る。
つ【私怨】
239 :
革命の人:2005/10/13(木) 23:57:55 ID:Ixq30FK30
終了です。
信頼さんの瞬に好感を持ったんで、衝動的にw
誤字脱字ハリオンマジック等、指摘ありましたらどしどしお願いします
「時詠の瞳」がなんかバッド風味の印象だったんで
少し救済追加?
しかし、さらに救われない度が高くなった人もいるかも…
240 :
革命の人:2005/10/13(木) 23:58:49 ID:Ixq30FK30
>>240 乙です。
一瞬なんの話かと思いましたが、そっか、時詠の瞳の続きだったのですかね。
佳織の元にって事はやっぱり、佳織の子として転生してくるんですかね?
てことは中に出したあの時の(ry
>>241 そこは皆さんの妄想が決める事です
よってノーコメントw
>>240 革命の人さん
時詠の瞳の続きなのでしたら、
目覚めの時が『希望の時』になるのでしょうか。
それとも、その前に時深が詠んだ深い絶望の時なのでしょうか。
再び二人の行く先が交わることを願います。
スレが緑のマナに満ちている……仕掛けるのなら、今ですっ
※雑魚スピスレでのネタを下敷きにしたところが少々あります。ご注意ください。
チチ、チチチ……チュン、チュ、チチ……
「うー……ん?」
ぼんやりとした声が第二詰所の一室であげられる。
ごそごそと、寝台の中で揺れる針金頭。窓から入ってくる小鳥のさえずりと陽の光に刺激を受けて、
閉じられていた瞼がひくひくと動きだした。
この針金頭の持ち主、高嶺悠人の寝起きはここからが長い。
第二詰所のスピリットたちとの交流を目的とした寝床の変更、というよりお泊り、
それが始まった頃はまだましだったのだが、習慣になるにつれて
どちらに居てようが遠慮なく寝坊するようになってしまった。
顔に浴びせられる日光を遮るように掛け布団を引き上げ、寝返りを打ちうつ伏せになる。
これで鳥の声も聞こえないし、お日様も届かない。安心して二度寝に入ることが出来るのだ。
無意識のうちに得意げに鼻から息を洩らして枕に顔をうずめる。
後は誰かが起こしにくるまで惰眠を貪るのが普段の悠人の朝だ。
第一詰所ではエスペリアが主な訪問者になるのだけれど、こちらでははっきりとは決まっていない。
今までのところ、ヒミカが普通に起こしにきたり、ニムが叩き起こしたのをファーレーンが宥めたり、
ネリーとシアーが二人一組で飛び乗ってきたり、ナナルゥが天井から水を垂らしてきたり、
ヘリオンは部屋に入るのをためらって、扉の前をうろうろしている内に悠人が起きたり、
セリアは悠人を起こさずにおいて朝食に細工をしたりと、
色々と悠人に、誰かに起こされなくても起きるようにしようと思わせるような工夫が
――意識的にか無意識的にかはともかく――凝らされてはいたのだが、全く効果は上がっていなかった。
さて、悠人はすっかりと二度寝の体勢に入って聴覚と視覚を遮断したため、
仮に誰かが部屋に近づいてきたとしてもなかなか気付きはしないだろう。
ところが少し固めの寝台に潜り込んだ悠人の頭がぴくりと動く。
音も無く、光の加減も変わらない。だがしかし、確実にこの部屋に入ってきたものが感じられる。
自分でカットした感覚以外が捉えた刺激、それに圧されて、布団の中に低く長い音が響いた。
枕に埋められた頭をわずかに持ち上げ、掛け布団の外に出す。
よみがえる小鳥のさえずりと陽の光。
それに加えて、香ばしさと甘さが混じった匂いが、さらに濃厚になって嗅覚をくすぐる。
半分意識を眠らせたままひくひくと鼻を利かせると、先ほどよりも大きく腹の虫が鳴きだした。
「何だ、この匂い……」
湧き上がってきた空腹感に堪らず上半身を起こす。意識が覚醒に向かうにつれて、
ぼんやりとしか感じられなかった爽やかな朝の空気もより鮮明になり、悠人の身を引き締めるように包み込む。
もう一度伸びをしながら、胸いっぱいに部屋へと漂い来る香気を吸い込み、味わうように息を止める。
ゆっくりと吐き出し終わる頃には、頭の中に有った眠気の半分は食欲に変わったように感じた。
無意識の内にたまった唾をごくりと飲み込んだ悠人はもそもそと寝台から抜け出て服を着込み、
香気に誘われるままに自室から居間へと歩みを進めていった。
支援
「おはよう……って、みんな早いな……」
悠人が鼻をひくつかせながら居間へと続く扉をくぐると、
既にテーブルには悠人を除く全員が揃っているのが見て取れた。
悠人自身の感覚では、休暇時にこれほど早く起きたことは無かったのだけれども、
それでも一番最後になってしまっているとはと、反省の念が湧く。
もっともまだ呆けたままの頭であるため、いつまでそれが残るのかは定かではないけれど。
そんな風に自分の記憶力を鑑みながら席に近づいていくと、
「あっ、ユートさまおはようございますっ」
悠人を見かけると同時に、真っ先に声を掛けてくるヘリオンを初めとし、
「ユートさまおはよーっ」
「おはようございます」
ネリーにシアーがそれに続く。さらに後から視線をふと悠人に向けて、会釈とともに声を出すナナルゥ、
ニムントールが短くおはよう、とだけ言ってはファーレーンが訂正を言いつけつつ頭を下げる。
ヒミカは悠人に空いている席を勧めながら言葉を掛けて、席に着いた悠人に向かってセリアが
「いつもこのくらい早ければ」と付け足しながらため息をついた。
そして最後に、先ほどから漂っている香りの発生源の入ったバスケットを胸元に抱えたハリオンが、
「お早うございます〜。今日はぁ、お寝坊さんじゃ無かったんですね〜。
それじゃあ、これは頑張って早起きしたユートさまにおまけです〜」
悠人の席に置かれた皿にころころと拳大の丸い塊を乗せていった。
「ああ、サンキュ。すごく良い匂いがして目が覚めたんだ。そうか、正体はこれか」
悠人の前だけではなく、他の面々の皿の上にも乗せられた丸い塊。
ちなみに皆には二つずつ、きっと三個目がハリオンの言う「おまけ」なのだろう。
まぁ、何処からどう見てもパンである。ただし、今もまだほこほこと湯気と香りを振りまくほどの焼きたてだ。
「ハリオン、ネリーにも先にもう一つちょうだーいっ」
「は〜い、足りなかったらおかわりも有りますからね〜」
ネリーの皿に追加でパンを乗せてから、ハリオンが悠人の隣の空いた席に着いた。
飲み物やサラダなども十分用意されている。けれども、今朝のメインは何といってもこのパンらしい。
「えっと、それじゃあ。いただきます」
『いただきます(ま〜す)(ます〜)』
いつの間にやら第二詰所にまで浸透した掛け声を上げて、悠人が熱々でふかふかのパンを手に取る。
手で半分に割って、右手に持った方にかぶりつく。しっかりとした歯ごたえのあるきつね色をした外側を
噛みちぎり、もっちりとした白い中身までを口に収める。
口に入れた瞬間から鼻に抜けるように香りが広がっていくが、それだけではない。
もぐもぐと噛みしめるほどに、じんわりと微かな甘みが生み出されていく。
「ふまいっ。……んぐ、いや、旨いっ」
声を上げながら同意を求めるように周りに視線を巡らせれば、
まずは自分と同じようにもふもふと口いっぱいに頬張るネリーが目に付き、
じっくりと分析するような面持ちで咀嚼を続けるナナルゥや、
悠人に向かってこくこくと頷くヘリオンの姿も確かめられた。
その様子をハリオンの微笑みに見守られながら、
もちろん残りの面々も一様にパンの味を楽しんでいる。美味しい朝食から始まる爽やかな一日、
そんな光景がここ第二詰所の食堂で繰り広げられていた。
少なくとも、今この瞬間までは。
両手に持ったパンを平らげて、二つ目に掴んだ物を掲げながら悠人がポロリと洩らしてしまったのである。
「いや、ホントに旨いなぁ。このパン、どこの店で買ってきたんだ?」
爽やかで、和やかな空気が一瞬にして固まった。
だがしかし高嶺悠人はエトランジェ。アイスバニッシャーは効果が無い。
その硬直した空気の中でもまだ何が起こっているのか理解してはいなかった。
いつまでも解けない皆の凍りつき具合に、ようやくサイレントフィールドと化した場の効果が彼に訪れる。
スピリット勢の攻撃力(=視線の鋭さ)アップ&悠人の防御力(=居心地)ダウン。
ここは誰に話しかけるのが穏便なのだろうか、ときょろきょろと席を見回して、
悠人は真っ先にセリアとニムントールを排除する。
目には見えなくとも、二人が放つピリピリとした剣呑なオーラは悠人の身に突き刺さっている。
悠人といえどこの空気の中で話しかけるのは愚の骨頂だと、『求め』の警告が無くとも分かりきっていた。
この状態では、セリアの隣に腰を下ろしている時点でヒミカに声を掛けることも出来ない。
普段の遠慮のないやり取りから、ネリーとシアーの方へ助けを求めようとしても、
二人して気まずそうに顔を見合わせているばかり。さらには残念ながら今日は席が真向かいで、
この沈黙の意味をそっと尋ねることは出来そうにない。距離のことを考えれば、
ネリーの隣でどうにか悠人に助け舟を出そうと考えてはいそうなものの、
良い方法が思いつかずにおろおろと視線をさまよわせているヘリオンや、
シアーとニムントールの間で沈黙を守るファーレーンに聞くのも難しい。
となれば、こっそり小声で喋れる距離にいるのは隣の席にいる二人。
一人はナナルゥ、そしてもう一人はハリオンだ。見た目だけはいつも通りのほぼ無表情とニコニコ顔。
もしも悠人がナナルゥの表情を落ち着いて読み取れば、その顔は物語っていただろう。
――今のハリオンに話しかけてはいけない、と。
けれども、悠人は見た目の話しかけやすさを取ってしまった。
「な、なあ……もしかして、まずい事言った、のか?」
そのニコニコ顔から、普段の陽光を思わせる温かみが失せてしまっていることに気付かずに。
「い〜え、お口に合ったようで何よりです。
まだまだたくさんありますから、遠慮しないで召し上がってくださいね」
心なしか、その声にもハリオン独特の抑揚が少ない。それを聞いてようやく悠人にも
ハリオンの変化が感じられるようになった。けれどその違和に気付いたことで直接ハリオンに
尋ねる気がだんだんと萎んでいく。さらに追い討ちを掛けるようにハリオン自らが、
「さぁ、みなさんも。食べないんだったら、わたしが頂きますよ」
と、悠人から視線を外して食事を再開してしまった。
「うん、無くなったらやだから、もらうねっ」
「は、はいっ残さないように頂きますっ」
何とか場をとりなすようにネリーやヘリオンが殊更明るくバスケットに手を伸ばすが、
むしろ悠人にとっては不自然な空気が一層強く襲い掛かって来るだけだ。
流石にこれだけの威圧感にさらされれば自らの失言にも気付こうというもの。
完全にハリオンの機嫌を損ねてしまったようだ。一体、何故。
もう一度、悠人は自分の問題発言を振り返ってみる。
よくよく思い返せばかなり昔にも同じようなことがあったような気がする。
確かあれは、ファンタズマゴリアのことも知らなかった遠いあの日の事。
似たような発言をした後、佳織は困った顔ではにかむばかりで……次の日に今日子にぼこぼこにされた。
「あ、あああぁぁぁっ! は、ハリオンっ、このパン、ハリオンが焼いたのか!」
思わず椅子を鳴らしながら立ち上がって、ハリオンの方へと向きながら叫ぶ。
寝起きの時に嗅いだ香りの意味がようやく悠人にも理解できた。
ただ焼きたてのパンを買って持ち帰ってきただけなら、幾らなんでも館中に匂いが広がることはないはずだ。
間違いなく、つい先ほど館の厨房で焼きあがったばかりなのだろう。
悠人がふと我に帰ってみれば、自分の余りの狼狽振りに目を点にしてこちらを見上げている八対の目。
けれども、少なくともその視線から突き刺さるような刺々しさも、
非難するような不機嫌さも消えてなくなっていることを考えれば、それで正解のようだ。
もっとも、今頃気付いたかと呆れ返るようにこれ見よがしにため息を吐かれたり、
結局は同じような意味でニヤニヤと笑われたり、お茶を飲みなおされたりと、反応は散々だったが。
しかし、当のハリオンだけが今もまだ、黙々とパンをちぎって口にしている。
それも当然、と悠人は腰を下ろしなおしてハリオンに向き直る。
「ハリオン、本当にごめん。せっかくハリオンらしい方法で早起きさせてくれたってのに、
あんな風に言っちまって。パンは本当に旨かったんだから、普通にそう言っとけば良かったのに……」
悠人の言葉を耳に入れながら、ハリオンはもぐもぐとパンを噛んで、ゆっくりと飲み込む。
その間一言も喋らないことに悠人は内心で冷や汗をかきながら、更なる後悔に身を縮めた。
言葉も尽きてうなだれた悠人にハリオンの口から漏れた、ほぅというため息が聞こえ、
続く処断の言葉を予感してぴくりと肩を震わせる。
「そうですね〜、もし、ごめんなさいが無かったらぁ、めっめっでしたけど〜。
でも、お店で出せるくらいの味に出来てるっていうことですからぁ、
そう考えれば、ほめてもらえたように思えますね〜」
そのまま、うつむいたままの悠人の頭に手を乗せて、きちんと謝れたことを褒めるように
『なでなで』する。くすぐったさと気恥ずかしさに加えて、自分の言葉をそのように取ってもらった
申し訳なさに悠人はまともに顔も上げられずに、そっとハリオンの顔を盗み見た。
口調には普段の様子が戻っていたのは分かったが、その笑顔の中には一抹の寂しさのようなものが
にじみ出ているように悠人には感じられる。
「あの、さ。ハリオン。お詫びと言っちゃなんだけど、何か俺に出来ることか、
それか俺にして欲しいことって無いかな? 言ってくれたら出来る限りの事はするよ」
そして、悠人の口をついて出てきたのはこんな言葉だった。
悠人の頭に置いていた手を自分の頬に当てて、ハリオンが小首を傾げる。
突然の申し出に眉を寄せて戸惑いを表しながらも、口元が「あらあら」と楽しげな形に軽く動いていた。
傾げた首を戻したハリオンが周りに目をやる。彼女の長年の連れは唇の片方をくいと持ち上げた笑みで
『まぁ、いいんじゃない?』と返してきている。
他には、若干名からの実に羨ましそうな視線が密かに向けられていた。
そこではこそこそとした声で、
「ハリオンさん、いいなぁ〜」
「ネリーもユートさまにお願いしたーい」
「でも言うことを聞いてもらう前に、ユートさまからひどい事を言われないとダメなんだよ?」
「あっ。ぅう〜それはイヤです……」
「そうだね……」
というやり取りが展開されていて、諦めのため息と共に収まりを見せた。
その様子を目と耳に入れたハリオンはしばしの間目を閉じていた後、
ぽん、と一つ手を合わせて、
「それじゃあ〜……」
と悠人を手招きし、彼が近づけた耳元にぼそぼそと『指令』を吹き込んでいく。
ハリオンが悠人の耳元で囁いている間に、一瞬悠人の顔が苦しげに歪められるが、
観念したように神妙に頷いて、「分かった」と返した。
それからは食事の雰囲気も和やかさを取り戻し、ハリオン特製の朝食を再び美味しく摂り始める。
先ほどよりもより深く味わうように、パンを噛みしめる悠人が皆に印象を残していた。
そして、しばらく経ったある日の夜。
「ユートさま〜、そろそろ時間ですよ〜」
ゆさゆさ。
暗い部屋の中に少しばかり間延びした声と、何者かに手を掛けて揺さぶる音が響く。
そこそこの強さで身体を揺らされているにもかかわらず、刺激を受けている人物、悠人は一向に起き上がる気配がない。
「ユートさまぁ〜?」
声の主、ハリオンの声に対して「うぅ〜ん」だの「ぁあ〜」だのと言葉にならない声を返すのみ。
とりあえずは起きているけれども、何時再び眠りに落ちても不思議は無い、そんな声だった。
「『約束』を守らないとぉ、めっめっですよ〜」
言いつつ、なおも呟きを漏らす悠人の口を両手の指で作ったペケ印で塞ぐ。
ハリオンのしなやかな指の感触を唇に感じて、そしてまた、
その言葉の『約束』という部分に反応して、悠人はあわてて目を開いた。
「もう時間か。ごめんな、ちょっと仮眠してるだけのはずなのに起こさせちまった」
周りを見渡せば窓の外は真っ暗闇。ハリオンに伝えられていた時間からすると、
恐らく日付が変わるちょっと前だ。ハリオンに早めに休んでおくように言われて
ベッドに入ったのが夕食と風呂を終えてすぐだったから、大体一、二時間ほど寝ていたことになる。
ごしごしと目を擦る悠人に向かってハリオンはニコニコと笑顔を向けながら、
まだ身体にかかっている毛布を剥ぎ取ろうと手を動かす。
「いえいえ、大変なのはこれからですから〜。さぁさぁ起きてくださいな〜」
「あぁっ、わかった! 起きてる、もう目は覚めたからっ。
着替えたらすぐに行くから、ハリオンは先に台所へ行っといてくれ!」
毛布の下にはシャツとトランクスしか身に着けていないはずなのは、
すぐ傍に掛けられている制服の上下で分かるだろうにと思いつつ、
必死に毛布を押さえながらハリオンが部屋から出るように頼み込んだ。
ハリオンがどこか残念そうな顔をしながら退室したのを確認して
身支度を整えながら、悠人は『約束』の内容を反芻する。
こんな真夜中に揺り起こされた理由は、もちろんこの間の失言事件の罪滅ぼしだ。
『次に第二詰所で寝泊りするときには、ハリオンの指導の下全員分の朝食を作ること』
実際に耳打ちされた言葉を要約するとこういうことになる。
その上、最重要事項として手作りのパンを必ず作らなければいけないらしい。
「大変さを身をもって実感しなさいってことだろうなぁ……」
まさか、作り始めるのがこんな時間になるとは思ってなかったと、
上着に袖を通しながら呟いた。
しかしながら、その自分の呟きにはたと気付く。一応、料理のできる全員が持ち回りで
この役目をこなしているのだし、ヘリオンやニムが手伝うために早起きする時もあるという。
流石にこの時間から用意しだすのは早すぎではないかとも思わないでもないが、
先日を初め、料理が出来上がった頃にのこのこと現れてばかりの自身を省みて、
大きく深呼吸した悠人は頬をぱしんと張って勢いよく厨房へと足を運び出した。
テーブルの上には、もう既にハリオンが用意したと思しき調理器具の数々が並べられていた。
軽量カップに大さじ小さじ、麺棒、ボウル、包丁、まな板と順に視線を移した先には。
「……フリルつきのエプロン?」
「はい〜、わたしたちが使っている物しか無かったので〜。
粉が飛んだりしますから、必ず着けてくださいね〜」
そう言うハリオンの格好も、起こしに来たときの戦闘服から、
家事仕様のメイド服へと変わっている。
白いエプロンを体の前で広げてみて一瞬の戸惑いを見せた後、
悠人はええい、ままよと身に着ける。お似合いですよ〜という楽しげな声に
苦笑いを浮かべながら、メイド服まで着せられることが無かったことに安堵した。
気を取り直してハリオンのほうを向くと、さらにテーブルの上に料理の材料を並べている。
「で、まずは何をすればいいんだ? 出してる材料からするとパン作りだろうけど」
「えぇ、そうですよ〜。 材料は揃ってますから、頑張って作りましょう〜」
用意された物は悠人の知るパンの材料と変わりなさそうだった。
小麦粉に塩や砂糖、それにバター。そして、ビンに詰められた何かどろどろとした物。
「あぁ、それは私特製のパンの素です〜。これを使うと、とぉっても美味しく出来るんですよ〜」
思わず手にとってしげしげと眺めていると、横から得意そうに胸を張るハリオンが顔を覗かせた。
佳織が見ていた料理番組ではドライイーストを使っていたなぁ、
と思い出すと共に、「天然酵母」という単語が頭に浮かんできた。
確かにこれなら、旨いパンが作れそうだと納得する。
「なるほど、それじゃハリオンのパンと同じくらいのを作らなきゃな」
「はい、頑張ってくださいね〜」
小麦粉を計ってからふるいにかけておき、ボウルにパンの素を取り出してぬるま湯を加える。
そこに小麦粉と砂糖を混ぜて、固さをみながら湯を加えつつ一まとめにするのが手順なのだが。
「固さをみながらって、どのくらいの固さがちょうど良いんだっけ?」
悠人が、ぬとぬととしてまだ粉がまとまりきっていないパン種を捏ね回しながら、
横について指示を出すハリオンに尋ねる。今のままで本当にまとまるのかどうかも少し疑問だ。
「もうちょっと、しっかりと混ざってから言いますからぁ、それまで我慢です〜」
そう言われるままに、頷いて力を込めて混ぜ込んでいく。何せ十人分を一気に作っているのだから
量が思っていた以上に多い。それでも時間がたつにつれて、パン種は徐々にまとまっていき、
悠人の手に絡み付いていたどろりとした粉もいつの間にかその中に入っていった。
「はい、それじゃあ全部が混ざっちゃう前に、固さの調節です〜」
妙に嬉しそうな声色で悠人の動きを止めて、ハリオンがボウルの中のパン種を指先でつつき、
「う〜ん、ちょっと固いようですね〜。ふふ、実はですね、ちょうど良い固さにするためには
コツがあるんですよ〜。大体、耳たぶくらいの固さにすると良いんです〜」
とっておきの手品の種明かしをするような笑みを浮かべて、手を拭うための布巾を悠人に渡した。
「耳たぶか。どれ……、ってハリオン?」
拭いた手で自分の耳をつまもうとする悠人の腕を、ハリオンがぐっと押しとどめる。
「うふふ〜。違いますよユートさま〜。私とユートさまの耳たぶが同じ固さとは限りませんからね〜。
私のパンを目指すなら、パンの固さは私の耳たぶの固さが正解なんですよ〜」
「そ、そうなのか?」
「はい〜。ではどうぞ〜」
顔は笑みのままだが、半ば有無を言わせない圧力を秘めた勢いを持ち、
逡巡を浮かべる悠人の手をとって、もう片方の手で耳元の髪をかきあげながら
軽く自分の耳へと導き手を離した。
「そ、それじゃつまむぞ」
別に、耳たぶくらいで身体を硬くすることなんか無いとは思うものの、
すっと髪をかきあがる仕草と露わになった首筋に、動揺を抑えきれない。
導かれた速さで近づけた指先でそっと耳たぶに触れて、親指と人差し指を使って軽く摘んだ。
「この固さか……」
耳たぶを指に挟んだ瞬間にハリオンがぴくりと身を震わせたのを感じて、
引っ張ったりして耳の中を傷つけないように注意しながら、羽毛をつまむようにそっと揉む。
ハリオンは悠人が感触を覚えるまで待ってくれるようで、静かに目を閉じて佇んでいる。
むにむにとした肉の弾力と、その柔らかさに反したやや冷たい触感が妙に気持ち良い。
空いたもう片方の手で悠人が自分の耳たぶにも触れてみると、
確かに感触が違うような気がした。そもそも自分の耳たぶを触ったところで気持ち良くも無い。
言われなければ気付かなかったほどの違いだが、これでパンの味が変わるかもしれないのだから、
「お姉さん」の言うことは聞いておくに越したことは無いだろう。
そう考えながら自分の耳を触った手をもう一度拭ってパン種をつつくと、確かにハリオンの耳たぶよりも固い。
感触を比べるように目をつぶってもう一度ゆっくりと耳たぶを捏ねる。
「ぁんっ」
突如上げられたハリオンの声に驚いて手を離して、目を開いた。
そこには今まで悠人が触れ続けていた耳たぶを自分で軽く擦っているハリオンの姿がある。
ずっと刺激を与え続けていたためか、うっすらと耳までが紅潮しているようだった。
「えっ。わ、悪い、強すぎたか!?」
「いいえ〜大丈夫です〜ちょっとくすぐったくなっただけですからお気になさらず〜。
ええっと〜それでぇ、パンの固さは分かりましたか〜?」
何時に無く微妙にテンポ良く言葉が飛び出してくるハリオンの勢いに圧されて、
「あ、ああ。大体分かった。今の固さになるまで湯を入れて捏ねるんだよな」
と悠人がボウルの方に身体を向ける。ハリオンの返答を期待してちらりと横を向くと、
かすかに深呼吸らしき動きを見せていた。悠人の視線に気付いた所ではたと顔を上げて頷く。
「そうです〜、上手く出来たら言ってくださいな〜。最後に、私がチェックしますから〜」
口調こそ元に戻ってはいたものの、どこか動作がぎこちない。
とりあえず、言われるままにハリオンの耳たぶの感触を思い返しながらパン種を捏ねくり回す。
大体、手のひらに感じる弾力も、指先でつついてみた感触も似たようになってきた。
そこでふと悠人の脳裏にハリオンの見せた変化が思い浮かんで、
ちょっとした好奇心と悪戯心が頭をもたげる。もしかしたら、
普段は翻弄されてばかりのハリオンに一矢報いることができるかもしれない。
一旦用を済ませた湯の入った器を脇において、思い切って尋ねてみる。
「ひょっとしてハリオンの耳って敏感なのかな?」
「……さぁ〜、どうでしょうね〜?」
時間が経ったためかもう先ほどのような大きな動揺は見受けられないが、
微かに戸惑いが見え隠れすることに、何となく新鮮さを感じて悠人はもう少しだけ言葉を重ねていく。
「いや、思ったよりも触り心地が良かったから、ついつい長いこと触っちまってたんだけど、
それでハリオンの方がくすぐったいんだったら悪いことしたなと思って」
「え……触り心地が、ですか〜。えぇっとぉ、私もぉ、別にいやな感じはしてませんけれど〜……」
面と向かってこういう言葉を掛けられることには、ハリオンと言えども慣れてはいないらしい。
ここまでは一応、顔色も平静を保っていたけれども、そこまで口にした所ではっと気付いて悠人の顔を見た。
まさかハリオンの口からそんな言葉が出てくるとは思わなかったと、
半分は驚きで、もう半分は聞いた本人が恥ずかしくなって、呆っとした顔。
珍しく、ハリオンはきゅぅっと眉を吊り上げて、腰に片手を当ててもう片方の手で悠人を指した。
「ユートさま〜、お姉さんをからかっちゃあいけません〜。そんなことを言うお口はめっめっですぅ〜」
一応怒られてはいるのだろうが、先日の様子に比べればじゃれあいのような暖かさを感じる。
どちらかと言えば悪戯が成功したときの達成感の方が大きく思えて、
悠人は密かに満足しながらハリオンにボウルを差し出した。
「う、分かった、分かった。さ、こんな固さでいいかな」
「もぅ〜、ごまかすのもだめなんですからね〜……つんつんっと〜。
えぇ、良い感じですよ〜。それじゃあ、あとは仕上げです〜」
まとまったパン種を捏ね台に移して、塩とバターを加えてさらに良く捏ねる。
ボウルの中よりも大きく動かすことが出来て、
パンを捏ねているという実感が湧く作業だと悠人はさらに力を込める。
ところがぐいぐいとパン種を捏ね台に押し付けていると、
斜め後ろから覗き込むハリオンからダメ出しが入ってしまった。
「あらあら〜、力を入れるのはいいんですけど〜、乱暴にしちゃいけませんよ〜」
「そっか、これじゃ力が入りすぎてるのか……」
ハリオンの頷き方をちらちらと見ながら力加減を調節する。
どうやら今くらいの捏ね方が一番良いらしい。一旦分かってしまえば楽なものだ。
そうして慣れてきた様子で作業を続ける悠人に対して、ハリオンの笑みが少しだけ深くなる。
ただし、それは先ほどの悠人が浮かべていたような、ちょっとした悪巧みを含ませたものだった。
「ところでですね〜、パン生地の捏ね心地はいかがですかぁ、ユートさま〜?」
声を掛けられて悠人の手の動きが一度ギクシャクとする。声に気が散ったのではなくて、
問いかけの内容を考えてみたときにどう答えたものかという困惑だ。
「そりゃぁ、その、触り心地の良かったところと同じ感触なんだから、
気持ちいいとしか答え様がないだろ」
嘘をついても意味は無いので正直に言うしかないのだけれど、
それを聞いたハリオンの笑みに何か楽しげな色が混じっている。
一体、どうしてそんなことを聞くのかと悠人が顔に出したところで、
ハリオンが声を潜めて言葉を続けた。
「ふふ、それがですねぇ、耳たぶと同じ柔らかさなんだそうですよ〜」
「『なんだそう』? 同じ感触なのは、パン種がだろ? それがどうしたって……」
手を休めずに頭の中に疑問符を散りばめ始める悠人にハリオンが後ろから近づき、耳元に口を寄せる。
「耳たぶとぉ、……」
言葉の後半を吐息に乗せるだけで発音し、ゆっくりと悠人の鼓膜を震わせる。
「な……」
ぐにっ。
悠人の手の中でパン種が大きく形を変える。背に柔らかさを感じていたのも束の間、
急に頬と頭に血が上っていくのを止められないで、悠人があっさりと身体を離したハリオンの方に
慌てて振り向くと、そこには口元に手を当ててくすくすと肩を震わせる姿があった。
「ふふ、本当かどうかは知りませんけれどね〜。そうですかぁ、生地を捏ねるのが気持ちいいんですか〜」
「そ、そっちこそ、からかわないでくれよ……!」
「え〜、何のことでしょう〜。……あら? ユートさま〜、何だか手つきが……くすっ」
「……もう勘弁してくれ……先にやったのは悪かったから……」
何とも意味深な笑みを浮かべながら自分の狼狽振りを楽しんでいるハリオンに
たっぷりとやり込め返されて、ようやく生地が捏ねあがった時には、
悠人は心の底から、どうしたって彼女には敵わないと思い知る羽目になったのだった。
再びボウルにどさりとパン生地を置いて、乾かないように濡れ布巾で蓋をする。
「はい、お疲れ様でした〜。一旦ここで休憩ですよ〜」
「このまま朝まで放っとくのか。道理でこんな時間から始めるはずだ」
「朝ごはんにぴったりの時間に焼き上げようとしたら、日が昇る頃までは生地を寝かさないといけませんから〜」
また、早めに生地を捏ねてしまって寝かせ過ぎてもダメだと言う。日によって異なる気温や湿度に左右されるが、
基本的には夜中に捏ねて夜が明けるまで寝かせ、それから焼く。これが美味しく焼ける生地を作るコツらしい。
つまりは、先日もハリオンは今日と同じ作業をこなしていたと言うわけだ。
しかも、一人で。
一度エプロンを外して椅子にかけ、悠人はそのまま腰を下ろした。
「やっぱり自分でやってみなきゃ分からないもんだな。普通に飯を作るのとは大違いだ」
「ふふっ、そうですねぇ〜。大変さを分かっていただけたなら、『お詫び』のところはもうおしまいですね〜」
満足げに笑みを浮かべるハリオンに、悠人はややぽかんとした目を向ける。
やりがいもあったし、楽しんで生地を捏ねていたために、
いつの間にか『お詫び』だったとか、『罰』だったとかいう意識が飛んでいってしまっていたためだ。
もっとも、フリフリエプロンだけは罰ゲームっぽかったが。
「え、でもまだパンを焼いてないんだから、罰が終わったわけじゃないだろ?」
「でもですねぇ、ユートさまがきちんと反省なさいましたので、もうすっかり機嫌がなおっちゃいましたぁ。
これから先はみなさんに、おいし〜いパンを食べてもらえるようにご一緒してがんばりますよ〜」
真夜中だというのに、ハリオンのニコニコ顔には先ほどまでには無かったような光が宿っているように見える。
つまりは、あんなに優しくて、親切に作り方を教えてくれていたにもかかわらず、
まだまだご機嫌ななめだったということに、悠人はハリオンの心に底知れない深さを感じた。
それでも、その笑顔を見ているうちに何だか心が温まるのは確かだ。
つC
すっと気が晴れたところでふと気付く。陽が昇るまでゆうに数時間はあった。
「ところで頑張るのはいいんだけどさ、これから朝までハリオンはどうやって時間を潰すんだ?」
「わたしですかぁ? いつもは体や髪に飛んでしまった粉を流しに、お風呂に入って〜」
「風呂か……確かに、気付かないうちに粉だらけになってそうだもんな。で、その後は」
「上がってから、時間までお休みします〜。ちょっぴり疲れちゃってますから、気持ちよぉく眠れるんですよ〜」
「そっかぁ。それは気持ちよさそうだ……って、だ、ダメだダメだ!
俺だったら時間までどころか昼までグッスリいっちまう!」
悠人は慌てて、風呂でほぐれた体が、ゆったりと布団に包まれる想像から首を振って抜け出す。
作り始めですら起きられなかったというのに、朝まで眠って早起きできるわけがないと、がしがし頭を掻いた。
「あらあら〜、それはいけませんね〜。
でも、少しはお休みにならないと最後の仕上げに差し障ってしまいます〜」
「うーん。まぁ、とりあえず風呂に入ってから考えるよ。粉がかかってることは間違いないからな」
かたん、と椅子から立ち上がって外に向かいかける。
「ええ、ごゆっくりどうぞ〜。ああ、でも、お風呂の中で寝ちゃったらいけませんよ〜。
もしもお帰りにならなかったら、様子を見に行きますからね〜」
「う……だ、大丈夫だから、来なくていいっ」
ギクシャクとした動きに変わる自分の手足を感じて、
どうにか抑えようとするものの余計に絡まらせそうになりながら、大浴場へと消えていく。
その後姿を、やはりニコニコと見送ってから、ハリオンはもう一段、笑みを深くした。
風呂に入ってこざっぱりした悠人が再び厨房に姿を現すと、
そこには先ほどまで無かったものが用意されていた。椅子の背に掛けられた一枚の毛布だ。
「ふふっ、お帰りなさいませ〜」
予想外の代物に瞬きを繰り返す悠人が、ハリオンの声に顔を向ける。
そこには、彼女がさらに考えから外れた格好で椅子に座っていた。
一足先にすっかり毛布に包まってぬくぬくと温まっているように見える。
「なあ、ハリオン。これってもしかして……ここで一晩過ごせってことか?」
「はい〜。お布団の中では起きられないなら、すぐに目が覚めるように、ここで休みましょう〜」
風呂でリラックスした身体に、見ているだけで温まりそうな姿と、
実にゆったりとした口調がたっぷりと眠気を運んでくる。
けれど、悠人は軽く首を振ってハリオンを留めた。
「毛布一枚で寝るのは野営で慣れてるからいいけど、ハリオンまでこんな所で寝なくてもいいじゃないか。
起きられないのは俺の問題なんだから」
悠人としては、ハリオンの身体を気遣った上で当然の台詞だったのだが、
当のハリオンはきゅっと眉を寄せて頬を膨らませてしまった。
「ダメですよ〜。だってこれから先は、パン作りをご一緒するって言いましたからね〜。
それに、パンを作る生徒さんだけを、ここで寝かせるなんてそれこそできません〜」
「せ、生徒……?」
そう言われてみれば確かにそんな関係が成り立つのかもしれない。
かなり強引な論法だと思うと同時に、どこかハリオン自身がその生徒と先生
という言葉を楽しんでいるように悠人には感じられた。
「さぁ、ユートさま。早くお休みになりませんと、眠る時間がなくなってしまいますよ〜」
包まった毛布の隙間から手を出して、ハリオンが隣の席の毛布を指し示す。
彼女の楽しげな雰囲気に後押しされるように、悠人は細く息を吐き出して口の端を持ち上げた。
「うん……ま、ハリオンがいいなら、いいか。それじゃ、お休み」
「は〜い、お休みなさいませ〜。明日の授業は、最後の仕上げですからお寝坊さんはめっめっですよ〜」
言いつつ、ハリオンは悠人が見ているうちにすぅすぅと眠りについてしまった。
「おいおい、台所の明かり、点いたままじゃないか。しょうがないなこの先生は……」
椅子に腰掛ける前に部屋の明かりを消して、目が慣れてから席へと戻る。
暗闇の中で目を閉じると、ぷん、とパン種の香りが鼻をついた。
授業の成果は明日の朝食が物語るのだと考えて、
悠人は静かに、成功を祈りながらしっかりと毛布を身体に巻きつけた。
真夜中の暗闇では感じられなかった光が、悠人のまぶたにわずかに差し込んでいく。
不自然な体勢で眠り込んでいたために身体の節々に妙なこわばりがある。
この身体の痛みと、夜明け時のごく微かな陽光。
普段。この詰所とは異なるもう一つの普段の習慣が、悠人の目を強引に覚ました。
「朝か……今日は、どこまで進むんだっけエスペリア……?」
「いえいえ〜今日はどこにも行きませんよ〜。
あぁ、パン作りなら、最後までしっかり進めますけれどね〜」
寝ぼけ眼で目を擦る悠人の目の前では、グリーンスピリットはグリーンスピリットでも
エスペリアではなく、ハリオンが軽く身をかがめて椅子に座る悠人を覗き込んでいた。
はっとして、椅子から立ち上がろうとした悠人は、身体に絡まった毛布に邪魔をされ、
もぞりと大きく身体をねじるだけにとどまった。
「パン……作り。そうだ、パン作りだった。まだ、寝坊じゃないよな?」
「えぇ。ちょうど良いところでお目覚めですよ〜。
戻ってこられたらすぐに始めますから、お顔と手を洗ってきてくださいな〜」
いそいそと悠人の肩から毛布をはぎ取り、立ち上がるのを助けると、
ハリオンはパン種の入ったボウルを指差した。風船のように膨らんだ生地が、
悠人のまだしょぼしょぼとした目から最後の眠気を吹き飛ばす。
「へぇ……こりゃすごいな。よし、すぐに戻ってくる」
言って、手早くかつ丁寧に準備を済ませて、もう一度悠人は厨房へと姿を現した。
再び差し出されたフリルつきエプロンをぱっと身につけて袖を捲る。
手順だけは昨日の内に一応聞いている。あとは間違えないように進めるだけだ。
「ちょうどいい大きさに分けて、しばらく置いておくっと……」
まずは包丁で等分に一個の量を切り分けて、適当な形に丸めてバットの上へと転がしていくだけ。
しかしながら、ぷっくりと弾力のある生地を掴んで切り分けるたびに、昨夜の問答が思い出されて、
そのたびに悠人は頭を振って想像を追い出す羽目になる。
「ええ、そうそう、お上手ですよ〜」
何故なら、昨夜の発言の通りに、今朝はハリオンもしっかりと包丁や打ち粉を手に取り、
悠人の向かい側に立って作業を手伝っているからだ。ちょっと生地から目を離せば、
すぐ前でハリオンの身体が元気よく動いていた。そういう訳で、悠人が一つ分作る間に、
ころころころといくつも出来上がっていくから、どちらが手伝いなのかは分からないが。
「生地を休ませたところで、オーブンの天板に並べる、だな」
「十分に間隔を開けておかないと、まだまだぷくぷくしますから気をつけてくださいね〜」
何とか切り分けを終えると、今度はこのまま、焼く直前まで更に発酵させておくのだという。
「それじゃ、それまでは……そうか、別のおかずを作っておくんだ」
「そのとおりです〜。ユートさまにははい、これを一口大に切ってくださいな〜」
と差し出されたかごの中には、ごろごろとたっぷりの野菜が収められていた。
さらにその野菜の中に、鮮やかな橙と緑の塊を発見して、悠人は首を傾げた。
「いいのか、このラナハナとリクェム。こっちは何とか食えるようになったけど……」
「かまいません、ズバッっとやっちゃってください〜」
鍋に水を張って、調味料を棚から取り出しながらやや物騒な擬音付きで答えるハリオン。
そして、悠人がいわれるままにズバッといった野菜をあるいは炒め、あるいは煮始め、
見る見るうちに数品のおかずが出来上がっていく。
「ん〜、ユートさま、お味見はいかがですか〜?」
味付けの最中からいい匂いは厨房にたちこめているのだ、断る理由は全く無い。
炒め物を一摘み、野菜スープを一掬い。どれもこれも、修正する必要が無いほどに美味かった。
「みんなより先にこんな美味いものが食えるってのはいいよなぁ。
味見だけで腹いっぱい食っちまいそうだ」
「あらあら、朝ごはんを独り占めしちゃいけませんよ、ユートさま?」
ここまで来れば、後は主食を完成させるだけとなる。二次発酵が終わった天板には、
ふくふくと丸まったパン生地が、今か今かとオーブンで焼かれるのを待ち構えている。
「これを、焼くのか……」
いろいろと教えられつつ、捏ね上げたパンが今まさに完成しようとしている。
オーブンに火をいれ、十分に予熱が行き渡ってから、悠人自身の手で天板がオーブンに入れられた。
「はい、よくできました〜。もう、これでわたしから、ユートさまにパン作りで教えることはありません〜」
「ちょっと気が早いんじゃないか? 焼きあがってからとか、食べてからじゃないとうまくできたかどうかは……」
なにしろ、自分が初めて捏ねたパンの出来には不安がたっぷりとある。
苦笑いを浮かべながら腕を組む悠人に向かって、ハリオンはその不安を打ち消すのに十分なほどの微笑を浮かべ、
「そんなことありません。あの生地を見て、触っただけでも、
とっても美味しいパンになるってわかります〜」
つい、と爪先立ちになって悠人の頭に手を伸ばした。
何度されても恥ずかしい事この上ない『なでなで』ではあっても、
結局は心が落ち着いたり、晴れ上がったりすることに違いは無い。
それがはっきりと分かっているから、今日は特に抵抗することも無く自分から身をかがめて、
悠人はハリオンの手を受け入れる。しかし。
今朝のハリオンの手は、片手だけを頭に乗せるのではなくて。
そっと、両の手で悠人の頬を包み込んだ。
「……ハリオン? あの、これ……」
「ユートさまも、両手を出してくださいな〜」
かがむために膝においていた両手を、目の前に持ってくる。
途端に、ハリオンは悠人の頬から手を外して彼の手をとり、今度は自らの頬へと導いた。
「こうして、きちんと両手で捏ねたパンが美味しくないはずありませんからね〜」
「……え、と。それはどういう」
ふっくらとした感触に思考を止めた悠人が意味も無く呟くうちに、
ふと、自分の中にあった言葉を思い出した。
両手で剣を握る自分が、果たして握手などできるのか。
考えてみなくても、ハリオンたちの握る神剣は、両の手を使う槍だ。
少しだけ、ぼうっとしてしまっていたのだろう。いつの間にか悠人の両手は頬から外され、
しかし今もなおハリオンの手に包まれていた。
「ふふっ、何かを作る前に両手がふさがっていたら、持ってるものをポイしちゃえばいいんですよ〜」
「ぽ、ポイって……」
ハリオンの発言に思わず悠人の目が丸くなる。
それと同時に、何かがすぅっと悠人の中に流れ落ちる心地がした。
ハリオンがお菓子や料理を作ることに対する思いは、
今、両手を塞ぐモノの先まで見据えたものだということに気付いて。
じっと見つめあい、悠人がようやく両手の柔らかな感触を意識するに至った頃。
「さあさあ、もうすぐ焼き上がりです〜」
ぱっと両手を離して、ハリオンは香ばしい匂いを館中に広げるオーブンへと視線を移す。
「え、あ、そうだな。放っといたら焦げちまう!」
手の甲の温かさの名残が、妙に強く脈打つ心臓に移される。
だというのに、あちらは何事も無かったように鼻歌を歌いながらオーブンに近づいていく。
そんなハリオンの後について歩き、最後の指導といわんばかりにキッチンミトンを両手にはめられる。
悠人がオーブンから取り出したパンは、先日とほぼ変わらない見事なきつね色に焼きあがり、
誰もが一瞬で目を覚ますような芳香を立ち上らせていた。
次いで、サラダと炒め物、スープを器にとりわけて食堂へと運び込む。
すると。
「お、お早うございます、ユート様」
ヒミカが居た。妙に気まずげに居住まいを正している。
「早くお目覚めになったと思えば、厨房で何をなさっていたのか……」
セリアが居た。薄っすらと顔色に怒りを滲ませながらため息をついている。
「おはよう、ございますっ……えっと、お、おいしそう、ですねっそのスープっ」
ヘリオンが居た。ちょっぴりうらやましそうに厨房を見やり、直後に瞳に何かの決意を浮かべている。
「起床しました。朝食の献立をお教えください」
ナナルゥが居た。特に関心は無さそうに、運んできたスープを覗き込んでいる。
見られていた。と悠人が気付いて慌てだすよりも前に、
さらに厨房からサラダを持ってきたハリオンが姿を見せる。
「あらあら〜、みなさんおはようございます〜。今日の朝ごはんは特別ですよ〜」
そのごく自然な声の響きと笑顔に、三人はそれぞれに一息を入れた。……ナナルゥはサラダを覗き込んでいる。
ちょうどそこに、残りの面々が次々に姿を現し始めた。
「ん〜、やっぱりハリオンの焼いたパンの匂いで起きると気持ちいいねー!」
「朝ごはんが、もぉっとおいしくなるからねぇ」
鼻をひくひくとさせながら席に着くネリーとシアー。
「おはよう……げ、なにユート、そのヘンな格好?」
「ニムっ、ユート様に『げ』とか『ヘン』なんて……あ、いえ、その。お似合い、ですよユート様」
十分に拭ききれていないニムントールの顔を拭いながら、ファーレーンも姿を見せる。
そのニムントールの遠慮の無い物言いに、ほぼ全てのスピリットたちの視線が悠人のフリルエプロンに注がれた。
「こ、これは仕方なかったんだって! 何せ、今日の朝飯をだなぁ……」
しどろもどろになって上手く説明も出来ていない悠人の代わりに、
台所からバスケットを抱えたハリオンが出てくる。
「今朝の特別メニューは、ユートさま特製の焼きたてパンです〜。
さ、ユートさま。みなさんに配ってくださいな〜」
と、山盛りになったパンの入ったかごを悠人に手渡した。
どこと無く形が不揃いなものばかりなのは、第一弾が悠人製のものだけだからなのだろう。
一様に、ふぅん、へぇ〜、ほぅ、と興味と期待、あるいは不安を混ぜた表情で、
それぞれの席に置かれた皿を、悠人からパンを受け取るために差し出す。
その間に、ハリオンは残りの料理についても、
「スープもサラダも、炒め物も。ユートさまが作るのを手伝ってくださいましたから、
朝食はユートさま特製メニューの大盤振る舞いですね〜」
と、悠人が聞けば少し、いやかなりの誇張が含まれる内容で説明をしていた。
支援をば
さらに支援
やや訝しげに悠人が視線を返すと、ハリオンは唇の端をちょっと悪戯っぽく吊り上げて、
ネリーやシアーの方を見やる。すると、スープに入っているラナハナ、
炒め物に混ざっているリクェムを前にして、覚悟を決めた表情でフォークを握り締める二人が目に入った。
二人には見えないようにそっと苦笑いを浮かべて、悠人もバスケットからパンを掴んで席に着く。
そして今日もまた、手を合わせての挨拶が響く。
「いただきます」
『いただきます(ま〜す)(ます〜)』
とは言え、挨拶の口火を切った悠人はすぐにはパンを口に運ばず、
ただみんなの様子を見守っていた。もちろん匂いは悪くないのだけれど、
それでも初めて作ったものには確実な自身は持てなかったから。
「見た目はともかく……味は、良いわね」
セリアの言葉の前半でこころもち身を硬くした悠人だったが、
微かな笑みと同時に洩らされた呟きにほっと肩の力を抜いた。
「だ、大丈夫ですよっ、おいしかったらそれで良いんですから」
「それに、比べるのがハリオンのじゃ、ユート様には分が悪いでしょう」
齧ったパンを飲み込んだ者から順に感想を述べていく。
思惑通りにリクェムやラナハナを口にして、顔をしかめて我慢していたネリーたちも、
パンと一緒に食べているとすっかり苦味も無くなった様子で、更に追加で苦手克服作戦を展開している。
「この味、よほど上手に仕込まれたようですね?」
食事中には覆面を取っているファーレーンが、ハリオンとユートを交互に見ながら微笑みかける。
「先生がいいんだから当然じゃない。ヘンに作るほうが難しいんじゃないの?」
そうは言いながらも、小さくちぎっては口に運び続けるニムントールに、
ファーレーンの諌めるような視線と、悠人の苦笑いが寄せられた。
でもな、と前置きしてから悠人の目が真っ直ぐにハリオンに向く。
「ハリオンがどんな気持ちでパンを焼いてたかって叩き込まれたよ。
確かにめちゃくちゃ美味くなって当たり前だな」
言葉を聴いて、その場に居た者全員がそれぞれに――ごく微かにとは言えナナルゥもが――
温かそうな笑みを洩らした。
きっとこの前にみんなからも責められていたのは、
それを分かっていなかったことも含めてだったのだろうと再び情けなさが蘇ってくる。
けれどそれが顔に出てしまう前に、ハリオンは悠人の作ったパンを差し出して、
「そんなに褒めていただいても、わたしに出せるのはこれくらいのものですよ〜」
と、悠人の手に握らせた。彼女の笑顔に促されるままに、手製のパンにかぶりつく。
味も、歯ごたえも、先日に食べたものとの違いは自分でも良くわからない。
つまりは、自分の手でも、ハリオンと同様にこのようなパンを生み出せたということだ。
もう一度深く味わうようにパンを噛みしめると同時に、
皆が喜ばしげに自分が作ったものを食べてくれている嬉しさをもまた、悠人は味わう。
「こんなに喜んでもらえるんだったら、また作ってみてもいいかもな」
「そ、それじゃ今度は、わたしがお手伝いしますっ」
「えーっ、だったらネリーも一緒にやるよー!」
「シアーもお手伝いしてもいい、かなぁ……?」
ぽつりと洩らした呟きに、すかさず声と手を上げるヘリオンたち。
彼女たちに囲まれるような形で迫られて、悠人は後には引けなくなったように笑いかける。
果たして、ちょうどいい捏ね具合がハリオンの助け……というか耳たぶなしで出来るのか、
と、決して目の前の三人には言えないようなことを頭の隅によぎらせながら。
一旦離れたところに移動し、その様子を見ながら、
ハリオンはやはりニコニコと笑みを浮かべて、こっそりと言葉を紡いだ。
「ふふ〜。それなら、これからはユートさまが朝ごはんをお作りになるときは、早起きさんになれますね〜」
「よくやるわね、ハリオン……」
長年の連れの行動を読んで、いち早くその隣でヒミカがため息をつく。
「まさかユート様に朝食を作らせてしまう事になるなんて思わなかったわよ」
「えぇ〜? でも、ご自分から起きる気になっていただかないと〜、
あんまり無理に起こして差し上げるのも、いけませんからね〜」
それに〜、と心の底から『お姉さん』らしい笑顔で、ハリオンは続けた。
「これで、みんなも一緒にユートさまとお料理できるようになりますよ〜」
「えっ……?」
ごく僅かに自分の表情に期待が表れたことを自覚し、動きを止めるヒミカを見、
ハリオンは更に視線を動かしていく。
「みんなと一緒に朝ごはんを作れば、ユートさまだって毎日早起きさんですしね〜」
微かに、聞き耳を立てていたようなニムントールの肩が揺れ、
食事を終えて覆面をつけ直していたファーレーンの頬が、それでも分かるほどに紅潮し、
セリアはバカバカしいとばかりに席を立ちつつも、その頭の中ではいろいろな献立が渦巻いているようだ。
そして……しばらくの間、微動だにせずハリオンの言葉を耳に入れていたナナルゥが、
「……へっへっへ」
僅かに、楽しげな色を乗せた声を洩らして、結局はみんなみんなが。
(ハリオンには、かなわないなぁ……)
と、思ったのであった。
278 :
道行書き:2005/10/14(金) 21:21:31 ID:fK1n7jqU0
あとがき
支援レスを入れてくださった方々、ありがとうございました。
PS2版のハリオンイベントCGサンプルを見たときから、僅かな違和感がありました……
「ハリオンがパンを買っちゃってるよっ!?
焼くのはお菓子だけだったのかい!? ……つぅか、袋が邪魔だよッ!!」
というわけで焼いてもらいました。ふかふかに。
……タイトルの割りに桃色マナ少な目で申し訳ないです。
いやいやいいモノ読ませていただきました
>>278 GJ!
桃色マナ少な目だなんてそんな。
なまじエロシーン入るよりよっぽどハァハァでしたよw
それにしても前回のヘリオンのといい、道氏の料理描写は本当に楽しそうですよね。
パン作りやってみよっかなぁ。。。
次回は献立ぐるぐるしてるセリアさんに期待させて頂きますw
>>239 しん、とした雰囲気でのやり取り。
“そこ”に残る(残される?)悠人が気になりますが、自己の執着から抜け出たらしい瞬。
彼の求める「結果」というものは一体どんな形を成しているのでしょう。
望んだのは決して排除では無く、自分を中心に据えた収束でも無く。
そうして悠人を通して見た何がしかを糧に出来るようになった彼を、読んでいて彷彿させて頂きました。
>>278 個人的には最初の1レスでにやっとした反面、もしかしてスレ住人度を試されてる?とか思った訳ですがw
真夜中のレッスン。風呂に入った時は、絶対にハリオンが何か仕掛けると……いえ、何でもないです。
しかしハリオン、まるで新聞配達員みたいな時間に起きて朝食用意していたのですか……あ、だからいつも眠たそうに目を細(ソニック
あと、どうでもいい突っ込み。第二詰所の朝食で、全員が揃っていて尚且つ悠人の席の隣が空いているとは思えません(ぇ
>>278 「癒し系は良いものだ。
なんつーか、やっぱ緑スピはこうでなきゃ!って感じたよ。うん、本気で」
「まあ。そんな本当の事を仰られるなんて…照れてしまうじゃないですか♪」
「…いや、ハリオンのことなんだが。そもそも、エスペリア癒し系じゃないし」
「………じゃあ、わたくしは一体何なんですか?」
「う〜ん………………………はっちゃ系?」
お姉さんブラスト注意報。
雷とたゆんたゆんを伴い雑魚スピ全体を巻き込むので、ニ詰めにお出掛けの際は十分にお気をつけ下さいw
雑魚スピ全員、誰一人疎かにしないその姿勢。素晴らしいです。GJ!
ハリオンに癒され、ヘリオンに萌え、セリアにツンデレ(意味不明)―――
なのに、何故最終的な妄想にエスが絡むのか自分自身不思議でなりません。
ハッ!?まさか、これは………………………………恋?(違
思わず耳たぶを触ってしまった奴は挙手ノシ
「あ、丁度良い所に。セリア、頼みがあるんだが」
「……なんでしょう、手早く御願いします」
「そんな警戒心バリバリで後ずさる事ないだろ。ちょっと耳たぶを触らせて欲しいんだ」
「………………は?」
「だから、耳たぶ。硬さが知りたいんだよ」
「……変態ですか。それ以上近づいたら殺しますよ」
「え? ちょ、待てって…………行っちまった。そんな顔真っ赤にしてまで怒る事か?」
―B― 〜ハリオン先生の練乳授業・宿題編〜
Case1:
ヘ「え、捏ねる固さが分からなく……? 耳たぶ……?
わ、分かりましたっわたしも一肌脱いじゃいますっ。ど、どどどど、どうぞっ!」
ネ「あーっ、ネリーもネリーもーっ!」
シ「(くい、くい)」
ブゥーン……ちーん。
悠「ちょっと膨らみが足りないのと、中にまだ芯みたいなのがあるのと、一応柔らかくできてるの、か」
Case2:
フ「……あ、あの、もうそろそろ……」
ニ「ちょっといつまで触ってるのっ。
……お姉ちゃんだけ恥ずかしいのなんてダメだから、仕方なくなんだからねっ」
ブゥーン……ちーん。
悠「うん、形良くでき上がった。……こっちはもうちょっと熟成させたらもっと膨らんだんだろうなぁ」
Case3:
ナ「工程上必要な作業かと思われます」
ヒ「ほ、本当に? で、では、あまり、触れ心地の良いものでもありませんが……」
セ「何ですかその目は。やるならやるでさっさと済ませてください」
ブゥーン……ちーん。
悠「焼いてるうちに思ったよりも膨らんでる……。
ここはものによって膨らみ方がバラバラ。それから外側が硬くみえるけど、中身は柔らかいの、と」
感想、ありがとうございました。
上記は、もちろんパンの話ですよ?
だってタイトルのBは"bread"、"breakfast"のBですから(説得力皆無
書き込んでから、case1の訂正に気付きました。
「ちょっと」膨らみ足りないって……いりませんね。
以下、対どうでもいい突っ込みw
前提
1、風紀委員長セリアによる食事時の席決め法。「座った」順に時計回りもしくは逆時計回りに詰める、これ一点。
2、悠人は最後に降りてくる。
3、残りの者が起きてきた順は25レス目以降と同様とする。
今回の過程
1、セリア、ヒミカが並んで座る。
2、期待によって早く目覚めすぎたヘリオン、あえなくヒミカの隣へ。
3、ナナルゥは 立ったまま パンの 匂いを 嗅いでいる!
4、ネリー、シアーがヘリオンの隣へ。
5、ファー、ニムが更に隣へ。
6、ようやくナナルゥが座るw
7、悠人、いつもより格段に早く目覚める。
8、料理を終えたハリオンが座る。
9、セリア「……ちぇ」
ハリオン先生の練乳授業、まこと見事です、道行書きさん。
私も、そろそろ長めのものを投稿しようとしていたのですが…。
全ての面において叶いませんです、マジで。
まぁ以前に文学賞に応募したけどカスりもしなかった程度だしなぁ私…。
ともあれ、私なりの全力を投下いたします。
いつも一緒のネリーとシアーですが、あえてシアーだけに焦点をあてました。
ものすごく偏った人生経験や人間的視野がモロ見えなのが心配ですが(汗
では、「いつか、ふたりの孤独を重ねて」…どうぞ。
木の下に背もたれて、ただ二人で夜空を見ていた。
悠人は、もう決して二度と離さないかのように小さい身体を両手で背中から抱きしめる。
星たちの瞬きは何も言わないけれど、二人にとって残酷な事も決してしない。
太陽の光は暖かいけれど、まぶしすぎて古傷も生傷も暴いてしまう。
月の光は優しく隠すけれど、何処か静かに凍てつかせるような冷たさがある。
星の光は何も言わないけれど、道しるべを示してくれる。
今の二人には、星の光こそが良かった。
木の下に背もたれて、ただ二人で夜空を見ていた。
シアーは自分の背中を、今自分を抱いてくれてる人を感じたいからその胸へ沈める。
星たちの瞬きは何も言わないけれど、二人にとって残酷な事も決してしない。
太陽の光は暖かいけれど、まぶしすぎて古傷も生傷も暴いてしまう。
月の光は優しく隠すけれど、何処か静かに凍てつかせるような冷たさがある。
星の光は何も言わないけれど、道しるべを示してくれる。
今の二人には、星の光こそが良かった。
シアーはそっと、自分を抱いてくれてる悠人の両腕の手に自分の小さな手を重ねる。
「ありがとう、シアー」
悠人は、その心に入ったヒビから漏れてしまうかのようにシアーにそう言う。
シアーは、黙って悠人の手に重ねた自分の手に少し力をこめる。
悠人の、ヒビだらけのその言葉を自分の両手で包むように。
「あ、ありがとう…ごめん、ありがとう」
それに気がついた悠人は、ただ申し訳なそうに自分の胸の中の小さな少女に謝罪する。
「…シアーね、ありがとうだけでいいの。ごめんは、いらないの」
シアーはそう言うと、ふうっと身体から力を抜いて悠人に更によりかかる。
胸に感じるシアーの頭の重みと、星空に照らされて昼間よりぼんやりとうすら青い髪の感触。
シアーの髪から、日なたのにおいと共に優しく香るシャンプーの芳香に悠人は酔いかけてしまう。
なんだろう、胸の奥より深くてやわらかい部分が痛い。
この酔いは暖かくて満たされてゆくのに、ここちよさが痛い。
自分の手に重ねられている温もりを感じながら、悠人はシアーの言葉に何も言えなくなる。
-シアーの手、本当に小さいんだな。
悠人は自分がシアーを抱きしめているはずなのに、逆にシアーに抱きしめられているように思う。
-佳織の手は、どうだったかな…最後に二人で手を繋いだのはいつだったっけ…
シアーのやわらかい暖かさを離してしまわないようにしながら記憶を一つずつ手繰り寄せる。
支援はいりますか?
今ではおもかげさえも消えてしまいかけてる、二度も失った両親。
誰からも、そして自分自身さえからも「疫病神」と罵られ続けた日々。
それでも、「妹」という温もりだけはいつもあった。
いつしか、光陰と今日子や小鳥という存在もいた。
演劇をきっかけに、級友たちの思いやりも知った。
召喚されてから特に強く常に感じていた、自分という一人に対しての無力感をも思い出す。
-俺は、エトランジェの力を手にしてからも果たして誰かを護れた試しがあっただろうか。
シアーを抱きしめる両手にわずかに力がこもるのを、おさえることが出来ない。
一時期とは言え、佳織を取り戻せた。
光陰や今日子も生きていてくれている。
ウルカだって救えた。
仲間たちの誰も、ついに今日まで一人も戦死者はいない。
そして今や、街の人々からは救国の勇者様扱いだ。
だけど、それでも無力感を拭い消せないでいる。
ふと気づいたら、自分の周囲から誰もがいなくなってゆく。
あんなに頑張ったのに、誰もが自分に背中を向けて無言で振り返らず歩き去ってゆく。
いつからかつきまとうようになった、そんな根拠のない孤独感が悠人は怖い。
ふと、シアーの手が自分の手を強く握っているのに気づく。
シアーが、ひどく心配そうに自分の顔を見上げているのに気づく。
「…どうか、したのか?」
悠人は、精一杯に優しく微笑んで精一杯に優しい声でそう問いかけた。
「ネリーが心配か?…また、別々のチームになっちまったもんな」
すると、シアーの表情が余計に心配そうになる。
「違うの…シアーたち、離れててもお互いのことわかるし…。
それに今回のチーム分けが決まった後、ネリーちゃんはシアーにがんばれって言ってくれたの…」
理由がわからず、思いを巡らせていると不意にシアーがそっと悠人の繋がれた両腕をとく。
シアーは悠人の正面に向き直ると、かわいらしいハンカチを取り出して悠人の顔へ手を伸ばす。
そこではじめて、悠人は知らずのうちに自分は涙を流していた事に気づいた。
「そうか…泣いてたのか、俺」
シアーが、丁寧に自分の頬や目を拭いてくれるのにひどく懐かしい安らぎを感じる。
-俺は何故、自分で拭くと言えないんだろう。
シアーのハンカチからは、洗剤の甘くてホッとするにおいがして。
「うん…それとね…震えてたの」
やがて悠人の涙を拭き終えたシアーは、ぽつりとそう悲しそうに言う。
「えっ?」
悠人の胸に、シアーは顔をうずめながら身体を沈めてくる。
「泣いてて…震えてたの。ユート様…震えてたの」
自分の身長の半分かそれ以下しかない小さなシアーは、悠人の背中に細い両手をまわす。
悠人よりも、ずっと小さなシアーがあまりに細い両手で精一杯に悠人を抱きしめてくる。
「そうか、俺…ごめんよ、シアー…」
こんな小さな少女に、自分の弱さを見せてしまった事に悠人は後悔を覚えながら。
「ごめんは、いらないの…」
その言葉にまた何も言えなくなって、ただまた精一杯に優しくシアーの髪を撫でる。
不意に、シアーは胸から顔を離してまっすぐに悠人を見つめてきた。
「ユ、ユート様…覚えて、る?」
シアーの頬は、桜の花の色に染まっている。
「何を、覚えてるって?」
そっとシアーを両腕で包むように優しく抱きながら悠人はシアーに問い返す。
「えっ…と…えっとね…ええっと…あの、あのね…」
耳までもう真っ赤になってしまうシアーの髪を優しく撫でながら、悠人は次の言葉を待つ。
「あの…はじめて。ユート様と、シアーの…二人一緒でのはじめて…」
悠人はしばらくまばたきを繰り返しつつ、記憶の引き出しを片っ端から開けまくっていたが。
「あ…もしかして…キス、か?」
その台詞に反射してしまったかのように、シアーは勢いよく身体を悠人の胸に沈める。
その勢いにむせそうになるのをこらえながら、悠人はあの時のことを思い出していた。
さくっと支援〜
発端は、とある作戦での部隊編成時でのチームわけの時だ。
普段は常に一緒なネリーとシアーも、さすがに別々のチームに分けられる時もある。
それは別段珍しいことでもなければ、むしろごく当たり前にある事だった。
違ったのは、悠人とシアーを含むチームとネリーを含むチームはかなり離れた拠点に配置された事。
しかもそれぞれ、エーテルジャンプ装置を設置した拠点から更に行軍した場所に配置された。
そしてもう一つ、もろもろの事情でチームを三つに分けて別々に配置。
エスペリアをリーダーにした第一チーム、今日子をリーダーにしたネリー含む第二チーム。
そして、予想外の事態に対応するための悠人とシアーに光陰だけのラキオス防衛第3チーム。
これだけでは、特にどうといった事もなかった。
実際、報告でも配置された2チームは輝かしい戦果を上げていたしラキオスへの敵襲もなかった。
その時の、とある夜のこと。
悠人は、部屋の窓を開けて星空を眺めていた。
-エスペリアのチームは、今どうしているだろうか。
-今日子は、副リーダーにしたセリアとうまくやっているだろうか。
そんな事を考えながら星空を眺めていると、空にふと奇妙な一点があるのが見えた。
どうやらウィングハイロウを持つスピリットが、まっすぐこちらを目指しているらしい。
すぐさま「求め」を握って、神剣の気配を探るが安堵とともに気が抜けた。
それは第二詰め所の自室で眠っているはずの、シアーの「孤独」のものだったから。
窓を大きく開け放しておいて待っていると、枕を抱きかかえた寝巻き姿のシアーが見えた。
やっぱりというか予想通りというか、シアーは泣きはらしていた。
-まあ、第二詰め所にはネリーどころか光陰をのぞいて誰もいないからなぁ。
とりあえず、窓からシアーが部屋に飛び込んでゆっくり着地するのを待って。
ごくいつもどおりに声をかけて、泣きじゃくるシアーの頭を撫でながら話を聞いてあげる。
いつものパターンから予想していた、ユート様と一緒に寝たいというお願いにも快く頷いて承諾。
とりあえず、適当にベッドをただして二人の枕を並べてそれじゃ寝ようかというところで。
まずベッドのサイズ的に、寝ているうちにシアーが転がり落ちる可能性があるので…。
先に壁際のほうにシアーを寝かせようとしたのが、ふたりの今日までの全ての始まりだった。
悠人に促されるままに、シアーがベッドにちょこんと腰掛けた時。
ちょうど少し離れて見守っていた悠人と、正面から向き合う形だった。
常日頃からの疲労がたまっていたのと、悠人自身もうかなり眠かったせいだろうか。
ふらり、と悠人はいつのまにか転ぶようなところもないのに足をもつれさせてしまった。
慌てるどころか状況を理解できないまま、悠人は正面にいたシアーのほうに倒れこんでしまった。
気づいた時には、悠人が押し倒す形で自分の唇とシアーの唇が重なってしまっていた。
しばらく長い間二人とも頭の中をぐるぐるさせつつ固まっていたが、やがて悠人が慌てて離れる。
「ご、ごめんッ!」
思わず両手をあわせてシアーにごめんなさいのポーズをする悠人。
むくりと起き上がって、自分の唇に手をやったシアーはキョトンとしている。
「本当にごめん…シアーも、キス初めてだっただろうに…ごめん…」
とにかく必死に謝罪する悠人に、シアーは不思議そうに聞いてきた。
「ユート様…キスって、なんですか?」
一瞬、目を丸くして硬直した悠人はしばらくああそうか子供だもんななどと頭を抱えてしまった。
それから、色々な意味で精神的な面での成長に支障があるといけないためじっくり説明。
「…と、いうわけでキスってのはそういうものなんだ」
悠人としては、かなり精神力を消耗する話題だった。
「あの…それじゃさっき…どうして、謝ったんですか…?」
上目遣いに無垢な瞳でじっと見つめられて悠人は言葉に詰まってしまう。
「別に悪いことでもないのに、どうしてごめんなんですか…?」
悠人は腕組みして唸りながら無理やり脳みそを絞ったあと、こう言った。
支援カキコ
「あのさ。さっきも言ったけど、キスってのは好きな人どうしでするもんなんだ。
しかも、シアーは初めてなんだろ?やっぱり、シアーだって好きな人としたいだろ。
それなのに、初めてが俺じゃイヤだろ?だから、申し訳なくてさ」
悠人の説明に、シアーは首をかしげるだけだった。
「シアー、ユート様のこと好きだよ…?
ネリーちゃんもユート様のこと好きだし、びっくりしたけどイヤじゃなかったよ?」
ますます不思議そうな無垢な瞳に、また上目遣いで見つめられてまた言葉に詰まる悠人。
「ユート様…シアーのこと、嫌い?」
悲しそうに曇る無垢な瞳に対して、首が千切れ飛ぶかのような勢いで首を横にふりまくる悠人。
「じゃあ…ユート様も初めてだったんだよね…初めてがシアーだから…、イヤ…なの…?」
その勢いだけで竜巻を起こせるんじゃないかというくらい、激しく首を横にふりまくる悠人。
「そんなことない、俺もシアーが好きだぞ。
むしろ、初めてがシアーってのはびっくりしたけどなんだか嬉しいぞッ」
勢いでまくしたてた後、悠人は自分の台詞の重大な意味に気づくも時すでに遅し。
「うん、シアーも…シアーも初めてがユート様で…凄く嬉しい…」
妖精どころか天使のごとく、穢れのない極上の微笑みでそう返されて悠人は何も言えなくなる。
「で、でもさ…これから先、シアーの人生に一生ついてまわるんだぞ?」
そう、事故とはいえシアーが成長してキスの意味を本当に知った時に彼女が傷つく可能性もある。
「うん…シアーね、一生忘れないよ…?
…ユート様との初めてどうしのキス…絶対に忘れないよ…」
窓からさしこむ星の光に照らされて、にこにこと嬉しそうにするシアー。
「…ごめんは、いらないの。シアーは幸せだから…だから、ごめんはいらないの」
それに対して、色々な意味が多く含まれるとても言葉に出来ない罪悪感でいっぱいになる悠人。
やがてシアーが手で口を隠す事もせず大きなあくびをしながら、船をこぐようになったので。
慎重に優しく、シアーをベッドに寝かしつけて小さな彼女が寝入ったのを確認してから。
「やっちまった…やっちまったよ、俺…ああぁ…やっちまったなぁ…はあぁぁぁぁ…」
小さくつぶやいて、思い切りガックリしてると静かにけれど聞きなれた声が聞こえた。
「うむ、やっちまったな…我が親友よ」
青ざめて振り向くと、部屋の入り口で酒と肴をつまみながら碧光陰が堂々とそこに座り込んでいた。
くいっと木製のグラスをあおりつつ、物憂げな表情で悠人を見つめ続ける光陰。
背中を冷たくイヤな汗が滝のように流れるのを感じながら、悠人は声を絞り出す。
「い、いつから見てたんだよ…?それで、な…な…ななな何を言いたいんだ?」
口に人差し指をあてて「静かに。起きるぞ」のサインをしつつ、あくまで見つめ続ける光陰。
悠人は、そうっと光陰のそばによって拝むように両手をあわせつつ小声でささやく。
「なあ光陰。俺たち、親友だよな?黙っててくれるよな…な?いやマジ頼むよ本当に」
元の世界のさきイカのような肴を一本くわえて上下にぴこぴこ動かしながら、見つめ続ける光陰。
「…わかりました、ただで頼むとは決して申しません…ワタクシに出来る事なら何でもします…」
うむ、と満足げにニンマリ笑って頷く光陰に悠人はただただうなだれるしか出来なかった。
ふと肩に光陰の手があるのに気づいて顔をあげると、今の悠人が一番恐れる台詞を言い渡された。
「ロ リ コ ン。…しかも純真無垢な少女の唇を奪った。つまりは、性 犯 罪 者 だなッ」
今まで光陰に言ってきた台詞を自分が言われて、声にならない絶叫と限りない絶望に悶絶しまくる。
支援、ありがとうございます。
とりあえず、本日はここまで。続きは日を置いてからにいたします。
ソゥ・ユートがキング・オブ・ヘタレからヘタレカイザーに進化してます。
光陰と共に、祝福してやってください。
では、また。
>>301 乙です
それははたして進化というのでしょうか(汗
光陰にだけはロリコンとか言われたくないですね
ソゥユートの絶望の深さはいかばかりか…w
>>301 ユートはヘタレじゃないの。それはきっと、インプリンディングなの。だから、ごめんは、いらないの。
あと、関係ないけどさきイカ美味しそうなのw
304 :
革命の人:2005/10/16(日) 16:25:23 ID:/AW5LXxp0
えー、取り止めも無くSS投下
投下予定が遅れまくりの
「確信の一歩」です
305 :
革新の一歩:2005/10/16(日) 16:26:37 ID:/AW5LXxp0
森の中を流れる川。おそらく森の南端を流れる川の知られざる小支流なのだろう。
作戦でしか見る事がなかったが、すっかり覚えてしまった地図を思い浮かべる。
周囲はわりと開けていて、明るい。そして何より――
「まさか紅葉があるなんて思わなかったなぁ」
そよ風に枝から真紅の葉が一枚さらわれて、穏やかな川の流れに重なる。
今は暦でスリハの月。日本で言えば12月なのだが川辺にある一本の紅葉(?)にはまだ半分くらい赤い葉が残っていた。
「モミジ?これはモミジと言うのか?」
アセリアがそんな事を言いながら物珍しそうに眺めていた。
既に散ってしまっていてもおかしくないのだが、土地の緑の力か、はたまた立てられた施設のせいかと、
悠人はあれこれ考えてみたが、ここは意外な発見を素直に楽しむ事にした。
みんなはシートを広げて昼食の準備を始めている。シートの中心にはハリオンお手製の料理の数々が。
どう考えてもバスケットの中に入りきらない量だったが、そこはハリオンだから気にしない事にする。
ハリオンは彼女にしてはせわしなく動いて食器を配っている。その隣でヒミカもそれを手伝っていた。
「ん…おいしい……」
アセリアは既に食べ始めていた。
(いつの間に…速いぞアセリア)
「ユートさまも〜、どうぞ〜」
いつのまにか隣にはハリオンがいた。
開戦少し前から知り合ってほぼ二ヶ月。やっと第二詰め所のみんなにも慣れてきた。
「ああ、いただくよ」
悠人はハリオンからとり皿を受け取る。既に料理は乗せられて、フォークが添えられていた。
(そう言えばハリオンの料理を食べるのは、これが初めてだな)
ぱくり。
「どうですか〜?」
「おっ、…これは」
エスペリアとはまた違っているがこれもいい。
ベクトルは違えど、間違い無くハリオンも上手な方に分類されるだろう。
「うん、とってもうまいな」
「どういたしまして〜。まだまだいっぱいありますから〜、どんどん食べてくださいね〜」
「ああ、そうするよ」
目の前の穏やかな昼食の風景。とても今が戦時とは思えない。
今だけここに流れる、違う世界の時間。
306 :
革新の一歩:2005/10/16(日) 16:27:38 ID:/AW5LXxp0
仲良く談笑しているヒミカ、ハリオン。
黙々と食べているアセリア。
(あれ?セリアはどこだ)
悠人は視線をさまよわせ、ほどなく彼女を見つけた。
セリアは例の紅葉の木の根元に腰をおろしていた。
(紅葉に佇む美女…うーん、絵になるな)
いつもの凛然とした雰囲気はなりを潜め、今の彼女はただ物憂げに赤い葉の落ちる様を見ていた。
悠人が見とれていると、視線に気がついたのかセリアがこちらを向いた。
「…なんですか?」
いつもの彼女だ。冷たい視線と威圧感。だがしかし、ここで引き下がるわけにはいかない。
セリアから少し離れて悠人も腰を下ろした。
「なあ、セリア。午前中の事なんだけど…俺を嫌っているのはわかるがあれはあんまりじゃないのか?」
「そうでしょうか?耐えられると思ったので自身の体力を温存して来ただけですが」
「それ本気で言ってのるか?」
さすがに悠人も怒りがこみ上げてきた。
「勝手に動かれると迷惑ですか?」
「ああ、そうだな。何のための集団戦訓練なんだ?勝手に動かれたらこっちも困るだろ」
「そうですね。あの時もみんな困りました」
(よりによってここで出してくるか)
悠人は心の中でうめいた。言うまでもなく、セリアに引っ叩かれたときの事だ。
「あの時の事は謝ったじゃないか。いいかげん根に持つのはやめてくれ」
「やめません。なんで私か怒ったのかもわからないで、悪びれもせず謝っているうちは絶対に」
「え?だからそれは、俺がまだまだ未熟で隊長なんて――」
「――っ、やっぱりわかってないっ!」
悠人の言葉はセリアの怒声に遮られた。普段からもの静かな彼女が、このように怒鳴るなど想像もつかなかった。
セリアは掴み掛かからんばかりの勢いで悠人との距離を縮めた。
「いいですか?あなたが未熟なのはみんな知っています。なのにみんなは、あなたを隊長として立ているんです。
その上であなたのとった行動はなんですか?みんなの気持ちを無視して一人で突っ走って!
みんなはさぞ心配した事でしょう。隊長とは部下に不安を与えてはいけない…それがどのような形であれ。
あなたは一番してはいけない事をした、なのに悪びれもしない!」
「………」
何も言えなかった。彼女は全くもって正しい。
307 :
革新の一歩:2005/10/16(日) 16:38:43 ID:/AW5LXxp0
(俺はせめて無茶をしないで戦うべきだったんだ。みんなを心配させないように)
「みんな怒ってるんですよ?本当にあなたは理解しているんですか」
ようやく理解できた。あの午前中の理不尽にはこういう裏があったのだ。
「…悪かったよ。本当に、セリアの言うとおりだよな」
自然と言葉は出た。
「ゴメン。この通りだ、許してくれ」
悠人はセリアに向かって深々と頭を下げた。
「わ、私は特に気にしていません。そういう事はみんなにやって下さい」
セリアは面食らった様子で言った。この反応は予想していなかった。
彼女の人間観で言えば、人間でましてや隊長である彼が部下である自分に頭を下げるなど予想だにできなかった。
「んー、でもやっぱりセリアにも謝っておかないと。コレは俺の気持ちの問題だけど」
すっきりとした表情で悠人はセリアに笑いかけた。
セリアはそんな悠人を見て数秒黙考―――そして、
「…だったら」
「ん?」
「だったら一つ、私の質問に答えてくれますか?」
セリアが俺に聞きたい事?いったい何なんだろうか。少し疑問に思いながらも悠人は頷いた。
「あの時……ラセリオのあの時、なんであんな無茶をしたんですか?悪いと思ってなかったというなら、それなりの理由があったと思うのですが」
今度は悠人が面食らう番だった。
「あ、あれか…あれは、えーとな」
急にしどろもどろと落ち着きがなくなった。
「別に、理由なんて大層なものじゃないんだ。……そう、思いつき、みたいな…」
「思いつき?」
「ちょっと面白くない話になるけど、いいか?」
「はい、構いません」
悠人はそうか、と呟くと話し始めた。
「俺と佳織…って佳織って言うのは俺の妹の事なんだが――」
「はい、知っています」
知っている。今、悠人が戦っている理由の全て。彼が自分の全てを賭しても守りたいもの。
「そうか。で、俺達は小さいころに両親を亡くしてて、親が居ないって事でいじめられてた時期があったんだ」
悠人の表情が苦く曇った。
308 :
革新の一歩:2005/10/16(日) 16:39:14 ID:/AW5LXxp0
「全く酷い話さ。自分たちと違うってだけでこういう事を平気でする。しかも多数でよってたかってだ。
勿論やられてばっかりじゃ、いつまでたっても無くならない。だから、ある日先手を打った。
さて、今日は何をしてやろうかって算段していた奴らにいきなり飛びかかってやった。
元から群れなくちゃ何もできない奴らだったからな。一番最初に怯ませたら後は蜘蛛の子を散らす様に逃げてったよ」
曇った表情が苦笑に変わった。
「その時の経験則さ。意表を突いて出鼻を挫く。相手が勢いづく前に戦意を削り取れば退却してくれるかな…って」
セリアは唖然とした。
「…短絡で楽観的ですね」
「そう言わないでくれよ。できれば、殺したくなかったんだ」
戦いたくて戦っているわけじゃない。
殺さなくて済むならば、そうしたい。
「…そういう泣き言も部下の不安につながりますよ?」
「手厳しいな、セリアは」
「それは違います。みんなはユート様に甘いだけです」
そう言われれば思い当たる節もある。
「やっぱりまだまだって事か」
「そうですね。くれぐれもみんなの前では今のような事を言ってはいけません」
「まるでエスペリアみたいだな」
セリアの表情が訝しむようなそれにかわる。
「エスペリアが?」
「ああ、実はな――」
それは開戦前の事。スピリット隊の隊長に任命された時に漏らした悠人の本音に、かけられた言葉。
――今のような言葉は決して皆の前ではなさらないようにしてくださいませ。
――隊長が不安を抱えている事が解れば隊員も不安になります。
――不満や、苛立ち、怒りは全て私にぶつけてくださいませ。
――私が受け止めますから。
彼女に返す言葉が見つからなかったのを憶えている。
「――っていう事があってさ…」
……目の前の男はバカだ。セリアはそう、確信した。
「…「皆」って事は、その中に当然私も含まれていると思われますが?」
「しまった!そうだよな、この事は忘れてくれ」
309 :
革新の一歩:2005/10/16(日) 16:39:53 ID:/AW5LXxp0
エスペリアに対して同情を禁じえない、さぞ苦労している事だろう。
しかし、「献身」の二つ名を持つ彼女の事だ、手間のかかる弟のような感覚かもしれないが。
それでも、彼女一人が持つには「この荷物」はいささか大き過ぎやしないだろうか?
「…エスペリアのように「全てをぶつけてもいい」とは言いませんが……」
「え?」
少しくらいはこっちが持ってもいいだろう。
「私も訓練や、多少の相談になら付き合ってあげてもいいですよ」
「本当かセリア。サンキュ、助かるよ」
セリアの言葉に悠人は表情をほころばせた。
何故だろうか?彼と話していると必ず自分のペースが乱される。
「ユート様のためではありません。それではエスペリアが大変だろうと思っただけです」
ほら、また言わなくてもいいことを言ってしまう。
「へえ、セリアって意外に仲間思いなんだな」
これ以上は危険だ、と心が警鐘を鳴らす。そう、踏み込むわけにはいかない。
何に対してそう感じたのかはわからない。だけどここは警告に従う場面だ。そう結論したら、あとは速かった。
「っ!、では私はみんなの所へ戻っています。それでは」
「え、あ!ちょっと――」
セリアは突然話をうち切っていってしまった。
(いっちまったな)
セリアの後姿を見ながら、悠人は思う。
彼女は異質だ。悠人に対して半ば無防備としか言いようがないスピリット隊のみんなとも、アセリアやナナルゥのように自我が希薄なのでもない。
はっきりと他者との間に一線をひいて孤高なのだ。
何故なのだろう。
一人でいる事は辛いと、悠人は思う。なのに彼女は進んで一人でであろうとしている。
「いつかは教えてくれるかな?」
ぼそり、とひとりごちる。
しかし、彼の問いに答えるものは無く、赤い葉が風に流されひらひらと舞うばかりだった。
つ[支援]
311 :
革命の人:2005/10/16(日) 16:50:04 ID:/AW5LXxp0
ひっそりと投下完了
誤字脱字ハリオンマジック等、指摘ありましたらどしどしお願いします
なんか短編の影響が出てるかも?
あと時事ネタで紅葉(作品時間内ではギリギリw)
外国にも紅葉ってあるんであっちの世界でもアリかな?って感じで
受け入れられなかった人にはすいません
あとサモドア決戦まで含めて「革新の一歩」の一章は終了です
だいたい全5章仕立てでゲームのラストまで行くつもりです
まだまだ先が長いですが、温かく見守っててくだされば幸いです
>>309の最後の方
なのに彼女は進んで一人でであろうとしている。
これは
なのに彼女は進んで一人であろうとしている。
だよね
とりあえず気付いたので報告をば
313 :
革命の人:2005/10/16(日) 18:33:18 ID:/AW5LXxp0
>>311 あ〜きのゆ〜う〜ひ〜に〜(ry
馴れない説教しながら無意識にお弁当を箸で突っつき落ち着かないセリアさんが目に浮かびます。
これぞ体験学習。骨身に沁みたソゥ・ユート。反省した途端セリアに目が行くなど、いけませんねw
紅葉か……
「はいパパ。カオリから聞いたモミジマンジュウ作ってみたよ♪」
餡の替わりに磨り潰した葉っぱを封じ込めた饅頭を嬉しそうに差し出すオルファ。色々と違う。
ふと思い出して見てみると、いつの間にかキャラクター紹介にセリアとファーレーンが増えてた。
喜んでいいのか悲しんでいいのか困っている俺ガイル。
「泣いて」「喜べ」ばいいと思う。
次回の「教えてっミュラー先生!!」
ロティ「せんせいのスリーサイz」 すぱーん
光陰「うぉぉぉっ! ネリーちゃん、どうしてそんなに大k」 すぱーん
ロティ「ツェナのお母さんがホントはおb」 すぱーん
更に
´∴ # __ ゜ヾ´ ″´∴
「,'´r==ミ、―≡ ̄`:∵∧_∧´∴∵゛'
__くi イノノハ))≡―=',((( )≡―=‥、 ∵゛、゜¨
, ≡ )| l|| ゚ヮ゚ノl|r⌒) _/ / ̄ =―≡― _
´∴'≡く / ∧ | y'⌒ ⌒ ヽ イノノハ))( ≡―=‥、,、
″″ \/〈(((ノ从| / | | ゚ヮ゚ノ`=―≡―∞
" ||( ゚ヮ゚ー' | |ヾノ //
=―≡ ̄`:, | , | ( ̄=―≒‥,,
" ,゛"=―≡―=',/ ノ )∵`=≡―=
″( ゚ヮ゚∴/´/ / | | , ゚ヮ゚ノ'ゞ ∵゛、 ゜ ¨
ヾ =―≡ ̄`:゛/ / \| |≡―=‥、,、 ヾ
,゛"=―≡―='( | ( |=―≡―∞=@ , 、∴
/ | | |\ \ ´ ∴ ヾ .
・ / / | | | ヽ/⌒〉
.... . ............ . .(_ 「 _) (_〈_/....... . .. . .... . . .
320 :
名無しさん@初回限定:2005/10/17(月) 18:31:50 ID:BpgzjbAGO
セリアが成長しきったシアーみたいになってる件について
321 :
エロ大王:2005/10/17(月) 18:34:05 ID:vXPaTgMP0
>>319 おばさん久しぶりだなw
久しぶりに来ましたが皆さんいい仕事してますね・・・
>>320 あのセリア・バトリ姐さんには驚いたよな、てっきり同じポニーだと思ってた。
どうもです。
ワタクシのロ(ピー)趣味全開の「いつか、二人の孤独を重ねて」です。
願望とか願望とか願望とか願望とか願望とか願望とか願望とか満載です。
では、前回よりの続編をどうぞ。
324 :
名無しさん@初回限定:2005/10/17(月) 21:00:05 ID:tMQmdZ810
セリアがセリアがポニーテールじゃない!!!orz
確かに成長したシアーって感じだね
悶絶する悠人の姿に、悪魔的な愉悦を浮かべてハ○ク・ホーガンのポーズを決める光陰。
やがて光陰が立ち去った後、改めてベッドにもぐったが精神的ダメージは計り知れなかった。
そしてスウスウと無防備に寝息をたてるシアーの方を向く事はとても出来ず、背中を向けて眠った。
…心で血の涙を流して泣きながら、二組の両親と佳織やシアーに懺悔しまくりつつ。
それから、本当に色々なことが悠人とシアーという「ふたり」にあった。
ふと気づくと、シアーを目で追ってしまっていたこと。
ふと気づくと、シアーが控えめだけれどじっと自分を見ていることに気づいて真っ赤になったり。
第二詰め所での食事の時、シアーと隣同士か向かい合わせになるのを期待する自分がいたり。
第二詰め所での食事の時、ネリーと並んだシアーが笑顔で自分のそばの空席へ手招きしてたり。
訓練の時、シアーを指導する時につい熱が少しこもりすぎて泣かせてしまいネリーに怒られたり。
訓練の時、組み手で懸命に神剣を打ち込むシアーに見惚れたスキを突かれて一本取られたり。
街へ出かけた時、ネリー他年少組と楽しそうに笑いながらヨフアルをほおばる姿が嬉しかったり。
街へ出かけた時、ネリー他年少組の中にいるシアーに夕焼けの丘の上から手を振られたり。
光陰にそそのかされて、夢にまで見たシアーとのデートが出来た時とても幸せだったり。
光陰にそそのかされて、シアーとデートした後で光陰の命じる数々の雑用を喜んでこなしたり。
出陣する前、シアーのそばにいたいのを必死でこらえて作戦にもっとも適した布陣を提案したり。
出陣する前、シアーと互いに無言ですれ違った時に背後から感じる彼女の視線に耐えたり。
いつも、自分の心にだけ聞こえてくるシアーの「孤独」が鳴らす風鈴のような音色が痛かった。
寝る前に、悠人は自室の窓を開けて星空を眺める癖がついた。
あの夜のように、シアーが飛び込んでくる事を期待しているわけではない。
いつの日も星空を眺めながら、唇にそうっと指先をあてる。
シアーの唇の感触は、小さかったけれども優しい柔らかさが確かにあった。
シアーの感触を覚えていることに、罪悪感を覚える。
シアーの無垢な瞳と、ネリーらと一緒にいる時の笑顔を思い浮かべる。
シアーの面影を、心に焼き付けてしまっていることに罪悪感を覚える。
シアーの声と、軽やかに駆け抜けていく様子を思い出す。
シアーの姿に、鼓動が胸を打つ事実に罪悪感を覚える。
悠人は、かつて元の世界にいた時のことを思い出す。
いつからか、テレビで必ずといっていい程に流される無惨なニュース。
いつも、子供が暴力に晒されている。
どこかで、子供が理不尽に踏みにじられている。
佳織が、そんな目にあわなければいいと毎日ひたすらに心の中で祈っていた。
今、シアーをテレビで見た事件のように自分が壊してしまうんじゃないかと怯えてしまう。
「求め」が度々マナを要求してくる時の強制力を考えると、抗える確証を持てなかった。
どうして、今までのように接することが出来なくなってしまったんだろう。
せめて、佳織に対するのと同じか近い感情にとどめることが出来ないんだろうか。
ある時、悠人は抑えきれない気持ちを何とかするためにシアーを呼び出してこう伝えた。
「なぁ、シアー。
これから、ネリーと一緒にでもいいから…。
俺を…俺を、お兄ちゃん…と呼んでくれない…か…?」
無理やり自分の中でシアーを「妹」に置いて、佳織に対するのと同じ気持ちにすりかえよう。
「好意」ですら無い「ウソの好き」を言い続ける事で「本当の好き」を隠して塗りつぶそう。
「いや」
即答だった。
その時に初めて聞いた、シアーのはっきりとした悠人に対しての拒否の声。
「シアーは、シアーなの…。ユート様の、シアーでいたいの…。
カオリ様とか誰かのかわりなんて、シアーは絶対にいや…」
シアーは、怒っていた。
涙をあふれさせて鼻をすすらせながら、シアーは怒っていた。
初めて見る、シアーの怒りに悠人はそれまでで一番のショックを受けた。
ショックを受けたと同時に、まだ子供の怒り方でしか怒れないシアーの姿に自分を責めた。
その時、ちょうど二人から離れた木陰からそっとネリーが現れた。
ネリーは悠人に対して怒りをみなぎらせて、言い放った。
「ユート様ッ!
ネリーや、みんなと一緒にいるシアーに一番微笑んでくれたのは誰だったの?
いつも、シアーがひとりぼっちじゃない事を一番喜んでくれたのは誰だったの?
はじめて、シアーがネリー以外の人とふたりきりだった時にそばにいたのは誰だったの?
戦いの時、遠く離れててもシアーが神剣を握る手に心で手をそえてたのは誰だったの?」
…効いた。それまでにどの戦いで受けたどんな攻撃よりも、ネリーの言葉は悠人に効いた。
シアーから逃げようとした身勝手を打ちのめされ、悠人はその場に力なく両膝をつく。
子供二人の前で醜態を晒す悠人に、ネリーはなおも怒りを浴びせる。
「シアーには…みんなと、ネリーというお姉ちゃんと…。
そしてシアーのユート様がいれば、それだけで孤独じゃないの。
だけどユート様に逃げられたりなんかしたら、今度こそ本当に孤独になるのッ!」
シアーは顔を両手で覆って泣き続けながら、嗚咽をもらしながらうつむいていた。
細くて小さな両手で顔を覆っても、あふれてくる涙が地面に大きな染みを作る。
悠人は、顔をあげることが出来なかった。目に入るのは、地面に増えるシアーの涙の染みだけ。
「は、はは…そう、だよな…。
俺、年の差あるからってシアーから逃げようとしたよな…身勝手だよな…はは、は…」
くらくらする頭を右手でおさえながら、悠人は乾いた笑い混じりにそんな事しか吐けない。
「違う」
しかし、ネリーはそれさえも否定する。
「ユート様が逃げようとしたのは、シアーに見たシアーの孤独。
そして何よりも、そのシアーの孤独に重ねて見てたユート様自身の孤独」
ネリーという本物のお姉ちゃんに、自分の演じようとした偽物のお兄ちゃんを砕かれて。
ネリーに手をひかれて、泣きながら去っていくシアーの足音が遠ざかるのだけが聞こえて。
夜になって、迎えに来た光陰が優しく肩をゆするまで悠人はその場に突っ伏していた。
光陰に肩を抱えられて帰ってきたその夜は、窓を開ける気になれなくてすぐに眠った。
支援!
その日以来、日常でシアーもネリーも見かける事はなくなった。
作戦会議での部隊編成表には名前があるので、いなくなったわけではないとはわかった。
けれど、行軍している時も戦場でも二人の姿は全く見ることができなかった。
チーム分けでも、二人のどちらかとましてや二人一緒と組むこともなかった。
部隊編成の決定は主にエスペリアとセリアに光陰だった。
悠人は、必要な時には提案したがネリーとシアーに関しては一言も何も決して言わなかった。
不思議と、戦闘に関する事は全く問題なく極めて普段どおりに出来ていた。
それでもふと気がつくと、シアーの姿を目で探してしまっている自分が腹立たしかった。
実際には数日しかたっていないのだが、悠人はあれから何年もたったように感じていた。
第二詰め所には全く近寄らなくなったが、誰もが今までどおりに普通に接してくれた。
光陰も今日子もエスペリアもスピリット隊の誰も、変わらずいつもそこにいた。
それなのに、悠人はひどい孤独を感じるようになっていた。
そんな、空気は暖かいのに自分ひとりだけひどく寒い日々が続いたある日の事。
ひとまず前線へラキオス正規軍を派遣、スピリット隊は全員それぞれの詰め所に帰還した。
夕食を終え、悠人は自室で窓も扉も完全に閉め切ってベッドにもぐり眠ったふりをしていた。
ここ最近は誰も来なくなっていたのに、ひさしぶりにノックの音が聞こえてきた。
恐る恐る扉を開けると、そこにいたのはエスペリアとセリアと光陰と今日子とイオだった。
支援する事される事 手前の戦いはそれが全て
悠人の部屋を、沈黙が支配していた。
エスペリアとイオは部屋の椅子に、光陰と今日子は悠人を挟んでベッドに座っていた。
セリアは悠人の部屋の隣の部屋から椅子を借りて持ってきて、それに座っていた。
全員の視線は、悠人に集中しているが誰も何も言わないままでいた。
悠人自身も、何故このメンツがここにいるのかと聞く気にもなれないままでいた。
「ユート様、今のご気分はいかがですか?」
不意に、エスペリアがその時初めてそんなふうに会話を切り出してきたので悠人はたじろぐ。
「どうって…そうか、そうだよな…うん、惨めで最低な気分さ」
今までスピリット隊の隊長としての職務に追われていて、気づくゆとりも無かった悠人。
「光陰が絶対に喋るはずは無いし。そっか、俺自身の様子でバレてたのか…」
ため息交じりに力無く皮肉っぽい笑みしか出来ない悠人の肩をあくまで優しく軽く叩く光陰。
「なぁ、悠人…それについてなんだがな…かなり、俺からも言いにくい事なんだが…」
本当に言いにくそうで、珍しく申し訳なく視線を下に落とす光陰に悠人は本心から悔やむ。
-俺は、こんな気のいい親友に…こんな顔をさせてしまってるんだな。
そう思いながら、ふと今日子の方を向くと今日子も同じように辛そうに視線を落としていた。
-今日子にまで…エスペリアやセリアは、シアーを傷つけた俺が憎いんだろうな…
少しずつ、顔と視線を上げてエスペリアとセリアの顔をそうっと見る。
エスペリアは一見して普段の優しい微笑みだが、確実に何か思っている時の仕草だ。
セリアは全くいつもと変わらない厳しい表情ゆえ、何を思っているか読み取れない。
イオは、やはり何か思う事があるという表情で悠人の様子をじっと見ている。
-イオは…そういえば、俺の提案で重点的にシアーの訓練を担当してもらってたっけか。
「ユート様、私からもユート様に確認しておきたい事があります」
セリアが、ぎしりと椅子からユートの方へ身を乗り出して話しかけてきた。
悠人は、これまでに至る経緯を洗いざらい白状する覚悟でセリアに真っ直ぐ向き直る。
そう…今度こそ間違いなく、本当の意味で隊長失格を言い渡されるだろうとしても。
「ユート様、シアーとキスをした時の事をちゃんとシアーに口止めさせたんですか?」
そのセリアの台詞に、悠人は石化しつつ脳みそを頭蓋骨の中で回転させながら気づく。
-してない。
-全くしてないというか、シアーに口止めさせるというのを考えたことすら皆無。
-いやむしろセリアに言われてはじめて、口止めという概念が俺の脳内に誕生した。
ハリガネ頭の先から足のつま先まで油汗を満杯の風呂からあふれる湯のごとく流しながら。
キング・オブ・ヘタレこと、時のラキオスの勇者たる高嶺悠人はゴクリと唾を飲み込んだ。
「んギャハハハハハハハハハッ!馬鹿よ馬鹿だわ、本物の馬鹿がここにいるわよッ!!」
腹を左手で押さえ、悠人を右手で指差しながら泣いて大爆笑しつつ床を転がる今日子。
悠人のこれまでの人生でも最大級の軽蔑の表情と眼差しで、海より深いため息のセリア。
テーブルに思い切り突っ伏して、かつてない凄まじい胃痛と頭痛に耐えるエスペリア。
悠人に対し、目に涙を滲ませながら哀れみと諦めに満ちた顔で首を横に振るイオ。
「ゲラゲラゲラゲラゲラ…電撃ハリセンで突っ込む気さえ起こらないわよ、ゲラゲラ…」
ドンドンと床を叩きながら大爆笑し続ける今日子と、そのまま動かぬ女性陣。
光陰はというと、本物のお釈迦様のような表情で悠人の頭を優しく撫でてくれていた。
「今回の作戦で出陣する直前、な。行軍の途中でハリオンに聞かれたんだよな。
お前とシアーちゃんて、何処まで関係が進んでるですかってさ。」
本当に心苦しげに説明してくれる光陰だけが、今の悠人が信じられる真の友。
「もちろん、俺は誰にもお前ら二人の事を言った事なかったからそりゃあ驚いてな。
行軍の最中を走り回って、今日子も含めてスピリット隊全員に聞いてまわったのな。
急いで、考えうる全ての最善を尽くして対処したが…もう後の祭りだったんだ」
そこまで言って、光陰は男泣きに泣きながら目の前の哀れな親友を力強く抱きしめる。
悠人はただ、光陰を確かな友情と信頼と感謝と謝罪を込めて抱きしめ返すしかなかった。
ヤバい、早く続き読みたいw
本日は、ここまでです。
支援まこと感謝です、拙者は涙を禁じえません。
光陰が、大好きです。
では、また。
>>335 乙です。
光陰がかっこいいですね〜
そのぶん悠人がへタレだw
シアーいいですねシアー
ユート様の〜くだりはとくにグッときます!
>>335 ナ、ナンダッテーーーー!!!(AAry
オチ、オチは?ユートが吊るし上げられるオチはーーー?!
それはそうと、笑わせて貰いましたw 楽しそうだなぁ、問い詰め面子。
いえ、勿論シアーの泣いて塞ぎ込むのもネリーの変貌も存分に堪能しましたけど。
338 :
名無しさん@初回限定:2005/10/17(月) 21:48:39 ID:tMQmdZ810
>>335 うはw生殺しww
乙です、続き楽しみにしてますね〜
ごめんなさい下げ忘れました…orz
340 :
名無しさん@初回限定:2005/10/17(月) 22:00:31 ID:w4uRkX2j0
341 :
名無しさん@初回限定:2005/10/17(月) 22:10:57 ID:um07La0j0
ageてしまった
すみません
ネリー「そ・れ・で・も・ま・だ・わ・た・し悪くい・う・の〜〜♪」
シアー「い い か げ ん に し て 〜〜〜♪」
スマソ、つい思いついたもので…………_no
>>343 さあ、ネタが分かる人はどれくらいなのか(w
「これってなんですか……?」
「これこそ、コーイン殿に聞いた話を元に造った、カラオケだーーー!!……電源入れるぞ」
「え、え、ちょ、ちょっと待って下さいわわわー唄うぅーーーー!!!」
そして青なのに「火の国の女」が似合うセリアw
その隣で「あばれ太鼓」熱唱するヒミカw
光陰チームの雑魚スピはセリア、ハリオン、ヒミカ、ファーレーンになってる俺。
意図してのものじゃないが、オルファ、双子、ニム、ナナルゥ、ヘリオンは絶対に配属されない。
ヽ ゞγ´゚皿゚`ぐ
, ´ ̄ 〉ヽ k @ ノ
γ⌒ヽ ixil ノノハ))) `ー-‐'
( 宗 ) ノノi(リ ゚ヮ゚ノlヾ、 <オルファ雑魚じゃないよ!
`ー‐' ´ 〈_イ个(7っ `
i二iニ二jR{G}Ri二ニi二l
(_ノ ヽ)
| ̄ ヽ
|」」 L.
|゚ -゚ノ| ……私にロリ属性はありません・・・これからの時代は無表情デレです・・・
|とl)
どうも、今晩は。
SSを投下したいと思います
ヘリオンスキーのワタクシが妄想を爆発させて書いた物なんで、
お目汚しかと思いますが、最後まで読んでいただければ幸いです。
では、投下開始
いつもと変わらない情景。いつもと変わらない『家族』。
そんな平和の中で、悠人はいつもより少し苦いお茶を啜って窓の外を見ていた。
元の世界で言うと秋なのだろうか、木の葉は紅く染まっていた。
残暑を乗り越えたおかげで風は涼しく、やさしく頬を刺激して気持ちいい。
考えていたのは、元の世界のこと。
秋の寂しい景色をみると、どうもホームシックになってしまうようだ。
たしかに、みんなといると楽しいし、戦いでも生きていることを実感できる。
元の世界にいるよりも生活に充実感を持てる。
だが、やはりこちらに無い物のことを考えると、懐かしくなってしまう。
バイト漬けの毎日の中で暇を見て食べていたカップラーメンとコーラの味。
佳織がたまに作ってくれた味噌汁。醤油漬けにして食べたジャガイモ。
「(・・・・・・って、食べ物のことばかり考えてるな。まあ、食欲の秋とも言うしな)」
それでもいいと思っていた。今この場は平和だからだ。
「(そういえば、秋にもいろいろあったよな)」
食欲、読書、芸術・・・・・・様々な秋を反芻してみたが、どうも自分に縁があるのは食欲だけだ。
「(さっき昼飯食ったばかりなのに、また腹が減ってきた・・・まあお茶があるからいいか)」
もう一口、お茶を啜る。この季節には、こんな苦いお茶がぴったりだった。
30分ほど黄昏ていると、とことこと、誰かがやってくる足音が聞こえてくる。
そちらに目をやると、黒髪の少女が目に入った。目線が悠人に向いていることから、
悠人に用があるのは明らかだった。
「・・・ヘリオン、何か用?」
「え、えっと〜、あの、ゆ、ユート様!今、お暇ですか〜?」
窓際でお茶を飲んでのんびりしているくらいだ。暇じゃないといえば嘘になる。
「まあ、見ての通り暇だけど」
「あの、それでしたら、あの、その〜、ま、町に行きませんか?」
「町に?俺は別にいいけど・・・」
悠人は少し心配していた。
ヘリオンは黒髪。見かけは人間に近いとはいえ、スピリットに違いは無い。
町に出ても、軽蔑の目で見られてしまうのではないかと。
レスティーナのお陰で少しずつは良くなっているとはいえ、それでもスピリットを嫌う人はいる。
エスペリアやネリーたちと一緒に行ったときも、汚いものを見るような視線がチクチクと刺さってきたのだ。
だから、なるべくならもう誰にもそんな目には遭わせたくは無いと思っていた。
「(でも、それじゃいけないんだよな)」
人間とスピリットが仲良くなるには、やはり行動あるのみだろう。
そういう意味では、ヘリオンの行動は勇気のあるものといえる。
「そ、それじゃあ、行きましょう!ユート様!」
・・・・・・悠人とヘリオンは町の商店街を歩いていた。
まだ真昼間ということもあって、そこは活気に満ち溢れていた。
幸い、あの時のような嫌な視線は刺さってこない。が・・・
「・・・それで、何したいの?」
「と、特にやりたいことは無いんですけどぉ・・・」
「いや、行こうって言ったんだから、何か目的があったんじゃないのか?」
「はうぅっ!えと、そ、それはぁ・・・」
とにかく、さっきからこんな調子。何をしたいのか聞いてもちゃんと答えてくれないし、
言おうとしても口篭っていて何を言っているのかわからない。
いつものぎこちなさにさらに輪をかけた状態になっていた。
「(とりあえず、この妙な緊張感を取り除いたほうがいいな)」
町にいて、落ち着けるようなところといったらあの場所しかない。
「じゃあヘリオン、とりあえず俺に付き合ってくれ」
「へ?あ、は、はいっ!お付き合いさせていただきますっ!」
「(・・・やれやれ)」
向かうのは、あの町を見渡せる高台。ヨフアルを二、三個もってあそこに行けば、
緊張もほぐれるんじゃないだろうか。それが悠人の考えだった。
ヨフアル屋のある方に向かって歩いていると、路地の中に紺とも紫ともとれるローブに身を包んだ女性がいた。
悠人がちらりとその方を見ると、突然ローブの女性に呼び止められた。
「もし、そこのお二方・・・」
「・・・はい?」
「はう〜、なんですか〜?」
何かと思っていると、女性はローブの裾から水晶玉を取り出して言った。
「私は、北方を旅して回る占い師です」
「う、占い師さんですか〜?」
水晶球が鈍く光っている。見るからに怪しい雰囲気をかもし出すローブに水晶玉。
やや暗い表情に少し厚めの化粧。どこぞのゲームに出てくる占い師にぴったりのイメージだった。
「で、その占い師さんが俺に何か?」
「はい・・・貴方の背後に、とてつもなく大きな運命の影が見えます」
「大きな・・・運命?」
よく考えてみたら、異世界の住民である悠人がこの世界に来ていること自体、
とんでもない運命を感じさせる出来事だった。それなのに、
いつの間にか自分がここにいることが当たり前になっているせいで、そういった概念を思いつくことは無かった。
「貴方は、いずれこの世界にとって重要な役割を果たすでしょう」
「世界を、救うってことか?」
「そうとも取れます。ですが、世界を救うために、貴方は究極の選択を迫られます」
「究極の選択?」
「・・・な、なんですか?その究極の選択って?」
悠人の中でいやな予感がよぎった。
世界を救うことに関して究極の選択を迫られるということ。
それは、自分が世界と、自分の大切なものを天秤にかけるということではないだろうか、と。
「それが何なのかは判りません・・・ですが、そのどちらを選んでも、貴方にとって正しい道になりうるでしょう」
「・・・そうか」
元々悠人は占いなど信じない性質だったが、今回ばかりは何か本気めいたものを感じた。
何が起こるかもしれないのかを考え付く限り考えてみたが、どうもパッとしない。
そんなことを考えていると、隣のヘリオンが声をかけてきた。
「あの、ゆ、ユート様・・・少し、あっちに行っててくれませんか?」
「え?どうしたんだよ、急に」
「い、いいですからっ!!」
「うわっ!とと・・・」
ヘリオンに突き飛ばされて、路地から追い出されてしまった。
「(何か占ってほしいことでもあるのかな)」
やっぱり女の子は占いとかに興味があるものなのだろう。
元の世界でも、あの的中率がネジ飛んだ奇妙な雑誌で占ってもらったっけ。
本当はこんなこといけないんだろうけど、悠人は路地の入り口に隠れて聞き耳を立てることにした。
小さな声で、ヘリオンと占い師が話していた。
「あの、占い師さん」
「何でしょうか・・・」
「えっと、わ、私を、う、占ってくださいませんか?」
「いいでしょう・・・何について占ってほしいのですか?」
やはりそこは占い師なのだろう。占う対象は様々なようだ。
ヘリオンはきょろきょろと辺りを見て、悠人がいないことを確認すると、恥ずかしそうに言った。
「あの、その、れ、れれ、恋愛運をお願いします!私と、ユート様の・・・・・・」
「(・・・え!?)」
驚きを隠せなかった。まさかヘリオンがそんな風に考えていたなんて。
ここまで聞いてしまったら、男として途中で抜けるわけにはいかない!
「・・・ユート様とは、さっき隣にいた殿方のことですか?」
「はい!そうです!」
占い師は、少し笑いをこらえるように言った。
「ふふっ、わかりました」
占い師は、水晶玉に意識を集中し始める。すこし、水晶玉の中が白く光ったかと思うと、
なんと占い師は、水晶玉の光の中から一枚のカードを取り出したのだ。
そのカードを見るなり、占い師の表情は少し強張り、暗くなった。
「これは・・・・・・」
「ど、どうなんですか?」
ヘリオンは期待して次の言葉を待っていた。それが悲しみを生むとも知らずに。
「・・・・・・今すぐ別れなさい」
「・・・え?な、なんでですか!?」
最悪の答。こんな答えは欲しくなかった。最高にうまくいく、までは行かなくても、
そこそこうまくいく、といった感じで励まして欲しかったのに。
「・・・さっき、彼に究極の選択の話をしましたよね?」
「!もしかして、その中に私が・・・?」
「いいえ、その究極の選択の中に貴女はいません。ですが、彼がどんな道を歩もうと、
貴女と彼の間の恋が成就することはないということです・・・」
「そ、そんな・・・」
占い師は、申し訳なさそうに言葉を続けた。
「残酷なことに、もし無理矢理に彼との愛を育んで運命を書き換えようとすると、
貴女たちは長くは生きられません。数年のうちに、二人とも死んでしまいます。
その過程でも、悲しいこと、辛いことばかりで、決して幸福な未来はありません。
ですから、今のうちに別れ、忘れてしまったほうが貴女のためです・・・」
よく分からないんだが支援てのは
こういうときに書き込めばいいのか?
「そんな、そんなことって・・・そんなことって・・・!!」
信じたくなかった。自分の好きな人と一緒にいられないなんて。
涙が溢れる。
悠人と一緒にいたいという気持ちと、生きたいという気持ちが心の中で葛藤を生じさせる。
純粋なヘリオンの心に、それが更なる悲しみを生んでいた。
止まらない涙と、これまで味わったことのない心の揺れがヘリオンを支配していた。
「ああ、い、いや、いやああぁぁぁー!!」
大粒の涙を散らしながら、ヘリオンは走り去っていってしまった。
「ヘリオン!?」
『契約者よ、あの妖精を追うのだ!我にも、【失望】の底知れぬ叫びが響いてきた。
あのままでは暴走してしまうぞ!』
占いの一部始終を聞いていた。だから、今のヘリオンの気持ちは痛いほどわかる。
【求め】に言われるまでもなく、悠人は走り出していた。
【失望】の気配を追いながら、オーラフォトンを展開して全力で走る。
それでも、かなりの素早さを誇るヘリオンに追いつくのは至難の業だった。
どれくらい走っただろうか、悠人はリュケイレムの森のかなり深いところまで来ていた。
「くそっ、まだ追いつかないのか!」
『契約者よ、左だ』
反射的に左の方に足が向かう。
50mほど走ったところで、ヘリオンは木にもたれかかって塞ぎこんでいた。
「はぁ、はぁ・・・よかった。こんなところにいたのか」
「ゆ、ユート様ぁ・・・」
あんなことを宣告されたばかりなのに、心はしっかり残っているようだ。
とりあえず見つけたことと、暴走していないことの安心感が悠人を包んだ。
「占いなんて、信じるもんじゃないよ」
「でも、もし本当だったら、わ、わたし・・・!」
また涙が溢れ出す。占いでここまで信じてしまうとは、
ヘリオンがどれだけ悠人のことを想っていたかが伺えてしまう。
「私には、ユート様と一緒にいられる未来なんてないんです・・・」
「確かにそうかもしれない」
ここで変に否定するのは、さらに傷つける事になってしまう。
悠人は、優しく諭してやらなければと思っていた。そうでなければ、さっきの二の舞になる。
「隣、いいか?」
「は、はい・・・」
ヘリオンの隣で、木にもたれかかって悠人は話し始めた。
「あのさ、俺は占いってのは、勇気を手に入れるきっかけなんだと思うよ」
「あの内容じゃ、勇気なんてもてないです・・・」
確かにそうだろう。あの占いで告げられたのは、ヘリオンにとっての究極の選択。
生か死か、悠人をとるか未来をとるかという、きっと悠人でも耐えられない『失う』恐怖。
「でもさ、未来ってのは、必ずしも占いの通りになるとは限らないよ。
俺と一緒にいられる、そんな未来もあるかもしれないじゃないか」
「私、怖いんです。そうやって希望を持っていて、裏切られちゃうことが・・・」
リイイイィィン・・・
【失望】が、ヘリオンの言葉に同意するかのように干渉音を響かせる。
それが【失望】たる所以なのだろうか、あの占いで、希望も何も失ってしまっていた。
「だったらさ、未来なんて考えない方がいい」
「み、未来を、考えない・・・?」
悠人は、自分の素直な考えを伝えた。
「だってさ、今この瞬間は、俺とヘリオンしかいないんだぜ?」
「あっ・・・」
悠人はヘリオンの肩をそっと抱く。その小さな体は恐怖で小刻みに震えていたが、
体温が伝わってくるにつれ、その震えは次第に無くなっていった。
「未来なんか考えないで、今を生きよう。少なくとも、今は一緒にいられるから」
「ユート様・・・」
その声からは、恐ろしい未来に対する恐怖の影はもう感じられなかった。
そして次の瞬間、決意を新たにしたような言葉が飛び出したのだ。
「わかりました。私、今を生きます。ですから、ユート様、私を支えてください・・・」
ヘリオンは涙を拭ってすっと立ち上がった。その顔には光しかない。
風が吹いた時、黒髪のツインテールが靡く。舞い散った紅葉がヘリオンを映えさせていた。
悲しげだけど、綺麗な情景。悠人の目に映ったものは、ただ美しかった。
悠人の心が大きく揺れ動いた。大切な人を失うこと、それは決して他人事ではない。
「(今俺は、ヘリオンのこと好きだって思ってる。だから、俺が究極の選択を迫られるとき、
俺も生か死かを選ぶことになるのかな。いや、この時ぐらいは、そんなことは・・・)」
もう何も考えたくなかった。ヘリオンのことが好きだってことが事実なんだから。
ただ純粋に目の前の少女に愛を注ぎたかった。
悠人は、無意識のうちにヘリオンを抱きしめていた。
いたいけな少女の体から温もりが伝わってくる。ツインテールの髪が頬に当たって少しくすぐったかった。
「ヘリオン、今、しあわせだろ?」
「はい・・・しあわせです。しばらく、こうさせてくださいね・・・ユート様」
しばらく抱き合っていたあと、二人はまた木を背に座り込んでいた。
どれほど時間がたっていたのだろうか、空も赤く染まり始めていた。
時折吹く風が、色々な意味で火照った体を心地よく冷やしてくれる。
「そういえば、ユート様・・・」
「ん?どうした?」
「占い・・・聞いていたんですか〜?」
「あ゙・・・あ〜」
そんなこと、すっかり忘れていた。あの内容を知っていたからこそ、あんなことが言えたんだ。
「や、やっぱり聞いていたんですね!?」
「え、いや、それは」
「聞かれたくないから追い出したのに〜!ユート様のばかぁ!ばかぁ〜!」
ヘリオンは悠人の肩をどんどんと叩く。でも、その痛みが今はすごく気持ちよかった。
「(そう言えば、いつの間にか緊張が解けてるよな)」
ヘリオンの、いつもの悠人を前にしたときの緊張した、ぎこちない口調は既にない。
それどころか、すらすらと自分の素直な気持ちを表に出している。
「(占いは勇気を手に入れるきっかけ、か・・・)」
少なくとも、二人は今を生きるという勇気を、
ヘリオンに至っては、悠人と一緒にいるという勇気をも手に入れていた。
その後、悠人は決心していた。
─────例え、どんな運命が待っていても、今を生きて、未来だって生き延びてやる。
ヘリオンと一緒に、ずっと生き延びてやる。と──
以上です
またもやラストヘタレエンペラー・ユート全開作品です。
どうしてワタクシの書くユートは必要以上にヘタレなんでしょう?
・・・ごめんなさいただの妄言です(´・ω・`)
>>358 SS投下中は連続書き込みをする事になります
投下者の書きこみ制限を回避する為に入れるレス、
それが「支援」です
そういう訳でGJ!支援
色づいた一対の葉はいつか散ってしまう。
吹く風に翻弄され、いつか土に還るとしても、それまでは繋がっていようと。
占いババは一体? 悩み深き秋。天高く澄んだ空を見上げれば芋煮会日和ですよ。
結局さ、悠人がスピリットを切り殺すところって佳織は見てないよね。
誘拐のときの暴走と、対瞬戦のみ。こんなところも佳織が共感を得られない理由なのだろうかとつらつら思うのであった。
確かに、佳織は「ただのお姫様」として描写されてるのが目立つ。
けれど、ずっと家族として過ごしてきた時間の長さは計り知れないはず。
その中で、悠人がどれだけ佳織を護るためにどんな様々なものと戦ってきたのか。
ファンタズマゴリアで、スピリットやエターナルと戦うのと意味合いは違う。
けれど、それに等しい戦いを現実の世界でしてきたのは見てきたはず。
悠人自身が人間として凄いのも事実だけど、あんな状況で二人きりで生き抜くのはとても並大抵の事じゃあないよ?
光陰や今日子がいたとはいえ、「教え導いてくれる大人」がいなかったのが佳織にとっても最大の不幸だったんだと思う。
何故なら、もしかしたら佳織は「瞬を救うために戦う」事を選択するチャンスもあったのかもしれないから。
悠人を見てきた時間ほどではないにしろ、瞬が必死に生き抜いてきた姿をもずっと見てきたはずなのだから。
…世間知らずの甘ったれ以下なだけだろうけど、どうしても瞬にも共感してしまう私でした。
くだらん長文、すまんでした。
…っといけない。
くじらさん、切ないヘリオンがいい感じでした。
なんか、ヘリオンには秋模様が似合うというイメージが焼きついてしまいもした。
んで、突発かつ即興ですが佳織&瞬SSを投稿させていただきます。
即興なんで、いつにもまして文章に練りがないですがよければよろしく。
佳織は、まだ震えが止まらなかった。
いつも優しかった兄の変貌。
悠人が、なにかドス黒いものをまとわりつかせて変わり果てた瞬間。
あの時、確かに自分をも殺そうとした。
棍棒のような得体の知れない武器で、黒い妖精ごと自分を殺そうとした。
-どうして?
レスティーナやオルファは、あれは永遠神剣というのだといつか教えてくれた。
-あれは、誰?
何処だかわからぬ此処に放心状態のまま放り込まれて。
-あの化け物は、何?
しばらくして、やっと視界に入ったベッドに逃げ場を見つけて潜って隠れた。
-お兄ちゃんは、何処に行ったの?あの時確かにあそこにいたのに何処行ったの?
歯がガタガタと鳴る、身体を気持ち悪い汗がつたうのが止まらない、寒い。
-怖い。
ようやく自分の現在の感情の正体に、ふと前触れもなく今頃気づく。
-助けて!
目を閉じたいのに、夢だと自分を騙したいのに目は開かれたままで閉じてくれない。
-お父さんお母さん今日子先輩小鳥碧先輩
助けて助けてたすけてたすけてたすけてタスケテタスケテタスケテタスケテ
身体が弓のようにのけぞって、喉も裂けよと叫びをあげる。
不意に、自分の身体がゆさぶられているのに気がつく。
叫びと共に、全ての感情が沈んでゆく。
全身から力がぬけて、胸と腹の中の空気がゆっくり全て吐き出される。
頭のどこかがジンジンする。
やっと、まぶたが降りてくる。
そうしてふと、誰かが抱きかかえて背中をさすってくれてるのに気づく。
-いい、におい。
重いまぶたをもう少しだけ開けて、誰かの顔を確かめる。
それは、自分をさらった黒い妖精だった。
「大丈夫、大丈夫でござる。もう大丈夫でござる。
何が来ても、手前が斬り捨てます。怖いものは、もう何もござらぬ。
怖いもの全て、例えなんであろうと必ず手前が斬り捨てますゆえ」
力強く一生懸命で優しくて、そして何よりも信じさせてくれる声だった。
黒い妖精の身体に両手をまわして、逃げ込むように胸に顔をうずめる。
ずっと背中をさすり続けてくれる手が、とてもここちよい。
「ありが…とう、もう大丈夫…」
生まれて初めてかと思うくらい、やっと声を絞り出せた。
どれくらいたったのだろうか。
ようやく佳織は、黒い妖精から身を離すことができた。
ベッドの上で足を直して座り込む。
視線が下に沈んでいく、気力も思考もカラッポになる。
喉が渇いている上に、ヒリヒリ痛い。
すると、湯気をともなった漢方薬のようなにおいが鼻をくすぐる。
「これは、気分を落ち着かせる薬湯にござる。
味に難はありますが、それでも茶の一種に違いありませぬ。
さ…ぬるめにしてあります、ゆっくり飲みなされよ」
暖かい器に、元の世界で見たウーロン茶のようなのからほのかな湯気。
恐る恐る両手で受け取ったそれを口に運んで、ぐびぐびと飲み込む。
舌を刺激する、本当に漢方薬とそっくりな味にかえって安心感を誘われる。
飲みきったあと、胃から温まる感覚にほうっと息をつく。
妖精が、そうっと優しく空になった器をとってくれる。
「ありがとうございます」
小さくそう言いながら見上げると、妖精は優しく微笑んでくれていた。
「いえ、手前に出来たのはカオリ殿を悪夢から呼び戻した程度のみ。
薬湯は、手前の部下がいつの間にか用意してくれたもの。
…手前に礼はいりませぬ、礼はどうぞ手前の部下に」
黒い妖精の視線の先を追うと、そこには優しい表情の緑色の妖精がいた。
「あ、あの…ありがとうございますっ」
佳織の言葉に、緑色の妖精はふかぶかと頭を下げる。
「戦場で見る以上に、見事な働きにござった。
そなたを部下に持てた事、手前は心から誇りに思う」
緑色の妖精は黒い妖精の言葉に、嬉しそうに微笑みながら深く頭を下げる。
そして、空になった器を持ってそうっと部屋から去っていった。
えっと……支援?
佳織は、黒い妖精に向き直って。
「あの、お名前は…それから、ここは…?」
佳織の問いに、黒い妖精は物憂げに目を伏せる。
「手前は、ウルカ…。
ここは神聖サーギオス帝国の城の一室にござる」
その言葉で、たった今まで飛んでいた記憶が蘇る。
「…思い出しました。私は、ラキオスから連れて来られたんでしたね」
ウルカは、無言でそうっと佳織の手に自分の手を重ねる。
「今は、どうか休まれてくだされ…。目にくまが出来ておりまする。
さ…朝餉の時間にもまだあまりに遠い時間にござる」
言われて、窓を見ると今が深夜なのだと理解できた。
「ご心配なく、今宵は手前がずっとそばについておりますゆえ」
その言葉にうなずいて、ベッドに横になる。
そのとたん、抗えない眠気が押し寄せて何もかもが闇になった。
窓からさしこむ陽光に、自然に目が覚める。
なんとなく自分の手に温もりがあるのに気づくと、手を握られていた。
「目を覚まされましたか」
自分の手を握っていたのは、ウルカと名乗った黒い妖精だった。
佳織は、そこでハッと気づく。
ウルカは、一晩中ずっと自分のそばにいてくれた。
それなのに、椅子に座ってもいない。
「あの…立ったままでずっと一晩中手を握っててくれたんですか?」
驚愕した佳織の言葉に、ウルカはこともなげに言う。
「常に武人として鍛錬を欠かさぬ身なれば、この程度はどうともござらぬ」
佳織は、申し訳なさと感謝の気持ちで顔が曇ると同時に胸がいっぱいになる。
「ありがとうございます、それから…ごめんなさい」
佳織の言葉にウルカは首を横に振って、あくまでも優しく語りかける。
「手前は、たかがスピリット。人間に尽くすは生来の定めなれば…」
その時、部屋の扉からノックの音が響く。
「…朝餉が運ばれてきたようにござる。それでは手前はこれにて、御免ッ!」
言うが早いか、ウルカは一瞬黒い色だけになったかと思うともうそこにいなかった。
こんな時間にリアルタイムに遭遇!
とりあいず…
つ支援
サーギオスの、夕刻。
佳織の頭の中で、先ほどまでの光景がぐるぐるしていた。
変わり果てた、秋月瞬。
腰に下がっていた、不気味な装飾の武器。
瞬の声で佳織に語りかけられた、瞬ではない何かの言葉。
鉄格子のはめられた窓を少しあけて、風が髪をさらりと流すのに任せる。
夕焼けの空模様に、オレンジと朱色のグラデーションの雲が流れていく。
-この世界にも、夕焼けってあったんだ。
佳織は、今更気づいたようにあえてわざとらしく自分でそう思ってみる。
不意に思い出す。
自分が連れ去られた時の、悠人の姿。
佳織はそこではじめて、それと同じものを自分は見ている事に気づく。
変わり果てた秋月瞬と、変わり果てた高嶺悠人。
-似てる。
鼓動が、鈍く佳織の小さな胸を内側から打つ。
変わり果てた秋月瞬と、変わり果てた高嶺悠人。
-似てる、ううん全く同じ。
鼓動が、重く佳織の小さな胸を内側から打つ。
瞬の腰にぶらさがる不気味な武器と、悠人の持っていた棍棒のような剣。
-永遠神剣。
かつてレスティーナたちから聞いた、その名前だけ清らかな魔性の武具。
はねとばされるように、佳織は部屋から飛び出そうとしていた。
扉を、渾身の力を込めてガチャガチャとノブごとひっぱる。
叩き壊す勢いで、がむしゃらに扉を叩く。
両手で、拳を固く握り締めて扉を砕かんばかりに叩く。
やがて力尽きると、荒い息をつきながら扉にもたれかかって両膝をつく。
扉の向こうから、何か聞こえる。
衛兵か誰かが、この世界の言葉-聖ヨト語だっか-で怒鳴ってる。
「そこを、どいてえッ!」
衝動に突き動かされるままに、部屋にあった椅子を両手で掴む。
わけのわからない、絶叫とも奇声ともとれぬ叫びをあげながら扉を打ち叩き続ける。
ふと気がつくと、床に四つん這いになって火照った体全部と肩で息をしている。
少しずつ、息が落ち着いてくると共に汗が幾粒も床に落ちる。
すくりと立ち上がり、深呼吸をする。
そして、部屋で扉から一番遠い位置に移動する。
佳織は上着から靴まで全部脱いで、隅っこに投げ捨てて下着だけの姿になる。
先ほどよりも、深く深呼吸して出来るだけ身体に力を行き渡らせる。
両頬を、両手でぱしんと勢いよく叩いて思い起こす。
いつだったか、学校の体育の授業で習った短距離走のやり方。
床に指をついて、覚えている限りで陸上短距離選手のフォームに姿勢を近づける。
目をつぶって、イメージを作る事に集中する。
頭の中で、空砲がぱぁんと鳴る。
スタートダッシュ。
助走。
上半身は垂直に脇をしめてひじを気持ちだけ深く曲げて両腕を振る。
肩に力がこもらぬように、けれどもしっかり勢いつけて身体で振る。
足はひざで動かすのではなく腿を上に引っ張りあげる。
つま先は床に突き刺すように、カカトを決して地面につけないように。
呼吸を鼻でしてはならない、口から酸素を肺にしっかり送り込む。
目は決してゴールただ一点から動かすな、頭も首も揺らすな。
遠い、目標まで未だに遠い。
でも、焦るな。
頼りない直感が、ちょうど半分の距離にたどり着いたと告げる。
加速ッ!
目標が、むしろこちらに近づいてくる。
そして。
そのまま勢いと体重ののった体当たりで、扉を粉々に砕いた。
なんかキナ臭くなってきたなw
通路に散らばった扉の破片の中で仰向けに寝転がる。
さっきまでよりも、ずっと息が荒い。
頭がづーんと痛くなってくる、視界がぼやけている。
-出来たけど、やり方はこれで本当に良かったのかな
不意にそんな思いが浮かんでくると、呼吸がだんだんおさまってきた。
立ち上がって、身体にくっついた木片などを払いながら周囲を見回す。
足元では、扉の巻き添えをくらったらしい衛兵が気絶している。
「秋月先輩は、何処だろう…あの剣を何とかしなくちゃ」
とりあえず、右手の角を曲がってみる。
戻って、今度は左手の角を曲がってみる。
どっちも、全く同じ景観でまず迷子になること間違い無しだった。
どうしたもんかと、壁によりかかってロダンの考える人のポーズをとってみる。
結論…不退転。ひたすら前進。突き進め。そうさ強引グMy人生。
何かが致命的に間違っているような気がしたが、とにかくそうする事にした。
まぁ、あの悠人の妹だし。義妹でも家族に違いはないんだし。
小走りに、何処までも続く通路を進んでいると向こうが何やら騒がしい。
その場所まで走っていって、柱から顔を覗かせると探し人がいた。
誓いのシュンは、ただならぬ表情で衛兵とスピリットたちに何かを言っていた。
「秋月先輩、探しましたっ!」
今まさに、その声の主を探すための指示を飛ばしていた瞬が驚いて振り向くと。
秋月瞬が心から神聖視し愛してやまない少女が、下着ヌードで仁王立ちしていた。
予想の範疇をあまりにも物理法則とか色々無視して超越した事態に固まる瞬。
>>379 あくまでシリアスですから、ご心配なく。
…いや本当にマジで。
……多分、もしかしたらきっと。
………うん、あくまでもシリアスだよシリアスかもしれないよ。
そんな瞬の様子を無視して、ずかずかと近づいてくる佳織。
現在、自分がどんな姿格好なのかは完璧に忘れている。
「秋月先輩!その武器は危険です、持ち主の心を飲み込んでしまうんです!」
強く、そう言って瞬に右手をずいっと突きつける佳織。
「そんなものを持ってたらダメなんです!だから私に渡してっ!」
佳織の声だけが瞬の頭に響く。身体は動かない、視線は胸とか色々に釘付け。
「秋月先輩っ!私の話を聞いてるんですかっ!?」
がしっ、と佳織が瞬の腕を掴んだ瞬間。
瞬は、鼻血を盛大に吹きながら生きたまま金色のマナの霧と散りはじめた。
「へっ?…あ、あの先輩?秋月先輩っ!?」
突然の瞬の異変に未だ自分の姿格好に思考がいかない佳織は慌てる。
周りは呆然としていたが、やがて事の重大さを悟って騒ぎはじめる。
結局、瞬はウルカの部下のグリーンスピリットの神剣魔法で涅槃から生還。
夕食もとらずに、自室のベッドに横になって翌日まで放心状態だった。
「秋月先輩、大丈夫ですか?」
昼ごろになって、ようやく復活したベッド上の瞬の顔を心配そうに見る佳織。
「佳織…僕の事はいいのさ。佳織に何もなくて良かったよ」
サーギオスの王侯貴族の娘の衣装を着た佳織に、いつも通りに接する瞬。
「ごめんなさい…」
恥ずかしそうにうなだれてしまう佳織に、自分を責める瞬。
「違う、佳織は何も悪くないんだよ。僕が平常心を保ってればよかったんだ」
すまなそうに頭を下げはじめる佳織を制して、そう言う。
部屋を見渡す。
誰も、いない。
佳織と、自分しかこの部屋にいない。
ベッドで上半身だけ起こして横になってる自分と、その側で椅子に座る佳織。
-どこかで。この場面は、確かに以前にも。
「………ですね」
思案にふけっていると、佳織の声が耳に飛び込んできた。
「ああ、今ちょっと考え事しててよく聞こえなかったよ。
すまないが…もう一度言ってもらえないかな、佳織?」
瞬のその言葉に、一呼吸おいてもう一度今度は少しゆっくり喋る佳織。
「ずっと小さい頃。はじめて、お会いした時と同じ場面ですね」
佳織のその台詞に、はっとなる瞬。
-そうだ…これは、あの時と同じだ…佳織と初めて出会ったあの時と…
瞬の胸に、今なお忘れえぬ大切な思い出が蘇る。
「佳織、佳織も…覚えていてくれたんだ…」
佳織は、懐かしそうに優しく微笑んで頷く。
前略:
>>382と
>>383の名前欄をタイトルに直すのを忘れてました(土下座
以下、気を取り直して続き。
----------------------------------------------------------------------
自然に瞬はベッドの掛け布団の上に置いていた手に、ぎゅっと力をこめる。
握り締めた手の中に、布の感触が絡まってくる。
-いつ以来なんだろう、佳織のこんな顔を見れたのは。
-いつ以来なんだろう、この胸のわけわからないけど温かいもやもやは。
-いつ以来なんだろう、自分の気持ちから暗いものが晴れていく感覚は。
知らずに、瞬は視線を下に落としてうつむく。
全てが闇色に塗りつぶされていた、あの頃。
自分は、あまりにもひ弱だった。入院を何度繰り返したか覚えていない。
泣いていた。いつも、泣いていた。寂しくて、泣いていた。
まだ続くのかな?
返事がない。ただの帽子のようだ。
-「……どこか痛い……の?」
泣くのは弱い者、弱い者は蹂躙される者。
-「えっと、痛くなったらすぐにボタンを押せばいいって、お母さんが…」
違う。泣いてなんかいない。
-「えっと…わたしも、泣いてるとき、お母さんがいてくれるといいから…」
何で、思い出すんだよ。どうして、あんな気持ちになれたんだよ。
「どうして、僕は笑えたんだ…」
前置きも無しにそう呟いた瞬の顔に、佳織はハッとなる。
「奪われる者じゃなくて、奪う者になったんだ。
怖かった。佳織を奪われるのが…佳織の笑顔だけは奪われたくなかった。
たくさん、たくさん今まで何もかも奪われてきたから…だから。
弱いから奪われるのが怖かった。弱いのが、怖かった…。」
佳織は、瞬の言葉から彼の心の闇の深さを敏感に感じ取っていた。
これまでの、自分が見てきた限りの瞬の姿を思い出す。
-泣いて、いたんだ…いつも。こんなに、弱かったんだ…。
何故かくも長い間、誰もせめて自分くらいは気づいてあげられなかったのか。
佳織は下唇を噛んで、心の中で自分を責めたてる。
そして今までどんなに、悠人や友人たちに護られてきたか。
心に押し寄せる、それらのとてつもない重さを知らないでいた自分。
支援いっとく?
支援はお好きですか? 私のは少々危険なのですが
佳織は、瞬の顔に手を伸ばして。
丁寧に優しく、涙をぬぐっていく。
それで我にかえった瞬は、自分が泣いている事に気づく。
気づくが、佳織を見て彼自身もまた気づく。
佳織もまた、泣いていた。
佳織は、思い出す。
さらわれる直前、ラキオススピリット隊の館の食堂での会話を。
あの時の悠人の言葉、自分の言葉。
-お兄ちゃんは、どこまでも私のお兄ちゃんだった。
-そして、私だけのお兄ちゃんじゃなくて。
-みんなの…たくさんの人たちの、お兄ちゃんだった。
「佳織…佳織?」
瞬の呼びかけに気づかないまま、佳織は思いをはせる。
-そうだよね、失恋して当然だよね。
-お兄ちゃんがいつも私を最優先にしてたのは、確かに重かった。
-でも、お兄ちゃんを縛り付けていたのはいつだって私だったよね。
瞬はやがて、佳織の顔に手をのばして…佳織の涙をぬぐいはじめる。
-泣くのは弱い者。弱い者は蹂躙される者。
-佳織は、泣いている。弱い者だから?蹂躙される者だから?
-でも、僕も泣いている。弱い者だから。蹂躙される者だから。
-それって、本当なのかな。
-佳織は、僕の涙をぬぐってくれている。僕が、泣いているから。
-僕は、佳織の涙をぬぐってる。佳織が、泣いているから。
-どうして、お互いに泣いてて涙をぬぐってるんだろう。
不意に、佳織が視線を下にむけてつぶやく。
「もう、自由になってもいいよね…お互いに」
佳織の…その言葉に、瞬は。
本当にごく自然に…微笑んで…ごく自然に…答えた。
「うん、佳織の言うとおりだね…本当に、そのとおりだ」
その瞬間、佳織は初めて自分たちの状況に気づく。
「…秋月先輩。私、泣いて…?」
優しく微笑んで佳織の涙をぬぐいながら、瞬ははっきりと言葉を紡ぐ。
「いいんだよ、佳織。
泣いてもいいんだよ。泣いていてもいいんだよ。
泣いてたら、こういうふうにすればいいだけなんだ。
泣いたら、ぬぐえばいい…たったそれだけのことなんだ。」
佳織は、目の前の全てがにわかに信じられないでいた。
瞬が、微笑んでいる。
瞬の目が、優しい。
瞬の手の温もりが、あたたかい。
「秋月先輩…今の先輩が、本当の先輩なんですね…」
しかし、佳織のその言葉を瞬は悲しそうに首を横にふって否定する。
「違うんだよ、佳織。
今、こうできてるのは…相手が佳織だから。
そして、たまたまこうなったから僕もこんな気持ちになっただけだ。」
瞬の涙はもう、乾いていた。
それでも佳織の涙はまだあふれるままだったので、ぬぐう手は止めない。
瞬はまっすぐ、まっすぐに佳織の目を見て言う。
「僕は、自分の弱さから逃げてる。
自分の弱さを誰にも見られたくないから、奪う者になろうとした。
でも、一番欲しいものだけがどうしても奪えなかった。
それは、気づいてみれば全く当たり前のことだったんだ。
僕が佳織を奪ったら、それは同時に佳織の大事なものを佳織から奪う。
僕自身の涙は、僕が自分でぬぐえばいい。
でも、佳織の涙をぬぐってくれる人まで奪ってしまったら。
…こうして佳織の涙をぬぐう僕をも、僕自身から奪うことになるんだ」
瞬の言葉に、佳織の涙はますますあふれてくる。
瞬の涙がすでに乾いているのに気づいて、佳織はそっと手を離す。
そのまま、自分の涙をぬぐっている瞬の手にその手をそえる。
「だったら…だったら。
秋月先輩の手は、今私の涙をぬぐうためにあるんですよね?」
そう言って、佳織は更にもう一つの手を瞬の手にそえる。
両の手で、佳織は瞬の手を包み込む。
「私の手は今、こうして先輩の手を包むためにあります。
さっきは、先輩の涙をぬぐうためにありました。
今だけじゃなくて、これからもです。
先輩が泣いてしまったら、また私の手でぬぐいます。
先輩の涙が乾いたなら、またこうして私の手で包みます。」
瞬は、じっと真剣に佳織の目を見つめて黙って聞いている。
「先輩も、今だけじゃなくてこれからも私の涙をぬぐってくれますよね?」
泣きながら微笑んで、瞬にそう問いかける佳織。
瞬は、口をきゅっと結んで強くうなずく。
「だったら、私の涙だけじゃなくって。もちろん今だけじゃなくって。
秋月先輩の手は、これからも私以外にもたくさんの人の涙をぬぐえます」
佳織の言葉が、瞬の心に染みていく。
それでもまだ瞬は、佳織以外の他人は怖いと感じていた。
佳織が望むように、佳織以外の誰かの涙をぬぐえる自信が持てなかった。
不意に、佳織が瞬の手を佳織自身の顔から離していく。
佳織の涙もまた、もう乾いていた。
「今は確かに先輩の手は、あの永遠神剣を握ってます。
でも。
人間の手は、それだけじゃなくてもっとたくさんの事が出来ます。
だから秋月先輩の手も、もっと色々な事がたくさん出来ます。
剣を持ったり涙をぬぐうだけじゃなくて、もっと、もっと…」
佳織は、すうっと一呼吸置いてからようやく最後の言葉を紡ぐ。
「自由に」
佳織は、瞬の横たわるベッドに瞬の手を置いて両手で包み込んでいる。
瞬は、佳織の言葉を自分の口で声を出さないでつぶやいてから。
まだ自信なさげだったけれども、佳織の手の上から自分の手をそえた。
秋月瞬の心は、今この瞬間ここに至ってようやく解け始める。
その瞬間、瞬の胸を重くて粘つく鼓動が打つ。
-契約者、汝の誓いを成せ…
その声が響く毎に、瞬の心がドス黒く塗りつぶされていく。
「うわああああああああああああああああああああああああああああ!」
-汝の誓いを成せ…
声は意識のみならず精神や身体や記憶の奥深くにまでも響いてくる。
「秋月先輩っ!」
突然、頭を両手で抱え衣服をやぶりながら胸をかきむしり苦しむ瞬の姿。
佳織は、それがなんなのか察しがついていた。
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああ!」
口から泡を吹き、目と鼻と耳から血を流してのたうちまわる瞬。
佳織は、永遠神剣がそうさせているのだと気づいていても。
…気づいていても、暴れる瞬を必死に抱きしめるしか出来ないでいた。
-誓いを成せ…
瞬の心にぞわりと這いずって来るドス黒くてぬめる醜い汚物。
瞬は両手足を痙攣させながら、海老のように背中をのけぞらせる。
目の焦点はあっていない、瞳孔は開いたり閉じたりを激しく繰り返す。
口が、力なくぱくぱくと動く。
「…ゃ……だ………」
佳織は、聞き取れたのが奇跡なくらい小さな瞬の小さな声に気づく。
「いやだあああああああああああああああああああああああああああ!」
部屋の外まで響く、瞬の絶叫。
佳織は、瞬は永遠神剣の意識と戦っているのだと悟る。
「先輩、先輩っ!負けないで先輩いぃぃぃぃっ!」
自分も必死になって呼びかけながら、瞬の手を強く握る。
-誓いを成せ…誓いを成せ…誓いを成せ…誓いを成せ…誓いを成せ…!
だが、永遠神剣第4位「誓い」の強制力は瞬にはあまりに強すぎる。
そしてまた、「誓い」の強制力に耐えるには瞬はあまりに弱すぎる。
佳織は、瞬の手が氷のように冷たくなるのを感じていた。
同時にまた、瞬の目から光が失われていくのを感じ取る。
「やめてっ、もうやめてえっ!やめてよおぉぉぉぉっ!」
半狂乱になって絶叫する佳織。
「カオリ殿っ!」
その時、窓をブチ破って飛び込んできた黒い妖精。
ファンタズマゴリアにて最強の誉れ高き大陸三傑が一人。
居合い刀型の永遠神剣第六位「拘束」を振るう、漆黒のウルカ。
「ウルカさんっ!」
救いを求めて見つめてくる佳織に、ウルカは力強く頷く。
瞬の手をとり、まるで本物の医者のように診察していくウルカ。
「カオリ殿」
ウルカの言葉に、次をじっと待つ佳織。
「今ならまだ、この者は助かります。
まずは、カオリ殿こそがどうかお気を落ち着かせてくださいますよう」
ウルカの、助かるという言葉に目を輝かせる佳織。
深呼吸して幾らか気持ちを落ち着かせてから、瞬の手を更に強く握る。
「よいですか、カオリ殿」
佳織はうなずいて、ウルカをじっと見つめる。
「すでにおわかりとは存じますが、この者は神剣に飲まれかけています。
普通なら、神剣が主を飲み込むのは極めてごくゆっくり。
自らの心でなく神剣の威力を力任せに振るうごとに飲まれるのです」
ごくりと唾を飲み込む佳織に、ウルカは言葉を続ける。
「この者はもともと、神剣に己をかなり飲まれていました。
むしろ、自ら進んで喜んで神剣に己の心を食わせていくようでした。
察するに、心の隙間に神剣が入り込むのが快感だったのでしょう。
先ほどからの話を聞いていた限り…恐らくは。」
そのウルカの台詞に、佳織は目を丸くする。
「それって、ずっと聞いていたってことですか?」
驚く佳織に、ウルカは平に頭を下げる。
「申し訳ありませぬ。
この者に、カオリ殿の監視と守護を命じられていた故…。
どうしても、カオリ殿に隠れて側に潜みざるを得ませんでした」
ああ、と納得する佳織だが瞬の手を握る力は決して緩めない。
「さて、普通なら起こらないこの状況に何故陥っているのか。
…この者の心に入り込んでいた神剣が追い出された反動ゆえです。
先ほどのカオリ殿との対話により、この者は心を救われた。
救われたという事は、神剣の入り込む隙間がなくなったということ。
永遠神剣はマナを得る事により、その存在を維持しています。
ですが主の心から追い出された今、再び元通りに心を侵している。
神剣が主に己を維持するために主にマナを要求する行為…強制力です」
以前にレスティーナたちから聞かされていた永遠神剣なる代物。
今の瞬の姿とウルカから改めて聞いた話に、佳織は怒りを込めて叫ぶ。
「それって…それって全然、神剣じゃない!
物凄く邪悪な、ただの魔剣じゃないのっ!!」
叫んだあと、佳織は周囲を見回して…探す。
「…探し物でしたらここにござる、カオリ殿」
すでにウルカの手に瞬の永遠神剣第4位「誓い」があった。
「ウルカさん、それ壊してっ!
粉々に砕いてっ、今すぐお願いっ!!」
佳織の言葉に、ウルカは首を横に振る。
「手前の神剣はこの神剣より格下ゆえ、それはかないませぬ。
仮に出来たとしても、行き場の無くなった神剣の意識は…。」
ウルカは、佳織が聞き逃してしまわないように慎重に次の言葉を告げる。
「今度は、主の心を暗い尽くして身体を乗っ取ろうとするでしょう」
その言葉に、佳織は愕然となる。
「カオリ殿…先ほど手前の言った事をお忘れか?
今ならまだ助かる、確かにそう申したはずです」
そう言って、佳織の手に「誓い」を握らせる。
「カオリ殿も…この者と共に戦うのです。
カオリ殿の心も、この者の心と共に神剣の意識と戦うのです」
何をすればいいのか、佳織は悟って唾をごくりと鳴らす。
「ただし、心なされよ。
神剣に語りかけるという事は、神剣に心を開くという事。
すなわち、神剣の意識に常に心が晒されている事に他なりませぬ」
左手は、瞬の手を強く握って。
右手は、「誓い」の柄をやはり強く握る。
「大丈夫…先輩の心は護ってみせる。私の心も食われたりなんかしない」
目をつぶってウルカに頷き、「誓い」を握る手に意識を集中する。
「微力ではありますが…手前も加勢いたしましょう!」
力強い台詞と共に、ウルカは「拘束」を抜いて刃を「誓い」に重ねる。
( ´∀`)支援
重ねられた神剣から、鈴の鳴るような音色がかすかに鳴る。
佳織とウルカは、それぞれ同時に「誓い」に語りかけ始めた。
無言で音も無ければ動きもない、けれど苦しくて激しい戦い。
顔中に油汗を滝のように流しながらよろける佳織を、ウルカが支える。
佳織が瞬の手を握る力がほんの少し弱まると、苦しみながら瞬が握り返す。
瞬が佳織の手を握る力が抜けていくと、佳織が必死にそれを繋ぎとめる。
瞬が悲鳴をあげながら身体をのたうちまわらせると、ウルカが押さえる。
佳織と瞬の互いの手から同時に力が抜けると、ウルカが片手で強く包む。
それは、残酷なまでに長く続いた。
翌日の朝を迎えても、三人の戦いは終わらなかった。
その翌日もそのまた翌日も、そして七日がたってもまだ終わらなかった。
誰にも見えない戦いの間、瞬と佳織は互いの心を見た。
瞬は、佳織の心に佳織のこれまでの全てを痛みで知った。
佳織は、瞬の心に瞬のこれまでの全てを痛みで知った。
ウルカは、そんな二人の心をひたすらに刀一本で護り続けていた。
やがて、幾度目ともしれない朝日が窓から差し込む…。
ついに、ウルカの雄たけびと共に戦いは終わりを迎える。
「この二人の恋路を阻む者は消え去るが必定ッ!
もはや、ただの邪剣たる貴公に回避する術など無い…!
手前の今撃てる最高の抜刀術…雲散霧消の太刀いぃぃぃぃぃッ!!」
サムライの雄たけびの直後、部屋がしんと静まり返る。
やがて、「誓い」がカランと乾いた音をたてて床に落ちる。
床に落ちた「誓い」は、逃げるようにくるくる回りながら滑って壁ぎわへ。
瞬と佳織にウルカの三人とも、その途端にがくりとその場に崩れた。
佳織が自分の手が握られたのに気づいて顔をあげると。
あの時はじめて出会った、泣いていた少年が嬉しそうに微笑んでいた。
その様子を見たウルカは、自らの神剣を杖にしてのろのろと部屋を去る。
「待てよ」
ウルカの背中にかけられる、瞬の声。
振り向いたウルカの目に入ったのは、耳に入ったのは。
「ありがとう」
もう、自分の弱さ故に作った歪みに飲まれた狂気のエトランジェはいない。
そこにいたのは、線の細い極めて普通のどこにでもいる少年だった。
ベッドによりかかって寝息をたてる佳織の髪を優しく撫でる瞬。
「カオリ殿といい、スピリットに礼を言うとは奇特な二人にござるな」
くすりと満足げに微笑んで、漆黒のウルカは片手で答えて去っていった。
それから数日後、ラキオスの悠人は佳織からの手紙を微笑んで読んでいた。
最後に隠れるように混じっていた小さな紙にはただ一言の謝罪と感謝。
佳織の文字じゃないし差出人も書いてないが、充分に伝わった。
帝国の降伏により終戦が告げられたのは、それからまた数日後であった。
-完-
支援してくれた方々、マジでどうもありがとうございました。
や、やっと終わったよぅ(泣
夜中に起きて、このスレ読んでてなんかがこみ上げて。
ぶっつけ即興だから、文章の練りなんか無いし誤字脱字もあるだろなあ。
なんか「絶対に今書かなきゃ」て気持ちが強くて。
ともあれ、違和感バリバリの妄想・瞬救済ルートです。
反感も物凄いだろうなぁ(ため息
とにかく今日は仕事サボり決定ていうか無断欠勤。
寝ます、おやすみなさい。
そー言えば、永遠のアセリアのEXPANTIONは地味に明後日発売だなー
なんか、ここでは皆持っていることがデフォになっているけど、一般ではどうなんだろ。
少しだけ売り上げの方が気になったりする。
だって、あれ雑魚スピの為に作られたゲームだからね < 違います
>だって、あれ雑魚スピの為に作られたゲームだからね
いや、むしろ雑魚スピの為「だけ」に作られたゲームと言う方がベター
しかしEXとPS2版は無かった事にしないと、スピたん買えそうにない俺ヘタレです。
ソゥユート的にはむしろEXこそが進むべき道。
またはPS2版の改良でエロシーン加えた雑魚スピエンド有のPC再販版とか(w
データコンバート可能じゃなきゃ凹むなそれw
雑魚スピエンドのためとは言え、ここまでしてPC版リニューアル発売なんてしたら
金儲けに走りすぎとか批判されてしまうかも。
と威勢のいい事を書きつつ出たら買う(笑 と言うか、速攻で予約しますがナニカ?
雑魚スピエンドってことは・・・
1・雑魚スピハーレム
2・雑魚スピほのぼのエンド(第2詰所エンド)
個別エンドはもちろん付いた上でだが。
引継ぎの時にキャラごとに引き継ぐかどうか選べる修正が欲しいな。
あと、マロリガン落とした後に「稲妻」とかのマロリガン雑魚スピも追加で。
もちろん新イービルやイービルから正気へ転進とかもうなんでもいいから詰め込んで欲しい。
ヘリオンをエターナルにしてもいい。
|
|ヘ _
|' ヘ ヘヽ
|ハl~iルソ
|゚ -゚ノi| (ユート様、浮気なんかしたら絶対に許さないわ・・・!)
|とl)
おbsn:これではまるでエターナルのバーゲンセールですね
流転なら100%引きですよ、おば、、、奥さん。
・1ターン目
今日は初めてエーテルジャンプというものを体感させて頂きました。
本当にびっくり。瞬きをしている間に、もうヒエレン・シレタなんですもの。一体どういう仕組みなのかしら。
実はクォーフォデさんを説得する、という真の使命があるのですけど、そんなの忘れちゃいそうです。
・2ターン目
今日はクォーフォデさんを説得しに行ったのですが(ちゃんと覚えてたんですよ)、
あっさりと断られてしまいました。なんでもこの土地が好きなのですって。とっても残念です。
・3ターン目
何故かまだ帰らなくても良いそうなので、今日はエーテルジャンプ施設を見学させて頂きました。
国家秘密というのでしょうか、周りに兵士さんが沢山いらっしゃって何だか落ち着きませんでしたけれど、
やっぱり技術者ですもの、つい触ってみたくなってしまいます(叱られちゃったので諦めましたけれど)。
・4ターン目
今日は大発見です。こっそり兵士さんの目を盗んで覗いてみた制御装置にバグ発見。
白衣に忍び込ませていた拡大鏡3号さんで調べたのですからこれはもう間違いありません。
ふっふっふっ、ヨーティア様。これは私を試されているのですね。試練なのですね。
・5ターン目
今日はクォーフォデさんのお家でお茶をごちそうになってきました。
クォーフォデさんのリアクタ技術に対するアプローチはとっても斬新なので、思わず時間を忘れてしまいます。
見識の高さといい、憧れてしまいますね。……あら、何か忘れているような…………。
・6ターン目
今日はちょっぴり時間がかかりそうなので、兵士さん達には少しだけお休みをして頂きました。
お茶に忍ばせたお薬がばっちり効いたみたいなので、じっくりと解析・改良に没頭。もう、技術者冥利につきます。
幾つか難しい所もありましたが、無事使命を完了。仕事の後のお風呂は気持ちが良いのです。
・7ターン目
昨日試してみた実験の経過がどうしても知りたくて、今日は拡大鏡17号さんに活躍して頂きました。
なんと彼さえあれば兵士さん達が居ても平気な位細かい所も盗み見れるというスグレモノなのですよ。
…………最初から使ってればよかったかしら。
・8ターン目
大変です。バグだと思っていたのはとんでもない思い違いだったと夢の中で気づきました。
のんびりと朝食を頂きながら考えてみたのですが、やっぱり間違いありません。
このままだとマナが暴走しちゃいます。施設に行ってみると案の定、装置の一部が異常音を発していました。
まだ兵士さんは誰も気づかれていませんが、早めに撤去しないと何とかの大飢饉みたいになっちゃいます。
こっそり直そうと思ったのですが、ピンセット756号さんが蒸発してしまった所で諦めました。
やっぱり私はまだまだヨーティア様には遠く及ばないようです。日々精進ですね。
・9ターン目
今日は久し振りにクォーフォデさんのお家にお邪魔しました。
クォーフォデさんのお話は大変面白く、お人柄といい、すっごく魅力的な殿方です。惚れちゃいそうです(きゃっ)。
そんな訳で、私もついつい引き込まれるように内緒話をこっそりお話してしまいました。
すると突然クォーフォデさんは青ざめ、立ち上がったかと思うと家を飛び出してしまわれたのです。
私も驚いて後を追いかけたのですが、なにやら兵士さん達ともめておられるご様子。何かあったのかしら。
・10ターン目
突然クォーフォデさんが、ラキオスの招聘に応じて下さる事になりました。
良く判りませんが、とりあえず私の使命は無事果たされたようです。熱意はちゃんと伝わるのですね。
ラキオスに戻ると、わざわざ憧れのヨーティア様がお出迎え。もう、log感激^2の3乗根です。√にだって入れちゃいます。
でも、やはり忙しいのでしょう、ヨーティア様はすぐにエーテルジャンプ施設でどちらかへと行かれてしまいました。
何だか慌てていらっしゃったようですので、ちょっぴり心配です。…………あら、何か忘れているような…………。
・後日談
今日は、エーテルジャンプを使ってイノヤソキマへ調査に向かった。
アカーリアがどうしてもついて行くと言ってきかなかったが、全力でお断りする。
何故かヒエレン・シレタの出会いからこっち、妙に懐かれているのだが、エーテルジャンプ施設にだけは触らせられない。
調査を始める前、街の噂で懐かしい名前を聞いた。ミュラー・セフィス。相変わらず元気なようで、なによりだ。
…………それにしてもアカーリア。いいかげん、私が女だと気づいてくれても良さそうなものだが。
416 :
信頼の人:2005/10/19(水) 21:22:44 ID:unS6rBOX0
何であんな田舎(失礼)で10ターンも待たされるんだと思いつつ妄想。
全然関係ありませんが、自分は10ターン一部隊ヒエレン・シレタに放置派です。
一度ラキオスからケムセラウトに戻して戦線復帰させるのが面倒臭いものですから(汗
>>363 >確かにそうかもしれない
……悠人、見も蓋も無いな(汗
その割に抱き締めたりなんかして、完全なタラシw 騙されるヘリオンが幸せならいいかとか何とか。
ところで、途中から占い師に胡散臭さがぷんぷん臭い出した訳ですがw ……他のスピ?
>>401 9時間もの投稿、お疲れ様でした。
途中で佳織が脱ぎ始めた時にはどうしようかと思いましたが、無事一件落着したようですねw
降伏した事により振り上げた剣の下ろし場所にラキオスは困るでしょうけど、きっと流れる血は少ない方が良いんです。
でもコアラ様達困るだろうなぁw
>PC再販版
ぜひ技術者の顔グラを(ぇ
エスの自責、懊悩とは遠いところにいるお方ですねw
衝撃の新事実がっ!!
実は訓練士・技術者は皆炉利っkoだったんだよっ!!
>>411 光陰「汚いぞユート!エターナルは無しと言っただろうが!」
・・・DB?
>ぜひ技術者の顔グラを(ぇ
しまった。それは盲点だった(違
サブスピエンドへの道
1:ユート様が召喚され、例の赤スピに襲われる。
2:そこに颯爽と青スピが参上。ただしアセリアじゃなくてセリア。
3:赤スピを倒し、ほっとこうかと思ったが、とりあえずつれて帰ることに。
4:ユートをハリオンに渡す。
5;ユートが第二詰め所で目を覚まし、数日の間ハリオンから介護を受ける。
6:同じくハリオンから聖ヨト語の手ほどきを受け、しばらくハリオンのしゃべり方が混ざる。
7:ユート王城に連れて行かれ妹と再会。ハリオンと決闘。
8:ネリシアがユートのことを「パパ〜」と呼び出す。
9:このまま第二詰め所で生活を続ける。
とりあえずアセリア→セリア、エスペリア→ハリオン、オルファ→ネリシアで変えてやってみた。
この他にもセリアの激ツンからデレへの心の開放、ハリオンの夜伽イベントなど満載!
と・・・考えたんだが、ヘリオンとかニムファーとかどーすっか・・・
>>363 くじら318号さん
景色の中で煌き靡く黒髪にどきりとさせられました。
占い師に関しては、読んでいる途中で……
二人が走り去った後、占い師は目深に被ったローブのフードに手を掛け、一気に取り払った!
バサァッ
「,'´r==ミ、
くi イノノハ)))
■■■■■ <仕方が無いのです、これもわたしと悠人さゴホン世界の未来のため……
j /ヽ y_7っ= って、アレ? 光の道が増えて、2、3……+9、さらにまだまだ……っ!?
(7i__ノ卯!
く/_|_リ
というようなことを考えてしまったわけです、はい。
>>401 どりるあーむさん
お疲れさまでした。
あの日あの時の病院で、ゲーム上で描かれていない何かがあったのかも、
と、こちらにも訴えかけてくるような繋がりをを見せてくれた二人に祝福を。
>>416 信頼の人さん
完膚無きまでにやられました。
自分のイメージのクォーフォデ・リウといえばえっらい偏屈なじーちゃんだったのですがw
ただ、アカーリアさんとクォーフォデさんってもとから師弟だったような……萌えたから関係なし。
>再販版
顔グラを訓練士にも、訓練士にもっ
>401
おおぅ。なんと言うか、ピアノフォルテな佳織ですね。
これが心の力というものか・・・・。
ウルカ殿いきなり恋路とか言うのは鞘走り、いや先走りすぎw
ユート君、手紙の最後に、
「貴様の事を兄と呼んでやる。ありがたく思え」
とかいう一文を目にしたりして、降伏交渉決裂っw
しかし最大に残念なことは、佳織が脱いでも嬉しくな(オーラフォトンレイ)
>>416 大天才様の
>優秀な人材とか、器用な人材は一人もいらないから、
というお言葉の真意が今わかりましたw
故マロリガン大統領といい、某帝大に在籍してた時代は
こういうマッドに優秀な方々がいっぱいだったんだろうなあ。
EX、PS2から逆移植するなら、希望したいルートアンケート。
1〜3位の順付けで。
基本は1ルート一人攻略で。
ハーレムルートも1カウント。
3位:イオルート
企画段階ではメインヒロインだったイオに愛の手を!
2位:クォーリンルート
もちろんクォーリン×光陰!
光陰生存・今日子死亡で分岐。今日子の代わりにクォーリン参戦希望。
1位:セリアルート
もうこれがあったら問答無用でザウスを神と崇めます!
PS2の時点でセリアはヒロインだと思ってます。
……マジでザウス様、考えてみていただけないでしょーか。
三位・メインヒロイン・雑魚スピ全員含むハーレムエンド。
で、誰を選ぶんです?と問い詰められて困るヘタレな感じで。
二位・イオルート
幸せにしてやって下さい。
ぶっちゃけ当初はメインヒロインの予定だったらしいから、
可能性は一番高いような気もする。
一位・真イービルルート(ミトセマールルート)
ラキオスヒロイン陣を陵辱しまくり、最後は斬殺、
勿論空虚に支配された今日子も陵辱斬殺、
クォーリンも光陰の亡骸の横で陵辱しちゃうようなダークさで!
最後はロウエタになってミトセマールを力で支配するような悪者ルート。
ラブはいらん。欲望のままに突き進め!統べし聖剣のユート!
426 :
425:2005/10/20(木) 00:34:18 ID:cM/Q6Lnl0
送信してから気付いたが光陰死んだら亡骸残らんね。
瀕死の光陰を助ける為に身体を差し出すけど結局事が済んだら殺されちゃうとか?
とにかく〜本編のイービルじゃ〜満足できませんよ〜
本編のイービルがあんななのは素体がヘタレだから。さすがはソゥユート。
3位:エトランジェルート
E化しないで最後まで吶喊。英雄としてファンタズマゴリアに残るってのは欲しいよな。
2位:コアラ様ルート
対ロウエターナル戦で敗北するも、時深をより悔しがらせたいがため、スピと
ファンタズマゴリアの存続を条件にコアラ様の部下になるソゥユート。だがいつしか
コアラ様との間に奇妙な感情が芽生え・・・・・・。
このルートのラスボスはタキオスでヨロ。
1位:ヘリオンルート
アセリアに負けじと、ファンタズマゴリアから元の世界まで駆け抜けて欲しい。
最弱の神剣の使い手が、上位永遠真剣を掴むまでに成長する姿を見せてくれ、
ヘリオン!
3位:ハーレムルート(ファンタズマゴリア残留)
残留ルートは一番欲しい。んで、残るなら一人を選ぶなど出来ない(笑)ユート君は
意図せずしてハーレム構築へ。が、女王様は奪う気満々だし、ぷち英雄となったので
街の人達からもからかわれつつ大人気で大変。
……結局、第二詰所の面々を引き連れつつ、旅に出る事に(逃亡とも言う
2位:ヘリオンルート
イービル以外では戦闘用の台詞しかなかったが、彼女の分かり易いユートへの想いは
雑魚スピの方向性を定めるには十分だった。元祖ユートLoveスピリットに光を!(w
1位:ハリオンルート
時々求めに意識を奪われそうになるが、ハリオン・ザ・ワールドの前では如何なる暴走も無力。
正しく癒しの主。
>>416さん
支援とツッコミありがたうですた。
寝たあとで読み返したら「うわぁ(冷汗)」ですた…。
設定上の矛盾とか途中の強引なギャグとか無かった事にしたい事実が満載。
とりあえず、てむおりん陣営は困るでそうなー。
とにかく、瞬が救済される場面が欲しくてたまらなかったんですよ…。
>>421さん
ねぎらいの言葉、ありがとうございます。
まぁ、タイトル通りに御伽噺にもならないきれいごとだらけなんですが。
まあせめて、二次創作の妄想の中だけでも救われて欲しいと。
>>422さん
ピアノフォルテな佳織、とはこれ以上ない褒め言葉です、
書いた者として、心より嬉しく思います。
ウルカに関してはね、二人だけじゃ負けると思ったから。
ガンダムでいえばランバ・ラルみたいな存在が欲しかった。
でもサーギオス陣営にそんな人物はいない、ソーマは論外。
で、ギリギリの線で漆黒のウルカなわけです。
ウルカのサムライスピリットぶりなら何とかならんかな?と。
…で、時折見せる暴走っぷりもこっそり入れてみましたと。
自分としてはやりすぎなくらいカッコ良く描写したつもりだけど…。
違和感あったのかな、やっぱり。
>「貴様の事を兄と呼んでやる。ありがたく思え」
…しまった、ソレやれば良かった(をい
佳織が脱いでも嬉しくないのは、まぁ何処まで行ってもキモウトだから…。
デザインした人も設定全てが裏目に出たっつってるしなぁ。
ともあれ、ありがとうございました。
3位:ダン○インルート
敵陣営ともども、強引な何かの都合で全員ハイペリアへ。
復讐の念を燃やしハイペリアを滅ぼそうとする瞬。
その瞬を止めるため、自分の世界を護るため、立ち上がる悠人。
そしてそんな彼に何処までもついて戦う我らが雑魚スピたち!
最後はもちろん、レスティーナの浄化でイデエンド。
…ごめんなさい。
2位:シアールート
ロリ○ンですよ、ええロ○コンですとも!おかっぱ幼女マンセー(腐れ外道
1位:瞬救済ルート
できれば、悠人・光陰・今日子・瞬のエトランジェ四天王でロウエタ撃滅。
島本漫画や車田漫画に覚悟のススメ並みのクサくて無駄に熱い展開希望。
色々な意味でアセリアの世界観を無視しまくってるなぁ…。
>>421さん
最初は本当にそうするつもりでした
占い師に扮した時深がヘリオンに死の宣告をする。それを悠人が聞いて・・・
だったんですけど、あまりにも酷い展開になりそうだったのでボツにしました
3位:セリアルート
今日子と光陰を失って心に穴を開けてしまった悠人の
支えになってやってくれ・・・頼むッ!
2位:大団円(ハーレム)END
9人の家族たちと末永くお幸せに・・・
ああでもまたマラソンになりそうな予感(だがそれがいい
1位:ヘリオンルート
アセリアルート並に内容を濃くして、本来は叶わぬ一途な恋にピリオドをッ・・・!
彼女さえ幸せになれるなら何も言うことはない・・・です
>>417さん
前にスレ13−501さんがぽわぽわとしたのを望まれていたものですから。訓練士じゃないですけど。
ナ、ナンd(ry >衝撃の新事実
炉利技術者はまだ一人しか書いて……ゲフンゲフン
>>419さん
盲点を見出して補完する、それが雑魚スピクォリテ(ry
>>421道行さん
うあ、そんな設定ありましたか……(忘
まぁそれこそ能力と名前しか判りませんからそこは各々の補完で。
ちなみにアカーリアさんは前スレに登場したリリ・ララさんの良い相棒にならないかな、と性格イメージしたらこうなりました。
という訳で何か二人の物語書いてください(ぇ
>>423さん
何だかヨーティア様苦悩されているようですので、皆一癖ニ癖あるのでしょうねw
その台詞はきっと故マロリガン大統領から得た教訓なのでしょう。
3位 :ハリヒミルート ヨフアル珍道中
2位 :ファールート 世界の赤面症
1位 :セリアルート ぶらりポニテ探求の旅 ……すみません、テレビ欄見てましたorz
3位:イービルならぬロウエタルート
ぶっちゃけ悠人はどっちの陣営にも染まりそうな気がする
2位:イオルート
マジでこれは追加して欲しい
PC版やってた頃は絶対に隠しルートで存在しているものだと思ってた・・・
1位:セリアルート
趣味ですw
結局は自分の好みのキャラが優遇されれば何でもいい
でもセリアE化はちょっと勘弁
完全版出すならウルカルートとヨフアル姫ルートをもう少し加筆するなり修正するなりして欲しいね
あとイービルルートも専用のシナリオ用意して欲しい
通常ルートの台詞とイービルの台詞がかみ合ってないのは読んでて辛かった
頑張れザウス
三位:クェドギン&ヨーティアルート(+イオ)
二位:旧四神剣ルート
一位:サブスピルート(もう追加されるならどんな形でもいい)
光陰+クォーリン、瞬救済も捨てがたい…
それ以前に2、3位はもはやルートどころか別物w
…でもみたい
三位:エトランジェ皆殺しルート
二位:瞬救済ルート
一位:ハイペリア残留ルート
ファーとかニムとかのエンドも見たいけどさ
何ルートが欲しいかって言われるとこの3つがやってみたい俺
3位 :セリアルート 性格がツボ
2位 :イオルート と言うか、これはあった方が自然
1位 :残留ルート 是非とも。メチャ面白くなりそう
キモウトやシュンとかはまあどうでもいいかな(w
上の方で訓練士・技術者とかに人気が出ているのにはワラタ
3位:戦争中にサブスピ攻略ルート
2位:ソゥユートE化するもののファンタズマゴリアに残留そのままスピたんへGO!ルート
1位:イオルート
こんなところかな
順位付けは適当
正直どれか一個でもやってくれれば嬉しい
追加ルートはいらない。
ただセリアも忘れずにエピローグに参加させてやってくれ。
PS版、ひとりだけイベントから抜け落ちていて釈然としなかったんだよな。
「僕はな、貴様が嫌いなんだ悠人!だが佳織の住む世界を救うために………力を貸してやるッ!!」
「へっ、素直じゃねーな!秋月よぉ!!おら悠人!こんだけ力貸してんだ、決めろよ!」
「悠!いっちょ男らしいとこ見せてみなさい!じゃないと、あの子に会わせる顔ないわよッ!」
三人の神剣からマナが溢れ、悠人の求めに集まっていく。
「あぁっ!こいつで……決めてやるッ!!」
オーラフォトンが悠人の体から竜巻のように噴き上がる。
目前のロウエターナルを遥かに上回る力の奔流が、テムオリンの足を後退させた。
「わたくしが……下位神剣ごときに気圧されている……!?」
「下位じゃねえさ…」
光陰が呟く。
「あたしたちを誰だと思ってんのよ?」
今日子が不適に笑う。
「そうだ、僕たちは…」
瞬が瞳を向ける。
「俺たちは……エトランジェ!」
その先には、かつての怨敵、そして今の仲間。
「この世界は―――お前たちの好きにはさせないッッッ!!!!」悠人が求めをかざす。それに合わさるように、四人が同時に叫んだ。
「「「「オーラフォトンッブレイクッッッ!!!!」」」」
なんとなく
>>430のを見ていたらこんなのが脳内で再生された。
うはwww改行ミスったwwwww
orz
>>440 いいね。燃える展開。
こういうの見ると、瞬はほんのちょっと改心すれば気に食わないけど頼れる
クール系の仲間になれたかもと思うわ。
いや、あそこまで対人コミュニケーションに壊れた奴は無理だろ。
瞬って病院で強くなることを誓った時点から
徐々に徐々に自我を侵食されていったんだろ?
唯一残ってた自我が佳織を守るってことだったみたいな
んで、佳織を人質に使った時点で殆ど自我なんて残っていなかったのさ
つまり瞬を救うためには佳織が改心させるしかないな
そうでもしないと佳織ってホント足手まといでしk(ry
PS2参戦組みの俺としてはこんなイメージ
少なくとも本編では単なる痛い奴だからなー
ギャグキャラとしてはおいしく使えそうだけど(笑)
ギャグなら、コーイン様がいらっしゃいます!byとある緑の人 (いや、本編では一応シリアスキャラ…)
まあ、設定とか性格を改変捏造したら可能かもしれないが、そこまでは > 瞬
…と言うか、そもそもこのスレではシュンもキモウトも全くもって必要無いうわなにfgwhするhやめrdfgd
PSで削られたイベントで瞬関連ってあったかなーと、選択肢だけ見てみたらあんま無かった。
しかし今更だが、朝起きないだけで敵スピ五人斬り殺した分のマインドって酷い話だw
シュンは不要。だが、セリアは必要だ(断言
>438
同士よ!!
449 :
440:2005/10/20(木) 22:46:50 ID:7IphsVXaO
瞬が……好きなんです……
雑魚スピではハリオンとナナルゥ。メインではアセリア。
ああ、そうか。変な奴に惹かれるんだ自分orz
雑魚スピパワーを一気に加速させたEXの一般発売まで1日。
このスレで持ってない人は是非とも。
ザウスファンじゃないけど、アセリアファンとしてはイチオシのアイテムです。
・・・・・・え、ヒロインは誰かって? 一体何のことでしょうか?
451 :
名無しさん@初回限定:2005/10/20(木) 23:13:15 ID:xuZIDj280
>>440 >俺たちは……エトランジェ!
その意味不明な台詞がいいw しかもブレイクって……マインド低っ!
age面目無い_no
>>450 また今日子否定派が増えそうなのが今日子ファン的には辛いところだな。
初EXの人たち!内容は言わないけど、我等がユートのヘタレさも問題だって事は忘れないでくれよ!
>453
そうだっ!! あそこでハリオンに押し切られなければ今頃……orz
このスレでのヒロインとは、問答無用に雑魚スピの事を意味します(笑)
うむ、ハードでやってたんだが、統べし聖剣たん、エターナルがいない雑魚スピだけで屠れちゃうんだな……
ワンチーム二発で耐えて、ヘリオンをトップにしたチームが一発耐えて、
んでヘリオンが一人で切り捨ておった
ネリーが壁になってひたすら耐えてたがw
セリアとシアーとハリオンは散りました
「きゃぁぁぁぁぁっっ!! 痛い…痛いよぉ… 助けて、ネリー…どこぉ、どこ…ぉ…」
「ぅあああぁぁぁぁっっっ!! な、なんてこと? 私が……こんなとこ、ろ…で………」
「あぁぁ、うぅぅ…… 身体に傷、できちゃいますぅ……」
攻撃には耐えられるかも知れないが、こんなの聞いてるとこっちの身が耐えられない
そういえばネリーは珍しく泣き言一つ言わないよな。それだけに「え…?」みたいな感じで
状況も理解出来ないまま消えていく様子が思い浮かんでかなり堪えた。
他の死に台詞がキャラを前面に出してるのが多いだけに生々しいというか。
実際の(「ゲーム」として脚色されていない)戦闘ではこれが普通なんだろうな、みたいな。
正確にはたまに「力が…入らな…い………?」と呟いてはいる訳だが、
そんな事より
>>458の“珍しく泣き言一つ言わない”という一言にネリーへの愛情を感じて萌えた。
>>458>>459 ネリーへの愛を語る集いが一方的かつ一部でスタートしますた。
ネリーは、泣き言を言わないんじゃなくて「言えない」んだと思う。
彼女にしてみれば、いつだってシアーのお姉ちゃんでいなければならないんだから。
おちゃらけバカっぽくふるまってるけど、エスペリアやファーレーンに近いと感じる。
ネリーが、エスペリアやファーレーンと違うのは。
エスペリアもファーレーンも成長「できた」女性の脆くて危うい強さがある。
エスペリアはみんなのお姉さんではあるけど、ヒミカやセリアとハリオンも支えてくれる。
ファーレーンは、ニム自身が姉の裏や強くない部分をしっかり知ってて互いに補い合う形。
エスペリアもファーレーンも脆くて危うい部分があるのに姉をやれるのはそのおかげ。
だけど、ネリーは脆さをシアーにだけは隠して無理やり自分で誤魔化すしかない。
シアーも支えようとはしてるんだけど、二人ともやっぱりあまりにも子供だから。
子供だから弱いとは言わないけど、大人みたいに汚いモノを受け流すとか出来ない。
現実だって、明るくてバカなふりしてる子ほど頭良くて心で悲鳴あげて泣いてるしね。
…ま、マジ人の心が理解できた試しのない物知らずの典型な私が言っても説得力ゼロだけど。
えーと、ちょっと語弊があった様なので補足。
>>457の例みたいな悲鳴や自らの死という事実に対する反応、大事な人への思いを
全く表に出していなかった、という事を言いたかった。
セリアやナナルゥでさえはっきりとした感情の吐露があるのに。
「体が…」を見て、なんだ「クール」な女演じられてるんじゃん…
とか思ってすごい虚脱感に襲われた。なんか誤解させたようですまん
>>459 根っこにあるものについては何とも言えない。というか半ヒッキーで社交力ほぼ0の俺には解読不能。
自分が取り乱した姿を意地でも見せないことを、最後の仲間への気遣いとしたのかもしれない。
又は
>>458で書いた通り、単に自分の死を認識出来ないまま逝ったのかもしれない。
或いは
>>460の言う通りなのかもしれない。
・・・いや、そんな長文で書かなくても心配いらんよ。
皆、ノリでやってるだけだから。
大丈夫、皆落ち着いてるさ。
今日EX発売日だから、ちとはっちゃけているだけ。
ところでEXの初回版っていつ出たんだ?
オフィシャル見るとロットアップとか書かれてたけど、通常版?
経緯がよく分からん。
>>464 イベント及び会員通販限定でした。一般流通はしてない。
テック剛田の新CGを見てきた……ナナルゥはわかるが、シアーまで胸でかく無いかこれ?仰向けになってこのサイズ……
シアーってこのスレでも結構胸はでかくなるはずって感じじゃなかったっけ?
まぁ俺はすぴたんはスルーに決定したんでどうでもいいんだが
シアーは夜な夜なネリーのを吸い取ってるから。
と妄想。
ソゥユートだとハーレムルートは大歓迎ムードなのに、ロティがそれやったらネイチャーフォースの乱舞になりそうだ。
おとなしくツェナ一筋しててくれないかなぁ…
スピたんのCGが公開されるたびに…何かこう…
スピたんはもう諦めて自分もスルーなんですが、その代わりとばかりに現在EXをPlay中。
……うわーい、このスレの印象そのままで、もうメチャ楽しい(w
あのハリオンのお菓子に対する反応なんて、凄く自然に受け入れてしまった(笑)
ソゥユートに頑張って接触しようとして、すべるヘリオンもイイ感じ。
さてさて最初はトキミおばさんのルートへ行く事にしますー
しかし、コストパフォーマンス高い品だ。これ。
あ、いつの間にかファーレーンの声優が竜ヶ崎まやに戻っている。
スピたんのお持ち帰りばなー
ニムだけ「ニムって言うな」
ちとワロタww
>>471がラストダンジョンで挫けてしまってはいないだろうかと心配している約一名ノシ
なんとなく、何となくですが思いついた。
ので、おもいついたまま書きなぐってみました。
なんかイービルルートまっしぐら。
ダークサイドに転がり落ちそうな勢いです。
「あははっ、こっちこっち」
「まってよー」
「せんせーい」
「いっしょにあそぼー」
「はやく、はやくー」
城下町から少し離れた場所に設けられたとある施設。
そこには、先の大戦で親を失った子供たちが
人やスピリット関係なく保護され、生活していた。
そこでは、この世界の明るい未来がみえるように
スピリットも人も関係なく笑顔が溢れていた。
この施設の計画を立て、運営を行っているのは
旧ラキオススピリット隊のスピリットというのだから驚きである。
親を亡くした子供や、戦闘教育を施されていた年少スピリット。
違いはあれ、心を開いてくれない状態は同じだった。
また、スピリットに対する偏見や差別なども少なからず残っており
施設の運営には沢山の問題点があった。
だが、彼女は諦めなかった。
仲間のスピリットや、理解ある人たちの力を借りて
少しずつ、少しずつだが前に進んでいった。
数ヶ月が経った頃には、子供たちには笑顔が戻り、
近隣の人たちとも助け合い協力して生活する場を手に入れていた。
人とスピリットの共栄を見事に成功させた、ひとつの例である。
そんな楽しい生活が続いていた、ある日の午後。
「せんせい」
「どうしたの?」
「あの おじさんたちが、せんせいに おはなし があるって」
「え?」
ふと、園の入り口を見ると王宮の兵士が2人。
こちらを伺っているのが見えた。
「わかったわ、ありがとう。
みんなーお客様が見えたから、お部屋に戻りましょう」
「えー」
「もっとあそんでいたいよー」
「ほらほら、いい子だからいうことをきいて、ね」
「そうだよー、せんせいのいうことはきかないとダメなんだよー」
「そうね」
優しい青い瞳で見つめ、頭を撫でてあげる。
「えへへー」
「いい子にしていれば、ハリオンお姉さんがお菓子を持ってきてくれるわよー」
「ほんとー」
「よーし、それじゃおへやにもどるー」
「いちばーん!」
「わー、まってよー」
「みんなー、ちゃんと手を洗うのよー」
『はーい』
ここの園にいる子は、みないい子だ。
いい子に育ってくれた。
そして、一緒に生活し見守っていけると思っていた。
「セリア・B・ラスフォルト、だな」
「はい」
「女王陛下からの招集だ」
「そうですか」
「…内容はこちらを確認してくれ、特別任務らしい」
「わかり、ました」
「すまんな」
「貴方たちが謝る事じゃないです」
「あぁ・・・」
「子供たちのあんな顔を見ちまうとな」
「やっと戦争も終ったっていうのに」
「あの子達の笑顔を守る為なら、なんでもありません。
それに回りの方達も親切にしてくれます、大丈夫です」
「そうか、それじゃ確かに伝えたぞ」
「はい、ご苦労様です」
園を去っていく兵を見送り、部屋に戻る。
特別任務、半年から1年、もしかしたらそれ以上?
危険度も分からない。未開の地へ赴く内容のようだ。
詳しい話は後日、城でヨーティア様より説明があるとのことだ。
「せんせーい、おかえりなさーい」
「どうしたの、せんせい?」
「げんきないよ」
「あっ!さっきのおじさんたちに、いじめられたの」
「せんせい、ぼくがせんせいをまもるよ!」
「ふふ、ありがとう。でも大丈夫よ、私は誰にもいじめられたりしてませんよ」
「だいじょうぶ?」
「げんきだしてね」
「はい、ありがとう」
コンコン
ノックの音と一緒に賑やかなお客様がやってきた。
少し落ち込んでいるかもしれない。
いや、子供たちには丸分かりだ。
そんな気分を一掃してくれるにはタイミングが良かった。
あるいは・・・。
「みなさ〜〜ん、こんにちは〜〜〜」
「あーハリオンお姉さんだー」
「こんにちはー」
「あらあら〜、みなさん元気ですね〜。いい子にしてましたか〜〜?」
「みんないい子だよ」
「でもね、セリアせんせい、ちょっと元気ないの」
「あらあら〜、そうなんですか〜?」
「うん、そうなんだよー」
「そうなんですか〜〜」
「セリア、ちょっと」
ハリオンと一緒に来たヒミカが入り口から声をかけてきた。
真剣な表情から、彼女は先ほどの「任務」についてはもう知っているのだろう。
そう、あるいは、こうなる事を考えて来てくれたのかも知れない。
「みんな、先生はヒミカお姉さんとお話をしてくるから
ハリオンお姉さんのいうことをきいて、いい子にしててね」
『は〜〜い』
「こちらは〜、私が見ていますので〜、ゆっくりしてきてください〜」
「ありがとハリオン」
「それでは〜、ごゆっくり〜」
街から少し離れた農村地帯。
ここには、自給自足で暮らしている二人のスピリットが住んでいる。
彼女たちは少し早く「任務」について、その詳細を聞く事が出来た。
そして、その任務に着く前に、身の回りの整理を行っていた。
「おねえちゃん・・・」
「どうしたのニム?」
「ねぇ、本当に止めちゃうの?」
「このままには、していけないですからね」
「でもでも」
「ほら、見てニム」
「私たちが作った畑や水路は、まだほんの少しでしょ」
「うん」
「でも、回りの畑はだれのモノ?」
「他の、近所の人の」
「そうね、それでねニム
ここから流れてる水、雨季になって水の量が増えたらどうします?」
「そうしたら、溢れないように止めるよ」
「だれが、止めてくれますか?」
「それは…」
「ね、ここから流れた水のせいで、ご近所の畑に被害が出たら大変でしょ?」
「うん」
「だからね、いまのうちにやっておかないと」
「でも、でも!
せっかく作ったのに、全部枯れちゃうよ!」
「そうね・・・、ニムも一生懸命手伝ってくれたのに。残念だけれど・・・。」
「うぅ・・・」
「ねぇニム」
「・・・なぁに?」
「無事に帰ってこれたら、もう一度いっしょに頑張りましょうね」
バーボン食らいましたか?
とりあえず支援。
もしバーボンなら、
>>1の避難所まで御一報を。と、支援。
イービルやってみた
なんでネリシア、ニム、ナナルゥの開通式ないんだぁぁぁぁ!
あと追加ルートあるならイービルじゃないイービルルートが欲しかった……!
>>483 イービルじゃないイービルルートの説明キボン。
>>484 全員最後の一線のマナまでは奪われず、散々ノーマル嗜好(触手とかは実行してない)で好き勝手やって
んで、レスティーナのところで「力」を使わなかったせいで「求め」が油断してソゥユート復活
エトランジェのままEDを迎える(ロウエタはobsnがんばれ)
結果ファンタズマゴリアに残留
既成事実残しまくりで責任取らされまくり
レスティーナ孕みました
スピはゆっくりとソゥユートと愛情溢れるナニとかで時間をかけて回復します
>>485 よくわかる解説サンクス。
一時グレたけど更生して、皆に償いをするルートってことね(なんか違う)
毛色の違うハーレムルートってところか。
結構いいかも。・・・てゆーか今の中途半端イービルよりはよっぽどイイ。
ロウエタになって欲望の限りをつくす真イービルもいいが、これもまたよし。
・・・しかしこのスレで希望されたルートを全部入れたらえらいボリュームになるな。
ザウスがんばれ超がんばれ。
結局、通常版EXは
元祖EX+PS2のサブスピイベント
ってことか?
>>485 ひじょーに分かり易い希望ですな(笑)
確かにあのユートだったら、イービルでもそのくらいの方が自然かもしれん。
頑張れ、流され人生。ユート、応援してるぜ!
しかし、そのルートだとあのおばさんもさすがに可哀想な気が……(w
・アセリアルート(エトランジェのまま終わり、ハイペリアで暮らすエンドも)
・エスペリアルート
・オルファルート
・ウルカルート
・レスティーナルート(もうちょっとイベント追加)
・イービルルート(イオもよろしく頼む)
・時詠ルート(逆移植)
・今日子ルート(逆移植)
に加え、必要性、手間を考慮し
・イオルート
・真イービルルート、(『世界』でロウエタ化、トキミは無理やり、今度は強姦「まがい」じゃない、トキミカワイソス、テムオリンを力でねじ伏せます)
・贖罪ハーレムルート、イービルから分岐の
>>485、(『再生』が破壊されたためスピは生殖能力があるが、ユートはそれを知らずにヒットさせそうだが)
『求め』がないのが問題だが、いっそサーギオスのマナ変換施設の核の永遠神剣第四位『贖罪』(これは適当だが)を使ってエトランジェとしてがんばれ
・なぜか小鳥エンド
を追加
もちろん
雑魚スピは全部顔あり、戦闘でもちゃんと目を見せる
引継ぎは個別で選択
『稲妻』のクオゥーリン他ライトニングからも雑魚スピ(これは今の雑魚スピ扱いでよい)
が2008年11月ごろ出るなら……!
>>489 真イービルがあるならイービルはなくてもいい気もするけどね。
なんか本編のイービル投げやりだし。
贖罪ルートと分岐で十分だと思う。
小鳥エンドはアセリアルートから分岐かな。これなら新規部分が殆ど無くて済む。
途中現代に帰って再会させといた方が話が膨らむし。
・・・寝取られ陵辱は選択肢で未遂か否かを選択可能にして。
最後はエトランジェとして戦い、小鳥の元に帰還・・・かな。
エタ化して永遠の別れってのもほろ苦くていいけど。
あー妄想してたら完全版欲しくなってきた。
そして誰もキボンしないヨーティアルート・・・やつはイオのオマケか・・・カワイソス。
恋愛SLGツクールとかで使えるデータをみんなで作ってさ。
んで、保管庫みたいな専用サイトにダウンロード可能データとして保管。
こーすれば、萌えと根性さえあれば無限に思いのままのルートが作れまいか。
…まあ、肝心のツクールの機能で何処まで出来るかが大問題なだけだが。
実際、恋愛SLGツクールあるけどシアールートとか捏造できるならしたいですよ。
最低限,キャラの全身絵と顔パターンがあればどうにでもなるしな.
絵版の絵師さんに協力してもらえればマジできるかも.
保管庫のSSをシナリオにすればいくらでも作れそうな悪寒。
というか短編SSいつの間にか300目前なのな。
正直こんなに溜まってるとは思わなかったw
小説(SS)読む方が楽しいかな。声が出るなら面白そうだけど < 無茶(w
と言うか、ゲームをする時間があんまり無かったりするorz
どっかのメーカーでは、ユーザーからのシナリオをゲームで再現できるプログラムを公開してたな。
lightだっけ?
KIDではたしかユーザが作ったアペンドシナリオをダウンロードして
プレイ出来るシステムが導入された作品があったような…
うろ覚えですみませぬ
>>496 lightであってる。
あれは中々おもしろい方法だと思った。
しかもあのメーカーのゲームを複数持ってると
作品の枠を超えてキャラとか出せたりするしね。
「…………暇だな」
机の上に肘かけてぼーっと窓の外を眺める。明るい日差し。湿度の低い涼しい風。
「平和なのはいいんだが……こう、する事が無いってのも何だか持て余しちまうな」
いつものように訓練を終え、昼食を摂り。こういう時は誰かしら遊びに来るものだが、今日はまだ誰も来ない。
毎日のように起こるトラブルも一向にその兆候を見せず、正に泰平そのもの。
向こうの世界ではいつも必ず授業中にしていたように、悠人は頬杖の上で生あくびを噛み殺した。
北方五国を収め、束の間の平和を得たラキオス。
対マロリガン戦が刻々と濃厚になってきたとはいえ、とりあえずは暇だ。訓練以外にする事も思いつかない。
佳織をどこかへ連れて行こうかとも思ったが、最近はレスティーナの手伝いで割りと忙しいらしい。
「…………たまには顔を見せてみるかな」
昼下がりのぽかぽかとした陽気に誘われて、悠人はふと第二詰所に散歩にでも行こうかと『求め』を手に取った。
第二詰所の居間は、がらんとしていた。食堂を覗いても誰もいない。
行った事は無かったが、構造は知っていたので悠人はそれぞれの居室へと続く廊下に足を踏み入れた。
「………………」
廊下は静けさと、女の子特有のなんだか甘酸っぱいような匂いが濃厚に折り重なって詰め込まれている。
きちんと掃除されているらしい壁や床も木目がつやつやと輝いて、まるで息遣いまで聞こえてくるよう。
こつこつと自分の足音だけがやけに大きく響き、なんだか女子寮に無断で侵入しているような感じがしてきて少し落ち着かなかった。
こんこん。
「は〜い……あっ゛! ユ、ユートさま!」
一番手前の部屋を試しに叩いてみると、すぐに気怠るそうな返事が聞こえ、扉が開いてヒミカが顔を出した。
「よっ、暇だからちょっと遊びに来てみたんだけど」
「え、ええと……」
「?」
しかし悠人の顔を見るなり短く息を飲んだかと思うと、ちらちらと後ろを窺って落ち着かなくなる。
何だか慌てて服のファスナーを上げたり、短い髪を掻き上げたり。どうでもいいが、一瞬胸元が見えてしまった。
ヒミカには珍しく、普段凛とした態度を崩さない赤い瞳に動揺の色まで走っている。悠人は肩越しに部屋を覗こうとしたが、
さっ。
「………………」
「………………」
ささっ。
「………………ヒミカ?」
「あ、はは……あの、どうしてこちらに?」
すばやいフットワークで機敏に左右に動くヒミカに、視界を遮るように塞がれてしまった。
乾いた笑顔を浮かべながら、大粒の汗を額に滲ませている。何かを隠しているのは明白だった。
「…………いや、別に何か用事があったって訳じゃないんだけど。迷惑だったかな?」
「い、いえ! 決してそのような事はないのですが!」
「う〜んヒミカさぁん〜……どこに行かれたのですかぁ〜」
「わっ、馬鹿ハリオン! 寝惚けないでよっ!」
突然部屋の奥から聞こえる、気怠るげなのんびりとした口調。慌てて振り返ったヒミカが思わず叫ぶ。
良く見ると、微妙に乱れたヒミカの服。先程の態度と台詞が相まって、悠人の頭は一瞬真っ白になってしまった。
「ハリオン……? 寝惚け……?」
「え、ええと、これはその……」
≪んふふ〜……お姉ちゃ〜ん≫
≪ん……もう、ニムったらそんな所触らないで……あっ≫
真っ赤になったヒミカが何か言おうとした所に、隣の部屋から薄い壁を通していやに艶っぽい声が伝わってきた。
支援はある。落ち着いていくぞ!
「…………」
「あ、あのユートさま誤解しないで下さい、これは……」
「…………」
自分の、目の前で動揺している少女を見る目がだんだんと醒めて行くのが自覚出来る。
うろたえながらもまだ部屋の前を塞いでいるヒミカを無視して、悠人は無言で隣の部屋に向かった。
ノックと同時に返事も聞かず、中に入る。このざわざわと落ち着かない気持ちを一刻も早くどうにかしたかった。
「ユ、ユートさま?!」
「ファーレーン……何やってるんだ?」
「な、何ってその……えっと……」
果たしてそこには、同じベッドの上で絡み合うように折り重なっているファーレーンとニムントール。
急に部屋に入ってきた悠人に驚いたのか郵便ポストのように顔を瞬間沸騰させながら慌てて後ろを向く。
わたわたと手探りで何かを探しているようだったので、悠人は無言で机の上のフェイスガードを取ってやった。
「あ、ありがとうございます……んあっ!」
「………………」
しかし会話の途中で、悠人が来た事にも気付かないのかニムントールがファーレーンの胸に擦り寄ってくる。
敏感な場所にでも触れたのか、顎を仰け反らせて甘い嬌声を張り上げるファーレーン。
「んん〜ん……お姉ちゃん、気持ち良い……素敵☆」
「ちょ、ちょっとニム起きて!……あんっ! あ゛……こ、これはその……んっ!」
「判った……邪魔して悪かったな」
「あ! ああ! 違うんです、これはその……」
ぱたん。
ファーレーンが泣きそうな顔で(もっともフェイスガード越しで見えはしなかったが)手を差し伸べていたが、
悠人は黙って部屋を出、その扉を静かに閉めた。何か見てはイケないものを沢山見てしまったような後味の悪さが残った。
廊下に出たところでまだそこにいたヒミカと目が合う。
「あ、ははは……あのユートさま、誤解なさってます、よね……?」
≪ナ、ナナルゥさん、困ります私…………≫
≪捕捉確認。黒でしたか≫
≪はわっ! どどどどこ見てるんですか!……あ、あれ? 何だか急に身体が火照って……ちょ、ナナルゥ、さん?≫
≪ン……先制攻撃、行きます≫
≪え、え? ちょっと舌なめずりなんかして何を……ふわっ?! ああああっ!≫
「………………」
「………………」
更に隣から、壁を通して伝わってくる妖しい会話。
そこに止めのように、突き当たりの部屋からネリーとシアーの切羽詰った黄色い声が飛び込む。
≪や〜ん! 落ちるぅ〜! 落ちちゃうぅ〜!≫
≪わ、わわわ、ちょっと押さないでよ! んんっ! そこはダメぇ〜!≫
「………………」
「………………」
≪あっあっ、あああ、イヤ、もうダメ、ダメダメダメ〜〜!!≫
≪落ちるぅぅぅ〜〜〜!!!≫
「………………」
「で、ですからこれは……」
おろおろと、まるでもう取り返しがつかない致命的なミスをしたみたいにうろたえるヒミカの姿はもう目に入らない。
「…………とりあえず、詰所の壁が薄いのは何とかしないとな」
「? あの〜……ユートさま?」
ばたんっ!
「わぁっ! ユートさま、お気を確かにっ! ハリオン、ちょっとハリオン早く起きてっっ!!!」
つつーと鼻血を零しながら、悠人は直立不動の姿勢のままもの凄い勢いで床に倒れこんだ。限界だった。
「……一体何を考えておられたのですか?」
「……だから悪かったって。まさか全員昼寝してるなんて思わなかったんだよ」
意識が回復した悠人は、搬入されたリビングでセリアの詰問を受けていた。
一応ハーブティーを出されたものの、それはバルガーロアより深く冷え切っている。
目の前で足を組み、カップを手に取るセリアが淹れてくれたものだが、明らかに何らかの意図を感じさせた。
「昼にベッドに入って他に何をするというのでしょうか?」
「いや、それは……」
口調が馬鹿丁寧になっている。これはセリアにとっては危険な兆候だった。
悠人は言いかけて、ぐっと口籠もった。ここで説明するわけにはいかない。
無理矢理凍りかけたクールハテを飲み込み、そして深く溜息をつく。
じーっと観察していたセリアが疲れたように口を開いた。
「ヒミカはすっかり塞ぎ込んでしまったし、ファーレーンはいじけてタンスに篭ったし」
「はぁ……」
とりあえず、逆らわないように適当に相槌を打っておく。
「ハリオンとナナルゥは……まあ、普段通りですけど」
「ああ、それだけが救いだな。天然だし」
ハリオンは悠人を介護した後まだ寝足り無いと言って、何事かと出てきたセリアに後を任せふらふらと自室に戻っていった。
その際ちゃんと自分の部屋に戻るかどうか確認しようとして、きっとセリアに睨まれてしまったが。
「ユートさま、貴方、反省してるのですか?」
「…………すみません」
半分考え事をしながらの生返事に、セリアの鋭い突っ込みが飛ぶ。
凄い目で睨まれて、悠人は素直に頭を下げた。一瞬『熱病』が光った気がしたからだ。
ひょっとしたら『求め』を凌いでいたかも知れない。天然、という言葉を何故知っているのかは怖くてとても聞けなかった。
暫く様子を見ていたセリアが呆れ返ったといわんばかりに深い溜息をつく。
「はぁ〜……幸い気づいてない皆にもとても話せません。自分達がユートさまにあらぬ誤解を受けていただなんて」
「……あらぬ誤解ってセリア、意味判ってるんじゃないのか?」
「と に か く !」
「うおっ!」
ばんっ、と両手でテーブルを叩き、いきなり身を乗り出して来られ、悠人は仰け反った。
至近距離で見えるセリアの頬が薄っすらと桜色に染まっている。睨んだ蒼い瞳がきらきらと輝いていた。
「罪は、償わなくてはなりません。ユートさま、その覚悟はおありですね?」
「あ、ああ。…………へ? って何をすればいいんだ?」
「……ええと、とりあえず今の状況の改善を。具体的には隊長として、ちゃんとお昼寝が出来る環境の整備を」
「手段っていってもなぁ……でもなんだってあの狭いベッドで二人一組で寝てたんだ? 自分の部屋のがあるだろう?」
額に指を指しながら迫るセリアに、そこまで隊長の管轄なのだろうかと思いつつ、
悠人はようやく先程からの疑問を問いかけていた。
大体、何で二人セットで寝なければならないのか、その肝心の理由をまだ聞いていない。
するとセリアは急に気まずそうに目を逸らしながら、ぼそぼそと呟いた。
「それはその……保育所では、そういうみんなでお昼寝をする習慣があるというのを聞きまして……」
「え? あ、あああるな、そんなの。…………まさか」
「……ええ。話の紛れでつい話したら、皆試しにやってみようと……なにか言いたそうですね、ユートさま」
「いや、どんな話の流れでそうなるのかな、と。一体何を話してたんだ?」
「将来の話です」
「うわっ、びっくりしたっ!……ナナルゥ?」
急に背後から聞こえた平板な声に、悠人は慌てて今持ったばかりのカップを落としそうになった。
「ユートさまが戦う以外の(略)というお話をされていたのがきっかけで、先日話題がありました」
「ちょ、ちょっとナナルゥ?」
「え、俺? ああ、確かに言ったけど。将来ってつまり、進路の事か」
「ええ。それで、セリアは将来、保」
がんっ。ばたっ。ずるずる。ぱたん。
「…………なぁ、今ナナルゥ、気絶してなかったか?」
「はぁはぁ……こほん、気のせいです」
「いや、だってマナの霧が……」
「 気 の せ い です。話を戻しましょう」
「お、おう…………」
悠人は未だ赤いマナの残滓漂う中、心の中でどこかへと護送されたナナルゥに合掌しながら、
セリアだけは絶対敵に回さないでおこうと心に誓った。
「で、二人一組で昼寝をするのが定番化したって訳か」
「ええ、でも、中々上手く寝られないのです。何か良い方法は無いでしょうか? ベッドを広く拡張する方法とか」
「いや、俺樵じゃないし。う〜ん……あ、そうか。二段ベッドにでもしたらどうだ?」
「……ニダンベッド、ですか? 聞き慣れませんが、もしかしてハイペリアのものでしょうか?」
「ああ、前の世界じゃ結構普通にあるんだ。こう、ベッドを上下に分けてあるものでさ」
机の上に、指でなぞりながら説明する。漠然ではあるが、なんとなくは伝わったらしい。
正確には二人一緒に寝ているわけではないのだが、同じ空間という意味ではあながち間違ってはいない。
悠人にしてみれば咄嗟に思いついた妥協案だったが、セリアはうん、と小さく頷いた。
「……なるほど。これならあまり手間をかけなくてすみそうですね」
「ヨーティア辺りに頼めばすぐに作ってくれるんじゃないかな。良かったら、俺が頼んでみるよ」
「御願いします。このまま誤解を受けるような状況では安心して御昼寝も出来ませんから」
「……悪かったって。じゃ、行ってくる」
「あ! ユートさま……あの……」
「ん? どうしたセリア」
「…………さっきはすみませんでした。その、キツい事を言ってしまって……ごめんなさい」
「いいって、俺が悪いんだからさ。そんなに素直だと気持ち悪いぞ………あ゛」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
「…………ユートさま、貴方、反省してるのですか?」
「わ、判った、謝るから睨みつけるなってっ!」
「覚悟は出来てますね。……出来て無くても結果は同じですが」
「ごめん悪かった、すぐに行ってくるからっ!」
「あっ、待ちなさいっ!!……逃がさないわよっ」
勢い良く立ち上がったセリアが『熱病』に力を籠めてウイングハイロゥを羽ばたかせる。
悠人は脱兎のごとく詰所を逃げ出した。どうしてこうなってしまったのかと自問を繰り返しながら。
神剣の主が命じる、彼の者に支援せよ!
…シアーの部分に過敏に反応してセリアの台詞に過敏に怯えたりなんかしてないやい。
………………………………
ばんっ!
「ヨーティア、頼みがある!」
「くーかーくーかー」
「へそ出して寝てんじゃねぇーーー!!!」
………………………………
「という訳で、今日中に二段ベッドを造ってくれ」
「相変わらず唐突な奴だね。なんだいボロボロになって」
「俺の事はどうでもいい。どうなんだ、出来るのか出来ないのか」
「誰に向かってモノを言ってるんだい。この天才様に不可能な事などないよ」
「自分で様をつけるなよ。ってそんな事はどうでもいい、それじゃ任せたぜ」
「待て、一つだけ聞きたい事がある」
「何だ、急いでるんだよ」
「なーに手間は取らせないよ。ただその何とかとやらは、一体どんな装置なのかと思ってな」
「……説明し忘れた。簡単に言えば、段になっているベッドだ。上と下に同時に寝ることが出来る」
「ふぅん、それはハイペリアのベッドか? あっちの奴は妙なものを考えるもんだね」
「向こうは家が狭いからな。っとそろそろ嗅ぎつけられちまう。じゃ!」
「ちょっと待てユート……って行っちまったか。やれやれ全く、あたしは樵じゃないんだがな……」
開け放たれたままの扉を見つめながら、ヨーティアはがしがしと荒れ放題の頭を掻いた。
………………………………
「全く……どこに隠れたのかしら……」
不満を隠そうともせず、セリアは一度戻ってきた第二詰所でおやつ用のヨフアルをぱくついていた。
「あ〜セリアずっる〜い」
「……っる〜い」
ほどなく昼寝を終え、目をこしこしと擦りながら入って来たネリーとシアーが目聡く叫ぶ。
セリアは喉に詰まりかけたヨフアルをクールハテで流し込みながら二人の前に皿を差し出した。
「慌てなくてもちゃんとあるわよ、ネリー。シアーもわざわざ言い辛い所で区切って復唱してないで、いらっしゃい」
「おはようございますぅ〜」
「うう〜、危なかった……」
「次は逃しません……へっへっへ」
「ひぃぃぃぃっ?!」
ぽやぽやとハリオン、続いてヘリオンとナナルゥが三者三様の表情で入ってきて、急に賑やかになる。
「もうそんな時間か。ヒミカは塞いでるとして……あら? ニムントールは?」
≪お姉ちゃん?! お姉ちゃんったら、御願いだから出てきてよっ!!≫ ドンドンドン!
「………………何があったのですか、セリア」
冷静なナナルゥの突っ込みに、全員の注目が一斉にセリアへと集まる。セリアは指をこめかみに当てて難しい顔をした。
「ところでナナルゥさ〜ん。その額の絆創膏はどうされたのですかぁ〜」
「記憶が飛んでいるようです。何やら強制的なものも感じてはいるのですが」
「あ〜っヘリオン、それネリーの〜!」
「ネ、ネリーさん、もう御自分のを食べちゃってるじゃないですかぁ」
「…………(もきゅもきゅ)」
「ほらほら、まだお代わりあるから喧嘩しない。ちゃんと仲良く食べなさい。もう、シアー食べかすついてる」
「セリアさん〜、まるで皆さんのお母さんみたいですぅ」
「……いつでも保母になれそうです」
「な! ハ、ハリオンもナナルゥも、からかわないでっ」
そう言いながらも、セリアはまんざらでもなかった。耳が熱くなっていくのが判る。
保母、そう、ぼんやりとだけど、目指しているものへの適性を認められればやはり嬉しい。
嬉しさの余り、自覚無しに皆のカップに順にクールハテのお代わりを注ぎ入れる位には。
「でもさぁ〜、やっぱ狭いよねぇ」
「狭いというか、やっぱり無理があると思うんですけど……」
「そうですかぁ〜? わたしはすっかりぐっすりさんでしたけどぉ〜」
「ネリーなんか落っこちて頭ぶつけちゃったよ。シアー、この辺がおっきすぎるんだもん」
ぷに。
「やんっ!」
「……ヘリオン、逃げたのは狭かったからですね?」
「ち、違いますよぅ!ナナルゥさんは、別の意味で怖かったというか……」
「…………そうね、やっぱり色々と問題よね」
しかし、やはりというか、ベッドが狭すぎる。これは、セリアにとっては大問題だった。
のほほんとしているハリオンはともかく、引きこもっているヒミカやファーレーン、ニヤリと意味不明に笑うナナルゥ。
この難関をクリアしなければ、保母にはなれない。そんな脅迫的な使命を勝手に抱くセリアだった。
………………………………
一方逃走中のエトランジェは。
「もぅあんまりセリアさんをいぢめちゃ駄目だよ、お兄ちゃん」
「いや、苛められたのはむしろ俺なんだが……」
「何を言っているのですか。ユートが悪いに決まっています」
「そうだよ〜、レスティーナさまの言う通りだよ。お兄ちゃん、そういう事にはホントに鈍いんだから」
「………………」
ほとぼりが冷めるまでと逃げ込んだ佳織の部屋でレスティーナにまで見つかってしまい、
こんこんと説教を受けてしまっていた。兄の面目丸つぶれだった。
こんこん。
「あ、は〜い…………あ、いらっしゃいです。お兄ちゃん、ヨーティアさんだよ」
「よ、お邪魔するよ……なんだこんなトコにいたのか、探したぞ」
そうこうしていると、ヨーティアが現れた。白衣の所々に木屑をつけている。髪にも木片が付着していた。
結構大掛かりな作業を行ったらしい。…………どうでもいいが釘まで刺さってるのは突っ込むべきなのかどうか。
「こっちにも色々と事情があるんだよ。で、出来たのか?」
「慌てなさんな。出来るには出来たんだが話をちゃんと聞いていなかったんでな。一体どこに置けばいいんだ?」
「……説明し忘れた。それ、第二詰所の要望なんだ。そっちに運んでくれ」
「え゛」
「ユート、一体何をしているのですか?」
「うん、お兄ちゃん、何してるの?」
「そっか、佳織やレスティーナにも話してなかったっけ。実はさ」
「あー、こほん。すまん、話の腰を折って悪いんだが……本当に第二詰所でいいのか?」
「え? いや、確かに許可はまだ貰ってないけど……レスティーナ、かくかくしかじか」
「なるほど。そういう事情があるなら止むを得ませんね。許可します」
「……さすがレスティーナ、かくかくしかじかで伝わるとは思わなかった」
「お兄ちゃん、自分で言っておいてそれはないよぅ」
「う〜ん、レスティーナ殿がいいって言うならいいか……しかし入るかなぁ」
「…………へ? ちょっと待てヨーティア。それってどういう」
「まぁ失敗は成功の素っていうしね。とりあえず何とかしてみるよ。じゃ」
「待て! 何か色々と不安を残すような発言を置いて行くなっ! おい、待てって!」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…………
「ん〜? 何の音でしょう〜」
低い唸りに最初に気づいたのはハリオンだった。相変わらず目を細めたままなので判り辛いが、微妙に首を傾げている。
「あれ? なにコレ」
「……何だか震えていませんか?」
続いてネリーとヘリオンが訝しげに机の上を指差す。カップがカタカタと小刻みに揺れ始めていた。
「城の方角ですね」
冷静に判断するナナルゥ。何故か口元には微妙に笑みを含んだまま。
「何かしら……」
そうしてセリアが立ち上がり、警戒しつつ窓の側にまで寄った時。
ズゥゥゥゥゥン…………
「きゃっ!」
「わわっ!」
「あららら〜!」
「あ〜、こんにちわ〜」
第二詰所に、何か巨大な物が“突き刺さった”。
「けほけほ……何なの一体…………なっ!」
もうもうと立ち込める煙の中、いち早く正気を取り戻したセリアが見たものは。
「いやぁ、ちょっと座標設定を間違えたかなぁ。でもちゃんと注文通りだし、ま、いっか」
「いい訳ないだろ! なんだこれっ!」
「あん? ちゃんと頼まれた通りじゃないか、何が不満なんだ?」
「俺はこんなモン頼んじゃいないっ! どうすんだ、詰所を破壊してっっ!!」
「だから、十二段ベッドだろ? しょうがないじゃないか、この高さなんだから」
「……じゅうに、だん? 馬鹿言え、俺はちゃんと……」
「言ったじゃないか、“今日、十二段”って」
「“ 今 日 中 に 二 段 ” だーーーーっっ!!!」
まるで塔かなんぞのように詰所に突き刺さるベッドの柱と、言い争いをしている悠人とヨーティアの姿だった。
…………………………
「……だから悪かったって。反省してる」
「大体ユートのカツゼツが悪いんだよ。このボンクラ頭にゃま〜だヨト語がよく入ってないんだな」
「止めろ、頭を揺するな! そもそもどうやったらハイペリア語で聞き間違えるなんて器用なマネ……イテテテッ!」
急に耳を引っ張られる。
「ユートさま、貴方本当に反省してるのですか」
「…………すみません」
第二詰所の前の広場。そこで悠人は正座をさせられ、正面に仁王立ちしたセリアに絶賛睨まれ中だった。
どうしてその横でヨーティアが偉そうにしているのか、そしてどうして自分が悪いのかはいまいち理不尽だったが、
そんな事を主張すればたちまち氷漬けにされてしまう。
セリアの右手に摘まれたままの耳と左腕で光り輝く『熱病』が、何より雄弁にそう告げていた。
くっ!出遅れたか…支援、間に合うか?
「いや、止めようとはしたんだけどさ……」
「ねーねーユートさまぁ、気もち良いよ〜!」
「ぱぱ〜! お〜いっ!!」
「…………」
「…………」
弁明は、虚しく掻き消された。
煙となんとかは高い所(ry。能天気なネリーが早速12段目?によじ登り、手を振っている。
唖然してと見上げてみると、上から順にネリーシアーヘリオンナナルゥハリオン。
いつの間にかやってきたオルファリルやアセリア、ウルカにエスペリアまでちょこん、と陣取っている。
騒ぎを聞きつけて立ち直ったのか、ヒミカ、ファーレーン、ニムントールがそこに現れて、
「ええと……これは」
「わたし達も……なのでしょうか」
「じゃ、ニム上でいい?」
まるでまたたびに惹かれた猫みたいに順番に塔へと吸い寄せられていった。
「ちょ、ちょっと待ってよ! 危ないったら!」
慌ててセリアが叫ぶ。それ位、塔は傾いていた。上部が屋根に引っかかってるので当面倒壊の心配は無いが。
「なぁに心配要らないよ。この天才に抜かりはないさ。ちゃんと地面に対して垂直方向に充分な摩擦を取ってある」
「そもそも最初から抜かりだらけじゃないか……イテテテッ! ちょ、セリア、痛い、痛いって!!」
耳を掴んだまま塔へ呼びかけているセリアに、悠人は正座を崩す訳にもいかず、そのままの姿勢で訴えていた。
こうしてセリアの呼びかけも虚しく。詰所の面々はその夜、なし崩しで全員巨大ベッドで就寝する事となってしまった。
なんでも撤去するにも1ターンかかるとか何とかはエスペリアの意味不明な解説による。
しえん〜
が。
「しくしくしくしく…………」
「いや、そんな泣かれても……」
「〜〜大体ユートさまがいけないんじゃないですかっ!」
「…………すまん」
「あの部屋、結構気に入っていたのに……お気に入りのカップもあったのに……」
深夜、第一詰所。セリアの咽び泣きが悠人の部屋に響き渡っていた。
第二詰所に突き刺さった巨大なベッド。それは、ものの見事にセリアの部屋を直撃していた。
粉砕された自分の部屋に半ば呆然としていたセリアには、既に十二段ベッドにも空きが無かった。
そこで、セリア限定で一時第一詰所への避難が命じられた。もちろん、面白そうに王権を振りかざすレスティーナによって。
「ただお昼寝を習慣づけてみたかっただけなのに……なのにこんなムサい部屋で寝なきゃならないなんて……」
「…………ムサくて悪かったな」
「貴方本当に反省しているのですかぁっ?!」
「…………ごめんなさい」
事態に錯乱しているのか、普段からは想像もつかない位素直に感情を出すセリア。
放っておくには忍びなく、やむなく自室に連れ込んだはいいが、悠人はほとほと困っていた。
喋りまで心持ち幼かったり少女らしいわがままさはむしろ微笑ましい。…………なのにこんなに持て余すのは何故だろう。
悠人は頭を抱えた。ベッドを占領して、文句を言いながらも背中を丸めてシーツを握り締めているセリアを眺めつつ。
オーラフォトンを支援に変えて…いっけえぇぇぇ!
セリア、愛されてるなぁ。
「なぁ、もういいかげん機嫌直せよ。謝るから、な、この通り」
膝を付いたままベッドににじり寄り、頭を下げる。しかし土下座のような姿勢にも、セリアの機嫌は直らない。
ちらっと見た後すぐ枕に顔を押し付け、黙り込む。誰の枕なのかを考える余裕も無いらしい。
もっともそこに気づかれたらそれはそれで恐ろしい事になりそうだが。
「…………せめて十三段あったらわたしもあそこで良かったのに」
などとくぐもった声で不満を漏らす。シーツに乱れた蒼い髪が微かに揺れていた。
「あ、そうか。三段ベッドっていっとけばよかったんだ」
「そんなの、結局詰所に入らないじゃないですか!…………え?」
悠人の殊更明るい口調に、セリアはがばっと身を起こしつつ脊髄反射で攻撃しようとして、
「でも、意外だな。セリアって、本当はこんなに表情豊かなんだ」
「な…………っ」
いつの間にかすぐ側にまで接近し、ベッドの縁に肘を付いてにこにこと幸せそうな悠人を至近距離で見てしまった。
「〜〜〜〜〜〜っ!!」
ばふっとシーツを被り直し、背中を向ける。顔から火が出てくるようだった。
――――だから、反省しろというのに。引っ叩いてやろうと思ったが、何故だか上手く手が動かない。
「…………ばか」
シーツに包まったまま、膨れっ面でそう呟くのが精一杯だった。
展開にドキドキしつつ、支援っ!
「ね、ね、お星様綺麗だね〜」
「お空が近い〜」
空を見上げていつまでも寝付けなかったネリーとシアーは次の日訓練に遅刻をした。
「ニム、ちゃんとトイレは済ませたの?」
「お姉ちゃん、それ5回目」
「そ、そう?…………ニム、ちゃんと歯は……」
いつまでも続く姉の説教に、ニムントールと自爆ファーレーンは次の日訓練に遅刻をした。
「…………ヘリオン、もう寝ましたか?」
「こ、こんな状況で寝られる訳無いじゃないですかぁ〜!」
「理解不能。意味が判りません。早く寝て下さい」
「だ、だから這い上がって来ないでくださいよぅ! ふぇぇ〜ん、オトメノピンチです〜!!」
いつまでも喧しかったヘリオンとナナルゥは次の日訓練に遅刻をした。
「で、あれが獅子の心臓で、あれが…………」
「ん〜、オルファ、もう眠いよぉ」
「………………zzzz」
「ウ、ウルカ、もうその辺で……」
意外と講釈好きだったウルカの星座講義は朝まで続き、第一詰所メンバーはアセリア以外次の日訓練に遅刻をした。
「お月見〜、フウリュウですぅ〜」
「ハリオン、お団子私にも頂戴」
「ヒミカさんはぁ〜、ハナヨリダンゴですかぁ〜」
「…………ほっといて」
なんとなく自棄食いっぽいヒミカとそれに付き合ったハリオンは次の日訓練に遅刻をした。
…………第二詰所は、ある意味平和そのものだった。
…………………………
ちゅんちゅん。
「…………おいセリア、セリアって」
ゆさゆさゆさ。
いつまでも明るくならない外に、悠人は寝坊をした。起きてみても、真っ暗。
体感的に大分寝た筈なのに、変だと思いつつ窓を開けてみて判った。巨大な塔のせいでここが日陰になっている。
床に寝かされていたせいか体中の筋肉がぎしぎしと硬かったが、それで完全に目が覚めた。
出かける準備をしていてようやくまだ寝ているセリアに気が付いたという訳である。
「ん…………ん〜アセリア、もう少し寝かせて……」
「いや、もう遅刻なんだって。セリア、ネリーやシアー教えてるんだろ? 示しがつかないんじゃないか?」
ゆさゆさゆさゆさ。
「ん〜ん……………………ふぁ?」
ようやく寝惚け眼を擦りながら、セリアが身を起こす。
ぺたん、とそのままハノ字に膝を広げてベッドに座り込み、こしこしと両手を握って両目を擦って。
「うわっ、ちょ、セ、セリア?」
しかし、その体勢と仕草は悠人にとっては殺人的だった。開いた太腿から覗く根元に見え隠れする白い布。
甘えた子供のようなとろん、とした表情。寝ている間に乱れたらしい服から、白い肩がつるりと剥けている。
ふぁぁ〜と欠伸をして万歳をした途端、強調された胸元につん、と尖る先端が服の上からもはっきりと判ってしまった。
あまりにも無防備な姿、態度。止めとばかりにぱらりと垂れたポニーテールからふんわりと良い匂いまで漂ってくる。
悠人は慌てて後ろを向いた。朝の自己主張をしていた前が、刺激で大変な事になっていた。
「と、とにかく、起こしたからなっ!!」
「…………え?」
ぱちくり。
急に大声を出されたお陰で目を覚ましたらしいセリアが、徐々に現状を理解し始める。
そしてある一項を除き、完全に状況を理解した彼女の顔は、みるみるうちに茹蛸のようになり、
「こ、こんな夜中に一体何をしに来たんですかっ!」
「……え? ま、待て誤解だ、ここは俺の部屋…………ぐふっ!」
「ちょっ、それ以上近寄らないでっ! 『熱病』よ……私に力を! 出来るだけよっ!!!」
「ごほっ、落ち着けって…………う」
大声で殴り、ぜえぜえと肩で息をしながら殺意を漲らせ、薄く笑みを浮かべ、ぺろっと『熱病』の刃を舐めるセリア。
乱れた髪、妖しく光る蒼瞳。太腿まで捲くれ上がったスカート、大きく開かれた胸元。
よせばいいのに乱れた服装でヘヴンズスウォードを撃ち出そうと、ぐっと腰を下ろし始める。
拍子に、捲くれたスカートが腰の辺りまでせり上がった。胸のファスナーはじーっと下がり、既に半乳状態。
もはや羞恥心もへったくれもない所にセリアの動転と八つ当たり気味な怒りの強さが判ろうというものだが、
悠人にとってはそれどころではない。このままでは本当に天国に連れて行かれてしまう。それも、色々な意味で。
悠人は必死に言い訳を試みようとして、
「いや、だから暗いのにはちゃんと理由が」
「この攻撃で確実に仕留めてみせるっ!! …………動かないで、もっと苦しむことになるわ…………よっ!!!!」
「うわちょ、まっ、ごめん、勘弁、しっ! ぐわぁぁぁぁぁ…………」
振りかぶったセリアの胸元がぷるん、と弾けた瞬間、意識がその先端と同じピンク色に染まったままハイペリアへと旅立った。
同時刻、誰も来ない訓練場で一人素振りをしていたアセリアは、断末魔のような叫びを聞いた気がして剣を止めた。
第一詰所の方から爆発的な青のマナが溢れてくる。
じーっと見ていると、向こうから肩を怒らせつつ歩いてくるセリアを見つけた。
「アセリア、お早う。さ、訓練を始めましょうか」
「…………セリア、何かあったか?」
「別に何も無いわよ……あら? 他の娘は?」
「……………………」
セリアは訝しげに周囲を見渡し、首をかしげた。アセリアも、それ以上は何も言わなかった。
長年の付き合いからくる経験と『存在』の警鐘がこれ以上は危険だと告げていた。
追記:その日のお昼寝イベントはキャンセルになりましたとさ。どっとはらい。
526 :
信頼の人:2005/10/23(日) 03:28:31 ID:xGNdP4Au0
Exp一般発売記念という事で。
支援の方々、有難うございました。誤字脱字ハリオンマジック等御指摘があれば幸いです。
>>526GJ!
信頼さんのセリアはエロ可愛い…
今回殆ど支援できなかった、クヤシス
>>526信頼の人さん
乙かれ様でしたー。
色々とツボった一本でした、良かったです。
保管庫を見ていつも思うけど、愛にあふれた作品ばかりですよね。
自分も精進しないと、ていうか色々と歪んだ趣味をまず何とかしないと…。
530 :
革命の人:2005/10/23(日) 06:43:45 ID:aB0iMsOh0
>>243お待たせしました
「時詠の瞳」「誰も知り得ぬ場所で…」の続きいきます
タイトルは「歩み待ち焦がれた先で Take3」です
あなたと別れて幾星霜……どれほどの時を歩み、いくつの世界を渡ったでしょうか。
暗い絶望はもう私の歩いた後にしかない。
灰色だった私の世界は、三度色を取り戻そうとしています。
ここはあなたが生まれた世界によく似ていますね。
まるで私達の再会の為だけに用意された世界のような錯覚を覚えます。
今、私は神社の境内で箒を持って掃除をしています。
初冬の風が私を冷たく撫でて行くけれど、そんな事は今の私には何でも無い事。
彼がこの世界に生まれて、十数年。
ずっと、見続けてきました…
どこまでも優しくて、素直なあなた。
影ながらでしたが、母の様に見つめ、姉の様に守り、妹の様に慕い。
ここまでは私だけの必然。
そしてもうすぐ二人は出会い、やがて恋人のように結ばれたい。
それが私の願い。
そこからの必然は、願わくば二人で紡げますよう…
タンタンタン……
遠くから石段を駆け上がって来る音が聞こえてきます。
少し怖くなってきました。
私があの人の前に現われるという事。
エターナルの因果に彼を捲き込んでいるのは私の想いなのかもしれません。
事実、彼は私に会うまでに何回も転生しています。
しかし、再び神剣を手に取る運命には出会う事はありませんでした。
今回がその時なのですから。
ああ、だとしたら私はあの人にとっての疫病神でしかないのでしょうか?
そう考えると、とても怖い。
拒絶されてしまうかもしれない、そんな不安もよぎります。
ですが、私には見えてしまうのです。
今はまだ、断片としてしか捉える事の出来ない未来の中で……
白く輝く剣を携えて、微笑む彼の姿が。
タンッ!
最後の一段を駆け上がって、彼は神社の境内に入ってきました。
背中を向けているので見えませんがわかります。
駆けよって抱きしめたい、そんな衝動が湧き上がりますがここは我慢。
ずっと、ずっと、ずっと待ち焦がれた瞬間を感情に任せて壊してしまったらもったいない。
この場面はどうすべきかしっかりと考えてあります。
優雅に振り返って、数歩近づいてにっこり笑って挨拶……完璧です。
くるりと優雅に振り返って…成功、彼の足が止まりました。
そして数歩近づいて…
「きゃっ!」
あ、足元に小石が…しっかり見ていれば躓かなかったのに……ああ失敗、もう台無し――
がばっ!
「だ、大丈夫か?」
気が付くと目の前には彼の顔。
「え、ええ、大丈夫です。ありがとうございます、悠人さん」
怪我の功名ですね、出会っていきなり抱きしめられちゃいました。
「…あれ?俺って君とどこかで会ったっけ?」
前もそんな事言っていましたね。
だから私も同じように…
「ふふ…私は悠人さんをずっと見ていましたよ。悠人さんは「覚えて」いないと思いますけど」
支援
-fin-
Take1
「もうすぐ悠人さんに会えますねっ!私もう待ちきれません!!」
【どうするのです、時深。その時までまだ数十年はありますよ?】
「決まっています!未来に跳べばいいのです」
【ちょっと、お待ちなさい!時深!!】
「待ちません!行きますよ「時逆」!」
――時間跳躍――
「ああ、ついに悠人さんに会えます…」
【「時逆」の力を安易に使ってはいけませんよ、時深】
「ええい、「時詠」は黙ってて下さい。悠人さん!ゆ〜う〜と〜さ〜ん〜!」
「んん〜、うるさいのぅ。お嬢ちゃん、ワシに何か用かい?」
「え゛っ、そんな、なんでそんなおじいさんに…」
【どうやら、アバウトに時を跳び過ぎたみたいですね】
「いやっ、そんなーーっ!……「時逆」ぁっ!」
――時間跳躍――
Take2
「はぁはぁ、先ほどは失敗してしまいました。が、五十年くらい戻ってきましたし今度こそ!」
【ですからそんな安易に「時逆」は…】
「「時詠」は黙ってて下さい!悠人さんの事を安易だなんてそう何回も聞き流してはおけませんよ?」
「何してるの?一人で」
「あら?ボク、高嶺悠人って人知ってる?知ってたら教えて欲しいな」
「え、僕の事?」
「な゛っ……」
【今度は戻りすぎたみたいですね】
「いやいや、「時詠」これはこれでなかなか…あどけない子供の悠人さんも悪くないじゃないですか」
【…くれぐれもイケナイ趣味には目覚めないで下さいね、時深】
「ねえ…」
「何かな、悠人クン?」
「おばさん、誰?なんで僕の事知ってるの、一人で何か喋ってるし怖いよ…」
「〜〜〜〜っ!!な、な、なっ…」
__
「,'´r==ミ、
くi イノノハ)))
| l|| ゚ヮ゚ノl| <タイムシフト
j /ヽ y_7っ=
(7i__ノ卯!
く/_|_リ
536 :
革命の人:2005/10/23(日) 07:05:07 ID:aB0iMsOh0
終了です〜
支援の方々ありがとうございました
誤字脱字ハリオンマジック等、指摘ありましたらどしどしお願いします
最後は、みんなに幸せな記憶を…
>>信頼の人
セリアテラカワイス・・・
12段ベットに真っ先に抗議しそうなエスペリアまで場所とってたのには笑いました。
>>革命の人
最後のタイムシフトワロタ
時深おbsはタイムシフトを使いまくり各時間ごとに悠人にトラップを設置しまくれば
おbsに惚れさせることも容易なような気がしますな
>>536革命の人さん
乙です、涙が止まりません。
セリアには誰もが素直なのに、どうして時深おばあちゃんに対してはみんなツンデレなんでしょう。
「…もう一度、時深のあとの台詞を言ってみてくださいませんか?」
えっ…だから、おばあちゃ
タイムアクセラレイト(AA略
>526
GJ。最後まで読んでタイトルにチトワラタ。
最初は無言で怒ったように部屋に入っていく姿にらしくないかもと思ったりしましたが、
その後期待通りに鼻血出して倒れるところが非常にソゥユートらしい展開でツボ(笑
もうセリアが暴力的に可愛すぎますな(w 描写が最高。彼女も苦労が報われてるのか報われてないのか。
と書きつつ、いじけるファーレーンも出番が少なかった割に良さげ。
>536
こちらもGJ。しかし、あわれな(w
一見シリアスな展開で珍しくトキミおばさんも渋いシーンかなと思えば、そんなオチ。
時詠、めっちゃ趣味に使われてカワイソス(笑
>>537 出来たとしてもそれをしない
それが時深さんです
>>538>>539 シリアスで脳内保管したいなら
前半と後半を入れ替えるか1&2を切り捨てちゃってください
1&2は時深さんの手によってパラレルの闇に葬られており
本来の事象の流れにはありませんのでw
時系列ではそうなってます
書いた順Take3>1&2
時系列Take1&2>3
つまりDQの1〜3みたいな順番ですw
ちなみに時間跳躍に対して彼女は「時逆」
という神剣(多分二位)を使用しています
本編でもイービルルートの最後に使ってますね
「時詠」は何もしてません、今回はただの突っ込み役です
>>526 乙〜
ユート君、とても美味しい展開に。気絶せずにそこは飛びかかる場面だろっ(無理)
にしても、寝起きセリア無敵。なにげにヒミカかわいい。
>>536 ああ、時深サン、なんてマイペースな。映画作りじゃないんだからと。
この能力があれば、あの有名なエチシーンも彼女の思うままか?! ……失敗しそう。
>526
セリアさんっ! 僕もちょっと前かがみに……ヤバイッス。
やはりこうした皆との触れ合い、ど突きあいがセリアの保母さん属性を昇華させていったのですね。
安普請第二w 第一は良い造りしてるのだらうか。
ヒミカとファーレーンがカワイソス。真面目三人衆の一角セリアが崩れ落ちてしまうと皺寄せが来てしまうのですねw 今度は先に崩れて下さいましw
しかしタイトル……バベルの塔はセリア神の神威の許、へたれへの寝起きのフューリー。クワバラクワバラ
>536
バキュラ…じゃないえーと、モノリスをユート君の行く先々に立てまくればっ!
神にも等しい神剣の意思。ときみさんはきっとそれに従ってるだけ。さあ行け時深。密着悠人24時ヤラセナシ。
よし、妄想を形にしてみよう
だがちょっと待て
あやかしばんで忙しい
>>536 『時逆』は制御出来ない上、現代世界でうっかり使うと違う意味で危険です。用法・用量をよく守り(ry
そうか、輪廻転生を繰り返せばそのうち時深エンドへと。頑張れ時深おば(ry ヘタな鉄砲も数打ちゃ(ry
何気に冷静に突っ込み入れる『時詠』。優しい娘。個人的に妙に萌えたりw
>>527革命さん
全員活躍させるドタバタのつもりが、何故かいつの間にか彼女だけ動いてしまう不思議。
まぁでもエロ可愛いって言って頂けて、セリア嬢もさぞご機嫌宜しゅう(ヘブンズヘブンズヘブンズ
>>528どりるさん
ツボって頂けたなら、良かったです。そこそこExpのネタとかも入れてみたけど、違和感無かったでしょうか?
というか保管庫。余りじっくり読まないで下さい、目が潰れますよ。……いえ、アラが目立ちますので(汗
>>537おにぎりさん
エスペリアは、気づいたら座ってましたw セリアさん、最近何故かツンが上手く描けません。困った(汗
…………で、ヘリオンとハリオンの違い、マダーー?(ボソ
>>539さん
基本的にツンデレの苦労は伝わり辛い上報われない事になっているのです。これは現実にも通じる法則で(リープ×3
それはそうと、ついイヂメてしまうんですよね、こういうタイプ。今回も本当は全員ドタバタの筈だったのに(ぇ
ファーさんには今回は控えて頂きました。余り出番増やすとニムとかもでしゃばってくる……しっ! ホント、勘弁……(ry
>>541さん
ふむ、あそこで飛び掛ればイービルルート一気に回収できますね。
あ、ヒミカさん、見つけて頂けましたか。久し振りにヒミカの心境とか考えて、実は今回結構熱入ってたりw
>>542さん
人との衝突もまた、成長する過程…………って一方的に殴ってますけど。
そっか、皺寄せだったのかw 言われてなるほどと思ってしまいました。
あまり深く考えず拍子だけ合わせた題名でしたが、こうなってくると街を一つ滅ぼしてもおかしくないかもw
>>526 信頼の人さん
激しく乙です。
塔ってベッドタワーですかっ!
意表をついた展開と、就寝セリアをたっぷりと堪能させていただきました。
ワタクシにはここまでセリアをかわいくは書けませぬ
>>536 革命の人さん
同じく乙です!
最後の老若悠人に笑わせてもらいました。
やっぱりおbsnにはこういう役が似合(クリティカルワン
常連さん2連射の後で恐縮ですが、
ネタを投下させていただきます
今回はSSではなく、AAを付けた絵本風のバカネタです。
かなり時空を超越したネタなので、
ツッコミどころ満載かと思いますが、最後まで読んでいただければ幸いです
あれ?
投下できない?
失礼して test
支援してみます?
うーん、できない
ネタ書き込んだはずなのになあ・・・?
しばらくしてからまた来ます(´・ω・`)
再投下 開始します
キターー
おっかしいな・・・
普通にだと書き込めるのに
ネタ投下しようとすると、書き込み完了したように見えて失敗している・・・
おbsnを怒らせすぎたんだろう
" タイムアクセラレイト
>>555 ID:aB0iMsOh0
´∴ # __ ゜ヾ´ ″´∴
「,'´r==ミ、―≡ ̄`:∵∧_∧´∴∵゛'
__くi イノノハ))≡―=',((( )≡―=‥、 ∵゛、゜¨
, ≡ )| l|| ゚ヮ゚ノl|r⌒) _/ / ̄ =―≡― _
´∴'≡く / ∧ | y'⌒ ⌒ ヽ イノノハ))( ≡―=‥、,、
″″ \/〈(((ノ从| / | | ゚ヮ゚ノ`=―≡―∞
" ||( ゚ヮ゚ー' | |ヾノ //
=―≡ ̄`:, | , | ( ̄=―≒‥,,
" ,゛"=―≡―=',/ ノ )∵`=≡―=
″( ゚ヮ゚∴/´/ / | | , ゚ヮ゚ノ'ゞ ∵゛、 ゜ ¨
ヾ =―≡ ̄`:゛/ / \| |≡―=‥、,、 ヾ
,゛"=―≡―='( | ( |=―≡―∞=@ , 、∴
/ | | |\ \ ´ ∴ ヾ .
・ / / | | | ヽ/⌒〉
.... . ............ . .(_ 「 _) (_〈_/....... . .. . .... . . .
とりあえず人柱になって時深大明神様のお怒りを鎮めてみますね
再々投下 開始します
いや、そこまでムキになって投下するほどいいもんでもないですけど・・・
やっぱり駄目でしたorz
今回のネタは凍結します(´・ω・`)
そんな…
' ` ^ヽ
ノ ル从ルリ
从リ'A`从 <ヒミカデス、、、、ゴカイシナイデクダサイ
⊂》|Tリつ ヒミカデス、、、、、、、、、ヒミカデス、、、、、、、、、、、
く/|_ノ
(_ハ_)
なんか「塔 Lv.12」を読んだあと、tv見てたらこんなのが浮かんだw
,ヽノ_
−=≡. ,' 〃, ^^ヾ
−=≡... i y(从ソ))リ゙
−=≡ / ̄ ̄ ̄ノノ゙(リ゚ -゚ノリ
−=≡.. ~ ̄> ̄>^(( ̄> ヽ
, ^》ヘ⌒ヘ《ヾ
( リ〈 !ノルリ〉))
ノノ(!リ -_-ノリ(( ジブンヲ…
(( / y/ ヽ ソ
(⊃ ⊂[_ノ
(ノノノ | | | l )
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
バッ
−=≡. , ^》ヘ⌒ヘ《ヾ
−=≡... ( リ〈 !ノルリ〉)) トキハナツ!!
−=≡ / ̄ ̄ ̄ノノ(!リ゚ ヮ゚ノリ((
−=≡.. ~ ̄> ̄> ̄> ヽ カサカサカサカサカサカサ
レス数が落ち着いたのは、EXを遊ぶのに皆さん忙しいのか。
いや、自分もだが(w
コミケで買ってきて遊び尽した漏れは勝ち組。
それでも反芻して遊び込み、ネタへ昇華させられば
私こそ真の勝ち組w
そしてさらに雑魚スピにのめり込み、
スピたんに拒絶反応がでれば負け組。
それでいいやw
それなら本望さ
それなら俺はむしろ望んで負け組に入ろう(w
完璧な負け組みの俺が来ましたよ
スピの負け組は誰だろう…………オル(ピィタン
公式では雑魚スピ内唯一のユートスキーなのに
何らフォローが入らないヘリオンに一票かな。
他のスピはまぁいいけど、
ヘリオンにはデートイベントくらい入れてあげりゃ良かったのに。
・・・駄目か。ユート鈍いから。
座して待つと言ったが、俺も負け組でいい
剛田のファーとシアーのCGを見た瞬間、拒否反応…
ドリパで舞台劇1・2を買おうか悩み中
舞台劇2で、見事出演をはたした ニムとヘリオンは勝ち組。
>>571 あおの娘は絵的に一番可愛いのが
戦闘カットインというのが・・・でふと気付く。
ウチも現状は負け組だが
もし雑魚スピ一人一人にカッコカワイイ
カットインが入ったら変節するかも知れない。
最近、携帯ゲーム機で戦闘システムそのままでRPGなアセリアが出来ればなぁ〜と思ってる今日この頃…
1ターン目の開始前の離脱不可・敵との遭遇率を下げる代わりに数部隊まとめての襲来とかにすれば、結構再現できそうだし…
ただ、行きも帰りも敵が出るから難易度は上がりそう…
SS書く暇が無い時にかぎって、何でこんなにネタばかり浮かんでくるんだろう…orz
>>576 そんな事言われると、ドット絵のメンバーを見たいという欲求が。
でもドット絵だとなんかネリーとセリアの区別がつかなくなりそう
スピリット隊でロマサガをやりたいと思った俺がいる。
何考えてるんだ俺は・・・('A`)
|
\ __ /
_ (m) _ ピコーン!
|ミ|
/ \
, ^》ヘ⌒ヘ《ヾ
( リ〈 !ノルリ〉))
ノノ(!リ゚ ヮ゚ノリ(( <月輪の太刀!
(( ⊂》|Tリつ ソ
く/|_ノ⊃
(フ
こうですか!?わかりません>w<
陣形はエスペリアルクロスで
セリア
悠人 エス ナナルゥ
ヘリオン
>>578 月影の太刀なら実際にありますけど(ミンサガとサガフロに)
>>579 ユート様、私たちはエスペリアルクロスという陣形で戦います。
遠距離攻撃のできるナナルゥが後衛、
両脇をセリアとヘリオンが固めます。
ユート様は私の前に立ちます。
ユート様のポジションが一番危険です。
心して戦ってください。
悠「・・・ひどくない?」
こういうことですかッ!?
物語序盤で住職と離れ離れに。
仲間を格闘・近接・遠距離とその特性に応じて鍛え上げ、
地形を上手く利用してファンタズマゴリアの内乱を戦いぬけ。
ラスボス瞬と対峙する時、デバイスにされ、脳だけになった住職が立ち塞がる。
PHANTASMAGORIA MISSON 6 〜バーンライト王国首都を陥落せよ〜
求め内蔵打撃機構
>>581 それの元ネタがフロントミッション1だとわかる奴なんか何人いるんだw
584 :
581:2005/10/26(水) 23:09:48 ID:QkYR7tnu0
>>583 まぁ一人でもわかってくれればおkかとw
2ネタだと全員一度に出撃出来るなとか3はExpみたいに最初の選択肢でルート選べるなとか(マダツヅケルカ
>>583 (`・ω・´)ノシ
住職デバイス ガクガク(((((;゚Д゚)))))ブルブル
その手術したのはマッドサイエンティストY様ですか?
そしてシュンは神剣とSシステムで融合…。
>>579 なんだか防御は硬そうだけど、魔法に弱そうな陣形ですね?
588 :
582:2005/10/26(水) 23:37:47 ID:hWCN9ta60
むしろ俺の方がわかりにくい気がス。
やってる事はただのパンチなんだよなw
吉田戦車デザイン、いやな永遠神剣。
スキルは猫とか蛙
>>589 オタケサンを忘れるな
「契約者よ、妖精のところに連れて行け」
「なんでだよ」
「マナを吸収するためだ」
「・・・ミソか何かつけて頭からバリバリ食べるのか?」
「貴様!我を何だと思っているんだ!」
>>589 …あれは、「狂ったかス○ウェア」とマジで思ったね。
ところで、スピたん見てふと思ったんだが…。
某プリメのシステムで訓練士の立場で幼少時から雑魚スピ育成するのはどうか。
まあ、スピの強さで訓練士を使い捨てるシステム上で無理ありげだが。
もしかしなくても、ヘリオン育成計画だろうか?俺が言ってるのは。
スピのほうが成長速度遅いはずじゃないっけか?
それじゃ立場が逆では
よし、エヒグゥを育成しよう
では、エヒグゥ養殖に一票!
まずは食用から
海エヒグゥとか山川エヒグゥとかエヒグゥレースとか。
レースか?! レースするのか?!
ライバルはトウホウフハイだったりするのかぁああ?!!!
そこでポーパルエヒグゥですよ。
抱き枕ー。
なぁ光陰のバナーって何時の間に追加されたんだ?
>>600 うあ、ホントだ・・・。
バナー公開日にXuseスレで
「なんで光陰のバナーないんだよ!」
って言ってたのは俺です。
抱き枕争奪戦と同じくらい。
バトルエヒグゥ作ろうと思って秋に山篭りしたんだよ。3年ほど
そしたら体長15m体重56tとかオマイはいったい何処のガンダムだと(ry
身長57m体重550t
>>604 5体のエヒグゥが超電磁合体して・・・か?
>>604 よく考えたらメチャクチャ軽くないか?
普通の体長が30cmとして…100g切るぞ、暗算だが。
>>598 激しく反応しかけた、WIZ好きの俺ダルシム。
それはそうと、シアー長編の息抜きに書いた短編です。
御伽噺で、キレイゴトの先で〜第二章〜
では、よろしければどうぞ。
夢を見ているんだ、と思う。
病院の通路。薬くさい乾いた空気の中を歩く自分。
子供の頃の自分が、夢の中の風景を歩くのを自分が後ろから見ている。
これって、どういう感覚なんだろう。
自分の夢の中での自分の姿を、その背後から黙って見つめている自分。
その時の感情は、冷静というか落ち着きすぎているくらいだ。
目の前を歩く子供の自分も、背後をついて歩く今現在の自分も。
どちらの自分も、同時に同じ意識と感情と記憶がある。
むしろ、存在そのものが同時にある気がする。
やがて、子供の頃の自分が立ち止まる。
通り過ぎようとした病室から、泣き声が聞こえたから。
何故だろう、その子を放っておけなかった。
その子は嗚咽をもらして泣いていて…近づく自分に全く気づかなかった。
泣いているその子の横たわるベッドのそばにある椅子に座ってから。
自分にわかる限りで優しく、その子に声をかけた。
「どこか、痛いの?」
その一言が、全てのはじまりだった。
自分は、その光景に対して湧き上がる哀しみの意味がわからないままで。
そして、目が覚める。
夢を見ているんだ、と思う。
いつもの、朝の風景。
色々あるけれど、至って普通の…幸せな学校生活。
光陰がいて、今日子がいて…そして家族もいて。
わからなかった。
たった一つの、暗い影の理由が。
いつものように、いつもの顔ぶれで同じ時間を共にして。
昼休みだから、みんなで屋上で弁当広げようかという話になって。
そして、廊下に出た途端に互いに肩がぶつかってしまった。
慌てて謝ろうとして、その顔を見て言葉が詰まってしまう。
ぶつかってしまった相手は、相手が自分と知ると表情を変えた。
有刺鉄線を巻きつけたかのような、全てを蔑み憎む哀しい顔。
その顔が、いつも自分を見ると笑顔に変わる。
絶対の信頼を寄せているけれど、暗く熱っぽいまなざしの笑顔。
詰まってしまった言葉を、無理やりに台詞へと搾り出す。
「ごめん、瞬。前をよく見ていなかったよ」
それを聞いた相手の…秋月瞬の顔が、たちまち紅潮する。
「悠人、君は謝らなくていいんだ。不注意だったのは僕なんだ」
優しい声と、優しい微笑み。
でも、それが向けられるのは自分に対してだけなのが辛い。
-というか俺は男だ。そりゃ確かに俺に執着する理由はわかる。
-わかる、よくわかるが俺たちは男同士なんだよッ…!
瞬が俺を求めるのはわかるが、同性である限り無理がある。
その無理を多少何とかする方法もあるが、俺はあくまで男でいたい。
瞬が、自分の周りと背後にいるみんなに気づいた瞬間に顔を歪める。
「フン、また貴様たちか」
まずい、と思った時にはもう遅い。
瞬の瞳は、暗くて危険ななにかに燃えている。
たちまち、光陰や今日子と言い争いをはじめる瞬。
いつまでたっても、このパターンにだけは慣れる事が出来ない。
「もうやめてくれ、瞬。光陰たちは俺の友人なんだ」
そう制止する俺の声で、瞬はようやく背を向ける。
背を向けたままで、彼は今日子の背に隠れていた佳織へ鋭く言い放つ。
「いいか、佳織。お前が悠人を縛り付けているんだ。
僕だったら、悠人に生活苦を味合わせる事もないし自由に出来るんだ」
そのまま遠ざかる瞬の背中に、俺はつぶやく事しか出来ない。
-瞬、お前はあまりにもたくさん色々と間違っているよ…。
というか往来だろうが校内だろうが、俺に迫るのはやめて。
周囲の視線が痛すぎるんだよ、だって男同士なんだから。
毎年必ず、誕生日プレゼントにクリスマスプレゼントを欠かさないのもやめて。
いくらブランド物の服に靴にバッグにアクセサリーをもらっても、困るだけだ。
俺は絶対に、女装する気もその趣味もない。
心配そうに見上げる佳織の…妹の顔にぎこちない笑顔で答えて。
わざと少しだけ乱暴に、勢いよく頭を撫でてやる。
そして、目が覚める。
2回も連続して見た夢から、ようやく目が覚める。
-というか、一晩で2回も夢を見て覚えてるなんて事あるんだなぁ
そう思った瞬間、自分の身体から離れていく手の温もりに気づく。
「大丈夫ですか、ユート様…また、うなされていました」
エスペリアが、うなされている俺をゆさぶっていてくれたらしい。
「ああ、大丈夫さ…心配かけてごめんな」
上半身を起こして、エスペリアに向き直って気がつく。
エスペリアの後ろからまた心配そうに顔を覗かせる面々に。
「おはよう、アセリア、オルファ。…また心配かけてしまったな」
そう、ここファンタズマゴリアに召喚されてからいつもなのだ。
「エスペリア、おはよう。俺ならもう大丈夫だよ」
無理に笑顔を作る俺に、心配そうな目のまま優しい微笑みで返すエスペリア。
不意に、俺の目の前に湯気がかすかにのぼるカップが突き出される。
「…ん、お茶。気分が落ち着く。………ユート、飲む」
アセリアに精一杯の笑顔で返して、俺はカップを受け取る。
-うん、この世界でのミルクティーもおいしいよな。
一口飲んで、ふうっと息をついた俺にオルファがそうっと話しかけてくる。
「ママ、大丈夫?オルファ…心配したんだよ?」
ママ、という単語で俺はやるせないため息をつく。
「ああ、大丈夫だよオルファ…ごめんな」
オルファの頭を佳織にするみたいに撫でてやりながら自分の身体に視線を移す。
自分の胸に確かにある、ふたつの女性のふくらみ。
そう、俺は身体が女になっていた。
理由は、わからない。
ただ、ファンタズマゴリアに召喚されてからだというのだけがわかる。
最初こそ混乱したものの、だんだんスピリット隊のみんなと馴染んできた。
今では、ここラキオスのエトランジェとして何とか生きていけている。
人質にされているとは言え、佳織もレスティーナ王女が生活を保障してる。
オルファから聞く話の内容から、王女は佳織によくしてくれているのもわかる。
ふと、身体が汗ばんでいるのに気づく。
「みんな悪い、起きて身体を拭きたいから…」
その言葉で、エスペリアたちはそうっと離れてくれる。
俺の言葉と同時に、アセリアが持ち前のスピードで部屋を出る。
水を使う音が聞こえるから、俺の身体を拭くタオルを絞ってくれてるんだろう。
ベッドから起き上がった俺は、部屋に置かれた姿見の前に立つ。
-はぁ、どっからどう見ても完璧に女の身体だよなぁ…
更にイヤすぎる事に、あのハリオンに匹敵するナイスバディだったりする。
パンツ一丁だったのを、無造作に脱いでベッドの上に放り投げる。
「ユート様、女の子なんですから日常ではおしとやかになさってください」
聞きなれた、エスペリアの【女の子な俺】への小言を聞き流す。
-はぁぁ、いつもながら見事に男の印がない…
自分の手で股間に手を触れてみても、今までそこにあったモノがない。
最近、とある報を聞くまではこの身体にもようやく慣れてきた頃だった。
その報とは、サーギオスのエトランジェはシュンという名前だとの内容。
-もし、あの瞬だったら…俺が女になったと知ったらどんな行動に出るか…
アセリアから絞りタオルを受け取りながら、俺はまた深いため息をついた。
-続かない-
ども、やっちゃいかんだろソレわってのを考えてみました。
コンセプトは「シリアスモードで、何処までありえないネタを貫けるか」です。
…えっと、怒りの声を正座してお待ちしております。
誤字脱字ハリオンマジックと言えないのが、辛い…。
続いてください。是が非でも終わりまで
せめて真ロリ眼ラスト〜サーギオス戦だけでも
すいません予測変換ミスです
エトランジェ連中全員が性別反転したらどうなることやらw
>>614 >>615 いくらなんでも、これ以上は恐ろしいです。一度やっておいてなんですが。
(こういう極端なネタは物凄い拒否反応を示す方もおられますので)
すみませんが、アセリア別スレの某ネタ便乗で勘弁してください…(´Д`;)
まぁ、二番煎じパクリである以上本家には及びませんですが。
(某ライダーV3より)
千年 千年 千年ストーカー 時深
カビカビ発酵 おbsn処女(バージン)
永遠神剣 ストークのために
メインスピ 雑魚スピ フタマタめ ←キモウトめ、でも可。
チャンスで寝取られて 若さへの妬み限りなく
八つ当たりは似非ロリ テムオリン
それでも追う 執念の 悠人ストーカー時深
…いえ、時深さん本気で可愛いと思うし好きですよ?
興奮してて見落としたが、↓の日本語おかしい希ガス。
>最近、とある報を聞くまではこの身体にもようやく慣れてきた頃だった。
>>621 んぬΣ(’’
この身体にようやく慣れてきた頃、とある報を聞かされたのだが…。
んじゃ、修正としてこれでいかがでそう。
>>613 えっとその場合求めはマナをああやって採取するとうわなにを
∧/|_ パパーン!!
'´ ヘヘ/ ミ 从从
ノ ノノ从ハ)ゝ ./ //☆
ヽ(リ#゚ヮ゚ノリ レ ☆ オラオラ悠、ちょっとは女らしくしたらどうだ!
〔⊆!)甘iクつ
く/_|j〉
(ヲヲ
う〜んと、今年は体育祭ネタ
\無いのかなぁ…………っと /
 ̄ ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
,べV _
/ 〃  ̄ ヾ; / \
! i ミ(ノハソ ( ノハ\ i
!ik(i|゚ ヮ゚ハ パヮ゚ 从 / もきゅもきゅ
<(つ/ ̄ ̄ ̄//i D⊂ヽ
 ̄ ̄ ̄ヽ/SpiNet/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 ̄ ̄ ̄
,べV _
/ 〃  ̄ ヾ; / \
! i ミ(ノハソ ( ノハ\ i
!ik(i|゚ ヮ゚ハ パヮ゚ 从 / もきゅもきゅ
<(つ/ ̄ ̄ ̄//i D⊂ヽ
 ̄ ̄ ̄ヽ/SpiNet/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 ̄ ̄ ̄
,べV _
/ 〃  ̄ ヾ; / \
! i ミ(ノハソ ( ノハ\ i
!ik(i|゚ ヮ゚ハ パヮ゚ 从 / < ん〜、でももぅ11月になるし〜
<(つ/ ̄ ̄ ̄//i l i/ ヽ
 ̄ ̄ ̄ヽ/SpiNet/ ̄ ̄(l[_ソ ̄ ̄ ̄
767 名前:シアーです〜♪◆SiarBlueSp[sage] 投稿日:04/06/11 01:33 ID:MiscSprt
体育祭があったら
\ぶるまぁ穿くよぉ /
 ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄
,べV _
/ 〃  ̄ ヾ; / \
! i ミ(ノハソ ( ノハ\ i
!ik(i|゚ ヮ゚ハ パヮ゚ 从 / もきゅもきゅ
<(つ/ ̄ ̄ ̄//i D⊂ヽ
 ̄ ̄ ̄ヽ/SpiNet/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 ̄ ̄ ̄
,べV _
/ 〃  ̄ ヾ; / \
! i ミ(ノハソ ( ノハ\ i
!ik(i|゚ ヮ゚ハ パヮ゚ 从 / もきゅもきゅ
<(つ/ ̄ ̄ ̄//i D⊂ヽ
 ̄ ̄ ̄ヽ/SpiNet/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 ̄ ̄ ̄
,べV _
/ 〃  ̄ ヾ; / \
! i ミ(ノハソ ( ノハ\ i
!ik(i|゚ ヮ゚ハ パヮ゚;从 / …
<(つ/ ̄ ̄ ̄//i l i/ ヽ
 ̄ ̄ ̄ヽ/SpiNet/ ̄ ̄(l[_ソ ̄ ̄ ̄
,べV _
/ 〃  ̄ ヾ; / \
! i ミ(ノハソ ( ノハ\ i
!ik(i|゚ ヮ゚ハ パヮ゚;;从/ < ど、どうしてシアーが穿かなきゃいけないの〜?
<(つ/ ̄ ̄ ̄//i l i/ ヽ
 ̄ ̄ ̄ヽ/SpiNet/ ̄ ̄(l[_ソ ̄ ̄ ̄
 ̄ ̄ ̄
< きゃははー♪
< ネリぃ〜〜っ!?
/ ̄ ̄ ̄/
 ̄ ̄ ̄ヽ/SpiNet/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 ̄ ̄ ̄
あらあら〜。シアーちゃんたら〜
\ハンドル記憶させたままです〜 /
 ̄ ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
〃  ̄ ヾ;
|`_(ノハソ
> | ゚ ヮ゚|
<(つ/ ̄ ̄ ̄/
 ̄ ̄ ̄ヽ/SpiNet/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
769 名前:ネリーだよー♪◆NeryBlueSp[sage] 投稿日:04/06/11 01:43 ID:MiscSprt
>>767 \ほんとはネリーがスパッツ穿くよ〜♪ /
 ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
〃  ̄ ヾ;
|`_(ノハソ
> | ゚ ヮ゚|
<(つ/ ̄ ̄ ̄/
 ̄ ̄ ̄ヽ/SpiNet/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 ̄ ̄ ̄
/ ̄ ̄ ̄/
 ̄ ̄ ̄ヽ/SpiNet/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 ̄ ̄ ̄
,、
\ ?! …シアーっ!? ^ /
 ̄ ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
,べV ,、 _
/ 〃  ̄ ヾ; ^ / \
! i ミ(ノハソ ( ノハ\ i
!ik(i|;;゚ ペハ ハ;-;从/ < シ、シアーも穿くよぅ〜〜
<(つ/ ̄ ̄ ̄/ /i l i/ ヽ
 ̄ ̄ ̄ヽ/SpiNet/ ̄ ̄ ̄(l[_ソ ̄ ̄ ̄
 ̄ ̄ ̄ ' '' '''
スレ2-771さん改変スマソorz
629 :
2_771:2005/10/28(金) 23:08:10 ID:ylr89ayz0
>>628 問題なしで行きませう。
懐かしいねぇ…あの頃はまだ綴りを知らなくてねぇ。
ときに、最果てのイマは未プレイなんだけど、誰かがこれに出てくるイマがエターナルだとか行ってたきがするんだけど、ほんと?
流れをぶったぎってSS投下 開始します
今回は青い人のお話です
「ふう、これで終わりね」
さんさんと降り注ぐ陽の光の下、庭の物干し竿には
布団のシーツやら仲間たちの衣服が大量にかかっていた。
洗濯機もないこの世界でこれだけの量の洗濯をするのは決して楽ではない。
ようやく一仕事を終え、セリアは一息つくことができるのだった。
食卓まで来ると、お茶を淹れてくれたヒミカが労いの言葉をかけてくれる。
「お疲れ様、セリア」
「本当に疲れたわ・・・今日はもう何もしたくない位よ」
そういってセリアはお茶を啜る。
疲れた体に、お茶の成分が染み込んでいくような感覚が気持ちいい。
「たっだいまぁ〜!」
「ただいま〜」
やっと肩の力が抜けたかと思っていると、玄関の方が騒がしくなる。
「あ、ネリーとシアーが帰ってきたみたいね」
そう思った瞬間、セリアの肩はまた重くなった。
「はあ・・・・・・やっと終わったと思ったのに」
「まあまあ、そう言わずに行ってきて」
苦笑いするヒミカを尻目に、セリアはずんずんと玄関の方に向かった。
・・・・・・案の定、そこには外で遊んで泥だらけになった双子。
そして、また怒鳴り声が響くのだった。
「二人ともっ!また泥だらけで帰ってきて!」
「だってぇ〜」
「だってじゃないのっ!洗濯するほうの身にもなってちょうだい!
ほら、さっさとお風呂場で脱いできなさい!」
びしっと風呂場のほうを指差す。
「ぶぅ〜わかったよぅ」
シアーは、セリアが怒鳴った瞬間から固まったままだった。
「シアー、返事は?」
額に青筋を浮かべて細目で睨み付けると、ようやく返事をする。
「ひゃ!あ、う、うん、わかった〜」
そうして、二人はとことこと風呂場にかけていくのだった。
「全くもう・・・」
はあ、とセリアは溜息をつく。いつもいつもあの二人は洗濯物を増やしてくれる。
外で元気に遊ぶのはいいことだが、毎回泥だらけになるのは勘弁して欲しかった。
二人分の洗濯物と道具を持って、セリアは水道のところへと向かう。
「まあ、サイズが小さい分は楽だけど・・・でも、次私のときに増やしたらおやつ抜きよ・・・」
ぶつぶつと文句を言いながら、手際よく衣服の汚れを落としていく。
15分ほどで、作業は完了。パッと物干し竿にかける。
「はい、おしまい・・・ッ!?」
突然、頭が痛くなる。その痛みは、締め付けるようにセリアを襲った。
神剣の干渉とは違う、体の芯に伝わらない、頭だけの痛み。
「(あ、頭が・・・割れそう・・・・・・あ、あれ?)」
強烈な痛みが走ったかと思うと、今度は突然収まった。
何かと思ったが、疲れているんだろうと思って気にしないことにしたのだった。
ガッシャーン!
何かが割れるような音が響く。どうやら台所からのようだ。
セリアの頭の中で思い出される。今日は洗濯と掃除は自分の役目だったことを。
「ああ〜!もう!」
だんだんとイライラしてくる。どうして今日に限ってこんなに忙しいんだと。
頭上に怒りマークを浮かべて、セリアは台所に向かうのだった。
台所に着くと、そこにはネネジュースまみれになったニムントールがいた。
「あ、セリア!」
「ニムントール、これはいったいどうしたの?怒らないから正直に言いなさい」
「ゔ、えと、ネネジュース飲もうと思って取り出したら、手が滑っちゃって・・・」
ぎろり、とセリアはニムントールを睨む。
「こうなったら、わかってるわね?掃除、手伝いなさい」
「そんな、めんど・・・」
面倒なことやだ、と言うまもなく、セリアの雷が館中に轟いた。
「 手 伝 い な さ い !!」
「う、うう〜(何でこんな目に〜)」
ニムントールは、半泣きになりながら掃除を手伝う羽目になったのだった。
ネネジュースは果実を搾ったジュースなので、こぼすとなかなかベタつきが取れない。
やっとのことで掃除を終えたセリアは、食卓でヒミカと談笑していた。
「ははは、そりゃ災難だったわね〜」
「もう、うんざり。おかげで喉が痛くて痛くて・・・」
「でもま、ネリーたちは今日はもう出かけないだろうし、ニムントールは同じ失敗は繰り返さないからね。
もう今日は力抜いちゃって大丈夫だと思うよ」
「あの子達と私の休日が重なる限り、休息は無い気がするわ・・・げほげほ」
思わず咳込む。
「大丈夫?」
「平気よ。年少組が騒ぎを起こすなんて日常茶飯事なんだから・・・え?」
どういうわけか、セリアの視界が白くぼやける。目の前のヒミカの顔が良く見えない。
景色がゆれている。何が起こったのか、セリアには良くわからなかった。
「ちょっと、セ、セリア!?」
「あ、う・・・」
目に見えるもの全てがぐらぐらと揺れている。それらが残像を織り成し、
まるで催眠術でもかけているかのようにセリアの全身の感覚を奪っていく。
・・・どさっ
次の瞬間、セリアの体は真横に倒れた。
天地がひっくり返ったような感覚の中で、セリアの意識は闇に消えたのだった。
「〜〜!! だ、誰か早く来て!セリアが、セリアが倒れた!!」
セリアは、ヒミカによって部屋のベッドに寝かされていた。
「・・・どう?」
「だめですね〜、全然魔法が効きません〜」
「そんな!ハリオンでも治せないなんて、一体どうしたって言うの?」
セリアは、全身汗だくになり、高熱を出して倒れていた。
意識はあるのか無いのか、息を切らしていてとても苦しそうだ。
ヒミカの救援を聞きつけたハリオンに魔法をかけてもらうが、一向に回復する気配は無い。
しばらく困惑していると、悠人がヨーティアとともに部屋に飛び込んできた。
「セリア!大丈夫なのか!?」
「大丈夫・・・そうには見えないね、こりゃ」
二人はセリアに近づく。危険な状態であることは医学素人の悠人にもすぐにわかった。
「ヨーティア様、セリアは一体どうしてしまったのですか?」
ヨーティアは色々と検査を始める。
こういう方面にも天才肌なのか、すぐに結論を導き出した。
「ふむ、高熱に異常発汗、激しい息切れに、不安定な脈拍。考えられる可能性は唯一つだね」
「それは、一体?」
「おそらく、極度のストレスと過労から来る高熱病。しかも、かなり重度の、ね」
「高熱病・・・!!」
「どうやったら〜、治せるんですか〜?」
ハリオンがそう言うと、ヨーティアは難しい顔をしていた。
少しの沈黙の後、ようやくヨーティアは口を開く。
「今までに、ここまで重い症状には会ったこと無いからね・・・流石に、確実に治すって言うとお手上げだね」
「そんな!セリアを見殺しにするしかないのかよ!?」
だが、ヨーティアは『天才に不可能は無い!』と言う具合に反論する。
「おい、方法が無いとは言ってないだろ?ただ・・・」
「ただ、何だよ」
「ただ・・・確率が限りなく低いんだ」
「確率が低い、ですか?」
ヨーティアは、科学者っぽく説明を始める。
「この病気は、かなりやばい方の病気でね。不治の病として大学でも厄介扱いされてたのさ。
そもそも、この病気は、脳のXX分泌液が、全身の筋肉と神経に影響を及ぼして・・・」
ヨーティアはこうなると長い。聞いている時間がもったいなかった。
「やばいことは判った!!能書きはいいから要点だけ言ってくれ!」
「人の話は最後まで聞くもんだぞ・・・まあ今回は緊急事態だからいいか」
「結論から言うとだ。この病気を治療するには、特効薬を作って飲ませりゃいい」
「・・・・・・はぁ」
やたらと真面目な解説の後の割にはなんだか拍子抜けする治療法だった。
しかし、現実はそうはうまくいかないものだ。
「確率が低いっつったろ?その特効薬の材料が問題なんだ」
「なかなか手に入らないものなんですか〜?」
「・・・特効薬の材料は二つ。一つ目は、エヒグゥの角。もう一つは、
リクディウス山脈の森に生えているという夜光草さ。」
「エヒグゥの角って・・・」
まさかとは思うが、オルファのハクゥテを使う気じゃないだろうな。
もしそうなったら、セリアは治せてもオルファからは一生怨まれそうだ。
「ああ、それは私の標本を使う。それよりも、後者のほうが問題だ」
そりゃありがたい。流石にハクゥテを使うわけなかったか。
「夜光草ですか」
「そう、その草は、光の無い夜にしか見つからない上、今まで見つかったケースが恐ろしく少ない。
私もまだ書物でしか読んだことは無いっていうとんでもなく貴重な代物なのさ」
「恐ろしく少ないって・・・」
ヨーティアは、かなり言いにくそうに口を開いた。
「30年に一度、見つかれば運のいいほうなんだよ・・・。
私の記憶が正しければ、最後に見つかったのは・・・およそ120年前」
「な、なんだって・・・」
「ひゃ、120年前ですか〜?」
ある意味で天文学的な数字だった。
こんな緊急事態に、そんな伝説めいたものに頼ることになるなんて。
「・・・もう暗くなってきた。見つけるとしたら、すぐにでも行かなきゃ駄目だね」
急がなければいけないと知った瞬間、
悠人は、さっきから知りたかったことを聞いてみた。
「セリアは、後どれ位持つんだ?」
「すでにかなり病状が悪化していたみたいだからね・・・もって、あと3時間」
「う、うそだろ・・・」
3時間以内に30年に一度見つかるかどうか判らない薬草を見つけるなんて、無茶な相談だ。
このときやっと、部屋にいた者全員が『確率が限りなく低い』の意味を理解したのだった。
「でも、セリアを助けるためにはこれに賭けるしかないよ」
「そ、そうだな!すぐにスピリット隊を総動員して、捜索に当たるんだ!」
メンバーを招集しようと悠人は部屋を飛び出そうとするが、ヨーティアに止められた。
「ちょっとまった!ユート、お前はここでセリアを看ていろ」
「な、なんでだよ」
「悪いけど、夜光草がどういうナリしているかは私しか知らないからね
今回の指揮は私が取る。ユートは、隊長としてセリアの身を案じてやっててくれ」
どうしてそうなるのかは判らなかった。だが、こんなときは天才の言うことは
素直に聞いたほうがいいと思ったのか、悠人はうなずいた。
「では、ユート様、セリアのこと、よろしくお願いします」
「すぐに、見つけてきますからね〜」
「頼むぞ・・・!」
───タイムリミットまで あと 2時間53分
セリアは相変わらず汗をかいて苦しそうだった。
悠人は、自分何かできることはないかと模索するが、回復魔法が効かない以上、
どうしていいかわからなかった。
「くそっ、指をくわえてるしかないのか!」
何もできない自分をうらんでいると、後ろのドアが開かれ、誰かが入ってきた。
「・・・誰だ?」
「・・・ネリーたちだよ」
振り向くとそこには、ネリーとシアー、それからニムントールがいた。
よほどセリアのことを心配しているのか、その目には涙が浮かんでいた。
「・・・どうしたんだ?早く、探してきてくれ」
思わずいらついたような口調になる。
ネリーは、かすれたような口調で質問してきた。
「ねえ、ユート様。セリアお姉ちゃんが病気になったのって・・・ネリーたちのせいなの?」
「・・・え?」
「・・・さっき、ヨーティアが言ってた。セリアの病気は、イライラしてたせいなんだって」
「シアーたちが、セリアお姉ちゃんを忙しくしたから、病気になっちゃったって・・・そうおもったの」
ようやく質問の意味が理解できた。
ネリーたちがセリアに世話を焼かせっぱなしだったから、
そのせいでセリアが精神的に追い詰められて、病気になってしまったんじゃないかと。
「・・・・・・そうかもしれないな」
「や、やっぱり、そうなの?」
「くっ・・・そんな」
「そんなの、いやだよぉ・・・シアーたちのせいで、セリアお姉ちゃんが死んじゃうなんて・・・」
シアーは号泣しそうになる。酷だとは思うが、そうだとでも言わないと、
事の重大さを伝えられそうにはなかった。
「そう思うんだったら、早くセリアのために薬草を探してこなきゃな」
悠人はそういって、三人の頭をなでてやる。
「う、うん、わかった!ネリー、がんばるよっ!」
「セリアお姉ちゃん、死なないでね〜・・・」
「私も、がんばる。もう、面倒なんて言わないから!」
その目は希望の光に満ちていた。
「(そうだ、みんな頑張ってくれ・・・!)」
そうして、悠人は走り去ってゆく三人にエールを送るのだった。
───タイムリミットまで あと 2時間27分
「ヨーティア様、目標地点に到達しました」
と、エスペリアの声が森の中にこだまする。
夜ということあって、辺りは真っ暗。ハイロウの光だけが頼りだった。
「よし。いいかい、みんな。今回探す夜光草は文字通り、闇夜で光り輝く草だ。
つまり、少しでも光があると見つからなくなってしまうからね。ハイロウは閉じるんだ。
月の光がほとんど無い今がチャンスだ・・・急ぐよ!」
とはいっても、暗闇の森は歩くだけでも自殺行為だ。
足元が判らないのはおろか、方向感覚すら奪っていく。
「ウルカ、ヘリオン、ファーレーン。もしもの時はみんなを導くんだ。
暗闇に強いのはあんたたちだけだからね」
「承知!」
「わ、わかりましたっ!」
「はい!急ぎましょう!」
ブラックスピリットは他のスピリットよりは暗闇での認識能力は高い。
しかし、月の光も無い夜では、その差も雀の涙程度だった。
「くっ・・・」
探せども探せども、夜光草は見つからない。
それよりも、今自分が何処で、どっちを向いているのかすら判断できない。
ヨーティアの予想通り、捜索は難航を極めるのだった。
───タイムリミットまで あと 1時間59分
「まだか・・・まだなのか?」
もう一時間も経つ。悠人は、セリアの汗を拭ってやることしかできなかった。
「はぁ・・・はぁ、う、くうぅ・・・」
こんなにも時間が経ってしまったのだから、いつまでも症状が同じと言うわけにはいかなかった。
どんどん病状は悪化していく。目の前の人が死んでしまうのではないか、
そういった恐怖で悠人の心は一杯になる。
「俺・・・やっぱり、無力だよな」
初めてセリアと会ったときのことを思い出す。
エスペリアの支援を受けてやっと戦場に立っていられた自分に、どれだけの無力感を覚えたことか。
隊長としても、悠人個人としても信頼されず、強くあろうと思った。
あれからどれだけの時を過ごしてきたのだろうか、確かに悠人は強くなった。
セリアと真正面から話して、やっと信頼を得たって言うのに。
でも、どれだけ戦争に慣れたって、力が強くなったって、
目の前の病気に苦しむ仲間一人を救うことすらできない。
何のためにいままで強くなろうとしたんだろうか、何も判らなくなっていた。
「・・・みんな、がんばっているんだよな」
だが、何もしないわけにはいかない。効かないって判っているけど、やらずにはいられない。
悠人は、『求め』からオーラフォトンを展開し、回復効果のあるオーラをセリアに注ぐ。
「・・・う、ううっ・・・」
「頼む・・・みんなが来るまで、持ちこたえてくれ・・・!」
───タイムリミットまで あと 1時間20分
「シアー!聞こえる?どこにいるの〜!?」
「ネリー〜!ここだよぅ〜」
暗闇で何も見えない。それでも、声で連絡が取れるだけ幸いだった。
「あった〜?」
「何も見えないよ〜」
「もっと、いろんな所探さないと・・・!」
「じゃあ、反対のほう行ってみようよ〜」
これでも、十分な範囲を探索しているはずだった。
闇夜に光る草なのに、光のカスすら眼に入れることはできなかった。
「えっと、こっちは〜」
シアーは足を進める。その直後、足場の感覚がなくなった。
「あ!き、きゃあああぁぁ〜!」
そこは切り立った崖だった。足を踏み外し転落しそうになるが、なんとか木の根を握って持ちこたえていた。
「や、ああ、あううぅ〜」
どんどん力が抜けていく。転落したらただではすまないだろう。
「そ、そうだ!ハイロウ・・・」
シアーはウィングハイロウを展開しようとするが、ヨーティアに口をすっぱくして言われたことを思い出す。
「だ、ダメ・・・光、出しちゃ・・・あぁぁ・・・」
こうなったら、助けを呼ぶしかない。
しかし、みんなもハイロウを展開していない。ここにきたら、自分の二の舞になる。
どうしたらいいのか、さまざまな考えが頭の中で螺旋を描く。・・・何も思いつかない。
「い、いやぁぁ・・・ね、ネリー!助けて!たすけてえぇぇ〜!!」
その悲鳴は、幽かながらネリーの耳に届いた。
「・・・・・・リー!・・・て・・・すけて・・・」
「シアー!?どこ!?何処にいるの〜!?」
声のしたほうに走る。
しかし、行けども行けどもあるのは深い闇。
「シアー〜!!」
「ネリー〜!ここだよぅ〜!!」
今度ははっきりと聞こえた。そう遠くは無い。
「これじゃ判らないよ〜、くっ!しょうがないっ!」
キイイィィィン・・・
ネリーは思いっきりハイロウを展開した。
その光はあたりを照らし、切り立った深い崖をもはっきりと映し出していた。
「シアーっ!!」
シアーを発見するなり、ネリーは翼を広げて崖に飛び込み、
Uターンして下からシアーを掬い上げるように助け出したのだった。
安全なところまで飛んでいき、着地するとネリーはハイロウを閉じる。
「ふう・・・」
「ど、どうして・・・?光、出しちゃいけないのに・・・」
シアーは本気で疑問に思っていた。光を出したら、夜光草が見つからなくなるかも知れない。
誰かがその光を勘違いしてしまうかもしれない。だから、ハイロウを展開しなかったのに。
「このバカぁっ!!」
「!!」
ネリーにバカなんて言われたことなかった。
シアーは自分の耳を疑った。今起こっていることが信じられなかった。
「シアーが犠牲になって、セリアお姉ちゃんが喜ぶの!?」
「あ・・・う、う」
「そうじゃなくても、セリアお姉ちゃんが助かるかわからないのに・・・
シアーまでいなくなったら、ネリー、生きていけないよっ!!」
怒りと悲しみに染まって、涙で濡れたネリーの顔。
こんな顔、見たことなかった。見たくなかった。
それなのに、シアーの瞳にはそれがはっきりと映っている。
「だからさ・・・ひっく、ネリーと一緒に生きてよ・・・ひっく、シアー〜!」
「ネリー〜!ネリー〜!!う、うわあああぁぁ〜ん!!」
二人は抱き合って号泣した。お互いの頬を、お互いの涙が伝う。
死んでしまったら二度と感じることのできない温もりを、お互いに感じ取っていた。
───タイムリミットまで あと 56分
しばらくして、二人とも少し落ち着いてきた。すると、シアーはある違和感に気づいた。
「あれ・・・?」
「・・・?どうしたの、シアー?」
「どうして、ネリーの顔が見えるの?」
「そ、そういえば、ネリーもシアーが見えるっ!!」
おかしかった。さっきまで数センチ先も見渡せないような暗闇だったのに。
二人は、あたりをきょろきょろと見渡して、光の元を探った。
「あ、あれっ!!」
「あ〜〜!!」
ネリーが指差す先、そこには、青白い光を放つ一輪の花が咲いていた。
「あれが、夜光草かな〜?」
「きっとそうだよ!だって、すごく光ってるもん!!」
命がけでようやく見つけた薬草。これで、セリアを助けることができる・・・!
「やった!やった、やったあああぁぁ〜〜!!」
「やったぁ〜!」
二人は、抱き合ったままぴょんぴょんと飛び跳ねるのだった。
ただうれしかった。これで誰も死なずにすむから。
そして、二人は夜光草を摘み取り、
大急ぎでヨーティアの元に戻った。
「でかしたっ!大至急で、調合するからね!」
ヨーティアは薬草調合の専門書を見ながら、
すり鉢状の道具で二つの材料をすりつぶしていく。
20分ほどすりつぶしているうちに、それらは混ざり合ってペースト状になった。
「そんで、ちょいっと水を加えて・・・っと、よし、出来たぞ!!」
ヨーティアはその液体を瓶に移した。
そしてついに、毒々しい色で液体状の特効薬が出来上がったのだった。
「二人とも!これを急いでユートに届けるんだ!他のみんなは、私が集めて後から行かせるからね」
「うん!りょうかいっ!!」
「ネリー〜、行こう〜!」
二人はウィングハイロウを展開し、全速力でラキオス城へと戻っていった。
───タイムリミットまで あと 8分
「はぁ・・・はぁ・・・」
「くそっ!もう時間が無い・・・!」
残り10分を切った。当然、回復のオーラは何の意味も成さずに。
このままでは、本当に死んでしまう。
「はぁ・・・ぁ・・・」
「!?」
突然、セリアの息切れが止まる。
それを境に、苦しそうでも動いていた体もぴたりと止まってしまった。
「ま、まさか・・・!」
悠人はセリアの手首に親指をしっかりと当てる。
脈動は確実に弱まっていた。
「う、嘘だろ!?セリア!セリア!!返事をしてくれ!!」
必死で呼びかけるが、それに応える声はなかった。
悠人の背筋が凍りつく。体ががたがたと震える。
誰も助けることができなかった、悲しさと悔しさが悠人を支配していた。
「く、くっそおおおおぉぉぉーー!!」
全力でオーラフォトンを展開し、ありったけのオーラを注ぎ込む。
だが、やはり何も起こらなかった。
「畜生!畜生おぉっ!」
───タイムリミットまで あと 1分
もうだめなのか、やっぱり自分は無力なのか、そう思っていると、
勢いよく部屋のドアが開かれた。
「ユート様ぁ〜!!」
「お薬、できたよ〜!!」
「!!」
振り向くと、そこには薬の入った瓶を持った双子。
全力で飛んできたのだろうか、ぜいぜいと息を切らしていた。
「ユート様!これ、お薬!」
ネリーは薬を悠人に手渡す。
「もう時間が無い!これに賭けるしかないか・・・!!」
悠人は瓶の蓋を開けて、中の薬をセリアの口に注ごうとするが、
意識がないので飲むことはできない。すぐに漏れ出してしまった。
「ど、どうしよう〜」
飲んでくれない・・・だが、飲まなければ死んでしまう!
「(こうなったら・・・もうどうにでもなれ!!)」
悠人は最後の賭けに出た。
瓶の中の液体をに口に含むと、一気に顔を近づけた。
「ん・・・!」
「「!!」」
そして、自分とセリアの唇を重ね、薬を流し込んだのだ。
ネリーとシアーは、目を皿のようにしてその光景を見つめていた。
ゴクッ・・・
確かに今、薬はセリアの喉を通った。
「く・・・ふぅ、ど、どうだ?」
悠人は恐る恐るセリアの手首で脈拍を取る。
トクン、トクン・・・
自分の脈と比べるが、大差は無い。どうやら、間に合ったようだ。
「は、ははっ、やった!やったぞ〜!!」
「セリアお姉ちゃん、助かったんだね!」
「よかった、よかったぁ〜!!」
部屋の中は歓喜に包まれた。
それと同時に、セリアを助けることができたという達成感が駆け巡ったのだった。
───タイムリミットから 8時間後
闇が、晴れていく。徐々に、光が目の前に広がっていく。
体の感覚も戻っていく・・・ようやく、自分が何処にいるのかを理解できた。
「・・・う、うん?」
「あ、気づいた?セリア」
「・・・ヒミカ?」
ここは、見慣れた自分の部屋。そこのベッドで寝かされていた。
窓からの光が降り注ぎ、そこから吹く風が涼しかった。
「私・・・どうしたの?」
「疲れてたのよ。急に倒れちゃうなんて、びっくりしたわ」
半分は嘘だった。
セリアの中でとんでもない病気があったなんて、伝えたくなかった。
そして、どうやってセリアが助かったのかも・・・
「そう・・・」
だが、なにか嘘めいたものを感じた。
明らかに汗だくだった自分。いまでも微妙にしびれる手。
そして・・・・・・僅かに残る唇の温もり。
「・・・ヒミカ、本当は何があったの?」
「え?」
「ただの過労だなんて、嘘でしょう?本当は、もっと大変なことになったんじゃない?」
「そ、それは・・・」
ヒミカはたじろぐ。本来ヒミカは真面目で嘘はつけない性格。
それでも、こんなに早く見破られてしまうとは思わなかった。
「話して。私、本当のことが知りたいの」
「わ、わかった。でも、後悔するかもしれないわよ・・・」
結局、ヒミカはセリアの迫力に圧倒され、口を割ってしまった。
ヒミカは全てを話した。
とんでもない病気が進行していたこと。貴重な薬を取りに行ったこと。
ネリーとシアーが目撃していた一部始終を。
「な・・・!?ゆ、ユート様が・・・!?」
「わ、私は真実を言っただけよ?ほ、本当のこと知りたいって言ったのセリアでしょ?」
「〜〜〜〜っ!!」
一気に顔が紅潮する。いくら自分を助けるためとはいえ、そんなことされたとは。
さまざまな感情が頭の中を駆け巡る。とりあえず、許しては置けなかった。
おもわず握り締めた右こぶしが、ビキビキと音を鳴らしていた。
「あ、あわわわあわ・・・」
「ヒミカ!ユート様はどこ!?」
「た、多分、第一詰所」
それを聞くなり、セリアは真っ赤な顔をして走っていった。
「し、し〜らないっと・・・」
ここは、第一詰め所の食卓。
いつものように、朝食を済ませた悠人は、エスペリアの淹れたお茶を飲んでいた。
ゾクッ・・・
「!?」
どこからともなく、蒼い殺気が悠人に突き刺さる。
その殺気は徐々に強く、そして、だんだん近づいてくる。
「・・・な、なんだ!?」
逃げたくても、動けなかった。その殺気は、完全に悠人だけに向けられ、動きすら封じていた。
カップを持つ手がカタカタと振るえる。指一本すら悠人の意識を離れていた。
バッターン!
勢いよく玄関のほうから扉の開く音がする。
その音の主が近づいてくるのがわかる。怖い、怖くて仕方がなかった。
それなのに1センチも動くことができない。
そして、その殺気の主が悠人の目の前に現れたのだった。
「 ユ ー ト 様 ッ !!」
「あ、ああ、セリア、目が覚めたんだ」
「目が覚めたんだ、じゃありません!!」
セリアはずんずんと接近してくる。怒りと恥ずかしさを露にした表情で。
そして、本当に目と鼻の先まで顔を近づけてくるのだった。
「(ち、ちかっ、近いって!)」
「どうして、あんなことしたんですか!?」
「あ、あんなことって・・・?」
「とぼけないでください!ヒミカから聞きました、私に薬を、く、口移しで与えたことです!」
悠人は思い出していた。確かに、セリアに薬を飲ませるために口移しをしたことを。
しかたがなかったとはいえ、流石に行き過ぎたのだろうか?
そんな考えが悠人の中を通り過ぎる。
「いや、あれは、仕方がなかったんだ」
「仕方がなかった、ですって・・・?」
セリアの顔の怒りの色が強くなる。どうしてそんな顔をするのか、悠人にはわからなかった。
「私のことなんて、どうでもいいじゃない!」
「な・・・!?」
「私はスピリットなのよ?スピリットが一人死んだところで、大した支障が出るわけでもないじゃない!
それなのに、どうしてわざわざあんなことまでして助けようとするの!!」
「!!」
「答えて、どうして、あんなことしたの!」
セリアのとんでもない発言を聞いたとたん、悠人の表情も怒りに染まっていった。
さっきセリアが飛ばしてきた殺気など、もう気にも留めていなかった。
バチイイィーーン!!
───そして、悠人の右手はセリアの左頬を薙ぎ払った。
「〜〜ッ!?」
セリアは信じられない、と言った表情だ。
「な、どうして・・・?」
「ふざけるなっ!!」
「!!」
「もう二度と、自分のことをどうでもいいなんて言うんじゃない!!」
どれくらい耳にしてきただろうか、
『私はスピリットだから』という呪われた言葉。
エスペリアやファーレーンが口にしていた悲しみ交じりの、宿命を覚悟した言葉。
もう二度と聞きたくないと思っていた。
「セリアが前に、言ってたよな。ヒミカに、自己犠牲は迷惑だって。
今のセリアは、自分の命を軽く見ているじゃないか!あの時のヒミカにそっくりだ!」
「そ、そんな、違う、私は・・・」
「違わないッ!逆に聞かせてもらうけどな、セリアが死んで悲しむのは誰だと思っているんだ!
取り残されたみんなはどんな気持ちでいればいいんだよ!?」
「そ、それは・・・」
「俺は、誰にも死んで欲しくないんだよ・・・俺たち、仲間だろ?仲間を助けて、何が悪いんだよ!」
「!!」
悠人の悲痛な叫び。それは偽らざる本音であり、
自分の命を軽く見ているスピリットたちに一番伝えたい言葉だった。
その叫びはセリアの心に深く突き刺さった。
悠人がどれだけ自分のことを心配してくれていたかをもろに感じてしまい、
どうしてあんなことを言ってしまったのか、罪悪感がつもっていく。
「だからさ・・・もう、あんなこと言わないでくれ・・・」
「ユート様・・・ごめんなさい・・・私、どうかしてたわ・・・う、ううっ」
涙が溢れる。
悠人は誰も失いたくないと言う思いを、
セリアは反省と感謝の思いを、その涙に乗せて・・・
悠人はポケットからそっとハンカチを取り出し、セリアの涙を拭ってやる。
いつまでも泣いていては、その透き通るような青い瞳が台無しだった。
「あ・・・ユート様、すいません、ちょっと、目を瞑ってください」
「え?」
何を突然言い出すのか、悠人はあっけにとられるが、とりあえず言うとおりに目を瞑った。
悠人が目を瞑ったのを確認すると、セリアはその細い両腕を悠人の顔に伸ばしてくる。
そして、セリアも目を瞑ったかと思うと・・・
ちゅ・・・
「!!」
「・・・これは、私の感謝の気持ちです」
そして、くるりと踵を返し・・・
「ユート様・・・・・・ありがとう」
そう笑って告げると、セリアは、青いポニーテールの髪を靡かせながら、消えるように去っていった。
悠人は今起こっていることが夢のように感じた。
あのセリアが、ここまで素直になるなんて、信じられないことだった。
念のために、頬をつねるが、とてつもなく痛い。どうやら夢ではないらしい。
少し呆然としていると、何処から見ていたのか、第一詰所のメンバーが飛び出してきた。
「ユート様?こうなったら、ちゃんと責任を取らないといけませんよ?」
「ふふふ〜♪パパ〜?オルファ、見ちゃったからね〜」
「これは面白くなってきそうです。ユート殿、手前は影から応援しております故」
「ん、ユート、今度セリアを泣かせたらひどいぞ」
「な、見てたのかよ!?」
「それだけじゃありませんよ?」
どいつもこいつも悪戯っぽくニヤニヤと笑っている。
「さっきのが二度目の口づけということは、もう皆に知られています」
「な、なに!!?」
思わず『求め』を通じて神剣の気配を探る。
すると、そこらじゅうに、13本の神剣の気配があったのだった。
「な、な、なな、なああああぁぁぁ〜〜〜!?」
「パパ、オルファたち、ずっと見守っててあげるからね♪」
なんてこったいと思っていると、廊下からヨーティアとイオが入ってきた。
「いや〜、まさかそう来るとはね〜、いやいや、あっぱれあっぱれ」
「ユート様、只今の音声は、『理想』を通じて全員に聞こえるようにしておきましたので」
「お、おいおいおいおい!!」
完全に筒抜けだったとは。恥ずかしさで体が爆発しそうだった。
「というわけだからな、ユート、がんばるんだぞ」
「う、うわあああぁぁぁ〜〜!!」
第二詰所に戻る途中、セリアは振り返る。
悠人の方向を見つめるその瞳は、慈しみの光で満ちていた。
「ユート様、私は・・・・・・」
そこから先の言葉は、遥か先の出来事まで明らかになることはなかった───。
以上です
またまたヘタレユートです
ツンデレ分が不足しているかな?
・・・はい、お葉書いただきました
え〜と、前半出ていたニムが後半全然出てね〜ぞ だそうです
・・・・・・許してください、流れ上の仕様です(´・ω;;;;;:::::......
>>659 乙です。えっと475k越えてしまったので取りあえずスレ建ててきますね。
おつかれさまです、くじらさん。
他の方々の作品でもそうなのですが、セリア分ごっつぁんです。
あと、ネリシア分もなかなかに(頬がゆるみまくり)
…て、マナの霧に還りかけてるぅ!?
二、二ムぅ!二ムーッ!リヴァイヴをぉぉッ!!
>659
乙〜
ユートらしいところが出てて読後感が良かったです。あと、オチも(笑)
近頃セリア人気で個人的に嬉しー ビバ、ツンデレ。
なんとなく、13本の神剣の気配と言う野次馬表現が良さげ。
と言うか、セリアも気づけ(笑)
>>659 ネリシア、大変良く出来ました。
ヘタレ返上悠人。眠れる森の王子様に大変身。
この後詰所では掃除洗濯役を争う不届き者が数人出たとか何とか。
しかしツンデレお姫様はやっぱりちゃんと叱ってくれる人に転ぶのかw
665 :
蒼熱恋慕:2005/10/30(日) 20:36:13 ID:jxDRTOjE0
それは、本当に突然だった。
彼の唇が私のそれに重なり、口腔内に滑りを持った肉が差し込まれる。
最初は呆然としていた私だったが、強引に絡まされた舌の感触に我に返った。
彼の胸を突き飛ばそうとし……そこで初めて彼に抱きしめられていたことに気付く。
力強く私の背中に腕を回している。スピリットとはいえ女である私は、その力に
敵うはずもなく、ただ身を任すしか他なかった。
「ふっ…む、うぅん……」
熱い。体の中が沸騰しそう。
彼の舌がそうしているのか、それとも、私の中の彼に対する感情がそうしているのか。
体の中のマナが暴れ狂っている。止められないほどに。
彼の喉が動く。ああ……私の唾液を、飲んでいるんだ。
そう考えると、更に体が熱くなった。
いつしか私は抗うことを止め、彼の舌を受け入れていたことに気付く。
だって、しょうがないじゃない。少なからず……認めてはいなかったけど……好意を抱いていた相手。
彼にここまで求められて…抗うなんて、到底できそうもない。
熱病に犯されたように霞がかかる頭。だけど、彼が与える感触だけはクリアで、
はっきりと私が求められていることがわかる。
突き放そうとしていた手は、いつの間にか彼の背中に回っていた。
夢中で絡まされていた舌は、いつの間にか私の唇から離れている。
だけど、視線は離さなかった。黒い瞳が私を見据えている、
それだけで私は……どうしようもなく、彼を欲していたのが、わかってしまった。
「 」
彼の唇が動く。名前、だろうか。その言葉は耳に聞こえたのだけれど、私の中に入らない。
「 」
私の唇が動き、彼の名前を紡いだ。
申し訳程度につけていた敬称など捨て、彼を求めている、言葉を。
ぎゅ、と私を抱きしめている腕に力が籠もる。
それに劣らないように、私も彼を抱きしめていた。
ああ、彼の体はこんなにも暖かい。そして、心地いい。
すう、と息を吸い込み、彼の匂いを肺に満たして初めて気付く。
666 :
蒼熱恋慕:2005/10/30(日) 20:36:48 ID:jxDRTOjE0
こんなにも愛おしい。こんなにも欲している。
不意打ちのようなキスをされただけ。それだけで私は気付かされてしまった。
私は、彼を、愛しているんだ……
私より少し背の高い彼。その瞳を覗き込み、少しだけ背伸びをして私は彼にキスをした。
触れるだけのキス。唇を軽く重ね、少し離した後にもう一度。今度は長く。
柔らかい唇の感触だけが私の全てになった。頭を占める幸福感。
それを幾度も味わいたいと、私はキスを繰り返す。
「ん、ちゅ、ふ……」
舌で唇をなぞる。薄く開いた唇に割り込み、彼の歯を一本ずつなぞる。
頬の内側を舐めあげて、唇を離して彼の舌を要求した。
懸命に伸ばしてくる彼の舌。それを唇で挟み、少しだけ引っ張った。
彼の顔が快感で占められているのを見て、私も内の中のそれに気付いた。
触られたい、触りたい。撫でられたい、撫でたい。
愛されたい。そして、彼を、愛したい……
それに気付いたとき、私のナニカが消え去った。
抱きしめていた腕は解かれ、背中から柔らかいベッドに倒れ込む。
彼もまた私の上に覆い被さってきた。
再び絡み合う視線。だけど今度はキスはなかった。
「…その、な。いまさらだけど……いいか?」
…まったく。今更ながら彼の鈍さにため息をついた。
「嫌なら、最初からはね除けています」
上体を少しだけ起こし、軽くキスをしてから私は言葉を続けた。
「…ユート。愛しているわ、心から」
多分私の顔は真っ赤になっているだろう。彼の顔もそうなのだから。
そして、彼もまた私に言葉を向ける。
あたたかい、私を求めるその言葉を。
「ああ……セリア、愛しているよ」
そう言いながら近づく彼の顔。
もう何度も繰り返したキス。飽きもせずに、私も彼の唇を貪った。
数回舌を絡ませ、ユートの手が私の胸に添えられた。
667 :
蒼熱恋慕:2005/10/30(日) 20:37:47 ID:jxDRTOjE0
こういう時は恥ずかしがるのがいいのか、それとも、欲しいことを伝えたらいいのか。
頭の片隅で冷静に考えようとするけど、本能がそれを拒んだ。
「あ…待って」
彼の袖を掴み、少しだけ止める。それだけで子犬のように困ったような顔をするんだから…
少しだけおかしさがこみ上げて、微笑みながら告げた。
「服、脱がないと…」
あ、と彼も気付き、慌てて起きあがる。
それが面白くて、クスリと笑ってしまう。
私は寝転んだまま服の前を開け、少しだけ体を浮かせて上半身の服を脱ぎ去った。
…彼の息を飲む音が聞こえて、急に恥ずかしくなった。
それだけなら何とか耐えられるけど……
「―――綺麗だ」
なんて本当に真剣な顔で言われたのは、本当に恥ずかしかった。
だから、
「ユートも、脱ぎなさい」
なんて冷たく言ってあげたら、慌てて脱ぎ始めた。
彼の服は簡単なもので、ものの数秒でその全てを脱ぎ終わった。
―――こんなにも違うんだろうか。男の人の身体とは。
鍛え抜かれた身体。所々に傷痕がついている。幾多ものスピリットと戦い、負った傷。
そ、そして…彼の、そ、その……は、おおきくなって、いた……
あれが私の中に入るんだろうか…どう考えても、サイズが合わないと思うのに。
まじまじと見てしまう…と、彼が手でそこを隠した。
「あ、あまり見ないでくれ」
…嫌でも見ることになるのに。
なんて少し考えたけど、私だって裸を見られるのは恥ずかしい。それと同じなんだろう。
二人とも生まれたままの姿になってベッドに座る……気恥ずかしいわね…
668 :
蒼熱恋慕:2005/10/30(日) 20:38:21 ID:jxDRTOjE0
ごくり、と彼の喉が鳴った。
「…セリ、ア」
言葉と一緒に伸びてくる右手。
胸へと向かってくるそれを、私は両手で掴んで導いた。
そして、私に、彼が、触れた。
「んっ…ぅ」
触れただけ。それだけなのに、暖かさが身体に流れ込んでくるよう。
彼の手の平が私の胸を押しつぶして、そこで少しだけ止まる。
添えられた手が少しずつ曲げられて円を描くように動いた。
「は、あ……」
思わず息が漏れてしまった。はしたないって思われないかしら……
でも、ユートの手の平はそれほどまでに気持ちがよかった。
ぐっ、と押し込まれると思ったら指が胸の先端を軽くつまむ。
人差し指と親指で挟まれ、くっと力を籠められた。
「ひぁぅっ!?」
強い責めに声が跳ね上がってしまった。
痛い、のに、なんでこんなに気持ちいいんだろう……
力を籠められ、だけど痛みは少なくなり、私の胸の芯が熱くなっていく。
「固くなってるな、セリア」
〜〜〜っ!!
そんなことっ!……と、言いそうになったけど、堪えた。
そんな反応が欲しいんだ、この人は。
だから私は声に出さず、キッと彼を睨んだ。
だけど、ユートはにこりと微笑んだだけ。
「……ホント、狡いんだから」
その表情に観念し、彼の愛撫に完全に身を任せた。
どうなってもいい。彼なら、決して私を傷つけないだろう。
なにより……私が、彼に好きにされたい。
669 :
蒼熱恋慕:2005/10/30(日) 20:39:29 ID:jxDRTOjE0
「来て、ユート…」
頭に手を回し、何度目かわからないキスをかわす。
絡まる舌の熱さ、ぐらぐらと沸き立つ感情。
好き、この人が、どうしようもなく、好き。
抑えても抑えきれない彼への想いは、私を狂わせるのには充分だった。
「はっ、あうっ!うあぁっ!!」
唇を離し、彼の愛撫に素直に声を上げている自分に気がついた。
胸に、鎖骨に、耳に、唇に手を這わせ、舌を這わせ、吸う。
首に何度も彼の印を刻まれて、私ははしたない声を隠さずにあげた。
そして、彼の手が私のおなかを通り……誰にも触れさせたところのない場所へ、たどり着く。
息が止まる。期待と、恐怖と、羞恥に頭が掻き乱される。
彼も躊躇っているのか、私の…その、おへそ、のあたりで手を止めている。
…まったく、しょうがないんだから。
散々私の反応を見て楽しんだくせに、いざとなったら後込みする。
ヘタレ、と心の中で呟いてから、彼の手に自分の手を重ねた。
…汗ばんでるわね。ユートも緊張しているんだ。
少しだけ余裕ができた。そうだ、彼も…一緒なんだ。
重ねた手を少しずつ私の…その…大切なところに、導いた。
「―――っっ、ぁう!?」
ほんの少し、指先が触れただけ。
それだけなのに、私のあたまに、火花がはしった。
ずん、と重くなる腰。おなかの下から突き上げられるような感覚。
なに――これ?
ただユートの指が触っているだけ。ユートの指が動いているだけ。
なのに――なんで、こんなに……気持ちいいの?
花芯をつつかれ、指を噛んで声と快楽を堪える。
真っ白になりかけた頭に水音が聞こえて、また顔が熱くなった。
濡れ、てる…私…
670 :
蒼熱恋慕:2005/10/30(日) 20:40:50 ID:jxDRTOjE0
くちゃりくちゃり、と耳に聞こえてくる。それを彼は指に絡め、私のあそこを弄っている―――
本当、顔から火が出そう…っ!?
圧迫感。突然感じたそれの後に、今までよりも強い、強すぎる、痛いくらいの刺激。
今まで感じていた外からの衝撃ではなく、私の中…本当に、私の中から突き刺されている。
「―――っぁ!ひんっ!」
抑えていた声が漏れてしまった。
恥ずかしい…けど、もう止まらない。
「はぅっ!ひ、んあ―――ッッ!!」
押し込まれ、曲げられ、ぐちゃぐちゃに掻き回してくる、彼の指。
痛みすら感じる愛撫に、だけど、私は高まっていった。
「あ、あ…い、あぁァっ!」
真っ白になる。考えられなくなる。
おなかのしんが引っ張られていって、溜め込んでいた快楽が中から唐突に噴きだした。
「――――――っっあ」
しろ、く、な―――
「はぁあぁああ、んぅ、あぁ―――!!!!」
671 :
蒼熱恋慕:2005/10/30(日) 20:41:44 ID:jxDRTOjE0
眼が、覚めた。
朝の涼しげな空気が私の頭に吸い込まれる。
「ゆ、め…?」
二、三度瞬きをして何とか頭を回転させようとし―――
「〜〜〜〜〜!!?」
ぼがんっ、と湯気が上がるほどに顔が真っ赤になった。
あ、あ…な、なんて夢を見てしまったんだろう……
思わず毛布を頭まで被ってしまった。そのまま布団の中でごろごろごろごろ……
「―――うう…」
今でも身体の芯に残っている、あの指の感触。
ごつごつとした、男の人の、ユートの……って、ああっ!!
「何で……何で何でなんでっ!!?」
なんでユート…じゃないユート様が私の夢に出てくるのよっ!?
しかもあんな事までして、最後までせずにいなくなる!!?
夢の中まで何でヘタレなのあの隊長はぁ!!
あまりにもあまりな内容だった。キスされて、私も流されちゃって、
裸になって挙げ句の果てにイカされて……っ!!
「……あっ!」
とっさに下着の中に手を入れる……ああ、やっぱり…
672 :
蒼熱恋慕:2005/10/30(日) 20:42:21 ID:jxDRTOjE0
「濡れてる…」
…ああ、もう。脱がなきゃ…
毛布をはね除けて寝間着も脱ぎ、下着に手をかけて…
「おーい、セリア。朝ご…は……」
がちゃり、と、ドアが開いた。
そこにいたのは、針金頭の、ラキオススピリット隊隊長……
「……あ」
「―――」
頭が、停止した。
私は、今、下着も何もつけてはいない。
ええと、その、あれね。つまり私のあそこはユート様に見られて―――〜〜〜っ!!
「あ、いや、そそそのセリアっ!?」
……熱病。全ての力を開放しなさい。
ベッドに立てかけておいた熱病を咄嗟に手に取り、シーツを剥ぎ取ってスカートの代わりにした。
「…覚悟は、いい?」
ウィングハイロゥを展開。熱病のマナを全て眼前の恥知らずの男に向ける……
「事故だ事故ッ!不幸な事故だから許してくださいセリアさ」
「問・答・無・用」
全力の一撃を、私はユートに向かって解き放った―――
673 :
妄想の人:2005/10/30(日) 20:43:20 ID:jxDRTOjE0
やあ (´・ω・`)
ようこそ、ファンタズマゴリアへ。
このヨフアルはサービスだから、まず食べて落ち着いて欲しい。
うん、「夢オチ」「久しぶり」なんだ。済まない。
仏の顔もって言うしね、謝って許してもらおうとも思っていない。
でも、このSSを見たとき、君は、きっと言葉では言い表せない
「桃色マナ」みたいなものを感じてくれたと思う。
殺伐としたスピたんの評価で、そういう原点回帰を忘れないで欲しい
そう思って、このSSを書き込んだんだ。
じゃあ、リク注エ文ストを聞こうか。
>>673 お久し振りです……ってバーボンですか!w
投稿途中なのに読み込んでしまいました。なんてイヤラかわいいセリアさんw
キレてるはずなのに逃げられない魔力。はっこれは………………恋(違
>>673 妄想の人さん
御無沙汰乙です。
こ、これは!?目の前が桃色に染まっていく!
へぁ〜、目が、目がああぁぁぁ〜!!……ハァハァ
ということになってしまったわけです、ハイ
どうでもいいことですが、PS2版しかプレイしたことが無いワタクシには
エチシーンは書くに書けないです。
エチシーンのためだけにEXを買おうかどうか悩んでいる今日この頃のワタクシでした。
では、これにて失礼(´・ω・`)ノシ
>>673 …まっず
ヤバいよこれ…これはたっかいハードルだぁ…
なんともはや
GJ……
| ̄ ヽ
|」」 L.
|゚ -゚ノ| ……エロ エロ 工口
とl)
その後、光陰からハイペリア心理学を聞きかじるセリアさん。
七転抜刀問答無用w
678 :
エロ大王:2005/10/31(月) 04:00:36 ID:yaTjUKJX0
>>673 妄想の人さん
御無沙汰&おつかれさまです。
こ・・・これは・・・えろい・・・・えろすぎる・・・・・・・
ラキオス謹製えろちかセリアですか・・・・GJ!!
ふと思った。
スピたん→スピリットたん→スピリットたんハァハァ→スピリットたん、かーいいよーーー!かーいい〜!
まさか、スピたんとはロティの妄想スピリットブリッジ道中記なのでは…
ロティがコウインのような扱いを受けるキャラなら許せた
>>680 ひょっとしたらそういうキャラかもしれんぞ。
光陰の悪影響を受けていて。
いや、俺はそんなロティ見たくはないが。
更新来たよ
ミュラー先生が、相変わらず何も教える気がないどころか
画面に出てきすらしなくなった件について。
あの・・・雑魚スピスレとスピたん公式が
繋がったというか、同じ匂い?雰囲気が漂ってるんですが・・・。
つーか、ハリオンから食事に呼ばれるロティが憎い、憎すぎるぅ!
人気投票、ントゥタン大健闘w
真面目にだれの抱き枕が欲しい?
>>686 シアー。大真面目にシアー。
彼女に似合うパジャマか、普段のスピリット隊制服のどちらかで。
ちなみに、パジャマはパジャマ。個人的にそれ以外受け付けない(何様
ナナルゥかイオ。下着姿で。
いや、実家暮らしなんで使えませんがね・・・
俺は使えるとか以前にいらんが、選ぶとしたらハリオンかナナルゥ
私はセリアで(ハダカYシャツで)
見えそうで見えないチラリズム+はにかみ頬赤らめ=最強
スピたん2回目放送聴いた
シアーが可愛かった
抱き枕はセリアのが欲しいと思った
触感がリアルならハリオンでFA
500KBいかないねぇ・・・
うむ、最近主に28日アタリから忙しい
そんなの調べてる貴方が凄いw
セリアさんがお空を哨戒中、北東100mのところに
セリアさんと同じ高度で真南に秒速100mで飛行中の敵スピリットを見つけました。
セリアさんは敵スピリットをエーテルシンクで狙撃しようと思いました。
敵スピリットがセリアさんの攻撃に気づかないとき、
攻撃を命中させるために最低限必要なエーテルシンクの弾速を求めなさい。
東に秒速100mでいいのかな?
>>696 セリアさんが静止中または敵の速度表記がセリアさんに相対
かつエーテルシンクが初速を保つ等速度運動だとして、
東に100cos45°≒70.7m/s かなぁ。物理苦手。
セリアさんの位置を原点(x=0,y=0)とし、北をy方向、東をx方向とすると、
敵の位置は
>>698の式からして、(70.7 , 70.7)に居ることになる。(単位はb)
敵がその座標から真南に移動すると同時にエーテルシンクを撃つとするなら、
敵と同じ速度で(かつ初速を保つ等速度運動)のエーテルシンクを真東に撃てば当たる。
だがこれは理論上の話。
敵がセリアさんの真東を通過するのには仮定上から1秒とかからないので、
エーテルシンクの詠唱時間など、誤差を考えると 当てることは不可能 と考えられる。
この理論で当てるには、セリアさんが真南に敵と同じ速度で移動していることが必要。
敵スピの移動が秒速100mって早いな
光速でエーテルシンクを打ち込めれば初期位置で狙撃が可能といってみる
物理は苦手だw
時速360キロも出せるのかセリア
それはそうとサンプル追加ですよみなさん。
まぁ空飛んでればそんぐらいは出る、、、のか?w
サンプルCG、セリアさん除いて全滅。。。
しかしファーレーンが明らかに退行してるのがあれですな。
ナナルゥはGJ。
ファーのあのCGは間抜けに見える。
シアーは……なんか痛々しいような。
体だけ大人並みな小学生が犯されてるみたい。
どうでもいいんだが、人気投票のコメント欄見てここの住人とは
明らかに異なる層の人間も結構見てるんだなと知った。
ん、最近人が増えた気がするからね
誰かここのリンクでも張ったのかな
>>704 そりゃそうでしょ。
ここにいるファンはあくまでアセリアファンの一角に過ぎないよ。
同じSSを嗜む層だって、ここと某所では大分違うしね。
クォーリンが上位にいるw ロウエタの先鋒メダリオ大善戦。
佳織は定位置、ファーが低迷。正ヒロイン最強の呼び声高い(ぇ エスペリアまずまず。
雑魚スピスレは読めないなw 加法混色減法混色どっちを使っても出ない色。
>>706 というか保管庫の人気投票の話じゃまいかと。
>>707 ントゥタンはまだしもメダリオまで人気あるとは思わなかったなw
セリアの相方(こういう位置づけで語ることが既におかしいだがw)アセリアはもうちょっと人気あっても
いいかと思ったけど、単独で活躍しているSSが少ないことを考えるとこんなもんか。
個人的には紅蓮の剣ヒロインヒミカと、雑魚スピスレのエロ師範ハリオンが伸び悩んでるのが気になった。
って良く見たら二人とも結構上だったのね(´・ω::::::.......
>>708 うは、スマン。
保管庫でも投票してたのね…知らんかった。
>>708 保管庫以外に人気投票なんてあるの?
それにしてもメダリオ兄さん凄い人気だな
>>711 クラブザウスの抱き枕の方かと思った。
↑でも話題出てたし。
よくよく見ればメダリオとかの話題も出てるし違うわな。
早とちりしてたよ。
しかしセリア圧勝、クォーリン大健闘ってのがこのスレならではの展開っぽくて面白いな。
>>712 なるほど
確かに抱き枕の結果はちょっと意外だったな
ファーレーンがランクインするとは・・・
俺はセリア抱き枕に投票していたんだが
>>713 まさにツンデレ
公式ではツンツンしててこっちではデレデレしているのさ、きっと
>>714 抱き枕だから、表ツンツン、裏デレデレで
表がツンツンした肌触りで裏がデレデレした肌触り。
1位はほぼ確定っぽいが
2 ヘリオン 91 12.7%
3 ニムントール 89 12.5%
6 エスペリア 38 5.3%
6 クォーリン 38 5.3%
8 ハリオン 33 4.6%
この辺りのデッドヒートが中々熱いな。
投票者の中にSS職人の卵がいるな
瞬って意外と人気あるよな
もう少し会話が出来る子だったら人気出たんだろうけど
作中の瞬のいいところって住職と悠人のフォローって気がしないでもない
>>719 保管庫の人気投票に関しての事なら、それは厳密に言って少し違う。
一人のひねくれ者が毎日入れてたらああなっただけ。
一人が毎日入れてて、それプラス多分もう一人が一度一票入れたて感じ。
本当の意味での人気なら、光陰のほうがずっとある。
まぁ、スピリットには全然絡まないしな、あいつ。
以外と出番少ないし…出てきても佳織ハァハァしてるだけだし…
ただ見方を変えれば、ブス処理班というポジションに居るわけだから、
皆から有難がられて支持を集めるのは自然といえば自然w
しかし住職、2ヶ月間0票を維持出来たら神だったのに。
一般ユーザーには瞬はどう考えてもどうでもいい敵キャラになってしまうと思う(w
普通にストーカーだし。
光陰は受けそうな部分が集まったキャラだから、瞬よりかは人気あるかと。
キモウトと今日子をそれぞれ持っていけっ(死
>722
自然に住職と書くところが渋い。