机や椅子の色濃い斜影が奇妙なアートオブジェのように廊下側へ伸び、放課
後の教室は前衛芸術家の個展会場であった。
壁の時計を見上げた。夕方の4時。
練習ダンジョンに潜っているなら、かなり歩を進めているはずの時間だった。
なのに、こんな所で何もせず、影が伸びるのをうすらぼんやりと眺めている
だけか――俺は。
(……なにやってんだかよ…………)
机に脚を投げ出し、我ながら呆れて、「チッ──」と舌打ちする。後ろ足で
立たせた椅子をギシギシ鳴らしながら、
「薙原」
「おわっ!」
ふいに近くで発せられた声にびっくりしてしまい、ガタガタと派手な音を立
てて椅子を滑らした。
急転する光景。崩されるオブジェ。
悲鳴を上げる芸術家──はいない。
騒音はすぐに止んだ。
「……何やってんの?」
学校の天井というのは何でこう無機的なんだろうかと考えている俺の視界に
入って来たのは、鈴木だった。
「天井はその空漠さ故にもっと有効活用されるべき空間として無限大の可能性
を秘めているのではないかという研究論文を然るべき機関に提出その成果をビ
ジネスに転用特許独占儲けてウハウハするためには天井はもっと無為無用にな
るべき空間であるために天井十カ年計画を練りに練ってそのあまりの完全無欠
天網恢々ぶりに卒倒しそうになっていたところだ」
呆れたような目で見下ろされた。
細い脚がスカートの中から伸びているのが、いやでも目につくアングルであ
り、少しドキッとしてしまう。しかしパンツまでは見えない距離と角度。考え
てるな。
「鈴木か……」
俺はばつの悪い顔で立ち上がった。
「何か用かよ?」