バトル・ロワイアル 【今度は本気】 第6部

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616無題(3):2008/11/19(水) 22:12:49 ID:C9quFtxXP

2人がかりだったとはいえ、あのザドゥと長時間渡り合ったほどの相手、簡単にはいかない。

「…………」

ぱちっ……ぱちぱちぱちっ、バキばき……

突然、両脇の樹が爆ぜて火の粉が舞った。
舞った火の粉は燃えてない木々にいくつか飛ぶ。
駄目ね……急がないと。
わずかに歩幅を広く、わずかに歩調を速めながら進む。
耳鳴りに連動するように、後方から熱風が流れる音が聞こえた。

「!?」

足元に異物感。何が?
そしていきなり目の前に黒い塊が倒れてきて、音を立てて地面を叩いた。

ドンッ!!

遅れた!
大木の欠片が砕け、周囲に飛び交い、わたしは腕で防御しながら全速力で迂回する。
着火すぐ横には火が上がっていたが、数センチぎりぎりの距離で通り過ぎる。
息を止め一気に前進した。
距離を置いてから、一瞬だけ振り向き、後方から火の手が来ないのを確認。
息継ぎをしさらに前進する。

「はぁ……はぁ……ごほっごほっ……」

火の粉はわたしに移らなかったが、ちょっと煙を吸いこんでしまった。
617無題(4):2008/11/19(水) 22:14:44 ID:C9quFtxXP
わたしはすすを吐き出そうと何度も咳をした。
胃と肺がきりきり痛む。
そんな状態でも耳鳴りはして、さすがに困った。
わたしは咳をし終え、ゆっくりと追跡を再開した。
……火が広がるのが早すぎるような気がする。
あの子供が放火して回らない限り、ここまで早くはならないはずだ。
双葉が再度言いくるめたのだろうか?
彼女の性格上考えにくいが、可能性はゼロではない。
この先に長谷川とあの子供と双葉が生きて、わたしを待っているならそれは。

「地獄ね」

…………こんな陳腐な台詞は自らの不幸を嘆いて言ったわけじゃない。
口にしなきゃよかった。
わたしが苦しみ死んだところで、この島でも現実でも悪い方向での大きな変化はないに違いない。
玲二に心配をかけてしまうかも知れないのが心残りだけど。
この火災にしたって、これから先、わたしと長谷川以外で死ぬのは一人も出ないかも知れないのに……。

「……っ」

腕が突然痛み出し、わたしは小さく声をあげた。

右目で左腕を見る。
服の裾が燃えていた。

「!?」

火を消そうと、身を屈み左腕を地面に擦り付けた。
あの時、着火していた。
そんな、気づけなかった?
618無題(5):2008/11/19(水) 22:15:45 ID:C9quFtxXP

懸命に火を消そうとする。
火はすぐに消えた。

「……」

わたしは呆然としつつも、おぼつかない足取りながら進む。
吐いた息が冷たく澱んだもののような気がした。
焼けた裾の布を払う。
見ると左腕に火傷があった。
少し痛むが動きに支障がない軽度のものと判断できた。
だけど、わたしは少しも安心なんかできなかった。

こんな……こんなミスをするなんて……。
動悸が高まって、冷や汗が流れ落ちる。
戦闘や訓練で傷を負ったことは幾らでもある。
けど、こんなつまらない事で怪我をしたことは記憶のある限りない。
こつんと、つま先が何かにぶつかった。
はっとして足元を見ると、それはまたも石だった。

……頭が痛く、暑いのに何か寒くなってきた。
それに伴い耳鳴りも強くなった。足も重くなったような気がした。

「わたしは……」

思わず出てしまった呟きは力なかった。
わたしは落ち着きを取り戻そうと、心を静めようと自身をコントロールしようとした。
それより前に――目の前が突然真っ暗になった。
619無題(6):2008/11/19(水) 22:17:46 ID:C9quFtxXP

       □       ■       □        ■

――今日、ここを出る。
目に広がるのは薄暗く、古びた木の板で作られた部屋。
そこは昨日までの居場所だった。
物心が付く前、わたしはここに連れて来られたという。
故郷から攫われ、ここに売られたのだ。

でもそれほど自分を不幸と思ったことはない。
聞いた話だと、わたしの故郷と思わしき国は飢饉や暴力に見舞われて、
多くの住民は明日とも知れない日々をすごしているようだったから。
この町の外にしたって頼るものなく生きようとするのには、かなりの苦労が必要。
何度も町の外を見ていただけに解る。
積極的に奪う側になるか、奪われ尽くされるかのどちらかの道を、選択せざるを得ない暴力の世界が待ってるに違いない。

いつの日だったか、憂さ払しにわたしを虐めに来た女の子を返討ちにした時でさえ、
後のその子の非難と恨みのこもった眼差しは結構応えた。
そんな不毛な道を選ぶくらいなら、まだここにいた方がいい。
……あまりいいところとは言えないけれど、ここでいい。
何だかんだで勉強させてくれたし、結構気遣ってくれたのが解ってたから。

……けど、それも今日で終わり。
わたしを引き取りに、あの銀髪の陽気な人が迎えに来る。
数日前、わたしを養女にしたいと申し出にきたどこかの国の富豪。
店の人が身元を確認した限りでは、大丈夫そうとのことだった。

引き取り先が外国の特殊部隊とかだったらどうしようかと思ってただけに安心した。
わたしは左の薬指を見る、料理を作ってる時にちょっと切っちゃたんで包帯を巻いてある。
620無題(7):2008/11/19(水) 22:19:51 ID:C9quFtxXP

こんなのじゃ先が思いやられるな。
あのおじさん……ちょっと胡散臭そうなのが不安だったけど、こんな理由で拒んでも仕方ない。
おばあさん達には大金が手に入り、わたしがいなくなった分だけ食い扶持が減る。
何より周りに疎外感を味あわせなくてすむのなら、これでいい。
……寂しいけど。

わたしは感慨に浸りつつ部屋を凝視する。
薄汚く辛気臭いなんの魅力もない部屋。
たまにお香が炊かれなかったら、部屋変えを頼んだかもしれない。
けど、それはもう過ぎたことだ。
わたしは口元に笑みを浮かべた。
ガタガタと窓が揺れる音が聞こえた。強い風が吹いているのだろうか?
もし心地よい風に煽られながらここを発てるなら、わたしにとってそれは幸先のいいことだ。
空が晴れてるなら、なおいい。

ここはいい所とはとても『外』では言えないけれど、それでもわたしの人生の大半をすごした場所。
今日、この日だけは良い所だったとひとりで思いたい。
来る事はもうないけれど、ここを発つ今日という日は忘れない。

わたしの夢。
いつの日かわたしが――。
621名無しさん@初回限定:2008/11/19(水) 22:20:35 ID:ks3hR5Lp0
622無題(8):2008/11/19(水) 22:21:45 ID:C9quFtxXP
       □       ■       □        ■

目の前には地面。
わたしはとっさに両脚に力を入れて強く地面を踏みしめ、前倒しになるのを防いだ。
息を荒く吐き、ゆっくりと顔を上げる。
見えるのは相変わらずの灼熱地獄の中にいることを確認させられる現実だった。
やや上方を見た。煙が他の場所より明らかに薄くなっていた。
わたしはそれをチャンスだと思い、歩行スピードをちょっとだけ上げた。
先には燃え残ってる木や草が認められる。
耳鳴りは続いていたが、さっきよりは小さくうるさいと感じられない。

「…………」

吹雪。枯れた草。動物の鳴き声。車の中。薄汚い部屋。長い髪。よく聞く声。
空腹。お香。古びた窓。怪我した子供。こちらを睨む子供。銀髪の中年男。

一瞬、気を失った時見えたこれらの映像は白昼夢か、双葉のまやかしか、カオス使用の後遺症だったんだろう。
気にしてはいけない。
わたしの心は奴を殺す事で占められなければならないから。
なぜならどれも身に覚えはあるけど、あやふやで気の所為にできるものだから。
現に、わたしに迷いは……。

「え……」

意に反して足は止まった。
気を取り直し走ろうとした、走れずに歩くのみだった。

「なんで……?」

耳鳴りがまた強くなった、それに頭が痛く、いえ何か鮮明に……。
623名無しさん@初回限定:2008/11/19(水) 22:22:25 ID:ks3hR5Lp0
624無題(9):2008/11/19(水) 22:23:12 ID:C9quFtxXP

脳裏にさっき見た映像のようなものがゆっくりと順に浮かんでいく。
一巡りすると、耳鳴りがまた小さくなり、映像は浮かばなくなった。
もう一度、思い出そうとした。
一瞬だけ、銀髪の男の映像が出たがすぐ消えた。
反射的に空を見た。

目に入ったのは炎と黒煙。
好みじゃない。
また思い浮かべようとする、鮮明じゃないけどぼんやりと何かが浮かんだ。
しかし、浮かぶのはここまで、それ以上深くそれらを知ることはできそうになかった。
銀髪の男が何者であったか以外は。

「走馬灯? わたしがそんなものを見るとはね……」

わたしは鼻で笑う、誤魔化すように。
走馬灯ならこれまで記憶にあったものが浮かんでくるはずなのに浮かばなかった。
夢にしては心を引き付けられる映像いや、記憶。
あの銀髪の男がかつてのマスターと同一で、
その映像に別の懐かしさが混ざった感情を懐いたという事は……。
何よりそれらを心の奥底で否定できないのは何故か。

「死と地獄を受け入れる覚悟はしていたつもりだったけど、これはないわね」

わたしの声は震えていた。
長谷川らに事前に薬を打たれていたからだろうか?
一酸化炭素中毒の所為だからだろうか?
カオスを使った後遺症だからだろうか?
理由はいい。
断片的にしか蘇ってない記憶を、マスターに消された記憶を取り戻す事ができるなら。
だけど、それは……!
625名無しさん@初回限定:2008/11/19(水) 22:28:01 ID:ks3hR5Lp0
626無題(10):2008/11/19(水) 22:39:09 ID:ks3hR5Lp0
「ごめんなさい玲二」

わたしは同じ苦しみを味わっていた、ここにはいない彼の名を呼んだ。
もしわたしが今この道程を歩んでいなければ、生き残って――主催者を倒した上で
彼の元に帰る可能性が残っていたなら、互いにとって最高の喜びを分かち合うことができたに違いない。
でも、それはもう選び取る事はできそうにない。
何故なら、道はひとつしかないから。
でも、それも。
わたしは右腕の火傷を見る。

「……わたしはできるの」

長谷川に倒されてしまえば、わたしにとって最悪な結果が訪れる。
薬に打たれて、奴の欲望を叶えるだけの人形にされてしまう。
ファントムより醜く悪い存在に変えられてしまう。
今の確実に弱くなったかも知れないわたしに奴を殺すことができるの?
わたしは右手を持ち上げ、拳を音もなく額に叩き付けた。

「…………何を弱気な事を言ってるのかしらね」

痛みとともに、不安が霧散していくのを感じる。
このゲームの趣旨に反する事、自体が非常に無謀なもの。
首輪を付けられてた時点で、神のような存在に命を握られてる時点で何を。

「……」

先ほどザドゥに対して願いを拒否する事をわたしは示した。
彼らの上に立つ者は少しも信用できなかったし、長谷川を殺せれば良かったとさえ思ってたから。
だけどもし願いを叶えられる力が、自称プランナー達以外にも利用することが可能だったなら。
627無題(11):2008/11/19(水) 22:40:27 ID:ks3hR5Lp0
蘇生とまではいかなくても、何らかの形でこれまでの償いが出来るなら。
たとえ償える可能性がゼロに等しくても。玲二の身に起こったような希望がここにもあるなら……。
魔窟堂のように他の主催者や自称神に全力で立ち向かってこそ、意味を見出せる結果を出せるかも知れない。
考え込むわたしの耳に、ごぉっとどこかで炎が強くなった音が聞こえた。
わたしは深くため息をついて、言った。

「でも、どうしようもないわ」

長谷川は主催の中の駒の一つに過ぎない。
奴相手でさえわたしは翻弄され続けた。そんな高望みはもうできない。
例え、すぐに殺せたにしてもこの火の中、自身が生き残れる手段は思いつかない。
失った記憶を戻す時間も、多分ない。
だから、叶わないだろう希望はもう考えないことにした。

ただ今は持ってる力を最大限に使う為に感情を殺し、殺意で心を満たす。
わたしはまっすぐ前を見つめて、今度こそ迷わず先を進んだ。
628無題(状態表):2008/11/19(水) 22:41:40 ID:ks3hR5Lp0
【アイン(元23)】
【スタンス:確実に素敵医師殺害、双葉としおりを警戒(だが素敵医師殺害を最優先)】
【所持品:小型包丁2本】
【備考:軽度の一酸化炭素中毒、左眼失明、首輪解除済み、 肉体にダメージ(中)
    肉体・精神疲労(中)、左腕上腕部に軽度の火傷、行動に支障がない程度の記憶混濁】
629修正:2008/11/25(火) 21:55:43 ID:5hIFOGokP

>>213 >>232 >>415 >>532における
素敵医師及び朽木双葉の所持品の修正

>カード型爆弾二枚→カード型爆弾一枚


本スレ>>25 の状態表で
>秋穂に関連するランスと恭也の会話内容は他の4人は知らない
との記述がありましたので

>>473の文章の

>ランスと恭也の会話の一部始終は、魔窟堂らと同じくまひるもすべて聞き取れていた。
>秋穂と言う人物名を交えたランスと恭也の会話は短くも重く、悲しい空気が流れていたのも感じ取れていた。
を、

ランスと恭也のあのやり取りの後、魔窟堂が恭也に聞いた事により大体のなりゆきは魔窟堂に伝わっていた。
まひるはその会話を聞き取っていた。
秋穂と言う人物名を交えた恭也の語気は短くも重く、そのゆえ不用意に返答するのはためらわれた。

に修正変更いたします。
630名無しさん@初回限定:2008/11/26(水) 22:47:48 ID:CMSPLony0
  ☆ チン

        ☆ チン  〃  ∧_∧   / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
          ヽ ___\(\・∀・)<  続きまだー?
             \_/⊂ ⊂_)_ \_______
           / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄/|
        |  ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄:| :|
        |           .|/
631だって、あいつは王子様。 (1/8):2008/11/29(土) 00:16:18 ID:dvaaZcXl0
>>530
(二日目 PM6:21 F−5地点 東の森・双葉の道)

気怠い……
眠い……
頭が全然働かない……

炎の中に潜めば熱気が倦怠感を覚ましてくれるかと思ったけど、
そんなに上手くはいかないみたい……
そりゃそうよね。
陰陽術の使い過ぎであたしの精神力はすっからかん。
逆さに振っても埃も出ない。
気を失ってない今の状況の方がどうかしてる。

《どうでもいいや》
《もう寝ちゃお?》

あたしの心の中でリフレインする誘惑の声。
今眠ったらきっと目覚めることなく焼け死ねる。
死ぬことは怖くない。
てゆーか死にたい。
むしろ死ぬべき。
心の底からそう思ってる。

でも、あたしがここで全てを投げ出したら、星川の無念の行き所はどうなるの?
あたしにしかいないんだ。あいつのことを想っている人間は。
あたしにしかできないんだ。あいつの仇を討つことは。

眠る前に、気絶する前に、死ぬ前に。それだけは果たさなくちゃダメだ。
迷いと躊躇だらけの半端なあたしだけど、あいつへの想いだけは貫き通したいもん。
632だから、あたしはお姫様。 (2/8):2008/11/29(土) 00:17:03 ID:dvaaZcXl0

だから、折れるな。
負けるな、あたし。
誘惑なんかに屈するな。
思い出せ。
あの病室を。

思い出せ。
思い出せ。
丁寧に丹念に思い出せ。
一挙一動逃さず思い出せ。
希望が絶望に塗り変わった出来事を。

思い出せ。
思い出せ。
胸を詰まらせながら思い出せ。
慟哭を飲み込んで思い出せ。
星川の死の瞬間を。

心の痛みで、目を覚ませ。


   =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=   
633そんなふたりのおはなしだから、 (3/8):2008/11/29(土) 00:17:43 ID:dvaaZcXl0

(一日目 AM11:35 E−6地点 病院)

「その『目貫』という能力で君は双葉殿の首輪を破壊したというわけか…」

エーリヒさんの言葉に感嘆のため息を漏らす2人の女の子。
ちっちゃくて肌の白い巫女ちゃん・神楽と、
柔らかそうで幸薄そうなお姉さん・遙。
2人はまるで英雄でも見るみたいな眼差しで、星川を見つめてる。
ふふん。
あたしの彼氏は凄いでしょ?
だって、あいつは王子様。あたしの大事な王子様。
サイコーなヤツに決まってんじゃない!

「では…では、私たちにお力添えいただけませんでしょうか?」
「もちろん♪」

でもね。
あいつったらあたしの熱い視線に気づきもしないで、
軽薄なノリで神楽ちゃんの手を握ったり、
爽やかな笑顔を遙さんに向けたりするんだ。

「な〜に鼻の下伸ばしてんのよ」
「…やきもちはみっともないよ、双葉ちゃん?」
「誰がっ!」

どうしてあいつってばあたしにキ…… キス…… したくせに、
他の女の子にええカッコしたり、気のあるそぶりを見せるわけ?
好きなコがいるならそのコのことしか目に入らないもんじゃないの?
少なくともあたしは…… そうだよ?
634名無しさん@初回限定:2008/11/29(土) 00:23:25 ID:oOqurUG8P
635最後はきっとハッピーエンド。 (4/8):2008/11/29(土) 00:23:49 ID:dvaaZcXl0

「取り込んでいるところ申し訳ないが善は急げという、
 早速だが星川君、まずは私からお願いできるかな?」
「OK」

張りのある渋い声が星川に目貫の使用を促した。
星川がわたしの手からアイスピックを持ってゆく。
手を伸ばしたあいつの唇が、こう動いてた。

  ご め ん ね ♪

そして、軽くウインク。あたしにだけ伝わるように。
ちっちゃな2人だけの秘密。
やだ、もう。ドキドキするじゃない。
今のあたしの顔、絶対真っ赤だ。
こんなに照れた顔、みんなに見せらんないよ。

「少し顎をあげてもらえますか?…OK、行きますよ」

でも、星川の声が聞こえてくると目で追っちゃうの。
そしたらさ、いつものチャラい態度じゃなくて、真剣な声と顔つきをしてたんだ。
あたしの胸がきゅんってなる。
―――カッコいい。
あたしって意地っ張りだし、素直じゃないし、あいつの前じゃ絶対言えないけどね。
心の中ではずっと思ってるんだよ?
出会ったときからずっと、ね。
あんたは王子様。
大事な大事なあたしの王子様。
636名無しさん@初回限定:2008/11/29(土) 00:24:16 ID:oOqurUG8P

だから絶対上手くいく。
エーリヒさんや魔窟堂さんや他のみんなの首輪を解除して、
力を合わせて主催者たちをやっつけて、それぞれの故郷に帰るんだ。

だって、あいつは王子様。だから、あたしはお姫様。
そんなふたりのおはなしだから、最後はきっとハッピーエンド。
そうしていつまでも幸せに暮らしましたとさ。めで―――

   パ ァ ン ! ! !

―――たし、めでたし。

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

って、思ってたところだったのに。

「…ぁ………」

悪い予感なんて全然なかったのに。

「どうして……」

どうしてエーリヒさんが血まみれで倒れちゃったの?
どうして遙さんまで倒れたの?
どうして神楽ちゃんが悲痛な顔をしてるの?
どうして…… 星川が血に染まってるの……
だって、あいつは王子様だよ?
こんなことになるわけないじゃない?
これじゃまるで、星川がエーリヒさんを殺しちゃったみたいじゃない!
638めでたしめでたし。 (6/8):2008/11/29(土) 00:25:45 ID:dvaaZcXl0

時間が止まってた。
動いているのはエーリヒさんの首から溢れ出す鮮血だけ。

「待ってください、この人は……」

時間を動かしたのは神楽ちゃんの切羽詰った声。
待ってって…… 誰に向かって?
声のするほうに目をやる。

「チッ!」

部屋に入ってきたのは、天パでセーラー服の女のコ。
神楽ちゃんとそのコが重なって。
神楽ちゃんが倒れて。
そのコは倒れる神楽ちゃんを振り返りもしないで。
足を止めなくて。
……星川に向かってる?

あれ? 今、キラッて。
あの子の手の中で光ったのは……

星川っ、後ろに女のコ!
女の子があんたの背中にキラって光る腕を伸ばしてる!

「……まずは、一人」
639名無しさん@初回限定:2008/11/29(土) 00:26:13 ID:oOqurUG8P
640……なーんて夢、見てたんだ。 (7/8):2008/11/29(土) 00:29:12 ID:dvaaZcXl0

まずはひとり?
何が? 何を? 神楽ちゃんと合わせて2人じゃないの?
ちょ、ちょっと待ってよ。思考が追いつかないから。
てゆーか星川、なにひっくり返ってんの?
小柄なコに背中を軽く叩かれたくらいでだらしなくない?

「え…?」

あのコの手の光るモノが今は光ってない。
神楽ちゃんとぶつかった後で光ってたアレが、星川とぶつかったら光らなくなった。
赤く濡れてる。
どういうこと? あの赤いのってエーリヒさんの血と同じ色じゃない?
それじゃあ……

「星川ッ!?」

うそ…… やだ…… だって、あいつは王子様でしょ?
こんなあっけなく…… ありえないでしょ!!
ねえ、めでたしめでたしは!? いつまでも幸せに暮らしましたは!?

あのコ、爬虫類みたいな目でこっち見て……
来た!! あたしだ!! あたしも!?

  敵……        星川……  
                  血……   ナイフ……
    神楽……        老人の亡骸…… 
ゲーム……      ゲーム……
     ゲーム……

              ……………………殺人ゲーム!!
641名無しさん@初回限定:2008/11/29(土) 00:29:58 ID:oOqurUG8P
642あの時までは、ね。 (8/8):2008/11/29(土) 00:30:59 ID:dvaaZcXl0


   =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=   

何度思い出しても色あせない。
何度思い出しても吐き気がこみ上げる。
何度思い出しても…… あの女が許せない。

見開いた視界が赤く染まってた。
炎の赤じゃない。鮮血の赤に。あの病室の赤に。

―――来た。
辛い思い出から、ぽたりぽたりと滴り落ちて来た。
ドス黒い殺意の凝縮液が。
半紙に垂らした墨汁が染み込んで広がるように、
あたしの意識に殺意が染み込んで広がってゆく。
殺意はじわじわと染め上げる。
眠気を、疲労を、倦怠感を、黒く、黒く、ひたすら黒く。

うん。
もう大丈夫。もう目は醒めた。
恨みは最高の気付け薬。
諦めへと誘う声は聞こえない。

星川、ゴメン。もうちょっとだけ待っててね。
あんたの無念は、あたしが絶対晴らしてあげるから。

             ↓
643名無しさん@初回限定:2008/11/29(土) 00:31:27 ID:oOqurUG8P
644だって、あいつは……(情報 1/1):2008/11/29(土) 00:32:17 ID:dvaaZcXl0

【現在位置:F−5地点 東の森・双葉の道】

【朽木双葉(16)】
【スタンス:火災による無理心中遂行】
【所持品:呪符×7、薬草多数、自家製解毒剤×1、メス×1、
     ベレッタM92F(装填数15+1×3)、カード型爆弾×1、閃光弾×1】
【備考:疲労(大)、式神たち 双葉を保護。持続時間(耐火)=8分程度】
645妄執ルミネセンス (1/13):2008/12/01(月) 00:42:09 ID:TROs1I8r0
>>627
(二日目 PM6:23 F−5地点 東の森・双葉の道)

アインは歩いていた。
双葉の道の奥へ奥へと、まっすぐに、ひたすらに。

横幅は約4m。
広場とは桁違いの音が、熱が、煙が、左右から間断なくアインを苛んだ。
それでも。
僅かな視覚。僅かな聴覚。僅かな嗅覚。
アインはその全てを研ぎ澄ませて、ここに辿り着いた。

彼女を悩ませていた頭痛と吐き気は、いつの間にか収まっていた。
しかし、それは決して回復を意味しているわけではない。
意志の力が肉体を凌駕したわけでもない。
頭痛や吐き気などのサインを脳に伝える余裕が無くなって、
彼女の全細胞全神経が生命を繋ぐことのみに注力しているからだ。
単に生命力が尽きようとしているだけだ。

例えば仮にこの奥に素敵医師がいなかったとして、
道を引き返し広場に戻るだけの体力は、もう彼女には無い。
それでも、彼女は進む。
確信しているからだ。
素敵医師はこの奥にいると。

かさり。ちいさなちいさな音。
ごうごうと唸る炎の音にかき消される前に、アインの耳がその異質な音を拾った。
それはこの道の最奥、10m程前方にある茂みの中から聞こえてきた。
アインは無言で包丁を握り締める。
646妄執ルミネセンス (2/13):2008/12/01(月) 00:42:51 ID:TROs1I8r0
>>642
(二日目 PM6:19 F−5地点 東の森・双葉の道)

双葉は潜んでいた。
素敵医師の死体が隠されている茂みのすぐ脇の、炎の中に。

また一体、式神が燃え尽きた。
既に10体以上を炎の犠牲としている。
そのうえ。
森の木々。素敵医師。式神星川。
双葉はそれら全てを生贄に捧げ、アインをここまで導いた。

彼女を今、最も責め苛んでいるのは精神的な疲労感だった。
精神の集中を要する木々や式の使役を広範囲・長時間行ってきたことで
限界を超えた脳が、休眠を求めて意識を落としに掛かっているのだ。
自暴自棄と復讐心が油を注ぎはしたが、それも蝋燭の最後の揺らめきのようなもの。
そのことを彼女は自覚していた。

例えば仮にアインがここから引き返したとして、
アインを追って広場に戻るだけの精神力は、もう彼女には無い。
それでも、彼女は潜む。
確信しているからだ。
アインは決して引き返さないと。

ゆらり。炎に照らされて伸びる影。
もうもうと立ち込める煙のカーテンの向こうに、双葉はアインの姿を捉えた。
仇が、目測で10m程前方から近づいてくる。
双葉は心の中でカウントダウンを開始した。
647妄執ルミネセンス (3/13):2008/12/01(月) 00:43:31 ID:TROs1I8r0




閃光と轟音が2人を襲ったのは、その時だった。




648妄執ルミネセンス (4/13):2008/12/01(月) 00:50:23 ID:TROs1I8r0

アインは瞬時に理解した。
この種の閃光と轟音を発するものは、スタングレネードと呼ばれる兵器であることを。
理解したがしかし、対処は出来なかった。
出来るはずがなかった。
100万カンデラの閃光と、170デシベルの爆音。
それを身近に受ければあらゆる人間は機能停止に陥るが故に。
どれほどの修練を積み、警戒していたとしても、最低で2秒間は麻痺してしまう。

アインはその稀有な修練を積み、警戒心を持っている人間だ。
麻痺状態はデータを裏付けるが如く2秒で解けた。
しかし、その2秒が致命的だった。

閃光弾の炸裂よりコンマ数秒後、更なる爆発が発生したのだ。
アインに襲い掛かったのは爆風。
そしてその風に飛ばされた炎と木の破片と土塊。
全てが灼熱の温度を伴い、アインに撃ち付けられた。

アインの麻痺が解けたのは、それらの猛威になす術も無く倒れ伏した後だった。

649妄執ルミネセンス (5/13):2008/12/01(月) 00:51:29 ID:TROs1I8r0

双葉は何が起こったのか判らなかった。
何処から、如何して閃光と爆音が発生したか判らぬままに意識を失い、くず折れた。
主を守ることを厳命されている式神たちとて、
意識の外から浴びせかけられた衝撃から双葉を守ることは出来なかった。

閃光弾の炸裂よりコンマ数秒後、更なる爆発が発生した。
双葉たちに襲い掛かったのは爆風。
そしてその風に飛ばされた炎と木の破片と土塊。
全てが灼熱の温度を伴い、双葉たちに撃ち付けられた。

爆発の地点は左側の人型式神の脇で、直撃を食らったのもこの式神だった。
衝撃の予兆を感じた刹那、この式神は双葉に背を向け仁王立ち、その身を双葉の盾とした。
決して怯まず、決して恐れず。
全身に燃土を浴び終えて後、膝をつき、前のめりに倒れ、その機能を終えた。

それでもなお防ぎきれなかった拳大の焼け石が、双葉の左二の腕に喰らい付いていた。
石は狂猛に皮膚を破り、肉を燃やし、脂肪を溶かし、骨を砕いた。
双葉の意識は、その痛みと衝撃によって取り戻された。
650妄執ルミネセンス (6/13):2008/12/01(月) 01:00:07 ID:TROs1I8r0




閃光と轟音の発生源は1発の閃光弾。
爆発の発生源は1枚のカード型爆弾。

それらは双葉が素敵医師の遺体から回収した道具の一部。
用途がわからなかった双葉は自らの荷物と共に放置していた。
兵器の知識が皆無の双葉にはそれが爆弾であると理解できなかった。

それが、引火点を越えて爆発したのだ。

つまり、一連の出来事は双葉の策略ではない。
アインの先制攻撃でもない。
無知が産んだ、偶発的な事故だった。



651妄執ルミネセンス (7/13):2008/12/01(月) 01:00:36 ID:TROs1I8r0

アインが立ち上がった。

体の前面のいたるところが焼け爛れている。
木片が右の肺に突き刺さっている。
左腕は出血すること夥しい。
頬の皮がべろりと剥けている。
肋骨5本と右足の腓骨が折れている。

それでもなお立ち上がる事が出来るのは、人体の神秘か、女の執念か。

怪我の状況を確かめることも。
さらなる罠や攻撃への警戒も。
今の爆発がなぜ起きたのかも。
自分に残された時間さえも。
意識が朦朧な今のアインの頭にはよぎらない。

取り戻した遠い昔の記憶も。
ファントムという二つ名も。
かつて愛した少年の面影も。
涼宮遙への憧れすらも。
全て爆風と散弾の衝撃に吹き飛ばされた。
652妄執ルミネセンス (8/13):2008/12/01(月) 01:06:37 ID:TROs1I8r0

双葉は動かなかった。

未曾有の痛みが双葉を襲っている。
生肉が焼け、脂肪が溶ける異臭が漂っている。
それが他ならぬ自分の腕から煙と共に立ち上っている。
常人であれば泣き喚きのた打ち回るであろう惨状だが、
それでも双葉は微動だにしなかった。
悲鳴の一つも上げなかった。
眉間に深い皺を寄せ、歯を食いしばって耐えていた。

右に侍る式神も動かなかった。
この式神は双葉に覆いかぶさることで炎から守ろうとしたが、
それを察した双葉に動くなと命じられていた。

ほんの数m先に、アインがいる。

自分の悲鳴が耳に届くかもしれない。
式神の動きが目に止まるかもしれない。
そうなったら逃げるかもしれない。

それだけは避けねばならなかった。
痛みや熱ごときに負けるわけにはいかなかった。
653妄執ルミネセンス (9/13):2008/12/01(月) 01:07:42 ID:TROs1I8r0


ガラクタに成り果て、終わりが間近に迫るアインの肉体に留まったのは、
たった4つの妄執の欠片。

長谷川。
首。
わたし。
包丁。

ただその4つの単語が、アインの命を繋いでいる。
ただその4つの単語が、アインの足を前へ前へと進めている。

654妄執ルミネセンス (10/13):2008/12/01(月) 01:14:37 ID:TROs1I8r0


双葉の喰いしばった奥歯が遂に砕けた。
こみ上げる悲鳴を飲み込ませるのは、どろどろと渦巻くたった4つの妄執の欠片。

星川。
恋しい。
アイン。
憎い。

ただその4つの単語が、双葉に痛みを耐え忍ばせる。
ただその4つの単語が、双葉を炎の中に縛り付けている。


655妄執ルミネセンス (11/13):2008/12/01(月) 01:15:12 ID:TROs1I8r0



見つけたわ、長谷川。
アインが呟いた。



656妄執ルミネセンス (12/13):2008/12/01(月) 01:16:57 ID:TROs1I8r0



来たわね、アイン。
双葉が囁いた。



657妄執ルミネセンス (13/13):2008/12/01(月) 01:20:56 ID:TROs1I8r0

アインが茂みまであと3歩の距離に達したとき、茂みの揺れがピタリと止んだ。

―――来る。
直感したアインが包丁を腹部に対して直角に構る。
―――行け。
飛行型式神に命じつつ双葉がポケットから何かを取り出す。

直後、素敵医師が茂みからアイン目掛けて飛び出した。
その下半身は無い。無論、命も無い。
素敵医師と共に茂みの中に潜み、枝葉を揺らしていた飛行型式神が
双葉の命に従い、彼の遺体をアインに向けて弾き飛ばしたのだ。

アインが素敵医師に向けて包丁を突き出す。
双葉がアイン目掛けて炎の中から飛び出す。

研ぎ澄まされた妄執と熟成された妄執が、噛み合わぬまま重なった。

             ↓
658妄執ルミネセンス (情報 1/1):2008/12/01(月) 01:25:45 ID:TROs1I8r0

【現在位置:F−5地点 東の森・双葉の道】

【アイン(元23)】
【スタンス:確実に素敵医師殺害】
【所持品:小型包丁2本】
【備考:重態】

【朽木双葉(16)】
【スタンス:火災による無理心中遂行】
【所持品:呪符7枚程度、薬草多数、自家製解毒剤1人分
     ベレッタM92F(装填数15+1×3)、メス1本】
【備考:左腕喪失、ダメージ(大)、疲労(大)、
    式神たち 双葉を保護。持続時間(耐火)=3分程度】
659妄執ルミネセンス (修正):2008/12/01(月) 01:42:09 ID:TROs1I8r0
>>646
 ×(二日目 PM6:19 F−5地点 東の森・双葉の道)
 ○(二日目 PM6:23 F−5地点 東の森・双葉の道)
660名無しさん@初回限定:2008/12/03(水) 01:05:14 ID:8R9eX8260
新スレです

バトル・ロワイアル 【今度は本気】 第7部
http://set.bbspink.com/test/read.cgi/erog/1228228630/
661修正:2008/12/03(水) 02:49:07 ID:/p5n26r6P
>>614-627の『無題』改め『終わる長い夢』の修正・加筆が完了いたしました。
>>628の状態表に変更はありません。

http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/computer/15097/1091460475/654-668
662Why?(1):2008/12/03(水) 03:30:02 ID:/p5n26r6P

>>535-544

(二日目 PM6:12 西の小屋)

「駄目です」

地図に載っている小屋に行きたいというまひるの提案は、紗霧によってあっさり却下された。
何でと、言いたげなな一行を目の前にして、紗霧は両目をつむりながら疑問に答える。

「此処に行った所で良くて誰もいないか、悪ければあのロボットが待機してる可能性があります。
 もし主催が私達の居場所を把握していない場合は、向こうに好機を与えることになってしまうんですよ?」
「うーん……」

予想通りの返答ではあったが、叱られてるようで何か居心地が悪かった。
少々ではあるがまひるの表情には落胆の混ざった困惑が浮かんでいた。

「何か在るとしても参加者の死体でしょうね。彼らの支給品も使い物にならないものになっているか、
持ち去られてるかの何れかでしょうし」

と紗霧は言う、心の中で迂闊な参加者のと付け加えて。
狭い建物かつ森の中にある最初から所在の知れた小屋など、殺人鬼にとって格好の狩場になりかねない。

「死体あるなら、その人を弔ってやりたいんだけど」
「……首輪の事を忘れてませんか?」

紗霧は自らの首を親指で指した。

「あの首輪は解除されても、向こう側に色々と解るものなのですか?」
663Why?(2):2008/12/03(水) 03:32:09 ID:/p5n26r6P

「其処までは解りません。ですが用心に越した事はありません」

対人レーダーを使用すれば、確認は可能かもしれない。
だが、これくらいのことで機能停止のリスクを背負ってまで、レーダーを使いたくなかった。
実際は解除後に首輪の探知機能等は機能しないのだが、それを知る時間と道具は彼女らにはなかった。
その事を知っていたら、紗霧は首輪を罠の材料等に活用していたことだろう。

「う〜ん…………じゃ、諦める」

渋々まひるが返答したのを受けて紗霧は視線を外そうとする。
が、がさごそと物音がまひるの方から聞こえたので再びそちらの方に目を向けた。

「………………何ですかそれは?」
「あたしもこれ見た時はそう思ったよ」
「それって……」

まひるはそれの両端を掴んで全体像をみんなに見せていた。
ユリーシャとランスはそれを――それと同じものをよく目にしていた。

「まひる殿……何を……」

魔窟堂も結構目にしている、その為か心なしか声色は弾んでいた。
紗霧は半眼でしばし考え込み、彼女なりにややドスを利かせたつもりで言う。

「本題はこれですか? で、貴女はこれを何処から手に入れたんですか?」
「病院」

表情だけはにこやかに、内心では機嫌悪い時にやばかったかなと後悔しながらまひるは返答した。
664Why?(3):2008/12/03(水) 03:35:25 ID:/p5n26r6P

「何で病院にこれがあるんですか? 変な趣味をお持ちの方が使ってたとでも言うつもりですか?」
「まったくの新品みたい」

言って、臭いを嗅ぐジェスチャーをするまひる。

「支給品かな?」

恭也が言う。これまでに一行は死んだ参加者のデイパック――支給品一式を2つ回収している。
その一つだと彼は考えたのだ。

「ロッカーに入ってたよ。なぜか」
「そんな得体の知れないものは捨てて下さい」
「紗霧殿、捨てなくても良いのではないか?」

魔窟堂が諭すように言った。おイタをした子供をやんわりと叱り付ける親の様に。
紗霧はしばし返答に詰まったが、その発言の意図に気づき困惑は怒りに変わった。
まひるはその様子に不吉さを感じて、思わず後ずさった。
魔窟堂は熱いまなざしで紗霧の目を見つめ続けている。
そして、さっきまで悶絶していたランスは力ない声で、だがはっきりと言った。

「まひるちゃん……サイズはいくつだ……」
「え、え、えと、あたしでもちょっと大きいくらいかな、かな?」

動転しながらまひるは何とか答えた。

「そうか……」

ランスはゆっくり息を吐き出すと、ユリーシャの一瞥してから『アレ』を視線を移して言った。
665Why?(4+追記)
「残念だ」
「! お、そんな趣味?」
「特にこだわってねーが、中々いいデザインしてるし、いい素材使ってそうだし着てくれると嬉しいけどなー」
ユリーシャはランスの妙に自信溢れる台詞を聞いて苦笑いした。
いつか私は似た服を着せられてしまうんでしょうか?と思いながら。
請われたら多分承諾してしまうだろうが、だからといって出自が出自だけに着るのは抵抗感があった。
彼女の実家にいる芋好きの褐色肌の侍女の事を思い出しつつも、あの紗霧と魔窟堂を見続ける。

「着ませんよ」紗霧は不機嫌な声で言う。
それを訊いた魔窟堂の表情が落胆に沈んだ。
紗霧の眉間にしわが刻まれる。

未だに『それ』を両手に持ったままのまひるを見ながら恭也は思った。

(何でお手伝いさんの……メイドさんの服があったんだろう)
さっきメイド服を着た知佳の姿を想像し、笑みを浮かべてしまった己をちょっと恥じた。

「まさかと思いますが……その服、アインさんにも薦めるのではないでしょうね」
「……………………」

(その手もあったか!)

紗霧は沈黙を肯定と受け取り言った。
「見限られたいんですか、ジジイ」
「さ、紗霧殿!どうしたんじゃ? おぬしやけに短気じゃぞ!」

自らの片手を背中に回した紗霧に対し、身の危険をますます感じた魔窟堂が叫ぶ。
メイド服とデイパックを恭也に預け、たまりかねたまひるが2人の間に入ったことで事態は何とか収拾しそうだった。

                 ↓

【広場まひる(元38)】の所持品、服3着の内一つは最高品質(防具にあらず)のメイド服でした。