会場は静まり返っていた。
呼吸さえ聞こえてきやしない。
心臓だって動いているか怪しいものだ。
最初、その男の言葉を聞いたとき、誰もが自分の耳を疑ったであろう。
到底理解の範囲を超えていたからだ。
会場の視線は全てある一点に集中したまま、時は凍り付いていた。
やがて、静寂の中、いち早くその言葉を理解した男は、己の発する言葉の意味を一つ一つ咀嚼するように、立ち上がり、言葉を綴った。
「……では……では、提携をする……、ということなのでしょうか?」
呟きの様に小さな声で紡がれたその質問は、静謐な湖面に垂らした一滴の雫が波紋を広げていくように、男――船津稔――を中心にざわめきが広がって言った。
隣に座っていた男が慌てて船津のスーツの裾を引っ張る。
「ちょっちょっと。インプレスさん、落ち着いて。まずは座って」
「あ……、アスキーさん。すみません」
自分が注目を浴びえていることに気づいた船津は慌てて腰を下ろす。
やや顔が強張ったままのは、今回の記者会見が余程の衝撃をもって記者達に迎えられた証左だろう。
隣の男は自分のネームプレートを指す。
「佐久間だ。佐久間康仁。おまえは?」
「あ、はい。船津です。船津稔といいます。所属はGAMEWatchです」
差し出された名刺を受け取り、二人は握手した。
佐久間は切り出す。
「今日の記者会見、まさかこれほどの内容だとはな……」
「ええ、長年記者をしていますが、なかなかありませんね。こういうことは……」
二人は事の重大さに押し黙り、暫し言葉を捜す。
しかし何を言えばいいのか結局わからず、そのまま主催者サイドへ視線を向けた。
誰もが聞き間違えであってくれと願っていた。
あるいは性質の悪い冗談かもしれない。
この男なら言いかねない、そう考える者もいた。
船津も、佐久間にとっても、素面では受け取れない冗談だ。
周りの記者連中も静かになり、やがて全ての人間が一人の男へと視線を集中したとき。
沈黙を守っていた壇上のその男は、もう一度、言った。
「提携先にソフトを供給、独占販売します。成人指定ではありません」
怒号に包まれた。
ドリマガが、ファミ通が、日経新聞が、その他多くの記者たちが興奮を抑えきれず壇上の男に詰め掛ける。
「それは事実上の業界撤退と受け取ってもよろしいのでしょうか!?」
「このような短期間で満足のいく作品ができるとでもいうのか!?」
「おさないでください!」
質問が飛び交う中警備員が叫ぶ。
「こんなことが許されると思っているのか!」
「席にお戻りください!」
警備員が取り囲んだ記者たち相手に無謀な抵抗を試みる。
決壊は時間の問題であることは容易に見て取れた。
やがて、それは時を待たずして訪れる。
「答えてください!」
警備員の制止を振り切った船津が壇上の男に詰め寄った。
襟首をつかむ。
叫んだ。
「馬場社長!」
大阪府大阪市北区は東天満。
堅牢と聳え立つ東天満パークビルの最奥。
そこに、その男は居た。
リーフ,エルフ,アリスソフト……、並み居る強豪を押しのけ業界第一位にまで上り詰めたビジュアルアーツ。
その高御鞍にて鎮座する男。
馬場隆博。
代表取締役である。
ノックがした。
「どうぞ」
馬場の返事の後、開かれた扉から入ってきたのは、三十代半ばの、眼鏡を掛けた怜悧そうな男であった。
「来てくれはしたか。涼元はん」
「ええ、今日はどのようなご用件でしょうか?」
社長室だというのに別段物怖じした趣のない涼元は、慇懃に礼をしてから尋ねた。
察するところ、どうやら度々このように呼ばれるらしい。
「おお、なんや、あいかわらずせっかちやなぁ。キミは」
「はっ。これが地ですので……。気に障るようでしたら変えましょうか?」
「そやそや、人付き合いには愛想も大事やでぇ、ホンマに」
馬場は特に気にする素振りも見せず、話を続ける。
「まあえぇ。ほなキミの要望通り早速本題に入らせて貰いまひょか……」
馬場はいつも通りの笑顔だったが、しかし涼元にはそれがいつもと違っていたことに気づいた。
目の奥から来る絶大なる意思が、涼元を射抜く。
社長のこの眼力だけは、さしもの涼元といえど平静ではいられない。
動揺を押し隠し、尋ねる。
「……それで?」
「はっはっは、何緊張してますのや! キミにとっては良い知らせやのに」
「はっ!」
「実は新しいプロジェクトを計画中でな……」
馬場の話はこうであった。
3〜4時間くらいのプレイを目安とした短編をシリーズ化すること。
第一作目のスタッフは既に決まっていること。
その中のシナリオには涼元を登用すること。
中でも注目すべきは、それをインターネットでの販売のみということだ。
ネット上での販売はこれまでもあったが、それのみというのはこのプロジェクトの規模を考えると異例中の異例といえよう。
「ほんじゃがな? まだまだ問題は山積みじゃけぇ。例えばな……」
意味もなく声を潜めてみたりする。
「18禁ゲーム,エロゲー,美少女ゲーム。ちょっとHな部分を抜いたところでギャルゲーや恋愛シュミレーションなんて呼ばれとる。なんやけったいな名前やなぁ。キミもそう思わへんか?」
涼元にとって馬場の考えは手に取るように読み取れる。
これまで幾度と無く馬場と話し合ったことだ。
「つまり何か……、既存のネーミングに当てはまらない、新しい名称が必要になる、と?」
馬場は満足そうに頷く。
「そうやな。この名前やと受け入れ難いやつもおるやろうな」
「ええ、世に広めるならそれに相応しい名前が必要になるでしょうね」
馬場は少し考える素振りを見せるが、直ぐに頭を振った。
そしておもむろに涼元の両肩も叩く。
「任せる」
「……はぁ」
いつもの事だ。
馬場は続ける。
「ほんでな? ワシはこのプロジェクトに社運を掛けとるんよ」
馬場の、涼元の肩を握る手に力が篭る。
痛いくらいに。
そして馬場は、誰でも驚くであろう、そして、不可能だと口を揃えて言うであろう言葉を口にした。
言ってのけた。
「ワシはこのプロジェクトを、エロゲー発の文化として世界に広げる足がかりにしたいんや!」
――ああ、この男は何も変わってない。
涼元はその言葉に聞き覚えがあった。
忘れもしない、Key入社での面接試験のときだ。
『いつかエロゲー発の文化を世に広めたいと思うてますのや』
決して熱っぽく語ったわけではないが、その内容ときたら熱で魘されてても出てこない言葉だった。
何を言ってるんだこの男は。
誇大妄想も甚だしい。
kanonに魅せられてエロゲー業界の門を叩いた涼元であったが、その彼をもってしても馬場を理解できなかった。
その後念願のKeyへ配属され、憧れの超一流のシナリオライター――麻枝准の片腕となり、Air・CLANNADと立て続けにヒットを飛ばすのだが、それはまた別の話。
「ワシはこの計画を独占しようとは毛頭思っとらん。他メーカーにも参加を申し入れるつもりや」
「はい」
涼元も同様の意見だ。
世界に広めるものを独占してはいけないし、そんなことをしていたら決して人は受け入れやしないだろう。
「ワシら以外の誰かがこの計画に乗ってくれるなら、これほど嬉しい事は無いやろう?」
涼元は頷く。
何をするにしても手前勝手の自慰行為になってはだめだ。
他人に認められて何ぼなのだ。
それは小説家出身の涼元にして、肝に銘じている事だった。
しかし、と思う。
それには前提があっての話だ。
もっとも大事なことをこの男は、馬場は話していない。
涼元の疑問に気づいたのか、馬場は言う。
「その顔はどうやって広めればいいのかって顔やな。まあええ。聞け」
今度は涼元にも馬場が何を考えているのか検討が付かない。
前例の無いことから何かを予想するのは、そもそもこの男は苦手なのだ。
涼元は馬場の言葉を待った。
馬場は言った。
「yahoo!!BBと手を組むことにした」
あっさりと告げた。
これには涼元も驚く。
「正気……ですか?」
涼元は馬場の心中を探るように見つめる。
冗談で言う事とは思えないが……。
涼元はyahoo!!BBを良く思ってない。
何せあれだけ悪い噂には事欠かない企業だ。
好きな方がどうかしている。
しかし涼元とて分別のできない子供ではない。
社命であれば従うのみだ。
馬場も含むところがあるのだろう、苦虫を噛み潰した表情で続ける。
「キミの言いたい事はようわかる。そやけどこの試みを手っ取り早く世に広めるにはそれが一番なんや。わこうてくれるな?」
「ええ……社長がそう仰るのなら」
しかし、涼元は思う。
今の言葉は社長自身に向けて言い聞かせようとした言葉ではないのか?
社長も不安がっている。
獅子身中に虫を飼うことにはなるまいか? と。
ネット販売ともなれば鍵っ子の、それもクレジットを持ったエロゲヲタの個人情報をyahoo!!BBに握られることを意味する。
もし……、もしこの情報が流出でもしたら……。
涼元は血の気が引く思いがした。
……いや、よそう。
何かを得るにはそれなりの代償を支払う。
当然のことではないか。
それに鍵っ子だってKeyの新作を手にすることができるなら人生を捧げても本望だろう。
涼元は迷いを振り払うように首肯すると、馬場に告げた。
「では、スタッフは私に一任させてもらいます。この条件で引き受けましょう」
だっせースレタイ。。。
涼元の言葉が馬場の瞳に剣呑とした光を宿す。
「……スタッフはもう決めちょるというワシの言葉が聞こえとぉなかったんか?」
涼元は馬場の気迫に飲まれそうになりながら、それでもなお馬場を真摯に見つめる。
日頃いたるに不満を抱いていた涼元にとって、これだけは飲んで貰わねば困る条件であった。
果たして、馬場はため息をついた。
「キミも頑固やのぉ……。よぉわかった! そないに拘るのなら任せようやないけ! して……」
馬場の目が細まる。
「誰にやって貰いたいのか当然決まっとるんやろうなぁ?」
これは自分を試しているのだ。
答えを見誤ればプロジェクトから下ろされないまでも今後の昇進に響くかもしれない。
何より自分の担当したソフトが売れなくなってしまう。
涼元は一度深く深呼吸した。
涼元は目を瞑る。
そして涼元は、世界を想像……、否、創造する。
そこは近未来。
そこは文明の途絶えた地。
地上を我が物顔でのさばる戦闘機械。
そして『ひとり』の、ロボットの、少女。
壊れかけた、ロボットの、少女。
雨雲に閉ざされた街で、星をゆめみる、ロボットの、少女。
――星――ロボット――少女――――。
全てが一本に繋がった。
「……駒都えーじ、この方しかありえません」
――駒都えーじ。
こつえーと呼べばわかるだろうか。
蒼い海のトリスティア,イリアの空・UFOの夏,マブラホ……。
枚挙に暇が無い魅力的な作品群。
しかも単一の媒体ばかりではなく、ゲーム,小説,アニメ、コミック……彼の活躍は留まるところを知らない。
可愛らしい少女達に彩りを添える独特の金属質な彩色。
それでいて繊細でかつ暖かく、どこか寂しい。
これだけなら業界を見渡せば代わる存在はいるかも知れない。
しかし同時にメカの数々を高次元にまで描ける存在は彼を置いて他にはいないだろう。
「こまど……、えーじ……」
馬場は涼元の言葉を反芻する。
馬場はその人物を知らなかった。
しかし涼元の口から毀れ出た名前には、何か得体の知れない魅力を感じ取った。
「よっしゃ! それでいこうやないか!」
一度決まってしまえば、この馬場という男、恐ろしく行動が早い。
電話番号も知らないのに電話を掛けようとする。
「……わたしから連絡を入れておきますよ」
「おっ? そうか、ほなおおきにな」
「ええ、ではさっそく作業に取り掛かりたいので失礼します」
「きばってーな。キミだけが頼りやねん」
入室と同様慇懃な礼をする涼元。
しかし、その、眼鏡の奥の瞳は、怪しく輝いていた。
――でもね、社長。私はエロゲーそのもので世界を支配したいのですよ。そのもので、ね。
涼元が語らなかった駒都えーじの秘密。
それは、『パンツはいてない』。
駒都えーじの描く少女達は、パンツをはいている様には見えないのだ!
これが涼元の、一般指定という制限下で仕掛けたギミックであった。
2004年10月19日。
青山TEPIAB11会議室。
事前には何も知らされてはいなかった。
CLANNADの発売からわずか5ヶ月。
少なくともKeyに関わる話題ではありえないはずであった。
経営実態の知られていないビジュアルアーツではあるが、販売元として数多くのブランドと関係を持っている事は周知の事実だ。
あるいはどこぞの新ブランドのお目見え記者会見かもしれない。
少なくとも意気揚々と記者会見に臨んだのだ。
心掻き立てられる話題に違いない、と。
しかし蓋を開けてみればどうだ。
最高峰のブランドKeyの、半ば業界撤退ともとれる内容だ。
いくら仕事で来ているとはいえ船津でなくとも抑えるのは無理というものだ。
「これは、鍵っ子に対する背信ではないのですかっ!」
船津は止まらない。
「今まで応援してくれた鍵っ子にっ、一体なんと言うつもりですか!」
怒号が飛び交い、襟首を捕まれ、なお表情一つ変えない馬場に苛立つ船津。
「馬場社長!」
視界がブレた。
何が起きたのか、と思った。
気づいたときには天井を見上げていた。
後から痛みが来た。
どうやら殴られたらしい。
それほどに強烈な一撃だった。
ふら付く体を叱咤した船津は、腰を上げ、馬場を見据える。
13 :
名無しさん@初回限定:04/12/08 23:55:39 ID:4VZrUAO7
r;ァ'N;:::::::::::::,ィ/ >::::::::::ヽ
. 〃 ヽル1'´ ∠:::::::::::::::::i
i′ ___, - ,. = -一  ̄l:::::::::::::::l
. ! , -==、´r' l::::::/,ニ.ヽ
l _,, -‐''二ゝ l::::l f゙ヽ |、 ここはお前の日記帳じゃねえんだ
レー-- 、ヽヾニ-ァ,ニ;=、_ !:::l ) } ト
ヾ¨'7"ry、` ー゙='ニ,,,` }::ヽ(ノ 2ゲットなんてチラシの裏にでも書いてろ
:ーゝヽ、 !´ " ̄ 'l,;;;;,,,.、 ,i:::::::ミ
::::::::::::::::ヽ.-‐ ト、 r'_{ __)`ニゝ、 ,,iリ::::::::ミ
::::::::::::::::::::Vi/l:::V'´;ッ`ニ´ー-ッ-,、:::::`"::::::::::::::;゙ , な!
:::::::::::::::::::::::::N. ゙、::::ヾ,.`二ニ´∠,,.i::::::::::::::::::::///
:::::::::::::::::::::::::::::l ヽ;:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::/ /
::::::::::::::::::::::::::::::! :|.\;::::::::::::::::::::::::::::::/ /
私がこの世でいちばん好きな場所は戦場だと思う。
どこのでも、どんなのでも、それが戦争であればアメリカの国益になる行為であれば私はつらくない。
できれば一方的勝利に終わるといいと思う。
空爆の後に地上部隊が侵攻し、星条旗がぱたぱたなびく。
ものすごく汚い戦争だって、たまらなく好きだ。
敵兵の屍が散らかっていて、ブーツの裏が真っ黒になるくらい汚いそこは、異様に広いといい。
敵軍を軽く吹き飛ばせるような戦闘機が並ぶ巨大な空母がそびえ立ち、その銀の扉に私はもたれかかる。
硝煙の上がる銃身や、緑色に輝くスコープからふと目を上げると、
窓の外には淋しく星が光る。
私とアメリカが残る。自分しかいないと思っているよりは、ほんの少しましな思想だと思う。
つまり韓国人と結婚した妹がガンで死んでしまい。
その妹の子供を持て余したからタイに売り飛ばしてマムコを舐めたら、店長に「帰れよ」と言われたんだな。
「ふんとにっ! 五月蝿いわっ! キミらは!」
馬場の一喝はその場を収めてなお強く鳴り響いた。
「よく聞きなはれ! これは! 決して! 業界撤退を意味するものではありまへん!」
続く。
「駄作、ましてや手抜きなどとも違うんや!」
続く、
「これはあたらしい、ワシらの挑戦にすぎん!」
続く
「ワシらは生涯、エロゲー屋や!」
そして馬場は、
「それは変わらん! 変わらん、事実や。ワシは、ワシのスタッフはみな! みな素晴らしいと思うちょる。
世界に通じる才能じゃと思うちょる。素晴らしい才能は出し惜しみしちゃあかん。あかんねん!
これはそのための布石やと思うちょる。そしてその力は、殻から抜け出さなあかんねん。その殻とはすなわちエロゲーや。
ワイら自身の存在意義事態が、ワイらを縛り付けちょる。そのための挑戦や!」
馬場はなお勢いを増す。
会場はもはやこの馬場という男に、完全に飲まれていた。
「小説、映画、漫画……。そのどれもが欠点を持っとる。小説では読むのに時間がかかる。漫画は細かい心理描写を描けない。映画は受動的になって自分のペースを作れん。
しかし、今度のメディアは違う。全部の欠点を補ってなお余る、世界に通用しうる新しいメディアや。そしてそれを作れるのはっ」
声を一端切り、馬場社長、
「エロゲーを作る技術力を誇る、クリエイターだけなんや!」
この馬場という男、かつては己自身がシナリオライターであった。
Noochというゲームに託し、そして破れた夢。
それだけに馬場の言葉は熱を帯び、周りを圧倒した。
しかし……。
パチパチパチ。
静寂を破り、一人の男が壇上の脇から歩み出て来た。
「いやはや、素晴らしい!」
鼻のつぶれた、ずんぐりとした男であった。
「大変素晴らしいご高説、しかと承りました」
さすがは馬場社長!
素晴らしい!
男は呟きながら馬場に歩み寄る。
「お前か……」
馬場は握手でその男を迎えた。
記者たちは突然出てきたこの男に鼻白む。
馬場社長は知り合いらしいが。
やがて溜まりかねたのか、佐久間が尋ねる。
「馬場社長、この方は?」
「この御方は……」
「私ですか。この私に、興味があると?」
さも当然な素振りで馬場の言葉を遮る。
その上で、あえて馬場に話を振るのだ。
「馬場社長。私の紹介はまだですかな?」
内心はどうあれ彼は提携先だ。
不平不満を口にすることは、馬場にはできない。
「ああ、紹介が遅れてすまなかった。彼はこの度ビジュアルアーツと業務提携することになったBB-serveの代表、孫泰蔵社長だ」
「よろしく」
孫はカメラを向ける記者たちに笑顔を向ける。
「孫社長はわが社の作ったソフトを新技術を以って一手に配給してくれる……」
「そこまでで結構。あとは私にお任せを」
再び馬場を遮った孫は、パネル指差し、告げる。
「ソフトバンクBBの新技術、『DRMシステム』。とくとごらんあれ」
画面に映る、その仕組み。
ユーザーはどのようにしてそのソフトを買えばいいのか、一目瞭然であった。
これだけの情報を一気に流せば敏腕記者といえど異を唱えるのは難しかろう。
だが、船津は違った。
「個人情報はどうなるんだ! 内部犯なら新技術も意味ないじゃないか!」
「そうだ! この前だって、500円で解決だとか、ほざいていたじゃないか! 俺なんか2chで住所晒されたんだぞ!」
泣きながら訴える記者の一人に、思いを同じくした記者たちから火の手が上がる。
そうだ!
個人情報はどうなる!
DRMシステムがなんだかんだ言ったって、内部犯を防げるものか!
あまい。
佐久間は考える。
この記者たちは考えが甘い。
そのようなことは、
「その件につきましてはなおいっそう努力いたします」
ほら、こう言われれば押し黙るしかない。
船津は言葉に詰まる。
しかしそれいじょう何を言えばいいのか、考えが思い浮かばなかった。
もちろん悔しいのは佐久間とて同じだ。
しかし決定打の無い今は打つ時ではない。
まあ、その時は既に手遅れになっているだろうがな。
結果がわかるだけに、一介の記者に過ぎず無力感に苛まれる佐久間。
そして、食い入るように見つめる記者たちを見下ろし、孫は言った。
「これらのゲーム、全て。わが社で一手に引き受けさせて頂きます」
勝った!
誰が見ても孫はそのような顔をしていた。
それを苦々しく思う者こそ居はすれ、彼に対して、その業績に対して、賞賛送ろうという者は皆無であろう。
長らく守ってきたエロゲーが、その流通形態が。
泣きシナリオの感動も、陵辱の美学も、恋愛ゲームのときめきさえ理解できないような男が。
それも業界の至宝、Keyの新作を握ってしまったのだから。
――孫泰蔵。
実はこの男、パラソル部隊・個人情報流出・モデム送りつけで悪名高きyahoo!!BBの代表取締役である、孫正義氏の実弟である。
「第一弾『planetarian 〜ちいさなほしのゆめ〜』を、BB-serveで、yahoo!!BBと契約している会員の皆様だけに先行販売させていただきます。第二段、第三弾も同様yahoo!!BB会員の皆様だけで御座います」
露骨にソフトバンクグループを喧伝する孫。
しかしその孫に対して歯向かう記者は、今や誰一人居なかった。
「もちろん、会員以外の、どうしても遊びたいという皆様のことを忘れたわけではありません。会員以外の皆様は一週間後に、yahoo!!BB会員の皆様に遅れて遊ぶことが出来ます。」
さも優しいだろうと言いたそうな孫。
歯向かいたい船津であったが、しかし、一週間待てば一般ユーザーでも遊べるのだ。
最悪の事態は免れたと考え、矛を収めるのが懸命だと考える。
「さて、まだ皆さんに伝えてないことがありましたね?」
孫が馬場に視線で合図を送る。
「それでは馬場さんに、そのシリーズ名を紹介して頂きます」
「おう……」
馬場を影から見つめる男がいる。
涼元だ。
冷たく燃ゆるその瞳で、会場を睥睨する。
「いよいよお披露目、というわけですか」
孫が下がり、馬場が再び壇上へ上がる。
「鬼が出るか、蛇がでるか、果てさて……」
馬場がマイクを手を取った。
最初、そのゲームがまだ『ちいさなほしのゆめ』というタイトルに過ぎず、planetarianの先行バージョンであった時のことだ。
シナリオを書き上げていると、ふと、涼元の頭の中へと、どこからか転がり込んできた言葉がある。
それは決して小物とか、全年齢とか、ダウンロード販売のみとか、そのようなマイナスイメージではなく、既存のどのような物語を伝える媒体を超えた、まさに相応しい言葉であった。
そう、まさに馬場の夢を、涼元の野望を、そして……
「――――――――――――
――――KineticNovel――――
お前マジで頭いいな
というわけで、
■■ 終 了 ■■
21 :
名無しさん@初回限定:04/12/09 01:06:13 ID:+5r+OO4g
1年前、戦争があった
いや
戦争ならば遙かな昔から何度となくあった
彼らは難民板を出で、PINK鯖を目指して侵攻を繰り返した
運に恵まれぬ彼らに、勝利が続くはずはない
彼らは、時代が変わったことに気づかなかった
スレ削除とアク禁を繰り返してスレッドを失い、
難民板1スレッドに戻りつつあった彼らは 比類無き厨房を養い
それを武器にエロゲ3板に向かって最後の戦いを挑んだ
それが1年前の戦争
彼らは猛々しく戦い、惨敗した
自スレ内で、田代砲を使う愚さえ犯した型月信者
その無惨を目にしたエロゲ3板住人たちは
彼らに関わることをやめようと心に誓った
世界に平和が訪れた
彼らのおかげで
それは永久に続くかと思われた
平和から最も遠いこの島で平和を守って削除する彼ら
22 :
hage:04/12/09 01:45:17 ID:qo3yKFnF
葉鍵板最近ひといなくなっちまったし相変わらずsageもできない変な生物が生きてるしなぁ
ワカルワカル
だが葉鍵板にカエレ!!(・∀・)
月を出せ
まずはそれからだ
24 :
●:04/12/09 03:04:24 ID:T7nWcQYT
良スレの予感.
ところで作者は早めにトリップつけたほうが.
ようは葉鍵仮想戦記の二番煎じか
こういう企画物のSSはそこにいっても困るんじゃないか?
ていうか自分でサイト開いてそこでやってくれよ。
ネタ業界板で何言ってるんだ。
お前の板?
30 :
名無しさん@初回限定:04/12/25 13:23:33 ID:06jVsw8y
なかなか面白い
他にもいろいろキボンヌ
2004年12月14日(火)
■ お知らせとお詫び
『メイデンハロー』発売延期および『planetarian 〜ちいさなほしのゆめ〜』の
一時販売停止について
過日より販売しておりました『planetarian 〜ちいさなほしのゆめ〜』につきまして、
一部ネットワークに流通している不正プログラムを使用した
違法行為が発覚いたしました。
つきましては、2004年12月13日にYahoo! BBユーザー様先行発売予定だった
『メイデンハロー』および、『planetarian 〜ちいさなほしのゆめ〜』の販売を
一時停止させていただきます。
発売を心待ちにしていただいたお客様には大変申し訳ございません。
早急に不正防止技術の向上を図り、一日も早い再開にむけ努力してまいります。
何卒ご理解のほど、お願い申し上げます。
2004年12月24日(金)
■『メイデンハロー』『planetarian 〜ちいさなほしのゆめ』販売開始のお知らせ
12月24日より『メイデンハロー』のYahoo! BB会員様先行販売開始及び
『planetarian 〜ちいさなほしのゆめ〜』の販売を再開いたします。
大変ご迷惑をおかけいたしましたことをお詫び申し上げます。
2004年12月24日 18時 『メイデンハロー』 Yahoo! BB会員様先行販売開始
『planetarian 〜ちいさなほしのゆめ〜』 販売再開
2005年 1月 7日 18時 『メイデンハロー」 一般販売開始
>>1氏よ
>>32の内容を踏まえた後日談のSSもいつかお願いします。
コピペ改変がやっとな奴に過度の期待はよせってw
流れが止まったな
駄スレ確定
>>32-33を書いた者だが。
最近ビジュアルアーツ系ブランドでリメイク商法が目立つ。
売上が低下してるのだろうか。
そしてキネティックノベルという非18禁路線・ダウンロード販売。
現状のエロゲ業界に限界を感じて新規市場の開拓に乗り出したわけだ。
VAの試みは興味ある。
それだけに販売システムをクラックさせてしまい、
ダウンロード販売への不信感を与えてしまった
お粗末なヤフーBBには腹が立つ。
誰か書いて
保守
保守
無駄に文才を浪費するな
41 :
名無しさん@初回限定:2005/04/29(金) 11:02:27 ID:nDomPVPP
あげ
キネティックノベル、久々に新作が出るね。
43 :
名無しさん@初回限定:
誰かリバ原・AILでよろw