361 :
七瀬と香月:
19:30 BOOKSHOP 蔵の中 18禁書籍コーナー
(これと・・・・この本も使えそうかしらね?・・・後は・・・)
蔵の中の18禁コーナーで女性雑誌を物色する高遠七瀬の姿があった。
(私、どんどん悪い子になっちゃうわ・・・でも浪馬君のためだもの)
先日生まれて初めて男に、浪馬に抱かれた七瀬は浪馬への想いをますます
強くしていた。
(この前は痛くて気絶しちゃったけど、次からは・・・・・・・・)
(エッチなこともちゃんと勉強して、浪馬君を喜ばせてあげたいの)
七瀬は、要するにどうしようもなく真面目な少女だった。たとえそれが
不慣れな性行為であろうとも、満点を取ろうと考える性格だった。
『18歳未満及び高校生への販売は禁止されています』の張り紙にチクチクと
良心を痛めつつ、それでも七瀬は中身を確認しながら雑誌を選んでゆく。
(これだけあれば・・もう十分ね・・・・でも問題はこれからよ)
七瀬は顔をあげ、遠くに見えるレジを凝視する。
(だ、大丈夫よね? バ、バレないわよね?)
362 :
七瀬と香月:04/10/14 00:37:28 ID:p4zC+KZy
私服に着替えた七瀬は、元々大人びた顔立ちのせいもあり、知らない者が見れ
ば十分女子大生で通じるだろう。しかし人一倍モラルを重んじる彼女は、哀れ
なほどに緊張していた。
(じょ、条例違反よ、条例違反、私条例違反するのよ)
(でも行かなくっちゃ。浪馬君との未来のために!)
(ルビコン川を渡るの!)
大きく一つ深呼吸すると、七瀬はレジへ向かって足を踏み出した。
そこへ
「あれ? 高遠さん・・・・だよね?」
背後から声をかける者がいた。
363 :
七瀬と香月:04/10/14 00:38:45 ID:p4zC+KZy
七瀬「ひゃ!?」
突然名前を呼ばれて七瀬は思わず硬直する。慌てて振り向くとそこにまだ
中学生とおぼしき少女がニコニコしながら立っていた。
七瀬「・・あ、あなた誰? ど、どこかで合ったかしら?」
少女「うぅ・・ヒドイなあ、高遠さん。忘れちゃった? 香月、沢村香月だよぉ!」
七瀬「あ、さ、沢村先生? お、お久しぶりです・・・」
今年の初夏、頼津学園にやってきた実習生を七瀬は思い出した。
香月「実習も終わったし、今はもう先生じゃないけどね」
七瀬「す、すいません気が付かなくて」
香月「短い付き合いだったから、仕方ないよね。
そういや、高遠さんはまだ自治会頑張ってるの?」
七瀬「はい」
香月「エライエライ。ところで何の本持ってるのかな?」
七瀬「え?」
七瀬が胸に抱えている雑誌を香月は興味しんしんで指差した。
七瀬「あの、こ、これは・・・」
(ど、どうしよう? まさか先生に見つかるなんて)
香月「隙あり! とりゃ!」
七瀬「あっ」
香月は素早く雑誌を一冊七瀬の手から奪い取ると、パラパラとめくりだす。
子供っぽい外見どおり、やることも子供っぽいのが香月だった。
香月「特集・・彼が貴女から離れられなくなる口技ぃ?・・高遠さん?」
七瀬「は、はいっ?」
七瀬の声が裏返った。
香月「むふふふふふふ、高遠さんもこんなの読むんだ?」
七瀬「あぅぅぅぅぅ・・・」
365 :
七瀬と香月:04/10/14 00:44:08 ID:t8cezoWI
香月「意外だなあ・・・でもいくら何でももこれは刺激強すぎない?」
ちょっぴりどぎつい性技指南のページを開いて七瀬に見せると、
香月が苦笑した。
七瀬「・・・・・・・・・」
七瀬は羞恥のあまり身がすくんだ。
香月「興味あるのはわかるけど、高遠さんが買っちゃいけない本だよ?」
七瀬「・・・・・・はい」
香月「実習は終わったけど、さすがにちょっとこれは放置できないよ」
七瀬「・・・・・・はい」
香月「ほら雑誌を本棚に返しなさい。それで見なかったことにしてあげるから」
366 :
七瀬と香月:04/10/14 00:45:41 ID:t8cezoWI
七瀬「せ、先生・・・・」
香月「ん? なに?」
香月が正しく、間違っているのは自分。そんなことは百も承知だった。
しかし七瀬には今、是が非でも本を手に入れたい切実な理由があった。
(ろ、浪馬君のためなら)
七瀬「お、お願いです! 見逃してくださいっ!」
香月「え?」
七瀬「悪い事なのはわかってます。でも、でもどうしても必要なんです!」
香月「こ、こんな雑誌が?」
七瀬「そうですっ!」
香月「高遠さん・・・」
七瀬「先生・・お願い・・・お願い・・・お願いします・・・・」
七瀬は自分の胸ほどの背丈の香月に何度も頭を下げた。
周囲に他の客がいなかったのが幸いといえば幸いだった。
367 :
七瀬と香月:04/10/14 00:46:39 ID:t8cezoWI
七瀬の必死の嘆願にあっけに取られていた香月は、
それでも年上らしい気配りを見せた。
香月「そんなに頭下げないでよ。うーん・・・何かワケがあるのね?」
七瀬「は、はい・・・」
香月「でもこんなモノいったい・・・あ・・・ああ、そっか」
七瀬「先生?」
困惑顔の香月の表情がニヤニヤ笑いへと急変する。
香月「えへへへへへへへ、高遠さん?」
七瀬「な、なんでしょうか?」
香月「いい人できたんでしょ?」
七瀬「・・・・・・!」
香月「それでこんな雑誌が欲しくなったんだ?」
七瀬「あ、あの、あの、あの、あの・・・」
香月「むふふふ、自治会の副会長さんもなかなかやるじゃないの」
香月は満面の笑みを浮かべ、肘で七瀬のお腹をツンツンと突いた。
七瀬「あうぅ」七瀬は顔をあげられなくなった。
368 :
七瀬と香月:04/10/14 00:50:34 ID:t8cezoWI
香月「ね、高遠さん」
うつむいたままの七瀬の顔を覗き込むと、香月は優しく言った。
「教師を目指す者として見過ごすわけにはいかない事だけど、
女としては貴女の気持ちもよくわかる。今日ここで合ったのも
何かの縁かもね。だから協力してあげるよ」
七瀬「先生・・?」
香月「ほら高遠さん、残りの本も貸しなさい」
七瀬「え?」
香月「あなたが買っちゃいけない本だって言ったでしょ?」
七瀬「は、はい」
香月「私が代わりに買ってあなたに渡すから」
七瀬「え?」
香月は有無を言わせず雑誌を奪い取ると、さっさとレジに向かう。
七瀬「あ・・・先生・・・」
香月「あなたはそこに居なさい。後でお金だけ返してねー」
369 :
七瀬と香月:04/10/14 00:52:10 ID:t8cezoWI
(先生・・・・・・・)
七瀬は意外な香月の行動に驚きながら、感謝の気持ちでいっぱいになった。
(外見は子供みたいな人だけど、私なんかよりずっと大人なんだわ・・・・)
(え?・・・外見が子供・・・・?)
七瀬は、ふと恐ろしい現実を思い出し、慌てて香月の後を追いかけた。
「せ、先生! 待ってください」
しかし既に遅かった。レジの方から香月のお子チャマなキンキン声が
声が響いてくる。
「なんですって?! わ、私はもう大人だってば!」
370 :
七瀬と香月:04/10/14 00:53:30 ID:t8cezoWI
七瀬が駆けつけると、既にレジの前で香月と店員の珍問答が繰り
広げられていた。
香月「だから、私はもう大学生で・・・」
店員「そんな嘘言っちゃダメだよ、お嬢ちゃん。ママはどこかな?」
香月「マ、ママ?」
店員「この本はね、もっと大きくなってからにしようね」
香月「し、失礼ね。大学生の私に向かって何てこと言うの!」
だがレジの前でブンブンと腕を振り回す香月は、大学生どころか小学生
にしか見えない。
店員「大学生? 難しい言葉を知ってるんだね?」
香月「あ、あのねえ」
371 :
七瀬と香月:04/10/14 00:55:13 ID:t8cezoWI
七瀬「先生っ!」
香月「あ、高遠さん。言ってやって言ってやって、私が大学生だって」
七瀬「えーっと・・・」
(い、言ったって無駄よ。私から見ても小学生だもん・・あ、そうだ)
七瀬「先生、免許か何かお持ちじゃないですか?」
香月「あ、そうそう。ほらこの学生証を見なさい!」
香月がバッグから学生証を取り出す。
店員「顔写真のところに犬の写真が張ってあるけど・・よくできたオモチャだなあ」
香月「だからそれは私の友達が張ったの! ちゃんと下には私の写真が!」
372 :
七瀬と香月:04/10/14 00:57:03 ID:t8cezoWI
20分後 BOOKSHOP前
七瀬「はぁ・・・」
香月「ひぃ・・・」
散々すったもんだした挙句、なんとか店員に納得してもらった二人は、
ようやく雑誌を手に入れて、店の外に出た。
七瀬(大騒動になってしまったわ。し、しばらくはこの店に来れないかも)
香月「ったく・・・いつもこうなんだから。私の何が悪いっていうの?」
七瀬「・・・・・・・」
その外見では仕方ないと思いつつ、香月が気分を悪くするだろうと考え、
七瀬はコメントを控えた。
香月「このレディを捕まえて中学生だ、小学生だなんて、ホント失礼
しちゃうでしょ?」
七瀬「・・・・・・・・・」
七瀬は、やはり何もいえなかった。嘘が言えない性格なのだ。
香月「高遠さん、ほら早く行こうよ。店員のヤツ、まだこっち見てるよ」
七瀬「あ、はい」
373 :
七瀬と香月:04/10/14 00:59:08 ID:t8cezoWI
駅前広場
二人はとりあえず近くの駅前広場まで移動した。
七瀬「先生、お代金です」
香月「ありがと。じゃあこれがあたなの本だから」
七瀬「すいません。ご迷惑かけてしまって」
香月「え? うん、平気平気いつものことだから」
七瀬「でも・・・」
香月「気にしない気にしない・・あ、そうだ、お礼といっちゃなんだけど」
七瀬「はい」
香月「高遠さんの彼氏の名前、教えてよ、えへへへへ」
七瀬「あ、あの・・あ・・それは・・・」
香月「むふふふふ、やっぱ恥しい? じゃあ・・・私が当ててみようかな」
七瀬「え・・・」
(実習でほんの少し学園にいただけ、そんなことがわかるのかしら?)
374 :
七瀬と香月:04/10/14 01:00:29 ID:t8cezoWI
香月「ほらバスケ部に格好イイ子がいたよね。えーっと、雨堂クンだっけ?」
七瀬「え? ち、違います」
香月「外れたか。美男美女でお似合いかと思ったんだけど・・・じゃあ・・」
七瀬「せ、先生、もう止めてください」
香月「そうそう、本命を忘れてたわね」
七瀬「え? 本命?」
香月「織屋浪馬クン」
七瀬「えっ・・・・・・!?」
香月「えへへへへへ、当たった?」
七瀬「・・・いえ、あ、あんないい加減な人なんて私は・・・」
(ど、どうして? どうしてわかったの?)
香月「これもダメか。私の勘は結構あたるんだけどなぁ」
七瀬は驚きながらも、香月が浪馬と思った理由を尋ねたくなった。
七瀬「あの・・・せ、先生・・どうして織屋君だと思ったんですか?」
375 :
七瀬と香月:04/10/14 01:01:47 ID:t8cezoWI
香月「そうね、あなた達二人は縁がありそうだったから」
七瀬「縁・・・・・?」
香月「短い実習期間だったけど、二人の噂は沢山聞かせて貰ったよ?」
七瀬「・・・・・・・」
香月「いつも衝突してたみたいね。でもそれも縁なんだよ」
七瀬「縁・・・・・・私と浪馬君の・・・・・」
香月「そ、今日偶然私と高遠さんが再会したのも何かの縁。あなたが
織屋君の天敵になったのも縁。何か繋がりがりがあるのね」
七瀬「・・・・・・・縁・・・・・」
香月「どうしたの? 急に考え込んじゃって?」
七瀬「い、いえ・・・何でもありません」
香月「ふーん。ま、いいや。これ以上聞かない方がいいみたいだし、むふふ」
376 :
七瀬と香月:04/10/14 01:03:27 ID:t8cezoWI
夜の頼津町 交差点
七瀬「先生、今日はありがとうございました」
香月「いいの、いいの。このくらい」
七瀬「では失礼します」
香月「えへへへ、彼のために頑張ってお勉強するんだよ?」
七瀬「あ・・・・・はい・・・・」
香月「じゃあ行くから。バイバイ高遠さん。またどこかで会えるといいね」
七瀬「縁があったら・・・ですか?」
香月「うん、そうだね!」
香月は手をヒラヒラと振ると、トテトテといかにも
子供っぽい走り方で去ってゆく。
377 :
七瀬と香月:04/10/14 01:04:44 ID:t8cezoWI
(本当に子供にしか見えない人よね。でも浪馬君を私の相手に連想する
なんて凄い観察力だわ。ひょっとして良い先生になれる人なのかもしれない)
七瀬は香月見送りながら、ふとそう思った。
(そうね、第一印象で決め付けちゃいけないのよね。そもそも浪馬君だって)
七瀬はクスリと一人笑った。
入学以来ずっと目の仇にしてきた浪馬を、今は愛しくてならない自分なのだ。
(不思議な話・・先生の言うとおり浪馬君と私には縁があったのかも知れない)
(・・・・先生のお蔭で、私何か大切なことを知った気がする)
七瀬は香月が消えた方角に、もう一度ぺこりと頭を下げた。
そして家路へとついた。
七瀬と香月 END