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4/6:04/03/29 01:40 ID:s5wf6hxG
僕は帰りのHRが終わると急いで妹の教室に向かった。たとえ、邪険に扱われようがかまわない。
一刻でも早く、妹の姿が見たかった。
でも、僕が妹の教室に着いたときには、すでに帰りのHRは終わっていた。それでも妹の姿を探して
教室内を覗いていると、見知らぬ女の子に声をかけられた。
「あの……妹さんを探しているんですか?」
「あ、うん。ちょっと用があって……」
えっと。どこかで会った気がする女の子だ。
「教室にはいませんよ。あの、午後は授業にもこなくって……」
女の子は、全然悪くもないのに、なんだかとてもすまなさそうに言う。
「そうなんだ。わざわざありがとう」
僕は女の子に笑顔でお礼を言うけど、内心では言い知れようのない想いが渦巻いていた。
確かに妹は協調性のない奴だけど、これまで授業をさぼるようなことはなかったはずだ。それに、僕
も妹も特別奨学生として学校に来ているので、無断欠席は他の人より大きなペナルティとなる。下手
をすれば奨学金を打ち切られ、退学しなければならなくなる。
男の僕が退学になる分はいい。その気になれば道路工事の土砂運びでも何でも仕事は見つかる。
でも、女の子の場合は学歴がないまともな仕事を探すだけでも大変だ。そりゃ、女の子には最後の
手段はある。だけど、そんな仕事にだけは就かせたくない。両親から妹を任された兄としては、とても
じゃないがそれは許されないことだ。
「そ、それと、これ。ごめんなさい、渡せなくて……」
そう言って女の子が差し出したのは、僕が妹につくったお弁当。
ああ、これを預けた女の子だったんだ。だから何となく見覚えがあったんだな、と納得する。
「こっちこそ、ごめん。あと、ありがとう」
僕はお弁当を受け取り、妹を探しに行くためきびすを返そうとしたとき、女の子が声をかけた。
「あの、お兄さん。へ、変なことを言うようなんですけど……」
596 :
5/6:04/03/29 01:41 ID:s5wf6hxG
女の子はずいぶんと迷ってから、おずおずと口を開いた。
「あの、最近なんですけど、その……菊池さんと付き合っているみたいなんです」
女の子は、誰がとは言わなかったけど、今の会話の流れでは、それが妹でないわけはない。
その内容に、僕はとてつもない衝撃を受けた。
菊池は学校ではある意味有名な生徒だ。いわゆる不良と呼ばれる奴だけど、あいつの場合は父親
が都議会議員の偉い人で、菊池が問題を起こしてもすぐに問題をもみ消されてしまうという噂があっ
た。
あいつに妊娠させられた女の子が堕胎させられ転校したとか、下級生が自殺未遂まで追い込まれ
たのに、学校では菊池に話を聞こうとすらしなかったとか、僕の耳にもいくつもの話が飛び込んでくる。
そんな奴と妹が付き合っているという話は、まさに青天の霹靂という奴だった。
僕はその女の子にお礼を言うのもそこそこに駆け出していた。
とにかく、妹に会いたい。会って何でもいいから話をしたい。その想いが僕の脚を急き立てていた。
アルバイトの時間ギリギリまで校内を探したけど妹の姿は見つけることはできなかった。
それで、しかたなくアルバイトに行ったのだが、そこでも失敗の連続。僕のことを買ってくれている店
長もしだいに渋い顔になってくるのを隠せないようだった。
皿洗いで連続3枚割ったときには、さすがに我慢の限界だったんだろう。「今夜はもうあがれ」と半ば
追い出されるようにして仕事を終わらされたのだ。
店長には申し訳なかったけど、今日ばかりは早く上がれることに感謝した。
とにかく、家に帰れば妹の顔が見れる。それだけが唯一僕の心の安定をつなぎとめていたのだから。
でも、僕が家に帰りついたときには、その一筋の希望も打ち砕かれた。
狭いアパートの部屋の中には、妹の姿はなかった。
ガチャとドアのノブが回ったのは、すでに時計の短針が3時を回ったときだった。
僕は居間のちゃぶ台にうつぶせになって、うたた寝をしていたが、すぐに目を覚まして玄関に行く。
597 :
6/6:04/03/29 01:42 ID:s5wf6hxG
どうしてこんな夜遅くになったのかとか、菊池と本当に付き合っているのかとか、いろいろ訊こうと思っ
てたんだけど、妹が帰ってくれたとたん、そんなことどうでも良くなっていた。
妹が無事だった。それだけで僕は満足なんだから。
だから、できるだけ明るく、でも深夜なので小さい声で妹を出迎える。
「お帰り。遅かっ……!」
帰ってきた妹の姿に、僕は絶句する。
兄の僕が見てもドキッとするぐらいきれいな顔は殴られたような痣ができ、母さんゆずりの塗れたよ
うな黒髪は乱れてゴミが巻きついている。服は胸元から引き裂かれ、それを何とか手で押さえてつな
ぎとめているような状態だった。
「な、なにがあったんだ!? いったい、どうして!?」
おそらく、僕の顔は真っ青になっていたと思う。もう、頭がめちゃくちゃになって、何をどうして良いか
わからない。とにかく、目の前の妹の姿が信じられなかった。
「まだ起きてたんだ。寝てればよかったのに……」
妹の声は、いつもと変わらぬ平坦な口調だった。それが僕にはたまらなく辛い。
「そんなことより、一体何があったんだ? お兄ちゃんに言ってくれ!」
「……肩、痛いんだけど」
僕は無意識に掴んでいた妹の肩から、手をあわててはずす。
「邪魔だからどいてくれない? あなたには関係ないことだから」
まるで道端の石ころでも見るような視線に押され、僕は妹に道をあける。
妹は何事もなかったかのように僕の目の前を横切ると、そのまま浴室へと入っていった。それから
間もなくシャワーの立てる音を聞きながら、僕はいまだに玄関の前から動けずにいた。
なぜなら僕は天地がひっくり返ったような衝撃に我を忘れていたのだ。
それは妹が僕の前を横切ったときに、かすかに嗅いだ臭いのせい。
僕が妹がいないときを見計らってする、いけない行為の後に良く嗅ぐ臭い。
それは出されたばかりの精液の臭いだった。