葱サバイバル2

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1名無しさん@初回限定
前スレ
葉鍵ロワイヤルに負けないモノを作ろうではないか!
http://www2.bbspink.com/test/read.cgi/erog/1073371138/
から始まったリレー小説です。
どんどん書いて次に繋げて行きましょう。

感想・意見は此方へ。
葱ロワイアル感想・議論スレッド01
http://www2.bbspink.com/test/read.cgi/erog/1073937552/

まとめサイト
http://www.h5.dion.ne.jp/~p_force/negi.htm
現状をまとめたダイジェストにルールまとめたものや人物表など
役立つものばかり。 書き手さん・読み手共に必読。
書き手間用の意見・打ち合わせ・補足・設定などを決めるBBSもあるので
それらの内容はそちらへどうぞ。
作成者:紫零氏thx!!
2名無しさん@初回限定:04/01/26 21:30 ID:Fpxd+Frw
       〜糸冬〜
3名無しさん@初回限定:04/01/26 21:30 ID:W2HA8a3f

          ∧_∧
    ∧_∧  (´<_`  ) 
   ( ´_ゝ`) /   ⌒i
   /   \     | |
  /    / ̄ ̄ ̄ ̄/ |
__(__ニつ/  FMV  / .| .|____
    \/____/ (u ⊃

4名無しさん@初回限定:04/01/26 21:33 ID:Fpxd+Frw




               〜糸冬〜
5葉鍵信者:04/01/26 21:34 ID:a7pJw+j1
即死回避
6名無しさん@初回限定:04/01/26 21:38 ID:q6FaYVS1
     ク




                ソ
7名無しさん@初回限定:04/01/26 21:46 ID:UtiPaw6r
激良スレ
8前スレ703からの続き:04/01/26 22:01 ID:HLtr3b85
だが、彼も又幾多の戦場をくぐり抜けて来た戦士である。
すぐに思考を切り替え、辺りの敵の気配を探ろうとしてすぐにあることに気が付く
「(そういや神剣以外の気配は探れないんだよな・・バカ剣)」
胸中でため息をつく、その背後に低い声が投げかけられた。
「何をしている・・・あの男はもう移動しているぞ」
「あんた・・?」
一瞬、悠人の顔に驚きの表情が浮かぶ。
無理も無い
先ほどここでこのまま朽ちていく――そう宣言した長崎旗男が悠人を促してるのだから。
「・・・行くぞ」
悠人の戸惑いなどまるで意に介さず旗男は機敏な動作で飯島の後を追った。
「ちょ、ちょっと待ってくれ」
慌てて自分の後を追う若者の顔には、どれだけの困難にも屈しない力強い意思が確かに漲っていた。
それこそが、長崎旗男を動かす切っ掛けであったと、彼自身まだ実感してはいなかった。
今のところ彼はこう思っていただけだ。
「(戦場なら・・私も死ぬことができるだろう・・)」

【飯島 克己@モエかん: 狩 状態良 所持品:ワイヤー】
【高嶺悠人@永遠のアセリア: 狩 状態良 所持品:永遠神剣・第四位『求め』】
【長崎旗男@大悪司: 狩 状態良 所持品:銃剣】
9名無しさん@初回限定:04/01/26 22:13 ID:iEdPsnF7
即w死w回w避w応w援wあwげwwwっうぇ
10名無しさん@初回限定:04/01/26 23:46 ID:Fpxd+Frw










                      〜糸冬〜
11名無しさん@初回限定:04/01/27 01:04 ID:LR/760gT
回避
12名無しさん@初回限定:04/01/27 03:30 ID:wBY+dLU3
 









                〜〜〜糸冬〜〜〜
13葉鍵信者:04/01/27 03:57 ID:IgEeDBaM
 下っ端はつらいよ

 総帥の間こと新闇魔法学会本部。
 ごそごそと整備をする三人組の姿があった。
 「幹部ぅ、俺たち雑用しかさせて貰ってない気がするんですが……」
 「そうですよぉ、それにこの計画本当に上手くいくんですか?」
 「うるさい! 忘れたか、我々には理想郷を作るという偉大な目標があることを!」
 「だからって、魔王復活より無茶な計画だと思いますよ」
 「やかましい! 総帥様のいない間に任された機械整備ちゃんとやらんか!!
  大体、賞味期限の切れたカップラーメンの生活から解放されたのは誰のおかげだと思っておる!?
  そしてこの計画が成功すれば我々の生活もより豊かになる!!
  これも全て総帥様のおかげじゃ!!」
 「でも、やってる事はあんま変わりないですよ……」
 「そうそう、俺たちどうせ下っ端のままな気がするなぁ」
 闇魔法学会員AとB。 そして幹部。
 彼らは、闇魔法学会摘発を逃れ残った三人であり、魔王復活の目標を変え
 新世界を作るヴィルヘルムの考えにも従い、そのままついてきたのだった。

 「何を言うか!!
  例えば総帥様が練りわさびチューブを一本丸ごと食えと仰れば、
 おまえらはその通りにせねばならん!!
  総帥様が明日から全員モヒカンで参加を呼びかければ、
 北○の拳の雑魚と間違われようとも実効に移さねばならん。
  総帥様が夜中にコンドームを買ってこいとおっしゃれば、
 例え店員に白い目で見られてもレジまで持って行かねばならぬのじゃ〜っ!」
 「げっ!」
 「俺、この世界から帰してもらってもいいですか?」
 「馬鹿者!!」
 幹部は、ドガン!! と手を打ち付ける。
14下っ端はつらいよ:04/01/27 04:01 ID:IgEeDBaM
 「総帥様のためにも……。 いや、人類の為にもこの魔法に満ちた理想郷を作り上げねばならんっ!」
 「幹部……」
 「召還した者たちを招きに行ってる同志たちがいるというのに、我らが働かんでどうするというのだ!!」
 「幹部……」
 「おお、解ってくれたか! A! B!」
 「いえ、幹部、それスイッチ押してますよ……」
 「連絡用の放送装置ですね……」
 「し、しまったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
 「あーあ、どうするんですか、幹部」
 「俺知りませんよ」

 スイッチは慌ててきったものの
あたふたとする三人の前に、ドアを開けて入ってくる男が一人。

 「「「ケ、ケルヴァン様!!」」」
 つかつかと歩いて三人に近寄ってくるケルヴァン。
 「いえ、これは幹部がやったことでして、俺たちはなにも……」
 「なっ、お前らずるいぞ!!」
 「うう、そんなに怖い目で見ないで下さいよ」
 三人の前に立つとケルヴァンは、水晶を差し出した。
 「総帥から直々に通信だ……」
 「「「げげぇ〜……」」」
 『貴様ら!!』
 水晶から総帥の声が聞こえてくる。
 いつも水晶を通して総帥の指令を受けていた彼ら三人には慣れた風景である。
 「ははーっ!! 申し訳ありません。 部下どもが総帥様の言う事を……」
 「なっ、スイッチ押したのは幹部じゃないですか……」
 醜い責任の押し付けあいを始める三人。
15下っ端はつらいよ:04/01/27 04:02 ID:IgEeDBaM
 『良くやった』
 が、彼らの予想を裏切った声がかけられる。
 「はっ、それはどう言う事で……?」
 『余とした事が、盲点であった。
  一人一人出向いて迎えに行くよりも全てに連絡をしてから
 歯向かう物を排除し、迎えを出すというやり方を取ればよかったわ。
  我ながら呆れる……』
 「で、では、我々の事は……」
 おそるおそると幹部がヴィルヘルムへと伺いを立てる。
 「うむ、此度の件は、褒美を取らせよう」
 「ほ、本当でございますか!?」
 「やりましたねぇ、幹部」
 「バカもん、この功労は私のおかげであろうが!」
 『心配せんでもちゃんと三人にやるわ』
 「「「へへぇ〜」」」
 『では、それについてはケルヴァンに任せてあるゆえ、彼から受け取るが良い』
 「「「ありがとうございます」」」
 そして水晶の輝きが終わり、総帥からの通信は終わった。

 「それでは、案内しよう……。 ついてこい」
 くるりときびすを返し、部屋を出て行くケルヴァン。
 それに追従していく、三人。

 そして、彼ら四人がついた部屋は、いかつい魔方陣の用意された儀式用の広い部屋。
16下っ端はつらいよ:04/01/27 04:03 ID:IgEeDBaM
 「あの、ケルヴァン様、ここは……」
 明らかに褒美が出されるような雰囲気の部屋ではないのに恐れを抱きだす三人。
 「三人とも、この水晶に触れよ」
 そういうと三人の前に三つの水晶が浮かび上がった。
 「あのぉ、それに触ると何があるんでしょうか?」
 『余の心遣いが気に食わんというのか?』
 各水晶から総帥の怒声が鳴り響く。
 「そ、総帥様、わ、解りました。 直ぐに触らせていただきます」
 ぺたっと三人同時に水晶に手を触れる。

 「触りましたが?」
 べきべきべきべき、ぶっ、ぐが、ごぼ。
 三人の身体が異様な音と共に曲がり始める。
 「うがっ、ぐあああ、ぎゃぁぁ……」
 「か、身体の骨が折れる……」
 『くっくっくっく』
 「そ、ぞうすい様……。 なにをぉ」
 『貴様らにフェンリルの力を与えた』
 「うがぁぁぁ、ぐげえええええええええええ」
 『喜ぶがいい。 その強大な力が褒美だ』
 
 やがて、悲鳴と共に、身体が変化し終えると三人は魔獣フェンリルの姿へとなった。
17下っ端はつらいよ:04/01/27 04:10 ID:IgEeDBaM
 「ぐぎゃぁぁぁぁぁぁあああああああぁぁぁぁぁ!!」
 『ケルヴァンよ、この三匹への指揮権は貴様に任せた』
 「はっ、では、東西北の結界を維持する装置を守護させるとしましょう」
 『では、余はもう少ししたら戻るゆえ、留守を頼んだぞ』
 ぶぃんという音と共に水晶の光が消える。
 さっそくケルヴァンは、三匹の魔獣へと命令をかけると部屋を後にする。
 そしてフェンリルたちは、ケルヴァンの命令を受けるとそれぞれの持ち場へと向かっていくのだった。


【フェンリル@メタモルファンタジー: 魔獣 状態良 東の結界装置を守護】
【フェンリル@メタモルファンタジー: 魔獣 状態良 西の結界装置を守護】
【フェンリル@メタモルファンタジー: 魔獣 状態良 北の結界装置の守護】
18名無しさん@初回限定:04/01/27 20:56 ID:eI5h2NbZ
幹部って呼ばれる下っ端や、すげぇ適当な叫び声に失笑しつつ、
これじゃフェンリルとやらがそんなにすごそうな魔獣には見えないな、と乾いた笑いを浮かべながら、

ああでも放送はいいアイデアかもしれんと期待を持ちつつ、
でも「魔力もちは保護するけど持ってない奴はヌッコロス」なんて放送したらヴィル真性のアホだし、
そこら辺を伏せて「ここは安全だからカムヒア」なんて放送したら今度は召還者側に疑う理由が無いし、
そう考えると結構穴のあるアイデアかもしれんと思い直しながら、
この人はいつも、こういう全体イベントを絶対他の書き手に相談しないで独断でやるけど、
今回本当にここまで考えたんだろうか、と危惧しつつ、

捕手。
19インターミッション:04/01/28 00:35 ID:4DkGVZPQ
 鳴海孝之と涼宮遙は、襲ってきたドライから逃れる為に、森の中を必死で走っていた。
 しかし、元々身体が丈夫な方では無く、また三年もの植物状態が続いた遙にとって、僅かな時間だとしても、全力疾走というものは苦痛以外の何物でも無かった。
 そして、とうとう限界が来る。
「あぅ……!」
「遙っ!」
 遙の足がもつれ、地面の上に転倒してしまった。
 それを見た孝之は、すぐに遙の近くへと戻ると、彼女の手を取って、無理やり立たせようとする。
「遙、立てよ! 追っ手が来ているかもしれないんだぞ!」
「た、孝之君……。だって、足がもう……」
「だってじゃねぇよ! ほら、早く!」
 孝之は遙の腕を引っ張るが、もはや既に遙の足は彼女の思う通りに動かなかった。
 それを見た孝之は、自分が苛立っている事を隠そうともせず、さらに遙の耳にも聞こえるくらいの大きな舌打ちをする。
「おい、あんたら!」
「!?」
 孝之達の耳に、突然男の声が聞こえてきた。
 慌てて声のした方に振り向くと、そこに立っていたのは一人の男、三流探偵、大十字九郎、その人である。
 白銀武達の前から逃げ出した九郎は、一組の男女のような人影を目に留めた。
 もしかしたら、アルが誰かに保護されたのかもしれない。
 この世界がどのようになっているのか、まだ何も知らない九郎は、その二人の人影にとりあえず声を掛ける事にしたのだ。
 孝之は、腰に掛けていた銃を構えると、九郎にその銃口を向ける。
「だ、誰だ! お前も俺達を殺そうとするのかっ!」
「違う! 俺はあんた達に害を与えようとは思わない! 見ての通り、俺の手には銃も無い。だからその銃を下ろしてくれ!」
 九郎は両手を上げてその場に立ち止まりながら、孝之を説得しようと試みる。
「孝之君……」
 孝之の後ろから遙の不安げな声が聞こえてくる。
(そうだ。遙は俺が守らなきゃならないんだ、水月の為にも!)
 ドライの前から、水月を見捨てるようにして逃げた孝之の心の中では、既に水月は過去のものとなっていた。
 死んだ水月の代わりに、遙を守る、そんな決意。
「お前、本当に俺達に何かするつもりは無いのか?」
「あ、ああ! それは約束する!」
 孝之の言葉に、九郎は安心したような表情を浮かべた。
20インターミッション:04/01/28 00:35 ID:4DkGVZPQ
「俺は、ただ一人の人間……、つーか、何て言えばいいのか……。ともかく、人を探しているだけだ。誰かを殺そうとなんてこれっぽっちも考えてない。この銃だって護身用だ、化け物相手ならともかく、普通の人間に向けたりはしないさ」
 九郎は腰に掛かっている銃を指差しながら、そんな言葉を孝之に告げた。
「あんた、銃を使えるのか……。だったら、お願いだ! 俺と遙をどこか安全な所まで、連れて行ってくれないか、頼む! 俺達は今命を狙われているんだ!」
「命を?」
 九郎の問いに、孝之は頷く事で答える。
「俺はこいつを守らなきゃならないんだ、水月の為にも……。だから!」
 九郎の目に映る孝之の姿がある人間と重なる。
 神の鎧を身にまとい、ただ一人孤独に戦う天使の姿。
「俺はさっきも言った通り、人を探している途中だ……」
「そんな……!」
 孝之の表情が絶望で曇る。
「だから、そいつが見つかるまでは、俺はあんた達と一緒に行動しよう。だから、あんた達も俺の人探しに協力してくれ」
「あ、ああ、勿論だ! いいよな、遙?」
 孝之は自分の後ろに視線を飛ばし、遙の姿を見る。
 遙もコクリと頷いた。
「とりあえず、この森を抜けよう。俺が探している奴は、この森の先にいるような気がするんだ」
 森の先の方を指差して、九郎が孝之達に告げる。
「あ、あの……。その探している人ってどんな方なんですか?」
 遙がおずおずとしながら九郎に訊ねる。
「ああ。紫っぽい髪をした女だよ。見かけはガキなのに、やたら態度がでかいのが特徴といえば特徴か。心当たりは無いか?」
「……似たような奴は知っているけど」
「本当か!」
 九郎が孝之に詰め寄る。
「い、いや。そいつの髪は紫じゃないし、そもそもこんな場所にはいないだろうから、あんたの探している奴とは違うと思う」
「そうか……。まあ、ともかく先に進もう。あんた達は狙われているらしいしな」
 九郎の何気ない言葉だったが、孝之と遙の表情が一気に沈んでしまう。
 早瀬水月。
21インターミッション:04/01/28 00:37 ID:4DkGVZPQ
 孝之と遙、共通の友人で、二人にとって大切な存在だった。
 彼女を見捨ててしまった事は、今でも二人の心を苛んでいた。
 九郎は雰囲気を察したのか、一言、すまない、とだけ言葉を呟くと、森を抜ける為にその足を動かし始めた。

【大十字 九郎 デモンベイン 状態以下以前と変更無し】
【鳴海 孝之 君が望む永遠 状態以下以前と変更無し】
【涼宮 遙 君が望む永遠 状態以下以前と変更無し】
22インターミッション:04/01/28 00:55 ID:4DkGVZPQ
追加ステータス部分

【鳴海 孝之 君が望む永遠(age): 狩 状態良 所持品:コルトパイソン】
【涼宮 遙 君が望む永遠(age): 招 状態良 所持品:拳銃(種類不明)】
【大十字 九郎 デモンベイン 状 ○ 持ち物 イクタァ、クトゥグア(共に銃)招】
23名無しさん@初回限定:04/01/28 15:17 ID:LiRK+LAd
速瀬水月。あとで校正よろ
24裏切りの代償:04/01/28 17:16 ID:4DkGVZPQ
「見つけた!」
 白銀武の視界に、一人の男の姿が飛び込んできた。
 否、良く見てみると、その他にも男と女もいる事に気付く。
「仲間か……? 綾峰、委員長! 見つけたぞ、あの男だ! 仲間らしい奴等もいる、気をつけろよ!」
 武は興奮しながらも、猛る気持ちを抑えて小声で近くにいる仲間達を呼ぶ。
「すぐに行くの?」
 綾峰の問いに、武は力強く頷いた。

「おい、お前孝之って言ったよな? そっちの娘、大丈夫なのか?」
 歩く足を止めて、九郎が心配そうな視線を遙に飛ばす。
 多少休んだとはいえ、まだ全快とはいえないのだろう、遙の足取りは重く、ともすれば何時転んでもおかしくないような状態だった。
 だが、孝之は九郎に顔を向けると、頷く事でその問いに答えた。
「俺も遙を休ませたいとは思っているけど、襲ってきた奴は遙を狙っているみたいだった。それに九郎さんの探している人も心配だし、今は先に進んだ方がいいと思う。遙もそれでいいよな?」
「あ、う、うん……。私は平気だから」
 憔悴しきった表情だが、それでも遙はぎこちなく微笑みながら頷いた。
「そうか……。辛いと思ったらすぐに言ってくれよ。アルならそう簡単にくたばりはしない。心配しなくても大丈夫……」
 そう九郎が言葉を発した瞬間だった。
 木陰から銃を持った人影が、飛び出してきた。
「あ、あんた達はさっきの!」
「たまの仇! ようやく見つけた!」
 武達はサブマシンガン、弓、マグナム銃をそれぞれ構えながら、九郎達の前に姿を現した。
「あれは白陵の制服!? た、孝之君!」
「あ、ああ……。あいつらも俺達と同じ……?」
 武達が身に付けている制服を見て、遙と孝之が小声で会話する。
「くっ! だから俺がやったんじゃないって!」
「嘘を吐くな! その銃で殺したんだろ? たまを、俺達の仲間をっ!」
 サブマシンガンを抱えて、武が叫ぶ。
「あなた達も動かないで。私達が用のあるのはその男だけ……、って! あなた、もしかして涼宮さんのお姉さん!? なんでこんな所に……?」
「あ……、あなた榊、千鶴……ちゃん?」
25裏切りの代償:04/01/28 17:17 ID:4DkGVZPQ
「あ……、あなた榊、千鶴……ちゃん?」
 榊と遙は、現状を忘れ、お互いの顔を見詰め合った。
「し、知っているのか、遙?」
「う、うん。この前、茜の水泳の大会で一回だけ会った事がある娘なの……」
 遙の体調が完全に戻ってから、初めて行った茜の水泳大会。
 そこで二人は茜を通じて一度出会っていた。
「ど、どうして貴方がそんな男と一緒に……? まさかお姉さんもそいつの仲間なの!」
 榊が拳銃を孝之達の方へと向けた。
「な、仲間? この人は九郎さんて言って……」
 悪い人じゃない、遙がそう言おうと口を開きかけたその時だった。
「違う!」
 孝之はそう叫ぶと、遙の手を取って武達の下へと走り出した。
「お、俺達はこいつに脅されて仕方なくついていたんだ。だから頼む! 俺達を助けてくれ!」
『なにぃ!?』
 九郎と武の声がハモった、しかし、その言葉が意味する内容はまったく正反対のものだった。
 九郎の口から出たのは、驚きを表す言葉。
 武の口から出たのは、怒りを表す怒声。
「た、孝之君! どうして……」
 しかし孝之はその問いには答えずに、そのまま武達を盾にするかのように彼等の後ろへと回り込む。
 九郎一人に対して、武達は三人。
 孝之の、素人の目から見ても、彼等の武装は有利そうに思えた。
 なにより、白陵という共通の関係を持つ者達と、銃を持った訳の判らない男という違い。
(これでいいんだ、俺達は死ぬ訳にはいかないんだから! 裏切り? 違う! 俺達はあの男と仲間にだってなっちゃいなかった!)
 罪悪感を打ち消そうとするかのように、孝之は己の心の中で呟いた。
「たまを殺して、この人達まで……。そういや、あんたの名前、聞いてなかったよな? 俺達に教えてくれよ」
「……大十字九郎」
 孝之の裏切りに呆然とした表情のまま、九郎は武の問いに答える。
「九郎って言うのか、あんた。最期に何か言い残す事は無いか?
 たまは何も言えないまま死んじまったけど、言いたい事があるのなら聞いてやるよ」
 しかし九郎は黙ったまま、その言葉に答えようとはしない。
「言い残す事は無い、と」
26裏切りの代償:04/01/28 17:19 ID:4DkGVZPQ
 カチャリ、と音を立てながら、サブマシンガンを構え直す。
「ふ、ふふ……」
「あ? 何がおかしい!」
 不意に九郎は笑い出した。
「笑うのを止めろ!」
 武がそう言っても、笑い声は止まらなかった、むしろ、だんだんと大きくなっていく。
「止めろ!」
 武の叫びが辺りに木霊する。
 すると、九郎はピタリと笑うのを止めると、今度は少し歩いて、丁度武の正面になる場所で立ち止まる。
「いや、あんた達があまりにおかしくてな。俺は、こう見えても結構命のやり取りってのをしてきているんだよ。中には、化け物みたいな、いや化け物ともやりあった事もある」
「だから何だって言うんだ!」
 九郎は、ふぅ、とため息を吐く。
 次の瞬間、彼の手にはそれまで腰にぶら下がっていた『クトゥグア』が掲げられていた。
 武の背に戦慄が走る。
「あんた達は、そいつらと決定的に違う部分がある。一つ、殺気が無い。内心、本当は殺したくない、なんて思っているんだろ?」
「そんな事……!」
「二つ」
 武が何かを言おうとするが、九郎はそれを無視するように話を続ける。
「俺がこうやって銃をあんたに向けていても、あんたも、まわりにいる仲間も、その手に持つ武器を使おうとしない。甘すぎるんだよ。本当なら俺はもうニ、三回は死んでいるよ」
 九郎は綾峰と榊の顔を見渡した。
「三つ。あんた達は……優しすぎる」
 九郎はそう呟くと、手にしていた『クトゥグア』を地面の上に置いた。
 そのまま、自分の両手を頭上に掲げると、一歩だけ武の近くへ足を踏みだした。
「仲間の為に。そんな考えを持っている奴等を、俺はこの手で殺せない。……実を言うと、俺も結構甘いんだよなぁ……。アルがいたら、何言われるか判ったもんじゃないけどな」
 上げた手の片方を動かして、自分の頭をポリポリと掻く。
「さっき、最期に一言、なんていったな? じゃあ、これが俺の最期の言葉だ。俺はあんた達の仲間を殺したりなんかしていない。……痛くしないでくれよ?」
27裏切りの代償:04/01/28 17:21 ID:4DkGVZPQ
 九郎は手を上げたまま、ゆっくりと両目を瞑った。
「白銀君……。もしかして、この人本当に……?」
 榊が、武の顔を覗い見るようにしながら、そんな事を呟いた。
 綾峰は、やはりいつもの表情のまま九郎の事を見つめている、しかしその手は固まったまま動こうとはしていない。
「お前……本当に」
 手に持ったマシンガンを下げて、武がそんな言葉を呟いたのと、遙の叫び声がその場に響いたのは、ほぼ同時の事だった。
『!?』
 その場にいる全員が、遙の方へと視線を向ける。
 そこには、足を抑えてうずくまりながら苦しんでいる遙の姿があった。

【鳴海 孝之 君が望む永遠(age): 狩 状態良 所持品:コルトパイソン】
【涼宮 遙 君が望む永遠(age): 招 状態良 所持品:拳銃(種類不明)】
【大十字 九郎 デモンベイン(ニトロ+) 状 ○ 持ち物 イクタァ、クトゥグア(共に銃)招】
【榊 千鶴 マブラヴ(age) 狩 状 ○ 持ち物 マグナム銃 装填数 6発】
【綾峰 慧 マブラヴ(age) 狩 状 ○ 持ち物 弓 矢10本、ハンドガン 15発】
【白銀 武 マブラヴ(age) 招 状 ○ 持ち物 サブマシンガン 装填数 2000発(およそ二分間打ち続けられる)】
28裏切りの代償:04/01/28 18:55 ID:4DkGVZPQ
ステータス修正

【涼宮 遙 君が望む永遠(age): 招 状態 △ (右足銃弾貫通) 所持品:拳銃(種類不明)】

でした。
29葉鍵信者:04/01/29 22:37 ID:DbrTVHj8
 休戦締結

 八雲辰人との交戦のしばらく後。
 まだ学会員たちによるヘマが起きる前のこと。
 蔵女と葉月の前には、一人の男が姿を現していた。
 彼女達にとっていずれ来るべきであろう者。
 「まさか、大ボスが直に来るとはね……」
 葉月が話し掛けた。
 そう、彼女達の前に姿を現したのは、ヴィルヘルム自身である。
 「余の名は、ヴィルヘルム・ミカムラ。
  この島の創設者であり、新たなる新天地を作る者」
 「私は、蔵女」
 「私の名前は、葉月。 彼女と共にこの世界の崩壊を防ぎに来た……」
 次に口を開いたのはヴィルヘルム。
 「単刀直入に言おう……。 何をしにきた?」
 「先ほど、葉月の言った通りに世界の崩壊を防ぎに来たのだが……」
 蔵女が返答をした。
 だが、それだけでは、ヴィルヘルムが納得するはずもない。
 「わざわざ遠く……、いや全くの異次元から管理外の管理者が来る理由がそれだけとは思えんがな……」
 口元をしかめながら、彼は二人に向かって答えた。
 「ふむ、説明が足りなかったか……。 此方としても其方と敵対する理由はないのでな」

 そうすると蔵女は、自分達二人がこの世界にわざわざ来た理由と目的を彼に話し始める。
 もし、この世界が崩壊したら、自分達の方へにも余波が来る可能性があることを。
 それを快く思わなかった管理者がわざわざ管理外の世界に、二人を使いに出した事。
30休戦締結:04/01/29 22:38 ID:DbrTVHj8
 「そして、其方が世界の壁を頑丈にしてくれたせいで、力が半減したがな」
 苦笑いしながら、彼女は、最後にそう付け加えた。
 「此方もいらんおせっかいに対して力を注いだせいで、集め蓄えた分の魔力を使い切ってしまったがな……」
 此方も苦笑ししながら、皮肉を彼女達に返した。
 干渉を断つ為に、ヴィルヘルムは、瞑想でせっかく強大になった魔力を捨て、
二人は、断たれた為により力の減少と死ぬ可能性を得た。
 二人にとっては、ヴィルヘルムは近づき。
 ヴィルヘルムにとっては、二人が手におえる可能性のある範囲に。

 「お互いに交戦するのは、得策ではない。我らの目的は、世界の崩壊を防ぐ事。
  お主の目的に敵対する理由はないのだが……」
 「あくまで邪魔はしないというわけか……」
 「そうだ。 それに今お主に死なれては、この世界が混乱するのは必須。
  そのくらいなら協力してやらんこともないぞ?」

 ヴィルヘルムは、考え出した。
 今ここで二人を始末しにかかるか、それとも仮初の同盟を結ぶかについてを。
 (世界の崩壊を防ぐのが目的なら、別の道が選ばれれば余の敵となる事もあるか……。
  かといって、この二人の戦力は非常に厄介だ。
  今戦えば、余とて勝ち残る自信はない……、ならば……)

 ヴィルヘルムが考え出したのを見た蔵女は、しめたと思った。
 そして、彼が此方に打算してくれるように押しを入れるため再び話し掛ける。
 そう、八雲辰人の事である。
 それを聞き、ヴィルヘルムは考えを決めた。
 そして二人に提案をした。
31休戦締結:04/01/29 22:39 ID:DbrTVHj8
 彼女らがその危険因子を追いかけている間は、敵対せず、協力関係にあろうと。
 「さて、どうする?」
 「よかろう……。 此方としてもそれは一番望むところだ」
 また二人もそれを受け入れた。
 今、ヴィルヘルム側と八雲辰人と言う二つを敵に回すのは、厄介であると判断したからだ。
 「締結と言う分けだな。 では、長居は無用だ。 余は、中央へと戻らせてもらおう……」
 当初の目的を達成したヴィルヘルムは、そうするとさっさと姿を消し帰路へとついてしまった。

 「同盟締結というわけか……」
 話し終えた蔵女の横から葉月が出てくる。
 「当面の所は、これでよかろう……。
  その後も持続させるかは、またその後の情勢だな」
 「私たちは、私たちの目的を追いかけるか……」
 「うむ、今は、それが最優先事項だからな」
 

【ヴィルヘルム・ミカムラ 鬼 状態○】
【蔵女 招 状態○(力半減)】
【葉月 招 状態○(力半減) 持ち物 日本刀】
32一難さってまた一難:04/01/29 23:23 ID:xlL9gVZd
「〜万事首尾よく事を運べ、以上だ」
ヴィルヘルムはケルヴァンへの通信を打ち切る。
しかし、放送とは気が付かなかった、そうだ、島中に向かって我が偉大なる理想を語れば、
皆、感涙に咽びながら我が理想郷の愛すべき民となるは、約束されたも同然だ。
「しかし、となると最初に何と言って切り出すかが問題だな、ここはフレンドリーに、
ウェールカム トゥ マイ パーラダーイスと行くべきか?いやいや、セオリーにのっとり
威厳をもって語るべきか?」
と、その時だった、いきなりこみ上げる吐き気に口元を押さえるヴィルヘルム、
押さえた指の隙間から鮮血が溢れ出す、さらにそれだけではなく、それと同時にまるで焼けた火箸を、
押し当てられたような激痛が全身を襲う。
全身を貫く激痛に顔をしかめるヴィルヘルム、なんとか悲鳴はかみ殺したものの、
両手の指先が弾け、血しぶきが舞う。
視界が見渡す限り真っ赤な上に、耳も遠く感じる、この分だと自分の身体中から派手に出血しているに違いない。
そしてその原因については心当たりがあった。
「くぅ・・・リバウンドかっ・・・」

これだけ巨大な結界を展開した以上、様々な手段で軽減こそしているが、
それでも直接の術者であるヴィルヘルムにかかる反動はかなりのものになる、
通常その反動は何らかの形で相殺できるようにするものだし、
無論、彼もその点において抜かりはなかった。
だがしかし、それはヴィルヘルムの予想を遥かに越えていたのだ。
結果、ヴィルヘルムの生命力と魔力は通常の半分…いや、3割程度にまで落ち込んでしまっていた。

一刻も早く本拠に戻って、力を補充せねば・・・だがそれには・・・、
彼の目の前には鬱蒼とした森や平原が広がっていた。
不本意な話だが、ここから本拠まで歩いて帰るしか方法はない。

魔法は使えない、使えば魔力の消費に衰弱した肉体がついて行けず、死あるのみだ。
魔法を使えば一瞬の距離だというのに……。
自分の力を過信し、しなくてもよい出陣をしてしまったツケをこんな形で払うことになるとは。
33一難さってまた一難:04/01/29 23:25 ID:xlL9gVZd
救援を呼ぼうとして思いとどまる。
島のコントロールは全てケルヴァンに移行。一任している・・・つまり自分がいなくても、
島の管理や運営には何ら問題がない、駄目だ、今連絡すれば奴は嬉々として救援どころか刺客を送るに決っている。
ならば蔵女たちに泣きつくか、それも駄目だ、ここで下手にでれば何を見返りに求めてくるか予想もつかない。
それにプライドが許さない。
つまり自分で何とかする以外、方法は無いのだ。

たとえ無事帰還できたとしても、今の肉体の状態を鑑みるに、もはや全回復できるとは思えないが、それでも。
「一難去ってまた一難か、だがまだ死ねぬ…理想世界を築き…そして全ての人類が余に感謝する時までは…」
執念の一言を漏らすと、ヴィルヘルムはおぼつかない足取りで中央に向かって歩き出した。


そのころ中央要塞内部
「うん?」
「どうかしたか?」
「いや、あんなとこにダンボールなんてあったか?」
「ダンボールなんざ何処にでもあるだろ」
「ちょっと動いたような気がしたんだ」
「箱が勝手にうごくかよ、熱でもあるんじゃねーのか」
などと警備兵たちはだれた雰囲気で巡回を続けていた。
だが、思い違いなどではなく、そのダンボールは警備兵がいなくなると、ゆっくりと廊下を移動するではないか。
そしてダンボールは周囲をうかがうような仕草を見せながら、突き当たりの部屋に入って行った。

廊下をかさこそと動いていたダンボール、その正体はゆうなとまいなだった。
彼女らはたまたまみつけたダンボールの中に身を隠し、ここまで逃れて来たのだった。
箱から顔を出した2人は青ざめた表情をしている、
「どうしよう・・・私たち、ううん私たちだけじゃなく、みんな化け物にされちゃうよ」
34一難さってまた一難:04/01/29 23:27 ID:xlL9gVZd
そう、先程まで2人が忍んでいた部屋は例の魔法陣の部屋だった、そこで彼女らは決定的瞬間を見てしまったのだ。
「とにかく何とかしないと…」
2人は顔を見合わせる、ダンボールに身を隠しての道中、2人は様々な話を聞き、
どうやら自分ら以外にもさらわれてきた人間が大勢いるということも知っていた。
「そういえばここは?」
まいなは周囲をきょうきょろと見まわす、巨大なマイクやスピーカーなどが所狭しと並んでいる。
「放送室?」
機材は彼女らの通う学校の物とは比べ物にならぬほど豪華だったが、基本的な操作方法は
どうやらそれほど変わりはないみたいだ、これなら扱える。

「テープレコーダーを探して!」
いきなりマイクに飛びつこうとしたまいなを制して、ゆいなは机の上の鋏で自分の服の袖を切り、
それをほぐしてバラバラにして、寄り合わせて何本かの長く太い糸に変える。
それを窓のカギと天井の換気扇に結わえ付ける。
さらに奏子にもらったキャンディの中にチョコレートがあることを確認すると、
それを半分に割り、放送機のメインスイッチ類に嵌めこんだ。
「あったよ!」
まいなが業務用のレコーダーを両手で抱えてやってくる、ゆうなはテープを挿入し、
マイクを繋げてから深呼吸し、おもむろに自分の声をテープへと吹きこんでいった。
「この島の皆さんへ〜〜」



全島に放送が鳴り響いてから数分後だった。
ガンガンガンガンと放送室の扉が叩かれる、やがて業を煮やした誰かが発砲、
中からモップで塞がれていた扉は穴だらけになって崩れ落ちる。

「見つけたら保護しろとか言っていたが、俺が許可する、殺していいぞ!あのガキどもめ!」
扉を破壊した隊長らしき男は本気のようだった、無理も無い、自分の警備区域でとんでもない不祥事が起きてしまったのだ。
「何処だ、何処にいるガキどもめ、ロッカーか?バケツか?…と見せかけておいて実はそのどれでもない
 柱時計の中だろーーーっ!」
35一難さってまた一難:04/01/29 23:30 ID:xlL9gVZd
隊長は柱時計に向かって、部下に制止されるまで発砲を繰り返す。
「ええい、シンプルにロッカーか!」
今度はロッカーに向かって照準を合わせた隊長だったが、その時部下が声をかける。

「やられたようです・・・これを見てください」
部下の指先を目で追っていくと、窓のカギから伸びたナイロン糸が換気扇にからまっているのが見える、
換気扇が回るにつれて糸が巻き上げられ、自動的に鍵が閉まるような仕掛けだ。

そして案の定、窓の外には飛び降りた際についた足跡がくっきりと残っていた。
さらにスイッチの類に溶けたチョコレートがくっついている。
あえてタイマーを使わなかったのは、本来の放送時刻を悟らせないためだろう。
子供と思っていたが、あの双子はあなどれない。
「外だ!あの双子はもう中にはいない!」
「かなり遠くまで逃げているはずだぞ」
警備兵らは押し合いながら窓の外へと飛び降り、散って行った。

「うまくいったね」
「でも…怖かったよう」
彼らが外に飛び出してから数分後、放送室の片隅のごみ箱の中から、ポリ袋にくるまり、
ゴミだらけになって双子は抜け出してくる。
あと数秒、仕掛けが見破られなければ多分自分たちは撃ち殺されていただろう、
だが、とにかく上手くいった、彼らはまさか自分たちがまだ中にいるとはもう思わないだろう。
ちなみに窓の外の足跡は、モップの先に靴をはめこんで、それを上から地面に押し付けて作った。
「これからどうしよう?」
不安げなまいなをゆうなが励ます。
「おにいちゃんが今の放送を聞いてたら、きっと何とかしてくれるはず、それまでは何が何でも逃げるの
 いいわね」
36一難さってまた一難:04/01/29 23:35 ID:xlL9gVZd

【朝倉ゆうな・まいな@はじめてのおいしゃさん(ZERO) 招 状態 ○ 所持品 キャンディ】
【ヴィルヘルム・ミカムラ@メタモルファンタジー(エスクード) 鬼 状態× 所持品 無し 】

(警備兵連中はエキストラ扱いです、つまり本編に影響する行動は取れません)
37這い上がる者:04/01/29 23:56 ID:DbrTVHj8

 「うぐぐ……。 止むを得ん、あの方法を使うしかない」
 そうすると、彼は、水晶を使い魂を蓄積していた中央の装置へとアクセスする。
 途端に中央から幾つかの魂の光が飛び上がり、彼の体の中に注がれていく。
 たちまち、傷はいえ、彼の身体に元の魔力と生命力が立ち戻る。
 「ぬぅぅぅぅ……。 流石に素晴らしいパワーだ!!
  召還に使う力とする予定だったが、止むを得まい。 余はここで倒れるわけにはいかんからな……」
 その時。
 双子の声が鳴り響いた。

 「おにいちゃん、たすけてー」

 「バカなッ!! ええい、ケルヴァンは何をしている!?」
 咄嗟に彼は、魔力放送に自らの魔力でジャマーをかけようと集中する。
 「これで、熟練した魔法使いでもない限りは、聞こえんはず……。 あの無能策士め……」
 が、その心配は及ばずに、それ以上の放送がなされる事はなかった。
 「散策は止めだ。 とっととワープ魔法で戻るとするか……」
 無能どもにこれ以上本拠地を任せるわけには行かない。
 「やはり、余が要塞を管理せねばならぬ。 動くなど持っての他だな」
 頭を痛めながら、彼は、要塞へとワープをするのだった。
38這い上がる者:04/01/29 23:59 ID:DbrTVHj8
【ヴィルヘルム・ミカムラ@メタモルファンタジー(エスクード) 鬼 状態△(病み上がり) 所持品 無し 】
39種明かし:04/01/30 00:12 ID:USGgKJZc
しかし放送は無事、終了した
何故なら・・・ヴィルヘルムの力は確かに回復したが、聴力だけは
元に戻っていなかったのだ・・・。

魔力放送を妨害しようとした瞬間、彼の鼓膜は再び損傷し、無音の世界となった。
それに気がつかないのはヴィルヘルム本人だけだった。

【ヴィルヘルム・ミカムラ@メタモルファンタジー(エスクード) 鬼 状態△(病み上がり) 所持品 無し 】
40種火:04/01/30 00:14 ID:xc9B1D6f
だが、彼が魔力でジャマーをかかげていたおかげで
放送もまた途切れ途切れ、それも魔力資質者意外には通らなかったのだった。

【特になし】
41天才達の邂逅:04/01/30 10:53 ID:UkpSFcBe
(つぅ・・・)
ナナスは頭を殴られたような衝撃で目を覚ました。
(僕は・・・いや僕たちはどうしたんだっけ?)
ナナスは記憶を辿り状況を思い出そうとする。
確か郁美と共にアイと名乗る少女から逃げるために海に飛び込んで・・・
「そうだ・・・彼女は郁美さんは・・?」
泳いで逃げている途中で力尽きたのだった。

「おや・・・また間の悪い時に目を覚ましたものだね」
「あなたは・・・?」
ナナスはどこともつかない廃墟の一角に寝かされている。
少し離れた所に郁美が寝かされているのが確認できた。
「うう・・・つっ!」
郁美がうなされている。
「どういう事だろうね・・・この場にいる3人が同時に苦痛を訴えるなんて。もしかすると新手の音波兵器か何かかもしれないね」
ナナスは声のした方向に頭を向けて・・・ロングヘアーの女性の亡骸を視界に入れた。
別に死体を見るのは初めてというわけではない。
しかし死体が話すというのは・・・
「ああ、こっちだよ。別に死体が喋ったとかいう非科学的なことはないから安心してくれ」
よく見ると女性の亡骸の挟んでナナスを同じくらいの年頃の少年がうずくまっていた。
「君が目を覚ました瞬間に急に頭痛がしてね。実際問題この島の主はなにをする気なのやら
それに君もかなり情けない。女性に守られるように抱きかかえられて倒れているとは。僕の周りはそんな男ばかりだね」
「あまり長居したい場所ではないが他に風雨をしのげるような場所が近くになかったものでね。
ここまで運ぶのでも大分苦労したのだよ」
ナナスを滑舌に話す少年を凝視していたが相手はそのことに気づくと
「自己紹介がまだだったね、江ノ尾忠介。忠介で構わないよ」
「僕はナナスだ。この人は郁美さん・・・一つ聞いても構わないかな?」
42天才達の邂逅:04/01/30 10:53 ID:UkpSFcBe
「この島のことなら僕も全く知らないよ」
「そうじゃないんだけど・・・その女性は?」
ナナスは傍にあった亡骸、高円寺沙由香の亡骸を見て言った。
「僕がここに着いた時は既にこの状態だった。即効性の毒物を傷口から塗布でもしたのだろうね。
最も毒物を使用しなくてもいずれは失血死した可能性が高いがね・・・」
忠介の表情を見てナナスは嘘をついてないと判断した。
これでも一国の将を束ねる身である。人を見る目はあるつもりだ。

ナナスは上半身を起こし壁にもたれて忠介に自分達の事を説明した。
イデヨンの秘密が盗まれ、アーヴィが攫われた事。
郁美と出会い、アイと名乗る少女の誘いを断った事。
逃げるために海に飛び込んだ事。
(刺客であるなら僕らを助ける必要がないからね・・・少なくともアーヴィを攫った人の仲間ではないようだ)
一通り説明を終え忠介は
「なるほど、しかし魔力というのは・・・」
「僕らの世界には魔法だって存在する。異世界の人には信じられないかもしれないけれど」
「なるほど・・・しかし僕は魔法なんて使えないのだがなぜここにいるのか」
「僕が、多分ここに召喚されるときだと思うけれど光に包みこまれた。仲間が近くにいたから巻き込まれた
可能性が高い。君も誰かそういう人の近くにいて巻き込まれたということは・・・」
忠介は少し思案顔になったがすぐに
「いや、巻き込まれたという可能性はないな。むしろないという方にしておいた方が精神的な負担が軽くなる」
「巻き込まれた場合だと刺客が来るかもしれない。魔力を持たない者はこの島の人間には邪魔なだけだろうから」
「どの道他人に媚を売って生き延びようとは思わないね」
忠介はナナス達と同じ道を選んだということだ。
「どの道この島の主には会いに行こうと思っていたし、君の話で・・・彼女がなぜこんなことになったのかわかった」
忠介は物言わぬ少女を見つめながら呟いた。
「とりあえず郁美君が目を覚ましたら行動を開始しようか」
忠介の言葉には有無を言わせない雰囲気があった。
43天才達の邂逅:04/01/30 10:54 ID:UkpSFcBe
もし忠介のような人物がナナスの軍にいたら・・・
(こんな時に何を考えているんだろう?僕は)
「ナナス君、転送装置は君が発明したものだろう。特徴は君が一番よく知っていると思うのだが」
忠介の言葉に我に返ったナナスは軍師としての頭脳を働かせ始めた。
「そうだね。まずイデヨンは一番重要度が高い施設・・・多分島の中央だろうね。あと敵は魔術に詳しい。
相当な知識がないとイデヨンの仕組みを理解することはできないから」
それと───ナナスは更に言葉を続ける。
「召喚者の中にアーヴィのような魔術の心得がある人間を想定して、ある程度の防衛力、結界を張ってると思う」
「ずいぶんとお約束な展開だね・・・靖臣なら喜ぶのかもしれないが。で、当然結界を破る方法は存在するのだろう?」
「うん。多分向こうの術者による結界を外部からの補強で補ってると思う。その外部装置を破壊すれば結界に綻びができる」
「ここに来る途中に遠目に建物があったがそれかな?人がいそうにない雰囲気だったので立ち寄ったりはしなかったのだが」
「護衛がいなかったのかい?この大胆な計画を実行した人物がそんな杜撰なことをするとは思えないけど。
少し調べにいく必要があるね」
「まずするべきことは決まったね・・・ナナス君はもう少し休んでおいた方がいい。郁美君の事は僕が見ておこう」
「わかった。郁美さんが目を覚ましたら起こして・・・」
ナナスは無理が祟ったのかそのまま眠りに落ちていった。

一方忠介は・・・
(まさか・・・あの蛙が魔力・・・宇宙人・・・・・・・まさかね)
彼なりに自分の精神を守るために思考していた。

【ナナス@ママトト(アリスソフト) :招 状態△ 所持品なし】
【江ノ尾忠介@秋桜の空に(Marron):招 状態◎ 所持品、改造エアガン、手術用道具入りケース、
液体の入った小瓶3個(うち1個は、塩酸残り半分)、ミノタウロスの皮膚を貼り付けた服(白衣ではない】
【小野郁美@Re-leaf(シーズウェア) :招 状態△ 所持品なし】

時間はデリリュームにおいてのハタヤマ覚醒と同時刻。
44葉鍵信者:04/01/31 00:31 ID:P+JWUXwl
休戦締結-種火までは、NGと言う事で。
また同じ内容の作品も投下不可と言う事でお互い両成敗でやりましょう。
休戦締結は、プロバがアク禁食らってる時に書き溜めた物で
弱体化を邪魔する内容でもなかったので、先に投下しただけなのですが、
俺含め、このような事態を引き起こして大変申し訳ありませんでした。

天才達の邂逅は、そのままOKで。
45狂気の一端:04/01/31 08:14 ID:fDrFq7eS
まるで糸の切れた操り人形のように転落していく少女。

朱に染まる不思議な光景を、何なのか理解できなかった。
何かのかはしっかりと眼に焼き付けられていたというのに。

――なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?
――自分の責任だ・・・自分のせいで・・・アーヴィがアーヴィがアーヴィが、
・・・悪いのは――ぼく
ぼく
ぼく
ボク――ちがうちがうおまえだオマエダ――

どっくん!!

私の中で、何かが疼いた。

裏切った痛み、裏切られた痛み、身体が熱い、私の中の何かが、叫んでいる。
46狂気の一端:04/01/31 08:14 ID:fDrFq7eS
やっちまえ
やっちまえ
やっちまえ――うらぎられたうらぎられたウラギラレタ・・・。

でもちがう
ちがう
ちがう。

(いや・・・いや・・・っ!)
聞きたくない。
何だか解らない、でも、圧倒的なまでの不快感だった。

ずくん。
ずくん。
ずくん――。

その何かがマグマのように私の前面へと出てこようとしている。

――もう抑えられない。
47狂気の一端:04/01/31 08:15 ID:fDrFq7eS
「橘さん!」
全身を揺すられて私はようやく正気に戻った。
「あ・・・。」
「うなされていました・・・。大丈夫ですか?」
ぼんやりと現在の状態が思い出されてくる。
(そうだ・・・今日は動くの、やめたんだっけ・・・。)
時間の感覚はなかったけど、なんとなく夜な様な気がした。
「夜・・・なのか、な・・・。」
薄暗い森の中はいつでも夜のような暗さだった。
「ここでは、夜ではないかもしれませんね。でも・・・私たちの世界では、夜なんだと思います。」
隣の木に背中をもたれ掛けさせながら百合奈先輩が言う。
「私も・・・眠い、ですから。」
「あ、私が今度は見張りしてますから――」
「そうですか・・・。では、少し・・・」
余程疲れていたのか、先輩はすぐに細やかな寝息を立て始めた。
(お腹・・・空いたなぁ・・・。あんパン食べたいな・・・。)
ぼうっとそんなことを考えてしまう。
いつも大輔ちゃんが半分こしてくれた、あんパン。
(私があんパン好きなの、大輔ちゃんのせいなんだから・・・。分かってたのかな・・・。)
大輔ちゃんの家に遊びに行った時、お腹が空いていた私に自分の夕食になるはずのあんパンを半分にしてくれたこと、後で知ってから後悔した。
そんなこと知らなかった。悪い事しちゃったな・・・。
そんな思いから私はお母さんに頼んで大輔ちゃんを夕食に招待したんだった。
「・・・っ」
また、視界が緩む。
(泣かない、泣かない・・・)
唇を強く噛んで耐える。
油断すると家に帰る事が脳裏に浮かび、それが引き金で――大輔ちゃんの言葉が思い浮かんでしまう。
何もない空間から瞳を逸らすと、百合奈先輩のうなじが薄暗い森の中に白く輝いているようだった。
その表面にはうっすらとまだ戦いの痕が残っている。
48狂気の一端:04/01/31 08:15 ID:fDrFq7eS
闘い・・・ヒトの。
互いの――命を賭けた・・・。

「アーヴィ・・・ちゃん・・・生きてるのかな。」
悪夢の中に現れた小さな女の子の事が気になった。
普通に考えて、あの状況で生きているはずがない。
でも、何故か・・・生きているんじゃないか、そんな予感がする。
(私の中で・・・何かが目覚めてる・・・。)
自分の手を眺めても何もない。
見た目には何も変わらないけど、自分の中の”何か”が違う・・・。
「藍ちゃん・・・何が分かったの――?」
最後の異様さ。
あれは、藍ちゃんの中の何かがそうさせたものだと今でも信じている。
(他ならぬ藍ちゃんだもん。恋ちゃん任せても・・・大丈夫だよね・・・。)

「――・・・ん・・・。」

「え?」
振り返ると、百合奈先輩が寝言を言っているようだった。
ただ・・・。
49狂気の一端:04/01/31 08:27 ID:fDrFq7eS
「せん・・・ぱい・・・?」
初めて見る、百合奈先輩の――涙。
先輩は、泣いていた。
それも・・・・・・

「大輔――・・・さん・・・。」

大輔ちゃんを想って・・・・・・。

(先輩・・・・・・先輩も・・・)
胸が張り裂けそうだった。
自分の大好きなヒトが、他の女の子からも慕われているということ。
独占欲、嫉妬、感謝――。
様々な気持ちが入り混じって、堪えられなくなる。
(大輔ちゃん・・・今は、やっぱり泣いちゃうよ・・・。)

今はもういない、大輔ちゃんのシャツで作った髪留めをはずし、ギュッと握る。

――やっぱり天音は泣き虫だな・・・。ほら、もう泣くなよ・・・。

そんな、優しい声が聞こえた気がした・・・。

【橘 天音@Canvas〜セピア色のモチーフ〜(カクテルソフト)所持品:なし 状態:○】
【君影 百合奈@Canvas〜セピア色のモチーフ〜(カクテルソフト)所持品:なし 状態:○】
50画策する者、暗躍する者:04/02/01 00:17 ID:8eAQA6l+
 蜘蛛は己の巣に還る。
 初音は、睦みが終わった時の呆とした表情のまま、ゆるゆると立ち上がった。
 そのまま地面の上に無造作に転がっている自らの服を手にとると、己が裸体の上にゆっくりと羽織らせていった。
「まだ、足りない……」
 初音は横たわる贄の姿を見る。
「は、初音様……、もっと」
 贄、水月がまだ絶頂覚めやらぬ表情のまま、そんな事を呟いた。
 初音はその言葉を聞くと、うっすらと微笑みを浮かべて水月の近くへと行くと、彼女にやっと聞こえるかというくらいの微かな声で呟く。
「あら。犬が人間の言葉を話すなんて……。私、貴方に先ほどなんと言ったのかしら? 教えてくださらない、水月さん?」
 水月はその言葉を聞いてビクリと身体を震わせる。
 初音の笑顔から感じる『恐怖』、それに圧され、怯えの浮かんだ表情のまま水月がその唇から言葉を漏らす。
「わ、わん……」
「ふふ、いい子ね」
 初音はそう呟いてから水月の髪を撫でた。
 撫でながら、彼女はこの島で出会った様々な贄達の顔を思い浮かべる。
 まだ贄にはなっていない、しかし、初音にとって、彼等、彼女等は皆全て、獲物であって贄でしかない。
 蜘蛛は己が洞窟の中で、ただひたすらに力を高める。
 この島で、唯一初音が想う、そして初音を想う娘を、その手に取り戻す為に。
「さあ、行きましょう、水月さん。お友達がお待ちですわよ?」
「わんっ!」
 水月が初音の言葉に答える。
 もはや人として扱われていない水月、しかしその表情は喜びに満ち溢れていた。

「鑑、大丈夫か?」
 武達と別れてから数時間が経過した。
 ドライ達が示した『中央』、鑑、鎧衣、御剣の三人は、現在その場所に向かおうとしていた。
「う、うん……」
 冥夜の言葉に純夏が力なく頷いた。
「和樹と名乗った者に教わった通りだとすれば、もうそろそろ島の中央へ辿り着けると思うのだが……」
 冥夜は目を細めて遠くの方に視線を向けた。
 しかし、彼女がいくら目を凝らしても、木と草と木の葉しか見えなかった。
「少し休もうか?」
51画策する者、暗躍する者:04/02/01 00:20 ID:8eAQA6l+
 鎧衣が心配そうな表情を浮かべながら、鑑に訊ねる。
「ううん、行こう! 武ちゃんが言ったんだもん、私達に、元の街に帰れる方法を見つけてくれ、って!」
「そうだな、行こう!」
 その時、それまで誰もいなかったはずの空間に、突然何者かが現れた。
「何者だ!」
 冥夜が剣を向けるが、その者は微動だにしない。
「いや、失礼。君達が中央へ向かっていると監視の者から聞いたのでな。こちらから出向かせてもらった。私の名はケルヴァン。今は中央に居を構えている。君達が出会ったドライや和樹達の上司、といった所かな?」
「あの者達の知り合いか?」
 冥夜は先ほどまでよりもケルヴァンに向ける剣先を逸らしながら、しかし油断無く視線を飛ばし、尊人と純夏を守るようにケルヴァンとの間に立つ。
「それほどまで警戒しなくてもいい。君達の事はドライから報告を受けている。だからこそ私がこうやって出向いてきたのだよ」
「どういう事?」
 尊人が口にした問いを聞いて、彼はその方に身体を向けると言葉を続けた。
「中央にはな。君達のような『招かざる者』達を快く思っていない者がいる。
 現在、そ奴は大人しくしているようだが、その矛先が向けられれば、君達の命が危ないと判断したのでね。
 こうやって忠告をしにきたというわけだ。後は……、頼み。そう、君達に一つ頼みがあった。
 君達がここに召喚された時にな、同時に現れたモノがあるのだよ」
 ケルヴァンが何を言いたいのか、今ひとつ掴めない冥夜達は眉をひそめながらも、
 黙って彼の言葉に耳を傾けていた。
 やはり純夏以外の者達も不安だったのだろう。
「その存在は、今の所、私しか気がついていない。気がついていれば、すぐにでも破壊されていただろう。
 奴は魔法以外の存在を認めないからな……。まあ、それはともかく、
 私はその存在と君達が何らかの関係にあるのではないか、そう考えたのだよ」
「私達にその『現れたモノ』とやらが何か探って欲しい、と?」
「ふむ。話が早くて助かる。その通りだ」
 ケルヴァンはさも可笑しそうに笑う。
52画策する者、暗躍する者:04/02/01 00:21 ID:8eAQA6l+
『!?』
 三人が息を呑む。
「もし、君達が、その『現れたモノ』を手に入れる事が出来れば、君達の仲間がヴィルヘルムに囚われる事も無くなるだろう。私が見る限り、アレにはそれほどの力がある、そう思えるのだ。……どうだ、やってはくれまいか?」
 三人は困惑したような表情のまま見つめあい、やがて同時に頷いた。


「水月。彼等の『間』を狙いなさい、と言ったでしょう?」
「遙、遙、遙……」
 初音は、自分の隣でライフルを構えたまま、遙の名前を呟き続ける水月を一瞥すると、ふぅ、と小さくため息を吐いた。
 初音に心を囚われた水月に動揺は無い。
 銃を撃つ事に対する恐怖感も無くなり、持ち前の身体能力と合わさる事で、少し離れた場所からでも性能の高い銃があれば、目標に対して正確に射撃する事ができるようになっていた。
「まぁ、いいわ。あの子達が途惑ってくれればそれでいいのだし、ね。それにしても、ふふ。よりにもよって、かつての『友』を狙って撃つなんて。本当、面白い事……」
 初音の目には、耳には、遠くの方で『贄』達が争っているのが、まるですぐ近くで行われているかのように理解できた。
 裏切る、そして裏切られる、生み出したのは女郎蜘蛛。
 蜘蛛が獲物をいたぶるが如く。
 初音は静かにその光景に目を向けていた。

『比良坂初音 アトラク=ナクア アリスソフト状 ○ 持ち物 なし 鬼】
【ケルヴァン・ソリード 幻燐の姫将軍1と2 エウシュリー  状○ 持ち物 なし 鬼】
【鑑 純夏 マブラヴ age 状 ○持ち物 ハンドガン(あの後貰った) 装填数 20発 狩】
【剣 冥夜 マブラヴ age 状 ○ 持ち物 刀 狩 】
【鎧衣 尊人 マブラヴ age 状 ○持ち物 ハンドガン 装填数 20発 狩】
【速瀬水月 君が望む永遠 age 状 △(暗示(贄)) スナイパーライフル(鬼側の武器を初音が持ってきた) 弾数 8発  狩】
53画策する者、暗躍する者:04/02/01 00:24 ID:8eAQA6l+
(最後の段落修正)

「君達に一つ、教えておこう。先ほど言った君達を快く思わない者、
名をヴィルヘルムと言うのだが、彼は、魔力保持者、即ち、
君達に関係のある人間を欲しているのだ。
『招かざる者』は、『招かれし者』がいなければこの世界に現れる事ができないのでね」
『!?』
 三人が息を呑む。
「もし、君達が、その『現れたモノ』を手に入れる事が出来れば、君達の仲間がヴィルヘルムに囚われる事も無くなるだろう。私が見る限り、アレにはそれほどの力がある、そう思えるのだ。……どうだ、やってはくれまいか?」
 三人は困惑したような表情のまま見つめあい、やがて同時に頷いた。


「水月。彼等の『間』を狙いなさい、と言ったでしょう?」
「遙、遙、遙……」
 初音は、自分の隣でライフルを構えたまま、遙の名前を呟き続ける水月を一瞥すると、ふぅ、と小さくため息を吐いた。
 初音に心を囚われた水月に動揺は無い。
 銃を撃つ事に対する恐怖感も無くなり、持ち前の身体能力と合わさる事で、少し離れた場所からでも性能の高い銃があれば、目標に対して正確に射撃する事ができるようになっていた。
「まぁ、いいわ。あの子達が途惑ってくれればそれでいいのだし、ね。それにしても、ふふ。よりにもよって、かつての『友』を狙って撃つなんて。本当、面白い事……」
 初音の目には、耳には、遠くの方で『贄』達が争っているのが、まるですぐ近くで行われているかのように理解できた。
 裏切る、そして裏切られる、生み出したのは女郎蜘蛛。
 蜘蛛が獲物をいたぶるが如く。
 初音は静かにその光景に目を向けていた。

『比良坂初音 アトラク=ナクア アリスソフト状 ○ 持ち物 なし 鬼】
【ケルヴァン・ソリード 幻燐の姫将軍1と2 エウシュリー  状○ 持ち物 なし 鬼】
【鑑 純夏 マブラヴ age 状 ○持ち物 ハンドガン(あの後貰った) 装填数 20発 狩】
【剣 冥夜 マブラヴ age 状 ○ 持ち物 刀 狩 】
【鎧衣 尊人 マブラヴ age 状 ○持ち物 ハンドガン 装填数 20発 狩】
【速瀬水月 君が望む永遠 age 状 △(暗示(贄)) スナイパーライフル(鬼側の武器を初音が持ってきた) 狩】
54葉鍵信者:04/02/01 01:26 ID:0UJ9YMlO
 代価と代者へ
 
 「後は、頼んだぞ……」
 ケルヴァンへの通信を打ち切ると、ヴィルヘルムは、上機嫌であった。
 「雑魚どもといえど、ああすれば中央結界の守護になる。
  さて、とっとと侵入者を排除して、要塞へ戻るとするか……」
 葉月と蔵女たち、リリスに送られたものへの探索を開始しようとしたその時。
 「ごふっ……!?」
 突如、胸の痛みと共に彼の口から血が吐き出された。
 咄嗟に抑えた右手が血にまみれている……。
 (何故だ!?)
 彼は、必死に原因を突き止めようと考え出した。
 (くっ、まさか、大規模な魔法の連続使用がここになって響いてきたのか……。
  さしあたって、世界を守る結界を張ったのが止めと言うわけだ……)
 吐血したものの、その後に続く様子は、現在ない。
 どうやら今のところそれ以上の障害が出る恐れはないようだ。
 (普段なら耐えれるのであろうが、連続した大規模な術の使用とあい重なったおかげで、結界の副作用が
  ダイレクトに身体に響いてきていると言うわけか……。
  今は止まったが、このまま居ればまた身体が悲鳴をあげ始めるのは間違いない、
 中央に戻り、再び陣のある部屋に戻り瞑想に徹すれば、負担は軽減できるが……。
  止むを得ん、余がここで倒れるわけにはいかん。 早急に戻るしかない)
  彼の身体を少しずつ光がつつみはじめる。
  所定の場所に戻る事の可能なワープ魔法である。
  光が瞬いた時、光と共に彼の姿は森から消えていた。
55代価と代者へ:04/02/01 01:28 ID:0UJ9YMlO

 要塞中央ホール。
 ケルヴァンは、結界に近づくものを感知して、対処の為に向かっている所である。
 「やれやれ、中央を目指すものが現れ始めたか……」
 また要らぬ雑用が増えたとため息をつきながら、部下へ命令すべく歩いていたケルヴァンの目の前に、
 正確には中央ホールの床に描かれた魔法陣の模様の中心に、彼にとって一番会いたくない人物が現れた。
 「これは、総帥。 お早いお帰りで、如何致しましたか?」
 一礼を取りながらも今度は皮肉交じりに、彼は目の前に現れたヴィルヘルムへと話し掛けた。
 「うむ……。 急用ができたのでな。
  ケルヴァン、余の留守の間の守りご苦労であった」
 (ちっ、もう少し出かけていてもらえば、此方も動けたのだが……)
 顔には出さずに、ケルヴァンは心で舌打ちをした。
 「ケルヴァン」
 「はっ!?」
 「余は、再び瞑想に戻る。 引き続き管理を頼むぞ」
 「了解しました」
 ケルヴァンが礼をすると総帥は、そのまま奥へと消えていってしまった。

 (どう言うことだ?)
 ケルヴァンは、突然のヴィルヘルムの帰りに疑惑を抱いていた。
 (急用ができたから瞑想? 奴が出陣した時、明らかに私の失態以上の何かがあったのは確かだ。
  それがまだ終わってないと言う事なのだろうか? だがそれで瞑想が急用となるのは何故だ?)
 悩んでも結論は出ない……。
 だが、彼は再び瞑想へと出向いてしまった。
56代価と代者へ:04/02/01 01:29 ID:0UJ9YMlO
 しかし、ケルヴァンも無能ではない。
 自分の情報が先ほど露見していたのに対して、ほぼ状況を掴んでいる。
 (前回、情報漏れを起したのは、死者の魂が原因と見て間違いないだろう。
  中央に集まってくる魂の残留思念から読み取っていたのだろうな)
 ならば、それに気をつけ、対策をこうじればいいだけだ。
 (再び瞑想に戻ってくれるのならば、都合がいい……。
  今度こそ、慎重にやらねばな)
 そう言うとケルヴァンは、結界に近づいてきたもの達にたいして、自ら出向くのであった。
  
 一方。
 再び部屋へと篭り瞑想へと戻ったヴィルヘルム。
 (こうなってしまっては、しばらく余は動く事はできん……。
  余の意を代わりに伝える忠実な部下が欲しい。
  幸いこれだけの魂があれば、余の負担なしで召還は可能だ)

 ヴィルヘルムとケルヴァン、それぞれの策略がめぐり始めていた。


【ヴィルヘルム・ミカムラ@メタモルファンタジー(エスクード) 鬼 状態△ 所持品 無し 】
 備考:瞑想を止め、部屋から出た場合身体への負荷がかかり始める。時間が経過すればするほど、中央から離れれば離れるほど負担大。
57崩壊する自我:04/02/02 00:52 ID:SpMA1hSp
こんな…こんな事があっていいものか…

女……もっと女を犯して…

そうだ──女だ。

犯して犯して犯しぬいて…そして犯しぬいて殺してやる…

まずは俺をこんな目に合わせたあの黒髪の女だ…あいつはボロクズみたいになるまで犯してただじゃ殺さねぇ…

犯してから犯してから……

勝沼紳一の意識が急激に闇に飲まれてゆく。

まだ…まだ……犯したりてねぇ…

そうだ…女を……お……犯………し…………………て…………

女の声が聞こえた気がした。

そうだ──これは────女だ。
58崩壊する自我:04/02/02 00:53 ID:SpMA1hSp
勝沼紳一の意識は突如覚醒していく…

そして目を見開き
「犯してや……がはっ!!」

その声は最後まで発せられることはなかった。
そして今度は勝沼紳一の意識は闇に沈むのではなく…

俺が…俺でなくなっていく……

なんだこれは………これは俺が食われている!?

徐々に紳一の意識は消え去り…

女………犯…し…て…………………………………………………………………………

そして完全になくなった。

今日子は虚ろな目をしたまま勝沼紳一の体を見ていた。
「あたしは…また人を……」
59崩壊する自我:04/02/02 00:53 ID:SpMA1hSp
「言うな今日子、その男はどの道助かりはしなかった。お前のせいじゃない」
(それに…死んだ方がいい男でもある……)
光陰は今日子に止めを刺された男の顔に見覚えがあった。
バスジャック犯であり、そしてその所業は…死を持っても軽すぎるものであるとも言えた。
しかし──
(相手がどんな奴だったか、そんなことは今の今日子には関係ねえ。相手がどれだけの魔力を持っているかだ)
そして、人を殺したという事実も、相手が何者であったとしても関係ないことであった。
「ねえ…あたしはいつまでこんなことしなくちゃいけないのかな……」
「…」
「光陰、いっそのことあたしを……」
「なあ今日子、俺はいつまでだって一緒にいる、魔力が必要なら…俺が集める。言ったはずだぞ」
光陰はいつものように軽い調子で話しかけるが…
(また、あの目に戻っちまったな…)
今日子は先程までしていた光のない虚ろな目に戻ってしまった。
「…」
光陰の言葉も今日子には届かなかったようだ。
「因果…どうにかならないのか……そうか……無理だよな。本来なら殺しあってる仲だもんな」
しかし光陰はもう決めてしまったのだ。
それでも今日子を守ると。
(俺が因果に取り込まれる訳にはいかない…、当然死ぬわけにもいかねえ。
悠人お前もここに来てるのか?できるならあんなのはごめんだけどな…)
この世界に来る数瞬前まで悠人と光陰、今日子は敵同士として向き合っていた。
光陰にはとっくにその覚悟はできていたが、悠人はその瞬間になってもなお躊躇していた。
(本当は誰もそんなこと望んじゃいねえってのに…上手くいかないな)
その時──頭痛が──因果からの干渉が───した。
(あきらめたんじゃなかったのか!?お前もしぶとい…違う?)
60崩壊する自我:04/02/02 00:54 ID:SpMA1hSp
それは誰かの負の感情の伝播──怒り、悲しみ、憎しみ、その全てであった。
(一体誰の…今日子!!)
光陰が目にしたのは頭を抱えうなされる今日子。
「ああ……うわああああああああああ………あたしの中に入ってくるなぁあああああああああああああ」
「今日子!!しっかりしろ!!俺が傍にいる!!」
その感情は光陰にとっては映画のワンシーンを見ているようなものであったが…今日子には空虚の干渉に感じられたのだ。
光陰の頭痛が治まった後
「殺せ…魔力を………集めろ」
うわごとのように今日子でないものが今日子の声で言葉を発している。
空虚が満たされない限り今日子への干渉──苦痛は続くのだろう。
ならば光陰のやることは既に決まっている。
(お前を守るって、魔力を集めてやるって、それが俺の決めた道だからな…)

【碧光陰@永遠のアセリア(ザウス)招 状態○ 所持品 永遠神剣第六位『因果』】
【岬今日子@永遠のアセリア(ザウス)招 状態○ 所持品 永遠神剣第六位『空虚』】
【勝沼紳一@悪夢(メビウスソフト)狩 状態死亡 所持品なし】
61嘆息すべき事柄:04/02/03 03:23 ID:J1IdEnMr
[嘆息すべき事柄]

「はぁ・・・。」
蔵女と葉月の様子を眺めながらリリスは不必要に大きなため息をついた。
「何でこんなことになっちゃってるんだろ?最低よね・・・。」
その手元には1冊の本があった。
「バランスが崩れれば、ここの本整理だけでもやたら面倒だ――まあ、嘘じゃないけどね。」
とはいえリリスはアルカディアにおけるほとんどの仕事を代理であるセイレンに任せている。
それ故そこまで時間に追われているわけではないから、やる気になればそれ程手間もかからないのは事実だ。
「”これ”が何でか本棚から落ちてなきゃね〜。」
苦々しく見つめる本に気付いたのは、蔵女が来る・・・異世界にロックがかけられる数十分前のことだった。


「うそ・・・破れてる・・・。」
リリスは乞食でも見るようにジトーっとした視線を1冊の本に浴びせた。
「マズイなぁ・・・。誰かしら外に出ちゃってるかも・・・。」
リリスは自身が扱うヤミの象徴ともいえる帽子、ジョウ=ハーリーの断片である失敗狩人――通称”コゲ”の一件を思い出し、再びため息をつく。
「大体、何で風もないココで物が落ちるわけ?」
その答えは永遠に出ることはないと思われた。
何故なら、彼女が以前イヴの編み物の邪魔をしようと自らを分裂させ、各本の中へ毛糸を持って入り込んだ際にセーラーちびリリスがその本につまづいて転んだからだ。
62嘆息すべき事柄:04/02/03 03:24 ID:J1IdEnMr
「まいったなぁ〜・・・。異世界を構築されちゃってるのもちょっと気になるし・・・。」
掃除機並みに魔力を吸い寄せている異世界の反応はリリスにとっても憂慮すべき問題だった。
もしかしたらこの本の綻びから外に出てしまった者が異世界に吸い込まれているかもしれない。
「・・・とはいえ私が入るわけにはいかないしぃ〜・・・。コゲはどこだか判らないし・・・」
つい最近までコゲはリリスが自作した、親であり、愛しい男性である”ヤミ・ヤーマ”のフィギュアにリリスによって憑依させられていた。
しかし、たまに起こる世界の綻び――つまり図書館の本の損傷があると狩人の代わりに汎用性のあるコゲと修正案内人であるケンちゃんを投入していたのだった。

誰か安定して作業が出来て、かつ利用価値の高い者はいないか・・・。
そんな思案をしている時に現れたのが他でもない、蔵女だった。
リリスは本のことについては触れず、頭を掠めた本整理の問題を蔵女にぶつけたのである。
敢えて葉月をついて行かせたのは彼女に異世界に紛れ込んだ者の確認と保護、もしくは観察を命じた為もあった。

「とにかく、2人に頑張ってもらってるうちに他にも破れた本がないかだけは確かめなくっちゃ!」
リリスは表面上は忙しそうにしながら館内に狩人を廻すのだった・・・。

【リリス:図書館内で思う】
63蜘蛛の糸:04/02/04 10:27 ID:aV7h6gj6
これは何かの冗談じゃないのか・・・
俗にいうどっきりカメラか、あの桜井舞人が仕組んだイタズラかとでも思っていた。
桜井舞人をひっ捕まえて問い正せばあの冗談のような状況は終わるんじゃないか・・・
そういう希望がなかったわけではない。
しかしこの状況はまるで現実感がなく・・・
それでも目の前の物体は間違いなく今の状況が現実であると言っている。
夢のような状況にありながら圧倒的な現実感を放つそれは・・・


「しかし俺達はどこに向かって歩いているんですか?ひかりさん」
「マックス!だから結城先輩だと何度言ったら・・・」
「相楽・・・呼び方の事はもういいから。行き先は桜井が真っ先に行きたがりそうな場所・・・島の中心だね」
「ああ、確かに絶対行きそうですね・・・」
言われてみれば間違いなくあの馬鹿が真っ先に行きそうな場所である。
それ以上ひかりは黙して何も話さなかったし、山彦も同様であった。
(実際あの桜井舞人の声が聞こえたっていうから桜井を探しているだけであって、見つけてもこの変な島から
帰れるのかどうか・・・)
麦兵衛は桜井舞人を探すことに意味があるのか疑問を感じ始めていたが現在、他にするべきことがわからなかった。
(いっその事いかだでも作って逃げ出すとか・・・)
そんな事を考えても見たが陸地がどの方向にあるのかもわからない状況なので現実的ではなかった。
つまり本当に只とりあえず桜井舞人を探す、というのが現在の彼らの目的であった。
(まあ、いきなりこんな状況だし、何か明確な目標でもないとやってられないのかもな・・・)
64蜘蛛の糸:04/02/04 10:29 ID:aV7h6gj6
もし桜井舞人を探すというこの行為が不安を紛らわすための行動であったなら・・・
そう考えると麦兵衛は結城ひかりを自分が守らなければ、と思う。
彼───牧島麦兵衛の祖父はこう言った。
女性を守れる男になれ。
誤解を招きそうな言葉だがこれは女は弱いものだから男が守れ、等といった意味あいではなく
どんな女でも守れる男になれ、という意味である。
麦兵衛は馬鹿正直にこの言葉を守ろうとしている。
もっとも結城ひかりを見る限りそういった現実逃避ではなく、できることをやる、といった感じなので今の所心配はないだろう。
考えをまとめた麦兵衛は2人に習って無言で歩き続ける。


「これだけ歩いたけどまだ距離があるね・・・ちょっと休憩にでもするかね」
一時間程歩き続けいい加減精神的に疲労してきた所にひかりが提案をした。
「ああ、そうですね。あと半分くらいですかね?」
「一息いれるのにはちょうどいいだろう?」
ひかりの提案に山彦が同意したその瞬間──
「あら・・・お休みになるのには少々早すぎましてよ・・・?」
3人が一斉に声の方向を向いた。
視線の先にはセーラー服の自分達と同じ年頃の少女が立っている。
なぜか少女の雰囲気に圧倒されて誰も言葉を発することができない。
「いい目をしているわ・・・あなたは私の贄におなりなさい」
少女がひかりを見つめながらわけのわからぬ事を言っている。
何をしようとしているのかはわからないが普通の様子ではない・・・それだけは山彦にも理解できた。
ひかりと少女の間に立ち少女をひかりに近づけさせないようにしながら話しかける。
65蜘蛛の糸:04/02/04 10:30 ID:aV7h6gj6
「おい!あんた何者だ!ここがどこだか知っている───」
「・・・あなた邪魔ですわね」
山彦の言葉を途中で遮ると少女は腕を一振りした。


夢のような状況にありながら圧倒的な現実感を放つそれは・・・
結城ひかりの目の前に転がっているのは・・・相楽山彦の上半身であった。
少女が腕を一振りした瞬間、まるで紙を裂くように相楽山彦の体が2つに分かれた。
これは・・・間違いない現実だ・・・
結城ひかりがようやく現実を認識した時には既にセーラー服の少女は目の前まで来ていた。
「やっぱりいい目をしているわね・・・」
少女の腕がひかりに向かって振り下ろされようとした瞬間───
「お前山彦さんを!!」
麦兵衛が少女に向けて突進してきた。
牧島はサッカー部のエースということもあり運動神経はかなりの部類であるのだが・・・
少女がやはり腕を一振りした瞬間、軽々と吹き飛ばされていた。
「心配しなくてもあなたも連れて行って差し上げますわ・・・もっとも行き先はそちらの方と一緒ですけれど」
「山彦さんをよくも・・・ひかりさんを放せ・・・」
麦兵衛は地面に叩きつけられてなお起き上がり少女に立ち向かって行こうとする。
既に結城ひかりは気を失わされて、少女の腕の中に抱えられている。
もう麦兵衛にも状況がわからなくなっていた。
なぜ山彦があんなことになったのか、なぜひかりが少女の手の中にいるのか、ここはどこなのか・・・
しかし少女の足元に転がる変わり果てた山彦の姿は間違いなくあの少女が作り出したものだ。
そして今結城ひかりを連れ去ろうとしている。
66蜘蛛の糸:04/02/04 10:33 ID:aV7h6gj6
「ひかりさんを放せ・・・」
ようやく立ち上がったもののそれが今の麦兵衛には精一杯だった。
少女はその様子を見ながら・・・妖しく笑った。
「ふふ・・・気が変わりましたわ・・・」
ひかりを抱えたままゆっくりと麦兵衛の方に歩み寄ると・・・
再び麦兵衛は地面に叩き付けられた。
「っは・・・」
体中が痛む・・・息をするのも苦しい・・・
しかしひかりを助けなければ・・・
その一念で麦兵衛は再び立とうとする。
しかし今度は少女の足が麦兵衛の地面に転がっている腕を踏みつけ、立ち上がれなくしていた。
「あなたも・・・いい目をしているわね・・・戯れも悪くはない・・・か」
眼下の麦兵衛を見下ろしながら少女はゆっくりと言葉を紡ぐ。
麦兵衛は息をするのが精一杯で言葉を発することはできないでいるが・・・その目は憎悪を持って少女を見つめている。
「私は比良坂初音・・・この少女・・・ひかりだったかしら?私が貰い受けますわ・・・・
どうしても取り返したいなら・・・私を殺してみなさい、牧島麦兵衛」
貰い受ける。
その言葉の意味はわからないがともかくひかりがこのままでは・・・
しかし麦兵衛の意思に反して体は動くことはなかった。
「ふふ・・・楽しみにしてるわよ」
意識が急激に遠のいていき・・・初音の声だけが頭に響いた。
67蜘蛛の糸:04/02/04 10:34 ID:aV7h6gj6


(所詮戯れ・・・しかしあれでは私がまるで・・・)
腕に感じる生暖かい感触でひかりの身体に力を入れすぎていたことに気づいた。
彼女は思い出してしまったのだ。
かつて自分に同じ事をした存在───銀の事を。
銀を倒すためにもまずは腕の中の少女───ひかりから力を蓄えなければ。
(奏子・・・こちらに連れてくればよかったかしら)
初音はあちらの世界の学園に置いてきた奏子の事に思考を巡らせていた。

【比良坂初音@アトラク=ナクア(アリスソフト) 鬼 状態○ 所持品なし】
【相楽山彦@それは舞い散る桜のように(Basil) 狩 状態死亡 所持品なし】
【牧島麦兵衛@それは舞い散る桜のように(Basil) 招 状態△ 所持品なし】
【結城ひかり@それは舞い散る桜のように(Basil) 招 状態× 所持品なし (初音の手中)】
68快楽の代償:04/02/07 00:31 ID:TyOcg6Ts
(こりゃ上物じゃないか…坊っちゃんがいればお喜びになるだろう)
囚人服を纏った若い青年は、ぎらついた瞳をさらに光らせて廃墟の一角から様子をうかがっていた。
その視線の先にあるのは、寝息を立てているショートヘアの少女だ。
(だが、まずは味見だ)
青年は無造作に物影から少女の傍へと進み出ようとするが。
(うん?)
何やら話し声が聞こえる。
「うーん、結局寝つけ無いや、寝てる場合でもないんだろうけどね」
「なら、とりあえず周辺の様子でも調べながら今後の展望でも」
声の主は2人の少年だった
(なんだ男か)

物陰に潜んだ青年は残念そうに舌打ちする、死を待つばかりの独房で溜まった鬱憤は爆発寸前だ。
一人でも多く早く犯したい…、そういえばここにいるのは自分だけなのか?
何やら声が聞こえたと思えば光に包まれ、ここにいた。
別の刑務所に勾留されている、古手川と木戸はさすがにいないだろうが、
もしかすると隣り合わせの房にいた坊っちゃんは、自分と同じくここにいるのかもしれない。
少年たちが青年のすぐそばを通ったときだった。
青年の手刀が少年たちの首筋を一閃する、2人はドミノのようにばたばたと床に倒れてしまった。
(さて、と)


(なんか変な感じがする…魔界に落ちたときみたい)
夢の中ながらも、郁美はなにやらわからぬ不安めいた何かを感じていた。
(そういえば起きないと)
夢うつつの状態から素早く目覚めるため、思いきってぐっと上体を勢い良く起こす郁美。
ごいん
額に衝撃、だれかいるの?
目を開けるとそこに見えたのは見知らぬ廃墟と、鼻血を流している見知らぬ青年…いや見た事がある顔だ。
それも何回も、何処で?…確かTVで…って。
69快楽の代償:04/02/07 00:33 ID:TyOcg6Ts
(こっ・・・この人、あの勝沼紳一の仲間だ、たしか直人とかいう)
例の史上最悪のバスジャック事件のことは郁美も知っている。
修学旅行のバスを襲い、乗り合わせた美少女たちに陵辱の限りを尽くし、廃人へと追いやった鬼畜たち。
その鬼畜の1人が自分の目の前にいる。
と、鼻血が止まったのだろう、直人は薄笑いを浮かべて郁美へと迫る。

「ナ、ナナスくん…は?まさか…」
「安心しろ殺しちゃいない、寝つけないとか抜かしていたから、眠ってもらっただけだ」
獲物をいたぶる狩人のごとく、ゆっくりと直人は郁美へと近づいていく、あせることは無い。
この手のタイプは抵抗など経験上考えられん、だからこそ犯しがいがあるというもの、
まずはゆっくりと言葉で…。
「何であいつらを生かしておいたと思う?お前の哀れな姿を見せつけてそれから殺るためさ」
「そしてお前はその後で両手足を落として、坊っちゃんに差し上げる…
女に手足なんぞ必要無い、穴だけあいてりゃ充分だ」

聞くもおぞましいセリフがぽんぽんと飛び出してくるが、聞いている郁美は思ったよりも冷静だった、
というよりあまりにも常軌を逸していてリアリティを感じないのだ。
「こんなに興奮するのは久しぶりだぜ、あの何とかってアイドルを犯った時以来だ、
教えてやろうか、あのアイドル完全にぶっ壊れちまってよ、今じゃ精神病院で
壊れたオルゴ―ルみたくなっちまったらしーぜ、笑っちまうよな…アッハッハ」

直人の言葉を聞き流しながら、郁美は考える。
このままでは間違い無く犯される、だが今の自分では勝ち目は無い…一介の学生が凶悪犯相手にどうしろというのだ?
(で、でも学生じゃないのなら)
しばらく出て来れない、といってはいたが、この最悪のシチュエーションで出てこないわけがない、
というより出て来てくれないと困る。

(と、とりあえず気絶っ!)
直人の手が自分の襟元に近づいたその時だった、
何を思ったのか郁美は渾身の力で自分の額を柱に叩きつけたのであった。
70快楽の代償:04/02/07 00:35 ID:TyOcg6Ts
「自分から気絶したのか?まあいいすぐに起こしてやる…破瓜の痛みってやつでな」
気を失った郁美には構わず、その上にのしかかり、まずは唇を奪おうとした時だった。

「がっ!!」
自分の股間を膝で蹴り上げられ、思わずのけぞる直人。
「ほう?そこそこ武芸の嗜みはあるようだな、とっさに俺の蹴りを避けるとは」
直人の目の前で郁美が立ちあがる、だが、様子が明らかに今までと違っている、先程の怯えた様子は微塵も無い。
「お前・・・二重人格か?」
「少し違うな、俺はこの身体を借りているだけだ、ゆえに壊されると行く場所が無い」

「っ!」
得体の知れぬ雰囲気にじれた直人が蹴りを放つ。
「ほう、いい腕はしておるな・・・だが」
郁美は、いや、今やその正体は魔界の猛将良門だ、は、それを片腕で受け止める、
じんとした痺れが骨まで伝わってくる。

「弱者をいたぶる以外の用途には使っていなかったようだな、防御がなっていないぞ」
直人もかなりの達人だが、魔界の戦場であっても猛将と謳われる良門の敵ではない。
案の定、良門の人差し指がカウンターで直人の右目を貫いたのであった。
「お前…TVで見た事があるな、確かバスジャックの」
結局完膚無きまでにブチのめされた直人の顔を、まじまじと見つめながら良門は尋ねる。
その手には部屋に転がっていたハンマーと、なにやら凶悪な形の物体が握られている。

「何人襲った?」
「聞いてどうする?」
「いや?お前が泣かせた女の数だけ、こうしてやろうと思ってな」
と、言うなり良門は五寸釘を直人の手の甲にハンマーで打ちこむ。
71快楽の代償:04/02/07 00:36 ID:TyOcg6Ts
「ぐぎゃ……」
悲鳴を上げそうになった直人の口を塞ぐ。
「煩い…さあ言え」
「俺は…俺は何もしていないぞ、俺は命令されただけだ」
「そうか、なら100本だ」
「10人犯して…壊した」
「なら、やはり100本だな」

良門は直人の口に猿轡をはめると、直人を外に連れだし柱に磔のように縛り付けていく。
「五寸釘でこれだけ痛がるようでは、船釘でどこまで保つことやら」
船釘とは、五寸釘などとは比較にならないほど太く長く凶悪な形をした、船専用の釘のことだ。
どうやらこの廃墟は船工場のようだった。

「さて、子曰く、主過ち犯す時あらば、臣これを戒めるべし…」
準備が終わると良門は古の漢文を口ずさみながら容赦無く直人の身体に釘を打ちこんでいく、
それに反応するかのように直人の身体がぴくんと痙攣する、絶叫したいのは山々だが猿轡で声が出せない、
良門は致命傷にならないように、なるだけ苦痛を長引かせるために、指先や足の甲や膝の皿、肩甲骨なとに
釘を打ちこんでいくのであった。
「子曰く、真の忠義とはこれ〜」

手持ちの船釘を打ちこみ終わると、良門は船止めの柱に頭を下にして直人の身体を鎖で結わえ付ける。
潮が満ちるまであと僅かだ、満ちれば直人の全身はすっぽり海水に浸かるだろう。
それまでに助かれば不本意ながら仕方が無い、奴に天運が味方したというだけのことだ。
「お前のような畜生以下の蛆虫でも殺しはしない、外道は八つ裂きがお似合いだが
 お前ごときで、郁美を人殺しにさせたくはないからな…」

ようやく猿轡を外された直人は、薄笑いを浮かべてぼそりと呟く。
「後悔…するぞ」
「かもな」
72快楽の代償:04/02/07 00:38 ID:TyOcg6Ts
それ以上は答えず、良門は今や血まみれの直人を眺める。
その直人は達観したかのように相変らず薄笑いを浮かべている。
他人の命の大切さが分からない奴は、きっと自分の命も大切とは思えないのだろう。
もはやそれには構わず、良門はナナスたちの元へと帰る、のしのしと大股で歩きながら。

だがしかし、残された直人は未だにあきらめてはいなかった。
(お前をどうやって犯してやろうかを考えているのさ、『郁美』とかの方じゃないぜ、あくまでもお前だ
 中身が何だろうが、身体が女ならそれで結構だよなぁ…これだけはだれにも譲れないぜ、
 坊っちゃんでもな)
すでにその前髪は海水に濡れていきつつあったが、それでも直人は薄笑いをやめなかった。

【ナナス@ママトト(アリスソフト) :招 状態△(気絶) 所持品なし 基本行動方針:島からの脱出】

【江ノ尾忠介@秋桜の空に(Marron):招 状態△(気絶) 所持品、改造エアガン、手術用道具入りケース、
 液体の入った小瓶3個(うち1個は、塩酸残り半分)、ミノタウロスの皮膚を貼り付けた服(白衣ではない
 基本行動方針:島からの脱出】

【小野郁美(良門)@Re-leaf(シーズウェア) :招 状態◎ 所持品 ハンマー 基本行動方針:不明】

【直人@悪夢(スタジオメビウス) :招 状態△(傷は多いが命に別状なし) 所持品なし 
基本行動方針:良門を犯す】
(2時間以内に救出されなければ溺死)
73世界の欠片:04/02/07 08:14 ID:fv9duPty
――なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?
――自分の責任だ・・・自分のせいで・・・アーヴィがアーヴィがアーヴィが、
――悪いのは、ぼくぼくぼくぼく
――ちがうちがうおまえだおまえだ

「あうっ!?」
藍は突然襲ってきた脳への衝撃に思わずその場でしゃがみ込む。
「何が・・・一体・・・。」
無意識に手にしている拳銃の引き金に指を掛ける。
「誰も――いないようですわね・・・。」
一人呟いて立ち上がったその耳元をヒュン!と風が突き抜けた。
「!!」
とっさに木の後ろに隠れると、続けざまに2射。
生ある木の表皮が銃弾によって引き千切れる。
その音が、藍の意識に今が戦闘中であることを植え付けていく。

(しくった・・・!私としたことが・・・。やはり勘が狂っておるのか?)
皇蓉子(すめらぎ・ようこ)は予想外に射撃を外した事に驚愕した。
「姐さん姐さんっ!いきなり見つけた人間撃ち殺そうとしてどないしはりますのや!?」
「貴様のせいかあぁぁっ!!」
手元にブラブラぶら下がっている喋る小鳥――正式にはケンちゃんという――を見つけた蓉子は、
「そんな殺生なぁぁぁぁ・・・!」
それを迷わず藍のいる方へ投げつけた。
74世界の欠片:04/02/07 08:15 ID:fv9duPty
「そんな殺生なぁぁぁぁ・・・!」

何か来る、そう音で判断した藍は敢えて音のする反対側から隣の木の後ろ目掛けて駆ける。
敵を確認した視界に飛び込んできたのは白いコートに紫がかった青い髪の優男だった。
ひるむ事無く藍は、駆けながらその男めがけて銃弾を放つ。
だが自分の反応よりも相手は数段優れていた。
銃口の向きか何かで判断したのだろう。その銃撃をいともたやすく回避し、向こうも木の背後へ回りこむ。

(馬鹿な・・・単なる学生ではなかったのか!?)
蓉子は先程以上に驚愕し、動揺した。
学生だと思っていた女がこちらに銃口を向け、あまつさえ戸惑う事無く銃撃してきたのだから当然だ。
「クッ・・・。」
何から何まで判らない事だらけだった。
今さっきまで列車の中にいたはずだ。
それが急に光が弾けたかと思えば自分は森の中。
混乱しないほうがどうかしている。
(これは、体勢を立て直すしかないか・・・。)
そう考えた刹那、パシッと自らが隠れる木の表面に何かが当たった。
「しまっ――」
油断していた。
反射的に木の側から離れるとコートの中から隠し武器であるクナイを数本抜く。
「これでっ!」
相手がいるであろう場所にそれを放ち、地面に突き刺さるのを確認すると再びそこに銃口を向ける。
75世界の欠片:04/02/07 08:16 ID:fv9duPty
――暗器。

クナイによって見事に標的の足元が地面に括り付けられる。
「意外だったけど・・・残念ね。私が相手では――」
木の表側に回り込んだ蓉子の視線が凍りついた。

「姐さぁぁん・・・堪忍してくださいなぁぁ〜・・・」
「また貴様なのかっ!!」
すっかり動けなくなっているケンちゃんを睨み付けて怒る。
その視線を掠めてすぐ横の樹皮にビシッと丸い弾痕が付いた。
「くうっ!」
それが敵からの銃弾であることを察知して蓉子は身を翻し、体勢を立て直すべく森の中へと消えていった。

「何とか・・・撃退できましたわ。」
じっとりとかいた汗を拭って藍は一息ついた。
「あぁ・・・姉さんでもええですから、そこに刺さったクナイ取ってもらえませんかね?」
「あら・・・今気付けばこの鳥さんお話出来るんですねぇ〜。」
藍は地面に刺さったままのクナイを引き抜く。
すると、さっきまでの静けさが嘘のようにケンちゃんが動き出す。
「いや〜!姉さんがいてくれはらんかったらワテあのまま動くことも出来んと餓死するところでしたわ〜!!」
そういって藍の肩先にちょんと乗る。
「ワテはケンちゃんと呼んでもろたらええですわ。姉さんはお名前何と仰るんです?」
「鷺ノ宮、藍、ですわ。ケンちゃん。」
「はぁー・・・そらまた結構なお名前でっしゃろ?○○宮なんてったらそりゃええトコのお嬢と決まってますからな!」
一人で大興奮している小鳥を藍は微笑ましそうに眺めている。
「姉さんはこんな辺ぴな所で何してはるんですか?」
「私は・・・元の世界に戻りたいのですわ・・・。」
ここまでの過程があるだけに、さすがに藍の表情が曇る。
76世界の欠片:04/02/07 08:19 ID:fv9duPty
それを前向きに解釈したケンちゃんは慌ててフォローに入る。
「ワテらもいろんな世界を廻って来てるんですわ。廻り回ればきっと元の世界に戻れますって!」
ケンちゃんは遠い目をして言い聞かせるように続けた。
「ワテはいろんな世界を廻ってるうちに、ここに飛ばされてしまいよったんですわ・・・。」
「そうなのですか・・・?」
「そ。本当ならワテの飼い主・・・っちゅーかご主人にあたる兄さんと一緒に壊れてしまった世界を修復するために”世界の欠片”を捜してたんですわ・・・」
「世界の・・・欠片?」
「そうです。まあ、厳密には破れてしまった本のページ、ですがね。」
ケンちゃんはそこで間を置くとクセッ毛のようなものを振り振りする。
「・・・ここは思ってた以上にいろんな迷子がおりますなぁ。皆さん、姉さんと同じような境遇でっせ。」
そして藍に向き直る。
「とりあえず、兄さんが見つかるまではワテ、姉さんと行動してもよろしいでっか?」
藍は一瞬戸惑ったが、笑顔で了承した。
「おおきに!助かりますわ〜!!んではちょっと失礼して――」
ケンちゃんはそう言って藍の制服の胸元に潜り込もうとする。

「よろしくお願い致しますわ。ケ・ン・ちゃ・ん。」
「は・・・はひ・・・」

藍につままれ、銃口を突きつけられたままケンちゃんは恐怖の笑顔の藍に引きつった笑顔で返すのだった・・・。

【鷺ノ宮 藍@Canvas〜セピア色のモチーフ〜(カクテルソフト)状態:○ 装備品:拳銃(残弾不明) 行動目的:島からの脱出】
【皇 蓉子@ヤミと帽子と本の旅人(ORBIT)状態:○ 装備品:コルトガバメント(残弾数12発)、マガジン×4、暗器(クナイ:残数不明) 行動目的:現状把握】
【ケンちゃん@ヤミと帽子と本の旅人(ORBIT)状態:○ 装備品:嫁はんズ用携帯電話(13台)、クセ毛アンテナ 行動目的:世界の欠片探し及び兄さん(コゲ)探し】
*ケンちゃんは人数に含みません
77世界の欠片:04/02/07 08:34 ID:fv9duPty
修正。

【鷺ノ宮 藍@Canvas〜セピア色のモチーフ〜(カクテルソフト) 分類:狩 状態:○ 装備品:拳銃(残弾不明) 行動目的:島からの脱出】
【皇 蓉子@ヤミと帽子と本の旅人(ORBIT) 分類:招 状態:○ 装備品:コルトガバメント(残弾数12発)、マガジン×4、暗器(クナイ:残数不明) 行動目的:現状把握】
【ケンちゃん@ヤミと帽子と本の旅人(ORBIT) 分類:? 状態:○ 装備品:嫁はんズ用携帯電話(13台)、クセ毛アンテナ 行動目的:世界の欠片探し及び兄さん(コゲ)探し】
*ケンちゃんは人数に含みません
78決別の銃弾:04/02/08 05:36 ID:OY1vgu0T
「大十字九郎! あんたはそこまで外道なのかよっ! 狙撃手隠して油断させて……」
 武の叫びが、森の中に木霊する。
「違う! 俺じゃない、俺にはあんたらを撃つような仲間なんていない!」
「信じられるか! この人達を脅しておいて、逃げたら即撃ち殺す、か。そうやってタマも殺したのかよ!」
「俺じゃ……!」
 俺じゃない、そう言おうとした九郎の身体スレスレを一本の矢が掠めながら通り過ぎていく。
「綾峰さん!」
 榊が矢の飛んだ方に目を向けて叫ぶ。
「もう、あなたと話をする必要は無い。ここで起こった事が現実だから。貴方の元から逃げ出したこの人達が、逃げ出した瞬間に撃たれた、その事実だけで充分」
 綾峰が淡々と言葉を告げる。口を動かしながらも、その手は既に二撃目を撃つ為の動作に入っている。
 九郎は地面に置かれている銃を拾い上げると、近くにあった木に身を隠した。
(誰が撃った? 俺の仲間でもない、あいつ等の仲間でも無さそうだ。あぁ、判らねぇ!)
 理解できない状況。しかし、九郎に何かを考える余裕等無かった。綾峰が九郎をその手に持つ弓と矢で打ち抜こうとするために、今いる場所から動こうとしている。
「委員長! あんたはその人達を頼む、知り合いなんだろ? 俺と綾峰は奴を……、大十字九郎を撃つ!」
 武がその手に持つサブマシンガンを構え直すと、綾峰と共に走り出した。
「冗談じゃ無い! こんな所で死ぬ訳にはいかないんだよ!」
 九郎は身を翻して、武達を撒こうと森の奥へと走り出す。
「もう逃がさねぇ……。綾峰、俺達はあいつを挟み撃ちにするぞ! 俺は右側から回り込む、綾峰は、あいつを追い込んでくれ!」
「判った。あいつには仲間がいる。白銀、気をつけて」
「応っ!」
 武と綾峰は、そう言葉を交わすと、二手に別れて九郎を追い始めた。
79決別の銃弾:04/02/08 05:37 ID:OY1vgu0T
 アル・アジフは初音にやられた右肩を抑えながら、森の中を彷徨っていた。痛みは多少引いてきたが、まだまともに動かせる状態では無かった。
「あの女、それにこの世界……。この場所はアーカムシティでは無い。だとすれば、一体妾の身に何が起こったというのだ……。こんな時に、九郎はどこにいる。よもや、妾だけがこの世界に呼び出されたという訳でもあるまいに……」
 九郎の魔力はアルも感じている。この島のどこか、そう遠くは無い場所に、大十字九郎はいる。
 大十字九郎、魔道書『アル・アジフ』の所有者。
 常に二人で戦い、それに勝利してきた。戦いの素人だった九郎も、アルの特訓と、人外の化け物と交わした幾多の戦いのおかげで、今では充分戦士としての力を手に入れている。
 アルと九郎、二人が揃えばどんな化け物も恐るるに足らない。
「九郎。妾はここにいるぞ……。早く妾の元へ来い。……ん、音? それに……声?」
 アルは耳を澄ませて、音の聞こえる方へと意識を向ける。
 銃声のような音。誰かが叫んでいるような声。
「誰かが争っている? だが、この気配は……、九郎! まさか九郎が!?」
 魔力を感じる。
 自分の主人の魔力の波動と、争いの音が聞こえてくる場所から感じる波動は同じものだった。
「このような場所でも、あ奴はやっかい事に巻き込まれるのか! まったく面倒な体質をしている……。だがっ! それでも待っていろ!。今すぐ妾が行くぞ、九郎!」
 アルは右肩から手を離すと、音のする方へ走り出した。

 九郎は逃げていくうちに、少し開けた場所へとやってきた。
 隠れる場所は無い。後ろを見ると綾峰の姿がチラチラと見えている。
 先ほど三本目の矢をなんとか躱す事が出来たが、綾峰が弓に慣れて来たのだろう、精度が上がってきている。
 武の姿も見えない。
「絶対絶命って奴か……」
 九郎は、無意識のうちに腰に掲げたイタクァとクトゥグアに手を置いた。
 何度も彼の身を救ってきた二丁の銃。しかしその銃を使う時は、いつも殺し合いの最中だった。
 九郎はまだ迷っている。
 自分を殺そうとしている人間がいる。
 普段ならば九郎は我が身を守る為に銃を振るう。
 しかし彼等は勘違いのままに、九郎を追いかけているのだ。
80決別の銃弾:04/02/08 05:38 ID:OY1vgu0T
 誰かを守る為にその力を振るう事はあっても、その力は悪に対してだけ向けてきた。
 もはや話は通じない、その事を理解していても、それでも九郎はまだ己の銃を振るう事は出来なかった。
「終わりだな、大十字九郎」
「!?」
 突然九郎の背後から声が聞こえてきた。
 慌てて振り向くと、そこにはサブマシンガンを掲げた白銀武の姿があった。
 少し遅れて綾峰もその場にやってくる。
「あなたは私達の仲間を殺した。そして、さっきもあの人を傷つけた。これはその報い」
 綾峰はそう言って静かに弓を構える。
「俺はやっていない……、と言っても、もうあんた等は信じないんだろうな」
 九郎が自嘲気味に呟く。
 彼はここに来ても未だ迷っていた。
 銃口を向けられ、弓矢で狙いを定めれらて、尚。
 彼が銃を抜けば、おそらくすぐに終るだろう、九郎にはそれだけの力があった。
 しかし代わりに残るのは、一組の男女の死体。
 九郎は、今までこんな選択を迫られた事は無かった。
 自分の死か、それとも罪の無い人間を自らの手で撃ち殺すか。
「白銀はそこで見ていて。この男は珠瀬自身が仇を取るから」
 九郎の迷いなどよそにして、綾峰は静かに呟いた。
 武も小さく頷き、サブマシンガンを抱えたまま、九郎と綾峰の動向を見守っている。
 三人の間に小さな静寂が訪れる。
 綾峰の手に、少しづつ力が入ってゆく。
「大十字九郎! そなたは一体何をやっている!」
 その時、三人の間に流れる静寂を打ち破る、一人の少女の声がその場に轟いた。
「ア、アル!? お前、どうしてここに……!?」
 九郎は驚き、武と綾峰は虚を突かれ、呆然とした表情を浮かべる。
「見ず知らずの人間に銃を向けられ、何をやっていると聞いているのだ! 大十字九郎!」
 アルは三人の間に流れる緊張など何処吹く風というままに、ずかずかと九郎の元へ近づいていく。
「な、仲間かっ!?」
81決別の銃弾:04/02/08 05:39 ID:OY1vgu0T
 やっと現状を理解した武が、その手に持つ銃をアルに向ける。
「動くな! 撃つぞ!」
 アルは足を止め、武の方へと視線を向けると、ふふんと鼻を鳴らし、その尊大な態度を示すかのように、自らの胸を張る。
「撃ってみろ。貴様のような人間が、妾を撃てるというものならばな」
「くっ! このぉ!」
 武の気配を察した綾峰が木陰に身を隠すのと、武のサブマシンガンが火を噴いたのはほとんど同時の事だった。
 一分間に千発もの弾丸を放てるその銃の弾が、雨となってアルの身に降り注ぐ。
「アル!」
 九郎は反射的に動き、アルを庇おうとその射線上に身を投じる。
 武はそんな事等関係無いというように、無茶苦茶に銃を振り回す。
 二人の姿は、砂埃に隠れ見えなくなった。
 時間にして数秒、長くてもまだ二十秒は経っていないだろう。
「ハァ、ハァ……。やったか? ……俺が、やったのか……」
 武は引き金から指を離すと、肩で息をする。
 初めて、自らの手で人を殺した。
 武はその事実を少しづつ実感し始める。
「白銀……。……!?」
 いつの間にか、武の近くまでやってきた綾峰が武に声を掛けようとしたその時、彼女の眼にあるモノが飛び込んできた。
 もくもくと立ち上る砂煙の中から現れた、黒い姿。
 背中からは大きな翼が生え、それがアルを守るかのように二人の身体を覆っている。
 九郎がアルの右肩にある傷口に気付き、アルをいたわるかのように、優しく問い掛けた。
「……お前、その肩の傷はどうしたんだ?」
「そなたが別の所でのうのうと過ごしている時に、妾は妙な通り魔に襲われていた。まったく……、もう少し早く妾の元へ来ていたのなら、このような傷を受ける必要も無かったのだぞ?」
 皮肉のこもったアルの言葉に、九郎はヤレヤレといった表情のまま苦笑する。
「悪かったよ。だけどとりあえずその傷を治すのはもうちょっと待ってくれ。俺にはまだやる事がある。……いや、やる事が出来た、かな。ようやく決心がついたよ」
 九郎はゆっくりと立ち上がる。
82決別の銃弾:04/02/08 05:42 ID:OY1vgu0T
 その身を包むのは黒い翼と、黒い肌。
 マギウス・スタイル。
 アル・アジフと大十字九郎が力を合わせる事で変身する事の出来る、最強の戦闘モード。
「さっき、あんたは俺の名前を聞いたよな? だけどまだ俺はあんたの名前を聞いていなかった。教えてくれるか? あんたの名前を」
 九郎は武に向かって静かに問い掛ける。
「し、白銀、武……」
 九郎の身から発せられる気配に気圧されまいと必死になりながら、武は己の名前を呟いた。
「白銀武か……。白銀、俺はついさっきまで迷っていた。俺が生き残るにはこの銃を使わなければならない」
 九郎はそう言って、腰の銃を指差す。
「だけど銃を抜いたら最後、どちらかが死ぬまで戦う事になる。俺はあんた達を殺したくは無かった。だけど、殺されたくも無い。だけどな、その考えもたった今、変わったよ」
 九郎が自分の傍にいるアルの方へと視線を向ける。
「こいつは俺の仲間。アル・アジフという。今、白銀、お前はこいつに向かって、その銃をぶっ放したよな? 撃てば、死ぬ。その事が判らなかったなんて言うなよ?」
 武の顔に視線を直すと、その顔を見つめながら、九郎は静かに言葉を続ける。
「運良く……、っつーかまぁ、俺達の力のおかげでなんとか死ぬ事は無かった。だけどな、ようやく腹が決まったよ」
 九郎は、ジャリ、と音を立てながら両足を肩幅に開き、腕を上げる。
「殺しはしない! だが、俺の仲間を殺そうとした分のお返しはさせてもらう! 覚悟しろよ、白銀武!」
 九郎は、白銀武、そしてその仲間に対して宣戦を布告した。
83決別の銃弾:04/02/08 05:48 ID:OY1vgu0T
【大十字九郎 斬魔大聖デモンベイン ニトロプラス 状 ○(マギウス・スタイル) 回転式拳銃(リボルバー)『イタクァ』 残り弾数 19発、自動式拳銃(フルオート)『クトゥグア』残り弾数 17発 招 行動目的と状況 武達と敵対 島からの脱出】
【アル・アジフ 斬魔大聖デモンベイン ニトロプラス 状 △(右肩損傷、ただし回復可能) ネクロノミコン(自分自身) 招  武達、初音と敵対 島からの脱出】
【白銀 武 マブラヴ age 状 ○ サブマシンガン (後、約一分三十秒ほど撃てる) 招 九郎と敵対 仲間と別れ九郎を追う 最終目的は元の世界へ戻る】
【綾峰 慧 マブラヴ age 状 ○ 弓 矢残り七本、ハンドガン 15発 狩 九郎と敵対 仲間と別れ九郎を追う】
【榊 千鶴 マブラヴ age 状 ○ マグナム銃 装填数 6発 狩 九郎と敵対(ただし武達の現状を理解していない) 仲間と別れ、孝之と遙の護衛】
【鳴海孝之 君が望む永遠 age 状 ○ コルトパイソン 狩 九郎を裏切る 遙の傷を前にオロオロしているだけ 最終目的は元の世界へ】
【涼宮遙 君が望む永遠 age 状 △(右足銃弾貫通) 拳銃(種類不明) 招 孝之に連れられて九郎を裏切る 足を撃たれて苦しんでいる 最終目的は元の世界へ】

本文に孝之達は出てきていませんが、その場にはいたので、一応ステータスは書いておきます。
84再結集:04/02/09 02:18 ID:5VqAU5Yv
「重かった〜。こっちの彼は結構いい体してるわね。担ぐ方はたまったものじゃないけれど・・・」
ようやく見えた屋敷に芹沢が安堵の溜息を吐く。
「そりゃ鈴音ちゃんが紛いなりとはいえ褒めた程の剣士ですし」
芹沢は沖田の方を向いて見るが、その表情からは何か思案しているようで、
勇子の言葉に対して考え込んでいるというよりは・・・道中ずっとこの調子である。
最初から勇子達の会話を聞いていなかったようである。
「ん。鈴音ちゃん何か考え事?」
思わずそんな事を聞いてしまう程真剣な顔を鈴音はしている。
「・・・え。いえ、すいません。少しぼっーとしてました、病気が治ったからっていっていけませんね」
(少し気にしすぎかな?そういえば以前は鈴音ちゃんが悩んでたりするの見たことなかったわねぇ)
鈴音は、病気がちで体は弱くても意思ははっきりしていた。
行くべき道を真っ直ぐに見据えている。正に新撰組隊士の風格を兼ね備えていた。
(・・・私が言えた立場じゃないわよね、あはは)
内心自分の勤務態度を思い出し苦笑しながらも中央結界内、屋敷の中に3人は入っていく。


「歳江ちゃんはまだ帰ってないみたいですね」
勇子が館内用のスリッパに履き替えながら歳江の草履をついでに確認する。
ケルヴァンには屋敷内はそのままでもいいと言われたのだが、池田屋討ち入りでもあるまいし草履のままではとても落ち着かない。
妥協案として屋敷内では勇子達は履物を変えるということで落ち着いたのだ。
85名無しさん@初回限定:04/02/09 02:19 ID:5VqAU5Yv

「なんだか随分と静かになったわねぇ」
勇子は芹沢の言葉で屋敷内に人気が殆どないことを気づいた。
「確かに人はいなくても屋敷は大丈夫でしょうけど。朝と比べるといくらなんでも・・・」
鈴音も人気がないのに気づいたようであたりの気配をうかがっている。
(何かあったのかな?沙乃が襲撃でもかけてきたのか、それとも別の・・・)
ゴトッ
その音は背後から聞こえた。
突然の物音に3人は一瞬戦闘体制に入りかけたが・・・
「この距離でようやく気づくとは。いくら屋敷の中だからとはいえ油断が過ぎるぞ」
物音を立てたのが歳江だとわかると3人は戦闘体制と解いた。
心なしか・・・歳江の服が汚れているような気がする。
(歳江ちゃん・・・途中で敵に会ったのかな?)
勇子が懸念の眼差しで歳江を見ていると、歳江は勇子の視線に気づいたらしく。
「武器庫が襲撃を受けてな。応戦したのだが、襲撃者には逃げられた。
屋敷の兵はどうやらもう片方の武器庫の守りに回したようだな」
辺りの気配をうかがいながら吐き出すように歳江は答えた。
(やっぱり敵を取り逃がしたのが悔しいんだね・・・)
歳江とは長い付き合いである勇子は口に出さない歳江の心中を察した。
「歳江ちゃん、刀の替えは大丈夫だったの?」
空気を読まない芹沢が心配そうに歳江に話しかける。
「それは問題ない。只あちらの武器庫の銃器類は殆ど使い物にならなくなった。残った少ない武器はこちらの屋敷に運ぶそうだ」
(もっとも芹沢さんの心配は私が戦えないと自分が楽をできないからだろうが・・・)
ふと視線を勇子に移し
「・・・所で勇子。いつまでその重そうな荷物を背負っているつもりだ?」
「あっ・・そういえば。道中ずっと背負って歩いてたからすっかり自然になっちゃったよ」
そういうと勇子は背中の青年・・・桜井舞人に目を向ける。
息はしているし、体温も正常だ。
86再結集:04/02/09 02:20 ID:5VqAU5Yv
しかしあまりにも生気が舞人の顔にはなかった。
「芹沢さん・・・本当に当て身だったんですよね?なんかやたらと弱っているような気がするんですけど」
「う〜ん、私の魅力に骨抜きにされた・・・やぁねぇ。本当に只の当身よ?ほら少年と触れ合う機会は大事にしなくちゃ」
言葉の途中で歳江が睨みつけて来たので少し怯み、真面目に答えた。(つもりだ)

リビングの方から人の声が聞こえる。
出払っていた兵士が戻って来たのかもしれない。
リニアは様子を見に行く事にする。
リビングに入ると歳江と目があった。
(この人朝、庭で誰かと口論してた・・・)
服装が見たことないもので覚えていたリニアは警戒する。
(ケルヴァン様の部下の人達・・・美由希さんの事ばれないようにしないと)
ソファーに横たわっている男性2人は彼女達が連れてきたのだろう。
ゆっくりだが息をしている。
まだ男達が生きてるのを見てとると内心、安堵の息をついた。
(でもこの人達傷だらけだし、美由希さんの事も黙っておいた方がいいですね)
彼女達──歳江達が力ずくでこの屋敷にこの男達を連れてきた、そのように見てとった。
リニアの方は歳江を知っていたが、歳江にとってリニアは只の小間使いとしか認識できなかったようだ。
「そこの女中。ケルヴァン殿に取り次いでもらいたいのだが。新撰組と言えばわかるはずだ」
(え、えっとどうしようか?ああ、そういえばさっき・・・)
「・・・ケルヴァン様は今お忙しいようで、伝言は私が聞くように言われてます」
リニアの言葉の前半は本当の事だ。
部屋に誰が来ても取り次がないようにと、誰も入れるなと言われている。
後半部分については・・・リニアなりに情報を集めようとした口からでたでまかせであった。
「ふむ・・・我らが司令官殿は武器庫の後始末で忙しいのか。魔力資質者と思われる人間を連れてきたのだが・・・」
歳江の持っていた魔力保持者のリストは武器庫でのごたごたの際に紛失してしまったらしい。
今や魔力保持者を確認する方法はケルヴァンによる直接確認しかなかった。
「その件でしたら私が対応するように言われてますので・・・」
87再結集:04/02/09 02:26 ID:5VqAU5Yv
リニアはまた咄嗟にでまかせを言った。
(魔力資質者を連れてきた・・・つまり魔力資質者じゃなかったら)
リニアの推論は外れてはいなかったようだ。
「そうか・・・ならば後の事は任せてもよいのだな?局長、出陣するぞ。このままでは舐められたままというわけにもいかん」
鴉丸羅喉の件といい、倉庫の襲撃者といいやられっぱなしでは気が済まない。
足早に歳江は玄関に向かっていった。
「ありゃ・・・重い荷物運んできたから少し休みたかったのに〜」
「しょうがないですよ、歳江ちゃんの性分ですからね」
不平をいう芹沢とそれをなだめる勇子が去るのを見ながらリニアは緊張を解いた。
(上手くいきました・・・)
「ああ、忘れてましたけど・・・」
「ひゃっ!!」
一度去った鈴音が物音を立てずにすぐ傍まで来ている。
(ば・・・ばれました?)
「これその人達の武器です。手の届かない場所に置いといて下さい。結構腕が立つ見たいですから」
戻ってきた鈴音がリニアに渡したのは・・・恭也の持っていた武器一式である。
再び物音を立てることなく鈴音は去っていった。
(怖かった・・・)

「時代が変わったのか、それとも欧米ではああいったものなのだろうか・・・」
「歳江ちゃん、何の事?」
「まあ大した事はないのだが、女中に頭にもう2本手があったのでな。文化の違いというのは興味深い物だな・・・」
(そういえばそうだったかな・・・歳江ちゃん焦っているように見えてもちゃんと余裕はあるみたい。これなら大丈夫かな)
勇子の懸念は杞憂だったようだ。
これなら武器庫を襲撃した者達との戦いにも影響はないだろう。
(私達はもう負けられないんだから・・・ね)
88再結集:04/02/09 02:27 ID:5VqAU5Yv
【近藤勇子@行殺!新撰組(ライアーソフト) 鬼 状態○ 所持品 銃剣付きライフル】
【土方歳江@行殺!新撰組(ライアーソフト) 鬼 状態○ 所持品 日本刀】
【カモミール芹沢@行殺!新撰組(ライアーソフト) 鬼 状態○ 所持品 鉄扇】
【沖田鈴音@行殺!新撰組(ライアーソフト) 鬼 状態○ 所持品 日本刀 目的、原田沙乃と話し合う】
【高町恭也@とらいあんぐるハート3(JANIS) 狩 状態× 所持品なし】
【桜井舞人@それは舞い散る桜のように(Basil) 招 状態× 所持品なし】
【リニア@モエかん(ケロQ) ? 状態○ 所持品 小太刀2本 飛針 小刀(小太刀とは別)チタン製鋼糸 
目的 美由希をケルヴァンから隠し通す】

【新撰組 目的 倉庫襲撃者の追撃】

補足説明(ログ不要)ケルヴァンはヴィルヘルムと、ハタヤマの事で論戦中。
89嵐の前の静けさ:04/02/09 14:27 ID:BgYMoqli
「美由希さん・・・扉を開けてくださぁい」
今にも泣き出しそうなリニアの声がするので美由希は扉に向かった。
(気配で部屋に帰ってくるのはわかってたけど、何か荷物でも持ってるのかな?)
美由希はリニアの他に気配がないことを確認するとゆっくりと扉を開ける。
片方の腕で1人、都合2人の人間を抱きかかえたリニアが部屋に入ってきた。
「さすがに疲れました・・・。リニア頑張りました」
そのまま部屋になだれ込むとベッドに抱えていた2人を横たえ、倒れるようにテーブルに突っ伏した。
(リニアちゃん意外に力あるんだね・・・)
「ああ・・・そういえば緊急モードになればよかったのですか。でもリニア、力のコントロールが上手くできませんし、
お二人を潰してしまうかもしれませんね」
リニアはどうやら体力を使い果たしたらしく机に突っ伏したまま美由希と話している。
「緊急モード?」
主人に危険がせまるとロケットパンチをするメイドロボを知っているが彼女も同じようなものなのだろうか。
「リニア人間じゃありませんから普段は一般的な範囲に力を抑えてあるのです。でもボンコツですから
力の調節ができなくていつもフルパワーになってしまうので2度と使うなと・・・」
「あはは・・・でも普通に運んできてるし」
(なんだか、かーさんと話してるみたい)
リニアが今運んできた人達にも自分のように普段の日常から突然この島にやってきたのだろうか。
美由希はベッドに寝かされている2人の顔を改めて見て・・・
「恭ちゃん!」
「美由希さんのお知り合いですか?」
「私の・・・兄さんだよ」
少し言葉に間があったような気もするがリニアにはそんなことを気に止める余裕はないようだ。
「2人とも無理矢理連れて来られたみたいですね。傷だらけですし、ああそういえば手当てもしなくちゃ」
リニアが机から動こうとした体を起こした。

「大した傷じゃない・・・本当に手当てが必要な傷は時間が経たないと治らないしな」
リニアが立ちあがろうとした瞬間、恭也がゆっくりと体を起こした。
「恭ちゃん、気がついたんだ・・・」
「い、いきなり声かけないで下さいよぉ、びっくりするじゃないですか・・・」
90嵐の前の静けさ:04/02/09 14:29 ID:BgYMoqli
「・・・すまない。美由希の声で目が覚めたものでな」
「時間が経たないと治らないってどういうこと?」
「ああ、肋骨をやられた。少し痛む程度だ、問題ない」
(恭ちゃんああ言ってるけど絶対口にしないもんね、そういう事)
美由希や家族やそういった守る相手には一切弱音を吐いたりしない。
(───だから私の目標なんだよ、恭ちゃんは)
恭也は美由希の方を向きながら
「なんだかすごく久しぶりのような気がするが、一日も経ってはいないんだな。なんにせよ、無事だったみたいだな。
なんだ・・・その・・なによりだ」
こういう言い方はいつもの恭也である。
突然訳もわからずこの島に来てしまった美由希にはそのいつも通りが何よりも心地よく思える。
「うん・・・でも恭ちゃんが負けるなんて相手は・・・」
「肋骨をやられた相手はまた違うんだがあの剣士達何者なのか」
「恭也さん達を運んできた方々は新撰組と名乗ってましたけど・・・」
疲労から回復したリニアが会話に割って入る。
「・・・」
「え?え?リニアなんか変な事いいましたか!?」
美由希と恭也が突然黙ってしまったのでリニアは狼狽する。
「恭ちゃん・・・どう思う?」
「誰かが名を騙っているだけだろう・・と言いたいが妙な牛の化け物までいる島だからな。
死者がよみがえっても不思議はない」
何より恭也が負ける程の相手・・・歴史に名を残す剣客であっても不思議ではない。
「少なくても名前負けしている敵じゃないってことだね」
「ああ・・・桜井はまだ起きないか」
隣で寝ている男の顔を見て恭也は溜息をつく。
新撰組(と呼ぶ事にした)にやられる前から謎の力の反動なのかわからないが、相当弱っていたのでそのせいかもしれない。
「できたら今のうちに状況を把握しておきたかったんだが」
「あ、うん。それなら私とリニアちゃんが説明するね」
椅子に座っているリニアを恭也は見て
「そういえば自己紹介がまだだったな・・・美由希の兄、高町恭也だ。よろしく」
91嵐の前の静けさ:04/02/09 14:29 ID:BgYMoqli
「あ、こちらこそリニアと申します。不束者ですがよろしく・・・」
「リニアちゃん使い方間違ってるよ」
美由希は苦笑しながらこの状況下でなんとも気の抜けた2人の自己紹介を見ていた。

3人はそれぞれが今までわかった事を話し合った。
その内容にはリニアが先ほど新撰組と交わした会話の内容も含まれている。
「つまり人を集めて何かしようとしているわけか」
「魔力資質者って・・・私も恭ちゃんもそんなのないような気がするけど。フィアッセならあるのかもしれないけど・・・」
願わくば、恭也の言ったような化け物がうろついているこの島に来てないことを祈りたい。
恭也も同様の事を思ったらしく表情を硬くしている。
普段から共にいる美由希以外にはその些細な表情の変化はわからないだろうが。
「あの化け物を魔力資質者以外の人間の処分に使っているのかもな・・・」
桜井舞人と一緒にいた女性が化け物に殺された事を考えるとありえない可能性ではない。
あの桜井舞人の得体のしれない力もあれがもしかすると魔力というものなのかもしれない。
しかし───そうなると
(やはりあの化け物はこの屋敷の主には制御できていないということになるな)
あの化け物が桜井舞人まで襲った理由が説明できない。
あれは誰にでも降りかかる天災のようなものになるのだろうか。
まあ、なんにしても───
「俺達がこの屋敷の主の我侭につきあう義務はない」
「うん・・・こんなの許せないよ」
「そうだな・・・御神の剣はこういった理不尽な力に対抗するためにある」
互いに思う事があるのか2人共黙ってしまった。
「美由希さん達は・・・どうされるつもりですか?」
重苦しい沈黙に耐えかねたのかリニアが沈黙を破った。
「確かにこんな風に関係ない人達を巻き込んだこの屋敷の持ち主は許せないけど・・・」
「・・・まずこの島からどうやったら元の場所に帰れるのかを探す方が先決だな」
恭也や美由希のような戦力になる人間ばかりが呼ばれたわけではない。
八重樫つばさのような一般人もこの島に来ているのだ。
そういった人間を一刻も早く元いた場所に帰す方法を見つけるのが先である。
92嵐の前の静けさ:04/02/09 14:31 ID:BgYMoqli
八重樫つばさの事を思い出し、恭也はそう結論を出した。
(彼女のような犠牲者をこれ以上増やすわけにはいかない)
恭也にしてみれば当初の予定であったこの島の主に会うということは、島の主のやったことを知った今、意味がなくなった。
(もし会うことがあったとしたら・・・不破の技をを使う事になる、か)
敵残存戦力の掃討を目的として振るわれる御神流の裏の不破流。
(まだ俺には守るべき者が傍にいる)
リニアと何か話している美由希を見ながら恭也は八景を握り締めた。

【高町恭也@とらいあんぐるハート3(JANIS) 狩 状態△(肋骨骨折)
所持品 小太刀2本 飛針 小刀(小太刀とは別)チタン製鋼糸 目的 島からの脱出方法を探す】
【高町美由希@とらいあんぐるハート3(JANIS) 招 状態○ 所持品 小太刀(龍燐)目的 島からの脱出方法を探す】
【リニア@モエかん(ケロQ) ? 状態○ 所持品なし 目的 美由希、恭也、舞人の存在をケルヴァンから隠す】
【桜井舞人@それは舞い散る桜のように(BasiL) 招 状態○ 所持品なし】
93葉鍵信者:04/02/09 21:40 ID:h0vhvUsF
これから投下する作品の時間軸は、物語初期の頃、
新撰組が四人で狩りをしていた頃、初音が見定めでうろついていた頃のものです。
94侍達:04/02/09 21:40 ID:h0vhvUsF
 森、というよりは、山沿いの崖のような場所に一人の男が立っていた。
 「ちっ、行き止まりか」
 崖を下れないと判断した彼は、そのまま元来た山の方へと引き返していく。
 

 「出口だ!! イル、スイもう大丈夫だ!!」
 「はい、双厳様!!」
 双子の少女の手を引き、双厳と呼ばれた男は、冥府の穴から地上へと駆けていた。
 迫り来る、霊を振り切って、地上まで後一歩。
 現世と繋ぐ穴を潜りぬけた時に光が彼らを包んだ。

 

 光が消え、気づいた時には、山の中にいた。
 辺りを見渡したが、確かに手にあったイルとスイは何処にもいない。
 何しろ、現世と冥府を繋ぐ穴だ。 多少、位置がずれて外に出てもありえない事じゃない。
 そう思い、直ぐにイルとスイを探して回ったが、辺りには誰もいなかった。
 探索するうちに段々と嫌な予感がして来たが、ここはあの島なのだろうか?
 短い日にちだったとはいえ、あの島はイヤと言うほど探索した。
 もうひとつの島といえど、形に何も変わりはなかったはずだ。
 それにあの嫌な独特の気配とは、また違った雰囲気がこの山を包んでる。
 
 来た道を戻ると、今度は山の奥の方に進んでいく。
 先ほど、崖側に来た時に大体、山の形が見えてきたが、
どうやら此方へ山越えしない事には、ふもとへと降りれなさそうだ。
 獣道を潜り抜け、木々を乗り越えていく。
 イルとスイは、無事だろうか?
 十兵衛と命もどうなったか気になる。
95侍達:04/02/09 21:41 ID:h0vhvUsF
 「むっ!?」

 かすかだが、音が聞こえてくる。
 それもよく見知った刃物のぶつかる音だ。
 耳を凝らしながら、慎重に少しずつ音のする方へと近づいていく。
 耳に響く独特の音がより鮮明になる。
 十兵衛と無影が戦っているのだろうか?
 そうであるならば、手助けをしなければ。

 

 時は少し遡る。

 「ったく、なんだここは?」
 双厳が散策を始めた頃、忍者のような青い装束を身に付けた男が、
時を同じくして、山の中をうろついていた。
 (あの生気の集う余波、大きな光の後、気づいたらここにいやがった。
  此方としては、あれから解放されて助かってところだが……
  まさか、あの影響で飛ばされたのか?)
 「にしても、ここはあの島じゃねえみたいだが……っと、お客さんかい?」
 ふと、前を見ると四人組の女が男の進路へたちはばかっていた。
 「歓迎されてるってわけじゃなさそうだな……」
 此方を見つめる殺気だった八つの瞳を前に、彼は刀を構えた。
 「参る!!」
 言葉と共に一人が飛びだしてくる。
 「ちぃっ!?」
 キィーンとした音が鳴り響き、男は女の太刀を弾く。
 目の前にいる女の体の後ろから、もう一人が迫り来るのが彼の瞳に移った。
 男は、すぐさま後方へと下がり距離を取る。
 「クックックック……。 四人がかりとは卑怯じゃねえのか?」
 余裕を持ちながら、挑発するように男は連携をさせないように後退を続ける。
 (さてと……。 どうしたもんかね)
96侍達:04/02/09 21:42 ID:h0vhvUsF
 再び、双厳へと戻る。

 やがて、音がはっきりと耳に響くようになった時、
 視界には、忌まわしき存在とそれを追従する四人の女剣士の姿が映った。
 間違いない、あれは無影だ!!
 
 「無ええええぇぇぇぇぇぇいいいい!!!!」

 戦ってる相手の方は解らないが、少なくとも無影の敵である事は間違いなさそうだ。
 ならば、この機にやつの息の根を止めるまで!!


 「双厳!? ちっ、こんな時に……」
 新撰組の四人の追撃を交わしていた無影の耳に双厳の怒声が鳴り響く。
 
 「仲間か!? 鈴音! 勇子! 其方を頼むぞ!!」
 歳江の言葉と共に、二人が向かい来る双厳の方へと鞘に手をあて、迫り来る。
 
 「あぁ!?」
 驚いたのは、無影と双厳である。
 双厳の方は、彼女らの手助けをしようとしたのに面を食らい。
 無影の方は、双厳と仲間と思われたことに大きな疑問を感じる。
 (幕府の犬ってわけじゃなかったのか?)
 「まっ、なんにせよ、2:1じゃぁ、俺は止められないぜ!?」
 「くっ!?」
 4対1を見過ごして、後退を続けていた無影だが、相手が二人になったと同時に反撃へと出向く。
97侍達:04/02/09 21:44 ID:h0vhvUsF
 対して、鈴音と勇子の相手をしなければいけなくなった双厳。
 目の前に怨敵がいると言うのに、向かっていけないもどかしさが彼を苛立てる。
 「待て、俺の敵は無……」
 「問答無用、貴様も我らが敵!!」
 「くそっ、なんなんだ!?」
 

 2:1の二グループの攻防が続く。
 それを少し離れた場所で眺める二つの存在。
 
 「命!!」
 「はい、十兵衛様!!」

 いかつい男に命と呼ばれた少女は、大筒を取り出すと
 そこから、争ってる六人に向けて砲撃を繰り出す。

 彼らの真中に着弾し、大きな炸裂音がたたき出されるのと同時に辺り一帯に黒い煙が立ち込む。
 周りにいた六人は、驚愕する。

 「双厳、こっちだ!!」
 双厳の隣に十兵衛が駆け寄り彼の手を取る。
 「十兵衛!?」
 「話は、後だ!! 一先ず逃げるぞ!!」
 「だが、無影が!!」
 「俺とて奴を倒したい。 だがここは逃げるのが先だ!!」
 十兵衛に言われたことにより、まだ納得はいかないものの渋々と従う双厳。
98侍達:04/02/09 21:47 ID:h0vhvUsF
 「っと、ついでに俺も逃げさせて貰うかね」
 無影もそのまま四人から離れるようにして去っていく。

 「おのれ、待てぇ!!」
 暗闇の中では、逃げるのより追う方がはるかに難しい。
 なすすべもなく、無影と双厳に逃げおおせられてしまった。

 「くそっ、まだ仲間がいたとは!!」
 煙が晴れた時に残っていたのは、悔しそうな四人だけであった。
 

【双厳@二重影(ケロQ) 狩 状態○ 所持品 日本刀(九字兼定)】
【柳生十兵衛@二重影(ケロQ) 狩 状態○ 所持品 日本刀(三池典太光世)】
【命@二重影(ケロQ) 狩 状態○ 所持品 大筒 煙弾(2発) 通常弾(10発) 炸裂弾(3発)】
【無影@二重影(ケロQ) 狩 状態○ 所持品 日本刀(籠釣瓶妙法村正)備考:物理攻撃半減】

追記:無影の物理攻撃無効ではなく半減はハンデと次でちゃんと理由付けします_| ̄|=○
99鬼畜王の誤算:04/02/09 22:17 ID:qqkMkX2s
加賀元子は島の中央からやや近い山の頂上に立っていた、そこからは島の全形がほぼ一望できる。
もっとも島の中心部だけは不自然なまでの濃厚な霧によって何があるのかはわからなかったが。
(ここなら…)
元子は手に持った拡声器のスイッチを入れる、ここからなら自分の声はかなりの遠くまで届くだろう。
(悪司…)
元子は心の中で夫の名前を呼ぶ、そんな彼女が身に纏うのは純白の花嫁衣裳だった、
念願のオオサカ統一を成し遂げた記念に、先送りになっていた悪司との結婚披露宴を、
大々的に執り行うこととなったのだ。
そしてその華やかな宴の最中、誓いの杯を交わそうとしたその時、まばゆい光に包まれ気がつくと、この島にいた。

そこからはまるで五里霧中だったが、それでも手がかりが無いわけではない。
光に包まれる直前、悪司の口から「誰かが呼んでいる」という呟きが漏れていたのを元子は確かに聞いた。
なら悪司もきっとここにいるはずだ。

そして元子が夫の名前を呼ぼうと拡声器に口を近づけたその時だった。
「がははは、女見つけー!」
いきなり現れたランスによって、元子は背後から組み敷かれてしまったのだった。

「や、やめて!やめてったら!!」
必死で抵抗する元子だが、ランスの腕力には叶わない。
「がははははは、ういやつじゃ、ほーれ」
ランスは抵抗をものともせず、次々と白無垢を剥ぎ取っていく。
「花嫁を後ろから犯すってのはなかなか背徳的でいいものがあるな」
「何よ!いったいどうしてこんな…」
「知る必要はない!それにここは大人しく従った方がいいぞ」
100鬼畜王の誤算:04/02/09 22:18 ID:qqkMkX2s
「どうせ招かれた奴ら以外はみんな俺様のような連中に残らず殺されてしまうんだ、
 助かるには皆殺しにでもするしかないんじゃないのか?」
ズボンを下ろしながらランスは恐るべき言葉を吐く、
「だったら俺様に抱かれた方がまだ幸せってものだろ!がはははは、さてと」
あまりにも自分勝手な理屈を並べながら、スタンバイOKとなったランスが、
まだろくに濡れてもいない元子のモノに自らのモノを押し当てた時だった。

「悪司…さよなら」
そんな呟きが聞こえたかと思うと、ランスの視界が真紅に染まった。
なんと元子は迷うことなく自分の薬指に輝く婚約指輪、そこに輝く鋭いまでにまばゆく光る宝玉で、
自分の喉を一思いに掻き切ったのだった。

「あ、おい何やってやがるんだ!」
元子の喉から噴水のように吹き出る血潮を眺めながらあたふたとするランス。
彼はあきらかに困惑していた、自分のいた世界でここまで気合の入った真似をやらかす女は、
1人としていなかった、いや、いるのはいたのかもしれないが、そういう場合は、
往々にして彼の仲間たちが安全弁となっていた、例えば
(ランス様、ムリヤリ襲ったらこの人自殺しちゃうかも)
(そうよランス、少しは分別を持ったらどう!?)
(うーん、お前らがそういうなら仕方ない、許してやるか)
と、いった具合に…。

そうこうしている間にも元子の顔からはみるみる間に生気が失われていく、もはや時間の問題だ。
「俺様の責任じゃないぞ!お前が勝手に死んだんだからな!!」
そう吐き捨てランスは山を降りていった。

しかし彼は大きなミスを犯していた、背後から出会い頭に襲ったために、
元子が手に持っていた物が一体何であったのかをまるで確認していなかったのだ。
そしてそれは元子の傍らの茂みの中で、この惨劇をしっかりと島中に実況していたのであった。
101鬼畜王の誤算:04/02/09 22:18 ID:qqkMkX2s
今や虫の息の元子、だがそれでも茂みの中の拡声器に気がつくと動かない手を動かし
必死でコードをたぐり寄せ、自分の口元まで持っていく。
(おねがい…あと少しだけ…)
喉に穴が開いているので声が出にくいがそれでも、精一杯喉を動かし元子は最後の言葉を
拡声器に乗せて島中に響かせた。

「悪司…花嫁衣裳…汚しちゃってごめんね……さい…ごのお願い言うから…聞いていて
私の…敵は取らなくていいから…そのかわり…私と同じような…人を1人でもたくさん助けてあげて…
憎む…気持ちを…誰かを救う気持ちに…変え…て…それから…」

その続きは永遠に分からなかった、何故なら…
「何余計なこと言ってるんだ…こいつは!まるで俺様が悪者みたいじゃないか!!」
ようやく拡声器に感づいたランスが元子の心臓を一突きして止めをさしたからだった。
ランスは拡声器を慌てて拾い上げ、
「おい!お前らこいつの言う事を信じるな!俺様は人助けをしようとしたんだぞ!!
大人しく俺様に抱かれてさえいれ…」
そこから先は聞こえる事は無かった、電池切れである。
「くそっ!!」
ランスは役立たずの拡声器を投げ捨て、悪態をつく。
普段彼をサポートする仲間のいない事が、ランスの精神感覚を微妙に狂わせ始めていた。
事実、シィルやマリアらがいれば、ここまでの惨劇にはならなかっただろう。

お前のせいだ!と言いかけて自分のそばには誰もいないことを思いだし、ランスは威嚇するように
わざと足音を立てて下山していった。
102葉鍵信者:04/02/09 22:23 ID:h0vhvUsF
島全体への放送に関しては、全体イベントとして
共通意識を計る為、書き手達でどうするか決めようって事になってる。
よってNGかどうか危ういんだが?
と言うか拡声器で島全部に響き渡るほど、島は狭くはないと思うが……。
103鬼畜王の誤算:04/02/09 22:24 ID:qqkMkX2s
そしてその頃山本悪司は、
「トコ…トコちゃん…何だよ…それからって何なんだよ!!何が言いたかったんだよ!!
 ちくしょう!ちくしょう!ちくしょうが!!」
拳から血を滲んでいるにもかかわらず傍らの大木に拳を打ちつけて、男泣きに泣いていた。
「ゆるせねぇ…トコちゃんが何を言おうが関係ねェ!あの野郎をバラバラにして
 それからこの下らないことを考えた奴らも、一人残らず皆殺しにしてやらぁ!!」
涙ながらに吠える悪司。
だが、それでも脳裏に妻の最後の、命をかけた遺言が甦ると、力無くうなだれることしかできない。
「俺にはこれしかできねぇんだよ…他に…他にどうしろってんだよ…」

そしてまた一方では…1人の少女が凄まじい形相で声が聞こえた方角を睨んでいた。
かなり問題のある男ではあったが、1本筋の通った男だと、非道ではあるが決して道理の通らぬ
真似をする男ではないと思っていた…だが。
「見損なったぞ…」
そう一言山本五十六は呟いたのみであった。

【加賀元子 :死亡】
【ランス@ランスシリーズ:鬼(但し下克上の野望あり) 状態○ 装備:リーザス聖剣】
(拡声器は電池切れのため放置)
【山本悪司/大悪司(アリスソフト)状態:○ 種別:招 装備:なし 行動方針:不明】
【山本五十六/鬼畜王ランス(アリスソフト)状態:○ 種別:狩 装備:弓矢(弓残量16本) 行動方針:島から脱出】
(大空寺あゆも同行しております)
104鬼畜王の誤算:04/02/10 01:13 ID:9tOAM1PC
拡声器によって声の届いた範囲は最大で3kmまでとします。

105鬼畜王の誤算:04/02/10 01:18 ID:9tOAM1PC
この惨劇をしっかりと島中に実況していたのであった。
              ↓
この惨劇をしっかりと周辺に実況していたのであった。

拡声器に乗せて島中に響かせた
          ↓
拡声器に乗せて周辺に響かせた
106ただ一人の戦い:04/02/10 05:58 ID:MqgUvL/T
「……こ、ここは?」
 佐倉霧がうっすらと瞳を空ける。
「そういえば私……、そうだ、美希、美希はっ! 痛っ……」
 意識が正常になるにつれて、先ほどの光景が霧の頭の中に思い浮かんだ。
 しかし身体を起こそうとした霧は、身体中から感じる小さな痛みによって、起こしかけた身体をまた横たえてしまう。
 その痛みを作った原因は、山辺美希。
 霧が守ろうとした、そして彼女にとって大切な友の裏切り。
(違う……)
 美希はあろうことか、自分の身を守る為に霧を崖の上から突き落とした。
 自らの手で。
(違う! 美希はそんな事をしない! する訳が無い!)
 霧の心の奥、本当の美希を知る部分が違うと叫んでいる。
 美希ならば。いつもの泣き虫の美希ではなく、時折表面に現れる『本当の』美希ならば。
 自分が助かる為に、霧を見捨てるかもしれない。
 美希を信じようとする心と、その鋭すぎる感覚ゆえに気付いた美希の本性を知る自分の心。
 もしこの場に誰もいなければ、彼女はひたすらその事だけを考え続け、そのまま朽ちていったかもしれない。
 しかし。
「お? 気がついたか?」
 傍から聞こえてきた男の声に驚き、霧は慌ててその声がした方へ顔を向ける。
「ふぅ、どうやら大丈夫だったみたいね。ぐったりとしていて、一時はどうなる事かと思ったけど」
 霧の視線に飛び込んできた一組の男女の姿。
 吾妻玲二と原田沙乃。
「ああ、まだ動いちゃ駄目。あなたさっきまでそこの川に浮かんでいたんだから、本調子になるまでじっとしていないと。それに……」
 沙乃はチラリと玲二の方を見て呟く。
「今のあなたの姿を全部、あの人に見られたくは無いでしょ?」
「え……!?」
 霧はようやく自分の現状に気付く。
 濡れた服を脱がされ、代わりに玲二の着ていた物であろう上着が霧の身体を覆うようにかけられていたという事に。
107ただ一人の戦い:04/02/10 05:59 ID:MqgUvL/T
 霧はその服で身体を隠すように両腕で自分の身体を抱きしめる。
「玲二。とりあえずあなたはあっちの方を向いていて。こんなんじゃ話も出来ないから」
「あ、ああ……」
 玲二は頬をポリポリと掻いてから、身体ごと霧とは反対方向へと向ける。
「さて……。まずは自己紹介からしよう。沙乃の名前は原田沙乃。あの人は吾妻玲二。で、あなたは?」
「……佐倉霧」
 怯えと警戒が混じった表情のまま、霧はポツリと呟いた。
「じゃあ霧。あなたはどうしてこんな川で溺れていたりしていたの?」
 その言葉を聞いた霧の手に力がこもる。
「……言いたくないか。一つ聞いておきたいんだけど、霧、もしかして沙乃に似た服装の人達に襲われたりしていない?」
 霧は無言でフルフルと首を振る。
「そっか」
 どこかほっとした表情をしながら、沙乃がふぅとため息をつく。
「それで、これからの事をどうするかなんだけど……。玲二、この娘どうしようか?」
 背を向けたままの玲二に向かって沙乃が問い掛けると、玲二は振り向かずに返事だけを返してきた。
「俺は連れて行きたい。その娘は見た所、戦闘経験は無さそうだし、あいつら……いや、誰か襲ってきたらまずいだろうから」
 あいつら、という言葉で一旦途切れたのは、沙乃を想っての事だった。
 新撰組の面々に襲われたわけではなくとも、次もそうとは限らない。
 しかし沙乃の仲間が、目の前、いや後ろにいる少女を殺すという事で、沙乃にこれ以上重荷を背負わせたくは無かった。
 それが例え、気休めであったとしても。
 しかし、沙乃は悲しそうな笑みを浮かべながら首を振る。
「沙乃は反対だな……。新撰組は彼女のような人間を悪の手から守る為に結成されたもの。だけど、もし一緒に連れていけば、絶対に無駄な戦いに巻き込まれてしまうから」
「俺達が守ればいい!」
「……守れなかったら? 無駄な戦いに巻き込まれて、結果、守りきれずに死んでしまった、なんて事になったらどうするの?」
 沙乃の指摘に対し、反論できなかった玲二がうっ、と言葉に詰まる。
108ただ一人の戦い:04/02/10 06:00 ID:MqgUvL/T
 苦渋に満ちた表情を浮かべる玲二を労わるように、優しく微笑みながら、沙乃が言葉を続ける。
「まずは霧の意見を聞こう? それからどうするか考えよう」
 沙乃はそういって霧の顔をじっと見つめた。
 今まで無言に徹していた霧は、沙乃の視線を真っ向から受け止めながら、一言だけ言葉を口にした。
「……まず、着替えさせてください」
 
「残念ですが、その提案はお断りします」
 着替えおわった霧が、玲二に向かって初めて告げた言葉。
「大丈夫だ! 絶対に俺が守る、それは約束する!」
 霧は玲二の言葉に首を振る事で否定する。
「信じられません」
「でも、また襲われるかもしれないよ? あなたの友達を誘拐した男が、また襲ってこないとは限らないし……」
 着替えている途中、沙乃は霧の身に起こった出来事を聞きだしていた。
 元々は中央にいた沙乃だから、何故彼女達が襲われたのかも理解できる。
 魔力保持者。
 彼女の友人、美希はおそらく力の持ち主だったのだろう。
「大丈夫です。突然襲われた時は混乱してましたが、私にはコレがあります。次襲われたら、その時は……、射殺します」
 霧はどこからか、ニュ、とボウガンを取り出し、目の前の二人に見せると、すぐにどこかへしまいこむ。
(ふ、服を脱がした時は、こんなものなかったのに、どうして!)
 沙乃は心の中で驚きの声を上げる。
 その動揺を隠し切れぬままに、しかし出来る限り平常心を保ちながら沙乃が霧を説得しようと口を開く。
「だ、だからって、悪いけど霧みたいな娘に、戦いなんて……」
「私は貴方達を信用できないと言っているんです!」
 沙乃の言葉を遮るように、霧が叫ぶ。
 驚きの表情を浮かべる二人を見据えるように、痛む身体をおしながら霧は立ち上がる。
 二人を見下ろすような状態のまま、霧は言葉を続ける。
「私は人殺しの言う事なんて、絶対に信じる事ができません! 守ってやる? 一緒に行く?
 貴方達が、私を襲った奴の仲間ではないなんていう証明はありません! 人を殺しておきながら、誰かを守るなんてのうのうと口にする……。そんな人間の言う事を、誰が信用できるっていうんですか!」
109ただ一人の戦い:04/02/10 06:01 ID:MqgUvL/T
 人を殺した者特有の気配。
 殺した事が無い人間にはどうしても手に入れられないその気配を、沙乃も玲二もその身体に抱いていた。
 二人はできるだけ普通に、それを隠すようにしていたが、人の心、感情を読む事に長けている霧にとって、『気配を隠す』という事に対し、二人が嘘ををついていると感じてしまった。
 人を殺すと宣言しておきながら、人を殺した者を前にして怯えてしまう。
 佐倉霧とは、そういう人間だった。
「助けてもらった事には感謝します。だけど、それで終わりです。私にはやる事があって、貴方達にも何か目的がある。だったらこれでお別れです」
「待てよ!」
 そう言ってから、その場から走り出そうとする霧の手を、玲二が慌ててつかみ取る。
「!? は、放してください! 放してっ!」
 しかし霧はその手を強引に振りほどく。
 佐倉霧という少女にとって、今の玲二の行動は、もっともしてはならない事のひとつだった。
 男性恐怖症。
 男という存在、それ自体を信用できない霧にとって、男が自分の手を掴むという事は攻撃行為に等しかった。
 霧は、拒絶ともいっていいほどの勢いで手を振り解かれて呆然としている玲二を尻目に、その場から走り去っていった。

【佐倉霧 CROSS†CHANNEL FlyingShine 状 ×→△(凍死の可能性は無くなり、傷は身体全体の細かな打撲のみ) ボウガン 矢の数は二本(撃ったら拾うので矢自体はなくならない、二発目を撃つ時には装填準備が必要) 狩】
【吾妻玲二 ファントム・オブ・インフェルノ ニトロプラス 状 ○ S&W(残弾数不明) 狩 】
【原田沙乃 行殺!新撰組 ライアーソフト状 ○ 十文字槍 鬼(現在は狩) 】
110いんたぁみっしょん:04/02/10 22:13 ID:ta9xWg3g
 新撰組から逃げおおせた双厳、十兵衛、命の三人組は、
敵に見つかりにくい洞穴を見つけ、そこで一休憩を取っていた。
 
 ドンッ!!
 「あいつら何だってんだ!?」
 双厳が苛立ちながら洞穴の壁を叩く。
 「落ち着け……。 取りあえず、今俺たちが置かれている状況から整理していこうじゃないか」
 興奮する双厳を十兵衛なだめる。
 「ちっ!!」
 まだ納得のいかない様子で双厳はしぶしぶと腰をおろした。

 「結論から先に言うとだ。 ここは俺たちがいた島ではないのに間違いない」
 十兵衛が口切った。
 「確かに、俺たちがいたあの島とは全く形が、あの独特の雰囲気すら違うが……」
 「勿論それもあるが、俺と命の二人は、この状況の元凶らしいヤツラから少し話を聞いたのもある」
 「どう言うことだ?」
 双厳が十兵衛へと詰め寄る。
 

 無影と戦っていた十兵衛と穴の前に残された命は、
穴に生気が吸い寄せられ、その勢いが最大となった時に溢れた光に飲み込まれた。
 そうして彼ら二人もまた、気づいた時にはこの島へと辿り付いていたのだ。

 「十兵衛様……。 ここは? それに無影は?」
 あの異様な雰囲気の島とは違う木々の生い茂る中に放置された二人。
 「解らん……。 だが、落ち着ける場所ではなさそうだな」
 十兵衛が見つめる先には、セーラー服姿の少女が一人、此方へ向かって歩いてくる。
 彼らにとって、彼女の服装が異質なものなのは当然として、
彼女自身からも異様な気が溢れているのが、十兵衛には感じ取れた。
111いんたぁみっしょん:04/02/10 22:16 ID:ta9xWg3g

 「あら、こんな所にも美味しそうな獲物が……」
 「貴様、何者だ?」
 ゆっくりと近づきながら来る女に、十兵衛がきつい眼光と共に問い掛ける。
 「あなたにようはなくってよ? 私が欲しいのはそこのお嬢さんだけ……」
 「え、え、え」
 女の言葉に困惑する命。
 「うふふ、生娘ではないけど、好みのタイプだわ……」
 「……異形のモノだな?」
 十兵衛が鞘に手をかけながら、言い放った。
 「あら、感がよろしいのね。 でもあなたのような下郎には興味がなくってよ?」
 「その手の類の相手に慣れてるもんでね……」
 「十兵衛様……」
 「命、構えろ!!」
 十兵衛の声と共に少女が一気に彼の目の前に詰め寄る。
 「!?」
 カキーンとした刃物のぶつかる音が鳴り響く。
 「ふふ……。 腕のいい退魔師さんね」
 初音の腕から繰り出された爪を十兵衛の刀が受け止めた。
 「助太刀します!!」
 命の大筒から少女へと向かって銃弾が発射される。
 ダッ!!
 それと共に少女は後方へと飛びのき、十兵衛もまた後ろへ下がり、構えなおす。
 「面白いものを持っているのね……。 始めてみるタイプの銃だわ」
 「俺にようがなくて、連れの方にあるってのはどう言うことだ?」
 十兵衛は刀を構えながら、再び少女へと質問をかける。
112いんたぁみっしょん:04/02/10 22:17 ID:ta9xWg3g
 「そうね……。 簡単に言えば、この島へと召還をしたのだけれども予定外のモノまで召還されたのよ。
  それで私たちが、その予定外のモノを始末してるの。
  私の場合は、気にいったのを贄にしたいのもあるわ」
 「つまる所は、俺たちは、予定外のモノだったというわけか……」
 「感がいい人は好きよ。 でもごめんなさい。 あなたは私のタイプじゃないの……。
  さぁ、せめてもがいて私を楽しませて頂戴……」
 言い終わると再び初音が十兵衛へと襲い掛かる。


 「っと、後は、先ほどと同じように、命の煙幕弾でそのまま逃げてきたってわけだ」
 「それで、その後、あの四人と戦う俺と無影を見つけて……」
 「そう言うことだ。 お前の方はどうだったんだ?」
 「こっちは、何もなしだな。 ただいきなり襲ってきやがった」
 「ふむ……。 やはり、そいつら四人も予定外のものを排除する為の一員と見るべきか……」
 「無影が襲われてるのは、いい気味だったんだがな……」
 「もう少しで倒せると言う所で召還されたからな……。 俺だって口惜しい」
 
 「お生憎様だったな……」

 洞穴の入り口の方から、彼らにとって忌むべき声が聞こえてきた。

 「無影!!」
113いんたぁみっしょん:04/02/10 22:18 ID:ta9xWg3g
 三人の目の前に、無影の姿が映し出される。
 「貴様、よくもぬけぬけと!?」
 双厳が刀に手をかけ、続いて十兵衛と命も構えを取る
 「クックックック……。 おおっと、やりあいに来たわけじゃねえぜ?」
 慎重に距離を取りながら、無影が話を切り出す。
 「何のようだ?」
 十兵衛が怒声混じりに語りかける。
 「先ほどの話、悪いが聞かせてもらったぜ。
  どうやら、置かれた境遇は一緒みたいじゃねえか……」
 「それがどうした?」
 「十兵衛、先ほど煙幕で逃げ出してきたって言ったよな?」
 「そうだが……」
 「お前さんとその物騒なもん持ったお嬢ちゃんの二人がかりで逃げ出したんだろ?
  その女の強さはどんくらいだったんだ?」
 ニヤニヤとしながら無影が話す。
 「痛い所をついてきやがるな……。 数度切りあっただけだが……
 はっきり断言できる、勝てないとわかったからだよ」
 十兵衛の悔しさが声に現れる。
 「やっぱりな」
 「此方が全力なのに対して、向こうはまるで鼠をいたぶる猫のような余裕を見せてた……」
 「お前にそこまで言わせる程の相手だったのか……?」
 双厳が驚く。
 「鼠と猫ってのは、言い過ぎたかもしれないが、それでも相手はまだ全力を出してるようじゃなかった」
 「結構結構……」
 無影が十兵衛を挑発するかのように声を上げる。
114いんたぁみっしょん:04/02/10 22:19 ID:ta9xWg3g
 「それで、お前は、何をしにきたんだ? 決着をつけに来たわけでもなさそうだが……」
 「お互い、見知らぬ土地で、仲間もいない。
  どうだ? この島から脱出するまでの間、協力しあうと言うのは……」
 「貴様がそれを言えた口か!!」
 双厳が怒り飛び掛ろうとする。
 「待てッ!!」
 それに十兵衛が静止をかける。
 「落ち着け、双厳。 やつの言う事にも一理ある。
  あの四人組と俺と命が出会った少女……。
  次にいっぺんに来られた場合は、俺たち三人でもどうなるかわからん……。
  無論、それはやつにも言えることだが……」
 「御名答、幾ら俺でも一人でそいつらを相手にするのは無理なんでね。
  それに他に襲ってくるヤツラもいると見た方がいいだろうしな」
 「こいつが裏切らないと言う保証があるのか?」
 まだ怒りの収まらぬ双厳が三人に向かって言う。
 「……証を見せろってことか。 いいだろう」
 そう言うと無影は、自分の手に刀を添えると、軽く切って見せた。
 「なっ!?」
 一同は、驚いた。
 血こそ出てないものの無影の体が確かに切れたのだ。
 直ぐに修復されたものの、無影は幽体で物理攻撃が無効なはずである。
 「どういうことだ?」
 「この島に来てから、どうやら半分具現化されてるってわけよ。
  こうなっちゃばらばらにされれば、さしもの俺でも死ぬかもな……」
 「それが誠意ってやつか……」
115いんたぁみっしょん:04/02/10 22:20 ID:ta9xWg3g
 「それに俺としてもお前に死なれるのは困るんだよ。
  無事に一緒に元の世界に戻ってもらわねえとな」
 言いながら無影は、双厳を指差した。
 「つい先日、二重影を殺しちまったばっかだからな……」
 「そう言うことだ……」
 「いいだろう……。 だが、無影……」
 そう言う双厳に十兵衛が続ける
 「……解ってると思うが、無事に戻れた時は……」
 「ああ、解ってるよ」
 「「「真っ先にお前との決着をつけてやる」」」


【双厳@二重影(ケロQ) 狩 状態○ 所持品 日本刀(九字兼定)】
【柳生十兵衛@二重影(ケロQ) 狩 状態○ 所持品 日本刀(三池典太光世)】
【命@二重影(ケロQ) 狩 状態○ 所持品 大筒 煙弾(2発) 通常弾(10発) 炸裂弾(3発)】
【無影@二重影(ケロQ) 狩 状態○ 所持品 日本刀(籠釣瓶妙法村正)備考:物理攻撃半減】
116陵辱者の礼儀作法:04/02/11 06:12 ID:9csjafyg
(意識を失ったら終わりだな……)
 船止めの柱に鎖によって逆さに括り付けられ、身に打ち込まれた船釘から血を流しながら、直人は思った。
 潮が満ちるのを待つまでも無い。ここで気を失えば俺は死ぬ。
逆に言えば、この痛みに耐えることが出来たのならば、チャンスはあるはずだ。
 なんの根拠の無い考えだ。だが、それでも直人は歯を食いしばり意識を保ち続けた。

 死ぬのは怖くない。それなりに満足できる人生だった。
 だが、あの女。つい先ほど己に船釘を打ち込んでくれたあの女だけは犯さねばならぬ。
だから直人は耐える。歯を食いしばり、頭の中で何度もあの女を犯しながら。

 その努力に、どこかで何かが――――間違っても神様ではないだろう――――微笑んだらしい。
 霞んでゆく視界の中で、波止場に立つ一人の少女の姿が見えた。
 直人は最後の力を振り絞り、叫んだ。


 玲二達のところから逃げ去って、あてもなく走っていたら海についた。
「はぁ――――は――――」
 ガクガク震える足で、霧はなんとか呼吸を落ち着かせようと努力する。
 こんなふうに走るべきでないというのは分かっていた。
とにもかくにもどこかで休んで体力を回復させるべきだ。自分はまだ本調子ではないのだがら。

 だが、霧は逃げ出したかった。玲二達からだけじゃない。何もかもからだ。
だから霧は止まらず走り続け、そしてこんなところまで来てしまったわけだ。
117陵辱者の礼儀作法:04/02/11 06:13 ID:9csjafyg
「――――!?」
 なんとか呼吸を抑えることに成功した霧の耳に、男の声が届いた。助けてくれ、と叫んでいる。
 いぶかりながら、ボウガンを構え、霧は声のするほうに移動する。
「な――――!?」
 目にしたものに、霧は息を呑んだ。
 釘を打ち付けられ、目をえぐられ、逆さに貼りつけにされた男がそこにいた。
「やあ……お嬢さん、助けてくれないかな?」
 それほどの傷を負っているのにも関わらず、男は残された片目に意志の光を見せ、霧に弱弱しい声で助けを請う。

 だが、霧は男にボウガンを向けた。静かに言う。
「ニュースでみたわ、その顔」
 それを聞いて男はハッと鼻で笑った。逆さにはりつけられたまま器用に肩をすくめる。
「なんだよ、お前も知ってるのか? やれやれ、ここまで顔が売れてるとはね……光栄といえば光栄だな」
「何が光栄よ……! バスジャックして女の子たちを何人も……その……」
「ああ、犯した。陵辱した。ぶっ壊してやった。楽しかったぜ?」
 言いよどむ霧に、男はニヤリと笑って霧の先を続けた。
「ああ……本当にあれは楽しかった。やりがいのある事だった。命を賭けてもいいと思えるぐらいにな」
 その誇りに満ちた男の言葉に、霧は激昂した。ボウガンを男に突きつける。
「なにがやりがいのある仕事よ!! あんな人の道に外れた行いなんて!」
「オイオイ、それじゃ目の前で死に掛けてる人間に武器を向けるのは、
人の道に外れてないっていうのかい?」
 男の皮肉に霧が言葉を返す前に、

「全くだ、ひどいお嬢ちゃんだぜ」
「え――――?」
 後ろから腕が伸びてきて、霧を羽交い絞めにした。
118陵辱者の礼儀作法:04/02/11 06:14 ID:9csjafyg
「な……なによあんた……!」
 霧は、首をめぐらし、己を羽交い絞めにしているのはアフロヘアの男をにらみつける。
 痩せこけた身体をしているのに、いくら身をよじっても自由になることができない。
この男は片手しか使ってないのに……

 アフロヘアの男はその蛇のような目を霧にチラリと向けると、ニヤリと笑って貼りつけにされた男に声をかけた。
「よぉ兄ちゃん! 随分な有様じゃねーか。名前はなんていうんだ?」
「直人だ」
「OK、そんじゃあ直人。テメェずいぶん愉快なことやらかしたみたいじゃねーか? 何人犯ったよ?」
「10人だ」
「ま、それなりの人数だな。犯して楽しかったかい?」
「当然だろ? 楽しまなきゃ犯した相手に失礼というもんだ」
 直人の返答に、アフロヘアの男は狂ったように笑い出した。
「そうそう、そうだよな!! 犯るのと殺るのは人に対する最高の干渉だァ!!
誇りを持って楽しむのが礼儀だよな!! どうもそこら辺をわかってねぇ奴が多くて困る!」
 男はニヤリと笑うと、
「気に入ったぜ、テメェ。俺はゲンハってんだ、よろしくな」
 そう言うって、片手で霧を羽交い絞めにしたままもう一方の手で器用にも、直人に括り付けられた鎖を外す。

「な……お前!」
 重力の法則に従い、直人は当然水中へ。
 水の音と直人の抗議を意に介せず、ゲンハは霧を押さえつけたまま、
「ひ――――!?」
 その首筋に長い舌を這わせた。
119陵辱者の礼儀作法:04/02/11 06:15 ID:9csjafyg
「かわいい声あげるなぁ?」
「放して――――放しなさい」
 今にも吐きそうになる嫌悪感に耐えながら、霧はゲンハをにらみつけた。
「いい目だな。そそるぜ?」
 押し倒される。
「処女、自慰の経験も殆どなしってところか?」
 胸元に顔をうずめられ、匂いをかがれる。
「女と男がいて、男の股座がいきり立ってやがる。当然、どうなるかは分かるよな?」
 胸元に顔をうずめられ、匂いをかがれて。
「ツッ……!」
 こんな男の慰み者になるぐらいならと、迷わず舌をかもうとする霧。
 その思い切った行動はゲンハにとっても意外で、だからこの自殺は成功するはずだったのに。

「気をつけろよ、ゲンハ。舌を噛ませないようにするのは基本中の基本だぜ?」
 いつの間にか、海の中から這い上がってきた直人が霧の口に布キレを突っ込み、
「猿轡はすきじゃねーんだよ。悲鳴がきけねぇからな」
「死なれちゃつまらんだろ? というか俺は今溺れ死ぬところだったんだがな?」
「ハッ! 股座いきり立たせる余裕があるくせに何ほざいてやがる!」
「禁欲生活が長かったんでね……そんなわけで、ゲンハ。早いとこ頼むぜ」
「ヘイヘイと!」
 そんな勝手な会話が交わされて、霧の心が絶望に犯されて。

(こんなことなら玲二さん達といっしょにいれば――――)
 そんな、絶対に考えないようにしていたことが頭に浮かんだ瞬間に。

「何をしてる!!」
 少年の声がその場を切り裂いた。
120陵辱者の礼儀作法:04/02/11 06:20 ID:9csjafyg
 和樹は困惑していた。

 武器庫の一件を後任の人間に引き継いで、
ケルヴァンから命じられた玲二とエレンの任務を遂行すべく、単独行動に戻ってから数時間。
 任務に戻ったといっても、あてがあるわけではない。できるのはただ考えもなく移動するだけだ。
そうして、島の端の廃港まで来て一休憩いれようかと思案していた矢先であった。
 狂ったような男の声に誘われて目にした光景が二人の男が一人の少女を組み敷いているというものであった。

(保護対象者二人に、駆除対象者が一人、か)
 保護すべき対象が、駆除すべき対象を陵辱しようとしている。
 
―――――その現実が、混乱をよぶ。

 和樹は首を振ると、とにかく定められた任務を遂行しようと口を開いた。
「僕は管理側の人間だ。魔力を持つものを保護しろと命じられている」
 マニュアルどうりヴィルの計画を簡略に説明。
「僕達の計画に賛同するという条件で、あなた方二人を保護する用意があるが……」
 こみ上げてくる苦いものをあえて無視して吐き出される和樹の言葉を、
しかし陵辱者二人の呆れたようなため息がさえぎった。

「なあ、直人。どうしてこうも礼儀知らずな奴がこの世にいるんだろうなぁ?」
「全くだな、ゲンハ。無粋にも程がある」
「な……?」
 眉をひそめる和樹。確かに、自分の発言は場の空気を無視したものだったけど――――
121陵辱者の礼儀作法:04/02/11 06:20 ID:9csjafyg
「だからなぁ……」
 ゲンハは立ち上がり、血走った目で和樹をにらんだ。
「礼儀を知れつってんだ!! このガキが!! 犯してる最中に邪魔してんじゃねぇ!!
俺はなぁ! それだけはがまんならねぇんだ!! 分かってんのかゴルァ!!
男として当然の礼儀作法だろうが!! テメェはそれでも男か!! ち○ぽついてんのか!!
言いたいことがあるなら犯った後で聞いてやる!! それまでマスでもかいて黙って見てろ!!」
 一気にまくし立てると、再び少女の身体に覆いかぶさろうとする。

「――――!? やめろ!」
 シグ・ザウエルを引き抜く和樹。
「チッ……!」
 和樹の行動を視界の端で確認したゲンハは舌打ちしながら再度起き上がり、直人の手を引っ張って、
「な、なに?」
 驚く和樹の前で、海中に飛び込む。

 慌てて波止場の端に走る和樹。大分深く潜ったのか、にごった海水の中に彼らの姿を確認することが出来ない。

(なんて決断の早さだ……!)
 
 ゲンハの動作は獣じみていた。
 しかし、それでも身体能力では和樹の方が上回る。戦えば和樹が勝利していただろう。
 和樹がシグ・ザウエルを引き抜くその動作だけで、ゲンハはそのことを認識し一瞬のためらいも無く逃走に転じたのだ。
122陵辱者の礼儀作法:04/02/11 06:21 ID:9csjafyg
 どうする?
 ここは廃港だ。少し潜水すれば、船工場に廃船といくらでも隠れる場所が有るところまでたどり着ける。
 自分も海中に潜り追跡するか、それとも彼らが海から上がるだろう場所を予想して先回りすべきか。
 一瞬の逡巡。霧に背を向け、海をにらんで――――

「ツッ……!?」
 背後から迫る風きり音に、和樹は身をよじらせながらシグ・ザウエルを持った右手を後ろに振った。

キィン、という金属音とともに、飛来してきた矢を銃身が叩き落す。

「君が……!?」
 矢が放たれた先を見て、和樹は驚きの声を上げる。
 先ほどまで組み敷かれていた少女が、刺すような目でこちらをにらみながら、矢の放たれたボウガンを構えているのだから。

「……何よ、文句でもあるの?」
 和樹の声を、批難ととったのだろうか。霧は唇をかみながら答えた。
「あなたの仲間から聞いたわ。魔力のない人は殺すんでしょ?」
「……そうだね。確かにそういう命令を受けている。その情報を得ていたのなら、確かに君の行動は適切だ」

 和樹が、管理側の手先が注意を他に向けた一瞬。
それこそが霧にとって絶好の機会であり、確かに彼女は生き残るのにもっとも正しい選択をしたのだ。 

「何が適切よ……失敗したら意味ないじゃない」

 そして、彼女は失敗した。正しい選択をしたとしても失敗は失敗だった。
ボウガンの装填には時間がかかる。もはや彼女の手に武器はなく、生き残る選択肢も用意されていないのだ。

「どうしようもないじゃない……」
 だから霧は唇をかんでうつむき、敗北を、そして死を受け入れる。
123陵辱者の礼儀作法:04/02/11 06:23 ID:9csjafyg
「…………」
 和樹はシグ・ザウエルの銃口を霧に向けた。
 最適切な行動は明白だ。彼女を射殺し、一刻も早くゲンハ達の追跡を行う。
今ならまだ遠くには逃げていないはずなのだから。

 なのに一部のクラスタが悲鳴を上げている。
 兄を失って悲しむ少女を思い出してしまう。
 人が死ねば誰かが悲しむのだと、そう考えてしまう――――

「はやくしてよ……なにやってるのよ」
「…………クッ」
 霧の苛立つ声に、和樹は歯噛みして、トリガーにかけた指に力を込めようとして。

『あの、和樹さん……おはようございます! うーん……ほんとにこれでつながるんしょうか……?』
「―――――――!?」
 和樹の目が驚きに見開かれる。

 エテコウに和樹の名を呼ばれたら、通信をつなぐ。
 和樹自信が定めたその設定にしたがって、エテコウを介した末莉の声が聞こえてきたのだから。


【直人@悪夢(スタジオメビウス) :招 状態△(傷は多いが命に別状なし) 所持品なし 基本行動方針:(特に良門を)犯れ、殺れ、壊っちまえ!!】
【ゲンハ@BALDR FORCE(戯画) :招 状態良 所持品不明 基本行動方針:破壊――――――(デストロ――――――イ)!!!】
【佐倉霧@CROSS†CHANEL(フライングシャイン) :狩 所持品: ボウガン 矢の数は二本(撃ったら拾うので矢自体はなくならない、二発目を撃つ時には装填準備が必要) 基本行動方針:ギザギザハートの子守唄】
【友永和樹@”Hello,World”(ニトロプラス) :鬼 所持品:シグ・ザウエル サバイバルナイフ 基本行動方針:魔力持ちの保護、魔力なしの駆除】
【河原末莉@家族計画(D.O) :招 所持品:エテコウ】  
【廃港内の船工場跡脇】
124誤算と打算:04/02/12 17:39 ID:9+EK0rfa
島中央やや北部、山頂付近。
「……………待たせたな」
山本悪司は眼前の「それ」に柔らかく語りかけた。
「………」
返事は無い、返る筈も無い。
加賀元子―――間も無く山本元子となる予定であった―――その死体は
既に硬直が始まっていた。
喉の裂傷から流れ出てた血も大半が固まり、彼女の周囲に赤い水溜りを作っている。
傍らにしゃがみこみ、大きな手を彼女の額に当てる。
「冷たくなっちまったなぁ、トコ……暖めてやろうか?」
「………」
「そっか」
顔を撫でるように降ろし、見開かれていた元子の目を閉じさせる。
「ちょっとばかしここは冷えるけどよお……少し待ってな、トコ。
 お前を殺した連中の死体ででっかい墓を作ってやるからよ……」
固くなっている腕をどうにか動かし、胸の前で組み合わせる。
「よし、と」
元子の姿勢が整った事を確認すると、悪司は両手を合わせた。
そのまましばらく黙祷を続ける。
「………」
と、突然その体が横に飛んだ。
次の瞬間、悪司のいた位置に一振りのロッドが振り下ろされる。
同時に地面に産まれる裂け目。
「!?」
ロッドの主である少女―――魔法少女アイは驚きつつも後ろに跳び退った。
125誤算と打算:04/02/12 17:39 ID:9+EK0rfa
「やっぱりな」
悪司は肩を鳴らしつつアイに言った。口元には不敵な笑みが浮かんでいるが、
その瞳には恐ろしい程冷たい光が見える。
「子供の頃よくやったもんだぜ……干乾びた蛙なんかを地面に置いといてよ、
 それに注意を引かれてる内に、そいつの後ろから蛇を投げたりとか」
「………」
「さっきの声の男はどこだ?」
「言うと思うの?」
悪司の問いに答えつつロッドを構えなおすアイ。
「言わなきゃ殺すぜ?」
ズボンのポケットに両手を入れつつあっさり答える悪司。
「言ったら?」
「楽に殺してやる」
「……なかなか面白い条件ね」
「悪くねえだろ?」
「悪いわね……残念だけど、貴方の命とでしか交換できないわ」
「交渉決裂……ってか?」
「交渉決裂ね」
「そうかい」
「そうよ」
言葉を交わしながらも、両者の距離はじりじりと縮まっていた。
既に一挙手一投足の間合い。
アイは、自分の心の中に焦りが生まれるのを感じていた。
最初の一撃を、背後からにも関わらず回避された事。
相手が「ゆらぎ」ではない人間である事。
そして、相手がポケットに手を入れたままのまるで無防備で立っている事。
それらがじわじわとアイの心に侵食してゆく。
「……ッ!」
126誤算と打算:04/02/12 17:40 ID:9+EK0rfa
アイが先に動いた。ロッドの先端に光が宿り、悪司の頚椎に向けて打ち込まれる。
「おらぁ!」
悪司の叫び。
「な!?」
直後、アイは腕に激しい衝撃を受けた。
吹き飛びこそしなかったものの数歩たたらを踏む。
一方、悪司は先程と変わらない姿勢でアイに向かい立っている。
「終わりか?」
「そんな……!?」
悪司が取ったのは恐ろしく単純な方法であった。
蹴り、である。
恐ろしく柔軟な、速く、重い蹴りを、ロッドに勢いがつく直前のポイントで
蹴り込んだのだ。
確かに、理屈の上でなら不可能な話では無い。
それが限りなく「非常識」であったとしても。
「くっ!」
アイは後ろに飛び、悪司との距離を開けた。
ロッドの持ち方を変え、先端が悪司に向かうようにする。
それを追い、前方に跳躍する悪司。
短い呪文の詠唱。
「ハッ!」
アイの叫びと共にロッドの先端の空気が歪む。
次の瞬間、悪司は見えない何かに吹き飛ばされるようにして倒れた。

静寂。

「………切るだけしかできない、そう思ったのが貴方の敗因よ」
心の揺らぎを収めつつ、アイは言った。
127誤算と打算:04/02/12 17:41 ID:9+EK0rfa
「……そうかい」
倒れた場所からの声。
「馬……」
『鹿な』まで言わず、アイは更に距離を取った。
「いい勉強になったぜ……ほっ!」
両足を振り上げ、その勢いで立ち上がる悪司。
「……ったく、いー男が台無しじゃねえか」
見れば悪司の額はぱっくりと割れ、血が流れ出していた。
だが、それだけだ。
本来あるべき効果―――相手をミンチに変える事に比べれば無に等しい。
「(魔法の出力が弱かったとでも言うの……!?)」
動揺を隠せないアイに悪司が言う。
「そう不安になる事もねえさ。アンタの今の一撃は結構効いたぜ?
 ……まあ、大杉の拳には負けるけどよ」
自分の武道の師であり、世話係でもあった男の名を上げる。
「ま、とりあえず……」
額の血が鼻筋を流れ、口元に至る。
それを悪司は一舐めすると、アイに向けて笑いを浮かべた。
「……足だけで十分だな」
「ッ!」
とっさにアイは悪司に背を向けた。姿勢を低くし、草叢の中へ身を滑り込ませる。
「逃がさねえ……!」
悪司は、搾り出すようにそう言うと身を躍らせた。
128誤算と打算:04/02/12 17:43 ID:9+EK0rfa

「ハァ、ハァ……」
アイは懸命に走りつつ、敵の力量を計り兼ねた己の不覚を悔いていた。
しかしながら、これをアイのミスとするのは酷と言うものだろう。
彼女のいた世界にも確かに(彼女自身を含め)超人的な能力を持つ者も少数ながら存在していたし、
異形の怪物達もいた。
だが悪司の世界もまた爆撃機を竹ヤリで撃墜し、機関銃の嵐にすら耐える肉体の持ち主が数多存在し、
戦車を拳で打ち砕く者達のいる世界である。
アイが悪司を甘く見てしまったのは、至極当然の判断と言えた。
「(撒けたかしら……?)」
一瞬だけ止まり、耳をすまし、周囲に目を向ける。
姿は―――無い。
音も―――無い。
気配は―――
「(くっ!)」
再度走り出す。
幸いにして、速度はアイが僅かながら勝っていたようだ。
だが、相手は休み無しにこちらの気配を感じ、追って来ていた。
129誤算と打算:04/02/12 17:43 ID:9+EK0rfa
止まれば、間違い無く追いつかれる。
まだ駄目だ、せめて、正面からの勝負は避けなければならない。
ではどうする?
その先は、まだアイの中に出てきてはいなかった。
「あっ!?」
アイのつま先が木の根に当たった。
ロッドで姿勢を直そうとするも間に合わず、無様に転倒する。
「(何をやって……!)」
と、アイの眼前の茂みが揺れた。
「(!?)」
心臓に直接氷を押し当てられたかのような戦慄。
だが、そこから現れたのは悪司ではなかった。
「……何やってるさ、アンタ」
金髪の少女と、和服の女性。
アイは瞬間で頭を切り替え、怯えた表情も露に二人に言った。
「お願い……お願いします!追われているんです、助けてッ!」

【アイ @魔法少女アイ(colors) 装備・ロッド 状態・○(演技中)  鬼】
【山本悪司 @大悪司(アリスソフト) 装備・無し 状態・△(額に傷 招】
【大空寺あゆ @君が望む永遠(age) 装備・スチール製盆 状態・○ 招】
【山本五十六 @鬼畜王ランス(アリスソフト) 装備・弓矢(残数16本) 状態・○ 招】
130亡霊たちの祈り:04/02/12 23:37 ID:OR8vCSgH
エレンと小次郎は地図を見ながら今後のプランを考えていた。
地図の情報通りならば、島の外周はほとんどが断崖絶壁で占められているようだった。
これでは脱出目的で海岸に辿り着く事は容易ではない。
一応島の南端部に漁港が、東にまとまった広さの砂浜があるが…自分たちの現在位置からはかなり遠い。

「この分だとたとえ船か何かで逃れる事が出来たとしても、海上も完全に封鎖されているはずだ」
「それ以前にここがどこなのかまるで分からないわ、そんな状況で海原に漕ぎ出すのは自殺行為よ」
「なるほどな」
小次郎はまた地図を片手に考え込んでいる、そんな中で。

(玲二・・・)
エレンは最愛の恋人のことをふと頭に浮かべていた。
自分が光に包まれたとき玲二も傍にいた、ということは彼もこの島にいるということだ。
日本を脱出して以来、玲二はことさら明るく振舞い、血塗られた過去を必死で忘れようとし、
そして自分には忘れさせようとしている。

それがエレンには不安でたまらない、ドライとの一件以来、他人の生命に敏感になりすぎている気がするのだ、
敵に容赦することはさすがにありえないとしても・・・情にほだされ要らぬ厄介を抱え込んでいる可能性はある。
が、それでもいいとエレンは思う、自分の命惜しさに救える命を見捨てる、そんな玲二は見たくなかった。

だがそれでも。
「どうして…」
エレンの口から溜息混じりの呟きが漏れる。
なぜこんな時に自分が傍についていることができないのだ。
自分は玲二からそれこそ多くのものを貰った、順番から行けば今度は自分が彼を救う番なのに。
それに…。
131亡霊たちの祈り:04/02/12 23:38 ID:OR8vCSgH
(玲二には私が必要なの・・・そして私にも玲二が必要…たとえ違ってもそう思わないと私には何も無くなってしまう)
もし、玲二が死んだときは…。
エレンは自分の頭の中に芽生えた恐ろしい考えをあわてて打ち消す、玲二がいない世界など
想像することすら禁忌だ。
(神様…私はどうなっても構いません、ですが玲二の命だけはお救いください)

「中心部を大きく迂回していけば北の方にまとまった規模の街があるようだ、とりあえずそこに〜」
エレンは小次郎の言葉も上の空で、空に向かい祈りの十字を切るのであった。

そして奇しくも、エレンらのいる場所からほぼ正反対の地点において、
(もしこの腐れた世界にも神がいるのなら聞いてくれ、俺はどうなってもいい、
だがエレンは、エレンだけは救ってくれ…俺がエレンの罪を全て背負うから…)
吾妻玲二もまた恋人の無事を祈っていたのであった。
「もう誰も失いたくないんだ…キャルの時のように」
132亡霊たちの祈り:04/02/12 23:46 ID:OR8vCSgH
そしてその頃、武器庫ではドライが一人、オルゴールを弄んでいた。
歳江と和樹はすでに再出撃している、自分もそろそろここを出なければならない。

(玲二…)
オルゴールの甘い旋律と共に甦るのは、玲二と過ごしたLAでの日々。
ほんの僅かな時間だったが、あんな幸せな時間は無かった。

ドライは何気なく胸元の傷を指でなぞる、自分が死んだということは覚えている、
だがその前後の記憶がすっぽりと抜け落ちている、これだけはいくら考えても思い出せなかった。
(何か大事なことがあったような気がするんだよなァ)

「ま、いいか…こうしてまた生き返れたんだしよ」
あの頃に戻る事はもう叶わない夢だと思っていた…だが…今自分はこうして生きている。
2度目の人生、今度こそ最後の機会だ…。

ドライはオルゴールを仕舞うと、ゆっくりと愛用の銃の手入れを始める。
(アイン!今度こそ決着をつけようじゃないか、誰が玲二の隣に一番ふさわしいかをよ!)
もはやその表情には感傷は無かった。

【エレン@ファントム オブ インフェルノ(ニトロプラス) 状 ○ 所持品 ベレッタM92Fx2 ナイフ  招】
【天城小次郎@EVE〜burst error(シーズウェア)  状態△ 所持品 食料 水 医薬品 地図  狩】

【吾妻玲二 @ファントム・オブ・インフェルノ( ニトロプラス) 状 ○  所持品 S&W(残弾数不明) 狩 】
【原田沙乃 @行殺!新撰組 (ライアーソフト) 状 ○ 所持品  十文字槍 鬼(現在は狩) 】

【ドライ @ファントム・オブ・インフェルノ (ニトロプラス) 状 ○    所持品 ハードボーラx2 鬼、】
133理想とはかくも高きものなり:04/02/13 00:40 ID:btLolixr
 要塞内、総帥の間前。
 「総帥様、準備が完了いたしました」
 配下のものがヴィルヘルムへと準備が完了した事を告げる。
 「うむ、ご苦労であった。 下がってよい」
 「はっ!!」
 配下の者は、扉の向こうのヴィルヘルムに一礼を帰すとそのまま廊下を歩いていった。
 「さて、では、一仕事するか」
 放送機材を目の前に引き寄せ、彼はスイッチを入れた。

 一方、ケルヴァンは、またもや少々不思議がっていた。
 総帥の間でも放送はできる。
 だが、それは島中ではなく要塞内部と局所的な不完全なものである。
 今回、彼は、部屋の放送器具と結界を守護する魔力装置等の
 外部の機材と繋ぎ、島全体への放送を行なう事にした。
 わざわざ面倒くさい魔力を使い、中央にいない人が聞こえるようにするためである。
 が、ここに一つの疑問が残る。
 魔力放送ではないとはいえ、放送室であれば、魔道機材を通して、各所各所で声音放送をすれば、
島全体へと放送は、十分に可能だ。
 また彼の実力なら単独で超規模な魔法を使うことにより通達させる事は可能かもしれない。
 魔力を蓄える為に出し惜しみしている点は解る。
 だが、凝った訳がどうしても彼の腑に落ちなかったのだ。
 「やはり、帰還してからのやつの様子は、少々おかしいな……」
134理想とはかくも高きものなり:04/02/13 00:41 ID:btLolixr
 キンコンカンコ〜ン!!
 島全体に、存在している全てのものに。
 放送を告げる鐘が鳴り響く。

 「HAHAHA!! グッモ〜ニング、エブリバディ!!
  初めまして、ナイストュ、ミートゥー。
  マイネイムイズ、ヴィルヘルム・ミカムラ。
  実は、気づいている方もおられると思いマァスが、
 みなさんをこの地に召還したのは…………この余なのだ。
  ビコーズ、君達には、素晴らしい資質がある。
  魔力と言う名のとても素晴らしい才能だ。
  余の理想とする世界誰しもが魔法を使える、誰しもが努力しつづける世界の住民となって貰いたく、
 余とそれぞれの理念を持つものたちの手によって、諸君達をこの地に召還したのだ。
  ところがだ!! 大規模な召還の為か制御しきれず、我々の望んだ以外のモノたちまでが召還されてしまった。
  しかも、中には此方側の召還した有望な者達を殺すモノまで現れる始末。
  そこで余たちは、この危険性も考え、部外者を排除する事にしたのだ。
  しかし、情報不足と一部の者の行き過ぎた行為により、諸君達の身近な人物まで排除してしまうと言う
 実に嘆かわしい悲劇が起きてしまった。
  だが、恐るべき事は、未だに召還したものを殺す望まれぬ召還されたモノ……イレギュラーとでも言おうか。
  そのイレギュラーが複数島に運びっていると言う事実がある。
  そこで、我々は、諸君達に提案したい。
  今回の召還は、召還された時に身近にいる者を巻きこんだ可能性が高いと言う事がわかった。
  よって、我々の理想に従い、諸君達と共に中央に来てくれる者は、我々と共に理想を目指そうではないか。
  幾ら資質がなくても努力すれば、どんなにダメでも多少は開花させる事は可能だ。
  中央に入るさいに、念のために多少頭の中を覗かせてもらうが、
  寛大な理念を持ってして、余たちは受け入れたい。
  素晴らしき世界を作り上げようではないか。
  ……残念だが、中央を目指さない者は、以降敵として見させてもらう。
  以上だ、諸君達のよい返事と行動を待っている」
135理想とはかくも高きものなり:04/02/13 00:42 ID:btLolixr
 「傲慢で身勝手だが……、中々やってくれる。 ただの理想を求めるバカではなかったようだな」
 ヴィルヘルムの放送を要塞内の自室で聞いていたケルヴァンは、苦笑していた。
 先ほどの放送には、事実とそぐわない事が二つある。
 一つ目は、召還された者を殺す者がいたから排除をすると言った事。
 実際は、最初から部外者を排除にかかったのである。
 危険を防ぐ為でもなんでもない。
 二つ目は、情報不足である。
 一部全くの不明があるとはいえ、実際は、ケルヴァンが召還した者の書類を作成し終えてある。
 これもヴィルヘルムや配下のものたちに手渡されあり、情報が行き届いていなかったと言う事はない。
 これにより多少は、召還された者に揺さぶりと疑念をかける事が可能だろう。
 といっても、最後の彼の傲慢な態度が、大分台無しにしてはいるのだが。
 「……それと『一部の者の行き過ぎた行為』か……。
  ふっ、確かにそういい繕えば、いざとなれば、配下のものへ、最悪、私に責任を押し付けることもできるな。
  これは、私に対する牽制と取るべきか……。 クックックック」
 笑い終えると、彼は部屋の扉に手をかけ、廊下へと出て行った。
 「ふん、あんなので従うやつなど余りいないと思うが……。
  一応、思考を読み取る魔具の用意と結界周りに人材強化をしておかんとな……。
  それと色々と調査の方もな……」
 
【ヴィルヘルム・ミカムラ@メタモルファンタジー(エスクード) 状態○ 鬼】
【ケルヴァン@幻燐の姫将軍1・2(エウシュリー)  状態○ 所持品ロングソード 鬼】
136亡霊たちの祈り:04/02/13 01:10 ID:Ym4T0n8w
「中心部を大きく迂回していけば北の方にまとまった規模の街があるようだ、とりあえずそこに〜」

「このまま島の外周を沿って行けば西の方にまとまった規模の街があるようだ、とりあえずそこに〜」

に修正します
137小さな来訪者:04/02/13 03:18 ID:71eRdgd9
(まいなちゃん・・・あの人たちって、いい人たちかなぁ・・・。)
藪に紛れるようにして女子高生と巫女姿の女の子を観察している双子の姉妹。
(わかんないよ、でもさっきの人に似てるかも・・・。)
まいなはそういってポケットの中のキャンディーをギュッと握った。
「ためしてみよっか・・・。すごい人ならわたしたちの攻撃なんてかわしちゃうもん、きっと・・・。」
「でもぉ・・・そしたらまたつかまっちゃうよぉ・・・。」
「そのときはまた逃げればだいじょーぶっ。」
まいなはゆうなに向かってVサインをすると作業を開始した・・・。


「おはよう・・・ございます・・・。」
「あ、百合奈先輩。おはようございますぅ・・・。」
橘さんの目を見れば誰が見ても寝ているようにしか見えないと思う。
(見張り・・・ちょっと私も寝すぎてしまったようですね・・・。)
少し良心が咎める。
「少し休まれてはどうでしょう?まだ夜明けの時間ではなさそうですし。」
体内時計で判断するなら私は朝が早いから、おそらくまだ向こうの世界では朝5時くらいだと思う。
「そうですねぇ・・・じゃあ・・・ちょっと・・・だ・・・けぇ・・・」
橘さんがフラリと横になろうとした瞬間、橘さんの背後にうっすらと人影が見えた。
「危ないっ!」
「えっ?きゃあっ!?」
慌てて橘さんを押し倒した私の頭上をこぶし大の石が通過していった。
「誰っ!?」
「にげるよっ!ゆうなちゃん!!」
「えっ?あっ、まってよぉ〜!!」
子供・・・?
「百合奈先輩!あの子たちを追いましょうっ!!」
「橘さん?」
急に橘さんが表情を変えた。
「あの子・・・今”ゆうなちゃん”って――。」
138小さな来訪者:04/02/13 03:19 ID:71eRdgd9
一瞬の一言。でも、私にはこれ以上ないくらい衝撃だった。
私が、殺してしまった人が大切に思っていた相手・・・。

「そう・・・だ・・・。まい、な・・・ちゃ、んと・・・ゆうな・・ちゃ・・・ん・・・と・・・」

必死の形相から出た、狂気の中にあった・・・優しさ。
あの子たちは――私が守らなくちゃ!!
「先輩!」
私は立ち上がると、ややもすると藪の中に消えてしまいそうな小さな人影を追った。

「追いかけてくるよぉ〜っ!」
「そりゃあ追ってくるわよ!」
二人は自分の中での全速力で駆けながら叫んだ。
後ろから追ってくる人影は思っていた以上に速く、このままでは追いつかれるのも時間の問題だった。
(どうしよう!?どうしようっ!?)
まいなはパニック状態ながら、一生懸命考えて決心した。
「まいなちゃんっ!?」
「ゆうなちゃん!早く行ってっ!!」
まいなはそう言うと逃げることを止め、追って来る天音に向かい合うように立ち止まった。

「まいなちゃんっ!?」
「ゆうなちゃん!早くいってっ!!」
やっぱり、あの子たちなんだ・・・。
私はもう目の前にいる女の子二人の会話で確信した。
ごめんね・・・私は・・・
二人のうち気の強そうな方の子、まいなちゃんが立ち止まり、私を懸命に睨む。
「わたしはもう逃げない!お兄ちゃんに会うまで頑張るんだもんっ!!」
お兄ちゃん――。
「私は・・・何もしないから――」
私が口を開いたその時だった。
139小さな来訪者:04/02/13 03:22 ID:71eRdgd9
「きゃあああっ!!」
視界の奥にいたゆうなちゃんが藪を抜けようとした瞬間、体勢を崩す。
「ゆうなちゃん!!」
振り返ったまいなちゃんと私の目に飛び込んできたのは百合奈先輩。
「橘さん!ここから崖になっています!手伝って下さいっ!!」
「えぇっ!?」
私は慌てて百合奈先輩に駆け寄り、宙ぶらりんになっていたゆうなちゃんを一緒に引き上げた。
「ふえぇぇぇ〜・・・」
あまりの怖さに泣きじゃくるゆうなちゃんの頭を撫でてあげる百合奈先輩。
その表情が母親のような雰囲気を湛えているように見えた。
敵意がない事が分かったのか、二人は私たちの側から逃げなくなる。
「ありがと。おかげで助かったわ。」
「まいなちゃん・・・言い方がよくないよぅ・・・。」
「ゆうなちゃんと、まいなちゃんだよね?」
「「えっ!?なんで知ってるんですか(のっ)!?」」
私が名前を出すと二人は同時にただでさえ大きな瞳を更に見開いて驚いた。
「えっと・・・」
140小さな来訪者:04/02/13 03:23 ID:71eRdgd9
「貴女方を知っている人と偶然会ったんです。」
私が口篭もると百合奈先輩が助け舟を出してくれた。
「お兄ちゃんだよ、きっと!」
ゆうなちゃんの嬉々とした表情が心に痛い。
「で、どこで会ったの?」
まいなちゃんの質問に百合奈先輩は結構前の事だからと巧くごまかす。
「そうですか・・・。」
「大丈夫、そのうちきっと会えますよ。」
私はそんな先輩とゆうなちゃんの会話を聞くのが辛かった。
(橘さん、今は何も話さないほうが良いんだと思います・・・。)
そう、耳打ちされた。
私は無言で頷く。
そうだよね・・・今、二人とも不安な時なんだから・・・。
自分と重ねてそう思う。
「そういえば・・・お姉さんたちはお名前何て言うんですか?」
「あ、申し遅れました。私は君影百合奈と申します。」
そう自己紹介して百合奈先輩は柔和な微笑を向ける。
「お姉ちゃんは?」
まいなちゃんが私に微笑みかける。
「橘・・・天音です。」
「天音お姉ちゃん、元気ないね。大丈夫?」
不安そうに私を覗き込んでくる。
「あ、うん・・・大丈夫だよ。」
慌てて作り笑顔を返しておく。
「そっか。あっ、そうだ!」
まいなちゃんが何かを思い出したようにポンと手を打ってポケットにその手を入れる。
「はい。これあげる!」
それはキャンディーだった。
「え?でも・・・こんなにたくさんもらえないよ・・・。」
小さな片手いっぱいに握られたキャンディーを掲げてまいなちゃんが私に言った。

「半分こだよ♪」
141小さな来訪者:04/02/13 03:25 ID:71eRdgd9
――!
「橘・・・さん・・・。」
「お、お姉ちゃん?」
「えっ?」
急に泣き出してしまった私をみんなが心配する。
「ご、ごめんなさい。ちょっと・・・」
いつも私が大輔ちゃんに言っている言葉。
幸せを、大好きな人と共有できる素敵な言葉。
「っく・・・ひっく・・・」
必死に堪えようとしても嗚咽が漏れてしまう。
大輔ちゃん・・・大輔ちゃん・・・。

しばらくして、私はようやく落ち着きを取り戻した。
「もう大丈夫。心配させちゃってごめんね。」
そうだ、こんなところで落ち込んでられないんだ。
藍ちゃんたちと、合流しなきゃ・・・。

その時だった。

キンコンカンコ〜ン!!
島にいる全ての人に聞こえるような大音量のチャイムが鳴り響く。
142小さな来訪者:04/02/13 03:26 ID:71eRdgd9
「HAHAHA!! グッモ〜ニング、エブリバディ!!
初めまして、ナイストュ、ミートゥー。
マイネイムイズ、ヴィルヘルム・ミカムラ。
実は、気づいている方もおられると思いマァスが、
みなさんをこの地に召還したのは…………この余なのだ。
ビコーズ、君達には、素晴らしい資質がある。
魔力と言う名のとても素晴らしい才能だ。
余の理想とする世界誰しもが魔法を使える、誰しもが努力しつづける世界の住民となって貰いたく、
余とそれぞれの理念を持つものたちの手によって、諸君達をこの地に召還したのだ。
ところがだ!! 大規模な召還の為か制御しきれず、我々の望んだ以外のモノたちまでが召還されてしまった。
しかも、中には此方側の召還した有望な者達を殺すモノまで現れる始末。
そこで余たちは、この危険性も考え、部外者を排除する事にしたのだ。
しかし、情報不足と一部の者の行き過ぎた行為により、諸君達の身近な人物まで排除してしまうと言う
実に嘆かわしい悲劇が起きてしまった――」
「これは・・・一体・・・?」
「まいなちゃん!この声!」
「うん!ゼッタイあのおじさんだよっ!」
「これが誰だか知ってるの?」
急に反応した二人に私は泣くのも忘れて聞く。
そして、彼女たちの今までの冒険を端折って聞く事になった。
143小さな来訪者:04/02/13 03:27 ID:71eRdgd9
「――・・・らうが、
寛大な理念を持ってして、余たちは受け入れたい。
素晴らしき世界を作り上げようではないか。
……残念だが、中央を目指さない者は、以降敵として見させてもらう。
以上だ、諸君達のよい返事と行動を待っている」
そこで放送は終わった。
「信じられるわけないじゃないっ!なにが”かんだいなりねん”よっ!!」
まいなちゃんが頬を膨らませて抗議する。
「でもぉ・・・いかないと”敵”だって・・・。」
二人の視線が私たちに向けられる。
「お姉ちゃんたちはどうするの?」
「私たちは、お友達と合流する予定になってるの。」
藍ちゃんたちとも話し合えばもっといい意見が生まれるかもしれない。
私はそう思っていた。
それは百合奈先輩も同じだったらしく、
「ゆうなちゃん、まいなちゃん。もし良かったら私たちと一緒に行動しませんか?」
同時に二人の顔が嬉々とする。
「「うんっ!」」



【橘 天音@Canvas〜セピア色のモチーフ〜(カクテルソフト)分類:招 状態:○ 装備品:キャンディー(半分) 行動目的:藍たちと合流・朝倉姉妹の保護】
【君影 百合奈@Canvas〜セピア色のモチーフ〜(カクテルソフト)分類:狩 状態:○ 装備品:キャンディー(半分) 行動目的:藍たちと合流・朝倉姉妹の保護】
【朝倉 ゆうな@はじめてのおいしゃさん(ZERO)分類:招 状態:○ 装備品:キャンディー(半分) 行動目的:とりあえず天音たちと一緒。・雅文を探す】
【朝倉 まいな@はじめてのおいしゃさん(ZERO)分類:招 状態:○ 装備品:キャンディー(半分) 行動目的:とりあえず天音たちと一緒。・雅文を探す】
144選択肢:04/02/13 03:28 ID:gXqKt63i
 目の前には死を覚悟した少女。この手には拳銃、人を殺す武器。
人差し指にトリガーがかかっている。
 これを引いて今から和樹は人を殺す。
 だというのに、その状況を完全に無視して、

『あの、和樹さん……おはようございます! うーん……ほんとにこれでつながるんしょうか……?』
「――――――――!?」

 末莉の声が和樹に届いて、だから和樹は硬直した。

 末莉の声に伴い、その顔や背後の部屋の映像もまたエテコウのカメラを介して和樹に送られてくる。
 部屋に運ばれてきた食事を終えたところらしい。
まだ食べ残しがあるところを見ると食欲は戻っていないようだが、それでも末莉の顔は就寝前に比べれば格段によくなっていた。

『あれ……つながってないんでしょうか?』
 返答しない和樹に末莉が首をかしげ、
「…………?」
 目の前の霧もまた、驚愕の表情を作る和樹に眉をひそめる。
『エテコウ君に名前を呼べばいいって、いってらっしゃったんですけど……』
 不安そうな顔で末莉はエテコウに手を伸ばす。
  
 末莉の通信を無視するか否か。
 ためらいの後、和樹はおずおずと言葉を返す。
『……いや、通じてるよ。おはよう末莉さん』
『うひゃぁっっん』
 突然口調を変えて挨拶を返すエテコウに、末莉は万歳ポーズで跳びすさる。
『び、びっくりしましたぁ……よかったです。つながらなきゃどうしようかと思っちゃいました』
 ほっと胸をなでおろす末莉に、和樹は迷う。
 状況判断クラスタはこの行動を非難している。一刻も早く霧を撃ち、直人達を追跡するべきなのだから。
 それでも、一瞬思ってしまった。末莉を無視しなくて良かったと。
145名無しさん@初回限定:04/02/13 03:28 ID:gXqKt63i
「何をやってるの……!? さっさとしてよ!」
 霧が苛立った声を上げた。
 電覚による和樹と末莉の会話のことなど霧にはあずかり知らぬ事だ。
和樹の末莉に対する返答は、実際に声を出して行うものではなくただ音声信号を頭脳の中で作成してエテコウに送っているのだから。
それは一種のテレパシーと言ってもいい。
「それともいたぶるにつもり? ずいぶん悪趣味ね!」
 歯を食いしばり、恐怖に耐えながらそれでも挑発的な視線を送る霧に、和樹は心中で歯噛みした。

 やらなきゃいけないことはわかってる。分かってるんだ――――

『あの……和樹さん? あ、ひょっとして私まずい時に呼んじゃいましたか?』
『いや……うん、そうだね。少し取り込み中かな』
 普通に返答したつもりだった。平静な声音のはずだった。

 だというのに、

『取り込み中って……え……』
 末莉の声に疑念がみちて。
『まさか……いまから誰かを、こ、殺しちゃうんじゃ……!!』
 真実を貫いた。

 ミスをした、と思った。
 末莉が眠る前、和樹は自分の任務を包み隠さず彼女に説明した。
 取り込み中といわれてこちらの様子を察したとしても不思議ではない。

 早く否定しなくては、と思った。 
 沈黙はまずい。
 これでは末莉が自分の疑惑を確信したとしても不思議ではない。

 早く撃たなくては、と思った。
 目の前の少女は非難と怒りと恐怖のこもった目でこちらを見つめている。
 霧が、自分を苦しませるために焦らしているのだと考えても不思議ではない。
146名無しさん@初回限定:04/02/13 03:29 ID:gXqKt63i
 だというのに、和樹はどの行動も取れないで、だから、
『そう……なんですね……』
 末莉は呆然とつぶやき、
「非人間……!!」
 霧は涙目で唇を噛みそれでもまっすぐな視線で和樹をにらみつけた。

『悪いけど、通信はこれで終わる。後で連絡するよ』
 とにかく電覚を終了させるべきだ。そう判断して、そうする前に、末莉は彼女に似つかわしくない素早さで動いて、
『和樹さん、これ見てください!!』
 そう、叫ぶ。

 エテコウから転送される映像に、今度こそ和樹は息を呑んだ。
 食事用に用意されたフォーク。それを首筋に突きつけて、末莉は叫ぶ。
『和樹さん! 殺しちゃダメです! 和樹さんが殺しちゃったら私、これで自分の首刺しちゃいます……!!』

「な――――!?」 
「……なによ?」
 思わず実際に声を出してしまった和樹に、霧がいぶかる。だが、それに構っている場合ではなかった。
『ほ、本気ですよ……私!!』
『それはばかげた取引だ! 第一、末莉さんにはこちらの画像を転送していない。僕の行動の確認なんて末莉さんには――――』
『声で分かります!!』
 和樹の言葉をさえぎって、震える声で末莉は叫んだ。
『声で、分かっちゃいますよ……和樹さん自分で気づいていないんですか……?
和樹さんの声、ちゃんと表情がありますよ……だから、私には、分かっちゃいます……!!』
147名無しさん@初回限定:04/02/13 03:30 ID:gXqKt63i
 そんなことがありうるのか? だって僕はロボットで、この通信だって自分の中で音声データを作成して送っているって言うのに。
 エテコウを通して、震える手でそれでもしっかりとフォークを握り締め、まっすぐ僕を見つめる末莉の姿が見える。
 己の目を通して、死の恐怖に震えながら、それでも泣き言も命乞いもせずにまっすぐ僕を見つめる霧の姿が見える。

 僕は――――


 泣き言だけはいわない。そんな無様だけはさらさない。
 霧は心に決めていた。それだけは譲れないと。
 親友に裏切られ、男に陵辱されかけて、そして絶対的な死を前にしても、それでも自分の心は汚させない。
 焦らすと言うなら、それでもいい。それならこの男を睨むだけだ。もう、早くしろとせかすこともしない。

 ――――このままこいつを睨んだまま、私は死んでやる。

 だが、
「……!? な、なにしてるのよ! あなた!」
 だが、目の前の少年の行動は霧の予想に反したものだった。
 銃を下ろし、腰にしまったのだ。
「なんのつもり……! 見逃すって言うの!?」
 霧の質問に、少年は目を伏せてコクリ、とうなずいた。
「ハッ……冗談でしょう? 魔力を持たない人は殺すんじゃなかったの?」
 顔をゆがめる。奇妙な笑みが霧の顔に浮かぶ。
「それとも同情? 私がかわいそうになったの……? ふざけないで!! そんな同情なんか私は――――!!」
「こっちにも事情があるんだ。ごめん」
 少年は何かを罰せられたような表情で、そう謝る。
「ごめんって。 何よ、なんなの……」 
 呆然とつぶやく霧に、少年は背を向けて、少し歩いて、それから迷ったように歩を止めた後、チラリとこちらをむいて言った。
「君はまっすぐな人だと思う。 だから自分のことをすぐに諦めるのはやめたほうがいい。
……それは間違った行動だと、思う」
「――――そんなの余計な――――!!」
「そうだね……今のは完全に余分な一言だった。ごめん」
148名無しさん@初回限定:04/02/13 03:33 ID:gXqKt63i
 自分を見逃し、結果的に助けてくれた少年はもう一度謝ると、後はもう振り返らず走っていった。

「なんなの……なんなのよ……」 
 一人残された霧はうつむき、ただつぶやく。泣かないと決めたのに、それだけはいやなのに、涙がこぼれる。

 自分を諦めるな? 美樹に裏切られた私なのに?
 
 なにもかもが、滅茶苦茶だった。
 親友であるはずの美樹は裏切った。
 霧を助けてくれたのは殺人者達だった。
 ケダモノ達は互いに奇妙なシンパシーを見せ、
 そして、一番憎むべき黒幕の手先は自分を見逃し、偽善に満ちた、それでも真摯な忠告をくれた。

「なによ……何も分からないわ……私……なんなのよ一体!!」
 世界に満ちる理不尽と混乱を呪って、霧は空に叫んだ。


『末莉さん』
 和樹は走りながら末莉に通信を送る。
『殺さなかったよ』
『本当、ですか……!? ウソ、ついてませんよね!!』
『本当だよ。
……声で分かるんじゃなかったのか?』
 和樹の疑問に、末莉はグニャアと脱力して崩れ落ちた。

『そんなの……そんなのぉ……』
 フォークをカランと落として、首を振る。
『そんなの……ふぇっ……ハッタリに決まってるじゃないですかぁ……』
 涙声を出して、グスングスンと鼻をすする。
『ハッタリ、なのか?』
 和樹の再度の質問に、だが末莉は答えずに本格的に泣き出しながら、ポカポカとエテコウを叩き始めた。
149名無しさん@初回限定:04/02/13 03:36 ID:gXqKt63i
『ダメ……ですよ悪いことしたら……そんなことしちゃダメじゃないですかぁ……そ、そんなことしたら……グス……傷ついちゃいます』
『末莉さんを傷つけることになるのはあやまるけど……』
『傷つくのは和樹さん自身ですよぉ……! そんなことも……わからないんですか?』
 ボロボロ涙を流して末莉は駄々っ子のようにエテコウを叩く。
『人が死んじゃったら傷つくんですよ……おにーさんが死んだ時だって……! 昨日だって……! 和樹は傷ついていたじゃないですかぁ……!』
『僕は――――ロボットだ』
『おんなじですよ……! とにかく……!』
 末莉は涙を流したまま、顔を上げてビシッとエテコウを指差した。

『もう悪いことしちゃダメですからね!! っていうか! 私が和樹さんに悪いことさせません!!』
『……どうやって?』
『え、えーとそれは……フォークだってあるし――――』
「末莉様。お食事の方はお済ですか? 食器の方を回収しに参りました」
「うひゃぁぁぁっ!?」
 戸口の向こうから世話係に声をかけられて、末莉は愉快な声を上げた。

「うひゃぁ?」
 いぶかる世話係に、
「なんでもないです! 気のせいです!! 
実は高屋敷家には、ごちそうになったお食事が美味しかった場合うひゃぁと叫んでお礼を言うという家訓があるんです!!
あ、これも美味しいですね!! うひゃぁ!!」
「……簡素なお食事でしたが、お気に召したのなら幸いです。お入りしてもよろしいでしょうか?」
「あ、はい! もうちょっとで食べちゃいます。もうちょっとだけ……」
「かしこまりました。それではお待ちしてます」
150名無しさん@初回限定:04/02/13 03:37 ID:gXqKt63i
『食事が美味しいと、うひゃぁって叫ぶのか』
 和樹はエテコウを末莉の耳元に移動させて、ささやいた。
『ずいぶんと変わった家訓だね』
『か、和樹さん、それ本気で言ってます……?』
 何か不適切な意見だったらしい。末莉がひきつった笑顔を浮かべている。
『……とにかく、電覚はこれでひとまず終了するよ』
『分かりました……』
 しばらくたってから遠慮がちに末莉は問う。
『また……連絡をとってもいいですか?』
『……うん。そうしてくれると僕も嬉しい』
『悪いことしちゃダメですよ?』
『……努力するよ』
 その答えに満足したかどうかは分からなかったが、末莉はコクンとうなずき、和樹はそれを見て電覚を終了させた。

 ふぅ、と息をつき、船工場をにらむ。
 だいぶ時間をロスしてしまった。
「直人とゲンハか……見つけることができるか?」
 五分五分か。
 移動速度では和樹が圧倒的に上回るが、ここら辺は隠れる場所が無数にある。
 和樹は再度息をつくと、足を速めた。

【佐倉霧@CROSS†CHANEL(フライングシャイン) :狩 状態:△ 所持品: ボウガン 矢の数は二本(撃ったら拾うので矢自体はなくならない、二発目を撃つ時には装填準備が必要)】
【友永和樹@”Hello,World”(ニトロプラス) :鬼 所持品:シグ・ザウエル サバイバルナイフ 基本行動方針:魔力持ちの保護、魔力なしの駆除】
【河原末莉@家族計画(D.O) :招 所持品:エテコウ】  
【廃港内の船工場跡脇。 末莉は中央】
151名無しさん@初回限定:04/02/13 03:38 ID:gXqKt63i
忘れてました。
【時間は放送前】
152それぞれの想い:04/02/13 06:08 ID:CgMfY/pk
・・・で、・・・いい・・か

う・・・・ちず・・あっ・・・・・けど

先程見た負の感情の続きなんだろうか?
すぐ近くから声がする。
あー、つばさが死んだのが相当来てるのか、俺。
このまま彼岸の住人になってしまいそうだ。
奇特状態のお母様、先立つ不幸をお許し下さい。
もっとも順番関係なしにあんたは地獄に行きそうな気もするが。
舞人君は普段から善行を積んでおりますので当然行き先は天国です。
う・・・嘘ッじゃありませんっ!
もうマザー・テレサも裸足で逃げ出すくらい善行を積んでますから。

ええ・・・あ・・は・・・リニアが・・・み・・すから

声が段々鮮明に聞こえるようになってきたぞ。
いよいよ即身仏、桜井舞人が誕生するわけですな。
ああ、天国の門の入り口でつばさが待ってやがる。
い・・・意外にかわいいところあるじゃないか。
本人には絶対言えないけど。
そして段々2人の距離が縮まって手の届く範囲に・・・
よう、つばさ、俺もここに厄介なることになった。
俺がそういうとつばさはにっこり微笑んで・・・

「や、さくっち来るの早すぎだから。さっさと戻れ」

思いっきり蹴りを入れてくれた。


153それぞれの想い:04/02/13 06:10 ID:CgMfY/pk
美由希が次はいつになるかわからないから、という理由で恭也とリニアにシャワーを浴びることを勧められ席をはずしている間
舞人の様子はリニアが傍らで見ていた。
恭也は椅子に座って刀を抱いたまま目を閉じてじっとしている。
(はあ・・・あんな風にしてたらリニアは眠ってしまいそうですけど、恭也さんはすごいですね)
そんな恭也の様を見ながらリニアはそんなことを思っていた。
方針を決めた後、屋敷内をうろついていても怪しまれないリニアが必要な物を集めて回った。
(実際なんでリニアはこんなことしてるんでしょうか・・・)
自分は給仕用アンドロイドだ。
主であるケルヴァンの命令だけ聞いていればそれでいいはずなのだが・・・
(何か忘れている気がするんですよね)
手元にあるのは目覚めた時に既に持っていたアナログの懐中時計。
いつどこで手に入れたものなのか覚えがない。
自分の仕事に必要な物とはとても思えない。
彼女という存在から懐中時計は明らかに浮いていた。
手持ち無沙汰でそれを見つめて見るが彼女が初めて見た時より時を刻んではいない。
ケルヴァンに目覚めさせられる前にも活動していたことがあるのか
それとも自分は不良品でそれで主に対しての忠誠心が欠如しているのか・・・

「あのアマァ!!」
思考の迷宮に突入しようとしていたリニアの耳に突如大声が響いた。
「むう、なんだつばさの奴この舞人様を足蹴にしておいて結局現世に送り返せなかったようだな」
リニアはあまりにも唐突な言動に只きょとんとしているばかりである。
「まさかこの桜井舞人の前にメイドというものが存在しているとは。これは正にここが天国であることの証明だな」
「は・・・はあ」
154それぞれの想い:04/02/13 06:11 ID:CgMfY/pk
リニアはやっとのことでそれだけを言葉にする。
「・・・頭でもやられたのか、桜井。いや、元からこうだったような気もするな」
「む、なぜこのパラダイスに高町がいるんだ、ま、まさかここは地獄なのか・・・」
「一体どういう思考回路をしているんだお前は・・・」
「恭ちゃん?恭ちゃんも今のうちに浴びといた方が・・・」
シャワーを浴び終えた美由希が浴室から出てくる。
結構な大声であったにも関わらず美由希には舞人の声は聞こえていなかったらしい。
舞人と目が合う。
「あ、気がついたんですね。きょ・・・兄さんから聞いてます。高町美由希です、よろしくお願いしますね桜井さん」
舞人は傍らのメイド服の少女と部屋の内装を見て
「・・・すまん高町。全くわからん、天国と地獄が同居してるのか?ここは」
恭也も慣れたのかこの程度ではもはや動じたりせず冷静であった。
「最初から説明するぞ、いいか桜井・・・」


「つまり助かったわけだな・・・とりあえずは」
「俺と美由希はこの島から出る方法を探すが・・・改めてお前はどうする?
俺も美由希も魔力とかそういうものは一切心当たりがない。あるならあの牛を倒したお前の力だと思うが・・・」
魔力資質者ならば少なくとも命は助かる。
ある程度の待遇も保障されているらしい。
リニアから双子の少女の話を聞いた限りではそのように思う。
正直恭也の目から見て桜井舞人は戦いには全く向かない。
自分や美由希と比べるのが酷なのかもしれないがとても万全の調子であったとはいえないが自分を上回る剣士が存在するのだ。
それこそなんの鍛錬も積んでいない桜井では生き残れるかわからない。
155それぞれの想い:04/02/13 06:12 ID:CgMfY/pk
だから舞人自身に判断を任せた。

高町は俺の答えを待っているようだ。
まあ、こういうものは深く考えてもしょうがないものだ。つばさでもそう言うだろう。
しかし端的に言ってこんな事をしでかした連中に従う気は毛頭ない。
せっかくつばさに助けられた命だ。
助けられた事も俺の中の妄想かもしれないが今はそれでも構わない。
つばさの事で泣くのは・・・助かってからでもいい。
まあそういう事で本来なら助かる事を第一に考えるべきなのかもしれないが・・・
それでもつばさが犠牲になったのはあいつらのせいなのだ。
少なくてもそんな奴らに従う事はできない。
「男桜井舞人。かように非道な真似をする連中の軍門に下る気はありませんよ?」
「・・・そうか」
・・・やはりだ。高町を含めその妹、メイドに至るまで突っ込みの基礎がなってない。
後で突っ込みのなんたるかをちゃんと教えておくことにしよう。
そうしないと逆に息がつまってしょうがない。
あれ?本題はなんだったか?
ああ、俺の方針だったか。
うん、だったら言っておかないといけないことがあるな。
「それと高町・・・俺はもうあの変な力は使えないと思う。だからどの道こっから逃げる方法を探す方が安全だ」
「まあ、ああいう力には副作用みたいなものもあるからな・・・使わないに越したことはないだろう」
高町は高町で思うところがあるらしい。
まあ、力の方は使えるのかもしれないが・・・あの力の本質を知った俺にはもう使う気はない。
会話が一段落ついたと判断したのか美由希が口を開く。
「えっと、それでね恭ちゃんに・・・桜井さん。2人も今のうちに・・・」
だが美由希はその言葉を最後までいうことなく・・・素早く自分の刀、龍燐を手に取った。
龍燐を既に抜き放ち扉を睨みつけている。
156それぞれの想い:04/02/13 06:14 ID:CgMfY/pk
恭也も無言で立ち上がり自分の刀を抜いている。
「2人とも静かにしてろ・・・」
だからこの展開は一体なんなんだ・・・あまりにも急展開すぎて混乱してきた。
やっぱりボケと突っ込みができてないせいだろう。
ぜっ、絶対にそうに決まってます!


「くっそ・・・やっぱり治まらねぇ!!行くぞカトラ!」
「スタリオン!ランスの兄貴の許しなく女に手出ししたらどうなるか・・・」
「なあカトラ。お前はそんな体してるからどうってことないのかもしれないけどよ、俺はもう我慢できねえ
それにランスがなんて言ってたってばれなきゃどうってことないさ」
「それはそうでヤンスが・・・よりにもよってケルヴァン司令お付のメイドじゃなくったって・・・」
カトラはむしろランスというよりケルヴァンの方を恐れているようだ。
「だからそれだって・・・ばれなきゃどうにでもなることさ。いくら司令だって結界内には使い魔は放ってないみたいだしな」
「メイドが直接ケルヴァン司令に言うとは考えないでヤンスか・・・」
スタリオンはそれを聞くとしたり顔になる。
「それは女の方を満足させてやれば文句だってでないさ、何も問題はないんだ心配するなカトラ」
「本当にいいんでヤンスかねぇ」
表情にこそ出ないが(出るわけもないが)それでもカトラは不安を消しきれない。
「だからお前は何も心配することは・・・っとメイドの部屋はここだったな」
部屋の前に立つとなんの躊躇もなくノブを回す。
「ス、スタリオン、ノックくらいするでヤンス」
「どうせすぐにベッドになだれ込むんだ、手間は少ない方がいいに決まってる」
そのままドアを開け放つ。
157それぞれの想い:04/02/13 06:17 ID:CgMfY/pk
「このスタリオン様が直々に来てやったぞ、さあ始めようじゃ・・・ぐほぇ!!」
「スタリオン!?なんでヤンスかあんたら・・・あぎゃぁ!」
扉を開けた瞬間に美由希と恭也の攻撃で2人はあっさりと昏倒した。

「牛の次は馬か・・・次は猪でも出てきそうな感じだな」
「が・・・骸骨」
美由希はあまりに非現実的な相手の姿に戸惑っている。
取り合えず部屋の中に引きずりこんで縄で縛っておいた。
「妙な怪力で縄を引きちぎる・・・とかないよね?」
恭也から聞いた牛の怪物の話だとそれくらいはしそうなものだが・・・
「さすがにそれはないだろう・・・もう出てきていいぞ2人共」
恭也の声と共にベットの下からリニアと舞人が這い出してくる。
「いきなりはどうかと思うぞ高町。といってもこのなりじゃあこいつらも文句は言えないか」
「はあ・・・ケルヴァン様の部下の方はなんというか」
2人は首から上が馬の人物と鎧を着た骸骨を見てコメントに困っている。
(そういえば恭ちゃん・・・どうやって骸骨の方縛ったんだろう)
そんな疑問が美由希の頭を掠めたが・・・多分気にしない方がいいのだろう。
全力で疑問を打ち消した。
恭也は美由希の様子に少し妙な顔をしたが、恭也の方も気にしないことにしたようだ。
「俺達を始末しにきたのかと思ったがそれにしては無防備だったし、違ったようだな」
どの道この事がばれるのは時間の問題であろう。
行動するなら今すぐにしなければ。

「あ、恭ちゃん。なんか馬の・・・人がこれ持ってたよ」
美由希が差し出したのは島の地図であった。
158それぞれの想い:04/02/13 06:17 ID:CgMfY/pk
「探す手間が省けた・・・か」
これで必要と思うものは一通り揃った。
「リニアちゃん・・・ありがとう。私達行くね」
「え?美由希さん・・・?」
リニアが戸惑っている。
自分を守ってくれたこと、恭也を助けてくれたことには感謝しているが・・・リニアはここにいた方が安全だ。
馬面の人と骸骨についてはリニアは脅されていて何もできなかった、とでもいえばなんとでもごまかせるだろう。
自分達について来て危険に巻き込まれることは・・・避けたい。
「今の私達じゃリニアちゃんを守れるかどうかわからない。だから・・・」
「美由希さん」
リニアは美由希に最後まで言わせることはなかった。
言いたいことはわかる。
でも・・・それでも
「それでもリニアの居場所はここじゃないです。どこかはわかりませんけど・・・
美由希さんと一緒に居たら見つけられる気がするんです。駄目ですか・・・?」
すがるような、それでもはっきりと意思を持った目をしている。
美由希は困ったように恭也の方を見るが、恭也は何も言わない。
もう──美由希の答えは決まっている。
「うん。わかった、改めてよろしくね。リニアちゃん」
かつての晶が、レンが、そして自分がそうだったように居場所は自分で見つけるものだから。
ふと見た恭也の目はやさしかった。
159それぞれの想い:04/02/13 06:18 ID:CgMfY/pk
【高町恭也@とらいあんぐるハート3(JANIS) 狩 状態△(肋骨骨折)
所持品 小太刀2本 飛針 小刀(小太刀とは別)チタン製鋼糸】
【高町美由希@とらいあんぐるハート3(JANIS) 招 状態○ 所持品 小太刀(龍燐) 島の地図】
【桜井舞人@それは舞い散る桜のように(バジル) 招 状態○ 所持品 長剣(スタリオンから奪った)】
【リニア@モエかん(ケロQ) ? 状態○ 所持品 食料、水、救急箱、懐中時計】

【目的 島からの脱出方法を見つける】

【スタリオン@ワーズ・ワース(エルフ) 鬼 状態×(気絶) 所持品なし】
【カトラ@ワーズ・ワース(エルフ) 鬼 状態×(気絶) 所持品なし】

【全体放送前の話です】
160朱き糸が紡ぐ運命:04/02/14 00:01 ID:XuNSjL9X
(私・・・生きていたの?・・・私・・・・輝いてた?)
彼女の問いに答えるものはいない。
あの場所を出てから一緒にいたあの人は必ず戻るとだけ言ってどこかへ行ってしまった。
(月が・・・・・見たいな・・・)
思えばあの日も月が輝いていた。
あの月のように、川辺で光り輝いていた蛍のように・・・
「(そりゃ死んじまったら輝けないさ、そういうもんだからな・・・)」
あの人がそう教えてくれたから。
(私・・・・・・輝いてた?)
その答えを知りたくて、それだけで。
月を見ようとしてもおぶって外に連れ出してくれたあの人は傍にはいなくて。
月の輝きと自分を比べたら分かると思った。
自分が輝いていたか…それだけを知りたかった。
「私は・・・知りたい」
彼女が意識と失うのと彼女の体が光ったのは同時だった。

「・・・?どうした、エレン」
「人の気配がする・・・待ち伏せではないと思うけど」
気配を消そうという気がまるで見られない。
主催者側もエレンの存在には気づいているはずだ。
161朱き糸が紡ぐ運命:04/02/14 00:02 ID:XuNSjL9X
まさか武器庫襲撃という大それた事をしたエレンをマークしていないとは考えずらい。
「俺達以外の人間か・・・どっちに転ぶかわからん以上関わらん方がいいのかもしれないが」
勝沼紳一に既に襲われた小次郎は懲りているようで、慎重策を主張する。
「確認する・・・あなたは待っていて」
エレンがそう言うと小次郎は顔をしかめたが、エレンの意思が固い事を見てとると何も喋らなかった。
それを見て取るとゆっくりとエレンは気配の方向に向かっていった。

「小次郎!」
エレンの呼ぶ声がする。
どうやら危険はないらしい。
声の元に辿りつくと小次郎は目を張った。
そこには真っ白な着物を少女が倒れている。
刃物による傷・・・見たところ傷は大して深くはないが化膿がひどい。
ろくに手当てもしていなかったのだろう。
「まだ・・・助かる。薬を貸して」
利き腕が使えない小次郎に代わりエレンが傷の治療をする。
「こいつも誰かに襲われたか・・・」
「さあ・・・どうかしらね」
「・・・?ああ、成る程ね」
エレンはこう言いたいのだ。
誰かに襲われたのだとしても自分達がこの島に来てからの時間を考えると化膿するには早すぎる。
「私達より大分前にこの島にやってきたのか、それとも・・・」
「初めからその傷がついた状態でこの島に来たって事か」
162朱き糸が紡ぐ運命:04/02/14 00:02 ID:XuNSjL9X
「元々信用していない情報ではあったけれど、完全にデマカセだったみたいね」
魔王復活の為にこの島に人を集め殺し合わせる。
武器庫の番兵の言葉は完全に嘘であったと2人は確信した。

「・・・ここ・・・どこ?」
傷口の消毒をしているのでその痛みで目を覚ましたのだろう。
顔をしかめてはいるものの痛みの声一つあげない。
(第一声がその言葉とは・・・大したものね)
かつて麻酔なしで弾丸を摘出されたことがエレンにもあるがその痛みとは比べ物にならないだろうとはいえ
痛みに悲鳴一つあげない少女にエレンは感心する。
「あなたの質問には後で答えてあげるわ、今はじっとしてて」

「これでいいわ・・・これ以上悪化はしないでしょうし」
エレンは少女の傷の手当てを終えると先程の質問に答える。
「ここは・・・この島がどこにあるのかそれは私達にもわからない。わかっているのは誰かの意志で私達はここに呼ばれたというだけ」
あまりにも簡潔だがはっきりしているのは今の所これくらいだ。
しかし少女の期待する答えではなかったようだ。
治療に時間がかかり暗黒が支配した空を少女はただじっと見つめている。
「えっと・・・・・・あんた名前は?」
エレンは黙って少女を観察しているし、少女は少女で空を見ているだけだ。
状況が進まない。
「つき・・・」
「月?」
「ないんだね・・・」
「頼むから人の話を聞いてくれ・・・」
確かに空は曇っていて月は見えないが存在しないわけではないだろう。
空を見るのをやめ少女は小次郎の方を向くと首を振った。
(俺・・・馬鹿にされてるのか)
163朱き糸が紡ぐ運命:04/02/14 00:04 ID:XuNSjL9X
これは小次郎の話など聞くつもりなどないという事なのか。
(こういう餓鬼はちゃんと躾とかないと大変な事になるな・・・)
小次郎はパンチを放つ準備をする。
右手を使う必要もないだろう。
むしろ右で殴ったらまずい。

突然エレンの手が小次郎の左手に添えられる。
「なんだエレン。いいかこういう餓鬼はなちゃんと躾とかないと・・・」
「多分彼女はあなたの思っている意味でやってるんじゃないと思うわよ」
「なに?」
「そういうのないから・・・」
少女はそれだけを言った。
「名前がないって事か・・・」
どうやら小次郎が思った以上にヘビーな境遇らしい。
よく見ると片足を引きずって歩いている。
───腱が切られている。
(おいおい、これじゃあこいつろくに歩くことも・・・そういうことかよ)
少女がだいたい何をさせられていたのか理解できたのだ。
「人買い・・・」
エレンが吐き出すように言った。
この世にはそういった事を生業としている者も存在する。
ある者は娼婦として買われていき、そしてある者は科学者の『実験』の材料として───
そしてエレンは初めて自分が少女を助けた理由に気づいた。
玲二と違い不要な者は切り捨てるはずの自分がなぜ少女を助けたのか・・・
目の前の少女は、全てを失い人形として生きていた自分、何もなかったあの頃の自分そのものだった。
164朱き糸が紡ぐ運命:04/02/14 00:06 ID:XuNSjL9X

「小次郎」
「・・・なんだ」
真剣な表情をしたエレンと目が合う。
それでエレンの考えはわかった。
「言うまでもなくわかってると思うが・・・」
「ええ、いざという時にはあなただけでも逃げて」
正直目の前の少女は足手纏以外の何者でもない。
襲撃者が闊歩するこの島で自分達の身を守るのですら精一杯なのだ。
それを理解して上でエレンの意思は固い。
ならば小次郎が何を言っても意思が変わる事はないだろう。
「あと・・・」
「まだ何かあるのか?」
「この子に名前を付けてあげて。私ではいい名前は思い浮かばないから・・・」
小次郎は訳がわからず自分を見つめる少女を見て
「・・・プリン」
「は?」
思わずエレンは聞き返してしまう。
それは菓子の名前のはずだ───間違っても人間につける名ではない。
一瞬エレンは自分が聞き間違えたのと思ったが
「・・・お前の名前はプリンだ」
なんという名前を付けるのだろうこの男は。
あの無愛想な玲二ですらもう少しましな名前をつけたというのに。
「守るんだろ?こいつを。昔そう名乗った馬鹿がいてな・・事もあろうに俺なんかを頼ってきやがった。
そいつは今は俺なんか話もできないような身分だが・・・一度は守ったんだ。だからその名前を借りる」
エレンは小次郎を見る。
「天城小次郎・・・あなたは」
(自分も守るというの?この少女を・・・)
「こいつは俺がおぶって行く・・・あんたにはいざって時には戦ってもらわないといけないからな」
165朱き糸が紡ぐ運命:04/02/14 00:09 ID:XuNSjL9X

「・・・いいの?」
背中を見せた小次郎に少女──プリンは戸惑うが・・・
「話は聞いた通りだ。どうもあちらさんは意見を変える気はないようでね。っと。
だったら一番生き残る可能性が高い方法を取る。それだけだ」
言葉の途中でプリンを背に乗せると先導するエレンの後を歩き始める。

(私は・・・生きているの?)
彼女の疑問に答える者はいなかったが──感じる小次郎の体温は間違いなく彼女が生きている証であった。

【エレン@ファントムオブインフェルノ(ニトロ+)状態○ 招 所持品 ベレッタM92Fx2 ナイフ】
【天城小次郎@EVE〜burst error(シーズウェア)状態△(右腕負傷)狩 所持品 食料 水 医薬品 地図】
【名無しの少女(プリン)@銀色(ねこねこソフト)状態△ 片足の腱が切れている(絶対に直らない) 所持品 赤い糸の髪留め】

【時間は全体放送前】
補足説明:赤い糸の髪留めは書き手BBSにて説明を補足します。
166朱き糸が紡ぐ運命:04/02/14 00:47 ID:XuNSjL9X
私とした事が・・・_| ̄|○
修正。

【エレン@ファントムオブインフェルノ(ニトロ+)状態○ 招 所持品 ベレッタM92Fx2 ナイフ】
【天城小次郎@EVE〜burst error(シーズウェア)状態△(右腕負傷)狩 所持品 食料 水 医薬品 地図】
【名無しの少女(プリン)@銀色(ねこねこソフト)状態△ 片足の腱が切れている(絶対に治らない)? 所持品 赤い糸の髪留め】
167武人の誓い、少女の決意:04/02/14 20:47 ID:QVBpKJGv
「お兄様、街があります」
 森を抜け、眼下に見えた景色に、鴉丸雪は思わず声を上げた。
「ああ、ようやく人に会えるかもしれないな」
 妹の声に返答しながら、鴉丸羅喉は視線のみでぐるりと周囲を見渡した。
 背後の森、左側に切り立った崖がそびえる以外は、視界をさえぎるものは何もない。
 森の中と比べて一気に視界が広がったが、見える範囲に人の姿は無いようだ。気配も感じられない。
 先ほどのような襲撃者がいないことを確認してから、件の街へと視線を移す。
 森のはずれ…今自分達がいる小高い丘から見下ろす先に、小規模ながら確かに街が見える。
 その先には海があり、波止場に漁船らしき船が泊めてあるのが確認できた。
(港町か…しかし)
 空は晴天、波も穏やかだというのに、沖に出ている船が一艘も見えない。
 また、どうやら街の中にも動いているものは無い様に見受けられた。

(人はいないのか? いや、たとえそうだとしても…)
 傍らの妹を見る。移動中は不平一つ漏らさなかったが、相当に疲労していることは分かっていた。
 揃いの羽織を着た襲撃者達を退けてから、途中休憩を取りながらとはいえ、かれこれ3時間ほども森の中を
歩き続けていたのだから無理もない。
 どこか落ち着いて休める場所を探さなくてはならなかった。
 それに食料も手に入れなければならない。
 ここに飛ばされる前と合わせて、半日近く何も口にしていないはずだ。さぞお腹を空かせているだろう……と、
そこまで考えたところで、当の雪のお腹の辺りから「くぅ」と可愛らしい音が聞こえた。
168武人の誓い、少女の決意:04/02/14 20:48 ID:QVBpKJGv
 はっとして顔を上げた雪と目が合う。
「………」
「………」
「………」
「………」
「……ち、違います! 今のは…その、ええと…」
「…ふっ……はははははは!」
 ボッ…という音が聞こえたかと思うくらい瞬間的に顔を真っ赤にして必死に弁明する雪の姿に、思わず笑いが漏れる。
「ひどいです、お兄様…」
「はは…いや、すまない。あまりにもタイミングが良すぎたものでな」
「…?」
 きょとんとする雪に、羅喉は、こんなに表情の変わる妹を見るのは随分久しぶりだということに気付いた。
 雪の力を狙う刺客に追われる毎日が、どれほど雪から表情を奪っていたのかを思い知る。
(護らねばな……必ず)
 あらためて心に誓う。身体だけではない。心も護るのだと。

「さ、行こうか。休めるところを探してから、ここがどこなのか確かめよう」
「はい、お兄様」
 手を取り、街へ向かって歩き出したその時、それは起こった。
169武人の誓い、少女の決意:04/02/14 20:51 ID:QVBpKJGv


 カッ!


 白光が視界を一瞬覆い尽くす。
「むぅっ!?」
「きゃあっ!!」
(しまった! 油断していたか!?)
 だが、敵の気配は感じられなかったはずだ。それとも、自分の気配察知を掻い潜れるほどの相手なのか。
 内心焦りながらも、雪を背後に庇い身構える。
 視力はまだ戻らない。一瞬で集中力を高め、全方位に向けて敵の気配を探るべく気を飛ばす。
 同時に、相手の攻撃に合わせてカウンターを放つべく、身体に溜めをつくり備えた。

 …が、すぐに来ると思っていた攻撃が来ない。それどころか、
(崖の上か。だが、敵意のかけらも感じられない……どういうことだ?)
 多少暗いが、視力は戻りかけている。
 そちらを見やると、少し離れた崖の淵に誰かが倒れているのが見えた。
「む?」
 目を凝らす。どうやら女性のようだ。
 と、ずるり…と、重力に従ってその身体がずれた。
「お、お兄様! 人が!!」
 羅喉の視線を追った雪が悲鳴を上げる。
170武人の誓い、少女の決意:04/02/14 20:52 ID:QVBpKJGv

「いかん!」
 "落ちる"と認識した次の瞬間には地を蹴っていた。
 落下地点と予測できる場所に向けて全力で走る。
「お兄様!」
 背後で雪の声が聞こえる。
 ほとんど悲鳴に聞こえるのは、声が裏返っているためか。
 なぜそんな声を出すのか。
 崖の落差は10メートルはあるが、羅喉ならばお互い無傷で受け止めることができる。
 それは、ずっと羅喉の強さを間近で見てきた雪にも分かっているはずだ。
 ならばなぜか?
 簡単だ。間に合わないのだ。羅喉が落下地点に着くより早く、女性の身体は大地に叩きつけられるだろう。
「くっ!」
 走りながら、感じる焦燥感に悪態をつく。
(もう雪に人が死ぬ瞬間など見せたくはないのに…!)
 だが、無常にも引力は一つの命を奪おうと女性を引き寄せていく。
(駄目かッ…!!)
 羅喉が諦めかけたその時、

「だめええぇぇぇぇぇぇぇぇぇッッッ!!!」

 羅喉の背後で雪の声が響いた。
 同時に膨れ上がる膨大な"力"。
 ともすれば、常人でさえ感じ取れるのではと思えるほどの巨大な"力"が、雪を中心にして渦を巻く。
 と、女性の落下するスピードが目に見えて落ちた。
(!…今なら!!)
 速度を上げ、女性の元へたどり着く。
 ゆっくり降りてくるその女性は、気絶しているのか、ぴくりとも動かない。
 女性の身体をしっかりと腕に抱きとめたところで、女性を支えていた"力"が消失した。
 ぐんっと、重さが腕に圧し掛かってくる。
「雪!」
 振り向いた羅喉の目に、嘆息してその場にへたり込んでいる雪の姿が見えた。
171武人の誓い、少女の決意:04/02/14 20:53 ID:QVBpKJGv

「大丈夫か、雪」
「は…はい、私、びっくりして、もう、夢中で…」
 女性を抱えて戻ってきた羅喉に、雪は笑顔を見せた。
 疲労の色はあるが、自分の力で人を救えたことが嬉しいのか、その顔は晴れ晴れとしている。
「よくやったな。雪の力は、こういうことに使うためにあるのだろう」
 女性を下ろし、空いた手で雪の頭を撫でてやる。
 雪は嬉しそうに目を細めた後、気を失ったままの女性に目を移した。

「お兄様、もしかしてこの方も私達と同じように…?」
「そう考えるのが自然だろうな。あの光を見るまで、辺りには誰もいなかったはずだ」
 そうすると、あの光は転送された時に生じるものなのだろう。
 羅喉はとりあえずそう結論付けると、あらためて女性を見た。
 見たところ、まだ少女だ。雪より少し年上くらいだろうか。
 背中まである長い髪に、メイドがするようなカチューシャを付けている。
 そして服装。黒を基調としたその服は、一見してセーラー服かと思えた。
 胸元に赤いリボンをあしらい、腰の後ろもまた、巨大なリボンで結ばれている。
(しかし…)
 しかし、腹部は完全に露出し、フリルの付いたスカートも丈が短いどころの話ではなく、
身を屈めたら間違いなく下着が見えてしまうだろう。
(なんでこのような目のやり場に困る格好をしているのだ…)
 そしてもう一つ気になること。
 少女の身体に刻まれた無数の小さな傷と、落下地点付近に落ちていた柄の長い武器。
 そこから連想されることは一つ。
 この少女は戦っていたのだ。ここに飛ばされてくる直前まで。
172武人の誓い、少女の決意:04/02/14 20:55 ID:QVBpKJGv

「お兄様…」
(雪も気づいたか)
「あの…お兄様も、こういう服装の女性がお好みなんですか…?」
(………)
「そんなわけないだろう」
 言いながら、少女を背中に背負い直す。
「この少女も連れて行くぞ。さすがに放り出していくわけにもいかない」
「はい、お兄様………え、あの、どちらに?」
 崖下に向けて歩き出す羅喉に、雪が戸惑ったような声を上げた。
「ああ、崖下に彼女の物らしい武器がある。それも回収しておかないとな」
「そうですか…あ、ではそれは私が持ちます」
 言って小走りに崖下へと向かう。
「なに?……いや、武器には刃が付いているんだ。私が持とう」
 いつになく積極的な姿勢に多少の驚きを覚えながら、自分を追い越していく雪に声をかけるが、
「お兄様はその方を背負われているではありませんか。ですので私が持ちます」
 断られてしまった。
 なんとなく、先ほどの嬉しそうな顔を思い出す。
 少女を助け、自分にもできることがあると知り、また人の役に立ちたいと思ったのか。
 ならば、好きにさせてやった方がいいのかもしれないと、羅喉は思った。
 危なっかしいようなら、やはり自分が持てばいい。
 そうこう考えている内に、武器を見つけた雪がよいしょと両手で拾うのが見えた。
 見た目より軽いのか、ふらつくこともなく、しっかりとした足取りで戻ってくる。

「…ん………メッ……ツァー……」
「ん?」
 ふいに耳元で少女の声が聞こえた。
 目を覚ましたのかと思ったが、うわ言だったようで、そのまま寝息しか聞こえなくなる。
(メッツァー…? 戦っていた相手の名前か?)
 そう考えてから、今のは聞かなかったことにした方が良いかと思い直す。
 もしかしたら話したくないことかもしれない。
 とにかく街へ行き、彼女が目を覚ましてから今後のことを決めよう。
173武人の誓い、少女の決意:04/02/14 20:57 ID:QVBpKJGv

「お兄様、取ってきました」
「ん、ああ…では行くか、雪」
「はい」
 そして兄妹は、今度こそ街へと歩き出した。


 兄の後ろについて歩きながら、雪は思う。
 自分のこの"力"、うまく使えば今回のように人の役に立てる。
 ならば、忌み嫌わず、使うべきと思ったときは躊躇なく使おう。
 それに、たとえ"力"を使わなくてもできることがきっとあるはずだ。
(私がお兄様を助けてあげることだって、きっとできるはず…)



【鴉丸羅喉@OnlyYou-リ・クルス-(アリスソフト) 狩 状態○ 所持品:なし 行動目的:雪を護りぬく】
【鴉丸雪@OnlyYou-リ・クルス-(アリスソフト) 招 状態○ 所持品:グレイブ(凛々子の武器) 行動目的:兄についていく】
【七瀬凛々子(スイートリップ)@魔法戦士スイートナイツ(Triangle) 招 状態△(軽傷 気絶中) 所持品:なし 】

【全体放送前です】
174動く者・藍:04/02/15 10:43 ID:VllcO7Qd
キンコンカンコ〜ン!!
島全体に響くような大音響だった。

「HAHAHA!! グッモ〜ニング、エブリバディ!!
初めまして、ナイストュ、ミートゥー。
マイネイムイズ、ヴィルヘルム・ミカムラ。
実は、気づいている方もおられると思いマァスが、
みなさんをこの地に召還したのは…………この余なのだ。」

「何でっしゃろ?このアホ丸出しの放送は。」
藍の肩に止まったケンちゃんは呟く。
「分かりませんわ・・・。」

「ビコーズ、君達には、素晴らしい資質がある。
魔力と言う名のとても素晴らしい才能だ。
余の理想とする世界誰しもが魔法を使える、誰しもが努力しつづける世界の住民となって貰いたく、
余とそれぞれの理念を持つものたちの手によって、諸君達をこの地に召還したのだ。
ところがだ!! 大規模な召還の為か制御しきれず、我々の望んだ以外のモノたちまでが召還されてしまった。
しかも、中には此方側の召還した有望――」

(誰しもが・・・魔法を使える・・・)
その台詞が藍の心に闇を広げる。
(魔法・・・)

恋に”兄が出来た”と聞き、初めて大輔に逢った時の衝撃。
・・・言えなかった。恋を想うからこそ。
ずっと見続けていた。
恋の兄としてではなく、一人の男性として。
もし、魔法が使えたなら――。
誰もが想う我侭な願い。
でも、それが今なら理想ではなく、現実としてここに存在するのではないか・・・?
175動く者・藍:04/02/15 10:45 ID:VllcO7Qd
「・・・そこで、我々は、諸君達に提案したい。
今回の召還は、召還された時に身近にいる者を巻きこんだ可能性が高いと言う事がわかった。
よって、我々の理想に従い、諸君達と共に中央に来てくれる者は、我々と共に理想を目指そうではないか。
幾ら資質がなくても努力すれば、どんなにダメでも多少は開花させる事は可能だ。
中央に入る際に、念のために多少頭の中を覗かせてもらうが、
寛大な理念を持ってして、余たちは受け入れたい。
素晴らしき世界を作り上げようではないか。
……残念だが、中央を目指さない者は、以降敵として見させてもらう。
以上だ、諸君達のよい返事と行動を待っている」

そこで放送は終わった。
「・・・。」
藍の中で、心は決まっていた。
だが・・・だからこその悩みがあった。
「橘さん達・・・どうしましょう・・・。」
「ん?何か言いはりましたか?」
ケンちゃんの声はあっさり無視された。
「うぅ・・・。」
(今の状態であの二人と会えば・・・間違いなく意見の食い違いになりますわね・・・。)
恋を殺した事は知られていないので言い訳は出来るとしても、中央へ行く事を了承させられるだろうか?
「敵に・・・なるしかないんですの・・・?」
出来ないかと言われれば、そうではない。
現に親友を殺している。
(そうですわね・・・了承を得なくとも、私は私、ですわ。)
そう決心すると、やけに清々しかった。
「ケンちゃん、私、中央へ行きますわ。」
「は?本気でっか?」
「ええ。もちろんですわ。」
その藍の笑顔にケンちゃんは凍りつく。
(嫁はんズ・・・わて、ここで終わりかもしれん・・・。)
176動く者・藍:04/02/15 10:46 ID:VllcO7Qd
【鷺ノ宮 藍@Canvas〜セピア色のモチーフ〜(カクテルソフト)分類:招 状態:○ 所持品:拳銃(種類不明) 行動目的:中央へ移動】
【ケンちゃん@ヤミと帽子と本の旅人(ORBIT)分類:? 状態:○ 所持品:嫁はんズ用携帯電話(13台)、クセ毛アンテナ 行動目的:藍についていく・コゲ探し】
177動く者・蓉子:04/02/15 10:47 ID:VllcO7Qd
「一体、何だったのだ・・・。」
蓉子はとりあえず落ち着いて行動を決めることにし、少し開けた森の中で呼吸を整えていた。
(そもそも、何故私は銃を・・・。)
正直、自分でもよく解っていなかった。
ただ、目の前にいた少女から何か言い知れぬ圧迫感を感じたのは事実だ。
「しかし、いきなり撃つことは・・・。」
手元のコルトガバメントを眺める。
「今までもこれほどまでに困惑したことはないのだが・・・。」

キンコンカンコ〜ン!!
 
学校の始業のような鐘の音がいきなり鳴り響く。
「何だ!?」
178動く者・蓉子:04/02/15 10:50 ID:VllcO7Qd
「HAHAHA!! グッモ〜ニング、エブリバディ!!
初めまして、ナイストュ、ミートゥー。
マイネイムイズ、ヴィルヘルム・ミカムラ。
実は、気づいている方もおられると思いマァスが、
みなさんをこの地に召還したのは…………この余なのだ。
ビコーズ、君達には、素晴らしい資質がある。
魔力と言う名のとても素晴らしい才能だ。
余の理想とする世界誰しもが魔法を使える、誰しもが努力しつづける世界の住民となって貰いたく、
余とそれぞれの理念を持つものたちの手によって、諸君達をこの地に召還したのだ。
ところがだ!! 大規模な召還の為か制御しきれず、我々の望んだ以外のモノたちまでが召還されてしまった。
しかも、中には此方側の召還した有望な者達を殺すモノまで現れる始末。
そこで余たちは、この危険性も考え、部外者を排除する事にしたのだ。
しかし、情報不足と一部の者の行き過ぎた行為により、諸君達の身近な人物まで排除してしまうと言う
実に嘆かわしい悲劇が起きてしまった。
だが、恐るべき事は、未だに召還したものを殺す望まれぬ召還されたモノ……イレギュラーとでも言おうか。
そのイレギュラーが複数島にはびこっていると言う事実がある。
そこで、我々は、諸君達に提案したい。
今回の召還は、召還された時に身近にいる者を巻きこんだ可能性が高いと言う事がわかった。
よって、我々の理想に従い、諸君達と共に中央に来てくれる者は、我々と共に理想を目指そうではないか。
幾ら資質がなくても――」
179動く者・蓉子:04/02/15 10:51 ID:VllcO7Qd
蓉子にはそこまでで十分だった。
「ヴィルヘイム・ミカムラ・・・。貴様が戯れに任務中の私をここに呼んだというのか・・・。」
握った蓉子の拳がふるふると震える。
「くだらんっ!己の欲望の為に他者を、関係のない者まで引き込むとは・・・っ!!」
それは蓉子が書記官として大使館に思っている事が言葉になって出たようにも見えた。

「……残念だが、中央を目指さない者は、以降敵として見させてもらう。
以上だ、諸君達のよい返事と行動を待っている」

最後の締め括りが更に蓉子を駆り立てた。
「・・・いいだろう。中央へ向かってやる。だが・・・!」
蓉子は残弾を確認したマガジンを再び銃本体に叩き込む。
「決して仲間にはならんぞ。こんな戯言に付き合うほど暇ではない。邪魔をするなら――殺す。」


【皇 蓉子@ヤミと帽子と本の旅人(ORBIT)分類:招 状態:○ 所持品:コルトガバメント(残弾数12発)、マガジン×4、暗器(クナイ:残数不明) 行動目的:中央へ移動・ヴィルヘルムの暗殺?】
「の…のたれ死ぬかと思った……」
 ギーラッハと決別し、森の出口を目指してどこまでもどこまでもどこまでもどこまでもどこまでも歩き続けて、ようやく出口にたどり着いた春日せりなの第一声がそれだった。
 少女の死体、そしてギーラッハとの邂逅を経て胸に抱いた決意は消えていない。
 だが、せりなはそんなに長く緊張感を維持できる人間でもない。
 今では大分いつもの調子に戻っていた。かなりへとへとになってはいるが。
「ぐっじょぶ…よく耐えたわ、私」
 額をさすりながら嘆息する。
 行けども行けども変わることの無い景色に、思わず「やっぱついてけば良かったかなぁ」と数回思いかけたものの、「いやいや何考えてんのこのせりなさんともあろうものが!」と同じ数だけ木に頭を打ち付けて、悪魔の囁きを打ち払ってきたのだ。
 とりあえず自らの精神力に花丸をあげてから、目の前を横切る舗装された道路に出ようと足を踏み出す。
 と、あることに気が付いてせりなは鼻をひくつかせた。
「……潮の香りがする」
 即座にせりなの脳みそがフル回転する。

  潮の香り → 海が近い → 海の幸食い放題
 (カシャッ) (カシャッ)   (チーン)

 ぎゅるるるる〜
 脳がはじき出した答えに胃が喝采を上げた。
 そういえば、結構な時間何も食べていない。
 とっさに財布の中身を確認する。
 なんとなく取っておいた2000円札が1枚だけ見えた。後は小銭総計128円ナリ。
 食い放題は無理でも、腹を満たすことはできる金額だ。
「よしっ!」
 小さくガッツポーズを決めた後、ハッと気付く。
「……日本円、使えるかなぁ?」
 よくよく考えてみれば、ここは日本ではなかった。
 さっき会った最高にいけ好かない外人は、新しい世界とか何とかほざいていた気がする。
 ということは、最悪の場合地球上ですらないのかもしれない。
(使えないっぽいなー。ってゆーか、誰も住んでないなんてこと…ない…よね?)
 だんだん不安になってきたが、確かめもせずに不安になってるだけなのは自分のキャラではないとも分かっていた。
「うん、きっと大丈夫大丈夫。さっきの…あー、えーと……げろっぱ?…とかいう奴だって日本語しゃべってたし」
 無理やりなポジティブシンキングでそう結論し、
(…それに、あの女の子も日本人みたいだったしね…)
 自分が埋葬した少女のことを思い出してしまい、表情を曇らせた。
 同時にあの男から受けたプレッシャーも思い出し、それに耐えるように自分の肩をぎゅっと抱きしめる。
(私だっていつあの子みたいになるかわからない。辛いけど、怖いけど……でも今は!)
 フルフルと何かを振り切るように首を振り、両手でピシャッと一発頬を張って気合を入れる。
(まだ私は誰一人助けてない!)
 勢いをつけて道路の真ん中に飛び出し、腰に手を当てて仁王立ちする。
 右を向く。海は見えない。
 左を向く。海は見えない。
「こっち!」
 勘だけで左を指差す。
 身体は疲労しているが、気力は十分みなぎっていた。
(絶対に…絶対にあんな連中の思惑通りになんてさせないんだから!)
 まっすぐ前を見据え、せりなは力強く歩き出した。


【春日せりな@あしたの雪之丞(エルフ) 招 状態○ 所持品:なし 】

【補足:ギーラッハへの二人称が「げろっぱ」に】
【全体放送前】
182一瞬の邂逅:始まりの鐘:04/02/16 16:58 ID:3Jejd6c9
「ほう・・・それでは君は郁美君の体に間借り人ということだね」
「ああ、郁美の身体にあまり負担はかけたくないから緊急時以外は引っ込んでいたいのだがな」
ナナス、忠介、郁美・・・というより良門の3人は直人の襲撃の後、当初の予定通り忠介が見たという建物に向かっていた。
道中良門はナナスと忠介に、自分と郁美の関係を説明する。
本来なら良門の出る幕は終わっているのだが。
「郁美の奴・・・強く頭をぶつけすぎたな。全く目覚める気配がないというのはどうもな」
「僕らも迂闊だったね、この状況だからこそ警戒しておくべきだった」
ナナスは郁美の身を危険に晒してしまったことに責任を感じているようだった。
「ナナス君、失敗したなら次にしなければいいだけの事だよ・・・まあ僕が言えた事ではないのだが」
(一国の将と民の運命を双肩に背負っているだけあって責任感はある・・・か。しかしあまり思いつめて欲しくないものだな)
忠介の言葉は普段の調子とは違う軽い感じであった。
ナナスもその言葉の意図を察したのか苦笑する。
「そうだね、肝に命じておくよ」

「そういえば僕らを襲ったのは、郁美・・・良門さんの話を聞く限り僕らを召喚した人間の仲間ではないだろうけれど・・・」
やはり一度襲撃を受けた場所に留まるというのは得策ではない。
それにイレギュラーとはいえ予定通り郁美が目覚めたため行動を開始したのだ。
ナナスの言葉を聞いて忠介は自分達が叩き起こされたのを思い出したらしい。
「しかし次はもう少々やさしく起こしてくれると助かるな。それに仮にも君の体は郁美君の物であるわけだし
僕ら以外の人間に同じような真似をすると郁美君のイメージというのが崩れる恐れもある」
どんな起こされ方をしたのかは彼らの前髪が濡れていることから察していただきたい。
「次は余裕がある状況で郁美にでも起こしてもらうのだな」
それを聞いてナナスと忠介は苦笑するしかなかった。
183一瞬の邂逅:始まりの鐘:04/02/16 16:59 ID:3Jejd6c9

「・・・ほう、これはまた派手にやったものだ」
忠介が見た建物にあと少しと迫った所で忠介が嘆息する。
目の前には辺りの木々が薙ぎ倒されていて、まるで嵐の後でもあるかのようだ。
「さすがの俺でもこんな化け物には勝てんぞ」
良門がいかに強いといってもそれは常識の範囲での強さである。
木を数本まとめて薙ぎ倒すような生物には勝てない。
「引き返すべきなのか・・・」
もしかしたら召喚者側が建物に護衛をつけて近づくものを排除しているのかもしれない。
疑問を口にしたナナスであったが悩んでいた時間は一瞬であった。
「ここは一端引き帰して様子を・・・」

「またお客さんか・・・正直そろそろ勘弁して欲しい所なんだがな」

「───!?」
3人の前に声をかけたのは一見普通の青年であった。
「この自然破壊をしたのは君かい?まあ、君以外にはいないだろうが、それにしても乱雑なものだ。
これでは君の部屋が伏魔殿になっているんじゃないかと危惧を覚えてるが」
いち早く忠介が状況から立ち直り相手に質問・・・時間稼ぎを行った。
「・・・あんたらは今までの連中とは違うようだな、それとこれでも俺の部屋は片付いてる。見た目で判断するんじゃねえ」
忠介の質問に答えたとも無視ともいえない回答して青年は改めてナナス達の姿を観察する。
「そっちの嬢ちゃんは何者だ?化け物みたいな気配がするが・・・」
「ほう、俺の存在に気づくとは貴様の方こそ何者だ・・・一応俺はこの体に間借りしている身分なのでな。
できたらこの身を危険に晒したくはないが・・・」
「俺と同じようなもんか・・・まあ、俺もあんたも同じようなもんだってことか。
俺の方はなぜかここに来てから襲われてばっかりだ。そっちにその気がないならとりあえずその物騒なもんをしまってくれないか」
「おや、これは失礼」
忠介はいつの間にか構えていた改造エアガンをゆっくり下ろす。
「すまないね、こちらもなんか襲われてばかりなもので警戒してしまって」
ナナスは相手を信用するに足ると判断したようだ。
今まで黙って相手の観察に徹していたがそれをやめる。
184一瞬の邂逅:始まりの鐘:04/02/16 17:00 ID:3Jejd6c9

「互いに何者かに襲われっぱなしというわけか」
「どうも最初の相手は俺の中の奴が知ってる見たいだがな・・・さっきからだんまりを決め込んでやがる」
青年──八雲辰人は、心底くたびれているようであった。
「ついさっきの奴は全く知らねえ・・・というか犬に知り合いなんかいねえ」
あまりにも巨大なそれ───フェンリルを犬と言い張る辰人は疲れているようにも見える。
話を聞くと周りの木々もその辰人が言う「犬」のせいらしい。
「辰人君はこれからどうする?僕らは仲間を探してここから帰る方法を探すけど」
ナナスの言葉は暗に一緒に行こうと促す物でもある。
「お誘いはありがたいが・・・どうもとんでもない奴に目をつけられちまった見たいでな。あんたらの方が危ないぜ?
まあそっちの嬢ちゃんだけなら守ってやってもいいが」
「郁美は俺が守るのでな、心配はいらん」
「・・・だそうだ。俺は一人が気楽でいいんでな、頑張ってそっちも帰る方法を見つけてくれや。俺は俺で勝手にやる」
「いいのか?我等と一緒の方が大事な者の所に帰れる可能性は高いと思うが」
「じゃあもしあんたらだけが日本に帰ったら美空によろしく言っといてくれや」
「そうか・・・八雲辰人とやらまた会おう」
「今度は嬢ちゃんの方の人格の時にな」
最後の言葉は笑っていた。

「本当によかったのかな」
「そうは言ってもねナナス君、彼が来ないと言ったんだ無理強いもできないし。君が悩んでもしょうがないことだよ」
「良門さん・・・?どうかしたんですか?」
良門はなぜか辰人と別れた後から口を開いていない。
「あの男馬鹿なのか、正義感なのか全く読めん・・・しかしなんといったかあの男が口にした名前・・・」
「美空、かな?」
「ああ、それだ。覚えて置かねばな・・・」
「?」
「良門さん、それってどういう意味・・・」
185一瞬の邂逅:始まりの鐘:04/02/16 17:01 ID:3Jejd6c9
ナナスが良門の歯に物がはさまった物言いに疑問を抱いた時・・・
「ああ、あれだね。やはり見張りなどはいないようだね」
目標の建物が見えた。
そして・・・

キンコンカンコ〜ン!!

ナナスにとっては聞きなれない
忠介にはつい数時間前まで耳にしていた
良門には意識下で何度か聞いたことのある・・・

始まりと終わりと知らせる音が響き渡った。


【ナナス@ママトト(アリスソフト)招 状態○ 所持品なし】
【小野郁美(良門)@Re-leaf(シーズウェア)招 状態◎ 所持品ハンマー】
【江ノ尾忠介@秋桜の空に(Marron)招 状態○ 所持品改造エアガン、手術用道具入りケース、
液体の入った小瓶3個(うち1個は、塩酸残り半分)ミノタウロスの皮膚を貼り付けた服(白衣ではない)】

【場所:南の結界装置】

【八雲辰人@朝の来ない夜に抱かれて(F&C)狩 状態△(結界の強化と葉月の刀により力激減)所持品なし】
【フェンリル(南の守護)鬼 状態 死亡】
186一瞬の邂逅:終わりの鐘:04/02/16 18:51 ID:3Jejd6c9
(よかったのか辰人?あの魔物のいう通り共に戦った方が戻れる可能性は高いのだぞ)
「一度死んだ身だ、ごちゃごちゃ言ってんじゃねえよ・・・準備はできてるんだろうな?」
(今なら呼び戻しにいくのも間に合うというのに・・・どの道お前の体だ、好きにするがいい)
辰人の中の邪神──無貌の神は説得を諦めたようだ。
「さて、内輪揉めも片付いたしそろそろ出てきてくれよ。まさか完全に気配を消せてるなんて思ってないだろ?」
辰人が向いた正面・・・その周囲の景色が急にぼやけ始める。
「悠人ですら気づくことができなかったのにな・・・化け物が揃ってるな」
景色が元に戻った時そこには碧光陰と岬今日子が立っていた。
光陰の永遠神剣『因果』の能力、気配を消す力でゆっくりと辰人達に忍び寄っていたのだ。
「本当に物騒な客が多い日だな・・・こっちも多忙な身でね。こっちも人数が減っちまったからゆっくりもてなすことはできねえぜ?」
「すぐに帰るさ、こっちの用事さえ済んだらな」
言うと同時に今日子と光陰は辰人に飛び掛っていく。

「本日最後のゲストにしといてくれよ!」
辰人も邪神の爪を持って迎え撃つ。
(なんだ?2人同時に来ないのか?)
光陰は今日子に比べて一歩さがり今日子がレイピアを前に突き出し突撃してくる。
(速い!美空の剣の比じゃねえな、これは・・・)
今日子の連続した突きの前に辰人は防御に専念することを余儀なくされる。
しかしいかに素早いとはいえ無限に撃てるわけではない。
今日子に隙が生じる。
「もらったぁ!」
その隙に辰人の爪が今日子を襲う。

ガキィィン!!

「っち、なるほどそういう戦法かよ」
「今日子は俺が守る・・・」
187一瞬の邂逅:終わりの鐘:04/02/16 18:51 ID:3Jejd6c9
辰人の爪は一歩退いていた光陰に受け止められた。
光陰や今日子の召喚された地での戦法・・・攻撃、防御、支援を完全に分担する戦法、それは人数が多い光陰達に有利に働く。
「俺を倒さない限り今日子の剣は止まらない」
体勢を立て直した今日子の剣が再び辰人に襲い掛かる。
(辰人・・・このままでは埒があかんぞ)
「わかってんだよ、んなことは!!」
このままではいつかやられる・・・そう悟った辰人は戦法を変える。
「待て!今日子止まれ!!」
辰人の変化にいち早く気がついた光陰が今日子に警告するが既に今日子の剣は繰り出された後だ。

辰人は今日子の攻撃を防御しなかった。
突きと同時に今日子に攻撃を叩きこんだのだ。
「う・・・くぅ・・・」
(今日子の傷は浅いか・・・あと一瞬警告が遅かったらやられてたな)
「ちい・・只の剣じゃねえな、手前の剣」
本来なら辰人の体は刀傷の一つや二つくらい瞬時に再生するのだが、一向にふさがる気配がない。
当然、無貌の神の力が落ちている影響もあるのだろうが、それでも傷が深すぎる。
(あれはあまり使いたくないんだが・・・仕方ないか)
今回は幸い今日子の傷は浅かったが次はどうなるかわからない。
「今日子、次で終わらせるぞ」
今日子は光陰の言葉に頷く。
『空虚』の干渉でまだ意識がはっきりしていないのだ。
(それでもお前はお前だもんなぁ・・・)
「そうだな・・・舞踏会はそろそろお開きにしようじゃねえか」
今日子の剣の傷はかなり深いはずなのだが、辰人には軽口を叩く余裕はまだあるらしい。
「こんな状況でなければあんたとはいいコンビになれたかもしれねえな」
自分に似ているな、と光陰は苦笑する。
今日子さえ絡んでなければ手を取り合う可能性もあったのかもしれない。
「でもな───他に守る方法がわかんねえからな!!」
光陰はそれまでとは全く違う構えを取って辰人に突進していく。
188一瞬の邂逅:終わりの鐘:04/02/16 18:53 ID:3Jejd6c9

(防御を捨ててきたか・・・勝機は今しかないぞ辰人!)
「俺もそう簡単には死ねないもんでね!」
いくら光陰の防御が堅いといってもそれは防御に専念している場合である。
辰人は冷静に光陰の攻撃を防御し、殴り飛ばす。
「恨むなら俺を相手に選んだ自分を恨んでくれよ!」
吹っ飛んでいく光陰に辰人が止めの一撃を見舞おうとした時・・・視界の隅に『空虚』を掲げている今日子を捉えた。
(まずいぞ!辰人、よけ・・・)
無貌の神の警告は一瞬間に合わなかった。
『空虚』から放出された雷が辰人に襲い掛かる。

「悪いな、先に地獄で待っててくれ」

自分の意識が何者かに食われていくのが分かる。
雷の傷だけでも十分に致命傷だ。
さすがに助からないだろう・・・無貌の神の力を持ってしても。
(それとも・・・お前ならなんとかできるのかね?)
しかし無貌の神から答えが帰ってくることはなかった。
(ここで・・・終わりか。悪いな美空、頼子、珠姫ちゃん・・・)

最後に辰人は懐かしい・・・学校のチャイムを聞いたような気がした。

「〜以上だ、諸君達のよい返事と行動を待っている」

「だ、そうだが・・・俺達にはあんま関係ないことか」
そもそも自分達が彼らのいうイレギュラーならば中央にいった所で始末されるだけであろう。
「・・・光陰?あたし・・・」
「今日子!?そうか戻ってきたか・・・はは、よかった」
先程まで相変わらず虚ろな目で言葉も話せなかった今日子の意識が戻ったのだ。
「空虚が何も言わなくなった・・・あたし解放されたの?」
「そういうこともあるのかもな・・・なんせとんでもなく強かったしな」
189一瞬の邂逅:終わりの鐘:04/02/16 18:55 ID:3Jejd6c9
今日子の雷撃は力の消費が激しく、使えて一日一回だ。
それを使ってようやく勝つことができた程の相手だ。
空虚も一時的に魔力を得て満足したのかもしれない。
「でも・・・あたしまた人を・・」
「今日子、今は休め・・・お前は疲れてる。そっから後のことは考えようぜ」
(中央・・・か。もしかしたら永遠神剣の束縛から今日子を解放する術が存在するかもしれない)
行ってみる価値はある。
しかし・・・
(今は今日子を休ませる事が先決か・・・)
光陰は自分の腕の中で泣き崩れる今日子をなだめながらその場を後にするのだった。

後に光陰は後悔することになる。
辰人を殺した事を。
空虚の束縛が急になくなったことに疑問を抱かなかった事を。

(この器・・・剣か。あのまま滅びるわけにはいかなかったとはいえなんとも窮屈だな)
『空虚』の意識を滅ぼし無貌の神が新たに『空虚』となったことを知るものは誰もいなかった。

【八雲辰人@朝の来ない夜に抱かれて(F&C)狩 状態死亡 所持品なし】
【碧光陰@永遠のアセリア(ザウス)招 状態○ 所持品 永遠神剣第六位『因果』 目的:今日子を守る】
【岬今日子@永遠のアセリア(ザウス)招 状態○ 所持品 永遠神剣第六位『空虚』(意識は無貌の神)】
190トランスミッション:04/02/16 21:40 ID:3OrsReF4
アイと悪司、それから五十六とあゆ…奇妙な邂逅だったが、それはほんの僅かな時間に過ぎなかった。

ピンポンパンポーン
緊張の中を割って入った放送…4人はやや拍子抜けした感を持ってそれを聞いていた。
そして放送が終わったと同時だった、悪司が追撃を再開するより早く、何故かアイはいずこかへと
立ち去ってしまったのだった。

「っ!逃がしたか…変なタイミングで放送なんぞ入れやがって」
負け惜しみを口にしながら悪司は、そのまま立ち去ろうとする。
「何処へ行くのさ?」
ようやく唐突な展開から立ち直ったあゆが悪司へと声をかける。
「あんたらも聞いただろう?嫁さんの敵討ちにいくのさ」
それは2人にとってまさに衝撃的な言葉だった…。
「その様子だとあんたらあいつらの仲間じゃないだろ?邪魔したな、あばよ」
言葉を失ったままの2人を尻目にまた先を急ごうとする悪司だったが、その時だった。

ヒュ!と悪司の耳元を風が霞める、と、彼の喉元数センチの所の木の幹に矢が突き立っていた。
「待て、故あってお主をこのまま行かせるわけにはいかぬ」
矢を放ったのは五十六だった。
「どういうつもりだ」
予想外の攻撃に怪訝な顔をする悪司。
「何故なら…」
そこまで言いかけて五十六はやや迷ったような表情を見せる、が…意を決して次の言葉を言う。
「何故ならお主の新妻を襲ったのは我が主だからだ」
191トランスミッション:04/02/16 21:42 ID:3OrsReF4
「何だと…テメェあの人でなしの仲間だってのか」
悪司の顔がみるみる間に憤怒の表情に染まっていく、だが五十六は冷静に言葉を発していく。
「確かにランス殿が行ったことは人として許せぬ所業だ、だが、例え弁解の余地なき外道と言えど、
 力ある者に仕えることこそ乱世の処世術、我が忠義にはいささかの揺るぎもない、したがって」
五十六は矢を弓につがえ、悪司に向けて構える。
「どうしても行くというのならば、不本意なれど討たせてもらう」

「おう!良く言った、ならまずテメェから血祭りだ!」
売り言葉に買い言葉で応じる悪司だったが、表の怒りの表情の裏では冷静な計算を行っていた。
(マズイな…)
いかに超人的なタフネスを誇る悪司でも、人間である以上決して鍛えることの出来ない急所は存在している。
五十六の技量ならそれを苦も無く射抜くことが可能であることは、悪司には充分理解できた。
つがえられた矢は5本、
(5本中2本は確実に食らうな・・・そこからどうするか)
問題はその2本をどこに受けるかだ…両目かもしれないし、耳かもしれない、はたまたアキレス腱か…。

そして一方の五十六も、
(5本中2本は確実に命中するはず・・・だが)
その2本で果たしてこの目の前の男を止める事ができるのか…。
にらみ合いはしばらく続いたが、やがて悪司が苦笑しながら踵を返す、
ここで命を張るのは割に合わないと判断したのだ、それに五十六の心情も分からないわけではなかった。
「勝負は預けたぜ」
そう言い残し悠々と立ち去る悪司、その背中はスキだらけだったが、五十六の手は動くことはなかった。
「お見通しというわけか」
彼は一連の会話から、山本五十六という少女がいかなる相手であろうと、背後から騙し射つような真似は
決してしないし、また出来ないということを見ぬいていたのだった。

五十六はそれからまだしばらく考え込んでいたが、やがて。
「あゆ殿…すまぬがここで別れよう」
と言ったときにはすでにあゆの姿はどこにもなかった。
「そちらもお見通しというわけか…」
192トランスミッション:04/02/16 21:42 ID:3OrsReF4
一方、五十六から別れた後の悪司だったが、自分が何時しか背後を尾けられていることに気がついていた。
「せこい真似を…」
と、言いかけたところにその本人、大空寺あゆが姿を現した。
「おい、頂上に野ざらしになっているのはどうするつもりさ」
「るせぇな…」
あゆには構わず先を急ごうとする悪司、しかしあゆはしつこく追いすがってくる。
「現実を受け入れるのが恐ろしくなったんか?だから復讐で自分を忘れたいんか?」
あゆは容赦無く悪司を口汚く罵る。
「……」
悪司は応じることなく、黙々と足を進める、どれくらい経過したのか、ついにあゆの堪忍袋が爆発した。

「あほんだらぁ!嫁さんの亡骸ほったらかしにするつもりかや!!」
「その上、死んだ人間の最後の言葉まで踏みにじるつもりか!コラァ!!この恥知らずがっ!!」
ここまで言われると悪司も黙ってはいられない。
「いいかげんにしやがれ!!俺は何が何でもトコの敵を討つって決めたんだ!」
「これ以上減らず口を叩きやがると」
悪司はあゆの口元を掴んで思いきり引っ張る。
「テメェから犯っちまうぞ」

「みゃだひゃなひひゃふんへなやー」
ふにふにと苦しそうに、だがそれでも懸命に訴えかけるあゆ、それを見ているうちに悪司の手が緩む。
「死んだ人間の言葉に何時までも縛られろとは言わないさ…けれどせめて守ろうとする姿勢は見せて欲しいさ、
 でないとあまりにも浮かばれないじゃないかさ!」
ここぞとばかりに訴えるあゆ、その瞳には涙が光っていた、何事においてもシニカルでリアリストな
彼女には珍しい姿だった。
暫し無言でその様子を見ていた悪司だったが、張り詰めたものが切れたような表情を浮かべると、
意を決したように、元の道を引き返し始めたのだった。
193トランスミッション:04/02/16 21:45 ID:3OrsReF4
山頂にて。
「ここから先へは来るんじゃねぇぞ」
「ああ、思いきり泣いてくるがいいさ」
あゆの言葉に悪司は一瞬むっとした表情を見せたが、
ああとだけ呟くと山の頂に安置されたままの新妻の元に歩み寄る。

「私は決めたさ、お前が何時まで遺言を守るかその嫁さんの代わりに見届けてやるのさ」
背後からあゆが叫ぶ、負けじと悪司も叫び返す。
「勝手にしやがれ!でもよ、あのイソロクはいいのか」
五十六の名前を聞いてあゆは寂しそうに目を伏せて応える。
「次に会うときは多分…敵さ」


【アイ @魔法少女アイ(colors) 装備・ロッド 状態・○  鬼】
【山本悪司 @大悪司(アリスソフト) 装備・無し 状態・△(額に傷 招 行動方針:元子の遺言を守る】
【大空寺あゆ @君が望む永遠(age) 装備・スチール製盆 状態・○ 招 行動方針:悪司に付いていく】
【山本五十六 @鬼畜王ランス(アリスソフト) 装備・弓矢(残数16本) 状態・○ 招 行動方針:ランスを探す】
194葉鍵信者:04/02/17 03:11 ID:HwNNSNUW
 捻れ捻れて。

 再び、場所を森の中へ戻す。
 一人と一匹のコンビがてくてくと歩きつづける。

 ピタッ。
 二人が歩くのを止める。

 「困ったね」
 「ええ、完璧に迷いましたね……」 

 そう、ハタヤマとアーヴィは見事に道に迷っていたのだ。
 木の年輪を調べてみたが、均一になっており役立たず。
 見渡せる場所はないかと探したが、付近には一望できそうな丘はない。
 遠くの方に山が見えるが、いくにしても物凄い距離がありそうである。

 「うーん、大分歩いたし、少し休もうか」
 
 ハタヤマが休憩を提案した。
 二人は、そのまま近くにあった木に寄りかかると一息つく。

 「せめて、方角さえ解れば……」
 「木の年輪もダメ、やっぱりあの遠くの山に登るしかないのかなぁ」
 「標札でも立っていればいいんですけど」
 「流石にそれはないと思うよ……。 あっ」
 丁度、上を見上げたハタヤマににあるモノが目に付いた。
195捻れ捻れて:04/02/17 03:13 ID:HwNNSNUW
 「ちょっと、待っててよ」
 そう言うとハタヤマは、するすると側にあった木を上り始める。
 
 「どうしたんですか、ハタヤマさん?」
 アーヴィが木の上に登ったハタヤマに声をかける。

 「うーん。 木に登れば、何か見えるかとも思ったけどダメだったよー」
 「そうですか……」
 「でも、面白いもの見つけたから落とすね。 ちょっとそこから離れててよ」
 「……?」
 ハタヤマに言われた通りに、アーヴィは木の下から少し離れる。

 丁度、離れると同時にボトッと木の上から幾つか球体が落ちてくる。
 「これは、……リンゴ」
 続いてハタヤマがすたすたと木から降りてくる。
 「本当は、これを見つけたから登ったんだよ」
 えへへと笑顔をアーヴィへと向けるハタヤマ。
 「ほんとだ。 これだけリンゴの木だから目立ったんですね」
 「うん。 ちょっと待ってて、毒味するね」
 そう言うと、アーヴィの制止も待たずにパクッと一口食べるハタヤマ。
 「うっ…………」
 「ハ、ハタヤマさん、大丈夫ですか!?」
 「美味しいいぃぃいい!!!」
 「お、驚かさないで下さい」
 「ごめんごめん、だってここに来てから、やっと取れた食事なもんだから美味しくって」
 「もう……。 心配かけないで下さいね」
 「うん、今度からは気をつけるよ」
 「それじゃぁ、頂きますね」
 ハタヤマの取ってきたリンゴをしゃくっと女の子らしくかじるアーヴィ。
 ハタヤマの方は、既に二個目をがぶりと食べ始めている。
 談話も交えて、束の間の休息を満喫する二人であった。
196捻れ捻れて:04/02/17 03:14 ID:HwNNSNUW
 が、ハタヤマは忘れていた事を今の毒味で思い出していた。
 
 ハタヤマがメタモル魔法を習うきっかけになったのは、
フェンリルの毒を浴びた事が原因であった。
 そのフェンリルは、他でもないハタヤマの闇魔法の師匠篠原さんが正体である。
 当時、学園で女の子を襲う魔物がいるからとクラスメートと一緒にハタヤマが討伐に行き、
変身していた篠原さんを退治した時に毒を浴び、あれやこれやで師弟関係が生まれたのだった。
 そしてメタモル魔法を習うきっかけになった一つに、
フェンリルの毒を定期的に体外へ排出しなくてはいけないというのがある。
 勿論、ぬいぐるみ科チャック族のハタヤマでは、そんな事はできない。
 そしてその為に篠原さんから教わった方法は、とんでもない方法であった。
 <メタモル魔法で変身し、女の子を襲って射精する>
 同意してくれる相手がいれば構わないが、「やらせてくれ」というのもまた無理な相談であった。
 幾ら人間の女の子にモテるために人に成りたがっていたハタヤマでも
実際に襲うのにはためらいがあった……。
 だが、このままでは毒が体内に残留しつづけやがては死にいたる。
 篠原さんの甘い誘惑とそれに負け、闇魔法をメタモル魔法を学びながら、
女の子たちへ悪戯する事で毒を排出していたのだった。
 
 (どうしよう、すっかりその事を忘れていたよ……。
  でも、毎日やらなくても死にはしなかったし、2〜3日はまず大丈夫そうだけど、
 苦しくなってきたら、どうすればいいんだろう……。
  まさか、アーヴィちゃんを襲うわけにも、かといってこんな事をお願いするわけにも……)
 リンゴを食べながらもうーんうーんと悩むハタヤマ。
 実際には、何度目かの悪戯でとっくに毒は排出され尽くしていて、
未だに篠原さんに騙されてるだけなので、その必要性は全くないのだが。
197捻れ捻れて:04/02/17 03:15 ID:HwNNSNUW
 一方、横でハタヤマが悩んでると見えたアーヴィは、
 (ハタヤマさん……。 きっと私の事で悩んでる。
  なんかハタヤマさんってナナスに似てるな。
  お人よしで、自分で背負い込んじゃって……)
 勘違いも全くはなただしかった。

 ずさっ。
 休憩している二人の前にいかつい長身の男が姿を現した。
 「アーヴィちゃん、下がってて……」
 ハタヤマがアーヴィの前に一歩踏み出る。
 「己の名は、ギーラッハ。
  我が主の命により、汝達を中央へと保護しに参った」
 前回のせりなの時の反省を活かして、今度は最初から名乗るギーラッハ。

 「ハタヤマさん、もしかして」
 「あいつの仲間みたいだね……」
 ギーラッハへと聞こえないようにひそひそと話をする二人。
 襲って来ない所を見ると、まだ彼は、ハタヤマたちとアイが交戦した事を知らないようである。
 「ぼくに、任せて、考えがあるんだ」
 「闘うんですか?」
 それならば私も戦うとアーヴィは乗りでようとする。
 「ううん、違うよ。 大丈夫、回避してみせるよ」
 「解りました」
 
 「受け入れられないのなら、此方にも考えがあるが……」
 そういいつつ背中の大剣に手をかけるギーラッハ。
 「やだなぁ。 そんなに怖いこと言わないでよ」
 ニコっと笑顔でハタヤマがギーラッハに語りかける。
 「では、己と共に来てくれるのだろうか?」
198捻れ捻れて:04/02/17 03:26 ID:HwNNSNUW
 「君の主って、ヴィルヘルム・ミカムラでしょ?」
 「な、何故、それを知っている!?」
 ハタヤマにしてみれば当然で、ギーラッハにしてみれば驚愕であった。
 「いやぁ、彼ってぼくの通ってた学園の校長なんだよ。
  ぼくもね、校長に会う為に中央へ行こうとしてたんだけど、道に迷っちゃってね」
 「う、うむ……」
 (どうする? 嘘を言っているようではない。 
 ケルヴァンから受け取った書類によると
 実際に、生徒なのだから今回の事を聞かされて、召還されていたとしてもおかしくはない)
 「いやぁ、召還されたんだけど、気づいたら辺境にいるもんだから吃驚したよ」
 (やはりそうか……。 召還は不安定だったらしいからな。
  予定外へ飛ばされた者がいてもおかしくはあるまいだろう……)
 嘘が嘘を塗り固め、ギーラッハはハタヤマの嘘にはまっていく。
 「大丈夫。 中央の方角と道さえ教えてくれれば、幾らぼくでもたどり着けるよ。
  そう簡単にやられるほど、ぼくは弱くないしね」
 「我が助けはいらず……か。
  ヴィルヘルム殿が目にかけるだけの逸材ではあるな……。
  信じよう。 其方のアーヴィは?」
 「私もハタヤマさんと一緒に中央へ行きます」
 「了解した。 このまままっすぐ北……私の向いている方へだ」
 言いながらくるっと中央へ身体を向けるギーラッハ。
 「この向きの北西に山のような丘が見えるだろう。
  それを目印に北へ進めば、歩いても早ければ数時間で着けるはずだ」
 「ありがとう、それじゃぁ、ぼく達はいくね。
  おっちゃんは、仕事頑張ってね」
 「う、うむ……。 心遣い感謝する」
199捻れ捻れて:04/02/17 03:27 ID:HwNNSNUW
 そのままハタヤマとアーヴィは、ギーラッハの示した中央への方角へと歩き始める。
 それを見送ったギーラッハも、すっかりと信じたようでそのまま次の任務へと移る。 

 「やりましたね、ハタヤマさん」
 ギーラッハが見えなくなった所で、アーヴィがハタヤマに語りかける。
 「変に争って危険な目に会うのはもうごめんだからね」
 前回とは違う、アーヴィを危険な目に会わせたくないと言うハタヤマ。
 「ふふ……」
 そんなハタヤマに優しげに微笑みかけるアーヴィ。
 「そうだ、リンゴ少し持ってきましたよ。
  この先、入手が困難になるかもしれませんし……」
 「さっすが、アーヴィちゃん」

 てくてくと、北へ向かって歩きつづける一匹と一人。
 彼らの行く末には、何が見えるのだろうか?

【ハタヤマ・ヨシノリ@メタモルファンタジー(エスクード):所持品なし、状態○ 招 行動方針:中央へいって全てを見極める】
【アーヴィ:所持品:魔力増幅の杖、リンゴ3個 状態○ 招 行動方針:ハタヤマと共に】
200名無しさん@初回限定:04/02/17 22:46 ID:oElVCLc4
ついでに、書き手BBSに意見。
方角だの地理関係だの明確にしていると、自分の首を絞めかねないと思うぞ?
なぜかみんなここにこだわってるけど。

例えば北にいるキャラと南にいるキャラが絡ませにくくなるし、そんな制限を作ることに意味があるとはちょっと思えない。
ハタヤマ達が北へ中央へと向かうということは島の南にいるということで、
それでは北にいるキャラと絡ませられない、とかな。
今、キャラが島のどのへんにいるのか把握するのだって無駄に面倒だし。

せいぜい中央の近くか島の端の近くか。海か山かとか、ある特定の建物の近くかどうか(建物同士の距離や方角は明確にしない)
とかその程度の区分でいくことをお勧めしとくよ。
地理関係を決めると自分の中で地図が出来上がって楽しいというのは分かるけどな。
201名無しさん@初回限定:04/02/17 22:47 ID:oElVCLc4
ごめん……誤爆。
しかも、糞あげ。殺してくれ。
202考察:04/02/18 21:07 ID:eL+1qPJ7
放送終了とほぼ同時に彼らは、例の建物に辿りついたのだが…。
「なるほど、あんなのがいたんじゃ迂闊に手は出せないな」
良門はそっと木々の影から顔を覗かせ嘆息する。
狼に似た巨大な魔物が、ぐるると唸りながら建物の周囲を徘徊している。
その建物の中からは、確かに何やら”気”のようなものが発散されているのを3人は感じていた。

その気の流れは良門と忠介にとってはただのエネルギー的な物としか考えられなかったが、
魔法科学のエキスパートたるナナスには周囲の状況等を考察した上での答えがどうやらある様だった。
ナナスは悔しそうな表情で2人に説明する。
「結界は単純に彼らの本拠地を守るための物でしか無いと思っていました」
「ですが、実際は外部からの干渉を防ぎ、なおかつ僕たちを逃がさないための物です」

「でも悪い話ばかりじゃないですよ…放送を聞く限り実は帰る方法そのものが一応あるみたいなんです…」
声を潜めるようにナナスは2人に話しかける。

「僕らをこの世界に呼び寄せた召喚装置イデヨンなんですけど、あれは大きな欠点があるんです」
実際はここにはイデヨンは無く、あくまでもイデヨンの稼動に干渉するための魔導装置があるわけだが。
あると仮定してナナスは話を進める。

ナナスの話によるとイデヨンは起動の際、莫大な地脈エネルギーを消費するということだった。
それゆえに無限に等しい高エネルギーで溢れ返っている異空窟以外の場所では実用不可で、
普通の場所では有限のエネルギーを強引に引きずり出すような形で運用することとなる。
そしてそのムリヤリな運用の果てに待つものは…。
203考察:04/02/18 21:08 ID:eL+1qPJ7

「暴走ってことか?お決まりだな」
忠介の言葉に重ねるように良門が口を挟む。
「暴走すればどうなる?」
「この島がどれくらいの大きさなのかは知りませんけど、半分くらいなら軽く吹き飛ぶかも」
こともなげにナナスは言い放つ、ナナス自身、いざとなればイデヨンを異空窟の奥底に切り離して
要塞ごと全速で離脱するという、それだけの覚悟があっての起動だったのだ。

「ああでも、多分多少魔法科学に心得のある相手なら、その危険性にも気がついているはずです
 少なくともイデヨンを複製できるほどの知識を持つ者ならね」
島の半分という言葉にひるんだ2人にナナスはフォローを入れる。

「と、いうことは本拠とは別の場所に設置している可能性が高いというわけか」
「君が先に話したとおり、中心部にしっかりと設置するのがセオリーだろうが、放送の中身が確かなら
 稼動状態があまりにも不安定過ぎる、これでは危なくて本拠には設置できないはず、ということか」
「ええ、暴走した場合、最悪本拠地だけでも守るためにね」

「なら、これから俺たちはどう動けばいい?」
ナナスは少し考えてから応える。
「詳細な地図が欲しいかな…もしくは島全体が見渡せるほどの高い場所に行くか
地脈の充実している場所は地形を見れば大体は見当がつくから」
「それで例えば、地形と照らし合わせて、その場所に何の脈絡も無く雪でも降っていたり
 砂漠化でもしていればそこをエネルギー源としてる可能性は高いかと」

「で、イデヨンとやらを見つけたらどうする」
「状況次第ですね、破壊するとして世界には復元力というものがあります、
 僕らをこの島に招いた元凶であるものを破壊すれば、自ずから僕たちは元いた世界に帰れるはずです」
実はもう一つ考えている手があったが、それをナナスは口にしなかった。
204考察:04/02/18 21:09 ID:eL+1qPJ7
「つまり分かりやすくいえば、今の僕らは糸が伸びきったまま、手元に戻らないヨーヨーみたいなものです」
「なら、原因さえ取り除けば、勝手に元に戻れるというわけか…」
ナナスの例えに納得の表情で頷く忠介。
「あたりまえのようにね」
「だけど、ここでまた別の問題をクリアしないと」
「というと?」

「話した通り、彼らは外部からの干渉を防ぐと同時に、内部からの脱出を阻むように結界を設定しているはずです、
 したがってイデヨンを破壊したとしてもそれだけでは、対処されてしまう可能性が高いです」
確かに生け簀を破っても、その先に定置網が待っているのなら結果は変わらない

「ここからは理想論になるけど、それぞれの結界維持装置と、そしてイデヨンをほぼ同時刻に破壊することが
出来れば…」
「相手に対処のスキを与えることなく、逃げることが出来るというわけだな」
良門が合いの手を入れる。
「で、結界を破る前にイデヨンが暴走したり壊れたらどうなるんだ?」
「島が消し飛ぶのといっしょに死んじゃうか、それとも戻る手段の無いまま、
ここで一生暮らすことになるかのどちらかだろうね」
こんな辺鄙な島で一生涯…それを考えると流石に3人ともげんなりとしてしまう。

「あのさ、ここまで話してくれて悪いんだけど、君のいうイデヨンがここに無い場合はどうなるんだ?」
忠介の言葉にナナスは淡々と応じる。
「先ほども話したとおり、イデヨンは大量のエネルギーを消費します、それに干渉するには
さらに大量のエネルギーを必要とします…ということは」
「危険はますます大きいというわけか」
205考察:04/02/18 21:11 ID:eL+1qPJ7
「少なくとも、そこまでの高エネルギーを代償無しにマトモに制御できる技術は存在しえないと思う、
 等価交換や質量・エネルギー保存の法則は魔法だろうと何だろうと、物質世界での不変原則だからね」
ナナスの言葉に頷く忠介。
「もし、実際にそんな技術が存在していて、自在に使いこなせるのなら」
「こんな回りくどい方法は選択しないと思うし、こんな不安定な結果にはならなかったと思う」
じゃあ、神様の思し召しかもと、そこで忠介が突っ込む。
だとしたら随分と間の抜けた神様だなと良門も笑う。

「しかし実際にお前の方法でやるとしたらかなり面倒だぞ…」
良門に同意するかのように苦笑するナナス。
自分の仮定が正しいとしても、あえてカギとなる装置を本拠とは別の場所に置いているのだとすれば
その守りは本拠地以上かもしれない。

さらに、いくつあるのかも分からない結界維持装置の位置を全て把握し、
なおかつその守りを崩せるだけの人材を確保し、
さらにそれらを全てほぼ同時に破壊する…気が遠くなるような手間だ、
しかも誰が敵で味方かもまるで分からないのだ。
そう考えると素直に中心部に殴りこむ方法を考えた方がマシかもという気分になってくる。

「まだ仮定と予測の段階だから、他にもっといい方法があるのなら喜んでそっちに乗り換えるんで」

そんな3人の耳にまた唸り声が聞こえる。
フェンリルは恐らく八雲の攻撃によってだろうか?幾分弱っているものの、
未だに唸り声を上げて周囲を徘徊している、これ以上の長居は明らかに危険だ。
「まずは協力してくれる人を探そう、それからだね」
206考察:04/02/18 21:11 ID:eL+1qPJ7
【ナナス@ママトト(アリスソフト)招 状態○ 所持品なし】
【小野郁美(良門)@Re-leaf(シーズウェア)招 状態◎ 所持品ハンマー】
【江ノ尾忠介@秋桜の空に(Marron)招 状態○ 所持品改造エアガン、手術用道具入りケース、
液体の入った小瓶3個(うち1個は、塩酸残り半分)ミノタウロスの皮膚を貼り付けた服(白衣ではない)】

【場所:西の結界装置】
207戦友:04/02/19 01:50 ID:E7TjUywT
 鬱蒼と樹木が茂る広大な森、その中でも比較的木々の少ない場所を三人の男が歩いてゆく。
 長崎旗男、高嶺悠人、そして飯島克己。
 悠人は思っていた。
 俺は絶対にファンタズマゴリアへ戻る。
 そして光陰と今日子と、佳織と一緒に元の世界に帰るんだ。
 そう、俺がこの世界でやるべきことは、もう結論が出ている。
 なら、くよくよするのはもうやめだ。
 幸いというか、今は目的を同じくできそうな同行者も二人いる。
 お互いに軽く自己紹介をしてから全然会話が無いが、今後の為にもコミュニケーションをとっておくべきだろう。
 …よし。
「しっかしこの森、どこまで行っても代わり映えしない景色だねぇ」
「………」
「………」
 返事はない。
 数秒、ただ三人の足音だけが聞こえる。
「…あ〜…」
 いきなりくじけそうだ。
 会話のキャッチボールを期待していた悠人は、何とか場を繋ごうと口を開きかけるが、
「…そうでもないようだぞ、高嶺」
 それをさえぎるように先頭を行く飯島が口を開き、足を止めた。
「え?」
「見てみろ」
 飯島が指差す先、前方の少し開けた場所に小屋があるのが見えた。
208戦友:04/02/19 01:51 ID:E7TjUywT

「完全に廃屋だな」
 誰か人がいるのではないかと期待して小屋へとやってきた一行だったが、その期待はあっさりと裏切られた。
 小さなその丸太小屋は、正面から見れば割と頑丈そうにできているものの、側面が酷かった。
 壁の一部が欠損し、破片がそこら中に散らばっている。
 中には生活の気配が見当たらない。
 人がいなくなってから随分たっているようだった。
 飯島は思う。
(だが、これなら少々手を入れれば風雨はしのげるな。それに…)
 小屋の裏手に視線を移す。近くまで来て初めて分かったが、裏手に川が流れているのだ。
(水の心配も無し。拠点としてはアリだな)
 そんなことを考えていると、悠人がじっと小屋の欠損部分をにらんでいるのが目に映った。
「…?」
 眉をひそめて訝しげな顔をしてやると、悠人の方が気づいて話しかけてくる。
「飯島さん、この傷跡どう思う?」
「なに?」
 言われて、壁の傷跡を見る。飯島は悠人の言いたいことにすぐに気づいた。
「傷跡がまだ新しい…か」
 外壁は風雨に晒されて変色しているというのに、傷跡にはその痕跡が全く見られないのだ。
 しかも、乱雑にえぐられたその傷跡は、人によるものではないということが容易に見て取れた。
「大型の獣、熊か何かがいるんだと思う」
「だとしたら相当な巨体だな。戦場なだけかと思えばこんなのまでいるとは…できれば出会いたくないものだ」
 この世の全てが気に入らないかのような不機嫌な顔で飯島がぼやく。
「…熊ではないかもしれん…」
 今まで黙っていた旗男が口を開く。
 見ると、少し離れた地面から何かを拾い上げたところだった。
209戦友:04/02/19 01:53 ID:E7TjUywT
「…羽だ…」
 言って、二人に差し出してくる。
「なんだこの羽は」
唖然としたような飯島の言葉。
それもそのはず、今まで見たこともないような巨大な羽なのだ。
その付け根は人を傷付ける凶器にすらなるだろう。
「まあ何にせよ、やっかいなものがいるのは間違いなさそうだな。この場所は覚えておくとして、遭遇する前にとっとと先へ進むと…」
セリフの途中でいきなり日が陰った。
全員反射的に空を振り仰ぐ。
何かがものすごい勢いで急降下してくるのが見えた。と同時に、
「散れっ!!」
飯島の号令と共にめいめいの方向へ跳びすさる。
そして盛大に大地を揺るがし、その巨大な何かは一瞬前まで三人のいた場所に降り立った。
キュイイイイイイイイィィィン!!!
高く高く咆哮する。
そこでようやく三人はその何かの全貌を確認できた。
210戦友:04/02/19 01:54 ID:E7TjUywT
猛禽の頭と翼、肉食獣の胴体を持ったその異形の魔獣は、ばさりと一度翼をはためかせると、一瞬後には地を蹴って超低空飛行で獲物の一人に向かって突進を開始した。
「って、俺かよ!」
叫んで身構える悠人。
一瞬回避しようかと考えるが、それをするには相手があまりにも速すぎる。
(オーラフォトン展開、間に合うかっ!?)
『求め』を構えて強く念じる。
激突の寸前、ぎりぎりでオーラフォトンの障壁が完成した。
そして激突。ガシイイイィィンと硬いものを打ち付けたような音がする。
「ぐうっ!!」
しかしそれまでの勢いと質量がものを言った。
数メートルも吹き飛ばされ、背中から地面に叩き付けられて大きくバウンドする。
だが、予想外の反発を受けた魔獣の方も、悲鳴を上げてその場でたたらを踏んだ。
と、僅かな風切り音と共に空中に微かなきらめきが走る。
次の瞬間、魔獣の翼から羽が数枚弾け飛んだ。
(ちっ、浅い!)
あまりの手応えの無さに舌打ちする飯島。
(羽毛がクッションになってやがるな。こいつじゃ翼を狙っても無駄か!?)
巧みな指の動きで極細のワイヤーを拳の中に戻す。
続けて横合いから旗男が突進し銃剣を突き出すが、その前に魔獣は一声鳴くと空高く飛び去ってしまった。
211戦友:04/02/19 01:59 ID:SADl534k

「高嶺がやられたか」
「…ああ」
飯島は淡々と、旗男は無念そうに会話を交わす。
 あれだけの巨体で、しかもスピードの乗った突進を受けたのだ。生きているとは思えない。だが、
「いや、死んでないんだけど…いてて」
二人の予想を完全に裏切ってむくりと起き上がる悠人。
 それを見て、二人ともぎょっとした顔を見せた。
だが旗男はすぐに安堵したように悠人に声をかける。
「…身体は何ともないのか、高嶺」
「ん、まあ結構衝撃で息が詰まって頭がくらくらして節々痛いけど、おおむね無事だよ」
 大丈夫だと証明するかのように、多少おどけて答える。
「そうか…なによりだ…もう私は戦友(とも)が死ぬところなど見たくはない…」
「戦友?」
「ああ…共に戦場で命を懸けて戦っているのだ…ならば、お前は俺の戦友だ…」
 大真面目にそんなことを言われて、どう返答したらいいかと視線を泳がせた悠人だったが、
「あ、ありがとう」
 結局照れてそんなことしか言えなかった。
212戦友:04/02/19 01:59 ID:SADl534k

「まぁそれはともかく。貴様、一体どんな手品を使った? なぜそんなにピンピンしていられる?」
 その戦友とやらには俺も入っているのかと内心げんなりしながら飯島が問う。
「ああ、それは――」
 悠人は飯島と旗男に永遠神剣の力を説明する。
 身体能力の増加、オーラフォトンを利用した攻撃・防御・サポート、強力な自己治癒能力など――
「…なるほどな。その剣といいさっきの獣といい、まるっきりファンタジーの世界というわけだ」
 やれやれと大仰な身振りで嘆息する。
「佳織…妹が読んでいた本に同じ様なのが出ていたよ。確か、グリフォンとか言ってたかな」
「フン、グリフォン…か。巨大熊の方がまだ可愛げがあったな」
 相変わらず不機嫌そうな顔で鼻を鳴らし、上空を見上げる。
「しかもしつこいと来ている」
「…ああ…また、来るぞ…」
 上空を旋回していたグリフォンが翼をたたんで降下姿勢に入ったところだった。
「行くぞ、こっちだ!」
 飯島が走り出し、二人が続く。
 比較的木が密集して生えている場所に逃げ込むと、グリフォンは悔しそうに一声鳴き、また上空を旋回しだした。
 どうやら、自由に飛びまわれる場所でないと襲う気はないらしい。意外と知能は高いのか。
「…見逃してくれる気はあるかな?」
 旋回するグリフォンを見上げてつぶやく悠人。
 それを聞いた飯島はフンッと鼻を鳴らした。
「貴様はそう考えて動くべきだと思うのか? 夜になっても諦めなかったらどうする? 奴は俺達が疲れて寝入ったところをゆっくりいただこうと考えているかもしれん。その時になって後悔しても遅いというのは分かるな? ならば、ここで完全に潰しておくべきだ。」
 ぐ、と言葉に詰まる。半分馬鹿にされているのは分かるが、正論だけに言い返せない。
「…だけど、どうする? 空に逃げられたらどうしようもないし、地上でもあのスピードだ」
 そのスピードが殺される場所では戦わない。正しい選択だが、今はやっかいなだけだ。
 ぽん、と飯島が悠人の肩を叩く。
「それについては俺に考えがある。そこでだ、悠人君」
 ……いやな予感がした。
213戦友:04/02/19 02:01 ID:SADl534k

「うおおおおおおおおおおおっ!!!」
 ガシイィィィィィン!
 激突音と共に悠人の身体が宙に舞う。
 吹き飛ばされながらも何とか『求め』を大地に突き立て、飛ばされた勢いを遠心力へと変えて『求め』を支点にグリフォンに向かってUターンする。
「いくぞバカ剣!」
 『求め』を引き抜いた勢いそのままに上段から振り下ろすが、グリフォンは一瞬早く大地を蹴って跳躍、前脚をかするだけに終わった。
「くそっ!」
 また上空に退避し、急降下の隙をうかがうグリフォンに悪態をつく。
(まだか……早くしてくれよ飯島さん!)

 悠人が一人でグリフォンと戦っている訳。
 それは先ほど飯島から受けた指示にあった。
「三分でいい、奴を引き付けろ。罠を張る」
 簡潔にそれだけ言うと、しっしっと空き地へ向けて追い払うようなしぐさをする。
「何で俺が!」と反論すると、「奴の攻撃を食らって平気でいられるのが貴様だけだからだ」と返ってきた。反論終了。
 あげく、旗男にまで「…頼む」と頭を下げられてはやるしかなかった。
 たとえ断っても、「では貴様にはこの状況を打開する有効な策があるんだな?」とか言われて、言い負かされるに決まっている。
 結局、簡単な説明だけ受けてすごすごと囮になりに出てきたのだった。
214戦友:04/02/19 02:02 ID:SADl534k

(防御が間に合っているから無事なだけで、食らっても大丈夫なわけじゃないんだけどな)
上空を警戒しつつ、内心でため息をつく。
展開さえ完了してしまえば、オーラフォトンの防御は絶大な効果を生む。
だが間に合わなければ、強化されているとはいえ生身の身体で直接攻撃を食らうことになるのだ。
(内臓の二つや三つは軽く破裂しそうだよなぁ)
きっと骨もすごいことになるんだろうな、などと考えていると、近くの地面にどすっと音を立てて石が投げ込まれた。
合図だ。
「ようやくか!」
思わず声を上げ、打ち合わせた場所に向けて走り出す。
グリフォンが雄叫びを上げて背後に迫るのが分かった。
オーラフォトンを展開し、振り向く。
(来い!)
今日何度目かの激突。また盛大に弾き飛ばされるが、今度はその勢いを利用して地面を転がり、起き上がって一目散に逃げだした。
215戦友:04/02/19 02:03 ID:SADl534k

 グリフォンは上空に退避しかけていたが、悠人が逃げていくのに気づいて雄叫びを上げた。
 今までしつこく向かってきていた獲物が逃げていく。自分の勝ちだ!
 そのまま向きを変え、今度こそしとめてやろうと低空飛行で後を追う。
 と、獲物がまた足を止めて武器を構えた。何度も何度もしつこいにも程がある。まあいい、倒れるまで跳ね飛ばしてやればいい。
 無様に地面に這い蹲らせ、動けなくなったところで喰らって―――
  
  ――ぞぶっ

 ―――!!!!??
 グリフォンの両目が見開かれた。
 何だ、何が起こった? なぜ先へ進めない? すぐ目の前に獲物がいるというのに、なぜ!!
 それに、首がうまく動かせない。息ができない。なぜ、なぜ!なぜ!!なぜ!!!
 何が起きたのか確かめようと、霞み始めた目で必死に辺りを見回す。
 と、視界に一条のきらめきが見えた。
 右にそびえる木から自分の首へ、反対側を抜けて左の木へ。
 これだ、これに……自分から突っ込んでしまったのか…?
 バカな! こんなものはすぐにはずして、獲物を喰らって――!
 後ろに下がろうとしたところで、どんっ、と何かが背中に飛び乗ってきた。

  ――ズシュッ
  ――ドシュッ

 首の根元から何かが身体に埋まっていく感触、胸元に獲物の武器が突き込まれる感触。
 ありえない! 自分は狩るものでこいつらは狩られるもののはずだ! こんな――
 首元に刺さっていた何かが抜け、先ほどに倍する力で背に打ち込まれる。
 魔獣グリフォンの意識が認識できたのは、そこまでだった。
216戦友:04/02/19 02:06 ID:SADl534k

「ふう」
 ようやく終わったと息をつく悠人に、グリフォンの背から降りた旗男が声をかける。
「…すまなかった…高嶺」
「え、何が?」
 謝られるようなことをされた覚えは無い。
「…お前にばかり負担をかけてしまった。囮は…私がやるべきだったかもしれん」
 目を伏せ、神妙に言う旗男。
「…何言ってるんだよ、長崎さん」
 戦場で鍛えあげられているとはいえ、旗男は悠人のように超常的な力を持たない。
 グリフォンの一撃を受けてはひとたまりも無かったはずだ。
 この戦闘における各人の役割は、悠人自身は適材適所だったと思っている(そりゃあ、最初は文句を言ったかもしれないが)。
「…私は死に場所を探している……それが戦場なら……本望だ」
「……」
「…戦場で散って…戦友のところに――」
「ちょっとまった、長崎さん」
 何を言っているんだこの人は。悠人は旗男の言葉をさえぎって声を上げる。
「あんた、さっき俺を戦友だと言ったよな。もう戦友が死ぬのは見たくないとも」
「……ああ」
「でもあんたが戦友の目の前で死ぬのはいいのかよ。ちょっと自分勝手すぎやしないか」
「……」
 旗男は黙り込んだ。悠人はさらに言葉を続ける。
「それにな、俺だって仲間が死ぬのなんて見たくないんだよ。だから、俺の見てる前で死なれてもらっちゃ困るんだ」
「私に…生きろというのか…」
「ああ、そうだよ」
「しかし…私は…」
 悠人の頭に血が上る。なんでそんなに命を捨てたがるんだ。
 自分と共に戦っていたスピリット達の姿が浮かぶ。
 彼女達の中にも、自分の命を命とも思わない、戦って死ぬのが当然だと考えている者達がいた。
217戦友:04/02/19 02:07 ID:SADl534k

「しかしもかかしも無い! 大体戦場で死んだっていうあんたの戦友達、そいつらがあんたの死を願ってるとでも思ってんのか!」
「………」
「もし戦場で死んだのがあんただったら、あんたは生き残った戦友の死を願うのかよ!」
「………」
「…そいつらは、あんたに生きて欲しいと願ってるんじゃないのか」
 自分なら、そう思う。彼女達が、光陰が、今日子が、そして佳織が生きて幸せになって欲しいと。
 死んだことはもちろん無いが、確信がある。そう思うはずだ。
「…………………………そう…なのだろうか……?」
 長い沈黙の後、旗男がぽつりと呟いた。
 その表情は相変わらずの無表情だが、悠人には旗男の中で何かが変わり始めているように思えた。
「ああ、きっとそうだ」
 だから笑顔を見せ、大きく頷く。
 そして振り返ってもう一人の同行者にも同意を求める。
「なあ、飯島さんもそう思うだろ?」
「くだらん」
 笑顔のまま凍り付く。
(こ、ここでそういうこと言うか…この人は)
 せっかくのいいシーンが台無しだ。
 そんな悠人の様子を歯牙にもかけず、飯島はせっせとワイヤーの回収作業を行い続ける。
「それより貴様等も手を貸せ。ええい、思いっきり突っ込みやがって! 奥まで食い込みすぎだ!」
 回収が思うようにはかどらないのか、いらついた声を上げる。
(……なんで俺の周りはこう、どっかに問題抱えた奴が多いんだ……)
 心で泣く悠人のそばを、旗男が歩き過ぎる。
「高嶺」
 飯島と反対方向に回って回収作業を手伝い始めながら、旗男は言う。
「…もう少しだけ、生きてみようと思う……先ほどの言葉を…よく考えたい」
「……ああ」
 安堵の息を吐き、自分も手伝おうと歩き始める悠人。

 それが聞こえてきたのは、そんな矢先だった。
 ――女性の、悲鳴――
218戦友:04/02/19 02:08 ID:SADl534k

【高嶺悠人@永遠のアセリア(ザウス) 狩 状態○ 所持品:永遠神剣第四位『求め』】
【長崎旗男@大悪司(アリスソフト) 狩 状態○ 所持品:銃剣】
【飯島克己@モエかん(ケロQ) 狩 状態○ 所持品:なし(数分でワイヤー回収可能)】

【全体放送前】
219戦友:04/02/19 02:18 ID:SADl534k
【魔獣グリフォン@魔獣枠  状態死亡 所持品:なし】
220そこにあった光景:04/02/19 03:35 ID:64s7O5yc
「はぁ・・・はぁ・・・。」
あの放送から、かれこれ30分は歩いただろうか?
蓉子は目の前にある大きめな坂を上り切り、眼下に見える建造物に目をやった。
(あれは・・・何だ?)
下まで10メートル程の急な斜面をゆっくりと滑り降りる。
「・・・何かの装置、か?」
蓉子の時代には有り得ないスタイルのそれは、小さく唸る様な音を出しながらそびえていた。
「これは・・・一体・・・?」
その時だった。
「くっ!?」
蓉子は背後に感じた気配を避けるべく、屈み込む。
そこをブオンという空気の避ける音と共に丸太のような腕と鉤爪が通過していった。
右に跳び、同時に銃を抜き放つ。
「ぐぎゃぁぁぁぁあああああっ!!」
獣のような、それでいて人の叫びの様な声を上げてその巨大獣は咆哮した。
「な、何だっ!?」
恐ろしく速い腕の振りは、一般人であれば一溜まりもなかっただろう。しかし蓉子は鍛えた反射神経でそれを難なくかわした。
勢い余った爪が直径1メートルはあろうかという木をいとも簡単に両断する。
「バ・・・バケモノめ!」
221そこにあった光景:04/02/19 03:36 ID:64s7O5yc
蓉子の水平に構えられた銃から慣性を帯びた銃弾が敵を目掛けて放たれる。
肉塊に玉がめり込む嫌な音がした。
「ぎゃあああああぁぁぁぁっ!!」
(効いたっ?・・・いけるっ!!)
絶叫する化け物に立て続けに4射。
どろどろした体液を流しながら、しかしフェンリルは蓉子に飛び掛ってきた。
「その程度の速さでっ!!」
蓉子はコートの中からクナイを抜き、相手の喉元を狙って投げる。
「勝てると思っておるのかっ!?」
だが、そのクナイは腕に軽く当たっただけで弾かれてしまう。
「なっ――!?」
一瞬、隙を突かれた蓉子はそれでも一撃目の振り下ろされた腕はかわし、二度目はクナイでガードした。
強力な突き上げは蓉子を中空へと跳ね飛ばす。
「あうっ!?」
油断すれば意識が吹き飛びそうな状態ながらも蓉子は何とか戦闘に集中することが出来た。
咄嗟に持っていたクナイを投げ、更に3射。
内1発が見事にフェンリルの片目を射抜いた。
「ぎゃあああああぁぁぁおおおっ!!」
痛みに任せて振るわれた腕が周囲に生えていた木々を破壊する。
そして勢い余って建造物と衝突。
222そこにあった光景:04/02/19 03:37 ID:64s7O5yc
ブゥゥー・・・ン。
そんな音がして、建造物の寸前で青白い光の障壁が生じ、フェンリルの腕がそれに触れることはなかった。
(あれは――?一体何だというのだ!?)
光の障壁など作り話の世界でしかないと考えていた蓉子は焦った。
そこに体当たりされ、後方へ吹き飛ばされる。
「――かはっ!」
口腔内が切れたらしく、血の味が広がる。
それを吐き出し、バック転して体勢を整えた。
「ふざけた真似を・・・っ!!」
フェンリルに相当する速さでダッシュし、クナイを直接その腹に突き刺す。
腹部にはしる激痛に再び腕が振るわれるが、その動きはただ振り回すだけで先程の、敵を狙ってのものとは違った。

勝機を見出した蓉子はすかさずその腕を足蹴にして後方へ宙返りした。
空中姿勢を保持しながら弾倉が空になるまで撃ち尽くし、マガジンを捨てるとコートの中から新しいマガジンを取り出し、円心力を利用して装填する。
「終わりだっ!!」
水平に構えられたコルトガバメントから立て続けに連射される。
体勢を仰け反らせながらゆっくりとフェンリルが崩れ落ちる。
地響きを立ててその躯が大地に転がった。
223そこにあった光景:04/02/19 03:38 ID:64s7O5yc
「っはあっ!はあっ!!」
詰めていた息を一気に吐き、荒い呼吸を整えながら蓉子はフェンリルの亡骸を見つめる。
「これは・・・一体何なのだ?」
想像上の生物としか思えなかった。
巨大な狼のようだが、その動きは獣というよりはヒトに近かった。
「ヴィルヘイム・ミカムラ、か・・・。悪戯にしては些かやり過ぎだな・・・。」
そう呟くと蓉子は疲れた身体を結界維持装置にもたれかけ、休息を取るのであった。



【皇 蓉子@ヤミと帽子と本の旅人(ORBIT)分類:招 状態:○ 装備:コルトガバメント(残弾5発)マガジン×3本 クナイ(所持数不明、戦闘後に回収)】
224そこにあった光景:04/02/19 03:44 ID:64s7O5yc
追加:
【行動目的:中央へ。(ヴィルヘルムの暗殺?) 時間帯:全体放送後 位置:北の結界装置周辺】
225そこにあった光景・修正:04/02/19 04:44 ID:64s7O5yc
>一瞬、隙を突かれた蓉子はそれでも一撃目の振り下ろされた腕はかわし、二度目はクナイでガードした。
次の1行が文としておかしいので修正。

修正前「強力な突き上げは蓉子を中空へと跳ね飛ばす。 」
  ↓
修正後「しかし、強力な突き上げはそれを全く問題にせず、蓉子を中空へと跳ね飛ばす。」

反省。
226名無しさん@初回限定:04/02/19 04:45 ID:64s7O5yc
で、ageをすごく反省。申し訳ないです・・・。
227魔法じかけの人形:04/02/19 23:06 ID:wAC1Gki0
 総帥の間の奥にあちこちにコードやパイプが繋がれている大きな機械人形があった。
 「これを使う事になるとはな……」
 ヴィルヘルムは大きな機械人形へ繋がったコードの先にある制御装置を弄る。
 「だが、これこそまさに余の理想とするものの為に作られた魔法兵器だ。
  主の命に絶対に忠実で、魔法使いを絶対視するようにされている。
  ……できた。 さぁ、目覚めよ……!!」
 入力を終えると次第に機械人形へとパイプからエネルギーが、
コードを通し主と認識する為にヴィルヘルムの魔力が送り込められていく。


 総帥の部屋から身の丈3mもある巨大な金属人形が出てくる。
 それは、体格に似合わずにずんずんと廊下を渡り
周りの衛兵達を驚かせながらも要塞入り口のホールへと出て行く。


 「な、なんだ……あれは」
 中央を目指すものたちの対策をしようとホールにいたケルヴァンは、
階段を降りてくる巨大な人型の機械を目に映らせ驚愕した。
 (あんな堂々とした侵入者はいないと思うが……。
  まさか、ヴィルヘルムがあんな機械を使うとも思えない……)
 段々とケルヴァンに近づいてくる機械人形。
228魔法じかけの人形:04/02/19 23:08 ID:wAC1Gki0
 「……くっ!?」
 威圧に耐え切れず、彼は思わず腰の剣に手をかける。 
 「我は闘神ユプシロン。 主、ヴィルヘルムの命に従い中央を守護する」
 「なっ!?」
 『HAHAHA!! そんなに驚かずともよい』
 「そ、その声は、総帥……?」
 『そうだ、通信用水晶を埋め込んであるのでな』
 確かに機械の中から総帥の声が聞こえてくる。
 「ですが、これは一体?」
 機械を最も嫌うヴィルヘルムが機械を使っている。
 しかも自分は、このような存在を知らされていなかった。
 ケルヴァンにとっては、何が何だか解らなく?が頭を占拠する。
 『これこそが魔法の為にある機械。 究極の魔法兵器とも言える存在。
  …………闘神ユプシロン』
 「闘神……?」
 
 闘神。
 それは、ランスや五十六のいた世界の遥か昔に遡る。
 その世界で魔力が世界を制した時代に。
 そして魔人と戦うために作られた存在。
 人に永遠の生命を与えるべく究極の魔法、「バイオメタル」脳細胞を金属に変えるその魔法で、
体長3メートルにも及ぶ巨大な金属の人形に生まれ変わらせたもの。
 残念ながら闘神になると元の人格は失われ、主の命に従うだけの兵器となる。
 だが、魔法を使いこなす機械人形なのだ。
 そのポテンシャルは、非常に高い。
229魔法じかけの人形:04/02/19 23:09 ID:wAC1Gki0
 「これがその闘神であると……」
 『そうだ、破壊されていたのを余が見つけ、この時の為に備えて修繕したものだ』
 そう、闘神ユプシロンは数年前、奇しくもランスの手により破壊されていたのだ。
 ユプシロンには一つの特殊なシステムがあった。
 生体エネルギー供給システム。
 魔法使いの女を背中にある球に入れ、そのエネルギーで無限に活動しつづけるというものである。
 ……が、当のヴィルヘルムが魔法使いを犠牲にする非人道的なシステムを嫌ったため、
中央から電波のように魔力を飛ばし、供給・命令するタイプへと切り替えたのだ。
 無論、本来の供給システムに比べて、効率が悪い為、無限に再生する事は不可能だ。
 また行動範囲も中央から結界維持装置周辺までに限られている。
 「なるほど……。 中央を守護する役には打ってつけと言うわけですが……」
 ヴィルヘルムより説明を聞いたケルヴァンが頷く。
 (そして、ヴィルヘルムの言う事を100%聞く忠実な駒というわけか。
  切り札として隠すわけだ)
 そう心の中で舌打ちするのだった。
 『こいつは、中央付近を巡回待機させておく。 其方も警備を怠るでないぞ』
 「はっ!! 重々に承知しております」
 一礼をするケルヴァンを、そのままユプシロンは通り抜け外へと出て行った。
 「切り札を出した……。 それほどまでに動くわけにはいかない事情が有ると言う事なのか……」

【ヴィルヘルム・ミカムラ:所持品なし、状態△ 鬼】
【ケルヴァン:所持品:ロングソード 状態○ 鬼 行動方針:中央を目指すものへの応対とヴィルヘルムへの詮索】
【闘神ユプシロン:所持品:通信用水晶内蔵 状態○ 鬼 行動方針:中央の守護 備考:移動範囲が中央から結界維持装置付近まで】

勿論、全体放送後。
230出会うは運命:04/02/21 00:54 ID:LM6mP7BI
 出会いと言うものは時として意外な事態を引き起こす。
不幸、奇跡、愛情……そしてこの出会いは何を起こすのだろうか。
 島内を一望する山頂。悪司は眼前の人物を見た瞬間に時間を
巻き戻されたような錯覚を受けた。
「トコ?」
 そんな筈は無い。彼が愛した加賀元子の骸はたった今、即席の
墓標を立てて埋葬した筈だ。
 しかし、悪司へと日本刀の切っ先を向ける相手は元子の姿と
驚くほどダブった。艶のある長い髪、知的さを感じさせる広い額、
怜悧な切れ長の瞳は見据えるように悪司を映している。
 いや、よく見れば別人だ。トコを喪った心の空隙が悪司に見せた錯覚か?
だが、男ですらひるむ気迫、他人の命を預かるリーダーとしての雰囲気、
そしてその奥に潜む脆さ。何もかもが元子と重なる。
(こいつは反則だな。こんな奴と引き合わせるなんて、トコの奴の嫌がらせかな)
 悪司の口元に自嘲とも苦笑ともつかぬ笑みが浮かぶ。
「貴様、名を聞いてるのに嘲笑するか」
 悪司と対峙する相手、新選組副長・土方歳江は静かな怒りを込めた言葉を
乗せてゆらりと剣先を上げた。
(ふん、トコも俺が復員してきて抗争始めた時はあんなツラで向かって
きたもんだな)
「もう一度聞くぞ。貴様の名は?それと倉庫の件に貴様は関係してるか
答えろ」
 間合いは一足。援護は後方の茂みに潜む近藤勇子のみ。沖田鈴音とカモミール
芹沢は山頂への道を逆から周り込んでいる為に、この戦闘には間に合うまい。
 相手は素手でしかも一人、状況は圧倒的に有利の筈だ。だが、剣士としての
勘が歳江の足を踏みとどまらせる。
 そんな歳江の姿を見て悪司は笑った。嘲笑でも苦笑でもなく力強い自信を
抱く不敵な笑い。
231出会うは運命:04/02/21 00:55 ID:LM6mP7BI
「泣く暇も与えちゃくれねえのかトコ。……なら!」
 日本刀など意にも介さず、両手をズボンのポケットを入れたまま、
刀を構えた歳江へと突っ込んだ。刀対無手での戦いのセオリーを無視した突然の
攻撃に歳江も勇子も反応が遅れた。
 悪司の脳裏にオオサカ制圧へと駆け抜けたあの日々が蘇る。
「もう1度、始めてやろうじゃねえか!俺の……山本悪司の喧嘩をよぉ!!」
「歳江ちゃん!」
 勇子の銃剣『虎徹』が火を噴き、悪司の頬を掠める。
 掠めた傷の血を意にも介さず、悪司の蹴りが歳江の鳩尾へ吸い込まれる。
だが、蹴りに合わせて自分から後方へ跳びダメージを消し、開いた間合いを
歳江の片手平突きが悪司へ襲い掛かる。
 一つ、二つ。まさに、神速の突きが喉と心臓を機械の如く正確に狙う。かわせる
スピードでも急所をはずして受けてさえ無事に済む勢いでもなかった。
「甘ぇよ!」
 拳を水平へ振るい、刃身を横面から叩いて強引に必殺の軌道を逸らさせた。
同時に死角の下方から突きの為に伸びた刀の握り手を爪先で蹴り上げる。
「貴様こそ壬生狼を侮るな!」
 刀を叩かれ横へと流れた体を逆らわずに流しす。蹴り上げられた刀を素早く
手から離し、ぐるりとその場で回り、屈みながらの下段回し蹴りが悪司の軸足を刈る。
屈んだ歳江の後ろからは勇子が茂みから飛び出し、上段から悪司の脳天目がけて
『虎徹』を振り下ろす。上下からのピタリと息の合った攻撃こそが集団攻撃を得意と
する新選組の真骨頂だ。
「侮っちゃいねえさ」
 全てが静止する。『虎徹』の銃剣は銃身部分を悪司の左手で鷲掴みにされ、額の
薄皮1枚で止まり、膝骨を折れる勢いで蹴り込んだ歳江の足は、まるで根を張った大木
の如く微動だにしない悪司の足に阻まれた。
「化け物か貴様……」
 歳江の驚愕の呟きと同時に勇子が殴り飛ばされる。歳江が意識をそちらへ向けた
瞬間、肩口に悪司の踵が落とされた。
232出会うは運命:04/02/21 00:57 ID:LM6mP7BI
 激痛と同時に呼吸が一瞬止まる。だが、痛みにのたうつ間も無く胸元を掴まれ
吊り上げられた。痛みで脱力し、だらり両手が下がる。それでも、苦悶のうめきを
ただの一言も漏らさないのは流石としか言いようが無い。歳江の前に相変わらず
不敵な笑みを浮かべた悪司の顔が相対する。
「今度は俺がお前の名前を聞こうか?まさかトコの姉妹とか言うなよ」
「トコ……?知らんな、私は土方。新選組副長、土方歳江だ」
 あくまでも毅然と歳江は答える。たとえその身が敵中にあろうと、彼女の
強き心根はいささかも揺らいではいない。
(まったく、こんな所までトコとそっくりときてきやがる)
「そうか、お前が俺の大事な女とそっくりだったんでな」
 そう言って、無造作に歳江を地面へと放り降ろす。
「貴様っ!」
「悪司だ。山本悪司、職業は暴力的自由業……まあ、ヤクザだな」
 悪司はきびすを返し歳江に背を向けて歩き出していた。
「止めを刺さないのか……!?」
 先刻放り出した刀は手の届く位置に落ちている。未だ戦闘中だと認識
していた歳江にとって、止めも刺さずに敵に背を向けて歩み去る悪司
の行動は、およそ理解のしがたいものだった。
「トコの墓前を血で汚せねえよ。死にたきゃ身でも投げて勝手に死にな」
 言葉に滲むかすかな悔恨。守るはずだった者を守れなかった無敵の強者。
「だがよ、できればトコに似たお前には死んで欲しくねえかな」
 呟いた悪司の言葉と横顔に、歳江の心臓が早鐘を打った。
(なんだ、この男は……。死ぬ為に生きる私に死んで欲しくないなんて世迷言をっ!)
「山本悪司!次に出逢った時こそ刀の錆にしてやる」
 歳江の頭から、悪司へ後ろから斬りかかると言う選択肢はすっかり消えている。
「ああ、楽しみにしてるぜ」
 呵呵と笑いながら悪司は歳江の前から去っていった。
「あいつの女に私が似ているだと……!?」
 胸に湧き上がる例え様も無い感情を抱いて、歳江は去り行く悪司のその背中を
ずっと見ていた。
233出会うは運命:04/02/21 00:59 ID:LM6mP7BI
各キャラ状態

【山本悪司 @大悪司(アリスソフト) 装備・無し 状態・△(額に傷)行動指針:島内制覇? 招】
【近藤勇子@行殺!新撰組(ライアーソフト) 鬼 状態△(軽い昏倒) 所持品 銃剣付きライフル】
【土方歳江@行殺!新撰組(ライアーソフト) 鬼 状態△(打ち身) 所持品 日本刀】  

カモミール芹沢&沖田鈴音は大空寺あゆがいる側から山頂へ向かっています。
234そこにあった光景・改訂版:04/02/21 01:56 ID:2tjMGbmS
様々な意見が出ましたので、改訂版を投下します。前にある「そこにあった光景」は作者として削除としたいと思います。



[そこにあった光景]

「はぁ・・・はぁ・・・。」
あの放送から、かれこれ30分は走り続けただろうか?
蓉子は目の前にある大きめな坂を上り切り、眼下に見える建造物に目をやった。
(あれは・・・何だ?)
下まで10メートル程の急な斜面をゆっくりと滑り降りる。
「・・・何かの装置、か?」
蓉子の時代には有り得ないスタイルのそれは、小さく唸る様な音を出しながらそびえていた。
「これは・・・一体・・・?」
その時だった。
「くっ!?」
蓉子は背後に感じた気配を避けるべく、屈み込む。
そこをブオンという空気のさける音と共に丸太のような腕と鉤爪が通過していった。
右に跳び、同時に銃を抜き放つ。
「ぐぎゃぁぁぁぁあああああっ!!」
獣のような、それでいて人の叫びの様な声を上げてその巨大獣は咆哮した。
「な、何だっ!?」
恐ろしく速い腕の振りは、一般人であれば一溜まりもなかっただろう。しかし蓉子は持ち前の感でそれをかわす事に成功した。
勢い余った爪が直径1メートルはあろうかという木をいとも簡単に両断する。
「バ・・・バケモノめ!」
235そこにあった光景・改訂版:04/02/21 01:58 ID:2tjMGbmS
身を反転させながら、咄嗟に蓉子は襲い掛かるバケモノへと銃を放つ。
肉塊に銃弾がめり込む嫌な音がした。
「ぎゃあああああぁぁぁぁっ!!」
無我夢中で放たれた銃弾は、運良くバケモノから光を奪う。
両の目を潰されたバケモノが暴れ狂る。
(効いたっ?・・・いけるっ!!)
絶叫する化け物に立て続けに4射。
だが、目にあたった時と違い、他の部位では体毛に深く包まれ銃弾が深くめり込まない。
両目からどろどろした血の涙を流しながら、臭いと気配を頼りに、フェンリルは蓉子に飛び掛ってきた。
「おのれっ!!」
蓉子はコートの中からクナイを抜き、相手の喉元を狙って投げる。
「負けるわけにはっ!?」
だが、そのクナイは腕に軽く当たっただけで弾かれてしまう。
「なっ――!?」
一瞬、隙を突かれた蓉子はそれでも一撃目の振り下ろされた腕はかわし、二度目は何とかクナイでガードしようとする。
しかし、強力な突き上げはクナイをたやすく破壊し、蓉子を中空へと跳ね飛ばす。
「あうっ!?」
油断すれば意識が吹き飛びそうな状態ながらも蓉子は何とか戦闘に集中することが出来た。
咄嗟に抜き放ったクナイを投げて牽制し、更に3射を加える。
内1発が見事に再びフェンリルの片目を射抜いた。
236そこにあった光景・改訂版:04/02/21 02:00 ID:2tjMGbmS
「ぎゃあああああぁぁぁおおおっ!!」
どうやら先ほどより深く食い込んだようだ。
もしかすると脳までたどり着いてるのかもしれない。
痛みに任せて振るわれた腕が周囲に生えていた木々を破壊する。
そして勢い余って建造物と衝突。

ブゥゥー・・・ン。
そんな音がして、建造物の寸前で青白い光の障壁が生じ、フェンリルの腕がそれに触れることはなかった。
(あれは――?一体・・・!?)
光の障壁など作り話の世界でしかないと考えていた蓉子は焦った。
そこに体当たりされ、後方へ吹き飛ばされる。
「――かはっ!」
口腔内が切れたらしく、血の味が広がる。
着地するとそれを吐き出し、バックステップで体勢を整えた。
「ふざけた、真似を・・・っ!!」
持てる力の全力の速さでダッシュし、クナイを直接その腹に突き刺す。
腹の方なら毛が少ない。
このクナイなら刺し込めるだろうと判断しての事だ。
フェンリルの光が失われていた事が幸いした。
腹部にはしる激痛へと再び腕が振るわれるが、その動きはただ振り回すだけで先程の、敵を狙ってのものとは違った。
237そこにあった光景・改訂版:04/02/21 02:02 ID:2tjMGbmS
「終わりだっ!!」
そこに勝機を見出した蓉子はすかさず、クナイで与えた傷口へと至近距離から連射する。
マガジンを使い尽くした蓉子は、すかさずフェンリルから遠ざかる。
空になった弾倉を捨て、新しいマガジンを装填し、フェンリルに向けて構える。
重い動きながらも、それでもフェンリルは動こうとするが、
やがて出血が体力を奪い尽くしたのか、
重ね当たった銃弾が脳に届き、致命傷となったのか、
体勢を仰け反らせながらゆっくりとフェンリルが崩れ落ちる。
地響きを立ててその躯が大地に転がった。

「っはあっ!はあっ!!」
詰めていた息を一気に吐き、荒い呼吸を整えながら蓉子はフェンリルの亡骸を見つめる。
「これは・・・一体何なのだ?」
想像上の生物としか思えなかった。
巨大な狼のようだが、その動きは獣というよりはヒトに近かった。
「ヴィルヘイム・ミカムラ、か・・・。悪戯にしては些かやり過ぎだな・・・。」
それにしても、もし最初の射撃がこのバケモノの光を奪っていなかったら・・・・・・。
238そこにあった光景・改訂版:04/02/21 02:04 ID:2tjMGbmS
「ぞっとするな・・・・・・」
フェンリルの攻撃が大振りだったのも、クナイを刺せたのも、
銃を撃ち込む余裕ができたのも・・・・・・。
(これだけの相手で、”これ”だけの負傷で済んだことも・・・)
感覚の薄れた左腕はおそらくガードの際に骨折していたと見て間違いなかった。
まさに奇跡といっていい状態で蓉子は、今を生きている。
「この借り・・・・・・。 高くつくぞ」
そう呟くと蓉子は疲れた身体を結界維持装置にもたれかけ、休息を取るのであった。



【皇 蓉子@ヤミと帽子と本の旅人(ORBIT)分類:招 状態:△(左腕骨折) 装備:コルトガバメント(残弾5発)マガジン×3本 クナイ(所持数不明)】
追加:
【行動目的:中央へ。(ヴィルヘルムの暗殺?) 時間帯:全体放送後 位置:北の結界装置周辺】
【魔獣枠 フェンリルC 状態:死亡 】
239人を棄て:04/02/22 04:16 ID:XJmWT6yc
 武の目から見た九郎の姿は、まさしく悪魔そのものだった。
「銃はもう効かねぇよ!」
 神速の突きが、武の腹に突き刺さる。
 武は呻き声を上げ、腹を抑えながら地面の上に膝をつく。
 その時、カチャリ、という小さな金属音が九郎の耳に届いた。
(もう一人のっ!? まずい、障壁が間に合わない!)
 九郎の焦った顔を見ても、綾峰は表情を変えぬまま、銃の引き金を引く。
 しかしその弾丸は九郎の身体を貫く事は無かった。
「銃など効かぬと言ったであろう? 妾がいなければ、このうつけは今の銃弾に倒れていたかもしれないがな」
 両の掌を九郎の身体に向けながら、アル・アジフが不敵に言い放つ。
 九郎は武を、アルは綾峰を。
 お互いがお互いをにらみ合う事で、その場所の時間が一瞬だけ動きを止める。
 沈黙と、静寂。
 その空気を打ち破ったのは、突然頭上から降って来た音だった。
「が、学校の……?」
「チャイム?」
 武と綾峰が思わず呟く。
 九郎とアルは、突然の事に戸惑いを隠せない。
『HAHAHA!! グッモ〜ニング、エブリバディ!!……』
 妙に陽気な声、しかしどこかくぐもっている所から考えると、おそらくスピーカーのような物から発せられているだろう、その声が九郎達の耳に届く。
 しかしその内容は、現在の九郎達の状況を全て表しているかのような、そしてこの島何故突然召喚されたのか、その答えを全て含んでいた。
「中央? イデオン? それに……」
 行き過ぎた者の行為。
 その言葉を受けて、九郎の脳裏にあの光景が蘇る。
 胸を貫かれた少女と、九郎の前から逃げていった男。
 九郎が武達から誤解を受ける事になってしまった事件。
 九郎も、アルも、武も、綾峰も。
 しばらくその動きを止めて、流れる放送に耳を傾けていた。
240人を棄て:04/02/22 04:17 ID:XJmWT6yc
 そして……、放送が止む。
「アル、今の放送……」
「ああ、そうだな」
 九郎とアルがお互いの顔を見て頷き合う。
「中央に行けば、俺達は元の場所に戻れるかもしれない!」
「今の放送に導かれて、中央に集まった者達を狩る罠だろうな……、って、このうつけがぁ――――――――!」
 アルの怒声が響き渡る。
「なんだと、この古本娘! 今のをどこからどう聞いたって、放送していた奴が俺達をここに呼びつけたんだろうが!」
 アルは呆れたように嘆息すると、幼子に言葉を伝えるようにゆっくりと言葉を紡ぐ。
「ああ、そうだな。しかも、無断で、何の断りも無く。しかも、『行き過ぎた者が排除行為を行う』ような危険な場所に……。九郎、そなたはそんな事を行う人間が『正義』だとでも言うつもりか?」
 アルの言葉を聞いて、九郎は言葉に詰まる。
「確かに中央に行かねば、妾達の状況が変わらない。しかし楽観していれば、死ぬのは妾達の方かもしれないぞ? その『行き過ぎた行為』を行う者達の手によってな」
 アルはそういうと、武と綾峰の方へ目を向ける。
「行き過ぎた行為だと……。それをやったのはどっちだよ! 俺達の仲間を殺しておいて!」
 武が地面の上に膝をつき、アルの顔を睨みつけながら叫ぶ。
「仲間を殺した……か。一つ聞きたいが、その死んだ仲間というのは、そなた達とほぼ同じ年の年齢なのか? それに特殊な……、そうだな、妾が先ほどから使っているような異能の持ち主であったりという事は?」
 武はその言葉を聞いていきり立つ。
 痛む身体など関係無いように、地面から立ち上がると、アルの方へと素手のまま向かっていく。
「ア、アル!」
「九郎は黙っていろ!」
 アルは九郎にそう告げて、近づいて来る武の顔をじっと見つめる。
 お互い、手を伸ばせば届く距離に立ち、そのまま二人は向き合った。
「あいつは……、タマは普通の奴だった! 喧嘩が嫌いで、あんな風に殺されるような、殺されていい奴じゃなかったんだよ! それをこの男は……。だから殺すんだ、俺の手で!」
 アルは無表情のまま、武の慟哭を聞いていた。
 そして、武の言葉が途切れた時、ゆっくりと口を開く。
241人を棄て:04/02/22 04:21 ID:XJmWT6yc
「そなたは九郎がそんな外道を行う男だと、そのように見えるのか?」
 武が小さな声で、疑問の声を上げる。
「そなたはここに立つ間抜け面が、本当に力の無い者達を殺すような男に見えるかと聞いている!」
 アルの怒りの声が響き渡る。
「この男はうつけだがな、すくなくともそなたよりはマシだろう。そなたはうつけの上、おおうつけだ! 状況に流され、自分の頭で考えようとせずに、ただ目の前の不安を取り除こうとする。
一度でも九郎の話を聞こうとしたか? 喧嘩が嫌いだと言ったその仲間の願いをかなえてやろうとは思わなかったのか? 自分中心の考えにも程があろう!」
 アルの言葉は続く。
 九郎と武達の因縁はまったく知らないはずであるのに、アル・アジフは怒っていた。
「九郎! そなたもだ!」
「えっ、俺も!?」
 突然矛先を変えられて、途惑う九郎を尻目に、アルは苛烈な言葉を投げつける。
「誤解を生むような状況に、何故わざわざ自分から飛び込んでいくのだ! この妾が一人で戦っている間、そなたは……!
 大十字九郎! そなたは伝説の魔道書『アル・アジフ』のマスターなるぞ! ならば、もっと自覚を持て!」
「……無理やり契約したくせに……」
 ポツリと呟き、しかしすぐに己の口を塞ぐがもう遅い。
「sぢおえめmwdふぇ@mdふぉえmdふぇmpfめpfd!!!」
 もはや言葉にならない言葉をその口から溢れ出し始めた真なる魔道書。
 数瞬前の戦闘など、忘れてしまったかのようだ。
 その場に集まった者達はアルを落ち着かせる為だけに、しばしの間、時間を費やした。

「……と、ともかく、妾達は中央へ向かう」
 心なしか顔を赤くしながら、アルがそんな言葉を告げる。
「罠じゃなかったのか?」
 九郎が茶化すが、すぐにアルから向けられた視線を受けて口を閉ざす。
「罠であろうと打ち砕くのみ! 妾達の力が合わされば、例え先ほどの奴がマスターテリオン
程の力を持っていたとしても、おそるるに足らん! 違うか? 妾がマスター、大十字九郎」
 九郎は苦笑しながら、目の前で興奮している魔道書に目を向ける。
242人を棄て:04/02/22 04:21 ID:XJmWT6yc
 武達は、アルの言葉を聞いてからというもの、襲ってくる様子を見せる事は無くなった。
 九郎はゆっくりと武の方に近づいた。
「白銀、武……って言ったよな?」
「……何だよ?」
 俯いていた顔を上げて、武が九郎を睨みつける。
「聞いての通り、俺達はこれから中央に向かう。もう信じてもらえないかもしれないが、俺はあんた達の仲間を殺したりしていない、本当だ。あの古本娘が言う通り、俺ってよくいざこざに巻き込まれるんだよな」
 そういって、自分の頭をポリポリと掻く。
「何が言いたい?」
 九郎はすぐに向き直ると、言葉を続けた。
「これからあんた達がどういう考えで動くのか判らないけど、一つだけ覚えておいてくれ。俺は『人間』を殺さない。……俺が言いたいのは、それだけだ」
 九郎はそう呟くと、アルの近くへ歩き出そうとする。
 しかしその動きを止めたのは、他でもない武自身の声だった。
「待てよ」
「ん?」
 九郎が振り向くと、そこには立ったまま真っ直ぐに己の顔を睨みつけてくる武の姿があった。
「俺達はこれから、あの時本当に何があったのかという事を調べる。その事を知っていそうな女を一人知っているしな」
(女?)
 アルの脳裏に微かな疑問が湧くが、特に言葉を告げる事はなく、ただ武の言葉に耳を傾けていた。
「それで、もし。本当の事を知って、その時今のお前の言葉が嘘だと判ったら。俺は人間じゃなくて『鬼』になる。何があっても復讐する。どんな手を使ってでも、お前達を見つけ出して殺す」
 九郎はその言葉を聞くと、ニヤリと笑みを浮かべる。
「ああ。もし、調べても調べても、俺が殺したっていう証拠しか出てこなかったら。その所為で、あんたが人を棄てて『鬼』になるって言うのなら。その時は俺も人を棄てて剣になる。俺はまだ死ぬ訳にはいかないんだ」
 武は九郎の言葉を聞き終わると、左手を突き出した。
 九郎もその手を取る。
「もし、この次出会ったら」
「その時は、武。あんたが謝るか、或いは……殺し合いだ。手加減はしない」
243人を棄て:04/02/22 04:22 ID:XJmWT6yc
 九郎と武は約束を交わす。
 そして二人はそのままお互いに背を向けると、別々の方向へ歩き始めた。

【大十字九郎 斬魔大聖デモンベイン ニトロプラス 状 ○マギウス解除  回転式拳銃(リボルバー)『イタクァ』 残り弾数 19発、自動式拳銃(フルオート)『クトゥグア』残り弾数 17発 招 行動目的と状況 武達と休戦 島からの脱出】
【アル・アジフ 斬魔大聖デモンベイン ニトロプラス 状 △(右肩損傷したまま、ただし回復可能) ネクロノミコン(自分自身) 招  武達と休戦、初音と敵対 島からの脱出】
【白銀 武 マブラヴ age 状 ○ サブマシンガン (後、約一分十秒ほど撃てる) 招 九郎と休戦 初音を探す(珠瀬の死んだ理由探し) 最終目的は元の世界へ戻る】
【綾峰 慧 マブラヴ age 状 ○ 弓 矢残り七本、ハンドガン 14発 狩 九郎と休戦 初音を探す(珠瀬の死んだ理由探し)】

放送中〜放送後
244仮初の協定:04/02/22 11:09 ID:uX0H8k/p
月は彼らの真上に位置し、島に存在する全ての人間を見守るかのように存在する。
───柄にもなくくだらない事を考えてしまった。
その原因は背中に感じる重みのせいなのか・・・
(よく飽きないな・・・)
背中に背負ったプリンは先程から頭上の月を眺めている。
「小次郎、街が見えたわ」
前を歩くエレンが歩行速度を変える。
戦闘態勢に移行したのだろう。
(俺も巻き添え食らわないようにしないとな・・・)
小次郎は先程以上にエレンとの距離を開けた。

予想に反して──いや、予想通りか。
街に全く人の気配はしない。
エレンとしては敵の待ち伏せでもあるかと警戒していたのだが。
見た所、人が住まなくなって相当な年月が経過しているようだ。
「まずは無事な建物を探しましょうか」
「ああ・・・いくら軽いつっても2時間近く背負えば疲れるもんだな」
小次郎の言う背中の荷物はエレンと小次郎の顔を交互に見つめている。
当の彼女は今の状況を本当に理解しているのか疑わしいが。
「それでも・・・状況は待ってはくれない、か」
「何か言ったか?エレン」
「なんでもないわ」

どんなに強くとも人は人だ。
その宿命からは逃れることはできない。
「我とは違うか・・・人は眠る事で様々な者を忘れることができるというが本当なのか」
245仮初の協定:04/02/22 11:10 ID:uX0H8k/p
蔵女の傍らでは葉月が眠っている。
彼女はリリスの寵愛を受けているようだがそれでも人間であることは変わらない。
「忘却しながら生きるのが人の宿命なのかもしれんが・・・」
蔵女は自分にしか聞こえない程の声で呟く。
「忘れる事のできぬ宿命を背負った者もいる、そういうことだな。我は自分の宿命を果たしに行くか・・・」
蔵女はそれだけ呟くと音もなくその場から立ち去った。

「なかなか使えそうな場所はないわね」
「お前の基準が厳しすぎやしないか?いくらなんでも奇襲に対処しやすく、狙撃を受けない場所なんてそうそうない気がするんだが」
エレンは周囲の建物の高さを確認しながら答える。
「この状況では用心にすぎる事はないわ・・・この辺りは駄目ね、見通しが良すぎる」
周辺の建物の高さがありすぎて狙撃に対して全くの無力だ。
「もうちょい先に行ってみるか」
「・・・誰?」
それまでずっと黙っていたプリンの一言にエレンと小次郎に緊張が走る。

(私に気配を気取られなかった?何者!?)
「上手く隠れていたつもりだったのだが・・・ようわかったな?」
一拍遅れて姿を現したのは・・・プリンと対して年が変わらないような幼い少女であった。
「影・・・見えたから」
「月が明るいのが仇になったか、風情がありすぎるのも困り物よの」
目の前の少女はおかしそうにころころと笑う。
「その余裕から見て主催者側の人間と考えていいのかしら?」
既にエレンの言葉は確認ではなく、情報収集を目的としている。
「我の名は蔵女、少なくとも我はお主らをこの地に呼んだ者ではないの・・・我は独自の目的でここにおるのでな」
それを聞いた小次郎が怪訝な顔をする。
「まるで自分からこの島にやってきたような言い草だな?」
小次郎の言葉を聞き蔵女は再び笑う。
「物分かりがよいのは助かる。・・・少々話しすぎたか、葉月が起きる前に決着をつけねばいかんのでな。
我の目的を果たさしてもらおうぞ!」
いつの間にか蔵女の指には真紅の長い爪がある。
246仮初の協定:04/02/22 11:10 ID:uX0H8k/p

蔵女の目的は未だ不明、なぜ自分達を襲うのかわからない。
それでもはっきりしているのは───
(今は状況を把握するより状況に対処するべき──!!)
エレンは連続でベレッタの引き金を引く。
「人は物騒な物を作るの・・・しかしいかなものでも当たらなければ意味がないぞ?」
エレンの腕を持ってしても蔵女に命中させることができない。
蔵女の背丈が低く的が小さいのもあるが、蔵女が外見からは予想もつかない敏捷性を持っているのが原因である。
エレンの銃撃を潜り抜けたちまち蔵女はエレンの懐に入り込む。
「・・・甘いわ」
いつの間にかエレンの右手にはナイフが握られていた。
あえて蔵女に接近させその隙を狙う算段であった。
接近戦なら玲二、ドライすら凌ぐと言われたナイフが蔵女に向かって襲い掛かる。
「なかなかやる・・・と言うておこう」
「なっ!」
エレンのナイフより早く蔵女はそのままエレンの横を勢いはそのままに通過していく。
(狙いは小次郎達・・・!)
左手のベレッタを構える・・・蔵女が避けたら小次郎達に当たる──エレンが一瞬の躊躇をした瞬間、蔵女は小次郎達に肉薄する。

「娘・・・主から感じる得体のしれぬ魔力、今のうちに処理させてもらうぞ」
「この餓鬼が・・・逃げろプリン!」
プリンと蔵女の間に割って入った小次郎だが武器など持っていない。
「俺の拳を受けてみろ!小次郎パーーンチ!!」
「・・・戯れはもう終わっておる」
蔵女は小次郎のパンチを軽々と避けるとプリンの方に駈けていく。
「なっ・・・待てこら!!」
小次郎では蔵女に追いつけない。
エレンの狙撃に期待するにも片足を引きずるプリンでは大した距離は移動できていないだろう。
「くそ!プリン走・・・ってお前なんでそこに突っ立ったままなんだよ!!」
247仮初の協定:04/02/22 11:11 ID:uX0H8k/p
振り返って見ればプリンは小次郎が背からおろした場所から一歩たりとも動いてはいなかった。
(駄目だ!間に合わねえ!)
「一瞬で楽にできたらよいのだが、我はこの爪でしか干渉できぬがゆえ許せ」

                   「プリン!!」
                 「小次郎!かがんで!!」

             エレンと小次郎の声、銃声が一斉に重なる。

「まさか・・・こんなことがあろうとはな」
蔵女が肩から血を流して片膝をつく。
プリンは何事もなかったかのようにその場に立っていた。
エレンが蔵女に向けて再びベレッタを構える。
「何が目的が知らないけれど私達の敵になるのならやるべき事はひとつ」
蔵女はエレンの方を向く。
その顔はどこか楽しそうですらある。
「敵・・・か。ならば主が我を討つ理由は既にない」
「・・・どういうことかしら?」
蔵女はプリンを見上げながら
「我は確かにこの娘に赤い爪を突き立てた・・・しかしこの娘には傷がつかぬ。
この娘を現状では我は殺せぬし、同時に・・・恐らくだがこの娘から感じる魔力も今は宝の持ち腐れであろう」
「お前の言ってることは俺達にはさっぱり理解できんのだが・・・」
小次郎が困ったように口を挟む。
「ふふ・・・とりあえず今は戦う理由はなくなった。それで十分であろう?」
「今後また襲ってくる可能性は否定しないわけね」
エレンはまだベレッタを蔵女に照準したままの体勢である。
「主らが極度にこの娘に構わなければ襲うことはありえぬ・・・それに今我が消滅すればこの世界は崩壊するやもしれぬぞ?」
「どういうこと・・・?」
「この島に呼ばれたのは主らのような普通の人間だけではないということだ。
248仮初の協定:04/02/22 11:21 ID:uX0H8k/p
無駄に力の強い者を排除せねばいつ崩壊するともしれん。我らの他にそれをできそうな者がいないのでな・・・」
「はっ!こんな餓鬼が世界の守護者きどりか」
「お主はもう少し実のある事を言った方がよいぞ?」
質問の方向が逸れ始めた。
無駄な舌戦を繰り広げている場合でもないだろう。
さっさと次の質問をした方がよさそうだ。
「あなたはこの島から帰る方法を持っているの?」
「あれば苦労はしないのだがな・・・ふむ、互いに島から脱出する方法が見つかるまで休戦するというのはどうかな?」
「会っていきなり襲い掛かってきた奴を信用しろってのか?」
また小次郎が口を挟む。
「いいわ・・・最初から友好的じゃない分かえって割り切れる」
エレンは今度は無駄な言い争いにならないうちにさっさと割って入る。
「っち・・・しょうがねえか」
小次郎は自分が言った皮肉は挨拶のようなつもりであるから無視されても気にしない。
今は情報を集める事が最優先だ、人手は多いほうがいい。
・・・例え相手が信用できかねる者であっても。
「互いの連絡は通信機で行い、もし目の前に直接姿を現した時は敵とみなす・・・これでいいかしら?」
「ああ、できればそうならない事を祈りたいものよの。・・・そろそろ戻らんと感づかれるな、我は行くぞ」
「ええ、定時連絡を忘れないようにね・・・」
肩に銃弾が命中したはずなのだが何事もなかったのかのように蔵女は下駄の音を響かせながら去っていった。

「ばいばい・・・」
プリンが蔵女に向かって呟いた。
「本当に空気を読まないな・・・お前は」
小次郎とエレンの心配など彼女は知る由もなく、何事もなかったかのように月を見上げていた。

「あの娘・・・望みがないとは。あれでは我の赤い爪ではどうにもならんな・・・
この世界の者が全てあの様な者ばかりなら我も宿命など忘れる事ができるのだがな」
帰りの道中、蔵女は己の未知の存在に嘆息するばかりであった。
249仮初の協定:04/02/22 11:21 ID:uX0H8k/p
【天城小次郎@EVE〜burst error(シーズウェア)状態△(右腕負傷)狩 所持品 食料 水 医薬品 地図 通信機】
【エレン@ファントムオブインフェルノ(ニトロ+)状態○ 招 所持品 ベレッタM92Fx2 ナイフ 目的:玲二を探す】
【名無しの少女(プリン)@銀色(ねこねこソフト)状態○ 片足の腱が切れている(絶対に治らない)? 所持品 赤い糸の髪留め】
【目的:島からの脱出】

【蔵女@腐り姫(ライアーソフト)状態△(左肩負傷)招 所持品 通信機】
【葉月@ヤミと帽子と本の旅人(オービット)状態○ 招 所持品 日本刀】
【目的:突出した力の持ち主の排除】

【全体放送前、デリリュームの後の話です】

補足:小次郎の通信機について
第53話(トラフィックス)においてバッグの中から通信機が出てきたとの描写が存在するため
書き手様の記入漏れと判断し、持っているものとしました。
250そして僕らは間違えていく:04/02/22 21:47 ID:q79Aa3ge
「もし、この次出会ったら」
「その時は、武。あんたが謝るか、或いは……殺し合いだ。手加減はしない

 二人の男はそう約束を交わし、
 そしてそのままお互いに背を向けると、別々の方向へ歩き始めた。

――――はずだったのだが。

「…………」
「…………」
 沈黙が重い。足音が、やたら空虚に感じる。

 しばらくたって、耐えかねたかのように武はつぶやいた。
「……ついてくんなよ」
「……おまえがな」
 また、沈黙。

 ややあって、今度はアルがつぶやいた。
「いや、九朗。なぜ同じ方向へ歩くのだ?」
「……この先に連れがいるんだ」
「む。そうか。なら、武とやら。なぜ汝れらはなぜついてくるのだ?」
「……同じところに仲間をおいてきたんだよ」
「そうか。なら同じ方向に歩くのは道理となるな」

 言われんでもわかっとるわ!! 九朗と武は、心中で叫んだ。
 
 ややあって、綾峰がぼそりと呟いた。
「でも大丈夫かな。遙さん。撃たれていたし……」
「というか、あいつら、本当にお前の連れなのか? 撃ったのはお前の指示じゃないのかよ?」
「いい加減否定するのもめんどくせぇけどな。俺とは関係ない。撃ったのは別の――――」
251そして僕らは間違えていく:04/02/22 21:48 ID:q79Aa3ge
 そこで、九朗はピタリと動きを止めた。

 そう、狙撃は九朗のあずかりしらぬこと。つまりあそこには第三者の害意が介入していたわけで――――

「間抜けかよ俺は!!」
「九朗? どうしたのだ?」
「話は後だ、アル! 悪いが白銀、先に行く!!
マギウスになって一刻も早く奴らのところに行かねぇと!!」


********************************
 
 
 時間を少し巻き戻す。
「ほんの手慰みな、お遊びのつもりだったというのにね……」
 呆れたような言葉とは裏腹に、初音の心は興奮に満ちていた。
 遠目に見えるのは、黒を纏う怪異。魅せられたように、初音はそれを見つめ続ける。

 アル・アジフに初音が出会ったとき、初音は言った。
 拾いものだと。さぞいい贄になるだろうと。
 とんでもない誤解だった。あれはそんなかわいげのあるものじゃない。
 白銀武は自分が何と対峙し、どれほどの幸運に恵まれているか、まるで理解していない。
 あの怪異は、初音と互角。
 人の身である初音とではない。力を解放し、大蜘蛛となった初音と互角なのだ。

「さあ、どうしたものかしら」
 対等のものと戦える。その喜びが初音の心を奮わせる。
 対等のものと戦う。その恐れが初音の心を震わせる。
 
 戦えば、この身はおそらくひどく傷つく。勝てるかどうかも分からない。
だから楽しい。心が浮き立ってしまう。
252そして僕らは間違えていく:04/02/22 21:50 ID:q79Aa3ge
 それに、アル・アジフのあの力。
贄として手に入れたのなら、どれほど自分が強くなるか、想像がつかない。
 
 だから、初音は蜘蛛になることを決めた。
「水月。申し訳ないわね。良い子にしているあなたにご褒美としてこのような場を設けたのだけれど……」
「え……?」
「それどころではなくなったわ」
 初音の指が走って、トン、と水月の首筋を叩き、水月は一声すらあげずに昏倒して。
「ごめんなさいね。私が蜘蛛になるところを見られたくないのよ」
 それを確認することすらしないで、放送を聞き流しながら、初音は機をうかがうように
マギウスをみつめ続け、だからふと孝之たちに視線を戻した時、
それはもう肝心なことが終わったあとだった。

******************************

 さらに時間を巻き戻そう。
 銃に撃たれた遙は、その痛みからか意識を失っていた。
 倒れた遙の、右足からはコンコンと血が流れている。

「ねぇ! 彼女治療しないと! ねぇってば!」
 千鶴がそう呼びかけるが、血を流す遙の姿を見て孝之は凍り付いて動くことが出来ない。

「役立たずね……!」
 千鶴は舌打ちすると孝之に背を向け、己のバックからハンカチや、テーピングを取り出した。
 千鶴はラクロス部に所属しているため、この手の簡易な応急セットなら持ち歩いている。
まさかこれを使って、銃創を治療することになるとは思っても見なかったが。
253そして僕らは間違えていく:04/02/22 21:51 ID:q79Aa3ge
 慣れぬ応急処置に悪戦苦闘しながら、それでも千鶴は手早く消毒を終え、今度は止血を始める。
「白銀君達、大丈夫かしら……あの男、許せないわ」
 歯噛みしながら、その場で最善の行動を尽くそうとする、千鶴。
 
 だが、結局のところ彼女も判断を間違えていた。本来ならば、二発目以降の狙撃を警戒して、治療より前にこの場を離れるべきなのだ。
九朗が犯人という保証などどこにもないのだから……

 孝之はというと、血の匂いに酔って立ち竦むだけだった。
だが、身動きがとれないまま、一つだけ彼は正しい判断をしていた。

(違う……あいつがやったんじゃない……)
 それは確信できた。
 そんな回りくどいことをする必要がないのだ。九朗と孝之達に、それほどの力の差があることぐらい、孝之にだって分かる。
(じゃあ、誰だ……誰が遙を……)
 九朗じゃない。無論、遙でも自分でもない。なら残されたのは誰だ?

(ひょっとして……こいつらなんじゃないか?)
 ぎこちなく腰のコルトパイソンに手が伸びる。

(そりゃ、もちろん確証はないけどさ……でも、ありうるんじゃないか?)
 自分に背を向け、遙の治療に勤しむ千鶴に銃口を向ける。

 馬鹿なことはやめろと、どこか心の中でそう思う。
 彼女は一生懸命遙の手当てをしてくれてるじゃないか。
 でも、分からないじゃないか、とも思う。
 手当てをしているふりをして、自分を油断させているだけかも――――
254そして僕らは間違えていく:04/02/22 21:53 ID:q79Aa3ge
(そうだよな……別に撃つわけじゃないんだ……
何があるか分からないしさ。こうやって銃を構えて優位に立つのは正しいことだろ……?
そうだ……遙かのためにもこれは正しい判断なんだ……!)

 もしこのままならば、孝之は銃を千鶴にむけたまま、何もできなかっただろう。
判断を保留して先延ばしにする。それが彼の傾向なのだから。
 だけど――――

キンコンカンコーン という放送の鐘の音。
それに呼応して、
「な、なに!?」
 千鶴が立ち上がり、反射的に腰のマグナム銃に手を伸ばして。

 その動作が、自分が銃を構えているのに気づいて千鶴が反撃しようとしたと、
一瞬そう思えてしまったから。

パン、と乾いた音が響いた。


「ガ……ハ……?」
 口からあふれ出た血を、千鶴は不思議な気持ちで見つめる。
(え……なんで?)
 熱くて寒い、奇妙な感覚。足から力が抜けて、ドサリとうつぶせに千鶴は倒れこむ。

「……う、撃っちまった俺……」
 後ろから孝之の声が聞こえる。
「しょ……しょうがないよな……こいつが急に動いたりするから……」

(しょうがない……?)
 千鶴の心に疑問が浮かぶ。

「そ、そうだよ。俺、悪くないよな。ひょっとしたらこいつらが遙を撃ったのかもしれないしさ……そうだ、俺、遙を守ったんだよ。うん」
255そして僕らは間違えていく:04/02/22 21:54 ID:q79Aa3ge
(な……なによそれ?)
 どうやら、私はこの男に撃たれたらしい。でも、何それ?
 人を撃っといてしょうがない? 悪くない?

「わ、悪いとは思うけどさ……こ、これしかないって。そ、そうだよ。あんたらも急に襲いかかったりしてヤバイ連中だったし……
ほら、大十字に戻ってこられても、俺うらぎっちゃってるからヤバイし……
に、逃げなくちゃならないからさ、正当防衛だよな。これ」

(何を、言ってるのよ、こいつ――――!!)
 許せなかった。撃たれた事だけじゃない。
 その後で、この男が言い訳を続けている事が、どうしようもなく許せなかった。
 こんな奴に私が殺されるなんて――――許せない!!

 ――――許せなかったけど、孝之が千鶴に与えた傷は、どうしようもなく致命傷だったから、
 腰のマグナム銃に手を伸ばす力なんかなく、
 それどころか恨み言を一言いう権利すら与えられず、

 千鶴は、死んだ。


 ――――こうして、鳴海孝之は誰にも観察されないまま殺人者になった。
 ついでに言えば、窃盗犯でもあった。逃げ出す際、千鶴のマグナム銃を奪ったのだから。

 ただ、事実をありのままに記述しろというならば、
涼宮遙を、足を怪我して足手まといになるはずの彼女を、見捨てるという選択肢は孝之の意識に浮かぶ事すらなかった。
 そのことを付け加える必要がある。

*********************************
256そして僕らは間違えていく:04/02/22 21:55 ID:q79Aa3ge

 マギウスと化し、森を疾走する九朗。その肩に乗る、手のひらサイズに小型化したアル。
「うつけが」
 そのアルが、九朗から事情を聞かされポツリとつぶやいた。
 その声は、普段九朗を罵倒するような激しい声音ではない。
それよりももっと静かな、そして深い怒りがその声に込められていた。

「見損なったぞ、九朗」
「……分かってる。俺は大馬鹿野郎だ」
「ああ。まさか汝れが傷ついた女をほうっておいて、私怨のために力を使うとは思わなかった」
 
 武に追われ、遙のところから逃げ出した。そこまではいい。そのときに九朗には力はなかったのだから。
 だが、アルと合流し、力を得た後ならば、武達のことなど放っておいて一秒でも早く遙達の所に向かうべきだったのだ。

 そう。九朗だけはそういう判断をするべきだった。
 自分が無実だと知る九朗だけは、第三者の悪意が介入している事。
 一度目の狙撃ががあったのなら二度目以降の狙撃の可能性を考えることができたのだから。
 
(なのに俺は――――!)

「力を持たぬ者のために戦う。汝れは……妾のマスターはそういう男ではなかったのか?」
 いっそ激しく罵倒してくれた方が気が楽だった。
 だが、アルは静かに九朗をそう諭す。
「ああ……そうだな。すまない」
 それがキツイ。アルの目に、怒りだけじゃなく、悲しみが見えてしまったから。
257そして僕らは間違えていく:04/02/22 21:56 ID:q79Aa3ge
 歯噛みしながら黒い疾風と化し、そうしてたどり着いた先、見たものは。

「……間に合わなかった、のか?」
 うつぶせに倒れる、少女の姿。確か、委員長と呼ばれていた少女だ。

「くそ! すぐに治癒を!!」
 そう叫んで、九朗は千鶴を抱きかかえ、魔力を込めようとするが。
 アルはゆっくりと首を振った。
「無駄だ九朗……死者を生き返らせることはできん……安らかに眠らせてやれ」

 その言葉に、九朗はガックリと膝をついた。千鶴の体を取り落とし。つぶやく。
「俺のせいだ……」
「九朗……」
「俺のせいだろ。俺が判断をミスっちまったから」
「それはちがう九朗……すまぬ、さっきは妾が言いすぎた……」
 だが、アルの言葉は九朗に届かず、自責の念で九朗はうなだれる。

 ――――その、九朗の心の折れた瞬間が、初音の待ち望んでいた機だった。

 巨大な蜘蛛が、その巨体に似合わぬ神速の走力で九朗に飛びかかり、
「く、九朗――――!?」
「――――!?」
 アルの警告を意に介さず、展開されたマギウスウイングの間隙を縫って、

 ゾブリ

 と、その尖った前足が九朗の腹を貫いた。

*********************************
258そして僕らは間違えていく:04/02/22 22:12 ID:q79Aa3ge

 木立の向こうから聞こえる銃声と木々をなぎ倒すような音に、
千鶴の下へと急いでいた武と彩峰は思わず足を止めた。

「な……なんだよ、これ」
「……多分、戦ってる。大十字と何かが」

 二人は顔を見合わせると、千鶴と別れた場所にむかって足を速めた。
もうすでに待っているはずの友人が亡くなっていることなど、知るはずもなく。

【大十字九郎@斬魔大聖デモンベイン(ニトロプラス) 状: △(腹部に大ダメージ ただし回復可能マギウス
回転式拳銃(リボルバー)『イタクァ』 残り弾数 19発、自動式拳銃(フルオート)『クトゥグア』残り弾数 17発
(招) 行動目的と状況 武達と休戦 島からの脱出】
【アル・アジフ@斬魔大聖デモンベイン (ニトロプラス) 状: △(右肩損傷したまま、ただし回復可能)
ネクロノミコン(自分自身) (招)  武達と休戦、初音と敵対 島からの脱出】
【白銀 武@マブラヴ(age)  状:○ サブマシンガン (後、約一分十秒ほど撃てる) (招) 
九郎と休戦 初音を探す(珠瀬の死んだ理由探し) 最終目的は元の世界へ戻る】
【綾峰 慧@マブラヴ(age) 状:○ 弓 矢残り七本、ハンドガン 14発 (狩) 九郎と休戦 初音を探す(珠瀬の死んだ理由探し)】
【榊 千鶴 @マブラヴ(age) 状:× 死亡 (狩)】
【鳴海 孝之@君が望む永遠(age) 状態:○ (狩)  コルトパイソン/弾数不明 マグナム銃/6発】
【涼宮 遙@君が望む永遠(age) 状態:△(右足銃弾貫通、気絶、治療ずみ) (招) 拳銃(種類不明)】
【速瀬 水月@君が望む永遠(age) 状態:△(暗示、贄、昏倒) (狩) スナイパーライフル(鬼側の武器を初音が持ってきた)】
【比良坂初音@アトラク=ナクア(アリスソフト) 状態:◎(大蜘蛛化) (鬼) なし 行動目的:アルを手に入れる】
259そして僕らは間違えていく:04/02/22 22:20 ID:q79Aa3ge
すいません、訂正。

と、その尖った前足が九朗の腹を貫いた。
      ↓
と、その尖った前足が九朗の左肩を貫いた。


それから、

大十字九郎@斬魔大聖デモンベイン(ニトロプラス) 状: △(腹部に大ダメージ ただし回復可能)マギウス
回転式拳銃(リボルバー)『イタクァ』 残り弾数 19発、自動式拳銃(フルオート)『クトゥグア』残り弾数 17発
(招) 行動目的と状況 武達と休戦 島からの脱出】

                 ↓

大十字九郎@斬魔大聖デモンベイン(ニトロプラス) 状: △(左肩に大ダメージ ただし回復可能)マギウス
回転式拳銃(リボルバー)『イタクァ』 残り弾数 19発、自動式拳銃(フルオート)『クトゥグア』残り弾数 17発
(招) 行動目的と状況 武達と休戦 島からの脱出】

に訂正願います。
260人を棄て:04/02/22 22:56 ID:XJmWT6yc
>>239 訂正

「中央? イデオン? それに……」 を

「中央? 魔法? それに……」、という風に訂正します。

スレ汚しすいませんでした(´・ω・`)
261カモメは歌う、悪魔の歌を:04/02/23 01:24 ID:RcRb+VR9
「そこ押さえておいてくれ」
「こう?」
絶壁と絶壁との間をかなり強引に切り拡いて作ったようなしなびた漁港。
遠葉透と広場まひる、それから牧島麦兵衛は油に塗れながらもそこにあった漁船のエンジンの整備を行っていた。
この3人がいかなる場所で出会い、そしてここまで至るのにどれほどの葛藤があったかは省略するが、
ともかく今の彼らの目的は合致していた。
と、エンジンが軽快な音を響かせる。

分からないなりに努力した甲斐があった、これで何とか行けそうだ。
「ねぇ?これで良かったのかな?」
不安げにまひるが透に問い掛ける。
「良かったのか…って、助けを呼んでくるしかないだろ、携帯も通じないし」
そう、彼らはひとまず船で島を脱出し、救援を呼んでくることにしたのだった。

「でもぉ…」
「大丈夫、日本語が通じるってことはここは日本のどこかだと思う、それに見ろよ」
透が指差した先には、赤錆が浮いたオロナミンCの看板があった、小さな巨人ですというあれだ。
そしてさらに透はそっとまひるに耳打ちする。
(大丈夫、天使だっているんだから、あんな連中別に特別でも何でもないさ)

じゃあ、ここに来る前に見た、怪し気な言葉が描かれた標識とかは何なんだよとは横で聞いていた麦兵衛は
とても言えなかった。
それに麦兵衛自身もやや弱気になっている、そうだここは日本なんだ、余計なことは考えるな、
このまま船でしばらく沖に出れば携帯も通じるようになるし、そしたらすぐに助けがやってくるはずだ。
しかし一時的とはいえ、何も出来ないままこの島を去る…。
それは人一倍正義感の強い麦兵衛には耐えられない屈辱だった。
だがそれでもどこか頼りないこのコンビを放って行くわけには行かなかった。
つまり牧島麦兵衛はそういう男だったのだ。
262カモメは歌う、悪魔の歌を:04/02/23 01:29 ID:RcRb+VR9
そんな彼の心中を察したのか、2人はあえて何も言わない、きっと彼にも辛い出来事があったのだろう。

やがて見様見真似ながらも準備は整い、3人は街で集めた食料等を船に積み込みこんでいく。
そしてエンジンは景気のいい音を響かせ、おんぼろ漁船は颯爽とまではいかないがとりあえずは船出したのだった。
ちなみに3人とも、何とかエンジンを起動させることは出来たが、操縦することは出来ない。
操縦席のカジを回せばその方角に船が曲がる、それくらいのことが理解できる程度だ。
だが、それでも構わない、携帯が通じる場所まで出られればそれでいいのだ。
どんなにここが本土から離れていても、丸1日もあればきっとそこまで到達できる、気候からいっても
南の果て、いわゆるマーカス島やら、沖の鳥島なんてことはありえないだろうし。
「どっちに向かう?」
「日本列島ってやつは南北に長いだろ?だから北だな」
麦兵衛の言葉を受けて透はカジを切っていく。
こうして無謀にも(無論、彼らなりの勝算があってのことだが)海原に漕ぎ出した彼らの運命はいかに…。

【広場まひる(♂)、遠葉透@ねがぽじ(Active) 状○ 所持品なし 行動目的:島から脱出、救援要請】
【牧島麦兵衛@それは舞い散る桜のように(Basil) 招 状態△ 所持品なし 行動目的:島から脱出、救援要請】

携帯電話は日用品とします(ただし島では使用不可)
263葉鍵信者:04/02/23 01:46 ID:AphAuxrm
カモメは歌う、悪魔の歌をの作者氏へ。
見ていたら、書き手BBSへお越しください。
264葉鍵信者:04/02/23 01:53 ID:AphAuxrm
今の段階では、>261-262は審議が必要と思われるのでNG扱いと言う事で。
「そこ押さえておいてくれ」
「こう?」
絶壁と絶壁との間をかなり強引に切り拡いて作ったようなしなびた漁港。
遠葉透と広場まひる、それから牧島麦兵衛は油に塗れながらもそこにあった漁船のエンジンの整備を行っていた。
この3人がいかなる場所で出会い、そしてここまで至るのにどれほどの葛藤があったかは詳しくは書かないが、

麦兵衛が執拗にこの島に残ると言い張り、透と殴り合いの喧嘩になったこと、
ひなたが道中妹たちのことを思いだし泣きじゃくった事などはあえて記しておこう。
ともかく、彼らはお互いの身に起こった状況を話し合い、そして結論を出した。

そして今、彼らはその目的に向かい合致協力していた。
と、エンジンが軽快な音を響かせる。

「そこ押さえておいてくれ」
「こう?」
絶壁と絶壁との間をかなり強引に切り拡いて作ったようなしなびた漁港。
遠葉透と広場まひる、それから牧島麦兵衛は油に塗れながらもそこにあった漁船のエンジンの整備を行っていた。

ひなたらが気絶していた麦兵衛を介抱してからのことだが
脱出を主張する透と、執拗にこの島に残ると言い張る麦兵衛とが殴り合いの喧嘩になったこと、
ひなたが道中、まひるらの事を思いだし泣きじゃくった事など様々な事があった。

ともかく、彼らはお互いの身に起こった状況を話し合い、そして結論を出した。

そして今、彼らはその目的に向かい合致協力していた。
と、エンジンが軽快な音を響かせる。


(全体放送前です)
267いんたぁみっしょん改訂版:04/02/24 00:38 ID:qz23Zh3L
後半部分からです。


 「無影!!」

 三人の目の前に、無影の姿が映し出される。
 「貴様、よくもぬけぬけと!?」
 双厳が刀に手をかけ、続いて十兵衛と命も構えを取る
 「クックックック……。 おおっと、やりあいに来たわけじゃねえぜ?」
 慎重に距離を取りながら、無影が話を切り出す。
 「何のようだ?」
 十兵衛が怒声混じりに語りかける。
 「先ほどの話、悪いが聞かせてもらったぜ。
  どうやら、置かれた境遇は一緒みたいじゃねえか……」
 「それがどうした?」
 「十兵衛、先ほど煙幕で逃げ出してきたって言ったよな?」
 「そうだが……」
 「お前さんとその物騒なもん持ったお嬢ちゃんの二人がかりで逃げ出したんだろ?
  その女の強さはどんくらいだったんだ?」
 ニヤニヤとしながら無影が話す。
 「痛い所をついてきやがるな……。 数度切りあっただけだが……
 はっきり断言できる、勝てないとわかったからだよ」
 十兵衛の悔しさが声に現れる。
 「やっぱりな」
 「此方が全力なのに対して、向こうはまるで鼠をいたぶる猫のような余裕を見せてた……」
 「お前にそこまで言わせる程の相手だったのか……?」
 双厳が驚く。
 「鼠と猫ってのは、言い過ぎたかもしれないが、それでも相手はまだ全力を出してるようじゃなかった」
 「結構結構……」
 無影が十兵衛を挑発するかのように声を上げる。
268いんたぁみっしょん改訂版:04/02/24 00:39 ID:qz23Zh3L
 「それで、お前は、何をしにきたんだ? 決着をつけに来たわけでもなさそうだが……」
 双厳と違って、十兵衛はそう簡単に挑発にのろうとはしない。
 生気の溢れていたあの場所であったからこそ、無影を倒せるチャンスだったのだ。
 今、再び何もハンデのなくなった無影と戦えば、こっちが消耗するだけ。
 頼みの綱は、双厳の秘策だが、この様子では……。 と打算をしていた。
 「お互い、見知らぬ土地で、仲間もいない。
  どうだ? この島から脱出するまでの間、協力しあうと言うのは……」
 「貴様がそれを言えた口か!!」
 無影の自分勝手な意見に、双厳が怒り飛び掛ろうとする。
 「待てッ!!」
 それに十兵衛が静止をかける。
 「落ち着け、双厳。 やつの言う事にも一理ある。
  あの四人組と俺と命が出会った少女……。
  次にいっぺんに来られた場合は、俺たち三人でもどうなるかわからん……。
  そこを襲われた場合どうなる……」
 「御名答、幾ら俺でもそれなりの規模の組織を一人で相手にするのは無理なんでね。
  それにこっから脱出する為の情報を集めるのもな」
 「無駄口をぉぉぉぉぉ!!」
 怒りを抑えきれず双厳が無影へと飛び掛る。
 「おいおい、二重影が発動してないお前で俺に勝てるかよ!」
 ドゴッ。
 双厳の腹へと刀の柄が打ち込まれる。
 「がふっ!?」
 突き飛ばされる双厳。
269いんたぁみっしょん改訂版:04/02/24 00:39 ID:qz23Zh3L
 「冷静さを欠いちゃ、どっちにしろ勝てないぜ」
 ふん、と鼻にかけたように彼は嘲笑した。
 「こっちだって早くこんな所とはオサラバしてぇんだ。
  それともお互い帰るのが遅れた結果、あのまま変な方には働いて欲しくないだろ?
  俺からしてもあの開けっ放しは、都合が悪いんでね……。
  お前らからすれば、どっちにしろ絶望的だろうな……」
 「それがどうした……?」
 目を無影をにらめ付けさせながら立ち上がり、再び構えを取る双厳。
 「解ってねぇなぁ……。
  あの双子のお嬢ちゃんたちを放っておいていいのか?
  十兵衛、お前は、あのまま放っておけばほぼ幕府は転覆するぜ?」
 「イル、スイ!!」
 「くっ……」
 双厳と十兵衛がそれぞれ痛い所を突かれ、口を歪める。
 「いいんだぜ? 俺はこのままやりあっても帰るのが遅くなるだけだからな」
 「……だが、貴様が裏切らないと言う保証があるのか?」
 まだ怒りの収まらぬ双厳に代わって、幾分か落ち着きのある十兵衛が無影に向かって言う。
 「ふぅむ……代価を見せろってことか。 ま、いいだろう」
 不適な笑みを浮かべながら、無影は自分の手に刀を添えると、軽く切って見せた。
 「なっ!?」
 一同は、驚いた。
 血こそ出てないものの無影の体が確かに切れたのだ。
 直ぐに修復されたものの、無影は幽体で物理攻撃が無効なはずである。
 「どういうことだ?」
 「この島に来てから、どうやら半分具現化されてるってわけよ。
  こうなっちゃばらばらにされれば、さしもの俺でも死ぬかもな……」
 「それが誠意ってやつか……」
 そこで十兵衛は、考え始めた。
270いんたぁみっしょん改訂版:04/02/24 00:40 ID:qz23Zh3L
 攻撃が通用するのであれば、
彼の言う通りにバラバラにしてやれば、倒せるのかもしれない。
 だが、それは予想であって、絶対ではない。
 切り口が直ぐに戻ったように、直ぐに回復されるかもしれない。
 感情では、仇である無影を今すぐにでも倒したい。
 だが、理性が、幕府を守る者として歯止めをかけさせる。
 (イチかバチかのリスクのでかい賭けだな……)
 「解った……」
 「おい、十兵衛、本当にいいのかよ!?」
 「すまんが、俺の目的は、幕府転覆を防ぐ事だ。
  その為なら、最善と思う策を取らせて貰う」
 ベストがなければ、ベター。
 「双厳、お前だってあの双子を守ると約束したんだろう?
  それともここで無影と延々と争うか?」
 「……ちっ」
 完全に納得はできない為、そっぽを向いてしまう双厳。
 「それに俺としてもお前に死なれるのは困るんだよ。
  無事に一緒に元の世界に戻ってもらわねえとな」
 言いながら無影は、双厳を指差した。
 「ざまぁみろ、つい先日、二重影を殺しちまったばっかだからな……」
 「そう言うことだ……」
 「調子に乗るなよ、無影……」
 そう言う双厳に十兵衛が続ける
 「……解ってると思うが、無事に戻れた時は……」
 「ああ、解ってるよ」
 「「「真っ先に決着をつけてやる」」」


【双厳@二重影(ケロQ) 狩 状態○ 所持品 日本刀(九字兼定)】
【柳生十兵衛@二重影(ケロQ) 狩 状態○ 所持品 日本刀(三池典太光世)】
【命@二重影(ケロQ) 狩 状態○ 所持品 大筒 煙弾(2発) 通常弾(10発) 炸裂弾(3発)】
【無影@二重影(ケロQ) 狩 状態○ 所持品 日本刀(籠釣瓶妙法村正)備考:物理攻撃半減】
271不死者たち:04/02/24 00:44 ID:qz23Zh3L
 傍目から見てもいらいらした三人組が森を歩いている。
 といっても、怒りのオーラを出してるのはうち一人なのだが……。
 「双厳……、もう少し落ち着けないのか? 」
 こんな殺気だっていては、敵にも気づいてくれと言わんばかりである。
 「十兵衛、お前だって、悔しくないのか!? 後一歩だったんだろ!?」
 まだ物足りぬのか、十兵衛へ八つ当たりをかける双厳。
 「確かに、無影は親の仇だ……。 
  だが今の俺たちには背に腹を代えれない理由がある。
  悔しくも、あいつに指摘された通りにな」
 「まぁまぁ、それに私たちからは、離れているようですし……」
 命がなんとか双厳をなだめようとつげたした言葉がまずかった。
 ピキッ。
 明らかに、周囲にそんな擬音が走ったのが、二人に感じ取れた。
 「おい、命……」
 「あ、す、すいません」
 慌てて謝る命。
 それもこれも無影と双厳の因縁が原因である。
 『流石に一緒に行動するのは、そいつの調子じゃ無理だろ?
  なら、余り離れないように別行動を取らせてもらっとくぜ。
  なぁに、どうせ離れてても双厳の位置は解るんだ。
  危なくなったら、そっちに行ってやるよ』
 洞窟から出た後に、無影が提案した行動。
 そして無影が双厳にかけた二重影の呪い。
 そのせいで双厳は無影に居場所を把握されている。
 命の発した言葉は、双厳のその心の傷に触れたのだ。
 「……ぉぃ、余計に双厳の殺気が高まったぞ」
 「……あーん、どうしたら……」
 小声で双厳に聞こえないようにやり取りする十兵衛と命。
272不死者たち:04/02/24 00:45 ID:qz23Zh3L

 一方、彼らの遥か後方から、その様子を遠目に見ている無影がいた。
 双厳の殺気の代わり具合を感じ、その様子をニタニタと嘲笑しながら、
周囲をじっくりと観察していた。
 (さって、双厳の居場所は解ってるんだ。
  まずは、情報収集からだな……)
 「ん?」
 ふいに無影は、あさっての方を向いた。
 (なんだ…………? 凄い負の力の流れを感じるが……)
 彼が感じた負の力は、ハタヤマのものである。
 魔力資質者ではないためにハタヤマの意識や映像が頭に響くことはなかったものの
幽体という身体が、島に響き渡る負の力……憎悪の感情の流れを感じ取ったのだ。
 「あっちか…………」
 風が吹いたように、幽体が感じ取った流れのしてきた方をみつめる無影。
 対して、前方では、ぐんぐんと前進していく三人の姿がある。
 やがて、負の流れは、収まる。
 (どうせ、居場所は解るし、俺は半無敵だしな……)
 自らの幽体と実力にうぬぼれを抱く無影。
 「あの三人ならそう負けんだろう…………行ってみるか」
 そうして、無影は、流れてきた方へと向かうのだった。

 どのくらい歩いただろうか?
 しばらく、無影は感じ取った流れの方へ向かっていた。
 「そんなに遠くじゃないと思ったんだがな……」
 確かに、無影の言う通り、彼らの位置は、ハタヤマとアイの戦闘場所に比較的近かった。
 このまま歩き続ければ、彼らのいた崖沿いにたどり着けるだろう。
 だが、ハタヤマとアーヴィは目覚めた後に中央へと歩き始め、
それよりも前にアイは、そのまま次の目標へと向かっていた。
273不死者たち:04/02/24 00:51 ID:qz23Zh3L

 歩きつづける無影の瞳が前方に一つの点を発見した。
 「っけ……、随分と禍々しいやつだな、こりゃ……」
 愚痴を喋りながら、無影が刀を抜く。
 彼の感覚もまた、あの人影から、禍々しい気を感じとる。
 段々と視界にも赤い甲冑に身を包んだ男が来るのが認識されていく。

 「あれは…………、どうやら駆除対象のようだな」
 自分の存在を確認すると刀を抜きにかかる無影を見て、ギーラッハは悩んだ。
 「説得に応じる奴ではなさそうだが……」
 彼もまた無影が闇に潜むものであるのを感じ取っていた。
 そして、少なからず彼が善人ではないということも。

 「何のようだ?」
 二人の距離が射程範囲ぎりぎりに詰まった時、
先に無影がギーラッハへと問い掛けた。
 「我が名は、ギーラッハ。
  この島に舞い込んだ異分子を駆除する使命を受け仰せた。
  だが、無益な殺生は好まん」
 「ってぇと、従わなければ、殺すか……。
  さっきの四人組に比べりゃ、ましか。
  けど、生憎様、俺はお前達に従うつもりはないね。
  とっとと元の場所に返して貰おうか」
 無影が刀を握り締め、構えを取る。
 「話し合う余地はなしか……。 よかろう」
 ギーラッハも剣を持ち構えを取る。
274不死者たち:04/02/24 00:55 ID:qz23Zh3L
 
 沈黙が続いた。
 互いに様子を見、互いに相手の実力が相当なものであると認識したのだ。
 (ほーう……、こんなやつもいるのかよ……。
  こりゃ、とっとと切り上げた方が良さそうだな)
 (……できる。 それにこの余裕、ただの剣客ではなさそうだな)
 二人の沈黙の視線の間に葉が舞い落ちた。
 「……!!」
 それを合図に、達人同士の切りあいが開始する。
 「せい!!」
 「ぬんっ!!」
 無影とギーラッハの刀と剣の刃がぶつかり合う。
 「いい刀だ……そして貴殿の太刀筋も鋭い」
 「ふん、そっちもとんでもない力だな」
 ギーラッハの力に徐々に鍔迫り合いを押される無影。
 「はっ!!」
 ギーラッハが力を入れ、無影を押しにかかった瞬間
 「素直に付き合う気はしないんだよ!」
 隙をついて後方へと飛びのく、無影。
 だが、ギーラッハは止まらず、そのまま無影へと剣を振り降ろす。
 「ちっ!?」
 避けきれず、無影の右手の指が何本か切り落とされる。
 再び互いに距離を起きながら、刀を握りにくそうに持つ無影を前にしてギーラッハが言う。
 「良くぞ、交わした……。 だがその手で、これ以上まともに打ち合えるかな」
 剣客にとって、利き腕の指を失うのはかなり致命傷である。
275不死者たち:04/02/24 00:57 ID:qz23Zh3L
 もはや勝ちは決まったのだの如くとギーラッハは言い放ったが、
 「くっくっく、甘く見ないで欲しいね」
 「なんだと?」
 余裕の表情を見せながら、指を拾う無影。
 「指が惜しいのか? だが…………、まさか!?」
 そこでギーラッハはやっと気が付いた。
 切り落とした所から血の一滴も滴り落ちていない事に。
 「残念賞……」
 すぐさま指をくっつけた無影が、一瞬の隙をついてギーラッハに詰めより首に一刀をかける。
 「おのれ!!」
 今度は、ギーラッハが後ろへ下がる形となる。
 「手ごたえありって感じだな……」
 今の一撃でギーラッハの首の皮が切れ、血が流れ出す。
 「ふ、ふははははは!!」
 ギーラッハが笑い出した。
 「何がおかしい? 浅いとはいえこのままいけば出血死は間違いないぜ?」
 「楽しい……」
 「あぁん?」
 ギーラッハの高笑いの理由が、無影には解らなかった。
 だが、直ぐに彼はその理由を知る事となる。
 「なっ!?」
 ギーラッハの首の傷が……、血の流れが治まり、彼の傷口と同じようにすぅっと消える。
 「お前も不死者かよ……」
 「ふっ、種類は違うようだがな……」
 「やれやれ、こりゃ、決着のつけようがないな……」
 (どうもこいつ武人家タイプらしいな……。 そこに付け入る隙があるかもしれないな)
 「終わりのない戦い……。 どちらが先に根をあげるか」
 ギーラッハが再び構えを取る。
 「無益な戦いだと思うけどねぇ……」
 かったるそうにしながら無影も刀を構える。
 「出切るなら、全力の時に戦いたいものだな」
276不死者たち:04/02/24 01:07 ID:qz23Zh3L
 (…………ここだな)
 無影は、ギーラッハ回避の切り口をこの台詞に見出した。
 「なら、今が俺にとっては好機というわけだ!」
 勝負に出た無影が大振りの一撃にかける。
 「甘い!!」
 刹那、まだ日のある半減した状態とはいえ、
本気を出したギーラッハの一撃が、彼の胴と足を切り分けた。
 「なっ………!?」
 無影には何が起こったか解らなかった。
 ギーラッハが、確かにとてつもない力をこめた斬撃を繰り出した。
 しかし、それは、まだ無影に届く距離のものではなかった。
 なのに、彼の胴体は真っ二つにされている。
 「こ、こんな技を隠し持ってやがったのか……」
 「貴様の事は忘れん……」
 ドサッ!!
 胴と足が地に落ちる。
 「ち、ちくしょう……」
 その言葉を最後に、切り分けられた無影はそのままピクリと動かなくなった。
 だが構えを取ったまま、ギーラッハは目前の無影を眺めつづける。
 やがて、彼がこれ以上動かないと解ると、
 「やはり、このようになっては、復活できぬか……」
 無影を死んだと思ったギーラッハは、その場を立ち去っていくのであった。
277不死者たち:04/02/24 01:16 ID:qz23Zh3L
 ギーラッハが立ち去ってしばらく時が経過した。
 周りが安全だと確認した無影は、這いつくばり、胴と足の接着にかかる。
 「はぁはぁ……」
 やっと身体が接合したものの、彼に疲労の色が見える。
 「なんて技だ……。 鎌居達って奴かよ」
 実際は、空間を切断しているのだが、無影からしたら、鎌居達現象のように見えたのである。
 「死んだふりでやり過ごせると思って成功したのはいいが……誤算だったな。
  体力が失われてやがる」
 軽い傷を元の姿に戻すには、使われるエネルギーも微々たる物である。
 だが、胴と足という大きく切断された幽体を、時間を置いて一つに繋げたのだ。
 それにかかったエネルギーは、無影にかなりの負担をかけた。
 「どっかでやすまねぇとな……」
 

【双厳@二重影(ケロQ) 狩 状態○ 所持品 日本刀(九字兼定)】
【柳生十兵衛@二重影(ケロQ) 狩 状態○ 所持品 日本刀(三池典太光世)】
【命@二重影(ケロQ) 狩 状態○ 所持品 大筒 煙弾(2発) 通常弾(10発) 炸裂弾(3発)】
【無影@二重影(ケロQ) 狩 状態△(疲労、休めば回復) 所持品 日本刀(籠釣瓶妙法村正)行動指針:休息を取る。備考:物理攻撃半減】
【ギーラッハ@吸血殲鬼ヴェドゴニア(ニトロプラス)鬼 状態○ 所持品ビルドルヴ・フォーク(大剣)】
278葉鍵信者:04/02/24 01:24 ID:qz23Zh3L
デリリーム中〜後から全体放送前です。
279美女(?)と野獣:04/02/24 01:53 ID:nudTrPBl

 ざっぱーんと波が岩を打ちつける音が聞こえる、周りを絶壁で囲まれた入り江。
 ここにあるものといえば、岩場の間に申し訳程度の浜辺と桟橋、離れた道沿いに一軒の倉庫と、木材や鉄骨の山。
 そして、ようやく海までたどり着いた春日せりなくらいだ。
「結局、人もいないしご飯もないかぁ…」
 がっくりとうなだれる。今、彼女はかなりヘコんでいた。
 道沿いに歩いて初めて人工物(倉庫)を見つけたときは、やっぱり人がいるんだと喜んだものだ。
 だが、いざたどり着いてみれば資材置き場と絶壁しかない寂れた場所で、人の気配など全く無い。
 人がたくさんいる賑やかな港だったりするといいな♪ と思って来たのだが、ものの見事に裏切られた格好になった。
(一度期待しちゃっただけに、ダメージでかいわ…)
 諦めきれずに、釣り人でもいないかと崖下まで行ってみたり、倉庫の扉をがちゃがちゃやってみたり
したのだが(鍵が掛かっていた)、徒労で終わってしまった。
 道は崖の向こうまで続いているが、今から登り道を延々歩いていけるほどの元気は無い。
(ま、しょうがないよね。ここで休憩してこっと)
 波打ち際の岩にちょこんと腰を下ろす。
(倉庫とかあるんだから、人はいるんだよね。船で材木を運んだりしてるのかな?)
 桟橋を眺めながら、ぼ〜っと現在の状況について考え始める。
 視線を動かし、次は崖の方を眺める。
(…この絶壁なんか見覚えあるような気がするのよね……おー、あれだ、○曜サスペンス劇場。クライマックスで犯人追い詰められてそうな…)
 だんだんどうでもいい思考になってきた。脱線したまま、まだまだ続く。
(そういえばホラー系映画でも見たことあるかも。ちょうどその辺の岩に海の中から半魚人の手がバシャッと…)
 ――バシャッ
(〜〜〜っ!!?)
 思考が真っ白になる。
 目の前、ちょうどその辺の岩に海の中から…
(て、て、ててて…手〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!)
 濡れた手が出現していた。
 そして、あまりのことに口をぱくぱくさせたまま声も出ないせりなの前で、一気に水しぶきを上げながらその手の持ち主が姿を現す。
「っぎゃあああああああああああああ!!!」
 およそ女の子らしくない悲鳴が辺りに響き渡った。
280美女(?)と野獣:04/02/24 01:54 ID:nudTrPBl

「おいおい、『ぎゃあ』はねえだろうよ姉ちゃん」
 水から上がったその人物は、悲鳴を上げて岩から転げ落ちたせりなに向かって下卑た笑いを見せる。
「花も恥じらう乙女ならよ、『きゃあん』とか『いやぁん』とか言ってくんなきゃなぁ! ぎゃっははははははは!!」
(な、ななな何、何なの? 海坊主?)
 まだ頭が真っ白のまま立ち上がり、非常識な登場をしたアフロヘアの男を見上げる。
「しっかし、下が砂浜でよかったなぁ姉ちゃん。岩場じゃなくて本当によかったぜぇ。
こんなんでおっ死んだら、せっかくのお楽しみタイムが無くなっちまうからなぁ!」
(なな、何よ、お楽しみタイムって…)
 なんとなく不穏当な発言のような気がする。
 と、そばの砂浜にもう一人男が海から上がってくるのが見えた。
「…また溺れ死ぬかと思っただろうが。いきなり人を海中に引っ張り込むな」
 どうやらアフロ男の連れらしく、陸に上がるなり文句を言い始める。
 だが、なんだろうか。せりなはこの男に見覚えがあるような気がした。
「ケッ、助かったんだから感謝しやがれ。ここまではあのガキも追って来ねえだろうよ」
「確かに泳ぎのままこんな遠くまで連れてこられるとは思わなかったがな」
 言いながら、絶壁の方を見る。ひょっとしてあの向こうから泳いできたのだろうか。
「さて…」
 次いでせりなの顔を見つめてくる。そのなめまわすような目つきに、思わず身を硬くする。
「はじめましてお嬢さん。私は直人といいます。どうぞよろしく」
 ――繋がった。
 この男の顔。直人という名前。
 一時期どのチャンネルのワイドショーを見ても、必ず取り上げられていたある事件。
 連鎖するように「お楽しみタイム」の意味も理解してしまう。
「おう、俺としたことが忘れてたぜ。俺はゲンハって…テメェ! 人の自己紹介中に逃げるたぁ、どういう了見だゴルァ!!」
 人としての恐怖か女としての恐怖か、はたまたその両方かにかられて、せりなは回れ右すると後も見ずに駆け出していた。
281美女(?)と野獣:04/02/24 01:55 ID:nudTrPBl

「お前並に決断の早い娘だな」
 全力ダッシュしていくせりなを見ながら、直人が感心したように言う。
「チッ、テメェ見て逃げ出したぜ。有名人だなオイ」
「ククッ、それだけ怯えてくれるんだからいいじゃないか。怯えるウサギを追い詰めるのは好きだろう?」
 せりなに自己紹介したときとは明らかに違う、見た人間が凍りつくような笑みを見せる。
「まぁ今回はお前に任せるさ、ゲンハ。俺はお休みだ」
「あぁン!? 何だ直人、冷えすぎてイ○ポにでもなっちまったかよ?」
 信じられないものを見るかのようなゲンハに、直人はさらに笑みを深くする。
「いいや、違うさゲンハ…そうじゃない」
 そう、今はこれ以上体力を消耗できないだけだ。
 傷を負っている身で海で遠泳などしたせいで、傷がしみて仕方がない。体温も随分と低下している。
 これ以上激しく動いたらさすがにヤバいと身体が警告している。
 だが、いつもの直人ならそれでも女を犯し、壊し、その向こうの死など気にも留めなかったはずだ。
 しかし、直人の脳裏に一人の人物が浮かぶ。
 女の身体に男の精神を有した、自分を散々痛めつけてくれたあの人物が。
(くっくっくっ…そうだよなぁ、あいつを犯すまでは死ねないよなぁ!)
 たとえ100人を犯して壊したとしても、あいつを犯れなければ自分は決して満たされない。

「…へっ、好きだぜぇ、そういうギラギラした目はよぉ。誰かをぶっ壊してやりたくて仕方がねえってツラだ」
 直人の様子から感じ取れる何かがあったのか、納得したような笑みを見せるゲンハ。
「愛情と憎しみは紙一重だ! そういう相手がいるってのは幸せだよなぁ!!」
 叫ぶなり岩から飛び降り、獣じみたスピードでせりなを追って駆け出していく。まさにその時、
 ――キンコンカンコ〜ン!!
 この場に全くそぐわない鐘の音が鳴り響く。
 続く放送をじっと聞いていた直人だったが、
「ハッ、くだらない内容だ」
 そううそぶくと、放送が最後まで終わらないまま、ゆっくりと二人の後を追って歩き始めた。
282美女(?)と野獣:04/02/24 01:57 ID:nudTrPBl

「――はあっ、はあっ」
 一方、せりなは倉庫の辺りまで逃げてきていた。
 なにやら妙な放送が流れているが、そんなものに気を払う余裕など今のせりなには無い。
 角を曲がり、浜辺から見えない位置に来ると壁に背を押し付けて呼吸を整える。
 そう長い距離を走ったわけでもないのに、呼吸は乱れ、心臓は早鐘のように鳴り響いていた。
 だが、そうそう休んではいられない。絶対に逃げ切らねばならないのだ。
 もし捕まってしまったら――、その先は考えたくもなかった。
(も、もう少し、逃げれば…)
 ここから先は材木や鉄骨の山が乱立する資材置き場だ。視界はすこぶる悪い。
 ここを抜けてその先の森まで入れば逃げ切れるはず。
 そう考えると、せりなはもつれそうになる足を懸命に動かして走り出した。
「はあっ、はあっ、はあっ」
 自分の呼吸音がやたらと大きく聞こえる。
 この呼吸音で気づかれないだろうか? 実はもう、すぐ後ろにいるんじゃないだろうか?
 そんな恐怖と戦いながら走り続けたせりなだったが、とうとう耐えられなくなった。
 積んである資材の影に逃げ込むと、そっと少しだけ顔を出し、背後をうかがう。
(……い、いない?)
 あくまでも見える範囲だけだが、男達の姿は見えない。足音もない。
(…あきらめた…の? …ううん、そんなはずない!)
 楽観的になりかける自分の思考を否定する。
 男達は自分を探して、この資材置き場を彷徨っているはずだ。
(でも…ここまで来れば)
 もうすぐ森の入り口だ。森に入れば、鬱蒼と茂る草や木々が自分の姿を隠してくれる。
 逃げ切ったのだ。
 僅かに安堵の表情を浮かべ、森へ向かおうと振り向いて――
「いよぉう、姉ちゃん! 鬼ごっこはもう終わりかい?」
 ――その表情が絶望の色に染められた。
283美女(?)と野獣:04/02/24 01:59 ID:nudTrPBl

「あ…ああ……」
 これから起こるであろうことを想像し後ずさるせりなの足に、何かが触れた。
 先が潰れていびつに尖った、鉄パイプ。
「!……こ、来ないで!!」
 とっさに鉄パイプを手に取り、ゲンハに向かって構える。
 相手は丸腰、自分は武器持ち。その事実が、恐怖に飲まれかけていたせりなに勇気を奮い起こさせた。
「それ以上近づいたら私の剣が唸りを上げるわよ!」
 そんなせりなの様子を見て、ゲンハはヒューッと口笛を吹いた。
「いいぜぇ! 面白ぇじゃねえか姉ちゃん。かかってきなよ、ここで俺を倒せば無事に逃げられるぜぇ?」
 挑むような視線に一瞬身がすくむが、怯える心を叱咤し、せりなはゲンハに向かって突進していった。
「ちぇすとおおぉぉぉぉっ!!!」
 掛け声と共に鉄パイプを振り下ろすが、ゲンハはサイドステップで危なげなくそれをかわしてしまう。
 しかし、せりなが待っていたのはその瞬間だった。
(今っ!)
 ここぞとばかりに、ゲンハの脇を抜けて逃走しようとする。
 だが――
「おおっとぉ!」
 まるで予測していたかのように、ゲンハは難なくせりなの襟首をつかむと、地面に引き倒す。
 そしてすかさず、せりなの上に圧し掛かっていった。
「いやあっ! この、離せ! 離…んん、んんーーーーーーーーっ!?」
 唇を奪われる。キスなどという生易しいものではなく、口腔内全てを蹂躙するような舌の動きに頭がくらくらする。
 と、突然ゲンハが口を離す。その口の端から少し血が流れていた。
「…ますますいいぜ、テメェ…」
 今まで遊び半分だったゲンハの目に危険な光が宿る。
 ぐっと制服の襟元に手をかけると、一気に引き裂いた。
「――ヒッ!?」
 せりなの表情が恐怖に引きつる。
 ゲンハは意に介さず、首筋に舌を這わせ、柔肌をまさぐる。
284美女(?)と野獣:04/02/24 02:00 ID:nudTrPBl
「い…いやあ…」
 声に泣き声が混じりはじめた。
 懸命に押し返そうとしてもびくともしない。
 それどころか、一体どういう押さえ込まれ方をしているのか身動きすらままならない。
 そんな状況に、次第に抵抗する気力も失われていく。
「いやだよ…助けて…雪之丞! 鉄平! 達也ぁ!」
 ここにはいない友人達の名を叫ぶ。
 だがもちろんその叫びは当人達に届くはずも無く。
「野郎3人もキープかよ。やるじゃねぇか姉ちゃん」
 ゲンハの冷やかす声が聞こえる。
 同時に、とうとう下着の中にまで指が侵入してきた。
 強張った身体がいっそう硬くなる。
(もう…だめ…)
 諦めが心を支配する。
 あの男に切った啖呵も、少女の墓前に誓った決意も、圧倒的な暴力の前にあっけなく吹き散らされた。
 気が強いだけのただの女子学生に、何かが変えられるわけもなかったのか。
(何が…伝説の勇者様よ…)
 都合のいい幻想を抱いた自分に呆れる。
 勇者だったらこんな目に合ったりしていない。
 ヒロインを助けて魔王を倒して、ハッピーエンドへ向けて一直線だろう。
 そんな勇者という配役に一瞬憧れたりもしたけれど、実際は勇者どころか山賊に蹂躙される村娘Aでしかなかったのだ。
「さっき一人犯りそこねてるからなぁ、俺が満足するまで付き合ってもらうぜぇ」
 胸に顔をうずめて言う、その言葉に涙が溢れる。
 これは夢なんだと、心が逃げ道を求めてそう信じ込もうとする。
 だから――

 ――森の中から雄叫びと共に誰かが飛び出してきたときも――
 ――ゲンハが舌打ちして自分の上から飛び退いたときも――
 ――その誰かが自分を守るように立ちふさがったときも――

 ――現実感のない夢の中の出来事のように感じられた。
285美女(?)と野獣:04/02/24 02:02 ID:nudTrPBl

 そんな思考の中で、せりなはその誰かを見る。
 学生服の上に古風な趣の上着をまとい、無骨な剣を携えた青年。
(…伝説の…勇者様…?)
 どうやら気まぐれな運命の神様は、配役を変えて願いを叶えてくれたらしい。


【春日せりな@あしたの雪之丞(エルフ) 招 状態△(軽いショック状態 外傷は無し) 所持品:なし 】
【ゲンハ@BALDR FORCE(戯画) 招 状態良 所持品:なし 基本行動方針:破壊――――――(デストロ――――――イ)!!!】
【直人@悪夢(スタジオメビウス) 招 状態△(傷は多いが命に別状なし) 所持品:なし 基本行動方針:(特に良門を)犯れ、殺れ、壊っちまえ!! ただし!良門の前に死なねえ程度に!!】
【高嶺悠人@永遠のアセリア(ザウス) 狩 状態○ 所持品:永遠神剣第四位『求め』】

【長崎旗男@大悪司(アリスソフト) 狩 状態○ 所持品:銃剣】
【飯島克己@モエかん(ケロQ) 狩 状態○ 所持品:ワイヤー】
286倒すべき者:04/02/26 03:33 ID:IzrEbthN
彼らの希望はいとも簡単に打ち砕かれた。
3人共に怪我がないのは不幸中の幸いなのであろう。
透は記憶を辿る、何が起こったのかを正確に把握するために…
「なんというか……あれはテンタクルスとかクラーケンとか呼ばれる生物なのか?」
どんなに努力して思い出しても彼らが体験した事実は単純なもので……
出航して5分程すると海から巨大な触手が出て来て、岸まで一気に戻された。それだけである。
「透ぅ……あんなのがいたら誰もこの島から脱出することなんてできないんじゃない?」
ひなたと香澄をセーラー服の女に殺され、もとより気が滅入っていたまひるは今にも泣き出しそうだ。
麦兵衛から聞いた話しだとあのセーラー服の女は比良坂初音というらしいが……
(結局根本的にまひるの不安を取り除くには、比良坂とかいうあの女をなんとかしないといけないのか)

「結局脱出は無理か……まひると透はこれからどうする?俺はあの女を追うが……」
麦兵衛はもとより脱出には気乗りではなかったためか、既に巨大な触手の衝撃からは立ち直っている。
「正直俺はあの女にまともに立ち向かっても勝てるとは到底思えないが……」
透はそこまで言ってから船の方に目を向ける。
船は浅瀬に座礁してしている上に透の位置から見てもはっきりと船体に穴が開いているのが確認できる。
(むしろよく持った方か……)
「脱出するにも船があのザマじゃな……。君と俺達だけでなんとか倒す方法を考えないといけなくなったか」
「───!?お前最初からそのつもりだったのか」
麦兵衛は透の本心を知り感嘆する。てっきり生き残るのを最優先して脱出という道を選んだのだと思っていたのだが。
「俺だって香澄とひなたを殺されてるんだ、気持ちはお前と同じだけどな……まひるは……
こういう事に巻き込むべきじゃないと思ったんだよ。まひるさえ安全な場所に置いたらあの女をなんとかしようと思ってた」
「すまん……俺も考えが足りなかった」
麦兵衛は透の本心を察せずに脱出を提案した透を殴ってしまった。
自分はただ自分の無力さに怒って我を忘れていた。
287倒すべき者:04/02/26 03:35 ID:IzrEbthN
透は同じ状況下にあってなお冷静に、あの女を確実に倒すための算段をしていたというのに……
「あやまることはない。まひるの手を汚させたくないってのも俺の我儘なんだから……。
それにあの女だって神様じゃないんだ。俺達だけでも倒す方法はあるはずなのにな…俺もどうも弱気になってるみたいだな」
「ね……透。あたしも……手伝うよ。今のあたしなら多少無茶したって平気だし、それにあたしだって……悔しいもん」
最後の方は涙声になりながらもまひるは自分の意思を告げる。
「……わかったよ。どの道この島に安全な場所なんてないだろうしな。一緒に居た方が余計な心配をしなくてもすむからな」
「ううっ……ぐすっ……透……透だけはいなくなったら嫌だからね……」
「少なくても賽の河原で石積みする気はないから安心しとけ。……とりあえず休めそうな所でも探すか、麦兵衛」
「ああ、少なくても服が濡れたままってのは体力を消耗するからな…どこかで乾かさないとな」

(───どこにいる?)

お姉さまを殺した奴はどこにいるのだろう?
復習を心に誓った後、沙由香の体を少し調べた。
できればあのまま眠らしておくべきだったのだろうが、沙由香に対する最後の我儘と思って
心の中で謝りつつも体をかなり大雑把にだが調べた。

(お姉さまを殺した奴は大きな針──レイピアか矢のような鋭利な武器を持っている奴だ──!!)

今ななかにわかることはそれだけである。
相手はお姉さまのやさしさにつけ込んでその優しさを裏切るような奴だ。
見つけたら───例えどんなに善人ぶっていたとしても。

(見つけた瞬間にこの手でお姉さまにあやまりにいかしてやるんだから!!)

「誰か……来る」
まひるの感覚は鋭敏である。
ひなたから羽を返されてからはさらに鋭くなっているようだ。
288倒すべき者:04/02/26 03:36 ID:IzrEbthN
「比良坂か?」
「ううん……これはあの人じゃないよ」
まひるが答えて間もなくして、3人の前に気配の主が姿を現す。
「よう……あんたも突然この島に連れてこられた口かな?それとも……」
透は現れた少女に声を掛けながらも持っている瓶をいつでも投げれるように備えておく。
「初音とかいう女見たいに人を殺しまわってるのか?」
しかし透の意図とは違い少女は透の言葉に答えることはなく……しかし襲い掛かってくるでもない。
(俺達を……観察してるのか?)
「……違う」
「えっ!?」
唐突に少女が発した言葉に透はドキリとする。
「あなた達は……違う」
今度ははっきりと聞き取れた。
「俺達が違うってどういうことだ?」
麦兵衛は目の前の少女に敵意がないことを見て取ると少女に疑問を投げかける。
「初音……どういう女?」
少女は先程同様麦兵衛の質問にも答える気はないようだ。
「ふう……いいか───」
透は少女からの答えをあきらめたようで初音の特徴とその所業を語り始める。

「その女が姉さまを殺したんだ──!!」
初音の話しを聞き終えた少女はそう呟いた。
「なに!?あんたも誰かあの女に殺さ──おい、待て!!」
少女は呟くと同時に常人離れした速度で来た方向に駈けていった。
「なんだったんだ?今の子は……」
「あの子も誰か大事な人を殺されたのかもな……、そのショックで錯乱してるみたいだったが……追ったほうがいいな」

ドサッ

後ろで何かが倒れる音。
289倒すべき者:04/02/26 03:37 ID:IzrEbthN
「──!まひるっ!?」
「誰かの……心が……頭の中に入ってくる」
「まひるさんも……俺と同じ物を見てるのか……?」
「お前もか……麦兵衛」
さすがに2人を放ってあの少女を追うわけにもいかない。
(こっちから聞きたい事もあったんだが……諦めるしかないか)

(比良坂初音……その女が姉さまを殺したんだ!!絶対に許さないんだから───!!)
ななかはその名を胸に刻みながら再び島を駆け出すのであった。

【遠葉透@ねがぽじ(Active)狩 状態○ 所持品 妖しい薬品】
【広場まひる@ねがぽじ(Active) 招 状態◎(天使覚醒状態)所持品なし】
【牧島麦兵衛@それは舞い散る桜のように(バジル)招 状態○ 所持品なし 】
【目的:打倒!!比良坂初音!!】

【FM77/ななか@超昂天使エスカレイヤー(アリスソフト)狩 状態○ 所持品?】
【目的:復讐(現在の目標は初音)】

【魔獣:クラーケン 状態○ 海岸線からある程度離れた人間を岸まで押し戻す】
【全体放送前、デリリュームと同時刻】

備考:ななかの所持品について
前に過去ログ見たときは銃を持っていた気がするのですが、まとめページではなしになっており当方過去ログ確認不可能なため
暫定的に?にしてあります。過去ログ持ってる方がいたら確認していただきたいです。
確認が取れ次第私自身が修正、もしくはまとめサイト管理人様の方でまとめに反映していただいて結構です。
290強者の賭け、弱者の過ち:04/02/26 22:59 ID:L4+0B5dG
 左肩をえぐる蜘蛛の爪。
「ぐぅ……!?」
 九朗は顔を歪ませ、強引にそれを引き抜きながら、残された右腕でクトゥグァを引き抜き、トリガーをひく。
 うなる轟音。
 しかし蜘蛛は地を蹴り、爆炎と化した弾丸を回避。
 九朗の横手に回り前足が振るわれ、九朗を再度串刺しにしようとする。だが、
「ぬ――――!?」
 次に顔を歪ませたのは、初音の方。
 展開された黒い翼、マギウスウイングが初音の一撃をガードし、受け流したのだ。 

 互いに弾け飛ぶ形で、両者は間合いを取る。
「今の声……貴様、いつぞやの女か!?」
 アルの問いに、蜘蛛は答えた。
「そうとおりよ、お嬢さん。このような醜い姿での再会は本意でではないのだけれど」
 スッと、蜘蛛は目を細める。
「でも、あなたの力と、この一戦にはそれ以上の価値を感じるわ。楽しませてくださいましね?」
 穏やかな口調とは裏腹の、その殺気に九朗は震える。
「片腕じゃ無理だ! アル、治療を最優先で頼む!!」
「分かった!」
 小型化したアルは、九朗の背にしがみつく形で、左肩に手を当て、魔力をこめる。
徐々に穿たれた左肩がふさがっていく。

 だがその機を逃す初音ではない。
 再度九朗に飛び掛る。
 蜘蛛の多足をもって成すその動きは、まさに神速。
否、速いだけではない。人の持つ二足では及ばぬ動きの複雑さを蜘蛛は見せる。
 その蜘蛛の動きを人外の域となすならば、

「いつまでも、調子に乗ってんじゃねぇ!!」

 蜘蛛の動きを見切ったマギウスもまた人外か。
 九朗は召還したバルザイの偃月刀を、初音の再度の一撃にあわせる形で振るう。
291強者の賭け、弱者の過ち:04/02/26 22:59 ID:L4+0B5dG
「……!? やりますわね?」
「チィ……硬い……!?」

 初音は己の一撃の重さで相手を吹き飛ばせると確信していたし、
九朗は己の一閃で相手の前足を切り裂けると確信していた。
 たが、互いに目論見は外れ、一撃と一閃は互いを受け止め、
至近距離で初音と九朗はにらみ合う。

「フフ……良いわ。そうね、この姿を見せるのですもの。こうでなくては困るというもの」
 チラリと、アルの方へ目を走らせる。
「ええ、確かに私の目は節穴だったわね。その姿を見た今なら確信できるわ。
あなたを贄とし、その力を手に入れた時、私はどこまで強くなるのかしら。
銀……いえ、あのヴィル・ヘルムにも届くかもしれないわね」
「ほざけ! 妾の力は汝れの欲望を満たすためにあるのではないわ! この小娘が!」
 初音の挑発を受け、激昂するアル。
 だが、九朗は地を蹴り後ろに跳んだ。

「アル、このままじゃ白銀達が来ちまう!! 場を移すぞ!」
 そう叫んで、黒い翼を展開。初音にイタクァの一斉射を放つ。
 それが初音の吐き出した糸に阻まれるのを見て歯噛みしながらも、
それを機会として翼をはためかせて後退。
 初音もまた木をなぎ倒し、あるいは飛び越えながら後を追った。
292強者の賭け、弱者の過ち:04/02/26 23:02 ID:L4+0B5dG
 ――――だから、武と綾峰が千鶴と別れた場所へたどり着いた時、
彼らが目にしたのは、友人の躯と竜巻が襲ったかのような荒れた地面と木立だけだった。
「い、委員長!?」 
「なんで……」
 一人は叫び、一人は呆然と呟きながら、千鶴に駆け寄りその身を抱き寄せる。
「お、おい! しっかりしろよ! 委員長!!」
「おかしいよ……なんで委員長まで……」
 だが、二人がいかに叫び、涙を流そうとも友人は帰ってこない。

 彼女はもう、死んでしまったのだから。
 
 武はサブマシンガンを掴んだ。
「あいつだ……やっぱりあいつのなのか!?」
「白銀……?」
「大十字九朗だよ!! 奴が俺達より先にここに来たんだ!! 
じゃなければ……あの大十字と一緒にいた奴かもしれない! 
そうだ、大十字と組んでて、俺らをはめたのかも……!! とにかく!!」
 血走った目で、木々の向こうを睨む。
「今度こそ俺はあいつを逃さない! 何があったのか聞き出してやる!!」
 
 武が睨むその先からは、銃声や機をなぎ倒すような音、何かを切り裂くような音や、
何か硬いものをぶつけ合ったような音、そういう騒音がかすかだが聞こえてくる。

「行くぞ、綾峰!! あの音をたどれば奴のところにたどり着けるはずだ!!」
「白銀、待って……!」
 駆け出そうとする武を、綾峰が止めた。
「あいつら……何かと戦ってる。この音はそういう音……」
「だからなんだよ!!」
 叫ぶ武に、だが綾峰は静かに首を振った。
「……大十字は強い。銃を向けた私達に簡単に手加減できるぐらいに……
そして、そんな大十字が今向こうで、本気で戦ってる……」
「く……ぅ……」
293強者の賭け、弱者の過ち:04/02/26 23:03 ID:L4+0B5dG
 綾峰の言うことぐらい武にだって分かる。
 さっきほどまで九朗が、自分達に情けをかけていたこと。
今、木立の向こうで行われている戦いは人知を超えたものであるということ。
そこに武達が出て行ったとしても、何もできることはないということ。
 それぐらいは武にだって分かるのだ。

――――分かるけれど、認めたくは無かった。
 自分の本気が九朗にとって取るに足らないものだなんて、
 千鶴が死んで、なのに自分にはなにもできないなんて、どうして認めることができる?

「綾峰……怖かったらここにいろよ。俺は行く」
「白銀……」
 綾峰は非難する様に武をみつめたが、やがて目を伏せた。
「私もいく……白銀まで失いたくないから……」
 その綾峰の伏せた目を見て、チクリと武の胸に罪悪感が沸いたが、
「分かった。いくぞ」
 短くそう答えて、武は走り出した。


 妖と魔術師の戦いは短いながらも苛烈を極めた。

 九朗が空を飛び高さの利を取ろうというのなら、鋼線と化した蜘蛛の糸がその翼をズタズタに引き裂く。
 初音が糸で相手を絡めとろうというのなら、クトゥグァの炎がその糸を焼きつくす。
 九朗がニトリクスの鏡で相手を惑わそうというのなら、初音もまた妖の術を持って対抗し、
 初音の糸が重なり合い盾となるならば、イタクァの銃弾がその間隙を縫って飛ぶ。

 両者の実力は互角。

 故に――――
294強者の賭け、弱者の過ち:04/02/26 23:04 ID:L4+0B5dG
「はぁ――――は――――」
 人の身に戻った初音は、その傷だらけの体を木にもたれかかせて、大きく息をついた。
 血は流れ、その身に力は感じられない……が、それでも彼女は膝をつかず、その顔には笑みが浮かんでいた。
 
 戦いの場は森から崖際へと移動していた。
その崖際、初音の視線の先には、初音よりもさらに傷つき、跪く九朗の姿があった。

「楽しませて……もらったわ……私の勝ちのようね……?」
「く……そぉ……」
 
 両者の実力は互角。
 故に最初の不意打ちによってできた差が全てだった。
 否、九朗があるいは勝負を長引かせ、己の怪我を治療する時間を稼いでいればまた話は別だったかもしれない。
 だが、彼は勝負を急いだ。
 武達が戦いに巻き込まれる前に、勝負を付けようとしたためであった。

「すまん……アル……」
 九朗は膝をついたまま、傍らのやはり傷ついたアルにわびる。
「全く……とんだ……うつけよな。自分に襲い掛かった相手に気を配って……地を舐めることになろうとは……」
 アルは微笑を浮かべた。
「……だが、それは汝れらしい……妾の主らしいことだとと思うぞ」

「随分と仲のよろしい事ね?」
 初音は唇から流れる血を拭い、倒れ付した九朗達にむかって、片足を引きずりながらも歩を進めた。
「ご安心なさいな。殺めたりはしない。ええ、そんなことはしないわ。私の贄としてかわいがってあげる」
「贄……だと……」
「そう……その力は私のものとしていただくけれど。
それだけよ? 私は自分に忠実な僕に対しては優しいつもり。その身に快楽を約束するわ。
そうね、これだけ楽しませていただいたのだもの、あなた達二人の睦事だって許して差し上げるわ?」

 その初音の優しい声音に、だが九朗は拳を握り締めた。
295強者の賭け、弱者の過ち:04/02/26 23:05 ID:L4+0B5dG
「ざけんじゃねぇ……!」
 グッと、最後の力を込めて立ち上がろうとする。
「あら……お気に召さないかしら?」
「テメェみたいな糞ババァにやる力なんざ、一欠けらもねぇよ……!
この力はそういう物の為にあるんじゃねぇ……俺は……俺達は魔を断つ剣だ……!!」
 かすむ視界を無理にこじ開け、九朗は初音を睨む。

「九朗……」
 アルが九朗を見つめる。

「そうやって力を使い……千年の時を戦い続けてきたアルに賭けても……俺は……!!」
 九朗はふらつく足で、それでも立ち上がった。血に染まる腕で、銃を構えようとする。だが――――

 紙吹雪と共に、マギウスが解除され、九朗は人の身に戻った。
「な――――!? アル!?」
 マギウスを解除した九朗のパートナーもまた人の身に戻り、九朗と初音をはさむように仁王立ちする。
「……もう良い、九朗。そなたの覚悟良く分かった」
 少しだけ振り返り、寂しそうな笑顔を一瞬だけアルは見せた。
「だが己を魔を断つ剣と称するには、汝れなど未熟にすぎるわ。川にでも流されて己を鍛え直せ!!」

「なにいってるんだ――――」
 九朗がその意を確かめるよりも早く、
「止めなさい!」
 初音がそれを止めるよりも早く、
 アルは魔力を放出し、

「アル……!!」
「そして……今度は汝れが妾を見つけてくれ……」

 九朗を崖の外へと弾き飛ばし、そして崖下の川から水音が響いた。
296強者の賭け、弱者の過ち:04/02/26 23:13 ID:L4+0B5dG
「……!!」
 初音は崖の下を見下ろし飛び込もうか迷うが、
「やめろ、妖の者よ」
 静かな声で、アルがそれを制した。
「九朗が水に流れて遠くに行くまで、それまでは妾が汝れを食い止める。それぐらいの力はまだ妾にも残されているぞ?」
 初音は首を振った。
「それには及ばないわ。私が本当にほしかったのはあなただから。
でも、貴方はこれでよかったのかしら? あの手傷でここから落とされ川に流されては、あの男、死ぬかもしれないわよ?」
「…………」
「仮に生き残ったところで、絶望的な状況には変わらない。
それならば私のもとで二人贄となっていた方が幸せではないのかしら?」

 ゆっくりとアルは首を振った。
 九朗と二人なら、それでもよいと、確かにアルは一瞬だけそう思った。
 あるいは二人並んで死ねるなら。

 だが、九朗は言った。我らは魔を断つ剣だと。だから――――

「可能性があるなら、我等はそれに賭ける。たとえそれがどんなにか細いものだとしてもな」
 グッと、拳を握り締める。
「九朗は生き残る。生き残って必ず妾の下に辿りつく。大十字九朗は、妾の主はそういう男だ。
そして――――」
 キッと初音をにらむ。
「妾もまた、そう簡単には屈せぬぞ。快楽か、あるいは暗示によって相手の力を己に譲渡させるのが、
汝れのいう贄なのだろうが……妾の心、簡単に堕落させられるとは思うな」
297強者の賭け、弱者の過ち:04/02/26 23:13 ID:L4+0B5dG
 その強い視線に、初音は嘆息した。
「そうね。それは認めるわ。あなたの心を手に入れるのはとても手間が掛かるでしょう。
だからこそ甲斐があるのだけれど。どこまでも抵抗するというのならそれでもいい。
貴方の力にはそれだけの価値があるのだから。
さあ、来なさい」
「言われるまでもないわ!!」

 最後の力を込めてアルは魔力を放出し、それを初音は正面から突破して、アルの腹に拳を叩き込んだ。
 


「……音が途絶えた……」
 彩峰の声に、武は歯噛みしながらそれでも走った。
 なぎ倒された木や、燃えた葉などを頼りに、二人は戦闘があったと思われる場所へと走る。
 そうして、追跡して二人が見たものは、
「崖……行き止まりだね」
「遅かったのか……?」
何も、なかった。
その場には、誰もいない。九朗は下の川へと落ち、初音はアルを連れ去ってしまったのだから。

 全てが、どうしようもなく終わってしまった事が分かって、武は木に拳を叩きつけた。
298強者の賭け、弱者の過ち:04/02/26 23:14 ID:L4+0B5dG
 否、まだ終わってはいなかった。もう少しだけ、幕間劇が残されている。

「あら……?」
 遙を狙撃した高台に戻り、気絶させた水月を抱えた初音は、ふと視界の端に小さな武達の姿を捉えた。
 武達がいるのは、先ほど九朗との一戦が終結したあの崖際だ。
そこで武は木に拳を叩きつけ、彩峰はその武をなだめている。

「愚かな事ね……追ってくるなんて……」
 自分達の力が及ばぬことが起きている。そんなことなど理解できただろうに、
それでも彼らは追ってきたのだ。九朗があれだけ、彼らを戦いの場から引き離そうと尽力していたのに。
 その選択は間違いだ。だからスッと初音は目を細めた。
「間違いには罰を与えなくてはならないわね……この傷を癒す贄も必要なのだし」

 だがその足に力を込めようとして、ズキリと傷の痛みが走り、グラリと初音は揺らめいた。
「ぐ――――う――――」
 その場で倒れそうになるのを耐える。
 確かにマギウスとなった九朗は強敵だった。初音の体は傷つき、力も半減してしまってる。
 アル・アジフをすぐに贄にできないというならば、一刻も早く巣に戻り、
手持ちの贄を使ってせめて傷だけでも癒さないと。

「良いわ、見逃して差し上げましょう、白銀武。あなたは確かに幸運に恵まれている。
私と大十字九朗、二人の強者に関わり、いくつもの間違いを重ねて、
それでもあなただけは無傷で切り抜ける事ができたのだから。でもね」
 遠目に見える武の姿を哀れむように初音は見つめる。
「そうやって間違いを重ねていく限り、あなたは大切なものを失い続けるわ。
貴方はそのことを分かっているのかしらね、武?」
299強者の賭け、弱者の過ち:04/02/26 23:15 ID:L4+0B5dG
 もっとも、と初音は付け加える。
「間違った選択に対して、罰が与えられるのは強者であろうと弱者であろうと、変わりはないわね」

 アル・アジフを贄にできれば、強力な力が手に入るが、
それまでは、よほどの贄を手に入れぬ限り力は半減したままだ。
ハイリスクハイリターン。この戦闘は初音にとっても賭けだったのだ。

「選択が正しかったのかどうか――――答え合わせはもう少し先ということになるようね」
 初音はそう呟き、アルと水月を抱えて己の巣へと歩き出した。

【大十字九郎@斬魔大聖デモンベイン(ニトロプラス) 状: ×(マギウス解除・かなりの手傷、ただし左肩は治療済み)
回転式拳銃(リボルバー)『イタクァ』、自動式拳銃(フルオート)『クトゥグア』、残り弾数不明(それぞれ13発、15発以下)(招)【大十字九郎@斬魔大聖デモンベイン(ニトロプラス) 状: △(腹部に大ダメージ ただし回復可能マギウス
回転式拳銃(リボルバー)『イタクァ』 残り弾数 19発、自動式拳銃(フルオート)『クトゥグア』残り弾数 17発
(招) 行動目的と状況 武達と休戦 島からの脱出】
【アル・アジフ@斬魔大聖デモンベイン (ニトロプラス) 状: △(気絶)
ネクロノミコン(自分自身) (招)  武達と休戦、初音と敵対 島からの脱出】
【白銀 武@マブラヴ(age)  状:○ サブマシンガン (後、約一分十秒ほど撃てる) (招) 
九郎と休戦 初音を探す(珠瀬、千鶴の死んだ理由探し) 最終目的は元の世界へ戻る】
【綾峰 慧@マブラヴ(age) 状:○ 弓 矢残り七本、ハンドガン 14発 (狩) 九郎と休戦 初音を探す(珠瀬、千鶴の死んだ理由探し)】
【速瀬 水月@君が望む永遠(age) 状態:△(暗示、贄、昏倒) (狩) スナイパーライフル(鬼側の武器を初音が持ってきた)】
【比良坂初音@アトラク=ナクア(アリスソフト) 状態:△(力半減、かなりの手傷) (鬼) なし 行動目的:アルを贄にする】
【放送後】
300葉鍵信者:04/02/27 00:00 ID:IW0es3uZ
上の方の九郎が正式な方だよね?
301強者の賭け、弱者の過ち:04/02/27 00:02 ID:v4eVbI8y
ん、そう。
ごめんミスった。
302その傷は深く:04/02/28 18:14 ID:KS0UmpSJ
 どうしてこんな事になったんだろう。
 佐倉霧は夢と現を彷徨いながら、おぼろげにそんな事を思う。
 それは、美希の裏切りから始まった。
 友と思っていた人間の豹変、否、変わったのではない、美希は美希のままだったのだから。
 それでも、霧は信じていた。
 美希に崖から落とされた自分を助けてくれたのは、あろうことか殺人者。
 人を殺した人間。
 人が人を殺す、それを当たり前の事と考える人間達。
 霧には判った、彼等は自分を助ける事と同じように、別の人間を容易く死に追いやるだろう、という事に。
 だから逃げた。
 裏切られるのが怖かったから。
 殺人鬼を信じて、しかしその人間達が自分を裏切れば、先に待っているのは死。
 しかし、逃げた先にも霧の『敵』はいた。
 男達は自分を、『佐倉霧』という存在を奪い去ろうと襲いかかってきた。
 そんな自分を助けた人間も、殺人者。
 ああ、と、霧は呟く。
 何故、私の周りにはそんなバケモノばかり集まってくるのだろう。
 ふと、少し前まで自分が置かれていた状況を思い浮かべる。
 七人しかいない世界。
 たった七人しかいない世界、だというのに、その世界にもバケモノがいた、それも二人も。
 ふとした弾みで周りの人間全てを殺してしまう、そんな危うさを持った男と、常に男の傍にいて彼の身に危険があるとなれば『どのような事でもして』その危険を排除しようとする少女。
 朝も、昼も、夜も。
 一時たりとも心休める時間が持てない。
 唯一、己を慰める存在だった美希も……裏切った。
 ああ、と霧は呟く。
 このままでは、私の心は壊れてしまう、と。
303その傷は深く:04/02/28 18:16 ID:KS0UmpSJ
「ぅん……」
 霧は目を覚ますと、ぼんやりとした表情のまま辺りに視線を向ける。
「・・…私、寝てた?」
 そしてそんな言葉をポツリと呟いた。
 誰かに見つからないよう近くにあった川べりの木陰に身を潜めていたら、どうやら眠ってしまっていたようだ。
 霧の疲労は既に頂点に達していた。
 崖からの落下、殺人者達から逃げる為の全力疾走、それに陵辱者から逃れるようとした時の必死の抵抗。
 気が緩んだ瞬間に思わず眠りについた事を誰が責めようか。
「今、何時なんだろう……?」
 霧は天を仰ぐ。
 太陽は見えない、雲がその光を遮っている。
 薄暗い空、それを見ていた霧はふと寒さを感じ、ブルリと一度その身を震わせた。
「美希……。今、どうしているのかな……」
 霧は寒さに震えながらポツリと友の名を呟いた。
 時間の感覚が無い。
 和樹と別れてからそれほど経ったようには思えないが、しかし、気がついていないだけでかなりの時間が経っているかもしれない。
 霧は気がついていないが、彼女が寝ている時に例の放送が流れた。
 深い眠りについていた所為か、霧はそれに気がついていなかった。
 あるいはその放送を聞いていたら、霧はすぐさまこの場を立ち去っていただろう。
 中央へ行く、そして美希の真意を問いただすという目的を持って。
「寒い……。それになんか……、眠いな……」
 先ほど海で男達の手によって地面に倒された事で、乾き始めていた服にまた水が染み込んでしまったのだろう。
 気力が寒さによって、だんだんと失われていく。
 ぼんやりと傍を流れる川に目を向けながら、霧の瞳はまた閉じられようとしていた。
 この島に流れる川は、大体が一つに収束されて海に出る。
 霧が崖から落ちた先にあった川もそれは変わらない。
 玲二達の手によって助けられなければ、おそらくそのまま海の外まで流れ着いて命を失っていただろう。
 故に。
304その傷は深く:04/02/28 18:17 ID:KS0UmpSJ
「何? 何の音……?」
 霧は近くから妙な異音を耳にして、閉じかけていた瞳を開いて辺りを見回す。
 ザパァ、と、何かが水から這い上がるような音。
 霧は傍に置いてあったボウガンを手にすると、ゆっくりと音のした方へと歩みを進めた。
 警戒するように木々の合間を隠れるようにしながら、目的の場所へと近づいていく。
「……え? ひ、人?」
 霧がそこで見たものは。
 最後の力を振り絞り川から這い上がると、すぐにそのまま気を失ってしまった、大十字九郎の姿だった。


【佐倉霧@CROSS†CHANEL(フライングシャイン) :狩 状態:△ 所持品: ボウガン 矢の数は二本(撃ったら拾うので矢自体はなくならない、二発目を撃つ時には装填準備が必要)】
【大十字九郎@斬魔大聖デモンベイン(ニトロプラス) 状: ×(マギウス解除・かなりの手傷、ただし左肩は治療済み)
回転式拳銃(リボルバー)『イタクァ』、自動式拳銃(フルオート)『クトゥグア』、残り弾数不明(それぞれ13発、15発以下】

補足:霧は放送を聞いていないので、まだこの世界の事についての知識は手に入れていません。
   現在時間は放送後。
305追憶と思慕の狭間で:04/02/29 16:40 ID:sz//dMF+
「ああ…」
伊藤乃絵美はありもしない幻に踊らされるように島中を歩きつづけていた。
(何だろう?何かあるような感じがする)
そこは行き止まりの崖だった、だが乃絵美はふらふらと崖へと足を進ませ続ける。
そして崖っぷちに辿りついたときだった、その瞬間乃絵美の姿は掻き消え何処にも見当たらなくなってしまった。

一方、狭いが強固な結界が張られた、その場所は常人では気がつくことも無いであろう場所に、初音の巣はあった。
(しばらくは腰を落ちつけた方がいいわね…お前たち、お行き)
初音は自らの眷族たる蜘蛛たちを島中に放つ、彼らは初音の目となり耳となって情報を集めてきてくれるはずだ。
「さて、と」
初音は巣の片隅で淫らな糸に絡め取られ、だらしなく涎をたらすアルの方へと近づく。
「フフフ…他愛ないこと」
初音はアルの瞳を覗きこむ、どろりと濁った瞳の奥で彼女はどんな夢を見ているのだろうか?
「さぁ、私に力を頂戴な」
もはや堕ちたと初音は確信したのだろう、そのまま無造作にアルの唇を奪おうとする、が
唇が重なったその時だった。
「!!」
灼けるような感触と同時に逆に自分の力が吸収されていく、慌てて唇を離そうとするが
しっかりと舌を絡められて離すことが出来ない。

アルの最後の反撃だった。
この比良坂初音という妖魔は正直正攻法ではとても歯が立たない。
唯一のチャンスがあるとすれば、初音自身が、この用心深い蜘蛛がようやく勝利を確信した時、
その隙を付くしかない。
そのための最後の魔力を悟られぬようにひたすら温存していたのだ。
とはいえ、常人ならばとうに屈服していたであろう快楽地獄の中をよく耐えぬいたものだ。
306追憶と思慕の狭間で:04/02/29 16:40 ID:sz//dMF+
そしてその試みは成功しつつあった、初音の力がみるみるうちに弱まっていくのが分かる。
もう少しだ、だがその時だった、アルの耳の奥で何やら声が聞こえだした。
(いやぁぁぁぁっ!離してぇ!!)
(兄様…兄様ぁ…)
今や声だけではなく情景までもがアルの頭の中で鮮明に甦りつつあった。
(これは…この女の記憶…か)
そしてアルの意識はいつしか、その記憶の中へと取りこまれて行った。


「してやられた…わね」
行為が終わり、初音は全てを消耗し、巣の真ん中で倒れ伏していた、
意識が遠のく、思わぬ反撃で一時的とは言え、すべて使い果たしてしまった、
これではもはや動く事もままならないだろう。
そしてその傍らには逆に力を取り戻したアルが自分を見下ろしている。
形勢逆転ということだ。

(こんなところで…こんな…)
その時初音の脳裏に浮かんだのは、一人の少女の姿。
(死ねない…かなこを残して死ぬわけにはいかないのに…)
初音の瞳にはいつしか涙が溢れていた。
(この私が涙を…ふふふ…まだ私にも人並みの感情が残っていたみたいね)
アルの手が初音の目前で閃く、その手には魔力の輝き。
(ごめんね…かなこっ)
そしてアルの手の輝きが、初音の心臓へと吸いこまれていった。

「え?」
しかし結果は初音の予想を越えていた、アルの手から放たれたのは癒しの光、
それが初音の全身へと広がっていく。
「どういう…つもりかしら?」
「汝のためではない、汝を思う娘のためだ」
「私の心を読んだのね…よくも」
アルは初音の悪態には応じず、手をかざしたままだ。
307追憶と思慕の狭間で:04/02/29 16:41 ID:sz//dMF+

「だが何故だ?何故その娘への愛情の幾万分の一でも他者に向けようとしない?」
「汝は人を愛する事がいかなるものかという事を充分わかっているのではないか!」
アルの言葉が一段落するのを待って、ようやく初音が答える。
「人と魔が幸せになれるとでも思っているのかしら?…所詮は叶わぬ夢よ」
「その答えで分かった…汝が本気で奏子という娘を愛しているということがな」

アルの手が小刻みに震え出す、彼女とて消耗しているのだ、だがそれでもアルは初音に魔力を注ぎ続ける。
「ただの悪鬼なら、見捨てる…だが汝も人の愛を知っているとわかった以上、死なせるわけにはいかん」
「それに汝の今流している涙は、己の命惜しさに流す涙では無い、己よりも大切な者のために流す涙ではないか
今の世の中そんな清い涙を流せる者はそう多くは無いぞ」


やがて治療は終わる、しかし根本的な魔力の質がアルと初音とでは違い過ぎる、
初音の力として取りこまれるにはしばらく時間が必要だろう。
ぐらりとふらつくアル、消耗している上にさらに初音に力を分け与えているのだ、無理も無い。
「無理をなさるものではないわ…ここで2人共倒れでは意味が無くってよ」
「安心しろ、誰も死なぬさ、死ぬわけにはいかぬだろう?」
初音の心配にアルは強がりで応じる、それを聞いて微笑む初音。
308追憶と思慕の狭間で:04/02/29 16:42 ID:sz//dMF+
「ここだけの話、私はヴィルヘルム・ミカムラから「一応」一切の行動の自由を保障されているわ、
だから睨まれない程度のことなら1度だけ手を貸してあげてもよくってよ」
初音の言葉にほうと感嘆の言葉を口にするアル。
「恩義を屈辱とは思わぬタイプのようで安心した、てっきり罵倒されるとばかり…」
「見そこなわないで…この恩は必ず返すわ」

「まぁ、汝にも引けぬ理由があるのだろう、今すぐ悔い改めろとは言えぬ、だがせめてその娘は解放してやれ、
 出涸らしにいつまでも拘るな、程度が知れるぞ」
と、アルが傍らに転がったままの水月を指で示したときだった。
はぁはぁと喘ぎが聞こえたと思えば、本来決して入れるはずの巣の中に伊藤乃絵美が忽然と姿を現したのだった。

【比良坂初音@アトラク=ナクア(アリスソフト) 状態:△(力半減、かなりの手傷(数時間後に全回復)) 
 (鬼) なし 行動目的:休息】
【アル・アジフ@斬魔大聖デモンベイン (ニトロプラス) 状: △(かなりの消耗だが自然回復可能)
 ネクロノミコン(自分自身) (招)行動目的: 休息 (初音と休戦) 島からの脱出】
【速瀬 水月@君が望む永遠(age) 状態:△(暗示、贄、) (狩) スナイパーライフル(鬼側の武器を初音 が 持ってきた)】
【伊藤乃絵美 @With you〜見つめていたい(F&C) 状態:狂気(見た目や言動は正常) 
 所持品:ナイフ 行動方針:不明 】

(初音の【巣】の結界は人間の精神に作用する類のものです、つまり侵入を拒むというのではなく、そもそも
存在を気づかせないタイプの結界です)
(初音の蜘蛛は中央へは侵入できません)
309追憶と思慕の狭間で(修正):04/02/29 20:35 ID:XUOHuCiQ

「ああ…」
伊藤乃絵美はありもしない幻に踊らされるように島中を歩きつづけていた。
(何だろう?何かあるような感じがする)
そこは行き止まりの崖だった、だが乃絵美はふらふらと崖へと足を進ませ続ける。
そして崖っぷちに辿りついたときだった、その瞬間乃絵美の姿は掻き消え何処にも見当たらなくなってしまった。

一方、狭いが強固な結界が張られた、その場所は常人では気がつくことも無いであろう場所に、初音の巣はあった。
(しばらくは腰を落ちつけた方がいいわね…お前たち、お行き)
初音は自らの眷族たる蜘蛛たちを島中に放つ、彼らは初音の目となり耳となって情報を集めてきてくれるはずだ。
「さて、と」
初音は巣の片隅で淫らな糸に絡め取られ、だらしなく涎をたらすアルの方へと近づく。
「フフフ…他愛ないこと」
初音はアルの瞳を覗きこむ、どろりと濁った瞳の奥で彼女はどんな夢を見ているのだろうか?
「さぁ、私に力を頂戴な」
もはや堕ちたと初音は確信したのだろう、そのまま無造作にアルの唇を奪おうとする、が
唇が重なったその時だった。
「!!」
灼けるような感触と同時に全身の毛が逆立っていく、さらに強烈な痛みが初音の身体を貫く。
拒絶反応…、アルの力は確かに取りこむ事が出来ればまたとない糧となったであろう。
しかし、その力は初音の体にはまるで適合しなかったのだ。
いわば、ジェット機のエンジンにロケット燃料を注ぎ込んだようなものだ、その逆もしかり。
いまや初音は全身の毛穴から緑色の体液をどろどろと吹き出しながら、のたうちまわっていた。

そして、その機会を逃すアルではなかった。
正直もうあきらめていた…この比良坂初音という妖魔は正攻法ではとても歯が立たない、
だが、こんな形で千載一隅の機会がくるとは。
アルはそのまさかの時のために、悟られぬようにひたすら温存していた最後の魔力を残さず初音に注ぎ込む。
とはいえ、常人ならばとうに屈服していたであろう快楽地獄の中をよく耐えぬいたものだ。
(九朗、お主を想えばこそ耐えられた、所詮誰も愛することを知らぬ哀れな妖魔よ、愛の力の前には…)
310追憶と思慕の狭間で(修正):04/02/29 20:36 ID:XUOHuCiQ
そしてその試みは成功しつつあった、初音の力がみるみるうちに弱まっていくのが分かる。
もう少しだ、だがその時だった、アルの耳の奥で何やら声が聞こえだした。
(いやぁぁぁぁっ!離してぇ!!)
(兄様…兄様ぁ…)
今や声だけではなく情景までもがアルの頭の中で鮮明に甦りつつあった。
(これは…この女の記憶…か)
そしてアルの意識はいつしか、その記憶の中へと取りこまれて行った。


「してやられた…わね」
行為が終わり、初音は全てを消耗し、巣の真ん中で倒れ伏していた、
意識が遠のく、思わぬ反撃で一時的とは言え、すべて使い果たしてしまった、
これではもはや動く事もままならないだろう。
そしてその傍らにはやはり消耗しているが、自分よりはマシな状態のアルが自分を見下ろしている。
形勢逆転ということだ。

(こんなところで…こんな…)
その時初音の脳裏に浮かんだのは、一人の少女の姿。
(死ねない…かなこを残して死ぬわけにはいかないのに…)
初音の瞳にはいつしか涙が溢れていた。
(この私が涙を…ふふふ…まだ私にも人並みの感情が残っていたみたいね)
アルの手が初音の目前で閃く、その手には魔力の輝き。
(ごめんね…かなこっ)
そしてアルの手の輝きが、初音の心臓へと吸いこまれていった。

「え?」
しかし結果は初音の予想を越えていた、アルの手から放たれたのは癒しの光、
それが初音の全身へと広がっていく。
「どういう…つもりかしら?」
311追憶と思慕の狭間で(修正):04/02/29 20:37 ID:XUOHuCiQ
「汝のためではない、汝が思う娘のためだ」
「私の心を読んだのね…よくも」
アルは初音の悪態には応じず、手をかざしたままだ。

「だが何故だ?何故その娘への愛情の幾万分の一でも他者に向けようとしない?」
「汝は人を愛する事がいかなるものかという事を充分わかっているのではないか!」
アルの言葉が一段落するのを待って、ようやく初音が答える。
「人と魔が幸せになれるとでも思っているのかしら?…所詮は叶わぬ夢よ」
「その答えで分かった…汝が本気で奏子という娘を愛しているということがな」

アルの手が小刻みに震え出す、彼女とて消耗しているのだ、だがそれでもアルは初音に魔力を注ぎ続ける。
「ただの悪鬼なら、見捨てる…だが汝も人の愛を情を知っているとわかった以上、死なせるわけにはいかん」
「それに汝の今流している涙は、己の命惜しさに流す涙では無い、己よりも大切な者のために流す涙ではないか
今の世の中そんな清い涙を流せる者はそう多くは無いぞ」


やがて治療は終わる、しかし根本的な魔力の質がアルと初音とでは違い過ぎる、
初音の力として取りこまれるにはしばらく時間が必要だろう。
ぐらりとふらつくアル、消耗している上にさらに初音に力を分け与えているのだ、無理も無い。
「無理をなさるものではないわ…ここで2人共倒れでは意味が無くってよ」
「安心しろ、誰も死なぬさ、死ぬわけにはいかぬだろう?」
初音の心配にアルは強がりで応じる、それを聞いて微笑む初音。

「ここだけの話、私はヴィルヘルム・ミカムラから「一応」一切の行動の自由を保障されているわ、
だから睨まれない程度のことなら1度だけ手を貸してあげてもよくってよ」
初音の言葉にほうと感嘆の言葉を口にするアル。
「恩義を屈辱とは思わぬタイプのようで安心した、てっきり罵倒されるとばかり…」
「見そこなわないで…この恩は必ず返すわ」
(ふふ…敵なのが惜しいな)
初音の堂々とした態度にもう1度感嘆の呟きを口にするアル、思えばあの時情けを買うことも出来たであろうが、
決して彼女はそうしなかった。
312追憶と思慕の狭間で(修正):04/02/29 20:39 ID:XUOHuCiQ
「まぁ、汝にも引けぬ理由があるのだろう、今すぐ悔い改めろとは言えぬ、だがせめてその娘は解放してやれ、
 出涸らしにいつまでも拘るな、程度が知れるぞ」
と、アルが傍らに転がったままの水月を指で示したときだった。
はぁはぁと喘ぎが聞こえたと思えば、本来決して入れぬはずの巣の中に伊藤乃絵美が忽然と姿を現したのだった。

【比良坂初音@アトラク=ナクア(アリスソフト) 状態:△(力半減、かなりの手傷(数時間後に全回復)) 
 (鬼) なし 行動目的:休息】
【アル・アジフ@斬魔大聖デモンベイン (ニトロプラス) 状: △(かなりの消耗だが自然回復可能)
 ネクロノミコン(自分自身) (招)行動目的: 休息 (初音と休戦) 島からの脱出】
【速瀬 水月@君が望む永遠(age) 状態:△(暗示、贄、) (狩) スナイパーライフル(鬼側の武器を初音 が 持ってきた)】
【伊藤乃絵美 @With you〜見つめていたい(F&C) 状態:狂気(見た目や言動は正常) 
 所持品:ナイフ 行動方針:不明 】

(初音の【巣】の結界は人間の精神に作用する類のものです、つまり侵入を拒むというのではなく、そもそも
存在を気づかせないタイプの結界です)
(初音の蜘蛛は中央へは侵入できません)
313死闘幕開:04/03/02 00:10 ID:ryMYcnvs
「…何なんだ…何なんだテメェはぁ!?」
 憤懣やるかたない。そんな表情でゲンハは悠人をにらむ。
「犯してる最中に何邪魔してんだ! このガキが!! あァ!?
俺はなぁ! それだけは我慢ならねぇんだ!! 分かってんのかゴルァ!!
男だったら終わるまで見てるか参加すんのが礼儀だろうが!!
一日に二度も同じこと言わせてんじゃねぇ!!」
 一気にまくしたてる。だが、
「うるさい! こんなこと誰が見たって止めるに決まってるだろうが!」
 ゲンハの剣幕に臆することなく、悠人は『求め』を構えたまま微動だにしない。
 ちら、と背後にいるせりなを確認し、すぐにゲンハに視線を戻す。
「アンタもいきなりこの世界に召還されたクチか? だったらこんなことしてないで、
元の世界に帰る方法探したらどうなんだよ!?」
 怒りをたたえた目で、そう言葉をつむぐ。
 だがゲンハは馬耳東風といった感じで、その言葉を一笑に付した。
「ハッ、知ったこっちゃねえなぁ! 別世界へ召還? 元の世界に帰る?
んなこたぁどうだっていいんだよ!! たとえ今いるのがどこだろうとなァ!
俺は俺らしくヤッて犯って殺りまくるだけだぜ!!」
 何の迷いもなく言い切る。
 同時につま先で足元に落ちていたせりなの鉄パイプを蹴り上げ、片手に掴む。
 感触を確かめるかのように、一度ブンッと振りまわす。
「姉ちゃんにはちょうどいいんだろうが、俺にゃちっと軽すぎるな…何もねぇよかマシだけどよ」
 言って、無造作に一歩踏み出し、
「先に突っ掛かってきたのはそっちだぜ? 命乞いは聞かねぇからなァ」
 悠人に向けてニタリと笑った。

(……問答無用かよ)
 できれば話し合いがしたかったが、そんなことができる相手ではないようだ。
 それに、彼女を助ける為とはいえ、確かに先に斬りかかったのは自分だ。
(やるしかないか…だが)
 悠人は自問する。
(斬れるのか、俺に……人が)
314死闘幕開:04/03/02 00:11 ID:ryMYcnvs
 さっきは夢中で斬りかかってしまったが、悠人は人を斬ったないことが無い。
 悠人が戦っていた世界「ファンタズマゴリア」では幾人ものスピリットを斬ってきており、
悠人自身は人とスピリットを区別などしていないつもりだが、それでも実際に『人』を『殺す』
かもしれない段になって、心に怯えが生まれつつあった。
(くそっ、もう自分は人殺しだと自覚したつもりだったのに…)
 こんなことで迷っていては、今まで倒してきたスピリット達に申し訳が立たない。
「何だァ? ビビってんじゃねぇぞ! 兄ちゃんよぉ!!」
 悠人の迷いを見て取ったか、ゲンハが一気に間合いを詰め、鉄パイプを突き出してくる。
 それを横っ飛びに回避しようと――
(…! 駄目だっ!!)
 思い直して『求め』で迎撃する。
 だが思い直した分一瞬反応が遅れ、鉄パイプの先が頬を浅くえぐった。
「チィッ!!」
 鉄パイプを弾いた勢いでゲンハに斬りかかるが、
「ヒャッハアァッ!!」
 奇声を上げてゲンハはそれを回避。小さく回り込んで悠人の背後に向かおうとする。
(…くっそ、こいつ!?)
 させまいと進路を塞ぎにかかるが、そこに隙が生まれてしまう。
 すかさず腹を狙った蹴りが飛んでくる。
 だが、悠人はここで攻撃が来ることを読んでいた。
 蹴りを肘でブロックする。が、
「おおぉらっ!!」
 ゲンハの声と共にこめかみに衝撃が走った。
「くっ!?」
 一瞬目の前がくらっとするが、それでも『求め』を振り回す。
 追い討ちをかけようとしていたゲンハだったが、全くひるまずの反撃が意外だったのか、バックステップで距離を取った。
 そのままニヤリと笑う。
「…俺の裏拳まともに食らってふらつきもしねぇ…いいぜぇ兄ちゃん、楽しくなってきやがったァ!」
「こっちは全然楽しめないけどな…」
 軽口を返すが、悠人は内心焦っていた。
315死闘幕開:04/03/02 00:13 ID:ryMYcnvs
(こいつ、彼女を人質に使うつもりでいるのか?)
 やっかいだと悠人は思う。
 最初の攻撃を回避しなかったのも、背後に回られるのを防いだのも、後ろにいる少女を守る為だ。
 人質に取られでもしたら成す術が無い。
 自然と守りながら戦うしかなくなるが、今の攻防のように不利な戦闘を強いられることになるだろう。
(さて、どうするか…)

(ちったぁ楽しめそうだが…甘ちゃんだな、このガキは)
 ゲンハは今の攻防から悠人をそう評していた。
 戦い慣れてはいる。読みといい斬り返しのスピードといい、間違いなく素人じゃない。
 だが、食らわなくてもいいダメージを自分から食らっている。
 女なんか気にせず、自分を殺すことだけに集中すればいいのだ。
(というより…)
 相手の剣を思い出す。キレの無い、殺す気があるんだかないんだか分からない剣。
(殺すこと自体ためらってるようじゃなぁ)
 今度は元の世界で戦っていた相手を思い出す。
 その相手の中には、本当に自分を殺す気でかかってくる者達がいた。
 生と死のギリギリの境界線を、ゲンハは幾度も切り抜けているのだ。
 あいつらに比べれば――
(敵じゃねぇな)
 そう結論すると、ゲンハは目の前のお姫様とナイトをいたぶることに決めた。

(何とか彼女に自力で逃げてもらうか)
 そう考えた悠人が、せりなに話しかけようとしたその時、
『契約者よ』
 キィン、と耳鳴りのような音と同時に、頭に思考が流れ込んできた。
316死闘幕開:04/03/02 00:15 ID:ryMYcnvs
(うわ、何だバカ剣! いきなり話しかけんな、取り込み中だ!)
 手にした『求め』に向かって思考だけで文句を言う。
『この二人の人間、上質なマナの持ち主だ。殺せ。犯せ。我にマナをよこせ。契約を果たせ』
 悠人の身体を乗っ取ろうと、『求め』が強制力を働かせる。
 頭に激痛が走るが、悠人はそれに抵抗したままゲンハから注意をそらさない。
(無駄だ、バカ剣。もう俺に乗っ取りは効かない。今は仲間割れしてる場合じゃないんだ、力貸せ!)
『……』
 動じない悠人に本当に無駄だと悟ったのか、『求め』の強制力が消える。
(ったく、今までうんともすんとも言わないと思ったら、ろくな事しないな)
『我の全く知らぬ世界なのでな、何があるか分からん。眠って力を蓄えていたのだ』
(…お前が寝てる間にその何かがあったぞ、バカ剣)
 グリフォンの一件を思い出す。
『大した問題ではなかったのだろう。強い力を感知すれば我は起きる』
(ホントかよ)
『本当だ。現に我は起きた。この者達のマナを奪え、契約者よ』
 またかよと、うんざりする悠人だったが、続く言葉に目を見張った。
『マナが足りぬ。この地に『空虚』が来ているのだぞ』
(……今、何て言ったバカ剣)
 『空虚』。親友の岬今日子が持っているはずの永遠神剣。
 それがこの世界に来ていると?
(今日子が…この世界に来てるってことかよ!? ひょっとして光陰もか!!)
 勢い込んでたずねる。が、
『わからぬ。先ほど『空虚』が強い力を使ったのは確かだ。だが『因果』の力は感じ取れぬ』
 悠人達は知る由もないが、『求め』が感知したのは二人が八雲辰人と戦ったときの雷撃の波動だった。
(そうか…アセリア達も来てるってことは?)
『それもわからぬ。来ているとすれば、強い力を使うか距離が近づけば感じ取れるはずだが』
(あの場にいた俺と今日子が来てるんだ。可能性はあるわけだな)
 こんなところでぐずぐずしている場合じゃなくなった。
 早いところ、この男を追い払って皆を探さなければ。
317死闘幕開:04/03/02 00:16 ID:ryMYcnvs
「なあ、君!」
 悠人が視線だけ向けてそう声をかけると、せりなはビクッと身を振るわせた。
(いかん、もうちょっと優しく声かけた方が良かったか?)
 せりなの様子にそう考えるが、今は非常時なのでそのまま続ける。
「立てるか? 立てるなら森へ向かって走ってくれ。こいつは俺が足止め…」
 そこまで言ってからせりなの格好に気づいてあわてて目をそらす。
 せりなも気づき、制服の胸元をかき抱く。そして何とか立ち上がろうともがくが、
「…だ、だめ…立てない…」
 腰が抜けてしまっているのか、もがくだけで一向に立ち上がれない。
「…立てないよ…なんで、なんでぇ…!?」
 泣きながら、必死に立ち上がろうともがき続ける。
 焦ってパニックになりかけているのが容易に分かった。
(…やばいな)
 パニクられるのはまずい。
 意思疎通がうまくいかなくなるのはもちろん、足にしがみつかれたりしたら致命的な隙になる。
「焦るな、大丈夫だ」
 だから悠人はそう声をかけるしかない。
 じりじりと後ろに下がり、せりなの傍まで来ると、ゲンハを警戒しながら中腰になり目線の高さを合わせる。
 せりなが自分に顔を向けた。視線が重なる。
「大丈夫だ」
 悠人はもう一度、ゆっくりと繰り返す。そして、
「高嶺悠人だ。安心してくれ、必ず俺が守る」
 力強く言い切る。
 せりなは一瞬驚いたように目を見張った。その目に、次第に理性の光が戻ってくる。
 そして驚いた表情のままで、こくんと頷いた。
「ゆっくりでいい、立ち上がれるようにがんばってみてくれ」
 それを確認すると、悠人は姿勢を戻して再びゲンハとにらみ合う。
『言うようになったな、契約者よ』
(うるさいな、これしか方法知らないんだよ)
 妹の佳織の為に、常に頼りがいのある兄であろうとしてきた悠人にとって、自分を頼らせることが人を安心させる方法だったのだ。
318死闘幕開:04/03/02 00:18 ID:ryMYcnvs
「ままごとは終わったかい? ナイトさんよ」
 ニヤニヤしながら一部始終を眺めていたゲンハが声をかける。
「…律儀に待っててくれたのかよ。意外と紳士なんだな」
「俺は演出を大事にしてるんだよ。その方が後の絶望感がでっかくなるだろうが?」
 言いつつ、ゆらりと前に出てくる。
 対して、悠人も『求め』を構えて前に出る。
 守りながらの戦いとなれば苦戦は必至だ。
 なおかつ、ファンタズマゴリアの戦法は、攻撃、防御、サポートを三人で完全に分担する独特の戦法である。
 その為、一人で攻撃と防御をほぼ同時に行うことに悠人は全く慣れていない。
(戦闘中はオーラフォトンを展開してる暇はないだろうな)
 しかも相手は相当戦い慣れしている。
 一人ではきつい。だが、
(長崎さんと飯島さんが来るまで耐え抜けば勝算はある)
 グリフォン戦で使ったワイヤーを回収して、後を追ってきているはずの同行者達。
 彼らが到着すれば、形勢は逆転するはずだ。
 悠人はそう考えると気合を入れて『求め』を構え直した。
「いくぜぇっ! 第2ラウンド開始だあぁっ!!」
 ゲンハの雄叫びが辺りに響き渡り――死闘の幕が開いた。


【高嶺悠人@永遠のアセリア(ザウス) 狩 状態○ 所持品:永遠神剣第四位『求め』】
【ゲンハ@BALDR FORCE(戯画) 招 状態○ 所持品:鉄パイプ】
【春日せりな@あしたの雪之丞(エルフ) 招 状態△(軽いショック状態 外傷は無し) 所持品:なし】

【直人@悪夢(スタジオメビウス) 招 状態△(傷は多いが命に別状なし) 所持品:なし】
【長崎旗男@大悪司(アリスソフト) 狩 状態○ 所持品:銃剣】
【飯島克己@モエかん(ケロQ) 狩 状態○ 所持品:ワイヤー】
319誓い新たに:04/03/02 21:16 ID:/Rp/EgI5
 放送を告げる音が、中央へ向かう僕達の前に鳴り響いた。

 『HAHAHA!! グッモ〜ニング、エブリバ……』

 間違えるはずもない、校長の声だ。

 「ハタヤマさん……、これは……」
 「うん……」

 その一言で十分だった。

 やがて、放送が鳴り終わり、告げられたメッセージがぼくらに残された。

 「どう思います?」
 「目的は、そのまんまだと思うよ。
  でも幾つかおかしい部分はあるよね」
 「私もそう思いました……。 とくにあの……」
 「うん……」
 『そこで余たちは、この危険性も考え、部外者を排除する事にしたのだ』
 メッセージの一文がぼくの頭に浮かび上がる。
 きっとアーヴィちゃんも同じなんだと思う。
 「あの時、アイさんは、こういいました……
 『従わないと言うのならば……』と」
 「覚えてるよ。
  でも、それだと放送の内容と食い違うよね」
 「はい」
 「でも、その後のも気になるんだ」
 「『一部の行き過ぎたもの』ですか?」
 流石、アーヴィちゃんだ。
 ぼくが気になった部分を直ぐに指摘してくれる。
320誓い新たに:04/03/02 21:17 ID:/Rp/EgI5
 「あの後、校長は、僕達を助けてくれた。
  アーヴィちゃんの傷まで治してくれてね……。
  もし、彼が最初から排除する気だったんなら、そんな事はしないと思うんだ」
 「つまり、ハタヤマさんは、アレは一部の行き過ぎたもののせいじゃないか、とも思ってるんですね」
 「そうなるのかな……」
 「……ハタヤマさん、あの人に会って何をするつもりなんです?」
 アーヴィちゃんは、少し言い難そうな口調で切り出して、ぼくに聞いてきた。
 「今回の事を、校長が何を考えてるのかを、全部を聞くつもりだよ。
  その上で、ぼくが何をしたらいいのか、何ができるのかを決めたいと思うんだ」
 (そして、校長を倒さなきゃいけないと解った時は、ぼくがやらなきゃいけないんだ)
 そう心の中でぼくは、付け加えた。
 「私もお手伝いさせてもらっていいですか?」
 「え!?」
 突然のアーヴィちゃんの一言に、ぼくは吃驚した。
 てっきり、アーヴィちゃんは、元の世界に帰りたいんだと思ってたからだ。
 それにぼくは、中央に行ったら、まずアーヴィちゃんを元の世界に返すのを最優先したいとも思っていた。
 「元の世界へは?」
 おそるおそるアーヴィちゃんに聞いてみる。
 「元の世界には帰りたいです。
  でも、私は、全てを見捨てて一人だけ元の世界に帰るなんてことはできません。
  帰る時は、ハタヤマさんも、召還された人たちもみんな一緒に帰りましょう」
 ニコッとぼくへ向かって微笑みかけるアーヴィちゃんの笑顔がまぶしかった。
 「中央に行くって事は、今以上に危険な事になると思う。
  ぼくのしようとしている事は、それよりも危険になるかもしれない。
  それでも……」
 「解ってます。
  それに中央へ向かわなければ、どの道、敵とみなされるんです。
  それなら、前へ向かって、歩いていきましょう。
  それにハタヤマさんと一緒だから、ここまで来れたんだと思います。
  だから、私はハタヤマさんの手助けをしたい。
  それじゃ、いけませんか?」
321誓い新たに:04/03/02 21:18 ID:/Rp/EgI5
 強く、まっすぐな彼女の瞳。
 今までぼくに足りてなかったものだ。
 そうだ、この笑顔を、瞳を、ぼくが守り抜いていかないといけないんだ。
 そう強く再認識させられる。
 「ありがとう」
 これだけ言い返すので精一杯だった。
 本音を言うとアーヴィちゃんだけは、直ぐに元の世界に返してあげたい。
 でも、彼女は、きっとそれを納得しようとはしないだろう。
 だったら、早く帰れるようにできるようぼくが努力しなくちゃいけない。
 「さぁ、行きましょう」
 アーヴィちゃんが、手を差し伸べてくれる。
 不釣合いながらも、ぼくは手を取って、
 「うん!!」
 強く返事を返した。
 新しい決意と、もう一度彼女を守るという誓いを固めて、ぼくたちは中央へ向かう足を再び再開した。
 
【ハタヤマ・ヨシノリ@メタモルファンタジー(エスクード):所持品なし、状態○ 招 行動方針:中央へいって全てを見極める】
【アーヴィ:所持品:魔力増幅の杖、リンゴ3個 状態○ 招 行動方針:ハタヤマと共に】
322バジリスク:04/03/03 21:51 ID:cw7BZ843
「アーヴィちゃん、早く早く」
ぴょんぴょんと木々の間を潜り抜けるように先へと進むハタヤマ、その瞳にもはや迷いは無い。
何が待ちうけていても受けとめる、そんな覚悟を秘めた瞳だ。
と、そんなハタヤマの目の前に、唐突に何者かが姿を現した、見ると袴姿の凛とした雰囲気の美少女だ。
ハタヤマは可愛い女のコに目が無い、当然のようにふらふらと少女へと近づいていくのであった。

そんなハタヤマに気がついたのか少女はにっこりと微笑む。
その微笑みにハタヤマもさらにほんわかとした気分になったその時だった。
「逃げて!!」
いつの間にか追いついていたアーヴィがハタヤマを抱きかかえて飛びのくのと、同時に風を切るような音、
見るとハタヤマの立っていた場所に矢が突き立っている。
「あ…あわわ」
状況を理解できないハタヤマにアーヴィが説明する。
「あれは神風っていうモンスターよ…それも最強クラスのね…早く逃げないと」
そう言ったところでアーヴィは顔をしかめる。
「アーヴィちゃん、足が」
見ると足に矢が突き立っている、これで逃げ切るのは難しいように思えた。
また2人を霞めるように矢が通過していく、容易には逃げられないのを知っていたぶっているのだ。

「ああっ、また僕だ…僕が余計なことを」
アーヴィの足から流れる血を見て、また混乱するハタヤマ。
(だめだ…正気を保たないと)
必死で心の中の黒い欲求と戦うハタヤマ、その時だった。
「ハタヤマさん、私を置いていって」
あまりにも予想外の言葉に思考を中断するハタヤマ。
「確かめないといけない事があるんでしょう!こうなったら2人一緒は無理よ、誰かが囮にならないと」
「この足じゃ歩けても走れないわ…だから私がここで食いとめる、先に行って!」
323バジリスク:04/03/03 21:53 ID:cw7BZ843
「女の子にそんなことさせられるもんか…」
心意気は立派なハタヤマだったが、内心は恐ろしくてたまらない、
しかも…アイにこっ酷くやられた傷は未だに完治していない、ここまでカラ元気を通してきたが、
かなりの無理を重ねているのだ。
今以上に無理を重ねればどうなるか。
だがそれでも・・・またしても自分の軽率な行動でアーヴィを危険に晒してしまい、
しかもそのアーヴィを囮にして生き残ろうだなどと…それは恥知らずの外道のやることじゃないのか。
(やるしかない…)
「あの林檎の木の下で待っていて、必ず戻るから」
そうアーヴィに言い残し、ハタヤマは自分の身体を変化させていく。
残りわずかな魔力の全てを使い、ハタヤマは目の前の敵に立ち向かうことを決意したのだった。
そして戦闘スタイルになったハタヤマを見て、にぃと笑う神風だった。


「ぐわっ」
ハタヤマの体にまた1本、矢が突き刺さる。
やはり姿こそ戦闘用だが、その力は衰えきっている、ハタヤマの身体には弁慶のごとく矢が何本も突き刺さっている。
防御に徹したのと、巨体に化けたおかげで微妙に急所を外れているものの、今やハタヤマの命は風前の灯だった。
それでもハタヤマは満足気だ。
(ここまで保ったのなら…)
機を見るに敏なアーヴィなら、もう逃げ切っている頃だろう、つまり最低限の役目は果たした、
あとは逃げるだけだ、助からぬ戦いと思って向かったが、チャンスがあるなら別だ。
ハタヤマは最後の力で、自分の足元の川へと身を躍らせる。
それを見て神風はまた弓に矢を番えるが。

『待て、そいつは殺すな、泳がせておけ』
通信機からのケルヴァンの声に神風は不服そうな仕草を見せたが、黙って構えを解いた。
『それよりもお前に始末してもらいたいのがいる、ぬいぐるみよりは手応えがあると思うぞ』 
「御意」
324バジリスク:04/03/03 21:53 ID:cw7BZ843
「助かった…のかな」
流木に引っ掛かり、河原に打ち上げられたハタヤマはぽつりと呟く、
それにしてもあの神風という魔物は、アーヴィが最強クラスだと言うだけあって、まさに別次元の強さだった。
思えばこうして今なんとか息をしているのが奇跡としか思えない。
「ついてるんだ…僕は」
「行かなくっちゃ」
アーヴィの待つ林檎の木のあるところへはまだもう少し川を下らねばならないはず、
と、よろよろと歩き出したハタヤマの視界に人影が映る。
動きを止めて、慌ててただのぬいぐるみの振りをするハタヤマ。
ここまで散々痛い目にあっているのだ、もう係わり合いはこりごりだ。

とか思っている間に人の気配はどんどん近づいてくる、たまらず薄目を開けるハタヤマ、
と、その目に飛び込んできたのは振り振りのドレスを身に纏い、長い金髪をツインテールにまとめた、
双子の少女だった。
(かっ・・・可愛い)
(この子たちは大丈夫だよね、まだ子供だし)
何度騙されても人を疑わないのはハタヤマのいいところでもあり悪いところでもある。
そして彼の根底に流れる美少女性善説は、またしても彼自身を危機に陥れようとしていた。


「じゃあ、ぬいぐるみさんもここに連れて来られたんだ?」
その双子、鳳あかねと鳳なおみはハタヤマの話を聞きながらその顔を覗きこんで、にっこりと笑う。
ツインズ天使の微笑みにハタヤマはもはやメロメロだ。
「そ、そうなんだよ、だからさ君たちも」
「ふーん、だったら死んで」
「え?」
325バジリスク:04/03/03 21:56 ID:cw7BZ843
後悔する暇もなかった。
ハタヤマの身体はあかねが放ったAK47の弾丸によって文字通りズタズタに引き裂かれ、
原型を留めないまでに破壊されていった。
彼の最期に救いがあるとするならば、美少女ツインズの極上の笑顔を眺めながら逝けたことくらいだろうか?
「弾除けになりそうなら生かしておいてもよかったんだけど、ぬいぐるみじゃねぇ」
息絶えたハタヤマの亡骸を川に蹴り落とし、唇を歪めて笑うあかね。
この双子にとって全ての他人は敵であり、利用対象でしかないのだ。

「ところでねぇ、なおみあの放送どう思う?」
「どう思うも何も・・・信用できるわけないじゃないの」
フンと鼻を鳴らして、やはり皮肉げに笑うなおみ。
「じゃあ決まりね、中央には行かないってことで、とりあえず適当な盾を早く見つけよっと」


その頃何とか逃げきったアーヴィは、約束通り林檎の木の下に腰掛けてハタヤマの帰りを待っていた。
(大丈夫よね…)
しかし、ふと近くを流れる川へと視線を移したアーヴィの口から悲しみの叫びが漏れる。
「ああ・・・ハタヤマさん」
上流から流れてくる見覚えのある手足は間違いなくハタヤマのものだった。
つまりハタヤマはもう、この世にはいない・・・。

波間に垣間見れるそのズタボロの身体の傷は、明らかに神風に負わされたものとは違う、
ということは新手がいる・・・一刻も早くここを離れなければ
悲しむ暇も無く、アーヴィは足を引きずりあわただしくその場を離れた。

【ハタヤマ・ヨシノリ@メタモルファンタジー(エスクード):死亡】
【アーヴィ:所持品:魔力増幅の杖、リンゴ3個 状態○ 招 行動方針:ハタヤマと共に】
【鳳姉妹@零式(アリスソフト) 持ち物 クレイモア地雷x3 プラスチック爆弾 AK47 状態 ○ 狩
 行動方針:利用できる人間を探す、基本的には皆殺し】
(どちらか片方が招の可能性あり) (いくらAK47カラシニコフが扱いやすいといっても子供なので命中精度は低めです)
【神風(魔獣枠)】
326本当に意味のある・・・:04/03/03 22:59 ID:JPDdWnMY
「姉さん姉さん!合流地点はあの丘なんとちゃいますのん?」
ケンちゃんの指摘を聞いて藍は言う。
「別に・・・今更、合流する意味はありませんわ。」
「そりゃそうでっしゃろけど・・・心配するやないですか。」
怪訝そうに首を傾げるケンちゃん。
「そうですわね・・・でも、私はあの方たちにお会いするわけには行きませんわ・・・。」
少しトーンダウンしたその声を聞いて、ケンちゃんは何気ない語り口でしゃべり始める。
「ワテが捜してます兄さんは、変な能力持ってましてね・・・」
「変な・・・能力?」
「そう。死んだ人間に乗り移って動くことが出来るんですわ。」
一瞬、藍の肩が揺れた。
「でも、難儀なもんでっしゃろ?亡くなりはった御人は苦しかったり、悲しかったり、ヘタしたら家族が見守ってはるかも知れん。」
一旦飛んでいたケンちゃんは、足場である藍の肩に再び止まる。
「そんな時に兄さんが乗り移って急に息を吹き返す。どんな事になるか、よう敵わんでっしゃろ?」
「そう、ですわね・・・でも、亡くなった大事な恋人が甦るなら――」
「万物、過ぎた時間なんて戻らんほうがエエ・・・。」
「そうですか・・・?」

「戻らんからこそ、変えられんからこそ、時間も・・・人生も、本当に意味のあるもんになるんとちゃいますか?」
327本当に意味のある・・・:04/03/03 23:00 ID:JPDdWnMY
藍の心に強く刻まれたその言葉は、自らの中にあった思い出に干渉した。
「ワテらの旅は、本の中の世界とはいえその全てを返ることが出来てまう・・・。それは、本来ならあってはいかんことですわ。」
その小さな瞳が藍の横顔を見つめる。
「例え管理された世界でも、そこには秩序があり、ルールがある。そして、その中で流されながらも懸命に生きる方たちがおるんです・・・。」
いつになく真剣な語り口調だった。
「生き物の命ってもんは、その中でも一番、流れを変えちゃあいかんもんだと思っとるんですわ、ワテは・・・。」
ケンちゃんの脳裏に、大地から引き抜かれは果ててゆくマンドラゴラの兄弟たちが浮かぶ。
「精一杯、生きてる・・・奴ら、が・・・ぐっ――。」
「ケンちゃん・・・?」
いきなり男泣きを始めたケンちゃんに藍は驚く。
「夢を、もって生きてるヤツの・・・夢、摘み取ったらいかん・・・でっしゃろ・・・?」
1匹、また1匹と魔術師の素材として抜かれていくマンドラゴラを思う。
「生きて・・・まだ、したい事とかも、あった、ろうになぁ・・・。ぐすっ。」
「したい・・・事・・・夢・・・」
藍の脳裏には恋の姿が浮かんだ。
328本当に意味のある・・・:04/03/03 23:01 ID:JPDdWnMY

――大輔の描いた海の絵を食い入るように見つめていた恋。

――この海の絵は、自分にとって特別なんだと微笑んだ顔。

――自分に出来る兄がどんな人なのか、少し不安そうにしていた表情。

その全ては藍が心から大好きで、慕っていた親友の生き方だった。
「う――!?」
「おわあっ!?」
藍が急に口を押さえて藪に駆け込んだため、ケンちゃんが宙に舞う。
「大丈夫でっか?姉さん!?」
藪の中で嘔吐している藍を心配してケンちゃんが叫ぶ。
・・・今までに経験したことのない、激しい動悸だった。
全身に冷や汗が流れ、吐き気が止まらない。
(私は――私は――っ!!)
329本当に意味のある・・・:04/03/03 23:03 ID:JPDdWnMY
再び吐き気に襲われ、胃の中のものを出し尽くす。
「姉さん・・・なんでそない哀しい顔してはりますのや・・・。」
「私は・・・・・・。」
嘔吐のせいだけではない涙を流す藍。

「私は―――親友を・・・殺しました・・・・・・。」


【鷺ノ宮 藍@Canvas〜セピア色のモチーフ〜(カクテルソフト)分類:招 状態:○(精神状態不安定) 装備:拳銃(種類不明)】
【ケンちゃん@ヤミと帽子と本の旅人(ORBIT)分類:? 状態:○ 装備:クセ毛アンテナ、嫁はんズ用携帯(13台)】

「行動目的」
【鷺ノ宮 藍:中央へ移動?】
【ケンちゃん:藍についていく、コゲ探し】
330名無しさん@初回限定:04/03/04 00:55 ID:CRLM4ny2
?
331葉鍵信者:04/03/04 19:19 ID:anm0gv0b
バジリスク
状態の不正改変によりNGです。
詳しい事は、書き手BBSの方を参考下さい。
また後だしジャンケンの事も有り、同じ内容物や違法部分改訂もNGです。
332葉鍵信者:04/03/05 02:40 ID:819+xr73
バジリスクへの対処報告。
ルール違反に対する対処として、一旦NG扱い。
3日間待ちます。。
その間、作者からの辻褄のあうようへの改訂をお願いします。
作者の改訂を持って、無事終了。
もし、改訂が三日目まで、何もなければルール違反として正式にNG。
333機械人形は夢を見るか:04/03/06 15:49 ID:TEOqBclW
 森の中を二人の男が駆ける。
 先行している同行者が付けていった目印、草が踏まれた跡と木に刻まれた傷を確認しつつ、その同行者の後を追う。
(やれやれ、こんなところで人助けなどする羽目になるとはな)
 苦虫を噛み潰したような顔をして、飯島克己は嘆息する。
 女の悲鳴を聞いた高嶺悠人は、すぐさま声の主のところへ行くことを主張した。
 飯島は反対だったが、長崎旗男も悠人に同調して行くべきと主張した為、やむなく自分も行くことにしたのだった。
 飯島にしてみれば、こんな何が起こるか分からない場所で厄介ごとに首を突っ込むなど自殺行為に等しい。
 だが、そんな場所だからこそ、戦力になるこの二人と離れるのは避けたかった。

「…飯島」
 珍しく、先を走る旗男が声をかけてくる。
「…さっきの放送…お前はどう考える…?」
「信頼度ゼロだな」
 即答する。
「前半の召還がどうこう言ってたくだりは、信用してもいいだろう。実際こんな状況だからな。
俺自身は魔法など縁もゆかりもないから、部外者になるか。貴様もおそらくそうだろう?
…高嶺はどうか知らんがな。
で、後半だが、部外者も受け入れるってのがまるで信用ならん」
「…なぜ、そう思う?」
「俺なら必要ないものは切り捨てるからだ」
「……」
「部外者は召還者にとって必要ないもの、異物だ。理想家なら、なおさら異物は排除したがるだろう。
頭を覗くとか言っていたから、多分その時に殺されるか洗脳されるかして人生終了だな」
「…なるほどな」
334機械人形は夢を見るか:04/03/06 15:50 ID:TEOqBclW
「そういうわけで、信用できるくだりはあれど信頼度はゼロだ」
 飯島はそう言い放つ。召還者と敵対する立場に立つ意思表明だ。
「そういう貴様はどうするつもりだ、長崎」
 予想はつくが、一応たずねる。
「…私の立つべき場所は戦場だ…ならば戦友と共に、理不尽なものと戦おう」
 予想通りの答えが返ってきた。
 戦友扱いされるのはうっとうしいが、味方であるのは間違いないので気にしないことにする。
(かくして、めでたく共同戦線継続というわけだ)
 あえて二人の意識の違いを上げるとすれば、戦場に立ちたい旗男と違い、
飯島は生き残ること優先で、好んでこちらから攻め込もうとは考えていないということか。
 萌えっ娘カンパニーでの生活を手放す気はないし、あそこには殺してやりたいほどの相手もいる。
 早いところ、元の世界に戻る方法を見つけたかった。
「しかし…高嶺はどうするだろうか…」
「ふんっ、心配ないだろう。あいつのことだ、放送の話に乗るとはとても思えん」
 なにしろ、見ず知らずの女を助ける為に単身飛び出して行ったくらいだ。
 あの正義漢ぶりは気に入らないが、それだけにあの独善的な放送で召還者に迎合するとは思えなかった。
「…飯島、音がする…近いぞ…」
 旗男が表情を引き締める。
 言葉通りに、微かに怒声や剣戟の音が聞こえてくる。
 姿は見えないが、すでに悠人は何者かと戦闘を繰り広げているらしい。
 森の出口が見えてくる。資材や鉄骨の山が確認できた。
335機械人形は夢を見るか:04/03/06 15:51 ID:TEOqBclW
「さて、それじゃ俺は隠れさせてもらうぞ」
 飯島の言葉に旗男が訝しげに振り向く。
「安心しろ、一人で逃げようとかは考えていない。存在を悟られていない方が何かとやりやすいんだ」
 言うなり、隠れるのに手頃な障害物を物色し始める。
 旗男はしばし真意を探るように飯島を見ていたが、
「…わかった。私は高嶺の援護に向かうぞ」
 そう言って、再び走り出した。
「ああ、がんばって援護してやれ」
 旗男の背中に投げやりに声をかけて、森の出口近くの材木の山へと向かう。
 身を低くして歩きながら、注意深く辺りを観察する。
(相手が一人とは限らんからな)
 隠れている敵がいた場合は、面倒だが自分が相手をしなければならないだろう。
 森の中、資材や倉庫の影、その背後の道と確認していって、飯島は見知らぬ影を見つけた。
(…なんだ?)
 まだ遠目だが、人影が見える。
 道なりにこちらへ向かって走ってくるが、そのスピードが尋常じゃない。
 そう時間を置かず、ここへ到着するだろう。
 また、その手には銃らしき物を握っているのが確認できた。
(ただの人間ではないな。…敵、として見るべきか)
 こんな場所で見知らぬ相手。味方として考えることはできない。敵と決まったわけでもないが。
 通常時なら会話から入ってそれを確かめたいところだが、今は非常時、戦闘中だ。
 迅速な行動が求められ、無用の混乱は避けたい場面。
 ならば、最初から敵対するのが一番わかりやすいと飯島は考えた。
 排除行動に移ることに決めると、旗男の方を見る。
 ちょうど、森を抜けたところだった。まだ戦場にたどり着いてはいない。
 あの位置からなら、人影は確認できるはずだ。
(フン、少し手伝ってもらうか)
 呼び止めたりしたら自分の存在がばれてしまう。
 飯島は足元の小石を拾い上げると、旗男の背中に向けて投擲した。
(気づけよ、日本兵)
 命中確認もしないまま、飯島は人影の方へ向かうべく、物陰から物陰へと移動を開始した。
336機械人形は夢を見るか:04/03/06 15:53 ID:TEOqBclW

 ゲンハ、直人の捜索を開始して数十分。
 もうそろそろ捜索を打ち切ろうとしていた友永和樹だったが、とうとう片方を発見した。
(ゲンハと…あれは直人じゃない。誰だ?)
 走りながら、現在視野に入っている人物を確認する。

 ―ゲンハ…記憶層に該当あり、保護対象者と確認
 ―ゲンハと戦闘行動中の男…該当なし…魔力検知開始…反応なし、駆除対象者と確認
 ―少女…該当なし…魔力検知開始…反応あり、保護対象者と確認
 ―――視覚隅にさらに一名確認…男…該当なし…魔力検知開始…反応なし、駆除対象者と確認

 以上だ。直人は確認できない。障害物に隠れているのか、または別行動を取っているのか?
 いや、今は確認できない人物を気にしている時じゃない。保護と駆除が最優先だ。
 男二人を駆除し、ゲンハと少女を保護して中央に戻ることが、今の自分が取るべき行動だ。
 だが…、目前で繰り広げられている戦闘は、どう見ても駆除対象の男がゲンハから少女を守っている。
 駆除クラスタは最優先で戦闘中の男の駆除を命じてくるが、本当に今は駆除を行うべき時なのか?
 あの男を駆除すれば、少女はゲンハに蹂躪されるだろう。
 警告はするが、保護対象者同士のやり取りに関しては自分は何の権限も持っていない。
 ゲンハが保護を受け入れた場合、それ以上彼の行動を止められないのだ。
(…どうするべきなんだ? 僕は…)
 迷った直後、和樹は以前に似たような構図を見たことがあることに気が付いた。
 自分が追っていた存在に、怯える少女と、守ろうとする男。
(――!?)
 目の前の少女の姿に、今は中央にいるもう一人の少女、末莉の姿が重なった。
 とたんに一部のクラスタが悲鳴を上げる。焼き切れるかと思うくらい痛みが走る。
 痛み? どこが? 損傷箇所なんてない。いや、それ以前に僕はロボットだ。
 痛みなんて感じるわけがない! なのに痛い! 痛い!
337機械人形は夢を見るか:04/03/06 15:59 ID:WTk2AIYI
 混乱したままそれでも和樹は走り続け、剣を持った男を銃の射程距離に捉えてしまう。
 彼らは戦闘に集中しているのか、こちらに気付いた様子はない。
(ぼ、僕は…)
 もはや和樹はまともに思考できていなかった。
 駆除クラスタの命じるまま、半自動でシグ・ザウエルを構え、男に照準を合わせる。
(…そうだ…命令を遂行しなきゃ…)
 引き金に指をかけ、引き絞る直前、
「動くな!!」
 野太い男の声が響いた。
 ハッとして反射的にスキャンを開始。
 視覚センサーの隅に、もう一人の男が古めかしい銃剣付きの長銃をこちらに向けて構えているのが確認できた。
 一瞬で危険度順位が入れ替わり、銃口をそちらに向ける。
 そして即座に引き金を――

  ――悪いことしちゃダメですよ?

(!……末莉さん!)
 ――引けない。末莉の顔が浮かんだ瞬間、指先はあらゆる命令を拒否した。
(ここで撃って殺してしまったら…!)
 末莉さんはどう思うだろうか。自分はどうなってしまうのだろうか。
 男の銃口が向けられたまま、和樹はどうすることもできずに佇む。
 それは、戦闘中にあってはならない逡巡。
 そしてその隙は、彼を狙うものにとって、おつりがくるほど十分なものだった。

(フンッ! いい仕事するぜ、長崎!!)
 千載一遇の好機に、物陰から飛び出す飯島。単分子ワイヤーが大気を裂いて飛ぶ。
(悪く思うなよ!)

 ――高速度で飛来する未確認物体を確認。危険度不明。全力回避を要求。
(な、なに!?)
 状況認識クラスタの要求に、和樹の動作は追いつかなかった。
338機械人形は夢を見るか:04/03/06 16:00 ID:WTk2AIYI
 ――ヂギイィィィン――!
 耳障りな音が物理的な振動と共に感じられる。
 自分の右肘から先が、シグ・ザウエルを握ったまま低い放物線を描いて飛んでいくのが視覚に映った。
「くあぁぁっ!?」
 思わず声を上げる。
(何が起こったんだ!?)
 即座に状況認識クラスタが現状を分析する。
 ―鋭利な繊維状の武器により右腕欠損。武器消失。
 ―彼我の戦力差を再測定…敵対存在3名。現状勝率32%。武器回収後勝率68%。誤差3%圏内。
 ―速やかに武器回収後、戦闘続行を要求。
(もう一人いた!?)
 状況認識クラスタの判断に、和樹は動揺する。
 シグ・ザウエルを回収すれば、約7割の確率でこの場を制圧できる。だが、
(それでも3割の確率で…僕は死ぬ?)
 3回に1回。無視できない数字だ。
 クラスタは戦闘続行を命令する。ロボットである自分にとって、命令は絶対だ。
 だが、和樹は考えてしまう。
(死んだら、それ以降は命令を遂行できなくなる。積極的に保護を優先しているのは僕の知る限り僕だけで、
その僕がいなくなるのはケルヴァン様にとってもマイナスで…)
 『壊れる』ではなく『死ぬ』という表現を使っていることに和樹は気がつかない。
 いつのまにか、命令に背く為の…生きて帰る為の言い訳を探していることにも。
(そうだ、やっぱり僕は死ぬわけにはいかない。僕が死んだら…)

  ――頼む……! 守ってくれ……! そいつを……――

(…僕が…死んだら…)

  ――何が……あっても! 守るって……! 俺の……妹を守るって……約束してくれ!!――

(―――僕が―――!!)
339機械人形は夢を見るか:04/03/06 16:02 ID:WTk2AIYI
 ケルヴァンにとって不利になる要素を考えるつもりだった。
 主であるケルヴァンの為ならば、撤退することも仕方が無いと割り切れるはずだった。
 だが、和樹が考えてしまったのは全く別のこと。
 そして、気づいたときには、すでに和樹の足は地を蹴って自分が来た道を全力で駆け戻っていた。
 体内でけたたましくエラーが鳴り響く。
(エラーじゃない)
 なぜエラーではないのか、論理的な説明など何一つできないまま和樹は確信する。
(エラーじゃない…エラーなんかじゃない!!)
 命令に逆らったまま、和樹は走り続ける。
 自分の意思で。



【友永和樹@”Hello,World”(ニトロプラス) 鬼 状態△(右腕欠損) 所持品:サバイバルナイフ 基本行動方針:魔力持ちの保護、魔力なしの駆除、末莉を守る】
【長崎旗男@大悪司(アリスソフト) 狩 状態○ 所持品:銃剣】
【飯島克己@モエかん(ケロQ) 狩 状態○ 所持品:ワイヤー】
340戦場を彩る者達:04/03/06 16:22 ID:WTk2AIYI
「アンドロイドとはな…」
 すでに戻したワイヤーを握った手をスーツのポケットに突っ込み、飯島は走り去る少年を一瞥する。
 あの手応えは間違いなく無機物を切断したものだった。
 アンドロイドそのものはカンパニー時代に飽きるほど見ているので驚きはしない。
 もっとも、今までの経験からこの世界は何でもありだと達観しているので、何が出ようと驚きはしないが。
 当然、アンドロイドの戦闘力の高さもよく知っていた。
 まあ約一名、役立たずのポンコツにも心当たりはあるが。
 深追いをする気はない。第一、追いつけない。
「あの程度で撤退するとは妙だがな…、まぁ今はありがたい」
 ひょっとしたら、援軍を連れて戻ってくるかもしれない。
 その前にこの場を片付けて、こちらも撤退するべきだろう。
(さて、それじゃ戻るとするか)
 今度は同行者二人の援護をするべく、飯島はまた物陰へと身を潜めた。

「…うむ」
 弾丸など一発も入っていない38式歩兵銃を肩に担ぎ、旗男は立ち上がった。
「…しかし、飯島め…まったく勝手な奴だ…」
 また視界からいなくなった飯島に向けてぼやくと、数瞬前の出来事を思い出す。
 背中に衝撃を受けて驚いて振り向くと、飯島があさっての方向に移動しているのが見えた。
 何事かとその方向を見ると、駆けてくる少年が視界に入る。
 状況が理解できずにそこで対応が遅れたが、近づいた少年が悠人のいると思われる方へ銃を向けたのを見て敵と判断。
 だが距離が遠い為、自分の攻撃は間に合わない。
 そこで取ったのが先ほどの行動だった。
 自分が撃たれる危険は高かったが、本来旗男の目的は戦場で散ることにある。
 生きる意味を考え始めた今でも、自分の身の安全より戦友の身の安全を優先して行動していた。
(…高嶺にも私の声は聞こえたはずだ)
 姿こそまだ見えないが、少し先の資材の山を越えればそこはもう戦場だ。
(…今行くぞ、高嶺!)
 突撃態勢を取ると、旗男は戦場へ向けて駆け出していった。
341戦場を彩る者達:04/03/06 16:23 ID:WTk2AIYI
 和樹が戦線を離脱し、飯島、旗男の両名もそれぞれの行動に移った後、
誰もいなくなったその場所で、地面に転がった右腕を拾い上げた存在があった。
「ククッ、思わぬ拾い物だな」
 握られたままの右拳からシグ・ザウエルを引き剥がすと、直人は残弾を調べる。
 十分な数が残っているのを確認すると、ニィッと口の端だけで笑みを見せた。
 全ての人物から死角になる場所でじっと息を殺していたが、どうやら事態は都合良く展開してくれたらしい。
 少し離れた場所ではゲンハがタイマン中だ。増えた相手の人数は分からないが、この銃があれば自分も参加できるだろう。
 しかし、なぜこんなに無粋な輩が多いのか。女は犯すものであって、守るものなどではないというのに。
 だがまあ、そういう輩がいるならそれなりの楽しみ方というものもある。
(くっくっくっ、奴等の目の前で犯してやったらさぞかし良い気分になれるだろうな)
 そう考えるが、そこで自分の体調を思い出す。
 そういえば、今回は自重しようと決めたのだった。
(ちっ…まあいい、その分あいつに全て吐き出せばいいさ)
 良門を組み伏せ、罵詈雑言を浴びながら肉襞を割って思うさま陵辱する光景を思い浮かべる。
(くくっ、くはははははっ…おっと、いかんいかん…しかし、それにしても…くくっ)
 想像だけで思わず達しそうになり、あわてて思考を打ち消す。
(まったく、ヤリたい盛りのガキじゃあるまいし…どうしちまったんだ、俺は? くくくっ)
 良門のことを考えると、どうにも自制が効かない。止まらなくなる。
 もしかしたら、恋焦がれるとはこういう気持ちを指すのだろうか?
 だとしたら生まれて初めての経験である。
 愛だの恋だのは軟弱者の幻想とバカにしていたものだが、これなら悪くない。
 生きる気力が沸いてくるというものだ。
(さぁて、それじゃ相棒の援護でもしてやるか)
 飯島と似たようなことを考えると、これまた似たように直人は資材の影へと入っていった。

 三者三様、男達は動き出す。
 集う場所はすぐ目の前。
 材木の茶色と鉄骨の赤錆色で彩られた、――そしておそらく、鮮血の紅でも彩られる、戦場。
342戦場を彩る者達:04/03/06 16:25 ID:WTk2AIYI
【飯島克己@モエかん(ケロQ) 狩 状態○ 所持品:ワイヤー】
【長崎旗男@大悪司(アリスソフト) 狩 状態○ 所持品:銃剣】
【直人@悪夢(スタジオメビウス) 招 状態△(傷は多いが命に別状なし) 所持品:シグ・ザウエル】

【高嶺悠人@永遠のアセリア(ザウス) 狩 状態○ 所持品:永遠神剣第四位『求め』】
【ゲンハ@BALDR FORCE(戯画) 招 状態○ 所持品:鉄パイプ】
【春日せりな@あしたの雪之丞(エルフ) 招 状態△(軽いショック状態 外傷は無し) 所持品:なし】
343受け継いだモノ:04/03/07 00:45 ID:7Eky1okO
 「熱下がりっぱなし…」
 美希の前に突然川から這い上がってきた九朗。
 その男が横になっている脇で美希は悩んでいた。
 (なんで助けちゃったんだろう…)
 這い上がると同時に、九朗は意識を失った。
 美希が一目見ても解ったように、彼の身体には大小様々な傷が出来ており、
そこから流れでたであろう血の量とダメージはバカにならないのも理解できる。
 マギウス状態が解けたために、出血を抑えきれなくなり、そこから川に流されたのだ。
 相当な量の血を失ったのは間違いない。
 付け加えて、彼の身体から熱は感じられなかった。
 皮肉にも、川に流され、岸辺まで泳いだのが彼の体力と熱を極限まで奪っていたのだ。
 一刻たった今なお、彼の意識は目覚めないままだった。
 
 
 川岸に意識を失い倒れる九朗。
 遠くから見ても彼は重傷だった。
 近づきながら、その様子を見た美希は彼が何者かと争い、そして今の状態になったのを理解した。
 手にもたれた銃が、彼が普通の人ではないのを物語っている。
 玲二も銃を持っていた。
 彼から感じられる人殺しと言う臭いを感じ取り、共に行動するのを決別した美希だったが、
不思議と目の前で倒れている九朗からは、その臭いは感じられなかった。
 それでも一般人ではない闇の世界に生きる者が放つ雰囲気は、玲二達と酷似している。
 彼女にも何でかわからなかった。
 けど、この人は放っておけない。
 助けてあげたい。
 不思議とそんな気持ちが溢れ、彼女を突き動かした。
 彼を運び、水を拭き取り、今尚助からないかと努力している。
 医学的知識は素人である美希にも、このままでは体内の血が不足している為に、
熱が戻らずに、そのまま帰らぬ人となる可能性が高いのは解る。
 温めれば、一時的には回復するかもしれない。
344受け継いだモノ:04/03/07 00:46 ID:7Eky1okO
 幸い、周りは森だった。
 彼女は、すぐさま近くに落ちている木の枝を拾い集め、
昔、小学校の頃に習った原始的な火のつけ方を思い出して、なんとか焚き木を作る事に成功した。
 自分だけの時は、そんな事をしようとも思わなかったのに。
 それでも彼の肌は、冷たい温度を維持しつづけている。

 「やっぱりアレしかないのかな…」
 意識を失った九朗を横に、彼女は最終手段の事を考えていた。
 漫画で良く読んだ雪山で遭難した時にする人肌で温めあう行為である。
 幾ら、助けたいと思っても目の前の男は、今さっき拾っただけの人物である。
 好きな人でも大事な友人でも肉親でも何でもない。
 更に美希自身も身体が冷えて寒いのだ。
 その状態で彼に熱を渡す行為をするというのは、彼女の今後の活動のために必要な体力も失われる事になる。
 彼女が悩み悩んで悩み末た挙句、服を着た状態ならと、妥協をして、九朗に触れようとした刹那。
 彼は目覚めた。

 「ここは…?」
 目覚めた九朗の瞳に移ったのは、自分に迫る少女の姿だった。
 「わ、わ、ご、ごめんなさい!!」
 さぁ、抱きつくぞという所で目を覚めた九朗に対して、
恥ずかしさから尻込みして謝ってしまう美希。
 一方、美希を目の前にしても九朗は落ち着いていた。
 なぜか、敵である可能性とか抵抗しようと言う気が彼に湧かなかったのだ。
 自分でも無意識の内に気づいていたのかもしれない。
 線香花火が最後の一瞬、激しく燃えるように。
 自らの命もまたつきようとしている瞬間なのだと。
345受け継いだモノ:04/03/07 00:47 ID:7Eky1okO
 「いや、いい。
  それより君が助けてくれたのか…」
 全てを悟ったように九朗は美希に対して話しかけた。
 「そう…最初は助ける気はなかったんだけどね」
 ポツリと彼女は話した。
 「でも、助けてくれたんだろう?」
 (もう死ぬ間際の人間をさ…)
 最後の言葉だけ、彼は抑えた。
 彼女のしてくれた行為を少しでも後悔させたくないと思ったからだ。
 「ねえ、何で戦うの?」
 彼女自身の中にある疑問をぶつけるように、美希はそう質問した。
 「正義のためかな…。自分の信念に従って、間違った事をしたくないから…」
 「…何が正義かなんてわからないじゃない?」
 「それでも、今の現状でできることを俺はしたい。
  あんなやつらの言う事なんかに従いたくない。
  君も俺を助けてくれたって事はそうなんだろう?」
 「よく解らない…」
 自分でも今こうしてるのは、その通りなんだろうと思う。
 でも、今の彼女には九朗と違って確固たる信念はない。
 何もかもに絶望して、ただ生きているだけに等しい。

 ふと、九朗の方を見た美希は彼の瞳が視線を失っているのに気づいた。
 「ちょっ!? まさか目が!?」
 大声で彼の傍に近寄る美希。
 「ん…ああ、みたいだな…」
 死期を悟ったためか、九朗は落ち着いていた。
 「皮肉だな…。
  あいつに助けて貰ったのに、その行為のせいでこうなるとはな…」
 「…何言ってるの?」
 『あいつ』という言葉を聞いて、美希は自分のせいではないと解った。
346受け継いだモノ:04/03/07 00:49 ID:7Eky1okO
 「もしアル・アジフ…アルっていう少女にあったら伝えて欲しい。
  ありがとう。って…」
 ああ、この人はもう…。
 美希は、彼の現状を理解した。
 「…他に何かある?」
 「そうだな…。 俺が持っててももう意味ないしな。
  君に使えるかは解らないけど、役立ててくれ」
 九朗は最後の力を出して腕を上げた。
 何も言わず、美希はイクタァとクトゥグア、そして残った弾丸を受け取った。
 「…ありがとう」
 今の彼女にはそれしか言える言葉が見つからなかった。
 「…生きろよ」
 その言葉を最後に九朗は目を閉じ、再び目を開けることはなかった。

 九朗の死からしばらくの間、彼女は考えていた。
 彼に最後に言われた言葉『生きろ』というのが頭にこびりつく。
 目的を失っていた彼女にはそれが十分すぎるほど強く映った。

 「今の私に出来ること…。
  あいつらには従いたくない。
  誰にも殺されたくはない…。
  なら、どんな事があっても私は絶対に生き抜いてやる!!」
 
 やがて立ち上がった彼女は、粗末ながら九朗の遺体に葉を被せて墓とした。
 「ありがとう…。
  ほんの一時だったけど、あなたに出会えて良かったと思う」
 そこで彼女は気づいた。
 「名前聞きそびれちゃったね…」
347受け継いだモノ:04/03/07 00:50 ID:7Eky1okO
【佐倉霧@CROSS†CHANEL(フライングシャイン) :狩 状態:△ 所持品: ボウガン 矢の数は二本(撃ったら拾うので矢自体はなくならない、二発目を撃つ時には装填準備が必要)
 回転式拳銃(リボルバー)『イタクァ』、自動式拳銃(フルオート)『クトゥグア』、残り弾数不明(それぞれ13発、15発以下)
 行動方針:生き抜く】
【大十字九郎@斬魔大聖デモンベイン(ニトロプラス) 状: −(死亡)】
348ほんの僅かな休息を:04/03/07 01:50 ID:R1buiDYM
「酷い傷……」
 岸に上がった九郎の全身をみた霧は、そんな事をポツリと呟いた。
 擦り切れた服と、その隙間から見える大小の傷口。
 下半身はまだ川の中に入っている。
 その下半身からは、赤い液体が今も流れ出しており、川の水を紅く染めていた。
「た、助けなきゃ……!」
 霧はそう呟いてから、九郎に近づいていく、が、霧が九郎の身体に手を伸ばしたところで躊躇い、その手の動きを止める。
「この傷口、何かに切られたような……。もしかして、この人も……」
 殺人鬼、陵辱者、そして美希の下に現れた剣を持った耳の長い人の姿をした化け物。
 この島で、霧は今まで普通の人間に出会った事が無かった。
 その為の戸惑い、果たして目の前のこの男も、その化け物達と同じ人種なのではないか。
 霧は手を伸ばしたまま、九郎をどうするか、決めあぐねていた。
「ァ、アル……」
 九郎が呟く。
 アル・アジフを、大切なモノを求めるように。
 その言葉の切れ端から感じた九郎の感情、たかが名前、しかしそこには確実に『何か』が含まれていた。
「アル? ねぇ、その人はどうしたの!」
 霧は思わず九郎に対し、大声で問い掛けた。
 しかし九郎は、その名前を呟いたきり、完全に気を失っている。
 そこで霧はある事を思い出す。
 つい先ほどまでの、まだ一日も経っていないにも関わらず、既に何日も過ぎたかのようにすら感じるある出来事を。
「この人は私と同じ……」
 大切なモノを目の前で失い、挙句の果てに川の流れに身を投じ、深い傷を負った者達。
「助けよう」
 霧はそう一度だけ呟くと、九郎の身体にその手を伸ばした。
349ほんの僅かな休息を:04/03/07 01:51 ID:R1buiDYM
 川の上流、先ほどまで霧達がいた場所からそう離れていない切り立った崖の足元にある大きな洞窟。
 正確にいえば、切り立った崖の岩が霧達の頭上を覆い、結果的に洞窟のようになっている場所を、霧は見つけた。
 すぐさま霧は九郎の身体を休ませようと、その場所に身を潜め、九郎の身体を比較的川の水で濡れていない場所を探し、そこの上に寝かせる。
「ふふ……。私が落ちた場所が、今こうやって逆に私を助けてくれるなんて……」
 自虐的に霧が笑いながら、横にいる九郎に目を向けた。
 九郎は時折呻き声のようなものを発してはいるが、目を覚ますような気配は無い。
「身体が冷たい……」
 マギウスとなった影響か、或いはアルと交わした契約の力かは判らないが、傷口から流れ出していた血は少しほど前に止まった。
 しかし、傷ついた身体で川の水にその身を浸した影響による体温の低下は、いかんともしがたい。
 そして……。
「でもどうしよう……。温めるものが……」
 今、霧の元にある物といえば、霧が着ている服と、ボウガン。
 九郎が目を覚ましていたのなら、或いは、霧は知らないが、もといた世界で同じ時間を何度も過ごしていた美希が傍にいれば、まだどうにか出来たかもしれない。
 しかし、サバイバル経験の無い霧が、何も無い場所で火を起こす事ができるわけも無く。
 結果、霧は途方にくれていた。
「こんな時、どうすれば……、あっ!」
 そんな時、霧の頭の中にあるひらめきが思い浮かんだ。
 それは、どこかで読んだ小説の一場面だったのかもしれないし、或いはテレビドラマの一シーンだったかもしれない。
「でも、だって……」
 思わず九郎の身体をマジマジと見つめる。
 体格は良く、筋肉質な九郎の、『男』の身体を。
 男嫌いな霧にとって、頭に浮かんだひらめきというものは、およそ実現不可能な行為だった。
 しかし。
「このままじゃ、この人は死んでしまう」
 それは推測ではなく、確実な未来。
 現に九郎の身体はだんだんと限界に近づいている、否、既に限界を超えていると言っていい。
 霧は考える。
 このままにしていても、もしかすれば九郎の身体の体調が一気に回復してどうにかなるかもしれない、と。
 しかし、その思いは一瞬にして霧散する。
350ほんの僅かな休息を:04/03/07 01:52 ID:R1buiDYM
「そんなわけ、無いじゃない……!」
 現実的な考えをする霧だからこそ、現在の九郎がどんな状態なのか、そして放っておけばどうなるか、その事を完璧に理解していた。
 弱っているものは助け、弱き者を挫こうとする人間を自分の手で助けようとする。
 そんな『佐倉霧』という人間が、見殺しという選択肢を選ぶ事は無かった。
「……よし!」
 そして、霧は決断した。
 霧は立ち上がると、ゆっくりと自分の着ているブラウスに向かって、その手を伸ばした。
 
 
 
 むに、という妙な感覚を右手から感じるのと、九郎が死の淵から蘇ったのはほぼ同時の事だった。
「あ、ぅん……?」
 痛みと、傷を負った事による熱によって、ぼんやりとした頭のまま九郎は何気なく右の掌を動かす。
 むに、むに。
 布のような感触の下に微かな、しかし確実な『何か』の感触を感じる。
「何だ、コレ……?」
 その微かな感触を確かめるかのように、何度も右手を動かした。
 その時、その手の下にある『何か』がピクリと動いた。
「たくっ……。一体なんだっていうん」
 半裸の少女が突然九郎の目に飛び込んできた。
「……え?」
 自分の右手の先にあるのはスポーツブラ。
 それに腹部のある一部分を隠す為に存在する小さな布切れ。
「……え?」
 九郎はもう一度呟く。
 思考が固まる、それに影響を受けたのか、身体機能まで停止したかのような錯覚まで覚えた。
「……ぁあ! 眼を、覚ましたんですね! 良かっ……」
 そんな時、九郎の傍で眠っていた少女、霧が目を覚ました。
 運が悪い事に。
 初めは九郎が目を覚ました事に喜び、安堵の言葉を投げ掛けようとしたが、その途中でその九郎の手が、現在どこにあるかという事に気がつく。
351ほんの僅かな休息を:04/03/07 01:56 ID:R1buiDYM
 むに。
 霧の左胸に置かれた九郎の手がもう一度動くのと、霧の放った盛大な張り手が九郎の腹部に当たったのは、ほぼ同時の事だった。
 
 パチ、パチ。
 炎がはぜる音が、霧と九郎の間から聞こえてくる。
 眼を覚ました九郎が、混乱し、暴れる霧を何とか説得し、彼女に集めてきてもらった枯れ木に火をつけたのが、およそ三十分ほど前。
 その間、九郎がいくら霧に向かって声を掛けても、彼女はまったくその言葉に反応を返さなかった。
「……なぁ」
 九郎が霧に向かって、何度目かとなる呼び声を掛ける。
「何ですか?」
 呼び掛ける事数度、ようやく霧がその口を開く。
 しかし答える霧の口調は固い。
「本当に悪かった……。ぼーっとしていて、マジで判らなかったんだって!」
「……その事はもういいです。何度も何度もそうやって同じ事を繰り返して。貴方は同じ事しかいえない、所謂『馬鹿』なんですか?」
 馬鹿、の部分を強調して、霧が無表情のまま呟く。
「……ああ。俺は馬鹿かもしれないな。いや、馬鹿だ。大馬鹿だよ、本当に……」
 想像していたのとは違う九郎の反応に、霧は思わず表情を変えた。
「……怒らないんですね。見ず知らずの他人が、貴方を貶す言葉を吐いたっていうのに」
「本当の事だからな」
 九郎は苦笑いを浮かべながらポツリと呟いた。
「一つ聞いてもいいですか? 貴方の傷、何かに切られたみたいでした。……貴方も人殺しなんですか? 誰かと戦って、そして」
「俺は人を殺さない」
 誰かを殺したのか、そう続けようとした霧の言葉を遮って、九郎がそれまでのとは違う口調で、はっきりとそう答えた。
「俺が断つのは魔だけだ。人は絶対に殺さない。もう何度も言ってきた言葉で、その度に信じてもらう事が出来なかった言葉だけどな。俺はそれでも繰り返す、何度でもな。何せ俺は……馬鹿、だからな」
 自嘲的なその言葉を聞いた霧は、シュンとしながら俯いて、一言だけ「ごめんなさい」と呟いた。
352ほんの僅かな休息を:04/03/07 01:57 ID:R1buiDYM
「謝る事なんて何も無い。あんたは何も悪くない、というか、俺を助けてくれたんだ。何を言っても構わないし、俺は助けてもらって、その恩を仇で返すなんて事は絶対にしたくないしな」
 霧は俯いていた顔を上げて九郎の顔を見つめる。
「じゃあ、聞かせてくれますか? 貴方が何故、あんな川の中にいたのか、その理由を」
 九郎は一瞬だけ悲しそうな表情になるが、すぐにそれを笑みに変え、一言「いいぜ」と答えた。
 

「……とまあ、俺はそうやって信じていた奴に裏切られたって訳だな。傑作だろ? 一緒に戦おう、なんて向こうから言い寄ってきて、実際戦う時になって、未熟だから出直せ、だとよ。本当、笑っちまうよな……」
 パチン、と、洞窟の中に乾いた音が響く。
「そんなのっ! そんな事で裏切られたなんて、間違っても私に言わないで下さい!」
 霧は九郎の話を聞き終えると同時にそんな言葉を叫びながら、九郎の頬を叩いた。
「私は美希から、親友だと思っていた人から、その手で崖の上から突き落とされました! 貴方のは、そのアルっていう人が、その戦いから貴方を逃そうとする為にした事じゃないですか! それを……。裏切り? 本気でそう思っているんですか?」
「思っていないさ」
「思ってい……! え?」
 九郎は笑いながら、もう一度同じ言葉を繰り返す。
「思っていないさ。俺はアルに裏切られたなんて思っちゃいないよ」
「ならどうして……」
 問い詰める霧を制し、九郎は言葉を続ける。
「俺が話をしている時に、俺もあんたの話を聞いた。驚くほど同じような話だった。突然訳の判らない化け物に襲われて、信じていた奴の手で崖の上から突き落とされた。だけどさ」
 九郎は霧に向かって、真剣なまなざしを向ける。
「その結果は? 友達が化け物の目的だとすれば、少なくとも殺されやしない。俺の方も同じようなもんだ。命の保証はする、なんて事を言っていたし、まだ俺はアルとの繋がりを感じている。つまり、俺達の相方は、どちらもまだ死んじゃいないって事だ」
「だからって……。崖から落されたんですよ!」
 九郎はその言葉を聞くと、ハハハ、と大きな笑い声を上げた。
「確かに俺達は崖から落ちて、そしてこうやって助かった。本当、お互い頑丈だよな」
「こんな時に冗談を言わないで下さい!」
353ほんの僅かな休息を:04/03/07 01:57 ID:R1buiDYM
「冗談じゃないさ」
 声質が変わる。
 いままでは飄々としてどこか掴みようのない雰囲気だけの九郎の声に、包み込むような優しさが加わる。
「結果として、俺達は生きている。もしあんたがあの場にいたら、そこであんたは死んでいて、俺がアルの元に残っていたら、今頃俺達は、あの蜘蛛野郎の餌になっていたかもしれない、だろ?」
「そ、それは……」
 霧はうろたえながらも反論の言葉を捜す。
「俺が思う『裏切り』ってのはな。裏切り行為をされて本当に命を失った時、その場合だけだと思うんだよ。もし俺が崖から落ちて死んでいたら、その時はあの古本娘の事を恨んで、あいつの枕元にでも立っていたと思うけどな」
「死んだらって……、そんなの」
「俺達は生きている。生きている限り文句だって言えるし……、助けてやる事だってできる! ……違うか?」
 九郎は優しく問い掛ける。
「……違い……ません」
「だろ?」
 九郎は霧の問いに満足して、笑った。
「生きてもう一度出会えたら、その時は。あんたがさっき俺にしたように、その友達の顔に一発大きいのをかましてやればいいさ」
「あ、あれは!」
 顔を赤くしながら、霧が九郎の方から目をそらす。
「ハハ。まあ、ともかく、俺はあんたに手を貸すよ」
「え、でも、貴方にはアルって人が……?」
 九郎はその問いにはすぐに答えずに、そのままゆっくりと火の傍に近寄るとゴロリと寝転んだ。
「俺は今度こそ間違いを犯さない。目の前に困っている奴がいるってのに、それを見捨ててアルを助けになんていったら、間違いなく俺は殺されちまうよ。しかも、それは自業自得で、恨む事すら出来やしない。大丈夫、あの古本娘はしぶといからそう簡単に死にはしない」
 その言葉は、偶然にもアルが崖から落ちた九郎に対して向けた言葉と同じものだった。
「……ありがとう……ございます」
 その瞳に涙を浮かべながら、霧はそう呟いた。
 そして、少しの沈黙の後、おもむろに九郎が口を開いた。
「……悪いな、話をしていてちょっと疲れたみたいだ。少し眠らせてくれ」
354ほんの僅かな休息を:04/03/07 02:01 ID:R1buiDYM
「え、あ! は、はい……」
 そのままの体勢で、炎の向こうで座っている霧に向かって声を掛ける。
 霧はその言葉を聞くと、少し緊張したような面持ちになり、拙いながらも気配を消そうと試みる。
 その霧の行動がおかしくて、九郎が思わず霧に向かって冗談を投げ掛ける。
「出来れば、もう一回裸で添い寝を……」
 その言葉に対する返答は、無機質な霧の声。
「射殺しますよ?」
「俺が全面的に悪かったです、すいませんです、ごめんなさい」
 九郎は傍からみれば、情けなくすら思えるような声を上げ、霧に向かって謝罪した。
(……あの事はやっぱ黙っていた方が良さそうだな。吹雪の中じゃあるまいし、別に裸で抱き合わなくても充分温まる事が出来た……、って事を)
 最後にそんなくだらない事を考えながら、九郎はもう一度眠りについた。
 
 それは後に待ち受ける戦いの為の、ほんの僅かな休息の時間だった。

【佐倉霧@CROSS†CHANEL(フライングシャイン) :狩 状態:△ 所持品: ボウガン 矢の数は二本(撃ったら拾うので矢自体はなくならない、二発目を撃つ時には装填準備が必要)】
【大十字九郎@斬魔大聖デモンベイン(ニトロプラス) 状: △ (とりあえず、死ぬ事は無い)
回転式拳銃(リボルバー)『イタクァ』、自動式拳銃(フルオート)『クトゥグア』、残り弾数不明(それぞれ13発、15発以下】
355犬死せし者たち:04/03/07 03:49 ID:6knYUz0I
要塞内部のケルヴァンの邸宅の中で息を潜め、脱出のチャンスを待つのは
高町恭也ら3人だ。
彼らはあれからリニアの手引きによって、どうにかここまで辿りついていた。
あともう一息でとりあえずは外に出る事が出来るはずだ。
しかし、ここまできてリニアが戻ってこないのだ。
もしかして…という不安が3人の脳裏を掠める、しかし彼らにリニアを見捨てるという
選択肢は存在していなかった。
「もう少し待とう、いずれにせよ彼女の案内無しでは不安だ」


「きゃあぁぁぁぁっ」
その頃だった、ケルヴァンの放った雷撃がリニアの身体を貫く。
「どうしてバレたのかまるで分からない風だな?」
ケルヴァンの言葉にこくこくと頷くリニア、ケルヴァンはため息交じりにリニアに理由を教えてやる。
「貴様やはり頭脳が間抜けだな、増えた人数分の食器を出したまま片付けてなければ、誰でも怪しいと思うわ!」
そんなところまでしっかりとこの男は見ていたのである。
「小遣いからさっぴくためだ」
誰に聞かせているのか分からない言葉を口にするとケルヴァンはぱちんと指をならす
と、ドアの向こうから弓を持った胴着姿の少女が現れる。
少女の正体は神風、弓を自在に操る、妖魔の中でも上級に位置する強者だ。
「お小遣いは減らしてもらっても結構ですう、ですからどうか…」
「もういい…造反の代価は命だと古来より決まっている」
ケルヴァンはもう1度神風へと指を鳴らす、その瞬間リニアの口から凄まじい悲鳴が上がる。

リニアの四肢は文字通り目にもとまらぬ早さで放たれた神風の矢によって、もぎ取られてしまっていたのだから。
「機械でも一人前に痛みを感じるらしいな?」
泣き叫ぶリニアにはもはや構わず、ケルヴァンは神風に命令する。
「鼠を炙り出せ、そして見つけたら殺せ」
「かまわん、事実連中は抵抗を試みている…」
ケルヴァンはそういうと、自分の足元に縛り上げられたままの姿で転がるカトラとスタリオンの襟首を掴み
そのまま神風と共に部屋を出ていってしまった。
356犬死せし者たち:04/03/07 03:50 ID:6knYUz0I
リニアの四肢は文字通り目にもとまらぬ早さで放たれた神風の矢によって、もぎ取られてしまっていたのだから。
「機械でも一人前に痛みを感じるらしいな?」
泣き叫ぶリニアにはもはや構わず、ケルヴァンは神風に命令する。
「鼠を炙り出せ、そして見つけたら殺せ」
「かまわん、事実連中は抵抗を試みている…」
ケルヴァンはそういうと、自分の足元に縛り上げられたままの姿で転がるカトラとスタリオンの襟首を掴み
そのまま神風と共に部屋を出ていってしまった。

(鍵が…壊れてる)
それからしばらく経過して、リニアは誰もいない部屋からそっと抜け出す。
両足と左手を落とされ、残る右腕も単に繋がっているだけの状態、もう長くは持たないだろう。
「お知らせ…しないと…逃げて…いただかないと」
かろうじてコード1本だけで繋がってる右腕だけで這いずりながら、
最後の命の灯火を燃やし尽くしながら、ひたすら廊下を進むリニア…
だが彼女は背後の影にはまるで気がついていなかった。

そしてリニアはついに現在3人をかくまっている部屋まで辿りついた。
「逃げてください…感づかれました」
その声と同時に慌てて飛び出す3人、しかしその時恭也はリニアの服についていた長い糸に気がつく、
それは廊下の向こう側まで伸びていた。
「罠だ!部屋から出るな!!」
2人に叫ぶ恭也、しかしそのために一瞬、動作が遅れた、そしてその時、壁を貫通して襲ってきた矢によって、
恭也の弱点である両膝は見事に射貫かれてしまっていたのだった。

「私…私の…せい?」
血煙が飛び交う中で自分が嵌められたことをリニアはようやく理解していた、あの時ケルヴァンが部屋から出たのも
廊下にだれもいなかったのも全て自分を利用して、恭也らを見つけ出そうとする手だったのだ
357犬死せし者たち:04/03/07 03:51 ID:6knYUz0I
「お助け…しないと」
こんな事態を招いてしまったのは自分の責任だ、だから自分でけりをつけるしかない。
リニアは自分のエネルギー残量を確認する。
「あと、一回なら行けます」
リミッターを解除し、フルパワーの一撃を食らわせる、これなら倒せる自信があった
だがこの状況でのそれは、リニアの死を同時に意味していた。
(それでも私はみんなを助けたい!!)
ためらうことなくリニアはリミッターを外す、そしてその力をもって右腕で床を叩き、
大きく跳躍するリニア、そのまま拳を握り上空から神風へ、
渾身の、自分の命を全て注ぎ込んだ必殺パンチを叩きこもうとするリニア。
しかしその時リニアは見た、神風が笑いながら呟くのを。
(グレートいひっ)

そして案の定、その鉄腕が貫いたのは神風ではなかった。
「そん…な」
リニアの顔に鮮血が飛び散る、そして目の前には驚愕の表情の桜井舞人。
そう、たまたま同時に殴りかかった桜井舞人をすかさず盾にして、神風はリニアのパンチを防いだのだった。
「どうして…」
自分の行為に愕然としながら、血に塗れた腕を舞人の胸から引きぬくリニア…
もはや戦う意志は消えてしまっていた。
そして神風が弓を構えるが、もうリニアは抵抗しなかった、いやできなかった。
「わたしは…ただ…」
358犬死せし者たち:04/03/07 03:52 ID:6knYUz0I
そして一方の恭也だったが、先ほどの先制攻撃によって彼は古傷の膝を射貫かれていた。
「血が止まらないよぉ、恭ちゃん!!」
美由希は恭也の傷口にハンカチを当てながら泣き叫ぶ。
おそらく両足の動脈を射貫かれてしまったのだろう、だとすると、つまりもう自分は助からない…。
しかしそれでも…、やらなければならない、こうなっては自分が何とかしなければ、
美由希だけでも助けたい…それに今、恭也は何故か妙な自信が満ちてくるのを感じていた。
「龍燐…貸してくれないか?」
「ムチャよ!そんな身体で!」
「こんな身体だから…出来そうな気がするんだ」
それは単に出血多量のため軽いトリップ状態になっているだけだが、
恭也は自分の集中力が確かに高まっていくのを感じていた、今なら…出来る、これしかない!

(たのむ、俺の身体よ、あと一瞬だけ動いてくれ!)
恭也は震える手、いやすでに震えは止まっている、で、構えを取る。
それを見た美由希の口から溜息が漏れる。
そう、恭也の構えはまったく非の打ち所が無い、まさに完璧だった、彼は死を目前にして
ついに奥義を極めたのだった。
「いいか…俺が切りこむのと同時に、お前はドアに走れ…」
美由希は駄々をこねるようにいやいやをするが、恭也の顔を見て、やがて力なく頷いた。
それを確認し、はーっはーっと恭也の口から気合が漏れはじめる、そして次の瞬間、
恭也は己の全ての力を注ぎ込んだまさに必殺の一撃を放ったのだった。

だが…神風は刃と化した恭也をくるりと身を翻し、あっさりと交わした、確かに凄まじい一撃ではあったのだが…。
彼の膝はもう限界を超えていたのだった。
結局、恭也が切り裂いたのはその背後の壁に過ぎなかった。
さらに、反転した神風の手からまた弦の音が響く、そして光の矢によって恭也の下半身が砕け散り、
階下に落ちていくのを美由希と舞人は確かに見た、
しかし恭也の顔は奥義を我が物にした改心の笑顔に満ちていたのだった。
359犬死せし者たち:04/03/07 03:54 ID:6knYUz0I
(恭ちゃん…)
後ろ髪を引かれる思いで美由希はドアに向かい走る、恭也の死を無駄には出来ない…。
それを見て神風がすかさず矢を放つ、が、
「させるかよ!」
舞人が美由希の盾になり、その身体に矢を受ける。
それを見て立ち止まろうとする美由希だったが。
「俺に構うな!逃げろ!俺たちの死を無駄にしないでくれっ!」
その言葉に一気にドアを潜り抜ける、もう彼女は振り帰らなかった。
そして舞人はドアの前に立ちふさがり、美由希が逃げるまでの時間稼ぎをしようとする。
風穴の開いた胸からは血が止め処も無く流れていく、
「聞けよ…俺の身体の血が一滴残らず流れ出すまで、俺はここを決して動かないからな…」
「さぁ、来い…桜井舞人の死に様を…」
だが、神風は舞人には付き合わず、そのまま恭也が切り裂いた壁の穴から外へと飛び出していった。

「くそったれ…め、お約束のわからねぇやつは嫌いだな
ずす…とへたり込む舞人、その傍らでは。
「わたしはただ…わたしはただ…」
胴体から吹き飛ばされ、壁に縫いつけられたリニアの頭が壊れたテープレコーダーのように、
同じ言葉を漏らしつづけていた。
「そう思うだろ?」
その言葉を最後に桜井舞人は息を引き取った。
そして誰もいなくなった部屋で、やはりリニアの声だけがエンドレスで響いていた。
「わたしはただ…わたしはただ…わたしはただ…わたしはただ…」
360犬死せし者たち:04/03/07 03:54 ID:6knYUz0I
美由希は階下で発見した上半身だけになってしまった恭也を抱え、ふらふらと歩いていた。
逃げなければという気持ちはあったが、その無残な恭也の姿を見てしまった瞬間、
自分の中の生きたいと思う気持ちが掻き消えていくのを感じていた。
「俺は…やったぜ、ついに奥義を極めたんだ」
「うん…凄かったよ…恭ちゃん」
涙ながらに応じる美由希。
「さてと帰らないとな、皆が待っているから、今日の夕飯は何だろうな」
帰るって…と言いかけて、美由希は口をつぐんだ。
もう、彼の心はすでに海鳴の街に帰っているのだろう…。

「今日はね…恭ちゃんの大好物…だよ、奥義習得記念だから…ね」
無理に笑顔を作る美由希。
「そうかぁ…嬉しいな、レンや晶もきっと喜んでくれるだろうなあ」
満面の笑顔で恭也は頷く、その口から血泡がこぼれる。
もはやかける言葉が見つからない、美由希はただ祈るように、このまま恭也が幸せな夢の中で
死ねるようにと祈りながら、その髪をそっと撫で続けていた。
だが…美由希はその目の中にこちらに進んでくる神風の姿を見つける。
「おねがい…来ないで、最後まで夢を見させてあげて…安らかに、死なせてあげてよ」
しかし神風は美由希のそんな願いを無視するようにわざと音を立てて弓を明後日の方向に飛ばす。
まるでお前は犬死だと言わんばかりに。

その弓の音に首を傾ける恭也、そしてその顔が絶望に彩られていく。
「何で…何であいつ生きてるんだ…俺は、確かに…」
そして彼は現実に戻ってきた、恭也の口から皮肉気な笑いが漏れる。
「くくっ…はははっ…ははっ…はははっ、わらっちまうぜ…こんな落ちかよ…」
「最後まで…半端者…か」
それが高町恭也の最後の言葉だった…彼は現実と自分自身に絶望しながら、死んだ。
361犬死せし者たち:04/03/07 03:57 ID:6knYUz0I
そして最後に残った美由希へと神風は矢を番える。
もはや美由希は逃げようとはしなかった。
俺たちの死を無駄にするなと言う、舞人の言葉が甦る、だが…。
「ごめんね、私そんなに強くないの…」
美由希は手に持った龍燐を自分の腹部に突き刺し、さらに真一文字に腹を切り裂く。
割れた腹からはらわたが飛び出し、周囲は真紅に染まる。
美由希の血で龍燐も真っ赤に染まっていく。
「そうよ・・・私たちの血と涙と苦しみと恨みと憎しみを・・・たっぷりと吸いなさい、そしていつの日か
 無念を・・・晴らして」
復讐の念をたっぷりと刃に送りながら、まもなく美由希も3人の後を追ったのだった。

神風はその様子をつまらなさそうに見ていたが、やがて無造作に美由希の手から龍燐を引き剥がすと、
それを庭石で粉々に粉砕してしまったのだった。

【高町恭也@とらいあんぐるハート3(JANIS) 死亡】
【高町美由希@とらいあんぐるハート3(JANIS)死亡】
【桜井舞人@それは舞い散る桜のように(バジル)  死亡】
【リニア@モエかん(ケロQ) 死亡】  
 
【神風 @ランスシリーズ(アリスソフト)魔獣枠 】
【スタリオン@ワーズ・ワース(エルフ) 鬼 状態○ 所持品なし】
【カトラ@ワーズ・ワース(エルフ) 鬼 状態○ 所持品なし】
362想いという名の痛み:04/03/08 22:43 ID:P/EgjIMp
合流地点になっている丘がうっすら森の向こうに見えた。
「大丈夫?休もうか?」
「あたしは平気よ、これくらい。」
額に汗をかきながらまいなちゃんが気丈に言い張る。
「わたしは・・・ちょっと休みたいかも・・・」
対照的にゆうなちゃんはもう限界みたいだった。
「ちょっと、ここで休憩しましょう。」
「そうですね。」
私と百合奈先輩は適当に場所を見つけると切り株に腰を下ろした。
それを真似してまいなちゃんとゆうなちゃんも大きな切り株に座ろうとする。
しかしゆうなちゃんの座った部分は苔むしていて、そのまま地面に尻餅をついた。
「いたいよぉ〜・・・。」
「大丈夫?」
目じりに涙を溜めるゆうなちゃんに私は声を掛けた。
「うん・・・。」
今度はゆっくりと座る。
ぽす。
そんな音がして苔の上に座ることが出来た。
「あ、けっこうあったかい・・・。」
「間に空気が入りますからね。」
のんびりした会話が聞こえてくる。
それはここが異世界であることを一瞬、忘れさせてくれた。
363想いという名の痛み:04/03/08 22:44 ID:P/EgjIMp
「百合奈先輩、お母さんみたい・・・。」
「えっ?そう・・・ですか・・・?」
頬を染める百合奈先輩。
「きっと良いお母さんになると思いますよ。」
「ありがとう・・・ございます。」
少し百合奈先輩の表情が曇った。
「でも・・・私は呪われていますから・・・母親には、なれません・・・。」
「お姉ちゃん?なんで?」
ゆうなちゃんがクリクリした瞳を百合奈先輩に向けて尋ねる。
それに対して先輩は力なく微笑むと、
「そういう・・・運命なんです・・・。」
そう言ってまた悲しそうな表情をした。

「切り拓く事もせず、受け入れるか・・・。それも良かろう。」

「えっ!?」
私の背後で声がした。
振り返るとそこには着物姿の童女と長い刀を持った女子高生の姿があった。
私は咄嗟にみんなの方へ駆ける。
「誰っ!?さっきの放送の人の仲間!?」
「仲間・・・ではなかろう?」
童女が女子高生に聞く。
「当然・・・。遊びの付き合い、かな・・・。」
木にもたれ、長い黒髪を手で梳きながら物憂げに返す。
衝撃だった。
364想いという名の痛み:04/03/08 22:45 ID:P/EgjIMp
「ひどい・・・っ!”遊び”なんてひどいもんっ!!」
私は叫んでいた。
「遊びで・・・?命を失っている人がたくさんいるのに・・・。そんな簡単に言い切れるような事じゃないっ!!」
「橘さん・・・。」
「大輔ちゃんも!篠宮先生も!みんなみんな何も悪い事してないのにっ!何で死ななくちゃならないのっ!?そんなの間違ってるっ!!」
大輔ちゃんを庇って倒れた篠宮先生。
私を庇ってその命を落とした大輔ちゃん。
全てが信じられなかった。夢だと思いたかった。

「あのさ・・・」
心底呆れた口調で私に語りかけてくる。
「そういう事・・・ウチらに言わないでくれるかな・・・?関係、ないから・・・。」
「リリスの戯れで我等はここに入り込んだだけだと言うに・・・。」
童女も呆れ顔だった。
そして二人は何事か話すと・・・
「あんまり気が進まないけど・・・」
音もなく鞘から刀を抜き放つ女子高生。
「きゃあっ!!」
ゆうなちゃんが百合奈先輩にしがみつく。
私の後ろでは、まいなちゃんが震えながらも相手を睨み付けていた。
「――行かせてもらうよっ!」
そういってこちらに向かって駆けて来る。
「このっ!!」
私は手近な石を拾って投げつけた。
だが、それはあっさりと弾かれる。
こちらに一瞬、睨みを入れるとそのまま百合奈先輩の所へ。
365想いという名の痛み:04/03/08 22:46 ID:P/EgjIMp
(始めからあっちが狙い!?)
「橘さんっ!」
百合奈先輩がゆうなちゃんを私の所へ突き飛ばしてくる。
私はゆうなちゃんをしっかり抱き止め、再度、百合奈先輩に刃を向ける女子高生目掛けて投石する。
「邪魔。」
横に逃げた先輩を確認してから私の石を弾く。
「先輩!」
「はあっ・・・!あっ!」
「百合奈先輩っ!?」
百合奈先輩の呼吸がおかしい。
「う・・・くっ・・・。」
左胸を抑えてうずくまる。
「百合奈先輩!!」
「く、薬が、ないので・・・・・・ぐっ!」
異常な状況下で失念していた。
そうだった。百合奈先輩、心臓が・・・。
ここに来てから激しい運動がずっと続いていた。無理があって当然だった。
「たち・・・ばな、さん・・・逃げて・・・」
苦しい呼吸の中で、それでも百合奈先輩は私に言った。
「私は・・・もう・・・限界です・・・・・・」
「そんなこと・・・しません。」
私はきっぱりと言い切った。
「もう、誰かが死ぬのを黙って見ているのは嫌です。」
「ふむ・・・なかなか座興としては面白い。どれ・・・」
童女がゆっくりとこちらに近づいてくる。
366想いという名の痛み:04/03/08 22:47 ID:P/EgjIMp
「来ないでっ!」
私は刀をしまい、こちらを眺めている女子高生とは対照的に、まだこちらに向かって来る童女に叫んだ。
「なに、取って食うわけではない。静かにしておれ。」
「え・・・?」
口を開きかけた私の喉元にいつの間にか刀が突きつけられていた。
「ちょっと、動かないで。私も面倒なのはイヤだから・・・。」
童女はそのまま苦しそうに喘いでいる百合奈先輩の元へ行き、
「ふふ・・・・・・。」
ドスッ。
「いやあああああっ!!」
ゆうなちゃんが泣き叫ぶ。
それは、異常な光景だった。

童女の赤い爪が、百合奈先輩のうなじに突き刺さったのだから・・・。

目を見開いた百合奈先輩に童女が囁く。
「何を欲する?何を求める?否定するのではない・・・受け入れよ・・・。」
「あ・・・・・・。」
そして爪を抜く。
不思議な事に、血は出なかった。
「さて、どうなることやら・・・。」
「あ・・・」
苦しそうに心臓のある辺りを押さえる百合奈先輩。
「さて、では我らは次の座興を楽しむとしよう・・・。」
「・・・酷いね。楽しんでるつもりなんだ?あれで・・・。」
女子高生はそういって森の中に消えていく童女を追い、その姿を消していく。
「もう、帰って久しぶりに初美と遊びたいな・・・。」
367想いという名の痛み:04/03/08 22:48 ID:P/EgjIMp
「おねえちゃん!だいじょうぶ!?」
心配そうに駆け寄ったゆりなちゃんに、百合奈先輩は苦し紛れの笑顔で言った。
「何とか・・・大丈夫です。ごめんなさい、突き飛ばしてしまって・・・。」
ゆうなちゃんは首を振る。
「百合奈先輩・・・」
「はい・・・大丈夫です・・・。落ち着きました。少し、動きすぎたのだと思います・・・。」
うなじを何気なく見るが、大した傷はない。
(一体・・・?)
「もう少し休んだら、また移動しましょう。」
百合奈先輩の意見でまた、休むことにした。
まいなちゃんからもらったキャンディーを一つ、口に入れる。
ミルクのほのかな甘さがした。
もう一つをまいなちゃんに。
「はい。」
「ん、ありがと。」
可愛い笑顔がこぼれる。
「いいなぁ・・・。」
羨ましそうにしているゆうなちゃんには百合奈先輩が。
「どうぞ。」
「あ。ありがとう。」
見透かされたことが恥ずかしかったのか、頬を染めるゆうなちゃん。
一時の休息は、何かの前触れのようで・・・。
私は少し身震いした。



【橘 天音@Canvas〜セピア色のモチーフ〜(カクテルソフト)分類:招 状態:○ 装備:キャンディー 】
【君影 百合奈@Canvas〜セピア色のモチーフ〜(カクテルソフト)分類:狩 状態:○(赤い爪の呪縛) 装備:キャンディー 】
【朝倉ゆうな@はじめてのおいしゃさん(ZERO)分類:招 状態:○ 装備:キャンディー】
【朝倉まいな@はじめてのおいしゃさん(ZERO)分類:招 状態:○ 装備:キャンディー】
368DESIRE:04/03/09 00:45 ID:000Y9V7r
突然の乱入者を検分する、初音とアル
とりあえず乃絵美を蝕んでいるのが強力な呪詛であることは一目見て分かった。
それが自分たちの操るものとは根源的に違う原理のものであることも…。
…だが、こんな強力な術を操れる者がいたのだろうか?
「原理としいては人間の肉体の許容量以上の力を強引に与える事で精神に負荷を与え
そしてゆくゆくは肉体もろとも崩壊させる、こんな感じかしら」
「あくまでも”力”を与えるというところが厭らしい手口だな、これでは被害者は認識できまい」
「ええ、腐っていく果実が腐ったことを認識できないのと同じように、そのことに最後まで気がつかないまま
消える事になっていたでしょうね」
ともかく解呪が先だ、見るとかなり進行が早い…このまま死なれては相手が誰なのかもわからない。
それにかなり上質の力を持っているのが見ただけでわかる、こんな美味しい獲物を逃す手は無い。
初音は心の中で舌なめずりして同時に今度は悪戯っぽくアルを見る、
この娘にもちょいと一役買って貰うとするか…。

「これだけではいかんともし難いですわ、後は本人に聞かないと、幸いにも力の質は似ておりますので、この娘から
 魔力を切り離し、肉体と精神の負荷を抜いてやれば自ずから元に戻るかと」
「呪詛返しか?、ならば手伝うぞ」
「で、その方法ですが」
と、いうなり初音はよろよろと起きあがり、乃絵美へとのしかかる。
「お、おい!いきなり何を!」
「これが1番効率のよい方法だというのは貴方もご存知ではなくって?」
古来、房中術というものもある、確かに人から人への力の受け渡しに最も適しているのは、
直接的な肉体の交わりをおいて他に無い。
「それに消耗した私たちの力も回復できて一石二鳥ですわ」
369DESIRE:04/03/09 00:46 ID:000Y9V7r

「これだけではいかんともし難いですわ、後は本人に聞かないと、幸いにも力の質は似ておりますので、この娘から
 魔力を切り離し、肉体と精神の負荷を抜いてやれば自ずから元に戻るかと」
「呪詛返しか?、ならば手伝うぞ」
「で、その方法ですが」
と、いうなり初音はよろよろと起きあがり、乃絵美へとのしかかる。
「お、おい!いきなり何を!」
「これが1番効率のよい方法だというのは貴方もご存知ではなくって?」
古来、房中術というものもある、確かに人から人への力の受け渡しに最も適しているのは、
直接的な肉体の交わりをおいて他に無い。
「それに消耗した私たちの力も回復できて一石二鳥ですわ」

しかしアルにしてみれば、理屈ではわかるが倫理的に受け入れられる行為ではない。
「奏子に悪いと思わないのか!!」
「思わないわ、私が愛しているのはかなこ只一人よ、他の誰を戯れに抱いたところでそれは所詮戯れ、
 私の思いは揺るぎもしないわ」
そう断言されるとアルはぐぅの音も出ない、初音の言葉に嘘は無いと言う事を知っているのだから、
「それに貴方も我慢できないのではなくって?」
初音はアルの太股から滴る液体を見逃してはいなかった。

「そんなに妾を浮気の共犯にしたいのか?」
「大丈夫よ、心に定めた殿方は彼一人なのでしょう?心の操さえ守れれば身体なんて些細なことよ」
立場が逆なら…と言いかけてアルは考え込む、考えて見れば九朗も自分に隠れていい思いをしているではないか…。
だとすれば、自分も気持ち良くなって何が悪いのだろう?
それにこれは負荷抗力だ、目の前の少女を救うためのやむを得ぬ行為だ、それに失った力も回復できる。
「いいか!これはその娘を救うためだぞ!、断じてあらぬ悦楽にふけろうなどと考えてはおらぬからな」
そう言いつつも我慢できなかったのだろう、アルは初音を押しのけるように乃絵美にのしかかるのであった。
370DESIRE:04/03/09 00:50 ID:000Y9V7r
かくして行為は終わった、呪縛の解けた乃絵美はやすらかに寝息を立てている。
アルも初音もうっとりと頬を赤らめながら寄り添って眠っていた。

「九郎、妾を置いて逝くな!死ぬときは共に…」
が、いきなりアルはバネ仕掛けの人形のように跳ね起きる、寝汗で身体はぐっしょりと濡れていた…
何かものすごく悪い夢を見たような気がするが思い出せない…。

ともかくアルは自分の状態を確認する、力が戻っている…、そして傍らの初音は未だに眠りの中だ。
今なら容易く寝首を掻けるだろう、しかしアルは何もしようとはしなかった。
1度救った相手を倒す事などこの少女の考えには無かった。
それに、倒すのならば堂々と名乗りをあげた上での事にしたい、でなければこの誇り高き蜘蛛に失礼なように思えた。
(好色で残忍で冷酷で傲慢で…しかし憎めぬ、不思議な娘よ)
「かなこ…」
そんなアルの複雑な心境も露知らず、最愛の少女との睦み合いを夢見ている初音だった。

と、もう一つ起きあがる影がある。
それは初音の呪縛から解放された水月だった、彼女も眠りから覚めたようだった。
「あああああっ!!孝之ぃ!!」
だが水月は目覚めるなりいきなり悲鳴をあげ、そして手当たり次第に周囲を引っ掻きまくる。
まさに狂乱といってもよかった。
「どうしてよ!!どうして起こしたのよぅ!!」
泣き叫ぶ水月をやんわりと嗜めるアル。
「バカな事を…かりそめの幸せの中に逃避してそれが何になる」

「汝は立ち向かわなければならないのだぞ、その身体の中に宿る新しい命のためにも」
新しい命、その言葉を聞いた瞬間、水月は凍りついたように固まる。
「なんだ知らなかったのか?」
「ねぇ?どういうこと!!ねぇ」
「言ったとおりだ、汝の身体には赤子がいる、汝は母親となるのだぞ」
母親、という言葉にまたぴくりと身体を震わせる水月。
371DESIRE:04/03/09 00:51 ID:000Y9V7r
「生き抜いて元気な子を産まねばならぬな、子を産み、育むは我ら女の最大の喜びなのだから」
アルは水月の背中を撫でてやりながら、優しく水月に諭す。
だからアルは気がつかなかった、水月がとても危うげな笑顔を浮かべている事に…
「これで勝てる…ようやく…初めて勝てるわ…遙に」

【比良坂初音@アトラク=ナクア(アリスソフト) 状態:○(睡眠中) (鬼) なし 行動目的:休息】
【アル・アジフ@斬魔大聖デモンベイン (ニトロプラス) 状: ○ ネクロノミコン(自分自身) (招)行動目的: 休息(初音とは休戦) 島からの脱出】
【速瀬水月@君が望む永遠(age) 状態:○(狩) スナイパーライフル(鬼側の武器を初音が持ってきた)
 行動目的 不明】
【伊藤乃絵美 @With you〜見つめていたい(F&C) 状態:○(睡眠中) 所持品:ナイフ 行動方針:不明 】
372MIND BREAKER :04/03/09 23:04 ID:dKReC/Fs
がくん、ハタヤマの腰が大きく沈む。
「あれ?」
これはここまで無理を重ねてきた、いわゆるちょっとした過労といった程度だったが、
ハタヤマの脳裏には別の理由が思い浮かんだ。
(そろそろ毒を出さないと・・・)
それに…ハタヤマは先ほどの暴走を思い出す、あれほどの魔力を放出した事は今までになかった。
その分身体に早くガタがきてもおかしくは無い。

ハタヤマはアーヴィの顔を眺める…だめだ、とてもこんなことは頼めない。
いつものように魔物のふりをして襲うしかないのか、いやそれもダメだ、この状況では不自然過ぎる。

そうこうしている間にも、刻一刻と自分の身体に毒素が充満しつつある、そんないやな感覚を覚えるハタヤマ。
所詮、生あるものは死の恐怖から逃れることはかなわない。
ましてハタヤマはつい先ほどその恐怖に直面したばかりだ。
いかに強がっていようとも、あの時怒りで我を失っていようとも、あの赤いロッドを構えた
少女の残像は、決して消えることはなかった。
身体の傷は治っても、心の傷はそう簡単には癒せないのだ。

そんなハタヤマの顔を見て、アーヴィが尋ねる
「ハタヤマさん、具合悪いの?困った事があったら何でも私にいってね」
その微笑を見てしまったハタヤマの中で恐怖とは別の感情も大きくなっていく
もう我慢できない…。
(なんでもいってねっていうことはきっと大丈夫だよね、アーヴィちゃんなら)
「あのさ…実は僕、病気なんだ…それでね」
373MIND BREAKER :04/03/09 23:05 ID:dKReC/Fs
ハタヤマは流石に恥ずかしげにもじもじと話す、人前であの姿をさらすことになるとは、
だが、どういうわけかアーヴィになら何でも打ち明けられるような、そんな不思議な気分だった。
「身体の中の毒を吸い出してもらわないといけないんだ…だから」
その時、また胸がちくりと痛んだ、そしてその痛みと同時にまたあの少女の幻影が浮かび上がる、
そしてついにハタヤマの理性のタガは外れてしまったのだった。
「アーヴィちゃん!!こんな僕を知っても嫌いにならないで!!」
そう叫ぶと同時にハタヤマの身体がおぞましい触手の集合体へと変化していく、
生殖器の無いハタヤマがいわゆる「毒」を放出するにはこの方法しかないのだった。

「こすってよ・・・こここすって毒を出すだけでいいんだから、ね?ね?ね?」
迫りくる死に対する恐怖(実際は篠原さんの暗示に過ぎないのだが)とそれとは違う別の欲望も、
ハタヤマから自制心を奪いつつあった。
あまりにも凶悪に鎌首をもたげる男性自身たちに、アーヴィはがたがたと震えながら悲鳴を上げる。
アーヴィにとって、それは戦場で遭遇したいかなる魔物よりもはるかにおぞましく醜いものとしか思えなかった。
それはまさに本能的な恐怖だった。

「この姿じゃないと出来ないんだ、気持ちよくしてくれないと毒を放出できないんだ
も、もう時間が無いんだ、お願いだよぉ
異形の姿になりながら哀願するハタヤマ、その姿にさらに後ろ去るアーヴィ
「痛くしないよ、ほんのちょっとだけなんだ」
うにょにょと男性器の群れが一斉に動き出す、それを見たアーヴィもまた恐怖で理性がキレてしまった。
「こないでぇ!!化け物!!」
374MIND BREAKER :04/03/09 23:05 ID:dKReC/Fs
アーヴィの手から放たれた雷撃がハタヤマの触手を焼く。
その痛みで触手をぶんぶんと振りまわして暴れるハタヤマ、それは身体の痛みのためだけではない、
化け物…その言葉がハタヤマの心にズキンと突き刺さっていた。
その中の数本が勢い余ってアーヴィの身体にぶち当たる。
避けきれず宙を舞うアーヴィ、その先には大木があった。

ガン!
大木にもろに叩きつけられたアーヴィの後頭部から鈍い音が響くと同時に、その身体は途端に力を失っていく。
そしてその弾みでアーヴィの太ももの間にハタヤマの触手がすっぽりと挟まりこむ。
(き・・・気持ちいい)
生存欲とそして肉欲で桃色になった脳細胞はもはや歯止めが利かない。
しかしそうしている間にもアーヴィの身体からは温もりが失われていく、
しかしそれでもハタヤマは、
「もう少しだから、ほんの少しだけですむから」
と、うわ言のように叫びながら、洗ったら匂いもすぐに取れるよなどと叫びながら、
触手の動きを止めようとはしなかったのであった。


「ふぅ…」
ハタヤマはいい汗をかいたとばかりに額をぬぐう、が、すぐにバツが悪そうに振り帰る。
「あの…その、ごめん…僕ぅ」
しかしアーヴィは返事をしない、只の屍のようだといわんばかりに。
「意地悪しないでよ…」
ハタヤマはアーヴィの手を握って、それから慌てて離す。
その手はまるで氷のように冷たくなっていた。
「嘘でしょ?冗談でしょ?ねぇ、僕が悪かったから起きてよう」
ハタヤマはアーヴィの身体を揺さぶるが、改めてその冷たさに愕然とする。
もう認めざるを得なかった…アーヴィは死んだ、そして殺したのは…。
「僕?」
375MIND BREAKER :04/03/09 23:06 ID:dKReC/Fs
違うよね?これは夢だよね、ホッペをつねる…痛い。
その痛みが教えてくれた、これは現実だと、そしてお前は人殺しだと、
いっそ全てを否定できれば、狂気の世界に逃避できればどれだけ楽だったか、
しかし出来なかった…もう認めてしまったのだから。

ハタヤマは泣いた、これほどまでに涙を流せるのかというほど泣いた。
そしてなぜこんなに悲しいのか、その理由も彼は気がついてしまった。
そう、彼はアーヴィに恋をしていたのだ。
それは失って初めてわかった、あまりにも残酷すぎる事実だった。

「君のお兄さんに、お父さんになんて言えばいいんだ…」
美しく聡明な兄、たくましく心やさしい父、そして一騎当千の仲間たち
彼らがいつか必ず助けに来てくれると彼女は信じていた。
そんな彼らが、もうすでにここにやって来ていたら、そしてもし出会ったら、
何と詫びればいいのだろう?
彼女が心から誇りに思う家族や仲間たちとの幸せな日々…それを僕が…
「僕が、僕が壊したんだぁ!命惜しさに欲望に負けて!」

いっそ身を投げようと木に登ろうとするが、ぬいぐるみの身体では登ることが出来ない、
ならばと水溜りに顔をつけるが、浅すぎて窒息できない。
だが結局の所の結論はこうだ・・・それでも彼は死にたくなかったのだ。
ここまでのことをしでかしておいてなお、彼は生きていたかったのだ。
それに自分が死んでもアーヴィはもう戻ってこない。
そのあたりまえのことにも彼は気がついていたから…。
376MIND BREAKER :04/03/09 23:11 ID:dKReC/Fs
何も出来ない無力感にハタヤマの目は濁っていく。
誰であろうと、もうヴィルヘルムであろうともハタヤマの心を救うことは出来ないだろう、
例えハタヤマが許されることはあっても…。
いななる罪であろうとも犯した罪は許されることがあっても、消えることは無い、
烙印となって生きている限りその者を苛み続ける。
その烙印を消す事ができるのは、それは罪人の心のみでしかない。
つまりハタヤマがハタヤマ自身が自分を許さない限り、永遠に彼は苦しみ続けるしかない。
結局人は自分で自分を救わなければ誰にも救われない、そんな生き物なのである。

「こんな…こんな力さえなければ…アーヴィちゃんは死なずに…すんだんだ」
自分を呪いつづけるハタヤマだったが、やがて呟きが途絶える。
こんな…力?
ハタヤマの脳裏にある考えが閃いた、だがそれはまさに恐るべき、もはや人の考えではなく
まさに獣の知恵としか思えぬ悪魔の計画だった。
この力があれば……。

そうだ…この力で僕がアーヴィちゃんになればいいんだ。
アーヴィちゃんの代わりになって生きればいいんだ、最初は上手くいかないかもしれないけど、
いろいろ練習すればきっとちゃんとしたアーヴィちゃんになれるよ。
それはまさに死者への、残された遺族たちにとっての冒涜・愚弄以外の何者でもなかったが、
それでも彼にとってはそれが最善の方法だと思った、そしてそれを行う事に決めたのだ。
377MIND BREAKER :04/03/09 23:14 ID:dKReC/Fs
一言弁護するならば彼は罪から逃れるためにこのようなことを思い立ったのではない、
彼は正面から自分の罪に向き合い、そして罪を償うために選んだのだ。
そしてもう一つ、これはハタヤマヨシノリという存在がこの瞬間から消滅することも、
意味していた、だってこれから先の日々を彼はアーヴィとして過ごすのだから。 

「でも、こんな僕なんていない方が…消えた方がいいよね」
ハタヤマはメタモル魔法でアーヴィに変身し、アーヴィの亡骸から服を剥ぎ取り身につける。
そうすると確かに見た目だけはアーヴィをほぼ再現できたといってもよかった。
しかし服の外から出ている手足や顔はアーヴィでも、服の中はおぞましい魔物の形をしている。
今のハタヤマの実力ではこれが精一杯なのだ。

ハタヤマは自分の顔を水面に写す、そこにはアーヴィが微笑んでいた。
「うん…大丈夫、ちゃんと君になれたみたいだ、服の下はまだ無理だけど、いつかは…」
そこで遠くにいた水鳥が一斉に飛び立つ、水面が揺れてそこに映るアーヴィの顔が僅かに歪む。
「ひぃぃ!ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいぃぃぃっ!
 ちゃんとちゃんと君になれるようになるからあ、もっと練習するからぁっ!!」
水面に映る自分の顔に向かって土下座するハタヤマだった。

こうしてハタヤマヨシノリは消滅し、アーヴィは甦ったのである。
ただし胴体にはびっしりとウロコが這えて、おまけにスカートの端から尻尾が見えていたりしてたが。

【ハタヤマ・ヨシノリ@メタモルファンタジー(エスクード):所持品:魔力増幅の杖:状態○ 招 行動方針 アーヴィとして生きる・死にたくない】
【アーヴィ:死亡】
378MIND BREAKER :04/03/09 23:24 ID:dKReC/Fs
【ハタヤマ・ヨシノリ(アーヴィに不完全変身中)@メタモルファンタジー(エスクード):所持品:魔力増幅の杖:状態○ 招 行動方針 アーヴィとして生きる・死にたくない】
【アーヴィ:死亡】
379一時を……:04/03/10 02:01 ID:6TbEvdqQ
 廃墟となった民家……もとい古い建物へ向かう三人の姿があった。
 二人は鴉丸兄妹。
 羅喉に背負われた少女の名は、スイートリップもとい七瀬凛々子。

 「しかし、これは酷い有様だな……」
 凛々子を背に抱えながら、羅喉が言う。
 空より落ちてきた凛々子を拾った羅喉と雪は、近くの民家に姿を寄せていた。
 「ええ、まるで廃墟……」
 遠くから見た時では、気づけなかったが、町もとい民家は、荒廃していた。
 「だが、何か不思議だ……。
  寂れたという感じではない、まるで最初からこうであったかのように……」
 それもそのはず。
 その廃墟や港等は、世界創造の時のイメージとして紛れ込んだものが、姿を現したものである。
 更にこの時代で囲炉裏を囲う家ばかりなのは珍しい。
 まるで昔話に出てくる農民の家のようだ。
 
 なにはともあれ。
 二人は、手近な民家を選ぶとそこへ入り、凛々子を横にした。
 「鍋に薪……大分揃っているな」
 たまたま入った民家に揃っていたのかは解らないが、
 少なくとも、薪や昔ながらの調理器具はある程度家内の台所と思える場で発見できた。
 「お兄様」
 居間の方から雪の呼ぶ声がする。
 「どうした?」
 「大分潰れてぼろくなってますけど、布団を発見しました」
 「そうか、解ったそっちに行こう」
 囲炉裏にくべる薪を抱え、羅喉は、雪のいる居間部分へと行く。
380一時を……:04/03/10 02:02 ID:6TbEvdqQ
 「これは、また見事な煎餅布団だな……」
 (ここは、江戸時代か?)
 と思いつつも、羅喉は、不思議と余り埃で汚れた様子のない布団を敷き凛々子を寝かせる。
 (一体ここはどんな世界だと言うのだ……)

 バチバチ。
 囲炉裏の周りに三人がいる。
 あいからわずまだ凛々子は、寝たまま。
 「お兄様、これからどうしましょうか?」
 火の前で身体を暖めながら、雪が羅喉へと話し掛ける。
 「取り合えず、食料さえあれば、暮らしていく分には不自由なさそうなのだが……」
 薪は限りがあるとはいえ、森へ出て行けば調達は可能だ。
 鍋と年代ものそうな包丁などもあった。
 辺りの民家も探したが、ないのは食料と水。
 水は、海に流れ込んでいる川の水が飲めるかもしれない。
 とすると目下の問題は、食料と言う事になる。
 だが、海もある。 森もある。
 浜大根でもいいし、丘ひじきだっていい。
 贅沢さえ言わなければ、困る事はないと思われた。
 一番の問題は、そんな事よりも、今彼らが置かれている現状を把握すると言う事だ。
 (私達、いや私を襲ってきた四人組……。
  彼女達は、一体何者だったのだろうか……)
 時代錯誤ないでたちをした四人の侍娘達。
 それと構成されているこの民家。
 (もしかして、本当にタイムスリップでもしてしまったのだろうか?)
 羅喉は、一瞬そう考えたが、波止場の様子は現代なのを思い出して、
いやいや、と首を振る。
 「どうしたものか……」
 何はともあれ、まずは、この露出の多い少女、凛々子が目を覚ますのを待つ事にしたのだが……。
381一時を……:04/03/10 02:02 ID:6TbEvdqQ


 『メッツァー!! 覚悟しなさい!!』
 グレイブを掲げた凛々子が下魔達と戦っている。
 だが虚しくも、次第に身体をいいように弄られ、彼女は恥辱を与えられていく。
 『所詮、お前は私の玩具でしかないのだよ……』
 上魔に捉えられた彼女の前にメッツァーが冷酷な笑みと、
これから始まる凌辱劇に対しての高揚の表情を浮かべる。
 『例え、どんなに戒められようともあなたには絶対に従いません!!』
 『その言葉何時まで吐き続けれるか楽しみだな……』
 そこで彼女の見ていた夢は途切れた。

 意識の中で、凛々子は空間を漂っていた。
 光に飲まれ、不思議な意識の濁流に飲まれる。
 彼女は、この世界に辿り着く、元の世界で起こった事の夢を見ていた。
 やがて、夢は終わり、暗い過去から解放される。
 『私は、絶対に屈しない』
 『でも、受け入れてしまえば楽になる』
 『火村クン……』
 少女の思いと弱さ、クィーングロリアの騎士としての決意が、彼女の中で入り乱れる。
 
 どのくらいの時間が経っただろうか?
 『よくもよくもよくもよくもよヨクモヨクモヨクモヨクモ……』
 突如として、彼女の意識の中にドス黒い負の感情が流れてきた。
 『これは……!?』
 凛々子の中に鮮明に映る魔獣と一匹の少女の姿。
 『アーヴィちゃんをアーヴィちゃんをアーヴィチャンヲ』
 魔獣の意識がダイレクトに彼女に響く。
 どうやら、あの少女が悪者で、あの魔獣にとって大切な人を、
アーヴィという人を傷つけられたのだろう。
 凛々子は、そう認識した。
382一時を……:04/03/10 02:08 ID:6TbEvdqQ
 

 「雪、大丈夫か!?」
 羅喉が、頭を抑える雪の元に駆け寄る。
 「凄い負の感情……。 絶望と憎悪に満ち溢れる……」
 ハタヤマの黒い意識を受け取った雪。
 「しっかりしろ!! 自分を強く持つんだ!!」
 羅喉は、雪を抱きしめる事で、彼女の不安を少しでも取り除こうとする
 頭を抑え、ハタヤマの黒い感情に同調し、
また彼の苦しみを理解し、同情をする雪。
 (私には、感じられない?
  雪だけが感じ取れると言うのか!?)
 「お兄様、この人かわいそう!!」
 どのくらい続いただろうか?
 時間にすれば10分程であったが、二人には、
そして凛々子の意識の中でも大分長いように思えた。
 「……収まったか?」
 落ち着きを取り戻した雪の姿を心配そうに眺める羅喉。
 「……はい。 すみませんお兄様」
 「いや、いい……。 雪が無事な事こそ私にとっての喜びだ」

 ごそっ。
 彼女らの横で音がした。
 (敵かっ!?)
 構えをすかさず取る羅喉であったが、そうではなかった。
 彼らが音をした方へと向けた先、凛々子の布団。
 「ここは……」
 彼女が目を覚ましたのだった。

【鴉丸羅喉@OnlyYou-リ・クルス-(アリスソフト) 狩 状態○ 所持品:なし 行動目的:雪を護りぬく】
【鴉丸雪@OnlyYou-リ・クルス-(アリスソフト) 招 状態○ 所持品:グレイブ(凛々子の武器) 行動目的:兄についていく】
【七瀬凛々子(スイートリップ)@魔法戦士スイートナイツ(Triangle) 招 状態△と○の中間(軽傷有り) 所持品:なし 】
「ひまだな〜」
 ここは中央要塞内の魔力保持者の軟禁部屋。
 軟禁部屋とはいっても、設備は一流ホテルのスイート並みだ。
 豪華なベッドにテーブル、バスルームまで付いている。
 もちろん、テレビなどの電化製品は何一つ無かったが。
「ひまだよ〜」
 だらけた声が聞こえる。
 今のこの部屋の住人、山辺美希は退屈していた。
 食事を終え、ケルヴァンからこの世界の話を聞いて、一眠りして先ほど起きたところだ。
 それからしばらくはただ部屋でごろごろしていたが、そろそろ限界に近づいていた。
「霧ちんも魔力持ってたらよかったのになぁ」
 あっさり裏切ってしまった友達のことを思う。
 彼女と一緒なら、退屈などしていないはずだ。
「う〜ん、後は黒須先輩も一緒にこっちの世界に来てれば…いやいやダメダメ。
こんな部屋に先輩と二人っきりでいたら、貞操の大ピンチというか絶体絶命?」
 なにせ自分にセクシャルハラスメントの何たるかを叩き込んでくれやがりました師匠です。
 豪華ベッドを見た瞬間、セクハラモードにシフトした彼奴めは猛り狂う漢魂全開で襲い掛かってくるに違いないのです。
 師弟である以上、いつかは倒さねばならない相手ですが(どうもそれが常識らしいです)、今はまだ力不足。
 めくるめく官能時空に強制連行されるのがオチなのです。
 ていうか、あのエロ大帝のエロパワーはエロ無尽蔵なので永久(とわ)に勝てないんじゃないかと思う次第。
 まあ、セクハラで倒すというのも何か術中に嵌まってる気がするから別にいいけれど。
「うっす、やはり自分としてはもうちょっと処女でいたい所存であります。サー」
 架空の上官に敬礼すると、何とかこの退屈状態を打開する素敵作戦はないかと考える。
「…そういえば」
 ベッド脇にあるブザーに目を留める。
 世話係のメイドさんが、「御用の際はこのブザーでお知らせください」と言っていた。
 最初の世話係の人は、屈強な人じゃない人(魔族)だったけど、怖いからこっちのメイドさんがいいと言ったら替えてくれた。
 お役御免を言い渡されたときの、寂しそうな顔が印象的だった。
(人じゃない人でも、表情ってわかるもんなんだなぁ)
 それはともかく、とりあえず押してみる。
 ブー、という音が鳴った。
 ――30秒後。
 コンコン、とドアがノックされる。
「美希様、お呼びになりましたでしょうか」
「あ、は〜い。入ってくださーい」
 失礼いたします、と返答してからメイドが入ってくる。
「それで美希様、ご用件は」
「退屈なんです」
「はい」
「退屈なんです」
「はい」
「退屈なんです」
「はい、それでしたら、この中央施設内をご見学などなされますか?」
「はい、ご見学します。サー」
 サーではない。
「かしこまりました。では私がご案内させていただきますので、私の後について来ていただけますでしょうか」
 流された。
 美希はこのメイドさんをスキテキシュ(訳注:好敵手)と認めた。
「は〜い。では早速行きましょう」
 連れ立って部屋を出る。
「む、3時方向に階段が見えます。こっちですか、サー」
 ついて来いというのに、先頭に立って歩き出す。
 そしてサーではない。
「美希様、そちらではなくこちらです」
 逆方向だった。
 結局、後について歩くことになる。
 そして、美希の大冒険が始まった。

「美希様、ここが食堂です。主に兵士の方々や私達メイドが食事を取りに訪れています」
 食堂にはまばらに人影(人じゃないのも)がある。
 人じゃない人とメイドさんが楽しげに談笑している席もあったりして、美希はちょっとカルチャーショックを受けた。
(…不思議な光景だ…)
 食堂内のレイアウトがファミレス風味なのも、違和感に拍車をかけていた。
 ショーケースに入ったメニューを見ると、さすがになんだかわからないものが多い。
 だが、見た感じシチューやハンバーグに似ているものもあった。
「ここって、私も食事できるんですか?」
「はい、お口に合うかどうかはわかりませんが可能です」
「本当ですか! じゃあ今度食べ……て、死んだりはしないですよね?」
「……さあ?」
「……」
「次にまいりますか?」
「…はい、サー」

「美希様、ここが兵士詰め所です。ここから兵士の方々が戦いに赴かれます」
 詰め所内は雑然としていた。
 数多の兵士達が、武器の手入れやストレッチなどをしてめいめいにすごしている。
 何人かの兵士が美希達に気づいて、こちらを見た。
「ど、どーもー」
 屈強な兵士達の姿に多少引きながら手を振ると、数人が手を振り返してくれる。
「あ、あはは…」
 愛想笑いをしながら手を振っていた美希だったが、手を振り返す兵士の中に初代世話係を見つけた。
「あ! ども、こんちです〜!」
 ぶんぶんと手を振る。初代世話係は照れたようににんまりと笑った。
 相変わらず恐ろしげな顔のはずだが、あの寂しそうな表情を見ているせいか愛嬌のある顔に見えてくる。
「美希様、そろそろ次にまいりましょう」
「いえっさー」
 最後にもう一度大きく手を振る。
 初代世話係が他の兵士達にからかわれたり小突かれたりしているのを横目で見ながら、美希達は詰め所を後にした。
「美希様、ここが休憩室です。休憩シフトも決められていますので、今は誰も…あ」
「あ」
「あ」
「あ」
 美希とメイドと、中で逢瀬を重ねていたらしい男女の声がハモる。
 数秒、時間が止まった後、
 ――パタン
 おもむろにメイドは扉を閉めた。
「さ、美希様、次にまいりましょう」
「見てちゃあダメかな?」
「ダメだと思います」

「美希様、ここが作戦室です。ケルヴァン様が配下の方々に指示を出していらっしゃいます」
 あんぐりと口をあけたケルヴァンがこっちを見ている。
「どもです〜」
 美希のあいさつにハッと自分を取り戻すと、つかつかと歩いてくる。
 表情は険しい。
「なぜ、ここに彼女を連れてきた!」
 目の前に来るや否や、メイドに詰め寄る。
「申し訳ございません。美希様が退屈なされておりましたので、施設の見学でもと…」
「だからといって作戦室に連れてくるバカがどこにいるか!」
「わ、私が悪いんです!」
 突然、美希が発言する。
「ごめんなさい、ケルヴァンさん。私が無理言って連れてきてもらったんです…」
「美希様…」
 メイドは驚いたように美希を見て絶句する。
 しゅん、として心底申し訳なさそうに謝る美希に、ケルヴァンはそれ以上怒れなくなってしまった。
 なにしろ美希は、ケルヴァンが「この娘こそは」と目を付けている覇王の資質を持つかもしれない娘である。
 いたずらに悪印象を与えるわけにはいかなかった。
「む、コホン…いや、こちらこそ大声を上げてしまい失礼をした。
まだここに慣れていないことでもあるし、今回の事は不問としよう。
申し訳ないが、今後は作戦室への訪問は遠慮していただきたい」
 姿勢を正してそう言うと、今度はメイドに向き直る。
「要塞内を案内するのはかまわんが、今は部屋に戻れ。少し面倒事が起きた」
「かしこまりました、ケルヴァン様」
 メイドの返事に肯くと、美希に向かって一礼する。
「私はこれで失礼するが、部屋に戻っていていただきたい。外出できるようになったらお知らせしよう」
「は〜い、わかりました」
 それでは、と言い残し、ケルヴァンは作戦室を出ていく。
 その後を、部屋の隅にいた胴着姿の少女がついていった。

「…美希様…先ほどは、申し訳ありませんでした」
「あ、いえいえ、ああ言えば黙ってくれるかな〜? …と。面倒だったし」
 こともなげに言う。完全に確信犯だ。
「ところで、面倒事ってなんでしょう?」
「さあ、私は存じ上げません」
 ん〜、としばし黙考していた美希だったが、にまり笑うとメイドに向けて提案した。
「モノは相談なのですが、サー」
「何でしょう、美希様」
「は、明日の戦場を生き抜くために、ここで追跡技術を習得しておくべきかと愚考する次第であります」
 後をつけようと言っている。
「それは、無駄かと思われます。相手がケルヴァン様では、すぐに気づかれてしまうかと…」
「そーですか…じゃあ、仕方がないので次の場所に行きましょう」
 さっき部屋に戻ると同意したばかりである。
「…美希様」
「ダメですか?」
 うっ、とメイドは言葉に詰まった。助け舟を出してもらった手前がある。
「…ダメですか?」
 結局…、さらに訓練施設と大浴場と中庭を見学して暇指数をゼロに戻した美希は、ようやく部屋に戻ることにした。
「いや〜楽しかったなぁ♪」
「それはなによりです、美希様」
「他にもまだ案内されてないところありますか?」
「はい。少々離れたところになりますが、幼稚園がございます。後は、建築中ですが病院など」
 会話に花を咲かせつつ、二人は自室のある建物に入っていった。

 ……後ほど、美希もメイドも後悔することになる。
 あの時、ケルヴァンに「部屋に戻れ」と言われた時に素直に戻っているべきだったと。
 なぜなら、そこで、――それを見てしまったから。

  ――ドシャッ

 赤い、赤いものを撒き散らし、それは上の階から落ちてきた。
 落ちてもなお、両手に刀を握ったままの若い男。ただし、上半身のみ。
 一瞬前の空気とはあまりに違う眼前の光景に、二人は息すらも止まったかのように身動き一つ出来ず立ちすくむ。
 眼鏡をかけた少女が階段を降りてくる。上半身だけの男を抱きかかえ、歩き出す。
 二人から離れる方向に歩いていくためか、それとも抱きかかえた男しか見えていないのか、少女は二人に気づかない。
 前方に弓を持った胴着姿の少女が見える。
 作戦室でケルヴァンの後を追っていった少女だ。
 胴着姿の少女が弓を射、男の命の火が消える。そして眼鏡の少女もまた男の後を追い、自害して果てた。

 メイドは、必死にこみ上げる嘔吐感を堪えていた。
 おびただしい血の赤。腹から垂れ下がる内臓。立ち込める血の匂い。
 通常なら、もうとっくに嘔吐していただろう。
 だが今は美希がいる。
 これから仕えていくべき美希の前で失態を演じるわけにはいかない。その一念だけで彼女は堪えていた。
 そう、美希もこんな不快な思いを感じているはずだ。
 彼女は美希を気遣おうと、美希の顔を見る。
「……」
 美希は無表情だった。
 人の死を見たショックも、こみ上げる嘔吐感も、そこには見て取ることが出来ない。
 それどころか、にへへと笑っていたあの顔すら、そこから連想できそうもなかった。
(美希…様…?)
「……気分悪いよ……行こ?」
 メイドの手を引いて、自分から歩き出す。
 階段を上る途中で、声が聞こえてきた。
「わたしはただ…わたしはただ…わたしはただ…わたしはただ…」
 美希の足が止まる。
 その声を聞いて止まる。
 ただ、ただ繰り返すその言葉を。
 何回も、何回も、何回も…何週も…永遠に続く無限のループ。
(逃げられない…のかな…)
 霧と、先輩と、その他の人たちと、生きて、死んで、また生きて、また死んで、永遠に繰り返す世界。
 この世界に来て、逃げられたと思った。
 だけど…
(同じ…なのかな…)
 人が生きる、人が死ぬ、人が殺す、人を殺す、悪意に満ちた、理性を失いやすい世界。
「わたしはただ…わたしはただ…わたしはただ…わたしはただ…」
 声は続く。繰り返す。何度も、何度も、何度も、何…
(だまって!!)

  ――パンッ

 何かがはじけたような音がして、声が止まった。
 その場に、静寂が戻ってくる。
「……うっ」
 嘔吐感が、来た。
「う…げえええぇぇ」
「美希様!」
 堪えようがなかった。言いようのない不快感を胸に感じ、美希は派手に嘔吐していた。
【山辺美希(覚醒?)@CROSS†CHANNEL(FlyingShine) 招 状態○ 所持品:なし】
【ケルヴァン・ソリード@幻燐の姫将軍1と2(エウシュリー) 鬼 状態○ 所持品:ロングソード】
【神風@魔獣枠 状態○ 所持品:弓】

【高町恭也@とらいあんぐるハート3(JANIS) 死亡】
【高町美由希@とらいあんぐるハート3(JANIS)死亡】
【リニア@モエかん(ケロQ) 死亡】
391葉鍵信者:04/03/10 19:01 ID:5mtC7zW9
MIND BREAKER
一旦無効で話し合いをします。
話し合いの必要性、問題点などは、議論スレや書き手BBSにこれから書くものを参照ください。
話し合いが終わり、結論出るまでは、それに続く話の投下は止めて下さい。
392策謀の城:04/03/12 01:09 ID:xG8iqPNX
ケルヴァンは部下がリニアの残骸を片付けているのを眺めていた。
(少々判断を急ぎ過ぎたか・・・?)
あのまましばらく放置しておけばヴィルヘルムに対する当て馬として使うことくらいはできたかもしれない。
しかしリニアが彼らの仲間にいたことを考えると自分の事は明確な敵として認知されており、
その認識を覆す事は相当困難であったに違いない。
そもそもリニアはヴィルヘルムの部屋は知らなかったが、ケルヴァンの部屋は知っていた。
結局こうなるのは時間の問題だったともいえる。

(結界の力で初音の蜘蛛を避けていたのがこのように裏目に出るとはな・・・)
初期の段階でこの事態を把握していれば、もう少し策を練る時間もあったのだが、ケルヴァンが状況を知った時には既に手遅れであった。
(ヴィルヘルムの目をこの件に向ける事ができるのが幸いと言った所か・・・。細工が露見しては元も子もないからな)

突然───ケルヴァンの体から力が抜ける。
(何だ───!?)
咄嗟に傍の壁に背中からもたれ込んで自重を支える。
気がつくとケルヴァンは息が上がっているのが分かった。

大きく息を吸い込み───ゆっくり吐き出す。
幸い、周りの部下達には気づかれていないようだ。

(やはり少し無理が過ぎたか)
ケルヴァンはリニアだったものの残骸を見ながら溜息をついた。
(魔獣と言っても代償なしで創造することなどできぬ・・・神風に力を割きすぎたな)
393策謀の城:04/03/12 01:10 ID:xG8iqPNX
闘神ユプシロンに対抗するために、創造した神風はユプシロン程ではなかったが、かなりの戦闘力を持っていた。
(しかしこれほどまでに力を消耗することになるとは・・・それに召還装置にした細工もかなりの魔力を消耗した)
一時的にとはいえ、只でさえヴィルヘルムや初音に比べ劣っている魔力を消耗するのは、
ケルヴァンにとって本来得策ではないのだが・・・
(この状況ではそのリスクもやむなし、か)

そもそも本来ならばリニアはケルヴァンの持つ切り札の一つであった。
ヴィルヘムルと本格的に相対することになった時に古代魔道兵器「ゾルガッシュ」に改造し手駒となるはずであったのだが・・・
(結界内に召還者が出現するなどという事があるとはな・・・)
そして召還者に情をかけ、ケルヴァンと敵対した。
(和樹の監視を強化しておく必要があるな・・・リニアの二の舞というわけにもいかん)
いざとなれば一度記憶を消去する準備も必要であろう。
表面では取り繕っているが、ヴィルヘルムとケルヴァンは実質敵同士となっているようなものだ。
(これ以上手駒を失う訳にはいかんしな・・・)
今ケルヴァンの指揮下にある信用できる駒は神風、和樹の2人しかいないのだ。
そして和樹は解明できていない部分が多すぎて信用しきれないのも事実だ。
(あの魔力保持者の娘共がもう少し才覚があるのであればな・・・今の段階では足手纏いしかなるまい)

(それとこれからあの男がどう出るかだな・・・)
幸い───今回リニア諸共、魔力保持者を殺害したことに関してはヴィルヘルムから文句がでることはないだろう。
(事実、我々の意思に──いや、ヴィルヘルムの意思に逆らったのは間違いないのだからな)
今回は追及されないだろうが、これからも同じ事が続くのであればヴィルヘルムも黙ってはいるまい。
394策謀の城:04/03/12 01:11 ID:xG8iqPNX
(早めに例の死者の記憶を読み取る力に対しての対策をしなければな・・・)
とは言っても既にケルヴァンに算段は整っているのだが。
ヴィルヘルムが魂の力で召還装置を作動させれば、ケルヴァンが意図した人物を召還するように細工したのだ。
ヴィルヘルムが何も言ってきてもそれこそ装置の暴走、で話しがつく。
(こちらとてやられたままというわけにはいかないからな・・・そろそろ反撃開始といくか)
・・・それでもひとまずは休息だ。
(できれば私の魔力が回復するまで召還は控えて欲しいものだが・・・不確定要素に頼るとは私も墜ちたな)

【ケルヴァン・ソリード@幻燐の姫将軍1と2(エウシュリー )状態△(魔力消耗状態) 所持品 ロングソード 鬼】
【犬死せし者達の直後の話です】
395誓いより強きもの:04/03/13 06:29 ID:6I7qFvIQ
「今日子、あまり無理すんなよ」
「何言ってんの!!光陰こそへばるんじゃないわよ!・・・って言ってもあんたに限ってそれはないわね〜」
空虚の呪縛から開放された今日子は自我を取り戻した。
光陰の『因果』にも空虚の反応はしない。
(空虚に何があったのか・・・魔力にも食い合わせって奴があるのか?)
いまだに空虚の不気味な沈黙に奇妙な不自然さを感じている光陰であったが、その事は頭から振り払う。
(今日子が自由になったんだ。何を迷う事があるんだ・・・もう今日子は人を殺さなくてもいいんだから)
光陰は並んで歩く今日子の様子を少し観察する。
普段から活発でお転婆娘と呼んでも差し支えないであろう今日子ではあるが・・・今の彼女にはどこか無理をしている雰囲気がある。
(あえて普段以上に明るく振舞ってる・・・そういうことなんだろうな)
これから行く場所とそこですることを考えればある種当然の行動なのかもしれないが。

今日子の提案を聞いた時、行くべきかどうか光陰は迷った。
そしてその場所に近付きつつある今ますます光陰の心は揺れている。

スパーン!!

「ってぇ!いきなり何するんだ」
突如光陰に今日子のハリセンが炸裂する。
「なんて顔してんのよ・・・らしくないじゃない。
あんたはいつも通り憎ったらしいくらい余裕の顔してればいいのよ!でないと・・・」
今日子のハリセンが振りあがるのを見て、光陰は習性で咄嗟にハリセンに対して身構える。
しかしハリセンの音は響かず・・・

(不安になるから・・・)

今日子の小さな声が聞こえただけだった。
396誓いより強きもの:04/03/13 06:30 ID:6I7qFvIQ

「それに・・・あたし全部覚えてるからね・・・マナの塵に変えたスピリット達、この世界に来て最初に殺してしまった女の人、
あのおやじ、・・・さっきの男の人」
今日子の表情には後悔の念が浮かんでいる。
「今日子・・・お前本当に大丈夫なのか・・・別に行く必要なんかないんだぞ」
「あたしはやった事をちゃんと見ないといけないの・・・その行動があたしの意思じゃなかったとしても。
この手に残ってる感触はまぎれもなく本当にあったことなんだから・・・
空虚の束縛が解けた今、あたし自身の気持ちを整理しないといけない」

そう・・・今日子の言った場所とは、高円寺沙由香の遺体がある廃墟なのだった。

だから光陰はまだ迷っている。
今日子は光陰が知る限りそんなに強い精神を持っていない。
自分のした事を改めて直視することで今度こそ精神が完全に壊れてしまうのではないか?その懸念は頭の片隅に付きまとっている。
しかし・・・このままではいずれ今日子は罪の意識に苛まれやはり壊れてしまうだろう。
(偉そうなこと言っといて・・・俺は結局何もしてやれないのか)
あの時───今日子を守る誓いを立てた場所に再び戻ろうとしている。
光陰は『因果』の刀身に映る自分の顔を覗き込む。
(あの男・・・八雲だったか。俺と同じ目をしてやがったな)
その目は愛する者を守るために不器用な手段しかとれない人間の目であった。
(あの男は・・・守れたのだろうか?)
八雲辰人の最後の顔は・・・未練を残したものではなく何かをやり遂げたような、そんな清々しいものだった。
だからあの男はきっと守りきったのだろう。
(俺は・・・今日子を守れるんだろうか)

「ねえ・・・光陰?」
397誓いより強きもの:04/03/13 06:31 ID:6I7qFvIQ
今日子が光陰の様子を見て声をかけて来る。
(・・・なにやってんだ俺は。今日子を不安させてどうするんだ!!)
「・・・る・・から」
「え?」
今日子の声は余りに小さく・・・光陰の耳には一部分しか聞き取れなかった。
今日子は意を決したのか今度ははっきりと
「全部・・・覚えてるから。あたしが人を殺した事も・・・あんたが言ってくれた事も」
「今日子・・・お前・・・ってぇ!!」
光陰の言葉を途中で遮って今日子のハリセンが振り回される。
「とろとろ歩かない!さっさと行くよ!!」
今日子は叩くだけ叩いて、早足で光陰を追い越して先に突き進む。

この調子ならきっと大丈夫だろう。
もし・・・一人で背負えきれない罪なら二人で分ければいい。
何をしても今日子を守る。
その一方的な誓いは、今約束になったから。

【碧光陰@永遠のアセリア(ザウス)招 状態○ 所持品 永遠神剣第六位『因果』】
【岬今日子@永遠のアセリア(ザウス)招 状態○ 所持品 永遠神剣第六位『空虚』(意識は無貌の神)】
398葉鍵信者:04/03/13 08:45 ID:dL3cAmdV
受け継いだモノ
一旦無効で話し合いをする事となりました。
詳細は、書き手BBSをご参照ください。
399決して敵には容赦せず:04/03/14 05:39 ID:iBX33h+n
「はぁ……ランスにはがっかりね」
 そうぼやきながら山腹を歩く悪魔の名はカレラ。
 魔術を学ぶ気がないのなら、とっとと鬼としての仕事をしてこいと
ケルヴァンに叱咤されて中央から叩きだされたのは、ランスが中央を出発してからすぐのこと。
 魔力保有者の保護など冗談じゃないし、非保有者の駆除もそれはそれでかったるい。
かといってケルヴァン、というよりヴィルヘルムに逆らうというのもさらに面倒なことになりそうなので、
とりあえず仕事をするふりをしながら、ランスでも見つけて遊ぼうかと思っていたのだが……

「ちょっと興ざめね。もう少し胆力のある奴だとおもってたんだけど」
 拡声器によって流れた山頂のランスの痴態は、カレラの耳にも届いていた。
 正直、落胆した。犯るなら犯るでもう少し堂々としてほしいと思う。

「しょうがないわね。一人二人適当に狩って、仕事しているところをアピールして後はさぼろうかしら」
 そう思い、翼をはためかせて空にあがり獲物がいないかと辺りを見回すカレラ。
「あら……?」
 その視界にうつるのは、山頂より少し山道を下りたところで腰を下ろしているツインテールの少女と、
それよりさらに下から山頂へと登ってくる二人組みの侍の姿だ。
 二人組みの方は見覚えがある。確か新撰組という、ヴィルヘルム側の人間だ。
 ツインテールの少女からは魔力を感じない。殺してよい存在ということである。
「……このままだと出会ってしまいそうだけど……そうね。
さっさとノルマこなしたいし、獲物を譲ってもらおうかしら」
 カレラはそう呟くと、まずは新撰組の方へ向って翼をはためかせた。

 それよりさらに山裾のほうには、木々の合間を駆け抜けるアイの姿があった。
(やられたちゃったね……)
 その表情は険しい。ヴィルヘルムの放送を機にしてうまく逃げおおせたものの、
やはり自分が敗北したというのは動かしがたい事実だと思う。
「あいつは強い……でも今度あったら必ず……!」
400名無しさん@初回限定:04/03/14 05:40 ID:iBX33h+n
「何が必ずなのかしら?」
「――――!?」
 アイは驚きと共に、足を止めた。
 アイの行く手をさえぎるように、音も無く一人の少女が立ちふさがったのだ。
小柄で小枝のような四肢にあまりに似合わない巨大ハンマーが、嫌でも目に付く。

「何かから逃げているようね。山頂の出来事は私にも聞こえたけれど、教えてくれないかしら?」
「……魔力保有者。面倒ね」
「魔力保有者?」

 フゥ、とアイは呼吸を落ち着けた。
 見た目に騙されるな。こいつもまた、人外の存在だ。そう、自分に言い聞かせる。
 まずは気を静め、冷静に対処しないと。

「放送は聴いたわね? そういうこと。私は管理側のものだけど、
魔力を持つものたちを保護して、協力を要請するように命じられている」
「それで私は魔力を持つ者だというのね? ……それで協力を拒めば?」
 アイは黙ってロッドを構えた。
 それを見て、ハンマーの少女――――モーラは肩をすくめた。
「分かりやすいわね」
「細かいやりとり、嫌いなの」
「あなた……本気で勧誘する気ないでしょ?」
「面倒なの、嫌いなの」
「まあ、確かに無駄なやりとりね。この状況で協力する気なんて起きるはずもないし。
はっきりいうと、あなたの上司狂ってるとしかと思えないわ」
「それには、同感、かな」
401決して敵には容赦せず:04/03/14 05:41 ID:iBX33h+n
 言葉を交すのはそれで終わり。
 両者は地をけり、ロッドとハンマーが振るわれた。
 

「獲物を譲ってくれ……ですか?」
 突如現れた黒い翼を持つ半裸の女の言葉に、沖田はオウム返しに呟いた。
 聞けば、この女もまたヴィル側の人間らしい。
 定められた合言葉を答え、管理側の人間しか知らぬことも知っていたのでそれには間違いないと思うが……
「だけど、それだったら三人でかかればいいと思うんですが……」
「そんな大層な相手ではないわ。それに、ちょっと独特だけど見目の少女だったし、
殺す前に個人的に色々楽しみたいの。ダメかしら?」
「それは……どうしましょう、芹沢さん」
「うーん……個人的にはどうでもいいんだけど。でも歳江ちゃんがうるさそうなのよねぇ」
「あ、確かにそれはちょっと怖いかも……」

 カレラの提案に悩む沖田と芹沢。
 と、その時、ピィーという甲高い音が響いた。
 
「――――!! 芹沢さん!」
「なんかマズイことあったみたいねぇ」
 険しい顔をする二人に、カレラが首をかしげる。

「なに? 今の」
「撤退の合図です。この山の向こう側に私達の同士達がいるんですが……そちらで何か起きたようですね」
「ふーん。それじゃここから立ち去るのね?」
「はい。あの合図があった以上私達はいかなくちゃならないですが……カレラさんも気をつけて下さい。
山頂にはやっぱり何かあるみたいです」
402決して敵には容赦せず:04/03/14 05:42 ID:iBX33h+n
「OKOK、気をつけるわね」
 軽い調子で沖田の忠告を聞き流すカレラに、まだ沖田は何か言いたかったようだが、
諦めたように頭を振ると、ペコリと目礼をして芹沢と共に山を下っていった。


 山裾の森中における戦いは、モーラの方が押していた。
(格闘戦では向こうが上……!)
 歯を食いしばり、手にしたロッドでハンマーを受け流すアイ。
 まともに受けたのなら、腕がへし折れる。
モーラの打撃はそれほどに重い。
(こんな細腕なのに凄い力――――!)
 だが、それはハンマーを使う時点で、予想していたことでもある。

 アイとて魔法少女として怪異と戦う身である。
姿に似合わぬ怪力の持ち主と戦うことが、これで初めてというわけではない。

 だから、彼女は彼女なりに冷静な思考で勝機をうかがう。
そして――――

(ここだ!)

 ハンマーを受け流し、モーラがハンマーを手元に戻すよりも早く、間合いをつめてその懐にもぐりこむ。

「――――!?」
 その動作に、モーラが不可解な表情を浮かべた。アイのロッドも長手物なのだ。
間合いを詰めて真価を発揮する武器ではないはずなのに――――

 だが、アイの武器はロッドだけではない。密着した状態で集中力を高め、
あえて隠し玉として温存しておいた魔法を発動する。

「な――――!?」
 魔法の風撃を受けて、吹き飛ぶモーラ。意外な攻撃をくらい、モーラの顔に驚愕の表情が浮かぶ。
403葉鍵信者:04/03/14 06:00 ID:eFjj+4ki
審議終了しましたー。
受け継いだモノは、NGとなりました。
MIND BREAKERは通す事となりました。
後者は、これより24時間は、続く話の投下が不可となります。
その間に投下された場合は、NGとなりますのでお気をつけを。
前者の方は、以前のを繰り上げるかどうかまだ決めているので、
代わる物の投下をすると同じくNGとなるのでお気をつけを。
404決して敵には容赦せず:04/03/14 06:00 ID:iBX33h+n
 そして、その機を逃すアイではない。
「もらった!!」
「く―――!!」

 ロッドが走り――――
 ハンマーを手放し顔と胸をガードするモーラのその腕の下をロッドは潜り抜け、モーラの腹を貫いた。


「ガ……ハァ……」
 鮮血を吐き、モーラはガックリと膝を突く。
 贓物がこぼれぬようにするためにか、両腕で刺し貫かれた腹を覆う。

「残念。私の勝ちのようね」
 一方、アイは荒い息をつきながらもロッドを構えなおし、モーラの方へむける。

「……いい気に……ならないで……」
 かすれた声で、途切れ途切れにモーラは言葉を吐いた。
「私は……ここで死ぬようだけど……私より強い人は……いる……
その人たちが……必ずあなた達を倒すわ……」
「悔しいけど、それはこちらも同じ。総帥をはじめとして私より強い人はたくさんいるわ」
「……だとしても……きっと……誰かが……あなた達を倒すわ……ぐぅ……」
 体力が尽きてきたのか、モーラはうめいた。

 それでも彼女はアイをにらみつけたまま、言葉を続ける。
「それとも……自信があるというの……? 絶対に負けないという……」
「絶対ではないけれど、中央を落とすのは難しいと思う。
数は多くないけれど、化け物のように強い人は幾人かいるし……
中央も四つの結界塔でまもられてるもの」

 それから、アイはスッと目を細めた。
405決して敵には容赦せず:04/03/14 06:02 ID:iBX33h+n
「だから、ここで死ぬのはけして不幸じゃない。早いか遅いかの違いだけ。
悪く思わないで。私、敵には容赦しない主義だから」
 止めを刺そうと、ロッドを握る手に力が込められる。

だが――――

「奇遇ね。それは私も同じだわ」
「!?」
 急にハッキリとしたモーラの声にアイはギョッとした。
 そういえば、いつの間にか出血が止まっているし、モーラの腕に覆われて腹の傷口を見ることも出来ない――――

 気づくのが遅すぎた。いや、いっそ気付くべきではなかった。

 アイが驚愕した、その瞬間を狙ってモーラは跳び、
ロッドをかいくぐってアイの腹に拳を叩き込む。
「グ――――ガ――――!?」
 ダンピールの怪力によって振るわれたその一撃。
 アイは辛うじて意識をつなぎとめるも、ロッドを取り落とし、ガクリと膝を落とした。

 霞む視界で、モーラをにらむ。モーラの腹の傷が見る間にふさがっていくのを見て、うめいた。
「再生……能力!?」
「そのとおりよ。さっきの不意打ちは見事だったけど……
あの瞬間に私がわざとハンマーを捨てて頭と心臓を守ったことに気付くべきだったわね」

 形勢は逆転した。
 モーラはハンマーを拾い上げ、振りかざして、
「悪く思わないでね。私も敵には容赦しない主義なの」
 冷たい声でそう告げる。
406決して敵には容赦せず:04/03/14 06:03 ID:iBX33h+n
 だが、それが振り下ろされる直前で――――


「な、なにするさ!? あんた!!」


 山頂の方から、怒声とも悲鳴ともつかぬ叫び声があがり、一瞬だけモーラの注意がそっちにそれた。

「ヅゥゥッ!!」
 この与えられた最後の機に、アイは残された力を総動員して横っ飛びに跳んだ。
 転がりながらロッドを拾い上げ、
「くらって!!」
 魔法を発動させる。

 それが、モーラに直撃したかどうか確かめる余裕はなかった。
 アイは相手が追ってこないことを祈りながら、全速力で森の中へと翔けていった。


「チッ……」
 モーラは舌打ちした。
 アイの最後の魔法は跳躍することでかわすことが出来たが、
それで相手の離脱を許してしまった。

 追えば追いつけるかもしれないが――――

「チッ……!」
 モーラは再度舌打ちすると、アイとは反対の山頂の方向へ、
大空寺あゆの叫び声があがった方へ走った。
407決して敵には容赦せず
【モーラ@ヴェドゴニア(招)状態:△(腹部ダメージ、時間と共に再生) 装備:巨大ハンマー】
【大空寺あゆ@君が望む永遠(招)状態:○ 装備:スチール製盆】
【アイ@魔法少女アイ(鬼)状態:△(腹部に一時的なダメージ) 装備:ロッド】
【沖田鈴音@行殺!新撰組 (鬼)状態; ○  装備:日本刀】
【カモミール芹沢 @行殺!新撰組 (鬼)状態: ○ 装備:鉄扇】
【カレラ@VIPER-V6・GTR (鬼(招?)) 状態:○ 装備:媚薬】