(この男、出来る)エレンは感心せずにはいられなかった、
この状況で何が一番大切かということを理解している。
まずは基本的な情報収集、この場合は地図と通信機がそれにあたる。
それから単独でも生存するための物資、水と食料、医薬品だ。
それらが揃ってからようやく自衛のための武器の出番となる。
今回、エレンが武器を優先したのは、島を歩いた限り内部での水や食料の自給自足が可能だと判断したからだ。
それに…。
「まぁ、不思議なことにここに来て以来、腹も減らなきゃ喉も渇かないが念のためだ」
そう、もうかなりの時間が経過しているのに未だに喉の渇きも空腹も感じることが無いのだ。
「まぁ、誰だって死にたくないはずだ、右も左もわからない状況で短絡的な手段に走るのを責めるわけにはいかないな」小次郎は妙に達観したような口調で呟く。
「それでも私は出来る事なら止めたい」
そこまで言ったところでエレンは小次郎の顔を見る。
「もしかすると心当たりがあるみたいね?あなたを襲った相手」
「ああ…最低のゲス野郎だ」
思い出すのも腹立たしいといわんばかりに小次郎は前髪を掻き上げた。
そのゲス野郎は、興奮の余り呼吸を荒くしながら落ちつき無くボウガンを振りかざしていた。
その服装は独特の色を作業服だった、いわゆる囚人服と言われるものだ。
この囚人服を纏った男こそ、日本…いや世界の犯罪史上に残るであろう、凄惨かつ残虐なバスジャック事件の首謀者。
勝沼グループ元総帥、勝沼紳一死刑囚であった。
そう、彼は多くの美少女が乗った修学旅行のバスを襲撃、そのまま数十名の生徒たちを拉致監禁し、
陵辱の限りを尽くしたのだ。
そのおぞましき所業に世の中は慄然とした、本来慎重さを旨とする日本の司法制度によってでも
わずか数ヶ月で死刑判決が下ったところがそれを物語っている。
しかし彼は未だに満足していなかった、判決を聞いた彼の胸中に去来した思いは、
死にたくないとかそういう殊勝なものではなく、まだ犯し足りないというあくなき欲望だったのだから。
どうせ帰っても死刑、ここにいても殺される、なら最期のその時まで思う存分暴れてやる。
「まだ足りないんだ…」
紳一はぺろりと渇いた唇を湿らせながら、自虐的な笑顔を浮かべた。
ところでもう一方の足跡の方では…
「あかね、やっぱり引っ掛からなかったよ」
「うん、クレイモアで穴だらけにしてやろうと思ってたのに」
物陰に潜んでいた金髪の姉妹が枯れ葉で巧妙に偽装したクレイモア対人式地雷をせっせと回収していた。
双子なのだろう、顔だけ見るとまったく区別が付かない、ちなみに説明しておくと
赤い服を着ているのが鳳あかね、青い服がその姉の鳳なおみだ。
これでも元の世界では名うての戦闘機パイロットであり、そしてその天使の笑顔の裏側に潜むのは、
大人顔負けの狡猾さと子供特有の無邪気な悪意だった。
事実、追っ手を惑わすために、2人で足跡が重なるように歩き、わざとその足跡をこれ見よがしに
残したりと早くもその片鱗を見せている。
「ね、あかね。私たち以外がいなくなれば、きっともう誰にも襲われる事はなくなるよ」
「うんっ」
考え方が単純なのが子供である所以だが、それでも今はその単純さが逆に恐ろしい。
ともかく彼女らは自分が襲われないために、積極的に他人を襲うことに決めたのだった。
「やっぱり先制攻撃だよね」
そう万面の笑顔で笑う2人のバッグには、クレイモア地雷の他に例のプラスチック爆弾やら、
構造が単純で反動も少ない事から子供でも扱えると評判のAK47カラシニコフやら、
かなり物騒な代物が詰めこまれていた。
【エレン@ファントム オブ インフェルノ(ニトロプラス) 持ち物 ベレッタM92Fx2 ナイフ 状態 ○ 招】
【天城小次郎@EVE〜burst error(シーズウェア) 持ち物 食料 水 医薬品 状態△ 狩】
【鳳姉妹@零式(アリスソフト) 持ち物 クレイモア地雷x2 プラスチック爆弾 AK47 状態 ○ 狩】
(どちらか片方が招の可能性あり)
一人忘れてました、鳳姉妹をちょっと変更
【勝沼紳一@悪夢(メビウスソフト) 持ち物 ボウガン(他にも所持している可能性あり) 状態 ○ 狩】
鳳姉妹@零式(アリスソフト) 持ち物 クレイモア地雷x3 プラスチック爆弾 AK47 状態 ○ 狩】
(どちらか片方が招の可能性あり)
「恋ちゃん・・・まだ気が付かないんですか。」
「・・・・・・。」
さっきから藍ちゃんの様子がおかしい。
「藍ちゃん?」
「えっ?あ、ああ、申し訳ありません。」
「大丈夫・・・ですか?顔色があまり優れないようですが・・・。」
心配そうな百合奈先輩の問いかけに藍ちゃんは慌ててブンブン手を振る。
「大丈夫ですわ。でも・・・恋ちゃんは・・・」
視線を落とした先には恋ちゃんが・・・大輔ちゃんの妹がいた。
ブレザーで隠してあるけど、恋ちゃんの右腕は・・・。
「移動・・・出来そうにありませんね・・・。」
そんな百合奈先輩の一言に藍ちゃんは意を決したように告げた。
「先輩たちは・・・移動して下さい。私は、恋ちゃんが意識を取り戻してから参りますから・・・。」
「本当に・・・良かったのかな・・・。」
私は気がかりなことがあった。
さっき、移動前に恋ちゃんを藪の中に移動させようとした時の事――。
「本当に、行っていいの?」
私と百合奈先輩は、ここから離れることとこの孤島らしい場所の正確な大きさなどを確認するため、島の中央へと向かうことにした。
それには今だ目を覚まさない恋ちゃんが問題になる。
仕方なく、藍ちゃんに任せようとしての一言だった。
「ええ、構いませんわ。」
事も無げに言う藍ちゃんに私は何だか疑問を感じた。
「・・・藍ちゃん、さっきから、ちょっと変・・・。」
「え?そうでしょうか・・・。変わりませんわ。」
ううん、変わった。
普通なら・・・いつもの藍ちゃんなら、恋ちゃんがこれだけひどい負傷をしていれば必ず取り乱していると思う。
なのに・・・。
「この辺りで、いいのではないでしょうか?」
百合奈先輩が私と藍ちゃんに声をかけた。
「そうですわね・・・。ここでしたら人目に付きませんし・・・。」
そう言って藍ちゃんは額の汗を拭う。
「じゃあ・・・ここで一旦、お別れですね。」
「はい。また島の中央でお逢い致しましょう。」
柔和な微笑み。
私はその奥に何故か恐怖を感じた。
「さあ、橘さん、行きましょう。」
「橘さん・・・」
湿地帯を抜け、木々のまばらに生える林に入ってきたところで百合奈先輩が辺りを気にしながら囁く。
「鷺ノ宮さん・・・呪いがかかっています。」
「呪い?」
私の問いかけに百合奈先輩が頷く。
「ええ・・・。どういったらいいのか解りませんが・・・。それに似た雰囲気を、感じました。」
「私も・・・ちょっと、怖かったんです。」
「あのまま――」
それは、とても悲しい表情で・・・。
「あのまま、あの場所にいたら・・・鷺ノ宮さんの重圧に、耐えられなかった・・・。」
「百合奈先輩・・・。」
「私は、やはり弱い人間ですね・・・。」
そういってうつむく百合奈先輩と私に男の声。
「弱い人間など・・・死ねばいい・・・。」
「誰っ!?」
木陰から白衣の男がスッと現れた。
「動くものは・・・全て・・・コロス・・・」
ゆらり、とこちらに一歩近づくとバッグから聴診器を取り出す。
「殺すっ!!」
「きゃあっ!!」
ロープのように使うのであろう事は明白だった。
私は首に聴診器がかかる寸前で屈み込み、足を払った。
「くっ!」
そして、バランスを崩した男の背中を思い切り突き飛ばす。
「これが・・・敵・・・動くもの、全て――敵ぃっ!!」
再び私の所へ襲い掛かろうとしてきた男を百合奈先輩が体当たりで体勢を崩す。
「橘さんっ!今のうちにっ!!」
「はい!」
私たち二人は弾かれたように駆け出した。
しかし、相手が倒れていたとはいえ背を向けたことは油断だった。
「逃がさない・・・!逃がすものかああああっ!!」
後ろから聞こえる声がまだ離れていないことを物語っている。
ガシャーーーンッ!!
「きゃあああっ!!」
「百合奈先輩っ!?」
横を走っていた百合奈先輩の後頭部に何か薬品が入っていたであろう小瓶が直撃した。
「くっ!?め、目が・・・っ!!」
もう・・・逃げられない・・・。
私は覚悟を決めて振り向いた。
霞んでいるだろう視界でそれに気付いた百合奈先輩も立ち止まる。
「橘さん・・・貴方だけでも・・・」
「そんな事、出来ません。大輔ちゃんに笑われちゃいます・・・。」
じりっ、じりっと徐々に間合いを詰められる。
(大輔ちゃん・・・大輔ちゃんならこんな時――どうするの?)
私は髪留めにそっと触れる。
大輔ちゃんのシャツの一部であるそれは、私に何も教えてはくれなかった。
(どうすれば・・・)
「・・・でだ・・・。」
「えっ?」
よたついた動きでまた一歩こちらに近づく。
「なん・・・でだ・・・」
「何の事、ですか?」
「何であの子たちがこんな目に遭うんだあああああぁぁっ!!」
口にした言葉に反応した一瞬、百合奈先輩が男の体当たりで思い切り宙を舞った。
「ぐ・・・ぅ・・・・・・。」
背中から落下した百合奈先輩が呻く。
「どうして!どうしてっ!!」
「やめてえええぇっ!!」
私は何の策もなく、百合奈先輩と馬乗りになって先輩の首を絞める男に向かって走った。
「ただ、普通に暮らしたいだけなのにっ!それなのに何でっ!?」
「う・・・っ、う――。」
「先輩!」
「お前も敵かぁぁっ!!」
意識がフッと途切れたような気がした。
強烈な裏拳は私を藪の中まで跳ばす。
「帰るんだ・・・みんな・・・一緒に・・・・・・。」
声が私の方へと近付いてくる。
(大輔ちゃん・・・大輔ちゃんっ!!)
「邪魔な奴を殺して――二人を連れて!」
男の姿が、藪の中に現れる。
「俺は帰るんだあああああっ!!」
「いやあああああああっ!」
飛び掛ってきた、その刹那――。
静寂が、辺りを包んだ。
まるで、夢のように・・・。
でも・・・。
「く・・・ぐっ・・・・っ・・・」
静かな、男の声と、
手にしたクモの爪先から感じる、肉を貫いた感触が・・・現実に私を引き戻した。
「あ・・・あぁ・・・・・・」
爪を伝わって手の中に感じる、人の体温・・・。
自分の手が、ゆっくりと、スロー再生のように赤く染まっていく。
・・・恐かった。
震える手を、爪から離す。
「う・・・そ、だ・・・・・・。」
自らの腹部を貫通した爪を抱え、よろめきながら後退する男。
「お、れは・・・帰るん・・・だ・・・」
「そう・・・だ・・・。まい、な・・・ちゃ、んと・・・ゆうな・・ちゃ・・・ん・・・と・・・」
何かに引っ張られるように、その首から上がカクンと後ろに曲がる。
「いつ・・・も・・・の・・・・・・――。」
いつもの・・・日々に――。
確かにそう、口が動いた。
そうだ・・・・・・。
ああ・・・。
同じなんだ・・・・・・。私たちと――。
「同じ・・・ヒト・・・なんだ・・・・・・。」
「橘さん?大丈夫・・・です、か・・・?」
百合奈先輩が、鮮血に染まった手を放心状態で見つめる私を心配して声をかけてくる。
「私・・・ヒト・・・殺し、ちゃった・・・・・・」
百合奈先輩はゆっくり首を振り、
「違う・・・。ヒトでは・・・ありません・・・。呪いを・・・祓ってあげたのです・・・・・・。」
「せん・・・ぱい・・・。」
ぎゅっと抱きしめてくれた。
こんな、私を。
ヒトを殺した、私を。
血に染まった・・・私を・・・。
大輔ちゃん・・・私、どうしたらいい・・・?
どうすれば・・・この悪夢から――逃れられるの?
「教えて、よ・・・・・・。」
もう大丈夫だと、そう思ったはず。
でも――。
溢れ出る涙を、私は止めることが出来なかった・・・。
【上村雅文:死亡 橘 天音:所持品なし 君影 百合奈 状態:×】
574 :
2匹の獣:04/01/21 03:05 ID:nck15OlT
伊藤乃絵美は軽やかに森を歩いていた。
先刻まで、木々の闇に、鳥の声に、流れる血に
おびえていたのが馬鹿らしい。
「お兄ちゃんの所へ早く帰らなくちゃ」
くすりと笑みを浮かべる。そう、早く帰って
兄の胸に飛び込むのだ、そしてずっと抱いていた
淡い思いを言葉にしよう。
兄妹だからと悩んでいた、自分はなんて臆病だった
のだろう。世界は誰も自分を否定なんてしては
いなかったのだ。
「菜織ちゃんにも、真奈美ちゃんにも負けない」
そう、負けるはずが無い。兄と一番近い自分が
ずっと一緒にいるのが当然のはずだ。
それでも邪魔をするなら、少し私が強いところを見せて
やろう。体が弱くて、いつも守られてばかりいた自分だけど
もう平気だ。
「だって私はお兄ちゃんの為にこんなに強くなれる」
乃絵美の右手に握られたナイフから血が転々と滴っている。
いや、それどころか彼女の服装はひどい有様だった。
胸元が破れスカートには泥がついている。そして右手のナイフ
だけでなくボロボロの服にも乃絵美の物では無い血が
付いていた。
はだけた彼女の胸元には一筋の引っかき傷のようなものが
付いていた。
この場に誰かがいれば気が付いたかもしれない。その傷は
まるで果物が熟しきって腐り落ちたような濃厚な甘い香りを
漂わせていた事に……。
575 :
2匹の獣:04/01/21 03:05 ID:nck15OlT
男の荒い呼吸音が森に響く。
「くそっ、あんな小娘に!」
わき腹を切り裂いた傷は、熱を持ち勝沼紳一を苦しめた。
幸い、ナイフの刃は内臓へは届かなかったが、鎮痛薬も
無い現状での行動は傷の痛みにより大きな制約を受けるだろう。
特に、脇の筋肉を使う走る、飛ぶといった行動は激痛を
伴うに違いない。
森をさまよっていたリボンの少女をナイフで脅して押し倒した
所までは紳一の計画通りだった。長い刑務所での禁欲を、少女の
肉体を蹂躙する事で解消しようとしたのだ。
数多の少女達を犯し、壊してきた紳一にとって目の前の少女は
刃物を見せれば怯えてすくむ、玩具のように扱いやすい類の
獲物のはずだった。
胸元をはだけさせた瞬間、少女の胸元に爪で引っかいたような傷を
見つけた。その途端、少女はバネが弾けたかのように紳一を
蹴り上げ、取り落としたナイフを奪うとためらいも無く刺したのだ。
立ち上がり、紳一を見下ろした少女の目は最悪の犯罪者と呼ばれた
彼ですら凍りつく異様な視線だった。
「くそっ、くそっ!」
ボウガンを杖代わりに立ち上がる。ナイフこそ少女に奪われたが
倉庫から奪ってきた武器はまだ有る。
「殺してやる、奪ってやる、犯してやる!」
少女への得体の知れない恐怖が、紳一の冷静さを奪ってゆき、
傷の痛みが理性を磨耗させる。
そこには、計算機の如く犯罪を遂行した勝沼紳一の姿はもう無かった。
ただの凶悪な獣が野に放たれたのだ。
576 :
2匹の獣:04/01/21 03:07 ID:nck15OlT
「悪趣味だ」
その様子を眺めていた葉月は傍らの蔵女に聞こえるように
言葉を吐き捨てた。
「ほう?だが、これで饗宴は面白くなるぞ?主催者もむやみに
能力者を狩人にする必要が無くなる。2人の狩人の追加。
バランスを考えれば悪くない結果だとは思うがのう」
蔵女が着物の袖で口元を隠しながら、童の様に笑う。
「あの娘の恋心を弄び、狂わせただろう。それが気に入らないと
言ってるんだ!」
葉月が思わず声を荒げた。乃絵美の胸の傷、それは蔵女が
森を彷徨う彼女にその爪でつけた傷だった。
蔵女の右手の人差し指の赤き爪でつけた傷は、その人の
心を徐々に腐らせてゆく。発露されぬ想いや、心の傷が
精神を蝕んでゆき変質させていくのだ。そして最後には果たされた
想いを幻と見ながら赤い雪となり消えてゆく。
恐らく乃絵美は兄への想いを果たすために、帰る手段を模索
するに違いない。正気のように行動し、狂気を爆弾の様に
抱いているのだ。
「あの娘は、先刻の下衆な男よりも危険かもしれないな」
葉月は手元の刀を無意識に握り締めた。暴走を止めるのも自分達の
役目だ。火を点けては消して回る滑稽な消防士としか言いようが無い。
「行こう」
葉月は一言告げて、きびすを返す。その後を蔵女の下駄の音が
からころと追いかけていった。
【伊藤乃絵美 状態:狂気(見た目や言動は正常) 所持品ナイフ】
【勝沼紳一 状態:怪我(腹部)、錯乱 所持品:ボウガンその他 】
【蔵女 状態:良(能力制限) 所持品(能力):赤い爪】
【葉月 状態:良(能力制限) 所持品:日本刀】
腹の傷を抑えながら、男、勝沼紳一は森の中を彷徨っていた。
「く、糞、糞糞糞っ!」
とうとう立っていられなくなったのか、木に寄りかかるようにして座り込んでしまった。
「俺は勝沼紳一だぞ……。女は俺の所有物だというのに……。あんな小娘が、糞っ!」
静寂が漂う森の中で、ただひたすら己の中にあるドス黒い感情を発露させている。
「あ、あの……、大丈夫ですかぁ……?」
「!?」
勝沼は驚きながら、その声がした方に振り向く。
そこに立っていたのは、一人の少女だった。
髪を二箇所、黄色いリボンで留め、見様によっては猫の耳のようにも見える髪形。
それよりも、なお勝沼の気を引いたのは、その娘の胸元にある大きな鈴だった。
「だ、誰だ……?」
苦しみを抑えながら勝沼が呟く。
「あ、あのっ! ミキは珠瀬壬姫って言います……」
そう言って、その娘、珠瀬壬姫は恐る恐るといった風情で勝沼に近寄りながら、精一杯の笑顔を浮かべた。
「珠瀬……、くぅ!」
勝沼の腹に激痛が走る。
「だ、大丈夫ですかっ!」
壬姫は慌てて勝沼の元へ駆け寄った。
「腹が……」
「ちょっと見せてください! ミキも良く怪我をするから、何とかできるかもしれません!」
勝沼は壬姫の顔を見回してから、一度だけ大きく頷くと、腹の上から己の腕を離す。
「ああ、頼む……」
壬姫はその傷に顔を近づけ、観察するように見つめる。
「これは酷……!」
まず、クチャ、という音が壬姫の耳に聞こえてきた。
「え……? あれ、痛っ……!?」
次に襲ってきたのは、腹部から来る痛み。
壬姫は痛みの元となっている部分に眼をやった。
そこにあるのは、ボウガンの矢、それがあろう事か自分の腹からはえていたのだ。
「ふ、ふふ……」
「な、何で……!?」
現状を理解できずにただ狼狽する壬姫を尻目に、勝沼の笑い声はだんだんと大きくなっていく。
「ふはハハははハハはぁ! 痛いか? 苦しいか? そうだろう!」
勝沼は、壬姫の身体を突き飛ばす。
痛みの所為で身体が動かないのか、壬姫は成す術も無く地面の上を転がった。
「貴様等のような小娘がっ! このっ、勝沼紳一に傷を負わせるなんてっ! そんな事が許される訳ないんだよ!」
勝沼はそう叫ぶと、壬姫の身体の上に圧し掛かる。
「きゃ、きゃあっ!」
壬姫は逃れようともがくが、男と女の力の差、それに痛みの所為で、まったく意味をなさない。
「怖いか? ふふ、泣けっ、叫べ! その方が興奮するんだよ! ほらもっと叫べよ!」
「や、やだっ! やめて! た、助けて、たけるさぁんっ!」
逃れる事が無理だと悟った壬姫は、ただひたすら己が密かに慕っている男の名前を叫んだ。
叶う事の無い願い、争いが嫌いな故に、ずっと隠しておこうと思った気持ち。
「たけるさん!」
壬姫の声は、虚しく森の中に響き渡った。
森の中を疾走する大十字九郎の耳に、女性の悲鳴のようなものが聞こえてきたのは、フーマンを撃破してから、それほど時間は経っていなかった。
「悲鳴! ……こっちか!」
アルの事も気にかけてはいるが、しかし、近くで助けを求める人間を放っておけるような人間でもない。
大十字九郎という男はそういう人間だった。
木々の合間を抜け、声のする方に近づいてみると、多少広がっている場所に出た。
そして、九郎の目に飛び込んでくる、血まみれになってもがく少女の姿と、その上に圧し掛かっている男の姿。
「お前! その娘の上から退け!」
威嚇をこめて、クトゥグアの弾丸を放つ。
「ちぃ! 貴様も俺の邪魔をするのかぁ!」
勝沼は壬姫の身体の上から退くと、血走った目を九郎の方へと向ける。
「こんな光景、誰が見たって邪魔するに決まってるだろうが! これ以上この娘に何かしようとしてみろ! その時は容赦はしない!」
九郎が叫ぶ。
その叫びに推されたのか、それとも九郎が銃を持っている事を見て不利だと判断したのか。
勝沼は大きく舌打ちをしてから、身を翻して森の奥へと消えていった。
「おい、大丈夫か!? しっかりしろ!」
九郎は壬姫の身体を抱きかかえる。
「あ、ありがと、げふっ! ……ござ……ます」
「いい、喋るな! いいか、気をしっかり持て。大丈夫、このくらいならすぐ治るから!」
壬姫の腹の傷は素人目に見ても、もうどうしようもないと判るほど深い傷だった。
九郎にもそれが判る、しかし壬姫はその言葉に励まされたのか、一瞬だけその苦しそうな表情が、微笑みへと変わった。
「うぐっ! がっ、ゴホッ、ゴホ……」
しかしすぐに壬姫の様子が変わる。
苦しそうにその口から、大量の血を吐き出した。
「たま!」
「壬姫ちゃん!」
突然、九郎の背後から、いくつかの声が聞こえてくる。
九郎が振り向くと、そこには数人の男女の姿が見えた。
「な、なんなんだよ、それはっ! お前……、お前がやったのかっ!」
その中にいた一人の男、白銀武が怒声を飛ばす。
武の視線の先には、九郎の手にある拳銃、クトゥグアに向けられている。
「ち、違う! 俺は……」
「その娘から離れろ、外道!」
刀を持った長身の少女、御剣冥夜がその刀でもって九郎に切りかかる。
「だから違うって!」
九郎は右手で持ったクトゥグアでその斬撃を受け止める。
「くそ、話が通じないか!」
九郎はそう呟くと、立ち上がるとすぐに振り向いて、その場から逃げ出した。
「待て!」
「待って、御剣さん!」
冥夜がさらに追いかけようとするが、それを引き止めたのは、眼鏡を掛けた少女、榊千鶴の声だった。
「何故止める、榊!」
「……あの男は銃を持っていたわ。私達の中で唯一武器を持っている貴方があいつを追いかけて、もし貴方が逸れてしまったら? そしてそんな時、あいつのような人間が私達の前に現れたら? 現状を考えれば、今この場に留まって、状況を理解する方が大切だわ」
青ざめた顔をしてはいるが、自分の意見に自信を持っているのか、いきり立つ冥夜を前にして、一歩も引こうとはしていない。
「……冷血女」
その光景を見ていた黒髪をショートカットにしている娘、綾峰慧がボソリと呟いた。
「何ですって!」
榊は綾峰の顔を思い切り睨みつける。
「け、慧ちゃん、千鶴ちゃん……。け、喧嘩は止めてよぉ……」
「たま! 気がついたのか!?」
武の腕の中で、たまが弱々しく呟いた。
「あ、あの人は……がふっ!」
壬姫が言葉を言いかけるが、全てを言い終わる前に血を吐き出した。
「珠瀬さん、喋らない方がいいよ! その傷は……」
中性的な顔立ちの美少年、鎧衣尊人がそこまで呟いて言葉を閉ざす。
この中でもっともサバイバル経験の長い彼は、壬姫の傷が深い、深すぎるという事を一番良く理解していた。
「た、たけるさん……」
「……何だ、たま? 何でも言ってみろ」
壬姫は武の顔を見てニコリと微笑んだ。
「向こうで、たまの練習に付き合ってくれて……ありがとうございました」
「何をいまさら……! 俺達は……仲間、だろ?」
武はそう言うと、力強く笑う。
「仲間……。そう……ですよね、タマ達は、どんな人達よりも、仲の、いい……仲……」
「壬姫ちゃん!」
髪の毛が一本だけピンと跳ねている少女、鑑純夏が壬姫の身体に手を添える。
「たま!」
「珠瀬さん!」
周りに集まっていた者達も壬姫の身体の近くに寄り添った。
しかしもはや壬姫の身体が動く事は無い。
「壬姫……ちゃん……」
純夏が壬姫の手を取りながら号泣する。
常に無表情な、綾峰ですら、その眼から涙を流していた。
「たま……、約束だ。俺達は喧嘩なんてしない。お前、喧嘩、嫌いだったもんな?」
武が、壬姫の首に掛かっている鈴に手を伸ばす。
そしてその鈴をそっと取り外した。
「この鈴、返してもらうぜ」
武はその鈴を持って立ち上がると、周りの人間を見回した。
「そういう事だから、俺は今後一切喧嘩というものをしない事にした。文句のある奴はいるか?」
皆、静まり返っている、否、一人だけ手を上げている者がいた。
綾峰慧。
「あの男はどうするの? この娘を殺した男。白銀が何もしないのなら、私だけで動くけど……いい?」
それは疑問の形を取った、意思の表明。
武は、綾峰の顔をじっと見つめる。
「俺は、いや、俺達はもう喧嘩はしない。それはさっきも言った通りだ」
綾峰は、ふぅ、と大きくため息をついた。
「そう。……それじゃ」
そういうと、後ろを向いて立ち去ろうとする。
「待てって。最後まで話を聞けよ」
しかしその綾峰を止めたのは、他でも無い、白銀武、その人だ。
「俺は喧嘩はしない、とだけ言ったんだ。つまり、だ」
「つまり?」
何を言いたいのか、というような表情で綾峰が首を傾げる。
「復讐、とか、殺し合い、っていうのは、喧嘩じゃないだろ? そういう事だ」
「タケル! そなたは……」
冥夜が声を上げる。
「幻滅したか?」
「いいや、それでこそ我が婿、白銀武ぞ! この冥夜、全ての力を持ってそなたに力を貸そう!」
武は、地に伏す壬姫の身体をそっと抱きかかえる。
「もう少し待ってくれよな。どこか日のあたるいい場所まで連れて行ってやるから、それまで……な?」
「ふふ、その必要はありませんわ」
「誰だ!」
突如暗闇の中から聞こえてきた声に、冥夜が刀を構えながら振り向く。
「私の名前は比良坂初音。どうぞ、初音、とおよび下さいな」
暗闇の中から初音がその姿を表した。
「必要は無いってどういう事?」
榊が警戒しているという事を表情にありありと浮かべながら、初音に問い掛ける。
「貴方達は、さきほどの男を追いかけるのでしょう? でしたら、急がないと逃げられてしまいますわよ」
「それと、壬姫を連れて行く事と、どういう関係があるんだ?」
武が問い質すと、初音はうっすらと微笑を浮かべる。
「ですから、私がその娘の躯を、どこか安らげる場所に連れていって差し上げます、という事ですわ」
「何故、あんたがそんな事を?」
「ふふ、何、ただの気まぐれのようなものかしらね。それで、どうなのかしら? こうしている間にも、あの男はどんどん逃げていってしまいますわよ」
「あんたが何者かは知らないけど……、判った。どこか明るい所に連れて行ってくれよ」
「ええ」
初音は、武の腕から、壬姫の動かぬ身体を受け取った。
「お礼といってはなんですが、一つ貴方達に良い事をお教え差し上げますわ。この道を先に行くと、大きな蔵……、武器庫、といったかしら? そのような物がございますわ。そこにいる人間に私の名前を申し上げれば、おそらく何かしらの道具を頂けると思いますわ」
「武器庫!? あ、あんたは本当に一体……」
「ではごきげんよう……」
武の言葉には答えずに、壬姫の身体を携えたまま初音の身体が掻き消えた。
「武ちゃん、どうするの?」
純夏が不安げに武の顔を見つめている。
「……まずは武器庫に行こう。それからゆっくりとあの男を見つけ出す!」
武は皆に向かってそういうと、ゆっくりとその足を動かし始めた。
「どいつもこいつも、邪魔ばかりしやがって!」
勝沼は先ほどまでと同じように森の中を彷徨っていた。
この世への恨み言、ただそれだけを呟きながら歩くこの男の表情には、最早狂気以外の感情は無くなっていた。
その時、ふと、勝沼の眼に一人の少女の姿が飛び込んでくる。
思わずむしゃぶりつきたくなりそうな身体を持つ、まるで人ではないと思える程の美少女、初音の姿が。
その手には、先ほど受け取った、壬姫の姿もある。
初音は勝沼を、それがまるで汚らわしいものだとようなような眼つきで見ている。
「何だ、その眼は……」
勝沼が足を止めて呟く。
「何だぁ、その眼はぁ! 俺をそんな眼で見るなぁ! お前も犯しつくしてから、殺してやる! その手に持っている娘のようになぁ!」
勝沼が叫ぶと同時に飛び掛る。
初音はその姿を見据えたまま、しかし動こうとはしない。
「ひゃははははははぁ!」
しかし勝沼が初音の身体に覆い被さる事は無かった。
「あ?」
勝沼の腕が初音の身体に掛かろうとした瞬間、初音の姿が掻き消える。
「身の程をしりなさい、下種」
瞬間、勝沼の首から大量の鮮血が溢れ出す。
「な、何で……、こんな事……」
「気まぐれ、ですわ。せっかくの生娘をこんな風にしてしまうなんて……。まったくもって無粋極まりない」
勝沼の眼から、狂気の意思が消える。
暗い森の奥深く、絶望の淵で勝沼紳一は息絶えた。
「さて……。あの方達との約束通り、この娘を安らげる場所へと誘ってあげる事にしましょうか」
初音の姿が変わっていく。
それは、蜘蛛。
何百もの時を過ごしている女郎蜘蛛の本性。
蜘蛛は壬姫の身体を咥えると、味わうようにゆっくりとその口動かしていった。
【白銀 武 マブラヴ 状 ○ 持ち物 無し 招→?(分類上ただ呼び出された者から、狩る者に変化、鬼?、狩?)】
【鑑 純夏 マブラヴ 状 ○ 持ち物 無し 招→?】
【御剣 冥夜 マブラヴ 状 ○ 持ち物 刀 招→?】
【鎧衣 尊人 マブラヴ 状 ○ 持ち物 無し 招→?】
【榊 千鶴 マブラヴ 状 ○ 持ち物 無し 招→?】
【綾峰 慧 マブラヴ 状 ○ 持ち物 無し 招→?】
【珠瀬 壬姫 マブラヴ 状 死亡 持ち物 無し 招】
【勝沼 紳一 絶望 状 死亡(?) 持ち物 ボウガンその他 刈(?)】
【大十字 九郎 デモンベイン 状 ○ 持ち物 イクタァ、クトゥグア(共に銃) 招】
【比良坂 初音 アトラクナクア 状 ○ 持ち物 無し 鬼】
585 :
中央へ:04/01/21 17:44 ID:DMuF1KXQ
「……桜井や俺達は何者かによってこの島に呼び出された。……俺はそう思う」
高町が言う。
俺達は、つばさを埋めた場所からかれこれ一時間程歩き続けていた。
……正直俺は、自分が一体どうしてたのか恐かった。
あの必殺技みたいなモンを出してから、体が異様に重く感じられ、いろんな場所で血管がぶち切れているのもよく分かっていた。
いまだに体中が、ありえない程の激痛を訴え続けている。
……とりあえず俺は、さっき牛の化けモンをやっつけたときのあの変な力は忘れることにした。
「……誰かが呼んだ、ってのはどうして分かるんだ?」
俺は高町に聞き返す。
「……理由なんてないさ。誰かが俺達を召喚した、ってことにしておけば、目標を立てやすいだろう?
当分の目標は、その俺達を呼び出した奴を探す、という分かりやすいものになる。……それだけだよ」
今まで高町は冷静な奴だと思っていたが結構行き当たりばったりな性格をしているのかもしれない。
「……まあ確かにそうだな。何をすればいいか分からんままだと、動きにくいままだからな。とりあえず、
俺達をこんな島に呼んだクソ野郎に会って、元の世界に帰してくれるよう、泣きながら懇願し奉る。
……それがこれからの方針というわけだ」
「……あぁ。そうだな……」
高町は真顔で返した。
……正直俺は、こいつとはやりづらい。
確かに今のはツッコミづらかったとは思うが、何も真顔で返すことはないどろ、オイ。
いつものように鋭いツッコミがないと、生来のボケ担当であるこの舞人くんは何かこう……
翼のない鳥とか、弾の入ってない鉄砲みたいな、そんな感覚に陥ってしまうではないか。
586 :
中央へ:04/01/21 17:45 ID:DMuF1KXQ
「……それで、桜井なら自分がこの島で一番偉い者になったら、どこに住みたいと思う?」
なんかまたわけの分からない質問がきた。
「そりゃあお前、アレだろ。この島の真ん中にどでかいビルでも建てて、愚民どもが汗流してんのを
紅茶でも飲みながらゆっくり拝みたいね」
「……と、いうわけだ。行くべき場所は決まりだな」
高町が言う。
……ああそうか。こいつは島の中央目指して歩いてたんだな。
確かに、テレビやゲームなんかの悪の親玉でも、大体は舞台の真ん中にいる。
今のこの島の場合もそういう場所にいると考えるのが妥当だろう。
……まあ、黒幕みたいなのがいた場合の話でしかないけどな。
とは言え、目的地は決まった。
後はとにかく、突き進むだけだ。
……また沈黙。二人分の、引きずるような足音だけが延々と続いた。
「……なあ、高町」
沈黙に耐えかねた俺は口を開く。
「その腰にある刀って、本物なのか?」
俺はその刀を指で差す。
「……刀に本物も偽物もない。問題は、どう使うかということだけだ」
「……そうか……」
………………
……いや、会話終わってるじゃないか!
こんな会話が続かん奴は初めてだ。
587 :
中央へ:04/01/21 17:46 ID:DMuF1KXQ
「いや、俺が聞きたいのはだな。つまりお前の持っているその刀は、人を斬ったりできるアレかってことであって……」
「……俺の家は剣の道場だ。流派は御神流。正式には永全不動八門一派・御神真刀流、小太刀二刀術という」
「へ、へぇ〜〜〜」
な、なんだ? ギャグか? え、えいぜん……なに?
「……殺人術だ」
ゴクリ。
思わず生唾を飲んでしまった。
……高町の言葉には、ギャグとは思えないほど圧迫感があった。
さすがの舞人くんもこれには黙るしかなかった……。
しかし……。
「……動くな、桜井」
高町は低く落とした声で俺を制した。
いつものように冗談を言ってふざけている場合ではないことは、高町のその目が物語っている。
「……どうしたんだ?」
「何かが……いる」
高町は目を細めている。敵の場所を探っているのだろうか?
「……さっきの化けモンみたいな奴か?」
「……人間だ」
それを聞いて俺はほっとする。
「なんだ。じゃあだいじょ……」
「殺気を感じる」
高町は明らかな動揺を隠せないでいた。
俺の、杖代わりの斧を握る手も汗でぬめってきた。
……まずい。瀕死の男が二人揃ったところで、できることは限られている。
戦って命を落とすか、逃げるか……
「……囲まれている」
……退路は、断たれた。
588 :
中央へ:04/01/21 17:49 ID:DMuF1KXQ
【高町恭也:狩 状態△】
【桜井舞人:招 状態×】
【両者装備変わらず】
マヴラブの連中が全員招かれし者ってことはないと思うんだが……
基本は書いたもの勝ちなんで。
590 :
名無しさん@初回限定:04/01/21 18:39 ID:LzPRcW8v
「いいか!ドライ殿は右翼、和樹殿は…」
歳江が指示を飛ばすまでも無く、ドライと和樹はミュラたちに突っ込んでいく。
「おい!私の指示を」
2人は歳江の指示など聞いていないようだった、そしてそのまま乱戦へとなだれ込んでいく
それこそがミュラたちママトト武将の思うつぼだった。
なすすべもなく乱戦となった中で歳江は歯噛みする。
彼らは自分たちの死角になる左側から、一糸乱れぬ陣形をもって斬り込んで来た。
間違い無く戦慣れしている連中だ。
事実、ミュラたちは一対一の状況には決して持ちこませず、常に二対一になるように巧妙な連携を見せている。
和樹もドライも個人的な戦闘能力は高いのだが、こういう集団戦闘には慣れていないのが丸分かりだ。
今や歳江は2人のフォローにてんてこまいで指示を出す暇などなかった。
なんとか距離を取ろうとするドライをさせじと牽制するミュラ、そこへ歳江が割りこむ、
「和樹殿はドライ殿の援護を」
「させねえよ」
ライセンに追いまくられる和樹のフォローにドライを行かせようとした歳江だが、
ヒーローがそれに対応し、すかさずカットに走る。
ドライとヒーローが遣り合う音を聞きながらミュラと歳江が刃を交える。
その力量は互角、だが数合斬り結んだだけでミュラは悟った。
(強い!でもシェンナを斬ったのは彼女じゃないわ!)
自分と互角程度の腕ではシェンナに勝つ事は出来ても、殺すまでには至らないはずだ。
実際、不本意ながら墓から暴いた遺体(墓標に彼女の服が巻きつけられていたのですぐ分かった)
の損傷はほとんどがかすり傷で、致命傷以外に決定的な傷は見つからなかった。
だが、問題の彼女に致命傷を与えたのであろう刀傷だけは、凄まじいまでの切れ味を示していた。
相手はリックには及ばないまでも、ピッテンやバルバッツァ級の剣豪に間違い無い。
「ねぇ?黒いジャケットを着た女の子を殺したのは誰?」
「知らんな、地獄で本人に聞け」
すれ違いざまの斬撃の際にそれだけの言葉を交わすと、2人はまたそれぞれの仲間のフォローに向かった。
「ちくしょうめ」
ドライが銃の照準を合わせようとするが、この状況では彼女の腕を持ってしても味方に当たる可能性が高い。
別に当たっても構わないのだが、やりたい放題が出来たインフェルノの頃とは違う、
ここで味方殺しの烙印を押されるのは得策ではない。
と、焦っているドライのすぐ目の前にヒーローが大剣を振りかざして迫る、とっさに後ろにとび去ろうとした
ドライだが。
「ドライ殿!飛ぶ前にしゃがめ!」
歳江の声にしたがったドライのすぐ頭上をライセンの戦斧がかすめていった。
さらに追い討ちをかけようとするライセンだったが、それは歳江が制止する。
和樹はミュラに阻まれ、援護する事が出来ない。
と、そこで状況が一変した。
「3分!」
ミュラの掛け声と共に、ヒーローとライセンは素早く武器を収めると、
そのまま守備兵を蹴散らし、3人そろって一直線に走り去っていったのだ。
奇襲に失敗した時点で彼らは作戦を修正していた。
斬り込みは3分まで、それを過ぎた場合戦果云々に関わらず撤退するという方向に。
「首はゼロかぁ、まぁ仕方ねぇよな」
森の中を走りながらヒーローが残念そうに言う。
「仕方ないわ…生きていれば何度でも戦える、でも死ねばもうチャンスはないの」
「この調子でいくわよ、一撃離脱はママトト軍の最も得意なやり方だってことを思い知らせてやるのよ」
そのころ残された歳江らは、憤懣やるかた無い表情で突っ立っていた。
所詮寄せ集めなので連携うんぬんは言っても仕方が無いし、個人で出来る限りの力は尽くしたので、
仲間同士の批判は口にしたくない。
彼らは自然と指揮官への不満を口に出していた。
「何が2時間だよ、あの赤毛は!そんなに待っていられるか!」
「我々は所詮コマに過ぎないからな…ふふ、池田屋の時もそうだった」
新撰組の強さを知らしめた池田屋事件、あの時も頼みとしていた会津藩が煮えきらぬ態度を取ったため
不本位ながら、新撰組単独で斬り込むことになってしまったのだ。
「でも、それなりに焦っていましたよ」
「この程度で焦るようなら、ケルヴァン殿の将才も知れたものだな…」
その時だった!倉庫の中から大声が聞こえた。
「みなさん〜ここに爆弾がっ!爆弾がありますよぉ〜」
時間は少しさかのぼる、
カッチ、カッチ。
(何だろ?今何が起こってるの?)
早坂日和は建物の外の物音に耳を傾ける。
アインらが立ち去ったすぐ後にここに到着した彼女は、そのままこの武器庫の中に隠れていたのだ…。
和樹やドライが自ら武器の整理をしていれば容易く発見されたのだが、幸いにも2人は陣頭指揮のみで。
倉庫へは立ち入ろうとはしなかった。
それに偶然ながら彼女が寒さを凌ぐつもりで纏っていたのが光学迷彩シートだったのも幸いしていた。
(このまま隠れていれば……)
カッチ、カッチ
そういえば隠れたときからずっと時計の音がすぐ近くでしているんだけど、何だろう?
日和は音の出所を探す、それは壁の穴に目立たぬように突っ込まれていた。
それは粘土のような物に時計がくっついていて、そこからコードが数本伸びている、そんな代物だった。
「これって…」
兵器知識など微塵もない日和にも理解できた、これは爆弾だ…。
「に…にげなきゃ逃げないと…」
うわ言のようにそればかりを口にする日和だったが、見つからないように棚を移動させたのが裏目にでた、
ひぃひぃ言いながら再び棚をもとの位置にずらさねばならなかったのだから。
さらにようやく棚をずらし終わったと思えば、今度は爆弾のコードが足に絡みつく。
外すのももどかしいので爆弾を手に持ったまま仕方なしにそのまま外へ向かおうとすると
何も無い床で盛大に転び、迷彩シートが外れてしまう。
そんな状態で彼女は3人の目の前に飛び出したのだった。
最初に行っておくべきだろう、彼女は危険を省みず人として正しいことをした…
それは理解してやるべきだろう、だがタイミングが悪過ぎた。
「みなさ」
ドライのハードボーラーが火を吹く。
「ばくだ」
和樹のイングラムが唸りを上げる。
「ありま」
そして歳江の日本刀が日和の首を刎ねたのだった。
「こいつ何しに出てきたんだ?でも殺しちまったのは不味いかもな」
死んだことにも気がつかず、大口を空けた日和の首を蹴飛ばすドライ。
「ドライ殿、死ねばみな仏だ、もう少し丁重にっと…仏はこんな物を持っているぞ」
歳江が片手に持ったもの…それを見た一同は言葉を失う。
歳江が手に持っていたものこそ、先程話題に上がった、まごう事無きプラスチック爆薬だったのだから。
「バッ!バカ!早く投げ捨てろって、あああっそっちじゃーねえよ!」
目ざとい者が早くも逃げ出す中で、ドライは歳江に向かって叫ぶ、が、次の瞬間頭を抱えて絶句する。
歳江は確かに爆弾を投げ捨てた…ただし渦高く積まれた武器弾薬の山の中に。
状況がわからず?マークを浮かべている歳江を和樹が大慌てで引っ張っていく。
「死にたくねぇ奴は早く逃げろー!」
ドライが全力疾走で走る、そこへようやく状況を理解した歳江が和樹と共に追いついてくる。
その時だった、背中に閃光、それから数拍遅れて。
ドカァァァァン
武器庫は木っ端微塵に吹き飛んだのであった。
「あーあ、派手に吹っ飛んでるなぁ」
間一髪で安全圏に脱出できた3人は、盛大に煙を上げる武器庫を見て無責任な言葉を漏らす。
「まぁあたしらが責任を取る事でも無いし、こういうときにこそケルヴァン将軍閣下に役に立ってもらわねーとな」
【土方歳江、ドライ、友永和樹: 所持品 日本刀 ハードボーラx2 イングラム 鬼、状態良】
【ミュラ@ママトト: 狩 状態良 所持品:長剣】
【ライセン@ママトト: 狩 状態良 所持品:戦斧】
【ヒーロー@ママトト: 狩 状態良 所持品:大剣】
【早坂日和@みずいろ: 招 状態良 所持品:大剣】
作品投下スレで言ってしかるべきだと思うのだが、
↑早坂日和は生きてるのか?
化けモンなの?
>>596 ゴメン・・・
【土方歳江、ドライ、友永和樹: 所持品 日本刀 ハードボーラx2 イングラム 鬼、状態良】
【ミュラ@ママトト: 狩 状態良 所持品:長剣】
【ライセン@ママトト: 狩 状態良 所持品:戦斧】
【ヒーロー@ママトト: 狩 状態良 所持品:大剣】
【早坂日和@みずいろ: 招 死亡】
598 :
葉鍵信者:04/01/21 22:53 ID:ExcPM5+V
まー、生霊化するあゆ互換だし、ありえそうな気もするが(苦笑
「私達って今、ゾンビっていうもんなのよね?」
「ケルヴァンさんの説明では幽霊みたいなものだと聞いていますが・・・どうかしました?」
後方を歩く芹沢の問いに対し振り向くことなく、鈴音は答えた。
「幽霊だとするとね?私達はご飯とかは食べれないわけよね・・・歳江ちゃんがっかりしないかなぁ」
「あー、そうですねぇ。せっかく生き返ったのにお餅食べれなかったらがっかりしそうですね」
芹沢と並んで歩く勇子が、なんだかうれしそうに話込んでいる。
「それだけならいいんだけどねー。格好いい殿方とかいても・・・そのできないってことなのかな?」
「は、はぁ・・・」
「まだまだ世の中には、たっくさんいい殿方がいるのに手を出せないとなると悲しいなーって。
化けて出てもおかしくないくらい未練たらたらだったんだから」
ふと首を傾げて
「でも身体はあってちゃんと物を触れるわけだから・・・」
「まあ、私は歳江ちゃんと・・・みんなが一緒に居れたらそれが1番ですから」
自分もそう思っていた。
勇子がほわわんと局長席に座ってて、芹沢が何かやらかして、歳江がそれを怒って・・・
そんなのが楽しかったのだ。
なのに・・・沙乃は・・・裏切った。
次会った時は・・・せめて自分の手で引導を渡そう。それが仲間の務めでもある。
「次に気にいった殿方がいたらできるか試してみようなぁ」
そんなどうでもいいことでも芹沢はすごく真剣な表情だ。
あの人は自分のやりたいことをやっている。
自分もあのように・・・しかし今はケルヴァンからの任務の遂行が第一だ。
また冥府に戻されてはたまらない。
勇子が不意に立ち止まった。
「誰か・・・いるね」
「駆除対象って奴でいいのかな?」
「それは調べてみないと・・・って、あ」
すでに相手を包囲するように動き始めていた鈴音と、芹沢は勇子のあげたすっとんきょうな声に立ち止まった。
「召喚者の資料・・・歳江ちゃんが持って行っちゃった」
「ありゃ、じゃあどうする?今回は見逃し?」
「えっと・・・気配から察するに2人ですね・・・しかもかなり疲労しているみたいです。
なんなら2人とも捕らえてあとで調べたらいいのでは?」
「・・・そうしましょうか」
己の失態を恥じたのか、少し頬を赤らめながら勇子は答えた。
頷きあって新撰組は相手を包囲するように陣形を構えた。
包囲が終わったところで相手はこちらに気づいたようだ。
1人は小太刀を構え、もう1人は今にも倒れそうな顔で斧を振り上げた。
(私もあんな風に見えていたのかな・・・)
鈴音は斧を必死の形相で構える男を見て過去の自分を思い出してしまった。
絶対に・・・もう戻りたくない!
新撰組の面々は同時に飛び出し攻撃を開始した。
「来るぞ!桜井!」
「化け物以外に人斬りまでいるってのか・・・ったく!」
(桜井は戦力として期待することは不可能、あまつさえ多勢に無勢、止めに神速は使えないか・・・)
恭也は一瞬襲撃者が女性であることに驚いたが躊躇いなく左手で飛針を投げつけた。
鈴音は難なく刀で叩き落とす。その隙を逃さず恭也は狙いすました必殺の突きを繰り出す。
(御神流奥義、射抜!)
まだ鈴音の刀は飛針を叩き落とした格好のままである。
(もらった!)
次の瞬間鈴音の姿が・・・視界から消えた。
(─!まさか向こうも神速を!?)
次の瞬間・・・恭也は太刀もろとも吹き飛ばされていた。
それでも恭也は立ちあがり戦おうとしたが
背後から
「少し静かにしてて下さいね」
腹部に感じる衝撃と共に意識が遠のいた。
「あっけないわねぇ・・・」
芹沢は物足りないように不平を漏らした。
ちなみに高町恭也が飛針を投げた段階で桜井舞人は芹沢の手によって気絶させられている。
「筋は悪くなかったですよ・・・ただ疲労のためか剣が全く冴えてませんでしたが」
あっさりとした口調で酷評をする鈴音。
恭也が鈴音の動きを神速と間違えたのは疲労のために鈴音の動きに反応できずにいたからに過ぎない。
「目的は達成しましたし、いいじゃないですか」
最後に恭也に蹴りをして気絶させたのは勇子である。
得物が銃剣つきライフルであるために殺害の危険性があるために待機していた。
「中央に近いのが幸いですね。この人達放り込んで歳江ちゃんと合流しましょう」
「でも2人とも結構いい感じよねー・・・魔力持ちだったら生かしてもらえるだろうから誘惑しちゃおっと♪」
「歳江ちゃ・・・副長に怒られますよー」
わざわざ副長と言い直して芹沢をたしなめる。
その様子を見ながら─鈴音は結局新撰組が、彼女達が好きなんだと改めて思うのだった。
(沙乃・・・戻ってこないかな)
先程の決心もむなしく・・・
志を違えたとはいえかつての仲間を、歳江のように割り切って斬ることは鈴音にはできそうもなかった。
(だから・・・やっぱりもう一度話しあって・・・そしたらわかってくれるよね?)
(ずっと一緒だったんだから)
それぞれの状況
【高町恭也:狩 状態× 装備没収(装備なし)】
【桜井舞人:招 状態× 斧はその場に廃棄(装備なし)】
【新撰組:状態、装備共に変更なし。】
603 :
名無しさん@初回限定:04/01/22 00:36 ID:EvO5N3gA
金色の眠りから覚めて 誰の心もミステリアスマインド
命の色は一つなのにBraek up braek up荒んだプラネット
息づく星のエナジーむさぼるように
飛び立つ空を壊されても
You can finght ○○○○
瞬く宇宙のデスティニー染めて
You can finght ○○○○
形を変えて秘密の瞳
燃え上がれWe hope in only world
すまん誤爆・・・
なぜトランスフォーマー誤爆…
606 :
葉鍵信者:04/01/22 02:45 ID:M+UtcpbA
咲く悪夢
武器庫を強襲したママトト三人組。
ヒーロー、ミュラ、ライセンは、そのまま南へと逃走した後、一息ついていた。
「取りあえずよぉ、次はどうするよ?」
焚き木を燃やしながら、巨体を幹に腰掛けヒーローは話し始めた。
「敵の戦闘力は予想以上ね。 でもこうやって一撃離脱を繰り返せば勝機はあるわ」
「それにリック達が合流してくれれば、遂行しやすくなる……」
バチバチと燃える焚き木を囲い、三人は休息を取りつつあった。
「!? 誰か来る!?」
ライセンが声を出すや直ぐに三人はエモノを構えた。
がさがさと草が枝が揺れる音が聞こえる。
「さっきのヤツラの追っ手か…………それとも」
大剣を握る手に力が入る。
段々と音は近づいてくる……。
来る!?
今まさに謎の物体が三人の目の前に姿を現した。
607 :
咲く悪夢:04/01/22 02:46 ID:M+UtcpbA
「HAHAHAHAHAHAHAHA!!」
明るい笑い声と共に額のはげたグラサンおっさんが姿を出すと共に
三人共、気が緩んで武器を落としてしまった。
慌てて、武器を拾いなおして構えなおすも何だかやる気がそがれる三人。
「Oh、ユーたちは、ここで何をしているのでぇすか?」
オッサンは、ひたすら明るかった。
その明るさに三人は、すっかりやる気をなくす。
「え、あ、私たち、気づいたら訳のわからないここに飛ばされてて……」
「元の世界に帰りたくて、方法を探してる最中なんです」
「それは、ベリーバッドですね」
何か言い方のおかしさに違和感を持ちながらもヒーローが続けて喋る。
「けど、仲間が殺されちまってよ。 その仇を打つために今紛争してる所なんだ」
「それはもしかぁして、北の武器庫を襲ったりしましたかぁ?」
「ああ、そうだぜ……」
「ヒーロー、離れて!!」
ミュラが大声を上げると、ヒーローは「何が?」と言った顔をするが
すぐさま、事の重大さに気づいたか、後ろへと飛びのいた。
「あなた……。 何故それを知っているの!?」
「HAHAHAHAHAHAHA!! 気づかなければ、余の手下として生き延びれたのかもしれんのにな」
あやしいおっさんから感じられる雰囲気も口調もがらりと変わった。
重苦しく、圧倒的な威圧感が三人に伝わってくる。
608 :
咲く悪夢:04/01/22 02:47 ID:M+UtcpbA
「あいつらの仲間ね……」
口を切ったのは、ライセンだった。
「仲間? 違うな、ヤツラは余の駒に過ぎん」
「っつーことは、こいつは大物が出てきたな……。 悪いがこのまま返すわけにはいかねぇぜ!!」
ヒーローの握る大剣に再び力が入る。
「くっはっはっは……。 三人でまとまれば、余に勝てると思ったか。
よかろう、持つものと持たざるものの決定的な違いを教えてやる!!
はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! メェタァモォル!!」
「何ぃ!?」
三人は一斉に声を上げた。
あやしいおっさんの姿が光、みるみると凶悪なアークデーモンの姿へと変化したのだ。
「さぁ、来るがよい。 精々無駄な力を試すがいい」
「うおおおおお!!」
ヒーローがおっさんへと大剣を振り下ろした。
「小ざかしい、吹き飛べ!! ソニックインパクト!!」
おっさんの手から魔弾が発射され、そのままヒーローの身体へと当り後方へと吹き飛ばしていく。
「がはっ!!」
ヒーローは、そのまま後方の木に叩きつけられる。
「ヒーロー大丈夫!? ならば、これはどう!?」
今度は、スピードを重視し、虚をついた一撃をミュラが狙う。
真っ向勝負をせずにおっさんを翻弄させようとスピードの勝負に出る。
対しておっさんは、動かずじっとしているだけである。
(誘っているのかしら……。 対した自信ね……。 それが命取りよ!)
「貰った!!」
おっさんの後ろから後頭部へかけての斬撃を繰り出す。
609 :
咲く悪夢:04/01/22 02:48 ID:M+UtcpbA
「え!?」
だが、剣はそのまま頭のあった位置を通り過ぎてしまう。
「魔法使いだからといって、動きが遅いとでも思ったか?」
「あっ!?」
ミュラの後ろからおっさんの声が聞こえてきた。
「何時の間に!?」
「さらばだ」
ダメだ、避けられない。とミュラは思った。
「させない!!」
横からライセンがアックスを振り回して突撃してきた。
「邪魔だ!!」
おっさんは手をライセンへと向けるとそのまま衝撃波をうち放つ。
「うあ!?」
ライセンもヒーローと同じく、そのまま後方の木へと叩きつけられる。
「ライセン!?」
その隙をついて、ミュラはおっさんから逃げ飛ばされたライセンの元へと駆け寄る。
「しっかりして、大丈夫!?」
「だ、大丈夫だ……。 このアックスじゃなければ、危なかったな」
ライセンは、アックスを盾代わりにする事によってなんとか衝撃波によるダメージを防いでいたのだ。
「良かった……。 ヒーローは?」
ライセンの無事を確認するとミュラは、ヒーローの方を見る。
「……まだまだやれるぜ」
此方も再び立ち上がると大剣を構えなおす。
「HAHAHAHAHAHAHA!! 余は、まだこれっぽっちも本気になっておらんぞ?」
三人の顔が険しくなる。
610 :
咲く悪夢:04/01/22 02:48 ID:M+UtcpbA
「逃げましょう」
ミュラが口切った。
「なっ、敵の親玉を前にして逃げれるかよ!? それにまだ始まったばかりだぜ!?」
「ミュラの言う通りよ。 どうあがいても今の私たちの戦力ではあいつには勝てないわ」
興奮するヒーローをライセンが説得にかかる。
「いい、向こうから攻撃してくる気がない今がチャンスなのよ」
「ちくしょう……」
「1、2の3で私が焚き木を蹴りつける。 それを合図に後方へ全力疾走するぞ」
「解ったわ……」
「くそ……」
「いいか、1……2の……3!!」
ライセンが足元にあった焚き木をそのままおっさんへと蹴りつける。
「何の真似だ」
おっさんが目の前に来る焚き木を払うと目に見えたのは、全力で逃げる三人である。
「もう少し楽しめると思ったのだが……。 所詮はゴミか。
飽きたわ。 死ね、グラヴィトロン!!」
「成功か!? ぐぁぁぁぁぁあああああ!!」
「うあぁああああぁあああああ!!」
「くぅうううぅうううう!!」
「か、身体が押しつぶされる……」
「ち、ちくしょおおおおおお!!!!!!」
三人を……。 いや三人の周囲一体が通常の数十倍の重力場と貸していた。
「惜しかったな。 余でなければ逃げれただろうに」
後ろからゆっくりと迫ってくるおっさん。
「くそおおおおおおおおおお!!」
ヒーローが叫ぶ。
「さぁ、もっと強くしてやろう。 これで終わりだ」
「だ、ダメか……!?」
三人は死を覚悟した。
611 :
咲く悪夢:04/01/22 02:50 ID:M+UtcpbA
「バイ・ラ・ウェイ!!」
突然、叫び声とともにとてつもないスピードの斬撃が幾重にも後方からおっさんを襲った。
「何!? くっ、何者だ!?」
咄嗟に防御魔法を発動させ、避けようとするものの間に合わず肩を一度切りつけられる。
「バカな!? 不意打ちとはいえ、このメタモル化した余の身体を切るだと!?」
それとともにかかっていたグラヴィトロンの効果が消え、三人はなんとか立ち上がりながらおっさんの方を見た。
「「「リック」」」
三人の声が一致した。
リックは、バイ・ラ・ウェイを放った後、おっさんが気づく前に速攻で三人の下へと駆け寄る。
まさに地獄から救いに来てくれた救世主である。
「三人とも無事か!?」
「ふん、相当な剣の使い手のようだが、それでも余の相手ではないわぁ!!」
おっさんが魔力を集め始める。
「くそ、なんて化け物だ。 肩の傷ももう治ってやがる」
「それより、でかいのが来る!?」
「お前ら、とんでもないのを相手にしてたんだな……。 とにかく逃げるぞ」
「でも、またあの魔法が!?」
「つべこべ言ってる暇があったら、走れ!!」
リックが三人を激励させ、再び四人で後方へ走り始める。
「無駄な事を……」
おっさんが今まさに魔法を放とうとした時。
612 :
咲く悪夢:04/01/22 02:55 ID:M+UtcpbA
「させるかぁ!!」
ヒーローが一人おっさんの方へと突撃していく。
「死にに来たか!!」
グラヴィトロンの詠唱をキャンセルし、おっさんはヒーローを吹き飛ばす。
だが、ヒーローは、飛ばされるも直ぐに再び立ち上がり、突撃しようと構える。
「バカ、何やってんだ!! ヒーロー!!」
リックが走りを止めて、ヒーローへ向かって叫ぶ。
「みんなは、先に行っててくれ!! ここは俺が時間を稼ぐ!!」
「無茶言うんじゃねぇ!! お前を置いていけるか!!」
「このまま四人いっしょに逃げたら、全滅だ!!」
「ヒーロー……お前……」
その言葉とヒーローの顔の険しさに三人は悟った。
「すまない……」
「あやまんなよ……。 この役目は、一番耐えれそうな俺にしかできねぇ。
気にすんな、後で絶対に追いつくからさ」
「ああ……」
精一杯の笑顔でふっと笑うヒーローへ三人はできる限りの笑顔で答えると走るのを再開した。
三人が走り去っていくのを見送るとヒーローは、再び目の前の敵に向かって構えを取る。
「仲間の為に死ぬつもりか……」
「へっ、ただじゃぁ、やられないぜ……」
大剣を握り、再びおっさんへと突撃を繰り出すヒーロー。
「バカの一つ覚えしかできんのかぁ!!」
ヒーローは、また前と同じく魔法で後方へと吹き飛ばされる。
「どうだかな……。 うおおおおおおおお!!」
再び立ち上がり突撃し、少しでも仲間の為に多く時間を稼ごうとする。
「はぁはぁはぁ……。 どうした? 俺はまだ死んじゃいないぜ!!」
「いい加減にあきたわぁ!!」
「がはぁっ!?」
四度目、それも今までの物とは違った一撃がヒーローの腹にHitした。
だが今ので肋骨が折れ、内蔵が破裂しても彼は再び立ち上がろうとした。
足が震える、力が入らない。 それでも大剣を支えにして何とか立ち上がる。
613 :
咲く悪夢:04/01/22 02:55 ID:M+UtcpbA
「藻屑と消えろぉ!! スタァァァァシュゥゥゥゥトォォォォ!!」
ヒーローの目の前に星のように魔弾が降り注いでくる。
「ああ、これまでか……。 一足お先に行かせてもらうぜ。
後は、頼んだ……。 みんな」
彼の意識は薄らいでいった。
しかし降り注ぐ魔弾に身体を貫かれながらも、彼の顔は安らいでいた。
「ふん、屑の癖に粘りおって……」
目の前の怪獣が絶命したのを確認すると、ヴィルヘルムは死体を跡形もなく燃やし分解するのだった。
「逃げおおせたか……」
一方、三人はまだ走っていた。
目に涙を浮かべながら、悔しさを糧にして、今は生き残る事しかできない
自分達の無力さを呪いながら。
(絶対に、ヒーローとシェンナの仇を取る!!)
三人の思いは一つだった。
【ミュラ@ママトト: 狩 状態良 所持品:長剣】
【ライセン@ママトト: 狩 状態良 所持品:戦斧】
【リック@ママトト: 狩 状態良 所持品:パイロード】
【ヒーロー@ママトト: 狩 死亡 所持品:大剣】
【ヴィルヘルム・ミカムラ@メタモルファンタジー 状態良 鬼】
614 :
名無しさん@初回限定:04/01/22 05:53 ID:RXXF1COf
615 :
名無しさん@初回限定:04/01/22 05:55 ID:RXXF1COf
そのスレの114から読んでみてください
(´-`)。oO( 読んだけどよくわかんなかったよ・・・ )
617 :
不敵・1:04/01/22 14:22 ID:GU+aL1/s
ここで時間は武器庫襲撃直後に遡る。
『あんっあんっあんッ!』
『がはははははははは!』
要塞内のある一角に、不必要なまでに豪奢な扉があった。
その左右には、門番らしい人らしき者が二人立っている。
何故「人らしき」者なのかと言うと、片方が甲冑を身に纏った骸骨で、
もう片方が体こそ人間だが首から上が馬だからである。
『んっ!ランスぅ!もっと、もっとぉ!』
『がははははは!可愛いぜカレラちゃん!』
『やんッ♥抜いちゃ駄目!駄目だってばぁ!』
『安心しな、ここを……こうやってッ!』
『ひああっ!こっ、こんなのぉ!』
『どうだ?悪魔でもこんな姿勢ですんのは初めてじゃないか?』
『あんっ!ひっ、久しぶりよぉ!』
『チッ、経験済みか……だが、俺様のハイパー兵器でこうするとな……っ!』
『あひぃっ!最高、最高よぉっ!ランスのコレ、太さも硬さも最高なのぉ!』
『くっ……そっちこそ流石は悪魔、カレラちゃんの締りも最高だぜ!』
『嬉しい……♥ねえ、イッて、アタシの中でランスのお汁出しまくってよぉ!』
既に数時間、こう言った声がその扉の中から漏れ続けている。
「……ブヒィィィィン!もう我慢できねぇ!」
扉向かって左に立つ馬男が、突然嘶きを上げた。
見れば、その股間は『馬並み』の言葉に恥じずその辺の奥様方が見れば溜息が出て
腰をくねらせそうな程に激しくいきり立っている。
「ヒヒィィン!お、俺も混ぜろぉ!」
もう一度嘶き、部屋に突撃しようと馬男は扉に手をかけた。それを後ろから羽交い締めにして
必死に抑えようとする右の骸骨。
「やめるでヤンス〜!」
「止めるなカトラ!あんな声延々聞かされて我慢できる程俺は年寄りじゃねぇ!」
618 :
不敵・2:04/01/22 14:22 ID:GU+aL1/s
「スタリオン!さっき同じ事言って突っ込んで、ランスの兄貴に殺されかけたの
忘れたでヤンスか!?」
「……………」
スタリオンと呼ばれた馬男の動きが止まる。
よく見れば、彼の着ている鎧には大きな亀裂が入っていた。
また、馬の顔の為に分かりにくいが眼の所に握り拳大のあざが残っている。
「……クソッ、面白くねえ!」
毒づきつつ扉の手を放す。
「大体、何であんな人間の言う事を聞かなきゃならねぇんだ!?」
「仕方無いでヤンスよ」
カトラはそう言って(骸骨なので表情は変わらないが)苦笑する。
それに激昂するスタリオン。
「何が仕方が無いだ!?ここに召還されたばっかりの俺達に『お前等、雰囲気が手下っぽい
からこれから俺様の子分』って言ってきただけじゃねえか!」
「それで『俺達に勝てたらなってやるぜ!』って言って襲いかかって、二人とも一撃で
負けたでヤンス」
「あ、あれは召還されたてで油断してたからだ!今度やったら……!」
「本気で殺されると思うでヤンス。ランスの兄貴、ありゃ下手すると魔界の者以上の
強さと鬼畜な魂を持っているような気がするでヤンス」
「カトラ!手前どっちの味方……!」
と、そこでスタリオンは急に言葉を止めた。
廊下の向こうから、一人の騎士が歩いて来る。
その風情、峻厳にして高潔。
2mを越す体躯と、背負われたそれ以上に巨大な剣。
真紅に彩られた板金鎧に顔以外の全身を包みながらも音一つ立てぬその姿。
1400の齢を重ねたヴァンパイアにしてロードヴァンパイアに仕える騎士、ギーラッハである。
619 :
不敵・3:04/01/22 14:23 ID:GU+aL1/s
「ギ、ギーラッハの大将、お疲れ様ッス!」
「ギーラッハの大将、お疲れ様でヤンス!」
自分達とは比較にならないほど上級の『闇の者』であるギーラッハに対し、緊張した礼をする二人。
ギーラッハはその礼に僅かに首を頷かせて返すと、カトラに視線を向けた。
「……ランスと言うのはこの中か?」
「は、はいぃ!そうでヤンス!」
少し声を裏返らせて答えるカトラ。
その返事が終わるのを待たず、ギーラッハは扉に歩み寄った。
『フフ、また大きくなった♥』
『わはははは。当たり前だ、俺様のハイパー兵器は発射無制限だぞ』
『ランス、今度はアタシが上になるわ……思いっきり動いてあげる……♥』
聞こえてくる声。しかしギーラッハの表情には小波一つの揺らぎも見えない。
「あ、あのギーラッハの大将!アッシが呼びますから少し待って……!」
焦るカトラの声を無視し、ギーラッハは扉を開けた。
まず部屋に入ってギーラッハを出迎えたのは、匂いだった。
大量の汗と愛液、精液が入り混じったむせ返るような淫臭が鼻を突く。
ある意味、恐ろしくシンプルな部屋だった。
方形型の部屋の中央に5〜6人は入れるであろう巨大な円形ベッド。
枕の付近に手の届く位置に小さなテーブルがあり、上には果物や料理、
酒が手を付けられずに置かれている。
まさしく『飲む、食う、交わる』以外の目的が存在しない空間であった。
620 :
不敵・4:04/01/22 14:24 ID:GU+aL1/s
そのベッドの上で絡み合う二人の男女。
不敵な笑みを浮かべ、大の字になって女のするがままに任せる若い男。
決してマッシブと言う訳では無いが引き締まった肉体は、実践でその筋肉がトレーニングではなく
実践で磨かれた物である事を物語っている。
どこか悪戯好きな子供を思わせる顔立ちは20前後と言った所だろうか?
「ほらぁ……入っちゃうわよ。ランスのおちんちん……♥」
そして、男の屹立した肉棒を潤んだ瞳で見つめつつゆっくり腰を落す肉感的な美女。
「はあぁ……!」
むっちりとした尻肉がぷるりと揺れ、口から悩ましげな吐息が漏れる。
強気そうな吊り眼とショートカットの緑髪が良く似合う女性であった。
只一つ、頭から生えた二本の角が彼女が人で無い存在―――悪魔である事を示している。
「うっ、動くね、動くわね……!」
進入してきたギーラッハに気付いていないのか、あるいはあえて無視しているのか。
彼女、悪魔カレラは腰を激しく上下させる。
サイズ90cmを遥かに超えるであろう巨乳が揺れ、室内の淫臭が更に濃さを増す。
その光景は、経験の少ない少年であれば見ただけで射精してしまうかもしれない程に淫らなものであった。
「……邪魔をする」
だが、ギーラッハはその光景を無感動に見やるとベッドに近寄った。
「んっ!んっ!ランスぅ♥おっぱい、おっぱいも揉んでぇ!」
「がははははは!こうか!?こうかぁ!?」
「違うのぉ!もっとぐにぐにって激しく!潰れちゃっていいからぁぁ!」
―――しかし、ベッドの上の二人は全く反応しない。
「……………」
対して、ギーラッハはそのまま無言でベッドの傍らに立つ。
「……シュールな光景でヤンス」
「……だな」
部屋の外から恐る恐る中を見るカトラとスタリオンはそう呟いた。
621 :
不敵・5:04/01/22 14:25 ID:0LjSBTER
と、下からカレラの胸を揉みしだくランスの眼が初めてギーラッハを見た。
「ったく……お前、ギーラッハだったか?ン百年生きてる割には気の利かんヤツだな」
「……臨戦時に交わってしかおらぬ貴様に何故気を使わねばならん?」
重々しい声。そこには明らかな苦味が混じっている。
「分かってねぇなあ……よっ!」
「あはぁぁっ!そっ、そこグリってしちゃ駄目!全部ぅ、全部アタシがイカせるのぉ!」
腰の一突き、腹上のカレラの声が一際高く上がる。
「で?」
「ヴィルヘルム様からの勅命だ。つい先刻、武器庫の一つが襲撃を受けた。
また『招かれざる者』達の抵抗も無視できないものになりつつある。
ランス、及びカレラ。お前達も要塞防衛の任から離れ『狩り』に移れとの事だ」
「……まだあんだろ?」
口を閉じるギーラッハに先を促すランス。
ギーラッハはほんの僅か眉を動かすと、再度口を開く。
「……なお、その際お前達が『招かれざる者』を捕獲した場合、好きにして良いとの事だ」
「フン、だろう……な!」
「アウウッ!」
深々と突き込まれ、カレラの背が弓なりにしなる。軽く達したようだ。
「だとさカレラちゃん!聞こえるかい?」
「うんっ!聞こえる、聞こえるわっ!ランスぅ、可愛い男のコ、生かしてくれる!?」
「がはははは!カレラちゃんこそ嫉妬して女の子壊すなよ?ほらっ!」
「あんっ!だ、大丈夫だよぉ!アタシぃ、女の子も……大好きだからぁっ!
ンンッ!ラ、ランス、イクね、イクねっ!」
「ああ、お、俺様も……出すぞ!」
「出してっ!ドクンドクンってランスのせーえき出してぇっ!」
瞬間、二人の動きが停止する。
「………ッ!」
「あああああぁぁぁっ!」
622 :
不敵・6:04/01/22 14:26 ID:0LjSBTER
「……用件は以上だ、出立を急げ」
両者が絶頂に達する姿を、ギーラッハは相変わらずの無表情で見下ろすとベッドから背を向けた。
「待ちな」
その背中にかけられるランスの声。
「……何だ」
「俺様からも伝えて欲しい事がある。だからこっち向け」
「……………」
横柄な言葉に、ギーラッハは憮然としつつも振り返る。
「!?」
刹那、ギーラッハは自分の首の前に篭手を翳した。
そこに突き刺さされる剣の刃。
「チッ……流石は伊達に年は取ってないようだな」
交わったままのランスの右手に、一振りの剣が握られていた。
見れば、枕の下に鞘が一振り敷かれている。
「……これが、伝言か?」
「い〜や……ギーラッハ。お前が俺様を『取るに足らない奴』と思ってたみたいなんで
何となく腹が立った。それだけだ」
「……成る程」
ギーラッハの唇がかすかに歪む。腕に刺さった剣を抜き、再度背を向ける。
「……訂正しよう」
金属同士の衝突音。
「くっ!?」
今度はランスが驚きの表情を見せる。
一瞬前に背を向けた筈のギーラッハが、ランスの方を向いていた。
その胸の位置では、ランスが突き入れた剣がギーラッハの背負っていた筈の大剣で止められている。
「……噂に違わぬな、『鬼畜戦士』殿」
「……あんたもな、『紅の騎士』」
「……そーゆーの『男の友情』ってヤツ?」
横からかかる、からかうような声。
そこには、何時の間にかランスの肉棒を抜き、身支度を終えたカレラが立っていた。
まあ、身支度と言っても局部だけを隠した全裸とさして変わらぬ姿ではあるのだが。
623 :
不敵・7:04/01/22 14:27 ID:0LjSBTER
「ンなワケあるか……おい、俺様は着替えるからさっさと出て行け」
「承知した」
ランスがパタパタと手を振ると、今度こそギーラッハは背を向け部屋を退出した。
「おいスタリオン、俺様の着替えは用意できてるか?」
「へ、へいランスの兄貴!おいカトラ、用意できてるよな!?」
「ええっ!?スタリオン、ソレはスタリオンの仕事だったはずでヤンス!?」
歩き去る背後で騒々しい会話が続く。
ギーラッハは、その喧騒から離れつつ一つの疑問を感じていた。
(分からぬ……何故ヴィルヘルムはあのような男に拘束を与えておらんのだ?)
【ランス@ランスシリーズ:狩(但し下克上の野望あり) 状態○ 装備:リーザス聖剣】
【カレラ@VIPER-V6・GTR:招(その場の気分次第) 状態○ 装備:媚薬】
【スタリオン@ワーズ・ワース:狩 状態○ 装備:長剣】
【カトラ@ワーズ・ワース:狩 状態○ 装備:長剣】
【ギーラッハ@ヴェドゴニア:状態変化なし】
最後のプロフィール、『狩』と『鬼』を全て間違えとりました。申し訳ない。
正しくは↓
【ランス@ランスシリーズ:鬼(但し下克上の野望あり) 状態○ 装備:リーザス聖剣】
【カレラ@VIPER-V6・GTR:招(その場の気分次第) 状態○ 装備:媚薬】
【スタリオン@ワーズ・ワース:鬼 状態○ 装備:長剣】
【カトラ@ワーズ・ワース:鬼 状態○ 装備:長剣】
【ギーラッハ@ヴェドゴニア:状態変化なし】
「いいか!ドライ殿は右翼、和樹殿は…」
歳江が指示を飛ばすまでも無く、ドライと和樹はミュラたちに突っ込んでいく。
「おい!私の指示を」
2人は歳江の指示など聞いていないようだった、そしてそのまま乱戦へとなだれ込んでいく
それこそがミュラたちママトト武将の思うつぼだった。
なすすべもなく乱戦となった中で歳江は歯噛みする。
彼らは自分たちの死角になる左側から、一糸乱れぬ陣形をもって斬り込んで来た。
間違い無く戦慣れしている連中だ。
事実、ミュラたちは一対一の状況には決して持ちこませず、常に二対一になるように巧妙な連携を見せている。
和樹もドライも個人的な戦闘能力は高いのだが、こういう集団戦闘には慣れていないのが丸分かりだ。
数というものは使い方を間違えればただのデメリットになりかねない、特に人間同士では…
いかに強力でもコントロールできない力に意味は無いのだ。
今や歳江は2人のフォローにてんてこまいで指示を出す暇などなかった。
なんとか距離を取ろうとするドライをさせじと牽制するミュラ、そこへ歳江が割りこむ、
「ドライ殿は和樹殿の援護を」
「させねえよ」
ライセンに追いまくられる和樹のフォローにドライを行かせようとした歳江だが、
ヒーローがそれに対応し、すかさずカットに走る。
ドライとヒーローが遣り合う音を聞きながらミュラと歳江が刃を交える。
その力量は互角、だが数合斬り結んだだけでミュラは悟った。
(強い!でもシェンナを斬ったのは彼女じゃないわ!)
自分と互角程度の腕ではシェンナに勝つ事は出来ても、殺すまでには至らないはずだ。
実際、不本意ながら墓から暴いた遺体(墓標に彼女の服が巻きつけられていたのですぐ分かった)
の損傷はほとんどがかすり傷で、致命傷以外に決定的な傷は見つからなかった。
だが、問題の彼女に致命傷を与えたのであろう刀傷だけは、凄まじいまでの切れ味を示していた。
相手はリックには及ばないまでも、ピッテンやバルバッツァ級の剣豪に間違い無い。
「ねぇ?黒いジャケットを着た女の子を殺したのは誰?」
「知らんな、地獄で本人に聞け」
すれ違いざまの斬撃の際にそれだけの言葉を交わすと、2人はまたそれぞれの仲間のフォローに向かった。
「ちくしょうめ」
ドライが銃の照準を合わせようとするが、この状況では彼女の腕を持ってしても味方に当たる可能性が高い。
別に当たっても構わないのだが、やりたい放題が出来たインフェルノの頃とは違う、
ここで味方殺しの烙印を押されるのは得策ではない。
と、焦っているドライのすぐ目の前にヒーローが大剣を振りかざして迫る、とっさに後ろにとび去ろうとした
ドライだが。
「ドライ殿!飛ぶ前にしゃがめ!」
歳江の声にしたがったドライのすぐ頭上をライセンの戦斧がかすめていった。
さらに追い討ちをかけようとするライセンだったが、それは歳江が制止する。
和樹はミュラに阻まれ、援護する事が出来ない。
と、そこで状況が一変した。
「3分!」
ミュラの掛け声と共に、ヒーローとライセンは素早く武器を収めると、
そのまま守備兵を蹴散らし、3人そろって一直線に走り去っていったのだ。
奇襲に失敗した時点で彼らは作戦を修正していた。
斬り込みは3分まで、それを過ぎた場合戦果云々に関わらず撤退するという方向に。
「仕方ねぇよな、すまねぇシェンナ」
森の中を走りながらヒーローが残念そうに言う。
奇襲が失敗した以上、あれ以上とどまるのは自殺行為だ、援軍が来るまでそれほど時間はかからないだろうし
それに敵の中に自分たちと互角に戦える手練もいる。
何より敵を討つまで退くなだの、全滅するまで戦えなどというアナクロな精神論は彼らには無縁だった。
無論彼らにも意地があった、だがそれを貫いて討死では意味が無い、
命にはそれに相応しい捨て時があるのだ。
「仕方ないわ…生きていれば何度でも戦える、でも死ねばもうチャンスはないの」
「それにシェンナならきっと言うわ、俺の敵を討つひまがあるならナナスを探せって」
それは彼女と同じ根無し草の傭兵稼業であるライセンだからこそわかることだ。
そこでミュラが唐突に立ち止まり2人に向き直る。
「みんな聞いてちょうだい!これから先この中の誰が死んでも絶対に敵を討とうだなんて思わないで!
ナナスを見つけるまでは、その屍を踏み越えて行くのよ」
「ああ、俺たちが全滅しても大将が無事ならそれが俺たちの勝利だ!」
ヒーローが高らかに応じる。
「ナナスさえ無事ならきっと立て直せる、ママトト軍の絆の深さを見せてやるのはそれからでもいいわ」
「この調子で次々といくわよ、一撃離脱はママトト軍の最も得意なやり方だってことを思い知らせてやるのよ」
「でもその前にシェンナに謝りにいかないと…ね」
3人はシェンナの墓へとその足を向ける。
「お互い命は大事にしねぇとな、俺ァ大将の泣き顔が一番堪えるんだ」
ふとしみじみとヒーローはライセンに話かける。
「そうね、ナナスを悲しませるわけにはいかないから」
そのころ残された歳江らは、憤懣やるかた無い表情で突っ立っていた。
所詮寄せ集めなので連携うんぬんは言っても仕方が無いし、個人で出来る限りの力は尽くしたので、
仲間同士の批判は口にしたくない。
何よりも戦った気がしないのだ、まるでパンチを待っていたら羽毛でなでられた、そんな拍子抜けした感もある。
彼らは自然と指揮官への不満を口に出していた。
「何が2時間だよ、あの赤毛は!そんなに待っていられるか!」
「我々は所詮コマに過ぎないからな…ふふ、池田屋の時もそうだった」
新撰組の強さを知らしめた池田屋事件、あの時も頼みとしていた会津藩が煮えきらぬ態度を取ったため
不本位ながら、新撰組単独で斬り込むことになってしまったのだ。
「でも、それなりに焦っていましたよ」
和樹がフォローを入れるが、ドライと歳江は堂々と指揮官批判を繰り広げる。
「日和ったんじゃねーのか?気ィ小さそうだしな」
「この程度で焦るようなら、ケルヴァン殿の将才も知れたものだな…」
【土方歳江、ドライ、友永和樹: 所持品 日本刀 ハードボーラx2 イングラム 鬼、状態良】
【ミュラ@ママトト: 狩 状態良 所持品:長剣】
【ライセン@ママトト: 狩 状態良 所持品:戦斧】
【ヒーロー@ママトト: 狩 状態良 所持品:大剣】
「せっかくだけど…」
「そんなことより家に返してほしいよ」
目の前の2人、アーヴィとハタヤマの返事を聞いて、アイはため息をつかずにいられない、
大体からして無理があるのだ。
いきなり親兄弟・友人たちから引き離されてこんなわけのわからない場所に連れてこられた上に
我々と共にステキな世界を築きましょうと言われて、はいそうですかと納得する馬鹿がどこにいる。
あまりにも虫が良すぎる話というものだ。
んなもん関係ないからとっとと家に帰してくれと言うのが普通だろう。
おそらく考えたやつは自分の考えのすばらしさに酔って、客観性を欠いているとしか
言い様がない。
それでもこの馬鹿げた話に協力しないと今度は自分の代わりに秋俊がここに放り込まれる。
それを思うとアイの胸は張り裂けんばかりに痛む。
不本意だが仕方がない…目の前の女とぬいぐるみには死んでもらおう。
所詮行きずりの他人の命など何の価値も無い、自分には秋俊が全てだ。
アイはロッドを構え、戦闘態勢を取る。
アーヴィもそれを見て、ハタヤマをかばうように前に出るのだった。
決着は一瞬でついた
例によって一撃で決着を付けようとしていたアイの機先を制するようにアーヴィの魔法がアイにヒットする。
それはダメージ皆無の火花のようなものだったが、魔法に集中していたアイの集中を乱すには十分だった。
詠唱のスキを付かれて動きが止まったアイの懐に飛び込み、雷を纏った拳をアイの胸に押し当て、
一気に放つ、これで終わった。
決してアイの魔法使いとしての能力がアーヴィに対して劣っているわけではない、
むしろアイの力量はアーヴィの力を大きく凌ぐ。
常に全力勝負が要求される魔物相手と戦ってきたアイと、限られた力でいかに効率よく多くの敵を倒すのか、
それが求められる戦国の世で戦ってきたアーヴィ、その差が出ただけだ。
アイの動きを封じたアーヴィは止めを刺すべくまたその手に光を宿す
彼女らの目的が目的なだけに交渉は不可能だ、後顧の憂いをなくすため、敵はすみやかに討つ。
美しい顔をしてはいるが、アーヴィはやはり戦国の将だった。
「ま!待って!」
そこへ猛然とハタヤマが割って入る。
「なんで殺すのさ、別にそこまでしなくてもいいじゃないか」
「ね、君ももうこんなことしないよね?ね?」
「お願いだよ…許してあげて」
アーヴィはアイの顔を見つめる、その瞳は未だに戦意を失ってはいない。
それにその表情は敵からの情けを屈辱と受け取っているのが明白だ。
やはりここは殺すしかない…。
「だめだよ…殺しちゃだめ、どうして、みんな仲良く出来ないのさ…」
ハタヤマはアイの体に覆い被さるようにして、必死でアーヴィを説得する。
アーヴィには理解できなかった、なぜこのぬいぐるみは見ず知らずの他人に対してここまで出来るのか。
だが、これと似たシーンがあったように思える…あれは確か。
(そうだ、兄さん)
アーヴィはナナスのことを思い出していた、ナナスもよく口にしていた。
「誰も戦で死ぬことのない平和な世界がきっと来る、と」
いつの間にかアーヴィの手から力は抜けていた。
目の前のこの少女がまた誰かに牙を向くことは確実だが、それでも兄の想いを、
誰もが戦わなくてすむ、そんな世界を作ろうと戦場よりも過酷な戦いを挑もうとしている兄の
理想を思い出してしまった以上、もうアーヴィにアイを殺すことは出来そうになかった。
アーヴィは無言でアイに背中を向けて立ち去ろうとする、その背中に冷たい声が飛ぶ。
「後悔するわよ…」
「もうっ!君もそんなこといっちゃだめ!君は笑ってればきっともっとかわいいはず…」
そこまで言って、ハタヤマの視界が赤く染まった、いや視界だけではなく体も…
アイの手から伸びたロッドがアーヴィの腹部を貫いていたのだ。
「ほらね、後悔した」
アイはまだ余力を残していたのだ、確かに最初の一撃は不覚だったが、
やられたふりはフェイクに過ぎない。
アイはアーヴィを串刺しにしたまま、ロッドをぐいっと持ち上げそのまま彼女を谷底へと放り投げた。
まるで糸の切れた操り人形のように転落していくアーヴィ。
残されたハタヤマは自分の全身を朱に染めるものが何なのか理解できなかった。
何かのかはしっかりと眼に焼き付けられていたというのに、
なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?
自分の責任だ自分のせいでアーヴィがアーヴィがアーヴィが、
悪いのはぼくぼくぼくぼく、ちがうちがうおまえだおまえだ。」
全身に激痛が走る、自分の体がメッタ刺しにされているのだ…だが体の痛みより
心の痛みの方が遥かに応える。
それは裏切った痛み、裏切られた痛み、自分の体が熱い、自分の中の何かが叫んでいる。
やっちまえやっちまえやっちまえ、うらぎられたうらぎられたうらぎられた。
でもちがうちがうちがう。
断っておくが、彼とアーヴィは別に恋人でも何でもなかった、出会ってまだ一日も過ぎていない
だがそれでもそれでも…。
ずくんずくんずくん、その何かがマグマのように自分の前面へと出てこようとしている。
もう抑えられない。
「ゆ…ゆるさない」
血を吐くような叫びと共にハタヤマの全身から針のような触手が飛び出した。
闇魔法メタモル…己の姿を自由に変化できる魔法だ。
ハタヤマヨシノリ、その潜在能力の高さは誰もが認めるところだったが、
その力は最悪の形で覚醒した。
アーヴィを殺された怒りと自分の甘さへの後悔、目の前の少女への憎悪
それらが闇魔法を媒介に一気に爆発したのだ。
そしてこの瞬間、この島に集ったすべての招待者たち、いわゆる潜在的魔力保持者たちは
ハタヤマの慟哭に感応し、頭をハンマーで殴られたような衝撃を感じていた。
そしていまやハタヤマは形容し難い異形の何かへと変化してしまっていた。
その姿をあえて言うなら、そう、前衛芸術家ならこう名づけるだろう、絶望、と
「命の価値を見誤るからこうなったのよ」
アイは目の前の惨状を見ても他人事のように呟く。
「でもこれで心置きなくあなたを殺せるわ、すぐに楽にしてあげるから」
アイの眼がくわっと見開き、紅の瞳が爛々と輝く、それは戦いの喜びに満ち溢れた
まさに戦士のそれだった。
ハタヤマが己の罪にもがき苦しんでいたころ、そこから数十メートル下でなんとアーヴィは生きていたのだ
腹部を貫かれ谷底に突き落とされた彼女だったが、地面から約50センチの所で
奇跡的にも木に引っかかり即死を免れていたのだった。
だが危険な状況には変わりはなかったが…魔力を帯びた攻撃で傷口を灼かれたのが幸いした。
おかげであれほどまでの出血はすでに収まっていたが、腸が腹から飛び出してぶらんと垂れ下がっている、
このままだと腹膜炎で苦しみながら死ぬことになるだろう。
こうなると意識があるのが恨めしい、なにやら頭を殴られたような衝撃を受けた後は
何をしても気を失えなかった。
弱肉強食は戦国の世の掟、つらくとも仕方ない、その順番が回ってきたというだけの話だ
彼女もまた将として多くの者たちに理不尽な死を強いてきた。
少し早すぎる気がしないわけでもなかったが・・・
「兄さん…」
それだけを口にすると彼女は心の整理を始めた。
狂乱する異形の怪物とそれをあしらうように翻弄する魔法少女
その様子を司令室で見ているのはケルヴァンだ。
彼の見た限りでは、もはやハタヤマは助からないように思えた。
怒りと絶望と後悔で暴走している上に、闇魔法がそれに拍車をかけている。
その原因となったアーヴィはかろうじてまだ生きているようだが、だからといって
ハタヤマの怒りが解けるはずもないだろう。
むしろいまさらのこのこと出ていけばたちの悪い喜劇にしかならない。
もっともただで済ませることが出来る者を一人だけ知ってはいたが…
その者、ヴィルヘルムがどう動くのか、ケルヴァンの興味はその一点にあった
ケルヴァンは作戦執行前夜を思い出す。
「我が理想世界を形成する愛すべき民は、これことごとく我に賛同するのが当然!
そこには疑問など存在の余地も無い!彼らはすぐに知ることとなる、自分が選ばれし民だという名誉を」
と一同を前にヴィルヘルムは高らかに宣言する。
「しかしそれでも中には納得出来ない者もいるかもしれませぬが、それについてはどのような処遇を?
ケルヴァンの言葉にヴィルヘルムは不快げに応える。
「我が高邁たる思想を即座に理解し得ぬ者は、我が理想の礎と成らざるを得ぬだろう」
「その言葉に嘘偽りはございませんな」
「無い」
アイが指摘した通り、ヴィルヘルムは自分の理想に酔いしれていた、彼の脳内世界では
彼に逆らう者など存在しないのだろう、
そして彼はヴィルヘルムがハタヤマを高く評価しているのを知ってもいた。
さて、どう出るか。
そして彼はヴィルヘルムが内心ハタヤマを高く評価しているのを知ってもいた。
さて、どう出るか。
自分の定めたルールに従い見殺しにすればそれはそれでよし、
麗しき師弟愛とやらでハタヤマを救えば、朝礼暮改という反逆の大義名分が出来る。
どう転んでも損はない。
画像ではすでに何本もの触手をアイの魔法によって切断されながらも、未だに慟哭の叫びを上げながら
暴れまわるかつてハタヤマだった何かの姿が鮮明に映っていた。
「記憶を消してくる可能性もある、映像はちゃんと記録しておけよ」
【ハタヤマ・ヨシノリ@メタモルファンタジー(エスクード):所持品なし、状態 異形化・暴走 招】
【アーヴィ:所持品:魔力増幅の杖、状態瀕死 招】
【アイ:所持品:ロッド 状態良好 鬼】
彼─江ノ尾忠介は人生で最大クラスの感動を味わっていた。
「まさかこの僕をアブダプション(誘拐)するなんてね・・・どこの異星人かは知らないが科学への挑戦と受け取ろう」
自室でいつも通り遺伝子組み換え実験を行っていた彼は、突然解剖中の蛙から噴出した光によって気づいたら『ここ』にいた。
『ここ』とは全く見知らぬ森の中である。
「しかし・・・まさかあのpkjtqg@mfla(あまりにもグロいため当局の検閲削除、
補足:遺伝子実験に使われた生物らしい)異星人の仲間だったとは」
・・・
「突っ込みがないと悲しいじゃないか、靖臣」
しかしこの森の中には彼以外の人影はなかった。
「こういう理不尽な状況には絶対巻き込まれていそうな靖臣がいないとは。まるで一人で話して狂人みたいだよ」
こんなことをいうとお前の存在が理不尽だ、とか元々狂人だろうと突っ込みが入るのだがこの場でそれができるものはいない。
普段つるんでいる彼の悪友はここにはいない。
不幸中の幸い、言っていいのだろうか。
彼の周りには術式用の道具のケースが、いくつかの中身の満たされた小瓶。
そして彼の暇つぶし用に作ったコンクリートの地面に穴をあけることができる改造エアガン(当然違法だ)。
しかし彼はそんなものには目もくれないであるものを探している。
「・・・困ったものだな。ノートが見当たらないとは」
研究者の命ともいっていい研究成果を記したノートだけが、その場にあった物で見当たらない。
「成る程・・・あれが目的だったわけか」
別にUFOがどうとか、なんでもプラズマとか言い張るような人間ではない彼はもっと現実的な可能性を考え始める。
そして・・・結論は間もなくでた。
「まさかこの江ノ尾忠介より先に物質転移装置を完成させている人間がいるとは!
ぜひ科学のあり方について話し合いたいものだ・・・」
現実・・・的な・・・可能性・・・を・・・
まあ、あながち物質転移装置というのは間違ってはいないのだが。
しかし彼はそれにいきつくまでの理論が無茶苦茶であった。
その場にあったものを全て回収し、(なぜか彼の白衣の中に物が全て納まった)エアガンを構え───撃つ。
木の幹に無数の穴があいた。
さすがに貫通まではしていないようであるが、彼の目的は銃が使えるかどうかを確かめる事だったので威力は気にしない。
こんな辺鄙な場所だ。
野犬が出るかもしれない。
自衛のための武器はあるに越したことはない。
彼はこの世界での第一歩を踏み出した。
ぐじゅ
ぐじゅ?なにか踏んだようだ。
彼は足をあげその下にあったものに視線を向ける。
ああ、そういえばもう一個あの場にあって彼が持っていないものがあった。
蛙だ。
忠介がこの島における第一歩を踏み出してから10分程。
忠介は歩みを止め、ある作業に没頭していた。
「ほう・・・これは興味深いね」
しかしそれでいて彼のメスの動きは止まることはない。
辺りには焦げたような臭いが充満しているが彼は忠介は一向に気にした様子はない。
この異臭の発生は・・・彼の行動の結果、すなわち、
メスで斬ることができなかったミノタウロスの頭を少し塩酸をかけて溶かしたことである。
このせいで小瓶の中身は半分になってしまったが・・・それでも見合う成果はあったようだ。
このミノタウロスは桜井舞人が魔力を覚醒させた際に倒したものであるが、それは忠介の知るところではない。
「しかし・・・見事だ。頭部は外見上牛の物であるにもかかわらず、脳の大きさは人間そのものだ」
そして恐らく・・・これは解剖していないので見解であるが、人間の物ではなく闘牛の筋肉が頭以外の部分にはあるのだろう。
忠介は、これほどまでの見事な遺伝子改造を施すことはまだできない。
「ふむ・・・発展しすぎた科学は魔法と区別できない・・・か。先人はよく言ったものだ」
このミノタウロスはまぎれもなく魔法が生み出したものではあるのだが・・・それに気づくことができない程、科学によってでも不可
能ではないと考える事ができるくらい発展した科学が悪いのであろうか。
「それでは、僕はもしかすると試されているのかもしれないね。僕をここに呼んだものは・・・僕の研究を盗むことではなく
、才能を、その成果を吟味して・・・」
(僕に託そうとしているのか?)
忠介の頭脳が、今までとは違う結論を導き出し・・・忠介は狂ったかのように笑いだした。
「はっはははっはっは・・・・」
一転、真顔に戻る。
専門的に研究を重ねていた遺伝子技術。それをはるかに超えるものである目の前の物体。
いずれは自分の手で。そう考えていた、物質転送装置。
「どうやら・・・この島の主は僕と科学のありかたについて議論する気はないらしい」
自分よりはるかに優れた技術を持つこの島の主にとって科学のあり方を自分と議論する必要はないのだ。
そういうことは、ある分野で1番の科学者達がやるものだ。
一般的にはどうだか知らないが彼はこのような考えを持っていた。
なぜこの島に呼ばれたのか、どうやらこの島の主は・・・彼に物質転送装置と遺伝子に関する技術を渡すつもりなのだ。
それが科学者江ノ尾忠介の誇りを傷つけた。
「この島の主は、僕には物質転送装置を発明できないものだと考えているらしい。それどころか遺伝子改造に関してもこのLvに到達
できないと?」
眼下の物体を忌まわしげに見つめると道具ケースからバッテリーを取り出し、
電動ノコギリでミノタウロスの皮膚を切り取り始めた。
数十分後作業を終えた忠介は、ミノタウロスの皮膚を小瓶から取り出した液体で貼り付ける。
これで用意はいいだろう・・・。
荒事になる可能性とて否めないのだ。
そのおかげでバッテリーが切れ電動ノコギリは使えなくなってしまったが些細な問題であろう。
江ノ尾忠介は、この島の主に交渉しに行かなくてはならない。
この島より脱し・・・この島の主の研究成果を越える物を作り出さなくては。
【江ノ尾忠介@秋桜の空に :招 状態◎ 所持品、改造エアガン、手術用道具入りケース、
液体の入った小瓶3個(うち1個は、塩酸残り半分)、
ミノタウロスの皮膚を貼り付けた服(白衣ではない)ミノタウロスの皮膚の強度は
>>400などを参考に】
639 :
葉鍵信者:04/01/22 21:43 ID:M+UtcpbA
何思う
ハタヤマの触手は何度も引きちぎられ、段々とダメージが蓄積されていく。
単純な魔力のぶつかり合いなら、ハタヤマに分があった。
だが、アイはその手の相手のスペシャリストである。
もし、人間へとハタヤマが変身できていたら、勝っているのは彼だっただろう。
今のハタヤマは絶望に陥り、憎しみと怒りのままに暴れるだけである。
そんな相手に冷静なハンターであるアイが不覚を取るはずもなく……
「あうぅうううぅぅぅぅ…………」
ダメージが、疲労が臨界点を超えた時。
ハタヤマの身体がだんだんとしぼんでいく。
元のぬいぐるみの姿へと戻っているのだ。
「ちくしょう……。 よくもよく……」
泣きながら、嘆きながら……。 やがてハタヤマの意識は消えた。
「ここまででね……」
アイが意識を失って倒れたハタヤマへとロッドを伸ばす。
「やはり来たか!?」
司令室で使い魔を通して、見ていたケルヴァンが叫んだ。
640 :
何思う:04/01/22 21:44 ID:M+UtcpbA
そうアイのロッドはハタヤマへと届かなかったのだ。
地面から映えたツララが、彼女のロッドを打ち砕く。
「なっ!?」
驚愕する彼女がハタヤマの周りを見渡す。
まるで彼を守るかのように、ハタヤマを中心に回りにツララが生えている。
「ご苦労だったな……。 後は余がやる。 貴様は元の仕事に戻れ」
森の方から、ヴィルヘルムがゆっくりと姿を現した。
「……従わない者は糧となって貰うのでは?」
おそるおそるアイがヴィルヘルムへと不満をぶつける。
「貴様の……。 いやケルヴァンのおかげでこいつらを飼いならすチャンスができたという事だ」
一瞬、ヴィルヘルムは使い魔の方へとニヤリと笑って見せた。
「解りました……。 総帥がそう仰るなら従いましょう」
アイは礼をすると、下がり消え去っていった。
「くっはっはっはっはっは!!」
司令室にケルヴァンの笑い声が響き渡る。
「やれるものなら、やってみるがいい!!」
641 :
何思う:04/01/22 21:46 ID:M+UtcpbA
段々と意識が戻ってくる。
そうだ……。 ぼくはあいつに向かっていって……。 適わなくて……。
アーヴィちゃんは!?
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁあぁあああぁぁぁあぁ!!!!」
叫び声を上げながらぼくは目覚めた。
「OH!! ミスター・ハタヤマ!!」
目覚めたぼくの前に突如として、浮かび上がる校長の顔。
「禿ヘルム!!」
「ノオオオオオオオオオオオオオオ!! アイ・アム、ヴィルヘルム!!」
夢じゃない。 ぼくの前にはハゲが立っていた。
でもなんでこんな所にハゲが?
ぼくやアーヴィちゃんみたいに飛ばされたのかな?
「ミスター・ハタヤマ。 大丈夫でぇすか?」
そうだ、アイツは!? アーヴィちゃんは!?
意識を戻すとぼくは直ぐさまに当りを見回した。
「アーヴィちゃん!!」
ぼくの横にアーヴィちゃんが横たわっている。
どうやら意識を失っているようだ。
生きてる!? 怪我は!?
彼女の身体をくまなく見てみる。 けど服のやぶれ以外に外傷は何もなかった。
642 :
何思う:04/01/22 21:46 ID:M+UtcpbA
「まさか校長先生が?」
「HAHAHAHAHAHAHA!! イエース。 危ない所でした」
そういえばこのハゲって魔法に関してだけは、世界一といってもいいくらい凄いんだよね。
「いやー、流石校長先生。 助かりましたよ」
助けてくれたお礼をハゲにする。
「ミスター・ハタヤマ……」
な、なんかハゲがまじだよ? 凄い真剣な顔で話し掛けてくる。
「ユーの最近の魔法の上達振りは素晴らしかった。
入学した時はただの落ちこぼれだったのが、今では禁断の闇魔法をメタモル魔法を覚えるとは……」
げ、さっきのぼくの変身してた姿を見られた!!
まずい、まずいよこれは……。
けど、ぼくの心配とは裏腹にハゲは喋りだす。
「憎しみや悲しみ、怒りに捕われて魔法を使ってはいけない」
!? ぼくはビックリした。 さっきのぼくの心情を知っているからだ。
「魔法とは……。 本来全ての生き物に眠っている素晴らしい力なのだ。
人々は努力し、その力を開花させる事によって魔法を覚える。
それぞれ自分の中に眠っている力なのだ。
それは願いを叶える力、何かを思う心によってより強くなる」
643 :
何思う:04/01/22 21:48 ID:M+UtcpbA
「突然何を言い出すんですか……」
「だが、その力を決して間違った方向へと向けてはならん。
怒りや悲しみ……。 負の感情で使うべきものではないのだ」
校長が何を言いたいのかがなんとなくだけど解る。
さっきのぼくは負の感情に捕われていた。
「欲望に捕われて使う魔法より、何かのために使った時こそ、魔法は真の力を発揮する」
なんとなく、篠原さんに怒られているような気がした。
「ハタヤマよ。 余の元に来ないか? 余の元でより強くならんか?」
なんとなく校長が何者か解る。
断れば命がないかもしれない。 けど……。
「すみません、校長先生。 ぼくはみんなのいる世界に帰りたいんです」
「何故だ?」
「アーヴィちゃんがそう願うからです」
まだ会って数時間しか経ってないけど、それでもぼくは彼女の為に何かをしたかった。
「そうか……。 ならば、それをやってみるがいい。 そして強くなれ。
その時、余は再び貴様の前に姿を現そう」
その言葉を残して、校長はぼくの前から姿を消していった……。
644 :
何思う:04/01/22 21:49 ID:M+UtcpbA
『随分とハタヤマを高く評価してますね……』
移動するヴィルヘルムへとケルヴァンの念話が届く。
『これで彼らはより強くなる。 その時こそ彼らは余の計画に欠かせぬ者となろう』
『歯向かうかもしれませんよ』
『何のタメに恩をわざわざ売っていると思うのだ?』
『ですが、総帥ご自身がルールを破られては部下への示しが……』
『ケルヴァンよ……。 先に破ったのは貴様ではなかったか?』
『まさか!?』
ケルヴァンは驚愕した。
あれを把握されていたからだ……。
『上村雅文……。 こやつを殺さず暗示をかけ、殺戮者と化させたな?』
『ぐっ…………』
『双子の回収は良くやった。 だが何故あのような事をした?
それにより望む者が殺される危険性は考えなかったのか?』
『…………』
『貴様は、そうやって殺戮者を作り出すことにより、人を極限状態へと陥りさせ、
望みの王の誕生を待とうとしたのであろう?』
ケルヴァンは、総帥のいわんとしている事がわかった。
等価交換。 今回の事は互いに目を瞑れという事である。
『解りました。 今回の件に関しての追求は止めましょう』
『それでいい』
『ですが、忘れないで下さい。 あまり目に余る行動をされると部下の中には不満を抱くものも現れます』
次は此方にも考えがある。 ケルヴァンの言葉はそう意味している。
『肝に銘じておこう』
645 :
何思う:04/01/22 21:52 ID:M+UtcpbA
「アーヴィちゃん、気が付いた?」
校長が去った後、アーヴィちゃんがやっと目を覚ました。
「え、ここは? グラサンの人が私の前にきた後……」
ぼくは、何があったのかをアーヴィちゃんに説明した。
「ごめん……。 ぼくのせいでアーヴィちゃんを……」
ぼくはひたすら謝りつづけた。
そうする事しか考えが浮かばなかったからだ。
「ハタヤマさん、私は怒ってなんかいませんよ」
「えっ!? ぼくのせいで死にかけたのに……」
「私の兄さんも同じ事を言う人なんです……。
ハタヤマさんの姿が兄さんの姿に重なって……。
それで攻撃できなくなった私にも非があります。
だから、あんまり自分を責めないで下さい」
アーヴィちゃんがにっこりと笑顔を向けてくれる。
ぼくには、それが眩しかった。
「それにしても、ハタヤマさんが思うには私たちを助けてくれた方が犯人であると?」
「うん……。 そんな気がするんだ」
「……中央に行ってみませんか? そこで全てを見極めましょう」
「でも、また危険な目に会うかもしれないよ!?」
できるなら、もうアーヴィちゃんを危険な目に会わせたくない。
646 :
何思う:04/01/22 21:52 ID:M+UtcpbA
「大丈夫です。 今度は私も不覚を取りません」
「強いんだね、アーヴィちゃんは……」
「私から見たら、ハタヤマさんの方が強いですよ」
「そうかな……」
「そうですよ、ハタヤマさんはもっと自分に自信を持ってください」
そうだ、ぼくがこんな所でイジイジしてるわけにはいかない。
彼女の為にも、今度こそぼくが何とかしなくちゃ!!
「よし、任せてよ!!」
絶対に彼女の笑顔を守るんだ!!
【ハタヤマ・ヨシノリ@メタモルファンタジー(エスクード):所持品なし、状態○ 招】
【アーヴィ:所持品:魔力増幅の杖、状態△(病み上がり) 招】
「あの建物が武器庫なのか?」
白銀武が眼を細め、遠くの方にある建物を見やる。
「人が見当たらないわね……。武器庫というのだから、見回りの人くらいいると思うのだけど……」
榊がそんな呟きを漏らす。
彼女の言う通り、建物周辺に人影は無かった。
それがママトトの武将達の襲撃で警備兵が倒された為だと、彼等が判らぬのも無理は無いが。
「まあともかく行ってみようよ。とりあえず僕達には、それしかないんだから」
尊人が皆に向かって笑いかける。壬姫の死から一番早く立ち直ったのが彼、鎧衣尊人だ。父親に世界中に連れ回されている、という経験から、人の死というものにはなれているのかもしれない。
とはいえその笑みはぎこちなく、いつもの彼を知っている者から見れば、無理をしているという事がはっきりと判る。
「……そうだな。迷っていても仕方がねぇし。よし、行くぞ!」
武は皆に向かってそういうと、また止めていた足を動かし始めた。
「しっかし、随分すっきりしちまったなぁ……」
辺りを見回してポツリと呟く。
ママトトの武将達の襲撃や、それによる戦線逃亡者によって、ほとんどいなくなってしまった警備兵の姿。
武器庫周辺は、ひっそりと静まり帰っている。
「本当に、すっきりしちまったなぁ……」
ドライは先ほどの台詞をもう一度繰り返す。
「ドライさん」
「おう、和樹か。どうだった?」
和樹がドライの言葉を聞くと、ゆっくりと首を横に振る。
「武器のいくつかが使用不能に陥っていた。襲撃に備える為に武器庫から外に出していた物の幾つかは無事だったけど、倉庫内の弾丸や火薬の類は全滅していた」
「水でも撒きやがったか、あの野郎……」
ドライは足元にあった小石を力の限り蹴り付ける。
苛立ちを隠さぬまま、己の頭をガリガリと掻いた。
「ママトトの奴等、やってくれるよ……。さて、この基地をこれからどうするかね。二度も襲われて、ケルヴィンの旦那も大変だろう……」
「ドライ殿、和樹殿! 向こうから誰かが……」
歳江がドライの言葉を遮るようにして二人の名前を呼ぶ。
彼女の指し示す先には深い森がある。
「また襲撃かぁ? かんべんしてくれよな……。和樹、サムライ。油断するんじゃねぇぞ!」
ドライの言葉に、他の二人は黙って頷いた。
「お前等。両手を上げて動くんじゃねぇ」
武達が森を抜けるとほぼ同時に、暗がりからそんな声が聞こえてきた。
「誰だ!」
冥夜が腰の刀に手をかけようとするが、その動きは一発の銃声によって遮られる。
「動くな、って言ってんだ。とりあえずこっちの言う事にゃ従った方が得だと思うぜ? あたし以外にも、お前等を狙っている奴がいるんだからな」
武達は、その声のいうがままに両手を上げ、視線だけを周辺へ飛ばす。
「いい子だ。そういうガキは嫌いじゃないぜ。さて、それよりも質問だ。どうしてこんな所に来ている? 襲撃者にしては、武装が貧弱だよな?」
「……俺達は初音っていう女から、ここに来れば武器を貰えると聞いて、それで……」
「初音ぇ? 聞いた事無いな。そいつ、どんな奴なんだよ?」
武達の表情に戦慄が走る。
「長い黒髪のセーラー服を着た、俺達と同じくらいの年齢の女の事だよ! マジで知らないのか!」
武が焦りながら言葉をまくし立てる。
「いいや、知ってるさ。サムライ、和樹。どうやらこいつらはマジでババァ関係の人間らしいな。とりあえず警戒は解いてもよさそうだ」
声のする暗がりから一人の女性の姿が現れる。金髪の少女、ドライの姿が。
今までまったく気配の無かった場所からも、二人の人間の姿が現れた。
「三人……!」
冥夜が呟く。彼女が気配すら感じ取れなかった人間が二人もいた。ドライを含め、腕の立つ人間三人を相手に、武側でまともに戦えるのは冥夜一人。
「タケル。何が起ころうと、そなた達は私が守る」
「冥夜……お前」
「おまえ、おまえ、おまえ……」
こそこそと話す武と冥夜の姿を見て、ドライが思わず大きなため息をついた。
「いちゃつくのは後でやってくれや。で、ババァに言われて武器を貰いに来た、お前らの目的はそれでいいんだな?」
武達はそろって頷いた。
「しかし、残念だが、お前等に武器は渡さない、つか、渡せないって言った方がいいか?」
「どういう事だよ! 俺達は……!」
「待てよ。ほら、あそこに建物が見えるだろ?」
ドライは武の言葉を遮ると、自分の後方を指差した。
「あそこに山ほどあった武器は、親切な方々によって無茶苦茶にされてしまいました。よってあんた達に貸し出せるほどの武器は無い、OK?」
そう言ってからニヤニヤと笑うドライに向かって、綾峰が一歩足を踏み出してから口を開く。
「あまりは? 本当に全部駄目になったの?」
ドライはその言葉を聞いて大げさに肩をすくめる。
「鋭いねぇ。あんたが言う通り、確かに多少はある。だが、それはあたし達のもんだ、あたし等としても武器や火薬は必要だからね。どうしても武器が欲しかったら、他の武器庫や、或いは中央にでも行くんだな。まあ、大変な重労働だとは思うけどね」
「俺達にはどうしても武器が必要なんだ! 頼む、少しでいいから分けてくれ!」
武が叫ぶ、すると、今まで黙っていた和樹が初めて口を開いた。
「何故君達はそんなに武器が欲しいんだ?」
「……仲間を。大切な仲間を殺した男がいる……。俺達は、俺達の手でそいつの事を……」
ドライが、ヒュ―、と口笛を鳴らす。
「貴様! 我等を愚弄する気か!」
冥夜が刀に手を伸ばす。
ドライは苦笑しながら、銃を構えていない方の腕を振る。
「いやいや、違うさ。復讐か、いいねぇ、実にいいねぇ。お前等、気に入ったよ。オイ、和樹、サムライ! わたしはこいつ等に武器を分けてやる事に決めた! 文句はあるか?」
和樹と歳江は二人揃って首を振る。
「僕は無い。大切な人を守りたいという気持ちは、なんとなくだけど判るから」
「私も同様だ。仲間の仇を取る事は、武士として当然の事。その者達に手を貸さぬ理由は無い」
ドライは武達の方へ向き直ると、ニヤリと笑みを浮かべる。
「向こうの建物の近くに、残った武器が収められている箱がある。その中から、好きなだけ、とは言えないが、一人一つくらいなら持っていっていいぜ」
「あ、あの……! 本当に……いいの?」
「ん? 不服かい?」
純夏の言葉に、ドライが顔を動かさずに視線だけを向けた。
「あ、違う……けど」
「どうした? くれるって言ってるんだから、ありがたく頂いておこうぜ」
「そ、そうだね……」
武の言葉に、純夏は頷いた。しかしその動きはどこか不自然だった。
「あんた達、サンキューな。大切に使わせてもらうよ」
武がドライの方へ向かってそういうと、彼女も片手を挙げてそれに答える。
「ああ、健闘を祈る……ってな。ああ、そうそう。武器を選んだら、一応わたし達に確認だけはさせろよな。その時に使い方も教えてやるよ」
武はドライとそんな言葉を交わしてから、武器庫の方へと歩き出した。
他の仲間達もその後に続く。
しかし各々の表情が明るくなる中、純夏の表情だけが暗かった。
「綾峰さん、貴方弓なんて扱えたの?」
サブマシンガン、拳銃、ナイフや手榴弾等、先ほどドライが口にした箱の中には、幾つかの銃刀が収められていた。
数が少ないといったが、それは元々あった全体の数から鑑みると、という事だったのかもしれない。
その中で、綾峰慧が手にしたのは、一つの弓だった。
「前に珠瀬に少しだけ教わった事がある」
「そう……」
思わず榊の口調が暗くなる。
アガリ症で、大会ではいい成績を残せなかったが、珠瀬壬姫の弓はかなりの腕前だった。
慧はこう言っているのだろう、珠瀬の仇は珠瀬自身が取る、と。
「それに一応これも」
良く見ると、綾峰の腰の辺りが少し膨らんでいる。
「貴方らしいわ……」
一つだけという約束をいとも簡単に破る、その綾峰の行動に榊は思わず苦笑する。
「榊は?」
「わたしは銃器なんて扱った事無いもの。そこにあったものから適当に選んだんだけど……」
S&W、44マグナム。
その銃の持つ破壊力は絶大、しかもスライド式の為扱いやすい。
反面、その絶大なる威力の反動故に持ち手を選ぶという性質も持つ。
無論、女子供にはまったく向いていない銃である。
「ふーん」
綾峰は気の無い返事を返す。
二人共、銃というものの知識は持ち合わせていなかった。
「武。なんかこうやって、武器を選んでいたりすると、バルジャーノンを思い出さない?」
尊人が武に向かって笑いかけながら、そんな言葉を口にした。
バルジャーノンとは、武達の元の世界で流行っていた、対戦式のアーケードゲームの事だ。
「ああ、そうだな」
武も思わず笑みを返す。
しかし笑みを浮かべていた尊人の表情はすぐに暗くなった。
「……僕達、元の世界に帰れるかな?」
武は、尊人の顔に視線を向ける、そしておもむろに手を伸ばすと尊人の髪にその手を置いた。
「……帰れる! 当たり前だろ!」
「わっ! やめてよ、武! 頭、痛いってば!」
武は手を動かすのを止めると、選んだ武器を持って立ち上がった。
その手に持つのは、イングラムM10サブマシンガン、サプレッサー(減音器)付き。
その反動は大きいが、かなりの連射性能を持つ。
サプレッサーがついているため、耳栓をしなくとも使える、良銃と言っていいだろう。
一方尊人が選んだのは、ワルサーPPKと呼ばれるハンドガン。
かのジェームスボンドも愛用していたといわれる銃を、何故尊人が選んだかというと、使いやすいから、という事らしい。
「さて、行くか!」
「うん!」
二人は頷きあってから、近くにいる仲間達の元へ戻っていった。
「……御剣さんは武器を選ばなくてもいいの?」
「私にはこの皆流神威(みなるかむい)があるからな。むしろ鑑。そなたはは選ばなくてもよいのか?」
「……私は」
純夏が何かを言いかけるが、その言葉は、集まってきた武達の声に掻き消された。
「よう。俺達は一応武器を選んだぜ。お前等は?」
その言葉に榊と綾峰が頷いた。
「じゃあ後は、冥夜と純夏だな。……どうした、純夏」
「やっぱり……」
暗い表情のまま、俯いていた純夏が、武の顔を見つめる。
「やっぱり復讐なんて……! 壬姫ちゃんもそんな事望んで無いよ!」
心の内に溜めていた感情が爆発したかのように、純夏は叫んだ。
その叫びを聞いた武達に、少しの間沈黙が訪れる。
「……じゃあ、鑑はやらなくてもいい。私一人でやるだけだから。他にもやりたくない人間がいれば好きにすればいい、私も好きにする」
その沈黙を破ったのは、綾峰だった。
綾峰は無表情のまま、純夏を見据える。
「綾峰さん!」
榊が綾峰に詰め寄る。
しかし、その榊の剣幕にも綾峰の表情が変わる事は無かった。
「だが、鑑の言う事にも一理ある」
「冥夜……」
冥夜は、一歩前に進むと皆の顔を見回した。
「私は、そなた達と出会ってから、まだ日が浅い。とはいえ、共に幾ばくかの時を過ごしてきたのだ。珠瀬が最期に何を望んでいたか、今、鑑が何を考えているか、それらの事くらいならば私にも判る。鑑は、珠瀬の願いを無駄にするな、と。そう言いたいのだろう?」
純夏は涙を流しながら、首だけを振って肯定する。
「おんやぁ? 喧嘩かい?」
いつの間にか近くに来ていたドライが、ニヤニヤと笑みを浮かべながら、武達の事を眺めていた。
それに気づいた武は無言で彼女へ近づいていく。
「なんだ? 何か用か?」
ドライの質問に首肯してから、武は口を開いた。
「この辺りで一番安全な場所っていうのはどこにあるんだ?」
『!?』
武とドライを除く人間が息を呑む。
ドライは、そうだねぇ、と呟いてから、ニヤリと笑って口を開いた。
「一番安全なのは、この島の中央さ。その場所にゃ、いけ好かない奴等が大勢いるが、その分防衛設備も中々のもんだ。
だけど、あたし等はまだ用事が残っているから、道を教える事ぐらいしか出来ない。もしそれでも行きたいってのなら、自分達でそこに向かいな。
何、一度あんた達に武器をやるっていったんだ。復讐に使わないからって、今更返せとは言わねぇよ」
「そうか……、皆、聞いてくれ!」
武は皆の方へ顔を向けてから言葉を続けた。
「俺達はここで二手に分かれようと思う。この人数だと二組くらいが丁度いいか? ともかく、たまを殺したあの男を追いかけるチームと、俺達が元の世界に戻る為の方法を探すチーム、その二つが今の俺達にとって、多分ベストだと思う」
「武ちゃん!」
純夏の悲痛な叫びを、しかし武は無視するかのように話を進めた。
「まず、俺と尊人は分かれた方がいいよな。男手は分けた方がいいだろうから。俺は、あの男を追う、だから尊人は世界に戻る方法を見つけてくれよ、いいか?」
尊人は、多少うろたえながらも、肯定の返事を返す。
「私は白銀のチーム」
綾峰が、まだ何も言っていないというのに、白銀の傍に近づいた。
「ならば、私は鎧衣の方へ行こう。おそらく武殿は、鑑もこちらにつけるつもりなのだろうからな。戦力は分けた方がいいだろう」
「サンキューな」
「サンキュー、サンキュー、サンキュー……」
ぽぅっとした表情で、冥夜は武の言葉を繰り返す。
「……なら、私は白銀君のチームという事ね。綾峰さんと一緒というのが心配だけど、まあ、我慢してあげるわ」
「我慢するのはこっちの台詞」
「何ですって!」
武は、まあまあ、と二人の間を遮るようにして立つと、最後に純夏の方へ顔を向ける。
純夏は、俯いたまま泣きじゃくっていた。
「嫌だよぅ……! 武ちゃんと離れ離れになるのは、嫌だよぅ……!」
武はそんな事を呟く純夏の近くへと立つと、そっとその頭に手を置いた。
「馬鹿。俺は……、俺達は絶対に離れ離れになんかならない! 違うか?」
「だけどっ! ……私、いつも思うの。もしかするとこの世界は偽物で、本当の世界じゃ私と武ちゃんは、幼馴染でも何でもない、他人なのかもしれないって……」
「それでも、だ。たとえ俺達が全然知らない他人だったとしても、絶対に俺達は一緒になれる! 元の世界に帰っていける!」
「武……ちゃん」
純夏は、俯いていた顔を上げて、武の顔を見る。
その顔は笑っていた。
「だって、俺達は……、仲間なんだからな!」
中央へ向かう、純夏、冥夜、尊人。
珠瀬の仇を追う、武、綾峰、榊。
彼等は、また会うという約束を交わしてから、各々の目的の為、別の道を歩む事になった。
【白銀 武 招 状 ○ 持ち物 サブマシンガン 装填数 2000発(およそ二分間打ち続けられる)】
【鎧衣 尊人 狩 状 ○ 持ち物 ハンドガン 装填数 20発】
【御剣 冥夜 狩 状 ○ 持ち物 刀】
【榊 千鶴 狩 状 ○ 持ち物 マグナム銃 装填数 6発】
【綾峰 慧 狩 状 ○ 持ち物 弓 矢10本、ハンドガン 15発】
【鑑 純夏 狩 状 ○ 持ち物 ハンドガン(あの後貰った) 装填数 20発】
【ドライ、和樹 歳江 以前と変わらず】
尚、装填数以外の予備弾は無し。
655 :
負の力:04/01/23 00:26 ID:T64W14eO
「……だからー。この殿方たちとでも試してみようかなーって……」
……誰かの話し声が聞こえる。
……ああ
……俺達、やられたんだな……
………………
……わりぃ、つばさ。
……俺、もう駄目かも……
……真っ暗な世界。
………………
はは、俺、どうかしちまったんだろうな……
変なぬいぐるみまで夢に出てくるなんてな……
656 :
負の力:04/01/23 00:27 ID:T64W14eO
………………
……自分の責任だ自分のせいでアーヴィがアーヴィがアーヴィが……
……悪いのはぼくぼくぼくぼく、ちがうちがうおまえだおまえだ……
……やっちまえやっちまえやっちまえ、うらぎられたうらぎられたうらぎられた……
……でもちがうちがうちがう……
………………
……どす黒い負の感情……
……怒り……
……後悔……
……憎悪……
657 :
負の力:04/01/23 00:29 ID:T64W14eO
……ああ
……これか
つばさが殺されたとき
俺が化け物を倒した力は
………………
……醜い力だった
【桜井舞人・高町恭也、新撰組に運ばれる道中、舞人思う】
「はあ・・・」
なんでこう自分はドジばかりなのだろう。
ケルヴァン様に起動させられてから1週間である。
その間に、失敗した仕事は両手はおろか足の指を含めても数えきることはできないであろう。
頭についているハンド型マニピュレイターの指10本も使ってみたが・・・むなしくなっただけである。
いろいろとやらされては見たものの、ケルヴァン曰く『ものすごい成果』(当然皮肉である)のためにお茶くみ要員と化していた。
給仕用アンドロイドであるリニアは効率よく仕事ができるように頭に人間の手を同じ形の機構を持っていたが、
彼女にかかればそれはいかに効率的に失敗をやらかす機構に成り下がっていた。
自分を修理し保護してくれたケルヴァンに対して恩義を感じ、役に立とうと張り切ってはいるものの全ては空回りしていた。
先ほどケルヴァンから、明日から客人が増えるだろうと聞かされている。
(ケルヴァン様達がなんかやってたのが始まるのかな・・・)
リニアはケルヴァン達が何をやっているのか知らないが、
ケルヴァンの性格から思うにリニアの道徳観では悪いことをしているのであろう。
奏子へ出したお茶のカップを回収し、キッチンに戻る間中リニアはそんな事を考えていた。
昼間にそんな事を考えていたせいなのか。
どうしても寝付く事ができずに、ふと部屋の窓から外を見上げた。
その時だった、空から流星が地上に向かって降り注いだ。
思わず「きゃっ」と悲鳴をあげてしまったがもう次の瞬間には、流星雨は降り終わっていた。
光学式視覚再生装置の故障だろうか?
(疲れてるんですね・・・私)
そう判断してリニアは、再びベッドに入り込んだ。
そもそも機械の部品が故障したのなら寝たところで直ったりはしないのだが・・・
先ほどの光景のインパクトが強くてその事に気づくことすらできなかった。
自分の視覚装置の故障だ。
そう思っていた。
翌日の朝に、キッチンで倒れた少女を見つけるまでは。
「えっと・・・もしもし?」
思わず頬を突付いてみるが反応はない。
(え・・・ま、ま、ままままさか死ん・・・)
「恭ちゃん・・・」
少女から言葉が発せられると同時にリニアの思考は中断した。
ほっ・・・
思わず安堵の溜息をついたのも束の間、少女は意識を取り戻したわけではない。
何より少女がそこに寝ていると自分の仕事ができないのだ。
仕事というのはガラス拭きとお茶くみのことではあるが
少女は目覚める気配はない。
元来リニアの性格上放っておくこともできない。
リニアは自分の部屋に連れて行こうかと少女を持ち上げる。
(お、重い・・・)
これは少女─高町美由希の名誉のために言っておくが・・・リニアが非力なだけで美由希が特別重いということはない。
ついでに少女が大事そうに抱えていた刀も、持って行く。
時間はかかったが美由希を自室のベットに横たえることができた。
刀は・・・危ないのでベットの下にでも置いておこう。
(これでお仕事ができる・・・)
大労働を終えたリニアであったが彼女の仕事はこれからが本番であった。
もっともお茶くみとガラス拭きなのであるが。
キッチンに行く途中でケルヴァンと会った。
「あ、おはようございます。ケルヴァン様」
「ああ・・・そうだ、リニア今日の奏子へのお茶だかな」
「はい」
「持ってこなくてもいいぞ」
「え!私・・・なんかしましたか!?」
また何かやってしまったのだろうか、しかもこのお茶酌みは、事実上最後の砦ともいえる。
(とろくて、機転が利かなくて、あげくにぽんこつだが・・・淹れる茶だけは美味いな)
4日前に言われたケルヴァンの台詞が脳裏をよぎる。
「そういうことではない。単純に今日だけいらないということだ」
「自室で大人しくしていろ。それが仕事だ」
「え?お掃除は・・・」
「今日から客も増える・・・明日のために茶を淹れる練習でもしておけ」
「・・・はい・・・わかりました」
気の毒になるくらい凹んでいるが、ケルヴァンは全く意に介さなかった。
自室に帰る途中でふと思い出した。
そういえばキッチンで発見した少女の事の報告を忘れていた。
(お掃除道具を部屋にしまってからでも、いいですよね・・・)
かなりいじけが入っている。
部屋に戻り道具を片付け、これから報告に行こうと思い立った時であった。
「あれ・・・?ここどこ?」
高町美由希は目を覚ました。
えっと・・・ここはどこなのかな?」
高町美由希と名乗った少女は少々混乱気味である。
美由希は兄である恭也と剣の稽古をしていたはずだ。
「えっと、なんていったらいいんでしょうか・・・」
リニアはリニアで返答に窮している。
自己紹介は互いに先ほど済ませていた。
その時に小太刀は美由希に返した。(大事そうに受け取るのが印象的であった)
「と、とにかくですね。ここは安全な場所ですから、しばらく無理しないで寝てて下さい」
(安全・・・?安全ってどういうことだろう?ここは安全って事はここ以外に危険があるってことだよね)
「あ、リニアご主人様に美由希さんのこと伝えてきますね」
美由希が疑問を口に出そうとした瞬間リニアは、部屋の外に駈けていった。
(場所を聞くってことはこの屋敷の人じゃないから・・・もしかしたらお客さんかもしれない)
だとしたらケルヴァンに部屋を用意してもらわなくてはいけない。
リニアは足早にケルヴァンの部屋に向かった。(途中で4回も転んだが)
「ケルヴァン様!」
勢いよく部屋に飛び込んだ──つもりだったがドアに鍵がかかっていて頭からぶつかってしまった。
「っ〜〜〜〜!」
声にならない呻き声をあげるが立ち直りは早かった。
「あ・・・あれ?不在って」
扉には不在の札が、リニアを嘲笑うかのように揺れている。
普段のようにガチガチに緊張で固まっていたなら・・・扉の前で一度立ち止まっていたらこのような醜態を晒すこともなかったであろう。
起動して初めて臆せずにケルヴァンの元に行こうとしたにはあまりにも酷すぎる仕打ちだった。
(リニアには知る由もないがこの時ケルヴァンは朝倉姉妹の保護に行っていた)
リニアはケルヴァンの部屋の前で途方にくれていた。
(一度部屋に戻ろう・・・)
美由希の様子をなんだかんだと言って気にはなる。
先ほどは狼狽して思わず病人を放りだしたままケルヴァンの部屋に来てしまったが・・・。
やっぱり美由希に自分のわかる範囲でここの事を説明しよう。
それから・・・
(ケルヴァン様に・・・)
そういえば美由希が客人でなかった場合どうなるのだろう。
さっきから客人だとばかり思っていたがそんな事は考えても見なかった。
今朝キッチンに行く時に庭で女の人達が口論していたり、とてもきれいな女の人を廊下で見かけたりしたけれど
あの人達は・・・ケルヴァン様と同じ感じがする。
何か・・・不吉というか不安というか。
具体的には知らずともケルヴァンの性格からして、よくないことなのであろう。
もしかしたら、人が死ぬかもしれない。
それに比べて・・・
「私は・・・高町美由希。あなたは?」
そう言いながら微笑んだ美由希の笑顔には、自分の不安を・・・消し去ってくれるような雰囲気があったのだ。
アンドロイドである自分がこんな曖昧な感情を元に主を出し抜くような真似をしてもいいのだろうか。
「リニア」
不意に背後から声。
声の主はケルヴァンである。
「あ・・・お、おかえりなさいませ」
よからぬ事を考えていた少々言葉がどもった。
だがケルヴァンはその様子をとって見て別の結論を出したらしい。
「また何かやらしたか・・・その報告はいらん」
「そ、そうですか」
普段から失敗の報告ばかりしていたために、様子がおかしかったのが露見しなかったのはうれしいやら悲しいやら。
「それと仕事ができたぞ」
「本当ですか?」
まだスクラップにならずに済むようだ。
「客人がきたのでな。部屋で寝ている、2時間たったら見張りと交代してやれ」
「はい、わかりました」
「それと目を覚ましたらすぐに私に報告するように」
リニアは表面上こそうれしそうにしていたが内心は複雑であった。
主たるケルヴァンに隠し事をしようとしている。
(でも・・・美由希さんに安全だっていっちゃったしね)
美由希の身が安全であるとわかればその上でケルヴァンに報告すればいい。
与えられた仕事に関してはまだ時間の猶予がある。
その間に美由希の安全を確認して・・・
(でも・・・もし・・・)
もし・・・ケルヴァンが美由希に危害を加えるようなら?
リニアは頭を振ってその考えを振り払った。
(それならその時で考えたらいいですよね)
リニアはまだ気づいていない。
ケルヴァンが美由希に危害を加える可能性があるように、美由希が客人である可能性だってあるのだ。
しかし無意識にリニアはケルヴァンと美由希の性格からそれはありえないという結論を出していた。
リニアはケルヴァンに美由希の存在を隠し通すことを───主の意に逆らうことを既に決心していた。
【リニア@モエかん(ケロQ) ? 状態○ 所持品 なし】
【高町美由希@とらいあんぐるハート3 招 状態○ 所持品、小太刀(龍燐)】
八雲辰人登場
ニャル様には誰も敵わなかった
終わり
「・・・俺はなぜ生きている」
俺は確かに美空に斬られて───
珠姫を死なせたくない。
そうなると己の内の邪神を殺すには恋人に自分を斬らせるという、ある種非情な手段をとらざるを得なかった。
自分の存在がこの世ならざる者を呼び、大切な者を危険に晒すと知った時彼は自分の死でその運命を断ち切った。
もとより一度死んだ身だ。
特に恐怖はなかったが、自分を斬った美空が傷つかないかそれだけが心残りである。
(さすがの我も危なかったぞ)
自分の内なる存在、邪神が語りかけてくる。
(守護者め・・・古の物語の結界を利用してくるとは)
(それより・・・俺はどうなった?死んだんじゃねえのか)
(たわけが!依代であるお前が死んだら我まで滅びてしまうであろうが。ここは別の時空だな・・
・思わず最も境界の結界が薄かったところに飛び込んでしまったが)
(お前のお仲間の世界・・・か?)
(そうであるならば都合がよいのだが・・・生憎そうでもないようだ)
ゴゴゴ・・・
──その時島が少し揺れた。
(どうやら気づかれたようだな、この世界の管理者が結界を強化しおった)
(前のタコの化け物の時見たいに力がろくに発揮できません・・・ってことかよ)
(まあ、生きていれば元の世界に戻ることができるかもしれぬぞ?)
(てめえさえ消えたらいつでも帰ってやるさ──)
どうせならあのまま死んでいれば美談になったのだが。
どうやら彼を取り巻く運命はそう甘いものではないようだ。
(もしかしたら・・・母さんがまたなんかやったのかもな)
ならば八雲辰人は生きなくてはいけない。
辰人の実の母親は、幼少の辰人、美空、珠姫の3人を救うために命を落とした。
母親の思いを無駄するわけにはいかない。
辰人は、元の世界に帰る方法を探すことに決めた。
一方・・・
「気づいたか?葉月」
「ああ、かなりの力の持ち主・・・我ら同様招かれざるものか」
「覚えがあるな・・・この気配、混沌か」
「知ってるのか」
「世界を・・・暇潰しの道具としてしか見てないいけ好かぬ輩よ」
「お主に嫌われるとは相当なものだな」
当然葉月の言葉は、さっきの伊藤乃絵美に対する蔵女の所業への皮肉なのであるが蔵女は気にしていないようだ。
「奴の力は危険だ・・・今のうちに排除しておくか」
「我らの目的のためには放っておくほうが都合がよいのではないか?」
「あやつは、非情に狡猾で己の退屈を紛らわすためだけに存在している。我の敵になれども味方にはならぬ」
それに・・・
「あやつの再生力は、どこぞの吸血鬼の比ではないぞ。お主の世界の不要物を消す刀以外に対抗できるとは思えん」
「先ほどの結界の強化で相当その力も落ちているのだがな・・・」
「奴とて条件は変わるまい。我に似た存在なのだからな」
不死にも近いその再生力。
ならば存在そのものを『消す』葉月の刀しか対抗する手段はなかろう。
「我が奴の気を逸らす。葉月・・・一撃で決めるのだぞ」
「言われるまでもない、もとよりその気だ」
(辰人!!敵意あるものが来るぞ)
(んだと!いきなりかよ)
身構えた瞬間、赤き爪を剥き出しに戦闘態勢に入っている蔵女が正面から突っ込んでくる。
(終焉をもたらすもの───何の真似だ!)
「久しいな混沌よ。すまんが取り込み中でな、旧交を温めあうということはできそうもない」
(我を消す気か!辰人!)
「少し黙って力を貸してろ!俺だってこんな場所でくたばる気はねぇ!」
辰人の爪と蔵女の赤い爪が幾度もぶつかりあい火花を散らす。
(忌々しい結界よ・・・亡者でも召喚し、けしかけてやろうにも力が足りぬ)
しかし辰人の爪が直接相手を切り裂くという性質に対し、蔵女の赤い爪は本来その用途に用いるものではない。
徐々に蔵女が押され始めた。
「むう・・・依代に宿る混沌がここまでの力を発揮するとは・・・」
蔵女が混沌を弱らせてその隙に葉月が止めを刺す算段だったのだが、辰人は予想以上に混沌の力を使いこなしていた。
蔵女の言動にも余裕の色が見れなくなっていた。
「俺にも死ねない理由があるんでな!あんたが何者だか知らねえが・・・悪く思うなよ!!」
辰人の爪が蔵女の爪を弾いた。
(しまった!爪を再生する暇が───)
「あんたの終焉とやらは自分に使うんだな!」
辰人の爪が蔵女の首を刎ねようと───「邪まなるものよ・・・消えよ!」
──!!
(辰人!後ろだ!)
葉月の刀が後ろから辰人に襲い掛かる。
内なる声の警告によって横に飛ぶ。
しかし葉月の剣速は避けきれるものではなく、左肩から腹部にかけて斬撃を食らってしまった。
(この力・・・リリスの眷属か!辰人、一端退くぞ!この力、真っ向から挑むには危険すぎる)
(くそっ・・・さっきから終焉だとかリリスとか訳分からんことばかり言いやがって!後で説明しろよ!)
葉月の斬撃を横っ飛びで避けたその勢いのまま辰人は全力で駆け出した。
「思ったより結界の影響が大きいな・・・刀の力も『削る』程度の力になってしまったか」
「まあ、捨て置いてもよかろう。既にやつに1人でこの島にいる者全員をどうこうできる程の力はあるまいて」
蔵女は爪の再生を終えて落ち着いたようだ。
「我はそう簡単には死なぬが・・・お主は刀以外は只の人を変わらぬのだ。リリスにどやされるのはごめんだからな
死んでくれるでないぞ」
「お主に身を案じられるか・・・複雑なものだ」
蔵女はそれを聞いてころころ笑った。
「お主が我のことをどう思っているかは知っているがあまり口にだすものではないぞ?」
しかし葉月はいたって真剣に
「性分なのでな、お主と反りは合わん」
(しかしこの世界・・・いや島か。何かあるな)
(何かって何だよ?)
(我も万能ではないのでな・・・しかし管理者たるリリスの使徒と終焉が行動を共にしているのだ何かある。
利用できるのかもしれんぞ)
(その前にこの傷口を治して欲しいんだがな)
(さっきの刀・・・管理者リリスの力だが。世界にとっての不要物を消す力がある。それの影響で力が更に落ちた)
(不要物を消す・・・ねぇ)
だったらあの刀に消されてしまった方がよかったのもしれない。
この内に眠る邪神ごと。
(しかし本来食らえば一撃で我とて消滅するはずだが・・・それができなかったということは
この世界の結界は奴らにも影響を及ぼしているということだ。奴らの力とて完全ではない。勝機はある)
そうだ───美空のところに帰らないと・・・な。
まずは・・・この傷を治すことだ。
削がれた力は戻らないだろうが、傷は一晩もあれば回復するだろう。
八雲辰人は内なる邪神と共に元の──美空のいる世界に帰ることを決意するのであった。
【八雲辰人@朝の来ない夜に抱かれて(F&C) 狩 状態 △ 所持品なし】
【蔵女 招 状態 ○ 所持品 赤い爪(能力)】
【葉月 招 状態 ○ 所持品 刀】
状態修正
【八雲辰人 狩 状態 △(結界の強化と葉月の刀により力激減) 所持品なし】
要望があったので更に追記
現在の八雲辰人の能力
攻撃方法は蔵女同様爪によって行う。
爪以外の攻撃方法はなし。
原作にあった亡者召喚は力の不足により不可能。
力が戻る可能性
結界の消滅。(=ヴィルヘルムの死亡)結界の解除により葉月の刀によって削がれた力も回復する。
しかし力が戻った場合邪神の力により元の世界に帰ると思われるので残す場合はそれなりの動機づけを。
しまった。書き忘れ・・・
再生能力はモーラ、ギーラッハと同様。
葉月のキャラ違う
「ねぇ…まいなちゃん?」
ゆうなは自分と同じように肩身が狭そうにしているまいなに話しかける。
「おちつかないね…」
彼女の目の前で三日月が逆立ちしていた。
彼女らがいる建物は、あのハゲ親父がいうところの幼稚園らしいが・・・
その内部を見て2人は絶句した。
そこはもうあらゆる自然の摂理や物理法則を無視したようなきらびやかとも禍禍しいとも付かない
誇大妄想の果てというべき世界だったのだから。
ここの主とか言うハゲ親父のしゃべっていたことについてはさっぱり分からなかったし、
聞いてもいない、たしか感性がだの情操教育だのと言っていたような気がするが、
幼稚園のみならず、窓から見える建設中だとかいう病院や役場も、こんな風なのだからかなり怪しい。
ただ少なくとも上機嫌でしゃべる姿を見る限り、このトンチキな世界が理想郷だと本気で信じているようだ。
「HAHAHAオジョウサーン、ノープロブレムネー、マダマダ未完成、ノットコンプリートネー」
勝手にしゃべってそう結ぶと、ハゲ親父は部屋から出ていってしまった。
そんな中でゆうなはちょっと背伸び気分で、こっそり母親の書斎で読んだ小説を思い出していた。
たしか天才がゆえに狂人となった大富豪が絶海の孤島に精神異常者たちの王国を築こうと企てる話だ。
自分たちがいる部屋、窓から見える風景、それらはその小説を読んで想像した王国のそれに近かった。
あのお話の最後って…確か…
と、さっきまで肩身の狭そうだったまいながいきなり立ちあがる、とシーソーになっていたソファが刎ねあがり
片方の端に座っていたゆうなはそのまま空中に投げ出され、巨大なバスケットゴールのネットに
すぽんと吸いこまれていく。
あたふたとネットから降りようとしているゆうなを待つことなく、まいなは大声で叫んだ。
「ゆうなちゃん良く聞いて…今からあたしたちはここから脱走するのよッ!」
「そんな大声で脱走なんて言ったらだめよ」
といいつつもゆうなも脱走には大乗り気だった。
こんな場所にいたら自分が朝倉ゆうなではなく、別の何者かになってしまいそうだ。
と、いうわけで2人はさっそくこの物狂わしい王国からの亡命を決意したのであった。
で、2人はようやく最初に連れこまれた城の前まで辿りついていた。
道中、建物のみならず町割りまでもがとんでもなく、2人は何度も迷ったが
それでも途中誰にも見つかる事は無かった。
「ゆうなちゃん、ここをくぐっていこ」
まいなが指差した先の壁に穴が開いていた、2人がそこをくぐると目の前には花園が広がっていた、
2人は花を摘みながら先を急ぐ、と今度は目の前に白いテラスハウスが見えた。
2人はテラスハウスにそっと近づくと窓から中の様子を伺う、とそこには天井から吊り下げられた
巨大な鳥篭に閉じ込められた少女がいた。
少女は鳥篭の中で椅子に揺られながら編物をしている、その幻想的な光景にしばし2人は時間を忘れた。
まいながそのことに気がつき、ゆうなの襟を掴んで先を急ごうとした時だった。
少女は編物の手を止めて、唇にそっと人差し指を当てると、彼女らを手招きしたのだった。
少女は深山奏子と名乗った。
ゆうなとまいなは奏子から出されたお茶を飲みながら、ぽ〜っと奏子を見つめている。
「どうしたの?」
微笑む奏子にまいなが答える。
「お姫様みたいだなって思って」
「ふふっ、ありがとう」
たしかに奏子が閉じ込められている鳥籠の中は絵本の中でしか見た事が無いような豪華な調度品で
飾り立てられているし、奏子自身もなかなかの美少女なのでお姫様に見えても不思議は無い。
と、その時だった、廊下から足音が聞こえる。
「ケルヴァンさんよ!早く逃げて!」
奏子はキャンディBOXから飴玉を両手に握れるだけ握り出すと、格子の外へ手を伸ばし、
2人へと手渡す。
「奏子さんは逃げないの?」
奏子は微笑を絶やさないまま答える。
「お姫様は王子様が来てくれないと逃げられないの」
ゆうなとまいなはキャンディをポケットに詰め込むと、そのまま外に飛び出そうとしたが
その直前、奏子に向かって頭を下げて大きく手を振る、奏子もそっと手を振ったのを見てから
2人は外へ飛び出していった。
そして2人があわただしく去っていった後、奏子は悪戯っぽく呟いたのだった。
「でも私の王子様は姉様だけどね」
一方のケルヴァンだが、彼もまた奏子について考えていた。
彼女にもしものことがあれば、怒り狂った初音が何をしでかすか分かったものではない。
人質として利用できるその時までは心身共に健康でいてもらわないと困る。
これから先は多忙になる、今までのように監視が行き渡る事もなくなるだろう。
そのスキを突かれ良からぬ輩に利用される可能性が無いわけではない。
「止むを得ん、誰か護衛をつけるか…」
【朝倉ゆうな・まいな@はじめてのおいしゃさん(ZERO) 招 状態 ○ 所持品 キャンディ】
浩之と青児参戦
全ての技をコピーします
アストも参戦
キャラ単位に近いコピーします
魔弾ことジューダス・ストライフ参戦
その気まぐれゆえ、八雲辰人の力が戻りルネッサンス山田(ベルゼバブでニャル様)コンビ結成
小十郎&鳳凰参戦
無限の力を手に、平和主義片手に破壊の限りを尽くします
神殺しことセリカ参戦
ただの退屈しのぎの様です
あ、死んだ。
真道カスミ(ExodusGuilty)、那須宗一(Routes)、吾妻玲二(Phantom)の三人とか。
裏の世界の超一流トリオだけあって、どんな局面でも切り抜けてくれる。
普段は玲二をリーダーにしてカスミと宗一をサポートに、
ここぞというところでプロトアクチニウム原子破壊砲と天濡矛があれば、
大抵の相手は一撃で仕留められるので、かなりお奨め。
二重影の双厳
永遠神剣&エターナル化のユートも参戦
初音様参戦ヴィルと組んでしまいました
ヤミ様参戦
魔世中ハ我ノ物&永遠となった留守番の緒方星四郎とかでもな、好きなだけ好きなことができる
久我直之は、洋子とともに、ヴィル達の様子を見ていた。
「マスター」
洋子が直之に身を寄せ、直之は洋子の肩に手を回す
「ヴィルもマスターの思惑通りに動いておりますわ」
「ああ、そうだな」
闇の王の本質は、自己を中心に事象を動かす能力
そして、洋子が持つ未来視の能力は、ほぼ100%の確立で予想する
直之は、洋子が予想した未来を捻じ曲げる
「ああ、だがこのままではつまらん」
「…つまらない?」
「いつでも手に入るものは、既に手に入れているも同じだ。
こういうものは、手に入れる過程こそ楽しいんじゃないか?」
「そうですわね」
「ああ、計画は修正だ。いや、それよりもだ、面白い事を思いついた
神殺しセリカ・シルフィル、魔弾ジューダス・ストライフをこの世界に呼び出す
八雲辰人の力を元にもどすとしよう」
そういって、直之はイービルアイの力を発動させた
【久我 直之 状態 ○ 所持品 イービルアイ(能力)】
【坂下 洋子 状態 ○ 所持品 未来視(能力)】
>>685 NGです、書き手の皆さんスルーもしくはあぼーんしてください
書いた方は反論があれば葱ロワイヤル感想・議論スレッドに来てください
[崩れゆく偶像]
現実を認めたくない。
そんな事は今までだってそれなりにあったと思う。
でも・・・。
(これは――あんまりじゃない・・・。)
さっきの事は夢か何かだと思いたかった。
しかし、現実に私の右腕は・・・ない。
不思議とそれほど激痛ではない。
(・・・よく切れる刃物で切ると大して手が痛くないのと同じ、なのかな。)
そんな事を考える。
「・・・料理、か。」
薄曇の空を見上げたまま私は呟いた。
出来もしない料理を始めたのは、急に出来た兄、大輔のためだった。
いつも学食ばっかりで、でも、私に手料理を作ってくれて・・・。
ママが急に結婚すると電話してきたときは驚いた。
しかも、同じ学園内に兄になる男の子がいると・・・。
でも、正直言って嬉しかった。
今まで私は独りだったから。
・・・誰も私を愛してくれない。
そんな思いばかりがいつも胸にあった。
ママが写真家のアシスタントで世界を飛び回っているからか、私の側には愛情という言葉が欠けていたように思う。
家族がいると言うこと――。
それは、私が思っていた以上に素敵なことだった・・・。
だから・・・。
「・・・んく、・・・ひっく・・・・・・。」
堪えようのない悲しみだけが私を包む。
何も、考えたくなかった。
こんなところにいる事。
お兄ちゃんが・・・大輔が死んだ事も。
藍から聞かされたときは嘘だと思った。
質の悪い冗談だと思った。
もう、あの子供みたいな笑顔に会えない・・・。
時に優しくて、時に不安そうなあの人に会えない・・・。
・・・大好きなのに・・・愛しているのに・・・・・・。
「恋・・・ちゃん・・・。」
「あ・・・っく、・・・い・・・。」
そうだ。まだ、私はいい。
私には、まだ藍がいてくれる。
橘先輩の悲しみに比べれば・・・。
「藍・・・。」
気持ちを入れ替えると、私はゆっくり上体を起こし、長座の体勢になる。
「藍、みんなは・・・」
「皆様には・・・先に移動して頂きましたわ。」
藍がこれまでのいきさつを話してくれた。
クモ女を追い払ったこと、橘先輩と自分に何かが覚醒し、それがよく分からないこと・・・。
二人は島の中央に移動していることや、実はこの近くに小屋があるということも。
「私、見えてしまったんです。」
「見えた?」
はい、と藍が場に相応しくない笑顔で答えた。
「あの小屋の中・・・銃火器がありますわ・・・。」
木々の奥にポツンとある小屋を指差し、呟くように話す。
恍惚の表情とも取れる、藍の安心した顔。
・・・違う。
これは・・・藍?本当に、私の知ってる藍なの?
「恋ちゃん?まだ・・・痛むんですね・・・。」
深刻な表情の私を気遣って藍が言う。
「う、うん・・・」
とりあえずうまく誤魔化しておく。
「恋ちゃん、行きましょう?・・・立てますか?」
差し出された藍の手を、私は掴むことが出来なかった。
――生まれた、猜疑心。
「大丈夫、一人でも何とか歩けるわ。」
「そう・・・ですか?」
片腕がないことは今は忘れる。
バランスがとりづらかったけど、何となく藍に掴まりたくはなかった。
そのまま、小屋に向かって歩き出す。
「恋ちゃん・・・強いんですね・・・。あれだけの事があったのに。感動してしまいますわ・・・。」
背後で藍の声がする。
・・・恐怖。
その言葉が一番近いような、そんな不快感。
(やっぱり・・・何か違う!)
「藍――」
私が振り向いたのと、乾いた発砲音と共に”何か”が私の左胸を貫いたのは、ほぼ同時だった。
「何・・・で・・・・・・」
鼓動が一気に早くなる。
打たれた胸を中心に、焼けるような感覚が全身を覆っていく。
「私は・・・”力”を手に入れましたわ・・・。生きるための、力を・・・。」
藍は、微笑んでいた。
「恋ちゃんのお陰、ですわ。感謝しております・・・。でも――」
一旦ここで言葉を切る藍。
「私は――生きていたい・・・。そのためには、負傷者は邪魔なのですわ・・・。」
目の前が霞む。
痛みと、意識の薄れと――涙で。
「藍・・・そん、な・・・・・・。」
「だって、動くのが精一杯の人を抱えて走るわけには参りませんでしょう?」
信じられないことに、藍は笑った。
「重い荷物は捨てる。これは敵から逃げるときの常套手段ですわね・・・。」
捨てる・・・。
その台詞に何もかもが・・・壊された。
ママのせいで入らされた一流幼稚園。
みんな大人しくて、ただ良い子だった。
私は、独りで泥遊び。
それでも毎日楽しかった。
家族のいない、独りの家にいるよりはずっと。
そんな時、私が声を掛けたのが同じように独りでいた藍だった。
私たちはすぐに仲良くなり、つられるように周りとも仲良くなった。
藍とは、それからここまで・・・親友になった。
どこか私たちは似ていたのかもしれない。
でも、それだけじゃなかった。
家族のような・・・少なくとも、私は藍が本当の家族と同じくらい好きだった。
これからも、そうだと、信じてた――。
地面に倒れこんだ私に藍は再び銃口を向ける。
「何が、こうさせるのでしょうね・・・。私にも解りませんわ。」
何故だろう。藍は泣いていた。
この世界に飛ばされたことが悲しくて?
それとも・・・私を殺すことに・・・?
ううん。それは・・・ない。
そうだったら、きっと微笑まない。
表情と声は笑いながら、ただ、泣いていた・・・。
「もう、誰も、信じない――・・・。」
全身から力が抜ける。
暗く沈んでいく視界の中で・・・
「ち・・・がう・・・。」
私は、自分を否定した。
違う。信じられる人が、いる。
私は最後の言葉に、その人の・・・大好きな人の名前を、選んだ。
傍に・・・行きたい・・・。
「だい・・・す・・・・・・け・・・・・・――」
鬱蒼とした木立の合間を縫って、発砲音が響いた――。
【桜塚 恋:死亡 鷺ノ宮 藍 状態:○装備:武器庫から既に調達していた拳銃(種類不明)】
「何なのよ…もう」
行けども行けども森、自分の見慣れた町並みはどこにも存在しない。
豪快を絵に描いたような少女として幾多の逸話を持つ春日せりなといえども、
今の状況には困惑を禁じえない。
いつもの面々と遊んでいたらいきなり声が聞こえて、気がついたらここにいた。
「はっ、もしかして私は伝説の勇者様って奴?それでもってこの森を抜けたら村があって
そこで私は救世主として…」
そこから先は言うのをやめた、いくら何でも虫が良過ぎる話だと我ながら思ったから。
だが春日せりなが考えるほど、この世界は甘くはなかった。
事実、いつまでたっても森を抜け出せる気配は無かったし、しかも出迎えは魔王の搾取に苦しむ
善良な村人などではなく、死体だったのだ。
標本や写真なんかじゃ決してありえない生の死体…しかも…。
胃の奥からすっぱい何かがこみ上げてくる…それでもせりなはその無残な、いや異常な死体から目を離せない。
何が異常かと言うと、その死体はまるで焼き魚のように、きれいに手足や胴体の肉や内臓だけが無くなっており
言わば理科室の骨格標本の上に制服を着せ、女の子の顔をくっつけたような死体だったからだ。
その女の子の顔はまるで眠るように安らかだった、ピンクの髪をしたまるで猫の耳のような癖毛が特徴的だ。
身に纏っている軍服チックな制服は、せりなにも見覚えがあった。
「白稜柊…私より頭悪そうに見えるけど勉強できたんだね」
生きている本人が聞いたら間違い無く気分を悪くするであろうセリフを、せりなは口にしていた。
我ながらこんな言葉しか出てこないのを不思議に思いながら。
「今…お墓を作ってあげるね」
それから後は、せりなもこれくらいしか口に出すことが出来なかった。
せりながようやく珠姫の遺体に土をかぶせ終わった時だった、不意に自分の背後から声が聞こえた。
「春日せりなだな?」
「……」
背後からの問いかけにせりなは何も答えない。
「春日せりなだな?」
「いきなり後ろから初対面の人を呼び捨てる礼儀知らずに答える口は持ってないの」
声をかけた相手は、せりなの言葉に暫し沈黙したが、やがて苦笑すると
今度は改めてせりなの正面にから言葉をかける。
「これは失礼した、非礼平にご容赦頂きたい、己の名はギーラッハ、貴様を迎えに参った」
迎えという言葉を聞いて、やはり自分は勇者かもっと一瞬甘い期待を寄せるせりなだった。
「…というわけだ」
「で、断ったら?」
せりなの問いにギーラッハは即答する。
「その結果は、今、君の足の下にある骸が良く知っているだろう?」
「ふぅん…」
暫しの沈黙、そしてせりなの肩が小刻みに震えた瞬間だった。
「冗談じゃないわよ!逆らったら人をこんな風にするような連中と命惜しさに仲良く暮らせるほどね!
この春日せりなは腐っちゃいないのよ!!」
せりなはまっすぐな怒りの感情を込めた視線でギーラッハを睨みつけている。
「ならばこの瞬間より、己と貴様は敵ということになるがそれでもいいのか?」
ギーラッハの手が剣に伸びる。
「望むところよ!!」
せりなも手に持った棒を構える、その様子を見てギーラッハは困惑を禁じえない。
(この娘、己が恐ろしくは無いのか?それとも何も考えていないだけか?)
ギーラッハは不思議と目の前の娘に興味を覚え始めていた。
「やめろ…主がその得物をそれ以上振りかざせば、己は主を斬らねばならなくなる」
ギーラッハの瞳に気合が篭る。
だが、その眼光に威圧されながらもせりなはさらに構えた腕に力を込めたのだった。
(日中でしかも手加減しているとはいえ、己が眼力に抵抗するとは…)
どれくらいの時間が経過しただろう、やがて。
「まぶしいな…」
そう一言呟くと、ギーラッハはそのまませりなに背を向け、その場から立ち去って行く。
その背中にせりなの罵声が飛んだ。
「ちょっと!そっちから喧嘩売って逃げるの!!」
振り向くことなくギーラッハは応える。
「警告はした、おそらく己と主では戦いにもなるまい、いかに務めとは言え決まりきった勝負事など
己には下らぬ児戯よ」
「だからって放っておいてもいいってこと!!激しくむかつくわね!」
その言葉を聞いてギーラッハが振り帰る、そしてその瞳がさらに鋭く光った。
その光を見た瞬間、せりなの身体から力が失われていく…。
(これが…実力の差って事!?)
先程のものとは比べ物にならぬほどのプレッシャー、まさに歴戦の戦士のみが持ちうる必殺の威圧だった。
「それでも主がもし抵抗する事を選ぶならば己も全力でお相手しよう、だが考え無しに命は無駄にするな」
ギーラッハの腰の剣がかちゃりと冷たく鳴る。
せりなは、ぱくぱくと金魚のように口を動かす事しか出来なかった。
「また会ったときは容赦せん、その時、いやそれまでに討たれるようであれば、それは主がそこまでの
器だったというだけだ…己を失望させるな」
未だに金魚状態のせりなを置いて、ギーラッハは悠然と立ち去るのであった。
それから、せりなは珠姫の墓の前で座りこみ、何かを考えていた、いや考えるふりをしていた。
そうだ、考えるまでも無いことではないのか。
少しでも多くの人を助ける、そして皆で生きて帰る。
誰かの死体を見るくらいなら、誰かを守って自分が死体になる方がまだマシだと思った。
例え自分が生きて帰れなくても構わない。
(みんなごめん、もう会えないかもしれない…でも、それでも他のみんなを助けたいの!)
こうしてせりなは立ちあがると、森の出口を探して力強く歩き始めるのだった。
【春日せりな@あしたの雪之丞(エルフ) 招 状態 ○ 所持品なし】
【ギーラッハ@吸血殲鬼ヴェドゴニア(ニトロプラス) 鬼 状態 ○ 所持品ビルドルヴ・フォーク(大剣)】
「何なのよ…もう」
行けども行けども森、自分の見慣れた町並みはどこにも存在しない。
豪快を絵に描いたような少女として幾多の逸話を持つ春日せりなといえども、
今の状況には困惑を禁じえない。
いつもの面々と遊んでいたらいきなり声が聞こえて、気がついたらここにいた。
「はっ、もしかして私は伝説の勇者様って奴?それでもってこの森を抜けたら村があって
そこで私は救世主として…」
そこから先は言うのをやめた、いくら何でも虫が良過ぎる話だと我ながら思ったから。
だが春日せりなが考えるほど、この世界は甘くはなかった。
事実、いつまでたっても森を抜け出せる気配は無かったし、しかも出迎えは魔王の搾取に苦しむ
善良な村人などではなく、死体だったのだ。
標本や写真なんかじゃ決してありえない生の死体…しかも…。
胃の奥からすっぱい何かがこみ上げてくる…それでもせりなはその無残な、いや異常な死体から目を離せない。
何が異常かと言うと、その死体はまるで焼き魚のように、きれいに手足や胴体の肉や内臓だけが無くなっており
言わば理科室の骨格標本の上に制服を着せ、女の子の顔をくっつけたような死体だったからだ。
その女の子の顔はまるで眠るように安らかだった、ピンクの髪をしたまるで猫の耳のような癖毛が特徴的だ。
身に纏っている軍服チックな制服は、せりなにも見覚えがあった。
「白稜柊…私より頭悪そうに見えるけど勉強できたんだね」
生きている本人が聞いたら間違い無く気分を悪くするであろうセリフを、せりなは口にしていた。
我ながらこんな言葉しか出てこないのを不思議に思いながら。
「今…お墓を作ってあげるね」
それから後は、せりなもこれくらいしか口に出すことが出来なかった。
せりながようやく珠姫の遺体に土をかぶせ終わった時だった、不意に自分の背後から声が聞こえた。
「春日せりなだな?」
「……」
背後からの問いかけにせりなは何も答えない。
「春日せりなだな?」
「いきなり後ろから初対面の人を呼び捨てる礼儀知らずに答える口は持ってないの」
声をかけた相手は、せりなの言葉に暫し沈黙したが、やがて苦笑すると
今度は改めてせりなの正面にから言葉をかける。
「これは失礼した、非礼平にご容赦頂きたい、己の名はギーラッハ、故あって迎えに参った」
迎えという言葉を聞いて、やはり自分は勇者かもっ、と一瞬甘い期待を寄せるせりなだった。
「…というわけだ」
「で、断ったら?」
せりなの問いにギーラッハは即答する。
「その結果は、貴様の足の下にある骸が良く知っているだろう?」
「ふぅん…」
暫しの沈黙、そしてせりなの肩が小刻みに震えた瞬間、彼女は文字通り爆発した。
「冗談じゃないわよ!逆らったら人をこんな風にするような連中と命惜しさに仲良く暮らせるほどね!
この春日せりなは腐っちゃいないのよ!!」
せりなはまっすぐな怒りの感情を込めた視線でギーラッハを睨みつけている。
「ならばこの瞬間より、己と貴様は敵ということになるがそれでもいいのか?」
ギーラッハの手が剣に伸びる。
「望むところよ!!」
せりなも手に持った棒を構える、その様子を見てギーラッハは困惑を禁じえない。
(この娘、己が恐ろしくは無いのか?それとも何も考えていないだけか?)
ギーラッハは不思議と目の前の娘に興味を覚え始めていた。
「やめろ…その得物をそれ以上振りかざせば、己は貴様を斬らねばならなくなる」
ギーラッハの瞳に気合が篭る。
だが、その眼光に威圧されながらもせりなはさらに構えた腕に力を込めたのだった。
(日中でしかも手加減しているとはいえ、己が眼力に抵抗するとは…)
どれくらいの時間が経過しただろう、やがて。
「まぶしいな…」
そう一言呟くと、ギーラッハはそのまませりなに背を向け、その場から立ち去って行く。
その背中にせりなの罵声が飛んだ。
「ちょっと!そっちから喧嘩売って逃げるの!!」
振り向くことなくギーラッハは応える。
「警告はした、おそらく己と貴様では戦いにもなるまい、いかに務めとは言え決まりきった勝負事など
己には下らぬ児戯よ」
「だからって放っておいてもいいってこと!!激しくむかつくわね!」
その言葉を聞いてギーラッハが振り帰る、そしてその瞳がさらに鋭く光った。
その光を見た瞬間、せりなの身体から力が失われていく…。
(これが…実力の差って事!?)
先程のものとは比べ物にならぬほどのプレッシャー、まさに歴戦の戦士のみが持ちうる必殺の威圧だった。
「それでも貴様がもし抵抗する事を選ぶならば己も全力でお相手しよう、だが考え無しに命は無駄にするな」
ギーラッハの腰の剣がかちゃりと冷たく鳴る。
せりなは、ぱくぱくと金魚のように口を動かす事しか出来なかった。
「また会ったときは容赦せん、その時、いやそれまでに討たれるようであれば、それは貴様がそこまでの
器だったというだけだ…己を失望させるな」
未だに金魚状態のせりなを置いて、ギーラッハは悠然と立ち去るのであった。
それから、せりなは珠姫の墓の前で座りこみ、何かを考えていた、いや考えるふりをしていた。
そうだ、考えるまでも無いことではないのか。
少しでも多くの人を助ける、そして皆で生きて帰る。
誰かの死体を見るくらいなら、誰かを守って自分が死体になる方がまだマシだと思った。
例え自分が生きて帰れなくても構わない。
(みんなごめん、もう会えないかもしれない…でも、それでも他のみんなを助けたいの!)
こうしてせりなは立ちあがると、森の出口を探して力強く歩き始めるのだった。
【春日せりな@あしたの雪之丞(エルフ) 招 状態 ○ 所持品なし】
【ギーラッハ@吸血殲鬼ヴェドゴニア(ニトロプラス) 鬼 状態 ○ 所持品ビルドルヴ・フォーク(大剣)】
701 :
生ける屍:04/01/26 03:30 ID:yq3DfSu3
「私は…生きていようが死んでいようが…同じなのだ・・」
低く、重い声で男は言った。
ボロボロに擦り切れた衣服、微かに血の跡がこびり付いたヘルメット。
弾を全て使いきり、銃剣と化した38式歩兵銃。
誰が見ても、ついさっきまで苛烈な戦場にいたとしか思えない格好をした男だった。
男の名は、長崎旗男。
魂を戦場に置き忘れた、生ける屍。
静かな森の中
辺りには、言葉を紡ぐ長崎自身と、そしてもう一人。
「戦友(とも)は皆死んだ―殺された・・・私だけが生き残った・・・・幾多の屍を踏み越えて帰った故郷は焼け野原になっていた―ウィミィの空襲によって・・・・家族も皆死んだ・・帰るべき家も灰になった・・」
そこで言葉を区切り、長崎は虚ろな瞳を目の前にいる青年に向けた。
「私には何も無い・・この世界に飛ばされるまで私は森の奥にいた・・静かに、朽ち果てるために・・・今もまた私は森の中に居る・・何も、変わらない・・・」
「・・・」
青年は、何も言えなかった。
男の語る内容の凄まじさに圧倒されたからではない。
長崎の語る内容が、彼にとって余りにもリアルだったからだ。
彼は、学生服の上に妙に古風な趣の上着を纏い、左手に無骨な、それだけに殺しの道具としては洗練された一振りの剣を携えていた。
名は、高嶺悠人。
異世界に突然召還され、ラキオスと呼ばれる王国において、義妹、佳織を人質に戦を強制され、今日に至るまで彼を助けるスピリットとともに戦場を乗り越えている。
そして、悠人がこの世界に飛ばされる数瞬前の過去で、彼はかつて元の世界で共に日々を過ごしてきた二人の親友と巡り合っていた。
敵同士として
702 :
生ける屍:04/01/26 03:32 ID:yq3DfSu3
「(今日子・・光陰・・)」
彼は義妹の為に、幾人(スピリットはあの世界において人とは見なされてはいないが、彼にとっては同じ事だ)もの敵を己に与えられた、『求め』と呼ばれる神剣を振るい、屠ってきた。
そのことは、彼にとって苦痛だったが、妹の為と割り切る事ができた。
今となってはその妹も他国に奪われてしまっている。
「(もし・・あの二人を殺して・・・そして、佳織が死んでしまったら・・?)」
俺も、ああなるのだろうか?
「違う!」
我知らず悠人は叫んでいた。
「俺は絶対に今日子も光陰も殺さない!佳織だって助けて見せる!みんなで生きて元の世界に帰るんだ――!」
「ふん、まるで悲鳴だな」
不機嫌そうな声とそっくりの表情で、男が突然草むらから姿を現した。
「誰だ――!?」
反射的に身を翻し、神剣を構える悠人の姿を冷めた目で見ながら男は言った。
「慌てるな、別に危害を加えるつもりは無い」
その気があれば既に貴様は三度滅している、誰にも聞えないように微かな声で呟いた後、悠人が警戒しつつも構えを解いたのを確認してから軽やかな動作で二人の前まで移動する。
黒い高級そうなスーツに身を包んだその姿は一見一流企業に勤めるサラリーマンにも見えなくは無い。
男は悠人を値踏みするかのようにじろじろ見ている。
長崎旗男には一瞥もくれない。
先ほどの会話を聞いていたのかも知れない。
どちらにせよ旗男は変わらず生ける屍だ。
703 :
生ける屍:
「俺の名は飯島。とりあえず状況はお前達と同じだ」
そう短く言ってから、飯島と名乗る男は辺りを注意深く見渡して、わずかに舌打ちした。
「話は後だ、とにかく一度場所を変えるぞ」
「おい、いきなりなにを・・・」
「お前はまだ気が付いていないのか?」
露骨な嘲笑を隠そうともせず飯島は言った。
「ここは戦場だ。俺はここに来るまで幾度も殺し合いをの跡に遭遇した。そして今、貴様の大声を聞いた何物かがここに接近している。遭遇したくはないだろう?」
悠人は突然現われた男の言葉に顔をこわばらせる。
この世界に分けもわからず落されて、直ぐに長崎と会った。
お互いが全く別の世界にいたことを確認し合い
ならば元の世界に帰る為に協力しようと提案した所、長崎が徐に重い過去を語り始めたのだ。
未だ彼はこの世界で何が起きているかを全く知らなかった。