柊雛乃だがお前らに一言いいたい事がある

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575日記
 ああまったく、掃除機に生まれたばかりに、悲しんでいる人を慰める術もなく損ばかりだ、と私が不公平な世の中に嘆いておりますと、別室へ行っていたらしい空也さんがなにか手に戻っていらしました。
 あれはなにかしら? そう思っていると、空也さんはまだ鼻をひくひくと鳴らしながら、私のホースを持って接合部にくっつけます。
 ですが、どうやら女の体を知らない様子の空也さん、ホースを元通りにする方法はわからないようです。
 そう私が思っていると、空也さんは、さきほど手に持っていた箱からなにかを取り出して、ペタペタと接合部に貼り付けます。
 それは絆創膏でした。
 空也さんは「痛いよね? 痛いよね? ごめんん……」と、少しも悪くないのに私に詫びながら、絆創膏を貼ります。
 そのときの私の感動といったら、一言では言い表せません。
 ていうかそろそろ素の口調に戻りますけど、ほんと泣きそうでした。もし瞳があったら、私もワンワン泣いてしまったと思います。
 だって、思わないじゃないですか。一山いくらの廉価品、バーゲン間近な叩き売りの私が、こんなよくしてもらえるなんて、思わない。ふつー思わない。
 あのときのことを思い出すと、胸が迫って、私はいっつも心のなかで泣いてしまいます。
 私にそうして「手当て」してる間も、空也さんったら、私の体をなでて「だいじょうぶ? だいじょうぶ?」と繰り返し気遣ってくれるんです。
 あんな気持ち、わかってもらえるでしょうか。
 あのとき私、決意したんです。私は掃除機だけど、この人を守ろう、一生かけて見守ろうって。
 掃除機だからなんにもできないけど、がんばってこの人の役にたとうって思ったんです。

 それからまた何年かして、沖縄へ修行に出された空也さんが、戻ってくることになりました。
 声は出なかったけど、思わず「キャー!」なんて叫んじゃいました。やったやった!
 昔も可愛らしかったけど、きっとものすごくかっこよくて優しい人になってるに違いないです。
 ああー、楽しみー! ほんと楽しみ。今から待ちきれない気分です。