SS投稿スレッド@エロネギ板 #6

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 教室。
「え? 今時の女の娘が好きそうなもの? さくっち、誰かに貢ぐの?」
「こらこら。星崎よ。嫌らしい言い方するもんじゃありません。普段お世話になっている隣人
 に、常日頃の恩返しをしたいだけです。かの人もおっしゃっているでしょう。汝の隣人を
 愛しなさいと。それこそが、円満に日常生活を送るための心の潤滑油となるのです」
「あー。つまり。隣に住む女の娘の誕生日にプレゼントしたいけど、何を贈ったらいいか判らず
 って? 普段女性に縁のない寂しい坊やとしては、是非とも意見を伺いたい、と」
「ち、ちちち、違いますっ。俗世とはかけ離れた生活を送っている高貴な人間として、ここは
 庶民の忌憚ない意見を尊重しようという、この紳士の配慮が何故判らんっ。八重樫よ、おのれ
 は先ず、慎みという言葉を覚えなさい。心の真と書いて、慎み。ああ、なんて、素晴らしき
 かな日本語」
「ふーん。普段お世話になってる級友の誕生日は祝えなくても、お隣さんの誕生日は祝える
 んだ?」
「これ。女。誤解を招くような発言をするでない。そもそも、おまえの誕生日の時には、知り
 合ってすらいなかったはず……っていうか、星崎の誕生日いつよ?」
「新学期の前の日。さくっちとクレープ屋さんの前で会ったよ?」
「あのな。初対面の人間に誕生日プレゼントをあげる生き物が何処にいる? 寧ろ怖いわっ」
「や、去年、私も祝ってもらった記憶ないけど?」
「はっはっは。寝言いっちゃいけませんよ。八重樫さん。いくら奇妙奇天烈馬鹿二人の異名を
 とる、この桜井舞人でも、同性の誕生日を祝うほど酔狂じゃなっ――はぐぅっ!」
「凄い。八重ちゃん。今、手の動き見えなかったよ」
「舞人。自業自得だな……」
123(2/7):03/07/15 19:08 ID:iO9xCaor
「ぐ……。もういい。使えない女どもには用はない。やはり、ここは相楽先生の出番ですな。
 いよっ、桜坂学園を代表するスケコマシっ。憎いよっ、色情狂っ!」
「おまえ……。人に訊くつもりないだろ?」
「いやいや。その女性に向ける情よ……もとい、情『熱』だけは、ある意味尊敬に値するぞ。
 俺には、とても見習えない」
「……まあ、いいや。で、女性の喜びそうなものだっけ? そうだなあ、一般論で言うと、
 質屋で高値で取引されるものなんかは、喜ぶ人は多いぞ」
「うわっ。やめてくれ。そんな恐ろしく生々しい情報は聞きたくない。第一、青葉ちゃんは、
 そんな娘じゃない……と、思う、……かな?」
「……」「……」
「な、なんだね、きみたち、その眼は?」
「や、べつにー」
「ねぇ」
「なんか、死ぬほど腹立たしいんですが?」
「ま、それはともかく。女性に縁のない男って、女性に対して極度に幻想を抱いているか、あの
 葡萄は酸っぱいに違いないっていう、両極端なタイプに分かれやすいから。舞人って、一見、
 後者っぽいけど、一旦、惚れた女性にはとことんのめり込みそうな雰囲気漂ってるし。今の
 うちから、ある種の警鐘を込めて、な」
「ばっ、根本的に前提部分がおかしいだろうっ! それに幻想のゲの字も抱いてないっつうの。
 星崎が、いろんな男に同じブランド品貢がせて、一つだけ使ってあとは質屋に売っぱらって
 小銭稼いでても全然驚かないし。八重樫が『や、私、寧ろ商品券でくれると嬉しいんだけど?
 あ、現金でも全然いいし。ちなみに愛情のバロメータとして受け取るから』とかほざいて
 ても、逆に納得するっていうのっ!」
124(3/7):03/07/15 19:08 ID:iO9xCaor
「あー、ひっどーいっ! 私、そもそも、男の子にプレゼント貰ったことなんてないもん」
「ま、私は敢えて否定はしないけどね」
「え? 星崎さん、ヤローどもにプレゼント貰ったことないの?」
「私、八重ちゃんみたいに男の子にもてないもん」
「…………」
「おい、こら。話題が掏り替わりまくってますよ? っていうか、訊いた俺が馬鹿ですか? 
 阿保ですか? ミジンコですか? ゾウリムシってわけですか? そうだよ。やっぱりもっと
 本人と外見年齢が近い人に訊くべきだったんだ」
「ああ。うそうそ。いじけないでよ、さくっち。マジレスさせてもらうとね、女の娘だったら、
 クレープとか喜ぶよ? きっと」
「あー。そういえば。『機甲戦奴カーストン』の新しいDVDが出たんだっけ?」
「……おのれは、なにが言いたい、八重樫?」
「まーまー。落ち着けって。女性といえば、何はさて置き、お洒落でしょ。お洒落といえば服。
 しかも、お洒落の真髄といえば、普段目に入らない部分に気を使うことだろ? やっぱ、
 ベージュとかじゃ味気ないし」
「……おまえも、にやけ顔でなにが言いたい、山彦よ? っていうか、もういいです。勘弁して
 ください。ほんと」
125(4/7):03/07/15 19:09 ID:vr3ljRSI
 図書室。
「という訳で、貴方だけが頼りです。里見先輩」
「え、えっと。なにが、という訳なのか、よく判らないけど。うん、後輩が困ってるんだもん。
 できるだけの協力はさせてもらうよ」
「へぇー。あんたが、女の娘にプレゼント、ねぇ。明日、雹でも降らなきゃいいけど」
「あ。これは、すみません。気の回らない人間で。ひかり姐さんの古傷に触れちゃいました? 
 男 か ら の プ レ ゼ ン ト」
「ぐっ……。あんた、挑発だけは一人前ね。的外れなのに、恐ろしく腹が立つわね」
「まぁまぁ。ひかり。桜井くんが、折角相談しに来てくれたんだし。茶化さないで応えてあげ
 ようよ。えっと、年下の女の娘なんだよね。うーん。ルイス・キャロルなんてどうかな? 
 普段本を読む娘だったら、もうとっくに読んじゃってるかもしれないけど?」
「えー。あの、ロリ……ゴホッ、じゃなくて、童話作家の? それは、寧ろ、里見先輩に合う
 ような。先輩がそのおっさんと同時代に生きていたら、書かれた作品は間違いなく『不思議
 の国のこだま』でしたね」
「え? やだ。もう、桜井くん、からかわないでよー」
「いえいえ、間違いなく――って、いたたた、なんですか、姐さん?」
「(……桜井、なんで、あんたにそんな知識があるのよ?)」
「(……なにをおっしゃいます。メガネ部長。本の虫と呼ばれた桜井舞人ですよ? 決して、
 この間読んだ『知って得せず! なぜなに雑学知識1500』に載ってたなんてことない
 ですよ?)」
「(……なるほど。そんなところね。でも、その逸話は俗説に近いものよ。それに、ドジスンの
 本業は、数学者。中途半端な知識をひけらかさないことね。まあ、純粋なあの娘は、あんた
 の言葉の裏の意味に気づいてないようだけど)」
「ひかり?」
「ううん。なんでもないわ。あ、それより、私のお勧めを挙げとくなら。そうねえ……」
「あ。気持ちは非常にありがたいですが、姐さん御愛用の青龍刀なら、流石に受け取れませ
 んよ? 畏れ多くて、とてもとても。ねえ? 姐さんの故郷と違って、ここ法治国家ですし」
「…………#」
126(5/7):03/07/15 19:09 ID:vr3ljRSI
 放課後。
「せんぱい、せんぱい。水臭いじゃないですかもう。青葉ちゃんへのプレゼントで悩んでいら
 したのなら、どうしてこの雪村に、いの一番に相談してくれないんですか? 困ったときの
 雪村小町。貴方のお傍に雪村小町。おはようからおやすみまで。雪村小町、雪村小町にどうぞ
 清き一票を――って、ああっ、違います違います。もう、せんぱい、か弱き乙女になんてこと
 言わせるんですか。駄目ですよ。上手いこと乗せて雪村を選挙に出馬させようとしても。
 そして、行く行くは自分が一国の宰相にって、目論んでるわけですね。そんな。そのとき、
 政府専用機から降りるタラップの上、民衆に熱く迎えられるせんぱいの横でにこやかに微笑み
 立っているのは、おまえしかいないんだ――なんて熱く将来像を語られたら、雪村、一生
 せんぱいに憑いて行くしかなくなっちゃうじゃないですか。あれ? ひょっとしてそれって
 夫婦よりも固く結ばれた絆ですか? きゃ。いけませんいけません。まだ早すぎますよ。
 先ずは、隗より始めよ。清く正しく交換日記から。あ、今時の若者さんたちは、メール交換
 からですよね。というわけで、はいこれ、雪村のメールアドレスです。ああ、せんぱいの
 アドレスは、既にしら……白雪にように美しい少女が風の便りで教えてくれましたので。
 ご心配なく」
「……あー。取敢えず、おまえのボケにはツッコミなしの沙汰としておくとして。何故、
 おまえがそれを知っている?」
「え? せんぱいと雪村の絆が、一週間後の御飯粒よりも固いってことですか?」
「…………」
「きゃうんっ! いたたたた。すみませんすみません。そうですよね。せんぱいが青葉ちゃん
 へのプレゼントで悩んでいることですよね。はぅ」
127(6/7):03/07/15 19:10 ID:vr3ljRSI
「で?」
「もう、いやですね、せんぱい。せんぱいの顔にしっかり書いてあるじゃないですか。この
 雪村を侮ってもらっては困りますよ。青葉ちゃんになに上げたらいのか判らなくて、クラス
 メートの相談するも、これだから女性に縁のない坊やは、って鼻で笑われ。でこぼこコンビの
 先輩方に相談したら、親身になってくれるも、それ自分の誕生日に贈ったらどうすか? 
 つーか、密かに狙って言ってる? 的な応えしか返ってこなかった、っていう顔してますよ?
 ええ、雪村には判ります」
「…………なあ。おまえ、今日の休み時間何処にいた? 勿論、全部の」
「はい? 変なこと訊きますね? 雪村、普段は慎ましい人間ですので、あんまり出歩いたり
 せず、ずっと教室にいますけど? 慎ましい。いい言葉ですよね。心に真と書いて慎ましい。
 日本語って素晴らしいですよね。そう思いません? せんぱい」
「…………」
「そんなことよりです。せんぱい。僭越ながら、雪村のお勧めを述べさせていただくとですね。
 雪村、先日美味しい紅茶を入手できるお店を発見してしまいまして。これが、もう、青葉
 ちゃんのイメージにぴったり。あ。なんでしたら、雪村がお供させていただきますので。
 え? おまえには苦労かける? そんな。それは言わない約束ですよ、おっとさん。さあ。
 善は急げといいますし、早速参りましょう。あ。来年の雪村の誕生日のことなら気になさら
 ないでください。捺印の一つでもいただければ、雪村それだけで幸せですので」
「……きょ、今日は、な、なんだ、その。具合悪そうだな、雪村。……アンテナの角度とか」
128(7/7):03/07/15 19:10 ID:fG1TgEUs
 明くる夜。
「おう。青葉。やけにご機嫌じゃないか? 何か良いことあったんか?」
「えへへ。うん。今日、おにいちゃんたちに誕生日祝ってもらっちゃった。おまけにプレゼント
 までもらっちゃったんだよ」
「ほー。あの兄ちゃんも粋なことするねぇ。で、なに貰ったんだ?」
「うん。これ。あのね。なんとかカーストン? っていうアニメに登場する、『不思議の国の
 アリス』をこよなく愛し、青龍刀を振り回すヒロインがつけてる、クレープを象った
 アクセサリなんだって。よく判らないけど、すごく可愛いよ」
「あん? よく判らんが、あの兄ちゃんらしいといえば、らしいな。でそっちは?」
「あ。うん。こっちもおにいちゃんから貰ったんだけど。『恐怖怪人ストオカア』が、お勧めの
 紅茶だって」
「なんだそりゃ? それも、その何とかストンにでてくるのか?」
「うーん。そうなのかな? あ、おねえちゃんから貰ったティーポットがあるから、それで
 お父さんにも淹れてあげるね」
「おれぁ、どっちかっつうと、そういうハイカラなのより、日本茶のが好きなんだけどな」
「あはは。もう、お父さん、好き嫌いしたら駄目だよー」




そんな話。