バトル・ロワイアル 【今度は本気】 第5部

このエントリーをはてなブックマークに追加
1名無しさん@初回限定
己の願いを叶える為に、邪神の発案した殺人ゲームの運営を引き受けた
5名の男女。
様々な世界から知らず知らずの内に召喚され、最後の1人になるまで
殺し合いを強要される殺人ゲームに無理やり参加させられた40人の
男女。
この状況の中で、ある者はゲームに乗り、ある者は主催者を倒しゲームを
覆そうと考える。そのいずれでもない道をとろうとした者もいた。
だが、時間の経過と共に1人、また1人とゲームの犠牲者は増えていく。
殺人ゲームから脱出する手立ても見つかったことから主催者側も動き始め
そして主催者と参加者の戦いも各地で行われていった。
殺人ゲーム開始から30時間余りが経過した現在の参加者数は残り11人。
物語は終盤へと向かおうとしている……
2名無しさん@初回限定:03/05/20 18:19 ID:vLIhYWr7
◆参加者(○=生存 ×=死亡)

○ 01:ユリーシャ  DARCROWS@アリスソフト
○ 02:ランス  ランス1〜5D、鬼畜王ランス@アリスソフト
× 03:伊頭遺作  遺作@エルフ
× 04:伊頭臭作  臭作@エルフ
× 05:伊頭鬼作  鬼作@エルフ
× 06:タイガージョー  OnlyYou、OnlyYou リ・クルス@アリスソフト  
× 07:堂島薫  果てしなく青い、この空の下で・・・。@TOPCAT
○ 08:高町恭也  とらいあんぐるハート3 SweetsongForever@ivory
× 09:グレン  Fifth@RUNE
× 10:貴神雷贈  大悪司@アリスソフト
× 11:エーリヒ・フォン・マンシュタイン  ドイツ軍
○ 12:魔窟堂野武彦  ぷろすちゅーでんとGOOD@アリスソフト  
○ 13:海原琢磨呂  野々村病院の人々@エルフ
× 14:アズライト  デアボリカ@アリスソフト  
× 15:高原美奈子  THEガッツ!1〜4@オーサリングヘヴン  
○ 16:朽木双葉  グリーン・グリーン@GROOVER
× 17:神条真人  最後に奏でる狂想曲@たっちー
× 18:星川翼  夜が来る!大悪司@アリスソフト  
× 19:松倉藍(獣覚醒Ver)  果てしなく青い、この空の下で・・・。@TOPCAT
× 20:勝沼紳一  悪夢、絶望@StudioMebius



3名無しさん@初回限定:03/05/20 18:20 ID:vLIhYWr7
◆参加者(○=生存 ×=死亡)

× 21:柏木千鶴  痕@Leaf
× 22:紫堂神楽  神語@EuphonyProduction
○ 23:アイン  ファントム 〜Phantom of Inferno〜@nitro+
× 24:なみ  ドリル少女 スパイラル・なみ@Evolution
× 25:涼宮遙  君が望む永遠@age
× 26:グレン・コリンズ  EDEN1〜4@フォレスター
× 27:常葉愛  ぶるまー2000@LiarSoft
○ 28:しおり  はじめてのおるすばん@ZERO
× 29:さおり  はじめてのおるすばん@ZERO
× 30:木ノ下泰男  Piaキャロットへようこそ@カクテルソフト
× 31:篠原秋穂  五月倶楽部@覇王
× 32:法条まりな  EVE 〜burst error〜@シーズウェア  
× 33:クレア・バートン  殻の中の小鳥・雛鳥の囀@STUDiO B-ROOM
× 34:アリスメンディ  ローデビル!@ブラックライト
× 35:広田寛  家族計画@D.O.  
○ 36:月夜御名沙霧  Rumble〜バンカラ夜叉姫〜@ペンギンワークス
× 37:猪乃健  Rumble〜バンカラ夜叉姫〜@ペンギンワークス
○ 38:広場まひる  ねがぽじ@Active
× 39:シャロン  WordsWorth@エルフ
○ 40:仁村知佳  とらいあんぐるハート2@ivory

4名無しさん@初回限定:03/05/20 18:20 ID:vLIhYWr7
◆運営側(○=生存 ×=死亡)

○ 主催者:ザドゥ  狂拳伝説クレイジーナックル&2@ZyX
○ 刺客1:素敵医師  大悪司@アリスソフト  
○ 刺客2:カモミール・芹沢  行殺? 新選組@LiarSoft
○ 刺客3:椎名智機 將姫@シーズウェア
○ 監察官:御陵透子  sense off@otherwise

5名無しさん@初回限定:03/05/20 18:41 ID:azbqouAw
hosyu
6名無しさん@初回限定:03/05/20 19:01 ID:iTe4K9r6
前スレドコー?
7名無しさん@初回限定:03/05/20 19:32 ID:FVyKzUXI
前スレ
バトル・ロワイアル 【今度は本気】 第4部
http://www2.bbspink.com/erog/kako/1044/10442/1044212918.html



8名無しさん@初回限定:03/05/20 19:48 ID:Z8csWi07
上げ
9あぼーん:あぼーん
あぼーん
10名無しさん@初回限定:03/05/20 21:34 ID:Q7LH4aiN
登場キャラクター紹介(編集サイトの文章を引用、一部改稿)

【参加者】

▲ 01:ユリーシャ  DARCROWS@アリスソフト  
   カルネア王国第2王女・無垢・臆病・その一面で物事の本質を見抜く力がある


▲ 02:ランス ランス1〜5D、鬼畜王ランス@アリスソフト  
   超強い剣士・鬼畜と言うよりは傍若無人な暴れん坊。
   無類の女好きだが、その点についてはある意味スジが通っていたりする。


▲ 03:伊頭遺作 遺作@エルフ
   伊頭三兄弟の長男・三人の中で最も残酷にして非道・屋内戦を得意とする
   白兵戦能力も多少はある


▲ 04:伊頭臭作 臭作@エルフ
   伊頭三兄弟の次男・兄と比べ、どことなく間が抜けている・盗撮専門
   家事、炊事が得意


▲ 05:伊頭鬼作 鬼作@エルフ
   伊頭三兄弟の三男・三人中、最も世渡りが上手い・鬼畜度は甘め
   独自の美学を持っている


▲ 06:タイガージョー OnlyYou、OnlyYou リ・クルス@アリスソフト  
   閃真流人応派とう拳法の使い手。虎の覆面を被った漢

11名無しさん@初回限定:03/05/20 21:41 ID:Q7LH4aiN
▲ 07:堂島薫 果てしない青い、この空の下で・・・。@TOPCAT
   絵に描いたようなヤクザ議員。ヒヒ、と笑う。弱いものいじめと金が大好き。
   弱者は虐げれられる為に存在すると思っているが、金の成る木、格上の者には
媚びへつらうことも出来る。
   ヤクザまがいのボディーガードを駆使し、地上げ等で莫大な財を築く。殺人す
ら何軒も起こしているらしい。
   名言:「ヒヒ……女は調味料のようなものだ。適度に楽しみ、飽きたら捨て
る」
   
<書記官>
※ロワ内では幼児退行している。児童の心に大人の理解力と判断力

12名無しさん@初回限定:03/05/20 21:47 ID:ksMOjPax
▲ 08:高町恭也 とらいあんぐるハート3 SweetsongForever@ivory
   小太刀二刀・御神流の使い手、師範代でもある。
   無愛想で口数が少ないが意外と優しく、正義感もある青年。一度、膝を砕いて
いる為長時間の戦闘はできない。

▲ 09:グレン Fifth@RUNE
   いわゆる無個性、無口主人公。
   著名な魔術師で、伝説の「天魔」なる存在の捜索に前半生をかけ、発見後はそ
の育成に全てをそそぐ。学者肌であり、あらゆる方面の知識に精通している模様。
   また、重度のロリ。天魔の娘に「お父様」と呼ばせといて、やることはやる。
やりまくる。それはもう、いろいろ。
   
<書記官>
グレンは、ゲームでは青瓢箪でした。チンピラ4人組みにボコられる程度の戦
力です。イメージ的には広く浅くの賢者で、メラ・ヒャド・ホイミは唱えれても、メ

ミ・ヒャダイン・ベホイミは唱えられないようなレベルだと思います。
   あと、魔法は精霊魔法っぽいです。4大元素(地水火風)の力を借りたり組み
合わせたりして魔法使っていたので。

13名無しさん@初回限定:03/05/20 21:51 ID:ksMOjPax
▲ 10:貴神雷贈 大悪司@アリスソフト  
   高級住宅街在住のタヌキオヤジ・趣味は奴隷メイドいじめと調教。
   金で全ての物事を解決するタイプ。変態。福耳。

▲ 11:エーリヒ・フォン・マンシュタイン ドイツ軍
   ドイツ軍の上級大将で実在の人物。第二次大戦初期の電撃戦の指揮を執った。
   ヒトラーとの意見の違いから罷免されている。ちなみに第二次大戦当時のマン
シュタインは六十過ぎのじじいです。エロゲのキャラではないのに何故か召喚され参
加。

▲ 12:魔窟堂野武彦 ぷろすちゅーでんとGOOD@アリスソフト  
   スーパーオタク爺さん・自分の背景を気合で変える・加速装置装備
   熱い涙と漢の拳が武器・よく叫ぶ。オタクの幅も広い。
   原作エピソード終了後に召喚される。

   長年の修行の成果で、背景に無数の赤バラを背負うことが出来る。<書記官>
 
▲ 13:海原琢磨呂 野々村病院の人々@エルフ
   年齢32歳の悪名高き探偵。いわゆるエルフ系主人公。
   明るく、ノー天気でスケベという、軽い性格。
   原作終了後に召喚された様である
14名無しさん@初回限定:03/05/20 22:09 ID:BjJhit/M
▲ 14:アズライト デアボリカ@アリスソフト  
   不死身の一族、ロードデアボリカの裏切り者・温厚な美青年
   滅多に全力を出すことはないが、一瞬で街一つを消滅させる事が可能

   ※首や胴を切断されると死ぬとのこと。
   ※基本性格はジゼル編突入寸前とのこと。<書記官>


▲ 15:高原美奈子 THEガッツ!1〜4@オーサリングヘヴン  
   猫柳建設に務める、マッシヴな現場主任。そのつるはし捌きは社内一。
   筋骨隆々。男性的な容貌と口調。姉御肌で涙もろく、義に厚いが思慮は足りな
い。底抜けの性欲を持ち、仕事のあと、作業員たちとシャワールームで4P5Pは
当たり前。 歴代の主人公たちはゲーム開始5分以内で強チンされている。
   名言:「せっかくたったち○ぽ、使わないと勿体ねえもんな」「喉が渇いた。
ザーメン飲ませろ」<書記官>

15名無しさん@初回限定:03/05/20 22:10 ID:BjJhit/M
▲ 16:朽木双葉 グリーン・グリーン@GROOVER
   男勝りなヒロイン。ナイムネ。陰明師の家系で植物を操る能力を持つ。式神が
得意。悪態、反抗的、素直じゃない、一番じゃないと嫌だ、ってところは(エヴァの
アスカに)近い。
   他の特徴としてはリーダーシップがあるとか、花言葉に想いを託すとか、
   彼氏が欲しくてたまらないけど、男とどう向き合っていいのかわからないと
か。見下した半眼と言動 → 相手よりも精神的に優位に立とうとする姿勢という
のも彼女のデフォルトスタイル

▲ 17:神条真人 最後に奏でる狂想曲@たっちー
   ふだんはおとなしい好青年。一見頼りなげだが、実は勉強・運動ともにトップ
クラス。空手も柔道もこなす。過去に妹を失ってしまったのをきっかけに心が壊れて
おり、優等生の仮面の裏には狂気が秘められている。そしていったん敵対視した相手
には、たとえ親しい人でも一切容赦ない拷問をする。狩りで追いつめてから捕獲監禁
するのが趣味にも見える。
原作終了後のある分岐の後に召喚された。ちなみに原作での一人称は「僕」。


16名無しさん@初回限定:03/05/20 22:14 ID:BjJhit/M
▲ 18:星川翼 夜が来る!、大悪司@アリスソフト  
   『目貫』という物質の破砕点を見ぬく能力を持つ。口調は軽いがナイスガイ。
   自分のことを王子様と呼ぶ。

▲ 19:松倉藍(獣覚醒Ver) 果てしない青い、この空の下で…@TOPCAT
   普段は語尾に「にょ」とか「だょ」とかつけるロリキャラ。
人なつっこくて猫が好き。
   最後はもののけに憑かれて、悪事を尽くしていた堂島の屋敷に
乗り込み、一人で屋敷の全員を虐殺する。
   これが大虐殺モードで、もののけ姫のラストみたいな獣を従えている。
   藍は数年前から、「オド」封印の番人
「イズ=ホゥトリャ(ケモノ)」に体と記憶を乗っ取られている。
   ケモノは記憶が混濁しており、自らを藍だと思い込んでいる。
   ラストではケモノの記憶が戻り、オド復活を目論み、
   ケモノの本体だった絵馬を焼き討ちした一味
(この中心人物が堂島)を虐殺したのち、
 藍として過ごした日々の記憶をリアル藍に残し、壁画の中に帰っていく。
   ロワ内では藍ではなく、藍として過ごした数年の記憶を持った、
ケモノだと自認しているケモノ。
   <書記官>
藍は本来なら新月の晩にしか獣化できないが、夜ならOKと言うことにもし
た。
 藍 → 引っ込み思案、泣き虫、淋しがり屋。体力知力ともに
平均より劣る。
 獣 → わがまま、甘えんぼ、淋しがり屋。体力はやや高め、
知力は天才的。
藍の中にいる獣は、「妖」族の「イズ=ホゥトリャ」という神様。
17名無しさん@初回限定:03/05/20 22:20 ID:BjJhit/M

▲ 20:勝沼紳一 悪夢、絶望@StudioMebius
   勝沼財閥の当主。
   「悪夢」では部下の古手川、木戸、直人を使って修学旅行中の女子高生をバス
ジャック、監禁しレイプしまくった。
   「絶望」では「悪夢」のバスジャックの件で死刑となり幽霊となった。
   この時も幽霊となった部下を使ったり他の人間の体に憑依したりして女を襲い
まくっていた。「絶望」では幽霊になっていたのでたちが悪い。

   ※ロワ内では死刑前の模様。<書記官>

▲ 21:柏木千鶴 痕@Leaf
   前世名リズエル・旅館「鶴来屋」社長にして「鬼」の血を引く
柏木一族の一人。
 壊滅的な味音痴・鬼の血を目覚めさせる事で高い戦闘能力を得る。
通称偽善者。普段はおっとりしているが怒ると恐い・早とちりする事多し。

▲ 22:紫堂神楽 神語@EuphonyProduction
   「神語」のヒロイン光の義理の妹。性格はおとなしいが、
芯はしっかりしている。
   正義感が強くやや潔癖。外見も性格どおりにやや儚げだが、
実は武術にも秀でたりする。
   「天津神」族の「大宮能売神」と言う神様。
(椿大社の第2柱の力を宿す神人。
   島の中でも治癒術(ベホマのようなもの)を使える。
ベホマの制限は、「負傷全快、再生不可、失血の補充不可」
   「種の異なる人外は狩る」というスタンスは原作準拠。
天津神の本能みたいなもの。ちなみに後天性の神人。
   原作終了後に召喚されたようである。


18名無しさん@初回限定:03/05/20 22:25 ID:BjJhit/M
▲ 23:アイン ファントム 〜Phantom of Inferno〜@nitro+
   白兵、狙撃暗殺術を叩き込まれた記憶喪失の少女。
特にナイフ格闘は超一流。普通の少女に偽装も可能。
殺意を持って向かってくる相手には容赦無いが、
無抵抗の相手を殺す事には迷いが生じる。原作終了後に召喚される。

▲ 24:なみ ドリル少女 スパイラル・なみ@Evolution
   元は汎用メイドロボだったが、いろいろあって右腕にドリルを装着し、
   ロボ同士の賭博バトル(DOLL・FIGHT)に身を投じることに。
   身体能力は人間より遥かに高いので本編では制約がある。
   性格は場合によっては温和だったり熱血体育会系だったりする。
   口調は丁寧。物腰は柔らか。
   ご主人様ぞっこんLOVEで、ご主人様さえいれば
他は何も要らないというスタンス。

▲ 25:涼宮遙 君が望む永遠@age
   初登場時は高校3年生の、ちょっと気弱で可愛らしい、
お姫様タイプのヒロイン。
  最初は好きな人を前にすると、あがってしゃべることもできなかった。
  芯は強いが、涙もろくて、ドジで、ほっとけないタイプ。
  原作第二部で3年間の昏睡から目覚めて余り日がたっていないときに
  召喚される。子供向けの童話を読むのが好きで、将来の夢は童話作家。

19名無しさん@初回限定:03/05/20 22:29 ID:BjJhit/M
▲ 26:グレン・コリンズ EDEN1〜4@フォレスター
   月の地質調査チームに医師として参加した。 
  その後、なんだかんだあって月面遺跡でエイリアンと融合して触手化したり、
月基地で分身したりした。性格は一言でいうと天上天下唯我独尊のキ○ガイ。
   原作では地球帰還用ロケットを自作していたのでそこそこ頭はいい。
   戦局を左右するとか、バランス破壊キャラとか言われているグレン様ですが、
実はメチャクチャ弱いです。
   原作では銃やドリルや警棒でボコボコにされてあっさり殺されていました。
   また、触手化や分身は故意ではなく偶発的な物だったので、
能力制限する必要もなかった。

   一般人≦グレン様<武器を持った一般人

▲ 27:常葉愛 ぶるまー2000@LiarSoft
   月で発見された「神のブルマー」を履く少女・大富豪令嬢にして天才・酒豪。
   何事にもあっけらかんとした性格で強いが、心臓に持病を持ち、20までの命。
   原作終了時からさらに時間がたった後に召喚されたために体力が
低下している。神のブルマーは没収されなかった。
20名無しさん@初回限定:03/05/20 22:31 ID:BjJhit/M
▲ 28:観月しおり はじめてのおるすばん@ZERO
   はにかみやで内気でおしとやか。おとなしくて一途で、
ちょっぴりトロい。頼まれると嫌とはいえない性格。
   背丈は133センチでさおりの双子の姉。タレ眼で天使の笑顔を持つ。

▲ 29:観月さおり はじめてのおるすばん@ZERO
     性格は気が強くて好奇心旺盛で、ちょっとおすまし。
     機敏で積極的。でも本当はとっても素直。
     背丈は133センチでしおりの双子の妹。
     ツリ眼で小悪魔の微笑を持つ。  

▲ 30:木ノ下泰男 Piaキャロットへようこそ@カクテルソフト
   黒服の似合うダンディ親父。物腰は柔かく、丁寧・マネージャーと不倫中。
   Piaキャロ1の主人公の父親。

21名無しさん@初回限定:03/05/20 22:36 ID:BjJhit/M
▲ 31:篠原秋穂 五月倶楽部@覇王
   2030年の未来の日本から召喚された、雑用続きの毎日に不満を持つOL。
   しかし几帳面で凝り性なので、本心とは裏腹に雑用係として重宝されてしま
う。営業職志望。
   元暴走族(珍走団)で、怒らせると一人称が「あたい」に。力もそれなりにあ
る。
   一見つっけんどんで本心を見せたがらないが、心を許すと一途。
   遊園地とかで遊ぶのが好き。
   
   ☆自分から他の参加者を殺すことは無い
   ☆心の底で主催者への激しい怒りに燃えているが、(少なくとも最初のうち
は)表向きは冷静


▲ 32:法条まりな EVE 〜burst error〜@シーズウェア  
   国家機関「内閣調査室」の敏腕エージェント・潜入工作、射撃を得意とする。
   基本的に明るい性格・オジサマ趣味だが、実は両刀使い。
   殺人ゲームの調査のために、あえて召喚された模様。


22名無しさん@初回限定:03/05/20 22:39 ID:BjJhit/M
▲ 33:クレア・バートン 殻の中の小鳥・雛鳥の囀@STUDiO B-ROOM
   英国出身のメイド・歳の割りには風格と落ちつきを持っている・家事全般完璧
   あまり己を表に出さないが、優しい女性
礼儀正しい、落ちついた口調。
   英国出身・鉄道王ドレッド=バートンの娘にしてお抱えのメイド(「殻の中の
小鳥」)
   調教師フォスターと恋人関係にある。炊事・洗濯も得意な優秀なメイド。
   幼少時より調教が施されており、そちらの技能も一級品。
   本来は明るく心優しい女性なのだが、その経験から他人にあまり本心を覗かせ
ない。戦闘能力・特殊能力は無し。

▲ 34:アリスメンディ ローデビル!@ブラックライト
   ローなデビル。石を探すため人間界に来る。
   所持アイテムは、頭脳、会話能力、力をアップさせる薬。(猫ハンド=好感度
アップ、犬メダル=石を探す)
   空を飛べる。世情に疎い。
「ハイテンション」「おバカ」「根拠のない自信」「のうてんき」
ツノをさわられると痛みを感じるけどセクース時には性感帯になるらしい。
笑い声は「えへへ」とか「あはは」とか普通の女の子風。
けっこう義理堅く、誰彼かまわずくわえこむタイプではない。
   わりとびびりーである(悪魔のくせにこわいものがたくさんある)。
   
23名無しさん@初回限定:03/05/20 22:46 ID:BjJhit/M
▲ 35:広田寛 家族計画@D.O.  
   推定年齢40歳。驚異的な生命力と戦闘力を持つリストラ親父。
   リアル地球であれば最強クラス。しょーもない親父ギャグ連発。

▲ 36:月夜御名沙霧 Rumble〜バンカラ夜叉姫〜@ペンギンワークス  
 天涯孤独な大富豪の令嬢。顔はS級。奸智に長ける 性格はきわめて悪い
 が意外と乙女チックな性格の黒髪・黒リボンの少女。
彼女自身の戦闘力は低い。原作終了後に召喚される。



▲ 37:猪乃健 Rumble〜バンカラ夜叉姫〜@ペンギンワークス
   4次元殺法を操る飯野健ニ。馬鹿。長髪。デブ。オタク。バカ。
   意外なスピードを持つ。(一般人の目にはとまらない)
   スタミナは不足気味。更に意外なことにピアノが得意だったりする。
   原作終了後に紗霧と同時期に召喚された模様。
   
24名無しさん@初回限定:03/05/20 22:47 ID:BjJhit/M
▲ 38:広場まひる ねがぽじ@Active
   最近まで自分を女の子と(周りも)思っていた、女の子な男の子。
   底抜けのお人よしで天真爛漫。最強のスマイルを持つ。
   割と肉体的にも精神的にもタフ。正体は片翼の天使。
   なお、この作品の天使は神の僕ではなく、特殊な肉食獣である。

   ※ロワ内では未覚醒の模様。<書記官>


▲ 39:シャロン WordsWorth@エルフ
   魔界の王子・アストラルの婚約者。負けん気が強く、プライドも高い


▲ 40:仁村知佳 とらいあんぐるハート2@ivory
   遺伝子障害により精神感応能力(テレパシー)や念動力(サイコキネシス)な
どの
   超能力が使用可能。ただし、普段は力は使っていない。
   フルパワーで能力使用時には背中にフィン(光の翼)が現れる。

25名無しさん@初回限定:03/05/20 22:48 ID:BjJhit/M
【主催者と刺客】

▲ 主催者:ザドゥ  狂拳伝説クレイジーナックル&2@ZyX
   ザドゥ(26歳、独身)は謎の格闘集団を率いる地下組織のボス。
   必殺技は狂昇拳、狂乱脚。ゲージ溜め必殺技は狂撃掌。
   彼は幻の奥義「死光掌」の秘密が書かれた「黄昏月(たそがれづき)」なる皿
を探している。
   「黄昏月」の皿は4つに割られて世界各地に隠されていて、ザドゥはCK1開
始時には2枚を所持。
   途中色々あって、皿は全て揃うのだが、「死光掌」は「黄昏月」をかすめた腹
心シャドウが会得。
   ザドゥは敗北し組織を乗っ取られる。なお黄昏月はシャドウによって砕かれ、
「死光掌」は独占される。
   ザドゥは自分を根底から磨きなおすことで「死光掌」にも勝てると信じ、山に
こもって修行。
   で、シャドウが開催した地下格闘大会に出場し、「死光掌」を使うシャドウを
も破り、最強の座に返り咲く。

   このゲームの戦闘シーンはリアルタイムバトルなのですが、「死光掌」は大ダ
メージをくう上に、
   一定時間動けなくなる(コマンド入力できなくなる)というヒドイ技でした。
26名無しさん@初回限定:03/05/20 22:49 ID:BjJhit/M
▲ 刺客:素敵医師  大悪司@アリスソフト  
   本名長谷川 均。かつては優秀な外科医だったが、自分の火傷治療に使用した
大量のモルヒネにより発狂。
   重度のジャンキーにして殺人鬼。
   全身は包帯でぐるぐる巻きにされており、常に悪臭を放っている。
   特技は薬物取り扱い全般(特に麻薬・媚薬)。意外と頭は切れる。
   口調は一応土佐弁。
   例)「〜ぜよ」「〜がか?」「〜じゃき」 


▲ 刺客:カモミール・芹沢  行殺(はぁと)新選組@LiarSoft
   新撰組隊長を務めるダイナマイト・ボディの金髪美女(何故かハーフ)。
   その性格は能天気かつ破天荒。おまけに酒乱の上好色で美少年を好む。
   実は明晰な頭脳の持ち主でもあるのだが、その性格と最良「過ぎる方法」を
取ってしまう性分のため
   誤解を受けやすい(本人も気にしていない)。
  (例・ある商家の蔵に住み着いた浪人を、店の評判を落とさずに退治しようとし

   自分の乱行で蔵を破壊した事にしようとした)
   獲物は88mmキャノン、通称『カモちゃん砲』。脅威の破壊力を誇る。
   愛称は「カモちゃんさん」「カモさん」等。

   ・近距離武器として『尽忠報国』の銘が入った鉄扇。(ただし前記の文字は
ゲーム内では『お米の国』や『鴨南蛮』
    など状況によって変化するので、書き手がネタを仕込むのに良いカモ)
   ・剣術の流派は神道無念流

27名無しさん@初回限定:03/05/20 22:50 ID:BjJhit/M
▲ 刺客:椎名 智機   姫將@シーズウェア
  頭脳明晰で周知に優れた女。いつもすましているいけ好かない女だが、どこか抜
けていてうっかりミスをすることも多い。サドっ気有り。
  その実はオートマトン(自動機械人形)。椎名潤一機械工学研究所作成。
  
  
▲ 監察:御陵透子  sense off@otherwise
   正体は脳に寄生し転生を繰り返す宇宙人。「情報意識体」なので体はない。
   最愛のパートナーを喪っており、その残留意識との交信のみを目的に生きてい
る。
   無気力無感動無関心無表情。潜在的自殺(消失)願望アリ。指示があれば従う
が、主体的に行動を取る事は無い。
   能力は「世界の読み替え(空想具現化)」。
   神にも等しい力だが、現世に興味を抱いていない彼女はそれを発揮することが
ない。
   藍とケモノの関係とは違い、透子=宇宙人の図式。一人称「わたし」、二人称
「あなた」。
28名無しさん@初回限定:03/05/20 22:53 ID:pQe56bVY
イカセロワイヤル?
29名無しさん@初回限定:03/05/21 06:30 ID:7J8mBUKF
この面子じゃなあ。
30名無しさん@初回限定:03/05/21 10:42 ID:Ifd2If6z
何分、コレの連載始まったのが早一年半前だからなぁ…
あの頃ははじるすもまだ発売されていなかった。
31名無しさん@初回限定:03/05/21 16:55 ID:ihSeLZGJ
会議スレも貼っとこうよ…
321:03/05/21 18:47 ID:h6bSfZnK
昨日、今日も何故か貼ることができません……
誰か代わりに会議スレと過去スレを貼ってください…お願いします。
33名無しさん@初回限定:03/05/21 19:15 ID:p6J52eqY
よく、あの双子が採用されたな。
34名無しさん@初回限定:03/05/21 19:27 ID:ijystEXG
2番煎じなのか?
35名無しさん@初回限定:03/05/21 21:02 ID:X9ciQd5q
エーリヒと千鶴がエントリーされていて言うのもなんだが、
あの双子、連載開始当時は発売前のゲームのキャラだったから。
36名無しさん@初回限定:03/05/21 22:14 ID:GaCZ71pu
>>32
URLの一部がNGワード化されているとか。
いや、良くわからんがトマトの出るURLは全て書き込めなくなったらしいし。
371:03/05/21 22:28 ID:/tEZwOqG
そうかもしれませんね。
現に>9の直リンとここの前スレは上げることができたのに対し、
過去スレと総合会議スレは初めのhを抜いたアドレスでさえ
書き込めなくなってますし。
38過去スレ、関連スレ(1):03/05/21 22:40 ID:yeKlaR2J
リアル・バトル・ロワイアル

彼らの物語は如何なる結末を迎えるのか。

前スレ
バトル・ロワイアル 【今度は本気】 第4部
http://www2.bbspink.com/erog/kako/1044/10442/1044212918.html

(↓本スレへ書き込む前にまずこちらへ。ご意見・御感想等もこちらへお願いします。↓)
関連スレ
【バトル・ロワイアル。】 総合検討会議 #2
http://doom.on.a%72ena.ne.jp/cgi-bin/giko/hinan/test/read.cgi?bbs=erog&key=012551729
39過去スレ、関連スレ(2):03/05/21 22:42 ID:yeKlaR2J
【過去スレ】
バトル・ロワイアル【今度は本気】第3部
http://www2.bbspink.com/erog/kako/1029/10293/1029399672.html
バトル・ロワイアル。【今度は本気】 第2部
http://www2.bbspink.com/erog/kako/1012/10127/1012701866.html
リアル・バトル・ロワイアル。 【今度は本気】
http://www2.bbspink.com/erog/kako/1008/10085/1008567428.html

【過去関連スレ】
【リアル・バトル・ロワイアル。】 総合検討会議
http://doom.on.a%72ena.ne.jp/cgi-bin/giko/hinan/test/read.cgi?bbs=erog&key=008871626

編集サイト(現在休止中?)
ttp://syokikan.tripod.com/
40名無しさん@初回限定:03/05/21 22:47 ID:yeKlaR2J
僭越ながら裏技を使って貼らせて頂きました。
「r」を「%72」に置き換えればOKなのです。

では。
411:03/05/21 23:13 ID:IauTyHQW
40さん、本当にありがとうございました。

421:03/05/22 11:50 ID:spAjmX49
尚、このスレを立ち上げる際に、先に関連スレのリンク先などを
前の方で上げなかったなどでこのスレが雑な創りになってしまい、
そのことで一部の方々に不快と思われる進め方になってしまった事を
お詫びします。
43『有る程の菊抛げ入れよ棺の中』:03/05/23 13:14 ID:mGmEcJhZ
それは一瞬の出来事だった。
二人の間にはまだ情交のあとの親密な空気が残っていた。
知佳は自分の秘密を話してみようかと思っていた。
そして、どうやって切り出そうかと考えていると、
恭也が「行きましょうか」と手を差し伸べたので、つかんで立ち上がろうとした。
が、それはできなかった。
恭也は知佳をつき飛ばすと、森のほうへ走っていってしまった。
走る先には三十がらみの男がいた。
男の手に握られた拳銃が二度火を吹くと、同時に恭也が小太刀を振った。
二度キンキィンという音がした。
さらに加速した恭也が駆けぬけた後には、残像と土煙が残っていた。
男はバズーカのようなものを肩に担いだ。
砲口は恭也のほうを向いていなかった。
照準は、恭也の後ろでぼんやりと座り込んだままの知佳のほうに向けられていた。
弾丸が放たれた。恭也は舌打ちすると、それを追ってターンした。
145m/Sの弾丸は唸りを上げて、瞬時に名探偵と知佳の間の数十mを飛んだ。
知佳はウソみたいな光景をぼんやりと眺めていた。
一連の動きがまるでスローモーション映像みたいゆったりとして見えた。
44『有る程の菊抛げ入れよ棺の中』:03/05/23 13:15 ID:mGmEcJhZ
ロケットはもう顔から数十cmのところまできていた。
あ、人間はこんなふうにあっけなく死ぬんだ、と思った。
回転する弾丸ののっぺりとした光沢と、そこに映りこんだ自分の顔まではっきりと見えた。
そのとき、キンッ!、と澄んだ音がして、弾丸の外殻が切り裂かれた。
真二つになった金属の中から、違う色をした金属がのぞいて、
ふたたび、キィン、という音がして、むき出しになった信管が切り裂かれた。
いつの間にか追いついた恭也の仕業だった。
わずかに遅れてやってきた風が知佳の顔をふわりと撫でていった。
彼のシャツは翻ったままで、精巧な彫像みたいにとまって見えたが、
実際にはそれらは瞬きもないほど一瞬のことだった。
恭也の背後から声がした。
「敵に背を向けてはいかんなぁ、少年?」
続いて、森の中にふたたび銃声が響きわたった。
知佳ははっとした。
時間が動き出す。
恭也のシャツに浮かんだ赤い小さな点がどんどんどんどん広がっていく。赤く染まっていく。
そして、支えを失った人形のように崩れ落ちた。
「恭也さん!」
45『有る程の菊抛げ入れよ棺の中』:03/05/23 13:15 ID:mGmEcJhZ
叫ぶ知佳の目の前で、さらに三発の銃弾が恭也の腹に打ち込まれた。
着弾のたび、恭也の体がわずかに震えた。
「ぁ……」
数滴の鮮血が知佳の頬に飛び散った。
見開かれた知佳の瞳孔がすっと引き締まる。
青空の下に赤い血が途切れることなく流れては、大地に染み込んでいく。
「存外あっけなかったな・・・僥倖というべきか」
「ぁ、ぁ、あ、ぁあ…」
歩み寄る琢磨呂のことなど気にもとめないで、知佳は四つんばいで恭也のほうに近寄った。
「恭也さん、恭也さん!」
腹部からおびただしい血が流れ出ていた。
倒れたまま動かなくなった恭也をゆすりつづけるが、ぴくとも反応しない。
ぐったりと弛緩した彼の体が驚くほど重い。
「フフフ、彼には気の毒なことをしたね。
ま、ここで仲良く死んで、あの世とやらで親交を重ねてくれたまえよ。
君がその種の死後世界を信じているかは私の関知するところではないが・・・
でも、言うじゃないか。信じるものは救われる。
フム、この場合は死んでるものは救われるのほうがしっくりくるような気もするが・・・どちらでもいいか。
いずれにせよ、だ。君も信じて、そして救われてみてはどうかね?
旅券は私が用意しようじゃないか」
おどけながら、琢磨呂は知佳のこめかみにコルトの硬質な銃口を当てた。
46『有る程の菊抛げ入れよ棺の中』:03/05/23 13:15 ID:mGmEcJhZ
「どうして…」
「ん?」
「どうして…、こんなに簡単に…」
「人を殺せるんですか、かね?」
知佳は腹から血を流しつづける恭也を見たまま、肯定も否定もしなかった。
琢磨呂は気にせず続けた。
「ラスコーリニコフ青年ではないがね、
私のような天才は凡人の作った規則の外にあることもやむをえないと思うのだよ」
「そんなわけ…」
「ないじゃないですか、とでも言うつもりかね?」
知佳の言葉を素早く引き取った声はうってかわってひどく冷たい。
目ももう笑っていない。
知佳の柔らかな髪に銃口をさらに強く押し付ける。
「燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや」
琢磨呂は表情ひとつ変えずに引き金を絞った。
火薬の破裂する無愛想な音がして、銃口から細い煙が立ち上った。
あたりに硝煙の独特なにおいが広がる。
琢磨呂は目を閉じて、鼻から大きく息を吸った。
そして、勝利のにおいをじっくりと堪能しながら、口元に冷たい微笑を浮かべた。
47『有る程の菊抛げ入れよ棺の中』:03/05/23 13:33 ID:mGmEcJhZ
「どれ、確実に止めを刺しておく・・・・・・か?」
琢磨呂は絶句した。
脳漿をぶちまけるべく放たれた弾丸が、空中でピタリと静止していた。
オーロラのようなものが弾丸を止めていた。
蜻蛉の翅のような色合いをしたそれは、紛れもなく知佳の背中から生えひろがっていた。
「これは何だ・・・、羽?翼だと?バカな、そんなことが…。いや、そんなはずはない。」
琢磨呂は目に映るものを拒否するように首を振ると、
やっきになってさらに数発の弾丸を打ち込む。
しかしそれもまた宙に浮いたままで止まった。
「こんな・・・、こんなはずが・・・・・・こんな・・・はずが・・・
・・・何か・・・あるはずだ。何か、トリックが・・・。」
絶望的に呟く琢磨呂。
虹色の翅がそれを見て喜ぶかのように伸び縮みする。
その翅の先端が木の枝に触れた。
すると触れた部分の葉は一瞬で枯葉に変わった。
若々しかった枝は水分を失った老木のようになった。
「あぁ・・・何だ?わたしは夢でも見ているのか?
でなければあまりに・・・、あまりに非常識だ」
頭を抱え込む琢磨呂の目の前で、
その枯れ枝から新芽が芽吹き、若葉が萌え、再び枯れ衰え、再び芽吹いた。
翅の触れていたわずかな時間に、木の一生を早回しに何度も何度も見ているようだった。
48『有る程の菊抛げ入れよ棺の中』:03/05/23 13:34 ID:mGmEcJhZ
琢磨呂は小さく身震いした。
「何だ、貴様は・・・。貴様は…化け物……」
地面に転がり落ちた弾丸の表面は、何かに強くねじられたみたいにぐちゃぐちゃによじれていた。
「人間・・・・・・だよ。けど、力はある」
知佳が答えた。その声はひどく乾いている。
奇妙に感情の抜け落ちた、ただ事実を簡潔に伝えるだけの声。
「力は・・・ある」
知佳はうわごとのように繰り返した。
うつむき加減の顔は蒼白で、細い手足が小刻みに震えている。
垂れ落ちた彼女の髪は、風もないのにひとりでにそよいで、
細くやわらかい髪がふわりと広がるようになびく。
琢磨呂はもう一度撃ってみるべきか迷っているようだった。
ともすればぶれそうになる照準をを合わせながら、一度も知佳から目を離さなかった。
そのとき、彼女の髪の動きがぴたっと止まった。
顔を上げた知佳の顔にはおよそ表情と呼べるものがなかった。
その能面のような頬の上を涙が伝う。
49『有る程の菊抛げ入れよ棺の中』:03/05/23 13:45 ID:mGmEcJhZ
「力はあったのに……、わたし・・・!わたしはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
狂ったような知佳の咆哮。
その叫びに応えるように翅が大きく伸び上がり、
何者かに持ち上げられるみたいにして彼女の体が数cmばかり宙に浮く。
翅に触れた周囲の木々が次々に枯れては、めまぐるしく新緑を吹きだし、
空気が音をたてて渦巻き、地面は腐ったみたいにぐずぐずになり、変な匂いを発し始め、
なおも止まらない涙が滴り落ちては、翅が放つ燐光に触れて空中に消える。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
それはどちらの叫び声だったのか、朝の森にけたたましく響き渡る。
琢磨呂は知佳に向かって何度も何度も引き金を引いた。
弾丸は知佳を避けるように飛ぶ。
ドォン!!
突如、銃声をかき消すほどのものすごい音がして、分厚い空気の壁が琢麻呂に叩きつけられた。
衝撃に琢磨呂は後ろからものすごい力で引っ張られたみたいに優に数百をメートルを飛んで、
森のはずれに転がり落ちた。
彼のぶつかった木はへし折られており、あとに一筋の道ができていた。
そのひらけた道を虹色の翅が優雅に通る。
少し行ったところで知佳はちらりと後ろを見た。
しばらくそのままでいた後、彼女の姿は陽炎のように揺らめいて消えた。
翅が通ったあとは何もかもが一変し、以前のおもむきを残していなかった。
50『有る程の菊抛げ入れよ棺の中』:03/05/23 13:45 ID:mGmEcJhZ
「くっ、う、・・・。クソッ、なんて・・・ことだ。いったい、どうなっている。あの小娘」
悪態をつきながら立ち上がろうとして、琢磨呂は自分の体の異変に気がついた。
左の足が関節とは逆方向に曲がっていた。
「えぇい、こんなときに!・・・まぁいい、とにかくだ。
とにかく逃げなくてはならん。あいつは危険だ。あんなでたらめな奴には勝てない。
追いつかれる前にできるだけ遠くに行かねば・・・。確か小屋があったはず。
ひとまず、そこ・・・に・・・」
振り向いて琢磨呂は言葉を失った。
先ほど確かめたとき、森の入り口のあたりは数本の木が折れているだけで、
奇妙な変化はしていなかったし、虹の翅が近づいてくる様子など見えなかった。
小屋まではそう遠くはなく、琢磨呂はずいぶん飛ばされたので、しげみ伝いに隠れ進めば
這っていくことを考慮に入れても、追いつかれるまえに絶対に逃げ切れる距離だった。
「なのに・・・何で、ここにいる。どうして、貴様が、ここにいるんだ!」
琢磨呂の目の前にうかぶ知佳はなんとも答えなかった。
「そうか、テレポーテーションだというのだな?そうなんだろう、え?
あれだけの事をしておいて、そのうえ瞬間移動だと?チクショウ、化け物め・・・」
少し小首を傾げるような格好をした彼女は、生気のない目で冷然と琢磨呂を見下ろしていた。
「おっと、動くなよ。それ以上少しでも近づいてみたまえ、・・・撃つぞ。
察するに君はまだその力を制御できていないんだろう。
フフフ、さっきはたまたま上手くいったが、今度はどうかな?
あるいはもう一度同じことができるかもしれない。そうさ、その公算は大きいだろうな。
だが、あるいは、だ。あるいは弾丸を止められないかもしれない。
止めきれないかもしれない、とそうは思わないかな?
あまり分のいい賭けとは言えんと思うがね。さ、悪いことは言わない。ここを立ち去りたまえ」
51『有る程の菊抛げ入れよ棺の中』:03/05/23 13:45 ID:mGmEcJhZ
ブラフだった。
そのことを知っているかのように、知佳は翅をたなびかせながらゆっくりと近づく。
「止まるんだ!」
琢磨呂は悲痛な声で叫んだ。
「止まれ、止まれと言っている!・・・っ、くそっ。わたしは止まれと言っているんだぞぉっ!!」
口から泡を飛ばしながら琢磨呂はコルトを撃ちまくる。
彼の目の前に転がる空薬莢がどんどん増えていく。
放たれた45口径はただの一発も知佳に命中していなかった。
全ての弾丸が見えない粘土にでも当たったみたいに、彼女の前で急に失速して地面に落ちた。
「くそっ、なぜだっ!なぜ、私がこんな目にッ!」
彼は打ち止めになったコルト・ガバメントを地面に叩きつけ、這いつくばって逃げ始めた。
知佳の冷たい視線が琢磨呂を射抜く。
「うぉっ!な、何だ?」
琢磨呂の体が宙に浮き、彼の手足はむなしく空を掻く。
手足は彼の意思に反して伸ばされ、磔られた囚人の格好で空中に固定された。
知佳がすっと手を上げる。
すると、彼女の動きに答えるように、枝葉のない枯れ木が地面から引き抜かれた。
浮き上がった木は地面と水平になり、槍にも似た鋭利な先端を琢麻呂に向けたまま、動きを止めた。
「これはナンセンスだ。私一人殺したところで、あの少年は帰ってきやしないんだぞっ!
・・・何を笑っている、何がおかしいんだ、え?」
七色の光も不吉な翅は、彼女の背で息づくように伸び縮みしている。
52『有る程の菊抛げ入れよ棺の中』:03/05/23 13:46 ID:mGmEcJhZ
槍は獲物を狙う獣のように、じっと時を待っている。
琢磨呂は何とかのがれようと体を左右にひねるが満足に動くこともできず、
最後には唯一自由になる首を激しく振りたてながら、口汚く知佳を罵りはじめた。
知佳の顔にあざけるような笑みが浮かんだように見えたが、
彼女はやはりもとの無表情のままだった。
まるで琢麻呂の絶望を堪能しているかのように、そのままの状態がしばらく続いた。
知佳の手がすっと上げられた。槍は動かず、力を溜め込んでいるようだった。
「何だ、その手は、いったい何の真似だ・・・?
まさか・・・、まさか、君は・・・何をするつもりかね・・・
やめたまえ。やめ・・・たまえ。やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!
いますぐ、それを下ろせぇぇっ!下ろせといってるんだ、このクソガキがぁぁっ!!
私は、私は・・・グ・・・ゥウ・・・・・・」
静止していた槍は待ちかねたとばかりに唸りを上げ、鋭い先端は琢磨呂の腹から背へと貫いて、
そのままの勢いで近くにあった巨岩に深々と突き刺さった。
くぐもった声を上げながら、琢磨呂は知佳のほうに懸命に手を伸ばす。
もう力も入らないのか、血まみれのその手は震えていた。
何か言っているらしかったが、喉からあふれ出る血のせいでごぼごぼという音にしかならない。
そして、一瞬目を大きく見開いたあと、大量に喀血して、あっけなく事切れた。
知佳は一部始終を見届けて、頬についた返り血を指でぬぐう。
その手は二人分の血液でべったりと汚れていた。
あたたかな血からはわずかな鉄の匂いがした。
自分の手を眺める彼女の瞳に光が戻り、じんわりと涙が浮かぶ。
彼女の口から小さな嗚咽が漏れる。
「うぅ・・・あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
嗚咽は悲痛な叫びに変わり、それに呼応するように翅が猛烈な勢いで広がり、
周囲の景色を一変させながら、空気を大きく震わせる。
震えは風に変わり、翅の広がりにあわせるようにして少しずつ強くなり、
最後にはたたきつけるような一陣の颶風となって島中を駆け抜けた。
大量の砂が巻上げられ、樹木は大きく傾ぎざわめき、水面に無数のさざなみがおこる。
やがて風が収まったとき、知佳の姿は消えていた。
53『有る程の菊抛げ入れよ棺の中』:03/05/23 13:53 ID:mGmEcJhZ
「これは・・・いったい」
「ふわー」
「なかなか・・・シュールな風景ですね。ほら、あそこ。枯れ木に花が咲いています」
遠くに虹色の輝きを見て駆けつけた魔窟堂たちは、目の前の光景に言葉を失った。
「ダリの絵みたいですね」と紗霧サン。
「ウ・・・ム。いったいここで何があったんじゃろうか?長い間生きてきたが・・・これは・・・」
魔窟堂は首をひねった。
自然の風景にも見えないが、さりとて人工的な感じもしない。
「ア!あそこ見てください、魔窟堂さん」
「ん?おお、あれは!」
まひるの指差す先には、恭也が倒れていた。
「恭也殿、恭也殿!む、撃たれておるのか・・・。
急所は外しておるのは流石じゃが・・・これはいかん。
とにかく出血がひどい。この救急セットにはやや荷が勝ちすぎるわい」
「どうします、病院に引き返しますか?」
「いや、確か森のはずれに小屋があったはずじゃ。
ここからならそちらのほうが近いじゃろう。少し急ぐぞ?」

「13番 海原琢磨呂 死亡」
…………………………………………………………………………残り10人

54あぼーん:あぼーん
あぼーん
55名無しさん@初回限定:03/05/25 03:09 ID:bQXdRcR9

56絶望と希望:03/05/26 01:50 ID:MplEufap
(第二日目 AM12:00)

「ぐぇっはっはっはっは、それじゃぁ、今回で死んだ奴を発表するぜ
んー、ちみちみとしてて良く読めねぇな。 
3番 いずいさく 5番 いずおにさく 14番 アズライト
26番 グレン・コリンズ 13番 うみげんぶたまろ……」
聞くもの全てが怯え恐怖するような畏怖するような凶悪かつ下劣な声とそれに見合う知能の低さで
彼は、ゆっくりと放送を始めた。
「文字が小さくて読みにくいのではなく、お前の頭が悪いだけだろう? 訂正をかけろ」
あまりにもの低脳呆れたザドゥは、やり直しを命ずると共に、横で読みを教えた。
教えられた本人は、大層不服であるが従わざるを得ない……
「んん〜 今のにほんのちょっぴり間違いがあったからそこを訂正するぜ。
3番 伊頭遺作 3番 伊頭遺作 13番……海原琢磨呂 
以上だ。 まぁ、せいぜい殺しあってくれよ、ゴミどもめが。
俺様に歯向かおう何て考え起こしてる奴がいるらしいが、
そんな奴は、俺様アタックでぎちょんぎちょんのべしべしにしてやるからな。
ぐわぁっはっはっはっは!!」
何故、このような奴と組まなければならない。
ザドゥは、頭が痛くなった。 
だが、彼の助力なしでは、おそらく来るであろう参加者の一部を迎え撃ち
無事終わらせるのは、難しいかもしれない。
そもそもあいつらが、このような気まぐれを起こさなければ、
いや、このくらいは、あってしかるべきだった。
運営をスムーズに行なうだけで願いをかなえてもらう等と都合のいい話だ。
確かに運営は大変だ。
だが、それが我々の願いをかなえるに値する程の苦労だろうか?
否、明らかに楽すぎるだろう。
「最後の歯車が回り始めたと言う事か……… 
それも私達自身だったとはな…… タイガージョーよ、お前がいたらどう思う?」
そういうと、彼は再び椅子へと戻っていった。
心に複雑な思いを抱いて。
57絶望と希望:03/05/26 01:52 ID:MplEufap
(第二日目 AM11時ごろ?)

時は、少し遡る

「うんうん、この物語も佳境に入ってきたね。 実に楽しいよ」
何処とでもない空間、それはとても常人では理解できない場所で
ルドラサウムは、このバトルロイヤルを作り出した事を非常に喜んでいた。
「はっ、お気に入り頂けて、ありがとうございます」
「でも、ただこのまま終わらすのも面白くない気がしないかい?
どんな物語でもクライマックスにどんでん返しな可能性を秘めていないと楽しくないじゃないか。
なにより、このまま運営者の願いをかなえさせてやると言うのも、ちょっと優しすぎじゃないかい?
ザドゥくんなんか、最初の打ち合い以外、あんまり苦労してないじゃないかい」
「……と言いますと?」
そう言うとルドラサウムは、ニヤリと顔に微笑を浮かばせ答えた。
「更なる絶望と希望をだよ。 今度は、参加者と運営側両方にね。
何、実に簡単な事さ、参加者へ与える希望は、運営者の絶望に。
運営側に与える希望は、参加者への絶望へ。
そうなるように両者へ少しばかり支援してあげるのさ。
勿論、逆転しないように参加者よりも主催者の方を有利にしてあげなきゃダメだよ」
「……わかりました。 してその方法は、如何なさるので?」
「そうだね。 参加者には、少しだけ強力な武器を。
ほら、君が昔作り上げた狂気の剣があるだろ。 それでもいいよ。
ただ、直接誰かに与えちゃダメだ。 奪い合いも楽しめるよう何処かに召還するんだよ」
「では、主催者への方は?」
「運営者の増員、それにせっかくあの剣を参加者に与えるんだ。
魔人なのもまた面白いかもね。 まぁ、人選は君に任せるよ」
「はっ、では早速……」
そう言うとプランナーは、さっそく主の命を行動に移すべく、その場から消え去った。
「さて、これがどう動くのか実に楽しみだよ。 
今度は、運営者も参加側になるんだからね。 キャハハハハ」
58絶望と希望:03/05/26 01:52 ID:MplEufap
(第二日目 AM11:55)
静寂、島全体を見れば、実に静かな島だろうか。
不気味さを含みながらも、外観的には、静けさを維持していた。
だが、それは、唐突に破られた。
「参加者達よ、そして運営者達よ。我が名は、プランナー。
この運営者たちの上にたちこのゲームの調和を任された者なり。
そして我は、神である。
聞け、全ての者よ。 我は、運営者にゲームの進行を任せる役目と共に
その償として、願いを一つかなえる約束をした。
だが、これでは、参加者に対して、余りに不平等であろう。
そこで我は、ここに約束しよう。
生き残った参加者には、願いを一つかなえよう。
また、運営者を全滅させた場合でも、願いをかなえよう。
どちらを選ぶかは、参加者自身に任せる。
どちらを選んでもその道のりの苦労は変わらぬからな。
だが、慈悲ある我は、一つだけ手を差し伸べてやる。
この島の何処かに一つだけ役立つかも知れぬものを召還した。
それを上手く使う事ができれば、少しは楽になるやもしれぬな。
では、汝らの健闘を祈る……」
明らかに放送とは違う声。
直接、頭に響いてくるイメージ。
その時、参加者達は、神の存在を知ることになる。
59絶望と希望:03/05/26 02:01 ID:MplEufap
訂正
3番 伊頭遺作 3番 伊頭遺作→3番 伊頭遺作 5番 伊頭鬼作 
60名無しさん@初回限定:03/05/26 06:54 ID:L5w0xTFm
書き込む前に見直さないのか
バカ
61絶望と希望:03/05/27 03:28 ID:2cdAQDLO
(第二日目 AM11:45)

「どう言う事ですか?」
明らかに怒気を含み、ザドゥは、目の前にいる神に対して尋ねた。
自らを楽しませる為に人の命を玩具として扱うものなど、神であろうか。
だが、目の前にいる存在に従うしかない。
そんな状態が心の葛藤を生み、ザドゥの心を支配する。
「ふむ、おかしい事を言ったか? 我が主は、このゲームを無事進行できれば、願いをかなえるという約束をした。
それに何ら変わりはあるか? 私は、ただ参加者に新しい枷をかしただけだが?」
歯向かえない。 プランナーの言っていることは、至極当然だ。
運営者達は、願いをかなえると言う約束はして貰ったが、ゲームにおいて安全を保障されてはいない。
だからこそ、一癖も二癖もある実力者達が選ばれたのだ。
絶対に届かない望みが適うと言う甘い餌に釣れられ、このゲームに乗ったのは、自分達だ。
解ってはいる。 解ってはいるが、ザドゥは、自分への納得がつかなかった。
「だが、汝の思いも解る。 そこで運営側にもサービスをしてやろう。
(ゲームは、釣り合いが取れていないと楽しくないからな) さぁ、来るがよい」
一瞬、眩い光が部屋を支配した。
ゆっくりと光が消えると共に、ザドゥの目に明らかになる姿。
姿は、5mをゆうに越えるであろう。 部屋を広く占拠する大きさ。
二本の角、六本の腕、四本の足、股間から生える八本の触手。
背中には、人がたらしきものが二つ、そして太い尾。
明らかに怪獣と言った姿である。
だが、ただ図体がおぞましいだけではない。
その身体に秘められた力の凄さは、空気を通してひしひしと伝わってくる。
「ぐぇっはっはっは、ここがその世界か。 おう、無事ゲームを終わらせれば
俺様を魔王にしてくれるってのは、本当だろうな?」
「その約束に、偽りはない」
「改めて安心したぜ。 なぁに、俺様が来たからには、貴様ら虫けらも、もう大丈夫だぜ。
歯向かうヤツラは、俺様が皆殺しよ」
(新しい運営者か…… このタイミングにおいて、出してくるとは、絶妙だな。
それとも、前々から仕組まれていたか……)
62絶望と希望:03/05/27 03:31 ID:2cdAQDLO
「それと一つ言い忘れていたが、ケイブリスよ。
汝の持つ魔人の絶対無敵の加護は、この世界においては、発動しない」
「あんだとぉ? ふざけんなてめぇ、俺ら魔王と魔人作ったんだろうが
なら、それくらい何とかしろよ!!」
「当然だろう? その力は、魔王の影響下において発動するもの。
この世界に魔王の力は及ぶか? それとも、加護なしでは、やられるようなヘタレだったと言うのか?
なら、此方は、別の者を用意しても良いのだ」
(付け加え、それでは、余りにゲームがつまらなくなると言うもの……)
最後の理由にして、本当の理由は発せずに、プランナーは、ケイブリスを煽った。
「そんな事あるわけねぇだろうが!! 俺様が、人間達に劣るわけがねぇ!!
俺は、絶対無敵の加護がなかった頃から、魔人で生き抜いてきたんだ!!
やってやろうじゃねぇか、丁度いいハンデだぜ」
「なら、決まりだな。 それと運営者の一員として、そこにいるザドゥをリーダーとして動いてもらうぞ。
後は、彼の指示に従って動くように。 では、我は、これで去ろう
必要以上に長くいるのも余り良くないからな。 
他のものへの説明は、ザドゥに任せる。 では、期待しているぞ……」
全ては、プランナーの思惑通り。
そして彼は、世界とのリンクを切り、また元の空間へと帰っていった。
その場に残されるケイブリスとザドゥ。
(ちっ、何だって、この俺様が人間に従わなきゃいけないんだ。
別に運営者を殺すなとも言われなかったしな。 なんだったらやっちまうかぁ?)
殺気と共に、ケイブリスは、ザドゥを睨みつけた。
(余り良くは思われてないらしいな…… それにこの殺気、今にも襲い掛かってくる気配で溢れている)
対してザドゥも闘気を身体から発散させ戦闘態勢を整えておく、何時襲われてもいいようにと。
如何に知能が低いケイブリスとはいえ、目の前の相手の強さが全く解らぬほど馬鹿ではない。
(信じられねぇが…… こいつから感じられる力は、カイトの野郎より上だ。
負ける気はしねぇが、加護のない今、戦えば、こっちとて無事じゃすまねぇな。
この場は引いとくか……)
63絶望と希望:03/05/27 03:32 ID:2cdAQDLO
考えが決まるや、直ぐにケイブリスは、ザドゥへ向けていた殺気を控え目にする。
「ふん、お互いの願いがかかってるんだ、ゲーム終了までは、仲良くやろうぜ。
それで、俺は、まず何をしたらいい?」
「そうだな、では、次の放送でもして貰おうか。 他の運営者は、全員一回ずつやったのでな」
「なんだ、まだ戦いはいらねぇってか。 っけ、仕方ねぇ。
まずは、俺の存在を参加者達にもアピールしとくか」
そして、放送は、始ったのだった。


【ケイブリス】
【現在地:放送室】
【スタンス:歯向かうものは皆殺し】
64山崎 渉:03/05/28 13:16 ID:ylMFNEMA
     ∧_∧
ピュ.ー (  ^^ ) <これからも僕を応援して下さいね(^^)。
  =〔~∪ ̄ ̄〕
  = ◎――◎                      山崎渉
65魔獣動く:03/05/30 02:21 ID:zHW7HRCK
(第二日目 AM12:10)


「さて、放送が終わったわけだが……… ケイブリス、さっそくお前の次の役目だ」
「(呼び付けたぁ、いい度胸だな) ふん、やっと、暴れられるってわけだ。 おうよ、誰を始末すればいいんだ?」
「まず、現在、首輪を外している者に関しては、再びつけるよう警告を促す。
この役目は、透子が再び行なう予定だ。
この最終警告をもってして、まだつけていない者は、我々を倒す側に回ったとして、お前に始末してもらいたい。
そして、今からやって欲しい事だが、現在、島の森地帯の中にNo.02:ランスと言う男がいる。
この男は、100%、我々に歯向かうだろう。 そして何より厄介なのが、首輪除去装置をもっている。
……一応前もって、透子を遣わしておくが、おそらく説得できないだろうな。
よって、これの奪取、もしくは破壊、そして、ランスの始末。 これが任務だ」
「今、何て言った………?」
ゾワッ。
まるで、部屋の空気が一瞬にして数度下がったようにザドゥは、身体全体に寒気を感じた。
「……ランス? 俺の聞き間違いじゃなければ、ランスだよな?」
「そうだ……… 歳は20過ぎの冒険者風の姿をした剣士だ」
「そいつの口癖は、「がはははは」とか?」
「確かに良くそう言う高笑いが聞こえてきたな…… 知り合いか?」
「………くっくっくっく、がぁっはっはっはっは!!
こんなトコで再びあの野郎と出会えるなんて!!
知ってるも何も、俺様がいた世界で、俺様の魔王になる野望を潰た野郎だ。
…………そして、俺様の最愛の女を殺した野郎さ!!」
己のプライドにかけて、ケイブリスは、決して殺された事は、言わなかった。
「そうか……… 雪辱戦と言う訳か………(なるほどな、だからこいつが選ばれたのか
私とて、もしシャドウが参加者として、この世界にいたのならば、同じように憎悪に包まれるだろう)」
「くっくっくっくっく…… 楽しみだぜ!! 今からあいつの肌を切り裂いて、肉を潰す事ができるなんてなぁ」
「一応、透子の説得が成功したら、その必要はないからな………」
ジロッとした目で、ケイブリスは、ザドゥを睨みつけた。
66魔獣動く:03/05/30 02:22 ID:zHW7HRCK
「ふん、その心配はねぇよ、あの野郎なら、絶対に蹴るはずだ」
冷や汗が、身体から出始そうだ。
目の前の怪獣は、今にも暴れだしそうなほど、憎悪に満ちた闘気を辺り全体に撒き散らしている。
ザドゥは、この獣の力を再び認識させられた。
いや、対峙した時に感じた物より、遥かに高い負の力を感じる。
今思えば、ケイブリスが、完全に殺気を収めなかったのも自信があったからだ。
此方がその挑発に乗り、かかっていっても、それを打ち砕くつもりだったのだろう。
(想像以上の諸刃の剣だな…… だからこそ主催にとっては、この方が楽しみが増えるのだろう)
「善は、急げだ。 早速、行かせて貰うぜ」
「そうか、念のために、言っておくが、森の中には、現在、首輪をつけていないものがNo.02含め三人確認されている。
一人は、No.2と一緒に行動しているが、此方は、戦力外のひ弱な娘だ。
ただ問題は、もう一人で、こいつは大分前に首輪が外れている。
確認したのもNo.02と接触した時のみで、どうやら不思議な術を使うらしい。 そいつには、注意するんだな」
「親切なご忠告ありがとうよ。 けどよ、どんな奴が来たって、俺様に歯が立つと思うか?
むしろ、ギタギタのグチョグチョで返り討ちよ!! それじゃぁ、行ってくっとすっか」
「気をつけろよ」
「っけ、俺様の強さは、良く解ってるんだろ? 安心して、そこに座ってな」
自身に絶大なる自信があるからこそ、ザドゥを軽く扱うケイブリス。
67魔獣動く:03/05/30 02:22 ID:zHW7HRCK
彼を止める方法は、ただ一つ、命懸けて戦う事。
生半可なつもりで、戦えば、ザドゥとて殺されるだろう。
そして、ケイブリスは、部屋から、校舎から出て行った。
彼が部屋から去った時、ザドゥの身体には、どっと冷や汗が流れていた。

尚、通るドアを片っ端からその巨体で壊していったため
直ぐに智機が出動させられ、応急修理していったのは言うまでもない。


【ケイブリス】
【現在地:森へ移動】
【スタンス:ランスの始末、歯向かう物を殺す】
68あぼーん:あぼーん
あぼーん
69蒼の光、消える:03/05/30 23:51 ID:TS4FaLEJ

(第二日目 PM12:00頃)

埋め尽くすは灰。その多くは灰色に彩られた空間。
灰以外に映るものは無垢な紅い瞳をした巨大な鯨の姿。
前方に同等の大きさの淡く光る青色の丸い水晶。
白い鯨、いや創造神ルドラサウムの周囲には
円形の鏡のような物体が無数に漂っている。

「鏡」は風景を映す。ここではない様々な風景を。
現代と近未来と中世などあらゆる時代の風景を。それらとは異なる世界……
例えば科学と鋼が支配する世界。剣と魔法の世界。
果てはぶるまーが中心の世界の風景までも映す。

ここは創造神が創りし世界のひとつ。

「鏡」は彼が異世界を観賞し、時には干渉し、時にはその世界の
生きる者、又は物品をこの世界に召喚する為の「門」。

「水晶」は彼の力を蓄える。召喚する力を使う為に。
時空の狭間にそれを留める事、その全てをそのままの形で永遠に
留める事もできる力をも持つ、例えるなら「操縦桿と動力」。
蒼の光は呼び出すための力。

この世界の近くに在る、異世界人同士での死闘が繰り広げられる島。
創造神が「ゲーム」を楽しく観賞するために創りだした舞台。
そして、ここはその為だけに創り出されたいわば「装置」。

70蒼の光、消える:03/05/30 23:53 ID:TS4FaLEJ
やがて蒼い水晶は輝きを失い、透明の水晶となった。
そしてゆっくりと砕け始め、塵となりはじめる。
何故ならそれは先ほど召喚された、今の「ゲーム」最後の運営者ケイブリスと
狂気の魔剣を呼び出した時に全ての力を使い果たし、役目を終えたから。

水晶が塵になったのを見届けたルドラサウム。
その紅い瞳が笑ったように歪む。
今度は彼の前方に水晶の粒が集まり始める。
粒がくっつき始めひとつの水晶となっていく
新しい水晶はわずかに紅い光を放ち始める。
紅の光……それは帰す為の力……
蒼の水晶の様に大きくなるには……まだ時間がかかる……

                 ↓
71あぼーん:あぼーん
あぼーん
72名無しさん@初回限定:03/06/01 20:42 ID:JsYpz+HV
保守
73名無しさん@初回限定:03/06/03 20:27 ID:nc+XLlE1
保守っとく
74名無しさん@初回限定:03/06/05 22:52 ID:ylBArA5l
保守age
75あぼーん:あぼーん
あぼーん
76あぼーん:あぼーん
あぼーん
77名無しさん@初回限定:03/06/08 00:58 ID:kaZlT8NW

78名無しさん@初回限定:03/06/09 22:22 ID:nWUjjpi7
保守
79亀裂:03/06/11 11:50 ID:M7zdP2Ne
【二日目 AM12:40 本拠地・管制室】

「全く、何なんだあの怪物は?」
ケイブリスが破壊していった扉や壁の修復を自分のレプリカ達に任せ、
椎名智機はいらつきを込めて言った。
再び彼女の住居である管制室に戻り、鋼鉄の椅子に身を任せる。
確かにこの大会には(智機自身もそうだが)人外なる怪物級の連中が多数参加している。
しかしながら、ともすれば主催者さえ制御しかねるような正真正銘の魔物を呼びこむ
などど言う事はあまりにもリスクの高い行為と言えた。
もし万一『アレ』がこちらに反抗的な態度を取る事になれば、本当にこのゲームの
運営は滅茶苦茶になってしまうだろう。
「フン。我々が運営者としての職務を果たせていない、という事なのだろうな……」
智機の頬に自嘲めいた笑みが浮かぶ。
度重なる警告にも関わらず馴れ合いを続け、こちらへの反抗を企てる参加者達。
それに対し幾度と無く攻撃を仕掛け、失敗に終わっているカモミール。
特定の参加者にしか興味を持たなず、その本心も読めない素敵医師。
本当に伝達役しか勤めない透子。
玉座に鎮座し、指示を出すだけのザドゥ。
全く、運営する側がこうではスポンサーが不安になるのも無理は無い。
「……カモミール、こちら椎名だ。現状を報告しろ」
せめて前線の無能者達にプレッシャーをかけておこうと、智機はカモミールへの
回線を開けた。
80亀裂:03/06/11 11:50 ID:M7zdP2Ne
『……………』

無音。
「………カモミール、どうした?応答しろ」

『……………(ぺちゃ、ぺちゃ)』
粘着質な音と呼吸。

「カモミール!」

『えへ、えへへ……あめさんおいひぃ……おいひいよ♪……えへへへ……』
掠れた笑い声と共に聞こえてくるカモミールの声。
しかしながらそれは、智機の知るどのカモミールとも違っていた。

その直後、スピーカーから別の甲高い声とノイズが入ってきた。
『あーあーあー……カモミール!それは飴じゃないがよ!よだれまみれにしたら
 壊れて電気ビリビリがね。ほれ、センセに貸すき。(ガチャガチャ)』
それは、智機にも聞き覚えのある声だった。
「素敵医師か!?」
『けひゃひゃひゃひゃひゃ!当たりぜよ智機の嬢ちゃん。あー、ちっとばかし
 カモミールは話ができる状態じゃないき、センセが代わりに受け付けるがよ』
声だけとはいえ、これで向こうの状況が理解できない程智機は鈍感ではなかった。
「貴様、何をやった!?」
『なーにをやったってーのは人聞きが悪いがねえ。センセがアインの嬢ちゃん
 探しとったら、カモミールが腹から血をだくだく流して9割方死んどったんじゃき。
 そんで、心優しいセンセが秘密のオクスリで復活させてあげただけがよ』
「……それで、カモミールは解除装置を持っていたか?」
『あー?持っとらんかったが』
素敵医師の即答に、智機はマイクから顔を離して小さくうめいた。
「……何と言う事だ」
81亀裂:03/06/11 11:52 ID:M7zdP2Ne
智機の言葉には、2つの『何と言う事』が込められていた。
一つは、カモミールが返り討ちに会い、未だに解除装置が参加者の手にある事。
もう一つは、そこで死ぬならばともかく素敵医師という危険人物の手駒になって
しまったという事実である。
『ままま、そー悲観するモンでもないがよ?』
マイクの向こう側の情景が想像できるのか、素敵医師は耳障りな声で明るく言った。
『今のカモミールはセンセのオクスリの効果で、速度、パワー共に数倍に跳ね上がっと
 るき。更に痛みっつーモンがぜーんぶ気持ちよくなるようになっとるんで、
 骨折られようが体切られようが痛がるどころかアヘアヘでよがり狂うんじゃき。
 これならアインの嬢ちゃん殺して、あと解除装置奪うのだって簡単がね!』
「……そうであって欲しいがな」
精一杯の皮肉を返し、智機は思考を切り替える。
現実問題としてこうなってしまったのならば仕方が無い。せめて参加者への懲罰を
優先させなければ。

だが、その智機の考えを遮るかのように室内に男の声が響いた。
「……素敵医師よ」
「ザ……ッ!?」
『けひゃ……っ?』
全く気配を感じさせずに、ザドゥが智機の背後に立っていた。
82亀裂:03/06/11 11:52 ID:M7zdP2Ne
呆然とする智機の手からマイクを取り、静かに、しかし重々しく言葉を続ける。
『ななな、何がよ?ザドゥの大将?』
「……運営者同士の傷害、致死行為は禁止されている……分かってるな?」
『ももももちろんがよ!だーからセンセカモミールを助けてあげたんじゃき』
「そうか……人助けと言う訳だな?」
『そーそーそー、人助けぜよ、人助け!いー響きがねぇ……』
「フン……フフ、フフフ……」
『け、けひ、けひゃひゃ……』
「……ハハハハハハハ!」
『……けひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!』
突如笑い出すザドゥ。それに対し、素敵医師も愉快そうに笑い返す。
―――――笑いが止まった。
「……素敵医師よ、やはり私はお前を罰さなくてはならないようだ」
『……あ?』
「な!?」
智機の頭脳に危険信号が鳴り響き始めた。ここでこの男を止めなければ、致命的な
事態が発生する!
「馬鹿な、何をつまらない事を!」
『そそ、そーがよ!?センセは大将の事を思ってやっとるんやき!?』
声を荒げる智機に、マイクの向こうの素敵医師も同意する。
だが、ザドゥはその抗議に対し口元を軽く歪めたのみであった。
「お前は、殺したのだ」
その口調はあくまでも静かであった。否、静か過ぎた。
「カモミールの誇りと魂を……な」
83亀裂:03/06/11 11:54 ID:BBVCjX0O
「ザドゥ様!冗談にしては悪質に過ぎるのでは!?」
まだ僅かに残っていた礼式をどうにか保ち、智機はザドゥに言った。
「私は本気だとも。……闘士の誇りを理解せぬ貴様等には分かり得ぬ事だろうがな」
ザドゥの眼が智機の視線と向き合う。
「……それに、一度ならず抱いた相手に情を持てぬ程、私は老いていない」
凪の海の様に落ち着いた瞳。だが、その奥にゆらりと黒い炎が揺らめいている事に
智機は気付いた。
「(……これは……!?)」
その瞬間、智機はザドゥの感情を理解すると同時に強烈な絶望感に襲われた。

――――― こ の 男 は キ レ て い る 。

「智機よ……今素敵医師とカモミールはどこにいる?」
「正気か!?」
思わず智機はザドゥを怒鳴りつけていた。
「貴様もさっきの神の声とやらを聞いたのだろう!?今後、あの参加者どもは積極的に
 こちらを狙ってきかねない状態なんだぞ!只でさえ混乱しているこの状況下で、
 主催者であるお前がノコノコ島をうろつく事がどれだけリスキーな真似だと思っている!?
それともそんな単純な事すら理解できないのか、この筋肉頭が!」
 余りにも失礼な怒声であったが、ザドゥは全く動じずに答えた。
「別に参加者と戦闘する訳ではない……目的は素敵医師への懲罰だけだ。
 それが終わればまたここに帰還する……どこにいる?」
「……………!」
もはや、いかなる言葉も彼を止める事が不可能である事を智機は理解していた。
これ以上拒否すれば、この男は智機を首だけにしてでも知ろうとするだろう。
84亀裂:03/06/11 11:54 ID:BBVCjX0O
「……東の森だ!」
「感謝する。細部のナビゲートは現地で頼むぞ、智機よ」
そう言い残し、ザドゥは智機に背を向け歩き出した。
「馬鹿が!」
搾り出すような罵倒をその背後に投げかけ、智機は力尽きたように椅子に座り込んだ。
「―――という事だ、素敵医師。逃げるならさっさと……切れたか」
既にスピーカーからはノイズ音しか聞こえていなかった。おそらく今の一連の会話を
聞いて、早速逃げ出したのであろう。
「全く、どいつもこいつも……」
正直な所、このまま智機も運営を投げ出したい気分だった。
だが―――それは絶対にできない事でもあった。
「失敗させてなるか、何があろうともな……」
「血の通った肉を持つ人間になる事」
「それが」
「貴方の願い」
「なのですね」
「ッ!?」
突然の横からの声。
「心の盗み聞きとは悪趣味が過ぎるぞ!」
「……………」
その横に立つ無表情な女性、御陵透子はじっと智機を見つめ、そして消えた。
「……クソッ!」
智機は肘掛に拳を叩き付け、歯を食い縛った。
「……失敗させて、なるものか……!」
85亀裂:03/06/11 11:55 ID:BBVCjX0O
同時刻・東の森西端】
「……さ〜て、面白くなってきたがねぇ♪」
通信機の向こう側、先程まで慌てふためいていた筈の素敵医師は楽しそうに笑っていた。
「ま、ザドゥの大将のやり口はぬるぬるでいー加減飽きてきたトコやき、
 ここらでセンセが大将殺してセンセが主催者になるってーのもいい話がね。
 そんでアインの嬢ちゃんにオクスリをあげて……」
「ねぇ、ねぇ、素っちゃん〜(くいくい)」
「あ?何ががカモミール?センセ今考え中が」
「ぶ〜。ねぇ〜、しよ〜よぉ。アタシぃ、さっきからグチュグチュだからぁぁ♥」
蕩けきった顔の芹沢が素敵医師を見上げる。
そう言いながらもその右手は下着の中で激しく動いていた。
紅潮した頬と潤んだ瞳は、それだけで並の男なら篭絡できるだろう。
だが、素敵医師はまるで興味が無いように芹沢を振り払った。
「あん♪」
それさえも感じるのか、艶めいた声で芹沢は地面に寝転ぶ。
「もーちっと我慢がよ、カモミール。もーちっとでお前の好きな事いーっぱい
 させちゃるき。アレも、人斬りも……」
「ふあぁ……楽しみィ〜!」
言いながら絶頂に達したのだろう。右手の動きが止まり、一瞬体が大きく跳ねる。
「けへっ、そうがねえ……あの知佳って子の前で、お前と恭也って兄ちゃんとを
 させるのも面白そうじゃき、どんな顔で兄ちゃんがイク時の顔を見るのか楽しみがね。
 けひゃははは!夢は無限に広がるがよ!……ま、まず行くべきはアソコがね」
一頻り哄笑すると、素敵医師はふらふらと歩き出した。
「アン、素っちゃん待ってよぉ……」
気だるそうに起きあがり、芹沢もその後を追う。
その足は、森のある一点を目指していた。
86亀裂:03/06/11 11:56 ID:BBVCjX0O
【ザドゥ】
【所持武器:己の拳】
【現在位置:本拠地】
【スタンス:素敵医師への懲罰。
      参加者へは極力干渉せず】

【素敵医師】
【所持武器:メス数本・注射器数十本・薬品多数】
【現在位置:東の森西端・山の麓辺り】
【スタンス:アインの鹵獲+???】
【備考:主催者サイドから離脱、独立勢力化】

【カモミール・芹沢】
【所持武器:虎鉄】
【現在位置:素敵医師に同じ】
【スタンス;素敵医師の指示次第】
【備考:重度の麻薬中毒により正常な判断力無し。
    処置されているものの、腹部に裂傷あり】
87名無しさん@初回限定:03/06/13 19:30 ID:EE31BpD7
保守
88打算:03/06/15 00:46 ID:F4JJq6bI
(第二日目 PM0:10)

早急に考えなければならないこと。
たった今起こった現象について。
まずは、回りの確認、私以外の二人もこの声(?)を受信している。
よって、これは、私だけに届いた物ではなく
複数の参加者、ないし、全員に届いたものであるのでしょう。
次に、問題なのは、この声が何であるかと言う事。
可能性としては、二通り考えられる。

1:言葉の通り。
2:参加者による策略。

現実的に、考えれば、後者ですわね。
今、私の目の前にいる知佳という少女は、超能力者……
現にその力は、私の前でも証明されている。
そして、この魔窟堂さんとまひるさんともまた同じく人知を超えた参加者。
ですれば、先ほどのような行為が可能な能力を持った
参加者がいてもおかしくはないと思える。
この場合、この参加者に起こり得るメリットは何でしょうか?
理由は、到って明解。
参加者と運営者をぶつける事により、あわよくば、運営者全滅。
少なくとも、参加者の数が極端に減り、上手くいけば、自分以外が葬られてくれる。
こんな所でしょうか……
89打算:03/06/15 00:46 ID:F4JJq6bI
ですが、これは、私にとっても非常に都合のいい物ですわ。
そう、私もこれを利用させて貰えばいいだけ。
しばらく狩るのを様子を見て、仲間を増やせるようなら増やし
気を見計らって、運営者へとぶつける。
狩る側へ回ったものについては、彼らの実力と私の知恵があれば
まず、負ける事はないでしょう。
そうして、私達以外の参加者を駆逐し、最終的には、運営者達と対決……
その結果、彼らが全滅して私が生き残るっても、運営者が倒されても
私にとって、いい結果でしかない。
問題は、これを考えた方との対決……
少なくとも魔窟堂さん達、もしくは、同じ考えを持った抵抗者達を知っていると見た方がいいですわね。
おそらく、為りを潜めて、仲間に加わってくる、もしくは、体のいい言葉で拒否するでしょう。


………あら、まひるさんの様子がおかしいみたいですわ。
身体をブルブルと振るわせて……… 何か言ってるみたいですわね。
神? あの声が神と?
まさか……… 間違いない? 私達とは違う絶対的な意思の力だった?
これは、言葉通りの可能性も否定できませんわね……
とすれば、まさに私にとっては、天命とも言うべきチャンスですわ。
考えた方との対決を考えず、そのままぶつければよいのですから。
それに、役立つモノも召還されているのならば、是非とも手に入れたいですわね。
ですが、念のために、仲間に加わる人や敵対心を見せずに合流を拒否する人
に対しての注意も必要ですわ。
そう、利用できるものは、何でも利用しませんとね?
90打算:03/06/15 00:47 ID:F4JJq6bI
【月夜御名狭霧】
【所持武器:多数?】
【現在位置:西の森の小屋へ移動中】
【スタンス:反抗者を増やし主催者へぶつける。 モノの確保】
【備考:各地で得た道具を複数所持】
91あぼーん:あぼーん
あぼーん
92首輪の・・・:03/06/16 23:51 ID:kA/XHfy/
あたしと星川は東の森の中を歩き続ける。

さっきから…身体が痛む…。星川が心配そうに見る。
「大丈夫よ」
そして今、左肩に熱くヌルリとした感触がする。
あたしの左肩の傷口が開いたからだ…。
星川には言えない、また心配かけてしまう。
「………。見つからないね。」
あたしをしばし見つめた後、星川はそう言った。
あたしが優勝するには、十数人残った他の参加者達を
探して全部、倒さないと…。
さっきから逃げられてばかり……
今では、むかつくことに見つけることもできやしない。
「双葉ちゃん…その傷…」
星川があたしの傷に気づき、声を掛ける。
「だ、大丈夫よ…」
また同じ事を言ってしまうあたし…イライラする…。
傷口を塞ぐためにあたし達は、座って休憩することにした。

少し冷たい緩やかな風が、あたしの頬をなでる。
もたれていた木の幹にふと右手をやり、
あたしは頭を上げる。数メートル先に白い何かが落ちてる……何だろ?
星川も気づき、少し用心しながら白い何かを確かめる。
あたしの方へ歩きながら、やや不可解そうに顔を曇らせて言った。
「双葉ちゃん……これって…」
…え…これって、式札…。まさか他の参加者を探索するのに
周辺に放った式神?何で?これ、十分位前に使った式札だ。
もう時間切れ?そんなはずない、術に失敗した?まさか、森の中で。
それも比較的簡単な術をあたしが失敗した?
額に汗がにじむのがわかる。こんなトコで失敗なんて!
あたしは札を星川の手から取り、呪紋を描き、呪を唱えた。
93首輪の・・・:03/06/16 23:53 ID:kA/XHfy/
「!!!!!!!」
突然、あたしの身体に激痛が走り、あたしは声にならない悲鳴をあげる。
「双葉さま!」
星川も悲鳴を上げる。
荒い息を吐きながらあたしは言う。
「ま…間違えないんでよね…く…双葉ちゃん…でしょ…」
「も…ゴメン、双葉ちゃん…」
あたしは札を見つめる。そんな、バカな。こんなこと一度だって、
なかった。何で?なんで?こんなこと一度も……
一時間ほど前に大技の準備に術を多用したから?
初めて使う術だったし、面倒だったけど、ここまで負担がかかるの?
まさかその前にあのカップルに使った催淫術の所為?
多くの式神を探索に向かわせた所為?
大技はまだしも、他の術はあたしには簡単なのに…
術には代償が必要…なのは知ってる、でもこんなんじゃない。
あたしは再び札を掲げ、呪を唱えようとする…
「あ・・・」
星川が声を上げる、そして彼の姿が…故障したテレビ画面の中の人物のように
音を立てながらブレ始めた!
「星川!?」
声を上げるあたし。次の瞬間、説明できない重圧感と共に
『声』が脳裏に響いた!

94首輪の・・・:03/06/16 23:56 ID:kA/XHfy/
放送とは明らかに違う、脳裏に直接響いた声は全てを語り終わった。
「はあ、はあ、はあ……」
荒い息を吐くあたし。あの声、ただ脳裏に響いただけじゃなかった。
説明できない、けど。あたしの持つなにかが、あの声の主が何者なのかを
漠然と知らしめる。あの女、透子が言ってた「願い」を叶える力を持つ者。
あの時、虎の覆面の男を殺したあの男を上回る圧倒的な重圧感を
あたしに感じさせた。
「神」としか形容のしようがない、あたしにそう確信させる何かがあった。
「ふう、ふう……」
落ち着き始めたあたしの呼吸。星川も元に戻っている。
あの言葉、あたしが望んでいた真実だった。でも…
「…本当だったんだ。だから何?
あたしは優勝すると決めたんだから、今更何?」
自分でも、慌てているのがわかる。身体中が震えて痛む。
何気に首輪に手をやりながら、星川の方を向く。
「今のは…」
星川は自分の身体に異常はないか体中を見回している。
彼にもあの「声」は聞こえていたみたい。
「星川、少し休んだらまた探すわよ!」
とあたしは立ち上がろうとした。
「!!」
立ち上がれない。立ち上がる力が…出ない。
「……」
星川が駆け寄り肩を貸そうとする。
「1人で立てるわよ!」
手を払いのけてしまう。もう一度立ち上がろうとするあたし。
でも立てない。さっき聞こえた声の事を思い出してしまう。

95首輪の・・・:03/06/16 23:58 ID:kA/XHfy/
『また、運営者を全滅させた場合でも、願いを叶えよう』
あたしは…あたしは…あの女、透子に騙され利用されてた?
あたし達をここに連れてきた運営者達に踊らされていた?
そんなの関係ないじゃない!
それともそんなに、奴らに踊らされていたのが悔しいの……?
あたしは立ち上がろうとした。途中で脚に力が入らず、
あたしはうつぶせに倒れてしまった。
「双葉ちゃん……」
星川が肩を貸してくれる。そして、あたしは彼の顔を見る。
「…………」
悲しそうな顔。あたしは顔を思わず背けてしまう。
「無理しないで……」
無理?この位何よ。今更、後には退けないわよ。
身体中の痛み……これさえ何とかすれば、あたしは無敵なんだから。
この痛み。一体いつから?あたしは考えはじめる。
「………」
やっぱ思い当たる節は無いわね。あたしは再び首輪に手を触れた。

96首輪の・・・:03/06/16 23:59 ID:kA/XHfy/
「!!」
思い当たる節は…あった……
術を失敗する。
あの時、「星川」も失敗していた。
エーリヒと名乗っていた老人の首輪を外すのに失敗してた。
あれが術だったかはあたしにはわからない。
でも、首輪を外すのに結構集中してたのは分かる。
あたしの術も集中力が必要だからだ。
あたしは星川の顔を見る。
「?」
「あ……あ…」
あたしは思わずうめく。首輪をつける――あたしがゲームに乗った証。
あたしは、星川を生き返らせるためにゲームに乗った。
そして主催者いや、運営者の奴らに命を預けた。
その…その事で星川の行為を無駄にした?
もし奴らがあたし達を1人残らず生かして帰す気がなかったら?
仮にあたし達の首輪に何かを仕掛けていたら?まさかあたしの痛みもこれで?
「う……くあ…」
頭が痛い。眩暈がする。動悸が早まる。痛い、心が。
星川が何かを叫んでいる。なにいってんのよ?
混乱したまま、あたしは意識を失った。

突如聞こえた『声』、それは同時に聞きたくないモノでもあった。

97首輪の・・・:03/06/17 00:02 ID:T4kG3ID8
(第二日目 PM12:00 東の森・南部)

声が聞こえる、やな感じの声が…
「……あったからそこを訂正するぜ。3番 伊頭遺作 5番 伊頭鬼作
14番 アズライト 26番 グレン・コリンズ 13番 海原琢麿呂 
以上だ。まぁ、せいぜい殺しあってくれよ、ゴミどもめ………」
うっさいわねえ…あたしは頭を押さえながら身を起こす。
「双葉ちゃん。大丈夫」
星川が安堵の声を上げる。
「大丈夫よ。」
手を振りながら答えるあたし。
「双葉ちゃん、もう少し休んだ方が……」
「………。あたし、これから考え事するから回り見張ってて」
星川の眼を見ながら、あたしはそう答える。
「うん…わかったよ」
星川があたしから少し離れる。あたしは周囲を見回す。
相変わらずそよ風が吹いてる。さっきと変わらない風景。
あたしはふと自分の右手を見つめる。
………少し泥で汚れている手のひら。でも、まだ血で汚れていない。
あたしは、元々こんなゲームに乗るつもりはさらさら無かった。
ゲームに乗ったのは、黒髪ショートカットのあいつに
殺された「星川」を生き返らせたかったから。
あたしの首輪を外してもらった借りを返せないまま
「星川」の事を引きずっていくのが嫌だから参加した。
人を殺す意味を、無理やり連れてこられた参加者達を皆殺しに
する意味を考えもしなかった。
もし…生き返った「星川」や妹の若葉が、優勝したあたしを見たら
どう思うんだろ?あたしはいつもどおりに振舞えるんだろうか?
多分無理なんだろうな。きっと気づかれてしまう。
98首輪の・・・:03/06/17 00:05 ID:T4kG3ID8
あたしは空を見上げる。若葉。あの子、今どうしてるんだろ?
あたし達の乗ってたバス。あたしがいなくなって
きっと大騒ぎになってるに違いない。
そういえば、この島に来てからまだ2日も経っていない。
向こうでは何日経ってるんだろ?ホントならあたしが今通っている
鐘ノ音学園ってどんなガッコなんだろう?
あたしは自分の左手のひらを見つめる。
「優勝……」
一言呟いた後、あたしは再び考える。
あの時、あたしは絶対優勝してやると決意していた。
でも今ではあのときの熱意はもうない。
優勝か運営者全滅……。どちらを選んだ方が良いかは、
可能性以前に運営者全滅を目指した方が良いに決まっている。
あたし達をこんなトコに連れてきたアイツ等にも腹が立っているし、
「星川」もそれを目指していた。例えば昨日の夜に見かけたあのカップルには
幸せになって欲しいとあの時はそう思ってた。
わずかな間、一緒に居た魔窟堂って老人にもどちらかといえば
手にかけたくない。何よりそっちを選んだ方がまだ気持ちは楽だ。
だけどあたしはもう彼らを殺そうとした。
さっきの定時放送であの二人はまだ生きている。
でも、無事じゃないかもしれない。
あたしが攻撃してないってしらばっくれる事なんてできない。
今更、仲間に加えてなんて言えない。
今更、一緒に行動なんて多分できやしない。
だけど、陰ながらサポートはできる。
あの人たちが変わってさえなければ助けてやりたいと思う。
「………」
あたしは左肩を押さえる。それでも今でも変わらないモノがある…。

99首輪の・・・:03/06/17 00:10 ID:T4kG3ID8
黒髪ショートカットのセーラー服の女。「星川」を殺したアイツ。
アイツに対する怒りだけは消えない。アイツさえ、アイツさえ
「星川」を殺さなかったら、あたしが首輪を付ける事はなかった。
絶対、今よりマシな状況になってた筈だ。
「………」
歯軋りする。アイツの名前は知らない。既に死んでるかも知れない。
でも、あたしにはアイツが死んでいるとは思えない。
きっと生きてて、あたしの命を狙っている。
たとえあたしがあの老人と同行できたとしても、アイツなら
それにかまわずあたしを殺ろうとする。
一度深呼吸して、気持ちを落ち着かせようとするあたし。
少し前の記憶をたぐりよせる。
あの時、あの老人の仲間であった巫女装束の女、
神楽が止めようとしても、アイツは止めようとしなかった。
「・・・・・」
――――生き残って、星川を生き返らせる。
これも変わらない気持ちだ。それを叶えるにはアイツとだけは
ケリをつけなきゃならない!
あたしは立ち上がり、星川に声をかけた。
100首輪の・・・:03/06/17 00:14 ID:T4kG3ID8
「なんだい、双葉ちゃん?」
あたしは立ち上がり、星川の近くに行くと、木の棒を拾って
星川に地面を見るように合図した。
「?」
「あたしはそのまま優勝を目指す」
「え……どういう?」
そう答える星川の目線は地面の方を向いている。
「そのままの意味よ、今更変えられるわけないじゃない」
あたしの右手は言葉とは違う事を地面に書いている。
「で、でも双葉ちゃん。本当に…」
結構、うまく合わせている。連中は別の傍受方法を使ってるかもしれない
無駄な事してるかも知れない。
けど、これ以上踊らされるのはゴメンだ。抵抗らしい抵抗ぐらいはしてやる。
あたしはこれからの行動を星川に文字で伝えながら心中でそう呟いた。

101首輪の・・・:03/06/17 00:17 ID:T4kG3ID8
(第2日目 PM1:05 東の森中央部)

一時間くらい後。充分な休憩を取った後で
あたし達は再び広場に向かっている。
あたしが結果的にどっちを選ぶかはまだ決まっていない。
あたしの首輪を外す方法はないし、運営側の奴ら次第で爆破されてしまう
かもしれない。事がすんだら様子を見る。自分から手は出さない。
あたしは後悔してしまう道を選びたくはない。
その前にやらなきゃいけないアイツとの決着。
それだけは分かるアイツに勝てば、あたしは生き延びる事ができる。
「星川」は…もしかしたらそれを咎めるかも知れない。
それでも、アイツとは決着をつけたい。
願いが叶えば、復讐の意味がないのはわかる。
あたしのエゴに過ぎなくても、アイツとは戦う!
横に歩いている星川を見つめる。
星川には感謝している。あたしの我侭に付き合ってくれている事。
先ほど、術を仕込む事を了解してくれた。
絶対服従なのが分かっていてもそれが嬉しかった。
あたしは木の葉で作った札を一枚飛ばす。
その札はあたしの姿となって、数秒後に消えた。
もう一枚飛ばす。その札は木の枝に張り付き、木の枝を一瞬、針のように
変える。
身体は痛まない。休んだからだろうか。
首輪が原因かはまだあたしにはわからないけれど、
術を多用するのは控えようと思う。
術に頼らなくても、森の木々はあたしに味方してくれる。
森の木々に周囲の状況を聞きながらあたし達は歩き続けた。

                    
                     ↓
102首輪の・・・:03/06/17 00:33 ID:aRxFiGPM
【朽木双葉と式神星川】
【所持武器:手作りの呪符多数、薬草多数】
【現在位置:東の森中央部】
【スタンス:アインの捜索と決着
      参加側にはなるべく干渉せず
      運営者には首輪の仕掛けについてだけ聞く
      相手の態度次第では干渉しない】
【能力制限:術の多用は肉体に負荷がかかる】
【備考:双葉は能力制限の原因は首輪だと思っている】
103道分かつ時:03/06/17 03:02 ID:ERvBGRBk
(第二日目 AM11:50)

「さてと、まずは、恭也殿を小屋へ連れて行かねばの」
魔窟堂は、恭也を背負うと西の森の小屋への道を歩き始めた。
「それにしても知佳さんの姿が、見当たりませんね。 この恭也さんの重症といい、一体何があったのでしょうか?」
周囲を見渡しながら、魔窟堂の後ろに続き狭霧は、言った。
「襲われたと見るのが当然じゃろうな……
あの場所にあった死体から察するに、恭也殿が知佳殿を助けるために戦い重傷を負ったと考えるのが筋じゃろう………
安全な場所に避難してくれてるといいのだが……」
(だが、あの殺されていた(?)者の死に方は、とても剣士によるやり口とは思えん……
まるで、とてつもない何かに襲われたかのような感じじゃった……)
「知佳さん、無事かな?」
不安な表情を浮かべながら、消えた知佳の身を案ずるまひる。
「ところで、狭霧殿、その銃は?」
ふと、気づくと狭霧は、歩きながら銃を弄っている。
「先ほどの男の死体の直ぐ側に落ちていたもので。
使えるものは、できる限り確保しておいた方がいいでしょうしね」
「そうじゃな…… その銃は、護身用にお主が持っておくと良い。
まひる殿では、ちと扱いずらいじゃろうしな」
「ええ、そうさせてもらいます」
そう言うと狭霧は、銃を胸へとしまった。
「さて、急がねばなるまいぞ」
急ぎ足でピッチをあげようとしたその時であった。
彼らの脳内に神の声が響いたのは……
104道分かつ時:03/06/17 03:03 ID:ERvBGRBk
「ぐぇっはっはっはっは、それじゃぁ、今回で死んだ奴を発表するぜ
……………… 
3番 いずいさく 5番 いずおにさく 14番 アズライト
26番 グレン・コリンズ 13番 うみげんぶたまろ……
……訂正するぜ。
3番 伊頭遺作 3番 伊頭遺作 13番……海原琢磨呂 
以上だ。 まぁ、せいぜい殺しあってくれよ、ゴミどもめが……」
文字通りの静寂が訪れた。
狭霧は、直ぐさまに状況判断へと思考を回し
魔窟堂は、わなわなと身体を震わせている。
「わしは…… わしらは、こんな己の欲望を満たすもののためだけにこのゲームへと参加させられたと言うのか!?
望みをかなえるために、わしらは、犠牲にされたと言うのか!?」
沈黙を破ったのは、魔窟堂の怒声であった。
狭霧と違い、魔窟堂は、一瞬で、あれこそが神の声であると判断した。
そして、神と己の欲望の為に人を犠牲にする運営者達への怒りを震え上がらせた。
「なんのために!? なんのためにエリーヒ殿が!? 遥殿が!? …… おのれ、おのれ……」
今にも背負った恭也を振り落としそうなほどに、魔窟堂の怒りは、身体を支配する。
「魔窟堂さん……」
知佳の声が場に響いた。
「知佳殿、無事だったのか!?」
見ると魔窟堂たちの進んでいた道の目の前に知佳がいた。
いや、現れたのだ。
105道分かつ時:03/06/17 03:03 ID:ERvBGRBk
「いや、何にしろ、無事で良かった…… 恭也殿が重傷でな。
小屋へと運んで手当てせねば…… さっ、急ごう?」
知佳が現れてくれた事により、落ち着きを取り戻した魔窟堂は、知佳の手を取るように語り掛けた。
「すみません……」
「……どうしたんじゃ?」
「すみません、すみません、すみません、すみません、すみません…………」
ただひたすら、と謝り続ける知佳を目の前に、魔窟堂は、拍子抜かれた。
「私が…… 私が、もっとはやく力を使っていれば、私がしっかりしていれば!!
恭也さんは、怪我を負わずにすんだんです!!」
「なっ、では、あの死体は………」
「私がやりました…… 私、力を持っているんです。
誰にも負けない力、超能力を……」
そう言うと地価は、背に羽根をまとい、浮遊してみせる。
「でも使うのが怖かった。 そして、守ってくれる人たちに甘えていた。
あの時も、甘えていたんです。 恭也さんが守ってくれるって……
だから、だから、私が悪いんです!! そう思うと、恭也さんの前にいる事が苦しくなりました。
でも、でも、放送で恭也さんが死んでいないのを聞いて、いてもたってもいられなくなって……」
最後の言葉は、弱弱しく、その場のもの達を再び静寂へと戻した。
「………辛かったんじゃな」
やっと出た魔窟堂の一言。
それ以外に、かける言葉が見当たらなかった。
「すみません、我侭で。 ですけど、もう少し、一人にさせて下さい。 気持ちを整理したいんです」
「そうか………… 落ち着いたら、必ず戻ってくるんじゃぞ?
恭也殿が目覚めた時、お主がおらなかったら、絶対に後悔するじゃろうからな」
「……ありがとうございます」
涙を止め、その言葉を最後に知佳は、再び何処かへと姿を消していった。
106道分かつ時:03/06/17 03:04 ID:ERvBGRBk
三度、場に静寂が訪れる
「…………先を急ごう、これ以上時間をかけては、恭也殿の容態も悪化してしまう。 まひる殿?」
神の声の後から、まひるは、ただひたすらと黙り、下を向いていた。
良く見ると、身体は、ぶるぶると震えている。
「お主もどうしたんじゃ? わしと同じく怒りか?」
「神……」
「ん、なんじゃ?」
「神…… あの声は、間違いなく神です。 何ていうか、私の身体が、本能が訴えてるんです。
あれは、絶対的な力を持った神だと」
「わしもそう思うよ……… だがな、わしらは、引き返すことは出来ん。
死んでいったもののためにも生き残り、欲にまみれた運営者を倒さねばならん……
……わしの決意は、かわらんよ」
魔窟堂は、まひるの肩に左手をかけ、そういい伏せた。
自分へにも言い聞かせながら。
「だから、まずは、目の前の事を対処せねばならん。 さぁ、急ごう」
それぞれの決意を改め、再び一同は、小屋へと道を急ぎ始めた。


【広場まひる】
【現在地:西の森の小屋へ】
【スタンス:争いを避ける】
【備考:天子化一時抑制】

【魔窟堂野武彦】
【現在地:同上】
【スタンス:運営者殲滅】
【所持品:レーザーガン】

【知佳】
【現在地:???】
【スタンス:しばらく一人でいる】
【所持品:???】
107炎の少女と鋼の男(しおり・1):03/06/17 07:54 ID:es/WoPiF
(二日目 13:01 学校校庭)

一人の少女が、体育座りでそこにいた。
何も写していない瞳をぼんやりと空の雲へ向けながら、観月しおり(No.28)はそこにいた。
その全身は泥に塗れており、彼女の持ち得ていた可愛らしさを台無しにしてしまっている。
ついさっきまで、しおりは鬼作とアズライトの埋葬を行っていたのだ。
本来なら一人では到底できない作業であるが、凶となったしおりにとっては
時間こそかかったものの難しくはなかった。
「……どうしよう、マスター……」
空を見上げたまま誰にともなく言う。
彼女にとって、マスターであるアズライトの為に生きる事だけが全てであった。
マスターの笑顔を見るためにしおりの存在意義があったと言ってもいい。
だが、そのアズライトはもういない。
「……マスター……!」
名前を言うだけで涙が流れ落ちる。
さっきの声のようなものはしおりも聞いていた。『しゅさいしゃ』か『さんかしゃ』を
全員殺せば何でも願いが叶うらしい。
『何でも』という事はアズライトの蘇生も可能なのだろうか?

―――だが、自分にできるだろうか?

自分よりも遥かに強いアズライトですら殺されてしまったのだ。
『しゅさいしゃ』に自分が勝てるとは到底思えなかった。
では『さんかしゃ』には?
その答えは、未だしおりには出せていなかった。
「これからどうすればいいのかな、マスター……?」
108炎の少女と鋼の男(しおり・2):03/06/17 07:56 ID:es/WoPiF
再度そう呟いた瞬間、
「!?」
しおりは、全身の毛が総毛立つような戦慄を感じた。
とっさに立ちあがり、全神経を周囲に向ける。

誰か来る。

強い、とても強いヤツが。

気配を隠そうともせず、悠然と、堂々と。

どこから来る?

―――校舎の中から!?

そんな、さっきの機械人形達は全て姿を消した筈だ。
それにこの気配は明らかにそれとは違う、人間の物。
凶となった事で目覚めさせられた、しおりの戦闘本能が高速で処理を開始する。

『しゅさいしゃ』の人だ。
きっと今の声を聞いて、『さんかしゃ』を殺しに来たんだ。
逃げる?
戦う?
戦って勝てるのかな……?
分からない、えと、でも、相手がただの人間なら―――勝てる。
……と、思うよ。
だって、マスターがくれた力だもの。
マスターが、しおりのためにくれた力だもの。
さっきのみたいなのは難しいかもしれないけど……多分、勝てるよ。

「……………」
しおりは口腔内の唾を飲み込むと、傍らに置いていた日本刀を手に取った。
109炎の少女と鋼の男(ザドゥ・1):03/06/17 07:57 ID:es/WoPiF
「む?」
本拠地からの連絡通路を抜け校舎に出たたザドゥは、廊下の途中で立ち止まった。
ザドゥの立つ位置から十数m先、大体2教室分の距離を置いて校舎入口に一人の少女が立っている。
否、少女と言う呼び名が躊躇われるほどに幼い娘が立っている。
血と泥に塗れたワンピース。
風にそよぐ、腰近くまで伸びた髪。
その表情は昼下がりの日光で逆光になっており、伺うことはできない。
―――そして、その右手にだらりと持たれた刀。
「(この娘は……しおり、だったか?)」
智機の報告内容を思い出すザドゥ。確か、『凶』とかいう亜人に変質
しており、自然発火能力を有する超人との事だった。
「(フッ、いきなり面倒に当たってしまったな……)」
本来ならばザドゥとしても相手をしたい所であったが、今は事情があった。
うかつな事で時間を割いていては素敵医師が逃亡してしまう。
ザドゥは彼女を制する為に口を開いた。
「待……」

刹那、しおりが床を蹴る。

「!」

半瞬後、ザドゥの眼前にしおりの殺意に満ちた瞳が光っていた。
110炎の少女と鋼の男(ザドゥ・2):03/06/17 08:00 ID:es/WoPiF
信じ難い程の超高速、
「クッ!」
しかし、ザドゥはそれを認識した瞬間に上体を逸らし後方に跳躍した。
同時に1秒前までザドゥの頚椎があった場所を通過する刃。
「わああああああぁぁぁっっッ!!」
叫び―――否、雄叫びと共にしおりは刃の向きを変え追撃する。
「チッ!」
ザドゥは舌打ち一つすると身を横にして切っ先をかわし、同時に刀の平を
掌打で弾いた。
「わわっ!?」
予想外の方向からの衝撃に揺らぐしおり。
「フンッ!」
廊下に振動が走る程の踏み込み。
瞬間、伸びきったしおりの脇腹にザドゥの左が叩き込まれた。
「ぎゃうッ!」
苦悶の声を上げ、小さな体が吹き飛ばされる。
常人ならば悶絶は必至、あるいは即死の衝撃である。
しかし―――しおりは既に常人ではない。
「ま……まだだよッ!」
一呼吸も置かずに壁を蹴り、再度ザドゥに肉薄する。
「ほう!?」
少なからぬ驚きを感じつつもザドゥは腰を落とししおりを迎え撃つ。
「ああああぁぁッ!」
再び斬撃、今度は左からの袈裟懸けである。
「素人が!」
これも難なく体捌きで避けるザドゥ。
確かに速度は凄まじいが、その技法は素人もいい所だ。攻撃をする前から
狙っている部位などが全て分かってしまう。
先程と同様、伸びきっているであろうしおりの脇を……
「ッ!?」
刀の先に、それを持っているべきしおりの姿は無かった。
111炎の少女と鋼の男(ザドゥ・3):03/06/17 08:03 ID:jklIunt1
持ち手を失った刀はそのままザドゥ後方の廊下に飛んでゆく。
同時に、腹部付近に感じる高熱と風圧。
「えるぼーっ!」
叫びと共にしおりの右肘が大きく振り被られ、ザドゥの鳩尾に打ち込まれた。
「カハッ!」
刀を振り下ろした瞬間にその手を離し、相手が切っ先に意識を向けている内に懐に入り込む。
理屈の上では単純極まりないが、それが可能な速度とは如何程のものか。
「(ぬかった!)」
相手の能力を低く見ていた己を罵りつつ、ザドゥはしおりとの距離を置こうとする。
だが、離れない。
後ろに下がるザドゥとほぼ等速でしおりは距離を詰めてきている。
「(速度で……負けるだと!?)」
「だぶるえるぼーっ!」
両の肘が背後に弓の如く引かれ、次の瞬間同時に叩き込まれる。
初撃の倍の衝撃と熱がザドゥの腹筋を焼き、捩れさせる。
至近距離で小型焼夷弾の直撃を食らっているようなものだ、常人ならば
『良くて』内臓破裂の打撃。
しかし―――ザドゥもまた、常人ではない。
112炎の少女と鋼の男(ザドゥ・4):03/06/17 08:04 ID:jklIunt1
「……ぬるいッ!」
悲鳴をあげる内臓を歯の噛み締めで制し、とどめの一撃を放とうとするしおりの
手首をザドゥは素早く掴んだ。
「ああっ!?」
そのまま高々と差し上げられ、しおりの足が床を離れる。
「んっ!」
とっさに蹴りを繰り出そうとするしおり。
「ハアッ!」
だがそれよりも先にザドゥの振り下ろされた頭がしおりの額に激突する。
頭突き。
恐ろしく原始的な攻撃方法であったが、自由を奪われたしおりの混乱を加速
させるには充分な一撃であった。
「あぐッ!」
額が割れたようだ。血がしおりの鼻筋に流れ始める。
すかさずザドゥはしおりの身体を上に放り投げた。
身を屈め、体内の気を右の掌に集約させる。
「……お別れだ!」
大会開始時にタイガージョーを屠った奥義『狂撃掌』である。
狙いは一点、無防備に落ちてくるしおりの心臓上。
「狂撃掌ォッ!」
「……マスターッ!」
その瞬間、しおりは両手を向かってくる拳に向けて広げた。
その大きさは、両手合わせてもザドゥの片手一つに届かない。
例えガードしようとしても、渾身のザドゥの一撃が手ごとしおりを破壊する
のは明確だった。

―――弾けるような音が廊下に響いた。
113炎の少女と鋼の男(ザドゥ・5):03/06/17 08:05 ID:jklIunt1
「ああああぁぁぁぁぁっ!」
断末魔を思わせる叫びと共に吹き飛ぶしおり。
「あぐっ!」
頭から落下し、そのままごろごろ転がって……壁に当たり、止まる。
その身体はぴくりとも動かない。
対して、ザドゥは先程と同じ場所に立っている。
「………グゥッ!」
しかし、その顔には苦渋が浮かんでいた。
しおりを打ち抜いた筈の右の掌を持ち上げ、じっと見つめる。
「……やられたな」
果たしてその掌は激しく焼け爛れていた。
「ウッ、うぅ……!」
同時に倒れていたしおりが声を上げる。

しおりが手をザドゥの狂撃掌に向けたのはガードが目的ではなかった。
彼女は、自分とザドゥの拳との間に超高熱の炎を発生させたのである。
瞬間的に浮かんだ陽炎に気がつかずそのまま狂撃掌を打ち込んでいれば、しおりは
死んでいだろうが、同時にザドゥの拳も炭化していたかもしれない。
インパクトの瞬間に腕を引き、放出された気の余波だけでしおりを吹き飛ばした
ザドゥもさる事ながら、とっさにその方法を考え付くしおりの執念も相当な
ものであったと言えるだろう。

「この力……今、消しておかねば厄介かもしれんが……」
ザドゥは小さく呟くと、ゆっくりとしおりに近づいた。
114炎の少女と鋼の男(しおり・3):03/06/17 08:08 ID:jklIunt1
「ウッ、うぅ……!」

どうしよう、どうしよう、どうしよう!
動かない、身体が動かないよ……!?

床に倒れたままのしおりはパニック状態にあった。
凶として備わっている回復能力は、確かにしおりの機能を回復させてはいる。
しかし、それは本来備わっている筈の速度から比べると非常に遅いものであった。
カリ……
僅かながら指が動いた。

逃げなくちゃ、逃げなくちゃ!
逃げないと殺されちゃう……!

そう思いつつ、必死に手を使って這いずるしおり。
ちょうどザドゥへ背を向けているしおりには、彼の様子は足音でしか分からなかった。
足音が少し遠ざかり、止まる。
何か落としたのだろうか?

もっと、もっと早く……!

更に指の力を込める。
脇腹がじくじくと痛む。さっきの攻撃で骨折とまではいかなくともヒビ程度は
入っているのかもしれない。
そうこうしている間に、足音は再び鳴り始めた。
今度はまっすぐにしおりの方向に向かって歩いてくる。
115炎の少女と鋼の男(しおり・4):03/06/17 08:09 ID:Zmf4KfQq
!?
間に合わない!?
嫌……マスター!マスター!助けて、助けて! 

既に足音はしおりの足近くまで来ていた。
「マスター……ッ」
叫ぼうとしても、力の入らない身体からは弱々しい声しか出なかった。
そして、足音はしおりの真横に到着した。
何かが落ちる音。

……………ッ!

……だが、その足音はしおりの横を通過した。
「……え?」
固く閉じていた眼を恐る恐る開ける。
『しゅさいしゃ』はしおりに背を向け、出口へ向かっていた。
先程の落ちる音がした地点を見ると、しおりがさっき投げた日本刀が置かれている。

……ど、どーゆう事なの?

「しゅさいしゃ」はこちらを一瞥もせずに校舎を出ようとしている。
しおりは、痛みを感じながらも息を大きく吸うと、精一杯の声で「しゅさいしゃ」
に呼びかけた。
「……あ、あの……!」
「……ん?」
何とか届いたのか男の足が止まり、こちらを向く。
しおりは傍らの刀を握ると、それを杖代わりによろよろと立ちあがった。
「……なんで、殺さないの……?」
116炎の少女と鋼の男(しおり・5):03/06/17 08:11 ID:Zmf4KfQq
その、しおりにとっては当然と思える疑問に男は薄く笑った。
「フン……殺されたいのか?」
ぶんぶんぶん。
首を振るしおり。
「お前達の相手をしている暇は無い。それだけだ」
「……………?」
しおりの顔に更なる疑問符が浮かぶ。
「えと、えと……おじさん、『しゅさいしゃ』なんだよね?」
「……………そうだ」
何故かしばしの間を置いて、男は答えた。
「なのに『さんかしゃ』を殺すヒマが無いの?」
慎重に言葉を選びつつしおりは尋ねる。
「……それを言おうとした矢先に貴様が攻撃してきたのだろうが」
「そ、そうなの?」
「そうだ」
「……………」
「……………」
気まずい沈黙が流れた。
しかしそれは、先程までの殺伐とした空気を押し流す気まずさであった。
沈黙を破ったのは、『しゅさいしゃ』の方だった。
「……貴様も叶えたい願いがあるのだな」
「え!?……う、うん!」
戸惑いながらも、はっきりと答える。
「マスターに……マスターに生き返ってもらうの」
「……ならば参加者を殺せ。その方が遥かに容易い。貴様の能力ならば
 今残っている参加者の多くを屠る事ができる筈だ」
言いたい事を全て言い終わったのか、男はそう言うとしおりに背を向けた。
今度こそ振り返らずに校舎を出てゆく。
「……………」
その遠ざかってゆく背中をしおりはぼうっと眺めていたが、ふと、何か気付いたのか動き出した。
ふらつきながらも入り口近くに置いていた鞘を取り、刀を納める。
その足は、そのまま男の背中を追っていた。
117炎の少女と鋼の男(ザドゥ・6):03/06/17 08:12 ID:Zmf4KfQq
ぱたぱた……ぱた、ぱたた。
不規則な足音にザドゥは振り返った。
見ると、しおりが刀を背負い追いかけて来ている。
「?」
ザドゥはけげんな顔でしおりを見た。
一方、しおりの方もザドゥの視線に気付いたのか慌てて止まる。
「……何のつもりだ」
「……おじさん、えらい『しゅさいしゃ』なんだよね?」
おずおずと聞くしおりにザドゥは面倒臭そうに答える。
「だから何だ?」
「えと、えっと……だったら、私みたいに他の人が攻撃してきたり
 するんじゃないかな?」
しおりは、自分の知っている語彙から何とか上手い表現を見つけようとしているようだった。
「だから、それを私が殺すの!そうしたら、ええっと……」
そこまででザドゥはしおりの意図を理解した。
彼女はザドゥを餌にして他の参加者をおびき寄せるつもりなのだ。
まあ、そこまで直接的に考えているかまでは分からないが、結果的にそうなる
事を考えているのは事実だろう。
とはいえ、それは参加者への干渉を避けたいザドゥとしても好都合であった。
万一参加者が襲撃してきたとしても、それはしおりに任せて行けば良いのだ。
―――今の一戦で予想以上に痛めてしまった拳を、これ以上消耗する訳にもいかなかった。
「……好きにしろ」
ザドゥはそう言い残し歩き始めた。
118炎の少女と鋼の男(ザドゥ・7):03/06/17 08:14 ID:Zmf4KfQq
ぱた……ぱたっ、ぱた。
その後をやはり足音が追う。
「……『しゅさいしゃ』のおじさん?」
「まだ何かあるのか?」
「あの……名前、何て言うの?」
本当に他愛ない質問。
ザドゥは無表情に答えた。
「……ザドゥだ」
「ザドゥのおじさん……?」
「……………」
ザドゥは答えない。

それからたっぷり数十秒の間を置いて、ザドゥは苦々しく言った。

「…………おじさん、は付けるな」
           
              ↓
119炎の少女と鋼の男:03/06/17 08:15 ID:C1HS2EGO
【No,28:しおり】
【現在位置:校舎外】
【所持武器:日本刀
      発火能力】
【スタンス:参加者殺害】
【備考:凶化・身体能力上昇。
    弱いながら回復能力あり。
    打撲多数、現在歩行にやや難あり】


【主催者:ザドゥ】
【現在位置;校舎外】
【所持武器:己の拳】
【スタンス:素敵医師への懲罰
      参加者への不干渉】
【備考:右手に中度の火傷あり】
120あぼーん:あぼーん
あぼーん
121道分かつ時:03/06/20 03:35 ID:xTTtE0Lb
保守
122865:03/06/20 03:35 ID:xTTtE0Lb
保守失敗w
風邪引いてたので明日にあげます
123あぼーん:あぼーん
あぼーん
124あぼーん:あぼーん
あぼーん
125備えあれば・・・:03/06/20 23:02 ID:2dBCJmeV
(二日目 PM1:15 東の森中央部)

楡の木広場を目指しながら、あたしは手に持っている呪符を見つめる。
呪を唱え、印を結ぶ。そのタイムラグを少しでも縮めたいから
朝に一時間以上かけて発動直前の術の力を込めた呪符を数十枚分作った。
主な術は分身と武器化。式神作成の応用であたしの幻像を生み出す呪符。
数秒間、植物を硬質化させる。それをあたしが操る。
銃相手にためらわずに向かってきたアイツに確実に勝つ為に!
すべての呪符を確認し終わったあたしはメモを読んでる星川の方を向く。
「そっちも終ったー?」
星川はメモを閉じて、あいずちをうってあたしにメモを見せる。
(現在確認できてる参加者で名前が分からないのは魔窟堂さんと
一緒に居た赤毛の女の子と黒髪ポニーテールの女の子。
ランスと一緒に居た水色ショートの女の子とタコみたいな人と例の女の子。
名前がわかる人達を入れて、これで十人だよ)と書かれていた。
あたしは右手をアゴに当てて考える。
さっきの放送での死亡者名は全部男の名前だった。
ってことはあのバカ男と一緒にいたあのタコ親父はもういない?
いないとしてあたしの知らない参加者がまだいる?
「………」
あたしの力を最大限に発揮できる楡の木広場周辺。
そこにいれば襲撃者を片っ端から蹴散らせる。けれど・・・
126備えあれば・・・:03/06/20 23:09 ID:2dBCJmeV
それではさっきまでと同じで運営側の奴らの思うツボ。
さっさとアイツとケリをつけて、運営側の奴らと戦う人の手助けをしたい。
それにはアイツを早く見つけないと。
今、式神放っても森の外の状況を調べるのは時間がかかる。
魔窟堂さんとバカ男ランス。手を組む事はもうできない。
まだ出会ってない参加者がいれば手を組む事が……事が…
「……」
協力してくれるとは限らないか。
「双葉ちゃん、参加者の事で気になる事が……」
あたしは右手の中指を曲げて「喋るな」のサインを出す。
星川もそれに気づき慌ててメモをする。
(一つ前の定時放送でランスと一緒にいたアリスって子が
死んじゃった事なんだけど)
角の生えた赤毛のロングの女の子ね。あたしが襲撃した後、
逃げ切られたと思ったんだけど。どうして…また。
(どういうこと?)とメモする。
(捜索もいいけど、他の参加者の襲撃にも気をつけたほうが)
(そうね。だからこそ、先の楡の木広場に行くんじゃない)
(そうじゃなくて。双葉ちゃんがアイツと戦う時の事だよ)
(アイツと戦う時の事?)
(双葉ちゃん達が戦っている所を、襲ってくるのがいるかもしれないって事)
メモを受け渡しながら文を書く。そんなやりとりの中、
あたしは軽いショックを受けた。
127備えあれば・・・:03/06/20 23:15 ID:2dBCJmeV
確かに・・・アイツに勝てても生き残れなかったら何の意味もない。
無駄死に、それは絶対に嫌だ。持ち物を再び確認する。
「………」
呪符と薬草は持てるだけ持った。他にあたしが取れる対策は?
今は森の中からは出たくない。だから道具は探せない。
……せめて首輪を外せたら。あたしは首輪に手を触れる。
ひんやりとした感触。あたし達の生き死にと場所が運営側に分かる首輪。
多分、盗聴もされてる。まだ仕掛けがあるかも?
「………」
「…………」
沈黙が続く。他に、他に、他にやる事は……
あたしは考えてみる。おとといだったっけ、
鐘ノ音学園に向かうバスに乗ってた時。
そう、みんながボーイフレンドのことで盛り上がってたのを、
あたしが呆れて聞いてたところまでは覚えている。
そこで記憶が途絶えたんだ。
で、目覚めたらいつのまにか首輪をはめられていた。
さっきの『声』を出した奴ならできるんだろうけど、
首輪をはめたのは運営側の奴らに違いない。何をやった。
「…………………………!」
そうか、あたし達が眠っている間に薬を!
「…………………」
しばし黙っているあたし。
「双葉ちゃん?」
沈黙に耐えられず話し掛けてきた星川を横目で見て、あたしは考える。
二分位経ってから、あたしは黙って薬草を取り出した。
128備えあれば・・・:03/06/20 23:21 ID:2dBCJmeV
それぞれ違う種類の薬草7つを選ぶ。
それを千切り、指で潰し始める。
「ふたばちゃん?」
あたしは思わず半眼で喋るなのサインを出す。黙る星川。
右手の手のひらに粉となった薬草を今度は手持ちの呪符で包む。
星川が何をしているのかを気づき、納得した顔をする。
自家製の解毒剤……
事前に薬を飲まされていて、痛み出してるならこれで解毒できるハズ。
少し前にお父様に教えてもらった調合。ダメモトでもやってみる価値はある。
問題は…問題は…青汁よりずっと不味いって言ってたことなんだよね…。
二人分できた。一つをつまみ言霊を吹き込む。
そして飲もうとするあたし。手が震える。脚も震える。汗がにじむ。
動悸が早まる。躊躇するあたし。
「・・・・・・」
背に腹は変えられない。若葉は平気で飲んでいた!口に放り込むあたし。
ん?若葉?と気が付いた時にはもう手遅れ。
あたしはあまりの不味さに悶絶した。


129備えあれば・・・:03/06/20 23:22 ID:2dBCJmeV
数分の後、あたしは星川に介抱してもらっていた。
不味い、不味い、不味い、不味いと心中で何度も悪態をつくあたし。
確実にトラウマになりそうな苦味に悩まされるあたし。
若葉、なんで飲んでたんだろうとぼんやりと考える一方で
襲撃者が来なくて本当に良かったと心底喜ぶあたしたちだった。

なんとか立ち上がり、あたしは星川に残った解毒剤を見せる。
「………」
首を横に振る星川。あたしは二人分作ったのになと心中で呟く。
けど効き目があるかは分からないかと納得する。
残った解毒剤をしまいこむ。
正直、どれくらいの効き目なのかは疑問。
飲んだ甲斐はあって欲しい。後はどうやってアイツを見つけるかを
考えながらあたし達は目的地についた。

                       
                  ↓

130備えあれば・・・:03/06/20 23:23 ID:2dBCJmeV
【朽木双葉と式神星川】
【所持武器:呪符多数、薬草多数、自家製解毒剤1人分】
【現在位置:楡の木広場】
【スタンス:アインの捜索と決着
      参加側・運営側にはなるべく干渉せず
      首輪の解明】
【能力制限:術の連続使用は肉体にダメージ】
【備考:双葉は能力制限の原因は首輪だと考えている
 朽木双葉、自家製解毒剤服用済み
 解毒剤の効力及び、効果時間は現時点では不明】

131あぼーん:あぼーん
あぼーん
132あぼーん:あぼーん
あぼーん
133あぼーん:あぼーん
あぼーん
134道分かつ時・少女の心:03/06/23 00:21 ID:THq8tduS
道分かつ時・少女の心

(第二日目 PM1:00)

私は、何をしたいのだろう?

ほんの少し前、大切な人を見捨てた。
彼に降り掛かった危険からも、命の危機からも。
彼は、私を守ると約束してくれた。
私には、それがとても嬉しかった。
言葉通り、私は、彼に守ってもらった。
私に降り掛かった危険からも、命の危機からも
そして、不安な心からも。
そんな私の取った彼への行動は……

私は、何をすればいいのだろう?
その形さえ違うけど、愛してくれた人たちを二度も見捨てた。

放送が終わった時。
彼の名が、上げられなかった時。
ふっと沸き出る安堵感があった。
それと同時に、今まで出た罪の意識が少しだけ和らいだ。
135道分かつ時・少女の心:03/06/23 00:22 ID:THq8tduS
―――彼に会いたい―――

彼は、きっと笑顔で出迎えてくれる。
そんな有りえない可能性を信じて、彼の前に姿を出した。

自分へのけじめだったのかもしれない。
今まで抱いていた甘い感情を、
私の甘さが引き起こした現状を。
全てを認識して、心に決着をつけたかった。

私は、彼に何をして上げられるだろう?
彼が生きてくれるのならば、彼の願いが適うように
今度は、私が身を張る番だ。
今は、まだ彼の前に姿を出せない。
彼に会うために、彼の為に戦いたい。
それが、私のけじめだ。
136あぼーん:あぼーん
あぼーん
137道分かつ時・少女の心:03/06/23 00:22 ID:THq8tduS
でも、もし……彼が死んだら……
戦う事になるかもしれない。
私の願いをかなえるために、彼らと……

それが私に架せられた罪だから。
苦しさの全てを乗り越えていかなければいけない。

【知佳】
【現在地:???】
【スタンス:恭也が生きている間は、彼らの後方支援へ】
【所持品:???】
138あぼーん:あぼーん
あぼーん
139あぼーん:あぼーん
あぼーん
140あぼーん:あぼーん
あぼーん
141あぼーん:あぼーん
あぼーん
142呼ばれたその名は・・・:03/06/25 01:24 ID:EQC88VEP
(二日目 AM11:47 東の森・西部)

はぐれちゃった恭也さんと知佳ちゃんを探し続けるあたし達。
予定だと北の山に行く事になってたので、
そのままあたし達は北の山で2人を探す。
でも、見つかんなくて再び東の森に戻ってきた。
「おーい!恭也さーん、知佳ちゃーん…」
そよ風が吹く森の中、あたしの声が響く。
「・・・・・・」
むう返事がない。何十回叫んだんだろ。
陽があまり届かない濃い緑に囲まれた森の中。
見つけるのは難しいかも。でも、見つけなきゃ…
恭也さんと知佳ちゃん。アインさん。
見つけなきゃ……薫ちゃんやオタカさんみたいになってほしくない……
「うく、うぅ…」
悲しくなって涙が出そうになるのをこらえながら、
あたしは右肩の翼を音を立てないように動かしてみる。
ひくひくと震えるように動く。んー少し気が休まった。
「…………ふうぅー」
ちょっと息苦しい。さっきから、どこか嫌な空気が流れてる気がする。
翼が生えてからのあたしは、なんか感覚が研ぎ澄まされてる。
島に来た時から、なんとなく感じていた圧迫感もはっきりと
感じる。魔窟堂さん達も感じてるのかな?その魔窟堂さんが口を開いた。

143呼ばれたその名は・・・:03/06/25 01:27 ID:EQC88VEP
「無事に見つかると良いが……む、気弱な事を言ってすまん。時に紗霧殿」
「何でしょう?」
少し疲れた感じの魔窟堂さんと、それに答える紗霧さん。
「さっきから妙な気配を感じんか?」
「お。あたしもそれ感じてます!」
「まひる殿もか」
紗霧さんは何かを考え始める。この人、結構考え事をする。
「・・・・・・・」
ハッ!もしかしてよからぬ事を考えてたりしてー
……んなわきゃあないか。少しして紗霧さんは口を開く。
「気配は感じません。ですが…少し嫌な予感はします」
「そうか…」
「それ、どんな感じ?」とあたしは2人に声をかける。
「そうですね。予測できない事が起きるって予感ですね」
「いい事なの?悪い事なのか?」と聞き返すあたし。
「この島にいたっては良い事はないと思います」
真顔で答える、紗霧さん。
「うわ…そんな身もフタもないことを」
「そういうものです」
断言されちゃったよ。そんな時、魔窟堂さんは驚きの声をあげる。
「むむっ……あれは!」
魔窟堂さんは上を見上げて、それを指差す。
好奇心に駆られたあたしは顔を上げて、指差した方を見る。
「虹!?」
向こうには森の緑からこぼれるように虹色の光が輝いていた。
144呼ばれたその名は・・・:03/06/25 01:30 ID:EQC88VEP
その光景にあたしは驚きの声を上げる。
雨の後に見れるあの虹じゃあない。オーロラ。いや違う。
綺麗だけど、どこか凶々しげな虹色の光。こんな光景見たこと無い。
あたしの側に来ていた紗霧さんも驚いている。
「何が起こってるんじゃ?」
「魔窟堂さん!」とあたしは彼に声をかける。
「う、うむ行ってみるか」
「気をつけて進みましょう」
うなずく魔窟堂さんと同意する紗霧さん。

虹色の輝きに向かって走るあたし達。
1分経ったかな?と考えながら、何故か風が吹き荒れるような
予感を感じて。脚を止める。
「どうしたんじゃまひる殿?」
「風が……」
「え…?」
怪訝そうに声を上げる紗霧さん。吹いている風はそよ風。
さっきと変わらない。でも・・・
「この風がどうかしたんですか?」
「妙な臭いでも運んできたのかな?」
2人があたしに問い掛けてくる。
「そんなんじゃなくて…こう…」
次の言葉を発しようとしたその時。
145呼ばれたその名は・・・:03/06/25 01:31 ID:EQC88VEP
突如、突風が吹き荒れて、「わっわ…」あたしは転倒した。
「うおっ……」
「きゃあ…」
2人は倒れないように踏ん張っている。
木の葉、枝、幹、草。それらを震わせ砂嵐にも似た音を響かせながら
突風はなおも続く。あたしは立ち上がることはやめて、
転がってしまわないように身体を丸めた。
突風は1分も経たない内に止んで、再びそよ風が吹き始める。
虹色の輝きも消えていた。
「何が起こったんじゃ?」
「分かりませんね。行ってみない事には」
「何があるんだろ?」
あたし達3人は口々にそう呟くと虹色の輝きがあった方角へと急いだ。

虹色の輝きがあった場所に辿り着いたあたし達は、
またも不思議な光景を目にし、言葉を失った。
異臭を放つ沼のような地面。渦巻いている地面。
枯れ木に咲く花、芽生えてる若葉。上半分がみずみずしく、
下半分は枯れた大樹。
そんな奇妙な風景の中、あたしはお腹に血を流して倒れている
恭也さんを発見した。知佳ちゃんは…いなかった……
146呼ばれたその名は・・・:03/06/25 01:32 ID:EQC88VEP
魔窟堂さんが怪我した恭也さんをおんぶだっこして、
この近くにあるという小屋を目指して歩こうとしたその時、
あたしは覚えのある『におい』を察知した。血のにおい…。
恭也さんのにおいじゃない。
あのにおいは・・・・あたしは思わず声を上げた。
「魔窟堂さん。向こうに誰かいます!」
「なんじゃと!」
「……本当ですか、まひるさん」
即座に反応した魔窟堂さんと、何故か少しリアクションが遅れて
反応した紗霧さん。あたしは2人が動く前に『におい』のする方へ
走った。

そこに着いたあたしが見たのは…また無残な男の死体。
背を岩に、お腹を木の杭の様な物で貫かれている。
どうやってこんな事を?
眩暈とショックにふらつくも、あたしは観察を続けた。
髪型はオールバックで、やや細身の体格を黒い服で包んでいて…
カッと目を見開いたままの苦悶の表情で、
口とお腹から大量の血が流れている。
あたしはこの人をにおいで知っている。オタカさんを…撃った人だ…
「………」
昨日、耳の大きなおじさんの死体を見つけた。
今、目の前にオタカさんとあたしを殺そうとした人の死体がある。
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
複雑な感情。それがあたしを支配してる。
それでも・・それでも一番強い感情は……
あの時のおじさんを見つけた時と同じで、多分…
少し荒い息を吐きながら、迷いながら、あたしは死体に近づいて…
見開いた…両眼を……そっと閉じさせた。

147呼ばれたその名は・・・:03/06/25 01:34 ID:EQC88VEP
2人が追いついて数十秒くらい後。
紗霧さんがなんか拾ってる。銃だ。あたしの持ってた銃…グ……
……覚えてないや。
形は良く覚えてるのに…どうも名前を覚えるのは苦手だ。
お、紗霧さんが銃と背負わされている恭也さんを方を交互に怪訝な顔で見つめている。
何考えてるんだろ?
「おーいさぎ…」
声を掛けようとしたその時、あたしは気づいてしまった。
あたしの翼が震えてる。動かしてないのに、なにゆえ?
「………」翼がさっきより大きくなっている。な、何でだろう?
それにさっきあたし、においで区別できると言ってた。
こういうことが、いつのまにできるようになったんだ?
「・・・・・・・・・・・・・」
あたしは……一体、何者なんだ?
「さて急がねばなるまいぞ」魔窟堂さんがそう言った時だった。
圧倒的なプレッシャーと共に『声』が頭と翼に響いた。
頭に語りかける『声』。翼に響く『音』
・・・・・・冷汗が出始める。心臓の鼓動が早まっていく。
突然、湧いてくる疑問。そして、あの時の感覚。
あたしは周囲が静かになったような錯覚を覚える。
あたしの心と身体に蘇っていくモノ。なんで急に?何で翼まで?
――――忘れる事ができるはずがない。
生き物全てが持つ、無意識での防衛本能。
強大な存在を感じ取れるのは我等の本能ゆえに―――
「な、なに・・・・」
あたしの頭に響く声?あたしのこえ?
あたしの翼がかすかな音を立てて震えている。
あたしは両手で肩を掴み、身体を震わせながら、頭を垂れる。
翼の震えと共に頭の中に映像が次々と閃く。
―――翼から流れ込んでくる記憶――
何故、今頃……そう考えた瞬間、答えは出た。
そして…そして…あたしは、全てを思い出した。
148呼ばれたその名は・・・:03/06/25 01:36 ID:EQC88VEP
声が聞こえる………
語り終えるまでほんのわずかな時間。
あたしはそのことばをすべて聞いて覚えた。
強大な力。蘇った記憶。叶う願い。
語り終わっても、しばらくあたしは身体を震わせていた。
次にあたしが言葉を紡ぐその時まで、
あたしは過去の記憶に浸る……

薄い霧に囲まれた。古木と苔に囲まれてる。
立ち入るものがほとんどいない。刻が止まったように変化のない。
ただそこに在り続ける、静寂が支配する聖域。
妖精の森。そこであたしは生まれた。

物心ついたある幼き日の事、妖精の森の中に1人で立ってた。
自分の手足を見つめる。不自然に大きくなった手首と足首。
そして長い鋼のような爪。それに加え背中には1対の大きな翼。
何も身につけていない。当然だ、あたしはケモノなんだから。
東の方角に『同族』の気配を感じる。
そっちの方へ行ってみる。走っても足音は立たなかった。
そこには同族と人間の女性がいて、交わって…いた。
驚きの感情。それ以外の感情はあたしにはわかなかった。
鰐にそっくりな外見の同族。あたしにちっとも似てない。
でも、共通点はあった。長い鋼のような爪と鋭い牙。
紋様がはりついた瞳。1対の翼……片方だけ?あたしは女のヒトの方を見る。
女のヒトには首がなく、代わりに翼が付いてた。
『同族』はあたしに気づいたものの、敵意がないと判断したようで
うるさげな視線を向けた後、生殖行為を続ける。
その場を立ち去りながら、あたし達はこうして子孫を残すんだという事がわかった。

149呼ばれたその名は・・・:03/06/25 01:37 ID:EQC88VEP
月日が流れて、あたしは妖精の森から遠く離れた所に行こうと決意した。
あたしは大きくなった翼を広げ、どんよりと曇った空へと向かった。
身体の隅々まで広がっていく高揚感。冷たい風が心地よく
あたしは雲の中に入るくらいの高さまで飛んだ。
蒼い空、冷たく澄んだ空気。高みから見下ろす風景。とても綺麗だった。
そしてあたしは本能のままに地上に降り立った。
でもそこは空と違い、どす黒いイメージに満ちていた。

妖精の森の周辺にいた頃よりも、多くの命と喧騒があった。
青いもや。あたし達には生きる者すべてがそれに覆われて
いるように見える。吐く息も青いもや。
それはあたし達が生まれながらに持っているモノ。
物陰に隠れた獲物を逃がさないために備わったモノ。
それだけじゃない。一度においを嗅げば覚えている限り
獲物を追いかける事ができるし、翼の羽毛はわずかな
空気の流れも感知する。崖から落ちても死なない。
あたし達はそういう生き物だ。あたしは、地上で旅をした。

人の群れにはいつでも叫びと血と鉄が目に付いた。
全身を鉄で貫かれた人。
鉄の刃でお腹を裂き、後ろにいる人に首を落とされる人。
自分達と違い、あっけなく終ってしまう脆弱な生命。
あたしが刈り取った命よりも、ずっと多くの命を意味もなく
刈り取っていく鉄を纏った人々。
彼らは感情を撒き散らしていく。
――黒い感情を。怨嗟、後悔、恐怖、絶望。そして悲しみ。
それは永遠に続く。やがて、あたしは理解する。
そこからあたし達は生まれたのだと。

150呼ばれたその名は・・・:03/06/25 01:41 ID:EQC88VEP
ある日、熊に襲われそうになってる人の子供を見つけた。
なんとなくあたしは興味をもって、小さな命を助けた。
怖がられた。寂しかったけど何かが変わったような気がした。
それからのあたしは敵意のない人と接触していった。
でも、あたしの姿を見ては逃げ出していくので、仕方なく人の姿をとった。
皆じゃないけど、あたしに興味を持って、親切にしてくれた人もいた。
偽りの姿でもあたしに構ってくれる人がいて嬉しかった。
知り合いでしかない関係。それでも、それはあたしにとっては大切な事だった。

でも、長くは続かなかった。最初に知り合った人は病気で命を落とした。
あたしは亡骸を抱えながらもその事実を否定した。
否定しても、何度否定しても、事実は変わらなかった。
あたしは身寄りのいないその人の亡骸を妖精の森で埋葬した。
出会いと別れ、それは繰り返す。あたしの知らないところで散っていく命。
目の前で倒れていく人。寿命で倒れる人。守りたくても守れなかった。
力では自分しか守れない。別れと共に妖精の森の墓標は増えていく。
人と関わるのを諦めようとした時、あたしは出会った。

あたし達は妖精の森を駆け抜ける。
あたしの両腕には先ほどこの森に迷い込んだ少女がいる。
あたしの同族に見つからない内にこの森から出さなきゃいけない。
なんとか森を抜け出すあたし達。なんとなく助けてしまった人。
黒髪の小柄な人の少女。この子は、この子はあたしの姿を見ても
怖がらなかった。脱出した直後。
少女は…あの子はにっこりと微笑んでこう言った。
『よく分からないけど、ありがとう天狗さん』
もやに隠れて見えないはずなのに、笑っているのが分かる。
あたしはわずかに覚えている人の言葉を使い
あの子と話し始めた。天狗が何なのか、何よりあの子の事が知りたかった。
151呼ばれたその名は・・・:03/06/25 01:44 ID:EQC88VEP
天狗の事を知ったあたしは何故か複雑な気分だった。
あたしは不満の声をちょっと出してしまった。あの子は少し考えた後こう言った。
『じゃあ、あなたは何て呼ばれたい?』
あたしは戸惑う、あたし達には名前なんてない。元々、必要でさえない。
でも、あの子には呼ばれてほしいと思った。だから。
だから、あの子にあたしが一番好きな言葉を名前としてつけて貰った。
『いい名前だね』
最初はそのまま分かれようと思った。何度も悲しい思いを味わう事が嫌だった。
それでもできうる限り、あの子の為に歩みたかった。

あの子は強い人だった。小さな身体でもたくましく生き、
あたしには持っていなかった明るさと心の強さを持ってた。
『あなたも笑えるよ』
そういった彼女の笑顔を見るのが好きだった。
だからあたしも心から笑う事ができた。
『髪結んであげるね』『そっちの姿もいいなあ』
『大丈夫だよ』『歌うまいよ』
月日が流れ、あの子も大きくなる。あたしもあの子のおかげで変わっていく。
でも、あの子は出会った頃のあの子のままの笑顔であたしを受け入れ続けてくれた。

獲物を狩るためだけにある爪、牙、翼。人よりも遥かな時を生きる命。
片方の翼を移植し、不死の苗床にしてしまう力。何者よりも強靭な肉体。
己と生き物の心を支配する力。それと共に作用する擬態の力。
風を操る力。空高く飛ぶ力。
あの子が綺麗といってくれた瞳さえ、獲物を追い詰めるためのモノ。
でも、あの子の為ならそれら全てを捨てる事ができる。
そうあたしは決意した。多くを気遣うゆえに危なっかしいあの子を守るため
あの子が望む限り共に生きる事を。
わずかな間でも、あの子の為に共に在り続ける事を……

152呼ばれたその名は・・・:03/06/25 01:47 ID:EQC88VEP
ある日、あの子と約束を誓った。
ふたりだけの約束。
その数日後、あの子はあたしの居場所に現れなかった。
あたしは向かった、あの子がよくいる場所に。
あの場所は崖崩れで押し潰されてしまっていた。
あたしは見つけた、息絶えようとしているあの子を…
あたしは泣いて責めた。あの子を、何よりあたし自身を。
あの子は血と涙を流しながら・・・
かすれた声で何かを呟いて・・・・
最後は笑顔を見せて・・・・・
眠るように逝った・・・・・・

結局、約束は果たせなかった。
あたしの力は何の為にあったのだろう?
あたしの名前は何の意味があったのだろう。
あの子の亡骸を妖精の森へと運び。埋葬する。
―――もう嫌だよ
翼を閉じ、爪を下ろし。瞳を閉じて。
あたしはあの子の墓標と共に朽ち果てる事を選んだ。

年月は過ぎて行く。あたしは墓標と共に思い出に浸りながら
そこで過ごした。時間の流れは昔の事を忘れさせてしまう。
あの子と出会う前に出会った人達の事を。
忘れたくなかったあの子の名前。顔。出会った時の事。
あの時交わした約束さえも忘れてしまった・・・・・

153呼ばれたその名は・・・:03/06/25 01:49 ID:EQC88VEP
幾つもの時が流れたのだろうか。
何かが聞こえた気がして、あたしは久しぶりに目を開けた。
そこには蛇のような顔をした『同族』に追われる
小さな命。人の女の子だ。こんな光景、昔にも…
追いつかれ、『同族』の爪で斬りつけられた女の子。
その体液があたしにかかる。あたしの姿を認める『同族』
でも彼は人の子を一瞥した後、興味を無くしたように去っていった。
あたしの前には命の炎を弱くしてゆく女の子が残された。
必死に動こうとし、言葉を紡ぎだそうとしている。
……あたしは今、何を考えてるのだろう?
何故かは分からなかった。
何かを求める気持ちが湧き上がってくる。
あたしは、あたしは翼を広げ、立ち上がった。
あたしは自分の左の翼を引き剥がすべく掴む。
激痛。引きちぎられた翼は震え始める。
そして……それからしばらくして
あたしは女の子に再びその名を呼ばれた『まひる』と・・・・

それからのあたしは昔の事を全て忘れ、
助けた女の子『ひなた』の姉、広場まひるという人間として
過ごした。それからのことは良く覚えている。
出会った人、見かけた人、町並みなど多くの事を覚えている。
名前を覚えたり、勉強したりするのは苦手だけれど、
ケモノとして過ごしたあの時よりもずっと楽しかった。
ひょんなことから女じゃない事が分かってしまって。
しばらく学校に来れなくなった。なんとか復学した2日目の朝に
学校に向かう途中であたしは意識を失って、いつのまにか『島』にいたんだ。

154呼ばれたその名は・・・:03/06/25 01:51 ID:EQC88VEP
「・・・・・・・・・・・?」
あたしはいつのまにか真っ白い、変な場所にいる。
「……」
あの『声』の元である強大な存在。
それを感じてあたしの記憶が戻ったんだ。
多分、防衛本能から、もう一つの頭脳といえる翼を介して
無意識に記憶を戻してしまったんだ。力を使いこなして生き残るために。
何故か忘れていたハズの記憶も戻ってる。
自分の手を見る。変わってない。翼生えてるけど…
ここどこだろう?紗霧さんと魔窟堂さんはどこに?
「………」あたしは再び広場まひるに戻れるんだろうか?
もう一つの翼はひなたにあげちゃったから、
多分もう引っ込める事はできない。どうしよう。
「…………!」先に誰かいる!あたしは人影に向かって走った。
すぐに追いつき、出会ったその人は。
「!!!!!!!!!!!!」
―――――あの子だった。

黒い髪、約束した時と変わらない姿。でも無表情。
あたしはあの子に掛ける言葉を何故か言い出せなかった。
風も風景も音もない不思議な世界で対峙するあたし達ふたり。
あたしは忘れていたはずの約束を思いだす。
『ずっと一緒にいようね』
155呼ばれたその名は・・・:03/06/25 01:56 ID:vbmUmCg7
「!」分かった。どうしてあの子が現れたのかを。
『願いを一つかなえよう』
あの『声』。絶対的な力を持った神のような存在が言ってた約束。
あの約束を果たすという願いが今あたしの心にある。
あの子の顔を見つめる。相変わらずの無表情。
早く、あの子の笑顔を見たい。それにはケモノに戻り
全て倒さないと…倒さないと…倒さないと…たおさな、い、と
「…………………………………………………」
オタカさん・・・・薫ちゃん・・・・・あたしは、あたしは。
「・・・・・・・」あたしはあの子に近づいて抱きしめる。
ぬくもりは感じ取れない。でも、あたしは言った。
「忘れてしまって、約束・・・守れなくてゴメン」
わずかに微笑みながら涙をぽろぽろ流すあたし。
「――――と過ごした時が一番楽しかった」
「でも、でもね。あたしはまひるなんだよ」
「願いを叶えるためにケモノに戻ったら、大切なモノが壊れてしまうんだよ……」
涙がとまらない、鼻水も出続けてる。それでもあたしは続ける。
「だから、だから許してもらえなくてもいいよ……ゴメンね」
あたしはあの子を抱きしめながら、ただ泣き続けた。

「?」泣きじゃくるあたしは突然あの子に抱きしめられた。
「え?」真っ白い世界は音を立てて崩れてゆく。
あたしの身体に『声』を聞いた時に感じたプレッシャーが蘇る。
同時に『島』の空気も感じ始める。
あの子が顔を近づけてくる。
あの子は笑顔で……
156呼ばれたその名は・・・:03/06/25 01:59 ID:vbmUmCg7
あたしは下を向いて震えている。強大な力に脅えて。
そんなあたしを引き戻したのは魔窟堂さんの一言だった。
あたしはあの『声』の主を絶対的な力を持つ神だと返答した。

「………」
あたしはこれからどうすればいいんだろ?
記憶が戻っても、肉体は完全に戻ってないし。
できればこのままでいたいなと考えてるあたし。
戻ってしまったらケモノとして戦ってしまう。手加減抜きで。
多分、ずっとケモノのままの姿になってしまうし
戻ったって勝ち目は薄いだろうし。
だからといってゲームには絶対に乗りたくないし。
沈んだ気持ちで思わず呟いてしまう。
「本当にどうしよう……ってえええええ!」
157呼ばれたその名は・・・:03/06/25 02:00 ID:vbmUmCg7
そこにはあたしの顔を覗き込む紗霧さんと魔窟堂さんの顔があった。
「不安に思っとるようじゃが、心配いらん…」
「私がついてます。大丈夫ですよ」
魔窟堂さんのセリフの後を引き継ぐように紗霧さんが
いたずらっぽい笑みを浮かべて言う。
あ、魔窟堂さんが寂しそうにしてる。
「あなた1人じゃないんですよ、私も1人じゃありません。
私はあなたを頼りにしていますよ」微笑む紗霧さん。
「えーえと、だ、大丈夫だからさ、ね」と笑うあたし。
お、紗霧さんが一瞬、顔を赤らめたような。
「む、小屋が見えてきたようじゃ」
魔窟堂さんの言うとおり、目の前に小屋が見えてる。
あたしは恭也さんを見る。たえず、血が流れている。
オタカさんのと比べて血の流れる量は少ない。
大丈夫。そうあたしは信じて小屋に入る。

あたしはふと思い出す。多分、あたしの心の中で
あの子が最後に言った言葉。
それは――
『ずっと、一緒だよ』
あたしはもう忘れないよ。―――のこと。
                    
                 ↓
158呼ばれたその名は・・・:03/06/25 02:01 ID:vbmUmCg7
【広場まひる】
【所持武器:怪力、超嗅覚、鋭敏感覚、片翼】
【現在地:西の森の小屋】
【スタンス:争いを避ける】
【備考:天使化一時抑制、自分の意思によるもの】

159素敵な医師は虚実と踊る:03/06/26 00:41 ID:xtyKP9m9
(二日目 PM13:35 東の森・中央広場付近)

てくてくてく……
てくてくてくてく……
てくてくてくてくてく……
「ねーねー素っちゃん〜」
「あー?何がよ、カモミール?」
「何だか、体のあちこちから変な虫さんが出てきたんだけど?」
「あーあー、そりゃセンセのおクスリの効果でカモミールの体から悪い虫が
 出てきとるだけじゃき、ちーと痒いけど我慢しとーせ」
「うん、頑張るね〜」
一組の男女が、奇妙な会話を繰り広げながら森を進んでいた。
つい1時間前まで主催者側であったがその行動がザドゥの逆鱗に触れ、
今や自身が逃亡者になってしまった素敵医師と、彼によって一命は取り留めたものの
代償として重度のジャンキーとなってしまった女剣士、カモミール=芹沢である。
「ねー素っちゃん?」
「今度は何が?」
「どこに向かってるの?私達?」
「この先に広場があるはずがね、そこに用があるが」
実際の所、素敵医師はアインの動きだけを観察していた訳ではない。
何か参加者に大きな動き、戦闘があったか逐一智機に聞いていたのである。
そして、その情報が正確ならばこの先に素敵医師にとって重要な意味を持つ人物が
いるはずであった。
「んー?」
小さな影が二人の前をよぎった。
緑色の、小さな人形がひょこひょこと動いている。
どうやらこちらの様子を伺っているようだ。
「なーるほど、これが式神っつー奴がか……あーあー、センセ達は怪しいモンじゃ
 ないがよ!大事な話があって来ただけやき!」
自分の外見にどれほどの説得力があるのかを気にせず、素敵医師は言った。
160素敵な医師は虚実と踊る:03/06/26 00:42 ID:xtyKP9m9
案の定、式神は警戒しているようだ。
「……ねえ、斬っていい?」
「あ?」
素敵医師が振り返ると、芹沢が腰を落とし、刀に手をやっていた。
血走ったその目には理性の欠片も無く、口からは涎がこぼれている。
「あれ斬ったら痒さが収まりそうなの……ねえ、斬っていい?斬っていい?」
「駄目がよ」
「ぶ〜〜〜」
あっさりと却下する素敵医師、対して芹沢は不服に感じながらも体勢を解く。
(や〜れやれ、ちーとおクスリの量が多かったかもしれんがね……)
内心でそうぼやきつつ、更に先へ進もうとする。
が、その時、

 誰 、 ア ン タ 達 ? 

―――声が聞こえた。
否、『聞こえた』という表現は適切ではなかった。
まるで森そのものが口を開いているかのように、周囲全体から響いてくるのだ。
「ッ!?」
「おーおーおー……こーれもアンタの術の力がか、双葉の嬢ちゃん?」
驚き、再び戦闘態勢を取る芹沢。
しかし、素敵医師は何事も無いかのように返事を返す。
161素敵な医師は虚実と踊る:03/06/26 00:43 ID:xtyKP9m9
 参 加 者 じ ゃ な い み た い ね 。 主 催 者 ?

「……ちーと違うんやが……双葉の嬢ちゃん?センセ達、大事なお話があってきたがよ」

 ………………。

しばしの沈黙、と、目の前にいた緑の小人が腕を上げてこちらにむけて振った。
どうやら『こっちに来い』と言いたいらしい。
そのままトコトコと森の奥へ向かう小人を追う。
すると、程無くして森の開けた場所に二人は出ていた。
正面に巨大な楡の木がそびえている。
『―――そこを動かないで、そしたら話を聞いてあげるわ』
木の下の大きな洞の中から声が聞こえる。どうやらそこに双葉はいるらしく、
先ほどのように声の出所が分からないという事は無い。
「けひっ、けひひひ……そんでは自己紹介させてもらうがよ。センセの名前は素敵医師
 言うがね。そんでこっちが……」
「えへっ、カモミールだよ〜」
『―――言っておくけど、芥子も阿片もここには無いわよ』
明らかに平常ではない二人に対し、双葉は冷めた声で答える。
「ごごご誤解せんでいいき、そのくらい自給自足で何とかできるがよ。……センセが
 お話したいのは、アインの嬢ちゃんの件についてがね」
『―――アイン?』
「嬢ちゃんがよ〜〜〜く知ってる相手がね。髪が黒くて短い、やったら強くて容赦無い
 小柄な嬢ちゃんがよ」
『……………ッ!?』
明らかに洞の向こうの空気が変わった。
徐々に自分のペースで話が進んでいる事を感じつつ、素敵医師はそこで口を閉じた。
じっくりと待ち、相手の反応を伺う。
『……話を続けて』
双葉の促す声。
素敵医師は口元ににへらと笑いを浮かべると言葉を続けた。
162素敵な医師は虚実と踊る:03/06/26 00:44 ID:xtyKP9m9
「じじ実はセンセ達、アインの嬢ちゃんに追われてるがね。最初は主催者への反抗を
 企てとったアインの嬢ちゃんをこっちが追う側やったが、アインの嬢ちゃんやたら
 強くって、センセ達返り討ちにあってしまったがよ。そんで、センセ達主催者のボス
 からクビにされてしまったが」
『情け無い話だね……』
「いやいや、まっことその通りがよ!」
双葉の皮肉に、素敵医師は調子良く答えた。
「で、ここからが大事な話じゃき」
せわしなく動いていた目が一瞬止まり、双葉の方を見据える。
「……センセ達を、双葉の嬢ちゃんの部下にして欲しいが」
『……で、アタシにアインを殺せって言うの?』
「けひっ、けひひっ、話の早い人はセンセ大好きがよ♪」
『虫のいい話だね』
へらへらと笑う素敵医師に対し、双葉の声はあくまで冷たい。
『要するに自分達の手に負えないからって、私に戦わせようってんでしょ?』
「その通りじゃき」
否定するかと思いきや、素敵医師はあっさりとそれを肯定した。
「―――で〜も、それは双葉嬢ちゃんにとっても損では無いはずやき」
『……何が言いたいのさ?』
「嬢ちゃんにとって、アインの嬢ちゃんは確かに憎い仇だろうがよ。でも……
 アインの嬢ちゃんの眼中に、双葉嬢ちゃんは全く入って無いがね」
『………』
無音、しかし激昂する気配が洞から伝わってくる。
「ま、入っとったとしてもせーぜー『どこで死んでるか分からない一参加者』程度の
 認識がよ。仮にここにアインの嬢ちゃんがひょっこり来たとしても、アインの嬢ちゃん
 にとって戦う理由が無い以上、あっさり逃げられるのがオチがね♪」
163素敵な医師は虚実と踊る:03/06/26 00:46 ID:Th3qcq/h
『……言ってくれるじゃないの』
「事実やき」
慇懃無礼な一礼をすると、素敵医師は更に言葉を続ける。
「で!センセの方はその逆じゃき。センセ達が戦いたくなくても、アインの嬢ちゃんは
 センセ達をずっと追いかけて来るがよ」
『利害は一致してる、そう言いたいワケね?』
「けひゃ、けひゃひゃひゃひゃ……さっすが嬢ちゃんは頭がいいが!」
「……いいわ、話に乗ってあげる。でも『部下』である以上は私の指示に従う事、いい?」
しばし考えた後、声は承諾した。
「もちろんがよ。嬢ちゃんにアインの嬢ちゃん以外の敵が迫ってきたらセンセ達がきっちり
迎撃しちゃるき」
調子良く答える素敵医師。
『で、あいつを呼ぶ手立ては考えてるの?』
「あーあー、それならもうやってるがよ。ここへ来るまで所々にわざと痕跡残しとい
 たき、早ければ一時間位で来るんじゃないがかねえ?」
『始めからそのつもりだったのね……ま、いいわ。準備はできてるから』
「ささ流石双葉の嬢ちゃん!用意周到がねぇ……」
『白々しい……アンタ達も迎撃準備しておいたら?言っとくけど、私に押し付けて
 逃げようとかは思わない方がいいわよ』
「けひっ、とと、当然がね……」
少し慌てたようなそぶりを見せつつ、素敵医師は踵を返した。
164素敵な医師は虚実と踊る:03/06/26 00:47 ID:Th3qcq/h
「それじゃ、嬢ちゃんのご好意に応えてセンセも準備しとくがよ。何か指示があったら
 いつでも呼んでくれるがいいがね」
『そうさせてもらうわ』
そして、傍で草いじりをしていた芹沢を立たせると森の中へ向かってゆく。
再び、後には大樹と双葉、そして式神の星川だけが残る。
「双葉ちゃん……やるんだね」
洞の中、問い掛ける星川に双葉は噛み締めるように答えた。
「ええ……ケリをつけるわ、ここで」
あの包帯男が何を企んでいるかは知らないが、少なくともアインについての事に嘘は無い。
双葉は直感的に感じていた。
ならば、自分のやるべき事は一つだ。
ここ一帯はは既に双葉の『領域』なのだから。
「これで……終わらせる……!」
その眼には、明らかな殺意が宿っていた。


「ね〜素っちゃん?」
「何がね、カモミール」
広場から少し離れた、小さな空き地に素敵医師達は来ていた。
何やら手持ちの薬を調合している素敵医師に芹沢が尋ねる。
「良かったの?アレで」
「……何の話がか?」
「えーっと、ほら、ザっちゃんの話とか全然してなかったじゃない。それで良かったのかなって」
165素敵な医師は虚実と踊る:03/06/26 00:47 ID:Th3qcq/h
「(ザドゥの大将の事となると、ちっとは頭が動くようがねぇ)……い〜んがよ、カモミール」
一見、何も考えていないように見える素敵医師にも心算があった。
もしあそこでザドゥの事も話していたら双葉は『そっちの事はそっちでやって。面倒は
御免だから』とあっさり申し出を断っていただろう。
カモミールを捨て駒として使えば、ザドゥ、アインのどちらかを仕留める自信はあった。
だが、両方がこちらを狙っている現状でそれを仕掛けても残り一人に殺されるのは明白。
だからこそ、部下と言う形を取ってまで素敵医師は自分寄りのファクターを増やす必要があったのだ。
「けひっ、けひっ、けひひひひひ……!」
思わず、口元から腐臭混じりの笑いが漏れる。
今や、素敵医師にとっての絶好の展開が完成しつつあった。
ザドゥがアインや双葉と遭遇して闘い、いずれかが死ねば良し。
アインがこちらの誘いに乗らなければ、ザドゥが来た際に双葉を盾にして逃げれば良し。
ザドゥが来る前にアインが来れば、双葉と合同で攻撃を仕掛け、隙を見てアインを麻薬で
自分の手下にすれば良し。
万一二人が同時に来たとしても、アインは双葉に任せて自分はザドゥ一人に専念していればいい。
カモミールが相手となれば、ザドゥの拳は鈍ると素敵医師は踏んでいた。
「けひゃひゃひゃひゃ!さ〜て、いよいよ最終幕がよ。アインの嬢ちゃん……」
異常に上方についている右目が、ぎょろりと動いた。

           ↓
166素敵な医師は虚実と踊る:03/06/26 00:49 ID:bQFm7kZl
【朽木双葉と式神星川】
【所持武器:呪符多数、薬草多数、自家製解毒剤1人分】
【現在位置:楡の木広場】
【スタンス:アインの捜索と決着
      参加側・運営側にはなるべく干渉せず
      首輪の解明
      素敵医師と共闘】
【能力制限:術の連続使用は肉体にダメージ】
【備考:双葉は能力制限の原因は首輪だと考えている
 朽木双葉、自家製解毒剤服用済み
 解毒剤の効力及び、効果時間は現時点では不明】

【素敵医師】
【所持武器:メス数本・注射器数十本・薬品多数】
【現在位置:楡の木広場付近】
【スタンス:アインの鹵獲+???
      朽木双葉と共闘】
【備考:主催者サイドから離脱、独立勢力化】

【カモミール・芹沢】
【所持武器:虎鉄】
【現在位置:素敵医師に同じ】
【スタンス;素敵医師の指示次第】
【備考:重度の麻薬中毒により正常な判断力無し。
    処置されているものの、腹部に裂傷あり】
167あぼーん:あぼーん
あぼーん
168あぼーん:あぼーん
あぼーん
169あぼーん:あぼーん
あぼーん
170あぼーん:あぼーん
あぼーん
171あぼーん:あぼーん
あぼーん
172あぼーん:あぼーん
あぼーん
173あぼーん:あぼーん
あぼーん
174あぼーん:あぼーん
あぼーん
175あぼーん:あぼーん
あぼーん
176あぼーん:あぼーん
あぼーん
177あぼーん:あぼーん
あぼーん
178あぼーん:あぼーん
あぼーん
179名無しさん@初回限定:03/06/30 14:05 ID:sMuiLEw8
>>177
凄い開き直りっぷりだな、この広告野郎w
180魔獣の咆哮・戦士の意地(ケイブリスフェイズ):03/06/30 23:48 ID:Z7iczMW1
(第二日目 PM1:00)

巨体に似合わない速度で、森をぐんぐんと奥地へ突き進む影。
ケイブリスは、確実にランスがいる場所へ近づきつつあった。
その身の闘気を押さえつけ、獲物に逃げられぬよう着実に。
そんな彼の存在は、ランスや素敵医師程度では、気づけない。
木々とプロくらいだろう。
「待ってろよ…… 俺様の受けた苦痛、何百倍にもして返してやるぜ」
木の鳴り響く音が聞こえる。
誰かが暴れている気を肌で感じ取る。
「そこか……」
おそらく、あいつだろう。 ケイブリスは、確信をもった。
場所は近い。
(第二日目 PM0:30)

「くそくそくそくそくそくそくそくそくそ、あの野郎どもぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
魔窟堂を遥かに超えた怒りが、ランスの身体から、森全体へと響くかのように発散されていた。
(あの声プランナーて名乗ったな…… って事は、あのクジラ野郎は、目を覚ましたって事か。
 俺様としたことがしまったぜ。 クジラは封じたが、まだ三超神は残ってやがった。
 しかも、放送の声は、間違いなくケイブリスの野郎だ。
 わざわざこのために復活させてきやがるとは、俺様へのあてつけか!?)
「ランス様…………」
心配そうにランスを見つめるユリーシャ。
あの二つの声を聞いてから、ランスは、怒りつづけている。
最初は、おろおろしていただけのユリーシャも段々と不安を募らせていく。
(くっそぉ、あの時みたいにワーグはいねぇし。
 かといって、主催者打ち殺すにしてもケイブリスの野郎がいたんじゃ、カオスか日光さんがなきゃ無理だ……
 どうする? このまま残りの参加者を狩って優勝って手もある……
 いや、ダメだ。 それじゃ、俺様を慕ってついてきてくれるユリーシャも
 双葉のお嬢ちゃんも、まだ見ぬ少女たちも手にかける事になるじゃねーか。
 そんなのゴメンだぜ。
 役に立つもんって言っても、あいつらの考えたものだ。
 どうせ、変なモノに決まってる。
 ちくしょう、八方塞がりじゃねーか)
考えながらもランスは、拳をばんばんと幹に叩きつける。
既にこの所為のおかげで、幹が大分えぐられている。
これが、魔獣をひきつける原因と知らず……
(第二日目 PM1:20)

音がより鮮明になる。
胸が躍るようだ。
あいつと戦える。
ケイブリスは、はやる気持ちを抑えながら
ゆっくりと着実に獲物への距離を縮めていく。
(逃げようのない距離まで…… それまでは、我慢だ)

執念

今、彼の身体を支配しているもの。
自分の全てを奪っていったものに対する憎悪のなせる技。
それは、荒々しく、いつものように「何処だぁ!?」と叫びながら
突撃してくだけのケイブリスからかけ離れた、ハンターとしての動きを可能にさせた。

―――見えた―――

まだぼやけている程小さいが、確かに人影が二つ。
焦らぬよう、少しずつ距離を縮める。
段々とはっきりと浮かび上がってくる人影。
その度に爆発しそうになる心臓。
もう少しだ!
(第二日目 PM1:30)

木を倒した事によって、ランスは、ようやく気を落ち着かせはじめた。
その事によって、やっと回りへと気が配れるようになり
ユリーシャのビクビクとした様子も認識されるようになった。
(そうだ、こんな調子で誰がこいつを守ってやるってんだ。
 俺様が守るって公言したんじゃねーか……
 それなのに、俺は、こいつを怯えさせちまって……)
「心配かけたな。 もう大丈夫だ。
 なぁに俺様の力でちょちょいのちょいで主催者どもをぶち倒して願いを叶えてやるぜ。
 がぁっはっはっはっはっは!!」
心の中では、舌打ちしながら、彼女を心配させないために
自分の心を吹っ切るようにも胸を張って、大声を上げる。
「よーし、それじゃぁ、景気づけの一発だぁ!! そーりゃぁ!!」
そう言うとお約束通り、ユリーシャを草葉に押し倒し
心のもやもやを消し去るつもりで、常時にふけろうとしたが……

「…………っ!?」
(第二日目 PM1:40)

つい先ほどまで、ランスとユリーシャが組み合っていた場所は、焦げていた。
一流の戦士としての本能が、とっさにユリーシャを抱えて転がり避けさせたのだ。

「くっくっくっくっく………… 会いたかったぜぇ、人間の王様よぉ!?」
「てんめぇ………!!」

ユリーシャの手を取りながら、ゆっくりと立ち上がるランス。
その目は、ケイブリスの瞳を一直線に捕らえ、放さない。

挨拶代わりに、ケイブリスは、自分の魔力では、当っても致命傷にすらならないと
解っていて、初級魔法である火炎球を投げつけたのだ。
幾ら、馬鹿で力任せのケイブリスといっても魔人である。
威力は低いが、火炎球くらいなら出すことは可能だ。

「っけ、あいからわず醜い奴だぜ。 久しぶりの再開なら、もうちょっとましな方法しやがれってんだ!!」
「ふん、お前は、そう言うのが大好きだっただろうが。 有り難く思いな。
たかだか人間の王が、この魔物の王から挨拶して貰えたんだからな」

言葉こそ皮肉の言い合いに取れるが、その両者の発している気は
ぎりぎりのデッドゾーンを狭めあっている。
打ち合いが発生するほんの一歩手前まで。
ぶんッ!!
空気を裂く音が聞こえる。
先に動いたのは、ケイブリスだった。
ランスとユリーシャがいた後ろの木がメキメキと倒れる。

ドゴッ!!
地面がえぐれる音が響き渡る。
ニ激目が二人を追撃したのだ。

「どうした!? 逃げるだけか!? 打ち返して来い!!」

ユリーシャを抱きかかえながらでは、避けるのが精一杯のランスを前に
小鳥を仕留めようとする猫のように、ケイブリスは、恍惚としていた。

「調子に乗りやがって……」
ケイブリスの猛攻を避けながら、時には剣で捌きながら
ユリーシャを抱えて、逃げつづける。
だが、それも一時凌ぎにしか過ぎない。
身体の大きさからくる絶対的なスタミナ差、そしてユリーシャを抱えながらでは
いつか体力が尽きて、逃げ切れなくなるだろう。
打って出るしかない。

(攻撃が通用しなくても、パボラの時のように相手の動きを封じる事ぐらいはできるはずだ。
 それに、このまんまじゃ、ユリーシャまでやられる……)

「ユリーシャ、安全な場所に避難してろ」
「え?」
ユリーシャは、戸惑った。
「いいか? 良く聞け。
アイツは、魔人って種族でな。 俺様たちの攻撃は、一切通用しない
弓で支援しようと思うな。 無駄になるだけだ」
「では、ランス様は、どうするんですか?」
「打って出る」
「攻撃は通用しないはずなのでは?」
「そうだ。 だが、俺様は天才だ。 足止めは勿論、
動きを封じる事くらいはできるはずだ」
「…………戻って来ますよね?」
「当然だ。 俺様を信じろ。
それとこれを持っててくれ。 戦闘中に壊れたら困るしな」
そう言うと、ランスは、首輪解除装置をユリーシャへと渡す。
「……待ってますから」
ダッ!!と駆け足でランスの元から離れて行くユリーシャの姿を
小さくなるまで、彼は、不安げに見送っていた。
「挨拶は、済んだか?」
後ろから、ゆっくりと姿を現した魔人。
「待っててくれたってのか? 随分と気前がいいんだな」
「テメエだけは、何の気兼ねもなくサシでぶちのめしたいんだよ!!」
怒声と共に六本の腕を繰り出して、再びケイブリスは、襲い掛かった。
対するランスも剣を握り締め、間合いを整える。
「何度でも来やがれ、また吠え面かかせてやる!! やぁぁってやるぜ!!」

ゲーム始まって以来のバトルが始まった。
走る。
ランスの方を振り向きながら、彼を見失わないように
十分な距離を取ると、草陰にさっと彼女は、隠れた。
本当なら、もっと逃げた方がいいのかもしれない。
もし、現在地で他の参加者に見つかったのなら、下手をすれば、足手まといになるだろう。
それでも、見届けたかった。 愛する男の姿を。
そして装置を託した時の彼の顔が
ほんの少しだが、不安の色が混じっていたのを気づいたから。

「くたばりやがれぇ!!」

ここまで遠くはなれていても耳に入ってくる魔獣の声。
それが益々、彼女の心を不安に満たす。
遠くからでもくっきりと見える巨体のケイブリスに比べ
離れてしまっては、小さくしぼんで見えるランス。

(もし、あの二人がいたら……
四人いれば、なんとかなったかもしれない)
だが、その希望は、自分自身で芽を摘み取ってしまった。
(今更、こんな事を望めないのは、解ってる。
けれど、けれど、あの人だけは……!!)
彼女は、走った。
ランスを助けるために。
189魔獣の咆哮・戦士の意地:03/06/30 23:55 ID:Z7iczMW1
【ユリーシャ】
【所持武器:弓】
【現在位置:東の森】
【スタンス:救援を呼ぶ】
【備考:狂気から反省心へと
首輪解除装置保有】
190あぼーん:あぼーん
あぼーん
191魔獣の咆哮・戦士の意地 改訂版:03/07/01 22:35 ID:168j29uf
(第二日目 PM0:30)

「くそくそくそくそくそくそくそくそくそ、あの野郎どもぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
魔窟堂を遥かに超えた怒りが、ランスの身体から、森全体へと響くかのように発散されていた。
(あの声プランナーて名乗ったな…… って事は、カオスとカフェさんが話してた三超神とか言う奴か。
 しかも、放送の声は、間違いなくケイブリスの野郎だ。
 わざわざこのために復活させてきやがるとは、俺様へのあてつけか!?)
「ランス様…………」
心配そうにランスを見つめるユリーシャ。
あの二つの声を聞いてから、ランスは、怒りつづけている。
最初は、おろおろしていただけのユリーシャも段々と不安を募らせていく。
(くっそぉ、魔王を作り出すような超一級神にどうやって歯向かうっつんだ。
 かといって、主催者打ち殺すにしてもケイブリスの野郎がいたんじゃ、カオスか日光さんがなきゃ無理だ……
 どうする? このまま残りの参加者を狩って優勝って手もある……
 いや、ダメだ。 それじゃ、俺様を慕ってついてきてくれるユリーシャも
 双葉のお嬢ちゃんも、まだ見ぬ少女たちも手にかける事になるじゃねーか。
 そんなのゴメンだぜ。
 役に立つもんって言っても、あいつの考えたものだ。
 どうせ、エターナルヒーローズの例のように変なモノに決まってる。
 ちくしょう、八方塞がりじゃねーか)
考えながらもランスは、拳をばんばんと幹に叩きつける。
既にこの所為のおかげで、幹が大分えぐられている。
これが、魔獣をひきつける原因と知らず……
192再び病院へ・・・:03/07/01 23:52 ID:iW/ctK5R


(二日目 AM11:40 東の森)

―――突然の殺気
俺は仁村さんを突き飛ばして、急いで殺気の元へと向かう。
神速!そこにいた男は銃弾を二発発射した。
とっさに小太刀を振る。二発の銃弾をはじいた感触。
俺は土煙を上げながら動きを止める。
男は既にバズーカを肩に担いでいた。
俺は身構える。しかし、男は仁村さんに狙いをつけた。
仁村さん!!俺は舌打ちをしながら、再び神速で発射された弾丸を追う!
今度こそ…今度こそ!頭で考える余裕は無かった。
気づいた時には、俺は弾丸に追いつきバズーカの弾丸の外殻を
切り裂き、中の信管を切断していた。
「敵に背を…………」
男の嘲る様な声が聞こえた。
銃声が響く。俺は神速で避けようとする。右わき腹が切られたような激痛。
避けそこなったか…弾丸は右わき腹をかすめたようだ…俺は倒れこむ。
痛みで意識が朦朧とする。血が流れているのが解る。
銃声が三度響く。神…速!
奥義の発動と同時に、銃弾を二発はじく感触。そして腹に激痛を感じて
俺は意識を失ってしまった。

193再び病院へ・・・:03/07/01 23:53 ID:iW/ctK5R

(二日目 PM0:19 東の森の小屋)

東の森の西部に位置する、木造の一階建ての小屋の中で今、
魔窟堂ら3人が恭也を治療するための準備に追われていた。
「まひる殿はピンセットとタオルを準備するのじゃ」
「うん!」
「私は手術に使える道具を用意します」
と自分の手持ちのデイバック二つから道具を取り出して紗霧が言った。
まひるは小屋の中を物色し、魔窟堂は手術の準備を進める。
紗霧は瓶から粉末状の物体と甘い臭いのする液体をタオルにしみこませる。
被弾した弾丸摘出の準備が9割がた進んだとき、恭也は目を覚ました。
「ぐぅ、こ、ここは?仁村さ・・んは?」
「おお!恭也殿!」
「はあ、はあ、魔窟堂さん…?お、俺は、仁村さんは?」
「ち、知佳殿は無事じゃよ……」
「・・・・・・・。そうです…か…彼女は、あの男はどこに?」
「男?高町さんを撃った人ですか?」
と、水とメスとピンセットが入った洗面器を持った紗霧が言う。
魔窟堂が何か言いたげに紗霧を見る。
「あ、ああ…」
「男は何者かの手によって殺害されていたみたいです」
「なに?じゃあ仁村さんは、仁村さんはどこに?」
「ここにはいません。放送で名前が呼ばれませんでしたから生きているのは
まず間違いないでしょう」
「お、俺は……」
立ち上がろうとする恭也。
「ああああああ!きょ、恭也さん!立ち上がっちゃダメだよ!」
と、恭也に駆け寄るまひる。
「離してくれ…広場さん…俺は守らないと・・・・!」
「こんなんで知佳ちゃんをどうやって守るの……」
194再び病院へ・・・:03/07/01 23:56 ID:iW/ctK5R
「・・・・・」
「ぼろぼろで……こんな疲れきった顔で……知佳ちゃんに会っても…
きっと知佳ちゃん笑ってくれないよ…」と、半泣き顔で訴えるまひる。
「そうですよ。仮に会えたとして、目の前で果てられては迷惑ってものです」
と、容赦ない口調で言い放つ紗霧。
「うっ……くっ…」
2人の問いかけに恭也は押し黙ってしまう。
「お、俺は……何も…できないのか……!」
そんな恭也に魔窟堂も話し掛ける。
「弾丸を摘出しないことにはどうにもならんじゃろう」
「その後で、傷口を塞いで、静養ですね」と紗霧が言う。
「し、しかしこうしてる間にも、仁村さんは……」
重い空気が流れる中、まひるは口を開いた。
「あのさ、恭也さん……」
「広場さん…?」
「恭也さんは、知佳ちゃんの笑顔が見たいんでしょ?」
「えっ……!?」
「だからさ、恭也さんが死んじゃったら恭也さん、もう知佳ちゃんの笑顔
見れなくなるよ。知佳ちゃんを信じて傷を直した方がいいよ。ねっ!」
「仁村さんを信じる……………」
「そうだよ」
まひるに笑顔で問い掛けられて、考え込む恭也。そして…
「そうか………解った……」身体の力を抜いて、落ち着いた声で恭也は答える。
「魔窟堂さん、弾丸の摘出と傷の治療をお願いします」
「うむ」
口元にわずかに笑みを浮かべた恭也。
安堵した空気が小屋の中に流れる。少しして紗霧は口を開く。
「麻酔はどうしますか?」と。

195再び病院へ・・・:03/07/01 23:57 ID:iW/ctK5R
「ぐっ、ああああああぁぁぁぁ………」小屋の中に恭也の苦痛の悲鳴が響く。
タオルを頭と口元に巻いて、ピンクのエプロンを装着した魔窟堂はピンセットで
弾丸をつまんでいる。先ほど恭也の腹部から弾丸を摘出したのである。
「きょ、恭也さん、本当に麻酔なしで良かったの?」
荒い息を吐いて横たわる恭也と、摘出された血の色の弾丸を交互に見ながら
不安そうにまひるは言った。
「はっ、はっ、は、広場さん…これくらいは…」
「本当に痛いのはこれからです」いつも通りの口調で紗霧は言った。
「ああ………」表情を引き締めて恭也は答える。
「やはり、やるのか紗霧殿……」
「ええ、縫合では出血は止まらないでしょう」
紗霧はちゃぶ台に置いてあるビンの一つの蓋を開け始める。
粉末状の火薬。これは昨日、回収した物。
「はあ…はあ…はあ……」
「麻酔なしは、やばいと思うんだけどな…あたし」
「効き始めるのに時間がかかりますし、覚悟も決めれないでしょう」
「そう…だな…」
恭也は身体中、古傷だらけである。主に修行中についたものだ。
それゆえに恭也自身、修行中に獣によって傷を負わされた際には
火を使って滅菌した事がある。尤も、ここまで深手を負ったことは無いのだが。
「さあ、やってくれ!」
恭也が覚悟を決めた時、紗霧は思い出したように遮る。
「その前に、これからの恭也さんのことで皆さんにお話があります」
「「「え?」」」
3人の声が同時に出た。
「手短にすみます。まず、病院で―――――」
196再び病院へ・・・:03/07/01 23:58 ID:iW/ctK5R
紗霧の話が終わった頃、どこか気まずい空気が流れていた。
「こ、こんなこと…!」
怒りをわずかに含んだ声色で恭也は呟く。
「だからこそ、意識を失う前に貴方の意思を確認したいのです」
「・・・・・・・・・・・」
考え込む恭也。少ししてから
「俺が再び意識を取り戻した時に、俺が決めます」
「じゃあ、気絶中での使用は拒否するんですね」
「ええ……」
「解りました。早く始めましょう」
「うむ!」
魔窟堂は答えると、恭也の腹部の2つの銃創に火薬を振りかけ始める。
小屋で回収したマッチ棒を取り出す。そして……
「待ってくれ!!」
慌てたように声を張り上げる恭也。
「?」
「何かを忘れている…………そうだ!タオルを口に詰めるのを
忘れていたんだ」
「「「あ…」」」3人の声が同時に揃った。


197再び病院へ・・・:03/07/02 00:01 ID:/xcTYMMl

(二日目 PM1:03 東の森の小屋 )

恭也の治療があらかた終わって十数分後。
傷口を焼いた後、ショックで気絶した恭也以外の3人は
居間で座って茶碗で水をすすっていた。
「これでとりあえず出血は止まりましたね」
「うむ」
「ところで魔窟堂さん」
「何かな?」
「医者だったんですか?」
「いや……」
「へっ?」ビックリしたように声を上げるまひる。
「でも医師免許は持ってたんでしょう?」
「・・・・・・・・・・・」突然、黙り込む魔窟堂。
「あ、あのー」とまた、まひる。
「さ、紗霧殿、火薬で傷口を焼くなんて良くとっさに思いついた!」
「まあ、理工学は得意ですから」
「書物で得た知識かな?」
「ええ」
「漫画かの?」
「えぇ。!。・・・・・・・・・・・・・・」紗霧も答えたが、突然黙り込む。
黙っている2人をキョロキョロと交互に何度も見るまひる。
そして、まひるは気絶している恭也を見る。
少し苦しそうな顔をしているが、大丈夫そうだ。
当然、焼いた傷痕の上に更に処置をして、包帯を巻いている。のだが…
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
一分経っても、黙ったままの2人を前に、まひるはただ
「あのーもしもし?あんた達って…?」と呟いたのだった。
198再び病院へ・・・:03/07/02 00:03 ID:/xcTYMMl
紗霧は傍らに置いていたデイバックを開けて、突然2人に語りかけた。
「魔窟堂さん、まひるさん。これを見てほしいのですが」
「ぬ、これは?」
魔窟堂とまひるが見たのは、壊れた箱のような物と、壊れたリモコンの様な物、
2つの指輪と、紗霧の所持品である対人レーダーであった。
「あの場所で死んでいた男が持っていたデイバックの中に入ってました」
「うーむ…。!…こ、これは他爆装置ではないか!」
「え?この指輪を何か知ってるのですか?」
「ああ…わし等の死んでいった仲間、神楽殿の支給品じゃよ……」
両目から涙を流して魔窟堂は答える。
「……何かに使えないでしょうか?」
「これは使ってはならん…神楽殿の…遺志は…」
なおも号泣する、魔窟堂を尻目に、紗霧は考えた。
(スイッチらしき物は壊れてしまってるようですし、
指輪だけでも活用させてもらいますか)
「この壊れた箱は、ラジオみたいじゃな」
「ラジオですか?」
(首輪の盗聴器だったのかもしれませんね)
199再び病院へ・・・:03/07/02 00:05 ID:/xcTYMMl
「もう一つは……まひる殿?何をしておるんじゃ?」
魔窟堂と一緒に、紗霧も振り向く。
「あ、気にしないで下さい。ちょっと食べ物の匂いがしたんです」
とタンスの中を探しているまひる。
「「食べ物?」」
「はい。………。見つけた!」
と、まひるはせんべいが多く入っているビニール袋を見つけた。
「よく分かったの…」
「毒じゃないんですか?」
まひるはビニールの中のせんべいを見て、臭いを嗅ぐしぐさを
すると「大丈夫だよ」と答えた。そして自分が座っていた場所に戻る。
「・・・・・・・・・・・。話を続けましょうか?」
「うむ。これは何かのレーダーの様じゃが、使えるかな?」
紗霧に目配せをしてから、スイッチを入れる。
レーダーのモニターには光点が4つ写った。
「これは?」光点は3つ移動している。
「ま、まさか!対人レーダー!?」魔窟堂が驚愕の声をあげる。
「・・・・・・・。え?でも変じゃないですか。あたし達と同じ人数ですよ」
「そうですよ。私達が一塊になって1人分と考えても3人少ないですよ」
「うーーむ……。ん……?おおおおおっっ!!」
「うわわーー!」「うきゃあっ!」と突然大声を出した魔窟堂に
驚く紗霧とまひる。
「お、お、思い出したぁぁーーー!!!!わ、わしはなんという…!」
「魔窟堂さん。ど、どうかしたのかっ!」と、まひるが答える。
「な、な、何か解ったんですか?」と、少しびびっている紗霧が質問する。
「すっかり忘れておったあぁぁぁぁぁぁ!!首輪解除装置の事を!!」
「「えーーーーーーーーーーー!?」」
200再び病院へ・・・:03/07/02 00:07 ID:/xcTYMMl
「つまり……首輪解除装置が出来上がったと考えて問題ないんですね?」
「う、うむ」と、しょげてしまった魔窟堂をはっきりと問いただす紗霧。
「でも、それを開発したグレン・コリンズさんは数時間ほど前に死亡したと?」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「あ、あのさ、紗霧さん?」
「何でしょう、まひるさん?」とジト眼で返答する。
「これで、あたし達を撃った男の人が、何であたし達の居場所を知ったのか
分かったからさ」
「この件はもう関係ありません」
「そうですね…ハイ」
「これから、私達はこのボケ老人の処遇を…」
「そんな事してる場合じゃないでしょ!紗霧さん!」
「そうですね…。それはこの島を脱出してからの宿題としましょう…」
(こ、これでいいんでしょーか?)と、心で慌てるまひる。
紗霧は突然、紙切れを数枚取り出すと、この小屋で回収したボールペンで
文章を書き始めた。
「「?」」不思議そうに見る、まひると魔窟堂。
紗霧は紙切れの一枚を2人に見せる。そこにはこう書いてあった。
〔多分、首輪は集音マイクで運営者に盗聴されています。お2人とも
私の書く文章には決して言葉では反応しないで下さい〕
2人はしばし驚いた後、顔を見合わせてうなずくと、魔窟堂は紙とペンを持って、
まひるはせんべいを口に運んだ。
「・・・・・・・」
まひるの反応に紗霧は、わずかに眉をゆがめるが、構わず文章を書いて見せ始めた。
〔まずは、私達以外で、貴方達がこの島で出会って、生きている可能性のある
参加者の名前と特徴を教えて下さい〕
〔参加者に支給された武器を知りうる限り教えて下さい〕
〔魔窟堂さんは・・・・・・・・・・の薬品を病院で探して下さい〕
と3つ書かれていたのだった。
魔窟堂とまひるは知りうる限りの情報を紗霧に伝え。
紗霧も大体は伝えた。
201再び病院へ・・・:03/07/02 00:09 ID:/xcTYMMl
(二日目 PM1:21 東の森の小屋)

「さて、そろそろ動くかの」
「そうですね、高町さんはどうやって運びましょうか」
「うむ、わしが背負うしかあるまい」
「ねー、魔窟堂さん」
「なんじゃ、まひる殿?」
「恭也さんはあたしが運ぶよ」
「え?まひるさんが?」
「うん」
「しかし、まひる殿の体格では……」
そう心配そうに言う魔窟堂をよそに、恭也の元に駆け寄り。
左手で彼の脚を、右手で彼の首に近い位置の背を掴んで、軽々と持ち上げた。
「「おおっ!!」」思わず感嘆の声をあげる2人。
「さ、行こう!」と笑顔で恭也を運んでドアに向かうまひる。
「これは…」
「お姫さま抱っこですね」
「うむ…いいシーンじゃが、どこかアンバランスじゃのう」
「カメラ持ってれば良かったですね」
ドアに前でまひるは立ち止まった。
「「?」」
彼は困った顔で「あのー、ドア開けてほしいんですけど」と言ったのだった。

202再び病院へ・・・:03/07/02 00:12 ID:/xcTYMMl

(二日目 PM1:30 病院付近)

紗霧は思索する。
(まひるさん。長身の高町さんを運んでいて、まったく歩くスピードが
落ちてませんね。私と同じくらいの身長なのに少し意外です)
(この島で生き残ってるんですから、何かあるとは思いましたけどね)
(そうでなくては、彼女の性格で生き残れるはずないですから)
(黄色いキャップを被った、紫の長髪の少女、朽木双葉)
(私も出会った、黒髪、ショートカットの少女、アイン)
(私達以外で名前が解っているのはこの2人)
(他の3人は不明ですね。対人レーダーを駆使して、魔窟堂さんに
調査してもらう事にしましょうか?レーダーのバッテリーは少ないですけど)
(まずはレーダーで感知できる参加者を魔窟堂さんに説得させて尚、
敵対的行動を取る者、又は怪しい者には、お2人に取り押さえてもらって
アルコール入りの注射でもしておきましょう。当然、武器は取り上げます)
(首輪解除装置も手に入らなくなったと決まったわけではないですし)
(まひるさんは勘が良いので、レーダーが利かない人に対して効果が
あるでしょう。うまく行けばモノも手に入りますしね…)
(あの虎の男に匹敵する実力者を仲間に加えられれば言う事無いのですが…)
(・・・・・・・。少し眠いです…)
(まひるさん、何の話、してるんでしょう?)

203再び病院へ・・・:03/07/02 00:16 ID:/xcTYMMl
「えっ?昨日の病院には輸血パックがもっとあったんですか?」
「ああ……わし達の仲間が輸血しておった頃には数人分あったはずじゃ」
「その人の輸血が終わったその時にはまだあったんですね?」
「そのはずじゃったが、今日の深夜3時ごろには大半が紛失しておった」
「怪我した人が使ったんでしょうか?」
「わからん。じゃが、恭也殿の輸血は見込めないじゃろう」
「うーん…。おっ、紗霧さん、どうしたの?」
「・・・・・・・・・・・・・・。え、どうかしましたかまひるさん」
「何か、疲れてるみたいだけど…大丈夫」
「・・・・・・。しんぱいありませんよ」
(ひらがなだし。疲れているんだろな。あ、そうだ!)
まひるは恭也を地面に下ろすと、翼を動かし始めた。
「まひる殿、何を?」
「ちょっと、試したい事があってさ」
彼の翼は小刻みに、蜂の羽のように震え始める。
周囲の空気も震え始める。金属がきしむような音が周囲に響く。
「ま、まひる殿、これは!」
「んーー……」
まひるは翼の振動を止めた。魔窟堂が声をかける前にまひるは言った。
「まだ、勘が戻ってないや…」
「勘とはさっきのがか?」
「うん…空気をね…」
「く……おっと。つまりはそういうわけじゃな」と紗霧の方を見る魔窟堂。
うなずくまひる。彼の鼻が震えていた空気が運んだ匂いをキャッチする。
(この匂い?生きてる人じゃない。死臭!?)
「魔窟堂さん、病院の近くに誰かが死んでます!」
「なんじゃとう」
「え…そうですか…」3人は向かう、紫堂神楽と神条真人と亡骸がある場所に…

204再び病院へ・・・:03/07/02 00:26 ID:/xcTYMMl

「な、なんという……」
死体を見る覚悟はできていた。見つければ弔ってやりたいと思っていた。
しかし、目の前に突きつけられた事実は残酷だった。
「酷いですね…」と紗霧は死臭に顔をそむける。
神楽だったモノは頭の上部に空洞が開いており、その空洞に虫が群がっている
ありさまだった。
もう一つの死体で神条真人だったモノも、憎悪に満ちた表情を浮かべたまま
眼球を鳥についばまれていた。
「「・・・・・・・・」」
真人に対して多少なりとも関わりのあったまひると紗霧も何も言わなかった。
(弔ってやりたいけど…)と、自分が抱えている恭也を見るまひる。
「こんな、こんなことが!神楽殿!わしは傷を治してもらった
礼すらできないまま!」
(傷を治す?・・・・・・・・。どうにも思考がまとまりません)
「お医者さんだったんですか?」と、まひるが問う。
「いや正真正銘の巫女さんじゃった。本当に良い子で回復魔法も使えたのじゃ」
「そ、そうだったのか……」
(かいふくまほう、ありえない話ではないですね。策をねらないと…)
「魔窟堂さん、この人のポケットから何かが」
「ぬ、これは!」神楽の着たパジャマのポケットに入っていたのは
エーリヒの愛用していた軍用オイルライターだった。
「・・・・・・・・」しばし考え込む魔窟堂。そして、彼はライターを拾う。
「神楽殿、 近い内に必ず弔ってやるからな……」
その傍らで紗霧は真人のパーティーガバメントを拾っていた。
(なにかの役にたつかもしれませんから……ね)
「さ、急ぐぞ」
「うん!」3人は病院の中へ入っていった。
205再び病院へ・・・:03/07/02 00:27 ID:/xcTYMMl

(二日目 PM2:00 病院内)

魔窟堂は紗霧が依頼したとおりに薬品を探して、恭也に渡した。
その後、窓から周囲を見回している。
紗霧は疲れて患者用ベッドにうつぶせになって寝ている。
まひるは紗霧の寝ている部屋で、そこに置いてあった斧を一瞥した後で
魔窟堂から借りたMDプレイヤーを聞こうとしている。
そして…恭也はカーテンで遮られたベッドで目覚めていた。
彼は手にした薬の瓶を見つめながら苦悩を
顔ににじませ、葛藤しているのだった。


206再び病院へ・・・:03/07/02 00:30 ID:/xcTYMMl

【広場まひる】
【所持品:斧、MDプレイヤー、せんべいがたくさん入った袋】
【現在地:病院内】
【スタンス:争いを避ける】
【備考:怪力、超嗅覚、鋭敏感覚、片翼、衝撃波(練習中)使用】

【月夜御名紗霧】
【所持品:レーダー他、多数?】
【現在地:病院内】
【スタンス:反抗者を増やし主催者へぶつける。 モノの確保】
【備考:各地で得た道具を複数所持、パーティーガバメント入手
 疲労により現在、睡眠中】


【魔窟堂野武彦】
【現在地:病院】
【スタンス:主催者打倒】
【所持品:レーザーガン、軍用オイルライター】


【高町恭也】
【所持品:小太刀、救急セット、麻薬らしきモノが入った瓶】
【現在地:病院】
【スタンス:主催者打倒】
【備考:大量失血で疲労:中、右わき腹から中央まで裂傷あり】


207あぼーん:あぼーん
あぼーん
208狂気の称号:03/07/04 22:18 ID:SF4d0/mx
(第二日目 PM0:10)

街道を外れて、私は、東の森へと突き進んだ。
丁寧な事にアイツは、私を誘い込むように、到る所に自分の軌道を残していってくれる。
十中八句罠だろうと、それを辿っていく。
あの娘を弄んだアイツを殺すために。


ふい、目の前から禍禍しい気を感じた。
アイツの道標の直線上から、確かに発しられている。
罠か……
気配を消して、ゆっくりと慎重に距離を縮めていく。

30m… まだ相手の姿は、見えてこない。
20m… 隠れているのだろうか?
10m… よく見ると木の生え方が不自然だ。
まるで、中心をあけるかのようにして草場を作っているのが解る。

動きを止め、周りを再び観察するが何も出てこない。
209狂気の称号:03/07/04 22:19 ID:SF4d0/mx
<<そんなに怖がらんでもええぞい。 わしゃぁ、ピチピチねーちゃんなら大歓迎じゃい>>

何処!?
姿は見えずとも声だけが響いてくる。

<<目の前じゃよ、ほれ、ここ。 足元の方を良く見てみい>>

罠の可能性がある。

<<じゃから、そんなに疑り深くならんでええって。 わしゃ、自分からは何にもできんよ>>

慎重の気を使いながら、草に埋もれた地面をゆっくり見渡すと
一本の柄が禍禍しい気と共にひょっこりと顔を出していた。

<<そう、これがわしじゃよ>>
「信じられない……
人外の参加者を見た事はあるけれど、まさか無機物、それも柄が喋るなんて……」
<<柄だけじゃないわい!! 刀身は、地面にささっとるんじゃ!!>>
「……あなたは、参加者なの? それとも主催者側なの?」
<<それより、わしを抜いてくれんかのう?
このままだと一生生き埋めになりそうじゃい>>
「質問に答えては貰えないのかしら?」
210狂気の称号:03/07/04 22:19 ID:SF4d0/mx
<<わからん>>
「……………」
<<仕方ないじゃろ。 気づいたらここに刺されてたんじゃい>>
「嘘を言ってるわけではないわね…… まぁ、いいわ。
剣としては、使えるんでしょ?」
<<勿論。 嬢ちゃんみたいな若いギャルに振るって貰えるなら、大満足じゃ>>
本当に何でもありな大会なのね……
「ふぅ、解ったわ……」
彼を引き抜くために柄に手を触れようとしたその時。
<<ストーップ!! 言い忘れてた事があったわい。
わしに触れる時は、気を強く持ってくれんかの?>>
「………気を強く持つって?」
罠であるなら、わざわざこんな事を言うはずはないだろう。
<<んー、意識をしっかり保つようにかの……>>
言われた通りに、気を引き締めて、彼の柄を掴む。
<<おお、久しぶりの素肌じゃぁ。 やっぱ野郎とは違ってええのう>>
気もさることながら、性格も大分悪いようだ。
「意外に簡単に抜けたわね…… !?」
211狂気の称号:03/07/04 22:19 ID:SF4d0/mx
ぐにゃり

頭の中に黒いモノが湧き出て渦を成す。
<<な? …………言ったじゃろ?>>
あいつへの遥を弄んだ包帯男への。
怒りが憎悪が、あの娘を失ったやるせない想いが
胸の中でばくばくと、頭の中でがんがんと響き渡る。
「くっ…… これは、確かに厳しいわね」
まだ我慢できる。
アサシンとして、感情を殺すのを常としてきた私になら
そう簡単には、この闇に飲まれる事はない。
それに、湧き出る感情と共に剣から、身から、力が溢れ出してくるのが解るのも事実だ。
<<わしは、強力な剣なんじゃが、振るうものの精神を闇で蝕むという代償も持っとる。
使う時以外は、腰にでも当てておいた方がええぞい……
くっついてる以上なくなるわけではないが掴んどるより遥かに楽になるじゃろ。
それにわしも嬉しいしな>>
「そうさせてもらうわ………」
森の木に巻きついていた蔓を一本引きちぎって、ひゅっと腰と柄を巻きつけた。
巻きつけた瞬間、ふっと気が楽になる。
この程度なら、私の精神が弱まらない限りは大丈夫だろう。
剣も大分喜んでいた。
212狂気の称号:03/07/04 22:21 ID:SF4d0/mx
<<そうそう、自己紹介がまだじゃったの。
わしの名前は、カオス。 世間では、魔剣カオスと呼ばれておったわい>>
「混沌(カオス)に魔剣の名ね。 確かにあなたらしいわね。
私はアイン…… そう呼んでもらえればいいわ」
<<アインかい。 いい名前じゃのう。 それじゃこれから宜しく頼むぞい
何だったら、アッチの方でも、ゲヘヘヘヘヘ>>
尻の方に悪寒が走る。
「本当に下品な剣なのね…………」
<<まま、そういわんと、わしを力込めて振るえば
一般人でも闘気を出せるくらいじゃぞ。
お主ほどの使い手なら、いい闘気が出せそうじゃわい>>
「そうね…… あいつを倒すためにその力貸してもらうわ……」


【アイン】
【現在地:東の森】
【スタンス:素敵医師殺害】
【所持品:スパス12 魔剣カオス】
【備考:左眼失明、首輪解除済み
    抜刀時、身体能力上昇。
    振るうたびに精神に負担】
213あぼーん:あぼーん
あぼーん
214あぼーん:あぼーん
あぼーん
215寸劇・ある通信内容(1):03/07/08 07:10 ID:iZK22JVt
(二日目 13:35 東の森南東部)

雑音。
……
………
…………

「……こちらザドゥ。智機、そちらの状況はどうだ?」
「……よくもまあそこまで余裕を持って聞けるものだな」
「何の事だ?」
「『何の事だ?』ではない!貴様、干渉しないと言っておきながら何故参加者を随行させている!?」
「……アレは勝手に付いてきているだけだ」
「それはへ理屈と言うのだ!……早期抹殺を提案する。彼女の能力は危険だ」
「それは認めない。彼女は既に参加者抹殺を目的に変更している。
「子供独特の短絡的かつ一時的な選択だ。すぐに別の影響を受ければ敵対側に回る」
「ならばそうなってからで良かろう?」
「……………ッ!貴様がそういう……」
「ならば聞くが智機よ」
「は?」
「彼女の主……アズライト抹殺の一件、私は指示を出した覚えは無いのだがな?
 事後報告でアズライト、及び伊頭鬼作の殺害完了の報告を受けただけだ。
 ……何のつもりだ?」
「……彼らは既に学校に辿り着き、こちらへの直接的な反撃を目論んでいた。
 貴方が睡眠中だったので、独断で可能な最善の行動を取っただけの事だ」
「『だけの事』か……ククッ、智機よ。お前も随分アナログ的に動くようになってきたではないか?」
「……誉め言葉と受け取っておこう。で……状況だったな」
216寸劇・ある通信内容(2):03/07/08 07:11 ID:iZK22JVt
「そうだ。素敵医師やケイブリスの動向、また他の参加者の動きの報告を頼む」
「分かった。まず素敵医師だが……現在No.16・朽木双葉のいる地点へ向かっている」
「双葉?あの者には首輪を解除されていたのではなかったか?」
「先程になって突然反応が復活した。どうやら自分で再着用したようだ。
 ……彼女は『シキガミ』という術を使う。万一戦う事になった場合は用心する事だ」
「フン……ケイブリスは?」
「こちらは単純だな、一直線にNo.1・ユリーシャとNo.2・ランスの最終確認ポイントに
 向かって進んでいる。……あの二人も首輪が解除されているので現在の地点は未確認
 だが、この速度なら例え彼等が移動中だとしても程なく発見できるだろう」
「何か音声は?」
「何も。ひたすら喧しい笑い声が聞こえてくるだけだ……聞くか?」
「遠慮しておこう」
「貴方にしては賢明だ……で、No.28・しおりについては聞くまでもあるまい?
 今お前の50m後方で静止している」
「ああ、そちらの方を振り向くなと言われているがな」
「?」
「……生理的欲求、だそうだ」
「下らない事を……No.23・アインについては現地点、及びその行動は不明。
 ただ、現在まで断片的に傍受された内容から予測するに彼女も素敵医師を追撃している
 可能性は高いだろう」
「仇討ちか……」
「そういう事だ。理解に苦しむがな……残りの参加者だが、No.40・仁村知佳以外は全員病院に
 向かっている。おそらくはNo,8・高町恭也の治療の為だろう」
「仁村知佳は?」
「それが……補足できない。首輪を外していないのは間違い無いんだが、どうも磁場か
 何かに引っ掛かっているようで発信が安定しないのだ」
「そうか……了解した」
「……………ザドゥ様」
「ん?」
「貴方は知っているのではないのか?」
217寸劇・ある通信内容(3):03/07/08 07:12 ID:iZK22JVt
「何を?」
「あのプランナーの声が貴方にも聞こえた筈だが、アレはこう言っていた。

 この島の何処かに一つだけ役立つかも知れぬものを召還した。

 ……これは何を示している?」
「知らん、私もあの方から全てを聞かされている訳ではないのでな。
 ……聞いていれば、あのような魔物など飛び入りで入れるものか」
「心当たりも無いのか?」
「全くな……ただ『それ』が、我々にとってのケイブリス、あるいはそれ以上の影響力を
 参加者に与える物で無ければ釣り合いは取れないだろう」
「それだけの威力を持つ武器・兵器だと?」
「あるいは人間か、ケイブリスのような化け物かもしれん。
 ……聞きたい事はそれだけか?ならばこれで通信を終了するが……?」
「ああ、結構だ」
「……智機よ」
「は?」
「我々管理者は、本来参加者同士の殺害を補助するのが役割だ……分かっているな?」
「……最善を尽くしましょう」
「……………」

…………
………
……
雑音。


「……そうとも、最善をね……」
218寸劇・ある通信内容(4):03/07/08 07:12 ID:iZK22JVt
    ↓

【主催者:ザドゥ】
【現在位置;東の森南西部】
【所持武器:己の拳】
【スタンス:素敵医師への懲罰
      参加者への不干渉】
【備考:右手に中度の火傷あり】

【主催者:椎名智機】
【現在位置:本拠地・管制室】
【所持武器:レプリカ智機×数十体
      内蔵型スタン・ナックル
      軽・重火器多数倉庫内に所持】
219あぼーん:あぼーん
あぼーん
220高町恭也(1):03/07/10 00:18 ID:au2CAbZf

(二日目 PM1:57 病院)

病院の一階にある、カーテンに遮られた寝室。
ベッドの一つに寝かされていた、高町恭也はやや苦しそうな声を上げて
目を覚ました。
「……………」
(……無事に病院に着いたんだな……)
そう結論を出して、身を起こして周りを見回す。
カーテンの向こうには人の気配を感じる。
「…………」
カーテンの向こうの気配が、こちらにやってくる。
「恭也殿、入るぞ?」
その声は魔窟堂のものだった。
「あ、魔窟堂さん…」
「おお、恭也殿」
恭也は魔窟堂を見ると、手に持っている瓶に気づく。
「……例の…薬ですね?」
「……そうじゃ…」
恭也は魔窟堂から瓶を受け取って、考え始める。
瓶の中に入っている薬。主な効用は鎮痛だが、
一方で身体能力を一時的に高める効果もある。
いわばドーピングの意味合いもある。
薬品自体は紗霧に頼まれて、魔窟堂がラベルと匂いを確認して持ってきたものだ。
それを経口投与するわけである。
221高町恭也(2):03/07/10 00:20 ID:au2CAbZf

「魔窟堂さん、少しだけ1人で考えさせてください」
「ふむ、そのほうが良さそうじゃな。恭也殿、気をしっかりと持つのじゃぞ」
「はい…」
魔窟堂は励ましの言葉を残して、カーテンの向こうへ去っていく。
恭也は瓶に張られている紙に書かれてある文章を見る。
入っている薬の成分が、紗霧の字で小さいながらも丁寧に書かれてある。
「………」
高町恭也は小太刀二刀・御神流と呼ばれる武術の使い手である。
彼は殺人ゲームに参加させられた時、まずは力なき人々を守るスタンスを
取った。装備面で万全で無かったにせよ、参加者の中では強い部類に入るだろう。
しかし、彼が直接救えた人はほとんどいない。
最初に行動を共にした篠原秋穂は、奥義を破られて長時間に渡って
意気消沈していた恭也に愛想をつかして去っていった。
後に、昨日の定時放送によって秋穂の死を知ることとなった。
2日目の午後、既に30人もの参加者が命を落としている。
ただ1人守る事ができた知佳も現在、行方不明である。
「…………」
己の無力さを心中で嘆く恭也も現在、腹部に大きな傷を負っている。
このまま安静にすれば、命を落とす事は無いだろう。
だが、彼を始めとする参加者に、残された時間は少ない。
今の彼はまともに戦う事さえできそうにないのだ。
「・・・・・・・・・・・・・」
薬物で能力を高めたくないという気持ちは少なからずある。
それ以上に、薬物に頼らなくてもまだ動けるという意地もあった。
しかし、もしそれで自分が何もできないまま……それどころか
仲間に迷惑をかけたまま、死亡する事となったら……
(それこそ最悪…だよな…)
時間はない。早く服用するか、否かを決めなければならない。
恭也は1時間以上前の会話を思い出しながら、葛藤した。
222高町恭也(3):03/07/10 00:22 ID:au2CAbZf
 
(二日目 PM12:37 東の森の小屋)

「手短にすみます。まず病院で薬品を調達して、それを高町さんに投与します」
と、紗霧が言った。
「治療の為だけと言う訳ではなさそうじゃの」と、魔窟堂。
「ええ、ぶっちゃけた話、ドーピングです」
「ドーピング……だと…」かすれた声で恭也が問う。
「その通りです。高町さんには早く動けるようになってもらわないと」
「心配ない…俺はまだ…」
「奇跡的に急所に被弾しなかったからって、銃弾を受けて
まともに動けるわけが無いじゃないですか」
と、紗霧は胸にしまいこんでいる、45口径の銃の感触を意識しながら言った。
「…………………」黙り込む恭也。
「少なくとも歩けるようになってもらわないと困ります」
「くっ………」
「ああああああああああ、恭也さん!また意地になってどうすんのさ!」
何か力を入れようとする恭也に、まひるが慌てて声を掛ける。
「…………」再び恭也は黙り込む。
「…………」そして、魔窟堂も黙っている。
紗霧と魔窟堂は摘出された弾丸から、恭也のダメージの深刻さを知っていた。
――――45口径の銃弾。
常人ならば、胴体に被弾すると急所云々以前に、ほぼ即死する。
相当鍛え抜かれた生き物も一発でも喰らうと危ない。
ましてや2,3発喰らおうものなら、胴体が千切れそうになるくらいである。
恭也は相当鍛え抜かれているが、命に関わるダメージを
受けているのには変わりない。
「治療が完了しても、歩く事さえできなさそうですし。ドーピングしてでも
仲間が増えるまでのつなぎになってもらいませんと」
「さ、紗霧さん。つなぎって…?」と、まひるが問いかけるが返事は
返ってこなかった。
223高町恭也(4):03/07/10 00:22 ID:au2CAbZf

(二日目 PM2:02 病院)

「俺は飲むべきなんだろうか?」
誰に問うことなく恭也は呟いた。
―――月夜御名紗霧。
彼には昨日の朝に協力を申し込んできて、彼に薬を投与する事を
提案してきた彼女は、どこか信用ができなかった。
主催者に戦いを共に挑む仲間を求めていた彼は『人は見掛けにはよらない』と、
できる限り先入観を捨てて、他の参加者と接触を試みた。
だが、彼が遭遇した参加者達は、見かけ通りの性格の者ばかりであった。
紗霧。彼から見ても、魅力的な少女とは思う。
しかし彼にとって、彼女から感じた第一印象は「危険」だった。
それこそ疑いすぎという気がしたが、どうしても疑いを拭う事ができない。
「魔窟堂さんが用意してきた薬品だ。飲んでも大丈夫だとは思うが…しかし…」
(月夜御名について、魔窟堂さん達に注意を呼びかけるべきなんだろうか?)
我ながら疑い深くなって、嫌だなと自嘲しながら恭也は考えた。
数分後、カーテンの向こうから声が聞こえた。

224高町恭也(5):03/07/10 00:24 ID:au2CAbZf

(二日目 PM2:06 病院)

「恭也さーん、ちょっといいかな?」声の主はまひるだった。
「広場さんか、どうぞ」
「それじゃ、失礼します」と、入ってきた彼は、上は白のTシャツで下はだぶだぶの
ズボンな格好だった。所々に泥がついている。右肩の翼はシャツの切れ目から
のぞいている。
「広場さん、着替えたのか」
「うん。ちょっと穴を掘ってたんだ」
「穴?」
「魔窟堂さんの友達の神楽さんを弔わなきゃいけないからね」
「そうか、それでその格好か。よく代えの服があったな」
「かごの中にあったよ」
「かごの中?」
「ベッドの下のかごの中に入ってた」
なんでそういう所にあったんだ?という疑問が恭也の頭に浮かんだが、
じっくりと周りを調べる余裕が無かったからなと納得した。
「それで広場さん、俺に何か用か?」
「そうだよ。紗霧さんから言づてをもらってさ」
「月夜御名から?」
「………?あっ…紗霧さんのことだよね」と、一瞬名字だとわからなかった
まひるが答えた。
「恭也さんに言い忘れたことがあるから伝えてって」
「言い忘れたこと?」
まひるはうなずくとこう言った。
「高町さんには知佳さんを説得してもらわないと困ります。知佳さんを
呼び戻せるのは高町さんだけです。
それにはまず歩けるようになってもらわないと…、だって」
225高町恭也(6):03/07/10 00:27 ID:au2CAbZf
「………!」驚いたように恭也は目を見開く。
「恭也さん?」
「・・・・・・・・・・」
まひるは突然黙ってしまった恭也の右手に瓶が握られているのを見つける。
(薬だ…。紗霧さんは意識が混濁する量じゃないと言ってたから、飲んでも
大丈夫だよね?)と、言い聞かせるように心中で呟くと、
手に持ってたデイバックを他のベッドの上に置く。
「じゃあ、あたし行ってくる」
「待ってくれ!広場さん」
と去ろうとするまひるを恭也の声が押しとどめる。
「?」
「こんな俺にも、仁村さんを、皆を守れるのか」
「えっ……」
「命を捨てなくても、神速を使えなくなっても、俺はまだ何かをなせるのか?」
真剣な顔でまひるを見つめて恭也は問う。
「・・・・・・・・。大丈夫だよ。何かを傷つける力と…何かを守れる力は
きっと…違うよ。恭也さん、その力持ってるはずだからきっとできるよ」
そして、真剣な顔でまひるは答える。彼は神速の事は知らない。
傷つける力と守れる力の違いも言ってない。根拠のない返答。
だが、その言葉に迷いは無かった。
「そうか…」恭也は眼を瞑り、口元に笑みを浮かべた。
「月夜御名……紗霧には悪いが、この薬を服用するのは止めておく」
「そうか…飲まないのか」
「不器用で悪い。その代わり、痛み止めを頼む」
「……うん!わかりました!紗霧さん、疲れて寝てるから魔窟堂さんに言っとく」
「ああ」
カーテンの向こうから出ようとするまひるだったが、何かを思い出して
再び顔を向ける。
226高町恭也(7):03/07/10 00:28 ID:au2CAbZf
「忘れるトコだった。紗霧さんから恭也さんに渡したい物があるんだって」
「渡したい物?」
まひるはベッドの上に置いたデイバック(琢磨呂が持ってたのを紗霧が回収し、
まひるに渡した)の中から布で包まれた物体を恭也に渡した。
「これは…包丁と…銃か?」と、布を取って出てきた銃を見て、恭也は言った。
「護身用かな?」
恭也は包丁を布で包み、銃を見つめ、指で玩ぶ。その度に何故か恭也の表情が
引きつったものに変わっていく。
「恭也さん?」
「広場さん。月夜御名紗霧には…気を許さない方が良い」と真顔で言った。
「へ………?。恭也さん、何言ってんの?」
恭也は黙って、銃口を自分のこめかみに向ける。
「きょ、恭也さん、な、な、何を!」
黙ったまま恭也は引き金を引く。出てきたのは弾丸では無く、
色とりどりの旗とひも。パーティーガバメントだった。
「・・・・・・・・。お茶目なジョーク?」
「俺は…違うと思うけどな…」
疲れたような、呆れたような微妙な表情で恭也は毒つく。
「えーー、あまり時間が経つとアレなんで、あたし行って来ます」
と、外に出ようとする。
「借りはきっと返す」
「え?あたし何もしてないよ?」
「いや、こっちの独り言だ、気にしないでほしい」
「そっか。じゃ」と、会釈するとまひるは出て行った。
227高町恭也(8):03/07/10 00:34 ID:au2CAbZf
「………………」
恭也はパーティーガバメントを手に考える。
己が気絶していた時に聞こえた神の声のことを。
(多分、魔窟堂さん達にも聞こえていただろう……)
天井を見上げる。
(俺はみんなと脱出できればそれでいいと思ってた…なのに)
おもちゃの銃を握り締める。
(今の俺には、この島で死んでいった、秋穂さんを生き返らせたいという
いがある)
おもちゃの銃を再び握り締める。
(間違ってるよな…あの神は倒すべき敵なのに…欲望の為に俺は主催者と
戦おうとしている…)
(俺の失敗は決して帳消しにはならない。それでも、卑下されようとも、
俺は皆を、秋穂さんを助けたいんだ)
秋穂に対して、恋愛感情や特別な親近感を持っていたわけではない。
だが、奥義を破られ、意気消沈した事が原因で秋穂と別れ、結果的に助けられずに
死なせてしまったという、罪悪感が彼を苛やむ。
(本当に敗れたのは、秋穂さんを見殺しにしてしまった時だったんだな…)
「……むっ?」
銃に違和感があることに気づく。少し重い。おもちゃの銃にしては重いのだ。
既に出ている紐を触れる。違和感。
彼は銃身から更に紐を引っ張り出そうとする。抵抗が少しあった後、
紐の代わりに出てきたのは糸だった。
「これは…!」
数分後、彼の元に魔窟堂が痛み止めの薬を持って現れた時、
恭也はなじみのあるアイテムを手に入れていたのだった。

            ↓

228高町恭也(9):03/07/10 00:37 ID:au2CAbZf

【高町恭也】
【所持品:小太刀、鞘付き包丁、救急セット、
 鋼糸(パーティーガバメントをばらして入手)】
【現在地:病院】
【スタンス:主催者打倒、知佳の捜索と説得】
【備考:失血で疲労:中、右わき腹から中央まで裂傷あり
 痛み止めの薬品?を服用】

【広場まひる】
【所持品:せんべいがたくさん入った袋、代えの服数着(入手)】
【現在地:病院の庭】
【スタンス:争いを避ける、アインを探す】
【備考:怪力、超嗅覚、鋭敏感覚、片翼、衝撃波(練習中)使用
 天使化抑制・自分の意思によるもの】

229名無しさん@初回限定:03/07/12 18:27 ID:JwfQbTq0
保守
230傷心(1):03/07/12 23:58 ID:uT3NWhP6

(二日目 PM1:44 病院)

病院の一室でベッドに腰掛けている魔窟堂と、眠そうな顔をした紗霧。
「紗霧殿…レーダーの事で、言っておきたい事があるのじゃが…」
と、魔窟堂はやや辛そうに話し掛ける。
「……なんでしょう?」
「さっき光点が3つあったと言うておったが、光点の中には双葉は
含まれてはおらんかもしれん」
「……どういうことですか?」
「まだ話しておらんかったが、双葉の首輪は昨日の午前に、解除されたのでな」
「…え?」
「アイン同様、レーダーでの補足はできんはずじゃ……」
「…それはおかしいですね。のこりの参加者は10人。私達のしらない
参加者は3人のはずです。」
「うむ…主催者が間違えるとは考えられんからの、ワシ等の知らない所で
何かが起こったのかも知れん」
「…主催者の策略かもしれませんね。……ところで魔窟堂さん、
解除ってどういうことですか?」
「・・・・・・・。昨日…ワシらの……死んでいった仲間のホッシー君が
首輪を破壊してくれたのじゃ」と両目を涙で少し潤ませながら魔窟堂は答える。
(それで、きのうの放送では死亡者6人なのに、レーダーでは7人に
なってたのですね)と眠気に抵抗しながら紗霧は思索する。
「……あの…魔窟堂さん、その双葉さんとホッシーさんのこと知っている限り
おしえてくださいませんか?」
「……うむ。情報は共有せねばならんからの」
やや躊躇しながらも、魔窟堂は2人の事を話し始めた。
231傷心(2):03/07/13 00:02 ID:gL4IkxXi

(二日目 PM1:49 病院)

「……アインさんよりもはやく、双葉さんを見つけなければなりませんね」
「その通りじゃな…だが、今は…」
「…高町さんのことがありますからね。…ここの近くに通りかかれば
手のうちようはあるんですが…」
と、デイバックから対人レーダーを取り出して紗霧は呟く。
「そうじゃな…」
高速移動ができる特殊能力「加足装置」を持つ魔窟堂なら大体の場所の
把握ができればわずかな時間で接触する事が可能だろう。
紗霧が主催者打倒を選択肢の一つに入れた要因の一つには、数時間前、
竜神社周辺でその事を聞いて知ったからである。
紗霧はレーダーのスイッチを入れる。
「「!?」」
2人は絶句する。レーダーの光点は7つから6つに減っていた。
「……光点が一つ減ってますね…」
「ま、まさか…」
「……魔窟堂さん、死んでしまったとは限らないでしょう。首輪が解除されたの
かもしれませんし」と、とっさに言いつくろう紗霧。
「・・・・・・・・。そ、そうじゃな………」
やや顔を青ざめながら、答える魔窟堂。彼の気持ちはすぐにでも外出して、
知佳やアイン達を捜索することに傾いている。
232傷心(3):03/07/13 00:05 ID:gL4IkxXi
「…御気持ちはわかりますが、…今戦えるのは魔窟堂さんだけです。
…高町さんが目覚めるまでは遠くには行かないようお願いします」
神妙な顔付きで紗霧は彼に問い掛ける。
「そ、そうじゃな……そうだったんじゃな……」
(参加者が死亡すればブザーが鳴るんでしょうけど電源を切ってましたからね。
判断がつきません)
彼女の配布品である、対人レーダーの残りバッテリー量は少ない。
そのことに気づいたのは昨日の午後7時ごろ。ブザーとは別の警告音が響いた。
レーダーの説明書を暗記していた彼女はそれ以後、
レーダーを余り使わなくなったのだ。
もっとも、それが原因で遺作に捕まったのだが。
「今は、恭也殿を治療するのが最善か……むっ?」
「……どうしました?」
軽い足音が2人には聞こえる。
「まひる殿かな?」
「…………」紗霧は眠気を押さえながら、恭也とまひるの事を思索する。
そして、まひるを通じて恭也に伝える言葉を頭の中で組み立てる。
まひるがこの部屋を訪れ際に彼女は組み立てた言葉を恭也に伝言する事を
頼んだ。
233傷心(4):03/07/13 00:09 ID:gL4IkxXi

(二日目 PM1:53 病院)

「紗霧殿…おぬしにも熱くたぎる魂を持っておったんじゃなあ」
と、感動する魔窟堂。
「……私には………そんなものはありませんよ。その方が確実に知佳さんと
合流できるからこその提案ですよ」とあくびをかみ殺しながら紗霧は言った。
「自分をそこまで謙遜しなくても良いじゃろう……。本当に良く言ってくれた」
「…謙遜などしてません…た…だ…」彼女のまぶたが重くなっていく。
(あういう眼をする方は大きな何かをやり遂げちゃうんですよ)と心中で言う。
「?」
「…それよりも魔窟堂さん、薬品の方を頼みます……」
「わかった」
「…………」
「紗霧殿………眠っておるのか?」
紗霧はベッドにうつぶせになったまま、静かな寝息をたてていた。
魔窟堂はシーツを紗霧にかけてやる。魔窟堂は彼女をみてしばし考える。
今日の朝に病院に訪れ、仲間に加わった黒髪黒リボンの少女。月夜御名紗霧。
この島で魔窟堂と行動を共にした仲間の中で、彼女のような参謀向きな
能力の持ち主は、昨日に命を落としたエーリヒ以来の人材といえる。
魔窟堂が歩んできた人生の中で、これだけの聡明さを持つ者はまずいなかった。
234傷心(4):03/07/13 00:11 ID:gL4IkxXi
彼女のその聡明さは、来るべき主催者との戦いで大きな助けになると
少なからず期待していたりする。
だが、その一方で懸念があった。何を考えてるかわからないと言う不安がある。
確かに自分達に協力はしてはいるのだが、何かがおかしいと感じてしまう。
(朝から感じた不安は、ワシが解除装置を忘れていた事によるものじゃったが)
もう一方でまた別の不安があった。それは彼女から感じる危うさであった。
己の身の危険を感じるのとは(その危険も少なからず感じていたりするのだが)
違う。彼女にはどこか安定さが欠けているように思えてならないのだ。
アインにも鋭利すぎる刃物の様な危うさを持っていたが、紗霧から感じる
危うさはそれを明らかに上回っている気が魔窟堂にはした。
「我等の仲間となる前に、何があったかは知らぬが疲れておるんじゃな…」
彼女はさっきと変わらない様子で寝息をたてている。
「こうしてはおれん。恭也殿に薬を渡さなくてはな」
(恭也殿の怪我、知佳殿の心、紗霧殿から湧き出る不安。いずれも解決するのは
大変じゃが、互いに欠点を補うのが仲間。ワシは…諦めんぞ!)
魔窟堂は自分に言い聞かせるように心中で呟くと、薬を取りに行った。
235傷心(6):03/07/13 00:15 ID:gL4IkxXi
  
それは―――悪夢

夜。この島にある竜神社で、やせた醜い男に黒髪の少女が、凌辱されている。
(・・・・・・・・・・・・・・・)
紗霧はぼんやりとしながらもその光景を、無表情で見つめていた。
(ここは病院で…昼ではないですね。・・・・・・・・・。
私がどの場所に立ってるかも定かでないですから。多分…夢でしょうね…)
黒髪の少女が苦痛のうめきをもらす。男が逆に歓喜の声をあげた。
(予想はしないでも無かったですが、やっぱりロクでもない夢でしたね)
紗霧は冷めた目で、目の前の光景を見続ける。
数分後、少女の股間部分にはかなりの血が流れていた。
破瓜の血とは異なる出血量。無理やりねじりこんだための怪我だった。
歯を食いしばって耐えていた少女はその時初めて絶叫した。
(何、無様に叫んでるんですか?)
男はそれに構わず、行為に没頭する。少女の叫びは続く。
(・・・・・・・・・・・・・・・。血。そうでしたね…あの時が来るまで…
私は、まだ経験が無かったんでしたね……)
紗霧は、昨日の晩に、伊頭遺作に凌辱された自分を見つめながら、
表情は相変わらず変えないまま、ただ…ただ深いため息をついたのだった。
236傷心(7):03/07/13 00:19 ID:gL4IkxXi
ぼんやりとした思考の中、紗霧は昨日の光景だけではなく、この島に来る前の
風景も見かけるようになっていた。
(走馬灯みたいですね……縁起でもない…。いつ目が覚めるかわかりませんし、
気が進みませんが…見てみるのも一興でしょう…)

3歳くらいの女の子が、初老の男性に話し掛けられている。
女の子はしばし呆然とした顔から、やがて泣き顔に変わって走り去っていった。
困ったような、申し訳無さそうな顔で見送る初老の男。
女の子はそれ以後、人前ではほとんど泣かなくなった。
(3歳の頃でしたっけ、私に家族がいないと知ったのは……)
月夜御名紗霧。世間一般に大富豪と呼ばれる家の令嬢として生を受けた。
両親は物心つく前に亡くなっている。両親の愛の代わりに、
彼女は莫大な財産を望まずして手に入れた。

初老の男性が路上で横たわっている、息はしてない。
それをあっけに取られた顔で、女の子は見ている。
女の子は疑問に思った。自分を可愛がってくれた執事。『飲酒運転』で
命を落とすとは思えない。何かがある。
女の子は執事が亡くなった悲しみと、理不尽な事に対する怒り。
彼女は本当の事を突き止めようとした。
(この頃からですね、私が周りとは違うというのに気づいたのは)

真実は――女の子が思っていた事実ではなかった。飲酒運転に見せかけた
殺人。犯人は親族。あの執事も本当は財産を狙っていたかもしれない事。
犯人は警察に捕まった。やがて女の子は気づく、周りは財産と自分の命を
狙う輩でいっぱいだったということに。それ以後、女の子――紗霧は
自分と居場所を守るために全力で戦うことに決めた。
237傷心(8):03/07/13 00:24 ID:gL4IkxXi
幼い頃の紗霧は、身体こそやや弱かったものの、その頭脳は図抜けていた。
5歳の頃には並みの大人を超える知識と、応用力を持っていた。
紗霧はその力で戦った。最初は親族等の嫌がらせで、何度も泣いた。
だが、その持ち前の知恵で敵を排除していく。紗霧はありとあらゆる謀略で
敵を陥れ、破滅させ、間接的に始末したりもした。
だが、その一方で次第に紗霧は、謀略そのものを楽しみ始めた。

小学校に上がる頃には、紗霧の敵の大半は姿を消していた。
(………あの頃の私の拠り所は、漫画や小説でしたね…)
紗霧は架空、実在を問わず、英雄に憧れていた。
身体が余り強くなく、外出も不用意にできない環境で、本が一番の娯楽だった。
敵に対抗するための知識にはなりえないが、友達が作れなかった紗霧には
本の中の登場人物が架空、又は過去のものとわかっていても、羨ましかった。
自分で話を書いてみたかったが、その余裕は紗霧にはなく。
やがて諦めたのだった。

小学生になっても、紗霧を取り巻く環境は変わらなかった。
同級生からもほとんど話し掛けられなかったし、
彼女も話し掛けることはなかった。
紗霧の小学校時代も幼年期同様に終ったといってもいい。
それでも、得たものはあった。占星術。
きっかけは紗霧が夜空を見上げた時、ある星を見て何かを悟ったからだった。
彼女は占星術を研究し、時世の流れ、人の動き、大体の未来を
予測する力を手に入れた。
238傷心(9):03/07/13 00:30 ID:gL4IkxXi
中学生になった頃には、彼女の敵もほとんどが姿を消していた。

ある日、紗霧は学校の帰りに道端で捨てられている
怪我した黒い子猫を見つけた。
子猫を見つめる紗霧。彼女は心配した。早く家に連れ帰り手当てを
してやりたかった。可愛がりたかった。家に連れ帰って飼いたかった。
だが、一方で弱みを作ってしまう、自分では育てる事ができないと葛藤し、
結局、その場を立ち去った。無表情のままで。
次の日、その子猫はいなくなっていた。その日の事は今でも覚えている。

彼女はある日、もうひとつの現実を認識する、日本全国の学校が
不良によって蹂躙され、乱世ともいえる現状を。
彼女は決意する。諸校を統一して、戦乱ともいえる現状に終止符を討とうと。
彼女のいる世界には、この世界のみの星が存在する。
その星々はこの世界に住む人間に対応し、その能力と運命を暗示する。
紗霧の宿星は闘姫星。覇王の介添人の意味合いがあり、頭脳面でサポートする
役割。彼女は覇王星の宿星を探しはしたが、まだ時期ではなかったため。
見つけることはできなかった。

数年後、彼女は富嶽学園に進学した。そこで彼女は富嶽学園を
支配するワープ番長・猪野健と出会う。彼女はまず学園を安定させるために、
反乱分子を排除した。猪野を騙して、自分の都合の言いように学校を
作り変えていったのだ。
それは、自分が将来使える君主のためとはいえ、やってることは
昔のままの彼女の手口そのままだった。
239傷心(10):03/07/13 00:35 ID:gL4IkxXi
やがて彼女は出会う。覇王星の宿星を持つ、後に鋼鉄番長と呼ばれる
丈夫鋼という男に。紗霧は彼に一目ぼれした。初恋だった。
彼と出会って、猪乃の下から出奔してからの彼女の人生は、
何もかもが新鮮だった。鋼が猪乃に倒されたときには、猪乃の師匠である
四次元流格闘術の使い手である、墨土羅ェ門の存在を嗅ぎつけ、彼に紹介した。
紗霧自身も持てる知恵を振り絞り、彼女なりに鋼をバックアップし、
見事に猪乃を撃破し、見事永久追放した。
これによって富嶽学園を支配下に置いて、全校制覇の基盤は固まった。
時が流れ、戦いに勝っていくにつれ心強い仲間ができた。
友達らしい友達がいなかった彼女。鋼以外の仲間も、紗霧にとってかけがえの
無い存在となっていった。
やがて全校を制覇。紗霧は夢をかなえたのだった。
ただ、一つを除いて。
紗霧の初恋。それはかなう事は無かった。
彼女の仲間で女友達の1人が、鋼のハートを射止めたからだ。
もう1人の年下の女友達と共に、何らかの条約を結んだが、
結局徒労に終わり。結局、紗霧は諦めた。
それでも、紗霧は彼女を始末しようとはしなかったし、
そのままでも充分幸福だった。
(あの日……春の晴れた日曜日。私の入れたオリジナルティーブレンド。
あの人達は美味しそうに飲んでくれた)
190センチを少し超えた黒髪の男。二メートルを超えた、類人猿を
髣髴とさせる大男とその妹である小柄な少女。
髪の毛の色以外はほとんど同じ容姿をした、性格正反対な自分と同年代の
双子の少女。そして、鋼の恋人となった、赤毛の長身の女性。
いずれも楽しそうに談笑している。戦いが全て終わっても、変わらぬ友情。
その光景の紗霧は少し嬉しそうにお茶を入れていた。
240傷心(11):03/07/13 00:38 ID:gL4IkxXi

(3年に進級してから数週間後、いつもの書類点検の後、眠気に襲われ。
気づいた時にはこの島にいたんですね…)

鐘の音が響く。目覚める40人の男女。拍手と共に現れた5人の男女。
彼等は殺人ゲームを強要した。紗霧は表面上、平然としていたが、
内心では戸惑っていた。そんな中、1人の男が立ち上がり、
主催者の男に立ち向かっていった。想像を絶する死闘。
ほとんどの参加者はそれに圧倒されていた。
紗霧も例外ではなく、むしろ虎のマスクの男――タイガージョーに、
ある種の期待を抱いていた。
私達をここから助け出してくれる存在。鋼以上の力量を感じていたから
こその期待だった。しかし、その期待はタイガージョーが
殺害されて打ち砕かれてしまった。

(確かこの位の時間で猪乃がいるのを突き止めたんでしたね)
紗霧は猪乃の存在に気づき、髪を束ねているリボンを頭に巻いて、
ごまかしていた。
普通、少しでも勘のいい人間なら容易に気づくだろうが、猪乃は紗霧に
気づく様子は全く無い。やがて彼女は、自分の番号が呼ばれると、
デイバックを拾い上げて、足早にこの場を去っていった。
241傷心(12):03/07/13 00:46 ID:gL4IkxXi
紗霧は学校を出て、急いで人目のつかない場所へと移動した。
彼女は荒い息を吐きながら、今後の事を考える。
あの主催者の男は恐るべき力を持っている。他の参加者の中で彼等の
戦いで圧倒されなかった者はいなかった。他の4人も未知数。
他の参加者と組んでも、勝機はないかもしれない。紗霧は空を見上げる。
空には星々が光っているが、星の配置からこれからの事が読み取れない。
他の参加者の事を考える。猪乃や勝沼は例外として、他の参加者の中で
鋼やタイガージョー以上の強さを持ってそうな者はいなかった。
(あの時の…私は怖がっていたのかもしれない……ですね)
自分の髪をいじり続ける紗霧。やがて彼女は意を決したように決めた。
(配布武器が当たりだった場合はゲームに乗る。はずれだった場合は
参加者と手を組み、勝ち目の無い戦いに身を投じる、と決めたんでしたね…)
結果、彼女の配布品は大当たりの対人レーダーだった。
紗霧は自嘲するような笑みを浮かべる。そして、頭を数回振ると、
廃村へと向かった。
すでに彼女の頭には対人レーダーを駆使していかに生き延びるかを
シミュレートしていた。そして、これからいかに参加者を罠にはめ、
いかに陥れるかを考える。ゲームに勝ち残った後、主催者達に取り入り、
いかに内部崩壊させるかも考えている。
すでに鋼たちと共に談笑していた少女の姿はなかった。
彼女は笑っている。どこか酷薄さを感じさせる笑みを浮かべて。
242傷心(13):03/07/13 00:50 ID:gL4IkxXi
昨日の午後11時以降、数多くの罠を突破してあの男はやってきた。
あの男に襲われた時、紗霧は一つ年下の友人の言葉をおぼろげながら
思い出していた。
『奇計・姦計は失敗した時の代償が大きいよ!』
(確か、前にも同じようなこと言ってましたね…)
紗霧はやって見なければわからないような、策を好む。
あえて、罠だけでゲーム勝ち残りを企んだのも、
その嗜好によるところが大きい。
(命が助かったんです。大した代償ではありません)
彼女は策に失敗しても、すぐさま別の策を用意できる頭脳を持っている。
(痛い………!)
夢の中なのに、股が痛む。過去に鋼に言った悪態も思い出してしまう。
『病気になっちゃえ』
(・・・・・・・・・・・・・・・・・)
凌辱されてる自分の叫びとあえぎ声がこだまし始める。
(痛い……)
紗霧は夢の中でうずくまり、『声』から逃げだすように耳を必死に塞ぎ続けた。
243傷心(14):03/07/13 00:53 ID:gL4IkxXi

(二日目 PM2:17 病院)

「・・・・・・・・・。現実ですか…」
紗霧は目を覚ました。いつのまにかうつ伏せで寝ていたようだ。
身体にはシーツがかけられている。
「・・・・・・・・・・・」
紗霧は仰向けに寝転がると、これからの事を考え始める。
(主催者の情報が少なすぎますね。テレパシーでも使える方が残っていれば
良いのですが)
猛烈な眠気がまた襲ってくる。眠気の中、彼女は股の痛みに顔をしかめた。
(………痛いです)
心中で嘆く、紗霧の股の部分は遺作によって裂傷を負っていた。
スカートの中は包帯を巻いている。
(うかつにトイレにもいけませんし、見られないようにしないといけませんね)
と、少し悲しそうに呟く。
(鋼さん……)
(まだ思い出したくない、何故思い出してしまうの…)
紗霧は泣きそうになるのをこらえる。
(私は絶対にみんなの所に帰ってみせます。私の願いを叶えて!)
紗霧はそう決意した後、再び眠りに落ちたのだった。

244傷心(15):03/07/13 00:54 ID:gL4IkxXi

(二日目 PM2:20 病院)

魔窟堂はこの島で出会い、死別していった友人の事を考える。
――――エーリヒ。彼が最初に遭遇し、共に行動した軍人。
憧れの対象だったが、いつしか友情を感じ始めていた。
彼のライターは島から脱出した時に貰う予定だったが、
預かっていた者も死んでいったため、今、彼の手元にあった。
若い命の為に命を賭ける。そう決意したのに、自分はまだ生き残っている。
しかも、首輪解除装置の事を忘れ、グレン・コリンズを見殺しにしてしまった
かもしれない罪悪感も魔窟堂を苦しめていた。
「すまん…グレン殿…」
実際の所は紗霧が竜神社探索を言い出さなかったら、
見つける可能性はあったのだが、もう過ぎてしまった事である。
「そろそろ行かねばならんの……」
魔窟堂は恭也に痛み止めの薬を投薬するため、
恭也のいる病室へ向かったのだった。

          ↓

245傷心(16):03/07/13 00:56 ID:gL4IkxXi
【月夜御名紗霧】
【所持品:バッテリー切れ寸前の対人レーダー、
COLT.45 M1911A1 ccd 残弾2発(拾った)
薬品数種、メス二本、他爆装置の指輪二個
金属バットと文房具とノート(雑貨屋で入手)他の所持品あり】
【現在地:病院内】
【スタンス:反抗者を増やし主催者へぶつける。 モノの確保】
【備考:各地で得た道具を複数所持、疲労により現在、睡眠中】


【魔窟堂野武彦】
【現在地:病院】
【スタンス:運営者殲滅】
【所持品:レーザーガン、軍用オイルライター、白チョーク数本
ヘッドフォンステレオ、マジカルピュアソング】
【備考:病院内には斧、小麦粉、白チョーク一箱有り】
246傷心(14)訂正版:03/07/14 07:29 ID:To+PIJqN

(二日目 PM2:17 病院)

「……現実ですか…」
紗霧は目を覚ました。
いつのまにかうつ伏せで寝てしまった事に気づく。
「・・・・・・・・・・・」
紗霧は仰向けになると、これからの事を考え始める。
(主催者の情報が少なすぎますね。テレパシーでも使える方が残っていれば
良いのですが)
「………っ」
猛烈な眠気がまた襲ってくる。眠気の中で彼女は痛みに顔をしかめる。
(………痛いです)
紗霧の股の部分は、遺作の凌辱によって腫れていた。
(数時間前、病院でバスルームで洗ったのにまだ、痛むんですね…)
紗霧はシーツの中に顔をうずめる。
「……トイレに行きづらいですね…」と、少し悲しそうに呟く。
「鋼さん…」
(何故思い出してしまうんでしょう……私はまだ……)
紗霧は泣きそうになるのをこらえる。
「…私は絶対にみんなの所に帰ります。私の願いをかなえて…」
そう呟くと、紗霧は再び眠りに落ちたのだった。


※このままだと紗霧の歩行が困難だと思ったので、修正させていただきました。
247山崎 渉:03/07/15 09:05 ID:IBZIc0Wm

 __∧_∧_
 |(  ^^ )| <寝るぽ(^^)
 |\⌒⌒⌒\
 \ |⌒⌒⌒~|         山崎渉
   ~ ̄ ̄ ̄ ̄
248女達の決意:03/07/17 01:03 ID:AYK0s90S
(第二日目 PM2:10)

走る。
ひらすら、走る。
少女は、森へ入った時の位置間だけを便りに
西へ西へと森を走りぬける。
いつかきっと街道へと通じる事を信じて。
(私が走らなきゃ、私が行かなきゃ、もう守ってもらうだけは嫌だ。
 私が巻いた種だから……)
体力は、とっくに限界に来ている。
それでも走る。
守りたい人へと、愛した人のために。



どれだけ走っただろうか?
目の前の地形が平坦に映って来る。
それと共に、更なる息苦しさが彼女を襲う。
このまま横たわってしまえば、全ての苦しみから開放されるだろう。
倒れてるうちに、この世からも去れるはずだ。

それでも走る。
(あの人の気持ちに答えたいから……
この意識続く限り、走り続けて行こう)

道には、まだ新しい足跡がある。
複数人のものであることから、パーティーであろう事が伺える。
(時間がない…… もうこれにかけるしか!!)
足跡を辿り、彼女は、病院へと近づいていった。
249女達の決意:03/07/17 01:03 ID:AYK0s90S
(第二日目 PM2:35)

冷たい空気の漂う病院の廊下。
恭也への処置を施し終えた魔窟堂は、見回りがてらに歩いていた。
「もうしばらくすれば、恭也殿も行動できるようになるじゃろう……」
(だが、次に出血した時は、今度こそ危ないじゃろうな……)
今回は、出血の量が少なかったから助かったが
それでも、身体に流れる血液は、大分減ってしまっている。
もし、次に同じような重傷を負えば、まず助からないだろう。
(輸血パックを確保しておくべきじゃったな……)

恭也の事を始め、今後の事を考えなら、廊下を見回る魔窟堂。
「む?」
硝子越しに病院の外を見た時、動くものが目に映った。
「む、むむむ?」
じっくり目を凝らして観察する。
ソレは、段々とであるが、病院へと近づいてくる。
「さん!」
「おお、狭霧殿、おぬしもあれを?」
狭霧は、廊下を駆け抜けて、魔窟堂へと近づいていった。
「慌てましたよ…… 見てくださいこれを」
「ん、なんじゃ…… レーダーにうつっとらん!?」
「主催者側の刺客かもしれませんね……」
「その可能性は、わしも考えた。 だが、刺客にしては、ちと堂々としすぎてないかの?
それにどうも、あれからは、殺気が感じられんのだよ」
「ですが、万が一と言う可能性も……」
そうこう言ってる内に、ソレは、既に病院の入り口を越えて、玄関へと近づいていた。
「見たところ、女の子のようじゃの…… 必死に走ってるようじゃが。 あ、転んだぞ」
「私も刺客の可能性は、ないように思えてきました……」
「と、とにかく、敵ではなさそうじゃし、行ってみようではないか?」
「そ、そうですね、一応用心しながら……」
250女達の決意:03/07/17 01:03 ID:AYK0s90S
「ハァハァ…… やっと辿り付いた」
転んだせいで、膝がすりむけて、泥も身体中についてる。
けれども、彼女の意志は、揺ぎ無いまま先を急ごうとする。
「建物、人がいるはず…… もう少し、もう少し……」
足を挫いたのか、思うように走れない。
それでも這ってでも、玄関へとたどり着く。
少しずつ、意識が段々と遠のいてくる。
「お…… だ…丈夫かの?」
(人影…… もうこれに託すしか……)

「いかん、倒れたぞ!!」
玄関へと駆けつけた魔窟堂は、下に横たわったユリーシャを見るや
直ぐに介抱しようと近づく。
対して、狭霧は、もしもの事を考えて距離をおきながら
観察しながら、警戒の念を緩めずにユリーシャの隣へと寄った。
「しっかりせい!! 大丈夫か!?」
倒れたユリーシャを抱きかかえる魔窟堂。
「………します」
「どうした!? 何者かに襲われたのか!?」
「……ここの直ぐ近く… 東の森… さっきの放送の声の化け物
ランス様…私の為に戦ってくれてる、お願いします……」
「おい、しっかりせんか!?」
「私に出来るのは、これだけだから…… お願いします」
「魔窟堂さん、危ない!?」
「っ!? しもうた!?…………………え?」
ユリーシャの手が何か兵器のようなものを持って、魔窟堂の首に近づいた時
彼らは、絶望に打ちひしがれた。
251女達の決意:03/07/17 01:07 ID:AYK0s90S
が、それも束の間、直ぐに意表を突かれる。

カラン

首輪が魔窟堂の首から外れて、地面へと落下した。
「…………首輪が外れた。 と言う事は、これはグレン殿の!!」
2人が驚きの余り、気が抜けている間にも、ユリーシャは、最後の力を振り絞って狭霧の首輪も解除する。
「あっ、えっ…… 外れたんですよね?」
「う、うむ…… いかん、ここに来るまでに相当無理をしたせいか、気を失ってしまっておる」
魔窟堂は、ユリーシャを抱きかかえ
狭霧の方は、ユリーシャの持っていた解除装置を手に取りながら観察している。
「困りましたね、これ、使い方が解らないんですけれども…… どうもただ押し付ければいいだけのものではないような……
下手に弄って、壊したら大変ですし…… 彼女が起きるのを待つしかありませんね」
「それよりも彼女の言っていた内容の方が……
東の森で彼女の連れが放送の声の化け物と戦ってると言うておったの……」
「……おそらく、主催者側の刺客でしょうね。
首輪が外れているから、この解除装置をもっているから狙われたと見るのが打倒でしょう」
「では、連れは、彼女にこの解除装置を持って逃がしたと考えるべきじゃな……」
「ええ…………」
こくりと相槌を打つ、狭霧。
次の瞬間。
252女達の決意:03/07/17 01:07 ID:AYK0s90S
「何と言う!! 何と言う偉大な人なのじゃ!!」
魔窟堂は、涙を滝のように流しながら猛烈に感動していた。
(また病気が始まった……)
狭霧は、頭の中でぽつりと漏らした。
「あの魔窟堂さん…… グレンさんを殺して奪ったと言う可能性は?」
狭霧の方が、現実を捉えている。
「いや、そんな悪漢ならば、うら若き乙女を逃がすために、みなの事を考えて、解除装置を持たせて、
自分をおとりにして、主催者に立ち向かうなどしないじゃろう!!」
(ダメですね…… 完全に倒錯しきってます)
「こうはしてられん、助けに行かねば!! 狭霧殿、この子を頼んだぞ!!」
「ちょっと、待ってください!! 魔窟堂さんがいない間に
今度は、本当の刺客やゲームに乗った方が来たらどうするんですか!?
彼女は、魔窟堂を必死に現実の世に戻そうと説得を試みる。
「ううむ、そうじゃった…… じゃが、せっかくの同志を見逃すのは……」
かといって、狭霧の方も100%反対ではない。
(この時点で主催者に歯向かうと言う事は、それなりの実力者、もしくは、算段を持った人と言う事。
でなければ、解除装置程度では、動かないでしょうね……
ですが、今、魔窟堂さんに動かれては、言った通りに、襲撃された場合は……
……これは、賭けですね)
「解りました…… ですが、一時間です。 これ以上は、譲れません。
それまでに見つからなければ、絶対に戻ってきてくださいね」
(魔窟堂さんなら、加速装置を使いこなせば、無理ではないでしょう
それでも、一種の賭けですけどね…… 甘くなりましたね、私も……)
「かたじけない!!」
更なる涙を溢れさせながら、魔窟堂は、森へと駆けて行った。
253女達の決意:03/07/17 01:11 ID:AYK0s90S
「さて、まひるさんに頼んでこの子を運んでもらいましょう……
幸い、ただの過労で倒れただけですし、意識が戻ったら、装置の使い方も聞かなければいけません。
それにしても、魔窟堂さんがいない間は、私が頑張らないとダメですね…… はぁ
せっかく、眠りについていたのに…… 過敏すぎるのも良くないですね」
あくびを漏らしながら、背伸びをする。
(ですが、この装置のおかげで、計画の重要課題の内の一つをクリアできました。
後は、これを餌に仲間を増やせれば、言う事はないですね)
ため息を付きながらも、これからの計画について着々と思案していく。
(私が生き残る…… 大分、目の前まで見えてきましたね)



【月夜御名紗霧】
【所持品:バッテリー切れ寸前の対人レーダー、
COLT.45 M1911A1 ccd 残弾2発(拾った)
薬品数種、メス二本、他爆装置の指輪二個  解除装置
金属バットと文房具とノート(雑貨屋で入手)他の所持品あり】
【現在地:病院内】
【スタンス:反抗者を増やし主催者へぶつける。 モノの確保】
【備考:各地で得た道具を複数所持】


【魔窟堂野武彦】
【現在地:病院】
【スタンス:運営者殲滅・ランス救出】
【所持品:レーザーガン、軍用オイルライター、白チョーク数本
ヘッドフォンステレオ、マジカルピュアソング】
【備考:加速装置使用中】
254あぼーん:あぼーん
あぼーん
255あぼーん:あぼーん
あぼーん
256名無しさん@初回限定:03/07/19 01:43 ID:1zz+ovik
このスレ初めて見たけど…。
ここと比べると、7ヶ月で、しかも完結した葉鍵ロワイアルはすごかったんだな。
257あぼーん:あぼーん
あぼーん
258名無しさん@初回限定:03/07/21 06:04 ID:d57I+kTQ
保守
259名無しさん@初回限定:03/07/22 01:32 ID:V8KrBDaN
まだやってんだねえここ、つーか高町恭也が急所を外したから銃で撃たれてもしなないって描写ははあ?なんだがな。
外したってことは急所の近くに当たってんだろ?死ぬっつーの普通に。
260名無しさん@初回限定:03/07/24 23:10 ID:Jxd4Bo89
ほっしゅ
261苦悩、そして・・・(1):03/07/28 01:52 ID:1agSW2aC

(二日目 AM11:53 東の森)

話はユリ―シャが病院で魔窟堂らと初めて遭遇した時より、二時間以上前に遡る。

ランスがグレン・コリンズを殺害した後、ランスとユリ―シャは、
アリスメンディの仇である(とランスはそう考えている)陰陽師(朽木双葉の事)
の捜索を再開した。が、一向に見つけることができないでいた。
時折、悪態をつくランスを尻目に、ユリ―シャはグレン・コリンズの死を
知ってから物思いにふけっていた。
(ようやく…ランスさまと2人きりになれた……)
彼女がグレン・コリンズの死を知った時に心の中で呟いた言葉はこれであった。
ユリ―シャが生前のグレン・コリンズに対して抱いた感情は、
外見と言葉使いに多少の嫌悪感を感じた以外は、どちらかといえば
良い印象を持っていたといえる。
朝に首輪解除装置の使い方を教えてくれた時は何故、自分に?という
疑問はあったが感謝していた。
彼女の前で口にこそしてなかったが、死んでいった参加者の誰かの為に
動いていたと彼女は漠然とだが感づいていたし、自分の事を
気にかけてくれたのも嬉しかった。
だからこそ、ランスが彼を殺害したのは事実には少なからず衝撃を受けたが、
ランスに嫌われたくないという気持ちと、ランスと2人きりになれた
嬉しさが、それらに勝った。
(……なのに…なのに…私は、ランス様のお役に…)
ユリ―シャは表にこそその様子を出さなかったが、焦っていた。
ランスがかつての同行者(秋穂とアリス)殺害の犯人がユリ―シャと
気づいたわけでもなければ、ユリ―シャに対する態度が変わったわけでもない。
ただ、さっきまでと同じようにアリス殺害の犯人探しに躍起になっているだけだ。
262苦悩、そして・・・(2):03/07/28 01:56 ID:1agSW2aC

(私は自分からランス様に……話し掛けることさえ、満足にできない……)
ランスが今の行動を止める気配はない。
(前はもう少し…楽に…話しかけることが…)
ユリ―シャは更に焦った。
(私達はずっとこのまま…ただ森の中を……)
本当の事を言えば森での捜索は止めるだろう。だが、それは決して
言えない事だった。言えば破局が待っているだろう。
しかし、そのまま森の中をさ迷い続ける事は、非常に危険だとユリーシャは
感づき始めていた。
今のユリ―シャには、ランスを独占したいという衝動とは別に、
直感的に未来を予測する部分があった。それは彼女にとって認めたくない
未来をふたつ予測していた。
一つ目は、そのまま陰陽師を探し続けると、ランスに破滅が
待っているという予感。
二つ目は、もうどうやっても自分がランスを独占する事も、
故郷のカルネアに帰る事もできないという予感だった。
「・・・・・・・・・・・・」
ユリ―シャは身震いした。邪魔者は全て排除したはず。
そうする事にためらいは無かったし、ほとんど罪悪感も無かったはずだ。
ランス1人がいれば、他の参加者…主に女性の力を借りずとも
この窮地から自分を救ってくれる。ユリ―シャには、ランスにそれができる
力強さを感じていたし、信じていた。だが、グレン・コリンズが…いや、
秋穂、アリスと始末していくにつれその力強さも完全ではないように思えてきた。
ユリーシャはこれまで、わずかな独占欲に浸りながらなるべくその事を
考えないようにしてきた。しかし自分の想いが、欲求が満たされないと
自覚し始めると同時に彼女にもしばらくマヒしていた感情も
蘇りつつあった。死への恐怖を…。そんな彼女の脳裏に突如、神の声が響いた。
263苦悩、そして・・・(3):03/07/28 01:58 ID:1agSW2aC

(二日目 PM12:01 東の森)

「あいつの声は…ケイブリスだとぉ……」
神の声の後の定時放送。放送した声の主はランスが過去に倒した筈の強敵…
ケイブリスであった。
怒りに声を震わせ続けるランス。ユリ―シャはただ脅えていた。
ランスの怒りの咆哮に。神の声に。ケイブリスの声に。
(どうしよう……)
神の声の直前に、知らず知らずの内に抱えていた不安と自分の無力感を
ユリ―シャは自覚し始めていた。
ランスの方も、同行していたアリス達を含め、ゲーム開始に助けると
意気込んでいた女性の参加者が自分の預かり知らぬところで次々と
殺害されている現実と、自分が住んでいた世界の神にいいように
踊らされていた事実を嫌でも認識せざるを得なくなり、その事に憤りを覚えた。
2人ともしばし時間の感覚を忘れるくらいに動揺していた。
「フェリスを呼んじまったのは……まずかったか…」
明らかな焦りの色をにじませながらランスは昨日の昼に召喚した
女悪魔の事を思いだした。情報を収集したら帰って来いとランスは命じたが、
ランスの住む世界の悪魔と神は対立している。フェリスがランス達の前に
姿を現さないのは、既に始末されている可能性があった。そうでなくても、
再び呼び寄せた時、確実に始末されるのは目に見えている。
ランスにはフェリスの安否を確かめる事さえできなかった。
「くそくそくそくそくそくそーーーっ!!」
ランスは再び怒りの声ををあげた。
264苦悩、そして・・・(4):03/07/28 02:12 ID:yAGrU4XP
(二日目 AM0:38 東の森)

取り乱しているランスの様子を見て、ユリーシャの不安は強くなっていく。
その不安はユリーシャに神の声の意味を考えさせる事になっていた。
(あの声は…願いを一つかなえると言ってました…)(ランス様と一緒に主催者を
倒せば、願いが…) (でもわたしの願いは、私の故郷で…ランス様と一緒に
幸せに暮らすこと…) ユリーシャは空を見上げる。視線の先にはカラスが一羽、
飛んでいる。 自由に空を飛んでいる鳥を見たユリーシャはランスの事を考える。
(ランス様は自由な人…私の住んでいるお城に住むのは似合わない気がします)
彼女は昨日に自分を洞窟にかくまった際、自分に言った言葉を思い出す。
『他のいい女を、助けにいく。俺様の愛は、世界中のいい女全てに平等に
注がれるのだ』 (それに、あの言葉に嘘は…ないかもしれません…
あの時のランス様の目は…)
昨日、自分を洞窟にかくまった時のランスの真っ直ぐな瞳を彼女は思い出す。
『…馬鹿なことを…したね…。あの男は…一人の女で満足する様な 男じゃ…
ないってのに…』そして、昨日、自分が殺害した秋穂の言葉をも。
(今の私じゃ…私だけをランス様に見てもらうことができない…。
だけど、私がランス様に見てもらうその時まで…ランス様に近づく女の人を
殺し続ければ……大丈夫です。参加者の中にまだ女の人が残ってます。女の人と
ランス様を会わせるわけにはいきません)
興奮で頭に血が上っていくのを 彼女は感じた。同時に死への恐怖を振り払い
ながら、彼女は結論を出そうとする。
(わたしは…わたしは、ランス様と一緒に……)
ユリーシャが口にした言葉、それは彼女にとって思ってもみない一言だった。
「…帰るために……1人で望みをかなえます……」
自分の口から出た言葉に、彼女は軽い戦慄を覚える。
(1人って…ランス様と一緒じゃ…ないの…?わたし…わたし、ランス様を、
ランス様を……そんな…そんなっ…)
彼女の顔から血の気が引く。心中で呟いた言葉の最後の 単語―― 『殺そうと
考えている』という考えを彼女は受け入れたくなかった。
彼女は自分の考えに恐怖した。
265苦悩、そして・・・(5):03/07/28 02:18 ID:yAGrU4XP

(二日目 PM1:13 東の森)

ユリーシャは恐怖に震える心を押さえ、デイバックにしまいこんだ、弩弓に
触れながらランスを見つめている。
「・・・・・」
アリスと秋穂を殺害した時は、対象は無抵抗だった。しかし、残った参加者は……
「・・・・・・・」
あの2人を殺害したように今度もうまくしとめる自信は、 今のユリーシャには
なかった。 無力感の中でユリーシャは思い出す。
ランスと始めて会話した時の事を。
「・・・・・・・っ」
彼女はそれを忘れるように、目を瞑って頭を振る。
(グレンさんは亡くなられた参加者の誰かの為に。ランス様はアリスさんの仇を
取られるために力を注いでます。勇気さえあれば、私の望みをかなえることが
できるはずです。これからすることに間違いはないはずです…)
彼女は再び弩弓に触れる。
(首輪解除装置を利用すれば、私でも……)
あの時、解除装置は起爆装置も兼ねていると、グレン・コリンズは言っていた。
もっとも、それは彼のブラフに過ぎなかったのだが。
自分がランスを殺すかもしれないという恐怖を振り払うかのように、
これからいかにして女性の参加者殺害を実行するかを考える。
(失敗はできません。もし失敗したら……)
彼女の心に死の恐怖が、自分がやったことがランスにばれて、拒絶されると
いう恐怖が覆い尽くす。ユリーシャの身体が小刻みに震え始める。
(私は間違っていない…これもみんな私の為、ランス様の為にやった事…)
(なのに胸が苦しい……怖い…寂しい…苦しい……)
(夢の中まで、苦しいのは嫌です……)
266苦悩、そして・・・(6):03/07/28 02:21 ID:yAGrU4XP

そして、ユリーシャは信じたくなかった事があった。
ランスが死んだアリスの為に動いている事実を。
自分1人だけを見てくれない事実を。
彼の住んでいる世界にも多くの女性と 関係を持っているであろうことを。
彼女がそれを認めることは2人を殺害したことには 何の意味もないどころか、
ランスの足を引っ張っているだけだったということを認めてしまうからだ。
(わたし……ランス様のお役に立てるどころか……ずっと…足手まとい…)
ランスの役に立とうとするより、同行者の排除に力を注いでいたの
ではないかという自分に対する疑念を抱き。 そして、秋穂の遺言を思い出す。
『…そんな…独りよがりな想いじゃ…いつか疎まれて…捨てられる…。
あんただっ て…気が付いて…ないわけじゃ…』
(足手まといどころか、わたしは……)
(…どうすれば…どうすれば…良いのですか…?)
ユリーシャは祈るように手を組み、しばし悩み続けた。
267苦悩、そして・・・(7):03/07/28 02:27 ID:8CY1/843

(二日目 PM1:22 東の森)

ユリーシャが悩み始めて9分後、彼女は何者かの気配を感じ、後ろを振り返った。
「誰…ですか…?」
そこにいたのは見覚えのない少女。亜麻色の長髪をした、どこか希薄な印象を
持つ少女だった。
(女のひとだ……) なりを潜めていた、女性参加者への殺意が
湧き上がっていくのを感じる。 彼女はその衝動に逆らわずに攻撃する事にした。
「ランスさまに…会わせない…!」
疲れ切った表情で、しかし瞳は狂気で彩られながら、ユリーシャは弓を
取り出し、何のためらいもなく少女に向けて矢を放った。
「・・・・・・・・」
矢は少女に命中し、胸から血を流して倒れる筈だった。
しかし、矢は少女の身体をすり抜けたように、後ろの木に刺さっていた。
「?……え…」 ユリーシャはほとんど無意識の行動でもう一発、矢を射る。
矢は飛ばず、地面に落ちた。少女はその事が分かっていたようにユリーシャの
正面へと歩み寄る。
「・・・・・・・・っ!」
恐怖で声にならない叫びをあげ、ユリーシャは矢を持ち、少女の喉に
突き立てようとする。が、少女と目が合う。虚無。それは少女の黒い瞳から
感じられる何か。それを感じ取ってしまいユリーシャは恐怖で凍りつく。
身動きが取れないユリーシャに近づくと、何もしないまま、彼女の身体を
ぬるい風のように通り抜け、何もなかったかのように歩き去っていく。
「うう…うううう……あああああぁぁぁぁ……」
殺意と独占欲で占められた心は、恐怖と無力感を含めた混沌とした
感情へと置き換えられていく。ユリーシャは両膝を落とし、両手を地面につき、
そして嘔吐した。
268苦悩、そして・・・(8):03/07/28 02:31 ID:8CY1/843
「ユリーシャ?」
ユリーシャの様子が気になったランスは、ユリーシャがいる方角へ顔を向ける。
そこには、ユリーシャと遭遇した少女―――主催側のメンバーの1人で、
監察官・御陵透子が立っていた。
「むっ?お前は誰だ?」
といかぶしげな目で彼女を見て、数瞬後には観察するような目で透子を見回す。
ランスの眼鏡にかなった様で、いつも通りの評論を言おうとする。
「よしっ……お前は…」
ランスの次のセリフを遮るように、透子が言葉を発した。
「私は御陵透子。No,2 ランス あなたに警告です」
(主催者…?)
少し落ち着いてきたユリーシャは透子とランスのやりとりを聞いて、
透子が主催者側であることに気づく。
「警告?がははははははは。心配などいらん!俺様の……」
「あなたの持っている解除装置をただちに破壊してください」
(え?それは……)
「……これの事か?」
ランスは自らが持つデイバックに目を向ける。
「…ランス…様」
ユリーシャはかすれた声で呼びかけるが、向こうに届く声量ではなかった。
(この人は…この人は…)
必死にランスの元に歩こうとするが、身体がうまく動かない。
ただ、2人の会話を聞くしかなかった。
「それはできん。いい女の頼みだからな」
(え?)
グレン・コリンズの遺言で、首輪解除装置で参加者を救おうとした
女性の存在を知るランスはそう言い、その事を知らなかったユリ―シャは戸惑う。
「残りの参加者全員の首輪を…気が進まんが野郎のも含めて外せって、グレンを
通じて頼まれたからな」
269苦悩、そして・・・(9):03/07/28 02:37 ID:8CY1/843

(グレンさんの?それを何故、ランス様が?)
「・・・・・・・・・・・」
透子はしばし黙ると、こう返事した。
「出会ったこともない…ましてや死んでいった人の…また人づての頼みをですか?」
「・・・・・・・・・・」
(何故だろう…わたしは何を期待しているの?)
ユリーシャは待っていた、自分でも何故知りたいかは分からないが、
ランスの返答を。
「当然だ。あの忌々しい野郎(ザドゥ)の首輪を外してくれたからな。
いい女に決まっている。死んでいったいい女も俺様の女だ」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
透子とユリーシャは何も喋らなかった。透子はいつもどおり、ただ無表情で。
それに対しユリーシャの右目から一筋の涙がこぼれた。
(やっぱり…ランス様は……)
秋穂が言っていた1人の女性で満足するような男ではないという指摘。
それが真実であることはユリーシャには分かっていた。ただ、ランスの虜に
なっている自分には認めたくなかった。事実から目をそむけるために
邪魔者を排除する。それは勇気と思っていた。しかし、ランスを独占したいが
ためにユリーシャのやったことは、死んだ女性も自分なりに愛するランス相手では
何の意味もなかった。結果的に自分が勇気と思っていたモノは勇気ではなく、
ただ逃げていたいだけの行動の口実だとユリーシャは自覚した。
(……私は…本当に…本当に…足手まといだった……)
もう涙は流れていない、代わりに乾いた笑いが漏れそうになる。
ユリーシャはそれをこらえると、再び2人の会話に耳を向けた。
270苦悩、そして・・・(10):03/07/28 02:56 ID:8CY1/843
透子は警告を続けた。
「解除装置を破壊しなければ…」
「お前はあの野郎の部下のようだが。あの野郎の所より、俺様のところに来い。
あの野郎をぶっ殺した後に幸せにするから、俺様の女になれ!」
「…間もなく、あなた達は死ぬことになります」
その言葉を最後に透子はゆらりと煙のように消え去った。
沈黙。そして、ランスが悔しそうに声を張り上げる。
「かーーーーーーーっ!なんで俺様の所に来ないのだー!名前は御陵透子か……
まあいい…まだチャンスはある!」とランスは声をあげると、
次はユリーシャのいるほうに目を向ける。
「ん?ユリーシャどうした?」突然、声をかけられて驚きの声をあげる。
「ランスさま…わ、私は……」
「脅えているのか?心配するな、俺様が必ず守ってやる。がはははははっ」
罪悪感と無力感に悩まされ始めたユリーシャにとってその声は、
もっとも聞きたかった声だった。
(ランス様の声……私はその声が一番好きなのに……。死んでしまったら、
その声が聞けなくなるのに私は……私は…)
ランスの手が自分の髪に触れる。その感触にかすかな幸福を感じながら
ユリーシャは自責した。それに耐えながらランスの事を考える。
(もう今更、私にできることはないのかも知れない……それでも私が
ランス様のお役に、今度こそ本当にお役に立たなければ……)
ランスはうつむいたままのユリーシャを見て何故か気まずそうに手帳をしまう。
そして頭をかき始めた。
今、ユリーシャは自分を犠牲にしてでもランスの手助けになろうと 考え始めていた。
今でも、ランスを独占したいという気持ちはなくなった 訳ではない、
もしかしたら殺意も残っているのかもしれない。 でも、今はその感情に決して
負けたくなかった。ランスに恩を返す為。 仲間を殺してしまった償いをする為に。

そんな彼等がケイブリスと遭遇したのは、その数分後のことであった
271苦悩、そして・・・(11):03/07/28 03:05 ID:8CY1/843

(二日目 PM2:47 病院内)

刺客として襲ってきたケイブリスと戦うランスを助けるために、ユリーシャは
解除装置を手に、1人で東の森をさ迷う。森で見つけた無数の足跡を頼りに、
病院に辿り着いたユリーシャは、他の参加者2人と遭遇。疲れ切った身体に
鞭打って、ランスの助命を頼み、二人の首輪を解除するとそのまま意識を失った。
その十数分後、彼女は病院に運ばれていた。

(ここ…は?)
わずかに意識を取り戻したユリーシャは、自分が誰かに運ばれている途中で
ある事に気づく。自分を運んでくれているのは赤毛の小柄な人のように見えた。
(赤毛の…人……アリスさ…ん?)
視界がぼやけてよく分からないが、彼女にはそう見えた。
脅えと罪悪感と悲しみがユリーシャの心を締め付けはじめる。
(わ、たし…ごめんなさ……)
(・・・・・・・・)
(白いはね?アリス…さんじゃない)
自分を運んでいる人物は、背に一対の羽を生やしていることにユリーシャは
気づいた。 
(髪が短い…男の子?それとも天使さん?私…死んでしまったの?)
困惑している彼女にまた睡魔が襲い始める。
(もし…わたしがそのまま命を落としてしまったら、天使さん、代わりに
ランス様を助けてください)
心中でそう嘆願したユリーシャの意識は再び眠りに落ちていったのだった。

               ↓

272残酷なルール(1):03/07/28 03:12 ID:8CY1/843

(二日目 PM1:45 本拠地・管制室)

ザドゥとの通信を終えて数分後。椎名智機は本拠地のマザーコンピュータと接続し、
フル稼働させていた。
ゲーム開始前の参加者及び主催者のデーター。ゲーム開始以後の島での
戦闘データーなどを再チェックするためである。もっともそれだけが
理由ではないのだが。智機はロボットである。
大規模なコンピューターと接続している今の彼女の思考は並みの生物の
範疇を超えている。が、心を持っている。彼女は大会の障害となるものの
対応を思索する。
(当然、解除装置だな。解除装置はランス(No,2)とユリーシャ(No,1)が
所持している。あの怪物(ケイブリス)がしくじなければ、他の参加者どもの
首輪をすぐに解除される事は無い。しくじって無ければな…)
解除装置を回収できなかった同じ運営者であるカモミールと素敵医師の事を
思い出 し、智機の瞳にわずかに怒りの色が浮かぶ。
(これ以上の首輪の解除は断固阻止と言いたい所だが、解除装置に関しては少し
様子を見よう)
智機の首筋から蒸気が吹き出す。そして、管制室のモニターに高町恭也(No,8)と、
魔窟堂野武彦(No,12)と、月夜御名紗霧(No,36)と、広場まひる(No,38)ら
4人の男女の顔が映し出される。
(今、病院にいる連中は見過ごせないな。紗霧は対人レーダーの所持を魔窟堂ら
に明かした。明らかに我々への反抗も選択肢に入れての行動だ)
現に魔窟堂らが恭也達とはぐれた際、紗霧は対人レーダーを使って2人を
探そうとはしなかった。アイン(No,23)と遭遇した事も話してない所を見て、
紗霧は優勝を狙っていたと智機は判断していた。
(レーダーと盗聴器、あの2人が所持していた事は、我々にとって幸運だったがな)
紗霧への配布品、対人レーダー。今は亡き海原琢磨呂(No,13)が
貴神雷蔵(No,10)から殺して奪い取った首輪盗聴器。
この2つは配布品の中で大当たりといえるアイテムだった。
273残酷なルール(2):03/07/28 03:15 ID:8CY1/843

ただし、便利すぎるアイテムだけに欠点をあえて用意した。二つともある一定の
使用回数以上使い続けると、バッテリー切れを起こして使えないようにしている。
それは主催者への反抗者の増加、所持者の1人勝ちを容易にさせない為の
措置であった。
紗霧と琢磨呂は最初からゲームに乗り気であった為、これまであまり注意を
向けていなかった。
(魔窟堂野武彦と広場まひる。奴らのいるグループがレーダーを使用する。
我々にとって非常に危険なことだ)
智機は忌々しげに唇を歪める、その隙間から歯が見えた。
(奴らは確実に加速装置とレーダーを駆使し、残りの参加者を仲間にするよう
行動を起こす)智機はまひるのデーターを検索する。
(広場まひる。盗聴記録から察するに、神の声以後の奴には変化がある。
今、彼等のグループには2人以上の超常能力者がいると考えて間違いは
ないだろうな。他の参加者が単独で今の彼等と交戦すれば駆逐される可能性がある)
智機は眼鏡を押し上げた。
274残酷なルール(3):03/07/28 03:16 ID:8CY1/843

(交戦するならまだ良い。決してあってはならないことは現在、東の森にいる
朽木双葉(No,16)と、観月しおり(No,28)が彼等と手を組む展開だ)
(そうなった場合、ゲームそのものが崩壊する)
「それだけは…あってはならないことだ」
(彼等を朽木双葉のいる位置に向かわせる訳にはいかない)
管制室に機械の無機質な処理音が響き続ける。
(ゲームを無事終了させるには、私が動くしかあるまい)
ゲームの舞台であるこの島には、智機のレプリカ体が各地に配置されている。
主に参加者の動向の監視が目的であるが、反抗者の対処も兼ねている。
現に2日目にアズライト(No,14)がしおりを凶に変化させ、同行者の伊頭鬼作
(No,5)の思惑通り、主催者打倒にスタンスを変更する兆しが見え始めてから、
レプリカ体のほとんどを本拠地に移し、校舎で迎え撃つ準備をしていたのだ。
(病院には6体のスペアボディを待機させてある。後はどのタイミングで
起動させるかだ)
ゲーム開始前から、反抗者が病院を拠点にするであろうことは、
既に予測してある。こういう事態を見越して、早い段階で病院にレプリカを
ずっと潜伏させてあった。
智機は嘆息したようにうつむくとこのゲームの運営について考える。
(このゲームの運営。最初から私だけに任せておけばこんな面倒な事態に
ならなかったものを)
(我々の目的は無事ゲームを終了させた上で、願いをかなえること。
その上でスポンサーを楽しませる事も重要だ。フン…だからこそ他の運営者を
招いたのだろうがな)
275残酷なルール(4):03/07/28 03:20 ID:8CY1/843

椎名智機は最初にゲームの運営者としてスカウトされたスタッフである。
一ヶ月位前に、彼女が決してかなわぬ望みに思いを馳せている時、神と出会った。
その神は絶対的な力を見せ付けた上で、願いを成就させるのを報酬に
殺人ゲームの下準備とその運営を智機に依頼した。
智機は殺人ゲームに対して、ザドゥやカモミールのような憤りを感じてはいない。
遥か昔から今にいたるまで、命のやりとりを娯楽とする事や、不条理な
出来事に巻き込まれる弱者が犠牲になるのは当然の出来事と認識している。
ゲーム運営に疑問があるとすれば何故、絶対的な存在が自分を必要と
しているかくらいだった。その疑問は外部の者だけでの運営を楽しみたいと
いう返答で解けた。智機としても絶好の機会だったし、断って自分に害が
及んではたまったものではない。二つ返事で依頼を受け、この島に召喚された。
神は下準備が終了次第、主催者となる人材と、その部下を呼び寄せると
告げて去っていった。それ以後、智機は様々な制約つきではあるが、
秘密基地の建造、レプリカ体の量産、支給アイテムの選別、一部の参加予定者の
調査などの労働に従事した。
276残酷なルール(5):03/07/28 03:22 ID:8CY1/843

秘密基地の建造が終了するや、御陵透子という存在がこの島に現れ、
その2日後にはザドゥ・カモミール・素敵医師とスタッフが集まってきたのだった。それは、今から
数日前の出来事である。
(要はスポンサーを楽しませた上で、ゲームを続行できれば良い。
反乱分子の要、魔窟堂さえ始末すれば、残りの参加者をまとめられるような
人材はもういない)
「・・・・・・・・・・・・・・・」
智機は一瞬、思考を止める。そして、振り向かずに言った。
「また心を読んでいるのか。相変わらず趣味が悪いな御陵透子」
智機の背後には、いつのまにか御陵透子が立っていた。
智機は更に文句を言おうとしたが、どうしても聞きたい事があるのを思い出し、
声には出さず心中で透子に語りかける。
(御陵……私はゲームの管理者の一員として、監察官である貴方に聞きたい事が
ある)
「……」
(肯定と受け取ろう。このゲームについて貴方だけが知っている事を
必要なだけ、全て教えていただきたい)
「…何故ですか……?」
(スポンサーが新たな管理者を投入し、残りの参加者に対しても我々の殲滅を
果たせれば生き残れるという選択肢を明示した。参加者に与えるという
『何か』も問題だ)
「………」
(これ以上、何かが起こらないとも限らない。質問に答えてもらうぞ)
しばしの沈黙。透子はただ無表情に立っている。智機は透子に背を向けてままだ。
だが、智機は透子から得体の知れないプレッシャーを感じていた。
殺気を放ってる訳でも、不快な気持ちを現しているわけでもない。
ただ突っ立っているだけ。なのに、智機は少なからず息苦しさを感じていた。
「…解りました……その代わり、後で私の質問に答えてくれますか?」
277残酷なルール(6):03/07/28 03:26 ID:8CY1/843

智機は首についたコネクタを抜くと、透子の方へと向いた。
「質問か……まあいいだろう…」
その質問は自分の願いに関する事だろうと智機は見当をつけていた。
答えたくない質問だが、願いをかなえる為だやむを得まいと智機は自分に
言い聞かせた。
「まずは昨日の午後2時40分頃に、ランスが召喚したフェリスという女悪魔。
紫堂神楽(No,22)を依り代としていた「天津神」族の「大宮能売神」。
松倉藍(No,19)と同化していた「イズ=ホゥトリャ」。
この3名の行方と生死について教えていただきたい」
この質問をしたのは当然ながら理由がある。参加者が外部の者を召喚できるとは
予想外だったし、依り代を失った天津神がどうなるかも予測できなかった。
特に「イズ=ホゥトリャ」に関しては、盗聴記録から自力でこの島から脱出した
節がある。3名のうち誰かがこの島に残っているのなら、対策を講じなければ
ならないし、外界へ脱出をしたのなら、脱出者を通じて、外部の者からの
妨害が来るのが予想される。運営者の知らない脱出方法があるのなら尚更のこと。
神の声を聞くまではさほど重要な事とは考えなかったが、状況が状況だけに
無視はできなくなっていた。この質問に対して、透子は即答した。
「フェリスはこの世界から脱出した後、現在に至るまで出現してません。
他の2名はこの世界からの脱出を試みましたが、断末魔と共に消滅しました」
「消滅?……フン、なるほどな…。外部の者にゲームの邪魔をされたくはないと
いう訳か」
智機は下準備をしていた頃に、神楽を含めた神人数人分の資料を
渡されていたのを思い出す。その頃からスポンサーは対策を練っていたのだろう。
フェリスの生死が不明なのが少し気になるが、他の二名の対応を考えると、
邪魔はさせないだろうと智機はそう判断した。
278残酷なルール(7):03/07/28 03:29 ID:8CY1/843

「次は同じく昨日の午後1時から2時10分の間。病院に素敵医師が潜伏した際、
参加者に対する干渉以外で何か動きはなかったか?」
「・・・・・・・・。彼があの時間帯に輸血パックと増血剤を持ち去ったことは
あなたもご存知でしょう?私が当時の彼の行動で知っているのはここまでです」
「そうか……」
病院内での盗聴記録から、それらが紛失していたのは智機も知っていた。
人間だけではなく、デーモンや宇宙人用の輸血パック(に当たるもの)も、
ある場所に行けばある。当然、人間用の輸血パックなどには、それぞれの
血液型のが用意されていた。決して多くの量が用意されているわけではなかったが。
「少し気になってな…」
「…………」
「奴が、輸血パックを持ち去っただけなら、問題は無いのだがな…」
「・・・・・・」
「奴が…面倒な事をしていなければ良いがな…」
智機の眼鏡が光った。

279残酷なルール(8):03/07/28 03:35 ID:8CY1/843

(二日目 PM1:51 本拠地・管制室)

「仁村知佳(No,40)の現在位置は把握できるか」
「できません…ランスとユリーシャに関しても同様です」
智機はその返答に違和感を感じた。
「どういうことだ…貴方の能力は…」
「ここから先は私の質問になります。あなたの質問はもういいですか?」
「・・・・・・・・・・」
他にする質問といえば、昨夜の朽木双葉くらいのものだったが、必要な情報とは
言えない。ならば、次は自分が答える番だろう。
「ああ…。貴方の質問とは何だ?」
「昨日の夜9時からでしょうか…見えなくなってきたんですよ…記憶、気持ち、
感情、思考が……」
「何を言っている?」
「ほんの少し遠くにいけば、その遠くにある記憶の形がもう見えないんですよ…」
「み、御陵…」
「もう、あのひとの形を見る事はできないんですよ……」
「……つまり、能力が衰え始めているというのか…」
「どうしてなんでしょう…智機さん…」
透子は相変わらず無表情だが、どこか悲しげな空気を漂わせている。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
智機は考え始める。透子の異変と、現在の状況、神の性格を。
少し経ってから智機は答えた。
280残酷なルール(9):03/07/28 03:37 ID:8CY1/843

「これは私の推測にすぎんがな。御陵、貴方はスポンサーからクギを押されている」
「クギですか…」
「我々の目的は、スポンサーを楽しませた上でゲームの運営を成功させること」
「・・・・・・・・・・・」
「スポンサーはゲーム観戦を楽しめればそれでいい。今、我々の中で戦闘を
行おうとしないのは御陵、貴方1人だけだ」
「・・・・・・・・」
「我々はこのゲームを甘く見ていたのだろうな。ただ運営を成功させるなら、
もっと多くの人材を使えばいい。いるのに使わないのは、ゲームの運営
そのものはスポサーにとって余り重要ではないという事だ。スポンサーは
明らかに我々と参加者の戦いをも楽しんでいる」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「私はこれから病院を襲撃する。ケイブリスが解除装置の破壊に失敗すれば、
私が見つけて破壊する。首輪を解除された参加者には再装着を強要する。
私の願いを叶える為にな」
「・・・・・・・・・」
「少なくとも病院にいるグループの首輪が全て解除された場合でも、貴方の
監察官としての仕事は事実上無くなる。我々はもう引き返せない。
御陵、貴方も同じ事だ」
「……私にも…戦えと…」
「そういうことだろう。このまま行けば、参加者に殺害されるか、
スポンサーに消されるかのどちらかにしか道はないだろう」
「・・・・・・・・」
そして、2人は押し黙る。
智機は再び首にコネクタを接続し、処理を続ける。
その3分後、透子は口を開く。
「私は当面、監察官としての仕事を続けます」と、呟くと姿を消した。
(スポンサーの機嫌を損ねれば、我々の想像もつかない苦しみを
味わせられかねんぞ御陵……)智機は心中でこう呟いた
281残酷なルール(9):03/07/28 03:40 ID:8CY1/843

(二日目 PM2:37 本拠地・管制室)

島全体が写しだされているモニター。病院がある位置に集まっている4つの
光点の内、2つが消滅した。
「・・・・・・・・・!」目を見開く智機。
「ケイブリスめ、しくじったか!」
盗聴記録から、解除装置を持っているのはユリーシャだと分かる。
智機はすぐさま、マザーコンピューターにアクセスし、病院に配置してある
レプリカ達と本拠地から少し離れた場所に配置してあったレプリカ達の起動を
開始する。それぞれの場所で、レプリカ達が動き始める。本拠地付近に
配置されているレプリカ達には、それぞれマシンガンやバズーカを持っている。
「今が使い時だな……」
そう呟いた智機の背後には、紅いコートを着た智機が3体いた。
他のレプリカと異なるのは、紅いコートと、その下に鎧のようなものを
纏っているところだ。3体の紅い智機は管制室を出て行った。
―――ゲームの運営を任された彼等には、それぞれ報酬の前払いがされている。
リーダーである、ザドゥには奥義・死光掌を。
カモミールには、銘刀・虎徹を。
ケイブリスには、自らの蘇生を。
透子は拒否したが、半ば強引に何かを与えられたようだ。
素敵医師は、自らの能力を活かすモノを貰っているが、現時点では
何かはわかっていない。
そして、智機に与えられた物は、強化パーツ。
最大5体分までの使用が可能で、集めたデーターを活かす事により、
カタマイズが可能なシロモノだった。
「本当は4体向かわせたかったが、何が起こるか解らないからな…」
そう言った智機の側には黒いコートを着た智機が立っている。
「さあ始めるぞ……」
智機は病院内にいるレプリカに攻撃命令を出した。

                 ↓
282残酷なルール(10):03/07/28 03:44 ID:8CY1/843

   【主催者:椎名智機】
   【所持武器:レプリカ智機×数十体
    (内、6体は病院内に潜伏)
    (本拠地近くにレプリカ智機38体と、
    強化型レプリカ智機3体が校舎に移動開始)
    内蔵型スタン・ナックル
    軽・重火器多数倉庫内に所持】
   【現在位置:本拠地・管制室】
   【スタンス:解除装置の破壊
         参加者に対する首輪の再装着
         一部の参加者の抹殺】
   【備考:それぞれのスペアボディは特異能力者抹殺
       に動く】


   【主催者・監察官:御陵透子】
   【現在位置:病院付近】
   【スタンス:ルール違反者に対する警告
         偵察。戦闘には参加しない】
   【能力制限:遠距離での意志感知が困難に
          遠距離で読心、使用不可能
          (原因は不明)】
   
283名無しさん@初回限定:03/07/30 00:49 ID:YZWu24kl
保守
284あぼーん:あぼーん
あぼーん
285山崎 渉:03/08/02 00:30 ID:xxCMtoam
(^^)
286名無しさん@初回限定:03/08/04 06:06 ID:QZf1jUvv
ほしゅ
287臨戦(1):03/08/05 02:12 ID:/RFg61wz

(二日目 PM2:40 病院)

「おっ?紗霧さん、この子は?」
ランス救援の為に病院の玄関に駆けつけ、その為に疲労で倒れたユリーシャを、
病室に運ばせる為に月夜御名紗霧が広場まひるを探そうと考えた矢先、
当のまひるが既に玄関に駆けつけていた。
「まひるさん、丁度良い所に来てくれました。この子は、主催者とは
敵対する側の人です。ここに来るまでの疲労で気を失ってます。
病室に運んでくれますね?」
「もちろん!」
笑顔でまひるは答えると、ユリーシャを持ち上げて、軽い足取りで歩きはじめる。
「・・・・・・・・」
そんな彼の姿を見て、紗霧は腑に落ちない顔で思索した。
(まひるさんの怪力と、あの落ち着きよう。初めて出会った頃と比べて
随分様子が違いますね)
竜神社探索の時は、背中に一枚の羽根を生やしている以外は多少勘が良い位で、
取り立てて高い能力を持っている様には紗霧には見えなかった。
(あの…神の声の影響でしょうか?それだと彼女の様子が変わり始めたのと
時間が一致しますしね)
「紗霧さーん、病室どこにするー?」
「何処にするかを決めずに、歩き出したのですか貴女は。私が先に病室に
入りますから、其処に運んでください」
「うん、わかった」
(やはり、私の気のせいでしょうか?しかし良いタイミングでここに
来ましたしね、一度まひるさんの能力について、聞いた方が良いですね)
ちなみに紗霧はまひるが(どちらかといえば)男性である事を知らない。
今、この島でその事を知っているのは主催者側の連中くらいである。
そして、3人は恭也のいる病室から大分離れた部屋に入ったのだった。

288臨戦(2):03/08/05 02:26 ID:/RFg61wz

(二日目 PM2:44 病院)

まひるはユリーシャをベッドに寝かせて、シーツを掛けてやった。
「やっぱ、水を汲んできたほうがいいかな?」
「そうですね、バスルームに洗面器が何個かありましたからそれを」
「そうする。っとその前に」
まひるは肩に掛けてあったデイバックを開けると、衣服を取り出し始めた。
「?」
怪訝な顔をした紗霧を見て、まひるは上着を脱ぎながらこう言った。
「いやー、あたしの上着汚れちゃったから、着替えようと思ってさ。
それにこの子にも新しい服着せたほうがいいと思うんだけど?」
「そうですね。この子のドレスも泥だらけですし。ところでまひるさん、
これらの衣服何処で見つけたんですか?」
「病院のベッドの下に置いてあったよ」
(どれも、新品のようですね。この子には少し大きいでしょうが、
我慢してもらいましょう)
「まひるさん。洗面器で水を汲んできてここに持ってきてください」
「うん、いいけど。紗霧さんは着替えないの?」
「え……私は別に…いいです」
「そっか。ねーできれば、この子の服脱がすの紗霧さんがやってくれないかな?
あたし脱がし方、わからないし」
「別に構いませんよ」
「さんきゅ。じゃあ、行って来る」
実際のところ、まひるは彼女の服を脱がすのには抵抗があったし、ドレスの
着付けができないのも事実である。安心したように彼は部屋を出て行った。
「他人のドレスの着付けは初めてですけどね」
結構な金持ちの彼女は自分の着付けならやったことはあった。
289臨戦(3):03/08/05 02:34 ID:/RFg61wz
「それよりも……」
紗霧はそう呟くと、ユリーシャのデイバックの中身を物色し始めた。
中には少しばかりの食料と水、そしてボウガンが入っていた。
(油断は禁物ですからね)
紗霧はボウガンをデイバックから取り出すと、別の布袋にしまいこんだ。
「・・・・・・・・・・・・」
紗霧はユリーシャの寝顔をしばし見つめて思索し始める。
(更に念の為に、両手足を縛り付けたい所ですが)
身体のあちこちに擦り傷や、アザ。汚れた衣服を見て、対象が同姓であることも
あって、さすがの彼女もそれ以上の手出しはしなかった。


(二日目 PM2:47 病院)

まひるは水とタオルの入った洗面器を持って、紗霧らがいる病室に戻った。
「ただいま、もどりましたー」
まひるが、病室のドアを開けたその時突如、女性の声が聞こえた。
「私の名は御陵透子…警告対象は…以下4名……」
「「え…?」」
声を聞き取り、まひるは足を止め、紗霧は戸惑う。
「No,2 ユリーシャ」
(ユリーシャって、あのお姫さんのコト?)
「No,8 高町恭也」
恭也の名を聞いたまひるは、洗面器を空いているベッドに置き、そして身構えた。
ドアは開けたままだ。
(空気は乱れてない…匂いは…)
まひるは周りをキョロキョロ見ると、声の主の匂いを察知する。
290臨戦(4):03/08/05 02:37 ID:/RFg61wz
(部屋の外、東に6メートルくらいの所か)
臨戦態勢をとりつつある身体とは裏腹に、彼は葛藤していた。
殺せる、殺せない。生きる、死ぬ。
昨日、タカさんに出会う前のまひるの思考はそれで占められていた。
他人を殺す事はしたくない。そして、傷つける事もしたくない。
それは、天使と呼ばれる獣の記憶が戻った今でも、変わらない気持ちだった。
だが、一方で戦う事、傷つける事、殺す事。それらの行為も、獣としての
記憶が戻った今、実行する事ができるかもしれないのも事実だった。
(傷つけるためだけの力、助ける力にはなりえないかもしれないのに……)
まひるは心中でそう嘆いた。
「あ……?」
声の主がいたはずの位置から、匂いが消えたことにまひるは声をもらす。
その匂いは紗霧がいるすぐ側に現れた。
「No,36 月夜御名紗霧」
「ひあっ……」
自分のすぐ側に亜麻色の長髪長身の少女がいきなり現れ、紗霧は驚きの叫びをあげ
た。
(匂いが一瞬で、移動した?)
まひるは身構えたまま、透子の方を見る。
慌てて紗霧はまひるの方へと移動する。
(人…?でも、何かが…違う…)
目の前に現れた少女は更に言葉を続けた。
291臨戦(5):03/08/05 02:39 ID:/RFg61wz
「No38 広場まひる」
「主催者側の方…みたいですね…」
やや顔を青ざめさせて、紗霧が呟く。
一方のまひるは、透子を観察していた。
(何だろう?この威圧感。殺気は全くないのにどうして?)
「以上の四名は、ただちに協力態勢を解消し……」
「「・・・・・・・・・」」
2人は黙ったまま、言葉を聞く。
「解除装置を破壊しなさい…」
「解除装置?」
まひるは紗霧の方を向いた。紗霧はデイバックにから瓶を取り出していた。
「破壊しなければ、あなたたちは死ぬことになる」
その言葉を言い終わった直後、紗霧は持っていた瓶を透子に投げつけた。
瓶は透子の身体をすり抜けたように貫通すると、壁に当たって割れた。
そこからは煙が発生したが、透子は何の変化もないまま、
ただそこに立っている。紗霧は呆気に取られる。
透子はしばし天井を見上げると、まひるの方へ視線を移す。
「・・・・・・?」
「あなたは……そのままで………良いのですか…?」
と、まひるに問い掛けると、煙のように姿を消した。
「そのままって…?」
まひるは首をかしげる。紗霧は先ほどよりも顔を青ざめさせる。
その直後、まひるは強烈な殺気を感じた。
まひるは無意識に身体を壁際へと移動させる。
一瞬のち、病室に数発の銃声が響いた。

292臨戦(6):03/08/07 06:19 ID:EjKeg/U6
(二日目 PM2:51 病院・二階)

病院の二階にある一室で、眠りについていた高町恭也は、下の階から 聞こえてきた爆発音を聞いて目を覚ました。
「魔窟堂さん!広場さん!」
立ち上がろうとするが、うまく身体が動かない。
(くっ…こんな時に敵襲か…)
彼は焦りを顔ににじませながら、自分のすぐ側に置いてあった、デイバッグを から小太刀を取り出して、身体を動かそうとする。
そんな時、病室に1人の女性が部屋に入って来た。
病室に入ってきたのは、眼鏡をかけた銀髪の女性。
冷ややかな視線を恭也に向けて、歩み寄ってくる。
「参加者では…ない様だな…」
恭也は半身を起こし、右手に小太刀を持って相手をけん制する。
「フム……虚勢というものはいつ見ても滑稽なものだ…」
女性――椎名智機のレプリカは歩みを止めずに、右手をかざす。
「ぐっ、はあああああっ」
恭也は気合を入れ、ベッドの上に立ち上がった。
「ほう…」と、無表情のままだが、智機は感嘆の声を上げる。
「だが、やはり無意味だな…」
その言葉と同時に、智機の右手が放電した。恭也の身体が「ビクンッ」と 震える。 恭也の身体は倒れベッドの下に落ちた。
「・・・・・・・・・っ」
内臓スタンガンによって、感電した恭也は意識は残っていたが、身体を 動かす事ができない。智機は恭也がさっきまで寝ていたベッドに腰掛けて、 恭也の右腕を掴み上げる。
「安心しろ。多分、君はここで死にはしない」
「どういうことだ…?お前は……」と、怪訝な顔で智機を睨みつける。
智機は口元を歪めて言った。
「君にはゲームを続けてもらわねばな。処刑されるのは――下にいる3人だ」
293臨戦(6):03/08/07 06:21 ID:EjKeg/U6
病室の壁に数発の銃弾が撃ち込まれる。
さっきまで自分が立っていた場所に、弾丸が通り過ぎたのを知ったまひるは冷や汗を
流していた。
「いっいっ、い、いきなり撃ってきやがった!!」
声を裏返させて、まひるは紗霧の方を向く。
「・・・・・・・・」
紗霧は口を開けて呆然としていた。
(やばい、攻撃をしのがないと!)
依然、強烈な殺気が部屋に立ち込めている。わずかに開けられていた、病室の窓の一
つが完全に開けられた。
まひるは何かを投げつけようと、目の前の手近な物体を持ち上げ、開けられた窓の方
へ投げつけた。ベッドを。
銃弾数発が、投げられたベッドに命中したが、まひるの怪力で投げられたベッドの勢
いを完全に殺す事は出来ずに、開けられた窓の方に命中する。窓の向こうにいた人影
は転倒した。
「紗霧さん!早く!」
まひるは紗霧の右手を掴んで、部屋から出ようとするが、ユリーシャの事を思い出し
困惑する。
「お、お、お姫さんはー」
ユリーシャが寝かされているベッドを探そうとするが、慌てているために見つけるこ
とが出来ない。人影は別の窓を開け、銃を構える。
そして再び、部屋に銃声が響いた。
294あぼーん:あぼーん
あぼーん
295あぼーん:あぼーん
あぼーん
296あぼーん:あぼーん
あぼーん
297あぼーん:あぼーん
あぼーん
298臨戦(8):03/08/12 00:17 ID:vyru3mpn
いつのまにか我に返っていた紗霧は背を壁につけて銃を発砲していた。――空砲を。
窓の向こうの人影も動きを止めた。
まひるはその隙を逃さず、手近にあった椅子を人影に投げつけた。人影は転倒した。
そして、まひるの片羽が蜂の羽ばたきのように振動し始める。
「まひるさん…?」
「紗霧さん、お姫さんを…」
まひるの言葉に反応して、紗霧はベッドに寝かされていたユリ―シャを降ろすと、
引きずるように部屋の外に移動する。
「・・・・・・・・」
まひるは前方を見つめた。それと共に羽ばたきの振動音も高くなる。
病室の中、1人翼を震わせ続けているまひるに対し、窓の向こうの人影はしばし沈黙
したかに見えたが、人影は壊れた窓から病室に入って来てその姿を現した。
「思ったより野蛮だな…」
現れたのは銀髪で白衣を着た、口元に皮肉そうな笑みを浮かべた智機だった。だが右
目にあたる部分は潰れている。
(どうして右目が?それに血が…出ていない?)
「ああ…これか?君がさっき投げたベッドに銃弾を弾かれてな、眼が潰れてしまった
のだよ」と、怪訝そうに見つめるまひるに対して、智機はそう答えて、自らの右の眼
窩に指を入れ、右目だった部品を取り出して見せた。
「えっ?」
まひるは、取り出した部分――どう見ても生物の眼球だったものに見えない、金属の
糸の様な物を見て驚きの声を上げた。
「ん?どうした?」
智機は手に持った金属片を捨てると、不思議そうに首から蒸気を吹き出しながら言っ
た。
「首からゆ、湯気が出てる…あ、あ、あんたいったいなにもの?」
「…ロボットを見るのは初めてかな?私は椎名智機、このゲームの主催者の1人とし
て君達を処刑しにきた」
299臨戦(9):03/08/12 00:19 ID:vyru3mpn
(ろ、ろぼっと?が、合体するのか?変形するのか?)
「まずは広場まひる、不確定要素が多すぎる君からだ」
その言葉と同時に、窓の向こうに4人の女性が現れ、それぞれが窓ガラスを割った。
4人の女性は皆、椎名智機でそれぞれマシンガン、バズーカ、散弾銃、ショットガン
を携えていた。
「・・・・・・・・!」
まひるは更に緊張した面持ちで、「コキュ」と唾を飲み込み翼の振動数を上げた。
「抵抗しない方が苦痛は少なく済む。それとも、ゲームに参加するかな?」
「・・・・・」
「今の君なら病院にいる3人を屠り、状況次第で優勝することも可能だろう」
「……ようよ…」
「何を言っている…?」
嘲るような笑みを浮かべ、まひるに問い掛け続ける智機。彼女に対してまひるははっ
きりとした声で答えた。
「もう、こんなコトやめようよ」
「こんな事だと?ゲームを降りたければここで死ぬか、優勝する以外に道は無い。
ゲーム開始前に説明したはずだが?」と、次は別の智機が口を開く。
「我々の仲間になることで」と、順次それぞれの智機が口を開いていく。
「我々と同じように願いを一つかなえるという権利を手に入れることができる」
300臨戦(10):03/08/12 00:22 ID:vyru3mpn
「・・・・・・・」
「我々を全滅させる事など不可能だ」
「よって、君にはその二択しか残されていない」
「あんたは…自分や友達、その友達の友達が、こんなコトに巻き込まれても平気なの
!」
「……私は管理者だ」
「従ってその質問は余り意味を成さんな」
「・・・・っ」
「あえて答えるなら、私は既にこの問題をクリアしている」
「さあ、お別れだ…」
「片羽の天使」
窓の外にいる4体の智機がそれぞれの銃をまひるに向ける。同時にまひるの片羽の振
動音はさっきとは比べ物にならないほどの高音となった。窓ガラスは耳障りで細やか
な破裂音と共に砕け、粉へと変わり始める。ベッドは小刻みに震え、「パキッ」とい
う音と共にペンキが剥れ、露出した金属面もわずかではあるが、削れて行く。
「これが…さっき盗聴した時に聞こえた怪音波の正体か…」
「この音波はここまで届いている。このまま、銃を使うのは危険かな?」
「いつでも続けられる訳ではあるまい」
病室にいる片目の智機は口を開くと、懐に手をやった。
「本当に…やめてくれないの…?」
少し疲れた顔でまひるは智機に対して言った。
「君のその無駄口を止めてほしいものだ。もう、終わりだがな」
「・・・・・・・・」まひるは下唇を噛んでうつむく。
「私が持っている武器が一つとでも思ったかな?」
「カチリ」という音がした一瞬後、片目の智機は金属の板のような物を投げようとし
た。
――カード型爆弾
それは智機の手から離れる前に爆発した。

301臨戦(11):03/08/12 00:24 ID:vyru3mpn

病室は爆発によって崩壊していた。まひるが立っていた場所に、既に彼の姿は無い。
窓際だった場所には上半身を失った智機が一体立っていた。
窓の外にいた4体の智機も、あちこちすすけている。
「今のは衝撃波…か?」
カード型爆弾が手から離れる瞬間、周囲の怪音波、いや空気の波紋は一点に収束し、
空気の弾丸となって爆弾を破壊したのだ。
(奴はまだ首輪を付けている。追うなら今だ)
うち二体は病院の外へ、うち二体は病院内に入り、追撃を開始した。


病院の廊下を1人まひるが走っている。紗霧とユリ―シャの新しい匂いを辿って。
(あたしは…出来ることなら…)
共に行動している魔窟堂、恭也と知佳らの姿を思い浮かべ
(戦うことなく…生き残っている人達といっしょに)
わずかな時間、夢を見させてくれたタカさんと堂島の姿も思い出しながら
(ここから…脱出したかった…)
まひるは病院にいる3人を全力で守ろうと決意していた。

                      ↓

302接戦(1):03/08/14 05:04 ID:4sQQqkbZ

(二日目 PM2:55 病院・二階)

ベッドに腰掛けている椎名智機。智機の足元で倒れている高町恭也。
智機は右足で、恭也の右足を踏み付けながら言った。
「既に反抗する気も無くなったか?」
「・・・・・・・」
「ふむ…賢明だが、こうなるとつまらないな」
数分前に再びスタンガンで恭也を沈黙させてから、恭也は黙ったままだ。
「ところで君は仁村知佳の居場所を知っているか?」
「仁村さん…仁村さんがどうした?」
「まだ元気だな。現在、彼女の居場所が解らなくてな、君は何か知ってないか?」
「知らない……」
(知っていても教えるものか……)
「まだ反抗する気が残っているようだな。まあいい、今頃下の階では3人の処刑が
完了しているだろう。君が優勝するには仁村知佳を含めた6人を始末しなくては
ならない。ゆっくり身体を休めるといい」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「……心拍数と体温の上昇、そしてその眼。まだ私と戦うつもりか?」
恭也は怒りを含んだ眼差しで智機を睨みつけて、智機の足を払いのけてから
上半身を起こし、右手で智機に殴りかかろうとする。
「フン…」智機は鼻で笑い、右手で受け止めようとする。
恭也は拳を寸前で止めると、瞬時に左手に隠し持った包丁で智機の首筋に斬りつけ
た。恭也のパンチはフェイントだった。しかし…
「道化が…」
斬りつけた包丁は智機の首を切断するには遠く、表面に薄い傷を作ったにすぎなかっ
た。
「・・・・・・!!」
「しばらく寝ろ」智機の右手が放電した。
303接戦(2):03/08/14 05:12 ID:4sQQqkbZ
(二日目 PM2:56 病院・資料室)

病院の1階。沢山のファイルが収められている資料室に紗霧とユリ―シャは
いた。
入り口は本棚で蓋をしてある。
(ああいう存在まで関わっているとは…私は本当に分の悪い賭けに乗ったの
かもしれません)
まだ顔を青ざめさせて紗霧は思索する。ああいう存在とは透子の事である。
(あの場はまひるさんに任せるしか無いでしょう。彼女が戦えるのは予想外
でしたが)
智機が襲撃してきた時、まひるは「ここは任せろ」みたいな仕草をしていた様に
紗霧は感じた。
(私とあの子は首輪が外れてますし、隙を見て病院を脱出しましょう)
紗霧の側にいる、平手打ちで無理やり起こされたユリ―シャを見て、紗霧は
心中で呟く。
「…………」紗霧は病院内に残っているまひると恭也の事を考える。
(あの2人には最悪、ここで犠牲になってもらうしかないですね。これ以上、
分の悪い賭けはしたくは無いですし。選択肢が一つ減ってしまうかもしれません
けどね…)
「・・・・・・・・・」
紗霧はしばし沈黙すると、うつらうつら眠りそうになっているユリ―シャの
腕をつかむ。
「え?あな…たは…?」
「隙を見てここから抜け出します。今は起きていて下さい」
「え?え……」
困惑気味で寝ぼけているユリ―シャは、状況をまるで掴めていない。
ちなみに彼女の両頬は紗霧に起こされた際のビンタで赤く腫れている。
突如、資料室の近くで走るような足音が聞こえて、資料室のドアを叩く音がした。
「!」
「紗霧さーん、開けてー!」
304接戦(3):03/08/14 05:15 ID:4sQQqkbZ
「ま、まひるさん!」
と声を出して「しまった」と紗霧は心中で呟いた。まひるの声色からして、
まだ窮地を脱してないようだった。こちらまで危険が及んでしまう。だが、
こうなってしまっては仕方がないと、紗霧は本棚を退かした。
「大変だよ!あいつら…」
「どうかしたんですか?それに襲撃者は複数だったんですか?」と、本棚を脚で
動かしてドアに蓋をしながら、やや不機嫌そうに紗霧は答える。
「あいつら、ロボットなんだよ。バズーカやライフル(勘違い、実はハンド
キャノン)を持って来てる」
「・・・・・・・・・・・・・・・。貴女の見間違いじゃないんですか?」
「ほ、本当だって!さっきいた病室に残骸があるんだってば」
「・・・・・・・・・。嘘では…無いようですね…」
と、紗霧は言うや突如、頭を抱え始めた。
「どうしたの紗霧さん?」
「・・・・・・・・・・・・」
(幽霊だけではなくて、ロボットまでいるなんて…私にどうしろというのでしょ
う…)
「と、とにかく、紗霧さんとお姫さん。早く避難して」
「幽霊がいるのでは…何処行っても無駄ですよ…」
「幽霊って?」
「さっきの亜麻色の髪をした女性に決まってるじゃないですかぁ…」
紗霧はそっぽを向いて、震えながら言った。
「あのー紗霧さん?あの人、もうここにはいないんだけど」
「・・・・・・・・。え?」
「スンッ」と鼻息をたてて、紗霧はまひるの方を振り向く。
「それにあの人、幽霊じゃないよ。生き物の気配がしてたし」
「幽霊ではないんですね?」
「うん」
その返事とともに、紗霧は背筋を伸ばしいつもの落ち着いた調子で、まひるに
質問をした。
305接戦(4):03/08/14 05:17 ID:4sQQqkbZ
「ではロボットは全部で何体いましたか?」
「え…えと、全部で5体…じゃないや、今は4体だよ」
「5体ではなくて4体。もしかして、一体は貴女が撃破したんですね?」
「うん、まあ一応は…」
紗霧は手を顎にやると、思索し始める。
(紗霧さん、変わり身早いなあ)
まひるが紗霧の変化に少し驚く。そして、二十秒たった後

「まずは貴女の首輪を解除します」
紗霧はユリーシャの方を向いて言った。
「お姫さん、寝てるよ」
ユリーシャは座りながら、寝息を立てている。
「起こします」
「さ、紗霧さん。その金属バットは何?」
「この子を起こすアイテムです」
「揺さぶって起こせばいいと思う」
「時間の無駄です」
紗霧は金属バットの柄の部分を、ユリーシャの頭のてっぺんに振り下ろそうとする。
「何故、止めるんです?」
「当たり前でしょ!お姫さん、死んじゃうって」
「何を奇な事を?私の友人はこれくらいでは気絶さえしませんでしたよ」
「他にもっとやり方があるでしょっ!」
まひるはズカズカとユリーシャの側まで歩み寄って、顔を覗き込む。
「揺さぶったぐらいでは起きませんよ」
306接戦(5):03/08/14 05:18 ID:4sQQqkbZ
「・・・・・・・」
まひるは背に生えている翼の羽根を一枚抜くと、手にとった。
そして、その羽根でユリーシャの右耳をいじり始める。
「………うっ、くっ、ひゃぁぁぁぁぁぁ!!」
背筋が凍るような感触に、ユリーシャは悲鳴をあげて目を覚ました。
「ほら、ね」
「・・・・・・・・・」
「だ、誰ですっ!私の耳に羽根をいれたのはっ!」
「この子です!そして、金属バットを振り下ろそうとしてました!」
と、何か面白くなかったのであろう紗霧が、まひるの方を指差す。
「金属バットはあたしの所為じゃなーい!って罪をなすりつけるなあ」
「何をとぼけた事を」
「う〜、さぎり〜」
「呼び捨てですか?貴女も随分と偉そうに…」
「あの〜、あなた方は一体…」
忘れ去られそうなユリーシャが口喧嘩しそうな2人に声を掛ける。
「はっ!?ユリーシャさん、私の名は月夜御名紗霧といいます。そしてこの子が…」
「まひるだよ♪よろしくね、お姫さん」
「え…天使さん…?ランス様は?」
「話は後です。一刻を争います、早くこの子の首輪を解除してください」
紗霧はユリーシャに解除装置を渡す。
「わ、解りました。解除します」
と、まひるの首輪に装置を突きつけて、ボタンを押した。
307接戦(6):03/08/14 05:24 ID:4sQQqkbZ
まひるの首輪が「キュッ」と絞まった。
「ぐえええええええーー、く、くるちい!!」
「何をしてるんですか!!」
「す、す、すみません。間違えました!」
半べそをかきながら、再び装置のスイッチを押す。
首輪の輪が大きくなり、まひるの首よりも大分太くなった。
「解除されたんですか?」
「ごめ、んなさい…また間違えたみたいです…」
ジト眼で見つめる紗霧に対して、身の危険を感じながらユリーシャは答えた。
「今度こそは…」
突如、ドアを強く叩く音が聞こえた。
「!」
その音と同時にまひるがドアの方へダッシュする。本棚とドアにまひるが体当たりを
したのと、向こう側の智機がドアを蹴破ろうとしたのは同時だった。
本棚と共に、倒れたのは智機だった。まひるはすぐに後ろへ跳んだ。
マシンガンを乱射する音が廊下に響く。まひるの翼は振動を始めている。
ドアと本棚の下敷きとなった智機が起き上がろうとする。
振動音を聞いて2体の智機は動きを止める。
(この音は…公園での…)と紗霧が心中で呟く。
廊下にいた智機が突然走り出し、開いたドアの前に立つ。
「!」
智機がマシンガンを構えたのと同時に、まひるは衝撃波を放った。
突風が巻き起こり、智機は吹き飛ばされ壁に激突する。
まひるはその智機に飛びかかった。爪は智機の顔を吹き飛ばすはずだった。
――まひるが本来の姿に戻っていたのなら。
まひるの一撃は空振りに終わり、その隙に智機は腕に内蔵したスタンガンを
まひるの首に押し付けた。
「くあぁぁっ!」 「「!!」」
まひるは感電して地面に落ちた。 (あたし、人の姿をとってたんだった)
智機は彼の首を掴み上げて吊るす。智機の手は彼の首を締め始めた。
智機の口元に冷たい笑みが浮かんだ。
308接戦(7):03/08/14 05:27 ID:4sQQqkbZ
「君達もここまでだな」
まひるの首を締め付けながら、サディスティックな笑みを浮かべて紗霧達に言う。
「……………」
「しかし、助からなくなった訳ではない」
本棚の下敷きになった智機が立ち上がって言った。
「広場まひるを除く病院内の3人」
「今から解除装置をこちらに渡し、病院内で最後の1人になるまで殺し合えば、
私はここを去ろう」
(3人?と、言う事は高町さんはまだ無事という事ですね)
硬い表情で智機を見ながら、紗霧は思索した。
「こ、殺し合い…」ユリ―シャは青い顔をして、紗霧を見つめる。
「………」紗霧は、背中から金属バットを抜く。
「ひっ……」
ユリ―シャは悲鳴をあげて、周りを見回す。助けてくれる人も、手持ちの道具も
持っていないことに気づく。
「………」紗霧は金属バットを持ったまま身動き一つしない。
それがユリ―シャの不安を増幅させる。
(私…殺されるの?…殺されるの?そ、そんな…)
ユリ―シャの身体が恐怖で震える。
「時間稼ぎは無駄だぞ、月夜御名紗霧」
(見破られていましたか)
紗霧は心中で舌打ちする。
「くぬぬ……」
まひるは顔色を変えることなく、智機に抵抗していた。
「ん?しぶといな…」まひるの首を締め付けていた智機が呆れたように呟く。
智機はまひるを吊るし上げている手とは別の手で、まひるの首輪を掴む。
「さあ、公開処刑の始まりだ」智機は首輪を破壊しようと力を入れた。
309接戦(8):03/08/14 05:36 ID:4sQQqkbZ
資料室に何かを引き裂いた音が響く。
ぽとり、ぽとりと地面に落ちる。首輪を破壊しようとした智機の手の指が。
そしてバキキィ、という音がした。まひるの首を締め付けていた智機の指は
5本とも逆の方向へと捻じ曲がっていた。
「な、んだ…と…私の指を引きちぎっただと…?」
まひるは地面に着地し、そして全力で智機に体当たりした。
智機はスタンガンを使おうとするが間に合わず、壁に激突して、そのまま壁を
ぶち破って外へと放り出された。仰向けに転がり、智機の腹部が爆発した。
智機は腹に風穴を空けて沈黙した。
もう一体の智機はまひるに向けてショットガンを構えた。が、紗霧が投げた金属バット
が智機に命中し、動きが止まる。まひるは方向転換して体当たりを喰らわした。
智機はバランスを失って倒れそうになる。
慌てて懐からスペツナズナイフを取り出し、まひるに向けて発射しようとする。
突然、まひるの翼が変形してナイフを持った手を掴む。
「何ッ?」
まひるの頭突きが、智機の顎を直撃する。智機が態勢を整えようとする前に
智機の頭を掴み上げて押し倒す。まひるはかかとで智機の胴体に蹴りを
数回入れると、もう一方の手で智機の首を掴んで、力を込めた。
そのまま、まひるは智機を引きずって走り出し、両手で持ち上げて思い切り天井に
叩き付けた。智機の上半身から爆発音が数回起こって、智機はそのまま停止した。
310接戦(9):03/08/14 05:38 ID:4sQQqkbZ

(二日目 PM2:57 病院・二階)

智機の右手が放電しながら、恭也に触れようとする。
が、そのままの格好で智機の動きは止まった。
「何だ?」
智機の身体はいつのまにか鋼糸でからめ取られていた。
「いつの間に……がっ!」
智機の口内に包丁の切っ先が突き立てられた。
(そうか…さっきのパンチはフェイントという事か)
「力がほとんど出せなくても、糸を操るくらいの事は出来るさ…」
恭也は小太刀を拾い上げて構える。
「・・・・・・」
智機は侮蔑の言葉を投げかけようとするが、声をうまく出せない。
「貫!」
その掛け声を合図に、小太刀は智機の右目から頭部を貫いた。小さな爆発音。
その衝撃で包丁が砕ける。小太刀は破損しなかった。
「・・・・・・・・・・」
恭也は智機が行動不能になったのを確認すると、息をついた。

311接戦(10):03/08/14 05:51 ID:/AwdNkOL
(二日目 PM3:06 病院)

「まひるさん…戦えたんですね」
「うん…まあ、ね」 紗霧の問いにまひるはこう答えた。
「どうして、隠してたんですか?」
「いやあ、ちょっと色々とややこしくてさ…」
「…………」
(どう説明すればいいんだろ)
「まあ、説明は後でいいでしょう」
「首輪解除しますね」 ユリ―シャの解除装置が起動し、まひるの首輪が外れた。
「おおおっ、外れた、外れたー」 嬉しそうに首に手をやる、まひる。
「これで、遠慮なくお喋りができる」
「貴女は別に遠慮してないでしょう?」
「それはそれ。これはこれって事で、恭也さんのところに行こう!」
「待って下さい」 「?」
「あのロボットと戦う前に、貴女に言いたいことがあります」
紗霧はまひるに対し、智機戦におけるアドバイスをした。
「自爆って……えー気をつけます」と言った直後、まひるは部屋を出た。
しばしの沈黙。
「あのー…月夜…さん?」
「紗霧と呼んでください」
「紗霧さん。さっきの助言って…」 ためらいがちにユリ―シャは言った。
「言うほど簡単に出来るとは思えないのですが?」
「できませんよ」
「では、どうして?」
「ああいうのが敵襲してくる事自体が予想外ですから。まひるさんに任せるしか」
「・・・・・・・・」
(今日、出会ったばかりの他人を信用しなければならないなんて、私も余裕が
無くなったものです) 紗霧は壁にもたれながら嘆息した。
312接戦(11):03/08/14 05:52 ID:/AwdNkOL

(二日目 PM3:10 病院)

まひるが金属バットを振り上げる。壁に穴が空く。その穴の空いた壁に蹴りを入れ
る。人1人分通れる穴が空く。その穴にまひるは入っていく。それをすでに十回繰り
返している。智機が散弾銃を発射する。その先にはまひるがいたが、既に穴に逃げ込
んでいて当たらない。
「このままでは埒があかん!」
苛立ちを込めた声で智機は言う。
廊下と廊下の間を瓦礫でふさがれて足止めを喰らっていた智機二体は、ようやく攻撃
を再開したものの、まひるに翻弄されていた。攻撃射程内に現れたと思いきや、攻撃
する頃にはドアや空けた穴に逃げ込まれ。銃弾を補充する時や、バズーカを使用しよ
うとすると不意打ちを仕掛けてきては、また離れる。それを繰り返されてすでに2体
の智機にはまひるによってあちこちに凹みができている。
(これ以上、攻撃を喰らうのはマズイ)
智機はバズーカを構えつつ、いつでも懐から武器を取り出せる態勢を整える。
まひるが穴から姿を現す。智機は懐から閃光弾を複数取り出すと、まひるがいる方向
へと投げつけた。眩しい閃光があたりを包む。
(これで終わりだ!)
もう一体の智機がバズーカを持って発射する。まひるがいるであろう病室のすぐ側で
爆発が起こる。(熱波によってダメージを受けているはずだ)
散弾銃を持った智機を前に、部屋の方に移動する。熱波で焼かれた部屋には誰もいな
かった。(奴め、逃げたか)そう思った瞬間、天井からまひるが降りてきて、智機を
踏み倒す。もう一体の智機はバズーカを持っていたが、狭くて使えない。
まひるは思いっきり、地団太を踏むと、もう一体の智機の方へ向かおうとする。智機
は懐に手をやる仕草をする。まひるは部屋から去った。
まひるに踏まれた智機は、まひるの足跡の凹みを何箇所も作っていた。その智機は痙
攣したように身体を震わせると、爆発した。
313接戦(12):03/08/14 05:56 ID:/AwdNkOL
「・・・・・・・!」
(バカな!こんな筈では!)
病院内に潜伏させていたレプリカ6体はいわば先発隊である。しかし、状況の
変化に伴い、できうる限りの強化をしている。アズライト・しおり戦までの戦闘
データ―を移植して、以前より運動性を上げており、武装もかなり強力にしてある。
内、2体にはとっておきの「仕掛け」がしてあり。たとえ、しおりが相手でも
油断さえしなければ、始末できる自信があった。だが、毒ガスを内蔵していた
ボディはついさっきまひるによって破壊され、生物がいない部屋の中で
その惨めな姿をさらしている。
(奴は一体、何者なんだ!)
スピードや防御力が特別高いわけでもない。ザドゥのような技能保持者で
あるそぶりもない。超能力を使って回避している様子も見られない。ただ、
こちらの行動を先読みされたように先手を取られ続けている。
(仕方が無い。このボディで奴を道連れにする)
智機は部屋を出ると、自爆装置をいつでも作動できるようにスイッチを入れた。
(このボディの体内には強酸と極小の金属球が無数内蔵している。たとえ、
仁村知佳やしおりであろうと喰らえば終わりだ)
智機はまひるを索敵する。遠くで何かを砕く音が聞こえる。
智機は音の発生源に向かった。


314接戦(13):03/08/14 06:02 ID:/AwdNkOL
二階へ上がる階段の途中、壁があるべき所には大穴が開いていた。がまひるの
姿は無かった。
「・・・・・・・・・・・」
(逃げられたか?)
風穴の前には瓦礫が沢山積み重ねられている。
まひるへの敵意を剥き出しにして、階段を上がり始める智機。その時、勝負は
着いた。
「ごっ!!」
智機の顔に大きな瓦礫が命中する。転がり落ちる智機。立ち上がろうとするが、
次々と瓦礫が振ってくる。
「な、なにーっ!」
瓦礫を次々とぶつけられ、智機の疲弊したボディが悲鳴を上げる。
瓦礫に潜んでいて、瓦礫を投げつけていたのはまひるだった。
「き、貴様!」慌てて智機は自爆装置を起動させる。
まひるは既に外へ飛び降りていた。
「・・・・・!お、おのれーーっ!!」
智機は爆発した。強酸は階段付近を刺激臭で満たし、無数の金属球は
あちこちに穴を空けたが、生き物に命中する事は無かったのだった。

315接戦(14):03/08/14 06:04 ID:/AwdNkOL

(二日目 PM3:15 病院・二階)

「恭也さんが無事で良かったよ」
「広場さんも無事で何よりだ」
二階で恭也とまひるは話をしていた。
正直、智機が襲撃してきた時点で、まひるも恭也の事で強い不安に駆られていたが、
無事だと知って、大喜びである。
「広場さん、戦えたのか」
「まあね。でも、詳しく聞くのは後にして長くなるからさ」
「ああ、わかった」


(二日目PM3:17 病院・一階)

「つかず離れず、隙を見て攻撃。攻撃加えたらすぐ離脱。逃げ道を作りつつ、
瓦礫で攻撃。攻撃は一切喰らわない事。捕まらない事。って普通、無理と思います」
ユリ―シャが紗霧にこう質問する。
「でしょうね。ロボット相手ですからね。まひるさんがそれをできるのを期待するし
かありません。ああいうロボットがまだいるでしょうし」
「まだ、いるんですか?」
「あのロボット達を倒せないようでは、私達に命は無いですよ」
「・・・・・・・・・」
(まひるさんがあのロボットを全滅させることができれば、プラスマイナスゼロ。
私の計画は大丈夫です)
紗霧は不敵な笑みを浮かべたのだった。


――4分後一階に下りてきたまひると恭也は紗霧らと対面し、無事に恭也の首輪は解
除されたのであった。

                  ↓     
316接戦(15):03/08/14 06:51 ID:vpuNit6+
【広場まひる】
【所持品:せんべいがたくさん入った袋、代えの服数着】 【現在地:病院】
【スタンス:参加者救出、争いをなるべく避ける】
【備考:身体能力上昇、怪力、超嗅覚、鋭敏感覚、片翼、衝撃波(練習中)使用】

【月夜御名紗霧】
【所持品:バッテリー切れ寸前の対人レーダー、解除装置 COLT.45 M1911A1 ccd
 残弾2発(拾った)と予備マガジン(7発×2、 智機が所有していた)薬品数種、
メス二本、他爆装置の指輪二個金属バットと文房具とノート(雑貨屋で入手)
他の所持品あり】 【現在地:病院】
【スタンス:反抗者を増やし主催者へぶつける。 モノの確保】
【備考:各地で得た道具を複数所持】

【高町恭也】
【所持品:小太刀、救急セット、鋼糸】 【現在地:病院】
【スタンス:主催者打倒、知佳の捜索と説得】
【備考:失血で疲労:中、右わき腹から中央まで裂傷あり。神速使用不可。
痛み止めの薬品?を服用】

【ユリ―シャ】
【所持品:ボウガン】 【現在地:病院】
【スタンス:現時点では病院組に協力。後はランス次第】

【病院内でのアイテム】
斧、小麦粉、白チョーク多数 (スペツナズナイフ、デザートイーグル50AE
(弾数4発、ハンドキャノンで 反動が凄まじい)携帯用バズーカ(弾数1発)を
(いずれも智機の所持品) 新たに入手
317山崎 渉:03/08/15 11:04 ID:dcQcOgab
    (⌒V⌒)
   │ ^ ^ │<これからも僕を応援して下さいね(^^)。
  ⊂|    |つ
   (_)(_)                      山崎パン
318誇りと力:03/08/16 01:59 ID:G4FkcsKa
魔人が最強と呼ばれる所以は、二つある。
一つは、魔人が誇る絶対無敵の防御加護……
自らを傷つけると言う意思の介した行動では、絶対にダメージを受けぬと言う特性。
魔王と血の契約を交わせしものの恩恵。
だが、現在のケイブリスは、魔王の影響下にあらず
その能力は、発動していない。

もう一つ、魔人と他の生物とでは、格段に違う能力差。
圧倒的な限界才能値の高さからくる力。
魔人化した時に、与えられるもう一つの恩恵。
限界才能値と身体能力の圧倒的飛躍。
普通の人間では、一般的な冒険者でも30Lvがやっとのこさ。
大陸屈指と呼ばれる兵でも50Lv程が限界である。
だが、魔人は、低いものでも軽く100Lvは、限界を超えている。
そして、その不老不死と言う長い時の中で
限界値ギリギリまで鍛え上げられた強さ。
ケイブリスに到っては、4000年以上を生きてきただけあり
Lvは、ゆうに200を超えている。
だが、それなら、ランスも負けてはいない。
才能限界値無限と言うイレギュラーであり
更に、Lvにかかる経験値が通常より少ない。
やればやるほど強くなる。
戦えば戦うほど強くなる。
ランスの才能は、まさに無限である。
そのLvは、幾つもの魔人を撃破してきた今、100近い。
319誇りと力:03/08/16 02:00 ID:G4FkcsKa
(第二日目 PM2:40)

「ウォォォォォォォォォッッッッッ!!!!」
ケイブリスのすさまじい咆哮と共に彼の有する六本の腕がまたたくまにランスへと襲い掛かる。
「ちぃっ!!」
ランスの後ろにあった木が根元から折れ、後方へと飛んでいく。

追撃は、それだけでは、止まない。
すかさず、右方へ飛び避けたランスに
左手三本をそのまま木をなぎ払うようにして伸ばす。
「おらぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
避けれないと悟ったランスは、剣の刃の部分を横にし
ケイブリスの腕を上から力任せに叩き落す。

「むぅん!!」
そのまま、空いた右手の一つで、地面へと着地し態勢を整えようとするランスへと炎の玉を投げつける。
「ラァァァァンスアタァァァァァァック!!」
ランスが剣を振るうと風が巻き起こり、火炎球と相殺される。
ランスアタックには、二種類ある。
直接、剣気を纏い、敵へと叩きつけるタイプ。
此方の方は、威力はでかいが剣にかかる負担も大きく
このバスターソードでは、もって後一発か二発。
そして、もう一つのタイプ。
剣先から発生する真空波によるカマイタチのランスアタック。
今回は、これでケイブリスの火炎を相殺したのだ。
320誇りと力:03/08/16 02:00 ID:G4FkcsKa
瞬時………
「ふっとびな!!!」
ランスアタックを放ったばかりで、間の空いたランスへ
ケイブリスが、突進を繰り出す。
「ぐあっ!?」
ずどん。
吹き飛ばされ、ランスは、後方の木へと叩きつけられた。

「…………ふん」
だが、ケイブリスは、そのまま追撃しようとしない。
「下手な芝居をするんじゃねぇよ。
解ってんだぜ、俺がぶつかるその瞬間、後ろへ飛んだのはよ」
「っけ、馬鹿だから、騙せると思ったんだけどな」
そう言うと、彼は、のっそりと立ち上がる。
「あいにくだが、タイマンに関してだけは、誰にもひけを取った事がねぇのよ」
すさまじいまでのLvの、常人では、追いつけぬほどの攻防戦。

再び両者の間で冷たい戦いが始まる。
お互いに仕掛けるタイミングを計っているのだ。
321直リン:03/08/16 02:01 ID:vVpglR13
http://homepage.mac.com/maki170001/
220.97.24.170 , p7170-ipad69marunouchi.tokyo.ocn.ne.jp ?
322誇りと力:03/08/16 02:04 ID:G4FkcsKa
「気にいらねぇな………」
魔獣の口からぽつりと漏らされた言葉。
「気にいらねぇよ………… おめぇが攻撃してこないのがこんなに虚しいたぁな……」
「……無駄な攻撃をしろってのか?」
事実、今までの戦闘は、全てランスが受け側に回ってきていた。
先ほどの打ち合いにしろ、仕掛けるのはケイブリスでそれを受け流すのがランス。
それもこれも、なまじケイブリスの事を、
魔人の事を知っていたが為に起きた攻撃への躊躇。
魔人の絶対加護を知ってしまっていたランスにとってそれが仇となった。
もしこれが、ランス以外のものであれば、隙あらば迷わず攻撃へと転化しただろう。
ゆえに幾度となく訪れた攻撃への転機も、逃してきた。
人の体格では、どんなに強くても明らかにスタミナの限界がケイブリスに劣る。
この攻防戦、ランスの方がスタミナの消費は激しい。
更に後ろに飛んだとはいえ、ケイブリスの突進を前から受け止めたのだ。
鎧には、皹があちこちに入り、これ以上、身を守る機能を果たせそうにない。
鎧が守ってくれなかったら、肋骨は確実に折れ、立つ事がやっとであろう。
それでも、胸に響くダメージは、少なくない。

「最初はよ…… 一方的にお前を押せるってのが嬉しかったんだけどよ。
段々と…… 少しずつ、虚しくなっちまってな」
2人の間に再び沈黙が走る。
323誇りと力:03/08/16 02:04 ID:G4FkcsKa
「やっぱぁ、俺は、おめぇをぶち倒してぇ……
ただ倒すんじゃねぇ…… 完膚なきまでに!!
おめぇは、有利な状況を作る事によって俺に勝った……
なら!! 俺は、それを否定してやる!!
ハンデだとかは、いらねぇ!!」
「っけ、格好つけやがって、なら、どうしてくれるって言うんだ?
カオスか日光さんでもくれるってんのか?」
「そんなものは必要ねぇよ。 
何しろ、今の俺は、無敵じゃないからな。
言葉の通りだ、オメェの攻撃は、全て俺に通用するよ」
「まんざら嘘ってわけでもなさそうだな……」
ケイブリスからひしひしと伝わってくる意思は、まっすぐだった。
「俺が有利だなんてのは、納得いかねぇ。
それじゃ、俺様は、人間相手に有利な状況でなきゃ勝てないなんて烙印がつくじゃねーか……
オメェは、有利な状況で俺に勝った。
なら、俺は、オメェ相手になんざ絶対に勝てるって事を証明してやる!!
俺は、オメエの全てを打ち砕いてやる!!」」
「ふん………… その自信を直ぐに仇にしてやるぜ!!」
「さぁ、第二ラウンド開始といこうじゃねーか!!」
324誇りと力:03/08/16 02:39 ID:G4FkcsKa
(第二日目 PM3:00)

(間に合ってくれよ!!)
病院から駆け出した魔窟堂は、加速装置を使い
ユリーシャの足跡を辿り、森の中へと入っていった。

ウォォォォォォォォ!!!

遠くから、森全体へと響き渡るようにしてケイブリスの咆哮が響き渡る。

(放送の声に似ている。 おそらく、あれじゃな!!)

一直線に激戦の場へと、老兵は駆けて行った。
325誇りと力:03/08/16 02:39 ID:G4FkcsKa
(第二日目 PM2:55)

「ぜぇはぁぜぇはぁ…………」
(くっそ、あれからたった10分だってのに、1時間は戦った気がするぜ
やっぱ、最初に体力使いすぎたのがまずかったな)
スタミナの限界がランスを襲う。
あれから、隙あらば、攻勢に転じたもの、やはりスタミナがネックとなった。
「惜しいな…… 最初からハンデがなけりゃ、もっといい勝負できたかもしれねぇのによ」
一方のケイブリスも腕や顔などに幾つかの傷ができている。
だが、どれも決定打になるような傷ではない。
(このナマクラじゃぁ、あいつにダメージ与えるのはきっついぜ。
やっぱり、特大のランスアタックを頭部にお見舞いするしか……
もしくは……)
「へへ…… けど、まだ勝負は終わったわけじゃねーぜ?」
「そうこなくっちゃな…… 最後まで俺を楽しませてくれよ!!」

風が走る。

「ウォォォォォォォォッッッッ!!!!!!」
先に動いたのはケイブリスだった。
326誇りと力:03/08/16 02:40 ID:G4FkcsKa
静寂の間に溜めた気で。
ケイブリスは、己の必殺技を繰り出す。
気を纏い、そのまま相手へと突撃を繰り出すケイブリスらしい必殺技。
森全体に響く地響きと共にケイブリスは、前方の木を吹き飛ばす。
「手応えがねぇ!? 見切って避けられたか!?」
ランスの姿が見当たらない。
「………ッ!?」
次の瞬間、ケイブリスが吹き飛ばした幹が彼の頭上へと落下してくる。
「見え見えなんだよ!!!」
すぐさま、魔獣は、腕を落下してくる折れた幹へと叩きつけこなごなに粉砕する。
が、そこに手ごたえはなかった。
ほんの一瞬の隙。
「くたばれ!! ラァァァァァァンスアタァァァァァァァック!!!!」
ケイブリスの死角となった背後から
今度は、直接型のランスアタックが襲い掛かった。

ランスは、確かにケイブリスの吹き飛ばした木に乗った。
だが、ケイブリスの行動を予測して、彼が攻撃をしかけるタイミングで
ケイブリスの後方へと飛び移ったのだ。
327誇りと力:03/08/16 02:52 ID:G4FkcsKa
だが、ケイブリスも負けていない。
ランスアタックが彼の頭部へとぶつかろうとするその時。
すさまじい本能とも言うべき、咄嗟に動いた、左右一対の腕を使って、ランスを吹き飛ばそうとする。

「グハァァァァァァァァ!!!!!」
ケイブリスの左右真中の腕は、ランスアタックを直接受ける事となり、あらぬ方向へと曲がる。

「ぐあぁぁぁ!!!」
対するランスもケイブリスの腕に弾かれたのとランスアタックの衝撃で
後ろの木へと、今度こそ叩きつけられる。

「ぐぅぅぅぅぅ……」
痛みを堪えて、ケイブリスは、自分の体がどうなったかを
そして、ランスがどうなったかを把握する。
「なんて威力だ…… この一撃に全力をかけやがったな……
もうしばらくは、この腕は、使い物になんねぇし、鎧の背中の部分が完全に打ち砕かれてやがる。
っと、あの野郎はと………」
振り向くと、ランスは、木にもたれかかったまま沈み、動こうとしない。
木へとぶつかった際の衝撃で脳震盪を起こしたのだろう。
剣は、衝撃で刀身が完全に打ち砕かれている。
「衝撃で気を失いやがったか…… これで、完全決着って奴だな……
俺の勝ちだ!!」
ケイブリスの残りの四本の腕がランスめがけて一直線へと向かう。

風が舞った。

風の後には、ランスの姿はなく、ケイブリスの腕は、そのまま木を倒す。

「なっ!? バカな、完全に気を失ってたはずだ!! 何処へ行きやがった!?」
328誇りと力:03/08/16 02:57 ID:G4FkcsKa
(第二日目 PM3:05)

(間一髪ギリギリセーフって所じゃの……)
木の上で、魔窟堂は、ランスを抱えながらケイブリスを見下ろす。
(それにしてもなんっちゅー化け物じゃわい。
それとあの化け物とやりあうこの若者も只者じゃないのう)

「ちっくしょぉ!!!! 何処だぁ!!!」

下では、ケイブリスが辺りの木へと当り散らし始める。

(いかんいかん、このままでは、この木も倒されてしまうわい。
ランス殿の怪我もあるし、とっとと病院へ戻るとするかのう)

再び加速状態へと突入し、魔窟堂は、その場をそうそうに去るのだった。

(気絶してくれていて助かったわ。 意識あったら加速で気が狂うじゃろうからな)

329誇りと力:03/08/16 03:01 ID:G4FkcsKa
【魔窟堂野武彦】
【現在地:東の森】
【スタンス:運営者殲滅・ランスを連れて病院へ】
【所持品:レーザーガン、軍用オイルライター、白チョーク数本
ヘッドフォンステレオ、マジカルピュアソング】
【備考:加速装置使用中・ランス抱きかかえ】


【ケイブリス】
【現在地:東の森】
【スタンス:反逆者の始末・ランス優先】
【備考:左右真中の腕骨折・鎧の背中部分大破】

【魔窟堂野武彦】
【現在地:東の森】
【スタンス:運営者殲滅・ランスを連れて病院へ】
【備考:気絶中・肋骨2〜3本にヒビ・鎧破損】
330誇りと力・訂正:03/08/16 21:03 ID:2ffURQ97
【ランス】
【現在地:東の森】
【スタンス:打倒主催者・女の子を守る】
【備考:気絶中・肋骨2〜3本にヒビ・鎧破損】

331名無しさん@初回限定:03/08/16 23:26 ID:DWLm5wND
age
332名無しさん@初回限定:03/08/16 23:36 ID:TCZI7LrO

功雄版タロット

┏━━━━━━━┓
┃    XT .  ┃
┃───────┃
┃ソレスキー マジカyo?┃
┃  カコイイ.!  ∧∧ ┃
┃ ,∧_∧ (・ 3・)┃
┃ X ノ ハヘ X/,  つ┃
┃/丿^∀^)(_(_,)┃
┃!!(~~`v'~)  しし' .┃
┃!!ノ~~~~~\ ●.  ┃
┃ (__)_)   ●.┃
┃───────┃
┃6   恋人    .┃
┃    THE     .┃
┃  LOVERS   ┃
┗━━━━━━━┛
333名無しさん@初回限定:03/08/18 07:08 ID:TLvz0H0K
ほしゅ
334名無しさん@初回限定:03/08/19 00:15 ID:F5QVc30v
一応保守っとく
335孤島(1):03/08/20 04:08 ID:ihIdGvMS

(二日目 PM1:40 東の森南東部)

森の中を1人の青年と、その背中から十数メートル離れて一人の幼い少女が
歩き続けている。
「…………………」
青年――殺人ゲームの主催者、ザドゥは目的地を目指しながら、周りの風景を
しげしげと観察していた。
「??」
その様子に気づいた少女――観月しおり(No28)は、不思議そうな顔をして、
ザドゥの背中を見ている。
「…どうしたの?ザドゥのおじさん?」
「・・・・・・・・・・・・」
「ねえ…。……!」呼びかけ続けるしおりが、あることを思い出して訂正する。
「ザドゥさん、どうしたの?」
「……やはり、どこかで見た風景だと思ってな…」
「え……?」
ザドゥが島中を歩くのは二度目である。一度目はゲーム開始前日に行った島の
視察であった。一度目の時にもどこか既視感の様なものを覚えていた。
今度の素敵医師への懲罰の為の移動中にザドゥの心の中でそれは確信となっていく。
(思い出した…。確かに俺は昔、この島に来ていた)

336孤島(2):03/08/20 04:10 ID:ihIdGvMS

ザドゥはある格闘家の道場の跡取りとして生まれた。
彼の格闘家としての才は幼少の頃から他と比べて抜きんでいて、彼が成人する前
の時点で、既に道場主である父親の実力を超えていた
やがて彼は父を見限り、道場の継承権を放棄して出奔した。
それ以後の彼は名だたる格闘技術者の道場に入門しては腕を磨き、技を盗み、
そして、それらの道場主を打ち倒していった。
そんな負け知らずの彼にもやがて敗北の時が来る。
いつもと同じように道場に入門し、そこでの格闘術を学んでいたザドゥは道場内での
トーナメントの決勝で、同門の女拳士に敗れてしまう。
初めての敗北。その現実にザドゥは打ちのめされ、人知れずその道場から去った。
それからの彼は、二度と敗北の屈辱を味わいたくが無い為に、最強を目指す為に、
今まで以上に実戦を望む様になった。
格闘家だけではなく、あらゆる犯罪組織相手に好んで戦いを挑んだ。
その結果、ザドゥは裏社会屈指の格闘家として名が知れ渡るようになった。
その彼が自らの組織を立ち上げる一年前、中国のある暗黒街でマフィアとの戦いに
明け暮れていた頃、マフィアを通じて妙な噂話を知った。


――どこかの国か組織が定期的に行っている大掛かりな『ゲーム』を、今度は
この国のある島を買い取り、そこで始めるらしい。


337孤島(3):03/08/20 04:17 ID:ihIdGvMS

『ゲーム』それはいつの頃からか、各地で語られるようになった伝説。
どのようなゲームかは、命のやりとりをするらしい以外ははっきりしない。
ただ、国と組織が関わり、広い舞台を必要とする。それが真っ当なゲームであろう
ハズは無く、実在したとして腐りきった金持ちや権力者の道楽に過ぎないと
いうのがザドゥの見方だった。
はっきり言って、伝説の真偽を確かめる気にもならなかったが、『ゲーム』開催地の
情報が手に入った事から、マフィアをつぶすついでに、『ゲーム』が何であるか確か
めようと思った。

『ゲーム』の舞台と思われたその場所は、寂れた村のある島だった。
一見、どこも不自然なところが無かったかのように見えたが、ザドゥの闘士としての
勘はその島の異変を感じ取っていた。
明らかに素人とは放つ空気が違う、人間が複数いる。
ザドゥは調査を開始した。正確には調査のフリをして、不審者からこちらに手を
出すように仕向けた。
数日後、ザドゥは島の南東の森で、複数の覆面男に囲まれていた。
彼らは殺意をみなぎらせて襲ってきた。 彼らは銃を持っている上に、
相当な手練だった。 ザドゥは手傷を負いながらも勝ったが、相手を全て殺害して
しまった。
襲撃以降、手がかりを見つけることもできないまま、彼は2日後に島を去った。
以後ザドゥに追っ手がかかることもなく、マフィアを壊滅させた。覆面連中は傭兵
だった。マフィアのボスがザドゥへの殺害命令を出していた。
その頃には『ゲーム』の噂はなりを潜めていたのだった。
338孤島(4):03/08/20 04:22 ID:ihIdGvMS
ザドゥが組織を結成した頃、一時期、裏社会でこういう噂が流れていた。

――今回の『ゲーム』は場所を変えて行われたらしい、
――今回の『ゲーム』では大きな狂いが生じてしまって、当分行われなくなったか、
もう行う事ができなくなったらしい。

どんな『ゲーム』だったのか。誰が何の目的で行っていたのか。
どの場所で行われていたのか。『ゲーム』はどうなったのか。
今も行われているのか。そもそも本当に『ゲーム』は実在したのか。
それらの答えや噂の出所を知ることもなく、やがて、ザドゥは『ゲーム』に対しての
興味を無くしていったのだった。


(二日目 PM1:42 東の森・南東部)

(あの島にまた足を運ぶ事になるとはな)
ザドゥは歩き、周囲を見回しながらそう思った。
(もっとも本当にあの島かどうかは解らんがな)
彼の感覚が『あの島』と告げてはいるのだが、やはり釈然としない。
記憶が正しければ、まだあの島には住民が住んでいるはずだし、小さいとはいえ
人が住んでいる島ひとつが消滅したら騒ぎになるだろう。空を見上げる。
(『ゲーム』ってのはきっと『殺人ゲーム』の事だったんだろうな)
なんとなくだが、ザドゥはそう結論付けた。
彼は右手の拳を握り締める。本来なら今頃、元側近のシャドウに乗っ取られた組織が
開いた格闘トーナメントに出場し、自分から全てを奪ったシャドウとの決着がとうに
ついているハズであった。
しかし、彼は神と遭遇し、愛人であったチャームを蘇生させるという願いを
かなえる為に、それらを放棄 して、殺人ゲームの主催者となったのだ。
彼は握り締めてた拳を開いた。

339孤島(5):03/08/20 04:25 ID:ihIdGvMS

(あいつには…悪い事をしたな…)
この島に来る前、シャドウとの雪辱を果たすための修業に付き合ってくれた女拳士の
事を彼は思い出した。かつてザドゥを倒したこともある女拳士と同一人物でも
ある彼女は一足先に修業場所である山を下山して、トーナメント会場に向かっていた。
(奴との決着をつける前に、あいつに謝らないとな…ん?)
そう考えているザドゥの顔をいつのまにかしおりが先回りして覗いていた。
「どうした?」
「…え、何を考えてるのかなと思って…」
慌てたようにしおりが答える。
「お前には関係のないことだ…」
そうぶっきらぼうに、だが口元にやや自嘲めいていたが、わずかな笑みを浮かべて
言った。
「そう…」
返事とは異なり、しおりは少し安心した様子で、再びザドゥの背後に下がった。
素敵医師とカモミールがいるであろう楡の木広場まではまだ距離がある。
ほぼ間違いなく闘わざるを得なくなるであろう、カモミールへの対応を考えながら。
ザドゥは後ろからついてきているしおりと共に楡の木広場を目指して
歩き続けたのだった。

                    ↓
340孤島(6):03/08/20 04:26 ID:ihIdGvMS
【主催者:ザドゥ】
【現在位置;東の森南西部】
【所持武器:己の拳】
【スタンス:素敵医師への懲罰
      参加者への不干渉】
【備考:右手に中度の火傷あり】

【しおり】
【現在位置:校舎外】
【所持武器:日本刀、発火能力】
【スタンス:参加者殺害】
【備考:凶化・身体能力上昇。
    弱いながら回復能力あり。
    打撲多数、現在歩行にやや難あり】
341孤島(6)訂正:03/08/20 23:34 ID:Jwl2h/If
訂正
【主催者:ザドゥ】
【現在位置:東の森南西部】→【現在位置:東の森南東部】

【しおり】
【現在位置:校舎外】→【現在位置:東の森南東部】

342共感(1):03/08/24 14:54 ID:z1RNy4OK

(二日目 PM3:20 東の森・南部)

先ほど行われていたまひる達と智機との激しい戦闘が終了して数分後。
病院から少し離れた森、東の森の南方にある比較的高い樹の枝に1人の女性
――監察官・御陵透子が腰掛けていた。
今、病院の中では恭也とまひる。紗霧とユリ―シャが対面し、それぞれが自己紹介も
かねて話し合っていた。
「…………」
少し強い風が吹いた。そして、
「No8 高町恭也の首輪解除を確認…」と、透子は呟いた。
智機の恐れていた事態。魔窟堂、まひる、紗霧、恭也の4人の首輪が解除される。
それは、とうとう現実のものとなった。
戦闘にこそ参加しなかったが、透子も警告役として智機のサポートに回ったものの、
それは無駄となってしまった。
「…失敗ね」透子は表情を変えないままそう言った。
参加者の大半が既に首輪を付けていない。
それは事実上、殺人ゲームが主催側の管理下から離れた事を意味していた。
いくら透子が監察官として雇われ、その役割しか果たそうとしなくても、
ゲームの運営に成功しなくては願いをかなえることはできないし、元の世界に
帰ることもできない。
「…………」
透子は懐からペンダントの様な物を取り出した。
金色の細い鎖と金色の円錐型の物体で構成されたそれは、ゲームの運営を
依頼してきた神から、契約の証として与えられた物である。
343共感(2):03/08/24 23:12 ID:0ETb2zqf
「………」
御陵透子の能力、それは神にも等しい力である。
その力は強大であるがゆえに、透子自身の存在さえ危うくしてしまうものである。
彼女は元いた世界にいた頃、自らの力の暴走を防ぐ為に同じようなロケットを身につ
けていた。
今、手に持っているロケットは、自らの存在――自同律を安定させる効果を持つ上
に、透子の力の内2つを効率よく引き出す事ができる。
――望んだ場所へ瞬時に移動できる擬似テレポート。
――1分近く、物理的な干渉を受けない状態へ変化できる幽体化(もっとも、自分か
らは移動と喋る事以外のことはできないうえに、一度使うとしばらく発動できない
のが欠点なのだが)。
それらの効果は、神が透子に監察官としての仕事をさせるために付加した。
その一方で、これを紛失・廃棄することは契約違反を意味する。
そうなっては、彼女の願いをかなえることはできなくなる。
彼女の力では願いを叶えることができない。
透子としても決して願いを諦める事はしたくなかった。
「………まだ…終わらない…」
透子は空を見上げて呟く。
この島には決して多くはないものの、生死問わず数々の思念が飛び交っている。
通常、人との関わりを持とうとしない透子だったが、ゲームに深く関わった事から
か、運営者と参加者に対して共感や興味といえる感情を少なからず覚え始めていた。
「参加者の多くに大切な人がいた……できていた…」
例えば朽木双葉。アインの手によって失った恩人、星川翼をゲームで優勝すれば
蘇生させる事ができると教えたのは透子だ。
344共感(3):03/08/24 23:17 ID:0ETb2zqf

その結果、双葉はゲームに乗って、参加者に危害を加え始めた。
「………………」
だが、『神の声』を聞いた双葉に変化があった事には、まだ透子は気づいていない。
それ以後、双葉には干渉していないからだ。
「アズライト……まひる…」
透子はこの島で特に共感している2人の名を呟いた。

2人とも人よりも遥かに長い時間を生き。
人との共存を望み。人を守るために同族とも争い。
過去に最愛の人を失った過去を持つ。

アズライトは最愛の人・レティシアの転生体を探し続ける道を。

まひるは思い出と共に朽ち果てる道を選び、1人の少女を助けた事がきっかけで
人として生きる道を選んだ。

「アズライト………」
種族の違い。時間の長さの違いはあれど、透子も長い時を生き、
長い時間、最愛の人を想い続けているという点では同じである。

アズライトはしおりを助けるためにあえて身代わりとなって、虚像のレティシアと
鬼作の亡骸と共に果てる道を選んだ。

「まひる…彼は…」

まひるは生存本能から昔の記憶を取り戻した。
それにより最愛の人を蘇らせる可能性を得た。
だが、透子が読んだ彼の心は…

345共感(4):03/08/24 23:35 ID:oD7WJ+Es

「彼はわたし…わたし達に似ている」
天使と呼ばれる種族。その生存目的は戦闘力の高い固体を残す事。人の10倍以上の寿
命を持つのにも関わらず、100年分程度しか記憶を保持できないのもそれが理由だ
ろう。本来彼らが人と関わる時は自分に自己暗示をかけて人に化けて油断を誘うため
であり、戦闘知識以外の知識はおろか人格も必要ない。
彼らから見ればまひるの人格は意味の無いまやかしに過ぎないのかも知れない。
だが、彼は同族との戦いで命を落とすことなく、人に交じって現在まで
生き続けている。明らかにイレギュラーと呼べる存在だ。

透子の同族は元々、ある宇宙船のコンピューターに過ぎないものが突然変異を起こ
し、思推生命体となった。
やがて宇宙船は地球に降り立ち、そのショックで多くの同族――透子のパートナーも
含めて失った。
その後、生き残った彼らは人の脳に寄生し、そのほとんどが寄生した瞬間に自分達が
何者であるかも忘れてしまった。
だが、透子は違った。失った半身を想い続ける心は、寄生を、転生を繰り返しても残
り、徐々に昔の思い出を失う悲しみを抱えながらも、いつの日か最愛の人と再会でき
ると信じ続けた。その彼女はあまり人とは関わろうとはしなかった、それ以上の悲し
みを味わいたくないから。透子もまたイレギュラー的な存在といえた。

346共感(5):03/08/24 23:37 ID:oD7WJ+Es

「けれど、あの2人の選んだ道はわたしとは大分、違う」

アズライトは死を選び、まひるは願いをかなえるの為ではなく、昔と同じように守り
たいから全力を尽くすという道を選んだ。

透子は思った。
彼らが選んだ道も悪くは無かったのかも知れない。
だが、透子にとって、死んだパートナーはかけがえの無い存在であり、39人の命を
犠牲にする事が成功条件の殺人ゲームに乗った以上は、後戻りはできない。
参加者も主催者も、強い目的があって戦っている。
透子もその1人。今はまだ戦うことは無い。
透子は空を見上げるのを止めた。
自分が果たすべき役割、その為に彼女は目的地を思い浮かべ力を行使した。
数秒置いて、彼女の姿は消えていなくなったのだった。

                      ↓


   【主催者・監察官:御陵透子】
   【現在位置:????】
   【所持品:契約のロケット】
   【スタンス:ルール違反者に対する警告
         偵察。戦闘には参加しない】
   【能力制限:中距離での意志感知と読心
          瞬間移動、幽体化(連続使用は不可、ロケットの効果)
          原因は不明だが能力制限あり】
347共感(5)追記:03/08/26 01:02 ID:bVLdhZTk
  追記
【能力制限:瞬間移動はある程度の連続使用が可能
      他にも特殊能力あり】
348小休止(1):03/08/26 01:10 ID:bVLdhZTk

(二日目 PM3:19 病院)

紗霧らと合流するために病院の1階の廊下を恭也とまひるは歩いている。
「・・・・・・・・・・」
まひると智機の戦闘が行われた病院の廊下の惨状を見て、恭也は言葉を無くしてい
た。
(主催者が5人だけとは思えなかったが、まさか重火器を持った自動人形が複数いた
とはな……)
やや緊張した面持ちで、恭也はそう認識する。
(俺は運が良かったかも知れない……)
まひる達を強襲した智機と別行動をとった一体を何とか撃破したとはいえ、初めから
捕獲用の道具や重火器を使われたのなら、今の恭也に打つ手は全く無かっただろう。
(椎名智機か…ああいうのがまだいるのか…)
「恭也さん、ついたよ」
「ん?ああ……霊安室?」
「あ…ホントだ」
「ここにいるのか…?」
「間違いないって…おーい!紗霧さーん。姫さーん」
しばしの沈黙。霊安室のドアは内側から開いた。
「終わったようですね」
金属バットを右手にぶら下げて紗霧が出てきた。
349小休止(2):03/08/26 01:11 ID:bVLdhZTk
「高町さんも無事だったんですか?」
「「も」とはなんだ?「も」とは?」
「失礼。てっきり強襲を受けたものだと」
「受けたぞ。なんとか倒したけどな」
「1人でですか?」
「そうだ」
「………。まずは貴方の首輪を解除させましょう」
紗霧は霊安室のドアを開けて、ユリーシャを呼んだ。
「え…?もう出てきて大丈夫なのですか?」
「大丈夫です。彼の首輪の解除をお願いします」
「は、はい」
「首輪を解除…。解除してくれるのか君は…」
「はい……」
解除装置を恭也の首輪に押し付け、ボタンを押した。
電子音と共に恭也の首輪が外れ、地面に落ちた。
「ありがとう。俺は高町恭也。君は?」
「ユリーシャと言います……………」
(皆様…ランス様をお願いします…)
自己紹介の言葉を伝えるとユリーシャは座り込み、眠り始めた。
「お、おい!」
「疲労でまた眠りについたようですね」
ユリーシャを抱えながら紗霧が言った。
「ここで話もなんですし、場所を変えましょう」
まひると恭也は同意し、ロビーの方へ移動した。

350小休止(3):03/08/26 01:12 ID:bVLdhZTk
(二日目 PM3:25 病院)

ロビーのソファーにユリーシャが寝かされている。
恭也と紗霧は荷物をまとめながら話をしていた。
「広場さんは?」
「トイレにいきましたよ。ついでに道具の調達も頼んでます」
「そうか」
「で、高町さんは防御系の特殊能力の持ち主なんですか?」
「………。俺はそういう能力は持っていない」
「そうですか?」
「……なんでそんな事を聞くんだ?」
「貴方が倒れていた現場もそうですけど。45口径の弾丸をまともに受けても傷が比
較的浅かった貴方に興味があります」
「45口径……。そんなのを俺は、まともに喰らっていたのか…」
「現場に潰れた弾丸が落ちてましたから。高町さんの能力と思ったんです」
恭也は正直、奥義の事を紗霧には話したくなかったが、やがて口を開いた。
「俺の剣術の奥義で弾丸のいくつかを落としたんだ。あの時、半ば無意識に奥義の2
重がけをしたから、俺自身でさえ判らない何かの力が働いてたかもしれない」
「・・・・・・・・・・・」
(話から察するに高速で動ける能力みたいですね)
と、紗霧はそう結論付けた。
実のところ、紗霧は恭也の神速と同じように、高速移動できる歩法を持つ武術をよく
知っている。四次元流格闘術。紗霧の想い人であった鋼鉄番長はそれを受け継いでい
た。
「兎に角、火気類を持ったロボットが相手です。無理はしないで下さいね。貴方に
は…知佳さんを助けないといけないんですから」
「判っているさ」と、恭也は力強くそう答えた。

351小休止(4):03/08/26 01:17 ID:nbNFO0Fb
(二日目 PM3:27 病院)

まひるはトイレの便座で用を足した後、座ったまま物思いにふけっていた。
(この島から逃げ出せないんだろうか?)
(でも、昨日見たあの海は、生命の息吹が感じられなかった)
まひるは頬杖をついて嘆息した。
(この島、やっぱり変だ)
(あれだけ戦っても、あたしの姿は変化しないし)
正直言って、獣の姿には戻りたくはなかったが、戻れないなら何故、そうなのかが気
になる。まひるは自分の手を見つめて、精神を集中した。
まひるの瞳に紋様が浮かび、爪が伸び、刃物の様な光沢を放つが、比率でいって虎の
爪程度しか伸びなかった。本来ならまひるの四肢が巨大化し、爪は容易に人の首
くらいなら切りとばすほどの長さになるはずだった。
まひるが精神の集中を解くと、瞳に浮かんだ紋様は消え、爪も元の長さに戻った。
(訳わかんないや…)
まひるは便座から立ち上がると、ドアを開けて、お手洗いのところで顔を洗い始め
た。
(砲弾を避けて天井にぶつかった頭も数分間痛んだし傷の治りも遅いかもしれない)
(でも、頑張らなきゃ。タカさんと薫ちゃんに助けてもらったこの命、大切にしな
きゃ!)
まひるはそう自分に言い聞かせて、トイレを出たのだった。

数分後、まひるが病院の南の民家から保存食を持って戻り。
ユリーシャも目覚めたことから、一同はいつでも出発できるように準備をしながら
魔窟堂が戻ってくるのを待ったのだった。

                 ↓
352小休止(5):03/08/26 01:19 ID:nbNFO0Fb
【広場まひる】
【所持品:せんべい袋、服3着、干し肉、斧、救急セット、?】【現在地:病院】
【スタンス:参加者救出、争いをなるべく避ける】
【備考:身体能力↑、怪力、爪、超嗅覚・感覚、片翼、衝撃波(練習中)使用】

【月夜御名紗霧】
【所持品:対人レーダー、銃(45口径・残7×2+2)、薬品数種類
メス1本、金属バット、文房具とノート(雑貨屋で入手)、??
携帯用バズーカ(残1)】 【現在地:病院】
【スタンス:反抗者を増やし主催者へぶつける。 モノの確保】
【各地で得た道具をまだ複数所持】

【高町恭也】
【所持品:小太刀、鋼糸、アイスピック、銃(50口径・残4)、保存食】
【現在地:病院】【スタンス:主催者打倒、知佳の捜索と説得】
【備考:失血で疲労:中、右わき腹から中央まで裂傷あり。神速使用不可。
痛み止めの薬品?を服用】

【ユリ―シャ】
【所持品:ボウガン、指輪型爆弾×2、小麦粉、解除装置、白チョーク1箱】
【現在地:病院】【スタンス:現時点では病院組に協力。後はランス次第】
353名無しさん@初回限定:03/08/26 04:56 ID:AkkzUtz4
age
354名無しさん@初回限定:03/08/28 05:16 ID:M/Wydkvs
保守
355名無しさん@初回限定:03/08/29 02:09 ID:psNcOzsV
小休止(1)訂正
金属バット→銃

小休止(5)訂正

【広場まひる】
【所持品:せんべい袋、服3着、干し肉、斧、救急セット】【現在地:病院】
【スタンス:参加者救出、争いをなるべく避ける】
【備考:身体能力↑、怪力、爪、超嗅覚・感覚、片翼、衝撃波(練習中)使用】

【月夜御名紗霧】
【所持品:対人レーダー、銃(45口径・残7×2+2)、薬品数種類
スペツナズナイフ、金属バット、文房具とノート(雑貨屋で入手)、智機の残骸
の一部、携帯用バズーカ(残1)】 【現在地:病院】
【スタンス:反抗者を増やし主催者へぶつける。 モノの確保】
【各地で得た道具をまだ複数所持】

【高町恭也】
【所持品:小太刀、鋼糸、アイスピック、銃(50口径・残4)、保存食】
【現在地:病院】【スタンス:主催者打倒、知佳の捜索と説得】
【備考:失血で疲労:中、右わき腹から中央まで裂傷あり。神速使用不可。
痛み止めの薬品?を服用】

【ユリ―シャ】
【所持品:ボウガン、、メス1本、指輪型爆弾×2、小麦粉、解除装置、
白チョーク1箱】
【現在地:病院】【スタンス:現時点では病院組に協力。後はランス次第】
356名無しさん@初回限定:03/08/31 01:06 ID:Kt+cTGtk
保守
357名無しさん@初回限定:03/09/02 04:57 ID:08PaxRAp
保守
(第二日目 PM3:35)

「さて、これからの事を考えないといけませんね」
ユリーシャも起き、病院のロビーでやっとのこさ休息を得る一同。
施設内にあったコーヒーを飲んだりしながら、ソファーに座り一息をつく一同。
「ねぇ、狭霧さん、このまま、病院にいて大丈夫なのかな?」
「その心配は、少ないと考えた方がいいでしょうね」
「どうしてですか?」
余裕を見せる狭霧に対し、不安げなまひる。
「おそらく、先ほどの襲撃は、運営者側にとっても相当な力を入れたものだったに違いありません。
それを無事防ぎ…… いえ、全て撃破したのですから、相手側もかなり損失を受けたはずです」
「ふむふむ……」
「ですので、少なくとも、今すぐに追撃が来る可能性は薄いでしょうね。
尤もと、次に狙われる可能性も高いでしょうけどね……」
「…………………」
狭霧の冷酷な分析で、固まる一同。
「当然でしょう? あの襲撃は、おそらく主力だと思いますよ。
それを壊滅させたわけですから、しばらくは、動きが止まったとしても
次は、より手札を整えて、作戦を練ってくるはずです」
あわあわと動くまひるに、ずしーんと沈んだユリーシャ。
「ですから、今を休むんですよ。 そして、体力を回復させて、私たちも準備を整え、次に備えるんです」
対する恭也は、言われなくても解っているかのように
目を瞑って横になることで、少しでも疲れを取ろうとしている。
その心に知佳への思いを秘めながら……
「魔窟堂さん、まだですかね………」
ぽつりとまひるが言った。
「一時間以内に戻ってくるように言ったんですけどね。
明らかに5分も時間オーバーをしています。
これは、帰ってきたらきついお仕置きが必要です。
おかげで私たちは……」
今までの疲労と鬱憤ぶちまけるかのように
とぶつくさと魔窟堂への愚痴をたれ始める狭霧とそれを止めるようになだめるまひる。
一方、主(?)への身を案じるユリーシャ。
「ランス様…………」
「……ッ」
ふいにユリーシャが漏らした言葉に、今まで横になっていた恭也がピクッと反応した。
「あら、高町さん、知っているんですか?」
その様子を狭霧が見逃すはずがない。
すかさず恭也へと問い掛ける。
「ええ、一度、灯台の方へ行った時に出あった事が……」
「そうなんですか…… 丁度、私と別行動をしていた時ですね」
恭也は、平静を装っているものの、狭霧には、何かが引っかかるように思えた。
「へぇ、恭也さんは、会った事があるんですか。
どんな感じの人なんですか?」
かたや新しい仲間が加わるのを純粋に嬉しがるまひる。
「強い人だよ…… 単純に腕が強いってだけじゃない、戦闘経験が豊富な人なんだと思う。
潜ってきた修羅場の数が根本的に違いそうだったよ……」
(多分、今の俺じゃ勝てない可能性の方が高いな……)
「それは、頼もしい方なんでしょうね」
さらっと流した狭霧だが、内面では、既に分析を始めている。
(人格とかも突っ込みたい所ですが、グレーゾーンですね。
恐らく、何かしら問題のある人なのでしょう。
腕の強さを引き合いに出したと言う事は、最悪、交戦した事があるか、目の前で戦闘を見た。
共闘と言うのは、高町さんの反応から見て可能性は少ないでしょうね)
狭霧の予想は、ほぼ当っていた。
実際、傍からすれば、このバトロワ上、最もどうでもいい事でランスと恭也は、戦闘をし
恭也は、ランスの戦闘経験の高さに破れる所だった。
また恭也も考えを巡らせている。
(確かに強い、彼が味方になってくれれば、打倒主催者達にも手が届く可能性は高くなる。
けど、問題は、彼の人格だなぁ…………
<女は守って俺の物にする、男は俺の言う事聞かない奴は死ね>
解りやすいけど、無茶苦茶な人だ。
まさに諸刃の剣のような人だし、実際に俺は、一度戦闘しちゃってるのが……
どうするべきか、言った方がいいのかなぁ…………)
うーんうーんと悩みこんでしまう恭也。
だが、その時、期待の老星は、やっとのこさ帰って来たのだった。
彼が帰還した時に出迎えたものは、荒れすさんだ病院の光景であった。
見た目にもまだそれが新しいものである事は解る。
「狭霧殿ぉぉぉぉぉぉぉ!!!! まひる殿ぉぉぉぉぉ!!! 恭也殿ぉぉぉぉぉ!!!!」
やかましいと言うくらいの大声を上げながら、病院の中へと魔窟堂は入り叫んだ。
その叫びは、ロビーにも十分と響き渡る。

周りを見渡すが中々、人の気配がない。
もしかしたら、まだ刺客がいるかもしれないという危険を忘れ彼は叫びつづけた。
「………もしや………… すまぬ、すまぬ、わしが遅れたばかりにぃぃぃぃぃ!!!!
この仇は、絶対に取ってやるぞ!!! 必ずしや主催者たちを……ごふっ!!」
半崩壊した病院の入り口で叫ぶ魔窟堂の後頭部へと狭霧の飛び膝蹴りが直撃した。
腕に抱えられていたランスは地面へ転げ落ちるが、幸い、まだ意識は途絶えていたようで目覚めはしなかった。
「ええい、このボケ老人が!!
勝手に殺さないで下さい、私たちはみんな無事生きてますよ」
「ぐおおおおおおおおおおお…………」
一方、後頭部へ手痛い一撃を食らった魔窟堂は、痛みに悶えていた。
「全く、時間に遅れるわ、早とちりするわ、そろそろボケが進行してきたようですね」
「あの狭霧さん、ちょっとやりすぎじゃ…………」
狭霧に続くようにして、まひるが恭也を支えながら、ユリーシャはその後から続いて出てきた。
「ショック療法です、これでも足りないくらいです」
「ぉおおおおぉぉおお…… 狭霧殿に、まひる殿、おお、恭也殿も、そしてお嬢ちゃんも無事だったのか」
魔窟堂は、痛みを後頭部に残しながらも今までとは、打って変わった涙を流しだす。
「ランス様!?」
まひると狭霧と魔窟堂が漫才を繰り広げてる中、ユリーシャは、そこに倒れているランスの元へと駆け寄った。
また恭也は、その光景をいぶかしげに見ていた。
「おお、意識を失っとるだけじゃ。 疲労もたまっとるようじゃし、しばらくすれば目を覚ますじゃろう」
「では、救出は、成功したんですね」
「んむ………… その交戦してた相手の事なんじゃが……」

そうして、彼は、ランスが戦っていた相手の事を皆に説明し始めた。

「4〜5mもする巨体……」
「10本以上の腕だか触手だか……」
実際のケイブリスを見ているユリーシャは、その姿を思い出し、身震いするが
言葉として聞いた三人は、中々イメージが上手く思い浮かばず
とにかく強大な化け物というイメージが先行して強く植え付けられる。
「でも、そのランスさんは、その化け物と渡りあってたんですよね?」
狭霧が問い掛けた。
「うむ、見事なものじゃったぞ。
最後の衝突しかみれんかったが、まさに神技じゃったよ。
ところで、この病院の荒れ果てぶりはどうしたんじゃ?」
また魔窟堂も狭霧たちに何があったのかを尋ね
四人は、智機の襲来とそれを撃退した事について語り始めた。
363束の間のパーティーミッション(6):03/09/05 21:42 ID:snExNdYX
「…………わしが遅れたばかりにすまん」
「そうで」
「いえいえ、魔窟堂さんは、こうやって救出してくれましたし
みんな無事だし、万事OKですよ。
それよりこれからの事について考えましょう」
「言うようになりましたね、まひるさん……」
魔窟堂を攻め立てようとした狭霧の言葉を遮って、まひるがフォローを入れる。
「ふむ…… どうする? 狭霧殿」
そこは、やはり参謀として頼りになる狭霧へと魔窟堂は、話を振った。
「そうですね…… 私は、病院から動いた方がいいと思いますね。
一箇所に留まりつづけて、主催者たちへの応対をするのは得策とは思えません」
「ところで、狭霧さん、何をしているんですか?」
ランスの身体を先ほどからぺたぺたと触りながら、話す狭霧に対して
ユリーシャが嫉妬からくる不機嫌そうな声で尋ねた。
「何か役立つものを持ってないか探してるんですよ。
気絶してるのに申し訳ないですけれど、事前に確保しておけばいざという時使えますからね。
大丈夫ですよ、貴女の考えているような事は、私は一切思ってませんから」
「す、すみません……」
そう彼女の考えを見透かした返事に、ユリーシャは、少し頬を赤くしながら、謝ってしまうのだった。
決心を固めたとはいえ、心の中は、まだまだ複雑……
「……古ぼけた鍵くらいしかありませんね。
もしかしたら、島の施設に使えるかもしれませんし、失敬させて貰いましょう」
「で、話を戻すが、他の皆はどうするかの?
わしもこれ以上、病院へ留まり続けるのは、いいとは思えん。
向こうが止まっている今のうちに、どこかへ移動した方がいいと思うんじゃが……」
「病院へ来る前にいた西の森の小屋はどうでしょうか?」
そこで、まひるが提案した。
「あそこですか……… いいかもしれませんね。
先ほど戦闘が行なわれた東の森と病院付近は持っての他、そうすると西から北西にかけては、今の所手薄と見るべきでしょうか……」
「ふぅむ、待ち構えられている可能性もあるしのう……」
「どちらにせよ、移動するなら今しかありませんね」
「よし、解った。 まずは、西の小屋へ向かおう。
そして、ランス殿のがまだ目覚めようであれば、そこで待機。
目覚めた後は、作戦を練り、その後、北進するか、東へ舞い戻るか決めればいいじゃろう」
「他の皆さんは、異論はあります?」
「私は、構いません。 ランス様の行く所について行きます」
「あたしもそれでOKです」
ぱっと決めた二人に対して、恭也は、再び悩んでいた。
「恭也さんは?」
「俺もそれでいいと思います……」
(全ては、目覚めてからにしよう。 今はイザコザを起こすべき時じゃない……
尤も、彼が起こす可能性は高いけど……)
「では、全員一致じゃな、まずは、西の小屋へと戻ろう。
っと、その前に持っていけるだけの使用頻度の高い医療用具と薬品を持ってくかの」
「それでしたら、既に私たちで確保は、できてますよ」
そう言うとサッと何処へ隠し持っていたのか薬品とメスを狭霧は、出し始めた。
「さ、流石、狭霧殿じゃの…… よし、では、出発するとするかのう」

【広場まひる】
【所持品:せんべい袋、服3着、干し肉、斧、救急セット】【現在地:西の小屋へ移動中】
【スタンス:参加者救出、争いをなるべく避ける】
【備考:身体能力↑、怪力、爪、超嗅覚・感覚、片翼、衝撃波(練習中)使用】

【月夜御名紗霧】
【所持品:対人レーダー、銃(45口径・残7×2+2)、薬品数種類
スペツナズナイフ、金属バット、文房具とノート(雑貨屋で入手)、智機の残骸
の一部、携帯用バズーカ(残1) 医療器具(メス・ピンセット)】 【現在地:同上】
【スタンス:反抗者を増やし主催者へぶつける。 モノの確保】
【各地で得た道具をまだ複数所持】

【高町恭也】
【所持品:小太刀、鋼糸、アイスピック、銃(50口径・残4)、保存食】
【現在地:同上】【スタンス:主催者打倒、知佳の捜索と説得】
【備考:失血で疲労:中、右わき腹から中央まで裂傷あり。神速使用不可。
痛み止めの薬品?を服用】

【ユリ―シャ】
【所持品:ボウガン、、メス1本、指輪型爆弾×2、小麦粉、解除装置、
白チョーク1箱】
【現在地:同上】【スタンス:現時点では病院組に協力。後はランス次第】

【魔窟堂野武彦】
【現在地:同上】
【スタンス:運営者殲滅】
【所持品:レーザーガン、軍用オイルライター、白チョーク数本
ヘッドフォンステレオ、マジカルピュアソング】

【ランス】
【現在地:同上】
【スタンス:打倒主催者・女の子を守る】
【備考:気絶中・肋骨2〜3本にヒビ・鎧破損】
368名無しさん@初回限定:03/09/08 07:01 ID:GroX18JC
保守
369名無しさん@初回限定:03/09/10 08:05 ID:ip6pByAp
保守っとく
370名無しさん@初回限定:03/09/13 10:29 ID:e/Nz8teX
保守
371名無しさん@初回限定:03/09/15 19:44 ID:PRmhPfbt
保守
372名無しさん@初回限定:03/09/17 18:10 ID:sK0/Wqr2
ほしゅ
373名無しさん@初回限定:03/09/20 17:35 ID:45Df+PII
ほしゅ
374脅威(1):03/09/23 19:18 ID:qyE8KNyf

(二日目 PM3:15 本拠地・管制室)

島の地下道を数十もの人影が足早に歩く。
地上の学校がある位置へ。
殺人ゲームの管理者、椎名智機のレプリカ達がそれぞれ武器を持って目的地へ
向かう。病院にいる反乱分子に懲罰を与えるべく。
そのころ椎名智機の本体は主催者達の本拠地の管制室にいた。
病院の外壁にカモフラージュした格納庫に潜伏していた先発隊をすべて参加者に
返り討ちにされて数分経つ。
智機は鋼鉄の椅子に座り、無表情のままうつむいていた。


『……広場さん…か…』
『あっ、恭也さん!』
『さっきの爆発は…?それより他のみんなは…?』
『ロボット達が攻めてきたけど、なんとかやっつけたんで、みんな大丈夫だよ。魔窟
堂さんは出かけちゃってるけど』
『そうか…』
『恭也さんは大丈夫?』
『大丈夫だ。主催側の刺客に襲われたけど、何とか退けた』
『病み上がりなのに…ゴメン…』
『気にしないでくれ…俺もみんなと離れるべきじゃなかったんだ』
『恭也さんがぶ……』
375脅威(2):03/09/23 19:21 ID:qyE8KNyf

高町恭也(No8)の首輪を通じて、彼と広場まひる(No38)の会話を盗聴した
智機は言った。
「まさか…1人も捕獲も…始末も…できないまま」
智機は先ほどまで病院内を(レプリカ6体の『眼』を通じて)映し出していた、
今は何も映し出されていないモニターを見る。
「解除装置の破壊はおろか…奴等に武器も手に与えてしまい…」
そして、両手を握り締める。
「ノーダメージで先発隊を全滅させるとは……」
撃破されたのが反乱分子を鎮圧するための戦力の本体でないにしろ、先ほどの
戦いの結果に智機は屈辱を味わっていたのだった。
「広場まひると、月夜御名紗霧(No36)…」
モニターに今、病院内にいる参加者の顔が映し出される。
「予想以上の戦闘力があったとはいえ、確実に広場1人を始末できるはずだった。
それができなかったのは広場が急に戦法を変えたからだ。間違いなく紗霧が
アドバイスをしたに違いない」
智機の口元に自嘲めいた笑みが浮かぶ。
「さすがは神鬼軍師といった所か…」と、智機は紗霧のふたつ名を口にした。
「素敵医師…いや、長谷川も余計な事をしてくれたものだ…」
アイン(No23)に執着している元主催者の素敵医師こと長谷川均は昨夜、死にかけ
の遺作を手駒にすべく無断で薬物を投与して復活させていた。その後、遺作は
竜神社にいた紗霧を襲撃した。紗霧が単独行動をやめたのはそれが原因と見ていた。
「…………。まあいい…まだこちらには充分手札がある。魔窟堂か広場、どちらか1人を始末で
きれば我々の勝利は揺ぎ無いのだからな」
376脅威(3):03/09/23 19:23 ID:qyE8KNyf

智機は参加者達のデーター検索し始める。
(参加者どもの中には、戦闘力に限定してもまだ全力を出し切っていないのがいる。
魔窟堂、広場、知佳、双葉。広場と知佳は盗聴記録から、我々の知りえない力を
行使できるだろうな。双葉の陰陽術も未知数。特に魔窟堂は1日目に琢磨呂に
襲撃を受けて以降、戦闘に参加していない。加速装置以外にも別の力を持って
いることも否定できない)
「……しかし、魔窟堂……奴はいったい何なのだ…?」
魔窟堂のデーターを読み取りながら、疲れたような声色で智機は呟く。
彼の経歴はは智機から見て、非常識極まりなく、理解したくないシロモノだった。
「兎に角、あの2人だ、力を出し切る前に早急に排除しなければならない」
その一言を発した直後、モニターに映し出されていた恭也の首輪感知反応が消えた。
「高町の首輪も解除されたか…。だが、魔窟堂が病院に帰還するのにはまだ時間がか
かるはず。奴等が病院から遠くに離脱する前に包囲して叩く!」

377脅威(4):03/09/23 19:24 ID:qyE8KNyf
(二日目 PM3:24 学校地下)

椎名智機と寸分違わぬ外見のレプリカが38体。
赤いコートと細身のボディをぴったりと包むデザインの金属鎧を着た智機が3体。
計41体の智機が、横幅の広い連絡通路の中継点に集結していた。
ちょっとしたホールくらいの広さの地下室には、更に先に進む通路と地上の学校へと
続く上がり口と、地下室の4隅に様々な機材が箱と共に置かれていた。
智機達は上がり口から学校へと入っていった。

378脅威(5):03/09/23 19:27 ID:qyE8KNyf

(二日目PM3:27 学校内2階)

学校内のとある教室内に1人の少女が外側の窓を開けて、そこに布を敷いて腰掛けて
いる。
幼い風貌のの亜麻色の髪の少女――仁村知佳(No40)である。
普段の彼女を知っている人が今の彼女を見たら、大きな違和感を感じるかもしれな
い。やや無機質さを感じさせる瞳で物憂げに遠くを見つめ、彼女の身体からは虹色の
オーラの様なものがぼんやりと発光している。
知佳は何気なしに自らの左耳たぶに触れる。
いつもつけているピアスは既に砕けて無く、代わりに穴の跡が残っていた。
自らの超能力をコントロールする為にあったピアスは、恭也が銃弾に倒れた際、解放
した力に耐え切れず砕けてしまっていた。
知佳は一時間ほど前に学校を訪れ、校舎の中を歩き回っていた。
充分見回りしたからだろうか、今はこの教室で休んでいる。
彼女は机も椅子も何も置かれていない教室を一瞥する。
「………」
知佳の瞳が怪訝そうな色を宿す。
知佳が見てきた校舎は構造自体は前のままだったが、簡易的な造りをしていた。
実際には二室だけ地下通路への出入り口と、定時放送用のマイクを繋げるコンセント
があったが、そこを発見するにはいたっていない。
それもその筈、参加者達が集まっていた校舎は6時間ほど前に、ガス爆発によって崩
壊している。今の校舎はしおり(No28)が一度立ち去った後に、智機のレプリカ達が
一時間半位の恐るべき早さで、新しく建てた校舎だからだ。ほとんどプレハブだが。
379脅威(6):03/09/23 19:29 ID:qyE8KNyf

「……」
知佳は小さくため息をつくと、やがて窓枠から降りて、教室を出た。
廊下を歩き、階段を降りようとする。
「……!」
(何かが…危険な何かが…下にいる)
知佳は下の階へと続く階段を見て、身の危険を感じた。
殺気と悪意。知佳が感じたのはそれだった。
だが、それは知佳が今まで感じ取ったものとは、多少異なっていた。
無機質で底の知れない殺意。知佳は深呼吸をする。
それに伴い彼女の背に薄いオーロラの様なものが浮かび上がる。
知佳は階段をただ見つめ続けていたが、一度目を瞑った後、睨みつける様に階段を凝
視すると、意を決したように階段を足早に降りていった。


380脅威(7):03/09/23 19:31 ID:qyE8KNyf

(二日目 PM3:29 学校内1階)

校舎内のとある大部屋。
突然、床が割れて自動ドアのように左右に開き始める。
空洞の中にはそのまま部屋のドアへと続くエスカレーターがあり、そこから数体の智
機が現れる。
彼女等は注意深く部屋の中を観察し、ドアを開けて教室を出て行った。

「!」
4体の智機が校舎を出るべく走る。
先頭にいた智機のソナーは2階から階段を降りる何者かの足音をキャッチした。
(侵入者だと!)
智機達は銃を構えると階段に向かって走る。
(レーダーの反応が無い。誰だ。アインか?透子か?)
その時、智機は階段付近に高エネルギーの発生を感知した。
(まさか…奴か!?)
智機達は走るのを止め、注意深く移動してその何者かと遭遇した。
「・・・・・・・・・!」
「仁村知佳……!」
互いに驚きの表情をしながら、1人と4体は対峙する。
「…同じ顔が4つ…」
(やはりな…道理でやすやすと進入できたわけだ…。クソッ、こんな時に透子は何を
している)
「・・・・・・・・?」
「!!」
(チッ…)
こちらをじっと見つめる知佳に気づき、智機の本体は慌ててレプリカとのAIとの
シンクロを何割かカットした。レプリカの智機から表情が消えた。
381脅威(8):03/09/23 19:32 ID:qyE8KNyf

(奴は読心能力が使える。我々の情報が漏れる所だった)
「…………?あなたは主催者の人…」
階段を降りながら知佳が問う。
(フン…)
代わりに智機は音声データーをレプリカに送って喋らせる。
「私の名は椎名智機。仁村知佳、早急にゲームに戻れ」
「…………」
「拒否するなら、君にとって最悪の結末が訪れる」
「……今度は…今度は…」
「………」
ダンッ、ダンッ、ダダンッ!
3体の智機は後ろへ数歩下がり、残りの1体はいきなり銃弾を知佳に向けて続けて発
射した。
「…わたしが……」
何発かの弾丸は知佳には音を立てて命中したかに見えた。が、彼女の発する虹色の
オーラに阻まれていた。歪んだ弾丸が床に落ちる。
その事にひるむことなくダッシュした智機が知佳の面前に迫る。
智機は右拳を知佳の顔面に振り下ろす。それもオーラに阻まれた。
突如、智機の右拳から紫電が放出される。
電気は知佳のオーラを侵食するかのように打ち消し始める。
「身を…」
知佳の身体から発せられるオーラが大きく膨れ上がっていく。
それに伴い、智機はかつてカモミールを気絶させたのよりも遥かに強力な電撃を発し
て対抗する。
線香花火のような音を立てながら、智機の紫電と知佳の虹色のオーラは互いに相殺す
る。
「張らなきゃっ!」
その言葉とともに知佳のオーラは紫電を飲み込み、「ドンッ」という音とともに智機
を転倒させた。
382脅威(9):03/09/23 19:37 ID:DhC78XYA

3体の智機がマシンガンの銃口を知佳へ向ける。
突然、倒れてた智機の右手が割れた。
(……?)
割れた右手には虹色の電気がはじけていた。それを見た知佳は二歩踏み出す。
突如、智機の右手から虹色の光が放出し始める。
(何ッ!?)
そして、割れた右腕から衝撃波が発生し、それはそのまま頭部をも破壊した。
知佳はそれを一瞥すると、今度は銃を構えていた智機に目を移した。
引き金を引くより早く、知佳は右手をかざし、彼女の周囲に発生した野球のボールほ
どの形と大きさの衝撃波を銃に向けて放った。
智機達のマシンガンは次々と爆発を起こし、智機達のボディにダメージを与える。
それに怯まず3体はそれぞれ放電しながら、知佳に突っこんでいく。
知佳はため息をつくと、再び発生させた球体の衝撃波を智機達の胴体に当てる。
3体の智機は紫電を身体中から発しながら爆発した。
爆風が晴れた後、知佳の背には虹色の蝶の羽に似たものが生えていた。
(予想以上のデーターだな。だが、これは防げまい)
「!」
いつのまにか知佳の周りには更に数多くの智機が集まっていた。
全部で15体いる智機は両手の掌を上に向けて紫電を発生させる。
それぞれの両手に発生した紫電は智機の頭の2本のアンテナからも発生し、円状のプ
ラズマへと変化した。一体に付き4つの電撃球。
15体の智機の周辺に電磁波が発生し、吹き荒れ。
それに萎縮したのか知佳は後ろ向きで階段をじりじりと上り始める。
智機達は横一列に並び、放電している手のひらを前に突き出す。
それを見た知佳は息を飲んだかに見えた。
知佳は大きく息を吐くと、虹色の羽を大きく広げた。
383脅威(10):03/09/23 19:40 ID:DhC78XYA

知佳の羽はキィィィィィィィィーーンッッと空気を震わせ、白、青、赤、紫、
オレンジ、緑、黄と色を変えながら輝き始める。
知佳の面前に白く輝く光球が形作られる。
智機達の膨大な量の直線状の雷撃が放たれるより一瞬早く、それは放たれた。

放電していた智機と光弾がぶつかり合い。
発生した高エネルギーは智機15体を轟音とともに粉砕した。


(二日目 PM3:36 本拠地・管制室)

(38体中、19体破壊。予想以上の力だな)
歯軋りしながら本体の智機は心中で呟いた。
そのまま追撃するのは危険と判断した智機は切り札の1つを使う事にした。
足下にある取っ手を引き、ノートパソコンのようなものを取り出した。
(長谷川が残した変異性遺伝子障害のデーター。仁村知佳の能力の高さはその範疇を
大きく超えている。どういうことだ?)
智機はノートパソコンを開き、懐からコインの様な物を取り出すと、硬貨投入口の様
なスリットにコインを投入する。
ノートパソコンには赤く『タイプ壱』と書かれいた。
(何にせよ、もう通常のレプリカ体では手に負える相手ではない。強化体を使用す
る)
384脅威(11):03/09/23 19:42 ID:DhC78XYA

(二日目 PM3:38 学校二階)

二階のとある教室。その教室の窓際の壁に知佳はへたり込んでいた。
先ほどまで乱れていた呼吸は少し休んだからか、整い始めている。
彼女の背にはまだ、虹色の蝶の羽の様なものが伸び縮みしている。
彼女は天井を見上げて、唾を飲み込むと立ち上がり教室を出て行こうとした。
突然ドアが開き、赤いコートを着た智機が入って来た。
その姿を知佳が認めた直後、猛スピードで彼女の前に迫ってきた。
「!」
知佳は慌ててバリアを張って打撃をガードする。
バックステップで知佳から離れる智機に知佳は念動波を放った。
難なくそれを右に避ける智機。
再び迫ってくる智機に対し、知佳は4発の念動波を放つ。
今度は4発とも命中し、智機は後ろに吹っ飛んだ。と思いきや左手を床につき態勢を

え立ち上がる。その智機の顔は焼け爛れていて、否、別の顔を覗かせていた。
「え…?」
智機は顔を手にやると焼け爛れていた『顔』をはがした。
新しく現れた顔は、2本のアンテナと眼があった部分には青いゴーグル。鼻や口は無
く、西洋の兜に近いのっぺりとした赤い顔をしていた。
385脅威(12):03/09/23 19:43 ID:DhC78XYA

念動波が命中した顔とボディには傷1つ無かった。
(この程度なら避けるまでもない)
口元に笑みを浮かべながら智機は心中で呟く。
知佳は数歩後ろに下がると、さっきよりも大きな念動波を二発放った。
赤い智機の両かかとから車輪がカシャンッという音ともにせり出る。
車輪の方向を右に向けると、正面を向いたままで智機は念動波をかわした。
「!?」
虚をつかれて隙を見せた知佳を確認し赤い智機は迫る。
知佳はバリアを展開する。
それに構わず突っこむ智機。かすかだが金属を引っかくような音がし始める。
智機の右手首から60センチ程度の刃が生えて、それを振り落とす。
バリアに阻まれ、刃が止まる。それはわずかな抵抗だった。
そして、床に赤い血が数滴零れ落ちた。
386脅威(13):03/09/23 19:44 ID:DhC78XYA

刃はバリアを、知佳の左手を浅く切り裂いていた。
「!!!」
驚愕の表情で斬られた左手を見つめる知佳。
再び、斬撃。知佳はまたバリアをはって防ごうとする。
(フン…もうお前の能力は把握済みだ)
今度は抵抗も無くバリアを知佳の前髪数本ごと容易く切り裂く。
知佳は転倒し、転がるように必死に後ろに下がった。
智機は左手首からも刃を生やすと、2本の刃を震わせながらゆっくりと知佳へと迫っ
た。
「え……?」
双刃から発せられる振動音を聞きながら、知佳は後ろを見て気づいた。
自分の羽がボロボロになっている事に。
「ど、どうして…なのっ!?」
こわばった声を上げて、知佳は背を向け、窓の外へと駆け出した。
(学校の外に逃げる気か?)
少し反応が遅れたが、智機はそれを追う。
赤い智機の刃が届くより一瞬早く、開いた窓から知佳は飛び降り、着地する寸前に飛
行能力を発動し軟着陸した。
赤い智機も飛び降りてそれを追おうとするが、知佳が校舎内に再び入っていくのを見
て動きを止めた。
智機は刃を伸ばして、それを床に突き立てると刃から振動波を発生させ、床に穴を開
けてそこから下に下りていった。

387脅威(14):03/09/23 19:48 ID:eXPEKvYf

知佳は背に生えている羽を見る。蝶のような形状の羽。
能力を解放した時にこういう形になってしまったが、さっきの様にボロボロにはなっ
ていなかった。少し安心したのか、安堵のため息をつく知佳。
直後、背後の方で天井が崩れ、何かが降り立った音がした。
「!」
知佳は後ろを向いて赤い智機の姿を認めて、慌てて渾身の念動波を放つ。
その時、管制室の智機のノートパソコンのモニターに赤い光点が映し出される、智機
は慌てることなくそれを見る。
それに答えるかのように校舎にいる赤い智機は悠々と念動波をかわす。
(視覚で判別できるなら避けられないスピードではないからな)
嘲笑する管制室の智機と、悠然と知佳を見つめる赤い智機。
知佳は焦りの色を見せて後ろに下がる。そして再び羽を広げ7色に輝かせ始める。
(無駄だ)
赤い智機の背後に現れた白衣の…レプリカの智機が現れ銃を構えた。
「……っ!」
知佳は慌ててバリアを張って、発射された銃弾をガードする。
赤い智機が刃を振動させ知佳に向かって歩き始める。
知佳はバリアを張ったままじりじりと後ろに下がる。背後に壁。
壁際に追い詰められた知佳は、目を瞑り飛行して逃れようとする。
が、身体が浮かび上がらなかった。羽がさっきと同じようにボロボロになっていた。
388脅威(15):03/09/23 19:50 ID:eXPEKvYf

(フフフ…)
「はあ…はあ…はあ…」
荒い息を吐いた知佳は歯を食いしばると両掌を壁につけ、力を解放した。
彼女の背にある壁を中心にオーラが膨れ上がる。校舎内の所々に衝撃が走る。
巻き添えを食らわないようにその場を離れるレプリカに対し、赤い智機は歩みを止め
ない。発生した衝撃波は智機に向かうが、そのこと如くが霧散する。
それに構わず力を放出する。虹色の光は膨れ上がり、校舎内に風が吹き荒れる。
(悪あがきか?)
歩みを一旦止める赤い智機。その周辺だけは虹色の光が当たっていない。
刃を構え、斬りつけるべく知佳に狙いを定めた。
その時、天井の一部が崩れ目前に瓦礫が落下する。
(何だと!?)
それを引き金にあちこちの壁に亀裂が入り、床は腐食してはがれ、あちこちの天井が
崩れてゆく。
(こ、これを狙っていたのか!また校舎を倒壊させるわけにはいかない!)
駆ける赤い智機。だが、知佳の面前でまたも天井が崩れ、阻まれる。
(クッ…おのれっ!)
やむを得ず管制室の智機は赤い智機を学校を脱出させる。
脱出には成功したものの、新校舎は大きな音を立てて崩れ去った。


389脅威(16):03/09/23 19:52 ID:eXPEKvYf

(二日目 PM3:45 本拠地・管制室)

「劣化している…。琢磨呂が死ぬ前に叫んでいたのはこの事だったか…」
赤い智機を通じて、校舎のコンクリート片を分析していた本体の智機はそう言った。
瓦礫の山と化した新校舎。赤い智機は知佳が最後に立っていた場所の前にいる。
(また、逃げられるとはな…)
知佳がいたその場所の壁はそのまま残っていた。
(力を解放した直後に、バリアをはり、テレポートで避難したか)
管制室の智機は頭を抱えながらそう結論付けた。
(埋まったレプリカ達のダメージは軽微だが。被害は大きい)
急ごしらえだったとはいえ、放送拠点のひとつである新校舎が再び破壊され、19体
ものレプリカを失い、追い詰めたのにも関わらず知佳を逃がしてしまった。
強化体の能力、突然校舎内に現れたレプリカ達。それらの情報が知佳に知られたのも
痛い。なによりも校舎内で足止めを喰らって時間を浪費したのが悔しかった。
「ハハハ…ハハ…参加者残り10名。内7名の首輪が解除。内1名は場所の特定及
び、盗聴は不可。内2名は装着中だが、反抗の可能性あり…か…」
智機の口から乾いた笑いが漏れる。
「ハハ…ゲームは崩壊したのも同然だな…」
今、智機は連敗を喫した事で言い知れない屈辱を味わっていた。
他の主催者を見下し、失敗を責め続けていた彼女にとって、連敗という事実は認めが
たいものだった。
「レプリカ達を撤退させずに先発隊と合流させれば良かったか?あの時、広場を最大
電圧でし止めるべきだったか?島中に偵察隊を派遣すべきだったか?あの時、強化体
でしおりの首を落として……ブツブツブツ……」
智機はうつろな目で延々と愚痴り続けた。
390脅威(17):03/09/23 19:54 ID:eXPEKvYf

(二日目 PM3:49 本拠地・管制室)

喋るだけ喋って落ち着いたのか、智機は次に取るべき対策を思索していた。
(広場達とランス(No2)救出に向かったであろう魔窟堂の6人は、しばらく様子見
だな)
(ランスとユリーシャ(No1)…この2人はこれまでの行動からして、魔窟堂達に
とって爆弾になりかねない存在だ。首輪解除後、数時間の動きは不明だが軋轢を生み
出せればそこに付け入る隙がある)
かといってそのまま放置する智機ではなくレプリカ数体を既に探索へと向かわせてい
る。
(仁村知佳については再び居場所を確認できない限りは放置やむなしだな)
強化体の初戦闘は智機にとって満足のいく性能を発揮した。
その運動性の高さゆえに、智機本体が直に操れないという欠点はあるが。
(私の願いをかなえるにはゲームを成功させねばならない)
「邪魔者を始末し、ゲームに乗らざるを得ない2人以上の参加者を残し、闘わせる」
(それがゲームを成功させるベストの選択だ)
「候補者はユリーシャ、紗霧、しおり、双葉、アイン」
(その中から最低2人を残し、それ以外は始末する)
「いずれにせよ東の森にいる連中に動きが無ければ、こちらも動きにくいがな…」
智機の口元に皮肉めいた笑みが浮かぶ。
智機はモニターを見つめると、そのモニターにレプリカ達のデーターが映し出され
た。
391脅威(18):03/09/23 19:59 ID:eXPEKvYf
ノーマル型。高機動型。強化体。
3種類の智機の戦闘記録を見て智機の本体は呟く。
「ノーマル型には戦闘プログラムとこれまでの戦闘記録をインプットしてたのだが…
先発隊のように能力の向上は望めなかったか…」
雷撃を放つのが遅かったために知佳に破壊されてしまった15体のレプリカを考え
た。
ノーマル型はしおりと知佳によって容易く破壊されていった、最も能力が低く、それ
ゆえに最も数多く存在するレプリカ。
高機動型は病院を襲撃し、まひる達に返り討ちにあった、智機本体と同等の戦闘力を
持った6体のレプリカ。
強化体は神から報酬の前払いで手渡された、3種類の未知なる金属を素材に造り出さ
れた自動操縦型の智機の最新機である。
「戦闘経験か…私は元来、純戦闘用に生み出されたわけではないが、立て続けに不覚
を取るとなると自分の学習不足を自覚せざるを得ないな」
そう言って自嘲の笑みを浮かべる。モニターの画面が切り替わり、そこに1人の少女
が映し出される。しおりの手で破壊された参加者の1人、ロボットなみ。
彼女の性能はたとえ住む世界が異なってい ることを前提に考えても
智機が感嘆の声を上げてしまうほどの高性能だった。
ボディの性能もそうだが、智機が注目したのはその戦闘経験の豊富さ。
その戦闘経験と、智機が否定している精神論を力に転嫁するが如く行動力。
少しばかりの嫌悪を感じながらも、智機は彼女を認めていた
「本来ならしおり相手でも互角以上に闘えた筈なのにな…」
(残念だが…これも結果。彼女はより確実に生き残る方法を取ったに過ぎない)
モニターにもう1人の人物のデーターが映し出される。
(何故なら…なみがあの男に勝利できる確率は…)
モニターに映し出された人物は…
(ゼロだったからな…)
主催者達のリーダー、ザドゥだった。
392脅威(19):03/09/23 20:01 ID:eXPEKvYf

(二日目 PM3:55 東の森・病院付近)

東の森の中を六本の腕と八本の触手を持つ怪物が木をなぎ倒しながら彷徨している。
50分ほど前に魔窟堂によってランスを取り逃がしてしまったが為に、ランスを探し
続けている主催者の1人、ケイブリスである。
「どこに行きやがったあぁぁぁぁぁあ!!」
また木が倒される。既に東の森南西部の木々のほとんどがなぎ倒されていた。
「あン?何だ、あの白い建モンは?」
まだ倒していない木々の向こうに見える病院を見つけたケイブリス。
その時、ケイブリスは自らの身体の中に仕舞っていた通信機が鳴り続けていることに
気づいた。
「うるせえな、誰だ?」
通信機を取り出し、適当にボタンを押す。スイッチが切られ、アラームが止まった。
「………あの建物を探すか…」
再び鳴るアラーム。面倒くさそうにボタンを押すケイブリス。通信機が破壊されな
かったのは奇跡だったのかもしれない。今度は間違えなかったようで、通信機から智
機の苛立ったような、嫌そうな声が応答する。
『…ようやく出たか…こちらは椎名。ケイブリス…現在の状況はどうだ?』
「椎名…?誰だてめえ?」
393脅威(20):03/09/23 20:04 ID:eXPEKvYf

『・・・・・・・・・・・。ザドゥ殿から私の事、聞いていなかったのか?』
震えたような声色の智機の声にケイブリスは少し考えたそぶりを見せてこう応答し
た。
「そういや、なんか言ってやがったなあいつは……」
『・・・・・・・』
「……そうか、思い出したぜ、智機だったな。何の用だ?」
『・・・・・・・・・。現在の…状況は…どうなっている…?」
「あの野郎…倒したと思ったらどこかへ消えやがった。まだ見つからねえ…」
『一緒にいた女はどうした?』
「勝負の邪魔になるからな…放っておいたぜ」
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
本拠地にいる智機が沈黙する。何か怒っているような雰囲気が通信機から感じ取れる
がケイブリスにはその理由は解らない、ていうか解除装置の奪回については既に忘れ
ていた。しばしの沈黙の後…
『今、何処にいる…』
「何、苛ついてんだ?白い建物の近くの森にいるぜ」
『病院の近くか…早急にその建物に向かえ!』
「言われなくてもそうするぜ」
ケイブリスは通信を切ると病院へ向かった。

394脅威(21):03/09/23 20:07 ID:eXPEKvYf

(二日目 PM4:02 病院内)

「いねぇじゃねえかぁぁぁぁー!!」
玄関を破壊しながら病院内に入ったケイブリスはランスを探すべく病院内を徘徊した
が。見つかったのは破壊された智機と、霊安室で見つけたミイラ化した死体だけで
あった。再びスイッチを入れた通信機から智機の声が発せられる。
『そうか…ケイブリス…お前とランスが受けたダメージはどういうものだ?』
病院内で暴れようとしたケイブリスは不機嫌そうに答える。
「何でそんな事言わなきゃならねえんだ?」
『・・・・・・。ゲームを成功させたくはないのか?』
「…ちっ。俺の方は腕2本と鎧の背中部分を破壊されちまった。代わりにあの野郎の
剣と鎧をぶっ壊して奴を気絶させたがな」
『解った。ケイブリス、早急に本拠地に戻れ』
「うるせえ!!あの野郎をギタギタに引き裂くまでは帰らねえ!」
『…ルールを守らねば、お前の願いがかなわないぞ。それでもいいのか?』
「なにィ…んなの聞いてねえぞ……」
『私はゲームの管理者だ。他の主催者には知らされていないルールも把握している」
「あのザドゥって奴がリーダーじゃなかったのか?」
『あくまで形の上でのリーダーだ。それにお前の治療が必要だ、ランスと決着をつけ
るにもな』
「・・・・・・・・・・?」
『現時点で奴を補足するのは不可能だ。今は時間を待つしかない。時間が経てば決着
をつけさせてやる。だから、戻って来い」
「・・・・・・・・・・。解ったぜ…戻ってやるよ。だが、あの野郎は俺様が仕留め
る。邪魔するんじゃねえぞ!!」
「ああ…」
ケイブリスは通信を切り、学校跡に向けて移動を始めた。

395脅威(21):03/09/23 20:08 ID:eXPEKvYf

(二日目 PM4:06 本拠地・管制室)

智機のうなじから蒸気が排出される。
ケイブリスとの交渉を終えた智機は心底うんざりした表情で呟く。
「心にもない事を言い続けるのは本当に疲れるな…」
智機自身としてはケイブリスそっちのけでランスを見つけ次第、拘束、又は抹殺した
かったが、ザドゥと同等の戦闘力(壁を破壊した際、モニターを通じて智機が判断)
を持つケイブリスの助力を得られればと考えたのである。
「これ以上あの男(ザドゥ)が願いそっちのけで私情で動かれては困る」
智機は何気なく、まだ未使用の強化パーツを思い浮かべる。
(ケイブリスの奴、鎧が破壊されたと言ってたな。あれで鎧と武器を作ってやるか。
『それ』がどういうものか解らない以上、こちらも戦力の増強が必要だ)
智機はレプリカ達にパーツを用意させると、別の事に考えを移す。
(戦力の増強か…参加者どもがまだ手出ししていない、あの場所はまだ手を付けるわ
けには行かないからな…)
智機は顎をしゃくりあげるとこう心中で思った。
(なみのAIが完全に壊れてなければ…戦闘記録だけを移植して強化体の増強に使える
かも知れないな…)と

                         ↓
396脅威(23):03/09/23 20:09 ID:eXPEKvYf

   【主催者:椎名智機】
   【所持武器:レプリカ智機(学校付近に19体待機、本拠地に40体待機
      or    本体と同じく内蔵型スタン・ナックルと軽・重火器多数所持)
   現在位置:強化体(学校付近に白兵型が1体、本拠地に1体
          残る2体は本拠地に帰還中、白兵型の武器↓
    高周波ブレード、加速車輪、ビーム砲、防御力・大・熱耐性】
   【スタンス:参加者の捜索と偵察、         
   隙あらば邪魔な参加者の抹殺】
   【備考:強化体は自動操縦で智機の命令を独自の判断で遂行する】

   【ケイブリス】
   【現在地:病院】
   【スタンス:反逆者の始末・ランス優先】
   【所持品:ハリセン、まりなの手帳(拾った)
   【備考:現在、学校跡へ移動中(帰還中)
   左右真中の腕骨折・鎧の背中部分大破】

   【仁村知佳】
   【現在地:???】
   【スタンス:恭也が生きている間は、彼らの後方支援へ】
   【所持品:???】
   【備考:超能力使用可能、ただし暴走中】

397名無しさん@初回限定:03/09/23 20:10 ID:eXPEKvYf
上げ
398名無しさん@初回限定:03/09/26 06:42 ID:CQfdATeo
ほしゅ
399名無しさん@初回限定:03/09/28 05:48 ID:9QmN11+8
( `.∀´)っとく
400名無しさん@初回限定:03/09/28 15:28 ID:mpla44Hj
400
401名無しさん@初回限定:03/09/30 23:16 ID:wGgVsRMV
補習
402華麗なる医師は何がために(1):03/10/01 21:50 ID:PXnwoVuI
じゅるじゅる……
双葉に素敵医師を呼んでくれるよう頼まれた星川は、彼の場で異様な光景を目にした。
「アア、見られてしもうたか、まぁ、そげに気にせんでええがね。
大丈夫、おまんさんの事は、把握してるぜよ。 で、何のようかよ?」
「双葉ちゃんが聞きたい事があるってさ……」
素敵医師の姿から目を逸らしながら、彼は、用件を伝えた。
「ふむふむ、そうやにゃぁ、飲みながらでええがね?」
「どうしてもかい?」
彼の、戸惑いから来るほんの小さな抵抗が声に出た。
「これからのためにも、どうしても必要なんぜよ」
「ねぇ、すっちゃん、どこ行くの〜?」
「双葉の嬢ちゃんが話とう事あるゆがに、ちぃといってくるぜよ」
「おるすばん〜?」
「すっと戻ってくるがや、ここでしっかり見張りするんぜよ。
いい子にしとったら、またおクスリいっぱいあげるがに」
「うん、わかったぁ〜。 帰ってきたらおちゅーしゃだよ♪」
「そいじゃ、行こうがや?」
カモミール・芹沢を、宥め、二人は、双葉の元へと戻った。
403華麗なる医師は何がために(2):03/10/01 21:51 ID:PXnwoVuI
(第二日目 PM2:20)

「……来たわね」
洞の穴の中で、星川が素敵医師を連れて戻ってくるのを式神を通じて、確認する……
その彼女の瞳に映ったものは、真っ赤に染まった素敵医師の口元と
まるで、右手が掴んでいる輸血パック。
「なんなのよあれは…………」
彼女の考えていたイヤな予想は、直ぐに現実のものとなった。
ごくごくと音を立てて、中の血液を飲み干し始める彼の姿が映ったからだ。

「双葉ちゃん、連れてきたよ」
引き連れてきたものから顔をそむけ、彼は、主へ話し掛ける。
「到着したぜよ、それで、何のようがや?」
対して、へけへけと笑いながら、片手間に血を飲みながら、素敵医師は、再び洞穴の前へ到着した。
直ぐに双葉の第一声がかけられてくる。
『ありがとう、星川。 それにしても、あんた気色悪いわね…………』
「まま、そういわんで欲しいがね。 センセも好きでのんどるわけじゃないがよ」
『どう言うこと……? あんたなら、好んで飲んでもおかしくなさそうだけど?』
「きっついこというがね。 これは、代償っちゅーやつぜよ」
『正気を保つ代償かしら? まぁ、いいわ。
あたしが聞きたいのは、まずは、あなたの能力よ。 主催者なんだから何か凄い力でも持ってるんでしょう?
協力しあうんだし、その位はいいんじゃないの? どうせ、あんたは、私の能力を知っているんでしょ?』
「ギブアンドテイクって奴がね…… そうじゃね、その能力のためにこの血液が必要なんぜよ」
『……あんた、吸血鬼なの?』
「そうなのかもしれんね」
『真面目に答えてよ……』
「あー、何から話せばいいがね……」
404華麗なる医師は何がために(3):03/10/01 21:52 ID:PXnwoVuI
うーんと頭を一ひねりさせた後、彼は、再び口をあけた。
「センセたち、運営者はね、この大会を成功させたら、願いを叶えて貰えるんよ。
この変の話は、おまんさんもあの声で理解しとるんじゃき?」
『ええ』
あの時、聞こえた人智を超えた存在の声。
神と思わせるに値する力の波動。
「んで、参加者と違うのは、賃金の前払いとして、何かを与えられているんぜよ」
『それで、吸血鬼にでもされたのかしら?』
「いやいやいや、そうじゃないちや。 センセの貰ったもんは、凄い治癒能力ってやつがよ」
『それと、吸血行為がどういう関係があるのかしら?』
「うーん…… まぁ、ちぃと見て欲しいぜよ」
そういうと彼は、持っていたメスで自らの左手首を切り裂いた。
『なっ!? あんた何してんのよ!?』
瞬く間に綺麗な噴水を描いて飛び出てくる真っ赤な液体。
が……
一瞬、ぴゅーと出たかと思うと、直ぐに止まってしまった。
『それが、あんたの能力ってわけね……』
「そそ、ちっとやそっとの怪我なら、直ぐに再生できるぜよ。
ただ、再生に使うエネルギーは、必要がや。
かといって、飯をいっぱい食うには、すっとお腹膨れて無理ぜよ。
だから、血液とかの高エネルギーなものが一番てっとりばやいんぜよ」
『……ねぇ、どのくらいまでなら、再生できるのかしら?』
「そうがね…… 腕や手や目、内蔵くらいなら、失っても再生できるぜよ
その分、多量のエネルギーを消費するがや」
405華麗なる医師は何がために(4):03/10/01 21:53 ID:PXnwoVuI
『化け物ね…………』
「へけけ、このくらいの代償、願いが叶う事に比べたら軽いもんぜよ」
『願い………… ねぇ、あなたがそこまでして叶えたいものって何なのかしら?』
どうせろくなもんじゃないんでしょう?
そう思いながらも、彼女は、その好奇心を抑えきれなかった。

その言葉の後…… 途端に素敵医師から、今までのおちゃらけた感じが消え
急にきりっとした真面目な雰囲気が感じられるようになった。
「センセの国はね。 ずーっと戦争しとってね……
センセもこうなる前は、立派な医者だったんがよ?
敵国から、空襲されるたんびに、小さい診療所に怪我人がいっぱいになったがよ。
診ても看ても、数はへらんかったぜよ…… いや、減ったぜよ。
大人たちが…… 小さい子達が、何の罪もない人たちが、苦しみしんでいったがね……」
淡々と語り始められた彼の話に、彼女は、聞き入った。
なぜなら、彼女の国にもそういう時代があったからだ。
人事には思えないような気持ちが、そこにはあった。
「直撃受けて死んでった人の方が幸せなんかもね……
何の痛みもなく、何も思わず、ぱっと逝くがよ……
…………それに比べて医者は、つらいがね。
どんなに手を尽くしても、死が確定された人の苦しみを巣食ってやる事はできんぜよ。
けどね、そのうち、センセもとうとう爆撃を浴びる事になったがね。
命は、助かったものの、身体中、全身火傷だったぜよ。
痛みで気を失いそうになる中、痛み止めにモルヒネ打ったら、分量間違えてあたまくるくるぱーになったがね」
406華麗なる医師は何がために(5):03/10/01 22:08 ID:PXnwoVuI
『………』
「それからのセンセは、色々やったぜよ、まぁ、おまんでも大体何したかは予想つくやか?」
『おクスリを、たくさんの人にチューシャしてあげたのかしら?』
「はっきり言うがね…… ま、そんな所ぜよ。
でも、段々と心にわだかまりが溜まってきとってね。
そこを神様にスカウトされたってわけぜよ……」
『そう…………』
「おまんさんだって、叶えたい願いがあるぜよ?
やり直したいことがあるがね?
センセもそうじゃき、この身を鬼としても叶えたいもの。
医者として無力だった償い、そう戦争で死んでいった人たちの蘇生。
そして…… これで、終わらせるためにね」
『…………ねぇ、彼女と戦ったら、私にもソレが見つかるのかな?』
今までの高圧的な態度と比べ、ほんの少しだが女の子らしさが感じられる言葉で……
「未来を掴むかどうかは、おまさん次第がね。
んで、他に聞きたい事があったんじゃないがね?」
『他の運営者達もそうなのかしら?』
「ぜよ、他の四人もみんなそれぞれの大切な想いを胸に抱えてるがね。
…………勿論、前払いと共ぜよ」
『そう…… ありがとう。 もういいわよ』
「へけけ、柄にもなく、真面目に語ったぜよ。
それじゃ、戻るとするがね。 また何かあったらよんでちょうだい」
そう言うと、彼は、へけへけと大声で笑いながら、待たしてあるカモミール・芹沢の所へと戻っていった。
「私のやりたい事か……」
そこには、ただ一人悩む少女と式神が残った。
407華麗なる医師は何がために(6):03/10/01 22:09 ID:PXnwoVuI
「へけけ、へけけけけけけけけ」
素敵医師は、高揚としていた。
高まる気持ちが思わず、笑い声となって、飛び出る。
「へけけけけけけ……」
(甘い、甘いぜよ、お嬢ちゃん、このセンセがそんな事思ってると思うがに?
誰よりも先に爆撃を受けたのは、センセがや。
そんなセンセのおクスリでみんな気持ち死んでいったがね。
何も後悔しとらんぜよ。 センセは、正しい事をやった、それだけがね。
センセは、もう人っちゅー脆い生き物に飽き飽きなんぜよ。
その証拠に、この身体ももうボロボロじゃきん……
センセの本当に欲しいもの…… それは、どんなにオクスリ使っても平気な不老不死の肉体ぜよ。
それにしても、双葉のお嬢ちゃんもまだまだ歳が若い分、めとろやねぇ……)
双葉とて、鵜呑みにしているわけではない。
だが、少なくとも彼女を悩ませる事は、後々自分に有利に働くだろう。
「へけけ、さぁて、アインのお嬢ちゃんは、そろそろかに。
……此方もエネルギー補給完了ぜよ」
(ザドゥの大将もそろそろがね……)
へけへけと森に笑い声が響き渡っていった。

408遠い風(1):03/10/02 05:10 ID:IUx/A2iT

(二日目 PM12:42 東の森・西部)

神と名乗った『声』がわたしの頭に届いた数分前に、東の森の方から暴風が
吹き荒れた。
奇妙な7色の光とともに…
わたしは奴(素敵医師)の痕跡を辿って、東の森に入ったのだけれど、
その前にその奇妙な光の正体を確かめたかった。
今、その光の発生源と思しき場所にわたしはいる。
若芽を生やした数本の老木。
腐って沼のように変容した大地。
倒れた木と、空砲のバズーカ。離れた所に一発の弾丸。
そして、背後の岩ごと木の杭に貫かれた男の死体。
《こりゃ、シュールじゃのう…》
奇妙な光景に、わたしの腰に携帯してある黒い魔剣――カオスが物珍しいそうな声
(?)を上げる。
「死んでからそれほど時間は経っていないわね…」
男の死体を観察し続けていく内に、わたしは昨日の事を思い出した。
「昨日、わたし達を襲撃してきた男…」
《ほう、敵じゃったのか?》
「ええ……」
わたしは先ほどの放送と、参加者の情報を照らし合わせてある結論をだした。
恐らく名前は海原琢磨呂。あの時、わたしの顔を見てファントムと見抜き、わたし達
と魔窟堂達とを同士討ちにさせようとした敵。
彼の名前は聞いた…いや、読んだ訳ではないけれど…週刊誌の表紙で何度か見かけた
様な気がする。
ファントムの名を知っている事から、彼も裏社会と関わりはあったと考えたほうが
良さそうね。
わたしの顔が知られていたのには、驚いたけど。
409遠い風(2):03/10/03 00:10 ID:iK37g3x4

わたしの顔を知っていたという事は、わたし達の足取りを掴んだいずれかの組織から
情報が流れたのかもしれない。
折角、あの人の――ツヴァイの故郷に来たのに…わずか4か月も経たない内にまた逃
亡しなきゃならないかも知れない。
それも、わたしがこの殺人ゲームから抜け出し、帰れたらの話。
感傷に浸っていたわたしはつい、ため息をついた。
《どうした、アイン嬢ちゃん?欲求不満なら……》
「そういうものではないわ…」
邪推を言葉に出したカオスに受け答えをしながら、わたしはツヴァイの事を考え続け
た。
――彼が、今のわたしと同じ状況に置かれたら、どう動くのだろうか…
彼ならゲームに乗ることはありえない。
ただ、その時…彼は本当の名を名乗るのだろうか…
それとも…今のわたし(アイン)と同じく数字(ツヴァイ)を名乗り…ファントムと
して動くのだろうか…
「・・・・・・・・・」
つい頭に浮かんでしまった考えに、わたしは自嘲の笑みを浮かべる。
これも、ありえない事だ。あの人はわたしとは違う。
いつかわたしも、そうなれたらと憧れ続ける強さを持った人だから。
ファントムとしては動かないだろう。
でも…今のわたしは…アインとして動くしかない…
彼にはまだまだ届かないから…
だから…今は、彼から貰った名前を名乗ることはしない。
ただ、ファントムとして戦う。
わたしがツヴァイ…いや、玲二と再会するまでは…
そう、心で反芻する私に対して、カオスは再び話しかけてきた。

410遠い風(3):03/10/05 02:17 ID:fmIeGNYU

《考え中すまんが…わしからも質問してもええか?》
「……後1つ、わたしの質問に答えてくれるなら…」
《なんじゃ?言ってみい》
「あなたは、ここに来る前、何処にいたの?」
《保管庫の中じゃ。突然、目の前が真っ暗になって、何か見えてきたと思ったら、
さっきの場所に突きささっておったんじゃ》
「………」
(保管庫…もしかしたら、主催側の本拠地から引き出された物なのかも…。
でも、確証はは無いわね)
《そんじゃ、わしからの質問行くぞ》
「ええ」
《ここは何処で、この場所で何が行われてるんじゃ?おぬしは、何をしようとしてる
んじゃ?》
「この島が何処かは解らないわ…」
何処かについてはわたしも知りたい。
「この島では昨日から、それぞれ別々の場所から拉致されてきた人達40名が殺し合
うゲームが行われてる。
わたしもそうだけど、参加者同士が互いに殺し合い、最後の1人になるまでそれを続
けさせられる」
《……………》
「わたしはゲームの主催者を倒そうとする人々と協力してる。でも今は主催者の1人
を追跡し始末するために、その人達とは別行動を取っているわ」
《最後に生き残った奴はどうなるんじゃ?》
「ゲーム開始前に、主催者は部下にするって言ってたわ。かといって生きて帰れる保
障はないでしょうけど」
《ふーむ…》
「もう質問はいい?」
411遠い風(4):03/10/06 22:42 ID:3h9jwWb8

《おぬしが今、追っている主催者とやらはどういう奴じゃ?》
「……全身包帯だらけで、身体中から腐臭を放っている、自分を『センセ』と呼ぶ狂
気に取り付かれた痩身の男よ………」
《そうか……》
そう、わたしはあの男…長谷川(素敵医師)を殺さなければならない……
誰かに言われたからするんじゃなく…
薬物で遥の心を弄んだ男を……
病院にいた人たちをバラバラにしていった奴を…
そして、かつてマスターと呼んでいたあの男に支配されたファントムとしてのわたし
と、決別する時の為にも…
こればかりは、自分の意思でやらなきゃいけない。
「………」
わたしはカオスの方を見た。
彼も何かを考えてるようで黙っていた。


412遠い風(5):03/10/06 22:43 ID:3h9jwWb8

わたしはふと、あの時持っていったバッグの中にスペツナズナイフとボディスーツが
入っていたのを思い出す。
ボディスーツはわたしが拉致される前に所持していたものだった。
この通り、学校の制服をきていても、中身はファントムのまま。
それに、インフェルノの追っ手から逃げてからも、決して、血と硝煙から無縁だった
わけじゃない。
暗殺者の本能のままに殺し、玲二を狙われ、憎しみで殺めた事もあった。
あの人と共に歩めるのならそれでも構わないと思った。

……だからこそ

わたしがこの島の学校の中で目覚め、殺人ゲームを強制され、主催者とタイガー
ジョーと呼ばれた覆面男の闘いを見た後、ゲームに乗ることにした。
わたしの暗殺者としての本能が、主催者と戦うよりもゲームで優勝した方が生き残る
可能性が高いと判断したから。
けど…あの時、隻腕の少女以外の後続の参加者全てを早期に仕留めるため学校に戻っ
た時、出会った女性…涼宮遥。
彼女を助けた事でわたしは主催者と戦う道を選んでしまった。
私自身の考えで選んだ道…その事に後悔は無い…
だけど……わたしは遥を………
413遠い風(6):03/10/06 22:45 ID:3h9jwWb8

わたしは頭を振った。
…今、ここで彼女の事を考えるのは止そう…
奴と合間見えるときに考えればいい。
あの時の悲しさと悔しさと憎しみ…そして、遥の悲しみを背負って…奴を抹殺すれば
いい。
わたしは改めてそう誓うと、周囲の調査を再開した。


(二日目 PM12:50)

死体の周囲には比較的新しい足跡が3つあった。
内一つは草履の足跡だった。
多分、魔窟堂の足跡だろう。
そういえば…死体の表情は苦痛に歪んでいなかった。
もしかして、誰かが死を悼んで、目を閉じてやったのだろうか。
でも、殺され方を見ると実行犯がそんな感傷を持つことは考えにくい。
やはり、魔窟堂達が目を閉じさせたのだろう。
木の杭で岩を貫くだけの力、地面に落ちたねじくれた弾丸とこの光景。
紛れも無く超常的な力が関わってる。
もし、実行犯がゲームに乗った者だったら、恐るべき脅威になるのかもしれない。
調査を終えようとしたわたしは何かの視線を感じて、そっちのほうに向いた。
《ん?もう気づいたのか…》
カオスは目をわたしの胸の方に向けて、残念そうに言った。
「あなたね…」
わたしは呆れたように呟いた。
《ちっ…気づかれないと思ったんじゃが…そんで、もういいのか?》
「ええ…もうここには用は無いわ…」
414遠い風(7):03/10/06 22:47 ID:3h9jwWb8

わたしは弾丸を装填したバズーカを持って、奴の痕跡を辿ろうとする。
そのわたしにカオスは呼び止めた。
《さっき気づいたんじゃが、おぬし…》
「何?」
《おぬし…あちこち怪我をしとるが…》
「………」
《右脇腹の傷…きちんと治療したほうが良いぞ》
「え?」
わたしは右脇腹に注意を移す。血が滲んでいる。
わたしが昨日負ったダメージは、失明した左目以外は奴によって治療されていた。
念入りに昨日、今日の深夜に自分の身体をある程度、調べてある。
「これくらいの傷なら支障は無いわ」
《…わしにはよく状況が解らんがの…それでも用心に越した事は無いと思うぞ》
「…………」
《おぬしは今、わしを除いて1人なんじゃからな》
415遠い風(8):03/10/06 22:48 ID:3h9jwWb8

わたしはそのまま森の奥に向かおうと思ったけど…彼の言う事はもっともだ。
放送で呼ばれていなかったけど、魔窟堂達が今、どうしてるかは解らない。
この場所の異常な光景。
神を名乗った声。
さっきの不気味な放送。
その時、読み上げられたグレン=コリンズの名前。
私の知らない所で事態は思わぬ方向へ向かっているのかもしれない。
わたしはこれまで、奴への雪辱に拘り過ぎたのかもしれない。
グレンは首輪解除装置を持っていた。
なのに、わたしはグレンの合流よりも、奴への追跡を最優先に行動してしまった。
何より彼の事を魔窟堂に話し忘れていた。
首輪を着けていない、わたしを見て質問しなかったから言わなかった。
それはインフェルノにいた頃には考えられない失策…
原因は判っている、わたしの奴に対する憎悪。
憎悪で奴を追跡し続けた結果…彼を死なせてしまっただけでなく、残りの参加者の救
助も困難になってしまった。

「……………そうね。あなたの言うとおり、十分準備をした方が得策ね」

わたしは来た道を戻りながら廃村へ向かいながら風の事を考えた。


さっきの7色の光と暴風。
わたしはそれに惹かれてあの場所に向かった。
わたしが時々見る……
色の夢…
それに少し似ていたからかも知れない…
あの場所で昔の事を思い出したのは


416遠い風(9):03/10/07 00:46 ID:rdteXsnN

(二日目 PM1:44 廃村のある一軒屋)

《アイン嬢ちゃん…もうちょっとこっちに引き寄せてくれんか?》
「……」
《わしは何もせんて…》
「……」
《後生じゃから…》
わたしは今、上着を脱いで自らの身体の傷を調べている。
カオスは、わたしが柄を紐にくくりつけて部屋のドアのすぐ外に放置している。
何かあれば、すぐに引っ張り出せるようにしてある。
「前は気づかなかったけど…これを放置するのは危険ね…」
右脇腹の銃創。
奴の手によって傷は縫合されていたが、今では開きかけている。
「痛みを感じるはずなのに…どうして今まで…?」
わたしは上着を着ると、カオスを近くに引き寄せた。
《おおっ、嬢ちゃ…なんじゃもう終わった…訳ではないようじゃな》
わたしはこの家から回収したマッチ、油、包帯、裁縫セット、弾丸等をバッグから取
り出した。
バッグ(太った男の死体があった場所――衣装小屋で回収した物)のジッパーを閉じ
るとわたしは銃の火薬を取り出しながら、脇腹の傷を見る。
《この縫合…誰がやったんじゃ?》
「わたしが追跡している奴よ」
《こりゃ、わざと手を抜いたな…》
「………」
わたしは自分の不用意さに歯噛みしながら、脇腹の治療の準備を進める。
417遠い風(10):03/10/07 00:49 ID:rdteXsnN

《傷を焼くのか…仲間の元へ戻って治療してもらったらどうじゃ?》
「その仲間はもういないわ…」
《そうか…舌を噛み切らんようにするんじゃぞ》
わたしはあいずちをうって、口に布を含むと傷口に火薬を撒き…
少しして、傷口にマッチの火を当てた。
「!!!!!!!」

――予想以上の痛みだった。


《さらに傷口に針を仕込んであったとはの…》
「……」
傷口には針の様なものが突き刺さっていた。痛みを感じなかったのは薬が投与されて
いたからだろうか?
いずれにせよ次、奴に出会った時に必ず始末しないといけない。
そして、激痛に朦朧としていた意識も戻り始め、わたしはこれまで廃村でえられた情
報を頭の中で整理し始めた。

さっきの放送で上がった名前。
伊頭遺作と伊頭鬼作。
今朝、出会った月夜御名紗霧と名乗った女の情報によれば、今日の朝にわたしを強襲
してきた男の名は遺作。
廃村を調べて2時間くらい後、わたしは遺作の血痕を発見し、それを辿った。
そこで見つけたのは遺作と思われる男の変死体。
頭部があった場所には銃弾が撃ちこまれ、両足はタンスに押し潰されていた。
本当に変だったのは死因ではなかった。
彼の身体は解け始めていたのだから。
418遠い風(11):03/10/07 00:51 ID:rdteXsnN

奴は薬物を使用する。
それもわたしの予想も着かないような効果をもつ薬物を。
遺作以上の戦闘力の持ち主に奴の薬物が投与されると恐るべき身体能力を持つことに
なってしまう。相手によっては逃げる方が良いかもしれない。

外から風が吹く音が響き、小屋の窓がガタガタと揺れた。
わたしはその音を聞きながら紗霧の事を考える。
彼女がそうだという確証はないけど、この廃村には殺傷力の高いトラップが所々仕掛
けられていた。
それほど洗練されてなかったので、全部解除はできた。
けど、その罠で死者が出た可能性は否定できないし、現に衣装小屋には死体が1つ増
えていた(原因は毒殺。布団が被せてあったけど、誰か供養したのだろうか?)
あの時、紗霧からはあの男(かつてのマスター)に少し似た雰囲気を感じたような気
がする。
ゲームに乗ってるかどうかは解らなかったけれど、今度出会った時には用心深く監視
したほうがよさそうね。
419遠い風(12):03/10/07 00:53 ID:rdteXsnN

・・
・・・
・・・・
・・・・・眠くなってきた。
……このまま眠るのは駄目…。わたしはカオスを遠くに放り投げた。
《〜〜〜〜〜〜〜》
カオスの不満そうな声がわたしの頭に届くが、よく解らない。
この眠気に抵抗できそうに…ない…
わたしは敵…がこの近くに…通らない事を…祈りながら、早く起きれる事を願いなが
ら…眠りに落ちていった。


――ときどき、色の夢を見る。
この島に来てから…2回見ている。ゲームが始まる前。昨夜、病院で寝た時。と…

――強く冷たい風…

――青と白

――波打つ緑

――ただそれだけの夢…
けれど…とても…それが大事なような気がする。これで3度目。
その夢は少しずつだけど鮮明になってるような気がする。
未だ、ファントムとしてしか動けないわたしはこの先、其処に辿り着けるのだろうか


―――アインが目覚めたのは午後3時を少し過ぎた頃であった―――

                     ↓
420遠い風(13):03/10/07 00:54 ID:rdteXsnN
    
    【アイン】
    【現在地:廃村→東の森】
    【スタンス:素敵医師殺害】
    【所持品:スパス12 魔剣カオス
     バズーカ(残1)、マッチ、包帯】
    【備考:左眼失明、首輪解除済み
    抜刀時、身体能力上昇。
    振るうたびに精神に負担】
421名無しさん@初回限定:03/10/07 01:13 ID:rdteXsnN
あげ
422名無しさん@初回限定:03/10/09 21:07 ID:66qmmMQG
ほしゅ
423名無しさん@初回限定:03/10/12 21:07 ID:++kwRUpu
保守。
424名無しさん@初回限定:03/10/13 14:20 ID:hqiXpW6L
保守
425西へ行く六人(1):03/10/15 21:10 ID:rnOcV2as

(二日目 PM3:43 病院)

「あっ!その前にスコップ持っていっていいかな?」
「どうしてですか?」
「あると色々と便利だし、死んだ人を弔ってやれると思うしさ。
いいでしょ?」
「…………そうですね。急いで取りに戻って下さい」
「らじゃー」
まひるのいきなりな意見に対し、考えてから紗霧は了承し、返事を受けてまひるは外
へ向かった。
「うんうん、そうじゃな…いい心がけじゃ…」と、感心する魔窟堂。
(不要といいたい所でしたが、決着までどれくらい時間がかかるか
予想がつかない以上、死体が腐敗して病原菌か何かを媒介しないとも限りません
からね。あると便利ですし)
「それにしても武器が増えたのう」
魔窟堂は各自の持ち物の中に混ざっている重火器を興味深そうに見る。
「先程の襲撃者さん達が残してくれましたからね、これで生身の相手とは随分、
やり易くなりますね」
先ほどの襲撃の際、智機達が使いきれなかった武器を見て紗霧は言った。
(本当はもう少し欲しかったですけどね)
「アインがいてくれればもっと良かったんじゃが…」
そう呟く魔窟堂を見て、紗霧はかねてから気になっていた事を口に出した。
「ところでアインさんとはどう連絡をつけましょう?」
「う、うむ…そうじゃな…」
まひるの同行者だった高原美奈子(タカさん)を(瀕死だった本人の希望を聞き
遂げたとはいえ)殺害し、あえて罪を被ったアインとそのまま合流するのは
事情を知ってる魔窟堂にとって気が重い。
426西へ行く六人(2):03/10/15 21:12 ID:rnOcV2as

「………個別撃破されると目も当てられないですから、ランスさんの事が落ち着き
次第、花火か何かで合図を送りましょう」
と、紗霧はソファに寝かされているランス、そして、恭也とユリーシャ
を見た。恭也は負担を減らすためか、杖を手にしている。
ユリーシャの方はランスの傍らに座り、寝ている彼の顔を
困ったように見て、何かを考えている。そんな二人を見ながら、更に紗霧は続ける。
「ところで魔窟堂さん。アインさんが何をしている方かご存知ですか?」
「わ、わしも詳しい事は…」
「お待たせ!」
 まひるがスコップや何やらを持って戻ってきた。
「おおっ、まひる殿」
 先日のまりなとの会話で大体の素性を知っているものの、まさか殺し屋なんて、
さすがの魔窟堂も言いづらい。今はその事をうやむやにしようとしたが――
「名前にしてもどうも、引っかかるんですよね」
 紗霧はそれに構わず、荷物をまひるに渡しながら続けた。
「な、名前か……」
 魔窟堂から根掘り葉掘り聞き出そうとする紗霧だが、実は魔窟堂と出会う前に
アインと遭遇していたし。
 星川の顛末も訊いてたので、アインの大体の素性の見当はつけている。
(今にして思えば、アインはドイツ語で『1』の意味ですし、『ファントム』と
いう通り名からして、何かの組織に属しているのかもしれませんよね)
もし、紗霧がアインと住む世界を同じくしていたのなら、ファントムの
名は紗霧の耳にも入っていたのかもしれない。
「ただの学生には見えないんですよ」
「う、うむ…そうじゃな」
427西へ行く六人(3):03/10/15 21:15 ID:rnOcV2as
 紗霧と出会った頃のアインはセーラー服を着ていた事もあり、外見上はほとんど
ただの女学生である。外見に反して実態は、元世界最強の殺し屋なのだが。
これ以上二人の会話が続くことなく、気絶したランス以外のそれぞれが荷物を
持って病院を出ようとした時、紗霧はまひるが背中に背負っている籠の中にある
スコップを見て言った。
「広場さん、その多くのスコップと…おもちゃの銃は?」
「みんなの分」
「二つあれば十分でしょう…って、何でおもちゃの銃がここにあるんですか?」
「娯楽室に置いてあったよ。それにこれだけのスコップがあればみんなで穴が
掘れるよ」
「………二つあれば十分です」
「広場さん、大きめのスコップはそれしか無かったのか?」
「うん。小さなスコップはたくさんあったんだけど」
 恭也は小さなスコップを手に取ると、少し遠い目をした。
「恭也さん、スコップに何か思い入れがおありで?」
 そうユリーシャが尋ねると。
「いや、スコップには無いんだ…けど…」
(盆栽…無事なんだろうか…)
 恭也は自分の家で育てている盆栽を思い出す。そして…
(美由紀やなのは…みんなは…今、どうして…?)
 家族や友人の事を想い、不安に囚われる。
(………今、考えてもしょうがない、な)
「植物を育ててるんだ…」
「そうなのですか」
 ユリーシャの質問に答える恭也だが、不安以外にも惑いという感情が心を占めた。
自分がいなくなってから、元いた世界ではどれくらいの時が流れているのか?
何故、まだ学生であった頃の仁村さんと出会ったのか?
それを確かめる術があるのなら…と考えていた。
(今、ここにいる人達……俺と同じ世界に住んでる人はいるんだろうか?)
428西へ行く六人(4):03/10/15 21:18 ID:rnOcV2as

「プラスチック製ですか…流石にこれは使い物になりませんね」
「そっか…」
「他には無かったんですか?」
「それだけだったよ」
 紗霧は小さくため息をついてこう言った。
「まひるさんが戻ってきたことですし、出発しましょう」
 一行は荷物を持って病院を出始め、まひるはランスの前に歩み寄るとランスを
軽々と担ぎ上げた。
「天使さん?」
 ユリーシャは軽がるとランスを持ち上げてるまひるを見て、軽い驚きの声を上げた。
「天使じゃないって、まひるだよ」
「す、すみません」
 いわゆるお姫様抱っこして歩くまひるを見て、ユリーシャは羨ましい
ような、当たり前のような、そんな自分でもいいのか悪いのか良く解らない
気持ちを持った。
「……俺が気絶している間、運んでくれたのは広場さんだったのか…」
「そうですよ」
「………改めて、礼を言う…ありがとう広場さん」
「いいって、困った時はお互い様だしさ」

―――こうして、一行は病院を出た。

ちなみにまひるが、神楽の遺体を星川らと一緒の場所に埋葬する際に見つけた小さなスコップはユリーシャと魔窟堂が1つずつ持つ
ことになった。
429西へ行く六人(5):03/10/15 21:22 ID:rnOcV2as

(二日目 PM3:55 大通り西部)

「あの…紙袋に入っている白い粉はどういう使い道があるのでしょうか?」
「実はの、あの小麦粉を使って粉塵爆発を起こし、主催者を倒す計画があったの
じゃ」
「粉塵爆発って…何なのですか?」
「空気中に埃や粉末状の物体が充満してる状態で火をつけると、次々とそれらに燃え
移り、爆発したのと変わらない現象を起こす事が出来るんです」
「そ、そういうことができるですか……」
「尤も、これだけの量の小麦粉じゃ大した事は出来ませんけどね」

西の森へと通じる道を一行は歩く。

ユリーシャと魔窟堂と話していた紗霧は、また何かを思い出して魔窟堂に話し掛け
た。
「アインさんって、今何をしているのですか?」
「遥殿の仇を討つべく、元凶の主催者を追跡しておる」
(仇…ああ、あの……)
紗霧にはその元凶とやらに心当たりがあった。
彼女は自分を捕縛していた遺作を通じて、素敵医師の存在を知ってるのである。
「そうですか…ところで…」
そして紗霧は先程から、どうしても気になっていた事を口にした。
「アインさんは首輪解除装置の事をご存知だったのですか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
魔窟堂は押し黙った。
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・」
430西へ行く六人(6):03/10/15 21:23 ID:rnOcV2as
 (ま、まさか…アインさんも…)
 紗霧の心に暗雲が立ち込めていく。
 しばしの沈黙。そして…
「すまぬ…あの時、アインの首輪が外れていたことに気づかなんだ……」
「・・・・・・・・・・・・・」
 紗霧は歩みを止め、ふた呼吸後に数歩下がり、左足のつま先で地面を抉り、
そして…
「とりゃああああああ!!」
 気合と共に魔窟堂の背中に飛び蹴りを叩き込んだ。
「うぼうっ!?」
「本格的にボケてたようですね…貴方もアインさんもっ」
「アインさんがどうかしたの?」
二人のやりとりを不審に思って口を出したまひるを含めた同行者3人も二人の方を見
た。
「ま、待て、まだ全部喋り終わっておらんぞ!」
「では、その言い訳を聞きましょうか」
「う、うむ、しかしの……」
魔窟堂は、ばつが悪そうにまひるを見る。
「?」
魔窟堂はまひるに、アインがタカさんを殺めたと言っている。
あえて仇敵になろうとしたアインに報いるためにもこの場で、真相を話すのは
ためらわれた。
431西へ行く六人(7):03/10/15 21:25 ID:rnOcV2as

「……続けて魔窟堂さん」
「まひる殿……」
「アインさんとはあたしが直接話すからさ。今はみんなで話し合うのが大事でしょ
?」
「………………」
笑顔で答えるまひるに対し、魔窟堂はしばし黙っていたが、やがて重い口を開いた。

魔窟堂の話はこうだった。

深夜12時。病院でアインと再会した魔窟堂はアインの頑なな態度に困惑しながら
も、一緒に病院に入った。
互いにかなり疲労していたので、ろくに会話しないまま、見張りの役割分担を決め。
その結果、先にアインが二時間ほど仮眠をとり、その後に魔窟堂が同じくらいの時間
分仮眠をとることになったのである。
それから30分位して、瀕死のタカさんを担いだまひるが病院を
訪れ、そのタカさんが命を落とす前には魔窟堂らと別行動を取った。
というわけである。

「つまり、誰も気づかなかったわけですね、アインさんの首輪が外れていた
ことに」紗霧は指をおでこにつけて、目を瞑った沈痛な表情で言った。
まひるとユリーシャはやや暗い表情で、恭也はどう言えばいいのか解らないって顔を
している。
432西へ行く六人(8):03/10/15 21:32 ID:rnOcV2as
 
「全く、この調子では………」
と、言いかけた紗霧だったが、あえて、これ以上愚痴は言わなかった。
「どうしたの紗霧さん?」申し訳無さそうにしていたまひるが言う。
(命がかかっているのに気づかなかった私も私です…)
 紗霧は顔を青ざめさせてふらついた。
 尚、紗霧はアインと遭遇した時の事を遭遇していないと、魔窟堂らに
嘘を言っていた。
「急に眩暈が…」
「大丈夫?」
「これくらいは平気ですので…心配は不要です」
「そう…無理しないで」
何とか、とぼける紗霧と、気遣うまひる。
(気づかなかった私達も間が抜けてましたが、アインさんの方も事の経緯くらい
魔窟 堂さんに話せばよかったじゃないですかっ)
これまでのアインの行動全てを紗霧は把握しているわけではない。
それでも魔窟堂の話から大体は推測できる。
紗霧の現段階で導き出したアインの評価は、これまで仲間達の保護やグレン・コリン
ズ捜索よりも、敵対行動を取った者の抹殺(誤解も含めて)と主催者1人の打倒を優
先しているのが解る。
今後、戦力を増やして主催者にぶつける事を考えている紗霧にとって、アインには
それ以上、単独行動を取ってほしくなかった。
これ以上、仲間に出来る参加者をむざむざ殺させてしまう事態を避けたいからだ。
(アインさんと再会したら文句を言いたい所ですが、彼らに嘘を言ってしまい
ましたから……あちこちに仕掛けた罠にも気づいてるかもしれません し…。
……いざとなれば、魔窟…ではなく、まひるさんの背後に隠れますか…)
と、紗霧は小さくため息をついた。
こうして、そのまま六人は西の森を目指したのだった。

                    ↓
433西へ行く六人(9):03/10/15 21:36 ID:rnOcV2as

【広場まひる】
【所持品:せんべい袋、服3着、干し肉、斧、救急セット、竹篭、スコップ(大)】
【現在地:西の小屋へ移動中】
【スタンス:参加者救出、争いをなるべく避ける】
【備考:身体能力↑、怪力、爪、超嗅覚・感覚、片翼、衝撃波(練習中)使用】

【月夜御名紗霧】
【所持品:対人レーダー、銃(45口径・残7×2+2)、薬品数種類
スペツナズナイフ、金属バット、文房具とノート(雑貨屋で入手)、智機の残骸
の一部、携帯用バズーカ(残1) 医療器具(メス・ピンセット)】
【現在地:同上】
【スタンス:反抗者を増やし主催者へぶつける。 モノの確保】
【各地で得た道具をまだ複数所持】

【高町恭也】
【所持品:小太刀、鋼糸、アイスピック、銃(50口径・残4)、鉄の杖、保存食】
【現在地:同上】【スタンス:主催者打倒、知佳の捜索と説得】
【備考:失血で疲労:中、右わき腹から中央まで裂傷あり。神速使用不可。
痛み止めの薬品?を服用】

【ユリ―シャ】
【所持品:ボウガン、スコップ(小)、メス1本、指輪型爆弾×2、小麦粉、
解除装置、白チョーク1箱】
【現在地:同上】【スタンス:現時点では病院組に協力。後はランス次第】

434西へ行く六人(10):03/10/15 21:37 ID:rnOcV2as

【魔窟堂野武彦】
【現在地:同上】
【スタンス:運営者殲滅】
【所持品:レーザーガン、軍用オイルライター、白チョーク数本、スコップ(小)
ヘッドフォンステレオ、マジカルピュアソング】

【ランス】
【現在地:同上】
【スタンス:打倒主催者・女の子を守る】
【備考:気絶中・肋骨2〜3本にヒビ・鎧破損】
435さおりふたたび(1):03/10/15 21:42 ID:rnOcV2as
 
(二日目 PM2:48 洞窟付近)

 東の森の楡の木広場の北東にある洞窟。
 その入り口に二人は佇んでいた。
 一人は金髪長髪の逞しい青年。
 もう一人は亜麻色の長髪をした赤黒い血で染まったワンピースを着た幼い少女。
 男――ザドゥは腕を組んだまま近くの木にもたれかけて、目を瞑ったまま微動だ
にしなかった。
 少女――しおりは木の根っこに座りかけたまま、ただぼんやりと空を見上げて
いた。
 二人は十数分前からこうしている。
「眠ちゃったわけじゃないよね…?」
 しおりは視線をザドゥの方に向けて呟いた。
 今のしおりの目的は参加者殺害。
 彼女の主であったアズライトを、生き返らせるという願いをかなえるために、
ザドゥとの戦闘後に選んだ選択がそれであった。
(つかれてるのかな?でも、そんな風には見えない…)
 ザドゥを見てそう思ったしおりであったが、すぐにその考えを否定した。
 学校内で遭遇した時に感じた威圧感はそのままだったし、第一自分との闘いで負った
 ダメージらしいダメージは、右手の火傷ぐらいだ。
 むしろダメージが残っているのはしおり自身である。
(まだ痛いよ…)
 しおりは身体中に感じる打撲による痛みに顔をしかめる。
 凶と化した彼女の微弱ながらも備わっている回復能力をもってしてもダメージが
まだ残っていた。
(寝ちゃおうかな…)
 早く、参加者達を皆殺しにし、願いを叶えたい気持ちは強かったが、疲れが残ってい
る事もあり、本当にそうしようかと考えた。
 しおりはザドゥを見た。
436さおりふたたび(2):03/10/15 21:46 ID:rnOcV2as

「……………?」
 先ほどの戦闘で散々、主催者の強さを嫌と言うほど味わってきたしおりにザドゥを
攻 撃する気はもう無い。
 ただ、自分が寝ている間にどこかへ行ってしまうのではないかと言う懸念があった。
 どうしても、ここでザドゥが立ち止まる理由がしおりには見当たらなかった。
――その時、しおりの耳に誰かの声が聞こえた気がした。
「……?」
(誰の声…なの…)
 何かを命じる女の子の声。
しおりには懐かしく思えたが、その声にはどこか違和感を感じた。
「!」
 しおりは気づいた、彼女の右手に握られた日本刀。
その切っ先はいつのまにかザドゥの方に向けられていた。
(え、え?私、あれ?どうして…)
慌てて刀を引っ込めようとしたが、わずかな抵抗があって、ふるふると右腕を震わ
せながらゆっくりと刀を下げていく。
「…………」
「!!」
ザドゥの目はしおりのその様子をじっと見ていた。
しおりは顔を青ざめさせ、大きく息をのんだ。

437さおりふたたび(3):03/10/15 21:49 ID:rnOcV2as
「ざ、ざ……ザドゥさん…あのその……」
「フン…別に構わんぞ」
「そ、そんなつもりじゃ…」
「いつでも好きな時に私に挑めばいい」
「…なかったんです…でも…」
「この状態が嫌なら、私から離れるのも良かろう」
「でも…」
しおりとしてはザドゥを餌に彼を狙ってくる参加者を仕留めたかったし、何となくで
はあるが彼についていくと願いとは別の何かを得られるような気がしたので離れた
くなかった。
もっともザドゥとしても、今は参加者と事を構えたくなかったので、どちらかと
いえば利用したいのだが。
「どうして、探すの…やめたんですか…?」
「止めた訳では無い。貴様は感じていないのか…大地の鼓動を、森全体に漂う
何かを?」
「何かですか…?」
その違和感はしおりにも漠然と感じていたことだった。
(地面から何かながれてる音が聞こえる。それに…)
「たしかにヘンな感じが…」
言われてみて、そう納得するしおり。
「それの原因を突き止め……砕く」
「原因って……」
「さあな………」
ザドゥはそう答えると、また目を瞑ったまま黙り込んだ。

438さおりふたたび(4):03/10/15 21:51 ID:rnOcV2as
(邪魔しちゃ悪いのかな…)
しおりはそう判断し空を見上げた。
雲がゆっくりと流れている。空全体には青い空と白い雲が、しおりの視界の中ではほ
ぼ同じ割合で覆い尽くしている。
ザドゥがしおりの知らない間に何処かに行ってしまわない様に、眠気に抵抗しながら
ただぼんやりと空を見続ける。
――また声が聞こえたような気がした
今度はそれに反応することなく、ぼんやりとし続ける。
その声の主は誰なのか?何処から聞こえてくるのかは今の彼女にとって、驚くほどの
事ではなかった。再び、知らないうちにいなくなっていた『彼女』が戻ってきただけ
の事だったのだから。

439さおりふたたび(5):03/10/15 21:53 ID:rnOcV2as
―――それは過去に呟いた『彼女の心の声』
1日目 PM6:30 南の山道で

(おにーちゃんに髪を洗えてもらえてとても嬉しかった!)
(…でも、どこかいつもと違うような気がする……)
(ううん…おにーちゃんはあたし達を、助けにこの島に来てくれたんだから、こんな
コト考えちゃダメかな?)
(あと、シャロンおねえちゃんを、殺したことだまっておこう…)
(いっしょに元気で家に帰らなきゃいけないしね!)


―――1日目 PM9:59 西の森外周で

(・・・・・・・・・・)
(やっぱり……おにーちゃんじゃない…)
(あたし達だけをみていない……レティシアという人の事が好きなんだ…)
(はやく家に帰りたい…でも、それでも、どうしてか、あの人といっしょにいた
い…)
(ね、しおりちゃん…聞こえてる……?)
(あたし…これ以上あの人とお話するのつらいから…身体かえすね…)
(あたしがあの人と会ってからの記憶あげるから…がんばってね…)
(あたしより強い力つかえると思うから…)
(マスターのこと…おにーちゃんと呼んでね……)
(・・・・・・・・・・・・)
440さおりふたたび(6):03/10/15 21:55 ID:rnOcV2as
―――1日目 PM10:55 西の森外周で

「ん…?おにーちゃん…」
わずかな月光が差す森の中、ぱちぱちと焚き火が立てる音を聞きながら、しおりは
寝 転がったままアズライトの顔を覗き見た。
「さおり、もう休まなくてもいいのかい?」
アズライトに呼びかけられたしおりは寝ぼけまなこで、きょとんとした顔で彼を見つ
めると、苦笑いしながら答えた。
「違います、マスター……わわっ、おにーちゃん。私はしおりです。さおりちゃんは
双子の妹です」
「え………!?」
その言葉に虚を突かれたアズライトは、しおりの顔を見つめ、思わず視線を寝転がっ
ている鬼作へと移した。
「………」
鬼作は寝ていた。
「どうしたんです、おにーちゃん?」
「あ…いや、君は……」
「……あ!さおりちゃんの事ですか。だいじょーぶ、近くで寝ちゃってます」
笑顔でこう答えたしおりだったが、アズライトからは困惑の表情は消えなかった。
何故ならこの近くには三人以外、誰かがいる気配はまるでない。
なのに、しおりはそこにいるのが当然のように振舞っている。
(この子の…名はさおりじゃないのか…)
凶は主に無条件で服従する本能を持っている。
主にたいして嘘をつく事はまずありえないはずだ。
なのに現状と違う事を口にしている。
だが、アズライトが疑問に思った事はそれではなく、いるはずの無い彼女の『妹』の
事だった。
(まさか…この子の妹は既に……)
「どうしたの?」
しおりは不安を覚え、主に問い掛けた。
441さおりふたたび(7):03/10/15 21:57 ID:rnOcV2as
「君は……」
アズライトはしおりに対してどう言えばいいのか解らなかった。
しおりは主を元気付けようと話題を変えた。
「おにーちゃん…いっしょに寝ていい?」
「う、あ…いいよ」
しおりは嬉しそうにアズライトに抱きつき、彼の側で寝転がると数分も経たない内に
寝息を立て始めた。
「……アズライトさん、どうなされたんで?」
しおりと入れ替わりに目覚めた鬼作は姿勢はそのままにアズライトに話し掛けた。
「あ…鬼作さん…しおりの事でちょっと…」
「しおりさんが何か?」
「僕は…彼女に何をしてやれる…のかと…」
「はあ…わたくしから見てアズライトさんは、充分にしてやっていると思いますが」
「そう…でしょうか?」
「まあ、あまり根つめて考えてもなんですし、別の事を考えられてはいかがですか
?」
「はい……」
アズライトの返事を機に二人は黙り込む。
(僕はどうすれば…鬼作さんやしおりの期待に答える事が出来るんだろう…?僕は自
分の救済のみを求めそうな男なのに…)
(参ったぜ…あのじょーちゃん、ちいっとばかり壊れてたかも知れねえなあ。確か、
昼の放 送で聞いた名前を名乗ってやがったからな。じょーちゃんはアズライトに
任せるしか ねえようだし、俺もそれに合わせとくか)
責任感と罪悪感に押され、逃げだしたい心境のアズライトと、今後のしおりへの対応を
考える鬼作は沈黙したまま次の定時放送を待ったのだった。
442さおりふたたび(8):03/10/15 22:00 ID:rnOcV2as
―――二日目 AM3:50 西の森にて

渦巻く炎と燃え盛る木。
そんな風景の中、しおりは走る。アズライトと再会するために。

(しおりちゃん…もう…あたしがいなくても大丈夫みたい…)
(それだけの力があればおうちに帰れるよね)
(でも、本当のおにーちゃんのこと…思い出してね…)
(あたしたちはおにーちゃんの物なんだから)
(あたしのこと忘れても…いつか、おにーちゃんのことだけでも思い出してね…)


―――二日目 AM11:44 学校付近で

しおりは新たに建てられた校舎に戸惑いながらも、一生懸命探し続けている。
主催者・椎名智機に殺された……
主であるアズライトと、命の恩人である鬼作の死体を。
やがて校庭の端に無造作に放置されていた二人の死体を見つけると、嗚咽をこらえな
がら遺体を運び出し、埋葬を始めた。

「マスター……」

(しおりちゃん…おにーちゃんのこと…もう思い出せないのね…)
(マスターのこと……おにーちゃんとよびつづけてほしかった…)
(もう、しおりちゃんには誰もいない…)
(だから…だから…時間がたてばまた、あたしが助けてあげるね…)
(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

443さおりふたたび(9):03/10/15 22:04 ID:rnOcV2as

(二日目 PM3:45 洞窟付近)

(しおりちゃん、しおりちゃん…)
「え?さ、さおりちゃん!?」
 ほとんど寝てしまっていたしおりは、いつも一緒にいる『さおり』の声で我に帰っ
た。
 前方には背を預けていた木から離れたザドゥが、彼周辺の空気を歪ませる闘気を
漂わせながら悠然と立っていた。
「ザドゥさん、何してるの?」
(わかんない…でも、じっと見ておいたほうがいいよ)
「・・・・・・・。さおりちゃん……」
(なーに?)
「どうしてさっき、ザドゥさんに刀向けたの」
(…………)
「たしかに怖い人だけど…マスターや私達と同じモノもってるから、卑怯な事ダメだ
よ」
(…………)
「どうして黙っているの…さおりちゃん…」
(・・・・・・・・・・・)
「ねえ……」
右目では哀しみを含めた非難の色を、左目では不満と少しの苛立ちの色を宿してい
る。そんなしおりと『さおり』のやりとりを、背を向けていながらもザドゥは聞いていた。

444さおりふたたび(10):03/10/15 22:06 ID:rnOcV2as

(智機の報告通りだな…)
 しおり達、ゲームの参加者には爆弾入りの首輪が装着させられている。
 その首輪は盗聴器も仕掛けられており。
 その盗聴記録は全て智機の知る所となっている。
 ザドゥ達、主催者はしおりが精神分裂を起こし、なみに殺害された妹、さおりに
扮した凶暴な人格が、本人の知らない内に生まれた事を知っているのである。
(双子か……)
 ザドゥにも双子の弟がいるが、その弟は最近まで存在を知らなかったどころか、
不倶戴天の敵である。しおりの妹に対する気持ちは理解できないが、それでも
現実逃避してしまうほど大切な存在だったのは大体解っている。
それとザドゥは先日、智機に何故、双子がフルネームで登録されていないかを
不思議に思い問いた事がある。
その返答は、開始直前にランダムで選ばれたために、データーがなかったという事実
だった。
(死んだ参加者にも言えることだが……特に哀れだな)
その要因は自分達主催者にもある事を充分に自覚した上でザドゥは自嘲の笑みを
浮かべた。
445さおりふたたび(11):03/10/15 22:09 ID:rnOcV2as

(フン…今更、参加者にかけられる情など…)
 ザドゥはじぶんを奮い立たせると、右掌を見つめた。
 火傷は大分治っていた。次にその掌を先日からうずく腹部に当てる。
 そのうずきはスッと消えた。
(素敵医師の所在、カモミールの状態、そして、他の参加者。これは時間をチップに
した『賭け』だな)
 現在、この森には人の感覚を狂わせる力場が働いている。
 参加者の行動記録を見る限り、長時間東の森を迷っているのがいたのと、ザドゥ自身
目的地に辿り着けなかったのを考えて、ある方法を用いる事にしたのである。

―――死光掌
万物に宿る気を自在に操る奥義。
ザドゥはゲーム開始直前のタイガージョーとの闘いでそれを使用し、勝利を収めた。
その技は皮肉にも自分を絶望のふちに叩き落した、双子の弟シャドウの死光掌と同じ
ものだった。
だが、本来の死光掌は様々な応用が効く。
ザドゥは実戦で一度用いただけで、それを感覚で理解していた。
この1,2時間ザドゥはただ考えていただけではない。
ついでにいえばゲームが始まってからずっと、智機や素敵医師では気づかないような
鍛錬を積み重ねていた。
即ち、己の死光掌をより高めるために気を練り続けていたのである。
ザドゥはいつ参加者が本拠地に乗り込んできても一向に構わなかった。
自らの手で返り討ちにすればいいだけのことだから。
だが、目的はあくまで自らが運営している殺人ゲームの成功。
これまで他の運営者に仕事を任せてきたのはその為だった。

446さおりふたたび(12):03/10/15 22:10 ID:rnOcV2as

ザドゥは右掌を地面につけ、己の闘気を解放した。
彼を中心に小規模な竜巻が発生し、砂ぼこりを巻き上げる。
彼の左の拳に青白い輝きが宿る!
「おおおおおおぉぉぉぉぉぉぉっっ!!」
彼の雄叫びと共に青い炎を宿した拳が地面に振り落とされた。

―――その瞬間、ザドゥを中心に東の森全体に波紋が走った

                  ↓

【主催者:ザドゥ】
【現在位置;東の森・洞窟前】
【所持武器:己の拳】
【スタンス:素敵医師への懲罰
      参加者への不干渉】
【備考:右手に中度の火傷あり】


【しおり】
【現在位置:東の森・洞窟前】
【所持武器:日本刀】
【スタンス:しおり人格・参加者殺害
      さおり人格・隙あらば無差別に殺害】
【備考:凶化・身体能力上昇。発火能力使用
    弱いながら回復能力あり
    多重人格=現在はしおり人格が主導】

447名無しさん@初回限定:03/10/15 23:13 ID:NwnfyKLx
448名無しさん@初回限定:03/10/15 23:40 ID:4xFQQRIy
そして誰もいなくなった;
449名無しさん@初回限定:03/10/18 21:37 ID:r1bnICUd
保守。
450名無しさん@初回限定:03/10/21 19:14 ID:3FHvB4Pk
ほしゅ
451名無しさん@初回限定:03/10/24 19:38 ID:HIwSPFMv
保守
452名無しさん@初回限定:03/10/26 20:55 ID:LevzsyMA
保守
453名無しさん@初回限定:03/10/29 20:07 ID:RUfkouir
ほしゅ。
454名無しさん@初回限定:03/11/01 17:30 ID:10IYWoW6
保守
455名無しさん@初回限定:03/11/03 06:21 ID:KQE05qzJ
漏れしか居ない予感!
456名無しさん@初回限定:03/11/04 15:56 ID:mzy0xBMl
いるよー
457名無しさん@初回限定:03/11/04 22:39 ID:NiZKwxOv
いるぜ
458名無しさん@初回限定:03/11/07 20:58 ID:J3oCs1j7
ほっしゅ
459迎撃準備(1):03/11/08 02:58 ID:sA9sHtDj
(二日目 PM3:30 楡の木広場)

巨大な楡の木の洞の中。
その中にいる双葉は腕を組んでこの島に連れて来られる前のことを考えていた。
(何日か前から妙な視線を感じていた。でも、妙な奴らと顔を合わせたのは視線を感
じ始めてからだし、第一、気分転換に遠出した時の出来事だ)
双葉は嘆息して木の壁に後頭部をもたれさせる。
結局の所、この島に連れられる前の記憶で手がかりは見つからない気が双葉にはし
た。明らかに人外である参加者のことも何処から連れてこられたのか、更にこの島が
異世界である事も彼女には知りえないことであった。
双葉は木の壁に後頭部をもたれさせ嘆息する。
「……若葉……どうしてるんだろ……」
双葉は幼少の頃から付き添っていた、自分の妹(分)にして、世話役の少女(外見)
である。
この島に来るまで一緒に付き添っていた若葉が、この殺人ゲームに参加させられてな
かった事に気づいた時、双葉は安堵したと同時に、不安と心細さを(この島の学校の
近くに森林があると知っていたからそれほどでもなかったが)感じたのだった。
(……ううん……若葉のことはアイツとケリを着けてから考えよう……)
若葉が今、無事であるか双葉に確かめる術はない。それゆえに再び現状の事を考える
事にした。

「……にしても、遅いわねぇ……」
多少苛立った声を上げながら、双葉は周囲を見回した。
今、双葉がいる楡の木の近くにいるはずの素敵医師は、二時間ほど前に『早ければ一
時間位で来る』と言っていた。
既に一時間近くオーバーしている。
460迎撃準備(2):03/11/08 03:01 ID:sA9sHtDj
無論、『早ければ』と言っていたのだし、今もゲームが続いている以上、アインの方
にハプニングがあったとも考えられる。
だが、それでも待たされていい気分はしない。
「それともアイツガソリンでも使って森を焼き払う準備でもしてんのかな」
双葉は考えうる自分に対しての最悪の攻撃手段を口にしたが、大地から聞こえる
微かな音を聞きながら、どこか余裕を感じさせる口調だった。
(『領域』を発動させれば今よりもずっと広く見渡せるけど、やっぱ…もう少し様子
を見るべきなのかな)
双葉は少し歩いて、洞の外を見る。そこには周囲を見張るように命じた式神の星川が
こちらの方に近づいてきた。
「星川、どうだった?」
星川は困惑した様子で口を開いた。
「彼ら(素敵医師達)はまだ帰ってきてないよ。でも…実は」
30分くらい前に素敵医師とカモミール芹沢は『探し物』があると言って少し遠くに
離れていた。式神の監視付きで。
「何?」
「……前に双葉ちゃんが、貼った結界の効力が残っていたんだ」
「なんですって?」
前の結界とは、ランス達に対する攻撃が失敗に終わった後、発動させた忌避性結界で
ある。
双葉は平安時代から続く『植物を操る力』に長けた陰陽道の一家の長女である。
その『植物を操る力』は代々長女に引き継がれる上に一族でも稀に見る『植物の声』
を聞く事ができる。
それらの能力は生か死かの極限状態に置かれたためか、従来のものよりも研ぎ澄まさ
れている。
主に自分に敵意を持つ参加者の体力を消耗させるなど自ら有利な状況を作り出す為
に、森の植物に含まれる成分や特殊な磁場(半ば無意識であるが)を操作し、方向感
覚を狂わせたりできる結界をはったのである。
午前中のランス達が双葉の元に辿り着けなかったのはそのためであった。
だが、それは楡の木広場に着いた時点でアインとの決着を求めるために双葉が解除し
たはずだった。
461迎撃準備(3):03/11/08 03:03 ID:sA9sHtDj
「……………」
(……ホントだ、確かに解除されてるのに、効力がまだ残ってる……)
双葉は周囲の植物の気の流れを読んで、異常に気づく。
(あいつが来ないのも、無理ないわ)
ちなみに、同時に双葉はどうして素敵医師達が来れたのか、疑問に思ったが明らかに
薬物中毒であったからと結論つけていた。
(参ったわね……変に干渉すると『領域』が失敗してしまうし、どうしたら…)
「双葉ちゃん、次の定時放送まで様子を見るかい?」
(持久戦か……)
双葉は今の時間枠内で、アインと決着をつけたいと考えている。
時間が経てば、参加者が減る。
前のように優勝を狙うのなら、それでも良かったのだが、透子と『神の声』の件で、
ゲームで優勝しても無事に生きて星川本人を蘇生できる保障が無いと判断した今の双
葉には現時点ではその考えを持ってない。
もし、主催者と戦う他の参加者がいれば、彼らのサポートをする。
それが自分から攻撃してしまい、参加者の大半と顔を合わせられなくなったと考えて
いる双葉が取れる最善の方法だった。
蘇生した星川と胸をはって再会するために。
実は双葉は心の奥でアインを殺害する事によって、拒絶されるんじゃないかという不
安は抱えている。
それでも、アインに対して、落とし前をつけずにはいられなかった。
〔次の定時放送まで待ちましょ。その時の放送で考えるわ〕
双葉は棒で地面に字を書いて星川にそう伝える。
星川はOKのサインを出すと、何かに気づき双葉に言った。
「どうやら、彼らが戻ってきたみたいだよ」
楡の木と交信して、素敵医師達の帰還を知った星川は双葉にそう伝えた。

462迎撃準備(4):03/11/08 03:04 ID:sA9sHtDj
「ああああ、あーちょーっと双葉の嬢ちゃんに渡したいものがあるやか」
大きなズタ袋を手に持った、全身包帯の痩身の男、素敵医師はしゃがみこんで、双葉
の式神である緑の小人に話し掛けた。

「えへ、えへへへへ………素っちゃん〜もう、これ斬っていいでしょ〜」
左腕に包帯を出鱈目に巻いた、金髪の女性が口から泡を吹きながら腕を振り回しなが
ら言った。
「駄目ぜよ」
「え〜〜まだ駄目なのぉ〜。それじゃあ…焚き火ならいいでしょ〜」
「兎に角、駄目がよ」
「寒いのに〜」

『その女にそんな真似させないでよね。で、私に渡したい物って何?』
突然、何処からともなく、双葉の不機嫌そうな声が響く。
「ひへへへへ……銃ぜよ。嬢ちゃん今、武器持ってなかったじゃか。センセからのプ
レゼントぜよ」
『……………』
しばしの沈黙。そして、十数秒後。
『解ったわ。星川に取りに行かせるから着いて来て』
式神が腕を上げて、着いてくるように合図した。

「確かに受け取ったよ」
「くへへへ……双葉の嬢ちゃんによろしくき」
星川に布で包んだ何かを手渡すと、そう言って素敵医師は洞から出て行こうとした。
『………待って』
「あー双葉の嬢ちゃん、なな何かよ?」
『元主催者である、あなたに聞きたいことがあるんだけど』
「?」
『あたし達、参加者が着けている首輪。どんな仕掛けしてるか教えて。ゲーム開始前
に説明した以外の仕掛けをね。知らないとは言わせないわよ』
463迎撃準備(5):03/11/08 03:08 ID:sA9sHtDj

―――沈黙

そして、素敵医師は相変わらず目をキョロキョロさせながらこう言った。
「へけけけけ……嬢ちゃん、な、中々の突っこみやか。センセ、しししし知っちゅう
こと教えるにぁ」
『そう……じゃあ死んだ星川の首輪に何を仕掛けていたの?』
「まま、ま、前もって言っとくがか、首輪作ったのはセンセじゃないきね。外し方と
かまでは解らんがよ」
『……………』
「多分、星川の兄ちゃんの首輪は特別製だったぜよ」
『!』
「嬢ちゃんの首輪のように、首輪を外されまくったら、ゲームにならんきね」
『・・・・・・・・・・・・・・・』
空気が変わった。
『…どんな仕掛けがしてあったのよ……』
「センセにも良く解らんがよ。ほ、ほほ星川の兄ちゃんが死んだ時の状況を知っちゅ
うわけじゃないき」
『・・・・・・・・・・・・。じゃあ、誰が…誰が…その首輪を作ったのよ……』
「そそ、そ、それもセンセにはよく知らないきね」

『……とぼけるんじゃないわよっ!』
双葉の怒声とともに、星川が素敵医師と間合いを取り、洞の中から振動音が聞こえ始
めた。
「ま、ままままま、待つがよっ!センセはホントの事、言っとるぜよ!」
『これ以上、とぼけたらあんたを他の参加者に突き出すわよ!』
洞の中に白い光の粒がちらほらと降り出す。
「じょ、嬢ちゃん。こ、こ、これは何がよ?」
『さあ?』
「さ、さあ、って?せっ、せっ、せっ、殺生やき!!嬢ちゃんっ、やめるがよ!!主
催者は、分校にいたのが全員じゃないがよ!」
464迎撃準備(6):03/11/08 03:12 ID:sA9sHtDj
『……………?』
「じじじ、実は運営者はこじゃんと……沢山いるぜよ。中にはセンセと顔を合わせと
らんのもいるき」
『兵隊とか、学者とかなの?』
「そ、そそ、そうがよ。何十人もいるその誰かが首輪を作ったがよ」
『・・・・・・・・・・・・・・』

―――再び沈黙。少しして

『……もう、行っていいわよ…』
「へひひひ…へけけ。そんじゃ、センセ、すぐに退散するぜよ。ほんなら」
双葉の言葉とともに腐臭交じりの安堵のため息を吐いて、素敵医師は足早に洞を出て
行った。
「・・・・・・・・・・・」
素敵医師が出て行ったのを確認した星川は洞の奥へと進み、布に包んでいたものを双
葉に手渡した。
「双葉ちゃん、これ」
「拳銃と刃物ね」
布を取ってみると出てきたのは、黒光りする拳銃とカートリッジが3つと手術用のメ
ス2本。
銃の口径は小さめだが、装弾数は15発と多めだった。説明書も付いていた。
「使う機会は無いかも知れないけど……」
銃に仕掛けをしてないかどうかを確かめながら、双葉はそう呟く。
「…………」
しげしげと銃を眺める双葉を星川は見つめた。
465迎撃準備(7):03/11/08 03:13 ID:sA9sHtDj

「どうしたの?星川」
〔彼らと手を組んで本当に良かったの?〕
文章で言葉を伝える星川。
〔解んない。でも、利用されるつもりはないわ〕
(沢山の運営者か……考えてみれば当然よね。あの小説もそうだったし)
さっきの素敵医師との会話を思い出し、訊き出した情報を双葉は考える。
(星川……)
素敵医師の言う事を鵜呑みにしているわけではないが、さっきの会話であの時、エー
リヒに対しての星川の目貫が失敗したのは首輪が原因と双葉は確信した。
(首輪の仕掛け……そうだよね。そんなに甘いわけが…無かったんだ…なのに……あ
たし……)
双葉は木の壁を力なく叩いた。

466迎撃準備(8):03/11/08 03:14 ID:sA9sHtDj

(二日目 PM3:40 楡の木広場)

「今、戻ったがよ」
「素っちゃん、おかえり〜」
地面に寝転がったまま自慰をしていたカモミールを見て、素敵医師は言う。
「カモミール、また我慢できずにやっとったがか?しょんない子やき」
「ぶ〜〜だってぇ〜」
「あーあーまた、下血しとるがか。今、オクスリやるき」
下半身から血と精液を垂れ流している、カモミールの右手首に注射を突き刺すと、中
の青白い液体がみるみる減っていく。
「素敵医師オリジナルブレンド万能薬【Ver3.5】ぜよ。いいいい、遺作に使ったオク
スリよりも更にバージョンアップやき。増血剤も兼ねちゅうから、便利がよ。センセ
には使えんちゅうのが欠点やが」
「ふぁぁ〜〜〜」
「それにしても双葉の嬢ちゃんも用心深くなったがか。センセ、思わずびびってし
まったがよ。けひけひひ、けんど、まだまだ甘く、青いやき」
素敵医師は双葉に対して嘘は言っていない。
ただ本当の事を伝えきっていないだけだ。
首輪を設計したのは主催者・椎名智機。
機械工学のみならず、医学にも秀でた彼女にとって、星川の視神経の一部分だけ切断
する機能を首輪につけることは造作も無い事だった
467迎撃準備(9):03/11/08 03:15 ID:sA9sHtDj
当然その事は素敵医師も知っている。
素敵医師曰く、沢山いる運営者は智機のレプリカの事を指していた。
そして、200体以上のレプリカのどれが星川の首輪を作ったのかは知らない。
手に付いた精液と血を舐めながら、カモミールは素敵医師に問い掛けた。
「ね〜〜素っちゃん。この袋の中身なにー」
「この袋の中身がか?センセとカモミールの武器がよ」
「アタシの武器〜〜?」
「そ、そ、そうぜよ。切り札としてある場所に隠しておいたがよ。カモミール、おま
んが基地に置いてきた武器も隠しといたがよ」
「ん〜よくわかんないけど…ありがと〜素っちゃん」
「礼にはおよばんきね。無くした鉄扇も拾っといたがよ」
素敵医師がぱっと開いた鉄扇には元は『尽忠報国』と書かれていたが、ゲーム開始前
にカモミール自身が削り取っている。
「ザドゥの大将と、アインの嬢ちゃんが遅れてる分、こっちも色々できるきね♪」
素敵医師は武器の手入れを始める。
「あっこれ、ゆーこちゃんのだ〜」
カモミールは手入れしていた刀と袋に入っていた棒状のものを見て懐かしそうに呟
く。
「カモミールのしょしょ、所持品じゃなかったがか?」
「うー、うん。虎徹はゆーこちゃんのだよ〜」
「そ、そ、そ、それがカモミールの切り札だったがか?」
「あははーーよくわかんない〜〜。でも、大切に使うね〜〜」
カモミールは涎を垂らしながら、虎徹を鞘に収めた。

468迎撃準備(10):03/11/08 03:20 ID:atGfOTjD
(二日目 PM3:44 楡の木広場)

(何なの……?これ……)
目を瞑り、精神を集中させ周囲の気の流れを読み始めた双葉は、異変を感じ取ってい
た。
―――妖気としか形容の仕様がないモノ
忌避性結界の触媒として使っていた『何か』が思ったよりも増大し広がっているの
だ。
(元々、この森にあったものだけど…何で?)
双葉の知りえないことだが、現に星川本人も森で迷っていた。
「……………」
〔仲間たちに訊いて見たけど、今日の昼頃からますます広がっているみたい〕
やや緊張した顔で星川は文章を書いて伝えた。
尚、仲間たちとは、周囲の植物である。
元来、この星川はここから少し離れた場所にある植物をベースに作り出された式神で
ある。
ゆえにそういうことができるのだった。
〔ますますって、昨日から広がってたの?〕
星川はそう頷く。
〔植物達からそんな様子は伝わってこないのに〕


―――そう思った時、森が揺れた。

469迎撃準備(11):03/11/08 03:21 ID:atGfOTjD
「「!」」
揺れは一瞬だったような気がした。
二人は慌てて、周囲を見回すが別に変化は無い。
「双葉ちゃん……今の…」
「ええ……確かに揺れたわね」
双葉は自らの視覚を素敵医師たちの見張りの式神に移す。
「…………」
「双葉ちゃん、どう?」
「あいつらは気づいてないみたい」
「あっ…」
「星川?」
「よ、妖気が消えている」
「へ?」
双葉は顔を上げて、気の流れを読み取る。
「本当だ……」
森に充満していた妖気は消え…否、本来の気に戻っていた。
「……………」
「…………………」
「一体…何が…」
「わ、解らないわよ…あれだけの陰の気が一瞬で、陽の気に転じるなんて…」
二人は突然の出来事に言葉をなくしていた。

                        ↓

470祈り(1):03/11/09 03:11 ID:25AvCqyZ

(二日目 PM3:40 東の森南西部)

「これは……?」
アインは思わずそう呟いた。
素敵医師の捜索のため、再び東の森を南から入ったアインが見たものは、多くの木が
なぎ倒され、そこいら中に木片が散らばっている場所だった。
(この木の倒され方……銃や作業用の機械を使ったものではないわ)
軽い驚きとともに周囲をアインは観察する。
《少なくとも……人の仕業ではないの》
アインの楽器の収納袋を改造した鞘に収められている魔剣カオスが言う。
破壊された木々は根っこから引きちぎられたものもあれば、巨大な鞭に抉られものも
あり、破壊の種類のバリエーションに富んでいた。いずれにしても人間技には見えな
い。
(奴の仕業でないのだけは確かね。この破壊を実行した目的は見えないけれど…)
《どうするかの……アインお嬢ちゃん》
「……………」
(奴のこれまでの手口からして、この破壊者と関係ある可能性は低いわね)
アインは東の森を北東へ進もうとする。
「これ以上、奴を野放しにはできないわ」
《しかし…これだけのことができるのが、敵だとしたら……一度は仲間と連絡を取っ
てみてはどうなんじゃ?》 
「…………………」
アインは迷った。
カオスの言う事はもっともだ。
現時点での魔窟堂一行の状態が気になるし。
明らかな不審者である紗霧が一緒にいるのも問題だ。

471祈り(2):03/11/09 03:14 ID:25AvCqyZ
「彼女の跡をつける必要があったかもしれない…」
《その女がスパイの可能性でもあるのかの?》
うなずくアイン。
「……………………」
アインには魔窟堂達の元に戻れない事情があった。
―――広場まひる
今は魔窟堂達と同行している、彼(アインは女性と思っている)の同行者であったタ
カさんに止めを刺したのは、他ならぬアインだからだ。
瀕死のタカさんを担いできた時点で、悲しみにくれていたまひるを想い、取った行動
がそれだった。
まひるに自分自身を憎ませる事で、彼に生きる気力を取り戻させるために。
それが、自分が助からない事を知り、足手まといになるならと、アインの手を借りて
死んだタカさんに報えると思ったからだ。
先にまひると再会すれば、彼に狙われる可能性がある。
そう、アインは考えている。
自分が狙われるのは仕方がない。
その時、自分はどういう行動を取るかは解らないけど覚悟はできている。
だが、それはまだアインにはできないことだった。
「ごめんなさい…わたしはあの男を始末しない限り…あなたには会えないわ」
そこにはいない生者に語りかけ、自分でも滑稽とアインは思ってしまう。
《お嬢ちゃん…これをやった奴と関わらないなら、早く離れた方がええぞ…。
これをやった奴と鉢合わせになるぞ》
472祈り(3):03/11/09 03:17 ID:25AvCqyZ
「そうね……でも、その前に…」
アインは両手を組み、空を見上げた。
跪いてこそないが、その姿は神に祈りを捧げる信徒に見える。
《お嬢ちゃん、祈りか》
少し虚をつかれた様な口調でカオスは問う。
アインはあいずちをうった。
アインはこの島に来る前、ほんの少しの間だけ学校に通っていた。
キリスト教に基づく教育理念を持つ学校で、その宗教哲学に興味があった。
(祈りなんてものじゃなく……わたしのただの自分勝手な願望なのかもしれないけれ
ど……)
それはまとまりのない思考の羅列に過ぎなかったのかもしれない。
それでもアインは目を閉じて、

―――魔窟堂やまひるの無事と、死んでいった仲間達の安息を祈った。

それが、単独行動を取っているアインにできる数少ない行為だった。
《お嬢ちゃん、神官じゃったのか?》
「そういうわけじゃないわ……ただ…」
《ただ?》
「そうしたかったの」
アインは目を開けて、比較的明るい口調でそう言った。

アインは前を見据え、ケイブリスが腹いせに破壊した木々が散らばった場所を
離れる。
結構、重い荷物を背負っているのに、重さを感じさせないスピードで森を駆ける。
アインは30分ほど前、色々と道具を入手した。扱いなれたナイフも数本確保している。
彼女もまた準備を整えて、戦いの場である楡の木広場へ向かった。

                      ↓
473混戦模様(1):03/11/10 04:03 ID:b6ZBFIGX

(二日目 PM4:10 東の森・中心部)

―――雑音交じりの通信

「……ザドゥだ。智機、現在の状況はどうなっている?」
『まだ、素敵医師を見つけ出せていないのですか?全く貴方は……』
「フン……病院に向かった参加者四人はどうした?」
『……………』
「どうした?」
『No8 高町恭也、No12 魔窟堂野武彦、No36 月夜御名紗霧、No38 広場まひるの四名
の首輪が、No1 ユリーシャによって解除された』
「何だと、あの女はケイブリスが追っていたのではなかったのか?」
『解除装置奪還の任務を忘れ、No2 ランスとの戦闘に没頭した結果、逃走を許してし
まった』
「……ランスはどうした?」
『いなくなったと奴は言っていた。恐らくは魔窟堂が救出したんだろうな』
「つまり…病院での四人とランス達が合流したという事か。居場所の特定はできるの
か?そして今、ケイブリスはどうしている?」
『捜索中だ。残念ながら現時点での居場所の特定は困難だ。ケイブリスの方はダメー
ジを負っているようなので、本拠地に帰還させている。またバカをやらないといいが
な』
「現在、捕捉が可能な参加者は誰だ?」
『楡の木広場に留まっている、No16 朽木双葉と、貴方の前方約百メートル先を行っ
ているNo 28 しおりの二名だ』
「仁村知佳はまだ捕捉できないのか?」
『ああ……先程、校舎内で確認できたんだが、姿を消した。妙な磁場も健在だ』
「つまり、現時点でゲームに乗った参加者は二人だけということか」
『…………』
「………シークレットポイントは、未だ手つかずのままか?」
474混戦模様(2):03/11/10 04:08 ID:b6ZBFIGX
『参加者の誰もがその存在に気づいていないだろう。尤も鍵束は入手したようだ
がな』
「うまく利用すれば、どの参加者でも優勝できる可能性を秘めていたのにか。
鍵の配分とポイントの配置を誤ったな」
『……………』

―――シークレットポイント

グレン(No9 既に死亡)の所持品であった、四つの鍵。
鍵を使って開く、又は多大な力で切り開く事によって、見つかる拠点。
現時点での詳細は不明だが、もし、そこにあるものをうまく利用することができれ
ば、その参加者はかなり有利になる。
極端な話だが、そこに在るものの使いようによっては遙や前のしおりのような
非力な人間でも、知佳やアズライトクラスの能力者を差し置いて優勝する事も
可能なのである。
尚、主催者が参加者より先に利用するとスポンサーから、直にペナルティが下され
る。
ザドゥ達、主催者にとっては参加者達が、シークレットポイントを誰も利用していな
いのはむしろ好都合のようにも思える。
だが、自分から手の出せない『それ』が残っている以上、反逆者が『それ』を使って
有利に事を運んでしまうんじゃないかという危惧があった。

475混戦模様(3):03/11/10 04:13 ID:b6ZBFIGX
『質問はもういいのか?』
「智機よ……」
『何だ?』
「病院にいた参加者達を襲撃したのか?」
『なっ……』
「お前が参加者の首輪解除を、見過ごすとは思えん。前もって、透子に警告させ
た上で行ったのか?」
『……ああ、そうだが、何か不服でも?』
「…我々の願いを叶えるには、ゲーム運営の成功が不可欠だ。あの方は我々が参加者
を全滅させても、願いを叶えてやるとは一言も言っていない。不用意に参加者抹殺に
動くな。下手すればまた返り討ちにあうぞ」
敗北をザドゥに見破られた悔しさを滲ませながら智樹は言った。
『クッ……考えて…おきましょう……』
「質問は以上だ。現地でのナビゲートを頼むぞ」
『…………わかった』
今にも歯軋りしそうな、智機の怒気のこもった返事を最後に通信は切れた。
ザドゥは後を追う。
突然、身を翻して森の奥へ走ったしおりを。
しおりが素敵医師達に攻撃を仕掛けた場合にはそれを止め、自ら素敵医師を始末
するために彼は少女を追ったのだった。

476混戦模様(4):03/11/10 04:15 ID:b6ZBFIGX

(二日目 PM4:15 東の森・中央部)

赤黒く汚れたワンピースを着た少女が走る。
一刻でも早く望みを叶えるため、内に潜む、別人格さおりの提案を受けて、ザドゥよ
りも先に参加者を抹殺するために。
(もう少しだよ、しおりちゃん)
「うんわかるよ、さおりちゃん。この先に殺さなきゃいけない人たちがいるのが」
少女は一人で会話しながら、希望に満ちた顔で激戦の場へ向かった。


477混戦模様(5):03/11/10 04:22 ID:b6ZBFIGX
(二日目 PM4:12 楡の木広場付近)

黒髪の少女が森の中を走る。
腰に黒い魔剣を携えて。木の枝にぶら下げてあった薬品で湿った包帯を、手袋を
した手でつまみながら。
(間違いない。奴は必ずこの近くにいる!)
気持ちのはやるアインに突然、カオスが語りかける。
《お嬢ちゃんがさっき儂を手に持った時な》
「手短にお願い」
小さな声でアインは返答する。
《長年、多くの者に使われた儂でさえ、味わった事のない感覚があった》
「どういうこと?」
《どうやら、儂を使ったときのメリットは、お嬢ちゃんの身体能力が上がるだけじゃ
無さそうじゃ》
「デメリットはあるの?」
《多分、デメリットはないじゃろ》
「………」
アインは包帯を捨て、スピードを落としながら森を抜けようとする。

―――突然、アインの前方に人影が現れた
478混戦模様(6):03/11/10 04:26 ID:b6ZBFIGX
(誰?)
アインは足を止め、何時でも肩に下げているショットガンを撃てる準備をし、
木に身を隠しながら慎重に前に進んだ。
近づくにつれて、人影もはっきりしてきた。
「?」
其処にいる者を見て、アインは少し戸惑った顔をする。

―――どこかで見た容貌。
見たのはごく最近の事。なのに、思い出せなかったのは、『あの時』と違って今は
小奇麗な格好をしているからだろう。
『あの時』の『彼』は血に濡れていたから。
アインは『彼』の顔を見ずに『彼』を殺したのだから。

(まさか…あの少年……)
まだ確信はしていない。
だが、その姿は誰かという答は口から出た。
(星川……翼…?)
アインの姿を認めた少年は、彼女の方を向き、無表情のまま彼女を見つめていた。
                           
                        ↓  
479混戦模様(7):03/11/10 04:29 ID:b6ZBFIGX
【迎撃準備】より

【朽木双葉(No16)】
【所持武器:呪符多数、薬草多数、自家製解毒剤1人分
       ベレッタM92F(装填数15+1×3)、メス1本】
【現在位置:楡の木広場】
【スタンス:アイン打倒、参加側・運営側にはなるべく干渉せず
      首輪の解除、素敵医師と共闘】
【能力:植物の交信と陰陽術と幻術】
【能力制限:術の乱用は肉体にダメージ】
【備考:双葉は能力制限の原因は首輪だと考えている
 朽木双葉、自家製解毒剤服用済み、首輪装着
 解毒剤の効力及び、効果時間は現時点では不明】

【式神星川(双葉の式神)】
【現在位置:楡の木広場付近】
【所持武器:植物武器化用の呪符10枚】
【スタンス:双葉の護衛、周囲の見張り】
【能力:幻術と植物との交信】


【素敵医師】
【所持武器:メス2本・専用メス8本、注射器数十本・薬品多数
       小型自動小銃(弾数無数)、謎の黒い小型機械
       カード型爆弾二枚、閃光弾一つ、防弾チョッキ】
【現在位置:楡の木広場付近】
【スタンス:アインの鹵獲+???、朽木双葉と共闘】
【備考:主催者サイドから離脱、独立勢力化】


480混戦模様(8):03/11/10 04:35 ID:b6ZBFIGX

【カモミール・芹沢】
【所持武器:虎徹1セット、脇差、鉄扇、ヘルメット】
【現在位置:素敵医師に同じ】
【スタンス;素敵医師の指示次第】
【備考:重度の麻薬中毒により正常な判断力無し。
    薬物の影響により腹部損傷、左腕の状態不明】
                 
    【祈り】より
    【アイン】
    【現在地:楡の木広場付近】【スタンス:素敵医師殺害】
    【所持品:スパス12 、魔剣カオス、小型包丁4本、針数本
     バズーカ(残1)、鉛筆、マッチ、包帯、手袋、ピアノ線】
    【備考:左眼失明、首輪解除済み
    抜刀時、身体能力上昇+???、振るうたびに精神に負担】

【混戦模様】より
【主催者:ザドゥ】【現在位置;東の森・洞窟前】
【所持武器:己の拳】
【スタンス:素敵医師への懲罰、参加者への不干渉】
【備考:右手に中度の火傷あり】

【しおり(No28)】【現在位置:東の森・洞窟前】
【所持武器:日本刀】
【スタンス:しおり人格・参加者殺害、さおり人格・隙あらば無差別に殺害】
【備考:凶化・身体能力上昇。発火能力使用
    弱いながら回復能力あり、首輪を装着中
    多重人格=現在はしおり人格が主導】

481混戦模様(8)訂正版:03/11/10 05:06 ID:IuutND8G
追記
【カモミール・芹沢】
【所持品:トカレフ追加】
【備考:薬物により身体能力上昇】

訂正
【主催者:ザドゥ】【現在位置;東の森・洞窟前】→【現在位置:楡の木広場付近】

【しおり(No28)】【現在位置:東の森・洞窟前】→【現在位置:楡の木広場付近】
482名無しさん@初回限定:03/11/12 17:37 ID:tN4+m8BU
更新キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!
483名無しさん@初回限定:03/11/14 22:08 ID:L1GXe7vG
484名無しさん@初回限定:03/11/16 00:26 ID:vjWczpTX
485混戦模様(8)追加2:03/11/18 04:32 ID:3Bx8BX5M
追加

【素敵医師】
【能力:異常再生能力(限りあり)
    擬似死能力】
486敵愾心(1):03/11/18 04:33 ID:3Bx8BX5M

やや赤みがかり始めた夕空。
巨大な楡の木を中心にコウモリのような物体が12羽。
緑の小人6人。のっぺらぼうの平安の貴族風の小人6人。
それらが楡の木広場周辺にある緑深き森の中を、音を立てずに素早く動き回ってい
る。
彼ら――双葉の新しい式神が放たれたのは、彼女曰く『巨大な陰の気』が鎮まってか
ら、わずか3分後の出来事であった。

―――『領域』は既に発動している

先程の現象に強い警戒心を抱いた双葉が『領域』を発動させて23分後。
彼女は式神を通じて、ついにアインを見つけた。

487敵愾心(2):03/11/18 04:34 ID:3Bx8BX5M

(二日目 PM4:13 東の森・楡の木広場付近)

楡の木広場まで、約二百メートル先の森の中。
少年と少女が身動き1つしないまま、離れて対峙する。
「……」
「…………………」
(あり得ない…あの時、確かに仕留めた筈……死者が生き返るはずがない。
じゃあ、目の前の少年は一体?)
少女――アインは目の前の少年――星川翼の姿をした少年を睨みつける様に凝視す
る。
「……」
尚も少年は微動だにせず、無表情にアインを見つめ続ける。
(この少年からは…殺気は感じない……。いえ……殺気は比較的近くから感じるわ)

この状況から、アインは目の前の少年は、異能者による一種のフェイクと考えてい
た。
殺気が何処からか自分に向けられている以上、暗殺者としての彼女の本能はこの場か
らの撤退という判断を告げる筈だった。
だが通常と異なり、彼女の本能は、撤退や少年に対しての攻撃を選択するよりも、様
子を見るのが最善と告げていた。
(長谷川(素敵医師)の罠?それともゲームに乗った参加者の能力?)
アインは警戒を解かないまま……森の周囲を軽く見回す。
微妙な緊張を嗅ぎ取ったのだろう、魔剣カオスもアインに語りかけることなく沈黙を
守っている。
冷たく澄んだ森の空気が漂う森を一瞥した後、アインは少年の微妙な変化を認める。
少年はアインをある一点を凝視していた。
アインの首の位置を。
488敵愾心(3):03/11/18 04:36 ID:3Bx8BX5M

アインはその様子を訝しげに見ながら少年と対峙する。
「……」
「……………」
時間にして二分程度。変化が訪れた。
「?」
アインを見つめる少年の瞳の色が青色から、赤色に変わった。
そして、何処からともなく『声』が聞こえた。


『ふうん…あの時みたいに…いきなり殺さないのね』
「!?」
アインの残った右目が軽い驚きで揺れる。
その声は森そのものが鳴り響くような声で、本来、同じ容姿をした少年のものとは異
なる――女性の声だった。
そして、少年の姿が陽炎の様にゆらめき始める。
アインは軽く息を吐いて、身構える。
少年の姿は一瞬で、首輪を付けた紫色の長髪の赤目の少女――朽木双葉の姿に変わっ
た。

(この少女は……)

『ねえ…あたしと星川の事、覚えてる?』
双眸から憎しみからの暗い光を宿しながら、口元に笑みを浮かべておどけたような口
調で『双葉』はアインに言った。
「………」
(あの時、仕留めそこなった標的。双葉)
アインは神楽の叫びから聞いて知った少女の名を心の中で呟いた。
489敵愾心(4):03/11/18 04:40 ID:yZfR/g/r

現在のアインの目的は素敵医師抹殺。
だからといって、アインは双葉の事を忘れているわけではない。
アインにしてみれば、星川本人と双葉はゲームに乗って、エーリヒを騙し、彼を殺害
した『敵』であると結論付けている。
素敵医師より優先順位が低いだけで、遭遇次第、抹殺という対象である事は間違いは
無い。

(近くに奴の包帯……そして……)
状況を分析するアインに対し、『双葉』は更に問い掛ける。
『……どうして、星川を殺したのよ?』
「…………?」
いきなりな質問にその意味が良く理解できなかった、アインは少し当惑する。
(何を言っているの?まさか…心理作戦の積もりなの?)
『何、黙ってんのよ……』
(だとしたら…奴らしい手段ね)

「…………」
『何で、なんで殺したか……訊いてんのよっ!!!』
森の木々が震えたような、彼女の怒声でアインはようやく言葉を返す。
「あなたと同じくゲームに乗ったからよ」
『…………』
「あなたと手を組んだあの少年が殺害したエーリヒは、ゲームを覆す為に共に行動し
ていた仲間だった。
彼らを騙したあなたなら知っていることでしょう?」
『…………』
『双葉』は無言でアインを睨みつける。
「わたし達が島からの脱出、及び主催者の打倒を成功させるには、ゲームに乗った人
間を野放しにするのは危険なの。だから、殺したわ」

490敵愾心(5):03/11/18 04:42 ID:yZfR/g/r

双葉はアインが、主催者打倒に動いているのは素敵医師の発言からして知っている。
『双葉』は双眸に憎しみと哀しみの色を含めながら言った。
『……星川は…こんなゲームになんか乗ってなかった…私の首輪だって外してくれた
!なのに…なのに!!何で、あんたは首輪を着けてないのよ!』
(首輪?)
叫ぶ『双葉』を訝しげにアインは見る。
現在の彼女は首輪をしている。
アインには『双葉』の言葉の意味がわからない。
そして、先程からくすぶっていた疑問と共にアインは問い掛けた。
「なら…何故、あなたは首輪をしているのかしら?それに…わたしが追跡している主
催者の包帯が近くにあったわ」
『………』
「あなた…奴と手を組んだのね?」
初めてアインの表情から怒りの色がわずかに浮かぶ。

『……誰の所為で…こうなったと思ってんのよ!!あの時…あたしは首輪なんか…し
てなかった……』
「…エーリヒは首輪を破壊されて死んでいたわ。あなたの言っている事は……」
『星川の首輪に仕掛けがしてあったのよ!これ以上、首輪を外されないように!』
「!」
(首輪に仕掛け?)
アインは昨日まで自分も装着していた首輪の事を考える。
絶対的なまでの強制力が働くゲームである以上、参加者に内緒で首輪にどのような仕
掛けがされていてもおかしくない。
なら、双葉の言っている事にも信憑性がある。
アインは星川本人と双葉を襲撃したあの時の事を思い出す。が、双葉が首輪をしてい
たかどうかまでは確認しなかった為、判断の仕様が無かった。
それに魔窟堂からもその事は聞いて無かった。

491敵愾心(6):03/11/18 04:44 ID:yZfR/g/r

(…そんな証拠は…無い…筈。やはり奴の策略…なの)
魔窟堂に訊けばわかる事だが、今は確かめようが無い。
仮にそうだったとしても、目の前の少女とは和解できないだろうし、それ以上に素敵
医師と手を組んだ者を見逃すことはできない。そう、アインは判断した。
「……あなたが今、手を組んでいる人間がどういう人物かわかっているの?」
『………』
「あの男と手を組んだ時点で、あなたはゲームに乗っているも同じ。…始末させても
らうわ」
『ハッ!』

『双葉』の声と共に、森を包み込むような殺気が増す。
「……それに、仮にあなたのいう事が本当だとしても、首輪を装着し、奴と手を組ん
だのはあなた自身の考えでやった事、言い訳にはならないわ」
『・・・・・・・・・・・・ッ!!』
アインは手元のショットガンを『双葉』に向けて構える。
『双葉』は悔しそうな表情のまま、アインに問い掛けた。
『…ねえ……星川を殺した後、あの包帯男をずっと追い続けてるの?』
「……」
思わず、無言で頷いてしまうアイン。
『あんた、自分の仲間がどうなろうと知ったことじゃないのね』
「!」
『参加者や主催者の連中は何人もいるのよ……なのに一緒に行動しないのっておかし
いよ。それにあの時、病院にいた人達がほとんど死んでしまっているのはどういうこ
と?』
492敵愾心(7):03/11/18 04:47 ID:yZfR/g/r

「…………っ」
アインの心に遙達の姿が去来する。そして、

『まさか、またアンタが殺したの?』

バスッ

―――銃弾が放たれた

「……知った…風なこと…言わないで…」
少し荒い息を吐くアイン。
銃弾は外れていた。尚も『双葉』は冷然とアインを見続けている。
『………』
それに戸惑うことなくアインは問う。
「あなたこそ…今まで何をしていたの?ここに来て、何故今頃、私の前に姿を現した
の?」
『あんたをぶっ殺せば、生き残れるとようやくわかったからよ。逃がさないわよ』
その声に答えるが如く、木々の葉っぱがゆらめき始める。
「……やはりあなたは…ゲームに乗ってしまっている。乗っていないのなら、彼の厚
意を無駄にする筈がないもの」
どこか遠くを見るような表情でアインは言う。
『・・・・・・・ッ!』
「そうではないって…証明し続ければ…あなたは……」
『あんたが言える台詞じゃないわよ!!』
アインの周囲にある木々がザワザワと動き始める。
「・・・・・・・・・・・・・。そうね……」
493敵愾心(8):03/11/18 05:01 ID:KjtXoX6L
アインは再度、銃を構え直した。
『言っとくけど…あたしはあんたを説得するつもりも無ければ、あの包帯男の力を借
りる気も無いわ』
「…………」
『引きこもってないで、初めからこうすれば良かった。
あんたは…あたしが全力で叩き潰す!!』
「……なら…わたしは……」
自ら殺めてしまった遙。愉快そうに彼女を見ていた素敵医師。
かつてアインを支配していたサイス。
彼女のパートナー、ツヴァイこと玲二。
殺してしまったタカさん。その同行者だったまひる。
彼らの姿を思い浮かべながら―――
(わたしにもまだやらなきゃいけないことがある。だから……)
「あなたを全力で始末する!」
素敵医師を始めとする主催者への怒りと新たな決意を秘めてアインは言い放った。

そして

アインの近くにある樹の枝が槍のようにアインに向かい。

アインのスパスの弾丸が再び『双葉』に向けて放たれ。

二人の少女の戦いが始まった。


                       ↓
494名無しさん@初回限定:03/11/18 05:12 ID:OWksQ1xb
http://movie99.e-city.tv/

やっぱりインターネット!
モロ動画見たい放題!

http://movie99.e-city.tv/
495名無しさん@初回限定:03/11/20 23:02 ID:mM+qm3jO
ほしゅほっしゅ
496名無しさん@初回限定:03/11/23 17:52 ID:AkQ+5G+J
ほしゅ
497名無しさん@初回限定:03/11/26 06:33 ID:QOBtI0yT
保守
498名無しさん@初回限定:03/11/29 06:50 ID:vDAqopbW
保守。
499名無しさん@初回限定:03/12/01 11:38 ID:dXgA90Yn
ho
500熾烈(1):03/12/02 04:49 ID:C36rLUyg
(二日目 PM4:16 東の森・楡の木広場付近)

バスッ、バスッ!

アインが放った弾丸が『双葉』に命中したのと、刺し貫かんと伸びた枝をアインが前
進して避けたのは同時だった。
「………」
敵の奇妙な攻撃方法と、血を流さない『双葉』の姿にアインは眉をひそめる。
邪魔になるからだろうか、バズーカ砲は既に放っている。
『双葉』の姿が突然、煙の様に掻き消えた。

「………!」
(彼女は何処に?)
ひゅひゅひゅんっ、びゅんっ!
「!」
更に手近な樹から、数本の枝と蔦が、突く、凪ぐの動作で後方からアインを捕らえよ
うとする。
バスッ、バスッ、バスッ!
ショットガンの弾丸が凶器と化した枝と蔦をことごとく粉砕する。

尚も襲い掛かる枝と蔦を避けながらアインは駆け出した。
(この近辺に気配は感じられない。広場にいるのかしら?)
501熾烈(2):03/12/02 04:50 ID:C36rLUyg

未知の力を持つ敵を相手に、いつものアインなら迷わず撤退しようとしただろう。
だが、素敵医師と手を組んでいる敵を相手に、何よりも憤怒と悔恨が入り混じった
『双葉』の叫びを聞いて、この程度の逆境で逃げ出す気にはなれなかった。
もし、彼女の言っている事が本当なら、『双葉』もまたアインが素敵医師を狙うのと
同じ理由で挑んできた事になる。
自分も玲二を殺されたなら、『双葉』と同じような事をその仇に対してするのは解っ
ている。
だからこそ、ここで全力で答えなければとアインは覚悟を決めていた。


《攻撃が少し止んでおらんか?》
(ええ……)
自分なりに周囲を観察していたカオスに、アインは小声で答える。
二分くらい激しい攻撃が続いていたが、その時間の間隔が長くなってきたのである。
(疲れてきた?もしくは……)
そう思ったアインの上空に突如、現れた白い鳥の様なものが飛来し通り過ぎようとす
る。
アインはそれを見逃さず、神経を集中させ攻撃に備える。
『鳥』がアインの頭上に近づこうと、下降を始める。
アインはナイフを抜き、軽く横に避けるつもりだった。

パンッ!

「!」
アインの前方約二メートル前で、突然『鳥』が弾けた。
502熾烈(3):03/12/02 04:52 ID:C36rLUyg

ゆらり

「……?」
何かが揺れた感覚。
そして、再び周囲の植物の枝がざわめき、アインに襲い掛かった。
アインは軽くそれらを避け、再び駆け出す。
『鳥』がはじけた場所には破れた一枚の紙切れが落ちていたが、それには気づかな
かった。


目指すは楡の木広場。
アインは銃を構え、敵の出方を伺う。
樹の枝が再び、アインの方に槍のように向かって伸びる。
アインは軽くそれをかわす。
さらに『枝』がこちらに伸びて、またかわす。
三度、四度それが続いたが、軽く避ける。
(大したスピードでは無い。でも、このまま森にいるのは不利。突っ切って広場に出
た方が得策)
アインは攻撃を続ける『枝』を意に介し無い様に移動速度を上げる。
(……恐らく奴は広場で待ち構えている。罠を張っているのなら……)
アインはカオスをいつでも抜刀できるように意識する。
《お嬢ちゃん。大丈夫なんか?》
「………」
無言で頷くアイン。
(また、攻撃が止んできた)
警戒を全く緩めずにアインはスピードを少し落として観察する。
(草木を武器として操るのなら当然、あれを不意打ちとして使ってくる筈)
503熾烈(4):03/12/02 04:53 ID:C36rLUyg
ひゅひゅっひゅひゅひゅん!

前方の蔦が数本、アインの顔を目掛けて飛んで来る。
アインはナイフで蔦を切り落とし、弾く。
何本かは切り落とせずに尚も襲い掛かったが、既に射程外に逃れていた。
《植物に気を纏わせるとはの……》
「気?」
《そうする事で植物の強度を上げておるんじゃ》
(つまり避けた方が良いという事ね)
攻撃は止んだ。
アインは一気に全速力で駆け抜けようと腰を落とすそぶりを見せた。

ゴバアッッ!!

地面を突き破り、杭のごとき気の根っこが、今までのよりも格段に速いスピードでア
インに向かった。
「ふ……」
それを予測していたアインは軽く根っこを横に避けようとする。
《跳ぶんじゃ!》
「え……?」
カオスの声に答え、ジャンプした。
根っこは完全に避けたはずだった。

504熾烈(5):03/12/02 04:57 ID:sCgebOFo
ゆらり

「え?」
また揺れたような感覚と、何故か当たってしまった攻撃にアインは当惑した。
(一体何が?)
駆け出しながら、根っこの射程距離内を出たアインに対してカオスはこう答えた。
《どうしたんじゃ?ジャンプせんかったら、根っこが胸を貫いておったぞ》
(わたしには簡単に避けれたように見えたけど)
《見当違いの方向へ避けようとした風に見えたぞ》
(……わたしの感覚が狂っていた?)
《んー……多分、幻術の類なんじゃろうな》
(あなたには掛かってなかったようね)

アインはふくらはぎの傷は単なるかすり傷と確認すると、方向を転換し立ち止まっ
た。
《お嬢ちゃん?》
(後、もう少しすればこの森から出られるけれど)
攻撃態勢をとり始め、ざわめき始める木々。
(彼女の力、見極める必要がありそうね)
兵器と化した木々を前に、アインはナイフを構えて対峙する。
これまでの攻撃で、アインには双葉の能力の底が見え始めた様な気がした。

                    ↓
505熾烈(6)舞台裏1:03/12/02 20:07 ID:WKBs9kDI

(二日目 PM4:13 本拠地・管制室)

「貴様が言うか……」
ザドゥとの二度目の通信が終えた直後、椎名智機はザドゥに対しての不満を口にした。
(我等の戦力を減少させ、勝手に出歩く男が良くそんな事を口に出来たものだ)

シュシューー……

ため息の代わりに智機の首から蒸気が排出された。

「あの男もそうだが、この状況、困ったな……」
智機にとって一番の悩みの種は逃がしてしまった魔窟堂達六人だが、それ以外にも
悩みがある。
ゲームに乗った参加者の減少と、プランナーが参加者に与えるという『何か』の
行方である。
逃がした六人+知佳はその手がかりを持っていなかったし、東の森にいる三人に
しても、ザドゥが近くにいる為、命令が来ない限り、行動を起こしにくい。
(あの男なら、アレを参加者が所持していても、大して気にはしないだろうしな)
「ん?なんだ」
回線からの呼び出し音に気づいた智機は出ようとして、突然怪訝そうな顔をした。
「カモミールの通信機からだと?」
506熾烈(7)舞台裏1:03/12/02 22:22 ID:eviNUQa+

管制室に小さく鳴り響く呼び出し音。
(奴め、捨ててなかったのか……)
智機は一旦出て直ぐに切ってやろうかとか、ザドゥにすぐに通報してやろうかと
考えていたが。その衝動を押さえながら応答した。
『素っちゃん〜〜お酒ぇ〜お酒ぇ〜』
『カモミール、黙るがよ。智機の嬢ちゃん、耳寄りな話……』
「やはりお前か。切るぞ」
『まままま待つがよ!センセは取り引きがしたいぜよ!!』
「取り引きだと?」
『今、運営に困っちゅう智機の嬢ちゃんに、びびビッグなプレゼントがあるき』
「ふん……」
『ななな何が可笑しいがかっ?』
『素っちゃん、アタシ勝手に探すね〜〜』
『カモミール!センセのカバンに勝手にいじったっら駄目がよ。
ととと智機の嬢ちゃん、切らんと待つちや!』
「今のオマエ等は主催者でもなければ、参加者でもない。そんなオマエが何を
用意できるんだ?」
『アイン嬢ちゃんの背景の事で、もうちょっと訊きたい事があるき。
教えてくれたら、センセのオクスリを分けてやるがよ』
507熾烈(8)舞台裏1:03/12/02 22:23 ID:eviNUQa+
「…………本気か?」
『ああああカモミール、そっちは双葉嬢ちゃんのところがよ。本気ぜよ。
おお置いてるとこは智機じょーちゃんの返事の後で教えるやき』
「………」
智機は顎をしゃくり、考えを巡らせ始めた。

危険人物で不真面目ではあるが、素敵医師が調合した薬の効果については智機も
一目置いている。
立場上、素敵医師と手を組む事は出来ないし、したくもないが、薬が手に入るのは
智機にとって好都合である。
参加者同士で争わせた上で、一人に絞り込めばゲーム運営は成功するのだから。
智機にとっては、生き残った参加者が中毒で廃人になろうと別に知ったこと
ではない。
すでに答えは決まっていた。

「いいだろう。知りたい情報と、私が要求する種類の薬の配置場所を言って
もらおうか」
『ひひひひけけ……流石、話が解るき、そんじゃあ…………』
508熾烈(9)舞台裏1:03/12/02 22:26 ID:eviNUQa+

「…………以上だ。本当にそんな情報で良いのか?」
『じゅーぶんがよ。オクスリは例の場所においとくき』
「言っておくが、私にごまかしは効かないからな」
『きへへへへ……その辺はぎっちり、守るがよ』
ふと、智機は思い出したように言った。
「ああ…そうだ……当のアインと朽木双葉だがな」
『へひ?』
「既に戦闘状態に入っている様だぞ」
『なっなななっ。双葉の嬢ちゃん、センセに黙って戦っちゅうなが!?』
「そのようだな。あ、首輪からは戦闘の状況は解りかねるからな。せいぜい
長生きするんだな」
『智機のじょ……』
「バッドラック」

ブツっ……

無常にも智機は通信を切り、同時にカモミールと素敵医師の通信回線も
切ったのだった。

509熾烈(10)舞台裏1:03/12/02 22:29 ID:eviNUQa+

(これで少しは運営が楽になるといいな)
智機はひとりごちた。
管制室のモニターに学校跡周辺の映像が映し出される。
(あの薬には色々と使い道がある。参加者に投与する以外にもな)
笑みを浮かべて智機はモニターを見る。
「……」
(異常は無しか)
智機は今から、レプリカに薬を取りに行かせるつもりだが、どこか物足りなさを
感じていた。
(長谷川が薬を分けるつもりが無く、更にあの男が薬を処分したという
ケースもありえる)
椅子にもたれながら、天井を見上げる智機。
(この状況で、音声と生死判定だけでしか向こうの戦闘状況が把握できないのも
心もとない)
手を顎に当てて、智機は更なる策を巡らせる。
「場所さえ把握できるなら……」
智機はモニターを見ながら、口元に笑みを浮かべて、
「……打つ手はいくらでもある。アレを働かせるか」
智機は学校周辺を警備している、レプリカに新しい命令を下した。
510熾烈(11)舞台裏2:03/12/02 22:31 ID:eviNUQa+

(二日目 PM4:30 ????)

誰かが歩いている。
その誰かは今日の午前に、我が身に起こったことを思い出していた。
その者はその現象に心あたりがあった。
かなり昔に遭遇した現象。
あの時と同じものだという推測は半ば、確信に変わりつつあった。
ふと立ち止まって空を見上げた。
「!」
空を飛ぶふたつの人影。
否、人影と呼べるのだろうか?
その人影には脚が無かった。
代わりに煙のようなものを噴出しながら、東へ飛んでいた。
はっきりと人影は見えなかった。
何か色々と荷物を積んでいたのは気のせいだったのだろうか?
その者はしばし呆然と空を見上げていた

                       ↓
511熾烈(12)舞台裏3:03/12/03 23:01 ID:5b7HsuYQ

(二日目 PM4:18 楡の木広場)

「智機の嬢ちゃん、応答するがよ!」
素敵医師の手に握られている、通信機からはもう応答はない。
「素っちゃん、酒飲みた〜い人斬りた〜い〜火つけた〜い」
人指し指を口にくわえてもの欲しそうな顔でカモミールは懇願する。
「もう少し、我慢しとーせ」
「アタシ、もう待つのやだやだ〜っ」
寝転がって手足をバタバタさせて、抗議の声をあげるカモミール。
(やばいがよ……もー限界が来た様やき)

そんな素敵医師とカモミール・芹沢のやりとりを、式神星川が遠くから
見つめている。
星川の右肩にはコウモリ型の式神が一羽止まっている。
「…………」
星川はアインに攻撃を仕掛ける直前の双葉の言葉を……そして、双葉と出会う前、
この島でゲームが行われてからの事を考えていた。

『アインを見つけたわ!あいつは絶対にあたしが倒す!』
『じゃあ双葉ちゃん……僕も……』
『・・・・・・・・・・。あなたはあの二人と周囲を見張ってて』
『大丈夫かい……』
『心配ないわよ。何のために準備したと思ってんの?あんたこそ気をつけてね』
『うん……わかったよ』
512熾烈(13)舞台裏3:03/12/04 03:29 ID:FTZqQf9H

今、双葉ちゃんの命を受けて僕はここにいる。

「………………」

僕はこのままで良いのだろうか?

僕は主である双葉ちゃんの為に存在している。
僕の全てを賭けて、彼女を守らなければいけない。
でも……
本当の意味では未だ、彼女を守れていないのかも知れない。
双葉ちゃんの命令があれば僕はできうる限り何だってするだろう。

昨日の昼、巨木に寄生していた、高い霊力を持ったヤドリキを『核』にして創られた時からそうしてきた。

双葉ちゃんが望む『星川翼』になり、この森で彼女を守る王子様になれるようにしてきた。

夜、双葉ちゃんが今にも力尽きそうな時に出会った妙な女性から、優勝すれば願いが叶うことを聞いて、喜んで殺戮をしようとした時も僕は従っていた。

あの『神の声』を聞いた後、アインという少女と戦う事を双葉ちゃんが決意した現在も僕はただ従っている。
513熾烈(13)舞台裏3:03/12/04 04:20 ID:O6tte0GH
僕は今、双葉ちゃんの命を受け、あの二人を監視している。

「…………」

昨日の昼、一本の老木に宿った、高い霊力をもったヤドリキ。
それを見つけた双葉ちゃんが、そのヤドリキを『核』にして僕を創られた。
僕は双葉ちゃんが望む『星川翼』として、彼女を守らなければならない。

静かに過ごしたがっていた、双葉ちゃんを外敵から守るため。

双葉ちゃんが今にも力尽きそうになった時、奇妙な女の人から、優勝すれば願いが
叶うと言われ、それに希望を抱いて嬉々として殺戮をしようとした時も従っていた。

そして、『神の声』を聞いたことで、双葉ちゃんは今、アインという少女と戦い、生
き残り、願いを叶えさせる為に僕はここにいる。

「……」

僕と出会った時から、双葉ちゃんの双眸に宿っていた暗い光。
あれが何なのか、今ならそれがわかる。
憎しみ、恐怖、絶望、虚無。
それらの感情が彼女を苦しめ、暗い光を宿らせていたのだと。

514熾烈(13)舞台裏3:03/12/04 04:21 ID:O6tte0GH

僕は今、双葉ちゃんの命を受け、あの二人を監視している。

「…………」

昨日の昼、一本の老木に宿った、高い霊力をもったヤドリキ。
それを見つけた双葉ちゃんが、そのヤドリキを『核』にして僕を創られた。
僕は双葉ちゃんが望む『星川翼』として、彼女を守らなければならない。

静かに過ごしたがっていた、双葉ちゃんを外敵から守るため。

双葉ちゃんが今にも力尽きそうになった時、奇妙な女の人から、優勝すれば願いが叶
うと言われ、嬉々として殺戮をしようとした時も従っていた。

そして、『神の声』を聞いたことで、双葉ちゃんは今、アインという少女と戦い、生
き残り、願いを叶えさせる為に僕はここにいる。

「……」

僕と出会った時から、双葉ちゃんの双眸に宿っていた暗い光。
あれが何なのか、今ならそれがわかる。
憎しみ、恐怖、絶望、虚無。
それらの感情が彼女を苦しめ、暗い光を宿らせていたのだと。
515熾烈(14)舞台裏3:03/12/04 04:30 ID:O6tte0GH

「……」

僕と出会った時から、双葉ちゃんの双眸に宿っていた暗い光。
あれが何なのか、今ならそれがわかる。
憎しみ、恐怖、絶望、虚無。
それらの感情が彼女を苦しめ、暗い光を宿らせていたのだと。

「………………」

主に従い、主の為になることが僕のような式神の願い。
なのに僕は、それとは別の願いを持ってしまった。
双葉ちゃんの瞳に宿った暗い光はもう、見たくない……
双葉ちゃんがアインを殺せば、暗い光は消えるかもしれない。

もし、消えなかったら。もし、彼女が更に苦しむ事になったら。
僕は本当の意味で助けになれなかったことになる。

多分、僕はこれまで彼女の苦しみをわかってなかったし。
わかってやろうともしなかった事になるのだから。

僕は今、双葉ちゃんの心を少しでも助けてやりたい。
命令が無かったら、僕は……何も出来ないかもしれないけれど。
たとえできたとして、何にもならないかもしれないけど、未来の無い僕たちの主とし
て、僕たちを理解してくれる数少ない人のために今度こそ役目を果たさなきゃならな
い。
516熾烈(15)舞台裏3:03/12/04 04:32 ID:O6tte0GH
「!」

何だろう?あの二人が口論している。
あっ!あの金髪の女の人が森の中に入った。
包帯男は何か呆れたような感じ空を見上げている。
僕が声を掛けるより先に彼も森の中に入っていった。
「早く伝えなきゃ」
僕は急いで肩に止まっている式神を通じて、その事を双葉ちゃんに伝えた。

                    ↓
517熾烈(13)説明と訂正:03/12/04 04:42 ID:2vPUhTWA
>513〜514

こちらの入力ミスと、こちらのコンピューターの不具合で、
誤って訂正前の文章を二度入力してしまいました。

【512】が正規の文章です。

紛らわしくして、すみませんでした。
518名無しさん@初回限定:03/12/07 01:11 ID:GiPmEQfB
ほしゅ
519名無しさん@初回限定:03/12/09 23:03 ID:fWQ0pTYM
保守
520名無しさん@初回限定:03/12/11 23:10 ID:/8Nq5BzP
保守。
521名無しさん@初回限定:03/12/14 21:51 ID:Yus6frj6
522名無しさん@初回限定:03/12/16 07:52 ID:QS91SfbT
523名無しさん@初回限定:03/12/19 06:39 ID:MwgU0QLa
524名無しさん@初回限定:03/12/21 23:12 ID:OX0ajQe+
保守
525名無しさん@初回限定:03/12/25 06:23 ID:awn1pwyR
保守。
526名無しさん@初回限定:03/12/27 22:14 ID:H7WWLImF
ほしゅ
527名無しさん@初回限定:03/12/31 00:05 ID:XF43FjRv
528名無しさん@初回限定:04/01/02 20:12 ID:f0wMopGA
ほしゅほしゅほっしゅ
529名無しさん@初回限定:04/01/05 11:17 ID:TmfsK7r6
保守
530名無しさん@初回限定:04/01/08 01:03 ID:x4EGzkzq
531名無しさん@初回限定:04/01/11 00:22 ID:vIWg7BkW
532名無しさん@初回限定:04/01/13 21:34 ID:eISjXHhH
ho
533名無しさん@初回限定:04/01/15 19:02 ID:Zt6pvmQT
syu
534名無しさん@初回限定:04/01/15 21:26 ID:H/FrNatj
つまらん。

■■ 終 了 ■■
535名無しさん@初回限定:04/01/16 04:34 ID:oxeDUroO
こっちは書き手追い出しといて結局挫折か…
みっともねえな。
536名無しさん@初回限定:04/01/16 05:47 ID:ffTxL5ol
初めて読んでるけど、寛全く活躍しないどころか一言も発しないうちに死ぬとはあんまりだ・・・。
あとロボット女がムカついてしかたない。
537名無しさん@初回限定:04/01/16 05:58 ID:SK5k48fJ
変に引っ張らなきゃ終わってたろうに、勿体無い。
538名無しさん@初回限定:04/01/16 18:30 ID:Yji1PvIh
最近誰も死んでないからね。そろそろ誰か死なした方がいいとおもう
539名無しさん@初回限定:04/01/17 02:45 ID:X6Mz2hqx
やっと全部読み終えたが、千鶴が即効で死んで幼女が活躍し続けてるのは微妙・・・。

>>538
もう殺す必要性が減ったからじゃない?
540名無しさん@初回限定:04/01/17 02:48 ID:X6Mz2hqx
避難所見たけどもう終わりなの?残念。
541名無しさん@初回限定:04/01/17 03:16 ID:z4ADlome
企画自体が死んでる。
542名無しさん@初回限定:04/01/17 14:02 ID:l15bDQw2
あっちの書き手の中にこっちから逃げ出した連中が紛れ込んでるっぽいけどね。
こんども投げ出さなきゃいいけど。
543名無しさん@初回限定:04/01/18 05:43 ID:gnCjyeCi
A級戦犯は誰だ?
544名無しさん@初回限定:04/01/18 11:12 ID:adi/B+mG
ケイブリス突っ込んだアホかと。
545葉鍵信者:04/01/18 13:32 ID:mUjrNCZU
まー、あの改革しようとした人の気持ちも解らんでもないけどな。
閉鎖的過ぎる現状を打開しようと頑張った心意気だけは評価できる。
既に手遅れっぽかったがな(藁
彼が2級で、1級は、その手遅れに止めさした、その前の書き手追い出したやつだな……。
ちなみにA級戦犯って一番酷いやつって意味じゃないぞっと。
546名無しさん@初回限定:04/01/18 15:00 ID:wqwg0d18
どちらにしても投げ出したわけで。
新バトロワもどこまで続くかな…
547名無しさん@初回限定:04/01/21 00:53 ID:sgmD24o6
突っ込んだあげく逃亡はあんまりだよな…
548名無しさん@初回限定:04/01/23 05:43 ID:rfkTMk+g
今の段階だけど、面白さで言うなら新バトロワよりこっちの方が数倍面白い。
549名無しさん@初回限定:04/01/23 09:42 ID:O+fCsBlk
あっちはロワって言うより二勢力に分かれての戦いって感じだからな……
グレン・コリンズとかいい味出してたのう。あとはアズライト周辺とか、アインVS遙とか。
550名無しさん@初回限定:04/01/27 01:03 ID:LR/760gT
ここの二の舞にならないことを祈るのみだな。
551ある書き手:04/01/27 07:20 ID:tKMYSfuH
今更なんですが、続き書いてもいいですか?
552名無しさん@初回限定:04/01/27 07:29 ID:6uSpqHAN
どうぞどうぞ。
未完で終わるには惜しいと思うし。
553名無しさん@初回限定:04/01/27 07:32 ID:xfeeHwzf
大歓迎です。マジで。
554戦鬼は集う(1):04/01/29 18:34 ID:QpF/Za21

(二日目 PM4:23 楡の木広場)

巨大な楡の木の洞の中。
式神の星川は、命令があるまで周辺を見張れという言葉を無視し、素敵医師達が
広場の外へと向かった事を主である双葉に伝えていた。

「……あいつら命令を無視してどういうつもり……?」
「ゴメン……やっぱり引き止めれば良かったかな?」
苛立ちのこもった双葉の悪態に公開の言葉を吐く星川。
「……まあいいわ、星川は引き続き周囲を見張ってて。包帯男がアインを見つける
前にケリつける」
その言葉に星川は頷き洞の外に出ていった。

それを確認すると双葉は再び、自らの感覚をアインの上空を飛んでいる式神に写す。
木の葉と枝の切れ目から覗くアインの姿。
彼女の服は所々切り裂かれ、傷口が覗いている。
ダメージを受けている様に見えるその姿を見ても双葉の苛立ちは消えない。
既に攻撃開始から五分以上経つ。
なのにアインは疲労している様子も無く、機敏な動きで双葉の植物による攻撃を
かわし続けている。
これまで双葉が襲撃してきた参加者はランス以外はすぐに逃げだそうとしたし。
当のランスも(同行者を気遣った事もあり)突破口を開けないと悟って、撤退して
いた。
アインは彼らとは違い、その場から大きく動こうとせずただ攻撃を避け続けている
だけであった。
反面、双葉の方は汗をかき呼吸も乱れつつある。

555名無しさん@初回限定:04/01/29 21:20 ID:pqjcaEZh
続きキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!!正直マジ嬉しい。
邪魔してごめんよ。
556戦鬼は集う(2):04/01/30 01:06 ID:3ucfh71H
(一体何考えてんのよ……)
額の汗を拭う。
「!?」
アインが一瞬、式神の方を向いた。
双葉の背筋に一瞬、寒気が走る。
だが、アインは何事も無かったかのように攻撃をしのぎ続けていく。
「はあ……はあ…」
(何なのよ、アイツは……)
心の鼓動をやや早めながら双葉は背筋に寒気が走っている事に気づく。
(……あいつが……恐い?)
昨日、アインに襲われた時の事を思い出す。
いきなり窓から奇襲し、躊躇も無く星川を殺害し、自分を殺そうとした恐ろしく強い
同年代の少女。
尚、双葉はアインという通り名は知っていても、彼女の素性は全く知らない。
素敵医師から素性を訊こうともしなかった。
それをしなかったのは自らの能力への自身か。アインへの恐れなのか。

それらを振り払うように双葉は頭を振り、戦意を保とうとする。
(……あたしが…あたしがあんな奴に負けるはずないじゃない!)
双葉は呪符を左右の手に握り、詠唱を始める。
絶望。悔恨。恐怖。悲哀。
それらの感情をアインへの憎悪と殺意に変えて、攻撃を更に強めた。
557戦鬼は集う(3):04/01/30 01:09 ID:3ucfh71H
―――アインがこの島に召喚される前
彼女の住んでいた世界にはインフェルノのファントムは九人いた。
その中で最強と呼べるのはアイン・ツヴァイを含めた三人の内誰かだろう。
だが、その中で一番強いとなると容易に答えは出ない。
状況によって異なるからだ。
ただ技術ではアインが最強なのは間違いは無い―――



(攻撃が止んだ?)
アインは森の植物による猛攻が突然途絶えたのに反応する。
《多分、違うと思うぞ》
カオスの声を聞きながら、アインは一旦立ち止まり、周りを見回しながらタンブリン
グを始める。
(次は何処から?)

ズズ……ズ…

微かだが大地が揺れる音が聞こえた。
(地面から!?)
アインは魔剣の柄に手をかける。
次は地面に生えている無数の草花から白い燐光が少しずつ立ち昇り始めた。
(な、何?)
《こりゃあ……》
未知の現象に困惑しながらアインは周囲を警戒する。
白い燐光は周囲の木やそれらに巻きつく蔦や茨からも発生してゆく。
558戦鬼は集う(4):04/01/30 01:10 ID:3ucfh71H
《こりゃあ……》
(心当たりがあるの?)
突如、燐光が止んだ。
「?」
《……!来るぞっお嬢ちゃん!》

ばごぉぉぉぉん!!どががががががががっ!!ごごごごごっごおおおん!!

アインの視界内に見える無数の木の根っこが地面を突き破り、蛸が動くかのごとく十
数本の木が、人が歩くのよりも速いスピードで一斉にアインに向かってきた。
「くっ……」
アインは間近に迫ってきた木二本の脇を見て、立ち止まりショットガンを構え、発射
した。

ぎぎぎぃぃんっ!

金属同士を変にこすり合わせたような音を立てて、弾丸は枝と葉に阻まれた。
(強度が更に上がっている?このまま行ってたら…)
葉と枝に切り刻まれていただろう。
地面を抉りながらアインに迫る木々。
アインはふとカオスの柄を見て、次に目の前に迫る木を観察する。
十数本の木は通り抜ける隙を与えないかの如く、手を繋ぐかのように互いの脇の枝と
枝が交差しあい。円状にアインを包囲しつつあった。
559戦鬼は集う(5):04/01/30 01:12 ID:3ucfh71H
《囲まれたぞっ》
アインは脚を止め、精神を集中する。
(…わたしの予側が正しかったら……)
アインは前方を観察し、包囲網を突破しようと動こうとしたが――

「!?」

――動きが止まった。
アインの両足首にはいつの間にか雑草が絡みついていた。
(植物を操る……迂闊だったわ…)
《じゅ…術者は一人ではないんかっ》
珍しく慌ててるカオスを他所に轟音を立ててかなりのスピードで迫る木々。
アインはカオスの柄に手をかけた。
《力まかせではどうにもならんぞっ!》
「………」
アインは息を呑んで再び神経を集中させ、意を決したようにカオスを抜刀した。

タッタタ…タッタッタッタッ……トットット…トン

それは10秒にも満たない出来事だった。
カオスの刀身で足元の地面を抉って、雑草による拘束を抜け。
刺し貫かんとする突き出してきた根っこをジャンプで跳び乗り、根から根へと二度跳
び移りながら、一旦停止。
木の脇に飛び降りようとするそぶりを数瞬見せつつ、根から枝へと飛び移り。
枝へと枝へ、木へと木へと次々と飛び移りながら、包囲網を素早く突破した。
560戦鬼は集う(6):04/01/30 01:15 ID:3ucfh71H
そんな結果に呆然としたかのように木々の動きが一斉に止まった。
アインはそれらを感じ取ると、上空のある一点に向けて発射した。そして――

ばひゅっ……

――双葉の眼となっていた式神は撃ち落とされた。

アインはカオスの柄を強く握り締める。
アインの体から白いオーラのようなものが浮かび始める。

バスッ……

振り向きざまにもう一発銃を撃ち、双葉の『眼』を粉砕する。
そして、アインの走行速度が急激に上がりその場から遠く離れていった。

《お嬢ちゃん凄いの……》
(相手は…素人だから…)
《?……つまり…あの…娘には実戦経験が無いのか》
アインは黙って頷いた。
昨日の魔窟堂との遭遇やグレン・コリンズとの小競り合い。
それらを通じて異能力の事を知ったアインは敵としての異能者と遭遇した場合の対処
法を見つけるために確かめたかった事があった。

―――異能力の法則性と、能力を使う上でのリスクの有無。

それらの相手がアインの様に身体能力が高く、実戦経験が豊富なら、法則性を見つけ
る事が最優先となるし。そうでない場合なら見つける事で比較的簡単に対処できるか
らだ。

561戦鬼は集う(7):04/01/30 01:19 ID:3ucfh71H
双葉の木々による攻撃。
攻撃から攻撃の間隔が比較的長く、フェイントが通じた事などから案の定、監視役い
た事。
トリッキーな攻撃だが、スピードや精密さはさほどではなかったこと。
昨日、戦った時に素人にしか見えなかった事。
それらの結論から、双葉の異能力は彼女の運動能力に比例する事が解ったのである。
双葉自身、合気道を学んでいるものの戦闘力は常人の域を出ない。
まだ戦闘専門では無かったとはいえ、まりなやグレン様の方が明らかに上だった。
まあ敏腕かつベテランの捜査官と軍人なのだから当然といえば当然なのだが。
だからこそ双葉でも気づきようの無い僅かな隙を見つけくぐり抜ける事ができたのだ。
562戦鬼は集う(8):04/01/30 01:21 ID:3ucfh71H
(奴の姿が見当たらないわね)
アインは素敵医師を探し出し、すぐさま始末しようとあたりを観察する。
左手は魔剣の柄を握っている。
単独で攻めてくるか、共同で攻めてくるか。
そのどちらでも対処できるように感覚を研ぎ澄ませる。
《む!またじゃぞ》
草木から再び白い燐光が発生し始める。
その量はさっきの比ではなく、森そのものが輝いているように見える。
(あなた、この光は何?)
《気じゃ》
(気?)
《植物の生命力や精神を具現化させとるんじゃ》
「…………それをコントロールできるから操れるのね」
正直アインには気功や陰陽道の事は全く知らなかったが、そういうものなんだろうと
結論つけ返事をした。
(今度は何を…?)
そう思いながらアインは再び走り、素敵医師及び双葉の捜索を再開した。
563戦鬼は集う(9):04/02/02 11:12 ID:AOzW5leK
―――不老不死
それが彼の願い
そして昔の彼も心の奥底で追い求めていた
その願いと同じく、遠い昔から今でも探求し続けているものがある
ようやく見つけたその手がかりは今でもこの島に生き続けている―――


焦点の合わない眼でふらふらと壊れた笑みを浮かべながら走っていたカモミール芹沢
は立ち止まった。
「や、やややっと止まったぜよ……カモミール……どうしたがよ」
彼女を追いかけていた素敵医師が彼女に問い掛ける。
「えへへへへ〜〜楽しいこと…やっと見つけたよ〜〜」
自分の懐をごそごそと探りながら彼女は嬉しそうに鉄扇を取り出す。
「カモミ〜ル、なな何を見つけたなが?」
「アタシと遊んでくれそーな、つよそーなの」
「!?」
(つつつついに、き来たがか!?)
それを聞き素敵医師は彼女の背後へと移動する。
「そこにいる人〜〜アタシが遊んだげるから出ておいで〜〜」
彼女の眼前にある茂みに向けてパタパタと鉄扇をあおりながら、涎をこぼしながら誘
う。
(双葉の嬢ちゃんのれれ連絡が無いき……ザドゥの大将のこ公算が高いぜよ)
そう思いながらバッグの中の武器を掴み、耳障りな笑い声をあげながら茂みの方に問
い掛けた。
「きへへへへへへ………そそそ其処におるは、あああアイン嬢ちゃん?けへへへへ
へ………そそそそそそれとも……」
「…………!」
茂みの向こうにいる誰かが、それに反応する気配がした。
564戦鬼は集う(10):04/02/02 11:15 ID:AOzW5leK
「隠れてもムダだよ〜〜アタシが……」
「黙るがよカモミール」
そう言ってもう一方の手を自らの背に回そうする彼女を、素敵医師が制止する。
(べべべ別の参加者の可能性があるき……)
自ら攻撃して予想外の被害が及ぶ事を懸念する素敵医師。
仮にそうだったとしても相手によっては戦闘回避、及び懐柔する事に彼は自信があっ
た。
相手にもよるが。
「……………」
茂みの方に潜み、様子を伺っていた人影は少し……否、大分戸惑いながらも、しぶし
ぶ姿を現し始める。
「なっ!!ななななななななななっ……」
「??」
多少なりとも殺気を放っている人物は彼が予想していた通り他の参加者で、遭遇した
くない部類に入る参加者であった。

「じっじじじっ!!な、なんっ、なんっなんっ何でここここ、此処にいるがよっ!
!」
「……あれ〜〜?素っちゃん、何でそんなに慌ててるのかな〜〜…」
「……………」
茂みから現れた参加者は、これから二人をどうしてやろうかと考えている。
その参加者はしおりだった。

565名無しさん@初回限定:04/02/05 18:21 ID:NDbMdTTG
保守
566名無しさん@初回限定:04/02/08 18:20 ID:Y03t3zZZ
ほしゅっとな
567戦鬼は集う(11):04/02/08 20:17 ID:oLmuWjSW

素敵医師とカモミール。
横並びに共に焦点の合わない目でしおりを見つめている。
しおり。
怪訝な顔で二人を凝視している。
こうして数十メートル離れて二人と一人は対峙している。

(ま、まままままま………不味いがよっ!やばいきにっ!!)
素敵医師はしおりと遭遇して内心動揺していた。
無垢かつ残忍な、上位デアボリカの使い魔的存在『凶』。
智機からの情報によれば、凶と化したしおりは、放たれた無数の弾丸を切り落とす事
が可能な程のスピードを誇り、尚且つ鉄をも溶かす発火能力まで有しているという。
彼自身が戦えば細切れか、消し炭になる公算が高い。
そうなってしまえば、素敵医師の能力を持ってしても滅びは免れない。
素敵医師としては何としてでも彼女との戦闘を回避したかったのである。

568戦鬼は集う(12):04/02/08 21:16 ID:3YjynNqQ
(ととと智機のじょーちゃん……ほんっとーに性格悪いき)
素敵医師は先程の智機との通信の際、しおりの存在を教えなかった事を愚痴た。
(こ、ここは出方を伺うしかないぜよ)
アズライトがいなくなった今、説得して戦闘を回避するにはしおりがどういう理由で
此処に来たかを探る必要があると彼は判断した。
主催者打倒なら参加者。
参加者打倒なら主催者。
といった具合に。
「……………素っちゃん?」
不満げなカモミールを右手で制止しながら素敵医師はしおりの出方を待つ。
一方、しおりの方も
「………………」
(この人たち、しゅさいしゃ?)
二人の出方を伺っていた。


(……このふたり…)
(………うん)
しおりは心の中のさおりの声に返事をする。
しおりには目の前の二人が『しゅさいしゃ』か『さんかしゃ』なのか解らない。
しおりは攻撃するか否か迷っていた。
標的は参加者と決めているため、主催者を攻撃するのは無益としおりは考えている
からだ。主催者への恐怖もあるのだが……
569戦鬼は集う(13):04/02/08 21:20 ID:3YjynNqQ
(せせせせ、説得はちくと難しいがね。こここはアイン嬢ちゃんか、ザドゥの大将に
ぶつけるのが……)
「素っちゃん〜〜……」
「おとなしくし……」
「もうこのコ、斬っちゃうよ」
「「!」」

突如、しおりの戦闘本能が警鐘を鳴らし始める。
しおりから約5メートル。
制止を振り切ったカモミールは、いつの間にかここまでしおりに近づいていた。

ザワッ……

それを確認した瞬間、しおりからも殺気が膨れ上がる。
「よ、よよよよよすぜよっカモミール!!ああ相手は……」
「アタシもう痒いの我慢できなーい!誰が相手でもスパーっと斬っちゃうもーん♪」
「……おねえちゃん…」
「なーーに、お嬢ちゃん?」
「しゅさいしゃなの?」
「主催者だよ〜〜。でも、もうどうでもいい。全部、斬っちゃえばアタシは幸せ〜〜」
「カモミール!センセのゆーことを……」
「素っちゃんだいじょーぶだって。まとめてアタシが片付けたげるから♪」

「・・・・・・・・・・・・・」
素敵医師は空を見上げた。そして後ろに下がり、いつも以上に気の抜けた声色でこう
言ったのだった。
「もう…ええわ…」

570戦鬼は集う(14):04/02/08 21:29 ID:3YjynNqQ
焦点が合わない眼差し。 口からぼたぼたと流れる涎。
泥酔したかのような浮ついた声色。
なのに…昨日しおりが戦ったなみ以上の威圧感を目の前の女性は放っていた。
(しおりちゃん……)
「………うん」
殺気を感じて、さおりの意思を受けて、しおりは刀を構え攻撃準備をする。
カモミールはそれを見て鉄扇を広げ、構える。
「それじゃあ…行っく……」

ザッ…ヒュッ…

言い終るより早く、地を蹴った問答無用のしおりの高速突きがカモミールに迫る!
きぃぃぃーーんっ
鉄扇がしおりの突きを横へ受け流し、二人は交差する。
ドンっ……
カモミールの蹴りがしおりを突き飛ばし……
ひゅっ…
すぐさま抜き放った脇差の切っ先がしおりに迫る。
ガヅッ!
それを紙一重でしおりはかわし、脇差が向こうの木に突き刺さった。

一瞬の攻防の後
二人の立ち位置は入れ替わっていた。
カモミールの鉄扇の扇部分には横一文字の切り傷が。
しおりの左頬には一筋の傷がついていた。
571戦鬼は集う(15):04/02/08 21:32 ID:3YjynNqQ
(な、なな何が起こったがか?)
素敵医師には二人の攻防が見えていなかった。
「…………」
カモミールは傷ついた鉄扇を見ながら、血走った眼差しでしおりを見る。
「……え?」
しおりはやや呆然としながら左頬に手を沿えた。
「あれ?仕留めたと思ったのに〜」

ザザッ……
しおりがステップで数歩下がる。
「………まっいいか…」
と、右手で鉄扇を構えるカモミール。
しおりはじりじりと近づいている。
警戒しながら。
カモミールは左手をぶらぶらさせながら、間合いを調整している。

(も、もももももしかして……これは嬉しい誤算という奴がよ)
状況からして、カモミールがしおりの攻撃をしのいだ事を理解した素敵医師は思わず
喜びの声をもらす。
カモミールの実力をはっきりとは知らなかった事があるとはいえ、スピードではアイ
ンをも大きく超えるしおりと戦えていたからである。
木の物陰に隠れながら、素敵医師はカバンの中に手を伸ばす。
(凶にはセンセのオクスリは効かんかも知れんき……ここはこれで……)
572戦鬼は集う(16):04/02/08 21:40 ID:3YjynNqQ
カチリッ…と音がした。
「今度はこっちから仕掛けよっか?ね、しおりちゃん?」
「…………」
背中にぶら下げていた銃剣――虎徹を構えながら、カモミールは歩く。
それに合わせるかのように後ろに下がり続けるしおり。
(どうしたの、しおりちゃん?さっさと殺っちゃおうよ!)
「………」
さおりの声にしおりは答えない。否、答えられない。
青白い顔色。各部に浮き出た血管。血走った眼。下半身からの流血。
そして、底冷えするような闘気を放つ彼女。青白く輝く銃剣。
しおりから見て、カモミールの様子はさっきまでとは明らかに異なっていた。
カモミールの口には涎と、浮ついた声色は既に消えていた。

ざ…ざ……。しおりは二歩下がる。

カモミールからはザドゥほどの威圧感は感じない。
だが、このまま突っこむのは明らかに危険としおりには判断できた。
どっ…
「・・・・・・・」
退路を木に阻まれる。
すぅ……
しおりは深呼吸をすると右手をかざした。
「あっ!?アタシを燃やしちゃうんだ〜」
言って、虎徹の銃口をしおりに向ける。
「………」
「できないけどね」
573戦鬼は集う(17):04/02/08 21:48 ID:3YjynNqQ
素敵医師の右手には薬品の入った瓶。左手には突撃銃が握られていた。
(ほほほ本当はザドゥの大将用のオクスリ、凶の嬢ちゃんにプレゼントがか)
瓶をしおり達の方へ放り投げようとしたそのとき

ぽんっ……

「!」
しおりの横から現れた男がしおりの右肩が軽く叩いた。
そして、当たり前のようにしおりの横を通り過ぎる。
「!?」
素敵医師は慌てて木の茂みに身を隠した。
「あ……それは…その…」
気配を全く感じさせなかったその男に怯えながら震える声色でしおりは答える。
「…………」
返事をせず、気にした様子も無く、男はカモミールに近づいてゆく。
近づく者の姿を見、カモミールは銃剣を少し下げた。
そして、カモミールは親しげな声で彼の名を呼んだ。
574戦鬼は集う(18):04/02/11 23:35 ID:Lrf/1Fc/
―――少女は式を作る
少年の事は録に知らなかったけれど、数時間かけて少女がそうであって欲しい理想の
彼を作った。
少女はある時、ふと昔の事を思い出す。
幼少の頃、最初に式を作った時は苦労しなかったなと。
ただ願ったら作れたのだから。
最初の式も彼も少女が寂しかったから作った。
彼は支えにはなってはいたが、最初の式や少年本人ほど支えになれなかった
少女の名は双葉。少年の名は星川翼といった―――


ぱたっ…ぱたたたっ……
「はあ……はあ……はあ…」
額から零れ落ちた汗が次々と足元に落ちる。
双葉は両手を膝に当て、荒い息を吐いていた。
呪符で木を操り、自分は草を操り足止めする。術の複数発動。
成功こそしたが、急激に負担が掛かった上に、それさえもアインに通用しなかった。
「…何って…動きすんのよ……あいつ!」
双葉は苛立ちと困惑の混ざった声色で呟く。
(ナメてんじゃ……ないわよ!)
ギリッ……、と歯軋りしながら4枚の呪符を掲げ、詠唱を始める。
音も無く呪符は宙を舞い、平安の貴族風の小人に変化し地に降り立つ。
四人の小人はそれぞれ戦場へ向けて走り出した。
そして、双葉は洞の中をざっと見回す。
(こうなったら……こうなったら……)
数時間かけて準備を整えた秘術。
それを使用する事でまた身体に激痛が走るのではないかという不安を持ちつつも、彼
女は使用しようとしていた。
575名無しさん@初回限定:04/02/14 18:28 ID:BqZSnzly
えろだめ
576名無しさん@初回限定:04/02/17 21:24 ID:Q3LfL4Lm
hosyu
577戦鬼は集う(19):04/02/20 23:52 ID:SPFD08Nn
楡の木を中心に白光を放ち始める森。
楡の木から数十メートル離れた所に星川はいた。
彼は双葉の術によって命の光を放つ木々と会話していた。

《……………》
「そんな……じゃあ……」
顔色を蒼白に、声を震わせる星川。
情報収集の為にと仲間との会話を試みた彼が知ったのは……
《………………》
星川の言葉を肯定するように木々は枝葉をたなびかせる。
「……このままだと…仲間達も…双葉ちゃ…んも……」
星川は身体を震わせながら呟き続ける。
《……君は…どうする…?》
木の一本が葉をざわつかせながら星川に問いた。
「・・・・・・・・・・・・・・」
星川は自然の気を放出している仲間達を見ながら黙りこくる。
考える事ができる時間はわずか。
《僕は……双葉ちゃんの…為に…》
まとまらない考えをそのまま心中で彼は呟く。
双葉が昨夜語っていた星川本人の事を……双葉の境遇を思い浮かべながら。
《……ここに来る敵は…私達の手に…余ります…》
「・・・・・・・・・・・」
それはまた別の木からの…確信に満ちた返答。
《……僕は…双葉さまの……!》
答えを出せないまま…事実を受け入れられないまま…彼の苦悩は続いた。
578戦鬼は集う(20):04/02/20 23:56 ID:SPFD08Nn

輝く森の中、魔剣は既に鞘に収めアインは標的を探す。
(……待ち伏せ?)
攻撃を仕掛けてこなくなった事を訝しげに思いながらも、用心深く進むアインへ突如
カオスが話し掛けてきた。
《のう……お嬢ちゃんはさっきの紫髪の女を……》
「………?」
《どうするつもりなんじゃ?)
「……何故、訊くの?」
《…おぬしが言った『ゲーム』が気になってな……わしはこの通り動けんが、おぬし
のやり方によっては武器以外の用途で手助けできると思うぞ》
「……さっき言った通りあの少女は始末するわ」
《……そうか》
アインは走る。
(わたしの因縁を…魔窟堂達に押し付けるわけには行かない)
そう心で呟きながら。

「!!」《!》

その時突然、アインとカオスに圧倒的なプレッシャーが襲った。
579戦鬼は集う(21):04/02/20 23:57 ID:SPFD08Nn

《!?》
(この気配は……!)
アインは立ち止まり、前方を見る。
輝く森林の先、数十メートル向こう。
その先には――アインの勘に間違いなければ……
(まさか…そんな筈は…でも……)
アインが当初、ゲームに乗ろうとした最大の要因。
アインが闘っても勝てないと結論つけさせる実力を持った主催者ザドゥの存在。
だがいくら強いとはいえ、主催者のリーダー格である金髪の男がこの先にいるにはア
インには全く予想できなかった。
それでもアインの本能が紛れも無くこの先にいるのがあの男だと告げている。
《…気配は人間じゃが……》
アインは真剣な顔で前方を凝視し続ける。
「・・・・・・・・・・・」
(何故……あの男が?)
アインは気配を消し…カオスの柄を握り締め、攻撃に備える。
(………向こうから仕掛けてくる気配は…ない?)
けど決して油断できないと己に言い聞かせながら、別の気配を探る。
「!」
アインの耳にかすかな話し声が聞こえた。
(…奴もこの先に…いるの?)
「・・・・・・・・・・・・・」
アインは躊躇したが、意を決して慎重に…そして大胆に気配に向けて歩を進めた。

580戦鬼は集う(22):04/02/24 03:23 ID:3wZRA0Ns

―――彼女が居た新撰組の事は彼も知っていた。
学問からではなく、武と技を探求する際に知った。
彼女と出会ったのは、ほんの数日前。
彼が知る彼女とは少し印象が違っていたが、彼女もまた彼が大切と思えるモノを心の
奥に持っていた。
一緒に寝た時、彼女は胸の内を彼に少しだけ話した。
彼は知った。彼女は帰るつもりが無かったということに―――




「あっ♪ザっちゃん、待ってたよ〜〜」
「……カモミール」
ザドゥは眉間に皺を寄せながらただ彼女を見る。
「ザっちゃん〜〜何して遊ぶ?アタシはねぇ〜…………」
銃剣をぶらぶらと構えながら陽気に彼女は喋る。
だが、浮ついた口調と態度とは異なり彼女には隙が見当たらない。
「・・・・・・・・・」
(身体が覚えている、か。流石は神道無念流免許皆伝は伊達では無いか…)
幕末の日本に存在した剣術の一派を思い出し、口元に苦々しい笑みをザドゥは浮かべ
る。
ザッ……と、陽炎のような闘気は出しながらザドゥは一歩踏み出す。

ザザザザザザザーーッ………と森の葉が強風にあおられた様にざわめく。
そして、それを合図に双葉の術を受けた森から白い燐光が立ち上り始めた。
581戦鬼は集う(23):04/02/24 03:24 ID:3wZRA0Ns

「!」
「あれ〜〜?」
「え?」
(こ、こここれは双葉嬢ちゃんの…)

「・・・・・・」
ザドゥは一瞬立ち止まり、周囲を一瞥し、僅かに口を開く。
「これは気か……」
ザドゥは一目で燐光の正体を見破った。
燐光は双葉が植物の心を具現化し浮かび上がらせたもの。
ザドゥやケイブリスが操る『気』とは大体一緒だ。
ザドゥは通信機を手に取りスイッチを押して智機に言う。
「椎名聞こえるか?私の前には素敵医師とカモミールがいる。参加者の方はどうなっ
ている?」
(なっ!?センセの居場所バレてるがよ?)
木に隠れて、隙をうかがっていた素敵医師の目が驚きで見開かれる。
「ザっちゃん〜」と、カモミールも一歩踏み出し……
「智機ちゃんとなに話してるの〜〜アタシにもおせ〜て〜」
……不服げに、再び涎を垂らしながら言う。
智機の返事を待たずに、二人と視線を合わせないままでザドゥは口を開いた。
「……カモミール…」
「な〜に?」
「・・・・・・・・?」
「…お前は俺が覚ませてやる…そして…」
「??」
言葉の意味が分からず首をかしげるカモミール。
ザドゥは素敵医師が潜む茂みへ視線を移すと…
「素敵医師よ…貴様のその思い上がりは…俺が砕く」

582戦鬼は集う(24):04/02/24 03:25 ID:3wZRA0Ns
ザドゥの闘気が白い炎の様に変化し、そのまま素敵医師の方へ向かう。

ビーッ!

通信機が鳴った。
『椎名だ。仁村知佳の方に変化があった』
「ほう」
『仁村知佳、シークレットポイント2地点で所在を確認。朽木双葉と式神は巨大
楡の木に、しおりは貴方の背後に、他の参加者は依然不明のままだ』
「そうか」
『もし貴方が敗れるような事があれば、我々の望みも叶わなくなる恐れがある。油断
して敗れたりしないようにして頂きたい!以上だ』
通信は切れる。
「フン……」

「か、カモミール!ザドゥの大将をぶっ飛ばして、遊んでやるがよっ!」
通信が切れる瞬間を見計らって、右手に注射器を持ちつつ逃走を計ろうとしている素
敵医師が命令を下す。

「んーーーーぶっとばす〜?」
首をかしげて一瞬考え込むカモミール。
「あっ、でも遊びだから、いっか♪」
そう言ってカモミールは銃剣を縦に構え、ザドゥに向かってダッシュする。
「……」
一瞬で虎徹の攻撃範囲にまで接近するほどの俊足を発揮する。
ザドゥの左肩に目掛けて振り下ろされる虎徹!
それに怯むことなくザドゥはそれよりも数瞬早く、後ろに退き、自分のマントを掴
む。
バサアァァっ!
カモミールが二撃をを放つべく剣を返したのと同時にそれは起こった。
583戦鬼は集う(25):04/02/24 03:26 ID:3wZRA0Ns

マントが銃剣を受け止め、彼の闘気がゆらぎ――虎徹を包んだマントが一瞬、白く光
りからめ取った。

ぎゅむっ!

「!?」

ザドゥはそのまま、腕を横に振る。
刃はすっぽ抜け、使い手もろとも振った方へ投げ飛ばされる。
カモミールは銃剣を握ったまま地に足から受身をとる。
対峙する両者。カモミールは楽しげな声で言う。

「あはっ♪あははははっ…ザッちゃんやっぱりつよ〜い」
「・・・・・・・・」
ザドゥはそれには答えずマントを見た。
普通の銃剣をからめ取ったのでは、ありえない現象。
気によって一瞬強化されたはずのマントは、いつの間にかズタズタ切り裂かれてい
た。
(ただの銃剣ではないな……)
ザドゥは心中でそう呟くと、警戒を解かないまま素敵医師が逃げていった先を見る。
(奴の事だ……このまま逃げた訳ではなかろう)
視線をカモミールの方へ移したまま、地面の石ころを拾う。
「次はザッちゃんの番〜。かかってきて〜アタシが存分に遊んだげるから」
彼女は虎徹を背に仕舞い、鉄扇を構えてザドゥを挑発する。
ヒュッとザドゥは素敵医師のいる方へ投石した。

584戦鬼は集う(26):04/02/24 03:31 ID:3wZRA0Ns
「あきゃ!?」
石は木陰から手を伸ばしていた素敵医師の手の甲ヌイに命中。
慌ててもう一方の手で突撃銃を拾い上げ、身を隠した。
対峙するザドゥとカモミール。
手の出せない素敵医師としおり。
森は既に白い光に包まれている。ザドゥは更に別の方向へ石を投げた。

……………

石と葉がこすれる音の他は何の物音もしなかったかの様な沈黙。
だが、無反応に動じずザドゥは投げた方角へ話し掛けた。

「貴様も…奴が狙いだろう?」
「「!」」 反応するしおりと素敵医師。
その声に二投目の石を投げた森の茂み、音も無く、何かが蠢く気配がした。
「…信じられないわ……」
静かで澄んだ声だった。
「不意でも討つ積もりだったのか?」
抑揚の無い声でザドゥは言う。
「まさか……あなたがここにいるなんて……」
輝く木々から出てきたのは黒い魔剣を携えたアイン。
《お嬢ちゃん……!》
「・・・・・・・・・」
カオスの声を受け、アインはいつに無く緊張した面持ちで周囲を一瞥する。
その視線の先にはしおりとカモミール。

(あの子……)
ゲーム開始時に見かけた、双子の幼い少女の姉の方しおり。
アインが見た時は紛れも無く最弱の部類に入る人間の参加者。
しおりは汚れた服を別にすれば、獣を思わせる両耳以には外見上変化は見当たらな
い。
だが、放つ威圧感はプロの暗殺者であるアインも怖いと感じさせるほどのもの。
585戦鬼は集う(27):04/02/24 03:38 ID:3wZRA0Ns

昨日、灯台で戦い、まりなを殺害した主催者の一人カモミール芹沢。
直に接近戦を行ったわけではないので、正確な実力はアインには判断できなかった
が、遺作あたりよりは強いだろうというのは解る。
今の彼女はあの時と様子が全く違っていた。
それはアインに忌まわしいあの時の記憶を、薬物で操られる遙を嫌でも思い出させる。
そんなカモミールから感じられる威圧感はしおりと同核。


「・・・・・・・」
アインの右頬に冷汗が落ちる。
アインの本能はすで逃走を呼びかけている。
が、それに抗いザドゥに問い掛けた。
「あなた……『貴様も』と言ったわね…。どういう意味なの…?」
「…………」
ザドゥはしばし考えたが、やがてゆっくりと口を開いた。
586戦鬼は集う(28):04/02/24 03:39 ID:3wZRA0Ns
その頃、楡の木の洞の中では呪符を両手にかざし、双葉が乱れた呼吸を整えてた。
彼女の肌にはうっすらとミミズ腫れの様な赤い大きな文字のようなものが浮き上がっ
ている。
(どうやら…効いてきたようね)
実家の古文書に書いてあった解毒薬の効力が現れ始めたのだった。
「!」
地上に放った式神がアインを見つけたのに双葉は気づいた。
(これではっきりする……!主催者があたし達に何したのか。そして……)
双葉は式神に視覚を移す。
アインの後姿が見える。誰かと話しているようだが、近づきすぎると気づかれる恐れ
があるので離れている。
(しっかし…何なのよ?あの黒い剣は)
カオスを不思議に思う双葉。
今の彼女にはカオスが『例の武器』であることや、近くにザドゥとしおりがいること
には気づいていない。
むしろ、それを探る事さえ今の彼女にとっては重要な事ではなかった。
(今度こそ……今度こそ!)
双葉は気合を込めて術の詠唱を始めた。


587戦鬼は集う(29):04/02/24 03:41 ID:3wZRA0Ns

(二日目 PM4:35 東の森・西部)

両手両足のない二体のレプリカが煙を吐きながら、木の枝に引っかかっている。
「……計算が違ったというのか?思ったよりエネルギーが尽きるのが早かったな」
重火器を装備した一体のレプリカ智機が戸惑いを含んだ声色で呟く。

レプリカの智機の中にはオリジナルの智機にも備わっていた飛空機能が搭載されてい
るのがいる。
それらは両手両足に飛空用のパーツをつけることにより、短時間のジェット飛行を可
能にする。
校舎跡からレプリカを二体、楡の木広場近くに空輸する予定だったのである。
結果は智機も予想できなかったエネルギー切れでやや目的地から離れての木の上での
不時着で終わったが。
(此処からだと現場に辿り着くのに、十分以上かかるな…間に合えばいいが)
散った木の葉を払いのけながら本体の智機とシンクロして作戦を考える。
レプリカ二体を消費してまで、智機が東の森に拘った理由は現地点で二つ。
素敵医師の薬品の回収と、参加者の身柄の確保。
弱った参加者を二人以上捕獲できれば、心置きなく他の参加者を始末できるとそう考
えたからである。
彼女は全滅させた後に、捕獲した参加者同士を戦わせるつもりだ。
「いささかオーバーだろうが…オマエにはまだ働いてもらうぞ」
「・・・・・・・」
智機がそう話し掛けた相手は―――
鹿野はまみれになっている、両腕に刃を生やしている強化体だった。     


                    
                ↓

588戦鬼は集う(30):04/02/24 03:44 ID:3wZRA0Ns
【アイン(No23)】
【現在地:楡の木広場付近】【スタンス:素敵医師殺害】
【所持品:スパス12 、魔剣カオス、小型包丁4本、針数本
     鉛筆、マッチ、包帯、手袋、ピアノ線】
【備考:左眼失明、首輪解除済み
     抜刀時、身体能力上昇(振るうたびに精神に負担)】


【朽木双葉(No16)】
【現在位置:楡の木広場】
【所持品:呪符多数、薬草多数、自家製解毒剤1人分
       ベレッタM92F(装填数15+1×3)、メス1本】
【スタンス:アイン打倒、首輪の解除、素敵医師と共闘】
【能力:植物の交信と陰陽術と幻術、植物の兵器化】
【能力制限:兵器化の乱用は肉体にダメージ】
【備考:双葉は能力制限の原因は首輪だと考えている
 朽木双葉、自家製解毒剤服用済みで効果発揮、首輪装着
 解毒剤の効力:毒物排出・浄化、身体中に呪紋が浮き出る、数時間持続】


【式神星川(双葉の式神)】
【現在位置:楡の木広場付近】
【所持品:植物兵器化用の呪符10枚】
【スタンス:???】
【能力:幻術と植物との交信】

589戦鬼は集う(31):04/02/24 03:47 ID:3wZRA0Ns
【素敵医師】
【現在位置:楡の木広場付近】
【所持品:メス2本・専用メス8本、注射器数十本・薬品多数
       小型自動小銃(弾数無数)、謎の黒い小型機械
       カード型爆弾二枚、閃光弾一つ、防弾チョッキ、ヘルメット】
【スタンス:アインの鹵獲+???、朽木双葉と共闘】
【備考:主催者サイドから離脱、独立勢力化
     再生能力(限りあり)、擬似死能力】


【カモミール・芹沢】
【現在位置:素敵医師に同じ】
【所持品:虎徹刀身・銃身(弾数無数、魔力付加で威力増大)
      鉄扇、トカレフ】
【スタンス;素敵医師の指示次第。ただし、やや暴走気味】
【備考:薬物により身体能力上昇
    重度の麻薬中毒により正常な判断力無し。
    薬物の影響により腹部損傷、左腕硬質化(武器にもなる)】
                 
590戦鬼は集う(32):04/02/24 03:50 ID:3wZRA0Ns
【主催者:ザドゥ】【現在位置:楡の木広場付近】 【所持品:マント、通信機】
【スタンス:素敵医師への懲罰、参加者への不干渉】
【備考:我流の格闘術と気を操る、右手に中度の火傷あり】

【しおり(No28)】【現在位置:楡の木広場付近】 【所持品:日本刀】
【スタンス:しおり人格・参加者殺害、さおり人格・隙あらば無差別に殺害】
【備考:凶化・身体能力上昇。発火能力使用 弱いながら回復能力あり、首輪を装着中
    多重人格=現在はしおり人格が主導】

【主催者:椎名智機】 【現在位置:本拠地・管制室】
【所持武器:レプリカ智機(学校付近に10体待機、本拠地に40体待機
      6体は島中を徘徊)
       (本体と同じく内蔵型スタン・ナックルと軽・重火器多数所持)】
【スタンス:素敵医師の薬品の回収、アイン・双葉・しおりを利用・捕獲】
【能力:内蔵型スタンナックル、軽重火器装備、他】
【備考:楡の木広場付近にレプリカ一体と強化型一体を派遣】

【レプリカ智機】
【所持品:突撃銃二丁、ガス弾一個、ヒートブレイド、アタッシュケース
      筋弛緩剤などの毒薬、注射3本】
【レプリカ智機強化型(白兵タイプ)】
【武装:高周波ブレード二刀、車輪付、特殊装甲(冷火耐性、高防御)
内臓型ビーム砲】
【備考:レプリカは智機本体と同調、強化型は自動操縦 強化型は本拠地に後3体いる】
591名無しさん@初回限定:04/02/27 00:12 ID:X4+Llf0R
                   
592名無しさん@初回限定:04/02/29 13:34 ID:atCm2jWi
上の見えない
593名無しさん@初回限定:04/02/29 19:14 ID:tIqtcoPe
>戦鬼は集う
再開でいきなり1話に30レスは長く感じたな。
ちょっと読むのに躊躇したぞ。
内容自体は戦闘及び強者集結燃えの一言に尽きるな。
594名無しさん@初回限定:04/02/29 22:58 ID:tTSdPzAl
乙。
なかなか読み応えがあったな。

しかし、新バトロワとこの旧バトロワ見てると、エロゲ全キャラを使っての
バトロワの難しさがわかるな。
旧はその閉鎖性から遅々として進まず、書き手が減っていった。
その点、新は参加しやすいが、その代償として・・・
まあ、言うまい。

とりあえず、旧の書き手氏、完結までがんばってくれ。
595名無しさん@初回限定:04/03/04 01:39 ID:zcPfRY5l
596策動(1):04/03/07 02:30 ID:uzjadQ1u

男は殺す。女は俺のものにする。主催者打ち殺して、島を出る
それはゲーム開始時のランスのスタンス

彼はこれまで自由奔放に生きてきた。
命の危険にさらされた回数も二桁時では効かない。
むしろ自ら、それに突っ込み、生還する。
それを可能とする実力も、自信も、悪運もあった。

―――だが、このゲームに至っては

双葉を追い続けた事があって、彼は女性参加者の大半を助けられないまま、神の声で
知ったゲームの真相に激しく動揺した。
自覚は無かったけれど…彼はそういう自分をとても不甲斐なく感じた。
かつて…この島に来る前にある国の兵隊に追われ続けた時以上に。
ケイブリスの放送以後、彼は焦り続けていた。
597名無しさん@初回限定:04/03/10 05:11 ID:pyy67fRX
598名無しさん@初回限定:04/03/13 01:25 ID:y7jNJL9J
599名無しさん@初回限定:04/03/16 01:50 ID:0pDLyWaO

(二日目 PM4:01 西の森付近) 

魔窟堂野武彦(No12)を先頭に気絶しているランス(No2)を除く五人は歩き続ける。
今日の午前中、竜神社に向かう途中に見つけた西の森の小屋を目指して。
その頃、魔窟堂の後ろには月夜御名紗霧(No36)がバッグの中から取り出した、青
いキャップのマジックペンのような物をやや不機嫌そうに見ていた。

「あの……紗霧さん、これは何なのですか?」
横に並んで歩いていたユリーシャ(No1)はおずおずと尋ねる。
「……筆の一種です。魔窟堂さんの支給品がチョークである以上、役立てるのは難し
いですね」
「参加者の支給品なんだろ?調べたのか?」
二人の様子を後ろから見ていた高町恭也(No8)は紗霧に言う。
現におもちゃと思われていたパーティーガバメントには鋼線が仕込まれていたのを
知っての問い。
「既に中身も調べてますよ。それでも、あまり使い道のある物品とはとても…」
と、言ってペンをバッグに仕舞う。
色とりどりのマジックペンの入ったペンケース。
森に向かう道中、茂みに捨てられてあったそれを紗霧らが回収したのである。
ペンケースには十二本入るスペースがあったが、入ってあったのは十本だった。
600策動(3):04/03/19 00:47 ID:NxfHNo9U

多分、参加者の誰かに支給された道具で、他のペンは不要と判断し破棄したものだろ
うと紗霧は推測した。
実はもう一つ、それもバッグの中に入っていた道具を紗霧たちは回収しているのだ
が、それも武器防具の類のものではない。
こうなると紗霧としてはどうしても、神の声から発せられた『役立つモノ』を早期に
回収する必要があると思った。

「おっ?」
そんな紗霧を尻目に西の森に入ったところ背に担いだランスが身動きし、まひるは反
応する。
「…ん…ぐ…」
ランスはうめき声をあげ、目を開き始めた。
「ランスさま!」
まひるの後方を歩いていたユリーシャはそれに気づき喜びの声を上げ、まひるはゆっ
くりとランスを降ろし始める。
「・・・・・・・・・」
ランスは草むらに座り込み、目をこすりながら周囲を見始める。
「気が付いたようじゃの!」
足を止め、ランスのほうに駆け寄る魔窟堂。
周り囲む三人とは別に、紗霧と恭也は数メートル離れてそれを見守る。
そして、ランスは周り囲む三人の姿を認め、言葉を発した。
601名無しさん@初回限定:04/03/22 02:21 ID:ugVTfWrx
602名無しさん@初回限定:04/03/22 02:22 ID:Rdnh3dHm
 
603策動(4):04/03/24 02:26 ID:xJJE8tin
「ユリーシャ…か……」
「はい……ランスさまが…身体を張って下さったおかげで…こうして…」
安堵の息を漏らすランスに、はにかんだ笑顔で応えるユリーシャ。
(うんうん……恋人同士の再会…いつ見ても感動するシチュエーションじゃわい)
(姫さん良かったあ……)
そんな二人を見て感動する魔窟堂とまひる。
「がはは…当然だろう……」
そう返答したランスは言葉を切る。そして再び周囲を見回して言った。
「…ユリーシャ…ここはどこだ?それにこの二人誰だ?」
かすりの着物を着た老人と、白ずくめの赤毛の少女(外見)を見て疑問を投げかけ
た。
「あ!あ、あのお二人は私とランスさまを助けてくださった方々です」
ユリーシャはやや慌てた様子でランスに説明をする。
その説明を聞いたランスの顔色が変わった。
「助けてくれた…だと?」
「わしの名は魔窟堂野武彦。主催者打倒を目指して行動しておる。ランス殿、おぬし
も……」
「おいっ、ユリーシャどういうことだ?俺は…ケイブリスの野郎はどうなったんだ!
?」
魔窟堂の自己紹介を聞かずに、ユリーシャに問うランス。
「そ、それは……」
「たいした怪我ではないし、あの怪物はここには居らん。じゃが、お嬢ちゃんが駆け
つけてこなんだら、手遅れになるところじゃッた」
604名無しさん@初回限定:04/03/27 00:24 ID:1JfNC96Q
               
605策動(5):04/03/30 00:52 ID:LFF02x4+

「駆けつけただと?ユリーシャお前……」
「……ランスさま…私…」
「ランス殿、悔しいのはわかるが…お嬢ちゃんを責めてはいかん」
「じじいは黙ってろ!俺は待っていろと……」
「・・・・・・・」
問うランスに対し、ユリーシャはただ黙って彼の目を見つめている。
「いろ…と…」
「…………」
まくし立てようとしたランスだったが、彼女の様子に冷静さを取り戻していく。
しばしの沈黙の後、ユリーシャは言った。
「わた…私はランスさまに死んで欲しくありません……だから…だから…言いつ
けを破りました」
目を伏せ、だがしっかりとした様子でランスと対峙するユリーシャ。
「・・・・・・」
その彼女にランスは息を飲み、考えた後。深く息を吐いて言った。
「……でかした…ユリーシャ…」
「!」
彼女は顔を上げる。そしてランスは、
「心配かけちまって悪かったな…」と彼女に言ったのだった。
606策動(6):04/03/30 01:44 ID:5DPS6mSo

「こちらがまひるさんで…」
「よろしく!」
「この方が高町恭也さんです」
「……………」
「ん?」
ユリーシャの口からまひる達が紹介されてく中。ランスは恭也を見て声を上げた。
「お前は………………………昼の?おい!知佳ちゃんはどうした!?」
恭也の事と同時に知佳の事も思い出し、ランスは詰め寄る。
「ランスさま?お知り合いだったのですか?」
「……………」
ユリーシャの疑問を他所に二人は対峙する。
「……ここには…いない」
「何だと?まさか…」
「あの…知佳さんって…どちらさまで…」
「えと…恭也さんの恋人だよ」と、まひるは返答する。
「え?」
「ひ、広場さん」
戸惑うユリーシャと恭也。
「なにっ?ふざけるな知佳ちゃんは俺様のものだ」
ランスの勘違いした発言に、むっとした恭也は言う。
「仁村さんは渡さない」
「何勘違いしてる。第一…」
「知佳さん、行方不明何ですよね」と森の奥から声が響いた。
「…!ランスさま…この人は……………月夜御名」
声を聞き、ユリーシャは遠慮がちに最後の紹介しようとする。
「紗霧です」と言葉を続けた。
身を隠して様子を見ていた彼女はようやくその姿を現したのだった。
607名無しさん@初回限定:04/04/02 01:25 ID:QSwwwW5K
                  
608名無しさん@初回限定:04/04/05 02:01 ID:CXnmbtDi
609名無しさん@初回限定:04/04/08 01:57 ID:Wv5WRee9
                  
610名無しさん@初回限定:04/04/11 01:50 ID:W7haTkt+
611名無しさん@初回限定:04/04/14 03:25 ID:AHusZTEi

「むっ、むむむむむっ!」
紗霧をはっきりと眼前で確認したランスは感嘆の呻き声をあげる。
「お、お前は…お前は…」と、ランスは紗霧を目の前にしていつものように寸評を
入れようと言葉を発しようとするが、うまく言葉にできない。
ランスの評価が決して低い訳ではなく、むしろ出会った女性参加者の中では最高とい
える。どこがいいのか言うのがはばかれるくらいだ。
「と、とにかく!グッドだ!!」と、彼は親指を立てて言った。
「何が良しなのかは皆目検討が付きませんが……初めまして」
「おう!紗霧ちゃんだったな。こっちこそよろしくな。がはははははっ」
「……あのー……」
紗霧の呆れたような、冷めたような眼差しに気づかない上機嫌なランスに対してまひ
るが問う。
「ん……なんだ?」
「姫さんの恋人なんでしょ?どうして知佳ちゃんや紗霧さんに対してそんな…」
「………?」
怪訝な表情なまひるを前にランスは一瞬、その問いの意味が解らなかったが、少し考
え返答した。
「姫さんって…ユリーシャのことか?世界中のいい女は俺様のものだ。それぐらい理
解しているだろ?」
「…………っ。あのさ…姫さんに悪いって思わないの?」
「何?」と、ランスは思わずユリーシャの方を向いた。
「……!」
呆然とした表情で、悲しみと怒りが微妙に入り混じった視線を送っていたユリーシ
ャはぴくりと身体を震わせる。
「おい―ー―」
「ラ、ランスさまっ」
言い終わる前にユリ―シャはランスに駆け寄り抱きついた。
612名無しさん@初回限定:04/04/15 01:45 ID:X3E9qMBS
えーまだ続いたてたの〜?
613名無しさん@初回限定:04/04/18 01:39 ID:NRNXO9E2
              
614名無しさん@初回限定:04/04/20 06:59 ID:KA0ZFmTY
すげぇな
615策動(8):04/04/22 23:07 ID:FhRdPpzF

「な、何だ?」
ユリ―シャはそれには答えず、そのままランスをずいずいと押して数歩後退させ、
立ち止まりつつ、少し考えてからランスに言った。
「どうか…どうか…やめてください…!」
切羽詰った彼女の言葉を察したのかランスも小声で返答した。
「何、慌ててんだ?やめろとは……」
「………このままでは…ランスさまが…嫌われてしまいます」
「なあに言ってる。俺様のハイパーへい…」
「皆さんが…嫌がっております…」
「ん」
押し殺した声で言うユリーシャにつられたのか、ランスはふと他の4人を見た。
「…!」
その四人とユリーシャの様子に気づいて、ランスは『しまった』と思った。
まひるは明らかに警戒した様子でランスとユリーシャを見つめ、紗霧はただ無表情
にこちらを見つめていて。
恭也と魔窟堂も警戒と困惑で彩られた表情でこちらを見ている。
「……………」
(こんなんじゃ…女の子達を守りきることができねえじゃねえか…)
ユリーシャに見つめられながらランスはしばし黙考し、バツが悪そうに頭をかきなが
ら四人に言った。
「い、いきなり変なこと言って悪かったな……」
616策動(9):04/04/26 01:26 ID:BgKYcrTs

「…………」
そして、ランスはユリーシャの方を見て、背中を軽く叩いた。
「え?」
次はまひるの方を向いてランスは言う。
「俺様の名前はランス。ユリーシャは俺様の女だ」
「…………」
「納得できんかもしれんが……そういう事だ」
少し嬉しそうなのユリーシャと言いつくろう(?)ランスを見て、まひるは無言で
複雑な表情のまま見つめた。
「ま、まあ…まひる殿」
魔窟堂はまひるをなだめるように声をかけて、ランスに向き合う。
「ランス殿、さっき言った通り、わしらは主催者打倒を目指しておる。良ければ
わしらと手を……」
「組んでほしいなんてまだ一言も言ってません」
と、魔窟堂の声を遮って、抑揚のない声で紗霧は言った。
「…ぬう……」「さ、紗霧さん……」と、魔窟堂とユリーシャは声を詰まらせる。
二人から見てもさっきのランスの言動は女性から(まひるは一応男だが)すれ
ば悪い印象を与えるものだ。状況が状況でも、それだけに反論はしにくい。
(ぐっ………)
いつもなら俺様一人、紗霧ちゃん一人という状況なら力ずくで…とランスは考えた
かもしれない。
だが今、彼は命の危険だけでなくあらゆる面で追い込まれている。
完全な異界で、誰一人助けられないまま、ただ敵に殺される。
そうなることはランスにとって、最も迎えたくない結末。
ザドゥとケイブリス以外の敵にさえ今戦えばそうなってしまう可能性が高い以上、
ここで遭遇した四人と離れるわけには行かないと彼は思った。
617名無し達の空:04/04/28 11:11 ID:hT91gTzk
おもしろいな

age
618名無しさん@初回限定:04/05/01 10:32 ID:N6ws7JHI
619名無しさん@初回限定:04/05/04 10:59 ID:TzogKxw7
              
620名無しさん@初回限定:04/05/07 03:12 ID:NKDzwq2L

「俺の目的は……」
自らの焦りを押し隠すかのように強い口調で…
「ん?」
「・・・・・・主催者の野郎をぶっ殺し、女の子達を助けることだ」
真剣な表情で言い放つ。
「……で?貴方がそれを成し得られる根拠は?」
「………俺様の―――」
淡々と受け応えする紗霧に対し、ランスは少し考え、口を開こうとする。
が、彼女はそれを言葉で遮る。
「単に強いだけでは、ダメですよ」
「?」
「だ、だがの…紗霧殿……そのままでは…」「紗霧さん……どうか、ランスさまを…」
「ユリ―シャさん。さっきの彼の反応を見て、何とも思わなかったんですか?」
「……!」「お、おいっ…一体何を…」
「価値観は人それぞれと言いますが……これから我々の行動の大きな妨げになるのな
ら、歓迎はできません。戦力は現状ままで充分です」
「・・・・・信用できないってのか?」
拒絶される事自体は、この島に来る前にも何度かあった。
その度に自らの実力を見せ付けたり、仕返ししたりして見返してきた。
だが、今回のは……何故かランス自身その理由は思い当たらなかったが、かなり悔し
いと思った。それは彼が故郷から旅立った頃を思い出させるものだった。
そう言われたからなのか紗霧は視線をランスから、恭也とまひるの方に移す。
そして紗霧は「高町さん。彼の事、どう思いますか?」と言った。

621名無しさん@初回限定:04/05/10 02:40 ID:qAKa+vK7
             
622名無しさん@初回限定:04/05/13 04:27 ID:+gMBbevJ
623名無しさん@初回限定:04/05/16 02:11 ID:eo9eXFn8
624名無しさん@初回限定:04/05/16 02:33 ID:R3lbBRuB
こっちは頑張ってくれ。
625名無しさん@初回限定:04/05/17 04:05 ID:Cm60LyiE

626名無しさん@初回限定:04/05/20 00:37 ID:3aAKjQV1
                    
627策動(11):04/05/23 04:21 ID:0/ufal2f

「………ランス」
「…なんだお前?」
 しばし考え後に恭也はランスに問い掛ける。
「あんたにいくつか訊きたい事があるんだ」
「・・・・・・・・」
「男はどうするつもりなんだ?」
「……?」
 ランスと恭也の戦闘自体を知らないまひるは首をかしげた。
 昨日の昼のランスが恭也らに言い放った暴言を思い出しての質問。
「・・・・・・・・」
「……………」
 他の三人は恭也の問いに対し、それぞれ思う事は微妙に違うものの、固唾を
飲んでランスの答えを待つ。
「…とりあえず参加者には危害を加えないでやる」
「……どうしてなんだ?」
「主催者のヤロウどもをぶち倒すのが理由じゃ不満か?」
訝しげに互いを見る二人。
 ふと恭也は思い出す。
 あの時、一緒にいたアリスメンディがいないことに。
 今日の午前6時の放送の内容を。
「・・・・・・・」
 女性を自分の所有物と考え人の命(男)をどうとも思っていない独自の価値観
 多くの危険要素を持つ以上、安易に仲間に加えるのはためらわれる。
 魔窟堂やまひるに危害を加えないとも限らないからだ。
 だが、さっきのランスとユリーシャのやりとりの中で見せた彼の思いやりは本
物に見えた。
 今の彼は昨日の昼の頃と比べてやや精彩に欠けてる様に思える。
 もし、その原因がアリスの死に直結するなら、まだ、分かり合える部分がある
かもしれないと恭也は思う。
 危険である事には変わりはないが、かといってこのまま排斥するのも悪いよう
な気がするのも事実。
628名無しさん@初回限定:04/05/26 14:35 ID:amFCu9Y7
629名無しさん@初回限定:04/05/29 17:34 ID:H0RATB2Z
630名無しさん@初回限定
ほしゅ