(決まった、完璧だ。さすがはグレン・コリンズ、神の後継者、パーフェクトだ。
この見るからにおつむの拙そうな哀れな堕天使も思わずひれ伏すほかはあるまい・・・
しかし、天使を身にまとったオーラだけで心服させるとは我ながら罪な男だ。
何故に造物主はかくも潤沢な才をわたくしグレン・コリンズ一身に与えたのだ。
この調子ならば、やはり仮に神というのが本当にいるにしても、悪いが天国は私のものとならざるをえまい。
飼い犬に手をかまれるとはな、ククク、神の全能というのもすこぶる怪しいものだ)
「フハ、フハ、フハハハハハハハハハハハハハハハハハ」
「あの」
ユリーシャは今にも切りかかりそうなランスを必死に押しとどめながら、
胸を大きくそらして高笑いするグレンに声をかけた。
「ん、なんだ天使その1?
本来ならば、下っ端天子ごときが神である私に声をかけるなど許されんことだが、
君は私を天国へ導いてくれる祝福の天使、麗しき生きたトロイの木馬だ、特に許してつかわそう」
「あ、ありがとうございます」
律儀にもお辞儀を返すユリーシャに向かってグレンは鷹揚に頷く。
「あの、ですね。実に申し上げにくいのですが」
「ウム、苦しゅうない。はっきりと申すがよい・・・そういえば、まだ名前を聞いていなかったな」
「あ、はい、わたくしはユリーシャと申します。それで・・・」
「ユリーシャか、どことなく田舎臭く垢抜けない名前だが、まぁ悪い名前ではないな」
「ありがとうございます。
それでですね、実は・・・・・・」
「分かっている、分かっている。
君達が天使であるということくらい、この天才グレン・コリンズにはすっかりお見通しだ。
いやはや、何もかも悟ってしまうというのも考え物だな。いささか面白味に欠ける人生だ、そうは思わんかね?」
ハッハッハッ、とまんざらでもなさそうに笑うグレン。
人の話はまったく聞いていないようだ。
「いえ、あの・・・だから・・・」
「ん?何だ、まだ話があるのか?まぁ、良かろう。
私は寛大だからな。もう一度だけ奏聞することを許す、ただし手短にな」
「あ、はい。あの、もう一度言いますから、よーく聞いてくださいね?
私は天使じゃありません。あちらの方はランス様といって、あの方も天使ではありません。
もちろん堕天使でもありません」
大きく息を吸って、今度こそ聞き違えられることがないようにユリーシャは一語一語はっきりと話し、
報告を終えると、グレンの様子をうかがった。
しかし彼は彫像のように立ち尽くしたまま、ぴくともうごかない。
聞いてなかったのかしら、とユリーシャが思いだしたころ、
「 何 で す と ぉ ぉ お お ぉ お ぉ! ? 」
びくりと体を震わせたグレン・コリンズは絶叫した。
「では、君達は正真正銘の人間だというのかね?」
数分後、ようやく落ち着きを取り戻したグレンは情けない声で尋ねた。
「ちっがうよ〜、このアリスちゃんは人間なんかじゃなくって、
なんとぉ!デケデケデケデケデケデケェ、デンッ、まおー様なのだぁ、パンパカパーン!!
どうどうどう、おっどろいたでしょ〜?」
「何だ、貴様は、頭がおかしいのか?」
突如ユリーシャの肩口から顔を突き出してきたアリスを冷ややかな目でじっと見たあと、
自分は神を名乗っていたことをすっかり棚あげにしてグレンは言い放った。
早くも立ち直ったのか、先ほどの動揺もすっかり収まっている。
「う、ひっど〜い。アリスちゃん、怒れる。プンスカプンプン!
ランス〜、なんか言ってやって、ガッツーンと言ってやってよ〜」
「・・・オイ、タコ」
「私はタコではない、グレン・コリンズ。
将来人民皇帝となり貴様ら愚民どもを顎で使うようになる男だ、覚えておくがよい、蛮人ランス」
ブツン!! (←何かがブチ切れる音)
「だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、もう我慢できん、殺す、絶対に殺す!」
「ま、待ってくださいランス様。ほらこの方、鍵と何か黒い箱のようなものを持っています。
これが何なのか聞いてからでも遅くはありませんでしょう?」
「・・・チッ、好きにしろ」
さえぎるユリーシャに、ランスはしぶしぶ引き下がった。
「ランスはユリーシャおねーさまには甘いよね〜、ひょっとこするとラブですか、ラブラブなんですかにゃ〜?」
「・・・」
「いった〜い、なにゆえに殴るかな〜?ぼーりょく振るう男は、もてないよ、ランス〜」
「お前は少し黙っていろ・・・さて、では貴様の話を聞いてやろう、ありがたく思えタコ」
図星をつかれたのか、単にうるさいと思っただけなのか無言でアリスを小突いたランスは、
【らぶらぶ】に過剰反応しているユリーシャのほうを見ないようにして、グレン・コリンズの方に向き直った。
「フン、説明したところで貴様ごときに理解できるとは思えんがな、
これは私グレン・コリンズの天才によってのみ作り出しうる「首輪解除装置」だ。
ほれ、その首についている首輪をはずすための道具だ。まぁ、いずれ私の家畜になる貴様らにはお似合いだがな。
フハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」
「そうか、だったらそいつをよこせ。そーすりゃ命だけは見逃してやろう」
「ハッ、貴様と貴様の連れごときがこの装置を扱えるとでも思っているのか?」
「もう一度だけ言う、それをよこせ。でなければ今度こそ殺す」
ランスの目は笑っていない。今度はもうユリーシャも口を挟むことはできなかった。
「タコたんも、ランスがこーいってるうちに渡したほーがいーと思うよ。
ランスはやるときにはやるおっそろしい男だから。
・・・でも、それがかっこいーんだよねぇ。や〜ん、言ってたらまた濡れてきちった。
ランス〜、そんなのほっといてアリスちゃんとズンパンしよ〜」
アリスの能天気な声を聞きながらも、グレン・コリンズは目前の危機を回避するためその頭脳をフル回転させていた。
(どうするグレン・コリンズ?
確かにお前は天才かつ万能だが、武器を持った蛮人に素手で挑んで勝つというのは難しい。
蛮族は往々にして文明人よりも身体能力に優れているものだ。
かててくわえて、仮に出来たとしても暴力的なのは美しくない、やはり却下だ。となれば・・・)
「いいだろう、この装置は貴様にくれてやろうではないか。・・・・・・ただし!!」
「何だ?」
ランスは伸ばしかけた手を中途で止め、獣ような目でにらみつけてきた。
「・・・ただし、だ。先ほども言ったようにこの装置は作動させるには非常に複雑な操作が必要だ。
無論のこと、少しでも間違えれば、ドカン、だ。
そして、こいつの操作法を知っているのはこの私グレン・コリンズをおいて他にはない」
(もう一人だけ・・・君は知っていたな、ミス法条)
グレン・コリンズの顔が一瞬曇ったのもつかの間、彼はすぐに何事もなかったかのように話を続けた。
「さらに、私はこれの操作方法を誰にも教えるつもりはない。ということはだ・・・
ここまでくれば、君の粗末な頭脳でも私の言いたいことは分かるだろう?」
「・・・俺様と手を組もうってのか?」
グレン・コリンズは無言のまま、自信に満ちた目でランスを見返した。
顎に手を当てたまま、苦虫を噛み潰すような顔でランスは考え込む。明らかにランスは苛立っていた。
グレン・コリンズは自分の高鳴る鼓動を聞きながら、返事を待った。
自分の仕掛けたこのブラフにはいくつかの穴があることに、彼自身も気づいていた。
涼しい顔をしているがいつそれを看破されるかと考えると気が気ではなかった。
「俺様が、それをいらんと言ったらどうする?」
(野蛮人にしては痛いところをついてくるではないか)
隠してもにじみ出てしまう狼狽を見て、今度はランスが自身たっぷりに笑った。
「・・・では、君はその首輪をどうする気かね?引きちぎってみるかね?」
「簡単だ、こんな首輪を外す必要はない。
男は殺す。女は俺様のもの。
ついでにルド・・・何とかもぶち殺して、世界も俺様のものだ。
そうなったら、マリアあたりに何とかさせる。ウム、さすがは俺様、グッドだ。ガハハハハハハハハ」
「フハハハハハハハハハハハハハハ」
突然、グレン・コリンズは愉快で愉快でたまらないといったふうに両手で腹を抱えて哄笑する。
146 :
人民皇帝VS鬼畜王(11):02/12/23 03:23 ID:tO3z/ZDS
ランスはこの状況で馬鹿笑いを上げるグレン・コリンズを奇妙なものでも見るような目で見つめた。
「何がおかしい?」
「いやいやいや、失敬、失敬。気に障ったのなら、謝るよ、ランス。このとおりだ、すまなかった、許してたもれ。
フフフフフ、そうか、これはいらないのか・・・ならば残念だがいたし方あるまい。
貴様らには言ってなかったが、実はこの装置にはもう一つの機能があってね、首輪の起爆装置でもあるのだよ。
しかもそちらのほうの機能は何とワンボタン操作なのだ。
まさに天才の深謀遠慮、ここにきわまれりといったところか。
さて、それでは君がそいつで私を斬り捨てるのが早いか、私がスイッチを押すのが早いか、試してみるかね?」
「・・・話が違うぞ。」
「話?フフフ、何の話かな?」
グレン・コリンズは狂気の色を滲ませた病的な笑いに顔を歪ませて、装置をランスのほうに向ける。
見開かれた青い目は細かい血管が浮かび上がっており、少し斜視気味にランスの目を射抜く。
チッ、と舌打ちするとランスは剣を収めた。
「不愉快だ・・・男を生かしておくのはヒジョーに不愉快だが、生かしておいてやる、ありがたくおもえ」
「フフフフフ、そうか一度こいつを試してみたかったんだがな。
それはまたの機会のお楽しみにとっておくとするか。
・・・では、ランス、一時休戦ということで同意するのだな?」
ランスが無言で頷くのを見て、成り行きを見守っていたユリーシャもホッと安堵の吐息をつく。
(ふぅぅ、やり遂げた。やり遂げたぞ、ミス法条!)
グレン・コリンズは渋面を崩さぬように、今にもこぼれそうになる笑いを必死に堪えて、
ランスに気づかれぬよう後ろ手にぐっと拳(触手)を握り締めた。
彼は最大のブラフを通すことに成功したからだ。
彼が通したブラフ、すなわち、「起爆装置」という最大のブラフを。
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>67
(第二日目 AM5:30)
後ろから静々とついてくる黒髪の少女を見て、遺作は笑いが止まらなかった。
「遺作お兄さん?」
山道の途中、沙霧の呼びかけに遺作は立ち止まった。
「及ばずながら、わたくし月夜御名沙霧は、勝利のために力を尽くしたいと存じます。」
そう言って、月夜御名沙霧は笑った。
(所詮は女、ぶち込んじまえばこっちのもんよぉ)
遺作も不敵に笑った。
それより少し前のこと、束の間の眠りから目覚めた遺作は
あれだけ放出したあとにもかかわらず、股間に立派なテントを張っていた。
「よっこっらせっとぉ・・・」
年寄りくさい独り言をこぼしながら、隣で仰向けに倒れたままの沙霧の膝を割って細い腰をがっちりと掴んだ。
無言で怒張の先端をがびがびになっている沙霧の花弁にあてがう。
「ン・・・あぁ・・・」
かすれた声でやっとそれだけ言うと、沙霧は空ろな目で遺作のほうを見た。
「声もでねぇほど嬉しいのか?」
ズッ
いろんな体液の乾ききっていない性器の表面の襞を擦りあげるようにして、一息に奥まで貫く。
それだけで黄ばんだ精液が膣内から溢れ出してくる。
「あっ・・・つぅ・・・ぃ・・・」
しばらく挿入の余韻を楽しんだ後、遺作はむしゃぶりつくように狭霧の汗ばんだ首筋に舌を這わせた。
結合部から溢れ出る精液を潤滑油代わりに、遺作はゆっくりと腰を動かす。
「へっ、よくしまるじゃぁねぇか。これだから若い女はやめられねぇ」
「うん・・・あ・・・うぅん・・・あん・・・・・・あっあ」
突き上げるたびに聞こえてくる少女のあげる甘い声、
プルプルとやわらかく揺れる乳房とそのうえで固く身を結んだ乳首。
快感に激しくわななく沙霧の腹。
「いやよ、いやよもぉっ、好きのうちっ、てなぁ」
言いながら、まろやかな乳に手を這わせ、触れるか触れないかの微妙なタッチで撫でまわしたあと、
屹立した乳首をきゅっと引っ張る。
「やぁ・・・い、たい・・・ひっぱら・・・んぅ・・・ない、でぇ」
抗う声も、下腹部からじんわりと広がってくる絶え間ない快楽に飲まれて言葉にならない。
「どうだ、気持ちいいか、ん?」
返事を待たずゆっくりと腰を引くと、それに合わせて泡立った二人の体液に塗れた遺作の一物が姿をあらわす。
沙霧は瞬きもしないでそれをじっと見つめていた。
「っ・・・」
それを意識した瞬間、禍福から伝わる快感が爆発した。
「いや、いや・・・あっ、あぁぁぁぁぁあああぁぁぁぁん」
沙霧は切羽詰った声をあげると、激しくかぶりを振って遺作から逃れようとする。
腹の下で悶える沙霧の表情がとろけるようなものに変わったのを見て取った遺作はすぐさま
ブチャッ、ブチャッという音を立てながら、リズミカルに腰使いに切りかえる。
「どーなってるのか言ってみな?」
「・・・遺作おにーさんの・・・が、狭霧の中をっ・・・んぁっ、かき回して・・・います・・・」
「かき回して、どーなってる?」
「遺作おにーさんのザーメンと狭霧のお汁が混じったのが、おにーさんのにまとわりついて・・・んん・・・」
「気持ちいいのかぁ、ん?」
答えはなかった。
ただ情欲に潤んだ声で許しを乞うように見返してくる。
「気持ちいいのか、と聞いてんだ」
「気持ち・・・いい・・・です」
一瞬の逡巡のあと、答えた沙霧は自ら快をむさぼるように腰を蠢かせた。
「気持ちいいですからぁ・・・んん・・・ハァ・・・もっと・・・もっとぉ
沙霧を・・・沙霧をめちゃくちゃにして・・・・・・くださいっ」
沙霧の絶叫に「へっ」と鼻を鳴らすと、遺作はクリトリスを摘み上げラストスパートに入った。
「やだ、やだ、やだ・・・なんか、なんかっくるぅ・・・・・・あっあっあっあっあっあっ」
微妙なビブラートをかけて喘ぐ沙霧の乳首を口中で転がしながら、遺作はひたすらに肉筒を擦りつけつづける。
「イク、イク、イっちゃうっ」
「おおぅ」
遺作は短くうめくと、顎を突き出し、ゆっくりと射精した。
「あ・・・、中・・・でてるぅ」
ぐったりと体を弛緩させた沙霧の意識はゆっくりと闇に飲まれていった。
(って、そんなわけがありますか。こんな状況で寝るようなスットコドッコイといっしょにされては困ります)
ふたたび眠ってしまった遺作を尻目に、身だしなみを整えた沙霧はひとしきり考えをめぐらせた。
(それにしても・・・イク、イク、イっちゃうっ、は少し臭かったかもしれませんね、修正しなくては。
まったく、馬鹿の相手はこれだからいやなんです)
「遺作お兄さん?」
胸中に渦まく悪意をおくびにも出さず沙霧は眠る遺作に呼びかけるが、起きる様子はまったくない。
「あんまり寝すぎると少ない脳ミソが腐りますよ?
と、言ってもすでに腐っているのかもしれませんが」
凌辱者が寝ているのをいいことに、沙霧は小声でボソッと小粋な毒を吐く。
「・・・あくまで起きないつもりなのですね?いいでしょう、それならばこちらにも・・・」
「こちらにも・・・・・・何だ?」
沙霧の毒スイッチがオンになり、これからあらん限りの罵詈雑言をたたきつけようと思った矢先、
遺作が体を起こした。
頭を掻きながら大きなあくびをすると並びの悪い歯が除く。
遺作はひとしきりコキコキと肩を鳴らすと、
不気味に光を放つ目をどんよりと澱みながらも沙霧の方をねめつけてきた。
「こちらにも何だ、と聞いてるんだ」
機嫌が悪いの悟らせるに十分な低い声。不快なだみ声。
「こちらにも敵がやってくる、そう申し上げようと思ったところです。
御覧ください、遺作お兄さん。こちらに向かってくる光があるでしょう?」
沙霧は何食わぬ顔で飄々と交わして、スッと対人レーダーを差し出す。
用意周到な彼女にぬかりのあろうはずがなく、あったとしても咄嗟の機転を利かせて切り抜けることが出来る。
そうすることで、彼女は表に立つことなく富嶽学園を実質的に支配してきた。
裏で糸引く黒幕やフィクサーのようなスタンスを彼女は好んだ。
(矢面に立つのはいつの時代も阿呆の役目。
容易く御されるあなたにはせいぜい踊っていただきますよ?)
「で、この光がどうしたんだ?」
逆光のため薄く笑った沙霧の顔が見えなかったのか、遺作は彼女の底意に気づかなかったようだ。
一瞬浮かんだ狭霧への不信の念も影を潜め、
ただ、差し出された薄い液晶モニターにうつる光点を指差し怪訝な顔を沙霧に向けている。
「この光はこの装置の近くにゲーム参加者がいるかどうかを示しています。
ほら、ここに私と遺作お兄さんの光が寄り添うように光っていますでしょう?
そして、もう一つ誰かは分かりませんがここに近づいてくるものがいます」
「へっ、誰が来ようが俺様の敵じゃぁねぇ。
なんてったって、今の遺作様は【 ざ ・ ぱ わ ー ど ・遺作さん】なんだからな」
「でも、遺作お兄さん。あなたはこのゲームに勝利なさるお方。
無用の危険は避けるのも王者の知恵かと存じます・・・・・・僭越ながら、この月夜御名沙霧に一つ妙案が」
(パワードだかコワードだか知りませんがこれだから、血の気の多い方はいやなんです)
「フ、ン。言ってみろ」
美少女が己の身を案じて献策してくるのが嬉しいのか、遺作は上機嫌で続きを促した。
「はい」
手際よく制服の内ポケットから地図を取り出す。
「ここには民家群があります。ここにいけばまだ何か役立つものがあるかもしれません」
155 :
バンカラ夜叉姫〜胎動変〜(6):03/01/01 00:44 ID:SAzgqu5u
「遺作お兄さん?」
山道の途中、沙霧の呼びかけに遺作は立ち止まった。
「及ばずながら、わたくし月夜御名沙霧は、勝利のために力を尽くしたいと存じます。」
この言葉に満足げに破願した遺作を見て沙霧は、薄く笑った。
(もちろん、私自身の勝利のために、です。そこんとこ、お分かりになってますか?)
↓
(第二日目 AM:03:00)
背中がほんのりと温かいのは、座ったままで後ろから抱きすくめられているからだ。
あたしは心地よいまどろみの中で、体を丸めるようにしながら、ぼんやりとそんなことを考える。
あいつの体はもう少し温かかった。
抱き上げられたときは、恥ずかしいのと申し訳ないのとでそれどころじゃなかったけど、
あいつの体のぬくもりが伝わってきて、心臓だけはトクトク鳴ってた。
今は、そうでもない。
多分ああいうのを「淡い恋」と、そう呼ぶんだろう。
気の迷い?
そうかもしれない。
でもきっと、あのときあたしは、恋を・・・していたんだと思う。
思い出すと、目頭がじんわりと熱くなってきて、あたしは鼻をすすった。
あたしの初恋、あたしの恋、あいつはもういないのだ。
(あ・・・・・・いやだ・・・)
思い出が走馬灯みたいにフラッシュバックする。
暗い森の中、突然あいつは現れた。
ショットガンを持ってるあいつにビビッちゃったりなんかして・・・あれは醜態だったわね。
よくよく考えてみれば、あいつにはずっと恥ずかしいところばかり見せていた気がする。
首輪を壊してくれたときも殺されるって勘違いしてたし、
「僕が守ってあげるよ」なんて言ってくれるもんだから、ちょっと浮かれちゃったし、
こけしの鉢が割れた時だって、多分泣き顔見られてた。
なのに、あいつはいつだって
「何をそんなに怒ってるんだい?可愛らしい顔が台無しだよ」
「この大会がどんなものでも、双葉ちゃんのことは僕が…」
「…僕の首に腕を回してしがみつく双葉ちゃん、可愛かったよ」
・・・何よ恥ずかしいわね、あいつ、歯の浮くよう台詞しか言ってないじゃない。
灯台の前で手にキスされたときだって、お姫様抱っこされたときだって、私を守ってくれたときだって
キスを、してくれたときだっ・・・て・・・
「…双葉ちゃん、さっきの続きは…またあとで…、ね」
息をするのももどかしく、涙が出そうになる。
「守ってくれるって、言ったじゃない、バカ・・・」
後ろのに聞こえないように、小さな声で毒づいてみる。
聞いているのかいないのか、「星川翼」は何も言ってこなかった。
そっと目を開いてみると、濃密な闇がみっしりと洞(うろ)を満たしている。
「ん・・・」
少し体をひねってみる。
「傷、痛むのかい?」
尋ねる星川翼の声はやわらかくて・・・
「そうじゃないわ。ただ・・・このままじゃ、ダメね」
「ダメ?」
星川翼の声がオウム返しに聞いてくる。
それには答えず、もう一度目を閉じる。
あいつのに似たうつろな声を聞くたびに、思い出が頭の中をよぎって、もうこれ以上耐えられそうにない。
「ダメなのよ」
「大丈夫だよ」
あたしの声が震えるているのにも気づかずに、星川翼は話を続けた。
「双葉ちゃんは僕が・・・」
ダメだ。
その先を言われたら、あたしはきっと泣き出してしまうだろう。
体はひんやりとしているのに、顔だけが燃えるように熱くなる。
唇を噛んで涙が出そうになるのを、身を固くして堪え、次の言葉を待った。
我慢しようとすればするほど、体の震えがひどくなる。
後ろにいる星川翼は思わぬあたしのリアクションに、なんと言ったらいいのかも分からずに困っているみたいだ。
役に立たないわね、こういう時、あいつなら、きっと黙ってあたしを・・・
「16番、朽木双葉・・・」
そのとき、突然名前を呼ばれた。
あたしは制服の袖でごしごしと涙を拭って入り口の方を向いた。
「あ・・・」
そこには前に会ったことのある幽霊みたいなあの女が立っていた。
さっきまで後ろにいた星川翼がすっと前に出て、腕であたしを庇う。
「御陵・・・・・・透子」
少し、声がかすれていたかもしれない。
「何の用だい?」
かわりに問いかける星川翼の声は軽い。
・・・こんなところばかりそっくりなのは、私の腕が未熟だからなのかもしれない。
「もう一度だけ」
「これが、最後の」
「警告です」
「首輪をつけなさい」
「さもなくば」
「ゲームを放棄したと見なして」
「ひどいことが・・・起こります」
途切れ途切れの、感情のこもっていない言葉、いやな感じ。
「ひどいことって、どんなことだい?」
星川翼の質問には答えずに、透子はじっとわたしのほうを見ている。
ごそごそと後ろポケットに忍ばせておいた、首輪を取り出す。
「これをつけろっての、このあたしに?」
押しのけられて驚く星川翼はこの際無視して、首輪を女の目の前に突きつけてやる。
少し鼻声なのが恰好悪いこと夥しいけれど、しょうがない。
暗がりで顔を見られないのがせめてもの救いね。
あたしは身じろぎもせずに返事を待つ、敵意は感じない、ただちょっとした緊張感。
ややあって、女はコクリと頷いた。
「はんっ!!」
「ちょっと、双葉ちゃん?」
あたしがにらんでも、平然としている。
159 :
朽木双葉(4):03/01/04 02:26 ID:qjwVR33f
「あなたが首輪をつけるなら・・・」
「あるいは・・・」
「願いがかなうかもしれません」
願いが・・・叶う?
初耳ね。
「優勝」
それだけ言って、あたしの目をじっと見た女は、しばらくして煙みたいにすっと消えた。
「優・・・勝?」
あたしは馬鹿みたいにもう一度繰り返す。
本当のことだろうか?
願いが叶う。
ウソかもしれない。
けど・・・もしそれが本当なら・・・
手にした首輪を見る。
「双葉ちゃん、それは・・・」
星川翼があたしの手を掴んで、咎めるような目で見てくる。
「いいのよ、これで」
「あんたが死んだこと、一生引きずったまま生きていくくらいなら、あたしはここで死ぬわ」
その言葉をぐっと飲み込む。
あたしが作ったとはいえ、目の前にいる星川翼にそれを言うのは少し残酷なことだと思ったから。
ま、言ったところでそんなこと気にもしないってのはあたしが一番よく分かってはいるんだけどね。
「面白いじゃない」
かちりと、後ろ手に首輪をはめる。
「優勝、してやろうじゃないの」
そして、きっと・・・
涙を拭って、乱れていた髪と服装を整えて、立ち上がる。
洞の入り口に足をかけて、空を見上げる。
空いっぱいの星が色とりどりに美しく瞬いていた。
↓
160 :
山崎渉:03/01/12 07:15 ID:/Xi4qwEK
(^^)
>159
(第二日目 AM4:00)
朽木双葉が森を行く。
星川翼を騎士のように傅かせ、女王のごとく優雅に闊歩する。
「そう、分かったわ。来てるのね? ありがとう」
道端に生えている樹木に向かってにこやかに頷き返すと、彼女はその場にかがみこんだ。
そして、いつの間にか彼女の足元に侍っていたボールペンくらいの背丈の式神を手のひらに載せた。
彼女がゲームへの参加を決意してから約一時間。
双葉は手始めに東の森一帯に同じような式神を放った。
式神たちは周囲に茂る無数の植物とコミュニケーションをとりながら、他の参加者を探す役目を与えられていた。
いわば、森という巨大な斥候と双葉とをつなぐ伝令係である。
その式神が主のもとに帰ってきた。
「で、どんなやつらだったの?」
手のひらに載せられた式神が身振り手振りを交えながら、
双葉にしか聞くことのできない言葉で報告をはじめる。
一通りの情報を得たあと彼女は「ご苦労様」と言って報告を終えた式神の頭を指の腹でそっと撫で、
口元でこれまた一般人には意味の通じない呪を唱えて式神を元のお札に戻した。
「で、敵は多いのかい」
先を歩いていた星川翼が、歩調を落として双葉の隣に並ぶ。
「男1人と女が2人、あとなんかタコみたいなやつも一緒にいたって」
「4人か・・・初陣にはちょうどいい数かな、双葉ちゃん?」
「バカ言わないで」
少し怒ったような声で双葉が答える。
その顔はいつになく真剣で、星川翼は軽口を叩いたことを少し後悔した。
謝罪しようと思って双葉の方に向き直る。
まだ表情は硬いままだった。
「少なすぎるくらいよ」
・・・・・・自信満々だった。
>146
「では、貴様はこの鍵が何の鍵かは知らないんだな?」
「フム、まあ、ありていに言えばそういうことになるかな」
ランスとグレンがパーティを組み始めてはや数時間、いまだ二人は言い争っていた。
ファッションセンスや、髪の撫で付け方、性癖や女の趣味はもとより、歩き方や呼吸の仕方、
果ては鼻の穴の形にまで論議がおよび、今はグレンが所持していた鍵束の使い途について埒もなく口論を続けていた。
「何だかんだいって、いいコンビに思えてきたり・・・ねぇ、ユリーシャおね〜ちゃん?」
「そうですね・・・」
「・・・んぅぅ〜〜、なんかさっきからおね〜ちゃん元気ないね、
さてはランスにかまってもらえなくて寂しい?ランスシック?」
「ランスシック・・・ですか?」
意味するところがわからずにユリーシャは小首をかしげた。
「ランスラヴってことー」
「なっ!」
ユリーシャは何か言い返そうとするが、恥ずかしくてうつむいてしまった。
首輪が外され、剥き出しになった華奢なうなじまで赤く染まっている。
「図星かな?ウンウン、恥ずかしがることないんだよ、おね〜えちゃん。
素敵な恋は女の子をきれーにするんだよ。ジャスト、ビューティーだよ!
いまのおねーちゃん、真っ赤なリンゴみたいでとっても美味しそうだよ。」
「そんな・・・わたくしは・・・あの・・・その・・・・・・」
「それに何を隠そう、このアリスちゃんもランスのこと、好きだったり〜」
「えっ?」
「ンニャ?アリスちん、なんか変なこと言った?棒姉妹だなんて言ってないよ」
「ランス様のこと・・・好きって・・・」
「んー、好きだよ〜。でも、ユリーシャおねーちゃんの好きとはちょっと違うけどねぇ〜〜。
おねーちゃんのはラヴで、アリスちゃんのはライク。
ちなみにラヴのヴは、下唇噛んで、「ヴッ」てやんだよ。物知りでしょ〜?
んっふっふ〜、伊達に魔界の魔王をやってるわけじゃぁ〜ないっての。って、聞いてる?」
(アリスさんも、ランス様のことを・・・)
ユリーシャはもうアリスの話を聞いてはいなかった。
ただ小さな声で「ランス様」とか「アリスさん」などと繰り返して何か考え込んでいるようだった。
アリスが目の前でパタパタと手を振ってみても反応がない。
「・・・返事が無い、ただの屍のようだ・・・・・・
って、オ〜イ、ランスゥ〜、おねーちゃんが変になっちゃったよ〜」
「ほら、君の友人が呼んでいるぞ。
とりあえずこの鍵は君が将来つけることになるであろう手錠の鍵ということにしておこうではないか」
「ちっがーう!こいつはオレ様が女の子に・・・」
「ランスー、早くこっち来てみ〜」
「フハハハハ、そらそら、行ってやらんと愛しのユリーシャ君が愛しさ余って気が触れてしまうかもしれんなぁ〜。せっかく、彼女達の首輪だけは外してやったのに、君はそれをふいにするのかね?」
「チッ」
苦々しげに舌打ちすると、ランスはユリーシャたちのほうに足を向けた。
背後からグレン・コリンズの勝ち誇った馬鹿笑いが聞こえる。
「だまれっ、このタコ火星人、死ねぇ!!」
そう言って、ランスは拾い上げた石を力一杯投げつけた。
「ふっ、そんな原始的な攻撃で天才グレン・コリンズを仕留められるとでも思って・・・・・・フギャッ」
飛んできた小石を華麗なボディワークで交わしたグレン・コリンズであったが、
木の根に足をとられて、頭を木の幹に打ちつけて倒れてしまった。
「それで何があったんだ?」
「鼻息荒いよ、ランス。機嫌なおしなよ。おねーちゃんのこと、心配でしょ?」
「アリス」
「なーにー?」
「・・・お前、真面目トークもできたんだな・・・」
「ムッカー、それどーゆー意味?
アリスちゃんはまおー様なんだよ、スッゴク、スッゴク偉くて、
むっちゃくちゃつよーいんだから。本気になったらランスなんかペペペのぺ、何だからねー」
「・・・前言撤回、お前やっぱバカだ。
オイ、ユリーシャ、しっかりしろ。俺様は夢遊病者の面倒を見るつもりはないぞ?」
ペチペチと2・3度頬をはたく。
「あっ!ランス様ッ、アリスさんが、ランス様のことっ、おおおお慕い申し上げますですッ!」
「・・・あん?」
「え・・・あの・・・いえ・・・すみま・・・せん・・・でした。その・・・取り乱してしまいました。はしたなかったですよね?」
「何を言ってるんだ、お前は?」
「・・・はいっ、あの・・・ごめんなさい」
「どんな女もオレ様に惚れるのは当たり前のことだろうが、それはこいつの場合も例外ではない」
「や〜ん!ランス、かっちょいぃ〜。その根拠のない自身がちょ〜ちょ〜かっこいい!!」
ランスの首筋にアリスが飛びつく。
ぶらぶらとぶら下がったままはしゃいでいるのを見て、ユリーシャは一瞬眉をひそめた。
「ガハハハハハハハ、オレ様がかっこいいのは当然だ。女なら誰でも股を・・・、ウォッ!?」
突然の縦揺れにランスの話は中断された。
飛び退って体勢を立て直し、いま立っていた場所を見ると、
大人の腕ほどの植物の根が数本脈打つようにのたくっている。
「なんだ、こいつっ!ユリーシャッ!!」
ランスは片手で首筋にぶら下がっていたアリスを抱えつつ、突きかかってくる木の根の先端を剣で振り払う。
数メートルほど先で腰を抜かしているユリーシャに向かって懸命に手を伸ばすが、
わずかな差で木の根がいつも先回りする。
「クソッ、きりがないではないかっ!」
上へ下へと縦横無尽に襲い掛かってくる木の根の弾幕をかわしながら、
何とかユリーシャを救い出そうとするが、やはりうまくいかなかった。
「キャアッ!!」
木の根の槍衾の向こうでユリーシャが木の根に打ち据えられて、吹っ飛ばされる。
「チッ!いいか、お前はここで待ってろ、余裕があれば援護しろ!」
ランスは一旦後退し、木の根の届かないあたりにアリスを座らせると、
そう言い捨ててもう一度ユリーシャの元に向かった。
「ウォォォォォォォ、ラァァァァァァンス、アタァァァァァァァァァァァァァァァクッッ!!」
「何だ、死んでなかったのか?」
「フン、あれしきのことで私がどうにかなるとでも思っているのかね?」
「フン」
互いに面白くなさそうに鼻を鳴らすと、ランスはユリーシャのほうに向かった。
「タコさん無事だったんだね〜、無事で何より、日は東より、よかったね〜」
「・・・何がよかったのかいまいちよく分からないが、私の無事を心配させたのなら申し訳ない。」
ランスと入れ替わるようにユリーシャの治療を終えたアリスがグレン・コリンズと話しはじめた。
天才と大魔王との会話はほとんどかみ合っていなかったが、
人知を超えた存在同士何か通じるものがあったのかもしれない。
「あ、ランス様」
やってきたランスの姿を認めてユリーシャはにっこりと笑った。
「グレン・コリンズ様のおかげで助かりました」
「・・・・・・ああ」
笑顔と言葉尻にとげが含まれているのがよく分かる。
よく見れば、目も笑ってはいない。
「どうしてランス様は?」
彼女のどこか醒めたような視線の先にはグレンと話すアリスがいた。
「ユリーシャを助けてくれなかったのですか、アリスさんは助けてさし上げたのに?」
どちらかといえば、詰問に近い拗ねたような言い方だ。
「それはあいつがたまたまオレ様に引っ付いていたからだ」
「そうなのですか?」
「そうだ!」
ユリーシャから目をそらして力強く断言する。
チラッと、ユリーシャのほうに目をむけてみると、
ランスの答えには納得できなかったのか、相変わらずのジト目でランスのほうを見ていた。
「フゥ・・・蒸すな・・・」
うそぶいて額に浮かぶ脂汗を拭い、もう一度ユリーシャのほうを窺ってみる。
彼女は何も言わなかったが、やはりまだランスのほうを見上げていた。
目をそらしたランスが一瞬目にしたユリーシャの瞳には強い決意の色が見え隠れしていて
「えいっ!」
「のぉっ!」
何の予告もなく急に首筋に抱きつかれてランスはのけぞる。
「・・・私も・・・アリスさんみたいにくっついていたら、ランス様は守ってくださいましたか?」
ランスの首筋に抱きついたまま、耳元で囁く。
「バカを言・・・」
うな、といいかけてランスはやめた。
「あ〜、鬱陶しいから泣くな」
「ゴメ・・・なさい・・・」
暗がりにユリーシャのしゃくりあげる音が響く。
向こうではしゃいでいたアリスとグレン・コリンズも黙ってランス達の様子を見ていた。
(あ〜あ、ユリーシャおねーちゃん泣かしちゃったよ、ダメだね〜ランスは〜)
(まったくだ、あれで自分は女性に好かれる思っているのだから・・・救いようがないな・・・)
「・・・・・・・・・・・・」
これ見よがしに聞こえてくる二人のひそひそ話を黙殺し、ランスはユリーシャが泣き止むのを辛抱強く待った。
・・・30秒経過
・・・・・・1分経過
・・・・・・・・・1分30秒経過
「よし、やるか!」
きっかり二分後、居心地の悪さに耐えかねたのか、ランスは景気づけるように少し声を張り上げると、
いそいそとユリーシャの服を剥ぎ取り始めた。
「え・・・、あ・・・あの?」
「お前はオレ様の女だ。オレ様はいま急にムラムラしてきた。だからやる」
「そんなっ・・・でも・・・・・・グレンさんたちが・・・・・・・・・・・・見てる・・・の・・・に・・・ぁあ」
「では、今回の一件はその小娘の仕業だと、そう言うんだな、ニンフォマニア君?」
「ウム、オレ様の金色の脳細胞の記憶に間違いはない。
それと、オレ様はニンフォ何たらではない、絶倫でウハウハなだけだ」
「フゥ・・・人間の脳細胞は灰色だ。で、どうする、その娘を追うかね?」
「当たり前だ、あの生意気小娘、このオレ様を2回もコケにしやがった」
「・・・勝算はあるのかね?」
「当たり前だ、オレさまは無敵だ、ガハハハハハハハハハハハ」
ランスの高笑いを聞いてグレン・コリンズは何も分かっていないな、
といいながら首を振りふり、盛大に溜息をついた。
「いいかね、百歩譲って貴様が無敵だとして、だ。
ユリーシャ君とアリス君を庇いながら戦うことが出来るのかね?
まったく、もう少し使ってやらんと、君の黄金水色の脳細胞も草葉の陰で泣いているぞ」
溢れんばかりの哀れみをこめて触手でランスの頭を撫でると、触れた部分が粘液に濡れててらてらと光る。
「だぁーーーーーーーーーーーーーっ、やめんかっ!気色の悪い」
「ウォッ、そんなものを振り回すんじゃないっ、危ないでは・・・オゥ・・・ないかっ!?」
グレン・コリンズは軽口を叩きながらも、切れたランスが振り回すバスタードソードをヒョコヒョコと器用によける。
「ランス〜、おしっこ〜」
立ち上がったアリスがランスに向かって話し掛ける。
「ありゃりゃ、無視されちった」
ランスとグレンは木が林立するなか追いかけっこを繰り広げている。
少しはなれたところから、ガハハハハハハハハハという笑い声とフハハハハハハハハという笑い声が聞こえてくる。
「ん〜、お姉ちゃん行く?」
「・・・どちらへですか?」
聞き返すユリーシャの声は少しよそよそしい。
「連れション」
「・・・・・・・・・・・・」
「おねーちゃんとぉ〜、つ〜れ〜しょんっ、ハイッ!つ〜れ〜しょん、ハイッ!ハイッ、ハイッ、ハイィィィッ!」
ハイテンションな歌を歌いながら歩くアリスのあとにユリーシャが無言で続く。
その手には護身のためか、ボウガンが握られている。
「ん〜、ここいら辺でいっかな?よっこらっしょっとぉっ・・・」
きょろきょろとあたりを見回したあと、おもむろにすとんと腰を落とす。
「フーン、フフーン、フフーン♪」
奇妙な鼻歌を歌いながら用を足すアリスを、後ろに立ったままユリーシャは見ていた。
ズドンッ!!
「アウッ!!」
短くうめいて放尿していたときのままの恰好で、アリスは前のめりに突っ伏した。
一瞬、何が起こったのかアリスには理解できなかった。
ただ、背中のあたりが奇妙に熱く、呼吸するだけで激痛が走る。
「な・・・に・・・?」
呟きながら振り返る彼女の背中には深々と15インチほどの金属棒が突き刺さっていた。
アリスの目に、無表情に矢をつがえるユリーシャの姿と
ボウガンの銀色の矢が不気味にきらきらと光をはじくのが映る。
「何で・・・?」
「お小水を垂れ流しながら・・・少しはしたないですよ、アリスさん?」
「ンァッ!」
ユリーシャの上品な笑い声に続いて、ふたたび空を切る鋭い音がして、放たれた矢がアリスの脇腹に食い込む。
もがいて苦しむアリスをみて、ユリーシャはにっこりと笑った。
「ウフフ、ねぇアリスさん・・・ランス様のこと、好きなのでしょう?」
他愛もない恋愛話をするときのように、ユリーシャの表情は華やいで明るかった。
「ふぇ?」
「好き・・・なんですよね?」
「うん・・・」
アリスはあまりにあっけらかんと話を続けるユリーシャの調子に自分は何か勘違いしているのではないかと思った。
よく考えてみれば、ユリーシャが自分を襲うはずがなかった。
だから、アリスは素直に頷いた。
「そうですか、でもそれって・・・」
アリスの返事を聞いた瞬間、にこやかだったユリーシャの顔からスッと笑顔が消え、ふたたび無表情に戻る。
「とっても、気分が悪いです、私」
ズンッ!
いつの間にかつがえられていた三本目の矢がもう一度脇腹に突き刺さる。
「アァァァァァッ!!」
「たいへん・・・血が出てます。痛みますか?」
ユリーシャは倒れこんだままで痛みに体を震わせるアリスの側につかつかと歩み寄ってくると、
突き刺さった矢を掴んで、こねるようにして傷口を掻きまわしはじめた。
「フフ、随分、丈夫に出来ていらっしゃるのですね?
悪魔だとおっしゃってたのは、ひょっとして本当のことだったのですか?」
「グ・・・カァ・・・ハァハァ・・・ンァァァッ!」
アリスが目を見開いて絶叫しても躊躇することなく、ユリーシャは傷口をえぐる手を休めない。
痛みに目の前がちかちかして、アリスの目の中に幾つもの火花が飛ぶ。
とても返事など出来る状態ではなかった。
「あら、何か答えてくださらないと、私困ります」
「どう・・・・して、こんなこ・・・するの?あたし・・・ユリーシャおねーちゃんのこと・・・」
涙やら鼻水やらでクシャクシャになった顔で、必死に話し掛けたのがよかったのか、ユリーシャは手を止めた。
「・・・さっき、ランス様に愛されながら、わたくし考えていたんです」
ユリーシャは、胸に手を当てて話しはじめた。
その目はどこか夢みるような目で怪しい光を湛えている。
「ランス様があなたを連れてきたときから、何となく、いつかはこんなことになるのではないかと思っていました。
ランス様はお優しい方ですから、私のことを愛しておられても、ついついあなたにも気を使われてしまいます。
だって、あなたが一緒にいるとランス様は私だけのことを見てくださいませんから・・・」
頬に手を当てて憂鬱そうに溜息をつく。
「こんなときでなかったならば、あなたとはよい友人になれそうでしたけれど・・・
でも、一歩踏み出す勇気を教えて下さったのもランス様なんですよ」
素敵でしょうと言って、ユリーシャは少し照れくさそうに笑った。
そして、互いの息遣いが分かるくらいの距離に顔を近づけて囁くと、
いとおしげにアリスの頬を両手ではさみ、長く優しいキスをした。
「ンゥゥッ!!」
アリスの目が大きく見開かれる。
ユリーシャが舌を口腔に侵入させると同時に、ふたたび脇腹の矢を食い込ませ始めたからだ。
口をふさがれたままのアリスはくぐもった叫び声をあげることしか出来なかった。
ひとしきり口腔内を弄んだあと、ぐったりと弛緩したアリスから口を離すと嬉しそうに笑った。
「ですからわたくし、あなたを殺すことにしました」
事もなげにそう言ってのけた。
真っ赤な傷口に矢の先端がめり込んでいくたび、噴き出した血飛沫がユリーシャの顔を彩っていく。
返り血を受けて、ほんのりと上気した顔を恍惚に打ち震わせるユリーシャは、すごく、美しかった。
「ウフフ、安心してください?
矢はまだ十分にありますから、あと何本か撃ったら急所に当ててさし上げます。
ただ、それまではもう少し苦しんでから死んでくださいな?」
言いながら立ち上がって、淡々と新しい矢をボウガンにセットする。
「もう、許してぇ・・・」
「あら、それはダメです。不安の元は根絶やしにしなければならないと、いつもお父様がおっしゃっていました」
「ア・・・ア・・・・・・」
何が起こったのかわからないといったふうにアリスは言葉も無く首を振った。
「おねー・・・ちゃん・・・」
それでもアリスは縋りつくようにユリーシャのほうに懸命に手を伸ばす。
(やさしかったはずのユリーシャおねーちゃんが、こんなことするはず無い・・・)
バスンッ!!
短い射出音がして、アリスの右手の甲を矢が射抜いた。
自分の手に刺さった矢を見ても、アリスは捨てられた子供のように泣きじゃくるだけで、
もう逃げようともしなかった。
172 :
青い血族 (12):03/01/13 00:06 ID:GFLqzxxk
「ガハハハハハハ、これしきで参るとは情けないやつめ」」
膝をついて息を荒げるグレン・コリンズとは対照的に、長きにわたる鬼ごっこを制してランスはご満悦だった。
「ム・・・、そういえばあいつらはどこにいったんだ?」
「小用を・・・ハァハァ・・・足しにいってくると・・・言っていたではないか・・・」
「・・・そんなことは分かっている。ジョークだ、ジョーク」
「ランス様ー、大変ですっ!」
軽口を叩くランスのもとにユリーシャが息を切らせて走ってきた。
顔からはすっかり血の気が失せ、目は泣き腫らしたのか真っ赤に充血している。
「ランス様ッ、ランス様ッ、ランス様ァッ!」
「オイ、どうした。とりあえず落ち着け」
「ランス様ッ、アリスさんが・・・、森のなか・・・アリスさん・・・がぁっ」
すがり付いて泣きじゃくるユリーシャに、さすがのランスも当惑する。
「フフン、優しく背中でも撫でてやったらどうだ、ランス様?」
揶揄するようなグレンの忠告だったが、このときばかりはランスも素直にそれに従った。
「ホレ、落ち着け。落ち着かんと話も聞けんではないか」
ゆっくりと背中を撫でてやるランスの言葉はぎこちなかったが、ユリーシャは次第に落ち着きを取り戻していった。
「あの・・・すみません、私・・・取り乱してしまいました・・・」
「で、何があったんだ?」
「はい、森の中でアリスさんが・・・殺され・・・ました」
「なにっ!」
「・・・どういうことかね、ユリーシャ君?」
いきり立つランスを手で制して、グレンがたずねた。
「ここから少し離れた場所でその・・・アリスさんがご不浄をなさっているとき・・・さっきの・・・」
「・・・俺様の女を殺すとはあのナイチチ娘め、もう許せん、案内しろ!」
「木の根っこのことなのだな、ユリーシャ君?ではとりあえずそこに案内してもらえるかな?」
ユリーシャがコクリと頷くのを確認するとグレン・コリンズは立ち上がり、ランスに目配せする。
「あの・・・こちらです」
その後、三人で数十分ほど森の中を捜したが、血と木の葉に塗れたアリスの亡骸はついに見つからなかった。
「34番 アリスメンディ 死亡」
↓
深作追悼・・・
宇宙からのメッセージ…
監督のご冥福をお祈りいたします。
176 :
山崎渉:03/01/17 06:59 ID:0CXyER/e
(^^;
>113
(第二日目 AM04:00)
「・・・質問をどうぞ、といわれましてもですなぁ・・・
一体、新選組の局長さまが手前に何の御用でございましょう?」
「え?・・・・・・・・・・・・え〜とぉ、それはねぇ、アレだよ、ア・レ。ね、わかるでしょ?」
「はて?」
「・・・・・・いや〜、今日はいい天気だねぇ?」
「今は夜でございますよ」
「アハハ・・・、えと、星がとっても綺麗だね」
「はぁ、確かに・・・で、いったいぜんたい何をおっしゃりたいので?」
「実を言うとねぇ」
「はい」
「・・・考えって無かった、エヘヘへへ」
「ああ〜ん?」
「いやいや、実はさ〜、こんなところで参加者さんに会うなんて思ってなかったもんだから・・・
さ〜これからどうしようかな〜なんて・・・ねぇ」
「何だぁそりゃ・・・」
「ウフフ、何なんだろうねぇ?」
「てめぇ、俺をバカにしてやがんのか!」
「ま〜ま〜、落ち着きなよ?すぐに怒る男はみっともないよぉ」
「グ・・・、で、いかがなものでございましょう。今回は鬼作めをお目こぼしいただけるんで?」
「オメコ星?あ〜、何、オヂサン、アタシに殺されると思ってたの?
ハハハハハハ、だーいじょぶ、だいじょぶ、基本的にあたしらはそっちに手出ししないことになってるから」
「そうでございますか」
「うん、そうなんだけどね〜・・・」
「どうかなさいましたか?」
「オヂサン、ひょっとして・・・」
「何でございましょうか?」
「フ〜ン、そっか。そーなんだぁ」
「何を頷いていらっしゃるんでしょう、手前にはさっぱり・・・ッ、もしやっ!!」
「ふぇ、どったの?」
「妙の露出度の高い着こなし、男を誘うその潤んだいやらしい目・・・生乳生足生太もも、
クックックッ、そうですかぁ、そういうことでございますかぁ、
ま、何でございますよ。何も恥ずかしがることはございませんよ。
鬼作めにお任せください、その道に関してはいささかの心得がございます
ささ、遠慮なさらずにガバッとお開きください」
「何を?」
「その気になった女性にそこまで言わせるほど、この伊頭鬼作めは野暮じゃぁございませんよ」
「・・・なんか勘違いしてない?」
「ん?ですから、これから不肖鬼作めと一晩中しっぽりと・・・」
「それはイヤ」
「なんだとぉぅ〜?」
「イ・ヤ、て言ったの!」
「何だてめぇ・・・こっちが下手に出てりゃいい気になりやがって、だったら、力づくでもぉッ・・・・・・・・・グゥ」
「フフン、どうしたの、力づくでも、なんでしょ?」
「ま、まぁ、そうおっかない顔しないでくださいまし、へへ。ベッピンさんが台無しでございますよ?」
「・・・・・・・・・・・どうしよっかなぁ」
「どうか怒りとともにその扇もおしまいください。
さすがの鬼作めもそのようなもので殴られたらシャレになりませんので・・・」
179 :
Interlude (3):03/01/19 15:33 ID:tQMsU1LC
「ま、いっか」
「チッ、物騒なもん振り回しやがって、頭おかしいんじゃねぇのか?」
「何か言ったぁ〜?」
「いえいえ、滅相もございません」
「さ〜、とりあえず帰ってザッちゃんとニャンニャンしようかなぁ?」
「ニャンニャンって・・・ちょ、ちょっと、芹沢様どこ行くんでございますか?」
「うふふ、それはね〜、ヒ・ミ・ツ」
「ヒ・ミ・ツって・・・芹沢様ッ!」
「ン〜、な〜に〜?」
「お願いでございます!どうかここは一つ私めもそこに連れて行ってはいただけませんでしょうか?」
「ダメ」
「グ・・・それはまた・・・いかなるわけにございましょうか?」
「オヂサン、さっきからな〜んか企んでるでしょ?あたし、そういうのって分かっちゃうんだよねぇ」
「憚りながらこの鬼作、清廉潔白をもって旨としております。
その日々の行動に1点の翳りも無いつもりでございますが・・・」
「そ〜だね〜、例えば・・・」
「例えば?」
「ゴニョゴニョゴニョ・・・・・・・・・とか?ククククク、越後屋ぁ、そちも悪よの〜〜」
「いえいえ、お代官様には・・・って、てめぇ何でそれを知ってやがる!」
「ほらほら、気をつけないとまた言葉、汚くなってるよん。だから言ったでしょ、何となく分かるって
じゃ〜ね〜、あんまりバカなことを考えないほうが身のためだよ〜」
「・・・・・・行ったか。
・・・あぁぁぁぁああああぁぁぁ、クソッ、クソッ、クソゥッ!!
あのアマ、いつか犯してやる。ネットリ、ジットリとなぁ・・・
へへへ、俺様の愛撫はしつこいぜぇ・・・ヒィ〜ヒッヒッヒッヒッヒッ」
「ファイヤー!」
「うぉぅ!?」
「次は外さないからね〜?」
「うぐぅ」
↓
180 :
名無しさん@初回限定:03/01/19 19:03 ID:aPCfVjlU
181 :
vv:03/01/19 21:22 ID:pUGh3PoW
182 :
名無しさん@初回限定:03/01/19 21:34 ID:/WlIlglW
Es gibt so viele Morgenroten, die noch nicht geleuchtet haben.
>39
(第二日目 AM05:30))
長く暗い森を走り抜ければ、一体どこにたどり着けるのだろう?
咲き誇る花園?
雪舞う氷原?
あるいは、遥かアルカディアへすら、いつかはたどり着くことができるのだろうか?
彼、アズライトは砂浜にたどり着き、立ち尽くした。
真白い月がその美しいかんばせを天に晒し、
見わたす限り広がる夥しい白砂と重苦しくうねる青黒い海原とをほの明るく浮かび上がらせていた。
目の前に道は続かず、彼にはもう逃げつづけることさえ許されなかった。
風は凪いでそよとも吹かず、昼のうちにあれだけ騒がしかった鳥や獣の声もなく、
波音のほかには何の音も聞こえてこなかった。
あたりには軽い眩暈を誘う不思議な汐のにおいがたちこめていて、
なにか体が蝕まれていくような、病んでいくような不思議な感覚につつみこまれていた。
波の揺り返す単調な音と奇妙な匂いとが彼を憂鬱にさせた。
ひどくなる眩暈に押されてアズライトは、倒れこむように砂の上に腰を下ろした。
そして、ゆっくりと流れ落ちていく時間の滴りを眺めた。
しばらくして彼は力なくうつむいて、静かに肩を震わせはじめた。
ふたたび動き出した生ぬるい潮風が彼の背中をさわりと撫でては静かに通り過ぎていくなか、
月は群雲に呑まれ、暗く広い夜空が眷属たる無数の星達を従えて、逃亡者の頭上に重くのしかかっていた。
(レティシア…)
もう何も考える気にはなれず、押しひしがれた心の中で呆けたように彼は同じ言葉を繰り返していた。
ここから見上げる空と、彼女が見上げる空とはどこかでつながっているんだろうか?
そんな他愛のないことも考えた。彼女のことを考えていると幸せだった。
レティシアとの甘い思い出に浸ったままで死ねるのなら、それも悪くない。
むしろ、それに勝ることなどないのかもしれない。
生き続けることがこんなにも苦しいのなら、喜びのうちに死に絶えるのだ。
アズライトはそんな自分の考えに口の端をゆがめた。
レティシアを思いながら、いつしか彼は浅く短い眠りに落ちた。
「やっ・・・だっ・・・」
暗がりから弱々しい拒絶の声が聞こえてきた。
悲しみのうちにもどこか甘い感じを残した女の子の声。懐かしい声。
「やめ・・・やめて・・・」
寝覚めのぼんやりとした頭でもこの声を、彼が聞き違えるはずがなかった。
もっとその声を聞きたくて、声のほうに近づこうとしても、磔にされたみたいに指先すら動かせなかった。
せめてもう少しはっきりと聞きたくて、真っ暗な空間に耳をそばだてると、
闇が払われ、なぜか急にあたりがはっきりと見えるようになった。
「!」
目の当たりにした光景にアズライトは思わず息を飲んだ。
この光景はいつか見たことがある。
記憶を落として世界中をさまよったすえにたどり着いた砂漠の果て、山のふもとのひなびた小さな町、
うらびれた酒場の中、カウンターから連れ出される女の子、誰も彼もが笑ってそれを見ていた。
彼女が身に着けている飾り気のない白い服にはいくつものかぎ裂きができており、
あちらこちらに凌辱の証が残されたままになっていた。
満足な食事も与えられていないのか少しやつれて見えるなか、
透けるように軽やかな金色の髪と薄青色の瞳とが鮮烈に人の目をひきつける。
その子がいま片腕の男に組みしかれていた。
この光景には確かに見覚えがあった。
「レティシ・・・ア・・・?」
呼びかけてもこちらの声は届いていないのか、彼女はちらりとも見ず、何も答えなかった。
「あ・・・うぅ・・・」
細い腕で男の大きな体を押し返そうとするが、男の体は岩のようにびくともしない。
覆い被さる男は片手で器用にレティシアを押さえつけながら、服の裾を捲り上げた。
骨ばった大きな右手で彼女の細腰をがっちりと固定すると、
小さな体を引き裂くようにして、異様に大きなペニスを少しずつ少しずつ挿入していった。
よほど痛むのか、レティシアの苦悶の声が男の動物じみた荒い息遣いの合間に混じる。
アズライトのいる場所からは男の顔を確かめることはできなかったが、
腰を動かすたびに男の背中の浅黒い肌に短い黒髪が踊るのが見えた。
レティシアを救うことも出来ず、目をそらすことも出来ず、アズライトは泣き出しそうになった。
それでも男は何かの儀式のように淡々とセックスを続け、やがて果てた。長い射精だった。
ことを終えて立ち上がった男は丁度アズライトと同じくらいの背格好で、手早く衣服の乱れを正した。
そして、ぐったりと横たわるレティシアを見下ろしたあと、ゆっくりとした足取りで立ち去っていった。
凌辱の間もずっと背を向けていた男の顔はついに見ることができなかったが、
アズライトには立ち去っていく見知らぬ男のことよりもレティシアのことが気になった。
「どうして・・・・・・ひどいこと・・・するの?」
彼女の声は今までの舌足らずな声とは感じの違う、柔らかくも毅然とした声だった。
男は立ち止まり、初めてその顔をこちらに振り向けた。
油の切れた機械のような、緩慢でぎこちない動きだった。
「あぁっ・・・」
その顔を見て、アズライトは短くうめいた。
振り向いた男の顔を見まちがえるはずがなかった。
美しい藍色の鉱物を思わせる気弱そうな瞳が悲しげにこちらを見ていた。
愛する人を凌辱した男の顔面には、こともあろうによく見知った顔がはりついていた。
彼はもう一度うめいた。
それはアズライト自身の顔だった。
そこで夢はふつりと途切れた。
目覚めても最後の瞬間のレティシアの顔がいつまでもちらついて離れなかった。
目の前で自分を捨てて歩き出す男の顔を見て、彼女の顔は醜く歪んだ。
どこか空ろなその顔は、自分を見つめるときの桜姫の無表情な顔に似ていた。
まるで穢れにみちた罪人を見るような、
哀れみと蔑みとをその裏に潜ませているあの顔だった。
桜姫を作ったのは、目の前で人が死んでいくことに耐えられなかったからだ。
彼女を凶にし、彼女に生き続けることを押し付けた、しかも半永久的な生を。
はじめ桜姫はちょうど今のさおりのようにどこへ行くにもついて来て、ためらいもなく「マスター」と呼んでいた。
「主人には絶対服従」という凶の性質、どこまでも従順な桜姫の無垢に恐怖して彼女を捨てた。
自分のために、平気な顔で。
火炎王に連れられて、初めて対峙したときの彼女のどろりとした目。
あのとき、彼女が歪んで見えた。彼女を歪ませてしまった。
そしてまた、さおりを創り、彼女も捨てて歪めようとしている。
主を失った凶よりも哀れなものは無い。
そのことを身をもって知りながら、またふたたび同じ愚を繰り返そうとしている。
仰向けになると涙が溢れ出し、静かに頬を伝った。
身勝手に逃げ出した挙句、泣くことしかできないような卑怯な自分が情けなくてたまらなかった。
しかもどうしようもなかった。努力すれば変われるというが、そんなのはウソだ。
変わったと思い込んでいるだけで、本当は何も変わりはしない。
記憶を落としてより数百年もの間そうして生きてきたのだ、いまさら変わることなどできるはずがない。
(だからって、そんなの・・・桜姫にも、あの子にも・・・関係ない)
だから泣いた、一人で声を殺して。
できることなら、もうこの世から消えてしまいたかった。
・・・消える?
突然の思いつきに少し興奮気味にアズライトは上体を起こした。
彼は首輪には盗聴器のほかに爆薬というものが仕掛けられていると鬼作が言っていたのを思い出した。
無理に外そうとすれば爆発するのだ、と。
甘美な空想がよぎる。闘うことも思い切れず、レティシアにも会えない。
一体どうして思い悩んでまでこれ以上生きている必要があるだろうか?
卑怯な逃亡者にしかなれないのならば、せめて死んで楽になりたいとそう思った。
レティシアに満たされて、思い出とともに魂の平穏と消滅を。
(デアボリカは限りなく不死に近いけれど、首が吹き飛べば・・・)
そう考えると彼の心はすっと楽になった。自然と頬がほころぶ。
(何もかも捨ててしまおう。しおりには悪いけれど、どうせ1度逃げ出したんだし・・・同じことだよね。
ただ・・・ゴメンね、レティシア・・・僕、もう君を・・・探せない)
どこかで空を眺めている彼女のことを考えた。
目を閉じて首輪に手をかける。
数百年の迫害と彷徨の記憶が一瞬にして蘇る。
彼が殺してきたたくさんの者と、彼を殺そうとしたたくさんの者たちの顔が浮かんでは消えていく。
レティシアの顔も、桜姫の顔も、しおりの顔も。
(僕はあのときレティシアを救えなかった)
(僕はあのとき自分で創った桜姫を壊した)
(僕はあの時しおりを捨てた)
(それを知れば、彼女も壊れる)
(でも・・・まだ・・・今なら・・・今なら・・・)
首輪を引く力を緩めて、何時間となく眺めていた海のほうにもう一度顔を向けた。
薄紫色に染められた暁の空に白雲が幾筋かたなびくのを背にして、
昇りはじめた朝の太陽が空と水平線の一髪をまばゆく白ませている。
潮風が背後の森へと吹き抜け、アズライトはあのとき聞いた鐘の音をもう一度聞いた気がした。
鳴り響くこの鐘の音は告白と贖罪の時を告げる鐘の音だ。
そう思ったアズライトは何者かに操られるように後ろを振り返った。
「しおり・・・」
「ここにいたんだね、おにーちゃん」
駆け寄ってくるさおりの耳がピョコンと揺れた。
何も言えないでいるアズライトの隣に、よいしょ、と言って腰を下ろすと、
彼女もそれきり黙って海のほうを眺めはじめた。
太陽がしおりのきめ細かい肌をなめるよう照らし出し、淡い陰影を落とす。
光線の加減か、うつむくしおりの表情はときおり少しこわばって見えた。
「しおりが・・・悪い子だったからですか?」
寂しそうな声でしおりがポソリとこぼした。
「それは・・・違う・・・」
アズライトが否定しても、しおりはただ顔を伏せて洟をすするだけだった。
胸元のコートを大切そうに抱きしめている彼女の手が震えている。
アズライトはその手に右手を重ねた。
「僕の話を聞いてくれるかい?」
しおりはしばらくの間黙っていたがはやがてそのままの姿勢で頷き、顔を上げた。
頬に涙の跡が残したその顔にはおよそ表情と呼べるようなものが無かったが、
アズライトをまっすぐに見返す彼女の目は期待と不安の色を滲ませていた。
大きく深呼吸したあとアズライトは話し始めた、ひと言ひと言言葉を選んで慎重に。
デアボリカのこと、レティシアのこと、凶のこと、桜姫のこと、逃げ出して今ここにいること。
しおりは一度も口を開かずに、黙ってそれを聞いていた。
「僕はたくさんのひどいことをしてきた、君にも他の人にも・・・。
なのに、いつだって逃げ出して、今だって君から逃げ出して、この首輪を引きちぎって死のうって・・・
けど、思ったんだ。
どうせ死んでしまうのなら、逃げ出して死ぬんじゃなくて、誰かのために死ねるんじゃないかって。
だから、許してなんて言えないけれど、死んでしまう前にもう少し・・・がんばってみようと思うんだ」
話すうち、波の音も汐の匂いももうそれほどアズライトには気にならなくなっていた。
話が終わっても、しおりは長いあいだ彼の目を覗き込んでいた。
藍色の綺麗な瞳の奥に何か大切な宝物を探すような、そんな目つきだった。
あるいは本当にそういうものを探していたのかもしれない。
アズライトはただ黙って彼女の言葉を待っていた。
そして、どんな言葉であってもそれに従おうと心に決めた。
やがて立ち上がった彼女がお尻についた砂を払うと、砂はきらきらと光りながら地面に落ちていった。
「な〜んだ」
「え?」
「そんなことでなやんでたんですか、おにーちゃん?」
声を弾ませる彼女は先ほどとはうって変わって、朝焼けの空に相応しい晴れやかな顔をしていた。
「すごく真面目なお顔してたから、もっとすごいことかと思っちゃった」と言って笑った。
しおりは据わったままのアズライトの頭に手を置き、そしてそのまま優しく彼の頭を撫でた。
「お顔をあげてください、おにーちゃん」
子を呼ぶ母親のような優しくて静かな声だった。
彼女はアズライトに顔を近づけると、彼の額にかかる髪をかきあげて、両手で頬をそっとつつんだ。
そして、少し身をかがめてアズライトのおでこに唇をあてた。
アズライトはそのまま動かず、目の前で紅色のワンピースが風をはらんではためくのを見ていた。
白い砂の上に赤いワンピースの薄い影が躍っていた。
長い口づけのあと、頬を両手で挟んだままでしおりはもう一度微笑んで見せた。
やはり素敵な笑顔だった。
「ぜーんぶ、許してあげます」
「・・・え?」
「おにーちゃんがしてきたことも、これからするかもしれないことも、全部。しおりは許してあげます。」
「でも、君にも酷いことを・・・・・・」
「許してあげます」
大きく頷いて、請合った。
「ぁ・・・」
堪えきれず、アズライトの目に涙が溢れ出した。
しおりにすがりつくようにして泣くうち、それは激しい嗚咽にかわっていった。
しおりはアズライトの頭を抱き寄せると、小さな子をあやすみたいに頭を撫でた。
「これからも、おにーちゃんて呼んでもいいですよね?」
「うん!」
「それから、もう絶対に逃げたりしないで下さいね?」
「うん、うん!」
しおりのなだらかな腹の温かみを感じながら、アズライトは難度も難度も頷いた。
次から次へと溢れてくる涙がしおりの服に染み込んでいく。
191 :
Morgenrote (9):
「ほら、もう泣かないで、ね?お顔クシャクシャだよ」
「ゴメンね、僕・・・嬉しくて・・・とっても嬉しくて、だから、しおり、僕・・・せめて・・・」
「なに、おにーちゃん?」
「しおりを・・・抱きしめても・・・いいかな?」
「うん、いっぱいして、おにーちゃん!」
照れて顔を真っ赤にしたアズライトの質問に、しおりは顔をパッと輝かせた。
恥ずかしそうに涙を拭いながら立ち上がるアズライトに、しおりのほうから飛びついてきた。
腕が一つしかないのがひどくもどかしい。
二人の心臓がくっついて一つになってしまうくらい強く、しおりの小さな体を引き寄せる。
両手を腰にしっかりと回してしおりは笑った。
アズライトも笑った。二人とも泣きながら笑っていた。
「行こうか?」
身を離し、少し照れくさそうに二人は笑う。
「エヘへ・・・・・・ァ・・・クチュンッ!!」
可愛らしいクシャミをしたしおりに、切り裂かれてすっかり丈の短くなってしまったコートをかけてやる。
「わぁ・・・」
しおりはとても嬉しそうに笑って、ありがとうございます、と言ってピョコリと頭を下げた。
しおりの喜ぶ顔を見て、アズライトも優しく微笑む。
海岸線に立ち並ぶ木々の葉が太陽を浴びて七色に光をはじく。
夜が明け、太陽とともにこの世の何もかもが新生する。
月は西の彼方へと没し、太陽が東の彼方より差し昇る。
手を引かれながら、アズライトは泣いた。
嬉しくてたまらなかった。
(レティシア…)
心の中で名前を呼ぶ。たったそれだけのことで、とても優しい気持ちになれた。
(僕はきっと、帰れない。ごめんね。
でも、君が好きになってくれたのは、きっと帰らないことを選ぶ僕だから。
僕は最後の瞬間まで、戦うね?)
前をむいて歩いてこうと思えたのは、この偶然の美しい陽光のせいなのかもしれない。
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