バトル・ロワイアル【今度は本気】第3部

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1名無しさん@初回限定
彼らの物語はまだ、終わらない。

過去スレ
バトル・ロワイアル。【今度は本気】 第2部
http://www2.bbspink.com/test/read.cgi/erog/1012701866/
リアル・バトル・ロワイアル。 【今度は本気】
http://www2.bbspink.com/erog/kako/1008/10085/1008567428.html

(↓参加者必読のこと。なお書き手さんは随時募集中です。↓)
関連スレ
【バトル・ロワイアル。】 総合検討会議 #2
http://doom.on.arena.ne.jp/cgi-bin/giko/hinan/test/read.cgi?bbs=erog&key=012551729
【リアル・バトル・ロワイアル。】 総合検討会議
http://doom.on.arena.ne.jp/cgi-bin/giko/hinan/test/read.cgi?bbs=erog&key=008871626

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>>2 登場人物一覧
2:02/08/15 17:27 ID:0+MnB9df
うんこ
3名無しさん@初回限定:02/08/15 17:32 ID:7GG3JjRo
◆参加者(○=生存 ×=死亡)

○ 01:ユリーシャ  DARCROWS@アリスソフト
○ 02:ランス  ランス1〜4.2、鬼畜王ランス@アリスソフト
○ 03:伊頭遺作  遺作@エルフ
× 04:伊頭臭作  臭作@エルフ
○ 05:伊頭鬼作  鬼作@エルフ
× 06:タイガージョー  OnlyYou、OnlyYou リ・クルス@アリスソフト  
○ 07:堂島薫  果てしなく青い、この空の下で・・・。@TOPCAT
○ 08:高町恭也  とらいあんぐるハート3 SweetsongForever@ivory
× 09:グレン  Fifth@RUNE
× 10:貴神雷贈  大悪司@アリスソフト
× 11:エーリヒ・フォン・マンシュタイン  ドイツ軍
○ 12:魔窟堂野武彦  ぷろすちゅーでんとGOOD@アリスソフト  
○ 13:海原琢磨呂  野々村病院の人々@エルフ
○ 14:アズライト  デアボリカ@アリスソフト  
○ 15:高原美奈子  THEガッツ!1〜3@オーサリングヘヴン  
○ 16:朽木双葉  グリーン・グリーン@GROOVER
○ 17:神条真人  最後に奏でる狂想曲@たっちー
× 18:星川翼  夜が来る!@アリスソフト  
○ 19:松倉藍(獣覚醒Ver)  果てしなく青い、この空の下で・・・。@TOPCAT
○ 20:勝沼紳一  悪夢、絶望@StudioMebius
× 21:柏木千鶴  痕@Leaf
× 22:紫堂神楽  神語@EuphonyProduction
○ 23:アイン  ファントム 〜Phantom of Inferno〜@nitro+
○ 24:なみ  ドリル少女 スパイラル・なみ@Evolution
× 25:涼宮遙  君が望む永遠@age
○ 26:グレン・コリンズ  EDEN1〜3@フォレスター
× 27:常葉愛  ぶるまー2000@LiarSoft
○ 28:しおり  はじめてのおるすばん@ZERO
× 29:さおり  はじめてのおるすばん@ZERO
× 30:木ノ下泰男  Piaキャロットへようこそ@カクテルソフト
4名無しさん@初回限定:02/08/15 17:34 ID:7GG3JjRo
× 31:篠原秋穂  五月倶楽部@覇王
× 32:法条まりな  EVE 〜burst error〜@シーズウェア  
× 33:クレア・バートン  殻の中の小鳥・雛鳥の囀@STUDiO B-ROOM
○ 34:アリスメンディ  ローデビル!@ブラックライト
× 35:広田寛  家族計画@D.O.  
○ 36:月夜御名沙霧  Rumble〜バンカラ夜叉姫〜@ペンギンワークス
× 37:猪乃健  Rumble〜バンカラ夜叉姫〜@ペンギンワークス
○ 38:広場まひる  ねがぽじ@Active
× 39:シャロン  WordsWorth@エルフ
○ 40:仁村知佳  とらいあんぐるハート2@ivory


◆運営側(○=生存 ×=死亡)

○ 主催者:ザドゥ  狂拳伝説クレイジーナックル&2@ZyX
○ 刺客1:素敵医師  大悪司@アリスソフト  
○ 刺客2:カモミール・芹沢  行殺? 新選組@LiarSoft
○ 刺客3:椎名智機 將姫@シーズウェア
○ 監察官:御陵透子  sense off@otherwise
前スレ298↓

(18:57 『G・S・V3』内)

「なががががががッ!?」
グレン=コリンズ(No,26)は、全身を襲う激しいGに悲鳴を上げていた。
「んぎぎぎ……!」
とっさに口を閉じ、顔を上に向ける。
この状況で口を開けば舌を噛み切りかねなかった。
グレン右側の高度計からは、現在『G・S・V3』が高速で上昇している事を
激しく動いて教えている。

「(2500……3000……3500……!)」

突然、グレンの背後から破砕音が聞こえた。
既に限界に達している機体が悲鳴をあげているのだ。
「(神様ぁ……!)」
元来自分以外の神の存在を信じないグレンであったが、この時ばかりは
空いている触手を絡めて祈りを捧げる。

「(……5500……6000……7000……!)」

更に上昇を続ける。

「(7500……8000……9000……!)」

瞬間、さっきまで鳴り響いていた音がぴたりと止んだ。同時に振動も止まる。

「……ん?」
体の緊張を解き、グレンは周囲の計器類を確認した。
現在高度計は9200を示している。
「はて?」
首をひねる。この高度はほぼエベレストの標高と同じ―――まだ大気圏内の
筈だ。
コンソールに触手を走らせ、外部モニターを起動させる。
「なな……!?」
思わずグレンは言葉を失った。
窓の外に、巨大な皿が浮かんでいた。
その皿の中央に浮かぶ島は、たった今グレン自身がいた島だ。
島の周囲には青い海が広がり―――皿の縁から滝のように流れ落ちている。

「……ハ、ハハ……」
グレンの口から乾いた笑いが漏れる。
触手の一本を、別の一本で踏んでみる。
「アウチッ!」
夢では無いらしい。
「……これが、この世界の姿……か」
それはかつてグレンが想像したものとそっくりであったが、その衝撃は流石に
大きかった。
「……さて、どうする?グレン=コリンズ……?」
脱力し、ぐったりと窓の外をみながら呟く。
外には幾つかの星が光っている。どうやらこの(グレンが存在していた宇宙とは
異なる)宇宙には、まだ他にも同様の場所があるらしい。
『G・S・V3』の噴射に任せてここまで来てしまったが、これは重要な事態であった。


燃料の残量を確認する。
「まだ少しある……」
その燃料を全てこのまま脱出用に使えば、完全に島の重力圏から脱出し、他の
場所を目指す事ができる。
星までの距離等は不明だが、とりあえずこれ以上殺戮ゲームに巻きこまれる事は
無くなる筈はずだ。
人間ならば問題となる食料・酸素の問題も、エイリアンと融合しているグレン
ならば問題は無い。このまま宇宙空間を泳ぐこともできるし、空間中の塵を
仙人よろしく食べて生き続ける事だってできる。

―――だが、一度それを選べば、あそこに帰ることは二度とできなくなる。

現在の『G・S・V3』の軌道を修正し、再度突入させるにはかなりの燃料が必要
となる。
おそらく、現在の残量でギリギリあるかないか。
無論、それを選べばまた殺戮ゲームの仲間入りだ。
おまけに今度こそ『G・S・V3』での脱出は不可能になる。

「………フン、馬鹿馬鹿しい……」
比べるまでもない選択肢であった。
誰があんな場所に戻りたがるものか。
「……考えるまでも無いではないか」
互いが互いの命を狙い、疑い、殺し合うあんな島に。
「……ハハ……」
グレンが笑った。

「……ハハハハハハ!まったく酷い目に会ったものだ!だがそれも全ては過去の事ォ!」

(『……少なくとも、私の会った人だけでも助けたいの』)

「今!今ッ!この万民の皇帝たるグレン=コリンズはあの愚かなる遊戯からの
完全な脱却に成功したッ!これぞ真の勝利!これぞ真の栄光ッ!」

(『期待してるわ、グレン』)

「見たか馬鹿ども!この私、グレン=コリンズにとって、この程度の事など
何でも無いわァッ!アイヤアアァァァッ!!」

(『……アンタにこの馬鹿げたゲームの参加者、全員の運命を預けるわ』)

「………………」
叫びが終わり、再び沈黙が船内を支配した。
「………………」
グレンの手には、解除装置が握られている。
「………………」
窓の外を見る。
もうかなり離れてしまったようだ。既に島が芥子粒くらいにしか見えない。
「……………」
ゆっくりと操縦桿に触手を絡める。
「…………さらば………」
そのまま、グレンは船の向きを―――

「……自由よッ!」

―――再び島に向けた。

「ええいっ!これで満足かミス法条!?」
針路変更の指示を機体に与えつつ、グレンはやけっぱちに叫んだ。
「戻ってやろうではないか!貴様に夢枕にでも立たれたら健康を害してしまう!」
逆噴射をかけつつ片方の噴射を強め、島に向ける。
「その代わりの報酬は高くつくと思え!ミス法条、貴様の体でなあッ!」
激しい振動が再びグレンを襲った。
先ほどは凄い勢いで伸びていた高度計が、今度は急激に下がり始める。
「(11000……10500……10000……!)」
突入角を合わせている余裕は無い。完全に運任せだ。
「(9500……9せ……ッ!?)」
更に激しい揺れ。外装のどこかが剥がれたらしい。
「まだまだァッ!アイィィィィィッッ!!」
必死に姿勢を保ちつつ、グレンが雄叫びをあげた。
「(……8000……7000……6000……!)」
芥子粒くらいの大きさが饅頭位に、饅頭が皿に。
島が次第に大きさを増し、グレンの視界を覆う。
「(……4000!)パラシュート展開!逆噴射最大ッ!」
『G・S・V3』の一部から数個のパラシュートが噴出される。
「オブッ!?」
急激に勢いが弱まり、床に叩きつけられるグレン。
とはいえ、まだ速度はかなりのものである。落下地点に注意しなければ木っ端微塵
であろう。
「や、やはり砂浜か……!?」
現在の落下予測地点では、大体島の中央付近になってしまう。
東の砂浜、できれば発射地点から比較的離れた位置に修正を……
その時、爆発音と共に船が大きく揺れた。
同時に修正されつつあった向きが固定される。
「軌道修正用ブースター大破!?こ……ここまで来てか!?」
悲鳴を上げるが、もはやどうにもならない。
あとは只落ちるに任せるだけである。
「落下地点は!?」
既に高度は2000を切っており、島の細部まで明確に見える程であった。
その島の、森林に向かって『G・S・V3』は落下してゆく。
「………あああぁぁぁあああぁぁぁ!?」
グレンはとっさに触手を船内全体に張り詰めさせ、衝撃に備える。

数秒後、森を揺るがす程の轟音と共に、『G・S・V3』は落下した。
……………。
「……………」
アラーム音。
「……………ん?」
どうやら少し意識を失っていたらしい。グレンはゆっくりと目を開けた。
『G・S・V3』の船内である。落下時のショックか、あちこちでショート音が
聞こえる。
「……生き……てるのか?」
触手の感覚を確かめる。どうやら切れたりはしていないようだ。
窓の外には倒れた木々が転がっている。幸いに焼けたりはしていないらしい。
まさしく奇跡的なまでに無事であった。
「……フ、フフ……流石私だ!何をやらせても上手くいく……!」
(グレン的には)不敵な笑みを浮かべて、グレンは立ち上がった。
まずは現在の状況を確認しなければ。
「……まあ、この偉大なる人民皇帝たる私にしてみっればこの程度の逆境など
逆境の内にも入らんと言った所か……ワハ、ワハ、ワハハハハハハハ!!」
高笑いしつつハッチを開ける。
「さーて、ここからが……」

「……何なんだ?」
外から声。

「へ?」
グレンは声の方を向き―――
「ハギャアッ!?}
顔面への突き蹴りを受け、吹き飛ばされた。
「……おい!コラ、俺様を走らせておいて挨拶も無しか!?」」
若い男の声が最後に聞こえた気がして―――

グレン=コリンズは気絶した。

         ↓
               【No,26 グレン=コリンズ】
               【スタンス:参加者の首輪解除】
               【所持武器:スタン・グレネード×2
                      ハリセン       】
               【アイテム:まりなの手帳
                      謎の鍵×3
                      首輪解除装置】
               【備考:気絶中】
10魔窟堂伸彦の世界(1):02/08/24 00:47 ID:MebD28K+
魔窟堂伸彦は
自分のこの「加足装置」を見る時
いつも思い出す。


小学校教師
「魔窟堂さん、お宅の伸彦君は友達をまったく作ろうとしません。
そう、嫌われているというよりまったく人とうちとけないのです。
担任教師としてとても心配です。」


「それが…恥ずかしいことですが…
親である…わたしにも…なにが原因なのか…」
11魔窟堂伸彦の世界(2):02/08/24 00:48 ID:MebD28K+
子供の時から思っておった。
町に住んでいるとそれはたくさんの人と出会う。
しかし、
普通の人たちは一生で真に気持ちのかよい合う人がいったい何人いるじゃろうか…?
小学校のクラスの○○君のアドレス帳は友人の名前と電話番号でいっぱいじゃ。
五〇〇人くらいはいるのじゃろうか?
一〇〇人ぐらいじゃろうか?
母には父がいる。
父には母がいる。
自分はちがう。
TVに出ている人とか、ロックスターはきっと何万人といるんじゃろうな。


自分はちがう。
12魔窟堂伸彦の世界(3):02/08/24 00:48 ID:MebD28K+
「自分にはきっと一生誰ひとりとしてあらわれないじゃろう。」


「なぜなら、この『殺身成仁』を実行する友だちは誰もいないのじゃから…
実行できない人間と真に気持ちがかよいあうはずがない。」


アイン 神楽殿 ホッシー君 エーリヒ殿に出会うまでずっとそう思っておった。
エーリヒ殿と涼宮殿のことを考えると背中に鳥肌が立つのはなぜじゃろう。
それは目的が一致した初めての仲間だからじゃ。

主催者を倒すという、この戦い!
数時間の間じゃったが、気持ちがかよい合った仲間じゃったからだ。
13魔窟堂伸彦の世界(4):02/08/24 01:00 ID:MebD28K+
魔窟堂伸彦は「加足装置」を使いながら、考える。


前途ある若人達が無為に死なずとも済むようにさせてやる。
そう!
主催者の正体をあばき、倒すため
完璧に気配を消してやろう。





【No.12:魔窟堂野武彦】
               【所持武器:レーザーガン、スパス12】
               【スタンス:主催者打倒、アイン・双葉の探索】
               【備考:加足中】
14かおりん祭り ◆KAORinK6 :02/08/24 02:11 ID:rq6LlqaI

         ∋oノハヽo∈ 
      =  ( ^▽^)  <新スレおめでとうございまーす♪
   =      ( つ=[ \     / ̄ ̄ ̄ ̄\
     = 、、 ヽ__)/ \ >=煤@   ⊃^▽^)モキュー♪
〜〜〜〜〜〜〜「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 

                                      
15名無しさん@初回限定:02/08/24 06:39 ID:98WkeoXN
>>10-13
なぜ、JOJOネタ・・・?
16名無しさん@初回限定:02/08/24 06:41 ID:bJIiUXSZ
な、なぜかおちん祭りがこんなところまで・・・
17名無しさん@初回限定:02/09/03 19:50 ID:SlbBCImA
18悦びの向こう側 (1):02/09/05 12:59 ID:mTReyD3a
そう、堂島薫は殺されねばならない。



19悦びの向こう側 (2):02/09/05 12:59 ID:mTReyD3a
(第1日目 PM11:35)

ほのめき揺らめく薄緑色の暈をその身に纏わせた満月の下、
藍は一人海を見ながら身を隠していたときのことを思い出す。
そして、両手で自分のか細い肩を抱き、少し身を震わせた。
もうすぐ、この世界ともお別れすることになる。
抱えた膝小僧に軽く額を押し当てて、静かに目を閉じた。
堂島を殺せば…。
波の音が聞こえる。
打ち寄せては全て洗いさらう波の音が聞こえる。
残酷に輝く月が、揺れる彼女の背を押した。
20悦びの向こう側 (3):02/09/05 13:00 ID:mTReyD3a
あのとき、獣としての勘が背中から光をこぼすあれには近いてはいけないと告げた。
だから暗がりで息を殺して時を待っていた。
暗くうねる海が月明かりを受けてきらきらと光るのをじっと見ていた。
やがて何ごとかわめきながら小柄な人影が駆け出していった。
あれは堂島ではなかった。
月明かりだけでははっきりと確認できたわけではないけれど、
堂島薫はもうふた周りほど大きいはずだから。
そのまま動かずに物陰で様子をうかがっていると、つづいて
なにやら大声で叫びながら堂島よりもふた周りほど大きい男がその後を追っていった。
あれも堂島ではなかった。
三つの気配、二つは消えた。
残るは一つ、
堂島薫は、いまも間違いなくそこにいる。
彼奴を屠れば、この住み慣れた第三界を去らなければならない。
立ち上がった藍はうつむき、少し顔を曇らせた。
月光を背に受けて藍の陰が細く長く伸びていく。
月は上天にてその身を大いに膨らませ、今にも落ちてきそうなまでに張り詰めている。
21悦びの向こう側 (4):02/09/05 13:00 ID:mTReyD3a
「堂島薫!」
岩陰から踊り出た藍は目前に迫った悦びへの高鳴る期待を隠さずに、舌足らずな声を響かせる。
「堂 島 か お る」
一音節ずつはっきりと切り離された軽やかで歌うような問い掛け、
虚をつかれた堂島は慌てて振り返り、
ニコニコと笑っている少女を見止めて怪訝な顔をする。
藍は獲物を見つけた悦びに体を大きく震わせた。
小さなこぶしを握り締め、気を取り直すように大きく深呼吸。
ついに来た!
ついにこのときが来た!
体の震えはまだ止まらない。
原始の欲望が体を駆け回る。
殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!
殺せぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇええっ!!!!
堂島薫を切り裂いて!その臓物を喰らわせろ!
獣が鋭い雄叫びをあげて、藍の体を激しく揺さぶる。
たとえ、この世を去らねばならぬとも、際限なく湧き上がるこの破壊の衝動に比べれば、
何をためらうことがあろうか?
22悦びの向こう側 (5):02/09/05 13:12 ID:mTReyD3a
「おねーちゃん、誰?おかーたまのお友だち?それとも、おとーたまのお友だち?」
ためらいがちに問いながらも、
震える手で懸命にグロックの照星を合わせようとする堂島に、
ウウン、と首を振って藍はさも愉快そうな笑みを浮かべた。
「じゃぁ、僕に何か御用?」
「覚えてないの、堂島薫。私はあなたのお友達だょ?」
「僕の…お友だち?うーん、どこかでおねーちゃんに会ったことあったかなぁ。」
少女の不明瞭な語尾は堂島をひどく混乱させた。
眉間に縦じわを刻み、警戒することも忘れて口ひげを撫でながら頭をひねる。
「思い出せないや。ごめんなさい。」
しばらくして、しょんぼりと答えた堂島に、
藍は闇夜に瞳を爛々と輝かせ、ニタリと笑う。
「ここからは遠い遠い世界に小さな村がありました。」
笑いを噛み殺すと、藍はよく通る声で話し始めた。
23悦びの向こう側 (6):02/09/05 13:13 ID:mTReyD3a
「人里はなれた深い山々の中にあり、清らな小川と緑豊かな森に囲まれたその村は
時の流れに取り残された小さな、けれども人々が日々幸せに暮らしている村でした。
今となっては人もまばらなその村には、
昔からの少し変わった言い伝えがありました。
曰く、
『月蝕の夜はよく吹雪く。
絶対に外に出てはならん、
吹雪と共に穂村山から下りてきた
ヤマノカミに喰われるぞ。』
そんな不思議な伝説の残る静かな村に、あるとき一人の男がやってきました。
その男はたいそう意地の悪い男で村の人々を困らせたり、
近所に住む猫たちをいじめたりといろいろな悪さをはたらき、
ある日、ついに村にあるたった一つの神社、穂村神社に火をつけて焼いてしまいました。
怒ったのは言い伝えにあるヤマノカミです。
男を懲らしめるため、手下の獣をその男に向かって放ちました。
それからというもの、暗い淵からやってきたその獣は今でも男を探し続けているということです。」
そこで一旦言葉をきると藍は顔を歪ませている堂島を見た。
「その村の名は、安曇村
男の名は、…堂島薫と言いました。」
少女の瞳が赫々と妖しく輝き、獣のそれのようにどろりとした光を放つ。
そして、死の宣告を下すかのように最後の言葉をそっと継いだ。
「墓守の獣はここまでお前を追ってきたょ?」
24悦びの向こう側 (7):02/09/05 13:17 ID:mTReyD3a
堂島は手にしていたグロックの照準を迷うことなく少女に合わせた。
顔には先ほどとはうって変わって、嘲り笑うようないやらしい笑みが浮かんでいる。
堂島薫は帰ってきた。
「ヒヒ、よく思い出せんが……お前はあの村の娘か?」
少し離れたところに立つ少女の目を視線で射抜き、
ゆっくりと引鉄にかけた指に力をこめた。
地味な破裂音をあげた弾丸は藍の頬をかすめて、
そこにうっすらと赤い線を引いて背後の闇に消えた。
「ヒヒヒヒヒ、あの村の人間なら儂のことが憎かろう?
だが残念だったなぁ。こっちには拳銃がある。そして…」
ふたたびグロックを構えなおす堂島の顔から笑みが消える。
「次は外さん。」
「ふふ、死ぬ前に思い出してくれてよかったょ、堂島?」
臆することなく堂島の目をじっと覗き込んで藍は言った。
頬の血を指先にとると、それを舐め、もう一度身を大きく震わせて、空を仰ぎ見る。
そして、薄く薄く笑った。
夜の闇よりもなお濃密な黒が滲みだし、彼女はその輪郭を失っていく。
「時は来たれり、だょ。堂島。」
「・・・・・・どういう事だ?」
闇の奥から聞こえる声があたりに木霊し、堂島の周りから急速に光が失せてゆく。
満ちたる月が欠け、にわかに蝕が始まる。
25悦びの向こう側 (8):02/09/05 13:17 ID:mTReyD3a
闇色の何かが満月をざっくりと裂きながら冒し広がっていく。
闇の虚ろな顎が虚ろな空を音もなく喰らう。
空は暗闇に飲まれ、大地は光を失った。
少女から溢れ出した地表を這う闇もどんどんと音もなく広がる。
堂島は声をあげながら、少女の闇を避け、まだ月明かりの届いている空間へ逃げこんだ。
背後の闇から足音もさせずに忍び寄るもののかすかな息遣いが聞こえる。
空気の動く気配だけが感じられ、それがますます堂島の恐怖をあおった。
息を切らせて走るうちにも蔓草のような背後の闇が伸びゆき、彼を囲んでしまう。
それでも堂島は闇に覆われていない空間に向けて一心不乱に走りつづけた。
それよりも速く闇は急速に広がり、やがて頭上の月の光も遮られてしまった。
音もなく、光もない真の闇が堂島を呑みこんだ。
26悦びの向こう側 (9):02/09/05 13:25 ID:mTReyD3a
「助けてくれ。何でもする。何が望みだ?金か?
それとも神社をもう一度作り直せば満足なのか、ん?
何でもしてやる。何でもしてやるぞ。ヒヒ、悪い話ではなかろう?
何だったら生贄の2〜3人も用意させよう。
後生だから、儂だけは、儂だけは助けてはくれんか?」
逃げることを諦めた堂島はヒューヒューと大きく息をしながら、闇の奥の動きを探る。
彼の提案が呼んだ獣の一瞬の逡巡を彼は見逃さなかった。
「そうだ。ヒヒヒ、話せば分かる。
落ち着いて話し合おうじゃないか。
何だ、何が欲しい?
何が望み……………………っっっ!?」
堂島の言葉が途切れる。
ゆるり、と獣が堂島の前に佇み、何かが押しつぶされる嫌な音がした。
27悦びの向こう側 (10):02/09/05 13:25 ID:mTReyD3a
「きぃ、貴様ぁーーーーーーーっ!
うぐぅぁ、ああぁ…、儂の、儂の足がぁぁぁぁっ!?」
右足の付け根をあたりをまさぐる左手はむなしく空を掻く。
もがき絶叫する堂島をまるで意に介することなく、闇の獣はゆるりと動いて堂島から離れ、ふたたび闇の中にその姿を溶かし込む。
頬をなでる生ぬるい風が、堂島の鼻にむせ返るような錆びた鉄の匂いを運ぶ。
「どこだっ、どこにいる。
来るな、来るな、来るなぁっ!」
堂島は闇の奥に潜んで、こちらをうかがっているものに対してわめきちらす。
口の端から泡を吹きこぼしながら、
無闇に両手を振り回して続けざまに数度引鉄を引く。
乾いた銃声が夜のしじまに響き渡るが手ごたえはなく、
マズルフラッシュをも飲み込む闇の向こうでなおも何かがゆるりゆるりと蠢く。
堂島にも分かっていた、奴は自分を一息に殺す気はない。
子供が蝶の翅を楽しげにもぐように、
自分を弄んでこの虐殺を楽しんでいるのだ。
ふたたびゆるりと闇が動き、堂島の頬を撫でてゆく。
右の頬の肉がこそげとられても、まだ堂島が死ぬことは許されない。
28悦びの向こう側 (11):02/09/05 13:27 ID:mTReyD3a
カチッ、カチッ
次に引鉄を引いたとき空しい金属音が返ってきた。
「ああっ、あああああぁぁ。助けてくれ、わしが一体何をしたというんだ?」
せめてもの抵抗にマガジンが空になった拳銃を気配に向かって投げ捨てて頭を抱えて叫ぶ。
恐怖にあてられた堂島は涙と汗と鼻水でグチャグチャになった顔を引きつらせて笑い出した。
「儂は誰だ?儂は堂島薫だ。
堂島薫は全てを手に入れた、地位も金も名誉も権力も女もッ!全てだッ!!
何もかもっ、望んだものは何もかもっ、全てッ!
ヒヒヒヒヒ、その儂が、その儂がぁッッ!!!!」
気が狂ったかのように哄笑し、吼えたける堂島の動きが不意に止まる。
汗が一筋、たるんだ頬の上をゆっくりと通り抜けていった。
恐る恐る振り向くとその先には、
闇色の塊が、その吐息が堂島の耳にも聞こえるほどのところまできていた。
もう声も出なかった。
そしてそれが代議士堂島薫の最初で最後の最期の光景だった。
29悦びの向こう側 (12):02/09/05 13:29 ID:mTReyD3a
藍は岬の突端に一人座してじっと海を眺めている。
光を躍らせながらゆらゆらと揺れる水面をたった一人で眺め、鼻をすすった。
彼女の小さな背中を月光だけが見守っている。
堂島の死とともに急速に月蝕は終息した。
頭上の虚空にはぽっかりと世界の向こう側への扉が開いている。
藍は、重苦しそうに髑髏の眼窩のようなそれを見あげる。
(さようなら、おにーちゃん。
さようなら、明日菜。
さようなら、悠夏お姉ちゃん、雨音お姉ちゃん)
空を見あげる双の瞳にうっすらと涙がこみあげる。
帰還すれば、おにーちゃんたちのことを忘れてしまう。
思い出をなくしてしまう。
このやりきれない悲しみさえ解さないただの獣になってしまうことが耐えられなかった。
ひっそりと、世界から消えていくのが、
自分が消えても誰ひとり悼んでくれないことが、たまらなかった。
人知れず、消滅してしまうのは、嫌だった。
30悦びの向こう側 (13):02/09/05 13:37 ID:mTReyD3a
藍は声にならない嗚咽をかみ殺す。
(いやだょ。
還りたくなんかないょ。
ずっと…
ずっと、ずっと、みんなと一緒にいたかったょ。
ただの獣になんかにはもう、戻りたくないょ。)
蜻蛉の翅のように透き通ったまるで質量を感じさせない藍の体がすっと宙に浮かび上がり、
何かに吸い寄せられるかのようにどんどんと昇っていく。
(でも……)
愛しい人たちの顔が次々と胸のうちに浮かんでは消えていく。
誰一人として見守るもののいないなか、高く、
どこまでも高く冴え渡る夜空のその向こう側に向かって上り詰めてゆく。
今の今まで立っていた島は遠ざかり、
眼下に広がる果てしもない海の只中に埋もれてしまった。
海と星たちの間を一人きり孤独に漂う。
泣き濡れてくしゃくしゃの顔を隠すこともしないでしゃくりあげる。
溢れ出した涙はもう、とまらなかった。
「でも、還らなきゃ。」
藍が目を閉じると、その姿はあっけないほどにすっと消えてしまった。
空から零れ落ちた涙がひとしずく、大地へと吸い込まれるように舞い落ちていった。


「7番 堂島薫 死亡」
「19番 松倉藍 消滅」
残り、18人
31名無しさん@初回限定:02/09/09 20:18 ID:XeUu2pUG
ホホシュ
32第4回定時放送 AM00:00:02/09/12 13:53 ID:hAYHzNB+
本拠地を移しかえて、ずいぶん経つ。
間もなく、定時放送の時間だ。
「フン、これだから人間は。」
隣で眠るザドゥを見て、智機がせせら笑った。
「稼働時間の三分の一を無為に過ごすとは非効率なことだ。」
ふたたびいつもの無表情に戻ると、智機もまた隣で眠る男のように目を閉じた。
眠ったわけではない。
ここにある智機はいわば「マザー」である。
この島のいたるところに彼女の予備のボディーが隠蔽されている。
参加者が戦闘に参加しなかった場合、それらをいっせいに稼動させるためだ。
そして、彼女はこのゲームの始まりの場所、
木造校舎にある彼女のボディーを起動させた。
33第4回定時放送 AM00:00:02/09/12 13:53 ID:hAYHzNB+
チュイィィィィィィンンィィィィィィィィィィィィ
低い起動音を立てて、仰々しい機械類に接続された智機の一つが目を開いた。
フゥ、と溜息をついて首を鳴らすところなど、人間そのもののようにも見えるが、
どんな感情を映すことのない瞳がそれを否定している。
収容されていた金属製のボックスから出ると、智機は軋む床を踏みしめながら、
廊下を抜け階段をあがり、ある部屋の前で立ち止まった。
そこは参加者達が寝かされていた部屋。
うっすらと埃に包まれたその部屋には大小さまざまな足跡が乱雑にちりばめられていた。
部屋の敷居をまたぐと、その部屋の中央にすえつけられたままのマイクに手を伸ばした。
第一回目の定時放送でも使用されたこのマイクは、島の全スピーカーに接続されている。
これを使えば、余計な手間をかけずとも定時放送が行えるのだ。
「ウム、非常に効率的だ。」
相変わらずの表情を浮かべたままマイクのセーフティロックを解除して、スイッチ・オン。
通算四回目の定時放送であった。
34第4回定時放送 AM00:00:02/09/12 13:53 ID:hAYHzNB+
ヴウウーーーーーーンンンーーーーーーンンン…………
「ゲーム開始からちょうど24時間が経過した。
それでは死亡者を発表する。
7番、堂島薫 17番、神条真人 19番、松倉藍
22番、紫堂神楽  32番、法条まりな
以上5名が死亡だ。」
発表を終えた智機はフムといって顎に手を当てた。
「……少ないな。参加者諸君に参加する意志がみえないようなら、
こちらとしても考えがあるのでそのつもりで・・・
残り参加者数は18名、諸君らの奮闘を期待する」
言ってみて、最後の文句は余計だったかなと、自嘲気味に笑う。
それでも彼女の瞳は瞬きもしない。
やはりそれは目の前の風景を映像として認識する機関でしかなかった。
そろそろあの男も目を覚ますだろう。
そうなる前に戻っておかなくてはうるさいからな、
そんなことを考えがなら智機はその部屋をあとにした。
(第2日目 AM00:45))

襲撃者を退けたあと、
アズライトはあどけない表情を浮かべて眠るしおりを膝うえに抱いたまま火にあたっていた。
彼は一言も漏らすことなく押し黙って、
ちらちらと揺れる火をただ瞬きもせずに眺めつづけていた。
憑かれたような瞳でかぎろう炎を眺めていた彼はふいと傍らの男の方を向くと、
「薪、拾ってきますね。」
どこか焦点の合わぬ目で一言そう告げた。
穏やかな寝息を立てていえるしおりに羽織っていたコートを包み込むようにしてかけると、そっと地面に下ろし、立ち上がる。
「そのようなことでしたら、アズライトさんのお手を煩わせずともわたくしめが…」
と言って慌てて腰をあげかける鬼作をやんわりと手で制した。
「いえ、僕が行きたいんです。ですから、行かせてください。」
その返事の硬い口調に鬼作は一瞬怪訝な顔を浮かべたものの、そうですか、と頷いた。
ありがとうございます、と言って軽く会釈して一礼すると、アズライトはすっと立ち上がり、
今しがたまで囲んでいた小さな焚き火のほのかなオレンジ色を背に受けながら茂みを掻き分け、
暗い森の奥へと入っていった。
二人から少し離れると彼は立ち止まり、
この長い長い一日のうちにもう何度もついた溜息をもう一度長く、ゆっくりと吐き出した。
月の光に青白い燐光を与えられ、幻想的にその姿を浮かびあがらせた森の中は
深い深い水底のようにしんと静まり返っていて、
ただ彼の吐息と彼が踏みしめている土の軋む音だけが聞こえる。
やがてアズライトは力なく頭を数回振ると、零れ落ちてくる月明かりに照らされた森の中をふたたび漂うように歩き始めた。
枯れ枝を拾うでもなくぼんやりと、
あちらこちらに視線を走らせてあてどもなく彷徨い歩きながら、
なみとの戦いのさなかに思い出した己の過去をゆっくりと反芻してみる。
それはあるときから突然に始まり、以来連綿と続く。
過去の記憶に悦びはない。
迫害と放浪と侮蔑と怨嗟、これが彼の過去。
人外である彼は、人の中にありたいと願う限り、いつだって異物でしかなかった。
ある光景に行き当ったところではたと足が止まる。
苦い記憶、できれば思い出したくない記憶、
忘れられず今も胸に焼きついている光景が、彼にはある。
血だまりの中に倒れ伏した二人の人間の少女と、それを見下ろす彼と彼の友人。
横たわる少女たちは彼と彼の友人の戦いに巻き込まれて、息を引き取ろうとしている。
(……桜姫)
ロードデアボリカたる旧き友、火炎王に付き従う凶。
彼が作ったもう一人の凶、自己満足の黒い犠牲に供された少女、罪のシンボル。
闇色の靄が濃くなる森の中へとさらに進む。
「僕は、逃げ出した。」
一言一言を噛みしめるようにして同じことをもう一度繰り返して言ってみた。
怖かったから、逃げ出した。
自分の言葉に否もなく従う桜姫が恐ろしかっただけではない。
媚態からではなく心の底から自分に服する桜姫が怖かっただけでは、ない。
怖かったのは桜姫ではなくて、自分。
そんな桜姫を作り出してしまう自分、
一時の激情になすすべもなく流されてしまう自分が怖かった。
だから逃げ出した。
あのとき、本当の自分の傲慢な素顔が暗く深い目で自分の方をじっと見ていたから。
不断の温厚な自分は仮面の自分、頼りなげに笑うことしかできない自分は偽者だということを彼は知っている。
彼の全てを見透かしたような火炎王の恐ろしい言葉がアズライトの心を穿つ。
あのとき、彼はこう言った。
『殺戮、怠惰、殺戮、怠惰、殺戮、怠惰。
どう足掻こうが、それがお前だ。
アズライト』
破壊と頽廃の日々の悦ばしき快楽に埋もれている自分、それを嫌って
何処かにある何かを求めて記憶を落とすことを選んだ自分。
なのに何も変わってなどいやしない。
いつしか月の明かりもここには届かなくなってしまった。
39Escape from symbols of Sin(5):02/09/20 00:42 ID:F7HzxEbO
星たちの光に照らされることのない森は漸うと深くなり、その暗さをいや増しはじめる。
まるで強いアルコールでも呷って悪酔いしたかのように、
周りの景色が痙攣的にたわんでは病的にゆがむ。
そしてアズライトは、自分がいつしか地面ばかり見て歩いていることに気付いた。
「焚き木、拾わなきゃ」
思い出したように呟き、その場で腰をかがめるとおもむろに枯れ枝を拾い始める。
黙々と枝を摘み上げては小脇にかかえこむことを繰り返す。
「でも、これを拾って…」
そのあとはあそこに帰らねばならない。
自分のことを兄と呼び慕う少女が待つあの場所に帰らねばならない。
あそこにはやわらかく微笑む桜姫が待っている。
アズライトは息を詰める。
カラン、カランと空ろな音を立てて、抱えられていた小枝が地面に散らばる。
「あそこへ帰って、どうしようというんだろう、僕は?」
立ち尽くし、月明かりさえ届かない暗い空を見上げる。
溢れるものが目の前の暗闇をぼやかしていく。
やがて、くず折れるようにうなだれるアズライト。
深い深い森の闇が広がる。
ゆっくりと一歩を踏み出し、少しずつ早足になり、そして森の奥へと走り出す。
嘲り笑う者の声から耳をふさいで、果てしない闇の向こうへ


【アズライト】
【スタンス:さおりから離れる】
41名無しさん@初回限定:02/09/20 00:50 ID:mcnxTelO
【祭り】エロチャットが3時まで無料
1 :  :02/09/19 01:26 ID:uOejzjV4
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42病院へ行こう!(1):02/09/26 20:02 ID:nJzYjINK
「あ、あの」
私は勇気を振り絞って少し前を行く恭也さんに声をかけてみた。
少し上ずった声になっちゃった。
変な娘と思われなかったかな?
そう思うと体がぽっぽと火照ってきた。
そっと頬に手を当ててみる。
やだ、少し熱くなってる。
私に何か起こったと思ったのか、彼は小走りでこちらにやってきた。
「どうかしましたか?」
少し心配そうな顔をしている。
ああ、やっぱり優しい人なんだ。
心配かけちゃったかな?
でもね、違うんだよ、そうじゃなくて…
「あ、あ、あのですね。そのぅ、えぇ〜とぉ、
…その、あの……なんて言ったらいいのかな。だから…ですね。」
さっき彼に呼びかけたときの勇気はどこに行ってしまったんだろう?
いざ、口に出すとなるとひどく恥ずかしいことな気がする。
43病院へ行こう!(2):02/09/26 20:03 ID:nJzYjINK
この森はとても深くて、お月様の光も届かない。
星川さんと別れたあと、すぐにあの不思議な光は薄まってしまって、
今では真っ暗な森の中にうっすらと木の影が浮かんでいるという程度。
それだって時々お化けみたく見えて、「幽霊の正体見たり何とやら」、
分かってはいてもやっぱり…ちょっと気味が悪い。
でも恭也さんは夜目が利くみたいで、すいすいと森をゆき、少し進んだところから、
こちらです、そういって道案内をしてくれる。
それは嬉しいんだけど。
……やっぱり暗いのは怖いな。
「まだ、体が少し辛いですか?だったら……」
私が黙ったままもじもじとしていると、疲れているように見えたんだろうか、
彼は休むのに適した場所を探しすため、きょろきょろとあたりを見ながらそう言ってくれる。
やっぱり恭也さんはいい人だな、そう思う。
まだ出合ったばかりだけれど、この人について行ったら大丈夫。・・・でも、
「いえ、違うんです。」
私は慌てて首を振った、違うんです、そうじゃなくって・・・私は・・・
44病院へ行こう!(3):02/09/26 20:03 ID:nJzYjINK
何故だろう。
彼女はさっきから、僕と目を合わせようとしない。
何かまずいことでもしただろうか、
そう思い、彼女と出会ってからの自分の行動を振り返ってみる。
何もしていない・・・はずだ。
深夜の光の届かぬ森の中ですらはっきりと分かるほどに、彼女の頬は真っ赤になっている。
何だ、何が原因だ?
・(←考えている)





はっ…………………………なんてことだっ!!
俺の頬をツゥと音をたてて冷たい汗が伝っていったのが分かる。
そうか…そうだったのか……迂闊、あまりと言えばあまりに迂闊だぞ、恭也!
思えば彼女はあの時まで部屋を出ることも許されず監禁されていたのだ。
そしてつい数時間前にリュックの中に入っていた150ml入りの
ミネラルウォーターのペットボトル×2を飲み干し、
コッペパンを一本食べて、そして眠っていたのだ。
人間も、動物の一種だ。
…そして動物には、生理現象が、ある。
……あまりに…迂闊。
うら若き乙女に、何を言わせようとしていたんだ、俺は?
45病院へ行こう!(4):02/09/26 20:03 ID:nJzYjINK
「あの…仁村さん?その…遠慮しなくてもいいんですよ?
人間なら誰だってしていることですし、
それを恥ずかしがることなんてありません。
むしろ俺達が置かれている今の状況を考えれば、
そういうことはできる時にきちんとしておいた方が
…その…いいと思います。」
「うぅん…、でも…そんなこと、やっぱり恥ずかしい、ですよ。」
恥ずかしいことではない、とは言ったものの彼女だって年頃の女の子だ。
恥ずかしくないはずがない。もちろん、俺だって恥ずかしい。
うつむいたまま、彼女は口元に手を当てて目をそらしてしまった。
やはり切り出し方がまずかっただろうか?
だが、こういうことはストレートにいったほうが逆に気が楽になると思ったのだけど
・・・・・・また考えが甘かったのか?
心の中で頭をひねる俺を尻目に仁村さんはスゥッと息を吸って、深呼吸。
呼吸を整えて、俺の目をじっと正面から見据える。
決意を秘めた目だ。
大丈夫、俺は笑ったりなんかしない。
そして、彼女の唇が開かれた。
46病院へ行こう!(5):02/09/26 20:09 ID:nJzYjINK
「あの・・・恭也さん、一人だと怖いから、その…一緒に…」
い、一緒に、だって?
なんてことを言うんだ、仁村さん。
若い女の子がそんなこと言っちゃいけない。
ましてや僕らはさっき会ったばかりじゃないか。
確かにこの状況だ、あたりは暗闇だし、いつ何時襲われないともかぎらない。
だからといって、若い婦女子の、その、・・・・・・
「生理現象」の一部始終をすぐ側で眺めるなんてことは、
男として、いや人間としてできるわけがない。
ここは断固としてこの誘いは断らねばならない。
と、口を開いて断ろうとしたその瞬間、彼女もまたもう一度深呼吸して、口を開いた。
話しはじめた俺の言葉ももう止まらない。
「一緒に・・・私と一緒に・・・手を……つないで歩いてもらえませんか?」
「ええ、そうですね。一人でいくのは怖いでしょうけど…
さすがに俺がついていくのは少し・・・・・・・・・・・・・・・あえっ!?」
47病院へ行こう!(6):02/09/26 20:09 ID:nJzYjINK
もじもじと恥ずかしそうにしている彼女
…今、なんて言ったんだ?
一緒に歩いてほしい?そう言ったのか?
あまりのことに二の句がつげず俺は呆然と立ち尽くす。
「ウソ、ウソ、冗談ですよ?ごめんなさい。
急にそんなこと言われたって、恭也さんだって迷惑ですよね?
ホントーに、ごめんなさい。」
俺の沈黙を拒絶と勘違いしたのか、
仁村さんはパタパタと両手を振りながら慌てて先の言葉を取り消した。
「ああ……………手、手ですか?ハハ…」
体が力が抜け落ちて、膝に力が入らない。
笑い声がやけに乾いているのは気のせいだろうか。
……やはり俺は迂闊だ。まだまだ修行が足りない。
ふと彼女の方を見ると、大きな目を心持ち潤ませて
地面とにらめっこをはじめてしまっている。
きっと、こんな恥ずかしいこと言わなければ良かった、とそう思っていることだろう。
そんな彼女を見てこんな状況にもかかわらず、少し心が和んだように思う。
俺は不謹慎な人間だろうか?多分、そうだろう。
いずれにせよ、いつまでも彼女に恥ずかしい思いをさせているわけにはいかない。
二・三度頭を振って余計な考えを頭から追い出すと、
俺はズボンでごしごしと拭った手をしょんぼりしている仁村さんの方へと差し出した。

48病院へ行こう!(7):02/09/26 20:10 ID:nJzYjINK
【高町恭也(No8)】
【スタンス:魔窟堂と合流
      :力無き人を守る】
【所持武器:救急医療セット、小太刀、ポータブルMDプレィヤー】
【能力制限:膝の古傷(長時間戦闘不可)】

【仁村知佳(No40)】
【スタンス:恭也について行く】
【所持武器:不明】
【能力制限:超能力 (消耗中につき読心、光合成以外不可)
        疲労・小】
損にはなるまい。
2人の人間を手にかけた後、そう言った彼は無人の病院からショットガンを拝借して、
今はその軒先の花壇のような場所に腰を下ろしていた。
「フム、天才探偵たる私の推測によれば、だ・・・・・・」
そう言って、琢磨呂は顎に手を当て、あいた手でズボンのポケットをまさぐる。
「ああ、そういえば『アレ』は切れていたんだったな・・・」
煙草を切らしていることを思い出し、
なんとなく手慰みに取り出したライターの火を点けて、すぐに消した。
彼は病院前の花壇に腰掛け、目の前の二つの屍骸を眺めつつ、
現在置かれている状況から己のとるべき最善の行動について一くさり考えてみる。
シュボッ、という小気味良い音をたててふたたびライターに火がともる。
「重要なのは、私が勝利する、ということだ。
そのためには・・・・・・」
揺れるライターの火を眺めて呟く。
「私が生き残らねばならない、ということだ。
となると・・・・・・」
ライターの炎を最大にして、それをすぐに吹き消した。
「私以外の参加者諸君には、死んでもらわねばならない、とそういうことになるな。」
そこまで口に出すと、フム、と言って三度ライターの火をつけ、それを地面に置いた。
拾った枯れ枝で炎に照らされた地面に生存者の17の名前を書き出すと、腕を組みそれを見下ろす。
「さて、これまでに得た情報を鑑みるに、
おそらく現在残っているものたちのなかには私よりも身体的な条件に優れた者もいるだろう。
該当者は・・・・・・
ランス、高町恭也、魔窟堂野武彦、アズライト、アイン、
そしてなみとかいうロボット・・・いや、アンドロイドだったか?・・・ま、どちらでも良かろう。
で、このうち明確な意思を持ってゲームに参加しているのはランスとかいう男だけだろうが・・・
この六人に関しては消耗を待って奇襲、というのが妥当なところだろうか。
そして、さらに言うなら、最強の暗殺者ファントムが首輪を外されて野放しのまま、
というのは少々問題だが…、それもまぁ良かろう。
さて・・・ということは、だ。」
とりあえず、彼ら六人の名前の上にバッテンをつける。
「当然の帰結として彼らに同行しているもの達を襲撃するのもあまり得策では、ない。
つまり、ユリーシャ、アリス=メンディ、仁村知佳、
この三人もとりあえず後回し、だな。」
そう言ってさらに三つのバッテンを加えた。
「では翻って、知的に私を上回っているものだが……
フム、どうやら天才探偵たる私以上の「きれもの」はいないようだが…
まぁ、強いてあげるならば・・・・・・・・・
む、こいつの名前がわからんな、・・・36番、
…とにかく、私の得た状況から推し量るにこの女の仕掛けたトラップで既に二人は死んでいる。
やってやれんことはないだろうが、一つしかない命だ。
用心するに越したことはない。こいつも後回しだな。
そして、謎の人外グレン。
・・・どうやら宇宙人のようだが、やれやれ非常識もいいところだ。
さて、こいつもファントム同様首輪を外してどこにいるのか判然としないが、
まぁ、会話から察するにたいした男でもなかろう。」
君子たるものは危うきには近寄らんものだよ、などといいつつ沙霧とグレンの名前の上にもバッテンが描かれる。
「さて、あとの六人から決定したいところだが…
伊頭遺作、伊頭鬼作の伊頭兄弟に音信不通の16番…確か双葉ちゃんと呼ばれていたか、
そして、しおりとかいう小娘と広場まひる、高原美奈子…か。」
書かれていた名前を足でもみ消し、そこに候補者に挙げられた六人の名前を改めて書き出す。
「このうち、双葉、しおり、まひるの三人はどうやら奇妙な能力を持っているらしい。
まぁ、経験豊富な私がそんなことくらいで不覚をとるとも思えんが、念には念を、だ。
そして、無論のことしおりとともにあるこの男も、不可だな。」
四つの名前が消される。
「遺作、高原美奈子。」
残された名前を読み上げてみる。
「彼らは今のところ単独行動だ。
つまり、狙うなら今、ということでもある。
何だ、簡単なことではないか、この二人の探索および除去からはじめればいいのだ。」
ぽんと膝を叩くと、彼は花壇をあとにした。
かさかさと木の葉を揺らす夏の夜の生ぬるい風がポケットに手を突っ込んだまま立っている琢磨呂の髪をも揺らす。
風は幾分潮の臭いを含んでいて、ネットリと肌に絡みつく様だった。
今、彼は港に来ていた。
そして、目の前の血だまりとあたりに飛び散る肉片から、何かを探り出そうとしていた。
堂島薫、高原美奈子、広場まひる、松倉藍、ここには四人の人間がいたはずだ。
そして、この方角にこのような人間離れした芸当が出来るものはいないはずだったからだ。
しかし、目の前に広がる惨状を無視することは出来ない。何かがあったのだが・・・
フウゥ、と息を吐き出すと力なく首を振り、神ならぬ身だ、と呟いて推理を断念した。
(まぁ、こいつが手に入っただけでも良しとしておくか。)
月明かりを受けて鈍い光沢を放つM72A2を指先で叩くと
ベトナム戦線で数多の現地人を屠ってきたそれは、カンカン、という沈んだ音を返した。
血だまりから少し離れたところにあった無人の小屋の中にあったものを拾ってきたのだ。
その小屋は無人とはいえ、明らかな潜伏の痕跡があった。
情報から推すにターゲット高原美奈子達がいた場所に違いない、そう彼の灰色の脳細胞は結論した。
ターゲット・・・・・・彼は距離的な条件と捜索の効率、
敵との遭遇の可能性など合計30の条件を踏まえた上で
最初のターゲットに彼女、高原美奈子を選択したのだ。
「ここにはいない様だな。」
小屋の中にあったカレーライスを頬張りながら、彼は盗聴器のスイッチをひねった。
すると、腹をすかせた獣のような激しい呼吸音と、
それに続いて広場まひるの名を呼ぶ野太い声が聞こえてきた。
暗い夜道を琢磨呂は走っている。
目の前の風景が上下しながらどんどん後ろへと流れていく。
荒い呼吸の音と規則的な足音のほかは一切の音が聞こえない。
もちろん、広場まひるを探す声も聞こえてこない。
風は少し強めだ。
これだけ狭い島ならば風にのって聞こえてきそうなものだが、あいにくそんな声は聞こえてはこなかった。
「食後は少しくらい休憩した方が良いのだが・・・仕方があるまい。」
何といっても、このゲーム賭けられたのは彼自身の命である。背に腹は代えられない。
というわけで、彼は今「広場まひるを探す高原美奈子」を探している。
ズックに入った荷物はけして少なくはない。
盗聴器に他爆装置、奇妙な昆虫(心なしか体が軽いようだが?)に
コルトとショットガンとロケット砲、さらには彼の水と食料まで入っている。
それらをガサガサと揺らしながら暗い道を走るというのはそれなりに骨が折れる。
しかも彼が探す相手の居場所さえ定かではないのだ。
港をあとにした琢磨呂はとリ会えず道沿いに走りつづけ、古びた民家の間の石畳を飛ぶように駆け抜ける。
それはニコチンにやられた彼が体力の限界を感じて音を上げるまで、あと数分、というところだった。
54名探偵の静かなる電撃作戦(第一波)(6):02/10/03 22:31 ID:ORDvCMqX
はたと、彼は走るのはやめた。
「ハァハァ、これは・・・非効率的だ。
それにこのように肉体を酷使するのは・・・ハァハァ、天才たる私にはふさわしくない。天才は常に華麗でなくてはな。」
額の汗を拭うとミネラルウォーターで口を湿らせる。
「よし、水分補給完了。・・・さて、簡単な推理だぞ琢麻呂君?
どのような難事件をも解決してきた君ならば、彼女の行動を推理するくらいはたやすいことだ。」
手櫛で乱れた髪を整え、襟をただし、呼吸を整える。
シュボッ、という音を立ててライターに火が点される。
「こういうとき、犯人はどういう行動をとる?
つまり、何らかの探し物があり、どうしてもそれを発見せねばならぬ、という場合だ。
百戦錬磨の私の経験則から言えば・・・」
「犯人は現場に戻る!」
盗聴装置の電源をオンにしてみると、
案の定激しい息遣いの向こうからかすかな波の音が聞こえてきた。
フフン、炎をかき消すと、顎に手を当てた名探偵は不敵な笑みを浮かべた。


【海原琢磨呂】
【現在位置:病院北東】
【所持武器:他爆装置、素早い変な虫、スパス12
:首輪盗聴器、COLT.45 M1911A1 ccd(予備マガジン×1)】
55名無しさん@初回限定:02/10/03 22:34 ID:Mgj23BV7
56mi:02/10/04 01:57 ID:KmKd6+xx
バトロワ2ってどうなるんだろう…
途中で死んだりするなよガン監督!
57奴隷女子学生(1):02/10/13 03:20 ID:0cqYEMV1
(13度目)
「・・・・・・あうぅう・・・」
甘ったるく悩ましげな吐息にまじって、獣のうめき声のような不気味な声が聞こえる。
夜の暗がりの中、女の白い喉が月明かりを受けてほのかに浮かび上がる。
ほんのりと桜色に染まった肌から輝く汗の粒が舞う。
せわしなく上下する肩の動きにあわせて、
心地よい香りを纏わせた女の髪が閉じたり開いたりを繰り返す。
そして粘膜の擦れあう淫靡な音がする。
「なかなか、面白いトラップだったがなぁ、
この俺を狩るにゃぁ、ちぃっとばかり工夫が足りなかったな、んん?」
腰の動きを止めた声の主は、血色の悪い歯茎を剥き出しにして下卑た笑いを浮かべる。
毛むくじゃらの節くれだった左手が大理石のように滑らかな女の乳房をいやらしく這い回る。
女はいいように体をまさぐられながらも、自分の腹の下の男に鋭い眼光を投げかけた。
隠そうともしない殺意がみなぎらせたそれを男は正面から見返し、
ふふんと、鼻を鳴らすとふたたび悠然と腰を動かし始めた。
激しい動きに艶めいた声をあげ、女の瞳がふたたびどろりとした情欲に呑まれた。
快感に女の腹がヒクヒクと波打つ。
六時間の間、男は休むことなく女の性器に自分の性器を埋没させつづけている。
六時間の間に、女の中に12度吐き出し、15度女に気をやらせた。
超男性、とでもいうのだろうか。
男のそれはいまだ萎えることなく、その硬度を失うこともなく、女の肉をかきまわしつづける。
嬌声を上げつづけさせられた女の声は少しかれていた。
「そらそらそら、夜はまぁだまだ続くんだぜぇ。
きっちりと仕込んでやるからよぉぉ、安心しなぁぁぁぁぁぁぁっ」
まるで疲れを見せない男はひときわ深くつきこむと、13度目の射精をはじめた。
「イヤァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッ!!」
女の悲痛な声が神社の境内に響き渡る。
58奴隷女子学生(2):02/10/13 03:20 ID:0cqYEMV1
(27度目)
「ハァハァ・・・ンッ・・・アッ・・・」
真っ赤に染められた手ぬぐいを肩にかけた男――伊頭遺作――は
自分の体の下に組みしかれてかわいらしく身悶える女を見て、満足そうに笑った。
後ろから女の尻に腰を打ち付けるたび、雪のように白いそれが激しく揺れる。
パン、パンという肉と肉のぶつかり合う音と、ニチャッ、ニチャッという水音が心地よく耳をくすぐる。
「やだ、もう・・・・・・うごかさないでぇ・・・でないと、わたし、わたしぃ・・・」
「へっ、やめてほしけりゃ、俺が枯れるまで頑張るこったぁ。
と言ってもぉ、お前の中は具合がいいんであと十回は堅いがなぁ。」
女の哀願を一蹴するとペニスを膣壁の襞ににこすりつけるように大きくグラインドさせる。
「んぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ、も、もう・・・ダメ、またくるぅ・・・くるくるくるくるぅぅっぅ!」
ひときわ高い声で鳴くと、女は犬のような恰好で犯されたまま荒い息をついた。
「くぁぁぁぁぁぁ、い〜いしまりだぁ。」
遺作は唇を震わせて絶頂時の収縮に耐えた。
やがて弛緩をはじめ、ビクッビクッと小刻みに痙攣する女の尻を左手で固定し、ピストン運動を再開した。
「俺はいったばかりの女の穴の具合が一番すきでなぁ。ククククク、悪いがもう少し使わせてもらうぜぇ?」
59奴隷女子学生(3):02/10/13 03:21 ID:0cqYEMV1
「やだぁ・・・、いった・・・ばか・・・りだか・・・ら、キツ・・・イ。お願いだから、ひうぅ・・・うごか・・・ない・・・でぇ。」
「悪いがその相談にはのれねぇなぁ。言ったろう?俺に動くのをやめてほしけりゃぁ、だなぁ・・・」
パァン
遺作の左手が女の尻を打ちつけると、そこにもみじの葉のようなあとが残った。
「せいぜい、ゆるゆるにならねぇよぉにしっかりと締め付けて俺を逝かせるこったぁ。」
遺作は女の淫核に爪をたて、長い舌で女の汗と涙に塗れた女の頬を舐めまわす。
「ヒィッ、ンァッ・・・・・・やめて、そんな・・・ところ、つまま・・・ないでぇ。」
強すぎる刺激に身をわななかせるときに広がる甘い女の匂いが、遺作のペニスをますます昂ぶらせた。
「アァン、ウウゥンンン。あぁ、やだ、やだぁ。また・・・中でおっきく・・・なってるぅ。
もういやぁぁぁぁぁぁあぁぁ。」
絶頂を迎えたあとの余韻を残した彼女の体は小さな刺激にも敏感に反応する。
遺作は深く浅く、強く弱く、巧みに女の静観を刺激し快楽を引き出していく。
「ああん、んっ、いや、また、いく。いっちゃうぅ。
さっき・・・、言ったばかり、なのにぃ、また、またぁ。」
「お望みの精液だ。しっかりと受け取れよぉ。」
女の子宮口を叩きながら、遺作は叫ぶと21度目の射精をはじめた。
断続的に、薄汚い臀部を震わせながら20度を超えてもいまだ薄まることのない白濁を注ぎ込む。
約20秒間にわたって射精を続け、やがて吐きだし終ると萎えかけた一物をふたたび前後させ始めた。
60奴隷女子学生(4):02/10/13 03:21 ID:0cqYEMV1
(39度目)
凌辱が始まってから数時間、一度も乾くことのなかった結合部からは
精液と愛液の交じり合った白濁液が止めどもなく溢れ出している。
「どうだ、気持ちよくなってきたろうが?
女なんていうのはなぁ、こうして男に奉仕して性欲を処理するために存在するんだ。
女の悦びを知った今なら分かるだろう?」
「ふ、ざけるな・・・私は・・・んぅっ!?
そんなところ、さわら、ないでっ。」
セピア色のすぼまりを親指の腹で撫でられると女の抵抗の意志はあえなくくじかれてしまった。
(・・・まぁだ、仕込み足りねぇようだなぁ。
俺は明日までに「アイン」とやらをひっつかまえて、そいつの仕込みもやらなくちゃ、なんでなぁ
そろそろ、ケリ、をつけるとするか?)
黙々と性器を擦りつけ続けていた遺作は正常位で貫いていた女の体を抱きかかえると、
結合をとくことなく騎上位へうつり、そして腰の動きを止めた。
(くくく、絶景かな、絶景かな、てかぁ?)
目の前でフルフルと肉の悦びに震える可愛らしい乳首が揺れる。
61奴隷女子学生(5):02/10/13 03:25 ID:0cqYEMV1
「えっ・・・?」
女は戸惑いの声をあげた。
「・・・なん・・・で?」
「どうした?」
「・・・・・・・・・・・・」
遺作は無言で小刻みに体を揺らしつづける女の腰を片手で抑えると、
「言いたいことがあるなら、言ってみろ。」
遺作の上に跨りむずむずと腰を蠢かせる女は、
遺作の胸のうえに細い両の手をついた。
その手が少し震えているのがはっきりとわかる。
クタリと倒れてきた彼女の火照った頬が遺作の鎖骨にもたれかけさせられる。
ハァハァ、と熱っぽい吐息を繰り返す女の髪が胸のあたりに広がり、
女は何かを求めるようなネットリとした視線を向けてきた。
「そうか、何も言いたくねぇんなら、仕方がねぇよなぁ。」
「ウソ・・・よ・・・、どう・・・せ、いわなくったって・・・・・・続ける・・・くせ・・・にっ。」
「そう、思うのか?」
今度は遺作が女の瞳をじっと見つめた。
「本当にそう、思うのか?」
そう言って、じっと女の目を見たままで遺作はすこし腰を引いた。
視線を外すことなく、何かを探るように少しずつ、少しずつ。
女の汗ばんだ腹部がわななくのを感じながら。
「うあ・・・ぁあぁ・・・・・・・・・メェ」
遺作はニタリと笑った。
62奴隷女子学生(6):02/10/13 03:26 ID:0cqYEMV1
「どうした、何か言いたいことがあるのならはっきりと、もう一度、言ってみろ。」
劣情に真っ赤に染まった女の目を見ながら、浅い部分で腰を揺らしてやる。
「して・・・くだ・・・さい。」
目をそらしてくやしそうに唇をかみ締めた女が小さな声で言った。
「ぁあああん、なんだってぇ?最近は俺もめっきりと年をとってなぁ。
何をどうしてほしいのかはっきりと言ってもらわんと、聞こえねぇなぁ。」
「動かして、ください。」
「何を動かしてほしいんだ?
具体的に言ってもらわねぇとボケ老人にゃわからねぇなぁ。」
「わた、しの・・・んこ、をあな・・・の・・・・で突いてくだ、さい。」
「聞 こ え ね ぇ 。」
ぴたりと動きを止めて女の白く狭い背中に向かってそう言うと、
女は観念したかのように大きな声で叫んだ。
「私のオマンコをあなたのオチンチンで突いて、突いてめちゃくちゃにしてください。お願いします。」
「よく言った!!」
これまで静止していたぶんを取り戻そうとするかのように、
遺作は猛然と腰をたたきつけ、女は獣のような声をあげてふたたび絶頂へと押し上げられた。
「腎虚になるまで、可愛がってやるからよぉ。安心しな。」
耳の穴に舌を這わせながら、遺作は囁いた。
63奴隷女子学生(7):02/10/13 03:26 ID:0cqYEMV1
(51度目)
「言ってみろ、お前は何だぁ、ンン?」
「わたッ、私は・・・あぅぅ・・・あな、あなたの・・・」
「遺 作 お 兄 さ ん 、だ。」
「・・・い、遺作・・・お兄さん、のぉ・・・精・・・・・・・・・ための・・・・・・です。」
「よく聞こえねぇなぁ。俺様のなんだってぇ?」
女は羞恥のために眉をひそめ、それ以上口には出せなかった。
「・・・言えねぇなら、お仕置きが必要だなぁ。もう一発中だしだぁ。」
遺作は浅く深くゆるゆると腰を前後させながら、女の豊かな髪の中に顔をうずめて、そう言った。
「もういやぁぁぁ、言うから、言いますから。もう、中に出さないで。」
「出さないでくださいだろうがぁ」
「出さないでください。お願いだから、中には出さない、ください。
顔でも口でも何処でも好きなところに出していいですから、中だけは許してください。」
64奴隷女子学生(8):02/10/13 03:26 ID:0cqYEMV1
「へっ、やればできるじゃぁねぇか。
いいだろう。もういっぺんだけチャンスをやろうじゃぁねぇか。お前はこの俺のなんだ?」
顔を上げた遺作は表情こそ笑っていたが、その目は笑っていない。
「んんっ・・・ハァ・・・わた、し・・・は、遺作、お兄さんっのぉ・・・・・・
精・・・液を、処理するための・・・・・・便所です。
どうか、この肉穴を存分にお使いになって、性欲・・・を処理、してください。」
「そうか、だったら、そうさせてもらうかぁ」
そう言って、激しいピストン運動を再開させた。
両手で女の形の良い胸を揉みしだき、体中を舐めまわす。
女の瞼、女の唇、女の耳朶、女の喉、女の腋の下、女の鎖骨、女のみぞおち、女の・・・・・・
貫いたまま幾度か体位をかえると程なくして、遺作は何の前触れもなく、女の中で果てた。
「やだぁ、中で出てるぅ。出さないって、言ったのにィ」
「ヘッ、使い古された台詞で恐縮だが。
「お前のあそこが嬉しそうにくわえ込んではなさない」からよぉ、仕方がねぇよなぁぁ。」
満足げに笑うと、遺作はペニスを抜き取った。
ぱっくりと開いた女の性器からは、コポリコポリと黄色い精液が次から次へと溢れ出していた。
65奴隷女子学生(9):02/10/13 03:32 ID:0cqYEMV1
(68度目)
小柄な女の黒い髪に顔をうずめ、臭いを嗅ぎ、それを口に含めて唾液を絡ませた。
腰をつかまれて振り回されるように上下させられる女の口からは数十分前から喘ぎ声しか漏れてこなくなっている。
射精される瞬間だけ、美しい眉根を少しゆがめるだけで体の力も抜けきっている。
「こんなにがばがばじゃぁ、いつまでたってもおわらねぇぞ。もっと締めるんだよぉ。」
そう言って、尻を叩くとその瞬間だけ、わずかに肉の壺に力がこめられる。
彼女の性器から溢れ出した精液が彼女の腹や尻をいやらしく光らせている。
遺作は女の腋の下を舐めた。
女の汗の臭いを胸いっぱいに吸い込んだ。
女の舌と己の舌とを絡めながら、68度目の射精をした。
女の体で、彼の唾液が塗りこめられていないところはなかった。
女の性器は繰り返される射精とピストン運動のため、隅々まで精液が塗りこめられていた。
いまや女からは遺作の精液の臭いしかしなかった。


5時間にわたって続けられた凌辱。
遺作は抜かず79発の新記録を達成し、そこでようやくメス犬調教の完成を実感した。
66奴隷女子学生(10):02/10/13 03:32 ID:0cqYEMV1
(これで79度目の射精・・・、マルクイユさんは・・・82度でしたか?)
たった今フルマラソンを終えたかのように、女は指先一本動かすことが出来ないでいる。
体は動かなかった。
しかし、まるで先の凌辱などなかったかのように女――月夜御名沙霧――の思考は氷のように覚めていた。
彼女の隣には眠る遺作がいる。
(この男が性欲にとらわれているような御しやすい男でよかった。)
1つの積極的要素を見つけ、フフフ、と短く笑った。
そして、彼女はこれからのことを考えることにした。
これからのこと・・・・・・
この状況下から、いかにして反撃を開始するか。
(あれだけのトラップを潜り抜けてくる人間がいるとは思いませんでした。
このゲームの参加者達に対する認識を改める必要がありますね。
少なくとも、現在まで生き残っているものたちについては、
この男と同等かもしくはそれ以上の危機回避能力を持っていると見つもったたほうが無難でしょうか。
そうなると、さて・・・問題は・・・・・・・・・)
謀計・奸計を好む彼女の頭脳が回り始めた。
67奴隷女子学生(11):02/10/13 03:43 ID:0cqYEMV1


【伊頭遺作】
【現在地:神社】
【スタンス:1、アインの捕獲
       2、女の捕獲
       3、優勝】
【所持品:薬品数種、メス】
【備考:被曝、右腕喪失、身体能力↑】

【月夜御名沙霧】
【現在地:神社】
【スタンス:遺作への反撃】
【所持品:対人レーダー】
68再会(1):02/10/18 02:55 ID:6iKZRcAh
>13
(第二日目 AM00:00)

アインを探していた魔窟堂は、
森の中であるにもかかわらずなぜか四方八方から飛んでくる放送の声をいぶかしみながらも、じっとそれに聞き入っていた。
「ゲーム開始からちょうど24時間が経過した。
それでは死亡者を発表する。
7番、堂島薫 17番、神条真人 19番、松倉藍
22番、紫堂神楽  32番、法条まりな
以上5名が死亡だ。」
「!!」
69再会(2):02/10/18 02:55 ID:6iKZRcAh
「クゥゥッ・・・」
女の声で告げられたどこかしら無機質な定時放送を聞いた魔窟堂野武彦は
声にならないうめきを漏らすことしか出来なかった。
「神楽殿、藍殿、まりな殿・・・」
加足しつづける彼の胸のうちに、もう二度と戻ってはこない者たちの顔が、
ついさっきまで顔を付き合わせ、話をし、互いに生きて帰ることを約束したものたちの、
あるいは救うことが出来たかもしれなかったものたちの顔が次々に浮かんでは消えていった。
「儂は・・・いつだってそうなんじゃ・・・・・・」
手の隙間から零れ落ちる砂を見るかのように、
魔窟堂野武彦はいつも何かが零れ落ちていくのを見ていることしか出来なかった。
自分はいつも部外者だった。
舞台の中心にいながら、いつだって自分は遅かったのだ。
魔窟堂野武彦は主役ではない。
そんな自分が歯痒く、そして情けなかった。
星川、エーリヒ、まりな、神楽、藍・・・、彼の側を通り抜けていったものたちも、
自分がヒーローであったならばあるいは・・・・・・。
けれど、いつだって、ヒーローにはなれなかった。
「若人の命をあたらむなしくはさせんと、心に誓ったはずじゃのに・・・儂は・・・儂はッ。」
腹のそこから何かを絞りだすように吐き出す。
それでも足を休めることなく。魔窟堂は走りつづけた。
そして、自分がヒーローではないからこそ、ヒーローに憧れつづけるということも、彼にはわかっていた。
だから、走りつづけた。
70再会(3):02/10/18 02:56 ID:6iKZRcAh
(第二日目 AM02:00)

「ぬっ?」
放送から数時間、残像をひきずりつつ走っていた魔窟堂はぴたりと足を止めた。
遠くに人の足音を聞いた気がしてあたりの音に耳を済ませた。
彼の耳には、ざわざわと、風に吹かれた木の葉がこすれ合う音のほかには何の音も聞こえてはこない。
「ふぅ、・・・気のせい、かのぅ。年をとるとどうも神経質になっていかんのう。」
誰にこぼすでもなく、魔窟堂は呟いて、汗で少し湿り気を帯びてきた頭をかいた。
所々にほころびのある服の袖で汗を拭う。
(それに、涙もろくもなった・・・)
顔に残る涙のあともそっと一緒に拭いさった。
「やれやれ、年寄りは湿っぽくていかん。
さて、先を急がねばな。」
気を取り直すため言ってみて、どうやら独り言も多くなってきたらしいのう、と苦笑したとき、
ガサガサッ
「!?」
背後の茂みが少し揺れて、やがておさまった。
(こちらの様子をうかがっておるのか?)
息をつめ、レーザーガンのトリガーに指をかけ、じっと待つ。
心臓の音がどんどんと大きくなっていく気がする。
銃把を握る手がじっとりと汗ばんできても、相手も動く気配を見せない。
(これでは埒があかんのう。これ以上の犠牲者を出さんためにも・・・急がねば、な。)
「そこの茂みに隠れているもの。わしの名は魔窟堂野武彦。こちらには戦う意志はない。
意志はない、が10数えるうちに姿を見せんのなら、遠慮なく撃たせてもらう。」
71再会(4):02/10/18 03:05 ID:6iKZRcAh
ガサァッ
生い茂る草を掻き分けて出てきたものの姿を認めて、魔窟堂は構えていたレーザーガンを懐に収めた。
「なんじゃ、アイン殿か。
・・・・・・ずいぶんと、探したぞ。」
そう、とだけ短く答えてふたたび走り出そうとするアインの肩をつかんだ。
「何処へ行く、まだ話は終っとらんぞ。」
「話なんてないわ。その手を離して。」
「神楽殿と、藍殿が・・・死んだ。」
「知ってるわ、放送は聞いていたから。」
表情を変えることなく、平然とアインは答えた。
まるで何ごとも起こらなかったかのように、西の空に太陽が沈んだと聞かされたかのように、平然と、
アインは全く相好をくずすことはしなかった。
「どうしてじゃ、どうしてそんなに冷静で入られる?死んだんじゃぞ?
一時のこと、短い期間のことだったとはいえ、仲間だったものたちが、死んだんじゃぞ。
なのに・・・、なのにどうして、おぬしは・・・・・・」
「どれだけ涙を流しても、どれだけ心から血を流しても、死者は蘇りはしないわ。」
72再会(5):02/10/18 03:05 ID:6iKZRcAh
「ぶわっかもん!」
パァン、深夜の森に乾いた音が響き渡る。
「・・・遥殿には気の毒なことをした。
おぬしがそのことを気に病むのもわかる。
わかるがの。
何故、一人だけ抜け出していってしまったんじゃ。
神楽殿たちも、儂らさえ病院におったらば・・・あるいは・・・救えたかもしれん。
おぬしだけの責任にするつもりはないがの、アイン。
藍殿も神楽殿も・・・彼らはもう・・・」
アインの頬を打った自分の手が震えているのを眺めながら、魔窟堂は声を詰まらせた。
それでも、暗殺者の少女は何も言葉を発さなかった。
「フフ・・・」
「何を・・・笑っておる。」
「いいえ、なんでもないの。病院へ帰りましょう。
ただ・・・」
いささか憮然とした表情の魔窟堂を見る彼女はもう、いつもの無表情な彼女に戻っていた。
「ただ、これだけは覚えておいて。
ファントムにはファントムのやり方がある。」
魔窟堂の瞳を覗き込むようにしてじっと見つめてそういうと、病院の方へ向かって足早に歩き始めた。
残された魔窟堂はふたたび溢れ出してきていた涙を拭うと、ぽりぽりと頬を掻きつつも彼女に続いた。
73再会(6):02/10/18 03:07 ID:6iKZRcAh
【魔窟堂野武彦】
【現在地:東の森】
【スタンス:病院へ向かう】
【所持品:レーザーガン、スパス12】

【アイン】
【現在地:東の森】
【スタンス:病院へ向かう
       素敵医師の殺害】
【所持品:メス】
【備考:首輪解除済み】
74覚醒(1):02/10/28 00:37 ID:nNpIR9TA
(えへへ、やわらかーい・・・)
しおりは誰のものかわからないきめ細かくなめらかな太股に頬を擦りつけた。
長い栗色の髪の下にあるそれからは、ふんわりと甘いミルクのような匂いがする。 
いつもの匂いだ、しおりは少し笑った。
(し・・・おりちゃん。しおり・・・ちゃん?)
匂いの主の優しい声が聞こえる。
これもいつもの声だ、そう思うとしおりは安心できた。
優しくて、懐かしい人の声。
けど、心地よいまどろみを邪魔されたしおりはむずがるように少し身をよじった。
(起きて、しおりちゃん。起きないと・・・)
(うーん、まだ眠いよ、さおりちゃん・・・ほら、お外だってまだ真っ暗だよぉ?)
太陽の光もなく、真っ暗なあたりを満たしおりは
膝枕をして自分の頭を撫でてくれている双子の妹に少し非難するような声でそう答えた。
まだ少しぼんやりした顔をしている姉の顔見て、さおりは表情を和らげた。
そして、髪の毛をすくように撫でながらさとすように言った。
(うん、真っ暗だね。でもね、起きないと。)
(どうしてかな・・・私なんだかとっても疲れてるの。
そーだ、さおりちゃんも一緒に寝よう、ね?)
(・・・一緒に眠りたいけれど、ダメだよ。)
(どうして?一緒に寝ると、きっととっても気持ちがいいよ?)
しおりがそう言っても、いつもは元気なさおりは曖昧に笑うだけだった。
75覚醒(2):02/10/28 00:38 ID:nNpIR9TA
(ほら、起きて、行かなきゃ、ね?)
(うーん、どうしても行かなきゃダメかな?)
(うん、ダメ、だよ。)
少し小首をかしげて、慈しむように目を細めてやわらかく笑った。
そして悪戯っぽくさおりはこう付け足した、
しおりちゃんが起きて、今度は私がゆっくりと眠るんだから。
(えー、ずるいな、さおりちゃん。私ももっと寝てたいな?)
(うふふ、ダメだよ。しおりちゃんは行かないと。行かないと・・・)
さおりの表情が少し曇ったのを、しおりは見逃さなかった。
(どうしたの?行かないとどうなるの?)
おっとりとした声でしおりは聞く。
(ウウン、なんでもないの。ほら、しおりちゃん、起きて!行かなきゃ、だよ。)
(うぅぅ、わかったよ、さおりちゃん。)
眠そうに目をこする姉を見て、さおりは満足そうに笑った。
(・・・そうだよ、起きて、・・・行かなきゃ、ね?)
とぼとぼと歩いて行くしおりの背中を見送るさおりの目から、涙が溢れる。
(また・・・大切な人がいなくなっちちゃうよ?)
76覚醒(3):02/10/28 00:39 ID:nNpIR9TA
「えへへ、おにーちゃんの匂いだぁ。」
目覚めたしおりは自分を包んでいるコートのにおいに
アズライトのにおいを見つけて嬉しそうに耳をパタパタさせた。
「う、うーんんんん」
可愛らしく伸びをすると、しおりはあたりを見わたした。
「あれ?」
一瞬、状況がよく飲み込めなかった。
「おにーちゃんが・・・いない?」
しおりには少したけの長いコートだけが残されている。
目覚めた直後のこわばった体をほぐしながら焚き火の周りを少し歩いてみても
やはりアズライトを見つけることは出来なかった。
「あの・・・おじさん?」
ちょうど焚き火を間にはさんで正反対のところに木の幹にもたれかけたまま眠っている鬼作に声をかけた。
よほど深く眠っているのだろうか、返事はない。
「あのっ!」
しおりはどうしようかと一瞬ためらったが、少し大きく息を吸って、もう一度鬼作を呼んだ。
「・・・・・・聞こえておりますよ。さおりさん?」
そのままの姿勢で、片方だけ目を開いた鬼作が寝起きのせいか異様に低く聞こえる声でそう言った。
77覚醒(4):02/10/28 00:46 ID:nNpIR9TA
「あ・・・、ごめんなさい。」
鬼作の機嫌を損ねたと思ったのか、しおりはしゅんとなって、手に持っていたコートをきゅっと握り締めた。
「おじさんは・・・あんまりですなぁ。で、何か御用ですかな?」
まだ低いままの声の鬼作は、身軽に立ち上がるとしおりに近づいてきた。
「あ、ごめんなさい。
それで・・・あの・・・おにーちゃんは・・・どこですか?」
ためらいがちにしおりがたずねる間に、どんどんと鬼作はしおりの方に近づいてくる。
ああ、アズライトさんですか、と答える鬼作はもうすぐ目の前にたっているが、
しおりはその顔を見ることが出来ず、少し顔をそむけた。
「アズライトさんでしたら・・・」
ポン、と肩に置かれた毛だらけの手に少し身を震わせる。
鳥肌が立ち、膝が震える、とてもいやな感じがした。
目の前に立つ男の顔は逆光で真っ黒だった。
赤い口腔と黄色い歯だけが不気味にその中に浮かんでいた。
「おにーちゃんは、どこですか?」
うつむいたまま、同じ質問をもう一度くり返す。
なめるような視線がまとわりついているのがわかる。
「アズライトさんなら、焚き木を拾いにいかれましたよ?
そういえば、まだ帰ってきておりませんねぇ。」
「!!」
78覚醒(5):02/10/28 00:50 ID:nNpIR9TA
目の前に立っている中年男への嫌悪感は、その一言で吹っ飛んだ。
鬼作の手を振り払うようにしてきびすを返すと、しおりは森のほうへと駆け込んだ。
背後から鬼作が何ごとかを叫んでいるが、それどころではなかった。
時折ちくちくと枝や葉が肌をさすがそんなことはもう気にならなかった。
(おにーちゃん・・・もう、ひとりはいやだよぉ・・・)
凶の足は速い。
どこまで行けども緑ばかりのまわりの景色が矢つぎばやに次々と変わっていく。
どこにいるのかはわからなかったが、それでも全力で走った。
そうしていないと変になりそうだった。
コートを持っている部分だけが妙に熱かった。
いつのまにか涙が溢れ出してきていたから、
横の茂みから突然あらわれたものに対する反応が少し遅れてしまった。
(おにーちゃんいないのに・・・探さなくっちゃいけないのに・・・こんなときに・・・)
走りながら左に持っていた日本刀に手をかけた。
突然の来訪者はつかず離れずの距離をたまったまま、ずっと後をつけてくる。
(ダメ・・・にげられない・・・)
足を止めると向き直った。
相手も足を止めてこちらを見ている。
「おにーちゃんを探さなきゃいけないの。邪魔、しないでください。」
しおりはそう言い放つと、無言で刀を抜いた。
少しはなれたところから、来訪者はそれをじっと見ていた。


79覚醒(6):02/10/28 00:51 ID:nNpIR9TA
【しおり】
【現在地:西の森】
【スタンス:アズライトを探し出す】
【所持品:日本刀】
【備考:凶;発火能力+身体能力↑】
80名無しさん@初回限定:02/10/31 01:28 ID:MnFTQAkc
保守
81機械仕掛けの鼓動(1):02/11/04 04:06 ID:n+iQdCPk
カキィィン、カキィィィン
森の中に剣戟の音が響き渡る。
(しおりちゃん、右だよ、避けてっ!)
頭の中に妹の声が聞こえて、しおりは左側に飛び退った。
右腕のあたりにちりちりとした感覚が通り抜ける。そして・・・
ギュゥゥゥゥゥゥゥゥゥンッ!!
たった今まで立っていた場所にチェーンソーの刃が深々とめり込み、巻き上げた土砂を勢いよく飛ばしまくる。
「また避けられたっ?でも・・・今度こそ外しません。」
相手の行動予測のプログラムを書き換えながらなみは
ともすれば電子音にも聞こえる、やや舌足らずな声で呟いた。
そして、ふたたびチェーンソーを振りかぶって、ロック・オンされた小柄な標的に向けて振り下ろした。
「あなたを倒して、アズライトさんも倒して、
みんな倒してなみはご主人様のところに帰るんですっ。」
ブゥゥゥン、モーターの回転音も高らかにやたらとチェーンソーが振り回される。
しおりはあたりの小枝や木の葉をなぎ払いながら切りつけてくるのを先ほどから避けつづけていた。
あるいは飛んで避け、あるいはスウェーして避け、あるいは刀の背で受け流したりしながら相手の攻撃をあしらう。
かわし続けてはいるもののしおりは、先ほどから妹の声に何度も窮地を救われている。
今だってさおりの声が聞こえなければ、右肩あたりにチェーンソーが喰らいついていただろう。
そう思うと、一人ではない、ということはひどく頼もしく思えた。
(絶対、おにーちゃんにもう一度あうんだから!ねっ、さおりちゃん?)
82機械仕掛けの鼓動(2):02/11/04 04:06 ID:n+iQdCPk
ヒュゥンッ!!
なみに向かって、抜き身の日本刀を一閃させる。
カキィィィン!
また、森に硬い金属質同士がぶつかり合う剣戟のような音が響き渡る。
「クッ、やっぱりダメ。」
「そんな普通の刀じゃ、なみの体には傷一つつけられませんよ?」
金属の口が一瞬笑った気がした。
「ッッ、負けないんだからぁっ!!」
(でも・・・どうしたら・・・)
目の前にいる敵は、ひどく硬い。
未知の光沢を放っているそれはおそらく鉄ですらない。
幼いしおりにも、敵が日本刀の刃を通さないであろうことくらいは予想できた。
チェーンソーの刃が目の前をかすめ、前髪を数本切り取っていく。
防戦一方の悩むしおりをなみが嘲笑った。
「無駄です。あなたになみは倒せません。
だから、なみが勝ちます。
そして、なみはご主人様とところに帰るんです!
邪魔を、しないでくださいっ!!」
相手の硬い体を何とかする方法を考える間にも、
刃渡り一メートルあまりのチェーンソーが激しい回転音とともに四方八方から切りかかってくる。
そのスピードのあまりに残像を引きずってくる斬撃。
しおりはそれを何とかかわしきり、
最後の一振りも髪の毛一筋ほどの差で身を翻し、大きく飛び退った。
「アッ!」
83機械仕掛けの鼓動(3):02/11/04 04:07 ID:n+iQdCPk
声をあげたしおりの目には、ふわふわと空気に舞う布切れが揺れている。
ひどく長いあいだ空中を漂っているように見えたそれは、やがて静かに土の上に落ちた。
「おにーちゃんの・・・お洋服・・・」
しおりは呆然として呟き、信じられない思いで鞘を握ったままの自分の左手を眺める。
そこに抱えていたアズライトのコートの一部が引きちぎられたように切り取られている。
立ち尽くすしおりになみが風をはらませつつ迫る。
「戦いの最中に、よそ見しちゃだめですよっ?」
動きがぱたりと止まったしおりに勝機を見て取ったなみが一気に間合いを詰める。
その距離・・・・・・・・・3m!

(しおりちゃんっ、こんなときに止まっちゃダメだよ。しおりちゃんっ!!ねッ、動かなきゃ。)
心の中で、さおりが叫ぶ。

機械とは思えぬ素早い動きでさらに踏み込んでくる、なみ。
残り2m!

(しおりちゃん。しおりちゃん。お願いだから動いてっ!
このままじゃ、このままじゃ、しおりちゃんまで・・・)

1m
一瞬の隙を見逃さず、チェーンソーの凶悪な刃が十分に届く距離にまでなみは駆け寄ると、
悄然と立つ少女の脳天に向かって悠々ととどめの一撃を振り下ろした。
「これで終わり、です!
この勝負、なみがもらいましたっ!
待っててください、ご主人さまっ!なみは必ず帰ります!!。」

(しおりちゃんっ、ダメェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェッ!)
84機械仕掛けの鼓動(4):02/11/04 04:08 ID:n+iQdCPk
ボンッ!!
地味な破裂音がした。
「!!」
(温感センサーが反応?何です?)
センサーの「誤動作」が一瞬なみをためらわせた。
「けどっ、このままいきます!待っててください、ご主人さまっ!!」
そのとき、なみの聴覚センサーが目の前の少女の声を拾った。
「絶対に・・・許さないんだから・・・」
ふたたび金属の骸骨は笑った。
「許すも許さないも、この距離ならなみの勝ちですっ、絶対です!!」
なみが叫んだ。
チェーンソーが装着されている右手は止まることなく振り下ろされている。
小さな頭のすぐ側まで迫っている。
そして、肉が裂け、血が噴き出し、脳漿が飛び散る。
なみの演算では、99.99%そうなる。
しかし、
振り下ろされた右手は、むなしく宙を切った。
しかも、正確には宙を「切って」さえいなかった。
なみの体に振動を伝えてくるチェーンソーの刃は紅蓮の炎に焼かれ、
その半ば以上が溶けたバターのように曲がっている。
「え?」
「絶対に許さないんだからぁぁぁぁぁっ!!」
予想外のことに戸惑うなみ、なみを見据えて叫ぶしおり。
そして燃えさかる炎に包まれたチェーンソーの刃は跡形も残さずに溶けて消えた。
85機械仕掛けの鼓動(5):02/11/04 04:16 ID:n+iQdCPk
(まずい、まずいです。いやな予感がします、ご主人様。)
突然の形勢逆転に混乱するなみは地を蹴り、得体の知れない少女との距離をとる。
相手との距離が広がると、すかさずしおりはその距離をつめた。
「ッ、はやいっ!?」
そして繰り出される日本刀の鋭い一撃が続けてなみを襲う。
(ダメです。これは・・・避けきれません。)
カキィィィィン
金属と金属がぶつかったときの鋭い音が響き渡る。
「そんな・・・、なみの左手が・・・」
骨格が剥き出しになっているなみの左手が切り落とされ、地面に落ちた。
「まだまだ!」
しおりはもう一歩踏み込むと、返す刃でさらになみに斬りつける。
鋭い太刀筋が、カメラで捕らえきれないほどの速度でなみに襲い掛かる。
「ンッ」
なみはすんでのところでそれを避けた。
チェーンソーは焼かれ、研ぎ澄まされた少女の刃はいまやなみの体をたやすく切り裂いていく。
避けても避けても、しおりの攻撃は続く。
切っ先が触れるたび、金属の骨格の何層かが断たれる。
肋骨部分が切り落とされ、内部機関が剥き出しになる。
膝の間接部分の回路を切り裂かれ、バランスを崩される。
そこにすかさず振り下ろされ、頭部ユニットに損傷が出る。
何とか体勢を立て直したところに、腰の部分に刃が突き刺され、さらにバランサーをやられる。
鎖骨が斬られ、燃料タンクにひびが入り、左カメラが割られ、なみの視界が半分になった。
「でも、まだです。なみはまだ諦めません。」
86機械仕掛けの鼓動(6):02/11/04 04:17 ID:n+iQdCPk
気力を振り絞って叫ぶなみの右のカメラアイが一瞬、少女の目を捉えた。
少女の目。
巨大な憎悪を宿す氷のように冷たく美しい瞳がふたたび微笑った。
「死ね」
冷たい瞳に無数の小さな火花が踊る。
なみの右腕の先にあるチェーンソーの動力部に火がともる。
それを認めたなみの顔がまた笑ったように見えた。
「?」
その笑いに冷ややかな表情を崩さないままのしおりの顔がわずかに曇る。
「フフ、やっぱり、発火能力だったんですね?あなたの力・・・
どちらを狙われるかわかりませんでしたが、あなたは「こちら」を選んだ。
だから、この賭けはなみの勝ちですっ!!」
なみは声を弾ませる。
「チェーンソー、パージ!!」
パシュン、という小さな音を立ててなみの体を離れた回転のこぎりがしおりの方へ飛び出す。
「そして今度こそっ、本当になみの勝ちです!」
しおりの方に向けて射出されたエンジンは、まばゆいばかりの光を放ち
ほどなくして音感センサーが少しおかしくなるほどの音を立てて爆発した。
暗い森の中に赫々と炎の柱が立ち上り、少女の姿は炎に包まれてもう見えない。
それを確認して、なみはその場にしゃがみこみ、深い深い安堵の息をついた。
「・・・やりました。ご主人様。なみはやりました。
待っててください。きっとかえって見せますから。ご主人様のところへ帰りますから、きっと。」
空を仰ぎ見て、遠くの主人のことを思う。なみは少し胸が暖かくなった。
87機械仕掛けの鼓動(7):02/11/04 04:32 ID:n+iQdCPk
「残念だったね。」
ドクン!!
「え?」
「許さないって、言ったでしょう?」
ドクン!!
機械仕掛けの鼓動が高鳴る。
いま、恐怖と戦慄が鮮やかに蘇る。
なみの目の前には、傷ひとつなく笑う二つの冷たい瞳があった。
その冷たい目はじっとなみの眼をレンズ越しに見通している。
「そんなっ、あなたはさっき・・・」
キィンッ
最後の言葉を吐く前に月光にぎらつく刃が大乗段から振り下ろされ、鋭く、短い音がした。
「さようなら。」
なみの目の前に美しい火花が散り、火がともされる。
今度はなみの動力部、水素で動く心臓に赤い火がともされた。
次の瞬間、なみの胸からまばゆい光が溢れ出し、耳をつんざく轟音と爆風が夜の森を大きく揺らした。
あたりの木々はなぎ倒され吹き飛び、そして風の中で燃え尽きていった。
火の粉があなたこなたへと舞い散り、森全体をほの赤く染めるなか、炎の中から無傷の少女が現れる。
火傷もなく、煤すらついていない少女は片手にコートをかき抱き、もう一方の手に刀を握っている。
渦巻く炎とその光陰を背にしおりはふたたび歩き始めた。


「24番 なみ 死亡」
88機械仕掛けの鼓動(8):02/11/04 04:33 ID:n+iQdCPk
【しおり】
【現在地:西の森】
【スタンス:アズライトを探し出す】
【所持品:日本刀】
【備考:凶;発火能力+身体能力↑】
89名無しさん@初回限定:02/11/04 06:06 ID:ETMWjE0z
(フフフ、もうすぐだ。高原美奈子・・・そして広場まひる。お前も近くにいるんだな?)
啄麿呂は盗聴器から得た情報から、ターゲット高原美奈子が港付近にいることを推理していた。
更なる情報を得るべく、立ち寄ったばかりの港へと向かう道中も
啄磨呂は盗聴器からもれ聞こえてくる音に耳を済ませていた。
「ターゲット」に近づいたためだろうか、先ほどよりも受信する音もずっとクリアになっている。
広場まひるの存在が明らかになったのはつい数分前のことだった。
((待てよ、ま・・・るっ・・・にげるなよ・・・))
((オ・・・さん・・・・・・あたし・・・・・))
太い女の声に混じって、波の音とか細い女の声が聞こえてきたのだ。
(広場まひると思しき人物の声はやや遠いが、おそらく本人に間違いあるまい。
だが・・・どうする琢磨呂。
本来なら高原美奈子が一人のときに襲撃するはずだったのだが・・・今はターゲットは広場まひると接触している。
対象が2人になれば危険は3倍になると考えたほうがよかろう。
ここは各個撃破がセオリーではあるが・・・フム。)
もはや痴話喧嘩じみた話しか聞こえてこない盗聴器の電力をオフにして、しばし考える。
(広場まひる・・・察するに特異な能力に目覚めたようだが、私の手に負えるだろうか?)
走る足は徐々にスピードを落として、ついには走ることをやめて歩き出した。
(いや・・・手に負える負えないではないな・・・何とかせねばならんのだ。
しばらく情報収集を続け、隙を見て・・・というのが妥当なところだろうな。
まぁ、いいさ。
張り込みは探偵の基本、私のような天才には縁のない行為と思っていたが・・・
これを機会に経験しておくのも悪くはない。)
そして肩にかけた道具袋をまさぐる。
(虚仮威しだがな・・・まぁ、死者の恰好だ。不意をつく程度にはなるだろう。)
虎の仮面の男から剥ぎ取った衣装を着込んだ琢磨呂は苦笑すると、港のほうへとゆっくりと歩き出した。
波の音が聞こえる。
さっきは鐘の音も聞こえた。
そんで、誰か女の人がしゃべってたみたいだけど・・・よく聞いてなかった。
背中の羽が熱くって、それどこじゃなかったんだよ。
それにしても、こんなつまんないゲーム、誰が考えたんだろ、ホント。
とにかく!
あたしはオタカさんから逃げて、今やっぱりあそこに戻ろうとしてる。
「逃げちゃったけど、オタカさん・・・ちゃんとお話すれば、きっと分かってくれるよね・・・」
希望的観測を声に出してみた。
すると、どんどんそんな気になってくる。
「羽・・・はえてるけど・・・」
余計なことを口に出してしまい、ハァ、とあたしは大きな溜息を一つ漏らす。
・・・また、元気なくなってきたなぁ・・・・・・・・・
ハッ!!
「ダメダメダメ、ダメだぁーーーー!
こんなときにこそ、元気出さないと。ファイト、まひる。フゥァィイトォォォォゥ!!
・・・ファィトォォォゥ、イィッパァァァツッ!」
・・・何やってんだろ、あたし。
ファイト一発なんて言ってる場合じゃないでしょうが。
一人で盛り上がってしまったことをひとしきり反省すると、あたしはまたフヨフヨと漂い始める。
そう、あたしは今、空を飛んでいる。
飛んでいるといっても地表すれすれを歩くのと同じくらいの速さで、だけど・・・
はい、そこ「なら、歩けよっ!」とか突っ込まない。
やってみるとこれが意外とラクなんだから。
ハァァ、悩んでても仕方がないとは思うんだけど・・・
薫ちゃんにもひどいことしちゃったし・・・
オタカさんだってとってもびっくりしてたものなー。
そんなことを考えていると、「あたしとオタカさんと薫ちゃんの愛の巣」の光が遠くに見えてきた。
「どんな顔して、なんて言って謝ったら許してくれるかな?
うぅぅ、だめだぁ。きんちょーしてきたぁ。」
港付近までやってくると、さっきから漂っていた潮の匂いに混じって、何か金属のような臭いがしてきた。
この臭いは・・・原子番号26番・・・Fe・・・通称「鉄」って呼ばれるやつの・・・錆びの臭い?
多分この羽のせいだと思うけど、今のあたしの感覚はずいぶんと鋭敏になってるみたいで、
ものすごーく遠くまで見えたり、お月様のでこぼこまで見えてるような気もするんだよねぇ。
それはさておき、あたしは奇妙な臭いを変に思いながらもフヨフヨと飛んでいく。
「愛の巣」に近づくにつれて、どんどんと強くなっていく臭い。
そして「愛の巣」のすぐ側まできたとき、目の前に広がる光景を見て
「うひゃぁ・・・」
間抜けなことこの上ない声をあげて、・・・あたしは気絶した。
「こりゃぁ・・・ひでぇな。」
強い力で無理やりににじりきったかのような引き攣れた肉がいたるところに散乱し、
周りの木の幹や葉にまで飛び散った血は土の上にもどす黒くたまっていた。
「放送で聞いて覚悟はしてたけどよぉ・・・まさか・・・ここまでたぁなぁ・・・」
さすがのオタカさんもあたりに漂うむせ返るような血の匂いに顔をしかめた。
肉に混じって散らばっている高級スーツの裏地や、金のカフスボタン。
そして何よりも弾切れのグロックがそれらのすぐ側に落ちているのが、その肉片が誰のものであるかの語っていた。
「まひるにゃ見せられねぇなぁ・・・」
にははと笑うまひるの明るい笑顔を思い出してポリポリと鼻を掻くオタカさん。
「ったく、どこ行っちまったんだ、まひる・・・・・・んっ?」
肉の塊の中にひときわ大きな塊がオタカさんの目に付いた。
「ありゃぁ・・・まひる・・・だよ・・・な?」
土の上に横たわる華奢な体からはにょきっと純白の翼が一枚だけ生えている。
倒れるまひるのすぐ側に駆け寄るとオタカさんは彼を抱き上げた。
胸の中で苦悶の表情を浮かべるまひるを見て、獣のような形相で襲いかかってきたときことを思い出す。
オタカさんの視界に肉の塊と血だまりが入ってきた。
「まさか・・・まひるがやった・・・のか?」
「んん」
ギョッとしてまひるの方を見ると、相変わらずの表情のまま眠っている。
「・・・ゴメンねぇ、オタカさん・・・」
「ハハハ・・・んなわきゃねぇか・・・」
オタカさんは自分のばかげた考えを豪快に笑い飛ばすと、
気を失ったままのまひるを肩に担ぎ上げ小屋へと向かった。
95名探偵の静かなる電撃作戦(第二波)(6):02/11/11 01:06 ID:iFGDa6u/
少しはなれたところから、一つの人影がその光景をじっと見ていた。
「ほほえましいじゃないか、ええ? 実に微笑ましい。・・・・・・が。」
男は足元に転がっているこぶし大の石を拾い上げ、ポーン、ポーンと小さく投げ上げる。
「蜜月は往々にして短いものだ。」
そう言って啄麿呂は小屋に視線を向けたまま、空いた手で髪をかきあげた。


【海原琢磨呂】
【現在位置:港付近】
【所持武器:他爆装置、素早い変な虫、
:首輪盗聴器、COLT.45 M1911A1 ccd(予備マガジン×1)】

【高原美奈子】
【現在位置:漁協詰め所】
【所持武器:シャベル】

【広場まひる】
【現在地:漁協詰め所】
【備考:天使化一時抑制】
96名無しさん@初回限定:02/11/11 01:17 ID:PMl7VgSg
「うぅーん・・・」
蒸し暑い小屋の薄暗い照明が淡い陰影を落とすなか、まどろむ広場まひるは寝ぼけた声をあげた。
(んー・・・・・・何だろう、これ・・・かったいなぁ・・・)
夢うつつのままにまひるは頬の下にあるものに頬擦りをする。
それは硬くはあるがしっとりとして、それでいてなめらかな肌触りで、
よくなじんだ良質な革のような感触はまひるにとって、けして不愉快なものではなかった。
むしろ、トクントクン、という規則正しい音のするそれは
めまぐるしい一日を終えたあとの疲弊したまひるの心を慰撫してくれるようにさえ思えた。
(はぁ〜〜・・・えへへ・・・あったかーい・・・)
仔猫が甘えるように、さらに頬を密着させると
まひるの頬の下のものは震えるようにぴくぴくと波打ち始めた。
「お、・・・いお・・・・・・・・・」
小刻みに揺れるそれをいぶかしく思っていると、途惑うような声がまひるの耳に入った。
それでも頓着なく、頬を擦り付けていると、揺れはさらに大きくなり、
聞き取りにくかった声もより明瞭に聞こえるようになった。
「う・・・ゃ、く・・・ぐったいって、お・・・。勘弁・・・、ま・・・る。」
(んぅぅ・・・誰の声だろ、うるさいなー・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・この声って、なんだか・・・オタカさんの声に似てるなー・・・
オタカ・・・さん・・・・・・・オタカさん・・・の声・・・オタカさん・・・
・・・あたしのこと、許してくれるかなぁ・・・変なヤツとか・・・思われてないかなぁ・・・
・・・アレ?・・・何かおかしーなぁ・・・えーと・・・オタカさんとあたしはバラバラのところにいて・・・
・・・だから・・あたしにはオタカさんの声は聞こえないはずでぇ・・・・・・
なのに、どーしてオタカさんの声が聞こえるんだろ・・・?
・・・ひょっとして・・・・・・・・・・・・・・・・・・このやたらとゴツゴツとして、
それでいて暖かい肌触りのこれは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・筋肉・・・ですかぁ?)
「オタカさんっ!
・・・フギャッ!!」
声の主に思い至り、一瞬にして覚醒したまひるはガバッと勢いよく跳ね起きた拍子に、
自分の寝顔を覗き込んでいたオタカさんの顎に後頭部をしたたかに打ち付けた。
「あつつつつつぅ、・・・えーと・・・だいじょーぶ、オタカさん?」
「お・・・おお、大丈夫だ。そっちこそ、頭、何ともないのか?」
やはり痛むのか自分の顎をしきりにさすりながら、オタカさんは聞き返した。
「ウン・・・だいじょーぶ、みたい。・・・にはは」
まだ痺れの残る後頭部を撫でながらまひるは、自分達が物別れになっていたことを思い出した。
オタカさんもそれに気づいたらしく、気まずくなった二人はそのまま黙り込んでしまった。
互いにかける言葉が見つからず、所在なげにあたりを見回してみたり、
滴り落ちてくる汗を拭ったりして、やり過ごそうとするが目の前にいる以上それも上手くいくはずがない。
二人きりの暑い部屋の中になんともいえない沈黙がわだかまった。
口を開くことが何となく憚られるような、もどかしく居たたまれない空気、
二人は無言のままじっと座っていた。
「ゴメン・・・ね?」
先に口を開き、沈黙を破ったのはまひるのほうだった。
恐る恐るといった感じでそれだけ言うとまひるはうつむいてさらに言葉を続けた。
「その・・・さっき・・・は・・・あ、さっきってゆーのは、
あたしが最後にオタカさんに会ったときのことなんだけど、あのときは、そのー・・・いきなり・・・」
「すまん、悪かったッ!!」
「・・・ふぇ?」
小屋全体が震えるような大声でまひるの言葉をさえぎると、
ひるんだまひるに向かって、オタカさんは「ぱんっ!」と両手を合わせて頭を下げた。
「いやーーーー、その、なんだ。さっきは、悪かったな?
あんまりまひるのチ○ポが可愛らしかったんで、ついついいつもの癖でむしゃぶりついちまった。
ここは、犬に噛まれたとでも思って許してくれ、なっ?このとおりだ。」
オタカさんは一息でこれだけをまくし立てると、それ以上何も言わずにさらに深々と頭をたれた。
まひるは、目の前の筋肉質の女性が自分と同じ気持ちであったことを悟った。
互いに「許し」を求めていて、「失うことの不安」で胸が一杯だったのだ、まひるはそう思った。
だからこそ、謝る前に自分の方から謝ってきたんだと、そう思った。
オタカさんの方から謝ってきたら、きっと自分も同じことをしただろう、そうも思った。
まひるは自分の顔がほころんでいるのが分かっていた。
(でも、気をつかったりなんかして・・・似合わないよ・・・オタカさん。)
(きっと・・・これだけ・・・お互いの気持ちが分かるなら・・・これからも・・・)
「許して・・・くれるか?」
真剣な目で、すがるような目で、オタカさんがまひるの方を見る。
その顔はまひるにとってはじめてみるオタカさんの情けない顔で
「プッ・・・」
「ひでぇな・・・笑うなよ。」
思わず吹き出してしまうまひるを見て、謝罪したことを笑われたと思ったのか、
オタカさんは腕を組み、少し恨みがましい目でにらみながら頬を膨らませる。
「ごめんなさい、でも違うんだよ。」
口元に手を当てて、堪えきれずにクスクスと笑いながらまひるは言った。
「ほら、鼻血、出てるよ?」
先ほどの頭突きのせいで、真剣な顔をしているオタカさんの鼻から、ツゥッと一筋の赤がたれている。
まひるはポケットからきちんとアイロンのかけて畳んである花柄のハンカチを取り出し、
オタカさんの鼻の下をそっと拭った。
「あたしたちってさ、シリアスが似合わないね?」
まひるはそう言ってもう一度笑った。
「で・・・その羽はいったいぜんたい、何なんだ?」
お互いに改めて謝罪したあと、夕食の残りのカレーをすごい勢いでかきこみながら、
オタカさんは隣に座るまひるの背中に生えた羽を指差した。
「何なんだ?ときかれましても、あたしにも何がなんだかさっぱり・・・」
「そーなのか?」
そーなんですよ、と頷き返すまひるに向かって、一瞬だけ考え込むような素振りを見せるオタカさん。
「・・・まぁ、いっか。別に体は何ともないんだろ?」
「ウン、今のところは大丈夫・・・だと思う。
それに、これ空を飛べたりして、けっこー便利なんだよねぇ。」
「なら、問題なし、だな。」
ウンウンと、数度大きく頷くとあっさりと納得してしまったオタカさんを見て、まひるは――
(まぁ、男の人は多少大雑把なくらいが女の子としては母性本能をくすぐられたりするんだよねー。
・・・・・・と、それはさておき、なーんか、忘れてるよーな、何だっけ・・・?)
オタカさんと同じくカレーライスの残りをすくって、スプーンの口に運びながら
まひるはその「何か」を思い出そうと記憶を探ってみる。
そして、カレーライスの中に入っているビーフの塊を噛みしめたとき、
まひるは自分が失神することになった原因――外に散乱する血まみれの肉の塊――のことを思い出し、
思わず口の中にあるものを吐き出してしまった。
「オイ、オイ、大丈夫か、まひる?」
慌てたオタカさんはひざ立ちになって、背中をさする。
「ウン・・・大丈夫。それより・・・」
少し言いよどんで、すっかり蒼ざめて血の気のない顔を上げると、
まひるは窓の外の夜の闇を眺め、その向こうにあるものを思い起こす。
「「アレ」って、やっぱり・・・」
まひるの視線や表情から、言わんとすることを読み取ったオタカさんも顔をゆがめた。
「ああ・・・あのおっさん・・・だろうな。放送、聞かなかったのか?」
「ウン・・・羽、生えてきて・・・わけわかんなくなってて、それどころじゃなかった・・・から・・・」
そっか、というとオタカさんはまひるの口元に冷たい水の入ったコップを寄せ、その中身を口に含ませた。
「・・・悲しいのに、涙、出ないや。」
悲しげに呟くまひるは、困ったように眉を寄せ笑った。
「あたしが・・・」
うつむいたまひるの声は抑制されてはいるが、そのかすかな震えは隠し切れてはいない。
「ちがうっ!!まひるのせいじゃねぇ。」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
ふたたび、二人の間に重苦しい沈黙が横たわる。
「・・・この話はやめようや。」
いたたまれなくなったオタカさんの提案に、まひるは黙って頷いた。
そして今ごろになって溢れ出してきた涙を手の甲でグシグシとぬぐった。
まひるは黙ってオタカさんの肩にぐったりと頭を持たせかけ、オタカさんも黙ってそのままにさせておいた。

パ リ ー ン !!
「なんだっ!?」
粉々に砕かれ、撒き散らされた窓ガラスが証明を受けて照り返すのに混じって、
拳大の石が転がっている。
オタカさんは立ち上がり、それをひったくるように掴むとドアのほうへと向かった。
「待って、オタカさん!」
「なんでだ?ふざけた真似してくれたスットコドッコイのコンコンチキにゃ、
きっちりと「お返し」してやらなくちゃだろうが?」
「迂闊に外にでちゃ危ないよ。」
「・・・どういうこったまひる?」
「どうしてだかわかんないけど、そんな気がする。
この石はきっとおとりで、あたしたちがドアの出たところで何か仕掛けてくるつもり・・・だと思う。」
「ふん・・・そっか、おとりか、なるほどな。冴えてるじゃねぇか、まひる。」
バンバンと力任せに背中を叩かれたまひるは咳き込んでしまう。
「で、具体的にはどうすりゃいいんだ?」
「う〜ん、どうしよう?」
にはは、と能天気な笑いを浮かべて頭を掻いて、オタカさんのほうを見返す。
そして、二人は頭をつき合わせて打開策を考えた。
「そうだ!ドアから出るのがまずけりゃ、反対側の窓から出りゃいいんじゃねぇか?」
「オタカさん・・・そんな、安直な・・・」
苦笑いを浮かべるまひるの頬に大きな汗が伝う。
「じゃ、どーすんだよ。このままここにいるのは賢いやつのやることじゃねぇだろうが?
とにかく、ここはいちかばちか、やってみるしかねぇ、違うか?」
いまいち煮え切らないまひるの態度に、オタカさんは少し苛立った声をあげた。
「・・・ウン、そーだね。」
きりりと口を結んでまひるは窓枠に手をかけた。
「よーし、男だったらそーこなくっちゃな!!」
「・・・だがしかし、それとてもこの天才の推理の範囲内なのだよ。」
物陰に隠れてターゲットの出現を待つ天才探偵は余裕たっぷりにほくそえんだ。
パァンッ!!
地味な音を立てて、琢麿呂の手の中におさまっているコルトが火を吹く。
射線の先にいるのは窓枠に手をかけ、肩を乗り出している高原美奈子。
その頭部に狙いを済まして、琢麿呂はトリガーを引いたのだった。
夜闇にまぎれた弾丸が空を切り裂いて一直線に飛ぶ。
グァッ、という声が小屋のあたりから聞こえ、続いて何か重いものが落ちる音が聞こえた。
「やったか?」
琢麿は小さな声で喝采をあげ、空いた手で盗聴器のボリュームをひねる。
「オタカさん!?」
そこからは女のような声と、ぜぇぜぇという荒いと息遣いが聞こえてきた。
それはとりもなおさず高原美奈子がまだ生きていることの証でもあった。
「チッ、外したか!?
だが、まだだっ!この付近の地形は既に頭の中に入れてある。
まだ、私のほうが有利だっ!!」
琢磨呂は忌々しげに吐き捨てると、荷物を肩にかけ暗がりのなかを物陰伝いに移動をはじめた。
「オタカさん、大丈夫?」
まひるは小屋の外に出ると、肩のあたりを抑えてうずくまるオタカさんの側に駆け寄った。
「ああ・・・なんとか・・・な・・・んっ!!」
「うわっ、うわっ、ホントーに大丈夫?」
たくましい筋肉につつまれた肩口のあたりの銃創からは、とどまることなく血が流れ出し、
白いシャツをみるみる真っ赤に染めていく。
「このくれー、なんてこたぁねぇよ。それよりも、まひる。」
「うん、とにかくどこかに身を隠さないと・・・」
まひるはオタカさんの腕を肩にかけると、半ば引きずるようにして小屋の裏側に身を潜めた。
(オタカさん、大丈夫って言ってるけど、銃で撃たれて大丈夫なはずないよね。)
そんなことを考えていると、
「すまねぇな、まひる。」
「いーんだよ、こーゆーときはお互い様、でしょ?」
オタカさんの言葉にまひるはにっこりと笑って応える。
「でも・・・どーしよー・・・、まだ近くにいるよね?」
「・・・そー言えば、さっきはどうしてあの石ころがおとりだって分かったんだ?」
「え?あれは、その、さっきも言ったけど、何となく・・・、ほんとに何となく、そんな気がしただけで・・・」
「じゃ、今はどうだ?」
「ダメだよ、何も感じない。」
「そっか、それな・・・ぐっっ!!」
そのとき、突然の銃声が鳴り響き、オタカさんは支えを失ったかのように前のめりに倒れた。
「オタカさんっ!!」
「オタカさんっ、オタカさんっ、返事してよっ、オタカさんってばっ!!」
必死で呼びかけ、体を揺すってみるが、ぐったりと脱力しきったオタカさんからは何の返事もない。
「オタカさんっ、そんな・・・」
真昼は絶句して、腰が抜けたようにペタリとへたりこんでしまう。
建物の影にいるため真っ暗なそこでは弾丸がどこに命中したのかは分からないが、
まひるの足もとは流れ出した夥しい血液のため、既に少しばかりぬかるんみはじめている。
「ウソ・・・でしょ。オタカ・・・さん。返事して、何か言ってよ!」
話し掛けるまひるの語調もだんだんと弱々しくなり、やがてすっかり黙り込んでしまった。
パァンッ!! パァンッ!!
続けざまに二度銃声が響き渡り、弾丸はオタカさんがもたれかかっていた壁のあたりにめり込んだ。
いまだ放心したままのまひるはゆっくりと弾丸が飛んできたほうを見た。
茂みを抜けて一人の男が銃を構えて出てくる。
「フム。また外した、か。」
琢麿呂は構えを解くことなく、ゆったりとした足取りでまひるのほうへ近づいていく。
「まぁ、いいさ。高原美奈子は死んだ。広場まひる、あとはお前だけだ。
お前の力は未知数ではあるが、私の圧倒的有利というこの状況には変わりあるまい。
どのみち、お前を倒すことさえできぬようならば、人外ひしめくこの戦いを生き抜くことなど叶わぬことだ。
そうだろう、そうは思わないか、広場まひる?」
興奮のあまりいささか饒舌になった琢麿呂はしゃべりながらもコルト・ガバメントを座ったままのまひるに向ける。
「逃げないのか?それとも逃げられないのか?
フフ、月並みな台詞で恐縮だがね。お前もすぐに彼女の側にいけるさ。」
汗の浮かぶ額にガバメントの銃口を押し付けられ、
まひるの頭が力なく後ろにのけぞる。
「では、さよならだ。私という天才の勝利のため、死んでくれたまえ。」
琢麿呂の怜悧な顔に酷薄な笑みが浮かぶ。
まひるは焦点の合わぬ目でぼんやりと目の前の男を見ていた。
「・・・なに・・・ん・・・る。」
「ん?」
すぐ側から聞こえる声に、いぶかしんだ琢麿呂が振り向いた瞬間。
「ウオオオオオオオオオォォォォォォォォッ!!」
獣のような雄叫びをあげ、分厚い筋肉の塊が琢麿呂の腹にめり込む。
「・・・グフゥッ」
「オタカさんっ!!」
腹を抑えて、地べたをのたうちまわる琢磨呂を尻目に立ち上がったオタカさんは
座り込んだままのまひるを肩に担ぎ上げると、ふたたび野太い雄叫びをあげながら、茂みの奥へと走り去った。
108名探偵の静かなる電撃作戦(第三波)(12):02/11/17 02:28 ID:XFJjFBUT
「あたしがぼんやりしてたから・・・ゴメンね?」
まひるがオタカ三の顔を覗き込んで、すまなさそうに漏らした。
漁港から村落へと逃げ込んだ二人は、一軒の簡素な造りの民家の軒先に座り込んでいる。
「ハァハァ・・・、気に・・・すんな。ッ・・・それより、お前が無事でよかった。」
オタカさんは白い歯を見せてニカッと笑うが、
青白い顔に脂汗を浮かべるその顔は見ていてとても痛ましく、見ていられなくなったまひるはうつむいた。
「そだ!!確かこの島には病院があったはずだから、そこに行けば消毒くらいは・・・」
うつむいていたまひるは顔を上げると、ポケットにしまっていた島の地図を取り出し、
月明かりにかざしてみた。
2発目の弾丸は腹に命中し、流れ出す血は止まる気配もない。
消毒くらいでどうにかなるとは思えないが、まひるはそれでもそのままにしておくことはできなかった。
(このままじゃ・・・このままじゃ・・・オタカさんも・・・・・・オタカさんも・・・・・・・・・・・・)
泣き出しそうになりながら、まひるは必死で月と地図を見比べて進路を調べる。
溢れ出しそうになる涙で視界はぼやけるが、オタカさんを心配させまいと、
それを拭うようなことはしなかった。
「こっちだよ、行こ、オタカさん。」
だから、まひるはつとめて明るい声で言った。


>79
「どーすんだぁ、鬼作さんよぉぉぉぉぉぉぉ?」
森の中に一人取り残された伊頭鬼作は両手を空に突き出して、哀れっぽい声で叫んだ。
よぉぉ、よぉぉぉ、よぉぉぉと森のなかに反響するのを聞いて舌打ち一つ、
鬼作は頭を抱え込んで生温かい土の上に座り込んだ。
「アズライトの野郎は帰ってこねぇし、探しに行ったクソ餓鬼も帰ってきやしねぇ。
まったくよお、これだからないーぶなやつらは一々と御し難いぜぇ、
おかげさんで俺様のぱーふぇくとな計画が台無しじゃぁねぇか。」
眉間にくっきりと縦皺を刻んだ苦々しい表情を浮かべた鬼作は
拾い上げた小枝を力任せにへし折っては次々と焚き火に投げ入れていく。
ときおりパチパチと爆ぜる音のする炎を眺めてあくび一つすると
ぼりぼりと尻を掻きながらあれこれと考えをめぐらせ始めた。
「どうするよ、まずアズやんたちを探しに行くかどうかだが・・・」
面倒くさそうに、はぁ〜と長いため息をついて、空を見上げる。
「めんどくせぇなぁ、オイ。
そもそも、だ。探しに行っても見つかるか見つからねぇか分かんねぇ。
ここにいても、もっかい会えるかどうかは分かんねぇ。
どっちみち、あいつらに会えるかどうかわかんねぇなら、ここで待っててもおんなじこった。」
などと性急にまとめると、その場でゴロリと横になった。
「ん?」
鬼作の視線の先に、アズライトが残していったズック鞄の奇妙に膨らんでいるのが見える。
「確か、あの中にゃあ・・・」
引きずるようにしてズシリと重い鞄を寄せると、
おもむろにファスナーを開いてまずパンと水を取り出してわきに置き、
続いてアズライトの武器として配布されたものを取り出した。
「まー、こんなもんでも暇つぶしにゃ、丁度いいだろ。
へっ、まったくこの鬼作さんがよもやこいつのお世話になるたぁ思わなかったぜ。
人生ってぇのは何があるか分かんねぇもんだ。」
キュルキュルとペットボトルのキャップをはずし、口にしたパンを水で流し込みながら、
鬼作は自分の手にしたアズライトの「武器」を見てせせら笑った。
鬼作の手の中にあるもの・・・・・・
薄っぺらい紙の束を数百枚束ねたもの、数行の概要の書かれた白い表表紙にベージュの背表紙、青い帯、
『純粋理性批判 (上)』・・・カント・・・岩波・・・文庫
背表紙に書かれたこれらの文字を見て、もう一度鬼作は鼻を鳴らした。
ぺラリ・・・、鬼作は冷笑を浮かべたまま、最初のページを開く。
幾分充血した瞳が上下に動き、印刷された文字を静かに追う。
鬼作はときおりミネラルウォーターで口を湿しながらさらに読み進める。
2ページ、3ページ・・・・・・
額に手を当てたまま黙々と酸性紙にぎっしりと書き詰められた文字を読む。
・・・・・・・・・
ようやくにして4ページ目をめくったとき、ページを手繰る手が止まり、
ロダンの彫刻のような恰好のまま鬼作はピタリと動かなくなった。
文庫本を持つ鬼作の手には血管が浮き出して小刻みに震え、
力一杯食いしばられた歯からは薄っすらと赤い血が滲み出している。
「っだぁぁぁぁぁぁぁぁ!ふっざけんじゃぁねぇぇぇぇえ!!」
突然叫ぶと鬼作はすっくと立ち上がり、
大きく振りかぶってそのまま手にしていた本を力任せに焚き火へと投げつけた。
その衝撃にばっと火の粉が舞い散る。
投げ捨てられた西洋知識の古典は一瞬にして燃え上り、やがて一握りの灰のかたまりへと変わった。
「何でこんなもんが武器になってんだぁっ、クソッ、クソッ、クソォッ!!」
さらにわめきつづける鬼作は口を開いたままになっていたズック鞄を荒々しく引っ掴むと、
中に残っていた本を乱暴にぶちまけた。
『純粋理性批判』、『実践理性批判』、『判断力批判』の三大批判書にはじまり、『饗宴』、『二コマコス倫理学』、
『エチカ』、『人間不平等起源論』と続き、『近代美学史』、『この人を見よ』、『創造的進化』、『存在と時間』など、
なかには『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』なんかもあり、
何の系統性もないような一連の書物が次々と火の中に投じられていく。
そして、ついに最後の一冊『読書について』が投げ入れられたとき、
「ハァ、ハァ、ハァ・・・・・・へッ、へへへ、せーせーしたぜ。」
額の汗をタオルで拭いながら、忌まわしい書物を焼いたことで勢いの増した火を見て、鬼作は満足げに笑った。
灰を舞い上げて燃える炎の前にどっかと腰を下ろしてふたたびゴロリと寝そべると、
ズボンの裾から手を入れ股座をまさぐり、大口を開けてあくびした。
妙な達成感から睡魔が訪れたその瞬間、
天地を揺るがす爆音がして、同時に南の空が一瞬にして朱に染まりあがった。
「な、なんだぁ!?」
深い眠気もすっ飛んだらしく、鬼作はその轟音に慌てふためいて立ち上がる。
天に向かって吹き出るように伸びていた火柱はすぐにも収まったものの、
聞こえてきた爆発の音はここからそう遠いところのものではなく、
風もさほど強くはないとはいえ、可燃物に囲まれた場所にいるのが得策というわけではさらにない。
現に鬼作の頬を撫でていく風は先ほどよりも少し場から暖かくなっているように感じられた。
「こうしちゃいられねぇ!!」
鬼作は放り出してあった食料とペットボトルをあわただしくズックに詰めると、さっさとその場をあとにした。
「ハァハァ、しっかし、どこを見ても木ばっかだな、オイ。」
普段の運動不足がたたったのか、わずかに十分ほど走ったところで立ち止まった鬼作は
腰に手を当てて息も切れ切れに辟易として呟く。
三人分の水と食料、そして警棒とナイフの入った鞄を肩にかけなおすとずっしりと重く、
噴き出す汗をタオルで拭うと、鬼作は南の空を眺めた。
「どーやら、まーだおさまってねぇみてぇだな。
このままいきゃあ丸裸になっちまうんじゃねぇのか、この森・・・
まぁ、んなこたぁ知ったこっちゃねぇがな。
それにしてもアズヤやんとじょーちゃんとも決定的に行く末知らずになっちまったし、
さーて、これからどーすっかな?あいつらを探し出すか、それとも・・・こいつで戦ってみるか?」
鞄から取り出したコンバットナイフを月にかざしてみる。
ぎらぎらとしたどぎつい光を放つナイフを見上げて、鬼作は唇の端をゆがめた。
「ん〜、そのほうがいいかもねぇ。」
そのとき、なんとも気の抜けた、あまりにも場にそぐわない女の声がすぐ真横の茂みから聞こえてきた。
そして、がさがさと藪を揺らして罷り出でたのは金髪碧眼、
やけに露出度の高い服の上に水色と白の段だら模様も鮮やかな陣羽織をまとった透けるように白い肌の女。
その軽くウェーブのかかった髪が揺れるあとから、ごろごろと音を鳴らして大砲のようなものがついてくる。
「・・・誰だ?」
腰だめにナイフを構えて間合いをはかりながら、鬼作は目の前の女にたずねた。
113わちゃごなどぅ、ぶらざー?(5):02/11/23 17:18 ID:l4LH/uQi
鬼作の言葉に女は、んふふふ、と笑った。
「よくぞ聞いてくれました!」
女はたわわな胸をぶるんと揺らして胸を大きくそらすと突きつけられたナイフを気にするでもなく、
待ってましたとばかりに勢いよく話し始めた。
「何を隠そう、元をたどれば水戸藩士、故郷の水戸をあとにして
今は松平様をお守り奉るため遠路はるばる都まで、
京都は壬生に陣取った泣く子も黙る鬼の新選組局長、
カモミール芹沢とはアタシのぉ・・・」
途中で口上を切り、口を開いたまま視線を空にさまよわせた芹沢は、じっと鬼作の顔を見て、たずねた。
「えと・・・・・・おぢさん、「新選組」、知ってるわよね?」
「なんだぁ、馬鹿にしてやがんのかぁ?」
「そっか、知ってるんなら問題なし。
ま、とにかく、アタシは新選組局長その一のカモミール芹沢、
親しみをこめて「カモちゃん」て呼んでくれてOKよん。
もちろん、敬意を込めて「カモちゃんさん」って呼んでくれも全然問題ナッシング。
んで、こっちのかわいい子はカモちゃん砲。仲良くしてあげてねぇ。
よ〜し、それじゃ、伊頭鬼作さん、張り切って質問のほうをど〜ぞ〜〜〜!!」
すっかりボルテージの上がりきったカモちゃんは自分でパンパカパーン、と言うと
ファンファーレのつもりかおもむろに虚空にカモちゃん砲を発射した。
そして、唖然とする鬼作に向かって、
「あ、ただし、なんで新選組なのに組長じゃなくて局長なのかって質問は無しの方向でねん。」と付け足した。
それを聞いているのかいないのか、鬼作は女の体を頭のてっぺんからつま先までなめるように眺め、
にやりといやらしく笑った。
(上から、92−59−86、ってとこか?ククッ、美味そうな体しやがって。)
・・・・・・・・・
114ero:02/11/23 17:26 ID:SsqUKsGw
115続 病院へ行こう!(1):02/12/01 01:21 ID:xxJYwh1v
隣を歩く仁村さんの歩幅にあわせて歩くのはややもすると窮屈ではあるけれど、それほど苦にはならなかった。
こんなことを自分で言うのはどうかと思うが、俺だって年頃の男だ。
当然、人並みに異性に対して興味がある。
今、俺の隣には歳の近い女の子が歩いている。
その子は俺よりも少し年下で、すこぶる可憐で、そしていま、彼女は俺と手をつないで歩いている。
平静を装って歩いてはいるが、口から飛び出てしまうのではないかと思うほどに心臓は高鳴り、
彼女とつないでいないほうの手にはじっとりと妙な汗が噴き出している。
ただ、彼女とこうして手をつないで歩くのは、悪くは無い。
それどころか、正直に言って、嬉しい。
何といっても、彼女はとても魅力的だから。
けれど、ふるいつきたくなる、というのは少し違う。
むしろ守ってあげたくなる、というのがより正確だろう。
彼女の華奢な体を見ていると、そう思う。
背丈が俺の胸くらいまでしかない彼女、その長い髪が薄い背中の上をゆらゆら揺れる。
肩もつかめば壊れてしまいそうなほどで、弱々しくさえある。
何よりも、つながれた手はやわらかく、とても小さいのだ。
女の子というのは、こんなにも儚い作りなのかと思わずにはいられない。
思わず守ってあげたくなる、というのは陳腐かもしれないが、それが俺の率直な印象だ。
が、当の彼女はあれ以来、ずっと黙って歩いている。
つながれた手は暖かいけれど、彼女は何かを考えているのか、先ほどからじっと下を見たままだ。
既視感に襲われる。
そういえば、こんな光景は先ほどもあった。
つばを飲み込み、彼女に気づかれないようにそっと彼女の顔を覗き込むと、
やはり先ほどと同じく顔をやや紅潮させ、おそらく少し汗ばんでさえいるだろう。
(・・・まさか、今度こそ?)
そう思って、俺は首を振った。
いかん、いかん、いい加減に下のことから離れよう。
116続 病院へ行こう!(2):02/12/01 01:21 ID:xxJYwh1v
よからぬ考えを振り払って、俺達はそのまましばらく黙って歩く。
彼女が何を思っているのかを直接たずねられたら、どんなによいだろう。
けれど、出会ってまだ数時間しか経っていないことを考えると、それも憚られた。
もしも立ち入った話であった場合、気まずい雰囲気になるのは間違いない。
だから、結局聞くことはせず、俺は彼女に合わせてゆっくりと歩を進めながら周りを見わたした。
見わたしたといっても、周りは文字どおり木ばかりで、特に見るべきところも無い。
植物学者でもない俺は、立ち並ぶ樹木の名前もわからないし、特に興味も覚えなかった。
自然、俺の視線は再び隣で歩く少女のほうへ向かうことになる。
いささか礼を欠くかとも思ったが、あらためて彼女のことを上から下まで眺め見る。
おそらく、彼女の年令からすれば、やや発育不全といってよいだろう薄い肉付きは、
何となく俺の妹を思い起こさせる。
それでも胸のあたりは歳相応にふっくらと柔らかな曲線を描いており、
無駄な肉の無いすらりとした腹の下には、
やや女らしい丸みを帯び始めた、それでも幾分硬さの残る腰が続く。
手足は瑞々しくスッとのびやかで、うぶ毛が月明かりを受けてときおり光り、
まだ柔らかさを残したままの手の先には、白くてふっくらとした指、光沢のある爪は綺麗に整えられている。
小さな顔のうえには小さな鼻がのっており、薄い桃色の唇がやわらかく結ばれている。
透明感のある白い肌に、長い睫毛が淡い影を落とす。
やや黒目がちな瞳は、何を思い煩っているのか、少し伏目がちになっている。
整った、それでも少女特有の美しさを湛えた彼女の顔は
将来彼女が美しい人になるであろうことを予感させたが、
俺は今の彼女のほうが美しいのではないかという奇妙な観念にとらわれていた。
・・・・・・幼女趣味は無いと思っていたが・・・
117続 病院へ行こう!(3):02/12/01 01:22 ID:xxJYwh1v
「あの、恭也さん?」
俺が失礼なことを考えていると、彼女が声をかけてきた。
幾分彼女の声が艶めいていると感じるのは俺の気のせいだろうか、きっとそうだろう、そうにちがいない。
「なんですか?」
こちらを見上げる仁村さんの方へ俺が笑顔を浮かべて向き直ると、
彼女は耳まで真っ赤になり、空いた手を口元に手を当てたまま
何ごとか言いよどんで、彼女がもじもじとためらう。
正直言って、かなり可愛い。
俺は真剣な面持ちの彼女に、先を促すよう無言で頷くと、
彼女はゆっくりと頷きはしたものの、ためらいがちに視線をそらした。
そんな彼女を励ますように、つながれた手に少し力をこめる。
一瞬、彼女の手はこわばったが、やがて先ほどよりも強く握り返してきた。
俺との間にある何かを確かめるように、というのは俺の言いすぎだろうか。
ますます赤らんでいく彼女の顔をから目をそらし、俺はじっと前を見て彼女の言葉の続きを待った。
「あの・・・ですね。こんなこといったら・・・私・・・」
118続 病院へ行こう!(4):02/12/01 01:30 ID:xxJYwh1v
よほどいいにくいことなのか、また彼女は黙り込んでしまう。
俺達は固く手をつないだままで、またしばらく歩いた。
ゆっくり、ゆっくりと、月明かりが差し込む森の中を歩く。
これが海鳴の公園か何かだったなら、どれだけよかっただろう。
などと考えながら、俺は彼女の言葉を待つ。
「あのっ!!」
決意を感じさせる彼女の声に、俺は彼女の目をじっと覗き込んだ。
綺麗な彼女の瞳の揺らめきのなかに、俺がうつっているのが見える。
彼女は湯気でも噴き出しそうなほど真っ赤で、おそらく俺も負けず劣らず真っ赤な顔をしていただろうと思う。
そのまま、またしばらく無言で見つめ合った。
先ほどから、心臓は早鐘を打ちっぱなしで、そうして見つめ合っていた時間は
おそらくはわずかな時間なのだろうが、非常に長く引き伸ばされて感じられる。
仁村さんの唇はフルフルと震え、眉は困ったように八の字形にしなっていて、
つぶらな潤んだ瞳でものいいたげにじっと俺の方を見ている。
空いていたもう一方の手も俺の手に重ね、両手でしっかりと握り締めたあと、
彼女はもう一度、大きく息を吸って、口を開いた。
一体、彼女は俺に何を言うつもりなんだろう。
彼女は気づいていないと思うが、仁村さんに両手を握り締められた俺も、
彼女に負けず劣らず、「ドキドキ」しているのだ。
できることなら、すっぱりと早く言ってしまって、俺を楽にさせて欲しい。
そんなことを考えながら、熱にうかされたようにぼうっとする頭で彼女の顔を見ていると、
次の瞬間、なぜか、彼女は俺の背中の向こう側を指差して、口をパクパクとさせた。
「あ、明かり!! 明かりですよ、恭也さん!?」
119続 病院へ行こう!(5):02/12/01 01:30 ID:xxJYwh1v
彼女の声につられ、その指差す方を見ると、確かに闇のなかに光が浮かんでいるのが見えた。
彼女は先ほどとはうって変わってもう明るくて人懐こい笑みを振りまいている。
ほら、行きましょう、といって俺の手を引く彼女に引きずられるかのようにして、俺は彼女の後についていく。
おそらく、俺はこのとき可愛らしい少女が俺の隣を歩いているという事実に浮かれていたのだろう。
一体、彼女は俺に何を言おうとしていたのだろうか。
結局、俺は彼女が本当にいいたかったことを聞いてやれなかったのではないか。
しかし、俺はそういった考えをすぐに頭から追い払った。
何といっても、俺と彼女はまだ出会って数時間の間柄だ。
こんな危険なゲームの中にあっても、彼女が俺とともにある限り、俺は彼女を守ろう。
彼女が生きている限り、俺は彼女を守りつづけよう。
そして、彼女が生きつづけていられる限り、
いつか彼女が言いたかったことを聞く機会もあるだろう。
俺はその時を待とうと思った。
けれど、会って数時間で「命を賭けて」は重いかな、そう思い直して俺は自分の考えに思わず苦笑した。
振り返って俺の名を呼ぶ彼女の声に答えて、俺は駆け出した。


120流された血のために彼女は(1):02/12/10 15:02 ID:Tvy8uZYP
>108
(第二日目 AM04:30)

そのとき、まひるはなぜか線香花火の膨らんだ火花を思い出していた。
黙々と、半ば引きずるようにしてオタカさんを運ぶまひるの額には汗の玉が浮かんでいる。
「ねぇ、オタカさん、大丈夫?」
まひるはオタカさんの顔を覗き込んで言った。
「・・・おー・・・、ま、だいじょーぶだ。なーに、これくらいなんてこたぁねぇよ・・・んっ」
軽口を叩きながらも苦悶の表情を浮かべるオタカさんを見て、まひるの焦りは昂じていく。
けれど、オタカさんの状態を考えると歩調を上げるわけには行かない。
オタカさんの脂汗を浮かせた顔から目をそらして、ぐっと眉根に力をいれた。
「もーすぐ、病院だから・・・ね。」
それきり口をつぐんで、まひるは舗装されていない砂利道を歩く。
そして先ほどから聞こえてくる音が悲しくて、洟をすすり上げた。
血液が大量に失われたことで体温が下がったのか、オタカさんがずっとカチカチと歯を鳴らしているのだ。
日に焼けて健康を全力でアピールしていた顔もすっかり色を失しなってしまっている。
(急がなきゃ・・・)
じりじりと身を焦がす思い出一歩、また一歩と果てなく続く森の中に足を踏み出していく。
やがて黙々と歩くうち、遠くに灰色の小さな建物が見えてきた。
まひるは肩に担いだオタカさんの逞しい腕に、いたわるように頬擦りする。
「もーすぐだから。ね、がんばって?」
「へへ、お前さっきも同じこと言ってたぜ、まひる。」
軽くやり返すオタカさんに、まひるはにっこりと笑った。
ようやく病院の戸を叩いたとき、溢れ出した血でまひるの制服は全身真っ赤に染まっていた。
121流された血のために彼女は(2):02/12/10 15:03 ID:Tvy8uZYP
血だらけのシーツの上に横たえられているオタカさんを照明が冷ややかに照らし出す。
「とりあえず、これで血を止めるくらいは・・・」
隣の部屋から救急箱を抱えて戻ってきたまひるは、中から消毒液などを取り出して、そっと近くの台の上に置いた。
眠るオタカさんの青白い顔をじっと見る。
オタカさんはベッドの上に身を横たえさせた途端に気を失ってしまった。
こみあげてくる涙を手の甲で拭うと、まひるはオタカさんのシャツを脱がせはじめた。
「うわっ、うわぁ・・・」
筋張った三角筋のあたりに一つ、隆起した胸のあたりにもう一つ、傷口が口をあけていた。
そのふちは少し肉が盛り上がっており、打たれてから数十分は経ったというのに、
いまだ出血が止まる様子もなく、ぴくぴくと痙攣している。
とりあえず、まひるはマキロンの蓋を外すと傷に振りまき始めた。
肌に触れると透明な液体は泡立ち、赤い血液と交じり合ってなめらかな肌の上を流れていく。
どろりとした血が流れ、オタカさんの下のシーツに滲みこんで薄赤色の波を描いていった。
「次は・・・と」
銃創の治療などしたことのない彼は救急箱の上で手をさまよわせ、
いろいろな医療品を取り出してはそのまま元にあった場所に戻す。
オタカさんに肩を貸して歩いているうちは、病院にたどり着くことができれば何とかなると思っていた。
広い部屋にぽつねんと立つまひるの目にとまっていた涙がまた溢れ出した。
「あたし・・・何の役にも立たないね。ゴメンね、オタカさん。」
情けなそうに笑ってしゃくりあげると、手術台を背にしてリノリウムの床にぺたりと座り込んでしまった。
糸が切れたように、まひるの体は動かなかった。
次から次へと流れ落ちてくる涙を拭おうともせず、無機質な白塗りの壁の戸棚をただぼんやりと眺める。
いろいろな医療器具が整然とその中に並んでいるのが見える。
まひるはその戸棚がひどく遠くにあるように感じ、けしてたどり着くことはできないような気がした。
ぐったりと体を弛緩させ、窓を透ってくる月の光に身を晒す。
淡い光の中に舞う埃を見ていると、ドアをノックするコンコンという音が聞こえた。
122流された血のために彼女は(3):02/12/10 15:03 ID:Tvy8uZYP
振り向くと戸口には古めかしい絣を羽織った老人と楚々としたセーラー服姿の少女が立っていた。
「お困りのようじゃな?」
まひるが何も言わずに黙っていると老人が話を振ってきた。
彼は手術台をはさんで丁度まひるの向かい側に立つと、安心させるようにニカッと笑った。
「儂が来たからには安心せい。
わしの名は魔窟堂野武彦、逃げも隠れもするが嘘はつかない、魔窟堂野武彦じゃ。
なーに、おぬしらとことを構えようというつもりはない。
レディが困っておるのを黙って見過ごすのはいささか礼儀に反すると思っての。
それであっちにおるのが・・・」
戸口の壁に寄りかかったままでいるアインのことを手短に紹介すると、
魔窟堂はオタカさんの傷口をあらためはじめた。
「あの、魔窟堂・・・さんはお医者さんなんですか?」
「うん?いや、そういうわけではないがな。ム・・・、これは・・・」
「あの、よくない・・・ですか?」
魔窟堂がわずかに顔を曇らせたのを見て、まひるは身を乗り出すようにしてたずねた。
「ん?いや、思ったより出血がひどいようなんでの。
じゃが、まぁここは儂に任せておけ、伊達にブラックジャックを全巻読破したわけではないぞ。」
ドン、と胸を叩くと魔窟堂は壁際の棚をあさり始めた。
「何してるんですか、その・・・魔窟堂さん?」
「胸部の弾丸はかなり奥の方まで入っておるんでな。ちょっとしたオペが必要じゃ。その準備を、な。」
「オペって、手術するんですか!?」
素っ頓狂な声をあげて、まひるは魔窟堂の顔をまじまじと見つめる。
「なーに、銃弾の摘出などオタクにとっては必須のたしなみの一つじゃよ。
ささ、二人には悪いがしばらく外で待っていてもらえんかの。
人間の体というのは存外デリケートに出来ておるんでな。
悪い菌でも入ったら、せっかくのオペが台無しになってしまうこともある。・・・アイン。」
棚から引っ張りだした手術着を着込みながら、魔窟堂は黙ってみているアインに話し掛けた。
「しばらく、彼女のことを頼めるかのう。」
123流された血のために彼女は(4):02/12/10 15:04 ID:Tvy8uZYP
「あの、アインさんは・・・どこに住んでいらしたんでしょーか?」
「ニューヨーク」
「あ、そうですか。ニューヨークですか。英語、お得意なんですか?
いいなぁ、あたしなんてこの前の英語のテストがさんざんで・・・」
「別に得意ではないわ。必要だから、覚えただけ。」
「ああ・・・そう、ですか。」
まひるの返事に軽く頷くと、もう用はすんだとばかりにアインは再び森へと目を転じた。
(うぅ・・・気まずいっ、実に気まずいですよ、奥さんっ!!とりつくしまが1エーカーもないです。
自分でこんなこと言うのもなんだけど、傷心の乙女が気をつかって話し掛けてるんだから、
そこんとこ汲んでくれてもてもいいんじゃないのかなー。ねぇ、そう思いません?)
まひるは見えない奥さんに向かって涙ながらの苦情申し立てすると、
アインの死角でダムダムと煉瓦造りの花壇を叩いた。
二人は先ほどから、ずっとこの調子の会話を繰り返している。
まひるが質問し、アインがそっけなく応える。
(もっと、こー、なんていうか、対話っていうんですか、会話のキャッチボールっていうんですか。
初対面の人間同士の食うか食われるかの腹の探りあいみたいなそーいうのが
あってもいいと思うんですが、どんなもんでしょう、奥さん?)
ふたたび奥さんに意見を求めると、まひるは一つため息をついて背にした建物を見やった。
(魔窟堂さんは任せろって、いったけど・・・)
「大丈夫よ。きっと。」
「・・・え?」
見透かしたかのようなアインの落ち着いた声に、思わずまひるは振り返った。
「大丈夫よ、きっと。」
アインは相変わらず森の奥を見据えたまま、もう一度そっくりそのまま繰り返す。
「彼を信じなさい。」
「でも、オタカさん、血だっていっぱい出たし、顔だってすごい青くなって、二回も撃たれて、それで、それで・・・」
「彼を、信じなさい。」
その一言で、なぜかまひるはゆっくりと噛んで含めるようにして言い聞かせてくれるアインの強い瞳を信じた。
そして、薄明かりの漏れ出る手術室の方を見た。
「そうだよね。大丈夫・・・だよね。きっと・・・」
124流された血のために彼女は(5):02/12/10 15:09 ID:Tvy8uZYP
「さて、初めてのオペが滅菌も満足に出来んところというのは少々心もとないが、
どのみち十分な器具があったところで使いこなすことなど出来んのだから、同じことかの?
まぁ、あの嬢ちゃんよりは上手くできるとは思うんじゃが・・・とにかく全力を尽くすのみじゃな。」
魔窟堂はゴム手袋のはめられた手を捧げ持つようにしてあげたまま、表情を引き締めた。
「クランケは二十代女性。左肩と胸部にそれぞれ一つの銃創、弾丸は貫通しておらず、摘出の必要がある。
まず、左肩より処置をはじめ、胸部の弾丸は切開の後に摘出。
では、これよりオペを開始する。」
機械的に宣言したあと、左肩と胸部に局所麻酔を施した魔窟堂はピンセットで肩のあたりに取りついた。
程なくして摘出された血まみれの45口径の弾丸が銀色のボールで乾いた音を立てて踊った。
「さぁ、問題はこっちじゃな。」
誰に言うともなく呟きながら、魔窟堂は明かりの位置を調節した。
浅黒い皮膚の上にメスを走らせ、吹き出る血をタンポンで拭いながら、いくつかの鉗子で切開部を固定する。
「南無三!」
魔窟堂は目を見開いた。
いくつかの毛細血管と神経を縫うようにして弾丸はひときわ太い血管に接して、止まっている。
「下手に動かせば大出血、一発でガメオベア、じゃな。
さりとて当然このままにしておくわけにもいかん、か。
さて・・・・・・野武彦、上手くやれよ。」
125流された血のために彼女は(6):02/12/10 15:09 ID:Tvy8uZYP
「あ!」
手術室の窓からもれ出る光が消えたのを見たまひるは立ち上がり、病院の入り口の方へ駆け出していった。
スカートについた砂埃を払いながら、ゆっくりとした足取りでアインが続く。
「魔窟堂さん!?オタカさん、オタカさんは?」
まひるは返り血のついた手術着をつけたままの魔窟堂につかみかかるようにして尋ねた。
「ウ、ム、そのことなんじゃが。」
「ウソ・・・そんな、もしかして・・・」
「いや、処置は滞りなく済んだ。済んだんじゃが、なにしろ出血がひどすぎて血が足りん。
ここにあった輸血用血液では十分というわけにはいくまい。正直なところ、あとはやっこさん次第じゃ。」
「そう・・・ですか。」
「なーに、心配はいらん。見たところあの御仁は随分と鍛えておるようじゃ。
肉体的に訓練されたものは往々にして精神的にもタフなものじゃからの。」
魔窟堂は自分の言葉に目に見えて落ち込むまひるの肩を叩くと、明るい声で言った。
三人は戸口をくぐると、今は明かりの消えた【手術中】のランプの下の腰掛に並んで座った。
「フゥ、慣れんことをやるとくたびれるわい。」
漆喰の塗られた壁に頭を持たせかけた魔窟堂は目頭を抑えながら深々と息を吸い込んだ。
「これからのことじゃが、万一のときのために彼には誰か付き添いがおった方がよいじゃろう。
それでまず誰がつくかじゃが・・・そうさのう、アイン、頼まれてくれるかの?儂はいささか疲れた。」
「あの、オタカさんの看病だったらまずあたしが・・・」
魔窟堂の言葉にアインがコクリと頷くのを見て、まひるはおずおずと申し出た。
「うむ。心配なことは分かるがの、えー・・・」
126流された血のために彼女は(7):02/12/10 15:10 ID:Tvy8uZYP
「まひるです。広場、まひる。」
「まひる、まひる、か。いい名じゃの。しかしな、まひる殿。おぬしも疲れておろう?
じゃから、彼には儂とアインとで交代でつく。その間おぬしはしばらく休むとよかろう。」
「でも、オタカさんがこうなったのアタシのせいで。アタシの・・・せい・・・なんです。だから。」
涙ぐんでうつむくまひるを魔窟堂は気の毒に思ったが、言葉を継いだ。
「・・・そうか、じゃがな。残念ながらこの戦いは今しばらく続く。
となれば儂らには休息が必要なのもまた事実じゃ。
始まってからこっち満足に休んでもおらんのじゃろう?だから、まずアインと儂とで彼の様子を見る。
おぬしはその間しばし休んで、それから彼につく。これでどうじゃ?」
魔窟堂が尋ねてもまひるは黙ってうつむいているだけだった。
魔窟堂はその小さな背中を見ていた。アインは窓の外の月を眺めていた。
静かな廊下にさわさわと木の葉の揺れる音だけが聞こえ、病院特有の消毒液の匂いがぷんと漂う。
手術着の紐を解きながら、魔窟堂は黙ってまひるの返事を待った。
「分かり・・・ました。少し休ませてもらいます。その間、オタカさんのこと・・・」
長い沈黙のあとで、まひるはゆっくりと顔を上げた。
「ああ、わかっとる。わしらに任されよ。」
まだためらいを残しているまひるに向かって、魔窟堂はどんと胸を叩いて請合った。
まひるが隣の病室に入るのを見届けたあと、腰をあげながら魔窟堂はアインに声をかけた。
「では、悪いがアイン、しばらく彼の看病を頼む。」
「分かったわ。」
短く答えてアインは手術室の中に消えた。
「ふー、それではわしもしばらく休ませてもらうかの。
しっかし・・・さすがにこの歳ともなると徹夜は堪えるわい。
昔は48時間耐久鑑賞会など何ということもなかったんじゃがのう。」
首を鳴らしながら、魔窟堂はまひるの部屋の隣のドアの向こうに消えた。
127流された血のために彼女は(8):02/12/10 15:19 ID:Tvy8uZYP
染み込んだ血が錆び色に変わり始めた手術台のシートの前で、アインはチーク材の丸いすに腰をかけて座っていた。
月明かりに浮かぶ静かな室内には、ぴっ、ぴっ、という規則正しい音が聞こえるだけで、
他には音というほどの音は何も聞こえてこない。
横たわるオタカさんを眺めながら、アインは同じようにこうして病室で眠るものを見たことを思い出した。。
白いシーツの上に横たわっていたものは、事切れていた。
眠っているように穏やかな表情をしていたが、首が奇妙に曲がっていた。
涼宮遙は死んだ。
アインが殺した。
何の表情も浮かんでいないアインの目がすっと細められ、彼女と同じように眠る似ても似つかぬ大女を見下ろす。
その目をオタカさんのぎょろりとした目が突然見返してきた。
「目が醒めたの?」
それには答えず、オタカさんは目の前にいる黒髪の少女のことをじっと見た。
「あんた、堅気の人間じゃねえんだろ?」
アインの饒舌な沈黙を肯定と受け取ったオタカさんは弱々しく笑って視線を天上に向けた。
「答えたくないなら、まぁいいさ。何となくそういう気がしただけだから。
けど、とりあえずはそういうことで、話は続けさせてもらうよ。」
オタカさんはじっとアインの瞳を見て、そして腹に巻かれた包帯を見て、最後に天上に視線を戻した。
128流された血のために彼女は(9):02/12/10 15:19 ID:Tvy8uZYP
「どうだ、あんたから見て、アタシはまた動けるようになりそうか?」
ただ、淡々と話すオタカさんの言葉に暗い感じはない。
月明かりを背にして座るアインはやはり何も言わずに黙っていた。
閑散とした部屋には相変わらず、ぴっ、ぴっ、という音だけが聞こえる。
「遠慮するこたぁねぇよ。ズバッといってくんな。」
それでもアインはしばらく何も言わないでいたが、
オタカさんが黙って言葉を待っているのでやがて口を開いた。
「まず、血液が足りないわ。
輸血しない限り、あなたは立って動くことはおろか、
あと一日生きつづけることも難しいでしょうね。
そして、この島のなかで輸血用の血液が手に入る可能性は限りなくゼロに近い。」
「随分はっきりと言ってくれるじゃねぇか。」
眉一つ動かさず告げるアインを見て、オタカさんは気持ちよさそうに笑った。
「そっか、やっぱりもう助からないんだな。」
大きく息を吐き出し、オタカさんは明かりの消えた蛍光灯を眺める。
薄明かりに澱む部屋は底冷えがした。
「なぁ、一つ頼みがあるんだが・・・」
誰かが叩くドアの音で、魔窟堂の浅い眠りは破れらた。
「ん・・・む・・・・・・、誰じゃ?」
硬いベッドから立ち上がると、絣の合わせを正しながら金属製のノブを回してドアを開く。
そこに立っていたものを見て、魔窟堂は絶句した。
「その恰好。アイン、おぬし・・・」
魔窟堂は何も答えないアインの瞳をじっと見つめた。
「彼を手術したのは儂じゃ、じゃから彼の状態は分かっておる。
だがな、だからといって・・・何か他にやりようもあろう?」
魔窟堂はアインから目をそらして、ぐっと拳を握り締める。
「この状況で、ただ死んでいったのでは、あの子は立ち直れない。」
アインの言葉に、魔窟堂は黙って唇を噛むだけだった。
「どうするつもりじゃ?」
「私はここにいるべきではないわ。」
「これを・・・持って行け。」
魔窟堂はしばらく考えたあと廊下に立てかけてあったスパスを突き出して、
やりきれないといったふうにぼそりと呟いた。
「・・・ありがとう。」
随分と長い間、魔窟堂とショットガンを交互に見比べてアインは、短く礼を言って踵を返した。
出て行くアインの小さな後姿を魔窟堂は静かに見送った。
「まったく、不器用なやつじゃ。」
アインの服から滴り落ちては転々と跡を残す血を見て、魔窟堂野武彦は去ってしまったもののために涙を流した。


bP5 高原美奈子 死亡
      ――残り16人
130流された血のために彼女は(11):02/12/10 15:26 ID:Tvy8uZYP
【広場まひる】
【現在地:病院】
【備考:天子化一時抑制】

【魔窟堂野武彦】
【現在地:病院】
【スタンス:主催者打倒】
【所持品:レーザーガン】

【アイン】
【現在地:???】
【スタンス:素敵医師殺害】
【所持品:スパス12】
131求めよ、さらば求められん(1):02/12/15 15:02 ID:+BnkOfF9
>129
(第二日目 AM05:00)

「では、どうする。これからあやつを追うか?」
ようやくパニックの収まったまひるに向かって、魔窟堂は尋ねた。
何も答えないまひるのつむじを見ながら、彼は自分のしたことがはたして正しかったのかを考えてみた。
少し考えて答えを出すことを諦めた魔窟堂は目を閉じて、まひるが何か言い出すのをじっと待つ。
アインが出て行った後しばらくして、彼はまひるに事態を説明することを決意した。
それがどういう結果になるかがよく分かっていただけにひどく憂鬱な仕事だった。
それでも魔窟堂が重い腰をあげたのは、
あえて泥水をかぶることを選んだアインに、少しでも報いてやりたいと思ったからだった。
しかし、そのためには真相を胸にしまっておかなくてはならなかった。
ただ、既に起こってしまった干からびた事実だけを話しさえすればそれでよかった。
湿ったため息をついて部屋を出た魔窟堂は
ところどころ壁の漆喰の剥がれかけた廊下を足を引きずるようにして歩き、
ひんやりと冷たいドアノブをゆっくりとひねった。
薄暗い部屋の中はガランと広く、備え付けの簡易ベッドの上に腰掛けたままのまひるがぼんやりと窓の外を見ていた。
入り口に魔窟堂の姿を見とめるとまひるはすぐに、何かあったんですか、と駆け寄ってきた。
真っ赤に泣き腫らした彼女を目の当たりにした魔窟堂はなおのこと憂鬱な気分になった。
「落ち着いて聞いてもらいたいんじゃがな、まひる殿」
慎重に言葉を選びながら話す魔窟堂の説明をはじめた。
132求めよ、さらば求められん(2):02/12/15 15:03 ID:+BnkOfF9
まひるは小さな叫び声や、まるで意味をなさない独り言を何度か漏らしたが、
一度も口を挟むことなく黙って聞いていた。
まひるはその間ずっと顔を伏せたままにして、おこりを起こしたかのように震えていた。
そして、今、まひるに事実を伝え終えた魔窟堂はじっとまひるの返事を待っている。
まひるの背中を見ながら、アインのことを考えていた。
かのひたむきな殉教者の行く手にはつねに血の臭いがついてまわる。
望むと望まざるにかかわらず、それがファントムと名づけられたものどもの宿命なのだ。
魔窟堂はカーテンの向こうの夜の景色を歩く彼女のことを思った。
「あたし・・・あの人を追います」
「そう・・・か」
予期したとおりの言葉が長い沈黙を破った。
魔窟堂は肩を落として深い溜息をつく。
(さあ、これでおぬしの望んだとおりになったぞ、アイン。 これでよかったんじゃろう?)
「追って・・・どうしてこんなことしたのか、聞こうと思うんです」
「そうか、しか・・・・・・・・・・・・何じゃとっ! 
復讐は、あやつに復讐はせんのか?あやつを許せるのというのか?」
「許せるかどうかは、分かりません。
でも、あたし、そんなに長くお話したわけじゃないけど。
アインさんがそんなこと・・・意味なくこんな酷いことする人には思えないんです。
だから、きっと、何か理由があると思うんです、何か、きっと。
許せるかどうかは分からないけれど、それを聞いてからでも遅くないかなって・・・、やっぱり変ですよね?」
当惑する魔窟堂の目をしっかりと見据えてまひるは話を続けた。
まひるの目はまだ涙は乾ききってはいなかったけれど、光を宿した強い目だった。
魔窟堂はその目が誰の目に似ているかに思い至り、嬉しくなった。
正しきは報われると信じることが出来た。
「それは、そうじゃな、それも、よいかもしれん」
133求めよ、さらば求められん(3):02/12/15 15:04 ID:+BnkOfF9
「それで魔窟堂さんは何か心当たりありませんか?」
「・・・さあ、わからんのう。儂には見当もつかんわい」
核心にいきなり触れられた魔窟堂の答えはしどろもどろになる。
「その間は何なんですか、その間は?あやしーなー。
あっ、ひょっとして魔窟堂さん、ほんとーは何か知ってるんじゃあないですかぁ?」
明るさを取り戻したまひるにウリウリと脇腹をつつかれて、ますます魔窟堂は狼狽した。
「う、それは、じゃな。それは・・・
そう、まひる殿の考えに感服しておったのじゃよ!!
罪を憎んで人を憎まず。口で言うのはたやすいが、なかなかできることではないぞ。・・・・・・・・・・・・ん?」
「どうかしましたか?」
「いや、いま何か音が聞こえたような気がしての」
耳をそばだてた魔窟堂は怪訝な顔をしたまひるに小声で答えた。
「んっふっふっ、だめだめ、そんなことじゃぁ、このまひるさんはだまされませんよ、魔窟堂さん」
まひるがたじろぐ魔窟堂にさらに詰め寄ったとき、
今度は確かに正面玄関のほうからかすかな足音が二つ聞こえてきた。
「もしや・・・」
「アッ、ちょっと待ってくださいよ、魔窟堂さん」
玄関の方へ駆け出す魔窟堂を追って、まひるも走り出す。
134求めよ、さらば求められん(4):02/12/15 15:05 ID:+BnkOfF9
「誰じゃ?こちらに戦う意志はない。良ければ話し合わんか?」
丁度互いの姿が見えない曲がり角のところで魔窟堂は立ち止まった。
「・・・魔窟堂さん、ですか?」
相手もこちらを探っているのだろう、幾分緊張をはらんだ声で尋ねてきた。
ついたり消えたりしていた天井のランプがついた状態で安定する。
「おお、やはりそうであったか。待っておったぞ。」
「明かりが消えていたものですからてっきり行き違いになってしまったのかと思いました」
暗がりから表れ出た少年は同じ年頃の少女の手を引いていた。
「高町君に仁村さん、じゃったかな?
ここに来た、ということはもう二人の愛の語らいは一段落ついたということかの?」
「からかわないでくださいよ、魔窟堂さん、かなわないな」
「いやいや、初々しいのう。ん?」
チョイチョイ、と袖を引くまひるに二人のことを手短に紹介すると、魔窟堂は恭也達の方を向いた。
「で、決心はついたかの?」
「はい、俺達もあなたと御一緒しようと思います」
恭也が知佳の方を振り返って同意を求めると、彼女もこっくりと頷いた。
「そうか、そうか」
魔窟堂もまた滝のような涙を流しながらしきりに頷いた。
「人を信じる心というのはまことに素晴らしい美徳じゃな、そう思わんか、まひる殿?」
「?」
言われるままに頷いたまひるだったが、魔窟堂の言わんとしたことはよく分からなかったようだ。

135人民皇帝VS鬼畜王(1):02/12/23 02:55 ID:tO3z/ZDS
>9
(第二日目 AM00:30)

降り注がんばかりの星の下、砂浜の上、
ランスは砂の上に脱ぎ捨ててあった鎧を手際よく身につけながら体を起こす。
「オイ・・・」
彼は首を回しつつ空から降ってきた鉄の塊の近くに転がしたままの
タコのような奇妙な生き物に近づくと、それをつま先で軽くつっついた。
するとそれは軽い衝撃にむずがるように蠢めき一瞬覚醒しかけたかに見えた。
しかし、しばらくもぞもぞとしていたそれはランスの足をうるさげにふり払うと、
ふたたび泥のようなまどろみの中に転がり落ちていった。
そしてあとにはそれ――グレン・コリンズ――の聞くに堪えないいびきだけが残る。
「ムム、俺様を無視するとは無礼なやつ」
「ま、待ってくださいランス様!」
ランスが振り返ると、そこにはドレスの着付けを終えたユリーシャがたっていた。
急いで走ってきたのか、彼女は肩で大きく息をしながらも近づいてきて
砂浜に突き立ててあった剣を手にしていたランスにすがりついた。
「待ってくださいランス様。わたくしが起こしてみますから・・・」
「ム・・・・・・いいだろう。やってみろ。その代わり出来なかったら、お仕置きだ、いいな?」
懇願するようなユリーシャの目を見て、ランスは気勢をそがれたのか、ぶっきらぼうに言った。
(どうも調子が狂うな・・・こんなことではいかん、主導権はつねに俺様が持っていなくては示しがつかん)
何が嬉しいのか艶を含んだ笑みを浮かべるユリーシャを見ながら、ランスは漠然とそんなことを考えていた。
136人民皇帝VS鬼畜王(2):02/12/23 02:55 ID:tO3z/ZDS
「ハイ・・・」
お仕置きという言葉にユリーシャは柔らかそうな頬をぽぽっと赤らめた。
「お仕置き・・・、ですね?」
ユリーシャは夢みるように陶然と繰り返して、きゅっと拳を握り締める。
彼女は四度目の定時放送もランスに抱かれたままで聞いてたことを思い出していた。
思い出すだけで胸が高鳴り、体がかぁっと熱を孕んでいくのをはっきりと感じられる。
それに下腹部のあたりもじんじんとしびれるように疼く。
父以外の異性をよく知らない彼女はその感情を上手く言葉には出来なかったけれど、
自分のものとは違う、硬くて大きいランスの背中に体を寄せているだけでとても暖かい心持ちがした。
(・・・ランス様・・・私は・・・・・・)
熱に浮かされたような顔をしていた彼女はそこで我にかえって、
沸きあがってきたはしたない妄想を頭から追い払おうと可愛らしく頭を振る。
そして、グレンのほうに向き直ると豪奢なドレスの裾を摘んでかがみこみ、おずおずとグレンのほうに手を伸ばした。
(ウ・・・)
ユリーシャはおよそ人間のものとは思えないグレンの体を目の前にしてさすがに躊躇した。
「G・S・V3」が落ちてきてから既に六時間あまり立った今でも、まだその異様な風体には慣れなかった。
銀色のやや硬質な髪はすっきりと刈り込んであり、
眠っているにもかかわらず眉間に深い縦皺をいく本か浮かべてはいるものの、彼は歳相応に整った顔立ちをしていた。
問題は首より下の部分だった。
137人民皇帝VS鬼畜王(3):02/12/23 02:55 ID:tO3z/ZDS
夥しい数の触手が月明かりにぬらりと光り、おぞましくもひしめくように絡み合っている
吸盤こそついていないものの、それはタコやイカの足に極めてよく似ており、
すえたような匂いのする未知の分泌液が絶えずその表面を潤している。
さらにそれがきらきらと光る糸を引いて滴り落ち、砂地の上でじっとりとわだかまっていた。
ユリーシャに、情事の際にランスが吐き出したものを連想させるその液に、
高まっていたユリーシャの心も一瞬にしてクールダウンする。
「何をしてる。さっさとやらんか」
「ハ・・・ハイ!」
背後からのイラついたランスの叱声に、
ユリーシャははじかれたように答えると、覚悟を決めてグレンの肩(?)に手を置いた。
「あの、もし、起きてください。起きてくださらないと大変なことになってしまいます」
控えめなユリーシャの呼びかけに、敏感に反応したグレン・コリンズはクワッと目を見開き、
にらみつけるような目つきで彼女を凝視した。
それがあまりに異様な眼差しだったのでユリーシャは少し後ろに身を引いた。
そのままの体勢でしばらく次の言葉を待ったが、目覚めたはずのグレン・コリンズには一向にものをいう気配がない。
そのうち、グレンはふたたび大きな高いびきをかき始めた。
「・・・未来の偉大なる皇帝の眠りを邪魔するのはだ〜れ〜だ〜・・・、不埒者は地獄に落ちるがよい、
さもなくば私が即位したあかつきには・・・」
わけのわからぬうわごとをあげながら、グレンは気持ちよさそうに触手をブルブルと震わせた。
「あの、本当に大変なことになってしまいますから、起きてください、ね?」
目の前で人が殺されることを忍びないと思うユリーシャは、ふたたび勇気を出してグレンの体をゆすりつづけた。
138人民皇帝VS鬼畜王(4):02/12/23 03:01 ID:tO3z/ZDS
「ユリーシャおねえさん、ダーメ、ダメ、そんなんじゃぁ。
寝てる人を起こすときにはぁーーーーーーーーーーーーーーーーー、
こーゆーふーにーやんなくっちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、とぉぅっ!!」
先ほどまで三人で川の字になって眠っていたあたりから、アリスのやたら元気な声が耳に届いた。
「キャッ」
声のほうを振り返り見て、ユリーシャは小さな叫び声をあげた。
腕を大きく振り、叫びながら全速力で走りこんでくるアリス。
風をはらませながら視線の先のユリーシャめがけて走る彼女は減速する兆しもなく、
慌てて後ろに身をそらしてかわすユリーシャ。
その空間を、力強く地を蹴り跳躍したアリス・メンディがたなびく黒衣もいと見目鮮やかに
美しくなめらかな放物線を描きつつ猛スピードで通り過ぎていった。
そして、
バ キ ャ ァ ッ ! !
きりもみ状になって飛来したアリスのかかとが眠れるグレン・コリンズのこめかみに見事に突き刺さった。
「ギャフン!」
間抜けな声をあげて、1回、2回となおも勢いよく転がりながら遠ざかっていくグレン・コリンズ。
「た、たいへん!」
「ありゃりゃ、失敗、失敗。ちょぉっと、強すぎたかも。
てへ、アリスちゃん、はんせー、はんせー」
青ざめたユリーシャが慌てて駆け寄っていくのを見ながら、アリスは気まずそうに笑いながら頭を掻いた。
139人民皇帝VS鬼畜王(5):02/12/23 03:05 ID:tO3z/ZDS
「大丈夫ですか?」
ようやく勢いのおさまったグレン・コリンズは俗にいうマングリ返しの体勢のままピクリともしない。
彼は困ったような少女の声をぼんやりと聞き流しながら、ようやく覚醒し始めた意識の中で状況を整理し始めた。
(ム・・・、ん・・・、どういう・・・ことだ、これは?頭が割れるように痛むぞ。
・・・ハッ、もしやこれは病気か、病気なのか、それも未知の病気なのか?
クゥゥッ、このような辺境で古今無双にして空前絶後、前代未聞の偉大なる頭脳、
史上最高の知性、明日の偉大なるリーダー、グレン・コリンズがこんなところで失われてもいいのか?
否、断じて否!!
神がそのような愚を許すはずがない。
・・・だが待てよ、一体どこに神がこの私よりも聡明にして万能であるという証拠があるのだ?
そもそも、神は試練などと称して人に苦悩を与えて悦ぶような加虐趣味の持ち主だったではないか。
と、すれば私という救世主が無知蒙昧にして、愚劣な民衆の手から奪われるのは必然にして当然。
そうか、私に支配されるという無上の喜びに浴さぬままに民草どもは生きていかねばならんのか、なんとも不憫な・・・
そしてとるに足りぬ哀れな民どものためにこうして涙を流すことのできる私はなんと美しいのだろう)
140人民皇帝VS鬼畜王(6):02/12/23 03:05 ID:tO3z/ZDS
「あ、あ、白目むいてます。どうしましょう、ランス様?」
(ああ、美しい声が聞えだ。
もしや噂に聞く天使というやつの声か?
私は神などといった馬鹿げたものは信じてはいなかったが――なぜならば、私こそが神そのものだからだ――
この声は良い声だ、フム・・・実に、実に心地よい。
よし、この声に免じてもしも天国などというものが実在するのならば、神に代わって私がそこを治めてやろう。
私の溢れんばかりの才覚は地上だけのものにしておくのは勿体無いからな。
フハハハハ、私が天に召されんとしているということは、
神もその程度のことを気づくくらいには聡い、ということか。
・・・・・・ただひとつ気にかかるのは・・・ミス北条、すまないがどうやら君との約束は果たせなかったようだ。
ゲームの参加者を救うのも、偉大なる知性の宿る頑健な肉の器あったればこそ・・・今となってはいた仕方がない。
せめて、私が神となったそのときには、彼らの魂に永遠の平安とやらを与えてやることにしようではないか。
少し趣旨が変わってしまったが、これくらいの誤差は許せよ、なぁ、ミス法条?)
「貴様っ、いい加減にせんかぁ〜〜〜〜〜〜!!」
バキッ!!
振り下ろされたランスのかかとによってグレンの【天国統治計画】――その第一章――を余儀なくされた。
141人民皇帝VS鬼畜王(7):02/12/23 03:06 ID:tO3z/ZDS
「クゥッ、死者に鞭打つとは天使というのも存外ひどい・・・・・・・・・ん?」
妄想を中断させられたグレンは、痛む頭を振り振り目を開き、
自分のことを心配そうに見つめるユリーシャの顔をぺたぺたと触手で撫ではじめた。
「やぁっ・・・」
ナメクジが這ったあとのように粘っこく光るあと筋をつけられたユリーシャは嫌悪感にすくみあがった。
が、そんなことにはお構いなしにグレン・コリンズはズイッと顔を寄せて目を細める。
「君が天使なのか?
天使というものはもう少しこう・・・、後光が射していたり、羽が生えていたりしているものと思い込んでいたが・・・
そういえば君にはエンジェル・ハイロゥもないな・・・、まぁ、元来天使というものはこんなものなのかもしれん。
まぁよい。では、天使、貴様に神の後継グレン・コリンズ・ザ・ファーストを天国へ連れて行くことを許そう」
傲慢な口の聞き方をされても、どうしたらよいのか分からずにユリーシャは
ランスに助けを求めるような視線を送る。
「オイ、貴様、俺様の女に勝手に触るな」
それまで二人のやり取りを(正確にはグレンの一方的な長口上)を黙って聞いていたランスは、
不機嫌を隠そうともせずに手にした大剣の鋭利な切っ先をグレンの首(?)のあたりに突きつけた。
「ム、天使は女形だとばかり思っていたが男もいたか。
しかし、醜いうえに未来の神に対して刃を向けるとは・・・ハッ、そうか貴様が噂に名高い堕天使というやつか。
天使と堕天使か、実に興味深い、後学のためにも是非あとで比較解剖を・・・」
「うるさい、黙れ」
バキャッ!!
「貴様!!1度ならず2度までも私を足蹴にするとは何という不埒な天使、いや、だから堕天使なのか・・・
いずれにせよ、だ。その剣を私によこしてそこになおれ、たたっ切ってくれるわ、この下衆が!」
ビシッと、ランスを指(触手)さすグレン。彼は内心ではうっとりとほくそえんでいた。
142人民皇帝VS鬼畜王(8):02/12/23 03:13 ID:tO3z/ZDS
(決まった、完璧だ。さすがはグレン・コリンズ、神の後継者、パーフェクトだ。
この見るからにおつむの拙そうな哀れな堕天使も思わずひれ伏すほかはあるまい・・・
しかし、天使を身にまとったオーラだけで心服させるとは我ながら罪な男だ。
何故に造物主はかくも潤沢な才をわたくしグレン・コリンズ一身に与えたのだ。
この調子ならば、やはり仮に神というのが本当にいるにしても、悪いが天国は私のものとならざるをえまい。
飼い犬に手をかまれるとはな、ククク、神の全能というのもすこぶる怪しいものだ)
「フハ、フハ、フハハハハハハハハハハハハハハハハハ」
「あの」
ユリーシャは今にも切りかかりそうなランスを必死に押しとどめながら、
胸を大きくそらして高笑いするグレンに声をかけた。
「ん、なんだ天使その1?
本来ならば、下っ端天子ごときが神である私に声をかけるなど許されんことだが、
君は私を天国へ導いてくれる祝福の天使、麗しき生きたトロイの木馬だ、特に許してつかわそう」
「あ、ありがとうございます」
律儀にもお辞儀を返すユリーシャに向かってグレンは鷹揚に頷く。
「あの、ですね。実に申し上げにくいのですが」
「ウム、苦しゅうない。はっきりと申すがよい・・・そういえば、まだ名前を聞いていなかったな」
「あ、はい、わたくしはユリーシャと申します。それで・・・」
「ユリーシャか、どことなく田舎臭く垢抜けない名前だが、まぁ悪い名前ではないな」
「ありがとうございます。
それでですね、実は・・・・・・」
「分かっている、分かっている。
君達が天使であるということくらい、この天才グレン・コリンズにはすっかりお見通しだ。
いやはや、何もかも悟ってしまうというのも考え物だな。いささか面白味に欠ける人生だ、そうは思わんかね?」
ハッハッハッ、とまんざらでもなさそうに笑うグレン。
人の話はまったく聞いていないようだ。
143人民皇帝VS鬼畜王(9):02/12/23 03:14 ID:tO3z/ZDS
「いえ、あの・・・だから・・・」
「ん?何だ、まだ話があるのか?まぁ、良かろう。
私は寛大だからな。もう一度だけ奏聞することを許す、ただし手短にな」
「あ、はい。あの、もう一度言いますから、よーく聞いてくださいね?
私は天使じゃありません。あちらの方はランス様といって、あの方も天使ではありません。
もちろん堕天使でもありません」
大きく息を吸って、今度こそ聞き違えられることがないようにユリーシャは一語一語はっきりと話し、
報告を終えると、グレンの様子をうかがった。
しかし彼は彫像のように立ち尽くしたまま、ぴくともうごかない。
聞いてなかったのかしら、とユリーシャが思いだしたころ、
「 何 で す と ぉ ぉ お お ぉ お ぉ! ? 」
びくりと体を震わせたグレン・コリンズは絶叫した。
「では、君達は正真正銘の人間だというのかね?」
数分後、ようやく落ち着きを取り戻したグレンは情けない声で尋ねた。
「ちっがうよ〜、このアリスちゃんは人間なんかじゃなくって、
なんとぉ!デケデケデケデケデケデケェ、デンッ、まおー様なのだぁ、パンパカパーン!!
どうどうどう、おっどろいたでしょ〜?」
「何だ、貴様は、頭がおかしいのか?」
突如ユリーシャの肩口から顔を突き出してきたアリスを冷ややかな目でじっと見たあと、
自分は神を名乗っていたことをすっかり棚あげにしてグレンは言い放った。
早くも立ち直ったのか、先ほどの動揺もすっかり収まっている。
「う、ひっど〜い。アリスちゃん、怒れる。プンスカプンプン!
ランス〜、なんか言ってやって、ガッツーンと言ってやってよ〜」
「・・・オイ、タコ」
「私はタコではない、グレン・コリンズ。
将来人民皇帝となり貴様ら愚民どもを顎で使うようになる男だ、覚えておくがよい、蛮人ランス」
ブツン!!          (←何かがブチ切れる音)
「だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、もう我慢できん、殺す、絶対に殺す!」
「ま、待ってくださいランス様。ほらこの方、鍵と何か黒い箱のようなものを持っています。
これが何なのか聞いてからでも遅くはありませんでしょう?」
144人民皇帝VS鬼畜王(10):02/12/23 03:14 ID:tO3z/ZDS
「・・・チッ、好きにしろ」
さえぎるユリーシャに、ランスはしぶしぶ引き下がった。
「ランスはユリーシャおねーさまには甘いよね〜、ひょっとこするとラブですか、ラブラブなんですかにゃ〜?」
「・・・」
「いった〜い、なにゆえに殴るかな〜?ぼーりょく振るう男は、もてないよ、ランス〜」
「お前は少し黙っていろ・・・さて、では貴様の話を聞いてやろう、ありがたく思えタコ」
図星をつかれたのか、単にうるさいと思っただけなのか無言でアリスを小突いたランスは、
【らぶらぶ】に過剰反応しているユリーシャのほうを見ないようにして、グレン・コリンズの方に向き直った。
「フン、説明したところで貴様ごときに理解できるとは思えんがな、
これは私グレン・コリンズの天才によってのみ作り出しうる「首輪解除装置」だ。
ほれ、その首についている首輪をはずすための道具だ。まぁ、いずれ私の家畜になる貴様らにはお似合いだがな。
フハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」
「そうか、だったらそいつをよこせ。そーすりゃ命だけは見逃してやろう」
「ハッ、貴様と貴様の連れごときがこの装置を扱えるとでも思っているのか?」
「もう一度だけ言う、それをよこせ。でなければ今度こそ殺す」
ランスの目は笑っていない。今度はもうユリーシャも口を挟むことはできなかった。
「タコたんも、ランスがこーいってるうちに渡したほーがいーと思うよ。
ランスはやるときにはやるおっそろしい男だから。
・・・でも、それがかっこいーんだよねぇ。や〜ん、言ってたらまた濡れてきちった。
ランス〜、そんなのほっといてアリスちゃんとズンパンしよ〜」
アリスの能天気な声を聞きながらも、グレン・コリンズは目前の危機を回避するためその頭脳をフル回転させていた。
(どうするグレン・コリンズ?
確かにお前は天才かつ万能だが、武器を持った蛮人に素手で挑んで勝つというのは難しい。
蛮族は往々にして文明人よりも身体能力に優れているものだ。
かててくわえて、仮に出来たとしても暴力的なのは美しくない、やはり却下だ。となれば・・・)
「いいだろう、この装置は貴様にくれてやろうではないか。・・・・・・ただし!!」
145人民皇帝VS鬼畜王(10):02/12/23 03:14 ID:tO3z/ZDS
「何だ?」
ランスは伸ばしかけた手を中途で止め、獣ような目でにらみつけてきた。
「・・・ただし、だ。先ほども言ったようにこの装置は作動させるには非常に複雑な操作が必要だ。
無論のこと、少しでも間違えれば、ドカン、だ。
そして、こいつの操作法を知っているのはこの私グレン・コリンズをおいて他にはない」
(もう一人だけ・・・君は知っていたな、ミス法条)
グレン・コリンズの顔が一瞬曇ったのもつかの間、彼はすぐに何事もなかったかのように話を続けた。
「さらに、私はこれの操作方法を誰にも教えるつもりはない。ということはだ・・・
ここまでくれば、君の粗末な頭脳でも私の言いたいことは分かるだろう?」
「・・・俺様と手を組もうってのか?」
グレン・コリンズは無言のまま、自信に満ちた目でランスを見返した。
顎に手を当てたまま、苦虫を噛み潰すような顔でランスは考え込む。明らかにランスは苛立っていた。
グレン・コリンズは自分の高鳴る鼓動を聞きながら、返事を待った。
自分の仕掛けたこのブラフにはいくつかの穴があることに、彼自身も気づいていた。
涼しい顔をしているがいつそれを看破されるかと考えると気が気ではなかった。
「俺様が、それをいらんと言ったらどうする?」
(野蛮人にしては痛いところをついてくるではないか)
隠してもにじみ出てしまう狼狽を見て、今度はランスが自身たっぷりに笑った。
「・・・では、君はその首輪をどうする気かね?引きちぎってみるかね?」
「簡単だ、こんな首輪を外す必要はない。
男は殺す。女は俺様のもの。
ついでにルド・・・何とかもぶち殺して、世界も俺様のものだ。
そうなったら、マリアあたりに何とかさせる。ウム、さすがは俺様、グッドだ。ガハハハハハハハハ」
「フハハハハハハハハハハハハハハ」
突然、グレン・コリンズは愉快で愉快でたまらないといったふうに両手で腹を抱えて哄笑する。
146人民皇帝VS鬼畜王(11):02/12/23 03:23 ID:tO3z/ZDS
ランスはこの状況で馬鹿笑いを上げるグレン・コリンズを奇妙なものでも見るような目で見つめた。
「何がおかしい?」
「いやいやいや、失敬、失敬。気に障ったのなら、謝るよ、ランス。このとおりだ、すまなかった、許してたもれ。
フフフフフ、そうか、これはいらないのか・・・ならば残念だがいたし方あるまい。
貴様らには言ってなかったが、実はこの装置にはもう一つの機能があってね、首輪の起爆装置でもあるのだよ。
しかもそちらのほうの機能は何とワンボタン操作なのだ。
まさに天才の深謀遠慮、ここにきわまれりといったところか。
さて、それでは君がそいつで私を斬り捨てるのが早いか、私がスイッチを押すのが早いか、試してみるかね?」
「・・・話が違うぞ。」
「話?フフフ、何の話かな?」
グレン・コリンズは狂気の色を滲ませた病的な笑いに顔を歪ませて、装置をランスのほうに向ける。
見開かれた青い目は細かい血管が浮かび上がっており、少し斜視気味にランスの目を射抜く。
チッ、と舌打ちするとランスは剣を収めた。
「不愉快だ・・・男を生かしておくのはヒジョーに不愉快だが、生かしておいてやる、ありがたくおもえ」
「フフフフフ、そうか一度こいつを試してみたかったんだがな。
それはまたの機会のお楽しみにとっておくとするか。
・・・では、ランス、一時休戦ということで同意するのだな?」
ランスが無言で頷くのを見て、成り行きを見守っていたユリーシャもホッと安堵の吐息をつく。
(ふぅぅ、やり遂げた。やり遂げたぞ、ミス法条!)
グレン・コリンズは渋面を崩さぬように、今にもこぼれそうになる笑いを必死に堪えて、
ランスに気づかれぬよう後ろ手にぐっと拳(触手)を握り締めた。
彼は最大のブラフを通すことに成功したからだ。
彼が通したブラフ、すなわち、「起爆装置」という最大のブラフを。


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150バンカラ夜叉姫〜胎動変〜(1):03/01/01 00:33 ID:SAzgqu5u
>67
(第二日目 AM5:30)

後ろから静々とついてくる黒髪の少女を見て、遺作は笑いが止まらなかった。
「遺作お兄さん?」
山道の途中、沙霧の呼びかけに遺作は立ち止まった。
「及ばずながら、わたくし月夜御名沙霧は、勝利のために力を尽くしたいと存じます。」
そう言って、月夜御名沙霧は笑った。
(所詮は女、ぶち込んじまえばこっちのもんよぉ)
遺作も不敵に笑った。
151バンカラ夜叉姫〜胎動変〜(2):03/01/01 00:33 ID:SAzgqu5u
それより少し前のこと、束の間の眠りから目覚めた遺作は
あれだけ放出したあとにもかかわらず、股間に立派なテントを張っていた。
「よっこっらせっとぉ・・・」
年寄りくさい独り言をこぼしながら、隣で仰向けに倒れたままの沙霧の膝を割って細い腰をがっちりと掴んだ。
無言で怒張の先端をがびがびになっている沙霧の花弁にあてがう。
「ン・・・あぁ・・・」
かすれた声でやっとそれだけ言うと、沙霧は空ろな目で遺作のほうを見た。
「声もでねぇほど嬉しいのか?」
ズッ
いろんな体液の乾ききっていない性器の表面の襞を擦りあげるようにして、一息に奥まで貫く。
それだけで黄ばんだ精液が膣内から溢れ出してくる。
「あっ・・・つぅ・・・ぃ・・・」
しばらく挿入の余韻を楽しんだ後、遺作はむしゃぶりつくように狭霧の汗ばんだ首筋に舌を這わせた。
結合部から溢れ出る精液を潤滑油代わりに、遺作はゆっくりと腰を動かす。
「へっ、よくしまるじゃぁねぇか。これだから若い女はやめられねぇ」
「うん・・・あ・・・うぅん・・・あん・・・・・・あっあ」
突き上げるたびに聞こえてくる少女のあげる甘い声、
プルプルとやわらかく揺れる乳房とそのうえで固く身を結んだ乳首。
快感に激しくわななく沙霧の腹。
「いやよ、いやよもぉっ、好きのうちっ、てなぁ」
言いながら、まろやかな乳に手を這わせ、触れるか触れないかの微妙なタッチで撫でまわしたあと、
屹立した乳首をきゅっと引っ張る。
「やぁ・・・い、たい・・・ひっぱら・・・んぅ・・・ない、でぇ」
抗う声も、下腹部からじんわりと広がってくる絶え間ない快楽に飲まれて言葉にならない。
152バンカラ夜叉姫〜胎動変〜(3):03/01/01 00:34 ID:SAzgqu5u
「どうだ、気持ちいいか、ん?」
返事を待たずゆっくりと腰を引くと、それに合わせて泡立った二人の体液に塗れた遺作の一物が姿をあらわす。
沙霧は瞬きもしないでそれをじっと見つめていた。
「っ・・・」
それを意識した瞬間、禍福から伝わる快感が爆発した。
「いや、いや・・・あっ、あぁぁぁぁぁあああぁぁぁぁん」
沙霧は切羽詰った声をあげると、激しくかぶりを振って遺作から逃れようとする。
腹の下で悶える沙霧の表情がとろけるようなものに変わったのを見て取った遺作はすぐさま
ブチャッ、ブチャッという音を立てながら、リズミカルに腰使いに切りかえる。
「どーなってるのか言ってみな?」
「・・・遺作おにーさんの・・・が、狭霧の中をっ・・・んぁっ、かき回して・・・います・・・」
「かき回して、どーなってる?」
「遺作おにーさんのザーメンと狭霧のお汁が混じったのが、おにーさんのにまとわりついて・・・んん・・・」
「気持ちいいのかぁ、ん?」
答えはなかった。
ただ情欲に潤んだ声で許しを乞うように見返してくる。
「気持ちいいのか、と聞いてんだ」
「気持ち・・・いい・・・です」
一瞬の逡巡のあと、答えた沙霧は自ら快をむさぼるように腰を蠢かせた。
「気持ちいいですからぁ・・・んん・・・ハァ・・・もっと・・・もっとぉ
沙霧を・・・沙霧をめちゃくちゃにして・・・・・・くださいっ」
沙霧の絶叫に「へっ」と鼻を鳴らすと、遺作はクリトリスを摘み上げラストスパートに入った。
「やだ、やだ、やだ・・・なんか、なんかっくるぅ・・・・・・あっあっあっあっあっあっ」
微妙なビブラートをかけて喘ぐ沙霧の乳首を口中で転がしながら、遺作はひたすらに肉筒を擦りつけつづける。
「イク、イク、イっちゃうっ」
「おおぅ」
遺作は短くうめくと、顎を突き出し、ゆっくりと射精した。
「あ・・・、中・・・でてるぅ」
ぐったりと体を弛緩させた沙霧の意識はゆっくりと闇に飲まれていった。
153バンカラ夜叉姫〜胎動変〜(4):03/01/01 00:43 ID:SAzgqu5u
(って、そんなわけがありますか。こんな状況で寝るようなスットコドッコイといっしょにされては困ります)
ふたたび眠ってしまった遺作を尻目に、身だしなみを整えた沙霧はひとしきり考えをめぐらせた。
(それにしても・・・イク、イク、イっちゃうっ、は少し臭かったかもしれませんね、修正しなくては。
まったく、馬鹿の相手はこれだからいやなんです)
「遺作お兄さん?」
胸中に渦まく悪意をおくびにも出さず沙霧は眠る遺作に呼びかけるが、起きる様子はまったくない。
「あんまり寝すぎると少ない脳ミソが腐りますよ?
と、言ってもすでに腐っているのかもしれませんが」
凌辱者が寝ているのをいいことに、沙霧は小声でボソッと小粋な毒を吐く。
「・・・あくまで起きないつもりなのですね?いいでしょう、それならばこちらにも・・・」
「こちらにも・・・・・・何だ?」
沙霧の毒スイッチがオンになり、これからあらん限りの罵詈雑言をたたきつけようと思った矢先、
遺作が体を起こした。
頭を掻きながら大きなあくびをすると並びの悪い歯が除く。
遺作はひとしきりコキコキと肩を鳴らすと、
不気味に光を放つ目をどんよりと澱みながらも沙霧の方をねめつけてきた。
「こちらにも何だ、と聞いてるんだ」
機嫌が悪いの悟らせるに十分な低い声。不快なだみ声。
「こちらにも敵がやってくる、そう申し上げようと思ったところです。
御覧ください、遺作お兄さん。こちらに向かってくる光があるでしょう?」
沙霧は何食わぬ顔で飄々と交わして、スッと対人レーダーを差し出す。
用意周到な彼女にぬかりのあろうはずがなく、あったとしても咄嗟の機転を利かせて切り抜けることが出来る。
そうすることで、彼女は表に立つことなく富嶽学園を実質的に支配してきた。
154バンカラ夜叉姫〜胎動変〜(5):03/01/01 00:44 ID:SAzgqu5u
裏で糸引く黒幕やフィクサーのようなスタンスを彼女は好んだ。
(矢面に立つのはいつの時代も阿呆の役目。
容易く御されるあなたにはせいぜい踊っていただきますよ?)
「で、この光がどうしたんだ?」
逆光のため薄く笑った沙霧の顔が見えなかったのか、遺作は彼女の底意に気づかなかったようだ。
一瞬浮かんだ狭霧への不信の念も影を潜め、
ただ、差し出された薄い液晶モニターにうつる光点を指差し怪訝な顔を沙霧に向けている。
「この光はこの装置の近くにゲーム参加者がいるかどうかを示しています。
ほら、ここに私と遺作お兄さんの光が寄り添うように光っていますでしょう?
そして、もう一つ誰かは分かりませんがここに近づいてくるものがいます」
「へっ、誰が来ようが俺様の敵じゃぁねぇ。
なんてったって、今の遺作様は【 ざ ・ ぱ わ ー ど ・遺作さん】なんだからな」
「でも、遺作お兄さん。あなたはこのゲームに勝利なさるお方。
無用の危険は避けるのも王者の知恵かと存じます・・・・・・僭越ながら、この月夜御名沙霧に一つ妙案が」
(パワードだかコワードだか知りませんがこれだから、血の気の多い方はいやなんです)
「フ、ン。言ってみろ」
美少女が己の身を案じて献策してくるのが嬉しいのか、遺作は上機嫌で続きを促した。
「はい」
手際よく制服の内ポケットから地図を取り出す。
「ここには民家群があります。ここにいけばまだ何か役立つものがあるかもしれません」
155バンカラ夜叉姫〜胎動変〜(6):03/01/01 00:44 ID:SAzgqu5u
「遺作お兄さん?」
山道の途中、沙霧の呼びかけに遺作は立ち止まった。
「及ばずながら、わたくし月夜御名沙霧は、勝利のために力を尽くしたいと存じます。」
この言葉に満足げに破願した遺作を見て沙霧は、薄く笑った。
(もちろん、私自身の勝利のために、です。そこんとこ、お分かりになってますか?)


156朽木双葉(1):03/01/04 02:20 ID:qjwVR33f
(第二日目 AM:03:00)

背中がほんのりと温かいのは、座ったままで後ろから抱きすくめられているからだ。
あたしは心地よいまどろみの中で、体を丸めるようにしながら、ぼんやりとそんなことを考える。
あいつの体はもう少し温かかった。
抱き上げられたときは、恥ずかしいのと申し訳ないのとでそれどころじゃなかったけど、
あいつの体のぬくもりが伝わってきて、心臓だけはトクトク鳴ってた。
今は、そうでもない。
多分ああいうのを「淡い恋」と、そう呼ぶんだろう。
気の迷い?
そうかもしれない。
でもきっと、あのときあたしは、恋を・・・していたんだと思う。
思い出すと、目頭がじんわりと熱くなってきて、あたしは鼻をすすった。
あたしの初恋、あたしの恋、あいつはもういないのだ。
(あ・・・・・・いやだ・・・)
思い出が走馬灯みたいにフラッシュバックする。
暗い森の中、突然あいつは現れた。
ショットガンを持ってるあいつにビビッちゃったりなんかして・・・あれは醜態だったわね。
よくよく考えてみれば、あいつにはずっと恥ずかしいところばかり見せていた気がする。
首輪を壊してくれたときも殺されるって勘違いしてたし、
「僕が守ってあげるよ」なんて言ってくれるもんだから、ちょっと浮かれちゃったし、
こけしの鉢が割れた時だって、多分泣き顔見られてた。
なのに、あいつはいつだって
「何をそんなに怒ってるんだい?可愛らしい顔が台無しだよ」
「この大会がどんなものでも、双葉ちゃんのことは僕が…」
「…僕の首に腕を回してしがみつく双葉ちゃん、可愛かったよ」
・・・何よ恥ずかしいわね、あいつ、歯の浮くよう台詞しか言ってないじゃない。
灯台の前で手にキスされたときだって、お姫様抱っこされたときだって、私を守ってくれたときだって
キスを、してくれたときだっ・・・て・・・
「…双葉ちゃん、さっきの続きは…またあとで…、ね」
息をするのももどかしく、涙が出そうになる。
157朽木双葉(2):03/01/04 02:21 ID:qjwVR33f
「守ってくれるって、言ったじゃない、バカ・・・」
後ろのに聞こえないように、小さな声で毒づいてみる。
聞いているのかいないのか、「星川翼」は何も言ってこなかった。
そっと目を開いてみると、濃密な闇がみっしりと洞(うろ)を満たしている。
「ん・・・」
少し体をひねってみる。
「傷、痛むのかい?」
尋ねる星川翼の声はやわらかくて・・・
「そうじゃないわ。ただ・・・このままじゃ、ダメね」
「ダメ?」
星川翼の声がオウム返しに聞いてくる。
それには答えず、もう一度目を閉じる。
あいつのに似たうつろな声を聞くたびに、思い出が頭の中をよぎって、もうこれ以上耐えられそうにない。
「ダメなのよ」
「大丈夫だよ」
あたしの声が震えるているのにも気づかずに、星川翼は話を続けた。
「双葉ちゃんは僕が・・・」
ダメだ。
その先を言われたら、あたしはきっと泣き出してしまうだろう。
体はひんやりとしているのに、顔だけが燃えるように熱くなる。
唇を噛んで涙が出そうになるのを、身を固くして堪え、次の言葉を待った。
我慢しようとすればするほど、体の震えがひどくなる。
後ろにいる星川翼は思わぬあたしのリアクションに、なんと言ったらいいのかも分からずに困っているみたいだ。
役に立たないわね、こういう時、あいつなら、きっと黙ってあたしを・・・
158朽木双葉(3):03/01/04 02:21 ID:qjwVR33f
「16番、朽木双葉・・・」
そのとき、突然名前を呼ばれた。
あたしは制服の袖でごしごしと涙を拭って入り口の方を向いた。
「あ・・・」
そこには前に会ったことのある幽霊みたいなあの女が立っていた。
さっきまで後ろにいた星川翼がすっと前に出て、腕であたしを庇う。
「御陵・・・・・・透子」
少し、声がかすれていたかもしれない。
「何の用だい?」
かわりに問いかける星川翼の声は軽い。
・・・こんなところばかりそっくりなのは、私の腕が未熟だからなのかもしれない。
「もう一度だけ」
「これが、最後の」
「警告です」
「首輪をつけなさい」
「さもなくば」
「ゲームを放棄したと見なして」
「ひどいことが・・・起こります」
途切れ途切れの、感情のこもっていない言葉、いやな感じ。
「ひどいことって、どんなことだい?」
星川翼の質問には答えずに、透子はじっとわたしのほうを見ている。
ごそごそと後ろポケットに忍ばせておいた、首輪を取り出す。
「これをつけろっての、このあたしに?」
押しのけられて驚く星川翼はこの際無視して、首輪を女の目の前に突きつけてやる。
少し鼻声なのが恰好悪いこと夥しいけれど、しょうがない。
暗がりで顔を見られないのがせめてもの救いね。
あたしは身じろぎもせずに返事を待つ、敵意は感じない、ただちょっとした緊張感。
ややあって、女はコクリと頷いた。
「はんっ!!」
「ちょっと、双葉ちゃん?」
あたしがにらんでも、平然としている。
159朽木双葉(4):03/01/04 02:26 ID:qjwVR33f
「あなたが首輪をつけるなら・・・」
「あるいは・・・」
「願いがかなうかもしれません」
願いが・・・叶う?
初耳ね。
「優勝」
それだけ言って、あたしの目をじっと見た女は、しばらくして煙みたいにすっと消えた。
「優・・・勝?」
あたしは馬鹿みたいにもう一度繰り返す。
本当のことだろうか?
願いが叶う。
ウソかもしれない。
けど・・・もしそれが本当なら・・・
手にした首輪を見る。
「双葉ちゃん、それは・・・」
星川翼があたしの手を掴んで、咎めるような目で見てくる。
「いいのよ、これで」
「あんたが死んだこと、一生引きずったまま生きていくくらいなら、あたしはここで死ぬわ」
その言葉をぐっと飲み込む。
あたしが作ったとはいえ、目の前にいる星川翼にそれを言うのは少し残酷なことだと思ったから。
ま、言ったところでそんなこと気にもしないってのはあたしが一番よく分かってはいるんだけどね。
「面白いじゃない」
かちりと、後ろ手に首輪をはめる。
「優勝、してやろうじゃないの」
そして、きっと・・・
涙を拭って、乱れていた髪と服装を整えて、立ち上がる。
洞の入り口に足をかけて、空を見上げる。
空いっぱいの星が色とりどりに美しく瞬いていた。

160山崎渉:03/01/12 07:15 ID:/Xi4qwEK
(^^)
161青い血族 (1):03/01/12 23:49 ID:GaHfbUO7
>159
(第二日目 AM4:00)

朽木双葉が森を行く。
星川翼を騎士のように傅かせ、女王のごとく優雅に闊歩する。
「そう、分かったわ。来てるのね? ありがとう」
道端に生えている樹木に向かってにこやかに頷き返すと、彼女はその場にかがみこんだ。
そして、いつの間にか彼女の足元に侍っていたボールペンくらいの背丈の式神を手のひらに載せた。
彼女がゲームへの参加を決意してから約一時間。
双葉は手始めに東の森一帯に同じような式神を放った。
式神たちは周囲に茂る無数の植物とコミュニケーションをとりながら、他の参加者を探す役目を与えられていた。
いわば、森という巨大な斥候と双葉とをつなぐ伝令係である。
その式神が主のもとに帰ってきた。
「で、どんなやつらだったの?」
手のひらに載せられた式神が身振り手振りを交えながら、
双葉にしか聞くことのできない言葉で報告をはじめる。
一通りの情報を得たあと彼女は「ご苦労様」と言って報告を終えた式神の頭を指の腹でそっと撫で、
口元でこれまた一般人には意味の通じない呪を唱えて式神を元のお札に戻した。
「で、敵は多いのかい」
先を歩いていた星川翼が、歩調を落として双葉の隣に並ぶ。
「男1人と女が2人、あとなんかタコみたいなやつも一緒にいたって」
「4人か・・・初陣にはちょうどいい数かな、双葉ちゃん?」
「バカ言わないで」
少し怒ったような声で双葉が答える。
その顔はいつになく真剣で、星川翼は軽口を叩いたことを少し後悔した。
謝罪しようと思って双葉の方に向き直る。
まだ表情は硬いままだった。
「少なすぎるくらいよ」
・・・・・・自信満々だった。
162青い血族 (2):03/01/12 23:49 ID:GaHfbUO7
>146
「では、貴様はこの鍵が何の鍵かは知らないんだな?」
「フム、まあ、ありていに言えばそういうことになるかな」
ランスとグレンがパーティを組み始めてはや数時間、いまだ二人は言い争っていた。
ファッションセンスや、髪の撫で付け方、性癖や女の趣味はもとより、歩き方や呼吸の仕方、
果ては鼻の穴の形にまで論議がおよび、今はグレンが所持していた鍵束の使い途について埒もなく口論を続けていた。
「何だかんだいって、いいコンビに思えてきたり・・・ねぇ、ユリーシャおね〜ちゃん?」
「そうですね・・・」
「・・・んぅぅ〜〜、なんかさっきからおね〜ちゃん元気ないね、
さてはランスにかまってもらえなくて寂しい?ランスシック?」
「ランスシック・・・ですか?」
意味するところがわからずにユリーシャは小首をかしげた。
「ランスラヴってことー」
「なっ!」
ユリーシャは何か言い返そうとするが、恥ずかしくてうつむいてしまった。
首輪が外され、剥き出しになった華奢なうなじまで赤く染まっている。
「図星かな?ウンウン、恥ずかしがることないんだよ、おね〜えちゃん。
素敵な恋は女の子をきれーにするんだよ。ジャスト、ビューティーだよ!
いまのおねーちゃん、真っ赤なリンゴみたいでとっても美味しそうだよ。」
「そんな・・・わたくしは・・・あの・・・その・・・・・・」
「それに何を隠そう、このアリスちゃんもランスのこと、好きだったり〜」
「えっ?」
「ンニャ?アリスちん、なんか変なこと言った?棒姉妹だなんて言ってないよ」
「ランス様のこと・・・好きって・・・」
「んー、好きだよ〜。でも、ユリーシャおねーちゃんの好きとはちょっと違うけどねぇ〜〜。
おねーちゃんのはラヴで、アリスちゃんのはライク。
ちなみにラヴのヴは、下唇噛んで、「ヴッ」てやんだよ。物知りでしょ〜?
んっふっふ〜、伊達に魔界の魔王をやってるわけじゃぁ〜ないっての。って、聞いてる?」
163青い血族 (3):03/01/12 23:49 ID:GaHfbUO7
(アリスさんも、ランス様のことを・・・)
ユリーシャはもうアリスの話を聞いてはいなかった。
ただ小さな声で「ランス様」とか「アリスさん」などと繰り返して何か考え込んでいるようだった。
アリスが目の前でパタパタと手を振ってみても反応がない。
「・・・返事が無い、ただの屍のようだ・・・・・・
って、オ〜イ、ランスゥ〜、おねーちゃんが変になっちゃったよ〜」
「ほら、君の友人が呼んでいるぞ。
とりあえずこの鍵は君が将来つけることになるであろう手錠の鍵ということにしておこうではないか」
「ちっがーう!こいつはオレ様が女の子に・・・」
「ランスー、早くこっち来てみ〜」
「フハハハハ、そらそら、行ってやらんと愛しのユリーシャ君が愛しさ余って気が触れてしまうかもしれんなぁ〜。せっかく、彼女達の首輪だけは外してやったのに、君はそれをふいにするのかね?」
「チッ」
苦々しげに舌打ちすると、ランスはユリーシャたちのほうに足を向けた。
背後からグレン・コリンズの勝ち誇った馬鹿笑いが聞こえる。
「だまれっ、このタコ火星人、死ねぇ!!」
そう言って、ランスは拾い上げた石を力一杯投げつけた。
「ふっ、そんな原始的な攻撃で天才グレン・コリンズを仕留められるとでも思って・・・・・・フギャッ」
飛んできた小石を華麗なボディワークで交わしたグレン・コリンズであったが、
木の根に足をとられて、頭を木の幹に打ちつけて倒れてしまった。
「それで何があったんだ?」
「鼻息荒いよ、ランス。機嫌なおしなよ。おねーちゃんのこと、心配でしょ?」
「アリス」
「なーにー?」
「・・・お前、真面目トークもできたんだな・・・」
「ムッカー、それどーゆー意味?
アリスちゃんはまおー様なんだよ、スッゴク、スッゴク偉くて、
むっちゃくちゃつよーいんだから。本気になったらランスなんかペペペのぺ、何だからねー」
164青い血族 (4):03/01/12 23:51 ID:GaHfbUO7
「・・・前言撤回、お前やっぱバカだ。
オイ、ユリーシャ、しっかりしろ。俺様は夢遊病者の面倒を見るつもりはないぞ?」
ペチペチと2・3度頬をはたく。
「あっ!ランス様ッ、アリスさんが、ランス様のことっ、おおおお慕い申し上げますですッ!」
「・・・あん?」
「え・・・あの・・・いえ・・・すみま・・・せん・・・でした。その・・・取り乱してしまいました。はしたなかったですよね?」
「何を言ってるんだ、お前は?」
「・・・はいっ、あの・・・ごめんなさい」
「どんな女もオレ様に惚れるのは当たり前のことだろうが、それはこいつの場合も例外ではない」
「や〜ん!ランス、かっちょいぃ〜。その根拠のない自身がちょ〜ちょ〜かっこいい!!」
ランスの首筋にアリスが飛びつく。
ぶらぶらとぶら下がったままはしゃいでいるのを見て、ユリーシャは一瞬眉をひそめた。
「ガハハハハハハハ、オレ様がかっこいいのは当然だ。女なら誰でも股を・・・、ウォッ!?」
突然の縦揺れにランスの話は中断された。
飛び退って体勢を立て直し、いま立っていた場所を見ると、
大人の腕ほどの植物の根が数本脈打つようにのたくっている。
「なんだ、こいつっ!ユリーシャッ!!」
ランスは片手で首筋にぶら下がっていたアリスを抱えつつ、突きかかってくる木の根の先端を剣で振り払う。
数メートルほど先で腰を抜かしているユリーシャに向かって懸命に手を伸ばすが、
わずかな差で木の根がいつも先回りする。
「クソッ、きりがないではないかっ!」
上へ下へと縦横無尽に襲い掛かってくる木の根の弾幕をかわしながら、
何とかユリーシャを救い出そうとするが、やはりうまくいかなかった。
「キャアッ!!」
木の根の槍衾の向こうでユリーシャが木の根に打ち据えられて、吹っ飛ばされる。
「チッ!いいか、お前はここで待ってろ、余裕があれば援護しろ!」
ランスは一旦後退し、木の根の届かないあたりにアリスを座らせると、
そう言い捨ててもう一度ユリーシャの元に向かった。
「ウォォォォォォォ、ラァァァァァァンス、アタァァァァァァァァァァァァァァァクッッ!!」
165青い血族 (5):03/01/12 23:53 ID:GaHfbUO7
「何だ、死んでなかったのか?」
「フン、あれしきのことで私がどうにかなるとでも思っているのかね?」
「フン」
互いに面白くなさそうに鼻を鳴らすと、ランスはユリーシャのほうに向かった。
「タコさん無事だったんだね〜、無事で何より、日は東より、よかったね〜」
「・・・何がよかったのかいまいちよく分からないが、私の無事を心配させたのなら申し訳ない。」
ランスと入れ替わるようにユリーシャの治療を終えたアリスがグレン・コリンズと話しはじめた。
天才と大魔王との会話はほとんどかみ合っていなかったが、
人知を超えた存在同士何か通じるものがあったのかもしれない。
「あ、ランス様」
やってきたランスの姿を認めてユリーシャはにっこりと笑った。
「グレン・コリンズ様のおかげで助かりました」
「・・・・・・ああ」
笑顔と言葉尻にとげが含まれているのがよく分かる。
よく見れば、目も笑ってはいない。
「どうしてランス様は?」
彼女のどこか醒めたような視線の先にはグレンと話すアリスがいた。
「ユリーシャを助けてくれなかったのですか、アリスさんは助けてさし上げたのに?」
どちらかといえば、詰問に近い拗ねたような言い方だ。
「それはあいつがたまたまオレ様に引っ付いていたからだ」
「そうなのですか?」
「そうだ!」
ユリーシャから目をそらして力強く断言する。
チラッと、ユリーシャのほうに目をむけてみると、
ランスの答えには納得できなかったのか、相変わらずのジト目でランスのほうを見ていた。
166青い血族 (6):03/01/12 23:53 ID:GaHfbUO7
「フゥ・・・蒸すな・・・」
うそぶいて額に浮かぶ脂汗を拭い、もう一度ユリーシャのほうを窺ってみる。
彼女は何も言わなかったが、やはりまだランスのほうを見上げていた。
目をそらしたランスが一瞬目にしたユリーシャの瞳には強い決意の色が見え隠れしていて
「えいっ!」
「のぉっ!」
何の予告もなく急に首筋に抱きつかれてランスはのけぞる。
「・・・私も・・・アリスさんみたいにくっついていたら、ランス様は守ってくださいましたか?」
ランスの首筋に抱きついたまま、耳元で囁く。
「バカを言・・・」
うな、といいかけてランスはやめた。
「あ〜、鬱陶しいから泣くな」
「ゴメ・・・なさい・・・」
暗がりにユリーシャのしゃくりあげる音が響く。
向こうではしゃいでいたアリスとグレン・コリンズも黙ってランス達の様子を見ていた。
(あ〜あ、ユリーシャおねーちゃん泣かしちゃったよ、ダメだね〜ランスは〜)
(まったくだ、あれで自分は女性に好かれる思っているのだから・・・救いようがないな・・・)
「・・・・・・・・・・・・」
これ見よがしに聞こえてくる二人のひそひそ話を黙殺し、ランスはユリーシャが泣き止むのを辛抱強く待った。
・・・30秒経過
・・・・・・1分経過
・・・・・・・・・1分30秒経過
「よし、やるか!」
きっかり二分後、居心地の悪さに耐えかねたのか、ランスは景気づけるように少し声を張り上げると、
いそいそとユリーシャの服を剥ぎ取り始めた。
「え・・・、あ・・・あの?」
「お前はオレ様の女だ。オレ様はいま急にムラムラしてきた。だからやる」
「そんなっ・・・でも・・・・・・グレンさんたちが・・・・・・・・・・・・見てる・・・の・・・に・・・ぁあ」
167青い血族 (7):03/01/12 23:55 ID:GaHfbUO7
「では、今回の一件はその小娘の仕業だと、そう言うんだな、ニンフォマニア君?」
「ウム、オレ様の金色の脳細胞の記憶に間違いはない。
それと、オレ様はニンフォ何たらではない、絶倫でウハウハなだけだ」
「フゥ・・・人間の脳細胞は灰色だ。で、どうする、その娘を追うかね?」
「当たり前だ、あの生意気小娘、このオレ様を2回もコケにしやがった」
「・・・勝算はあるのかね?」
「当たり前だ、オレさまは無敵だ、ガハハハハハハハハハハハ」
ランスの高笑いを聞いてグレン・コリンズは何も分かっていないな、
といいながら首を振りふり、盛大に溜息をついた。
「いいかね、百歩譲って貴様が無敵だとして、だ。
ユリーシャ君とアリス君を庇いながら戦うことが出来るのかね?
まったく、もう少し使ってやらんと、君の黄金水色の脳細胞も草葉の陰で泣いているぞ」
溢れんばかりの哀れみをこめて触手でランスの頭を撫でると、触れた部分が粘液に濡れててらてらと光る。
「だぁーーーーーーーーーーーーーっ、やめんかっ!気色の悪い」
「ウォッ、そんなものを振り回すんじゃないっ、危ないでは・・・オゥ・・・ないかっ!?」
グレン・コリンズは軽口を叩きながらも、切れたランスが振り回すバスタードソードをヒョコヒョコと器用によける。
「ランス〜、おしっこ〜」
立ち上がったアリスがランスに向かって話し掛ける。
「ありゃりゃ、無視されちった」
ランスとグレンは木が林立するなか追いかけっこを繰り広げている。
少しはなれたところから、ガハハハハハハハハハという笑い声とフハハハハハハハハという笑い声が聞こえてくる。
「ん〜、お姉ちゃん行く?」
「・・・どちらへですか?」
聞き返すユリーシャの声は少しよそよそしい。
「連れション」
「・・・・・・・・・・・・」
168青い血族 (8):03/01/12 23:57 ID:GaHfbUO7
「おねーちゃんとぉ〜、つ〜れ〜しょんっ、ハイッ!つ〜れ〜しょん、ハイッ!ハイッ、ハイッ、ハイィィィッ!」
ハイテンションな歌を歌いながら歩くアリスのあとにユリーシャが無言で続く。
その手には護身のためか、ボウガンが握られている。
「ん〜、ここいら辺でいっかな?よっこらっしょっとぉっ・・・」
きょろきょろとあたりを見回したあと、おもむろにすとんと腰を落とす。
「フーン、フフーン、フフーン♪」
奇妙な鼻歌を歌いながら用を足すアリスを、後ろに立ったままユリーシャは見ていた。

ズドンッ!!

「アウッ!!」
短くうめいて放尿していたときのままの恰好で、アリスは前のめりに突っ伏した。
一瞬、何が起こったのかアリスには理解できなかった。
ただ、背中のあたりが奇妙に熱く、呼吸するだけで激痛が走る。
「な・・・に・・・?」
呟きながら振り返る彼女の背中には深々と15インチほどの金属棒が突き刺さっていた。
アリスの目に、無表情に矢をつがえるユリーシャの姿と
ボウガンの銀色の矢が不気味にきらきらと光をはじくのが映る。
「何で・・・?」
「お小水を垂れ流しながら・・・少しはしたないですよ、アリスさん?」
「ンァッ!」
ユリーシャの上品な笑い声に続いて、ふたたび空を切る鋭い音がして、放たれた矢がアリスの脇腹に食い込む。
もがいて苦しむアリスをみて、ユリーシャはにっこりと笑った。
169青い血族 (9):03/01/12 23:58 ID:GaHfbUO7
「ウフフ、ねぇアリスさん・・・ランス様のこと、好きなのでしょう?」
他愛もない恋愛話をするときのように、ユリーシャの表情は華やいで明るかった。
「ふぇ?」
「好き・・・なんですよね?」
「うん・・・」
アリスはあまりにあっけらかんと話を続けるユリーシャの調子に自分は何か勘違いしているのではないかと思った。
よく考えてみれば、ユリーシャが自分を襲うはずがなかった。
だから、アリスは素直に頷いた。
「そうですか、でもそれって・・・」
アリスの返事を聞いた瞬間、にこやかだったユリーシャの顔からスッと笑顔が消え、ふたたび無表情に戻る。
「とっても、気分が悪いです、私」
ズンッ!
いつの間にかつがえられていた三本目の矢がもう一度脇腹に突き刺さる。
「アァァァァァッ!!」
「たいへん・・・血が出てます。痛みますか?」
ユリーシャは倒れこんだままで痛みに体を震わせるアリスの側につかつかと歩み寄ってくると、
突き刺さった矢を掴んで、こねるようにして傷口を掻きまわしはじめた。
「フフ、随分、丈夫に出来ていらっしゃるのですね?
悪魔だとおっしゃってたのは、ひょっとして本当のことだったのですか?」
「グ・・・カァ・・・ハァハァ・・・ンァァァッ!」
アリスが目を見開いて絶叫しても躊躇することなく、ユリーシャは傷口をえぐる手を休めない。
痛みに目の前がちかちかして、アリスの目の中に幾つもの火花が飛ぶ。
とても返事など出来る状態ではなかった。
「あら、何か答えてくださらないと、私困ります」
170青い血族 (10):03/01/12 23:59 ID:GaHfbUO7
「どう・・・・して、こんなこ・・・するの?あたし・・・ユリーシャおねーちゃんのこと・・・」
涙やら鼻水やらでクシャクシャになった顔で、必死に話し掛けたのがよかったのか、ユリーシャは手を止めた。
「・・・さっき、ランス様に愛されながら、わたくし考えていたんです」
ユリーシャは、胸に手を当てて話しはじめた。
その目はどこか夢みるような目で怪しい光を湛えている。
「ランス様があなたを連れてきたときから、何となく、いつかはこんなことになるのではないかと思っていました。
ランス様はお優しい方ですから、私のことを愛しておられても、ついついあなたにも気を使われてしまいます。
だって、あなたが一緒にいるとランス様は私だけのことを見てくださいませんから・・・」
頬に手を当てて憂鬱そうに溜息をつく。
「こんなときでなかったならば、あなたとはよい友人になれそうでしたけれど・・・
でも、一歩踏み出す勇気を教えて下さったのもランス様なんですよ」
素敵でしょうと言って、ユリーシャは少し照れくさそうに笑った。
そして、互いの息遣いが分かるくらいの距離に顔を近づけて囁くと、
いとおしげにアリスの頬を両手ではさみ、長く優しいキスをした。
「ンゥゥッ!!」
アリスの目が大きく見開かれる。
ユリーシャが舌を口腔に侵入させると同時に、ふたたび脇腹の矢を食い込ませ始めたからだ。
口をふさがれたままのアリスはくぐもった叫び声をあげることしか出来なかった。
ひとしきり口腔内を弄んだあと、ぐったりと弛緩したアリスから口を離すと嬉しそうに笑った。
171青い血族 (11):03/01/13 00:02 ID:GFLqzxxk
「ですからわたくし、あなたを殺すことにしました」
事もなげにそう言ってのけた。
真っ赤な傷口に矢の先端がめり込んでいくたび、噴き出した血飛沫がユリーシャの顔を彩っていく。
返り血を受けて、ほんのりと上気した顔を恍惚に打ち震わせるユリーシャは、すごく、美しかった。
「ウフフ、安心してください?
矢はまだ十分にありますから、あと何本か撃ったら急所に当ててさし上げます。
ただ、それまではもう少し苦しんでから死んでくださいな?」
言いながら立ち上がって、淡々と新しい矢をボウガンにセットする。
「もう、許してぇ・・・」
「あら、それはダメです。不安の元は根絶やしにしなければならないと、いつもお父様がおっしゃっていました」
「ア・・・ア・・・・・・」
何が起こったのかわからないといったふうにアリスは言葉も無く首を振った。
「おねー・・・ちゃん・・・」
それでもアリスは縋りつくようにユリーシャのほうに懸命に手を伸ばす。
(やさしかったはずのユリーシャおねーちゃんが、こんなことするはず無い・・・)
バスンッ!!
短い射出音がして、アリスの右手の甲を矢が射抜いた。
自分の手に刺さった矢を見ても、アリスは捨てられた子供のように泣きじゃくるだけで、
もう逃げようともしなかった。
172青い血族 (12):03/01/13 00:06 ID:GFLqzxxk
「ガハハハハハハ、これしきで参るとは情けないやつめ」」
膝をついて息を荒げるグレン・コリンズとは対照的に、長きにわたる鬼ごっこを制してランスはご満悦だった。
「ム・・・、そういえばあいつらはどこにいったんだ?」
「小用を・・・ハァハァ・・・足しにいってくると・・・言っていたではないか・・・」
「・・・そんなことは分かっている。ジョークだ、ジョーク」
「ランス様ー、大変ですっ!」
軽口を叩くランスのもとにユリーシャが息を切らせて走ってきた。
顔からはすっかり血の気が失せ、目は泣き腫らしたのか真っ赤に充血している。
「ランス様ッ、ランス様ッ、ランス様ァッ!」
「オイ、どうした。とりあえず落ち着け」
「ランス様ッ、アリスさんが・・・、森のなか・・・アリスさん・・・がぁっ」
すがり付いて泣きじゃくるユリーシャに、さすがのランスも当惑する。
「フフン、優しく背中でも撫でてやったらどうだ、ランス様?」
揶揄するようなグレンの忠告だったが、このときばかりはランスも素直にそれに従った。
「ホレ、落ち着け。落ち着かんと話も聞けんではないか」
ゆっくりと背中を撫でてやるランスの言葉はぎこちなかったが、ユリーシャは次第に落ち着きを取り戻していった。
「あの・・・すみません、私・・・取り乱してしまいました・・・」
「で、何があったんだ?」
「はい、森の中でアリスさんが・・・殺され・・・ました」
「なにっ!」
「・・・どういうことかね、ユリーシャ君?」
いきり立つランスを手で制して、グレンがたずねた。
「ここから少し離れた場所でその・・・アリスさんがご不浄をなさっているとき・・・さっきの・・・」
「・・・俺様の女を殺すとはあのナイチチ娘め、もう許せん、案内しろ!」
「木の根っこのことなのだな、ユリーシャ君?ではとりあえずそこに案内してもらえるかな?」
ユリーシャがコクリと頷くのを確認するとグレン・コリンズは立ち上がり、ランスに目配せする。
「あの・・・こちらです」
その後、三人で数十分ほど森の中を捜したが、血と木の葉に塗れたアリスの亡骸はついに見つからなかった。

「34番 アリスメンディ 死亡」

173名無しさん@初回限定:03/01/13 00:09 ID:gURTmDZX
深作追悼・・・
174名無しさん@初回限定:03/01/13 00:19 ID:PzZ1qYQT
宇宙からのメッセージ…
175名無しさん@初回限定:03/01/14 23:02 ID:sEjq7kOq
監督のご冥福をお祈りいたします。
176山崎渉:03/01/17 06:59 ID:0CXyER/e
(^^;
177Interlude (1):03/01/19 15:30 ID:tQMsU1LC
>113
(第二日目 AM04:00)

「・・・質問をどうぞ、といわれましてもですなぁ・・・
一体、新選組の局長さまが手前に何の御用でございましょう?」
「え?・・・・・・・・・・・・え〜とぉ、それはねぇ、アレだよ、ア・レ。ね、わかるでしょ?」
「はて?」
「・・・・・・いや〜、今日はいい天気だねぇ?」
「今は夜でございますよ」
「アハハ・・・、えと、星がとっても綺麗だね」
「はぁ、確かに・・・で、いったいぜんたい何をおっしゃりたいので?」
「実を言うとねぇ」
「はい」
「・・・考えって無かった、エヘヘへへ」
「ああ〜ん?」
「いやいや、実はさ〜、こんなところで参加者さんに会うなんて思ってなかったもんだから・・・
さ〜これからどうしようかな〜なんて・・・ねぇ」
「何だぁそりゃ・・・」
「ウフフ、何なんだろうねぇ?」
「てめぇ、俺をバカにしてやがんのか!」
「ま〜ま〜、落ち着きなよ?すぐに怒る男はみっともないよぉ」
「グ・・・、で、いかがなものでございましょう。今回は鬼作めをお目こぼしいただけるんで?」
「オメコ星?あ〜、何、オヂサン、アタシに殺されると思ってたの?
ハハハハハハ、だーいじょぶ、だいじょぶ、基本的にあたしらはそっちに手出ししないことになってるから」
「そうでございますか」
「うん、そうなんだけどね〜・・・」
178Interlude (2):03/01/19 15:31 ID:tQMsU1LC
「どうかなさいましたか?」
「オヂサン、ひょっとして・・・」
「何でございましょうか?」
「フ〜ン、そっか。そーなんだぁ」
「何を頷いていらっしゃるんでしょう、手前にはさっぱり・・・ッ、もしやっ!!」
「ふぇ、どったの?」
「妙の露出度の高い着こなし、男を誘うその潤んだいやらしい目・・・生乳生足生太もも、
クックックッ、そうですかぁ、そういうことでございますかぁ、
ま、何でございますよ。何も恥ずかしがることはございませんよ。
鬼作めにお任せください、その道に関してはいささかの心得がございます
ささ、遠慮なさらずにガバッとお開きください」
「何を?」
「その気になった女性にそこまで言わせるほど、この伊頭鬼作めは野暮じゃぁございませんよ」
「・・・なんか勘違いしてない?」
「ん?ですから、これから不肖鬼作めと一晩中しっぽりと・・・」
「それはイヤ」
「なんだとぉぅ〜?」
「イ・ヤ、て言ったの!」
「何だてめぇ・・・こっちが下手に出てりゃいい気になりやがって、だったら、力づくでもぉッ・・・・・・・・・グゥ」
「フフン、どうしたの、力づくでも、なんでしょ?」
「ま、まぁ、そうおっかない顔しないでくださいまし、へへ。ベッピンさんが台無しでございますよ?」
「・・・・・・・・・・・どうしよっかなぁ」
「どうか怒りとともにその扇もおしまいください。
さすがの鬼作めもそのようなもので殴られたらシャレになりませんので・・・」
179Interlude (3):03/01/19 15:33 ID:tQMsU1LC
「ま、いっか」
「チッ、物騒なもん振り回しやがって、頭おかしいんじゃねぇのか?」
「何か言ったぁ〜?」
「いえいえ、滅相もございません」
「さ〜、とりあえず帰ってザッちゃんとニャンニャンしようかなぁ?」
「ニャンニャンって・・・ちょ、ちょっと、芹沢様どこ行くんでございますか?」
「うふふ、それはね〜、ヒ・ミ・ツ」
「ヒ・ミ・ツって・・・芹沢様ッ!」
「ン〜、な〜に〜?」
「お願いでございます!どうかここは一つ私めもそこに連れて行ってはいただけませんでしょうか?」
「ダメ」
「グ・・・それはまた・・・いかなるわけにございましょうか?」
「オヂサン、さっきからな〜んか企んでるでしょ?あたし、そういうのって分かっちゃうんだよねぇ」
「憚りながらこの鬼作、清廉潔白をもって旨としております。
その日々の行動に1点の翳りも無いつもりでございますが・・・」
「そ〜だね〜、例えば・・・」
「例えば?」
「ゴニョゴニョゴニョ・・・・・・・・・とか?ククククク、越後屋ぁ、そちも悪よの〜〜」
「いえいえ、お代官様には・・・って、てめぇ何でそれを知ってやがる!」
「ほらほら、気をつけないとまた言葉、汚くなってるよん。だから言ったでしょ、何となく分かるって
じゃ〜ね〜、あんまりバカなことを考えないほうが身のためだよ〜」
「・・・・・・行ったか。
・・・あぁぁぁぁああああぁぁぁ、クソッ、クソッ、クソゥッ!!
あのアマ、いつか犯してやる。ネットリ、ジットリとなぁ・・・
へへへ、俺様の愛撫はしつこいぜぇ・・・ヒィ〜ヒッヒッヒッヒッヒッ」
「ファイヤー!」
「うぉぅ!?」
「次は外さないからね〜?」
「うぐぅ」

180名無しさん@初回限定:03/01/19 19:03 ID:aPCfVjlU
181vv:03/01/19 21:22 ID:pUGh3PoW
182名無しさん@初回限定:03/01/19 21:34 ID:/WlIlglW
183Morgenrote (1):03/01/26 16:36 ID:io8Kvpq1
Es gibt so viele Morgenroten, die noch nicht geleuchtet haben.

>39
(第二日目 AM05:30))

長く暗い森を走り抜ければ、一体どこにたどり着けるのだろう?
咲き誇る花園?
雪舞う氷原?
あるいは、遥かアルカディアへすら、いつかはたどり着くことができるのだろうか?
彼、アズライトは砂浜にたどり着き、立ち尽くした。
真白い月がその美しいかんばせを天に晒し、
見わたす限り広がる夥しい白砂と重苦しくうねる青黒い海原とをほの明るく浮かび上がらせていた。
目の前に道は続かず、彼にはもう逃げつづけることさえ許されなかった。
風は凪いでそよとも吹かず、昼のうちにあれだけ騒がしかった鳥や獣の声もなく、
波音のほかには何の音も聞こえてこなかった。
あたりには軽い眩暈を誘う不思議な汐のにおいがたちこめていて、
なにか体が蝕まれていくような、病んでいくような不思議な感覚につつみこまれていた。
波の揺り返す単調な音と奇妙な匂いとが彼を憂鬱にさせた。
ひどくなる眩暈に押されてアズライトは、倒れこむように砂の上に腰を下ろした。
そして、ゆっくりと流れ落ちていく時間の滴りを眺めた。
しばらくして彼は力なくうつむいて、静かに肩を震わせはじめた。
ふたたび動き出した生ぬるい潮風が彼の背中をさわりと撫でては静かに通り過ぎていくなか、
月は群雲に呑まれ、暗く広い夜空が眷属たる無数の星達を従えて、逃亡者の頭上に重くのしかかっていた。
(レティシア…)
もう何も考える気にはなれず、押しひしがれた心の中で呆けたように彼は同じ言葉を繰り返していた。
ここから見上げる空と、彼女が見上げる空とはどこかでつながっているんだろうか?
そんな他愛のないことも考えた。彼女のことを考えていると幸せだった。
レティシアとの甘い思い出に浸ったままで死ねるのなら、それも悪くない。
むしろ、それに勝ることなどないのかもしれない。
生き続けることがこんなにも苦しいのなら、喜びのうちに死に絶えるのだ。
アズライトはそんな自分の考えに口の端をゆがめた。
レティシアを思いながら、いつしか彼は浅く短い眠りに落ちた。
184Morgenrote (2):03/01/26 16:36 ID:io8Kvpq1
「やっ・・・だっ・・・」
暗がりから弱々しい拒絶の声が聞こえてきた。
悲しみのうちにもどこか甘い感じを残した女の子の声。懐かしい声。
「やめ・・・やめて・・・」
寝覚めのぼんやりとした頭でもこの声を、彼が聞き違えるはずがなかった。
もっとその声を聞きたくて、声のほうに近づこうとしても、磔にされたみたいに指先すら動かせなかった。
せめてもう少しはっきりと聞きたくて、真っ暗な空間に耳をそばだてると、
闇が払われ、なぜか急にあたりがはっきりと見えるようになった。
「!」
目の当たりにした光景にアズライトは思わず息を飲んだ。
この光景はいつか見たことがある。
記憶を落として世界中をさまよったすえにたどり着いた砂漠の果て、山のふもとのひなびた小さな町、
うらびれた酒場の中、カウンターから連れ出される女の子、誰も彼もが笑ってそれを見ていた。
彼女が身に着けている飾り気のない白い服にはいくつものかぎ裂きができており、
あちらこちらに凌辱の証が残されたままになっていた。
満足な食事も与えられていないのか少しやつれて見えるなか、
透けるように軽やかな金色の髪と薄青色の瞳とが鮮烈に人の目をひきつける。
その子がいま片腕の男に組みしかれていた。
この光景には確かに見覚えがあった。
「レティシ・・・ア・・・?」
呼びかけてもこちらの声は届いていないのか、彼女はちらりとも見ず、何も答えなかった。
185Morgenrote (3):03/01/26 16:37 ID:io8Kvpq1
「あ・・・うぅ・・・」
細い腕で男の大きな体を押し返そうとするが、男の体は岩のようにびくともしない。
覆い被さる男は片手で器用にレティシアを押さえつけながら、服の裾を捲り上げた。
骨ばった大きな右手で彼女の細腰をがっちりと固定すると、
小さな体を引き裂くようにして、異様に大きなペニスを少しずつ少しずつ挿入していった。
よほど痛むのか、レティシアの苦悶の声が男の動物じみた荒い息遣いの合間に混じる。
アズライトのいる場所からは男の顔を確かめることはできなかったが、
腰を動かすたびに男の背中の浅黒い肌に短い黒髪が踊るのが見えた。
レティシアを救うことも出来ず、目をそらすことも出来ず、アズライトは泣き出しそうになった。
それでも男は何かの儀式のように淡々とセックスを続け、やがて果てた。長い射精だった。
ことを終えて立ち上がった男は丁度アズライトと同じくらいの背格好で、手早く衣服の乱れを正した。
そして、ぐったりと横たわるレティシアを見下ろしたあと、ゆっくりとした足取りで立ち去っていった。
凌辱の間もずっと背を向けていた男の顔はついに見ることができなかったが、
アズライトには立ち去っていく見知らぬ男のことよりもレティシアのことが気になった。
「どうして・・・・・・ひどいこと・・・するの?」
彼女の声は今までの舌足らずな声とは感じの違う、柔らかくも毅然とした声だった。
男は立ち止まり、初めてその顔をこちらに振り向けた。
油の切れた機械のような、緩慢でぎこちない動きだった。
「あぁっ・・・」
その顔を見て、アズライトは短くうめいた。
振り向いた男の顔を見まちがえるはずがなかった。
美しい藍色の鉱物を思わせる気弱そうな瞳が悲しげにこちらを見ていた。
愛する人を凌辱した男の顔面には、こともあろうによく見知った顔がはりついていた。
彼はもう一度うめいた。
それはアズライト自身の顔だった。
186Morgenrote (4):03/01/26 16:37 ID:io8Kvpq1
そこで夢はふつりと途切れた。
目覚めても最後の瞬間のレティシアの顔がいつまでもちらついて離れなかった。
目の前で自分を捨てて歩き出す男の顔を見て、彼女の顔は醜く歪んだ。
どこか空ろなその顔は、自分を見つめるときの桜姫の無表情な顔に似ていた。
まるで穢れにみちた罪人を見るような、
哀れみと蔑みとをその裏に潜ませているあの顔だった。
桜姫を作ったのは、目の前で人が死んでいくことに耐えられなかったからだ。
彼女を凶にし、彼女に生き続けることを押し付けた、しかも半永久的な生を。
はじめ桜姫はちょうど今のさおりのようにどこへ行くにもついて来て、ためらいもなく「マスター」と呼んでいた。
「主人には絶対服従」という凶の性質、どこまでも従順な桜姫の無垢に恐怖して彼女を捨てた。
自分のために、平気な顔で。
火炎王に連れられて、初めて対峙したときの彼女のどろりとした目。
あのとき、彼女が歪んで見えた。彼女を歪ませてしまった。
そしてまた、さおりを創り、彼女も捨てて歪めようとしている。
主を失った凶よりも哀れなものは無い。
そのことを身をもって知りながら、またふたたび同じ愚を繰り返そうとしている。
仰向けになると涙が溢れ出し、静かに頬を伝った。
身勝手に逃げ出した挙句、泣くことしかできないような卑怯な自分が情けなくてたまらなかった。
しかもどうしようもなかった。努力すれば変われるというが、そんなのはウソだ。
変わったと思い込んでいるだけで、本当は何も変わりはしない。
記憶を落としてより数百年もの間そうして生きてきたのだ、いまさら変わることなどできるはずがない。
(だからって、そんなの・・・桜姫にも、あの子にも・・・関係ない)
だから泣いた、一人で声を殺して。
できることなら、もうこの世から消えてしまいたかった。
187Morgenrote (5):03/01/26 16:42 ID:io8Kvpq1
・・・消える?
突然の思いつきに少し興奮気味にアズライトは上体を起こした。
彼は首輪には盗聴器のほかに爆薬というものが仕掛けられていると鬼作が言っていたのを思い出した。
無理に外そうとすれば爆発するのだ、と。
甘美な空想がよぎる。闘うことも思い切れず、レティシアにも会えない。
一体どうして思い悩んでまでこれ以上生きている必要があるだろうか?
卑怯な逃亡者にしかなれないのならば、せめて死んで楽になりたいとそう思った。
レティシアに満たされて、思い出とともに魂の平穏と消滅を。
(デアボリカは限りなく不死に近いけれど、首が吹き飛べば・・・)
そう考えると彼の心はすっと楽になった。自然と頬がほころぶ。
(何もかも捨ててしまおう。しおりには悪いけれど、どうせ1度逃げ出したんだし・・・同じことだよね。
ただ・・・ゴメンね、レティシア・・・僕、もう君を・・・探せない)
どこかで空を眺めている彼女のことを考えた。
目を閉じて首輪に手をかける。
数百年の迫害と彷徨の記憶が一瞬にして蘇る。
彼が殺してきたたくさんの者と、彼を殺そうとしたたくさんの者たちの顔が浮かんでは消えていく。
レティシアの顔も、桜姫の顔も、しおりの顔も。
(僕はあのときレティシアを救えなかった)
(僕はあのとき自分で創った桜姫を壊した)
(僕はあの時しおりを捨てた)
(それを知れば、彼女も壊れる)
(でも・・・まだ・・・今なら・・・今なら・・・)
首輪を引く力を緩めて、何時間となく眺めていた海のほうにもう一度顔を向けた。
188Morgenrote (6):03/01/26 16:43 ID:io8Kvpq1
薄紫色に染められた暁の空に白雲が幾筋かたなびくのを背にして、
昇りはじめた朝の太陽が空と水平線の一髪をまばゆく白ませている。
潮風が背後の森へと吹き抜け、アズライトはあのとき聞いた鐘の音をもう一度聞いた気がした。
鳴り響くこの鐘の音は告白と贖罪の時を告げる鐘の音だ。
そう思ったアズライトは何者かに操られるように後ろを振り返った。
「しおり・・・」
「ここにいたんだね、おにーちゃん」
駆け寄ってくるさおりの耳がピョコンと揺れた。
何も言えないでいるアズライトの隣に、よいしょ、と言って腰を下ろすと、
彼女もそれきり黙って海のほうを眺めはじめた。
太陽がしおりのきめ細かい肌をなめるよう照らし出し、淡い陰影を落とす。
光線の加減か、うつむくしおりの表情はときおり少しこわばって見えた。
「しおりが・・・悪い子だったからですか?」
寂しそうな声でしおりがポソリとこぼした。
「それは・・・違う・・・」
アズライトが否定しても、しおりはただ顔を伏せて洟をすするだけだった。
胸元のコートを大切そうに抱きしめている彼女の手が震えている。
アズライトはその手に右手を重ねた。
189Morgenrote (7):03/01/26 16:43 ID:io8Kvpq1
「僕の話を聞いてくれるかい?」
しおりはしばらくの間黙っていたがはやがてそのままの姿勢で頷き、顔を上げた。
頬に涙の跡が残したその顔にはおよそ表情と呼べるようなものが無かったが、
アズライトをまっすぐに見返す彼女の目は期待と不安の色を滲ませていた。
大きく深呼吸したあとアズライトは話し始めた、ひと言ひと言言葉を選んで慎重に。
デアボリカのこと、レティシアのこと、凶のこと、桜姫のこと、逃げ出して今ここにいること。
しおりは一度も口を開かずに、黙ってそれを聞いていた。
「僕はたくさんのひどいことをしてきた、君にも他の人にも・・・。
なのに、いつだって逃げ出して、今だって君から逃げ出して、この首輪を引きちぎって死のうって・・・
けど、思ったんだ。
どうせ死んでしまうのなら、逃げ出して死ぬんじゃなくて、誰かのために死ねるんじゃないかって。
だから、許してなんて言えないけれど、死んでしまう前にもう少し・・・がんばってみようと思うんだ」
話すうち、波の音も汐の匂いももうそれほどアズライトには気にならなくなっていた。
話が終わっても、しおりは長いあいだ彼の目を覗き込んでいた。
藍色の綺麗な瞳の奥に何か大切な宝物を探すような、そんな目つきだった。
あるいは本当にそういうものを探していたのかもしれない。
アズライトはただ黙って彼女の言葉を待っていた。
そして、どんな言葉であってもそれに従おうと心に決めた。
やがて立ち上がった彼女がお尻についた砂を払うと、砂はきらきらと光りながら地面に落ちていった。
190Morgenrote (8):03/01/26 16:43 ID:io8Kvpq1
「な〜んだ」
「え?」
「そんなことでなやんでたんですか、おにーちゃん?」
声を弾ませる彼女は先ほどとはうって変わって、朝焼けの空に相応しい晴れやかな顔をしていた。
「すごく真面目なお顔してたから、もっとすごいことかと思っちゃった」と言って笑った。
しおりは据わったままのアズライトの頭に手を置き、そしてそのまま優しく彼の頭を撫でた。
「お顔をあげてください、おにーちゃん」
子を呼ぶ母親のような優しくて静かな声だった。
彼女はアズライトに顔を近づけると、彼の額にかかる髪をかきあげて、両手で頬をそっとつつんだ。
そして、少し身をかがめてアズライトのおでこに唇をあてた。
アズライトはそのまま動かず、目の前で紅色のワンピースが風をはらんではためくのを見ていた。
白い砂の上に赤いワンピースの薄い影が躍っていた。
長い口づけのあと、頬を両手で挟んだままでしおりはもう一度微笑んで見せた。
やはり素敵な笑顔だった。
「ぜーんぶ、許してあげます」
「・・・え?」
「おにーちゃんがしてきたことも、これからするかもしれないことも、全部。しおりは許してあげます。」
「でも、君にも酷いことを・・・・・・」
「許してあげます」
大きく頷いて、請合った。
「ぁ・・・」
堪えきれず、アズライトの目に涙が溢れ出した。
しおりにすがりつくようにして泣くうち、それは激しい嗚咽にかわっていった。
しおりはアズライトの頭を抱き寄せると、小さな子をあやすみたいに頭を撫でた。
「これからも、おにーちゃんて呼んでもいいですよね?」
「うん!」
「それから、もう絶対に逃げたりしないで下さいね?」
「うん、うん!」
しおりのなだらかな腹の温かみを感じながら、アズライトは難度も難度も頷いた。
次から次へと溢れてくる涙がしおりの服に染み込んでいく。
191Morgenrote (9)
「ほら、もう泣かないで、ね?お顔クシャクシャだよ」
「ゴメンね、僕・・・嬉しくて・・・とっても嬉しくて、だから、しおり、僕・・・せめて・・・」
「なに、おにーちゃん?」
「しおりを・・・抱きしめても・・・いいかな?」
「うん、いっぱいして、おにーちゃん!」
照れて顔を真っ赤にしたアズライトの質問に、しおりは顔をパッと輝かせた。
恥ずかしそうに涙を拭いながら立ち上がるアズライトに、しおりのほうから飛びついてきた。
腕が一つしかないのがひどくもどかしい。
二人の心臓がくっついて一つになってしまうくらい強く、しおりの小さな体を引き寄せる。
両手を腰にしっかりと回してしおりは笑った。
アズライトも笑った。二人とも泣きながら笑っていた。
「行こうか?」
身を離し、少し照れくさそうに二人は笑う。
「エヘへ・・・・・・ァ・・・クチュンッ!!」
可愛らしいクシャミをしたしおりに、切り裂かれてすっかり丈の短くなってしまったコートをかけてやる。
「わぁ・・・」
しおりはとても嬉しそうに笑って、ありがとうございます、と言ってピョコリと頭を下げた。
しおりの喜ぶ顔を見て、アズライトも優しく微笑む。
海岸線に立ち並ぶ木々の葉が太陽を浴びて七色に光をはじく。
夜が明け、太陽とともにこの世の何もかもが新生する。
月は西の彼方へと没し、太陽が東の彼方より差し昇る。
手を引かれながら、アズライトは泣いた。
嬉しくてたまらなかった。
(レティシア…)
心の中で名前を呼ぶ。たったそれだけのことで、とても優しい気持ちになれた。
(僕はきっと、帰れない。ごめんね。
でも、君が好きになってくれたのは、きっと帰らないことを選ぶ僕だから。
僕は最後の瞬間まで、戦うね?)
前をむいて歩いてこうと思えたのは、この偶然の美しい陽光のせいなのかもしれない。