痕リニューアル版にくすぶる思いをひきずってはじまった八月は、夏の終わり
を飾る美しい詩をもって閉じました。笑い、あるいは笑えぬ詩歌の綴りに、つらつ
らとまた駄文を付けます。
◆佳作◆
>>159 痕の 遠くなりぬる 葉月かな
簡潔な中に、いくつも重なる感慨がある。「痕〜きずあと〜」は1996年発売の作品
で、この七月にリニューアルされた。リニューアル版の発売から一か月後(葉月)に
振り返って嘆じる。
何を感じての発句か。一つのゲームを皆が同じように受けとめたはずはないから、
俳人の感慨と読者の感慨はおのずと異なろう。しかしどの考えも、「遠くなりぬる」
という所に落ち着くのではなかろうか。幾人もの遠い目を集約して、この句がある。
◆入選◆
>>163 名前:近鉄特急あぼーんライナー
>痕が リニューアルされ ふと気付く
>千鶴さんより 年上のオレ
>(注釈)
>PC-98DOS版が発売されてから6年、痕がリニューアルされた。
>当時は千鶴さんの方が年上だったが、歳月の経過は儚くも残酷で、
>鬱な気持ちに陥ってしまった。
同年代だったキャラを追い越すことには抵抗がなくとも、年上キャラが年下になる
と冷静ではいられない。人類普遍の現象を、痕に寄せて詠んだ。独白をそのまま言
葉にした自然な語りが、広くエロゲーマーの共感を呼ぶ。
◆入選◆
>>167 >気がつけば 千鶴さんより 巨乳なオレ
歳月の経過は残酷で、一片の儚さも残さなかった。163と同じ題材ながら、一読、
のけぞるような衝撃の後、「千鶴さんより」という箇所が頭の中でリフレインする。
評者の精神が平衡を取り戻すにはやや時間がかかった。
◆佳作◆
>>177 >えろげをた コミケに秋葉に 行くままに 弱るか 声の遠ざかり行く
西行「きりぎりす 夜寒に秋の なるままに 弱るか 声の遠ざかり行く」
本歌とあわせて味わう歌である。えろげをたをきりぎりすと重ね合わせた。うるさ
さ、快楽主義、そして脆さというイメージが通ってくる。弱っていく具体的原因はこ
の歌からはわかりにくいものの、賑やかそうでも社会の中ではは弱々しいもので
しかないえろげをたを思い、しんみりする。
◆入選◆
>>178 >ときメモも はじるすも遠くなりにけり 思えばいと疾しこの年月
>>179 >それにつけても SNOWの遠さよ
これこそ連作の妙であろう。過去のまじめな感慨に、ぼそっと付け加える179。
遠さを未来に転換する、ひねりとオチが見事だ。
「ときめきメモリアル」は1994年、「はじめてのおるすばん」は2001年の発売。
「SNOW」の発売予定は2001年2月にはじまり、今年も初頭春夏秋年末と季節を
巡った。
◆入選◆
>>180 名前:いでぃおっと
>生理がない 相手もわからず うつろな眼
◆佳作
>>181 名前:いでぃおっと
「中に来て!」 せがむ妹 まだ小五
>>182 名前:いでぃおっと
>「ごめんなさい…」 ヤツに抱かれて 君が泣く
短い中でどれだけ伝え、どれだけ感情を揺さぶれるか。可能性を搾り出した句である。
ゲームを愉しむ詩歌が続くスレの中で、突然ここだけ救いがない。エロスとは違う。己の
闇を鏡の中にのぞき見たような感覚に、たじろいでしまう。
◆佳作◆
>>183 >孝之は 悲しからずや 水月にも 遙だけにも 決めかね漂う
アージュ「君が望む永遠」の主人公(鳴海孝之)は、今の恋人(速瀬水月)にも昔
の恋人(涼宮遙)にも決められず、優柔不断で人々の苛立ちを誘った。牧水の歌を
とり、溜め息とともに詠む。
若山牧水「白鳥は 悲しからずや 空の青 海の青にも 染まずただよう」
◆佳作◆
>>184 >永遠の炉を追い始め 現実を負う事を止む 駄目一人
自由律俳句。追うと負うをかけ、始めると止める・永遠と現実を対置した。作者は
二つの世界を見て、生きている。この句を穏やかな気持ちで受け止め、自然な感情
よなと思った評者もあわせ、駄目二人。
◆佳作◆
>>185 >なかなかに 濡れて来ないぞ 強情な 強気ヒロイン 俺はケダモノッ
調教陵辱系のゲームを、明るく楽しくプレイする。率直、闊達にケダモノと自称さ
れると、実はいいやつなんじゃないかと思えてくる。強姦願望のナイスガイ。いやそ
んな馬鹿な。
◆佳作◆
>>188 >何事も へたっくれも無く ピンク髪 開始一分 ヒロインあぼ〜ん
ラン・ソフトウェアの「Rainy Blue 〜6月の雨〜」。パッケージにひとり大きく
描かれたヒロインの蒼が、冒頭すぐに死ぬ。ばらばらでまとまりのつかない言葉の
列が、置いてけぼり状態の心理をよく表している。
◆佳作◆
>>189 >待ち時間 買ったエロゲの 箱、開く 眉毛引きつる マクドのねーちゃん
公衆の中で裸の女の絵をながめるのは、少々擦れてしまったオタクの青年。薄給多
忙でスマイルをふりまくのは、一般人と呼ばれる今時の女子。一方通行の嫌悪と、
「そんなものさ」という達観がすれちがう。心通わない一シーンをうまく写生した。
◆佳作
>>190 >青い空 夏の日差しも 俺たちにゃ モニタの中の 絵空事かな
たてこんだ都会で、空の美しさはファンタジーに属するものでしかない。絵空事
とは言いえて妙だ。自嘲しつつもどこかに自信を秘めたような言い方が、ちょっと
恰好良い。
◆入選◆
>>197 > 名作の 泣きで湧き出る 狂信者 気持ちは解るが 節度を守ろ
上の句が鮮烈である。強い語を使いながら、誇張がない。引き締まった緊密さ。
ドラマチックな動きのある流れ。素晴らしい。
しかし下の句は上の句の迫力に負け気味だ。あるいは川柳にすべきであったか。
◆入選◆
>>203 >巫女に萌え 秋葉と神社 めぐる夏
>モニターの 中に想いは 夏祭
>可愛い娘 浴衣の中身 他人(ひと)の物
>花火見て ひとり涙で 2ch
>海岸の 波の隙間に DISC投げ エロゲと別れる 決心も あの高波で 浜に戻りし
何も起きなかったひと夏を語る。望む気持ちが高まっては崩れていく。一つ、また
一つ、心に寄せ来る波は、そのたび空しく砂に吸い込まれる。回帰と完結に至る最終
行まで、詩人が描くひと夏の景色は、主人公一人を取り残して、目にしみるほど美しい。
◆入選◆
>>207 >見せばやな腿にしたたるいづみ川 かくも激しき処女はありや
おそらくオリジナル。「見せばやな」は「見たいなあ」の意。古調の響きが処女の
しとやかさを思わせ、腿を濡らした乱れ姿を際立たせる。言葉でなく語調をして
語らしめる。冴えた技の一品である。
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海賊版の人:02/09/12 01:16 ID:6zpVpcuB
八月号はこれにておしまいです。これはいいと思うような詩に評がついて
いないと、自分でも思います。能力に限界が・・・。
作者のみなさんには、今月もよい詩歌をありがとうございました。