お兄ちゃ〜ん! 〜あなたの妹はどんな味?〜Part12
遠い昔のお話。
名無菜と出会ってすぐ、まだアイツがオレに懐いていない頃。
中学校からの帰り道を歩いていると、名無菜とばったり出会う。
向こうはまだこちらに気付いていないみたいで、電柱の影にちっちゃな体を隠し、一点をを涙目で睨み付けている。
妹の視線を追うと、家の庭にうずくまる、獰猛そうなドーベルマンの姿が。
名無菜に近寄り、しゃがんで目線の高さを会わせる。その時になってようやくこちらに気付いたらしい。
「どうしたの、名無菜ちゃん?」
今からでは想像がつかないけれども、当時のオレはまだ名無菜と仲が良くなく、名前にもちゃん付けだった。
名無菜の方も、レストランで会った以降、オレの事を兄と呼んでくれない。
「犬…」
どうやら、ドーベルマンが怖くて、その前を横切れないらしい。
「なるほど。名無菜ちゃんは何処に行きたいの?」
「本屋さん。なか○し買うの」
ドーベルマンよりも、自分がなか○しを買ってきてあげる時の店員さんの目の方が怖いオレ。
「名無菜ちゃん、目を閉じて」
「うん」
素直に瞳を閉じる妹。それを確認して、しゃがんだまま背中を向ける。
「そのまま、一歩進んで…大丈夫、怖くないから」
(続く)
おっかなびっくり前に出る名無菜は、オレの背中にぶつかる。
ちっちゃな子供の、高い体温を感じながら、持ち上げる。
「あ!」
「まだ目を閉じてなくちゃ駄目だよ」
自分が何をされているのか判った名無菜が、首に手を回す。
そして、おんぶして本屋へ。
店の前で降ろしてあげる。
「ありがと」
とてとてと走り、本屋で買い物を済ませる。
「さ、帰ろ?」
「うん、あのね…おんぶ」
「いいよ」
帰り道も、彼女のリクエスト通りにおんぶ。
「背中、あったかい…お父さんみたい」
「おんぶされるの、好き?」
「うん」
コテン、と、妹の頭が背中に当たる感触。
「じゃあ、今度父さんに名無菜ちゃんの事をおんぶするように言っとくから。でも、父さんは忙しい人だから。今は、替わりにオレで我慢してね」
「うぅん、いいの」
「ん?」
「お…」
オレにぎゅっとしがみつき、小さな小さな声で。
「お兄ちゃんのおんぶがいい」
これが、今でも鮮明に思い出せる、妹がオレを兄と呼んでくれた瞬間。
この日から、オレと名無菜は兄妹になれたんだと思う。