エロゲーブランド最萌トーナメント 予選Round9!!
さわ、と、耳の横を風が通り抜けた。
瞼の裏に眩しさを感じて、ゆっくりと目を開ける。
目の前一杯に光が差し込み、俺は慌てて手で陽を遮った。
寝起き特有の乖離感を鎮めつつ、今の状況を確認する。
大きく開いた窓、海風に揺れるカーテン、規則正しく並ぶ机と椅子。
「教室か?」
そう、見慣れたそこは紛れもなく俺の教室だった。
人気のない教室を見回し、俺は腕に巻いた時計を確認する。
「……18時?」
誰もいなくて当然だ。ついでに教室中に西日が差し込むのも。
どうやら、俺は授業中から今の今まで誰にも起こされぬまま眠り続けていたらしい。
自分でも信じがたい話だが。
俺はひとつため息をついた。
「帰るか…」
部活にも入らず、学校が終わったら帰るという生活で、この時間に用事があるはずもない。
俺は机の横に吊るしてあった鞄を引っ掴み、教室のドアをくぐろうとした。
「にゃあーん」
その時、廊下のほうから一匹の黒猫が現れ、じゃれるように俺の足元にまとわりつく。
「ん…?」
何でこんなところに猫がいるんだろう、という思いが浮かぶ。
まさか、猫を踏みつけて帰るわけにもゆかず、逡巡する俺に、何が楽しいのか小さく鳴き声をあげる猫。
「そろそろ帰りたいんだが、退いてくれないか?」
無駄だと判りつつも、そう声をかけてしまう。
黒猫は、きょとん、とした目でこちらを向くが、無論、話が判る訳はない。
「おいで」
ふと、背後から澄んだ声がかかる。
猫はぴくっと耳をそばだてると、一目散に教室の中に駆けてゆく。
俺は後ろに振り向く。
無人の筈の教室に、人影があった。
逆光の中の華奢な影。
「猫はね、」
ようやく目が慣れる。
「寂しい人がわかるんだって」
夕陽に照らされて、少女は、呟くように、唄うように、告げた。