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目を覚ましたとき、彼女が俺を見下ろしている顔があった。
「ゴメンなさい…あたしのせいで」
そう言ったきり、彼女はただ優しく微笑んでいる。
隣から声がした。
「母子ともに無事です。あなたのおかげですよ」
白衣の男、医者だろうか。
周囲には看護婦もいる。ここは病室だった。
「でも、落下の衝撃を代わりに受けとめたあなたは、しばらく動けませんよ。
上と下から押しつぶされたようなものですからね。
傷ついたヒーローですね」
全てを思い出した。
彼女に言ったひどい事の数々。
そして、これまでしてきた考えられないほどの悪意。
謝りたかった。
言い出そうとする俺を押しとどめて、彼女から口を開いた。
「……ありがとう」
もう彼女は泣いていなかった。
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