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年末固定叩きスペシャル
『 ゴメンなさい・・・炬燵のせいで 』
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葱板でよどんだ日常を送る俺。
つまらないネタ、つまらない煽り、そして何よりもつまらない俺自身。
自分なんか、人に好かれることはない。
だから俺は、無数の名無しの一部分として、自分を埋めてしまえるこの板にいる。
飽き飽きする毎日。でも俺にはここ以外の居場所は無い。
沼の底に沈んでいるような日々。
『炬燵で名無し』と出会ったのは、そんな頃だった。
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「あなたのことが…好き…です」
緊張のあまりか、目に涙をにじませながら、その少女は言った。
ふたりだけの小さなオフ会。彼女は葱板の固定ハンドルだった。
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:01/12/30 13:45 ID:8KxeQwgd
葱板での些細な雑談から、俺と炬燵が同じ田舎町に住んでいることを知った。
そしていつのまにか、この街でオフを開くことになった。
つまらねえ。オフなんかで馴れ合って何の意味がある。
何より、つまらない自分を人前にさらすのが嫌だった。
しかし、炬燵のやや強引な誘いもあって、結局俺も参加することになった。
オフの当日、来たのは俺と炬燵のふたりだけだった。
…やっぱりな。
こんな街でオフをやったところで、こうなるのはわかっていた。
適当に話を切り上げて、早々に別れよう。
近くのコーヒーショップに入ろうと誘う炬燵に、
いいかげんにあいづちを打ちながら、俺はすでに帰ることばかり考えていた。
炬燵はこの板の人気者だった。
いつもレスを返され、時には煽られ、常に話題の中心にいた。
誰にも煽られずレスももらえない、つまらない俺とは対照的に。
意外なことに、オフでの炬燵は葱板の彼女とは正反対だった。
本当に女だったことにも驚いたが、何よりおどおどとした引っ込み思案な態度。
うつむき加減で話し、ときおり上目づかいで俺を見上げる。
ネット弁慶ってやつだな。そう俺は心の中であざ笑った。
現実でもネットでも弁慶になれない自分自身を、笑ったのかもしれない。
すぐに帰ろうと思っていた。
なのに気がつくと、何時間も話しこんでいた。
会うのはこれっきりと思っていた。
なのに炬燵は第二回、三回とオフを開き、そのたびにふたりだけのオフになった。
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:01/12/30 13:45 ID:8KxeQwgd
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何回目のオフだったろうか。
突然の告白。俺にとって初めての経験。
漫画やゲームの主人公だったら、こんな時、どぎまぎするんだろうか。
しかし、俺は主人公なんかじゃない。
(こんなわけない。俺が女の娘に『好き』と言われるはずなんかない!
こいつは俺をからかおうとしているんだ。きっとそうだ)
学生時代、机の中に入っていたラブレター。
馬鹿正直に呼ばれた場所に行ってみると、そこにいたのは、
俺を笑い者にしようとしていたクラスメートたちだった。
俺の中で少しずつ大きくなっていた炬燵への好意が、疑いと憎悪に変わった。
今でも覚えている。
彼女が『名無しさんロックンロール』と名乗っていた頃、俺のレスを「ゴミレス」と呼んだ。
『いまじねぃしょん名無し』と名乗っていた頃、俺のレスの後に「放置」とレスをした。
俺のレスなんか、つまらない。わかっている。
わかっていたはずなのに、辛かった。痛かった。
彼女のハンドルが変わっても、こうしてオフで好意をつのらせても、
それらを忘れなかった。忘れられなかった。
奴はまた、俺を馬鹿にしようとしているのか。
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:01/12/30 13:46 ID:8KxeQwgd
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あの告白の日、俺はなんと言ったのか、覚えていない。
とにかく、思いつく限りの言葉で炬燵をののしった。拒絶した。
でも彼女は涙を流しながら、「本当にあなたが好きです」と訴え続けた。
自分に対して、かけらの自信すら持ち合わせていない俺なのに、
その涙にだまされたのかもしれない。
俺と炬燵はつきあうことになった。
でも、俺は彼女を信じてはいない。
彼女を信じた時、葱板のどこかのスレッドに、『炬燵で名無し』のハンドルで、
俺を笑い者にするネタが書き込まれることだろう。
オフで告白されて、本気にした馬鹿な名無しの話。
それに続く、草の「(゚д゚)ウマー」の一行レス。
ETEの「大笑いしました。それにしても、ちょっと可哀想ですね(笑」という偽善レス。
ないしょさん@不安定触手が「アヒャヒャ」と笑い、
エロリ・ザ・男爵が「いいかげんオフの出会いに夢見すぎ」と語る。
しまいには、くるくる少女までやってきて、
「その方を囲んで慰めオフでも開きましょうか?」などと、しらじらしいウザレスをかます。
耐えられない俺は、はくそりーなを貼って、ひたすらスレを荒らすだろう。
しかし、無数の名無したちに「だめな奴は なにをやっても だめ」のAAや、
俺の母、妹、家臣たちのコピペを貼り返されたあげく、首吊りAAで引導を渡される。
嫌だ! そんなのは嫌だ!
そうなる前に炬燵の化けの皮をはがしてやる。
この女は信じない。この女にはだまされない。
徹底的にいたぶって、正体をあばいてやる。
…そのために、俺はあえて彼女とつきあおう。