>>580-581 支援サンクスです(笑)
今日はクリスマスイヴだ。
しかし俺には彼女が居なかった。
俺のダチも同様だった。
男前なのに女の気配がしない、不思議な奴だ。
そんな訳で俺は今、遊園地前の人通りの多い中、奴を待っている。
事の発端はこうだった。
俺と奴は同じ大学に通っていて、奴が別な友人から遊園地の
ペアチケットを譲り受けたのだ。
その別な友人はクリスマス直前に女に振られたらしく、
奴に散々嫌味を言いまくっていたらしい。
当然奴には彼女が居ないからチケットを持て余し、他に譲り渡す相手も居なかった。
そこで俺と、遊園地で女同士で遊びに来てる同じ境遇の女も居るだろ、という話になった。
半ばヤケも入り混じっていた。男二人でクリスマスイヴに遊園地。何て楽しい響きだ。
俺は内心で奴の友人に同情した。
何故なら奴はモテるのに彼女が居ないからだ。
事実奴は、男前で頼りがいがあって、且つそれを鼻に掛けない嫌味な奴なのである。
俺は当日、その辺にあったジャケットを適当に引っ掴んで着て来ていた。
下は普通のジーパンだ。しかし向こうからやって来た奴は違った。
グレーのジャケットに黒のVネック、カラーを合わせた灰のストールにスキニー、
靴は黒の革靴だ。腕にもアクセサリーが数点。
…俺は心から奴の友人に同情する。
嫌味の一つも言いたくなるさ。
奴はおまたせのせを抜かして一語一語区切って言った。
待ったかどうかを語尾を延ばして聞いて来た。
俺はそれを無視して奴から遊園地の半券をひったくると、
入口の方へ向かった。午前中、イヴの遊園地は混んでいたが、酷く混んでいる訳では
無かった。今は地方の遊園地はどこもこんな感じなのだろう。
奴は俺が怒っていると思ったのか、様子を伺って来る。
俺は何でも無い、という風に肩を竦めてから、遊園地のパンフレットを広げた。
とりあえずどこに行こうか、と俺は奴に相談した。
半ばヤケの気持ちが入っていたから、どうせなら思いっきり
楽しんでやろうという気持ちだった。
奴は俺の広げたパンフを覗き込みながら考え込むように唸った。
俺が被ったキャップの向こうに、ノンフレームの眼鏡をして
いつもより更に知的に見える奴の顔が見えている。
奴の髪の毛は真っ黒だった。それが肌の白さを引き立てているようだ。
奴はとりあえずどっか座ろうぜ、と言って来た。
奴はパンフレットで園内地図を確認してから、
ベンチのあるだろう場所へ向かった。
俺がぼーっとしていると、俺からパンフレットを受け取って折り畳み、
ゆっくりと歩いて行く。俺は素直に付いて行った。
途中人とぶつかりそうになった俺の肘を引く。
ベンチのあるところに到着すると、奴は俺を座らせて、
ホットの缶コーヒーを買って戻って来た。
俺にそれを手渡して、パンフレットを広げると、
さあ、どこに行くか、と話し掛けて来た。
缶コーヒーの熱で手が温まり、寒さから来る手の震えが納まって
地図が広げ易くなった。公衆電話が壁になって風も来ない。
俺は本当に、奴が居なければ一人では何も出来ないのかもしれない。
奴が俺の近くに座ると、微かにコロンの匂いがした。
女物を付けているのか、奴からは何故か甘ったるくて良い香りがする。
俺がこの匂いに気が付いたのは、バイトでミスった俺を励ます奴に
体が接近した時だった。
ミスった仕事に迅速に対応して、店長に頭を下げ、庇いもしてくれた。
店長に謝った後は、俺に色々な言葉を掛けてくれた。慰めもしてくれた。
どうして俺の為にそこまでするのだろうか。
その時から何故か奴の存在が気になった。
奴の香りが漂う度に、当時の奴の様子を頭に思い浮かべてしまう。
あの時の真剣な横顔は目に焼き付いて離れることが無い。そして奴の声も。
そんな時、俺は自分のペニスを勃起させてしまう。
どうしてかは分からない。
奴がここ行こうぜ、と地図の右上を指差した。
どうやら新しく出来た巨大型お化け屋敷らしい。
某ゾンビゲームとのコラボレーション施設で、
襲い掛かって来るゾンビを倒しながら施設を進む、
この遊園地の目玉アトラクションである。
俺は快諾して施設に向かった。
シューティングなら腕に覚えもある。
奴の後を付いて行く様にしてお化け屋敷の前にたどり着いた。
お化け屋敷というよりも、廃墟と言った方が正しい風貌だ。
それに建物がやたらとでかい。壁面が蔦で覆われていて不気味な雰囲気を醸している。
入口前には行列があった。
二時間待ちの立て看板があったが、奴は話の上手い男だったから、
待ち時間が退屈するという事は無かった。
むしろ楽しめたぐらいだ。
こんな時、奴と二人で良かったと思う自分が居たりする。
やっと俺たちが係員に案内される番になった。
説明を受けてから、ゲーム用のミリタリージャケットを着用して、
いざ施設の中へ―俺は始めからゾンビ共を打ちまくる算段だったが、
始めは武器を与えずに不安を煽る演出らしい。
四角く区切られた施設入口から中へ、自衛隊員風の誘導員に案内され進む。
誘導員は俺たちを怖がらせようと演技たっぷりの説明を加えてくる。
奴の顔をちらりと横目で伺ったが、涼しそうな顔をしている。
俺は胸を張って、ぼんやりとした証明に照らされた廊下を歩む。
防具服に身を包んだ誘導員の後をそろそろと付いていくと、
後ろからドアを蹴破る音と、呻き声が聞こえて来た。
いつの間にか真後ろにゾンビが迫っている。
俺は思わず声を上げてしまう。想いの外緊張しているのだろうか。
目の前には蔦があって、誘導員からこちらが死角になっている。
俺たちはとりあえず、その場から逃げ出す。
突き当たりにドアがあったが、何故か鍵が掛かっている。
誘導員が向こうから何かを叫んでいる。
絶対絶命だ。
暗闇になれた目にも、奴の表情まではっきりとは見て取れない。
しかし張り詰めた緊張に、耳が奴の息遣いを拾っている。
俺はまた勃起しそうだ。