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77sweet
じっとりと気持ちの悪い汗が俺の額から滲み出る。気分が悪い。
もう何十時間もここでこうしている気がする。
さっきこの通路に入ったばかりの筈なのに、だ。
俺は壁に手を付いた。
ふと、壁伝いに手を付いて進んで行けば外に出られるんじゃないだろうか。
と俺の脳内に解決方法が思い浮かんだ。
ゆっくりと尺取虫の様に、壁伝いに手を付きながら歩を前に進めて行く。
俺は小学生の頃よりもっと前の、幼少時の時分を思い出していた。
どこか見知らぬ遠い町で、時刻は夜だ。
車が通る大通りの横の歩道を俺は歩いている。
泣きながら歩いている。
何故そんな幼子がそんな所を一人で歩いているのか自分でも分からなかったが、
俺の記憶として残っている映像の断片が目の前に思い浮かぶ。
78sweet:2007/12/29(土) 00:29:20 ID:Ifm3VZsI
俺はゆっくりと、だが確実に前に進んだ。
誰かが急に出て来たとしたら悪い冗談だが、むしろそっちの方がありがたい。
何故なら、お化け屋敷というのは何も無いのが一番怖いからだ。
ふいに後ろからあーとうーの中間の様な呻きが聞こえて来た。
さっきの部屋で倒したはずのゾンビが蘇ったのだろうか。
俺は銃を持っていないから銃撃は無理だ。
というか武器を何も持っていないという状況に益々不安を煽られる。
俺は不安を打ち消そうとしたが無理だった。
あーとうーは数を増して聞こえて来る。
不気味な気配と何かが背後で蠢く音。
思い切って後ろを振り向く。
ゾンビが大勢居た。
大勢のゾンビが俺に襲い掛かろうとする。
俺は逃げようとして思わずけっつまずいてしまう。
通路のひやりとした床に両手を付いた。
どうする事も出来ない。
何かが俺の中から溢れ出て来そうだった。
79sweet:2007/12/29(土) 00:37:18 ID:Ifm3VZsI
俺の手に生暖かい何かが触れた。
自分の手を見る。
人の手だ。
見覚えのある細くて白い手。
その手は俺の手を包む。
俺は立ち上がって、その手の導くままに駆け出した。
目の前には見覚えのある背中。
手はぐいぐいと俺を引っ張って行く。
背後の呻き声が遠ざかる。
俺は咄嗟に叫んだ、奴の名前を。
80sweet:2007/12/29(土) 00:45:20 ID:Ifm3VZsI
目の前が真っ白になった。
俺は目を細める。
目の前に手を翳す。
何が起こったんだ。
俺の右手を誰かがしっかりと握り締めているのは分かる。
とりあえずその手を握り返しながら、翳した手を外してみた。
そこにはあの隊員と、案内の係員が笑顔で立っている。
お疲れ様でした、などと労いの言葉も掛けて来る。
俺は奴に促されながらも身に付けた防護服を外して係員に手渡す。
どうやらここがゴールらしい。
出口を案内する看板が立っている。
目の辺りがチカチカする。
横を見ると奴が居る。
81sweet:2007/12/29(土) 00:55:57 ID:Ifm3VZsI
周囲は明るい。
今は正午ぐらいだろうか、遊園地はまだ客で賑わっている。
俺は徐々に正常な感覚を取り戻していった。
何時の間にか俺の手を守るようにしていた手は離れていた。
俺と奴はでかでかと『出口はこちらです』と書いてある看板に従って
巨大な施設から離れていく。
もう一度奴の方を見た。
俺の視線に気が付いた奴は、事のあらましを説明し始めた。
最後の所で、ゾンビが蘇って群れを成し襲って来る演出らしいが、
どうやら俺と奴と誘導員が何かの調子で逸れてしまったらしい。
奴は誘導員が導くままに一緒にゾンビから走って逃げた。
しかし俺は取り残されてしまった。
それに気が付いた奴は俺を迎えに行った。
やはり、さっき俺の手を握り締めていたのは奴の手らしかった。
奴は俺の方を見て、大丈夫か、と聞いて来た。
妙に晴れやかな笑顔だ。
俺は状況を把握して、体中の血液が顔面に立ち昇ってくるのが分かった。
82sweet:2007/12/29(土) 01:07:45 ID:Ifm3VZsI
奴は俺の頬をぺしぺしと叩く。
少し冷たい指先が俺の頬に当たる。
本当に大丈夫か、と今度は少し真面目な表情で俺の瞳を覗き込んで来る。
俺は奴の目を直視する事が出来ずに、目を反らして頷いた。
穴があったら入りたいような気持ちになった。
奴と歩きながら俺は頭を抱える。
気分でも悪いのか、と奴が聞いてくる。
別に、と俺は簡潔に答えた。
そうか、と奴は答えて前を向く。
遊園地客のざわめきが耳に伝わってくる。
俺は嬉しいような、嬉しくないような気持ちになった。
さっきの手の感触が、まだ掌に残っている。
それを思うと、俺はむず痒い気持ちになる。
83sweet:2007/12/29(土) 02:47:33 ID:Ifm3VZsI
眠い…ので続きは俺の脳内で書いておきます…orz
皆さんおやすみなさい…
84sweet:2007/12/30(日) 18:21:50 ID:INhw8sgA
俺はふらつきながら、奴が飯でも食うか、
と聞いて来たので適当に頷いておいた。
ジャケットのポケットから携帯を取り出して確認すると、
時間は丁度昼飯時だ。
奴は地図で確認しながら歩いて行く。
遊園地の客は午前中よりも増えたようだ。
人ごみを避けつつ奴の後を付いて行く。
奴の左手が空いているのが目に付いた。
俺は複雑な気持ちになった。
つい先程まで、俺の右手を握り締めていた手だ。
歩くのが速い奴の隣りに駆け寄るようにして並び、右手でキャップを被り直した。
目的地に付くまで特に会話は無かった。
ゲーセンとかあんま行かないのな、と俺は話し掛けた。
まあな、と奴は地図を見ながら答えた。
でも俺はそれ以上会話を続ける事をしなかった。
気温は真昼時で、陽が差しているから若干暖かい。
遊園地内を迷い無く歩いていった奴の先には、
お土産屋とレストランが一体になったような施設がある。
85sweet:2007/12/30(日) 18:37:23 ID:INhw8sgA
中に入ると広々とした空間がそこにあった。
お土産屋が右にあり、レストランが左。
仕切りの壁に窓があって、隣りの施設の様子が視界に映る。
広めのログハウスで作りは木造、見ると二階席に繋がる階段がある。
上は吹き抜けになっていてお洒落な内装だ。暖色の照明が店内を明るくしている。
中は込み合っていたが並んでは居なかった。
俺と奴が出入口付近のボードでメニューを確認していると、
アメリカのレストランに居そうなコスプレの店員が声を掛けて来た。
窓際の二名の席に案内されて、俺はジャケットを脱いだ。
テーブルは四角く、こちらも木で出来ている。椅子も悪くない。
奴は脱いだ上着を自分の椅子に掛けているところだ。
こういうところが几帳面だと思う。俺も椅子の背凭れに掛けてから椅子に腰掛ける。
中は暖かく、四角い窓から外を行き来する人々の姿が見えた。
86sweet:2007/12/30(日) 18:57:50 ID:INhw8sgA
俺はそこで、本来の目的を思い出していた。
奴と遊ぶのが楽しくて、すっかり忘却の彼方へ追いやってしまっていた。
女友達同士で来ているのを捕まえて遊びに誘う事だ。
世間一般ではこれをナンパと呼ぶ。
どうしてナンパと呼ぶのかは知らないが、水とお絞りを出してきた店員に、
カルボナーラ、と言った。俺は奴の方を見て、お前は、と聞く。
俺はミートソースで、と奴は店員に直接答えた。
俺達を接客した店員は女でショートヘアの、中々可愛い部類だ。
頭にヘッドドレッサーを付けている。この店の制服なのだろう。
取り出した注文表に何か―俺達の注文の他に無いのだが―を書き付けて、
メニューを確認する。
俺はそれに頷くと、彼女は人込みの中へと消えて行った。
87sweet:2007/12/30(日) 19:16:18 ID:INhw8sgA
どういうのが好みなんだ、と奴に聞いてみた。
奴はお絞りで手を拭きながらのんびりと、そうだな、と答えた。
黒のVネックから白い首が伸びている。
首元には鎖骨が見える。
俺は奴の手元を眺めると、さっきの出来事を脳内に思い浮かべた。
触れた感触が拭われてしまうのが何だか勿体無いような気がする。
俺は少し黙って、冷たい水を一口呷った。
さっきの店員、結構可愛くなかったか、と俺は言ってみた。
奴は店の奥の方に目をやって、彼女、と聞いてきた。
それから店内を見渡して、俺はああいうのが好きだな、と答える。
奴の視線の先を辿ると、少し遠くの席に、黒髪ロングの女性が居た。
顔立ちがきりっとしていて芯が強く、和服が似合いそうな美人だ。
丁度もう一人の女の友達と、食事を愉しんでいる最中である。
俺は、ふうん。と答えた。
88sweet:2007/12/30(日) 23:01:33 ID:INhw8sgA
自分で聞いておきながら何だか複雑な気分だ。
何がどう複雑なんだろう。
心の中で問い掛けてみたが、俺の引き出しの中に答えは見付からなかった。
俺は布巾を広げつつも手は拭かなかった。
そうこうしているうちに、料理が運ばれて来た。
さっきと同じ彼女が、失礼します、と俺と奴の目の前に、
それぞれのスパゲッティーをお盆から静かに置いていく。
彼女は中々のスタイルの良さで、胸が大きい。
もう一度確認を終えると店員は次のお客の案内に掛かる。
ああいうのはどう、と俺は自分の胸の前で、
自分には無い架空の女の胸を持ち上げるような動作をして見せた。
奴は他の客の対応に当たっている彼女の背中に目をやってから、
大きいに越した事は無いな、と答える。
俺は形の良さ重視だな、と返すと奴は、
そう、とだけ言った。
89sweet:2007/12/30(日) 23:22:40 ID:INhw8sgA
俺はカルボナーラをフォークで小さめに巻いてから、
口に一口運んだ。
遊園地レストランのカルボナーラは、子供向けの濃い味付けだ。
不味い。
俺はそう思った。
クリームのソースが少ししょっぱい様な気がする。
向かいの席に座っている奴の方を見た。
奴はフォークで巻いたスパゲッティーを落さないようにスプーンで
すくいながら巻いて、一口大よりも少なめにすると、口に運ぶ。
ミートソースは軽く絡める程度だ。
奴が俺の視線に気付くと、美味いか、と聞いて来た。
不味いよ、と俺は答える。
俺のは不味く無いぞ、と奴はミートソース・スパゲッティーの皿を
こちらへ差し出した。
奴のをフォークに巻いてから口に運ぶと、美味い。
服汚れるぞ、と奴が注意したので、俺は黙って左手にスプーンを装備する。
俺が差し出したカルボナーラを試食している最中の奴に、
美味いか、と聞いてみると、
微妙だな、と奴は答えた。