61 :
sweet:
奴の後を付いて行く様にしてお化け屋敷の前にたどり着いた。
お化け屋敷というよりも、廃墟と言った方が正しい風貌だ。
それに建物がやたらとでかい。壁面が蔦で覆われていて不気味な雰囲気を醸している。
入口前には行列があった。
二時間待ちの立て看板があったが、奴は話の上手い男だったから、
待ち時間が退屈するという事は無かった。
むしろ楽しめたぐらいだ。
こんな時、奴と二人で良かったと思う自分が居たりする。
62 :
sweet:2007/12/26(水) 01:37:55 ID:eJVo1KQg
やっと俺たちが係員に案内される番になった。
説明を受けてから、ゲーム用のミリタリージャケットを着用して、
いざ施設の中へ―俺は始めからゾンビ共を打ちまくる算段だったが、
始めは武器を与えずに不安を煽る演出らしい。
四角く区切られた施設入口から中へ、自衛隊員風の誘導員に案内され進む。
誘導員は俺たちを怖がらせようと演技たっぷりの説明を加えてくる。
奴の顔をちらりと横目で伺ったが、涼しそうな顔をしている。
俺は胸を張って、ぼんやりとした証明に照らされた廊下を歩む。
63 :
sweet:2007/12/26(水) 01:50:32 ID:eJVo1KQg
防具服に身を包んだ誘導員の後をそろそろと付いていくと、
後ろからドアを蹴破る音と、呻き声が聞こえて来た。
いつの間にか真後ろにゾンビが迫っている。
俺は思わず声を上げてしまう。想いの外緊張しているのだろうか。
目の前には蔦があって、誘導員からこちらが死角になっている。
俺たちはとりあえず、その場から逃げ出す。
突き当たりにドアがあったが、何故か鍵が掛かっている。
誘導員が向こうから何かを叫んでいる。
絶対絶命だ。
暗闇になれた目にも、奴の表情まではっきりとは見て取れない。
しかし張り詰めた緊張に、耳が奴の息遣いを拾っている。
俺はまた勃起しそうだ。
64 :
sweet:2007/12/26(水) 15:54:38 ID:eJVo1KQg
ちょっと一休み。
続きはまた来週〜…
いやこれから書くよw
65 :
sweet:2007/12/27(木) 01:05:10 ID:scPKicJM
隣りで奴が動いたかと思うと、暗闇の中で抱き付いて来る。
俺は一瞬訳が分からない。
震えては居ないが、しがみ付いて離さないといった感じだ。
顔を埋めている所為で、こちらからは表情が見えない。
俺は訳が分からないまま奴に抱き締められている。
またあの香りが漂う。
奴を好きな女が居るとしたら、彼女もこの香りに気が付いているのだろうか。
そんな事が一瞬脳裏を過ぎる。
暗闇の中、俺は奴に抱き締められている。
奴の息遣いと、布ずれの音と、体温と、ゾンビとゾンビの呻き声、
そして暗闇と開かない扉とお化け屋敷。
何もかもが奇妙な取り合わせだ。
その時、後ろの扉が開いた。
俺は思わず落ち崩れそうになった。
67 :
sweet:2007/12/27(木) 18:40:51 ID:YrV8qjDi
扉を開けた誘導員は目の前に迫っているゾンビを
ゲーセンによく置いてあるような銃で撃つ。
赤のポインターがゾンビの胸に照射されると、
ゾンビの胸が光って倒れる。
どうやらこうやってゾンビを倒すらしい。
俺の体は落ち崩れる事は無かった。
奴が俺の腕を引っ掴んでいたからだった。
俺はしがみ付かれていたのか支えられていたのか、
また訳が分からなくなる。
防護服を身に付けた誘導員が俺たち二人に声を掛ける。
横を見やると奴はまた平然と立っている。
68 :
sweet:2007/12/27(木) 19:02:59 ID:YrV8qjDi
俺たち二人は薄暗闇の中、扉の向こうへ案内された。
扉の向こうは不思議の国ではなく、ある程度広いスペースになっている。
巨大なお化け屋敷の内装は、白いコンクリの壁面が剥き出しになっている。
例えるなら無人の廃墟の様な作りだ。
そんな中を武器も持たずに進むのだから、余計に怖い。
俺がまた奴の様子を伺おうとする前に、隊員に扮した誘導員が緊迫した雰囲気で
武器と施設内の説明を始める。
彼の説明を要約するとこんな感じだ。
ここは元、某傘の組織の研究所で、バイオテクノロジーの研究を行っていた。
しかし研究員の裏切りなどにあい、今は施設全体をゾンビが支配している。
その中を俺たちは進まなければいけないらしい。
説明が終わるとようやく銃を二人分手渡された。
要領はさっきの銃撃を見て覚えた。
俺は自分の銃を握り締める。
69 :
sweet:2007/12/27(木) 22:10:27 ID:YrV8qjDi
小部屋には何故か日が差していて、若干明るい。
それが少し安心感を与えてくれる。
暗闇に慣れた目に少し眩しかったが、辺りの様子が分かる。
奴の方にも日が差している。
髪の毛の一筋一筋が光の束になって自然光を反射している。
奴は手渡された銃器をじっと見下ろしている。
伏せられた瞼から伸びた睫も光を反射していた。
奴はさっきの瞬間、一体何を考えていた。
俺には分からない。
俺は奴に、大丈夫か、と聞いてみた。
大丈夫だぜ、と奴は答えた。
奴は俺の方を見なかった。
70 :
sweet:2007/12/27(木) 23:26:51 ID:YrV8qjDi
怖いのか、と俺は聞いてみた。
何が、と奴は答えた。
それ以上聞いても欲しい答えは得られない気がして質問するのを止めた。
来たくないなら来なければ良いのに。
俺はそう思って銃を構えた。偽者の隊員が次のドアを開く。
コンクリートが剥き出しの通路を隊員を先頭に歩いて行くと
後ろから低い呻き声が聞こえて、後ろを向く。腐敗者が来る。
先程の部屋から出て来たのか、どこからか溢れるようだ。
全身が緑色な様で、ボロボロの服、それから血糊。
顔面や体の一部が酷く損傷している者もいて、それなりにリアルでグロテスクだ。
カクカクした不自然な動きも気味が悪い。
俺は狙いを定め易いように両手で銃を構えてから、引き金を引く。
最初の一発でゾンビの胸が光り、よろめく。
しかし一発では死なないようだ。
地獄の底から聞こえて来るような呻き声を上げ、覚束無い足取りで迫り来るのだが、
だからこそ胸の急所に命中させるのが難しい。
二発目の弾丸、ことポインターを打ち込むため、
銃の切っ先をゾンビの胸に狙い定める。俺は構えた。
71 :
sweet:2007/12/28(金) 03:24:52 ID:yTdFU33b
ポインターはゾンビの胸を射抜く。
急所が光り、ガーとかゴーとかいう効果音が流れる。
しかしゾンビは中々しぶとかった。
それで俺はちょっと焦りを覚える。
打たれて倒れてもゾンビは蘇り、迫って来る。
だが俺は割りと冷静に、三発目の銃弾の照準をゾンビの胸に合わせる。
両手でしっかりと構えれば、数を打たなくても当たるのだ。
三発目で漸くゾンビが死んだ。床に倒れて動かなくなる所はゲームと同じだ。
奴はもう一匹のゾンビに苦戦しているところだった。
俺はもう一匹の方の急所に狙いを定める。程なくゾンビは倒れた。
奴は片手で構えていた。
それでは当たらないから、俺はこうやるんだぜ、と構えを見せた。
ああそう、じゃあお前が撃ってくれ、と少し素っ気無い印象の返事が返って来た。
俺は口元に笑みを浮かべてしまう。
そういえばこいつと二人で、ゲーセンなんて行った事無かったな。
隊員の誘導に従って通路を進む。
72 :
sweet:2007/12/28(金) 04:00:21 ID:yTdFU33b
その後ゾンビ共は場所変え手段変え俺たちに襲い掛かって来た。
ロッカーから出てくる者も居れば柵の向こうから腕を伸ばす者、
進路を塞ぐ者に上から何かが振って来るドッキリもあった。
俺は楽しかった。というか存分に楽しめた。
何故なら銃撃が得意だからだ。
面白いように弾丸はゾンビの胸を貫いた。
当然お化け屋敷だから、気味の悪い仕掛けや装飾に心臓が跳ね上がった。
突然生首が飛んで来た事もあったが、気持ちの良い緊張感で満たされる。
最後は鍵の掛かった扉の鍵を打ち抜いて俺たちは大部屋に案内される。
奴はというと、ひたすら銃撃が下手糞だった。
中々ゾンビが倒れないので、俺が焦って撃った。
ゾンビが迫って来る焦りがあってそれはそれで楽しかった。