ホモエロ小説を書くスレ一ページ目

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56sweet
奴はおまたせのせを抜かして一語一語区切って言った。
待ったかどうかを語尾を延ばして聞いて来た。
俺はそれを無視して奴から遊園地の半券をひったくると、
入口の方へ向かった。午前中、イヴの遊園地は混んでいたが、酷く混んでいる訳では
無かった。今は地方の遊園地はどこもこんな感じなのだろう。
奴は俺が怒っていると思ったのか、様子を伺って来る。
俺は何でも無い、という風に肩を竦めてから、遊園地のパンフレットを広げた。
57sweet:2007/12/26(水) 00:18:27 ID:eJVo1KQg
とりあえずどこに行こうか、と俺は奴に相談した。
半ばヤケの気持ちが入っていたから、どうせなら思いっきり
楽しんでやろうという気持ちだった。
奴は俺の広げたパンフを覗き込みながら考え込むように唸った。
俺が被ったキャップの向こうに、ノンフレームの眼鏡をして
いつもより更に知的に見える奴の顔が見えている。
奴の髪の毛は真っ黒だった。それが肌の白さを引き立てているようだ。
58sweet:2007/12/26(水) 00:29:33 ID:eJVo1KQg
奴はとりあえずどっか座ろうぜ、と言って来た。
奴はパンフレットで園内地図を確認してから、
ベンチのあるだろう場所へ向かった。
俺がぼーっとしていると、俺からパンフレットを受け取って折り畳み、
ゆっくりと歩いて行く。俺は素直に付いて行った。
途中人とぶつかりそうになった俺の肘を引く。
ベンチのあるところに到着すると、奴は俺を座らせて、
ホットの缶コーヒーを買って戻って来た。
俺にそれを手渡して、パンフレットを広げると、
さあ、どこに行くか、と話し掛けて来た。
缶コーヒーの熱で手が温まり、寒さから来る手の震えが納まって
地図が広げ易くなった。公衆電話が壁になって風も来ない。
俺は本当に、奴が居なければ一人では何も出来ないのかもしれない。
59sweet:2007/12/26(水) 00:42:50 ID:eJVo1KQg
奴が俺の近くに座ると、微かにコロンの匂いがした。
女物を付けているのか、奴からは何故か甘ったるくて良い香りがする。
俺がこの匂いに気が付いたのは、バイトでミスった俺を励ます奴に
体が接近した時だった。
ミスった仕事に迅速に対応して、店長に頭を下げ、庇いもしてくれた。
店長に謝った後は、俺に色々な言葉を掛けてくれた。慰めもしてくれた。
どうして俺の為にそこまでするのだろうか。
その時から何故か奴の存在が気になった。
奴の香りが漂う度に、当時の奴の様子を頭に思い浮かべてしまう。
あの時の真剣な横顔は目に焼き付いて離れることが無い。そして奴の声も。
そんな時、俺は自分のペニスを勃起させてしまう。
どうしてかは分からない。
60sweet:2007/12/26(水) 01:03:19 ID:eJVo1KQg
奴がここ行こうぜ、と地図の右上を指差した。
どうやら新しく出来た巨大型お化け屋敷らしい。
某ゾンビゲームとのコラボレーション施設で、
襲い掛かって来るゾンビを倒しながら施設を進む、
この遊園地の目玉アトラクションである。
俺は快諾して施設に向かった。
シューティングなら腕に覚えもある。
61sweet:2007/12/26(水) 01:13:51 ID:eJVo1KQg
奴の後を付いて行く様にしてお化け屋敷の前にたどり着いた。
お化け屋敷というよりも、廃墟と言った方が正しい風貌だ。
それに建物がやたらとでかい。壁面が蔦で覆われていて不気味な雰囲気を醸している。
入口前には行列があった。
二時間待ちの立て看板があったが、奴は話の上手い男だったから、
待ち時間が退屈するという事は無かった。
むしろ楽しめたぐらいだ。
こんな時、奴と二人で良かったと思う自分が居たりする。
62sweet:2007/12/26(水) 01:37:55 ID:eJVo1KQg
やっと俺たちが係員に案内される番になった。
説明を受けてから、ゲーム用のミリタリージャケットを着用して、
いざ施設の中へ―俺は始めからゾンビ共を打ちまくる算段だったが、
始めは武器を与えずに不安を煽る演出らしい。
四角く区切られた施設入口から中へ、自衛隊員風の誘導員に案内され進む。
誘導員は俺たちを怖がらせようと演技たっぷりの説明を加えてくる。
奴の顔をちらりと横目で伺ったが、涼しそうな顔をしている。
俺は胸を張って、ぼんやりとした証明に照らされた廊下を歩む。
63sweet:2007/12/26(水) 01:50:32 ID:eJVo1KQg
防具服に身を包んだ誘導員の後をそろそろと付いていくと、
後ろからドアを蹴破る音と、呻き声が聞こえて来た。
いつの間にか真後ろにゾンビが迫っている。
俺は思わず声を上げてしまう。想いの外緊張しているのだろうか。
目の前には蔦があって、誘導員からこちらが死角になっている。
俺たちはとりあえず、その場から逃げ出す。
突き当たりにドアがあったが、何故か鍵が掛かっている。
誘導員が向こうから何かを叫んでいる。
絶対絶命だ。
暗闇になれた目にも、奴の表情まではっきりとは見て取れない。
しかし張り詰めた緊張に、耳が奴の息遣いを拾っている。
俺はまた勃起しそうだ。
64sweet:2007/12/26(水) 15:54:38 ID:eJVo1KQg
ちょっと一休み。
続きはまた来週〜…




いやこれから書くよw
65sweet:2007/12/27(木) 01:05:10 ID:scPKicJM
隣りで奴が動いたかと思うと、暗闇の中で抱き付いて来る。
俺は一瞬訳が分からない。
震えては居ないが、しがみ付いて離さないといった感じだ。
顔を埋めている所為で、こちらからは表情が見えない。
俺は訳が分からないまま奴に抱き締められている。
またあの香りが漂う。
奴を好きな女が居るとしたら、彼女もこの香りに気が付いているのだろうか。
そんな事が一瞬脳裏を過ぎる。
暗闇の中、俺は奴に抱き締められている。
奴の息遣いと、布ずれの音と、体温と、ゾンビとゾンビの呻き声、
そして暗闇と開かない扉とお化け屋敷。
何もかもが奇妙な取り合わせだ。
その時、後ろの扉が開いた。
俺は思わず落ち崩れそうになった。
66名無しさん@ピンキー:2007/12/27(木) 17:01:29 ID:m4i1hOPU
67sweet:2007/12/27(木) 18:40:51 ID:YrV8qjDi
扉を開けた誘導員は目の前に迫っているゾンビを
ゲーセンによく置いてあるような銃で撃つ。
赤のポインターがゾンビの胸に照射されると、
ゾンビの胸が光って倒れる。
どうやらこうやってゾンビを倒すらしい。
俺の体は落ち崩れる事は無かった。
奴が俺の腕を引っ掴んでいたからだった。
俺はしがみ付かれていたのか支えられていたのか、
また訳が分からなくなる。
防護服を身に付けた誘導員が俺たち二人に声を掛ける。
横を見やると奴はまた平然と立っている。
68sweet:2007/12/27(木) 19:02:59 ID:YrV8qjDi
俺たち二人は薄暗闇の中、扉の向こうへ案内された。
扉の向こうは不思議の国ではなく、ある程度広いスペースになっている。
巨大なお化け屋敷の内装は、白いコンクリの壁面が剥き出しになっている。
例えるなら無人の廃墟の様な作りだ。
そんな中を武器も持たずに進むのだから、余計に怖い。
俺がまた奴の様子を伺おうとする前に、隊員に扮した誘導員が緊迫した雰囲気で
武器と施設内の説明を始める。
彼の説明を要約するとこんな感じだ。
ここは元、某傘の組織の研究所で、バイオテクノロジーの研究を行っていた。
しかし研究員の裏切りなどにあい、今は施設全体をゾンビが支配している。
その中を俺たちは進まなければいけないらしい。
説明が終わるとようやく銃を二人分手渡された。
要領はさっきの銃撃を見て覚えた。
俺は自分の銃を握り締める。
69sweet:2007/12/27(木) 22:10:27 ID:YrV8qjDi
小部屋には何故か日が差していて、若干明るい。
それが少し安心感を与えてくれる。
暗闇に慣れた目に少し眩しかったが、辺りの様子が分かる。
奴の方にも日が差している。
髪の毛の一筋一筋が光の束になって自然光を反射している。
奴は手渡された銃器をじっと見下ろしている。
伏せられた瞼から伸びた睫も光を反射していた。
奴はさっきの瞬間、一体何を考えていた。
俺には分からない。
俺は奴に、大丈夫か、と聞いてみた。
大丈夫だぜ、と奴は答えた。
奴は俺の方を見なかった。
70sweet:2007/12/27(木) 23:26:51 ID:YrV8qjDi
怖いのか、と俺は聞いてみた。
何が、と奴は答えた。
それ以上聞いても欲しい答えは得られない気がして質問するのを止めた。
来たくないなら来なければ良いのに。
俺はそう思って銃を構えた。偽者の隊員が次のドアを開く。
コンクリートが剥き出しの通路を隊員を先頭に歩いて行くと
後ろから低い呻き声が聞こえて、後ろを向く。腐敗者が来る。
先程の部屋から出て来たのか、どこからか溢れるようだ。
全身が緑色な様で、ボロボロの服、それから血糊。
顔面や体の一部が酷く損傷している者もいて、それなりにリアルでグロテスクだ。
カクカクした不自然な動きも気味が悪い。
俺は狙いを定め易いように両手で銃を構えてから、引き金を引く。
最初の一発でゾンビの胸が光り、よろめく。
しかし一発では死なないようだ。
地獄の底から聞こえて来るような呻き声を上げ、覚束無い足取りで迫り来るのだが、
だからこそ胸の急所に命中させるのが難しい。
二発目の弾丸、ことポインターを打ち込むため、
銃の切っ先をゾンビの胸に狙い定める。俺は構えた。
71sweet:2007/12/28(金) 03:24:52 ID:yTdFU33b
ポインターはゾンビの胸を射抜く。
急所が光り、ガーとかゴーとかいう効果音が流れる。
しかしゾンビは中々しぶとかった。
それで俺はちょっと焦りを覚える。
打たれて倒れてもゾンビは蘇り、迫って来る。
だが俺は割りと冷静に、三発目の銃弾の照準をゾンビの胸に合わせる。
両手でしっかりと構えれば、数を打たなくても当たるのだ。
三発目で漸くゾンビが死んだ。床に倒れて動かなくなる所はゲームと同じだ。
奴はもう一匹のゾンビに苦戦しているところだった。
俺はもう一匹の方の急所に狙いを定める。程なくゾンビは倒れた。
奴は片手で構えていた。
それでは当たらないから、俺はこうやるんだぜ、と構えを見せた。
ああそう、じゃあお前が撃ってくれ、と少し素っ気無い印象の返事が返って来た。
俺は口元に笑みを浮かべてしまう。
そういえばこいつと二人で、ゲーセンなんて行った事無かったな。
隊員の誘導に従って通路を進む。
72sweet:2007/12/28(金) 04:00:21 ID:yTdFU33b
その後ゾンビ共は場所変え手段変え俺たちに襲い掛かって来た。
ロッカーから出てくる者も居れば柵の向こうから腕を伸ばす者、
進路を塞ぐ者に上から何かが振って来るドッキリもあった。
俺は楽しかった。というか存分に楽しめた。
何故なら銃撃が得意だからだ。
面白いように弾丸はゾンビの胸を貫いた。
当然お化け屋敷だから、気味の悪い仕掛けや装飾に心臓が跳ね上がった。
突然生首が飛んで来た事もあったが、気持ちの良い緊張感で満たされる。
最後は鍵の掛かった扉の鍵を打ち抜いて俺たちは大部屋に案内される。
奴はというと、ひたすら銃撃が下手糞だった。
中々ゾンビが倒れないので、俺が焦って撃った。
ゾンビが迫って来る焦りがあってそれはそれで楽しかった。
73sweet:2007/12/28(金) 04:18:59 ID:yTdFU33b
誘導員にここが最後の部屋だという主旨の説明を受ける。
メインルームだから、ここを抜ければ出口らしかった。
そしてゾンビが沢山居るから、隊員の合図と共に撃ちまくれという事だった。
銃の射程距離はそれ程長くないから、引き寄せてから撃つ為である。
俺たちは中に入る。中は薄暗い。
けたたましい警報音が鳴り、俺たちは銃を構える。照明がほぼ同時に赤に変わった。
仕切りだった筈のガラスが割れている。その向こうにスペースがあって、
始めは何も無いように見えたが、倒れていたゾンビ共が唸り声と共に身体を起こす。
俺は隊員の合図があると、こちらに向かってくるゾンビを只管撃った。
このゾンビ共は数が沸いてくる割に、容易に倒せる。
奴も撃つ。今度は両手でしっかりと構えている。
楽しめている様子が雰囲気で伝わる。
横移動しながら、俺達に撃たれたゾンビは次々倒れていく。
蘇る残党を掃除したら後は出口へ向かうだけだ。
俺はこの暗闇と緊張感から逃れられる安心で、胸を撫で下ろす。
ここを出たら次は奴と、何処へ行こうかと考える。
74sweet:2007/12/28(金) 04:35:14 ID:yTdFU33b
ゾンビが完全に倒れてから、ここからは通路があるだけで、
走るのに邪魔になるから、と説明する隊員に自分の銃を預ける。
俺達は次の通路へ通じているはずの扉を開く。
しかしそこに光は無かった。暗闇があるだけだ。
俺はガックリしながらも通路を進もうとした。
しかし俺はある事に気が付いた。
誘導員が居ない。
そして良く見ると、奴も居ない。
どういう事だ。
俺は暗闇の中に一人、取り残されてしまったのか。
妙な不安が俺の中を襲う。
生々しい、誰もが一度は経験した事のある厭な焦りだ。
75sweet:2007/12/28(金) 18:21:44 ID:yTdFU33b
俺は右を見る。
左を見る。
右も左も暗闇と壁があるばかりだ。
一番初めの通路よりは横幅が広い。
前にも後ろにも何も無い。暗闇が続いている。
俺は立ち往生するしか無かった。
下手に動いて道に迷ったりしたら戻れなくなるからだ。
それにこの施設は、外観からしてかなり大規模なものだ。
暗闇の中歩き回って出て来られなくなったりしたら―
俺はぞっとする考えを捨てて、その場で待つ事にした。
76sweet:2007/12/28(金) 18:35:43 ID:yTdFU33b
周りが全部暗闇なものだから、上下感覚が奪われていく感じがする。
宇宙空間に一人で取り残されたらこんな感じなんだろうか。
足場が揺れているような気もするし、揺れていない気もする。
俺は小学生の時に科学館で、似た様な体験をしたのを思い出す。
渡り廊下のような短い橋があって、そこを渡る。
四角い部屋に囲まれていて、周囲は全部白っぽい。
橋を渡ると、しっかりと固定されているはずなのに、揺れている様な感覚に襲われる。
とても奇妙な感覚だ。
揺れていないのに揺れているのである。
俺は気持ち悪くなって早々にその橋を渡った。
その橋は、目の錯覚で揺れている様に感じてしまう橋らしかった。
その時の経験に似ているような気もする。
77sweet:2007/12/28(金) 18:45:45 ID:yTdFU33b
じっとりと気持ちの悪い汗が俺の額から滲み出る。気分が悪い。
もう何十時間もここでこうしている気がする。
さっきこの通路に入ったばかりの筈なのに、だ。
俺は壁に手を付いた。
ふと、壁伝いに手を付いて進んで行けば外に出られるんじゃないだろうか。
と俺の脳内に解決方法が思い浮かんだ。
ゆっくりと尺取虫の様に、壁伝いに手を付きながら歩を前に進めて行く。
俺は小学生の頃よりもっと前の、幼少時の時分を思い出していた。
どこか見知らぬ遠い町で、時刻は夜だ。
車が通る大通りの横の歩道を俺は歩いている。
泣きながら歩いている。
何故そんな幼子がそんな所を一人で歩いているのか自分でも分からなかったが、
俺の記憶として残っている映像の断片が目の前に思い浮かぶ。
78sweet:2007/12/29(土) 00:29:20 ID:Ifm3VZsI
俺はゆっくりと、だが確実に前に進んだ。
誰かが急に出て来たとしたら悪い冗談だが、むしろそっちの方がありがたい。
何故なら、お化け屋敷というのは何も無いのが一番怖いからだ。
ふいに後ろからあーとうーの中間の様な呻きが聞こえて来た。
さっきの部屋で倒したはずのゾンビが蘇ったのだろうか。
俺は銃を持っていないから銃撃は無理だ。
というか武器を何も持っていないという状況に益々不安を煽られる。
俺は不安を打ち消そうとしたが無理だった。
あーとうーは数を増して聞こえて来る。
不気味な気配と何かが背後で蠢く音。
思い切って後ろを振り向く。
ゾンビが大勢居た。
大勢のゾンビが俺に襲い掛かろうとする。
俺は逃げようとして思わずけっつまずいてしまう。
通路のひやりとした床に両手を付いた。
どうする事も出来ない。
何かが俺の中から溢れ出て来そうだった。
79sweet:2007/12/29(土) 00:37:18 ID:Ifm3VZsI
俺の手に生暖かい何かが触れた。
自分の手を見る。
人の手だ。
見覚えのある細くて白い手。
その手は俺の手を包む。
俺は立ち上がって、その手の導くままに駆け出した。
目の前には見覚えのある背中。
手はぐいぐいと俺を引っ張って行く。
背後の呻き声が遠ざかる。
俺は咄嗟に叫んだ、奴の名前を。
80sweet:2007/12/29(土) 00:45:20 ID:Ifm3VZsI
目の前が真っ白になった。
俺は目を細める。
目の前に手を翳す。
何が起こったんだ。
俺の右手を誰かがしっかりと握り締めているのは分かる。
とりあえずその手を握り返しながら、翳した手を外してみた。
そこにはあの隊員と、案内の係員が笑顔で立っている。
お疲れ様でした、などと労いの言葉も掛けて来る。
俺は奴に促されながらも身に付けた防護服を外して係員に手渡す。
どうやらここがゴールらしい。
出口を案内する看板が立っている。
目の辺りがチカチカする。
横を見ると奴が居る。
81sweet:2007/12/29(土) 00:55:57 ID:Ifm3VZsI
周囲は明るい。
今は正午ぐらいだろうか、遊園地はまだ客で賑わっている。
俺は徐々に正常な感覚を取り戻していった。
何時の間にか俺の手を守るようにしていた手は離れていた。
俺と奴はでかでかと『出口はこちらです』と書いてある看板に従って
巨大な施設から離れていく。
もう一度奴の方を見た。
俺の視線に気が付いた奴は、事のあらましを説明し始めた。
最後の所で、ゾンビが蘇って群れを成し襲って来る演出らしいが、
どうやら俺と奴と誘導員が何かの調子で逸れてしまったらしい。
奴は誘導員が導くままに一緒にゾンビから走って逃げた。
しかし俺は取り残されてしまった。
それに気が付いた奴は俺を迎えに行った。
やはり、さっき俺の手を握り締めていたのは奴の手らしかった。
奴は俺の方を見て、大丈夫か、と聞いて来た。
妙に晴れやかな笑顔だ。
俺は状況を把握して、体中の血液が顔面に立ち昇ってくるのが分かった。
82sweet:2007/12/29(土) 01:07:45 ID:Ifm3VZsI
奴は俺の頬をぺしぺしと叩く。
少し冷たい指先が俺の頬に当たる。
本当に大丈夫か、と今度は少し真面目な表情で俺の瞳を覗き込んで来る。
俺は奴の目を直視する事が出来ずに、目を反らして頷いた。
穴があったら入りたいような気持ちになった。
奴と歩きながら俺は頭を抱える。
気分でも悪いのか、と奴が聞いてくる。
別に、と俺は簡潔に答えた。
そうか、と奴は答えて前を向く。
遊園地客のざわめきが耳に伝わってくる。
俺は嬉しいような、嬉しくないような気持ちになった。
さっきの手の感触が、まだ掌に残っている。
それを思うと、俺はむず痒い気持ちになる。
83sweet:2007/12/29(土) 02:47:33 ID:Ifm3VZsI
眠い…ので続きは俺の脳内で書いておきます…orz
皆さんおやすみなさい…
84sweet:2007/12/30(日) 18:21:50 ID:INhw8sgA
俺はふらつきながら、奴が飯でも食うか、
と聞いて来たので適当に頷いておいた。
ジャケットのポケットから携帯を取り出して確認すると、
時間は丁度昼飯時だ。
奴は地図で確認しながら歩いて行く。
遊園地の客は午前中よりも増えたようだ。
人ごみを避けつつ奴の後を付いて行く。
奴の左手が空いているのが目に付いた。
俺は複雑な気持ちになった。
つい先程まで、俺の右手を握り締めていた手だ。
歩くのが速い奴の隣りに駆け寄るようにして並び、右手でキャップを被り直した。
目的地に付くまで特に会話は無かった。
ゲーセンとかあんま行かないのな、と俺は話し掛けた。
まあな、と奴は地図を見ながら答えた。
でも俺はそれ以上会話を続ける事をしなかった。
気温は真昼時で、陽が差しているから若干暖かい。
遊園地内を迷い無く歩いていった奴の先には、
お土産屋とレストランが一体になったような施設がある。
85sweet:2007/12/30(日) 18:37:23 ID:INhw8sgA
中に入ると広々とした空間がそこにあった。
お土産屋が右にあり、レストランが左。
仕切りの壁に窓があって、隣りの施設の様子が視界に映る。
広めのログハウスで作りは木造、見ると二階席に繋がる階段がある。
上は吹き抜けになっていてお洒落な内装だ。暖色の照明が店内を明るくしている。
中は込み合っていたが並んでは居なかった。
俺と奴が出入口付近のボードでメニューを確認していると、
アメリカのレストランに居そうなコスプレの店員が声を掛けて来た。
窓際の二名の席に案内されて、俺はジャケットを脱いだ。
テーブルは四角く、こちらも木で出来ている。椅子も悪くない。
奴は脱いだ上着を自分の椅子に掛けているところだ。
こういうところが几帳面だと思う。俺も椅子の背凭れに掛けてから椅子に腰掛ける。
中は暖かく、四角い窓から外を行き来する人々の姿が見えた。
86sweet:2007/12/30(日) 18:57:50 ID:INhw8sgA
俺はそこで、本来の目的を思い出していた。
奴と遊ぶのが楽しくて、すっかり忘却の彼方へ追いやってしまっていた。
女友達同士で来ているのを捕まえて遊びに誘う事だ。
世間一般ではこれをナンパと呼ぶ。
どうしてナンパと呼ぶのかは知らないが、水とお絞りを出してきた店員に、
カルボナーラ、と言った。俺は奴の方を見て、お前は、と聞く。
俺はミートソースで、と奴は店員に直接答えた。
俺達を接客した店員は女でショートヘアの、中々可愛い部類だ。
頭にヘッドドレッサーを付けている。この店の制服なのだろう。
取り出した注文表に何か―俺達の注文の他に無いのだが―を書き付けて、
メニューを確認する。
俺はそれに頷くと、彼女は人込みの中へと消えて行った。
87sweet:2007/12/30(日) 19:16:18 ID:INhw8sgA
どういうのが好みなんだ、と奴に聞いてみた。
奴はお絞りで手を拭きながらのんびりと、そうだな、と答えた。
黒のVネックから白い首が伸びている。
首元には鎖骨が見える。
俺は奴の手元を眺めると、さっきの出来事を脳内に思い浮かべた。
触れた感触が拭われてしまうのが何だか勿体無いような気がする。
俺は少し黙って、冷たい水を一口呷った。
さっきの店員、結構可愛くなかったか、と俺は言ってみた。
奴は店の奥の方に目をやって、彼女、と聞いてきた。
それから店内を見渡して、俺はああいうのが好きだな、と答える。
奴の視線の先を辿ると、少し遠くの席に、黒髪ロングの女性が居た。
顔立ちがきりっとしていて芯が強く、和服が似合いそうな美人だ。
丁度もう一人の女の友達と、食事を愉しんでいる最中である。
俺は、ふうん。と答えた。
88sweet:2007/12/30(日) 23:01:33 ID:INhw8sgA
自分で聞いておきながら何だか複雑な気分だ。
何がどう複雑なんだろう。
心の中で問い掛けてみたが、俺の引き出しの中に答えは見付からなかった。
俺は布巾を広げつつも手は拭かなかった。
そうこうしているうちに、料理が運ばれて来た。
さっきと同じ彼女が、失礼します、と俺と奴の目の前に、
それぞれのスパゲッティーをお盆から静かに置いていく。
彼女は中々のスタイルの良さで、胸が大きい。
もう一度確認を終えると店員は次のお客の案内に掛かる。
ああいうのはどう、と俺は自分の胸の前で、
自分には無い架空の女の胸を持ち上げるような動作をして見せた。
奴は他の客の対応に当たっている彼女の背中に目をやってから、
大きいに越した事は無いな、と答える。
俺は形の良さ重視だな、と返すと奴は、
そう、とだけ言った。
89sweet:2007/12/30(日) 23:22:40 ID:INhw8sgA
俺はカルボナーラをフォークで小さめに巻いてから、
口に一口運んだ。
遊園地レストランのカルボナーラは、子供向けの濃い味付けだ。
不味い。
俺はそう思った。
クリームのソースが少ししょっぱい様な気がする。
向かいの席に座っている奴の方を見た。
奴はフォークで巻いたスパゲッティーを落さないようにスプーンで
すくいながら巻いて、一口大よりも少なめにすると、口に運ぶ。
ミートソースは軽く絡める程度だ。
奴が俺の視線に気付くと、美味いか、と聞いて来た。
不味いよ、と俺は答える。
俺のは不味く無いぞ、と奴はミートソース・スパゲッティーの皿を
こちらへ差し出した。
奴のをフォークに巻いてから口に運ぶと、美味い。
服汚れるぞ、と奴が注意したので、俺は黙って左手にスプーンを装備する。
俺が差し出したカルボナーラを試食している最中の奴に、
美味いか、と聞いてみると、
微妙だな、と奴は答えた。
90sweet:2007/12/30(日) 23:49:35 ID:INhw8sgA
取り替えても良いぞ、と奴は言ったが、俺はその申し出を断った。
その後俺達は黙々を飯を食った。
特に話し合うようなことも無い。
俺は次の予定だけ相談してみた。
奴も特にこれといった計画は無いようだ。
遊園地のパンフレットを見ながら、例のお化け屋敷と一二を争う
人気のジェットコースターがあるのを見つけて、俺はそれを指差した。
待ち時間もあるだろうから時間も潰せる。
奴はそれ乗ったら観覧車乗って帰るか、と答えた。
何でお前と、と言うと、奴は俺と視線を合わせてから、
夕日が綺麗に見えるから、と答えた。
俺は、いいよ、じゃあそうしよう、と返す。
91sweet:2007/12/31(月) 00:03:09 ID:HfAAvh+c
飯を食い終えると俺たちは店を出た。
何故だか奴が全額奢ってくれた。
俺は断ったが、奴は、俺が遊園地に誘ったから、と言った。
そうだっけ、と思った。
確か奴と遊園地のチケットが余って困っているというような話をしていて、それで…。
考えているうちに奴はレジで会計を済ませ、気が付くと出口に向かうところだった。
俺は後を追いながら、サンキュー。とだけ言っておいた。
忘れもんとか無いよな、と奴が聞いて、
俺は自分の装備を確認してから、無いよ、と答えた。
外は寒い。暖かい店内から外に出た途端、冷たい風が頬を刺す。
俺は肩を竦めて、ジャンパーの前を上まで閉めた。
92sweet:2007/12/31(月) 00:28:18 ID:HfAAvh+c
奴と俺は、ジェットコースターを目指して歩いた。
取り留めの無い話をした。
行列待ちの時間も。
奴との話題は尽きる事が無く、楽しい。
順番が来ると、奴は奥のシートに座った。
俺は手前のシートに座る。
恐怖系は大丈夫なのか、と俺はからかい半分に聞いた。
シートベルト締めろよ、と奴は言った。
奴に指摘されて俺はシートベルトを締め、止め具をしっかりと降ろした。
ジェットコースターは信号音と共に、徐々に上昇を始めた。
かなり上まで引っ張り上げるから、下りに入るまでかなり時間がある。
今か今かという緊張感が、不安と恐怖と期待を煽ってくる。
ようやく頂点に上り詰めてからも妙に時間が掛かる。
そこからは一気に下りだ。
きゃーとかわーとか他の客が叫んでいる。
俺はぐっと力を入れて耐える。奴の様子を見やる暇も無く、
右に曲がれば左に曲がり、上がったり下がったり、とにかく怖い。
俺はひたすら耐える。
93sweet:2007/12/31(月) 00:35:29 ID:HfAAvh+c
ようやくゴール地点が見えて、最後はスッと止まった。
俺と奴は降りて、出口に向かった。
俺は笑っていた。
奴も笑っていた。
お互い笑いながら、お互いを笑い合って、俺達はジェットコースターを後にした。
もう、このままで良いと思った。
俺は奴と二人で居るのが楽しい。
奴も楽しそうだ。
他には何も要らないと思った。
そう思いながら、いつのまにか時間は過ぎて行った。
94sweet:2007/12/31(月) 00:42:53 ID:HfAAvh+c
俺達は観覧車に向かった。
冬だから陽が短いのだろう、暮れが迫って来ている。
人は少し並んでいるくらいで、他に比べれば少ない方だ。
すぐに俺達の番になって、係員に誘われるようにして乗り込んだ。
ガチャンと外から鍵が掛けられた。
俺は右に、奴は左に腰掛けた。
楽しかったな、と俺は興奮気味に言った。
奴も、そうだな、と頷いた。
俺達を乗せたゴンドラが、ゆっくりと高度を上げて行く。
95sweet:2007/12/31(月) 00:55:08 ID:HfAAvh+c
僅かに時間が流れた。
俺と奴は、外の景色を眺めていた。
奴が、今日は付き合ってくれてありがとう、と口にした。
俺の方こそ、と答えた。
楽しかった。と奴は言った。
俺も、と返した。
奴が俺の方を見ていたので、俺も奴を見た。
微笑を浮かべているような、そんな目元だ。
目を合わせると、黒い瞳の中に吸い込まれそうな気がする。
少し黙ってから、ゾンビ屋敷で俺に抱き付いて来ただろ、と聞いた。
奴は案外すんなり、ああ、まあな、と言った。
怖かったのか、と俺は聞いた。
少し、と奴は答えた。
お前は、迷子になっただろ、と奴は言った。
俺は沈黙した。
しかも涙目だった、と更に付け加えられた。
だから、おあいこだろ。
俺は顔が紅潮するのを感じてから、泣いてない、と言った。
いや、泣いてた、と奴は言った。
俺は外の景色に視線を移した。
96sweet:2007/12/31(月) 01:08:40 ID:HfAAvh+c
俺は奴が握った右手の感触を思い出していた。
遠くの方に、例のお化け屋敷が見えている。
人が蟻のように小さくなっていく。
奴が、女見付けられなくて、残念だったな。と言った。
俺は黙っていた。
何だか、口にしなくても、今なら分かるような気がする。
何が分かるんだろう、と俺は考えてみる。
今日の出来事を色々と思い出してみた。
俺は奴と一緒に居てみて、嬉しいような悲しいような、
このままで居たいような居たくないような、両極端の気持ちを感じる。
まるでシーソーだ。
不安定で、どちらかに定まる事が無いのだ。
俺はある事に気が付いて、あ、と口にする。