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からすのお宿:
そこまで言うとくるっときびすを返し後ろ手に手を振り振り颯爽と歩み去っていく満子に視線を当て、遊馬はランドセルに書類をしまい込んだ。
なんだか健康診断にしてはおかしな事を言われた気がしないでもなかったが、深く考えるのも面倒だったので遊馬はそのまま診療所に向かう事にした。
この日が自分にとって大変な…記念日とも言えるものになるとも知らずに。
目覚め
学校を出て少し歩くと遊馬の目に診療所が見えてきた。
精華診療所。
診療所と言っても勤務しているのは女医と看護婦が1名ずつの極めて小さなもので、仕事は精華小学校での予防接種や健康診断を除けば近隣住民の軽い病気の治療と都市部の大病院への紹介状書きという「町医者」という表現が似合いそうな所だ。
遊馬は少し心が躍っていた。
それというのも、遊馬はこの診療所の女医「水原 透香」(みずはら すみか)に密かな恋心を抱いていたためだ。
昨年医師免許を取得し父の残した診療所を継ぐために都市から戻った透香はその美貌と慈愛に満ちた人格で町民の信頼を勝ち得ており、遊馬もまたそんな透香の虜の1人であった。
診療所の門の前に立ち、呼吸を整える。
手早く身なりを整える様は、小学生なりに精一杯好印象を与えようとしているのだろう。