母親が他人に犯される作品 #2.2

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「あんた、鬼だよ。宇崎クン」
つくづく……といった思い入れで、高本が言った。電話の向こうの達也に。
市村も、それには同意である。
定例の、達也からの経過報告。今日は、ずっと高本が達也と話しているのだが。
傍らで聞いてるだけで、おおよその状況は解った。
実際、達也の遣り口は、ムゴいとも言えるほどで。それをして、鬼や悪魔呼ばわりするのにも
まったく異存はないが。
しかし、やたらといきり立っている高本が、達也に翻弄される越野佐知子に同情している
わけではないこともわかっている。当たり前だ。
「ハァ? いや、越野ママが、どんだけ悶え苦しもうが、そんなこたあどうでもいいのよ。
 つーか、それについちゃ、ジャンジャンやってくれとお願いすることも、
 ヤブサカでないオレなのよ」
案の定、この言いぐさである。……なんだか、ニホン語が怪しいが。
「オレが言いたいのはさ、そうやって、宇崎クンが楽しんでる間はさ、越野ママと一緒に、
 オレも焦らされてるってことよ。まだかまだかと待ち続けて、ギンギンになってる、
 このチンコを、どうしてくれるのかと」
ようするに、言いたいことは、それなのだった。
実のところは、それほど時間がかかっているわけではない。むしろ、順調すぎるほどに
達也の佐知子攻略は進行しているわけだが。
しかし、すでにいつでもモノに出来る状態にありながら手を出さない達也のやり方が、
高本には承服できかねるらしい。
「つーかさ、その状況で、ブチこまずにすませるってのが、信じられないよ。
 ホントに血ィ通ってるのかって、思うよ」
……まあ、高本らしい憤慨の仕方ではある。
でも、それが達也だろう、と市村は思うのだ。
まだ完全にはシナリオを消化していない。まだ、佐知子へのいたぶりを
楽しみ尽くしていない。だから、達也は、トドメを刺さなかった。
すでに完全に達也の手に落ちて、本音では達也に犯されることを待ち望んでいる佐知子を
突き放すこと。達也にとっては、それこそが自分の快楽に素直に従った行動だったのだ。
(……まあ、異常だけどな)
つくづく、こんな化け物に眼をつけられた、それもかなり気に入られてしまった佐知子は、
哀れなことだと、同情する市村だった。
823241:03/07/07 18:16
……同じ頃。越野家。
白いバスローブ姿の佐知子が、浴室から出てきた。
首にかけたタオルで洗い髪を拭きながら、キッチンへと向かう。
冷たいミネラル・ウォーターをあおって、湯上りの喉と身体を潤す。
ホッと息をついて、見るともなく周囲を見回した。
キッチンにも、続きの?リヴィングにも、ひとの気配はなかった。
先に入浴を終えた裕樹は、二階の自室に引き上げたようだ。
明日はテストがあるから、今夜は少し遅くまで勉強しなけらばならないと夕食の時に言っていた。
だから……今夜、裕樹が寝室に訪れることはないだろう。
そんな思考をよぎらせて。直後、そんな自分に眉をしかめて。
佐知子は、使ったコップを洗って、キッチンを出た。
自室へと向かう途中、階段の前で足が止まった。
階上は静かだった。かすかに、気配が伝わるだけ。裕樹は真面目に試験勉強に取り組んでいるらしい。
……やはり、今夜、裕樹が寝室に来ることはないようだ、と。
また、その事実を佐知子は胸に呟いてしまう。
学業に差し障るようなら関係を絶つと、以前に釘をさしたのは佐知子自身であり、
裕樹はよく母の戒めを守っていた。
「………………」
ボンヤリと暗い階段を見上げていた佐知子の手が、手すりにかかった。
素足にスリッパを履いた片足が上がって、一段目のステップを踏みかけて……
フウと息を深い息をついて、佐知子は足を戻した。
踵をかえして、階段から離れる。
……馬鹿な考えを起こしかけた、と自省する。
やって来た息子を受け入れるのと、自分から息子の部屋を訪れるのとでは、
まるで話が違う。
裕樹との秘事は、快楽を求めてのものではなかったはずだ……と。
自らに言い聞かせたのは、心理の表層の部分。その裏には。
求めるだけ無駄だという諦めが、確かにあった。
この肉体に巣食った疼きを、裕樹に鎮められるわけがない、と。
それよりは……この数日に覚えてしまった、ひとりの行為のほうが……。
その思いに急かされて、佐知子は駆けこむように寝室に入った。
バタンと、大きな音をたてて、ドアは閉ざされた。
824241:03/07/07 18:52
……さんざん、高本が達也への恨みごとを並べたあとで、市村は電話を代わった。
『いや、まいった』
さすがに辟易した調子で、達也が言った。
「まあ、ずいぶん、念入りに楽しんでるみたいだからね。高本が焦れるのも無理ないよ」
「そうだよ。もっと言ってやって、市やん」
『うーん、実際、楽しいんで、ついついな』
「でも、怪我の回復は順調なんだろ? いつまでも入院してるわけにもいかないんだよ」
『ああ。そうだよな』
「そろそろ、次の楽しみ方に切り替えてもいいんじゃないの」
「市やんが、いいこと言った!」
横で、うるさく騒ぐ高本に手をふって黙らせる。
「まあ、達也がデティールに凝るのは、知ってるけどさ。それだって、もうじきなんじゃないの?」
『そりゃあ、佐知子しだいだな。どんだけ辛抱するかって』
「見当はついてんだろ? こっちも、越野への報告会を開く都合があるからさ。
 実際、あとどれくらい持ちそうなの? 越野のママは」
『どのくらいって…』
達也はせせら笑って、
『明日一日、持ちこたえたら、感心するけどな』
まあ、無理でしょう、と。自信たっぷりに言い放った。

                     (続)