……静かな病室。
聞こえるのは、かすかな衣擦れの音と。
「……ふ……ん…」
乱れた呼気に混じった、細く弱い鼻声。
そして、隠微な濡れ音。
白い明るい部屋にそぐわない、それらの響きは、ベッドの上から。
上体を起こした達也の腕に、肩を抱きかかえられて。
白い喉を逸らして仰のいた佐知子が、口を吸われている。
不自然にねじれた白衣の腰がベッドに乗りかかって、白いストッキングに包まれた脚が
宙に浮いているのは、強引に抱き寄せられたことの証左だろうが。
しかし、いまは佐知子は抵抗の動きは見せずに、ただ、達也の胸に力弱く突いた手に
その名残をとどめているだけだった。
ピッタリと合わさった唇の間から、湿った音がもれる。
閉じた瞼も、白皙の頬も、ボーッと上気させた佐知子は、甘く鼻を鳴らして、
達也へと倒れかかった身をよじった。豊満な肢体を包んだ白衣が、
シーツを擦って、かすかな音をたてる。
佐知子の態度は、あくまで受動的なものではあったが。しかし、彼女が
行為に耽溺しきっていることは確かなように見えた。
……やがて。ようやく達也が口を離して。濃厚な口吻は中断した。
「……ふぁ……はあ……」
佐知子は解放された口を開けて、新鮮な空気を求める。
半ば開いた眼で、ボンヤリと達也を見上げた。
「……また……病室で、こんな…こと、を……」
弾む息の下から、切れぎれに、そう言ったが。
その瞳は蕩け潤んで、眼元も頬も血の色を昇らせて。濡れて、しどけなく緩んだ唇から
洩らす声は、恍惚に震えているのだから。少しも責めているようには聞こえない。
「……いけないのよ……こんなこと……」
恨めしげに、達也を上目遣いに見る表情も、かすかに甘い媚びが滲んで。
実際、いけないと言いながら、佐知子はまだ達也の腕に身を委ねたままで。
片手は、達也のパジャマの胸元を掴みしめていた。
(続)