……いつも通りの、夕食の風景。
母子ふたりきりだから、賑やかに、とはいかないが。
穏やかで、和やかな団欒の雰囲気。
「裕樹、おかわりは?」
「うん」
たとえば、たったそれだけのことが、裕樹には嬉しい。
裕樹から頼むより先に、母が空の茶碗に気づいてくれたというだけのことが。
それは、母がちゃんと自分を見てくれているということだから。
ここ数日、しきりに考え悩むようすを見せて、大事な夕食の時間も
味気ないものにしていた母だったが。
今日は本来の姿に戻っている。裕樹の持ち掛ける他愛もない話題に、
ちゃんと耳を傾けて、時折茶々を入れたり、笑ったり。
これこそが、あるべき姿だと裕樹は安心した。
「……よかったね、ママ」
「え?」
唐突な裕樹の言葉に、佐知子がキョトンとする。
「仕事のことで悩んでるって言ってたけど。解決したんでしょ?」
普段は母の仕事のことに口ばしを挟んだりしない裕樹だが。
問題が片付いたということなら、軽く触れるくらいはいいだろうと思ったのだった。
無論、それがどんな問題だったかは、裕樹はまったく知らないのだが。
「え、あ、そう、ね……」
佐知子が、うろたえたようすを見せるのが、裕樹には可笑しかった。
ママ、驚いてるけど。僕だって、これくらいの気遣いは出来るんだ……と。
得意な気持ちになって、
「よかったね」
もう一度、そう言って。笑顔を母に向けた。
「え、ええ……ありがとう」
(続)