「やっぱり……フラれるなら、ちゃんとフラれておきたいな」
達也は言った。淡々と、しかし、その端正な面には、自嘲の苦い笑み。
「そうじゃないと、諦めがつかないから」
「そんな、フるとかフラれるとか、そういうことじゃ…」
「だって、佐知子さんは僕の想いを受け入れてはくれないんでしょ?」
「それ…は……」
「だったら、やっぱり僕は佐知子さんにフラれたってことになる」
「だから、そうじゃなくて」
苦しげに眉を寄せて、達也の言葉を否定する佐知子。
“その通りだ”と、言ってしまえば、落着するはずなのに。
どうしても、自分が達也を拒んだとされることを看過できなかった。
「そうでなければ、なんなのさ?」
達也は、わずかに苛立つ気配を見せて、
「……もしかして、佐知子さん、まだ僕の気持ちを疑ってるの?」
「……疑う、というんじゃ、ないけど……」
「けど、信じることも出来ない?」
「…………」
無言の肯定に、達也は深く嘆息して、
「ひどいな。拒まれるのは仕方ないけど……想いを信じてさえもらえないなんて」
「違う、違うのよ、達也くん」
痛切な響きに胸を刺されて、佐知子は、己が心の核心に近い部分を吐き出す。
「達也くんを、達也くんの気持ちを、疑うんじゃないの。ただ……どうしても、
それが私だということは、信じられないのよ」
整理のつかない感情を、そのまま言葉にする。
「どうして?」
「だって、私はこんなオバサンで……達也くんと同じ年の子供もいるのよ?」
「それが?」
「それが、って…」
(続)