母親が他人に犯される作品 #2.2

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「およ? なに、越野も年上趣味なの?」
「そ、そんなんじゃないけど」
「隠すことねーじゃん。そうかそうか、こりゃ、相談してよかったなあ」
「だから、違うってば」
勝手に納得する高本に、躍起になって否定する裕樹。
それを眺めていた市村が口を挟む。
「まあ、年くっても綺麗な女はいるよな」
「そう、だよね? 僕も、それが言いたかっただけだから」
裕樹は、しきりに頷いた。
「ふーん。じゃあ、オレのダチの気持ち、わかる? 越野には」
「わかるっていうか……そういうこともあるんじゃないかなって」
「ほほう。や、こりゃあ、越野に相談して正解だったなあ、やっぱ」
やけに感心して、そう繰り返したあと。
急に高本はニヤリと口の端を吊り上げて、
「ひょっとしてよう。越野の彼女も年上か?」
「えっ!?」
「その彼女と、とっくに経験ずみなんじゃねえの」
「な、なにを」
軽い冗談のような言葉に、裕樹は、つい過剰な反応をしてしまう。
「お、その慌てぶり。マジかよ?」
そう聞きながら。実のところ、高本は、んなわけねえだろ、と思っている。
こんなガキっぽいチビすけに女なんかいるわけない、勿論ドーテイに決まってる。
「違うよっ」
だから、まったく必要もない否定に力をこめる裕樹を、
(なにムキになってやがんだ、バカ)と内心で嘲っていた。
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しかし。
確かに、越野裕樹は、幼く奥手で、異性とつきあったこともない、それは事実だったが。
だが、童貞ではないのだ。まがりなりにも、女の体を、セックスを知っているのだ。
しかも、相手は実の母親である。
母子相姦。裕樹自身には、なんの抵抗もないが。社会的には禁忌の行為であることは
承知している。
だからこそ、高本の言葉に、思わず過敏な反応を示してしまったのだった。
「……僕のことは関係ないだろ」
それを取り繕うように、つっけんどんに裕樹は言った。
コーラをひと口飲んで、気を静める。
「高本くんの友達の話でしょ?」
話題を戻そうとする。
「その、相手の女のひとの、反応はどうなの?」
「どうってなあ。最初はやっぱ、まともには取り合わない感じだったみたいよ。
 そりゃあ、そうだよな? 大人の女が、中学生に口説かれて、本気にゃあしねえや」
「そうか……そうだよね」
裕樹は、深くうなずいた。
(僕とママみたいに、いくわけないもんな)
自分たちのような特別な絆がなければ、と。
「だから、オレも無理だって言ったんだけどさ。ダチは絶対諦めないって。
 めげずに、アタックし続けてさ」
「……女のほうも」
と、市村が話しに加わる。
「熱心に口説かれて、悪い気はしてないみたいだけどな。満更でもないって感じで」
「いやあ、でも、そこどまりでしょう。それ以上は無理だって」
力をこめて、反論する高本。
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「オレも、ダチのマジなキモチは応援したいけどよう。でも、中坊がいくらマジに
 なったって、いい年した子持ちの女がオちるとは思えねえんだよな」
「……うん…」
「だから、スッパリ諦めてさ。もっとフツーに、同年代の女を探したほうがいいって、
 ダチには言ってるんだけども」
「好きなようにやらせときゃいいんだよ」
素っ気なく市村が言うのに、高本は顔をしかめて、
「ってさあ、冷たいと思わねえ? 市やんって。共通のダチなのにさ。
 なあ、越野はどう思う?」
「……うーん……」
真剣な表情で、しばし考える裕樹。
「……僕も、難しいとは思う。その友達の想いが叶うのは」
「やっぱ、そう思う?」
「うん。やっぱり、年齢のこともあるし。それに、子供がいるんでしょ?」
「ああ、いるいる。息子がひとりな」
「だったら……母親としての愛情は、なにより子供に向かうと思うから」
「なるほどなあ。確かに、息子を溺愛してるっぽいよ、そのママさんも」
高本は、しきりに感心して、
「いやあ、越野、深いよ。オレが見こんだだけのことはあるぜ」
「あ、いや、あくまでも、そうなんじゃないかって話で」
「謙遜すんなって。うん、そんな女が、中学生の口説きに応じるわきゃねえもんな」
「うん……そう思うけど」
でも……と、裕樹は続けた。
「その、高本くんの友達も、無理に諦める必要はないんじゃないかな。
 どんな相手だって、好きになっちゃったら、しかたないもの」
「………………」
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高本の顔が珍妙に歪んだ。
それが、吹き出しそうになるのを懸命にこらえているのだとは、裕樹にはわからない。
「どうしたの?」
「う、あ、いやあ」
「……越野って、大人な考えを持ってるんだな」
笑いの衝動と戦う高本を、市村がフォロウする。
「え、そんなこと、ないけど」
「ゲホン、うう……いや、まいった」
咳払いで誤魔化して。
「そうかあ……そうだな、真剣に想い続けてれば、いつか叶うかもしれないしなあ」
頬をヒクつかせ、上擦った声で、高本は言った。
裕樹は、うん、と頷いて、
「そうなると、いいね」
率直な心情を口にした。
「越野ッ」
いきなり叫んで、腰を上げた高本が、裕樹の肩を掴んで、激しく揺さぶる。
「なっ、ちょっ」
「オマエは! いいヤツだなあ!」
嬉しそうに言って。ゲラゲラと笑った。
ついに爆笑を堪えきれなくなったのを力業で誤魔化したのだった。
「ちょ、やめてよ」
周囲の目が痛くて、裕樹は必死に制止したが。
お構いなしに、気が済むまで裕樹の華奢な体を揺さぶって、笑いを響かせた高本。
やがて、ようやく笑いをおさめて、裕樹を解放して、腰を下ろす。
「いやあ、スマン、ついコーフンしちゃってよ」
イカつい顔は、まだ笑み崩れて、赤く染まっている。
「越野、いいよ、おまえは。男気がある。それに優しいしな」
少しグッタリとしている対面の裕樹を、上機嫌に持ち上げて、
「どうよ、市やん? 市やんにも、少しは越野の優しさを見習ってほしいね、オレは」
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「そうだな。俺も、ちょっと感動した」
「やめてよ、ふたりとも…」
恥じ入るように肩をすぼめて、裕樹が呟く。しかし、悪い気はしない。
裕樹にしても、高本と市村の友人思いに、見直した気持ちになっていた。
「越野のおかげで、今日は有意義な話になったよ。アリガトな」
「そんな、たいしたこと言ってないし…」
「んなこたあ、ないって。また相談にのってくれよ」
「え、あ、うん、いいけど…」
また? と迷いながらも、結局承諾する。
この程度なら、つきあってもいいかと思ったし。高本の友人の恋の行方にも
興味を抱かされてしまっていた。
「ありがてえよ。市やんが、この通りの冷血人間だからさ。他には
 話を聞いてもらえるヤツもいなくて」
高本の言葉に、裕樹は、ふと思いあたって、
「宇崎くんは?」
「……宇崎クンに、相談しろって?」
「あ、うん、ダメなの?」
「そうだなあ……宇崎クンになあ……相談できりゃあ、いい、けど」
「達也も、他人の恋愛沙汰なんかに興味はないタイプだから」
「そうなんだ……」
「……悪い、オレ、ちょっとトイレ」
裕樹から顔を背けるようにして立ち上がった高本は、足早にトイレへと向かった。
「……?」
キョトンと、それを見送って。
裕樹が視線を戻した先には、呆れたような感心したような微妙な表情で
見つめる市村の顔があった……。
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「……もう、死ぬかと思った。便所駆けこむなり爆笑。まだ腹イテえもの」
裕樹と別れてからの、ふたりの会話。
「越野って、ステキすぎ」
「まあな」
「市やん、よくあんな平気な顔してられるよ。アンタの血、何色よ?」
「いや、正直、辛かった」
思い出して、口元を歪める市村。
「……おかしかったのはさ、アイツの反応が、達也から聞かされてる越野ママと
 通じるものがあってさ。やっぱ、親子なんだなあとか」
「ダハハ、やっぱ、イデンってやつ? どんどん、こっちの思うツボにハマってくれる
 ってのが、越野家の血のなせるワザ?」
「期待以上だろ、あれは」
「だよねえ。今日はツカミ程度だから、そんなに盛り上がらないかと思ってたのに。
 オミソレしちゃったな」
「おそるべき才能だな、ある意味」
「今後の“報告会”が、スッゲエ楽しみになっちゃったよ」
「まあな。……あ、ひとつ気にかかったんだけど」
「なに?」
「おまえ、越野って、やっぱり童貞だと思う?」
「はあ? あったりまえじゃん、そんなの」
「……まあ、そう思うよな。いや、その話題の時の反応が、ちょっと妙だったから」
「ないない。あんなガキ、相手にしてくれる女なんかいるわけないじゃん。
 あのエロい母ちゃん以外に、女と口きいたこともないって、きっと」
「……だよな…」
(母親だけ、か……)
市村は、裕樹と佐知子の姿を思い浮かべてみる。
(……そりゃないか。あの母子には…)
隠微な影を見ることが出来ずに、この時は疑惑を打ち消した。

                   (続)