「………………」
からかわれているのかな? と当然な疑いをわかせる裕樹。
しかし、高本の口ぶりには皮肉や揶揄の調子はなかった。
だいたい、オチョくることだけが目的にしては、手がこみすぎている、と思う。
「……わかったよ。とりあえず、話を聞くよ。
僕なんかじゃ、なにもわかんないと思うけど…」
「ああ、ありがてえ。うん、聞くだけ聞いて、越野が思うことを言ってくれりゃいいよ」
気楽に言って、高本は身を乗り出してくる。
「そんでな。そのダチが惚れた女ってのが、まあ、ちょっとムズかしいのよ」
「むずかしい?」
「そう。まず、かなり年上なんだな」
「いくつなの?」
「えーと……いくつ? あの女」
隣を向いて、市村に尋ねる。
市村は、ちょっと考えて、
「……三十は越えてるんじゃないか」
「そんなに? え、その高本くんの友達は、いくつなの?」
「タメだよ。な、驚くよな?」
「う、うん」
「たしかにさあ、オレや市やんも見たんだけど、いい女ではあるのよ。
顔もいいし、体つきも色っぽいしさ。だけど、なあ?
けっこう大きなガキもいるってんだぜ、その女」
「結婚してるの!?」
「う、ああ……えっと」
また市村に頼る高本。
「結婚してたけど、いまは旦那はいないらしい。
……母ひとり子ひとり、だったかな」
「そうなんだ…」
うちと同じか、と裕樹は思った。
「まあ、独りものだから、不倫とかってことにゃあならねえんだけども。
なにも、そんな年上に惚れなくたってなあ?」
「う、うん……」
「オレにゃあ、理解できねえんだけどさ。そいつはマジ惚れしちゃってるわけよ。
どう思うよ、越野?」
「どう、って……」
「ダチの気持ち、理解できる?」
「え、どうだろ……」
「越野は、どうよ? 年上、好き?」
「そ、そんなの、急に聞かれたって…」
そう言いながら、母のことを思い浮かべてしまう裕樹。
(ママみたいなひとだったら……)などと考えると、満更でもなく思えて。
なんとなくだが、その高本の友人の気持ちもわかる気がした。
「それで……その高本くんの友達は、なにか行動に出てるの?」
裕樹の方から質問した。少しづつ話題に引きこまれている。
「ああ。かなりアプローチはかけてるみたいよ。な?」
「うん。なかなか涙ぐましいものがあるな。あれは」
「そうなんだ。なんか、スゴイね」
「スゴイっちゅうか、まあ、ようやるわとは思うね。あんなオバサン相手によ」
「オバサン……かな?」
その呼び方には違和感があって、つい反駁してしまった。
「うん?」
「い、いや、それくらいの年なら、まだオバサンとは言えないんじゃないかって」
市村の言葉から、裕樹は、話題の女性は三十歳くらいなのだと思いこんでしまっていた。
ならば、裕樹の母・佐知子よりも、だいぶ若い。
美しい母のことを、オバサンなどと思ったことはない裕樹だから、
つい、その見知らぬ女性のことも庇いたくなってしまったのだった。
(続)