母親が他人に犯される作品 #2.2

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ここ数日、裕樹の学校での生活は、おおむね平穏であった。
おおむね、というのは、ひとつだけ妙な事態が起こっているからである。
この日も、そうなった。
「よお、越野。帰るんか?」
放課のHRも終わって、帰り支度をしていた裕樹に気安い声をかけたのは、高本だった。
「あ、うん…」
……やはり、今日もか、と思いながら、当惑顔で答える裕樹。
「ヒマだったら、ちょっと付き合ってくれよ」
イカつい顔に、にこやかな笑みを浮かべて、高本が誘う。
以前なら、またイジメの口実かと疑ってしかるべき場面なのだが。
どうも、そうではないらしいから、逆に裕樹は困惑してしまうのである。
数日前、あの宇崎達也が入院した日の朝、はじめて裕樹は高本に反抗した。
その後、なんらかの報復があるものと、警戒していたのだが。
『気に入った。越野は、ナリは小さいが、いい根性してる』
翌日、登校してきた高本は、意外にも、そんなことを言い出した。
そして、その言葉どおりに、裕樹に対して、やたらとフレンドリーな
接近を開始したのである。
裕樹にすれば、安堵より薄気味の悪さを感じてしまう、高本の豹変ぶりであった。
当然、簡単に信じる気にはなれない。
たとえ、高本が本気であったとしても、はいそうですか、と受け入れられるはずもなかった。
“勝手なこと、言うなよな”というのが、正直なところである。
だから、放課後の誘いも断ってきたのだが。
こう連日だと、ちょっと悪いかな、という気になってしまう。
高本がまた、これまでの裕樹の拒絶にも、怒るでもなく、ただ残念そうに
引き下がるものだから。
お人よしの裕樹としては、余計にプレッシャーを感じてしまっていた。
565241:03/06/12 18:09
「あ、でも……」
だから、歯切れが悪くなってしまう。
それでも、誘いに乗る気はない。乗ったところで、どうしようもない、とも思う。
(話が合うわけもないし…)
しかし、この日の高本は、やけに熱心であった。
「そう言わないでさ。ちょっとでいいから。越野に相談に乗ってほしいことがあるんだよ」
「相談…?」
「そう。おまえを見こんで、知恵を貸してほしいことがあんの」
「え、でも、それだったら」
裕樹は、少し離れた位置に立って、ふたりのやりとりを眺めている市村を見やった。
「僕なんかより、市村くんの方が…」
「それがダメなのよ。市やんは確かに頭イイけど。これは、市やん向きの話じゃないの。
 な、頼む。ちょっとでいいから」
片手拝みに、頼みこまれて。裕樹は、それ以上の拒絶を封じられてしまう。
「じゃあ、少しだけなら…」
要領を得ない用件だし、まったく気は進まなかったが。押し切られるかたちで
承諾してしまった。
「悪い。恩にきるぜ」

……というような次第で、不揃いな三人組は、夕方のファースト・フード店の
一角に座をしめていた。
「越野、ほんとにそれだけでいいのか? 遠慮すんな、好きなもん食えよ」
自分は三つもハンバーガーを買って、さっそく一つ目にカブリつきながら、
高本が聞いた。せっかく奢ると言ってるのに、コーラしか頼まなかった
裕樹に納得がいかないらしい。
「う、うん、僕はいいよ。これで」
裕樹は、別に遠慮したわけではなくて。こんな時間に間食したら、
母の作ってくれる夕食が食べられなくなるし。
なにより、長居をする気はさらさらないのである。
「……それで、相談って?」
だから、自分から切り出した。とっとと話を終わらせて帰りたい。
566241:03/06/12 18:10
「ああ、それなんだけどさ」
秒殺したバーガーを、コーラで流しこんだ高本が、真面目な顔を作る。
「実は、相談ってのは、俺の友達の話なんだけど」
「友達? 高本くんの?」
「ああ。そいつが悩んでるんで、俺も力になりてえんだけどよ。
 どうも、わからなくてさ」
ずいぶん迂遠な話だな、と裕樹は思った。
高本の友人といえば、宇崎達也と市村くらいしか思いあたらないが。
(まあ、宇崎の場合は、友人というより親分子分の関係に見えるけど)
市村は、いま高本の隣で、押し黙ってコーヒーを飲んでいるし。
高本の気安い口ぶりから、宇崎達也のことだとも思えなかった。
他の学校のワル仲間ってとこか、と裕樹はテキトーにあたりをつけた。
「そんで、越野なら、なんかズバッと、いいこと言ってくれるんじゃないかと思ってよ」
そこがわからない、と疑わしげな顔になる裕樹には構わず、高本は続けた。
「で、どういう問題かっつーとだな。ぶっちゃけ、“女”のことなんだわ」
「えっ?」
「そのダチにさ、好きな女が出来たんだけど。いろいろムズかしくて悩んでるんだな」
「ちょ、ちょっと待ってよ」
慌てる裕樹。よりによって、そんな類の問題だとは思わなかった。
「そ、それで、なんで僕なの?」
「だってさ、市やんは、この手のことにゃあ、まるで興味ないし。
 俺も、ハズカシながら、あまり得意じゃないんだよなあ」
「そんなの、僕だって…」
「んなこたあ、ねえだろう? 越野は顔もいいし、女子にも人気あるじゃん」
「そ、そんなことないよ」
「それによ、こないだのことでわかったけど、肝も座ってるしな。
 なんつーか、大人っぽい感じがするんだよな」
妙に熱をこめて、もちあげる高本だったが。同じ口で、つい数日前までは
裕樹を小学生呼ばわりしていたのだから、やはり無理がある。

                (続)