母親が他人に犯される作品 #2.2

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「どうして、そうなるのさ?」
達也は問い返した。冷ややかな口調と表情を“選択”して。
それは、ここまで佐知子に対しては、けっして見せなかった顔で。
佐知子は、また、ビクリとひるむようすを見せながらも、
「そうとしか考えられないもの。そんな企みでもなければ、私のことなんかを」
対抗するように声を張ったが。
「私の、ことなんかを……」
自分の言葉に、強い悲しみの感情がこみあげてきて、
尻すぼみに言葉を途切れさせてしまう。
しばし、重苦しい沈黙がとざした。
昂ぶりに頬を染めて。佐知子は眼を伏せて立ち竦んでいる。
その場に佇んでいる、その姿こそが、佐知子の本心の表れだと、達也は見抜いた。
達也の告白に惑乱させられ、巧みに誘導されて、破廉恥な行いをしてしまった。
その流れを、“騙された”と(実は正しく)解釈して。達也を詰って。
しかし、達也の傍に留まる佐知子は、つまりは釈明を求めている。
自分の決めつけを否定してもらいたがっているのだ、と正確に見抜いた達也は。
「佐知子さん」
落ち着いた、穏やかな声で呼びかけた。佐知子の望む言葉をくれてやるために。
「僕は、佐知子さんが好きだよ。それは本当の気持ち」
「…………」
佐知子は、さらに俯く角度を深くして、力なくかぶりを横にふった。何度も。
達也は続けた。
「そして、好きだから、佐知子さんに欲望を感じる。抱きしめたい、
 キスしたいって思ってしまう。……その先のことだって、ね」
「…………」
553241:03/06/11 21:32
「佐知子さんに、あんなことをしてもらって。本当に、気持ちよかった。
 もう死んでもいいって思うくらいに。こんなに気持ちよかったのは、はじめて」
「…………」
「それは、佐知子さんだから。はじめて本気で好きになったひとだから」
「…………」
「それで……つい、欲張りになってしまったと思う。もっともっとって。
 佐知子さんにイヤな思いをさせてしまったかもしれない。それは、謝るよ」
「…………」
「でも。僕も男だから。佐知子さんを好きだっていう気持ちと、佐知子さんが
 欲しいっていう欲望を、わけることはできない。
 それは、いけないことなのかな?」
「……おかしい…わ……そんなの……」
消え入るような声で、佐知子が呟いた。
その面は、さらに上気して。双眸は潤んでいる。
「……私、なんかを……」
「信じてもらえないの? 僕の気持ち」
「……信じられない、わ……」
頑なな言葉は、しかし微妙な響きを帯びて。
“信じたい”という、佐知子自身まだ認めていない本音を見え隠れさせていた。
「いいよ。いつかは佐知子さんに信じさせてみせるから」
「もう……その話はやめましょう、達也くん」
懇願するように。いまさらな言葉を口にする佐知子。
554241:03/06/11 21:33
(なーにが、やめましょうだよ。散々、歯の浮くようなセリフ言わせといて、
 キッチリ最後まで聞いといてよ。満足したか? 俺のキモチを確認できてよ)
毒づきながら眺める達也の前で、怒りの色を消した佐知子は、
急に居たたまれなくなったようすを見せて。
わざとらしく時計を確認して、
「私、詰め所に戻る時間だから。なにかあったら、コールして」
言い訳がましく、そう言い残して。そそくさと部屋を出ていこうとする。
「なるべく早く帰ってきてね」
背にかけた達也の言葉にも答えることなく、逃げるように出ていった。
「……やれやれ」
呆れたように、ひとりごちて。
「化粧を落としたこと、どう言い訳する気かね?」
心配……するわけもなく。部下のナースたちの前でうろたえて、
しどろもどろに言い繕う佐知子の姿を思い浮かべて、笑う。
「そろそろ、楽にしてやっか。充分、楽しんだしな」
ニンマリと口の端を歪めた。

             (続)