(……なん、て……)
怖々と握りしめたものの、強度と逞しさに改めて驚嘆する。
間に挟んだタオルの厚みが加わっているにしても、
指が回りきらないという肉茎の太さは、なんなのだろうか。
佐知子は、本能的な畏れに震えかかる手を、そろそろと滑らせていった。
剛茎を根元から先端へと拭き上げていく。胴部だけで、ゆうに
佐知子の拳のふたつ分以上はあった。
力加減に悩みながら、ゆっくりと引いていった拳が、茎より格段に太く
強く張り出した肉冠部に達する。
佐知子は、軽く息をついて、把握を緩めて、先端部を掴み直した。
「…アッ!?」
その瞬間、ビクリと達也の肉体は反応して、包みこんだタオルの中で
グッと漲りを増した。思わず、小さく声を上げて硬直する佐知子。
「佐知子さん」
「な、なにっ?」
タイミングを計ったように達也から声を掛けられて、はっと顔を上げて、
上擦り声で聞き返した
達也は、かすかに眉根を寄せて、佐知子を見つめていた。
「やっぱり、僕のって、なにかおかしいのかな?」
「そ、そんなこと、ないわよ。なにも、おかしなところは…」
「佐知子さん、口では、そう言うけどさ。昨日からの態度を見てるとね」
「そ、それは…」
「看護婦さんに、いちいち、そんな反応を見せられたら。
異常があるんじゃないかって、不安にもなるよ」
「それ、は……」
佐知子は言い淀んだ。
さすがに、“そんな反応はしていない”などと言い逃れがきくとは、
自分でも思わなかった。それほど、露骨な態度を示してしまったという自覚がある。
それは、達也が言うように患者として不安を感じても仕方ないような対応であり、
ナースとして失態であった。
正しておかなくてはならない。
「本当に、達也くんの体に、おかしなことなんてないわ」
キッパリと言い切って。しかし、それだけでは、もう達也も納得できないと
わかっていたので。
「た、ただ……」
「ただ?」
「あの……とても、逞しい、から……驚いてしまって……」
尻すぼみに呟いて。眼を伏せた佐知子の顔は羞恥に赤く染まっていた。
片手は、まだ達也の屹立を掴んだままだった。話の流れから、
手を離すに離せなくなってしまっている。
「僕のが? 大きいってこと?」
「え、ええ……そう、思うわ……」
「ふーん。そうなのかな?
それで、佐知子さんは驚いたって? 驚いただけ?」
「…え?」
「大きすぎて、キモチ悪いって思ったとか」
「そ、そんなことは、ないわ」
「そうかな。だって、単に驚いたってだけじゃなさそうだったよ。
なんだか、出来るだけ、触らないようにしてるし」
「そ、それは」
「やっぱり、汚らわしいって感じるものかな? こんな状態になってると」
「そうじゃなくて」
しかし、説明することは難しかった。
見たこともないような逞しい雄の象徴を前にして、牝としての根源的な畏怖が働いて、
萎縮してしまったのだとは。佐知子自身、ハッキリと理解していなかったので。
「本当に、汚らわしいなんて、思ってないのよ」
「そう? じゃあ…」
達也は、つと手を伸ばして。
そして、佐知子の手の中から、スルリとタオルを抜き取ってしまった。
「あっ!?」
手品のような手際に、佐知子は呆気にとられて。自分の手と、達也の手に移ったタオルを見比べた。
「触ってみてよ」
「…え?」
「本当に、汚らわしいともキモチ悪いとも思わないんだったらさ。直接、触ってみて」
「な…そんな、達也、くん……」
「僕だって、恥ずかしいけどね、こんなの」
達也は、頑なな色を面に浮かべて、
「自分でも、馬鹿なこと言ってると思うし。でも、佐知子さんに気味悪がられたんじゃないかって
後々まで悩むのは、イヤだからね」
「だから、私は、そんなこと思ってないって…」
「証拠を見せてよ」
静かに、しかし強く言い放って。後は、無言で佐知子を見つめる。
佐知子は、追いつめられてしまった。
これ以上、抵抗を示せば、達也の疑心を裏付けることになってしまう。
……達也の巧みな誘導にハマって、思考が狭窄しているということを自覚できずに。
「い、いいわよ」
それくらい、なんでもないといったフリ、もはやなんの意味もないポーズをとって、
半端に宙に浮かせていた手を、達也の股間へと向けた。
達也の男性は、依然として雄々しくそそり立ったままだった。
それは、やはり佐知子に、巨大な蛇を連想させて、粟立つものを感じさせたが。
もう躊躇すら許されていない(と、思わされてしまっている)佐知子は、
無理やりに手を押しやって。鎌首の下のあたりを握りしめた。
(……あぁ……)
今度こそ、生身の達也の感触が伝わってきた。
それは、同じ部位でありながら、排尿を手伝うために触れた時とは、
まったく別物に変貌していた。
(……熱い……硬い……)
最初に感じたのは、それだった。灼けるような熱さと鋼のごとき硬さ。
触れてみれば、なおさらに生身の肉だとは信じられなくなってしまう。
知らず、手指に力がこもった。やはり、指は回りきらない。
野太い幹には、やはり太い血管が高く浮き上がって、ゴツゴツとした節くれだちを作っている。
そして、盛んな脈動を佐知子の掌に伝えてくるのだった。
(……凄い…こんな……)
この上なく逞しく猛々しい牡の肉体は、凄まじいほどのエネルギーを放射して。
ただただ圧倒される佐知子は、握りしめたものを凝視していたが。
しかし、危うい流れに引きずりこまれつつある自分を、ようやく意識して、
「こ、これでいいでしょう? もう…」
そう言いながら、熱い肉鉄に焼けついてしまったかのような指を引き剥がそうとしたが。
その手は、上から達也に押さえこまれてしまう。
「た、達也くん!?」
「もう少し、そうしていてよ」
「な!? なにを」
「だって、肝試しじゃないんだからさ」
ちょっと口を尖らせて、達也は抗議する。
「お義理みたいに、ちょっと触って、これでいいでしょなんてさ」
「そん、な……わ、わかったから、手を離して」
「いやだね」
駄々っ子のように言って。しかし、佐知子の手を押さえつける力は強く、
逃げることを許さない。
(続)