長い硬直のすえに。
ようやく佐知子は、巨大な屹立から目を離すことに成功する。
「た、達也くん」
頬や、きつく横にねじった首筋に血の色を昇らせながら、
救いを求めるように達也を呼んだ。
「なに?」
(なに? じゃないでしょう!)
何ごともないように聞き返してくる、達也の神経を疑う。
「そ、それ……あの……」
なんと言えばいいのか解らずに、しどろもどろになって。
「…タ、タオル。タオルをっ」
「タオル? ああ、隠せってことか」
ちと面白がりすぎたか、と反省しながら、達也は脇へどけていたタオルを
取って、オッ立ったままの肉根に被せた。
「はい。もう大丈夫」
「…………」
怖々と顔を向けた佐知子だったが。ウッと、また軽く息をのむことになる。
確かに、達也の腰には再びタオルが掛けられて、巨大な肉根は直接は
見えなくなっていたが。
しかし、天を差した屹立は鎮まることなく、ボッコリとタオルを突き上げている。
異様な膨らみ具合は、却って、その威容を強調するようにも思えて。
これで“隠した”と言えるのかどうか、怪しいところだ。
「恥ずかしいけど……生理現象だからね」
バツが悪そうに苦笑した達也に、そう言われれば、
「そ、そうね。仕方ないわね」
佐知子はそう答えて、こだわらないふうを装わざるをえない。
とにかく、作業は途中である。
いつまでも達也を裸にしておくわけにはいかない。いろいろな意味で。
竦みそうになる足を踏み出して、佐知子はベッドへと歩み寄った。
手にしたタオルを洗って、作業を再開する。
厚い胸板や固く筋肉をつけた二の腕の力強さが、やはり達也の男らしさを
アピールしていたけれども。もはや佐知子には、それどころではなかった。
もっと端的に。あからさまに、達也の“男”を象徴するものが、すぐそこにあるのだから。
極力、目を向けないように意識していたが。折りにふれ、どうしても
視界の隅に入ってくる達也の股間で、タオルの盛り上がりは一向に鎮まる気配がない。
時間を稼ごうとする意識が働いて、佐知子の手の動きは殊更に丹念になっていったが。
達也の引き締まった腹を拭き終えた時にも、そのすぐ下の隆起は
依然として衰えていなかった。
「………………」
佐知子は、しばし逡巡して。
「あ、あの、達也くん……?」
やはり、ここは達也自身の手で拭いてもらおうと考えたのだが。
「佐知子さん、軽蔑した? 僕のこと」
「え!? ど、どうして? そんなことないわよ」
「いいよ、無理しなくて。自分でも、みっともないと思うから」
達也らしくもない自嘲の色が、佐知子を申し訳ないような気持ちにさせる。
「そんなことないわ。生理現象だもの。若いんだから、仕方ないことよ」
「でも、佐知子さん、なんだか触りたくなさそうにしてるし」
「そ、そんなこと…ない、わ」
「いいんだ。だって、体をキレイにしてもらってる最中にさ。
こんな時に、こんな状態になっちゃう患者なんて、いないでしょ?」
「そんなこと、ないってば。若いひとには、珍しいことじゃないわ」
実際、珍しいことではない。佐知子にも幾度となく経験があった。
ただ、この場合は、相手が達也であることと、なにより、その度外れた
スケールが、佐知子を気後れさせたのだったが。
しかし、このような遣り取りを交わしてしまった上は、佐知子も
これ以上の躊躇を見せるわけにもいかなくなってしまう。
佐知子は、達也の腰を覆ったタオルに手をかけて。
コクリ、と固い唾をのんで。一気にタオルを取り上げた。
「……ッ!」
達也の大きなペニスが、再び姿を現す。
身構えていながら、佐知子は改めて目を見張り息をつめずにはいられなかった。
間近に見ると、ますます肉体の一部とは信じられなくなる。
またも眼を釘づけられそうになるのを堪えて、佐知子は達也の下半身を拭きはじめた。
精一杯の平静を装って。しかし、いまや巨大な屹立は視界の中心に
倣然と居座っているわけだから、眼の逸らしようもなく。
早い動悸と息苦しさを覚えながら、佐知子は、下腹部から両腿へと、
タオルを滑らせていった。慎重に。達也の男性には触れないように。
「………………」
だが、周辺の部分を清め終えれば。そのまま避けていた中心を放置して
足先へと手を移すわけにもいかなくなってしまう。それでは、
気にすることはないと達也に請け負った言葉が嘘になってしまう。
(……なんでもないことよ、これくらい。キレイにするだけ……)
自分に言い聞かせて、佐知子はゆっくりと手を伸ばした。
屹立した肉根の太い茎の部分に、そっとタオルを押し当てて。
軽く撫でるように拭いてみる。
押されて、かすかに長大な肉が揺れる。
これでは形ばかりの行為だというのがあからさまだった。
佐知子は覚悟を決めて、タオルを掌に被せるように持ち直すと、
ままよ、と握りしめた。
「………っ!」
タオル越しにも、固い肉の感触が伝わってきて、佐知子は息をのんだ。
(続)