母親が他人に犯される作品 #2.2

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達也は首の下に枕を抱くようにして、うつ伏せに横たわっている。
ギブスをつけた左足は膝を曲げて、クッションで支えてあった。
達也は裸だった。大きめのタオルを腰に掛けただけの姿だ。
ベッド脇に立った佐知子は、達也へと屈みこむようにして、
手にした濡れタオルで、体を拭いている。
「ごめんね。こんなことまで、お願いしちゃって」
「いいのよ。これくらい」
なんでもないといったふうに、佐知子は答えた。
入浴できない患者の体を清めてやることは、ナースとして当たり前の仕事だ。
ましてや、ベテランである佐知子のこと。その患者の状態にも合わせて、
どのようにしてやればいいかなど、すでに体が覚えてしまっている。
洗面器に汲んだ湯で、こまめにタオルを洗いながら、
佐知子は淀みない手つきで作業を続けていった。
ただ。常ならば、あれこれ患者に言葉をかけて、リラックスさせようと
配慮するのだが。いまは、ほとんど無言だった。
視線は自分の手元に固定されている。口を引き結んだ横顔には、
ことさらに作業に集中しようとする気ぶりが見てとれた。
そうでもしなければ……というのが、佐知子の正直な気持ちだ。
しかし、いくら自分の手元だけを見て作業に没入しようとしても。
無防備に広げられた達也の背中は、いやでも眼に入ってくる。
その感触は、タオル越しにも、しかと手に伝わってくる。
それらを、まったく意識から締め出すなどとは、所詮無理な話だった。
どころか。気がつけば、眼は達也の裸の背に吸い寄せられて。
タオルを使う手の動きは、達也の肉体の質感を確かめるようなものになってしまう。
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達也の身体は、完全に大人の体だった。
肩も背中も広い。ガッシリとした骨格の上にほどよく肉を乗せて。
固く引き締まった筋肉は、ゴツゴツとした感じではなく、
しなやかな印象を与える。着衣の時に痩せてみえるのは、そのせいだろう。
だからこそ、こうして裸身を晒した時には、意外なほどの逞しさが際立つのだ。
本当に裕樹とは大違いだ…と。佐知子は昨夜も肌を重ねた息子の、
華奢でプニプニと柔らかな体と、つい比べてしまう。
まったく無意味な比較だった。
(……そう。達也くんは大人。裕樹はまだ子供……)
……いつの間にか、タオルを持つ手が止まりかけているのに気づく。
佐知子は、洗面器の湯にタオルを浸して、手早く洗いながら、
“なにをいまさら”と自分を叱咤した。
すでに、達也の排尿の補助までしているのに、いまさらこんなことで
惑乱していてどうするのか、と。
彼の身体的成長が、成人男性と比べても遜色ないということも、
充分に承知していたことではないか。
(……遜色ないどころか…)
また、危うい方向へ流れようとする思考を断ち切るように、タオルを固く絞った。
ああ……やはり、あまりにタイミングが悪い、と嘆いた。
こんな時に、達也の肉体の逞しさを見せつけられるのは。
達也が、大人であること、男であることを意識させられるのは。
手馴れた作業も、いまの佐知子には苦行であった。
……とにかく、早く終わらせることだ、と。
はやくもお定まりになってしまった文句を呟いて、佐知子は、
悠然と横たわる達也へと向かう。
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しかし。
少しでも早く終わらせようと、気を急きながら。佐知子は、ハタと固まってしまった。
すでに肩や背中や腕は拭き終えた。あとは腰から下だが。
どうしよう……? と、迷う目を大判のタオルに覆われた達也の腰に向ける。
当然、その下も裸だ。それは脱ぐのに手を貸した佐知子には、よくわかっている。
視線をズラしたまま、エイヤとブリーフを引き剥いて。すぐに達也にはタオルを腰に巻いてもらって。
そのまま、うつ伏せに寝かせたのだったが。
……まずは脚から、と、問題を先送りにしようとした、その時。
やはり、ほとんど喋らず、居眠りでもしているのかと思えた達也が、不意に身じろぎして。
後ろへまわした手で、サッと腰のタオルをとってしまった。
「ちょっと、恥ずかしいけど」
軽く佐知子へ振りかえるようにして、そう言ったが。口調はしゃあしゃあたるものだ。
むしろ、いきなり剥き出された若い男の尻を、思わず凝視してしまった佐知子の方が、
頬を赤らめ、ドギマギとするのを隠せずにいた。
それでも、仕方なしにタオルを持った手を、おずおずと、そこへと伸べる。
キュッと締まった、形のよい臀の表面を撫でるように拭いていく。
……まったく、なんというザマかと、ナースとしての自意識は佐知子を責めた。
男の生殖器だろうが尻だろうが、仕事上、飽きるほど見てきたではないか。
なのに、昨日からの醜態は、いったいどういうことだと。
……それはそうだけれど、と、力弱く異議を唱えたのは、佐知子の生身の部分。
どうしても、ナースの意識で見ることが出来ないのが、問題なのだと。
彼は、達也は、これまで佐知子が知る、どんな患者とも、どんな男とも違うので。
あまりにも佐知子の基準からはみ出した存在なので。
468241:03/06/02 19:16
達也のことが、わからない。
だが、達也に対している時の自分自身は、さらに理解できない。
達也の……男性を。目の当たりにして。身体に走った震えは、なんだったのだろう?
それに触れた時に、胸を満たした不穏な情動はなんだったのだろうか?
そして、いまもまた。
達也の固く引き締まった尻から、目を離すことが出来ないのは何故なのだろう?
手に伝わる固い弾力に、キュッと、胸が切なくなってしまうのは?
(……これじゃあ……)
ナースの胸や尻に粘っこい視線を這わせてくる、いやらしい男たちと同じではないかと。
理性に責められて、どうにか眼を逸らしても、状況に大差はないのだった。
横たわる達也の裸身は、どの部分も見ても。
しなやかで、力感に満ちて、肌は若さに輝いているようで。
セクシーだった。
男性にも、その形容はあてはまるものなのだと、はじめて佐知子は知った。
その艶かしい寝姿を、ふたりきりの部屋で間近に眺めて。
その肌に触れて。その匂いを嗅いで。
佐知子は、頭の芯が痺れたような心地に陥って、もう機械的に手を動かして、
達也の下肢を拭き清めていった。
そして、足先まで拭き終えると、この後どうすればいいのか、と迷うように立ちすくんだ。
「…うん? もう後ろは終わったのかな」
頼りない佐知子に代わって、場を仕切るのは達也である。
片手をついて、顔を起こした達也は、ギブスの左足を一応気遣いながら、
ゴロリと仰向けに転がった。
慌てて、手を貸そうとした佐知子だったが。
「……ッ!?」
次の瞬間には、ギクリと反射的に後退っていた。
双眸は驚愕に見開かれ、手は無意識な動きで、口元を押さえていた。
あたかも、零れかける恐怖の悲鳴を封じようとするかのように。
仰向けになった達也の股座。
鎌首をもたげた大蛇に睨みすえられて。佐知子は呼吸さえ止めて、凍りついた。

               (続)