日本屈指の温泉街として有名なH市では、立ち上る湯煙の中で旅館が大小何十軒もひし
めき合い、それぞれが家業を盛り上げるべく、日々しのぎを削っていた。そんなH市の
中に、古くから旅籠を生業としてきた一軒の宿がある。その名も、『杏暖亭』。商売敵
である他の旅館が、次々に現代風のモダンな佇まいに変貌していく中で、杏暖亭だけは
いにしえからのスタイルを頑なに守っていた。
「古風な居住まいを好まれるお客様も多いから、当家はこのままでよろしいのです」
と、きっぱりと言い切るのは、杏暖亭の第十八代女将、須藤綾乃(すどうあやの)である。
綾乃は当節三十八歳。和風のしっとりとした美人で、潤んだような瞳が男好きを連想させ
、完熟した色香を放つ聡明な人物であった。家業を継ぐために早婚を迫られた彼女は、
十七歳で結婚、翌年には一人息子である恭彦(やすひこ)を生んでいる。親に勧められた
結婚だったせいか、夫には愛情が感じられず早々と離縁した後は、ずっと一人身を通して
いた。言い寄る男は数知れなかったが、日に日に大きくなる恭彦を溺愛するあまり、他の
男には興味が無くなっていたのである。そして、そんな母の愛情を一身に受けて育った恭彦
も、高校を卒業すると、何の迷いも無く家業を継ぐ事にして、母と共にこの旅館を盛り立てて
行こうと、精進の日々を過ごしていた。
「恭彦、ちょっといいかしら」
「なあに?母さん」
今夜の宿泊客のために寝具を用意している恭彦へ、母、綾乃が話し掛ける。
「今夜は川中さんがお見えになるから、いつものお酒を用意しておいてちょうだい。
お泊りになるそうよ」
「・・・・・うん、分かった」
恭彦は、母の口から川中という名を聞いた途端、暗い面持ちとなった。
(あのヒヒ親父、まだ母さんの事を狙ってやがるのか・・・)
川中とは、地元の名士として名高い六十がらみの建設業を営む男で、事あるごとに会合と
称しては、この旅館を利用していた。その容貌は好色そうな醜男といった感じで、赤ら顔
をいやらしく歪ませながら、臆面も無く綾乃へ言い寄って恭彦を不機嫌にさせている。
そうした川中への不満を顔に出した恭彦の心情を察した、母、綾乃は言葉を繋ぐ。
「そんな顔をしないで・・・恭彦。川中さんは、お得意様なんだから・・・」
綾乃が困ったような顔をすると、恭彦はにっこりと微笑みながら母を見据えた。
「わかってるよ、母さん。これも、商売だからね」
「恭彦・・・」
母思いの恭彦が作り笑いを浮かべる事が、綾乃の心を痛ませる。まだ、二十歳に満たない
若者を家業に縛りつけ、遣る瀬無い思いをさせている事が切なかった。
「やだなあ、母さん。俺は何とも思ってないって・・・」
「ごめんね、恭彦・・・」
母に沈んだ表情をさせた自分の若さを恥じ、咄嗟に取り繕う恭彦。彼は、母の困る顔を見る
事が何より苦手であった。
「じゃあ、用意は俺にまかせて」
「ええ、お願いね」
恭彦はそう言って、寝具をかつぐと客間の方へと消えていく。そして、綾乃は優しく育って
くれた我が子の後姿を、目を細めながら見送っていた。
「よう、若旦那!元気か?」
まだ宵の口だというのに顔を赤らませた川中が、玄関口まで出迎えた恭彦へ大げさに
挨拶をする。
「いらっしゃいませ。川中様、お待ちしておりました」
恭彦はその若さに似合わず、礼を失した川中へ丁寧な挨拶を返す。
「わはは!そんな、他人行儀な挨拶は無しだ。若旦那、今日はお客さんを連れている
んで、早々に案内を頼むよ、ははは!」
川中は言いながら、小脇で佇むスーツ姿の男をちらりと見遣った。見るからにゼネコン
関係の営業然とした風貌が、恭彦の好奇心を誘う。
「いらっしゃいませ。当旅館へ、ようこそおいで下さいました」
恭彦がスーツ姿の男に挨拶をすると、男は鷹揚に頷いて
「よろしく」
と、だけ返した。見たところ五十歳くらいであろうか、髪の毛には白いものも混じって
はいるが、颯爽としていてどこにも隙が無い。身なりもきちんとしたもので、川中とは
対照的なエリートサラリーマンといった印象である。
「お部屋へ案内致します」
人定めを終えると、恭彦は二人を予約してあった部屋へいざなっていく。
「わはは!さあ、吉川さん、飲んでください。ここの地酒は、美味いですよ」
川中が連れてきた男は吉川といい、東京の大手ゼネコンの関係者だという事が分かった。
近々行われる、H市の大掛かりな道路建設による視察で、特に川中が招いたそうである。
不況の折、金に糸目をつけない公共工事は建設業者にとって、かなり美味しい話であり、
会社を存続させるためにも、大手ゼネコンとの緊密な関係が欠かせないものだった。
幸いにも吉川は、地酒も料理もお気に召したようで、固かった表情もいつしか和らぎ、
部屋へ料理を運ぶ恭彦へも、相好を崩すような態度を見せた。
「君も一献、いかがかね?」
「頂戴いたします」
吉川は我が子ほど年の離れた若旦那へ、杯を勧める。恭彦は未成年ではあるが、こう
いった場のしきたりとして杯を断るわけにはいかない。差し出された杯をうやうやしく
受け取った恭彦は、注がれた酒を品良く煽った。
「いよッ、若旦那!いい飲みっぷり!」
途端に川中がはしゃぐ。彼は恭彦の意を得た振る舞いに赤ら顔を歪め、大きな拍手を
送った。
「お流れ、頂戴いたしました」
杯を干した恭彦が再び吉川へ返杯した所で、ふすまの向こうから艶の乗った声が響く。
「失礼致します」
音も立てずに開かれたふすまの向こうには、和服姿が見目美しい綾乃の姿があった。
「ほう」
吉川が感嘆したような声を上げる。突如、現れた美貌の淑女に肝を抜かれたような顔
を見せ、居住まいをあらためた。
「当旅館の女将、須藤綾乃でございます。ご挨拶に参りました」
綾乃は三つ指をついて、古風な挨拶を述べる。酒宴が乗ってきた所で部屋を訪ねるの
が、ちょっとした気配りの一つである。
「ささ、女将、吉川さんへお酌を頼むよ」
川中が待ってましたとばかりに綾乃を促す。
「はい」
そして、綾乃はしっとりとした笑顔を浮かべ、芳醇な熟香を漂わせながら吉川の隣に
座って、酒を勧めた。
「まさに甘露」
綾乃に勧められるまま酒肴をついばむ吉川が、そんな言葉を漏らす。いつしか相好が
崩れ、魅惑の女将へしなだれかかるように、その身を傾けていた。
(こいつも、母さんがお気に召したみたいだな・・・)
部屋の隅で控えている恭彦が、遣る瀬無い思いを募らせる。吉川の手が綾乃の太ももへ
置かれ、撫でさするように触れている事が、彼の心をはやらせていた。
「さあ、もう一献」
綾乃は酔客のあしらいにも慣れているためか、太ももを撫でる手を払う事も無く、吉川
に酒を勧める。ここで、川中がぽつりと綾乃へ話し掛けた。
「女将・・・そろそろ・・・」
川中がそう言った瞬間、綾乃の表情がぴんと張り詰めたものとなる。そして、恭彦の方
へ顔を向けて、こう言った。
「恭彦、ここはもういいから、他のお客様の様子を見てきて頂戴」
「はい」
綾乃に促された恭彦はすっと膝を立て、川中と吉川に挨拶をしてから席を立つ。しかし、
部屋を出るときに俯いた母の表情が、少し気になった。
(大丈夫かな、母さん・・・・・)
しかし、大切なお得意様をもてなす事に関しては、綾乃が秀でている。その、綾乃に促さ
れれば恭彦は何も言う事が出来なかった。
(後で、様子を見に来よう・・・)
そう考えながら、廊下の板を軋ませないように恭彦はそっと部屋を後にした。
二時間ほど所用に駆られた後、恭彦は再び川中たちが利用している部屋の前へ来ていた。
(母さん、まだ付き合っているらしいな)
部屋の前に置かれた彼女のスリッパが、綾乃の入室を示している。しかし、部屋の中から
は誰の声も聞こえてくる気配が無い。
(変だな・・・?誰もいないって事は無いはず・・・)
恭彦は母に咎められる事を覚悟で、そっと部屋のふすまを開けた。すると、部屋には綾乃
の姿どころか、川中や吉川の姿さえも見当たらない。
(おかしいな・・・)
恭彦が部屋の中へ歩を進めると、テーブルの上には酒肴の数々が並べられたままになって
いる。中断された酒宴の名残は、どこか寒々としていて彼の心を不安にさせた。と、その時。
「ああ・・・」
客間の奥にある寝間から、艶っぽい女性の声が恭彦の耳をくすぐった。そして、それが母で
ある綾乃のものであるという事を認める。
(母さん・・・?)
恭彦は寝間のふすまが少しだけ開いている事に気がつき、足音を消してそこへ近づいた。
そこで彼は、驚愕の光景を目撃する。
(あ、あれは!)
そこには、一糸まとわぬ姿で二人の老醜な肉塊に嬲られる、母、綾乃の姿があった。
(な、なんて事だ!)
灯りを落とした寝間の中では、綾乃が仰向けになり二人の男の執拗な愛撫で、身を悶え
させているではないか!
「たまらない体だな、女将」
吉川の声が暗闇に響く。部屋は暗くとも窓から差し込む月明かりで、綾乃の体だけは
くっきりと浮かび上がり、まるでスポットライトで照らされたようになっている。吉川
は今、綾乃の乳房をやんわりと揉みながら、情欲に満ちた目をぎらつかせていた。
「吉川さん、女将は体だけじゃありませんよ。アソコも名器です、へへへ・・・」
綾乃の下半身に回りこんで、女陰をくつろげている川中が醜い笑いを浮かべながら、そう
言い放つ。二人の男も綾乃と同じく、衣服は全く身につけてはいなかった。
「お、おっしゃらないで・・・綾乃、恥ずかしい・・・」
男たちの淫語責めに、美貌の淑女は悩ましげなため息を漏らす。敷かれた布団の上で
腰をくねらせる綾乃は、まるでまな板の上の鯉のごとく、ぴちぴちと熟れた女体を震え
させていた。
(母さんが、なぜ?あんな事を!)
ふすまの隙間から寝間の様子を窺う恭彦の心は、今にも崩れそうになっている。実母が
目前で男たちに陵辱されようとする、その光景に呑まれ声も出ない。膝が震えていた。
「女将、舐めてくれないか?」
「頂戴いたしますわ・・・」
吉川が立てひざをついて股間を突き出すと、綾乃はしずしずと唇を近づけていく。そして、
鼻先でニ、三度反り返るペニスを小突くと、厚めの唇でそうっと口付け、舌を這わせた。
「おうッ!」
綾乃の舌がペニスに絡みついた途端、吉川が感極まった声を上げる。ぴちゃり、ぴちゃりと
茎を舐め上げる舌が淫靡な音を放ち、先走りが亀頭をぬるませた。
「美味しいですわ・・・」
綾乃はうっとりと目を細め、吉川の亀頭から出た淫液を舌で丁寧に舐め取りながら、今度は
ぐんと張った肉傘の部分をぱっくりと咥え込んだ。
「う、いいぞ、女将・・・最高だ・・・」
「あむ・・・むむ・・・」
吉川は綾乃の艶やかな髪を撫で上げながら、熟女の舌技に低いため息を漏らす。綾乃は声を
くぐもらせながら、口唇愛撫で男の滾りに奉仕した。
「女将、ワシも忘れないでくれよ」
川中がそう言いながら、四つんばいになった事であからさまとなった綾乃の下半身を、
ごつごつと節くれだった指先で嬲り始める。指は、ひたっと閉じた女陰をじわじわと
開き、淫蜜で潤い始めた女肉をゆるやかに掻き分けた。重なり合う花びらは男の指を
拒む事が出来ず、ねっとりと糸を引かせながら女孔を探り当てさせてしまう。
「んんッ!」
女芯を指で穿たれた綾乃の体がぴくりと震えた。彼女の肌はじっとりと汗ばみ、照ら
された月明かりがぽうっと妖しい光となって、熟女の体をより淫らに見せていた。
「相変わらず、敏感だな、女将」
川中は指を巧みに蠢かせながら、的確に綾乃の女を責める。ペニスを咥えて貰っている
吉川は、前のめりになったまま、たっぷりとした綾乃の乳房を両の手で揉みしだいていた。
「んむむ・・・うんっ!」
ペニスを咥えたまま女芯と乳房を嬲られている綾乃は、腰をクイクイとくねらせながら
淫臭が満ちた寝間の空気をかき混ぜる。腰がくねると、穿たれた女芯からぴちゃっと蜜が
飛び散り、彼女の昂ぶりをあからさまとさせた。
「感じているようだね、女将」
ペニスへの愛撫に満足げな吉川が、上目遣いに己を見つめる綾乃の顔を、愛しげに撫でた。
すると、綾乃は愛らしい笑顔を浮かべながら、ペニスを甘噛みする。
「おお!女将!」
きゅっとすぼめられた唇でペニスを甘噛みされると、吉川はぶるっと腰を奮わせた。甘噛み
と同時に綾乃の舌先が尿道口へ差し込まれ、さらに彼を興奮の坩堝へと引き込んでいく。
「ああ・・・女将、す、素晴らしい技を持っているね・・・」
頭に白いものが混じった五十がらみの男は、円熟の女将が放つ淫技に身も心も蕩かされて
いくようであった。
(母さんは一体、どういうつもりなんだ!)
恭彦は拳をぎゅっと握り締め、老醜の男たちに嬲り者となっている綾乃の体から、目が
離せなくなっていた。綾乃は脂の乗ったヒップを川中にまさぐられながら、吉川への口唇
愛撫をまだ続けている。頭を上下に振りながら、亀頭部分を執拗に舐め上げるその姿は、
恭彦の知る清楚な母親とは、まるで別人のように見えた。
「女将、そろそろ吉川さんを、ここにお招きしてあげてくれないか?」
川中はそう言いながら、綾乃の女へ突き込んでいた指を抜いて、ぴしゃぴしゃと白いヒップ
を叩く。すると、綾乃は咥えていたペニスを口から離して、ゆっくりと仰向けになった。
「吉川さん、いらして・・・」
綾乃が吉川に体を向けながら、両足を大きく開ききると、淫蜜のぬるみで妖しく光った女陰
を自らの指で大きくくつろげた。
「ほう、これは綺麗なお道具だね」
恥知らずなまでに広げられた女孔を見せ付けられた吉川は、食い入るように熟した割れ目を
見つめる。そして、ゆっくりと綾乃へ覆い被さり反り返ったペニスを膣口にあてがって、一気
に女芯を刺し貫いた。
「はうっ!」
吉川の腰が前に突き出された瞬間、綾乃の体が大きく揺さぶられた。使い込まれた吉川のペニス
は綾乃の女芯を深ぶかと穿ち、張り詰めた肉傘が女肉を余す所なく掻き分けていった。
「これは・・・良いお道具だ」
綾乃を貫いた吉川が、そんな言葉を漏らす。彼女の蜜壷は、まるで処女孔のように肉傘をきつく
食い締めつつ、ぷりぷりとした弾力を持ちながら、男茎を奥へ奥へと呑み込んでいく。蜜による
潤いもたっぷりで、恥骨と恥骨がぶつかりあうと、ちゅぷっと淫らな音がするほどであった。
「お褒めに預かり光栄ですわ・・・」
女をひくつかせたまま、目を細めて吉川を見据える綾乃。彼女の頬は、うっすらと紅く染まり、
淫蕩な表情を浮かべながらも、女将としての礼節をわきまえている。
「動くよ・・・」
吉川が綾乃を気遣いつつ、ゆっくりと腰を使い出すと、熟れた女体はすぐさま反応を
して、小刻みに揺れ始める。
「ああ!ああ!」
吉川は老練な腰使いで綾乃の官能を揺り起こすと、彼女の両足を肩に担ぎ自身を更に
奥深くまで送り込んだ。
「あひッ!ふ、深い・・・」
綾乃の足が綺麗なコンパスを描き、吉川の肩へ担がれると、刺し貫かれた女がぴっちり
と押し開かれ、男の得物で完全に屈した形になる。しかし、女肉は決して男を拒むこと
無く、ぬるませた女孔へすっかりと収めていった。
「いい感じだよ、女将・・・」
綾乃の下半身を押さえ込んだ吉川が本格的に腰を使い出すと、今度は反対側にいる川中が
彼女の両手を取って、万歳をさせるような形で押さえ込む。まるで、たちの悪い強姦ショー
でも見るような光景ではあったが、犯されている熟女の美しさがそれを否定した。
「はうッ!はうッ!」
体を固定された綾乃は、自ら腰を使うことも許されず、女孔を道具のように扱われながら、
嬲られている。しかし、腰などを使わなくとも綾乃の蜜壷は、しっかりと男を楽しませる事が
可能であった。ここで、吉川が呟く。
「おおう・・・女将の道具は、最高だよ・・・。私のペニスが、嬉しい悲鳴を上げているのが
分かるかい?」
「ああ、分かりますわ・・・吉川さんのアレ・・・綾乃の中でピクピクしてる。はあん、綾乃
の道具も喜んでます・・・良い逸物を収めることが出来て・・・」
綾乃は感極まったように頭を左右に振り、痴女さながらに愉悦の言葉で答えた。
(なんて事だ!なんて事・・・)
ふすま一枚隔てた客間の隅で、恭彦は頭を抱えていた。まさか、母である綾乃の淫売女
のような姿を見てしまうとは!二人の老醜によって、嬲られる綾乃の姿を見た恭彦は、
部屋を出て、廊下を走り抜けると気も狂わんばかりに叫んだ。
「うわあああああああああ!畜生!」
気がつくと恭彦は庭へ出ていた。そして、目前にある池へ飛び込み、行き場の無い気持ち
を爆発させた。
「畜生!畜生!」
水面を叩き、水しぶきを上げ物狂いに狂う恭彦。
「母さん!うわあ、ちっくしょう!」
二十歳の母想いな青年にとって、目にした淫行はあまりにも悲しい物である。彼にとって
のわずかな救いは、池の水が頬を伝う涙を、隠してくれた事だけであった。
「では、また後ほど・・・」
二人の老醜にたっぷりと嬲られた綾乃は、居住まいを整えると彼らの部屋を後にする。彼女
は、一旦部屋を退いて風呂の用意を済ませてから、再び上得意様への奉仕を約束していた。
後ほど・・・という挨拶は、それを鮮明に表している。綾乃は着崩れた着物の前を手で合わ
せ、解いた黒髪を軽くまとめながら湯屋へと向かった。
綾乃がしずしずと歩を進めると、荒淫で開ききった女陰の淵から男液が垂れ、大腿を
伝った。二人の老醜は、美貌の淑女を我が妻のように扱い、容赦無く種付けを行った
のである。綾乃は懐紙を取り出し、着物の合わせ目を軽く開いて、粘りつく体液をそっと
拭った。
(ああ・・・こんなに、出されてしまって・・・)
綾乃は溢れ返る淫蜜混じりの男液を手早く拭いながら、ふと視線を窓越しの庭へ移した。
すると、そこにはずぶ濡れになりながら、池の中で頭を抱えて何やら考え込んでいる我が
子の姿がある事に気付く。そのあまりにも異様な様に、綾乃は思わず窓から庭へ駆け下りた。
「恭彦!」
綾乃が叫ぶと、恭彦は自分の姿に驚き、また怯えるような表情を見せる。綾乃は、我が子が
見せる戸惑いにその身を竦ませた。
「ど、どうしたって言うの?恭彦!」
恭彦はずぶ濡れになってはいるものの、はっきりと涙を流した跡を残している。まだ、綾乃
は、この涙が自身の荒淫による物だという事を、気付いてはいない。
「・・・なんでもないよ」
恭彦が俯きながら、それだけを呟いた。声が震えている。明らかに何かあったに違いないと、
母であり女将でもある綾乃が、やさしく問い掛ける。
「何があったのよ、恭彦・・・。母さんにおっしゃいな。誰か嫌なお客さんでもいたの?」
美しい母に問い掛けられ、体を強張らせたまま何も言わない恭彦。
「とにかく、池から上がって。後で母さんとお話をしましょう。さあ、こっちへ・・・」
おいで、と言おうとして差し出した手を、恭彦は取ろうとはしなかった。綾乃の表情が硬くなる。
「どうしたって言うの?変よ、恭彦・・・」
いつも笑顔を絶やさない、優しい我が子の変節に困惑する母は、小さく震える恭彦を見詰め、
答えを求めて佇んでいる。そして、恭彦はついに口を開いた。
「・・・さんの・・・女・・・」
「え、なあに?聞こえないわ」
恭彦の声はまるで蚊の鳴くような声であったため、綾乃は聞き返す。
「母さんの淫売女!」
「や、恭彦!」
愛する我が子に淫売女となじられた綾乃が、語気を荒げる。すると、恭彦は堰を切った
ように叫び出した。
「母さんはあいつらと一体、何をしてたんだよ!」
恭彦の言葉に愕然とする綾乃。彼女の膝が震える。
「母さん・・・着物の前が着崩れてるよ・・・何してたんだよ、一体?説明出来るかい?」
我が子の問い掛けに表情を強張らせる綾乃。膝の震えは全身へ帯びて、差し出した手の先も
がくがくと震えている。
「そ、それは・・・」
着崩れた着物の前を押さえ、綾乃は立ち尽くした。そして、何とかこの場をしのぐ為の言葉を
探そうと懸命に思案する。が、しかし、彼女には何一つ恭彦の心を静める言葉が無かった。
「見ちゃったんだよ!俺・・・母さんがセックスしてる所を!」
息子に最後の言葉を突きつけられ、呆然とする綾乃。彼女は、二人の男に嬲られる自分の姿を
恭彦に見られた事を知って、ふっと気が遠くなった。
「母さんは、吉川って言うおっさんのチンポを美味そうにしゃぶって・・・川中のおっさんに
もアソコをまさぐられて・・・何やってるんだよ、母さんは!」
綾乃は目を見開いたまま、食い掛かる恭彦を見詰めて、微動だにしていない。
「チンポを美味い美味いって舐めた挙句、セックスしてたじゃあないか!最低だよ!」
恭彦は肩で息をしながら、綾乃を責めた。いまだ、微動だにしない綾乃。彼女はあまりの衝撃
で、心がどこかへ飛んでいってしまいそうな感覚を味わっていた。
「や・す・・・ひ・・・こ」
それでも本能が我が子を求めるのか、綾乃は恭彦へにじり寄る。その目には涙を浮かべていた。
「母さん?」
母がうつろな目をしている事に気がついた恭彦。ここで、彼は自分の言葉が綾乃を追い詰めた事
を自覚した。そして、綾乃は着物の裾を濡らしながら池に入ってくると、両手を差し出して恭彦
へと抱き付こうとした。
「恭彦・・・」
我が子を抱きしめた所で、綾乃の体からふっと力が抜ける。どうやら、気を失ったらしい。
「母さん!」
恭彦は気を失った母を抱きかかえると、慌てて家屋の中へ駆け込んだ。