佐知子は息をつめて、達也の排尿のさまを見守っていた。
完全に剥け上がった亀頭の先から放出される金色の太い水流は、
まさに怒涛といった激しさで、佐知子の構える尿瓶の底を叩いている。
その凄いほどの勢いが、若い男の旺盛なエネルギーの発現と思えて、
佐知子は圧倒されてしまうのだった。
放出に合わせて、図太い肉茎の下腹が膨れ上がるの感じた。
指が焼けついてしまうような錯覚。
やがて、奔流がようやく勢いを弱めていき、長い放尿が終わる。
佐知子は、半ば以上満たされてズシリと重たくなった尿瓶を、そっと床に置いた。
サイド・テーブルからウェット・ティッシュを取って、達也の先端を清める。
そして、達也の肉体から手を離した。
「ああ、スッキリした。ありがとう、佐知子さん」
実際、爽快な表情で達也が礼を言った。照れや恥じらいの色は少しもない。
「い、いいのよ」
何気なさを取り繕って、佐知子は答えた。
まだ達也の肉体の感触が残る左手を、やり場に困るようにさ迷わせながら。
「……ず、ずいぶん我慢していたのね。よくないわよ」
どうにかナースらしい言葉を出して、達也の着衣を直すため手を伸ばす。
脱がせるより穿かせるほうが難儀だった。どうしても体を寄せるかたちになる。
達也は素直に佐知子の手に任せていたが。佐知子は、脱がせた時のように
子供を扱っている気分にはならなかった。優位を感じる余裕はなかった。
ほのかに嗅ぐ達也の体臭に、息苦しさを感じる。
軽い体の接触が過剰に意識されて、腰を引いてしまう。
達也は、熟れた女の匂いと、かすかな肉感を堪能しながら、
不自然な体勢でモタモタと作業する佐知子を冷徹に観察していたが。
「面倒っていうか、手間がかかるから、つい我慢しちゃってたんだよね」
少しも邪気を感じさせない口調で、そう言った。
ようやくことを終えて、佐知子が体を離す。
「ダメよ。今度からは遠慮せずに言うのよ?」
もう目のやり場に困ることもないと安心しながら、条件反射的に
看護婦としての言葉を口にしたが。この話の流れだと、
「また、お願いしてもいいの?」
ということになってしまう。
「え……い、いいわよ、勿論」
立場として、そう答えるしかなかった。
達也を横にならせてから、使った尿瓶を手にトイレへと向かった。
タップリと溜まった尿を捨てて、尿瓶を処置する。
作業を済ませて、手を洗おうとして。
蛇口からの水流に伸ばしかけた手を、ふと止めた。
「………………」
ジッと見つめたのは、達也の肉体に触れていたほうの手だった。
佐知子の表情がボンヤリとしたものになる。なにかを…思い出しているかのような。
ゆっくりと。もたげた手を顔の前にかざした。
軽く曲げた指先に鼻を寄せる。
瞼が半ば閉じられ、かたちの良い鼻孔がヒクリと窄められた。
ほんのりと、達也の匂いが嗅ぎ取れたように思えた。
佐知子の白皙の頬に朱がさして、僅かに覗く瞳には酔ったような色が浮かぶ。
もう一度、深く臭気を吸おうとした時。
佐知子の眼に、洗面台の鏡に映った己が姿が映った。
頬を染めたノボセ顔で、小鼻をヒクつかせて、自分の指先を嗅ぐ姿が。
(……っ!?)
一瞬に理性が蘇って、今度は羞恥に顔が赤くなる。
「なにを……してるのよ」
声に出して自分を詰って、流しっぱなしの水に手をつけて乱暴に洗った。
本当に、なにをしているのかと思う。
突発的な自分の行動が理解できなかった。
「どうかしてる……私……」
呟きは、どこか頼りなく、力弱かった。
(続)