母親が他人に犯される作品 #2.2

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「……まあ、越野くんは、日頃の生活態度も真面目ですし」
初老の担任教師が、慎重に言葉を選びながら続ける。
「そんなことをするような子じゃないってことは、私もわかっておるんですが。
 ただ…」
応接セットの低いテーブルに視線を向ける。
そこには、一箱の煙草と使い捨てのライターが置かれている。
「裕樹くんが、これを所持していたことも事実でして…」
「………はい」
対面のソファに腰かけた佐知子は、固い表情のまま小さく頷いた。
卓上の“証拠品”を一瞥してから、隣に座った裕樹へと顔を向ける。
「裕樹。どうして、こんなものを持っていたの?」
「………」
「裕樹!」
項垂れたまま、なにも答えず、顔を向けようともしない息子の姿に、
思わず声が高くなった。
まあまあ、と教師にとりなされて、なんとか気を落ち着ける。
「……あなたが、自分で買って持っていたわけじゃないでしょう?
 裕樹が煙草なんか吸わないことは、母さん、よくわかってるわ」
教師の手前をつくろったわけではなく。佐知子は完全に息子の潔白を信じていた。
だからこそ、本当の理由を釈明してほしかったのだが。
「…………」
裕樹は頑なに下を向いたまま、肩をすぼめるようにしている。
それは佐知子には、見慣れた態度であった。
幼い頃から、気弱な息子の唯一の抵抗の方法。
「……どうして…」
ため息とともに、そんな言葉を吐き出しながら、しかし佐知子には
薄々事情が洞察できてもいた。
247241:03/05/04 16:32
「先生」
佐知子は教師へと向き直ると、改まった口調で切り出した。
「……あ、は、はい?」
担任教師の返事は、わずかに間があき、うろたえた様子を見せた。
ついつい、この美しい母親の横顔や肢体に視線を這わせてしまっていたのだ。
状況を別にしても、教職者として不埒なことではあるが、同情の余地はあった。
受験を控えた中学三年クラスの担任となれば、生徒の母親に接する機会も多いが。
越野佐知子の容色は、最上等の部類だった。
派手やかではないし、年不相応に若々しいというわけでもない。
そんな押し付けがましさや不自然さと無縁の、しっとりと落ち着いた美しさである。
成熟と瑞々しさのバランスが、中学生の子を持つ年代の女性として、
まさに理想的だと思えるのだ。
さらに、いまの佐知子の服装が問題だった。
紺色の薄手のカーディガンの下は、白衣姿なのだ。
看護婦である佐知子にとっては、あくまで仕事着だから、おかしな格好というわけではない。
勤務中に学校から連絡を受け、大急ぎでタクシーで駆けつけたのだ。
それは、担任教師も承知している。子を思う母心の表れだと理解している。
だが、ナースの制服とは病院以外の場所では、やはり浮いて見えるし。
妙に……扇情的であるのだ。
機能的なシンプルなデザインは、佐知子の成熟した肢体を強調して、
隆く盛り上がった胸や、豊かな腰の肉づきを浮き立たせている。
膝丈のスカートからは、白いタイツに包まれた形のよい足が伸びている。
キッチリと揃えらえた、心地よい丸みの膝のあたりに、
どうにも目を吸いよせられてしまいそうになる。
ゴホン、と無意味な咳払いをして、担任教師は佐知子と眼を合わせた。
白衣姿の美しい母親は、自分が、実直だけが取り柄の老境の先生さえ惑わせる
色香を発散しているなどとは気づきもせず、固い表情で語りはじめた。
248241:03/05/04 16:34
「先生。親馬鹿と笑われるかもしれませんが、どうしても私には
 息子が隠れて喫煙をしていたなどとは思えません」
「え、ええ。それは、私も…」
「ただ、男のくせに気の弱い子で……こんなふうに、自分の思っていることも
 満足に主張できないところがあって」
辛辣な言葉を吐きながら、横目で息子を見やる佐知子。
しかし、裕樹は俯いたまま、表情ひとつ変えない。それが、ますます佐知子を
苛立たせ、以前から抱いていた懸念を吐き出させた。
「そこにつけこまれて、他の子からいろいろと無理をおしつけられているのではないかと。
 はっきり言えば、“イジメ”を受けているのではないかと」
「あ、いや、越野さん、それは」
イジメ、の一言に、教師は過敏な反応を示し、裕樹もビクリと肩をこわばらせた。
佐知子は、再び裕樹へと体を向けて、
「どうなの? 裕樹。あなた、三年のいまのクラスになってから、
 時々、傷を作って帰ってくることがあるじゃない。
 いつも、“転んだ”とか言い張ってるけど。あれは、殴られたりして出来た
 傷だったんじゃないの?」
「…………」
「あなた、他の子から、イジメられてるんじゃないの?
 この煙草も無理に押しつけられたものじゃないの?」
推測ではあるが、そうに違いないという確信が佐知子にはあった。
「この機会に、母さんと先生の前で全部話してごらんなさい。あなたがちゃんと事情を
 打ち明ければ、先生が…」
「ま、まあ、お母さん、落ち着いてください」
言質をとられるのを恐れたものか、慌てて口を挟む担任教師。
「……………」
しかし、懸命な母の説得にも、裕樹は頑として口を開こうとしなかった。