>>411 はい。
女は嫁いだら、嫁ぎ先の人間になります。
生まれた家であっても、自分の家ではなくなってしまいますから。
昔からそういうものだと言われていますし、その考え方自体は正しいと思います。
そうでなければ、嫁ぎ先に馴染んで骨を埋めるなどできません。
(私は今まで教えられたことに、自分の考えを付け加えて語った)
(三界に家なしという言葉は好きではないが、その覚悟の程は確かだと思う)
(だから、それを素直に言葉にした)
――修二さまは、私に興味を持たれるどころか、毛嫌いなさっていると思っていました。
うっとおしい小娘と思われているとばかり。
ですから、話をしたいなどと仰るのが意外だったので。
私の気持ち………修二さまはそれを知られて、すっきりなさるのですか?
ここへ帰るのが苦痛ではなくなると?
(どうやら夫は、結婚してから遊ぶということをしていないのだと初めて気がついた)
(得体の知れない女が家にいて、それをそのまま遊び惚けるのは気に染まないのだろう)
(真面目過ぎるところがあるのかと、私はほんの少しだけ微笑んだ)
そうですね、貴方には私の考えなど思いもつかないのかも知れません。
確かに貴方の仰るとおり、楽しかった学校も辞めましたし、娘時代の自由さもなくなりました。
そのかわりに、私は自分のいるべき場所と、伴侶たる方を得たんです。
初夜のことでしたら、襲われたなどと思いもしませんでしたし、結婚したなら当たり前だと。
私は、私にいるべき場所を与えてくださって、一生添い遂げることになった貴方が大事です。
大事な夫だと思っているから、尽くそうと思っています。
私は貴方ならいいと思ったのです、お会いした最初の日に。
(そんなことを延々と語りながら、背中や肩をじっくりと揉み解していく)
(夫は途中で異論を挟むでもなく、ただ聞いてくれていた)
(それだけでも、私には嬉しいできごとだった)
(小娘の他愛もない思い込み、たとえばそうだとしても、聞いてくれていることは嬉しかったのだ)
……あの、修二さま?
(私の手を止めさせて仰向けに寝転んだ夫が、私の左手をつかんだ)
(あの日――初夜のあの時と同じように引き寄せられて、夫の顔が間近になる)
(整った顔立ちがあまりにも近くて、私は思わず目をそらしてしまう)
(でも、されることに抵抗はしようとは思わなかった)
【いつも申し訳ありません】
【そろそろ辛くなってきましたので、今日はこの辺りでもよろしいでしょうか?】