【超能力】幻想学園6【近未来】

(中学を卒業して親元を離れ、学生寮で暮らすことが決まった)
(離れてと言っても都市内なので会おうと思えばいつでも会えるけれど)
(私、リリシュ・アンネバーグは少ない荷物を部屋に運び終えると)
(隣の部屋に挨拶へ行くことにした)
(最低でも両隣の部屋の住人には挨拶した方がいいよね)

(右隣の部屋の呼び鈴を鳴らす。反応なし)
(ノックもする。少し待つが反応なし。留守みたいだった)
(今度は自分の部屋から左隣の部屋に直行。表札には「聖岳」と記してあった)

ごめんくださーい。
(呼び鈴を鳴らす。こっちまで留守だったらちょっとへこむかも)
(私は反応を待つ。耳を澄ますと何となく人の気配はある気がするのだけど)


【それでは簡単ですけど、こんな書き出しでお願いします】

(遺伝子の成長をあと押しする力を見込まれてはや幾年。)
(聖岳　逢名は今日も自室に篭り、本日のデータをまとめる作業を行う。)
(PCに向かい、動植物の変化についての記述をまとめること数時間。)
(そろそろ目がしぱしぱしてきた。研究作業に没頭していると)
(つい、ほかの事がおろそかになってしまう。それは人として最低限必要な衣食住に関わることだったり。)

(呼び鈴が鳴り響く――来客への対応もおろそかになるもののひとつだ。)
(ぐっと一度背伸びをすると、ろくにボタンもとめてないブラウスの上に)
(白衣を引っかけて、衣服やゴミなど、散乱する障害物を飛び越えてドアノブに手をかける。)

はいはーい、今出ますー。あふ………

(あくび混じりにドアをあけると)
(扉の向こうにいる人物に、決して癖だけでない跳ね放題の髪型。)
(眠気でとろんと目尻をたれさげただらしない顔。)

(不摂生なくせして筆記などに妙な力を入れるせいで出るとこは出て引っ込むところは引っ込む)
(そんな体をよれたブラウスと白衣で包んだ姿をあらわした。)

こんばんは…………ええと？

(きょと、と首を傾げると、立ったまま寝息を立てかけて)

【はい、それではよろしくお願いします。】

あ。
(ドアが開いて、その人が手で来る。失礼ながら、私は絶句してしまった)
(いきなり寝そうだよ、この人。ボタンがきちんと嵌められていないブラウスの)
(上に白衣を羽織った姿。手入れのされていない外に跳ねた髪)
(眠気で極限までとろけた表情。体型はそこそこいいのに、なんて残念な人…っ！)
(……それが聖岳逢名先輩の第一印象だった)

えーっと。
私、今度隣に引っ越してきたリリシュ・アンネバーグです。
あ、今年○○学園に入学する一年生です。
今日はご挨拶に来ました。何卒よろしくお願いします。
(一瞬空回った頭を私はどうにか正常に戻して、用意していた挨拶の言葉を述べる)
これ、お蕎麦の交換券です。お近づきの印にどうぞ。
(そしてそっと用意していた商品券を差し出す)
(茹でた蕎麦や生蕎麦を用意するのが困難だった場合、商品券を差し出すのがベストだと)
(両親が言っていた。私も料理ができる方でもないしね)
あの、もしかして寝てました？
すみません、そんな時に起こしてしまって。


【あ、ごめんなさい】
【私のプロフは>>201です。遅れてごめんなさい】

(挨拶を聞いている間もこっくりこっくりと船を漕ぎ)
(大体の話を夢心地で危機終える)
くー…………ん、ご丁寧にどうも。
高等部二年生の聖岳 逢名です。はふ………ああ、ごめんなさい。
別に寝てた訳じゃないんですけど、どうにも研究以外のことになると
睡眠を優先させたがるみたいで………おべろ〜

(何かをいいかけて、思いっきり舌がもつれる。そのままむにゃむにゃと口の中を動かし)
(差し出された商品券を受け取り……)

ありがとうございます。これからよろしくお願いしますね。
………ええと、狭苦しいところですけれども上がっていきますか？
(入り口からしてもはや他人を入れたら恥をさらすだけだろうと)
(そんな雰囲気を漂わせた部屋の中を指差して、大きなあくびをする。)

聖岳先輩ですか。
あー、なるほど。研究ですか。
その白衣はファッションでも何でもないんですね。
(本当に大丈夫か、この人……私は愛想笑いを続けながら思う)
(私は別に世話焼きでもなんでもないけど、ここまで無防備にぼげらっと)
(されると流石に心配にもなる。ちゃんと生活できてるの、この人？)

あはは。
いきなりお邪魔するのも気が引けますが、先輩がよけれ……ば……
(先輩の背後に見える散乱した玄関と、更に散乱した室内)
(私は再び絶句する。ヤバイこの人。趣味人ですか)
(自分の興味あること以外はやらない性格なのか？)
……ちょっと失礼しますね。
(私は一度自分の部屋に戻って、バンダナとエプロンを装備して)
(掃除道具一式を抱えて先輩の部屋に赴く)

掃除しましょう。
これは人の生活する場所じゃありません！
さっ、掃除しますから指示してください。要るものと要らないものの分別からしましょう。
(私は別にお節介とか世話焼きなつもりはない。ないけれど、この惨状を見て平気でいられる)
(人間でもない。私は初対面の先輩の部屋に乗り込んで、お節介にも掃除を開始した)
(……二時間くらいで人が住める状態にまで清掃できたと思う)

(慌ただしく部屋に戻っていったリリシュを見送ること数分。)
(そして帰ってきたリリシュを他所に、立ったまま寝息を立てること数分。)
(二時間ほどたてばなんと言うことでしょう。衣服はまとめて洗濯され)
(八割ほどいると言ったはずの不要物は纏められ)
(綺麗に掃除機をかけた床は寝転がっても良さそう、というか寝転がれるスペースがあるではないですか。)

さようなら、アントニー、ジョゼフ、カール、花子………
(荒れ果てた自室で苦楽を共にするうちに愛着の湧いた)
(不要物というか名伏し難き者たちを見送って立ち尽くす。)

…………それにしても、お掃除上手なんですねぇ。
書類の整理してたら終わってるだなんて
(色々な研究をまとめたファイルを棚に入れ、数枚の紙に付箋を張り付け)
(ラックの中にまとめたところで、腹の虫が音を立てる。)

うーん、やっぱりクラリーチェくらいは残ってもらっても
よかったんじゃないでしょうか。キノコを作ってくれる
大事なコだったんですよ？

(三大欲求のひとつを手軽にみたせる不要物を破棄されたことに)
(意見をすると、くるくる音を立てるお腹をさすり)

多分、先輩が下手すぎるだけだと思いますよ。
掃除なんて週に一回やってれば済むんです。
あ、ゴミ袋は分別してあるから指定日に出してくださいね。
あと、ゴミに名前を付けるものやめてください。
(私は汚れた水の入ったバケツを風呂場に持って行って流す)
(台所の隅には名状し難き者たちを分別した半透明のゴミ袋)
(ゴミ出しくらいはやってもらおう)
(それにしても、二時間でここまでやれたのは称賛してもいいよね)

もう少しマシな物食べないと身体に悪いですよ。
冷蔵庫にも碌な食材なかったし。
じゃあ、今からちょっと何か食べに行きませんか。先輩の奢りで。
はいはい、着替えて着替えて。この勢いでお洒落とかしましょうよ。
素材はいいんですから。ちゃんと髪も整えるともっと素敵だと思いますよ。
(名状し難き者たちを殲滅し終えて、私は爽快な気分になっていた)
(私は空腹を訴えている先輩の背中を押した)

(……この後、私は逢名先輩と近所づきあいすることになる)
(先輩の研究のことも、能力のことも、そしてずぼらな性格も、こうして知ったわけだ)
(家事はできるが面倒なのでやらないとのたまう先輩を見かねて、私は勉強中の料理を)
(持って時々先輩の部屋を訪ね、偶に掃除したりするのが習慣になってきた)
(入学して一か月くらいは新しい環境に慣れつつも先輩の世話を焼いた)
(今思うと、だらしない先輩の面倒を見ることで新しい環境での立ち位置を確立したのかも知れない)

こんばんは、先輩。
今日のロールキャベツは結構上手にできたと思うんですけど。
一緒に食べませんか？
(先輩の部屋に行ったり、私の部屋に招いたりで四月が過ぎる)
(そして五月になり、少しは上達したと思う料理を先輩に振る舞う)

【駆け足ですが、大丈夫ですか？】
【確定やりまくってますね、ごめんなさい】

(こうして、やばくなったら少しだけ片付ける日々が終わりを告げ)
(リリシュが来たあとの数日間部屋が広くなったり、人間らしい食事をとる日々がやって来た。)

はむ、こんばんはアンネバーグさん。

(相変わらず眠たげに目尻を下げ、跳ね放題の髪のまま。)
(部屋のどこかで収穫したと思われるキノコをつまみながら応対する。)

ちょうど食事をとっていたところでしたから、丁度よかったかもしれません。
マジェリオが作ってくれたキノコだけじゃものたりなくて。はふ……

(例によってリリシュが来てない間に何一つ片付けなかったツケの片鱗を覗かせ)
(相変わらずよれたブラウスと白衣――酷いときはスカートを履かなかったり)
(ノーブラで肩を出した状態で出てきたりするので今回はマシなほう――で)
(ふにゃ、と警戒心の欠片も感じさせない笑みを見せ)

【いえいえ、そこまで酷いものではありませんし、こちらのイメージもそんな感じですので】
【おきになさらずにどうぞ。お時間気になるようでしたら】
【〆に向かっちゃっても構いません。】

･･････アデュオス、マジュリオ。
(私は断りもなく部屋に上がってマジュリオをゴミ箱に突っ込んだ)
(この人は、本当に手のかかる人だった)
(そんな人の面倒を見ていい気分に浸っている私も相当酷い性格してるけどね)

本当に油断できない人ですね、先輩は。
はいはい、ちゃんと顔を洗って、髪に櫛を入れて。
そしたら着替える。この間新しい服買いに行ったじゃないですか。
(そして定着したやり取り。相変わらず自分のことに無頓着な先輩の背中を押して)
(洗面台まで強制連行する。外を歩いても恥ずかしくない文明人の姿にしてから)
(私の部屋に連れてゆく。焼き立てのパン、ロールキャベツ、ポテトサラダなどなど)
(私と先輩は居間で向かい合って合掌する)

頂きます。どうぞ、召し上がれ。
今日のは結構自信作なんですよ、ロールキャベツ。
(先輩相手に料理を作ってゆくうちに、私の料理の腕も少しは上達したと自負している)
(私はこんな感じで毎日を過ごしている。勉強したりアルバイトしたりデートしたり色恋沙汰で)
(悩んだり友達と派手に騒いだり先輩の面倒を見たり。とっても忙しいけど、充実した毎日)

あ、そろそろ小テストがあるっぽいんで、一夜漬け手伝ってくださいね。

【ならよかったです】
【それでは、私の方はこれで〆とさせてもらいます】
【これからもお隣同士よろしくお願いしますね】

(こうしてマジェリオは10日という聖岳逢名の部屋での生活を終えた。)
(今回はわりと短かった気がする。)

(顔を洗ってるときに洗面台の水の中に顔を突っ込んだまま寝たり)
(外出する訳じゃないからとさんざんごねるも最後は押しきられてリリシュの部屋へ。)

いただきます。
アンネバーグさん、また料理上手になりましたね。
ロールキャベツ美味しいそうです。個人的にはトマトソースで煮込んだものが好きですが。
お豆も合いますよね。

(三大欲求の上に研究意欲があるような少女はそんなことを言いながら手を会わせ)
(一つ一つメニューを胃のなかに納めていく。)

え、小テスト？科学？物理的？？
この際理系なら何でも手伝いますよ。

(小テストと聞いて目を輝かせながら手伝いに喜びの声をあげる。)
(むしろ逢名の場合、文系の科目に直面すると三秒前後で寝るのだが。)
(――ちなみに、テスト勉強が終わったあとリリシュのベッドを占拠するのもいつものことである。)

【それでは私はこんな感じで〆ます。】
【お疲れさまでした、今日はありがとうございました。】
【お隣さんとしてこちらこそよろしくお願いします。】

【お先に失礼します。】
【お邪魔しました・】